日本兵「……」妖精「……」 (71)




推定日時、昭和20年1月6日。

我が愛機共々、南太平洋洋上で流され辿り着いたのは、過去に発見報告のない絶海の孤島だった。





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491982907




日本兵「……」

少女「……ル……」



少女「ルォン・ジ……オーノル」

少女「ドゥマァ・ジビ・イー……」


日本兵(……何者だ、こいつは……)






私を取り巻く状況は、まさに奇異と呼ぶ他ない。
島に漂着して間もなく、海岸周辺を覆い尽くす広大な原生林の中から私の前に姿を現したのは――

“蝶の羽を纏った”西洋人と思しき一人の少女だった。






カチャリ……


日本兵「……それ以上、近づくな」

少女「!」






文明より隔絶されたこの空間で、私は冷静を取り繕い、女に対して拳銃を突きつける。
彼女の姿を見てまず、私はこの島が連合軍の支配下に置かれている可能性を警戒した。

女はローマ歌劇の登場人物のような、簡素なボロのトーガを身に付けている。
その一方で、背中に生えた青く大きな蝶の羽は陽の光を透過して、ステンドグラスの如き輝きを放っている。
これら二つの相反する要素すら、この時の私には妙な釣り合いが取れて見えるように思えた。






日本兵「手を上げ、その場に伏せろ」

少女「ユメィア、ユメィアビー?」


日本兵「繰り返す、これ以上近づくな」

日本兵「手を上げ、その場に伏せろ」

少女「ユメィア?」


日本兵「……くそっ、やはり通じんか」

少女「??」






西洋人に酷似しているとはいえ、見かけ上この女が戦闘員であるとは到底思えない。
それが、戦場の真っ只中である南太平洋洋上の孤島で一人で行動していることを、私はこの時点で“おかしい”とは考えられなかった。
疲労と緊張と非現実的風貌の女の前で、私の頭はそれほどまでに混乱していたのだ。

寄せては返す波のように、白地の砂浜では幾多の海鳥の影が、旋回を絶えず繰り返している。
私の傍にて傾斜し鎮座する“二式水戦”に波が打ち付けられているのか、時折跳ね返りの飛沫が飛行服の裾まわりを濡らした。

眼前の女が拳銃を恐れている様子はない。
そればかりか、構わず私の方へと近づいてくる。






日本兵「……ホールドアップ」

日本兵「ヘッドダウン」

少女「ユメィア……ユメィア!」

日本兵「くっ……!」


日本兵「ホ、ホールド……アップ……」

日本兵「ヘ……ヘッドダウン……!」

少女「フフッ……!」






銃を構えつつジリジリと後退するも、女は均整の取れた顔に微笑みを浮かべながら……。
これまで“聞いたことも無い言語”をそのつど口ずさみながら、歩み寄ってくる。

口から発したたどたどしい英語の呼びかけも虚しく、その距離は徐々に詰まってくる。
引き金にかけた指の震えは止まらない。

そんな中、やがて私は砂浜に足をとられ、腰から仰向けに倒れ込んでしまった。
手に握っていた拳銃がけたたましい音と共に火を噴いたのは、それとほぼ同時のことだった。






バァンッ!


少女「ニァ!?」

日本兵「!」






響き渡った音とともに、上空を舞っていた海鳥たちがギャアギャアと鳴きながら、一斉に島の奥地へと逃げおおせて行く。

倒れ込んだ衝撃により引き金が引かれたのだろうか。
幸か不幸か、放たれた銃弾は何者にも当たることなく、ただ虚空を突き抜けて行った。

だが、すぐそこにまで迫っていた女もこれには大いに驚いたらしい。
口をパクパクとさせ、先刻まで微笑んでいた表情が、次第に困惑と恐怖の色へと移り変わってゆくのが分かった。






少女「シ……シュルー……リュ……!」

日本兵「はぁ……はぁ……!」



少女「ル……ルニィヴ!ルニィヴっ!」


シュウ――


日本兵「うぉっ!?」






それは刹那の出来事だった。

なんと、今の今まで私の眼前へと迫っていたあの女は――

その身を瞬く間に、無数の“蝶々”の姿へと変化させたのだ。






日本兵「あ……ぁ……」



ザザーン……

ザザーン……



日本兵「い、今のは……!」






沈みゆく夕陽を背に群れを成し、やがて森へと消えて行ったあの美しい蝶々の群れ。

もしかすると、私は狐にでも化かされていたのだろうか。



この時の私はただ……

あの奇怪かつ壮麗な光景を茫然と目に焼き付け、その場で立ち尽くすことしかできなかった。


……
…………
………………


今日はここまでです。

まさか酉を覚えていてくださっている方がいらっしゃったとはww
遅筆ですが、がんばりますね

雪風の無線が過去につながったやつ書いてたひとかな?
オーロラの彼方にを思い出させてくれる良作だったです
続き、ゆっくりお待ちしています

飛行機乗りとか艦これSSの人?期待してます




推定日時、昭和20年1月7日

夜が明け、蒸しかえるように暑くなった愛機の操縦席の中で、私は目を擦った。
風防の外では数匹の大きな蚊が、ぶんぶんと飛び交っている。






日本兵「いつっ……」

日本兵「噛まれたか、クソッ」

日本兵「……」


日本兵「やはり、夢ではない……か」






目じりを抑え、振り返るは昨日に起こった出来事の数々だった。

作戦途上の巡航飛行中に発生した発動機(エンジン)の故障により、果たすことのできなかった“任務”。
小隊との通信途絶に、勁烈たる海流に流されるまま辿り着いた未知の島。

――そして、あの“人ならざる者”との遭遇。

置かれた状況と照らし合わせ、私は何もかも受け入れざるを得なかった。






波が打ち付けられるたび、我が愛機は揺りかごのようにゆらゆらと揺らめいている。
おそるおそる操縦席を抜け出し、先端が海水に浸かった主翼の上で、私は海の彼方に広がる長大な水平線へと目をくべた。

我が“戦闘機乗りの眼”を以てしても、やはり敵艦の影はおろか島の影すら見えやしない。
目に映るのはただ丸みを帯びた海と、遠方に立ちこめる入道雲だけだ。

絶海の孤島の名に偽りなしである。






砂浜に降り立った私は、今度はそこから愛機の全容を眺めた。

“二式水上戦闘機”とは、つまるところ“浮き袋のついた零戦”である。
理屈の上では、戦闘機でありながら洋上のどこにでも降り立ち、飛び立つことのできる代物だった。

だが、眼前の愛機は片翼の補助フロートと、対翼に縣架していた60kg爆弾を緊急着水の衝撃によって喪失し、完全にバランスを失っていた。
またそれだけでなく、遭難の直接的原因となった発動機は依然として死んだままである。

我が愛機が再び飛び立つには、些か絶望的な状況と言えた。






日本兵「笹井、太田」

日本兵「お前たちは今頃……」


日本兵「待っていろ、私もすぐ行くからな」






それでも私は、全てを諦めるわけにはいかない。
この世に生を受けた意味を果たさんがために。

大輪の花を咲かせるために、私は“ここで”野たれ死ぬわけにはいかなかった。


……
…………
………………


今日はここまでです
明日は時間がとれるので、しっかり書いていきます

>>18>>21
おおっ、そうです!
お読み頂き、ありがとうございます!嬉しいです!

過去スレのurlくだしあ

>>31遅くなり、申し訳ないです



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上に行くほど新しいスレのはずです。
数が多いので、レス中にあったものに関連した過去スレだけをお貼りします……申し訳ないです。
キン肉マンと艦これのクロスなんかも書いていたので、もし見かけたら読んでやってください()




ここはまるで、夕方のように暗い場所。
眼前に垂れ下がる木々のツルを払いのけるたび、手の甲には黒と黄の小虫どもが粉のように降りかかる。

太陽が真上に登った頃、私はこの島を覆っている鬱蒼とした原生林をかき分け、奥地への探索を進めていた。
色とりどりの虫や小鳥が独自の営みを築き、幾種もの低木の枝という枝が複雑に絡みあう様は、
ここが南半球の手つかずの島であると云う事実を、その姿をもって私に幾度となく思い知らせてくれる。






海岸に残された愛機には“作戦の都合上”、一般的な航空弁当の類は積まれていない。
唯一不時着を想定した航空応急食として、防水容器入りの乾パン6食分だけが備わっていた。

だが先に言うように、この島の存在は我が国ではまず知られていない。
それ故に、救助が来ることは無いものと想定して行動すべきだろう。

私が任務を全うするには、自力であの二式水戦を再始動し、この島を脱出する必要がある。
しかしあれが動くのに、一体どれだけの時間がかかるのかは分からない。
だからこそ、その間の生命を維持するために私は新たな食料と水の確保を急がなければならなかった。






だが、当然ながら懸念すべきこともある。
島に潜む危険な動植物や複雑に入り組んだ島の地形も勿論そうだが、その最たるものはやはり、羽を生やしたあの女のことだろう。

昨日の一連のやり取りの時点では、女が私に敵意を示すようなことはなかった。
しかし、だからといえ。
彼女が私に害を為さないとは、絶対に言いきれない。

そう、相手は人の姿をした“バケモノ”だ。
言語を話すのならば、きっとどこかに仲間もいるはずなのだ。






「……アァリ……ネシェ……」


日本兵「……?」






そんな矢先だ。

私が、奴の姿を再び目にすることになったのは。



短いですが、一旦ここまでえす

今日も思ったほどの量は書けないかもしれませんが、今日中にもう一度更新できるようがんばります

肉と艦これってサイコマンの?
ありゃあなかなか良かった。




少女「……フロウァ・プリィ~ユ」

少女「ネィジィエ・ジューアーっ」


日本兵「っ!」






生え渡る木々の向こう側から耳に入ったのは、件の言語を口にする透き通った声だった。
私は咄嗟に身を木陰に潜め、声のする方角を伺った。

彼女は足が地に着かないほど太く大きな倒木に腰をかけ、空を見上げている。
仲間は……いない、一人だ。

編上げの履物につま先を包んだか細い両脚を放りだして、背中の羽の開閉と併せて交互にばたつかせている。
何を言っているのかは分からんが、どうやら歌を口ずさんでいるらしく、その行動は一見して無邪気な少女のそれと変わらない。






少女「ソチューディっ、フルエーレガルディ~スっ」

少女「レンレンクラ~ジっ、レンレンクル~シュッツっ」




日本兵(……)

日本兵(歌は……下手なようだな)






昨日見せた奇怪な“変身”からは想像もつかないような、あまりに放牧的な光景に私は肩透かしをくった気分となった。
そんな様子を眺めるにつれ、私の女に対する見方に変化が表れ始めたのは、ちょうどこの辺りだ。

見たところ歳は17か18ほどだろうか、それがなぜこの危険なジャングルにひとりで居座っているのか。
他の大人たちはどうしているのか、普段の生活は一体どこで行っているのか。

いや、そもそもあれは……本当に人ではないのだろうか。
女の一連の行動は先刻から、人間のそれより逸脱してはいないのだ。






少女「レンレ……ニャッ!?」

ドッシ~ンッ




日本兵(……落ちた)






もし彼女が人と変わらない存在なのだとすれば、彼女に仲間がいると仮定すれば……。
彼女たちの助けを借りることもひとつ、検討すべきではないだろうか。
私が至りかけた考えは、ある種危険な希望的観測とも言えた。

だが、どうしても気がかりなのはあの背中の羽だ。
あれがあるだけで、彼女が人間であると云う仮定にはどうしても“待った”をかけざるを得ない。






日本兵(……私はどうかしている)

日本兵(あのような得体の知れん奴に、助けを乞うなど)



少女「フラァ……ペェ~……」

日本兵(……ははっ、涙目になってら)






こちらの存在は未だに気付かれていないこともある。
腰をさすりながら呻く少女を見て、一先ずあれに害はないと……私は一時的判断を下した。

そして、懐に忍ばせていた拳銃を握る手を緩め。
傍にそびえ立つ樹木に、その右手を考えなしに置いた――






日本兵(だが、昨日の一件のことだってある……)

日本兵(声をかけたとて、怯えてまた逃げ出すに決まっている)

日本兵(今接触を図るのは、明らかに悪手だろうな)


日本兵(……そろそろ行かないと)

日本兵(未だに食料も水も、見つかってはいな……!?)




日本兵「う、うわあぁぁぁっ!?」






それがまずかった。
なぜ、気が付かなかったのだろうか。

右手首に走った激痛。
咄嗟に振り返ると、私の右手には獰猛な極彩色の“蛇”が纏わりつき、その牙を深く食いこませていた。

私は叫びながら腕を激しく振るい、もう片方の手で腰元の短剣を抜こうとするも、時すでに遅く。
身体中を巡る即効性の神経毒と思しきそれが、すぐさま我が身を思うように動かせなくしていった。






日本兵「ゃ……やめ……ッ!」



日本兵「わ、私は……」

日本兵「こんな……とこ……ろ……で……!」



日本兵「ぁ……ぁ……」






意識が次第に遠のいてゆく。

その場に無抵抗に倒れ込んだ私は、ただただ己の無念を吠えた。
犬死にだけは嫌だと心で叫びながらも、もはやどうしようもなく。

私はこの時、ただ為されるがまま、眼前の世界が暗く閉じられてゆくのを受け入れる他なかった……。


……
…………
………………


一旦休憩挟みます

>>41
そうですフヒヒw




「……ジ・デェレ……!」

「ス・ベルウ……ジ・デェ……!」



日本兵「……」



日本兵「……いっ……!」

「!」

日本兵「あがッ、がぁっ……!」






あれからどれほどの時間が経過したのだろうか。
あれから今に至るまで、どんなことがあったのだろうか。

毒蛇に噛まれ、とうに死んだはずの私は……
我が身に何も起こったのかも分からないまま、突如として“息を吹き返す”に至った。






日本兵「はぁ、はぁっ」

日本兵「い、一体何が……ッ!?」


ボワァ……ッ


少女「……」

日本兵「まさか、お前が……ゴホッゴホッ!」






そう言って私がえづくと、眼前の少女は咄嗟に身をすくませた。
現状が理解できずに混乱するさなか、奴が私の身体に一体何をしたのかを知りたいと思った。

見渡せば、ここは先ほどと全く同じ場所であり、地べたに倒れ込んでいた私を見守る少女の手の内からは、深緑の仄かな光が溢れている。
朦朧とする視界に右手首を運ぶと、毒蛇によるあの噛み傷はしっかりと塞がれている。

無論、理屈は分からない。
だが私は何故か、この眼前の少女が……私の命を助けてくれたのだと、即座に直感した。






日本兵「……そうか、そうなのか」

少女「……っ」


日本兵「……」

日本兵「ありが……」

少女「ニ……っ!」


シュウ――


日本兵「お、おい!」






いくら私とて、今自身が何をすべきかは分かっている。
受けた恩義に報いる、ただそれだけなのだ。

しかし、私が礼を口にしようとした矢先……
少女はまたしても無数の蝶となり、森の奥へと逃げて行ってしまった。






日本兵「……くそっ」




日本兵「おい待てぇぇっ!!」






だが今度は、彼女をそのまま逃がすようなことはするまいと思った。
残る痛みを抑えながら地面を蹴り、蝶々たちが飛んで行った方角に向けて全力で駆けることにしたのだ。

彼女が一体何者なのかはこの際考えないこととする。
兎に角も、彼女に“礼”を伝えなくては。

それは、私の胸の内に眠る日本男児としての矜持が突き動かした行動であった。


……
…………
………………


今日はここまでです

申し訳ありませんが、明日一日はおそらく更新ができません!
日曜の夜に、続きを書く予定です

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます

今帰りました……が、疲労がどえらいことになってますので……
本当に申し訳ありません、今日は寝かせてください……

明日はある程度時間がとれるとおもうので、逐次書いていきます

何度も申し訳ありません。
最初から読み返すと、所々「ん?」となる箇所があったり、テンポの悪さがどうにも引っかかってしまいました。
なので、誠に勝手で申し訳ありませんが、一旦新たに書き直そうと思います。

本スレは依頼に出し、スレタイを刷新した上で新しいスレを立て直しますので、今後はそちらの方でお願い致します。
何卒、よろしくお願いたします……

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