――おしゃれなカフェ――
<からんころーん
北条加蓮「さっむー……! 藍子は、っと……おっ」
高森藍子「…………♪」(店の隅っこで座り込んでる)
加蓮「藍子ー」
藍子「あ、加蓮ちゃんっ!」フリムク
藍子「ふふっ。こんにちは。外、寒くなかったですか?」
加蓮「もうすっごく寒かったよー。お、見覚えのある暖炉だ。中にストーブが入ってるんだよね、これ」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第36話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「また同い年になって」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ラテアートを注文しながら」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「秋染め?」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「秋の日のカフェで」
加蓮「レンガのインテリアを積み上げて暖炉っぽくして、中にストーブを入れてるんだっけ」
藍子「はいっ。見ているだけで、なんだか暖かくなっちゃいますよね」
加蓮「普通にストーブとか置いてたらちょっとムードないもんね。こっちの方がカフェらしくていいなー」
藍子「なんだかほっこりしちゃいます。前にも見たのに、また写真を撮っちゃった♪」
加蓮「あ、これ手前にマットを敷いてるんだ。だから藍子、靴を揃えて置いてるんだね」
藍子「ここに来た方に、暖まってもらいたいって言っていましたよ。ほらほら、加蓮ちゃんも!」グイグイ
加蓮「わーこら引っ張るなっ。じゃ、お邪魔しまーす」ヌギヌギ
加蓮「……ぬくーい♪」
藍子「いっぱい暖まっていきましょうねっ」
加蓮「うんうん。暖まっちゃおう」スッ
藍子「って言いながらどうして私の首筋に手を伸ばしてくるんですか!?」
加蓮「え? ベタだけどやっとこうかなって」
藍子「やらなくていいですっ!!」
加蓮「いやいや、何言ってんの藍子。夏に扇風機を見たら宇宙人ごっこするでしょ? 冬にストーブを見たらついその前に座りたくなるでしょ?」
加蓮「じゃあ冬に待ち合わせで合流したらまずは首筋に手を突っ込まなきゃ!」
藍子「ダメっ! じゃあも何もどこも繋がっていません!」
加蓮「えー。ベタだと思うけどなぁ。……あ、店員さんだ。こんにちはー」
藍子「こ、こんにちは。騒いじゃってごめんなさ」
加蓮「隙アリ!」ニュッ
藍子「ひうっ!?」
加蓮「おぉ」
藍子「……あ」クチヲオサエル
加蓮「……すごい声出たねー」
藍子「あうぅ、聞かなかったことにしてください……」カオマッカ
加蓮「残念、私も店員さんも聞いちゃった」
藍子「忘れて~っ! か、加蓮ちゃんのばかーっ!」
加蓮「ごめんごめん。ほら、店員さんにとってはラッキーな1日だったってことで」
藍子「もうちょっと別の幸せとかあると思います!」
加蓮「藍子の可愛い悲鳴が聞けたんだよ? 占い1位でもなかなか出会えないラッキーだよ」
藍子「もっと別の幸せとかあります!!」
加蓮「ごゆっくり、だって。また注文が決まったら呼ぶねー」ヒラヒラ
藍子「…………」プクー
加蓮「……ほっぺた膨らませても可愛いだけだよー?」
藍子「……………………」ジトー
加蓮「ごめん、ジト目は痛い。店の中なのに背筋が寒くなる」
藍子「もぅ……。そんなことしないで、ほら、加蓮ちゃんも」ギュ
加蓮「ゎ」
藍子「冷たくなっちゃった手を、一緒に温めましょ?」ギュー
加蓮「……そうしよっか。ごめんね藍子。つい悪ノリで」
藍子「はいっ」
加蓮「あったかー……。こんなに寒いとお客さんも来ないのかな?」
藍子「店員さん、ちょっぴり寂しそうな顔でした」
加蓮「なんか私が来た時、すっごく嬉しそうというか、飼い主を見つけた犬みたいな顔になったっていうか」
藍子「きっと、加蓮ちゃんが来てすっごく嬉しかったんですよ」
加蓮「変なの。藍子もいるのにね」
加蓮「こうして藍子と並んで、暖炉……いやストーブだけど、暖炉に手をかざしてると、なんか雪山にでも来た気分……」
藍子「そうですね。今日は、すっごく寒くなっちゃって……都会なのに、スキーとかしに来た気持ちになっちゃいます」
加蓮「藍子はスキーとかやったことある?」
藍子「あはは……実はないです」
加蓮「えーなにそれー。分からないのに言ったの?」
藍子「雪山って言ったらスキーかなぁ、って。加蓮ちゃんは?」
加蓮「ないない。あんなのできる気がしない……って昔の私なら言ってたんだろうけど」
加蓮「今ならどうだろ。ふふっ、モバP(以下「P」)さんにお願いしてみよっかな。スキーのお仕事とか……」
藍子「チャレンジ企画、なんてできちゃうかもしれませんね」
加蓮「サバゲーしたり登山したりってあったんだからスキーくらい全然アリだよね。むしろ今更ベタって思われちゃうかも?」
藍子「よく考えたら、アイドルがサバイバルゲームや登山って……ふふっ。おかしくないのに、なんだか笑っちゃうっ」
加蓮「アイドルって何なんだろうねー」
藍子「何なんでしょうねー」
加蓮「歌って踊るだけがアイドルではないんです」
藍子「お散歩するのも、アイドルですっ」
加蓮「それは藍子だけでしょー?」
藍子「今は加蓮ちゃんだってそうじゃないですかー」
加蓮「まあ、確かに食べ歩きとか最近よくやってるけどね」
加蓮「Pさんとかスタッフさんがさー、いい映像が撮れた、って言ってくれるんだ。自然だけど、私らしいとかなんとか」
加蓮「誰かさんのお陰かな?」
藍子「……えへへ♪」
加蓮「…………」
藍子「? 加蓮ちゃん?」
加蓮「あ、ううん。なんか……あはっ、なんでもない」
加蓮(……寒い日だけれど暖かい場所に、少し上気した頬。生きてて一番幸せだって言いたげにすら見える蕩けた笑顔)
加蓮(あはは、うん、そーいう趣味はない筈なんだけどなー……ファンとかPさんの気持ちがちょっぴり分かっちゃったよ、これ)
藍子「……???」
>>9 下から3行目、一部修正させてください。
誤:加蓮(……寒い日だけれど暖かい場所に~
正:加蓮(……寒い日だけど暖かい場所に~
加蓮「はー、あったかい……」ヌクヌク
藍子「ちょっぴり眠くなってきちゃったかも……?」ヌクヌク
加蓮「藍子ー、駄目ー、ここで寝たら死んじゃ……わないっか」
藍子「うとうと……」
加蓮「……。朝起きると暖炉の前にゆるふわ少女が無残な姿で転がっていた。誰が、誰がこんなことを!」
藍子「くー……」zzz
加蓮「……」イラッ
加蓮「…………」ガサゴソ
加蓮「えい」パシャッ
加蓮「ふっふっふー♪」ポチポチ
加蓮「よしっ。……はいはーい。藍子ー、起きろー」ユサユサ
藍子「……はっ。あ、あれ? ……わたし……?」
加蓮「おはよー」
藍子「あ、かれんちゃん……。……あっ。私、本当に寝ちゃって……!?」
加蓮「ホントに一瞬だけね。藍子って器用だね。かがみこんで手を前にしたまま眠ってるもん。倒れたり揺れたりもしないで」
藍子「うぅ、褒められてる気がしない……」
加蓮「うん。皮肉100%」
藍子「ぇー」
加蓮「だべってるのに急に眠られたら……ちょっぴりイラッとするよねー?」
藍子「あっ。……ごめんなさい」シュン
加蓮「んーん。大丈夫。ちゃんと仕返しはしたから」
藍子「仕返し? ……まさかっ」バッ
加蓮「うん、別に落書きとかはしてないよ? 真っ先に手鏡で確認するんだ……」
藍子「じゃあ、仕返しって?」
加蓮「藍子ー。さっきさ、ポーチがブルってたけど、何か着信が来てたんじゃない?」
藍子「え? ……あ、本当だ。メールが――って加蓮ちゃんから? ……え? 加蓮ちゃんから??」
加蓮「ふふふ」ニヤニヤ
藍子「……??」ポチポチ
藍子「画像つき――って、これ私の写真……!?」
加蓮「あれー不思議だなー私そんなの撮ってないし送ってないんだけどなー。あー、これ私のじゃなくてPさんの携帯だー。どこかで入れ替わっちゃったのかなー。へんだなー」ヒラヒラ
藍子「いくらなんでも無理がありますぎます!! その星のデコレーションは加蓮ちゃんのじゃないですかっ。Pさんのスマートフォンにはデコレーションなんてないですから!?!?」
加蓮「おー、よく見てるね」
藍子「ううぅ……。しかもこんなっ、へ、変な寝顔のっ!」
加蓮「普通に可愛い寝顔だと思うけど」
藍子「……いつか加蓮ちゃんの写真だって撮っちゃうから~っ!!!」
加蓮「ふはははは、やれるものならやってみるがよいわー!」フハハハハ
加蓮「…………」
加蓮「…………なんかあっちの方がから店員さんがものすごい顔でこっち見てるんだけど」
藍子「私、もう帰りたい……」シクシク
加蓮「駄目だよー、まだ何にも注文してないし。それにしても昨日遅かったの? お風呂の中でゆるふわしちゃったか」
藍子「ゆるふわするって何ですか~。昨日は……でも、昨日も眠たかったから、11時には眠っちゃったような……?」
藍子「最近、暖かい部屋でのんびりしていたら、すぐ瞼が重たくなっちゃうんです」
加蓮「そっか」
藍子「ストーブの前とか、こたつに入ったら、なんだか安心できちゃって……」
藍子「あっ、でも寒い日のお散歩も楽しいんですよ。春や夏には見られない物がいっぱいあってっ」
加蓮「おお」
藍子「枯れ葉がいっぱいに敷き詰められていて、もう秋も終わっちゃうんだなって思って……」
藍子「ちょっぴり寂しくなっちゃうんですけれど、でもっ、それって冬が近いってことですよね」
藍子「そう考えたら私、なんだかワクワクしちゃって!」
加蓮「ワクワクするんだ」
藍子「はいっ。今年もカフェのケーキをいっぱい食べて、それからイルミネーションを見に行って……」
藍子「クリスマスのお仕事も楽しみっ。またサンタさんになりたいなぁ」
加蓮「サンタ、か」
藍子「加蓮ちゃんも、また一緒にプレゼントを配りましょうよー。きっと楽しいですよ。いっぱいの子どもたちの笑顔を見ているだけで……ふふっ♪」
加蓮「幸せそうな顔しちゃって。しょうがないなー、またPさんに交渉しなきゃね」
藍子「お願いしちゃいますね。加蓮ちゃんがお願いしたら、Pさんもきっと聞いてくれますよ」
加蓮「どっちかというと藍子の方が上手くいきそうな気がするけど……まあ、いっか」
加蓮「クリスマス、か」
加蓮「……クリスマス」
藍子「……まだ、……その……複雑ですか?」
加蓮「どうだろ。半々、ってところかな」
加蓮「幸せそうな人達を……いつかの私がどれだけ手を伸ばしても得られなかった笑顔の人達を」
加蓮「嫉妬したり、恨んだり。そーいうのはもうないけど……私にだって、あったかい思い出はできたけど」
加蓮「まだ、ちょっとだけモヤモヤするかも」
藍子「……」
加蓮「しょうがないよ。これはこういうものだって」
加蓮「何もなかった日が、幸せな記憶で上書きされていく。だからといって、なかったことはなかったことにならない」
加蓮「いっそ、記憶を無くしてしまえば楽になるのかもしれない。なかったことをぜんぶなかったことにして、ゼロから作り上げていく方が楽なのかもしれない」
加蓮「もし、それで私が私じゃなくなっても……きっと、私を見てくれる人はいるだろうから」
藍子「……」
加蓮「……なんてね。レンタルで見たドラマに影響されちゃった」
加蓮「ふふっ。藍子も気をつけた方がいいよー? 間抜けな顔で夜道なんて歩いてたら、嫉妬に狂った加蓮ちゃんに襲われちゃうかもよ?」
藍子「え。……もう嫉妬はしていないんじゃ……!?」
加蓮「ある日突然、変な気を起こすかもねー?」
藍子「そ、その時は……なんとかして加蓮ちゃんを止めてみせますから!」
加蓮「あははっ」
藍子「こう、腕をぎゅっとして……ううん、体ごとぎゅーっとして、力ずくでも止めてみせますっ。加蓮ちゃんを不幸せになんて絶対にさせませんっ」
加蓮「あはははっ! 期待してるね、藍子」
藍子「はいっ! ……って、え、あの、冗談……ですよね?」
加蓮「うん、冗談」
藍子「……………………」ジトー
加蓮「なんだろ、最近藍子のジト目が鋭くなった気がする」
藍子「加蓮ちゃんがそうさせてばっかりだからだと思います」ジトー
加蓮「だってさ、来てもない話に無駄にシリアスモードになっても疲れるだけじゃん?」
加蓮「なら笑い飛ばす方が楽だし。……ね? 大丈夫。曖昧なモヤモヤに負けるほど、加蓮ちゃんは弱くないから」
藍子「……」
加蓮「何その信じられないって顔ー。大丈夫だってば。私がさっき言ったようなこととか実行したことがある? ないでしょ?」
藍子「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「クリスマスのお仕事、一緒にやりましょう。プレゼントを配って、みなさんをいっぱい幸せにするお仕事を」
藍子「加蓮ちゃんが、そんな冗談を言えなくなるくらいに、めいいっぱい幸せな時間を作るんです」
加蓮「……。……気負わなくていいんだけどね。藍子にも藍子の都合ってものがあるでしょ」
藍子「"私が"やりたいだけですから」
加蓮「そっか……」
加蓮「……そろそろ座って何か食べない? お腹空いてきちゃった」
藍子「はーい。名残惜しいですけれど、暖炉とかお別れですっ」
加蓮「遠くから見えるんだけどね。遠恋かな?」
藍子「暖炉さーんっ!」
□ ■ □ ■ □
<シトシト...
加蓮「ポテトサラダとサンドイッチ、あとホットコーヒーとホットココアで。うん、お願いね」
藍子「お願いしますっ。……雨、降ってきちゃってますね」
加蓮「だね。こんな中に濡れながら帰ったら……私じゃなくても一発で風邪だね」
藍子「天気予報ではすぐに止むって……でも、もしかしたら雪が降るかもしれない、って言っていましたよ」
加蓮「雪ー? えー、まだ秋じゃん。秋に雪が降るところなんて見たことないし、降る訳ないでしょー」
藍子「でも降るかもって言ってたんです。もし雪が降ったら、数十年ぶりのことになるみたいです。ちょっぴり見てみたい……かも?」
加蓮「数十年ってすごいね」
藍子「あ、でもそうしたら、どうやって帰ればいいのかな……。傘、持ってきていないし……」
加蓮「誰かに迎えに来てもらおっか。……っていうか、雪、じゃなくて雨が止んでも迎えに来てもらおうよ」
加蓮「もう寒すぎて寒すぎて、こんな中を歩いて帰る気なんてなれないよ」
藍子「車の中なら、少しは暖かいでしょうか?」
加蓮「外よりマシ」
藍子「じゃあ、お母さんにお願いしちゃいますね」
加蓮「ん、いいの?」
藍子「はい。加蓮ちゃんのお願いだって言ったら、きっと快諾してくれますからっ」
加蓮「藍子のお母さんって優しそうだもんね。うちのうっさい親も見習ってくれないかなー」
藍子「加蓮ちゃんのお母さんだって、とっても優しいじゃないですかっ」
加蓮「あれは藍子にだけだよー」
藍子「じゃあ、私のお母さんだって加蓮ちゃんにだけです」
加蓮「そうかなー」
藍子「そうですよー」
……。
…………。
加蓮「もぐもぐ……ポテトサラダうまー」
藍子「あむあむ……サンドイッチ、今日も美味しいです♪」
加蓮「ポテトがさー、ポテトがすっごく美味しいの。じゃがいも。じゃがいも……はふぅ」
藍子「加蓮ちゃん、ひとくちっ」
加蓮「やだー。藍子になんて渡すもんかー」
藍子「そこをなんとか!」
加蓮「あい」アーン
藍子「あむっ。……わぁ……。サラダなのにほかほかで、甘くて美味しい……!」
加蓮「たまごもふんわりしてて……ん~~~! 注文してよかったー」
藍子「……サンドイッチを食べた後に、注文しちゃおっかな」
加蓮「うんうん、するべきだよ。よく分かんないけど今日を逃したらもう食べられない気がする!」
藍子「えー、これ限定メニューじゃないですよ?」
加蓮「今日のポテトは今日にしか食べられない」キリッ
藍子「あはは、不思議な説得力……」
藍子「加蓮ちゃんっ。ポテトサラダとオープンサンドからポテトサラダを選んだ決めては何ですかっ!?」
加蓮「ん? インタビューごっこか何か?」
加蓮「ごほん。――ええ、最後まですごく悩みました。これほどの選択は1ヶ月前の2択、オフの日にPさんを誘おうか藍子を誘おうかって時以来でしたね」
藍子「へ? そんなことがあったんですか?」
加蓮「うん。急にできたオフだったし、Pさんもたまたまお休み、で確か藍子もスケジュール空いてたのを私が知ってて」
加蓮「いつもみたいにカフェにしよっかなー、でも最近Pさんとデートしてないなー、とかあれこれ悩んでさ」
加蓮「決めきれないでゴロゴロしてたら親に用事を言いつけられちゃって、外出自体できなくなったんだ」
藍子「あはは……それはドンマイです」
加蓮「ずっと膨れてたなー。もう、空気読んでよ! って感じ」
藍子「機嫌を治すのに苦労しちゃいそう……」
加蓮「とりあえずポテトを投げておけば大丈夫でしょー」
藍子「本当にポテトが大好きなんですね、加蓮ちゃん」
加蓮「うん。あむあむ……前にさー、カラオケに行った時に食べたポテトがすっごく美味しかったんだー」
藍子「ふんふん」
加蓮「でもわざわざポテトを食べに行く為だけに、ってなんか違うじゃん」
加蓮「カラオケ一緒に行ったのにひたすらポテト食べてたらさ、何しに来たんだコイツ、とか思われそうだし」
藍子「それは……確かに?」
加蓮「でも、そのカラオケボックスに行かないとポテトは食べられないの。どうしたらいいと思う?」
藍子「どうしたら、って……ポテトを食べたり、歌ったり、交互にすればいいんじゃないですか?」
加蓮「おぉ……藍子、天才じゃん」
藍子「えぇー。普通のことしか言ってない……」
加蓮「ポテトって歌う時に食べると喉が枯れないで済むんだって。ほら、油が混じってるからだと思うけど」
藍子「じゃあ、フリータイムにする時にはいっぱい食べないといけませんね」
加蓮「だねー。……もぐもぐ……ごくん。ということで私もお代わりしちゃおっと」
藍子「あっ。私、まだサンドイッチ食べてませんーっ」モグモグモグ
加蓮「急いで食べなくてもいいよ。すみませーん。ポテトサラダ2人分、お代わりお願いしますっ」
藍子「待ってーっ」モグモグモグ
……。
…………。
加蓮「ごちそうさまでした」パン
藍子「ごちそうさまでしたっ」パン
藍子「ぜんぶ食べちゃったから……お腹がいっぱい……」
加蓮「結構お腹に溜まっちゃったね。あー、しばらく動けないかも……」
藍子「ここ、暖かいから、また眠たくなってきちゃいました……」
加蓮「またー? 今度は落書きしてから写真を撮」
藍子「起きてます」キリッ
加蓮「あ、うん」
藍子「……、……」コクッコクッ
藍子「はっ」
藍子「お、起きてますからっ」
加蓮「何も言ってないよ」
加蓮「……そんなに落書きされるのはヤダ?」
藍子「それは、まあ……。それに、加蓮ちゃんのことだから、とんでもないことになっちゃいそうで」
加蓮「んー」
藍子「ここは雪山……そう、ここは雪山なんです。寝たら死んじゃうんです。ここは雪山ここは雪山……、……ふわぁ……」ゴシゴシ
加蓮「……いーよ。落書きしないから少し寝ちゃえ」
藍子「え? でも……」
加蓮「いーからいーから。1時間くらいゆっくり寝た方が頭もしゃきっとすると思うし」
藍子「……ふわ……でも、そうしたら加蓮ちゃんが、たいくつになっちゃいますよ……?」
加蓮「大丈夫、スマフォでもつついとくから。別に藍子はつつかないから」
加蓮「テーブル拭いてー、から拭きしてー。これで服が汚れたりもしないね」
加蓮「あ、せっかく長椅子の席なんだし横になった方がいいのかな?」
藍子「……」コクッコクッ
藍子「かれんちゃん……」
加蓮「ん?」
藍子「ひざ、かりて……いい……?」
加蓮「ん。……あ、待って、私がそっち行くから」ヨイショ
加蓮「よっと。はい、どーぞ」
藍子「おやすみなさい……」
藍子「……zzz……」
加蓮「おやすみー」
……。
…………。
藍子「くー……」
加蓮「…………」ポチポチ
加蓮「ふわ……っと、私まで眠たく……逆にスマフォをいじってる方が眠たくなっちゃうのかな」
加蓮「テーブルに置いて、っと……」
加蓮「今日、ぜんぜんお客さん来てないし、BGMも控えめだし……それとも、気を遣ってくれたのかなぁ」ナデナデ
藍子「すぅ……」
加蓮「…………ふふっ」ナデナデ
加蓮「…………」ナデナデ
藍子「……むにゅ……」
加蓮「……私のことを諭してくれる時、側にいて欲しい時に側にいてくれる時は、すっごく大人びてるのに」
加蓮「ケンカしてた時とか、あくびして目をこすった時とか……それからこうして寝てる姿は、ものすごく子供って感じ」
加蓮「どっちなんだかね。……どっちも藍子か」
藍子「…………へへ……」
加蓮「相変わらず楽しそーにしてるし」
加蓮「不気味なくらい静かだねー。雨の音もぜんぜん聞こえないし。誰も会話してなくて、聞こえるのはストーブの音だけ」
加蓮「…………」メヲツブル
加蓮(いつもはこーいうのホントに落ち着かないし、賑やかな場所の方が好き。っていうか、誰かといるのに黙り込んだままって普通はあり得ないし)
加蓮(でも、今……ここで、この子といる時だけは)
加蓮(膝の上がくすぐったくて、そしてちょっとあったかいだけで、これでいいや、って思えちゃうんだよね……)
加蓮「…………」
加蓮「…………」ベチ
藍子「んんっ……」モゾモゾ
加蓮「ととっ、つい」
藍子「……zzz……」
加蓮「あ。ストーブ……じゃなくて暖炉の前に運んだ方がよかったのかな?」
加蓮「って、私1人でできる訳ないっか……。店員さんに協力してもらう……のもちょっと迷惑になりそうだし」
加蓮「いっか。寒そうなら上着でもかけてあげよっと」
藍子「……みゃ……」
加蓮「……猫になった夢でも見てるのかなぁ」ナデナデ
加蓮「はいはい、飼い主の加蓮ちゃんだよ。か・れ・ん・ちゃん」ボソボソ
藍子「……かれんちゃん……」
加蓮「はい、まずはお手」スッ
藍子「……の……ばかぁ……」
加蓮「……………………」
藍子「……えへ……ぇ……」
加蓮「……何の夢を見たのか後で問い詰めちゃろ」ナデナデ
藍子「…………♪」
……。
…………。
藍子「ん……んんっ…………」
加蓮「くわぁ……あ、そろそろ起きる頃かな? 1時間くらい経ったんだっけ――」チラッ
加蓮「……うっわー3時間経ってるぅ」
藍子「ん……」パチクリ
加蓮「寝ててもお構いなく発動するんだね、ゆるふわ空間……。外もだいぶ暗く、」チラッ
加蓮「――え?」
藍子「ふわぁ……。んんー……あれ、かれんちゃん……」
加蓮「あ、藍子――」
藍子「ここ……かれんちゃん、かふぇ……そうでしたっ。私、加蓮ちゃんとカフェに来てたのに、すごく眠たくなっちゃって!」
加蓮「そんなことより! 藍子、外見てよ、外!」
藍子「外?」オキアガリ
藍子「もうこんな真っ暗!? 私何時間寝て――って」
<サラサラ...
藍子「え? ……雪……!?」
加蓮「うん、雪。雪が降ってるの。いつの間にか雪が降ってるんだよ!」
藍子「わぁ……! 本当に、雪が……!」
加蓮「すごいね。何十年ぶり、なんだっけ?」
藍子「50年ぶりくらいだって……すごい……!」
加蓮「50年かー。すごいね。50年だよ、50年」
藍子「50年。すごい……!」
加蓮「外がもうだいぶ暗くてさ。街灯を見たら雪が降ってて、だけど今日ってまだ11月なんだよね」
藍子「はっ。そうでした、今日はまだ11月です」
加蓮「もう12月の気分だけど、まだ11月だよ」
藍子「い、今って秋なんですか、冬なんですか!?」
加蓮「うわ、それすっごい悩む! 冬になるのかな、秋になるのかな……」
藍子「私、まだ冬のスケジュール決めてないままなんですっ。もうそろそろ冬が来るかも? って思ってただけでっ、今が冬になっちゃうと困っちゃう……!」
加蓮「いやアンタあちこちケーキ食べたいとかイルミネーション見に行きたいとか言って……」
加蓮「……ふふっ。じゃ、せっかく早すぎる初雪でも見られたんだし、ミーティングでもしよっか」
藍子「ミーティング?」
加蓮「冬の予定。どうせだから、色々話しちゃおうよ!」
藍子「はーいっ」
加蓮「っと、その前に。藍子も起きちゃったから私は対面の席に移動――」スクッ
藍子「あ、待ってっ」ガシ
加蓮「ひゃっ」
藍子「せっかくですから、たまには隣同士でお話しませんか? それに、ほらっ。くっついた方が、暖かくなれますから♪」ピトッ
加蓮「……そこにストーブ、じゃなくて暖炉とついでにくつろぎ用のマットが敷いてあるんだから暖まるならそっち、」
藍子「…………」ジー
加蓮「はいはい。しょうがないなー。たまにはこういうのもいいかもね」
藍子「はいっ♪」
<あんまり冬のイベントって出揃ってないんだねー。やっぱりまだ11月なんだよね
<あ、これ、イベント情報が出てますよ。ほら、ここここ。イルミネーションのライトアップイベントって!
<ホントだー。……ん? ねえ藍子、この露店の名前、なんか見覚えがあるんだけど……。
<本当ですね。どこで見たんだろ?
<……あーっ! 前に、ほら、温泉に行った時の! 食べそびれたポテトの露店!
<あっ
<藍子。これ行くよ。絶対行くよ。藍子が行かないって言うなら私1人でも行くよ風邪ひいてでも行ってやるからね私に風邪をひかせたくなければ――
<そ、そんなに迫らなくても! 行かないなんて一言も……落ち着いてください加蓮ちゃん! ……もうっ!
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
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