ムラサメ研究所を脱走してきたニュータイプ幼女たちが… (837)


前スレ
「ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が…」
ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が… - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367071502/)

【諸注意】
*前スレのファースト編からの続き物です。
*オリキャラ、原作キャラいろいろでます。
*if展開は最小限です。基本的に、公式設定(?)に基づいた世界観のお話です。
*公式でうやむやになっているところ、語られていないところを都合良く利用していきます。
*タイトルから想像されるようなエロ展開は(たぶん)ないです。
*レスは作者へのご褒美です。

以上、よろしくお願いします。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371217961


なんとなくこっそり立ててみた。

とりあえず、キャタピラ、投下イッきまーーーーす!


 エウーゴとカラバの共同作戦によって、ジャブローから連邦軍本部の移籍先となったキリマンジャロ基地が壊滅してから早3日。

速報では、エウーゴが核兵器を使用したと言われていたが…

明らかにティターンズがエウーゴやカラバを巻き込むために使った自爆用の核兵器だろう。

ジャブローで2発も起爆させたんだ。キリマンジャロを吹き飛ばすくらい、やるはずだ。

追加の情報が来ないってことが、そいつを物語っている。

 この基地内は、本来はティターンズとは何の関係もなかった辺ぴな軍の駐屯基地。

それなのにその影響でこんな夜中までドタバタだ。

もちろん俺もティターンズなんかとは違って、生粋の連邦軍人だ。主義や主張なんかありはしない。

給料と安定以外のメリットが、この仕事にあろうはずもない、まぁ、反連邦組織とやりあっている前線には申し訳ない話だが。

ただ、8月からこっちはティターンズの下請けみたいなもんだ。それも、キリマンジャロの一件で情勢が緊迫してきている。

ティターンズの連中も必死、ってわけだ。でなければ、この騒ぎになっているはずもない。

 不意に、部屋の内線が鳴った。イヤな予感がする。俺は恐る恐るその受話器を取った。

「こちら、情報管理室。マーク・マンハイム中尉であります」

「あぁ、貴様か」

女の声。

 8月。議会での決議で採択された権限引上げとともに、この基地のお目付け役としてやってきたティターンズの女大尉殿だ。

やつらの階級は常に一つ上。要するに、大尉殿は少佐扱い、と言うことになる。うちの基地長と同格。

だが、基地長のヤツは大尉殿がくるなりまるで借りてきた猫だ。強権をふるうティターンズが怖いのだろう。

事実上、この基地はこの大尉殿とお連れの部下、2人のたった3人に支配されている。

いやな話だが、俺は妙にこの大尉殿に気に入られていた。

だが、俺の方は名前を憶えたくないくらい、大尉殿が好きにはなれなかった。

大尉殿の専門は、事情聴取。主に狩ってきた反連邦組織の人間や、密航者、元ジオン兵やなんかの取り調べをやっている。

が、半分、殺しを楽しんでいるようなやつだ。

事情聴取が始まると、うちの基地の人間は外に追い出して、自分の部下と一緒に手にしたムチで滅多打ち。

気を失ったら、水をぶっかけてさらに滅多打ち、らしい。

ここに連れてこられた奴の多くは、軍の拘置所に送られるか、死体袋か、だ。



「先日の情報分析のデータに目を通した。なかなか示唆に富んだ内容であったな」

分析、と言うのは…基地周辺の反連邦組織の活動報告をまとめて、傾向を示した程度のものだ。

データの内容はその程度だが、俺はティターンズへの皮肉たっぷりに考察しておいた。

『おたくらは役立たずなんじゃありませんか?』

と、暗にケンカを売ったつもりだったのだが。


「は、お目通しいただけましたか」

「ここまですっぱりと我らティターンズの力不足に言及するとは、いい度胸だ。この言いようはますます気に入った。

 どうだ、あたしの部下になるというのは?」

「小官は、一軍人であります。上官の指示がなければ、一存で移籍を行えるものではないと考えております」

「なるほど…少佐の許可があれば、と言うことだな。考えておこう」

まったく、社交辞令でお断りしてるのが分からないのかよ!

「まぁ、それは良いとして。本題だ。表門に不審者を捉えた陸戦隊が到着している。貴様に受け入れを任せたい」

不審者、か。そういや、ちょっと前にそんな連絡が入ってたな。かわいそうに。ここへ着いたんじゃ、間違いなく、地獄、だ。

「了解しました。これより向かいます」

俺が返事をすると大尉殿は満足そうに

「頼んだぞ。食事は出すなよ。拘禁室にぶち込んでおくようにな」

と言って電話を切った。

 あぁ、くそ、胸糞悪い!

 俺は腰に差してあった拳銃の弾倉を覗き込んで状態を確認した。万が一のときには、やはり必要だ。

それから、飲みかけのコーヒーを一気に流し込んで、表門へと向かった。


 いつのまにか、ザーザーと雨が降り出している。

基地の外周に立つ監視塔からのサーチライトが、門のすぐ前に止っているトラックに向けられていた。

 俺がそこまで歩いて行くと、ひとりの兵士が俺に向かって敬礼をしてくる。

「自分は!第10陸戦連隊のパワーズ伍長であります!不審者を連行しました!」

俺も敬礼を返しながら

「マーク・マンハイム中尉だ。ご苦労だった、伍長。楽にしてくれ、堅苦しいのは苦手だ」

と言うと、曹長はすこし気持ちを緩めたのか

「は」

と静かに返事をした。

 「拘禁室へ連れて行く。出してくれ」

「はい。おい、連れて来い!」

俺が言うと、曹長はトラックの方に大手を振ってそう指示した。

数人の小銃を担いだ兵士たちが怒鳴り声をあげてトラックの荷台から人を引っ張り出してくる…おい、なんだよ、不審者って…

 荷台から降りてきたのは、20代くらいの女性が一人と、そして、まだ10代半ばにも満たないような、子ども達だった。

雨に濡れて、びしょびしょの姿で、彼らは、小銃を突きつける兵士たちに囲まれて俺の前にまで連れてこられた。

「全部で、5名です」

伍長が言った。

「見ればわかる。連れてきてくれ」

「はっ!」

俺はそうとだけ言って、基地内へその「不審者」達を連行させた。

 あんな子どもが不審者だって?笑わせるな。保護ってんならまだわかるが、銃まで突きつけて連れてくるような相手か?

バカげてる。仮にこいつらが反連邦組織の人間だったとしても、何ができる?重要度の低い内偵くらいなもんじゃないか。

それを不審者だと?

上は何を考えてやがるんだ…あの大尉殿のご命令だってのか?

 拘禁室についた。女性と子ども達を中に押し込めると、扉をしめて、施錠をする。

それから、ここまで連行してきてくれた兵士たちに

「ご苦労だった。営舎に暖かい物を用意させよう。少し休んでくれ」

と言ってやった。こいつらが、自分の意思であんなのをつかまえてくるはずがない。

きっと、それぞれに思うところがあるはずだ。

とにかく、今は、そいつを忘れさせてやった方がいい。

「は!感謝します!」

伍長が代表して敬礼をし、陸戦隊は背筋を伸ばして営舎の方へ消えて行った。

俺は拘禁室のすぐそばの自分の執務室に戻ると、まず、営舎へ連絡をして暖かい食事を用意するように言った。

それから、大尉殿にも報告をする。

 好い気なもんで

「ご苦労、あとは明日、我々が尋問するので、余計な手を出さぬよう、良く見張っていてくれ」

だと。ふざけんな。



 俺は、そのまま、執務室で時間をつぶす。ほどなくして、ドアをノックする音が聞こえた。

「開いている」

俺が言うと、ガチャっとドアを開けて、女性士官が部屋に入ってきた。

「ハンナ・コイヴィスト少尉入りまーすっと」

 ハンナは、この基地の補給担当士官で、俺の幼馴染だ。

俺もハンナも、北欧出身で、7年前の戦争が終わってから士官学校に入った。

若かった俺は、単純に連邦の正義とか平和とかそう言うのを守りたいと思って入隊。

彼女の方は、戦争で亡くなった、軍人だった父親の影を追って連邦に入るんだ、と、その当時は言っていた。

士官学校を出てからは、俺はオーストラリアでジオンの残党探し、ハンナは北米で戦後処理をやっていたらしい。

 それからお互いにいくつかの現場を転々として、去年、ここで偶然再会した。

基地の連中からはよく冷やかされるのだが、再会してからは可能な限り二人で一緒の時間を過ごすようになっていた。

士官学校時代や、もっと前はそんなこと考えもしなかったんだが、何年も経ってから再び会った彼女は、何と言うか、

まるで、そもそもそうなることが至極当然だったように、俺の心にすっぽりと収まった。

欠けていた何かが、埋まったというべきか。

 育って来た環境や距離を考えれば当然と言えば当然なのかもしれないが、とにかく、再会して1か月もたたないうちに、

俺とハンナは今までなんでそうして来なかったのかわからないくらい自然に、恋人同士になった。

 ナベとマグをいくつか乗せているトレイを見せて

「差し入れお持ちしましたよ、中尉」

といたずらっぽく笑った。

「あぁ、すまん」

俺はそう返事をして立ち上がり、執務室の備品庫からタオルを何枚か引っ張り出した。

それからハンナを連れて、拘禁室へ向かった。

 拘禁室を含めたこのフロアの管理は、俺の仕事。

もちろん、本来は尋問もこの分野なのだが、大尉殿がいらっしゃって以来、そんなことは一度もしたことがなかった。

まぁ、殴ったりなんだりするようなことは絶対にしたくなくて、温い尋問だったろうという自覚はあるんだが。

 拘禁室に入ると、女性と子ども達は、隅に固まって、抱き合うようにして震えていた。天井の電燈をつける。

微かな明かりが、煌々と室内に灯った。

 ハンナも部屋に引き入れて、ドアを閉める。



 俺は、持って来たタオルを彼らに投げてやった。それを受け取った女性が、マジマジとこちらを見つめてくる。

「寒いだろう。とりあえず、それで体を拭け」

俺が言ってやると、女性はおずおずと、タオルで子ども達の体を拭き始めた。

 俺とハンナは床に座って、鍋の中のスープをマグに分ける。ハンナのスープはうまい。

 こういう差し入れは、基本的には罰則の対象。バレたら、ヤバい。

だが、俺とハンナは気になる捕虜や囚人がいると、こうしてせめて食事だけでも、と隠れて持ってきていた。

これが初めてってわけじゃない。

しかし、今回は異例すぎる。今までこんなことをしてきた相手は若い女の捕虜くらいなもんだったが、子どもは初めてだ。

あの大尉殿、こいつらにまでムチで殴るような尋問をするつもりだろうか…いや、まずはあの女性を狙う、か。

女性を殴っているところを子ども達に見せつけて、子ども達から先に口を割らせるつもりだろう。

いや、先に子どもをやるかもしれないな。それを女性に見せつける方が、効果的だ…くそ!

 拷問に耐える様な特別な訓練を受けているやつは大抵、殺されるまでやられる。

あの女性は、どうだろう。

 どういう関係なのか知らんが、あの子ども達の前で、彼女は殺されるかもしれない。

それを見て、子ども達が正常でいられるかどうか…

 「ほら、食べよう」

ハンナが彼らに声をかけた。

 5人は、警戒しているのか、こっちへ近づこうとはしない。それもそうだろう。

俺はハンナが取り分けたマグの一つを無造作に取って口に運んだ。それから

「飲んどけ」

とだけ言った。ハンナが床に座ったまま、ズリズリと5人の方にすり寄っていく。

ハンナ、それはちょっと怖いかも知んないぞ。

 すると、5人の中で一番幼く見える少女が、手を伸ばした。

「待って!」

不意に女性が叫んだ。少女はビクッとして手を引っ込める。

それから声を上げた女性は、ためらいながらマグの一つを手に取ると、ハンナの顔を見ながら、ゆっくりと口を付けた。

彼女は、すこしためらってから、スープを一気に飲み干した。



 マグをトレイに戻し、そのままハンナをじっと見つめている。

 警戒心の強い子だな。それに、子ども達を守ろうと必死だ。一気に飲み干して、体に異変がないか、確認しているんだろう。

 どれくらい時間が経ったか、彼女は子ども達に

「大丈夫…だと思う。いただきましょう」

と言った。子ども達はパッと明るい笑顔を見せて、われ先にとマグを取ると、まるで水を飲み干すみたいにゴクゴクとあおった。

「どう?自慢なんだ、スープ。おいしいでしょ?」

ハンナが子ども達に言う。聞いているのかいないのか、子ども達はスープを一心不乱に飲み干した。

「お代わりいる人はマグ頂戴ね」

ハンナが言うと、子ども達は無言でマグをハンナの前に突き出していた。

保護者らしい女性も、やはり戸惑いながら、マグをハンナに向けていた。

 スープの入っていた鍋は、たちまちカラッポだ。

「おいしかった?」

ハンナがそう言って子ども達に笑いかけた。

そしたら、一番小さかった女の子が目にじんわりと涙をためて、それがポロッと零れ落ちたと思ったら、

顔を伏せてしゃくりあげだした。

 子ども達の中では一番の年上に見える男の子が、彼女を抱き寄せて頭を撫でてやっている。

 そりゃぁ、怖いだろう。大の大人だって、明日から拷問されます、って聞かされたら、こうなるに違いない。

こいつらが明日の予定をしってるかどうかなんてわからないが、最悪のことを想像してしまうのは、状況として当然だ。

 あの大尉殿め。なんとか言いくるめてやれないかな…こんなやつらを尋問にかけるなんて胸糞悪すぎる。

 不意に、ピピっと言う音が拘禁室内に響いた。俺の腕時計のタイマーだ。長居するわけには行かなかった。

「ごめん、時間だ。行くね」

そう言ってハンナが立ち上がった。俺も腰を上げて、尻をパンパンとはたく。

俺たちを見つめる5人を横目に見ながら、俺とハンナは拘禁室を出て執務室に戻った。




 「ねえ、マーク」

執務室に入るなり、ハンナは俺に詰め寄ってきた。言いたいことは、分かる。

「彼ら、なんとかしてあげられないの?」

ハンナの顔は、今にも泣きだしそうだった。

 そんなこと、ずっと考えてるよ、俺だって。

 言葉じゃなくて、ため息が出た。俺は椅子に座り込んで、さらに考えを巡らせる。

 何とか、あの大尉の尋問からは避けさせてやりたい。さっきも思ったが、おそらくあの大尉のことだ。

誰かを半殺しにして、自白の強要を迫るだろう。あの女性がそうなるか、あるいは、子ども達のうちの誰か、か。

いや、やはり、子どもを一人、痛めつけて、女性からの情報を引き出す方が有用か。

 あの中のうち誰かが、ムチで皮膚を裂かれて、血だるまになって…

 胸にムカムカする何かがこみ上がってきた。これは、怒りか。冷静になれ。

なんとかあのくそったれ女大尉を丸め込む方法はないのか…

 どうすりゃいい?別口の重要参考人だって言う手配書でもでっち上げるか?

いや、そんなもん、確認されて終わりだ。だいたい、あいつら、なんで子どもなのにつかまってるんだ?

陸戦隊があんなのを怪しいと思うはずがない。明らかに、あの大尉が連れて来させたんだ。

だとすれば、大尉はあいつらが何者か知っているってことか…

だとすると下手に情報いじっても、バレるどころか、俺まで疑われるな…

 大尉が直接指示をだして連れてきたんだとしたら、俺にできることはなにもない。

あるとすりゃぁ、銃殺覚悟で上申してやめさせることだけだ。正直、そこまでやるほど、思い入れがあるわけじゃぁないが…

 「どうしようもない。あいつらは、大尉の命令で連れて来られたんだ。俺が何を言っても、どうにかなるもんじゃない」

俺が言うと、ハンナの表情が険しくなった。

「だって、まだ子どもだよ?!悪いことしてここへ連行されたなんて思えない!」

「確かにそうだが…上がそう思っていない以上、できることは限られてる」

ハンナは拳を握って壁を殴りつけた。

 悔しいが、今のこの基地の命令系統の下じゃ、俺たちがしてやれるのは、黙って食事をだしてやることくらいだ。

あるとすりゃぁ…

「あとは、殺すしかない」

「えっ…」

俺の言葉に、ハンナは声を上げた。

「こ、殺すって、大尉を?」

「あぁ、お付きの二人もな」

「で、でも、それは…」

「そう、リスクがデカすぎる。まだ、脱走を手引きする方が無難だな」

自分で言い出しておいて、現実的ではなさ過ぎて笑えてしまった。ハンナはそんな俺をしり目に、黙り込んだ。

はぁ、こいつ、変なこと考えてんじゃないだろうな?

たまーに突拍子もないこと始めるとこあるんだよな…そのクセが出ないと良いが…

 ハンナはそれっきり黙ってしまった。そのままイスに座り込んで虚空を見つめている。




 不意に、部屋の電話が鳴った。ハンナも俺もハッとする。人差し指を立ててハンナ静かにするよう伝えてから受話器を上げた。

「こちら情報管理室」

「あぁ、たびたびすまないな」

またかよ、大尉殿。

「これは、大尉殿。どうされました?」

「例の、連行した不審者だが、人数は5人で間違いないのだな?」

先ほど報告を上げたが、人数の再確認なんて珍しいな。

「は。確かに、5名です」

「そうか…」

大尉殿は、なにやら曇った声色でそうつぶやく。

「なにか問題が?」

俺がそう聞いてみると、大尉殿はすこしあわてた様子で

「い、いや、何もない。明日の朝一番で取り調べを行う。

 貴様にはすまないが、今晩は寝ずの番でやつらを見張っておくようにな」

と言い放って来た。外道め、俺の使い方まで荒いときたもんだ。

「は。承りました」

「頼むぞ」

また、一方的に電話が切れた。

 なんだ、今の電話?5人は予想外なのか?

多いのか、少ないのか…少ないのだったら、どこか近くに、仲間が隠れている可能性がある。

多いのであれば、あの中で誰かがイレギュラーなのだろう。しいて言えば、あの女性か…?

 「マーク、私いったん、営舎に戻るね」

ハンナがそう言って椅子から立ち上がった。

「ん、あぁ。悪かったな、夜中に呼び出して」

俺が謝ると、ハンナは笑って

「ううん。平気」

と静かに言った。それから、俺に抱き着いてきて、軽いキスを交わしたハンナは、トレイを持って執務室から出て行った。

 彼女の後姿を見送ってから、俺は、体が重くなるのを感じてデスクに突っ伏した。

考えたって、仕方ない。俺にはどうすることも出来はしないんだ。

願わくば、あの子ども達が、大尉に痛めつけられないように、とそれだけを思っていた。

 そうだ、あいつらの生き死になんか、関係ない。別段、知り合いってわけでもないんだ…

そうは思っても、彼らの末路が分かっているだけに、気が滅入る。

これまでに、あの大尉殿、なんとかハメて左遷にでも出来ないかと計画したこともあったが、

念入りなことで、身辺の情報封鎖は完璧だ。いずれにしても、こんな木端の情報士官が手を出すにはちょっとばかり無理があった。

俺はただ、この理不尽な感情をどうにかこうにか押さえつけることしかできはしないんだ。



 不意に、耳鳴りがした。


―――なんだ…?


いや、これは耳鳴りか?

 ジジッと、天井の電燈が妙な音を立てた。

 次の瞬間。バツン!と言う音とともに、あたりが真っ暗になった。

次いで、ズン!と言う重低音とともに建物全体が軋む。

今のは――!?

「て、停電だ!」

「ば、爆発!?弾薬庫が誘爆する!消火班!」

表で誰かの叫ぶ声が聞こえる。

「侵入者だ!」

別の誰かが叫んだ。

―――侵入者だと?こんな小さな基地へ?エウーゴか?カラバか?もっと他の組織か?

「逃げたぞ!南側!追え!」

「生け捕りにしろ!殺すなよ!」

銃声と叫び声が聞こえる。

 俺は、手元の暗がりを探って、机の上に置いておいた拳銃を手にしてスライドを引いた。

携帯ライトを灯して部屋から飛び出そうとして、はたと思った。

―――目的は、なんだ?

こんな基地へわざわざ侵入してくる目的は…?重要な兵器も、情報があるわけでもない。

いったい、何のために?

 答えは、自然と導かれた。

―――子ども達が狙いか!

 兵士たちがバタバタと表へ駆け出していく足音が聞こえる。

だが、俺は行かなかった。廊下を走り、拘留室へ走った。

 拘留室へ続く廊下には鉄格子がある。俺は、ベルトにかけてあった鍵でそいつを開けようとするが…施錠が、されていない?!

俺は鉄格子を蹴り開けてさらに廊下を進む。

しかし、突き当たりにある拘留室のドアをライトで照らして、気が付いた。

 ドアが半分ほど開いている。

―――やられた!

念のために部屋の中に駆け込むが、人っ子一人、見当たらない。

 部屋からでて、無線で連絡しようとしたとき、何かが聞こえた。

物音だ…ガタガタと言う、かすかな…これは、金属音?

 それは、拘留室のすぐ脇。移送の際に使う裏口へと続く倉庫、またの名を「死体安置所」から聞こえてくる。

俺は無線をしまって、拳銃を握りなおすと、息を殺して扉の前に近づき、思い切りその扉を蹴り飛ばした。

 「動くな!」

ライトで中を照らしながらそう叫ぶ。暗がりの中、ライトの小さな光の円が照らしだしたのは…


ハンナだった。

傍らにはあの子ども達と女性もいる。



「ハンナ、お前何を…」

子どもの一人が俺に向かって突進してくる。

俺は前蹴り一発でその子どもを床に昏倒させた。

 クソっ!ハンナ、お前、まさか…

「マーク!ごめん、私、我慢できなかった…!」

ハンナが叫びながら、なおもドアの前で何かをやっている。

 バタバタと外で足音が聞こえた。

「拘留室を抑えて!誰も寄せ付けないように!」

今の声!大尉殿だ…!

 俺は彼らの方を見やった。クソ、クソっ!あの快楽殺人者め!

 足元に転がった少年に少女が駆け寄って、彼をかばうようにして俺をにらんでいる。

女性も、彼女にすがりつくようにしている少女二人も怯えた瞳で、俺を見据えている。

ちきしょう!俺はそんな趣味はないんだ!

 自分でも、自分の行動が理解できてはいなかった。俺は背後の扉を閉めて施錠をした。

「どけ!」

ハンナと子ども達を脇に退かせて腰に下げていた鍵束で裏口の施錠を開ける。

 薄くドア開いて外を見る。見張りの兵士も、南側へ集中しているようだ。味方ながら、マヌケなもんだ。

「ついてこい!」

俺は先頭に立って走った。基地の側面を北側に回って、車輌庫へ向かう。壁際で、後ろを確認する。

ハンナと女性と、子ども4人、ちゃんとついてきている。

 もう一度前を見やって、車輌庫の方を確認する。昼間のトラックが無造作に置いてあるう。あれを拝借するか…

「ここで待っていろ」

俺は小声で指示すると、トラック目がけて走った。見張りはいない。行ける!

 トラックに乗り込んでエンジンをかける。さすがにこれには気が付くだろう。

時間はない…すぐにトラックをハンナ達の方へ走らせて

「乗れ!」

と怒鳴った。彼らは素直に、俊敏にトラックに飛び乗ってくる。

ちきしょう!どうしてこうなっちまったんだよ!

 俺は、そんなことを考えながらアクセルを踏み込んだ。デカイ音をさせて、基地の周辺に張り巡らされた金網を突き破る。

「逃げたぞ!追え!」

背後で、叫び声と銃声が聞こえた。

もう、後戻りは出来そうにないな…クソ!




 俺は必死で車を走らせた。どうすんだ!?このまま逃げ切れるわけないぞ!

「お、追いかけてくる!」

「撃ってくるぞ!頭下げろ!」

俺はそう怒鳴りながら考える。そんなとき、後ろから声が聞こえた。

「マーク!橋へ向かって!」

「なにかあんのか!?」

ハンナが叫んだので怒鳴り返す。

「これが使えるかも…」

ハンナはそう言って俺の前に何かを突き出してきた。

これは…爆薬?

「どこでそんなもんを?」

「ウェポンボックスの中に一式入ってた!」

―――ついてた!

このトラック、陸戦隊のものらしい。やつらの装備の予備に違いない。

 すぐ近くで銃声が響いた。振り返ると、女性が自動小銃を荷台から後方に向けて乱射している。

「戦闘の車両を狙え!アシを止めさせろ!」

「はい!」

俺の指示に、女性の力強い返事が聞こえた。

俺はトラックを橋へ向かわせる。基地に近くには谷があって、そこには車一台がやっと通れる程度の小さな橋が架かっている。

この爆薬があれば、橋自体を崩落させることは出来なくても、通路に大穴を開けてやれる。

そうなれば、逃げ切れる!

 基地の周りに広がる森を抜けた。橋が見えてくる。

「扱い方、分かるか?!」

「任せて!」

「よし…!投げろ!」

俺は橋の半ばまで来てハンナにそう指示をした。彼女が荷台から爆薬を投げる。

「ギリギリまでひきつけておけ!」

そう言いながらサイドミラーで後方を確認する。友軍の軍用車のライトが見える。

すこしスピードを緩めて、様子を見た。

―――よし、いまだ!

「爆破しろ!」

「了解!中に隠れて!行くよ!」

ズン!!!

重々しい衝撃音とともに、オレンジ色の閃光が走った。後方のライトの群れが、煙の中で一斉に停止する。

やったか?

 そうは思いつつ、成果を確認している余裕なんてない。

俺は焦る気持ちを抑えながら、アクセルをさらに踏み込んだ。


 山道を抜けて、近くの都市へと抜ける大通りにぶつかる。軍用車は目立つが…仕方ない。

とにかく今は、遠くまで逃げて時間を稼ぐしかない。

 「みんな、大丈夫?」

ハンナが子ども達にそう声をかけている。

「うん」
「平気…」
「俺も大丈夫」

子ども達が口々にそう返事をしたのを聞いて、安心したのか、

「良かった」

と胸をなでおろすような声が聞こえた。それから、ハンナは、おもむろに助手席に移ってきた。

 「なんていうか…ごめん」

まったくだ。突拍子もないことをするのはいつものことだが、これは度を越えているだろう。

上官がわざわざ捕まえてきた捕虜を、勝手に逃がしたわけだからな。

まぁ、禁固刑は避けられない。

銃殺も…あの大尉殿ことだ、ないとは言えないな。いや、銃殺してくれるなら、まだ楽な方、か。

 俺は、この先のことに絶望しながら

「まぁ、仕方ない」

とだけ言ってやった。

 やっちまったことは、もうどうしようもない。絶望したところで、元に戻れる理屈はない。

こうなったら、逃げて逃げて、逃げ切るしかないだろう。

やるべきなのは、ハンナを責めることじゃなく、これからのことを考えることだ。

 「あの、ありがとうございます…」

後ろから女性のそう言う声が聞こえた。

「あはは…まぁ、気にしないで。もうなんか、勢いで、ね。私は、ハンナ・コイヴィスト。

 こっちの不機嫌そうなのが、マーク・マンハイム。彼は、いつもこんな感じだから、気にしないでね」

ハンナが笑って言う。大きなお世話だ。

「私は…レオニーダ・パラッシュです。レオナと、呼んでください」

彼女は名乗った。それから

「…巻き込んでしまって、申し訳ないです」

と謝ってきた。

まったくだ。我ながら、考えてしまったら泣けてくる。いくらなんだって、一緒に逃げてくることはなかったろうに…

いや、一緒に逃げてなければ、どのみち逃がしてもつかまっていたか。

 あぁ、クソ。どっちにしたって、俺の安定した生活は終わった。逃亡生活なんて、気が滅入りそうだよ。

それもこれも、ハンナ、お前のせいだからな!


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                   忠__| |`レ==、 i: |{!|.ノ   ̄ 「`Y> ゚´ヨ :l    l|
                 」二人 ヾト _,i=ヾ_ゞ、V   ri |  Y<゚´_/L_!   |
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                i^ト    / ヾ 「 「 |___|l :| :|二土i/|>、. E>=|_,リ   l|
                | | |  「 `ヽ/j |》―γ |o|  〃⌒ヾ>, ゙Y  ̄ | l    |
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     〈V/ /           ト='´ ̄ i!      ∧__ノ  ヽ=i:V_/
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   ,/ /                   ,!   うY         ヾ    ∧ Ⅵ
  〈 /              ,!    |           V   ∧ Ⅵ
                 /`ヽ    i!           }} , --.∧ Ⅵ
                 ´>、  ー ' ヘ          レ’,。==-。_≧Ⅵ
                〃_ >、 ___リ          /ムフ´ ゙̄ヾ[¨:ヾ|
              ∠_    ∧ Y          ¨,イ ゝ――' 、ト、
             /      ̄ ̄  |i D          ト:レ'  ̄ ̄ ̄ :i



 「おたくらは、何なんだ?姉妹か?」

そうは思いながらも口には出さず、レオナに聞いた。取りあえず事情を聴いておかなければならない。

どこへ逃げるのか、どこへ隠れるのか、今はそれを考えるべきだ。

それにはまず、こいつらの身元とか目的を知っておく必要があった。

 「私たちは…ムラサメ研究所から、脱走してきました」

「ムラサメ研究所…?確か、強化人間だかって言う研究をしているっていう?」

あまり公にはなっていない情報だが、俺は知っていた。強化人間。

モビルスーツの操縦に特化させた能力を人工的に引き出す措置によって行われるのだという。

精神手術や、薬物投与、洗脳までやっているなんて噂もあったが、

実際に中を見たことがあるわけではないからそのあたりは正直わからない。

だが、うちの基地に捕えた捕虜の何人かは、そのムラサメ研究所へ送られたことがあって、名前くらいは誰でも知っていた。

「はい。私は…そもそも、オーガスタ研究所からムラサメ研究所へ移管されて来た被験者です。そこで、この子たちと会いました。

 しばらく、ムラサメ研究所で生活をしていましたが、先のホンコンシティでのカラバと戦闘の影響で

 ムラサメ研究所は立場がくるしくなったとのことで、この子たちと一緒に、オーガスタへ送り返される途中でした。

 移送中に、護衛と輸送部隊がカラバの部隊と遭遇して銃撃戦になって、その間に、逃げ出したのですが…」

「ってことは、キミも強化人間ってことなのか?」

「いいえ、私は、まだ処置は受けていませんでした。もっと別のことに使われていて…」

レオナはそう言って口ごもる。言いにくそうだ。まぁ、そこは重要ではないし、無理に教えてもらわなくても良いだろう。

「言いたくなければ、聞かない」

「その…ごめんさなさい」

 大通りは、深夜と言うこともあって車通りは少ない。スピードをなるべく出して、とにかく街へ急ぐ。

街へ出たら、車を乗り換えよう。それから、どこへ行く?この土地に居たら、見つかるのは時間の問題だ…

だとすれば、ナゴヤから飛行機か…いや、こいつらの身元が不確かだ。

なら、検閲のゆるい船舶の方が無難か。だとしたら、コウベあたりか。ここからはかなりあるな…

こりゃぁ、夜通し走ることになりそうだ。

 俺はともかくハンドルを握りなおした。とりあえず、通り道のナゴヤの街へ急ごう。

そこで車を乗り換えて、さらに西を目指す。夜が明けるころには、街にはつけるだろう。



―――それまでに、追手に絡まれなければ、だが。



本日はここまで!
ぜーんぜん続き進んでませんが…

ファースト編同様、気長にお付き合い、お願いいたしますm(_ _)m

>>15
ヅダ?

待ってました

>>19
お待たせしました!
見切り発車気味です!wwww

1にツイッター入れるの忘れてました。
更新情報はこちらから随時↓

@Catapira_SS

き・き・きたー!!!?!?!!?!?!1!!1!!11!1!
とっても待ってたよ!よ!って読んでたら突然のヅダさんで不覚にも吹いた

>>21
お待たせしました~ヅダさん、すごいタイミングでしたねww
しかし、おまいもちょっと落ち着けw

くっそww



前作から何年後くらい?

>>23
ヅダさんの撃墜率が半端ないw

>>24
あー、ガンダム知らん方にはちょっと曖昧でしたね、すません。
アヤレナが最初にあった時から7年後、前スレ最後のペンション日記から
およそ4年後です。
年号的にはUC0087年11月です。

>>24
すません、アヤレナが最初にあった時からだと8年経ってましたw



捕虜を逃がしてさあ、どうすんべ
一貫してこのスタンスなのは良いね。めっちゃワクワクする

あっちのスレを閉めるってことはもうアヤレナさんたちはお休みって事ですかね
行き着くところまで行ったしね
当然どこかで会えると思うけど(チラッ

>>27
レス感謝!
お約束の流れですね~シリーズものですのでww
アヤレナさんも同じ世界に住んでいますから…どこかですれ違ったりするかもしれないです!ww


というわけでこんばんは、キャタピラ改め、アウドムラです。
続き投下していきますー!



 「ただいまー」

ハンナが明るい声でそう言いながら帰ってきた。

「おかえり。早かったな」

「終わった?」

ワゴンタイプのエレカの周りを見ながら、そう聞いてくる。

「あぁ、あとはリアに貼るだけ」

俺はそう返事をして作業を進めた。

 明け方、俺たちはナゴヤに到着した。街の隅で車を止めて、新しい服を用意して着替えた。

俺もハンナも軍服だったし、レオナや子ども達は汚れたままだった。

 服を替えてすぐに、俺たちは街へ入った。

中古車販売の店でこのエレカを買い込んで、それからショッピングモールに出張って、

俺は購入したスモークのシートを後部座席に貼る作業を。ハンナは食事の買い出しに行っていた。

 作業はまだ途中だが、なるべく早くに車を出したい。これだけでかい街だ。

すぐに見つかることはないだろうが、ティターンズを甘く見ると痛い目に合う。十分に警戒をしておくべきだ。

 「ハンナ。運転してくれ。俺はこっちを貼っちまうから」

俺はそう言ってハンナに車のキーを渡した。

「ん、了解」

彼女はそう返事をして車に乗り込むと、運転席から後ろへファーストフードの大きな紙袋を手渡した。

 子ども達が目を輝かせて袋をまさぐる。

 車が走り出した。俺はスモークシートを広げて、リアウィンドウに伸ばしながら張り付けて行く。

こういう細かい作業は好きじゃないが、別にうまく貼れなくたって、中が見えなきゃぁそれでいい。

カッターナイフで余分な部分を切り取ろうと思ったとき、俺の目の前にぬっと手が出てきた。

「はい、マークさん」

子どもの中でも一番年下の女の子、ニケがフライドポテトを俺に突きつけてきていたのだった。

 俺がそれを咥え込むと、ニケはニッコリと笑った。

 他の子は、俺が蹴っ飛ばしちまった一番年長の男の子が、サビーノ。

それからニケより少し年上に見える、無口でおとなしい感じの双子の女の子達がサラとエヴァ。

 説明した際の口ぶりから、おそらくは偽名だろう。子ども達自身もその名前に馴染んでいる感じではなかった。

うがった見方をすれば、年齢順に並べて頭文字がS、S、E、N。

情報分析を専門とする俺にとっては、この文字列は見ないこともない。暗号、と言うより、隠語だろうか。

Z、O、Tw、Th、Fr、Fv、Sx、Sv、E、N、Tn。

要するに、シックス、セブン、エイト、ナイン。たった四人では憶測に過ぎないが、仮に偽名だと言うことを想定するならば、

その元となっているのは、子どもそれぞれに何らかの意味合いで与えられた番号に起因するものであるのかもしれない。



 そう言えば、聞いたことがある。ムラサメ研究所の、最近の研究対象は…

―――強化人間…

 もしかしたら、彼らは、その実験体にされるところだったのではないのか?

 強化人間の実験が果たしてどういう物なのかは検討が付かなかったが、

少なくとも、人間に番号を振るような連中が、まともなことをするとは思えなかった。

 スモークシートを貼り終えて、俺は助手席に戻った。昨日から眠っていない。

正直、体は少し疲れてきていた。

しかし、この緊張感を緩めるわけには行かない。せめて、船に乗るまでは、一瞬の油断もできない。

 ふと、フロントガラスの向こうの景色に目が留まった。見ると、数人の軍人が群がって何かをしている。

あれは…乗ってきた軍の車を捨てた路地だ。

「車、見つかったみたいね」

ハンナの淡々とした声が聞こえる。

「急いで離れよう」

俺もなるべく落ち着いてそう返事をしてサングラスをかけた。

 大尉のことだ。俺たちの指名手配も、漏れなく行っているだろう。

レオナやニケたちを守るためではなく、俺たち自身を守るために、早くこの街から逃げるべきだった。

 ハンナの運転で、車がハイウェイに入った。3時間もすればコウベに着く。

そこから、なるべく遠方へいける船に乗ってこの土地から離れる計画だ。

 「そう言えば」

ハンドルを握っていたハンナが口を開いた。

「あの停電のときの侵入者、って、なんだったんだろう?」

え?

 その言葉に、一瞬戸惑った。あの停電は、ハンナが起こしたものじゃなかったのか?

侵入者ってのも、なにか細工をして、そう見せかけたとばかり思っていたが、違ったのか?

「あれって、お前がやったんじゃなかったのか?」

そう聞くと、ハンナは首を横に振った。

「ううん。レオナたちを助けたいって思っていたのは確か。でも、方法は全然浮かんでなんてなかった。

 でも、どうにかしたいって思っていたら、爆発音と一緒になって電気が消えたから、チャンスだって思って、拘禁室に走ったの」

「どうやってあそこの鍵を開けたんだよ?」

「合い鍵の場所くらい、私が知らないと思った?」

ハンナは笑って肩をすくめた。こいつ、俺の部屋から黙って持っていきやがったな?

「ホントに。毎度毎度、突拍子もないことされる俺の身にもなれってんだよ」

俺がそう言ってやるとハンナは声を上げて笑った。



 「マークさんとハンナさんは仲良しなんだね!」

突然、俺とハンナの間にニケがそう言いながら顔を出した。

「おい、後ろ下がってろ。顔出すんじゃない」

「あはは。そうそう、仲良しなんだよ、ニケちゃん」

俺の言葉を聞いて後ろに上がりかけたニケにハンナはそう言った。

ニケはせっかく下がりかけたのに、またクイッと身を乗り出してきて

「わかった!あれでしょ、なんだっけ、ラブラブってやつでしょ?!」

と、キラキラした目でそう言ってきた。

「あーそれはどうかなぁ?この人、なーんか味気ないじゃん?ほかに良い男がいたら、私そっちの方が良いや」

ハンナがニヤニヤ笑いながらそんなことを言ってくる。まぁ、これも慣れたもんだ。動揺してると付け込まれる。

気にしない、気にしない…

「えー!そうなんだ?じゃぁじゃぁ、私とマークさん、ラブラブになってもいいかな?!」

悪い、ニケ。子どもをいたぶる趣味はないけど、だからと言ってそっちの趣味もないぞ。

「あはは。ダメだよーニケちゃん。ニケちゃんにはきっともっと良い人がいるから、こんなヘタレ男はやめておきな」

い、言いたい放題言ってくれるな…クソっ。でも、でも我慢だ。

ここで話に乗ったら、ハンナの思うつぼだ。

「そっかぁ、マークはダメな男の人なんだね!」

なっ…おい、ハンナ!ニケが素直すぎて全部鵜呑みにしてるぞ!そろそろやめろ!

「おいニケ、お前、後ろに居ろ。誰かに見られたら危険なんだ」

とにかくどんな理由でも良い、この会話を終わらせよう。でないと、俺のストレス値が跳ねあがっちまう。

 俺はそう言ってニケを後ろに押し戻そうとした。するとすかさずハンナが

「わ!ニケちゃん、逃げて!マークに触られると、ダメばい菌が伝染って、ダメな大人になっちゃうよ!」

と叫んだ。

「きゃぁぁ!逃げますっ!」

ニケは楽しそうに笑いながら、後部座席に飛び退いた。

 ダ…ダメばい菌?お、俺は、病原体か何かなのか、おい、ハンナ!?

 俺が睨み付けたハンナは、ニタニタと楽しそうな笑みを浮かべていた。はぁ…まったく、緊張した自分が馬鹿らしい。

なんだってお前、そんなに気を抜いてられんだよ?俺には理解できねえよ。

 後部座席ではしゃぎだした子ども達とハンナが俺をネタに話しを弾ませている。どうあってもあと2時間以上はかかるよな。

まったく。ちっとはゆっくり体も心も休めたいよ。



 助手席で、ほんの少しの間意識を失っている間に、車はコウベのすぐそばにまで近づいていた。

ハンナに起こされて目を覚ました俺はつぶさにあたりの状況を確認する。

時折、軍用のトラックが走っているのが目に留まる。

俺は緊張感で胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えていた。

 コウベについて、俺の緊張は解けるどころか、いっそう高まっていた。

街の至る所に軍の車両がとまっていて、なにやら物々しい雰囲気だ。港でも軍による検閲が行われている。

さすがに手を回してきたか。

「これはちょっとまずいよねぇ」

ハンナがハンドルに寄りかかりながら、港の様子を遠巻きに見つめてつぶやいている。

 ちょっとどころの騒ぎじゃない。あの警戒の中、バレずに船に乗り込むなんて、そう簡単じゃない。

なら、コウベは外して、さらに西へ向かうか?フクオカか…ヒロシマか…いや、無理だ。

どっちにしたって、大きな差はないだろう。

大尉がこの地域の全基地に警戒を呼び掛ければどのルートだって封鎖されるか、あるいは検閲がはいっちまう。

こればっかりは逃げても同じことだ。

だとするなら、ここを突破するか、あるいは…人の来ないような山奥に潜伏するか、だ。

 だが…潜伏したとして、いつまでだ?ティターンズの権力に陰りは出てきているのは確かだ。

しかし、だからと言ってその強権がなくなったわけではない。

潜伏して息を潜めても、この地域にいる限りは、いずれ発見されて連行されてしまう危険性が高い。

どうにかして脱出する必要がある…そのためには、情報が必要だ。


「とりあえず、どこかに宿を取ろう。情報を集めて、隙を突くほかにない」

俺はそう言って、ハンナに車をホテルへ向かわせた。


 街のはずれの寂れたホテルの部屋を取った。部屋は寝室が二つとバスルームのある広めの部屋だった。

 ハンナ達を部屋に入れてから、廊下で避難路を確認する。ここまで踏み込まれたら逃げようがないな。

幸い、ここは二階だ。窓を破ってなら外に出られる。やりたくはないが、そうやって逃げるのが確実だろう。

 「あー!レオナ姉ちゃん!バスルームある!」

「わ、ほんとだ!広い!」

ニケがバスルームを見つけて叫ぶと、サビーノとサラ、エヴァが一緒になって覗き込んだ。

「ふふ。順番に入ろうか」

レオナも、すこし気持ちが落ち着いて来たのか穏やかな笑顔でそう答えていた。

 確かに昨日、基地に運ばれてきてから泥だらけだったこいつらはタオルで拭いてやったにしても、さすがにちょっと汚く見えた。

シャワーにでも入ってきれいになってくれれば、それだけ疑われずに済むだろう。

「そうだね。入っちゃえ」

ハンナもそう言って焚き付けている。

「え、じゃぁ、ミ…じゃない、サラと、エヴァ!一緒に入ろうよ!」

「三人は、狭いよ」

「私は…エヴァと入る」

「えー!?サ…サビーノとあたしで入るの?ヤダー!」

「お、俺だったイヤだよ!」

「じゃぁ、ニケは私と入る?」

「うん!」

レオナと子ども達が楽しそうにしている。さすがにこの姿を見ていると、多少は和むものがある。

 ハンナは車の中から和みっぱなしで、すこし心配なんだが。

 子ども達とレオナは変わり順番に入浴し、全員出て来てから食事を摂ったころには、疲れが出たのだろう。

ひとり、またひとりとベッドに突っ伏して寝息を立て始めていた。



 俺は、と言えば、食事をしてシャワーを浴びてから、部屋に備えつけられていたコンピュータで情報を漁っていた。

 コトッと、ハンナがコーヒーの入ったカップを持ってきてくれる。

「大丈夫?疲れてるのに」

彼女はそう言いながらギュッと俺の両肩を手で締め付けてくる。

「あぁ…まぁ、仕方ない。ここを抜けるまでは、休んでる暇はない」

そう言いつつ、俺はハンナのマッサージに少しだけ身をゆだねる。

しばらく無言だったが、ややあってハンナが口を開いた。

「ごめんね。こんなことになって」

 まったくだ、と、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、

今日一日、子ども達のことを見ていたら、そんな気も失せてしまっていた。

あいつらが、あの鬼畜大尉の餌食にならなくてよかった。

それだけは、確かなこととして受け止められていたからだ。


「あいつらが無事で良かったから、今回は責めないでおいてやるよ。だけど、せめて事前に相談してくれよ」

俺がそう言ってやるとハンナは笑って

「うん、ごめんね」

と返事をした。

 ふう、とため息が出た。こういう穏やかな時間をハンナと過ごすと、良く、昔のことを思い出す。

ケンカもしょっちゅうしたが、なんだかんだ、最後にはこうやって二人でのんびり過ごすことが多かった。

つらい時もきつい時も、楽しい時もうれしい時も、ハンナと一緒に居た。

今考えてみれば、士官学校に入る前にこういう関係になっていなかったのが不思議なくらいだ。

そう思えば、もしあのとき、ハンナが一人ででもレオナたちを逃がす、と言って来ていたら、俺はどうしただろうか。

まぁ、少なくとも放り出すようなことはしなかっただろう。

止められないのなら…一人で行かせるわけにはいかなかったよな。はぁ、どっちにしたって、今と同じことをしたんだろう。

 まったく。とんでもない幼馴染みを持ってしまったもんだ。



 パタンとドアの閉まる音がして、レオナがバスルームから出てきた。

食事の前にもニケと入っていたが、ゆっくり入りたかったらしく、1時間ほど前にもう一度入りなおしていた。

 「上がりました。長くってすみません」

レオナはすこし申し訳なさそうに言う。

「いえいえー。次、私入って来るね」

ハンナはそう言って、俺の肩をポンっとたたくと、着替えを持ってバスルームに入っていった。

 レオナは肩までの長めの亜麻色のボブヘアをタオルで拭きながら、俺をじっと見つめている。

なんだよ、そんなに見ても、なんにも出ないぞ?

そう思いながら、俺はレオナを見つめ返した。しばらく目があったまま見つめ合っていたが、突然にレオナが笑顔になった。


 一瞬、その顔に目を奪われ、心臓が締め付けられた。次いで、とっさに目をそらしてしまった。

彼女の笑顔は、それくらい、まぶしくて、明るかった。

 そんな俺を見て、レオナはクスクスと笑い声をあげた。

「良かった。ずっと難しそうな顔をしているから、迷惑がられているのかと思いました」

彼女は、かすかにハスキー掛かった張りのあるすこし低めの声色でそう言い、また笑った。

 それから少しレオナと話をした。レオナは歳が22。俺やハンナと同い年だった。

それが分かったらレオナは

「なんだ、そうだったの」

と少し敬語を抜いて来た。そっちの方が助かる。片っ苦しいのは、苦手だ。

生まれやこれまでのことを聞いたが、それは答えたくはない様子だった。

今更尋問みたいなマネはしたくなかったんで、敢えてつっこんで聞くことはしなかった。

少なくとも、辛いことを体験してきたんだろうってことは想像が出来たから、それで十分だった。

 俺がそうするつもりがないのを感じたのか、

「ごめん」

とレオナはつぶやくように謝った。別に気にすることはない。

今は、誰に追われているのかが分かれば上等だ。

 これまでの話を総合すれば、レオナたちはムラサメ研究所からオーガスタ研究所へ向かう途中で脱走した。

あいつらは、軍を動かせるほかに、ティターンズに顔が利いたり、私兵ともとれる独自の部隊を持っている。

脱走の情報が回ってきた連邦軍の他に、研究所から直接連絡が行っているかもしれないティターンズや

その私兵どもも追跡に加わってくるだろう。

 一筋縄でいくような状況でもないが、おそらく、この連中の連携はないに等しいだろう。

連邦はティターンズの言うことを聞くほかないが、それはティターンズの連中がそばにいれば、と言うだけだ。

自分から進んでティターンズと密な連携をとるやつはそういない。

研究所の私兵どもは、もっと閉鎖的な連中で、連邦ともティターンズとも情報連携はしない。

後ろめたいことでもやっているのか、自分たちのことを詮索されるのを嫌うからだ。

そう言う意味で、追跡隊にも足並みの乱れがある。狙うなら、そこを突くか…




 そんなことを考えたら急に欠伸が漏れた。

「ふふ。疲れてるよね」

レオナがそう言って笑った。さすがに徹夜で運転して、この時間まで起きていると眠くもなる。

「まぁな。今日ばっかりは寝かせてもらうよ」

俺がそう言うと、レオナは急にキュッと真面目な表情をして

「助けてくれて、ありがとう」

と改めて礼を言ってきた。それからまた、あのまぶしい笑顔でニッコリと笑った。

 やはり、見ていられなくて、俺は、そっぽを向きながら

「気にすんな」

とだけ返事をした。

 そんなことをしていたら、急にニケがムクっと起き上がった。

「あれ、どうしたの?目が覚めた?」

レオナが優しくニケに語りかけるが、ニケは上の空で

「行かなきゃ…」

とつぶやいた。

「え?」

レオナが聞き返すとまた

「…行かなきゃ…」

と口にする。

 これは…寝ぼけてるんじゃないのか?

 その様子は、明らかに普通の何かとは異なっていた。なんだ、これは?

強化人間の実験の副作用か何かか?

「どこへ、行くの?」

レオナが尋ねると、ニケは部屋のテーブルの上にあったボールペンを握って、メモ用紙に何かを描き始めた。

それはいびつな四角形で、右上の隅がまるで虫にかじられたように丸くへこんでいる。

ニケはその丸くへこんだ箇所に×印を付けた。

「ここへ行かなきゃ、行けないの?」

レオナがさらに尋ねると、ニケはつぶやいた。

「アムロ・レイに会わなきゃ…そう、ハク……ちゃん…が…」

ニケはそこまで言うとフラっとバランスを崩した。

俺があわてて抱き留めたニケは、さっきまでのように、穏やかな表情をしながら、眠りこけていた。


 俺は呆然としながらもニケをベッドに戻した。

「なんだよ、今の…?」

あっけにとられてレオナの顔を見やると、彼女は慌てた様子もなく、ニケの書いた絵を見つめている。

今のに、驚かないのか…割とあることなのか?

「それ、なに描いたんだ?」

そう思いながらも、そっちが気になったので聞いてみる。

「ごめん、良くわからない…」

レオナはそう言って俺にメモ用紙を渡してくる。ニケの書いた向きからすると、四角のかけた部分が右上に来るはずだ。

これは何の絵だ?

そう言えば、行かなきゃ、と、そう言ってたなニケ。

だとすると、これは場所か?あるいは、地図か…。

 ここに行って、「アムロ・レイ」に会う…アムロ・レイ?そう言えば、どこかで聞いたことのある名前だ。

有名人だったか?ずいぶん昔に聞いた印象なんだが…

 パタンと音を立てて、ハンナがバスルームから出てきた。


「良いお湯でした。あれ、マーク、どうしたの?」

「なぁ、アムロ・レイって、どっかで聞いたことないか?」

そう言ってくれるハンナに構わずに俺はそう投げかけた。すると、ハンナはさして考えるでもなく

「あぁ、あの、ほら。ニュータイプだったっていう、連邦軍のエースでしょ?戦争の直後にちょっと話題になったじゃない」

 ハッとした。そうだ、終戦直後、一時期にマスコミや軍の広報紙なんかにたびたび顔を出してたあのパイロットだ。

でも、あれはもう7年も前の話だ。その後、アムロ・レイの話はとんと聞くことはない。

それをなんで、こんな子ども達が知っているんだ?

「ハンナさん。それじゃぁ、こっちの絵は分かる?」

レオナは、俺の持っていたメモ用紙をハンナに見せる。ハンナは髪をタオルで拭きながら、ポヤポヤっとした様子で

「んー、なんだろ?オーストラリア?」

と言って首をかしげた。

 そうか、オーストラリアだ!この欠けた右上の部分は、コロニーが落ちてできたシドニー湾!

ここに、あのアムロ・レイがいるっていうのか?

「なに、どうしたの?」

ハンナが不思議そうな顔をして聞いてくるので、俺は今あったニケの夢遊病のような言動の一部始終を説明した。

するとハンナは

「ふうん…」

と鼻を鳴らして、ベッドで熟睡しているニケを見やった。それから

「ニュータイプ、ってやつなのかな?ムラサメ研究所に居たんでしょ?」

とレオナに聞く。

「正直にそうだ、と言ったら、私たちは軽蔑される?」

レオナは、まるで心配しているのが手に取るようにわかるほど、心配そうな顔つきてそう聞き返した。

「別に。うらやましいな、くらいに思うけどね」

ハンナはそう言って俺を見る。俺も、別段、ニュータイプとかスペースノイドがどうとかは気にしたことはない。

戦争前は、人口半分が宇宙で暮らしていたんだ。2人に1人がスペースノイドで当然だろう。

それにそもそもハンナの一家はスペースノイドだったはずだ。ハンナが3歳の頃に、うちの隣へ越してきたのは覚えている。

「俺も特に気にはしない。言いにくい物なのか?自分がスペースノイドだとか、ニュータイプだとかってのは」

俺が聞くと、レオナの顔が陰った。

「ええ。地球では、私たちは迫害の対象よ。特に、ティターンズが結成されてからはひどい。

 研究所に居なければ、私も今頃、どこかで殺されているか、良くても鉄格子の中。研究所で無事なのも珍しいケースだけど…」

「じゃぁ、レオナも、この子たちもみんな、そうなのね?」

「ええ、そうよ」

ハンナの質問に、レオナは静かに答えた。

「じゃぁ、ニケちゃんの行かなきゃ、っていう言葉の理由も分かるの?」

「それは…正直、分からない。でも、たぶん…感じてる、私も」

レオナは、少し怯えた表情で俺とハンナの顔を交互に見た。言っていることの意味合いは、率直に言って理解できない。

だが、このレオナの表情は、今の話をして、自分がおかしいと思われることを恐れているのだろう。

彼女がこれまで、どんな経験をしてきたのかはわからないが、おそらく、この表情の原因はそこにあるはずだ。

そして、ティターンズの進めるジオンの残党狩りを名目にしたスペースノイド狩りは、この感覚を恐れているためかもしれない。

俺には理解も共感もできないが、少なくともレオナが恐怖の対象であるとは思わなかった。


「そんな顔しなくても大丈夫」

ハンナがそう言って、レオナが座っていた一人掛けのソファーに自分の体をねじ込んだ。

それからハンナはレオナの肩を抱くと

「なんとなく感じるっての、分からないでもないしね」

と器用に片手で長い髪にタオルを巻きながら言っている。

「本当に?」

レオナがいぶかしげに聞く。

「ホントに」

ハンナはにんまり笑って答えた。しかし、次の瞬間、ふっとハンナの顔から表情が消えた。

レオナの方を見つめて、身動きひとつしない。

 「ハンナ?」

声をかけてみるが、反応がない。

なんだ?いったい、今度はなんだってんだ?

 戸惑い始めてしまい、レオナにも目を向けると、レオナも同じように、身動き一つせずに、ハンナを見つめている。

 どう形容していいかわからないが、二人はまるで、その場に別の空間を作り出しているような、奇妙な雰囲気すら漂わせている。
見ているこっちが、時間の感覚や、ここがホテルの一室だということを取りこぼしそうになるような、奇妙な感覚だ。

 「な、なに、今の」

突然、プッツリと糸が切れたようにその雰囲気が途切れて、ハンナが声を上げた。レオナもふうと、大きくため息をついている。

「今のは、感応、っていうの。ある種の感覚的知覚を一体になって感じるようなもの」

「なんだろう…ふわふわ、キラキラしてた…」

「ふふ、そうね。そんなイメージしたから。大丈夫?気分、悪くない?」

「ううん。逆になんかリラックスした気分」

「そう、良かった。もっと強力な力を持っていたり、時間を掛けて感応を深めていくと、意思の疎通もできる、

 なんて聞いたことがある。私は、少し素質があるだけで、いきなりそんなことはできないんだけどね」

「で、でも、じゃぁ、私にも、その、ニュータイプの才能がある、ってこと?」

「ええ。今は完全に感応状態だった。今はまだ微かなものだけど、素質はゼロではないと思う」


 なんだよ、今の。いったい、あの黙ってた間に、二人に何が起こったんだ?

まったくわからないが、とにかく、今の一瞬で、お互いの認識がガラッと変わったのは会話を見ていればわかる。

どこか他人行儀だったハンナが、まるで、ずいぶんと仲の良い親友と話すみたいにレオナと会話している。

ニュータイプってのは、感じる力だという話を聞いたことがあるが、

要するに今、こいつらは、お互いのイメージを感じ合った、ってことなのか?

 まったく、理解に苦しむが…今は、そこじゃない。なぜオーストラリアか、だ。



「おい」

「そうなんだ!すごい!私もニュータイプ!」

「ふふ。ティターンズや研究所の人間に追いかけ回されるから、こんな力持っていても良いことないかもしれないけど」

「おい」

「そんなことないって!これすごいね…練習すれば、もっといろいろ出来る様になるのかな?」

「聞け!!」

俺は思わず少し大きい声を出してしまった。ハンナとレオナがハッとした表情で俺をみやる。

 「あ、ごめん、マーク。なに?」

こいつは…。

「で、オーストラリアへ行く理由はなんなんだよ」

「あ、えーっとそれは…」

ハンナがレオナを見やった。

「恐らく、誰かが、ニケにそのイメージを伝えたんだと思う」

レオナがそう答えてくれる。

「それが敵でないって保証は?」

「敵意があれば、感じ取れるものなの。だいたいの場合は」

レオナは説明しにくそうに言う。まぁ、説明されても、分かるとは思えない。なのでハンナに

「お前の判断に任せるよ。信用できそうなのか?」

と投げてみる。するとハンナは

「うん。ニュータイプの感じるってはなんとなくわかった。大丈夫だと思うよ」

とすっかり仲が良くなったレオナに笑いかけてから言った。

 そうかい、それは何よりだ。

「それなら、ニュータイプに目覚めたハンナ少尉に、この街から船で逃げ出す方法を聞いてみたいんだがな?」

オーストラリアに行くと言ったところで、その目途は経っていない。集めた情報を生かせるアイデアが必要だ。

 するとハンナはアッと思い出したように口に手を当てて

「そうそう。お風呂で良い案が浮かんだんだ」

と、いつも俺をからかうのと同じ、いたずらっぽい笑顔を浮かべてそう言った。


以上です!
お読みいただき感謝感謝!

ZZ
ハンナのいたずらっぽい顔が想像できて楽しいな

>>42
レス感謝!
徐々にキャラを固めていきたいところ←書く前に固めとけ

ないす

>>44
あざっす!


投下します!


 高い汽笛を上げて、船が中継地のフィリピンの港街から離れた。

 ザンザンと波を切って、湾外へと向かっている。

コウベを出るときにはどうなることかと思っていたが、想像以上にスムーズに事が運んでしまい、帰って疑いたくなるほどだ。

あの晩、ハンナが思いついたアイデアはたった一つ。

俺たちが逃げ出してきた基地に、複数の長距離電話サービスを経由させて、連絡を取った。

内容は、「このコウベの市街地の中心に爆薬を仕掛けた、追手を引き揚げさせない場合は、今日の正午にこれを爆破させる」だ。

 素直に、うまい手だと思った。

この連絡を貰えば、普通、このコウベに大量の連邦軍が集まってきて、爆発物の収集と解除、それから俺たちの捜索に躍起になるだろう。

そう、普通なら。

 だが、相手はあの鬼畜大尉だ。一筋縄ではいかないことくらい、分かっている。

多少でも疑り深い奴ならこう考えるはずだ。

「普通、わざわざ場所まで指定して電話などかけてくるか」と。

 そして電話をかけ、場所を知らせてまでこちらが誘導して作りたい状況はなにか、と想像するはずだ。

この場合、「なるべく多くの連邦軍に、この街へ集まってもらいたい」と言う意図が見えるだろう。

それに気付けば、この街へ戦力を集めさせ、

それによって警備が薄くなった別の場所から逃走するという、こちらの作戦が浮かび上がってくる。

となれば、電話を受けた奴らは、おそらく、最低限の人数で一応、爆発物の捜索を行い、

主戦力を、この街を抜けたどこか、場所で言えば、おそらくヒロシマあたりに重点的に配備するはずだ。

案の定、朝のうちにトラックが何台も、西へ向かうハイウェイに乗って行き、街の警備体制は薄くなった。

船に乗る際の検閲もなくなり、俺たちは車ごと乗りこめるオーストラリア行きのフェリーに、まんまと乗船することに成功した。




 船内では、車の中で過ごすことが禁じられていたので、わざわざ個室を取った。

大人3人に、子ども4人で泊まるために8人用の大部屋だ。出費が手痛かったが、この際、そんなことも言っていられない。

一般の雑魚寝スペースで寝泊まりするのはリスクが高すぎるし、致し方ないだろう。

 コウベを出てからは、俺たちも子ども達も部屋の中で一日の大半をすごしている。

朝夕と、船内のレストランにテイクアウトの夕食を買い出しに行くのが、唯一部屋から出る時間で俺とハンナで交替で行くことにしている。

最初のうちは緊張して仕方なかったが、

ここのところは、緊張するとかえって不自然なんじゃないかとすら思うようになっていたそれでも、

多少は周囲の様子に集中していることは言うまでもないが。

 「だはー!まただまされた!」

「あははは。あたしの勝ちー!」

ハンナは、売店で買ってきたトランプを使ってレオナと子ども達と一緒に、ババ抜きをやっている。

普通、トランプの駆け引きなんて言ったら、あーでもないこーでもないと騒ぎながらやるもんだが、あいつらは違う。

ゲームがひととおり終わる一部始終、ずーっと黙っている。だが、険悪なわけではなく、むしろどこか穏やかな沈黙だ。

傍から見ている俺にはさっぱりだが、あの日、ハンナとレオナが交わしたような、言葉じゃない会話が繰り広げられているんだろう。

 まったく、わけがわからないが。

 「マークさんもやろうよ!」

そんな俺を見かねたのか、ニケがそう声をかけてきた。別に仲間外れにされて寂しいとか思っているわけじゃない。

「いや、邪魔しちゃ悪いし、俺までやっときたいことあるんだ」

俺はそう断って、コウベで買った持ち運び用のノート型コンピューターのモニターに目を戻した。

 任意の暗号を組んで通信情報を隠ぺいしたうえで、軍のデータベースにアクセスをしている。

目当ての情報は、あの日、ニケの口から洩れたアムロ・レイについてだ。

 アムロ・レイは、1年戦争時の英雄。強力なニュータイプ能力を持ち、

敵のモビルスーツの動きや存在、意思までをも感じ取っていたと言う話だ。

もっとも、それは終戦直後にマスコミや軍の広報誌に載った彼のインタビュー記事をうのみにした情報だが。

彼はその後、軍に残っている、との話だったので、その後の情報を探しているのだが、

どこをどう見ても、その存在が確認できない。アムロ・レイと言う名前が、ことごとくデータベース上から削除されている感じだ。
スペースノイドやニュータイプの存在を忌み嫌うティターンズの仕業なのか、

それとも、そもそもアムロ・レイと言う存在が、連邦軍のプロパガンダで、実在しないのか。

 いや、どちらかと言えば、前者だろう。

データベースにアムロ・レイの名はないが、しかし、何かが消された痕跡はある。

暗殺されたのかそれとも、極秘裏にどこかへ監禁されているのか…

 彼がどうなったのかは、想像の域を出ないが、

少なくとも、このアムロ・レイを探し求めるという行為を、ティターンズは良しとしないだろう。

公言すれば、間違いなくティターンズの耳に入る。ただでさえ、追われる身だ。

このことは何があっても口にするべきではないだろう。



 「…おなかすいた」

不意に、エヴァがそう口にした。

「うん、おなかすいたね」

サラもそう言う。

 腕時計を見やると、もうすぐ夕方だ。レストランがこむ前に、夕飯を調達しに行った方が良いだろう。今日は、俺の番だ。

 「よし、ちょっと買って来てやる。待ってろ」

俺がそう言って立ち上がると、ババ抜きの輪の中に居たサビーノが立ち上がった。

「マークさん、俺も一緒に行きます」

「待ってろ。危ない橋は渡りたくない」

「お願いです、行かせてください」

急にどうしたよ。いぶかしげに彼の顔を見つめるが、目にはしっかりとした意思が見て取れる。

彼の中で、何かあったのだろうか?

 「連れてってあげてよ」

ハンナが言う。バカ言うな、なんでそんなリスクの高いことをしなきゃいけないんだ。

「連れて行く理由がない。食事運ぶだけなら俺一人で十分だし、表をうろつきまわるのは危険すぎる」

「ホント固いんだから。命令です、連れてってあげなさいマーク中尉!」

ハンナがそう言って俺を睨み付けてきた。まったく、こいつらには緊張感ってものがないのか?

そう思いつつも、これはどうも、連れて行かないとあとからグチグチ文句を言われそうな雰囲気だ。

「わかったよ。サビーノ、そこの帽子かぶって、伊達メガネかけろ」

俺は、売店で買った「変装セット」を指して言ってやった。サビーノは少しうれしそうな顔をして

「はい!」

と元気いっぱいの返事を返してきた。

 準備を終えたサビーノと部屋から出た。人通りもまばらな廊下を抜けて、レストランや売店のあるエリアに向かって歩く。

サビーノも黙ってついてくる。

 なんだか、気まずい。そもそも、こういう子ども相手に、何話したらいいんだ?

仲良くはしゃいでいられるハンナが、少しうらやましかった。

「なんで付いてきたかったんだ?」

とりあえず、なんでもいいから、と思って声をかけてみた。するとサビーノは何かを言いかけて、すっと黙り込んでしまった。

おい、頼むから黙るなよ。何か言ってくれよ。

 俺が困っていたら、サビーノは重々しく口を開いた。

「俺たち、他にもいたんですよ」

「他にも?」

意味が分からずに俺は聞き返した。すると、サビーノはまた少し黙ってから、ゆっくりと沈んだ様子で話した。



「俺たちは…ジオンから来たんです。ジオンの、ニュータイプ研究所にいました。

 テストに欠格になって、殺される寸前だったところを、別のジオンの軍人たちが助けてくれて、地球に逃げてきました。

 その時は、8人いました。でも、脱出に使ったポットが不時着した影響で、すぐに一人が死んでしまって、

 それから1年くらい経ってから、怪我が治らなかった子がまた死んで…6人になったんです。

 俺たちは、そこから、もっと自由に暮らせる場所を探しに、旅に出ました。

  地球のことなんて何もわからないから、ホントに行き当たりばったりで、大変なことばかりだったけど、楽しかった。

 だけど…それから、何年か経って、俺たちの目の前に、ティターンズってやつらと、それから、研究所の人間が現れて、

 俺たちをつかまえようとした…」

喋ってくれ、とは思っていたが、思いがけず身の上話が始まってしまって、正直驚いていた。

 それにしても…そうか、ジオンから逃げてきた連中だったのか。ニュータイプ研究所…

そこでも、人間らしい扱いは受けて来てなかったんだな…よくこんな歳になるまで、曲がらずに育ったもんだ…。

 感心していた俺に構わず、サビーノは続ける。


「俺たちは必死で逃げたんです。でも、やつらは執拗に俺たちを追いかけてきて…

 一番年上の、シローって兄さんが、身を張って俺たちを逃がしてくれた。

 その途中で、銃撃にあって、俺より小さかった、サンダースが撃たれて、走れなくなって…俺たちはあいつを置いて逃げた…。

 キキ…あぁ、ニケのことです。それから…サラも、エヴァも、女の子だし、戦えない。

 だから、あいつらは俺が守ってやらないといけないんです…」

「その、シローってのと、サンダースってのは、死んじまったのか?」

俺が聞くと、サビーノは顔を伏せたまま

「わかりません。でも、死んでしまえば、きっとわかるので、たぶん、どこかで生きてるんだと思います…」

「わかる?」

「あぁ、はい。わかるんです、俺たちは。

 こう言っちゃうと、マークさん、嫌いだと思うんですけど、ニュータイプってやつだからだと思うんです」

また、ニュータイプ、か。嫌いってわけじゃないが、まったく、そいつだけはどうにも理解に及ばないんだよな。




「そうか…まぁ、ニュータイプだとかは関係ない。ここまで、大変だったんだな」

だからあの日、こいつは俺に突進してきたのか。

あの子たちを守るのは自分だと、居なくなった仲間たちの気持ちを次いで、こいつらを守ろとしたんだ。

…待て、話の始まりはこんな話題だったか?あぁ、そうだ。

「で、それと俺について来たのと、どういう関係が?」

思い出したので聞いてみると、サビーノは少しはにかんで見せてから

「マークさん、強いから…ケンカの仕方とか、教えてもらえないかな、と思って」

と言ってきた。俺の蹴りがそんなに効いたのか?


「いや、俺は弱いぞ?前線の連中と違って事務屋だからな。

 一応、士官学校で近接戦闘術は習ったが、使いこなせるレベルじゃないし、

 人に教えるなんてとてもじゃないができるほど卓越してもいない」

俺が言うとサビーノは笑顔で

「それでも、戦い方を教わったことはあるんでしょ?それを教えてくれるんでいいんです」

と言ってきた。

 ふぅ。格闘技の先生ね。本当に、ロクなことを教えられる自身はないが…

まぁ、出会いがしらのカウンターくらいならなんとかなるか。

あいつらを守りたいから、とまで言われたら、ここで断るのも、居心地が悪い。

「わかった。部屋に帰ったら、すこし教えてやる」

「ホントですか?やった!」

俺が言ってやると、サビーノは嬉々として飛び上がった。こういうところは、まだ子どもだな。



 そんなことを話している間に、俺たちはレストランに付いた。

中には入らず、外向きに出されたカウンターで、ハンナ達に頼まれたセットのメニューをテイクアウトで注文する。

航海は今日で4日目。この店員にも、すっかり顔を覚えられてしまった。

あまり、喜ばしいことではないが。

 カップのコーヒーと、それからサビーノにソーダを頼んでカウンターの前のテーブルセットで料理を待っていたら、

不意にガコンっという、音が、船内に響いた。

<ご乗船中のお客様方へご連絡いたします>

船内アナウンスの入る音だったようだ。ここ数日で、何度か聞いたことがある。

特に気にせず、曳きたてのコーヒーを味わっているとアナウンスはとんでもないことを喋り始めた。


<ただいま、連邦軍籍の戦艦より連絡があり、本船内の検閲を実施することとなりました。

 つきましては、1時間程度、当海域に停止いたします。

 おくつろぎのところ大変申し訳ありませんが、ご協力をよろしくお願いいたします。繰り返し、ご乗船中のお客様へ―――

検閲だって?!

「そ、そんな」

慌てて立ち上がろうとしたサビーノを、とっさにイスに引き戻した。

「落ち着け」

小声でそう伝えた。それは自分自身にも言い聞かせる意味で、だ。

 今ここは船。相手が航空機だろうがなんだろうが、ここへ乗り込んでくるにはこっちが停船するまでに多少の時間がかかる。

あわてずに、隠れる方法を探すべきだ。

いや、そもそも検閲ってどういうことなんだ?俺たちがこの船に乗っていることが気づかれたのか?

それとも、抜き打ちでしょっちゅうやっているのか…俺たち目当てだとするなら、かなり厳しいが…

「まったく、軍にも困ったもんだよね」

店のおばさんが憎々しげに言った。

「良くあるのか?」

「年に何度かは必ずあるのよ。そのたんびに、航海が2,3時間遅れるんだから、たまったもんじゃないよ、まったく。

 あの、ティターンズって言ったっけ?やりたい放題にもほどがあるね」

なるほど…定期的な検査ってのもやっぱりあるのか。だが、だからと言って俺たちが目当てじゃないと決まったわけじゃない。

すぐに部屋に戻ろう。

 出来上がったテイクアウトを受け取って料金を払っていると、ぐらりと船が揺れた。なんだ?停船の衝撃か?

 「おい、あれ見ろよ」

「モビルスーツだ」

窓際に居た客がざわつき始める。俺も近場の窓から外を見やった。

するとそこには黄色と緑のカラーリングが施された塊が浮かんでいる姿があった。

あれは、アッシマーか?!バカな…臨検のために、モビルアーマーを出してくるだと!?

間違いない、ヤツら、俺たちを狙って…!

「サビーノ、行こう」

 俺は焦る気持ちを押し付けて、サビーノをつれてその場を足早に歩き去った。


 人目のないところに出てから、一目散に部屋へ駆け出す。

「マークさん、どうしよう?」

サビーノが聞いてくる。どうするもなにも、隠れるほかに仕方ない。おそらく、あのアッシマー、戦艦から飛んできたのだろう。

さっきの揺れはあいつが船に取り付いた際の衝撃。だとしたら、すでに船にはティターンズか、連邦軍の人間が乗り込んでいることになる。

 廊下の角を曲がった瞬間、目の前に何かが飛びぬけた。

「っと!あぶねぇ、悪い!大丈夫か?」

それは、金髪の若い男だった。曲がった瞬間にぶつかるところだったが、男は間一髪で飛び退いて、床に転がっていたようだった。

暗い色のスーツに赤いネクタイをしてはいるが、ビジネスマンって雰囲気ではない。

「こっちにはいないぞ!」

「向こうを探せ!」

どこからか声が聞こえる。くそ…やっぱり乗り込んできてやがる!

「ちぃ、こいつぁ、まずいな…」

男がうめいた。

 「すまないな、追われてるんだ。俺のことは、内緒にしといてくれよっ!」

男はそう言って立ち上がる。

 待て、追われてる?

俺たちじゃなく、やつらはあんたを追っているのか?

「何なんだ、あんた?」

俺は思わず聞いてしまっていた。すると男は片眉をぴくっと上げて

「名乗るほどのもんじゃないよ」

と笑った。バタバタと言う足音が近づいてくる。しまった―――!

 俺はとっさに、サビーノの手を引っ張って、そばにあった扉の中に飛び込んだ。

扉を閉めようとしたら、なぜか男までこっちへ入ってきた。男が中に入ってすぐに俺は扉をしめて鍵をかける。

そこは用具庫で、船内の掃除に使うための道具が狭い中にたくさん置いてあった。

俺たちは物影に隠れて息を殺した。






 足音が部屋の前を通り過ぎて、遠くなっていく。

「―――!」

「――!――――!」

叫び声も、遠ざかって行った。

「ふぅ」

男が大きくため息をついた。

 俺も、くたっと膝から力が抜けるのを感じた。

そこで少しの間呆然としていたが、すぐに男が口を開いた。

「あんた達も追われてんのか?」

「あぁ。ワケありでな」

俺が答えると男は笑った。それから

「そうか。まぁ、男には秘密の一つ、怪しい影の一つくらいはあるってもんだ。その方が女ウケも良いしなぁ」

としみじみ言う。この男、そんなことを言っている場合でもないだろうに。

 「あなたは…」

サビーノが戸惑い気味に口を開いた。

 男が、サビーノを見る。

「あれ、お前、どこかで会ったか?」

男がサビーノの顔を見て、首をかしげている。

 なんだ?知り合いなのか?
 
 俺が二人の様子を見ていると、サビーノが言った。

「あなたは…も、もしかして!角の生えた馬のマークのゲルググに乗ってた…」

「な、なんでそいつを知ってんだよ、坊主?」

男はサビーノの言葉を聞いて意外そうな表情を見せた。



「俺は、ムサイに載ってたんです。終戦直前に、フラナガン機関のあるサイド6から出航して…」

サビーノが言うと、男はさらに驚いた表情を見せた。

「まさか、お前、フラナガン機関にいた子どもなのか?」

「はい。あのとき、助けてもらったうちの一人です」

サビーノの言葉を聞くと、男はほほ笑んだ。それから、

「そうか…そいつぁ…なんだ、奇妙なこともあるもんだな…」

と言うと声を殺して笑い出した。

 おい、ちょっと。何がどうして可笑しいんだ?

わかるように説明しろとは言わないが、しかし、説明は一応してくれ。

でないと、状況を飲み込もうにも飲み込めん。

 「他の子もいるんです。今は、このマークさん達に助けられて、捕まってた連邦の基地から逃げてる途中だったんですけど…

 まだ、部屋に4人」

そうだった。忘れていた。部屋にハンナ達がいるんだ。戻って隠れるように言ってやらないと。

 俺はそう思い直して立ち上がる。

「サビーノ、ここにいろ。俺は部屋に行って、ハンナ達と逃げる手だてを考えてくる」

「逃げる、ね」

俺の言葉を聞いた男がそう言ってニヤッと笑った。

それから、首を左右にコキコキと鳴らしながら立ち上がるとふぅと改めてため息をついた。

「そう言うことなら、いっちょ手伝ってやるよ。こんなとこで会った記念だ。

 あのとき助けたお前らを、今日もう一度助けるってもの、悪かねえ」

どうやら手伝ってくれるつもりらしい。何者かは知らないが、こんな状況だ。人数は多ければ多いほどいい。

それに、軍人なら、戦力にもなってくれるかもしれない。

「俺はマーク。マーク・マンハイムだ。つい数日前までは連邦軍中尉だった。よろしく頼む」

男に名乗ると、彼も俺に向き直って

「ジョニー・ライデン、元ジオン軍少佐だ。俺の名、覚えといて損はないぜ、マーク」

と、ニッと不敵に笑って返事をした。


つづく!

乙!
ジョニーライデン大好きなんだよ、超俺得。


ジョニーライデンだと!
続きはよ

脱走者にエレドアがいないじゃないか(憤怒)

>>57
ジョニー・ライデン、と聞くと、赤いMSの人とは別に、
違う世界の二人を思い浮かべてしまう俺はE3のPVにワクテカを隠せませんww

>>58
ジョニーの活躍にこうご期待!

>>59
えぇと、シローに、サンダースに、サビーノ、サラ、エヴァ、ニケです。ちゃんといると思うのですが…?
あっ…(察し)すみません、ID良く見てませんでした…ww

追い付いた。
乙ガンダムwwww
アウドムラの才能に嫉妬する。
(´・ω・`)ギリィ

ライデンキタ━━━(゜∀゜)━━━!!

>>62
あざっす!
前スレから読んできていただいたのでしょうか?感謝です!

>>63
ライデンきました!

つづき投下いっきまーーす!



 真紅の稲妻。1年戦争当時、彼はそう呼ばれていたとのことだった。

宇宙を中心に展開していた特殊部隊に所属し、連邦兵器の撃破数は2ケタを超える、とも話した。

それが事実だとすれば、まさに超人的な記録だ。

まさかとは思うが、こいつもニュータイプなのか?

と、なんだか複雑な気持ちになったのは言うまでもない。

 しかし、そんな彼も、彼の所属する部隊も、当時のジオン軍の最終防衛線であるア・バオア・クーでの戦闘で壊滅。

彼も乗機のモビルスーツが被弾し、離脱しそこで終戦を迎えたという話だった。

 それ以前に、彼はサイド6にある、フラナガン機関と呼ばれるジオン軍のニュータイプ研究所に囚われている、

テストに利用された子ども達が、証拠隠滅のために殺害されるという話を耳にした。

 なんでも、そのフラナガン機関には彼も幾度か出入りした経験があるとのことで、他人事とは思えなかったのだという。

やっぱり、彼もニュータイプだったんだな…複雑だ。

 彼は、そこから子ども達を逃がそうとする一部の職員と、ジオン兵に協力し、子ども達を地球へ移送する計画を思いついた。

救助のために、当時ジオン公国艦船の排除、入港拒否の方針を打ち出していたサイド6に戦艦で乗り付け子ども達を救出。

追ってくる研究所のモビルスーツ複数機との戦闘を彼が引き受け、戦艦にも何機かのモビルスーツが護衛について、

幾度も戦闘を潜り抜けながら地球圏に到達した戦艦は、脱出用の小型シャトルに子ども達を乗せて地球へ発射した。

 戦艦のその後は、分からない。

それと言うのも、その時にはジョニーはすでに乗っていた機体に戦艦を追えなくなるほどの損傷を受けていたからだ。

ただ、話しぶりからすると、もしかしたら、撃沈されているのかもしれないと感じた。

子ども達の手前、言わないようにしているのか。

 ジョニーがやられた後、サビーノ達の話だと、

襲い来る研究所所属のモビルスーツの攻撃を、他のパイロットたちが盾になるように防いでくれて、

ギリギリまでシャトルの直援に付いたモビルスーツは、大気摩擦で吹き飛んだらしい。

 その機体についていたエンブレムはどんなのだ、と聞いたジョニーに子ども達が答えると、

彼は、すこし寂しそうな目をしてうつむきながらも、

笑って

「そうか。あいつなら、やりそうだ」

とつぶやくように言っていたのが印象的だった。

 そう言えば驚いたことに、ジョニー・ライデンの名を、レオナも知っていたことだった。

レオナの過去の話は聞いたことがない。

今度時間があったら聞いてみようか、と言う気にさせられた。

我ながら、珍しい心境だな、とも思えて、なんか妙な気分ではあったが。

 サビーノ達は、ジョニーのことを、まるで父親を見る様な安心した視線で見つめていた。

そうしながら彼らはこれまでにあった出来事を事細かにジョニーに話した。それを聞いたジョニーは、また目を細めて、

「大変だったんだな…本当は、すぐに迎えに行くことにはなってたが、それもできずじまいだった。すまなかった」

と謝っていた。この男、軽いだけの奴かと思っていたが、どうもそうではないようだ。

どう形容していいかわからないが、どんな相手にもオープンになって話ができる、そんなメンタルを持っているような感じがした。



 「で、これからのことはどうするつもりなんだ?」

ジョニーに聞いた。するとジョニーはまたニヤっと笑って見せて

「考えがある。マーク、一緒に来てくれ。お嬢さんたちは、この部屋で待機だ。何があっても、部屋から出ちゃダメだからな!」

と言って立ち上がった。俺も黙ってイスを立つ。すると、ニケがジョニーに飛びついた。

何かと思ったら、ニケは半べそをかいている。

「行かないで、ジョニーさん!」

「ははは。大丈夫、心配ないさ」

ジョニーはそう言ってニケの頭を撫で、それから思い出したように、ポケットから何かを取り出した。

それは、軍の認識票のようなものだった。

しかし、そこに刻まれている名前や軍籍ナンバーはなく、ユニコーンの絵柄だった。

「お守り代わりだ。身に着けておくんだぞ?ルナチタニウム製の特注品だからな!」

ジョニーはそれを、ニケの首にかけてそっと彼女を体から離した。それから俺にかぶりを振って

「行こうか」

と言ってきた。俺は黙ってうなずいて、ジョニーのあとをついて行った。

 部屋を出て、廊下を歩く。ジョニーはどこか満足げな表情をしていた。

「で、話だが」

彼の顔を観察していた俺にそう話しかけてくる。

「奴らは、俺を発見できなければ、この船ごと沈めるつもりでいる」

「な、なんだと?」

「逃げ場のない海の上で俺目当ての臨検をする理由はひとつ。この船に俺が乗っていることが割れちまってるからだ。

 フィリピンでも追われていた気配はあったんだが、うまく巻いたつもりでいた。相手にも、勘の良い奴がいるらしい」

ジョニーは笑った。そもそも、彼はいったい、なぜ追われているんだ?

それについて聞いてみると、彼は肩をすくめて

「そいつは知らな方が良い。知っちまったら、万が一のときに、あんた達にまで迷惑かけちまうからな」

と言ってみせた。

 ティターンズが権力を握ってからというもの、スペースノイドやニュータイプが根こそぎ狙われている。

しかし、ここまで強烈な追跡は初めてだ。テロリストか、反政府組織にでも参加しているのか?

元ジオン軍人だってことは、その可能性は大ありだが…

 そうは思っても、実際は彼の言うとおりだった。これ以上面倒を抱え込むとロクなことにならない気がする。

ここで彼に会ったという事実は、なかったものにしておいた方が身のためなのかもしれない。

「わかった。深くは聞かない。それで、どうするんだ?」

俺が話を流すと彼はふっと表情を替えて

「簡単。俺が投降すれば、それで済む」

と言い放った。



 な、なんだって…!?

「本気か!?」

「もちろん。このまま隠れてたって、やつらは船ごと始末をつけるつもりだ。

 そうなったら、あんた達まで巻き込んじまう。せっかくあのときに助けたあいつらを、こんなところで死なせるわけに行かねえ」

ジョニーは胸を張って言った。それから付け加えるように

「それにな。まさか、こんなところで会えるなんて思ってもみなかったよ。

 世の中わからねえもんだな!あいつらの笑顔が見られて、うれしかったよ。

 今の俺は、普段以上に敵なしだぜ!」

と笑った。

「まぁ、あとは。正直、あんたらがいようがいまいが、手が出ないってのが本音だ。

 抵抗してモビルスーツを分捕るって方法もないこともないだろうが、まだそこまで危険な賭けに出るタイミングでもないしな」

ジョニーはさらにそう言って肩をすくめて

「なに、仲間には連絡を取った。この船を離れてしばらくすれば、救助に来てくれるさ」

と笑った。

 だからって…自分の身を差し出して、俺たちを助けようってのか…?他に方法がないからって、そんなことを…

 何かを言ってやりたかったが、何を言って良いかわからなかった。

ひょうひょうとした彼の、固い意思が感じられて、なにを言っても、

彼を止めることも、慰めることにもならないだろうと感じられてしまっていた。

「すまない…」

何とか口をついて出たのは、そんな言葉だった。

「構わねえさ。連邦がいなくなって船が出るまで、部屋でじっとしていろ。あいつらには、よろしく言っておいてくれ」

ジョニーはそうとだけ言うと、身をひるがえして、ふと、思い立ったように、またこっちを振り返って

「マーク。あいつらを、頼む。無事だったら、また会おう」

と告げると、ニッと笑って売店やレストランがあるラウンジの方へと歩いて行った。

 俺は、その背中を黙ってみていることしかできなかった。



 それから30分もしないうちに、船は動き出した。連邦軍の連中は、モビルアーマーと小型船に乗って、引き揚げて行った。

 俺は、と言えば、部屋に戻って、ジョニーのことを考えていた。あいつに、強い意思があったのは、分かった。

だが、それはジョニー自身がサビーノ達を気にかけていただけで、

長い間一緒に過ごしたり、血がつながったりしているわけでもない。

言ってしまえば、特に深いつながりがあるわけでもない。

なのに、なぜ、あんな行動をとったんだ?

 彼は、それしか方法がない、と言ったが、おそらく実際はそうではなかっただろう。

ジョニーならば、隙を見てモビルアーマーを奪うこともそれほどリスクを掛けずにできたはずだ。

少なくとも、連邦の軍人が乗っている間は、いくらなんでも、そう簡単に攻撃はしない。

彼ひとりなら、つけ入る隙はあった。

だが、そうはしなかった。俺たちに被害を及ぼさない、最善の策を、彼は選択した。

 俺には、その理由が理解できていなかった。

そして、そのことが、なぜか、深く胸に爪を立てていた。

 「おい、ニケ。もう泣くなよ…」

サビーノがニケを慰めている。ニケは、俺が、ジョニーのことを話す前から、ずっとああして泣いていた。

思えば、ジョニーがこの部屋を出て行くとき、彼にしがみついたニケは、もうすでに彼の気持ちを理解していたのではないか。

 ハンナとレオナが言っていたように、ニュータイプ同士、なにかを感じ取っていてもおかしくはなかった。

 「シロー達も、お姉ちゃん達も…ジョニーも…なんでよ。なんで、みんな、危ないってわかってるのに行っちゃうのよ!」

ニケがそう叫ぶ。サビーノが、そんなニケに囁いている。

「俺たちのことを、守ってくれようとしてるんだよ…。わかるだろう?」

「わかるよ!わかるから、だから…どうしてなの…私たち、なんにも悪いことしてないのに…

 どうしてこんなにたくさんの人に憎まれなきゃいけないの?!私たちは、生きてちゃいけないの?!ねぇ!なんでなの!?」

ニケが声を荒げている。

 ジオンに居たころはもっと幼かったはずだ。そんなころから、この子たちは、

証拠隠滅だとか、テスト欠格だとか、スペースノイドだとか、そんな理由で、命を狙われ、もてあそばれてきたんだ。

そう思うのも、無理はないだろう。





 錯乱しているようにも見えるニケのそばにレオナが歩み寄って行って、彼女を抱きしめた。

ニケはレオナにしがみついて、その胸に顔をうずめながら

「レオナ姉ちゃんはダメだよ…どこにも行かないで…私たちのために、苦しまないで…!」

と掠れた声で訴えた。レオナは彼女の頭を撫でた。だが、何も言わなかった。

いや、おそらく、答えられなかったのだろう。

 レオナも、もしものことがあれば、ジョニーと同じ選択をする。その覚悟があるんだ。

だが、どうしてだ?話じゃ、レオナとこの子達も、ジョニーと同じで、それほど深い関係でもないはずだ。

それこそ、ムラサメ研究所で会ったばかりのはず。

ジョニーにしてもレオナにしても、なぜ、この子達をそこまでして守ろうとするんだ?

 そこまで考えて、ハッと思い出した。

そうだ、同じことを、ハンナもしたんだ。会って間もない彼らを、逃がそうとした。

 いったい、なんだってんだ?ニュータイプ独特の仲間意識でもあるのか?

 クソ!誰か、俺にわかるように説明してくれよ!なんであいつらを守らなきゃいけないんだ?

どうして、どいつもこいつも、同じようなことをするんだ?いったい、どうしてなんだ?

どうして俺は、こんなにもイラついているんだ?

 俺には、何一つ理解できない。本当に、ただの一つも、分かっていやしないんだ。


つづく!



ライデン、退場です…早い…

ライデン、行かないデン!



うん、自分以外の全員がなんか解りあってたら仲間ハズレみたいでイラつくよね。

そーいやガン無双ではライデンの声井上さんなんだよね。
イメージぴったりなんだけど、如何せんジェリ坊と被るガッカリ感w





……デン


何か胸が苦しくなる…













…デン

乙です!
ライデン…ちょっと退場早すぎる…












…デン

>>72
ジェリ坊いいじゃないのさ!ww

>>73
苦しいです、俺も…

>>74
退場してしまいました…


デンデンすごいことになってしまった…
反省します、二度と言いません。

続き投下します!
マークさん苦しいですけど、読むのやめないデン!ww


 それから4日後、船はアラフラ海を航行していた。

部屋の窓からテラスに出て、進行方向を見やれば、そこにははるかかなたに陸地が見えた。

ティターンズの臨検があったせいで予定が遅れ、昼間に到着の予定だったが、あたりはもう薄暗い。

 ただ、俺たちにとっては好都合だ。すくなくとも、昼間よりは顔がバレる心配はしなくて済む。

そうは言っても。警戒を緩めるわけには行かない。

俺は、基地から乗って出た軍用車に積んであった装備の中から、双眼鏡を荷物に忍ばせておいた。

さっきから、このテラスで陸の方を観察している。まだ、距離がある上に暗がりで、どんな様子かは分からない。

 あの日、ニケは2時間ほど泣き続けてから、ようやく落ち着いた。

他の子ども達はシレっとしているように見えたが、本心はどうだったのだろう?

ニケの感受性が強すぎるのか、それとも、他の子たちも同じ想いだったが、なんとか取り繕っていたのか…

 ただ、レオナはニケを辛そうな眼差しで見つめていたから、もしかしたら、他の子ども達も感じ入る部分はあったのかもしれない。

 俺は、ニケが泣き止むずっと前に、ジョニーのことを考えるのはあきらめた。

感謝こそすれ、今の俺たちは、感傷に浸っている余裕はないんだ。

 「どう、様子は?」

部屋の中からハンナが声をかけてくる。

「まだ、何も見えないな」

俺が首を横に振ると、彼女は肩をすくめて

「まぁ、そうだよね。なんにもないと良いんだけど…」

とつぶやくように言った。

 本当に、その言葉に尽きる。

 部屋の中にいるサビーノ達や、レオナも、幾ばくか緊張した面持ちでいる。

こんな時に、ニュータイプの勘で、敵が居るか居ないか、分からないものだろうか?

いや、そこまで便利なわけはないな。


 船の目的地、ダーウィンの街の港が徐々に近づいて来た。双眼鏡で見ると、建物の形もはっきりと見えてくる。

このオーストラリアには、1年戦争開戦直後の、ジオン軍によるコロニー落としによって形成された巨大なクレーターがある。

クレーターから離れたこのあたりでも相当の被害が出たらしいが、終戦から8年経ち、復興もだいぶ進んでいるとも聞いている。

オーストラリア大陸を管轄しているのは、トリントン基地、だったか。

そこも、多分に漏れず、ティターンズの手が入っているだろう。果たして、あそこでどうやってアムロ・レイを探すべきか…

 「レオナお姉ちゃん…」

ニケが、レオナを呼ぶ声がした。

「どうしたの?」

「なんか、気分悪い…」

船酔いか?もう一週間も乗ってるってのに、今更?いや、緊張のせいかもしれないな。

「大丈夫。気持ちをしっかり持って。頭の中を空っぽにして」

レオナが言っている。あっちは、レオナに任せよう。

 俺はそう思いながら双眼鏡で港を見続ける。

そばに、ハンナがやってきた。

「ね、マーク。なんだか、すごく嫌な気分がする」

「気分?」

「そう。良くわからないけど…胸の中が、グチャグチャになっていく感じっていうか…」

ハンナの顔を見ると、辛そうにゆがんでいる。

 「なにか、悪い予感でもするのか?」

これまでのハンナを見ていて、ここまで来ていきなり緊張と言うわけでもないだろう。

だとすると、ニュータイプの勘ってやつが働いているのかもしれない。そう思って俺は聞いてみた。

しかし、ハンナは力なく首を横に振って

「ううん、そう言うんじゃ、ない感じ」

と弱々しい声で言った。

 だとしたら、やはり緊張のせいかなにかだろうか。まぁ、いくらハンナでも、仕方ないのかもしれない。

俺だって、緊張で息が詰まりそうになっている。似たようなものだ。

「部屋で休んでろ。ここは俺が見てるから、大丈夫だ」

俺はそう言ってハンナを部屋に戻した。

「ごめんね」

ハンナは、去り際にそう言い残して言った。



 船が港への距離を詰める。双眼鏡の中の景色に、明かりが動いているのが見えた。

あれは…車のヘッドライトか?

 俺は目を凝らしてその明かりを見つめる。ゆらゆらと動いてはいるものの、光源が移動している様子はない。

しかし、その光は強くなったり、弱くなったりしながら、動いているようにも見える。

 港への距離がさらに近づいて、その光の正体がわかった。そして、俺は、絶句した。

それは、サーチライトだった。あんなに、たくさん…

 あんなものが、普通の港に用意されているはずがない。

いや、1つや2つくらいはあってもおかしくないのかもしれないが、見える限り、6、7個はある。

そのライトの少し下を、何か黒い影が行ったり来たりしている姿も見える。

人の姿だろうか。

 すでに警戒態勢が敷かれていると思った方が良い。

港まではあと30分もないぞ…どうする…?!

 俺は双眼鏡から目を外して考えた。車で包囲を突破するのはおそらく無理だ。

基地から逃げる時に使っていた多少の装甲板のついたトラックならそれも案の中に入れられただろうが、

この船に積んでるのはあいにく、普通の車だ。逃げようとしたところに銃撃を加えられれば、あっと言う間もないだろう。

 だとすれば、この船に籠城するか…おそらく、折り返し出航するのは、明日の朝になるだろう。

それまでどこかに隠れていることができるかもしれない。しかし、海の上で臨検をしたようなやつらだ。

停泊した船をくまなく探すくらいのことはするだろう。しかも、船底の貨物室に積み込んだ車が一台だけそのままになる。

バカでも、船の中にいることくらい想像はつく。

 それなら、逃げるよりほかはない。だが、この距離だと詳細な状況が把握できない。

それも夜だ。逃げるにしても、相手の状態を把握するまでは、作戦のたてようがない。

 俺は、胸がつまりそうな心持ちに襲われて、ふうと大きく息を吐いた。なにか、うまい案が浮かべばいいが…

 そんなことを考えているうちにも、船はゆっくりと港に接近していた。堤防に囲まれた湾内の様子も良く見えてくる。

 サーチライトは、9個設置されていた。堤防には、数十人の連邦軍の軍服を着た人間が、右往左往しているのが見える。

軍用車に、装甲車もある。

 あれは、確実に警戒網だ。モビルスーツや戦車がないのは助かるが、そうは言っても、簡単な状況じゃない。

そう言えば、あれは確かに、連邦軍の軍服だ。ティターンズのものではない。

ジョニーを連行して行った、臨検に来たやつらはティターンズの軍服を着ていたが、今回はその姿が見えない。

と、すると、あれはティターンズではなく、ニュータイプ研究所の私兵、と言うことだろうか?

待てよ、これはチャンスかもしれない。

ティターンズなら迷うことなく発砲してくるだろうが、ニュータイプ研究所の人間なら、

子ども達もレオナも、貴重な研究材料のはずだ。そう簡単に危険にさらすような対応をしないようにも思える…

が、そんな憶測に頼るのは、危険だ。

 あの警戒態勢の中に突入せず、この船から脱出する、もっとも安全な方法は…おそらく、これしかないだろう…。

 俺は、このテラスに出たときから気づいていた、備え付けの金属製の箱を開けた。

そこにあるのはもちろん、非常用の救命胴衣だった。


 「マークさん、私、怖い…」

ニケが小声でそう囁いてくる。



「大丈夫だ。ちゃんと俺につかまってろ」

俺はそう言いながらニケの頭をなでてやる。ニケはそうした俺の目を、涙目でじっと見て、口をへの字にしながら、うなずいた。

「そっちは、大丈夫か?」

俺はレオナとハンナに聞く。

「サビーノは泳げるらしいから、平気だと思う。私とレオナで、エヴァとサラを連れて行くよ」

ハンナが答える。

 俺の考えた作戦は、いや、これを作戦、と呼ぶべきか、まだ悩むところではあるが、とにかく、だ。

テラスにあった救命胴衣を着て、ここから、軍のトラックの中から持ち出してきた装備品の中にあったロープを使って海面に降りて、

闇夜の海を泳いで、警戒網が敷かれている港から離れた陸地にあがる、それだけだ。

 この船はかなりのサイズだ。端から端まで目を行き届かせるのは難しいし、なにより、この時間だ。

海面は真っ暗で、こちらが暴れたり、派手な色を身に着けたりしていなければ、確実に紛れることができる。

この手の方法は、一応、情報士官らしく、一から十まで訓練ではこなしている。

夜間に敵地への諜報活動のために、侵入する訓練だが、

そもそも、地球連邦の支配地域であるこの地球に、一体全体、どうして海に紛れて諜報活動をしにいく必要があるかは疑問なのだが、

それも、8年前の戦争で、支配そのものが盤石ではないと、暗に悟っている部分があるからかもしれない。

 船が岸に着岸して、もう20分経つだろうか。外の方が、一段と騒がしくなってきている。

乗客がおり始めているんだ。このタイミングがベストだろう。

 ロープをつかんで、テラスの柵を乗り越える。胸を押しつぶすような緊張感が俺を襲う。だが、潰されるわけには行かない。

大きく深呼吸して、気分を整える。

 それから俺は、ハンナとレオナにかぶりを振って、結び目をつけて握りやすいようにしたロープを漆黒の海面に向かって降りて行く。

高さは、7,8メートルと言ったところか。慣れないと、一番怖さを感じる高さではある。ニケたちのことが気にかかる。

 上を見上げると、ハンナがこっちの様子を覗いていた。合図を出して、子ども達を下ろさせる。

 俺は海面に到着して、そっと海に入る。海水は思ったほど冷たくはない。11月だ。こっちは、初夏を過ぎたころ。

まだ暖かくはないと思っていたが、これならすこし安心できる。

 まず最初に、ニケが降りてきた。海に入るのをためらっているニケをそっと抱きとめて海水の中に迎え入れる。

思っていたほどでもなかったのか、ニケは少し意外そうな顔をして俺を見た。

「怖いか?」

俺の救命胴衣の裾をつかんだニケに小声で聞いてみると彼女はかすかに笑って

「大丈夫」

と囁き声で返事をしてきた。



 それからサビーノ、サラ、エヴァ、ハンナとレオナも降りてきた。

「揃ったな。サビーノは俺の後ろを離れるなよ。サラとエヴァは、ハンナとレオナにつかまってるんだ」

俺はそう指示をして、ニケの体をつかんで、もう一方の手で水中を掻き、海水を蹴る。

なるべく音をたてないように、なるべく水面から頭以外の部位が出ないように、ゆっくり、慎重に進んでいく。

 テラスから見た限りでは、埠頭を回った裏側は造成中の港があった。そちらの方には人影がなかったので、とにかくそこを目指す。
「異常ないかー?」

「あるわけないだろ。上の連中、適当な指示ばっか出しやがって。なんだってこんなとこに逃走捕虜が来ると思ってんだ?」

「あはは、確かにな。ティターンズ様の下請けで忙しいんだ。なんだっけ、ナントカ研究所だかなんだか知らんが、自分たちのケツ くらい、自分らで拭けってんだよ」

「おいおい、研究所から来てる士官殿に聞かれないようにしとけよ、出ないとお前も改造手術の実験台になっちまうぞ?」

「うるせぇ、だいたい、お前が話題振ってきたんじゃねえか」

「そうだっけか、忘れたな、ははは!」

警備兵の談笑する声が聞こえる。

 グッと緊張が高まって、胸の高鳴りが大きくなる。ニケの腕が、体に絡みついて来た。

俺はニケの体にまわした腕を少し強めに引き寄せて、大丈夫だ、と伝えてやる。

チラリと見やったニケの顔は、恐怖にゆがんでいた。

 船から、500メートルほど離れた。もう少しで、埠頭の先を抜けられる。

後ろから来るサビーノも、ハンナもレオナも大丈夫そうだ。もうすこし…もう少しだ…。

 ふっと、目の前の海面が明るくなった。サーチライトの1機が、こちらを向いたのだ。心臓が一瞬、止った。

すぐさまその場に留まって、ライトの動きを注視する。下手に動けば、逆に見つかる。焦るな…!

 そんなとき、タンタンと言う妙な音が聞こえた。

俺はすぐにその音の方を振り返るとそれはちょうど背後から、進んでくる船のエンジン音の様だった。まさか…やつらの船か…?

 俺はそう思って、水中でベルトに差してあった拳銃を握る。

 サーチライトがその船を照らし出した。それは、漁船だった。



「そこの船!とまれ!」

岸からそう叫ぶ声が聞こえる。

漁船は、ちょうど俺たちを堤防から隠すような位置まで進んで、エンジンを止めた。

 まずいな。距離が近すぎる。あの船に注目が集まっている今、この船の陰から抜け出すなんてことは出来ない。

潜ればなんとかなるかもしれないが、ニケとサラにエヴァは泳げないと来ている。

俺はニケを引っ張って潜るくらいはできるが、ただの補給士官のハンナやスペースノイドのレオナにそこまでできるとは思えなかった。

 「へーい、なんです、この騒ぎは?」

船の上に人が現れて、警備兵と会話をしている。30メートルはあるだろうか、どちらも大声で怒鳴っている。

「貴様は、地元の人間か?」

「あぁ、はい。つっても、対岸のマンドラですけど」

「なぜこんなところを航行している?」

「いやあ、今夜獲れたもんをこっちへ運んでおこうかと思ったんですが…」

「この状況を見てわからんのか!厳戒態勢だ!すぐに立ち去れ!」

 ふと、船の上に、別の人影が見えた。金髪の女性だ。彼女は、船の操舵室の壁に隠れて、俺たちに手招きをした。

 なんだ、あいつ?俺たちを助けようってのか?どうする?乗るか?しかし、見ず知らずの人間をこの状況で信用して良い物か…

だが、そうは言っても、現状、このまま泳いで行くより、船に乗せてもらった方が、良いことに違いはない…どうする?

 「へーい。明日の朝にゃ、終わってますかね?」

「今夜のうちにことが済めばな」

「わかりやしたよ。なら、仕方ねえ。明日の朝に出直すとしますわ」

まずい、会話が終わっちまう。

「マーク…!」

サラを抱えたハンナが寄ってきて、俺にそう囁く。

 迷ってる暇は、なさそうだ。

「先に行け」

俺はハンナとレオナにそう声を掛けて船の方に押し出した。サビーノに二人のあとを追わせ、さらにその後ろから俺が追いかける。
船にたどり着いたハンナたちを、女性が物音を立てないよう、慎重に引き上げている。

 ブルンっと船のエンジンがかかった。

 これなら、少し音が紛れる…警備兵と話し込んでいた船頭の機転か?

 俺もなんとか船にたどり着いて、ニケを引き揚げてもらい、自力でデッキまで上がる。

それを待っていたかのように船は方向転換を始める。まだ、サーチライトには照らされたままだ。

船の方向転換に合わせて、岸から死角になる位置に移動を繰り返す。船が岸に背を向けて湾の外へ向かって走り出した。

 追手はない。ひとまず、目先の危険からは逃れられたようだ。

 そう思ったら、ふうと大きなため息が出た。胸が詰まるようだった感覚からも解放される。

今になって、手や足が震えてきた。

まったく、良い根性してるよ、我ながら。



 ハンナ達は、平気だろうか?何か声を掛けてやろうと思って振りかえった俺は、目を疑った。

 俺たちを引き揚げてくれた、あの金髪の女性と、レオナが抱き合っていた。

それどころか、子ども達もその周りにへばりついている。

なんだよ、これ?

「無事で良かったです、レオニーダ」

「レイラこそ…!」

知り合いなのか?また?俺は訳が分からず、ハンナを見やった。ハンナは、そんな様子を見て、感慨深げな表情をしている。

…あの空気じゃ、ハンナも、だよな、当然…

 複雑な気分になったので、立ち上がって船頭のところへと向かった。

彼は操舵輪をけだるそうに回している。歳は、俺より少し上くらいか。

「ありがとう、助かったよ」

俺が言うと、男はこちらを振り返って

「礼には及ばないよ。間に合ってよかった」

と笑った。



 「あんた達は、一体、何者なんだ?」

あっちは取り込み中なので彼に聞いてみる。すると彼は肩をすくめて

「俺は、今は、レイ、と名乗ってる」

レイ―――?まさか

「まさか、あんたが、アムロ・レイか?!」

俺は興奮して聞いてしまった。しかし、当の彼は不愉快そうな表情をしながら

「そう言うことになってる」

とつぶやくように言った。

「どういうことだ?」

わけがわからずに尋ねると、男は少し考える様なしぐさを見せて

「ジョニーの旦那から、話は聞いてないのか?」

と逆に聞き返してきた。ジョニーから?なんだ?ジョニーの知り合いでもあるってのか?

待てよ、確か、あのとき、ジョニーは仲間に連絡はつけた、と言っていた。

もしかしてこいつらが?

「いや、なにも聞いてはいない。どういうことか、説明してくれないか?いまいち飲み込めていないんだ」

俺はそう言って彼に説明を求める。頼む、俺にも理解できるように教えてくれ。

 男は、ふうとため息をついた。

「仕方ない…どこから話すか…まぁ、自己紹介だな。俺は、そもそも、ゼロ・ムラサメ、と呼ばれていた」

男は、そう切り出した。ムラサメ…?あの、ムラサメ、か?

「ムラサメ研究所と、なにかつながりが?」

「俺は、強化人間だ。ムラサメ研究所で、研究の一環で試行的に強化を受けた」

―――強化人間…

これまで、その名を耳にしたことはあるし、これまでもずっと俺の頭の中を飛び交っていた名だ。

この男が、「それ」なのか。

「ゼロ、ってのが気に入らなくてな。今は、名前はいくつかある。

 一番気に入ってるのは、ジーク、ってやつなんだが、そいつも今は名乗れない」

そうか、ゼロの頭文字、Zを取って、Zeke。それに確か、ゼロをニホン言葉でレイ、と言うはずだ。

だが、アムロの方は、どういうことなんだ?

「アムロ、ってのは、どうしてなんだ?」

俺が聞くと、男はさらにイヤそうな顔をした。

「今は、影武者ってことになってるんだ。俺があんな奴の代わりをしなきゃならないってのは、腹立たしいが…」

 そうジークは言った。

「影武者?あんたはアムロ・レイを知ってるのか?」

俺がさらに聞くと、男は、ふうとため息をついた。なんだって言うんだ?

そう思っていたら、男は言った。

「察しの悪いやつだ。オールドタイプだな」

な、こいつまで…?




 「まぁ、良い。説明しよう。俺や、あっちにいるレイラ・レイモンドも、それから、ジョニーの旦那も、

 あと、興味津々のそのアムロ・レイも、カラバに所属している」

―――カラバ!?

 カラバは、反地球連邦を掲げた、平たく言えば、反政府組織だ。地球を我が物顔で「占拠」し、

選民思想的な発想で人々を宇宙に送り出し、スペースノイドを忌み嫌う連邦政府を糾弾しようとしている、あの…

「アムロ・レイは、ご存じのとおり、有名人。俺の他にも、何人か『代わり』がいる。

 それだけ、居場所を探られたくないらしい。だから、先に言っておくが、あんた達にも会えないだろう。

 それに、あんな奴に会ったって、あんた達を助けられるとは思えないしな」

なんだろう、この男、アムロ・レイに対して、何かイヤな印象でもあるのか?ずいぶんな言いようだ。

いや、だが、待て。今はそこを気にしている場合ではない。

「それで、何だって俺たちを助けてくれるんだ?」

すると彼は、無表情のまま

「ジョニーの旦那からの依頼でね。俺は乗り気じゃなかったんだが、

 相棒のレイラが、そいつらの知り合いかもしれないと言う話だったから、引き受けた。

 これは、別にカラバとしてあんた達を支援しているわけじゃない。ジョニーの旦那の気まぐれさ」

と言った。

 ジョニー…まさか、ここまで手を回していてくれるなんて…。

「そ、そう言えば、ジョニーは無事なのか?」

「旦那の方には、別の人間が行っている。あれで、結構な重要人物なんだ。あっちの救出は、カラバの主力が担当する。

 だから、あの人の心配はしなくても良い。今はあんた達だ」

彼はそう言って俺を見やった。

「ジョニーの旦那は、脱出を済ませたら、カラバのバックホーンにあんたらの保護を依頼するつもりでいる。

 名は出せないが、その組織なら、あんたらを安全にかくまうことができる…

 政財界や、軍事企業にまで顔の効く組織、と言えば、あらかたの察しはつくだろう?」

言いたいことは、分かる。おそらく、秘密裏にカラバへの出資をしている連中のことを言っているんだろう。

それほどまでに、力のある組織が後ろ盾についてるってことか…

だとしたら…俺たちの安全は、ジョニーが救出されてからその組織に保護を認めてもらえるまで!




 俺はそこまで聞いて顔を上げた。すると、彼はニッと笑って

「そう。あんたらはそれまで逃げ延びなきゃならない。俺たちにも、カラバの任務があるから、ずっとは守ってやれない。

 とにかく、俺たちは旦那との約束通りにあんた達をここから逃がす。そこから先は、あんたが頼りだ」

と言ってくれた。ジョニーの救助がいつになるのか、なんてことはまだわからない。保護をしてくれるかすら、不透明だ。

だが、俺にとってはそんなことはどうでもよかった。

今まで逃げて回っていただけだが、もしかしたら、あいつらを安全に生活させてやれる場所へ連れて行ってやれるかもしれない。

俺たちも、そこに厄介になることもあるいは…。

これまでのように安全や安心が用意されていないのとは違う。

追われる心配がなくなる場所に行くことができるという可能性があるのなら、それは俺たちにとっては、何にも代えがたい希望だ。

それから彼は、ふと、思い出したように

「そういや、名前、聞いてなかったな」

とこっちの顔色を窺ってくる。

「マーク。マーク・マンハイムだ。よろしく頼む」

俺は名乗ると、彼は満足そうな表情を浮かべた。

「マーク、か。俺は…そうだな、やっぱり、ジーク、と、そう呼んでくれ」

ジークは、そう言って笑った。


つづく!

おお、まさかのゼロさん。そんでもって>>1

乙乙
ゼロにレイラ!!
マジ胸熱!!
あの懐かしき日々がよみがえる…

二度と言わないの直後にデンかよww
乙!

>>90
感謝!立ち位置的に扱いやすかったのでww

>>91
特別な思い入れがあったら…いろいろ申し訳ないww

>>92
感謝!
いや、お約束かな、とww


昨日はいろいろあって投下できませぬでもうしわけない。

今回もちょっち短いけど落とします。

そして、残弾尽きます。

明日投下できるかは今晩これから頑張れるかどうかです。

気長にお待ちください。


では、投下いきます!



 俺たちは、それからジーク達が隠れ家に使っているという、真新しい平屋の家に案内された。

この一帯は、コロニーが落ちた際の衝撃波と地震で壊滅的打撃を受けていたと聞く。

そんな状態から街を再建している最中で、どこに建っている建物を見ても、新しさが目に付いた。

この家には庭には、今はカバーが被っていて中までは見えないが、まるでハイスクールにあるような大きなプールまで付いている。

 建物自体は豪邸と言うには程遠いもので、あんな豪華なプールが付いているのが、なんだか不自然に思えた。

 俺たちは家に着くなり、シャワーを借りて、それから着替えも用意してもらった。

ずいぶん夜も更けたが、やっと食事にもありつけた。

 子ども達は、久しぶりに会ったレイラと一緒に寝るんだ、と言って聞かず、

結局レイラが引き受けてくれて、彼女の寝室で寝ることになった。

俺とハンナ、それからレオナは別の部屋をあてがわれ、ジークはリビングのソファーに横になった。

申し訳ない、と謝った俺に彼は

「まぁ、ゆっくりしていけよ。先は長いかもしれないんだ」

と言ってくれた。どこか、気位が高い、と言うか、得体の知れない自負を持っているように感じられる彼だが、

気遣いのできるこの感じは、ジョニーと通じるものを感じられた。

 部屋に入って寝ようとしていたが、先ほどの緊張のせいか、どうにも目がさえてしまっていた。

俺は、レオナやハンナを起こさないようにベッドから起き上がると、部屋の勝手口からそっと庭に出た。

 海辺の街ではあったが、陸の方から吹いてくる風で、さらっとしていて気持ちが良い空気があたりを包んでいた。

 煌々と月が輝いている。

 ほんの数時間前まで、あんなに緊張しっぱなしだったってのに。こんな良い夜風に当たっていると、それを忘れてしまいそうだ。

いや、今ならそれも構わないのかもしれない。


 この家についてから、ジークの相棒だというレイナから話を聞いた。

彼女は、ジオンのニュータイプ研究所、フラナガナン機関にいたらしい。

レオナとは古い仲だったとのことだったが、レオナは、1年戦争のさなかに、

他の数名のスタッフや被験者とともに研究所に所属するとある博士に連れ出され、地球に亡命した。

レオナが亡命してしばらくしてから、サビーノ達はフラナガン機関へ連れてこられたようだった。

その頃には、すでに強化人間の実験を受けていたレイナだったが、終戦間際の混乱と、子ども達の「処分」の情報を聞きつけ、

ジョニー達と結託して彼らを救い、ジョニーとともに追手と戦ったという話だった。

 レイナはその後、ジオン残党軍を渡り歩き、その戦闘のさなかに連邦軍の兵士として宇宙に上がっていたジークと出会ったそうだ。

強化人間同士と言うこともあったのか、お互いは惹かれあって、ともに地球へ逃げてきたらしい。

強化人間の技術と言うのはまだ未成熟で、精神に大きなアンバランスを生じさせるというのだ。

レイナの話では、そのアンバランスな部分をジークとお互いに補てんしあって、

なんとか正常な状態まで回復することができたのだという。

 その、フラナガン機関、と言うやつが、問題の根本なのかもしれない。ふとそんなことを思って、俺は首を振った。

 違う。そうじゃない。それは、言い訳だ。そもそも、今、ニュータイプやスペースノイドを狩っているのはジオンではなく、ティターンズ。

そして、強化人間としての材料を欲しているのは連邦の研究所だ。もはや、なにが悪いなどという話ではない。

どっちにしたって、胸糞悪いことに変わりはないんだ。

 キイッと音がした。

振り返ると、勝手口のドアを開けて、レオナが出てきていた。

「眠れないの?」

「あぁ、うん」

そう聞いて来たレオナに、俺は答えた。

 レオナは、芝生の上をサクサクと歩いてきて、俺の隣に座り込んだ。それから、チラッと俺の顔を見て

「黙ってて、ごめん」

と小さな声で言った。

 レオナの、過去の話だ。まぁ、正直、レイナの口からきいても、大した驚きはなかった。

むしろ、納得できるところの方が多くて、安心したくらいだ。

「別に気にするな。あぁいう話ってのは、タイミングが大事だったりするからな」

俺がそう言ってやると、レオナはまぶしい顔をして笑った。やはり、その笑顔は何よりも明るくてまぶしい。




「も、もう隠し事はないのか?」

すこし動揺してしまって、話題を替えようとそう聞いてみる。すると、レオナはその笑顔から一転してシュンとした表情になった。

「…妹たちが、まだ、ジオンにいるの」

彼女は言った。そりゃぁ、そうだよな。いくら被験体だからって、家族くらいいるだろうな。しかも、妹か…それは…

「心配だな」

そう言ってやると、レオナは

「うん」

と短く返事をした。

 まずいことを聞いたな。空気が重くなっちまった。なにか、明るい話題はないかと思っていると、不意にレオナが

「ね、ハンナとは、幼馴染なんでしょ?」

と聞いて来た。あぁ、その話題も、なんだか居心地良くなさそうな雰囲気があるんだが…

「あぁ、まあな」

そんなことを思いつつ返事をすると、レオナは「そっかー」とつぶやいて笑った。

なんだよ?そんな俺をよそに、彼女は

「恋人同士、なんでしょ?」

とさらに聞いて来た。まったく、そう言う話もやめてほしいんだがなぁ。

「まぁ、そうだな」

俺が答えると、レオナはまた笑った。それから何を言うかと思えば

「そっか…うらやましいな」

と口にした。


 うらやましい、のか。まぁ、そうかもしれないな。

妹たちのこともそうだが、他に家族も、友達も、幼馴染みたいなやつも、ジオンにはいたんだろう。

そういうやつらと引き離されて、こんなところに連れて来られて…。

「寂しいのか?」

俺が聞いてみると、レオナは何か、意外そうな顔をした。

あれ、違ったのか?マジマジとその顔を見つめてしまった。

しばらくしてレオナは吹き出すと

「あー、そうか、そうだよね」

と笑いだした。

 いや、まて、なにが「そう」なんだ?

まさか、こいつ、俺の心を読んだのか?ニュータイプってのは、そんなことまでできるんじゃないだろうな?

「おい、どういうことだよ?」

俺が問い詰めると、レオナは笑って

「んー、マークは、優しいな、ってこと」

と言って、また明るい笑顔を見せた。

 いや、どういうことなんだよ、それ。もっと意味が分からないぞ?

 混乱している俺を見て、レオナは声を上げて笑い出した。くそ、まったく、ニュータイプって人種は、本当にわけがわからない。

 まぁ、でも。

 別にそんなことは、どうだっていいだろう。すくなくとも、もう、こんなところまで一緒に来ちまったんだ。

俺自身のためにも、ハンナのためにも、無事に逃げ通して、ジョニーの助けを待つほかはない。

それに、きっと、安心できる場所にたどり着いたときに、ハンナも、レオナも、サビーノやニケや、サラにエヴァも、

今以上の笑顔を見せてくれるだろう。そのために、今を必死で生きるのも、悪くない。

 夜風がまた、サワサワと吹き抜けて行った。明日からは、また怒涛の日々だろう。

今、この時間だけでも、俺はこの安心感を味わっておきたかった。

「ふふ、やっぱり、マークは優しいね」

唐突にレオナがそう言って笑ったが、俺はもう、気にするのはやめた。


つづく!


おや、レオナさんの様子が…?

ではでは、これから続き頑張って書きますです。

乙デン。
ゆっくりでも良い、楽しみに待ってる。

乙ぅ!次も楽しみにしてます!
しかしまぁ、マなんとかさんといい…デンといい、ネタに困りませんなw

いきなり登場するレイナ

>>99
あざっす!
展開の構想はあるのに、文章が出てきませぬ。

>>100
あざっす!!
デンがここまでイジイジされるとは思わなんだ。

>>101
ぬぁぁぁぁ!
まーたやらかした!
誰だよ、レイナって誰だよ!w
脳内補完よろしゅう(笑)

得意技じゃねーか、むしろ誇っていいレベル

>>103
それは…受け入れかねるぜww


つづき行きます!

 明け方、俺は物音で目を覚ました。

 途切れ途切れの意識を覚醒させて、耳を澄ます。その音はリビングの方から聞こえてきていた。

誰だろう、ジークか?リビングへの扉を見やると、かすかに明かりが漏れている。

腕時計に目をやると、時間はまだ、朝の5時前。

 俺は起き上がって、ドアまで歩くと、ノブを引いた。

 そこには、奇妙な光景があった。リビングの真ん中に、サラとエヴァが突っ立っている。

その様子を、ジークが不思議そうに見つめている。

 この光景には、見覚えがあった。これは、あのとき、ホテルでニケが起き出してきたときと、似ている。

 俺は、三人の方へ近づいて行く。

しかし、かなりそばに近づいても、ジークもサラもエヴァも俺に気付いている様子はない。まぁ、それにも慣れた。

 「お姉ちゃんが言ってる」

サラが口を開いた。

「お姉ちゃんってのは、誰だ?」

「白鳥の、お姉ちゃん」

エヴァが言う。

 二人とも、目を開けてはいるが焦点が定まっていない。それにしても、白鳥のお姉ちゃん?

そう言えばあのとき、ニケも何か言っていた。良く聞き取れなかったが、ハク、ちゃんと言う言葉は覚えている。

二人が言う、白鳥のお姉ちゃん、はニケの言っていたやつのことか?

「行かなきゃ」

サラが言った。

「アムロ・レイに会わなきゃ」

エヴァもそう言う。

「やつは、こんなところにはいない」

そう言ったジークを見やると、彼は手に何か紙切れを持っている。

「行かなきゃ」

「行かなきゃ」

二人はそう言うと、まるで何かに操られるように、フワフワとした足取りでレイナの寝室の方に戻って行った。

 俺は相変わらず、その姿を呆然としたまま見送っていた。

「あぁ、居たのか」

不意に、ジークの声がして、我に返った。

「な、なぁ、今の…」

俺がどう聞いて良いかわからず、戸惑っていると彼は、ふうとため息をついた。

だが、昨晩のように、イヤそうな感じではない。

むしろ、すこし困った様子にも見える。

「まぁ、座れ。可能な限り、説明してやる」

そう言ってジークは俺に席を勧めた。

 ジークに言われるがままに、空いていたソファーに腰を下ろして、彼の言葉を待つ。

彼は顎に手を当てて、何かを必死に考えるようにしている。しばらくして、彼は俺の顔を見やって

「あんた達は、どうしてここまで来たんだ?」

と聞いて来た。


 俺は、あの日のホテルでのことを事細かにジークに説明した。すると彼は、ふーん、と鼻を鳴らして

「なるほど…あの声は、そう言うことだったんだな」

とさも、納得したようにつぶやいた。

「なぁ、それってどういう…」

「あぁ、待て、分かってる。今、説明するから、すこし時間をくれ」

俺が言いかけると、ジークはそう言ってまた何かを考え始める。俺はとにかくジークを待った。

ハンナやレオナでは、説明できなかったことを、彼は説明してくれるように思えた。

彼からは、ニュータイプとは違うなにかを感じていた。強化人間だからなのかもしれない。

彼はニュータイプ的な力を持つ以前に、俺と同じ分からない側の人間だったのかもしれない。

「まず、そうだな。今のと、それから、その何日か前の出来事が、なんなのか、だ」

ジークはそう言って俺の顔を見た。俺は、黙ってうなづく。

「あれは、おそらく、誰かの思念を感じ取っている…いや、あいつらに向けた思念、と言った方が、より正確か。

 それを、伝えに来てくれたんだ」

「思念?」

俺は聞き返す。おそらく、それが、俺がもっとも理解できないポイントだ。

ジークは、また考えるようにうつむいてから口を開いた。

「フラナガン機関の名づけ方で言えば、サイコウェーブ、という特殊な脳波なんだ。

 平たく言えば、テレパシーのようなものに近い」

「それを、子ども達が『受信』した、と?」

「そうだ」

にわかには信じられない話だ。テレパシーなんて、SF小説の中だけの話だろう?そんなことが実在するってのか?

「それで、誰がそれを?」

俺は、その発信者について聞いてみる。すると、ジークは首を横に振った。

「誰かは分からない。俺には別な声が聞こえていたが…

 ただ、二人の言っていた、白鳥のお姉ちゃん、と言うイメージは共有できた。

 白鳥の化身、と言うのか、いや白鳥になった女性と言うべきか。誰かは分からないが、そう言う人物だ」

「敵なのか?味方なのか?」

「恐らく、味方だ。俺にはこう言って来ていた。『子ども達を守って』と言うのと『導いて』と言うこと」

ジークには違うことを言ってきている?ダメだ、やはりわけがわからない。

 だが、ジークなら、全体の状況を把握したうえで、俺にわかりやすく説明する努力をしてくれるかもしれない。

このまま、逃げ回るにしたって、あの子ども達の行動や、言葉が一体何なのか、俺には知っておく必要がある。

「頼む、ジーク。あんたの考えで良いから、教えてくれ。これまで、ずっと思ってきた。

 いったい、俺たちは誰のどんな意思で、どこへ向かわされているんだ?どうか、頼むよ。

 俺はあんた達のことを嫌ったりはしない。だが、分からないことは正直、辛いんだ。

 わからなければ、どう助けていいかも、どう支えていいかも、何を目標にしていいのかも、分からないんだ。

 だから、頼む。あいつらを守るためにも、知っておきたいんだ」

俺はそう言って、ジークに頭を下げた。


 ジークは一瞬、戸惑ったような表情を見せたが、しばらくして、コクっとうなずいた。良かった…

「だが、うまく説明できるかは、保証できない。それだけは、心して聞いてくれ」

ジークがそう言ったので、今度は俺が黙ってうなずいた。

 するとジークは、再び何かを考え始める。どれくらいの時間、黙っていただろうか、ふっと顔を上げたジークはニコッと笑って

「その前に、コーヒーでも入れるか」

と言って立ち上がった。俺の緊張感が伝わってしまったのかもしれない。

すこし申し訳ないと思いつつ、コーヒーを入れるのを手伝って、ソファーに戻った。

コーヒーの他に、朝食用に買っておいたと思われる、シナモンロールとボイルしてあるソーセージも皿に盛って来た。

 ふぅ、とジークはため息をついて、俺の顔をみやった。俺も彼を見つめてうなずくと、

「それじゃぁ、話す」

と言って、語り始めた。

「一言で言うと、あんたらはその白鳥の女性に導かれている。彼女は、なんとか子ども達を助けたいと思っている。

 最終目的地は分からないが、彼女が言う、アムロ・レイは、本人のことではないと思う。

 これも、勘だが、俺やジョニーの旦那のように、ある種のニュータイプや強化人間のことを指しているか、

 あるいは、間接的にアムロ・レイと関係を持っている人物を指しているんだろう。

 あんた達はアムロ・レイを探しに来たが、そもそもここにヤツはいない。

 その代わりに、俺たちやジョニーの旦那と出会った、それが理由だ」

「その、女性ってのは、何者なんだ?」

「正直、そこまでは分からない。それは、あいつらが目を覚ましてから聞いた方がいいんじゃないかな。

 ただ、かなり強力なニュータイプだと言える。これだけの鮮明なイメージを維持して遺せるくらいだ」

「維持…?遺せる…??」

「あぁ、いや、そこは気にするな。理解できないと思うし、する必要もない」

ジークはそう言って苦笑いを浮かべた。

 と、とにかく、俺たちを見ている誰かがいるということだな?

そいつは、その、白鳥の女性ってのは、子ども達を助けるために、協力してくれそうな、

彼女の言葉を明確に伝えることができて、なおかつ協力を得られそうな人物と俺たちを引き合わせて、

どこかへ運ぼうとしている、と。

 いや、どこかへ、と言う目的地はないのかもしれない。

ジョニーのように、保護をしてくれる可能性のある人物へ引き合わせることが目的か、

あるいは、最終的には、アムロ・レイの下へたどり着くのか…


 「俺たちは、あの子ども達の妙な言葉に従うのが、ベスト、と思っていいのか?」

「まぁ、そうだろうな」

俺が聞くとジークはコーヒーをすすりながら答えた。

 これを受け入れろっていうのか?やはり、俺にはまったく理解できることじゃない。

どこかにいる誰かが、俺たちを見ていて、そして助かるように夜な夜な子ども達を返してメッセージを送ってきているなんて…

そんなこと、どうして信じられるんだ?どうして理解できるんだ?

 ジークは俺の表情を見ながら、相変わらず、ずずっとコーヒーをすすっている。

その表情は、どこか、そんな俺を憐れんでいるようにも受け取れた。

 それもそうだろう。そんなわけも分からないものに、俺は自分の運命を、

ハンナやレオナや子ども達の運命を託さなきゃならないなんて。

こんな情けなくて滑稽なことがあるかよ!

 でも、それでも、俺は、それに従うほかに選択肢がないんだ。合っているか、間違っているかではない。

少なくとも、その言葉に導かれて、俺たちはこうしてジョニーやジークとめぐり会った。

そして、そうしていなければ、俺たちは、おそらくティターンズか研究所の連中につかまって、

そして殺されるなり、実験の材料に使われるなりしているはずだ。

 俺には、なにもできないのか…なにも、何一つ…。

 俺はいつのまにか、両方の拳を固く握りしめていた。


つづく!

息も絶え絶え…なアップです…

…ラ、…ラ、…ラ、…乙…

>>110
作者はまた間違えた!
なぜだ!

ぼや~( ゚д゚)
だからさ。

だから言ったろ、得意技だと

ジョニー・ライデンってニュータイプだったの?

白鳥のお姉……はっ!
白鳥麗子お嬢様!

>>112
若さゆえの過ちではなくて、ぼや~としとるせいか…
まぁ、おっさんだしな…

>>113
認めん!認めんぞ!!ww

>>114
詳細は不明ですけども、強化人間とニュータイプの中間くらいなんだろうな、と。
お薬を飲んで能力を強化しようとしてた、なんて設定もありますので…
なんの話かと思ってググったらえらい画像が出てきたぞ!やめれ!ww


こんばんわー。
頑張って書きました。

今回の投下、流れの関係上長いですが、お目通しいただけると幸いです。


いきますっ


 「地球に降下してきたときはすごく怖かったけど、こうしてゆったり飛んでるのは悪くないね」

傍らで、レオナがそんなことを言いながら窓の外を眺めている。

 俺たちは、空にいた。

 ジークの操縦する小型機で、オーストラリアから北西、メキシコへ向かっている。

今朝方、フラッと起きてきたサラとエヴァが描いた地図に従って、だ。

 「ジークだ。レイラ、そっちはどうだ?」

「異常はないわ。敵性反応も、いまのところはなし」

ジークが無線でレイラと話している。

 レイラは、カラバから支給されているという、モビルスーツ移動用の飛行機を遠隔操作しながら、

自分自身は俺たちの護衛のために、そのドダイの上でモビルスーツに搭乗している。

 そのモビルスーツを見て驚いたのは、それがガンダムタイプのヘッドパーツをつけていたことだ。

しかし、機体構造は既存のガンダムタイプのものではない、初めて見るものだった。

新型なのかと尋ねたジークは、不愉快そうに

「あれは、アナハイム社の廉価機体だ。ネモ、とか言ったな。

 一応、ある程度のチューンアップはしてあるが、性能はそこそこ。ガンダム頭なのは、分かるだろう?」

と言った。なるほど、アムロ・レイの影武者を務めるためでっち上げられたブラフ用の機体なんだろう。

アムロ・レイの話になると、とたんに不機嫌そうになるジークには申し訳ないことを聞いた。


 「雲がきれいだなぁ」

レオナはそんなのんきな感想を述べている。

 そう言えば、今日は朝から、なぜかレオナが俺のそばにべったりくっついている。

俺は、最初はあまり意識していなかったが、ハンナの視線がチラチラとこっちへ刺さってくるので気が付いた。

レオナが安心してくれていることはうれしいが、どうにも、良い予感がしない。

かといって、それとなく距離をとるのもまずい気もする。まったく、これ以上余計な悩みを増やさないでほしいものだが…

「ね!見て!こんな高さでも鳥が飛んでる!」

不意にレオナがそう言って俺の腕をつかんだ。一瞬、心臓が跳ね上がるような感覚に襲われて妙な汗が噴き出る。

「あ、あぁ、そうだな…」

なんとかそう返事をしたが、チラッと機内の後方に目をやると、ハンナがジト目でこっちをにらんでいた。

いや、ハンナ。別にそう言うあれではないんだ…誤解だ。これは、その、レオナがいけないんであって…

「ジーク」

「ああ、見えてる」

ジークとレイラの会話が聞こえた。

 どこか、緊迫した印象があった。

「どうした?」

聞いてみるとジークはコクピットの外を指差した。俺も、彼の指先を追って外に目を向ける。

すると、はるか上空に何かが見えた。あれは…?飛行機か?デカイ…まさかガルダ級?

「あれは?」

「味方ではなさそうだ。こっちが制圧したアウドムラは、今はこの辺りを飛行している計画じゃない」

「大丈夫なのか?」

「こっちには気づいていないようだ。このまま高度を落としてやり過ごそう。もうじき、陸地が見えてくるはずだ」

ジークはそう言って、飛行機の高度を落とす。雲を抜けて、眼下に海が見えた。

進行方法に視線を移すと、はるか先には、細長く伸びた陸地が見える。あれがメキシコか…

 「レイラ、そろそろ距離を開けよう。着陸できたら、位置を知らせる」

「了解。気を付けて」

 「マーク」

ふと呼ぶ声がしたので振り向くと、そこにはサラとエヴァが居た。

「そろそろ、着陸するから、席についてないと危ないぞ」

俺が言うと二人はしばし見つめ合ってから

「お話」

「白鳥のお姉ちゃん」

と言った。そう言えば、離陸前に聞かせてほしいと頼んでおいたのだ。

そのときは、子ども達は飛行機にテンションが上がっていたので無理に聞かなかったが、

向こうについたら聞きそびれる可能性もなくもない。

彼女たちもそれをわかっているのか、このタイミングで来てくれたのだろう。


 俺は二人をそばの開いていたシートに座らせてベルトをつけさせてから改めて尋ねた。

「その、白鳥のお姉さんについて、教えてほしい。どんな人なんだ?」

「うーん、優しい人」

サラが言う。

「会ったことはあるのか?」

そう聞いてみるが、二人は首を横に振った。会ったことはない、でも、優しいとわかる…

やはり、特殊なつながりでしか認識できていないのか?

「どこの人なんだ?」

「わからない」

「でも、私たちが地球に来た時から、見守ってくれてる」

地球に来たとき…だとすれば、8年前…そんなころから、ずっと彼らを?いったい、なんなんだ?

アムロ・レイだとでもいうのか?いや、記憶が確かなら、やつは男のはずだ。

ジークの話しぶりからしてもそうだ。だとしたら、何者だ…?

 ますます、わけがわからなくなりそうなので、俺は質問をやめた。

これについては、もっと時間と気持ちに余裕があるときに考えた方が良いことなのかもしれない。

今は、無用な混乱と感情を掻き立てられるだけのように思えた。

 「空港が見えた。着陸態勢に入るぞ。シートベルト締めてくれ」

ジークの声が機内に響いた。俺は、サラとエヴァのベルトをチェックして、それから自分もベルトを締め直す。


 機械音がして、窓から見えるツバサのフラップが降りた。空港も視界に入ってくる。

 たくさんの飛行機が並んでいる。賑わいのある街の様だ…待て、なんだ、あのデカイ機体は?

「おい、ジーク、あれ…」

「くそ、連邦軍の輸送機だ…ティターンズか?!」

「空港を抑えられてるってのか?」

俺は息を飲んだ。そんなことされてたら、一発でこちらを発見される。

「離脱する、ちょっと荒っぽい操縦になるぞ!」

ジークはそう言うなり機体を旋回させた。ツバサのフラップが上がって、落ちていた機体のスピードが上がる。

 その刹那、窓の外に何かが走った。光の破線が、上空から地上に向かって伸びて行く。

―――曳光弾?

<こちら、連邦所属のモビルアーマー隊。空港への着陸を命ずる。繰り返す―――

そう無線が響いた次の瞬間には、窓の外に、モビルアーマーらしい機体がかすめ飛んでいくのが見えた。

「くそ!ハメられたのか?!」

ジークがうめく。

「レイラ!援護頼む!」

「了解!市街地方面に進路を取ってください!」

ジークの怒鳴り声とともに機体が大きく傾く。俺は脚を踏ん張って、シートの肘掛をつかむ。子ども達からは悲鳴が漏れた。

いくら小型機と言ったって、旅客用だ。無理な機動をすれば命取りになりかねない。

そうは言っても、モビルアーマーに絡まれているんじゃぁ…!

 「ジーク!右旋回!後方から行きます!」

「頼んだ!」

俺は窓から後方を覗いた。レイラの乗ったモビルスーツを搭載したドダイが急速に接近してきている。

 パッと何かが光った。レイラが発射したビーム兵器だ。しかし、モビルアーマーの部隊はこれをなんなく躱して四散する。

「こいつら!普通の動きじゃない!」

レイラの苦悶した声が聞こえてくる。モビルアーマー3機がレイラ機に襲い掛かる。

打ち込まれるビーム兵器をアクロバット飛行のように避けるレイラだが、思うように反撃が出来ているようすがない。

「くそ!こいつら!研究所の実験体か?!」

「強化人間ってことか?」

「そんなに強い力があるわけでもなさそうだが…ドダイとじゃ、空中性能が違いすぎる!」


 次の瞬間、ガツンと嫌な衝撃が走った。

 見ると、窓の外の翼から煙が吹き出ている。

 コクピットからビービーと言う警報が聞こえる。

「被弾した!レイラ!不時着する!」

「ごめんなさい!援護にいけない!」

「無理するな!こっちでなんとかする!」

ガタガタと機体が震え始める。ギュッと、何かに手を締め付けられた。レオナが、俺の手を握っている。

―――くそ!空中じゃ、俺たちになすすべはないぞ…!

俺は間に座っていたサラとエヴァを、手を握られたままでシートに押さえつける。

 「おぉい!やられてんのはお前か?!ジーク!?」

不意に男の声が聞こえてきた。

 今の声…?!まさか!

「旦那か?!」

「すっとばしてもらって正解だったな!援護する!そこに見えるハイウェイに降りろ!」

それは、ジョニーの声だった。

 窓の外を、真っ赤な何かが横切って行く。あれは!?エウーゴの機体じゃないのか?

噂に聞く、エウーゴの新型のガンダムタイプ…!

「俺がジークを援護する。そっちは、レイラの援護を任せるぜ!」

「言われなくても、そうします!」

別の女性の声も聞こえる。

高度がぐんぐんと下がっていく。フラップが降りる音とともに、足元からも機械音がする。車輪も下ろしたようだ。

眼下には進行方向に、車の居ないハイウェイが伸びている。これなら、行ける…!

「衝撃あるぞ!頭下げろ!」

ジークの叫び声とともに、下から突き上げるような力が加わった。

撃ちぬかれた方の翼のフラップが生きていないせいで、速度が落ち切っていなかったんだ。

 どれくらい滑走したのか、ずいぶんとハイウェイを走って飛行機がとまった。

俺はすぐさまシートベルトを外すと、サラを抱き上げた。

「レオナ!エヴァを!ハンナ!」

「うん!ニケちゃんはオッケー!サビーノ、走るよ!」

ハンナも準備が済んでいるようだった。

 ジークがコクピットから飛んできて、非常用のハッチ解放ボタンに拳を叩きつけた。

ボン!と言う爆発音とともに、ハッチが吹き飛んで、表が見えた。

「降りるぞ!」

ジークはハッチのそばにあったタラップを蹴り下ろして機外に飛び出した。

 俺はハンナとサビーノ、レオナを先に降ろしてから、表に駆けだす。

 飛行機の中では気が付かなかったが、表ではけたたましいエンジン音がいくつも鳴り響いている。

ビーム兵器が飛び交い、地鳴りに近い爆発音が何度も空気を振動させている。

 目の前に、ドダイが降りてきた。その上には、カラバ製の水色をしたモビルスーツが搭載されている。

コクピットが開いて、誰かが降りてきた…あれは、ジョニー?!


 「よう、お前ら!無事でなによりだ!」

ジョニーは、そんな場合でもないだろうに、ニコッと笑って俺たちにそう言ってくれた。それから

「ジーク、俺はやっぱ無理みたいだ。あいつはお前に任せる」

とモビルスーツを指してジークに指示した。

「旦那、あんた、やっぱり…」

「まだ副作用が抜けないだけだ。戦闘になると、頭がグワングワンしちまって、操縦どころじゃなくなる。

 無理なことはするもんじゃないな」

ジョニーは笑った。なんの話をしているんだ?

 「わかった。あんたも、気をつけろよ!」

ジークはそう言ってモビルスーツに乗り込むと、空に舞い上がって行った。

 「さて、逃げるか」

ジョニーはそれを見送ってから、俺たちにそう言った。やはり彼は、にんまりと笑顔で俺たちを見ていた。


 「マーク。話がある」

ハイウェイを降り、乗り捨てられた車を拝借して西へ進路をとっているときに、ジョニーが俺に話しかけてきた。

「こいつを持って行け」

そう言ったジョニーは、一枚の封筒を押し付けてきた。

「これは?」

「上の判断が出るまで時間がかかる。大規模な作戦を計画中で、今は検討する暇がないってことらしい。

 それまでのプランだ。こいつに従え」

「わかった」

俺は、それを胸のポケットにしまう。

 「なぁ、マーク」

ジョニーはそこまで言うと、また改まって俺の名を呼んだ。その彼の表情に、笑顔はなかった。

「お前、俺たちが憎いか?」

―――な、なにを…!?

「どうなんだ、聞かせてくれよ。お前、ニュータイプや強化人間を、どう思ってる?」

 ジョニー達を?いや、彼らだけじゃない。子ども達や、レオナ。ハンナも、今ではその気がある。

彼らをどう思っているか、だって?

 正直、理解の範疇を越えていると感じてはいる。意思を感じるとか、感覚を共有する、とか、話が突飛にもほどがある。

それに、そう言うのを見せつけられるのは、いら立ちを覚えることも事実だ…だが…

「俺たちが、怖いか?」

考え続けて返答ができなかった俺に、ジョニーはさらにそうたずねてくる。

 怖い?…そうか、怖いのかもしれない。自分の理解の及ばない彼らが。

だから、そばにいるとどうしようもなく不安になることもあるし、イラつくのかもしれない。

ニュータイプ同士の会話を聞いていると、言ってしまいたくなる。「頼むから、その話はやめてくれ」と。

ずっと感じていた。

意識はしないようにしていたのかもしれない。

だが、俺は…俺は、ずっとニュータイプや強化人間ってものを、拒否的に感じていた…

「そう、かもしれない…」

そうとしか、答えられなかった。子ども達や、レオナや、ハンナから、どんな視線が突き刺さっているのか、

確認するのが怖くて、後ろを振り向けなかった。


 だが、そんな俺の言葉を聞いて、ジョニーは笑った。

「ははは!そうだろうな。そう言うもんらしいんだ、だいたいの場合。

 中には、ニュータイプだろうが、そうじゃなかろうが、強烈に他人を引き寄せるニュータイプもいるって話だが、

 あいにく、そういうタイプはそう多くない。普通は、アースノイドは、俺たちが怖いものだと感じるらしい…」

ジョニーは続けた。

「それが、理由だ、マーク。俺たちニュータイプとスペースノイドが、目の敵にされる、な」

 何かが、頭を撃ちぬいたようだった。

そんな…まさか、俺が、これまで、こいつらといて、ずっと感じてきていたあの感情が…

あの苛立ちが、あの孤独感が、ティターンズや地球連邦が彼らを嫌い、攻撃対象とする理由だっていうのか?

だとしたら、だとしたら俺は…ずっと線を引いて来ていたように思っていたが…あいつらと、同じだって言うのか?

「マーク。聞いてくれ」

そんな俺の様子をわかっているようだったジョニーは、それでもなお話を続ける。

「俺たちは、誰しもが思っている。心のどこかで、確実に、デカイ、小さいはあれど、みんながみんな感じている。

 この宇宙に、俺たちが誕生して、おそらくずっと受け継がれてきた意思なんだと、俺は思っている。

 俺たちは、叫びたいんだ。

 『俺たちは、戦争の道具じゃない』ってな」


「戦争の、道具?」

「あの機体、見えるだろう?」

ふと、ジョニーが空を指差した。そこには、飛行形態になった、真っ赤なモビルスーツが切り裂くように飛行している。

「あれのパイロットは、そこにいるサビーノ達とほとんど変わらない年頃の子が操縦している」

「なんだって?!」

あれ、あんな動きをしているモビルスーツを、こんな子どもが?

「ユウリ・アジッサって言ってな。1年戦争が終わった直後、

 強化人間の実験台にされそうなところを、アムロが保護したんだそうだ。

 それ以来、ずっとアムロの監視下で、操縦を学んでいた。今では、カラバのエースパイロットだ」

「カラバの、エース…」

「だが、な。俺はあいつを見ていると、悲しくなる」

ジョニーは、静かに言った。

「まだ、子どもだぞ?人の痛みや、自分の心に痛みにも無頓着な年頃だ。

 それなのに、人殺しのために利用され、そしておそらく、誰かに殺されて人生を終えるんだ。

 ただ、かすかにニュータイプの素質があったり、強化人間に適していた、と言うだけで、だ」

俺は息を飲んだ。ジョニーの言いたいことが、なんとなく、伝わってきたからだった。


 「マーク。聞いてくれ。俺たちニュータイプは、戦争の道具なんかじゃない。

 俺たちは戦争に利用され、捨てられていくような存在にはなりたくない。

 だが、残念ながら、俺もジークも、レイラも、アジッサも、どいつもこいつも、戦うことしかできなくなった、

 道具になったニュータイプに成り下がっちまった。でも、そいつらは違う。まだ、戦いを知らない。

 敵を憎む気持ちも、向けられた敵意を暴力で退ける方法も知らない。そいつらは、希望なんだ。

  俺たち道具は、こいつらに先の時代を生きていくニュータイプやスペースノイドが、

 戦い以外のために生きられるんだという証になってほしい。そういう未来を切り開いてほしい。

 だから、お前にも頼む。

 どうか、こいつらを守ってやってくれ。どうか、こいつらを、好きでいてやってくれ。

 俺たちが、憎まれるだけの存在だなんて、そう感じさせないでやってくれ…」

「ジョニー…」

何も言うことなんてできなかった。

 だが、ジョニーの言葉の意味は、

いや、これまで、サビーノやレオナや、ジョニー達の言っていたことが、すべて理解できたような気がした。

彼らは、ニュータイプや強化人間だと言われたその瞬間から、人としてではなく、道具として扱われてきたんだ。

それぞれが心のうちに苦しみを抱えながら、それでもなんとか身を寄せ合おうとした。

そして、身を寄せ合えば、“俺たち”地球の人間に迫害され、攻撃され、命を散らし、実験台にされてきたんだ。

その苦しみこそが、ジョニー達の、ニュータイプや強化人間の、気持ちなんだ…。

「ジョニー…それから、サビーノ、ニケ、サラ、エヴァ…レオナ…」

俺は後ろを振り返った。

 レオナ達は、うっすらと目に涙を浮かべていた。ハンナでさえも…。

「ハンナも…」

ハンナの名も付け加えてから俺は彼らに謝った。

「今まで、すまなかった…。今、ようやく、俺のやらなきゃいけないことが、分かった…」

「マークさん!」

ニケが俺にしがみついてくる。

「そんなことない!マークさんは、ずっとやさしかった!

 ずっと、私たちのことを分かってくれようとして、苦しんでいた!マークさんは、悪くない!悪くないよ!」

ニケは、いつか船の上で見せたような、半分錯乱したみたいになって、そう言ってくれた。

嬉しかったが、それでも、俺は、今まで…。いったい、何をしてたんだ…

 「くそ!」

ジョニーがそう叫んで、車が急停車した。

何事かと思って、前を向くと、そこには、ティターンズの軍服に身を包んだ一団が、バリケードを挟んで、こっちをにらんでいた。


「ティターンズ!?」

「ニケ!下がって伏せてろ!」

俺はニケを後部座席に押しやると、拳銃を引き抜いた。

「ジョニー!左の路地へ!」

「よし!」

俺が叫ぶとジョニーが車を急発進させて、すぐ左にあった路地を曲がる。

 銃声が聞こえた。ガンガン!と車体に当たる音がする。

「頭下げて!」

レオナが叫びながら、子ども達をかばうようにしている。

「研究所の部隊に、ティターンズもか!?どうしてこんなことになってるんだよ!どこからか情報が漏れたのか…

 つけられていたか…」

ジョニーがハンドルを握りながらぼやく。

「マーク!やつら、追ってくる!」

ハンナの声がした。振り返ると、ティターンズの連中と思しき車両が、追いかけてきている。

 「まったく、めんどくさい連中だ!」

ジョニーはため息交じりにそう言いながらまた狭い路地を曲がって、急に車を止めた。

「降りろ!俺が囮になる!お前らは、西の山岳地帯へ!あそこなら隠れる場所が多い!」

「ジョニー!」

ニケが叫んだ。

 俺も、ニケと同じ気持ちだった。だが、今回は、そうも言ってられない。俺はジョニーの胸ぐらをつかんで

「死ぬなよ」

とだけ告げた。

「俺を誰だと思ってんだ。真紅の稲妻、ジョニー・ライデンだぜ?

 そこいらの雑魚にくれてやるには、ちっとばかり、惜しい命だ」

ジョニーはそう言って、笑った。俺も、やっと彼に笑みを返すことができた。

 「降りるぞ!」

俺は車から飛び降りて、後部座席のニケを引きずり下ろした。ニケ、すまない。今は、感慨に浸ってる場合じゃないんだ。

俺たちは車から降りてすぐに、近くにあった、商店のドアを蹴破って中に身を隠した。

 ジョニーの車が急発進して、ティターンズの車両がそれを追尾して行く。

…よし、行ったな…

俺は、それを確認してから、ニケの手を引いて店の裏口から外へ出た。西か。

まずは車だが…このブロックではやめた方がいいな。徒歩で少し離れよう。そこで車を確保してからの方がいい。

幸いそこかしこに乗り捨てられている。戦闘が始まってすぐに、避難勧告が出たのだろう。

あわてて捨てた様子が手に取るようにわかった。

「行こう」

ハンナとレオナに目配せをしてニケの手を歩き出そうと引っ張ったら、ニケは俺の手を振りほどいた。

振り返ると、彼女は、キュッとした強い視線で俺を見据えて

「マークさん。私、大丈夫。私も、頑張る!」

と半べそな顔で言い切った。なんだか、そいつがおかしくて、声に出して笑ってしまった。


 商店やマンションの立ち並ぶ、細い生活道路を走る。

 息が切れて、胸が熱くなる。心臓がバクバクして、胸が苦しい。まったく、普段からもう少し鍛えておくんだった。

事務屋って、こういう時には役に立てないな…

 そんなことを思いながらも、路地を行く。

 不意に、エンジン音が聞こえた。車だ…ティターンズか?俺は脚を止めて、また、すぐ近くにあった酒屋のドアを蹴破った。

ニケたちを中に押し込もうとした瞬間、エンジン音が急に大きくなって、20m先に車が現れた。

「いたぞ!」

ティターンズ!

 身をひるがえして、店の中に飛び込んだ。中では、ハンナ達が肩で息をしながら、俺を見ていた。

 「見つかった!裏から逃げるぞ!」

そう言って立ち上がろうとした俺は、体に異変を感じた。なんだ?脚が…

 不思議に思って、自分の体を見やった。

 俺の左脚から、大量に出血していた。あわてて、ズボンを引き裂いて、患部を見る。底にはぽっかりと丸い穴が開いていた。

撃たれたのか…!?

 俺は、慌てて傷口を縛るために、シャツの袖を破く。

その間に、レオナがサビーノと一緒になって、ドアをテーブルでふさいだ。

 「マーク」

ハンナが俺を呼んでいる。待ってくれ、ハンナ。縛り終わるまで、もう少しだから…

「マーク」

分かってる…ハンナ、俺も、分かってるんだ…

「マーク!」

ハンナはそう言って、俺の体を抱いた。

 「ハンナ…わかってるだろ?」

俺は、脚を縛り終えた手を、ハンナの体にまわした。ハンナの体は、震えていた。泣いているんだろう。

 分かってるよ、ハンナ。こんな体で、走ってなんて逃げられないとこぐらい。

だとしたら、俺にできることなんか、ひとつしかないだろ?

「マーク…」

まだ、俺の名を呼んでいるハンナの、俺の好きだった、彼女の自慢のブロンドを撫で、頬に手を添えてやる。

でも、そうしながら、俺はハンナを体から離した。

「すまない…」

俺が謝ると、ハンナは首を横に振った。

「ううん…私こそ…」

ハンナは、ボロボロと泣きながらそう答える。俺は、笑ってやった。なるべく、こいつらが、俺のことを気にやまないように…。

 それから、ハンナには、キスをしてやった。短くて、浅い、記憶に残るだけの、キスを。


それから、俺は、自分の認識票を引きちぎって、ジョニーにもらった封筒と一緒に、ハンナのポケットに突っ込んだ。

「あとから、追いつく。ここは任せて、先に行け」

心にも思っていないことを言ってみたけど、ハンナは表情を変えずに

「うそつき」

とつぶやくように言った。だろうな。そんなセリフ、誰だってそう思うだろう。

「頼んだ」

「…うん」

ハンナは、涙に頬を濡らしながら、うなずいた。それから、

「レオナ。みんな、行こう」

と、彼らにかぶりを振った。

 「マーク…」

今度は、レオナが抱き着いて来た。おいおい頼むから、早く行ってくれよ…泣くに泣けない。

 そんなことを思っていたら、唐突に、レオナが俺に唇を押し付けてきた。

何事か、と思って目を見開いていたら、視界に苦笑いしたハンナの顔が入ってきた。

なんだ?おい、ちょっと待ってくれよ…

 呆然とする俺にかわるがわる子ども達が抱き着いてくる。

そう言えば、ジョニーが行くって言ったとき、ニケは大泣きだったな。今は、口をへの字にして頑張っている。

「ニケ。お前は、強いし、優しいよな…逃げ出してきた車で、ポテトくれたのは、うれしかったよ…

 これからも、みんなには優しくして、心配してやってくれな」

俺が言うと、ニケは黙ってうなずいた。

「サビーノ。気の利いた格闘術、教えてやれなくてすまなかったな。でも、ハンナは俺の大事な人だ。

 それに、レオナも、ニケもサラもエヴァもだ。みんなが危険なことしないように、良く見ててやってくれな。頼むぞ」

「うん」

サビーノは拳をぎゅっと握っていた。

「サラ、エヴァ。二人とも、仲良くな。他のみんなとも、助け合って、支えてやってくれ」

「うん」
「うん」

二人も返事をしてくれた。

「レオナ」

最期に、レオナを見た。彼女もまた、泣いていた。

「子ども達と、ハンナを、頼む」

「うん…」

レオナも、返事をしてくれた。


 良かった…こいつらなら、きっと、安全なところへたどり着ける。大丈夫だ…大丈夫…。

なんの根拠もないのに、俺はなぜかそんな風に感じていた。

根拠はなかったが、ハンナもレオナも、子ども達も、力強い目をしていてくれていたから、きっとそう感じたんだろう。

俺なんかが、こんな風に見てもらえるなんてな…嬉しいことだ。

「行け。絶対に、無事に逃げ切れよ!」

俺は腹の底から怒鳴った。

「行こう!」

ハンナが声を上げてニケの手を引き、先頭になって裏口の方から外へと飛び出していった。

 バタバタと遠くなっていく足音がやがて聞こえなくなった。

 ふぅ。

 思わず、ため息が出た。まったく、とんだことになったよな。

あいつらと一緒に逃げて来ちまったばっかりに、こんなところで、命の危機だ。まだ、死んでやるつもりはないが…

まぁ、俺の意思ばかりでどうにかなるほど甘くない状況だってのも分かってる。

 ふと、幼い頃の、ハンナとのことが頭に浮かんだ。一緒に遊んだり、ケンカしたり、ハイスクールでのことや、

入隊したてのころ…故郷の街や、すこし離れたところにあった、湖で過ごした日のこととか…

―――あぁ、なんだ、これ。走馬灯ってやつなのかな?

 死ぬ気はない、とか言いながら、ちゃっかりその覚悟をしているらしいな。まぁ、いい。

なるだけここで奴らを引き付けて、壮絶に戦ってやる。俺の武器は、手にしていた拳銃これ一丁だが…。

 俺は撃たれた脚を引きずって、店のカウンターの中に身を隠した。どこからでも来い…無駄死をするつもりはないんだ…。


 カシャンと言う、小さな音がした。何かが割れる音…。次の瞬間、店内に何かが飛び込んできた。

 黒くて、棒の付いた、何か―――

 手榴弾―――!!


バッ!!!


 な…

気づいた瞬間には、俺の体は、なにかとてつもない衝撃にぶちのめされた。

「――――!」

「――!――――!」

意識がもうろうとする。視界がゆがみ、ぼやけ、良く見えない。食らったのか?あの手榴弾を…?

耳もやられた…なんだ、何を言っている?

「――!」

「―――――」

「――!」

誰かが俺の前に歩いて来た。

 こいつ…この男は…!

 男は、いつの間に転がっていた俺の体を起こすと、顔を覗き込んできた。

「手間をかけさせてくれる…」

こいつ…あのクソ大尉の、副官!

「やれ」

男は言った。

ガンッ!

 何か鈍い衝撃が、頭を貫くように走った。

 急速に意識が遠のき、体が冷たく感じられる。


ああ、なんだよ…



あっけない…足止めすらできないのかよ…



ハンナ…



逃げてくれ…



ハンナ…



…ハンナ…




おー!あいきゃへるびりーびんゆぅ~♪

必ずあえぇると~あの日から信じていた~♪

きっと~呼び合う~こころが~あればぁ~♪

投げ出さないで~苦しい時こそ~♪

いつかみた空を~きっと~あなたと~みあーげるひまで~♪



アウドムラの次回作にご期待ください?


チャンチャチャンチャン チャンチャララチャン チャンチャチャンチャン チャンチャチャチャチャン~


あおくねぇむる~みずのほしにぃ~そぉっと~

くぅちづけして~いのちのひを~ともすぅ、ひぃとぉよぉ~

ときという、きんいぃろのぉ~さざなぁみは

おおぞらのぉくちびるうにぃ~うまぁれたぁといきぃねぇ~♪


こころにぃうずもれたぁ~やさしさのほしたちぃが~

ほのおあげぇよびあうぅぅ~なみまただよう、なん、ぱせんのようにぃぃ~♪


「もぉ~泣かないで~今ぁ~あなたを探してるぅ~人がいる~から~♪」

陽気に歌を歌いながらホールの掃除をしているレナのそばにくっついて、ロビンが大事な人形を片手に変な踊りを踊っている。

リズム感があるんだかないんだかわからないが、本人はキャッキャと楽しそうにしているし、

見ているこっちも楽しいし、レナの邪魔になっている様子もないし、まぁ、良いよな、こういうのも。

 アタシは、と言えば、これからカレン達がロビンの誕生日祝いをしてくれると言うので、ホールで食事やなんかの準備をしていた。

 5月に、ジャブローで爆発があってから、一時は引っ越しを考えたのだけれど、

幸い、使われたのはミノフスキー粒子を使った核融合型の爆弾だったらしく、放射能やなんかの心配がないようだったので、

とりあえずは落ち着けた。ジャブローはひどいありさまらしい。

うちの隊のやつらは全員除隊したかジャブローから離れていたし、

まぁ、もちろん、知り合いの何人かはジャブローに残ってはいたんで、そいつらと連絡をとるのに苦労した。

こっちも幸い、反連邦組織のエウーゴが降下してくることを予想していたのか、

ジャブローそのものが囮だったようで、あらかたは事前に避難させられていた。

それにしたって、あそこで自爆を起こすなんて、連邦の連中は、いや、ティターンズって言ったか、

いったい何を考えてるんだ?あそこは地球に残った貴重な自然遺産だってのに…

これだから地べた這いずり回ったことのない、変にエリート扱いされてるやつらは困るんだよ。


「もぉ~泣かないで~今ぁ~あなたを探してるぅ~人がいる~から~♪」

陽気に歌を歌いながらホールの掃除をしているレナのそばにくっついて、ロビンが大事な人形を片手に変な踊りを踊っている。

リズム感があるんだかないんだかわからないが、本人はキャッキャと楽しそうにしているし、

見ているこっちも楽しいし、レナの邪魔になっている様子もないし、まぁ、良いよな、こういうのも。

 アタシは、と言えば、これからカレン達がロビンの誕生日祝いをしてくれると言うので、ホールで食事やなんかの準備をしていた。

 5月に、ジャブローで爆発があってから、一時は引っ越しを考えたのだけれど、

幸い、使われたのはミノフスキー粒子を使った核融合型の爆弾だったらしく、放射能やなんかの心配がないようだったので、

とりあえずは落ち着けた。ジャブローはひどいありさまらしい。

うちの隊のやつらは全員除隊したかジャブローから離れていたし、

まぁ、もちろん、知り合いの何人かはジャブローに残ってはいたんで、そいつらと連絡をとるのに苦労した。

こっちも幸い、反連邦組織のエウーゴが降下してくることを予想していたのか、

ジャブローそのものが囮だったようで、あらかたは事前に避難させられていた。

それにしたって、あそこで自爆を起こすなんて、連邦の連中は、いや、ティターンズって言ったか、

いったい何を考えてるんだ?あそこは地球に残った貴重な自然遺産だってのに…

これだから地べた這いずり回ったことのない、変にエリート扱いされてるやつらは困るんだよ。


 爆発の影響をもろに受けちまったのは、アルベルトやアタシの居た施設なんかがある街だった。

山ひとつはさんだ反対側での出来事だったけど、爆発のせいで避難民やら野盗やら強盗なんかでだいぶ混乱したらしい。

 そんな知らせをアルベルトから受けたアタシは、このペンションに子ども達を避難させても良いなと思って、レナにも相談した。
レナはもちろん、良いよと言ってくれた。でも、そんな施設の話を聞いたのはアタシばっかりじゃなくて、

カレンのとこに就職していたシェリーも同じだった。あいつは、すっかり会社をでかくしちまったカレンに相談したらしくて、

そしたら、カレンのやつがどういうツテか、なんとかって財団と、会社が世話になってるっていう口利きの銀行に頼み込んで、

施設の移転の資金を用立てられる、と言ってきた。

 それからは話がとんとん拍子にすすんで、2か月前には、この島の一等地に施設を建てることができた。

施設には、ハガードの名前までついちゃって、カレンは恥ずかしそうにしてたけど、アタシはカレンに何度も感謝をした。

持つべきものは、友達だなって言ってやったら、カレンは顔を赤くしながら、

「シェリーのやつが心配そうにしてて見てられなかった」

と言い訳した。

それでもアタシが礼を言い続けたらさすがに怒ってケンカになったけど、まぁ、それはいつものことだ。


 4年前に生まれたアタシとレナの子、ロビンも、元気に育っている。今はもう4歳で、島の幼稚園に通ってるんだ。

言葉も達者になって、利口なんだ。でも、アタシに似ちまったのかちょっと元気が良すぎるのが心配なんだけど。

 隊のみんなは、相変わらず、どこにいるんだかよくわからない。

居場所が分かるのは、アナハイム・エレクトロニクスでテストパイロットをやってるフレートと、

数年前に仕事を手伝って以来、そのままカレンの会社で働くことになり、この島に居ついたデリクと、

フロリダで、そんな歳でもないのに、隠居している隊長とユージェニーさん。

 それから、これはびっくりしたんだけど、この島に住んでる、ハロルド元副隊長。

彼は今、とある女性と一緒に生活をしている。結婚はしていないけど、事実上は夫婦みたいなものだ。

夫婦と言えば、デリクと、今は産休に入っちまったソフィアも、2年前にゴールインした。

 そう考えれば、フレートとキーラも結婚してるし、身を固めてないヤツの所在ばっかり不明なんだよな。

まぁ、うちの隊の連中のことだ。みんなどこかで元気にやってんだろう。

 最近は、カレンに良い男を紹介してやんないと、と思っているんだけど…


 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴って、ドアが開いた。

「やぁ、お邪魔するよ」

「おっと、まだちょっと早かったかな」

玄関の方で声がした。

「あ!シイちゃんだ!」

その声を聴くやいやなや、ロビンが玄関の方に駆けだす。アタシもそのあとを追った。

 玄関には、じゃれつくロビンをあやしてくれているシイナさんと、ハロルドさんの姿があった。

「あぁ、いらっしゃい。わざわざありがとうね」

アタシが言うとシイナさんがロビンを抱き上げながら

「構うもんかい。こっちも毎度世話になってるしね」

と笑った。

「まあ、上がってくれよ。カレン達も来てくれるって言ってんだ」

アタシはそう言って二人を部屋へ通した。

 シイナさんがシロー達と別れてから二日くらいして、ハロルドさんが一人でフラッとペンションを訪れた。

そこで二人は初めて会った。それから、ハロルドさんがシイナさんとどういう話をしたのかは今でも謎なんだけど、

とにかくそれからしばらくして、二人がデラーズ紛争時のシイナさんの部下のその後の調査をしているって話を聞いた。

その結果、何人かの部下がまだ生きていたらしくて、シイナさんはハロルドさんと一緒に彼らが地球に降りる手伝いもしたそうだ。
「自分は幸せになっちゃいけないんだ」

と言い張るシイナさんに、ハロルドさんが

「俺と一緒にいるのが、幸せなのか?」

と聞き返したのが、今の生活をすることになった決め手らしいってのを知ってるってことは、シイナさんには内緒だ。

ハロルドさんは顔も良いけど、なによりとびきり優しくて気の利く人だ。

シイナさんが安心して心を委ねたくなっちゃうのも、仕方ない。


 シイナさんとハロルドさんをホールに通した。

ロビンはシイナさんがお気に入りの様で幼稚園の話とか、

まるで妹みたいに大事にしている「レベッカ」と名付けた人形の話をしている。

シイナさんは、こう言っちゃ失礼だけど、柄にもなく笑顔で言葉を丸くして受け答えしてくれている。

 そんな様子を見ていたアタシの脇に、掃除用具を片付け終えたレナがすり寄ってきた。

「なんだよ?」

アタシが聞いてやるとレナは笑顔で

「別にぃ?」

なんて答える。

 その笑顔があんまりにも憎たらしかったんで、肩を抱いて引き寄せてやると、くてっとアタシに体重を預けてきた。

相変わらず、胸の奥にほっこりとした温もりが湧いてくる。

レナと出会って、もう7年。

ずっとそばにいてくれてるのに、今でもこうして、あの旅をした一か月間と同じ気持ちにさせてくれる。

それは、レナがアタシを大事に想ってくれている証拠で、アタシがレナを愛おしく思っているあかしだ。

 また、玄関のチャイムが鳴った。カレン達だろう。

「私行ってくるよ」

レナがそう言って、振り返りながら、アタシの手をギュッと握ってからスルッと余韻を残しながら離して

玄関の方へと小走りに駆けて行く。

 あぁ、もう。そう言うことをいちいちするから、あんたがどうしようもなく好きなんだよ、レナ。


 「やぁ、悪いね、遅くなっちゃったよ」

カレンが大きな包みを抱えてホールに入ってくる。

その後ろから、ソフィアの乗った車イスを押したデリクと、シェリーが現れた。

「いや、全然。今日はわざわざありがとうな」

アタシが礼を言うと、カレンは笑って、

「あんたのためじゃないよ。私たちの天使のために、だ」

なんて言う。

 ロビンをそう言ってくれるのはうれしいけど、天使、なんて、あんたの口から聞くとなんか変な感じがするよ、とは言わない。

言ったらケンカになっちまう。

 「ソフィア~大丈夫なの?」

レナが車イスのソフィアにそう話しかけている。まぁ、身重だし、義足で歩き回ることを考えたらあの方が全然安全だろう。

顔色もよさそうだけど、子どもを身ごもる大変さを身を持って知っているのはレナの方だし、

いろいろと気にかけずにはいられないんだろう。

「ええ、大丈夫です。転ぶと危ないからデリクがどうしてもって、言うんで」

ソフィアはバツが悪そうに車イスに乗っている理由を説明してからデリクを見上げる。

デリクも少し顔を赤らめながら照れ笑いを浮かべていた。

 それにしても。まったく、アタシもレナも、それからロビンも。本当に、良い友達に恵まれたよな。幸せなことだ。

「ま、座ってくれよ!今飲み物だすからさ!何が良い?ビールか?ワインとバーボンも、一応、用意してある。

 あ、ソフィアはロビン用のジュースで良いかな?」

アタシはそんなことを言いながらみんなに席を勧めた。

ロビンの誕生会、なんてこともあるのだけど、実はアタシも久しぶりにこうして集まってくれるのが嬉しくて楽しみにしてたんだ!

レナも、歌なんか歌ってるくらいにご機嫌みたいだし。今日は、いっぱい飲んで楽しむんだ!




「だから!ハロルドさん!その話はやめてくれって!」
「いやいや、アヤの武勇伝を語るのに、この話は外せないだろう?」
「いよっ!40人抜きの連邦の鬼神!」
「レナ!やめろってほんと!」

酒が進むと、どうしてこうも楽しくなっちゃうんだろうな。でも、さすがにこのネタだけは、本当に勘弁してほしい。

レナまで悪乗りしてきて…もう、恥ずかしいったらない!

 「あーロビンちゃん、気に入ってくれた?」

「うん!シイちゃん、ありがとう!」

ロビンはシイナさんにもらったドールハウスをホールのテーブルに広げて、そこで「レベッカ」をあそばせながら悦に入っている。

 カレンもデリクも、わざわざロビンのためにプレゼントを用意してくれた。本当に、うれしいな、こういうのって。

「じゃあ、じゃあ、ハロルドさん、あの話もしてくださいよ!」
「え、なんだよ、レナさん。他になんかあったっけ?」
「まだあるんですか?」
「ほら!あの、格納庫に忍び込んでモビルスーツ動かそうとした話!」
「あー!あれな!あれも事後処理大変で、大目玉だったんだよ!」
「ちょ!その話もやめてくれって!」

「え?うえぇぇ?」

 そんなバカ話をしていたら、不意にPDAを覗き込んでいたデリクがへんな声を上げた。

「な、なんだよ、デリク。どうしたんだよ?」

カレンがびっくりした顔してデリクに聞く。いや、アタシもびっくりしたよ。なんなんだ、デリク?

「ちょ、テレビ!テレビつけて!」

デリクは誰に言ってんのかと思ったけど、なんのことはない、自分でホールのテレビに飛びつくとその電源を入れた。



<話の前に、もう1つ知っておいてもらいたいことがあります。

 私はかつて、シャア・アズナブルという名で呼ばれたこともある男だ!

 私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐ者として語りたい。

 勿論、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである!>


テレビが、唐突にそう音声を上げる。

 なんだ、この放送?なんだこれ?これは…連邦議会か?ダカールからの中継…?またテロか何かか?誰なんだ、この男…?

「あ、赤い彗星…?」

「今、こいつ、ジオン・ダイクンの子っていったかい?赤い彗星のシャアが?」

「そんな…いったい、どういうこと?」

レナとシイナさんとソフィアが一斉に反応する。

 赤い彗星、って言ったか?その名は、確か、1年戦争でウソみたいな戦果を残したっていう、あの、凄腕のパイロット?


<我々は地球を人の手で汚すなと言っている。

 ティターンズは、地球に魂を引かれた人々の集まりで、地球を食い潰そうとしているのだ!

 人は長い間、この地球という揺りかごの中で戯れてきた。

 しかし、時代はすでに人類を地球から、巣立たせる時が来たのだ!

 その後に至って、なぜ人類同士が戦い、地球を汚染しなければならないのだ!?

 地球を自然の揺りかごの中に戻し、人間は宇宙で自立しなければ、地球は水の惑星ではなくなるのだ!

 このダカールさえ砂漠に飲み込まれようとしている! それほどに地球は疲れ切っている!>

なんだよ、こいつ?なんかすげえこと言ってないか?

 ホールは一瞬にして、テレビの放送に引き込まれてしまった。

ロビンまでもが、何事かと言った感じで、アタシの足元にやってきて、膝の上に登ってテレビを見つめる。


<現にティターンズは、この様な時に戦闘を仕掛けて来る。見るがいい!

 この暴虐な行為を!彼らはかつての地球連邦から膨れ上がり、逆らう者は全て悪だと称しているが、それこそ悪であり、

 人類を衰退させていると言い切れる! ズズン…テレビをご覧の方々はお判りになるはずだ。

 これがティターンズのやり方なのです!我々が議会を武力で制圧したのも悪いのです!

 しかしティターンズは、この議会に自分達の味方となる議員がいるにもかかわらず、破壊しようとしている!!>


「おい、この放送は、ちょっと反響おおきくないか?」

カレンがつぶやくように言った。

「え、えぇ。もしこれで、議会が、ティターンズ排斥に動いたら…」

「世論は、完全にティターンズを敵視する…」

それに、ソフィアとハロルドさんが続ける。

 うん、正直、酔っぱらってるし、難しい政治のことは、分からない。でも、まぁ、あれだ。

要するにティターンズの立場が危なくなるってことだろう?

あいつらのやり方、気に入らなかったから、まぁ、良いんじゃないか、それでも。


<えーこれが先ほど、ダカール、連邦議会場から送られてきた放送です。

 これに対して、ティターンズ司令部は、反地球連邦政府組織、エウーゴによる謀略だとする声明を発表し、

 市民に対して虚偽放送に惑わされないよう注意を呼び掛けておりますが…>


画面が、ニュースのスタジオに切り替わった。

 「あー、これは、ティターンズも終わりだね」

シイナさんがそう言いながらグラスをあおった。

「まぁ、ジャブローにキリマンジャロを吹っ飛ばしたようなやつらだ。個人的には、その方がいいと思ってるけどさ」

ハロルドさんもそう言う。アタシもそう思う。

「どうなんだろうね…これで、すこし平穏になってくれると良いんだけど…商売的には」

レナはそんな心配をしている。さすが、このペンションの経理担当は考えるポイントが違って頼もしい。

「あぁ、それはウチも言えるね。もう少し安定してくれれば客足も増えるだろうし、

 今は荷物の空輸で何とかしのいでるところがあるからさ」

カレンも、さすが社長って感じだ。


 ロビンが、アタシを不思議そうに見上げてくる。はは、あんたとアタシは、わかんなくていいよな、こういうのは、うん。

「難しいな」

ロビンにそう言ってやると、彼女は唇を突き出して

「難しい」

と言って笑った。それから、急に、ロビンが窓の外に目をやった。

「どうした?」

アタシはその様子が気になって、一緒になって窓の外をみるけど、外はもう夜で暗がりだし、特に何がいるわけでもなさそうだけど…

「アヤ母さん、レナママ。誰か来るよ?」

 誰か、来る?

アタシはそれを聞いて、レナとハッと顔を見合わせた。それと同時に、感覚を研ぎ澄まして、神経を集中させる。

 何かが、肌に触れた。

 なんだ?何をそんなに焦ってるんだ?敵意?いや、違うか?でも、近い何かだ…警戒感か…息が詰まっているような感覚だ。

ここを目指してるってのか?そうだ、確実に、ここへ向かってる。

 アタシは顔を上げてレナを見た。レナも、アタシを見ていた。

 これは…備えが必要か?

「レナ、中でロビンを見てろ!デリクもソフィアから離れるなよ!シーマさん、レナ達を見ててやってくれ!

 ハロルドさん、カレンは迎撃準備!」

「な、なんだよ、アヤ?」

「何か来る!頼む、警戒してくれ!」

「アヤ、電気落とすよ!」

「良いぞ!」

レナがホールの照明を落とした。一瞬、目の前がまっくらになって、それから、月明りで照らされる外が煌々と明るくなってくる。

「ハロルドさん、あんたはドアを。あたしとアヤでテラス方面の対応をする」

「なんだかわからないけど、そうさせてもらうよ…とりあえず、瓶一本持ってね」

カレンとハロルドさんの息を殺した会話が聞こえる。了解だ、カレン。アタシもその案に乗ってやるよ。

 カレンの言葉の通り、アタシもテラスへと続く窓の際に陣取って外を見張る。手には、テーブルにあった果物ナイフだ。


 人影が見えた。4人…?いや、6人だ。あれは…拳銃を持ってる!ティターンズか?まさか、レナ達を追って?

今まではなんの干渉もしてこなかったのに…あの放送の影響でなにか変化が起こったのか?

 くそ!落ち着け。とりあえず、出入り口はこことドアしかないんだ。

侵入してきた最初のやつから拳銃を取り上げて、銃声で混乱させよう。その隙に反撃に転じれば勝機は十分にある。

 人影は窓の方に近づいてくる。徐々に、その姿がはっきりと見えてきた。

 あれは…子どもか?

その中の一人が、窓に取り付いた。中の様子をうかがって、コンコンと防弾ガラスをノックしてくる。

擦り傷だらけの顔に、ずいぶん汚れている。

「レナママぁ」

「しっ!ロビン、今は静かにして!」

「でも。お姉ちゃん達、入れてあげようよ」

「お姉ちゃん?」

レナとロビンの会話が聞こえる。

 別の人影が近づいて来た。確かに、女だ。ロビンの言った通り、若い女性…手に拳銃を握っている。

彼女は、窓をゆっくりと調べて、ついに、アタシのすぐそば、鍵のかかっていないサッシに手をかけてカラカラと開けた。

ズイ、と銃口が一番最初に侵入してくる。

 素人だ。

 アタシは瞬間的にそう判断して、死角からその拳銃に手を伸ばして握りしめ、

弾倉を排出させながら、もう一方の手で拳銃を握っていた手首を引っ掴んでひねり上げた。

拳銃は手放され、アタシの手の中に納まる。

 そのまま、思い切りその手首を引っ張って引き寄せ、残り1発が機関部に装てんされているだろう拳銃を喉元に突きつけた。


「ハンナさん!」

そう叫ぶ声が聞こえて、最初に窓にへばりついていた子どもが入ってきた。カレンはその子に脚をかけて転ばせ。

次いで入ってきた、アタシが捕まえているのと同じくらいの年齢の女の後ろ襟を引っ掴んで床に引き倒した。

「離せ!」

すこしハスキー掛かった声がして、別の人影がカレンに殴りかかった。体格は子供の様だが…男の子か?

 引き倒した女の身動きを、両脚を絡ませて器用に制圧しながらカレンは、

殴りかかってきた男の子の腕を絡め取るとそのままひねり上げて動きを封じた。

 「おねがい!乱暴しないで!」

最初に入ってきた、カレンに転ばされた女の子が、暗がりに向かって叫んでいる。こっちが見えてないようだ。

「全員、床に這いつくばれ!」

アタシがそう怒鳴ると、女の子は言うとおりに床に伏せた。

残りの二人、やはりこいつらも子どもで、ホールの中にゆっくりと警戒した様子で入ってくると、同じように床に伏せる。

 「あんたも伏せな!」

アタシはドスを利かせて、抱えていた女にそう命令し、それから転がった拳銃の弾倉を拾って再装填する。

「8番、武装確認」

「拳銃確保」

「了解。シイナさん、カレンと代わってやってくれ!8番と7番で外部索敵!2番、10番はシイナさんの援護準備!」

シイナさんが無言でカレンのそばに行き、組み伏せていた女性を引き受けると、カレンが立ち上がってアタシに目配せしてくる。

アタシはうなずいて、カレンと同時に表へ飛び出した。

 拳銃を小脇に抱え、身を低くしながら周囲を観察する。

…あいつらだけか?…気配もない、肌にも、何も感じない…クリア、だ。

「7番、クリア」

「8番、クリア」

カレンの声を聴いて、ふぅっとため息が出た。

 こんなとっさに、案外、動けるもんだな。あんなに飲んでたってのに。ふとカレンと目があった。

そしたらなんだか、どちらともなく笑ってしまった。


「いやぁ、緊張したなぁ」

アタシが言うと、カレンも笑顔で

「ホント。久しぶりにこう、たぎったね。体と血がさ」

と返してくる。緊張が解けて、無事に済んだという安心感が降って湧いてきて、

アタシの胸の内にともった懐かしさを、カレンもきっと感じているはずだった。

 カレンと二人して、ホールに戻った。中はまだ少し緊迫した雰囲気だったのでアタシはちょっと大げさに気の抜けた声で

「うー、急に動いたら、酒がまわったよ…」

とうめいてから、

「レナ、電気つけて。もう大丈夫」

と言ってやった。

 パチッと音がして、照明が灯った。一瞬の明るさに目がくらんでしまう。

 さて、なにもんだ、こいつら。

 明るくなった室内で、侵入者を観察した。子どもが4人に、大人の女性が二人。

まぁ、アタシらを殺しに来たり、レナやシイナさんやソフィアをつかまえに来たってメンツではなさそうだが…

 アタシは、最初に制圧した女性の顔を覗き込んで聞いた。

「あんた、名は?」

すると彼女は、少し怯えた表情で

「ハンナ・コイヴィスト…」

と名乗った。偽名っぽい感じはしないな。

「よし、ハンナさん。いろいろ聞かせてもらおうかな」

アタシは、なるべく偉そうに、でも、あまり危険を感じさせないように明るく、彼女にそう言ってやった。


苦しく長かった前フリ編が終わり、やっとこさ、本編が始まりました!w
てなわけで、今度ともどうぞよしなにm(_ _)m

ロビンたんprpr

乙ぅ。
本編楽しみにしてる。
頑張れよ。



さて、前回の登場人物も出てきて改めて思ったね。
ラ行の名前多くね?w
というか欧米人にRやLがつく名前が多いのか?

あと今回、どっからが元ネタ有りキャラなのか分からないんだが、よかったら出典教えて欲しいな。
正直ジョニー・ライデン以外分からない

>>149
赤い彗星を見逃して真紅の稲妻しか分からないとは逆に強者だな

>>147
ティターンズさんこっちです!w

>>148
感謝!

>>149
ラ行、書き手がそういう語感が好き、というのもありますが…レナ、ロビンについては意図的につけてます。
まぁ、レナはLでロビンはRなんですが…

登場人物について、そうですね。
ちょっとまとめてみたいと思います。

>>150
あのシャアは登場したといっていいんだろうかw


なお、本日飲み会のため、アップできるか不明です。
アップできそうならツイッターで告知なんぞしようと思うので、チェックしてみてくださいまし!

いつも読んでくれて感謝です!


Z編の主な登場人物まとめ

マーク・マンハイム
 連邦軍所属の情報士官、中尉。分析、情報収集担当。オールドタイプの典型で、ニュータイプに対しての
 劣等感や疎外感を持っている。責任感は強い。

ハンナ・コイヴィスト
 連邦軍所属の補給士官、少尉。楽天家で能天気。
 マークの幼馴染で恋人。恋人ではあるが、お互いに空気みたいな付き合いの様子。

レオニーダ・パラッシュ
 1年戦争当時、フラナガン機関から連邦に亡命したクルド博士に連れられて地球に来たNT。
 その後、連邦のNT研究所に隔離幽閉され、データ収集実験などに利用されていた。
 オーガスタ研究所からムラサメ研究所への移送中に脱走するも、再度つかまり、マーク達の基地へ収監される。


NTの子ども達(出典『08MS小隊ラストリゾート』)
 1年戦争末期、フラナガン機関から救助され、地球圏に脱出させられた子ども達。
 ラサ基地での戦闘から逃げ延びた同作の主人公シローとアイナに出会い、
 シローが所属していた隊の構成員の名などをつけてもらう(括弧内が作品内での名前)。

サビーノ(エレドア)
サラ(カレン)
エヴァ(ミケル)
ニケ(キキ) 


ジョニー・ライデン(出典『MSV‐R』など)
 元ジオン軍、キマイラ隊所属のエース。真っ赤な機体でシャアによく間違えられたとか。
 作品によってずいぶんと設定が違う。グりプス戦役時は地球に降下しており、カラバに参加していた、と言う設定は
 GUNDAM EVOLVE../9によるもの。

ユウリ・アジッサ(出典『GUNDAM EVOLVE../9』『Zガンダム・グリーンダイバース』など)
 1年戦争終結後、アムロに拾われた少女。当時まだ5歳くらい?その後、アムロに光源氏的教育を受けてすっかりアムロ信者に。

ゼロ・ムラサメ(プロト・ゼロ)(出典『機動戦士ガンダム ギレンの野望』)
 ムラサメ研究所で作られた強化人間のプロトタイプ。
 ゲーム内では、強化人間に関する研究データを持ってジオンに亡命し、その資料に基づいて強化されたのが
 レイラ・レイモンドであるとされているが、UC史実的にちょっくらかみ合わないので当小説内では順序を逆にしてあります。

レイラ・レイモンド(出典『機動戦士ガンダム ギレンの野望』)
 ジオンで作られた強化人間。説明は以下同文。


ティターンズ大尉
 マークの所属する基地に天下り?してきた女性大尉。捕まえた捕虜を拷問して殺すのが趣味と噂される快楽殺人者。
 マークがお気に入りのご様子。名前などは不明。

ティターンズ大尉の副官
 マークが所属する基地に天下り?してきた女性大尉の副官。階級は中尉。
 大尉のことを尊敬しているらしく、その指示には忠実にしたがう。大尉とは長い付き合いらしい。

グりプスに吹いたわ

ロビンて男の名前のイメージ

>>154
ヤメテヨ!誤字に触れるのヤメテヨ!w

>>155
どちらでも使える名前のようですね。
元気な女の子のイメージだったので、どっちでも使えるロビンを付けました。
ちなみに彼女の持っている人形のレベッ…

ん?宅配か?ちょっと出てくるわ。


頭痛い…

でも
がんばって投下します!


 「指示書?」

「はい、カラバの方にいただいて…それに、ここへ向かうように書いてあったんです」

ハンナはそう言って、ポケットから一枚の封筒を出してアタシに手渡してきた。

中身を確認すると、そのには確かに、ここの名前と住所と、簡単な地図が印刷された紙片が入っていた。

「皆さんは、カラバの関係者の方ではないんですか?」

自体を理解していないアタシ達に気付いたのか、ハンナがそう聞いてくる。

アタシらは、顔を見合わせて、揃って首をかしげた。

そりゃぁ、ティターンズを良く思ってる連中はこの中にはいないけど、

だからと言って反政府組織に肩入れするほどの想いがあるわけでもない。

アタシらはみんな、自分の身の程を知っている。

だから、そんなでかいことをするよりも、もっと地道な草の根活動の方が性に合ってるんだ。

「いや、そう言うのには全然関係ないけどさ…」

そう返事をしながら、アタシはハンナ達をかわるがわる見つめる。

子ども達は、シュンとしているが、視線はテーブルに並べられた食事に注がれている。

あぁ、なんだ、こいつら腹ペコか?

身なりも汚いしなぁ…相当、苦労してここまでたどり着いたんだろうな…

そう考えたら、なんか、やっぱりちゃんと迎え入れてやりたくなっちまうのが、アタシらってもんだ。

そうだろう、レナ?

 そう思って、レナをチラッと見てみる。レナは、やっぱり、ソワソワ、ハラハラした顔つきでハンナ達を見ていた。

 「まぁ、とりあえず、もっと話を聞かせてくれよ」

「良かったら、食事も食べてね。まだいっぱいあるから」

アタシと、レナもそう言ってくれる。

「い、いいんですか!?」

一番幼く見える女の子が、そう言って目を輝かせた。

「うん。食べな。腹減ってそうだし」

アタシがそう言ってやると、子ども達は食事に飛びついた。


 「食べながらでいいからさ、話、頼むよ」

テーブルに並べてあったピザに、恐る恐る手を伸ばしていたハンナに、そう頼む。彼女は、いったんその手を止めて、

「はい」

と、静かに、でも、力強く返事をした。

「私は、もと連邦軍の少尉です。2週間ほど前に、所属していた、極東第12支部の、第9駐屯地から逃げ出してきました」

「第12支部…っていうと、ニホンか?」

「はい、そうです」

8年前、レナと一緒に北米へ飛び立った基地が、第13支部。あれはフクオカにあって、

確かニホンには他に、12支部と11支部かあったはずだ。12支部は、確か、あの列島のちょうど中央あたりに位置していたはず。

「どうして、脱走を?」

レナが話を促す。

「はい。私の駐屯基地には、ティターンズの大尉が駐在していて、その人が…

 拷問して、捕虜を殺害するのを楽しんでいるような人で。そんな基地へ、彼らが、捕まってきたんです」

ハンナはそう言って、子ども達と、もう一人の女性に視線を送る。

 なるほど…そっか。こいつらも、“そう言うの”から逃げてきたクチか。

それにしたって、なんでこんな子ども達をつかまえる必要があったんだ?アタシは気になったのでそこを聞いてみた。

すると、ハンナは、少し言いにくそうにしてから、ややあって口を開いた。

「彼らは…連邦の、ニュータイプ研究所、と言うところから逃げ出して来たんです。

 人体実験の、被験体としてつかまっていたそうで…。多分、研究所に連れ帰される途中だったのだと思います。

 なんでも、1年戦争末期に、ジオンの研究所からも逃げ出して、有志のジオン軍人たちが命を懸けて、

 地球に送り届けてくれたらしいんですけど…運悪く、地球で連邦に目をつけられてしまったみたいで…」

ジオンの研究所から逃げ出して来た、か。

あれ?

そんな話、どこかで聞いたな…どこでたっけ?

もうずいぶん昔のことみたいだけど…えっと…


「アヤ」

レナの呼ぶ声がしたので、そっちを見たら、彼女は確信を持った表情で

「アイナさん達だ…」

と言った。

 そうだ。アイナさん達が、ラサ基地の戦場から逃げてった先で出会ったのが、

ジオンの研究施設から逃げ出してきた、ジオンのニュータイプの子ども達…

まさか、その子達ってのが、こいつらのことなのか?

確かに、年齢的に考えても辻褄は合いそうだけど…そんな偶然ってあるのかよ?

 「ね、あなた達、アイナ・サハリンさん、って知ってる?」

「なんだい、シロー達の知り合いなのかい、この子ら?」

レナの問いに、シイナさんが反応している。

「アイナお姉ちゃんを知ってるの?」

男の子が、そう声を上げた。

 おいおい、本当かよ?本当に、アイナさん達が会ったって子なのか?

「待ってね…」

レナはそう言って、ホールの戸棚から何かを取り出してきた。あれは、レナの取った写真を収めてあるアルバムだ。

レナはその中の一枚を抜き取ると、それを子ども達に見せた。

「この人で、間違いない?」

レナが聞くと、子ども達の顔がパッと明るくなった。

「そう!アイナお姉ちゃんだ!」

「シローさんも写ってる!」

歓声が上がった。嬉しそうにしてた子ども達だったけど、突然、その表情が、曇った。

あれ?なんだよ、急に?

「どうしたの?」

その変化に気付いたレナが尋ねる。

「お姉ちゃん、捕まっちゃったんだ」

―――な、なんだって!?

 アタシは思わず立ち上がっていた。

「つ、捕まったって、どういうことだよ!?」

「私たちが、基地につかまっていた時に、助けに来てくれたんです。

 爆発を起こして、電気を消して…その間に、私たちはハンナお姉ちゃんと一緒に、逃げ出したんだけど…」

「アイナお姉ちゃんは、逃げ切れなくて、私たちの代わりに、基地に…」

おい、待て、待てよ。その基地には、ティターンズのその、拷問好きの大尉ってのがいるんだろ!?

まずいじゃないか…アイナさん…そ、それって本当なのか?

「あの爆発と停電って、そのアイナさんって人がやったの?」

ハンナが子ども達にそう聞いている。

「うん。声が、聞こえた」

双子に見える子の内の一人が、そう答えた。


「ア、アヤ!シ、シローに電話!」

「う、うん!」

アタシはPDAを取り出して、シローのナンバーにコールする。だけど、どれだけ鳴らしてもシローは電話口に出てこない。

くそ!どうなってんだ!?

「ダメだ、シローでないよ!」

「まさか、もうティターンズに?」

「落ち着きなよ。身を隠しているのかもしれない。今は、とにかく情報収集と、策を練らないと」

シイナさんがそう言ってアタシ達をいさめてくれる。そうだ、なによりもまず、情報を集めなきゃ。

アイナさん、頼む、まだ生きててくれよ…!

「と、とにかく、あんた達は、そこから逃げてきて、それで、カラバに言われてここまできたんだな?」

「はい」

…ってことは、カラバには、ここを知っている人間がいるってことだ。誰だ?今までに相手をしたお客の誰かか?

「アムロ・レイ、と言う人を、ご存知ですか?」

不意に、ハンナが言った。アムロ?そう言えば、何年か前に来たな…あの、ニュータイプっぽい気配をビンビンにさせてた…

「し、知ってる。ここへ来たことも、ある」

「その人、今はカラバに所属しているらしいのですが、そのアムロって人に会わなきゃ、って、

 その…“声”が、聞こえたみたいで…」

ハンナはまた、言いにくそうにそう口にして、子ども達を見た。

 “声”?それって、要するに、「あの感覚」のことを言ってるんだな?

アムロってのが、子ども達をここへ連れて来たのか?アタシらに、「なんとかしてくれ」ってことなのか?

 アタシは、グッと拳を握った。アイナさんのことと、子ども達のこと…でも、うちだって今は、ロビンがいる。

そう簡単に動くのは、ちょっと抵抗がある…でも、でも。

アイナさんは助けてやらないと…それに、こいつらだって…このままほっておくわけには…


 「ねえねえ、お姉ちゃんは、レオナ?」

急に、誰かがそう言った。ロビンだった。

ロビンは、ハンナじゃない方の女性のすぐそばまで言って、彼女の顔を見上げている。

待て、ロビン、そいつの名前、まだ聞いてないぞ?

 アタシは、ロビンがレオナ、と呼んだ女性に目をやった。

 彼女は、目で見てわかるくらいに、体を震わせていた。

「ね、ねえ、大丈夫?」

ソフィアがレオナに声を掛けて、彼女はハッとした様子で、体の震えを抑えた。それからアタシの顔を見て

「あの…あの、この子は…」

と口をパクパクさせながら聞いてくる。

「え?あぁ、アタシと、こっちのレナとの子どもだけど?」

アタシが答えてやると、レオナは少し黙ってから


「その…もしかして、卵子間胚妊娠で出産された子、ですか?」


…え?なんでそれを?子どもを見たらわかるのか?

それとも、あのレオナってのからも、ニュータイプの気配を感じる。

ロビンは、アタシやレナよりも、強い素質を持ってるから、それでなにかを感じてるのか?


「どうしてそれを?」

レナがアタシの代わりに聞いてくれる。

すると、レオナはグッと押し黙ってから顔を上げて

「そのPDAをお借りできますか?」

とアタシの握っていたPDAを指して言った。

「あ、あぁ、良いけど…」

アタシがPDAを手渡すと、レオナは首につけていたチョーカーのヘッドに手を当てた。

パキッと言う、乾いた音がして、そのヘッドが割れる。それは、記憶媒体の様だった。

 レオナはPDAに端子にそれを差し込むと、画面を操作してから

「これを、見てください」

とアタシの方に見せてきた。

 そこに写っていたのは、ロビンと同じくらいの女の子の写真だった。

 ロビンと同じ茶色っぽい髪に、ロビンの、レナから受け継いだんだろう少しグレー掛かった瞳に、見慣れた鼻筋と、唇…

目元は…アタシにそっくりだ。

 まるで、ロビンだ…でも、でも待ってくれよ。これはロビンじゃない。

似ているけど、でも、ロビンの輪郭は、アタシ似だ。

でも、この子の輪郭は…その、レナのに、似ている…。

 レナも、アタシの横からPDAを覗き込んで、絶句した。

「おい、こ、これ…この子…」

呆然とするアタシの膝に、ロビンもよじ登ってきた。彼女は、PDAを見るや否や、叫んだ。

「レベッカだ!」


は?

…え?

…レベッカって、あんたが今、大事そうに抱えているその人形のことだろう?

ち、違うのかよ、ロビン…人形のことじゃ、ないのか?

おい、なんだ?お前いったい、何を感じ取ってるんだ?

「ロ、ロビン、これは、レベッカ、なの?」

レナは戸惑いながらロビンに聞く。

すると、ロビンは笑顔を浮かべながらさも当然と言った様子で

「そうだよ!レベッカはいつもシクシク泣いてるの。だから、大丈夫だよって、わたしが一緒に居てあげるんだよ!」

と人形のレベッカの頭を撫でつけて答えた。

 アタシは、何かを言ってほしくて、レオナを見つめた。

彼女は、ゴクッとつばを飲み込んで

「はい…私は、彼女に、レベッカ、と名付けました。彼女は、私が産みました」

と口にした。

 なんだよ…どうなってんだ、それ?こんな、アタシとレナとロビンにそっくりな子を、このレオナってのが産んだって…?

 アタシはなんだか、全身がガタガタ震えるのを感じて、イスに座り込んでしまった。

ロビンが振り落とされないようにアタシしがみついてくるので、何とか彼女だけは、腕で抱え込んで押さえつける。

 レナからも、混乱が伝わってくる。レナがアタシの手を握ってきた。

アタシはその手を握り返して、レナも抱き寄せる。

なにが、なにがどうなってんだ?なんでこんなことが、いっぺんに起こってるんだ?

 アタシはどうしようもなく混乱していた。

アイナさん、助けなきゃいけないのに、子ども達が居て、で、ロビンにそっくりな、この子は誰なんだよ?

何から話を聞けばいいんだ?


待ってくれ、整理しなきゃ。

えっと、だから…えぇっと…

 思考がまったくまとまらない。こんなにグシャグシャになるのは、レナを助け出そうと思ったとき以来だ。

思考どころか、感情もこんがらがっちゃって、自分でも良くわからなくなっている。

 レナが、アタシの体を、ギュッと抱きしめてきた。それからしばらくして、ふっと力が抜けたと思ったら、体を離した。

見上げたら、レナは、何か、固い意思を持った表情に変わっていた。

 レナ…あんた、持ち直したのか?そうだ…アタシも、こんなんじゃ、ダメだ。

しっかりしろ。これは、一大事かも知んないんだぞ。アタシは自分にそう言い聞かせて深呼吸をした。

考えるのをやめるな…でも、飲まれるな。大事なのは、なんだ?

 そうだ、情報収集と分析、および状況把握、だ。基本は、なにも変わらない。何度も、何度もやってきたことだ。

それを忘れんな…

 アタシも何とか頭を切り替えた。それから、意を決して、レオナに言った。

「話をしてくれ。知っていること、全部教えてほしい」

「わかりました」

レオナも、強い目をして、そう答えてくれた。


「私は、戦争中に、ジオンの研究所から亡命した博士に連れてこられました。

 当時、博士はEXAMシステムと言う人工知能の開発を行っていて、その基幹部となる人間の予備として、でした。

 でも、連邦に来てからすぐに、私は、連邦の研究所に幽閉されました。

  それから何年かして、連邦でもニュータイプと強化人間についての研究が始まるようになり、

 私もかなりの数の研究の被験者にされました。幸い、精神手術を受けることなく済んだのは、

 純粋なスペースノイドのニュータイプ素質を持ったサンプルだったからなんだと思います。

 そんな、ある意味では扱いにくい私に、5年ほど前に、新しい“仕事”が任されました。

  それが、素材となりうるニュータイプ素質を持った子どもの代理母としての出産です。

 そして、最初に私の胎盤に着床されたのが、中米からサンプリングされた、卵子間胚でした。

 通常、人工授精や卵子間結合を行う場合、失敗に備えて複数のサンプルを取って結合が行われます。

 成功例があれば、残ったサンプルは破棄されるものですが、お二人の場合、検査の段階で研究所の手が入ったのだと思います。
 遺伝子レベルでの、ニュータイプ素質が発見されていた…

  だから、残ったサンプルを研究所が引き取り、結合を行って、私にそれを妊娠させた…」

「要するに、あれだね。ロビンとは、二卵性の双子、ってことだ?」

カレンが口をはさむ。

「そうですね」

レオナはうなづいた。いや、この場合、二卵性なのか四卵性なのか、分かんないけど、さ。

でも、そうか、とにかく、やっぱり、この子は…ロビンと同じ、アタシとレナの子…

そいつが…連邦の研究所で、実験の、素材に…だと!?


 やっと、事態が把握できた。途端に、胸の奥からとてつもない怒りがこみ上がってきた。

ふざけんな、どこの誰がそんなこと計画しやがったんだか知らないが、寄りにもよってアタシ達の子を、

そんなくだらないことのために、都合のいいように扱おうってのか!?

 固く握った拳に、爪が食い込むのを感じた。

「今…レベッカ、は、どこに?」

そうたずねたレナからの怒気が感じ取れる。

「恐らく、オーガスタからオーランド研究所へ移送されたんだと思います」

―――オークランド…北米か。

アイナさんは、ニホン。

レベッカは北米。

それに子ども達の保護…いや、場合によってはシローもこっちへ呼び寄せてやったほうがいいかもしれない。

キキもいることだし、何かあってからじゃ、取り返しがつかない…

 でも、これって…アタシとレナだけじゃ、無理だ。

子ども達を連れて、ニホンやまして、北米のニュータイプ研究所になんて連れて行けるわけがない。

そんなことするほどバカじゃない。

助けが、助けがいる…


 アタシが顔を上げたら、カレンがアタシの方をじっと見ていた。

目があったら、カレンは、笑った。カレン、あんた…

 「要するに、要点は、3つだね。アイナの救出、レベッカの奪回、あと、子ども達の保護、だ」

「こういう時は、隊長に声を掛けておいた方が良いな。良い案もらえそうな気がする。あとで連絡を取ってみようか」

カレンが言うと、ハロルドさんがそう言い添えた。

 すると、今度は

「なら、私らのところで、ロビンちゃんを預かるよ。部屋数が足りないから、そっちの子ども達はちょっと難しいけどね」

とシイナさんも言ってくれる。

「なら、うちの社屋の宿直室なんてどうですか?半分、カレンさんの私室になっちゃってますけど、ベッドの数も足りますし」

「あぁ、そうだね。通信設備もばっちりだし、ウチが作戦本部、ってことにしようか。

 今回はソフィアは巻き込めないけど、デリク経由で情報分析は頼めるだろうね」

「任せてください!」

シェリーに、ソフィアも…

「おい、だから、アヤ」

カレンが、またアタシ達の方を向いた。

「あんたらはあんたらのやるべきことをしなよ。バックアップは、全部こっちで引き受けるからさ」

カレン…カレン!カレン!!

 アタシはもう、なんか胸がいっぱいになって、カレンにタックルをくらわせてギュウギュウに抱きしめてやった。

 ああ、本当に、良い仲間に巡り合えたな。アイナさんも、レベッカも…すぐに行ってやるからな…

だから、がんばれ…絶対に、ひどい目になんて、遭わせないんだからな…!


つづく!

壮大な(?)伏線回収回になりましたw
詰め込みすぎたかなぁ…

いつも読んでいただき感謝です!

ヤベーよ、続きが待ち遠しーよwwww
楽しみ過ぎてワクワクが止まんねーよwwwwww


あ、本日も更新乙でした!

乙。
コレ本当に書籍化して欲しい。
関係者は居ないのかなぁ…

>>170
感謝!
楽しんでいただけてうれしいです!

>>171
感謝!
呼んできてもらってもよくってよ!


楽しみにしてもらってる人がいるのに、申し訳ないのですが
昨日、飲みすぎ、投下後頭痛とゲロゲロに苦しんでいたので
続き書けませんでした。

なので、本日の投下はお休みさせていただきます。
申し訳ありませんm(_ _)m

そんな日もあるさ、ゆっくりやすんで。

追い付いたー。一気に読んでしまったよ乙。

>>173
暖かいお言葉感謝!
おかげで今日は投下いきます!

>>174
前スレから読んできてもらったってことですか?!
長いのに…ありがとうございます!
ここからはリアルタイムで楽しんで行ってくださいませ!


ということで、復活のアウドムラ、続き投下します。


 子ども達は飯を食ったら、すぐにうとうと船をこぎ始めちまった。よほど疲れてたんだろうな。

とりあえず、泥だらけのまんま寝かせるのは、ペンション的にも子ども達の衛生的にも良くないと思って、

二年前にアタシが庭の一角に作った露天風呂に入れてやった。

一番ちびのニケってのが

「お風呂が外にあるの!?」

とはしゃぎまくっていたのをみ見て、なんだか妙に嬉しい気分になった。

お客に喜んでほしいと思って作った露天風呂だ。

素直にそうやって喜んだり楽しんだりしてもらえるのはやっぱりいい気分になれるよな。

それから子ども達は二階の部屋に寝かせた。やっぱり疲れは相当だったみたいで、寝付くまでにはほとんど時間は掛からなかった。

 そんな様子を確認してホールに戻った。

部屋で寝かせなきゃ、と思っていたロビンがソファーの上で伸びていてレナがリネン室から持って来たんだろう毛布をかけていた。

「しかし、とんだことになったね」

カレンがそう言いながら残ったビールの瓶をあおっている。

「ホントですね…どうしてまた、こうもいっぺんにいろんなことが持ち込まれて来たんだろ…まるで、分かってたみたいに…」

デリクが訝しげに言う。でも、そのデリクの言葉にはちょっと思うところがあった。

 デリクの言う通り、こいつらは偶然こんなところに来た訳じゃないんだろう。

子ども達も、アイナさんも、それにアタシとレナのもう一人の子、レベッカを助けろ、って意思に導かれたんだと思う。

それがいったい、どこの誰の意思かは分からないけど…でも、すくなくともこんなことをするんだ。

悪いやつであるわけはないだろう。

アムロが何とか、って言ってたけど、それもただの言い訳に思える。これはあのアムロってやつの意思じゃない。

いや、もしかしたら、誰か一人だけのものと思う方が違うのかも知れない。

ちょっと信じられないところもあるし、現実離れしている気もするけど、

この感覚はそう言うことだって起こしかねないんだよな…な、ロビン?

 アタシはそんなことを思いながら、ソファーで人形のレベッカを抱いたまま眠るロビンの髪を撫でてやった。

 見たことのない自分の双子の姉妹の名を知っていて、その生みの親のレオナの名前も知っていた。

こんなのを、子どもじみた妄想の偶然とかまぐれとか、そんな言葉で片付けられないだろう?

 結局、理解出来るかって事よりも、感じられるか、ってことなんだよな、きっと。

「みんなも、巻き込んじゃってごめんね」

レナがまだホールに残っていてくれていたカレンとデリクに謝った。

シイナさん達は歩いて3分の自宅に戻って、ソフィアとシェリーは二階のベッドにお泊まりだ。

ハンナとレオナも、疲れてて眠いはずなのに、頑張って起きてホールに居てくれている。

「まぁ、気にしないことだね。これでもアヤと同じあの隊にいたんだよ?

 首突っ込むなって言われたって手を出しちまうだろうしさ」

「そうですよね」

カレンの言葉にデリクが相づちを打って笑った。まったく、ホントに…嬉しくって泣けちゃうじゃんかよ。

「でも、隊長に連絡がついて良かったよ。フロリダで北米側の援護してくれるとなりゃ、百人力だね」

隊の連中には全員に連絡して協力を頼もうと思ったんだけど、繋がったのは隊長にフレートにベルントだけだった。



マライアは宇宙に上がったっきり、隊長とアタシとソフィアに時々手紙を送って来るくらいで、行方不明。

ヴァレリオは噂じゃぁ月面にいるらしくて、

 ダリルに至っては軍をやめてからと言うもの、誰一人連絡を取れたやつがいないのだと言う。

あいつらしいと言えばあいつらしい。きっとどこかで怪しい商売でもやってんだろう。

正直言えば協力してくれりゃぁ頼もしかったけど、今は贅沢を言って時間を掛けてる余裕はない。

連絡のついた隊長とフレート、ベルントは二つ返事で協力を了承してくれた。

フレートは北米にいるから隊長と一緒になにかしてくれるだろう。

ベルントは今は運良くニホンの隣、チャイナのホンコンシティにいるらしいから現地で合流の予定だ。

これが前線で支援を受けられる全戦力。素直に言えば厳しい。ただ、そんなことよりもアタシには気にかかっている事があった。

今回の目標は、二ヶ所。ニホンと北米だ。

アイナさんは拷問にあっているかもしれないし、レベッカは精神手術を受けさせられてしまうかも知れない。

どっちも猶予があるとは言えないんだ。

 だから二つの作戦を同時に進行させなきゃ行けない…戦力を分散しなきゃいけない。

ただ、それぞれの事情に詳しいのはアタシとレナだけ…

そう、アタシ達は、出会って初めて別々のところで戦わなきゃいけないんだ。

 不安かって言われたら、不安だ、それもどうしようもなく不安だ、と言うしかない。

レナを信用してないわけじゃない。自分に自信がないわけでもない。

でも、あれからずっと、お互いそばにいて、守りあって生きてきたアタシ達だ。

自分のことは、まぁ、いい。でも、アタシにとってみたら、レナを守ってやれないってのが、ホントに不安なんだ。

 レナが、真剣な表情でアタシのとこにやって来た。あぁ、分かってる、レナ。

それでも、アタシは…アタシ達は、選ばなきゃいけないんだ。

「アヤ」

レナがアタシの目をジッと見る。

「うん」

アタシも、出来るかぎり迷いを捨ててレナの瞳を見つめ返した。

「私が、北米へ行く。あなたは、アイナさんをお願い」

レナはそう言った。アタシも、そう考えてた。北米は隊長とフレートがいる。支援は厚いし、言っても研究所だ。

兵隊がひしめき合ってるところに比べたら、最悪でも力押しが出来る可能性も残されてる。

でも、アイナさんの方は、駐屯基地とは言っても連邦軍の本隊がいて、その狂ったティターンズ大尉までいるって話だ。

どれだけの支援をもらえるかも不透明。それなら、白兵戦での経験が豊富なアタシが向かうべきだろう。

まぁ、白兵戦って言っても、ただのケンカがほとんどだけどさ。

でも、いくら勘のレナでも、対応仕切れないことも多いだろうし、

むしろその勘の良さがニュータイプ研究所なんかでは役にたつかも知れない。レナの判断は正しいと思う。

「あぁ。それが良いだろうな」

アタシが返事をすると、レナはまだアタシをジッと見つめてうなずいた。


 「それなら」

不意に、声が聞こえた。レオナだった。

「それなら、私が、レナさんと一緒に北米へ行きます」

「あんた…平気なのかよ?子ども達と一緒に、カレンのところへ…」

そこまで言ってハッと気づいた。そうだ。

そもそも、レベッカは、レオナの産んだ子なんだ…写真を肌身離さず、分かりにくい記憶媒体に入れて隠していたくらいだ。

思い入れんがないって思う方がどうかしてる。だいたい、レベッカにとっては、レオナは母親に違いないんだ。

 アタシが黙ったのを見て、レオナは気が付いたみたいだった。

「ごめんなさい…分かっていはいるんです、でも、レベッカのことは…私…」

と言いよどむ。レナは彼女の話を止めた。

「うん、そう言ってもらえてよかった。私も、ロビンを産んだから、分かるよ…レオナ、一緒に着いてきて。

 私たちで、『お母さん』で、レベッカを助けてあげよう?」

「…はい!」

レオナは、ここにきて一番かもしれない、まぶしい笑顔でそう返事をした。

「じゃぁ、アヤさん」

次に、ハンナが口を開く。

「アヤさんとは、私が一緒に行きます」

「…あんたは、アイナさんがつかまっている基地にいたんだよな…」

そうだ。それなら、周囲の地形や基地の警備の配置、警備システム、そのほか諸々まで、把握しているはずだ…

でも、彼女には戻る理由がない。良いのかよ、また危険な目に合うかもしれないんだぞ?

「危険だぞ?」

アタシが言うと、ハンナはニコっと笑った。それから、少し悲しそうな瞳で

「マークの…ここへ来る途中で、きっと、彼らに殺されてしまった、私の幼馴染み、恋人の敵を取りたいんです…」

と言ってきた。

 その話は、子ども達が風呂に入っているあいだに聞いた。そっか…あんまり、気の進む動機じゃないけど…でも。

MPを殺したソフィアとおんなじような気持ちなんだろうな…だとしたら、なにもせずに放っておくのも…違うような気もする。

「わかった」

アタシはハンナの意思も、了解した。

 そんなとき、不意に、アタシのPDAが鳴った。ディスプレイを見る。そこにはシローの名があった。

「レナ!シローだ!」

アタシはそう言いながら電話口に出る。

レナに、カレンもこっちへ視線を送ってくる。

「シロー!あんた、大丈夫か?!」

「アヤか?何の用だ?今、ちょっと取り込んでるんだ」

「シロー、アイナさんの話を聞いた」

「なんだって?!」

電話の向こうのシローは驚いていた。

 そりゃぁ、そうだろう。こんなところに、シロー達が会った子どもが逃げてくるなんて、普通なら想像できもしない。


アタシは事の成り行きをシローに説明した。そしたら、シローは電話の向こうで声を震わせながら

「手を、貸してくれるってのかよ…?」

と聞いて来た。バカ、手を貸すどころの騒ぎじゃない。

アタシが直接乗り込んでいくって言ってんだ、バカシロー!

「アタシがアイナさんを助け出す。明日にでもこっちを経つからな。

 シロー達は大丈夫なのか?あ、居場所は言うなよ。盗聴されてない保証がない」

「あぁ…俺たちは、無事だ。今は、知り合いのところに身を寄せてる…軍時代の仲間だ。

 あ…待ってくれ…ああ、分かった。そう伝える。なあ、アヤ。こっちで協力者を用意できる。

 俺とアイナの共通の知り合いだ。どこかで合流できないかと言ってる」

協力者?支援は信用できる身元のやつなら、あればあるだけありがたい。選択肢が増える。

「頼むよ。明日はカゴシマに飛ぶつもりでいる。

 飛行機じゃなくてシャトルのチケットを押さえるつもりだから、夕方前には着くと思う」

「シャトルか…どうする?」

「―――」

「あぁ」

「――、――――?」

「わかった。フクオカではどうか、って言ってる」

フクオカ…8年前、シロー達と別れた、あの街だ。

「よし、そこにしよう。合流方法やなんかは、あとで安全な回線を使ってこっちから情報を送る」

「アヤ」

急に、シローがアタシの名を呼んだ。

「なんだよ?」

アタシが聞き返すと、シローは本当に消え入りそうな声をしながら

「俺が、こんなんじゃなければ…すまない。アイナを、頼む!」

と言ってきた。バカだな、シローは相変わらずバカだ。あんたに礼なんか言われる筋合いはないんだよ!

アイナさんは、あんたに頼まれなくたってなんだって、アタシとレナの大事な大事な友達だ!

放っておけるわけないだろうが!

 アタシは思ったまんま、そう言ってやったら、泣いてんのか、シローの声色がおかしくなったが、

まぁ、気にしないでおいてやった。

 それから、2、3言葉を交わして、とりあえず電話は切った。

それからレナとカレンに今の電話を説明する。

そしたら、レナは少し安心した顔つきで

「良かった。アヤの方にも、頼れる人が増えてくれると良いんだけど」

と言ってくれた。アタシの身を案じてくれてるんだな、レナ。ありがとう。

あんたこそ、隊長とフレートをうまく使えよ。

絶対に、死んだり怪我したりなんかしちゃダメだからな…


 翌日の早朝、アタシ達は空港に居た。

出る前、うちに来てくれたシイナさんに、ロビンを預かってもらった。ロビンはちょっと不安げな顔をしたけど、泣くでもなく、

「レベッカを助けてくるね」

と言ったレナの手を、黙ってギュッと握った。そして、アタシにも泣かずに、ギュッと抱き着いて来た。

ごめんな、ロビン。

不安だよな。

大丈夫。ちゃんと笑顔で帰ってきてやるからな…

あんたには、アタシやレナみたいな、寂しい一人ぼっちな思いなんて絶対させない。

アタシは心にそう固く誓った。きっと、ロビンには伝わったと思う。

 空港のロビーでアタシとレナは出発前の言葉を交わした。

レナはカレンの飛行機でレオナとフロリダへ。

アタシとハンナは、デリクの飛行機で南米に渡って、そこにある民間のシャトル発射基地から出てる、

旅客機なんかよりもはるかに高い高度、宇宙との境目の大気圏の「上澄み」を滑るように運航しているシャトルに乗る。

 だから、レナとは、ここでお別れだ。

 「気を付けてね、アヤ」

「レナこそ…無茶はするなよ」

「分かってる、ヤバくなったら…」

「逃げろ、だ」

アタシ達はそう言い合って、笑って、それから抱き合った。

 心配だ、なんて口には出さなかった。出してしまえば、とたんに弱気になってしまうような気がしてしまって。

お互いにそう思ってるってことは、十分感じ取れてはいるから、伝わっているようなものなんだけど…。

 切なくて、苦しいよ。

ほんとだったら、一緒に行って、レナを守りながら一緒にレベッカもアイナさんも助け出してやりたいよ…

その方が、よっぽど安心だし、それに。レナといるアタシは無敵なんだ。

どんなことにだって、どんな相手にだって負ける気はしないのに…あぁ、もう。

アタシもすっかり家庭人になっちゃったんだなぁ。

若い頃なんか、怖いモンなんかなんにもなかったのに…今は、死ぬことがどうしようもなく怖いよ。

レナ、あんたを悲しませちゃうかもしれないって思うと、キリキリ胸が痛むよ。

あんたが、死んじゃったらなんて思ったら、胸がつぶれそうになるくらいに恐ろしいよ…

そんなこと、現実にしないでくれな…隊長、レナを守ってやってくれよな…アタシの代わりに。

あんたなら、勤まるだろう?歳くったからできない、なんて言わせないからな…頼む、頼むよ…。

 そんなことを思いながらした、レナとのキスは、どっちのかわかんないけど、とにかく、鼻水の味がした。

キスをしてから、レナが噴き出して笑った。

仕方ないだろ、お互いに号泣してんだからさ。


つづく!

ついにアヤレナ始動です…ドキドキします。
マーク編が嘘のように話が進む進む!

ニホンと北米に何が待ち受けているか!?
ザッピングシステムはうまく機能するのか!?

次回、たぶん、北米編←これから書く

乙だ。
頑張れとしか言えんが頑張れ。

全裸待機

>>182
感謝!
頑張る。

>>183
誤爆?
なぜ脱いだのか。


こんばんわ~
投下いっきます!


 「あんまり無茶はするんじゃないよ」

カレンがそう言ってくれる。

「うん、分かってる。そっちも、カレンも子ども達とロビンをお願いね」

「任せておきなよ。何かあったらこっちへ情報や連絡をしな。アヤの方に中継してあげるからさ」

「ありがとう」

 私は、北米のフロリダはセントピーターズバーグの空港にいた。ここは確か、8年前にクリスと初めて出会った街だ。

ロビーで、送ってくれたカレンにお礼を言う。

「ちゃんと帰ってきなよ」

カレンがそう言って私にハグしてくれた。私も、カレンの体を抱きしめ返す。

 泣きそうになったけど、我慢した。今は、そう言うのはダメだ。これから、向かわなきゃいけないところがある…。

「隊長も、レナを頼むよ」

私の体を離してから、カレンはすぐそばにいた、レオニード・ユディスキン元少佐、アヤのもともとの上官にそう言った。

「まぁ、こっちのことは任せとけ。悪いようにはしねえよ」

隊長は、本当に歳を取ったのか、もう40過ぎのはずなのに、あの頃とまったく変わらない容姿と、

自信たっぷりの顔で笑って返事をした。

 「じゃあな。帰って来るの、待ってるよ」

「うん。すぐに戻る」

カレンは私の返事を聞くと、少し名残惜しそうにしながら、飛行機を駐機させているエプロンの方へと歩いて行った。

その姿を見送った私は、隊長の方へと向き直る。

 「よろしくお願いします」

「まぁ、詳しい話は機内でしよう。急ぐんだろ?」

隊長はそう言ってくれた。


 空港で私たちを待っていたのは、隊長だけではなかった。

さすが、と言うほかはないのだけど、隊長と連絡を取っていたフレートさんが、飛行機を調達して空港に駆けつけてくれていた。

フレートさんは、今はその整備を行っているらしい。

私は隊長に連れられて、カレンの機体が止めてあるエプロンから少し離れた駐機場に向かった。

 「おー!レナさん!久しぶり!」

駐機場で、機体の外回りをチェックしていたフレートさんが私たちに気付いて手を振ってきた。

「レナー!久しぶり!」

もう一人、明るい声が聞こえた。見ると、機体に登るステップの上にはフレートさんの奥さん、

元連邦軍人でマライアちゃんのために一緒に戦って友達になったキーラの姿があった。

「キーラ!」

その姿を見て、一瞬、心が緩んだ。懐かしくて嬉しくて、思わず笑顔がこぼれてしまう。

「なんか、大変な事になってるみたいね。困ったら言って!会社から必要なものは全部ちょろまかしてくるから!」

キーラがそう言って笑った。本当に、この人たちは頼りになる。フレートさんが、私の隣にいたレオナに気付いた。

誰だ?と言わんばかりの表情で私を見つめてくる。

 「隊長、フレートさん、キーラ。紹介するね。この子は、レオナ。連邦のニュータイプ研究所にいた…元、被験者さん」

「レオニーダ・パラッシュです。レオナ、と呼んでください。よろしくお願いします」

レオナは、驚くほど丁寧な感じに自己紹介をした。あれ、私たちにはもうちょっとフランクだったのに…緊張してるのかな?

 そんなことを思っていたら、隊長が笑った。

「『レオニーダ』、か。良い名前じゃねえか」

「あぁ…そう思う、って言っちまうのも、なんだか癪ですけどね」

隊長の言葉に、フレートさんが茶々入れをする。キーラがそれを聞いて笑った。名前?何か面白いところだったの?

…あ、そっか、隊長の名前が…

「俺はレオニード・ユディスキン。アヤの元上司だ。まぁ、楽に行こうぜ。安心しな。

 なんとかうまくいくように手だては整えてやっからよ」

そっか、隊長と同じ名前なんだな。レオナの方は、女性名だけど…

私はレオナをチラッと見やった。彼女はなんだか驚いている様子だったけど、不意にニコッと笑顔を見せた。

まぶしい、アヤみたいに明るい笑顔だった。そんなレオナの様子になんだかちょっと、ホッとした。

「俺はフレート・レングナー。アヤの元同僚。こっちは、キーラ。俺の妻だ」

「初めまして、レオナ!」

フレートさんとキーラもそう言ってくれる。レオナは、二人にも笑顔を返した。



 「さて、挨拶はこれくらいにして、さっさと出ようや。時間が惜しい」

隊長がそう言って、ニヤっと笑った。

 飛行機が、フレートさんの操縦で離陸した。私はレオナと隣り合わせに座って、機体が安定するまでシートに身を任せている。

 レオナは、やっぱり、どことなく緊張した面持ちだった。どうしたんだろう、レオナ?

「緊張してるの?」

気になったので、聞いてみた。レオナは一瞬びっくりした様子をみせてから、戸惑い気味にコクッとうなずいた。

「大丈夫だよ。隊長も、フレートさんも頼りになるんだ。きっとうまくいくから」

私がそう言ってあげると、彼女は小さく、首を横に振った。

「そうじゃ、ないんです」

それから、掠れそうな小さい声で、そう囁くように言う。

 違うの?これからのことに緊張しているんじゃないんだ?じゃあなに?飛行機怖いとか、そう言うこと?

 私が疑問に思っていると、レオナは口を開いた。

「私、あんまり、地球の人に好かれる人間じゃないんですよ…その、ニュータイプ、だから」

そう言ったレオナの唇は、かすかに震えていた。

 あぁ、そっか。なんだか、納得してしまった。

この子は、小さい頃に地球に来て、連邦に監禁されたり、実験されたり、果ては、スペースノイドだから、って理由だけで、

ティターンズに追われ、研究所に追われて、捕まったり命の危険にさらされてきたんだ。

だからきっと、隊長達が怖いんだな…そんなこと、心配しすぎだって笑うのは簡単。

でも、とてもじゃないけど、そんなことをする気にはなれなかった。

 だって、彼女から伝わってくる緊張感は本物だ。とても軽い気持ちで受け止めたり、流したり出来る様なものではない。

それだけの目に遭ってきたんだ、彼女たちは…。

 なんだか、胸が締め付けられるような気持だった。寄る術もなく、物のように扱われてきた気持ちってどんななんだろう…

私が、父さんや母さんや、兄さんを亡くして、一人ぼっちだなって思ったときときっと似ているんだろうけど、

たぶん、それよりももっとつらくて悲しい時間だったはずだ。

それこそ、自分で自分の命を絶ちたくなってもおかしくはないくらいに…

 そんなことを考えていたら、いつのまにか、目からポロポロと涙がこぼれ出していた。

あぁ、私のバカ!泣いちゃダメだって思ってたのに…あぁ、なんでこんなに涙腺ゆるいんだろう、私…


 「グスッ」

涙を同時に鼻もすすってしまった。やだな、これ。かっこわるいよ。

 鼻をすすった音で、レオナが私を見やった。そして、なんだかすごく驚いていた。

いや、まぁ、隣に座ってた私が急に泣き出したら、そりゃぁ、びっくりもするよね。ごめんね。

 私は深呼吸をしてから、何を伝えればいいのかを考えた。

もちろん、隊長達はレオナをそんなふうに扱ったりしないってのは、分かってる。

だって、同じニュータイプの私たちにこれまでも、今回も、こんなに良くしてくれてる。

レオナが出会ってきた人たちとは、別の括りの人種だと思ってもらったっていいくらい。

だけど、たぶん、そう言うことじゃないんだ。レオナが緊張してしまう理由は、隊長達がどうのこうのっていうより、

もっと、深い、これまで経験してきた辛いことの積み重ねがあるからなんだ。

私は、彼女になにを言ってあげられるかな…彼女の、何になってあげられるかな…

 「レオナ。レオナには、本国に家族はいるの?」

私はレオナに聞いた。レオナは、少し困ったような顔をした。

「私は…妹が、います」

「名前は?」

「…わかりません。妹が生まれる前に、地球へ連れて来られてしまったので…」

「そう…」

あまり、驚かなかった。なんとなく分かっていた。身近な人がいなかったんだろうって。

きっと、父親も母親の顔も、あまり知らないんだろう。

ジオンの研究所に、拉致されたみたいにつれてこられたのかもしれない…。

そうだよね…それなら、うん…きっと、安心してもらえるだろうな…


「ね、レオナ。これが終わったら、一緒にペンションで働かない?」

私がそう言ってあげると、レオナはさっきよりもいっそう、驚いた顔をした。どうして、って表情で私を見つめ返してくる。

どうして、って決まってるじゃない。

「だって、あなたは、レベッカのお母さん、なわけでしょ?私も、アヤも、レベッカのことを他人だなんて思えない。

 それなら、レベッカを産んでくれたあなただって、同じ。

 産んでくれたあなたと、血のつながった私と、アヤと、レベッカはお母さんが3人だね。

 ふふふ、ロビンがうらやましがるかも」

ロビンのことだから、そんなことを言うよりも、「じゃぁ、レオナも私のママになって!」とか言いそうだけどね。

レオナは、なんだか呆然とした表情になってしまった。私は、それでもレオナに続けた。

「私たちは…家族。レベッカっていう子どもで結ばれた、家族なんだって思う。

 私たちのところに来てくれて、本当に良かった。

 きっと、その『声』の人は分かっていて、私たちとあなたを引き合わせてくれたんだよね…。

 だから、私はあなたを家族だって思う。私たちの居る場所が、あなたの帰る場所だよ」

「レナさん…」

レオナは目に涙をいっぱいに溜めて震えている。大丈夫だよ、レオナ。あなたは、ひとりじゃない。

私は、いつもアヤがしてくれるみたいに、レオナの頭を撫でてあげた。良かったかな…これで少しは安心してくれると良いな…

「隊長もフレートさんも、私ともアヤとも、古い付き合いなんだ。

 みんなとっても優しくて、それこそ、こんなことに手を貸してくれるような人たちだから…安心して。

 みんなで一緒に、無事に帰ろう」

そこまで言うと、レオナは顔を覆って静かに泣き始めた。

伝わったかな、私の気持ち…アヤは、反対するかな?ううん、するはずないよね。

だって、レベッカとレベッカを産んでくれたレオナだもん。

隊のみんなを家族だって言うアヤが、そんな二人を家族じゃない、なんていうはずがないんだ。

大丈夫、大丈夫だよ、レオナ。あなたもレベッカも、私とアヤがまとめて守ってあげるんだからね。


 機体が安定するころには、レオナも私も落ち着いて、隊長がそれをみて作戦会議をしようといってそばにやってきた。 
「で、オークランドって確か、サンフランシスコのすぐそばでしたよね?」

「あぁ、そっか。地球の地理は分かんねえんだったな…そうだ。何の因果か、打ち上げ基地の目と鼻の先、だ」

隊長が苦笑いで言った。キャリフォルニア、か…

大変な事ばかりだったけど、今考えてみたら、なにもかも全部いい思い出のように思える。

また、あそこへたどり着くんだね…アヤはいないけど、その代わりに隊長もフレートさんも、キーラもレオナもいる。

レベッカを救い出して、私たちのペンションへ戻るんだ。

「幸い、昨日の夜の議会放送で、地球圏のティターンズは大わらわだ。

 議会で排除決議も通ったし、今は、ティターンズと言えど、これまでの権力を振りかざしにくくなっている。

 それでも、うちの社員が出向してたりするオーガスタに比べると、

 完全にティターンズの傘下だったオークランド研究所は比較的組織構造が整っているんだろう。

 その、レベッカって子をオークランドに移していたのは、これを予見していたのかもしれない」

キーラさんに操縦を代わって、客席へやってきたフレートさんがそう言う。

「逆に、抵抗されるとめんどくせえってこともあるな。一枚岩じゃねえオーガスタなら、無難に潜入することも出来たろうが…」

隊長が憎々しげにつぶやいた。

「オークランドも似たようなもんだと思いますよ。

 現に、うちの社内にもある程度のオークランド研究所の内部情報が出回ってます。

 一番影響力があるだけで、完全に掌握しているとは思えません」

「なるほど、なら、突くならそのポイントだな…ダリルのやつがいりゃぁ、どんな反則でもキーボード一つなんだがなぁ」

「その点は、俺もキーラも役には立てませんね。俺たちはどちらかっていうと、陽動に向いてる」

「弾幕に飛び込むのが仕事だったもんな、お前は」

「あ、ちょ!それ今言いますか!?」

 作戦会議をしてたのに、いつのまにか、隊長とフレートさんの昔話になってしまった。

まあ、こんなノリはいつものことだから気にしない。


「で、潜入する方法ですけど…」

「あぁ、それなんだけどな」

私が口をはさむと、フレートさんが思い出したようにしゃべりだした。

「話を聞いてから少し、社内を調べてみたら、三日後に、うちのエネルギーキャップをオークランドに納入することになってたんだ。

 さすがに、俺はテストパイロットで部署違いだから、それを代わりに引き受けるわけには行かなかったけど…」

「そいつを事前に襲撃して、成りすまして潜入、か」

フレートさんの話に、隊長がそう付け加える。

「夜な夜な敷地内に忍び込むよりは、安心だと思いますけどね」

「そいつを利用させてもらうか。搬入のルートは分かってんだろうな?」

「恐らくは、本社工場からこの国道を使って街に入ると思います」

フレートさんが地図上を指し示して言う。

「なら、オークランドに入る手前を通る…」

隊長がそう言って、国道を南へと辿って行く。その先って…

「…あ、やっぱり」

「お」

「あぁ、そうですね…」

私たちがほとんど同時に声を上げたので、レオナが不思議そうな顔をしている。

あとで、私たちの昔話もした方がいいかもね、レオナには。

 「あとで話すよ」

私はそうレオナに笑いかけた。

 それにしても、こんなことってあるんだね。この場所って、何か、特別なのかな?良くわからないけど…

もしかしたら、何かがここにもあるのかもしれない。私はそんなことを考えていた。

 オークランドからストックトンまで西へ行き、そこから国道を南下して行くと、フレズノと言う街があって、

その先は、ベイカーズフィールド。

私と隊長たちが初めて会った、あの街がある。

 ここで、アナハイム社から出発した輸送車を乗っ取ろうという計画だ。

「あの店のオヤジさん、元気ですかね?」

「まぁ、あの様子だ。大方、地下組織にでも入って反連邦活動でもやってんじゃねえかとは思うがな…」

私たちが食事をごちそうになった、あのお店の店長さんのことだろう。

「と、すると、ロサンゼルスへ戻ることになる、か。まぁ、サンフランシスコへ直接降り立つよりは無難かな。

 そこで降りて、飛行機はキーラに向こうへ運ばせましょう。どっちにしたって、逃げる手だてがいる」

「いや、待て。モビルアーマーに追われたら手も足も出ねえ。その策はうまくねえな」

隊長が首を振った。

「なら、どうすんです?」

「考えがある。とりあえず、ベイカーズフィールドだ」

フレートさんの言葉に、隊長はニヤっと笑った。また、何かを考え付いてるんだろうな、この人。

 私は、そのしたり顔にそこはかとない安心感を感じながら、進路変更をする機体に身を任せて、気持ちを落ち着けた。

アヤ…そっちも、うまくやってね…


つづく!

次回は、ニホンのアヤさん編序!

おつおつ~

ヘタレてない俺のマライアちゃんは出番まだなの?

>>194
たぶんそのうちどこかで出ます。
どのタイミングかはわからないですがw

乙~

そういえばマライヤたん、ライラと互角の腕してんだよな(ゴクリ

乙。
コレは公式にしても良い気がしてきた。

マライアなら俺の横で寝てるよ

あらイヤだ

>>196
感謝!
マライアさんもきっとがんばってくれると思います!

>>197
感謝!!
そんな風におっしゃってもらえると恐縮です…!

>>198->>200
一連の流れにわろたww
マライアさん人気あるんですね…


こんばんわ~
投下いっきます!

アヤ編【序】!


 「アヤさん、ここに、その協力者って人が?」

ハンナが少し不安そうに話しかけてくる。ここはフクオカの街の路地裏。

怪しげな店が立ち並んでいて、行きかうやつらもガラの悪い連中ばっかりだ。

ま、アタシにとっちゃ、慣れた感じだったけどな。施設にいたころは、こんなとこばかりに入り込んで遊んでたし。

「あぁ、この先の飲み屋のはずなんだけど…」

アタシは、シローから指示のあった住所と、地図を見比べながら返事をする。ハンナはこんなとこ来たことないんだろう。

なんだかビクビクしちゃってて、ちょっと申し訳ない感じがする。

 不意に、目の前に人が現れた。痩せ細った、タッパのある男だ。

そいつの目はアタシらを品定めするみたいに嘗め回している。うーん、こいつじゃなさそうだな、シローの知り合いってのは。

 「悪いな、ちょっと約束あるんでそこどいてくれるか?」

アタシが押しのけようとしたら、男はそんなアタシの腕をつかんだ。

「まぁ、そう連れないこと言うなよ、お姉さん。俺たちと遊んでくんないか?」

男は品のない笑い方でそう言うと、アタシらの後ろに目配せした。そこには、別の若い男が二人。

ニヤニヤとしながら突っ立っている。ったく、騒ぎは起こしたくないんだけどな…

ま、こんな場所なら、別に憲兵も警察も治安部隊も来やしない、か。

「ハンナ、あんたやれる?」

アタシはハンナに聞いてみた。意味が分からなかったのか、彼女はおびえた瞳でアタシを見つめ返してきた。

あぁ、そうだった。こいつ、素人だったな、戦闘は。

アタシは、昨日の夜、ペンションに入ってきたハンナのことを思い出した。

拳銃先に突っ込んだら、抑えられちゃうだろう、ハンナ。ああいうときは、まずは視界を確保するのが優先なんだよ。

 そんな講義を後でしてやらなきゃな、と思いながら、

アタシは握られた腕を払いのけるとそのまま踏み込んで、反対の腕を振り上げながら拳を男の顎の真下からたたきつけた。

舌、噛んでなきゃいいけどな。

「がっ…」

男はそう呻いて二、三歩後ずさる。

「この女!」

後ろにいた男たちのいきり立った声が聞こえる。挟まれるのは、ちょっとうまくないよな。

アタシは目の前でよろめいている男の下腹部を思い切り蹴りつけて昏倒させ、ハンナの手を引いてその上を飛び越した。

 向き直って迎撃だ。

「ハンナ、アタシの後ろを離れんなよな」

ハンナを背中側に押しやって、そうとだけ言った。残りの男二人がとびかかってくる。

まったく、こいつら、こんな風体でケンカ慣れすらしてないのかよ。

 アタシは真っ先に飛びかかってきた方のヤツの顔面に拳を突き出した。メリっと鈍い音がして衝撃が走る。

あぁ、鼻潰しちまった。男はそのまま地面に崩れて悶絶する。

そのすぐ後ろから来た最後の一人はアタシを羽交い絞めにでもするつもりだったんだろう、腕をグッと伸ばしてきた。

バカだな。そんなことしたら…

 アタシはその腕を取ってひねり上げた。こうなっちゃうだろ?

男がそれでも抵抗しようとするので、迷うことなくその腕を思い切りひねってやった。グキっと鈍い音がした。

あーあ、大人しくしてればよかったのに…間接外しただけだから、許せよな。


 アタシは手を離して、転がった男をけっぽってから背を向けた。ハンナが、すごい顔してアタシを見ていた。

「あの…アヤさんて、なんなの?」

「あぁ、えーっと、元連邦のパイロット?」

「そ、それは昨日聞いたけど…」

ハンナは、あわあわと口をパクパクさせてあっけにとられている。なんか、レナみたいなリアクションだな、あんた。

 そんなことを思っていたら笑えてしまった。

「なんでも、噂じゃあ、ジャブローの暴君、とか、連邦の鬼神、なんて通り名があったらしいよ」

まぁ、うちの部隊のそばでは、の話だけど。アタシの話を信じちゃったのかどうなのか、ハンナは目をぱちくりさせて

「そ、そうなんだ…」

とつぶやいていた。

 「へぇ、すごいな…」

そんな感嘆がどこからか聞こえた。見ると、そばにあった看板の陰から、ひとりの女が姿を現した。

女は、手に何かを持っている。紙切れ?いや、写真か?

「あなたが、アヤ・ミナト?」

女はアタシの名を呼んだ。あぁ、こいつが、シローの知り合いっていう?

「そうだけど」

アタシが返すと、女は少しほっとした様子で笑った。

「そっか。会えてよかった。あたしは、キキ。キキ・ロジータ」

「キキ?シローの子と、おんなじ名前だな」

「あぁ、そうさ。あたしの名前から取ってくれたんだ」

なにか嬉しかったのか、キキはニコッと笑った。まぁ、悪いヤツって感触はない。こいつで間違いなさそうだな。

「ほら、シローに写真を預かったんだ」

キキは手に持っていた写真を見せてきた。

それは、ペンションで撮った、アタシとレナと、アイナさんに子どものキキの4人が写った写真だった。

あぁ、これもう、ずいぶん前のだよな。確か、レナが妊娠してたくらいに撮ったんだ。やっぱり、間違いなさそうだ。

「悪かったね。こんなに物騒な街だとは思ってなかったんだ。あたしも、危うく狙われるところだった」

キキは悪びれた様子で言う。

「いや、これくらい、大したことはないよ。でも、落ち着いて話を出来る様な感じの場所ではないよな。どこかに移るか?」

アタシが聞くと、キキはかぶりを振って

「空港に飛行機を待たせてるんだ。話は、その中でしよう」

と言って笑った。うん、アタシ、この子は好きなタイプだな。付き合いやすそうな助っ人で助かるよ。

カレンみたいなやつだったら、どうしようかと思ってた。

あ、いや、別にカレンがイヤってわけじゃないんだけどさ。仲良くなるまでに時間かかると、めんどうだからな。


 アタシはいまだにすこし呆然としているハンナの手を引いて、キキのあとについて路地を抜けた。

大通りでタクシーを捕まえて、10分もしないうちに空港へたどり着く。

 空港に着いてから、改めて自己紹介をした。

ハンナがあの基地から来て、子ども達を連れて逃げ出したこと、逃げ出してからのことを話すと、キキは顔色を真っ青に変えた。
どうしたのか、と思ったら、彼女はハンナの目をじっと見て

「あれは、あたしが手引きしたんだ。あのちび達を、アイナがどうしても助けたいっていうから…」

と口にした。

「だけど、うまくいかなかった。ちび達だけでも、助けてくれてよかったよ…

 それから、あなたの恋人の、マークさんは、本当にごめん。

 あたしがうまくアイナをサポートできなかったせいで…そんな目に…」

キキは、涙をこらえていたんだろう、奥歯をギリッとかみしめた。

ハンナをチラッとみたら、彼女は特に怒るでも、キキを責めるでもなく

「ううん、私たちは、私たちがしようと思ったことをしただけ。

 あの爆発や停電がなかったら、助け出すこともできなかった。感謝してるわ」

と穏やかな口調で言った。良い奴だな、ハンナの方も。なんだか、笑みがこぼれてしまった。

不謹慎かと思って、何とか口元を引き締めてから、キキを急かして飛行機へと向かう。

 エプロンの駐機場に止っていたのは、なんだか、偉く古めかしい機体だった。

双発の、小型のレシプロエンジンを両翼につけた機体だ。

機体の腹側が船底みたいな形をしているし、そういや、機体の両脇から妙な形のドロップタンクみたいのもぶら下がっている。

待てよ、これって、飛行艇ってやつじゃないのか?この宇宙世紀にレシプロで、しかも飛行艇だなんて…

場所さえ違えば、博物館に展示してあっても驚かない逸品だ。飛行艇か…水上走行に離着陸ができて飛べる…

うちのペンションでも導入できないかな…無理か、高そうだもんな。

 「ずいぶんと、レトロなんだな」

アタシが言ってやるとキキは

「あたしは、東南アジアの民間ゲリラの生き残りなんだ。ツテはあるけど、金はない。

 村も、何も、みーんなティターンズにやられちゃってね…別に、やつらに反抗したわけでもないのに。

 生きるために、カラバやエウーゴに頼まれた偵察をしたくらいで…あんなこと…」

と悔しそうに眉間にしわを寄せてつぶやいた。こいつは、余計なこと聞いちゃったな。悪いことしたか…

 「まぁ、整備は済んでるし、腕の立つパイロット兼コーディネーターも雇ったからさ。力を貸してくれよ」

キキはすぐに自分を切り替えて、アタシにそう言ってきた。勘違いするなって。アタシが助けてやるんだ。

感謝も頼みごともされる筋合いがないんだって。頼みたいのは、むしろアタシからなんだ。

「アイナさんは、アタシの友達だ。あんたやシローに頼まれなくなって、助け出す。変な気は使わないでいいよ。

 こっちこそ、手だてを用意してくれて感謝してるんだ」

アタシが言ってやると、キキはすこし嬉しそうな顔をした。


「コーディネーターって?」

キキのさっきの言葉に、ハンナが反応した。そう言えば。コーディネーターってなんだ?

いったいなにをコーディネートするんだよ?

「あぁ、戦闘諜報コーディネーター。まぁ、傭兵と言うか、金で雇う指揮官、みたいな感じかな」

 へぇ、前線に出ないで後方で支援する傭兵ってとこか。そんな商売もあるんだな。

 飛行機の中に乗り込む。中は、割ときれいにレストアされていた。

もしかしたら、どこかのコレクターが保管してたものかもしれないな、この感じは。

ホントに、博物館においてあるみたいにピカピカに整えられている。

これなら、エンジンの方も元気に回ってくれるってのもうなずける。

 「おっさん、頼む、出してくれ」

キキがパイロットに向かって怒鳴った。

「おっさんと呼ぶなと何度言ったらわかるんだ小娘。お前だけ上からパラシュートなしで突き落とすぞ?」

「ふざけんな、おっさん!金払ってんだから、黙って従いな!」

言い返してきた「おっさん」にキキも負けずに言い返す。はは、そう言う勢い、嫌いじゃないなぁ。

 …あれ?

ていうか、おっさん…あんた…聞いた声だな。

「おい、おっさん、あんた操縦大丈夫なんだろうな?」

アタシも「おっさん」を野次ってみる。「おっさん」はエンジンを始動させ、機体を滑走路の端へ移動させながら

「当たり前だ。そこいらの若いパイロットなんかとは比べものにすらならん」

やっぱりだ…こいつ間違いない。

「で、この飛行機はどうしたんだよ?あんたがかっぱらってきたのか、おっさん?」

アタシがそう言ってやったら、「おっさん」はコクピットからこっちを振り返った。

「アヤか!?」

「よう、久しぶりだな、ダリル!いや、おっさん!」


 ダリルが機体を滑走路の端に止めた。管制塔と何かを話して、すぐに機体を離陸させる。

高度を上げているダリルにアタシは話しかけずにはいられなかった。

「あんたが傭兵の真似事なんてな」

「物騒な言い方をするなよ。俺はあくまでコーディネーター。作戦を提示して、あとは基本的にはなにもしない」

ダリルは不満そうに言った。それから渋い顔をして

「しかし、そうか。お前が噛んでんのかよ。こりゃぁタダ働きするしかなさそうだな。

 おい、小娘、こっちの女に良く感謝しとけよ」

とキキに言った。

「あんた達、知り合いなのかよ?」

キキも驚いた顔をしている。

「腐れ縁だな、ここまで来ると」

ダリルがそう言って笑った。その言い草になんだかアタシも可笑しくなった。確かに、これは腐れ縁だ。

「連邦にいたころ、同じ部隊の同期だったんだよ。悪ガキコンビでさ」

アタシは笑いながらキキとハンナにそう説明した。ハンナはクスッと笑ってくれた。

「で、どういう状況なんだよ?」

ダリルがそう聞いてくる。

「コーディネートしてるんだろう?当ててみろよ」

「捕まってるって女が、お前の知り合いなのか?」

「ご名答」

さすがはダリル。物わかりが早くて助かる。

 「8年前に、途中まで一緒に逃げてた人なんだ。戦争が終わってからも、家族ぐるみで付き合いがあったんだけどさ」

アタシはこれまでの経緯と、子ども達とアイナさん達の関係もダリルに説明する。

するとダリルは、急に声を上げて笑い出した。

「なるほど、な。つまり、あれだ。俺たちは8年前と同じことをしようとしてるってことだな」

「まぁ、状況に差はあれ、そうなるな」

アタシが肩をすくめると、ダリルはニッと笑った。

「それなら、すこし真剣にならないとまずいな。しくじるわけには行かない」

「ちょっと待て!あんた、この人じゃなかったら手を抜くつもりだったのかよ?!」

キキが急に顔色を変えてダリルに食って掛かった。

「いや、そうじゃねえけどよ。こいつを巻き込むと、ロクなことにならねえんだよ」

ダリルは笑う。

 まぁ、あんたにはそう言われても仕方ない。

これまでのことを考えりゃぁ、あんたとアタシが揃って、ロクなことした試しがないからな。

いつのまにかアタシは、すっかり安心してしまっていた。まるで、昨日、カレンと庭を警戒したあとと同じような心持ちだった。
ダリルとは、どんな危険なことも、ちょいちょいっと抜け道をついてやってきた。

こいつとアタシが揃えば、隊長だって出し抜けたかもしれない。

 待ってろ、アイナさん。すぐに行くからな。それまで、殺されるなよ。死ぬなよ。

うまく生き抜いててくれ。絶対に、アタシが助け出してやるからな…!


 あの時と同じ、乾いた少し冷たい風が吹いている。

私たちは、ベイカーズフィールドの街の入り口にいた。

あのときお世話になったバーの親父さんはすこぶる元気で、

あたし達がついてすぐに取り寄せられないかお願いした連邦軍の制服を奥の倉庫からたくさん出してきてくれた。

これを着込んで、今は検問の真似事の真っ最中だ。

 フレートさんの情報によれば、もうじきここにオークランド研究所へ向かうアナハイム・エレクトロニクスのトラックが

通るはず。それを奪って、研究所へ潜入する計画だ。

 「レナさん」

隣にいたレオナが話しかけてきた。

「ん、どうしたの?」

私が聞くとレオナは恥ずかしそうな顔して、

「さっきの話、うれしかったです。その…ありがとう」

なんて言ってきた。ふふ、なんか、くすぐったいな、そう言われちゃうと。

「いいんだよ。本当のことだもん。むしろ、レベッカ助けても、私たちのことなんて知らないだろうし、

 ずっと育ててくれてたレオナと一緒じゃないと、きっとかわいそう」

「そうでも、ないと思いますよ」

レオナはそんな意味深なことを口にした。どういうこと?

「たぶん、あの子は知ってると思います。レナさんや、アヤさんのこと。

 ロビンちゃんが、私のことを知っていてくれてたように…」

そう言えば、そうだ。ロビンは、レオナのことを知っていた。レベッカのことも知っていた。

あの時は驚いたけど、でも、そうなのかもしれないね。

 そうでなくたって、子どもって不思議な力っていうか、そう言うのを持ってたりするっていうし、

それが、殊、ニュータイプの姉妹なんてことになったら、いろんなことを共有し合っていてもあんまり不思議じゃない。

私とアヤでさえ、ちょっと離れてたって、その気になったら、なんとなくお互いのことを感じられるんだ。

ロビンに至っては、家の中のどこにいるか、くらいはすぐに分かっちゃう。

血のつながった、二人なら、もしかしたら、私たちのことも共有しているのかもしれない。

そうだったら、なんだか嬉しいな。

 思わずこぼれてしまった笑みを見て、レオナも笑った。亜麻色の髪が、風に揺れていて、すごく穏やかに見えた。


 「来たぞ」

隊長の声がした。道路の向こうに目をやると、そこには一台のトラックがいた。

ギュッと胸が締め付けられるような緊張感が私を襲う。

「打ち合わせ通りにね。俺と隊長で、乗ってるのを引き摺り下ろすから、キーラ達は荷台の確認を頼むよ」

フレートさんが作戦を確認する。私とレオナは黙ってうなずいて弾の込められた自動小銃を握りなおした。

 隊長が道路にバリケードを広げてゆく手をふさぎ、道路の真ん中でトラックに止るよう手を振る。

そばまで走ってきたトラックは、ほどなくして停車した。

 ふぅ、と一息つく。こんなときは、いつも緊張してしまう。

アヤと一緒に居て、慣れてきた部分はあったけど、それでも、何事もないように振る舞うのは一苦労だ。

「ライセンスを拝見します」

隊長が運転席に座った男に言っている。フロントガラスの中には、男が二人見て取れる。

私とレオナ、キーラで荷台の方に回って、コンテナのロックが開くのを待つ。

カチっと音がして、ロックが開いたのが確認できた。私とキーラが銃を構えて、レオナがそっとコンテナのレバーに手をかけた。

グッと、銃を握る手に力がこもる。警備みたいな人が乗っていても、いきなり撃ってくるようなことはないとは思うけど…

でも、そうは言ったって緊張する。

 レバーを引いたレオナが、ゆっくりとコンテナの扉を開いた。

中には、梱包されたタンクのようなものがぎっしりと詰められていた。人が乗っている様子はない。

「な、なにするんです!」

そんな声が聞こえてきた。隊長たちもうまくやったみたいだ。

すぐに、縛り付けられた男二人が、フレートさんに連れられて来た。私とキーラさんで荷台に放り込むと、

そのまま運転席へ回って乗り込んだ。

 運転席の中は意外に広くて、二つのシートの後ろには、仮眠用だと思われる長いソファー型の座席があった。

私たち3人なら楽に座れる。そこで連邦の制服を脱いで、フレートさんが用意したアナハイム社の係員の服装に着替える。

 うまくいった。ふぅ、とため息が出てしまった。

「なんだ、レナさん、緊張してた?」

フレートさんが話しかけてきた。

「そりゃぁ、緊張しますよ!アヤとは違うんですよ?!」

そう言って抗議したら、フレートさんは笑って

「そうだったな、悪い悪い」

と本当にそう思っているのかわからない様子で言って、笑った。もう、失礼しちゃう。

 トラックを街の中に走らせて、バーの親父さんに礼を言ってから、北へ向けて出発した。

一晩走れば、オークランドの街につくだろう。そこで後ろの係員たちは放置して、そのまま研究所へと向かう。

次の関門はそこだ。


 「そう言えば、隊長。逃げ出す算段の方はどうなってんです?そろそろ教えてくださいよ?」

「あぁ、そうだったな。あそこには、例の旧軍工廠があったろ?」

 その場所は、マライアちゃんやソフィアを守った、あの戦場のことだ。

「ジェニーに言って、あそこに戦闘機を運ばせてる」

ジェニー、ユージェニーさんのことだ。キーラさんが所属していた隊の元隊長で、アヤの隊長の奥さん。

そう言えば、話に出てこないと思ったら、そんな手を回していたんだ…これは頼もしい。

「なるほど…オークランドからはそれほど距離もない…」

「事前に調べたが、あそこは相変わらずの廃墟らしい。何かを隠しておくには絶好の場所だ」

オークランドでレベッカを取り戻したら、キャリフォルニアベースの近くの隠し塹壕から地下ルートを通って、

旧軍工廠へ行くつもりなんだ。あの日、HLV発射を援護したフェンリル隊が通ってきた秘密通路…

もうずいぶん時間が経っているけど、隊長が調べた、と言うからには、つかえてしまうんだろう。

戦闘機なら、勝てはしなくてもモビルアーマーに追いつかれる心配はない。

ここには腕の立つパイロットが三人もいるんだ。逃げ切るくらい、なんとかなるはず…さすが、隊長。

話を聞くだけで、逃げ切れるような気がしてきたよ!

 「それよりも、レオナさん。中での動きを決めたいんだが、レベッカの居場所は分かるのか?」

隊長がこっちを向いてレオナに聞いた。

「詳しい場所は着いてからでなけれなわからないと思います…」

「あぁ、『声』を頼りに、ってことになるんだな」

レオナの言葉に、隊長は言った。

「はい…」

レオナは少しおどおどしながら答える。大丈夫だよ、レオナ、怖がらなくっても。

「研究所内で出たとこ勝負、か。避けたいところだな…」

「せめて、見取り図さえあれば、ってところなんですけどね…」

二人が考え込んでしまう。

 確かに、そこが一番重要だ。中に入っても、レベッカを見つけられなければ意味がないし、

バレてこっちがつかまるようなことになったら、何をされるかわからない。穏便に事を運びたいけれど…


「また、だまし討ちで行くか」

不意に、隊長が口にした。

「だまし討ち?」

フレートさんが尋ねる。私も聞きたい。どういうことなんだろう?

「平たく言えば、レオナさんをつかまえた連邦士官のふりをしたレナさんが、研究所の内部に忍び込む。

 忍び込んだら、タイミングを合わせて、このトラックの荷を爆破する。何、エネルギーCAPだ。

 混乱しないほうが無理だろう。爆発の混乱の隙に、レナさん達でレベッカの捜索と救出、

 俺たちは退路の確保を行う、でどうだ?」

私とレオナで、中に…どうだろう?その爆発のタイミング次第だよね…

うまく混乱させることが出来なかったら、それこそ、私とレオナがつかまってしまいかねないけど…

「エネルギーCAPが充填済みのものである保証がありませんよ、隊長」

フレートさんが言った。

「充填されてようがされてまいが、構いやしねえ。気を引けるだけの規模で爆発を起こして、叫んでやればいい。

 『エネルギーCAPが暴発するぞ!』ってな。そうすりゃぁ、研究所はえらい騒ぎになるだろう。

 暴発する、と勘違いさせられれば、それはそこで戦艦並のメガ粒子砲数発分のエネルギーが吹っ飛ぶって認識になるからな」

隊長はそう言って笑った。

 そうだった、この人はこうやって、なんでもないところで人をひっかけることに関しては

アヤとも比べものにならないくらいの能力を持っているんだった。

 悪くない作戦のように思える。爆薬の準備さえできれば、確実に混乱を引き起こせるだろう。それなら、あるいは…

 私は、胸の高鳴りを感じていた。それは緊張ではなく、ドキドキと気分が高揚するようなそんな感覚だった。

それは、暗に作戦が成功するという、確信だったのかもしれない。

 気が付いたら私は、口にしていた。

「やりましょう」


つづく!


勢い余ってレナさんパートまであげちゃいました…サービスサービスっ♪
次回の投下はたぶん明日!

アヤさん、突入します!

乙!

乙。どうでもいいけれど、妊娠してたのはレナのほうか。…うむ、よいではないか

>>213
感謝!

>>214
感謝!
アヤさんの方が上部そうだし、アヤでもいいかなと思いつつ、仕事のことを考えたら、
やっぱりレナさんになりました。


ところでさっきなんか板不安定だった気がするんですが…俺だけ?

それはそうと、投下行きます!

アヤさん、突入!そして…?!


 「それほど警戒が厳しい、ってわけでもなさそうだなぁ。あれで、通常の配置なのか?」

「そうですね。正面はあの程度です。裏手は、監視塔が少ない代わりに、警備の人数が、表に比べると1班多くなっています」

「アイナの位置は分かるの?」

「恐らく、拘禁室にいるんだと思います。見取り図、ありましたよね?」

「あぁ、こいつだ」

アタシ達は、基地を見下ろすことができる崖を挟んだ反対側にある山の中腹の少し開けたところにいた。

4人で仲良く寝転んで、双眼鏡で敵状観察中。

ダリルが基地内の見取り図を広げたので双眼鏡の中の景色から、そっちへ頭を寄せ合う。

「東の、このエリアが要監視対象者を取り扱うブロックで、拘禁室はその一番奥。ここになります」

ハンナがそう説明しながら見取り図を指し示した。

この見取り図は、ダリルが基地のデータベースにアクセスさせて引っ張り出してきた。

こういうことをやらせたら、ダリルの右に出るヤツなんてそうはいない。

拘禁室、ってのは廊下の突き当たりだな。すぐそばの部屋に裏口があるのが書き込まれている。

「この出入り口は使えるのか?」

「ここは普段は施錠されています…倉庫なのですが…死体安置所、なんて呼ばれてる場所です」

ハンナはそう言って身を震わせた。施錠がされてるんなら、壊さなきゃなんないな…音を立てるのは得策じゃない。

アイナさんがこの拘禁室にいなかったら、侵入で音を立てて怪しまれでもしたら、次を探す間に包囲されちまう。

もっと、静かに見つからないように入り込む場所が欲しいけど…



 「こっちの出入り口は?」

キキが、拘禁室のあるエリアから少し離れた大きな建物の隅にあった出入り口を指す。

「そっちは、補給物資の搬入口です。そこは施錠はされてませんけど、監視カメラがあって、

 不審な動きがあれば、すぐにでもバレてしまいます」

監視カメラ、ね…アタシはダリルを見やった。ダリルは、肩をすくめて

「まぁ、システムが分かれば、要領は同じだ」

と口にした。そう言う工作は、お手の物だ。

「なら、調べてみてくれ。この搬入口が使えそうだ。

 こっちの監視塔のサーチライトの電源を落として、注意を引いて、その間に中に入ろう。

 入ったら、倉庫の東側、ここに通気口がある。

  ここから天井裏に潜り込んで、拘禁室のあるエリアに移動する。天井裏から拘禁室までいければいいけど…ここ。

 建物の継ぎ目になってて、多分、ここからは移動できないから、ここで廊下に降りて、あとはそのまま行くことになる」

アタシが思いついたプランを説明すると、ハンナが思い出したように

「ここ。この場所にもカメラが」

と言ってくる。拘禁室に続く廊下の曲がり角だ。

降り立つ位置から、拘禁室までは一本道で、部屋はいくつかあるけど、逃げ道がない。

隠れることはできても、囲まれたらおしまいだ。

「ここのカメラは同じように潰すとしても、道のりは厄介だな…

 別の場所で騒ぎを起こさせても、ここに見張りがいたら鉢合わせる可能性がある」

「停電でも起こしてやろうか?」

「いや、それは前回使ってるらしいんだ。同じ手だと逆に警戒されて人がエリア内に集まってくるかもしれない。

 ここばかりは、押し通るしかないだろうな…」

「配電の区画は調べてみねえとわからないが…

 この見取り図の通りだとするなら、この一角だけ電源を落とすこともできそうだ。万が一のバックアップ策にはなるだろう」

「うん、決まりだな」

 抜けてるところはないよな?退路はさっき決めた通り、基地から北へ出たところにある林道に車を隠しておいてそのまま北上。

そうすりゃぁ、飛行艇を泊めてあるカワグチレイクに出る。見つからなけりゃぁ、脱出の方が楽に抜けられるルートだ。

 これで、大丈夫だよな?うん、そのはずだ。アタシは、頭の中で何度も計画を繰り返した。

不測の事態も予想して、シュミレーションを組み立てる…大丈夫だ、この案なら、ある程度のことまでは対応できる。

それ以上のことが起こっちまったら、それはどんな案を使っても対応できない。

そう言う事態は起こさないように留意すれば良い…


「ダリル。カメラと電源設備の解析にどれくらいかかりそうだ?」

アタシはダリルに聞いた。

「この見取り図を引っ張った時の感じだと、大して時間はいらんだろうな。基本的には昔のシステムと大差ない。

 ただ、ずいぶんとバージョンがアップしていたから、そいつがこれまでの穴をどれだけふさいでるか、ってのと、

 あとはまぁ、ロジックに大がかりな変更がないかどうか、ってのが気になるが、まぁ、1時間もあればなんとかなるだろう」

「本当かよ?ブランクあってヘマなんかしてくれるなよ?」

「ははは。俺の腕を疑うなんて、慎重にもほどがあるぜ?任せろよ」

ダリルは胸を張って言った。まぁ、これっぽっちもそんなこと思っちゃいないけどさ。

 それからアタシ達はいったん、飛行艇に戻った。そこで最後の配置を確認する。

潜入班はアタシとハンナ、キキが車を用意して飛行艇で待機。

ダリルもここで待機して、遠隔操作で基地への妨害工作と逃走の際の操縦を担当する。

 アタシとレナは、全身真っ黒のウエットスーツみたいな特製の戦闘服に着替えて、野戦ベストをその上に羽織る。

キキに準備してもらった拳銃は腰のホルスターに収めて、ベストにはナイフと弾倉をポケットに詰め込む。

忘れちゃいけないのが無線だ。さすがに基地だから、ミノフスキー粒子で無線が使えない、

なんて間抜けなことはないだろうけど、万が一使えなくなった時のために、

時間と行動の進行状況は照らし合わせて全員が把握してある。

 アタシは、あたりが暗くなるのを、コーヒーを飲みながら待った。

なるだけ濃いやつをダリルに入れてもらって、ブラックですする。

 こんな作戦は、これまでに経験したことがない。

だって、こんなのはパイロットの任務じゃないだろ、諜報員の仕事だ、普通なら、な。そうは言っても、こなせない理屈はない。

アタシだってそれなりに、腕には自信はあるつもりだ。少なくとも、現役を退いてから8年経つけど、衰えている気はしない。

体はまだまだあの頃のままに動くし、判断能力も錆びついてなんかいない。

歳を食ったせいか、落ち着きが増した気もするし、あの頃よりいい仕事をこなせるかもしれない。大丈夫だ、やれる。


 夜が来た。アタシはハンナと飛行艇を出た。基地へ向かうには、ここから南へ、林の中を抜けて行く。

30分ほどで基地の周辺に到着するはずだ。

 「ハンナ、身を低く。なるべく、脚を上げて動くようにしろ。

 こういう地形だと、踏み込む音より、地面とすれて枯葉やら草を鳴らす音の方が聞かれやすい。

 なるだけ脚を上げて、やわらかく踏み込むようにすれば、物音は最小限で済む」

「はい」

ハンナに基本的なことを教えながら林の中を進む。

 「この暗闇だ。敵に出くわしたら落ち着いて身を隠せ」

「はい」

「焦らなくていいぞ。到着するまでにバテたら元も子もないからな」

「はい」

ハンナは、素直に何度も、そう小さく返事をする。なんだか、マライアに操縦を教えてた頃を思い出すな。

あいつも、アタシが言うことなんでもかんでも「はい」って返事をして、

たまにカレンのとんでもない発想の指示を聞かされた時に「はい」って返事してから困った顔してたっけ。

ハンナも、筋は良さそうなんだよな。ちゃんと教えてやれば、身を守るくらいのスキルはすぐに身につくだろう。

もしかしたら、ハンナや子ども達にとって、そいつは重要になってくるかもしれないからな。

今のうちに、できる限りのことは教えておこう。

 エンジン音が聞こえた。ハッとして脚を止めて、ハンナに手を挙げて制止する。15mほど先に道路がある。

アタシはハンナに手で隠れるよう合図をしながら、自分も木陰に身を隠した。

 ライトを灯した軍用車が道路を通り過ぎていく。テールランプが見えなくなるのを確認してアタシは立ち上がった。

 ふぅ。

ハンナのため息が聞こえた。彼女の顔を見ると、汗をびっしょりかいて、少しだけこわばって見えた。

そりゃぁ、緊張するなってほうが無理だよな。アタシだって緊張してる。でも、緊張のし過ぎは良くないぞ。

 アタシはハンナの顔の汗を手で拭って、レナにするみたいに頭をポンポンと叩きながら

「楽にしろよ。まだ、そんなに危険ってわけじゃないんだ」

と言って笑ってやった。ハンナは笑ってうなずいたけど、なんとか笑顔を作ろうとして失敗した、ぎこちない表情だった。

まぁ、これもこれで仕方ない、か。

 アタシはさらに林を進む。道路を越えて、しばらく行くと、木々の間から明かりが見えた。あれは…監視塔か…。


「あそこで間違いないよな?」

「はい、あそこです」

ハンナにそう確認してからアタシは無線に話しかけた。

「7番より、3番。目的地に到着。そっちの準備は出来てるか?」

<こちら、3番。準備できてる。『キロ』も戻ってきた。合図でいつでも行けるぞ>

キロ、ってのはKの頭文字の一般的なコード。要するに、キキのことだ。ちなみに、ハンナはHを取ってホテル、だ。

「了解。頼む」

<カウントする…5、4、3、2、1、ダウン>

ダリルのカウントとともに、少し離れたところにあった監視塔の照明が消えた。

「おい?なんだ?」

「どうした!異常か?」

兵士たちの声が聞こえる。

 「よし、行くぞ」

アタシはハンナに言って、林の中を駆け抜けた。基地の外周のフェンスに取り付いて、

手早くペンチでX字に斬り込みを入れ脚を使って押し広げる。先にハンナを通し、搬入口へと走らせてアタシも後を追う。

他の監視塔は、照明の消えた塔へサーチライトを当てていて、足元は真っ暗。兵士たちも監視塔に確認に走っていて、周辺はザルだ。

 アタシとハンナは何事もなく、搬入口へたどり着いた。

扉の上にある監視カメラは動いているが、誰もいない映像がループで流されているはず。さて、もう少しだ。

アタシは自分にそう言い聞かせながら拳銃を抜いた。ハンナもアタシを見て銃を抜く。

「いいか、拳銃は突き出すな。ペンションに来たときみたいに、押さえされちゃうからな。

 まずは脚だ。一歩踏み込んで、次に肩、で、その次に銃口だ」

「はい」

ハンナの小さい返事が聞こえてくる。よしよし、表情は硬いけど、落ち着いてはいるな…大丈夫。

 アタシはそっとドアを開けて中を覗き込んだ。倉庫になっている中に人影はない。

素早く中に踏み込んでハンナを引き入れてドアを閉める。それから、倉庫の東側の天井付近に換気口を確認した。

金属製の格子でふさがれている。

「ハンナ」

アタシは倉庫のドアをそれぞれ施錠してからハンナを呼んだ。

「あれ、外せるか?」

「やってみます」

ハンナはそう言ってベストからナイフを抜いた。アタシは片膝をついて、ハンナの土台になる。

ハンナはアタシの膝を肩に脚をかけて、腕を伸ばし、ナイフを換気口の格子と天井との隙間にねじこむ。

コトンと言う小さな音がして、格子が外れた。

「こっちへ」

小声で言って、その格子を受け取ってから、

「そのまま上がれ」

と言いながらハンナを上へ押し上げた。ハンナの体が、換気口に吸い込まれるように消えていく。

アタシは、格子をほどいた靴ひもに結び付けてから換気口に飛びついた。

両腕で体を引き揚げて、中に入り込み、靴ひもに括り付けた格子を引っ張って、また換気口にはめ直す。

 よし、これで一息つけるな。


 「ふぅ」

文字通り、アタシは息を吐いた。それを見たハンナが何かを伺うようにアタシの顔を見つめてくる。

「ここで、ちょっと休憩だ。水、あるか?」

アタシは自分のベストに入れておいた小さいスキットルを出して、それを口に含む。

少しだけ、それを手のひらに吐き出して手を洗うみたいにして全体を湿らせる。

手を濡らすのは、気持ちを落ち着かせる効果があるんだと言ってたのは、隊長だったかな。

ハンナも水を飲んで、すこし落ち着いた表情になった。

「3番、聞こえるか?」

<感度良好>

無線も無事だ。

「地点Cに到着。5分、小休止を取る」

<了解。スケジュールを2分押してる。中途半端だから、8分休んでスケジュール全体を10分更新しよう>

「了解した」

<気をつけろ>

「分かってる」

報告を終えて、さらにもう一息ついた。

換気口の中は、ダクトがあるわけではなくて、天井裏になっていた。見取り図通りだ。

アタシはその場に身を横たえながら、もう一度気持ちを整えていた。

息が詰まるような苦しさを、ゆっくりと解きほぐしていく。集中だ…焦るな…ビビるな…。

自分にそう言い聞かせながら、意識的に呼吸を深く、長く、ゆっくりと整えていく。

「ハンナ、平気か?」

「は、はい」

ハンナが返事をしてきた。

「よし、じゃぁ、動くぞ」

「了解」

アタシはペンライトを灯してあたりを照らした。見取り図だと、このまま西へ勧めば良いはずだが…

細い金属の骨組みに乗っているだけの天井板を踏み抜いちまったら、アウトだ。慎重に、梁の上を這って行かなきゃな。

 ライトで進むべきルートを確認する。少し南側に進んでからなら、しばらくは真っ直ぐ西に向かって梁が伸びている。

あれを辿るか…

「行こう。落ちないようにな」

「はい」

アタシはハンナの方をポンとたたいてやってから、狭い天井裏を這って進んだ。

 「おい、さっきのD塔の停電、なんだったんだ?」

「あぁ、配電盤の制御コンピューターのラグだとさ」

「んだよ、びっくりさせやがる。整備班の怠慢だな」

「まったくだ」

 下から話声が聞こえる。アタシは、進むスピードを緩めて、細心の注意を払う。

 なんとか、梁の上を行き止まりまで進んできた。ここから先は、天井裏から出て、廊下を行くしかない。正念場だ。


 アタシは後ろから来るハンナをチラッと見やった。ハンナは、覚悟を決めているようで、険しい表情でコクンとうなずいた。

いい度胸だよ、あんた。マライアに見習わせてやりたいよ。

アタシはそんなことを思いながら、天井板の一枚をずらして、

そこから歯医者で使うみたいな折れ曲がった先についた小さな鏡をその隙間に差し込んだ。下の様子をうかがう。

 廊下の曲がり角に、兵士が一人、暇そうに突っ立っている。歩哨の様だ。あいつは…移動はしなさそうだな…

くそ、実力行使に出るほかに手だてはなさそうだ…なるだけ騒ぎにならないように始末をつけないと…。

 「ハンナ、アタシが合図したら、床板蹴りぬいて下に飛び降りろ」

ハンナにそう指示をした。

「廊下の角に、見張りがいる。あんたは囮だ。あんたとは一瞬だけタイミングを遅らせてアタシが降りる。

 制圧はアタシに任せて、降りたらすぐに床に伏せろ」

「はい」

ハンナは返事をして、すぐに身構えた。うん、やっぱり、度胸だけは据わってんな。

アタシは位置を替えて、曲がり角の奥側へと位置取る。ハンナとは、歩哨を挟む形で降り立て場所だ。

ハンナに意識を集中させているところを、叩く。

 勝負は、一瞬だ。ヘマするなよ、アタシ…!

 ハンナの方を見た。彼女は、アタシを見て、力強くうなずいた。アタシは、サッと右腕を振り下ろした。

 ハンナが、天井板を蹴って穴を開ける。次いでアタシは、板を蹴りぬかずにそのまま板の上に身を投げた。

ガクン、と鈍い衝撃とバンッと言う板の割れる音がして、アタシの体は宙に浮いた。

 眼下に、ハンナの方を向いて慌てて銃を構えようとしている歩哨が見えた。

アタシは床に降り立った体勢から、両脚のバネで一気に踏み切り、掌底を歩哨の胸板に叩き込んだ。これで一瞬、呼吸が止まる。

呼吸が止れば、声は出ない。喉を狙って声帯をつぶすという手もあったけど、できるなら、致命的なケガを負わせたくなかった。

 歩哨はカヒュッと喉を鳴らした。効いたな。

 アタシはそのまま、歩哨の持っていた自動小銃に手をかけて奪い取り、その銃床で顔面をぶん殴った。

メキッと鈍い音がして、歩哨は音もなく床に崩れ落ちる。

 ふぅ、これで良し、っと。

「アヤさん…やっぱすごいよ…」

ハンナがつぶやきながらアタシのところに歩いて来た。いや、まぁ、これくらいはなんでもないよ。

ビビらせることはあっても、感心されたことなんてあんまりないから、ちょっとだけ照れてしまった。

 っと、そんなこと言ってる場合じゃない。アイナさんのところに急がないと…

「おい!どうした!?」

不意にそう声がした。

―――しまった!

声を聞き取ったのと、ハンナの後ろの廊下に人影が見えたのはほぼ同時だった。反射的にハンナの腕を引っ張って隠れる。

間一髪、ハンナの姿は確認されなかったようだが、バタバタと数人分の足音が聞こえる。一人じゃなかったか…これは、まずいな…

 後ろを振り返るが、拘禁室はまだ先だ。ここで叩くしかない。

「ダリル、悪い、トラブった。拘禁室のエリアの照明を落としてくれ」

<了解。合図任せる>

「行くぞ、5、4、3、2、1、ダウン!」

ジジッと、電灯から音がして、キュンッと言う音とともにアタリが真っ暗になった。

 そのとたん、耳が壊れちまうんじゃないかってくらいの爆音で警報が鳴りだした。


 そのとたん、耳が壊れちまうんじゃないかってくらいの爆音で警報が鳴りだした。

なんだ!?くそ、ダリル!あんたしくじったのか?!だからブランクあるんじゃないかって言ったんだ!もう!

 アタシは暗がりに曲がり角から自動小銃を抱えて飛び出した。相手は、3人。

まずは先頭のヤツの顔面を銃床でぶん殴ってなぎ倒して、次の奴の鳩尾を蹴りつける。

ひるんだそいつはとりあえず無視して3人目の首に小銃のストラップをひっかけて力任せに引っ張り倒し込んでから

首を後ろから銃床で殴りつける。最後に2人目もぶん殴って気絶させた。

「ダリル、停電と同時に警報が鳴った!!」

<すまん、トラップだ!配電盤のコンピューターに仕掛けてやがった!

 …!?いや、待て、妙だ。警報は、基地の反対側の異常を信号だぞ?拘禁室のあるエリアじゃない!>

 どういうことだ?トラップを作り間違えたのか?それとも、何か意味があるのか?!いや…今はそこじゃない。

もう時間がないぞ…!

 「ハンナ!拘禁室は?!」

「この廊下の先!」

ハンナは廊下の向こうを指差した。

 アタシはハンナを追い越して廊下を走る。

「こっちだ!」

「逃がすな!!」

くそ!まだ来るか!ブービートラップ仕掛ける余裕もない!とにかく、アイナさんを見つけないと!

 走っていた廊下をさらに曲がってすぐ、進行方向を鉄格子にふさがれた。

 ここか!アタシは迷わずに鍵穴を拳銃で撃ちぬいて鉄格子を蹴りつけた。ガシャン!と言う派手な音を立てて扉が開く。

「突き当りが拘禁室です!」

ハンナが叫んだ。

 拘禁室のドアには、覗けるように鉄格子の窓が付いていた。アタシはドアに取り付いて中を覗く。



 でも、そこに人影はなかった。



 いない…おい、嘘だろ…?

「ハ、ハンナ…他に、拘留しておくところが、あるのか?」

アタシは、全身の震えを抑えながらハンナに聞いた。ハンナは、絶望した表情で、首を横に振った。

 まさか…遅かったのか?アイナさん、殺されたのか、それとも、どこかへ運ばれたのか…!?その、殺人鬼の大尉に?

 全身から、何かがたぎった。これは、怒りだ。どこにいるんだ、そいつは?アタシが殺してやる…

これまでに殺された捕虜と同じ目に合わせて、苦しめて、ボコボコにしてから殺してやる…!

 アタシは拘禁室の扉を思い切り蹴りつけてからハンナの胸ぐらをつかんだ。

「ハンナ!大尉のところに案内しろ!アイナさんの居場所を聞き出す!」

「は、はい!」

ハンナの目は決意に満ちていた。ハンナだって、マークを始末されてるかもしれないんだ。アタシと思いは一緒のはず…!

 廊下を戻ろうとしたハンナが、身をひるがえした時、すぐ横にあった扉が開いて、アタシの体を絡め取った。

―――しまった!

 アタシは、とっさに体を引きそうになったのをこらえて、思い切って扉の中に突っ込んだ。重い衝撃が体に走る。

タックルが直撃した。

 相手は部屋の中の暗がりに転がって行く。顔は良く見えないが、女だ。

「大尉!」

ハンナが叫んだ。まさか、こいつがそうなのか?!

「こいつが!?」

「はい!間違いないです!」

暗がりに転がって起き上がろうとしているそいつは、確かにティターンズの真っ黒な制服を着こんでいた。

 頭に血が上った。全身が焼ける様な感覚に襲われて、アタシは女に飛びかかっていた。

次の瞬間、鎖骨のあたりに痛みが走る。暗闇から脚が伸びてきていた。

―――こいつ、できる!

「ドアを閉めろ!」

アタシは、ハンナにそう怒鳴って体制を立て直す。大尉はその間に跳ねるように起き上がった。こいつだけは、半殺しだ…!

いきり立って殴りかかったアタシの腕は受け止められた。残念、そいつは囮だ!本命は、左なんだよ!

受け止められた方の腕で、襟首を引っ掴んで動きを封じて残った左の拳をたたき込む。

でも、その左すら受け止められた。くそ、こいつやっぱりただもんじゃないぞ?!

 ひるんだら、付け入られる…!アタシはそのまま両腕で女大尉を引き倒して組み伏せた。

それでもアタシの両腕をつかんで抵抗している。


「ちょ…お願いっ…待って!」

ふざけんな!この期に及んで命乞いか?!お前はそうやって言ってきた人間をどれだけ殺したんだ!?

何かが頭の中で弾けた気がした。アタシは全力で両腕を振り払って、女の首を締め上げた。

「ちょ…タンマ、く、し、死ぬ…あっ・・・・やさっ…」

殺しはいないよ、まだ、な…でも、それいじょうに怖い目に合わせてやる…!

 女は、アタシの腕を必死にタップしている。

「ア…ヤ…さ…」

あ?今こいつ、アタシの名前を呼んだか?なんで、アタシの名前、知ってんだ?

ま、まさか、ペンションを調べられたのか!?だとしたら…まずい…ロビンやカレン達が…!

 気持ちが一瞬ひるんだ。次の瞬間、何か大きなものが横から飛んできてアタシの体にぶつかった。

思わぬ衝撃で、アタシは床に転がってしまう。一人じゃなかったのか!?

 すぐさま体制を立て直したアタシの目に飛び込んできたのは、

ドアの隙間から入ってくる非常灯の明かりに照らされた、良く知った顔だった。

「…ア、アイナさん!」

「アヤさん!」

アタシが叫ぶのとほとんど同時に、アイナさんが抱き着いて来た。

 良かった…アイナさん、本当に良かった。殺されちゃったのかと思ったよ、アタシ…ここに居たのかよ…

良かった…生きてて良かった…。

 アタシもアイナさんをギュッと抱きしめた。

「ゲホッ、ゲホッ…ゲホゲホッ」

女大尉が大きく咳をして起き上がっていた。

しまった―――アタシはアイナさんを引きはがそうとして腕を突き出したが、アイナさんは離れなかった。

「アイナさん、どいて!」

「アヤさん、ダメ!この人が助けてくれたんです…!」

アイナさんが言った。なんだって?だって、こいつは、快楽殺人者で、拷問好きだって言う…

 「ひどいよ、アヤさん…死んじゃうかと思ったよ…」

女大尉は、四つん這いで苦しみながら、泣きそうな声でそう呻いた。声を聴いて、まさかと思って目を凝らした。

間違いは、なかった。おい、なんでだよ…あんた、なんでこんなところにいるんだよ…なんで、そんな格好してるんだよ…

「マライア!」


マライアは顔を上げてアタシを睨み付けてきた。

「このバカ!鬼!悪魔!あーこれ、絶対跡残ってるよ…うえ、喉変になった…ゲホッ。

 あぁ、ルーカス、味方だったから、もういいよ。銃降ろして電気つけて」

マライアは誰となしにそう言った。すると、パッと部屋の中が明るくなって、アタシ達のすぐそばに、

別のティターンズの制服を来た男が銃を手に立っていてこっちを見下ろしていた。

 なんだってんだ?マライアがティターンズ?それでいて、快楽殺人者…?嘘だろ?なんだ?おい、説明しろよ…

 アタシがその男とマライアを交互に見ていたら、今度は別の声がした。

「ハンナ!」

振り返ったら、ひとりの男がハンナに飛びついていた。慌てて取り押さえようと思ったら、ハンナの方も彼を抱きしめている。

「マーク…?マークなの!?」

マークって、ティターンズの足止めをして、行方分からなくなってた…ハンナの、恋人?

待ってくれ、ますますわけがわからない…おい…

「マライア、説明してくれよ…」

アタシはマライアにそう言う。

「見ての通りだよ…ゲホッ…うぅ、苦しい…」

見てわかんないから聞いてんだろうが、このバカ!

 「―――!」

「―――!―――!」

表で声がした。バタバタと足音が近づいてきている。

「っと、まずいね。アヤさん、着いてきて!逃げるよ!」

マライアは混乱したアタシにそう言うと、傍らにあったドアを開けた。その先は、外だった。

「ルーカス!準備できてる!?」

「いつでも行けます。合図ください!」

「オッケ、マーク!さっき話した通り、西へ向かって!アヤさんはマークと先行して敵の排除と進路確保!

 あたし達で殿するから、マークに着いて行って!」

マライアはそう怒鳴ると、どこからともなく短機関銃を取り出してこっちへ投げてきた。

「マライア、あんた、ホントになんなんだ!?」

「見ての通り!ティターンズ極東方面支部派遣のマライア・アトウッド大尉だよ!

 詳しいことはちゃんと話すから、今は脱出優先!」

マライア…あんた、そんなに頼もしい奴だったっけ?

なんか、もう、いつも涙目で、フルフル震えて、肝心な時にへこたれるやつじゃなかったっけ?

なんで、あんたがティターンズなんかにいるんだよ?なんで、アタシ、マライアに指示されて動いてんだよ?

ワケわかんないよ!


 そうは思いながらも、アタシは銃を構えて、マークと呼ばれた男のそばへ走った。

「どっちへ向かうんだ!?」

「こっちだ!あのフェンスを壊す!」

マークはそう言うと、手に持っていた手りゅう弾を投げた。

一瞬の間があって爆発が起こり、フェンスが千切れ飛んで穴が開いた。

「アイナさん、走れるか?」

「ええ、大丈夫!行きましょう!」

「ハンナ、気をつけろよ!」

「はい!アヤさんも早く!」

振り返ると、後方を警戒しながら、マライアともう一人のティターンズの男がついてくる。

 フェンスを抜けた。マライア達も、フェンスをくぐってくる。

「ルーカス、お願い」

「了解」

ルーカス、と呼ばれた男が手元で何かのスイッチを押した。

 ズズン!

次の瞬間、轟音と共にアタシ達が抜け出してきた建物が爆発して火の手が上がった。

「爆発だ!」

「消火班急げ!」

「指揮系統を把握しろ!混乱するな!」

「うはぁー、調合の量間違えたかな…ちょっとやりすぎちゃった。ケガ人出てないと良いけど…」

マライアが苦笑いしている。

「急ぎましょう、追手に気付かれる前に」

マークが静かな声でそう言う。

 「うん、行こう!」

マライアはなんでそんな顔できるのか、アタシの混乱もしらないで、ニコッと満面の笑みで笑った。

 どれくらいの距離か、そこからマークに先導されて林を走った。


 しばらく行ったところで、急に林が途切れて、そこには一機のヘリがローターを回転させて待っていた。

「ポール!」

「大尉!準備できてます!急いで!」

ヘリの傍らに1人の男が立っていて、マライアと大声でそうやり取りした。

「アヤさん、乗って!」

マライアはアタシの背中を押すようにしてヘリに乗せると、自分も銃を構えながら乗り込んできた。

「ポール!出して!」

「了解!離脱します!」

そう言うが早いか、ヘリはフワッと地上を離れて、ぐんぐんと基地から遠ざかっていく。

「アヤさん!退路の確保はどうなってるの!?」

急にマライアが聞いて来た。

「あぁ?!」

「退路!逃げ出す算段、つけて来てるんでしょ?!」

「あ、ああ!カワグチレイクに向かってくれ!そこに飛行艇がある!」

アタシはパイロットのポールに怒鳴った。

「すぐですね。ほら、もう見えてます」

ポールが言ったので表に目を向けると、そこには大きな湖が広がっていて、

そこにはダリルとキキがいるはずの飛行艇が浮いているのが見えた。

 湖の岸にヘリが着地した。

「急げ!」

アタシはそう怒鳴って一番にヘリを降りて飛行艇へ駆け出す。

 銃を片手に、飛行艇に駆け込んで中を覗いた。

「アヤさん!」

「早かったじゃねえか!ヘリで逃げ出してくるとは思わなかったぜ!」

ダリルが笑っている。

「とんだ食わせ物がいたんだ!すぐに出る、離陸準備頼む!」

 そんなことをしてる間に、他の連中も到着して乗り込んできた。

「アヤさん!全員乗った!」

「ダリル!出せ!」

「おう!…ってお前、マライアか!?」

「わけわかんないだろ!?アタシもまだ混乱中だ!」

そう怒鳴ったら、ダリルはまた笑った。

「ははは!あのマライアちゃんが、やるじゃないか!」

いや、ダリル笑い事じゃないんだって!


 そんなことを思っているうちに、飛行艇は加速して湖を離陸した。進路は北へ。飛行艇は高度を上げて行く。追手は、ない…。

どうやら、脱出の段階で、うまく逃げて来れてきたようだ。飛行艇の目的地はニホン海沿岸のカナザワ。

ベルントがそこで待っている。そこから、一気に中米へ離脱だ。

 アタシは、どっと疲れが来て、床にへたり込んでしまった。 

 「ふいー!いやぁードタバタだったね」

マライアが楽しそうにルーカスに話しかけている。

「まったく、大尉はすこし慎みを覚えてくださいよ、いい歳なんだから」

「誰がいい歳?!おばさんみたいに言わないでよ!花も恥じらう26歳の乙女だよ!?まだまだこれから!」

得意げに胸を張るマライアを見たら、なんだか笑えた。そんなマライアを見てたら、なんとか気分が落ち着いて来た。

 と、同時に、屈託なく笑うマライアにちょっとだけ腹が立って来た。とりあえず、説明してもらわないとな。

アタシはマライアの首根っこを引っ掴んで

「説明してもらおうか、マライア・アトウッド大尉?」

とにらんでやった。

キュッと恐縮したマライアの顔は、アタシの知ってる、ヘタレのマライアの顔そのものだった。


「ほら、シーマさんをそっちに送ったときの、テロ事件があったでしょ?」

アタシに凄まれて条件反射みたいに姿勢を正したマライアは話し始めた。

「あぁ、デラーズだかって艦隊の決起、だったな」

「あの時の戦闘での戦果でね、直後にできたティターンズへの編入の打診が来たの。

 ヤバそうな連中だなって思ったから、なんかの役に立つと思ってね。入ってみた」

マライアは相変わらず得意げに胸を張っている。

「そしたら、案の定、どんどん変な方向に行くじゃない?これはヤバいって思って、情報をこっそり外出しにしてたのが始まり。

 そしらた、2年前かな、カラバに協力を要請されて、そっちへ情報を流すようになったんだよね。

 私のもう一つの肩書きはね、カラバ極東支部のマライア・アトウッド諜報員!」

諜報員?マライアが?あんなヘタレがスパイだって?笑っちゃうよ、笑っちゃうようなことだけど…

全然笑えないよ、マライア。あんた、優秀だったけど、そんな根性、どこで身に着けてきたんだよ?


「ほ、捕虜の拷問とか、殺害は…ウソ、なんですか?」

ハンナが戸惑い気味に聞く。

「だいたいは嘘だよ、ハンナ・コイヴィスト少尉。

 中には、ホントに無差別テロやろうとしてて、危ないから刑務所に送った人も何人かは居たけど…それ以外はみんな無事。

 面白いよね、捕まってきた人を翌日、死体袋に入れて運び出すと、みんな無条件でそれを死体だって決めつけるんだから。

 あの基地から死体袋で出て行った人のほとんどは内緒でカラバに受け渡し済み」

マライアはクスクスと笑う。

「大尉って、そんな感じの方でしたっけ?もっとこう、嫌な上官って感じのイメージだったのに…」

「あぁ、それはね。一応体面的にやっておかないとまずいでしょ?

 うぉほん、『マーク・マンハイム中尉、貴様の報告書は目を通した』、って」

マライアは今度は、声を上げて可笑しそうに笑った。

「それじゃぁ、マークも大尉が?」

「そう、それ!大変だったんだよ!

 本当は子ども達もいつもどおりに死体袋で放り出そうと思ってたのに、アイナさん、だっけ?が来ちゃうし、

 マークとハンナが子ども達を連れて出てっちゃうし、もう、慌てた慌てた!

 警戒網張ったり研究所の連中に微妙にズレた情報流しながら、ルーカスに追跡してもらってさ。

 ジョニーの情報がなかったら、危ないところだったんだから」

「ジョニーを知ってるんですか?」

「もちろん、同じカラバだし、あっちは有名人だからね。ただ、向こうはこっちを知らなかったみたいだけど…

 彼ら、基本的に単独任務が多いし、そもそもあたしも露見防止のために存在が機密だしね。

 でも、こうしてアヤさん連れてきてくれたってことは、子ども達はちゃんと無事にアルバ島についたんだね?」

 ハンナがマライアに質問攻めだ。そりゃぁ、まぁ、そうだろうな。

ついさっきまで、このマライア・アトウッド大尉は捕虜を殺して楽しむ、快楽殺人者だと思ってたんだから。

それにしても、今の話…まさか…

「こうして…って、おい、待てよ、じゃぁ、カラバからこいつらへの、うちに来るようにって指示書を回したのは…」

「そ、あたし!なんか、そうするのが良いかなって、虫の予感っていうのかな?そんな感じがしたからさ」

そんな感じ、か…マライアって、スペースノイドだったっけ?違うよな、確か、アースノイドだったはずだ…

なのに、レオナ達が言っていた「声」を聴いたみたいな言い方…まさか、な…。

さらに話を聞いたら、どうやら、基地に入った段階で、アタシとハンナは、マライアに捕捉されていたらしい。

どうやら、マライアが独自に回線を引いて取り付けた監視カメラがあったらしく、それでアタシらの姿を確認したマライアは、

準備していた偽の警報で基地の警備兵をてんで違う方におびき寄せるシステムを停電と同時に起動するようにプログラムし直し、

アイナさんとマークを拘禁室から出し、銃と爆弾を準備し、ヘリの手配を済ませていた。

事前にどれだけの準備をしていたか知らないけど、見事、としか言えない手際だ。

 アタシもダリルも、マライアにハメられたんだ、信じらんないよ。

アタシがマライアの準備した舞台の上で踊ってたなんてさ!もう、すごすぎて、やっぱり腹が立ってくるくらいだ!


「ねえ、アヤさん!」

床にへたってそんなことを考えていたアタシに、急にマライアが四つん這いで詰め寄ってきた。

マライアは本当に嬉しそうな顔して

「あたし、頑張ったよ!」

だって。なんか、そう言うところは変わってないのな。まぁ、でも、褒めてやろう、うん。

「あぁ、すげーよな、ティターンズ大尉って」

そう言ってやるとマライアは一層キラキラした顔をして

「でしょ!それに、たくさん人を助けたんだよ!」

とさらに詰め寄ってくる。

確かに、ティターンズ大尉って肩書きを利用して、捕まってくるやつらをことごとく逃がしたんなら、それってすごいことだ。

アタシや昔の隊の皆がレナやソフィアを必死で逃がしたのに、

出世したあんたは、そんなことを簡単にやっちまうようになったんだな…そう考えたら…うん、やっぱりすごいよ。

 アタシの誕生会に来てくれて、ソフィアが残るって聞かされたマライアを思い出していた。

あのとき、アタシはしっかりしてほしくて思わずペシッとマライアの頬をはたいちまった。

そういや、あれから一切会ってなかったんだよな…宇宙に行ったって話は、隊長達に聞いてたけど…

ははは、そうだよな、あの頃のマライアとは比較にならないな。

 そう思ったら、なんだか嬉しくなってきた。

アタシとダリルと隊長の秘蔵っ子のヘタレが、まさかアタシ達に一杯食わせてくるなんて、思いもよらなかった。

マライア、あんた、やっぱり、アタシの自慢の妹分だ…。

「だから、ね!アヤさん!」

そんなことを思っていたら、もう、抱き着いているのと同じくらいのところまで詰め寄ってきたマライアが

上目づかいでアタシに言った。

「偉いって、褒めてくれると嬉しい!」

見直して、ちょっと損した。根本はまっっったくかわってないな。なにが出来たって、ただの甘ったれだ。

でも…まぁ、認めるよ。あんた、すげー頑張ってきたんだな、この8年間…。すごいよ、素直にそう思う。

マライア、あんたは、すごい。

「頑張ったな、マライア。あんたはやっぱり、アタシの自慢の妹分だよ」

そう言ってやったマライアは、本当にうれしそうに笑いながら、ポロポロと泣き出して、

ガバっとアタシに抱き着いてしゃくりあげ始めた。

 お、おいおい、まったく、部下が見てんだろ?泣くなよ、せっかくかっこよかったのに。

そんなことを思ったけど、なんだか胸が暖かくて、アタシはマライアを抱きしめて頭を撫でてやっていた。

「無事で良かったよ、マライア。8年も良く頑張ったな…おかえり…」

「アヤさん…会いたかった…会いたかったよ…!」

しゃくりあげながらそう言ってきたマライアは腕の中でフルフルと震えて、まるで甘えてくる子犬みたいだった。


つづく!

マライアちゃんかっこよく登場!ふっふー!
マーク編の書き出しから、大尉の名前を伏せていたのはこのためでした。
前々回投下後のレスでマライアちゃんの話題になったときは、おっかなびっくりレスしてましたです、はいw

本日もお読みいただき感謝!
ていうかなんかすごいつながりにくくない?俺だけ?
読んでいただけていたら、幸いです。

次回の投稿は、たぶん明日!

ば、バカな…あのカラメルちゃんが活躍している…だと……!?
読んでて割とガチでびっくりでしたw
それにしてもマーライオンちゃん…こんなに凛々しくなって……ww

乙乙
いいねいいね、散らばってた仲間が一つの目的のために集まってくる…
熱い展開だね~、ワクワクするよね~、レナの方も楽しみ


なんか今日はVIPサービスのサーバの調子が悪いっぽい
読んでる途中でつながらなくなってちょっと焦ったww

マライアかっけぇwww

かっこいいマライアもいいけど最後のとこで
アヤに甘えるのがいいよなぁ…

>>233
マライアちゃん、びっくりするほどの成長、いや、進化をとげてました!
驚いていただけたようで、なにより。

>>234
感謝!感謝!
こういう群像な感じがすごく好きです…が、スキル不足でメイン以外のキャラが霞みがちですorz

>>235
マライアたんがんばりました!

>>236
そこを気に入ってもらえるとは…相当にマライア好きと見ましたww


皆様、読んでいただき感謝。

感謝ついでに、続きを奇襲で投下しますww


酉忘れました。

>>237=アウドムラです


 「アヤ、おい、アヤ起きろ」

ダリルの声だ。なんだよ…どうしたってんだ?アタシはクラつく頭を振って、意識を覚醒させた。

いつの間にか眠っていたらしい。時計は、夜中の1時を回っている。

マライアは、まだ、アタシの膝を枕にしてクークー寝息を立てている。

寝ている顔は、なんだかあどけなくて、やっぱりこいつは妹なんだな、とか感じてしまう。

他の連中も軒並みシートに座って寝入っていた。すまんな、ダリル。こんな状況で操縦さしちまって。

「悪い、寝てた…どうした?」

アタシが聞くと、ダリルはなんでもない風に

「ぼちぼち、カナザワに着く。お前、床じゃさすがに危ねえから、席につけ」

と言ってきた。着水ほどじゃないだろうが、床に座ったまんまの着陸なんか、ぞっとしない。

「あぁ、了解」

アタシはそう返事をしてマライアを担ぎ上げた。

「ほえ?アヤさん?」

さすがに目を覚ましたマライアがそんな呆けた声を上げる。

アタシは返事の代わりに、マライアをドッとシートに座らせて、ベルトをしてやった。甘やかしすぎかな、と思ったけど、

まぁ、無事にこうして逃げ出してこれたのも、マライアのお陰だ。ご褒美、ってことにしといてやろう。

眠っている他のやつらのベルトを確認したアタシがその隣に座ってベルトをすると、

マライアはそのままアタシの肩にもたれてきて、夢の中に戻って行った。しかし、本当に根性座ってんな。

いや、根性、っていうか、そう言うの感じるなにかが頭の中でぶっとんじゃったんじゃないかって風にも思える。


 飛行艇が高度を下げるのを感じた。窓の外に、煌々と灯る空港の明かりが見える。

グングンと高度が下がり、やがて飛行艇は鈍いショックとともに、滑走路へと降り立った。

「ん、着いたの?」

そう言いながら、マライアは目を開けて大きく伸びをした。

「あぁ。降りる準備でもしておこう。すぐにでも、ベルントと合流してもうひとフライトだ」

アタシが笑って言ってやると、マライアも笑顔を返してきた。

 手分けして他の連中も起こして、機体を乗り換える準備をする。って言っても、大した荷物があるわけでもない。

マライアにはハンナの、ルーカスとポールには、ちょっとサイズが合わないけどダリルの服を貸して着替えさせた。

あんまり、ティターンズの姿でうろつくと目立っちゃうからな。

アタシとハンナも、いつまでも物騒な格好をしているわけにはいかない。

とりあえず着替えて、装備品は基地から持ち出した銃と一緒に、ダリルが持ち込んだというデカイ金属のケースにしまった。

 飛行艇がエプロンに着く。予定では、このまま空港の建物の中には入らずにベルントと合流することになっているんだけど…

 アタシはPDAを取り出してベルントにコールする。ほどなくして、ベルントが電話口に出た。

「あぁ、ベルント。今着いた。そっちはどうだ?」

「確認した。こっちは、4番の駐機場にいる。すぐ隣だ」

相変わらず、愛想のねえやつだな、なんてことは言わないで置いた。せっかく協力してくれてるんだもんな。

 「ダリル、4番の駐機場ってどっちだ?」

「恐らく、左側だろう。たぶん、あの機体だ」

ダリルがコクピットから外を指差す。その先を見ると、カレンの会社の小型機と同じクラスの機体が駐まっていた。

尾翼に、赤と緑の二本のラインが入っている。

「赤と緑のラインの機か?」

「あぁ、そうだ」

ベルントの味気ない声が返って来た。

 「正解らしい。移動しよう」

アタシはそうみんなに言って、飛行艇を降りた。エプロンをそぞろ歩いてベルントの機体へと向かう。

 あの飛行艇は、この空港でしばらく保管を頼むらしかった。ことが済んだら、ダリルが買い取る、と言っていた。

どうやら、気に入ったようだ。まぁ、あれなら、ちゃんと整備を続けていれば、家にだってなる。

旅をしながら行く先々で湖畔にでも浮かべて、のんびりするには良い機体だ。


 「無事みたいだな」

到着したアタシ達を、ベルントはそう言って出迎えた。でも、すぐに、アタシは妙な胸騒ぎを感じ取った。

ベルントの、いつもの無表情が、今日はなかった。妙に険しい顔をして、アタシをじっと見つめている。

「なにか、あったんだな」

アタシが聞くとベルントはかぶりを振って

「まぁ、入れ。カレンと通信がつながってる。直接話を聞いた方が良い」

と告げて、機体に乗り込んでいった。

 胸が一気に苦しくなった。なにかあった、それでいて、カレンと連絡は付くってことは、

必然的にその「なにかあった」ってのはレナ達のことに他ならないからだ。

まさか、レナ、あんたケガとかしてんじゃないだろうな…死んじゃったり、してないよな…?

 アタシははやる気持ちを抑えながら機内に乗り込んだ。そこには通信用の機材と簡易の液晶モニターが設置してある。

みんなが乗り込んで、機体のドアをシールしてから、アタシは通信機のスイッチを入れた。

 「カレン、アタシだ」

マイクに向かって話すと、すぐにパリパリっという電子ノイズとともに

「アヤか」

とカレンの声が入ってきた。カレンはすぐに

「映像回線をつなぐよ」

と言ってきた。通信機材に接続してあったコンピュータを操作して、アタシも接続準備を整える。

パッとモニターが明るくなって、カレンが写った。ここは、カレンの会社の、オフィスだ。

 「そっちは無事みたいだね。とりあえず、良かった」

カレンがそう言ってくれる。こっちの映像も、小型のカメラを通して向こうに写っているんだろう。

マライアのこととか、アイナさんのこととか、話すべきだったのかもしれないけど、

アタシには、もう、そんな心の余裕がなくなっていた。

「カレン、何があったんだ?」

「うん…とりあえず、フレートと音声を繋げる。詳しくは、フレートに聞いてくれ」

アタシが聞くと、カレンはそう言って、手元のキーボードをカタッとたたいた。また、パリパリとノイズ音がする。

 「アヤ、聞こえるか?」

フレートの声だ。

「あぁ、うん」

アタシが答えると、フレートは沈み込んだ声色で言った。

「すまない。しくじった」

やっぱり、か…。肩が、震えるのを感じた。エアコンの効いた機内だって言うのに、イヤな汗が止らない。

フレートの説明を聞きたいような、聞きたくないような、そんな葛藤が胸の奥に起こる。

 ハンナが、アタシのところにやってきて、寄り添うようにして座ってくれた。

レナがしてくれるのとはちょっと違ったけど、アタシのシャツの袖口をつかんで、

なんとか落ち着けようとしてくれているのが分かる。


「説明を、頼む」

掠れそうになる声を何とか絞り出して、アタシはフレートに聞いた。

「基地内にレナさんとレオナちゃんが潜入して、俺たちは外で爆破を起こして混乱させる、って手はずだったんだ」

フレートは沈んだ声で話し始めた。

「起爆装置は、レナさんが持っていた。外にいる俺たちには、起爆のタイミングが分からない。

 だから、中から起爆できるようにする備えだった。俺たちは、倉庫に爆弾を運んで行って、逃走手段を確保して、待った。

 だけど、待てど暮らせど、爆発が起きなかった。

  起爆装置につけた発信機の電波も届かなかったから、おそらく、特殊な電波妨害壁が設置されていたんだろうと思う。

 そのせいで、起爆のための信号が届かなかったんだ。それに気づいて、隊長が残った。

 隊長は、手動で爆弾を起爆させて、その間に俺とキーラだけが脱出してきた…」

「そうか…」

アタシは、少しだけ、ホッとした。どうやら、目の前で殺された、なんてことではないらしい。

研究所の中に入って、連絡が取れなくなったから、作戦を中止した、と言うことだ。

その判断は…残念だけど、正しい。全員がつかまったり、殺されてしまうよりは…。

「他に、情報はないのか?レナ達の生存に関することとか…」

「すまないが、それも確認できていない。研究所周辺を飛び交っている電波を拾ってはみたんだが、

 厳重に秘匿処理を施された通信で、内容を解読できてない…」

フレートはそれっきり黙ってしまった。

「負担掛けて悪かったな、フレート…」

そうとしか、言ってやれなかった。フレートには申し訳なかったと思う。でも、アタシの心は、レナ達のことでいっぱいだった。

死んで、ないよな…そうだ、あいつだってニュータイプだ。

研究所の人間にしてみたら、殺すよりも、実験材料として生かしておいた方が得なはずだ…

生きているんなら、チャンスはある…そうだ、そうに決まってる…そうであってくれ…

 アタシはいつのまにか、祈るみたいに顔の前に拳を握って、うなだれてしまっていた。胸が張り裂けちゃいそうだ…

レナの顔ばっかりが頭に浮かんでくる。レナ、生きてるよな?今、何を考えてるんだ?何を感じてるんだ?…レナ…レナ…!




「アヤ」

カレンの声がした。アタシは、涙でかすんだ目をぬぐって、モニターを見つめる。

「今の話を聞いて、思ったことがあって、デリクをシイナさんのところに走らせたんだ」

シイナさんのところへ?なんでだ?協力を頼んでくれたのか?

でも…シイナさんのところには、ロビンが…ロビン、そうか、ロビンだ。

 アタシはハッとして顔を上げた。

「ロビンに話を聞いた。ちょっと半信半疑だったけどね、だけど、

 一昨日のロビンの話を聞いてたら、あながち、妄想でもないだろうと思ってさ」

「ロビンは、なんて…?」

「ロビンが言うには、レベッカが、『ママ』に会ったんだと。

 嬉しかったけど、今は一緒に居なくて、悲しくて泣いてるんだと言ってる。

 でも、『ママ』はレベッカに、『助けに行くから、頑張ってね』と言ってくれてる、って話だ」

一緒に居ないのに、言ってくれてる、ってのは、つまり、話をしている、ってことだな。あの「声」で、レナとレベッカが…。

「ただ、『ママ』っていうのが、レナのことか、レオナのことかはわからない。

 ロビンから見ての『ママ』なのか、それとも、

 レベッカの視点で言うところの『ママ』なのかは、ロビンも説明できなかった」

…そっか、その可能性も、否定できない、か…また、頭から血の気が失せて行った。

レナ…レナ…体の震えが止まらなくなった。感情の抑えが利かない。

あとからあとから、鋭利に胸を切り裂くような悲しみが湧いてきて、口から嗚咽になってあふれ出る。

それでも止まらないその気持ちは、頭の中にまで入り込んできて、真っ黒な絶望感に変わっていく。


 突然、何か強烈な力で、頭をはじかれた。

シートベルトさえしてなかったアタシは、あまりのことにいつの間にか離陸していた飛行機の床に崩れ落ちた。

「とりあえず、おおよその事態は把握した」

見上げたらそこには、マライアが腕を組んでふんぞり返っていた。

「立ちなさい、アヤ・ミナト元少尉!」

マライアはそう怒鳴ってアタシの体を足で押しのけた。

抵抗なんてする気力のないアタシは、簡単にあおむけにひっくり返される。

「立てって言ってんでしょ!」

マライアは、アタシになおも怒鳴ってくる。

アタシは、マライアの剣幕に押されて、言うとおりに震える体を何とか立ち上がらせた。

するとマライアは、怒りのこもった瞳でアタシを見て

「いい、グーで行くからね。歯ぁ食いしばって」

マライアがそう言って素早く右腕を振りかぶった。

ガツンと言う鈍い衝撃が、アゴに走って、よろけそうになった体を、なんとかこらえさせて、マライアを見やる。

「しっかりしろ、アヤ・ミナト元少尉!」

「マライア…あんたにアタシの気持ちが分かるかよ…レナが、死んじゃってるかも知れないんだぞ…」

そう言ったアタシの頬に、もう一発、マライアの拳がめり込んだ。

「おい!アヤ・ミナト元少尉!あんた、いつまでもウダウダ言ってんじゃない!」

マライアはそう言ってアタシの胸ぐらをつかんだ。それから

「アヤさんがしっかりしないでどうすんのよ!レナさん、まだそこで戦ってるかもしれないんだよ!?」

と、目に涙をいっぱい溜めて、アタシに言ってきた。

「レナが、戦ってる?なんで、なんでそんなことが言えるんだよ?」

アタシが言いかえすと、マライアはアタシを引き寄せて

「なんで死んでるなんてことが言えるの?同じことでしょ!?」

と怒鳴りつけた。

 同じこと?…そうか、そうだよな…まだ、死んだとも、生きてる、とも情報は出てないんだ。

死んでる可能性と同じだけ、レナがあそこで生きて、戦っている可能性もあるんだ…

それなのに、アタシ、こんなところで、泣いてていいのか?違うだろ。

泣いてる場合じゃない…すぐに、飛行機を北米に向けてもらって、到着するまでに情報を集めて、奪い返す方法を探さなきゃ…。

それに、レナだけじゃない。レオナも、レベッカも、隊長も、まだあそこにいるかもしれないんだ…

そうだ、泣いている、場合じゃ、ない…泣いている場合じゃ、ないんだ…


「マライア」

「なに?」

アタシはそれが分かっても、なお、へし折れた気持ちを立て直せずにいたので、マライアに頼んだ。

「もう一発、くれ」

「よし来た!」

マライアは振りかぶると、アタシの頬を平手でしたたかにひっぱたいた。

 くそ…痛ぇ…痛てえよ!何発殴られた、アタシ?あぁ、もう、バカだ。全部マライアの言うとおりじゃないか。

レナはアタシが守るんだろう!?だったら、何を迷うことがあるんだ。乗り込んで行って暴れて、奪い返す。

もし、死んでたりなんかしたら、研究所を全部吹っ飛ばしてやる…!

 「マライア、悪い。ありがとう」

「どういたしまして!」

「でも、あんたはちょっとやりすぎた。あとで仕返しするからな」

「えぇ!?ちょっと待って、それは納得できないよ!?」

「うるせえ!グーはないだろ、グーは!アタシ、一度もあんたをグーで殴ったことないぞ!?

 気合入れの平手だって、あんな思いっきり行った記憶はない!」

「へこたれてるアヤさんが悪いから、しょうがない!」

「んだと、生意気になりやがって!」

アタシはそう言ってマライアに飛びかかってチョークを噛ませながら脇の下をくすぐってやった。

本気で窒息しかけてたけど、まぁ、調子に乗った、マライアが悪い、うん。

 一通り、マライアとじゃれてから、アタシは自分で気合いを入れ直した。

そうだ、まだ、あのときと、8年前と同じ状態になっただけだ。なにも変わらない。

アタシはあいつの無事を信じて、乗り込むだけだ。

「ベルント、サンフランシスコ空港までどれくらいかかる?」

「急いで、8時間ってところだ」

「よし、なら、3時間後にまとめよう。これから、ちょっとアタシに状況の話をさせてくれ。それで、みんなに助けてほしい。

 もしお願いできるなら、ダリルに情報収集を頼みたい。マークとポールは、ダリルを手伝ってやってくれ。

 マライアはルーカスと一緒に、フレートと連携して現地の状況把握と潜入プランをいくつか練ってほしい」

「私たちは、何をしましょう?」

ハンナとアイナさん、それから、キキが、引き締まった顔つきでアタシを見つめてくる。

「ハンナは、悪い、コーヒー入れてもらえると、助かる。なるべく濃い目で。

 アイナさんとキキは、ギャレーで何か食べるもの作ってほしいんだ。腹が減ってちゃ、何とかっていうだろ?

 ハンナは、それが終わったら、ダリルを手伝ってくれ。アイナさんとキキは…」

ふっと、二人の顔を見て、思い出した。そうだ、二人は、安心させてほしいやつらが居たんだった。

「アイナさんとキキは、終わったら、カレンと話してくれ。二人の顔を見たいってちび達が、今、いっしょにいるはずなんだ」

アタシは、二人にそう言って笑いかけた。そうだ、まずはそれを大事にしないとな。

それが、アタシ達のモットーだ。そうだろ?な、レナ…!


つづく!



Z名物、部下からの叱咤激励パンチでした。

マライア「修正してやるー!」ボグッ

アヤ「こっ、これが若さかっ…!」キラキラキラ

おつ!
くっそ!俺としたことがマライアちゃんが>>3で既に登場してたのに気付かんとはっ!

>>247
あれじゃ気づかんよ

>>3
>だが、俺の方は名前を憶えたくないくらい、大尉殿が好きにはなれなかった。
なるほど。だから間違えられたのか

見事に伏線を逆手に取ってるな

マライアがアヤに甘えてた時のマークとハンナの反応を想像すると笑いがこみ上げてくるなww
しかもティターンズの制服で四つん這いになって詰め寄るとか、天才の考えるシチュだなっww

>>247>>248
レス感謝!
マライアと断定は難しいかもしれませんが、怪しいポイントはいくつか。
主語が「あたし」だったり、爆発が起こった際には口調が戻ってたり…
ちなみに演じていた大尉の口調はライラ風、という作者の中でのイメージがあったりしました。

>>249>>250
いやっ!違うから!マークさんが嫌っていただけであって、
作者的にマライア嫌いとかそんなこと思って間違えたんじゃないから!
まぁ、最初はどうしていったらいいかわからんキャラではありましたw

>>251
その場面、書こうと思ったのですが、アヤ視点だと表現しづらくて断念しましたw
見たいですよね、ティターンズの制服で雌豹のポーズで迫られるシーンw
ちなみにマライアは1年戦争時は金髪セミロング、グリプス戦役時はショートになってるイメージです。


マライアが出たらレスが増える不思議w

続き行きます!


 「レナさん…」

心配そうに、レオナが私に声を掛けてくる。何を言いたいか、なんてことは、分かってる。

だから、そんな顔しないで、レオナ。

 私は返事をする代わりに、レオナに笑いかけた。でも、レオナは気持ちを抑えきれなかったみたいだった。

「レナさん、ごめんなさい…私があんなことしなければ…」

レオナは、そうつぶやいて、歯を食いしばりながら、涙を流した。仕方ないよ、レオナ。

あなたがしなかったら、きっと私がしていたと思う。だから、気にしないで。

 研究所への潜入は、驚くほどにスムーズに行った。

入り口に軍用車を回して、手錠をかけたレオナを見せたら、すぐに中へと通された。

そこで、車から飛び出て、人気のない通路に入り込んで、二人して研究員の制服に着替えて、中を散策した。

 私も、レオナも、レベッカを感じていた。車に乗って入り込んだ地下階よりももっと下層で、彼女の気配がしていた。

私たちは、エレベータに乗り込んで、ほとんど直感で、地下4階に降り立った。

白く塗られて、妙に明るい感じのする廊下を歩くこと、少し。

私とレオナは、研究員と護衛の兵士に付き添われた、子どもを見つけた。レベッカだった。

写真で見たよりも少し大きくなっていたけど、その顔は、本当にロビンそっくりだった。

 このタイミングだ、私は、そう思って、手に握っていた爆弾の遠隔操作のスイッチを押した。

でも、何度それを押しても、爆発が起こった気配がしない。

隊長たちに何かあったのか、このスイッチが壊れているのか、私にはわからなかった。


 だから、そこで別の方法を取ろうと考えた。レベッカ達のあとをつけて行った先から、連れ出そう、そう思った。

でも、次の瞬間に、レオナが握っていた拳銃の引き金を引いていた。

 考えてみれば、彼女は兵士だったわけじゃない。

私だって、アヤのようになんでもできるわけじゃないけど、

それでも、こんな状況でどう動けばいいかくらい想像は付くけど、レオナはそうじゃない。

必死だったんだ、レベッカを助けようとして。銃弾は、兵士の肩を捉えた。そうなったら、もう、あとには引けない。

私は研究員に銃を突きつけて手錠で拘束し、レベッカと抱き合っていたレオナを連れてその場を離れるために走った。

 でも、銃声を聞いて四方から警備兵が詰めかけてきて、私たちは逃げ場を失って、投降するしかなかった。

 そして、今、私たちはこうして、旧世紀にあったような、固定具に両腕を拘束されて、

座った状態ではあるけど、壁に吊るされるような恰好で囚われている。


 これからどうなるか、なんて、大方、予想は付いている。8年前に予習済みだ。

きっと研究所の人間は、レオナには手を出さないだろう。貴重なサンプルだ、とレオナ本人が言っていた。

私にしてみても、純粋なスペースノイドのニュータイプではあるけど、それを証明するものは何もない。

能力自体は調べることができるだろうけど、私の身元を調べるには時間がかかる。そんな手間はかける必要はない。

 だとすれば、可能性は一つ。レオナの見ている前て、私をいたぶる。

痛めつけられた私が子ども達のことや、隊長達のことを喋るもよし、それを見ているレオナが、耐えきれなくなって喋るもよし。
向こうにとっては、簡単なことだ。

 でも…今回は、8年前とは、違う。私には、確信があった。あの子は、アヤは、必ずここに来る。

それが、1時間後か、明日か、一週間後か…いや、一週間はかからないな。アヤのことだ。

遅くても2、3日すれば、きっとここにたどり着く。

私は、何をされても、死なずに、何もしゃべらずに、それを待てばいい。

私にとっても、簡単なこと、だ。

 「レオナ」

「はい…」

「これから、私は、たぶん、あなたの見ている目の前で、拷問される」

私は、なるべく感情を乗せないように気を付けながら、落ち着いたトーンでそう伝えた。

「そんな…!」

「拷問をかけた私が隊長や、子ども達のことを喋るか、拷問される私を見せつけてあなたに喋らせるかのどちらか。

 でも、レオナ。何も言わないで。何も喋らないで。私に何があっても、絶対に」

私は言った。レオナの表情は悲痛にゆがんでいる。

「そんな…そんなの!」

レオナは、何かを言おうとしている。でも、そこから先は、出てこないみたいだった。

だって、私たちにある選択肢は、喋るか、喋らないか、しかないんだから。

だけど、喋ってしまえば、みんなが危ない。それだけは、絶対に避けなきゃいけない。

「いい、聞いて、レオナ。アヤは、アイナさんを救助して、必ずここに来る。

 地上にいた隊長たちがどうなったかわからないけど、生きているなら、連絡を取っている。

 もし、他の場所につかまったりしていても、カレンさんたちが異常に気付いてくれる。だから、あきらめないで」

私が言うと、レオナは絶望した表情になった。


 まぁ、そうだよね…拷問に慣れている人なんて、そうそういるわけないし…

私も慣れてるわけはないけど、でも、方法はなんとなく理解してる。

 最初は、殴ったりするだけ。でも、そこが一番重要。なるべく恐怖を植え付けるようにして、痛めつける。

そして、少し時間を置く。時間を置く前に、次は今までのよりも、もっときついことをする、と言って去るだろう。

そうやって、植え付けた恐怖を大きくさせる。それから、もう一度、同じように痛めつける。

こんなものか、と思わせて、それからが本番。爪を剥ぐとか、焼きゴテを押し付けるとか、歯を抜いて行くとか、

考えたくないけど、針とか、殴るなんてよりも、一段も二段も痛いことを試すふりをするか、

実際にして、こっちの精神力を削ぐ。犯されるんなら、たぶん、この段階だろう。

 でも、アヤは来る。絶対に来る。だから、私は耐えればいい。どんなに痛くっても、それだけで死ぬことはない。

アヤが来るまで、無用な挑発も、抵抗も、服従も、絶望もしなくていい。

ただ、アヤを信じて、心を殺して、感覚をかい離させて、状況を受け入れつつ、心を折られなければいい。

作業は単純。あとは、拷問を担当する人間が、レオナ達を拘束したような人殺しを楽しむような狂人でないことを祈ろう。

 プシュッとエアモーターの音がして、部屋のドアが開いた。軍服を来た男が、3人、中に入ってくる。

年配の男と、若い男が二人。

 来なさいよ、顔は覚えておいてあげるから。

アヤが来たら、あんた達全員、死んだ方が楽だって思うくらいのことされるんだからね。その覚悟はしておいた方が良いよ…。

「どっちだ?」

襟にキラキラした大きな勲章の付いた年配の男が、若い方の一人に聞いた。

「金髪の方が、サンプルです」

「ふん、なら貴様か」

次の瞬間、男が腕を振るった。

 メキッと嫌な音とともに鈍く、重い痛みが顎に走る。頭がクラクラと揺れる。

「さて、どんな目的でここに入り込んだ?」

男は私の髪をつかむと、顔を正面に向けて、反対側の頬を殴りつけてくる。また、痛み。

口の中いっぱいに血の味が広がる。男は何かを言いながら、私を何度も、何度も殴りつけてくる。

そのたびに、重く激しい痛みが私を襲い、骨が軋むのが分かった。

 気が済むまで殴ればいいよ。犯したいなら、犯せばいい。

傷だらけにされて、犯されて、爆発で腕も脚も奪われたソフィアだって、今じゃいつも笑顔で、

しかもデリクくんの子どもまで身ごもってるんだからね。

あんた達みたいのが何をしたって、折れないよ、壊れないんだよ、人の心は。

生きている限り、何度だって元に戻る。どんなにされたって、アヤのそばに戻れば、すぐに笑顔で笑ってやる。

あんた達なんかに、私は、負けない。


 男の蹴りが私の下腹部に沈んだ。胃の中がこみ上がって、口からあふれ出る。

あぁ、お昼に食べたパスタの味がする…。

 吐しゃ物が、男のズボンにかかった。いい気味だ。男は、腹が立ったようで、私の顔を平手で殴りつけた。

痛い…耳が、キーンと鳴っている。

 ふん、こんなので苛立ってるようじゃ、この血と半分消化されたパスタと胃液の混ざった唾でも吐きかけてやったら、

気が違ったみたいに怒るだろうな。まぁ、無駄な挑発で逆上させても特はないから、そんなことはしないけどね。

 代わりに、口の中の物を床に吐き出す。口の中で真っ赤になった、とろとろに溶けているパスタが出た。

食べたのは、カルボナーラだったんだけどな、これじゃぁ、ミートソースだ…なんてことを考える。

そう言えば、ソフィアの作ったミートソース美味しかったなぁ。帰ったら作ってもらおう。

あ、ダメだ、ソフィア妊婦だった。なら、作り方を教えてもらわないと…。

 殴られるたびに、メキとかミシとか、そんな音がする。あんた、知らないでしょ?

そんなに顔ばっかり殴り続けると、脳震とうで意識が遠くなって、あんまり痛くなくなるんだよ?

 気が付いたら、男は、ハアハアと肩で大きく息をしていた。

私は、殴られすぎて動かすだけでミシミシと音を立てる顎と首をあえて動かして

歪みそうに感じられている骨格を整えようと試みる。

痛いよ…泣きたいくらい、痛いよ。でも、この痛みにとらわれちゃダメなんだ。

気持ちを落ち着けて、感覚を殺して、パスタのことを考えよう、うん。


 男はさらに、今までにないくらいに腕を大きく振りかぶった。

あぁ、これは痛そうだな…私がそれはそれを覚悟して、ギュッと目をつむり顎を引く。

「やめて…!やめなさい!!」

突然、レオナが叫んだ。でも、ダメ、これは来る…。

ヒュッと言う布ずれの音がして、今日一番の衝撃が私の顔面を直撃した。

飛びそうになる意識こらえるけど、口の中の出血が一層ひどくなって、溢れるみたいに流れ出る。

「あなた達は…それでも、人間ですか?!無抵抗の人をいたぶって…なんとも思わないんですか!?」

レ、レオナ…ダメだよ、挑発したら…

「人間?貴様らが?」

男はそう言ってレオナを鼻で笑った。それから私の髪をつかむと、ぐいと自分が殴った私の顔をレオナに見せつけるようにする。

「貴様が喋ってくれても良いんだぞ?ここへどんな目的で侵入した?

 一緒に逃亡したガキどもはどこだ?何から話してもかまわんぞ?でなければ、この女がもっと苦しむことになる」

レオナは、私の顔を見て、それから、男を睨み付けた。レオナ…落ち着いて…変に挑発しちゃ、ダメ…

私の想いが伝わったのかどうか、レオナは、口をへの字にキュッと閉じて、男から顔をそむける。

そう、それでいいんだよ、レオナ。

「ははは、研究の材料は喋る口も持たんのか。まぁ、それもいつまで続くことか…

 この女の苦しみや痛みが感じられないわけはないだろ?ニュータイプ様だものな?

 それとも、何か、実験台にされて、そんな感情はどこかに飛んで行っちまったか?

 まぁ、所詮、戦うための道具だ。そんなもの、あろうがなかろうが関係ないだろうがな…」

その言葉に、レオナは再び、男の顔を睨み付けた。レオナの、焼けつくような怒りが感じ取れる…レオナ…!

「どっちが道具か、なんて、一目瞭然でしょう?権力の狗に成り下がって人の心を捨てたあなた方こそが道具よ!」

男が私の髪を突き放すようにして離し、レオナの方に歩み寄って行った。

ダメ…レオナに手を出さないで…!

 パシンッと乾いた音が響いた。男の平手がレオナの顔を捉える。レオナの顔が痛みにゆがむ。ダメ…やめて…。

でも、レオナは男を睨み付けるのをやめない。

 「道具風情が、生意気な口を利く」

男がまた、平手でレオナをはたく。レオナ…傷つくのは、私だけでいい…やめて!

「道具は道具らしく、使用者の言いなりになっていればいい。

 我々に従って、敵と戦い、我々の勝利にその身を捧げて、いればいいのだ!」

バシン、と再びの平手打ち。

「私は、道具じゃない!」

急にレオナが大声を上げた。


「私達は…道具なんかじゃない!ニュータイプは戦争の道具になるために生まれてきたんじゃない!

 あなた達にはなぜそれが分からないの!?私達は、この広く果てしない宇宙で、人と人が繋がっていくために生まれてきた!

 言葉に乗らない想いを、目に見えないしぐさを、触れることのできない温もりを感じるために芽生えた能力よ!

 人と人が、理解し合い互いにわかり合うための力…あの人は、マークは苦しみながら私達のことを理解してくれた!

 ここへ私を連れてきてくれた仲間は、私に優しく強く笑いかけてくれた!

  戦争や利益に目を奪われ、魂を惹かれ、それをむさぼるだけの道具に成り下がっているのはあなた達の方!

 私達は、違う!

 この力を、人に優しくするために、苦しんでいる誰かを助けるために、喜びも、悲しみも分かち合うために使いたいだけ!

 人として、誰かのそばに居て、幸せにしてあげたいと願うだけ!

 他人を蹴落として、余計な人達と割り切って同胞を宇宙に追い出すことを良とするあなた達の方が

 よっぽど人間なんかじゃない!戦争と利益に操られた、ただの道具よ!」

男の顔に、怒りが宿るのが見えた。いけない…レオナ!

 男が腕を振り上げた瞬間、後ろに控えていた若い男二人が、彼を羽交い絞めにした。

「しょ、少佐!そちらの女にそれ以上は…!」

「貴重なサンプルであるからと…傷がつけば、研究所との関係悪化につながります…!」

「くっ!貴様ら!命令だ!俺を離せ!その道具に、誰が主人かを分からせる必要がある!」

「ダメです、少佐!」

「お、おい、いったん連れ出すぞ!」

「はい!」

男は、若い二人に引きずられるようにして、部屋を出て行った。一瞬にして、室内に静寂が訪れる。

 ふぅ、と思わずため息が出た。レオナを見やると、心配そうな面持ちで私を見ている。

心配なのは、私じゃなくて、レオナの方だよ…あんな、無茶して…


「レオナ、ダメだよ、抵抗したら」

私が言ってやると、レオナはシュンとした顔をして

「ごめんなさい…でも、あんな言われ方、許せなかった…」

と謝った。

「ああいうのはね、付ける薬がない、っていうのよ。わかる?馬鹿ってこと」

私はそう言って笑ってあげたけど、レオナの表情はさえなかった。たぶん、私が笑っているのが分からなかったんだろう。

顔全体が熱を持って、腫れぼったい。たぶん、表情が読み取れるような状態ではないんだ。でも…

「でも、レオナのお陰で、とりあえず一息つけたよ…ありがとう。

 今日はこれで終わってくれるかもしれない。もう遅いからね…」

基地に入ったのが、3時ごろ。捕まって、ずいぶん経ったから、もう外は夜だろう。

あの様子じゃ、そんなに仕事熱心ってわけでもなさそうだし、

このまま私たちを放って気晴らしにでも行ってくれれば、今日は少しだけ眠れるかもしれない。

あの時のように、独房にでも入れてもらえると、いろいろと助かるんだけどな…その、トイレとか、さ。

「レオナ」

「はい?」

「トイレとか、大丈夫?」

「え?あ、えぇと…」

「我慢しないで良いから、しちゃうと良いよ。私もそうするから」

「…レナさん…」

「勘違いしないでね。弱気になってるんじゃないよ?そんなことで、いちいち精神力使ってる場合じゃないってだけ。

 今守らなきゃいけないのは、命。体面や、主義主張じゃない。そのためにも、余計なことは気にしない方が良い。

 トイレも、あの男も言葉も、同じよ。

 こんな状況でもなかったら、ちゃんとした方法で処理すべきだけど、今は、仕方ないから、

 どっちも好き勝手に垂れ流しておけばいいの」

「…はい、ごめんなさい」

 なんだか、ちょっとお説教みたいになっちゃった。そんなつもりじゃなかったんだけど…ごめんね、レオナ。

正直言うとね、もう私、一回しちゃったしね、蹴られた時に…嘔吐の方の匂いがきつくて、たぶんわからないと思うけど…

だから、まぁ、言い訳だけだと思って、聞いておいて、ね。

 アヤは、無事かな…。

ニホンへは、シャトルで向かったから、たぶん、到着は私たちがベイカーズフィールドに着くよりも早かったはず。

私たちと同じだけの時間を準備にかけていたとしても、もう、作戦は終わって、こっちの状況に気付いているはず。

ニホンからここまでなら、半日はかからない。今はもう、向かってくれてるかな…

アヤ、待ってるからね…必ず来てくれるって、信じてるからね…アヤ…アヤ…。

―――レナ!

 脳裏に、いつもの太陽みたいな笑顔で私の名前を呼ぶ、アヤの姿が浮かんで消えた。


つづく!


レナさん、奮戦す!
パスタ食えなくなったらごめんなさいw

書き忘れました。
7月から、ちょいと仕事がバタつきそうな予感でして。

もしかしたら、ペースが若干落ちるかもしれんですが、投下は続けますので、
気長によろしくお願いします。

乙!
待つよ

ミートソースのくだりでワロタwww



わろえないだろオイぃぃいいい!!

>>246
いやしかし、すでに階級は越されてるしなー。しかもティターンズ倍率でさらにドン!なわけで。
ま、もう戻れないんだろうけどさw

>>263
レス感謝!
2、3日に一度ペースで投下していけたらいいなと思ってます!

>>264
いや、すんません、パスタはまじすんませんw

>>265
階級ではなく、やはりマライアはアヤの妹だったらしいですw
以下つづきをばw


投下!


 「あれがオークランド研究所か」

ダリルがつぶやくように言う。アタシは、日も暮れかけたころ、ダリルと、マライアと研究所を望める切り立った崖の上に居た。

フレート達はマークとハンナと一緒に少し休ませている。

 アイナさんとキキは、ベルントに頼んで、アルバ島に送ってもらっている。

残る、と言い張ったアイナさんだけど、正直、これ以上アイナさんを危険にさらすことはできなかった。

だから、ペンションでアタシ達の帰りを待っててくれと、なんとか頼み込む形で、折れてもらった。

 それにしたって、この研究所は、まいった。

所内の様子をみて、アタシはまず、まっさきに後悔した。最初の判断がそもそも間違ってたんだ。

アタシがこっちに来るべきだった。なんだ、この警戒態勢?

レナ達の侵入がバレて警戒レベルが上がったんだとしたって、厳重すぎる。

この広い敷地に、監視塔、見回りの警備兵、機銃を積んだトラックまでもがあちこちに配備されている。

ニュータイプ研究所が、こんなに厳しい警備体制を敷いているなんて、思ってもみなかった。

「これはちょっとすごいね」

マライアが双眼鏡をのぞきながら感嘆している。

「隊長の野郎、無事なんだろうな…」

「大丈夫でしょ」

ダリルの言葉に、マライアが言う。

「だって、隊長だもん。『ヤバくなったら逃げろ』の創始者だよ?あのとき、言ってたじゃない。

 『逃げて助けを呼ぶもよし、逃げて隠れて、チャンスをうかがうもよし』だよ」

マライアがさらに明るい口調で続ける。

「隊長はたぶん、支援の要請をフレートさん達に任せて、自分は残ったんだよ。

 今もきっと、あの基地のどこかにいる。情勢を整えながら、たぶん、なにかの準備をしているか、

 そうでなきゃ、一瞬の、決定的なチャンスを息を殺して狙ってる…」

「そうだな、あの人は、そう言う人だ」

アタシはマライアの言葉にうなずいた。

 おそらく、アタシらが行動すれば、隊長は何かしらの援護をしてくれるはず。でもそれが何かまでは分からない。

いや、分かる必要はないんだと思う。むしろ、こっちから隊長にわかるように伝える方法を考えた方が良いくらいだ。

あの研究所のどこにいるかわからない隊長に、それをするのはたぶん不可能だとは思うけど。


「ダリル、見取り図は手に入れられないのか?」

「正直、難しいところだ。さっきハッキングかけてみたが、おそらく、見取り図の情報はプロテクトの中。

 足跡を残さなきゃならんし、プロテクトを破った瞬間にバレる。それでも良いってんなら、手に入れられなくもないが…」

「事前に入手するには、リスクが大きすぎる、か…」

ダリルの言葉に、息を飲んだ。これは、簡単じゃないぞ…

それこそ、隊長が中からデータを送ってくれたりしてくれたら多少は楽なんだけど…

そもそも、あの研究所の構造からしてわからない。

 地上に出ている部分は、レナ達が潜入したっていう本棟と、そこから少し離れた研究棟、

さらに、巨大な格納庫や工場のような施設もある。

隣接するバカみたいに広い、滑走路のような広場は、おそらくここで実験している兵器の試験場。

これだけデカい施設だ。付け入る隙は、どこかにはあるだろう。

でも、デカすぎて全体を把握したうえでどこに付け入っていいのかが、まずわからない。

情報が少なすぎるが、集めようにも、ダリルが言う様に、情報自体がかなり厳重に守られている。

 さて…どうするべきか…そう考えて、真っ先に視界に入ったのが、悔しいけど、マライアだった。

「マライア、どう思う?」

アタシが聞くとマライアは少し考えるしぐさを見せてから

「んー、まぁ、最終的に、バレないように、っていうのは、難しいよね」

と口にした。

「それなら、こっちがいかにして、こっちに有利なように対応してもらうようコントロールした方が良いよね」

「混乱の方向を誘導するってわけだな」

「そう。いまの状態で研究所に突っ込めば、どうしたって、レナさん達を救助してきたってバレちゃう。

 あの戦力がレナさん達のところに集中しちゃったら、いくらなんでも突破できる感じはしないしね」

マライアの言うことはもっともだけど…じゃぁ、敵をどこにどう、誘導する必要があるのか…

「狙うなら、格納庫か」

ダリルが言った。

「あの格納庫なら、建物からずいぶん距離もあるし、あそこを狙えば、まずは中身を守ろうとするだろう。

 次の目標は、その隣の工場」

アタシは双眼鏡で位置関係を確認する。確かに、その両方の施設は本棟からは離れている。

あそこに敵をおびき出して、その隙に救助と脱出をする…

確かに、多少の戦力は削げるかもしれないが、それでも簡単ではないだろう。

「もうひと押し、なにかほしいな。押すんじゃなけりゃ、やっぱり中の様子を事前に知っておくとか」

「確かに、レナさん達の場所と研究所の構造が分かっていれば、アドバンデージにはなるんだよね…」

アタシの言葉に、マライアが同意してくれる。頼りになるよな、あんた。ホント、なんか悔しいんだけどさ。

「でも、やっぱりそれは望めないから、代替え案」

「なんだよ?」

「隊長お得意の、アレ、でどうかな」

マライアはそう言ってニッと笑う。


「ハッタリ?」

「そ。格納庫と工場を襲撃して、混乱させて、その隙に、ティターンズの陸戦隊に変装して研究所に入る。

 さすがにその状況なら、所属確認なんてしている暇はないだろうから、多少は自由に動けるでしょ?

 その先は潜入班の力量次第だけど、たとえば、警護任務を仰せつかったから、

 捕虜の位置を知りたい、とか、そんなこと言って場所を聞き出すのもありだと思うし」

なるほど…悪くないように思える。

うまくいけば、捕虜を奪回されないために急ぎ移送する、とか言って、連れ出すこともできるかもしれない。

あのデカい施設で、あの警備の数だ。いちいち他部隊所属の人間の顔なんて覚えてないだろう。そこに付け入る隙がある、か。

 「それで行こう」

アタシはマライアとダリルの顔を交互に見てそう告げた。二人は、引き締まった表情で、首を縦に振ってくれた。

「なら、とっと戻って班分けだな」

「うん、そうしよう。あたし、フレートさんにお願いしたいこともあるしね」

二人の言葉を聞いて、アタシもうなずき返して、とりあえず、サンフランシスコの街へ戻る道のりを車で戻った。

 途中のケータリングのお店で夕食を買って、フレート達の待っているホテルに戻った。

そこで、夕飯を食べながら状況と作戦を説明して、班分けをする。

 潜入班には、アタシと、ハンナにマークで決まった。

二人は、今の軍の状況に詳しいし、戦力的なことはちょっと不安があったけど、アタシがカバーできる範囲だと思う。

それから、外部の支援にダリル。情報連携は重要になってくる。

問題は、研究所の地下に入った際に連絡が出来なくなることが想定されるってことだ。

それについては、これからダリルに対策を練ってもらう。

どうやら、思い当たるところがあるようなので、そいつは任せることにした。

それから、格納庫と工場の襲撃は、マライアにルーカスとポール。

そのことで、マライアはフレートにしきりにアナハイム社の工場の場所を聞いていた。

何を考えてるんだか知らないが、こいつなりの考えがあるんだろう。アタシはもう、何も言うことはなかった。

任せるよ、マライア。

 それからフレートとキーラには、逃走路の確保をお願いした。

正直、レナ達の件で責任を感じている様子があって、前線からは遠ざけたかった。

なにより、そもそもフレートは戦闘の一番ひどいところに飛び込んで行って暴れるクセがある。

そんなことを、責任を負われてやられたら、正直、特攻でもして死にかねない。

そんなことを考えていたアタシの気持ちを見透かしたのかマライアが

「フレートさん達は、もうここに入って長いんでしょ?

 あたし達はまだ土地勘もないし、できれば逃げ道をいくつか考えておいて、手段も準備してくれてると助かる」

なんて援護してくれた。気の利くマライアなんて、なんか違和感あるよな、と、あとで言ってやろうと思う。

 そんなこんなで、配置は決まった。決行は明日の早朝。

時間的な猶予はないから、なるべくなら今夜にでもやりたかったけど、

あいにく、昨日の夜の飛行機の中から作戦会議と対応の連続でみんなロクに寝てない。

さすがに、ここらで一眠りしておかないと、作戦自体に支障が出ちゃいそうだ。


 会議が終わって、みんながそれぞれの部屋に戻った。

 アタシもシングルの自分の部屋に戻ってシャワーを浴びてからベッドに入ったけど、

レナのことを考え出したら寝るに寝れなかった。

 明日のこともあるし、早く寝なきゃな、と思いつつ、ホテルの地下にあるバーへ向かった。

カウンターの席について、バーテンにバーボンをロックで頼む。焼ける様なうま味が喉と体にしみわたっていく。

これで、すこし気持ちをほぐせば眠れるだろう。

まだ、胸の内にくすぶっているもどかしさを静めるにも、多少のアルコールは必要だ。

 カラン、と、バーの入り口のドアについていたベルが鳴った。

「アーヤさん」

呼ぶ声がしたので振り返ったら、マライアがいた。

「マライア」

彼女の名を呼ぶとその後ろから

「私たちも来てますよ」

とハンナとマークも顔を出した。

 「寝なくて平気なのか?」

アタシが聞くと、マライアは笑って

「アヤさんこそ」

と言いながら、

「仲直りしようと思ってね。ハンナとマークと」

と二人を見やった。

 そういや、二人はマライアのことを快楽殺人者だと言ってたもんな。

事実が分かってもまだ、うまく溶けないわだかまりもあるんだろう。酒の肴にして忘れるのは、良い案だ。

 アタシがスツールをずれてやると、3人は並んで座った。

「ジントニックお願いします」

「私は、スクリュードライバーで」

「ウイスキーあるか?オススメの銘柄を頼みたい」

3人は酒を注文した。

 3人分揃うのを待って、一緒に乾杯する。なんだか、ジャブロー防衛戦前夜の、戦勝祈願会を思い出した。

あれ、結局みんな撃墜されたけど、防衛は成功したし、誰一人死なずに帰還できた、って意味では、アタシらの勝ちだった。

だからまぁ、そんなのを思い出しても別に縁起が悪いわけでもないよな。


 「だから、マークの報告書は笑っちゃったんだよー。内容が痛烈すぎて、もう可笑しくってさぁ。

 もうね、『そうそう、ホントそうだよね』とか思いながらルーカスと読んでたんだよ」

「あんなのを書いて、懲罰もけん責もなくのらりくらりで、挙句には部下になれなんて何考えてんだとは思ってましたけど、

 こういうことだとは想像もしてませんでしたよ。気に入られてたっていう理由が分かりました」

「大尉は、私たちが捕虜に食事を提供してたのも知ってたんですか?」

「もちろん!死体袋に詰めて逃がす前に、大抵の人が、そのことを言って心配するんだよね。

 『彼らを悪いようにしないでやってくれ』ってね。まぁ、他にバレないうちは、処罰するつもりもなかったけどさっ」

「これが終わったら大尉はどうするつもりですか?ティターンズに戻るとか?」

「いやぁ、もう無理でしょ?爆発に巻き込まれて死亡って、ことになってると思うしね。

 それに、ほら、クワトロ大尉の演説もあったでしょ?」

「クワトロ大尉?」

「あ、ええっと、シャア・アズナブル、キャスバル・レム・ダイクンの…」

「あぁ、ダカール宣言、ってやつ」

「そうそうそれ!あれのお陰でティターンズはもう地球にはいられないセンが濃厚だからね。

 今じゃ、あっちこっちから撤退して宇宙に上がってるよ。

 オーガスタからも、あと一週間もしたら、ティターンズは撤退するんじゃないかなぁ。

 アクシズとの協定も決裂しかけてるらしいし、もうどこからどう見ても賊軍だよね。

 連邦がエウーゴの支援を表明するなんて、てんでおかしな構造になっちゃってるくらいだし」

「確かに、エウーゴってAnti Earth Union Governmentの頭文字でしたよね?反地球連邦政府組織を地球連邦が支援って…

 エウーゴにしてみたら、こんな妙な話はないでしょうね」

「そうそう、だからいい機会だし、あたしももう隠居しようかなって」

「そうなんですか?せっかく良い関係になれそうなに…残念です」

「そうでもないよ、たぶん、アヤさんのところのペンションで働いたりしてると思うしね」

「本当ですか?じゃぁ、落ち着いたら遊びに行きますね!」

3人は、楽しそうに話しながら笑っている。

マライア、途中でアタシもびっくりするようなことを勝手に口走ってるけど、まぁ、流しておこう。

 それにしてもマライアに部下が、ねぇ。想像もしてなかったけど、今のマライアを見てたら、それもなんだか自然に思えた。

部下、なんて言ったら「それは違うよアヤさん!」なんて言いそうだけど、

まぁ、アタシとあんたの関係みたいなもんなんだろうな。

 マライアは底抜けに明るいし、抜けた感じもあるけど、そこがまた憎めないし、威張るわけでもないし、部下には好かれそうだ。

ははは、マライア・アトウッド大尉、か。ティターンズだし、あの頃の隊長よりも偉くなってるんだよな。

こいつが、アタシらみたいなやつらを引っ張っていく姿も、なんとなく見てみたい気もするな。

いや、なんなら、アタシも引っ張ってもらったっていいかも、とも思う。

あんたみたいな隊長の下でなら、きっと軍人なんて仕事も楽しく感じられるかもしれない。

それこそ、オメガ隊にいたころみたいに、さ。


 なんてことを考えてニヤついていたアタシの視線に気が付いたようで、マライアはこっちを向いて

「アヤさん、なぁに?あたしに見とれてた?」

なんてワケのわからんことを言いだした。感心してやってたのに、台無しだよ、あんたさ。

「ホントにさ、生きてて良かったよ。あんなんじゃ、いつ死んでもおかしくないかもって覚悟してたところもあるんだ。

 それがまぁ、8年経ってティターンズとはな」

皮肉のつもりで言ってみたんだけど、マライアはそれを聞いたとたんに、目を潤ませ始めた。

だから、部下の前だってば。泣くなよ、おい。

 アタシのそんな想いもむなしく、ポロポロと涙をこぼし始めたマライアはアタシにすがるようにして言った。


「ずっとずっと、誰かの役に立ちたいと思ってきたの…

 隊のみんなのように、隊長みたいに、誰かを、大事な仲間を支えて守れる人になりたいって、

 アヤさんみたいに、みんなを励まして、元気にして、

 ダリルさんみたいに、仕事ができて、機転が利いて、頼りになる人になりたいって。

  だからあたし、頑張ってきた。みんなに甘えたかったし、頼りたかったし、

 泣きつきたいって思ったことも、なんどもあった。でも、それでも歯を食いしばって頑張った。

 そうしたら、仲間が出来たの。ルーカスや、ティターンズに入るときに離れちゃって、今は死んじゃったけど、

 ライラっていうパイロットとか、ハンナも、マークも、ポールもそう。

  こんなこと、考えてもなかったんだけどね…あたしはただ、オメガのみんなと一緒にいたくて、

 胸を張ってあたしはマライア・アトウッドだって言えるようになって、

 それで、みんなと並んで歩けるようになりたいって、ただそれだけを目標に頑張ってきた。

  アヤさん…あたし、今、どんな風に映ってる?

 アヤさんの目に、マライア・アトウッドは、一人前のオメガ隊員になってるって、そう映ってる?」


バカだな、あんた。そんなこと、今更言わなきゃわかんないのかよ?

いや、言ってほしいのかもしれないな、甘ったれは甘ったれだし…。

でも、そっか…あんたは、ソフィアを守ってたあんときに、そんなことを考えてたんだな…

だから、宇宙になんか飛び出して行っちゃったのか。このままじゃいけない、なんて思ったんだろうな。

それで、8年も、アタシ達には一切会わずに、頑張ってきたんだな…

 本当に、アタシはうれしいんだ。あんたが、そうやって自身持って輝いてる姿見るのはさ。

偉かったな、頑張ったな、マライア…。


 「だから、言ってやっただろう?アタシの答えは、ひとつだけだ。『おかえり』」

「うん…うん!ただいま、アヤさん…マライア・アトウッド曹長、ただ今、オメガ隊に復隊しました!」

マライアは何を思ったか立ち上がってそう宣言し、アタシに敬礼してきた。

曹長、か。あんたの基本は、そこなんだな。いくらティターンズで階級が上がったって、関係はなかったんだ。

それそこ、そんなもの、道具でしかなかったんだな。

 あんたはこれまでずっと、そう言う経験が、“マライア・アトウッド曹長”を成長させるための、

隊の皆を、支えて、守れる存在になるための肥やしにしてきたんだな。

 だとしたら、はは、確かにそうだな。マライアの変わってない甘ったれなところも、そりゃぁ当然だ。

なんたって、こいつは、あのときのまま、経験が豊富になった“曹長”なわけだからな。

 マライアの敬礼には、敬礼を返さなきゃいけない。アタシも立ち上がってマライアに敬礼を返しながら

「おかえり、マライア・アトウッド曹長。アタシや、友達のアイナを守ってくれて、ありがとうな。

 本当に帰ってきてくれてうれしいよ、マライア。おかえり、アタシの妹。

 8年も、偉かったな…良くりっぱになって帰ってきてくれた。これからは、ずっと一緒だ。

 アンタはもう、オメガ隊から二度と出て行っちゃダメだからな。

 それから…頼む。明日は、アタシとレナのために、力を貸してくれな…頼りに、してるから」

と言ってやった。

「ふぐっ…ううぅぅっ…」

アタシが言ってやると、マライアは途端に声を上げて泣き出した。

それからもちろん、アタシに突っ込んできて抱き着いて、胸に顔をうずめて、わんわんと悲鳴のように泣き出す。

 妹か…良く言ったもんだ。アタシもいつのまにか、すっかりあんたの姉さんになってたみたいだ。

あのころはお遊び程度の呼び名くらいにし思ってなかったけど、でも、隊の皆は家族だった。

マライア、あんたもやっぱり、妹だったんだよな。だから、姉として、あんたが返ってきてくれたのが、何よりうれしい。

良かった、本当に、良かったよ…

 「ははは。大尉、飛行機での中でもそうだったのにな」

「きっと、アヤさん達の役に立ちたくて、ずっと頑張ってきたんだね…

 私も、アヤさんや、マライア大尉みたいに、立派になれるかなぁ」

マークとハンナがそう言って笑っている。

 はは、そうだな。アタシがマライアの姉ちゃんなら、マライアはあんた達の姉ちゃんだ。

こんな甘ったれだけど、たぶん今じゃ、アタシやダリル、隊長よりすげえかもしんないからな。

こいつを見習っておけば、あんた達もやれるようになるさ。

 そんなことを思いながら、アタシはマライアの頭を撫でまわした。でもな、マライア。

まだだからな。この状況が終わるまで、ちょっと待ってくれな。そしたら、今まで我慢してたぶん、目一杯甘えさせてやる。

アタシも、もっと別の、言いたかった言葉を聞かせてやる。だからそれまで、アタシに力を貸してくれ。

 な、マライア。頼んだからな…。

 バーに流れていたピアノソナタの音に混じって、溶けた氷がバーボンのグラスの中でカランと鳴った。


つづく!

マライアたんがかわいい今日この頃。
なごやかパートを描きたいのだけど、状況的になごやかになれないジレンマでした。


ちなみに、この投下で残弾ゼロになりました。
これよりペースダウンいたします…w


次回!レナ救出作戦開始!


嵐の前の静けさって感じの回だね
次回も楽しみにしてるので無理の無い程度に頑張って!

あ、あと細かいコトだけど「エウーゴ」じゃなくって「エゥーゴ」だよ

ほんとに細かくてワロタ



エゥーゴかエウーゴか大事な事じゃね?
マライアかアライヤかは細けぇ事だがw

アホの子かわいいマライアたんは偉くなってもアホの子のままでいて欲しいね

>>275
感謝!
あー、マジだ…なんか違和感あるなぁとは思ってたが…
前スレではちゃんと表記してたのに!

>>276
キャタピラクオリティは健在なようです…
泣きそうw

>>277
感謝!
いや、その、マライアの名前も
割りとどうでも良くないって言うか…w
マライア、アホの子からすごいアホの子に
なったんですよ!


つづき投下いきます!


 翌朝、セットしていたアラームの音で目が覚めた。

外は真っ暗。それもそのはず、時間はまだ午前4時だ。4時30分に最後の確認の打ち合わせをして、5時にはここを出る。

 マライアだけは別動で、すでにどこかへ出かけているはずだ。合流はなし。

作戦決行は6時で、マライアはその時間に格納庫と工場へ攻撃をしかける算段になっている。

 アタシは荷物をまとめて、部屋をで、フレートが準備していたワンボックスに乗り込んだ。

中は機材が山ほど積まれていて、ここがダリルの前線基地になる。

フレートとキーラさんもここで別れて、基地のそばにある街の市街地で防弾装備を整えた車を待たせて待機。

 アタシ達の車がオークランド研究所の近くにつけば、配置は完了でマライアを待つだけになる。

フレート達に別れを言って、ダリルが車を走らせた。

 途中のドライブスルーで朝食を買う。腹が減ったら戦闘は出来ないからな。

研究所の近くに着いてから、すぐに無線の確認をする。フレート達とも感度良好、マライアともつながっている。

建物の見取り図は、格納庫襲撃後にハッキングをかけて、ダリルからアタシらに連携されることになった。

研究所内の無線についても、内部にある有線の通信回線に無線用の受信機を取り付けることで対応できるそうだ。

取りつけには、10秒もかからないから、隙を見てやっておこう。


 持っていく機材と、装備の最終チェックをする。漏れはない。マークとハンナも、大丈夫そうだ。

引き締まった表情で、アタシを見つめている。

 マライアが格納庫への攻撃を始めたら、アタシらは車で研究所につっこむ手筈だ。

「マライア、こっちはいつでも行ける」

アタシが無線のマイクに向かって言うと

<りょーかい!あと3分待ってね、もうじき着くから!>

とマライアの声が返ってきた。

 着く、ってどういうことだ?あんた、格納庫にいるんじゃないのか?

てっきり、基地で使ったみたいな爆弾でも仕掛けているのかと思ってたんだけど…?

 アタシがそんなことを考えているうちに、突然、研究所全体からデカイ音が鳴り響きだした。

ウウウウウウーーーーーーゥゥゥゥ、ウウウウウウーーーーーーゥゥゥゥ

 これは、サイレン?警報だ。なんだ、マライア、敵に見つかりでもしたのか?

「警報…空襲警報だ!」

マークが叫んだ。空襲警報?!あいつ、まさか…!

 アタシは気づいた。気づいたのと同時に、どこか遠くからけたたましいエンジン音が鳴り響いて近づいてくる。

見上げた空を、グレーの機体が切り裂くように飛びぬけた。

 研究所内の動きがあわただしくなる

。施設の中に駆け込んで行くやつもいれば、トラックの機銃を握って迎撃態勢をとっているやつもいる。

バタバタと、まるでアリの巣の中みたいな混乱だ。

「おい、マライア、その戦闘機に乗ってんのか?!」

<戦闘機じゃ、ないよっ!>

マライアの声が聞こえたと思ったら、戦闘機じゃないというその飛行機が旋回してきて、格納庫に向けてビームを放った。

ビームは格納庫の天井を貫いて小さな爆発を起こす。

 と、格納庫の前扉が吹き飛んで、中からモビルアーマーが姿を見せた。

「アッシマーだ!」

マークが叫ぶ。それも、3機!マズイぞ、マライア!モビルアーマー相手に戦闘機なんて…

逃げるだけならいざ知らず、戦闘だなんて!

「マライア、気をつけろ!」

車を研究所の敷地に向けて走らせながら怒鳴る。しかし、当のマライアからは、抜けた声色で返事が返ってきた。

<ふっふーん!今日のマライア・アトウッド“曹長”は、無敵なんだよ!アヤさん!>

バカ、何言ってんだ!あんたがいくら腕が良いとしたって…機体の性能差ってのは厄介なんだぞ!

 そう言ってやろうと思って、見上げていた空で、マライアの機体は、その…変形した…!?


「あれって…」

「エウーゴの可変モビルスーツ!?あの、ガンダムタイプ!?」

なんだって?ガンダムタイプだ?あれが?!

「マライア、あんたそんなもんどこから!?」

<フレートさんに工場の場所聞いて借りてきた!ていうか、アヤさん、外は良いから急いでレナさん拾ってきて!>

「…わかった、マライア。頼むぞ!」

<まっかせといて!>

マライアはモビルスーツ形態のまま降下しつつ、飛び上がってくる飛行形態のモビルアーマー3機のビーム砲を

まるで風に紙切れが舞うようにヒラヒラと躱している。なんだ、あの動き?あいつ、宇宙でどんな戦闘してきたんだ!?

<三次元機動ってのを分かってないなぁ!空であたしに勝とうだなんて!8年早いよー!>

無線から叫ぶマライアの声が聞こえる。マライアの機体は、ビームを発射した。

動き回るモビルアーマーが被弾して、地上に落下して行く。当てた!?あんな状態で?

<はいはい、次ぃ!>

と、次のビームでもう1機を被弾させて、地上へ叩き落とす。

 残りの1機がビームを吐きながらマライアに迫って行った。

さらに地上から対空ミサイルらしい何かが無数に発射されてマライア機迫る。

「マライア!」

アタシは叫んだ。でも、マライアはそんな状況でも

<わー!いっぱいきた!>

とかふざけた調子で言いながら、空中で飛行形態に戻ると、高速で旋回しながら機体をロールさせつつ急速に上昇して行く。

マライアの機動を追いきれないミサイルが近接信管だけを作動させて空中ではじけ飛ぶ。

<ひゃっほーーーーぃ!!!>

その爆炎と煙をまるで引き連れるようにしながらマライア機はさらに上昇する。

モビルアーマーもマライアの機動に追従しようと上昇を始めた。

でも…これはアタシでもわかる。モビルアーマーのパイロット、それは悪手だ。上昇中は、機動力が鈍るんだ。

前にしか撃てない戦闘機相手ならそれも良いが、相手はモビルスーツ。先に上を取られたら、あんな追い方したら、ダメだ。

 思った通り、上昇を始めたモビルアーマーは、さらに上空でモビルスーツ形態になっていたマライア機に簡単に撃ちぬかれた。

 「あ、あれが、大尉の操縦…?!」

「す、すごい…一瞬で、モビルアーマー3機も!?」

…いや、アタシもびっくりだよ、マライア。あんた…ホントに、どこまですごいやつになっちゃんだ?

そんな動き、まるで…ニュータイプのエースじゃないか!

 関している間に、格納庫からはまだモビルアーマーが出撃してきて上空へと上がっていく。

空で、激しい戦闘が展開され始めた。だけど、マライアは微塵も押される気配がない。

<ふっふー!まだ来る!?何機来ても同じだよ!>

<そんなんじゃ、これは避けられないでしょ!>

<わわわっ!あんたちょっとうまいじゃん!でもそんなの、かすりもしないんだから!>

…すごいな、マライア。



…すごいけど、ちょっとうるさい…無線機ってやれよ、あんたさ。


「ダリル、こっちの無線のチャンネルをBに切り替える…」

<了解。マライアとのおしゃべりは、こっちに任せとけ>

<あっ!ごめん、アヤさん!しゃべってないと、怖くてダメなんだ、あたし!>

良く言うよ、あんな圧倒的に敵を叩いといて怖いとか、どの口が言うんだ。

「こっちに用事があったらBチャンネルで話しかけてくれ」

<りょうっかい!>

アタシは車を止めて、マークとハンナにもチャンネルを替えさせてから、表に出た。マークとハンナも車を飛び降りてくる。

「ハンナ、マーク。アタシから離れるなよ。銃は抱えてりゃ良い。まだ撃ち合いするつもりはないからな」

「了解です。こんなとこで敵とやり合うなんて、正直、生き残れる自信ないんでね」

マークは脂汗をいっぱいにかきながら言う。ハンナは、マークよりはすこし余裕のありそうな表情で

「分かってます。アヤさんの後ろを離れません」

と言って笑った。ハンナの根性の据わりっぷりは、やっぱり、さすがだ。

「ダリル、これから研究所内に潜入する」

<了解した。こっちもハッキングを開始する。見取り図を見つけたら、そっちのコンピュータに転送する>

「頼んだ」

アタシはダリルにそう言って無線を切った。それから、ふうと一息ついて、また二人を見やって

「行こうか」

と確認する。二人は黙ってうなずいた。

 駆け回る警備兵の間を縫って、研究所へと走る。

 轟音と、爆発、それから叫び声が飛び交っている。マライア、派手にやりすぎだぞ!増援でも来たらどうするつもりなんだ!

 そんなことを思いながら、アタシ達は研究所の正面入り口に到着した。

入り口を守っている警備兵が二人、あたりを警戒している。アタシは迷わずにそいつらの前に姿をさらした。

「第三分隊所属のエインズワースだ!本部から捕虜警備の増援命令を受けてきた!」

アタシが言うと、警備兵の一人が真剣な表情で

「そうか!中は混乱している!指揮系統を確認して、持ち場についてくれ!」

と言って研究所の中へとかぶりをふった。なに、ちょろいもんだな。

 「あぁ、任せろ!そっちも死ぬなよ!おい、行くぞ!」

アタシは、彼をそうねぎらってから、マークたちに叫んで研究所の中に駆け込んだ。

中は、壁が真っ白に塗られて、真っ白な照明が明るく照らす、奇妙な空間だった。警備兵が廊下を慌てた様子で走り回っている。

「ダリル、研究所の中に入った」

<よし…待て…あったぞ、転送する>

ダリルの無線を聞いて、アタシは腕につけていたポータブルコンピュータを確認する。確かに、見取り図が送信されてきていた。
レナは…どこだ!?

<アヤ、地下2階と3階の間に、ミノフスキー粒子を充填してある階層がある。おそらくこいつで電波を遮断してるんだ。

 地下階へ行ったら、まず最優先で無線機を取り付けろ>

ダリルの言葉に、アタシは見取り図を確認する。

電波を通さない、ってことは、どこかに、有線の通信用のモジュールがあるはずだ。

そいつを目指そう…とにかく、まずは非常階段!

「こっちだ!」

アタシは見取り図に従って、真っ白な廊下を走る。


 曲がりくねった廊下を走って、非常階段を見つけた。扉を開けて、一気に駆け下りる。

「ダリル、レナの位置は分からないか?」

<検索をかけてるが、不明だ。まだ調べてみるが――ザッそっちで―――ガザザザ―――

無線が切れた。妨害壁を越えちまったみたいだ…無線機を取り付けるまでは、見取り図が頼り、か。

「アヤさん、無線モジュールの位置、分かりますか!?」

マークがそう聞いてくる。アタシは階段を駆け下りながら見取り図でその位置を確認する。

地下4階?5階か?いや、違う…配線を辿れ…あった!地下3階の、エレベータ横だ!

「見つけた!まずは、そこに向かう!」

アタシが怒鳴ると、マークが腕をつかんできた。

「そっちは、俺に任せてください」

おい、何言ってんだよ…あんた一人で行くってのか!?

アタシはマークの言葉に、一瞬、戸惑ってしまった。だって、あんた、兵士だけど、実践なんて、したことないんだろう!?

事務屋だって、自分で言ってたじゃないか…

「アヤさんと、ハンナで、レナさんてのと、レオナを、頼みます」

マークは端的にそう言った。その表情は、なにか、固い決意をしているように見えた。こいつから感じるこの感覚…

これは、犠牲になって、とかそう言う類のもんじゃない。役割、だ。使命感…助けるんだっていう、覚悟…

 「…わかった、マーク。無茶はすんなよ」

アタシはそう言って、腰のポーチからマークに無線機を手渡した。

「大丈夫。もうヘマはやらかしません。うまくやってきます」

マークは相変わらず脂汗をかいているクセに、やっぱり固く決めたって表情で、そう言った。

マライアもそうだけど、そんな顔されたら、断るわけに行かないだろう…

「…頼む」

アタシはマークの肩をポンとたたいて、ハンナを見やった。ハンナは黙ってアタシにうなずいて来た。

はは、あんたら、やっぱりマライアの部下だよな!

なんだか、ちょっとおかしかった。


「ハンナ、着いてこい!」

 アタシはハンナに言って、階段をさらに駆け下りる。レナの居場所は…どこだ…?さっきから、探してんだ。

こんな見取り図上でなんかじゃない。あんたとつながってる、この感覚で、だ…でも、なにも感じないんだよ!

レナ、あんたどこにいるんだよ!答えろよ!

「アヤさん!」

不意に、ハンナが叫んだ。

アタシは階段でまた脚を止める。

「レオナ、この階にいる」

そう言ったハンナは、地下五階の扉を指していた。

…迷ってる場合じゃない…まずは、レオナからだ!アタシは、そのドアの扉を開けた。

 そこは、相変わらず真っ白な廊下で、それを照らす明るい照明がまぶしいくらいに光っている。

 なにかの気配を感じる。ごくわずかな警備兵の物らしい、物々しい肌触りの中に、かすかに触れる温もりがある。

「アヤさん…ハンナのところには、私が行きます…だからっ!」

急に、ハンナはそう言ってアタシを見た。

 思わず、ため息が出た。なんだって、そうなんだよ、あんたも、さ。

ハンナは、マークとそっくりに、もう決めた!って顔していた。

「…ハンナ…アタシが教えたこと、忘れんなよ」

「はい。銃を向けるときは、まずは、脚から」

「そうだ」

「それから、考えることを、やめるな」

「うん」

「あと…ヤバくなったら、逃げろ」

「あぁ」

アタシはうなずいてやった。ハンナも、コクっと顎を引く。っと、待て、まだ言い忘れてたことがあった。

「あと、もう一つ。あんたの、その感覚を信じろ。ニュータイプの感性は、気持ちに応えてくれる。

 特に、助けたいって想いには、さ」

アタシがそうだったように、レナがそうだったように、そして、たぶん、マライアがそうなように…

それは、きっと、そう言う強い気持ちと集中力がより一層強化してくれるもんなんだと思う。

その想いを負えば負うほど、力は強くなる。この力は、誰かを助けたり、守ったりするための力なんだ…!

「はい!」

ハンナははっきりと、力強くそう返事をして、そして、笑った。頼むぞ、ハンナ。必ず生きて、ここを出よう。

うちのペンションで、みんなでゆっくり、酒でも飲みながら、今日の話をしよう。絶対だぞ、絶対だからな!



 アタシは、駆け出した。ハンナの方を振り返らなかった。あいつは、やる。必ず、レオナを助け出す。

アタシも急がなきゃいけない…レナと、そしてレベッカを助けなきゃ!

 走りながら、見取り図を見つつさらに感覚を研ぎ澄ませる。何も感じない、何も触れない。

おい、レナ…死んでなんかないよな…!?頼む、何かを言ってくれ…何かを考えてくれよ!

ここにいるって、そう叫んでくれよ…レナ…レナ!!!

 唐突に、見取り図に赤い点が灯った。なんだ、これ…?

 アタシは思わず、脚を止めた。

その点は、地下5階をぐるっと一周している廊下の反対側にある小部屋をマーキングしているようだった。ダリルからか?

でも…まだ無線は生き返ってない。ここへ信号が届くはずがないから、少なくともダリルではない。

罠か…?ここに何がある…?レナか…?レナが、呼んでんのか!?

 直感的に、そう思った。何を感じたわけでもない。だけど、そこに行くべきだと、思った。そこにレナがいる…

まるで、何かに導かれるようだった。

 全力で回廊を駆け抜ける。

 数メートル先に、突然なにかが飛び出してきた。人だ。男…連邦の軍服を着ている…銃は持ってないが…なんだ…この感じ!?

 肌に、まるで粘りつくような奇妙な感覚が走った。

―――こいつ…やばい!

アタシはとっさに、自動小銃を構えた。しかし、男はそれに怖気付くこともなくアタシに飛びかかってきた。

銃口の先から男が消える。まずい…しゃがみこんだ…タックルが来る!

アタシは小銃を持ち替えて、銃床を真下にたたきつける。鈍い衝撃が腕に響く。

男は、床に這いつくばるようなかっこうで、それを受け止めた。

―――なんだ、この力!?

男は、そのまま銃を押し上げるようにして、アタシを壁際まで突き飛ばす。強烈に、背中を打ちつけて、一瞬呼吸が止る。

 こいつ!ニュータイプみたいだけど、そうじゃない!これが、強化人間ってやつなのか!?

 男は間髪入れずにアタシに飛びかかってきた。背中を打ってしまったせいで反応が遅れる。

たちまち馬乗りになられたアタシは小銃すら弾かれて、抵抗する間もなく、首を締め上げられる。

 くそっ…!こいつ…!

 体勢を入れ替えることも、腕を押し返すことも、振り払える気すらしない。

めりめりと首に指が食い込んで、酸素と、血液の循環が妨げられる。まずい、トぶ…!

 アタシは、悶えながら腰のポーチからそいつを取り出して、男の体に押し付けた。

とたんに、男はビクビクと全身を痙攣させて、床に崩れ落ちる。

「…っ、かはっ…はぁ…はぁ…」

肺と脳が熱くなっていた…危ないところだったな、今のは…

アタシは、何とか立ち上がって、ポーチへスタンガンを戻して、小銃を拾い上げた。

 こんなのが、ハンナやマークの方に行ってなきゃいいけど…そう思いながら、アタシはまた廊下を駆け出した。

レナ…そこにいるのかよ、レナ!


 見取り図の、マーキングの部屋の前にたどり着いた。扉があって、その横にキーボードの付いた電子制御用のパネルだけがある。

ノブや、鍵穴は見当たらない。迷ってる暇は、なかった。

アタシは、腰から消音装置付きの拳銃を引き抜いて、パネルを打ち壊した。

バチバチっと音を立てて、パネルの液晶画面が消える。同時にトビラから、バスンッと言う鈍い音がした。

電源、うまくやれたのか…?

 拳銃を腰に戻して、ナイフをトビラと壁の間に突き立てる。

思い切り押し込んで、テコの要領でひねると、かすかに隙間が空いた。

アタシはそこに両手の指を突っ込んで、両腕と、壁につっかけた脚に力を込めて、扉をこじ開けた。

 中は、廊下とおんなじ、真っ白な部屋。その部屋の奥の壁に、何かがあった。

イスに座り、両腕を壁に括られるようにして、うなだれて身動き一つしない、人の体…

 レナだった。

レナ…おい、レナ…死んでないよな…生きてるよな…

胸にこみ上げてきそうになった絶望を押さえつけて、アタシは部屋に踏み込んだ。肌に、何かが感じられる。

これは、レナの気配だ…生きてる、レナ、あんた、生きてるんだな!

 アタシは思わず駆け出していた。レナ座っているイスの周りには血しぶきが飛んでいて、吐き出したのだろう、

ぐちゃぐちゃになった、こうなる前は食べ物だったんだろう何かが、酸えた臭いを放っている。

レナは、顔中あざだらけだった。

 またかよ…レナ、なんでアタシ、あんたをこんな目ばかりに合わせちゃうんだよ…ごめん、ごめんな…

そう思いながら、アタシは壁に両腕を固定されたレナの頬を叩いた。

「レナ…レナ!しっかりしろ!」

声を掛けたら、レナがうめいて、うっすらと目を開けた。

「ア…アヤ…」

レナは、アタシの顔を見て、ニコッと笑った。

「待ってろ、すぐ外してやるからな!」

アタシは固定している拘束具の錠を銃床で叩き壊した。拘束具が外れたレナは、ぐったりとアタシに寄りかかってくる。

アタシはレナを抱き留めて、その場に座り込んだ。

「レナ…ごめん、遅くなって、本当にごめん…」

「ううん。きっと来てくれるって、信じてた…」

レナがアタシにまわした腕に力がこもった。

「アタシ、いつもこうだ。レナばっかりに怖い思いさせて、辛い思いさせて…守るってそう決めたのに…アタシ、アタシ…!」

頬を涙が伝っていた。悔しいよ、悲しいよ、レナ。なんであんたが傷つけられなきゃいけないんだよ…

アタシだって良かったじゃないか。なんで、こんなひどい目に、二度も会わなきゃいけないんだよ…


 そんなアタシの涙を、レナはぬぐってくれた。

「アヤ…私は、アヤがこんな目に遭わなくてよかったって思う」

「だって!」

そう言いかけたアタシの口をレナは人差し指を立ててそっと閉じさせた。

「どっちがされても、辛いのは一緒。悲しいのも一緒。だからそれは気にしないで。それに、今回は怖くなんかなかったよ。

 必ず来てくれるって分かってたから。あなたを信じて待っていられた。耐えていられた。あの時とは、同じじゃない。

 アヤ…これが私の戦いだったんだよ。私は、負けなかったよ。心を折られなかった。踏みにじられもしなかった。

 あなたのことだけを考えて、信じて、戦えた。遠くに居ても、あなたは私を守ってくれてたよ。

 だから、そんなに悲しまないで。体なんて、休ませれば治る。痛いのはいっときだけ。

 私とアヤが生きて、またこうして会えた。それが私の戦いの結末。私の、勝ち」

レナは、こんな状態なのに、いつにもまして穏やかな口調で優しい目で、じっとアタシを見て言った。

それからニコッと笑うと、

「だから、あとはお願いね。次は、アヤが勝つ番。私を無事に連れ出して…一緒に、みんなで、アルバに帰ろう…」

と言って来た。

 はは、レナ。分かってるよ…そんな状態のあんたに、励まされちゃうなんてな…アタシの方が負けそうになってたんじゃんか。

そうだよな…まだアタシ達は生きてる。アタシも、レナも、マライアも、みんな生きてるんだ。

どんなに姿になったって、たとえどんな怪我をしたって、生きて、それでみんなでまたあの生活に戻るんだ。

新しくできた仲間たちと一緒に…そうだよな、レナ。

これまで、アタシ達はそうやって生きてきたんだもんな。これからも、それは、同じだ。

 アタシはもう一度レナを、力いっぱい抱きしめてから、立ち上がって腕を肩に担いだ。

 部屋から出ようと振り返った時、その出口には、ティターンズの黒い制服の連中がいた。銃口がアタシ達の方を向いていた。

「あの男…」

「誰だ?」

「拷問官」

レナが憎々しげに言う。そうか…あいつか…あいつが、レナをこんな目に…!

アイナさんを助けに行ったときに、マライアとは知らずに大尉に向けたのと、まったく同じ感覚がアタシの中から込み上げた。

胸が、体が、焼き切れそうなくらいに熱くなるような…

「なんの騒ぎかと思えば、芸がない」

初老の男がそう言って、こっちに歩いてくる。後ろに連れたティターンズの兵士は4人。

どれも、自動小銃をこっちに向けている。アタシからの距離は6メートルほど。

飛び掛かろうものなら、たどり着く前に、ハチの巣だ…。

 くそ、ここまで来て、こんな状況かよ!どうする?自爆覚悟で、音響手りゅう弾か…投稿するフリでもするか…?

この状況で、後者は危険だ。その場で殺されかねない。だとすれば…アタシはチラッとレナを見た。

レナはアタシの顔を見て、ニコッと笑って、アタシの肩にまわした腕に力を込めた。レナ、悪い、こいつは分が悪いや。

 「わかった、抵抗はやめる」

アタシは小銃をなるべくアタシ達の目隠しになるように、

ティターンズの連中の目の高さくらいになるように放り投げた。

そのままの手で、戦闘用のベストにひっかけていた手りゅう弾を手に取ってピンを引っこ抜いた。

 次の瞬間に響いたのは、アタシの手りゅう弾の爆音じゃなくて、自動小銃の銃声だった。


つづく!


そういえば、アタラシイガンダムシリーズが斬新すぎてわろた。
ガンプラ版ダッシュ四駆郎的な?
あ、違うな、完璧にプラモ狂四郎か。

ガンプラに貢献できないアヤレナさんたちは、公式にはなれないなw

乙! あるいはプラレス三四郎か。

マライアたんが活躍してるだとぉ!?



いよいよクライマックスですな!
また一箇所やらかしてるけど見なかったふりw

ハゲ御大もガンダムでなんか企画中という噂だけどどうなんだろうね?
ジ・オリジンの監督がトミノだったら面白いのにね。

バンダイからは嫌がられるかもしれんが角川ならウェルカムなんじゃね?

>>291
一気読みしていただけちゃった感じでしょうか?マジ感謝。
プラレス三四郎とは…やりおるww

>>292
エウーゴのことかぁ!!!直そうと思って直し忘れました、はい。
ここからが踏ん張りどころです。総決算!

トミノ的なアレだとしても、個人的には、もうこれ以上設定をカオスにしないで欲しいww
バンダイさん、マライア専用Zプラス出してください!角川の編集者さんこっちです!ww

>>285

>>294
Oh…ハンナが自分探しの旅に出る…


ばんわ!

続き投下していきます!


 俺は、手の中の無線モジュールを握りしめた。

 こんな状況だってのに、いや、実際ビビってしょうがないってのに、胸の内が震えているのを感じていた。

 あの日、俺はメキシコのあの場所で、死んだ。なんにも出来ずに、殺された。そう思っていた。

輸送中の飛行機の中で目が覚め、基地に着いて会ったマライア大尉にいつものトゲトゲしい口調ではなく、

キーキー声で怒られて初めて、事態を理解できた。

俺は、この人達に助けられたんだってことを。素直に、嬉しかった。

嫌いだったはずの大尉が、誰にも見つからないように捕虜に食事を提供していた俺たちと同じことをしていたってのが。

そんなだいそれたことをやってのけるような人がこんなにもそばにいたのかってことも。そんな人に助けてもらったってことも。

そして、まだ俺に出来ることがあると知って安心した。

あの日、死んだと思った俺が出来なかったことに、もう一度望めることが嬉しかった。

 それは罪滅ぼしなのかも知れなかった。

最後の瞬間まで 、あいつらの本当の辛さや苦しみを理解してやれなかったってことを詫びたかった…

いや、違うかもしれない。これは俺の問題だ。全部のことが終わったとき、俺は、胸を張ってあいつらに会いたい。

負けたまま、なにも出来なかったまま、大尉に助けられたままで、あいつらのところに行くわけにはいかない。

 俺は、俺だって、戦える。大事な存在の一人や二人も守らずに、安全な場所へ逃げていくなんて出来るはずがないだろう!

オールドタイプの俺があいつらを助けて、

俺達オールドタイプが皆、ニュータイプを嫌っているなんていうこの宇宙に漂っている幻想をぶっ壊してやるんだ!

 大尉、こんなチャンスを与えてくれたことを、感謝します。上司として、先輩として 、俺に見本を見せてくれたことにも。

あなたのお陰で、俺は迷わずに行ける。

 俺は、非常階段を出た。上と同じ、真っ白な壁と照明。ただ白いだけのものが、こんなにも脳に響くとは思ってもみなかった。

俺は眩しさに目を細めて腕のモバイルコンピュータの画面を確認して、アヤさんの言っていた有線のケーブルを辿る。

八の字状の形になっている地下3階は半分が生活スペース、もう半分が食料や機材の倉庫になっているようだった。

その一画に、有線ケーブルが集まっている部屋がある。おそらくここに、メインの終端装置があるはずだ。

 そこにこの無線モジュールを取り付ければ、研究所の電波を使ってダリルさんとも通信が出来る。

こんな場所で、外からの情報と支援なしに進めば敵に悟られるのも時間の問題だ。急がなくては…

 俺は八の字になった廊下を駆け出す。太ももと膝の境目が遠くで痛んだ。

あの日、ルーカスさんの指示を無視して撃ってきたティターンズ一般兵士にやられた傷だ。

包帯とテーピングで補強し麻酔を打って誤魔化してはいるが、動くたびに激痛なのだろう鈍い痛みがうっすらと感じられて

力が抜けそうになる。脂汗は、止まらない。だが、そんなことを言っている場合ではないんだ。


 俺は廊下を走り、目的の部屋の前にたどり着いた。そこには静脈認証用のパネルの付いた、殺風景な扉が一枚あるだけだった。

ここに来るまでに通りすぎた他の部屋もそうだったので、悪い予感はしていたが案の定だった。

 ポーチからケーブルを取り出して、腕のコンピュータとパネルを接続させる。

仕事柄、こう言うシステムには多少の知識はある…

だが、キーボードを叩いてシステムを読み込んだコンピュータのモニターに表示されたのは、

まるで見たことのないロジックで書かれた命令文だった。

 クソ…拳銃で撃ち抜くか?いや、中に誰かいれば、それこそ扉を開けた瞬間に撃ち殺される。

確実に無線機を取り付けるには、ここを大人しく開けてこっちが先手を取れるような突入の仕方をしなければならない。

「貴様!そこで何をしている!?」

不意に誰かが怒鳴った。見ると、一人の兵士が小銃をこちらに向けてたっていたっていた。

―――しまった、モニターに気をとられ過ぎて気づかなかった…まずいぞ…

「本部からの命令で、侵入者に備えてシステムのチェックをしろと…」

俺は、そう適当な言い訳をする。しかし兵士は、疑いの眼差しを変えることなく

「本部だと?誰の命令だ?!システムチェックならこんな場所ではなく、それこそ本部やサーバールームで行うべきだろう!?」

と詰問してくる。

確かに、言う通りだ。機械それぞれの調子を確認するならいざ知らず、

システムのチェックなんて、我ながら自分の嘘の浅さにあきれる。

 だが…今のままでは、どうにもならない…せめて考える時間を確保しないと…!

「急ぎなんだ、終わったら全部説明してやる…あと3分待ってくれ」

俺は、兵士を「まるで気にも止めない」という風にあしらってモニターに目を戻す。

しかし、いくら見たところで、理解出きるような代物ではない…

こいつに手を出すのは後回しで、なんとかこの兵士を排除する方法を考えなければ。


 幸い兵士は確信が持てないのか銃を構えたまま固まっている。仕掛けるなら今しかない…!

俺はそう思って、一旦、認証装置のシステムを閉じ、研究所内の管理システムをチェックする。

しめた!こっちは基地のシステムと同じロジックだ!

 俺はシステムから、警報装置のコマンドを探し、地下6階にある火災警報装置を作動させた。

とたんに、近くにあった赤色灯が光出す。

「お、おい!貴様、何をした!?」

兵士が小銃を突きつけてきた。

「俺じゃない!地下6階で火災警報だ…!」

俺は動揺したフリをしながらさらにキーボードを叩く。監視カメラの映像はどこだ…?

…あった、このデータリンクだ!俺はその中から、地下4階の映像を出した。

そこには辺りの様子を伺っているアヤさんの様子が映し出されている。俺はその映像の配信元を地下6階に書き換えた。

「こいつだ!地下6階、中央通路!」

俺はわざとらしくならないよう、兵士にコンピュータのモニターを見せつける。兵士はさらに戸惑った表情を見せた。

俺はその兵士の様子を見て畳み掛けるように

「説明はお預けだ!こいつを排除しに行くぞ!」

とパネルから接続用のケーブルを引き抜いて兵士に詰め寄った。

兵士の顔は、微かな迷いを見せてから 、すぐに何かを決心した表情に変わった。

「よ、よし、緊急用のエレベーターを使うぞ…!」

「あぁ、行くぞ!」

俺が相づちを打つと、兵士は身を翻した。すまない、あんた悪い人間じゃなさそうなんだがな…

俺はポーチからスタンガンを取り出して、その背中に押し付けた。

一瞬、全身を硬直させた兵士は、次の瞬間には脱力して床に崩れ落ちた。


…よし、排除は出来たが…問題はこのパネルだ…アヤさんもハンナも、もう目的の場所に着いているかもしれない…

猶予は、ない。何か、方法は…?

 そう考えたとき、ふと、倒れた兵士が目に入った。こいつに、ここへの入室権限があれば…

俺は兵士の体を引っ張って、パネルの前まで運ぶと、片手にスタングレネードを構えて、兵士の腕を伸ばし、

パネルにその手を押し付けた。

 ピッという音とともに、パネルに「unlock」という文字が表示された。

―――開く…!

 エアモーターの音がして、扉がスイッと開いた。俺はスタングレネードを投げ込んで小銃を構えて耳を塞ぐ。

轟音とともに閃光が走った。俺はすぐさま銃を構えて内部に突入する。

中には巨大なコンピュータが何台か並んでいて、複数のモニターも輝いていた。どうやら情報処理を行うための部屋のようだった。

床には、白衣を着た科学者風の男が3人と、軍服に銃を持った兵士が2人倒れていた。他に人の姿はない。

 俺は煙の立ち込める部屋を横切り、コンピュータの配線を確認する。

そのケーブルを辿って行った先に、通信用のルータを見つけた。

俺はルータからケーブルを引き抜き、無線モジュールに差し込んでから、無線機から伸びるケーブルをルータへと接続させた。

よし、これで無線が生きた…!

「おい、どうした?!」

表で、声がした。廊下に転がして置いた兵士が見つかったのか!?さっきのスタングレネードの音を聞き付けられたんだ!

どうする…こんな部屋じゃ、隠れるところもないぞ…!?

あたりを見渡したところで、目に入るのは散乱した書類と椅子に 、倒れた科学者と兵士のみ…

―――イチかバチか、だ。

俺はとっさに床に倒れこんだ。すぐに部屋の中へ数人の兵士が駆け込んで来た。

そのうちの一人が、俺の傍らにやって来てグイッと俺を抱き起こす。

「大丈夫か?何があった!?」

「侵入者だ…何かのデータを抜き取られた…奴は、地上階へ…逃げる気だ」

「よし、分かった!すぐに医務室へ運ばせる!」

「いや、自分で行ける…他のやつを頼む」

俺はそう告げて立ち上がると、よたよた歩きながら部屋を抜けた。エレベーターに向かうか…それとも、非常階段か…?

そう言えば、さっきの兵士が、非常用のエレベーターがどうとかって言ってたな…そいつを探しておくか…?

俺はそう思いながら、アヤさんへ、無線モジュールの設置が完了したことを伝えようと無線機を手にした。


「アヤさん、アヤさん!無線の中継、完了です!」


 手りゅう弾を投げるよりも早く、アタシは、自分たちが撃ちぬかれるイメージを、見た。

あぁ、ダメかって、思ったら、その時には、手りゅう弾の撃鉄バーを握ったまんま、レナと抱き合っていた。

 銃声が止んだ。キンキンと、薬莢の落ちる金属音が聞こえる。終わりか…あれ、撃たれたんじゃないのかよ?

 アタシは恐る恐る顔を上げた。

見ると、入り口に集まっていたティターンズの連中は、体を穴だらけにして、血の海の中でのたうちまわっていた。

 なんだよ…何があった?

 体が、震えて、腰が抜けちまって、アタシは、レナと一緒に、床に座り込んだ。

呆然としていたら、何かが目の前に降ってきた。と、思ったら、それは

「おっと」

と声を上げて、しりもちをついた。人…なのか…いや、待て…

「た、隊長か?」

アタシは思わず声を上げていた。

「ふぅ、やれやれ、やっと明るいところに出た」

むっくりと起き上がって、こっちをみた、その顔は、やっぱり、隊長だ!

「あぁ?なんだ、いたのか、お前ら」

知ってるクセに!そう言ってやる前に隊長はニヤっと笑った。真っ黒な服に、肩には自動小銃。

そして、腕には…見慣れたチビを、抱えている…

「た、隊長、それ…」

レナが、声を上げる。そうだ…それ、その子…

 隊長は、何も言わずに、その子を床に降ろして、ガシガシっと頭を撫でた。それから

「ほれ」

と、彼女の背中を押す。女の子は、すこし戸惑いながら、アタシ達の目の前までやってきて

「あの…は、はじめまして、ママ、お母さん…ベレッカです…」

なんて、震えた、緊張した声で言ってきた。


 レベッカ…あんたが、そうなんだな。アタシとレナの…ロビンの…もう一人の、家族なんだな…!

急に、胸にキリキリした想いがこみ上がってきて、涙がこぼれた。

アタシは思わず、手りゅう弾を持った腕で、レベッカを抱き寄せた。レナも、彼女に腕を回して抱きしめる。

レナも、泣いていた。なんでだろうな…初めて会ったはずなのに…なんだかすげえ懐かしい感じがするよ…

会ったことないはずなのに、ずっとずっと探してたような気がするよ…

レベッカ…あんた、アタシ達を、ママって、母さんって、そう呼んだな…

あんたも、アタシ達のこと、待っててくれたのかよ?待たせてごめんな…気が付かなくって、ごめんな…

会いたかった…会いたかったよ…

 レベッカの背中にまわした手で握っていた手りゅう弾を隊長がそっと引き取ってくれる。

アタシは、その手で、レベッカの頭を撫でてやった。

ロビンにするみたいに、レナにするみたいに、何度も、何度も撫でてやった。

レベッカは、アタシとレナの胸元にしっかりとしがみついている。

 「隊長…どうして…」

レナが顔を上げて隊長に聞いた。隊長はバツが悪そうな顔をしながら、

「なに…フレートを逃がすために起こした爆発の混乱に乗じて、研究所の中には入れたんだがな…

 なにぶん、ダリルじゃねえんで、端末いじって情報取るのに苦労しちまってよ。

 とりあえず、この部屋と、そのレベッカって子の位置だけは把握できたんでな。

 お前らが騒ぎを起こしてくれんのを待ってたってわけだ、アヤ。

  レベッカは抱いて連れ回すのは簡単だったが、先にレナさんを助けちまうと、

 レベッカを連れに行けなくなっちまうかと思って、お前の端末にここの位置だけ表示させておいたってわけだ。

 まぁ、間に合ったんだから、勘弁してくれ」

と言った。見取り図に出た、あの赤い表示は、隊長がやってくれてたのか。それにしたって、隊長…あんた、

「ずっと隠れてたのか。このチャンスを、逃さないために…」

「あぁ、まぁな。お陰で腹ペコだ。とりあえず、レオナさん見つけてとっとズラかって飯を食わせろ。

 そいつでチャラってことにしといれやるよ」

隊長はそう言って肩をすくめる。まったく、あんたって人は…相変わらず本当にとんでもないやつだな!

 なんだか嬉しくって、泣けてきた。

―――ヤさん、アヤさん!無線の中継、完了です!>

不意に、無線機からマークの声が聞こえてきた。良かった、あいつも無事か!


「マーク!良かった、無事なんだな?そっちの状況はどうだ!?」

<こっちは、隠れっぱなしです。ちょっとヤバい状況でしたがなんとかやり過ごして、

 今のトコ、目をつけられてはないと思います>

「よし、地下5階へ降りて来てくれ。ダリル、おいダリル、聞こえるか?」

―――ザッ…アヤ!よし、無線戻ったな?おい、無事か?!>

ダリルの声も聞こえた。

「ダリル、レナとレベッカを確保。これからレオナを救出に行く。脱出ルートのナビの準備を頼む!」

<よくやった!任せておけ、最短でそこから抜け出させてやる!>

「頼んだ!」

アタシはそう告げてそれから隊長にレナとレベッカを預けて、すでに死体になっていた警備兵たちをまたいで、部屋の外に出た。

「ハンナ、応答できるか?!」

無線に呼びかける…しかし、反応は、ない。レオナの感じ…どこだ?!さっきは確かに感じられた…

まだいけるはずだ。再び感覚を研ぎ澄ます。いる…すぐそばだ。

「隊長!安全なところで待っててくれ!レオナ達と合流してくる!」

アタシがそう言って駆け出そうとした瞬間、どこかで銃声だした。

 ハンナ!?アタシは自動小銃を構えて廊下を走る。さっきの二の舞はごめんだ。今度敵にあったら、迷わず発砲してやる。

そう思って廊下の角を曲がったら、そこには、二人の銃を抱えたティターンズの死体があった。

アタシは大きく深呼吸をして銃を構えて、そっと、さらにその先の角の向こうを覗く。

そこには、私服の女性とその女性に肩を借りながらヒョコヒョコと歩いているティターンズの軍服を来た人間の姿があった。

「ハンナ!レオナ!」

アタシは大声で二人を呼んだ。

「アヤさん!」

ハンナは振り返ってアタシに負けないくらいを返して来た。アタシは二人に駆け寄る…

が、ハンナの脚から、大量の出血があった。

「撃たれたのか!?」

「はい…脚を出してから、銃出すのが遅れちゃって、脚だけ狙い撃ちで」

ハンナは、そんな状況じゃないっていうのに、へへへと恥ずかしそうに笑った。

すでに膝の上に包帯がきつく巻いてあって、止血は施されている。

「レオナ、レベッカは隊長が確保した」

「そうですか…良かった!」

アタシが報告するなり、レオナは涙目になった。

<マークです、地下5階に到着>

「了解!ダリル!ルートはどうなってる!?」

<…よし、地下4階まであがれ。そこに、研究資材搬入用の出入り口と機材昇降用のエレベータの乗り口がある。

 そこまで言ったら、再度連絡をくれ。その先の状況を確認しておく>

「了解。マーク、その場で敵を警戒してくれ。2分でそっちに行く」

<はい!>

返事を聞いてから、アタシはハンナの顔を見た。

「あんた、行けるか?」

「うん、これくらい、なんともない!レオナ、ごめん、そこまで肩は貸しておいて」

「ええ、任せて」

二人はそう言い合って笑っている。

 そうこうしているうちに、レナとレベッカを抱えてくれていた隊長が到着した。

それを確認して、アタシは小銃を構えて戦闘に躍り出た。そのまま、クリアリングを注意深く行いながら、非常階段を目指す。

階段に入るドアを見つけた。拳銃を引っこ抜いて、そっと中に入ると、そこにはマークがいた。

 「よかった、みんな無事で!」

マークは本当に嬉しそうに言う。

 再会を喜んでいるマークとハンナとレオナをよそに、アタシは見取り図で資材の搬入口と言うのを探す。

あった、非常階段のすぐ脇だ。地上まで伸びて行っているらせん状の車道と、

それから、資材用の巨大なエレベータが用意されている。このエレベータを使わせてもらうとしようか。

 「マーク、最後尾を任せた。アタシが先頭を行く!」

「了解です」

マークとそう確認し合って、アタシは銃を構えて階段を駆け上がった。地下4階へ出る扉の前に立って、隊長達の到着を待つ。

レナを支え、レベッカを抱いた隊長と、ハンナに肩を貸すレオナに、マークがほどなくして到着する。

 アタシは、そいつを確かめてから、すっと息をすって、扉を開けた。真っ白の廊下に、人の姿はない。

扉から出て、数メートルのところに、これまでのキーパッドや認証用のオパネルの付いたのとは違う、両開きの大きな扉がある。
パネルを壊して人力で開けるのは骨が折れそうだ。

「ダリル、搬入口前に着いたが、デカい扉があって進めない。こいつを開けてくれ」

<了解だ。少し待て…あった、こいつか>

すぐにダリルのそう言う声がしたかと思ったら、扉がプシュッと音を立ててゆっくりと左右に開き始めた。

アタシは、隊長に待つよう合図してから単身扉の中に飛び込んだ。警備らしい兵士が、3人。こっちを見て、いぶかしげにしている。

―――悪い、急いでるんだ。

 アタシは迷わずに、小銃の引き金を引いた。単発で、1、2、3!

一人目は肩、二人目にも、同じ位置。最後の一人には、少し焦ってしまったせいで、胸に致命弾をくらわせてしまった。

アタシは肩を撃ちぬいた二人に駆け寄って、スタンガンを押し当てて意識を奪う。

「制圧完了」

無線にそう呼びかけると、隊長達が部屋に入ってくる。

「ダリル、搬入口に入った。扉のシールと、先の指示、頼む」

<よし…エレベータに乗れ。そいつは、真上に昇る他に、水平移動して、研究所端の車輌庫にも出られる。

 そこへ回す。車輌庫の人払いはしておくから、安心しろ>

「頼んだ!」

背後の扉が閉まり、エレベータの到着ランプが灯った。乗り込んで、ダリルに無線を入れると同時に、エレベータは動き出す。


 地上に近づくにつれ、轟音と震動が伝わってき始める。マライアのやつ、まだ暴れてるのか…ホントにすごいやつだ。

アタシは無線のチャンネルを切り替えた。

<ふっふー!10機目!>

<マライア大尉!油断は危険だ!>

<大丈夫!油断っていうより、気合入れだから、これ!>

<ユニコーン、敵機確認。援護します>

<スネーク、君は無理をするな>

<そいつは私が請け負いましょう。二人は、マライア大尉の援護を>

<了解です、ウルフ。頼みます!>

 途端に、激しい無線のやり取りが聞こえだした。なんだ、味方の数が増えてる?増援、なのか?

マライアのことを知ってるってことは、ティターンズから抜けてきた連中か、カラバ?

「マライア、こっちは無事だ。レナ達を確保して脱出してる!」

アタシはとにかく無線に怒鳴った。すると、明るい声色で

<アーヤさーん!無事で良かった!援護するから、逃げて!>

とまるで危機感のない様子で言ってきた。でも、それからすぐに

<ユニコーン、あたし、そろそろ行かなきゃいけないから、あなた達も撤退を!>

と他の機体に指示を出し始める。

<大尉、いったいどうする気だ!?>

<ごめん、あたし、行かなきゃいけないんだ!アウドムラの彼には伝えといて!>

<帰るべきところを、見つけた、と言う感じですな>

<見つけたんじゃなくて、帰ってきたんだよ、長い旅から!そこに居たいんだ、あたし!>

<…了解した。止める言葉を持たないな…ハヤトには伝えておく>

<お願いね!>

なんだ、身内みたいだな…やっぱりカラバか?

 ガクン、と言う衝撃があって、エレベータが止った。扉が開いた先には、無数の装甲車が収納してある倉庫だった。

「あれが良い、乗り込め!」

隊長が、一番出口に近い位置に止めてあった装甲車を指差して言った。アタシが先行して装甲車を確保する。

倉庫の中に、敵の姿はない。ダリル、どんな手を使ったのか知らないが、ありがたいよ!

 全員が装甲車に乗り込んだ。隊長が運転席に、アタシは天井の機銃を発射するためのコントロール席へと座った。

 装甲車が走り出す。目の前にあったシャッターを突き破って、外に出た。真っ青な青空。地上だ…地上に、抜けたぞ!

 アタシは内心の興奮を抑えられなくて、空を見上げた。

 そこには、ティターンズのモビルスーツに、研究所のモビルアーマーを一切寄せ付けない、モビルスーツの姿があった。

それも、全部同じ型。ガンダムタイプだって、ハンナは言ってた。それが、4機も…!

マライアのグレーの機体の他に、白い奴と、赤いのと、黄色い機体がいる…

どれも、マライアと同じか…イヤ、それ以上の機動をしている。なんなんだ、あいつら!?マライア以上に、普通じゃないぞ!?


「マライアか!?装甲車で脱出した!援護しやがれ!」

隊長が怒鳴った。

<わ!隊長!久しぶり!待ってね…あ、いた!マーキング完了!

 ユニコーン、あたしはあれについて援護しながら逃げるから、そっちも適当に引き上げて!>

<了解、無事を祈ってる!>

<うん!ありがと!もしなにか困ったら、連絡頂戴ね!>

その会話を聞いていたら、すぐにマライア機が真上に来た。アタシらの上空を旋回している。直掩についた。


 それから爆発音と衝撃、銃声と、発射音が鳴り響く中を、装甲車は走った。研究所の敷地を抜け、市街地へと入る。

約束していた場所で、フレート達と合流して、車を乗り換え、サンフランシスコを目指す。追手はない。

後方で戦闘を行っていたあの3機のモビルスーツはいつの間にか姿を消していた。

幾筋もの黒煙だけが、もうもうと立ち昇っている。

<アヤさん、あたし、この機体、アナハイム社の工場に返してくるから、旧軍工廠で落ち合おうね>

マライアもそう言って、機体をひるがえし、どこかへ飛び去って行った。

 それからしばらく走って、コンクリートで覆われた旧軍工廠へと続くトンネルの入り口に出た。

車輌用のシャッターを爆破して、その中へと進む。

 真っ暗なトンネルを抜けた先には、地下工場があって、そこから、古いエレベータを作動させて地上に出たら、

そこには、ミノフスキーエンジンを積んだ大型の戦闘輸送機が、寂れた格納庫の中にひっそりとたたずんでいた。

「あぁ、やっと来たね」

声がしたので、あたりを見回したら、その機体の陰から、ブロンドの長身の女性が姿を現した。

「ユージェニーさん!」

アタシは声を上げた。隊長の妻で、もう何年も会ってなかった、アタシの性根を叩き直して、身も心も鍛えてくれた先生だ。

「あんなとこから、全員無事で、良くもまぁ生きて帰ってきたもんだ」

ユージェニーさんは、アタシらを見てそう言い、笑った。

 アタシ達はそれから、その機体の中にあるコンテナ内に作られた簡易の座席に乗り込んだ。

どこからやってきたのか、マライアもルーカスと一緒に姿を現して、乗り込んでくる。

ユージェニーさんの操縦で、機体は地面を離れた。

 アタシは、レナの体を抱いて、席に座っていた。

レナはこんなだし、ハンナは負傷。話に聞いたら、マークはそもそも脚に怪我をしていたらしい。

マライアは、明るかったけど、疲労困憊って感じだし、隊長もため息をついて、元気がない。まぁ、隊長はただの腹減りか。

そうは言っても、みんなボロボロだ。レナを助けるために、力を貸してくれて…

こんな飛行機や車に、突入のための機材や武器をそろえてくれて…

アタシ、こいつらになんて礼を言ったらいいんだろう、どうやって感謝したらいいんだろう。

 なんとなくそんなことを考えていた。でも、いくら考えたって、頭に浮かんでくるのは、助けてくれたことの感謝より、

「アタシと出会ってくれてありがとう」って、そんな言葉だった。

 ははは、なんか笑っちゃうよな。そんなこと、これまでだって、何度も何度も感じて来たってのに、さ。

アタシは、あんた達に出会えてよかった。あんた達の仲間に入れてもらえて、「家族」になれて本当に、本当に良かった…

ありがとうな、ありがとう…みんな…。

 そんなアタシの想いを見透かしたのか、レナが見上げてきて、ベコベコの顔で、にこっと笑った。あんたは、また、別口だ。

特別の中でも、特別!そう言ってやろうと思ったけど、さすがにやめた。

こんなにたくさんの中でそれを口にできるほど、アタシの照れ屋は治ってない。


代わりに、ポケットからPDAを取り出してモニタに表示させた番号にコールした。

<アヤ?>

すぐに電話口からカレンの声が聞こえた。

「あぁ、カレン」

<無事なの?>

心配げな、カレンの声が聞こえる。

「うん。みんな無事だ。今、南米に向かってる。パナマのトクメン空港」

アタシが言うと、カレンは

<そうか…>

と静かに返事をした。その声が微かに震えたのをアタシは感じた。

<なら、総出で出迎えに行ってあげるよ…楽しみにしてなよね>

「あぁ、うん…」

なんだか、カレンの言葉が、暖かくて心地良い。

<なら、またそのときにね>

「あぁ、カレン」

<なに?>

「ありがとうな」

<あぁ、うん>

カレンの、優しい返事が、PDAのスピーカー越しに聞こえてきた。

電話を切ってから、ふうと、ため息が出た。疲れたな、さすがに。

早く帰って、シャワーを浴びて、バーボンあおってベッドに入りたい…

レナを抱いてさ、で、となりのベッドには、ロビンに、今夜からは、レベッカも寝るのかな?

さ、レナ、帰ろう。アタシ達の家に…そう思って見下ろしたレナは、

メコメコの顔してるくせに、相変わらずかわいい顔して、アタシに笑いかけてくれた。


つづく!

脱出完了~最終パートは疾走感重視でした。
次回、もしかしたら最終回の、エピローグ編!


ちなみにここまで15万文字、原稿用紙換算、400枚くらい。
アヤレナ編、マライア編がそれぞれ10万文字、350枚くらいなので、ちょっと頑張った。

ベレッカちゃんかわわ

乙!

息をするのも忘れるくらいの展開だったな。面白かった!

コードネーム:ユニコーンはやっぱりあの男か!

余談だけど、福井晴敏がユニコーンエンブレムがあの男の象徴だって事を知らなかったって話、信じる?

>>311
うーわ、すごく大事なシーンだったのに…orz
もうダメだ、と思ったんで、吊ってきたww

>>312
感謝!
ユニコーン、スネーク、ウルフは、
「Zガンダムグリーンダイバーズ」「GUNDAM EVOLVE」に登場するパイロットたちです。
いずれもZ3号機に乗っています。ユニコーンはアムロ、スネークはユウリ・アジッサ、ウルフはシン・マツナガです。
ちなみに、ユウリの乗る赤いZに乗るはずだったパイロットがジョニー・ライデンであるってのは、
マーク編でチラっと触れてます。

余談についてですが、福井という人をまず知らなかったwwwwww


今夜には、最終パート投下予定。
間に合えばww


こんばんは!

Z編、最終パート投下していきます!
それぞれのラストを書きたかったので、
ちょいと長めかつ、平和な一コマなのですが、のんびり味わってもらえると幸いです!


いきます!


「ぷはぁー!これ最高!最高だよ!」


温かいお湯が身に染みる。お酒がグルグルと勢い良く体を駆け巡って、なんとも幸せな心地になる。

あぁ、これ最高!アヤさんてば、ホント、こういうの作っちゃうところがすごいよなぁ。

あればいいなぁとは思うとしても、実際作ろうだなんて、そうそう考えないもん。

 あたし達は、アヤさんのペンションの庭に作られた露天風呂に使っていた。

それほど広いってわけでもないけど、竹か何かで作られた囲いから見える星空が格別にきれいに見える。

お酒もおいしいし、疲れた体には、こういうのが一番だよね、やっぱり。

「そうですねぇ、外で入るお風呂がこんなに気持ち良いなんて、思ってもみませんでした」

レオナがしみじみそう言っている。ホントだよね!

「たははは!マライア、あんたはホントに、大物になっちまったみたいだね」

「そんなことないよ!あたしはあたし!永遠の甘ったれ曹長です、カレン少尉!」

カレンさんがそう言ってきたので、謙遜しておいた。そりゃぁ、あたしだって死線をいくつか乗り越えて来たけどさ…

やっぱり、アヤさんもカレンさんも大好きだもん。そこだけは、何があったって、変わらないんだ。

どんなに偉くなったって、どんなに強くなったって、あたしはみんなと一緒に居て、

こうやって昔と変わらずに笑っていられることが、何よりうれしい。うん、そのために、ずっと頑張ってきたんだからね。

「いいなぁ、私も入りたい…」

脚を撃たれて、島に着いてからすぐに治療に行ったハンナが、部屋着のままお風呂の脇の大きな岩に腰掛けてつぶやいている。

マークと一緒で、あたしがこんなだって分かってからのハンナの慕い方がなんだかくすぐったいくらいにカワイイ。

あたしも、アヤさん達にこう思われてるのかな?だとしたら、うれしいな…

あたしも、アヤさんみたいに、ハンナもマークも大事にしてあげないとな。

「ハンナはケガ治してからね!あ、お酒なくなっちゃった。お代わり!」

「はいはい」

「ふふふ、くるしゅうないぞ、ハンナ少尉!」

うん、こんな感じにも乗ってくれるハンナは、やっぱりカワイイ。

あたしがアヤさん達の妹分なら、ハンナはあたしの妹だね。


 あのあと、空港に着いたあたし達を迎えてくれたのはカレンさんだけだった。

みんなで、って話じゃなかったの、って聞いたら、わざわざここまで連れて来ることもないだろう?ってさ。

ちぇっ、楽しみにしてたのに。

あたし達はパナマの空港から、カレンさんの飛行機でアルバの空港へと飛んだ。

エプロンからロビーに入ったら、デリクにソフィア、アイナさんと、その夫のシローってのと、娘のキキちゃんに、

アイナさんを手引きしたっていう大きい方のキキちゃんもいた。

ハロルドさんと、妻だっていう、ちょっと怖そうなシイナさんも。

 あたし達の姿を見るなり、アイナさんが走って来て体当たりに近いくらいの勢いで

アヤさんとアヤさんが支えてるレナさんに飛び付いた。

アイナさんはレナさんの顔を見るなり、ボロボロ涙を溢して泣き出した。そんなアイナさんに向かってレナさんが

「アイナさん、無事でよかった」

なんて自分のことを棚に上げて言うもんだから、アイナさんはいっそう激しく泣き出してしまった。

 なんだか、その光景は心がポカポカして、見ているだけで、うれしい気持ちになった。

それからハロルドさんの妻のシイナさんも

「おかえり」

と言って、それから、そっと抱いていたロビンちゃんを下に降ろした。

ロビンちゃんは嬉しそうな、それでいて泣きそうな何とも言えない表情でアヤさんとレナさんのところに駆け寄って、

体をよじ登るようにしてしがみついた。

アヤさんが脇に手を入れて体を引っ張りあげて抱きしめたら、ロビンちゃんは肩に顔を埋ずめていた。

「ロビン、寂しかっただろ…ごめんな」

そう言ったアヤさんは、ロビンちゃんに頬を擦り付ける。お母さんなんだなぁ、アヤさんも、なんて思って、

ちょっとだけ、うらやましく感じた。

「ママは平気なの?」

と言うロビンちゃんにレナさんが抱っこを代わった。

最初は、アザだらけで腫れ上がったレナさんの顔を悲しげに見つめていたけど、

レナさんが昔と変わらないあの様子ではしゃいでロビンちゃんを抱き締めたら、すぐに笑顔になった。


 あたし達は、それぞれアヤさんに紹介を受けて、ちょっと間そこで話をしていたけど、

カレンさんに促されて、このペンションにやってきた。マークとハンナはデリクがすぐに病院に連れて行った。

それから少し遅れて、レナさんも、アヤさんとロビンちゃんで病院へ向かった。

レナさんは、見かけはひどいけど、レントゲン検査なんかをして、命に別状はないってことだった。

撃たれた二人も、傷口はきれいで、治りも早いだろうって言われてすぐに帰ってきた。

 ティターンズの件が収まるまでは、あたしとレオナとハンナにマークは、ここで厄介になっておいた方がいいんだろうな。

隊長達は、明日にでもそれぞれの場所に帰るんだ、と言っていた。

ちょっと寂しいけど、でも、またすぐにみんなで集まろうって、そう約束してくれた。

「良いですねぇ、これ。何時間でも入ってられそうです…」

「レオナはお風呂好きだもんね」

レオナとハンナがそう言って笑い合っている。

話に聞いたら、レオナがケガをしてないのは、レナさんが守ったから、なんだと言ってた。

レナさんは、そんなことないよ、なんて言ってたけど、レナさんが相手にそう仕向けたんだろう。

捕虜になって、拷問されてまでレオナを守ろうとするなんて、たぶんあたしにもできない。

あたしだったら、我慢できなくて相手を挑発しまくって殺されてるだろうな。

やっぱり、アヤさんを尻に敷いているだけあってレナさんはそう言うところは別格だ。

「そういや、あんた良かったの?レベッカちゃんと一緒にいなくて?」

「良いんです、今日はきっと、アヤさん達と一緒に居たいでしょうし…

 それに、もう焦らなくたって、きっと時間はいっぱいありますから…」

カレンさんとレオナが話している。レベッカちゃんは、レオナの子でもあるんだよね…複雑そうだけど…

でも、レオナはあんまり気にしていないようだった。

「まぁ、そうかもね。ここいら中米は、ルオ商会に、ビスト財団とか、いろんなところの利権も絡んでるから、

 連邦も好き勝手に手出しできないし、タイミングが良かったよね。

 あの、ダカールの演説がもうちょい遅かったら、まだ追われる身だったかもしれないしさ」

カレンさんがしみじみ言った。ティターンズも、地球圏での活動はそろそろ難しいだろうな。

活動拠点のグリプスに集結している、なんて情報が入ってたし、たぶん、宇宙での総力戦になるんだろう。

確かに、カレンさんの言うとおり、タイミングが良かった。

あたしも、あのまま基地に居たら、それこそ宇宙へ上がっちゃってたかもしれないからね。

姿をくらますこととか、そう言うのもろもろ考えたら、これ以上ないってくらいのちょうどよさだった。


「おーう、やってるな!」

声がしたので、振り返ったら、アヤさんが、レナさんと一緒にお風呂場に入ってくるところだった。

「あ!アーヤさーん!」

「レナ、あんた大丈夫なの?」

「うん、医者は平気だってさ。でも、痛くなるかもしれないから、ちょっとだけ、ね」

「レナさんも飲む?」

「あぁ、遠慮しとく。口の中の切れてるの、あと2,3日は治らないと思うし」

あたしはお酒を勧めたけど、断られてしまった。残念、レナさんとお酒飲んだことないから、一緒に楽しみたかったのに。

「あのチューブ食ばっかりってのは、気が滅入りますね…」

レオナがしみじみと言っている。確かに、あれはマズイからね…

「ロビンちゃんと、レベッカは?」

「あぁ、寝てるよ。ソフィアとシイナさんがついててくれるっていうからさ、すこし休めって、言われちまったよ」

アヤさんはそんなことを言いながら、桶で自分とレナさんにお湯をザバッとかけてから湯船に突っ込んできた。

「くはー!身に染みるなぁ!」

「アヤ、おじさんみたい」

アヤさんの言葉に、レナさんがそう言って笑う。もう、本当に夫婦なんだよなぁ、二人は…

いや、夫婦っていうのも、なんかちょっと違うのかもしれないけど。

「あ?いいだろ!気持ち良いもんは気持ち良いんだ!あ、マライア、アタシにもくれよ」

アヤさんがあたしの持っていたグラスを奪い取って一気に飲み干した。あっ、もう…せっかくハンナに入れてもらったのに…

いいですよーだ。新しいグラス出すから…

あたしは、ふくれっ面をみせてやってから、ハンナに別のグラスを取ってもらって、お酒をあおって一息ついた。

「はぁ、それにしても、良い夜ですなぁ」

「あはは、マライアさんも、アヤさんに似てる」

「ホント!?それは褒め言葉と思って受け取るよ!」

「こんなのに似て、どこが嬉しいんだかね」

「おぉ?なんだ、カレン、久々にやるか?」

「良いよ?受けてたってあげるわよ?」

「あーはいはい、慣れてない子達いるんだから、そのおふざけは今日はやめてね」

アヤさんとカレンさんが、いつもの、を始めそうになったので、レナさんが止めた。

なんだ、久しぶりだから見てみたかったのに…

まぁ、でも、ハンナやレオナには、ちょっとびっくりしちゃうようなやり取りになっちゃうだろうしね…

「お、なにレナ?ヤキモチ?」

そんなレナさんの言葉を聞いたカレンさんが、そう言ってレナさんを冷やかす。

あ、そう言うパターンもあるんだ?これは乗っておかないと!

「もう!ラブラブこそどっか余所でやってくださいよ!」

あたしもそう言って野次ってやる。

「ちっ、違うって!違うの!」

「あんたら、やめろよ!」

そしたら、レナさんどころか、アヤさんまで顔を真っ赤にして怒ったから、可笑しくて笑ってしまった。


「ふぅ」

「気持ち良い…」

「お酒がおいしいなぁ」

「まったくだ」

「飲みすぎないでよ?アヤを部屋に運ぶの、大変なんだから」

「いいなぁ、私も入りたい…」

「…なぁ」

なんて、みんなでとりとめのない話をしていたら、急にアヤさんがそう言って、あたし達の顔を見た。

「ん?」

「なに、アヤさん?」

あたしとカレンさんが先を促すと、アヤさんは改まった様子で

「あんた達、みんな、ありがとうな」

としみじみと言ってきた。

「なんだよ、急に」

「いやさ…助けてもらったこともそうなんだけど…それよりも、さ。こんなアタシらと一緒に居てくれて、本当に嬉しいんだ!

 つらいのも、大変なことも手伝ってくれて、こうやって酒飲んだりバカやったりするのも一緒にやってくれるのがさ、

 楽しくて、うれしくて、幸せなんだ。アタシは、あんた達に出会えて、良かった」

「うん、私もそう思う…みんながいてくれて、ホントに嬉しい。カレンや、マライアちゃんや、シロー達も、

 シイナさん達も、ハンナにレオナに…みんなが居てくれるのが、ホントに幸せだよ。みんな、ありがとうね」

アヤさん…レナさん…

あたしは、胸がきゅっとなった。だって、8年間もずっと、そのために、頑張ってきたんだ。

別に、ありがとうを言ってほしかったわけじゃない。

アヤさん達の仲間として、そばに居たくて、守ったり、守られたりしたいって思って、ずっとずっと、戦ってきた。

だから、こうして、一緒に居てくれて嬉しいって言われるのは、あたしにとって…あたしにとって、何にも代えがたい言葉だった。

アヤさんが守ってくれたから、そばに居たいと思った。そのためには、アヤさんを助けられるくらいにならないといけなかった。

だって、あのままじゃ、あたしのせいでアヤさんやみんなを危ない目に合わせたり、迷惑をかけてしまいそうだったから…

 あたしは、ソフィアと無事にあそこから逃げ出して、アフリカから連邦に戻っても、ずっとそのことばかり考えていた。

自分が許せなかった。そんな時に、宇宙艦隊再編の動きを聞いて、その中に飛び込もうと思った。

その勇気をくれたのも、アヤさんだった。しっかりしろ、ってそう言ってくれた。

 今のあたしがあるのは、アヤさんのお陰なんだよ。だから、お礼なんていらないよ、アヤさん。

アヤさんが優しくて、それでいて強かったから、あたしを育ててくれたから、

あたしは、アヤさん役に立てるようになりたかっただけなんだ、そう言う存在として、そばに居たかっただけなんだ。

 そして、それを嬉しいって言ってくれる…だから、それはあたしにとっても、とても嬉しいことなんだ!


「何をいまさら言ってんのさ。感謝なんて、こっちがしたいくらいだよ」

「え?」

あたしは、何かを言ってあげたかったけど、その前にカレンさんが、そう口を開いた。

「あたしらはみんな、あんた達にそれ以上を貰ってんのさ。

 アヤが太陽みたいにあたしらを照らしてくれて、レナが海みたいに包んでくれてさ。

 そう言うのが嬉しいから、みんなあんたらのそばに集まってるんだよね。

 あたしらが興味本位で集まったんじゃない、あんたらがあたしらを集めたんだよ。

 だから、気にすることなんてないさ。あたしらは、あんた達のお陰で、あんた達以上に幸せだよ、たぶんね」

あぁ、言いたかったこと、全部言われた…なんかちょっと、肩透かし食らった気分だった。

なによ、もう!二人はケンカしてればいいでしょ!

そう言う、大事なことはあたしに言わせてよ!カレンさん!

「カレン…」

レナさんが目をウルウルさせながら、カレンさんの名を呼ぶ。

「カレン、あんた…抱きしめていいか?」

アヤさんはもう、全身から信愛の気持ちを放出しながら、そう言ってカレンさんににじり寄っている。

「やめてよ、裸のときはさすがに気持ち悪い」

「まぁ、そう言うなって!」

アヤさんがカレンさんの腕を引っ張った。待って、それは待って!

「ちょ!アヤさん!待って!あたしも褒めてほしい!あたしも幸せ!アヤさんといるの幸せ!だからもっと頭を撫でて!」

あたしは、二人の間に割って入り、そう主張した。

だってアヤさん、飛行機の中で帰ったら甘えさせてくれるって言った!ここはあたしが褒められるべきでしょ!

「だー!マライア、あんたはあとだ!」

アヤさんはそう言ってあたしを押しのける。えぇ?!ひどくない?!

「なんでよ!ズルいよ!あたし今回、一番頑張ったじゃん!カレンさんは無線でちょびちょび絡んできただけらしいじゃん!」

「あぁ!?マライアあんた、あたしに文句でもあるのわけ?」

あたしが言ったら、今度はカレンさんがそう言ってあたしの腕をつかんできた。

「な、なによ!お、おどかしたって怖くないんだからね!」

あたしは、目一杯強がって、そう言いかえしてやった…けど。

そもそもカレンさんは、アヤさんと張り合うくらい気が強くて、ケンカはどうかしらないけど、

覇気っていうか、権幕はアヤさんとも引けをとらない…正直、言ってから、しまった、と思った。

「生意気に!沈めてあげるよ!」

「そういや、シイナさんのときにはずいぶん都合よくアタシらを使ったんだったな、マライア!

 アタシもあんたを沈めといた方が良さそうだ!」

カレンさんの言葉を聞いたとたん、アヤさんも手のひらを返したようにそんなことを言いだした。

「ちょ!え?!待って、待ってよ!そんなのないよ!ひどいよ!」

あたしは声の限りに抗議した。でも、二人掛かりで両腕を抑えられてあたしの頭をお湯に沈めようとして来る。

待ってよ!これってイジメだよね!?ダメだよ!イジメダメ絶対!カッコ悪い!


 叫びながらジタバタと抵抗していたら、突然何かが降ってきた。

恐ろしく冷たいそれが、あたし達の頭から降りかかってきて、思わず悲鳴を上げてしまった。

「ぎゃーー!」

「!?」

「ひぃっ!な、なに!?」

「お!やったか?!」

「こちら、爆撃班!目標に命中の模様!くりかえす、目標への直撃を成功させた模様!」

「おーし、次、第二弾、装填!」

「了解!」

「た、隊長!マズイですって!てか、ティーネイジャーじゃないんすから…40超えたおっさんが何一番はりきってんすか…」

隊長達の声だ。どうやら、柵の外から水を掛けられたらしい。

なんてしょうもないイタズラを…そう思っていたら、カレンさんがフルフルと震えながらアヤさんを見やった。

「おい、アヤ」

「あぁ。マライア、あそこのデッキブラシもってこい」

あ、これ、やばいヤツだ。

「りょ、了解。これは宣戦布告と見なして良いんですよね?」

「ア…アヤ?!」

レナさんが戸惑い気味にアヤさんを制止する。でも、レナさん、分かるでしょ?これはね、逆らったらいけないやつ。

止めても、止らないやつ。あたしはキビキビっとデッキブラシを三本持ってきて、アヤさんとカレンさんに手渡す。

アヤさんは、ベンチに積んであったバスタオルを渡してくれて、それを三人で体に巻きながら

「良いか、第二撃投擲を確認したら、一気に叩くぞ」

と指示してくる。

「ダリルはアヤに任せるよ。あたしとマライアで、隊長とフレートを叩く」

カレンさんも、だ。あたしにも任務が割り振られてしまった…これは、やるしかない…

「デリクは最後に三人で袋叩きで良い。制止する気がない奴は、同罪だ!」

「そうだな。いいか、突撃準備!」

アヤさんがそう言って柵に、もうけられたドアのカギを開けて構える。


「第二弾、発射!」

「行くぞ!突撃!」

アヤさんが先頭で飛び出した。カレンさんがそのあとに続き、あたしも最後尾で柵から外に躍り出る。

こうなったら、ヤケクソだ!作戦も無視!今日、久しぶりに会って、話したときに感じたうっぷんをここで晴らしてやる!

「げ!」

「で、出た!」

「うお!デッキブラシ持ってんぞ!」

「鬼神だ!ジャブローの鬼神が出たぞ!」

「て、撤退だ!」

「デリク、すまん!」

「ちょっ!わっ!フレートさん!」

フレートさんが、逃げながらデリクを引き倒した。あぁ、囮にされたのね、デリク。

残念…でも、あたしは今日は、容赦しないからね…

 ひっくり返ったデリクの傍らにあたしは立って、怒りを込めて見下ろしながら言ってやった。

「デリク!あたしより先に…しかもソフィアと結婚なんて…!抜け駆けした罪は重いんだからね!」

「ひっ…ひぃぃ!」

デリクが本気で情けない悲鳴をあげるもんだから、噴出して笑ってしまった。


「まったく、アヤってば。はしゃいじゃって」

「ごめんって。まったく、あいつら、ホントいつまでたっても子どもだよな」

私が言うと、アヤはそう言って笑った。何言ってるの、

「アヤだって、いつまで経っても子どもみたいなところあるよね」

さらに追撃したらアヤは

「え、そうかなぁ?」

なんて苦笑い。ふふ、意地悪でごめんね。

 アヤは、私を脱衣所まで送ってくれた。まだお風呂で騒ぐ、と言うので

「あんまり飲みすぎないでね」

とだけ伝えて、背伸びをして、キスをした。口の中が痛いから、軽く、ね。

そしたらアヤは代わりに私をキュッと抱きしめてくれた。

 部屋着に着替えてホールに戻ったら、お風呂に行く前のメンツがそのまま、まったりとした雰囲気で談笑していた。

「ソフィア、シイナさん、ごめんね。大丈夫だった?」

遊び疲れて寝てしまった、ロビンとレベッカを見ていてくれたソフィアたちに聞いたけど、

「あぁ、特になにも。もっとゆっくり入ってくりゃ良かったのに」

なんて、シイナさんが言ってくれた。

 ケガが痛くなると困るから、と言いながら席について、コップに冷たいお茶を入れてストローを差す。

これでなら、飲めるんだな。

「あはは、キキちゃんも寝ちゃったんだ」

「ええ。もうぐっすり」

アイナさんが、ソファに寝かせたキキちゃんの頭を撫でている。

その隣のソファでは、アイナさん達と古い仲だって言う、アイナさんの基地潜入を手引きした大きい方のキキちゃんも

すやすやと寝入っていた。

「大きいキキちゃんも、寝ちゃったんだね」

「ええ。なんだか、私のことも、皆さんのこともとても気にかけていたみたいで…安心して、疲れが来たんだと思います」

「シローも?」

「はい。彼も、数日寝てないと言ってましたし」

私が聞くと、アイナさんはそう言って笑う。

なんだか、モヤモヤソワソワして部屋の中をうろついたり、

たまらなくなって壁やテーブルを叩いたりしているシローの姿が目に浮かんできて、

失礼だな、と思いながら、でも笑えてしまった。


「そうだ、シイナさん、ロビン大丈夫だった?」

「あぁ。最初の日だけは、しばらくメソメソしていたけどね。一緒に寝るようにしてやったら、それからは落ち着いたよ」

ロビンはなぜだか、1歳になるころには、シイナさんにべったりと懐いた。アヤと私の次に誰が好き?

なんて聞いたら、確実にシイナさんの名前が出てくる。

本当にどうしてか不思議なんだけど、もしかしたら、あの懐の広さみたいなのを、ロビンも感じるのかもしれない。

どんなことがあったって、部下に慕われた、部隊長なんだ。みんなのお母さんとかお姉ちゃんみたいなものなのかもしれない。

「ロビンちゃん、シイナさんに懐いてますもんね」

「シイナさんは、お子さんは作らないんですか?」

「迷ってるんだ。こんな私が、って思うところも、正直あってね」

「そうですか…」

アイナさんとソフィアがシイナさんとそんな話をしている。

「気にすることないですよ、それはそれ、これはこれ、だと思います」

「うんうん、そうそう。見たいな、ハロルドさんとシイナさんの子。きっとすっごい美形のはず!」

「あはは、あんた達ならそう言ってくれると思ったよ。まぁ、考えてみるさね」

アイナさんとソフィアに言われて、シイナさんは笑った。それからシイナさんは思い出したように

「そう言えば、アイナは大丈夫だったのかい?ケガとかそう言うのさ」

と聞いた。

「ええ、全然。マライアさんが良くしてくれて…まさか、アヤさんの元部下だったなんて、驚きましたけど」

アイナさんがそう言って笑う。

「それは私も聞いたときは驚いたよ!8年前に会ったときは泣いてばっかりで、アヤにすがってる子犬みたいな子だったのに」

「あはは、子犬、か。確かに、犬っぽいですよね、マライア」

私が言ったら、ソフィアもそう言う。

「子犬ねぇ。さっき話した印象だと、子犬ってより、従順な軍用犬、って印象だったね」

「でも、犬は犬なんですね」

シイナさんの言葉に、アイナさんがそう口をはさんだので思わずみんなで笑ってしまった。


 一通り笑って、それを収めてから、私は、言おうと思っていたことを伝えるために、口を開いた。

「あのね」

「はい?」

「さっき、お風呂でアヤも言ってたんだけど…みんな、ありがとうね」

「何がだい?」

シイナさんが、キョトンとした表情で聞き返してきた。

「一緒に居てくれて。友達で、ううん、アヤ風に言えば、家族として、そばにいてくれて…

 今回のことがあっても、なかったとしても、私たちは、みんながいてくれて、すごく幸せだよ。

 だから、ありがとう…それから、これからもずっと仲良くしてね」

ホントはね、それだけじゃないんだよ。アイナさんも、ソフィアもシイナさんもね、私にとっては、同じ故郷の同じ仲間。

あの暗い宇宙からここにたどり着いた、かけがえのない人たちなんだ…

昔アイナさんが言ってくれたみたいにね、みんな、私の姉妹なんだって思ってる。

血のつながった家族を亡くした私の、家族なんだよ。辛いときに助けてくれて、楽しい時に一緒に笑ってくれる…

みんながいてくれて、私、本当に幸せなんだ…。

 気が付いたら、また、ポロポロと涙がこぼれてしまっていた。

「レナさん…」

「あははは。泣くようなことかい。私らの方が礼を言いたいくらいなんだ」

シイナさんが、ポンポンと私の肩を叩いてくれる。カレンさんと同じことを言ってくれるのが、また、うれしくて、

私はそのまましばらく、涙が止まらなかった。本当に、すぐ泣けちゃうこのクセ、かっこ悪いんだけどさ…。


皆がホールから部屋に戻った。私も、ロビンとレベッカを抱いて部屋に戻っていた。

ロビンたちは隣の子ども用のダブルに寝かせて、私もゴロゴロとベッドに転がる。

しばらくそうしていたら、

「ふぅ」

とため息をつきながら、アヤが部屋に入ってきた。はしゃぎ疲れたのか、すこし、眠そうな顔だ。

「おかえり、みんなは?」

「カレンとマライアははしゃぎ足りないみたいで、まだホールで騒いでるよ。マークとハンナに、レオナは部屋に通した」

アヤはそう答えて、ベッドに腰を下ろした。

 私がすり寄って行くと、アヤはギュッと私を抱きしめて、そのままベッドに倒れ込む。私も、アヤの体にしがみつく。

アヤだ…。私の大事な、一番好きな、最愛の人。彼女の暖かいぬくもりが伝わってくる。

彼女の温度、彼女の匂い、彼女の声、彼女の瞳、彼女の心…

すべてが私を優しく、大事に、包み込んでくれているような気さえする。

なんだか、胸の奥が暖かくて、とても暖かくて、いっそう、彼女に体を密着させる。

 そしたら、アヤはクスッと微かに笑い声をあげた。

「なに?」

「ん、別に…」

私が聞いたら、知らないよ?と言わんばかりに、そっぽを向く。

「なによ?」

「いや…昔のこと、思い出してた」

さらに聞いたら、アヤは正直に白状した。昔のこと、か…

「あのときは、びっくりしたけど…でも、ほら、戦闘機の中で寝たときさ。

 アタシ、あんなに心から安心したのは、施設にいたときに、ユベール達と過ごしてたとき以来だったんだ」

アヤは私の髪に、顔をすりつけながらそう言ってくる。

「あの時のアヤのこと、私もまだしっかり覚えてるよ…戦闘機の中のことも…

 私が一番はっきり覚えてるのはね、独房に来てくれたとき。私の顔を見て、泣きそうな顔で怒ってくれたこととか、

 あれは本当に嬉しかった。それから、船の中で私を守るって言ってくれたことも」

「懐かしいな」

「うん…」

私は返事をして、目を閉じる。

 本当に、あれから長い月日が経ったな。いつの間にか、友達も、仲間も、家族もたくさん増えた。

何事もなく、ずっと一緒に居たから、こんなこと考えもしなかったけど…でも、今回のことがあって、改めて思い知らされた。

今のこの生活が、どれだけ愛おしくて、どれだけ幸せなのかってことを。また、目頭が熱くなる。

もう、どうしてこう簡単に出てきちゃうんだろう、涙って。

「アヤと一緒に居られるのが、うれしい」

私はアヤに囁いた。

「アタシもだ」

アヤもそう言ってくれた。私はアヤを見上げると、アヤも私を見ていた。

「なんで泣いてんだよ」

そんなことを言ってきたアヤも、ポロポロと涙をこぼしていて、なんだかちょっと、笑ってしまった。

「アヤだって…」

そう言ってやったら、なんだか、どこかで張りつめていたものが、プツッと切れた。途端に、強い感情が湧き上がってきて、

涙になってあふれだしてくる。暗くて冷たくて、鋭い、恐怖が、アヤの温もりに溶かされてあふれ出てくる。

 私は、アヤの胸に顔をうずめた。

「…怖かった」

「うん」

いつの間にか、私は震えていた。そうだ、私は怖かった。

あのとき、あの場所で、もしかしたら殺されてしまうんじゃないかってことを、胸の内に閉じ込めていた。

それは、とてつもなく怖いことだった。自分が死んでしまうことなんかじゃない。

アヤを、アヤ達を悲しませてしまうかもしれない、それを考えるのが、とてつもなく、怖かった。

「アヤ達を残して死んじゃったら、アヤが、ロビンがどれだけ悲しむかって思ったら、すごく怖かった…」

「うん」

私が告げたら、アヤはそう返事をして、私の体にまわした腕により一層強く力を込めてくれる。

暖かい…本当に、あの時の戦闘機の中みたい…私は、そんなことを思っていた。

「…無事でいてくれて、本当に良かった…」

アヤの囁くような、うめくような、泣き声に近い、そんな言葉が聞こえた。

 私は、アヤにしがみついて泣いた。アヤも私を抱いて、私の髪を涙で濡らしながら泣いていた。

「もう、寝なきゃね」

「ああ、そうだな。隊長達に朝飯作ってやんないといけないしな」

「うん」

「海に行きたいね」

「そうだな、明日は船でも出すか。いつもの島なら、風が出てても大丈夫だし」

「ニケたちも連れて行ってあげよう?」

「あぁ、それがいいな」

「…」

「…」

「…アヤ?」

「ん?」

「暖かい」

「うん」

「安心する」

「…あぁ、アタシもだ」

「おやすみ、アヤ」

「おやすみ、レナ」


 良い夜だ、か。まったく、その通りだな。

俺は、デッキに出て、マライアさんにもらったビールを片手に、空を見上げていた。

部屋に通されたけど寝る気になんて、ならなかった。この開放的な気持ちを、もっともっと味わっていたかったからだ。

 俺のしたことなんか、大したことはない。口から出まかせを言って、あの無線モジュールを繋げただけ。

敵と戦ったわけじゃない。自分の手で、レオナを取り戻したわけでもない。

でも、なんだか無性にすがすがしくて、気分が良い。あぁ、そうだ。

俺は、やったんだ。きっと初めて自分の義ってやつを貫き通した。だから、こんな気分なんだろう。

 空港でニケたちに再開したとき、あいつら、まるで幽霊を見るみたいに俺を見つめてから、こぞって飛びついてきて大変だった。

だけど、俺は、あいつらをちゃんと受け止めることができた。脚が痛かったしよろけたが、そう言う話じゃない。

もっと精神的な部分だ。ニュータイプのあいつらを、俺は、まるで弟や妹みたいに思って、再会を喜べた。

そのことが、どうしてか嬉しくてたまらなかった。

それもこれも、マライアさんが助けてくれたことと、それから、アヤさんが信じてくれたからこそ、だ。

 あのアヤさんって人は本当に不思議だ。

ニュータイプらしいけど、レオナやニケたちに感じたような壁は全くと言っていいほどなかった。

マライアさんも、レナさんもそうだったけど、それはあのアヤさんあってのことだと思う。

ニュータイプってのは、感じ取ることに優れているものだと思っていたが、

あのアヤさんは、感じ取るだけじゃなくて、まるで自分の意思や勇気を相手を選ばずに伝えることが出来る様な、

そんな感じだった。

 もしかしたら、ジョニーの話の中にあった、人を惹きつけるタイプのニュータイプなのかもしれない。

いや、おそらく惹きつけるだけじゃなくて、ある種の変革ももたらす人だ。

あの人の、強烈な「繋がろう」とする気持ちは、人と人の間のわだかまりなんて簡単に打ち壊して、

まるで古くからの友人みたいに手と手を取り合うような気持ちにさせる。

ただそれは、能力よりも人柄なのかもしれない、とも思う。話を聞けば、小さい頃からいろんな苦労をしてきたっていうし。

そう考えたら、ジョニーの言った、希望としてのニュータイプの、さきがけなのかもしれない。

 ニケたちも、あの人のように、苦労を乗り越えて、何かをつかめば、もしかしたら、

たくさんの人を幸せに出来る様な人になるのかもしれない。

 あいつらには、そう言う未来を望んでやりたい。


「あー、いたいた」

ハンナの声だ。デッキから玄関の方を見やったら、ハンナとそれを支えるレオナがいて、こっちに手を振っていた。

 二人はデッキまでやってきて、俺の隣に腰を下ろす。

胸に暖かい感覚が湧いて来たのもつかの間、そう言えば、メキシコで別れるときのレオナが…

それを思い出して、ひとりでに体が固まった。待てよ…これって、あれか?修羅場なのか?

 「いやぁ、のぼせちゃったよ」

「レオナは本当にお風呂好きね」

「だってさ、研究所の中って他に自分の時間とか楽しみとかなかったし…」

「あぁ、そっか…ごめん、なんか変なこと聞いた」

「ううん、いいのいいの!明日は海に行ってみたいんだよね。アヤさんにお願いしようかなぁ」

あれ、なんか、平和な会話だな…大丈夫、なのか?

 「ははは。そうだな、頼んでみろよ。俺は大人しくここでのんびりしてるからよ」

「えぇー?マークも行こうよ」

「残念、私とマークはケガにんなので海水浴は出来ません!レオナ一人で行ってきな!」

「なにそれ、ひとり占め?ずるい!」

あれ、なんかやっぱり、おかしな方向へ行かってないか?

 「そう言えば!レオナ、あのとき、マークに無理矢理キスしたでしょ!」

「無理矢理じゃないよ!マーク、受け入れてくれたもん!」

「嘘よ!マークは私の恋人なのよ!?そんなことないよね、マーク!?」

「マーク、どうなの?!私とキスするのイヤだったの!?」

なんだよ、これ。なんなんだ、この状況?

「いや…えぇと…あのときは、その、突然で、なんていうか…」

「なに!?認めるの?!最低!離婚よ!もう離婚!」

り、離婚て、結婚すらしてないだろうに…

「ひどいよ…そんな気もないのに私を受け入れるふりをしたなんて!」

ちょ、え、レオナ?まで何言い出すんだ!?

 俺がまるで意味が分からなくて、しかも動揺していたら、二人は顔を見合わせてから俺の方を見て、

ニンマリと、ハンナのお得意のあのいたずらっぽい、したり顔でニヤついてから、さらに声を上げて笑った。

 なんだよ、くそ!ハメられた!

 俺は腹立ちまぎれに、ビールをあおる。まったく、性質の悪いぞ、お前ら!


「ふぅ、あー、可笑しい」

笑いを収めたレオナがそうつぶやいてから、

「あのね」

と俺をチラッと見やってきた。

「なんだよ」

ぶっきらぼうに、不機嫌な態度を見せて聞き返してやるとレオナは少しだけ寂しそうに笑った。

「二人は、これから、どうするつもり?」

「え?」

俺よりも早く、ハンナがそう声を上げた。これからのこと…

そう言や、今日のことで精一杯で、そんなこと、考えてなかったな…チラッとハンナを見た。

ハンナも、戸惑った表情をしている。

「まだ、決めてないけど」

俺が言うとレオナは

「そっか」

と言って、話を続ける。

「レナさんがね、言ってくれたんだ。一緒にここで、ペンションをやりながら生活しないか、って。

 ほら、レベッカもいるしね…あの子は多分、アヤさんレナさんとロビンちゃんと一緒に過ごすのが良いと思うんだ。

 レナさんにも、そう言ったの。でもね、レナさんは、『あなたも、レベッカのママでしょ?』って言ってくれた。

 遺伝子は繋がってないかもしれないけど、レベッカは、私の体の中で育って、私が産んだ、私と体を分け合った、

 私の子どもでしょ、って、そう言ってくれた。だからね、私、ここに残ろうと思うんだ。レベッカの母親の一人として」

レオナは笑った。寂しそうに、笑った。

「だから、聞いたの。二人は、どうするのかな、って」

そうか、レオナ、別れを言いに来たのか…俺たちに。俺は息を飲んでしまった。そんなこと、考えていなかった。

短い間だったけど、何をしてやれたかわからないくらいの期間だったけど、基地から逃げ出してから、

一緒に時間を過ごしたレオナとは、これからもずっと一緒にどこかへ歩いて行くんだろうって、なんとなく考えていた。

 だけど、そうか。そうだよな。冷静に考えれば、そんなこと、ないんだよな…。


「私は…」

ハンナが口を開いた。

「私は、ニケたちについて行こうと思ってる。あの子達には、親とか、そう言う頼るべき存在が必要だと思う。

 あの子達がこれから、カラバに引き渡されてどこで生活するかわからないけど、

 私は、あの子達が、せめて自分で生活を立てられるようになるまでは一緒に居て見守ってあげたい」

ハンナは、言った。そうか…だとしたら、俺は…俺は…

「マークは、ハンナについて行くでしょう?」

レオナが、先にそう言ってきた。そうだ、その通りだ…

「あぁ、ハンナがそう言うのなら、そうしようと思う」

「そうだよね」

レオナは、また笑顔を見せた。なぜだか、胸がキリキリと痛む。

でも、レオナは辛そうな表情で、しかし、はっきりとした口調で言った。

「お別れだね」

 その言葉は、俺の胸に、ずっしりと圧し掛かった。なんでだろうな…本当にちょっとの間しか一緒にいなかったのに…

今生の別れってわけでもないのに、どうしてこんなに気持ちが重くなるんだ…。

「マークのことが、好きだった」

―――あぁ、そうだ

「こんな私を、私たちを、助けて、それで、自分の気持ちと戦いながら、

 一生懸命に向き合ってくれようとしていたあなたに惹かれた。

 生まれてきて、初めて、普通の人の、暖かさに触れた気がした。大事に想われてるんだなって、そう感じられた」

―――分かってただろうに、俺は…また、同じことを繰り返すところだった…

レオナは、目に涙をいっぱい溜めて、それでも続ける。

「だから私も、戦えた。レナさんと一緒につかまって、レナさんの拷問を見せられても、道具だって言い捨てられても、

 私は、絶望しなかった。負けなかった。あなたが信じてくれたから。優しくしてくれたから。

 私たちのために、戦ってくれたから…」

「レオナ…」

ハンナが、彼女の肩を抱く。

「だから、お別れは、寂しいよ」

レオナ、そんなに俺のことを大事に想ってくれてたか…俺は…俺は、なんて声を掛けてやればいいんだろう…

「…別れなんかじゃない」

考えるよりも早く、俺はそう口にしていた。


「マーク…」

「別れなんかじゃない…サビーノが、言っていた。お前ら、ニュータイプは、離れていても、気持ちが通じ合うんだろう?

 思念ってのが、伝わるんだろう?だったら、離れていたって、それは別れじゃない。

 ニュータイプの力はそのためにあるんだって、俺はそう思う。

 この広い地球を飛び出して、広大な宇宙へ飛び出した人類が得た、電波なんかじゃ伝わらないものを伝えるための力なんだと思う。

 俺は…いや、俺も、ハンナも、ニケ達も、いつでもレオナと繋がってる。安心しろ。

 レオナの、俺を好きっていう気持ちには答えてやれないけど…俺たちは、ずっと、レオナと心を繋げていると約束する。

 だから、別れなんかじゃない。そうだろう?」

そうだ。ニュータイプは得体の知れないものなんじゃない。

能力のない俺のような人間でも、ごくありふれて使っている感覚と同じなんだ。

誰かを思いやって、誰かと心を繋げておく、心に、誰かの存在を刻んでいくのと、何一つ変わりないじゃないか。

「マークぅ」

レオナは、泣き崩れるようにして、俺に抱き着いて来た。レオナを抱き留めて、腕を回してやる。

ハンナもレオナを後ろから抱きしめてくれた。

 大丈夫だ、レオナ。お前はもう、ずっと過ごしてきた研究所にいたみたいに一人じゃないんだ。俺たちがいる。

アヤさん達もいる。遠く離れても、その気になれば、俺を感じ取れる。

 ニュータイプってのは、この広く果てしない宇宙で、人と人が繋がっていくために生まれてきたんだ。

言葉に乗らない想いを、目に見えないしぐさを、触れることのできない温もりを感じるために芽生えた能力なんだ、きっと。

人と人が、理解し合い互いにわかり合うための、誰かが孤独にならないために、誰かを孤独にしないために、

負った傷を、癒し癒されるための力なんだ。

 ニュータイプもオールドタイプも、関係ない。

俺たちは、みんな、幸せを願って、大事な誰かとともに生きたいと願う、同じ人間に違いないんだ。








―――――――――to be continued


おー!あいきゃびりーびんゆー!

かならずあえーるとー

あのひからしんじていたーきぃっとーよびあうーこころがーあればー

むげんのーえなじぃぃぃよびさまーす

あぁ~きずつけあーうまぁーにぃ

できることぉさがーしてぇ、ぷりーず!



てなわけで、長いことご愛読、本当にありがとうございました!

アウドムラの次回作にご期待ください。






おっと、いけね。


次回予告、忘れてた。





 あれから、半年以上たった。

私のケガもすっかり治ったし、レベッカはここの暮らしにもなれて、いつもロビンとべったり二人でいるくらいすっかり仲良し、

レオナも、なぜか居ついているマライアちゃんも、ペンションの仕事を手伝ってくれたり、ロビン達の面倒を見たり、

アヤの船の仕事を手伝ったり、すっかりこの島での生活も板について来た。

 私たちが研究所から逃げ出してからしばらくして、ティターンズはエゥーゴとアクシズとの三つ巴の戦闘の末、壊滅した。

これで、すこしは平和になるかな、と思ったら、今度はアクシズがネオジオンって名前を掲げて、現在連邦と戦争中。

ティターンズに飼いならされた連邦軍と、ティターンズとの戦闘で多くの戦力を喪失したエゥーゴは苦戦中。

 戦略的価値のないこの辺りには戦闘は及ばないし、マライアちゃんが言うには、

地球とコロニー全域に強大な幅を利かせている財閥や経済組織と関係の深いこの辺りを襲ったり、

戦闘にさらすのはタブーになっているらしくて、戦争をしている、なんて話を聞いても、

テレビなんかで情報を取らない限りは、てんで実感がわかない。お客がちょっと減っちゃったってことくらいかな。

まぁ、正直な話、それが一番痛いところだっていうのはあるんだけど…

 「ただいまー!」

玄関から声がした。掃除を中断して、客室から一階に降りると、そこには、

レオナに連れられたロビンとレベッカが、お揃いの服にお揃いのカバンを背負ってニコニコしながら立っていた。

幼稚園から帰ってきたんだ。

「おかえり!ほら、手洗いうがいして、おやつにしよ!今日はソフィアがケーキ焼いて持ってきてくれたんだよ!」

「ケーキ!?」

「食べる!」

二人は、黄色い悲鳴を上げながら、階段を駆け上がって、自分たちの部屋へと走って行った。

「レオナ、おかえり」

「ただいま、レナさん。アヤさん達は、まだ戻ってないの?」

「あぁ、うん。もうすぐだと思うんだけどね」

私が言うと、レオナはなんだか少し、顔を曇らせた。

「どうしたの?」

私が聞くと、レオナは首をかしげて、

「分からないけど、なんか変なの。気分がさえないっていうか…イヤな感じがするっていうか…」

と歯切れの悪い返事をする。私は、特になにも感じないけど…でも、少し気になるな。

こういうのって、とりあえず対処しておいた方が、精神衛生的に良かったりするよね。

「そっか…とりあえず、私連絡してみるよ。レオナは、ケーキ、冷蔵庫に入ってるから、ロビン達に準備して一緒に食べてて。

 私も掃除が終わったらすぐ行くから」

そう言うと、レオナはすぐに顔を輝かせて

「ケーキ私のもあるんだ?!」

と、子どもみたいな顔をして喜んだ。


笑顔で、レオナがホールへ入るのを見送ってから、階段を上がりつつ、PDAでアヤのナンバーにコールしてみる。

「はいよ!レナ、どうしたー?」

アヤの明るく抜けた声が聞こえた。

「今どこにいる?おやつにしようと思ったんだけど…」

私が言うと、アヤはまた飛び切りに元気な声で

「そっか!ちょうどよかった。もう着くから、アタシらのも頼むな!」

と言ってきた。うん、これなら大丈夫そうだ。レオナにも言ってあげなきゃな。

「了解!」

と返事をしてから電話を切って、階段の上から大声でレオナにアヤとマライアが帰ってくると教えてあげた。

レオナは少し安心した表情で、

「わかった。ケーキ出しておくね」

と返事をして、ホールの方へと入って行った。

 私も胸の引っ掛かりが取れたので足早に部屋まで戻って、掃除を終わらせる。

掃除機と雑巾の入ったバケツを持って、階段を下りた時に、ちょうどよくアヤとマライアが玄関から入ってきた。

「あ、おかえり!」

「ただいま、レナ!」

アヤはいつもの笑顔で私に駆け寄ってくると、いつもとおんなじように私を抱きしめて、額に口付てきた。

研究所から脱出してきた次の日から、アヤの愛情はとどまることを知らなくて、なんだかもう、

恥ずかしいなんて言っている方が恥ずかしくなってくるくらいだった。

 こうなったらもう、開き直ったほうがすがすがしいんじゃないかと思って、

最近では私も照れずにアヤの行動を素直に受け入れることにしている。

まぁ、うん…毎日やってるのに、毎回嬉しいから、別に良いんだけどさ。


 と、アヤの肩越しにマライアと目があった。と、思ったら、アヤの後ろから飛んできて、

アヤが離れた直後の私に飛びついて来た。でも、私のところにたどり着く直前に、

アヤに後ろ襟をつかまれて制止され、階段の方にひょいっと追いやられてしまった。

「ひどい!あたしだってレナさんと仲良くしたい!」

「あんたの仲良くは行きすぎなんだよ!」

「アヤさん、自分にはやっても怒らないくせに!ケチ!ヤキモチ焼き!

 あたしはアヤさんみたいにイヤらしい目的でハグしたいんじゃないもん!」

「んだと!言わせておけば、マライアのクセに!」

「なによ!掛かってきなさぎゃーーーー助けて!」

アヤがマライアに立ち姿勢の関節技をかけている。まぁ、これもいつものことだ、うん。

 不意に、ガチャンと物音がした。

「なんだ?」

「ん?なにか聞こえた?」

アヤとマライアがそう言って騒ぎを収めて私を見る。確かに何か聞こえた。ホールの方からだ。

「聞こえた。ホールから」

気になって、掃除機とバケツを壁際に置いてホールへ行こうとしたらロビンがホールのドアを開けて飛び出て来た。

「ママ!レオナマーが!レオナマーちゃんが変なの!」

ロビンはそう言って慌てた様子でピョンピョンと飛び跳ねている。

―――レオナが?

 私は、さっきのレオナの様子が頭をよぎった。あれは、いつもの感覚なんかじゃなくて、

具合が悪かったとか、そう言うことだったのかもしれない…

 思わず、私はロビンの脇をすり抜けて、ホールに駆け込んだ。

でも、そこにはケーキと紅茶が用意してあるけど、誰の姿もない。

「ママ!ママ!!」

キッチンだ!

 私はホールの脇からキッチンに向かう。

 中を覗くと、そこには、レベッカとレオナがいた。

 レオナはうずくまって、頭を抱えながら、うずくまって、うわ言のように何かをつぶやいている。

レベッカはそんなレオナの顔を心配そうに覗き込みながら一生懸命にレオナを呼んでいる。

 「レベッカ、すこし離れていて」

私は、レベッカにそう言うと、レオナの脇に座って様子を見る。

 レオナはガタガタと震えていた。そして震える唇で

「だめ…れいちぇる…れい…ちぇる…」

とうめいていた。

―――レイチェル?誰のこと…?

そこまで考えて、直感的に、分かった。レオナは、何かを感じ取ってしまったんだ。なにか、とてつもない、怖いものを。

その、レイチェル、と言う人に、その、恐ろしい何かが起こったんだってことを。






ほんとのこぉーとさぁ~!

馬鹿野郎www

フライングしちまったじゃねーか

>>340
レス超感謝!
そしてなんか諮ってすまん、計画通りだw

そして俺また名前被りさせた?調べたらGジェネの日焼けっ娘くらいしかヒットせなんだが。

乙Z
マーク人間味があって良かった 歯痒い部分もあるのがリアリティーがあっていいよな

レイチェル・ファーガソン→08小隊外伝トリヴィアルオペレーション
レイチェル・サンド→ティターンズの旗のもとに

>>343
感謝Z!
アヤレナについで、マライアもぶっとんじゃったので、マークのような普通の人が書きたくなります。
書くのはけっこうつらいんですが…気に入っていだたけてよかったです!

>>344
そんなおるんか…まぁ、どちらでもない、とだけ返答しておきます。
逆にそれだけレイチェルさんいれば、多少かぶっても問題ないよね!ww



そういえば、書こうと思っていて忘れていたので、ZZ編が始まる前に書き残しておきます。

ガンダムには関係ない話で恐縮ですが、今回も隠れエスコンネタを仕込んでました。

男性登場人物につけた名前は、ルーカス以外、AC5の#9、「憎しみの始まり」でユークへ侵攻した
4つの中隊所属の面々から名前をとりました。

Ex.最初のほうに出てきてレオナ達を基地へ運んできた伍長→パワーズ

=「こちらA中隊のパワーズ伍長!上から見ても 我が中隊が最強だと分かるだろう!?」

こんな感じで。



また甘々でトロトロなアヤレナさんが見られて嬉しいな

で、また「レ」かw
レナ・レオナ・レベッカ救出作戦でクスっとしたw
因数分解できそうだけど意識してやってるの?

マーク序盤では主人公っぽいのにアヤレナとマさんに食われてて泣いたwwwwwwwwwwwwww

>>346
感謝!
アヤレナはこうあるべきと思って書きました!w

レナとロビン、レベッカについては、レナはL、子ども達はRで揃えたかった、という思いはあります。

>>347
自分も彼が結構好きなんですが…いかんせん、アヤレナマが強すぎて霞んでしまいます。
特に、アイナ救出のシーンとかw

今更だけど、マさんて、別人になっちゃうよね。
とんがり頭のMSに乗った人になっちゃうよね。



ZZ編の更新ですが、しばらく休憩をいただいて、続きは昨日買ってきた地球防衛軍4で一通り地球を守ってから…
と思っていたのですが、今さっきプレイ中にエラー吐いて、PS3が起動しなくなりました。
修復効かなかったので、深刻なシステムエラーかHDDが死んだのかと思います。
EDF以外のセーブデータも死んだだろうな…。

きっと、ZZ編早くしろという皆様の呪いか、アヤレナのニュータイプ的な力での早く書けの催促なんだろうな、と。
というわけで、仕事の合間縫って今までのペースで投下していきたいと思いますのでどうぞ、よしなにm(_ _)m


…?!
なにこれ気持ち悪い…

>>350

気にしないのが吉

おお、同じEDF隊員がいた!
自分はXBOX支部ですが!
アウドムラの代わりに地球の防衛はやっておくから気にせず書いておくれw

ところでZZ編になってもアウドムラでいくの?

優秀すぎる投稿ペースだからそんなに気にしなくてもいいと思うけど

>>352
荒らし屋さんだったか…
良いなぁ?せっかくウィングライダーで
#23くらいまで行って装備も良い感じだったのに…

ZZ編になったらかわりますよ!
ご想像の通りアレに!

>>353
そう言ってもらえると嬉しいです。
でも、やることなくなっちゃったんで、
傷心から立ち直ればすぐ続き書いて投下しますw

とりあえず、帰ったらPS3、工場に送ろう…

ライダーちゃう、ダイバーや

自らツッコミとは成長したな

>>356
ア「バカにして!」w



一応、ZZ編のアナウンスしておきたいと思います。

投下までしばらくお待ちください。
一週間から二週間ほど掛かりそうな雰囲気です。

ZZ編は、Z編の延長なイメージで、

ファーストのマライア編的なサブの裏話展開になると思います。

スレはこのままここで書いて行きます。

そんな感じですが、どうぞよろしくです。

期待して待ってる

>>358
感謝。

仕事があれで、まっったく進んでません…
書きたいことは決まっているのにっ

今週末は投下難しいかもです(>_<)

のんびり待つから頑張って

よもや地球を守るお仕事ではあるまいなw

>>360
すまんです(>_<)

>>361
PS3がマライアのビーム狙撃で入院中だよ!
地球守りてぇ?←

>>360
すまんです(>_<)

>>361
PS3がマライアのビーム狙撃で入院中だよ!
地球守りてぇ?←

そんな大事な事か

>>364
これだからモシモシは…


アニメじゃないっ アニメじゃないっ

ほんとのこぉーとさぁー!


見切り発車なんてしらん!

ドダイ!いっきまーーーす!


 あれから、半年以上たった。

私のケガもすっかり治ったし、レベッカはここの暮らしにもなれて、

いつもロビンとべったり二人でいるくらいすっかり仲良し。

レオナも、なぜか居ついているマライアちゃんも、ペンションの仕事を手伝ってくれたり、

ロビン達の面倒を見たり、アヤの船の仕事を手伝ったり、すっかりこの島での生活も板について来た。

 私たちが研究所から逃げ出してからしばらくして、

ティターンズはエゥーゴとアクシズとの三つ巴の戦闘の末、壊滅した。

これで、すこしは平和になるかな、と思ったら、今度はアクシズがネオジオンって名前を掲げて、

現在連邦と戦争中。

ティターンズに飼いならされた連邦軍と、ティターンズとの戦闘で多くの戦力を喪失したエゥーゴは苦戦中。

 戦略的価値のないこの辺りには戦闘は及ばないし、マライアちゃんが言うには、

地球とコロニー全域に強大な幅を利かせている財閥や経済組織と関係の深いこの辺りを襲ったり、

戦闘にさらすのはタブーになっているらしくて、戦争をしている、なんて話を聞いても、

テレビなんかで情報を取らない限りは、てんで実感がわかない。

お客がちょっと減っちゃったってことくらいかな。

まぁ、正直な話、それが一番痛いところだっていうのはあるんだけど…

 「ただいまー!」

玄関から声がした。掃除を中断して、客室から一階に降りると、そこには、

レオナに連れられたロビンとレベッカが、お揃いの服にお揃いのカバンを背負ってニコニコしながら立っていた。


「おかえり!ほら、手洗いうがいして、おやつにしよ!今日はソフィアがケーキ焼いて持ってきてくれたんだよ!」

「ケーキ!?」

「食べる!」

二人は、黄色い悲鳴を上げながら、階段を駆け上がって、自分たちの部屋へと走って行った。


「レオナ、おかえり」

「ただいま、レナさん。アヤさん達は、まだ戻ってないの?」

「あぁ、うん。もうすぐだと思うんだけどね」

私が言うと、レオナはなんだか少し、顔を曇らせた。

「どうしたの?」

私が聞くと、レオナは首をかしげて、

「分からないけど、なんか変なの。気分がさえないっていうか…イヤな感じがするっていうか…」

と歯切れの悪い返事をする。私は、特になにも感じないけど…でも、少し気になるな。

こういうのって、とりあえず対処しておいた方が、精神衛生的に良かったりするよね。

「そっか…とりあえず、私連絡してみるよ。

 レオナは、ケーキ、冷蔵庫に入ってるから、ロビン達に準備して一緒に食べてて。私も掃除が終わったらすぐ行くから」

そう言うと、レオナはすぐに顔を輝かせて

「ケーキ私のもあるんだ?!」

と、子どもみたいな顔をして喜んだ。笑顔で、レオナがホールへ入るのを見送ってから、

階段を上がりつつ、PDAでアヤのナンバーにコールしてみる。

「はいよ!レナ、どうしたー?」

アヤの明るく抜けた声が聞こえた。

「今どこにいる?おやつにしようと思ったんだけど…」

私が言うと、アヤはまた飛び切りに元気な声で

「そっか!ちょうどよかった。もう着くから、アタシらのも頼むな!」

と言ってきた。うん、これなら大丈夫そうだ。レオナにも言ってあげなきゃな。

「了解!」

と返事をしてから電話を切って、階段の上から大声でレオナにアヤとマライアが帰ってくると教えてあげた。

レオナは少し安心した表情で、

「わかった。ケーキ出しておくね」

と返事をして、ホールの方へと入って行った。

 私も胸の引っ掛かりが取れたので足早に部屋まで戻って、掃除を終わらせる。

掃除機と雑巾の入ったバケツを持って、階段を下りた時に、ちょうどよくアヤとマライアが玄関から入ってきた。


「あ、おかえり!」

「ただいま、レナ!」

アヤはいつもの笑顔で私に駆け寄ってくると、いつもとおんなじように私を抱きしめて、額に口付てきた。

研究所から脱出してきた次の日から、アヤの愛情はとどまることを知らなくて、

なんだかもう、恥ずかしいなんて言っている方が恥ずかしくなってくるくらいだった。

こうなったら、開き直ったほうがすがすがしいんじゃないかと思って、

最近では私も照れずにアヤの行動を素直に受け入れることにしている。

まぁ、うん…毎日やってるのに、毎回嬉しいから、別に良いんだけどさ。

 と、アヤの肩越しにマライアと目があった。と、思ったら、アヤの後ろから飛んできて、

アヤが離れた直後の私に飛びついて来た。

でも、私のところにたどり着く直前に、アヤに後ろ襟をつかまれて制止され、階段の方にひょいっと追いやられてしまった。

「ひどい!あたしだってレナさんと仲良くしたい!」

「あんたの仲良くは行きすぎなんだよ!」

「アヤさん、自分にはやっても怒らないくせに!ケチ!ヤキモチ焼き!

 あたしはアヤさんみたいにイヤらしい目的でハグしたいんじゃないもん!」

「んだと!言わせておけば、マライアのクセに!」

「なによ!掛かってきなさぎゃーーーー助けて!」

アヤがマライアに立ち姿勢の関節技をかけている。まぁ、これもいつものことだ、うん。

「それで、話の方はどうだった?」

私は、二人の様子を流して聞いてみる。

「あぁ、おっちゃん、見かけに似合わずすげえ良い人でさ!来週からでも、手を入れてくれるって。

 2か月もあれば、出来そうだって言うんで、一応、前向きに検討させてくれって言って帰ってきたよ。

 ほら、これ見積もり」

アヤはそう言って、マライアに関節技を決めながら一枚の紙を手渡してきた。

私はそれに目を走らせて、満足する、うん、これなら何とかなりそうかな!

 二週間くらい前に、アヤがふと、

「なぁ、客室使ってんの、なんか効率悪いよな」

なんてことを言いだした。

 レオナとマライアが住み込むことになって、今まで客室だったところを新たに二人に貸していた。

レオナはペンションを手伝ってくれながら私たちと一緒に、ロビンとレベッカの面倒を見てくれている。

マライアは、ペンションの手伝い半分と、もう半分はカレンさんの会社の手伝いをしている。

うちは、正直、それほど忙しいわけでもないけれど、戦争の相手がティターンズからアクシズに移ってから、

カレンさんの方は、物資の輸送や避難民の運搬なんかでずいぶんと繁盛しているらしかった。

カレンさん自身は浮かない顔つきで皮肉だね、なんて笑っていたけれど。


 そんなことで、客室が二つ使えない状態だった。そこで、さっきのアヤの言葉が出た。

要するに、敷地内に私たちが寝泊まりする母屋を作らないか、と言う話だ。

食事なんかはホールで済むし、私とアヤはホールのソファーで寝ていても構わないけど、

ロビンとレベッカにレオナとマライアにはそれはちょっと申し訳ない。

なので、せめて、寝たりくつろいだりするところは別にあったほうが、私も含めて良い気がしていたので、大賛成だった。

 あとは、お金と質の問題。そこで、今日はアヤとマライアに、

島で個人経営している建設業者に相談と見積もりを取りに行ってもらっていた。

業者のおじさんは、アヤの居た施設の移転のときに、カレンさんが仕事を頼んだ人で、話もすんなり運んだみたい。

見積もりもそこそこ金額は抑えてくれているのが感じられるし、

品質は、新しく建った施設を見た私からすれば、満足できそうな仕事をしてくれると感じられていた。

 


「どう?」

「うん、いいんじゃないかな」

私が答えるとアヤは

「んじゃぁ、あとで電話かけて頼むって言っておくな」

と言ってニコッと笑った。

 母屋が建てば、私とアヤが二人で過ごせる時間も増えるかな?

そうしたら、また、すこしのんびりいろんな話ができるかもしれないな…それって、ちょっと楽しみ。

そんなことを考えて、私は知らず知らずのうちにニヤけてしまっていた。

 不意に、ガチャンと物音がした。

「なんだ?」

「ん?なにか聞こえた?」

アヤとマライアがそう言って騒ぎを収めて私を見る。確かに何か聞こえた。ホールの方からだ。

「聞こえた。ホールから」

気になって、掃除機とバケツを壁際に置いてホールへ行こうとしたら

ロビンがホールのドアを開けて飛び出て来た。

「ママ!レオナマーが!レオナマーちゃんが変なの!」

ロビンはそう言って慌てた様子でピョンピョンと飛び跳ねている。

―――レオナが?

 私は、さっきのレオナの様子が頭をよぎった。

あれは、いつもの感覚なんかじゃなくて、具合が悪かったとか、そう言うことだったのかもしれない…

 思わず、私はロビンの脇をすり抜けて、ホールに駆け込んだ。

でも、そこにはケーキと紅茶が用意してあるけど、誰の姿もない。

「ママ!ママ!!」

キッチンだ!

 私はホールの脇からキッチンに向かう。

 中を覗くと、そこには、レベッカとレオナがいた。

 レオナはうずくまって、頭を抱えながら、うずくまって、うわ言のように何かをつぶやいている。

レベッカはそんなレオナの顔を心配そうに覗き込みながら一生懸命にレオナを呼んでいる。

 「レベッカ、すこし離れていて」

私は、レベッカにそう言うと、レオナの脇に座って様子を見る。

 レオナはガタガタと震えていた。そして震える唇で

「だめ…れいちぇる…れい…ちぇる…」

とうめいていた。

―――レイチェル?誰のこと…?

そこまで考えて、直感的に、分かった。レオナは、何かを感じ取ってしまったんだ。

なにか、とてつもない、怖いものを。その、レイチェル、と言う人に、何かが起こったんだってことを。



 パタンとドアを閉めて、レナがホールに戻って来た。浮かない顔をしている。

「レナ…レオナは?」

アタシが聞くとレナは少し笑って

「寝ちゃった。結局、何も話せなかったよ」

と肩を落とした。

「そっか」

アタシもショボンって気持ちがすぼんでしまうのを感じた。

隣に座ったレナにグラスを薦めて、マライアがそこにバーボンを注ぐ。

 窓の外は、すっかり真っ暗。ロビンとレベッカも寝かしつけた。

「レイチェル、か」

マライアが呟く。

「どこにいるか、とか、生きてるかとかが分かれば助けに行ってあげられるんだけどねぇ」

マライアの言う通りだ。

 もしレイチェル、ってのがレオナの知り合いかなんかだって言うんなら、放ってはおけない。

でも、あれからレオナはまるで電池の切れたオモチャみたいに、ロクに喋れず、動けず、で、

アタシとマライアで何とか部屋に運んでやったくらいだ。

それからはずっとレナが付き添っていたけど、結局、夜のこの時間になっても、状況は変わらず、みたいだった。


「とにかく、明日の様子を見てからまた考えよう。今日はもう、起こしてまで聞くのは可哀想だし…」

レナがそう言う 。

確かにな…あれほどのショックだ。

さっき見たテレビのことを考えれば、そのレイチェルが誰かってのは分からなくても、

そいつの身に何があったのかは、何となく感じられた。

 レオナが錯乱するのと前後して、ネオジオンがアイルランドのダブリンにコロニーを落としたと、

マライアのPDAにルーカスから連絡があった。ダブリンっていや、大西洋を挟んで反対側。

アタシはそいつを聞いてすぐさま津波の警戒をしたけど、結局、落着が地表だったらしく、

島に押し寄せた波はほとんど大した規模じゃなくうちの船を含めて、港や街に被害はなかった。

 状況から見て、そのレイチェルってのが、あのコロニー落としに関係している可能性は高そうだ。

コロニー落としなんてあのときの戦争を思い出すようだけど、

なんでも、落下速度と角度がずいぶんと突入には不向きだったそうで、

落着前には半部以上が蒸発したって話だった。

もし、シドニーに落ちたクラスの被害が出ていたらここも無事ってワケにはいかなかったろうし、

何よりあんな島にそんなもんが落ちたらシドニー湾どころの騒ぎじゃない。

島そのものが消滅してたっておかしくはない。今回はなんとか、限定的な被害で済んでいるようだった。

まぁ、それは「壊滅的な限定的被害」ではあるんだけど。


 このニュースを聞いて、レナは猛烈に怒ってしまって、なだめるのに苦労した。

その直後、シイナさんが飛び込んできて、ダブリンへ救助活動に向かうからしばらく家を開ける、

と言ってきた。せっかく落ち着かせたのにレナはそれに着いていく、とまた言いだした。

 結局、シイナさんは止められなかった。まぁ、戦いに行くわけじゃないし、

ハロルドさんも一緒だし、そっちは大丈夫だろうけど。

 レナには、とにかく今はレオナだと言ってなんとか説得した。

レオナのことはその通りだけど、それ以上に状況が不安定だ。

苦しいけど、今は「逃げ」ておくべきタイミングだと感じてた。

レナが行くなら、アタシはここに残らなきゃ行けない。

やっと安定した生活に戻ったロビンとレベッカを、また不安にさせたくはなかったし、な。

 それに正直、もう、レナだけを危ない目になんて、遭わせたくなかった。

行くとなれば、アタシが一人で行く、そう、決めていた。

 ただまぁ、それもレオナ次第だ。

「とにかく、明日また、レオナに話を聞こう。動くのなら、そこからでも遅くない…

 ていうか、今動いてもリスクが高いだけだ」

「そうだね」

アタシが言うと、レナは苦しそうに返事をした。

 いや、実際に苦しいんだろうな…

1年戦争のときに、祖国がやったコロニー落としを、また経験しなけりゃならないなんて…

8年前も、今回も、レナに責任も関係もありはしないのに、責任感を感じてしまっているような感覚だ。

 アタシは、隣に座ったレナの肩を抱いてやる。それからその肩をポンポンと叩いて

「レナ、難しく考えるな。アタシ達にできるのは、困った人を助けるくらいだ。

 コロニー落としなんか、どう頑張ったって止められやしない」

と言ってやった。確か、あのときもおんなじようなことを言ったな、なんて思いながら。

 それを聞いたレナは、静かにうなずいて、グラスの中のバーボンを一気に飲み干した。

それからふうとため息をついて

「ごめん、今日の私は、ダメだ」

とポツリ、と言った。だろうな。仕方ない。

「うん、分かってる。レナも少し休もう。

 明日何か対応しなきゃいけなくなるとして、その対応に響いても困る」

「うん、ありがとう、アヤ」

レナはそう言って、アタシに体をもたせ掛けてきた。

ガシガシ頭を撫でてご機嫌をうかがうと、レナはニコッとほほ笑んだ。

 それからしばらく、気分を変えるために昔話なんかをして、レナとマライアは寝室へと上がって行った。


 翌朝、アタシはホールで朝食の支度を終えて、自分で入れたコーヒーをすすりながら新聞を読んでいた。

昨日のコロニー落下の記事が一面に掲載され、中のほうには、

宇宙から撮影されたらしい落下の様子がコマ送りみたいな連続写真で写しだされていた。

アクシズの連中、確か、サイド3の返還を要求しているんだったな。

そんなことのために、コロニーなんか落として・・・

しかも、何千万て人を犠牲に、そもそもの目的はここへ疎開していただろう連邦議員の殺害だって言うんだから、

おかしいにも程がある。そんなに殺したけりゃ、暗殺でもすれば良かったんだ。

そんなにサイド3を返して欲しけりゃ、地球じゃなくて、サイド3を武力で奪回すれば良かったんだ。

関係のない民間人を無差別に殺すなんて、理屈はどうあれ、間違ってる。

そうしなきゃどうにもならなかったなんて、これっぽちも思えない。

 結局、どんな言い分があったって、これってのはたぶん、1年戦争と根っこはおんなじなんだ。

宇宙へ放りだされたスペースノイドの、地球への嫉妬と恨み、だ。

 そう考えたら、なんだか悲しくなった。

 ドアの音がしたので見たら、マライアが目をこすりながら、寝癖頭でこっちに歩いてきていた。

「おはよう」

「あぁ、おはよ」

マライアはアタシの手からコーヒーの入ったマグをむしりとって、ズズズとすすってからふうとため息をついた。

それから

「ずっと起きてたの?」

と聞いてくる。バレたか。

 あんなことのあとだ。次は何が起こるかわからない。

アタシは物置から軍無線を受信できるチューナーを引っ張り出してきて、一晩中情報の収集をしていた。

幸い、ネオジオンも連邦も、このコロニー落としの処理にかかりっきりらしく、

これ以上の戦闘はなさそうだった。まぁ、ネオジオンの勢力が、アタシの分析どおりなら、だけど。

でも、地球に降下してきているネオジオンの勢力はまだ各地に居座っている。予断は許さない。


「アヤさん、すこし休みなよ。これからあたしも、カラバの情報網使っていろいろ探ってみるからさ」

マライアはそう言いながら、アタシの肩をグイグイマッサージしてくる。…そうかも知れないな。

今は、アタシだけじゃない…あんたもいるんだったな、マライア。

ここは、すこしあんたに頼んでも構わない、か。

「なら、悪い。頼むよ。アタシはそこで横になってるからさ」

マライアにコンピュータデスクの下に突っ込んでおいたチューナーから伸びたヘッドホンを押し付けて、

アタシは隣のソファーに身体を横たえた。さすがに、徹夜すると、少し疲れる。

まだまだいけないこともないけど、無理する必要はない、まだ、今は、な。

 マライアはテーブルに並べて置いた皿にトーストとおかずの何品かをよそって持ってきて、

チューナーの前に陣取って、ヘッドホンに聞き耳を立てている。

時々食べる手を休めて、コンピュータを操作している。カラバの情報にアクセスしているんだろう。

ティターンズは抜けたけど、カラバにはまだ軍籍が残っているらしい。

もちろん、直接任務が与えられることはないが、緊急時の予備役的な立ちに位置いる、とマライアは言っていた。

まぁ、この事態で召集がかからないのであれば、予備役もなにもあったもんではないと思うが。

「そんな…ハヤトが…」

不意にマライアがそう口を開く。

「どうしたんだよ?」

「カラバの、指導的な立場にいた幹部が、ダブリンでネオジオンと交戦して、死んだみたい」

「そうか…知り合いだったのか?」

「うん、責任感のある、いい人だった」

「そっか。残念だな…」

「うん」

マライアは見るからに落ち込んだ様子だった。

 そうか、やっぱり、あのコロニー落下の場所にはカラバがいたんだな・・・

ハンナやマークを手助けしてくれた連中が、無事だといいけど・・・

 そんなことを考えていたら、レオナがホールに姿を現した。


「お、レオナ。大丈夫か?」

アタシは思わず起き上がって、そう声をかけた。

 だけど、レオナの返事を待たないで、アタシはレオナから肌に伝わってくる何かを感じ取った。

凛とした、鋭いなにか。これは、決意、か?

「ロビン達が来る前に、話があるんだ」

レオナは、静かにそう言った。

アタシは、ソファーに座りなおして、レオナに体を向けてから

「あぁ、うん。聞かせてくれよ」

と返事をする。アタシの言葉に、マライアも無言でうなずいてレオナを見た。

「レナさんには、今、話してきた。私、決めた。私は、自分の運命を戦わなきゃいけない。

 ニュータイプとして生まれて、道具として使われてきた運命から、私は逃げた。

 逃げないと、いずれ死んでしまっただろうから。でも、今は違う。私を思ってくれるみんながいる。

 大事な家族と…子ども達がいる。みんなを置いて出て行くのはすこし心が痛むけど、

 でも、私には、やらなきゃならないことがある」

アタシは、黙ってレオナの話を聞いていた。

「私は…サイド3に行く。そこで私たち、ニュータイプのことと、自分自身の出生に関する情報を集めて、

 必要なら、アクシズへも行く。私の、妹を探しに…!」

 妹?妹だって?…そう言えば、いつだったか、そんな話をチラっとしていたな…。

オークランドから脱出してきてすぐのことだったか。ジオンに残してきた、妹がいる、って。

まさか、それが、レイチェルってやつなのか?

 でも…待てよ、レイチェルって…昨日の感じじゃぁ、コロニー落としで…

 「な、なぁ、レオナ。どうしてサイド3なんだ?コロニーが落ちた、ダブリンじゃないのか?」

アタシは思わず、そう聞いていた。でも、レオナは首を振って

「いいえ。妹は、死んでなんかない。宇宙に居る」

と確信を持った表情で、そう言いきった。

 そのレオナの瞳は、アタシでも、マライアでもなく、まるでまっすぐに、

宇宙に浮かぶサイド3を見ているような、そんな気配さえするようにアタシには感じられていた。



つづく!


ドダイは死んでしまった!はたして続きは誰が書くのか!?

こうご期待!w

おおドダイよ、しんでしまうとはなさけない。

教会で10Gで生き返らせてもらおう

誰を生き返らせますか?
 ◆ドダイ (Lv9) 1,250gold

バーテンダーは店の奥から何かを連れてきた。
「はい、どうぞ」

>>378
王様!w

>>379
俺ってレベル1かw

>>380
教会でなくてルイーダの酒場か。



続き投下いきます!


 空港のロビーに入ったら、そこにはすでにルーカスがいて、あたし達の到着を待ってくれていた。

 レオナが、宇宙へ、サイド3へ行く、とあたし達に言ってきた日、あたしは、カラバの情報網を使って、

ビスト財団という、巨大な財閥へとコンタクトを取った。

理由は、この紛争における戦時被害者の捜索及び救出団体設立に関する、資金援助要請。

ビスト財団って言うのは、連邦から多額の融資を受けていたり、地球上や宇宙にもその根を張り巡らせている組織。

正直、活動そのものはなんだか胡散臭いのがほとんどだけど、それなりに慈善活動にも力を入れていた。

そこにすがろうと思ったわけだ。

 あたしの申し入れは、3週間の審査の後に受け入れられ、多額の援助を得ることができた。

そのお金を持って、今度は、フレートさんに、カラバ経由で連絡を入れた。

目的はもちろん、宇宙へ上がるための資材の購入。

戦艦やモビルスーツ無しで、激戦区の宇宙へ上がるなんて自殺行為もいいところだ。

あたしは、カラバの名義で、手っ取り早く手に入る中で一番高性能のやつを注文した。

結果、フレートさんの口添えもあって、2週間後には北米のサンフランシスコの格納庫に、

中型のシャトル一機と、宇宙専用に換装されたZガンダム3号機、っていうのを手に入れた。

もちろん、カラバ名義。個人になんて、こんな機体は売ってくれない。

 オナが決心してから、二か月近くも経ってしまったけど、そんなわけで、あたしは、レオナとルーカスと一緒に、

また、あの宇宙へ上がる。ライラと一緒に戦った、あの場所へ…。


 「気をつけろよ」

ロビンを抱いたアヤさんがそういいながらレオナを気遣っている。

「無理はしちゃダメだからね。レベッカも心配するし、早く戻ってきて」

レベッカを抱えているレナさんも、涙を堪えてそんなことを言っていた。

「はい…あの、わがままを言って、ごめんなさい」

レオナは、二人に謝った。そしたら、アヤさんが急に笑い出した。

「ははは、いや、それは構わないって。あんたの運命と戦いに行くんだろう?

 アタシらにそれを止める権利なんてないよ…ただまぁ、心配なだけさ」

アヤさんは、レオナの方をポンと叩いた。

「いいか、危なくなったら、逃げろ。死んだら目的なんか果たせないんだからな」

「はい」

「レオナ、あなたの目的は?」

「私の生まれを知って、妹を助けて、無事に、ここへ帰ってくること」

「うん、上出来だ」

アヤさんは、満足そうに言って、また笑った。それから、急にあたしに腕を伸ばしてきたと思ったら、

ロビンを床に下ろして、あたしを引き寄せて抱きしめた。あんまり急だったんで、呼吸の仕方を忘れた。

「ア、アヤさん!?」

「マライア…あんたも、無茶はすんなよ。レオナを、頼むな」

アヤさんは、静かに優しくそう言ってくれた。

 へへ、頼まれちゃったよ、あたし。これは、意地でもみんなで無事にここに戻ってこなきゃね!

アヤさんに頼まれごとしたあたしがどれだけ強いか、アクシズの連中、思い知らせてやる!

って、別にアクシズとケンカしに行くわけじゃないんだけどさ。

「任せて。もう、誰にも悲しい思いはさせない。あたしが、守る」

あたしはそう、アヤさんの気持ちに答えた。

 「それじゃぁ、行って来ます」

「ママ、行ってらっしゃい!」

レベッカが、大きな声でそういった。レオナはそれを聞いて、かすかに目を潤ませながら、

レナさんに抱かれたレベッカに顔を摺り寄せて

「いい子でね。すぐ、帰ってくるから」

とささやき、名残惜しそうに離れた。


 あたしとレオナは、アヤさんたちに手を振って、ロビーからエプロンに向かった。

ルーカスが乗ってきてくれた飛行機に乗って、キャリフォルニアへ向かう。

格納庫からシャトルを引っ張り出してもらって、マスドライバーで宇宙へ打ち出されるんだ。

 そう思うと、なぜだが、不思議と胸が躍っていた。

レナさんは、恐くて嫌いだという、あの無重力の真っ暗な空間が、あたしの心を振るわせた。

あたしだって、好きだったわけじゃない。モビルスーツだろうが船だろうが、放りだされたら、

まず間違いなく助からないあの場所で戦った記憶が、あたしの脳の中にアブナい物質を放出させて、

ハイにさせてるんだろう。条件反射、ってやつだ。

なんだっけ、苛烈な戦闘を経験した兵士が、戦場の中でしか自分の気持ちを表現できなっちゃうヤツ、

何とか症候群?何とかホリック?たぶん、そういうのに近いんだろうけど、

あたしの場合、戦闘のせい、というより、そこで戦った大切な仲間のおかげなのかも、とも思う。

本当に短い間だったけど、ライラは、あたしにとって大事な友達だった。始めてできた、ライバルだった。

それをずっと見ててくれたルーカスも、結局ずっとついてきてくれたしな。

三人で駆ったあの宇宙へ、また上がるんだ。

 そう思って、ふっと気がついた。

なんだか、ハイスクール時代のスクールフェスを思い出すときと、同じ感覚だな、なんて思ってみたりする。

そうだな、どんなに恐い場所であれ、あの宇宙は、あたしの大事な思い出の場所なんだ。

 エプロンで乗り込んだ飛行機が、ルーカスの操縦で滑走路を離れる。

機内でシートを倒してのんびり空を見ていたら、隣に座ったレオナが話し掛けてきた。

「ありがとう、マライア」

「なにが?」

あたしはしらばっくれてやった。いまさらお礼なんて、必要ないじゃん。

こんなことを言うと、アヤさんはあんたは押しかけだけどな、って言うんだけど、

一緒に住んでる家族じゃん!困った時は、お互い様だよね。

「着いて来てくれて」

「あぁ、うん。まぁ、アヤさんにああ言われちゃね。それに、レオナに何かあったら、あたしもイヤだもん」

そう言って上げると、レオナは時々見せる、あたしもドキッとするくらいの、まぶしい笑顔を見せて笑った。

この破壊力は、アヤさん以上なんだよ…狙ってこんな表情できるようならすごいんだけど、

あいにく、レオナ自信はあんまりそういう意識がないらしい。これは、本人には言わない方がいいよね、うん。

無駄に乱発されてもありがたみが減っちゃうし。

 レオナの妹の、その、レイチェルって子も、こんなにかわいい顔して笑うのかな?

無事だと良いな…地球に連れて帰って、これまで離ればなれになっていた分までレオナと一緒に居て幸せになってもらわなきゃ。

 あたしはそんなことを思っていた。飛行機は半日ちょっとのフライトでサンフランシスコへ着いた。


 そのまますぐに、準備態勢に入っていたシャトルへと乗り込む。

 キャビンでノーマルスーツを着込む。

レオナは、これを着るのは久しぶりなようで、着用に四苦八苦していたのがおかしかった。

手伝ってあげて、あたしは副操縦席へ。ルーカスが操縦席に座る。レオナはちょっと後ろの、乗務員席だ。

<こちら、キャリフォルニア基地管制塔。貴機の打ち上げを担当するフォルク中尉だ。

 これより、リニアマスドライバーカウントダウンに入る。エンジン出力を確認>

「こちら、シャトル“ピクス”。よろしく頼む、フォルク中尉。現在、当機のエンジンはアイドリング状態」

<ピクスへ、了解した。カウント5で出力を最大にせよ>

「了解した」

<カウント開始する。15、14、13、12、11…>

ルーカスが管制塔と通信して、カウントダウンが始まった。

 どうしようもなく、胸がドキドキする。あの場所へ帰るんだと思うと、仕方なかった。

<8、7、6、パワーマックス>

ルーカスがスロットルを目一杯前に押し込んだ。エンジンが高鳴って、シャトル全体が震える。

「レオナ、大丈夫?」

「はい!」

ちょっと心配になって、ノーマルスーツ内の無線機でレオナに様子を聞く。

レオナからは、しっかりとした返事が返ってきた。平気そうだ。

<3、2、1、ランチ!>

ガツン、と言うものすごい衝撃が体を襲った。

内臓が潰されそうになるほどの強烈なGが掛かって機体が急速に加速し、

5キロもある滑り台みたいなマスドライバーが、ものの数秒で通り過ぎた。

機体は空中に放りだされ、夕焼けに染まった空が、目の前に広がる。

雲を突き抜けて、Gがさらに体に圧し掛かり、呼吸が苦しくなる。頭から血が抜けて行くような感覚。

見る見るうちに、真っ赤だった空の色が変わっていく。

最初は、紫に、そして、次第に紺に変わり、最後には、うっすらと白んだ黒になった。

その空の色の変化とともに、体にかかるGも軽くなり、外に星が輝きだしたころには、すっかり楽になっていた。


「こちらピクス。軌道上へ到達」

<こちらキャリフォルニア管制塔、フォルク。了解した。無事を祈る>

「感謝する、中尉」

 ルーカスが無線を終えてため息をついた。あたしは景気をチェックする。

気密状態は、大丈夫。他の異常も見当たらない。ここまでくれば、安定だ。

 「機体、オールグリーン」

ルーカスにそう報告する。

彼は、返事の代わりに、ノーマルスーツのヘルメットのシールドを開けて息をいっぱいに吸い込んだ。

そんな気分だよね。あたしは思わず笑ってしまった。

 それよりも、レオナの様子が気にかかる。ヘルメットを脱ぎ、ベルトを外して席を蹴る。

体がふわりと浮きあがった。天井に手をついて軌道を変え、レオナの据わっている席へと体を押し出す。

 レオナの席に飛び込んで、ヘルメットの中のレオナの顔を覗き込んだ。

レオナは焦点の合わない瞳を震わせていた。初めての大気圏離脱なんて、こんなものだ。

訓練もなしに、良く気を失わないで済んでいる方だ。

 あたしは、レオナのヘルメットを脱がせた。

「レオナ、聞こえる?ゆっくり、大きく深呼吸だよ」

そう言ってあげるとレオナは、一瞬、正気を取り戻して、酸素を胸いっぱいに吸い込んだ。

そして、その吸い込んだ空気を、ため息と一緒に吐き出す。

「すごいんですね…打ち上げって」

冷や汗をぬぐいながらレオナが言う。

「マスドライバーは速度が出るから特にね。ブースターの打ち上げの方が多少は楽なんだけど、

 この機体だと使い捨ての補助ロケットが必要で、高くついちゃうんだよ」

あたしはそう言いながら、レオナのベルトを外した。

 ふわりと浮きそうになったレオナがとっさにあたしの体にしがみついてきて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

窓の外には、青く輝く地球が見える。

 帰ってきたんだ、宇宙へ。ライラ、いる?ただいま…。

あたしは、いつの日だったか、ライラと一緒に戦艦の甲板で同じ地球を見上げていたときのことを思い出して、

こころの中で思わず、そう語りかけていた。


つづく!

今度はオナか
キャラクターが多いとミスも多くなるのかな?

乙。マライアたん視点は俺得。

>>338
明らかにミスタイプだろうに、拾わんでもいいだろw
たびたび表記の変わるマライアとレイラとは違うw

>>388
マジだ…これはキャラの多さとかっていうか編集中に消えたんだと思われ。
レオナとレナを混同しても、レオナのレを打ち忘れるってことはないと思うので…

>>389
感謝。マライア好きさん多い気がする。
フォローも感謝。でも安価まちがっとるw

つい安価ですごいもどったしまったわwwwwww

ZZ
マライアのふふーん♪は好きだな

マライア景気チェックてwww

株でもやってんのかwww

>>391
感謝ZZ!
マライアたんの嬌声はチャームポイントです!w
ふっふー!

>>392
誤字誤植はスルー推奨!


つづき落とします!


 宇宙空間の航行は、退屈だ。何しろ、移動の距離が地球なんかとは違いすぎる。

戦闘の警戒をしていなければいけない戦艦なんかと違って、こっちは常に共通ビーコンを発信して位置を周囲の船に知らせている民間船。

戦闘に巻き込まれることはそうそうないし、エゥーゴにしても連邦にしてもネオジオンにしても、

攻撃前に一声かけてくるのが普通だ。

 サイド3までは、通常のルートで10日。

先月、サイド3は連邦からアクシズへと譲渡され、アクシズとサイド3を結ぶ宙域は、

エゥーゴ先方の連邦軍とアクシズ率いるネオジオン軍とが戦闘状態にある危険な場所だ。

うまく迂回してなるべく安全なルートを通らなきゃいけないから、それを見極めるために、もう少し時間がかかるかもしれない。

 とはいえ、そのあたりまではまだまだ数日かかる。

船は戦闘で撒かれた残留ミノフスキー粒子雲に入らなければ座標情報を入力してほとんどオートパイロットだし、

パイロットたるもの、無重力状態での筋力低下に備えたトレーニングは欠かせないけれど、それにしたって、暇だ。

持って来た映画のデータディスクはもうほとんど見終えちゃったし、

景色を楽しもうにも、どこまで言ったって星とデブリが浮いているくらいなもの。

動かす機会の訪れていないZガンダムの整備なんて、一回したら済んじゃったし…。

 あたしは船内の居住スペース、重力装置の稼働するエリアにあるラウンジでボーっとレオナを観察していた。

重力装置、なんて言っても、居住エリア全体が一種のポッドになっていて、

それが船の内側でぐるぐる回転して遠心力で重力っぽい物を生み出しているにすぎず、

ちょっと思い切りジャンプしたらすぐに振り切ってポッドの中に浮き上がってしまうんだけど。

 そんな中、レオナはジッとソファーに座って、虚空を見つめていた。

時折、おびえたような表情をしたかと思ったら、ぶんぶんと首を横に振って、ヘラッとにやけてみたり、

そうかと思えば、急におおきなあくびをしたり。まぁ、変に緊張しまくっているよりはいいんだけどね。

レオナもなんだか、開き直ってしまってるんだろうな。

 それにしても…

 暇だ…


「ね、レオナ。なんかお話ししよ」

ふと思い立って、そんな無茶ぶりをレオナにしてみた。レオナはキョトンとして

「は、話って…なにを?」

と返してくる。まぁ、そうなるよね、こんな話題の振り方したって。

「たとえば…好きな食べ物、とか」

あたしが言うと、意外にレオナは真剣に考えて

「んー、甘い物。生クリームのケーキとか、チョコレートとか、アイスクリームとか」

とニコニコしながら言ってきた。

 アイスクリームか、そう言えば、ギャレーの冷凍庫に1ガロンのカップで買ってきたやつがあったなぁ。

「食べよっか!」

あたしが言うと、レオナの目が輝いた。

「あるの?!」

「うん、ギャレーの冷凍庫にあるよ」

「ちょっと行って持ってくる!」

レオナはそう言うが早いか、ソファーから飛び上がってラウンジの隣のギャレーへと飛んで行った。

レオナも、もうすっかり無重力にはなれたみたい。

いや、もともとスペースノイドだから、初めてってわけでもないかな?

でも、いくらスペースノイドだからって、基本的にはコロニー暮らしで、

そうそう、こんなフワフワした空間に出るってことはないだろうし。

まぁ、ただ、慣れたんなら良いことだ。下手をすると、本当にケガしちゃったりするんだよね、宇宙って。


 それにしても、レオナは面白い。真剣なときは、凛々しいっていうか、

あたしの方が年下なんじゃないかって思うくらいに張りつめた表情を見せるのに、

そうでないときは、ああやって子どもみたいにはしゃぐんだ。

そんなのを見てると、ハンナとは違うかわいさがあって、気持ちがなごむ。

小さい頃から、ずっと研究所で育ったからなのかな。

そう思うと、少しつらい気持ちになるけど、でも、レオナの心の底、っていうか、真ん中っていうか、

そう言うところにある本当に大事な部分は、とてもまっすぐで健やかなように感じられる。

研究所に入れられる前は、両親に大事にされてたんだろうな…

そう言えば、レオナの両親のことって、聞いたことないな。

妹がいる、ってことは、少なくともそれまでは生きていたってことなんだろうけど、

今はどうなんだろう?もしかしたらそれを調べることも含めて、サイド3に行きたいって思ってるのかもしれない。

もう少し、サイド3に近づいたら、いろいろと聞いてみよう。

今聞いて、変に意識させた状態を長く続けさせるのはつらいもんね。

 そんなことを考えていたら、レオナがサーブボックスと何かの袋を抱えて戻ってきた。


「おかえり」

「マライア、このビスケットも食べていいかな?」

袋は、確かルーカスが持って来たやつだ。

「良いんじゃないかな」

あたしはそう返事をしながら、両手の塞がっているレオナを捕まえて、ソファーに座らせる。

 レオナはサーブボックスの中からお皿とスプーンとチューブに入った紅茶を取り出してテーブルに並べ、

さらに中に詰め込んできたらしいアイスクリームを別のスプーンでかきだして、

ホントにもう、ニッコニコしながらお皿に盛りつけて行く。

アイスクリームを分け終わると今度は、ビスケットの袋を開けた。

「あ!これ、チョコレート着いてる!」

途端に、また、顔がキラキラと輝く。なんだかなぁ、こんな無邪気なの、まるでホントに10歳の子どもみたい。

 レオナは、片面にチョコレートのコーティングのされたビスケットを二枚ずつアイスクリームに添えて、

一皿をあたしの前に差し出してきた。

 連邦軍は宇宙では基本的にチューブ食。こういう甘い物とかが支給されることはすくないから、

常に楽しみとして自分で持参して乗船しておくと、気が滅入った時には即効性があっていいんだ。

あたしがアイスクリームを持ち込んだのも、ルーカスがビスケットを持って来たのも、そう言う習慣だったから。

他にも、いろいろと持ってきてる。無くならないように、ちょっとずつ使ってペース配分していくのが大事だ。

 レオナは、早々とビスケットでアイスクリームをすくって口に運んでいる。

パクッとビスケットにかじりついたレオナは目を満面の笑みで

「んー、おいしい!」

と身もだえしている。

 あぁ、アヤさん。あたしはそう言う気はないから、最初は、アヤさんがレナさんとイチャイチャしてるのを見て、

なんか複雑な気持ちだったけど、でもレオナのこういう顔、レナさんも良くアヤさんに見せるよね。

今だけはなんとなく気持ちが分かるよ…これは、なんていうか、目一杯愛でたくなるね。かわいいんだもん。

 レオナは幸せそうにアイスクリームを食べ続ける。

あたしも、とりとめのない話をしながら、レオナの幸せそうな笑顔を見つつ、久しぶりの甘味を楽しんだ。


 アイスクリームを食べ終えて片づけをして一息ついていたとき、不意に船内に警報が鳴った。

あたしはなんだか、不謹慎にもちょっとワクワクとしてしまって、一気にソファーを蹴って、操縦室へと飛び込む。

「ルーカス、どうしたの?」

「レーダー波を感知。何者かにキャッチされました」

あたしが聞いたら、ルーカスがそう答えた。

「ネオジオン?連邦?」

「未確認です…いや、待ってください」

<こちらはエゥーゴ所属艦。航行中の民間シャトルへ。この宙域は現在、警戒区域に指定されている。

 侵入の目的を説明せよ>

唐突に無線が入ってきた。エゥーゴか…逮捕されるなんてことはないだろうけど、いろいろ聞かれると面倒だなぁ…

 「こちら、民間シャトル“ピクス”。当船は、ビスト財団より戦災遭難者の捜索と救助に当たっている慈善団体です。
  現在は、サイド3付近の宙域へ移動中」

<あそこは現在戦闘区域だ。民間船の侵入は禁止されている>

「そんなの、あんた達が勝手に決めたことでしょ?戦闘でモビルスーツや戦艦から投げ出された人を、

 あんた達は敵味方区別なく救助してるわけ?違うでしょ?悪いけど、警告は承知でいくからね!」

あたしは思わずそんなことを口走っていた。この無線のヤツ、偉そうで気に入らない。

こっちの身を案じているんなら、もうちょっと優しく言ってくるべきだし、ただ邪魔なんだって言うなら、

こっちにだってそれ相応のやり方があるってことで納得してもらおう。

 そんなことを思っていたら、急に、無線の声が変わった。

<あなた…姓官名を、名乗れますか?>

あれ?こっちの人はなんか物腰がちょっとやわらかい感じ…。しかも、どこかで聞いたことのある声…

「マライア・アトウッド…大尉。カラバの、非正規構成員だけど?」

<やっぱり大尉なんだな!>

声の主は、すこし興奮したみたいにそう言ってきた。あたしは、それだけで、彼が誰かを確信できた。

「アムロ・レイ!?やだ、嘘、久しぶり!」


<こちらが見えるか?そちらから、左舷、12時方向>

あたしはアムロの声を聴いて、外を見やった。

進行方向から見て左側の上方に、ペガサス級の戦艦が航行しているのが見える。

ただ、ペガサス級には珍しく、塗装が黒い。宇宙空間での偽装色。あれは…なにか、隠密任務を帯びているの?

「見えたよ」

<サイド3へ行くと言うのは本当なのか?>

アムロがそう聞いてくる。

「うん。ちょっと用事があってね」

あたしが返事をしたら、アムロは黙った。

長い付き合いってわけじゃないけど、ティターンズとカラバの二重スパイ時代、2、3度作戦で一緒になったことがある。

彼にも、あたしの能力は知ってもらえている。

彼らエース部隊ほどじゃなかったけど、それでも、あたしだってそこいらのパイロットには引けをとるレベルじゃない。

彼となら、話が早そうだ。

<…そうか…それならば、止めないが。万が一のときに戦えるのか?>

「うん、ケージにZガンダム積んでるから、まぁ、あなたクラスのパイロットに絡まれなければ、なんとかなるでしょ」

あたしが言ってやったら、アムロはちょっと声を上ずらせて

<大尉の腕なら、そうだろうな>

なんて返事をしてきた。なにこの褒め合い。ちょっとむず痒い。


 それにしても、アムロ、いつ宇宙に上がったんだろう?

しかもあんな戦艦に乗っているなんて…ワケありには違いないよね…

「アムロこそ、そんな真っ黒な木馬に乗って、なにか大事な任務でも?」

<あぁ…ある男を探しているんだ>

「ある男…?」

<この状況を、静観しているらしい…何かを企んでいる可能性がある>

アムロは、なぜだか憎々しげに言った。これは、あんまり深入りしない方が良さそうだな。

なんだか、直感的にそう感じた。

「良くわからないけど、あなたがアクシズと戦うよりもそっちを取ってるってことは、よっぽどのことなんだね…」

そんな風に返事をしてから、ハッと、彼のことを思い出した。そう言えば、旧知の間柄だったはずだ。

 「その、ハヤトの話は、聞いてる?」

<ああ…残念だった>

アムロは、無線でも表情がうかがえそうなくらいに落ち込んだ様子でそう言った。

「家族がいたんだよね…」

<あぁ、俺の幼馴染だ…>

「そっか…ショックだっただろうね」

なんだか、こっちまで気持ちが落ち込んでくる。

<覚悟はしていただろうさ>

アムロはやっぱり、落ち込んだ様子だった。でも、すぐに切り替えられたみたいで

<サイド3に行くのなら、近くまで運ばせよう。俺たちも月へ戻る最中だ。この艦ならそのシャトルより、足も速い>


と言って来てくれた。

 急ぐならありがたい話だけど…あたしはルーカスをチラッと見やって、

それから、いつの間に後ろに来ていたレオナの顔も見る。

「大丈夫なの?」

レオナが心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。あたしは笑顔を作って

「うん!レオナの脱出の手助けもしてくれた人なんだ!大丈夫だよ!」

と言ってあげた。

 それから連絡を取って、あたし達のシャトルは黒いペガサス級のドッグに着艦した。

エアーの充填を待って、アムロが軍服であたし達をシャトルまで迎えに来てくれた。

事情を説明してほしい、と言うので、あたしはこの船の艦長なんだという、ブライトと言う人物とアムロとだけになってもらって、

レオナと一緒に事情を説明した。アムロはさえない表情を見せて、

「すまない。俺たちが、ニュータイプの正しい道を作れていれば…」

と謝った。あたしも思ったけど、レオナはそれに、そんなことはないですよ、と異を唱えた。

アムロなんかが気にすることじゃない。これは、人が宇宙に上がったそのときから始まっている負の連鎖なんだ。

 一通り話をしてから、あたし達は艦の部屋に通された。

あたし達の民間船に改装されたシャトルの居住スペースに比べると、簡素で飾り気のない空間だったけど、

ライラといた頃のことを思い出して、なんだかすごく懐かしい心持ちになっていた。





 時間にして42時間後、あたし達はアクシズ近くの宙域に到達した。

辿り着く5時間ほど前から、あたし達は出発の準備を進めていた。この先で、アムロ達の艦は月へ戻る。

あたし達は、このまま、アクシズとサイド3をつなぐ地帯へと突入する。艦長のブライトは、態度とは違って親切で、

準備しているあたし達に、現在行われている戦闘の要旨と場所、

それから付近に展開しているエゥーゴ・連邦軍勢力と、分析から判明しているネオジオン軍の勢力の配置図のデータなんかを渡してきて、

心配そうな面持ちであたし達の送り出しに立ち会ってくれた。そ

んな表情のままあたし達それぞれに握手をしてくるくらい思い入れてくれたらしくて、

ありがたいやらオーバーに思えるやらで、なんだか笑えてしまった。

 <大尉、気を付けて>

「ありがとう、アムロ。あなたもね!」

あたしはアムロと無線でそう言葉を交わして、ルーカスの操縦で戦艦からシャトルを出した。

ブライトのくれた情報では、つい12時間前、この場所では、エゥーゴとネオジオン、そして、

ネオジオンから反乱を起こした艦隊の三つ巴の戦闘が繰り広げられていたらしい。

ネェル・アーガマと言う戦艦の持つ、エゥーゴの先遣部隊の活躍で戦端が切り開かれていて、

今やエゥーゴ艦隊の主力はサイド3間近に迫っているって情報も手に入っていた。

あそこまで地球を追い込んだネオジオンが、たった一個部隊にここまで押し込まれているなんて…

おそらく、その反乱と言うのが相当の混乱を呼んだに違いない。

エゥーゴや連邦にとっては、これ以上ないチャンスだっただろう。


 あたし達の船は暗闇を進む。アムロの艦から離れて数時間。明らかに周囲に浮かぶデプリの数が増えていた。

時折、ガンガンと、シャトルの外壁に何かがぶつかる音がする。

これは、地球に戻る前にちゃんと点検しないと、突入時に摩擦熱が入りこんだら途中で吹き飛んじゃうかもしれない。

 「大尉。近接レーダーを起動させます」

「うん、了解。このデプリ群はやっかいだね…」

ルーカスの報告にそう返事をしつつ、あたしは周囲を見渡す。浮かんでいるデプリは、コロニーの残骸だけではない。

戦艦や、モビルスーツの破片みたいなものもある。

時折、そのどれでもない、明らかにかつて人間だった物の破片なんかも、見て取れた。

本当にここは、戦場だったんだ…あたしは、その気配に気持ちを引き締める。

 「ルーカス、Zガンダム出す準備ってできてる?」

「はい。大尉が乗ってから、20秒で射出できますよ」

「オッケ、ノーマルスーツ着といた方が良いね」

あたしはそう言って、後方に居たレオナを見た。レオナはキョトンとしていたけど、

「レオナ、ここからは、ノーマルスーツを着ていよう。
 なにかあったときに、のんびり着込んでる余裕はないかもしれない」

と言ってあるげると、

「うん」

と返事をしてニコッとほほ笑んだ。

 ルーカスと操縦を交代しながら、ノーマルスーツを着用する。

ミノフスキー粒子が濃くて、超短波の近距離レーダーでさえも、ほとんど機能していない。

こんなレーダーあってもなくてもおんなじようなものだ。

だって、レーダーに映るくらいのサイズのデプリなんて、映る手前から肉眼で見えてるんだから。

「マライア…!」

急に、シートを離れたレオナが、副操縦席の後ろに飛んできた。

「レオナ、危ないよ!」

あたしはそう言いながら、レオナをつかまえて引き寄せてから

「どうしたの?」

と聞き返す。レオナは厳しい表情をして、真っ暗な宇宙のかなたを見つめている。


「いる…生きてる…」

「生存者?感じるの…?」

あたしは、レオナからほとばしっている研ぎ澄まされた感覚を捉えて、自分も神経を集中させる。

この一帯には、戦闘の痕跡だろう、恐怖や苦しみの感覚が広がっている。

それにとらわれないように、かき分けるように閉ざしながら、レオナが感じているだろう何かを探る。

 寒さ…これは、寒さだ…それに、恐怖…?いえ、これは死者の思念?ううん、違う。これはもっとリアル。

生きている人の、震える感覚…。

 「ルーカス、速度落として、慎重に。誰かいる」

「了解」

ルーカスがスロットルをいくつか操作して微かなマイナスGが体にかかる。

あたしは自分と前に抱いたレオナのノーマルスーツからアンカーワイヤーを引っ張って、シート下のフックにひっかける。

 そうしながら、暗闇のデプリ群に目を凝らす。感じる…近く、近づいている…もっと先、もう少し…すぐ、近くだ…!


「あれ!」

レオナがそう言って声を上げて指を差した。そこには、進行方向から迫ってくる球体があった。あれは…脱出ポッド!

 「速度落とします。大尉、あれを回収するのは無理です。Zで直接、パイロットだけを回収しないと」

「うん、分かった。ケージへ行くよ。乗り込んだら、連絡する」

あたしはそう言ってレオナを解放してアンカーワイヤーを外した。席を立とうとしたあたしをレオナが捕まえた。

いつの間にか、レオナもワイヤーを外している。あたしの慣性に引っ張られて、レオナと一緒に天井にぶつかる。

柔らかく受け身を取りながら、レオナはノーマルスーツのヘルメットの中からあたしを力強い目で見つめて

「あたしも連れて行って…」

と言ってきた。その瞳は、確信だった。まさか、あれが、レイチェル?わかるの、レオナ…?

 天井に跳ね返ったあたしは、レオナをつかまえたまま操縦室の中を漂う。

別に、中の人を回収するくらい、ひとりでもできそうだけど…でも、かなり怖がっているのは確かだ。

レオナが一緒に居てくれれば、錯乱でもしていたりしたときに落ち着かせてくれるかもしれない。

「わかった、レオナ。行こう」

あたしはそう言って笑ってあげた。レオナも、ヘルメットの中で嬉しそうに笑顔になった。


 あたしはレオナの手を引いて、操縦室から居住スペースを抜けてケージへのハッチを開ける。

レオナに合図をして、ヘルメットのシールドを閉じさせて、酸素ボンベを開く。

ケージの中も気密されているけど、これもまぁ、一種の習慣ってやつだ。

 ケージに横たわるZガンダムのコクピットを開けて乗り込む。

機体の酸素供給装置にあたしとレオナのノーマルスーツを繋いで、

操縦席にいたときとは逆にあたしがシートの前に座り、レオナを後ろにして二人まとめてベルトで固定する。

「ルーカス、準備出来た。ハッチ開けて」

<了解。ハッチ、開けます>

無線が聞こえてくるのと同時に、機械音がして背中側のハッチが開いた。

シャトルのアームが動き、モビルスーツがシャトルの外へと放り出される。

 スラスターを吹かして機体を安定させる。周囲を360度見渡せるモニターであたりを確認する。

脱出ポッドは、シャトルのすぐ上を飛びぬけて、後方へと流れて行っている。

バーニアを点火させて脱出ポッドを追って捕まえ、逆噴射でポッドも機体も制止させた。

 「脱出ポッドに乗っているパイロット!助けに来たよ!ハッチ開けて!」

あたしは接触通信でポッドへのコンタクトを試みる。でも、ポッド側からは何の反応もない。

死んじゃっている…感じではない。これは生きている人の感覚。

こちらの呼びかけに答えられないほどにおびえているんだ…。

 「マライア」

レオナがそう声を掛けてくる。考えてることは、なんとなくわかる。

「私が連れてくる。ここでモビルスーツの操縦をお願いしていい?」

レオナはそう言ってきた。そうするほかにないよね。

レオナにモビルスーツの操縦は出来ないし、あたしが声を掛けて反応がないのに、なおもあたしがポッドへ行ったって、状況が変わらないかもしれない。

あたしはまた、ノーマルスーツからアンカーワイヤーを引っ張ってシートにひっかけた。

一度ベルトを外してレオナをシートから浮かせてからシートにもどってベルトをする。

「レオナ、開けるね」

「うん」

レオナの返事を待って、あたしはコクピットを開いた。

コクピット内に充填されていた補助のエアーが一瞬にして外に吹き出す。

そのエアーの勢いに乗って、レオナが外へ飛び出していく。

アンカーワイヤーが伸びて行って、あたしの操縦でZガンダムが抱えている脱出ポッドへレオナが漂っていく。

レオナが脱出ポッドにぶつかって、姿勢を安定させた。

 あぁ、なんだかハラハラしてきた…胸がキュッと、詰まるように苦しくなる。


 レオナはそれから、ポッド中を確認し、外側にある強制開放のボタンを操作した。

ハッチが開いて、ポッドからもエアーが吹き出る。

そのエアーと一緒に出てきたパイロットを、レオナは両腕と両脚を絡めて捕まえた。

レオナは、そのままスーツのワイヤーを自動リールで巻き取って、コクピットへ戻ってきた。

 レオナの腕に抱えられたパイロットは、ダークグリーンと白っぽいカラーリングの、

ジオンの汎用的なノーマルスーツに身を包んでいて、ブルブルと目で見てわかるくらいに震えていた。

小さくなって…いや、違う。このパイロットは、小さいんだ。子ども、なの…?

 そんなことを思いながらコクピットを閉じてシャトルへ戻りながら、ルーカスに連絡した。

「ルーカス、パイロットの保護完了。これから収納位置につくから、回収お願いね」

<了解。位置についたら、連絡をください>

あたしは、それを聞きながらモビルスーツをシャトルの下側に仰向けにすべり込ませる。

ルーカスに連絡をしてすぐに、シャトルのケージから伸びたマグネットアームがモビルスーツをつかまえて、

ケージの中へ引き込んでくれる。

 「収納完了。異常ないよ」

<了解、ハッチ閉鎖>

出た時と同じ機械音がして、シャトルのハッチが閉まる。ほどなくしてまたルーカスから無線が入り

<ケージ内、エアーの充填完了しました>

と知らせてくれた。あたしは、コクピットを開ける。

レオナのアンカーワイヤーを外して、片腕を引き、居住区へと続く廊下へのハッチの中へと引きこんだ。

 ハッチを固く締めて、気密を確認してから、ヘルメットを取る。ふぅ、と、ため息が出た。

パイロットはまだ、レオナの腕の中で震えている。

「レオナ、居住スペースへ行こう」

レオナにそう言って、廊下を抜け居住スペースに向かう。

くるくる回っている居住スペースのラウンジに据え付けのソファーに手をかけて、遠心力に体を預ける。

あたし達は、フワッと居住スペースの床に降り立った。

 すぐにルーカスが操縦室から中へ入ってくる。

 レオナが、パイロットのヘルメットの中を覗き込んでから、首元のボタンに触った。

プシュッと言う、空気が漏れる音とともに、ヘルメットが外れた。レオナがそのヘルメットを取って、床に置く。

その中から出てきたのは、レオナと同じ亜麻色の髪の少女だった。

恐怖と混乱にゆがんだその表情は、レオナに良く似た…ううん。

レオナと瓜二つの、まるで、10年前くらいの、まだ子どもの頃のレオナ本人みたいだった。


 あたしはルーカスに言って、甘いお茶と、楽しみに取っておいた地球から持って来たお菓子を取ってきてもらった。

それを、レオナにそっくりなこの子は、戸惑い気味に口にした。

一口食べて、お茶を飲ませたら、何かが緩んだんだろう、残りのお菓子を口一杯に頬張って涙を流した。

なんだか、どれだけ怖かったのかが伝わってきてしまって、胸が詰まった。

 それから、体の自由が利かないくらいに震えた彼女のノーマルスーツを脱がして、リラックスをさせた。

ルーカスは、デプリのない宙域まで船を移動させ、

あたしとレオナも、ノーマルスーツを脱いでこの、“小さなレオナ”のそばに着いていた。

 「あの…助けてくれて、ありがとう…」

どれくらい経ったか、落ち着きを取り戻した彼女はおどおどしながらそう言ってきた。

なんだか、拾ってきた子猫みたいだ…ふと、そんなことを思ってしまう。

「あの、あなた達は、誰…で、すか?アクシズ?エゥーゴ?」

「どっちでもないよ。どっちでもないけど、あなたの味方。あなたを助けに来たんだよ」

レオナがそう言う。

「わ、私の…味方…ですか?」

彼女はなおもおどおどと、慣れてなさそうな敬語を使ってレオナの言葉を繰り返す。

なんだか、気が重くなっちゃってダメだな、こう言うの。そう思ったあたしは

「普通に喋っていいよ!あたし達は偉い人でもあなたに命令するような人でもないんだからさ」

って言ってあげた。そしたら彼女は、少しだけ何かを緩めたような気配をさせた。

よかった、話せばちゃんと、分かってくれる子みたいだ。

「あたしは、マライア・アトウッド。よろしくね」

「私は、レオニーダ・パラッシュ…あなたの、お姉さん、みたいなものかな。レオナって、呼んで」

あたしが名乗ると、レオナも名乗った。

…あれ?レオナ、今、お姉さんみたいなもの、って言った?姉妹だったんじゃないの?

この子が、レイチェルじゃ?それとも、いきなり驚かせないようにしているのかな?

「私の…姉さん?」

彼女は、ハッとした表情でレオナを見返す。

「あなたの、名前は?」

レオナは、彼女にそう尋ねた…待ってよ、レオナ。名前って、やっぱりこの子、レイチェルじゃないの…?

こんなにそっくりなのに、血のつながりがないなんて思えない。

だけど、レイチェルではない。他の姉妹が居たってこと?

 あたしがそんなことを思っていたら、名を聞かれた彼女は少し困った顔をして戸惑いながら、言った。



「名前…?分からない…。でも、私達はプルって呼ばれてた。私も、プル。プル、ナイン」







つづく。



プルプルプルプルーっ!!

レオナちゃんの笑顔が凶器レベルなのは血統だったのか・・・ッ!

乙乙
やっぱり来たか、プルシリーズ
みんな悲しい最期の子ばっかりだし
一人くらい幸せになってもいいよね



それはそうと、プルシリーズのノーマルスーツって
プルツーとお揃いじゃなかった?


「名前…?分からない…。でも、私達はプルって呼ばれてた。プルナイン」

プルナイン?ナインがファミリーネーム?でも、レオナはパラッシュ、だったよね?

ホントに姉妹じゃないってこと?それとも養子か何かに出されたってことかな?

それに…今、彼女の言った「私達」 、って、どういうこと?

あたしはレオナを見やった。彼女は、真剣な表情であたしを見つめ返して来る。そして

「マライア…怒らないで、怖がらないで聞いてくれる?」

と言ってきた。

ビビり屋のあたしとは言え、レオナやこの子が幽霊だなんてことでもない限り、

別に怖いなんて思う事もないって言い切れるけど…怒る、ってのは、気になる。

何か、あたしに対して罪の意識でもあるのかな?たぶん、怒るなんて事もないだろうけど、

もしレオナがそんな風に感じてるんだったら、余計に話は聞いてあげた方が良いのかも知れない。

「大丈夫だから、話して」

あたしがそう言うと、レオナはコクッと頷いた。それから、静かに喋り出した。


「彼女は、厳密に言えば、私の妹じゃないの。まだ戦争も始まる前のジオンに居たときに、

 ちょうど、私はこの子くらいの歳だったけどね…私の体から取り出されたips細胞から、二人のクローンが作られたの。

 ニュータイプって言う言葉の概念はなかったけど、ある種の遺伝的要素が、

 特殊な脳波とコミュニケーション能力を発現させる、と考えていた博士がいてね。

 軍事転用も見据えていたんだと思うんだけど…

  とにかく、そう言う現象の研究対象だった私から取り出された細胞に、

 それぞれ異なった遺伝子操作を加えて産まれた二人の子がいた。

 エルピー・プルと、プルツーって呼ばれる、双子。

 そして、産まれてすぐの検査で、よりニュータイプとしての能力が高いと見込まれたプルツーのクローンとして、

 その細胞を使って産まれた10人の子ども達がいた。

 彼女達はプルシリーズって呼ばれて、プルツーと同じように、番号を振られていたの。

 彼女は、その中でもプルナイン、9番目のプルとして生を受けた子…。

  最初のクローン、エルピー・プルは、私の名前からとったんだ」

「レオニーダ・パラッシュ…L.P…」

「うん、そこに人々、って意味のピープルを掛けて、

 最初のクローンの二人はエル・ピープル、と呼ばれることになった」

「レオナ達、って意味、か…」

「うん…そもそも、プルって名前が一人歩きした時点で、オリジナルは最初のプルとプルツーになったんだろうけどね…」

「そうだったんだ…でも、それでどうしてあたしが怒るって思ったの?」

「だって、ずっと妹だって、言って嘘を付いてたし…それに、クローンだ、なんて事も…

 怖がらせたり気味悪く思われたりするんじゃないか、って…」

「あぁ、なるほど、そう言うこと…」

「うん」

「別にそんなこと思わないよ。

 こっちに来る前にいきなり、クローンだなんて言われてもどう受け止めて良いか混乱しただろうしね。

 でも、こうして彼女を見たらそれも納得しちゃうよ。だって、レオナに瓜二つだもん。

 姉妹だって言う方がなんだか不自然なくらいだし。それにさ、そうやって命を道具みたいに扱うのは良くないとは思うけど…

 でも、そのお陰でこの…プルナインちゃんは産まれたわけでしょ?

 本人がするのならともかく、無関係なあたしがそこを否定しちゃってもさ、なんだかかわいそうじゃない」

あたしはそう伝えてあげてから、プルナインの方に、怖がらせないようにゆっくり近付いてからそばにしゃがんで、

ガシガシと頭を撫でてあげた。

「無事でよかったね…あたし達が守ってあげるから、安心していいよ。

 もう誰にもあなたを道具としてなんか扱わせないからね…!」

そう言って笑ってあげると、プルナインの目に涙が涌いてくるのが見えた。


「ね、レオナ。この子にちゃんとした名前をつけてあげようよ!ナインなんて番号じゃなくてさ。

 レオナ・パラッシュの妹としての名前を、さ」

「私に、名前を?」

「良いかも知れないね」

「じゃぁ、何にする?」

「うーん、それじゃぁ、マライアとレオニーダからそれぞれ文字って、マリーダ?」

「あ~…それはいろいろとどうかなぁと思う…ニュータイプ的に」

「そう?」

「マリーダ?」

「そう。私の妹だから、マリーダ・パラッシュ」

「それがいい!」

レオナの言葉を聞いた瞬間に、プルナインの表情が輝いた。

「いいの!?」

「私を助けてくれた二人の名前なんでしょ?それ、嬉しい!」

プルナイン、いや、マリーダは顔をキラキラさせてそう言って来る。

「本人が気に入っちゃったんじゃ、なぁ」

あたしはそう呟いて渋々レオナの顔を見て頷いてあげた。良いのかなぁ、そんな名付け方で…?

いいのかな、ね、平気か

な、これって?

そんなあたしの気持ちなんか知りもせずに、レオナはマリーダと嬉しそうに話をしている。

「姉さんは、レオニーダって名前でレオナなんだね!なら、私は、マリ?マリー?」

「マ、マリがいいんじゃないかな!それがかわいいと思う!」

あたしはその会話を聞き逃さずに、相づちを打った。するとマリーダは

「ホントに!?」

と、一層顔を輝かせる。そして本当に嬉しそうな顔をして、

「じゃぁ、私は、マリーダで、マリが良い!」

と声をあげた。

それにしても、かわいいな。素直に、そう思った。無邪気って言うか、天真爛漫って言うのか。

こんな子が、噂に聞いたジオン、アクシズのニュータイプ専用機に乗せられて、戦闘に参加させられていたというんだ…

そして…さっきの話を考えれば、少なくとも彼女の姉妹達、10人近くが、戦闘で死んでいるってことになる…

戦争のために作られて、戦争のために死んでいったんだ…こんな、無邪気な子ども達が…

 ニュータイプは戦争の道具なんかじゃないのに…この計画を考え付いた連中は命を何だと思ってるのよ!

まだ生きていておんなじことしようとしてるんなら、あたしがそこにいる皆を助け出した上で、

ハイメガ粒子砲で吹き飛ばしてやるんだから!

 あたしがそう怒っていたら、不意にマリのお腹がグウと鳴った。

レオナがクスクスと笑う。何がおかしいの?と言わんばかりのマリの頭を、レオナはごしごしと撫でると

「食事にしようか。船の中じゃ、良いもの出してあげられないけど…

 もうしばらくしたら、コロニーに入れるから、そうしたらそこでおいしいもの食べようね」

「うん、食べる!」

マリはまた、キラキラの笑顔でそう言って、レオナに抱きついた。


つづく!


>>408
あのSDのプルは現代では条例に引っかかるんだろうか…

>>409
そうなんです。
レオナは、プルシリーズのオリジナルという設定でした。
Z編からの最後の伏線を回収できてほっとしています。


大事なことはプルオリジナルなレオニーダ・パラッシュさん22歳なのですよ。
イコール、22歳なプルシリーズともとれるわけです、はい。

>>410
感謝!
そうなんす。プル達もね、一人くらいは、ね…。

ノーマルスーツ、すごく曖昧で、確かに赤黒のイメージのが強かったんですが
一応調べてみたら、普通カラーのノーマルスーツ来てるキャプ画があったので
そっちに合わせてみました。もし勘違いだったら赤黒で脳内保管よろしくですw

マリーダさんなんでしょ!

乙!

このマリーダさんはトゥエルブのマリーダさんとは違う訳だよね、当然。

あと細けぇ話で申し訳ないけど、宇宙のゴミは「debris」だからデ「ブ」リじゃないかな

9と12がマリーダということは10も11もマリーダ!

>>416
要するに、レオナをマリーダクルス(CV甲斐田裕子)で再生可能なわけですw

>>417
別人ですね。ですが、なぜか偶然()同じ名がついてしまいました。
デプリやないのか…ずっとデプリだと思ってた。あかん、これはガチの勘違いだ、一番恥ずかしいやつや。
吊ってくる、いや、ザクⅢに特攻してくる。

>>418
なにその謎の公式w

つまり今後、マリーダさんの外見しながらあんなマリーダさんやら、こんなマリーダさんやら見られる事にw
滾りますなムハー!

>>419
マシュマー「さあ、私の胸に飛び込むがいい!!」

乙。

>>420
これまでものレオナさんも再生してあげてくださいw

>>422
あんたのザクⅢじゃないやい!

>>423
感謝!


すみません、仕事がアレのアレで全然投下できてません。

今週末頑張るんで、生暖かくお待ちください。

すみませぬ…

コテハンのせいなのか、完璧撃墜状態…
しかも夏バテか調子悪くて集中できず、です。

飽きられてなければ、もうしばらくお時間ください(>_<)


すみません、キャタピラ改めアウドムラ改めドダイです。
ご無沙汰しております。

土曜出勤とかなんなのマジで。

続きかけておりませぬ…申し訳ない。
今から書きますです!目指せ、今夜中の投下!

お、おかえり
楽しみに待ってる

個人的にはキ(ryア(ryドダイには慌てて書くよりもプロット練るのに時間かけて欲しい。
本当に大好きな展開してくれるから。
だから慌てず焦らずとっとと書きやがれw

>>431
そういってもらえるのは大変うれしいです。

自分としても、かなり大事に書きたいなあという思いがあって、
集中できない状態での投下はなんだか抵抗感強くて…

もうしわけない。


ってなわけで!
今日は頑張れた!

投下します!


 「ねぇ、大丈夫?」

道を歩きながら、レオナが心配そうにマリを支えている。

あたし達は、マリを助けた場所からしばらくの航行で、サイド3にたどり着いた。

コロニー入りを管理していたエゥーゴの連中には怪しまれたけど、結局あたしの軍籍をカラバに確認してもらって、

なんとか許可が降りた。いちいち地球に確認するなんて、疑り深い指揮官だったなぁ。

こっちは、そんなこともあろうかと思って、

ちゃんとカラバのワッペン付きのジャケットを人数分用意して着込んでたっていうのに。

 サイド3に着いてからすぐに、あたし達は都市部の喫茶店へと脚を運んでいた。

もちろん、マリとの約束を果たすためだったけど、はじけ飛んじゃうんじゃないかってくらい喜んだマリは、

ハンバーグのランチとデザートにチョコレートパフェを食べて少ししてから、気分が悪い、お腹が痛いと苦しみだした。

 あたしも、マリが食べているときにちょっと気になってて、止めれば良かったんだけど、

要するに、宇宙旅行症候群、ってやつだ。

 宇宙では、固形物を食べるよりも、栄養素を混ぜ込んで作ったチューブ食がメインの食生活になる。

大人でも、二本食べれば摂り過ぎなくらいで、長く宇宙にいると胃が縮小しちゃう、ってあれのこと。

マリがどんな生活をしていたのかはわからないけど、すくなくともずっとアクシズなんかに居たんだとしたら、

まともな固形物なんて、初めて食べるかもしれない。多少、気分が悪くなっても仕方がない。

 「マリ、頑張って。もうちょっとで港だからさ」

あたしは青い顔をしたマリをそう励ます。

でも、マリは返事もしないまま、レオナにもたれるようにしておぼつかない足取りで歩いている。


 「ねぇ、大丈夫?」

道を歩きながら、レオナが心配そうにマリを支えている。

あたし達は、マリを助けた場所からしばらくの航行で、サイド3にたどり着いた。

コロニー入りを管理していたエゥーゴの連中には怪しまれたけど、結局あたしの軍籍をカラバに確認してもらって、

なんとか許可が降りた。いちいち地球に確認するなんて、疑り深い指揮官だったなぁ。

こっちは、そんなこともあろうかと思って、

ちゃんとカラバのワッペン付きのジャケットを人数分用意して着込んでたっていうのに。

 サイド3に着いてからすぐに、あたし達は都市部の喫茶店へと脚を運んでいた。

もちろん、マリとの約束を果たすためだったけど、はじけ飛んじゃうんじゃないかってくらい喜んだマリは、

ハンバーグのランチとデザートにチョコレートパフェを食べて少ししてから、気分が悪い、お腹が痛いと苦しみだした。

 あたしも、マリが食べているときにちょっと気になってて、止めれば良かったんだけど、

要するに、宇宙旅行症候群、ってやつだ。

 宇宙では、固形物を食べるよりも、栄養素を混ぜ込んで作ったチューブ食がメインの食生活になる。

大人でも、二本食べれば摂り過ぎなくらいで、長く宇宙にいると胃が縮小しちゃう、ってあれのこと。

マリがどんな生活をしていたのかはわからないけど、すくなくともずっとアクシズなんかに居たんだとしたら、

まともな固形物なんて、初めて食べるかもしれない。多少、気分が悪くなっても仕方がない。

 「マリ、頑張って。もうちょっとで港だからさ」

あたしは青い顔をしたマリをそう励ます。

でも、マリは返事もしないまま、レオナにもたれるようにしておぼつかない足取りで歩いている。

 これは、ちょっとかわいそうだな…。薬局でもあれば、胃薬の一つでも買ってあげられるんだけど…

もし、ひどい症状だったら、そんなのじゃ収まらない。病院に行って、点滴でもすれば早いんだけどな…

 あたしはそう思ってあたりを見渡す。きれいな街並みではあるんだけど、どこか、寂れた印象のある街だった。

オフィスビルのような建物は、半分以上がカラッポ。

お店も、開いているのはまばらで、ほとんどはシャッターを下ろしてしまっている。

 このコロニーは、連邦の管理下におかれてから、凄惨な事が起こっていたってことを、あたしは知っていた。

1年戦争以降、駐留していた連邦軍の兵士たちが、ここでどんなことをしていたか…

そんなの、いまさら言うまでもない。あたしは、なんとかできないかって、何度も思った。

でも、それもつかの間、ティターンズ将校でもあったあたしには地球降下の指令が降りてきて、

サイド3の心配ができるのも、それっきりになってしまっていた。

 こんなことを考えてしまうのは、ひどいことだと思う。でも、あたしは考えずにはいられなかった。

―――レナさん、地球に残ってくれて、良かったよ…。

 「マライア、やっぱり病院につれて行った方が良いかもしれないよ…」

レオナが不安そうな表情であたしに言ってくる。確かに、そうかもしれないね…

そう言えば、宇宙旅行症候群のひどいときって、食事のあとにショック症状が出て、

最悪死んじゃう、なんて話も聞いたことある。確か、胃腸に血液が回りすぎて、脳まで血が行かなくなるとかなんとか…

えっと、なんて言ったっけ、急性…ナントカ不全?


 「大尉、あれ、病院じゃないですかね?」

不意に、隣にいたルーカスがビルの中からヒョコっとひときわ高く頭を突き出している建物を指差した。

その建物の外壁には、棒のようなものに、ヘビが巻き付いているマークが描かれている。

あれって、確か…………

…………なんだっけ…。

 「あのマークは?」

「アスクレピオスの杖、だよ。神話で、医学をつかさどる神様が持っているっていう、杖だ」

あ、そうそう!アクスピ…え、ルーカス、今のもう一回言ってくれない?

 「神話に由来を取る辺り、ジオンらしいな。大尉、俺、先に行ってみてきますね」

「え…あ、うん、お願い」

あたしの返事を聞いたルーカスは軽い足取りで、建物の方へと続いている道を小走りに駆けて行った。

 その姿を見送ってから、あたしはマリの顔色を見る。相変わらず、真っ青で、しかも、唇まで紫になってきてる…

あれ、これって、かなり危ないんじゃない?

 なんとか建物のそばに着いたとき、ちょうど中からルーカスが出てきた。

思った通り、病院らしく、ルーカスが手続を済ませてくれたらしい。ルーカスに続いて白衣を来たナースも駆けてきて、

マリの顔を見るなり、キュッと厳しい目をして

「すぐにICUへ運びます」

と言ってきた。あ、やっぱりかなり危ないよね?

 それから、ストレッチャーが出てきてマリをそこに寝かせて、ガラガラと病院の中に突入して、ICUへと入った。

マリは、すごい勢いで体にいろんな機械を取り付けられる。と、思ったら、マリは突然に叫んだ。

「やめろ!そんなもの、つけるな!」

 思わず、ビクッとしてしまった。な、なによ、マリ。急に大きい声出さないでよ!

 マリは叫びながら、体に付けられた電極やなんかを薙ぎ払うようにして体から引っぺがした。

どうしたのよ?それやっとかないと、治療始まらないんじゃ…

 暴れてベッドから落ちそうになったマリをレオナとルーカスが支えた。

それでもマリは、真っ青な顔して、息を荒げて抵抗しようとしている。

「マリ!マリ!!落ち着いて!これは治療よ!実験じゃないわ!」

レオナが叫んだ。

 あぁ、そうか…。レオナの言葉に、あたしは思わず、納得してしまった。やっぱり、マリもそうなんだね…

強化人間なんだ…。だとしたら、医療機器なんて、信用できないよね。

だって、電極なんかは見てくれは洗脳に使う装置に似てそうだし、

血圧や心拍のモニターなんか、きっと実験そのまんまじゃない。そりゃぁ、さ、イヤだよね…。


 あたしは、ふぅっと大きく深呼吸をした。こういうときの対処法を、実は心得ていた。

カラバにも、不安定なのが何人か居たからね…モビルスーツに乗ったまま錯乱するレイラとかジークくんとか、さ。

 なんだか、たいして昔のことでもないのに、そんなことを考えたら懐かしい気持ちがこみ上げてきた。

うん、ちょうどいい。こういう心持ちなら、きっと大丈夫…。

 あたしは、意識をマリに集中させる。

―――マリ…大丈夫だよ…これは実験じゃない。怖くも、痛くも、辛くもないよ。

ずっとそばで見ていてあげるから、怖がらないで…ね、マリ…

―――…!マライアちゃん!

 頭の中だったのか、耳で聞こえたのかわからなかったけど、マリがそうあたしの名を呼ぶ声が響いて、

いつのまにかつぶっていた目を開けたら、ベッドの上のマリは大人しくなっていた。

 ルーカスが体を離す。レオナは、まだ、おっかなビックリ、って感じで、マリの体をベッドに押し付けている。

「レオナ」

あたしは、レオナに声を掛けてから、マリの体を押さえているレオナの手に優しく触れて、そっと引き離してあげる。

それから、マリの頭を撫でで、手をギュッと握ってあげる。

 「大丈夫。なにかされそうになったら、あたしが必ず助けてあげるから、安心して」

そう言ってマリに笑いかけてあげた。マリは、一瞬、呆けたみたいな顔をして、でも、コクッと頷いた。

それを見届けてから

「ごめんなさい、ちょっと、怖がりな子で。もう、大丈夫です」

とナースに声を掛けた。ナースは、たいした動揺も見せない毅然とした感じで、

改めてマリの体に電極と、心拍計に血圧計を取り付けた。

 一瞬、マリの手に力がこもるのを感じたので、一度ギュッと握り返してから、もみほぐすようにして力を抜いて行く。


 マリの表情は、怯えていた。なんだか、それが切なくて、キリキリって、胸が痛んだ。

 それから点滴の針を刺されたマリは、30分もしないうちに、ふぅ、と大きなため息をついて

「マライアちゃん、治った!」

と言って笑った。ホントに、もう、単純だね、マリは。

 その様子に、なんだかあたしまで笑えてしまった。まぁ、たいして心配もしてなかったけどさ。

「良かった…」

そんなことを思っていたら、そばでレオナがそう言って、ヘナヘナとマリのベッドに崩れるようにして倒れこんだ。

あぁ、レオナ、ごめん、そんなに心配してたんだ?もうちょっとちゃんと対応してあげればよかったな…

これは、反省しないと…。

 なんてお気楽なことを思っていたら、そのあとやってきて症状の説明をしてくれた医者の言葉に、

今度はあたしが青くなっちゃいそうだった。


 なんでも、かなり危険な状態だったらしい。

でも、マリの心肺機能が強かったお陰で、なんとか脳まで血が届いていて、事なきを得たんだって。

普通の人なら、食べて10分もしたらバッタリ倒れて、5分くらい痙攣して、そのまま動かなくなる、らしい。

 なによ、それ…脅かすの、やめてよね…。

あたしは、シレッとした顔で説明をした医者を、知らず知らずジト目で睨み付けていた。

でも、そのあとで、今度は医者があたしを睨み返してきて、あんた達は戦争被害者救助のために来てるんだろう、

空腹の人間に急に大量の食事を与えたらどうなるかくらい、分からないのか、と一喝してきた。

何か言い返してやりたかったけど、でも、言えることといったら、

「それは名目上のこと!」

と言う取り返しのつかないカミングアウトくらいなものだったから、もう、黙って反省するしかなかった。

 うん、これは、確かにあたしのミスだよね…さすがに、お気楽過ぎた。反省、反省。

 そんなあたしをよそに、マリは、すっかり気分が良くなったのか、スヤスヤと寝息を立て始めていた。

なんだか、すごくかわいい寝顔で、ションボリしかけたあたしの気持ちをホンワカと緩めてくれるような感じがした。



つづく!

短くてすまない。

 


ちなみに、宇宙旅行症候群、という病気は架空の名称です。
でも、空腹に近い状態を長期間経験した人間にいきなり物を食べさせると、
ショック症状が出て最悪死んじゃうらしいです。

チューブ食した食ったことのないプルちゃんが、デミグラバンバーグ定食とチョコパを一気食いしたら
そんなことになってもおかしくないですよね…ね?…あれ?w

 

昔、猿めが酷いことをしてのう

>>440
!?!?!?



ま、まあ猿が酷い事をしたなら宇宙なんちゃら症候群とやらに罹っても仕方ないよね(棒

>>440
>>443でピンと来たんだが、
猿の惑星か、2001年宇宙の旅あたりの話?

ただの誤爆かまた俺の誤字なら吊ってくるけど。

>>439
バンドオブブラザーズで似たような話があったな
強制収容所を解放したアメリカ軍人が
ユダヤ人に食料一旦はあげるんだけど
軍医が死ぬからやめろっていって取り上げる

>>444
あ、ごめん全く関係ないドリフターズネタだけどつい
まぁ詳しくは『鳥取の飢え殺し』で。猿=秀吉
簡単に言うと、死体の人肉が陣中で奪い合いになるほどの凄まじい兵糧攻めをしたんだが、
降伏開城した後、空腹の勢いに任せて食いまくった兵士たちが次々と胃痙攣で死亡したそうな
このせいで城の生存者の半分が死んだという

>>445
BOBおもしろいっすよね!ww
スピアーズかっこよすぎ!


>>447
豊臣の中国攻めにそんなことがあったんだ!
対毛利戦線しか知らなんだ…
歴史モノもなかなかそそる感じがしますね。

信長「天下統一とかめんどい。光秀、明日本能寺に夜襲かけてくんね?」
光秀「なに言ってんすか、お屋形さま」
家康「センパイ、そのダルい感じパネッすwwwwww」

みたいなww

>>448
その信長の話も読みてぇww

>>449
基本的にこっちがメインなので、のんびり更新でも良ければ書けるかも(笑)
あと、ずっと書きたいな、と思ってて、冒頭だけ書いた「なのはな戦争~千葉県独立戦争記~」ってのもありますww


てなわけで、つづき落とします。


 その日は、念のために、と言うことで、医者から入院させる、と言い放たれてしまった。

まぁ、確かに、命の危険があったわけだし、たぶん、あたしへの戒めの意味もあるんだろう。

 やり方は気に入らないけど、結局は、マリのことをいろいろと考えてそうしてくれている、ってのは分かる。

だから、まぁ、ここは穏便に従うことにした。

 「えー、船に帰る!」

マリはもちろん、その話を聞き入れたがらなかったが、とりあえず、あたしが一晩中そばにいることを条件に、

なんとか飲んでくれた。

 レオナはルーカスと一緒に船に戻らせた。マリ一人なら、あたしが守ってあげられる。

レオナにしてもルーカスが付いていてくれれば安心だ。それに、レオナは調べ物をしなければならないはずだ。

そこらへんは、全部ルーカスに任せてある。まぁ、任せてある、といっても、 エゥーゴの顔見知りを探して、

サイド3の公文書館への入館を許可してもらうだけのことだけど。戸籍とか、そういうのも閲覧できるだろう。

レオナも、自分自身のことを早く見つけられると良いな。

 そんなことで、あたしはマリと一緒に、病室にいた。

マリはすっかり元気で、年相応の、なんだが本当にかわいい話題を一生懸命にあたしに投げかけてくる。

「かわいい洋服はどこにあるかな?」

とか

「廊下を歩いていた子どもが持っていたモフモフそうなものはなに?」

とか。

 逐一、洋服は、病院でたら買いに行こうね、とか、あれはヌイグルミって言うんだよ、なんて答えると嬉々として


「そうなんだ!」

「わたしも買っていいかな?」

って言って来る。

 その笑顔が本当にかわいくて、あたしまでほっこりと笑顔にさせられた。

まったく、レオナ一人じゃなくて、マリまで、なんてね。あたし、そっちの道に目覚めちゃったらどうしよう!?

あ、まぁ、アヤさんたちいるし、それでもいいか。仲間に入れてもらうくらいの気持ちで…

いや、ダメか、あそこは夫婦だもんね。

 「ねぇ、マライアちゃん。わたし何か食べたい。おなかすいた」

「お医者さんに病院食だけしかダメだって言われたでしょ?」

「でもー!食べたいの!退屈だし」

そういって両手両足をジタバタさせて駄々をこねる姿すら、なんだかいとおしい。あぁ、やばいな、これ、あたし。


「消化の良いものだったら、下の売店で買われて召し上がっても良いですよ」

不意に声がしたので、振り返ると、ICUからここに運ばれて、担当になってくれた、という、ナースが笑顔を見せていた。


「大丈夫なんですか?」

「えぇ、先生からの伝言でね。ゼリーとか、ヨーグルトとか、そういうものでしたら、かまわない、って」

「ほんと!?」

マリが表情を輝かせる。

「マライアちゃん、わたし行きたい!」

マリはベッドの上でピョンと飛び上がった。

 「あはは、そうね、ちょっと検査だけさせてくれたら、お散歩に行って来てもいいからね」

ナースは優しい笑顔でマリにそういってからあたしの顔を見た。

 ご機嫌取りがうまいな、この人。たぶん、これからする検査で、マリが抵抗しないようにする下準備なんだろう。

マリのこのテンションを見れば、それが成功したのはどうなのかは、一目瞭然だ。

 「じゃぁ、ちょっと採血と体温だけ測らせてね」

ナースはそういって、体温計をマリに手渡して、マリがそれを脇に挟むのを確認してから、

マリの腕をまくって消毒した。これも、うまいね。

体温計を脇に挟んでなきゃいけない、と思えば、腕を振り払おうとしたって、ちょっとした抵抗になる。

 ナースは、驚くほどの手際で、マリの腕を消毒すると、その腕に採血用の注射器の針を突き刺した。

あたしは、マリの顔を見ていて、少し心配したけど、針をさされた瞬間にマリは、なんだか意外そうな顔をした。

 「ん、どうしたの?」

ナースがそれに気づいてマリに尋ねている。

「いや…いつもされている注射より、痛くなくて…」

マリは戸惑ったように、そう語る。

「そう。まぁ、注射にもいろいろと種類があるし、それに、ほら、上手とか下手とかもあるものなのよ」

「へぇ、そうなんだ!」

ナースの言葉に、マリは素直に感嘆した。

 「はい、オッケー」

しばらくして、ナースは注射器から伸びたチューブの先にある試験管みたいなものを取り外してマリにそういい、

なれた手つきで針を抜き、消毒液のしみこんだ綿を傷口に押し当てて、片手で絆創膏をその上に張って、綿を固定した。

 ピピピ、とまるでタイミングを待っていたかのように、体温計が音を立てる。見ると、37.3℃。

まだ少し高いかもしれないけど、もしかしたら、これがマリの平熱なのかもしれない。

何しろ、心肺機能が相当強いんだ、と言う話だ。多少、熱量が多めだったりしても、うなずける。

「ん、微熱、かな。じゃぁ、検査はおしまいだけど、あまり無理しちゃダメよ」

ナースはそういってマリの肩ポンとたたいて、立ち去ろうとした。

 「あ、すみません!」

そういえば聞き忘れていた。

「あの、なにか食べさせてあげても、いいんですか?」

「ええ、消化の良いもので、一日、一品まででお願いしますね」

あたしの問いかけにも、ナースはニコッと笑って答えて、部屋から出て行った。

、妹がいたら、こんななのかも知れないな。かわいいよ、マリ、あなたね。


「大丈夫なんですか?」

「えぇ、先生からの伝言でね。ゼリーとか、ヨーグルトとか、そういうものでしたら、かまわない、って」

「ほんと!?」

マリが表情を輝かせる。

「マライアちゃん、わたし行きたい!」

マリはベッドの上でピョンと飛び上がった。

 「あはは、そうね、ちょっと検査だけさせてくれたら、お散歩に行って来てもいいからね」

ナースは優しい笑顔でマリにそういってからあたしの顔を見た。

 ご機嫌取りがうまいな、この人。たぶん、これからする検査で、マリが抵抗しないようにする下準備なんだろう。

マリのこのテンションを見れば、それが成功したのはどうなのかは、一目瞭然だ。

 「じゃぁ、ちょっと採血と体温だけ測らせてね」

ナースはそういって、体温計をマリに手渡して、マリがそれを脇に挟むのを確認してから、

マリの腕をまくって消毒した。これも、うまいね。

体温計を脇に挟んでなきゃいけない、と思えば、腕を振り払おうとしたって、ちょっとした抵抗になる。

 ナースは、驚くほどの手際で、マリの腕を消毒すると、その腕に採血用の注射器の針を突き刺した。

あたしは、マリの顔を見ていて、少し心配したけど、針をさされた瞬間にマリは、なんだか意外そうな顔をした。

 「ん、どうしたの?」

ナースがそれに気づいてマリに尋ねている。

「いや…いつもされている注射より、痛くなくて…」

マリは戸惑ったように、そう語る。

「そう。まぁ、注射にもいろいろと種類があるし、それに、ほら、上手とか下手とかもあるものなのよ」

「へぇ、そうなんだ!」

ナースの言葉に、マリは素直に感嘆した。

 「はい、オッケー」

しばらくして、ナースは注射器から伸びたチューブの先にある試験管みたいなものを取り外してマリにそういい、

なれた手つきで針を抜き、消毒液のしみこんだ綿を傷口に押し当てて、片手で絆創膏をその上に張って、綿を固定した。

 ピピピ、とまるでタイミングを待っていたかのように、体温計が音を立てる。見ると、37.3℃。

まだ少し高いかもしれないけど、もしかしたら、これがマリの平熱なのかもしれない。

何しろ、心肺機能が相当強いんだ、と言う話だ。多少、熱量が多めだったりしても、うなずける。

「ん、微熱、かな。じゃぁ、検査はおしまいだけど、あまり無理しちゃダメよ」

ナースはそういってマリの肩ポンとたたいて、立ち去ろうとした。

 「あ、すみません!」

そういえば聞き忘れていた。

「あの、なにか食べさせてあげても、いいんですか?」

「ええ、消化の良いもので、一日、一品まででお願いしますね」

あたしの問いかけにも、ナースはニコッと笑って答えて、部屋から出て行った。


 「マライアちゃん、売店行きたい!」

医者の許しが出ているんなら、かまわないよね。

 あたしはそれを確認してからマリに

「よし、じゃぁ、いこっか」

といって手を引いてベッドから立ち上がらせてあげた。

 病室を出て、廊下を歩く。マリは本当に、入院が必要なのか、って感じてしまうくらいで、

楽しそうにあたしの周りをちょろちょろとしたり、スキップして付いてきたりしていた。

あたしはお兄ちゃんしかいないけど、妹がいたら、こんななのかも知れないな。かわいいねぇ、マリ。

 廊下の交差した地点にある、エレベータホールまで着いたあたし達はそこからエレベータで1階にと向かった。

エレベータホールのすぐそばに、売店はあった。

品揃えが多いわけでもなかったけど、病院らしく、栄養ドリンクとか、スポーツ飲料とか、雑誌とか、

お菓子なんかも売っていた。探すのは、ゼリーがいいかな。

なるべく果肉なんかの入ってない、さらっとしたやつか、あるいは、デザート用のチューブ食。

あれも確か、飲むゼリーみたいな感じで、栄養補給目的でない、

ちゃんとした飲むゼリーみたいな感じでいい味付けがしてあるはずだ。

「マリ、どれがいい?」

あたしが聞いたら、マリは店の中を一通り目をキラキラさせたまま見て回って、それから、

アイスクリームのコーナーで、箱のアイスを指して

「これがいい!」

と言い出した。

 うーん、アイス、か。あんまり良くない気がするな…

「マリ、それはちょっとまだお腹に悪いかも。今日のところは、やめておこう?」

あたしが言うとマリは見るからに不満です!と言いたげに頬を膨らませて

「これがいいの!」

と訴えてきた。まったく、こういうところは、本当に子どもだよね。

そう思ったら、なんだかちょっと可笑しくなってしまった。

「また、お腹痛くなってもレオナが心配しちゃうからさ。こっちのゼリーにしておこうよ。オレンジのなんかおいしいんだよ」

あたしはそういって、冷凍棚においてあってゼリーをひとつとってマリに見せてあげた。

「これはじめて!おいしいの?」

「うん、あたしは結構好きかな」

「そうなんだ!じゃぁ、わたしこれにする!」

マリはそういって満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる。あぁ、なんだか無性に頭をなでたくなる子だなぁ、マリって…。

 そんなことを思いながら、マリがオレンジのゼリーを選んでいたので、

あたしはグレープ味の紫のやつを手にして一緒にレジへと向かった。

 ニコニコ笑顔のマリと会計を済ませて、店を出たとき、あたし達の前に、一人の少年が立っていた。

彼は、なんだかすごくびっくりした表情をして、あたし達を見ている。いや、あたし達、と言うか、マリを、だ。


 「あの、どうしたの?」

あたしが聞くと、彼はとたんに顔つきを変えて、あたしをにらみつけてきた。

「あんた!この子をどうするつもりだ!?」

彼が込みあがっている怒りを押さえつけている様子で、拳を握りながらそう言ってくる。

 どうするって…別に、変なことをするつもりはこれっぽっちもないけど、そんなことしそうに見えるのかな?

それとも、あ、マリの知り合いとか?

 ふとそう思って、マリに目をやるが、マリもキョトンとした顔をしている。

「マリ、知ってる人?」

聞いてみるけど、マリは首をかしげて

「うーん、知らない…」

と答えるだけだ。

 そんなマリの言葉に、少年は絶句した。それからまた、憎しみの篭った目であたしを見つめて、

「あんた!この子に何をしたんだ!?また、洗脳をしたってのかよ!?」

といってくる。

 洗脳…?そうか、この子は、マリが強化人間だって知っているんだね…

だとしたら、研究所で、同じような研究対象にされてたのか…あるいは、関係者か…

 そんなことを思っていたら、少年はガバッとマリの体をつかんで揺さぶりながら

「目を覚ませ、プルツー!」

と怒鳴った。

 プル、ツー?違う、違うよ、君。この子は…プルナイン、あなたが思っているプルとは違う人だよ…

でも、あなたは、プルツーのことを知っているのね…?

「なにするんだよ!」

マリがそう言って、少年の腕を振り払った。少年は、それを見て愕然とした表情をしている。

あっと、まずいね、これ。たぶん、いろいろ勘違いしているんだ、彼は。ちゃんと話してあげないと…

「ね、この子は、たぶん、あなたが言っているのとは、違う子だよ。あなたが言った呼び名で、なら、

 この子は、プルナイン。あなたが知っているんだろう、プルツーとは、別のプル、だよ」

あたしは、なるべく冷静にそういいながら、ちょっと動揺しかけていたマリをそばに抱き寄せて安心させる。

 この少年、背格好はあたしと同じくらいだけど、たぶん、けっこうケンカ慣れしてるタイプだ…

ま、でも、油断しなければ、2手…ううん、3手で制圧くらいはできるだろうな。

 そんな感覚があったから、あたしのほうもまだ、冷静でいられた。

 反対に、目の前の彼は、ひどく動揺しているように見える。

 それにしても…プルツーって、もしかして…レオナが言ってた、最初のクローン達の一人、ってことだよね。

つまり、そのプルツーこそ、レイチェルに違いない…。それに気がついて、ハッとした。

この少年は、レイチェルの居場所を知っているのかもしれない。何とか聞きだしておきたいな…

先に、こっちのことを話しておこうか…。

「あたしは、マライア・アトウッド。カラバのスタッフで、今は戦時の遭難者や被災者の救援活動をしてるの。

 その途中であったのが、彼女。宇宙で拾い上げて、それから、ここにつれてきたのよ。

 今は、3階の病室に入院してるわ」

あたしが言うと、彼の表情が、変った。険しいけれど、警戒はなさそうだ。


 「そうだったのか…変な言いがかりをつけて、悪かったよ」

彼は静かに言った。これは、いけそう、かな?

「プルツーちゃんて、この子の…姉妹、だよね。もともとの家族が、一生懸命居場所を探しているんだ。

 もし、生きてるんなら、居場所を教えてくれないかな?」

あたしがそういうと、少年はあたしとマリを見つめてきた。まるで、何か品定めをするかのような視線。

違う、この子、ニュータイプだ…!あたし達の腹のうちを探ろうとしている。

まぁ、探られて痛む腹じゃないから、なるだけ良く見てもらえるように、こっちもこの探りの感覚を受け入れてみる。


 どれくらい経ったか、彼はふうとため息をついて、静かに口にした。

「この病院にいるよ…」

え…ここに?!驚いた。こんな偶然…でも、待って、じゃぁ、会える…の?

「その…会って、話をできたり、するのかな?」

あたしが聞いてみると、彼は力なく首を横に振った。それから、沈んだ声でこういうのだ。

「意識が戻らないんだ。もう、一週間近くになる…」

彼の表情は一転して真っ暗になってしまった。

 「意識が…?まさか、戦闘で?」

あたしが聞くと彼は相変わらずのしょげた顔で

「そうなんだ…」

とつぶやいた。

 そっか…そんな状態だから、こんな近くにいても分からなかったんだ。でも、生きて、この場所にいるんだね。

会わなきゃ…とにかく、その子に…。

 「連れて行って、あたし達を」

気が付いたら、あたしは彼にそんなことを頼んでいた。彼は、神妙な面持ちで、コクっとうなずいた。

 それからあたし達は、5階にあった個室へと案内された。

「ここだ」

彼はそう言って、病室のドアを開けた。

 急に、胸が苦しくなる。これは、プルツーの感覚…?ううん、違うね。これは…単なるあたしの緊張だ。

戦闘でのケガ…しかも、場所は、宇宙だ。もし…もし、コクピットから投げ出されて、

ノーマルスーツが破損していたりしたら、真空に皮膚がさらされて、血液が沸騰して、どんな状態になってるか…。

脳裏に浮かんできたのは、宇宙で戦死した仲間の遺体や、腕と脚が吹き飛んだ、8年前のソフィア姿だった。

ゴクッと唾を飲み込んで、握っていたマリの手を握りしめてしまう。

 「マライアちゃん、大丈夫だよ」

不意にマリが言った。その顔を見たら、マリは満面の笑みを浮かべていた。

「2番目の姉さんには初めて会うけど、姉さん、苦しんでる感じしないんだ。だから、きっと平気」

「マリ…うん、そうだよね…」

あたしは、マリの言葉を聞いて、気持ちを決めた。


病室の中に入る。

 心拍を刻む電子音と、人工呼吸器の音だけが、部屋に響いている。

 彼女は、ベッドに横たわっていた。あちこち傷だらけで…だけど、穏やかで、きれいな顔をしていた。

 頭に浮かんでいたのが、悪い妄想だったことに安心して、あたしは思わずため息をついていた。

 あたしは、マリの手を引いて、ベッドのそばに近づく。

 半透明の呼吸器マスクに顔が覆われているけど、彼女は、

マリやレオナと同じ色の髪、同じ透き通るような肌の色、同じ顔をしていた。

 「姉さん…」

マリが、そう口にした。あたしの手を離して、プルツーの顔に触れた。

それから、その手をプルツーの手に触って、キュッと握った。

「姉さん…」

マリはまたつぶやいた。

 マリ、まさか、この子を呼んでるの?…そんなこと、できるの?

 あたしは、マリにそう確認しようとして、言葉を飲み込んだ。

マリから、得体の知れない雰囲気がほとばしっていたからだ。この感じ…ニュータイプとしても、初めての感じだ。

まるで、何かを話しかけているみたい…長さを変え、波長を変えて、まるで、無線の周波数を合わせるみたいに、

意識を集中させている。

 「…んっ…!」

プルツーが、うめいた!

 あたしはその顔をじっと見つめる…でも、それっきり、彼女はまた、静かに呼吸をするだけだった。

 「ふぅ…」

マリが、大きくため息をつく。マリはそれから、フラッとバランスを崩した。

慌ててマリを抱き留めて、そばにあったイスに座らせた。マリは、うっすらと脂汗をかいている。


「マリ、大丈夫?」

あたしが聞くとマリはニコッと笑って

「うん、平気だよ!」

と明るく言って、それから、チラッと男の子を見やると

「あなた、ジュドーっていうのね」

と言ってまた笑った。

 ジュドー、と呼ばれた彼は、すこしびっくりした表情をして

「あ、あぁ…ジュドー・アーシタだ」

と名乗った。

 「姉さんが、名前を呼んでたよ…ジュドー、ジュドー、って」

「プルツー…」

マリに言われて、ジュドーはプルツーの顔を切なそうに見た。

 この子は、どうしてこんなことになっちゃったんだろうな。戦闘に参加したんだろうけど…

もしかしたら、このジュドーってのを庇ったのかな。レオナの妹だもん、それくらいのこと、するよね、きっと…。

 見つけたよ、レオナ…。ルーカスに電話して、早くここへ連れてきてもらわないと…。

レオナ、もし、さっきマリがしたみたいに、この子に“話しかけ”られるなら、

この子もしかしたら目を覚ますかもしれない。あなたとマリの二人で呼びかけたら、もしかしたら…もしかしたら…。



つづく!


ちなみに、プルツーですが、

・アニメ本編では死亡が明らかな最期ではない(気を失った、ともとれる)
・GUNDAM EVOLVE../10に、プルツーと同じデザインのノーマルスーツを着た
 子どものパイロットが出てくる

以上の2点からの設定流用です。



ええい、ジュドーはいい!
リィナだ!リィナをだせ!

大丈夫。酸素は足りてる。

ドダイさんありがとう。
あんたの…というか>>454のおかげで今朝食べ忘れてたオレンジ(フルーツの方な!)の存在を思い出せた…

バルス(# ゜Д゜)!

なにしてんだよwww

ツイッターでやれwwwwww

一ヶ月かけて追い付いた……
続き楽しみにしてる
ZZ

>>463
よし、わかった。
3分間待ってやる。
3分間だけな
3分間だけだからな!

>>461
明らかに酸素たりてない口ぶりwww

>>462
お、おうw

>>464>>465>>467
ごめん、なんか居てもたってもいられずw

>>466
超感謝!ここまでたどり着いていただけてうれしいです。
更新ペース落ちてますが、リアルタイムでお楽しみください!



ってなわけで、投下します!


  それから二週間後、一人、サイド3の港にいた。

「悪いな、見送りなんて」

ジュドーがそう言って笑いかけてくる。

「ううん。まぁ、一応ね」

あたしは肩をすくめて答える。

 彼、まだ若いから素朴で、それでいて素直だから、なんだか好感が持てた。

 ブライトさんに聞いた話では、エゥーゴと連邦の軍の高官が参加する会議で、ブライトさんをぶん殴ったらしい。

事情はあんまり詳しくは話してくれなかったけど、その会議で扱われていた議題に腹を立てたって話だ。

殴っちゃうのは良くないけど、でも、そんな場でも自分を貫けるってすごいことだ。若さだね。

 「じゃぁ、プルツーのこと、たのみます」

ジュドーはそう言ってきた。

「うん。任せて」

あたしが言うと、彼はすっきりした顔で笑った。

 彼はこれから、ネオジオンの残党の対応のために、また宇宙へ行く。

あたし達はつい一昨日、彼からその話を聞かされて、いまだに目を覚まさないプルツーのことを頼む、と言われた。

そんなこと、頼まれないでもやるつもりだけどね。

 「それより、ジュドーこそ、気をつけてね」

あたしは、むしろそっちの方が心配だった。

ニュータイプなのは分かったんだけど、モビルスーツの操縦のことは分からない。

ブライトさんの話じゃ、結構なもんだって事らしいけど…でも、やっぱり戦場へ行く人を見送るのは、心配だよ。

一緒にいければ、絶対に死なせない自信があるだけに、ね。

 ジュドーはあたしの言葉に空笑いを返してきて

「大丈夫ですよ。必ず、帰ってきます」

と言って手を差し出してきた。

 あたしはその手をぎゅっと握って、ジュドーを見送った。


 あれでまだ、14歳だって言うんだから、驚いちゃうよね…。

あたしの14の時なんか、泣き虫で、ビビリまくって、自分の言いたいことも言えない、ただのダメな甘ったれだったからな。

今は…そうだな、ガンガン戦う甘ったれ、だね。

 あたしは、港のロビーを後にした。港を出て、市街地へ向かうモノレールの駅へと向かう。

 歩いている人はまばらで、そのすべてはティターンズや連邦の軍服を着ている。

ふと、あの忌まわしい時期のサイド3が脳裏をよぎった。

このコロニーが、これからまた、良い方向に向かってくれるといいのだけど…でも、きっとダメだろうな。

あたしは、そんなことを思っていた。

 サイド3に来て二週間。

エゥーゴの人たちは徐々にこのコロニーから遠ざけられ、連邦軍所属の部隊が数を増している。

政府がここを、以前の様に占拠下に置こうとしているのがうっすら感じられた。

今のうちに、地球やほかのコロニーへ抜け出るためのルートを確保しておいたほうが良いかもしれない。

エゥーゴの中で、ここへとどまる話の分かる人がいれば良いんだけど…

 不意に、先日契約したPDAが音を立てた。ディスプレイを見たら、レオナの名前が表示されている。

「もしもし、レオナ?こっちはジュドーをちゃんと見送ったよ」

あたしは電話口に出て、そう報告する。

「マライア!」

でも、電話の向こうのレオナは、それどころじゃない様子であたしの名前を呼んだ。

「プルツーが、プルツーが目を覚ました!」

プルツーが?!胸の中がざわめいた。良かった…意識、戻ったんだ!

大丈夫かな、障害とか残ってないかな…?脳とか、腕とか、脚とか、ちゃんと動くかな…?

どうしても、ソフィアのことが、頭をよぎってしまう。あんな想いは、もうしたくない。

 あたしは、モノレールの駅から飛び出して、タクシーを掴まえた。運転手に言って、病院へ急ぐ。

15分もせずに、あたしは病院の前のロータリーにたどり着けた。


料金を払って、病院に駆け込んで、エレベーターに乗って、プルツーの病室へ向かった。

五階に着くと、なにやら騒がしい声が聞こえた。

「―――!」

「――――――――!」

「―――!――!」

なんだ…?これ…レオナの声?妙な予感がする…あたしは廊下を走った。プルツーが寝ていた部屋に駆け込む。

「放せ!」

「放さない!」

「落ち着いて!プルツー!」

「レオナ、落ち着け。プルツー、マリも、落ち着くんだ!」

「うるさい!出て行け!わたしを放せよ!」

…なんだ、この状況…。

 マリが、半裸のプルツーと激しく揉み合っている。

目覚めたばっかりってのもあるのか、マリが優勢で、プルツーはマリに両手首をつかまれて壁に押し付けられている。
そんな体勢で二人は、自由になっている脚で蹴りの応酬をしている。

レオナは、ルーカスに支えられおろおろと取り乱している。目じりからは、かすかに出血している。

ルーカスも、対応に困っている様子で、声を掛けるだけで、身動きしない。

…まったく…なにがなんだかわかんないけど、とりあえず、止めなきゃな、これ。

 あたしは、ツカツカと壁際の二人に歩み寄って、まず、プルツーを壁に押し付けているマリの首根っこをつかんでひっぱり、

それにひっついてきたプルツーの首根っこも掴まえて二人を引き離した。

「あんたなんだよ!放せっ!!」

「マライアちゃん、放して!こいつ、思い知らせてやるんだから!」

あたしに捕まえられてもなお、二人はジタバタと暴れている。こういう時は、気合い一発だ。

「うるっさい!!!!!」

あたしは、二人を一喝した。

 とたん、マリとプルツーは瞬間的におびえた顔になって、シュンとなった。よし、いい子いい子。


 あたしは、プルツーをベッドへ、マリを反対側にあった壁際のイスへ腰掛けさせた。

プルツーの着ていた検査着を直してそれから、レオナに声を掛ける。

「レオナ、平気…?」

「あ、う、うん」

レオナは、相変わらずおろおろとした様子で返事をした。

「ルーカス、一緒にいて止められなかったのは、ペナルティ1だよ」

「申し訳ないです」

あたしがそんなことを言ったら、ルーカスもシュンとしてしまった。

 ふぅ、まったく…とりあえず、あれだね、あたしの心配は、ただの思い過ごしだったみたいで良かった。

これだけ暴れられるんなら、怪我の影響もなさそうだ。

 あたしは部屋を見渡した。

もともとそんなに物がおいてあるわけでもなかったけど、プルツーについていた電極やなんかがつながっている機械が倒れていたり、

ベッド脇のカーテンがレールから外れたりしている。あの機械、壊れたりしてないと良いけど…

 と、それにしても…。さて、まず、どうしようか、これ…。

 あたしは、チラッとレオナを見た。目じりの、ちょっと上。眉のところから血が出ている。

「レオナ、傷、見せて」

ベッド脇にあったティッシュを何枚か引き抜いて、あたしはレオナを呼び寄せた。

「うん…」

レオナはあたしの近くにやってくる。ティッシュで軽く押さえて血を吸わせてから、傷をみる。

特に、大して深いわけでもない。

切れているって言うより、ちょっと擦って、ホントに血がちょっと滲んでいるだけだ。まぁ、大事無くてよかった。


 「それで、今、どういう状況なの?」

あたしが聞いてみると、マリが

「姉さんが目を覚まして、すぐ、暴れて…」

と口にした。そのとたん、プルツーが

「わたしに妹なんていない!姉さんなんて呼ぶな!」

と声を上げた。いちいち噛み付かれると、話が進みそうもない。あたしは、キッとプルツーをにらみつけた。

プルツーは、またビクッとなって、押し黙る。

 「で、レオナは何で怪我を?」

今度はレオナにたずねる。

「私は、単に、二人を止めようとしたら、ベッドにけつまずいて、転んじゃって…」

レオナも、なんだか落ち込んだ様子でそういった。

 あぁ、なんだろう、この空気。重いし、ピリッとしてるし、イヤだなぁ…。原因は、プルツー、か…。

でも、この子を叱るのは、まだ良くないよね。初めて会ったわけだし…この子だって、混乱している可能性もある。

まぁ、マリの様子を見れば、まだまだ子どもなんだっていうのが正直なところだけど、

でも、今はなにより、落ち着かせて、こっちの話を受け入れさせるのが第一だろうな。

 「プルツー」

あたしはそう思って、プルツーの名を呼んだ。

「…なに」

プルツーは警戒するような、不機嫌なような感じで返事をする。

「みんなの自己紹介は聞いた?」

あたしが聞くと、プルツーは何も答えなかった。代わりにレオナが静かに

「まだだよ」

と短く教えてくれる。

 そっか、なら、そこから始めなきゃね…。

空気は最悪だけど、お互いに名乗らないと、始まらないし説明にも入りにくい。

「そう。なら、あたしからだね。あたしは、マライア・アトウッド。

 元カラバの構成員で、ここには、戦争で怪我した人を助けに来たんだよ」

あたしはとりあえずそう伝える。レオナとプル達の関係を話すのは、あたしからではないほうがいい。

「…俺は、ルーカス。マライアさんと同じ元カラバの人間だ」

あたしにルーカスが続く。それを聞いたあたしは、今度は目で、マリに話をするように訴える。

マリは、それを感じ取ったのか、渋々、といった様子で

「わたしは、マリ。元の呼び名は、プルナイン」

と不機嫌そうに口にして、そっぽを向いた。まぁ、マリは仕方ないかな。あとは、レオナだ。

 あたしはレオナに視線を送る。レオナは、クッとあごを引いて、口を開いた。

「私は、レオニーダ・パラッシュ。レオナよ。あなたやエルピー・プルの…お姉さん」

レオナの言葉に、プルツーは反応した。

憎しみでも、恐怖でも、ましてや、嬉しいのとも違う、ただただ、驚いたような表情を浮かべていた。


 「姉さん…?あたしに?」

マリの話を聞いて、妹なんかいない、といったさっきのプルツーとは、違う表情だ。

レオナのことを、知っていた、って感じでもないけど…どうなんだろう?

「そうだよ、あなたのお姉さん」

レオナは、繰り返した。プルツーは、驚いた表情のまま、レオナをじっと見ていた。

まぁ、嘘は言ってないよね…姉妹って言うよりも親子に近いし、親子って言うには、あまりにもおんなじすぎるけど、さ。

 「そんな…嘘だよ…だって、わたし、わたし…」

プルツーは、そういいながら、頭を抱えてうなりだした。

 強化人間は、記憶操作を受ける、なんて話をふと思い出した。確か、アムロが言っていたはずだ。

プルツーはニュータイプだけど、もしかしたらその資質を伸ばすために強化手術を受けてしまっているのかもしれない。

この反応は、それに近い気がする。

 あたしは、意識をプルツーに集中させる。

けして、踏み込み過ぎないように、でも、大丈夫だって伝えてあげたくて、

そっと寄り添うように、意識を向けて、「こっち」に戻ってこられるためのアンカーを打ち込む感覚で、

彼女の意識から少し離れたところに、自分を投げかける。

 ふと、別の何かが、あたしの中に触れた。これは…マリ?チラリと目をやると、マリも、じっとプルツーを見つめていた。

そして、あたしがしているのを真似るように、踏み込まないように、遠巻きにプルツーの意識の外側で彼女を見ている。

こんな器用なこともできるんだね、マリ。すごいじゃん。

 「ジュドー…」

不意に、プルツーがつぶやいた。

「彼は、任務で、今は宇宙にいるよ。すぐに帰ってくると思うけど…」

あたしが言うと、プルツーは顔を上げた。

「会いたい。わたし、ジュドーに会いたい」

「うん、分かってる。きっと一週間もすれば帰ってくるよ。だから、安心して。

 あたし達は、ジュドーくんに頼まれて、あなたの面倒をみることになってるの」

あたしが説明すると、プルツーはまた、顔を伏せた。それから、ちょっぴり押し殺したみたいな声で

「…ごめん」

と口にした。

 謝れるんだ、あなたも、偉いね。そんなことを思ったら、クスっと笑いが漏れてしまった。

それに応じるみたいに今度はマリが

「わたしも、ごめん」

と謝った。まぁ、基本的に思考回路は似てるだろうからね…感応すれば、反応は似てきて当然かな。

レオナとプルツーやマリはちょっと違う感じがするのは、たぶん、前に聞いた遺伝子操作ってやつの影響かもしれない。

 「ん、仲直りできた?」

あたしが聞くと、二人は、黙ってうなずいた。うん、いい子いい子。


 あたしはそれを見届けてから、倒れた機械を起こして、カーテンを直した。

それから、ルーカスとレオナに、医者を呼びに言ったついでに傷を見てもらうように言った。

女の子がいつまでも、顔に傷作ってちゃダメだからね。

 病室の空気も、やっと少し軽くなった頃に、二人が医者を連れて戻ってきた。

プルツーから緊張した感じが伝わってきていたから、大丈夫だよ、と声を掛けながら、ちょっとした検査を受けさせる。

幸い、後遺症やなんかの心配はなさそうだった。

でも、やっぱり念のため、と言って、また心拍や血圧のセンサーは取り付けられて、プルツーはベッドに寝かされた。

 病室に、妙な静けさが訪れる。

「…わたし、生きてるんだね…」

ふと、プルツーがそんなことを口走った。

「そうだよ」

あたしが言ってあげると、突然、彼女はポロポロと目から涙をこぼし始めた。

 正直、あまり驚かなかった。さっき、彼女の意識と感応を試した時に、なんとなく、感じていたから…

それは、後悔、だった。

 「わたし…殺しちゃった…」

うん、そうなんだね…

「殺したって…誰を?」

レオナが、恐る恐る尋ねる。

「…プルを…姉さんを…」

 プルツーは、手で顔を覆った。

「エルピー・プルを…?」

「うん」

レオナの質問に、プルツーは答えた。

 レオナ、しっかりね…そんなことはないと思うけど、怒っちゃ、ダメだよ…

レオナはそれを聞いて、ドサッとイスに崩れ落ちた。

グルグルと、ごちゃごちゃになった感情があふれ出てくるのが伝わってくる。

あたしは、とりあえず、今は、ふうとため息をついて、それを遮断した。これは、もらっちゃいけないやつ、だ。


 「ごめん…ごめんなさい、姉さん…ごめんなさい…」

プルツーは、顔を覆って泣きながら、うわ言のようにそうつぶやいている。

姉さん、ってのが、レオナのことなのか、エルピー・プルのことなのか、分からないけど…。

 そんなことを思いながら、あたしは、これまでのレオナの感じてきたことに、納得がいく気がした。

たぶん、あの日、レオナが感じたレイチェルって子が、エルピー・プルのことだったんだ。

聞いてみたわけじゃないけど、そんな気がした。

きっと、コロニー落着前後に、あのダブリンで戦闘になって、エルピー・プルは、レイチェルは、死んだんだ。

でも、たぶんレオナは、そこに居たプルツーのことも同時に感じ取っていて、そのことに気付けなかった。

プルツーとプルナイン、マリは、本当に同じような感じがある。エルピー・プルの感覚も、そっくりだったはずだ。

まだ完ぺきに開花しているわけじゃない、力の扱い方が分かっていないレオナが、

遠く離れて同じ場所に居た、会ったことのない二人を識別したり、弁別するのは無理があったんだろう。

 エルピー・プルのことは、残念だったけど…でも、レオナのお陰で、少なくともマリを助けることは出来た。

プルツーとも、こうして会うことができた。レオナにとっては、ショックなことだろうけど…でもね、レオナ。

時には、そう言うことだって起こっちゃうんだよ。だって、戦争なんだもん。人は死ぬよ。

どんなに助けたいって思ったって、手の届かないところで起こっている何かを、完全に押しとどめるなんて、

出来ないんだ。そうやって、あたしの宇宙での仲間も、何人も死んでいった。

あんなに仲良くなった、ライラでさえ…ね。

 あたしは、感覚を閉じた代わりに、レオナの肩に手を置いてさすってあげた。

こんなときばっかりは、昔のあたしがムクムクと胸の中に息を吹き返す。

認めたくないけど、でも、こんなときに、あたしは無力だ。

レナさんみたいに、気の利いたことが言えるわけでもない。

アヤさんみたいに、明るく笑ってあげるんでも、大丈夫だよって自信持って伝えてあげることもできない。

 そりゃぁ、口先でそんなことを言うのは簡単だけどね。

でも、それはやっぱり口先だけの言葉で、こんなになっているレオナを励ますことも、

プルツーを元気づけることも、きっとできないだろう。

アヤさんの「あれ」は、一緒に居て、どんなに学ぼうと思っても学べるようなことじゃなかった。

 だけど、今のあたしは、昔とはちょっと違う。できないことがあるからって、悩んだりなんかしない。

できないことは、できないんだ!こういうのは、あたしには無理!これからしなきゃいけないのは、一つだけ。

この子達を、なだめすかして、どうにか地球に連れて帰ること。

あとは、もう、アヤさん達に丸投げでいいよね、アヤさん!

 あたし、この三人が、仲良く笑ってるところが見たい、って今、そう思うんだよ。


つづく!


この話、いったいこれからどうしたいんだろう…←

そういえば、今回は脱走モノじゃないのね、という話はしてはいけません。



ジュドーって14だったっけ?
Vのウッソが14で最年少じゃなかったっけ?
それはともかくあのアライヤださんがなんかすごく頼もしいんですけど?
オメガの姉貴分たちが寂しがるんじゃね?

マアイヤださんかなんとかさん見違えたな
あれだなモウイヤださんは姉貴分がいたら後輩らしくなって、後輩がいたらお姉さんらしくなるんだなww

こんな可愛く女の子らしいプルツーさんはどこに行けば出合えますか?

>>479
感謝!

>>480
感謝!!
ジュドー、驚いたことに14でした、16かと思っていて、念のためwiki先生に聞いてみて判明しましたです。
頼もしくなっても、マライア・アトウッド曹長なのであります!

>>481
なにが見違えたかって、このシリーズになって作者が一度もマライアの名前だけは間違えてないことですww

プルツー、キャラ設定に悩んでおりますが…ZZ最終回のプルツーをおおいに参考にしています。

あその場面以降彼女は、感応してエルピー・プルの記憶や意識すら持ち合わせたプルハイブリッド化状態に
なっていたんだと解釈しております。ZZ作中の「一人じゃないみたいなんだ、あたし」というセリフは
単にクローンがいるよ、ってことではなくて、「あたしの中にいるのは一人じゃないよ」ってことかと。
ジュドーの呼び名が「お兄ちゃん」だったり「ジュドー」だったり安定しないあたりからもそんな気がしているので

以上のような解釈の結果、かわいらしいプルツーが誕生してしまった次第ww



あと、お詫びです。

投下できる続きがあったのですが、なんか雰囲気がペンション日記っぽく展開の起伏が小さい感じがしたので
急きょ差し替えのため、続きはボツ稿にしてしまいました。

ZZ編を読み返してみて、あまりにも設定、文章などに荒れが目立つため、
もうちょっと丁寧に作りこみたいと思いなおしての書き直しになります。

基本ストーリーは最初のプロット通りで変化はないのですが、細かな表現とか展開を直してます。
ですので、もう数日、投下をお待ちいただけると幸いです。

今週も土曜日出勤なので、日曜日の昼くらいには、ドカッと投下できたらと思います。

お待ちいただけている方がいたら、大変申し訳ありませんが、よろしくお願いします。


お読みいただき感謝!


長文失礼。


レス感謝です!

ジュドーくんは当初13歳、その後14歳になりました。
ウッソくんは最初っから最後まで13歳だったようです。

相手が人、ということで、巨人相手の訓練兵団やエヴァのパイロットよりも
壮絶にいろいろ悩むだろうなと思う今日この頃。


そんなわけで続き投げます!


 バタバタと足音が聞こえて、ドカン、と病室のドアが開いた。

あたしはビクッとして、剥いていたリンゴを取り落としそうになって振り返った。

 そこには、ジュドーくんが居た。

「プルツー…!」

ジュドーくんは、プルツーを見るなり、ウルウルと目に涙を溜め始めた。

「お兄ちゃん!」

プルツーはまるではじけ飛ぶみたいにベッドから飛び起きると、ジュドーくんに飛びついた。

ジュドーくんが涙をこぼすよりも早く、プルツーの方がジュドーくんに顔をうずめてワンワンと泣き出した。

ジュドーくんは、そんなプルツーを優しく抱きしめて、頭を撫でてあげている。

 …お兄ちゃん、ってどういうこと…?

 あたしは、頭にふっと湧いたそんな疑問を、とりあえず隅に追いやって、二人の再開を眺めていた。

なんか、あれだな…こういうのって、見てるとすごく嬉しい気持ちになって来るよね…。

 どれくらい経ったか、プルツーは泣きやんで、そっとジュドーくんのそばを離れた。

「プルツー、お前、大丈夫なのか?」

ジュドーくんの問いかけに、プルツーは笑って

「うん、なんだか、変な感じだけど」

と答えた。

「変な感じ?」

「うん…一人じゃないみたいなんだ、わたし」

プルツーは、自分でも不思議そうな顔をしてジュドーくんに言った。

 一人じゃ、ない…それって、マリや、他のプルシリーズがどうのこうの、って話とは、違うよね…?

あたし達と一緒にいたから、ってことでもないんだろうな…きっと。あたし、その感じ、たぶん、分かる…

「どういうことだよ?」

ジュドーくんが聞いたら、プルツーは自分の胸に手を置いた。

「ここにいるんだ、プルが」

「え?」

うん、知ってた…。マリとケンカになったあとに、感応したあたしとは別に、あなたの中には別の思念があった。

それはとても穏やかで、優しい誰か。ううん、あたしは、それが誰かも分かっていたのかもしれない。

まだ不安定なプルツーを支えるために、レイチェル、エルピー・プルが遺して行ったんだね。

「うまく言えないんだ。でも、わたしのここに、プルもいるの」

「…そっか」

たぶん、ジュドーくん、あんまり意味分かってないだろうけど、でも、すごく優しい目をして、

またプルツーを抱きしめた。なんだろうな、この14歳。すごく大人に見える…お兄ちゃん気質、なんだね。


 「マライアさん、ありがとう」

それからジュドーくんは、あたしに向かってそう礼を言ってきた。あたしはなんだか照れくさくって

「いえいえ、別にぃ。レオナの妹だしね。面倒みるくらい、当然だよ」

なんて、ヘラヘラしながら言ってしまった。でも、言ってしまってから、はっとした。

そうだった、あたし、この子を地球に連れて帰りたい、なんて思ってたんだった…。

でも、今の様子を見ちゃうと、なんか言い出しにくいな…

プルツー、ジュドーくんをホントにお兄さんみたいに思ってるもんね…あんまり、引き離したくないなぁ…。

 「どうしたんだよ?」

顔に出てたのか、それとも気配を読まれたのか、ジュドーくんがそう聞いて来た。説明、しておいた方が良いよね…

あたしは、一息、大きく深呼吸をして、背筋を伸ばして言った。

 「あたし達はさ、ゆくゆくは地球に帰るんだ」

プルツーはすこしびっくりしたような表情を見せた。

「帰っちゃうの?」

そう言って今度は寂しそうな顔になる。

「…うん、帰りを待っててくれてる人たちがいるんだ…」

「そうなんだ…」

プルツーは途端にシュンとしてしまった。


「ホントはね、あなたも一緒に、って思ってたんだけど…どうしようかな、って。

 あなたは、ジュドーくんとも居たいんでしょ?」

あたしがそう言ってあげたら、プルは難しそうな顔をした。でも、

「わたしも、一緒に居ていいの?」

と聞いてくる。

「もちろん!あなたが一緒に居たい、って言うなら、あたし達もうれしいし、一緒に帰りたいって思うよ」

「ありがとう」

プルは満面の笑顔を浮かべて答えた。だけど、すぐにまたシュンとして

「でも、そうしたらお兄ちゃん…ジュドーとは、お別れになっちゃう…」

と口にした。

「うん」

「困ったな…」

「うん」

「どうしたらいい?」

「うーん、プルツーのしたいようにすればいいよ。

 ジュドーくんと一緒に居たいっていうなら、あたしもレオナも、ジュドーくんにプルツーのことお願いするし、

 一緒に帰るんだったら、それはそれでジュドーくんともちゃんと話をしなきゃいけないしね」

あたしは肩をすくめていう。こんな選択、彼女みたいな小さい子に強いてしまうのは、正直酷だけど、でも…

あたし達もいつまでも宇宙にいるわけには行かない。いつかは地球へもどる。

そのときになって悩ませてしまうよりは、良いだろうと思うんだ。

 「まぁ、明日とか明後日すぐに帰る、ってわけじゃないからさ。ちょっと考えて置いてくれると嬉しい、かな」

あたしが声を掛けたら、プルは静かに

「わかった」

と返事をした。あぁ、また凹ませちゃったな…こういう子に、現実を突きつけるのって、なんだかひどく残酷だよね。

本当に、どうしようもないんだけどさ、こればっかりは。

 さて…なんか、暗い話になっちゃったな…どうしよう?まぁ、とりあえず、プルツーの笑顔を拝んでおこう。

それさえあれば、パッと明るい雰囲気になるしね。

 そんなことを思ってあたしは持ってきていた紙袋からチョコレートのクランチを取り出して

「食べる?」

とプルツーに聞いてみた。プルツーは案の定、目をキラキラに輝かせて

「うん!」

と返事をして笑顔を浮かべてくれた。


 それからしばらくして、病室にレオナとマリ、ルーカスがやってきて、少しだけジュドーと話をした。

マリはプルツーのために、と言って買ってきたらしいジグソーパズルを小さなボードの上に広げて頭を寄せ合っていた。

二人は、あたし達をよそにパズルに集中し始めてしまった。

子どもだから、なのか、それとも、ニュータイプ的ななにかなのか、強化人間的なものの影響なのか、

あるいは、育ちのせいなのか、こういうのへの集中力がこの二人は異常に高い気がする。

シャトルの中でもマリがあたしの暇つぶしツールの一つ、立体迷路のオモチャを2日かからないでクリアしてしまったし。

頭が良い、と言うより、視覚認識能力がすごく高いんだと思う。パイロットとしては大事な能力だ。

遺伝子操作の影響かもしれないな、なんてことを考えながら、仲睦まじくパズルに興じる二人を眺める。

 うーん、それにしてもこれは…なんだかこう、平和な感じで、仲睦まじそうで、いいね、すごい、贅沢…

いや、待ってあたし!今、道踏み外しそうになってない!?落ち着いて!

 病室には、今夜はジュドーくんが泊まってくれることになった。

あたしは安心して、ジュドーくんにプルツーを任せて、港への道を、4人で歩いた。

 公文書館での調査は、まったく進展してないらしい。なんでも、レオナの戸籍すら見つからないのだという。

このコロニーに来てから一か月近く経って、そこまでなにも出てこないとなると、情報が消されている可能性は高い。

そもそも公文書館なんて、連邦の検閲が通った書類しか置いてない。

高度に政治的なものや、機密に関するものの多くは、連邦政府によって秘匿処理されているだろう。

と言うことは、問題は連邦が実験やなんかの情報を消したのか、ジオンが消したのか、だ。

 ジオンっぽいよな、勘だけど。

 港について、自分たちのシャトルが泊まっているケージへ向かう途中で、あたしは見覚えのあるランチを目にした。

それは、ペガサス級に搭載されている特殊なやつで、

高速航行が可能なペガサス級への航行中の発着を可能にする強化されたワイヤーアームとドッキング機構が設置されている。

 ジュドーくんが乗ってきたのかな?確か彼…アーガマ級の新鋭艦に乗ってたはずだけど、

あれもペガサス級と基本コンセプトがおんなじだから、このタイプのランチを使ってるかも…


 「大尉!」

そんなことを思っていたら、不意に、あたしを呼ぶ声がした。見たら、そこには、アムロが居た。

「アムロ!来てたんだ!」

「ああ、ちょっと用事があってな」

アムロはそう言ってニッと笑うと、あたしに何かを差し出してきた。これは…データディスク?

「これは?」

あたしが聞くと、アムロはあたしをじっと見据えて

「こないだ、艦の中で話を聞いて、いろいろ調べてみたんだ。ジョニーからも聴取した。何かの役に立つと良いが」

と言って笑った。ジョニー?あの、「カラバの欠番エース」のジョニー・ライデンのことだよね?

「ジョニーさんをご存じなんですか?」

急に、そばにいたレオナが声を上げた。なに、レオナも知ってるの?

「あぁ、彼は仲間だが…君は?」

「私は、その、オークランドでアムロさんにお世話になる前に、ジョニーさんにも助けてもらって…」

「そうだったのか…彼も、人が良いな」

アムロはそう言って笑った。

 「それで、このディスクには、なにが?」

「あぁ、旧サイド6にあった、ジオンのニュータイプ研究所に関してだ」

「フラナガン機関の?」

あたしは、思わず声を上げてしまって、慌てて口をふさいだ。

だって、それは、ジオン軍の中でもかなりの機密事項だったはずだよ。

終戦直前に真っ先に閉鎖されて、資料はどこかに移されたって話は聞いていたけど…

「俺にも詳しくは分からないが、とにかく、ディスクを見てくれ。ジョニーから送られてきたデータをコピーしてある」

ジョニーから…彼、確か、強化人間じゃなかったはずだけど…

でも、フラナガン機関と関係していたってことは、何らかの施術は施されていたのかもしれない。

モビルスーツに乗れなくなった、って噂はそれの影響…?


「その…ありがとう、ございます」

レオナがそう言って、へこっと頭を下げた。アムロはニコッと笑顔を見せて

「大尉には、世話になったからな。恩返しだと思ってくれ」

…あたし、アムロの世話なんかした覚えないんだけど…なにかしたっけ?情報流してあげたりとか?

でも、あれ、直接アムロをどうにかしたわけでもないと思うんだけどな…まぁ、良いや、ありがたいことには違いない。


「ありがとう、アムロ」

あたしもアムロに礼を言った。アムロはちょっと赤くなって、

「いいんだ。それじゃぁ、俺は仕事があるから、失礼するよ」

と言い残し、手を振って廊下を歩いて行った。

 「あの人も、隅に置けないな」

ポツリと、ルーカスが言った。

「え、なに、ルーカス、何か言った?」

「いいえ、なにも」

聞き逃したあたしが聞いたら、ルーカスはそう言って笑いながら首を振った。

 なによ、ルーカス、変なの。


「サイド5へ?」

昨日、アムロからもらったデータを見つつ、あたし達は会議を開いた。

ジョニーが集めた、というデータファイルの中には、旧サイド6、今のサイド5にあったフラナガン研究所に関する

相当量の情報が詰まっていた。

そのなかでもあたし達が目を付けたのは、研究所のあったコロニーの隣に浮いている居住用のコロニーだった。

ジョニーのくれた情報が正しければ、そこには研究所のデータのバックアップや緊急時に退避させるためのサーバー施設があるらしい。

終戦前から中立を謳い、表だっては連邦からもジオンからも干渉を受けなかったサイド6が、

終戦後、連邦へ取り入るための手土産にジオンの研究施設を連邦側に内通させるってことがあったんだけど、

あたしの記憶が確かなら、そのときにこっちのコロニーの名前はあがっていなかった。

おそらく、サイド6政府も存在自体を認識して居ないんだろう。

ここならまだ、検閲されるはずだった情報が残っている可能性が高い。

このサイド3でほとんど何も手にできていないあたし達にとっては、希望が繋げられる場所だ。

レイチェルのことは、残念だったけど、マリは助けた。プルツーもなんとか無事だ。

状況的に、マリとプルツー以外の発見は望めないと思う…たぶん、もう、生きてないだろうし…。

 だからあとは、レオナのことだ。彼女は、あの朝ペンションで言った。

私は自分の運命を戦うんだ、って。運命「と」戦うんじゃなく、運命「を」戦い抜くんだって、そう言った。

レオナには、家族についても、自分についても、どんな現実が突き付けられたって、それを受け入れようって決意があった。

それってすごく辛いことだよね…そんな決意を決められるレオナが弱いなんてこれっぽっちも思わないけど、

でも、戦うんなら援護してあげたいのがあたし達だと思うんだ。

だから、レオナが行くって言うのならあたしは手伝うよ、って言ってあげた。

レオナは半べそで

「ありがとう、お願い…!」

なんて言ってくれた。まっかせてよ、レオナ!

ティターンズとカラバからオメガ隊に戻ってきたあたしは、伊達じゃないんだからね!


 で、旧サイド6に向かうにあたって、一言相談しておかなきゃいけないのが、ジュドーくんとプルツーだった。

明日退院の予定で、片付けやなんかをしていた二人にその話をしたら、ジュドーくんがそう聞き返して来た。

「うん、フラナガン機関の跡地を調査しに行くの」

ジュドーくんにレオナが答えた。

ジュドーくんには、プルツーの面倒を任せてもらえるようになる話し合いのときにレオナが直接、自分の話をして、

境遇は理解してもらっていた。

 プルツーのことはジュドーくんにとっても他人事じゃないだろうけど、でも、だからこそ、ちゃんと話をしたいとレオナは言った。

あたしは、もちろん賛成した。

別にプルツーを置き去りにする訳じゃない、用事が済んだら戻ってくるつもりでいるけど、それでも、ね。

「姉さん、出掛けるの?」

プルツーはすでに、今にも泣き出しそうな表情だ。

「うん…私、知りたいの。私や、あなた達がどうして生まれたのかを、ね。

 今が不満って訳じゃないけど、でも、それを知ることが出来たら、

 もっとちゃんと自分を大事にしてあげられる気がするんだ…」

レオナは、真剣に、言い聞かせるように、プルツーに言った。プルツーは、顔を伏せて口をモゴモゴさせる。

「それにね」

何かを言いかけたプルツーの言葉を、レオナはそう遮り、レオナは続けた。

「あなた達にも、そうなって欲しい、って思うんだ」


「わたし達に…?」

プルツーが顔をあげる。

「うん…私は、誰よりもあなた達に、生きる意味をあげたいの。美味しいものを食べたり、遊んだり、

 大切な誰かと一緒にいることも嬉しくて幸せだけど…でも、分かるんだ。私もそうだから。

 楽しいことがあっても、私達の心にはどこかぽっかり小さな穴が空いてて、

 幸せなときも、どこかで虚しさを感じてる。寂しさを感じてる。誰かと一緒に居たいって願ってる。

 優しくして欲しい、愛されたいって、そう思ってる。でもきっと、それは“誰か”では埋まらないんだよ。

 私達が、自分は何者か、ってことを理解して、それで、そんな自分をそれでもいい、って思えるまでは…ね」

「分からないよ…そんなの…」

プルツーはレオナの話にそうとだけ返して、また、俯いた。

 レオナの話、何となく分かるな…たぶん、昔のあたしがそうだったんだ。

みんなに認めてほしくて、みんなと一緒に居ようとしたけど、結局、自分の情けなさを痛感するだけで、

心の隅っこでいつも孤独を感じてた。

いつまで経ってもヒヨッ子で、甘ったれで弱虫なマライア・アトウッドだった。

ソフィアの決断と、アヤさんの発破で宇宙に飛び出したあたしは、こんな知り合いも誰もいない暗い場所で初めて、

大好きだったオメガ隊に居るために必要だったものが、一緒に居たいって思う気持ちとは真反対の、

自立心だったってことに気がついた。

 守られるだけの存在じゃなく、仲間として一緒に居るために、隊長やアヤさんに憧れてマネするんじゃなく、

あたしはあたしだ!って、言い切れるようにならなきゃいけなかったんだと思う。

そうなって初めてあたしは、アヤさんにも隊長達にも困ったときには頼られる、オメガ隊員の一人になれた。

 まったくおんなじってワケじゃないけど、レオナの言っていることは、レオナはレオナだって、

自分自身が言い切れるようになること、なんだよね。

 マリやプルツーにも同じことを感じて欲しくて、そのためには、自分達がどういう人間なのかを、

事実がどんなであれ、伝えてあげたいんだ。

 そしてたぶん、それを受け入れた二人が、道具じゃない、人間として生きる、って決められるときまで、

そばで見守るつもりでいるんだろう。

宇宙へ飛び出して連絡も極力絶っていたあたしを、忘れることなく、

帰ったときに「おかえり」って、言ってくれた、隊のみんなとおんなじようにね。


「用事が済んだらちゃんと帰ってくるから、まだ心配しなくていいよ」

レオナは優しい笑顔でそう言って、プルツーの手を握った。

プルツーは、しばらく黙っていたけど、辛そうな顔で、一度、ギュッと目を固く閉じてから、

今度は一転、寂しそうな表情をして

「姉さんにとって、大切なことなんだね」

と掠れた声で言った。

レオナは頷いて

「うん…きっと、あなた達にとっても」

と、また優しい声色で伝えた。

「居なくなったりしないよね」

「うん、約束する。寂しかったら、ほら、このPDAを置いていくよ。ジュドーくんに使い方聞いて。

 メッセージのやり取りくらいならできるようにしておくから」

レオナは、不安げなプルツーにそう言ってPDAを手渡す。プルツーは、それを手にとって、ギュッと握りしめた。

それからプルツーはキュッと口を結んで、言った。

「探しに行くんだね…わたしを探してくれたみたいに、姉さん自身を…」

その言葉に、正直、ちょっと驚いた。感応でもしたのかな?そんな雰囲気はなかったけど…

でも、驚いた以上に、彼女の口からそんな言葉が出たのを聞いて、なんだかホッとした。

レオナの気持ちが、ちゃんとプルツーには届いているみたいだ。

「…うん、そう。私達の魂を、探しに」

レオナが力強く言うと、プルツーは

「…イヤだけど、分かった」

と返事をして、うなずいた。

「ありがとう」

プルツーの言葉に、レオナは彼女を優しく抱きしめた。それから、また、穏やかな口調で、彼女に囁いていた。



「大丈夫。離れていても、私はあなたのそばにいるよ。私達の力は、そのためにあるんだもの」



つづく。

 

おつ



マライヤさんはどこに出しても恥ずかしくない主人公っぷりを発揮させてますな。

最初からそうする予定だったのか、いわゆる「キャラがかってに動いた」結果なのか。
ともかくいいキャラしてるよね、アライヤださん。

乙でした

レオナの出自か…、気になるねぇ…
そこにプルシリーズも絡めば設定的にグレミーの名も上がるだろうし
どう料理されるのか、メチャクチャ楽しみ

>>500
感謝!

>>501
感謝!!
マライアちゃんは、最初から優秀な子に成長する、と決めてはいたものの、
ここまで立派になるとは思いませんでしたw


>>502
感謝!!!
ZZの物語の大きな部分ですよね~!
グレミーとプルは異母きょうd…ん?

アマゾンさんから届け物?ちょっと行ってくる。


 あたし達は翌日、サイド3の港からシャトルを出した。

係留費もバカにならないから港から出られるのはありがたい。

何しろ、ビスト財団からもらった資金はもうカツカツだ。

まぁ、一応、マリは助けられたし、名目としては問題ない。

頑張って探しましたけど、ひとりしか見つかりませんでした、って報告書を上げればいいんだ。

あとは、財団の方がそれを頼りに連邦を叩いてお金をせびったり、

サイド3に医薬品を売り込むネタとしてビジネスチャンスにするだろう。

 それはそれとしても、サイド6、か…今は、確か、コロニー再生計画のせいで場所が変わって、

サイド5、に名前を変えているはずだ。

実は、宇宙暮らしは長いけど、今のサイド5、旧サイド6には一度しか行ったことがない。

その一度、っていうのも、旧サイド6のリボーコロニーにあった連邦の試験所から試作機に乗って

ティターンズの本部だったグリプスへ向かう輸送船に乗せるだけの簡単で手短なお仕事。

だから、ほとんど初めてみたいなものだ。

 「あそこは、まぁ、ガツガツしたところですよ」

ルーカスがそう言って肩をすくめた。旧サイド6の経済力は良く知っている。

あの場所にあった中立政府は戦後に解体されてしまったけど、今でも旧サイド6のコロニー群は経済基盤が強く、

連邦への経済や食料の支援を行っている。

ルーカスの言う、ガツガツしている、ってのはきっとそう言う商売っ気と言うか、そんな風なところを現しているんだろう。

 昨日、プルツーと話をしてから、マリの様子がちょっとおかしい。なんだかプリプリしているっていうか、そんな感じだ。

 相変わらず宇宙は退屈だ。あたしは、ラウンジでくつろぎながら、マリにそのことを聞いてみた。

「ね、なに怒ってるの、マリ?」

「え?怒ってないよ、別に!」

マリはプリプリと返事をした。それを怒ってるっていうんだよ、マリ。

「ふふ、そう?なら、聞かないけど」

「えっ」

あたしが言ってやったら、マリはそう言って顔を上げた。聞いてほしいんなら、そう言えばいいじゃん、もうっ。


「なに、なにかあったんなら話してごらん?」

あたしが言ったら、マリはもじもじ何かを考えながら、恐る恐る、って感じで口を開いた。

「…レオナ姉さん、わたしと、二番目の姉さんと、どっちが好きなのかなって」

「どっちが?」

「だって、昨日、二番目の姉さんに、すごく優しくしてたでしょ。わたしと、どっちが好きなのかって気になる」

マリは言った。あぁ、なるほどね。ヤキモチ、ってわけか。

独占したいのかどうかわかんないけど、まぁ、怒ってる、っていうより複雑な気分なんだね。

「マリは、レオナと、プルツー、どっちが好き?」

あたしは来てみると、マリは眉間にしわを寄せた。

「待って、マライアちゃん、それ、難しい…」

マリはそんなことを言いながら、腕組みまでして悩み始める。なにこれ、なんかかわいい。

そのまま眺めていたら、マリは相変わらず難しい顔をして

「ちょっとだけ、レオナ姉さんの方が好きかな」

と言った。苦渋の決断みたいで、可笑しい。

「じゃぁ、ちょっと質問を変えよっか。アイスクリームとチョコレートのビスケット、どっちが好き?」

「え?!」

「教えてよ、どっちが好き?」

あたしが重ねて聞くとマリはまた腕組みをしたけど、今度は

「ね、それって、ビスケットにアイス乗っけて食べたらダメなの?」

と聞いて来た。うんうん、そう!それでいいんだよ、マリ!

「そうするのが一番美味しいもんね。それとおんなじだよ。

 マリとプルツーは、レオナにとってアイスクリームとチョコビスケットなんだよ。

 それぞれで食べても幸せだけど、一緒に食べる方がもっと幸せな気持ちになれるでしょ?

 レオナはマリと居てもプルツーと居ても幸せだけど、二人と一緒に居るともっと幸せなんだよ」

あたしがそう言ってあげたら、マリはパアッと顔を輝かせた。

「マライアちゃん、頭いい!」

「分かってくれた?」

「うん!じゃぁ、わたしもレオナ姉さんもプル姉さんもどっちも好き!」

マリはなんだか感動したような表情で元気にそう返事を返してきた。

うんうん、よしよし、素直で大変よろしい、二重丸!


 「マライア、そろそろ着くって」

そんな話をしていたら、コクピットの方からレオナが飛んできて、そう教えてくれた。

「あ、了解。マリ、一応、コクピット行くよ」

「うん」

あたしはマリを促して、レオナの背に手を置いたまま、コクピットへと浮いて行く。

 コクピットに着くと、目の前のウィンドウの外に発行信号が見えた。色は青。“着港ヨロシ”だ。

ジオンのニュータイプ研究所があったのは、パルダっていうコロニー。ここはその隣、リノと呼ばれるコロニーだ。

「ルーカス、どう、対応の感じは?」

「手慣れてますね。さすが、ってところです。こちらの所属と目的は事前に説明してありましたけど」

目的は、もちろん、人命救助。

まぁ、今回は救助名目ではなくて、そのための物資調達、ってことにしておいてはあるけど。

「サイド3に入るときの連邦の士官に見習わせてあげたいね」

「まったくです」

あたしが言ってやったら、ルーカスもそう言って笑った。

 シャトルは、ゆっくりと港の中のケージへと誘導されて着港した。ケージが密閉されて、また、青色のランプが灯る。

それと同時に、無線が聞こえた。

<こちら、リノ管制室。シャトル“ピクス”、ケージの気密、完了しました>

「了解、リノ管制室。行き届いた誘導、感謝する」

ルーカスはそう感謝をして無線を切った。

 さて、ここからが、問題だ。ジョニーの情報によれば、サーバー施設は現在、このコロニーの市街地区の地面の中。

正確に言えば、コロニーの壁の中にあるらしい。場所については大まかに分かっているけど、

そこが気密されているのかどうか、とか、どういうルートで行けばいいのか、とか、そこまでのことは記されていなかった。

 とりあえず、市街地を歩いて目的の場所の近くに行ってみよう。その付近で、まずは調査だ。

もしかしたら、壁内へ続く通路でもあるかもしれない。何しろ、サーバールームだ。

少なくとも使用している最中は、定期的にメンテナンスを行っていたはずだ。そのための通路があっても、おかしくはない。


 「レストランあるかな!?」

マリは、こないだあんなに苦しんだっていうのに、もうそんなことを言っている。

まぁ、サイド3で固形物にもなれたから、もうあんなことにはならないだろうけど…

それでも、今度はあたしも、食べ過ぎそうになったら注意してあげないとな。

 そんなことを思いながら、あたし達は準備をしてシャトルを出て、レンタルのエレカを借りて市街地へと向かった。

 あたしが地図を見ながら、ルーカスが車を走らせて市街地を進む。地図通りなら、たぶん、この辺りで間違いない筈だ。

 あたしはルーカスにそれを伝えて、路肩の駐車スペースに車を入れてもらって、表に出た。

閑静な街並み、と言う言葉が似合う雰囲気で、どこもかしこもこぎれいでピカピカしている。

道を行く人達も、なんだかちょっと上流っぽい感じで、きらびやかに見えなくもない。

 レオナ達も車から降りてきてあたりをキョロキョロしている。まるでお上りさんだ。

まぁ、ある意味宇宙に上がって来たってことだから、お上りさん、には違いないんだろうけど。

 「ね、マライアちゃん、ご飯まだかなぁ?」

マリがあたしの顔を覗き込むようにして聞いて来た。もう、マリったら、そればっかりなんだから。

でも、確かにサイド3からこっちまでぶっ通しだったし、休憩がてらにご飯を食べるのも良いかもしれないね。

 「あぁ、あそこがいいんじゃないかな」

あたしは、辺りを見渡して通りの角に、カフェを見つけた。

「そうですね。とりあえず、休憩にしますか」

「ホント?良いの?」

マリが満点の笑顔でそういってくる。

「うん?お昼だしね、食べよう食べよう!」

あたしが言ってあげると、マリはますますうれしくなったようでその場でぴょんぴょん飛び跳ねて

「ごはん!ごっはっんー!」

とはしゃぎ始めた。

 「食べすぎには注意ね」

レオナがそんなマリに苦笑いで注意する。

「うん…あれはもう、つらいから…」

レオナの言葉に、マリはちゃんと青くなって答えた。うん、いい子だ。

 席に通されて、あたしとレオナはパスタ、マリとルーカスはバンバーグのランチを頼んだ。

チョコレートパフェを我慢したらしいマリが、最後まで悩んでいたので、

食べ終わって平気そうだったら頼もう、と言ってあげたら喜んだ。


 「で…施設の位置だけど」

「ええ、おそらく、この区画だと思います」

料理を待っている間に、ルーカスはそういって、このあたりの地図を取り出すと、

今いるカフェのある一帯の1ブロックにペンで丸をつける。

商店や飲食店なんかが入っているビルがいくつかあるエリアだ。おおよそ、50メートル四方で、それほど広いってわけでもない。

「しらみつぶしにやってみますか?」

「うーん、やってみるにしたって、ないかもしれないものを探させてくれ、って言って、

 建物の地下に入れてくれるとは思わないんだよね」

「まぁ、確かに」

ルーカスは腕を組む。

「コロニー公社から、図面でも取り寄せられると良いんだけどね…」

レオナがつぶやく。

 図面、か。このコロニーのメンテナンスをしている部署もどこかにあるはずだ。

そこから図面を手に入れるってのも、悪くない。

ネットワークに接続さえ出来れば、ハッキングでもなんでもして、情報を引っ張ってくるのは簡単だ。

ただ、問題はこの施設が果たしてそんな図面に載っているような通路の先にあるのかどうか、だ。

1年戦争が終わってから、ここの場所がジオン以外の誰かに知れたという形跡はない。

設置の段階で、通路を勝手に作ったか、あるいは、通路なんかなくて、もっと別の方法でそこに施設ごと運び込んだか…

でも、やはりメンテナンスの事もある。きっとどこかに、直接アクセスできる場所があるはずだ。

「通路を探す、として、何か当てはあるんですか?」

ルーカスが聞いてきた。

「そりゃぁ、地下に部屋のある建物を当たるのが一番だろうね。

 どう考えても、地上エリアからそのまま地下に降りられるような改造は出来ないと思う。

 あるとすれば、もともと地下階があって、そこからさらに通路を作ったほうが簡単でしょ?」

あたしが言うとルーカスはうなずいた。

それから、黙ってはいたけど、もしその場所に入り口があるというのなら、警備がいる可能性も否定できない。

研究所が放棄されてからもう9年近く経つけど、内容が内容だけに、誰かが監視しててもおかしくはないんだ。

 そんなことを考えていたら、店員が料理を運んできた。

ルーカスとマリの頼んだハンバーグの鉄板がじゅうじゅうと音を立てている。


「うわー!おいしそう!」

マリがイスの上で飛び跳ねて、うれしさを全身で表現している。まったく、かわいいんだから、もう。

 あたし達は料理に舌鼓を打って、追加で頼んだデザートも平らげて、お店を出た。

マリは、今日はぴんぴんに元気で、いまだに幸せそうにニコニコと笑っている。

 さて、地下のある建物か。あたしは周囲に目を走らせる。

あたりにあるのはスーパーやなんかの入った建物が多くて、地下がありそうな感じのものはない。

そのまま通りを進んで、次の角を左に折れる。今まで歩いていた通りに比べるとすこし細めの道路だ。

さらに歩きながら、立ち並ぶ建物に目を向ける。こっちは、商業用のビルが多いのかな。

会社のオフィスやなんかが入っている感じだ。あるとすれば、このあたり、か。

地下階のある建物に架空の会社名義でオフィスを借りて、地下にサーバーを運び込む…これなら自然だし不可能じゃない。

 「大尉、あれ」

不意にルーカスが指をさした。その先を追うと、そこには古ぼけたビルがあり、

その正面にビルの中に入っているだろう会社の社名がいくつか書かれたプレートが設置してある。

確かに地下階があるみたいだ。2階から、地下1階までを「ロム無線機器株式会社」という名の会社があるって標識が出ている。

「ロム…?」

それをみたレオナが声を上げた。

「知ってるの?」

あたしが聞くと、レオナは少しいぶかしげにしながら

「確か、ジオンの研究所、フラナガン機関って呼び名だけど、それって創始者のフラナガン博士の名前なんだ。

 博士のフルネームが、フラナガン・ロム…」

と小さな声で言った。

 ロム…か。それも同じだし、地下階もあるし、何より無線機器って怪しいよね。

コロニー間の情報のやり取りは有線じゃ無理だし、そういう会社なら、ある程度強い電波を発していても、怪しまれないで済む。

目星は、ついたね。

「ここ、調べて見る価値ありそうだね」

あたしが言うと、ルーカスは黙ってうなずいた。それから

「準備をしましょう。解析用のコンピュータと、忍び込むのなら警備システムをチェックしておかないといけないですし」

とすでにあれこれ考えているような感じで言った。

「うん。いったんシャトルに戻って、作戦会議だね。作戦が決まり次第、必要なものの買出しに出てこよう」

 それで、良いよね、という思いを込めて、あたしはレオナを見やった。彼女は力強い目で一度だけ、コクっとうなずいて見せた。






 その晩、あたし達は、昼間見つけたビルのそばにいた。

車を道端に止めて、あたりの様子を伺う。車に乗っているのは、あたしとレオナ。

ルーカスとマリは、別働で支援をお願いしている。まぁ、正直、マリをこっちに引っ張ってくるわけにはいかなかったし、

かといってシャトルで一人留守番をお願いするのも、イヤがるだろうしね…。

それに、マリのニュータイプの感覚はもしものとき、無線なんかよりもよっぽど頼りになるかもしれない。

そういう意味では、支援としてすごくありがたい存在だ。

 「マライア、大丈夫」

外を見回して、レオナが言った。あたしも周囲を確認する。人影は、ない。

 あたし達は車を降りた。ドアをそっと閉めて、建物へと近づく。

昼間、買出しの帰りに、この建物によって、警備システムの回線にデータ送受信用のモジュールをバイパスさせておいた。

あたしが教えたとおりにルーカスがやれていれば、もうじき、オッケーの連絡がくるはず…。

 ブブッと、PDFが震えた。あたしはポケットからPDFを取り出してそっとモニターを確認する。

ルーカスから、「処理完了」とだけのメッセージが届いている。さすがルーカス!頼りにしてるよ…。

 あたしはレオナの目を見て一度だけ確認する。レオナも、あたしの目を見て、うなずいた。

 あたしは、腰から下げていたポーチから先端の曲がった細い金属の棒を取り出した。ピッキングツールだ。

潜入の基本だよね。

 その棒を、ビルの出入り口にあるガラス戸の鍵穴に差し込んで手ごたえを探る。カキカキと、金属同士が擦れ合う。

鍵穴の中にある突起物に、先端を何とか引っ掛けて、それをクイッと捻りあげる。カチッと音がした。

ゆっくりとドアを押し込む。ガラス戸は、キィっと音を立てて開いた。

二人でそろって中に入り、内側から鍵を閉める。それからレオナに懐中電灯を渡し、あたしは拳銃を抜いた。

モビルスーツと違って、生身のやり取りはそれほど得意じゃない。

アヤさんにあれこれ教わったけど、アヤさんに比べて体の小さいあたしは、基本的にリーチが短くてちょっと不便なんだ。

どっちかって言うと、ユージェニーさんに教えてもらった体術の方が慣れてはいるんだけど、

あれはあれで相手に密着しないと仕えないから、相手が武装なんかしてるときには奇襲でもしない限り、

まったく手が出なくなってしまう。小さいころにもうちょっと牛乳とか飲んで置くんだったな…

って、あれは迷信なんだっけ?

 あたしとレオナは階下へと続く階段を発見した。ふぅ、と息を吐いて、あたしが先に階段を降りる。

クッと胸が苦しくなってくる。それを軽くするために、音が出ないようにしながら、さらにゆっくり息を吐く。

バクバク言い始めた心臓をなだめながら、一歩一歩階段を下る。


 ふと、何かが聞こえた。あたしは咄嗟にレオナに合図を出してライトを消させる。

その場にしゃがんで、暗がりに耳を澄ます。これは、音楽?人の声も…テレビか、ラジオみたいだ…。

あたしは、さらにゆっくりと階段を下りていく。

すると、階段の壁の向こう側に、明かりのついた部屋があるのが目に入った。

壁越しに中を覗くと、そこは守衛室のようで、制服を着た男が一人、机に足を投げ出して、

小さなテレビに視線を送って時折笑いを漏らしている。

 普通の警備員、だと良いんだけど…サーバーのことを知ってて守ってる相手なら、ちょっと手ごわいかもしれない…

感覚的に、そんなに強そうな印象は感じないけれど…。

「マライア、どうするの?」

レオナが小声で聞いてくる。どうするもこうするも、この階をくまなく調べたいんだったら、眠ってもらうほかはないよね…

守衛室にこっそり入って行って、うしろから、かな。

「ちょっと行って来るよ。あたしがヘマしたら、すぐにルーカスに電話してね」

あたしはレオナにそう言い残して、一人で階段を下りていく。

地下階に降り立って、腰をかがめて守衛室から死角になるように気をつけながら、その入り口のドアまで近づく。

あたしはノブに手をかけて捻り、ほんのすこしだけドアを開けた。それからすぐにノブから手を離す。

ドアは自重でそのまま音もなく開き切る。ポーチから取り出したミラーで中を確認する。気づいている様子はない。

 あたしはその場を一気に駆け出した。警備員の背後に飛びつくと、首の後ろから手刀を叩き込んだ。

「ぐっ…」

若い警備員は、そんなうめき声を上げて、イスの上でノびてしまった。

 ふう、とため息をついた。

「レオナ、オッケー。来て良いよ」

あたしはレオナに声を掛けながら、警備員をイスから引き摺り下ろして床に転がした。

それから、座っていたイスも床に倒しておく。

これで、襲われたんじゃなくて、転んで意識を失ってた、って思ってくれると良いんだけど…。

 そんなことを願いつつ、あたしは、ポーチの中のタブレットケースから一粒錠剤を取り出して、

こじ開けた男の口の舌の下へ押し込んだ。これで3、4時間は目が覚めないはずだ。とりあえず、制圧完了、だ。

 一息ついて、今度は守衛室からあたりを見回す。この男一人、とは限らない。

別の人間がいないかどうかに注意しながら、探索を始めることにしよう。

 レオナが、あたしの肩に手を置いてきた。なんだろう、と思ってみたら、レオナは手に、このフロアの見取り図を持っていた。

どうやら、警備員が足を投げ出していた机の引き出しから見つけたらしい。やるじゃん、レオナ!

 あたしはその見取り図に目を走らせる。地下は半分がオフィス、半分かビル全体のためのボイラー室やら電源室、

上下水の管理室になっている。

昼間の仮説が正しくて、ロムって会社がが施設を守備する目的で配置されているんだとして、

通路があるのなら、オフィスの方だろう。

 あたしは黙って、見取り図を一緒に見ていたレオナの目を見て、オフィスの場所を指差した。

レオナはコクっとうなずいた。


 守衛室を出て、オフィスの入り口へと向かう。薄暗い廊下に、あたし達以外の気配はない。

程なくして、「ロム無線機器株式会社」と書かれたドアの前に差し掛かった。

見取り図を確認するとオフィスの中に地上階へ続く階段がある。どうやらここはオフィスの裏口のようだ。

両開きのそのドアを確認すると、やはり鍵がかかっている。

ピッキングツールを差し込んで、さっきと同じ要領で鍵を開ける。今度のは、構造が簡単だったので、すぐに開けられた。

 そっとドアを押し込んでオフィスの中へと入る。

廊下同様オフィスも薄暗く、誰もいないデスクと、おそらく昼間は使っていたんだろう機材があちこちにおいてある。

廊下よりも、こういう雑然としたところに一切人がいないって方が、かなり不気味な感じがする。

 着ていたシャツの袖口が何かに引っかかった。

見たら、なんてことはない、レオナがあたしのシャツをギュッと握り締めていた。

うん、いや、レオナ、気持ちはすごい分かるよ。オバケとか出そうだもんね、これは。

気持ち分かりすぎちゃうから、その、あれだ、も、もっとくっ付いてくれて、いいいいいいいんだからね…。

 あたしもなんだか背筋が寒くなって、袖を握っていたレオナの手を引き剥がして、

代わりに近くへ引っ張り寄せて、腕にしがみつかせた。よ、よし、これでちょっと安心する…。

 それにしても…隠された通路があるとしたら、どういうところだろう?

壁面にそんなものがあったら一目瞭然な気もする。

壁をライトで照らすけど、例えば壁材の継ぎ目なんかは特に見当たらない。ってことは、あとは、足元、だよね。

 あたしは、カーペットの敷き詰められた床を確認する。

けど、一面、同じ色のタイルカーペットが敷き詰められていて、こっちも注目するべきポイントもない。

壁よりはこの下の方が怪しいんだけど、かといって、さすがに一枚一枚、

カーペットをはがして確認するのは時間がかかりすぎる。何か、手がかりがあるはず…。

天井に付いた非常灯だけがぼんやりと浮かび上がるオフィスの中を、懐中電灯で照らしながら、あたしは恐る恐る進む。

レオナが体をぴったり寄せてついてくる。こんなんじゃ、まるでオバケ屋敷だ。

だ、だけど、で、電気なんてつけたら、さすがにヤバいしね…。

 「マ、マライア」

急に耳元でボソボソっと言う声が聞こえて、瞬間的に背中にゾクゾクゾクっと悪寒が走り抜け飛び上がりそうになった。

もちろん、呼んだのはレオナなんだけど、そ、そんな耳元で呼ばなくてもいいでしょ!

 半分涙目になりながら、レオナを見る。すると、レオナは懐中電灯で何かを照らしている。

そこには応接用のソファーとテーブルのセットが置かれていた。パッと見、おかしなところはないけど…

「あそこの床」

レオナが言うので、テーブルが置かれているその下を見る。

すると、一面灰色のタイルカーペットのはずが、その下だけが、うっすらと赤い感じのカーペットになっている。

ちょうど、上品にテーブルの下やソファーの足元にラグが置いてあるみたいな雰囲気になっていて気づかなかったけど、

確かに、あそこだけ別の色のタイルカーペットが敷いてあるみたいだ。

 あたしはレオナと一緒にそのテーブルまで近づいていく。どうみても普通のテーブルには間違いない。

しゃがみこんで、テーブルの足元確認する。警報装置やトラップなんかが付いている様子はなさそうだ。

 「これ、どかそう」

レオナに言って、テーブルの両端を二人で持って、少しだけ位置をずらす。

それから、あたしは赤いタイルカーペットを慎重に剥がして行く。

すると、その下から30センチ四方くらいの点検口の蓋のようなものが現れた。

ネジ止めしてあったので、ポーチからドライバーを取り出してその蓋を開けてみる。

 中から出てきたのは、下へ降りる階段とかではなくて、コンソールと、データ用のケーブルを接続する端子口だった。

 これって、もしかして…あたしは、持ってきていたコンピュータを取り出して、データケーブルをその端子口に差し込んだ。

コンピュータを起動させて、ケーブルの先の情報を確認する。これは、どこにつながっているの…?

 しばらくして、画面に文字が表示された。


<You need passwords for access to this database>


 パスワード、ね…わからないな、さすがに。でも…待って…ね。

あたしは、いったんその表示を消して、パスワードを要求してくるセキュリティのシステム自体の命令コードを確認する。

つらつらと表示されるコンピュータ言語のそのロジックを、あたしは見た覚えがあった。

これは…ソフィアを助けるために、あの旧軍工廠で、砲弾を遠隔爆破させるためのシステムを組み上げるために解析した、

ジオンのコンピュータのメインOSのとそっくりだ。だとしたら、さっきのセキュリティは…

 あたしはキーボード叩く。64進法の基本的な計算式と、共通情報言語で記述されてるこのシステムのロジックなら、
この命令文を送ってやれば…

 コマンドを入力し終えて、エンターキーを叩いた。ウィンドウが閉じて、しばらく画面から表示が消える。

処理中、の表示が出た次の瞬間、画面に表示されたのは、いくつかの選択肢の表示だった。

 マハル、リゾンデ、タイガーバウム、アキレス、ブリュタール、ウィルヘルムスハーフェン…

これって、サイド3のコロニーの名前だ…もしかして、これ、各サーバーに付けられた名前、ってこと?

あたしはその中のひとつを選んで中を見てみる。

 これは…当たりだ!そこには、無数のファイルが並んでいた。

ファイルのタイトルのいくつかには、「強化」や「NT試験」なんて文字列がある。間違いない…。

 あたしはコンピュータにデータディスクを差し込んで、サーバーの中身をコピーする。

処理の進行状況を示すバーがいっぱいになって、ディスクが吐き出された。一枚じゃ足りないみたい。

別のディスクを差し込んで、さらにコピーを続ける。

 結果的に、5枚のデータディスクが必要になった。これは、ちょっとすごい量だ…。

この下に、どれだけのパワーのあるサーバーが隠されているんだろう。

9年前の機材だって言うのに、これだけの情報量を保管しておけるなんて、さすが研究所の施設だけのことはあるね。

出来ることなら、サーバーごと持って帰ってあたしがためてる情報をみんなここに移してみたいな…

いや、どうでもいいか、別に。


 コピーが終わって、ほっとして端子からケーブルを引っこ抜いて、コンピュータを片付ける。

蓋をしてネジで止めて、タイルカーペットを敷きなおして、テーブルを元の位置に戻す。

これで、あけたことはバレない、と、思う。

まぁ、システムにつけた足跡は消したし、アクセスしたあたしのコンピュータは署名を消してあるから、まず辿られる心配はない。

カメラもルーカスがつぶしたし、問題はないよね。

 あたしは、相変わらずくっ付いていたレオナに合図をして、オフィス内の階段を上った。

地上階に出たら、そこから外へ続く扉はすぐのところにあって、オフィスの鍵を内側から開けて、静かにビルの外へと脱出した。

 ぷはっ、と大きく息を吸い込んで、それからレオナの手を引いて車に駆け込む。

周囲を一度確認して、見られていないことを確かめてからあたしはアクセルを踏み込んで車を走らせた。




 「姉さん!マライアちゃん!」

シャトルにもどったあたし達を、マリが叫びながらの突撃で迎え撃ってくれた。

あたしが受け止めたから良かったものの、レオナの方に突っ込んでたら、

一緒に吹っ飛んで行っちゃってもおかしくないくらいの勢いだった。まったく、いつでも全力なんだから、この子は。

「はいはい、ただいま」

あたしはマリを抱きしめてそういってあげる。

「大丈夫でしたか?」

ついでルーカスがシャトルの中にあたしたちを向かえ入れながら聞いてきた。

「うん、警備が一人いたけど、たぶん、バイトくんだったんじゃないかな」

あたしが言ってやると、傍らでレオナが苦笑いを浮かべた。まぁ、悪いことしちゃった、とは思うけどさ。

「情報は、バッチリ」

あたしはポーチからデータディスクを取り出してルーカスに手渡す。受け取ったルーカスは、ギョッとした顔を見せて


「こ、これ全部、ですか?」

といってきた。

「うん、相当な量だよね。検索するのに苦労しそう」

あたしはへばり付いていたマリを引き剥がして、レオナの方に押し付けて、ラウンジのソファーにドカっと腰を下ろした。

「とりあえず、シャトルを出して、サイド3に戻ろうか。

 心配されてるとあれだし、ないとは思うけど、オフィスに侵入してたのバレたら、追っ手付いちゃうしね」

「はは、了解です。すぐに」

ルーカスは笑顔でそう返事をしてくれて、ハッチを閉じるとコクピットの方へと飛んで行った。

 さて、とりあえずは、一休み、だ。休んで、マリを寝かしつけたら、あのディスクの検索をしないと。

レオナのことや、マリ達に関する情報が詰まっている可能性は高い。

出来たら、レオナの家族のこととか、そういうのまで、出ていると良いんだけど…まぁ、それも見てみれば分かる、か。



 ふと、マリの甘え攻撃に全身で応えて、まるででっかい猫がじゃれ付くみたいになっているマリをあやしているレオナを見やった。

 レオナはどんな気持ちでこのデータを見るのかな。うれしいのかな、怖いのかな…きっとドキドキはするだろうね。

良い物であってほしいけど、もしかしたらそれは、レオナを苦しめたり傷つけたりするようなものかもしれない…

でも、そんときはそんとき、だよね、たぶん。あたしはそのために来たんだ。

本当のことを知って、何を思うかわからないレオナを、とにかく引きずってでも地球に戻すために…

戦うことより、助けることより、アヤさんはそのことを心配していたんだよね。大丈夫だよ、あたし。

ちゃんと約束は守るからね。

 不意に、ブルブルとPDFが震えた。画面を見ると、アヤさんの名前が表示されている!

まるで図ったみたいに送られてきた…なに、あたしとアヤさんって以心伝心?

 なんだかうれしくなってメッセージを開いたらなんのことはない、たまたま今届いただけで、

送信されたのはもう4時間も前のことだったようだ。これだから、宙間通信は困るんだよなぁ。

 あたしは、文面に目を走らせる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
親愛なるマライアへ


 お元気ですか?宇宙での生活はいかがでしょうか。

私は、宇宙へは本当に幼いころに出たくらいで、それからはまったく経験がなく、

どのような場所か想像がつきませんが、

レナの話では、いろいろと怖い思いをするようなところだということで、マライア達の身を案じています。

 さて、先日になりますが、かねてより計画していました母屋がついて完成しました。

リビングの広さと部屋数を確保するために、各個室は少々手狭になってしまった感が否めませんが、

それでも二人くらいまでなら快適に過ごせるかと思います。洗濯室に、シャワー室に、立派なキッチンもあります。

 写真を添付しておきます。みんなが元気に帰って来る日を、待っています。


                                 アヤより
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ふふ、アヤさんてば、いっつも通りのメッセージだな。普段あれだけラフなのに、

どうして手紙やメッセージになると、こんな丁寧になっちゃうのよ。

“親愛なるマライア”って何よ?なんだか、アヤさんがそう書いているかと思うと、

そこはかとなくむずがゆいんだけど。

 もっとこう、

「マライアへ、おーい、元気かー?母屋完成したから写真送る!早く帰って来いよー!」

みたいなノリで良いのにね。もしかしたら恥ずかしいのかな?いや、この文章書くほうが恥ずかしいよね?

ラフなほうが書きやすいよね?

 そんなことを考えていたら、ポカポカと胸にぬくもりがともった。データは手に入った。

マリとプルツーも助けたよ。もうすぐ、地球に戻るからね。だから、待っててね、アヤさん、レナさん。


つづく。

 


ちゃーちゃちゃーちゃーちゃちゃーちゃらららららららちゃんちゃちゃーん

隠された真実―

失われた過去―

それらが明るみに出たそのとき

彼女は何を思うのか。


次回、機動戦士ZZガンダム


フラナガン機関、誕
        生


さぁて、来週も♪
サービスサービスゥっ♪



あっ、間違った!←



久しぶりにアヤレナさん達を見たいよね!
妹モードのマライアを見たいよね!

ところでAdobe社はこんな時代まで活躍してるとはさすがやねwwww

>>519
感謝!

そうそう、Acrobat readerUC 3.4がこの時代の主流ですね。
PDFが震えて、音声通話やメッセージがやり取りできる優れもの…

…くそぅっ、やってはいかんと思っていたのに!!!w

そう言っていただけてうれしいのですが…アヤレナさんはしばらく出ませんw
マライアたんすら、出ません。


ZZ編、新章、投下します。


****************************************
UC0074.10.10
遠隔感応遺伝子の検討実験 第4次報告会 目次

【被験体概要】
①被験体名:第2被験体LP

②遺伝沿革:■■■■■■■■■■■■■■(卵)(遺伝型は別紙資料1に記述)■■■■■(精)(遺伝型は別紙資料2に記述)間による人工授精。③遺伝操作項目:別紙資料3

【v!9!”#$A■; --^:;lk <broken data>



****************************************

ウルフヘズナル(人工ニュータイプ)計画 第13期報告 概要

1.人工胚への遺伝子操作による身体機能強化についての経過報告
 ①前回報告からの変化
 ②遺伝的負因の検討

2.人工胚への遺伝子操作によるNT能力についての経過報告
 ①前回報告からの変化
 ②遺伝的負因の検討

3.第一次被験体LP1、LP2の成長報告
 ①身体面
 ②精神面
 ③NT能力

4.第二次被験体群PLS3-12の成長報告
 ①身体面
 ②精神面
 ③NT能力

5.人工子宮(スリープカプセル)内での身体およびNT能力の変化率の報告
 ①身体、NT能力などの変化
 ②カプセル内での強化施術結果と精神面への影響

****************************************


****************************************

【感応現象研究被験体B成長記録:アリシア・パラッシュ研究企画室主任


UC0067.1.5
 受精卵、着床が確認される。体調に異常なし。


UC0067.6.9
 頻繁な胎動あり。当職の精神的な変化は、なし。概ね、順調であると思われる。


UC0067.8.10
 7ヶ月目検診、異常なし。


UC0067.11.1
 10ヶ月目検診、異常なし。緊急対応に備h;-;、病室にて経過観察。


UC0,^-―j:―a、
2時間の陣痛の後、出生。女児。3120*/,


;0-as^ad
:-l1ah生k[1から2日目。異常なし。母乳を飲む。排泄等、異常なし。


UC0068.5.29
 通常よりも夜鳴きが多い印象。多感なのか、人の出入りについても敏感に反応する。
感応的な能力のためかは、現段階では、判断できず。


UC0068.6.4
 首、腰はおおよそ据わる。視線を当職に向けてしきりに追いかけてくる様子あり。視界より消えても、泣かず。
居住室から出ようとすると号泣。壁一枚隔てても、こちらを認識出ている印象がある。


jo^-a/w;dl

<broken data>

*-;s0.11.25
 レオニーダは心身ともに健康な状態を維持している。
来週で出産から3年目となるが、現在のところ、知的、精神的発達は通常児の平均に即した成長を遂げている。
感応能力に関してはまだ推察の域を出ないところではあるが、いくつかの事例を記述する。

当月10日、午後15時頃の会話の中で彼女より、「なぜ、ここにはたくさんの子どもがいるの?」との問いかけあり。
これまでの養育の中で、保育所を除く施設内で他の研究対象と接触した経緯が記録上はないことから、
感応能力による察知であるとも取れる。

次に保育所での出来事として、カードで遊んでいる最中、彼女が他の子どもの持っているカードの中身が分かる、と発言していることが報告としてあがっている。

また、些細ではあるが、当職との生活の中で、準備するデザートを言い当てる場面もある。
いささか、主観的な部分があることは否めないが、近日中に正式なテストを行うことが可能であると判断する。


<broken data>


UC0070.1.7
 あちこちに擦り傷を作って帰宅。
送迎担当の研究員に話を聞いたところ、保育所にてカードの中身を見た、見てない、ということが原因でケンカになり、
彼女が激昂して他の子ども複数と揉み合いになったとのこと。傷の程度は軽く、身体的な問題は見られない。

 目立つものだけに手当てを行い、傾聴と肯定を主体に彼女の話を聞く。
内容としては研究員の話と合致しており、記憶的な改ざんはないと判断。
攻撃行動に出た理由についてたずねると、いつも、イジメる、仲間はずれにする、などの言葉が聴かれる。

保育所の担当保育士との確認も必要になってくると思われるが、彼女の能力が徐々に開花傾向にあるのではないかと感じられる。


UC0070.1.10
 担当の保育士と面談。その担当の話によれば、「勘の良い子」で、
誰かが欲しているものや考えていることが分かるのかもしれない、とのこと。
分かる上で、その先回りをして他児に対応することが多くなってしまい、入所当初はやさしいと人気だったが、
徐々にそれが気味悪さに変化していったという話だった。

彼女のこれまでの精神的影響を鑑み、デルクマン研究科長とのカンファレンスにて、しばらく保育所を休ませることとなる。
その報告に、安心した表情を見せる。


UC0070.1.14
 保育所の休みを利用して、第一次感応試験を開始する。
手始めに、裏返したカードの絵柄と数字を当てさせてみるが結果は10試行中、正答0。
この際、彼女より「見てくれないと分からない」というので、当職がカードを見ると正答する。

同じ要件で当職が持っているカードの場合は10試行中、正答9。
残りの1答については、当職のカードの誤認(6を9と認識してしまったため)によるものである可能性が高い。
試行後、しばらくして糖分摂取を要求してくる。疲労感あると思われる。


UC0074.2.15
 脳波検査の方法を教える。
装置の物々しさにやや不安を感じている様子であったので、糖分を与え、ホールディングによる心身支持を行い、落ち着く。
検査にも集中して望めた印象。*結果はDr.■■■■■■の報告書へ記載。


UC0074.5.1
 研究所外へ出たいと要求がある。デルクマン研究科長に許可を取り、外出。
コロニー内のショッピングモールにて、ヌイグルミを購入。ラウンジでソフトクリームを食べる。笑顔。
 ヌイグルミに「タイガー」と名をつける(ヌイグルミはクマである)。

理由を聞いてみると、「レオニーダ」はレオン、つまり自分はライオンであるので、友達はトラがいいのだという。
しかしそのヌイグルミはクマであると指摘すると、「あたしだって人間だけど、ライオンでしょ」と笑う。


UC0074.8.2
 当職の顔を見るなり、「怒ってる?」と尋ねてくること、多数。
「そんなことはない」と繰り返すも、しきりに心配してくる。ホールディングとスキンシップで、安定を図る。
笑顔あるも、どこか不安げ。


UC0075.11.13
 8歳になる。当初の計画通り、今後は別生活となることを説明。
以前より、そのことについては話していたので、理解はスムーズ。
生活が別になるだけで、会うことは可能であることを何度も伝えるが、彼女は笑顔。不安がないのか。

当職がつけていたペンダントが欲しいと言ってくるので、担当技術仕官の許可を取り譲渡する。
彼女は別れの最後まで笑っている。


UC0075.12.1
 夜半、宿舎で就寝中、レオニーダの呼び声で目を覚ます。
脳裏に彼女の姿や声を知覚するも、視覚、聴覚からの刺激ではないことを確認。

感応能力と思われるが、当職は現在、極度の精神衰弱状態にあり、妄想との識別が必要と思わ


<broken data>



UC0067.8.10



「お、ずいぶん出て来てんじゃねぇか」

中年の研究員、マルコがそんな風に声を掛けてきた。

「あはは、今近づいて来ないでくださいね~悪阻酷いんで、マルコさんに吐きますよ?」

「え、なに、俺臭う?」

マルコさんはそんなことを言いながら、スンスンと自分の体の匂いをかぎだした。

いつもと変わらず、ヒョイヒョイ私の冗談に付き合ってくれて、優しいんだから。

悪阻なんて、もうあるわけないじゃない、7ヶ月でガッツリ安定期よ!

「で、どうなんだよ、他人の子どもを身ごもる、ってのは?」

「案外、悪い気分じゃないんですよ、これが!

 血が繋がってなかろうがなんだろうが、私が産む、私の子どもになるんですし」

私はイシシ、と笑って言ってやる。マルコさんは眉をヒョイっと吊り上げて

「そりゃぁ、代理母の鏡だな」

と皮肉ってくる。よし、決めた、悪阻とか関係なく、この男に昼に食べたアップルパイをお見舞いしてやる。

「なに、やってんだい、あんた達?」

そんなバカなやり取りを見られてしまった。そばにたっていたのはドクター・ユリウス・エビングハウス。

男みたいな名前の男みたいな性格の、見かけだけが麗しい女研究者。私の親友。

「その様子じゃぁ、心配は必要無さそうだね」

ユリウスは両手を腰に当ててだらしなく白衣を羽織って、ふんぞり返ってそう言ってくる。

「お陰さまで」

そんな彼女に笑顔を返す。

 持つべきものは、友達だよね!子どもを作れない“卵なし”の私に、まさかこんなことを任せてくれるなんて!

一生出来ないと思ってた体験をできるわけだし、驚くことに研究所のお偉方から、

産んだ子どもの親権まで持っていいなんて許可まで取り付けてくれた。

 もうね、私のダンナはあんたで決定だと思うんだ。

「なによりだよ。それよりも、ほら、さっさと準備しな。検診のお時間だ」

ユリウスはそう言って私を肘でつつく。

「はーい!アリシア・パラッシュ、参ります!」


 病室って退屈だ。朝起きて、朝食とって、軽い運動して、お昼ご飯食べて、

ちょっとやすんでまた少しだけ体を動かして、夕飯食べて、シャワー浴びて、消灯。他にやることなんてない。

これならまだ、事務作業に忙殺されてた方がマシかもしれないな。

 って話をしたら、ユリウスはカカカと高らかに笑った。

「まぁ、今は休んでおくのもあんたの仕事だ。ほら、面白そうな論文持ってきてやったから、これでも読んでな」

「わ!ありがと!」

ユリウスが紙袋に入ったファイルを山ほど持ってきてくれた。これでしばらくは暇をつぶせるし、勉強にもなるから、一石二鳥だ。

「で、体調は問題ないよな?」

「え?うん、すこぶる元気!昨日からこの子も良く動くし、もうじき始まるかもしれないよ」

「そっかそっか、まぁ、24時間体制であたしが見てるからな。それに関しては、心配しなくていい」

「産婦人科の医師免許なんて、持ってたっけ?」

「医師免許なんて、どれも同じだ。まぁ、任せとけ」

ユリウスはそう言って胸を張り、私の頭をポンポンと撫でた。まぁ、それでも、ユリウスは天才だ。

遺伝子研究が主な専攻だけど、外科手術からメンタルケアまで、どれをとっても業界の第一線で活躍する医者に引けを取らない。

私も医学の知識はあるけど、専門はもっとフィジカルな部分で、人体工学が専攻。

特に、脳波を利用した機器操作に力を入れている。

今年の頭に発表した論文がこの研究所の責任者であるドクターフラナガンに気に入ってもらえて、

それまで居た大学の研究室から抜擢された。

 ドクターフラナガンの論文は幾つか読んだことがあったけど、

特に面白いのが感応現象と呼ばれる、いわゆるテレパシーの一種の研究を盛んにしていた点だった。

言葉だけ聞くと眉唾ものの怪しげなものでしかないんだけど、

中身を見ればそれがどれだけ有意義な研究であるかは、一目瞭然だった。

 彼が目を付けたのは、いわゆる感応現象を引き起こす、と言われる人のDNAの分析だった。

彼の研究では、その遺伝子は本来、人がすでに備えているものであるらしいんだけど、

その感応現象を発現させる個体の遺伝子には、特定の組み合わせがある、とのことだった。

ここら辺は、私にはよく理解できなかったんだけど、

それは有機配列の中では感覚をつかさどる遺伝子がどうのこうの、ってことらしい。

 まぁ、私にとって重要なのは、その感応現象が、機器操作にいったい、どれほどの影響力を与えることができるのか、だ。

もし、感応現象のことが子細に判明すれば、脳波で遠隔操作が出来る様な、作業用機械の開発なんてこともできるかもしれない。

この宇宙では、作業するだけで宇宙線にさらされる危険が付きまとう。

離れたところから、例えば作業用のモビルワーカーなんかを動かせたら、それってとてつもない安全につながるわけでしょ。

そうしたら、私みたいに、被ばくで卵細胞が死滅する、なんて、悲劇も、ぐんと少なくなるわけだし…ね。

 ユリウスと話をしていたら、ふと、何か変な感覚があった。なんだろ、これ…なんだか、変にムズムズするよ?

それになんか…お尻のあたりが、汗っぽい、っていうか…

 私は、それに気づいて、布団の中に手を入れて、自分の股ぐらを確認した。濡れてる…なんで?

ユリウスと話してたら、濡れちゃったの?

いや、確かに性格は男前だし、良い女だし、抱かれてもイイ!って思えるけど…そういうことじ、ないよね、これ…。

 私の行動に疑問を持ったのか、ユリウスもそっと布団の中に腕を入れてきた。彼女の手が私の股間に伸びる。

あ、ちょっと、ユリウス…そんな大胆なこと…


 「お、おい!破水してんじゃないかよ!」

ユリウスが、股を一撫でした手を引っこ抜いて、そう叫んだ。

 破水?あ、これ、破水なんだ?え、じゃぁ、なに、このムズムズ感って…陣痛?

「陣痛来てないのか!?」

「え、なんかムズムズはするけど…痛いってほどじゃない…」

「早期破水か…!」

ユリウスは医学用語っぽい何かを口にして、私の枕元にあったナースコールを押した。

「早期破水だ!エコー持ってきて!」

「え、なに、もう生まれるの?」

私は、ユリウスが臨戦態勢になったので聞いてしまう。

「あぁ、元気な子らしい。早く出せって暴れてるみたいだ」

ユリウスはそう言って笑った。それから、キュッと表情を引き締めると

「念のため、だ。促進剤使うよ。結構な量が出てるし、部屋も滅菌室に移す。こっから、5時間、勝負どころだ」

と私の肩をポンと叩いた。

 そっか、ついに生まれてくるんだね…私、頑張るよ!ユリウス、頼むわよ!

 それから私は、着替えさせられ、ストレッチャーの乗せられて滅菌の分娩室に担ぎ込まれた。

病室でユリウスに打たれた注射のせいで、お腹全体が痙攣するみたいにギュゥゥゥっと痛んでくる。

あぁ、これは、きっついよ!やっぱ話に聞いてた通り、戦いだ、これは!

えぇっと、なんだっけ、ヒッヒッヒッ、ってやつ…あぁ、ダメだ、かなり練習したのに、

こんな状況でうまくやれって方が無理だよ…あっ、あぁっ、ま、また来るっ!

「うぐぅ…!」

 下腹部全部の筋肉が一気に収縮する。壊れる、筋肉が壊れるっ!

「アリス、頑張れ!」

おっぴろげになった股の間から、マスクと帽子をかぶって、メガネ保護のためのゴーグルまでしたユリウスが顔を出してくる。

そんなことより、ユリウス、いつからそんなとこにいるのよ!

「ちょ、ユリウス、恥ずかしいんだけど!」

「黙って、呼吸!」

ユリウスに怒られた。私は仕方なしに、練習通りに呼吸法で痛みを和らげる試みを始める。

でも、ホントに効くの、これ!?


「アリス、次のヤマが来たら、いっきにいきんで!」

ユリウスがそう言ってくる。

「はぁい!」

私も必死になって返事をした。次のヤマったって、もう1分間隔ぐらいでお腹がギュウギュウなるんだけど…

って、ほら、また来たっ…!!!

「いきんで!」

「がんばって!」

ユリウスの他、そばにいるナースたちの声が聞こえる。

 私は、縮み上がる腹筋に思い切り力を込めた。次の瞬間、ニュルン、と妙な感覚があった。

え?と思っていたら、今度はか細い泣き声が分娩室に響く。

 「処理、頼む」

ユリウスの声。ナースたちが一斉にユリウスの周りに集まって、何やら作業をしている。

すぐに、ゴーグルの下で、満面の笑みを浮かべたユリウスが、血だらけになった赤ん坊を抱いて姿を見せた。

 これが…私の子…?私の、赤ちゃん!なんだか、本当に、もう、感無量だった。

こんな状態じゃなければ、飛び上がって、ユリウスに抱き着いて喜びたいくらいだ。

 もっと近くで見たい…私がそうお願いする前に、ユリウスは赤ちゃんを私の顔のすぐ横まで抱いてきてくれた。

「ほら、挨拶しろよ」

 赤ちゃんは、元気に、力いっぱい、泣いている。元気で、良かった…

良くわからない気持ちがこみ上げて、目から涙がこぼれた。



「こんにちは、初めまして…レオニーダ。私が、ママだよ」


 


つづく


すみません、貼り付けミス発生。
>>525は、>>521から3か月たってます、臨月です。

 

都合により中止しますm(__)m
>>16すまんな

誤爆とはいえその文面
ビビらすんじゃねーよww

>>529
なんのスレか分からんが、完結出来なかったのは残念なことだ。
とりま、お疲れさま。

>>531
正直俺もビックリしたw

ちゃんと続きますよ?!
今晩も投下出来そうな感じなので
よろしくお願いいたします。


 数時間後、私は病院のベッドにいた。隣には生まれたばっかりのレオナが、寝息をたてている。

母親になる、なんて、一年前までは想像もしてなかったな…

4年前に、シャトルの事故で、宇宙線に長時間晒されて、

なんとか帰還してからの検査で、大学時代からの友人だったユリウスに告知されたのが、卵細胞異常だった。

 それから、宇宙線の影響なのかショックなのか、何ヵ月も寝込んだのを覚えてる。

ユリウスはそんな私のところに、毎日お見舞いに来てくれた。

そのお陰で私は元気を取り戻して、なんとか、立ち直ることが出来た。

 その後、私の論文をドクターフラナガンに紹介してくれたのもユリウスだ。

彼女には助けてもらってばかりで、頭が上がらないのが正直なところだけど、

そう言うのを嫌う彼女なので、今はそんなことは気にせずに、友達として一緒にいる。

そんなユリウスが、病室に顔を見せた。

「よっ!お母さん!」

冷やかすように、そんなことを言ってくる。

「あら、いらっしゃい、パパ」

言い返してやったら、ユリウスはカカカといつものように笑って

「そんな趣味はねえよ」

だって。強がりなのは知ってんだよ?私のこと、好きなクセに。

ユリウスが、私のベッドの枕元にあったイスに腰掛ける。私の顔を覗き込んでニカッと明るい笑顔を見せると

「母親って、どんな気分なんだ?」

と聞いてくる。

うん、うまく説明できないんだな…何て言うか、もうとにかく暖かくてそれでいて、強くなった気分。

思ったその通りを伝えたらユリウスは、また声を上げて笑って

「それ、母子同一期っていうんだって知ってた?」

だって。

「心理学用語でしょ?あんたは、どうしてそう、ロマンのないこと言うのかなぁ?」

「科学者に必要なのは感情的になることじゃなくて、夢見ることだ」

「なっ…くっ、それはロマンな言い方だ…!」

悔しい、言い負かされた。こうなったら、急所を突いてやる!


「ユリウスも子ども産めば分かるって」

「あたしは、産まないよ」

「どうして?」

私は追撃をかける。逃がすもんか!

「子ども作りたい、って相手がいないからな」

ユリウスもまぁだ強がる。まったく、あんたも強情だな…なら、最後の手段だ!

「作りたい って思った相手の遺伝子が使い物にならないからでしょ?」

そう言ってやったら、ユリウスはやっと顔を赤くした。ヒヒヒ、いいきみだ。

「そ、それは反則だ!」

「意見は却下します、さぁ、正直に言いなさい、パパ!」

私は止めの追い込みを突き立てて、ユリウスの顔を見つめた。彼女は、ほんとうに真っ赤になりながら

「あ、あんたがいりゃ、それでいいんだよ…」

よしよし、白状したな。許してやろう。私は満足して、また、ベッドに横たわった。

それにしたって、こんな大事な時に、妻に賞賛も労いも掛けない、なんて、どういう了見なんだよ、

この遺伝子オタク女は!なんて言えるはずがなく、むしろ、来てくれたことが、何よりうれしい。

 ふと、レオナがムニュムニュ言ったと思ったら、かすかな声で泣き出した。あらら、起きちゃった…

どうしたらいい?おっぱいかな?トイレ?

 「お腹すいたんだな、暴れん坊め」

ユリウスはそう言って、見たこともない優しい顔つきで、優しい手つきで、レオナをベッドから抱き上げると、

ゆっくり私のところまで運んできた。

「授乳のさせ方、わかるだろ?」

「うん」

私は返事をして、検査着の方袖を抜き、レオナを抱っこして胸を彼女にあてがう。

レオナは、もぐもぐと宙で口を動かしながら乳首を探し当てて、キュッと口に含んだ。

 得体の知れない恍惚感が、私の体に広がっていく。そんな私の隣にユリウスが腰かけてきた。

さりげなく、私の腰に腕を回して体をぴったりと寄り添わせてくる。

そのせいで、そのおかしな快感が勢いを増して私を包む。

 あぁ、これが、幸せってやつなんだな。

今まで、実感したことがないと言ったらウソだけど、でも、こんなに鮮明に感じたのは、初めてだ。

 レオナ、生まれて来てくれてありがとう。血は繋がってないかもしれない。でも、あなたは私の大事な娘だよ。

ユリウスも、きっとそう思ってくれてる。あなたのことは、私たちがいつでも守るからね…。

だから、レオナ、ありがとうね…ありがとう…。




UC0070.1.16



 「よぉ、姫さまは元気か?」

そんなことを言いながら、ユリウスが久しぶりに顔を出してくれた。

私はレオナと近所の公園に行く準備をしていたところだった。

「あー!ユーリ!」

3歳になったレオナが黄色い声を上げる。その気持ちは痛いほど良く分かる。

私だって、黄色い声のひとつも上げたい。

「ユリウス、久しぶり」

私は、胸の中に湧き上がる思いを押し込みつつ、そう声をかける。するとユリウスは、怪訝な顔をして

「久しぶりって…一週間留守にしてただけだろう?」

と言ってきた。その一週間が、長かった、っていうんだ。

学会発表だかなんだか知らないけど、妻と子どもを置いていくなんてどういうことよ!

 文句を言ってやろうと思ったけど、私はともかく、レオナはこの研究所を出るには、ずいぶんと手のかかる手続きが要る。

そこまでしたって、学会なんか、難しい顔した堅物か変人ばかりで、レオナが楽しめるとは思えない。

3歳になって、おしゃべりもずいぶん達者になってきたとは言え、

いくらなんだって研究発表を聞かせるなんて飛び級過ぎる。今のレオナには、絵本くらいがちょうどいい。

最近のお気に入りは、「お菓子のいえ」が出てくるから、という理由で「ヘンゼルとグレーテル」だ。

まったく、食いしん坊だなぁ、レオナは。

「あのね、レオナね、公園行くの!」

レオナは得意げにユリウスに報告している。ユリウスは、そんなレオナの頭をゴシゴシっとなでて

「そんなら、あたしも一緒に行ってもいいか?」

とレオナに聞いた。レオナは満面の笑みで

「うん!ユーリも行く!」

と返事をして、彼女の手を握った。

 うんうん、親子三人、水入らずで、幸せだよ、私さぁ。


 ユリウスと二人でレオナの両手を取って、三人でならんで公園に向かった。

研究所から出てすぐのところにある公園は、芝生と噴水と、ほんの少しの遊具があるだけだったけど、

わんぱくレオナが駆けずり回るには、ちょうど良いくらいだ。

 「よーし、レオナ、サッカーだ!」

ユリウスがそう言って、持ってきたボールを芝生の上に転がせた。

レオナが笑顔で、キャッキャッと声を上げながら、ユリウスの足元のボールに絡みつく。

 私は、といえば、その様子をベンチに座って微笑ましく思いながら眺めていた。

なんだかんだ言って、ちゃんとお父さん役やってくれてるんだな、ユリウス。

まぁ、もちろん、半分は実験のためだってのは分かってる。

より良い成長のためには、適度な母性と父性を別の対象から受けることが望ましい。

絶対に必要ってわけじゃないけど、そういう条件を整えられることができるんなら、それにこしたことはない。

情操教育、ってやつだ。

 でも、待った。なんで帰ってきて早々に、ユリウスがレオナを独り占めなんだ!

レオナ、悪いけど、ユリウスは私のもんだ!

 思い立って、私はベンチから飛び上がって二人めがけて突進し、

ユリウスの足元のボールめがけて華麗にスライディングで滑り込んだ、つもりだったんだが。

それは本当につもりだけで、実際はただ足を滑らせて、無様に仰向けにすっ転んだだけだった。

 けっこうな衝撃が全身を襲う。くそぅ、痛いぞ、ユリウス!

私はそれにもめげずに立ち上がって、ユリウスの下半身にタックルでつっこんだ!

 「お、おい!あんた、なにやってんだよ!」

苦情はあるだろうけど、一切、受け付けませーん!

さすがのユリウスも足を捉えられてバランスを崩して芝生の上に倒れ込んだ。

「レオナ!ユリウスやっつけろー!」

「おー!」

「な、なんでそうなるんだよ!?っ!うわぁぁっ!」

ユリウスの悲鳴を楽しむように、レオナが倒れたユリウスの上に飛び乗った。

ケタケタと笑い声を上げながら、レオナはさらにユリウスにのしかかる。

私も負けじと、足元からユリウスの上半身へと這い寄る。

「私たちを置いて行ったお仕置きだ!」

「おしおきだぁー!」

私はユリウスのわき腹に手を伸ばして、指先を肋骨の間に軽く食い込ませて、小刻みに動かしてやった。

「うひっ!くはっ、ははははっ、ちょと、やめろっ、やめろって!」

私がユリウスをくすぐっているのに気づいたレオナも参戦して、そのちっちゃいかわいらしい手でユリウスの脇をコチョコチョし始める。


「くっ…ひゃうっ!こ、このっ、性悪親子め!」

不意に、ユリウスは体勢を無理やり起き上がらせて、私と私の前にいたレオナをまとめて抱きかかえたと思ったら、

そのまま勢い良く、横向きに芝生に倒れ込んだ。

私もレオナもたいした抵抗もせずにユリウスにされるがままに倒れ込む。

「きゃぁー!」

「ぎゃー!」

レオナも私も、楽しくって声を上げていた。

 それからしばらく、芝生でプロレスごっこをしたり、追いかけっこをして遊んだ。反射ミラーが時間と共に傾いて、
コロニーの中が薄暗くなってくるころには私たちは研究所へと戻った。

 夕食を作って、ユリウスにも振舞ったら、今晩は泊まっていく、というので、

ついでにレオナのお風呂と寝かしつけも頼んだ。

私は、持ち帰りの仕事がまだ少し残っていたので、その間にそれを片付ける。

 ちょうど、最後のデータの分析が終わったところで、レオナを寝かせてくれたユリウスがリビングに戻ってきた。

 「ありがと」

私がコンピュータをシャットダウンしながら言うとユリウスはニコッと笑って

「なに、久しぶりに満喫させてもらった」

と言ってくれる。

「一週間しか経ってないのに、なに言ってんの?」

と言い返してやったら、危うくヘッドロックで私の大事な頭脳が破壊されるところだった。

まったく、人類史に残る重大な損失になるところだよ、ホント…なんてね。


ひとしきりふざけてから、ユリウスはソファーにドカッと腰を下ろして

「保育所、無期限停止だってな」

といってきた。

 マルコさんに聞いてきたんだろう。語彙が増えて、おしゃべりがうまくなっていくにしたがって、

レオナの感応能力は次第に良く観察できるようになってきた。今回のことも、その一端、といえるだろう。

保育所で、他の子から気味が悪い、と言って避けられ、挙句にケンカになったそうだ。

保育所の担当のスタッフは、なんとか仲を取り持つから、と言ってくれたが、

私としては、どうしても保育所が必要だったわけではないし、

その気になれば、研究室に連れて行くって手もある、いい子のレオナは私の手なんてそれほど煩わせない。

同年代の子ども社会になれて欲しいと思って入れた保育所だったけど、トラブルが起きてしまうんなら、

すこし期間を置いて感応現象の能力を伸ばしたり、レオナ自身に理解させてからだって、遅くはないだろう。

今は、ギスギスするのが眼に見えている保育所に入れたままにしておくほうが有害だ。

 私がそう説明すると、ユリウスは

「まぁ、そうだなぁ」

と穏やかなに相槌を打った。

 私は、作業に使っていた書類やらを片付けてから、ウイスキーとグラスを持ってきて、一つをユリウスに手渡して、
注いであげる。

「学会、お疲れ」

そう言ってグラスを傾けたら、ユリウスも

「ありがとう、ただいま」

と返してきて、グラスをカチンとぶつけてくれた。

 「学会、どうだった?」

「あぁ、畑違いの話だけど、去年の、ほら、例の発表の噂で持ち切りだったよ」

「ドクターミノフスキーだっけ?」

「そう!あの素粒子の発見、物理学会の連中は驚天動地だったらしいけど、

 遺伝子学会の方にも影響与えてくれそうなんだ」

「そりゃぁ、そうだな。だって、あれ、理論的には反重力装置とか、熱核融合なんかにも応用できるわけだし。

 私としては興味あるんだな」

「あっちの分野はあんたのほうが詳しいだろうな。遺伝子ばかり弄くってるあたしには、縁の遠い論文だったけど」

ユリウスは自嘲気味にそう言って笑った。


 「発表は?うまくやったんでしょ?」

「まぁ、な。そっちは抜かりない。感応遺伝子の配列についての文句ばかり言ってくる地球の学者が居たんで、

 揚げ足とってからの一突きで沈めてやった。キーッてなってて面白かったぞ?」

「あはは、あんたらしいや」

ユリウスが可笑しそうに話すので、私も思わず笑ってしまった。ホント、怖いもの知らずだよなぁ、ユリウス。

「それで、評価のほどは?」

「そっちは、まぁ、気に入らないけど、いつもどおり。

 『キミの研究は非常に独創的で面白い』だと。面白いんじゃないんだっての、分かってないんだよな。

 まぁ、そんなのはまだ良いほうで、中には、『どんな実用性があるのかね?』なんてことを聞いてくるやつが居る始末だ。

 実用性じゃない、今、あたしらは人類の進化を目撃してるかも知れないってのが、なんでわっかんないのかなぁ」

まぁ、感応現象なんてことを本気になって捉える科学者なんて、私達くらいかもしれないけど。

でも、ユリウスが確信を持っていたし、私を引っ張ってくれたフラナガン博士の論文は非常に優秀で、

一考の余地があるものだ。

 私にしてみても、その可能性は信じていたし、今、こうしてレオナの母親になってみて、分かる。

感応現象は、確実に存在している。

それが遺伝的な変化によるもので、進化なのかは、私にはまだ良くはわかっていないが。

でも、ユリウスが言うのだから、あながち的外れではないと思う。

 そんなことを考えていたら、突然、ユリウスが私の腕を捕まえた。あ、やばい、もうウィスキー回った?!

「な、アリス。この一週間、寂しい思いさせて、悪かったな…」

ユリウスは私の腕を無理やりに引っ張って、彼女より一回り小さい私の体を抱きとめると耳元でそんなことをささやいてきた。

低いトーンの、妖艶な声色が私の背骨をゾクゾクと貫く。

ユリウスのメガネの向こうの、トロンとして涙を潤ませた目が、ジッと私を捉えて離さない。

 こんなところで…止そう…あぁ、いや、ホントは止めてほしくなんかないんだユリウス。

ダメだって…あ、うん、ダメなことなんか1ミトコンドリア分もないけど、ほら、そういう風に言っておくもんじゃん?

あぁ、もう、なんで酒飲むとそんなに妖艶な感じになんの!?シラフのときみたく、ガバッと襲っといでよ!

ムード作られると、乗っちゃってトびそうになるから、やばいんだって。

 抵抗する気もなく、そんな危機感とも期待感とも取れない気持ちを抱えた私の唇を、ユリウスの唇がふさいだ。

 ああ、落ちる…またあんたに落とされるよ、ユリウス。

 私は、頭のどこかで、理性がはじけ飛ぶ音を聞いた。


つづく。

 


ポスト、アヤレナっぷりを発揮しそうな、アリユリ。
愛ある家庭を描こうと思ったら、明々後日の方向へトロットロになっていきましたw

うむ、素晴らしい!!


キマシタワーは結構なんだが、鬱展開の前フリとしてのイチャコラ描写かと思うとキツイな……

それとミノ粉って発見後たった10年で1年戦争勃発なのね。理論は先行していたみたいだけど。

>>542
あざっす!

>>543
そうですね、だからこそ、愛情いっぱいでお送りしております…><。

ミノ粉は、存在自体の仮定はそれ以前からあったようですね。ですが、発見は10年前らしいです。
この辺の技術史は、非常にあやふやなのですが、あやふやな分、結構大胆に穿ってます。

てなわけで、続きです。

 



 UC0074.8.1

 「ん、良い感じ。今度は、右を動かしてみて」

私は、ここのところ、レオナを研究室に連れ込んでは、実験の手伝いをしてもらっていた。

7歳になるレオナは、私とユリウスの英才教育のおかげか、小学校に行かずに、

もっぱら中学生用の教科書やなんかで勝手に勉強している。

利発、と一口に言ってしまってはもったいないくらい、頭の良い子だ。

「ん」

そんなレオナは、頭にいっぱい電極を貼り付けて、目の前にある私が作ったとある実験装置を見つめている。

バッテリーと簡単なモーターに受信機、それから電気信号で収縮する人間の筋肉を模して造られた特殊繊維を使って作った。

本体から特殊繊維と金属のフレームを使った二本のアームが伸ばしてあるだけの、簡素なものだけど。

 キュインと音を立てて、向かって右側のアームが動く。うん、上々かな。

まさかこれほどうまくいくとは思わなかった。

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。キュウン、と機械のアームが意思を失ったように垂れ下がる。

「どうぞ」

私が声を掛けると、研究室に入ってきたのはユリウスだった。まぁ、特に驚くようなこともない。

「ほら、差し入れ持って来たぞ」

ユリウスは、手にドーナツショップの紙袋を抱えていた。これはありがたい。

この実験をすると、レオナ、ちょっと憔悴気味になるんだ。甘いものでも食べさせてあげないと、申し訳ないと思ってた。


「わー!ドーナッツ!」

レオナはパァッと明るい笑顔を見せた。今日もかわいくてなによりだ、レオナ。

 「ちょっと休憩にしよか。紅茶淹れるから、レオナはテーブル片付けといてよ」

「うん!」

レオナは素直にそう返事をして頭から電極を外し、テーブルの上にあった機材を片付け始めてくれる。

私も、部屋に備え付けの電気ケトルからポットにお湯と茶葉を入れて、適当にカップも揃えて、テーブルに並べた。

「今日のは?」

「地球産の、ちょっと良いヤツ。アールグレイ、って言ったかな?」

「地球産か。これは期待できそうだ」

ユリウスも、相変わらずのきれいな顔でそう言い、笑う。

しなだれかかりたくなるのを抑え込んで、紅茶を淹れて、テーブルに着いた。


 ユリウスとは、今朝、一緒に部屋を出てから3時間ぶりに会う。と言うのも、2年前の、

「もう、毎晩通ったりするのとか、なんかいろいろめんどくさい」

と言うユリウスの投やりともとれる発言がきっかけで、

私とレオナと、ユリウスは研究所の宿舎の2部屋とリビングダイビングのある部屋で一緒に生活することになった。

そりゃぁ、もう、ね。毎晩毎晩、ユリウス腕枕で寝られる私の涎の量が増えたのなんのって。

「あたしが言えたことじゃないけどさ、変なことしてるよな」

ユリウスはドーナツを配りながら、私の作った機材に目を向けて、そんなことを言ってくる。変て、人聞き悪いな。

「新人類のための新たな機材を作ってんの。変、とか言わないで」

「カカカ、悪い悪い」

ちょっとぶすくれてみたら、ユリウスは悪びれる様子もなく謝った。

 「いただきまーす!」

レオナが元気にそう言って、ドーナツを口に運ぶ。

「で、要するにバイオフィードバックみたいなもんなんだろ?」

「まぁ、近い、と言えば近いかな。

 別に、自分の体を調整するわけじゃないから、そもそものバイオフィードバックとは違うけど」

「脳波で機械を動かす、ってんだろ?」

「そう。手元にある測定器で脳波を検出して、それを電気信号にして機械へ送って操作する、

 荒っぽく解説するとそんなとこ」

私が説明すると、ユリウスは怪訝な顔をして

「そんなの、別に電気だけで良くないか?たとえば、シャトルの無線操縦かなんかみたいにさ」

と言いながら紅茶をすする。

「それだと、細かいことまでできないんだよ。

 私が目指してるのは、例えば、コロニーの外壁の修理とか、そう言うこと」

「あぁ…なるほど、そうか」

納得したのかユリウスは、宙を見つめながらそうとだけつぶやく。

「それに、電気信号だと、ほら、例の素粒子が、ね」

私は、そのことも付け加える。

 ミノフスキー粒子の発見から、数年。革新的な技術が発展するとともに、それは地球連邦と対立関係にあり、

ジオン共和国を名乗って独立を宣言したサイド3との軍事的思惑に絡め取られた。

素粒子本来の性質を利用した電波妨害は、

これまでの通信やレーダーを利用した兵器誘導と言った電子戦を、一瞬にして無効化する効果を持っている。

軍事能力的遂行能力が無条件に一世代退化させられることになった。

それに伴い、ジオンは、ミノフスキー粒子を利用した核反応コントロール技術を応用して小型の熱核融合炉を開発、

それをモビルワーカーのような機体に積み込んで、高いエネルギーを持たせた人型の兵器を開発した。

ミノフスキー粒子によって退化せざるを得なかった軍事作戦上、新たな戦術として発案されたのが、

この人型兵器による汎用的な任務遂行。

特に、これまでのような遠隔デジタル戦術の利用が出来なくなった以上、

近接戦闘による白兵戦をいかに優位に進めるかがネックになってくる。

戦闘機や戦艦に求められてきたようなスピードやステルス性能ではなく、必要なのは、小回りと汎用性、なんだそうだ。


 いつの時代も、科学は戦争に利用される。悲しいことだが、かと言って、研究をやめるわけにはいかなかった。

暴走した科学を抑えるのもまた、科学の役目。

せめて、自分の開発したものが、人を殺すためではなく、人を守るために使われることを祈るばかり、だ。

ドクターミノフスキーも、数年前にそれを理由に連邦へ亡命してしまった。ドクターの想いも理解できる。

まぁ、理論ばかりでまともな発見も開発もできていない私にとっては、まだ縁遠い話ではあるんだが。

 「ママ、難しい話?」

ドーナツを頬張ったレオナが、私の顔を覗き込んでくる。複雑に思っていた私の胸の内を感じ取ったようだった。

私はレオナに笑ってあげた。

「ん、ちょっと考え事。大人って、大変」

「ん、大変そう」

レオナはムムムっと眉間にしわを寄せて考えるようなしぐさを見せた。あはは、そうだな。

レオナ、あなた達子どもが生きて行く未来に、せめて明るい希望が残せるような発見をしておきたいもんだ。

「リモートコントロールで作業ねぇ、まぁ、精度が確かになるんなら便利っちゃ、便利だけどな」

「リモートコンロトールじゃないんだ」

「えぇ?」

「これは、新しいタイプのマン・マシン・インターフェイス。名付けて、サイコ・コミュニケーター」

私が自信満々に言ってやったら、ユリウスはいつもどおりにカカカと笑った。なんだよ、笑うところじゃないぞ!?

「仰々しい名前だな。それに見合う開発が出来る様に祈ってるよ」

ユリウスはニヤニヤしながら、残りのドーナツを口に頬り投げて、紅茶をすすった。

それからふと、気が付いたみたいに

「そういや、この紅茶。良い香りだな」

なんて話を変えた。うん、そうだ。せっかく3人でいるんだし、仕事の話は、やめにしよう。

もっと、楽しい話をするべきだ。

 それから私たちは、レオナの自由研究の話題で盛り上がった。

学校の宿題じゃなくて、私とユリウスからそれぞれご褒美をもらうための研究だ。

レオナは、私の人間工学でも、ユリウスの遺伝子学でもない、化学に興味があるらしかった。

 そんなレオナが決めた自由研究は、ずばり、科学調合によるうま味成分の再現、だ。

要するに、おいしい料理の味を如何にして科学調合で再現して、あのマズイチューブ食をおいしく召し上がれるようにするか。

ホントに、食いしん坊のレオナらしい。楽しみにしてるよ、って言ってやったらレオナは胸を張って

「任せて!」

なんて言ってきた。これは、ゆくゆくは私達なんか抜かされるくらいの科学者になってくれるかもね、レオナは。


 その晩、レオナが眠ってから、ユリウスが私を呼び止めた。

その表情は、これまでとは一転してなにやらくぐもっている。

悪い予感は感じたが、それでも話さなきゃいけないことなのだろうと言うのは、感じ取れた。

不安を胸に抱えて私は席についた。

 まさか、別れたい、とか、出ていくとか、そう言う話じゃない、よな?

「今日、上から指示が来た」

ユリウスが話し始める。この研究所で上、と言えば、ドクターフラナガンを筆頭とした、執行部会。

研究の方向性や内容を検討する意思決定機関だ。それが、ユリウスにどんな指示を?

私は黙ってその先を促す。ユリウスは、重々しそうな唇をやっとの思いで動かしながら言う。

「来年、施設の拡張が済んだら、レオナはそこで生活をさせることになるらしい」

ユリウスの言葉の意味が一瞬、理解できなかった。

「ま、待って…私も、一緒でしょ?」

私の問いかけに、ユリウスは力なく首を横に振った。

「レオナ一人での生活になる。

 ジオンからの資金を増額する見返りに、感応現象に関する研究体制の整理と強化が目的らしい」

「そんな…だって、親権は私に持たせるって契約だったはず…」

「あぁ、うん。親権の移動や譲渡はない。放棄も条項の要件にはなっていない。

 ただ、研究体制を整えるために、生活棟が、常時モニターを行える新しい施設になる、ってことだ。

 他の子ども達も、恐らくそこに集められる…」

ジオンの資金…それは、もしかしてあの能力を軍事転用することが目的なの…?!レオナが、兵士に?

それとも、前線に出向いて、レーダーの代わりになれとでも言うの?!

 ふざけんじゃない…ふざけんじゃないよ!

私は思わずユリウスの胸ぐらをつかんでいた。

「あんた、私にとってあの子がどういう存在か分からないなんて、言わせない!」

言ってしまってから、しまった、と思った。

だってユリウスの目からはボロボロと涙がこぼれていたから…ユリウスが泣いているところなんて、初めて見た…

 私は全身の力が抜けていくのを感じて、イスにへたり込んだ。

「幸い、レオナの担当はなんとかあたしに割り振らせた。多少強引だったが、他の研究者には任せておけない」

ユリウスが…レオナを見ててくれるんだ…。

「それに、面会が謝絶されるってわけでもない。

 テストのない時間に会って遊んだり出掛けたりするのは今まで通りで構わないそうだ」

そうか、会ったりすることは、出来るんだ…

「すまない。あたしもずいぶん食い下がったんだが…力不足だった…」

ユリウスは力なく肩を落とした。


 なんだか、ショックというよりも、呆然としてしまった。ユリウスと三人で暮らすようになって、2年。

毎日、楽しかった。それが、来年からなくなってしまうなんて、想像が出来ない。

想像は出来なくても、それはやってくる、ってのが突きつけられて、

まるで私の頭脳が考えることを放棄したみたいだった。

 ユリウスがイスに座ったままの私を抱きしめてくれる。そっと、その手に触れる。

背中から伝わる体温で、少しだけ気持ちが戻ってくる。

 大丈夫、寝るところが変わるだけ。今、こうして、別の部屋で過ごすのと大きく変わらない。

施設の中に居れば、会いたいと思えば会いにいける。

担当がユリウスだっていうんなら、多少のワガママも聞いてもらえる。大丈夫、大丈夫だよね?

「ね、ユリウス、何もないよね?大丈夫だよね??」

私の言葉に、ユリウスは私の体に回した腕に力を込めて、

「大丈夫だ。上のやつらの好きにはさせない。レオナはあたしが守ってやれる」

といってくれた。また少し胸のつかえが取れた感じがする。

 ユリウス、頼むね。私も出来ることはなんでもする。

だから、私の手の届かないところにレオナがいるときは、あんたが守ってやって…。

あの子は、私の宝者なんだ。あんたがくれた、私の掛け替えのない、希望なんだから…。


UC0075.11.13

 あぁ、いよいよ来てしまった。今日は、執行部会から支持のあった日。

レオナが、この部屋を出て行く日だ。レオナには何ヶ月も前にこの話を伝えていた。

でも彼女は、別段寂しそうな顔を見せずに、

「わかった」

と言って、笑っていた。

 今日も、そうだった。

昨晩から荷物の整理をしていたが、私はそのときからずっと、突き上げるような不安感と悲しみで、心が壊れて泣き崩れそうだった。

だけど、レオナは、洋服や本なんかを几帳面に箱に詰めながら、動揺1つ見せずにいた。

 どうしてなんだろう。私、何か間違ってんのかな。

一生懸命、レオナを育ててきたつもりだったけど、レオナは別れが寂しくないんだろうか?

それとも、崩れてしまいそうな私を思って、気を使ってくれているんだろうか?

 お昼過ぎ、この部屋で食べる最後の昼食を摂り終えたころに、ユリウスが戻ってきた。

口を真一文字に結んで、険しい表情をしている。

それなのにレオナは、よく面倒をみてくれていた研究員が用意してくれた台車に自分の荷物を積み上げて

「お待たせー」

なんて軽い様子で、ユリウスと私の前に姿を現した。

「準備、出来てるみたいだな」

ユリウスは低い声でレオナに確認する。

「うん!大丈夫!」

レオナは、はつらつとしていた。

「じゃぁ、アリス。行って来る」

ユリウスは私にそう確認した。私は、昨晩、ここで見送るようにとユリウスに言われていた。

私の状態を察したユリウスの、厳しいやさしさだった。

 私はうなずいて、レオナを抱きしめた。

「レオナ…ママは、おなじ建物の中にいるから、寂しく思わなくたっていいんだからね」

それは、レオナに、というより、自分に言い聞かせるようにそう言った。

レオナは、そんな私の頭をゴシゴシとなでてくれた。

「ママ、わたし、寂しくないから、大丈夫だよ」

レオナは少しだけ不安そうな顔をした。でも、その顔は自分が不安なんじゃない。

私のこんな状態を心配してくれているからだ。それから、ふと、私の首元に目をやって

「ね、それ、ちょうだい?」

と指さしていってきた。レオナが際示したのは、私のつけていたチョーカーだった。私は、チラッとユリウスを見やる。

「かまわないよ、それくらい」

ユリウスは言ってくれた。私はチョーカーをはずしてレオナの首にかける。彼女はうれしそうにして

「これで、わたしとママはいつでも一緒だよ!だから、大丈夫だよ!」

と笑う。レオナ…私、ダメなお母さんだね…子どものあんたに、こんな気の使い方させてさ…

 私は、気持ちを押し殺してうなずいた。レオナはまた、ニコッと笑った。

「じゃぁ、行って来ます、ママ!」

元気にそういって、レオナは部屋を出て行った。

 あぁ、行ってしまった…レオナ…私は、ユリウスが出て行くまで我慢して、ドアが閉まってから膝から崩れ落ちた。


 あんなに楽しかったのに…レオナ、いなくなっちゃった。研究のために、引き離されちゃった…

もう、あの突き上げてくるような悲しささえこみ上げてこなくなった。

まるで、こころにぽっかり穴が開いたみたいに、むなしさだけが私の胸を締め付ける。

ハラハラと、涙だけが頬を伝っていた。

 どれくらいそうしていたか、私は、部屋の内戦が鳴る音で、我に返った。

よたよたと立ち上げって、内戦の受話器を手に取る。

「…はい」

<あぁ、私だ>

電話の向こうからしたのは、私の新しい上司で、執行部会のメンバーの一人、ドクターバウマンだった。

「なんでしょうか…?」

憔悴しきった心からは、そんな味気ない言葉しか出てこない。

<話がある。すぐに私の研究室に来てくれたまえ>

ドクターは一方的にそうとだけ伝えてきて、電話を切った。

 こんなときに、なんだって言うんだ。慰めてくれるようなタイプの人じゃない。

きっと、レオナのことなんかこれっぽっちも気にせずに、また味気ない仕事の話でもするつもりなんだろう。

 やっと形になってきたサイコ・コミュニケーター、サイコミュ技術には興味を示してくれているみたいだし、

それについての話かもしれないな。

 私は、顔の涙をぬぐって、思いっきり鼻をかんでから、部屋を出て、ドクターの研究室へと向かった。

ドアをノックして中へと入る。

 ドクターは、イスにふんぞり返ってココンピュータのモニタを見ていたが、

部屋に入った私に気がつくとひとつ咳払いをして

「あぁ、よく来た」

と言ってモニターを横へずらした。

「お話、とは?」

私はドクターにそう促す。もう、今日はたぶん、ダメだ。話なんかとっとと終えて、部屋でユリウスを待っていたい。

「うむ、他でもない、君のサイコミュの研究についてだ」

やっぱり、な。

「着眼点、発想、実用性、どれを取っても、非常に有意義な研究であるといえる」

なんだ、すごく持って回ったような言い方だ。なにか、あるのか?

「ついては、先日の執行部会会議で、研究そのものを感応能力研究に次ぐ実践的内容であると判断され、

 以後は執行部会で組織する研究班で専門的に行うこととなった。

 また、今回の君の成果に経緯を評し、明日からは、研究企画室主任としての仕事をしてもらう」

…待った。どういうこと?その、執行部会特別編成の研究班に、私は入れないってこと?

それも、栄転名目で、研究企画室、だなんて…。あんなところ、研究員のいる場所じゃない。

あそこは方々の研究室から上がってくる書類にサインするだけのただの事務職。

 これは…私は、研究を奪われた…?研究さえ、私は、奪われるの…?

大切なレオナすら、もう、私の手元にはいないって言うのに…

「…わかり、ました」

もう、そうとしか返事を出来なかった。私は、その後、どうやって部屋へ戻ったのかも、覚えていなかった。

気がついたら、部屋のベッドにいて、傍らには、殻になったウィスキーの瓶と、酸えたにおいを放つ吐しゃ物が床に広がっていた。

 ねぇ、レオナ。いったい、なにがどうなってるっていうの?あなた、無事よね?

ユリウスに守ってもらってるよね?

 私、どうしたらいいの…研究も、あなたもなしで、私は…私は…ここでなにをしていればいいの?

誰か、誰か教えてよ…ユリウス…早く、帰ってきて…。

 私は、明らかに自分の精神の異常を感じながら、それでも、

自分自身ではどうすることも出来ない喪失感を抱えて、ただただ、ベッドに身を委ねて泣き続けた。




 水音と、カチャカチャと言う食器のぶつかる音が聞こえて、私は目を覚ました。

見ると、私はいつのまにかリビングのソファーにいて、薄く開けたまぶたの向こうに居たのはユリウスだった。

キッチンで、洗い物をしている。

 「ユリウス…」

私が彼女を呼んだら気が付いたようで、私を見やって、かすかに笑った。

ユリウスは水をとめて、タオルで手を拭いて、ストン、と私の頭の方に腰を下ろした。

水で少し冷たくなった手が、私の額に触れて心地よい。

「ずいぶんと荒れたみたいだな」

「うん…」

ユリウスの、低い、優しい声が心地よくて、私は目を閉じた。

「異動の件、聞いた」

「うん」

「文句言ってきた」

「なんだって?」

「決定事項だ、の一点張り。揚げ足取る隙もない」

「そっか」

私は目を開ける。ユリウスが心配げな顔つきで、私を見下ろしていた。

 「私、何やってんだろう」

「え?」

「レオナに、金輪際会えなくなるわけじゃない。会おうと思えば、明日にだって会えるわけでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「研究だって、同じだ。企画部にまわされたからって何もできないわけじゃない。

 その気になれば、サイコミュの研究を独自にやる方法だってある。

 サイコミュじゃなくても、他に調べてみたいことなんて、いくらでもある。

 そんなに、しょげる様なことでもないのに」

「連続で来られたんだ。仕方ないさ」

ユリウスは、なおも優しく言ってくれる。そうだ…それに何より

「あんたが、私と一緒に居てくれる」

私は、ユリウスの手を握る。

「昔と一緒で、変わらずに、一緒に居てくれる。私は、最初は、本当にそれだけで良かったはずなんだけどな。

 贅沢になったもんだよ」

私の言葉にユリウスはほほ笑んだ。彼女の手を離して、そっと顔に触れる。彼女の顔が近づいて来た。

微かに唇が触れ、ユリウスは、ためらいがちに私にキスをした。

頭に手を回そうとした次の瞬間ユリウスは、

最近開発されたと聞く、ミノフスキー充填式の素粒子砲から射出されるビーム如き勢いで私から唇を離した。


 あまりの勢いで、正直、ショックとかそう言うのではなく、単純に驚いた。

「…な、なによ」

「ごめん、思った以上に口がゲロ臭かった」

こ、この女…それが同じ乙女に言うべきセリフ!?

と、内心憤慨しながら、それでも一応、口と鼻を手で覆って確かめてみる。あぁ、うわ、これは、臭う…

だからユリウス、ちょっとためらったんだ。私ならその時点でクッセー!って声あげてるよ。

ごめん、ユリウス、あんたが正しい。

それに、一度はちゃんとキスしてくれたあんたを、私は誇りに思うし、惚れ直した。

「歯磨きしてくるわ」

「そうしてくれ」

 私はソファーから起き上がった。ユリウスが支えてくれる手のぬくもりが伝わってくる。

この感じが、やっぱりすごい安心するんだ。

 それから私は念入りに歯を磨いて、さらに念入りに口をマウスウォッシュでゆすいだ。

それでもまだ、どことなくあの臭いが鼻につく。体か服にも着いているのか、

それとも、鼻の粘膜の方か、ただの気のせいかわからないけど、とりあえずシャワーに入るまではキスはやめておくことにした。

 洗面所から戻ると、ユリウスが簡単な夕食の準備をしてくれていた。

私のことを考えて、なのだろう。良く煮込んだスープと、やわらかめのパンだった。

 席について、スープを口に運ぶ。ユリウスが作った味がする。美味しい。

「しかし…上は何を考えてやがるんだ?」

不意に、ユリウスが言った。このタイミングで、私を研究から外したことを、言っているらしい。

「向こうにもいろいろ都合があるんじゃないの?ほら、資金のこととか」

そんなことを言いながら私も思索を走らせる。

あの技術は、宇宙空間での遠隔操作を目的としてるだけ。危険な場所で、より効率的に作業をするためのもの…

どうしてそれが、そんなに優先的な研究対象になるっているのか?何かほかに、重要な使い道があるというのだろうか?

「ジオンの、資金…」

 ユリウスが呟いた言葉で私はハッとした。レオナの件と、同時進行なんだ、これは。


上層部は、感応能力と私のサイコミュを、軍事転用するつもりなんだ。感応能力とサイコミュを戦場で利用すれば…

理論的には宇宙空間で、無人の砲台そのものをコントロールして戦うことすら可能なはずだ。

敵艦隊を相手にしても一人の思念によって、全周囲からの無差別攻撃を実行できる…

人の乗る、あのモビルスーツとか言う人型の人形で近接戦闘をするまでもない…

 ジオンの資本が入っている、去年から、研究所の中で頻繁に聞かれるこの言葉。

それはすなわち、この研究所そのものが、ジオンの傘下として、軍事技術をジオンに提供しているということではなかったか。

そうだ、一年前のあの日、ユリウスの言葉に私は思ったはずだ。「あの子を、前線に送るつもりなのか」と。

どうしてそのことを突き詰めて考えなかったんだ。

ジオンは、この研究所は、感応能力を軍事転用して、あの子どもたちを戦争に投入しようとしているんだ…。

 私は、ユリウスの顔を見た。ユリウスも、私を見ていた。彼女にも当然、導き出されたはずだ。

私のと、同じ答えが…。

「軍事転用…くそ、確かにあの軍属どもが好きそうな内容じゃないか!」

ユリウスは声を押し殺して、テーブルを叩いた。

 これはもう、レオナと私達だけの問題じゃない。事は、もっと大きくなってしまっている。

感応能力とサイコミュの実用化が現実になって、戦線に投入されれば、戦力の拮抗なんてものは起こらない。

組み合わせ自体が大量破壊兵器みたいなものだ。

本当に一人の感応能力者が、艦隊規模の戦力を瞬く間に殲滅できる可能性があるんだ。


「止めないと…」

「どうやって!?」

私の言葉に、ユリウスがそう言ってくる。

 方法は、あるはずだ。ニュータイプを戦場で不要にする手だてが。

これは、科学の暴走だ。暴走した科学を抑えるのもまた、科学の役目。

私は、その言葉を思い出した。

 感応能力は、戦場にいる人の感覚を頼りに攻撃をしかける。

だとすれば、それに対抗しうるのは、人ではないものであるはずだ。

サイコミュを利用した兵器の火線をかいくぐって、優先的に、感応能力者を攻撃するための兵器…。

 自分でも、恐ろしいことを考え付いてしまったのは分かっている。

それは、もれなく、もしかしたらレオナに向かって行く兵器なのかも知れないからだ。

だが…このまま現状を放置すれば、ここにいる子ども達どころか、

膨大な量の感応能力を持っている可能性のある人たちが戦場へ投入されて行く。

親の気持ちも、本人たちの気持ちも、汲み取られぬまま。

そんな先に描かれる未来が、明るいわけがない。

ユリウスは言った。あの能力は、人の進化の形なのかもしれない。

進化によって切り開かれる未来が、破滅であってはいけない。

 科学は、そんなもののためにあるんじゃない。科学は、人の未来を照らす、灯台でなければいけないんだ。

 感応能力者の天敵を作り、戦場から彼らの居場所を失くせば、あるいは、

これ以上の実験や研究を中止させることが出来るかもしれない。

遠まわしにはなるが、彼らを救う手立てになるはずだ。

 そのために必要なのは…人工知能。戦場を自らの判断で駆け、感応能力者の脳波や、

今確立されつつあるミノフスキー通信技術を感知して、その発信源を優先的に停止させる機能を持った人工知能が必要だ。
 

「おい、アリス」

「ユリウス、私、やる。レオナを…あの子たちを戦場へ出させやしない!あの子たちは、私が守る!」


つづく。


 



とうとう始まってしまったね
大好きなMAであるブラウ・ブロやエルメスを見る目が変わってしまう

>>558
感謝!
個人的に、0083以来の冒険をしているなぁと。
今度は詳細に語られていない事実だけに、いくらでもこじつけられる反面、
いかに筋を通すか…が、難しいなぁと。

エルメスは、たぶん、悲しい兵器だと思うんです、はい。


そんなわけで、続きです!



UC0075.12.1

 って、意気込んだはずなのに。まったく、慣れないことはするものじゃない。

二か月前に一念発起で、企画室の仕事をする傍らに人工知能の研究を始めてはみたが、

そもそも私の専門はマン・マシン・インターフェイス・デバイスの開発。

人からの指示が考慮されていない人工知能のことなんて、基礎的な理論以外に知識的蓄えはない。

結果、寝る間も惜しんで論文や理論書を読む必要があったのだが、無理がたたって、一気に体調を崩してしまった。

「だぁから無理しすぎだっつったろ」

キッチンでオートミールを作りながら、ユリウスがそう言ってくる。

「ぐぬぬぬ」

悔しいけど、ユリウスの言う通り過ぎてそんなうめき声しか出てこない。

もっとこう、慰めの言葉とか、そう言うの言ってくれても良いんじゃないの!?

「あんたにぶっ倒れられると、あたしまで研究が手につかなくなるんだからな。ホント、止めてくれよ、無茶はさぁ」

うん、よし、許す!今のは100点満点中、95点!

 ユリウス印のオートミールをおいしくいただいてから、一緒に湯船に浸かった。

ユリウスはしきりに私のことを心配して、肩をマッサージしてくれたり、

他愛もない話に付き合ってくれたりしてくれた。

ビタミン剤を飲んで、それから、飲み合わせが良くないかもしれないから、と、あまり良い顔はされなかったけど、

以前にユリウスが調達してきてくれた睡眠導入剤も胃の中に放り込んだ。

 確かにユリウスの言うとおり。私は、疲れすぎている。少しだけでもいい、ゆっくりと休む必要がある。

 私はそのまますぐにベッドに潜り込んだ。

ほどなくしてユリウスも来てくれて、私の隣に横になって、いつものようにグイッと腕を伸ばしてくる。

私は、彼女の腕を枕に、一回り大きい彼女の胸元に顔をうずめた。

「…ムラムラしない?」

「病人相手に欲情するほど、飢えてないよ」

ちょっと誘ってあげたのに、そんなことを言われてしまった。残念。

そうは言っても、私の方も、疲れと、薬が効いてきて、意識がぼんやりとしてくる。

体の力が抜けてまるで沈んでいくように、その心地よい気だるさに身を任せて、私は眠りに落ちた。



―――ママ、ちゃんと寝ないと、ダメだよ


―――ママ、ちゃんと寝ないと、ダメだよ

レオナ?

―――レオナが子守唄、歌ったげるね

レオナ、なの?

―――The journey begins, Starts from within, Things that I need to know―

レオナ…

―――The song of the bird, Echoed in words, Flying for the need to fly―

レオナ…心配かけて、ごめんね…

―――Thoughts endless in flight, Day turns to night, Questions you ask your soul―

レオナ…ありがとう…

―――Which way do I go? How…how…あれ?

レオナ、なに、どうしたの?

―――続き、忘れちゃった、えへへ

なによ、もう!続きは、こうだよ。

Which way do I go? How fast is to slow? The journey has it's time, then ends.

If a man can fly over an ocean, and no mountains can get in his way.
Will he fly on forever, searching for something to believe?

From above I can see from the heavens, Down below see the storm raging on.
And somewhere in the answer, There is a hope to carry on.

When I finally return, Things that I learn, Carry me back to home.
The thoughts that I feed, planting a seed, in time will begin to grow

The more that I try, the more that I fly,
The answer in itself, will be there.

…レオナ?

おーい、レオナ?

なに、寝ちゃったの?

もう、子守唄歌いに来て先に寝ちゃうなんて、ユリウスじゃないんだから。



歌いに、来た?

レオナが?

レオナ…レオナ…!


「レオナ!」

「うわっ!」

私は叫び声をあげて飛び上がった。ユリウスが、寝ぼけ眼で、でも、驚いたような表情で、私を見ていた。

「な、なんだよ」

「レオナが、話しかけてきた」

「はぁ?」

「レオナと、話した」

私は、今の体験を説明できずにいた。ただ、感じたことだけをユリウスに説明する。

ユリウスは、私の目をじっと見て

「なぁ、今日って何日だか、分かるか?」

と聞いてくる。なんで、そんなことを?

「え…11月30日?あ、もう日付変わったから、12月1日、か」

「なら、本当のあんたは今、どこにいる?」

「本当の私?なにそれ、私はここにいるじゃん。いつもの研究室の、私達の部屋でしょ」

私が答えたら、ユリウスは黙った。あれ、なんか変なこと言ったかな、私?

「ビョーキ、ってわけでもなさそうだ、な」

「あ、統合失調とかって思ってた?」

「ちょっと、疑った」

「ホントなんだって!」

私は枕でボフッとユリウスの頭を殴りつける。

でも、その枕は受け止められてしまって、私はそのまま、ベッドの中、ユリウスの腕の中へ引き戻された。

「悪い、医者のクセみたいなもんだ。感応能力かも知れないな、レオナの」

ユリウスはそんなことを言った。


「そんなこともできるの?あの力、って?」

「あぁ。向こうの棟の夜勤担当の連中が、そんな話をすることがある。

 そのたんびに精神鑑定やらされるから、黙ってるやつも多いけど」

「じゃぁ、今のは本当に、レオナの声?」

「どうだろうな。あんた疲れてるし、だたの夢、ってこともあるかもしれない」

「なんだ」

「…あぁ、なぁ、明日、休み取ってレオナと出かけないか?

 感応能力なら、レオナに聞くのが一番早いし、それに、あんたもたまにはレオナとゆっくり会え。

 研究に必死なのも理解できるけど、一番大事なことを忘れんなよな」

ユリウスは、そう言ってくれた。私は、ユリウスの胸元に改めて顔をうずめる。あぁ、私、本当にこの人が好きだ。

こういう優しいところも、たまに厳しいところも、知的で、強くて、誰にも従うつもりはない気高いところとか、

あと、ほのかに香る匂いとか、そのほか、もろもろ。

「うん、ありがとう…ユリウスも一緒?」

「あたしを仲間外れにすんなよな」

「そんなつもりないよ。弁当でも作って、公園でのんびりしようか」

「うん、それがいいな」

「楽しみ」

「あぁ。だから、早く寝ろ。あたしももう、眠いんだ」

「うん。おやすみ、ユーリ」

「あぁ、おやすみ、アリス」




 翌日、私は朝食を摂ってから、ユリウスに連れられて感応能力研究棟へと向かった。

そこは、想像していたよりも明るくて清潔で、子ども向けの施設らしく、庭や遊具があったり、

棟内にもおもちゃや絵本がたくさんあった。一見すれば、良い環境だと思える。

だが、レオナを“取られた”私にとっては、そんなものも、子どもをここに無理やり適応させるための道具にしか見えなかった。

 子ども達の走り回る廊下を抜けて、ユリウスは一つの部屋のドアをノックした。

ガチャッとドアが開いて姿を見せたのは、レオナだった。

 レオナは見るからに元気そうにしていた。前に会ったのは確か、一週間も前だ。それも、チラッと私が見かけただけ。

一緒に住んでいた部屋を出て行った時から、ちょっと髪が伸びている。

でも、かわいい笑顔はこれっぽっちも変わってはいなかった。

「ママ!」

レオナは私を見るなり、全力で私に飛びついて来た。目一杯、ギュウギュウに抱きしめてやる。

「ママ、昨日は先に寝ちゃってごめんね」

レオナはさも当然のようにそんなことを言ってきた。

私はユリウスと顔を見合わせて、それからしばらくはその話について根掘り葉掘り聞いていた。

 なんでも、物心つくころには、すでに意識してあれが出来ていたらしい。

そばにいる私達には使うことはなかったけど、施設内にいる他の子と話をする、なんてこともできたようだ。

この棟に移ってきて、いろいろな実験やトレーニングを受けている中で、

徐々にそれが鮮明に使いこなせるようになってきたのだという。

昨日私に“話しかけて”来たのは、なんとなく、疲れている感じが伝わってきたからだ、と言った。

感応能力は感じるだけのものだと思っていたが、そもそもがコミュニケーション能力の側面を持っていたんだ…

受け取るだけではなく、発信もできたなんて…私のサイコミュの実験は、間違ってなかったんだ…。

 一瞬、頭の中があの実験のことで埋め尽くされそうになったので、私はいったん、考えるのをやめた。

今日は、レオナと過ごすって決めたんだ。仕事のことを考えるのは、やめよう。


「レオナ、今日は一緒にお出かけしようと思ってきたんだ」

私はレオナを体から離して、そう言った。でも、それを聞いてレオナは少し複雑な表情をする。

「うーん、そっかぁ…」

「どうしたの?」

「今日ね、友達と遊ぶ約束してたの」

レオナはモジモジとそんなことを言う。友達が、出来たんだね。それは、なんだかすごく嬉しい響きだった。

「友達って?」

ユリウスがレオナに尋ねる。

「グレミーくんと、レイラと、マリオン!」

「ふうん」

それを聞いて、ユリウスは宙に視線を走らせた。何かを考えている感じだ。

「そうだったんだ…急に来ちゃってごめんね」

「ううん、約束は今度にしてもらってくるよ!みんなとはいつでも遊べるし!」

レオナはそんな優しいことを言ってくれる。でも、気を遣わせてしまうのは、なんだ気乗りしないな。

 「おやおや、これは、エビングハウス博士」

不意に、そう声がした。振り返ったらそこには、中年の作業着を着た男が立っていた。

「あぁ、モーゼス博士」

ユリウスは男の名を呼んだ。知り合いなの?

「アリス、紹介するよ。彼は、最近赴任してきた、クルスト・モーゼス博士。

 感応能力研究室所属で、あたしとは違う班なんだけけど」

ユリウスは私に博士を紹介してくれる。私はとりあえず立ち上がって、モーゼス博士に手を差し出した。

「アリシア・パラッシュです。人間工学を専門にしています」

「ご丁寧に。クルスト・モーゼスです。

 電子工学を専門にしてるんですが、なんの因果か、ここで世話になることになりましてね」

モーゼス博士は私の手を握った。見かけは横柄な人かと思ったけど、意外と紳士だな。

「モーゼス博士、アリシアは…」

「エビングハウス博士のアレ、ですな。噂はかねがね聞いております」

「あー、まぁ、そうなんだ」

ユリウスはなぜだか照れた。違う、ユリウス、ここは胸を張るところ!


 そんなことを思ってチラッと睨み付けたユリウスは、パッと表情を明るくした。

「なぁ、モーゼス博士、マリオンはあんたのトコの班の担当だったよな?」

「えぇ、そうですが、彼女が何か?」

「いや、レオナを連れて遊びに行こうと思ってたんだけど、

 マリオンとかうちのグレミーやなんかとも遊ぶ約束をしちゃってたみたいでさ。

 もし、暇だったら、マリオン連れて一緒に来てくれないか?」

ユリウス、何か考えてると思ったら、そう言うことだったんだ!もう!素敵!

「あぁ、構いませんよ。それなら、申請を出してくるので…20分後に、棟の前で良いですかな?」

「あぁ!ありがたい、よろしく頼むよ!」

「では、さっそく行ってきましょ。後ほど!」

モーゼス博士は、そう言い残して、廊下の奥へと消えて行った。

 「みんなで行けるの!?」

話を聞いていたレオナが、ピョンと飛び跳ねて言ってくる。

「そうみたい」

「やった!」

レオナは嬉しそうに、またピョンピョンと跳ねた。うーん、かわいい!

娘ながら、いっぺんの隙もなく、かわいい!

「じゃぁ、アリス、あたしも、グレミーとレイラの外出申請出してくるから、レオナと待っててくれな」

ユリウスは、なぜか、私の頭をゴシゴシと撫でながらそう言って、モーゼス博士とは別の方の廊下の奥へと歩いて行った。



 30分後、私達は研究所を出て、道路を挟んで反対側にある公園にいた。

「いくよー!ほいっ!」

テンッ

「グレミー、お願い」

「え?うわわっ!」

テンッ

「レイラ、いったよー!」

「ええ!」

テンッ

 子ども達は、芝生の上で、持って来たバドミントンで遊んでいる。

しかし、あれだな。こうしてみると、レオナが一番かわいいな。

いや、どの子もみんなかわいいんだけど、レオナだけはとびっきりにかわいいな、うん。

「アリス、よだれ垂れてるぞ?」

「ふぇ!?」

ユリウスの言葉に驚いて、私は思わず口元をこするけど、別にそんなもの出てはいなかった。謀られた!

「もう!」

ちょっと恥ずかしくて、ユリウスの肩口をひっぱたく。カカカと、彼女はいつものとおりに、笑った。

 「子どもは、いいですなぁ」

「お?大変だ、アリス、警察に電話しろ、ペドフィリアだ」

「い、いや!そう言う意味ではなく!」

ユリウス、モーゼス博士、明らかに年上だってのに…さすが、怖いもの知らず。

 「みんな、いろんなところから連れてこられたのかなぁ…」

私は、彼らを見て、そんなことが気になった。

だって、レオナは、私が産んだからいいけど、他の子は、親元から引き取られたりしているって話を聞いたことがある。

同じ施設内にいるのに、生活する部屋が別になったっていうだけで、私はあそこまで落ち込んだんだ。

他の子の親が、もしそんなことを感じていたらと思うと、気が気ではない。


「ん、中には、な。あたしの班の担当は、みんな人工授精児なんだよ。

 グレミーは、ほら、レオナの研究の流れの第3被験体。一応、遺伝的には、レオナの異母兄弟にあたる」

「そうなの?!母親は誰なの?!」

「あー、そいつは、決まりで、言えないんだ。あの子はいろいろと政治的な問題をはらんでてだな…

 本来は、出産後すぐに、引き取られる予定だったんだが…今はここで預かってる」

ユリウスは難しそうな顔をした。政治的問題、か。確か、父親はザビ家の血筋だって話だけど…

それと問題になるような、相手、ってことだよね?

 年頃は、5歳くらいか。ここ5年で、ザビ家と反目するような政治家はいなかったはずだけど…5年前、か。

確か、ちょうどそれくらい前に、ジオン・ダイクンが亡くなったよな…いや、もう少し前だったけ?6年?7年かな?…

サビ家の政敵、って言ったらあの人くらいだったろうけど…


……


そう言えば、ジオン・ダイクンの国葬で見たファーストレディ、アストライア・ダイクンと子ども達って、

あのグレミーくん、てのと同じ、綺麗なブロンドだったよな…

あれ、もしかして、そういうこと?

いやいや、ないない。なんでわざわざそんなことをジオン・ダイクンが死んでからする必要がある?

そんなのってザビ家にこれっぽっちもいいことないわけだし、ね…

だ、だけど、仮に、仮にだよ?もしそうなら、スキャンダル物だよね?そりゃぁ、存在を隠したくなるよな…

あれ、なんだろう、背筋が寒い。

「どした?アリス」

「いいいいいいいや、なんでもないよっ!」

ミステリーは嫌いじゃないけど、このことを詮索するのはさすがに得策じゃない。

もし、想像通りの出自だったんなら、一歩間違えれば、いつどこで“交通事故”にあったって不思議じゃないし…。

「レ、レイラちゃんも、そ、そうなんだ?」

私は必死で話題をそらす。

「あぁ、レイラは、レオナのときのデータをもとに、純粋に遺伝子的な配列の実証するために計画されて人工授精された子なんだ」

「どこぞの政治家のエゴは関係ないってことか」

「まぁ、大きい声じゃ言えないが、そうなるかな」

 話を聞いていて、なんだか変な気分になった。感応能力者の研究に携わっているからかもしれないけど…

まるで、機械を作るみたいに、子どもを“合成”してない?私達って…?

少なくとも、グレミーやレイラは、この研究所に、家族って呼べる存在がいないってことだよね?

彼らは…いったい、自分たちが置かれている状況を、どれほど理解しているのだろう?

疑問に感じることはないのだろうか?


 「モーゼス博士、マリオンはどうだったっけ?」

「彼女は、孤児だと聞いてますな。ニュータイプスクリーニングテストで引っ掛かった子らしいです」

「ニュータイプ?」

私は聞きなれない言葉に反応して、そうたずねていた。

「あぁ、我々の仲間内では、感応能力者をそう呼んどるんです」

「ニュータイプ…新しい型の、人類、か」

「そうですな…」

モーゼス博士は、そうつぶやくように返事をした。

 「私は時々、彼らが怖いのですよ」

急に、博士はそんなことを言いだした。

 怖い?あの子たちが?

「どういうことだ、博士?」

ユリウスが先を促す。

「彼らの能力は、我々、古いタイプの人間を、いつかは消し去ってしまうのではないか、と思うと、と言いますかな」

「あぁ、まぁ、適者生存が進化の法則だからな。抗おうとすることは、無意味だ」

博士の言葉にユリウスは言った。私もそう思う。

もし、あの子たちが新しい人類なんだとすれば、古いタイプの人類がいずれ数が少なくなっていくんだろう。

それが、戦いによるものか、あるいは、吸収されるような形で、なのかは、分からないが。

「そうとも言えますな。だが…彼らの能力は、我々を殲滅するのに、余りある。

 人口の10%が入れ替われば、古い我々はたちまち淘汰の憂き目にあうでしょう」

「あたしには、あの子たちがそんなことをするとは思えないけどね」

ユリウスは言った。

「あの子たちの力は、過密状態から宇宙へと進出した人類が必要だと選択して得た力だ。身近に接していてわかる。

 あれは、人間が人間たるための能力なんだよ。

 人口過密と、資源不足、そしてこの広大な宇宙へ飛び出るって経験の中で、

 よりよく他者を理解し、共生して行くための能力だと、あたしは思ってる」

「そうでしょうな、悪い物であるとは思いません。ですが、人類の種として意思と、人間の意思とは必ずしも一致ますまい?」

博士の言いたいことは、分かる。子ども達の能力は、脅威だ。

私も想像した通り、その気になれば、あの能力を利用して無数の人間を殺すことだってできる。

だから、私達は、あの子たちを“ちゃんと”育てなきゃいけないんだ。

善悪、道徳、そう言う物をきちんと教えておかないといけない。

脅威だから、と言って迫害すれば、それこそ、敵対する者に容易に牙をむける存在になる。

それは、ニュータイプでも、古いタイプの人間でも、同じことだ。


「私も、能力があるからこそ、真摯に向き合っていくべきだと思います。

 私たちは敵対するものではないと、能力の有無にかかわらず、同じ人類として、

 一つの仲間として扱っていくべきだと思います…

 もしかしたら、ここでの研究も、本来は、するべきことではないのかもしれない…」

思わず、そんなことを口にしてしまった。だが、間違っているとは思わなかった。

彼らに、人としての尊厳がどれほどあるのか?そう問われたら、私には、答えるすべがない。

それが、すべてなんじゃないか…

「軍事転用は、やっぱ、違うよなぁ」

ユリウスは言った。この研究所にどれくらいの時期からジオンの資本が入っているのかはわからない。

レオナもまた、ザビ家の血縁であることからも、あの時期にはすでに何らかの介入があったともとれる。

だとするなら、ニュータイプに関する研究や実験そのものが、そもそも軍事転用を目的にされていたものなのかもしれなかった。

「止める方法は、今のところ、ありませんな…」

博士は肩を落として言った。いや…ないことも、ない。それが正しい方法かわからないけど…

彼らの軍事的有用性を否定すれば、あるいは…

「博士は、電子工学が専門でしたね?」

「え?ええ、研究所では、主に思考能力の情報的解析を行っていますが…それが?」

モーゼス博士は、なぜ?言わんばかりの表情で、私を見やる。

「ニュータイプの彼らには、特殊な脳波を発します。

 たとえば、それを頼りに、彼らを殲滅するような人工知能の開発は可能だと思いますか?」

「彼らを殺す兵器を作る、と言うので?」

「いいえ、実際に運用されなくても構わない。いいえ、されない方が良い。

 ですが、開発することで、彼らの軍事的優位性を切り崩せれば、軍事転用は白紙になるかもしれない…」

「ふむ、つまり、普段は人間が操縦しつつ、例えば軍事転用されたニュータイプを感知出来次第、

 人工知能の起動を持ってあの能力に影響を受けずに戦闘を行う兵器、その開発、ということになりますか…」

「ええ」

博士は、じっと考え込んだ。どれくらい経ったか、彼は、何か強い思いのこもった目で言った。

「可能かも知れませんね…」






 0079.2.1

 今日もまた、朝から戦況報告のラジオが鳴っている。

私は、圧し掛かる絶望感を振り払って、ベッドから体を起こした。ユリウスが隣で寝苦しそうな表情でいる。

ラジオを切って、代わりに音楽プレーヤーの電源を入れた。

聞き古されたクラシックの旋律が響き、いっときの静寂が心の中に訪れる。

 先月の三日、ジオン公国が、独立宣言とともに地球連邦政府に対して宣戦布告を行った。

事前に計画されていたのだろう、それとほぼ同時にサイド3へ近いサイドへの一斉攻撃が始まった。

 公国軍はミノフスキー粒子の散布を行い、それによって半ば無力化された連邦兵力に対して、

モビルスーツ、ザクでの近接戦闘攻撃を行った。結果は、予測通りだった。

 瞬く間に戦線は拡大し、連邦軍の駐留しているコロニーは、次々と破壊されていった。

挙句には、コロニーの一つを地球に向けて落下させる暴挙まで働いたらしい。馬鹿としか思えなかった。

そんなことをしていったい、何になるというんだ。

 戦端が切り開かれるのとほぼ同時に、サイド6は中立宣言を行い、両国はこれを合意した。

ここにジオン贔屓の研究所があることを考えれば、この中立宣言も、どこか胡散臭く感じてしまう。

ここには、すでに、モビルスーツも、モビルアーマーと呼ばれる次世代兵器の試験プランまで舞い込んできているというのに。

 私とモーゼス博士の実験は、間に合わなかった。

いや、正確に言えば、まだこの研究所から実戦に送られた子ども達がいない分、時間はあるともとれるが、

それもおそらく、ほんの僅かだ。

 EXAMシステム、と名付けられた人工知能は、完成を見せた。レオナの友達、マリオンの犠牲を以って…。

今は、それを搭載する機体の選定に入っているが、理論上、今のザクではフレームや間接の強度が足りない。

システムの出力を落とすかでもしない限りは、とてもじゃないが実用は出来なかった。


「…朝、か」

ユリウスが目を覚ました。私は、彼女の髪を撫でつける。ユリウスもまた、落ち込んでいた。

 開戦の直前、この研究所には、耳をふさぎたくなるような実験計画がたびたび持ち込まれた。

クローン、薬物や精神手術による能力強化、人体実験、エトセトラ。

 もちろん、それを行うよう指示されるのは、担当のユリウス達。彼女は、猛烈にそれに反対した。

だが、上層部は、彼女を切り捨てなかった。切り捨てるには、ユリウスは知りすぎていた。

彼女はそれを察知していた。だからこその反対ではあったのだが、行き過ぎは命に関わった。

ユリウスもそのギリギリのラインで必死に戦った。その結果、レオナを、試験対象から外すことに成功した。

でも、その代償として研究企画室への異動とともに、一つの計画の片棒を担がされた。

 古い神話の、神々から力を得た、狼の姿をした戦士たちの名を取った、ウルフヘズナル計画。

計画の名称自体が、異常だ。暗に、自分たちが神だと言わんばかりじゃないか。

 計画の内容は、簡単。遺伝子操作によって、肉体やニュータイプ能力の強化を施したクローンの作成。

しかも、依りによって、オリジナルとなるのは、レオナだ。

上層部としたら、レオナを放棄する条件として、代わりになる物を手に入れようとしたのだろう。

レオナに直接手を下そうとすれば、私やユリウスが黙っていないのはあいつらも分かっているはずだから。

 ユリウスは、悩んだ末に、その指示を受け入れた。レオナからips細胞を取り出して、その中の遺伝情報を操作した。

細胞は空になった卵子に入れられ、代理母の子宮へ着床された。

 レオナは、ちゃんと、私達の部屋に戻ってきた。

嬉しかったけど、だけど、心のどこかには手放しで喜べない自分がいた。

サイコミュの着想と開発、ユリウスの研究やクローン胚作製の作業。

私たちは、今まで、何をしてきたのだろう?実質、ここでの研究は、ただ単に、戦争の準備をしていただけじゃないか。

その事実が、私達に重くのしかかっていた。そして、開戦してしまった今、それを挽回することなど、不可能に近い。


 私はただ、宇宙空間での作業を安全に行えるようにしたかっただけなのに…

ユリウスは、人類の進化を見ていたかっただけなのに…

私たちは、そのことばかりに集中していて、もっと肝心な、もっと巨大なものをみることができなかったんだ。

 カチャッと静かな音がして、ドアが開いた。

「ママ、ユーリ、おはよう」

レオナが、笑顔で部屋にやってきた。

「おはよう、レオナ」

私も笑顔を返して、両腕を広げて、レオナを迎え入れる。レオナはピョンと、私の腕の中に飛び込んできた。

そのまま、ベッドに倒れ込む。ユリウスも、レオナを私ごと抱きしめてくる。


 この時間も、そう長くは続かないだろう。ニュータイプの実戦投入の準備が整いつつある。

時が来れば、レオナも、私達を殺してだって、連れ出される。反抗すれば、強化手術と言う手法もある。

チェックメイトまで、あと数手、だ。私たちにはもうほとんど、打つ手はない。

「ママ、ユーリ」

レオナが静かに口を開いた。

「ん、どした?」

ユリウスが、レオナにそうたずねる。

「…私、怖い…」

レオナは震える声で、そう言った。

「人の声が、たくさん聞こえる。苦しい、怖い、ってそう言ってる…」

腕の中のレオナは、かすかに震えていた。

 ニュータイプ能力で感じるんだ。戦死者の声を、苦しみを…。

 私は、レオナにまわした腕に力を込めた。

「大丈夫だよ、レオナ。私とユーリがついてる。怖がらなくっていい」

「そうだな。いざとなったら、三人で逃げ出しちまえばいいさ」

ユリウスも、そう言ってくれた。逃げ出すことすら、簡単ではない。当然、私達は見張られているだろうから。

 そう、だから、もしものときは…レオナ、あなただけでも、生きていれば、それで…。


それで、いい。



****************************************


クルスト=モーゼス博士 脱走、亡命に関する報告書 概要


 UC0079.9.22に発生した脱走事件について、脱走に際して、以下の資料が持ち出された形跡が発見された。
・モーゼス博士の独自研究による人工知能に関する研究資料
・NT-001(レイラ・レイモンド)に対する強化手術式に関する資料


また、以下の被験体の持ち出しも確認された。
・EXAMシステム被験体、マリオン=ウェルチ
・遠隔感応遺伝子検討実験、実験体、レオニーダ=パラッシュ


なお、脱走に絡む武装禁止区域外での戦闘で、貨物シャトル一機の撃墜を確認。
搭乗していたとみられる、以下のスタッフについては行方不明。
・エトムント=バシュ博士
・アリシア=パラッシュ博士
・シェスティン=フランソン研究員
・パオラ=ヒノモト研究員
・サブリナ=ジェルミ飛行士


加えて、脱走にあたり、所属不明のジオンMS部隊と当研究所の試験機が交戦した。
現在、軍部に確認して当該部隊の割り出しを依頼している。
撃墜に成功したMS部隊機2機の残骸はすべて当該部隊により回収されている。

交戦した当研究所のエルメス1号機は被弾、大破のため、回収後、処分。テストパイロットは死亡。
公式記録には、ビットの暴走による自爆と表記。
戦闘データのバックアップは回収し、現在組み立て段階の2号機への調整対応で反映する予定。


****************************************






 それらしい資料を見てからのレオナは大変だった。頭を抱えて苦しむわ、泣いたり笑ったり錯乱するわの大騒ぎ。

あまりの騒ぎに起きてきたマリがレオナを見たときの怯えた表情もかなり壮絶だった。

なんとかレオナを落ち着けた頃にはあたし達は再びサイド3の港に到着して、シャトルをケージに係留し終えていた。

「大丈夫?」

あたしは、ギャレーで淹れた紅茶にハチミツをいっぱい入れてレオナに差し出す。

レオナは黙ってうなずきながら、それを口に運んでため息をついた。

それから、沈んだ声色で一言

「私、記憶操作、されてたんだね…」

と、呟いた。

違和感は感じていた。

レオナは昔の話をたくさんしてくれてきたけど、

そのどれもが断片的で深く聞こうと思えば思うほどうやむやな言葉ばかりが出て来ていた。

レイチェルのことも、両親のことも。本当に確かだったのは、マリ達のことだけだった。

あるいは、それが記憶を操作される直前の、一番新しい鮮明なものだったからなのかもしれない。

 人為的に隠されていた記憶が噴出したときのショックを考えれば、あんなに取り乱したって仕方ない。

 それにしても…あたしは、これまで目を通してきた記録を思い出す。

レオナは、間違いなく、そのアリシア・パラッシュという研究者に愛されていたんだ。

それこそ、アヤさんがレナさんやレベッカを守ろうとしたように、アリシア博士は、命をかけて、レオナを守って、

地球圏に送り出した。同僚の亡命を手助けして…。彼女に、どんな覚悟があったんだろう。

 自分の立場や、命や、仲間や、そういう大事なものを振り捨ててまでレオナを助けようとした彼女は、

まるで、あたしやアヤさん達がしてきたことと一緒だ。でも、彼女はあたし達とはちょっと違う。

たった一人で、誰の支援もない中で戦い抜いたんだ。

アヤさんやレナさんのために、あたしは自分の命を掛けられるかな…

そりゃぁ、いざとなったらやるかもしれないけど…でも、絶対にそれ以外の道を必死で探すだろうな。

それは、良い言い方をすれば諦めないってことだけど、素直な気持ちをいえば、恐いからだ。

出来ればそんなシチュエーションには遭遇したくない。


 アリシア博士は、亡命したかっただろうな。生きて、レオナと一緒に地球へたどり着きたかっただろう。

 もしかしたら、レオナに施された記憶操作は、クルスト・モーゼスという博士の親切心からだったのかもしれない。

その出来事を聞かされたか、聞かされる前だったか分からないけれど、

レオナの心を守るために、家族の記憶を封印してくれたのかもしれない。

今のレオナのように、それを受け入れる準備が整うまで…。

 レオナは紅茶をグッと飲み干して、あたしの目の前に突き出してきた。お代わりを要求しているようだ。

あたしは、とりあえずポットでもう一杯紅茶を入れてあげる。

それに口をつけたレオナは、ふと、視線をあたしの背後に走らせた。

 振り返るとそこには、マリが居た。マリは、オドオドしながら、扉の影からこちらをのぞくようにして見つめている。

 「マリ、ごめんね。もう大丈夫」

レオナは笑っていった。その表情にあまり力はなかったけど。

 それを聞いたマリが、やっぱりオドオドしながら、あたし達の方に歩いてきた。

レオナの腰掛けていたソファーの隣に座って、戸惑いながら、レオナの手を握った。

「姉さん、悲しかったの?」

マリがそう尋ねる。そう、あのときのレオナから漏れていた感情は、悲しみに似ていた。

でも、ただの悲しみだけじゃなくてもっと複雑で激しい感じだったけど。

 「うん」

レオナは静かにそう返事をして、やんわりとマリを抱きしめた。

マリは抵抗することなく、力を抜いてレオナに身を任せる。レオナは、マリに回した腕に力をこめた。

「マリ…私達のお母さんは、立派な人だったよ…実験のためだけに、私を産んだんじゃなかった。

 私を愛して、守ってくれた。私は…やっぱり、道具なんかじゃ、なかったんだ…」

レオナはそういいながら涙をこぼした。それからクスっと笑って

「マリは、お母さんを知らなかったんだったね。ごめん、分からないことを言って」

とマリを開放する。でも、マリはレオナの手をとったまま、まっすぐにレオナを見据えて言った。

「分かるよ。姉さんは今、悲しいけれど、寂しくはない。そうでしょ?」

マリは穏やかな笑顔で笑った。でも、それからシュンと不安げな表情になる。

「わたし達は、道具として生まれて来たのかもしれない。だから、いつも寂しいんだろうなって思う…

 姉さん、わたしも、姉さんと一緒にいたら、そうじゃなくなれる日が来るかなぁ?」

マリの瞳は、涙に震えていた。レオナはまた、ギュッとマリを抱きしめた。

「うん。約束するよ」

レオナも、震える声でマリにそう伝えた。

 あぁ、ダメだ、あたし。じっとしてらんないよ…こんなの!

 そう思った次の瞬間には、あたしは、二人に飛びついて力いっぱい抱きしめていた。

「レオナも、マリもあたしが守る!守ったげるから…大丈夫…大丈夫だよ!心配なんてしなくていい!

 だから、だから…もう、泣かないで…!」

そんなことを叫んでいたあたしが、レオナよりもマリよりもひどい顔をして泣いていたらしいけど、

まぁ、そんなことは気にしない。

レオナたちが笑顔になってくれれば、あたしだってすぐに負けないくらいの明るい顔で笑ってやれるんだから!



つづく。


 



一番つらい部分を客観描写にしてくれてありがとう。
アリスまたはレオナ視点で亡命失敗シーンを描かれたらちょっと……なんというか、その部分を読み飛ばしたかも。

更にモーゼス博士+マリオン=EXAMのコンボときたら哀しすぎる。
NT-Dより純粋に「NT憎し」で作られているからとにかく哀しい。

これからの展開が明るくスッキリできるかはマライアにかかってる。頑張れ。超頑張れ。

あ、グレミーはママに叱られていればいいよ。

>>578
感謝!

あの場面、演出上、記録のみの説明になりました。
モーゼス博士の人となりがイマイチわからず、とりあえず勝手にしたててみました…違和感ないといいけど…

そうですねぇ、ボチボチ、マライアたんにひと暴れしてほしいところですが…どうなるかw




お盆休みですね、皆さん休んでますか?ドダイはお盆休みなんかありませんw

通常業務ですw

でもペースアップしている不思議!


そんなこんなで続きです!



 「あぁ、いっぱい泣いちゃったなぁ」

レオナは、アイスクリームを頬張りながらまるで他人事のようにそうつぶやいた。

 ルーカスは、シャトルの整備を済ませて、キャビンで寝こけているはずだ。

マリももうずいぶん前に、寝室でレオナに添い寝されて再び眠りに落ちた。

一緒に寝るものだと思っていたのに、レオナはしばらくしてラウンジに戻ってきた。

あたしは、資料をさらにくまなくチェックしている最中だった。

 ギャレーから持ち出したアイスクリームを自分の分だけお皿によそってひたすら食べ続けながら

レオナはポツリポツリと、昔の話を始めた。たぶん、話したい気分なんだろう。

 アリシア博士と、一緒に住んでいたエビングハウス博士の話、一緒に公園でピクニックをした話、

自由研究を言いつけられた話、住むところが変わって、動揺したアリシア博士をなだめた話…

どれもこれも、暖かな思い出の様で、聞いているあたしも、なんだか和んだ。

すこし悲しかったけど、でも、それを話すレオナの表情は明るくて、満ち足りた穏やかなものだった。

 ふと、話しながら、彼女が首から下げていたチョーカーをいじっているのに気が付いた。

あれって、レベッカの写真を入れてた記憶媒体、だよね?でも、待って。

今の話だと、確か、アリシア博士にもらったチョーカーってのも、それ、だ、よね?

 え?あれ…?ちょ、ちょっと、待ってよ…?

 


 「ね、ねぇ、レオナ」

あたしは、何かを感じて、聞かずにはいられなかった。

「ん、なに?」

「そのチョーカー、アリシア博士にもらったもの、なんだよね?」

「あぁ、うん、そうだよ。ママがくれたの」

レオナはニコッと笑ってそう答える。

 ってことは、アリシア博士は、レオナに、記憶媒体だって分かっててそれを渡したってことだよね…

…まさか、ね…でも、ありえない話じゃない…よね…?

「レ、レオナ、ちょっとそれ、貸してくれないかな?

 ほら、レベッカの写真見せてくれた時みたいに、パキッて外して…」

「え?良いけど…」

レオナは、なんの疑問も持たずに、首につけていたチョーカーのヘッドをパキッとひねって、あたしに手渡してくれた。

「これの中身、見るけど、良い?」

「えぇ?うん、写真くらいしか入ってないけど…どうして?」

レオナはスプーンを咥えたまま、首をかしげてそんなことを言った。

レオナ、そんなカワイイポーズであたしを誘惑してる場合じゃないかもしれないよ!

 あたしは、チョーカーのヘッドをコンピュータに差し込んで、中身を確認した。

そこには写真のデータが分けられて入っている。一見して、何も変なところは見当たらないけど…

…でも、この表示じゃ、分からない。

 あたしはキーボード叩いて、一度画面を閉じ、それから、ロジック表示に切り替える。

データの階層構造が、画面に文字列で表示された。その文面に注意深く目を走らせる。

「なに、どうしたの、マライア?」

レオナは、アイスクリームを乗せたスプーンをあたしの目の前に差し出しながらそんなことを聞いてくる。

 そのスプーンに食らいついて、冷たいアイスクリームを味わっていたら、見つけた。

やっぱり、あった…!

背中に、ゾクゾクとした何かが走った。

 


 これは…ずいぶん高度に暗号化されているけど、明らかに、何かのデータだ。巧妙に隠蔽されている。

おそらく、独自のOSを使って作ったデータを暗号化したうえで、記憶媒体の基本システムの合間に入れ込んだんだ。

16進法…いや、違う。これは…32進法のロジックをテキストデータにしてからさらに16進法で変換しているの…?

そんなに大きいデータってわけじゃなさそうだけど…

 あたしは、ロジックの内容を一度、テキストソフトにコピーして、丁寧にそれを分解して計算しなおす。

16進法は、解けた。やっぱり、このロジックは32進法…これをもう一度計算し直して…

 出てきたのは、見たことのない、不可解な文字列…これは、見たことのない暗号コードだ。

やっぱり、このデータを作ったOSじゃないと、解き様がないのかな…

 「なに、これ?」

レオナが画面を見てあたしに聞いて来た。

「レオナのチョーカーに隠れてたデータ。

 ママがこれをくれたのなら、何かが隠してあるんじゃないかと思って探してみて、

 それっぽいのはあったんだけど、あたしじゃぁ、暗号がわかんないんだ」

どうしよう?ダリルさんにデータを送って解析してもらう?でも、もしかしたら、かなりヤバイ内容かもしれないし…

巻き込むのは、ダメだよね。だとすると、暗号の傾向から基本OSを再現する必要があるかもしれないな…

時間もかかるだろうし、そもそも、そんなことはさすがにうまくいく気がしない。

いくらあたしが、ダリルさんやアヤさんに情報技術について叩き込まれていたとしても、

相手は比べものにならないくらいのレベルの技術者。そんな人の考えた暗号が、果たしてあたしに解けるんだろうか?

「んー、これってさ、言葉遊びみたいなものじゃない?」

「へ?」

難しい顔をしながら画面を見ていたレオナが、そんなことを言いだした。

「こ、言葉遊び?」

「うん、そう。こういうの、良く、ユーリとやったんだよね…例えばさ」

レオナはそう言いながら、スプーンの先っちょでモニタを差して

「この記号、なんていうのかな、ほら、数字が割り当てられるじゃない?」

記号に、数字…?それって、テキストデータの文字コードのこと?いや…もしかして…!

「だとしたら、これは2302番だよ」

「それをさ、アルファベットに置き換えるんだよ。それで意味が通らなかったら、逆順かもしれないけど」

レオナは、スプーンをフリフリしながら解説してくれる。

全部の文字と記号を、テキストコード化して、それをアルファベットに置き換える。

…暗号と言えば暗号だけど、ひどくアナログだ。デジタルばかりやってる暗号解読では決して解けない方法…。

でも、それでこそ、このデータを残した意味が量れる。これは、レオナに解けるように作られた暗号なんだ…

 あたしは大急ぎで文字列をコードに置き換える。

レオナはそんなあたしの作業を見守りながら、ときどきアイスクリームを乗っけたスプーンを口元に押し付けてきた。

いや、レオナ、こういう時に甘いのは大事だけど、今はそんなにいらないから!


 全部の数字が出そろった。前からアルファベットに置き換えてみるか…ダメだ、意味通らない。

「逆順だね」

レオナが言った。あたしは、数字の列を逆からアルファベットに置き換えていく。

「ア…ス…テロイ…ド…ベ…ル…ト…へ…タ…ツ………ユー、リ…」

あたしと、レオナは声をそろえて、そう読み上げた。


 アステロイドベルトへ、発つ…!


エビングハウス博士が、そう残したの…?そうか、このデータを残したのは、チョーカーを渡した日じゃないんだ。

レオナの話では、一度3人の暮らしに戻れた時期があったらしい。

きっとそのとき、亡命の計画を立てた時点で、こっそり仕掛けた…

確かに彼女が亡くなったって情報は出て来てない。

そもそも、レオナやアリシア博士が研究所を脱走した時点で、エビングハウス博士にも疑いの目が行くのが自然だ。

だけど、訴追した形跡も、殺害した記録も残っていない…

そうだ、レオナ達の脱走騒ぎを支援した後か、あるいは同時に、それを隠れ蓑にして、研究所から抜け出したんだ…!

混乱に乗じるのは隊長の良く使う手…その成功率は、身を以って体験済み。これって、もしかして…もしかして!

「もしかして、ユーリが生きてる、かも…?」

レオナがポツリと口にした。

「そうだよ、レオナ!エビングハウス博士は、あなた達が亡命するのと同じタイミングで

 無事にあのコロニーを脱出出来ていたのかもしれない!」

あたしは、興奮してレオナの方を振り返った。レオナは、目に涙をいっぱい溜めていた。

「マライア…アステロイドベルトって…遠いの?」

遠いけど、このシャトルでもいけない距離じゃない…でも、、気がかりなのは、そこじゃない。

その当時にアステロイドベルトに逃亡したってことは、アクシズへ逃亡したというのと同じ意味だ。

でも、アクシズは先の戦闘以降は、連邦の手に落ちたと聞いている。

そこに居たとしたら、逮捕されているか…それとも難民収容コロニーに送られているか…

いや、それは連邦のデータベースに侵入すればわかることだ。

とにかく今は、アステロイドベルトじゃなく、この地球圏にいる可能性が高い。

「アステロイドベルトっていうのは、アクシズのことだよ、レオナ。

 今回の戦争に巻き込まれているかもしれないけど…博士はきっと生きてる。

 こんなメッセージを残すくらいだもん。諦めて死んじゃうような人じゃないはずだよ。

 今も、きっとどこかで生きていて、あなたを待ってる…」

あたしはレオナにそう言った。レオナは、全身を震わせながら、なんども、なんどもうなずいた。







 翌朝、あたしはPDAでジュドーくんに電話を掛けた。

サイド3へ戻る約束をしていたのは明日だから、まだジュドーくんはここにプルツーと一緒に居てくれているはずだ。


 数回コールが鳴って、電話に出た。

「マライアさん?」

ジュドーくんだ。

「あぁ、ジュドーくん?ただいま!」

「早かったんですね。明日って話じゃなかったですっけ?」

あたしが挨拶をしたら、彼はそんなふうに言って、こっちのことを気遣ってくれるようなことを言ってくれた。

優しい子だなぁ。

「うん、そうだったんだけど、意外に首尾よく運んだってのもあってね」

「そうだったんですね。それで、欲しかった情報ってのは、手に入ったんですか?」

「うん。そのことで、ちょっと話があるんだ。良かったら、会えないかな、プルツーと一緒に」

あたしは、ジュドーくんにそう頼んだ。

これからあたし達は、情報を集めて、ネオジオン残党の居場所を突き止めて、そこへ乗り込むつもりだ。

こればっかりは、さすがに、危険を伴う。

プルツーにも説明しなきゃいけないし、死ぬようなことはしないけど、でも、もうここへ戻ってこれなくなるかもしれない。

すこし、苦しいけど、プルツーに、選んでもらわなきゃ、いけない。

「あぁ、ちょうどよかったです。俺からも、話があって…。ホテルの一階のカフェにいます。待ってますね」

ジュドーくんから、話?なんだろう、ジュドーくんも忙しくなるのかな?

それとも、プルツーに関して、思うところでもあるんだろうか?

まだ14歳だっていうけど、でも、彼になら彼女を任せても、心配はないけど…でも、うん、とにかく、会って話をしよう。

いろいろ考えるのは、そのあとでも良い。

「わかった。これから行くから、すこし待っててね」

あたしはそう伝えて電話を切った。

「ジュドーなんだって?」

マリが電話を切ったあたしに、聞いてくる。。

「うん、カフェで待っててくれるって」

あたしが言うと、マリはピョンと飛び跳ねて

「カフェ!?やった、ご飯!」

と喜んだ。うーん、マリ、今日ばっかりは、楽しい気分で食事させてあげられるって保証はできないよ。

プルがどんな反応するか、ちょっとまだ読めないんだ。

 そんなマリに苦笑いを返したあたしのところへレオナがやってきて

「あんまりはしゃいじゃダメだからね。他のお客さんに、迷惑になっちゃうから」

とマリをたしなめた。うん、まぁ、テンションあがっているところから一気に下まで落ちるより、

そこそこのところから落ちた方がショックは小さくて済むしね…

マリのことは、とりあえずテンションを上げさせないように気を付ければ大丈夫か。

 そう思い直して、レオナを見やる。彼女はあたしの目を見て、ニコッと笑った。

 


 それからあたし達は、そろって港を出て、タクシーでホテルへと向かった。

カフェに入ると、一番奥の席に、ジュドーとプルツーが座っているのが見えた。

「ジュドー、お待たせ」

あたしが声を掛けると、ジュドーがこっちを向いて、無言で手を振ってきた。

 席について、とりあえず、飲み物だけを注文した。

話がある、ってのは分かっていたので、マリは素直に、オレンジジュースを頼んで大人しくしている。

 ふぅ、さて、話をしなきゃな…チラッとレオナを見やったら、彼女もすこし神妙な面持ちでコクッと頷いた。

今日、説明するのはあたしの仕事だ。レオナが出て行くことを言ってしまうと、プルツーの動揺を大きくしてしまいかねない。

できる限り中立のあたしがしないと…。

 「サイド5で、情報を手に入れて来たよ」

あたしは、口火を切った。ジュドーとプルツーは黙ってあたしを見つめてくる。

「そこで、レオナの過去を調べた。いろんなことが分かった…

 レオナがどうして生まれたのか、とか、どんな生活をしていたのか、とか、

 お母さんが死んじゃったってことも、全部わかった…」

「姉さん…」

プルツーが、そう不安そうに声を上げた。レオナのことを心配しているんだろう。それを聞いたレオナは、

「ん、大丈夫だよ」

と明るくプルツーに言っている。

 「…でも、レオナのお母さんと一緒にレオナを育ててくれた、もう一人の女性が、まだ生きてるかもしれないんだ」

「もう一人の女性?」

ジュドーが聞き返してくる。うーん、二人の関係って、うまく説明しづらいよな…。

いくらしっかりしているからって、14歳にそう言う、オトナの難しい状況をうまく飲み込んでもらえるかどうか…

しかたない、当たり障りない程度にしておこうか…

「説明が難しいんだけど…育ての親、みたいな人、かな」

あたしがそう言ったら、ジュドーは納得したようで「ああ」と声に出しながらうなずいた。

「その人は、たぶん、9年前の戦争のあと、アクシズに逃れている。

 今回の紛争でどうなったかって足取りはつかめてないんだ。

 でも、あたし達はレオナとその人を会わせてあげたいって思ってる。

 だから、今度はサイド3を拠点にするんじゃなくて、宇宙をあちこち彷徨うことになると思う」

あたしは、コクッと息を飲んだ。あぁ、これ言うの、イヤだな…。

「だから、プルツー。あたし達は、近いうちにサイド3を出る。だから、あなたに選んでもらわなきゃいけない…」

あたしはプルツーの顔を見た。思ったほどの動揺はない。むしろ、キュッと真剣な顔をしてあたしを見つめ返してきている。
 


 「そのことなんだけど」

プルツーの反応を見ていたら、隣に座っていたジュドーが口を開いた。

「実は…俺、木星探査船への乗船を志願したんだ」

「え…?」

木星探査…?あの、ジュピトリスへ…?それって…つまり、どういうこと?

「プルツーとも良く話した。相談して、プルツーはマライアさん達にお願いしたいと思ってる」

ジュドーは言った。

 良いの…?本当に、それで、良いの?あたしは、そんな思いがいっぱいになって、今度はプルツーの方を見る。

彼女は表情を変えないまま、話し始めた。

「ジュドーとは、ちゃんと話をした。わたし、マライアちゃん達と一緒に行くことにするよ。

 ジュドーは…家族を亡くしたんだ。たった一人の妹だった。

 だから、家族がどれだけ大事か、って話してくれた。一緒に居たくても、それができない人もいるんだって。

 わたしには、そうなってほしくないんだって。わたし、ジュドーと離れるのは、寂しいよ。

 でも、ジュドーが言ってることも、分かるんだ。だから、わたしは姉さんたちと一緒にいようって思う。

  木星に行っても、3年したら帰ってきてくれるって約束もした。それなら、わたし、待っていられる。

 だから、今は、姉さんたちと一緒にいようと思うんだ」

ジュドーくんは、妹を亡くしてたの…?そんな話、これっぽっちもしなかったじゃない…。

もしかして、ジュドーにとって、プルツーは妹みたいな存在だったのかな…?

もし、もしだよ?本当にそうだったとしたら、あたし、すごくひどいことをしているんじゃない…?

 そんな思いで、あたしはジュドーくんを見た。ジュドーくんは、笑った。それから

「任務が終わったら、すぐに会いに行きます。だから、プルツーを、頼みます」

と、あたしとレオナをまっすぐに見つめて言ってきた。

 そんな目をされたら…飲むしか、ないじゃない…。

「プルツーは、それでいいのね?」

レオナが、穏やかな口調で、プルツーに聞いた。

 プルツーは、黙って、口をへの字にしてうなずいた。

 辛くない、なんて言ったら、ウソだろうな…。絶対に寂しいし、悲しいだろう…

でも、もしかしたら、逆にジュドーくんに着いて行くことにしていたって、彼女は同じ顔をするかもしれない。

そもそも、そう言うことを迫っていたんだ、あたしは。どうにか、うまい案があればよかったけど…

でも、残念ながら、どうしようもない。

 うん…そうだよね。どっちを選んだって、辛いんだ。

でも、あたし達を選んでくれたんだったら、あたし達が責任を持たないとね。

プルツーに後悔させないように、レオナと一緒で、良かったって、思ってもらえるように。

 「わかったよ、プルツー。じゃぁ、あたし達と一緒に、行こう」

あたしは、自分にできる、最大限の笑顔を作って、プルツーにそう言ってあげた。

それを聞いて彼女は、今日初めての笑顔で応えながら

「うん!」

と返事をしてくれた。
 


 その二日後、あたし達は、港でジュドーとお別れをすることになった。

 プルツーは最後まで泣かなかった。泣くのをずっと我慢していたけど、それでも、泣かずに、

出来るだけ笑顔でいた。それはやせ我慢なんかじゃないってのは、なんとなく伝わってきていた。

プルツーは、ジュドーくんといるのが、本当に楽しかったんだな…

だから、たぶん、最後まで彼と笑って過ごしていたかったんだろう。

 シャトルに乗り込んで、ケージがシールされて、宇宙へ続くハッチが開く。

窓の外のジュドーくんが、どんどん視界から遠ざかって行って、ついには見えなくなった。

 そのとたん、プルツーは大声を上げて泣き出した。まぁ、そうなるよね…良く頑張ったね、プルツー。

あたしは、彼女の頭をなでてやる。と、フワリとあたし達の前に、マリが浮いて来た。

マリは、プルツーの後ろからそっと彼女の肩に両手を置いた。それからそのままマリは、後ろからプルツーを抱きしめる。

 マリは、何も言わなかった。プルツーも何も言わなかった、大声で泣いてはいたけど。

もうしかしたら、「アレ」で語りかけてるのかな…

あたしは、二人に感応しようと思って、感覚を研ぎ澄ませ始めたところで、思いとどまった。

二人の関係に、あたしが入り込むなんて、無粋かもしれない、なんてことを思ったからだ。

せっかく、マリがプルツーを慰めようとしてるのに、水を差したくなんてない。

マリだって、いろんなことを考えてるんだ。

彼女なりに、姉で、自分自身でもあるプルツーを助けたいって思ってるんだろう。

手を貸してあげるのは簡単だけど、それって、違うよね。

 レオナも言ってたし、隊長も言ってくれたし、あたしもそう思う。

自分に何ができるのかって、それを考えることが大事なんだ。それがきっと、この子達を大人にしてくれる。

お手本になれるかどうかわかんないけど、あたしやレオナが、すこしだけそうなれたみたいに、ね。

 あたしは、マリの肩を叩いた。マリが顔を上げてあたしを見る。

「プルツーを、お願いしても良い?」

あたしが聞いたら、マリは穏やかな笑顔を見せて、小さくうなずいた。

 あたしは、プルツーをマリに託して、レオナの手を引いて操縦室へと向かった。のんびりもしていられない。

すぐに、カラバにエゥーゴに連邦のデータベースへアクセスして、情報を漁らなきゃいけない。

エビングハウス博士が今、どんな状態にいるかわからないんだ。

 場合によっては、人呼んでカラバの隠し兵器、ティターンズのお喋り悪魔、連邦の泣き虫エースのこの

マライア・アトウッドが、邪魔するやつを根こそぎぶっ飛ばしてやる!

ジオンだろうが、アクシズだろうが、連邦だろうが、たとえエゥーゴやカラバだって、

一緒に居たいって家族を邪魔するんなら、あたしは絶対に許さないんだからね!




 


つづく。


さぁて、次回は!マライアたんのドキドキ潜入大作戦!?

 

リィナって死んでたっけ…

>>589
ジュドー達は、ジュピトリスに合流する直前まで死んだと思ってたと記憶しています…

ジュドーはNT能力でリィナが生きてるって確信してたはず、ってか意志疎通もあったっぽい
ビーチャ達はそんなジュドーを見て、気が変になったんじゃないかと心配するみたいな描写もあった

ただ、あの辺は表現がちょっと分かりにくかった印象がある
死んだリィナに語りかけてたとも、思念体を感じて語りかけてたともとれたので解釈は人それぞれかも

>>591
うわ、そのシーン思い出した!
ジュドーは少なくとも「生きてる」って
ビーチャ達からみたら盲信してる雰囲気だったわ。

これはミスった…
と、とりあえず、
生きてるとか死んでるとかじゃなしに
家族を大事に、って思いがあったって方向で
脳内補完願います(>_<)



そんなギリギリまでリィナと再会できなかったんだっけね。もしかして最終回だった?
木星にいるジュドーの誕生日にZZを送りつける妹というイメージでいいやもう。

乙!

ドキドキ潜入大作戦、ポロリはねーのかポロリは!?

ふぃー、やっと1から追いついた…
ZZアニメは見てないけどどこかで見たのかGジェネの影響かで
ジュドーとリイナは木星へ出発直前に会えた気がするんだが気のせいか?
あと、ジュドーがルーと木星へ出発した場所ってどこだっけ?
少なくともここの展開から見てサイド3ではないと見た

>>593
感謝!
おそらく、最終回だったと思います…セイラがリィナを連れてきて、ブライトとなんか話してて…
みたいなシーンあったよね?ね??
リィナは、ホント、かなり感覚のズレた子ですw

>>594
感謝!!
ポロリは…たぶん、ない!w

>>595
感謝!!!&長いこと読んでくれてあざっす!
そうですね、木星へ向かう直前にやっと再会していたハズです。
出立の場所は明記されてませんが、たしか、月発のシャトルでジュピトリスに乗ったように思います。



お読みいただいている皆様へ。

ここへきてまた筆が止まっております。

これ以降の話はある適度書き溜まっているのですが、なぜか以前投下分直後のシーンだけが

湧いてきません。今夜中に醸造しますので、明日以降の投下になると思いますが、

お待ちいただけると幸いです。


ドダイ、ギリギリですが、がんばります。

待ってる


最終回のブライトさんとセイラさんの会話は逆シャアの前フリだったんだよねぇ
二組の兄妹の対比にもなってて印象深かった

舞ってる

個人的なイメージとしてドダイはギリギリで踏ん張れない乗り物と記憶してるので
フワフワっと気楽に飛べば良いと思うよw

むしろ今まで俺が読んだほかのSSと比べてよくこの超スピードでよくここまでかけたのが凄いと思ってます!
自分はほとんど文才がないのでここまで思いついてこのペースで投下できるのがうらやましぃです!
だから今からゆっくりでもいいです!
必ず待ってます!


 ガタガタと風雨を防ぐための雨戸が音を立てている。びゅうびゅうという風の音と、激しい雨音も聞こえてきている。


私はホールにいた。アヤは、ロビンとレベッカを寝かしつけながら一緒に眠ってしまった。

昼間、ハリケーン対策で走り回っていたから、疲れていたのだろう。

アヤは、こういう嵐をあまり好きにはなれないみたいで、

ハリケーンが来るたびに憂鬱そうな顔をしてあれこれとせわしなく動き回るんだけど、私は、あまり嫌いではなかった。

もちろん、天災だから注意はするし、備えもする。

だけど、こんなのは気象を管理されているコロニーでは起こらない現象だ。

たとえどんなにひどいハリケーンでも、それは、私達が身を寄せ合って、

この青い地球に住んでいるから、体験できることなんだ。

それに、嵐は嵐で、青い空と海と同じように、それなりの風情があって、良い。

たとえば、ホールに響いている雨戸のがたつく音と、雨風の隙すさぶ音がそうだ。

 ホールの電気は消して、小さな電池式のランタンと灯しながら、私はボーっと、ホールのソファーに腰掛けていた。

マライアのことを考えながら。

彼女たちが出かけて、もう一か月以上になる。

毎晩、ってわけでもないけど、2日に一度はメッセージを送ってきて、無事で、元気でいるのは分かっている。

戦争も終わったみたいだし、それほど心配をしているわけでもなかった。アヤもアヤで、

「あいつは、やると言ったら、やるやつだ。アタシよりもガンコなやつだからな」

なんて言って、笑っていた。ガンコ、っていうより、忠実なんだと思う、自分自身の気持ちに。

なんて、そんなことを思ったのを覚えている。

 パタン、と音が聞こえて、ホールに人が入ってきた。シイナさんだった。

「悪いかったね、シャワーまで借りちゃってさ」

シイナさんは、バスタオルで髪を拭きながらそんなことを言ってくる。

「ううん、気にしないで」

私はそう答えて笑ってあげた。

 シイナさん達は、今朝方、アルバに戻ってきた。

アイルランドはひどい状況だったらしいけど、生存者もそれなりにたくさんいて、ハロルドさんと一緒になって、

他の現地の人やボランティアの人たちと一緒に、避難所の運営や救助作業なんかを手伝っていたらしかった。

一週間ほど前にやっと本格的に現地に軍や政府の支援が入ってきたらしくて、それを見届けて、アルバ島に戻ってきてくれた。

正直、マライア達よりシイナさん達の方が心配だったから、無事に戻ってくれたことが嬉しかった。

でも、タイミング悪く、今日はハリケーン。

シイナさん達は、つかれた体のまま家のハリケーン対策をしたり、忙しくしていたので、

私は夕飯を準備してウチで食べようと誘ってあげた。

結果、食べ終わるころにはハリケーンがひどくなってしまって、

歩いて3分の二人の家に帰すのも危ないかもしれないから、今晩は泊まって行けば、と言うことになった。


「どうしたのさ、真っ暗にしちゃって」

「うん、なんだか、そんな気分でね」

そんなことを話しながら、シイナさんは私の座っていたソファーに腰を下ろした。

「なにか、飲む?」

「あぁ…悪いね、なにかあるかい?」

「うん、バーボンで良い?」

「あぁ」

私はシイナさんの返事を待って、キッチンへ向かってバーボンとグラスを二つに、ロックアイスを持ってホールに戻った。

 氷の塊をグラスに放り込んで、それから、バーボンを注ぐ。

シイナさんはその片方を手に取って私に向かって掲げてきた。

なんだか、らしくなくて、クスっと笑ってしまったけど、私はカチンとグラスを合わせて、バーボンに口を付けた。

 「ふぅ」

シイナさんが、そう声を上げる。

 カラン、とグラスの中の氷が音を立てた。

 「アイルランドは、どうだった?」

私は、二人が帰ってきてから聞きあぐねていた質問をしてみた。

ロビン達が起きていて、なんとなく聞けない感じだったから、避けていたけど、今なら大丈夫だろう。

「あぁ、うん…ひどいもんだったさ」

シイナさんは、うなだれて答えた。

「絶望的な光景は見慣れたと思っていたけどね…強烈だったよ、実際…一面、なんにもありゃしないんだ。

 ぽっかり空いた穴と、元がなんだったのかさえわからない金属片だけが散らばってて、ね…」

シイナさんが見ただろう景色は、テレビ放送で何度も流れていたし、容易に想像が出来た。いや、景色だけじゃない。

その場所に立ちこめていただろう、気配すら、私には手に取るようにわかった。

「報道じゃ、何千万人って話さね、死んじまったのが、さ」

シイナさんは、空になったグラスにバーボンを注ぎながらそう話す。

「けが人は、もう、数える意味なんてありゃしなかったよ。それこそ、見渡す限り、さ」

私は、バーボンを味わいながら、シイナさんの話に耳を傾ける。

コロニーが落ちた、と聞いたその日、私は、いてもたってもいられなくなった。

だって、それは、ただの繰り返しにすぎなかったからだ。

前の戦争で、私達の祖国は、あの巨大な塊をこの地上にたたきつけた。何億もの人々を犠牲にした。

それは、いくらアヤが「どうすることもできなかったことだ」、と言ってくれても、変わらない事実。

それと全く同じことを、ネオジオン、と名乗る集団が行った。止めることはできなかった。

でも、せめて、あのときにできなかったことを、侵略者としてこの地球に降り立った私とは違ったことをしたかった。

 前の戦争で落とされたコロニーを、住民を虐殺してまで奪取させられたシイナさんにとっては、

もっとつらい出来事だっただろう。でも、だからこそ、彼女はあの地へ行ったんだ。シイナさんは、いつか言った。

「私は、死なせちまった以上の人を助けてやんないといけないんだ」

って。

その命に代えても、罪が雪がれるでもないけど、それでも、ひとりでも多くの命を救って、

そして、救えなかった人のために、祈らなきゃいけないんだ、って。

その言葉は私の胸にも響いていた。コロニーのことだけじゃない、私も地球方面軍として、緒戦で連邦軍と戦った。

モビルスーツのレバーを引いて、戦闘機や戦車を破壊した。何も疑わずに、なんの疑問も持たずに…

その行為の意味が分かってしまっていたから、私もシイナさんと一緒にアイルランドへ行かなきゃ、と思った。

アヤが止めてくれなかったら、ロビン達を置いて、向かっていただろう。それが良かったのかどうかわからない。

でも、戦争のさなかでも観光客や、時折訪れる傷ついた兵士たちの相手をしていたら、吹っ切れるところもあった。

アイルランドに行かなくても、私には、出来ることがあった。この場所で、そういう人たちを助ける…

この戦いの続く世の中で、誰もが心を休めることのできるこの場所を守ることもまた、

私にとっての、“祈り”なのかもしれなかった。

まぁ、もっとも、アヤと、ロビンにレベッカに、オメガ隊の皆と一緒に居られる嬉しさもあるんだけどね…

でも、それに浸ってばかりいるわけじゃ、ないんだ。

「手当てをしてるとさ」

シイナさんが、続ける。

「ありがとう、なんていうのさ、あいつら。こっちが謝ってやりたいくらいなにの…。

 私なんかに、礼をする必要なんてありゃしないのにさ…」

シイナさんは、かすかに目を細めた。彼女からは、悲しみだけが伝わってくる。

「それはきっと、“許し”なんだよ」

「許し?」

「うん…ありがとう一つで、ひとり分の、許し…」

私が言ったら、シイナさんは黙ってうつむいた。バーボンを、クッと飲み干して、

「許し、か…」

とつぶやく。相変わらず、悲しい感じばかりが伝わって来るけど、仕方のないことかもしれないな。

いつの日かシイナさんが、今の気持ちと、それ以外を割り切っていられるようになれれば…

私は、そう願ってやまなかった。シイナさんのために、そして、死んでしまった人達のために…。

 パタン、と音がした。ホールの入り口の方を見たら、そこには、ロビンが居た。


「ママ、起きちゃった」

ロビンは目をこすりながら、そんなことを言ってくる。それから首をかしげて

「シイちゃんとお話?」

と聞いてくる。

「うん、お話してた」

私が答えるとロビンはさらに首をかしげて

「大人のお話?」

と言ってくる。ふふ、ロビン、ホントにあなたは、私の娘だね。そう言う気の使い方、私に良く似てる。

「ううん、大丈夫だよ。ロビンもおいで」

「そうさね。こっちへ来なよ」

私が言うと、シイナさんもそう話を合わせてくれる。

ロビンはそれを聞いて安心した表情を浮かべて、私の腕の中にすっぽり収まった。

私はロビンを抱き上げて、膝の上に横向きに座らせて両腕で抱え込む。

ロビンは私の腕に頭を乗せて、すっかりくつろぎモードだ。

 ロビンは、レオナが出かけてしまって寂しそうにしていたレベッカにとても優しかった。

片時もそばを離れずに、あれこれと心配をしては、励まそうと一生懸命だった。

アヤは、気を使いすぎだ、なんて言ってたけど、いいじゃない、って言ってあげた。

その代わりに、私達がロビンを甘えさせてあげれば、これっぽっちも問題なんてないんだ。

 ロビンはほどなくし、私の膝の上で寝息を立て始めた。もう、かわいいんだから。

 そんなロビンをシイナさんとみていたら、不意にテーブルに置いておいたPDAが音を立てた。

メッセージを受信した着信音だった。

「シイナさん、ちょっと見てくれる?」

「いいのかい?」

「うん」

私が頼むと、シイナさんはそう確認してきて、私のPDAを手に取って操作した。それから、クスっと笑って

「宇宙からの報告書だよ」

と、私にPDAの画面を見せてきた。マライアからだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レナさんへ

 アヤさんにメッセージ送ると返事が硬くてムズムズするから、レナさんに送りました。

やっとの思いで、レオナの生まれが分かったよ。時間が掛かっちゃった。レベッカ、寂しくしてないかな?

 もしそうだったら申し訳ないんだけど、実は、もうちょっと時間がかかりそうなんだ。

レオナを育ててくれた人が、まだ生きているかもしれなくて、今は、宇宙中の情報を集めて足取りを追ってるところ。

 9年前の戦争中に、アクシズに亡命して、今回の紛争があってからの行方を捜しているんだ。

それで、ちょっとお願いなんだけど、もしできたら、ソフィアあたりに、

秘密の集合地とかないかって聞いておいてくれると嬉しいな。

 今はもう、ネオジオン側の人間は、難民コロニーに行っているか、宇宙のどこかに隠れているかしかないと思ってるんだ。

難民コロニーの方は今情報を攫っているんだけど、めぼしいものがなくて、困ってて。

 忙しくしてると思うけど、聞いてくれたら結果報告お願いします。



 寝てるときにメッセージ届いて起こしちゃったりしてたらごめんね。

 あとひと頑張りして、地球に帰るから、待っててね!



                                      マライア
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ジオンの集合地、か…聞いたことないな…」

私は、文面を読み終えてそう口にしていた。

 私は、開戦してしばらくしてからの入隊で、入隊直後はすぐにHLVで北米に降下して連邦軍と戦闘になった。

私の知っている退路は、キャリフォルニア打ち上げ基地から、サイド3までのルートくらい。

地球では戦後、アフリカあたりに残党軍がけっこう残っていたって話だけれど、

あれはオデッサを中心としたヨーロッパから撤退した部隊が結果的にあそこに集合してしまっただけで、

なにかの打ち合わせが事前にあったわけではない。

 宇宙の戦闘はほとんど経験したこともないし、そんな集合場所が、本当にあるんだろうか?

 「秘密の集合地、か」

ポツリ、とシイナさんがそう口にした。そう言えば、シイナさんは宇宙を拠点にしてたよな。

何か、知っているのかな?

 私がシイナさんの顔を見つめると、彼女はすこし苦々しい表情をしながら

「L2ポイントだよ」

と言った。

 L2ポイント…ラグランジュポイント2。

ジオン本国のサイド3と月面都市グラナダのちょうど中間ほどにあるポイントだ。

たしかあそこは、ア・バオア・クー建造のときに出た余剰鉱石群を廃棄した場所だ…

デブリが多い上に、月の影に隠れると太陽の光さえ届かなくなる“暗礁”になる。

基本的に航行を避けるべき宙域だったはず…。

「カラマポイントだ。あの戦争の後、生き残った公国軍はあの場所に集まった。

 それから、私達を置いて、アクシズに向かったんだ。

 アクシズの生き残りなら、あの場所を知ってたっておかしくはない。

 探している育ての親、ってのがもし見つからないっていうんなら、そこを探してみる価値はあるだろうさ」

シイナさんは、そう言って遠くに視線を投げ、グラスをあおった。

昔のことを、思い出してるんだな…故郷を追われた日のことを…。

 胸が痛みそうになるのをこらえて、私はPDAのメッセージでシイナさんの今の話をマライアに知らせた。

送信画面を確認して、PDAをテーブルに置く。

 レオナを育てた人、か。だったら、レベッカのおじいちゃんかおばあちゃん、ってことだよね。

そんなことを思ったら、ふっと、脳裏に父さんと母さん、兄さんのことが浮かんできた。

死んだ、って聞かされた家族が生きてたら、きっとどれだけ嬉しいだろう。

レオナは、きっと今は、そんな気持ちなんだろうな。

 レオナ、必ず無事に帰ってきてね…。その育ての親って人がどんな人かわからないけど…なんだか、さ、

変なんだけど、自分の家族みたいに思えるんだよね。当然かな、家族の一員のレオナの親なんだもんね…。

 生きてると良いね、レオナ。無事に、二人でここへ帰ってきてね。

 私は、そう願わずにはいられなかった。


つづく。


 

>>598
感謝!

あの対比は後日逆シャアを見てから思い返すと興味深かったですねぇ。
ガンダム史上初の複線だったw

>>599
感謝!!

フワフワと言うかアップアップしながら飛んでますですw
やっぱ、ドダイと言うコテハンはいけなかった!w

>>600
感謝!!!
最後までがんばるですよ!

 


おーおかえり

相変わらず場面転換がうまいなあ。
いったん流れを緩くしておいてからの
アクション担当へバトンタッチかな。

俺も嵐は結構好きだな。もちろんレナさんとは違う感覚なんだろうけど。

>>610
感謝!
展開の意図を汲み取っていただけて恐縮です!



ってなわけで、今回は最後に持ってきました脱出パート!

スパートしますです!


 

 「プル、大丈夫?」

あたしは、宇宙空間に浮かぶ小さなデブリに掴まって、同じようにしてデブリにしがみついているプルに尋ねた。

「うん…ちょっと、怖いね」

プルはそう言って、キュッと身をこわばらせた。

 宇宙には慣れているあたしも、こんなのは、怖いと言わざるを得ない。

なんたって、モビルスーツなしで、宇宙空間に浮いているんだ。

移動速度の速いデブリなんかに衝突されたりしたら、一貫の終わり。

背中に背負っているランドムーバーと呼ばれる推進装置の出力の計算を間違えれば、これまた、宇宙遭難。

もちろん、接近が敵に気付かれても、たぶん、助からない。

AMBACがシステム的に組み込まれているモビルスーツなら、姿勢制御はある程度簡単なんだけど、

それを生身でやるとなると、そう簡単な話じゃない。

いったんバランスを崩して変な回転でも始めようものなら、それを止めるので一苦労してしまう。

そうなったら、ランドムーバーの燃料の減りも早くなって、計算をし直さなきゃならなくなる。

宇宙空間では、移動状態から停止するだけで、加速時と同じだけの燃料がいる。

それを極力抑えるためには、こうして、低速移動をしながら、デブリ掴まって停止しながら、

慎重に進路を見極めつつ進まなくてはいけない。

 この緊張感は、怖いし、シビれてくる。さすがに、お喋りするのも、忘れてしまいそうだ。

「次は…あのデブリまで行こう」

「うん」

あたしは、今掴まっているやつから、Y軸10時方向にある、ほぼ停止状態と見えるコロニーの構造物だったものらしいデブリを指して言う。

プルの返事を確認して、あたしは慎重にデブリを蹴って、一瞬だけ、かすかにランドムーバーを吹かす。

体が軌道に乗ったのを確認して、続いてくるプルを見やる。彼女も、うまく離れられたようだ。

 ほどなくして、あたしが先にデブリにたどり着く。振り返ったら、プルがすぐそこに迫っていた。

待って、プル、速い!

 そう感じたのもつかの間、プルは、デブリの表面に衝突し、滑るようにその軌道を変えた。

あたしは、目についた出っ張りを握って、反対の腕で、プルを抱き留めて、引き寄せる。

 ふぅ、肝が冷える。腕の中のプルの顔をヘルメット越しに見ると、

彼女は、汗で前髪を濡らしながら、すこし、動揺した表情を見せていた。

 「すこし休憩しよう」

あたしは、プルを抱きしめたまま、そう提案した。プルは、黙ってうなずいた。

 

 ジュドーと別れた日に、あたし達はネオジオンの情報を集めるべく、月面都市グラナダに赴いた。

そこで、アムロに協力を仰いで、戦時捕虜や避難民、戦争前のアクシズ巨樹者のリストやらを見せてもらった。

エビングハウス博士が偽名を使っている可能性はおおいにあったので、そのリストを慎重に調べて行って、

あたし達は、ついに見つけた。それは、捕虜でも、避難民のでもなく、居住者のリストにあった。

 軍医として住民登録されている、モニカ・シャリエ、と言う人物だった。

他にも軍医、医者、研究者、とされている人たちのこともしらみつぶしに調査して、

その中で、このモニカ・シェリエの医師免許の顔写真を入手できた。

それが、レオナの記憶していたユリウス・エビングハウス博士の顔と一致していた。でも、そこからがまた大変で。

 博士の居所は、難民キャンプでも捕虜収容所でもなかった。

その所属は、紛争終結直後から行方が分からなくなっている、ネオジオン所属のエンドラ級戦艦内の医療班だということも、そのデータから分かった。

だけど、そのエンドラ級がどこにいるかがわからない。

それこそ、エゥーゴや連邦軍が血眼になって探しているにも関わらず、見つかっていないネオジオン残党戦力が多数あるくらいだ。

 そういうことで、あたし達はエンドラ級の足取りがつかめずに困っていた。

でも、そんなとき、地球に状況報告として送っていたメッセージに、返信が来た。

 レナさんからだったけど、そこには、元ジオン軍中佐の、シーマ・ガラハウ、

今はシイナ・カワハラと名乗っているけど、その人からの伝言があった。

「L2の暗礁宙域、カラマポイントに、ジオンの秘密の集結地がある」

 そのメッセージを見て、ノコノコとこんなところにやってきた。ここは、かつてサイド2のあった位置に程近い。

戦闘によるコロニーの破片を初めとするデプリがあちこちに浮いている。

確かに、隠れる場所が豊富なところではある。

この宙域に来て、しばらくの捜索をしたあたし達は、

博士が所属する班の搭乗するエンドラ級が、デブリに偽装して留まっているのを発見した。

軍用の暗号通信を解読して、おおよその位置を割り出せたのが、幸いだった。

 そんなわけで、今、あたしとプルは、エンドラ級に潜入に向かっている最中だ。

離れたところでシャトルからゼータガンダムで近づいて、手ごろなデブリに機体を固定して、さらにそこからエンドラ級を目指している。

シャトルは、あたし達とは別動で、遭難船として、あとからエンドラに救助要請を出す手はずになっている。

あたしとプルで博士を確保したら、収容されたシャトルに乗せて、それをモビルスーツで援護しながら脱出する手はず、だ。

それにしても、ただでさえ、ノーマルスーツだけの姿で宇宙遊泳なんて怖いことこの上ないのに、

この場所ときたら気味が悪すぎる…プルは、幼いのによくこんな状況で取り乱さずにいられるな。

あたしは、プルの体にまわした腕に力を込めながら、そんなことを考えていた。

 


 そういえば、ジュドーくんと別れてシャトルに乗ってから、これまでずっとプルツー、と呼んでいたあたし達に、

彼女が言ってきた。

「わたしのこと、プルって呼んで」

それは、エルピー・プルのことじゃなんじゃ?なんて聞いてみたら、

「もうどっちがどっちとか、関係ないかなって。あたしは、エルピー・プルじゃないけど、プルなんだよ」

なんて言っていた。

 その感覚は、いまいちよく分からなかったけど、

たぶん、エルピー・プルの方の感覚がプルツーにビンビンに伝わった結果、なにか良い変化が起こったんだろう。

彼女はもう、プルツーでも、エルピー・プルでもない、レオナの妹の、プル、として在りたい、

そう思っているように感じられた。

それは、頭で考えると、なんだか引っ掛かることがあったけど、でも、プルの笑顔を見ていたら、それでよかったんだな、と思えた。

 プルが一緒にいるようになって困ったのは、マリと見分けがつかないことだ。

マリの方が、なんとなく馴染んでいるから、多少の雰囲気の差はあるんだけど、

「姉さん」

と話しかけられたレオナが自信満々に

「プル、どうしたの?」

と返したら

「わたしはマリだよ!」

と言われて謝る姿がおかしくて笑わせてもらってる。

本人たちは、半分面白がっているのか、前後の会話の流れ的に絶対にマリなのに

「わたしはプルの方」

と言ってわざと混乱させようとする節もある。

 そんなやりとりを見ているのは楽しかったし、あたしもそれに混ざれることが嬉しかった。家族、か。

あたしも帰ったら、実家に帰ってみようかな。もう1年くらいは戻ってないもんね。

メッセージは頻繁にやり取りしてるけど、レオナ達を見ていると、なんだか顔を見たくなってしまった。

 そのためにも、とっととこんなところからは逃げ出して、あの青い地球に帰りたい。

 


「マライアちゃん、わたし、大丈夫」

不意に、プルのそう言う言葉が聞こえた。

「うん、じゃあ、行こうか」

あたしはそう言ってプルをゆっくり開放して、次に飛び移るデブリを探す。次は、正面に見えるあれがいいかな。

 プルを気遣いながら、足場を蹴って、デブリを目指す。

エンドラ級は、もう目と鼻の先。気づかれている様子はない。

ここからは、ランドムーバーは極力使わずに行きたいんだよね。光で気づかれちゃうかもしれないから…。

 次のデブリにたどり着いた。今度は、プルもうまくしがみ付く。

あと、2つか3つ経由できれば、直接エンドラ級に辿り着ける。

 「プル戦艦に取り付くから、慎重にね」

あたしがそう言うと、プルはコクっとうなずいた。

 プルのリアクションを確認してから、エンドラ級を見やる。あのクラスの船だ。

どこかに、メンテナンス用の外部ハッチがあるはず。

モビルスーツデッキや、通常のハッチから潜入するのは、さすがに危険すぎるから、

居住区じゃなくて、そう言う機関の隙間に入り込まなきゃいけない。

そういうのがあるのは、後部のエンジン周りか、対空兵器周りと相場が決まっている。

さすがに、ネオジオンの戦艦の構造図なんて手に入らなかったから、場当たり的な判断が必要になってくる。

 あたしが目指していたのは、後部下方にある、対空砲だった。

ここなら、もしあの場所に目当てのハッチがなくても、エンジンの方へ移動してハッチを探すのに都合がいい。

引き返せないこういう作戦のときほど、保険は大事だ。

 あたしはデブリを蹴った。エンドラ級が近づき、ついには、装甲を止めているリベットの一本一本が見える距離にまでなる。

すこしだけランドムーバーを吹かして方向とスピードを調整して、ノーマルスーツの電磁石のスイッチを入れて装甲に足を付けた。

両足を取られるような形で前につんのめった体を両腕を付いて支えて起き上がって、飛んでくるプルを受け止める。

 なんとか、たどり着けた…ふぅ、と思わずため息が出る。と、ほとんど同時に、無線でプルのため息も聞こえた。

思わず、顔を見合わせて笑ってしまう。

 あたしは、アンカーワイヤーを1mほどまで巻き取って、プルと繋がったまま、対空砲を目指して進む。

そのすぐそばに、点検口と思しき切れ込みがあるのを見つけた。

良かった、ないはずはないと思ってたけど…あってくれて、安心した。

 あたしは、工具を取り出して、その点検口の入り口のボルトを回す。

二つ外したところで、厚手の金属板が、宇宙空間でふわりと開いた。

工具をしまって、ライトを取り出して中を覗く。

中は真っ暗だが、点検用の狭い通路があって、通ることは出来そうだ。

給弾された弾に、対空砲を直接制御しているんだろうコンピュータなんかがぎっしりと詰まっている。

中にはまだ酸素はない。居住区画では、ない、ね。


 あたしはその中に入り込んで、プルを引き込み、点検口を内側から閉じて再びボルトで留めた。

それから足場を蹴って、対空砲の制御コンピュータに飛びついた。

 これも、計画のうち。絶対に必要、ってわけじゃないけど、チャンスがあったらやっておこうと思っていた。

携帯コンピュータを出して、ケーブルで制御コンピュータに接続する。

こういう、各部の制御装置はそのほとんどが状態モニターのために、艦の基幹システムに接続されている。

情報も取れるし、その気になれば、艦のシステム全体をクラッシュさせて、一定時間は制御不能に陥れることもできる。

これも、“保険”だ。

 あたしは、艦内部の見取り図を探して保存して、外部ハッチの開閉センサーのシステムをいじって、

それから事前に作ってきていたプログラムをシステムのデータベースに移して、隠ぺいする。

あたしがこの自前のコンピュータで命令を出すか、あるいは、警報装置か火器管制システムの起動を感知したときに、

システム全体を破壊するプログラムだ。

この艦の技術者のレベルや、対処策の有無にもよるけど、30分は行動不能に出来る。

脱出するときにトラブルがあっても、時間稼ぎにはなるだろう。

 作業を終えてコンピュータのモニタに艦内の見取り図を出す。それをプルに見せた。

「医務室の場所とか、分かる?」

「うん…たぶん、生活区画の、このあたりだと思う」

プルはそう言いながら、モニタの一部を指差した。艦中央部の、一番行きにくそうな場所にある。

これは、ちょっと困るな…さすがにこんなところにまで点検用の通路が続いているとは思えないし、

見つからないように進むのは至難だ。

一応、ネオジオンの制服をこのノーマルスーツの下に着込んではいるけど、ここは基地やなんかじゃなくて、戦艦だ。

自分の艦に乗っている人間に、知らない顔がいたらすぐさまバレちゃう。今回は、隊長戦法は使えない…

可能性として期待できるのは、居住区画に空気を送り込んでいるエアダクト、か。

人が潜り込めるスペースがあれば良いんだけど…

 あたしは、そう思いながらプルに合図をして点検用の通路を先へ進む。どこかに、艦内へ続くハッチがあるはず。

ハッチのセンサーは無力化しておいたから、あとは入る場所さえ見つけられれば、とりあえず艦内へ潜入は出来る。

 「マライアちゃん、あそこ」

プルがそう言ってあたしの肩を叩いた。そこには、今入ってきたのと同じ大きさの、ハンドルが付いた小さな扉があった。

 あたしは、コンピュータでその扉の位置を確認する。後部対空砲台のすぐそば…見つけた。
このハッチのことだ。

エンジンルームへ続く、整備用のハッチのようだ。図面によれば、ちゃんと二重構造になっている。

これならエアー漏れでバレてしまうこともなさそうだ。

 


「プル、ちょっと下がってて」

あたしはプルにそう伝えて、扉から距離を置かせて、ハッチのハンドルを回した。すぐに、音もなくハッチが開く。

中を確認すると、人が1人立ち止まれる程度のスペースがあって、そのすぐ先に、もう一枚ハッチが見える。

良かった、図面どおりだ。

 あたしは中に入って、それからプルもその狭い空間に招き入れる。

後ろのハッチを閉じてから、今度は慎重に艦内へ続いているだろうハッチのハンドルを回す。

この先は空気がある可能性が高い。

音も響くし、なにより、エアーでハッチが開かないか、逆に勢い良く開いてしまう恐れもある。

ゆっくりとハンドルを回して行くと、フシューという音が漏れ出した。

ハッチの隙間から、向こう側のエアーが入り込んでいるんだ。

あたしはしばらくその位置でハンドルを動かすのをやめて、この狭い空間に空気が充填し切るのを待つ。

ものの2,3分でエアーが漏れてくる音がやんだ。これなら、大丈夫のはず…あたしは、ハンドルを一気に回した。

ゴンと音がして、ハッチが開いた。

 腰に挿しておいた、銃身を短く切り詰めたデザインのサブマシンガンを手にとって、ハッチの向こう側を覗く。

そこは小さな小部屋で、工具やエンジン補修用のものらしい部品が整頓されておかれていた。

部屋の反対側の壁にはドアがある。図面どおりなら、あの向こうはエンジンルームだ。整備員が居る可能性がある…。

プルを部屋に引き入れて、すぐにハッチを閉じる。

それから、部屋の棚の影に身を隠して再度、コンピュータの図面を開く。

「これから、どうするの?」

プルが心配そうにそう聞いてくる。

このサイズの船だ。エアーを行きわたらせるために、絶対どこかに通気ダクトがあるはず。

この部屋には、メインダクトからの枝分かれが来ているらしい。

位置的には、天井…?あたしは、部屋の天井を見上げた。そこには、頼りない金網でふさがれた穴ぼこがある。

この枝分かれのダクトが人の通れる太さならいいけど…。

「あそこから行くよ」

 あたしは飛び上がって、金網に取り付いて中を覗いた。

それほど大きい、というわけではないけど、でも、さっき見た対空砲の砲口くらいのサイズはある。

狭いけど、なんとか通れそうだ。あたしはナイフを取り出して金網と天井の隙間にねじ込んでひねった。

メキっと音を立てて、金網が宙に浮く。プルを先に穴に押し込んで、あたしは後から入って、金網を元に戻して、粘着シートで固定する。

こうしておけば、逃げるときにもつかえるかもしれないもんね。

 あたしはプルのお尻をつつきながら、タクトの中をゆっくりと這って行く。

コンピュータ上の図面では、このダクトは合流と分岐を繰り返している迷路だ。

それに生活区域の天井裏も通っている。物音は極力立てるべきじゃない。


 なんとなく、胸が詰まるような感じがする。おかしいな、こういうのはなれたものなんだけど…

自分の感覚に疑問を感じてよくよく探ってみると、これは、違う、あたしの感覚じゃない…

プル、まだ緊張しているの?

「プル、大丈夫?」

あたしは無線でささやくように彼女に尋ねる。するとプルも小さな声で

「ちょっと、緊張してる」

と言って来た。

「安心していいよ。あたし、潜入のプロだからね」

顔が見えないので、仕方なしにお尻に笑いかけながら言ってみる。するとプルは意外な返事を返してきた。

「ううん、ここに入るのはそれほどでもないよ。だって、エンドラ級はそもそも私たちの船だし」

違うの?じゃぁ、なんで???

「それじゃ、どしたの?」

「博士、って人は、わたしと…プルを作った人、なんでしょ?」

「うん」

「わたしを見たら、どんな顔するのかな、って。怖がられたり、しちゃうのかな?」

そういえば、気になるところだ。エビングハウス博士は、戦争が終わる前にアクシズへと向かったはず。

プル達は博士のことは知らない、と言っていたから、そのときには一緒じゃなかったってことになるのかな?

レオナを取り戻したのは、開戦直後…だとしたら、プル達はまだお腹の中にいたって計算になる、か。

一緒じゃなかったとしても、博士が、プル達もアクシズへ合流したことを知らないなんてことがあるんだろうか?

アクシズがどんなところか、いまいちイメージできないけど、でも、

アクシズへわたる際に博士は偽名を使っていたってのは確認できた。当然身分も偽っているだろう。

かたや、研究所の実験データやら、成果であるプル達は機密事項。

プル達がアクシズに到着しても、研究所の所属ではない、ただのお医者になっていただろう博士が

それを知ろうとしたって、簡単じゃないかもしれない。
 


「平気だよ。ちょっとびっくりされるかもしれないけど、あなたはちょうど、戦争中だった頃のレオナと同じくらいの年齢だし…

 レオナと、おんなじ顔してるしね。きっと、うれしいんじゃないかな…あ、その角、左ね」

「うん。…そうだと、いいな」

「うん」

あたしは、頭の代わりに、目の前のプルのお尻を撫でてあげる。

いや、ほら、気分を紛らわせてあげようと思って、ね?

怒るか、嫌がるかすると思ったのにプルはほとんどなんのリアクションも示さなかった。

なにか反応してよ、プル。あたしが変な人みたいじゃない。

そんなことを思っていたら、また、プルの声が聞こえた。

「お母さん、ってわたしが呼んだら、嫌がるかな?」

お母さん…?ど、どうだろう?博士はプルを生んだわけじゃないし…

プル達がレオナの妹なら、プルのお母さんは、一応、アリシア博士、ってことになるのかもしれないけど…

だけど、急にそんなことを聞いて、なにかあったの?

「どうしてそんなこと思うの?」

「そう呼んでみたいんだ。だって、博士は、姉さんからわたし達を作ってくれたんでしょ?

 これまで、つらいことのほうが多かったけど…でも、お母さん、って呼んで、笑ってくれたら、

 あたし、嬉しいなって思うんだ」

「プル…」

プル達がどんな生活を送ってきたのかは、マリからおおよそ聞いていた。

一日の大半をスリープカプセルで過ごして、感覚の強化や戦闘についての睡眠学習を強制させられていたらしい。

起きている時間は、モビルスーツの操縦訓練くらいしか出来なかったといっていた。

レオナ以上に、この子達には“素地”がない。それって、いまさら埋めてあげられるようなものなのかな…

エビングハウスがどんな人かはわからないけど、でも、アリシア博士と一緒に、レオナを守ろうとしてくれた人だ。

プルが今の気持ちを伝えることが出来れば、きっとそれに答えてくれる…そう、信じたいな。
 


 そんなことを話しながら、あたしとプルはダクトを進んだ。途中でようやく、基幹部に出ることが出来た。

中腰でくらいなら立って歩けるほどの高さで、これまで進んできたダクトよりも丈夫に出来ている。

これなら、多少は進みやすい。

 目指している医務室は、もうすぐそこだ。あたしは、プルの前に立って進む。

プルは、やっぱりなにか不安らしく、あたしの腰のベルトをつまんで着いてきていたので、手をつないでゆっくり先導してあげた。

あたしは、図面を見て、足を止めた。傍らには細い枝分かれのダクト。これが、医務室の天井に続いているはずだ…。

「この先だよ」

あたしが言うと、プルはヘルメットの中でコクっと喉をならしてうなずいた。

その表情があんまりにも不安そうだったから、思わず引き寄せて、肩を叩いてあげてしまっていた。

「大丈夫だよ、プル」

笑顔で言ってあげたら、プルもかすかに笑った。うん、やっぱり、あなた達には笑顔が似合うね。

 身をかがめて、今度はあたしが先頭になって、細いダクトを進む。

ほんの数メートルほど進んだところで、前方に明かりが見えてきた。

ダクトに入り込んだ最初の小部屋についていたような華奢な金網がある。その先は部屋になっていた。

 金網越しに中を覗く。眼下に、コンピュータに向かってキーボードを叩いている人の姿がある。

白衣を着て、短く刈り上げた髪の人物。顔や性別はうかがうことができない。部屋には他に人影はないけど…

あたし、博士の顔は写真でしか見たことないし、顔が見れても本物かどうかいまいちわからないのが困ったところなんだよね…

感覚を駆使すればおおよそどっちかは分かると思うんだけど、もし不用意に出て行って人違いだったりしたら、

たちまち囲まれて逮捕拷問だもんな。

もうしわけないけど、ちょっと手荒に行かせてもらう必要があるよね、安全のために。

 あたしは、手にしたサブマシンガンの弾倉と機関部を確認する。弾はちゃんと装てんされてる。

「プル、一気に行くから、ついてきて」

あたしはそうプルに声を掛けて、思い切り金網を蹴破って、ダクトから飛び出た。

物音に気がついたその人物がこっちをみる。女性だ。

エビングハウス博士は、計算だと、もう40を超えているはずだ。

でも、目の前の女性は、アヤさんよりちょっと年上くらいにしか見えない。

なにより、切れ長の二重に、キリっとした眉、すっと通った鼻筋に、きゅっと結ばれた口角の広い唇。

今まで見たことのない、とびっきりに、とんでもない美人だった。

あたしは、戸惑いそうになった気持ちを一気に引き締めなおして上から降りかかるような体勢で女性の肩口を掴むと

引き寄せて一緒に床に倒れ込んで銃口を突きつけた。

とりあえず、制圧は完了、かな。

 傍らにプルも降り立ってくる。もう一度部屋の中を確認する。うん、この人、一人、だ。

「なんだ、あんたは?」

女性は、落ち着いた様子であたしにそう問いかけてくる。

まぁ、そうだよね…この人が博士でもそうじゃなくっても、寝耳に水だよね、これ。
 


 あたしは、ヘルメットのバイザーを上げて

「危害は加えません。少し話をさせていただきたいんです。抵抗はしないようにお願いします」

と女性に伝えた。女性は鼻で笑って

「お願いします、なんて言えば聞こえがいいと思ってるのか?銃を突きつけておいて」

とこっちを煽るように言ってくる。まぁ、そうなんだけどさ…ホントなんだもん。

 あたしは、女性を支えるようにして体勢を入れ替えて遠心力がかかっている床に座り込んでから、女性を掴んでいた手を離した。

女性は、俊敏に床を蹴って、あたしに向き直る。これ以上警戒されたら、通る話も通りにくくなっちゃいそうだ。

あたしはそう思って、サブマシンガンを腰のホルスターに戻して、両手のひらを彼女に向けて見せ付けた。

危害は加えません、のメッセージだ。伝わるといいけど。

 女性は、あたしのしぐさを確認して、ふう、とため息をついた。どうやら、とりあえずは、信用してもらえたらしい。

「で、どこの誰で、アタシにどんな用だって?」

女性は、それでも怪訝な表情でこっちを見つめながらそう聞いてくる。うんと、なにから説明すればいいかな…

とりあえず、自己紹介して、博士かどうか、確認してみようか…

「あたしは、マライア・アトウッド。元連邦軍で、元ティターンズで、今はカラバの予備役やってます」

我ながら、正直に話すととんでもなく不可解な経歴だな。そんなことを思ったら、なんだかひとりでに笑えた。

「元ティターンズで、カラバ?なに言ってんだ、あんた?」

「あぁ、まぁ…そこは、おいおい説明します。

 とにかく、今、あたし達は、カラバとして戦時被災者の救助活動を行っている最中だったんですけど…

 あなたは、ユリウス・エビングハウス博士で、間違いありませんか?」

あたしが尋ねたら、彼女は、一瞬だけ、反応が止まった。すぐに

「誰だよ、それ。知らないね」

と、さも、なに言ってんだ、みたいな口ぶりで言ってくる、けど。

今の一瞬の間は、少なくとも名前は知っているくらいの可能性として捉えてもよさそうだね。

あとは、もう、事実を付きつけてこっちを信用してもらうしかない。手っ取り早いのは…やっぱり、プル、だよね…。

 あたしはプルをチラッと見やった。プルもあたしを見た。

あたしがうなずいたら、プルにはすべてが伝わったようだった。

彼女は一瞬戸惑いを見せてから、それでも、ノーマルスーツの首元を操作して、ヘルメットを脱いだ。

プルの手に払われたヘルメットが宙に浮いて、いつもの顔が現れる。

 それをみた女性は、明らかに動揺した。顔はこわばって、一方後ろに下がって、身を引くような姿勢でプルの顔をじっと見つめている。

あぁ、そんな反応はしないでほしいな。プルが傷ついちゃうでしょ…
 


「なんだ…あんたは…その顔…どうして…?ま、まさか、あのときの、クローン…!?」

彼女は、強ばった口調で、そういった、やっぱり、プル達のことは知らなかったんだね…。

そんなことを思いながらあたしもヘルメットを取った。ふう、と、ため息が出るのはお約束だ。

「彼女は、プルです。レオニーダ・パラッシュの妹の、プル」

あたしがそう言ってあげると、女性は、愕然とした顔であたし達を見つめた。

「これに、メッセージを残してくれてたんでしょ?」

プルからも緊張しているのが伝わってくる。彼女はそういいながら、胸元に手を突っ込んで、何かを引っ張り出した。

それは、レオナがつけていた、あのチョーカーだった。

 彼女は、それを見てもっとびっくりした表情を見せた。もう、言葉を失ってる、って感じだ。

うん、これはもう、完璧、間違いないよね。

「レオナは…あいつは、生きてるのか…?」

掠れて、聞き取るのもやっとの声で、彼女は聞いて来た。

「うん、レオナも、近くまできています。あたし達はある人を探しに来たんです。だから、教えてください。

 あなたは、ユリウス・エビングハウス博士で、間違いないですか?」

あたしは、改めて女性に尋ねた。

 女性は、あたしの言葉を聞いて、すこしためらってから、でも、クッと唇を結んで、頷いた。

 その瞬間に、あたしはホッと胸のつかえが取れるのを感じた。良かった…やったよ、レオナ!

博士、ちゃんとまだ生きてたよ!あなたの、もうひとりのお母さん、生きてるよ!


「あ、あたしは!マライア・アトウッドです、レオナの友達で…あぁ、ホントに生きててくれた!」

興奮しているのを無理矢理に抑え込んで、あたしはなるべく簡単に事情を説明する。

でも博士は聞きたいことがたくさんあるようで、あれこれと聞き返してくる。

そろそろ、ルーカス達が行動を起こす時間になってしまう。嬉しいし、いっぱい話してあげたいけど、時間は惜しい。


「細かい話は後でします。今はとにかく、あなたをここから連れ出したいんです」

あたしが言うと、博士は一瞬、何かを言いかけて、急にバシっと両手で自分の顔を引っ叩いた。

「すまない。ちょっと混乱してる…。5分、いや、3分でいい、時間をくれないか?」

博士はそんなことを言ってきた。

 どうしよう…あまり時間はないけど…でも、今のまま連れて行っても、逆に動揺をひどくさせてしまうかもしれない。

この船についてはプル以上に博士の方が良く知っているはずだ。

だとしたら、落ち着いてもらって、安全な脱出方法を一緒に考え直すんでもいいのかもしれない。

その間に、あたしはルーカスに無線で状況の変更を伝えられる。

あ、そうしたら、レオナと話もしてもらえるし、一石二鳥じゃない。それがいいな!
 


「分かりました。すこし、待ちます」

あたしが言うと、博士はまた、ふう、とため息をついて、デスクの上にあったポットから紅茶をマグに注いた。

お茶の葉の、良い匂いが香ってくる。落ち着く、薫りだ。

 「あ、あの!」

急に、プルが声を上げた。な、なによ、プル…急に大きい声出されるの、ダメなんだってば…

「あの…わたしは、プル。プルツーです。レオナ姉さんの体から作られた、クローンです」

プルは、まるで搾り出すように言葉を並べだす。あぁ、そうか。さっきの話だね…

大事な話だもん、今しておいた方がいいかもしれない。この先しばらくは、そんなこと話す余裕はないかもしれないし…。

「だから、わたしには、家族は居ないけど…レオナ姉さんは、家族だって言ってくれた。

 あの、だから、博士も、博士のことも、あたし達を産んでくれた人だって思ってる、だから…」

胸がきゅっと詰まる。がんばれ、プル。あなたの気持ち、きっと伝わるから…勇気、出して…!

そんなことを考えてたあたしは、自分でも気がつかないうちに胸の前で両手を握っていた。

「本当の家族じゃないかもしれないけど、あたし、博士のことを、母さんって、呼びたい!」

言い切った!頑張ったね、プル…!あとは…博士の反応、か…あたしは博士に視線を向けた。

彼女は、紅茶の入ったマグを手に、プルの顔を見て呆然とした表情をしていた。

なんだか、ムズムズする沈黙が部屋に立ち込める。

どれくらい時間が経ったか、不意に、博士が俯いたと思ったら顔を上げて、笑った。



「そんなふうに、思ってくれてたんだな…。アタシは、あんた達を作って、見捨てて来ちまったって思ってたのに。

 恨まれて当然だって、そう思ってたのに…母さん、なんて呼んでくれるのか?」

博士の目には、うっすら涙まで浮かんでいる。

 博士の言葉に、プルは頷いた。それを見た博士はマグを置いて、プルに歩み寄って、抱きしめた。

背の高い博士の腕の中にプルがすっぽり収まる。

「ごめんな…アタシ、なんとかあんた達も助けてやりたかった…

 だけど、あんた達は当時は、被験者になってくれてた人のお腹の中で、彼女たちは身重だったし、

 連れだしてやることもできなくて…アタシ、あんた達を見捨てちゃったんだ…今まで、どこでどう暮らしてたんだ?

 聞かせてくれよ…全部、聞くから。辛かったことも、苦しかったことも、全部アタシにぶつけてくれていいから…

 ごめんな、本当に、ごめんな…」

博士は、泣きながら、膝から崩れ落ちた。彼女は、罪だ、と言った。

あまつさえ、遺伝子操作で生み出した命を、見捨てたことを。でもね、違うよ、博士。

どんなことがあったって、どんな出自だったって、プルやマリは、生まれて来れたんだよ。

彼女たちはこれからだって、自分の選んだ運命を歩ける可能性がいっぱいある。

プル達も、それが分かってるんだ。今、プルがこの話をしたことも、あたし達に着いてきてくれたことも、

マリが、レオナやあたしに、いっぱい甘えてくることだってそう。二人は、あなたのことを恨んでなんかない。

罪だと思ってもいない。

 今はまだ、言葉にならないかもしれないけど、そのうちにきっと二人は、ありがとうって、あなたに伝えられると思うんだ。

「母さん…」

プルが呟くように言った。博士の腕にいっそう力がこもる。

 博士、プルでさえこんなになっちゃうんだもん。レオナになんか会ったら、発狂しちゃうんじゃないかな?

ふふ、それはそれで、見てみたい気持ちもするな…レオナに、プルにマリに、博士の四人家族、か。

ロビンやレベッカからしたら、博士はおばあちゃん、だね。おばあちゃんなんて呼んじゃうには若いし、綺麗だし、ちょっと抵抗あるなぁ。

 あたしはそんなことを考えながら、無線機を取り出していた。暗号通信でルーカスに知らせて、作戦を変えなきゃ。

何か良い案があれば良いんだけど…ね…。



つづく


ドキドキ潜入大作戦、あえてレオナじゃなくプルを連れてったマライアたん。

そして次回!マライアたんがユリウス博士に体を狙われて大変なことに…ならない。

続きは今晩投下予定です。

今晩!?早い、早すぎるッ!
と思ったがたぶん書き溜めがあるんだな、そうだよな
頑張ってくれ!

乙!緊張感がたまらん!

レオナよりプル(プルツー)のほうが戦闘訓練も実戦も経験豊富なんだからスジは通ってるよね
MSの操縦以外の経験があるかはしらんけどw

>>626
感謝!
書き溜めは…あんまないけど最終パートはスピードが命!w

>>627
感謝!!
ドキドキ感、急上昇中!
プルさんはMSに乗ってなんぼかなぁ、と。
ケンカは強いんでしょうけどね、強化人間だし。



ドキドキの脱出編、マライアをとんでもない物が襲う!←まだ言ってる

 


お、サーバー移転完了の模様!

中の方々、大変乙でした。

書き込めたので続き投下いきます!


 しばらくして、落ち着きを取り戻した博士は、あたし達にも紅茶を振る舞ってくれた。

そんなことをしている暇はあんまりないんだけど…と思いながらもカップに口を付けて、驚いた。

こんな紅茶、今まで飲んだことないよ!?

すごく上品な香りがするし、味も、まろやかで、コクがあって、渋みも少ない…

今まで飲んできたのは紅茶じゃなかったんじゃないの!?そう思えるくらいの代物だった。

アクシズやこんな軍艦にいて、こんな上物どうやって手に入れているのか気になってしまう。

それを聞こうと思ったら、先に、博士の方が口を開いた。

「来てくれたことには、感謝してる。だけど、アタシも、すぐにはここを出れないんだ」

出れない?どうしてまた?

あたしは一緒に出してもらったお茶菓子を頬ばっていたので、尋ねる代わりに首をかしげてみる。

博士はそんなあたしのしぐさを見て、クスっと笑ってから

「アタシもここに、あえて潜り込んだんだよ。どうしても、助けてやりたい子がいるんだ」

と言った。

「助けてあげたい、子?」

あたしの代わりに、プルがそう聞いてくれる。ありがと、プル。今飲み込むから、それまでお願い。

 あたしはクッキーをボリボリ言わせながら、また博士に視線を向ける。

「あぁ…。もとは、アタシの居た研究所で、レオナと同じように人工授精で生まれた子で、ね。

 プル、あんた達と違って、見つけるのは簡単だったんだ」

博士は、すこし申し訳なさそうに言った。

「その子を追って、この船に搭乗した、ってことですか?」

なんとかクッキーを飲み込んで、博士にそう聞き返す。

「まぁ、そんなとこかな」

博士は、そう言いながら、デスクの上のキーボードをたたいた。

それから、チラッとモニターを確認して、あたし達のほうにそれを向ける。

 そこには、プルと同じくらいの年ごろの女の子が写っていた。

プル達よりももう少し色素の薄い、亜麻色のショートカットで、碧い目をした女の子。

あれ?あたし、この子、どこかでみたことあるな?誰だろう…

一瞬、プルにも見えたけど、でも良く見ると似てはないよね。ううん、思い出せないな…

本当に一瞬チラっと見たくらいの記憶なんだけど、でも、見たことある、って感じるくらいだから、

よっぽどの状況で見たようにも思うんだけど…

 あたしが一生懸命考えていたら、横にいたプルが声を上げた。


「姫様!」

姫、様?…そ、それって、もしかして…ネオジオン総帥の…ミネバ・ラオ・ザビ…!?

あたしはハッとしてモニターに視線を戻した。

そうだ、この子は確かに、数か月前、ネオジオンが地球に降下してきて、

ダカールでパレードをしていたときの映像で見た子だ!彼女がこの船に乗っているの?

っていうか、待って、ミネバ・ザビは、人工授精児だったの?!

 あたしは、博士の顔を見やる。博士はまた、申し訳なさそうな表情で言った。

「彼女は、ミネバ・ザビじゃない。れっきとした、アタシの作っちゃった、人工授精児。

 影武者としてネオジオン総帥に祭り上げられた、偽物なんだ」

「影武者!?」

「ああ。本物は、先のグリプス戦争終結前後に、何者かによって拉致された、っていうのがアタシが得ている情報。

 それ以降、ずっと影武者として裏に居た彼女が、本物のミネバ・ザビとして引っ張り出されたんだ」

「じゃぁ、以前、地球でパレードをやったミネバ・ザビは…」

「あれも、この子。偽物だったんだよ」

博士はそう言いながら紅茶を飲んだ。

「そんな子が、どうしてまだここに?」

「エゥーゴや連邦は、どうやら事実をつかんでいるみたいでね。

 サイド3にいるところを、ネオジオンの残党が奪い返してきて、ここにいる。

 偽物だって分かっているんだろうから、奪回も容易だったんだろう。

 でも、ネオジオンはまだ、彼女を利用する気でいる。だから、アタシは彼女を連れ出しにこの船に乗ったんだ。

 これ以上、戦争の道具にされないように、な」

戦争の、道具…レオナがいつも言っている言葉、だ。

この子も、そうなんだね…戦争のために生み出されて、望んでもいないのに、戦争のために運命を利用されている…

そんなのって…ない。

 一人や、二人、逃がす人が増えたって、支障はない、よね?

「なら、その子も、一緒に」

あたしは、博士を見つめて言った。それを聞いた博士は、ハッとした表情であたしを見つめ返してくる。

「いいのかよ、危険だぞ?」

「大丈夫です、慣れてますから。それに、建前だったけど、あたし達は、戦時被災者の保護が目的。

 プルやその子が戦争の被害者でなくて、いったい何を助けるっていう、話ですよ」

あたしは、笑って言ってやった。ここまできたら、乗りかかった船、だ。

そんな重要人物、追手がかかるだろうけど、なんとか対応してみせる。

「だから、一緒に脱出プランを練ってください。この船のことは、あたし達よりも博士の方が詳しい。

 使えそうな機材にルートに、脱出方法、なんでもいいんです、教えてください!」

あたしが言ったら、博士はその表情をキュッと引き締めてうなずいてくれた。

 


 博士の話だと、姫様、ミネバ・ザビ、本名はメルヴィ・ミアっていうらしいけど、とにかくその子は、

ここから2区画離れたエリアにお付きの人と一緒にいるらしい。

博士は、その人達も一緒に助け出したい、と言った。あたしはそれも了解した。

だって、そばにいてくれた人と離れるのは、寂しいからね。

助け出しても、最悪、あたし達が一緒に居てあげることにしたって、やっぱり、埋めきらないものもあるだろうし。

 そこへ行くのは、やっぱりエアダクトが一番だろう。

ここから2区画なら、さっき通ってきたメインのダクトへ戻って、すこし進めばたどり着ける。

下手に廊下に出てリスクをかぶる必要はない。

 問題は、そこからだ。重要人物が行方不明、となったら、艦内は大騒ぎになるだろう。

なるべく悟られないように船から逃げ出したい。

できたら、ノーマルスーツにランドムーバーを付けて、プルとここへ来た道を戻って行くのが一番安全なんんだけど、

それはそれで時間がかかる。もし、いないのがバレて、モビルスーツでも出されたら、たちまちアウト、だ。

それを考えると、こっちもモビルスーツで脱出したいところだけど、全員を乗せることはできない。

モビルスーツとは別に、脱出に使う輸送船か何かが必要だろう。

 そう思ってモビルスーツケージの位置を確認する。救助する区画からは、そんなに距離はない。

だけど、この部分は船の中枢。どうしてもリスクは高まる…。

 困ったな、助ける、とは言ったものの、これはちょっと、ずいぶんと難問じゃない…。

 あたしは腕を組んで悩んでいたら、プルが口を開いた。

「二手に分かれた方が良いかもね」

「二手に?」

博士がそう聞き返した。

「うん。かたいっぽうで、先に脱出のための船のそばにいる。

 もう片方で、姫様たちを連れ出して、いったん合流して、

 それから、モビルスーツの確保の班と、脱出船の確保の班とに分かれる」

「合流しなくても、最初から別れた方が良いんじゃないか?」

いや、違う。プルの考えが正しい。パズルに興味津々で、マリと一緒に集中していたプルらしい組み換えの発想だ。

それは人数じゃなくて、戦力の問題。万が一のことを考えたら、どうしたって救助の方には戦力がいる。

これは、あたしとプルが担当するほかない。

でも、救助したからってそのまま一緒に輸送船に乗り込んじゃったら、今度はモビルスーツが出せなくなる。

だとしたら、救助する間に、輸送船での脱出準備を、比較的艦内を動き回りやすい博士に頼んでおいて、

救助が済んだら姫様たちを引き渡して、それから、今度はモビルスーツを奪いに、

あたしとプルでモビルスーツケージへ向かう…簡単じゃないし、複雑だし、負担も大きいけど…

万が一のときに備えて、マリにゼータで待機していてもらうこともできる。

あんまりモビルスーツには乗せたくないけど…こればっかりは、そんなことを言っている場合じゃない、よね。


 あたしは、改めて作戦を確認した。

まず、あたしとプルで、姫様の部屋に行く。

博士にはその間に、輸送船での脱出準備をできる限り安全なところまでやっておいてもらう。

あたしとプルで姫様たちを助け出したら、いったん、どこかで合流して、姫様達を輸送船に乗せる班に引き渡す。

この段階で、ルーカス達に行って、援護のために近くで待機してくれるように頼む。

で、あたしとプルはその足でモビルスーツケージへ向かって、適当に拝借して、

ケージとデッキを追手が出れないように破壊したうえで脱出する…こんなところかな。

「やりづらそうだけど、それが一番だな」

「うん、大丈夫、出来るよ」

博士とプルが言っている。あたしも、黙ってうなずいた。漏れはない。

念のため、ちょっとだけ感覚を使って、この船に危ないパイロットが乗っていないかどうかは調べた。

特に、気になる反応が返ってきたわけじゃないから、たぶん、モビルスーツ戦になれば、

あたしとプルにマリが居れば、シャトルも輸送船も守り切れる。大丈夫、だよね?

 「向こうには、連絡しておく。すぐに出られる準備をしておけるように」

博士はそう言って部屋にあった内線を取った。

「ノーマルスーツを着ておいて、って言っておいてください」

あたしはそう伝えながら、プルの腰に着いていた暗号通信用の無線機を博士にほおった。

「あたしへの連絡はそれで。あたしとプルは、ヘルメットの通信で事足ります」

「了解した」

博士は、いったん受話器を置いて、あたしにそう返事をしてそれからニコッと、レオナやプルの比じゃない、

とてつもない笑顔を見せてきて

「来てくれてよかった…9年前にも、あんた達みたいな頼もしい仲間がいたら、って思っちまったよ」

なんて言ってきた。あぁ、アヤさん…あたし、今回の旅で、どうしてこうも、変な誘惑に出会うのかな?

もういっそ、それでもいいかも、と思ってる自分がいるよ…あぁ、もう!違う違う、あたしは違うんだって!

 あたしは、そんな得体の知れない考えを頭の中から追い出して

「きっと、無事に、レオナと一緒に逃げ切りましょう」

と言い返して笑ってあげた。

 それからプルと一緒に、ダクトへと戻る。その間に、ルーカスへ作戦の内容を説明した。

ルーカスはすでに気を利かせてくれていて、あたしがゼータを隠した位置まで移動して、

マリが搭乗してくれているらしい。それに、アムロとブライトキャプテンにも連絡をつけてくれていたようだった。

ちょうど運良く、月へ帰ってきていたところらしくて、2時間もすれば到着してくれるとのことだ。

これは、頼もしい。

アムロの他にどんなパイロットが乗ってるのかは知らないけど、誰が乗ってたって、

アムロがいて、こっちはあたしとプルとマリがいる。もうこれ、最強じゃない?


 そんなことを考えているうちに、あたし達は目的の部屋のそばまで来た。

さっきと同じように枝分かれのダクトへ入って、部屋の中を覗き込む。そこには、4人いた。

子どもが二人に、大人が二人。子どもの内の一人は、メルヴィ・ミア。もう一人は、分からない。

大人は男女一人ずつ、だ。連絡は来てるはずだから、大丈夫だよね…?

 そうは思いつつ、だけど、あたしは念のためにサブマシンガンを抜いてから一気に部屋の中に突入した。

床に転がるまでの瞬間に大人二人の反応を見る。びっくりしている様子だったけど、こっちに敵意は感じられなかった。

 宙で体を回転させて、あたしは床に降り立つ。

「ちょと!避けて!」

跪くような体勢で着地した次の瞬間、そんな声がしたかと思ったら上からの衝撃で顔面から床に突っ込んだ。

したたかに、鼻をぶつける。

「ご、ごめん、マライアちゃん…大丈夫?」

どうやら、プルが上から降ってきてしまったらしい。もうっ!大人二人に注意してて、気が付かなかったよ!

「だ、だいじょうぶだよ、プル」

あたしは、起き上がってそう答える。幸い、鼻血やなんかは出てないみたいだ。


 「え、ええっと…」

男の方が、そう声を上げた。あぁ、かっこ悪いとこ見られた…恥ずかしい…

「あ、あたしは、マライア・アトウッド。元軍人で、今は戦時被災者保護の活動を行ってます」

とりあえずあいさつをしてみたけど…さすがに、きまりが悪い、よね。

「わ、私はオリヴァー・マイだ。話は聞いてる。よ、よろしく頼む…」

男の方も挨拶を返してくれたけど…なんだろう、視線が、痛い。

「世話になるわ。私はモニク・キャデラック…ねぇ、本当に任せて、大丈夫?」

もう一人の、女性の方もそう言ってくる。くぅ、あたしとしたことが…とんだ失敗だ…。

 床に崩れ落ちそうになるのをこらえてあたしは虚勢でもなんでも、とにかく胸を張る。

「ま、任せてください!これでも、いくつもの死線をくぐってきてますんで!」

そうは言っても、今のあたしは恥ずかしくって自爆したい気持ちだけど…。

 「プルも、一緒だったのですね」

不意に、後ろで声がした。

振り返ると、そう言ったのは、ミネバ・ザビの影武者、メルヴィ・ミアだったみたいで、

彼女は立ち上がってあたし達をじっと見ていた。

「姫様」

プルはそう言って、突然に跪いた。あれ、なに、そう言う関係なの、二人って?

「プル、私は、ミネバさまではありません。どうか、顔を上げてください」

メルヴィはそう言って、跪いたプルに手を掛ける。促されて、プルは顔を上げた。

「これから一緒に逃げてくれるのですよね?あなたと一緒なら、心強いです。どうか、よろしく頼みますね」

「はい!」

プルは、そんな返事できたんだ、と思うくらいにシャキっとした様子で返事をした。

って、ちょっと待ってよ、プルを見て頼りになる、って、そんな、あたしが頼りにならないみたいじゃん!

姫様、あぁ、いや、影武者様!それってあんまりじゃないの!?

「よろしく、お願いします」

あたしがプリプリしていたら、もう一人の子ども、彼女も女の子だったけど、そう言ってきた。

「あなたは?」

私が聞くと、女の子はニコッと笑って

「カタリナ、と言います。ミネバさま…いえ、メルヴィの身辺係を務めています」

と自己紹介してくれた。うん、あなただけだよ、ちゃんとあたしを見てくれてるのは。

なんかあったら、最優先に助けてあげるのはあなたで決定ね。他の人はもう知らない!

プルにでも助けを請えばいいじゃない!

…なんて、子どもみたいなことは思わないけど、ね。

でも、ちょっと転んだくらいで、この扱いはないと思うんだ、うん。

やっぱり、釈然としないものを感じながら、あたしは暗号無線機を取り出した。


「こちら、マライア。博士、そちらの準備は?」

<あぁ、アトウッド。こっちは、研究用の資材運搬、って名目で、食料や医療品なんかを輸送船に積んでもらった>

「運搬?そんな、どこかに行く当てがあるんですか?」

あたしが聞くと博士は笑って

<難民コロニーへの物資輸送だ。あっちとは、多少、連絡を取れているんでな>

と言ってきた。なるほど、それなら、発進準備もいい具合に進んでいるだろう。ここからは、時間が勝負。

メルヴィが居なくなったのがバレた段階で追手がくるから、出来ればそれまでに輸送船を発進させて、

モビルスーツで暴れておきたいところだ。

「了解、これからそっちへ向かいます」

<あぁ、待ってるよ。急いでくれ>

博士の返事を待って、通信を切った。

 あたしは、4人にノーマルスーツを着こませて、来た時を同じようにダクトへと入った。

今度は、あたしが先頭で、その後ろに、オリヴァー、モニク、メルヴィ、カタリナと続いて、最後尾に、プルだ。

 輸送船のケージには、メインダクトがそのままつながっている。

何かトラブルがあったときに、一番エアーが抜けやすい場所だ。

その分、素早く再充填が出来る様に、そんな構造になっているんだろう。あたし達にとっては願ってもないことだった。

 あたし達は、難なく、ダクトでケージの天井に辿り着いた。

下を見下ろしたら、そこには、あたし達のシャトルとサイズは同じくらいだけど、

出力の高そうなエンジンを積んだ輸送船があった。

「博士、こちら、マライア。ケージの天井に着きました」

<了解。人払いは済んでるから、降りてきな>

博士の言葉に、あたしは、金網を押しのけてケージへ出た。そこは、思ったよりも狭い空間だった。

この輸送船一隻しか置いてない。

「博士、ここは?」

「この船は、ケージが隔壁で仕切られてるんだ。有事の際に、被害が広がらない配慮さ」

博士がそう言いながら眼下で手を振っていた。

 あたし達は博士の下に降り立った。オリヴァー達に博士が作戦を説明する。

あたしはその間に、無線機を取り出した。

「ルーカス、聞こえる?輸送船ケージに到着。これから、モビルスーツケージに移動するから、接近お願い。

 見つからないようにね」

<了解。万一に備えて、ミノフスキー粒子散布の準備も整ってます。

 マリは、ゼータを隠していたデブリからさらに戦艦近くへ向かいました。合図で、いつでも拾いに行けます>

「ありがと。マリ、聞こえる?」

<マライアちゃん、聞こえるよ。大丈夫?>

「うん。脱出のときに、デッキの一部を破壊するから、その光が見えたら、援護しに来てくれると助かる」

<任せて!>

マリの元気のいい声が聞こえる。そう言えば、マリ、ゼータに乗ってるんだよね…大丈夫かな?

あの機体、あたしには扱いやすいんだけど、基本的にすごく敏感でクセっぽいんだよね…

うまくコントロールできてると良いけど…。


 そんなことをしている間に、博士は説明を終えたようだ。メルヴィ達が輸送船に乗っていく。

博士も乗る…と思ったのに、なぜか、カタリナと残った。

「博士?」

あたしが尋ねると博士は

「モビルスーツデッキは、ちょっと特殊なんだ。案内するから、着いてきな」

と言って手を振って、宙を舞った。どこへ行くのかと思ったら、

ケージのすみっこにあった、隔壁に取り付けられた小さなハッチを開けてくれる。

「ここから、整備用の通路を通って、左舷ケージに出られる。急げ」

あたしは、プルと頷きあって、博士とカタリナのあとに続いた。ハッチから中に入って、薄暗いエリアに出る。

どうやら、モビルスーツ発進用の射出装置の点検ルームらしい。あたし達はそこに作られた通路を飛んでいく。

しばらく行って、戦闘を行っていた博士がとまった。彼女にしがみつくようにして、カタリナも停止する。

あたしもプルに腕を回して、そばにあったパイプをつかみ、体を止める。

 博士が、天井を指差している。そこには、金網があった。

あたしはその向こうを覗くと、ちょうど、モビルスーツの足元にあるようで、大きな黒っぽい塊が立っているのが分かる。


「ここは、ケージっていうより、倉庫に近いけどな。こいつ、ニュータイプ専用機で、この船にはもう乗れるやつがいないんだ」

博士がそう言う。ニュータイプ専用機…?

「見せて」

あたしがそう思っていたら、プルがあたしの体を昇るようにして、金網を覗き込んだ。

「キュベレイ!」

プルがヘルメットの中で叫ぶ声がした。

「知ってるの?」

「うん、あたし達専用の!まだ予備があったんだ…」

プルはなんだか感慨深げにそんなことを言っている。


 「いま、照明を落とすから待てよ」

博士は、そう言いながら、持っていたコンピュータのキーボードをたたいた。

バツっと音がして、金網から洩れていた光が消える。

「今だ、行くぞ!」

博士がそう言って金網を押し上げた。あたしはサブマシンガンを抜いて、先頭でケージの中へ入る。

人の気配はあるけど、こっちに気が付いてはいない。

あたしは、浮き上がったまま、一番傍にあったモビルスーツに取り付いて下を見た。

プルが同じように上がってくる。あたしはその場で待って、上がってきたプルを捕まえた。

「プルはこの機体に乗って。あたしは、向こうのやつを借りるから」

プルにそう伝える。もう一機、同じ黒い機体、キュベレイが置いてある。

向こうへ飛び移ろうとしたとき、プルがあたしの腕をつかんだ。

「マライアちゃん、待って。母さんと、あの、カタリナって子を、乗せて行ってあげて」

プルはそんなことを言ってきた。
 


「どうして?」

「たぶん、マライアちゃんにキュベレイで戦闘は出来ないと思う…これ、すごく難しいんだ」

プルは、言った。難しい、って言ったって、モビルスーツに変わりないでしょ?

すくなくとも、ゼータよりは動かしやすいと思うけど…そんなことを思っていたら、下から博士とカタリナもやってくる。

無線で話を聞いていたようで

「こいつは、サイコミュ兵器を積んでるんだ。ファンネル、って呼ばれてる。慣れないうちは、止めておいた方が良い」

と博士もそんなことを言ってくる。うーん、ファンネルって、あのファンネル・ビットのことだよね?

確かに、遠隔操作の武器なんて、正直、イメージつかないな…

じゃぁ、博士とカタリナを乗せて、マリと合流して、ゼータとキュベレイ交換して、

マリに二人をシャトルまで連れて行ってもらおう。

その間に、あたしとプルで、輸送船とシャトルを護衛すれば、平気かな…。

「わかった。じゃぁ、二人とも、来て」

あたしは、博士とカタリナにそう声を掛けた。

 キュベレイの腰の部分に脚をかけて蹴る前に、ふと、なぜかプルに触れておかなきゃ、と思った。

変な感じだったけど、あたしは、とりあえず、プルを抱きしめておいた。

「どうしたの、マライアちゃん?」

プルが聞いて来た。まぁ、そうだよね。なんかわかんないけど、そうしたくなった…

もしかしたら、ライラのことが頭をよぎっているのかもしれない。大丈夫、そんなことはない…

自分に言い聞かせた。

 すくなくとも、ライラみたいに、あたしの手の届かないところで戦って死なせちゃうようなことには、ならないはず。

だから、安心してよ、あたし。

「無理しちゃだめだよ、プル。一番大事なのは、死なないこと、だからね」

あたしは、プルにそう言い聞かせた。

「分かってる。もう、無茶なことはしないよ」

プルはそう言って、ヘルメットの中で笑顔を見せてくれた。

あたしも、プルに笑顔を浮かべて、もう一機のキュベレイのところまで移動する。

すでに、博士たちはコクピットに乗り込んでいた。
 


 コクピットを閉じて、プルに無線をする。

「プル、そっちはどう?」

<大丈夫、いつでも行けるよ!>

プルの、しっかり、はっきりした返事が返ってきた。

 よし、じゃぁ、作戦開始、と行こうか。

「こちら、マライア。オリヴァーさん、聞こえる?」

<こちら輸送船のオリヴァー・マイ。準備よし>

「合図でハッチを破って、一気に離脱して。5、4、3、2、1、てっ!」

あたしは自分で合図をして、レバーにあったトリガーを引いた。

細いビーム兵器が炸裂して、目の前にあったハッチに大穴が空く。

その先は、モビルスーツの射出デッキになっていた。

「プル、行くよ!」

<了解!>

あたしは、プルに先んじてケージを抜け出した。なんだ、このモビルスーツ、素直でいい子じゃない。

ゼータより操縦が素直で、割といいよ、うん。

 あたしはそんなことを考えながら、こんどは無線でルーカスを呼び出す。

「ルーカス!脱出した!」

<了解、すぐに援護に向かいます!>

「マリ、見える?!」

<もう、出口のところに着いてるよ!>

マリの無線を聞いて、あたしは、射出デッキの先を見た。

そこには、見慣れたシルバー薄いネイビーのカラーリングが施された、ゼータガンダムが待機してくれていた。

射出デッキから飛び出して、すぐにマリのゼータにしがみつく。

接触通信でマリに機体を交換したいと伝えると、すぐにマリがゼータのコクピットを開けてくれる。

 「あたしは、向こうに行きます。こっちは、マリ…もうひとりの、レオナの妹に任せます」

あたしは、博士たちにそう伝えて、キュベレイのコクピットからゼータへ飛び移った。

途中の宇宙空間で、マリとすれ違う。マリも、プルとおんなじに、笑っているのが見えた。
 


 ゼータのコクピットに辿り着いて、ハッチを閉める。

モニターでキュベレイの様子を確認すると、マリも無事に向こうへ到着できたようで、キュベレイも動き出していた。

「マリ、あなたはその人たちをシャトルへ運んで!」

あたしはマリにそうお願いする。

<マライアちゃんは!?>

「あたしもすぐに行くよ。でも、その前にこの船の足止め、やっておきたいんだよね」

<…わかった、無理しないでね!>

マリがそう言い残して、キュベレイをシャトルの方向に駆った。

 <マライアちゃん、デッキの出口、破壊するよ!>

今度は、プルの声…って言っても、声、おんなじなんだけどね。聞き分けられた自分を、ちょっと見直した。

いや、そうじゃなくて。

「了解、あたしはエンジンに穴開けてくる!」

この場はプルに任せて、あたしはそのまま後部に向かう。

ビームサーベルを抜いて、エンジンから突き出ている噴射ノズルに斬りつけた。

あんまりやりすぎると爆発しちゃうから、ちょっとだけ、ね。

 片側のエンジンさえ使えなければ、そうそう追いかけては来れないでしょ。

あとは、モビルスーツ射出用のデッキさえふさいじゃえば…

 そう思っていたあたしの耳に、突然警報が響いた。下…!?

 咄嗟にフットペダルを踏み込んで、その場から脱出する。

誰もいないところをビームが飛んで行って、戦艦のエンジン部をかすめた。

<ごめん、マライアちゃん!右舷のデッキ、間に合わなかった!>

プルの声が聞こえる。うぅ、やっぱ、あたしが右舷に行っておくべきだった!ここまで対応が早いなんて…!

あたしはモニターとレーダーで敵の位置を確認する。

3機いる…とりあえず、下から撃って来た、あんた!

 あたしは機体を翻らせるのと同時にビールライフルを発射した。

緑色の、バウとかってモビルスーツに当たって、小爆発を起こした。

 


 あとの2機は…!?あたしはさらに敵機を追う。

2機はそれぞれ別行動で…1機はシャトルへ、もう1機は輸送船に向かっていた。あぁ、なんでそっち行くのよ!

<マライアちゃん、輸送船はあたしが守る!マライアちゃんはデッキ壊して!>

プルの声が聞こえた。プル、なんだかんだ言って、戦闘には慣れてるよね!頼っちゃうよ!

「ん、了解、プル!マリ、1機そっちに行っちゃった!対応できる!?」

あたしはそう言いながら機体を反転させて、右舷の射出デッキに狙いを定めてトリガーを引いた。

パッと光が広がってデッキの出口が完全につぶれる。よし、これで大丈夫…な、はず。

 そう言えば、マリからの返答がない。あたしはマリが飛んで行った方に目をやった。

マリは、バウに撃ちまくられて、なかなか反撃ができないでいた。

「マリ!」

<ごめん、マライアちゃん!こっち二人乗ってて、思うように動けない!>

あたしは、ゼータを飛行形態にしてマリの下へ突っ込んだ。敵の動きに集中する。

マリを正面から撃ち損じたバウは、いったん、距離を置いて、下方に回った。残念、その軌道は、相対速度で回避難しいんだよ。

 飛行形態のまま、搭載状態にされたビームライフルを撃った。

ちょうど、マリに向かって上昇を始めていたバウの進行後方を通過する軌道で。

バウはあたしの射撃に気付いたけど、もう遅い。慣性が付いてるから、どうしようも、ないんだ。

ビームがバウを貫いた。バウは、爆発はしなかったものの、完全に停止してしまった。

 さって、プルの方も苦戦してなければいいけど…あたしは、機体を旋回させてプルと輸送船の方を見る。

そこには敵機の姿はなくて、輸送船にへばりつくようにして飛行しているキュベレイの姿あった。

「プル、そっちは大丈夫?」

<うん、1機くらい、敵じゃないよ!>

プルの元気な声が返ってきた。ふふ、さすがだね!
 


 そう言って、褒めてあげようと思ったら、また、コンピュータに反応があった。今度は、戦艦からだ。

そっちを向くと、戦艦のデッキに明かりが見えた。あれは…爆発?まさか、ハッチを射撃で取り除いたの!?

 そう思ったのもつかの間、射出デッキから、何かが飛び出してきた。光点が3つ、こっちへ迫ってくる。

モビルスーツだ。でも、なんだ、この感じ?なんだか、スカスカして…まるで、誰も乗ってないような…

 モニター越しにモビルスーツの機影を拡大して確認する。またバウだ。でも3機とも真っ青に塗装されている。

量産型は、さっき見た、ザクと同じ緑。あれは、エース機…?

だけど、この感触は、エースでも、ましてやパイロットとも違う感じがする。

 そこまで考えて、あたしは背中を走る、強烈な寒気を感じた。

 パイロットの乗っていない、蒼い、モビルスーツ。機械のような動きをする、蒼い、モビルスーツ…

9年前のソフィアの話が、脳裏によみがえってきた。

 あたしは、戦慄を覚えずには、いられなかった。 


 


つづく。


 マライアたんが、えらいのに襲われます。

 

乙乙
なんだかいろいろ目白押しな回だったなwwww
影武者ミネバにイグルー組にキュベレイにEXAM搭載機とはwwww
ちなみにキュベレイはMk=Ⅱと量産型のどっちなんだろうか?

まあ、とにかく次回も楽しみだwwww


時にEXAMが稼動してるってコトは、要救助者が増えそうなww


来た来た!エライもん出てきた!
いけいけ、マライア、プルツー!
憎しみだけの機械なんぞぶっ飛ばしちまえ!

……はるか昔にデパートの屋上でみたヒーローショーのクライマックスを思い出すよ。
なんかヤバイ。ガキの頃みたいに興奮してる!

>>644
だな。しっかり目覚めさせてやらんとなw

要救助者っているんだろうか?
この時点では目覚めている訳だし、>>1で書いている「if最小限」のif部分なのか?
艦内にいれば、ユリウスが放置するとも思えないし

『カタナ』で出たようなNEO EXAMみたいな擬似システムの可能性も……
とにかく次の展開に期待!


 光点が3つ、こっちへ迫ってくる。モビルスーツだ。

でも、なんだ、この感じ?なんだか、スカスカして…まるで、誰も乗ってないような…

 モニター越しにモビルスーツの機影を拡大して確認する。またバウだ。でも3機とも真っ青に塗装されている。

量産型は、さっき見た、ザクと同じ緑。あれは、エース機…?

だけど、この感触は、エースでも、ましてやパイロットとも違う感じがする。

 そこまで考えて、あたしはハッとした。

パイロットの乗っていない、蒼い、モビルスーツ。

機械のような動きをする、蒼い、モビルスーツ…

9年前のソフィアの話が、脳裏によみがえってきた。

 あたしは、戦慄を覚えずには、いられなかった。

 敵の前線を、たった1機で突破してレーダー基地を破壊して、

さらにキャリフォルニアベースで10機以上のモビルスーツを撃破した、連邦の、蒼いモビルスーツ…!

機械のようだ、とソフィアが言っていた、あの、モビルスーツは、もしかして…

「あいつら、EXAMを…!」

エビングハウス博士の声が聞こえる。やっぱり…そうなんだね。

アリシア博士の開発していた人工知能の性能の話が本当なら、

9年前の蒼いジムには、亡命したレオナと一緒に居たモーゼスって博士が連邦に持ち込んだ人工知能が搭載されていたんだ。

そう考えればソフィアの話してたあの被害状況にも説明がつく…

あのとき聞いたジムの戦果が、あの人工知能の戦闘能力…だとしたら、あいつらは…!

「おい!アトウッド!気をつけろ、そいつら、ネオジオンの技術者が研究所から持ち出された資料をもとに復元した

 人工知能を搭載した試験機で…!」

「バケモノ、だよね」

あたしは、エビングハウス博士の言葉に、そうとだけ返した。

あのモビルスーツはサイコウェーブを感知して、攻撃をかけてくるはず…

ファンネルを使っているプルやマリは、格好の標的だ…!

「オリヴァー、ルーカス!合流はいったん中止!全速力でこの宙域から離れて!

 プル!マリ!サイコミュを使っちゃダメ!あのモビルスーツは、あたしに任せて、あなた達も船を援護したまま離脱して!」

「マライアちゃん!」

マリなのかプルなのか分からない声が聞こえてくる。

 マリ達のニュータイプ能力はあたしなんかよりも強い。

でも、そもそもこの人工知能は対ニュータイプ戦闘のために作られたもの。

その点、ニュータイプ能力を無視すれば、実戦経験はあたしのほうが豊富。

動きを察知し切れない人工知能を積んでいて、

なおかつサイコウェーブを感知して攻撃を仕掛けてくるモビルスーツが相手では、マリ達では、勝てない…

こいつらは、あたし一人でやるしか、ない。
  


 あたしは、シャトルから離れた。近くで戦えば、巻き込んでしまう。

離れながら、あたしは一気に集中力を高めた。

ほら、食いつけ!あんたたちの敵は、こっちにいるよ!

 とたん、3機のモビルスーツの機動が変わった。猛スピードでこっちに進行方向を変えて突進して来る。

まるでアムロのように…ううん、あの鋭い旋回は、アムロでも無理。あんなの、人間が出来る動きじゃない。

中に乗っている人が、Gでつぶれる…これが、人工知能…リミッターをはずした、モビルスーツの性能なの?!

 3機の蒼いバウがいっせいに射撃してきた。あたしはスラスターを駆使して最低限の機動でそれをよける。

射撃がやんだ瞬間には、もう、3機との距離はあたしが反撃する隙もないほどに迫っていた。

「くっ…!」

咄嗟にバーニアを吹かしながらスラスターで機体を滑らせて回避する。

でも、3機は、停止することもなく、ほとんど直角に近い角度で軌道を変えてあたしを追随してきた。

 ダメだ、機動性じゃぁ、かなわない…

でも、格闘したって、あんな動きが出来るくらいのパワーを持ったモビルスーツとやれるの!?

 背中に、冷たい何かが伝った。これは…恐怖じゃ、ない。胸のうちを締め付けるあの感覚とは違う。

これは…なに?寒い…寒くて、体が震える。

 あたしは、追従してくるモビルスーツにビームライフルを掃射する。

3機は一瞬にして四散し、迂回するように軌道を変えてしつこくあたしを追ってくる。

あのビームを避けるなんて…こっちの動きを計算されている!?普通に戦ったんじゃ、ダメだ!

 あたしはスラスターを全力で吹かした。AMBACを切って、手動操作に切り替え、機体を不規則に揺さぶる。

敵の攻撃の照準がバラ付いた。この動きは、行ける…!AMBACの動きを計算しているんだ、あのAI!

あたしはそのまま、バーニアで加速して旋回を繰り返す。内臓が潰れそうなGがかかる。

頭が冷たくなり、目の前が白んでくる。

―――まだ…まだだ…あの動き…良く見て、マライア!右、左…最短の軌道を来る…そこ!

 あたしは、レバーのトリガーを引いた。

ゼータガンダムのライフルから光跡が伸び、狙っていた蒼いバウの両脚と交差して、爆発した。

―――やった!

 そう思った次の瞬間、爆煙の中からビームが伸びてきた。息を飲んで、フットペダルを踏み込んだ。

鈍い衝撃があって、機体が回転しそうになる。姿勢制御を…手動じゃ、ダメだ、AMBAC!

あたしはコンピュータを操作しながら、爆煙に向かってライフルを連射した。

と、パッと明るく何かが光った。
 


 「よし、今度こそ、やった!」

「マライアちゃん!」

油断だった。マリの声が聞こえたのと同時に、再び鈍い衝撃。

機体が予期しない急旋回でメリメリと音を立てている。あたしの体もバラバラになっちゃいそうな遠心力…!

歯を食いしばって、必死にレバーを握りながら、ビービー鳴っているコンピュータに目をやって損害を確認する。

片脚を持って行かれた…もう!ABMAC入れた途端に直撃なんて…!

 宇宙を映し出すモニターの向こうに、光点が暗闇を切り裂くように動いている。

まずいよ、あの機動に、脚一本失って、追いつくのはおろか、逃げるのなんてもっと無理だ。

 背中にまた、冷たい何かが伝った。肩から、腕に、小刻みな振動が伝わる。

あたし、震えてる…これは、恐怖なんかじゃ、ない…怖くなんか、ない!

「マリ!プル!シャトルと姫様、頼んだよ!」

「マライア!」

レオナの叫ぶ声が聞こえた。それはもう、悲鳴に近かった。

 思考が狭まる。頭の回転数ばかりが上がって、対応策は沸いてこない。

脚をなくしたゼータガンダムの振動のせいなんかじゃない、冷たい感覚で全身が震える。

胸が、詰まってくる。呼吸が苦しい…違う、怖いんじゃない!これは、Gのせいだ!

怖くなんかない、だから、考えるのをやめるな!動きを止めるな!じゃないと、また何も守れない!

あのときの、ソフィアのときのような思いはもうたくさんだ…あたしだって、あたしにだって戦えるんだ!

逃げ場なんてない、助けなんか待ってられない、あたしが、あたしがやるしか、ないんだ!

―――ライラ!

 あたしは、ペダルを踏んで、レバーを引いて、バーニアを全開にして、蒼いバウへ突進した。

ビームが機体をかすめて行く音がする。

「うわぁぁぁぁ!!!」

あたしは、シールドを突き出して、バウに突っ込んだ。逃がしたら、追い回される。

もう、これしかない!あたしは、シールドをパージせずに、バウの肩の関節部にマニピュレーターをねじ込ませた。

反対の腕で、ビームサーベルを抜く。バウも近接戦闘に反応して、サーベルの柄を手にした。

サーベルの起動を確認する前に、あたしは先端をバウの胸部に押し付けた。

ちょうど良く伸びたミノフスキー粒子の反応炎が、バウの装甲を一気に溶かす。このまま、八つ裂きに…

 ゾクっと、背筋が凍りつく感覚が、またあたしを襲った。

―――後ろ!

 あたしはバウを捕まえていたほうの腕を放し、予備のサーベルを抜いた。

そのまま逆手に持って、後方へ突き出す。

そこには残った一機のバウがサーベルを振り上げてこっちへ突進してきていた。

バウの頭部に、サーベルが突き刺さる。それと同時に、バウのサーベルがゼータの腕を切り落とした。

 まだ!機体を分解するまで、油断しちゃ、ダメ!

 あたしは最初に貫いた方のバウに突き立てていたサーベルを振り上げて、胸から頭までを切り裂く。

振り上げたそのサーベルで、機体を捻らせて後ろのバウに袈裟掛けに切りつけた。
 


 フットペダルを踏み込んで、2機の間から脱出する。

距離を置いて見下ろしたとき、2機は小さな爆発を起こして、宇宙空間に弾けて行った。

 あぁ、勝った…あたし、生きてる、よ、ね…?

「マライアちゃん!大丈夫!?」

脱力していたあたしの耳に、マリの声が聞こえてきた。

見渡したら、すぐそばに、マリの乗るキュベレイが近づいてきていた。

「マリ…うん、大丈夫だよ。ケガもない。ちょっと、腰が抜けそうだけど…博士たちは?」

「シャトルに乗せてきたよ!ねぇ、マライアちゃん、こっちに来て!ガンダム、爆発しちゃうよ!」

マリがそう怒鳴っている。確かに。コンピュータはビービーと鳴りやまない。

腕と脚を失って、あのバウとの衝突でフレームもガタガタ。

なにより突っ込んだときに何発も食らった攻撃が、致命的な損傷につながっている。

よくもまぁ、あんなギリギリまで動いてくれた。

「すぐ行く。捕まえて」

あたしは無線でそう話して、コクピットを開いた。ベルトを外してシートを蹴り、宇宙空間へ飛び出す。

キュベレイのマニピュレータがあたしを受け止めて、そのままコクピットへと押しやってくれる。

「マライアちゃん、はやく!」

キュベレイのコクピットが開いて、マリが顔を見せた。

あたしはマニピュレータを蹴って、マリに受け止められながら、その中に飛び込んだ。

コクピットが閉まり、全周囲モニターが点灯する。

シャトルは、後方、下側…お姫様を乗せた輸送船と、プルの姿が見えない。

「ルーカス、プルは?」

「ずいぶん離れてしまったみたいです。そちらから、1時方向上方」

あたしはそれを聞いて上を見上げた。遠くに、かすかに、エンジンの物らしい光点が光っていた。

ふと、視界に何かが入った。

あれは…星?小惑星…?ううん、違う…あれは、もっと、大きい…船だ…!

「きょ、巨大船を肉眼で視認!距離…1万!?1万あって、このサイズだと…!?」

「ジュドー」

プルの、つぶやくような声が聞こえた。

「あれが、ジュピトリスⅡ…」

プルの言葉に、あたしはそう口にしながら船を見つめた。あそこにジュドーくんが…

「マライアちゃん!戦艦から、モビルスーツ!」

あたしはハッとしてエンドラ級に視線を戻した。キラッと、複数の光が瞬く。あの蒼いモビルスーツが出てきたら…

想像して瞬間的に肝を冷やしたけど、モニターに映っているのは、普通の量産機だった。

でも、数が多い。6機、いや、9機、3個小隊?こっちはいくらファンネルを使えるとは言っても、あの数は簡単じゃない。

プルと合流しなきゃいけないってのに…!
 


「マライアちゃん、操縦して!ファンネルはあたしが動かす!」

マリがレバーを握りしめてそう言う。シャトルと守りながら、プルの方に転舵しつつ、9機とやりあう…

簡単じゃ、ないよ!?でも、マリ、その判断は正しいと思う!

「うん!」

あたしはそう返事をして、マリの座っていたシートに割り込んだ。二人で折り重なるようにしてシートに着く。

 体はすでにガタガタだ。神経も、精神的にも消耗が激しい。正直、万全の状態とは、ほど遠い。

何も守る必要がなくったって、厳しい状況だと言わざるを得ないけど…でも、そんな泣き言、言ってる場合じゃない!


来なさいよ!アムロには連絡が付いてる。もうすぐ、来てくれるはず…!

それまで、シャトルにも輸送船にも、指一本、触れさせないんだから!

「マライアちゃん!すぐそっちに行く!待ってて!」

プルの声が聞こえてくる。

「ダメだよ、プル!あなたは、輸送船の直掩について!」

あたしは無線に怒鳴り返した。戦艦の火器管制が回復するまでに残された時間も長くはない。

合流は、たぶん、もう無理だ。だとしたら、プルには、輸送船を守ってもらいながら、この場を離れてもらう方がいい。

「だって、マライアちゃん!」

プルが必死にそう叫んでいる。

「行きなさい、レベッカ…いいえ、プル」

不意に、無線からそう言う声が聞こえた。レオナの声だった。待って、今、レベッカ、って、そう、言ったの…?

「レオナ姉さん!」

「プル、聞いて。あの大きな船を追いかけて。あそこに、ジュドーくんがいるんでしょ?」

「そうだけど、でも!」

「行きなさい。あなたは、もう、誰の言うことを聞く必要もないの。

 道具や兵器としてじゃない、プルっていう一人の人間として、あなたの運命を、生きなさい」

死んでしまった、クローンの一人は、レイチェル、と呼んでた。

そうだ、もう一人、“プルツー”につけた名を聞いたこと、なかったな…。

レベッカ、ってつけてあげてたんだね、レオナ。アヤさんレナさんの遺伝子を持った、あのレベッカと同じように、

あなたは、あの子を愛してあげようって、そう思ってたんだね…。

「プル、行って。私たちに気を遣わなくても大丈夫。ジュドーくんと一緒に行きたいのはしってる。

 だから行っていいの。たとえどんなに離れてても、どこへ行っても、私達は家族。

 どこへ行っても一緒よ、それを忘れないで」

レオナは、優しく、諭すように、プルにそう言った。




 



UC0079.9.22



 港の建物の中には警報が鳴り響いている。

私は、ユリウス達が用意してくれていた脱出路を抜けて、一足早く、このシャトルへと乗り込んでいた。

準備は済んだ。あとは、レオナ達が来てくれるのを待つだけ…!

 不意に、激しい銃声が聞こえた。来た…!

<パラッシュ博士!こちら、ジェルミ!ケージへ到着しました!>

無線機から、そう叫ぶ声が聞こえてくる。

「了解!ハッチをシールする、下がって!」

私はそう叫んで、手元のコンピュータを操作した。ここに来るときに、すでに空港のシステムは一部掌握済み。

ハッチを閉めたら、物理的に破壊されるまでの時間くらいは稼げる。

<ハッチ閉鎖を確認!ありがとうございます!>

ジェルミ飛行士の声が聞こえてくる。とりあえず、無事みたい。良かった。

 私は機材をカバンにまとめて、シャトルを飛び出した。

 ケージには、ノーマルスーツに身を包んだ一団が、肩で息をしつつ、思い思いにヘタレこんでいる。

その中に、レオナの姿はあった。

「レオナ!」

私が声をかけたら、レオナはハッとした様子でこっちをみて

「ママ!」

と声を上げて駆け寄ってきた。胸に飛び込んできたレオナを私は力いっぱい抱きしめる。

「無事で、良かった。怖い思いさせて、ごめんね」

「ううん、平気だよ…」

あやまる私の体にまわしたレオナの腕にも力がこもる。私は、レオナの感触を全身で感じ取った。

ユリウス達が私達のために稼いでくれた時間は、もう残り少ない。

「レオナ、聞いて」

私がそう声を掛けると、彼女は顔を上げた。

「自由研究、覚えてる?」

「うん、料理の研究」

「地球に行ったら、続きをやろうね」

私は、なるだけ穏やかにそう言ってあげる。

「うん…でも、なんでそんなこと言うの?」

「ん?だって、ユーリが一緒じゃないでしょ?ご飯作るの私だけになっちゃうし、できたらレオナにも覚えてほしいんだ」

「わかった」

レオナは、素直にうなずいてくれる。

「あぁ、でも、ユーリがいないと、失敗作を食べてくれる人が居なくて困るよね」

続いてそんな風におどけたら、レオナは笑ってくれた。

私の大好きな、大切な宝物の笑顔で。
  


「レオナ」

「なに?」

「その笑顔を忘れないでいてね」

「え?」

私はそう言って、もう一度レオナを抱きしめてから、

「レオナ、あなたは向こうのシャトルに乗って。私も、別のシャトルですぐに追いかける」

と伝えて体を離した。ノーマルスーツの中のレオナの顔が不安にゆがむ。

「ママは、一緒じゃないの?」

「一緒よ、大丈夫。あとから、必ず行くから」

私は、ヘルメットのシールドを開けて、レオナの頬をさすってあげた。

でも、すぐにシールドを閉じて、立ち上がった。あまりこうしていると、決心が揺らぐ。

「パラッシュ博士、もう時間がない」

そばに、モーゼス博士がやってきて、そう言った。

「えぇ、モーゼス博士。レオナをお願い」

「確かに、引き受けました。あなたも、無事で」

彼はそう言って、私に握手を求めてきた。その手を握り返して、そのまま彼とレオナをシャトルの方に促す。

何人かの研究員がいまだ意識を取り戻していないマリオンの体を支えながらシャトルへと向かう。

最後に残ったのは、私と一緒に行くメンツと、もう一人。

わざわざこんな作戦のために志願してくれた、一号艇を担当するジオンの若いパイロットくん。

「ねぇ、シャトルの操縦、どうかお願い…無事に地球まで、みんなを届けて…!」

私は彼を捕まえてお願いした。彼は、ヘルメットの中でクスッと笑い

「大丈夫。俺たちが援護についてますからね。なんたって、キマイラ隊のライデン少佐まで出張ってきてるんです。

 シャトルの2機くらい、なんとか抜け出して見せますよ」

と胸を張って言った。

「ジョニーくん、ね。彼にも、お礼を言っておいて」

「どういうことです?」

「二号艇は、囮が目的だから」

私は、彼に伝えた。彼は、あまり驚かなかった。ただ、真剣な表情で

「いいんですか?」

と聞いて来た。良いワケない。でも、それが一番確実に、レオナを地球に送る方法。

誰かがそれをやらなきゃならない。あのエルメスは、ビットを使った全周囲攻撃ができる。

狙われたら、いくら腕のいい援護が居たってシャトルなんてまず間違いなく落とされる。

レオナのシャトルを逃がすには、陽動が必要。

だから、そうするしかないんだ。
 


 私は、何も言わずにうなずいた。

「…わかりました…では、ご武運を!」

彼は、そう言って私に敬礼をし、シャトルの方へと走っていた。一号艇も発進の準備が整う。

ケージ内のエアーが抜けた。ハッチが開いて、シャトルが発進する。

一号艇は、地球方面へ、二号艇は、戦闘の始まっているギリギリのラインへ、盾として進む。

「ママ!どこにいくの、ママ!」

ヘルメットの中に、レオナの叫ぶ声が聞こえてくる。私は、唇を噛んで、涙をこらえた。

「レオナ…行きなさい…!」

「ママ!」

「行きなさい。あなたは、もう、誰の言うことを聞く必要もない。

 被験体や道具や兵器としてじゃなく、レオニーダ・パラッシュっていう一人の人間として、

 あなたの運命を、生きなさい!」

「ママ、ママも一緒じゃなきゃイヤだ!」

「レオナ、どこへ行っても、私達は家族。どこへ行っても一緒だよ。

 あなたには、素晴らしい能力があるんだもの。私はいつも、あなたのそばにいるよ。それを…忘れないで」

「ママ!」

私は、ヘルメットの無線を切った。これ以上は、聞いていられない。

 カッと、目の前が明るくなった。

エルメスのビットから放たれたビームが、二号艇をつらぬいた。


 レオナ…元気でね…あなたの笑顔、また、見たい、なぁ…





 


 「レオナ姉さん…あたし、行ってくる!」

プルの叫ぶ声が聞こえた。

「うん」

レオナもそう返事をする。

「絶対、絶対に、帰ってくるから、待っててよ!」

「うん。プル、いってらっしゃい。地球で、あなたの帰り、待ってるよ…」

レオナはもう、涙声になっている。

「うん、レオナ姉さん!母さん!ありがとう!マライアちゃん、マリ!」

プルは今度はあたし達の名前を呼んだ。あたしは、マリにかぶりを振ってあげる。

「姉さん…!」

マリの瞳にも、涙が滲んでいるのが分かる。

「マリ、わたし、ちょっと出かけてくるよ…だから、母さんと、レオナ姉さんをお願いね!」

「うん…わかった!姉さんも、元気でね…死んじゃだめだよ…帰ってきたら、またパズルやろうね…!」

マリはプルの言葉に力強く答えた。

「マリ…わたし、プル姉さんにはひどいことしちゃった…だからそのぶん、あなたとはちゃんと仲良くしたいんだ。

 絶対に帰ってくるから、また、遊ぼうね…!」

「うん…!待ってる!」

 戦艦からは、まだモビルスーツが出撃してくる。15機?ううん、もっといる?もう、数えるの、めんどくさい!

 そんなことを考えてたら、何か、得体の知れない感覚があたしを襲った。

振り返ったら、マリが目をつむっていた。なに、この気配…なにをしてるの、マリ…?!

「姉さんの邪魔はさせない!!」

次の瞬間、戦艦の周囲に、無数のビーム弾幕が走って、モビルスーツが4、5機、いっぺんに爆発した。

今のが、ファンネル!?あんなにたくさん!?…いや、違う、これは、この機体のファンネルだけじゃ、ない…

プルだ、プルがマリに、ファンネルを残して行ったんだ!

「ルーカス!すぐに撤退して!マリ、このまま敵を引きつけるよ、出来る!?」

「うん、任せて!」

マリは目をつぶったまま、答えた。戦艦から、さらに数機のモビルスーツが出てくる。

でも、やられるわけには行かない…プルを逃がすんだ…シャトルを無事に、逃がすんだ!

そうだ、もうこれ以上、誰も泣かすわけにはいかないんだから!

邪魔す奴は、カラバのお喋り悪魔こと、このマライア・アトウッドさんが吹っ飛ばしてデブリにしてやるんだから!

死んじゃっても、恨まないでよね!
 


 あたしは、キュベレイを駆った。それからのことは、なにをどうやったのか、良くわからない。

でも、なにか、とてつもなく強い意思に導かれたみたいに、とにかく戦った。

もう、どれだけ撃墜したかも、どれだけ撃ったのかも斬りつけたのかも、記憶になかった。

 ハッとして、我に返った時、あたりには、半壊したモビルスーツが無数に漂っていた。

「大尉!大尉、聞こえるか!?」

無線が、鳴り響いた。この声、来てくれた?!

 コクピットの中に、何かが表示された。

「ガ、ガンダム!?」

マリがビクッとして、レバーを握ろうとする。

「マリ、大丈夫、あれは、味方だよ。あたしの、友達」

「大尉、それか…?」

あたしは、アムロに向けて信号弾を上げた。それからすぐにアムロのそばに飛んで、編隊を組む。

「大尉、無事の様だな」

「うん、お陰様で…」

「どうした?様子が変だぞ?ケガでもしているのか?」

「ううん、なんか、放心しちゃっただけ…」

あたしは、アムロにそう言って、後ろにいるプルの様子を見る。プルもどこか視点が定まっていない。

これは、お互いに、相当消耗しちゃってるね…そう思ったら、なんだか余計にぐったりしてきた。

あぁ、ほんとに、疲れちゃったよ。

「ルーカス達は、回収してくれた?」

「あぁ。ダークペガサスに収容した。ここの処理は俺たちに任せて、大尉も船へ行ってくれ」

アムロがそう言ってくれる。でも、ごめん、アムロ。これ、どうもあたし達だけじゃ、帰れないや…

「ごめん、アムロ。もうクタクタで、ダメだわ。そっちへ乗せてもらっていいかな?

 一緒に連れて帰ってくれると、助かる」

あたしがそう頼んだら、アムロの笑い声が聞こえた。

ふふ、アムロ、いつも憂鬱そうな顔してたけど、笑うことなんてあるんだね。

「了解だ。こっちへ」

モニターのむこうでアムロのゼータがコクピットを開けてくれた。

あたしは、マリのノーマルスーツにアンカーワイヤーをひっかけて、キュベレイの自爆装置をセットした。

これをアムロの船に運び込んじゃうのは、反則だからね。

 コクピットを開けて、ゼータヘと飛び移る。

キュベレイを捕縛しようとしていたアムロに動力部が破損したから、爆発するかも、と言って、回収を諦めてもらった。

ごめんね、アムロ。でも、ネオジオン残党の位置知らせてあげたから、五分五分ってことで許してよね。

 それからあたし達は、アムロの操縦するゼータの中で、眠りこけてしまった。こんなに疲れたのは、初めてだ。

あのときの、妙な感覚はいったい、なんだったんだろう?

まるで、本当に、なにか、得体の知れない意思みたいなものに、体を明け渡したみたいな感じだった。

もしかしたら、あるいは、あれが、ニュータイプの意思、ってやつなのかな。あたしには良く、分からないけど…

 疲れちゃったけど、でも、悪い気分じゃ、なかったし、ね…。ね、あなたも、そうだったよね、マリ?

あたしは、夢の中で、マリにそんなことを話しかけていた。

 





 気が付いたらあたしは、ベッドに横たわっていた。

起き上がろうとして体を起こしてみたら、ひどいめまいがして、座っているのもやっとなくらいだ。

 しかたなくまた横になって、あたりを見渡す。ここは、シャトルの居住スペースだ。

あたし、死んじゃったりしてないよね?大丈夫だよね?

 そんな心配をしてたら、ひょっこりとレオナが顔を出した。

「マライア!」

レオナはあたしが目を覚ましているのに気が付いて、フワッと宙を飛んでベッドに飛び込んできた。

「良かった…目を覚まさないから、心配してたんだよ…」

レオナは半べそになってそう言ってくる。

そっか、アムロのゼータの中で寝ちゃって、それから…どれくらい経ったんだろう?

「どれくらい寝てたの?」

あたしが聞くと、レオナは宙を見据えて

「んー、3、4時間くらい?」

「なんだ、ちょっとじゃん」

あたしが言ったらレオナはプウっと頬を膨らませて

「それでも!心配だったの!」

と怒った。もう。怒らなくたっていいじゃんか、こっちはヘトヘトだったんだから。

 そんなやりとりをしてたら、エビングハウス博士も部屋にやってきた。

「あぁ、もう目が覚めたか」

博士はそんなことを言いながらあたしに近寄ってくる。その手には、注射器が握られていた。

「ふらつきがひどかったろ?ずいぶんと派手に能力を使ったみたいだったからな。

 念のために、睡眠剤を打っといてやったんだ」

「睡眠剤?」

「あぁ、知らなかったか?能力の使い過ぎは、脳への負担が大きいんだ。回復のためには、睡眠が一番なんだよ」

博士はそう言って笑う。それから、あたしの腕を消毒して、注射器の針を刺した。

「これは中和剤。ふらつきがすこしはマシになるだろうが、正直、もう少し寝ててもらった方が良い」

「ありがとう、ございます」

あたしは、なんだかため息が出てしまった。そう言えば、エンジンの音が聞こえない。

どこかの港にでもいるのかな?それとも、アムロ達の船の中?

今、状況はどうなっているんだろう?マリは大丈夫かな?

 なんだかいろいろと聞きたいことがいっぱいだ。待って、整理しよう…

とりあえず、安全かどうか、と、マリの容体だけでも聞いておかなきゃ、安心できない。

「今は、どこにいるの?」

「アムロさん達の船だよ。月へ送ってもらってるの」

レオナが答えてくれる。

「マリは、大丈夫?」

「うん。あの子は、もっと元気。ラウンジでルーカスとおしゃべりしながら、アイス食べてるよ」

アイスか…あたしも食べたいな…甘い物。まぁ、でも、とにかく、無事なら良かった。
 


 ふぅぅ、とため息が出た。なんだか今日は緊張したりなんだりで、ため息ばっかり出る様な気がするな。

はぁ、こんなんじゃ歳とっちゃうよ、まったく。

 そんなことを思っていたら、ふと、目の前の二人に気が付いた。もうすっかり落ち着いちゃってる感じだけど…

「ね、感動の再会は、どうだったの?」

あたしが聞いたら、レオナがニコッと笑った。

「もう、済んだよ。マライア、本当にありがとうね…」

レオナはそう言ってくれた。あぁ、良かった。別にお礼が聞きたかったわけじゃないけどさ…

でも、レオナが幸せに感じてくれることが増えたんなら、あたし、それで満足だよ。疲れもふっとんじゃうくらいね。

 そこへ、あたし達の会話を聞きつけたらしいマリとルーカスも姿を現した。

「あー!マライアちゃん、目、覚めた!」

マリはそう言いながら、アイスのカップを抱えてあたしの方に飛んでくる。

マリはあたしのベッドの脇まで来ると、スプーンですくってアイスを突き出してきた。あたしはそのスプーンに食らいつく。

疲れてるときは、睡眠と、あと、甘い物、だよね。

冷たくて舌でとろけるアイスはなんだか体だけじゃなくて、心にも行きわたって、ふつふつと安心感が湧いてくるようだった。

 「大尉、今回ばかりは、ダメかと思いましたよ」

ルーカスが心配そうにそんなことを言ってくる。あたしは苦笑いしか出なかった。

「ごめんね…ルーカス」

なんとかそう口にしたら、ルーカスはすこし、辛そうな顔をして

「ライラ大尉に続いてなんて、俺は嫌ですからね。置いて行かないでくださいよ、大尉」

なんて言ってきた。

ふふ、ルーカスってば、かわいいんだから。あなたにはこんな迷惑かけてばっかりだもんね…

すこしは自重するべきかな?でも、ああでもしなかったら、あなた達かマリ達の方がやられてたかもしれないしね。

今回も、まぁ、無事だったんだし、許してよ、ね?

そんなあたしの気持ちを察してくれたのか、ルーカスはふうとため息をついて

「ともかく、月へ戻ってます。そこでシャトルを点検して、地球へ帰りましょう」

と言ってくれた。うん、点検は大事。

ここまで来て、大気圏突入のときにトラブってドカーン、じゃシャレになんないもんね。

あたしはルーカスの報告に満足して、笑ってあげた。

 「母さん、あともう少しで月につけるから、準備してって、アムロってお兄さんが…」

そんなことを言いながら、誰かが部屋に入ってきた。あぁ、カタリナ、だっけ。

確か、メルヴィの身辺掛かりで…って、え?

 お、母さん?博士の娘さん、だったの?

 あたしは、思わず博士を見やった。彼女はクスッと苦笑いを見せて

「今は休みな。落ち着いたら、ちゃんと説明するよ」

と言ってふん、と鼻で息を吐いた。

 今聞きたい気もするけど、ダメだな。とてもじゃないけど、頭が付いてこない。

月に着くまでもう少しウトウトしていよう。

そう思って目をつぶったあたしだったけど、整備が済んだシャトルで地球に戻る間に博士に聞かされた話に、

びっくりせざるを得なかった、ってのは、このときはまだ、ぜんぜん想像すらできていなかったんだけど、ね。

 


つづく。


次回、たぶん、エピローグです。

 

>>644
感謝!
なんか、いろいろしわ寄せ的にやってしまいましたが…
イグルー組は、本当にゲスト出演です。
影武者ミネバのお付きの人のキャラが薄いのもなんかなぁ、と思ってw

ちなみにキュベレイは量産機のつもりでしたが、ジュピトリスに合流したのはMk2の方らしいんで
Mk2と言うことにさせてくださいw


>>645
感謝!!
マライアさん、決死の戦闘完遂す!
ワクワクしてもらえて恐縮です!


>>646
レス感謝!


>>644>>646
EXAMについて。
このEXAMの影響でネンネしている可能性のあるNTがいたとしても、マリオンさんではありませぬ。
そもそも、別の誰かが被験体としてネンネしているかどうかも不明です。
研究成果を元に、人柱なしである程度の完成度を見せたEXAMかもしれないです。

 



キュベレイみたいにシステムとしてサイコミュ載っけてる訳じゃないにしろ、
ゼータさんも「身体を通して出る力を表現出来るマシーン(笑)」だからEXAM反応しないかな?
それともあれはカミーユというチート級の生体サイコミュあればこそ、かね?

それと、アリシアさんの最期をここに持ってくるのは反則だ(T.T

エピローグはドダイらしく大団円になることを期待してます。

乙乙

マライアたんかっけー。
惚れ直したわw

EXAM談義に乗っかってすまなんだが、
あれってEXAMはマライアのNT能力に反応してんじゃないの?
集中力を云々して、3機を呼び寄せるとことか。

最初の話から読んでる身としては、マライアの戦闘シーンに感涙を禁じ得ない。

驚くほど成長した娘を見る父親みたいな気分になっちった

さすがにこれはアムロの助けがいるかと思ったら自力でなんとかしちゃったからな


 
Epilogue




 カランと、グラスの中の氷がなる。

私は薄暗くしたホールのソファーに座って、まだこの場にかすかに残る興奮の熱を感じながら、静かに話をしていた。


 マライアからメッセージがあったときは、すこし驚いた。

レオナの妹に、それからもう二人連れて帰ってくる、と言うのだ。

翌日、キャリフォルニアに降りたマライア達は民間機でアルバの空港へと帰ってきた。

 マライアは相変わらずで、アヤに飛びつこうとして関節技を決められたり、

いじられまくって半べそかいていたりと、にぎやかだった。

 レオナの妹は、それはもうレオナにそっくりで、

私やアヤを見てすこし照れたときの表情なんかは、レオナに負けず劣らずのかわいらしさだった。

それから、もう二人の連れは、レオナの育ての親、と言う人とその娘。

ユリウス、なんて男みたいな名前の女性は、とても美人で、息を飲んでしまいそうになるくらいだった。

もちろん、彼女の娘さんと言うのも、ちょうどレオナの妹、マリと同じくらいの年齢だったけど、

彼女とは違う、どこか凛とした雰囲気の魅力を持った子だった。

 お決まりのようにペンションに全員を連れて帰ってきて、それからはどんちゃん騒ぎ。

アヤは、ユリウス、レオナはユーリ、と呼んでいたけど、その人と息が合ったみたいで、

二人してマライアをいじめては、私に叱られていた。

レオナの妹のマリは、やっぱりなんだか照れた様子でぎこちなかったけど、

私やロビン、レベッカに気を使われまくって、夕飯ごろにはなんとか打ち解けてくれた。

 さんざん騒いで、今日のところはとりあえず、全員客室に泊まってもらうことにした。

母屋の方にも準備は出来ていたけど、こんな日は、こうしてゆっくり余韻を楽しめるスペースのあるペンションで過ごすに限る。

 飲み干したグラスに、レオナがバーボンを注いでくれた。

「ありがとう」

私が言ったら、レオナは静かに微笑んだ。今日、久しぶりに会ったレオナは、どこか、旅に出る前の彼女とは違っていた。

すごく落ち着いていて、余裕があって、なんだか暖かい。

大変だった、ってマライアが一生懸命に喋っていたけど、レオナにしてみたら、それ以上にたくさんのことがあったんだろう。

それをレオナはちゃんと乗り越えてきたんだ。

出かける前にあった、どこか子どもみたいな印象はすっかり影を潜めて、今は、もう、りっぱな大人の雰囲気が漂っている、って感じかな。
 


 「久しぶりの地球は、どう?」

「うん。ここは、やっぱり、暖かくて、気持ちが開いて行くね」

レオナはそう言って、また笑った。

「お母さんのこと、残念だったね…

 私もさ、戦争で家族をみんな亡くしちゃったから、辛かっただろうなっていうのは、なんとなくわかるよ」

「レナさんも、そうだったね…。でも、私行って良かったよ。

 いろんなことを思い出して、辛くて壊れそうになったこともあったけど…

 私、ママやユーリに愛されてたんだな、守ってもらえていたんだなって分かった。それが、すごく嬉しかった」

レオナがグラスを傾ける。窓から差し込む月明りで、きらりと彼女の瞳が輝いたのが見えた。涙、かな。

 「ね、レナさん」

グラスをテーブルの上に置いて、レオナが改まって声を掛けてくる。

「ん、なに?」

私が首をかしげて聞くと、レオナはとても優しい笑顔で

「ここに住もう、って言ってくれて、ありがとう。

 レナさんやマライアに会えなかったら、私、今こうしていることもできなかったって思う。本当に、ありがとう」

なんて言ってきた。

 お礼を言われるようなことじゃないよ、レベッカのこともあったけど、そうでなくたって私達はけっこう、

誰にだってこんな感じなんだ、って言おうかとも思ったけど、止めておいた。せっかくの、レオナの言葉だ。

私も、レオナに言ってげないと、ね。

「レオナこそ、ありがとう…レベッカを産んでくれて、守ってくれて」

私がそう言ったら、レオナは少し照れたみたいにして笑った。でもそれから、またちょっと真剣な表情で

「これからも、よろしくおねがいします」

と言って、また笑った。

「うん。こちらこそ!」

それ以上、言葉はいらなかった。
 


 パタンペタンと廊下を歩く音がした。

ホールのドアに目をやったら、ユーリさんが、眠そうな目を擦りながら、ホールに入ってきた。

「あぁ、ユーリ。どうしたの?」

レオナの表情が一段と明るくなる。

「あー、いや、マリのやつにベッドから蹴り落とされて、な」

ユーリさんはボリボリと頭を掻きながら大あくびをして、私達のソファーに崩れるようにして腰を下ろしてきた。

「ユーリさんも、飲みますか?」

「うん、頼むよ」

私は、開いていたグラスに氷を入れて、バーボンを注ぐ。彼女は、グラスを口元に近づけてクンクン、と匂いを嗅いだ。

「これ、なんだ?」

「バーボン。トウモロコシが原料の、ウィスキーの一種」

私が説明したら、彼女はふぅん、と鼻をならして、グラスに口を付けた。それから、ニコッと笑って

「いいな、これ」

と言ってくれた。アヤのお気に入りだし、そう言ってもらえると私も嬉しい。

 「ユーリさんは、これからどうするつもりなの?」

私は彼女に聞いてみた。

「うーん、レオナは今、ここに住んでるんだろう?それなら近くに家でも借りて住まわせてもらえれば、それがいい。

 さすがにアタシやカタリナまで住まわせてもらうわけにもいかないしな」

ユーリさんはそんなことを言った。レオナの家族なら、まぁ、義理の親、みたいなものだし、

私としては全然かまわないんだけど、逆に気を使わせちゃうかもしれない、ってことを考えたら、

その方がお互いに安心できるかもしれない、なんてことも思う。

「このペンションを紹介してくれた不動産屋さんがいい人だから、今度一緒に連れて行くよ」

「ホントか?それは助かる」

私が言ったら、ユーリさんは本当に嬉しそうな顔をしてそう返してくれる。

「ユーリはお医者さんなんだよ、レナさん」

「そうなんだ!それなら、開業できるようなスペースのある物件が良いかもね。

 ここじゃぁ街の中心に総合病院があるだけで、風邪やなんかだと、混んじゃってて行きづらかったりするんだよ。

 町のお医者さんがいてくれたら、みんな助かると思う」

「町医者、か。ここでならそれも、悪くないかもなぁ」

ユーリさんは、宙を見つめて、ニコニコしながらグラスのバーボンを空けた。

お代わりいるかな、と思って、バーボンの瓶を手に取ろうと思ったら、

ユーリさんは急に、隣に座っていたレオナにしなだれかかった。

 


「あ…」

レオナが、何かを思い出したようで、そう声を上げる。

「どうしたの?」

「ユーリ、お酒にすごく弱いんだった」

「え、でも、一杯しか飲んでないよ?」

「い、一杯でも、ダメなんだよ!酔っぱらったユーリは…ユーリは…!」

レオナは、何かにおびえたような表情で恐る恐る、ユーリさんの方を見る。

「レオナ…あんた、やっぱ、アリスに似て、美人だな」

ユーリさんはそんなことを言いながら、レオナの髪を撫でつけた。

 頬が赤く染まって、とろんとしたまぶたの中の瞳が潤んで、かすかに震えている。

理性を射抜かれそうなその視線が、レオナをまっすぐに見つめていた。

「ずっと、会いたかったんだ…なんども夢に見た…。もう、放さないからな。

 アリスの分まであんたを、アタシが愛してやる。守ってやる。だから安心しろ…」

ユーリさんはそう言って、まるで母親が小さなこともにするように額にキスをして、レオナを胸の中に抱きすくめた。

「ユ、ユーリは、お酒が入ると、感情のブレーキが利かなくなるの…これ、まずい、私、溺愛される…」

レオナがそう言ったのもつかの間、ユーリさんは抱きしめたレオナにキスの嵐だ。

「ちょっと、ユーリ!やめてよ、恥ずかしいよ!」

レオナはじたばたしながらそんなことを言って抵抗しているけど、私はその光景をほほえましく眺めていた。

 ふと、ユーリさんの姿に、母さんの面影が重なったような気がした。お母さん、か。

ふと、10年近くも前の、出征するときのことを思い出す。母さんや、父さん、兄さんと揃って食べた最後の夕食のこと。

思い出すと、すこし切ないけど、でも、今の私には、あのころの家族と同じ、大好きで、暖かい家族と、仲間たちがいる。

だから、寂しくなんかはないんだ。

母さんたちが私を見守ってくれているのも、私には感じられるし、ね。

 そんなことを思いながら、私は、グラスのバーボンを飲み干した。

なんだか、無性にアヤとロビンとレベッカを抱きしめたい衝動に駆られながら、それでも私は、

じゃれ合っているレオナとユーリさんを眺めていた。

 良かったね、レオナ。良かったね、ユーリさん。

私たちも一緒にいるから、これからは今までの分まで、昔以上に、幸せになってね。

ううん、これからもっと、幸せになろうね。


 


 青く突き抜けた空に、エメラルドグリーンに透き通った海!吹き抜ける潮風の香りに、

ジリジリ照りつける日差しに、おいしいお酒と、おいしいお肉!もうさ、天国って、こういうことを言うんだよね!

 あたし達は地球に着いて一週間ほどして、アヤさんの船でいつもの島に強制連行されていた。

アヤさんに、レナさんに、ロビンにレベッカ、それから、レオナとマリに、ユーリ博士とカタリナ。

それに、ルーカスも、だ。

 初めてビーチなんかに連れてこられたマリとカタリナはどうしたらいいのか、最初のうちはドギマギしていたけど、

アヤさんとレナさんに謀られて海へ投げ込まれたり、ロビン達と砂浜でお城を作ったりして、

なんとなく、楽しめているみたいで良かった。

 ユーリ博士は、

「地球がこんなところだなんて、想像もしてなかったよ」

なんて、感心しながら、気が合ったらしいアヤさんと、チビちゃん達にを混ざって楽しそうに遊んでいる。

それを見ながら写真を撮りまくっているレナさんとも、仲良し、って感じだ。

ルーカスは、そう言えばここには初めて連れてこられたようで、しかも、彼以外みんな女で、水着、と来ている。

さすがにいろいろと感じるところがあるのか、砂浜の隅っこの方で、アヤさんに借りた釣り竿から糸を垂らしていた。

デリクも誘えばよかったんだけど、あいにくと、ソフィアが出産したばかりで、それどころじゃないようだった。
 


 それにしても、カタリナの話には、驚いた。

お母さん、と呼んだ時にもきっと驚かされるんだろうな、とは思ったけど、もう、想像していたよりもびっくりな話だった。

 カタリナは、博士の子で、レオナの異父姉妹、だというのだ。

最初は、あぁ、なるほど、彼女も人工授精で生まれた、被験体の一人だったんだ、なんて思ったのだけど、そうじゃ、なかった。

いや、厳密に言えば、確かに自然に出来た子どもじゃなかったんだけど…カタリナは、卵子間結合胚で生まれた子なんだ、と博士は言った。

片方の母親は、ユーリ博士。もう片方の母親は、あのアリシア博士だというのだ。

待ってよ、だって、アリシア博士は、事故で子どもが作れない体になっちゃったんじゃ?

なんて聞いてみたら、博士は自分のシャツをめくって見せてくれた。

今、水着姿の彼女の右のお腹に見えている手術痕だ。で、シャツをめくって傷を見せてきた博士は胸を張って、言った。

「アタシを誰だと思ってんだ!?宇宙一の名医、ユリウス・エビングハウスだぞ。

 アリスの卵巣を直接回復させることはすぐに出来なくても、

 卵巣になる幹細胞を採取して、培養することくらいはできる!」

つまり、彼女は、あろうことか、アリス博士の卵巣を再建するために、事故に会った直後には、

自分の腹部にアリス博士の幹細胞を埋め込んで、拒絶反応を軽減する薬を何年も飲みながら、

自分の体に三つ目の、アリス博士の卵巣を再建した、と言うのだ。当のアリス博士にも、ナイショで。

そして、実験で使われるはずだった卵子と、ユーリ博士の体の中にあったアリス博士の卵巣の卵子をすり替えて生まれたのが、レオナで、

その後、卵巣自体は体に影響を及ぼしそうになったから摘出したものの、卵子だけは冷凍保存していたらしい。

そんなもの、最初からアリス博士の体でやればよかったんじゃないか、と聞いたら、

どうも研究所でアリス博士がレオナを産むことができたのは、自分の卵子が使えなくなっていたことが大きかったとのことで、

そのため、研究所にいる間にはそれができなかったそうだ。

 遺伝子治療とか、細胞研究てのは、ほんとうにすごいよな。

博士くらいのレベルになれば、代わりの臓器を作ったりすることもできちゃうなんて。

 で、アクシズへ脱出後、卵子間結合胚で、自分の卵子とアリス博士の卵子を使って生まれたのが、カタリナなんだそうだ。

もちろん、産んだのはユーリ博士。でも、待ってよ?それって結局、どっちも博士の体の中にあった卵子だよね?

遺伝情報は違っても、細胞を作ってた成分は、博士の体の物と同じなわけであって、遺伝情報は違っても、

結局、その、どっちも博士が摂った栄養とかを使って育ったもの、ってことでしょ?

それって倫理的に大丈夫なのかな?なんて思っても見たけど、

そしたら博士になんかとてつもなく難しいレベルの説明をされてギブアップした。

とにかく、違う遺伝子同士が出会ってできた子どもなんだから、良いんだ、とそう思うことにした。

いや、実際そうだし、そう考えれば別に問題があるわけじゃない。

 だからそんなわけで、レオナは本当にアリス博士の娘で、カタリナはアリス博士とユーリ博士の娘、

と言うわけだ。これはもうさ、あたしもびっくりしたけど、レオナの動揺っぷりって言ったら、なかった。

だって、ずっと血がつながっていないと思っていたアリス博士と、実は本当に親子だったんだもん。

そりゃぁさ、うれしいよね。もう、死んじゃった人だったとしても、さ。
 


「ほらほら、マライア。もっと飲むでしょ?」

そんなレオナがあたしのそばにやってきて、ウィスキーをソーダで割ったのを持ってきてくれた。

あたしは礼を言ってそれを受け取ったら、レオナは嬉しそうな顔で自分のグラスをあたしに押し付けてきた。

なんだかその笑顔がかわいすぎて赤くなっちゃいそうだったけど、とにかくあたしはレオナのグラスに自分のをぶつけてから、

ゴクゴクと中身をあおった。あぁ、おいしい、幸せだぁ。

 「っと、アタシはお肉いただいちゃお!」

子ども達との遊びをひと段落させて戻ってきたユーリ博士も楽しんでいるようで、

BBQコンロから焼いたお肉を何枚かお皿に乗せてあたしとレオナのところにやってきた。

博士は、レオナにお茶のグラスを催促して一口貰うと

「うはぁーこれ、最高だな!」

と満面の笑みを見せて言った。見ない。あたしは、その顔は見ない!見たらヤバいから、絶対に見ないんだ!

「レオナは、こんな良い人たちと一緒に暮らしてるんだな」

博士は肉を食みながらそんなことをしみじみ言ってくる。

「そうなんだ。すごく暖かくて、明るくて、優しくて、私、だから、ユーリ達のことをちゃんと思い出さないとって、そう思った」

「記憶操作だなんて、モーゼス博士も妙なことをしたもんだ。気でも使ったつもりだったのかな、あの人」

「私は、そうだったんだと思ってるよ」

レオナは少しさみしそうな表情で言った。

「そう言えば、昨日、レナちゃんに不動産屋に連れてってもらって、ペンションのすぐ近くに良い家を見つけたんだ。

 一階が店舗に使えるようになっててな。そこで町医者やりながら、のんびり暮らしすることに決めたよ」

それはナイスアイデアだね。総合病院はいつも混んでて診察行くにも半日は覚悟しなきゃいけないから、

フラッと行って気付けのお薬くれたりとか小さい子の風邪なんかを診てくれるところがあったら、みんなうれしいと思うし。

 「あー、はしゃいだはしゃいだ!」

そんなことを言いながら、アヤさんが楽しそうな余韻を引きずって、あたし達のところにやってきた。

なにをするのかと思ったら、イスに座っていたあたしをグイッと担ぎ上げた。

うぇ!?うそ、流れとかいっさい無視で!?

あたしはアヤさんの肩の上でジタバタ暴れてみたけど、こうなってしまったら、もう覚悟を決めるしかない。

 アヤさんはそのまま、ザバザバと海に駆け込んで、あたしを放り投げた。身を丸く縮めて、

いっぱいに息を吸って、ザブン、と海中に落っこちる。

腰までもない浅瀬だから、すぐに体制を立て直して、立ち上がった。

と、思ったらアヤさんがすぐ目の前にいて、あたしに組み付いて、両腕を取って、脚を払って、また海中に引き倒した。

アヤさんがそのままあたしに圧し掛かってくる。

 なに、なんなのアヤさん、なんか今日は、すごく執拗だよ!?

 わけがわからず抵抗していたら、不意に、アヤさんの声がした。

「心配した」

え…、と思って振り返ったら、アヤさんが、見たことのない悲しい顔をしていた。
 


あたしは、全身から力が抜けて行くのを感じた。ザブン、と、海中に座り込んで、胸まで水に浸かってしまう。

 アヤさんは、そんなあたしの頭を、まるで何かを確かめるみたいに、ゴシゴシと撫でてくれる。

「あ、あたしは平気だよ!なんてったって…」

強がろうと思って、空元気でそう言おうとしたら、アヤさんが頭を撫でていた手をあたしの口に当てた。

「あんたにしかやれなかった。あんたに任せるしか、なかった。

 結局あんたは、その腕に抱えられる以上の命を、助けて来てくれた。

 大変な役目を押しつけちゃって、悪かったな、マライア」

アヤさんは、悲しそうな顔で、そう言った。

アヤさん、心配してくれてたんだね…嬉しいよ。さすがに今回は死にかけたし、無理しすぎたかな、って反省はしてる。

あたしもアヤさんに、心配かけちゃったことは謝るよ。

でもね、アヤさん。せっかく帰ってこれたんだから、そんな顔しないで…

あたしの大好きな、太陽みたいな顔で笑って、あれを、言ってほしいんだ!

「アヤさん、あたしもごめん。心配かける様なやり方しかできなかった。次からは気を付けるよ。

 でも、こうして帰ってきたんだからさ、いつもみたいに笑って、『おかえり』って言ってよ!」

あたしが言ったら、アヤさんは、いつもの笑顔じゃなくて、今まで見たことのない、優しい顔であたしにほほ笑んでくれた。

「あぁ、そうだな。おかえり、マライア。無事で、何よりだ」

それからアヤさんは、いきなりあたしをギュッと抱きしめてくれた。

とっても力強く、アヤさんの胸の鼓動が伝わってくるくらいに、ギュッと。

あぁ、やっぱり、こうされるのはすごく嬉しいな。

マリがレオナに姉さん、姉さん、って懐く気持ちがすごくよくわかるよ。

アヤさんになら、あたし、どんな弱みも泣き言も見せられるよ。全部こうやって受け止めてくれるもんね。

やっぱり、アヤさんが一番。あたしの一番大好きな、大事な、お姉さんだよ。

あたしは、どうしようもなく甘えたくなって、全身の力を抜いてアヤさんに身を任せた。

 しばらくして、アヤさんがスッと、あたしを解放する。

うん、あれ?

解放された…

あたしが、っていうか、その、胸が…

あたしの水着の、トップスがなく、なって…

 ハッとして顔をあげたら、立ち上がったアヤさんがあたしのことをニヤニヤとイヤらしい表情で見下ろしていた。

その手には、あたしの着ていたはずの水着のトップスが…

―――しまった、謀られた!
 


「ルゥゥゥゥカスゥゥゥ、ちょっと良いもん見せてやるよぉ!」

アヤさんはそう言ってケタケタ笑い声をあげながら、あたしの水着を人差し指にひっかけてくるくる回しつつ

ルーカスの方にザバザバと水しぶきを上げて走って行く。

ちょ、アヤさん!やややや、やめてよ!あたしはそのあとを慌てて追いかける。

「どうしたんですわあぁぁぁぁ!!!」

アヤさんに呼ばれて、ルーカスがこっちを向いちゃった。あぁ、見られた…!

寄りにも寄って、ルーカスに見られた!あたしはとっさに胸を両腕で隠す。

くぅっ、これじゃあアヤさんに追いつけない!くやしい!大好きだなんて思わされたのがくやしい!

 「おーい、アトウッド!タオルタオル!」

砂浜でユーリ博士がそう言って大きいバスタオルを広げてくれている。

あたしは、ひとまず、あのバカ姉を追うのを諦めて、砂浜へと向かう。

バカアヤさんは、あたしの水着を頭の上に乗せて、ルーカスにほれほれと言わんばかりに絡んでいる。

今日という今日は本気で怒った。真剣勝負を挑んでやる!アヤさんはこんなところで呆けて暮らしてるんだろうけど、

こっちは修羅場をかいくぐって生きてきたんだ!とっちめて、こらしめてやる!

 砂浜に辿り着いたあたしは、ユーリ博士からバスタオルを受け取ろうと思って腕を伸ばした、ら、

なぜか博士があたしの腕をガシっとつかんだ。

 へ?

「かかれ!」

「とつげーき!」

そんなことを思っていた次の瞬間、バスタオルの陰からマリが出てきて、あたしの腰めがけてタックルしてきた。

いや、ちょ、待て、待って、待って待って待って!

マリ、ダメだって!!

下はダメだってば!!!!

 でも、気が付くのが遅すぎた。片腕は博士に掴まれ、もう片方は上半身の防御で手一杯。

仲間だと油断しきっていた博士が持つバスタオルの陰からの

ニュータイプで強化人間のマリの奇襲に、対応できるはずなんてない。

憐れあたしは、全身剥かれて、海の中に倒れ込んでしまっていた。

「よぉし、撤退!」

「了解!」

 アヤさんが爆笑する声が聞こえてくる。許さない、許さないんだから!

あたしが起き上がったその時には、マリも博士も逃げ足早く砂浜の奥、テントを張っているあたりへピューと逃げて行った。

「よーし、じゃぁここで!本日のメインディッシュ!ニホン産の牛肉と、

 レオナ達の帰還祝いで奮発したシャンパンで乾杯しよう!子ども達にはアイスも持って来てるからな!」

アヤさんがテントに駆け込んでそんなことを言っている。

 な、なんだと!?あたしが身動きできないのをいいことに、そんなおいしそうなものを食べるつもりなの!?

ズルい!ひどい!あたし、今回も相当頑張ったのに!こんな仕打ちって、あんまりだよ!!!

許さない、絶対に仕返ししてやる!!!!

 そう勢い込んで怒っても、海から出れないあたしになにをするすべもない。

結局あたしはそのまま、見かねたレナさんが助けに来てくれるまで、ギリギリと歯ぎしりをしている他はなかった。
  


 それからなんとか水着は奪回して、あたしも食事の輪に加わった。

プリプリ不機嫌ぶって困らせてやろうと思ったけど、

マリがデザートのアイスを食べようかどうしようか真剣に悩んでいる姿があって、可笑しくって笑ってしまった。

お腹がいっぱいなら、取っておいてもらって、あとで食べなよ、と言ってあげたら

「マライアちゃん、頭良い!」

だって。宇宙で戦闘したときは頼もしかったのに、すっかりただの10歳に戻っちゃった。

ううん、その方が良いんだよね。だって、マリはまだ本当に10歳なんだもん。

子どもはちゃんと子どもさせてあげるのが一番だ。

 そんなことを思っていたら急に、PDAが音を立てた。なんだろう、と思ってみたら、メッセージが2件入っていた。

 あけてみたら、1通はプルから、もう1通はアムロからだった。

 プルからは、ジュピトリス追跡の追加情報が入っていた。

ジュピトリスは脚が早いらしくてまだ追いつけていないらしい。

でも、追手はないし、発信前にユーリ博士が積み込んでいた大量の物資のお陰で、1年は航行が出来そうだという話だ。
地球から木星までは、概算で見積もって、およそ240日。

まぁ、木星が近づけばジュピトリスも速度を落とすだろうから、追いかける側としてはもっと期間は短くて済む。

さらに、あの輸送船が大気圏突破ができるほどのエンジンを積んでいたとするなら、

少なくとも第二宇宙速度までの加速は出来るはず。そうしたら、さらに期間は短くて済む。早く会えると良いな。

それにこうしてちょくちょくメッセージをくれるのはすごく嬉しいことだ。あとで、マリにも見せてあげなきゃな。

 そう思いながら、こんどはアムロからのメッセージを開く。これには、添付資料が付いていた。

「アムロさんから、だね。なにか用事?」

レオナがPDAを覗いて聞いてくる。

「うん。ちょっと、あたしが戦ったあのEXAMっていう人工知能のことが気になってね。

 ほら、レオナの友達の、マリオンって子も一緒に地球へ降りたんでしょ?

 その子の居場所とかがわかったりしないかなと思って、調べてもらってるんだ」

あたしはそう説明をして、本文を読み進める。

なんでも、アムロの方はあまり情報がつかめなかったらしくて、

知り合いのジャーナリストに調べてもらった結果の書類を付けてくれいるらしかった。

 あたしは画面を操作して、その書類を開いた。

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1年相当時、連邦軍では複数の人工知能と思しき研究計画があったって情報は掴んだ。

だが、規制が厳しく、保身上、つっこんだ調査はそっちで勝手にやってほしい。入手した情報は以下の通りだ。

各リンクからツリーになっているから、適当に見といてくれ。

EXAMシステム[datalink]

ファントムシステム[datalink]

ALICEシステム[datalink]

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これは、あたしに向けて、ってより、アムロに向けて書かれたメッセージだね。

 アムロにジャーナリストの知り合いがいる、って話はチラッと聞いたことがあるな…なんていったっけ?

確か、女性の、ベル…ベルチ…あぁ、忘れた。確か、アムロと良い仲だったなんて噂もあった人なんだけどな。

その人にでも頼んだのかな?それにしてはずいぶんぶっきらぼうな文面だけど…

あ、もしかしてアムロ、痴話げんかの最中だったのかな?

そうだとしたら、なんか悪いことしちゃったなぁ。

 データを見るよりも先に、アムロにごめんなさいメッセージを送っておいた方が良いかもしれない。

いったん、メッセージを閉じて新規のメッセージ作成画面を開こうと思ったら、レオナが叫んだ。

ビクビクンと背中が飛び跳ねる。

「ちょっと!マライア、今の画面戻って!」

「な、なによ、レオナ!?急にでっかい声出さないでって言ったじゃん!」

「いいから、戻って!ユーリ!ユーリ、ちょっと来て!」

レオナはなんだか、すごく夢中な表情でわめき散らしている。

EXAMシステムの情報がそんなにびっくりするようなことなのかな?

あたしは訳が分からず、首をかしげたまま、レオナとユーリ博士に奪われたPDAとアムロへのメッセージはあきらめて

アヤさんに焼いてもらったニホン産の薄くスライスされたビーフを運んだ。

ビールに合ううま味たっぷりのお肉を味わいながら、あたしは、二人のやりとりを見つめていた。

 その5分後に、イスの上で飛び上がるくらいにびっくりして、

バランスを崩して顔面から砂浜に墜落することなんて想像もしていなかったんだけど。



 
 「…わかりました…では、ご武運を!」

彼は、そう言って私に敬礼をし、シャトルの方へと走っていた。一号艇も発進の準備が整う。

ケージ内のエアーが抜けた。ハッチが開いて、シャトルが発進する。

一号艇は、地球方面へ、二号艇は、戦闘の始まっているギリギリのラインへ、盾として進む。

「ママ!どこにいくの、ママ!」

ヘルメットの中に、レオナの叫ぶ声が聞こえてくる。私は、唇を噛んで、涙をこらえた。

「レオナ…行きなさい…!」

「ママ!」

「行きなさい。あなたは、もう、誰の言うことを聞く必要もない。被験体や道具や兵器としてじゃなく、

 レオニーダ・パラッシュっていう一人の人間として、あなたの運命を、生きなさい!」

「ママ、ママも一緒じゃなきゃイヤだ!」

「レオナ、どこへ行っても、私達は家族。どこへ行っても一緒だよ。あなたには、素晴らしい能力があるんだもの。

 私はいつも、あなたのそばにいるよ。それを…忘れないで」

「ママ!」

私は、ヘルメットの無線を切った。これ以上は、聞いていられない。

 カッと、目の前が明るくなった。エルメスのビットから放たれたビームが、二号艇をつらぬいた。

 レオナ…元気でね。もう一度、あなたの笑顔、見たい、な…

 二号艇の爆発が、涙で滲んで見えた。

レオナ、頑張ってね…!どれだけ時間がかかってもかならず、あなたの笑顔を見に行くからね…!

 


「博士、行きましょう…!」

飛行士のジェルミが、私の肩を叩いてそう励ましてくれる。

私は、彼女に頷いて見せた。

 先乗りしていた二号艇に人工知能を搭載して、回避行動を延々と繰り返させるようにプログラムしたのは、

レオナを確実に戦域から遠ざけるためだけじゃない。私たちが、別路でここを抜け出すための、時間稼ぎでもあるんだ。

 私は立ち上がって、ランドムーバーを背負った。

あの爆発に戦場が気を取られている隙に、私達はリボーコロニーから出航した連邦のシャトルと合流する。

 ジェルミが先頭になって、開いたケージのハッチから宇宙空間に飛び出た。コロニーの外壁にそって移動しながら、

戦闘区域から離れていくと、暗がりに浮かぶ、一隻のシャトルが目に留まった。

<あーこちら、“民間輸送船”。宇宙空間を漂う、投棄物らしき浮遊物を発見>

合言葉が聞こえてきた。

「こちら、アリシア・パラッシュ。ミズ・ルーツ博士、“贈り物”はいかがでしたか?」

<これは、パラッシュ博士。素晴らしい内容でしたよ、感謝しています。

 こちらの研究と、博士からいただいた資料を元に、なんとか基礎構造の完成をみました>

「それは良かった。亡命へのご協力、お願いできますね?」

<えぇ、その程度のことでよければ、いくらでも手をお貸しいたしますわ。

 あぁ、そうそう、完成した新しい人工知能の名称ですけどね>

「名前、ですか?」

<ええ。博士に敬意を表して、お名前を拝借しましたこと、お許しくださいね>

「私の、名前を?」

<はい。詳しい話は、シャトルの中でいたしますが、先に申し上げておいた方が良いと思いましてね。

 私たちは、新しい人工知能を論理・非論理認識装置の頭文字を取って“ALICE”と名付けさせていただきました>

「ふふ、なんだか、恥ずかしいですね」

<それほど、博士に感謝しているのですよ。今、迎えの者を出します。シャトルまで、どうか気を付けて。

 一緒に、地球へ参りましょう、娘さんとの、新しい暮らしを取り戻されるんでしょう?>

「えぇ、これはそのための戦いです。ご協力に感謝します!」







――――to be continued





以上、しっちゃかめっちゃかだったZZ編、これにて完結です!

お読みいただき、感謝感謝!


ドダイの次回作にご期待ください!


ちなみに今回は予告はありません、ご了承くださいw




以下、レスです!


>>661
感謝!
アリシアさんとレオナの別れのところは、
ジュピトリスを追うプルと見送るレオナとかぶせたかったのであのタイミングでした。


>>663
感謝感謝!!!
マライアたんはもう、ほんと、書いてる本人的にもすごいと思いますw


>>661->>663
EXAMについて。
ラストパートでアリスに語ってもらう予定でしたが、演出の都合で断念。
ゼータへの反応ですが、>>663の方がおっしゃっているように、マライアを標的にEXAM作動してました。
伝わらなかったのでしたら、筆者の力不足です。
また、同時に複数機のEXAM機動については、あれが復元したものだとユリウス博士が言っていたように
当時のままではなく、ある程度の調整が図られている、と思っていただければと思います。



>>664
超感謝!あなたさまや>>665さまのような読者の方に出会えて幸せです。
ソフィアを助けられず、ただ泣き崩れるしかなかったマライアが、こんなになるなんて…
筆者も想像していませんでした。

ちなみに。EXAMと戦って損傷したゼータは、ソフィアが負った怪我をイメージしてみますた。


>>665
超感謝!!
ひょうひょうとしているマライアの本気を描けて、楽しかったです。
彼女はもう、絶望には負けません!


書き忘れました。
>>594の人へ。ポロリリクエストあったので、がんばってポロリしようと思ったら
勢い付きすぎて剥き身で手ブラ手パンツになってしまいました。
つつしんで、お詫び申し上げます。

期待を裏切らない展開に読み終わって思わずガッツポーズしてしまった乙



レオナの父親がユリウスママで、カタリナちゃんの父親がアリスママでおk?

うっわー、ヤラレタ!!
ゼコの事だから、ひょっとしたらアリス生きてっかなーとは予想してたケド、
まさかそっから《ALICE》につなげてくるとは…、完全にノーマークだった
読んでてゾクゾク来ちまったよwwww

とにかくZZ編大団円に惜しみない乙乙! 楽しい時間をありがとう!!

あと、本編中に名前は出なかったけどカイさんも乙(あ、合ってるよね?)

>>594>>664の者だけど、なんか娘が剥かれたみたいで逆に悲しくなってしまったww

要求しといてアレなんだけどwww
でも期待に答えてくれて感謝!

乙!

これでもか!ってくらいの大団円をありがとう!
キ(ryア(ryドダイは基本的にみんな幸せにしてくれるからシリアスな戦闘シーンでも
安心してドキドキできるよね。変な表現だけどさ。そういう物語の作り方がマジで好き。
ところで今回のエピソードで「プル顔」のキャラは何人出てきたのかなw

マライアの主人公っぷりも良いけど、アヤレナさんの「帰る場所」感もすごく良いと思う。
マライアが宇宙で何やらかしても必ずこの二人の元に帰ってくるんだね。
アムロもララァに謝っちゃうくらいの帰る場所w

さぁて、来週のドダイさんは~?

おつぅぅう!
良いポロリだったぜー

おいルーカスちょっと代われ!

>>682
感謝!
でもそれってストーリー読まれてたってこと?
それはちょっと悔しい!w

>>683
感謝!!
レオナの父親はザビ家の誰からしいです。
カタリナはアリスとユーリの子どもです。


>>684
感謝!!!
ゾクッとしてもらえてよかった!
アリスについては、最後の最後まで生かそうかどうしようか悩んだのですが…
この一連の物語の根本にあるのは
ガンダムのヒロインキャラ死に過ぎ、不幸過ぎ!と言う叫びなので
もう、きれいごとだなんだと思われても、生かしてやろう、とw

>>685
感謝!!!!
おぉふ、なんかすまんかったw
脱がせちゃった♪w


>>686
感謝!!!!!

ヒロインは死ぬのでね、ガンダムって。生かしてやりたいんですよ…それはエゴだよ!と言われても!w
マライアちゃんは本当にアヤレナが好きみたいですね。
アヤばっかりと絡んでいるので、そのうちレナとも濃厚に絡ませてやろうかと…w
ちなみにプル顔は3人出てきましたw

次回、逆シャアは全くノープランです。
恐らく、締めの話になると思うので、じっくり練りたいと思っています。


>>687
感謝!!!!!!
マライアのポロリは絵でみたいです、絵師さん(ry!w
 

ジャーナリストはカイじゃないのか

え!?次で締めちゃうの?
今回のエピソードで若くて生きの良いのが出てきたじゃないのさ!
ウッソやカテ公と共演……とまでは行かんでもジオンとのしがらみにかたがつくくらいまでは読みたいな(チラッ

>>689
前のレスで抜けてましたね…
たぶん、あれはカイさんなんだと思います。

>>690
ユニコーンは、正直まだちゃんと見てないのでなんとも…ww
まぁ、マリーダミネバの活動を影で支援しようとするメルヴィプルペアも書いてみたい気もしますが…ww



ZZ Extra1



 アナハイムエレクトロニクス社 ロサンゼルス第二研究所


 物静かな廊下をあたし達は歩いていた。

「ね、フレートさんは、あのゼータガンダムのテストはやったの?」

「あぁ、一応な。でもあれ、操縦性悪すぎるよ。なんだってあんなに敏感に反応するようになってんだろうな?

 コントロールするので手一杯だったよ」

あたしが聞いたら、フレートさんは、苦々しい顔でそんなことを答えてきた。

…レナさんのときと、今回のことでトータル20機以上撃墜してるって、言わない方が良さそうだね…

しかもあたしにとってはあのくらいの反応速度でちょうど良かったんだけど…これも黙っておこうかな。

フレートさんには、エースでいてもらいたいし、ね。

「マライアも、良くあんな機体を買ってったよな。使い物にならなかったろ?」

フレートさんは、あたしがそんなことを思っていたのを知ってか知らずか、同意を求めてきた。

「うへへっ、はは、そ、そうだったよー、もうね、宇宙飛んでるだけで、精一杯で」

「だよなぁ」

思わず、変な笑い方をしちゃったけど、幸い、気に止められてはなさそうだ。

「それにしたって、なんだって、スキナー博士なんかに用事があるんだよ?あの人、変人で有名だぜ?」

「んー、詳しく話すと、長いんだ。とりあえず、会わせてよ。おいおい、ちゃんと説明するからさ」

フレートさんは、本当にいい人だなぁ…いい人過ぎて、心配になる。

だって、レナさん助けに行ったときだって、工場のゼータをフレートさん名義で勝手に徴発しちゃったし、

宇宙へ行くのだって、かなり無理行ってゼータを回してもらったし…

今回も、こんな突拍子もないお願いをしながら、めんどくさくて説明を省いていても

「そっか。まぁ、いろいろあんだろ。感謝しろよー!

 たまたま偶然、同じチームにいるジェルミってテストパイロットが、博士と知り合いらしくて、

 なんとか頼み込めたんだからな」

なんて、気軽さだ。フレートさん、変な詐欺とかに引っ掛かったりしないよね?

大丈夫だよね?そんな心配をしながらも

「うん、感謝してるよ、フレートさん!さっすが、我らがエース!頼りになるんだから!」

なぁーんて、おだてておけば、問題ない、と思うあたしもいる。

 まぁ、なんていうか、さ。需要と供給じゃない、こういうのって?
 



 そんなことを思っている間に、前を歩いていたフレートさんが立ち止った。

「ここが、スキナー博士の研究室だ」

フレートさんが、ドアをノックする。

「お約束頂いてた、テストパイロットチームの、フレート・レングナーです」

フレートさんがそう言うと中から

「すまないけど、今、取り込んでるんだ。勝手に入ってきて」

と声が聞こえた。

「じゃぁ、失礼します」

フレートさんがそう言ってドアを開けた。あたし達も続いて部屋に入る。

中は薄暗くて、コンピュータのモニターの明かりだけが煌々と青白く点っている。

書類が散乱し、食べ散らかしたインスタント食品や、ジュースの空き缶が転がっている。

その人物は、コンピュータの前に座って、モニターを見つめていた。

時おり、カタカタとキーボードを叩いてはカップに淹れたコーヒーをあおっている。

コンピュータからは無数の配線が伸び、その先にあった電極を頭につけた、若い女性も、一人。

これはニュータイプ識別テスト?サイコウェーブを検出する方法に似ているけど…

と、不意に部屋のなかがパッと明るくなったって振り替えったら、

ユーリ博士が、照明の電源に手を伸ばし終えたところだった。

 スキナー博士があたしたちの方を睨み付けてくる。

「人の実験を邪魔するなんて、いい度胸だね」

彼女は大きくため息をついて、そう言った。電極をつけられていた女性も渋々といった様子で、

頭から電極を外しつつ大きくため息をついた。

「相変わらず、変な実験ばっかやってんだな」

そんな二人の様子に目もくれず、ユーリ博士はそう言って、笑った。

 その途端、スキナー博士は、ガタン、とイスを倒して立ち上がった。

「ね、ちょっと、ユーリ!早く中入ってよ!」

部屋の外から、レオナの声がする。

ユーリ博士は、部屋の入り口で通せんぼするみたいに、してレオナ達の入室を邪魔している。

「あー、レオナ、これあんた、入らない方がいいわ。

 こいつ、ジャンクの食い過ぎで、ブクブクのひどい体になってるぞ。あんたこれ見たらショック受けちゃう」

スキナー博士は、どっちかっていうとやつれている感じだけど…なんだろうね、こういうやりとり。

もしかしたら、昔もおんなじようなことをして遊んでたのかもしれないな。
 


 「嘘…嘘だよ…!」

スキナー博士は、口元に手を当てて、そんなことをうわ言のようにつぶやいてる。

 そんな彼女をしり目に、ユーリ博士は、若い女性の方をちらっと見やって、すこし意外そうな顔をした。

「あんた、マリオンか!?はは、そうだよな、マリオンだよな!!なんだ、あんた、意識戻ってたのかばっ!?」

喋っていた途中で、そんな悲鳴とも嗚咽ともわからない声が漏れて、

ユーリ博士は床につんのめるようにしてぶっ倒れた。その上にレオナとマリがのしかかっている。

タックルでもされたのかな…意地悪なんてするからだよ、博士!

 ユーリ博士の上に倒れ込んだ、レオナが顔を上げて、スキナー博士を見た。

その顔が、パァッとまるで太陽みたいに明るく輝いた。

「ママ!」

レオナはそう叫びながら立ち上がって、…ユーリ博士を踏みつけて、スキナー博士に飛びついた。

うーん、感動の再会、のはずなんだけどな。

「レオナ…あなた、本当に、レオナなんだよね!?」

スキナー博士は、レオナを抱きしめて何度も、何度もそうたずねている。

「母さん、大丈夫?」

倒れたユーリ博士を、カタリナが心配そうに覗き込む。

ムクっと起き上がったユーリ博士は、目にいっぱい涙を溜めて

「スゲー痛い…泣きそうに、痛い」

と言って、へたくそに笑った。あぁ、そっか。博士ってば、ずるいな、そう言うのは。

 そんなことをひとしきりつぶやいてから博士は、アリス博士とレオナのところまで歩いて行って二人をまとめて抱きしめた。

あぁ、なんだろう、これを待ってたんだよね、あたし。

こんな感動的で、幸せな光景、世界のどこを探したって、そう簡単にみれるものじゃないもんね。

 あたしは思わず、そばにいたマリとカタリナの背を押した。

あなた達も、あれに混ざって良いんだからね、家族なんだもん。二人は、きょとんとした顔をしてたけど、

「ほら、あんた達も…」

とユーリ博士に促されて、おずおずとその輪に加わった。

あたしはしばらく、その光景を、ワケが分からん、って顔をしているフレートさんと、

マリオン、って呼ばれた女の子と一緒になって眺めていた。
 




 キッチンから、香ばしいにおいがしてくる。もう、何度目になるか、私は地球での朝を迎えた。

隣のベッドで眠っていたはずのマリの姿はもうない。毎朝のことだけど、彼女はいつも早起きだ。

伸びをして、着替えを済ませて、リビングに降りる。

「あ、おっはよー!カタリナ!」

キッチンには、いつものようにアリス“ママ”が立っていて、明るい笑顔で私を出迎えてくれた。

「おはよっカタリナ!」

テーブルにお皿を並べていたマリも、元気にそう言ってくれる。

「おはよう、ございます」

私は、二人にそう笑顔を返すと、案の定、“ママ”にプクッとほっぺたを膨らまされた。

「敬語はなしだって言ってるじゃん!」

私が丁寧コトバを使うのを、“ママ”はひどくイヤがる。

家族なんだから、って、“ママ”は言うけど、でも、私はなかなか直せない。

イヤだって言うんじゃないんだけど、なんだか、ムズムズしちゃって、うまく出てこないんだ。

「母さん、配膳終わったよ!」

マリが“ママ”に報告する。

「はーい!もうできるからね!あ、カタリナ、ユーリ起こしてきて!」

“ママ”は私の頼んでくる。

「…うん」

はい、って出そうになったのを我慢して、私はアリスママと母さんの寝室へと向かった。

 ドアをノックして中に入ったら、母さんはベッドに大の字になって、お腹を出してスヤスヤと寝息を立てていた。

「母さん、朝ごはんだよ。起きて」

私が体をゆすると、母さんはうっすらと目を開けて、私を見た。

「あぁ、カタリナ、おはよう」

母さんはあくびをしながらそんなことを言ったかと思ったら、私の体を捕まえてベッドに引きずり込んだ。

「ちょっと、母さん」

「んー、カタリナぁ」

母さんはなんだか甘い声を出しながら私にほっぺたを擦り付けてくる。好き好き攻撃が激しいのはいつものこと。

こんなときは、母さんが満足するまで、されるまんまになっているに限るんだ。

イヤがると、返って長引いちゃうから。

 少しして、母さんは私を放してくれた。むくっとベッドから起き上がって、ふわわ~と大きい欠伸と一緒に伸びをする。

「ん~今日も良い天気だな!」

母さんはそう言ってニコッと私を見て笑ってくれた。私の大好きな、母さんの笑顔だ。

 私達がそろってリビングに降りたら、もう、朝食の準備が整っていた。

「遅いよー母さんもカタリナも!」

マリが待ちきれないって感じで、言ってくる。

「あぁ、悪い悪い、お待たせ!」

母さんはそう言って、席に着く。私もマリの隣に座って、みんなで一緒に朝食を食べ始めた。
 


 これまではずっと、アクシズや船の中で、母さんと二人か、メルヴィとオリヴァーさん達と食べるかのどっちかだった。

「ん!オムレツ、おいひい!」

「こーら、マリ、お口に物が入ってるときにしゃべらないのっ」

「あはは、怒られてやんの!おっ、このスープ、出汁変えたか?」

「ユーリもでしょ!お行儀悪い!」

「ねね、カタリナ、パプリカとカリフラワー交換してっ」

「あ、うん。マリ、ダメだもんね、私もカリフラワー好きじゃないから…」

「割り当てたお野菜食べないと、デザートのオレンジなしだからねっ!」

「えぇ?!うぅ、分かったよ、食べる!頑張る!」

「…うん、私も、がんばろう…!」

 食事をしていて、こんなに楽しい気持ちになるなんて、地球に来て、4人で暮らすようになって、初めてだった。

アヤさん達のところで、レベッカちゃんと一緒に暮らしているレオナ姉さんが、家族、って言っていたけど…

きっと、家族ってこういうことを言うんだよね。

「ね、アリスママ。今日のお勉強は何?」

私は、ママに聞いてみた。

「ん、今日はね、化学と数学と、英語かな!」

「げぇ~、化学も数学もきらーい!」

「マリ、能力でカタリナに答え聞いたら、減点だからね」

「うぅっ…バレたっ!」

マリはママにそう言われて、楽しそうにテーブルに突っ伏した。

なんだかそれが可笑しくて、私もクスっと笑っちゃう。

「あ、カタリナ!」

「ん、なに、ママ?」

「敬語抜けてる!満点、二重丸!」

「あっ…」

“ママ”にそう言われて、私は気が付いた。なんだか、顔が熱くなって、縮こまってしまいたくなる。

そんな私のカリフラワーを、“ママ”フォークで突いて、食べてくれた。

「あっ!ずるーい!」

「ふふ、ご褒美!マリは、今日の数学で80点取れたら、夕飯のあとのデザート選択権を進呈します!」

「ホント!?わたし、がんばる!」

「あはは!マリはホント、レオナに似て食べることには目がないよな!」

「ユーリは食べ物口に入れて喋らない!」

「ぷぷ、母さん、怒られてんの!」

ふふふ、楽しいな、“家族”って!
 


 朝食を済ませて、身支度を整えた私とマリは、“ママ”と三人で歩いて、20分くらいのところにある建物に向かった。

そこは、親と一緒に暮らせない子どもとかが生活している場所で、

門のところには、「ボーフォート財団・ハガード・チルドレンホーム」って立派な看板がかかっている。

この中には、小さな教室があって、“ママ”はこの島に来てから、そこで子ども達に勉強を教えている。

島の公立小学校では物足りない私と、あんまり勉強をしたことがないマリも、一緒になって、そこで勉強をしていた。

 「あー!アリス先生!カタリナ!マリ!」

中に入ったらすぐに、女の子が私たちの名前を呼んだ。彼女は、ソニア、12歳。私にできた、初めての友達。

「ソニア、おはよう!」

私が手を振ったら、ソニアは私達のところに走ってきた。今日のお勉強のことを話しながら教室に向かう。

 教室には、もう、何人も子ども達が来ていた。

その中でも目立つのは、15歳の男の子、無口なラデクくんに、お喋りで明るい、14歳の男の子のマルコくん。

それから、みんなのアイドル、美人な17歳のお姉さんのサブリナ。

あとは、一番小さくて、いつもにこにこしてて優しい、6歳のディーノくん。

ラデクくんはいつもきつい目をしてて、ちょっと怖い。周りにあんまり、他の子も寄りつかない感じ。

反対にマルコくんは明るくて楽しくて、いつも周りに誰かいる。

サブリナさんは、座っているだけで目立っちゃうくらい。

ディーノくんは、なんだかのんびりしていて、見ているだけであったかい気持ちになっちゃう感じがする。

 「はいはーい、それじゃぁ、始めるよー!」

“ママ”がそう号令をして、みんながそれぞれの席に着いた。私とマリも、自分の席に着く。

これからお昼ご飯までは、みっちりお勉強だ。

私はいろんなことを教えてもらったりするのは好きだけど、他の皆は、そうじゃないみたい。

でも、お勉強が終わったら、みんなでお昼を食べて、午後は自由時間。

お庭で遊んだり、公園に行ったりして良い時間になる。

お勉強をさぼっちゃうと、ロッタさん、っていう怖い寮母さんに怒られちゃって遊びに出してもらえなくなっちゃうから、みんなも一生懸命だ。

「それじゃ、今日は最初に数学から!プリント配って、順番に説明するからね~!」

ママ、ううん“先生”がそう言ってプリントを配り始める。

「よ、よし!デザート選択権!アイスクリーム、アイスクリーム…!」

マリが隣でそんなことを言って、やる気を見せている。

その姿がやっぱりなんだかおもしろくって、思わず笑ってしまった。
 



 つづく。


なんとなく始まった、おまけ編。

アルバ島で“家族”を始めた、とある一家のお話です。
 

いいね

やばい。絵に書いたような幸せっぷりに泣きそう。
もう余計な試練とか要らんよな、彼女達には。
大団円万歳!御都合主義万歳!

気になっていたんだけど、どうして百合カップルばかりなの?

>>699
あざっす!

>>700
あざっす!
ご都合主義ではありません、彼女達が生きたい、
と願ったからこそ、ですw

>>701
理由はいくつかあるのですが…
一つ、ドダイが百合好きだから
二つ、ガンダムの女性キャラを救いたいと言うエゴ

あと、書いてて気が付いたんですが、
男女の恋愛になると、どっちかを殺したくなっちゃうのです。

これはガンダムと言うコンテンツの中に潜んだ無意識的なサムシング、
あるいは特有のフラグ、様式美がみたいなものであって、
書いていると、男女の主要キャラの恋愛は悲しい結末しか用意してはいけない
と言う空気を感じるんですよ。

良い例がマークさんで、彼は主役がアヤレナマになり、脇役に転落したお陰で
九死に一生を得ました。あのまま、ハンナが主役を引き継いでいたら、
マークは死んだままだったでしょうし、ハンナもたぶん、子ども達を守って終盤に死んでたはずです。

そう言う、ガンダムの世界観の不文律をかいくぐるために百合カップルのメインキャラに
なってしまったのだと思います。

でもカップルの数だけなら、
隊長夫婦、シロー一家、フレート夫婦、デリク夫婦、マークハンナ、ハロルドシイナなどがおりますよ!

>>701
フォロー感謝!
ドダイの言い訳は以上の通りです。
この一連の作品にタイトルを付けるなら
「機動戦士ガンダム外伝?彼女達の戦争?」ですw

そういえば、女性ではないのですが、ガンダムの中には
上官を慕う部下、と言うフラグもありますね…
上官を慕う部下で、その上官が女性で、ちょっぴり恋心があったりするキャラとか…
あれ、フラグ立ちかかってるやつがいるな…www

あと、すみません、今日と明日は茨城県の百里基地の航空ショーのため
投下できませんことをお詫び申し上げますm(_ _)m


お待たせいたしました。

航空ショー、悪天候で飛行機飛ばず、無念です。

次の浜松でリベンジしたいです!w

というわけで、良い写真もあまりなく…すみませぬ。


以下、ダラダラ続く、ZZペンション日記番外編、つづきをどうぞ。
 


 お勉強の時間が終った。

ここの子ども達はみんな、一度、寮舎に帰ってお昼ご飯だ。

私とマリにママは、この教室でお弁当の時間。

机をひとつを三人で囲んで、“ママ”の作ってくれたお弁当を食べる。

今日はバターロール二つに、コールスローと、トマトと、ソーセージに、朝のオレンジの残りだ。

「いただきまーす!」

マリが元気にそう言って食べ始める。私と“ママ”もおんなじようにしてお弁当を食べ始める。

「カタリナとマリは、午後はどうするの?」

「うんと、マルコ達と公園に行くんだ!」

ママが聞いたら、マリがニコニコしながら答える。

「カタリナも一緒?」

「ううん、私はソニアと図書館にいくん…だ」

危ない、また丁寧コトバが出ちゃうところだった。

「図書館か、へぇ~勉強熱心だね」

“ママ”がニコッと笑ってくれた。でも、そう言われちゃったら、ちょっと言いにくいよ…

「う、ううん、あのね、絵本、見に行くの」

「絵本?」

“ママ”は、ちょっとびっくりした様子で聞いてくる。

「うん、私ね、絵本が好きなんだ…あ、もちろん、図鑑とか、参考書とかも好きだけど…ね」

「へぇ~!絵本か…アクシズにはあんまりそう言うのは無さそうだもんね!そっかそっかぁ~!」

“ママ”はそんな風にまるで、すごいね!って感じでそう言ってくれた。

なんだか、ちょっと嬉しい気持ちになる。

「そっかぁ、それなら今度、大きい本屋さんにでも行ってみようか?

 この島はあんまり大きいお店ないしね。

 フェリーで海渡った向こうの街は開けていそうだったから、今度、アヤちゃんに聞いてみるね」

「ホントに!?」

私は、マリがいつもするみたいに飛び上がってしまった。それ嬉しい!

図書館の絵本はもう半分くらい見ちゃったし、1週間しか借りれないし…

好きな絵本、お部屋の棚に置いておいて、いつでも読めたらいいな、って思ってたんだ!

「いいないいなぁ~わたしも行きたい!」

「うん、ユーリのお休みの日に、みんなで行こうね!」

「やった!」

ママがそう言ってくれたので、マリもピョンと飛びはねた。

「あ、そうだ、マリ、今日は頑張ったよね、プリント!」

「あ、忘れてた!」

ママが思い出したみたいで、そう言った。マリもはまた、ピョンと飛び跳ねる。

そう、マリ、今日の課題、苦手な数学のプリントでなんと100点を取れたんだ!

マリは、びっくりして喜んでたけど、ママはその倍くらい喜んでいた。

「じゃぁ、今夜の夕飯のデザートはマリに決めてもらわないとね」
 


「うん!あのね!あのね…!…」

当然、元気にアイスクリーム、って言うと思ったら、マリは私を見た。それから急に

「ね、カタリナは何が良い?」

って聞いてきた。

「どうして私に聞くの?」

私はついつい聞き返していた。

だって、頑張ったのも、100点取ったのもマリだよ?せっかくアイスクリーム食べたいって言ってたのに…

そう思ってたら、マリは言った。

「だって、カタリナのおかげで今度はお出かけ連れて行ってもらえるんだもん。だからほら、その…仕返し…?」

「うん、仕返しじゃなくて、お返しだよ」

「あ、そうか、間違えちゃった」

私が教えてあげたら、マリはペロッと舌を出して笑った。

でも…いいの?だって、お出かけはマリだけじゃなくて私も一緒に行くんだよ?

だけど、マリがせっかく頑張って100点取ったのに、私がマリの食べたいアイスクリームじゃないもの言ったら、

マリはそれ食べられなくなっちゃうよ?

「マリは、それでいいの?」

私の代わりみたいにして、ママがマリに聞いてくれる。そしたらマリはニッコリ笑って言った。

「いいんだよ!あのね、例えばアイスクリームとチョコビスケットがあるとするでしょ?

 アイスクリーム食べるのも、チョコビスケット食べるのも、どっちも幸せだけど、一緒に食べられたらもっと幸せなんだよ。

 だからね、ちょっと違うけど、でも、わたしはカタリナのおかげでお出かけになって幸せで、

 それでカタリナが好きなデザート食べられたらそれも幸せだもんね!ほら、幸せが2つで、もっと幸せでしょ?

 わたしの好きなデザートになっちゃったら、わたしの幸せは2つだけど、カタリナの幸せは1つになっちゃう。

 わたし一人で幸せなだけなのはダメなんだよ。だって、そうしたらまた幸せ1個になっちゃうもん!」

私は何も言えなかった。ママも黙っていた。

だって、マリがそんなこと考えてたなんて全然知らなかったから。

そりゃあ、いつでも食べ物のことばっかり考えてる、とか、なんにも考えてない、とかって思ったことがなかったら嘘になっちゃうけど…

マリ、それなのに、私のことを…ううん、私だけじゃないよね、きっと。

ママや母さんのことだって、きっとそういう風に思っているんだよね…ごめんなさい、マリ。

私、ちょっと勘違いしちゃってたよ…ありがとう、

って言おうと思ったらその前に、ママがマリを抱き締めた。

「マリ、マリ!もうっ!大好きだよ!100点!ううん、200点花丸あげちゃう!」

ママはそんなことを言ってぎゅうぎゅうとマリにほっぺたを擦り付けた。

「ちょっと、母さん!やだよ、やめてってばっ」

マリは嬉しそうに笑いなが言った。それからすぐに、ママにもみくちゃにされながら

「だ、だからカタリナ、デザートなにがいい?」

って聞いてくれる。

うーん、私は、デザートはさっぱりしたフルーツとかが好きなんだけど…

でも、ここで私の好きな物を言ったら、良くないよね。

だって、マリの言い方を借りたら、それじゃぁ、私だけ幸せ2つになっちゃうもんね。
 


「私、アイスがいいな」

「アイス!?」

「ふがっ!?」

私が言ったら、マリがママの腕の中で飛び上がった。マリの頭がママの顎に当たって、ママがそんな声を上げる。

「アイスがいいの!?」

マリが聞いて来た。

「うん、アイスがいいな、白いヤツ」

私は答えた。フルーツの方が好きだけど、でもアイスも嫌いじゃないし。

それに、マリに喜んでもらえた方が、私、嬉しい気がする。

「あぁ、カタリナ!あんたも200点!」

ママはそんなことを言いながら、私まで抱きしめて来た。私はマリと一緒に、ママの腕の中でギュウギュウされてしまう。

「もう!今日は特別に、アイスにチョコビスケットも付けちゃう!」

「ホントに!?幸せ、3つ目!」

ママが言ってくれたので、マリも嬉しそうにママを見上げた。

「もうね、大好き、あんた達、大好きだよぉ!」

そんなマリを気にも留めないで、私とマリはそれからまたちょっとのあいだ、“ママ”にもみくちゃにされていた。
 



 お昼ご飯を食べ終わってから、“ママ”は母さんの手伝いとお家のことをしに帰った。

私とマリは門のところで“ママ”を見送って、それから、マリはマルコくんや他の子達と一緒に公園へ向かった。

私は、ソニアと図書館まで歩いた。

 図書館は二階建てで、一階は、子ども向け、二階には大人向けの本がある。

二階ももちろん好きだけど、やっぱり一階の絵本コーナーが一番好き。ソニアはもっと文字がいっぱいある本を良く読んでいる。

私は、絵本の棚でお気に入りの絵本を探した。

 一番好きなのは「きたのうみのせいれい」と言うお話。小さい頃に母さんに良く、寝る前に聞かせてもらった。

まさか、こうして本であるなんて思ったことなかったから、見つけて読んだときは、すごく嬉しかった。

 このお話は、北の海に住んでいるとても強くて、勇敢な精霊のお話。

精霊は、人々を守ろうとして戦うんだけど、いつのまにか、彼女は自分が守ろうとしていた人たちを傷つけてしまっていたことを知って、

さらにはその人たちに追い出されてしまう。

でも、その人々が再び困ったときに彼女は舞い戻って、今度は人知れず、みんなを守ってあげる、ってお話。

 最初のころは、精霊はすごく怖い絵で描かれているんだけど、終わりの方には、おんなじ絵なのに、

なんだかとってもきれいで、優しく描かれている。

ソニアに見せたら、最初の精霊は怖くて嫌い、って言ってたけど、私はどっちの精霊も好きだった。

小さい頃は良くわからなかったけど、このお話は、物事の二面性についてを教えてくれているんじゃないかな、って感じる。

怖い精霊も、優しい精霊も、厳しくて怖い時と優しくて楽しい時とがある母さんやママと、私にはおんなじに思えていた。

 そこで夕方まで本を読んだり、ソニアとおしゃべりをしてから、私はソニアと別れて家に戻った。

マリはまだ帰ってきてないみたい。ママがキッチンで、夕ご飯の支度をしていた。

 「ママ、ただいま」

「あー、おかえり、カタリナ」

「なにか手伝う?」

「良いの?じゃぁ、これの皮剥いてくれ?」

私が聞いたら、ママはピューラーと大きなジャガイモを3つ、私に手渡してくる。

「それ、アヤちゃんのところで獲れたんだって」

ママはそんなことを言いながら、トントンと野菜を刻んでいる。
 


 ガチャっと玄関を開ける音がした。

「ただいまぁ」

そう言いながら、マリがリビングに現れた。なんだか、疲れたような顔をしている。

「あら、おかえり。なんだか、ぐったりしてない?」

ママも気が付いたみたいで、マリにそう尋ねている。

「うん、遊びすぎちゃった…」

マリはそう言って苦笑いをする。

「そっか。先にシャワー浴びてきたら?そうすればすこしさっぱりするかも」

「うん、そうするね」

ママに言われてマリはニコッと返事をして、部屋へ戻って行った。

 「ママ、ジャガイモ、終わったよ」

「ありがとう、じゃぁ、それ蒸かすから頂戴」

ママはお鍋に布を張ったものの上にジャガイモを置いて、火をかけて蓋をした。

それ、布が燃えたりしないの、と聞いてみたら、布の下には水が張ってあって、その蒸気でお芋を“煮る”んだって教えてくれた。

アクシズにいた頃は毎日出来合いの食事ばかりで、自分で作る、なんて考えたこともなかったけど、

こうしてお料理をするのも、楽しいな。

 それからもママを手伝って、夕飯が完成した。

その頃には、一階から母さんが帰ってきて、マリもシャワーから出てきた。

今日は、2種類のパスタにポテトサラダに、塩とお魚の小さいのを煮込んで味を付けた、冷製スープ。

 4人そろって、夕ご飯を食べだす。

「うはっ!今日はパスタか、うまそうだなぁ!」

母さんがそんなことを言いながら、大皿に盛ったミートソースを自分のお皿にとって口に運ぶ。

「こっちのサラダは、カタリナに作ってもらったんだよ」

「ホントか?どれ、味見…ん!おいしい!やるじゃないか、カタリナ」

「ううん、ママの言うとおりにやっただけだよ」

「そうか?アタシは料理とかできないからなぁ、昔もアリスに頼ってばっかりだったよな」

「何言ってんのよ、あんたの方が上手でしょうに」

「え、そうなの、母さん?」

「そうよ~?レオナが小さい頃なんかは、けっこうしょっちゅう作ってくれてたんだから。

 ユーリはね、スープとか、それから、ライス使った料理が得意よね。リゾットとか」

「へぇ、母さん、そんなことできたんだ!アクシズじゃ配給食だったし、初めて聞いた!今度作ってよ!」

「えぇー?仕方ないなぁ、じゃぁ、仕事のない日にな」

「やった!」

そんな話を、食べながらする。ふと、隣に座ったマリが気になった。元気がない。

話にも入ってこないし、そう言えば、食事も進んでない。
 


「マリ、どうしたの?」

ママもマリの異変に気が付いてたみたいで、マリにそう聞く。

「うん、ごめんなさい、なんだか食べたくないんだ」

マリは静かにそう言う。

「私のサラダ?お、おいしくできたと思うんだけど…い、いやだった?」

私は心配になって聞いてしまった。でも、マリはぶんぶんと首を横に振って

「そうじゃないよ、カタリナのサラダ、食べてみたい。でも、食べたくないんだ…」

と言う。どういうこと?そう思ったら、急に母さんが立ち上がった。

「マリ、あんた…」

母さんはそう言いながら、マリのおでこに手を当てる。そしてすぐに険しい顔をした。

「…40度は出てるな…アリス、悪い、すぐに氷嚢頼む」

「あら、具合い悪かったのか」

母さんは、ママとそんなやりとりをしたと思ったら、そのままマリを椅子からグイッと持ち上げて抱き上げた。

まるで大きい赤ちゃんみたいに、マリは母さんに抱っこされる。

 母さんはそのまま、マリを部屋に運んで行った。マリ、体調悪かったんだ…

だ、大丈夫、かなぁ…あのマリが食事もできないなんて、よっぽどのことだよね…

 私は少し心配になってママを見た。ママは私の視線に気が付いて

「大丈夫、ただの風邪でしょ」

って言って笑ってくれた。私はその言葉と笑顔に、なんだかちょっとだけ、安心できた。

 それから、私とママは二人で夕食を食べ終えて、片づけをしてから部屋に向かった。

母さんがマリのベッドに寄り添うようにして、何かをやっている。

「どう、様子は?」

ママが聞くと、母さんは苦笑いを浮かべて

「なにかの感染症みたいだ。ケガとかはないから、破傷風ってわけでもないんだけど…

 反応的に見て、細菌、ってよりは、ウィルスかなにかのセンの方が濃そうだな」

「だとすると、特定は難しそうね」

「そうなんだ」

母さんは肩をすくめた。そんな母さんの手をマリがギュッと握る。

「ユーリ母さん、私、死んじゃう?」

マリは、とっても辛そうに、怖そうに、母さんにそんなことを聞く。でもそれを聞いた母さんはカカカって、笑った。

「こんなんで死んだら、コロニー作らなきゃならないくらいまで人間が増えたりしないよ。安心しな」

母さんがそう言ってマリのおでこを撫でる。
 


「でも、わたし、前にも死にそうになったよ」

マリは、続ける。

「マライアちゃん達と会って、お腹空いてて、おいしいご飯食べていいよって言われて、

 いっぱい食べたら、急に苦しくなって、それで…」

「あぁ、急性ショックか。宇宙旅行症候群、なんて言ったっけな。ははは、そんなのとは全然違う。

 今、マリの体には悪いバイキンが居て、それとマリの体の中の…防衛部隊が戦ってるんだ。

 そのバイキンは、マリの体に攻撃は出来るけど、防衛部隊を攻撃することはできないから、負けることはない。

 もちろん、マリの体はちょっとダメージを受けるかもしれないけど、死ぬようなことはないよ」

「…分かった」

マリは、母さんの返事を聞いてうなずいた。なんだか、真剣な表情だ。

戦う、と言われたら、モビルスーツに乗っていたマリのことだ、なにか、そう言う、心構えみたいなものがあるんだろうな。

「状況が分からないから、とりあえず抗生剤は打っておいたけど、

 ウィルスなら種類特定してワクチンが欲しいところだよな。アタシ達にも伝染しないとも限らないし」

「そうだね。総合病院に連絡してみる?」

「うん、アタシがやっておくよ。アリスは、アヤちゃんのところに聞いてみてくれないか?」

「アヤちゃんに?」

「あの子達、この島での生活が長いんだろ?なにか知ってるかもしれないし、な」

母さんはそう言って笑った。

 それから電話を掛ける、と言うので、ママと母さんは部屋を出て行った。

私はマリのベッドの枕元に座って、じっと様子を見つめる。

 汗をいっぱいかいて、暑そうだ。苦しそうにゼーゼーと息をしている。

「カ、カタリナ…」

マリが、苦しそうにしながら私の名前を呼んだ。

「ん、どうしたの?」

「わ、わたしが死んじゃったら、母さんたちをお願いね」

真剣にそんなことを言うから思わず笑っちゃった。

「大丈夫だよ、マリ。母さんは宇宙一のお医者さんなんだから。母さんが大丈夫と言ったら、大丈夫なの」

私はマリにそう言ってあげる。それから

「なにか、飲む?あと、お腹空いてない?」

と聞いてあげると、マリはうーん、って唸ってから

「アイス食べたい。暑い」

なんて言ってきた。

「うん、分かった。母さんに聞いてくるから、ちょっと待っててね」

私は、マリの肩をポンポン叩いてあげてから、リビングへ向かった母さんたちのところへ向かった。
 


 母さんやママが電話で確認したところ、マリの症状はたぶん、この島周辺に良くあるウィルス性の熱病で、

一週間ほどすれば治る、とのことだった。

でも、母さんの言った通り、私達にも順番に伝染する可能性が高いから、ワクチンを接種したほうが良いらしくて、

こんな時間だけど、夜勤のドクターが対応してくれると言うので、母さんが総合病院までお薬を取りに行くことになった。

お医者さん同士なら、こういう話は早いんだ、って母さんが言って笑った。

でも、病院まではちょっと距離がある。歩いて行ったら、往復で二時間はかかってしまうくらい遠い。

そこで、ママが電話していたアヤさん達に、車を出してもらうようにお願いした。

アヤさんはマリを心配してくれてすぐに行く、って言ってくれた。

 ちょっとして、すぐ玄関のチャイムが鳴った。

 ママが玄関に出て、戻ってきたらアヤさんが一緒だった。

「あぁ、ごめんな、アヤちゃん。夕飯食べてた時間だったみたいなのに」

母さんがアヤさんに謝る。でもアヤさんははははって笑って

「いや、こっちのことは良いんだよ。あの病気辛いからな。早く薬もらってきて、休ませてやんないとかわいそうだ」

って言ってくれた。

 アヤさんは、強くて優しくて、面白くって、マライアさんも、島の他の人たちも、みんなアヤさんが大好きだ。

もちろん、私も、アヤさんは母さんやママの次くらいに安心できて、頼れて、好きな人だ。

「じゃぁ、ユーリさん、行こうか」

アヤさんはそう言って、母さんと一緒に出て行った。
 




 「カタリナ、大丈夫?」

マリが心配げに私を見下ろしている。死にはしない、なんて母さんは言ってたけど、これってすごく苦しいね…

これでも、あらかじめワクチンを接種をしてたはずなのに…なんにもなかったマリはもっとつらかったんだろうな。

 アヤさんが車を出してくれて、母さんが病院から薬を譲ってもらってから一週間。

母さんの治療の甲斐あって、マリはみるみる元気になった。

明日からは一緒に遊んだりできるねっていうときに、今度は私が同じ病気になっちゃった。

 母さんも言っていたし、あの日もアヤさんも、それ、順番に罹るから覚悟しとけよ、なんて言ってたけど、

まさか本当にこんなことになるなんて。

しかも、私だけじゃなくて、三日前にはママも発症して倒れてしまっていた。

これだと、母さんも時間の問題かもしれない…

マリのときもそうだったし、私達のことを診てくれているし、一緒に居る時間が長い分、いつそうなってもおかしくはないけど…。

「大丈夫だよ、マリ…これ、苦しいね」

私は笑顔を作ってみたけど、うまくいったかどうかは分からなかった。

「お水とか欲しかったら言ってね。あと、アイスとか、氷とか、エアコンの温度とか、

 やってほしいことあったら言うんだよ?」

マリがあれこれ心配してそんなことを言ってくる。

「ありがとう」

私はお礼を言って、またぐったりとする。そこへ、ドアをノックして母さんがやってきた。

「おーい、カタリナ。具合いはどうだ?」

母さんは注射のセットを抱えてそんなことを言ってくる。

「けっこう、苦しい」

私が言うと、母さんは苦笑いを浮かべた。

「この手のウィルスは増殖力が爆発的だからな。

 初期症状に気が付かないと、一時的に免疫機能の反応が遅れるから、ひどくなっちゃうんだよ」

そんなことを言いながら、母さんは注射器で小さな瓶の何本かからちょっとずつ薬を吸い込むと、消毒をした私の腕にチクっと刺した。

「これは?」

「ん、解熱剤と、追加のワクチンと、栄養剤。こいつで多少、苦しいのは取れるし、

 あとで生理食塩水の点滴もしてやるから頑張りな」

注射器を抜いて、そこをまたアルコール綿でギュッと押さえながら母さんは言った。

なんだか、ふうって息が出てしまった。具合悪いって、辛いよね。
 


「マリ、ごめん、私、氷欲しいな」

私は、すごく暑く感じていたので、マリにお願いした。マリは、

「うん、待ってて!」

って、すごい勢いで立ち上がったかと思ったら、バタバタと部屋から出て行ってしまった。

「あはは、張り切ってるな、マリのやつ」

それを見て母さんが笑う。

「張り切ってる?」

「うん。マリ、自分が具合い悪いときに、ずっとあんたに世話してもらってたの、すごくありがたがってたから、

 たぶん、そのせいだろ」

母さんはニッコリ笑ってそう言った。世話する、なんて言っても、昼間のうちにちょこっとだけ様子見て、

なにかほしいものはないか、なんて聞いてただけだったけど。

ママは教室に行って勉強を教えなきゃいけなかったし、私もそれについて行っていたから、

一階の病院でお医者さんをやっている母さんがいちばん面倒を見ていたと思うんだけど…

「私、なにもしてないよ?」

私が聞いたら、母さんはまた笑って

「具合いが悪くなると、心細くなるもんなんだよ。特に、マリ、最初は死んじゃうかも、なんて思ってたくらいだ。

 カタリナが多少でも世話を焼いてくれてたのを、ちゃんと覚えてるんだよ」

って教えてくれた。そっか、そうかもしれなな。だって、私も今ちょっと心細いもん。

夜寝るときとか、マリが一緒に、同じ部屋で寝ていてくれたら安心するな。

私は、マリのときは伝染するから、って言われて一緒に寝てあげられなくて、代わりに母さんが私のベッドで眠っていたけど…

 バタバタと足音をさせて、マリが戻ってきた。両手で氷嚢と、砕いて小さくしてくれた氷の入った小皿を大事そうに抱えていた。

「食べたいのか冷やしたいのかわからなかったから、両方持って来た」

マリも母さんとおんなじ、優しい笑顔でそう言ってくれた。

マリから氷嚢を受け取って、タオルに包んで首元におく。冷たくって、気持ちいい。

「氷は?食べる?置いておく?」

マリが聞いてくる。

「うん、一個食べる」

ちょっと食べたら、もうすこし冷めるかな、体…そう思って、返事をした。そしたらマリは、ひとつぶ氷を持って

「はい、あーん」

なんてやってきた。

「だ、大丈夫だよ、それくらい自分で出来るからっ」

「ううん、ダメダメ、具合い悪い時は休んでないといけないって、母さん言ってたから」

なんだか、悪いなって思って、遠慮したのに、マリはそう言ってやめてくれなかった。

仕方ないから、マリの指から氷を口で受け取ると、マリは嬉しそうに笑った。
 


 そんなとき、玄関のチャイムの音がした。今日は土曜日でお休みの日。こんな時に、誰だろう?

「わたし、出てくるね!」

マリがそう言って、また部屋から飛び出した。母さんも相変わらず、その様子を可笑しそうに見ていた。

その眼はとっても優しくて、私に向いているわけじゃないのに、なんだか私まで嬉しい気持ちになってくる。

家族って、不思議だね。ここで一緒に過ごしている時間って、まだ一か月くらいしか経ってないのに、

マリは私のことや、母さんや、ママのことをすごく大切に思ってくれてるってのが分かる。

もちろん、私もそんなマリを大切な人だって思う。一か月前に会ったばかりのママも同じ。

だから、よけいに不思議。だって、一か月前は知らない人同士だったのに…

こうやって、心配したりされたり、母さんみたいに、優しい顔をして見つめたり、叱ったりするんだもん。

好きだ、って思っても、そんなに簡単に行くのかな、ってちょっと思ってるんだ、本当は。

 「母さん、レナちゃんが来てくれたよ!」

マリがそう言って部屋に戻ってきた。後ろには、アヤさんの家族のレナさんが居た。

「お日様熱が拡大中だって聞きましたよ」

「お日様熱?」

「ここいらでは、そう呼ぶらしいんですよ、その病気。島に来て、お日様にいっぱい照らされ慣れていない人が罹るから」

「なるほど、うまく言ったもんだな」

レナさんの言葉に、母さんがそう言って笑った。

「これ、果物持って来たんです。市場で、知り合いのおじさんが安くしてくれたんで、たくさん買えて。

 良かったら、食べてください」

レナさんがそう言って、大きなビニールのバッグを母さんに差し出した。

「いいのかよ、ありがとう!悪いな、気を使ってもらっちゃって」

「いえいえ。持ちつ持たれつ、ですよ」

「わー!おっきいオレンジ!リンゴもあるよ!」

マリが袋の中を覗いてそんな大声を上げた。

「あ、そうだ、カタリナ、食べるか?朝から何も食べてないもんな、あんた?」

母さんがそう言ってくれた。うん、冷たくしたやつだと、もっと嬉しいな。そんなことを思って、私はうなずいた。
 


「そっか。今切ってくるから、待ってろな。レナちゃん、良かったらお茶でも出すからさ、すこしゆっくりして行ってくれよ」

「ふふ、お邪魔しちゃ悪いですから、すぐにお暇しますよ」

「あ、母さん、私が切ってカタリナに持って来るから、オレンジ頂戴!」

マリがそんなことを言って、バッグに手を突っ込んだ。でも、私の気持ちは、ちょっと違った。

オレンジも食べたいけど…でも、それよりもしてほしいことが、実はあるんだ…。

「マリ…」

私はそう言って、マリを呼び止めていた。

「ん、なに、カタリナ?あ、オレンジが良い?リンゴ?」

「ううん、マリ、行かないでここにいてくれない?

 お話できる元気はないかもしれないけど、ひとりになっちゃうと、なんだかさみしいかも、って思って…」

私が言ったら、マリは一瞬キョトン、って顔をしたけど、すぐにあの真剣な表情で

「うん、分かった!一緒に居るよ!」

なんて言って、私のベッドのそばに座り込んだ。

「見てて上げるから、ゆっくり眠ったほうが良いよ!」

いや、フルーツは食べたいんだけど、な…そんなことを思ったけど、マリの言葉が嬉しくって、私はうなずいて目を閉じた。

 熱が高くて、暑いし、呼吸も苦しいし、全然、楽でもなんでもないんだけど、それでも。

目を閉じても、そばにマリがいるのが分かる。なんだか、それが、私にはとっても嬉しくて、暖かく感じられていた。
 


つづく。


軸がぶれているようでぶれていないと思いたいペンション日記。

描きたいのは、クリス、シーマさんと同じく、幼いマリが考える、これからのこと。

“自分で決めた運命を生きられないなんて…”とルーに言われたプルツーの妹として、

マリが自分で“決めた運命”を見つけるまでを楽しんでいただけたら、と思います。

 

ぶれてなどいない!

マリもカタリナもかわええのぉ



ぶれてはいないけど、砂糖と蜂蜜とメイプルシロップとあと色々とあま~いナニかでコーティングされてるのは確か。

>>721
あざっす!
10歳の女の子ってこんな感じですよね(妄想の中では)?

>>722
あざっす!
トロトロです、甘々です。


続き投下します。


 それからまた一周関して、私の具合いも良くなった。

いつもみたいに、マリとママと教室に行ったら、先に来ていたみんなにあっというまに取り囲まれてしまった。

「お日様熱だったんでしょ?大丈夫?」

「あれ、大変だよな。俺もここへ来た頃に罹ったんだよ」

「お薬注射しておくと大丈夫だってお医者さんが言ってたけど、注射した?」

とか、マリと私の周りに来た子達は口々に私たちにいろんなことを聞いて来た。

私とマリはそういうのに一つずつ答えながら、お勉強が始まるまで待った。

「はいはい、じゃぁ、席について!」

ママがそう号令を出したら、みんなはパッと自分の席に散っていく。

そんなとき、フラリ、と私たちのところへ、あの目つきの怖いラデクくんがやってきた。

「なぁ、大丈夫なのか?」

ラデクくんは、ボソッと、私にそう聞いて来た。

私は、ノートとペンケースをカバンから出そうと思っていたところだったけど、ちょっとびっくりしてその手を止めてしまった。

「う、うん、大丈夫だよ」

「元気だよ!ラデクくん、ありがとう!」

私とマリがそう返事をしたら、ラデクくんは

「そっか」

と小さな声で言って、またフラッと歩いて自分の席に座った。

 な、なんだったんだろう、今の?いつも怖くてなんとなく距離を置いていたけど…

ラデクくんて、ホントは、優しい人なのかな?
 


 マリはあんまり気にしてないみたいだったけど、私はなんだか今のことが引っ掛かって、

お勉強にいまいち集中できなかった。そんなだったから、お弁当を食べている最中に、ママに聞かれてしまった。

「カタリナ、今日はなんかボーっとしてたけど、大丈夫?まだ、具合い良くなかった?」

「ううん、そうじゃなくて、ね」

私はママに、朝あった出来事を話した。そしたらママはクスッと笑って

「あぁ、そっか、そんなことがあったんだね…。ラデクくんは、悪い子じゃないよ、きっとね。

あんまり喋らないし、目つきも怖いけどさ、私は分かるよ。彼はすっごく、優しい人だと思う」

なんて言った。そしたらマリも

「そうだよ?ラデクくんは、いつもみんなのことを見てて、みんなの心配をしてる人なんだから!」

って言い出した。マリは、ニュータイプ、っていうやつだから、そう言うの私達よりももっと強く感じるんだって、

母さんが言ってた。ママやマリがそう言うのなら、もしかしたら本当にそうなのかもしれないな…

でも、やっぱりちょっと怖いけど…。

 「そういえば、お二人さん、今日の午後の予定は?」

思い出したように、ママがそう聞いて来た。

 私たちは今日は、マルコ君たちと一緒に公園で遊ぶことになっていた。

図書館にも行きたかったけど、今日はソニアも公園に行くっていうし、週末には街へお出かけして本を見れるから、

今はそっちが楽しみなんだ。

「今日は、みんなで公園!」

「うんうん!サッカーするんだよ!」

私たちが言ったら、ママは嬉しそうに笑って

「そっか。でも、病み上がりなんだから、特にカタリナは無理しないようにね」

って言ってくれた。
 


 お昼ご飯を食べ終えて、ママと別れた私たちは、みんなと一緒に公園に向かった。

公園は、教室のあるところから、すこし港の方へ歩いたところ。

ちょうど、アヤさん達のペンションのある通りに沿って町へすこし歩いたところにある。

開けていて見晴らしが良くって、いつも青い海が見下ろせる場所だ。

 公園に来たのは、マルコくんに、いつもマルコくんのそばにいる男の子3人と、ソニアにソニアの友達のサシャ、

あと、ディーノくんに、サブリナさんとその友達の年上の女の子2人。それから、ラデクくんも一緒だった。

私はちょっと驚いたけど、マリに言わせると、別に珍しいことでもないようで、良く一緒にサッカーをしたりして遊んでいるんだという。

 「おっしゃ、チーム分けだ!」

マルコくんが張り切ってそう言う。みんながマルコくんの周りに集まった。

こういう時はだいたい、同じくらいの年で、同じ性別の人とじゃんけんをして、勝った方と負けた方に分かれてチームになる。

もちろん、私の相手はマリ。実は、マリにじゃんけんで勝つことはできない。

言わないでもわかると思うけど、ニュータイプ能力のせい。

チームを決めるだけなら別にいいけど、勝ち負けに関わることだと、ちょっとずるいなぁなんて思うこともたまにある。

 グーを出した私は、案の定、パーをだしてきたマリに負けちゃった。

私のチームは、ラデクくんに、マルコくんの子分みたいなマットくん、それからソニアにサブリナさん、サブリナさんの友達の、ドリスさん。

 マリのチームは、マルコくんに、アルビンくんに、ハンスくんと、サシャに、アシュレーさんと、それからディーノくんだ。

 「よし!キックオフ!ピピー!」

マルコくんが口で笛のマネをして、ゲームが始まった。

サッカーって言っても、この公園のコートはゴールのポストがあるだけでネットもないし、そもそも、テニスコートくらいの広さしかない。

私たちも真剣に試合をするっていうより、みんなで走り回って、笑って楽しむのが目的だ。

特に、マルコくんなんかは優しくて、小さいディーノくんあたりにパスを出してあげたり、

他の子がたくさんボールを蹴れるようにいろいろと気を使ってくれる。

 マルコくんが出したパスをディーノくんが受けて、ゴールの前まで走ってきた。

ディーノくんが蹴ったボールはゴールのポストに当たって跳ね返ってしまう。

「惜しいぞ、ディーノ!」

「次、次!せめて来るぞっ、もどれ!」

マルコくんとアルビンくんが楽しそうに言っている。こぼれたボールをラデクくんが取って、コートを駆け上がった。

そこへ、マリがものすごい勢いで突進して行く。ボールを取る、っていうんじゃなくて、

完全に足元をすくうようにして伸ばしたマリの脚を、ラデクくんは器用に飛び越えて、私にボールをパスしてきた。

 地面をころころ転がってきたボールを足で止めて、ベコッと前に蹴っ飛ばしてゴールを目指す。

と、前にはマルコくんが出てきた。困ってしまう前に、すぐ脇に走ってきていたサブリナさんにパスを出す。

「アブリナ、ゴー!」

ドリスさんがそう叫んでいる。でも、その前に立ちはだかったのはディーノくん。

ディーノくんは、もう反則なんだけど、サブリナさんの脚にしがみつくみたいにして、何とかボールを取ろうとしている。

「ちょ、ディーノ!脚持たないでよ!」

サブリナさんは楽しそうに笑いながら、器用にボールを足先で転がしてディーノくんをからかうみたいにして逃げ回っている。

サブリナさん、じょうずだなぁ。
 


 でも、そんなことをしていたら、そこにまたマリが突進して行った。

「もらったぁぁ!」

でも、そんなマリを身をひるがえすようにしてするりと躱したサブリナさんは、再び私にパスをくれた。

目の前には誰もいない、フリー、ってやつだ!

 私は思いっきりボールを蹴っ飛ばした。ベコっと鈍い感触があって、

ボールはゴールとはてんで違う方向へ転々と転がって行ってしまった。

「あちゃ、ごめんなさい、サブリナさん」

「あはは、気にしない気にしない!もっと行こう!」

サブリナさんはそう言って笑ってくれた。

 転がったボールを一足早く、ディーノくんが取りに走っていた。

私がその姿を目で追っていたら、ボールの転がった先に、誰かが居た。男の人だ。

8人くらい?ううん、10人いる、かな…それも、みんなずいぶんと大きい体をしている。

その人たちは、私達を見ていた。と、ボールを追いかけて行ったディーノくんの足が止まった。

 そこにいるみんなが、そのことに気付いた。

「どうした、ディーノのやつ?」

「誰だ、あれ…?」

マルコくん達が口々に言っている。

 すると、見ていた男の人たちの一人が、不意にディーノくんの腕をつかんで引っ張った。

「お、おい、あいつ!」

それを見たマルコくんが走り出す。みんなも、マルコくんのあとを追った。もちろん、私も。

「おい、なにやってんだ!」

マルコくんがそう叫ぶ。

「あぁ、なんだ、ガキが」

ディーノくんの腕をつかんだ男が言う。なんだか、イヤな感じのする人だ…

人相が悪くて、どこか、ラデクくんの鋭い目つきとは違う、怖い目をしている。

肌に伝わってくる雰囲気も、なんだか私の胸をドキドキと詰まらせる。あぁ、怖いんだ、これ…

私は、自分の感じていることに気が付いた。

「は、話してよ、おとーさん!」

ディーノくんが言った。

 お父さん?この人は、ディーノくんのお父さんなの?
 


「まぁ、そう言うなよ、ディーノ。母さんがよ、お前を連れて帰れば、ヨリを戻してくれるってんだ。

 大人しくついてこい。昔みたいに、お仕置きされんのイヤだろう?」

男は、言った。

 そうだ。マルコくん達は、親や家族と一緒に暮らせない子ども達。親が病気になったり死んじゃったりしてる子もいる。

でもそうではなくて、親が虐待をしたりして、引き離されてここへきている子だって、いる。

ディーノくんは、そうだったの?そして、あの人が、ディーノくんのお父さん…?

ディーノくんに暴力を振るっていたりしたの…?

「ディーノを離せよ、おっさん」

マルコくんはそう言うが早いか、転がっていた石を拾い上げて男に投げつけた。

石は狙った通りなのか、男の顔面に飛んで行って、慌てた男は、ディーノくんの手を離して、石を両腕で払いのけた。

 その隙に、ディーノくんが私たちの方に逃げてくる。

「このクソガキ…痛い目に遭いたいらしいな…」

男が、そばにいた他の男たちにも目配せする。

 あぁ、これは、まずいよ。どう考えたって、こんな人たちからディーノくんを守ってあげることなんてできない…

ディーノくんどころか、私達全員、殺されちゃうかもしれない…どうしよう、どうしよう…?!

 膝が震えてくるのをこらえながらそんなことを考えていたら、マリが叫んだ。

「みんな!ディーノ連れて逃げて!」

マリは叫ぶのと同時に、男たちの前に立ちふさがった。

「マリ!」

「カタリナも早く!誰か、大人呼んできて!」

私が止めようと思って名前を呼んだら、マリはさらにそんなことを言ってきた。ダメ、出来ないよ、マリ。

私、怖くて、逃げ出したいけど、だけど、マリを置いて行くなんて、出来ないよ!

「サブリナさん!ディーノを頼む!」

ラデクくんも叫んだ。

「おい、お前ら!走れ!人呼んで来い!」

マルコくんがアルビンくん達にそう言いつけた。

「…わ、わかった!マルコ兄、待ってろ!」

アルビンくんがそう言って、ディーノくん達の手を引いて公園を走って出て行った。

「ちっ!邪魔すんじゃねぇ、ガキども!」

男がマルコくんを蹴り上げる。マルコくんはそれを避けると、男の顔面に拳を振り上げて叩きつけた。

 でも。男はそれを何でもないようにしてこらえている。

「ちっ!」

マルコくんが舌打ちをして、素早く後ろに下がった。

「このガキ…生かしちゃおかねえ…!」

男の目に、狂気が灯った。

「来なさいよ!あんた達なんか、怖くないんだから!」

マリが声を上げた。ラデクくんは黙って半身に構える。二人とも、戦う気だ…人数も、体の大きさもまるで違うのに…!

すぐさま、男たちが3人を取り囲む。私は、それを少し離れたところで見ているしかできなかった
 


「手を挙げた相手が悪かったな。俺たちゃ、元連邦の軍人だ。生きてママの顔を見れると思うなよ」

男の中の一人が言った。でも、マリ達は動じなかった。それどころか、マリなんかは鼻で笑って

「あんた達、軍人だったの?へぇ、でも、どうせ人も殺したことのない、

 この地球で威張り腐ってただけで、宇宙にも出たことのない弱虫でしょ?」

なんてことを言いだした。

「ガキが、黙らせてやる!」

男の一人がマリを殴りつけた。でもマリはそれをするりと躱して、男を、今まで見たことのない、鋭い目つきで睨み付けた。

「あんた達は、人を殺す、ってどういうことか、知ってるの?

 殺されるかもしれない、って恐怖を知ってるの?

 一瞬でも気を抜いてもダメ、油断しても、怖がって、身を引いてもダメ。

 そんな経験をしたこと、ないでしょ?」

そう言ったマリのその眼は、男たちに『わたしは、あるんだよ?』と言うことを伝えるには十分な雰囲気だった。

男たちが一瞬たじろぐ。

「ガ、ガキが!知った風な口をききやがって!」

「そ、そうだ!こんな小娘に何ができるってんだ!」

男たちは、マリに浴びせかけられた視線の威圧から抜け出るように口ぐちにそう言うと、一斉に3人に手を伸ばした。

 囲まれていたんじゃ、避けるなんてできなかった。

まるで、3人は、今まで私たちが蹴っていたサッカーボールみたいに、蹴られて、殴られて、男たちの間を転がっていく。

「マリ!ぐはっ!」

ラデクくんが叫ぼうとして、お腹を蹴られてうずくまる。

 すこしも経たないうちに、3人とも、その場に転がって動かなくなった。

「くそ、時間取られた…おい、あいつを探せ!」

ディーノくんのお父さんらしい人が、周りの人たちにそう言う。

でも、散らばりそうになったそのときに、マリの手がピクリと動いて、ひとりのズボンのすそを捕まえた。

「行かせない…行かせないんだから…!」

マリは口から血を流しながら、うめくように言った。

 ズボンをつかまれた男が、脚を大きく振り上げた。あれは…ダメ!

 考える暇もなかった。気が付いたら私は駆け出して、マリを庇うようにして上に覆いかぶさっていた。

次の瞬間、重くて鈍い痛みが脇腹に走る。

「ひぐっ…」

思わず、そう声が漏れた。痛い…痛いよ…

「か、カタリナ!」

マリの声が聞こえる。

 この人たち、なんでこんなにひどいことするの?なんでよ、私達、ただ楽しく遊んでただけなのに…

なんでこんなことになってるの?この人はお父さんなんでしょ?それなのにディーノくんに手を上げるなんて、どうして?

なんでよ?家族なんじゃないの…?

私の知っている家族は、もっとあったかくて、幸せで、優しくて、それで…それで…

自分よりも大事にしてあげたくなっちゃうくらい、大好きなのに…

あなたはどうして、ディーノくんに暴力なんてできるのよ!?そんなのは違う、間違ってる…!

そんなのは、そんなの、いくら血がつながってたって、そんなことをする人は、家族なんかじゃない!


「おい、いいから早く、あいつを探せ」

ディーノくんのお父さんがそう言って、男たちが、みんなが逃げた方へと歩き出す。

「許さない、あんた達、許さない!」

マリが大声を上げた。

 気が付いたらマリは、何か、得体の知れない気配を発して男たちに突進していた。

「ちっ!いっぺん死にたいみたいだな、クソガキ!」

マリが腕を振り上げた。男も、大きく脚を振りかぶる。

 次の瞬間、男が足を振り抜いて、マリは…別の人に体を捕まえられて、動きを止められていた。

「ったく、あいつらがギャーギャー言うから、なんの騒ぎかと思って来てみたら…」

マリの体を押さえつけたのは

「アヤちゃん!」

レオナ姉さんの家族、アヤさんだった。

「あぁ、傷だらけにされて…痛かったろ…」

アヤさんはアザだらけになったマリの顔を優しく撫でて、ポンポンと頭を軽く叩く。

「アヤちゃん、あのねっ!」

そう言いかけたマリの口をアヤさんは人差し指を立てて優しく塞いで

「分かってるよ。あとは、任せな」

と柔らかい声で言って、男達を睨み付けた。

「アタシの可愛い弟妹に手を出して、ただで済むと思うなよ…」

アヤさんは今度はとがった低い声でそう言う。

「あんた達もよく頑張ったみたいだね。チビ達を守ってズタボロになってさ、男じゃないか」

「子ども相手にここまでやるなんて…ちょっとくらいの反省じゃ、済まさないよね」

後ろで別の声がしたので振り返ったら、そこには…

「カレンさん!」

「マライア姉ちゃん…!」

マルコくんとラデクくんが叫んだ。

アヤさんの友達のカレンさんと、マライアさんがいた。

「あんた達は下がってろって。アタシがやるから」

アヤさんが手をポキポキならしながらそう言う。

「まぁ、そう言わずにさ。あたしにもやらせなって」

カレンさんも首をパキパキと左右に振りながら応える。

「10人か、3で割ると、1人余っちゃうね」

マライアさんは腕をグルグル回している。
 


「はっ、何かと思えば…女が三人出てきてなんだってんだ?保護者会なら他所でやれや」

背の高い男が低い声で言う。でもアヤさんはヘラヘラと笑って

「いや、保護者会はここでやるって聞いたんだ。でっかい僕ちゃん達のママはまだ来てないのか?」

って言い返す。

「このアマ…!」

男が拳に力を込めた。

アヤさんの両脇にはマライアさんとカレンさんが並んで、男達をじっと見つめている。

「どいつもこいつも、乳臭いと思ったらそう言うことか。早く帰っておっぱいしゃぶらせてもらいなよ。

 イライラしちゃってさ、ポンポン空いたんでちゅよね?」

「ねね、最後の1人は早い者勝ちってことでいいかな?ね?良いよね、それで?」

み、みんな、なんでそんな怒らせるようなこと言うの?!

相手はただでさえあんなに大きい男の人で、それもいっぱいいるって言うのに…!

「クソ女どもが、言わせて置けば!やっちまえ!」

背の高い男が叫んだ。男達が一斉に三人へ飛びかかった…でも、ホントに一瞬の出来事だった。

「うらぁぁ!」

アヤさんが叫び声をあげて、まず最初の男の顔を下から振り上げた拳で殴り付けた。

さらに振りかぶったアヤさんを見て両腕を顔の周りに引き寄せた男のその腕の上から叩き付けた拳がほっぺたにめり込む。

その男の髪の毛を掴んでまた顔を狙って、今度は膝蹴りをしたと思ったら、

その後ろから来た男のお腹を跳ぶようにして反対の足で蹴っ飛ばして、

くるっと一回転してムチみたいにしなった脚が、男の首と顎を凪ぎはらった。

 カレンさんは最初に飛びかかった男のお腹を膝で蹴り付けて地面に引っ張り倒し、

その男を踏みつけながら飛び上がって別の男の顎を爪先で蹴りあげたと思ったら、

着地した瞬間にはそばにいたさらに別の男の顔に肘打ちを炸裂させた。

 マライアさんは、組み付こうとして来た男の腕を捻りあげて地面に叩き付け、

それを見て助けに入ろうとした次の男の襟首を掴んだと思ったら、頭の後ろからまた地面に叩き付けて、

さらにそばでびっくりしていた男の胸ぐらを捕まえて、素早く遠くに投げ飛ばした。
 


「はっ、何かと思えば…女が三人出てきてなんだってんだ?保護者会なら他所でやれや」

背の高い男が低い声で言う。でもアヤさんはヘラヘラと笑って

「いや、保護者会はここでやるって聞いたんだ。でっかい僕ちゃん達のママはまだ来てないのか?」

って言い返す。

「このアマ…!」

男が拳に力を込めた。

アヤさんの両脇にはマライアさんとカレンさんが並んで、男達をじっと見つめている。

「どいつもこいつも、乳臭いと思ったらそう言うことか。早く帰っておっぱいしゃぶらせてもらいなよ。


 あまりのことに、最後に残った一人の男の人がしりもちをついてへたり込んだ。

「さて、こいつ、どうする?」

アヤさんがカレンさんとマライアさんを見て言う。

「そりゃ、二度と同じことをしないように体に覚えさせないとね」

カレンさんが表情を変えずに応える。

「それならあたしの出番だね。まずは末端からやると良いらしいよ。

 指を一本ずつ反対に曲げて行って、全部終わったら次が腕と膝で、それでも言うこと聞かなかったら、次は爪なんだって」

マライアさんがニヤニヤして言う。

「あー、なるほどな。まずは指か…カレン、あんた左手やれよ、アタシが右やるからさ」

「あぁ、それじゃぁ、そうさせてもらうよ。じっくりと記憶して帰ってもらわないといけないからね。

 今日みたいなことをしたら、どうなるか…」

アヤさんとカレンさんがそんな事を言いながら男ににじり寄った。

「ひっ…ひぃぃぃ~!」

最後に残ったその男は、そんな情けない声をあげて、何度も転びながら、どこかへ走って行ってしまった。

その後ろ姿を見送ってから、アヤさんはポケットからPDAを取り出した。

「カレン、施設に電話かけてくれ。マライアは、ユーリさんだ。子ども達の手当て頼まないと」

「アヤさんは、どこにかけてるの?」

マライアさんが自分のPDAを取り出しながらアヤさんに聞く。アヤさんはニヤッて笑って

「保護されてる子どもに勝手に手出しする親は、治安警察に引き渡すようになってんだ、連邦法で、な。

 まぁ、それでなくても、傷害罪なんだろうけど」

とため息混じりに、そう答えた。
 


つづく。


ジャブローの三連星…w

乙!

定期的に鬼神が出て楽しいぜ!



ま、まあ出て来たのがこのオメガ三人娘でよかったよな。
隊長夫妻だったりシーナ様だったりしたら命か男の尊厳かどちらかがなくなってたよw

そういえば主要キャラはそうでもないんだけど、「嫌な連邦軍人」と聞くとどうしても
安彦良和が描く連邦モブキャラがイメージされるんだw

>>734
感謝!
定期的に暴れさせたくなります、アヤさんw

>>735
感謝!!
シイナさんは混ぜてあげても良かったかなぁ…でも、男たち踏みつぶされてたかも…w


連邦の嫌な軍人について…
イメージをこれでもかっていうくらい共有できてうれしいですw
ドダイ的にも、ほぼ同一のイメージで書き進めておりました。
一種の記号のような存在なのかもしれませぬ。


そんなこんなで、ペンション日記ZZ編、ラストパートになります。




 「ふぅ、まったく。こんな時間になっちゃったじゃないか」

アヤがニコニコしながらそんなことを言って、リビングのソファーに腰を下ろした。

「でも、みんなが無事で良かったじゃない」

私が言ってあげたら、アヤはまた笑顔で

「まぁな。あいつら、アタシがチビだったころにそっくりだよ」

なんて嬉しそうに言った。

 「皆さん、今夜もお疲れ様です」

そんなことを言いながら、レオナがバーボンとグラスにアイスボウルを乗せたトレイを持って現れた。

「あぁ、レオナ。ありがとう、ロビン達はもう寝た?」

「うん、もうぐっすり」

アヤが聞いたら、レオナはそう言って、あのかわいい笑顔を見せてくれた。

「マリオンももうすぐ戻ってくると思うし、先に飲みません?」

「そうだね。始めちゃおうか」

 やっぱり、母屋を作って正解だったな、ってこういうときほど思う。

ペンションの方のホールでおしゃべりするものいいけど、お客さんがいるときはあんまり遅くまではやっていられないし、

ペンションでもリラックスしてくつろげるけど、やっぱり、気にするものがないこの母屋のリビングでは、夜のこの時間も別格だ。

 私たちは乾杯して、チビチビとバーボンを傾ける。

「それにしたって、良かったのかよ、レオナ?」

夕飯の残りを肴にしていたアヤが、レオナにそうたずねた。

「ん、なにが?」

「アリスさんと一緒に住まなくて」

「あぁ、うん、いいんですよ」

レオナは笑った。

「会いたいと思えば、会いに行けるところにいるだけで、安心するんです。

 それに、私は、ママにいっぱい愛してもらってた。今度は、それをマリに向けてほしいんですよね。

 あの子にもきっと、それが必要だって思うから…」

「そっか。まぁ、もう十分かもしれないけどな、マリのやつも」

「どういうこと?」

私が聞いたら、アヤはクスっと笑って、

「いや、昼間のこと」

とだけ言って、バーボンをあおった。

 昼間のことは、マライアから詳しく聞いたけど…そこでマリになにかあったのかな?

でも、アヤやマライアの様子なら、それはきっと良いこと、だったんだよね。

それなら、今度マリに会ったときに、確かめてみればいいかな、なんて、私はのんきに構えていた。
 


 カチャっと音がした。玄関の開く音だ。

「ん、マリオンかな?」

アヤの言った通り、マリオンがリビングに姿を現した。

「おかえり、マリオン。見回り、ありがとうね」

私が言ってあげたら、マリオンは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべて

「あ…はい」

なんて、言葉少なに言う。感情の表現の少ない子だな、なんて最初にあったときは思ったけど、

こうして一緒に暮らしていると、この子ほど感情豊かな子はいないんじゃないかな、って感じる。

もちろん、表現はうまくないけど、私達だからこそ感じられる、“アレ”で、良くわかる。

海を見たり、空を見たり、庭の芝生を見るだけで、こんなに気持ちが沸き立つくらい、感性も豊かな子なんだ。

今度、ホールに飾る絵でも描いてもらおうかな?もしかしたら、すっごく上手かも知れないしね!

 そんなことを考えていたら、マリオンが後ろを振り返った。

「あの…お客さん、です」

マリオンに続いてリビングに姿を現したのは、アリスさんだった。

「ん!ママ!」

レオナがピョンと飛び上がる。ふふ、これは、嬉しいお客さんだね、レオナ。

「こっちに居たのね。ペンションの方に行ったら、マライアちゃんからいなかったから」

アリスさんはそう言いながら懐っこい笑顔を浮かべる。

「最近は、夜勤当番以外はこっちに帰ることにしてるんだ。一応、家だしな。

 あ、まぁ、アリスさんも座ってくれよ。飲むだろ?」

「ええ、じゃぁ、少しだけ」

アリスさんはそう言って、ソファーに腰を下ろした。グラスをぶつけて、アリスさんがバーボンに口を付ける。

それから、なんだか改まって

「今日は、迷惑をかけてごめんね。うちの子達を助けてくれて、ありがとう」

とアヤに礼を言った。アヤは相変わらず照れたみたいで

「べっ、別にそう言うことじゃないだろ!もとはと言えば、うちのチビどもが無茶して巻き込んじゃっただけで…

 こっちこそ、謝んなきゃいけないくらいなんだ」

なんて言う。その話は、昼間さんざんしたんじゃなかったの?二人とも。

 それからしばらく、二人のありがとうとごめんなさいのやりとりが続いた。

アリスさんはアヤをからかっているみたいだったけど、アヤの方がいっぱいいっぱいになってそれを必死に躱している感じだった。

「そ、そんなことよりもさ、アリスさん!」

アヤが、いかにも思い出しました、みたいな感じでそう言いだした。

「アリスさんは、あの戦争中に地球に降りたんだろう?どうしてすぐにレオナに会いに行けなかったんだ?」

アヤの質問は、私もすこし疑問に思っていたことだった。本当はすぐにでも会って、逃げ出したかったはずなのに…

どうして、レオナ達が発見するまで、アリスさんは身動きできなかったんだろう?
 


「あぁ、うん。話してなかったっけね。地球に降下して、私は、連邦の研究所に入った。

 そこで、人工知能の研究をつづけながら、レオナの居所をつかむつもりだったんだ。

 ほら、レオナを連れて行ってくれた研究者ってのがたでしょ?

 彼とも、コンタクトを取る方法を事前にいくつか準備しておいた。

 でも、地球に降りてすぐに、人工知能の研究を一緒に行っていたミズ・ルーツ博士ってのが、試験中の事故で亡くなって、

 私が関わっていた人工知能計画自体が凍結になって、連邦軍にいられなくなった。

 幸い、私はその研究所に居た人のツテを借りることができて、アナハイムエレクトロニクスへの入社が決まって、

 地球に留まることが出来たけど、ほとぼりがさめて、レオナを連れ出してくれた研究者とコンタクトを取ろうと思っても、音信不通。

 あとで調べてみてわかったんだけど、そのときには彼も亡くなっていたの。

 それでもほうぼう手を尽くして、なんとか、彼が手がけていた研究の一端を見つけて、そこの情報を集めた。

 それで、発見できたのが、マリオンだったの。そのときにはもう、戦争から3年も経っていてね。

 なんとかマリオンを引き取って、レオナのことも探していたんだけど、ティターンズ、ってのが幅を利かせ始めた時期で、

 それに加えて、レオナは連邦の研究所預かりになったまま、機密裏に移管されていて、追跡が出来ず仕舞い。

 そこで私は方法を変えて、マリオンに力を貸してもらうことにした…」

「能力の、強化です」

マリオンが静かに言った。

「そう…弊害が出ない、うまい方法を探して、マリオンの能力を強化して、レオナを探してもらおうと思っていた…

 我ながら、ひどいな、とは思うけどね…」

「いいえ、博士。これは、私の言い出したことです。博士が気に病むことではありません…」

「そうは言っても、ね。やっていることは、同じだったんだよ」

アリスさんは、すこし悲しそうに笑った。だけど、すぐに表情を変えて

「でも、そんなときに、同じようにアナハイム社に所属していた脱出組のジェルミっていうパイロットから

 会いたいって言っている人がいる、って言われてね。

 それで来てくれたのが、マライアちゃんや、レオナ達。まさか、ALICEの方を辿って見つけてくれるなんて、思ってもみなかったんだ」

なんて、嬉しそうな笑顔を見せた。

「それはね、なんかピンと来たんだよ!マライアちゃんのPDA覗いてて、人工知能とALICEって文字を見てたらさ」

「あぁ、そう言えばそうだったな。さすが、ニュータイプの勘ってやつだな」

楽しそうに言うレオナにアヤが調子を合わせておだてる。それからアヤは、話題が逸れたことに満足したようで

「まぁ、なんにしたって、みんな無事で、新しい生活ができて何よりだよ」

なんて、話を閉めにかかった。もう、それってちょっと乱暴すぎない?

って思っていたら、私の気持ちを感じ取ったのか、アヤがこっちをチラッと見て苦笑いして見せた。

アヤってば、いい加減、その照れ屋なの、直せばいいのに。
 


 なんても思いながら話を聞いていたら、急にアリスさんが口を開いた。

「レオナ…あんた、考えは変わらないの?」

それを聞いたレオナは、それまでの笑顔を真剣な表情に変えて

「うん」

とだけ返事をした。

「どうして?私たちに気を遣うことなんてないのに…」

「ううん、そう言うんじゃないよ。でも、アヤさんやレナさんが、ここが私の家だって、言ってくれたから」

なんのことかと思ったら、その話か。

ユーリさん達がこの島に来て、ペンションの客室から今の家に引っ越しをするにあたって、アリスさんとユーリさんは、

レオナに一緒に住まないか、と声を掛けていた。さっき、アヤとの話題にも出ていた話だ。

 その誘いを、レオナは笑顔で断った。自分には、レベッカがいるっていうことと、それから、

私達と一緒にいるのが良い、と言ってくれた。

気を使ってそんなことを言っているんじゃないってのは、感覚で分かっちゃっていたから、嬉しかったけどでも、

すこし複雑でもあった。

だって、レオナにしてみたら、アリスさんもユーリさんも、ずっと会いたいと思っていて、

死んじゃったって思っていた人たちだったわけでしょう?

それも、幼いころの話だし、今でも一緒に居たいって思っても不思議ではなかったのに…。

「それに、ね…」

レオナは、目に、うっすら涙を浮かべてアリスさんを見た。

「マライアと一緒に宇宙に出て、いろんなことを調べて、私は、ママやユーリにいっぱい愛されていたんだなって、すごく実感できた。

 私のことを、二人が命を懸けて守ってくれた。それが嬉しかったし、生きてたって分かって、すごく嬉しかった…。

 私を守ってくれたおかげで、私は、今、アヤさんやレナさんや、レベッカにロビンに、マライアに…

 たくさん仲間が出来て、支えてもらいながら、生きてる。それだけでも十分満足だったのに、二人が生きていてくれて…

 いつでも会いに行けるところにいる。私にとって、こんなに幸せなことはないんだよ!

 だから、私はこれ以上は望みようがないんだ!今度は、私が誰かを幸せにしてあげる番なんだよ。

 私はね、お姉さんとして、マリに、もっとちゃんと、愛情を上げたいんだ。ママの暖かい愛情も、

 ユーリの、ちょっと行きすぎだったり、ときどき厳しくて怖かったりするのも…

 それから、私のも、アヤさんやレナさんや、マライアのもの、カタリナだって、そうしてくれると思う。

 あの子には、なんにもなかったんだ。でも、少しずつだけど、今は、いろんなことを感じ始めてる。

 目一杯甘えて、ちゃんと子どもやって、ゆっくり、満たされながら、成長して行ってほしいって、そう思うんだ」

レオナの言葉に、アリスさんはほほ笑んだ。
 


「そっか…ふふ、マリ、ね。レオナ、あんた、マリを見くびっちゃダメよ?」

「え?」

「あの子は、あんたが思っているより、ずっとたくましくて、ずっと頭が良い。

 私たちが思っている以上に柔軟で、自由だよ。私たちがどれだけあの子にしてあげられているかわからないけど、

 あんたが変に意気込まなくたって、あの子は、私達以外からの愛情も、きちんと認識して、

 それを味わってくれている。あの子は、変わってるけど、でも、今はすくすく育ってるよ」

アリスさんは可笑しそうな表情でそう言い、それから、いつにない、穏やかな声で

「だから、やせ我慢はやめなさい。甘えたいときは、甘えたっていい。

 あんたを愛してあげたからって、マリの方をおろそかにする、なんて、そんなことないことくらいわかるでしょう?」

と言って、レオナの手を握った。レオナの頬には、涙が伝った。

 それからレオナは、言葉もなくうなずいて、アリスさんに引き寄せられるようにして、その腕の中に納まった。

 その様子を、私はアヤと手を握って眺めていた。マライアが見たかった、って言っていた意味がなんとなく分かる気がした。

もしかしたら、戦いから逃れてきた私たちは、こう言う物を求めて、今までやってきていたのかもしれないな…。

祈りや、想いが、形になって、繋がりになって、この戦争の続く世界を繋ぎとめて行くんだって、そうとすら思える。

アリスさんがそうだったように、私とアヤがそうだったように、敵も味方も、ジオンも連邦もない。

そう言うのものを越えて、私達は繋がれるんだ。ただ一つ、幸せを見つけたい、その想いだけで…。


 




  二週間後、私は、マリと、母さんとママとで、島からフェリーで30分くらいの港町にいた。

今日は、約束していたお出かけの日、だ。

 「わー、すごい、大きい街だね!コロニーみたい!」

マリがそんなことを言いながらはしゃいでいる。私もドキドキしている。

だって、私は生まれてからずっと、アクシズで暮らしていたから、コロニーにも行ったことはなかったし、

こんな大きい街は本当に初めてだ。

 「ね、ね!ご飯食べるところはあるかな?」

マリが楽しそうにそんなことを言う。

「マリは本当に、そればっかりだなあ」

「いいの!おいしいの食べるのは幸せでしょ!」

母さんが笑ったけど、マリはそれを笑い飛ばした。

「アヤちゃんの描いてくれた地図だと、この大通りを2ブロック行ったところに大きい本屋さんがあるらしいけど…」

「ま、時間はいっぱいあるからさ。のんびり行ってみよう」

広げた紙を見てそう言ったママに、母さんは明るく言った。

「ほら、あそこの店なんかおもしろそうだ!」

「わ、わー!きれい!あれ、何屋さん?」

「なんだろうな、あれ?マリ、ちょっと行ってみよう!」

「うん!」

「あ、ちょ、マリ!ユーリ!」

母さんもなんだか楽しくなっているようで、マリを連れてお店に走り出してしまった。

ママが二人を呼んだけど、本当に一目散、だった。

 「まったく、ユーリもマリも…」

ママが呆れた様子でため息をつく。でも、マリも母さんも楽しそうで、私も嬉しいな。

「まぁ、いいわ。PDAにメッセージだけ入れておいて、私達は本屋さんに行こう」

「うん!」

ママがそう言ってくれたので、私はママと一緒に、この見慣れない街の大通りを歩いた。

あちこちに色とりどりの看板がかかっていて、おいしそうな食べ物の匂いや、楽しい音楽か聞こえたりしている。

歩いているだけで楽しくなる。
 


 2ブロック歩いてた先にあった交差点の角に、ひときわ大きい建物があった。

「ん、これみたいだね」

「これ?何階が本屋さんかな?」

私が聞いたら、ママはクスッと笑って

「これ、全部が本屋さんだよ、カタリナ」

え…これ全部が、本屋さん?だ、だって、この建物、5階建てくらいはあるよ…?これ全部が、本屋さんなの…!?

「す、すごい!」

私は思わずそんなことを言って、ママに飛びついていた。ママはニコニコしながら

「さて、絵本コーナー探さないとね。迷子になっちゃだめだよ」

なんて言った。そうだね、こんなに大きいところじゃ、はぐれたら大変。私は、そう思って、ママの腕にしがみついた。

この手を離さなきゃ、大丈夫、だよね…?

 私たちは、そのまま、本屋さんに入った。

入り口のすぐそばには、色とりどりに印刷された雑誌が、これでもかっていうくらいに並べてある。

そのコーナーを抜けて、ママがエスカレーターのそばにあった、案内板を見た。

絵本コーナーは、2階、って書いてある。そのまんまエスカレーターに乗って、絵本コーナーまで行く。

そこは、もう、なんだか夢みたいな場所だった。

図書館で見た絵本もたくさんあるし、私がまだ見たことのない絵本もたくさん置いてある。

 「なにかほしいのがあったんだっけ?」

「うん!『北の海の妖精』!」

私が答えると、ママは宙を見据えて

「あぁ、あれね。なんてったっけ…えぇ、と、確か古い民話が元の、ラーズグース?ラーグズリース…?

 違うな、そんなような名前だったと思うんだけど…」

なんて言っている。
 


 私はママの腕を引っ張りながら、北の海の妖精を探す。絵本はすぐに見つかった。でも、1種類じゃなかった。

本棚には、おんなじ名前の本が、3種類、どれも違う絵柄で描かれた本だ。

「あった!でも、いろいろある…これは図書館にあるやつだ」

私はその中の一冊を手に取る。図書館にあるのに比べて、ピカピカでピンピンでとってもきれい。

「確か、アジアか北米のもっと北の方の地方民話だった気がしたけど…マイナーな話の割に、

 いろいろと書いてる人がいるんだね。中を見てごらん、それぞれ、ちょっとずつお話が違うはずだから」

ママがそう言って、別の一冊を取って開いてくれる。

確かに、そこに書いてある文章は、図書館にあるこの本とはちょっと違う。

「気に入ったのを選ぶと良いよ!本はいくら持ってても良いものだからね。科学者が言うんだから、間違いないよ」

「じゃ、じゃぁ、例えば…これ、3冊とも欲しいって言ったら…?」

私は、ちょっとドキドキして聞いてみた。だってこれ、おんなじ話だけどちょっとずつ違って、絵も違うし、

図書館の方の妖精はかわいい感じだけど、ママが取ってくれた本の妖精は、妖精っていうより、女神さまみたいできれい。

もう一冊はちょっとおどろおどろしい絵で描いてる。三冊あったらすごい嬉しい…

「あー、良いよ良いよ!今日はもう、10冊でも20冊でも選んじゃって!そのために来たんだから!」

「やった!ありがとう!」

ママは、母さんみたいに豪快に笑ってそう言ってくれた。

私はもう、どうしようもなく嬉しくなって、そう叫んでママに抱き着いた。ママは私の頭をなでながら

「ふふ、分かった分かった。だからほら、それよりも、もっと絵本見よう!」

「うん!」

なんだかもう、頭がおかしくなりそうなくらいに嬉しくて、私は絵本を選ぶのなんかよりも、

ママに抱き着いたままはしゃぎまわってしまった。

あとから考えたらお店の中で大きな声を出してしまって恥ずかしかったけど…でも、それでも、いいかな!
 


 それから、絵本を5冊も買ってもらえて、マリ達と合流した私とママは、

4人でそろって、港の近くにあったダイナーでご飯を食べた。

 マリは相変わらずの食いしん坊で、ハンバーグのランチと、食後にはパフェを頼んだ。

マリは、私は自分の分でいっぱいだよ、と言うのに

「一口!おいしいから、ほら!」

って言って、全部の料理を私に一口ずつおすそ分けしてきたりした。

マリの気持ちが分かっているから、私は、断るわけにもいかないで、結局、お腹がパンパンに膨れるくらいまで食べてしまった。

 食べ終えてからは、また街を歩いて、お洋服を選んだり、テーブルクロスを探したり、

良いにおいのするお香、なんてのも買った。

 アクシズや、戦艦の中にいた頃には、考えもつかない生活。

私は、心のどこかにあった、固く軋んだなにかが、ゆっくりと溶け出すような、そんな感じを覚えていた。

どうしてなんだろうな、と考えて、私はすぐに答えを見つけた。

 マリが笑っているからだ。

マリだけじゃなくて、母さんも、ママも、ニコニコ笑顔で、4人で一緒に、街歩きを楽しんでいる。

それだけで心の中が暖かくなって、私も自然と笑顔になる。

私たちは、まだ、家族2か月目。まだまだ、始めたばっかりで、それがどう言う物か、とか、

どうあるべきか、なんてこと、全然わからないし、考えもつかないけど、でも、ひとつだけ確かなことがある。

 今、私は、この4人でいることが、とっても幸せで、みんなが笑顔でいてくれるのが、とても嬉しい。

マリの言葉を借りれば、私達は、幸せ4つ。

一人よりも、二人よりも、4人で幸せを持ち寄って、これからもっとそれを増やしていけるんだろうな、

なんて、そんなことだけは、確かに感じられていた。


「あ!見てみて!カタリナ!おもちゃ屋さんだって!」
「あ、ホント!ねぇ、カードあるかな?こないだマルコくんが持ってたやつ!」
「ちょ、待て、二人とも!あのおもちゃ屋さんは違う!あれは大人向けのお店だ!」
「おもちゃ?大人もおもちゃが欲しいんだ?」
「カードとか、パズルの売ってたお店なら、向こうの通りにあるみたい。行ってみる?」
「行く!」
「よし、じゃぁ、そっちへは私が一緒に行ってあげるわ!」
「やった!」
「ユーリはあっちのおもちゃ屋さんを見て来ていいわよ~?好きでしょ、おもちゃ?」
「ちょ、ア、アリス!」
「あれ?ユーリ母さん、なんで赤くなってんの?」
「いっ!いいから!あんた達は、アリスとカード探しに行って来い!」

母さんが、なんだかわからないけど、ワタワタしながらそう言ってくる。

なんだか、そんな様子も、私にもどうしようもなく嬉しく感じられて、いつのまにか声を出して笑っていた。
 




おまけ編以上です。


山なし落ちなし意味なし!

大丈夫だったのかな、このおまけ…w
 

乙乙。大丈夫、満喫しました。

ラーズグリーズと聞くとエースコンバットを思い出してしまいますな

機動戦士ガンダム乙乙

ほっこりが止まらない……
まて、ユーリ。そっちのオモチャのことならアヤレナさん達の情報を待つんだ!



<< エッジ、エンゲージ >>

↑ラーズグリーズと聞くと本家ワルキューレよりこっちを連想しちゃうの

>>749>>750
感謝!!!
ラーズグリーズは、そっちのラーズグリーズのイメージで合ってますw
絵本のタイトルも「姫君の青い鳩」にしようか悩みましたがやめましたw


どうもこんばんは、ドダイです。

いつもお読みいただきありがとうございます。

このスレへの今後の投下につきましてのご案内をさせてください。


まず、このシリーズは、次回作の逆シャアで一応最終のつもりでいます。

その後、ユニコーンをちゃんと観賞してみて隙が有りそうであれば、また、その時に考えます(笑)


で、逆シャア編を書くにあたってはもう少々、時間を頂きたいと思っています。

ただその前段の話として、逆シャア編に連なるプロローグをこのスレに投下していきたいと思っています。

いずれにしても逆シャア編の構想が出来るまでは書き出せない部分もあり悩ましいのですが…そうさせてください。

その間に、また別のペンション日記のアイデア浮かべばゲリラ的に投下させていただきます。


最初のスレを立ててから早、4ヶ月。
たくさんの方に読んでいただき、またレスもたくさんいただけて大変感謝しております。

このシリーズはもうちょっとだけ、続くんじゃ…的な感じで、最終の逆シャア編をこれまでのシリーズの総括にすべく、練りに練りたいと思っておりますので、

しばらく投下できないことをご了承いただきつつ、ゲリラ投下や新スレ立てをwktkして待っていて頂けたらと思います。

長い間お付き合い頂きありがとうございます。
これからあとちょっとも、どうかよろしくお願いいたします。


長文失礼しました。

wktkしながらまってるよwwwwww
練りに練ってくれ

それまでちゃんと待ってるから

>>753
お、楽しみにまってるよ
ゆっくりやっておくれ



>このシリーズはもうちょっとだけ、続くんじゃ…的な

イカン! これはターンAまで書き続けるフラグだぞww

>>754
感謝!
頑張ります!

>>755
感謝!!
なるべく早くに戻ってきます!

って、続くんじゃ、拾ってくれたおかげで、おかしなことになってますよ…
連載作家さんの気持ちってこんななんですね。

富樫仕事しろ、なんてもう二度と言わない…w

 <ホントごめん、レナ。こんなときに居てやれないなんて…>

アヤが電話の向こうでしょんぼりしている姿が目に浮かぶ。

「大丈夫だよ、こっちにはマライアもレオナもいるし、人手は十分だから。アヤこそ、気を付けてよ」

<うん、分かった…>

そう言ってあげたのに、アヤはまだ立ち直っていないみたいだ。まったく、世話が焼ける大黒柱だこと。

 そんなことを思っていた私の手から、マライアが受話器を奪い取った。

「アヤさん!うだうだ言ってると、鉄拳制裁だよ?」

<あぁ?やれるもんなら、やってみろよ!>

「あはは、その意気その意気。こっちは大丈夫だからさ。レナさんの言うこと聞いて、アヤさんはアヤさんの安全を確保しなさい!」

<ちぇっ、あんたにまで言われるとは思わなかったよ…。分かった、今日はもう、無理はやめてホテルを取る。

 マライア、あんた、みんなを頼んだからな>

「うん、任せて!その気になったらハリケーンの一つや二つ、メガ粒子砲で吹っ飛ばしてやるんだから!」

マライアはそんなことを言って可笑しそうに笑っている。私はそんなやりとりを、懐中電灯の電池をチェックしながら聞いていた。

 アヤは、珍しく海の向こうの港まで、お客を船で送って行った。

昨日から近海に発生したハリケーンは、そのまま西にコースを取るって予報だったのに、なにがどう変わったのか、

まるで反対方向の、島の方へと進路を取ってきた。

このあたりじゃあ、ハリケーンは迷走するから、こんなことは珍しくもないんだけど、

今回ばかりは少し、タイミングが悪かった。

 アヤはここから南へ100キロほどのところにある港街で、足止めを食ったらしい。

いや、無理してでも帰ってくる、と言いだしそうな雰囲気だったので、絶対にそんなことはしないで、と口を酸っぱくして言った。

ペンションの中でハリケーンに襲われるのと、海の上で襲われるのとでどっちが危険か、なんて、アヤならわかりそうなものだけど。

本当に、私達のこととなると、見境がなくなっちゃうんだから、アヤってば。

 それは嬉しくもあるけど、ちょっぴり心配でもある。

いつだったかロッタさんが私に、アヤが突っ走りそうになったら止めてね、なんて言ったことがあったけど、

確かに、思い返せばそんなやりとりをしてきたことは多いよね。

 「んじゃ、気を付けてね!」

マライアがそう言って電話を切った。受話器を置きながら鼻息荒く

「まったく、アヤさんてば!聞き分けの悪いヤツ!」

なんて言っている。それもまた、なんだか可笑しくって笑ってしまった。

 パタンと音をさせて、ホールにレオナと、それにくっついてロビンにレベッカがやってきた。

「2階のシャッター、締め終わったよ」

「かんりょうしました!」

「いろう、ありません!」

レオナの報告に、二人がピンと気を付けをして敬礼しながら言う。これは、マライアとやっているごっこ遊びの続きだだ。

「うむ!ロビン隊員、レベッカ隊員!ご苦労であった!」

マライアも負けずにピンとなって敬礼を返す。

 「さって、じゃぁ、ペンション防衛隊は、そろそろおやつにしようか」

「わ!食べる!」

「今日はなに?シュークリーム?」

レベッカったら。シュークリームは、昨日食べたでしょ?今日は、パンケーキ!
 


 ロビンとレベッカはテーブルに人数分のお皿を並べてくれる。

私とレオナで手分けしてパンケーキを焼いてホールに運んだときには、マリオンも無事に帰ってきていた。

「あぁ、おかえり、マリオン。大丈夫だった?」

私が聞くとマリオンは、柄にもなく

「風が…雨も、すごくて…」

となんだか一人で慌てている。ハリケーンは初体験なんだろう。そんなに怯えなくっても、大丈夫だよ。

 私はマリオンをなだめて、買ってきてもらった予備の電池を受け取ってから、とりあえずイスに座らせた。

「ここ…大丈夫でしょうか?」

「大丈夫。こんなの、この時期は2週に一回のペースで来ちゃうこともあるんだから」

私はそう言ってあげながら、みんなのカップに紅茶を注いで、イスに着いた。

 ロビンとレベッカにレオナは、目をキラキラ輝かせてパンケーキを頬張っている。

マリオンもそれをみて少し安心してくれたのか、小さく切ったパンケーキを控え目に口に運んだ。

この子ってば、本当に大人しいなぁ。すこしアヤに分けてあげたいよ、この感じ。

 「ぬわぁ!レオナ!あたしの食べたでしょ!?」

「わ、私じゃないよ!」

「じゃぁ、誰が!?せっかく切っておいたのに!」

「そうなんだ、小さいからバレないかと思ったのに」

「レオナァ!」

…マライアにも、分けてあげたい、かな。

 そんな様子を見ていたら、不意にロビンと、それに次いでレベッカが、何かに気が付いたみたいに、顔を上げた。

私にも、なにかが触れた。誰か、来る?どうしたの、そんなに焦って…?

 ドンドンドン!

思った通り、玄関のドアが激しくノックされた。

 そのとたん、マライアがイスから飛び降りるみたいにして、臨戦態勢に入る。

アヤに、頼む、なんて言われて張り切っているのは分かるけど、すこし落ち着こうね、マライア。

 ドンドンドン、と再びノックの音。まぁ、マリオンがこの様子なら、そうなってるんじゃないかとは思っていたけど、ね。

「おい!アヤちゃん!レナちゃん!いないのか?!」

ユーリさんの怒鳴り声がする。怖がっているみたいな声が、他に3つ。アリスさんに、マリに、カタリナだ。

 「なんだ、ユーリさんか」

マライアはくたっと脱力してそうつぶやくと、

「レナさん、あたし出てくるよ」

と言ってホールから玄関へと向かって行った。

 私も、それを見て席を立つ。

「ん、レナさん、どうしたの?」

レオナが不思議そうに聞いて来た。

「パンケーキを追加で焼いてくるよ。食いしん坊が、増えるみたいだからね」

私が言ってあげたら、レオナも気が付いたみたいで、ニコッと笑顔を見せてくれた。

「それなら、私は、タオル持ってこようかな」

「うん、そうだね。お願い」

レオナもパタパタと食堂を出て行った。


 私がパンケーキを焼いていたら、ほどなくしてホールにユーリさん達が入ってきた。

「あれ、レナちゃんは?」

「あー、こっちです」

私はキッチンから顔を出して言う。するとユーリさんは不安いっぱいの表情で

「な、なぁ、これって避難とかしなくっていいのかよ?」

なんて聞いて来た。ほらね、思った通り。

「大丈夫。この程度なら、まだまだなんでもない方だよ。

 予報じゃ、今夜には島を直撃するみたいだから、盛り上がってくるのは、夕方くらいからかな」

「こ、これ以上激しくなるの…?」

アリスさんもアワアワとその場で右往左往している。

 私は焼き上がったパンケーキを新しいお皿に乗せてホールに運んだ。

レオナが持って来てくれたタオルを頭からかぶっているユーリさん一家四人は、まるで命からがら逃げてきたみたいだ。

まぁ、こんな風の中を移動するのは、確かに危険だけど、ね。

 「ほら、とりあえず、召し上がれ。紅茶もあるから」

私はそう言って四人に席を勧めた。

「わっ!パンケーキ!」

マリの顔が一瞬にして輝く。レオナとおんなじ、かわいい笑顔だ。

食べ物につられるマリとは対照的に、カタリナの方はいまだに焦点の定まらない瞳で、ガタガタと鳴るシャッターの方を呆然と見つめている。
 


 大げさだな、とは思うけど、でも、この島で初めてのハリケーンに遭遇した私も、おんなじようだったかもしれないな。

あのときは…うん、確か、アヤのシャツの裾をつまんで、ペンション中のシャッターを閉めて回るアヤについて回っていた気がする。

この嵐の中を追い返すわけには行かないし、今日はホールで屋内キャンプかな。

客室は、アヤが送って行った大口のお客さんを送り出したままになっているし、そっちへ泊まってもらうのは申し訳ないからね。

 そんなことを思っていたら、ふっと電気が消えた。カタリナが悲鳴を上げる。

「うわっ!大変だ!」

「たいへん!」

「きんきゅうじたい!」

マライアの声に、ロビンとレベッカが答える。

「よし、ペンション防衛隊、出動!倉庫からランタンの搬出作業を開始する!」

「りょうかい!マライア隊長!」

「りょうかい!しゅつどう!」

三人はそんなことを言い合ってから、わざとらしくバタバタと走るマライアを先頭にして、ホールを出て行った。

 私はとりあえず、電池を入れ替えておいた懐中電灯をともした。ユーリさんにアリスさんに、カタリナにマリ、マリオンも、不安げだ。

 そんな5人を安心させようとしたのか、私が照らしていた懐中電灯の前に、レオナがにゅっと手を伸ばしてきた。

何をするのかと思ったら、人差し指と小指を立てて、中指と薬指をまげて親指の先とくっつける形を作って自信満々に

「キツネ!」

と言い切った。

 沈黙が、ホールを包んだ。ガタガタと、シャッターの鳴る音だけが響いている。

「なんか、ごめん…」

レオナがシュンとなった。

 あぁ、もう、なにこの感じ!ごめん、マライア!ペンション防衛隊!すぐに戻ってきて!

ホールが今、得体の知れない危機に陥っているよ!

 私は、平常心を保つために、心の中でそんなことを叫んでいた。
  



つづく。


なんだろう、これ。

特に読んでいただく必要はありませんw
 



ホントなんなんだよwww
自然災害というニュータイプでもどーにもならん危機に立ち向かう訳ね。

そーいやこのメンツのなかで生粋のアースノイドってロビンだけ?

レオナww

>>769
感謝!しかし、なんかサーセンw
地球で生まれ育ったのは、マライア、ロビン、レベッカですかね。

ただ、ロビンとレベッカについては、スペースノイドなアヤレナの娘なので、どっちに分類すればいいのやら。


>>770
キツネ!(マリーダ・クルス似の子 CV:甲斐田裕子)

 


 マライアとペンション防衛隊の二人が帰ってきてから、私はマリオンと逃げ出すようにホールから飛び出していた。

いや、逃げ出したんじゃなくて、その、マリオンとリネンを取りに、ね?

 私たちはブランケットやシーツをしまってある二階の倉庫へと向かった。

マリオンはガタガタと音を立てるシャッターの音を気にして、いちいちソワソワしている。

なんていうか、その怯えた感じが、どことなくかわいかった。

「大丈夫?マリオン」

「あ、はい」

私が声を掛けると、彼女はハッとしてそう返事をした。でも、不安な感じがビンビンと伝わってくる。

倉庫でブランケットと、それから枕なんかを集めながら、私はどうにか、安心してもらえないかと考えた。

確かに、ガタガタ鳴って、風はビュウビュウ吹いてて、雨もまるで地鳴りみたいな音を立てて降っているけど…

でも、これはこれで、情緒ってやつなんだと思えば、案外悪くないと思うのは私だけなんだろうか?

アヤもハリケーンは嫌いだし…私の感覚が可笑しいのかもしれないけど…

「私はね、ハリケーン、嫌いじゃないんだ」

私はマリオンにそんなことを言っていた。

「え?」

マリオンが、静かにそう聞き返してくる。

「ハリケーンは、近海で温められた空気が急上昇して空で冷やされて大きな雲になるんだって言う話だけどさ…

 私、そう言う難しいことは分からないけど、でも、この島にいるとね、

 7月ごろから12月ごろまではこうやって時折ハリケーンが来て、大暴れして行くんだ。

 港の施設が壊されたり、漁礁が荒れたりしちゃことも多いんだけど、でも、それでも、ね。

 私たちが、地球に生きてるんだな、って証拠だって思うんだ。コロニーじゃぁ、こんな気象は起こらないでしょ?

 暖かくって、地面があって、良いところばかりじゃ、きっと退屈しちゃうと思うし、そんなことあるわけがないもんね。

 私たちは、この地球に身を寄せ合って、助け合って生きてる。良い時もあれば、悪い時もある。

 でも、すくなくともどんなときだって私たちは、この星に抱かれて生きてるんだ、ってそう感じられる要素に違いはないと思うんだ。

 だから、このハリケーンも、私にとっては、お天気の日と一緒。

 そう思ってたら、不謹慎だけど、ハリケーンも悪くないかなって、思うようになったよ」

私が言ったら、マリオンは、へぇ、とわんばかりの、キョトンとした表情になった。


マリオンなら、分かってくれるかもしれないな、なんて、話をしてから思った。感性豊かなこの子のことだ。

もしかしたら、イメージを伝えれば、理解してもらえるかもしれない。

「マリオンはさ、絵を描いたりしないの?」

ついでにそのことも聞いてみた。

「絵、ですか?」

「うん、そう。そう言うの、好きそうだなってずっと思ってたんだ」

私が言うと、マリオンは首をかしげた。

「あんまり描いたことないです…」

「そうなんだ…今度さ、みんなで一緒に描いてみようよ!ロビンとレベッカと私で写生大会!面白そうじゃない?」

ちなみに、アヤもマライアも、絵はひどい。

なんでなんだろう、ロビンとレベッカに「ライオンさん描いて!」と言われた二人は、

ロビン達の子ども用の図鑑を見ながら、アヤはトカゲのような生き物を、マライアは…得体の知れない怪獣を描いた。

二人の絵を見たロビンとレベッカの表情は忘れられなくて、思い出すだけで吹き出しちゃいそうだ。

動物なんて図鑑を見なくたって、一種の記号みたいなものじゃない?

マルを描いて耳を付けて、Uをふたっつ並べたみたいな口を描いて黒い鼻をクリクリ描いてあげて、

くるくるタテガミを付ければライオンになるのにね。

牙がいっぱいあって今にも火を噴きそうなのとか、毛並みを再現しようとして鱗みたいになっちゃうのは、全然わからない。

「…それ、楽しそう、ですね」

マリオンはそう言って笑ってくれた。


 私たちは、ブランケットと枕を人数分抱えてホールに戻った。

ホールには、レオナがポータブル用のコンポで、

お客さんがいるときにたまに流しているのんびりしたテンポのクラシック曲をオムニバスにしたデータディスクをかけてくれていた。

良いアイデアかもね。これなら少し和めそうだし。

 私とマリオンで、ブランケットと枕を配った。まだ寝るには早いけど、こう暗いと他にできることなんてない。

こんなときは、寝てしまうに限る。

3人掛けのソファーを向き合わせてくっつければ、寝心地はそれほど良くはないけど、ベッドの代わりになる。

ユーリさん達を優先してあげて、ソファー4脚を貸してあげた。残りは3人掛けが2脚に、二人掛けが、4脚。

ロビンとレベッカは二人一緒でも二人掛けのでベッドを1つ作ってあげれば済むから、

3人掛けの方は、マリオンかレオナに使ってもらえばいいかな。

申し訳ないけど、マライアとレオナかマリオンのどっちかは二人掛けのに座って寝てもらおう。

私はロビン達のベッドに無理やり潜り込むか、狭ければブランケットをもう1枚持って来て、床に寝る、って方法もある。

母屋に戻ればベッドもあるけど、こっちは放っておけないし、

そもそも、さすがにこんな嵐の中、母屋に移動するのは危険が伴うしね。

 私たちはそれぞれで準備をして、寝る支度を整えた。ユーリさんはマリと、アリスさんはカタリナとベッドに横になる。

これって、考えてみたら、不思議な組み合わせだよね。

カタリナはずっとユーリさんと暮らしてきていたのにアリスさんと一緒で、マリはアリスさんの血を引いているわけだし

そっちかな、と思ったらユーリさんと一緒だ。でもきっと、これって4人がちゃんと家族になってるってことだよね。

うん、なんか、いいよね。

 私もロビンとレベッカを寝かしつけるのに、二人のベッドに体を丸めて入り込んだ。

レオナが3人掛けの方に潜り込んで、マリオンはまだ眠る感じではないのか、

ライトをテーブルに置いて何かを眺めながら、お茶をズズっとすすっている。

 「レナさん、あたし、寝る前にもう一度見回りして来るね」

マライアはそう言って、ホールを出て行った。

 「マライアちゃんはお仕事?」

「うん、見回り」

ロビンが聞いて来たので、私は答えた。

「隊長はえらいね」

レベッカがそう言って、ロビンと顔を見合わせて笑う。

「ほら、二人とも寝なさい。今日はお仕事いっぱいで疲れたでしょう?

 明日も片付けお願いするかもしれないから、いっぱい休んでおいてね」

「うん」

私が言ったら、二人はそう返事をして目を閉じてくれた。

 ガタガタと言うシャッターの音に、風の音、雨音のBGMに、ゆったりと流れるクラシックが、妙に心地良い。

私は両手で二人の髪を梳きながら、一緒になって目をつむる。そう言えば、こうやって3人で過ごすのは初めてだな。

それでなくっても、夜寝るときは二人とは別のベッドだ。アヤが帰ってきたら、4人で一緒に寝てみるっていうのも悪くないかもしれないな。

 私はそんなことを考えながら、いつの間にか襲ってきていた睡魔に、意識を奪われていた。


 ホールを出て、1階の階段の下の倉庫に潜り込んだ。その一番奥に、あたしの使わなくなった小道具グッズの箱がある。

あたしは懐中電灯を頼りにその箱を探し当てた。ふたを開けると中からは昔使ってたあれこれが出てくる。

 まずは、連邦時代にもらった、陸戦用のヘルメットだ。それから、ポンチョでしょ。

ブーツは玄関にあるから良くって、あとは…あ、あった、防水用のヘッドライト!

水気の多いジャブロー所属ならではの品だね。予備の電池を入れてみて、使えるかチェックしないと。

防水用のポーチに、携行ボックスに入った工具類を入れて…と。ええと、ピストルベルトもここに入れた気がするんだけど…

お、あった!これにポーチを通せばいいよね。ロープやなんかは要るかな?一応、準備だけはしておこうか。

あれ、これって、ここにあったんだ、サバイバルナイフ。

これはイジェクションシートの下に収まってる装備だったもので、

ジャブロー防衛戦で脱出した後にお世話になった思い出の品だ…

あぁ、あんまり思い出したくない出来事だったけど…ひどかったなぁ、あの戦闘。

まぁ、ともかくこれもケースに入れてピストルベルトに通しておこう。

 と、こんなところだよね、うん。

あたしは一通り装備をそろえて、まずはピストルベルトを付けて、ポンチョを羽織って、最後にヘルメットを装着した。

あ、ゴーグルも居るかな?飛んできたなにかで目をやられたら一大事だよね。ゴーグルも付けておこう。

…よし、準備完了!

 あたしはもう完全って言っていいくらいの装備を整えて、倉庫を出た。

ここからは、ペンション防衛隊のマライア・アトウッド曹長、ひとりの任務だ。

 ひどいハリケーンが来るたびに、アヤさんはときどき寝ないで夜な夜な見回りをしているのをあたしは知っている。

いや、レナさんももちろん知ってるんだろうけど、アヤさんが何にも言わないから、あえて聞かないようにしているのかな。

レナさんはハリケーンも風情があって良いよね、とか言って、みんなを安心させてくれてる。

いや、本当にそう思っているんだろうけど、それはそれで、大事だ。でもそれだけじゃ、安全を守れるとは言い難い。

ペンションの中は、レナさんに任せてる。

でも、ひどいハリケーンのときには、ペンションの外も誰かが守らないといけない。今日はそのひどいハリケーン、だ。

アヤさんがいない今、このペンションを守るのは、あたしの役目!マライア・アトウッド曹長、出撃しまっす!

 と、勢い込んで玄関から出ようとしたら、ホールから出てきたマリオンと鉢合わせになった。

マリオンはあたしの恰好を見てびっくりもせずに、小さな声で言った。

「お手伝い、します」


そうして、あたしとマリオンの不眠不休の一夜が始まることになるなんて、

このときは自分のかっこうが恥ずかしくてこれっぽっちも思ってなんかいなかった。
  


 つづいてしまいます…w

 

乙。投下中に割り込んじゃってごめん。



脱出劇が得意な彼女らが逃げ場のない災害に立ち向かう!!
……なんてシリアス展開にはならんのか?w

マライアもここでためらいもなく曹長を名乗るのな。アヤレナさんの前ではいつまでも曹長なんだ。

>>778
感謝!
いえいえ、レスあざっす!
キツネなレオナさんのかわいさを理解してもらえてよかったですw

>>779
感謝!!
どうなんでしょう、書いていてもよくわかりませぬw

マライアさんの曹長って自称は、彼女にとってはきっと誇りなのだと思います。



誰が待っててくれているのかはなはだ不安な続きを投下します!

 


 あたしとマリオンは揃って表に出た。

マリオンにはティターンズ時代のヘルメットにゴーグルに、それからカッパの下にボディアーマーも装備させた。

なんかあったら、たいへんだもんね、守りは固めておかないと。

 外はもう、文句のつけようのないくらいの、お手本みたいな暴風雨。

立っていられないくらいの風と、それに煽られて叩きつけるように雨が横殴りでバチバチと顔に当たってくる。

おまけに夜だし、停電であたりは真っ暗。これはもう、ひどすぎてテンションあがってくるやつだ。

もう、笑うしかないよね。って、あたしはこんなで平気だけど、マリオンは大丈夫かな?

あたしは後ろに従えていたマリオンを振り返った。彼女は、いつもは無表情のその顔に、笑みを浮かべていた。

「なにこれ…すごい…」

人間って、やっぱり、ある程度いろんな感覚を越えちゃうと笑うしかないのかもしれないね。

「マリオーン、飛ばされないでね!」

風の音に負けないように、マリオンにそう怒鳴ると、マリオンは笑顔で

「大丈夫!」

と返事を返してきた。マリオン、いつもぼそぼそ喋ってるけど、大きい声、ちゃんと出るんじゃんか。

そんなことを思ったら、それもなんだか無性に可笑しくて笑ってしまった。

 「離れないで、着いてきて!」

あたしは口元をゆるませたまま、ペンションの周囲を壁伝いに進むことにした。一周して何もなければいいんだけど…

玄関を出て右回りで母屋の方に向かって歩いていたあたし達は、すぐさま、笑顔なんて忘れてしまった。

 敷地内に、どこのかわからない車がお腹を見せて転がっていたからだ。風で煽られて転がってきたんだ…

このまま放置してたら、また風の勢いで転がって、ペンションの壁か、母屋にドシーン、なんてことになりかねない。

これは、マズイね…。

 あたしは、装備を確認する。ロープを出しておいてよかった。これで転がらないようにどこかに固定しよう。

道路端にあるガードレールが良いかな。あれなら、根元が深くまで埋め込んであるはずだし、風くらいじゃびくともしないよね!

 「マリオン、車を固定するよ!」

「はい!」

あたし達はそう確認し合って、風にあおられないように、慎重に車へと近づく。

ほんの10メートルもない距離だけど、とにかく風も雨もすごいし、よそ見でもしていて何かが飛んでくるとも限らない。

車が転がっちゃうくらいだ。これはどんなものが飛んでくるか、分かったもんじゃないよね。

それを想像したらちょっと怖くなったけど、とにかく、この車は何とかしないと!

 あたしとマリオンは、這いつくばるようにして車までたどり着いた。

マリオンと協力してロープを車輪に括りつけようとしていたら、マリオンは急に、怪訝な顔をした。

 「マライアさん!」

「なに、マリオン?!」

風で声が良く聞き取れない。

「変な臭いがする!」

マリオンの声をなんとか聞き取って、意味を考える。変な臭い…?なんだろう…?あ、ホントだ…あれ、こ、この臭い…!?

あ、え、ちょっと待って…この車って…!

「ガ、ガソリン車だ!」

 
 


 あたしは、裏返った車の腹側を見て気が付いた。これ、ガソリンエンジンを積んでる!エレカじゃない!

これはヤバイよ!これ、この臭いって、ガソリン漏れてるってことでしょ?!

こんなところで引火でもしたら、爆発してペンションにも母屋にも火の手が及んじゃう!

「燃料が漏れてる!」

あたしはマリオンに叫んだ。マリオンはぎょっとした表情をあたしに見せてくる。

「どうしよう!?」

「動かすしかないよ!」

こんなところで爆発されたんじゃ、たまんない。とにかく、場所を移さないと…せめてもっと道路の方に。

できたらそこで、燃料を抜き取っておきたいけど…でも、二人だけでどうやってこのひっくり返った車を運ぶの!?

考えて、マライア!これはペンションの危機だよ!あんたがやるしかないんだ、考えろ!

 あたしは自分にそう言い聞かせて思考を走らせる。でも、どうやったって、人の手では無理だ。

だとするなら、何か機械の手を借りるほかはないけど…車、か。

ガレージのワゴンの方ならパワーもあるし、なんとかなるかもしれない。

 「マリオン!車持ってこれる!?ワゴンの方!」

「大丈夫だと思うけど…!ガレージ、開けて大丈夫かな?!」

マリオンの言うことはもっともだ。

風向きを考えないと、ガレージに風が吹き込みでもしたら、めくり上がってしまうかもしれない。

それはそれで、大問題だ。あぁ、もう!ゼータでもあれば車の1台や2台、ヒョイッと持ち上げて終わりなのに!

「とりあえず、車を固定しよう!一緒にガレージに行って、ワゴン出さないと!」

「分かった!」

あたしはマリオンとそう言い合って、ロープで車のシャフトとガードレールを固定した。

それからまた這いずるみたいにして、なんとかガレージへとたどり着く。もう、この往復だけでものすごい消耗だ。

これが自然と戦うってことなんだね…ジャブローの気候が暑いだなんだって言ってた自分がかわいく思えるよ…。

 ガレージのシャッターの前に立って、風向きを見る。東風、時々南風だ。

南風に吹かれたら、ちょっとヤバそうだよね…タイミングが難しいな…。

 「マライアさん!あたしが車を動かすから、マライアさんはシャッターをお願い!」

「でも、タイミング合せるの、かなりシビアだよ?!」

「大丈夫、ほら、ここで!」

マリオンはそう言いながら、人差し指でこめかみをちょんちょんとつついた。あ、そうか!マリオン、頭良いね!

あたしはうなずいて、マリオンをガレージの中に押し込んだ。

自分は、外で、風向きを観察しながらシャッター解放のボタンの前に立つ。シャッターが開くのには5秒くらいかかる。

開けて、マリオンがすぐに出れば、閉じるのには3秒で済む。最短で8秒。勝負だ…!

 風が弱まったのを感じた。いまだ!あたしは、マリオンの肌触りを感じて、神経を集中させながらボタンを押した。

ガコン、という鈍い音とともに、シャッターがするすると昇って行く。

上に上がり切る前に、マリオンがワゴンに乗って飛び出してきた。あたしはそれを確認して、すぐさま閉鎖のボタンを押す。

上がり切る前のシャッターがまた、するすると降りてきてガシャンとしまった。良かった、なんとかなった!

 


 あたしは、マリオンの運転するワゴンを誘導して、転がっていた車の方へと向かう。

途中、何度か、ワゴンが風にあおられてひやっとする瞬間があった。それ、考えてなかった。


 こんな小さな車がころがるくらいだ。ワゴンなんて背の高い、表面積の広い車はそれだけ風を受けやすい。

長引かせていたら、今度はうちのワゴンがマリオンごと転がって行ってしまうかもしれない。

そんなことになったら、あたし、アヤさんに顔向けできないよ!急がないと!

 あたしはガードレールに結んでいたロープをほどいて、ワゴンの前に取り付けたウィンチに結び付けた。

マリオンに合図をして、ゆっくりとワゴンを交代させてもらう。

ミシミシと車体が軋んで車はドン、と低い音を立てて元の位置に戻った。あとは、移動させるだけ…!

あたしはさらにロープを車の下の牽引用フックに結び付けた。

「マリオン、引っ張って!」

あたしはマリオンにそう怒鳴って、手を大きく振った。

フロントガラスの中のマリオンがオッケーサインを作って、ゆっくりとワゴンを動かしていく。

ロープがピンと張って、ミリミリ言いながらも、転がってきていた車がゆっくりと動き出す。

あたしは車のそばについて、ロープの具合や、進行方向を調整しながら、

なんとかマリオンと一緒になって、車を道路に運び出すことに成功した。

 ウィンチに縛り付けたロープをほどいて、車を改めてガードレールに固定する。これなら、大丈夫、かな。

あとは、雨でガソリンがきれいに流れてくれると良いんだけど…。

 「マライアさん、どう!?」

「うん、これで大丈夫!ワゴンをガレージに戻そう!」

そのままワゴンに乗って、ガレージに戻って、出した時と同じように風向きに気を付けながらテキパキとワゴンを中に戻した。

 もう、とんだ騒ぎだよ…さて、見回りの続き、はじめないとな。そう思って、あたしはマリオンを見やった。

大丈夫かな、相当な肉体労働になってきてるけど…

「マリオン、まだ見回り続けるけど、大丈夫?」

「ええ、問題なしです」

あたしが聞いたら、マリオンはかすかな笑顔を浮かべて、そう返事をしてきた。

感触もまだ、やわらかだし、大丈夫そうだ。

「それなら行こう。気を付けてね」

「はい!」

あたし達はまた、壁に沿って、ペンションの周りの状況を確かめに戻る。

さっき、車が転がっていた辺りは、もう何もない。

そのまま壁沿いに車を退避させた道路側へと歩いて角を曲がったとき、何か聞きなれない音が聞こえてきた。

 ガランッ、ガンッ、ゴンッ

 なにか、金属みたいなものがぶつかるような音だけど…

あたしは風で持って行かれそうな体を壁で支えながら音のする方を懐中電灯で照らす。
 


 その瞬間、照らされた暗がりに動く何かが見えた。こっちへ来る、すごい勢いで…あれって…ガスボンベ?!

見えたのは、生活用のガスを入れて家の外に置いておくための1メートルくらいある円柱状のガスボンベだった。

それが、ガランゴロンと音をさせながら踊るみたいにして、まっすぐにあたし達の方に向かってくる、それもすごい勢いで…!

あぁ、これヤバイっ!!!!

 あたしはとっさに、マリオンの体を掴まえて地面に引き倒した。

あたし達の頭の上スレスレをボンベがすっ飛んで行く。幸い、直撃は避けられた。

 ふぅ、と息を吐いたのもつかの間、後方で、ベゴンッと言う鈍い音がするのが聞こえた。

今度は、なによ!?

振り返ったてライトで照らしたらそこには、恐ろしい光景が広がっていた。

今のボンベが、さっき退避させた車のフロントガラスに突っ込んでいたのだ。

 ちょ、え、なんでよ!?どうしてそんな、爆発物に爆発物突っ込むようなことになってんの!?

あそこなら万が一車に火がついても大丈夫だと思ったのに!

あれでもし火が付いたら、この風だし、燃焼したガスが一気に拡散してたちまに気化爆弾だよ!?

 「マライアさん、あれ、危険ですよね…」

「ものすごい危険だね」

マリオンが恐る恐る言うので、あたしもそうとだけ返した。

それから二人して顔を見合わせてうなずきあってから、何とか起き上がって這って車へ向かう。

火が付いていなければ、ガスを漏らしても大きな問題にはならない。

今のうちに、あのボンベのバルブを解放して中身をカラにしておけば、車が燃えても被害はない筈だ。

 車にたどりついたあたし達は、割れたフロントガラスを工具で叩き壊して車の中からボンベを引っ張り出す。

30キロそこそこだから、二人でやればそうたいした重さではないんだけど、この風と雨の中でそれをするとなると一苦労だ。

それでもなんとかバルブ部分だけ外に出せたので、それをひねってガスを放出させる。

これだけの量だから、3分はかかりそうだな…最後に、もう一度ここにチェックしに来ればいいか。

 「マリオン!ペンションの方に!」

「はい!」

そう言ってあたしはマリオンの手を引いてペンションの方に向かおうとしたら、

またガランガランという音が聞こえてきて、目の前に何かがふっと現れた。

と、思ったら鈍い衝撃があたしを襲って視界がふさがた。

「んがっ!?」

そんな情けない声を漏らしてしまったあたしは思わず後ろに倒れ込んでしりもちをついた。

「マライアさん!大丈夫!?」

マリオンがあたしを助け起こしてくれた。

「もう!」

あたし目がけて転がってきたのは金属のバケツで、身をかがめていたあたしの頭にすっぽりとはまってしまったのだった。

 腹立つ!誰よ、ハリケーンが来るっていうのにバケツなんて置きっぱなしにしたやつ!危ないでしょうが!

あたしはいきり立ってバケツを脱ぐと車の中にポイッと放り投げておいた。

 そんなあたしを見て、マリオンはクスっと笑顔を見せてくれた。もう、笑い事じゃないんだってば!
 


 気を取り直して、ペンションの周りのチェックに戻る。他の箇所は幸い、トラブルはなさそうだ。

車のところに戻って、ボンベの中身が全部抜けているのも確認した。

ひとまずは大丈夫だろうけど…油断はできない。

とりあえず、中に戻って一息ついて、シャッターの具合いとかをチェックしないと。

 マリオンとそう話をして、ペンションの玄関の方に戻ったら、庭先を何かが転がっていた。

黄色っぽいもので、ゴロゴロとなんだか質量はけっこうありそうななにか、だ。

「うおぉぉぉ!?」

その黄色いなにかは、叫んだ。

次の瞬間、手足が生えてきたと思ったら、庭の芝生に両手両足でへばりつくみたいにしてしがみつく。

 あれ、人?

「ちょ、ちょっと!なにやってるんですか、こんなところで!?」

「だ、大丈夫ですか?!」

あたしとマリオンでその黄色い人に近づいて行く。黄色いのは来ていたカッパみたいだ。

あたし達の声に気が付いたのか、その黄色いカッパの人は顔を上げた。

「マ、マルコくん!?」

「マライア姉ちゃん!」

あたし達はほぼ同時に、そう声を上げていた。

「どうしたのマルコくん!?散歩ってわけじゃないよね!?」

あたしは訳が分からずにそう聞いた。そしたら、マルコくんは、必死の形相であたしに訴えてきた。

「園庭の木が倒れてきて、寮舎をかすめて大騒ぎなんだよ!アヤ姉ちゃん呼びに来た!」

「施設が!?」
 


つづく。

次回、マライア・マリオンコンビのペンション防衛隊が出張任務です。
 

乙!

何気にマライアが宇宙より苦労してるw
がんばれなんかわからんが超がんばれ>マリオン

おつ!

飛んできたバケツが頭にはまるとか
マライアたん強運なのか悪運なのかww

>>787
感謝!

戦闘よりも大変らしいですw


>>788
感謝!!
なんとなく書きたかったので意味はないけど書いてみましたw


さて、続き投下して寝ます。

要らないとか言わないでね!w
 


 マルコくんの話を聞いて、あたしはマリオンと一緒にすぐさまワゴンで施設へと向かった。

車で門から園庭に入ったら、そこにはびっくりするような光景があった。

 高さ、6,7メートルはあるんじゃないかっていうくらいの木が、根元のあたりからバッキシと折れていて、

折れた幹が3階建ての寮舎を直撃していた。

寮舎は鉄筋コンクリート製で丈夫なはずなのに、まるで建物を壊す鉄球に殴られたみたいに3階部分が割れて幹がそこにめり込んでいた。

マルコくん、かすめた、って言ってたよね?これ、かすめてる、ってレベルじゃないよ?直撃してるよ?

 あたしは、ワゴンを折れて切り株のようになっていた地面に残ったほうの木の幹に

ワゴンのウィンチのワイヤーを巻きつけて固定してから、マリオンとマルコくんと一緒に、寮舎の中へ駆け込んだ。

 「あぁ、マライアちゃん!」

入り口からロビーに入ったら、ロッタさんがあたし達に気が付いて呼びかけてきた。

「ロッタさん、ケガ人とかは出てない?!」

あたしはまずそれを聞いた。もし、木の倒れたところに誰かいたとしたら、大ケガになってもおかしくない状況だったからだ。

「部屋に居た子が、すこし擦りむいただけよ」

ロッタさんはロビーの隅をチラっと見て言った。そこには、各部屋から避難してきたのだろう子ども達が身を寄せ合っている。

その中に、額に大きな絆創膏を貼ったサブリナちゃんが居た。あぁ、顔をケガしちゃったんだね…女の子なのに…

 そう思って、あたしはサブリナちゃんのそばへ近づいた。サブリナちゃんは、まだすこし興奮状態で、あたしを見つけるやいなや

「マライア姉さん!あのね、木がドカーンって!」

と掴み掛ってきそうな勢いでそう言ってきた。あたしはサブリナちゃんの肩を抱いてもう一度座らせてから

「怖かったね…ケガは、ハリケーンが行ったら、ユーリさんに診てもらえるように言っておくから、安心して。

 キズとか残らないように、ちゃんとお願いしておくから」

と言ってあげた。でもサブリナちゃんはポケっとした顔をして

「キズなんて残っても平気だよ?それよりも、穴が開いたままだと、水漏れして下の階の子の部屋までダメになっちゃう!」

なんて言ってくる。参ったな、さすがアヤさんを見て育ってる子は考えることが違うね。

あたしは思わず笑ってしまったけど、でも、サブリナちゃんの言っていることはもっともだ。

これ以上の被害を抑えるためにも、雨水の侵入は防がないといけない…。

 「ロッタさん、現場見させてもらえますか?」

あたしは表情を引き締めてお願いする。ロッタさんは、コクンと頷いてあたし達を3階のサブリナちゃんの部屋まで案内してくれた。

 サブリナちゃんの部屋はもう、ひどい状況だった。壁が崩れて、あちこち瓦礫だらけ。

寄りかかっている木の幹と壁の隙間から大量の雨水が漏れ出ていて、敷いてあったカーペットをぐっしょりと濡らしている。

男性の寮母さんが一人、なんとか雨水を食い止めようと、隙間にタオルなんかをつっこんでいるけど、

正直、あんまり役に立っている感じはしない。

 こんな大きな木の除去は、さすがにこの嵐の中で、しかも素人が重機もなしに取り掛かるには無理がある。

そっちは明日専門の業者にでも頼むとして…問題は応急処置だ。

このままじゃ、本当に吹き込んでいる大量の雨が下へ下へと伝わって行っちゃう。

なんとか、雨水の侵入は食い止めないといけないけど…方法って言ったら、一つくらいしか、浮かばない。
 


 あたしは決心を決めて、マリオンを振り返った。マリオンはあたしが言うよりも早く、

「マライアさん、それはいくらなんでも危険じゃ…」

とあたしを制止しにかかってくる。

でも、そんなこと言ってる場合じゃない!チビちゃん達の暮らしを脅かすわけにはいかないもんね!

「安全帯を付けるよ。マリオンはここで、安全帯の確保と指示をお願い。あたしはシート持って、屋上に上がる!」

あたしの言葉を聞いて、マリオンはなんにも言わなかった。黙って、うなずいてくれた。

 あたしはポンチョを脱いで、持って来ていたロープを体に括り付けた。

男性の寮母さんに用意してもらったビニールシートを小脇に抱え、

工具の入っていた腰のポーチに、ハンマーとアンカーボルトを詰め込む。

どうせ壊れてるんだ、コンクリートに直にアンカーボルトを打ち込んで、シートを固定してやる。

固定したうえで中から防水対策を施せば、少なくとも今のような浸水にはならないはずだ。

 あたしは、木の幹と崩れた壁の隙間に体をねじ込んで表に出た。屋上は、地上以上に風が強い。

もう、立っていることなんて不可能だ。

 あたしは、ひとまず、屋上の床に伏せたまま、畳んであったビニールシートの端っこを引っ張り出して

その上からアンカーボルトをハンマーで打ち込む。

このビニールシートだけは放しちゃいけない。

いったん広がってしまったら風にあおられるどころか、せっかくボルトを打ったところが、裂けて飛んでっちゃうだろう。

 カーン、カーンと金属音が響く。ハンマーを握る手が雨でぬれて滑るから、余計に慎重にならざるを得ない。

そうして、なんとか一本目を打ち込めた。次は、反対側に打たないと…

あたしは今打ち込んだ場所から2メートルほど匍匐姿勢で移動する。

途中でロープが張ってしまったので、マリオンに怒鳴って、送り出してもらう。

 二本目のボルトを打ち込んだ。ここからはもっと慎重に…シートを少しずつ広げながら作業をしなきゃいけないから、ね。

気を付けてよ、マライア。集中、集中だよ…!

 最新の注意を払いながら、3本、4本とボルトを打ち込んでいく。

どれくらいの時間が掛かったか、とりあえず、大きな開口部はおおよそ覆うことが出来た。

ふぅ、これで、浸水の心配はなくなったかな。

 「マリオーン!作業終わったから、戻るね!」

あたしは、マリオンにそう報告した。けど、マリオンから、とんでもない言葉が返ってきた。

「マライアさん!ここ全部ふさいじゃって、どうやって戻ってくるつもりなの!?」
 



え…?


えぇぇ?!



あぁぁぁ!しまった!


マリオンのその言葉で、あたしはとんでもないことに気が付いた。

穴をふさぐことに必死で、自分が戻ること全然考えてなかった!どどどどどうしよう!?

撤退を考慮しない作戦計画なんか立てたら隊長に怒られる…!違う、そうじゃない!

いや、確かにマヌケだけどね?!怒られるとかそう言うことじゃなくて、どうやって中に戻るか、ってこと!

残念なことに、ボルトはもう完璧に打ち込んじゃったから、多分、そう簡単には抜けないし…

シートを破ったら、張った意味なくなっちゃうもんね…ほ、他に、中へ入る方法…

あたしは、頭を高速で走らせる。っていうか、マリオン、それって途中でうすうす気が付いてたんじゃないの!?

いや、気が付かなかったあたしが言うのもなんだけどさ、気が付いてたんなら、言ってよね!?

そんな理不尽な怒り方をしていたら、ふと、あたしの視界に、園庭に伸びる木の幹が入ってきた。

…このロープ、30メートルはあった、よ、ね…

てことは、マリオン達に中で支えてもらいながら、この木の幹を伝って…

あたしはそう思って、上から木の幹の先の園庭を覗いた。





いや、無理。これは、無理、高い!

戦闘機やモビルスーツに乗って、もっと高いところ飛んでたあたしが言うのもなんだけど、これは怖いよ!

しかも、こんな強い風と雨だもん、確実に手を滑らせて墜落死だよね…

ダメだ、この案は使えない。何か、別の方法を考えないと…そう思っていたら、マリオンの声が聞こえた。

「マライアさん!そのまま隣の部屋の窓の上までいけませんか?!中から私が受け止めます!」

と、隣の部屋の窓?!あぁ、サブリナちゃんの部屋の隣、ってことだね…

そっか、アンカーボルト打ち込んで、そこにロープひっかけて、リペリングの要領で降りれば…

いやでも、手を滑らせたらアウトだよね?リ、リペリングはダメだ。

ロープはガッチリとボルトに固定しておいて、あとは本当に窓の前にぶら下がるだけの方が、いくらか安全、かな…

あとはマリオン次第だけど…だ、大丈夫かな…

「マリオン!それ、できそうなの!?」

「うん、窓の上の庇にだけ気を付ければ、大丈夫だと思う!」

ま、窓の上には庇があるんだね?それなら、そこを足場にできるね…それなら、なんとかなるかもしれない…

「分かった、やってみる!もう少しロープ送って!」

「はい!」

マリオンの提案を受けて、あたしは隣の部屋の窓があるだろう位置まで移動した。

こっちは、倒木の影響を受けていないからちょっと申し訳ないけど、背に腹は代えられないし、怖いし、仕方ないけど、アンカーボルト打たせてもらうからね…

あたしは、窓のすぐ上の屋上にアンカーボルトを打ち込んだ。そこに、ロープをひっかけて、力いっぱい結びつける。
  


こ、これで大丈夫なはず…あとは、マリオンの方の準備ができてれば…。

「マリオン、居る!?」

「はい、準備できてます!いつでもどうぞ!」

 よ、よし…!マライア・アトウッド曹長、しゅ、出撃…!

 あたしはマリオンの返事を聞いて、意を決して屋上から下へロープの弛みに気を付けながらぶら下がった。

まずは、庇まで。屋上から垂らした脚が風にあおられて自分の意思とは関係なしにブラブラと揺れる。

くぅっ…どこ、庇ってどこよ!?あたしはまだ屋上に乗っている上半身を支えながら、つま先で庇を探す。

ガツっと、つま先が何かに当たった。そっとそのまま足を付けて行く。

屋上から1メートルほどのところに、庇はあった。コンクリート製で、しっかりしている。両足をつけて、庇の上に降り立った。

 でも、問題はここからだ。窓は庇の下。庇は、50センチほど壁から出っ張っている。

正面から降りたんじゃ、窓までの50センチは距離がある。

決して大きな距離じゃないけど、この風に全身を吹かれながらぶら下がるなんて、振り子も同然。

いやいやいや、それはさすがに怖すぎるよね…。

 そこであたしは庇の脇から降りることにした。これなら、外壁にへばりついていられる。宙ぶらりんになるよりは、マシ!

「マリオン!右側から降りるよ!」

「はい!」

マリオンにそう伝えてから、あたしは庇の右へと脚を下ろす。この下には何もない。

あとは、ロープだけが頼りだ…でも、このロープ大丈夫だよね…?切れたりとか、結び目ほどけたりとか…しない…よ、ね?

そんなことを想像してしまったら、脚は降ろせたけど、上半身も下ろしてロープに身を委ねることなんてできなかった。

「マ、マリオン!あたしの脚、捕まえられない!?」

「もうちょっと!あと、30センチ降りてきて!」

マリオンの声が聞こえる。あ、あと30センチって…いくら脚を伸ばしても、それは届かない、よ、ね…

あぁ、怖いよう…!

 あたしはそれでも胸の内の恐怖心を押さえつけて上半身をグッとズラす。

庇の角をしっかり持って、ロープではなく、懸垂の要領で体重を手で支えながら、ゆっくりと降りて行く。

「あとちょっと!もう少し…!」

下からマリオンの声が聞こえる。腕がプルプルと震えた。

でも、それでも、もうあとには引けない…降りなきゃ…さもないと、宙ぶらりんか、墜落だ。

 あたしはさらに腕を伸ばしていく。次の瞬間、何かがあたしの脚に触れて、捕まえてくれた。

「捕まえた!マライアさん、もう少し降りてくれば、窓枠に足を掛けられる!がんばって!」

マリオンがそう指示してくれる。もうちょっと…うぐっ…腕がきついよ…!

下でマリオンがあたしの脚をつかんでいるせいで、体に変な方向へよじれる力が加わっていて、腕への負荷が増している…

でも、つかんでもらわないと、どこに着地していいかわかんないし…でもこの体勢、きっつい!

「もうちょっと!あと、5センチ!」

マリオンの声が聞こえる。あたしは思い切って、クッと腕の力を抜いた。

マリオンが捕まえてくれていた足の裏が、固い物を探り当てる。あった、これが、窓枠!

 


 あたしはその感触を頼りに、腕をまっすぐに伸びるまで力を抜いた。庇の下の窓が見えた。

一辺が1メートルもない小さな窓だけど…それでも…!あたしは、もう一方の脚も窓枠にひっかける。問題はここから。

ロープに体重を預けないと、窓にはたどり着けない。あたしは恐る恐る、庇にかけていた手を離した。

 巻きつけたロープが、体にめり込む。で、でも、意外にしっかりしてる

…こ、これなら大丈夫…だ、だいじょ…だ…だ…ダメだ、これ!

窓枠へ体を引き要せようとしたあたしは、ロープがピンピンに張っていることに気が付いてしまった。

屋上のアンカーボルトからここまで、と思って伸ばしていたロープが、ほんのちょっと短かったんだ!

 あたしは、窓枠に足を引っかけて、体重はロープにかけたまま、斜めの状態で身動きが取れなくなってしまった。

どどどどどどどどどど、どうしよう!?このまま、ハリケーンが過ぎるまで宙ぶらりん!?

イヤだよ、そんなの!どんな罰ゲームでもそんなことさせられたことないよ!

アヤさんやカレンさんにもやられたことのないようなことを、進んでやるような勇気ないよ!

 「マライアさん!こっちのロープ使って!」

マリオンが怒鳴って、別のロープをあたしに投げてきた。

なんとかそれを掴まえたあたしは、自分でも寒気がするくらいのアイデアを思いついてしまっていた。

 ま、まず、このロープを体に巻くでしょ…で、それで…マリオンにグッと中へ引っ張ってもらいながら…

あたしは今巻き付いている方のロープを、ナイフで切る…

そうしたら、体は窓枠についている足を支点にして窓の中へ引っ張られる。

も、もちろん、窓の中への力だけじゃなくて、重力もかかるから、その、万が一失敗したら、

マリオンが支え切れなくなれば、墜落…で、でも、だだだだだだだ大丈夫!

こ、この庇を手で突っ張れば、ちょっとの間なら維持できる…や、やろう…!

「マリオン!このロープの終わり、どこかに結び付けてある!?」

「建物の柱に結んであるから、大丈夫!」

よ、よし…そ、それなら…!あたしは、マリオンのくれたロープを体に巻いて、しっかりと結んだ。

それから、深呼吸をしてベルトに通したケースからナイフを抜く。

うぅ、考えてみればこのナイフ、イジェクションシートのナイフなんだよね…

戦闘機は撃たれて…つ、“墜落”したんだった…な、なんか、縁起悪くない?大丈夫かな?大丈夫だよね、ね?
 


 あたしはもう、半分パニックになりながら、それでもマリオンに怒鳴った。

「マリオン!ロープを引っ張って!力いっぱい!」

「は、はい!」

マリオンの声が聞こえて、体がグイグイと引っ張られる。やれ、やるしかない、マライア曹長!

やれる、あんたならやれる!うぅ、こわっ…い、行くよ!

 あたしは窓枠においた足と片方の手で庇を突っ張って体を支えながら、

自分の体とロープの間にナイフをねじ込んで力いっぱいひねった。

 ブツっ、と、瞬間的に体に掛かっていたテンションが抜ける。それと同時にあたしの体は窓枠の中に吸い込まれた。
部屋の中に飛び込んだあたしは、そのままロープをひぱってくれていたマリオンの腕の中に飛び込んで、

いや、大激突して、マリオンを下敷きに盛大に床にぶっ倒れてしまった。

 うぅ、痛い…で、でも、助かった…あぁぁぁぁ、こ、怖かった…戦闘よりも怖かったかもしんない…

胸に安心感が湧いてくるのと同時に、全身から力が抜けて行くのが分かった。

あたしはその脱力感に身を任せて、ぐったりと横たわる…マリオンの上で。

「良かった、うまくいって」
 
マリオンの声が聞こえてきた。あぁ、うん、ごめん、マリオンすぐに降りるから待ってね。

あたしは体を起こそうとして、体にマリオンの腕が絡みついているのに気が付いた。

マリオンを見やったら、バチっと彼女と目があった。

 もう、頭がおかしくなっちゃってたのかもしれないな。

目があった瞬間には、どちらからともなく、笑い声が漏れて、お互いにつられるみたいにして大笑いしながら抱き合っていた。

「だー!マリオン!怖かった!すっっっっごい怖かったよぉぉ!」

あたしはお腹がよじれるくらいに爆笑しながら、そんなことを大声で叫んでいた。

 
 


 それから少し休憩をさせてもらってから、あたし達は施設の建物を出た。

「すこし、収まってきましたね」

マリオンが空を見上げて言うので、あたしもつられて、空を仰いだ。

 風も雨も、さっきまでと比べたらほとんど収まったも同然だ。夜空には雲が切れて、微かに星の瞬きさえ見えている。

「目に入ったのかな」

昼間の予報通りの進路と速度で通過しているんだったら、そろそろ中心が通過してもおかしくはないタイミングだもんね。

「目?」

マリオンが聞いてくる。そっか、知らないんだね。

「うん、そう。ハリケーンって言うのは、大きな雨雲の渦巻きなんだよ。

 目って言うのはその中心で、そこには雲もなくて、ぽっかり穴が開いてるんだ。

 衛星写真に写ってるから、帰ったら見せてあげるよ」

あたしが説明したらマリオンはふうんって表情で、コクコクとうなずいてくれた。そりゃぁ、不思議だろうね。

「今のうちに早くもどっておかないと。すぐに目を抜けて、また暴風域に入っちゃうからね」

「…そっか、今度は、後ろ側が来るっていうことですね」

「うん、そうそう、正解!」

あたしがそう言ってあげたら、マリオンはまた、少しうれしそうに笑った。

いつも無表情だよなって思ってたけど、こうして一緒にいると、マリオンもいろんな顔をするよね。

さっきみたいに大笑いするなんて、思ってもみなかったよ。

 あたしはマリオンと一緒にワゴンに乗って、ペンションに戻った。

ガレージにワゴンを戻して、マリオンとあたりを見て回る。道路側や母屋の方にも特に大きな変化はなさそうだ。

施設に出るとき心配したけど、何事もなくって良かった。

と、思いながら部屋のほうに回ったあたし達は、二人してあっと声を上げてしまった。

 庭には、アヤさんが作った露天風呂が会って、竹で出来た柵というか壁があった…はず、だったんだけど…。

ライトで照らしたその先に、そんなものはなくって、雨水がいっぱいに溜まって池みたいになっている岩風呂がむき出しでたたずんでいた。

確か、ごみや雨を防ぐのにフタもあったはずなのに…全部飛んでっちゃったんだ…。

 油断したなぁ、車を運んだあとに見回った段階ではまだあったのに…

施設に行っているあいだに飛ばされちゃったんだ…そこいらを見渡しても、竹の一本も落ちてなんかない。

あぁ、どうしよう、アヤさんに謝んなきゃなぁ…

 そう思ったら、急に落ち込んできた。でも、そんなあたしの肩をマリオンがポンポンと叩いてくれて

「仕方ないですよ。ペンションと母屋が無事だったんですから、柵くらいは許してもらえますよ」

と慰めてくれた。マリオン…優しいね…
 


 あたしは、うなずいて、ひとまずペンションの中に戻った。

玄関を入って、ポンチョとヘルメットを脱いで、とりあえず一段低くなっている土落としのスペースにハンガーを使って引っ掛けておく。

マリオンもあたしと同じようにカッパとヘルメットを脱いで、それから中に着ていたボディアーマーも脱いだ。

あたしも腰につけていたピストルベルトを外して装備も床においておく。

 雨具を着てたのに、あたしもマリオンもびしょぬれで、ひどい姿だ。

そんなお互いを見て、なんだかまた少しおかしくって顔を見合わせて笑ってしまう。

「マリオン、先にシャワー浴びておいでよ。暖まっておかないと風引いちゃう。

 目が通り過ぎたら、もうひと働きしなきゃいけないかもしれないからね」

「はい、じゃぁ、そうします」

マリオンとそう言いながらペンションの中にあがる。

あたしはとりあえず、ハリケーンが来る前に持ってきておいた部屋着に着替えて、マリオンはその間にシャワーへと向かった。

 そういえば、お腹空いたな…なにか、食べるものあったっけ…

あたしはそう思って、眠ってしまっているだろうみんなを起こさないように、ホールからじゃなく、廊下のほうからキッチンへもぐりこんだ。

保温ポットの中にはまだお湯が残っている。

電気が切れちゃってて、すこしぬるくはなっていたけど、まぁ、ココアを溶かすくらいは出来そうな温度だ。

それから、夕食のときに残った食パンがあったから、そこにチーズとハムを乗せて、オーブンで焼いておく。

疲れたときは炭水化物と甘いもの、これは基本だよね!

 二人分のココアのカップに、二人分の焼いたハムとチーズのトーストをトレイに乗せてホールにこっそり戻って、

そっとテーブルに腰掛けた。起こしてないかな、と心配していたら、レナさんがムクっと起き上がった。

あ、起こしちゃったかな…

「…ん、マライア、今、何時…?」

「ごめんね、起こしちゃった?夜中の2時ちょっと前だよ」

「…見回り、行ってくれたんだっけ」

「うん、外は異常なしだったよ」

「…ふわぁぁ…、そっか、ありがとう」

「なにかあったら起こすから、それまでゆっくり寝てていいからね」

「うん、そうさせてもらうね…ふわぁ…んしょっと」

レナさんは大きなあくびをして、狭いベッドに丸くなって再び寝息を立て始めた。

 うん、レナさんは大丈夫みたいだね、良かった。あたしは安心した。

やっぱり、レナさんはああしてのんびりしてくれている方がいい。

だって、ここはアヤさんやあたしの帰ってくる場所。レナさんには、いつでもああでいてほしいって、あたしは思うんだ。

それに…ね、
 


 パタンと静かな音を立てて、マリオンが部屋に戻ってきた。

「マライアさん、空きましたよ」

タオルで髪を拭きながらマリオンがそう言ってくれる。

「うん、ありがとう」

あたしは返事をして、マリオンにココアを差し出して、自分の分のマグを持ってズズッと飲んだ。体が温まる。

「どうして、嘘なんてつくんですか?」

急にマリオンがそう聞いて来た。

「あぁ、うん…」

聞いてたの?ううん、聞こえちゃったのかな、近くにいたら、感じちゃうもんね、どうしたって。

 別に、嘘をついてるってわけじゃ、ないんだ。まぁ、隠しているってのは本当のことかもしれないけど…。

どうしてか、って言われたら、ね。もちろん、レナさんにはのんびりしてもらって、

優しいままでいてほしいなっていうのが一番だけど…

それと同じくらいにね、最近、あたしにとってのレナさんって、なんなんだろうな、って考えるんだ。

まぁ、言っちゃえばアヤさんとおんなじ、大好きなお姉さん、なんだけどさ。でも、じゃぁ二人ともそれだけかって言われたら、そうじゃないんだよね。

アヤさんじゃないけど、あたしは本当に家族だって思ってる。血も繋がってないし、ずっと一緒に過ごしてきたわけじゃないけどね、

でも、マリ達を見てたら、あたしも、二人をそう思うようになったんだ。

もちろん、レオナやロビンにレベッカに、マリオン、あなただってそう。

 家族って、さ。一緒にいると幸せで、あたしはついつい甘えてばっかりになっちゃうけど、

本当は、オメガ隊にいたころと同じなんだよね。

一人一人になんとなく役割があって、それを家族の一員としてこなしてるんだ。

今日みたいな日は、アヤさんが外周りで、レナさんはペンションの中をやりくりして、

レオナはロビンとレベッカを見ててくれて。

あたしは、そのときどきに合わせて、アヤさんにくっついて手伝いをしたり、

レオナと代わって、ロビン達の面倒をみたりしてきたけど、さ。

それだけじゃ、足りないなって思ったんだ。

あたしは、もっとこの家族のためにたくさんしてあげたいって、そう思うようになった。

アヤさんは荒っぽく、レナさんは優しく、レオナはひょうきんにあたしを甘えさせてくれたり楽しませてくれる。

なんにもないときって、あたしはしてもらってばっかりだ。

だから、こういう時くらいは、あたしがみんなのために頑張らなきゃって思った。

ここには、あたし専用の仕事なんてない。その代わりに、あたしはどんな役回りだって、完璧にフォローするんだ。

 きっとそれも、大事な役割だって思うんだよね。だって、家族なんだもん。一番大事なのは、助け合いでしょ!

 「家族、ですか」

あたしが思っていたことを伝えたら、マリオンはそう言って、穏やかに笑った。それから、ちょっと虚空を見つめたかと思ったら、またあたしの目を見て

「いいですね、それって」

と、今度は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。マリオンも、早くここに慣れると良いね。

そしたら、今以上にきっともっと楽しくなれるからさ!

だってここには、ハリケーンも来るけど、青い空と青い海があって、太陽みたいなアヤさんに、海みたいなレナさんがいるんだから!

 なんてことを言う代わりに、あたしもマリオンに笑顔を返してからイスをすすめた。もうじきまた暴風雨になるだろう。

腹ごしらえをして、見回りの準備を進めないといけない。

本当はひとりでやるつもりだったけど、マリオン。手伝ってくれて、本当にありがとうね!



つづく。



次回、ペンション防衛隊活動日誌最終回。

 



マライアとマリオンもひとまず乙
どうせもうひと騒ぎあるんだからw

>>800
感謝!もう一騒ぎ…なかったっす!w

 ゴンっと、鈍い衝撃で私は目を覚ました。

なにかと思ったら、ロビンのかかとが私の頭に降ってきたせいだった。

ロビンってば、寝心地悪かったのかな?いつもはもっと寝相いいのに。

 私はそんなことを思いながら、眠い目をこすって、狭いベッドから起き上がった。

ずっと猫みたいに丸くなって寝ていたからか、体がミシミシと音をたてて、微かに痛む。

そんな感覚にかすかな懐かしさを感じながら、大きく伸びをする。

 ホールの窓からは、まばゆいばかりの麻日が差し込んできている。あれ、シャッターがもう開いてるんだ…

私はそれに気づいて、ホールの中を見渡す。

空いていた二人がけのソファーにマライアが座っていて、その膝を枕に、マリオンが眠りこけていた。

「レナさん、おはよう」

マライアは明るい笑顔でそう言ってきた。

「おはよう、マライア」

私もマライアにそう声を掛ける。マライアはソファーに座ったまま、マリオンに気を使いながらコーヒーをすすっていた。

「ずっと起きてたの?」

私が聞いたら、マライアは肩をすくめて

「うん、まぁ、念のために、ね。なんにもなかったけどさ」

なんて言う。

「マライア、マリオンとそんなに仲良しだっけ?」

そう聞いてみたらマライアはニコッと笑って

「うん、昨日の夜、マリオン眠れないって言うから、いろんな話しててね、懐かれちゃったんだ」

だって。

 まぁ、その方が良いんだったら、そういうことにしておいてあげようかな。

私はこぼれそうになった笑みをごまかすのに、大きなあくびをして

「もう大丈夫そうだし、今からでも少し休んだら?」

といってあげる。でもマライアは、ケロッとした顔で

「ううん、平気だよ」

と返事をする。うん、まぁ、じゃぁ、それもそういうことにしようね。

でも、今はそのまま、マリオンの枕になっていてあげてね。お互いに疲れているだろうし。

 あたしは、“ベッド”の中のロビンとレベッカの髪を撫でてからゆっくりと外に出て、今度は全身で伸びをする。

窓の外は、もうすでに青空だ。波の方はどうだろう?

アヤ、何時ごろに帰ってくるかな…それまでに、自分ひとりでやれることはやっておこう。

中のことは、レオナにお願いして、私はペンションの周りのゴミ拾いでもしようかな。

 


 そんなことを思っていたら、玄関の方でバタバタっと音がした。

なんだろう、と思うよりも早く、ホールのドアがバタンと勢いよく開いて、アヤが顔を出した。

「レナ、大丈夫か!?」

ちょっと!アヤ!まだみんな寝てるんだから、静かに!

 私は人差し指を立ててアヤに静かに、と合図をして、そのままホールの外へ連れ出した。

静かにドアを閉めて、改めてアヤに向き直る。

「おかえり、早かったね」

私が言うと、アヤはほっとした様子で笑顔になってくれた。

「ただいま。うるさくして、ごめん」

アヤはそう言って、私をギュッと抱きしめてくれる。もう、心配性なんだから。

「こっちは大丈夫だったか?」

「うん、マライアが頑張ってくれてたから、大丈夫だったよ」

私はアヤの体に腕を回しながら答える。

「マライアが?」

そしたらアヤは、ちょっと驚いたみたいにして、私の顔を覗き込んできた。

「うん、そう。何をしてたか、までは分からなかったけど…

 夜な夜なマリオンと外に出て、いろいろと対処してくれてたんじゃないかな。そう言う感じがビンビン伝わってきてたから」

「そっか…礼を言っておかなきゃな」

「あぁ、それなんだけど…知らないふりをしててあげた方が良いかもね」

「知らないふり?」

アヤはやっと私の体を離して、不思議な顔をしてそう聞き返してくる。

「うん、そう。夜ね、ちょっとだけ、マライアとマリオンが話しているのを聞いたんだ。

 すごく嬉しいこと言ってくれてた。マライアは、私達に心配をさせないようにって思ってくれてたみたい。

 ペンションの心配より、マライアの心配をしたいくらいだったけど…

 でもさ、私には、『なんにもなかった』って言うし、マライアがそう言うなら、その方がいいかなって思うんだ」

私が説明したら、アヤはふぅん、て顔をして

「まぁ、レナがそう言うなら、そうしておこう」

って言ってニコッと笑ってくれた。あぁ、アヤってやっぱり笑顔が似合うよね。

それを見てるだけで、私はどんな時よりも安心できるんだ。

「でもまぁ、なんかやってくれたんなら、礼を言ってやりたい気持ちはあるよなぁ」

「ふふ、そう言うことなら、今日はマライアに優しくしてあげて。あの子はきっと、それが一番のご褒美だと思うから」

「えぇ?アタシ、そう言うのが一番苦手なんだけどなぁ…」

アヤはいつもの照れ笑いでそう言う。何も、目に見えて優しくする必要なんてない。

マライアを甘えさせてあげる必要もない。あの子へのご褒美は、対等に接してあげることだって、私は思うんだ。

家族だ、って、そう言ってくれたからね。

アヤは端からそう思っていたんだろうし、私も、それが良いな、とは思っていたから、きっともっと、自然にそうなれるような気がするんだよ。

 アヤにそう言ったら、はははっと笑って

「分かったよ。まぁ、じゃぁ、肩もみでもしてやるかなぁー」

なんて言いながら、私の手を引いてホールへと入りなおした。
 


「アヤさん、おかえり!」

マライアが改めてアヤにそう言う。

「おう、ただいま!こっち、大変だったみたいだな、大丈夫だったのか?」

そうそう、アヤ、その調子でお願いね。

「うん、別になんにもなかったかな…あ、そうだ…。アヤさん、ごめん、気が付くのが遅くて、

 露天風呂の柵が、全部飛ばされちゃったんだ…」

「あーあー、良いって良いって。あれ、もう3回か4回飛んでるからな。

 ぼちぼち、違う方法で目隠し作ろうかなって思ってたところだから、まぁ、ちょうどよかったよ」

「そっか…それなら、良かった」

マライアは、安心したような表情で笑った。

アヤはそんなマライアの肩を両手でつかむと、ギュウギュウとマッサージを始めた。

「…うぁ…気持ちいいー」

「レナに聞いた。いろいろやってくれてたみたいだな…助かったよ、マライア」

あぁ、アヤってば!言っちゃダメって言ったのに!

「え…でえぇ?!レ、レナさん、知ってたの?!」

マライアは急にそんな大きな声を上げて聞いて来た。

「そりゃぁ、あんな時間に外に出たら、いくらなんでも気には掛けるよ。

 気にしてたら、マライアがすっごい緊張しているのとかが伝わってきたから、

 きっとあれこれやってくれたんだなってのは、分かったよ」

「あぁ!しまった!そうだった…ここ、能力ある人ばっかだったんだよ!うかつ!

 あんなに集中してたら、そりゃぁ隠せないよ!」

私が言ったら、マライアは頭を抱えてそんなことを言いながら唸り始めた。別に隠さなくったっていいのに。

あなたが居てくれれば、何の心配もないんだからさ、マライア。

 「そう言うわけだ、マライア。あんた今日は休んでな。あとはアタシらでやっておくからさ」

アヤはそう言ってマライアの肩にグイグイと指を食い込ませる。

「痛たたた!アヤさん、痛い痛い!」

「まぁまぁ、遠慮すんなって!」

「遠慮とかじゃなくてっ…いだだだだだ!」

マライアが暴れるものだから、膝に頭を乗せて寝息を立てていたマリオンが目を覚ましてしまった。

アヤってば、ホントにもう、素直にいたわってあげればいいのに。

 「あ…おはよう、ございます…お、おかりなさい…」

「あぁ、おはようマリオン!ただいま!」
 




 「隊長、それ、なに?」

「えぇ?どう見たってあそこにいる鳥でしょ?」

「鳥さん!?これ、鳥さんなの!?」

「鳥っていうより、ナメクジみたいだね…」

「えぇぇ!?レオナまでひどい!そりゃぁ、ちょっとバランス悪いけど、どう見たって鳥でしょ!?」

「隊長、鳥さんのお目目は、頭についてるんだよ?角の先には、ついてないよ?」

午前中の内に片づけを終えて、お昼を食べながらマリオンと昨日話題になった絵の話をしたら、

それを聞いていたロビンとレベッカも描きたい!なんて言いだしたから、それにマライアとレオナも混ざって、

デッキに出て庭から見える青い海と青い空を並んでスケッチブックに描いていた。

話の感じだと、マライアの絵は、相変わらずみたい。

 私は昨日洗濯できなかったシーツを干しながらそれを眺めていた。

デッキに出た四人は、まるで本当の家族みたいに、わきあいあいと騒いでいて、見ているだけでなんだか暖かな気持ちになってくる。

 アヤはお昼を食べてから、施設の方に向かった。

なんでも木が倒れて、建物に被害が出たらしくって、その除去作業のお手伝いだ。

建物自体は保険に入っているらしいからすぐにでも修繕できるだろう。大きなケガをした子どももいないみたいなのは幸いだった。

「レオナママ!見て!わたしも鳥さん描いたの!」

「わたしも!」

「へぇ、すごい!二人とも、マライアより上手だよ!」

「なんだと!?レオナの絵も見せてよ!絶対あたしの方がうまいに決まってる!」

「えぇ?良いけど…ほら」

「…えぇ?!ぐぬぬ!レオナにこんな才能があったなんて…!!」

「ママじょうず!」

「隊長、どんまいだね」

 もう、ほんとに相変わらずにぎやかなんだから。マリオンの感じを、本当にどうにかして分けてあげられないかなぁ…

そう言えば、マリオン、さっきはデッキに出てたのに、どこかに行ってしまったのか、姿が見えなくなっている。

 私は気になって、その姿を探すと、彼女はホールの中に入って、イスに腰掛けて、

そんな4人の後姿を見つめていた。なんだか、とっても幸せそうな笑顔を浮かべている。

シーツを干し終えてから私は、ホールに戻ってマリオンのところに行ってみた。

絵、描きたくなかったのかな、と思ったら、違った。

マリオンは、膝の上にスケッチブックを乗せて、鉛筆で描いた下書きに、固形のウォーターカラーで淡く色付けをしていた。

邪魔しないようにそっと覗いていたつもりなんだけど、マリオンには気が付かれてしまった。

彼女は私を見て、ニコッと笑顔を見せてくれる。
 


 マリオンの絵を見て、どうしてこんなところでひとりで描いていたのかが、分かった。

マリオンは、デッキに座った4人を描きたかったんだ。

ホールの大きな掃き出し窓の向こうのデッキに4人が並んで座っていて、その向こうには、青い海と青い空が広がっている、

まるで絵本の挿絵みたいな、眺めているだけで、ホッとするような、淡くて、優しくて、やわらかい絵だ。

「思った通り、マリオンは上手だね」

「あ…その、ありがとう、ございます」

私が言ってあげたら、マリオンははにかみながらそう答えた。

なんだか、その笑顔がかわいくて、私も自然に笑顔になってしまう。

 ふと、昨日の夜、マライアが話していたことを思い出した。

そのときに、それを聞いたマリオンが、どこか嬉しそうにしている感じが伝わってきた。

私は、マリオンがそう感じてくれたことが嬉しかった。マリオンも研究所で育った家族のない子。

レオナとおんなじように、家族だと思って接してきたけど、それを嬉しく思ってくれているんだったら、そりゃあ嬉しいよね。

 「あれ!みんな、なにしてるのー!?」

庭の方で声が聞こえてきた。デッキに出て覗いたら、ユーリさん一家が尋ねて来ていた。

「レナちゃん、昨日はすまなかったな。差し入れ持って来たんだ、良かったら食べてくれよ」

ユーリさんは、そんな気なんて遣わなくていいのに、袋に入った果物をいっぱい持って来てくれた。

「気にしなくっていいのに、わざわざありがとう。お茶入れるから、上がってよ」

「すごーい!お絵かきしてるんだ?ねね、わたしにもやらせてよ!」

「いいよー、マリちゃん!ロビンの紙、一枚あげるね!」

「じゃぁ、カタリナちゃんにはレベッカの紙あげるー!」

とたんににぎやかになったデッキを見て、マリオンが着色の作業を終えた。マリオンの絵を見ていたら、また彼女と目が合う。

マリオンはにっこり笑って

「完成、です」

と小さな声で言った。

 本当にまるで絵本の挿絵みたい…きれいで、暖かい、幸せな絵だな…

額縁を買ってきて、ホールに飾りたいって、今度お願いしてみよう。そう思いながら私は

「マリオン、ユーリさん達にお茶出すの手伝ってくれる?」

と頼んでみた。マリオンは、笑顔のまま

「はい」

と返事をしてくれた。

 それからしばらくみんなでお茶を飲みながらお喋りして過ごしていた。

夕方になったら、アヤが施設の作業を手伝っていたカレンさんとデリクくんにハロルドさんとシイナさんを連れて帰ってきた。

アヤはこうなることを予想してたんだろう、いつのまにか準備してあったバーベキューのセットを庭に広げて、

たちまち宴会が始まってしまった。
 


 いつものようにいっぱい食べて、いっぱい飲んで、いっぱい話して、いっぱい笑う。

マライアは徹夜が響いたのか、早々に酔いつぶれてソファーで寝入ってしまって、

見かねたアヤが、母屋まで担いで運んでくれた。マリオンもすこし眠そうにしている。

あんまり喋らないのはいつものことだけど、でも、今日は一段と楽しそうに見えた。

 家族って言うのが一体なんなのか、線引きは人ぞれぞれでいろいろある。

私は、父さんと母さんと兄さんで家族だった。今の家族は、それとほとんど変わらない。

 お互いに気遣い合って、言いたいことを言い合って、出来たらみんなが楽しくって、

みんなが幸せであってほしいって願ってる。

アヤがオメガ隊を家族だって言っていたのと、きっとおんなじなんだ。

血がつながっているかどうか、なんて、問題じゃない。だってそもそも、夫婦って血がつながってないもんね。

それでも、家族になれるんだ。私たちがそうなれないって理屈はない。

大事なのは、心がどれだけ繋がっていられるか、ってこと。

そうなんだ、もしかしたら、私達の力は、人類全員を家族にできる可能性すら秘めているのかもしれない。

もちろん、大げさな言い方だけど、それでも、ね。

 戦争ばかりのこの世界に、私は、平和を望まずにはいられないんだ。

 不意に、ホールの電話が鳴った。私が出ようと思ったら、アヤが私の頭を抑え込んで

「アタシが行くよ」

と言ってホールの中へ駆け込んでいった。予約の電話かな?あ、そう言えば、明日は3組予約が入ってたよね…

夕ご飯は何にしようかな…

 そう考えていたら、ホールからデッキにアヤが出てきた。手には電話の子機を持っている。

「おーい、マライア!ルーカスから電話!」

「アヤさん!マライア、さっきアヤさんが母屋に運んでったじゃないすか!」

「あ、いけね、そうだった!」

アヤとデリクくんがやり取りをして、場がドッと沸く。

それを気にせず、アヤは電話口に戻ってルーカスくんと話を続けていた。

「悪い、ルーカス。アタシのPDAにかけ直してくれよ。

 今マライア母屋で寝てるから、そっちへ繋いじゃうからさ。急ぎの話なんだろ?」




――――――to be continued
 


以上、おまけ編、ペンション防衛隊活動報告編でしたw


もうちょっとしたら、CCAプロローグを書いて、このスレを閉めたいと思います。

そのときまでのお付き合いをよろしくお願いいたします!
 

乙!

無事に嵐が過ぎ去ったようでなにより。
次回への引きも上手く決まってますね。

ところでマライアの相棒はレオナかと思ってたのに今回はマリオンだったな。
Mで始まるカタカナ四文字同志だからか!?

毎度丁寧な心理描写に唸るしか無いわ、乙!



マライオンキテル…

>>809
感謝!
今回は、ぬるっとペンションに住むことになったマライアたんとマリオンたんが、
あそこでどんなことを考えて、一緒に暮らそうと思っているのかを書きたかったのでした。
レオナ、マリオンと一緒に戦ってきていますが、マライアたんの相棒は、ルーカスくんです!

>>810
感謝!!
ストーリーがあまりにも手抜きなので、心理描写だけでも…というのが本音です、はいw

>>811
感謝!!!
まさかのマーライオンコンビwww
これってキテルのかなー?
 


どうも、こんにちは、キャ(ryア(ryドダイです。

どうにかこうにか、CCA編の大まかなプロットが完成しました。

今日か明日には書き出す予定です。

それにともないまして、今夜あたりに、序章編を投下しようと思います。

CCA編は完結編だと思って気合入れて書きますので、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
 


こんばんはー!

おまたせしました、Z編からZZ編と、長らく続いたこのスレの最後の投下になります。


CCA編、プロローグ。

ルーカス・マッキンリー少尉の回顧録です。

本日の投下で完結します。

ごゆるりとお読みください。
 


 救助されてから、1年と半年。俺は相変わらず宇宙にいた。ここは連邦軍の宇宙艦隊の拠点の一つ、ルナツー。

俺はこれから、先日決まった配属先の部隊への合流のために、このルナツーを訪れていた。

 まだ歩きなれないサラミス級の艦内を、輸送ランチのケージから艦橋へと歩く。

 それにしても、部隊、か。正直、思い出すだけで胸が痛くなる。

それでも、この戦場を去れないのは、さが、なのかもしれないな。そう思いながらも、俺は艦橋へ急ぐ。

エレベータに乗り、降りた先には第一艦橋と書かれたパネルが掛かっていた。

 ここか。

 俺は、一度だけ深呼吸をして目の前の自動ドアの前に立った。

エアモーターの音とともにドアが開いて、中にいた全員が俺に視線を向ける。

 「ルーカス・マッキンリー少尉、ただいま到着いたしました!」

俺はそう声を上げて報告をし、敬礼をする。

「あぁ、君が、そうか」

中にいたひときわ威厳のありそうな初老の男がそう言いながら敬礼を返してくる。

その男の敬礼に、他のクルーも続いた。

「私が艦長のトーマス・ワシントンだ。まぁ、楽にしたまえ。我が艦のクルーは、有機的連携を重んずる。

 階級ではなく、信頼関係を重要視するのが習わしだ。

 この艦に配属されたからには、まず、そのことを最優先に考えてほしい」

「はっ!」

俺はとりあえずそう返事をしておく。この光景、脳裏に戦争中のことがよみがえってきそうだ。

俺は身じろぎせずに記憶を押し込んで、艦長の話に聞き入る。
 


 救助されてから、1年と半年。俺は相変わらず宇宙にいた。ここは連邦軍の宇宙艦隊の拠点の一つ、ルナツー。

俺はこれから、先日決まった配属先の部隊への合流のために、このルナツーを訪れていた。

 まだ歩きなれないサラミス級の艦内を、輸送ランチのケージから艦橋へと歩く。

 それにしても、部隊、か。正直、思い出すだけで胸が痛くなる。

それでも、この戦場を去れないのは、さが、なのかもしれないな。そう思いながらも、俺は艦橋へ急ぐ。

エレベータに乗り、降りた先には第一艦橋と書かれたパネルが掛かっていた。

「こちらが、君の所属する第9MS小隊だ」

艦長は続けて、すぐそばにいた二人を俺に紹介した。一人は、中年の男性、もう一人は、若い女性だった。

「わ!隊長、若い子来たよ!聞いてたよりもいい子そうじゃん!」

「ははは。まぁ、お前はうるさいからな。煙たがられないように、大人しくしておけよ」

「ちょ、隊長、それひどい!」

二人はそう言い合って笑っている。それから、まるで思い出したように俺に敬礼をしてきて

「ミカエル・ハウス大尉だ。よろしく頼む、マッキンリー少尉」

「マライア・アトウッド中尉です、以後、よろしく!」

と自己紹介した。

「ルーカス・マッキンリーです。よろしく、お願いします」

ドライでさばけた印象の、隊長と頭の軽そうな、中尉殿。それが、正直な第一印象だった。

俺は胸の内に湧き上がる強烈な感情をこらえて、二人に笑いかけた。その笑顔が、二人にどう受け止められていたかは
、いまだに、謎だ。

「さて、さっそくで悪いが、お手並み拝見と行こうじゃないか。

 ここのところ、ジオン残党の動きが活発になってきていてな。週に1度は、哨戒出撃があるんだ。

 そこで迷子になられてもかなわない」

隊長がそう言ってくる。俺は、姿勢を固めたまま黙ってうなずいた。

「まぁ、艦長も言ってたけど、気楽にね。あんまり緊張していると、体が動かなくなっちゃうからね」

マライア中尉がそう言ってくる。そんな彼女に、隊長がにらみを利かせた。

「それ、自分に言い聞かせてるんだろう、お前」

「た、隊長!それ、言っちゃダメ!あたし後輩って初めてなんだから、先輩風吹かさせてよ!」

中尉は、そんなことを言いながらプリプリと頬を膨らませていた。




 



 「ルーカス、今日は調子が良さそうだね」

入隊してから1年目。俺たちは三人とも無事に、まだ宇宙中を駆け回っていた。

ジオン残党との戦闘を幾度も繰り返していたが、そのたびに、俺は不思議と安心していた。

 「ええ。なんだか最近、体から毒気が抜けている気分で」

「あはは!最初は根暗な子だなぁって思ってたからね、正直!」

その原因は、この人だ。マライア・アトウッド中尉。彼女は、周りの軍人とも、これまでに会ってきたどの兵士とも違った。

底抜けに明るいとか、どこか抜けているとか、そう言うことではない。

俺の勘だが、彼女は、絶望を知っていた。

自分の信念を折られてしまうこと、貫き通せないこと、守ろうと思った何かを守れないということ、

その絶望感のすべてを知っていて、それでも、いや、だからこそ、笑うんだ、と俺は感じていた。

メンタルは弱いし、すぐに焦って周りが見えなくなりがちなところがあるが、その強さは確かに本物だった。

それはもしかしたら、俺が手に入れたかったものだったのかもしれない。

「マライア、そろそろ接敵するぞ。気を引き締めて行け!」

「了解、隊長!」

 俺たちは、乗機のジムスナイパーカスタムⅡを駆って、ジオン残党の拠点をめざし侵攻していた。

情報では、敵は戦艦1、MS部隊は15機ほどの規模だそうだ。

こちらは戦艦2隻に、MS部隊は予備を含めて30。物量作戦が得意なのは、3年前の戦争からたいして変わってはいない。

加えて、連邦は新規MSの開発を次々と行っているが、ジオン残党は3年前のすでに型落ちのMSを使いまわしている状況だ。

俺たちにとっては、殲滅戦でしかないこの戦いだが

追い込まれたジオンの狂気は、想像を超えて異常であるのを、俺は知っている。

3年前に体験済みだ。微かな油断も出来たものではない。

 不意に、レーダーが反応した。前方12時方向、敵機3!

「来るぞ!」

隊長がそう叫んだ。

「ルーカス、あたしの後ろへ!ついてきてよ!」

マライア中尉が叫ぶ。

「了解です!」

俺は返事をした。

 マライア中尉の操縦技術は、まだ未熟だ。

穴も山ほどあるし、おそらく、本人がやりたい、と思っている動きの半分程度しかできていないだろう印象もある。

それでも俺はその動きについて行くだけで精一杯だった。

あの人はそもそも、3次元機動の概念が普通とは違う。

話をするだけで、あの軽そうな頭の中に、どうしてそんなに複雑な機動イメージが詰まっているのか不思議に思うくらいだった。

それは、既存のMS戦術とも異なり、ましてや、普通のパイロットがこなせるような動き方の要求水準に収まるようなものでもなかった。

実際に、彼女の操縦は、目を疑いたくなる動きをする。

たとえて言うなら、まるで、風に舞う木の葉の様で、

慣性とスラスターによる転舵、軸移動、AMBACのシステム特性の応用、そう言う複雑な要素を、瞬間的に計算して、

風のないこの宇宙空間で、ふわりふわりと不規則に動いて見せる。

 その動きに合わせるのは一苦労だし、追うだけで精一杯と言うのが、本音だ。
 


「隊長、前方1時に掃射!」

「任せとけ!」

マライア中尉の言葉を聞いて、隊長がビームライフルを連射した。敵部隊が塊になって、上方11時方向へ軌道を変えた。

「ルーカス、追いかけるよ!」

「りょ、了解!」

叫ぶのとほぼ同時に加速したマライア中尉の機体に必死になって追いすがる。

敵がそれに気づいて、こちら目がけてマシンガンを掃射してきた。中尉は、機体をロールさせてそれを華麗に躱す。

俺は、と言えば射線から距離を取って中尉の後ろに食らいつくので精いっぱいだ。

「ルーカス、行くよ!フォローお願い!」

「はい!」

俺の返事を待って、中尉はビームライフルを発射した。光跡がまっすぐに伸び、敵のドムの脚を貫いた。

射撃の腕も、恐ろしいほど正確だ。

 残りの二機が、バラバラに散らばる。中尉は、左に抜けた機体に照準している…なら、俺は右のやつか…!

俺はモニター上でもう一機に照準を合わせてレバーの引き金を引いた。一発目は、外れた!

続けざまに照準を調整しながらライフルを発射する。4発目でやっとドムの右肩を捉えた。

致命弾ではないが、やつの戦闘続行は不可能だろう。撃破、1だ。

「ふっふー!ルーカス、やっるぅ!」

中尉はそんな嬌声を上げた。

「い、いえ」

俺は、本当におこぼれをもらっただけだ。今の戦闘は、最初の一手から完全に中尉の目論見通り。

本当に、恐ろしい人だ。

「よーし、お前ら、俺の指示通りに、良くやった!」

「隊長はなんにもしてないでしょ!?」

得意げに言った隊長に、マライア中尉はそう吠えた。いつものことながら、このやり取りはなぜだか心地よい。

俺は、ヘルメットの下で思わず笑みを漏らしていた。自分でも、驚くことに。

 ピピピと、コンピュータから音が聞こえた。まだ来るか!?俺はレーダーに目を走らせる。

そこには、単機で、猛スピードで突撃をかけてくる機体が映り込んでいた。

「なに、このスピード!?」

マライア中尉の声が聞こえる。

「こいつは…モビルアーマーか?!気を付けろ!」

隊長も叫んだ。次の瞬間、マライア中尉のそばを、何かが飛び抜けた。速い!

「なによ、あれ!?なんか、すっごく怖い顔してたよ!?」

「まだあんなもんが残ってたか…機動力じゃ勝負にならないぞ!?」

あの機体、確か、ザクレロ、とかいうはずだ。

戦艦クラスのビーム砲と、MSを越える機動性で攻撃を掛ける、奇襲用のモビルアーマー…!
 


 俺と中尉を狙って、モビルアーマーはビーム砲を連射してきた。

「ルーカス!反撃は良いから、とにかく避けて!」

中尉の指示が飛んできた。そんなこと言われなくても、反撃なんて出来そうもないですって!

 俺は神経を研ぎ澄ませてせまりくるビームの軌道を読み、機体を動かす。

なんて連射数だ…機体の反応が追いつかないぞ…!

「マライア!いったん、退避しろ!」

「隊長!他に敵の増援がないか、見張ってて!」

中尉は隊長にそう言った。この人は…あれをやるつもりなのか…?!

 中尉は、木の葉のように攻撃をかわしながら、黙っていた。狙っている…なんだ?

敵の軌道を読んでいるとでもいうのか?

 「そこ!」

マライア中尉は、突然にそう怒鳴ってビームを放った。

光跡の伸びた先に、まるでモビルアーマーが突っ込むようにして重なり、爆発するでもなく、引き裂かれるようにして分解した。

「ふぅー」

中尉のため息が聞こえた。本当に、この人は…なんて能力を持っているんだ…俺は言葉が継げなかった。

「あれだけ高速で動き回ってる、ってことは、機動性はあっても、急な旋回は出来ないんだよね。

 直線でビュンビュン飛び回って、こっちをかく乱してくる戦法だったみたいだけど、旋回時には速度も落ちるし、

 基本的に直線で動くから、進行方向にビームを撃ってあげれば、避けきれない。

 ほら、車は急には止れない、っていうやつと同じだよ」

中尉はそんなことを言って、笑い声をあげた。

「お前は…いったい、どこでそんな操縦を習ってくるんだよ」

隊長が半ばあきれた様子で中尉にそう言う。それを聞いた中尉はなんだか妙に得意そうに

「あたしの大事な姉貴分たちが教えてくれたんだ!高速機を相手にするときの、予測射撃は基本だよ!」

と言ってのけた。

 確かにそうなのかもしれないが…あれは予測の域を超えている。

完全に、あの位置を敵のモビルアーマーが通過するのが分かっていた感じだ。

やっていることはなんとなくわかるが、けっして俺なんかが真似できる芸当ではなかった。

 「まぁ、なんにしても、無事で何よりだ。任務を続行するぞ」

隊長は気を取り直して俺たちに指示を送ってきた。

「了解!ルーカスも、気を引き締めてね!」

「はい!」

「お前に気を引き締めて、なんて言われても、説得力ないよな」

「たっ、隊長!なんにもしてないクセにそんなこと言わないでよ!」

「なんだとぅ!?」

また始まった。頼むから、本当に気を引き締めてほしいもんだ。こんなんじゃ、こっちまで肩の力が抜けてくる。

俺は相変わらず漏れてしまう笑みを、こらえきれずにいた。



 





 モニターの外には、無数の艦艇がひしめき合っている。さすがにこれだけ数が揃うと、壮観の一言に尽きる。

 俺たちは、乗艦のサラミス級のMS甲板に乗機に搭乗して突っ立っていた。

ここのところ動きが活発になってきているジオン残党へのけん制のために、

わざわざこれだけの数をそろえて観艦式を行うことになっていた。

周囲には、観光用の旅客シャトルや、小型の報道用の艦艇までが詰めかけてきている。

それでなくとも、宇宙軍の7割近い艦艇を集結させているんだ。

なんとなく、この宇宙も狭いな、と感じるほどの混み具合いに俺はやや面喰っていた。

 「これだけ集まると、すごいねぇ」

マライア中尉は、まるで呆けた様子でそう無線で話しかけてくる。

「そうですね…ただ、名目は気に入らないんですけど」

「確かにねぇ。これって、逆に刺激しちゃう気がするよね」

俺の言葉に、彼女は同意してくれた。ジオン残党へのけん制と言えば聞こえはいいが、

言い換えればこれは、連邦軍の健在と力を見せつける示威行為だ。残党の反感を煽ることも必至。

そのあたりのことを連邦首脳部はどう考えているのか…いや、考えてなど、いるはずもない、か。

「まぁまぁ、そう言うのはお偉方に任せておくことだな。それよりもお前ら、お上品にしておけよ。

 テレビ中継も来てるんだからな。我が隊の恥を晒すようなことだけは慎めよ」

「恥ずかしいのは、隊長の機体のマークでしょ!?なによ、その左肩のヌードのジェーンって!誰よ、誰なのよ!?」

「なんだ、マライア、ヤキモチか?」

「ルーカス、あたし隊長撃っていいかな?いいよね、撃っても?」

「中尉、抑えてください。あんなマークが入ってても、一応隊長なんですから」

「おい、ルーカス!一応ってのは、どういう意味だ!?」

ともあれ、甲板上に機体を並べて胸を張っているだけの俺たちは退屈には他ならない。

すっかり慣れたバカ話を三人で盛り上げている間にも、艦隊のパレードは続いている。

 不意に、前方で何かが光った。なんだ?と思う間もなく、先頭を航行していたマゼラン級2隻が相次いで爆発を起こした。
 


「…!?なんだ!?事故でも起こしたか!?」

「…違う、隊長、敵!」

マライア中尉が叫んだ。次の瞬間、こっちにまっすぐ、ビームが伸びてきた。

ビームはMS甲板を貫いて、サラミス級にめり込んでいった。

「か、各機!離脱!」

隊長の叫ぶ声が聞こえた。俺は反射的に足元のペダルを踏んで、ブースターを点火させ甲板を離れていた。

 眼下で、サラミス級が小さな爆発を繰り返しながら、宇宙空間で砕け散っていく。

「ルーカス、無事!?」

中尉の声が聞こえた。

「お、俺は大丈夫です!…隊長、隊長は?!」

俺は返事をしてから、周囲に姿の見えない隊長機を探した。

「ガ…ザザッ…マライア、すまない、被弾した!機体はまだ飛べるが、衝撃で体をやられちまった…

 ルーカスを頼むぞ!」

「隊長…!了解、隊長はすぐに離脱して!ルーカス、戦闘態勢!」

「了解…!」

「観艦式に参加中の各機へ!正体不明の敵の攻撃を確認!各個で迎撃態勢に入って!

 生き残っている司令官はいますか!?臨時戦隊の編成を願います!」

中尉が無線に向かって吠えている。周囲の残存味方部隊から次々と報告があがった。

第一波、姿は見えなかったが、こっちは…マゼラン級4隻に、サラミス級を3隻沈められた…相当な規模の敵勢力だぞ、これは…!
 


 「そこの機体!最初の指示は、あんたが出したのか!?」

不意に無線から声が聞こえた。女だ。見回すと、近くに俺たちと同型のスナイパーカスタム改修型が近づいてきていた。

「うん、あたしだよ!」

「良かった、頼れそうなやつが居て助かるよ。こっちのやつらは、戦艦の爆発に巻き込まれて行方不明だ。

 敵を叩いてやりたい、一緒に戦ってくれ!」

「うん、隊の指揮はそっちに任せるよ。あたしは、戦域を把握して各部隊と連携を取るから!」

中尉が、そのパイロットに言った。

「よし、任せな。私は、ライラ・ミラ・ライラ中尉。あんたは?」

「マライア・アトウッド、同じく中尉。もう一人は、ルーカス・マッキンリー少尉だよ」

「マライアに、ルーカスだな、了解した。着いてこい、二人とも!」

「了解!ルーカス、遅れないでね!」

「はい!」

俺たちはそれから、あの混乱した戦場を駆けた。連携がまともに取れず、艦隊の防衛はほぼ無意味だった。

とにかく俺たちは、接近する敵MSを叩けるだけ叩いた。

後方から増援の艦隊が到着したころには、観艦式に参加していた艦艇は半分以下になってしまっていた。

俺たちの乗艦も、初撃で轟沈。艦長以下、乗組員はほとんどが死亡。ライラ中尉の方も同じのようだった。

うちの隊長は、幸いにして、生きていた。

だが、全身打撲で、あちこちを骨折しており、戦線への復帰は時間がかかるとのことだった。

 俺たちは、やってきた増援の艦隊に収容されてから、

今回の攻撃がデラーズ・フリートと言うジオン残党艦隊のものであると知らされた。

連邦は、このデラーズ・フリート殲滅のために戦力の再編成を行った。観艦式で生き残った俺たちも、

そこへと組み込まれた。そしてあの戦闘へと突入して行く…。

俺とマライア“大尉”が戦いを決意することになった、あの戦闘へと…。




 






 ライラ大尉の戦死を、俺たちは赴任先の基地で聞いた。マライア大尉は、静かにその報を受け止めていた。

俺は、と言えば、正直に言えば、ショックだった。

あの人は、マライア大尉に引けを取らないほどの操縦技術を持っていた。

敵に撃ち落とされるなんてことを想像する方が難しいくらいだ。隊長が戦線を離脱してほんの短い間だったが、

俺はライラ大尉とマライア大尉と一緒に居られたことが楽しかった。

まるでタイプの違う二人が、お互いを信頼して、俺のことも信じてくれて、カバーし合って駆け抜けた戦場を思い出していた。

ライラ大尉が、マライア大尉と一緒にいるときに見せた笑顔が脳裏に浮かんできて、俺は胸が痛んだ。

もう、あの三人でバカみたいに奢る、奢らないなんてやり取りをする時間は二度と帰ってはこないんだ。

もう忘れていたはずのあの喪失感が心も体も蝕んでくるようで、逃げ場のない感情を抑え込むのに必死になったのを覚えている。

 報告に来た士官が帰ってからも、マライア大尉はなにも言わなかった。涙も流さなかった。

だけど、俺には感じられていた。彼女の中に、後悔と悲しみが渦巻いているのが。

 その晩、俺は大尉の執務室へと向かっていた。ドアをノックして名乗ると、大尉はすぐに出て来てくれた。

目を真っ赤に腫らした顔をしていた。

 大尉の部屋にはこれまでにも何度か出入りしたことがあった。以前に居た部隊の写真が何枚も飾られている。

今の俺よりも若いくらいの年齢の彼女は、今とは比べものにならないほどに、幼く無邪気に笑っている。

今でこそそう言う表情をすることもあるが、それでも彼女からはどこか芯の強さが伝わってくる。

だがここにある写真に写っている彼女は、まだ子どものようにも思えるくらいだった。

 大尉は、俺にイスを勧めた。

「コーヒーくらいしかないんだけど、いいかな」

冴えない顔つきでそう言った彼女は、ぎこちない笑顔を見せて小さなキッチンの棚を覗き込んだ。

「あぁ、いえ、お気遣いなく…」

そう答えたが、大尉はそのまま二人分のコーヒーを淹れてくれた。

 ベッドに腰掛けた大尉は、ズズっとコーヒーをすすってからため息をつき

「来てくれて、ありがとう」

と静かに言った。

「いえ…俺も、思うところがあって…」

俺はそう伝えた。

 俺は、大尉に甘えたかったのかもしれない。この人は、これまでにもたくさんの絶望を経験してきているはずだった。

それでも、笑うことをやめない彼女の強さに、俺はすがりたかったのだと思う。そう、これはまるで、あの時と同じようでもあった。
 


 「大尉は、俺のこと、気づいていますか?」

俺は、大尉に聞いた。大尉は、首をかしげて

「なんのこと?」

と聞いてくる。

「俺が、あなたと同じだっていうこと、です」

俺は端的に応えた。大尉は静かにうなずいた。

「そうなんじゃないか、とは思っていたよ。あなたは、普通の人に比べたら、勘が強すぎるから、

 もしかしたら、って、ね」

「だとしたら、大尉が何を感じているのかを知ってるっていうのも、分かってもらえますよね?」

「うん…」

大尉はまた、静かにそう言ってうなずいた。

「俺は、大尉ほどに強い能力があるわけではありません。だから、大尉が何を考えているのかはわかりません。

 ですが、なにか考えていることがあり、それについてどう感じているのかは、うっすらとわかります。

 大尉、ライラ大尉のことは、あなたのせいなんかじゃない」

俺がそう言ったら、マライア大尉は両手で顔を覆った。それから、掻き消えそうな声を絞り上げる。

「だって…あのときあたしが、あの子をもっと強引に誘っていたら…

 あの子は、宇宙でなんか死ななくって良かったかもしれないのに…

 あたしは、あたしはまた、大事な人を助けられなかった…」

「それは違いますよ、大尉。ライラ大尉は、自分の信じる道を生きたんです。その結果なんですよ…

 それに、遠く離れたあの人を助けることなんて、あなたにはできるはずがなかった。違いますか?」

「分かってる!でも…!」

大尉は、そう叫び声をあげて、俺を見た。俺は彼女の目をジッと見つめた。

大尉は、何かを言いかけて、それをグッと飲み込んで、脱力した。

「そう…分かってるんだ。ライラは、ライラの義を通したんだって…。

 あたしには、あの子をどうすることもできなかったんだって。

 だけど、それでも…あんないい子が、どうして死ななきゃいけないのって、そう思うんだ。

 ちょっと間だったけど、あんなに仲よくしたのに…お酒飲んで、ケンカして、笑ったりしてさ…

 大好きだったんだ、あの子が。守ってあげたいって…ううん、ずっと一緒に居たいって、そう、思ってた…

 ねぇ、ソフィアって子の話をしたことあったっけ?」

大尉は思い出したようにそう聞いて来た。今度は俺が黙って首を横に振る。

すると大尉は壁にかかっていた写真の一枚を手に取って俺に見せてきた。

「この、真ん中の車いすの子。その子は、ジオン兵でね。

 あたしの基地に捕らわれてきたところを、みんなで助け出して、ジオンに送り返すつもりだった。

 でも、彼女は戦闘で、あたしを庇って手足を吹き飛ばされちゃった。

 あのころのあたしは、それはもうダメなやつでね。泣いてばかりで、みんなのお荷物。

 その子だけは守ろうって誓ったけど、でも、それも出来ず仕舞いで、最後まで、仲間に甘えるしかなったんだ…」

大尉の昔話は、初めて聞く。確か、もともとは航空隊に居たって話だったとは思うが…
 


「だからあたしは宇宙に出たの。たくさんの人を助けることは、きっとあたしにはできない。

 でも、せめて身近な大切な人だけは守りたい。そのためには、あたしも強くならなきゃいけない。

 そう思って、宇宙に上がった。みんなには会いたかったし、その、まんなかに写ってる、アヤさんて人がね、

 誰よりも好きだった。

 その人のそばに居て、あたしは、ずっと守ってあげたいって思って、頑張ってる。

 その人の役に立って、喜ばせてあげたい。安心させてあげたい。

 これまで、あたしにそうしてくれたように、あたしは、アヤさんの、隊のみんなと、

 お荷物じゃなくて、仲間として一緒に居たいから…だから…」

大尉は言葉に詰まった。止めどない感情があふれてくるのが感じられる。

「大尉…ゆっくりで大丈夫ですよ…ちゃんと、聞いてますから」

俺は、見かねて彼女にそう伝えた。

彼女は、目に涙をいっぱいに溜めながら、力強くうなずくと、また、大きくため息をついた。

それでも、震えて掠れた声で

「…だから、あたし、こんなことで泣いてちゃいけないのに。泣いてすくんでたら、なんにもできないんだよ…

 誰も助けられないんだよ。それなのに、ライラのことが、悲しくて…悲しくて、どうしようもないんだ…」

 そうか…。俺は理解できた。大尉が、どうしてこんなに強いのかを。彼女は、自分の無力を知っているんだ。

ライラ大尉を助けられなかっただろう事実を、受け止める方法を知っているんだ。

ライラ大尉を失った悲しみを、力に替える方法を知っているんだ。

そして、俺は、それを求めて、大尉のところに来たんだ。いや、それを求めて、大尉とともに、こんなところまで来たんだ。

 俺は…俺はこの人に、何を言ってあげられるんだろう?

俺に、なにか彼女の助けになれる手だてがあるとして、それは一体なんだ…?

「大尉…聞いてください」

考えながらではあったが、気が付いたら俺はそんなことを口にしていた。

「俺は、俺も、これまでに大切なものを守れないで、死なせてしまったことがなんどもあります。

 でも、そこで出会ったのがあなたでした。俺は、あなたのその強さに惹かれた。

 絶望を知り、それでも絶望に飲まれないあなたの強さに、悲しいことを悲しいと言って、泣ける強さに惹かれて、

 俺は一緒に、ここまで来ました。

 もしかしたら、自分の弱さをあなたに埋めてもらいたいと考えているのかもしれない…

 たぶん、それは甘えなんでしょうけど…でも、いえ、だから、泣いてください。

 それはあなたの弱さなんかじゃない。俺のように、悲しみを受け止められず、ただ胸の内にしまいこんで忘れるのとは違う。

 それはあたなの強さです…大切な人を守りたい、でも守れなかった、それでも、

 まだ誰かを守りたいと思えるそれは、弱さなんかであるわけがない。

 あなたの強さのために、ライラ大尉のために、今は、目一杯、泣いて良いんですよ…」

「ル、ルゥカスぅぅぅぅ!」

ガチャン、とコーヒーのカップが床に落ちて砕けた。

次の瞬間、大尉は俺の腕をつかむと、思い切り引っ張ってきて、すがりつくようにして俺の胸に顔をうずめた。

腕を回してあげようと思って、俺は大尉を抱きしめた。小柄な体がブルブルと小動物みたいに震えている。
 


 大尉、安心してください。あなたは俺達なんかとは違う。

あなたの心の中には俺たちとは違う、なにかがある。たとえどんなに潰されても、蹂躙されても、折れ曲がっても、

時間が経てばすぐにでもまたまっすぐに伸びることのできる、なにかがある。

だから、我慢なんてしなくていいんです。あなたの強さの根底は、涙くらいで揺らぐものなんかじゃないんですから。

俺が憧れるあなたは、泣かない強さを持った人のことじゃない。

何度でも立ち上がれる、そんなたくましさを持った人なんですから…

 そんな俺の想いが届いたのか、大尉はそのまましばらく、俺の腕の中で大声で泣いていた。

 俺はそうしながら、いつの日かのことを思い出していた。

 人の体温は、こんなにも心地良いなんてな…俺は、長い間感じることのなかったそんな思いを、

あの日のように、思い出していた。

 不意に、デスクの上の電話が鳴った。大尉は泣き止んで、腕の中で俺を見上げた。

「ルーカス、出て。今、あたし、無理」

普段は凛々しい彼女が、涙でボロボロになって。鼻水まで…俺の制服にへばりつかせて言ってきた。

苦笑いを通り越して、さすがにちょっと気持ちが引けた。

 「アトウッド大尉の執務室だ」

俺はデスクの方まで行って受話器を上げ、そう伝えた。

「あ、これは、中尉殿。マーク・マンハイムであります」

受話器の向こうからは、ここのところ、反抗的な態度を見せてくる例の男の声がした。

「あぁ、貴様か」

俺はそう言いながら、大尉をみやって、マークからだと伝える。すると大尉はニコッと笑顔を見せて

「うちの隊に来ないか、って誘っておいて」

と言いながらティッシュで鼻水をぬぐった。

 まったく、あなたって人は、本当に、気合いが抜けているときはただの“お喋りお嬢さん”ですよね。

そう思った俺の脳裏に、ライラ大尉がマライア大尉を呼ぶ声が響いた気がした。







―――――――――――――――――to be continued to CCA




 



つづく。

以上をもちまして、このスレに投下したいすべての内容を書き終えました。

今後、このスレの更新はありません。

感想、励まし、ダメだし、なんでも書き残してってください。

CCA編のスレを立て次第、こちらのスレで報告したのちにこちらはHTML化依頼出しますので

みなさまどうか、お早めにw


さてはて、お読みいただいている皆様、本当に感謝です。

ここまで書くことが出来たのもひとえに皆様のお陰だと思っております。

CCA編がどうなることかはまだわかりませんが、気合入れて書こうと思っているので、

どうか生暖かい目で見てやってください。


ここまで、本当にありがとうございました。

これからもどうか、よろしくお願いします。

キャタピラに戻ったか

乙ー!
サブタイトル忘れてるぞ
「俺の上官がこんなに有能なわけがない」
ルーカスもマライアに救われた一人だったのね
ただのツッコミ役じゃなかったw




チラ裏
1小隊3機編成として、その構成に大尉×2、中尉×1ってありえるか?
後のロンド・ベル旗艦のMS隊の全体の指揮官でも大尉だよな
軍備再編のゴタゴタの中、ティターンズのエリート意識の表れとしてならありか?

>>831
現実のパイロットでもほとんど尉官以上だからいいんじゃね



マライアならアムロともわかりあえたんだろうか
それとも…

>>830
結局、なんやかんやでキャタピラが落ち着きますw

>>831
感謝!!
問題は、ルーカスの過去に何があったのか、ってことなわけです。

階級についてはなやましいところです。>>832さんが言っているとおり、現実にパイロットはそのほとんどが尉官以上です。
宇宙世紀のように曹長クラスが価格の高い兵器に乗れるなんてそうそうないことだと思います。
思うに、宇宙世紀におけるMS搭乗員の階級は、現実世界の陸戦隊の階級に則している部分が大きいようで
小隊の指揮は少尉が、中隊規模では中尉が指揮をとっているイメージです。
MSのような特殊な教育が必要な兵器では、現実世界ではたとえば戦闘機隊の小隊を指揮するのは大尉以上の階級がいるんじゃないかと思います。
少尉なんて、ペーペーです。

そこらへんの辻褄が、キャタピラの中で微妙に合っていないのが正直なところなのですが…
ライラとマライアが同じ隊にいたのは、デラーズフリートの奇襲によって大打撃を受けた連邦艦隊が
反撃のために至急部隊を整える必要があり、あのような編成になったと解釈していただくのが一番すっきりするかと思います。

ちなみに当時はライラ、マライアともに中尉で、ルーカスは少尉。
その後、デラーズフリート打倒とティターンズ招集にあったマライアとルーカスはそれぞれ大尉と中尉に昇進。
ライラは、これも悩むのですが、オリジナルゼータの設定を取って、一度地球に帰還し、
そこで大尉に昇進したのち、グリプス戦役でティターンズに派遣将校として参加し、カミーユに撃墜されたと考えています。



>>833
感謝です。
深い話になりますね。

正直、マライアはアムロを了解は可能で厚く信頼していた反面、本当の意味で受け入れることはできなかったのだと思います。
 


機動戦士ガンダム外伝―彼女達の戦争―
機動戦士ガンダム外伝―彼女達の戦争― - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381238712/)

書くことないけど、ヌルっと新スレ建てました。
書くことないけど、“書いたこと”ならあります。
びっくりしてもらえることを祈っております。


このスレも名残惜しいけど、連休明けくらいにボチボチHTML化依頼を出したいと思います。

大変にありがとうございました。
 

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