相葉夕美「プロデューサーに花束を」 (105)



プロデューサー。


何度唱えてみても、やっぱり変な言葉だと思う。
カメラさんとか、監督さんとか、そういう人をそういう風に呼ぶのは、何となく分かるけど。

でもプロデューサーはいつも隣に居る人で。
この事務所だけかどうかは分からないけど、そう呼ばせたがる人が多くて。
私の担当さんもその一人。


 「ありがとね。Pさん」

 「夕美もお疲れ様。ゆっくり休んで」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485851599


帰り道を車で送ってもらって、気付けば引っ越したばかりの家に着いてて。

――もう少しゆっくり送ってくれてもいいのになぁ。

そう思うのは心の中だけ。
この人が遣ってくれた気は、とてもじゃないけど無駄になんて出来ない。

 「あのさ、夕美」

 「うん?」

 「試しに、試しにさ。昔みたいに、プロデューサーって呼んでみてよ」

 「ううん、やだ」

 「……これ以外の聞き分けは良いのに」

 「だって、急に『プロデューサー』『相葉さん』に戻ったら、そっちの方が変だよ?」

 「それはそうなんだけど……こう、公私の。そういう、曖昧な……」

 「彼女を名前で呼ぶの、そんなにイヤ?」

 「そんな訳無いよ。ただ、何となく……一緒くたにしたくないんだ。アイドルと、普通の女の子と」


Pさんとナイショで交際を始めてから、そろそろ一年。


凛ちゃんにも、周子ちゃんにも、藍子ちゃんにだって秘密のお付き合い。
でも何となくだけど、多分バレちゃってるんじゃないかな、とはちょっと思ったり。
私もPさんも、あんまり嘘が得意な方じゃないし。


 「だから、簡単だってば」

Pさんの手を握ってみる。
ゴツゴツしてて、カサカサしてる、男の人の手。


 「好きって。ちゃんと言ってくれたら、私だって……そう呼ばない事も無い、かも」


 「……ごめん」

Pさんが首を振って、薄く笑って、手を離して。
世界で一番優しいこの人は、私の一番欲しい言葉だけはくれなくて。
ズルいなぁ。本当に、ズルい。
乙女心を弄んでばかりだと、この気持ちだって枯れちゃうよ?


うん、えっと、今の無し。
心の中でつく嘘は、いつか本当になっちゃいそうで怖いから、やめやめ。


 「おやすみ」

小さくなっていく社用車を見送るりながら、自然に溜息が一つ。

普通のデート経験、無し。
キスした事、何回かだけ。
その先――もちろん、一切無し。

 「……はぁ」

アイドル生活はとっても楽しいけど、アイドルの肩書きはちょっとキライ。
そんなわがままをPさんに伝える訳にもいかなくて、もやもや、モヤモヤ。


 「ただいまー…………あっ」

玄関を開けた所で思い出して、急いで靴を脱いだ。


今朝、日向ぼっこをさせてあげたポインセチア。
窓際に置かれたままの彼女は、少し元気が無くなっていて。

……ごめんね。


甘い甘い花束こと相葉夕美ちゃんのSSです


http://i.imgur.com/fqzRg2B.jpg
http://i.imgur.com/jGHF05W.jpg

前作とか
高垣楓から脱出せよ ( 高垣楓から脱出せよ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483426621/) )
相葉夕美「真冬に咲く」 ( 相葉夕美「真冬に咲く」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439725937/) )
鷹富士茄子のブーケトス ( 鷹富士茄子のブーケトス - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462010577/) )


上記『真冬に咲く』より一年ほど経った頃の話です
だいぶ直接的な性描写を含みます

 ― = ― ≡ ― = ―

 「夕美さん、最近何かありました?」

 「えっ?」

事務所のカフェでお茶をしていると、藍子ちゃんが首を傾げる。
何かと言われても、うーん、何だろう。

 「この前から、『薄れゆく愛』とか、『貴方を忘れない』だとかむひゅっ」

 「しーっ! しー……っ!」

慌てて藍子ちゃんの口を塞ぐ。
周りを見渡せば、他の娘たちからは少し席が離れていて。
しばらくもごもごしていた藍子ちゃんと目を合わせてから、何度も頷いた。
そっと手を離すと、藍子ちゃんはぷはぁ、と息を吐いて、責めるように私を見つめる。

 「……息が、出来ませんでした」

 「ご、ごめん……でもっ、どうして知って」

 「花言葉、ですか?」

私とPさんは、一月に一輪ずつ、お花を贈り合ってる。
花に言葉を載せて、花に載せた言葉で返してもらって。
シュウメイギク、シオン、バーベナ。
あんまり有名な花だとみんなにも分かっちゃうから、ちょっとマイナーな花を選んで。
藍子ちゃんも、そこまでお花には詳しくない、筈なんだけど……。


 「ええと……実は、こっそり写真を撮っていたんです。鞄や花瓶に挿したのを」

 「しゃ、写真?」

 「その、携帯電話で。それを、その……凛ちゃんに」

 「……あー、あー」

凛ちゃん家のお店は、私も贔屓にさせてもらってる。
お花や種やアンプルを買うついでに、他の娘とは話せないような事も、少しだけ。
凛ちゃんも私と同じような真似をしているらしくて、相談にも乗ってもらったり。
それこそ、Pさんへ贈るお花を買っていったり。
写真を送って来られたら、確かにすぐ分かっちゃうと思う。でも。

 「……どうして、わざわざ?」

 「ごめんなさい。やっぱり、上手くいってるのかどうか、気になっちゃって」

 「上手く、って」


 「だって、友達が担当さんとお付きゅむぅ」

 「しぃーーっ!!」


何度も頷き合って、今度はすぐに解放してあげた。

ここR板じゃなかったね ごめんね つい癖でね
運営の方で判断してRへ飛ばしてくれるらしいのでとりあえず続けます

ついに書いたか!


 「……知ってたの?」

 「知ってたと言うか、ええと……誰でも分かるんじゃないかなぁ、夕美さん達の事」

何か言おうとしても、口はぱくぱくとするだけで、私はテーブルにつっ伏してしまった。
うぅ、一応は隠してたつもりだったのに。

 「それで、どうしたんですか?」

 「……」

辺りを伺いながら、藍子ちゃんが耳元へ寄せた口に手を添えてくれる。
顔を上げて、むっつりとした顔を作ってやって、小さく呟く。

 「Pさんがね」

 「はい」

 「好きって、どうしても言ってくれないの」

 「はい。ご馳走様です」

 「の、ノロケとかじゃなくってっ」

 「叫んじゃいますよ?」

 「…………ノロケです」


何だか最近の藍子ちゃん、つよふわになってきた気がする。



 「――なるほど。そういう事でしたか」


一通り話し終わると、藍子ちゃんがすっかりぬるくなったカフェラテを口に運ぶ。
私も真似をしてハニーラテを傾けて、やっぱりぬるくなってた。

 「ずっと変わらずいようとするのって、難しいですよね」

 「……そう、かな」

 「はい。私、よく日向ぼっこをするんですけど」

そう笑って、藍子ちゃんが窓の外へ目を向ける。
釣られて外を見渡すと、春の日差しが東京を優しく照らしていて。

 「太陽って、意外なくらいすぐに動いちゃうんです。日向ぼっこって、実はコツが要ったり」

 「暑過ぎず、寒過ぎず……って?」

 「はい。でもそれって、何でもそうだと思うんです」

藍子ちゃんの言葉は柔らかくて、聞いていると段々と眠たくなってきちゃう。
眠気を飛ばそうと手元をいじって、空になったカップの意外な冷たさに少し目が覚めた。
コーヒーを飲むのにも、コツが要るのかな。


 「恋人という関係……とても、素敵だと思います」

にこりと笑って。そういう藍子ちゃんこそ、とっても素敵な表情。
たまには担当さんへも、素直にそういう顔を見せてあげたらいいのに。

 「ずっと隣に居たいなら、ちょっとだけ近付いてみるのもいいんじゃないでしょうか」

 「……そう、かも」

 「夕美さん、そろそろお誕生日ですよね?」

 「うん」

 「花や花束を贈り合うのも良いですけれど、たまに別の何かをねだってみてはいかがでしょう」

 「……プレゼント、かぁ」

私はお花が好きで、Pさんも好きになってくれた、と思う。
でも確かに、お花を贈ればそれでいいのかって言うと……少し、違うような。

恋人らしく。
まだまだ難しいけど、確かに大切な事かも。


 「……うん。何となく、分かったかも。ありがとうね、藍子ちゃん」

 「どういたしまして」

 「じゃあ、今度は藍子ちゃんの話だね」

 「……」

笑顔で席を立とうとする腕を捕まえた。
意外に力強いゆるふわさを逃がさないように、私もにっこりと微笑んで。


根掘り葉掘りって、園芸が語源なんだよ? 藍子ちゃん。


 「こ……この後、日向ぼっこの予定がありまして……」

 「ダメ。私だけなんてズルいし。……ユニットメンバーとしての義務だよっ」

 「ゆ、ユニットって、デュオじゃないですかぁっ……!」


そうして騒ぎ合ったせいで、他の娘たちも集まって来て。
結局うやむやのまま、私達は逃げるようにカフェから転がり出て。

女の子にとって、コイバナは何よりの栄養なのに。




……恋人らしく、かぁ。


 ― = ― ≡ ― = ―

 「お疲れ様、夕美」

 「うん」

初めてのバースデーライブは、規模こそ小さいけれど、大成功。
会場中に黄色いサイリウムが咲き乱れて、まるでお花畑の中に居るみたいで。
まだふわふわとした気持ちのまま、いつものように助手席へ沈み込んだ。

……あ、マズいかも。
疲れて、寝そうで……ううん、今日だけはダメ。ダメ。

 「約束の夕ご飯、行けそう? 疲れてるんだったら」

 「行くっ! だいじょぶっ!」

 「……そ、そっか。流石はパッションと言うか」

思わず被せ気味に答えちゃって、ほっぺたが熱くなる。
ドキドキする胸を抑え付けて、何でも無いように、視線は窓の外。
何か話すべきなのに、何も話題が思い浮かばない。
どうしよう、どうしようと焦っている内に、車はレストランへ到着しちゃった。



 「――みんな集まってくれて、良かったね」


 「……うん」

 「チケット回収率97%だって。払い戻し含めたらほぼ100%。凄いよ、夕美」

 「そ、そう……かな?」

 「夕美」

 「う、うん。聞いてるよっ?」

 「いま、何食べてる?」

 「え? えっと……スズキ?」

 「シタビラメだよ」


とっても美味しい筈の味も分からなくて、何を喋ったかも覚えていなくて。
二人きりの大切な時間なのに、私は緊張でただ固まってるだけだった。
Pさんも分かっているみたいで、話を振りながら、困ったように笑ってる。

 「そろそろ、出ようか」

 「……うん」

この一時間がすっぽ抜けたみたい。
私はぐるぐると回るだけの空っぽ頭を抱えて、出口の自動ドアをふらふらと潜った。


変わらないエンジン音と、時々小さく跳ねる時の振動。
家への帰り道を辿る車に乗ってしばらく、鼓動が少しだけ落ち着いてきた。
すっかりからからになった喉を鳴らして、精一杯の自然さを装って、口を開いてみる。

 「あの……Pさん。あの、あのね?」

 「ん、ああ……プレゼントだよね。大丈夫、忘れてないよ」

 「その、それも、なんだけど。えっと……静かな場所に、連れてってほしいの」

 「静かな……うん、いいよ。どこで渡そうか迷ってたんだ」

 「なら、ちょうどよかった、のかな」

 「さっき渡してたら、そのままテーブルの上に置いて来そうだったしね」

 「そっ、そんな事無いよっ!?」

 「ははっ」


大丈夫。ちゃんと話せてる。
嘘で着飾る訳じゃない。思ってもない言葉を並べるつもりなんかじゃない。


ほんのちょっぴり、近付いてみるだけ。
それだけだから、きっと大丈夫。ぜったい大丈夫。

よかった
書き出しが「けえかほおこく」じゃなくて


 ― = ― ≡ ― = ―

 「綺麗だね」

 「……うん」


小高い丘の上に造られた、ちょっと広めの公園。
けっこう最近になって出来たみたいで、夜なのに歩く人の姿がちらほら見える。
私は眼鏡と帽子を被って、Pさんは私の名前を呼ばない。
私はアイドルで、Pさんはプロデューサーだから、窮屈なルールに縛られないといけなかった。

 「Pさん」

 「うん」

 「この前のライラック、ありがとね」

 「……あ。そっか、そろそろそっちの番か」

月の初めにPさんが、半ばに私が。
それぞれ花を贈り合って交わす、みんなには秘密の会話。
自分でもちょっと乙女過ぎるかなと思う趣味に、Pさんもよく付き合ってくれると思う。
今回のライラックは、籠めた花言葉と言うよりも、誕生日記念だろうけどね。

(スレタイ以外、特にアルジャーノン成分は無いのであしからず)


 「今日は私も……プレゼントにとっておきのお花、用意してきたんだ」

 「……え?」

手ぶらでそう呟いた私に、Pさんが小さく首を傾げた。
空っぽの掌を見せつけるように振って、震えそうな顔をむりやり笑わせる。

 「Pさん。私、幾つになったっけ?」

 「22。アイドルになって、四年目」

 「私、少しは綺麗になれたかな?」

 「少しなんかじゃないよ。凄く、綺麗になった」

欲しい言葉はくれない癖に、恥ずかしい言葉はすぐに返って来て。
ズルいな、ズルいなぁって思いながら、一歩ずつPさんへ近付いていく。


 「お花みたいに?」


私が呟くと、Pさんが、気付いたみたいに小さく口を開ける。
葉桜の頃。あの夕焼け。
出会った時にはもう散っちゃってた、ソメイヨシノの花びら。
小さな、沢山の桃色が、春風に吹かれてゆっくりと舞い上がった。


 「夕美」


Pさんが、私のプロデューサーが、名前を呼んでくれる。


 「好き」

空っぽの手が寂しかったから、すぐそばにあった手を握る。
いつも通りの真面目な顔を、逃がさないように、真っ直ぐ見上げる。


 「私をあげる。私の全部を、あなたにあげます」


ぴかぴかの街灯は多分LEDで、Pさんの顔が夜でもはっきりと分かった。
背中の向こう、通り過ぎるカップルがちらりとこっちを見て、すぐに元通り歩いて行った。

 「……交際しといてなんだ、って思うだろうけどさ。そういう」

 「勘違いじゃないよ。言い間違いでも、ないから」

 「アイドル。アイドルだよ。僕は、多分まだ、プロデューサーだ」

 「知ってる」


ずっとずっと、あなたを好きになる前から。


 「好きって、言ってくれなくてもいい。Pさんが、どうしても守りたいなら」

 「……」

 「だから。今日だけでもいいから……私を、Pさんのものにして……ください」

言いたい事は全部言い切って、途端に胸が震え出した。
すぐに手脚が続いて、春の夜だっていうのに、私はぷるぷると震えていた。
震えてる癖にどこもかしこも熱くて熱くて。

 「……プレゼント、あげる立場なんだけどね」

 「うん」

 「貰っても、いいのかな」

 「……うん」

頭を掻いて、Pさんがポケットからお財布を取り出した。
何枚かのカードを見比べて、ぱたんと二つに折り直す。


 「おいで」


来た道を戻り出す背中に、私も凝り固まった足を踏み出してみる。
一歩進む度にぴりぴりと痺れて、何だか無闇におかしかった。


 ― = ― ≡ ― = ―

 「いらっしゃいませ」


思わず見上げちゃうくらいの高さに気を取られて。

慌てて後を追い掛けると、ロビーはどこもかしこも白くてぴかぴか。
行き交う人達の身なりも立派で、その度に自分の服と見比べちゃう。
ふかふかのソファーで帽子を深めに被り直して、フロントに立つPさんを横目で眺める。

 「ダブルを一室お願いしたいのですが」

 「恐れ入りますが、ご予約などされていらっしゃいますか」

 「いえ……それと、これ、使えますか」

 「失礼致します……かしこまりました」

Pさんが緑のカードを取り出すと、フロントの人が何回か頷いた。

 「ダブルを一室でございますね。只今調べますのでお待ちください」

 「あ、すみません。それと……なるべく、良い部屋を」

 「そうしますと、スイートに幾つか空きがございますが」


 「……えっ」

聞こえて来た言葉に、呟きが零れて。

ダブル。スイート。

た、確かに私がお願いした。お願いしたんだけど。
いざ、そういう事をするんだって思うと、どんどん、どんどん顔が熱くなってきて。
帽子の深さじゃ足りなくて、鍔を引っ張りながら顔を伏せた。

 「景色の一番良い部屋をお願いします」

 「でしたら……ミレニアスイートがございます。少々手狭にはなってしまいますが」

 「では――」

胸がうるさい。
すぐそこではあの人が淡々と手続きしてるのに、私の方は大騒ぎ。
自分から入って来た癖に、今すぐ駆け出て行っちゃいたかった。

 「あの、聞こえてる?」


 「ひゃ、はいっ!?」

 「っと……行こう。51階だって。案内も断ってきたから」

 「う……うん」

素っ頓狂な声で叫んじゃって、ますます顔が、熱く。
……このままじゃ、茹で上がっちゃいそう。


エレベーターも見たことが無いくらい広かった。
行き先のボタンを押そうとして、2階から45階まで飛んでいるのにまた驚いて。
ゆっくりと昇っていく箱の中で、黙ってると溺れちゃいそうになる。

 「……さっきのカード、何?」

 「ん、ああ。昔、ちひろさんに言われるまま入会したやつ」

 「それ、大丈夫なのかな」

 「困ったら使えって言われてたし……まぁ、お金を使う宛も特に無いから」

 「と言うか、えっと何で、こんな」

 「家はマズいし、こういう所の方が変な輩も入り込めなくて――」

じりじりと増えていくパネルの数字が51になる。
小さく鳴りながら開いたドアから踏み出して、柔らか過ぎる絨毯に足を取られた。

 「っわ」

 「とっ……大丈夫?」

 「うん……あ、歩き辛い、かも」

 「これは……やり過ぎじゃないかなぁ」

不思議な感触を少しずつ踏み締めて、やたら部屋数の少ない廊下を歩く。
流れているクラシックが無かったら耳が痛くなりそうな静かさで。

目的の5102号室は何だか高そうな木製の扉だった。
金色のリーダーへPさんがカードをかざすと、電子ロックの外れる音がする。


 「……」

 「手狭?」

 「って、言ってたね」


お部屋の中に、ロビー。
一瞬だけ、本気でそう思っちゃった。


黒塗りのテーブルの周りには椅子が何脚か。
窓際には大きめのフラワーベースが二つ。
照明スタンドはこんなに要るのかなっていうくらい沢山あって、それでもちょっと暗い。
お部屋の角は聞いた通りに窓が填め込まれていて、私とPさんの姿が並んで映ってた。

 「え……あっ、まだ部屋がある」

 「う、うそっ」

Pさんの言う通り、奥にはまだ部屋があって、こっちと同じくらいの広さ。
でも飾りは随分と少なくて、ダブルベットと、壁一面の夜景がいやでも目立ってる。

 「……」

Pさんと二人、そわそわしながら立ち尽くす。
何から何まで想像以上で、どう感想を言っていいかも分からなくて。


 「……え、っと。まだ、扉があったっけ」

 「うんと、ここは……あ」

ベッドルームと反対側の扉を開くと、こっちにもぴかぴかの鏡が一面に。
中はガラス板で仕切られてて、その向こうに金の猫足付きのバスタブが置いてあった。
……初めて見たかも。猫足。

 「何と言うか、眩しい」

 「確かに……ん」

バスタブの横に置いてあった、小さな藤籠。
中には幾つもの薔薇の花だけが入っていて、どれも摘みたてみたいに良い色。

 「お風呂場に、バラ? 何だろう、これ」

 「あれじゃないかな。多分、お湯を張った後に浮かべる為の」

 「バラの……お風呂」

お湯の上に浮かぶ色とりどりの薔薇を想像してみる。
昔からちょっと憧れてて、でも流石にもったいなくて出来なかった夢。
それが今、出来ちゃうかも。


 「……うずうずしてるね、夕美」

 「へっ? そ、そうかな?」

 「うん。新曲のお披露目前みたいな」

 「だ、だってだって、バラのお風呂だよっ。普通出来ないよっ」

 「……本当に、花が好きなんだね。夕美は」

気付いたら私は花籠を握りっぱなしで。
Pさんの目は、はしゃぐ子供でも見守るみたいに。


私、もう子供じゃないよ?


 「入る?」

 「え?」

 「Pさんも」


少しだけ間が空いて、Pさんが気付いたように口を開ける。
どういう返事が飛んで来るのか怖くて目を逸らした。

大きめのバスタブは真っ白で、私の顔を薄く映してた。


 ― = ― ≡ ― = ―

ジャケットを脱いで、ネクタイとベルトを外して、ワイシャツを籠へ放った。
僕の手はそこで止まって、こっそりと後ろを振り返る。

 「あ」

同じように振り返っていた夕美と目が合う。気まずい方の沈黙が流れた。
彼女は上着と靴下を脱ぎ捨てて、参ったようにキャミソールの裾を摘んでいる。
しばらく迷った末、僕は肌着を脱いで半身を晒した。
男の肌なんて面白くもないだろうに、夕美は目を丸くしてじっとこちらを見つめて。

 「……」

何度か深呼吸をしてから、夕美が一息にキャミソールを捲った。
その下から現れたのは当然ながら、下着。
勢いを逃したくないみたいに、そのままフレアスカートの留め具も外す。

 「……ああ」

 「な……なにっ?」

 「あ、いや、ごめん……何でもない」


――そこは花柄じゃないんだ。


揃いの薄緑。
胸中で呟く僕の頭をはたいてから、こちらもスラックスを捨てて身軽になる。
そこで再び手が止まった。
大きな鏡越しに、夕美の綺麗な背中がよく見えた。

今日はここまでです 続きます

実は俺、夕美ちゃんがかなり好きなんすよ
この話を書き終えたらお迎えしようと
ジュエルも用意してあったりして

奇遇だな
おれも相葉ちゃん好きなんすよ

とりあえず乙

夕美ちゃんいいよな
40kでお迎え出来て良かった


 「……あ、の。Pさん」

 「……分かってる。分かってるから」

頬を染めた彼女に指摘されるまでもなく。
聞き分けの無いコイツが下着の中から自己主張していた。

確かに最近は今日のライブの為に掛かりきりだった。
この事務所で働き始めてから、そっちの方は随分とご無沙汰だった。
にしてもこれは、ちょっと正直過ぎるというか。

いずれにしても、ずっとこうしている訳にはいかない。
多分に情けなさを籠めた溜息をこぼして、最後の一枚を脱ぎ捨てる。

 「っ! わ、わっ……!」

 「ええと……何か、ごめん」

素っ裸を目の当たりにして、夕美が口元に手を当てる。
その顔は面白いくらいに真っ赤で、ちょっと可愛いなと暢気に考えてしまった。

 「……ぬ……脱ぎ、ます」

 「あ、うん」

わざわざそう宣言してからこちらへ背を向ける。
回した手で背のホックを外したところで夕美は固まった。

多分、僕に見せつけてるみたいじゃないかとか、そんな事を考えてる。



ぱさり。


夕美が足元へそっとブラを置いて、身を屈めたままショーツも脱いだ。
何度か肩を弾ませて、ゆっくり振り返る。

見えてはいけない部分を細い腕で隠して。
隠しきれない真っ赤な顔が、彷徨うように床を見つめている。
こんな絵画があったよなと、どこか遠い記憶が不意に蘇った。
夕美が頼りない手をどける。


アイドルという仕事柄、肌を見せる機会は多い。
だから僕は彼女の背を、脚を、お腹を見る事もよくあった。


だからこそ、決して見せる事の無い部分を露わにして。
すぐ抱き寄せられる距離にある綺麗な身体に、僕はひどく興奮した。
胸もお尻も、可愛らしさがこれでもかと詰め込まれていて。
夕美の裸は綺麗だった。


 「……入ろうか」

鎮まる様子の無いそれをぶら提げたまま、ガラス一枚を隔てた浴室へ急ぐ。
その手を横から握られて、振り向いた僕を射貫くのは潤んだ瞳。

 「か、感想はっ」



 「……」

 「私の、裸」

 「……綺麗だよ、見惚れるくらい」

 「……」


こくこく、こくこく。


何度も何度も頷いて。
ぎこちない足取りのまま、手を繋いだまま、夕美は僕の後をついて来た。


夕美のこういう所は、本当にパッションだと思う。


浴室はテーブルを置けばお茶会を開けそうな広さだった。
隣を見れば生まれたままの姿の担当アイドルが居て。
もう戻れない所まで来てしまったんだと、当たり前の事実に今さら震えた。

黙ったままの夕美に椅子を手渡して並ぶ。
しばらく固まっていた彼女は、立ち上がると僕の背後へ回った。

 「夕美?」

 「背中、流すよ」

 「あ……うん。ありがとう」

スポンジを手にしてボディーソープのノズルを押し込む。
何度も押し込んでいる内に、僕が普段使う量の五倍は出てきていた。
わしわしと揉み込むと、含ませておいた水分で物凄く泡立っていく。
明らかにテンパっていたけれど、何も指摘しないでおいた。

 「……」

 「ん」

おっかなびっくり、そっと、普通に、ごしごし。
僕の背を撫でる手が段々と力を取り戻していく。
やけに広くて、やけに静かな室内で、ただ泡音だけが響いた。


 「じゃあ、交代で」

 「うん」

お互いにくるりと向きを変えて、僕の視界に夕美の眩しい背中が映った。
普段の元気なライブからは想像も出来ないくらい細くて、少しだけ不安になる。

 「……Pさん?」

 「あ、ごめん」

万が一にも傷なんて付けないよう、懇切丁寧にスポンジを動かす。
夕美はくすぐったげな声を上げて、少しだけ空気が緩んでくれた。

 「よし。後は」

 「前も」

夕美がぽつりと零した。
向けられた背からは表情が読み取れない。
濡れた髪先から水滴が落ちて、泡だった背中に水玉模様を描いていく。

 「……いや、自分で」

 「全部、あげるって言ったもん」

夕美の声色は震えていて、そして時たま見せる頑固さも伴っていた。
こういう時の彼女は、なかなか自分の意見を譲らない。
しばらく目の前の背と僕の右手を眺めながら、そっと彼女の肩口へ触れる。


 「ん」

夕美の表情を伺えないまま、抱きかかえるようにして手を伸ばす。
肩口から鎖骨へ移したスポンジを、少し間を置いてから、そのまま下へ滑らす。

 「っ……」

膨らみをなぞるように動かして、その度に夕美の髪が少しだけ揺れる。
伝わってくる柔らかい感触に、女の子だな、と何故か納得してしまう。
スポンジよりもよっぽど心地良い弾力を確かめ終え、今度は腰のくびれた辺りを撫でる。

足先までスポンジを走らせ終えて尚、僕達は黙ったままだった。
待つべきかどうか悩んだ末、結局脚の付け根辺りに手を差し入れた。

 「あっ!」

夕美が声を上げて、腰を下ろしていた椅子がカコンと鳴った。
ちょっと驚くぐらい響いた音が収まると、髪の間から覗く首は、赤く。
拒絶されなかったのをいい事に、僕は差しのばしたスポンジを動かし始める。

 「ぁ……んっ、ゃ……」

頭に血が昇ってくるのと、そこへ血が巡っていくのがはっきりと分かった。
普段の昼間みたいに明るい声が鳴りを潜めて。
代わりに出て来た月みたいに綺麗な声が、小さく、短く。

スポンジで軽く擦るごとに、夕美が声を零しながら身を縮めていく。
その背を追い掛けるように身体を重ねた。


 「流そうか」

シャワーノズルを握って、目の前の背中はまだ縮んだままだった。
久しぶりに掛けた言葉にゆっくりと起き上がって、肩越しの半眼を向けられてしまう。


 「…………えっち」

 「……返す言葉もございません」


夕美の一言に反応した竿を無視して蛇口を捻る。
お湯になりきっていなかった水を浴び、夕美が小さく悲鳴を上げる。

 「ご、ごめん」

 「……ばか」

叱られるのが何だか新鮮で、彼女の知らない一面を垣間見られた気がした。


 ― = ― ≡ ― = ―

いかにも滑りそうな見た目と裏腹に、バスタブの底は滑り止めが施されていた。
自宅の浴槽の倍以上はあるそれに足を沈めて、ゆっくりと肩まで浸かる。
脚を伸ばしきって尚、端までは随分と余裕があった。


 「お邪魔……します?」

 「……どうぞ?」


続いて夕美が足を差し入れる。
揺れる水面に波紋が広がって、滑らかな肌が静かに静かに沈んでいく。
少しだけ逡巡していた彼女は、結局僕の脚の間に腰を落ち着けた。
広いバスタブに、向き合う事無く、二人して真っ暗な液晶テレビの方を見つめる。

 「……」

夕美は何故か体育座りをしていて、僕はその肩にぱちゃぱちゃと掬ったお湯を掛ける。
未だ僕達は混乱の中に居て、傍から見たらひどくシュールな光景なんじゃないだろうか。
湯を掬う手を止めて、組まれていた夕美の腕に触れる。

 「おいで」

 「…………ん」

脚と腕を解いて、夕美の身体が僕の腕の中へにじり寄って来る。
夕美は小さい方でもないけれど、こうして見れば驚くほど線が細い。
近付いて来た腰の辺りに硬くなった先端が当たって、夕美の肩がぴくりと揺れた。


 「Pさん」

 「うん」

 「あたってる」

 「……うん」

 「……えっち」

 「…………まぁ」

担当アイドルと一緒に入浴して、僕の頭も良い感じに茹だってきていた。
じとりと向けられた視線を誤魔化すように、脇から藤籠を差し出した。

 「ほら、夕美。バラの」

 「Pさんて、お花の話をしとけばいいと思ってるでしょ」

 「う」

 「……私もおんなじだったの。お花を贈り合うだけじゃ、足りなくなってきちゃった」

僕の腕を撫でる手はお湯よりも熱かった。
掬い取った藤籠から薔薇の花を摘み上げる。
一つ一つ、色を確かめるように眺めてから、湯船にそっと浮かべていく。


 「こんな感じ、なんだ」

白、紅、黄、紫。
色とりどりに浮く花たちを見つめて、夕美は感慨深げに呟いた。
両手でお湯ごと掬い上げて、またぱちゃりと水面へ戻す。
黄色い花びらが一枚、染み込んだ湯に導かれるように、ゆっくりと沈んでいく。

 「バラのお風呂、ご感想は?」

 「夢みたい」

 「良かった」

 「……Pさんもいるから、ね」

そう零した夕美が微笑みを浮かべ、背を倒す。
僕の身体へ重なるように触れて、どこもかしこも柔らかくて、温かい。
彼女のお腹の前で手を組むと、夕美がかつてないくらい近くに居た。

 「捕まっちゃった」

 「捕まえたからね」

 「Pさん」

 「ん」

 「触らないの?」


水面に揺れるようにして、形の良い胸が浮いている。
肩越しに眺めながら、蝶を誘う花みたいだ、と思った。

うちの部署に所属するアイドルは、特にスタイルの良い人が多い。
夕美も時々、彼女達に羨ましそうな目を向けていたりする。
けれど夕美のスタイルが悪いのかと言えば、そんな事はない。
出るところはしっかりと出ていて、くびれるところはきちんとくびれて。


まぁ、正直、触りたい。


 「うん」

 「……ふぅん」

 「後でね」

 「…………うん」

でも、もう捕まえてしまったし、急ぐ必要も無い。
せっかく用意してくれた薔薇のお風呂だ。
ゆっくり温まっていってからでも、遅くはない。


 「……」

 「……♪」


心地良い沈黙の中で、夕美が楽しそうに水面を弾く音だけが響く。

湯気に溶けたこの良い香りは、薔薇のだろうか、それとも夕美のか。
そんな事を考えながら、のぼせないように気を付けて、僕達は夢の湯船を愉しんでいた。

続きます また明日


えろい

まゆ「深く愛し合うなら別のところでお願いしますねぇ」(ギリギリギリ)

ごめん また明日更新します
焦らしという事で一つ

 ― = ― ≡ ― = ―

広すぎるベッドの端へ腰掛けると、拭い損ねた雫が落ちて、シーツに水玉を描いた。
さっきまでの柔らかい表情は消え、夕美の眉は所在無さ気に下がっている。

相葉夕美を奪う。
そう改めて認識すると、年甲斐も無く、鼓動が忙しなく。
何となく巻かれたバスタオルに手を掛けようとして、夕美が小さく口を開いた。

 「ま、待って」

 「うん。落ち着くまでいいよ」

 「そうじゃなくて……その。まだ……キス、してない……」

上気した肌をもう少しだけ赤くして、夕美が囁くように呟いた。
すっかり忘れていたのを思い出して、知らず苦笑が零れてしまう。
背を抱き、柔らかい唇に触れる。
石けんの香りがした。

 「ん……ぅ、ん……」

いつぶりだろう。
一月か、二月か、半年か。
久しく感触を忘れていた唇は、変わらない温度で迎えてくれた気がした。
足りなくて、もっと欲しくなった。


 「あ、っ」

唇をこじ開けて、彼女の舌を探し当てる。
濡れた唇よりもいっそう熱くて、柔らかくて、少しざらついて。

 「ぅ……んんっ」

舌を絡めると水音が立つ。
いつものキスよりも少し深くて、その分だけ何となく甘い。
蜜じゃあるまいし、と冷めた頭が呟いたけど、それで止まれるような余裕は無かった。

馬鹿みたいに広い窓からは東京の夜景が一望できて、だけど興味は引かれなかった。
一生懸命な、腕の中の恋人が可愛らしくて、ずっと眺めていたくなる。

 「……はぁ、っ……」

 「緊張してる?」

 「そ、そりゃ……するよ……」

 「大丈夫だから。そんなに固くならないで」

腿の上で握られっぱなしだった夕美の手を解く。
指を絡めて握り合うと、掌は少し汗ばんでいた。


 「は……んぅっ」

唇を重ねながら、適当に纏められたタオルの端を解く。
夕美の身体が再び露わとなって、空いていた方の手を滑らせる。

 「あっ……!」

胸に触れさせた指先から、瑞々しい弾力が伝わってくる。
夕美が小さく、高い声を零して、繋がれていた唇を離す。
色の良い唇は唾液に濡れて、暗めの照明に妖しく光っていた。

 「……本当に。男の人って、おっぱい、好き、んっ……だよね」

 「まぁ……男なので」

ふにゅ、ふにゅりと弾力を確かめる度、夕美の唇が揺れる。
掌で震える感触は、表す言葉が見つからないくらいに柔らかい。
指を沈めると、夕美が浅く吐息を漏らして、その反応が僕の胸をくすぐる。
脇から抱き支えるようにして、僕は夕美の胸を揉みほぐした。

 「……夕美、昔より大きくなった?」

 「分かんない、けど……っ、そう、かも……は、ぁ」

包むように揉む僕の掌では、少し足りないくらい。

じっくりと観察をしていた訳でもないけれど、水着撮影の度に感じていた何か。
その勘はどうやら当たっていたようだ。
花も女の子も、どうやら見られて綺麗になるらしい。


 「――っや、あ……っ」

柔らかく形を変える丘の頂は、そこだけ少し硬さを帯びてきていた。
指先で軽く沈めるように押すと、夕美の背筋が震える。

 「そこはぁっ……だ、だめっ……」

 「駄目?」

 「だ、めぇ……っ」

夕美は普通の娘より少しだけ敏感なようで、男としては嬉しい反応を見せてくれる。
ようやく緊張も抜けてきたらしい身体を縮込ませ、口元に手をやった。
可愛らしい様子がもっと見たくて、控えめな乳首を指先で撫で回す。
夕美は声を堪えながら身を捩るばかりで、何だかいじめているような気分になってきた。

 「本当に駄目なら、やめるけど」

 「……」

指先を黙らせると、夕美も身を小さくしたまま呼吸を整える。
ちょっとだけ間が空いて、それから小さく小さく、首を振った。

 「……だめじゃ……ない」

 「……ん。意地悪して、ごめん」

 「えっち」

責めるように寄せられた唇を啄む。
女の子はキスが好きで、未だ胸に手を添えている野郎には立つ瀬が無かった。


 「……っ」

薄く毛に覆われた割れ目を指でなぞる。
夕美は固く唇を引き結んで、また緊張の色が滲み始めていた。

 「大丈夫」

 「……うん」

 「リラックスして」

撫でるように、少しだけ沈めた指先が濡れる。
既に湿り気を帯びていたそこはぬるりと温かくて、夕美の温度を直に感じられた。

身体を重ねてから組まれっぱなしの指に力が籠められて、少しだけ痛い。
これから彼女が耐えるかもしれない痛みに比べれば、誤差みたいなものだ。
夕美の緊張ごと解すように、丁寧に、何度も柔肉を弄ぶ。

 「あ、あっ……ぁ……」

それから少しずつ、秘裂へ指を入れていく。
その様子を夕美は、口元へ手を添えながらじっと見つめていた。
夕美の中は温かくて滑らかで。
彼女は沈んでいく指を信じられないように目で追っている。

 「……痛くない?」

 「だい、じょうぶ。なんか……変な感じ」

今どきの女の子は、あまり自分でこういう事はしないんだろうか。
その辺りの事情には何とも詳しくないので想像するしかないけれど。
いま訊いたらビンタが飛んできそうだ。


 「気持ち良い?」

 「ん……よく、分かんない。違和感が、すごくて」

夕美は目を閉じて、さっきより呼吸も落ち着いていた。
小さく水音を立てながら、大切な部分へ指を抜き挿ししていく。
そこまで敏感でもなかったか。
そう考えながら何気なく指先を軽く曲げて、夕美が抱き着いてきた。

 「~~……っ!」

柔らかな感触を押し付けられて、湯冷めかけの肩に熱が灯る。
顔を伏せて、僅かに震えて、彼女は唇を引き結んでいた。

 「……夕美?」

 「はっ……あ、のっ! ふぁ、ん……!」

そこを何度か指先で探ると、その度に夕美が震える。
乾きかけのショートヘアを撫でて、秘裂の中を何度も擦り上げる。
ぴちゃっ、くちゅ。
時間が経つと共に水音が大げさになっていって、釣られるように吐息も熱く。
僕の竿もまた、合わせるようにして張り詰めていった。


 「……ふ、ぁ……はぁ……」

 「夕美……」

持て余すくらいに広いベッド。
その真ん中に夕美を寝かせて、枕の位置を整えてやる。
腰の下にタオルでも敷こうかどうか迷っていると、脇腹にこそばゆい感触。
つつかれた指先を追うように目を向ければ、夕美がむすりと口を尖らせている。

 「……Pさん。なんか、慣れてない?」

 「……そう、かな」

 「その、えっ…………こういうの、した事ある?」

 「まぁ、何度か」

随分と久しぶりではあるけれど。

正直に返せば、夕美がまた形の良い眉を曲げる。
僕のお腹の辺りを指先で、何度も何度もつつく。
服も何も遮る物の無い爪は、なかなかに痛い。けっこう痛い。

 「ずるい。不公平だよ」

 「えっと……初めて?」

 「あっ、当たり前でしょっ!?」

そう言われても、ちょっと分からない。
ぺちぺちと僕を叩く手には割と力が篭もっていて、ちょっと痛い。


 「……ふぅん。だよね。Pさん、カッコイイもんね。モテそうだもんねっ」

 「いや、ええと」

むくれる夕美はそれでも可愛らしい。
僕は頭を掻きながら、脳裏に浮かんだ台詞を何度も暗唱していた。
いかにも気障で、いかにもありきたりで、かなり恥ずかしい。
ただまぁ、夕美はこういうの、何となく好きそうではある。

尚も言い募ろうとする唇に指を当てて、僕は開き直った。

 「これからは、夕美だけだから」

言い終わらない内から耳が熱くなって、理性が頭を抱える。
夕美は目を丸くして、それから堪えきれないように笑った。
無理もない。逆だったら自分でも噴き出す。

 「Pさん、カッコつけ過ぎ」

 「……だよね」


 「ふふ……いいよ。約束」


そう呟いて浮かべた笑みは、胸を焼き焦がす程に綺麗だった。


サイドボードに置いておいた財布へ手を伸ばして、止まる。
夕美の手が僕の腕へ絡みついていた。

 「だいじょうぶ」


 「……何が」

 「無くても、平気」

 「だから、何が。こういうのは夕美の為だけじゃなくて」

 「飲んだから。お薬……ピル」

指差した先のテーブルを見れば、飾り気の薄い小さな箱が置いてあった。
僕はしばらく固まったまま呆然として、それから夕美へ向き直る。

 「……えっと、何で?」

 「……だから、言ったでしょ」

 「……だから、何が?」

 「全部、あげる」


理性。職業倫理。エトセトラ、エトセトラ。
ありとあらゆる正義の味方が徒党を組んで制止する。
その声が大きくなるにつれて、抗うように血がごうごうと巡っていく。

 「……誰に貰ったの」

 「……その、トレーナーさんに言うと」

 「あ、いや、ごめん……やっぱり言わなくていい。うん」

多分あの人は本来の使い途を想定して渡したんだろう。
こういう所、やっぱり夕美は、小悪魔と言うか。
耳元で囁かれる誘惑を振り切るようにして、意思を大急ぎで補強していく。

 「お願い」

口を開く前に、機先を制される。

 「合わせて、飲んでるから。ちゃんと効いてるから。全部あげたいの」

 「……」

僕の頬に添えた手は熱くて、やっぱり汗ばんでいた。
さっきから襲って来る夕美の吐息が、頭の中をがんがんと叩き壊していく。


……いや、嘘はやめよう。
僕はとっくに駄目になっていて、それそ認めようとしなかっただけだ。


 「……夕美。これだけ言わせて」

 「……」

 「まず、なるべくそういうのに頼らない事。身体に良い筈も無いから」

 「……うん」

 「それと、体調が少しでも変だったら、すぐに言う事。一切合切、僕が被るから」

 「…………」


夕美の唇が僅かに開いて。
それから、僕以外だったら分からないくらい、小さく小さく頷いた。


 「最後に、一つだけ」

 「……うん」



 「一度だけ、プロデューサーって呼んでくれないかな」

 「やだ」



こみ上げて来た笑みの裏に、僕は全てを投げ捨てた。

たぶん今日で終わります 長いなしかし

 ― = ― ≡ ― = ―

 「……ん」

秘裂へ先を宛がえば、くちりと泡立つ音がする。
最初よりもだいぶ解れたとは思うけれど、充分かどうかは分からない。
夕美が落ち着かなさそうに眉尻を下げた。

 「……痛いのかな」

 「…………人によっては、結構」

 「そっか」

正直に返すと、目を閉じて深く息を吐く。

 「痛くても、いいよ。Pさんなら」

 「……なるべく、優しくはするから」

途中で本能に男の欲に負けなければ、の話だけど。
正直、夕美とするなんて時点で全く自信は無い。

 「……」

 「……っ、ん」

宛がった先を、ゆっくりと沈めていく。
夕美の中はまだ狭くて、なかなか思うようには進まない。
それでも少しずつ、少しずつ。


 「はぁ……P、さん」

伸ばされた手へ応えるように夕美の背を抱く。
身体と身体がくっついて、彼女の顔が見えなくなって。
その分、竿へと伝わってくる感触がいっそうはっきりと分かるようになった。
ゆっくりとした歩調も、やがて止まる。

 「はぁ……、ふ、ぅ……」

夕美が深く息を繰り返す。
彼女の中は熱くて、柔らかくて、気持ち良い。
何度目かの吐息でふと緩んだそこへ、強めに腰を押し込んだ。


 「――っ、あぁっ!!」


少し引っ掛かるような感触があって、それから勢い良く竿が咥え込まれる。
根元まで埋まって、四方八方からきゅうきゅうと締め付けられる。
思わず声が漏れそうになって、一瞬だけ息が止まった。

今更だけど31はすぐ回収されるタイプのフラグじゃないか


その一瞬は、花を手折るのとよく似ていた。
ひどく満たされるような征服感と、染み込むような罪悪感。
二度と戻る事は無い。

 「……夕美」

 「いたく、ないっ」

回された指が僕の背へ爪を立てる。
肌へ食い込むような強さも、伝わってくる震えの前では何の実感も無い。
抱き締めていた腕を緩め、彼女の表情を伺う。
目の端に薄く雫を浮かべながら、くしゃりと笑おうとしていた。

 「嬉しい、からっ……大丈夫、だから」

 「……」

小さく洟を啜り上げて、顔を真っ赤に染めて。
浮かべていた笑顔は、今までに見た中で一番の空元気だった。
どう声を掛けようか迷っていた口は閉じ、自然と手が頭へ伸びる。

 「ありがとう、夕美」

 「……っ。うん……うんっ……!」

絶え間なく襲ってくる、夕美がくれる快感の波。
ひたすらそれを耐えながら、腕に抱いた彼女の頭を何度も、何度も撫でた。

いや
楓さん以外に限定SSR一度もお迎え出来た事無いけど、なんか今回こそはイケそうな気がするんだよ



 「――っ……ぁ……っ」


しばらく経っても、僕達はそのままの格好だった。
少しでも夕美の痛みを和らげようと、ひたすらに彼女を可愛がった。
頭を撫で、髪を梳く。
唇に、おとがいに、首筋にキスをする。
彼女の声から苦しげな色が薄れ、揺れるような響きが混ざる。

 「夕美」

 「……な、にぁ、あ……!」

少しだけ腰を引いて、その分だけすぐに戻す。
繋がった所からにち、にちりと絡むような音が聞こえて、夕美の喉が少し震えた。

 「ちょっとは、良くなってきた?」

 「……あ、あの、まだっ……っん……!」

膣内を確かめると、夕美が緩んだ声を零す。
痛みが多少なりとも収まってきて、代わりの感覚を受け入れる余裕が出てきたらしい。
漏れる声をこれ以上逃がすまいと、僕から口元を隠すように手を添える。

 「……ごめん、夕美」

 「え……な、なにが……ん、あっ……! うぁ……」

 「ちょっと、無理させるかも」


自慢の担当アイドルとこんな事をして、冷静でなんて居られる訳も無く。
腕の中で切なげに声を零す夕美へ、僕は無茶苦茶に劣情を抱いていた。
確かめるような抽送を強めのそれに代えて、竿を擦る柔肉の感触を味わう。

 「っ! んんっ……! ぁ、ひぅ……っ」

 「っはぁ、夕美っ……!」

夕美の身体を気遣いたい理性と、夕美の身体を貪りたい欲望。
掛けようとした秤がそのまま壊れて、頭の中が熱に侵されていく。


相葉夕美は元気印のアイドルだ。
いつも快活で、ライブでもよく通る声を響かせる。
そのお陰で撮る写真、撮る写真が、どれも大きく口を開けていて。
ファン達からはよく、埃が溜まらないか心配だとか、そうからかわれたり。


 「あ……ぅ……!」


いつだって綻ばせている、可愛らしい口。
その健康的な唇の色を、組み敷かれたベッドの上で、少しだけ濃くして。
僕へ緩んだ声を聴かせまいと、真一文字に引き結んでいる。

可愛らしさといじらしさの詰まった、夕美の仕草。
桃色に染まる彼女へ、浅ましい心がひどく興奮してしまう。


 「んむっ……」

引き結ばれたそこへ唇を重ねる。
舌でその間をこじ開けて、ぬるぬると滑る歯をなぞる。
抽送の勢いを少しだけ強めると、感じていた抵抗が徐々に弱まっていった。

彷徨っていた手首を掴んで、シーツへと抑え付ける。
少し乱暴になってしまっていたけれど、理性は黙っているばかりだった。

 「あっ、や……んぅ……」

 「声、聴かせて」

指先で見つけておいたそこへ、竿をぐいっと擦り付けた。


 「あぁっ……♡」


久しぶりに開かれた唇から、ひときわ甘い声が零れた。
淫らに過ぎるソプラノに、思わず出てしまいそうになるのをすんでの所で耐える。


 「はぁっ……っ、夕美……大丈夫?」

勢いばかりの思考を抑え込むと、少しだけ頭も冷える。
すっかり縮こまっていた理性が申し訳程度に顔を出した。
これ以上無いくらいに真っ赤になった夕美が、荒く吐息を漂わせる。

 「…………声……出ちゃって、た?」

 「……可愛かったよ。すごく」

 「……」

顔を覆い隠そうとして、でもその手首は僕が押さえていて。
代わりとばかりに目を閉じ、夕美が顔を逸らす。
染まった頬にまた口付けて、思わず跡を残してしまいたくなる。
夜にしか咲かない花もあるんだな、とぼんやり思った。

 「……でも」

 「……でも?」

 「まだ、全部じゃないよ」

少し恥ずかしそうな、花の綻ぶような笑み。


 「Pさんになら――あげる」


返答の代わりに、竿をまっすぐ突き入れた。
甘く痺れるような快感が駆け上がってきて、あまり保ちそうになかった。

 「や、あっ♡」

硬く張り詰めた分だけ、夕美の膣内がはっきりと分かる。
捕らえた獲物を逃がすまいと、蔦のように竿へと絡みついてくる。
抜こうとしても気持ち良くて、埋めようとしても気持ち良い。
どうにもならなくて、ただ快感を貪るしか出来ない。

 「夕美っ、……背、浮かせて」

 「え……あっ! Pさ、なに……ひゃうっ!」

再び夕美の背へと腕を回し、線の細い身体を抱き寄せる。
抽送の度に瑞々しく弾んでいた胸へ唇を寄せ、その先へ口付けた。
夕美にだって、少しでも気持ち良くなってほしい。
荒く夕美を攻め続けながら、出る筈も無いミルクを求めるように吸う。
だいぶ無茶な体勢で、危うく背筋が攣りそうになる。


 「あぅ……っや、やめっ……まだでな……ん♡」


夕美の声がどんどんと蕩けてきて、ますます興奮が昂ぶっていく。
こんなにも近くで乱れる恋人が、愛おしくて愛おしくて堪らない。


打ち付ける腰がぱん、ぱんと音を立てる。
ぎしぎしと上等なマットレスが軋む。

五感を色香で満たされて、理性の箍は完全に外れていた。
戒めとして打ち込んでおいた楔が外れる。
ずっとずっと禁句にしていたたった一言を、思いの限り叫びたくなる。
もう、限界だった。


 「Pさん、っ♡ んぅ……Pさん……っ!」

 「……っ! 夕美――」


ようやく伝えてしまいそうになった口を、そっと塞がれる。
頬に手を添えられて、触れるように重ねられて。
行為としてのそれではなく。
ただ愛情だけが籠められた、本当の意味での口付けだった。



どくんっ。


 「――ん。んっ…………♡」

 「……っく、うぁ……っ」


唇を重ねたまま、僕は限界まで高まりきった欲望を夕美の中へ叩き付けた。
竿が脈打つごとに、はっきりと分かるような勢いで精液を注ぎ込んでいく。
脈打つ竿へ応えるように膣内が締まって、熱い柔肉が精液を搾り取っていく。


 「あ…………ぁっ♡」

 「夕美…………っ」


竿を奥へ奥へと押し込んだまま、永遠にも思えるような射精の快感が頭を満たす。
気持ち良くて…………途方も無く、気持ち良い。
ようやく注ぎ終える頃には、心臓が爆発しそうなぐらいに脈打っていた。


 「はぁ、っ……あ……Pさん……」

 「夕美……」

 「…………ありがとうね」

そう零した夕美の目には、また涙が浮かんでいて。
それでも咲いていた笑顔に、少しだけ救われたような心地になる。

 「……ねぇ、Pさん?」

 「……うん」

 「さっき……何か、言おうと、してなかった?」

上気した頬に、吐息はまだ熱く。
けれどそう問う夕美の瞳は、いつの間にか小悪魔のような輝きを灯していて。


 「…………」


僕はごまかすように、彼女の額へまた一つ、口付けを落とした。


 ― = ― ≡ ― = ―

 「……♪」


 「……」

 「~~♪」

 「……あの、夕美。夜景、綺麗だよ」

 「そうだねー」

 「観ないの?」

 「うんっ♪」


再びの入浴で身を軽くして、疲労のままに二人してベッドへ潜り込んだ。
よくよく考えてみれば、僕はもちろん、夕美もライブステージを終えたばかりな訳で。
よくもまぁこなしたものだと、今更ながらに呆れるような、感心するような。

 「♪」

そんな彼女は折角の眺望もそこそこに、さっきからひっ着いて離れようとしない。
よく知った柔らかさを押し付けられて、疲労困憊の息子を容赦無く刺激してくる。
いや、もう無理だから。休んでなさい。


 「Pさん、知ってる?」

 「ん」

 「女の子もお花もね、見られると綺麗になるんだ」

 「…………うん。知ってる」


 「だから――これからも、ちゃんと見ててね?」


アイドルは、花だと思う。


土を整え、余分な葉を払い、水と栄養と、それから愛情を注いで。
そうして花が開くのを見守るのがプロデューサーの仕事なんじゃないか。

その考えに、今も変わりは無い。


 「ねぇ、Pさん」

幾分か眠気の混じり始めた声で、夕美が身を寄せて来る。
そして唐突に、驚くような事実を告げた。

 「もっと、イチャイチャしてもいい?」


……これ、まだイチャついてるつもり、無かったんだ。


零しかけた言葉を飲み込んで。
僕は甘えてくる恋人を抱き寄せ、さらさらの髪を撫でておいた。

さすがは食虫(?)植物。性欲が半端ないぜ!


 ― = ― ≡ ― = ―

カラスが誰かを呼んでいる声。
幾つものランドセルが揺れる音。

吸い込んだ風は気持ち良く薫って、足元の草はふかふかと柔らかくて。
穏やかに流れる小さくも大きくもない川が、燃える空を綺麗に映している。


夢だ。
すぐにそう気付いて、でも周りの景色には見覚えがあった。
一度だけ、ここに来た事がある。

大学生活にも慣れて、友達も出来て。
大学生らしい事をしてみたいなと思って、通学路の途中にある適当な駅で降りて。
目的も目標も何にも無くて、ただぶらついた先にあった河川敷。
すっかり葉桜になった樹たちを見上げていたら、


 「綺麗ですね」


背中から声を掛けられて、そこに居たのはスーツ姿の人。
けっこう格好良くて、ナンパだと思った私は、慌ててごまかそうとした。

 「はいっ。葉桜も、綺麗ですよね」

私の言葉を聞いて、その人はちょっと驚いて、それから困ったように笑って。

 「すみません」

 「はい?」

 「お名前を、伺ってもよろしいでしょうか」

 「へっ? 夕美……ですけど」

いきなり名前を訊かれて。
よせばいいのに、私はつい正直に答えちゃう。


 「……美しい夕焼け、でしょうか」


 「わ……すごい! お兄さん、占い師? スーツだけど!」

素直に感心して、そう訊ね返してみる。
するとその人は答えようとして、少しだけ迷って、頬を掻いて。

 「いえ――魔法使いです」


 「……ぷ、あははっ! ま、魔法使いって」

 「……まぁ、そうなりますよね」

 「じゃあ……お花、咲かせたり出来る? 魔法でっ」

 「いえ。恥ずかしながら修行中の身でして」


葉桜を指差すと、ちょっと困ったように笑う。
ポケットに手を差し入れると、ケースの中にあったそれを一枚、私へ差し出して。


 「ですが。いつか、きっと」


 ― = ― ≡ ― = ―

 「――…………?」


手を伸ばした先には何も無くて、あの人も居ない。
あ、そっか。夢だったんだ。

体中がふかふかと柔らかい感触に包まれてて。
あれ、ついこの前に春秋用の布団に替えた……筈……。

 「……っ、え!? わ、私っ」

やたらに大きなベッドの上で、私は何にも身に着けていなかった。
そこでようやく夕べの出来事を思い出す。
夢から覚めた今でも、夢だったんじゃないかって思っちゃうような時間。
お腹の奥の辺りに、ほんの少しだけ違和感が残ってた。

 「Pさん?」

辺りを見回すけど、どこにも居ない。
お手洗いかなと首を傾げた所で、サイドボードの上にあるメモへ気付いた。



 夕美へ

 おはよう
 念のため、僕は先に出ておきます
 これがカードキーとタクシー代です
 フロントには伝えてあるから、後はカードだけ返してくれれば大丈夫
 繰り返すけれど、少しでも調子が悪かったらすぐに言う事
 また明日、事務所で


 「…………」

ぼふり。

ベッドに身体を沈めて、空っぽの隣を叩く。
何度も叩いて、その度にマットレスさんがやんわりと受け止めてくれる。

 「ばか」

Pさん、なーんにも分かってない。
こういう朝は、目を覚ますと、大好きな人がすぐ隣に居て。
幸せだなぁってしばらく笑って。
眠い癖にくっつき合って。
それで、昨日はしてもらうばかりだったから、今度は私が


こほん。


ともかく。
ともかくそんな感じで、彼氏さんには彼女を甘やかす義務があると思う。
うん、そう、義務……義務だよね?

 「……ばか」

枕も叩いてやろうと持ち上げた所で、何かがころりと脇へ転がっていった。
拾い上げてみると、それはリボンに包まれた小さな箱。


 「あ」

そういえば私、誕生日だったんだっけ。
昨日のあれやこれやですっかりすっ飛んでたけど、そういえば。

束の間の不機嫌はいつの間にかどこかへ行っちゃった。
丁寧に包みを剥がしていくと、現れたのは小さなペンダント。
シンプルな銀飾りの中央に、青みがかった小さな石が填め込まれてる。

 「お花のじゃ、ないんだ」

そう零してから、昨日Pさんに言った事を思い出した。

華やかさは控えめだけど、とっても綺麗。
たまにくれる、明るいお花のアクセサリーとは、ちょっと雰囲気が違う。
洗練されてて、少し――オトナな感じ。

 「……えへへっ」

ペンダントを胸に抱いて、ベッドの上を転がる。
普段の倍はある幅を活かして、ごろごろ、ごろごろ。


幸せ。


 「えへへ……へ…………へくしゅっ」


……とりあえず、服を着ようっと。


 ― = ― ≡ ― = ―

警備の人に挨拶をして、おそるおそる廊下を進んでいく。
まだ心の準備が整っていなくて、少しだけ鼓動が早く。
いつものドアの前に立って、何度か深呼吸。

 「夕美」


 「……っ! お、おはようっ!」

 「うん、おはよう……あ」

ちょうど出先から戻って来たらしいPさんに後ろから声を掛けられた。
慌てて向き直ると、Pさんの視線は私の首元へ。

 「着けてくれたんだ」

 「う、うん」

 「似合ってる。大人過ぎるかなと思ったけど……うん。よく似合ってるよ」

 「えへへ……ありがと……って、Pさん?」

 「……ん」

そう話す間も、Pさんは後ろ手に何かを隠してて。
覗き込もうとすると、身体の角度を変えられてちゃう。



 「渡し忘れてたのと、言いそびれてたのがあって」


そう言って、Pさんが目の前に差し出してくれたのは。



――セロハンに包まれた、一輪の赤いバラ。



 「……」

 「その……夕美がくれたのには、敵わないかもしれないけど」

 「……Pさん」

 「うん」

 「Pさん」

言いたい事が、伝えたい言葉が、胸の奥から次々にあふれて来て。
全部ぜんぶ、掠れてどこかに消えてって。
ただ焦げ付いちゃいそうな熱さだけが、目の端から零れて。

でもこの人が、プロデューサーが欲しいのは、こんなのじゃないから。
受け取った花を胸に抱いて、私は湿った頬を拭う。



 「渡し忘れてたのと、言いそびれてたのがあって」


そう言って、Pさんが目の前に差し出してくれたのは。



――セロハンに包まれた、一輪の赤いバラ。



 「……」

 「その……夕美がくれたのには、敵わないかもしれないけど」

 「……Pさん」

 「うん」

 「Pさん」

言いたい事が、伝えたい言葉が、胸の奥から次々にあふれて来て。
全部ぜんぶ、掠れてどこかに消えてって。
ただ焦げ付いちゃいそうな熱さだけが、目の端から零れて。

でもこの人が、プロデューサーが見たいのは、泣きじゃくる女の子なんかじゃないから。
受け取った花を胸に抱いて、私は湿った頬を拭う。



 「私……私ねっ……もっと、頑張るから」

 「そっか」

 「唄って、踊って、もっと可愛くなって……ずっと綺麗な、アイドルになるからっ」

 「ああ――これからもよろしく、夕美」


お花になりたい。


小さな頃のそんな無邪気な夢は、すぐに無理だって分かって。
それでも私の前に、夢を叶えようとしてくれる人が現れて。


だから。



咲けるなら、もっと満開に。
叶うなら、もっといっぱいに。



いつかきっと、この人へ、一番綺麗な花束を。


おしまい。
夕美ちゃんは正統派清純派えっち


前回の奏ちゃんは演出重視の濡れ場って感じだったので
今回の夕美ちゃんは実用性重視のいちゃラブえっちしてもらいました
キーボード叩き壊しそう

それと夏コミ申し込みました
受かれば蘭子ちゃん一代記的な本を出します


じゃあ、行ってくる。

おっつおっつ
夕美ちゃんの魅力が良く出てた

おっつおつ

おつ
あんたんを祈ってるよ


あといつか(えっちじゃなくてもいいから)奏さんのやつまた書いてくれ

R版移動とは何だったのか
おつおつ

希「第39問、川神舞は生まれ変わったら何になりたい?」

ことり「もうこんなの・・・」

穂乃果「・・・・・」

絵里「・・・・・・」

花陽「まだ39問目だよ、2人ともだまっちゃっだよ・・・」

希「解答オープン」

穂乃果:魔法使い

絵里:女性

ことり:ナース

花陽:おっぱいバレー

穂乃果「おっぱいバレーって何?」

ことり「おっぱいを生かしてバレーをするの?」

花陽「ちがうよ、映画のやつだよ」

絵里「あの綾瀬はるかさんが出演した映画のやつなのね」

穂乃果「穂乃果はあまりしらないけどね」


希「川神舞はもし生まれ変わったら何になりたい?」

舞「生まれ変わったらねぇ・・・・まあ生まれ変わっても私のままでいいかな」

ことり「まあ、あの子はあの子のままでいいよね。」

絵里「そうだね」


>>90
奏のRって、雨に踊れば?

あと乙。良い塩梅だったよ、爆ぜろ

60連の結果、無事SSRアーニャちゃんを今一度お迎えする事が出来ました
助けてくれ

>>98
こちらも同様に納税運を他の子に使ったが、翌日ちゃんと回収できたぞ

大丈夫、相葉ちゃんを信じて回しませう

>>96
Yes.
奏ちゃんがスカウトされる時のお話とか書いてみたいね

エロ別けるよって時期に運営の判断でRへ飛ばすとの話を読んだ記憶があるんだけど……そういえば結局どうなったんだろうか

一応分けることになったけど、html化時に管理人判断で移行っぽい?
ただ、最近html化も追いついてないし、R板に至っては向こうで立ったスレは1つもhtml化が完了してない有り様で...

あと関係ないけど、新刊の委託増やしてよ。コミケ行きそびれて1月末に海外出張から帰ったら、もう切れてんじゃん! 中旬には捌けたって聞いたし、次はもちっと増刷してくれると嬉しいです


俺もコミケ行けずに委託分も買えなかった

新刊は……ごめんね、コスト的に増刷はちょっと厳しいな
家に20冊ほど残部があるから次回イベントに持ち込む予定ではあります

過去作教えて

>>104
http://twpf.jp/Rhodium045

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