藤原肇「踏み出し膨らむ、不思議な時を」 (22)
これはモバマスssです
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カタカタカタ
P「…ふぅ、ひと段落」
ちひろ「お疲れ様です。お茶淹れましょうか?」
P「あぁいえ、大丈夫です。エナドリのストックがまだあるので」
ちひろ「まぁまぁ、それはもっと忙しい時や疲れたけど働かなければいけない時に残しておきましょう」
P「それもそうですね…お願いしていいですか?」
ちひろ「はいっ、少しまってて下さいね」
P「さて…あと30分もあれば終わるかな」
ガチャ
肇「……」
P「お、お疲れ様肇」
肇「…し…」
P「…し?」
肇「し、漆黒の帳降りしこの刻、楽園への門は開かれます」
P「…ん?」
肇「貴方には少し早過ぎた様ですね…瞳を携えし者とはいえ、声を届けるのは難しい事です」
P「…レッスンお疲れ様。お茶飲むか?」
肇「…お願いします」
ちひろ「あ、肇ちゃんお疲れ様です」
肇「…や、闇に
P「無理しなくていいんだぞ?」
肇「お疲れ様です、ちひろさん」
ちひろ「丁度茶葉が切れちゃったので、私は買い足しに行ってきますね」
P「いつもありがとうございます」
肇「ありがとうございます」
バタンッ
P「…さて、肇」
肇「何でしょうか?」
P「…さっきのは何だったんだ?」
肇「…闇もまた、一つの色です」
肇「貴方は今、面倒臭いななんて思っているのかもしれませんが」
肇「16歳と言う多感な時期の女の子と言うのは、須くしてこう言うものなんです」
肇「分かって頂けますか?」
P(藤原肇、16歳)
P(大人びた雰囲気を纏った、落ち着いた感じの女の子)
P(年齢以上にしっかりとした振る舞いと、時折見せる年相応な表情が魅力的で)
P(そんな可愛らしさとカッコよさがファンの心を掴んで離さない、が)
肇「ふふ、どうせでしたら私がコーヒーをふるまっても良かったかもしれませんね。もちろんブラックで」
P(何というか、こう)
P(直前に誰と会ったか分かるくらい、影響されやすくて)
P(それでいて芯はしっかりした、少し面倒臭い…)
肇「いただきます…あつっ!」
P(かわいい)
P「…チョコあるけど食べるか?」
肇「チョコ?!い、いえ…今甘い物を食べるには、コーヒーの用意が出来ていませんから」
P「じゃああと30分くらいで仕事終わるし、そしたらコーヒー淹れるか」
肇「ふふ…あまり、私を待たせない事です。秘められし闇の力が解き放たれる刻は、直ぐそこまで…」
P「…いらない?」
肇「と色々言いましたが、わざわざプロデューサーが用意して下さったものを無碍にする訳にもいきませんし?私は此処で力を蓄えるとします」
P「…直ぐ終わらせるから待っててくれ」
肇「あ、でしたら私が用意しておきますから」
P「素に戻ってるぞー」
肇「…集いし願いが、私の心を繋ぎます。純黒の魔力を、ええと…」
P「さーてやるか」カタカタカタ
肇「…プクー」
P(ん、ミスった…こうじゃないな…)
肇「ふぅ…まったく、上手くいかないものですね」
P(この日は地方で…あれ、この地名なんて読むんだろう)
肇「しっかり装わないと、バレてしまいますから…」
P(…肇に聞いてみるかな。岡山県だし)
肇「頑張りましょう、私。やればできる筈です」パチンッ
P「なぁ肇。岡山県高梁市の備中ってびちゅうって読みでいいのか?」クルッ
肇「えっ?!あ、それはびっちゅうです。この程度の読み、私にかかればなんてことありませんね」
P「…なんで顔に両手当ててるの?」
肇「これは…魔力を高めているんです。知らない人からみたら頬を叩いて意を決している様にも見えるかもしれませんが、実は覚醒の為のエネルギーを効率的に溜め込める術式なんですよ」
P(よーしあと少し、いける)
肇「…なるほど、闇にも種類が…」
P(またこう言った機会があれば、是非とも…)
肇「混沌、深淵、影依、冥府、煉獄、永劫、呪怨…」
P(混沌の冥府をよろしくお願い…違う違う)
肇「よし、いけます!」
P「肇」
肇「響し魂の永劫なる福音を、さらなる
P「反響する混濁のノイズ、されど我が使命は指先に触れんとす」
肇「…何を言っているんですか?もう少し普通にお願いします」
P「…正直恥ずかしかったわ」
肇「いえ、大人になってもそういった心を持ち続けることは大切ですから。それで、どう言う意味だったんですか?」
P「ごめん、ボリューム下げて」
肇「…すみません」
P「…まぁいいか、あと10分くらいで終わるはずだから」
肇「では私は、蒼の旋律を奏でる翼を携えーー
P(さて、はやく終わらせるか)
肇「…大体プロデューサーは、今日がなんの日か忘れてるんじゃないでしょうか」
P(ん、ここ誤字ってるな…)
肇「折角用意してきたのに、まるで期待している様にも見えませんし」
P(…聞こえない、何も聞こえない)
肇「確かにその様な素振りを見せなかった私に非があるとも取れますが、少しくらいは…」
P(仕事終わってから、あと20分くらいだから)
肇「…楽しみじゃ、なかったのかな…」
P「肇、声に出てる」
肇「…聞かなかった事にして下さい。聞かなかった振りも大切です。時には大人な対応をお願いします」
カタカタカタ…ッターン!
P「終わり!閉廷!解散!」
肇「お疲れ様で…氾濫する深淵の奔流に飲まれなさい」
P「あ、コーヒー淹れてくれたのか。ありがとう」
肇「これくらい、造作も無きことです…」
P「で、肇」
肇「はい」
P「…何かあったのか?」
肇「その…本日は、お日柄もよく…」
P「おっけーコーヒーのんで落ち着こうか」
肇「ふふ、無糖のコーヒーこそが原点にして頂点…にがっ」
P「…何があったのか聞いていいか?」
肇「その…今日がなんの日か、ご存知です…よね?」
P「そりゃまぁさっき肇が言ってたからな」
肇「私は何も言っていませんよ?」
P「いや、さっき
肇「私は、何も、言ってませんよ?」
P「…今日はバレンタインだな。あと雪乃とフレデリカの誕生日」
肇「では、私の誕生日は?」
P「6月15日」
肇「正解です」
P「…今のやりとりは?」
肇「全く関係ないちょっとした確認です」
肇「ではそうですね…これは、私の友達のお話としましょう」
P「おっけーそう言う体でね」
肇「私の友達の…ここでは、藤原さんと呼ばせてもらいます」
P「漆黒の~とか、深淵の~じゃないのか?」
肇「……」プクー
P「ごめん」
肇「話を進めます。一人の少女である藤原さんは、バレンタインなので頑張ってチョコを作って持ってきました」
肇「感謝の気持ちを込めた、精一杯の勇気の証ですね」
肇「そして渡す相手のいる事務所へ着いて、そこまでは良かったのですが」
肇「他のアイドルから言われてしまったんです。肇ちゃんなんだか緩い表情してるね、って」
P「今実名でたぞ」
肇「…世の中には同姓同名の人も一人くらいいるでしょう」
肇「さて、想いの相手が仕事を終えたらチョコを渡そうと思っていた藤原さんは大変です」
肇「にやけた様な表情をしていたら、相手にばれてしまうかもしれないのですから」
肇「出来る限り、サプライズではありませんがいきなり渡して驚いてほしいですからね」
肇「とは言えポーカーフェイスはあまり得意ではないので…と、そこで気づきました」
肇「彼の前では、他の人物の性格を装ってみればいいのでは?と」
肇「そういう訳で、蘭子ちゃんや飛鳥ちゃん、奏さんや凛ちゃんを参考にしてみた次第です」
P「チョイスが…クール系だな」
肇「全く違う性格というのも難しいので、今日会った中で近い人を参考にしてみました」
肇「それに、みんなかっこよくて可愛いですから…」
肇「そのおかげで、今この瞬間まで。私の期待と想いが相手にバレる事はありませんでしたから」
P「…そうだな。まったく気付かなかった」
肇「…期待してくれてなかったんですか?」
P「…超楽しみだったけど、そんな素振りが見えなかったから凄く不安になってたよ」
肇「……ふふ。ですが、そうですね…」
P「…なにかあったか?」
肇「やっぱり、素直に向き合うのが一番みたいです」
P「件の藤原さんはそう思ったのか」
肇「はい。私はそう思いました。折角一年に一度の機会なのに、何故私は演じているんだろう、って」
P「可愛かったから俺としては楽しかったけどな」
肇「そう言う言葉を掛けるのは、少しだけ待って下さい」
肇「すぅーー……」
肇「バレンタインのチョコです。受け取って下さい」
P「ありがとう、肇」
肇「…良かったです。本当に」
P「どうした?実は不安だったりしたか?」
肇「…気づいてたなら、早く声を掛けて下さい」
肇「プロデューサーの邪魔にならないように、仕事が終わるまで待とうって」
肇「そう、最初は思っていたんです」
肇「でも、やっぱり早く気づいて欲しくて。早く渡したくて」
肇「自分をごまかす為に、役に入り切ろうなんて考えて」
肇「…また、少し不安になって。不思議ですね、信じているのに不安になるなんて」
肇「でも、良かったです」
肇「私から一歩踏み出せて…今は、幸せです」
P「うん、凄く美味しい」
肇「感謝の気持ちと、愛情を込めましたから」
P「…ありがとう。お礼と言っちゃなんだけどさ」
肇「1ヶ月後、楽しみにしていますよ」
P「コーヒー、ブラックで苦くないか?」
肇「…ブラックも、大人の嗜みですから」
P「ちひろさん、多分まだまだ帰ってこないだろうしさ」
肇「そうですね、おそらく…」
P「…今度は、俺の方から踏み出してみようかなって」
肇「それは…期待が膨らみますね、はい」
P「目、閉じてくれるか?」
肇「…私の口、コーヒーで苦いですよ」
P「俺の口、チョコで甘い筈だから」
肇「…ふふっ。では」
肇「とびっきり甘いものを、お願いします」
終わり
はっぴーバレンタイン
お付き合い、ありがとうございました
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