撫子「ふとした時に、気づくこと」 (31)
ふとした時に思う。
ある時は夕飯の前。
撫子「櫻子ー、ご飯できてるよ」
櫻子「あ、待って! 今行く!」
どたどたとせわしなく階段を降りてきたかと思うと、私のすぐ横を櫻子は走り抜けていく。
ふわっ
撫子「!」
私の目の前でたなびいた櫻子のくせっ毛は、通り過ぎた場所にシャンプーの甘い香りを微かに残す。
……あんなに背、高かったっけ。
撫子「家の中を走るな!」
戸惑いを取り繕うように大声を出した。
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ある時は勉強中。
がちゃ
櫻子「なっ、ねーちゃん何してんの!?」
撫子「櫻子が宿題サボってないか監視しに来ただけだよ」
櫻子「監視されなくてもちゃんとやってるっての!」
撫子「へえ……どれどれ……?」ぺらっ
櫻子「わっ、見るなー!!」じたばた
撫子「……」
櫻子「……ねーちゃん?」
撫子「……あ、いや、まだ全然終わってないけど、一応はやってるんだね」
櫻子「だから言ったじゃん! 早く返せ!」ばっ
少し前まで掛け算の六の段も覚えられなかった子が、連立方程式に頭を悩ませていた。
ある時は風呂上がり。
櫻子「ふ〜、さっぱりした〜」
櫻子「……ってあれ、ねーちゃん何飲んでんの?」
撫子「コーヒー」
櫻子「あっ、ずるい! 私も飲む!」とてとて
撫子「……あれ? あんたコーヒーなんて飲めたっけ?」
櫻子「失礼な! 私だって飲めるよ」
撫子「だって櫻子、前まで苦いの無理って……」
櫻子「えー、そうだったっけー?」
曖昧な返事を返しつつ、台所から自分のカップや道具を取り出そうとする櫻子の後ろ姿は、少し大人びて見えた。
櫻子「あっ、お菓子みっけ♪」
「食べちゃだめだよ」「えー」という言葉をやり取りをしてる間も、私はずっと上の空だった。
成長してるのは、私も花子も変わらない。 なのに、櫻子が変わるとその度に気になってしまう。
なぜだろう。
ある日のこと。
撫子「あれ、これって……」
今年も終わりが近づき、家の大掃除をしていた私は、物置きの奥から古いアルバムを発見した。
外観だけ見れば、それなりの値段が付きそうな見た目をしているが、ほこりまみれになった姿だとさすがにそれも見劣りしてしまう。
ぺら……
撫子「うわ、懐かしい」
中身を見た私は、思わず声を上げてしまった。
アルバムの一つ一つのページには、私、櫻子、花子を写した写真が、所狭しと並べられていた。一番最近のものでも三、四年前。古いものだと櫻子が生まれる前のものまである。
撫子(あ、これって……そうそう、あったあった)
撫子(最後にスキーに行ったのっていつだったっけ……多分小学生の頃だよね、懐かしいなあ)
撫子(うわ、中学校の卒業式の写真、私ぼろ泣きしちゃってるし……櫻子より先に見つけといて良かった)
撫子(わあ……生まれてすぐの花子、かわいい……)
ページをめくる度に現れる、さまざまな時間、さまざまな場所の写真。それらを見る度に、あんなことがあったな、こんなこともあったな……と、古い記憶を掘り返して、一人追想し、一人切ない感情に浸っていくのだった。
撫子「……」ぺらっ
私は段々と……ほぼ無意識に……今よりもずっと幼い、私と櫻子の写真ばかりを眺めるようになっていた。
どのページのどの写真でも、櫻子は屈託のない、無邪気な笑顔をカメラに向けていた。そして、幼い私は大抵、すぐ隣で笑顔を返すか、少し離れた場所から見守っていたりしていた。
撫子(このころの櫻子は、まだ可愛げがあったなあ……)
過去を思い出しながら、そんなことを思ったりする。
昔の櫻子がどんな子だったかと聞かれれば……やはり「元気」を体現したような子だったと思う。家の中でも、近所で他の子と遊ぶ時も、いつも誰よりもはしゃいでいた。人を気遣うこともできたし、誰とでも仲良くできる子でもあった。
少なくとも、今のように生意気ではなかったし、わがままでもないし、バカでもないし――
あれ?
櫻子って……
いつの間に、知らない間に、こんなに変わってたんだ。
櫻子が変わったということ。
そして、私がそれに気づけなかったということ。
否定しようのない事実が、私の全身を押し潰すかのような感覚を走らせた。
ずっと近くにいたはずなのに。
ずっと一緒に過ごしてきたのに。
なんで気づかなかったんだろう。
いつから?
いつ変わったんだっけ?
分からない。思いあたる節もない。
…………なんで………
櫻子「何見てんのー?」
撫子「うわっ!!」びくっ
アルバムに気を取られていた私は、背後から近づいて来る櫻子の存在に気がつかず、情けない声を出してしまった。
櫻子「……びっくりしたー」
撫子「それはこっちのセリフだよ」
櫻子「そんなに驚くことないでしょ!」
櫻子の言うことももっともだが、認めるのも何だか腹立たしく、私は適当にやり過ごす。
櫻子「……あっ、これってアルバム?」
撫子「ああ……そうだよ」
櫻子「へえー……うわっ、懐かしー!」
私よりもあからさまなリアクションを見せる櫻子を、私はざわつく胸を誤魔化すように見つめていた。
「……撫子、もしかして何かあったの?」
撫子「え……?」
「勘違いだったらごめんね。なんか、いつもより声が元気なさそうだったから」
毎日夜にひっそりと行われる、彼女と二人きりの通話。電話越しに聞こえる彼女の声は、少し心配しているように思えた。
彼女にいきなり意表をつかれて、胸がどきりとする。それなりに長い付き合いなだけあって、何か異変があるとすぐに気づかれてしまう。
撫子「……ううん、勘違いじゃないよ。ちょっと、寂しくなっちゃってさ」
「寂しい……?」
撫子「ん……櫻子のことでね」
「喧嘩でもしたの?」
撫子「いや……なんて言ったらいいのかな……」
私は一言一言、頭の中を整理整頓するように話し始めた。
撫子「前までちっちゃな子だと思ってたのに、いつの間にか大きくなっていて……」
「……うん…………うん」
彼女は一つ一つ、私の言葉を丁寧に掬いとるように聞いてくれた。
心の中にたまっていたたくさんの思いを、声という形にして変換して……気がつけば、かなり長い時間話し込んでしまった。
撫子「……あ、ごめん。つい話しすぎちゃった」
「別にいいよ。撫子がこんなに長く話してるの、珍しいし」
ふふっ、という笑い声。
部屋の中はとても静かで、一階のテレビから微かに伝わる音以外に、何も聞こえて来ない。たとえ電話越しでも、彼女の息遣いとか、声とか……否応なしによく聞こえてくる。
「撫子は、櫻子ちゃんのことが本当に好きなんだね」
撫子「っ……///」
私は思わず言葉を詰まらせる。
嘘ではない……のに、他人が言葉にして言うと、それが既成の事実であっても、すごく恥ずかしい気分になってしまうのはなぜなのか。
撫子「そりゃもちろん、姉妹だし……大切だよ。花子も、櫻子も」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなー」
撫子「えっ、え……それって……え?///」
「くすっ……」
学校だと私が彼女を弄る側なのに、電話となると、いつも彼女のペースに持っていかれてしまう。そういうギャップも、彼女にとっては私の魅力の一つらしいけど。
撫子「……意地悪」
「あ、もしかして拗ねちゃった?」
撫子「拗ねてない」
一人で空回り。櫻子相手にこんなに変な気持ちになっている自分が、いまだに信じられなかった。
「……私はさ、一人っ子だから、撫子の気持ちとか、よく分からないんだけど」
一息ついて、彼女は言った。
「撫子、櫻子ちゃんのこと、子供だと思ってるでしょ」
撫子「え……だって、現に子供だし……」
「年齢的な話じゃなくて。精神的な話」
彼女が何を伝えようとしているのか、いまいち理解ができなかった。
「……櫻子ちゃんもさ、いつまでも子供じゃないんだよ」
撫子「……!」どきっ
「これから高校に行って、大学に行って、就職して、家を出て……どこかの誰かと結婚するんだよ」
「自立して、一人で生きていけるようになっていくってこと、忘れてない?」
撫子「……」
何も言い返せなかった。
よくよく考えれば、至極当たり前のことなのに、私はその事実からずっと目を逸らし続けていたのかもしれない。
「それと撫子、一つ勘違いしてる」
撫子「え……?」
「人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない」
「急に変わるものよ」
撫子「急に……」
「そう。特に櫻子ちゃんみたいな、小学生から中学生の間はね、その人を変えるきっかけになる出来事が、よくある時期よ」
「撫子なら、何か思いあたる節があるんじゃない?」
彼女に投げかけられた問いに、私ははっきりと答えることはできなかった。
けれど、櫻子を変えたものが何なのか、全く分からないわけではない。
それはきっと、隣の家に住む、幼馴染が原因だ。
「……撫子?」
撫子「……あ、ああごめん。ちょっと考え事してた」
眠くなって思考が散漫になっていた頭を、ふるふると左右に振る。
時計の針を見ると、既に通話が始まってから三十分が経過していた。
撫子「私たち、結構長く話しちゃったみたいだね」
「あ、ほんとだ。もうこんな時間」
撫子「明日は学校だし……今日はこのくらいにしとこうか」
「……ええ、そうね」
撫子「……話聞いてくれて、ありがとう」
「ふふ、お役に立てて何より」
撫子「おやすみ」
「おやすみなさい」
通話終了ボタンを押すと、携帯は見慣れたホーム画面を映し出す。何十秒かの間だけ、ベッドに腰掛けつつ、通話の余韻に浸る。
朝のアラームの設定を確認した後、画面を真っ暗にした。今日はもうさっさと布団にもぐって、深い眠りについてしまいたかった。
こんこん
撫子「………………ん…………?」
掛け布団を顔のすぐ前まで持ってきて、目を閉じた私の耳に、ドアを軽くノックする音が届いた。
がちゃ
櫻子「ねーちゃん、起きてる?」
撫子「……んー……櫻子…何………?」
こんな夜遅くに櫻子が私の部屋に来るなんて、とても珍しいことだった。
私は小さな声で、彼女の問いかけに応じた。
櫻子「……一緒に寝てもいい?」
もぞもぞ
撫子「……ん」
私はベッドの右端に寄り、左側に空きを作った。
櫻子「おじゃましまーす……」
櫻子は小声でそう言うと、私が空けたスペースに寝っ転がり、同じ掛け布団の中へと体を潜らせていった。
櫻子「へへ……あったかい……」
既に私の体温で温まった布団の感触に、櫻子は満足しているようだった。
そして、当の私はというと……あんな会話を交わした後ということもあって、目を合わせるのも気恥ずかしいという有り様だった。
撫子「……なんでいきなり一緒に寝ようだなんて思ったの?」
櫻子のいる向きとは反対方向を向いたまま、私は聞いた。
櫻子「あー……ほら、さっき、ねーちゃんが見つけたアルバム。あれ見ててさ、昔はこうして二人で寝てたよなーって思い出して……」
櫻子「たまには、こうやって一緒に寝るのもいいかなーって……///」
少し照れ気味なのか、たどたどしく紡がれる櫻子の言葉が、私の心にずきり、ずきりと刺さる。
櫻子「ふあぁ……眠……」
こすっ……
撫子(え、ちょ……!)
櫻子の足が、私の足と触れ合い、もつれ合って……もともと温まっていた布団の中の温度が、さらに上がったような気がした。
それに加え、櫻子は自分の顔をつんつんと私の背中に当ててくるもんだから……私の顔は、みるみる赤くなっていった。
撫子(こ、この状態で寝るの……///)
先程までの眠気はどこへやら。今は心臓のドキドキ音がやたらうるさくて、とても眠れそうになかった。
櫻子「……」
櫻子が掛け布団の中に潜り込んでから、三十分近くが経っただろうか。
もぞもぞと動いていた櫻子もようやくおとなしくなり、私もやっと一息ついた。
撫子(ふー……早く私も寝ないと……)
そう思いつつ、私はくるり、と身体の向きを変え、櫻子の方に向き直した。
これが間違いだった。
撫子(……!!)
身体の向きを変えた瞬間、私の目に飛び込んで来たのは……ぐっすりと眠る、櫻子の寝顔だった。
櫻子「すう…………すう…………」
単刀直入に言えば、私はこの顔に見とれてしまった。
起きている時には絶対見られない、穢れを全く知らないかのような、あどけない幼顔。それは櫻子が言っていた、一緒に寝ていた頃に見た櫻子の寝顔と、何一つ変わらない表情だった。
櫻子「……ん…………ぅ……」
どきどき、どきどき。
今なら、バレない……かな。
私はそっと、櫻子の頭の後ろに手を回す。そして、彼女が起きてしまわないよう、さらさらとした髪の毛をゆっくりと撫でてやった。
撫子「…………」
ああ……思い出した。
昔、眠れない櫻子のために、こうやって頭をなでなでしていたっけ。
櫻子「んぅ〜………」
撫子(おっと……)ぱっ
櫻子の唸り声に驚き、私は慌てて手を離す。
もぞもぞと体を動かしたものの、起きることはなかった。
櫻子「すう…………すう…………」
静寂な部屋の中に、一定の間隔で繰り返される呼吸音が再び響き渡る。
撫子「…………」
以前見た顔と同じ顔が見られて嬉しい。
嬉しいはずなのに。
どうして、心はこんなにもずきずきと痛むのだろう。
どうして、胸がきゅっとなるのだろう。
『人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない』
『急に変わるものよ』
彼女の言った言葉を思い出す。
彼女の話した内容が本当だと仮定すると……櫻子はこれから、またどんどん変わっていくのだろうか。
……いや、そもそも彼女の言う「変化」が既に訪れているとも限らない。
櫻子の寝顔のように、私と櫻子をリンクさせるものは、これから一つ一つ、消えていくのかもしれない。
櫻子の成長が気になってしまう理由。
それはきっと、櫻子の性格にあるのだろう。
花子の場合、物心ついた頃には既にしっかり者で、周りに迷惑をかけることもほとんど無く、姉からすれば手間がかからなくてありがたい妹だった。
それに引き換え櫻子は……宿題はやらないわ、夕飯の当番は忘れるわ、私や花子の食べ物を勝手に食べるわ……ほとんど毎日、何かやらかすような子で、私どころか、妹の花子にさえ手間をかけさせる始末だった。
だからこそ……彼女の成長は、人一倍目立ってしまうのかもしれない。
撫子「……櫻子………………」
頭の中では、アルバムに貼られていた何枚もの写真が浮かび上がり、櫻子との思い出が蘇っていく。
自分に妹ができると知って、嬉しくてはしゃぎまわったこと。
妹ができたら何してあげよう、どんなことをしようと毎日考えていたこと。
病院で櫻子を初めて見た時のこと。
食事を食べさせたり、おもちゃを使って一緒に遊んだこと。
寝る前に絵本を読んだこと。
櫻子が道端で転んで泣いてしまい、私が必死になって宥めたこと。
私が小学生になると、二人でよく外の公園に遊びに行ったこと。
櫻子が友達をつくって、時々家に連れてくるようになったこと。
雨なのに傘を忘れてしまった時、櫻子が学校まで届けに来てくれたこと。
櫻子が友達と大喧嘩をして、一緒に謝りに行ったこと。
花子が生まれると知って、櫻子と二人で喜んだこと。
二人で掃除や洗濯を手分けして手伝ったこと。
一年間だけ、同じ小学校に通ったこと。
卒業式の日、私以上に櫻子がぼろ泣きして、ひま子もそれにつられて泣いてしまったこと。
春はお花見に、夏はお祭りに、秋は紅葉狩りに、冬はスキーに行ったこと。
一緒に笑って、一緒に泣いて、
一緒に過ごしてきたこと。
「…………………」
嫌だ。
櫻子「……んぁ………」
「………っ…………ぅっ……」
嫌だよ。
櫻子「……ねー……ちゃん……?」
お願い、離れないで。
撫子「……ふ………ううっ………っ……」
どこにも行かないで。
櫻子「……なんで………泣いてるの……?」
撫子「っ……さくらこ……さくらこ………」
私は愛しい妹の名前を呼ぶ。
何度も何度も、
ただただ求めるように、
寂しいよ、と伝えるかのように。
櫻子「ねーちゃん……大丈夫?………私はここにいるよ……」
撫子「ひっ……ぅ……うぅ……///」
櫻子に背中をさすさすされながら、私は声を押し殺して泣いた。
嬉しさやら悲しさやらで、感情はぐちゃぐちゃに混ざっていた。
櫻子「落ち着いた?」
撫子「ん……ありがと……///」
しばらくして、私は目尻に溜まった涙を指で拭いながら言った。
目の前にいる櫻子は、いつになく優しい顔をこちらに向けていた。
櫻子「……どうして、泣いてたの?」
櫻子は心配そうにしていた。普段めったに泣くことのない私がすぐ隣で泣いていたのだし、心配するのも無理はない。
撫子「ん、んーん……なんでもないよ……」
櫻子「ねーちゃん!」
櫻子は声量を上げて言った。
櫻子「なんでもなくない……だってねーちゃん、『さくらこ』って何度も何度も言って泣いてたじゃん!」
怒っているようで、少し悲しそうな声を、櫻子は漏らした。
櫻子「私のせいで泣いてるの? そうだったらあやまるから……」
撫子「ち、違う……櫻子は悪くない……から……」
櫻子「じゃあ……何?」
せっかく落ち着いたのに、私はまた泣きそうになってしまう。
それをなんとか堪えつつ、私は声を絞り出した。
撫子「…………怖くて……」
櫻子「……え」
撫子「櫻子が……これからどんどん大きくなって……変わっていって……離れていくんだなって……」
撫子「そう思ってたら……なんか寂しくて、怖くなっちゃって……」
櫻子「ばかっ!」
突然の大声にビクッとし、櫻子の方に目をやると、目を背けたくなるくらい真っすぐな視線が、私の心を捕らえた。
櫻子「何言ってんの……私がねーちゃんの前からいなくなるわけないじゃん!」
櫻子「大人になっても、何歳になっても、私はずっと私だもん! 変わるわけないじゃん!」
櫻子「私だって……私だって、ねーちゃんが大好きだもんっ!!///」
撫子「櫻子……」
ぎゅっ
櫻子「ぅ………うう~っ……」
櫻子は痛くなるくらい、私をぎゅっと抱きしめる。
そして、私の全然ない胸に顔を埋め、自分がむせび泣いているのを必死に隠そうとしていた。
撫子「ごめん……ごめんね、櫻子……」
櫻子「……うぅ………ばか…………ねーちゃんのばか……」
妹を泣かせちゃうなんて……私ったら何やってるんだか。
櫻子「……すー………………」
泣き疲れてしまったのだろう。櫻子は顔を埋めているうちにすやすやと眠ってしまった。
胸元でいびきをかく櫻子を、私はそっと腕で包み込む。
こうしていると、私と櫻子が一つになったようで、心がぽかぽかと温まるのを感じた。
撫子(……ありがとう、櫻子)
櫻子はたくさんのことに気づかせてくれた。
全ての思い出は、ばらばらに存在する点ではなく、一本の直線の上に、点々と位置しているものだということ。
たとえ二人が成長しても、いつどこにいたとしても、私と櫻子の姉妹の関係は、ずっと変わらないということ。
大きくなったからといって、それが離れることには繋がらないこと。
櫻子も私も、お互いが大好きだということ。
私は櫻子の頭の上に手を置いた。
夜遅くに起こしちゃってごめんね。
せめて朝が来るまで、幸せな夢が見られますように。
櫻子「……むにゃ」
私もそっと目を閉じる。
心と体で、温かさを感じながら。
おやすみなさい。
おわりです。
ありがとうございました。
オチが弱くてすみません。
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