男「ボクっ娘の罠」 (23)

原作:国木田独歩「画の悲しみ」より

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小さい頃から絵が得意だった。

でも違うクラスのあいつはもっと絵が上手だった。

自分が自信を持って博覧会に出した絵なんかには皆目もくれず、あいつのかいたチョークのコロンブスに釘付けだった。
自分も度肝を抜かれた。

悔しかったからと、自分もチョーク画を書くことにした。

風車を描こう、と思った。

家を出て、堤を下りて、川沿いの草むらまで出ると、夏の終わりだというのに太陽がさんさんと輝いていた。

風車の見える草原まで来てみると、一人の少年が絵を描いていた。

頻りに風車を書いているようで、こちらには全く気がつかないようだ。

なぜあいつがいる、どうして自分のより先に来ている。 と凄く癪に触った。

だとしてもこのまま家に引き返すことを考えると、もっと癪に触った。

そのまま棒のように突立っていても、あいつはまだ気がつかないようだ。

自分でも訳のわからないこと考えていても、彼は一心に絵を描いている。

草陰から出た膝に大きな画板を寄せ掛けて、柳の影が全身を覆っている。
葉の隙間から零れ落ちた光があいつの白い肌へ穏やかに透き通ってゆく。

これは面白い、彼奴を写してやろう。と、自分もそのまま腰を下ろす。

写生に取り掛かっていると、不思議なことを感心に思った。

画板へ向かうと、彼奴をいまいましく思う気持ちは薄らぐ一方で、描く方に心を囚われてしまう。

彼は顔を上げては風車を見、また画板へ向かう。
そして微笑ましい咲顔を浮かべる。

彼が微笑を浮かべるごとに、自分も我知らず口角を上げざるを得なかった。

そうしていると、彼は突然立ち上がり、その拍子にこちらの方を向いた。
そしてなんとも言いがたき柔和な顔をして、にっこりと笑う。

「君は何を描いているのだ、」

「君を写生していた」
普通はドン引きだろう。

「僕はもはや風車を描き終えてしまったよ。」
彼の返答は意外だった。

「俺は、まだ出来ていない。」

「そうか、」
そう言うと、あいつはそのまま再び腰を下ろし、元の姿勢になって、

「描きたまえ、僕はその間にこれを直すから。」
その時の自分の顔は、さぞ愉快なものだったであろう。

描き始めたが、描いてるうちに彼をいまいましく思う気持ちは全く消え、かえってあいつがかわいらしくなってきた。

名前とクラスは知っているが、今までに喋ったこともなければ見かけたこともほとんどない同学年の男子の絵を描く、考えてみれば不思議なことだ。

そしてふと思う、もしかして自分はホモというやつではないのか。
肩まで伸びた髪の毛、真っ白の肌、そよ風に吹かれて柔らかに微笑むその笑顔。

そんなことを考えるうちに書き終わったので、

「出来た」
と呼ぶと、彼奴は自分の傍へと寄ってきた。

「おや、君はチョークで書いたね。」

「初めてだからまるで画にならなかった。 お前はチョーク画を誰に習ったんだ?」

「東京から帰ってきた従姉妹からね、でも習いたてだから僕にも上手く描けない。」

「コロンブスは良くできていただろう、俺は度肝を抜かれた。」

話してみるとなかなか心地の良いもので、二人はすぐに仲良くなる。

『自分』は心から『彼奴』の天才に服し、『彼奴』もまた『自分』をまたなき人と親しんでくれた。

二人で画板を携え、野山を写生して歩くこともしばしばあった。

二人で連れ立つようになり、再び度肝を抜かれたようになったことといえば、

「彼」が「彼女」だったということだ。

ところが自分が二十歳の時であった。

運命とは残酷な物、「彼女」が倒れたと連絡が来る。

自分には内緒にしろと言っていたこと、本当は三年前にでも危なかったとということを医者から聞く。

自分が好いた人は、呆気なく時を終えた。

次は13日を予定してます。

故郷の風景はまったく違っていた。

駅の近くには大きなショッピングモールができて、人だかりが増えたようだ。
よく使っていた駄菓子屋はなくなり、カードショップがコンビニになっている。
よく訪れた野山にも道ができていた。

自分も最早以前のような少年ではなく、特別な才能など何もないただの学生となった。
二人で見ていた景色は、まるで病的な程に美しく輝いていたが、
一人欠けてしまった景色は、何者にも言い難い暗黒に犯されていた。

画板を片手に、あの草原を目指した。

風車を書こうと思った。 他の誰でもない「彼女」と書いた風車を。
堤を下りて、草むらまで出てみると、バランスを崩してこけてしまいそうになる。
冬の空気が息を白くさせる。

草原へとたどり着く。

心を重圧が襲い、目眩が起こる。大き過ぎる思い出が息を止めさせる。

そこにあるのは、止まった風車と、まっさらな画板と、ちっぽけな自分。
時が止まったように真っ白になった自分。

心が苦く、黒く染まっていく。
視界が朦朧とし、冷たくなる。

心行くまで絶望すると、闇の中から光が出てくる。

柳の木漏れ日が重圧を和らげる。
此方を望んで林を見る。
輝く日に、いつもの景色。

自分は泣いていた。

1、実はドッキリだった。
2、タイムスリップで未来を変える。
3、自由案

>>21

やべミスっちまった。
>>23

2

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