ガヴリール「救いたくて、救われて」 (37)



ピンポーン

ガヴリール(ヴィーネか)

ガヴリール「開いてまーす」

ガチャッ

ガヴリール「うーっすヴィー……」

男「……」ハァハァ

ガヴリール「はっ!? だr」ガバッ

ガヴリール「んぐっ! んっ!」ジタバタ

ガヴリール(なんだこのオッサンっ)

ガヴリール(口ふさがれたし、力強っ!)

ガヴリール(これマジでヤバイ奴じゃん!)


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                           ガチャッ
男「……」グイッグイッ
                      テクテク
ガヴリール(脱がされる!)ジタバタ
                ハッ
男「……」ハァハァ
        コトッ
ガヴリール(助けっ)
ゴスッ
男「がっ」バタン
ガッ
ゴスッ
ゴッ

ガヴリール「? 助かった?」

ヴィーネ「ガヴ! 大丈夫!?」

ガヴリール「ヴィーネ! いや、マジでありがとう、助かった」

ヴィーネ「良かった……間に合って」

ガヴリール「えっと、そのさ……」

ヴィーネ「うん……」

ヴィーネ「わかってる」

 ヴィーネは襲われた私を助けてくれた。
 きっとヴィーネも慌てていたのだろう。
 当然だ、ヴィーネは優しいから。
 だから、ヴィーネは加減を誤った。

ガヴリール「これ、どうしようか……」

ヴィーネ「やっぱり、死んでるんだよね……」

 ヴィーネと私の間には私を襲おうとした男が頭から血を流して倒れている。
 息を吹き返す様子はない。
 見よう見まねで脈拍をはかってみたが案の定脈は止まっていた。

ガヴリール「どうしようか……」

ヴィーネ「……正直に自首するよ」

ガヴリール「はあ!? お前それでも悪魔か!」

ガヴリール「ヴィーネは私を助けてくれたんだから……そんなのダメだよ!」

ヴィーネ「それでも、人を殺しちゃった事は許されることじゃない」

ヴィーネ「それに、このまま忘れて過ごすなんて、私にはできない」

 天使や悪魔は本来下界に干渉してはいけない存在。
 命を奪うなんてもってのほかだ。
 故に、天使や悪魔はそういった罪を犯した場合下界の法で裁かれた後に天界・魔界の法でも裁かれる。
 死刑とまではならずとも、封印は免れないだろう。

ガヴリール「っんなの……」

ガヴリール「……やだよ」

ガヴリール「ヴィーネが居なくなるなんて嫌だ!」

ガヴリール「ヴィーネが居るから私は安心して堕落していられるんだよ!」

ガヴリール「だから……居なくならないでよ……」

ヴィーネ「ねえガヴ」

ヴィーネ「私、やっと悪魔らしいことできたのかな」

ガヴリール「違うよ、ヴィーネは私を助けてくれたんだから──」 
 
 『悪魔じゃないよ』そんな言葉を言おうとして、止めた。

 悪魔じゃないなんて、ヴィーネを傷つけるだけだと気づいたから。
 どんな言葉をかければいいかわからない。
 昔の私ならばヴィーネを救うことが出来ただろうか。

ヴィーネ「……」

ガヴリール「逃げよう」

ヴィーネ「え?」

ガヴリール「こうなったら私も共犯だ、だから一緒に逃げようヴィーネ」

ヴィーネ「ダメ……ダメだよガヴ」

ヴィーネ「そんなことしても、きっと」

ガヴリール「じゃあ言い方を変えるよ」

ガヴリール「旅行に行こう」

ガヴリール「最後の旅行だ」

ガヴリール「旅行が終ったらヴィーネは好きなようにすればいい」

ガヴリール「最後に楽しい思い出を作るのも悪くないだろ」

ヴィーネ「あはは、そんなのおかしいわよ」

 やっとヴィーネが笑ってくれた。
 自分でもおかしなことを言ってる事はわかっている。
 それでも、最後に見るヴィーネの顔が暗い顔なんて嫌だ。
 最後に一緒に見た景色がこんなゴミ屋敷なんて、嫌だ。



ガヴリール「ほら、さっさと行くぞ」

ヴィーネ「こんなほぼ手ぶらで大丈夫?」

ガヴリール「そういうのもまた趣があるじゃん」

ヴィーネ「そういうものなのかな」

ガヴリール「そういうもんだよ」

 行くあてなんてない。
 それでも今はただここから離れたかった。

ガヴリール「あ゛!」

ヴィーネ「どうしたのガヴ!?」ビクッ

ガヴリール「課金しすぎて電車賃が無い……」

ヴィーネ「あんたは全く……」

ヴィーネ「いいわ、今日は全部おごってあげる」

ヴィーネ「どうせもう必要な」モゴモゴ

ガヴリール「そういう話は今日は禁止な」

ヴィーネ「……うん、了解」

ガヴリール「でもまあ今回ばかりはお言葉に甘えて、おごってもらおうかな」

ヴィーネ「もう、いつもでしょ」

ガヴリール「いやー照れますな」

ヴィーネ「照れるところじゃないし……」
ガタン
       ゴトン
ヴィーネ「あ、電車来たわよ」

ガヴリール「とりあえず終点まで行ってみよう」

ヴィーネ「どんなところに着くんだろうね」

ガヴリール「きっと良いところだよ」

◇車内

ガヴリール「……」

ヴィーネ「……」

ガヴリール「あー……」

ガヴリール「しりとりでもするか」

ヴィーネ「え? 別にいいけど」

ガヴリール「じゃあ私から、力天使」

ヴィーネ「四凶」

ガヴリール「ウリエル」

ヴィーネ「ルシフェル」

ガヴリール「ルムヤル」

ヴィーネ「る……る……ルシファー」

ガヴリール「それルシフェルだろ」

ヴィーネ「うぐ……」

ガヴリール「……うん」

ガヴリール「しりとりはやめよう」

ヴィーネ「そうね」



ガヴリール「とーちゃーく」

ヴィーネ「ずいぶんと山奥ね」

ガヴリール「そしてもう真っ暗だな」

ヴィーネ「そうね……」

ガヴリール「……」

ガヴリール「朝日、見たくないか」

ヴィーネ「朝日?」

ガヴリール「なんていうか定番かなーって」

ヴィーネ「そうね」

ヴィーネ「朝日、見たい」

ガヴリール「道具も何もないけれど」

ガヴリール「登ろう、山」



ガヴリール「ぜえ……」

ガヴリール「はあ……」

ヴィーネ「ガヴ大丈夫?」

ガヴリール「私はここまでかもしれん……」

ヴィーネ「……そっか」

 ヴィーネは寂しそうに笑った。
 そんな顔は見たくない。

ガヴリール「……なんてな」

ガヴリール「私は天使様だぞ」

ガヴリール「この程度でくたばってたまるか!」

ヴィーネ「無茶はしないでよ?」

ガヴリール「なんのこれしき」



ガヴリール「とっ、と……」

ヴィーネ「とーちゃーく!」

ガヴリール「ゼヒ……ゼヒ……」

ヴィーネ「ちょ、ちょっとガヴ?」

ガヴリール「だ、大丈夫……」ゼヒゼヒ

ガヴリール「だけど少し休ませて……」

ヴィーネ「日の出までしばらくあるし沢山休めるわよ」



ガヴリール「日の出って意外と遅いな」

ヴィーネ「かれこれ数時間ここにいるわよね私たち……」

ガヴリール「そこまで寒くなかったのが唯一の救いだな」

 空を見上げながら私たちは待ち続けた。
 他愛のない、星の話。学校であったことの話。思いつく限りのいろんな話をした。
 別れが近づいていることから目を背けて、まるで世界に私たち二人だけになったかのように。

 どうか、終わりなんて来ないでください。
 日が昇るのを待ちながら、日が昇らないことを望んだ。



 いくら天使の願いとはいえ、そんな願いが叶うはずもなく。

ヴィーネ「わぁ……」

ガヴリール「ん、眩し……」

ヴィーネ「うん……素敵」

ガヴリール「……」

ヴィーネ「ありがとね」

ヴィーネ「ガヴ、あんなにめんどくさがりなのに」

ガヴリール「別に……日の出を見たくなっただけだよ」

ヴィーネ「私ね、うれしかった」

ヴィーネ「ガヴが私のためにこんなにしてくれて」

ガヴリール「私は何もしてないよ」

ガヴリール「何もできなかった」

ヴィーネ「私は救われたよ」

ガヴリール「……昔の私だったらさ」

ヴィーネ「?」

ガヴリール「ヴィーネと出会ったばかりの頃の、ちゃんとした私だったら」

ガヴリール「ちゃんとヴィーネを救ってやれたんじゃないかって」

ガヴリール「昨日からずっと、ずっと後悔してた」

ヴィーネ「どう……なんだろうね」

ガヴリール「私は……私が……っ」

ヴィーネ「ガヴ、私ね」

ガヴリール「ヴィーネ?」

ヴィーネ「下界に来てから映画をいっぱい見たんだ」

ヴィーネ「特に恋愛ものとファンタジーが好きでね」

ヴィーネ「恋愛ものの映画ではさ」

ヴィーネ「主人公とヒロインが他の人全員を敵に回して、二人だけで逃げて」

ヴィーネ「そんな逃避行も結構あってね」

ヴィーネ「ちょっとだけ、夢見てた」

ヴィーネ「もしかしたら昔のガヴだったらすぐに私を救ってくれたのかもしれない」

ヴィーネ「けれど今のガヴだったから、夢を叶えてくれた」

ヴィーネ「だから、後悔なんてしなくていいの」

ヴィーネ「今のガヴだって私を救ってくれたんだから」

 ああ、ずっとその言葉を聞きたかったんだ。
 
ヴィーネ「最後に、悪魔らしいことをしていいかな」

ガヴリール「ああ、なんでもしてくれ」

ヴィーネ「私のお願いを聞いてほしい」

ガヴリール「うん、なんでも聞いてやる」

ヴィーネ「悪魔の私は傲慢だよ?」

ガヴリール「罪を受け入れるのが天使の役目だよ」

ヴィーネ「うん、そうだよね」

ヴィーネ「じゃあ一つ目、ちゃんと学校に行ってね」

ヴィーネ「私の分も、楽しんで」

ガヴリール「……ああ」ポロリ

ヴィーネ「二つ目、ちゃんと部屋を掃除すること!」

ガヴリール「んっ……うん……」グスッ

ヴィーネ「最後、立派な天使になってね」

ガヴリール「ああ、わかった」

ガヴリール「そのお願いは絶対絶対叶えてやる!」

ヴィーネ「ありがとう、ガヴ──」


 ヴィーネを救おうと思った。
 救われたのは私だった。
 救われるのは今の私、そしてこれからの私。

ラフィエル「最近のガヴちゃんはなんだか天使学校の頃みたいですねえ」

サターニャ「うへえ……ずっとこの調子じゃこっちがおかしくなりそうだわ」

ガヴリール「そうか? まだまだだよ」

サターニャ「これで敬語になんてなったら鳥肌立ちすぎてニワトリになりそう」

ガヴリール「ならねーよ」

ラフィエル「サターニャさんならあるいは……」

サターニャ「ならないわよ!」

ラフィエル「それで、ガヴちゃんはこれからどうするおつもりですか?」

ガヴリール「さあね」

ガヴリール「立派な天使になるといっても今の自分を否定する気はないし」

ガヴリール「せめて最後の言いつけくらいは守り続けるよ」

ラフィエル「その心意気、ご立派です」

サターニャ「ふふん、ボロが出そうになったらこの私が邪魔をしてやるわ」

サターニャ「覚悟なさい」

ガヴリール「おう」

ガヴリール「頼んだぞ」

サターニャ「んっ……」

サターニャ「何よ、珍しく素直に」

ガヴリール「当然だろ」

ガヴリール「私は天使なんだからな」

◆ 数十年後

 一体どれだけの月日を、この深い闇で過ごしたのだろう。
 天に召されるその日が間近に迫っていることが、もう指一本動かすことの出来なくなった肉体が物語っていた。
 目を開けていても、目の前はただ暗闇で一筋の光すら射さない。
 それでも、目を閉じると一筋の、一筋ではあるけれど私を包み込んでくれる大きな光が見える。

 私の、最後の楽しかった記憶。
 私が、最後に見た朝日。
 私を、最後まで想ってくれた優しい天使。

 無理とわかっていても望まずには居られない。
 あの光をもう一度この目で、この身で感じることを。

 ──光が、見えた。
 ──差し出す手が、触れた。

ガヴリール「ヴィーネ、ずっとずっと、お疲れ様」

ガヴリール「お迎えに、来たよ」

 なんて、なんて美しい光だろう。
 最期の最後に、また、会えた。

完 ◇◆

初めて地の文入れてみたので勝手がわからなかったけれど不快感とか無かったら幸いです

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