日本兵「金平糖はうまいか」妖精「ウィっ!」 (54)

書き直しに伴う、下記作品の立て直しです。
日本兵「……」妖精「……」
日本兵「……」妖精「……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491982907/)

誠に御迷惑をおかけしますが、よろしくお願い致します。
次レスより、本編に移ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492420756




推定日時、昭和20年1月6日。

作戦途上の巡航飛行中に発生したエンジンの故障により、果たすことのできなかった任務。

南太平洋洋上における緊急着水の後、我が愛機共々流され辿り着いたのは――



過去に発見報告のない、絶海の孤島だった。






日本兵「……」

日本兵「何も成せぬまま、終わりか」



海の彼方に広がる長大な水平線を眺め、私は一人ごちた。

我が“戦闘機乗りの眼”を以てしても、やはり敵艦の影はおろか島の影すら見えやしない。
目に映るのはただ丸みを帯びた海と、遠方に立ちこめる入道雲だけだ。






日本兵「笹井、太田」

日本兵「お前たちは……今頃」


日本兵「……」

日本兵「……ちくしょう……ッ」



波が打ち付けられるたび、我が愛機の“二式水戦”は揺りかごのようにゆらゆらと揺らめいている。
“浮き袋のついた零戦”とも言うべきそれは、片翼の補助フロートと対翼に縣架していた60kg爆弾を喪失し、バランスを失っている。

我が愛機が再び飛び立ち、作戦を全うするには絶望的と言える状況の中、私は己の無力をただ悔いていた。






「ユメィア……」

日本兵「……うるさい……」




「ユメィア……?」

日本兵「うるさい……一人にしてくれ」




日本兵「……」

日本兵「え」



そんな時のことだ。






日本兵「……ッ!?」


少女「……?」



島を覆い尽くす広大な原生林の中から、海岸線に佇む私の前に姿を現したのは――

“蝶の羽を纏った”、西洋人と思しき一人の少女だった。






日本兵「……な……な……」

少女「ルォン・ジ……オーノル」

少女「ドゥマァ・ジビ・イー……」


カチャリ


日本兵「……近づくな、離れろ!」

少女「!」



文明より隔絶されたこの空間で、私はその女に対し拳銃を突きつけながら後退した。
彼女の姿を見てまず警戒したのは、この島が連合軍の支配下に置かれているという最悪の可能性だ。






日本兵「手を上げ、その場に伏せろ……」

少女「ユメィア、ユメィアビー……?」



眼前の女はローマ歌劇の登場人物のような、簡素なボロのトーガを身に付けている。
その一方で、背中に生えた青く大きな蝶の羽は陽の光を透過して、ステンドグラスの如き輝きを放っている。

これら二つの要素は言い表しようのない釣り合いを持っていて、怖いまでに美しいとすら感じてしまった。






日本兵「これ以上近づくな……繰り返す」

日本兵「手を上げ、その場に伏せろ……!」

少女「ユメィア?」


日本兵「くそっ、こいつは何を言っている!?」

少女「??」



私はこの時点で、女が連合軍の戦闘員ではないと悟った。
この女からは敵意を微塵も感じないし、年端もいかぬ少女が戦略価値の無いこの島で、一人で行動していることの道理も理解できないのだ。

だが、この浮世離れした状況はどうだ。
私は眼前の女が持つ得体の知れない不気味さに、ただただ困惑した。






寄せては返す波のように、白地の砂浜では幾多の海鳥の影が、旋回を絶えず繰り返している。
私の傍に鎮座する“二式水戦”に波が打ち付けられているのか、時折跳ね返りの飛沫が飛行服の裾まわりを濡らした。

眼前の女が拳銃を恐れている様子はない。
そればかりか、構わず私の方へと近づいてくる。



日本兵「……ホールドアップ」

日本兵「ヘッドダウン」

少女「ユメィア……ユメィア!」

日本兵「くっ……!」






銃を構えつつジリジリと後退するも、女は均整の取れた顔に微笑みを浮かべながら……。
これまで“聞いたことも無い言語”をそのつど口ずさみながら、歩み寄ってくる。



日本兵「ホ、ホールド……アップ……」

日本兵「ヘ……ヘッドダウン……!」

少女「フフッ……!」



口から発したたどたどしい英語の呼びかけも虚しく、その距離は徐々に詰まってくる。
引き金にかけた指の震えは止まらない。






バァンッ



少女「ニァ!?」

日本兵「!」



そんな中、やがて私は砂浜に足をとられ、腰から仰向けに倒れ込んでしまった。
手に握っていた拳銃がけたたましい音と共に火を噴いたのは、それとほぼ同時のことだった。






響き渡った音とともに、上空を舞っていた海鳥たちがギャアギャアと鳴きながら、一斉に島の奥地へと逃げおおせて行く。

倒れ込んだ衝撃により引き金が引かれたのだろうか。
幸か不幸か、放たれた銃弾は何者にも当たることなく、ただ虚空を突き抜けて行った。



少女「シ……シュルー……リュ……!」



だが、すぐそこにまで迫っていた女もこれには大いに驚いたらしい。
口をパクパクとさせ、先刻まで微笑んでいた表情が、次第に困惑と恐怖の色へと移り変わってゆく。






日本兵「はぁ……はぁ……!」

日本兵(しまった、無駄弾を……)

少女「ル……ルニィヴ!ルニィヴっ!」


シュウ――


日本兵「う、うぉ……!?」



次から次へと降りかかる怪現象の前に、私はただただ驚くばかりだ。

なんと今度は、女の身体が瞬く間に無数の“蝶々”の姿へと変化してしまったのだ。






日本兵「あ……ぁ……」

日本兵「い、今のは……!」



沈みゆく夕陽を背に群れを成し、やがて森へと消えて行ったあの美しい蝶々の群れ。
私は、狐にでも化かされていたのではないだろうか。


日本兵「これは……夢なのか……?」


私はただ、あの奇怪かつ壮麗な光景を茫然と目に焼き付け、その場で立ち尽くすことしかできなかった。


……
…………
………………





推定日時、昭和20年1月7日

夜が明け、蒸しかえるように暑くなった愛機の操縦席の中で、私は目を擦った。
風防の外では数匹の大きな蚊が、ぶんぶんと飛び交っている。






日本兵「いつっ」

日本兵「噛まれた……」


日本兵「……くそっ」

日本兵「これはやはり、夢ではないのか」




遭難、そして人ならざる者との遭遇。

目じりを抑え、振り返るは昨日に起こった出来事のことだ。






右も左も分からぬ世界で、入り込んだのは夕方のように暗い場所。
眼前に垂れ下がる木々のツルを払いのけるたび、手の甲には黒と黄の小虫どもが粉のように降りかかる。

太陽が真上に登った頃、私はこの島を覆っている鬱蒼とした原生林をかき分け、奥地への探索を進めていた。

色とりどりの虫や小鳥が独自の営みを築き、幾種もの低木が枝という枝を複雑に絡め合せるさまは、
ここが南半球の手つかずの島であると云う事実を、その姿をもって私に幾度となく思い知らせてくれる。






日本兵「負けて……たまるか」

日本兵「私は必ず……!」



海岸に残された愛機には“作戦の都合上”、一般的な航空弁当の類は積まれていない。
唯一不時着を想定した航空応急食として、防水容器入りの乾パン6食分だけが備わっていた。

私が任務を全うするには、自力であの二式水戦を再始動し、この島を脱出する必要がある。
しかしあれが動くのに、一体どれだけの時間がかかるのかは分からない。
だからこそ、その間の生命を維持するために私は新たな食料と水の確保を急がなければならなかった。

先に言うように、この島の存在は我が国ではまず知られていない。
それ故に、私は救助が来ることは無いものと想定して行動する他なかったのだ。






当然ながら、懸念すべきことは多数ある。
島に潜む危険な動植物や、複雑に入り組んだ島の地形も勿論そうだ。
が、その最たるものはやはり、羽を生やしたあの女のことだろう。

昨日の一連のやり取りの時点では、女が私に敵意を示すようなことはなかった。
しかし、だからといえ。
彼女が私に害を為さないとは、絶対に言いきれない。

そう、相手は人の姿をした“バケモノ”だ。
言語を話すのならば、きっとどこかに仲間もいるはずなのだ。



「……ア……ェ……」


日本兵「……ん」

日本兵(川の音か……?)






少女「……フロ……プリ……ユ」



少女「ネィジィエ・ジューアーっ」

日本兵「っ!」


そんな矢先だ。

生え渡る木々の向こう側から耳に入ったのは、件の言語を口にする、あの透き通った声だった。
私は咄嗟に木陰に身を潜め、声のする方角を伺った。






女は地に足が着かぬほど太く大きな倒木に腰をかけ、空を見上げている。
仲間は……いない、一人だ。



少女「ソチューディっ」

少女「フルエーレガルディ~スっ」

日本兵「……」



日本兵(歌……?)



編上げの履物につま先を包んだか細い両脚を放りだして、背中の羽の開閉と併せて交互にばたつかせている。
何を言っているのかは分からんが、どうやら歌を口ずさんでいるらしく、その行動は一見して無邪気な少女のそれと変わらない。






日本兵(これは、遊んでいるのか)

日本兵(あの……バケモノが)

日本兵(一体、何がなんだか)


少女「レンレンクラ~ジっ、レンレンクル~シュッツっ」


日本兵(……)

日本兵(どうも、歌は下手なようだ)



昨日感じた“奇怪”な印象とは程遠い、あまりに放牧的な光景。
それを前に、私は肩透かしをくったような気分となった。






少女「レンレ……ニャッ!?」


ドッシ~ンッ


日本兵(……落ちた)



女の様子を眺めるにつれ、私の彼女に対する考察に若干の変化が訪れ始めた。

見たところ歳は17か18ほどだろうか。
それがなぜ、この危険なジャングルで単独行動をとっているのか。
他の大人たちはどうしているのか、普段の生活は一体どこで行っているのか。

いや、そもそもあれは……本当に人ではないのだろうか。
女の一連の行動は先刻から、人間のそれより逸脱してはいないのだ。






少女「フラァ……ペェ~……」

日本兵(……くくっ、マヌケめ)

少女「……グスン」



もしも彼女が、人と変わらない存在なのだとすれば。
もしも彼女に、仲間がいると仮定すれば。

「彼女たちの助けを借りることもここはひとつ、検討すべきではないだろうか」

私が至りかけた考えは、ある種危険な希望的観測とも言えた。






少女「……ムゥ」

少女「ソチューディっ、フルエ~……♪」


日本兵「……」



だが、私はまたすぐに考えを曲げた。

どうしても気がかりなのは、あの背中の羽だ。
あれがあるだけで、彼女が人間であると云う仮定にはどうしても“待った”をかけざるを得ない。






日本兵(……私はどうかしている)

日本兵(あのような得体の知れん奴に、助けを乞うなど)



こちらの存在は未だに気付かれていない。
腰をさすりながら呻く少女を見て、一先ずあれに害はないと……私は一時的判断を下した。

そして、懐に忍ばせていた拳銃を握る右手を緩め。
傍にそびえ立つ樹木に、その手を考えなしに置き直した――






日本兵(それに昨日の一件のことだってある……)

日本兵(声をかけたとて、怯えてまた逃げ出すに決まっている)

日本兵(今接触を図るのは、明らかに悪手だろう)


日本兵(……そろそろ行かないと)

日本兵(食料も水源も、未だ見つかってはいな……!?)




日本兵「がッ、うあぁぁぁっ!?」






それがまずかった。
なぜ、気が付かなかったのだろうか。



日本兵「は、離せっ……こ……ッ!」



右手首に走った激痛。
振り返ると、私の右手には獰猛な極彩色の“蛇”が纏わりつき、その牙を深く食いこませていた。

私は叫びながら腕を激しく振るい、もう片方の手で腰元の短剣を抜こうとするも、時すでに遅く。
身体中を巡る即効性の神経毒と思しきそれが、すぐさま我が身を思うように動かせなくしていった。






日本兵「ゃ……やめ……ッ!」



日本兵「わ、私は……」

日本兵「こんな……とこ……ろ……で……!」



日本兵「ぁ……ぁ……」






意識が次第に遠のいてゆく。

その場に無抵抗に倒れ込んだ私は、ただただ己の無念を吠えた。
犬死にだけは嫌だと心で叫びながらも、もはやどうしようもなく。

私はこの時、ただ為されるがまま、眼前の世界が深く閉じられてゆくのを受け入れる他なかった……。


……
…………
………………






「……ジ・デェレ……!」

「ス・ベルウ……ジ・デェ……!」



日本兵「……」



日本兵「……いっ……!」

「!」

日本兵「あがッ、がぁっ……!」






あれからどれほどの時間が経過したのだろうか。
あれから今に至るまで、どんなことがあったのだろうか。

毒蛇に噛まれ、とうに死んだはずの私は……
我が身に何も起こったのかも分からないまま、突如として“息を吹き返す”に至った。






日本兵「はぁ、はぁっ」

日本兵「い、一体何が……ッ!?」



そこに居たのは、あの女だった。



少女「……」

日本兵「まさ……ゴホッゴホッ!」



私がえづくと、眼前の少女は咄嗟に身をすくませた。
現状が理解できずに混乱するさなか、奴が私の身体に一体何をしたのかを知りたいと思った。






見渡せば、ここは先ほどと全く同じ場所である。

地べたに倒れ込んでいた私を見守る少女の手の内からは、深緑の仄かな光が溢れている。
朦朧とする視界に右手首を運ぶと、毒蛇によるあの噛み傷はしっかりと塞がれていた。



日本兵「……ま、まさか」

日本兵「お前が」

少女「ニ……っ!」


シュウ――


日本兵「お……おい!」






やはりと言うべきか。
身体を近づけると、女はその身を無数の蝶の姿へと瞬時に変え、私の頭上を通り越して行く。



日本兵「……くっ!」



無論、理屈など分かるはずもない。
にもかかわらず、私は何故だか――

この少女が、私の命を助けてくれたのだと直感した。



日本兵「おい、待ってくれ!」






今度は、彼女をそのまま逃がすようなことはするまいと思った。
身体中に残る痺れを抑えながら地面を蹴り、蝶々たちが飛んで行った方角に向けて全力で駆けることにしたのだ。

彼女が一体何者なのかはこの際考えないこととする。
兎に角も、まずは彼女に“礼”を伝えなくては。

それは、私の胸の内に眠る日本男児としての矜持が突き動かした行動であった。


……
…………
………………



修正分はここまでです。
新規の内容は次回以降からとなります。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。




――シュウ



少女「!」

日本兵「ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ」



険しい原生林を駆けに駆け、木の根につまづき泥をかぶること幾数回。
長らく続いた追走劇も、ここにきてようやく終わりを迎えた。



日本兵「……へへっ」

日本兵「さすがにお前とて、あの姿のまま海を渡ることはできないらしいな」

少女「……」






彼女はきっと、自分が追いかけられた理由を分かっていないはずだ。
故にここはひとつ、誤解を解かねばなるまい。



日本兵「き、君っ」

少女「ニャッ……!」


日本兵「その……なんだ、驚かせてすまない」

少女「クェス……ソーヌティアラッサ……」


日本兵「私は君に、その……」

少女「ネ、ヴィネッパクスっ」



日本兵「……」


>>45
貼る順番間違えました!
次レスより、正しく貼り直します!




ここは高台となった島の端、女の背後には海が広がっている。
再び人の姿となった彼女の長い髪を、吹き荒む潮風が揺らしている。

私は彼女を、行き止まりに追い詰めたのだ。



日本兵「はぁ、はぁ」

少女「ル……ルニィヴ……」

日本兵「……」


日本兵(怯えている……当たり前か)

日本兵(私としたことが、たかだか礼を言うために必死になりすぎてしまったな)






何かあるごとに熱くなりすぎてしまうのは、私の昔からの悪い癖だ。
彼女はきっと、自分が追いかけられた理由を分かっていないはず。
故にここはひとつ、誤解を解かねばなるまい。



日本兵「き、君っ」

少女「ニャッ……!」


日本兵「その……なんだ、驚かせてすまない」

少女「クェス……ソーヌティアラッサ……」


日本兵「私は君に、その……」

少女「ネ、ヴィネッパクスっ」






日本兵「……」


日本兵「だから、私はっ」

少女「ディユカ、シュリュールっ!」


日本兵「君に、礼をだ……痛っ!」

少女「ティアラッサ!ティアラッサ!」


日本兵「や、やめろ貴様、石を投げるな……痛ッ!」

少女「ジュティッ、シュリュール!!」


日本兵「やめろ馬鹿!虚け!ビーユー!」



私の掛けた言葉の数々は、何一つとして伝わっている気配はない。
それどころか、接触を図る度に女はパニックを起こし、ついにはこちらへの抵抗を始めてしまった。
ある意味当然と言えば当然なのだが、このもどかしさは如何ともしがたい。






次々と石を投げつけられる中。
私は常に言葉の伝わらない相手の気を鎮める方法を模索していた。



少女「エゥトーナェ!」

日本兵「痛っ、痛いっ」


日本兵(くそ……やはり言葉では伝わらんか)

日本兵(ならば一体、どうやっ……ん?)


日本兵(これは……)


そして、藁にもすがる思いで自身の全身をまさぐり、偶然手に触れたのは……
森の探索に備えて携行していた、一食分の乾パンが封入された防水容器だった。


短くて申し訳ないのですが、今日書けたのはここまでです

最近は多忙のためなかなか手が付けられませんでしたが、少しずつがんばります

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