兄「世界を変えるのはわらしべなんだよ」妹「え?」 (12)

兄「妹、僕は気づいたんだ。財産も地位も権力も持たない僕たちが世界を変えるためには、わらしべが一番なんだよ」

妹「そんなもので、変えられるの……?」

兄「ううん。変えるんだよ、僕は。君の兄はこの国、この世界を変えてみせるよ。僕たちのような人をなくすために」

妹「そんなこと……」

兄「できないと思うかい? やってみなくっちゃ! 君だって今の暮らしに満足してるわけじゃないでしょ?」

妹「うん」

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この兄弟の住む国は小国であった。貧富の差は手がつかないほど大きくなり、財産を持つものが正義となっていた。貧しいものは有無を言わさず虐げられ、罵られ、使われた。
兄弟は生活に難を感じた両親に売り物とされ、奴隷としてある家で使役されていた。

金持ち「おい、貴様ら働け。誰のおかげで貴様らが生きていられると思っているのだ」

兄「も、申し訳ございません!」

妹「すみません……」

兄(この国……いやきっと、世界の貧富の差は全部間違ってる!!! 必ず変えてみせる!!!)

★★★★夜

兄「妹、起きてるかい」

妹「うん……起きてるよ」

兄「いまからここを抜け出そう。そうしなければ話は始まらない」

妹「そ、それ大丈夫なの」

兄「ああ、大丈夫。この家さえ抜ければ、僕らのような貧乏人に目をくれる奴は一人だっていないはずさ。腹をくくろう」

妹「うん、わかった。お兄ちゃんを信じるね」

兄「ああ、妹。どんな時もお兄ちゃんを信じな」

兄弟が自由に使える部屋はなく、本館と離れた物置が寝所である。

妹「信じるけど、ここを出たらご飯食べられなくなっちゃうよ」

兄「大丈夫、毎日ちょっとずつあいつから金をくすねてたから」

妹「いけないじゃない、そんなことしたら」

兄「そうだね。でも、僕が世界を変えたらみんなが幸せに暮らせる。交換だよこれは」

妹「そうだね」

兄「ここは裏門からも近い。日が明けないうちに行こう」

妹「うん」

兄弟はその夜、館からの脱出に成功した。幼い頃に売り払われ、外の世界を見ることができなかった二人にとって、館の外は新鮮そのものだった。

妹「お兄ちゃん、起きてもう朝」

兄「ん……もうそんな時間か」

館から抜け出したあと二人は少し離れた森林に身を隠し、眠りに落ちたのだった。

兄「さてと、ここから僕らの物語が始まるんだ」

妹「うん! ところで、初めは何を交換道具にするの?お兄ちゃん」

兄「えっとね、バッグの中にとっておきのものが入ってるんだ」

妹「そ、それ金のネックレス!? 盗んだの?」

兄「まぁね、これもちょっと気が引けたんだけど、必要なことなんだ」

妹「そうだね。それがないとはじめられないもんね」

兄「隣町まで歩こう」

妹「うん」

兄「その前に、装備を揃えよう。こんな格好じゃ奴隷に勧誘されまくるに決まってるからね。それに僕たちはこの世界を変えるまでもう普通の生活はできないんだ」

妹「うん……。この街にはたくさんお店があるからそこで揃えよう」

街にでた兄弟は、装備を揃えた。服、靴、鞄、全てを貴族と判別がつかないようなものだ。そして顔を覆う仮面。

兄「揃ったね。僕たちはこれから犯罪にも手を染めていかなければいかないから、顔を隠すことは必要になってくる」

妹「どうして……?」

兄「この装備を揃えたので財産がもうほとんどない。食費もあまりないから、どこかを襲うしかないんだ」

妹「そっか。私たちが生きるには仕方ないよね……」

兄「うん。さて、隣町までいこう。この金のネックレスを何かと交換してもらおう」

日が沈み、人々が宿を取り始めた頃二人は街はずれの小さな集落に歩みを進めていた。

兄「さてと、ここで武器を調達しよう」

妹「武器……?」

兄「これからいろんな所を渡り歩くんだ。武器がないととても危険だよ」

妹「そっか……。でもなんでこの集落なの?」

兄「貴族から武器を盗むことはできないよ妹。あれだけ大きいものを持ち出そうとすれば、必ず警備の人間に捕まるし、そもそも武器庫に侵入できる可能性が薄いからね。こういう所のほうが適してるんだ」

妹「そうなんだ。でも怖いね、襲われたらどうしよう」

兄「演じればいいんだよ」

妹「え?」

兄「僕らの格好は貴族のそれさ。貴族を演じさえすれば集落の人々は言うことを聞くよ」

兄妹が集落に足を踏み入れると、二人に奇妙な目線が集まった。

妹「見られてる……」

兄「堂々としな。大丈夫、まかせて」

「お前らなんのようだ」

兄「口の利き方には気をつけろ平民。私は王族の管轄の軍のものだ。現在隣国との対戦に備え、武器をできるだけ多く調達している。すぐにここの集落にある武器を持ってこい」

「は、はい! ただいまぁ!」

十分ほどでその集落にある全ての武器が兄の前に集められた。

兄「この中で特に良い武器を教えろ」

「こちらの剣と、こちらの槍でございます。剣の方は比較的重いですが、力強さは桁違いです。槍のほうはかなり軽いですが、殺傷能力には定評があります」

兄「ではその二つをもらおう。今回はそれで勘弁してやろう。それと食料をよこせ」

「は、はい!」

集落を出て二時間ほどの森林にある小川の近くで二人は足を休めた。

兄「今日はここで寝よう。山賊がいると危険だから、交代で寝よう。なにかあったら起こし会おう」

妹「うん……。お兄ちゃんさっきすごかったね。おかげで槍も手に入ったし」

兄「なにもないぼくらは頭を使わないと生き延びられないからね。先に寝なよ、妹」

妹「わかった。眠くなったら起こしていいからね。交代する」

兄「うん。おやすみ」

妹「うん」

妹が眠りについた直後、すぐ近くで草を揺らすような物音がした。人間だ。

「貴族だな。貴族がなぜこんなところにいる。金をよこせ」

兄「貴様何者だ? 平民が一人でなんの用か」

「偉そうな口聞くんじゃねぇ!!」

兄よりもひとまわりは身体つきの良い男が剣を抜き、襲いかかった。

兄(まずいな、剣術のいろはのいの字もわからないし、ましてや妹に危害が……)

兄「害虫が!!! 」

兄は一心不乱に剣を振り回した。

「そんなデタラメじゃ当たるわけ--」

突然剣が炎を発した。男は炎につつまれ、やがて原型がわからなくなるほど燃焼した。

兄「ま、まさかこれは……」

--呪いの剣と槍。神話の話である。一度その剣と槍で人を殺めたものは呪われ、一日一人その武器で人間を殺めなくてはならなくなる。それが達成されなければ、呪いに飲まれ使用者は死を迎える。使用者が死を迎えるまで、その武器の所有権は変わらない。

兄「剣から炎が出たし、間違いなくこれは呪いの剣だ。まずいことになった。あいつらだましやがった。妹には使わせないようにしないと」

またきます

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