早坂美玲「ウチの”カッコカワイイ”宣言」 (75)
初投稿 早坂美玲がアイドルと出会うお話
某漫画とは完全に関係がありません。タイトルがちょうどよかったんです。
地の文形式 美玲視点 短編程度 書き溜めあり
美玲のほかに一ノ瀬志希、佐久間まゆ、輿水幸子が登場予定
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外を歩くときはいつもフードを目深にかぶっている。
そして、だれとも目が合わないようにうつむき加減に、人とぶつからないように注意深く進む。
誰かとトラブルになったり、怪訝な目で見られるのは嫌だから。
基本的にインドア派だし、部活なんかも特にやってないから、休日はあまり外を出歩くことはない。
ただ、服を見に行ったり買いに行くときは別だ。それはウチのポリシーだから。
イマドキ、通販だって大抵のものは買える。わざわざ店まで行くのはお金もかかるし、他のヤツがいるのは嫌だ。
だけど、なじみの店員さんと話すのは楽しいし、何よりジブンの居場所って気がするから。
そんな感じで今日も、いつもの店に向かって歩いていた。
たどりついて店の扉を開ける。いつもはあまり人がいない時間だけど、誰かがいて店員さんとしゃべっていた。
見たことのない女の人。たぶん高校生くらい? この店に来るようなヤツらよりはわりと年上だ。
声がよく響いていて、そんな広くもない店に反響している。自分の居場所が侵されているようで、ちょっぴり嫌な感じがした。
いったん時間をおいて出直そうか、でも他にあてがあるわけでもないし、街中にいるのは嫌だ。
そんなことを思っているとその女性が不意にこちらを向いてバッチリと目が合った。
赤みをおびてウェーブのかかった髪に青い瞳、猫のような口。思わず目を背けるとその女は何事かつぶやいてこちらに近づいてきた。
「この子みたいな着こなしがいいのかなー?」
そんなことを言って店員さんに話しかけている。店員さんもウチに気付いたようで、
「ええ、うちの常連さんです。いいセンスしてますよね」
なんて言ってる。 ・・・センスを褒められたのはうれしいけど、二人分の視線を浴びるのは落ち着かなかった。
「ふんふん、フードにチョーカーにカットソーにパーカにベルトにスカートにニーソに靴?アクセサリなんかは合わせてるのかな。
…それと眼帯か。別に目に異常があるわけでもなさそうだし、趣味?好み?いやはやファッションってのは奥が深いねー」
そんなことを言ってくるソイツの服装を見てみると、だらっとしたVネックのセーターにスカート。 …ますますこんな店に来るようなやつじゃないぞ。
「いやー制服着てるわけにもいかなかったから、適当なの着て来たんだけどやっぱあわない?まーねーあたし服は着やすさで選ぶから。仕事じゃそうも言ってられないけど!」
「仕事?」
「そう!今を時めくケミカルjkアイドル一ノ瀬志希18歳は、明日このブランドなどが共同で主催するイベントに出演するのだー!ぱちぱち―」
「そうなのか?」
と店員に問いかけたところでいつの間にか彼女とかかわり始めてる自分に気づく。まあ、去るタイミングを見いだせなかったのもあるんだけど。
「ええ、うちのほかにも主にティーンズから若い20代くらいまでの女性を対象にした7つのブランドが共同で主催するイベントで、全国7都市で開催してるんですよ。
志希さんのほかにも佐久間まゆさんや、輿水幸子さんも参加されます」
その二人はウチも聞いたことのあるくらい有名なアイドルだ。…こいつは知らないぞ。
「まあデビューしてそんな時間もたってないからねー。割と無理やり仕事をねじ込んだうちのPは敏腕なんだか横暴なんだか」
あたしは楽しければいいんだけど~なんて言いながら志希は笑っている。…こいつさっきからウチの考え読んでないか?
「んーキミは分かりやすいよ?普段あまり人と目を合わせないでしょ。まあ眼帯つけてたら合わせにくいかな?」
そういってウチの顔を覗き込もうとして来る。
「やめろよッ」
「ええーかわいいのに。アイドルやれそうなくらいにね」
一瞬虚を突かれた。ウチがアイドル?そんなことは考えたこともなかった。
「あら、いいんじゃないですか?美玲ちゃんならきっとアイドル出来ますよ」
店員さんまでそんなことを言い出した。ってかウチの名前出したぞ!?
「ふんふん、美玲ちゃんっていうんだね。アイドルやってみない?ってあたしが言うのもおかしいけど?」
ほら覚えられた。多分こいつは頭がいいんだろう。なんとなくわかるぞ。
「ウチはそんな、だいたいアイドルなんて…」
そういうとそいつは首を傾げた。
「キミは視線避けてるように見えて、奇異な目で見られるのが嫌なだけで目立つこと自体が嫌なわけじゃないと思うけどなー。
そのファッション自信あるんでしょ?それを押し出していけるなら十二分にアイドルの資格あると思うよ?」
救けを求めて店員さんのほうに目をやるとちょうど奥のほうに引っ込んでいていなかった。
「まあとりあえず明日ライブに来てみてよ。交通費くらいは出したげるよ?」
そんなことを言ってポケットからチケットらしきものとくしゃくしゃの紙幣を出そうとして来る。
「いいよッ。別に興味ないからッ!」
「まあまあそういわず―。あ、これはチケットじゃなくて整理券ね」
それわかるのはさすがにエスパーじみてるぞ!?
「エスパーアイドルは別にいるし。二千円で足りる?余るなら昼食代にでもー。13時からだからねー。ばいばーい」
そういって無理やり手にそれらを握らせると、手をひらひらと降って店から出て行った。
「まじか…」
そう呟いて手元のチケ…整理券127番と二千円…ってか二千円札だこれ!
「あら、志希さん帰っちゃいました?」
そういって店員さんが戻ってくる。どうやら本当に用事だったみたいだ。
「実は私志希さんのファンなんですよ~。この店に来るなんて思わなったから緊張しちゃって。出演決まったのも急のことだったみたいですし」
そこまで言ってはっと口を押さえた。
「…もしかして名前出したの怒ってます?」
「別にそんなことないモン…。あいつのこと知ってたのか?」
「ええ、結構鮮烈なデビューでしたからね。多分動画も上がってるから検索すれば見つかると思いますよ?」
そういってスマホを取り出そうとする。
「いいよッ、あとで自分で見るからッ。ってか今日見に来た限定商品ってもしかして…」
「明日のライブを主催する7ブランドタイアップの限定グッズですね。一応商品はまだありますけど、ここの分の整理券はもう切れちゃってます」
「それは大丈夫、もらったから。このアクセ?」
「…。それと、うちはやっぱりこのフードマフラーですね。コラボのロゴ入りです」
「ふーん。あ、デビキャもいるんだな」
「そうですよー。それでこれが…」
店員さんの話を半分聞き流しながら、自分がアイドルになるということについて考えた。
輝くステージに立って歌って踊る自分の姿、そんなものは全く思い浮かばなかった。
気づくと言葉を止めた店員さんが不思議そうな顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「ウチ、アイドル出来ると思うか?」
そう問いかけると店員さんは目を瞬かせた。
「うーん事務所に入って、レッスンして…、アイドル業界のことには詳しくないんですよねー。ただ、」
そういって言葉を切った店員さんはウチをまっすぐに見た。
「ステージに立った美玲ちゃんはとってもかわいいと思います」
ぽかんとした。衝撃はさっきよりずっと大きかった。
「う、ウチはカワイイだけじゃなくて、カッコカワイイんだッ! 少なくともウチはそう思ってるっていうか、目指してるっていうか…」
「じゃあ、カッコカワイイアイドル目指して頑張りましょう!」
「おうッ!って、ウチがアイドルになるなんて、だれもそんなこと言ってないぞッ!?」
そう言葉を紡ぎつつも、自分のことをそう評価してくれる人がいるとは思わなかった。その衝撃が全身を貫いていた。
いや、いてほしいとは思ってたのかもしれない。だけど信じられないという思いが強かった。
「イベント、楽しみですね。私は残念ながら見れませんけど」
「そのイベントって一体どんなことするんだ?」
「たしかトークショーとミニライブがあったはずです。すいませんチラシきれちゃってて。あと抽選があるとか聞いてます」
「ふーん。まあ明日も予定があるわけじゃないし、行ってもいいかなッ」
「じゃあ終わったらうち来て感想聞かせてくださいねー」
「ちゃっかりしてるなオマエ…。いいよッきてやるッ。あとこれくださいッ」
「はーい。いつもありがとうございます」
会計を済ませた後、商品を渡されながら
「楽しんできてくださいね」
「うん…」
そんなやり取りをしたのち、(正直どう楽しめばいいかわからないけど)という言葉を飲み込んで店を後にした。すでに日は傾き始めていた。
「明日の今頃には終わってるのかな…」
そう呟いても聞く人はいなかった。明日のことを知ってる人はこの世のどこにもいなかった。もしかしたら志希をのぞいて。
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翌日11時頃、ウチは昨日と同じ通りを歩いていた。
いつもの通りフードをかぶりながらも、いつもより目線は前を向いていた。
歩きながら昨日確認した一ノ瀬志希のこれまでの行状を思い返してみる。
(言われたから確認してみたけど…ほんとにとんでもなかったぞ!?)
デビューの仕事は深夜番組でいきなりソロ出演。明かりが消えるトラブルに見舞われるも、なんとペンライトで自らのサインを描いて見せる。
そのまま全く危なげなくステージを終え、その様子が転載された動画は現在100万再生を超えている。
そのあとに出たクイズ番組ではインテリ芸能人を軒並みなぎ倒し、近々行われる公演では主役に抜擢されたらしい。
肩書はケミカルjkアイドルであるが実は帰国子女、それも大学まで飛び級していたらしい。どのくらい凄いことなのか想像がつかなかった
佐久間まゆや輿水幸子についても詳しくはないが、ある程度どんなアイドルかは聞いたことがある。
しかしこの3人が集まるとどうなるか。それは全く予想がつかない。そもそもちゃんとイベントができるのか…
そんなことを思いながら歩いていると、会場となるイベントスペースが近づいていた。
…思ったより人多いな!?まだ二時間あるんだぞ??
思わず踵を返しそうになったがぐっとこらえる。
よく見れば周りも眼帯こそしていないものの、ロリータ系やパンクなものなど普段あまり見かけない格好のがちらほらいる。
これなら自分も浮かないで済みそうだ。そんな思いが去来するのを少し苦々しく思う。
志希に言われたことがよみがえる。奇異な目で見られるのは嫌だ。目立つのは嫌じゃない…?わからない。
目立つのはダメなことじゃないって思いはあった。それはウチが否定されるようだったから。
そんな考え事をしながら歩いていると肩が誰かとぶつかった。
瞬間的に頭から血が引く。それと同時に自分がこんなにもいつもと違っていたのだと今更ながらに気づいた。
「すみませんッ」
「いえ、大丈夫ですよ。私のほうこそ不注意でした」
頭を上げるとスーツ姿の男が立っていた。町中ならともかくここにいると異質に感じる。
周りが見る目も怪訝さを若干の不信感を含んだようなものだ。…ウチはよく知ってる。ただその男はそれを気にするそぶりも見せなかった。
「下見にきてるんですよ。座席は整理券をお持ちの方だけですが、周りや上の階は自由ですからね。何か起こっては大変です」
「関係者…なのか?」
「ええ、内緒ですが、一ノ瀬志希のプロデューサーをしています」
「えっ」
あの一ノ瀬志希のプロデューサーがこのまともそうな男だとは、全く予想外だった。
そんなウチの表情を見てか、胸元から何か差し出してきた。
「名刺です。それと、良ければこちらうちの事務所の紹介パンフレットになります」
「どうも…」
ウチが受け取るのを見守りながら、その男はウチのことを上から下まで一瞥したのち、さらに話しかけてきた。
「失礼ですが、もしかすると昨日志希と会った方では」
「あ、そうだぞッ」
「やはりそうでしたか。よろしければお名前をうかがっても?」
一瞬ためらう。 けれど、なんとなくこいつは大丈夫な気がした。
「えっと、早坂美玲だッ」
「早坂美玲さん。漢字はこれでいいですか?」
そういってさらさらと書き付けた紙を見せてくる。
「え、ああ、うん」
「成程…。早坂さん、アイドルに興味はありますか?」
こいつもか!
「…ウチ、そんなことは考えたこともなかったから。わからない」
「そうですか。よければ我がプロダクションに履歴書を送ってみるだけでも。アイドル候補は随時募集中です」
そういってさらに封筒一式を差し出してくる。…いつも持ち歩いてるのか?
「スカウトの機会はいつどこに転がっているかわかりませんのでね。それでは失礼いたします」
そう言うと一礼して去っていった。 …これ折らないと入らないけど大丈夫かな。
とりあえず、封筒とパンフレットをバッグにしまい込んで名刺はパスケースにしまった。
そのあと昼食をとって、気が付くともう間もなく始まるという時間だった。
再びイベント会場へ戻ると、吹き抜けになった二階、三階にもちょっとした人だかりができていた。
三人それぞれのグッズらしきものをもったヤツらが目に付く。
男もいるし、それなりの年の奴もいる。見るからにオタクなやつが二階のステージ正面に何人かで陣取っているのも見えた。
3人とも人気があるということなのだろう。そう納得しながら整理券を渡して、番号が割り当てられた席へ向かう。
中央から左斜め後ろくらいのところだった。どうやら150人程度の定員だったらしい。
周りは皆思い思いの恰好をした女の子たち。男が女性向けブランドのものを買ってイベントに参加するのは難しかったのか、ウチに見える範囲ではいなかった。
今回のイベントのブランドはそれぞれ雑誌とかで知っているものだったから、周りがどんなコーデをしてるのかはわかりやすかった。
その中でもどうやらガルモンで固めてるのはウチだけだった。それで目立つってことはなかったけど、少し寂しい気もした。
そうやって周りを見ていると隣のヤツが話しかけてきた。
「それガルモンだよね。かわいいねー」
思わずフードを握りしめた。けれど、そいつはウチにかまわず話し続ける。
「さっきスカウトうけてた?アイドルって楽しそうだよねー。でも大変なのかなやっぱり。みんなすごいもんね!でも志希ちゃんとかまゆちゃんと共演できるならあたしもなってみたいかも!ねーどう思う?!」
「そんな簡単じゃないだろッ。たぶん…」
「あ、聞いててくれた!うーんやっぱそうだよね。あたしの親は許してくれなそうだし。それに…」
そのまま話しかけるそいつを置いといて、”親”について考えた。
ウチの親はまあ標準的な収入と家庭だと思う…。たぶん。ウチのやりたいことにはあまり反対しない。
メッシュ入れたりしても怒ったりしたことはない。普段の服装も似合ってるからいいんじゃないって感じだ。
まあそもそも昔ウチを飾り付けてたのはママだし。たぶんママの趣味からあまりはずれていないのだと思う。
ただアイドルに成りたいといったらどうだろう。たぶん東京に行くことになるし、お金だってかかるだろう。いや、給料が入る分もあるのか?
そもそもアイドルになったらどんな感じなんだろう。 …やっぱり何もわからない。
そんなことに思いを巡らせると隣のヤツが揺さぶってきた。
「もう始まるみたい!志希ちゃんまゆちゃん幸子ちゃん…」
…微妙に怖い。と思うとほとんど同時に音楽が鳴り始めた。時計を見るとちょうど13時だった。
再び目をステージに戻すとちょうど3人がステージに入場してきていた。
瞬間歓声が沸き上がった。3人はそれに笑顔で手を振り答えている。
ステージ中央に3人が立つとひときわ大きな歓声が上がった。
現在4割程度ですが、いったんここで切らせていただきます。 明日にでも続きを投下できたらと思います。
何もかも初めてなのでペース等掴めませんが、書ききるまでは頑張ろうと思います。
中央に佐久間まゆ、ウチから見て右に志希、左に幸子が並んだ。三人はステージ衣装に加えて、今回のイベントのコラボアイテムを付けていた。
そしてまゆが最初の挨拶を発した。
「みなさん、こんにちわー♪」
こんにちわー!とウチもとりあえず声を出す。隣の様子を見るとすでに舞い上がっていた。
「うふ、本日は7ブランド合同キャンペーンの仙台会場へ、ようこそお越しくださいました。仙台出身の佐久間まゆです、どうぞよろしくお願いします」
再び、歓声があがる。
「今日は楽しんでいってくださいね…」
そういってまゆは下がり幸子が一歩出る。
「仙台のみなさーん!カワイイボクがきましたよー!!」
歓声や名前を呼ぶ声が上がった。ウチはやや静観に近い感じで見つめている。
「フフーン。仙台の皆さんは幸せ者ですね!こんなにカワイイボクがこのコラボアイテムでさらにカワイクなったところが見れるんですから!」
歓声にこたえて手を振りながら幸子が下がり、志希が出る。
「やっほー、志希ちゃんだよー!」
するとこんどは歓声に加えて、ヒューというはやし声のようなものもとんだ。
「今日は開けた会場だからあたしのこと知らない人まで酔わせちゃうよー!なんてねー。今日はよろしく!にゃはは♪」
そうすると笑い声交じりの歓声が上がった。志希は満足そうな様子で二人と並んだ。
「さて、とりあえず席につきましょう」
そうまゆが言って二人を促し、三人とも椅子に座った。
「とりあえず、今日のイベントはどうなってるんだっけ?」
「前半はトークショーです。そのあとに…」
「抽選をやって、そのあとかわいいボクたちのミニライブですね!こんなに近い距離で僕のライブが見られる機会は他にないですよ!」
「にゃはは、じゃあまゆちゃん。進行よろしく!」
「はい、任されました。ではまず、今回のイベントのコンセプトを説明しますね」
まゆがそういうとステージの背景に七つのブランドのロゴが映し出される。
「このイベントは主に十代から二十代の女性のための新たなファッションの提案というコンセプトのもと、こちらの7ブランド共同で全国7都市で開催されているものです」
「仙台会場は3番目だねー」
「はい。他には東京、大阪、名古屋、福岡、新潟、広島で行われる予定です」
今更ながらにそんな雑誌広告があったのを思い出した。その時は自分には縁遠いと気に留めてなかったんだろう。
ウチのファッションはすでに確立されてる。今更何かで揺らいだりはしないって思ってた
「それで、具体的にどんなコンセプトなんでしたっけ?」
「はい。自分が自分らしくあるためのファッション、あるいは、こんなファッションもあるんじゃないかという提案。そういったものを抱えていてもなかなか表に出す機会がない。
そんな悩みを解決したいという目的で、このようにみんなが集まる機会を作る。そして私たちアイドルがこのように前に立って、皆さんの力になる。そんなことを目指したイベントです」
提案…。ウチも、爪や眼帯を他のヤツに薦めたことはある。だけど、この辺のヤツらはそういうのに理解がなかった。
かすかに身じろぎをする。ここはウチの居場所だろうか・・・と。
「まあ、どんな衣装を着てもボクのカワイさは揺るがないですけどね!」
「でもまゆは、可愛い服を着れば、もっと可愛くなることもできるとおもうんです」
「当然です!いくらボクがカワイイといっても裸でいるわけにはいきませんしね」
「まあどんな変な格好してもそのカワイさは揺るがないのかなってところはあるけどねー。それはバラエティー番組に任せよっか」
「ボクはバラエティーアイドルではありませんよ!?まあとにかく、ボクは最高にカワイイってことです!」
輿水幸子のカワイイ節はウチも知っていた、けれどこんなに連呼されても嫌味に感じられないのは素直にすごいと思った。
多分あれはものすごい努力と自信の上に成り立ってる。…ウチもアイドルになってあんな風に自らを主張することができるだろうか。
「まゆちゃんは元読モだったよね。いろんな服着たりすることにどういう気持ちでいたの?」
「まゆは、もともと友達に誘われてやってたんです。だから可愛い衣装を着たりするのは楽しかったですけど、まゆがどんな気持ちでいたのかはちょっと思い出せないです」
「今はー?」
「アイドルとしてのお仕事ではモデル時代とは縁のなかったものもありますし、そういう意味で新鮮だったりもします。
でも、それよりも、みられることについての意識がだいぶ変わりましたね」
「わかりますよ!ボクもボクのカワイさを届けるということについてだいぶ意識が変わりましたから」
「ふーん。二人はアイドルあたしよりも割と長いもんねー。いろいろ経験してるんでしょ?」
「まあボクは天使からセクシーまで何でもこなしましたよ!そういう志希さんはどうなんです?」
「あたしはそもそもファッションにこだわりはなかったから、あっちいたころは周りもみんな白衣だったからねー」
「「あー」」
「でも、こっち帰ってきて、JKやってーアイドルになってーってなかでいろいろコーディネートしてくれる人とかもいたりするんだよねー。
その中でまあ自分が可愛いとか気にしたことなかったから、それは新鮮で楽しかったんだよね」
「志希さんのことをコーディネートしてみたい気持ちは、まゆもわかる気がしますねえ」
「ん?リボンにつつまれてピンクでふわふわの志希ちゃんみてみたい?みんなはどう?まゆちゃんみたいな恰好の志希ちゃん見たいー?」
見たいー!と歓声が上がってる。 志希に似合うか? 似合うのかもな……。あの顔はずるいと思う本気で。
「えっと、確かにまゆにとってリボンは大切で特別なんですけど、そんなにぐるぐる巻きにするわけじゃないですよ?」
「志希さんは、ロリータ系より大人っぽい格好のほうがやっぱり似合うんじゃないでしょうか!」
「うーんフレちゃんとか奏ちゃんとかと行くのはそういうとこだけどねー。たまには挑戦してみるといのもありかな?みたいな?」
「まあ志希さんは素材がいいですからね…。ボクほどじゃないですけど!」
「あ、そろそろおしまいの時間みたいですね。ちょっとテーマからそれちゃったかしら…」
「じゃあ、今日あたしたちがきてる衣装はステージ衣装であたしたちそれぞれに合わせて作られたものなんだけど、
そんな組み合わせや服装を自分たちで発見できたらいいよねっていうことで!」
「以上、トークショーのコーナーでした!」
わっと会場全体から拍手が上がった。 それにしても志希の奴あんなこと言ってたけど結局自分で着るときはあーゆーラフなのだよな?
「それでは次は抽選による交流会のコーナーですね!当たった方は壇上に上がってカワイイボクとまゆさんと志希さんとお話しできます!」
背中が凍った。 まさか当たったらどうしよう。っていうかそんなの聞いてないッ!
「じゃあ早速抽選いっちゃう?ルール説明よろしく!」
「抽選には整理券の番号を使います。まゆたちが1枚ずつひきますから、当たった人にはステージ上に上がってください」
そうまゆが言うとスタッフが箱を持ってくる。同時に隣のが腕をつかんできた。
「どうしようまじやばい緊張してきたまじなにも浮かばないしまじ無理まじ」
ウチも気持ちは同じだ。…多分理由は違うけど。
会場全体もざわついている。中にはステージを爛々と見つめているのもいる。
「じゃあ早速抽選だー!だれから引く?」
「じゃあボク、まゆさん、志希さんでいいですか?」
「まゆは構いませんよ」
「あたしもそれでいいよ」
「じゃあ引きますね。よいしょっと…」
思わず当たらないように両手を握りしめて祈る
「出ました!49番です!」
その瞬間に前のほうが湧き上がる。その中で一人の女の子がおずおずと手を挙げるのが見えた。
「じゃあステージの方に…大丈夫かしら?」
「んー…まあせかす必要もないし、気持ち落ち着けてからねー」
スタッフさんよろしくーと志希がいい、そのまま抽選をつづけた。
「続いてはまゆちゃん!どうぞ!」
「わかりました。引きますよぉ」
隣のヤツがいつの間にかかたずをのんでまゆを見つめている。よく見れば左腕に赤いリボンを巻き付けていた。
「えっと、78番です」
また歓声が真ん中あたりから生まれた。今度の子はすっくと立ちあがりそのまま移動し始めていた。
「ふんふんなるほど。さて最後は志希ちゃんだよー」
そういうとあっさりとくじを引く。
「んーと、127番!」
頭の中に空白が生まれた。隣のがものすごい勢いでうちのほうを向いた。
「おや?えー、あそこが82でそこから列がこうでこうだから、あ、そこの眼帯のキミ!おめでとう!」
オマエッ!と思って志希のほうを見るとまっすぐに見つめる青い瞳と目が合った。
口は笑みの形だが恐ろしいほどに真剣な、獲物を見つめる猫のような目だった。
思わず立ち上がると拍手に包まれる。学校の表彰で前に立ったこともなかったし人前に立つのは…。
(…目立つこと自体が嫌なわけじゃないと思うけど。)
頭の中に昨日の志希の言葉がよみがえる。思わず志希のほうをもう一度見た。
そうすると志希はにこりと微笑みかけて
「早くきてー!ねーはーやーくー」
なんて言っている。先ほどの鋭い視線はまるで幻だったかのように消え失せていた。
とりあえず壇上に向かうため列を抜け出す。そして、スタッフの誘導に従ってステージへ向かう。
浴びる視線は羨望や嫉妬、興味や疑問など様々なものがあったと思う。そんなことを考えている余裕はなかったけど。
ステージに上がると、志希と幸子とまゆ、そして残りの二人と並んだ。
二人の服装は割と普通の恰好だった。髪飾りなんかに今回のブランドのものがあったりはするが全体的に遠慮がちに見える。
「ではまず49番のキミ、あー個人情報はなるだけ聞かないよ、念のためね。残念かもしれないけどキミたちのためだからさ」
コクコクと頷いている。背はまゆよりも少し大きいくらいだけど、顔をみるとウチより年下かな?
「じゃあえーと、キミのファッションについて。こだわりとかあったりする?」
「志希さんそんな直接的な…」
「えっと、まゆが見た感じだと全体的におちついた配色で、でも細部にはかわいさに対する意識があると思います」
「あーフリルか刺繍とかとかアクセサリーとかね。まあ色の好みとかは人それぞれあるのはあたりまえかな?」
流行色なんてどっかの誰かが勝手に決めてるしねーとうそぶいて幸子にどやされている。
そんな光景を見ながらも、頭の中はなにを言ったらいいかでパンクしそうだった。
その一方でその子も何を言ったらいいかわからない様子だった。
「じゃあ、何かあたしたちに思ったことを言ってくれるっていうのはどうかな。今キミは何を思ってる?」
・・・ウチが今、いや、ずっと思ってること。言いたいこと。 それは…。
「私、いつも不幸で、自分に自身が持てなくて、だから割と地味で暗めな色の服選んじゃうんです。可愛い格好なんてもったいないと思っちゃって…。
でもやっぱり可愛い恰好は好きで、素敵な格好はしてみたくって…。それでこのイベントに参加して、そんなヒントがもらえないかなって思ってたんです…」
その様子を見て三人の間で視線が交わされ、幸子が一歩前に出る。
「フフーン。ボクみたいに自分に絶対の自信を持つなんて、みんなにできることじゃないです。
だからみんながそうするべきだとは言いません。ただ!」
そういって幸子はその子を見上げる。
「ボクはこうしてアイドルをやっています。そしてあなたもやれること、やりたいことがあるはずです!
その中でかわいい格好をすることをためらってはしょうがないでしょう!」
そう自信満々に言い切った幸子に対して拍手が沸き上がる。ウチよりも小さいはずの姿がとても大きいものに見えた。
「むちゃくちゃ言ってるみたいだけど真理かもねー。やりたいものやったもの勝ち?」
「そうですね。まゆたちはみんなを応援しています。やりたいことのために頑張るみんなを」
そういって幸子、まゆ、志希はその子とそれぞれ握手をした。その子は恐縮している様子だった。
「私は…」
そういいながらでてきた二人目の女の子。額を出した髪型で、眉をひそめ、胸元で手を落ち着かない様子でいじっている。
「私、こんな感じだから、目付きがきついって言われることが多いし、そんなにかわいくもないって思うの。
だから、私が可愛い格好をするっていうのもあんまりピンとは来なくて…。ただ、アクセサリーを作るのは好きだから、
その参考になればって思ってこのイベントに来てみて、まさかこんなところに立つなんて思ってなくて…。だから何を言っていいかなんて…」
すると、今度はまゆが出てきた。
「そのアクセサリーも自作なんですか?」
そういって胸元のペンダントを指し示す。頷く様子を見るとさらにつづけた。
「まゆも、編み物したりするんです。それは誰かに贈るためのものだったりするんですけど…。あなたは、作ったアクセサリーを誰かにプレゼントしたりもするんですか?」
その子は再び頷く。
「人のために合うものを考えられたり、自分のためでもそんな可愛くて素敵なものを作れるんだから、可愛さについて悩む必要なんてないはずなんです。それに…」
そういいってまゆは正面からその子と目を合わせる。
「あなたの瞳はとても綺麗だと思います。目付きがきついなんて思わないで、その瞳が好きっていう人もきっといるはずだから」
「え、あの、ありがとう」
「ひゅー。かわいい感じだけじゃなくて、凛々しい感じとかも似合いそうだよね。どう思う?幸子ちゃん」
「ボクは最高にカワイイので凛々しい恰好をしてもカワイイんです!それはともかく、いろんな格好を試してみるっていうのもこのイベントの趣旨になるんですかね?」
「んーぶっちゃけ色々ブレブレだしもう気にしなくていいんじゃないかなって」
「そういうことこの場でいわないでください!なんで色々と出れるんですか志希さんは…」
「二人とも、いいですか?」
「はーい。キミはこの手でかわいいaccessoryを作れる。それができるならキミ自身を彩ることはキミが思い込んでるよりはずっと簡単なんだよ。
そもそもキミとても可愛いし。匂いかいで食べちゃいたいくらい?」
握手されながらそんなことを言われ°見るからに動揺している。その志希を引きはがすようにしながら幸子が前に出た。
「ボクはカワイさについて悩みません。だってボクはカワイイんですから。これは理屈じゃないですし、カワイイも理屈じゃありません。
あなたが自分がカワイイと思うことを始めれば、その瞬間からあなたはカワイイんです」
ボクがカワイイのは世界が知っていることですけどねと続ける幸子。それにたいしてありがとうごさいますと頭を下げる二人目の子。
その顔は先ほどよりずっと柔らかな表情になっていた。
「さて、三人目は127番のキミ」
そう促され前に出る。頭はすでに真っ白だった。
「前の二人と比べるとだいぶパンクというか個性的な格好だよね。なんかこだわりがあってしているのかな?」
ステージの上のアイドルたち、そして周りからの視線が全身に浴びせられる。一度口を開閉させるが、言葉は出てこない。
「見た感じ、ガルモンとかのゴシックパンク系でそろえてるんですかね?それにしても眼帯はないはずですが…」
「その眼帯は、あなたのこだわりなんですか?ちょうどまゆのリボンみたいに」
二人にさらに声をかけられ、不意に言葉があふれ出した。
「ウチはこの格好が好きでやってるッ!このツメも、フードも、眼帯も好きだかからつけてるッ! ウチにはこの格好が似合ってるし、
好きなファッションするのに遠慮なんかしてらんないだろッ!だから、誰にもウチのことを邪魔させない!ウチはウチが好きなように生きてやるッ!」
叫ぶように発した言葉は会場中に響き渡った。肩で息をつくウチを志希は興味深げに、まゆはややあっけにとられたように、幸子は余裕を持って見つめていた。
やや間をおいてまゆが口を開く。
「あなたは…
しかしその前に幸子が割り込んだ。
「あなたはとても自信がおありなんですね!すばらしいことです。ボクの次にカワイイと認めてあげてもいいくらいです!」
「幸子ちゃん?」
「およ?」
「おっと、お二人のカワイさを否定してるわけじゃありませんよ?ただ、ボクのカワイイ哲学に照らして、あなたはとてもカワイイです!」
「カワイイカワイイっていうけどなッ!ウチはカワイイだけでなく、カッコイイんだッ、カッコカワイイウチなんだッ!」
すると、強い衝撃を受けたかのように幸子がよろめいた.
「なんということでしょう…。ボクはカワイイので、どんな格好いい衣装を着てもボクのカワイさの前ではすべてがカワイくなってしまう…。
つまりカワイさとカッコよさの両立に対するボクは無力…?」
「えっとー…」
「あの…幸子ちゃん」
「いいえ違います。ボクはどんな時でもカワイイということが揺るがなければよいのです。だから、そうです。
たとえあなたがカッコイイとカワイイの両方でボクに挑んでも、ボクのカワイさで返り討ちにして見せます!」
望むところだッといいかけたところではたと止まる。アイドル輿水幸子に勝負を挑む?何で?なんでこんなことになってる!?
口を開いたまま止まったウチを見て幸子がやってしまったという顔をしている。
「んーとりあえず握手しちゃってあたしたちに回してくれる?もう時間かなり押してるし」
「そ、そうですね。では、手を出してくれますか?」
そういわれてフードをずっと握りしめていた手をゆっくりと開き、幸子へと差し伸べる。
「まるで他のアイドルの方を相手にしているような気分でした。つい興奮してしまって」
そういいながら幸子はウチの手を握る。ウチと同い年のアイドルの手はウチと変わらず暖かくて、握り慣れているからだろうか、こわばった身体がほぐれる気がした。
「ウチは今はアイドルじゃない…、けど…」
そうもごもごと口に出しながらその手を握り返し、手が離れた。
「まゆも、アイドルになるなんて思いもよらなかったんですよ。人生何があるかわかりませんから」
そういうまゆと握手する。まゆはウチを見ているようで一瞬どこか別のところを見ているようだった。
「そうかもな…」
そして志希が出てくる。
「いやー面白かったよ。まさかこんなshowになるなんてねー」
そういってウチの手をしっかりと握った。
「あたしたちのミニライブかすまないかな?にゃはは」
(アイドルってのがどんなものなのか、キミにはちゃんと経験してほしいからね)
そうウチにだけ聞こえるように付け加えると志希は手を離した。
「それでは三人に拍手―」
そう言われて湧き上がった拍手につられてステージの方を見ると、思った以上の人がこちらに顔を向け、拍手を送っていた。
それを受けて手を振っているのはアイドルたち3人だったが、心にこみ上げたものがあって衝動的にツメを振り上げた。
すると、歓声が上がり拍手が一段大きくなった。
そのあとどのようにして席に戻ったのかははっきり覚えていない。気づけば座っていて、隣の子がうちの手を握りたがるのを好きにさせていた。
「さて、ミニライブだね。まずはまゆちゃん、よろしくー」
そう言って二人がはけ、まゆが残る。まゆは会場に手を振ったのち、一度目を閉じて一呼吸置き、そしてポーズをとった。
そして流れ出したメロディー。同時に開かれる瞳。始まるダンス。
思わず目を吸い寄せられた。まゆはその一瞬で会場中の心をつかんだかのようだった。
恋の歌なのだと思う、たぶん。まゆは本当に恋しているかのように歌っていた。
そして歌声が響く。綺麗な歌声だった。耳や目から入ってくる全ての情報がウチの中に広がっていく。
実際はshort.verで2分程度だったらしい。だけどそれはいっそ永遠のように感じられた。
まゆが下がり、幸子が出てくる。自信にあふれた表情は先ほどより一層力のあるものだった。
イントロが流れ始めると同時に、幸子がカワイらしく踊り始めた。幸子のカワイさを全身であらわすかのようだった。
幸子のかわいらしい歌声が会場に響き渡る。ウチは歌には全く自信がなかったから、ただ聞き入ることしかできなかった。
吠えたり叫んだり、そもそも騒がしい歌が好きだからこんな曲とは縁がなかった。
幸子の歌はそういうのとは全く違って、とにかく”カワイイ”ものだった。
幸子が歌い終わると志希とまゆが出てくる。そして3曲目が始まった。
三人の歌声が合わさると、一人よりもずっと響き渡る。そんな当たり前のことが初めて分かった。
個性の固まりのような志希やあんなに我の強い幸子も一緒に合わせて歌っていた。
一匹狼だなんて考えていた自分が、ちょっと揺らいだ。
どの曲も恋の歌で、自分で歌うんだったら気恥ずかしくなってしまったと思う。三人は紛れもなくアイドルだった。
三人が歌い終わると盛大な拍手が沸き上がった。ウチも自然と拍手していた。いつの間にかフードは脱げていた。
まゆがマイクをとると会場は徐々に静かになった
「とういうわけで、佐久間まゆで、エヴリデイドリーム」
「輿水幸子で、To my darling...」
「そして三人でパステルピンクな恋を聞いていただきましたー!みんなどうだったー?」
会場から、そしてウチの口からも歓声が自然に上がった。
「うぅん♪よかったー」
そう言いながら志希は匂いを嗅ぐようなしぐさを見せる。それに対してまた歓声が上がる。
会場が再び落ち着くのを待って、まゆがしゃべり始めた。
「さて、残念ですがそろそろお別れのお時間となってしまいました」
「最後に一言ずつ、まずはボクからですね。今日は皆さんととても楽しい時間を過ごせました。
皆さんもボクのこのカワイイ姿を目に焼き付けて、カワイさの指針にしてください!」
「まゆは、アイドルになってから自分でいろいろ考えて服を選んだり、選んでもらった服を着たりするのが本当に楽しくなりました。
皆さんにもそんな出会いがきっとあると思います。応援してますからね」
「志希ちゃんは昔は服なんて着れればいいなんて思ってたんだよねー。今はカワイイってことを意識したりもするんだよ?なんちゃってー。
まあ、そんなものに縁がないって思ってても、人は変わるものだよ。変化を恐れず、楽しもう!」
「はい、では仙台会場でのイベントはここまでになります。次回のイベントは福岡で再来週の日曜日。メンバーは神崎蘭子ちゃん、小日向美穂ちゃん、宮本フレデリカさんです」
「また面白いメンバーだよねー。蘭子ちゃんとフレちゃんのこだわりとか美穂ちゃんの服選びとか気になるなー」
「そうですね。ボクが蘭子さんみたいな恰好をしたらゴスカワイイ・・・?」
ゴスカワイイ―!と声が上がった。
「ありがとうございます!じゃあ最後に三人で挨拶ですね」
「はい。…本日は」
「「「ありがとうございました!」」」
そう言ってお辞儀をする。そして手を振りながらステージから帰っていった。
隣の子がここぞとばかりにしゃべりかけてくるのを聞き流しながら、しばらく座ったままでいた。頭の中には様々のことが駆け巡っていた。
席を立って、会場を出ようとしたところでだれかに呼び止められた。見ると、さっきステージに上がった二人だった。
「あの、さっきはなんて言ったらいいかわからないけど、ありがとう。私、関裕美っていうの。それでこっちの子が」
「はい、白菊ほたるです。すみません、急にこんな呼び止めたりなんかして…」
二人ともやけに恐縮している。
「ウチは早坂美玲だッ。ありがとうとかすみませんとかウチ何もしてないだろ?」
二人は互いを見かわすと、何か決意したかのような表情でウチに向かった。
「いえ、美玲さんは私たちに本当に大きなものをくれたんです。それが何か言うわけにはいかないんだけど…」
なんだそれ。とは思いつつも二人の真剣な表情はさらなる問いかけを拒むかのようだった。
「…まあ、ウチも3番目だったから楽に話せたところはあるんだけどなッ!オマエ達のほうが緊張しただろ?」
そういうとなぜかぎくりとした表情をした。ほたると名乗った方がごめんなさいとつぶやくのを裕美のほうが叱咤する。
「とにかく、あなたのおかげで私たちも吹っ切れたの。本当にありがとうね」
そう言って裕美はウチの手を取った。その握り方はややぎこちないものだったがさっきの幸子たちとの握手を思い起こさせるものだった。
「オマエ達もしかして…」
そう呟くと裕美は口に人差し指を立てた。そしてほたるを前に出す。
ほたるはなおももじもじとしていたが、意を決したように手を握ってきた。
「私の不幸が移っちゃったらごめんなさい…」
「そんなこと言うなよなッ!ウチはウチだッ!誰からの影響も受けないぞッ!」
ついそんなことを言ってしまった。しかしほたるはなぜか目を潤ませながら笑みを浮かべた。
「じゃあ今日は本当にありがとう。いつかどこかでまた会いたいな」
「うん。ウチも、オマエ達…ホタルとヒロミとはまたどこかで会える気がする」
「ありがとうございました…!」
そう言って二人と別れた。二人はたぶん…。でもそれはウチが詮索することではないだろう。
どこをどう通ったのかもわからぬままに気が付いたら家についていた。
ママにうちがアイドルになったらどうする?と聞いてみた。ママは一言応援するわといった。それ以上何も聞いてこなかった。
封筒を開くと白紙の履歴書と記入例、そしてアンケートが入っていた。埋められるだけ埋めて封を閉じ、宛先を書いた。
ママに封筒に張る切手を聞いたら黙って渡してくれた。手に持った封筒にチラリと視線を向けたけど、ウチにやわらかな微笑みを向けただけで、やはり何も聞こうとしなかった。
翌日、封筒をポストに投函した。ここから何かが始まるのだろうか。それは本当に誰も知らないことなのだろう。
ただ、アイドルを見守る星があるのなら、すべてが始まることを知っているのかもしれない。そんなことを思った。
以上です! ありがとうございました! 唐突なボイス実装で死んでしまい更新に時間がかかったことをお詫びします。
色々とこれから先も考えていましたが全没になるかも…というか美玲ちゃんボイスに向けた応援のつもりだったのにどうしてこうなった。
とりあえず∀NSWERイベを全力で味わった後又何か書こうとは思ってます。html依頼してきます。
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