逸見エリカ「黒い鳥」 (82)


負けた。

今年も、彼女に。

私が憧れていた西住まほ隊長は既に黒森峰を卒業し、私が隊長を引き継いだ。

そして全国大会、私達黒森峰は決勝まで勝ち進んだ。

決勝の相手は大洗、隊長は西住まほの妹、西住みほ。

黒森峰は去年も彼女が率いる大洗に敗北し、今度こそ勝つといどんだが、敵わなかった。

私は、彼女を見つめる。悔しさをこめながら。だが、その時だった。

彼女が、今にも飛び立たんとする黒い鳥に見えたのだった。

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「!?」

私はハッとなって目を擦り、もう一度彼女を見る。そこには知っている彼女の姿があった。

私は、疲れていたが故に見た幻覚だと思った。

そう、その時までは。

ダージリン「昔話をしてあげる……神様は人間を救いたいと思ってた」

見てるぞー

ラーズグリーズかと思った

その数日後、黒森峰で紅白戦があった。

この紅白戦は3年生の送別を込めた試合でもある。

試合は意外にも2年生が有利に進めていた。だが、簡単に負ける訳にはいかない。私達は彼女らの壁とならなければならないのだ。

途中から3年が力を見せつけ、状況は互角となる。

最終局面で相手の隊長と一騎討ちとなる。激しい撃ち合いの末、勝ったのは相手だった。私は、はぁ、と一息つく。しかしそのあとだった。

激しい撃ち合いの結果、相手の戦車から燃料が漏れているのを見つける。しかも、戦車の位置は私の戦車の後部にくっついた状態で、私の戦車からは小さな火が見える。そしてその火は燃料に引火する。

燃料は燃えにくいもののはず、しかし火は燃える。おそらく他の油と混ざってしまったのだろう。火は戦車の中へと走っていく。

叫んだ。だが届かなかった。

バン!と音がした。戦車のエンジンが爆発した。ありえないぐらいに。

今すぐ脱出しろ、と叫んだが、相手のチームはパニックになっていた。一人の服に火がついたらしい。

私は自分の戦車から燃える戦車に移り、相手チームを助けようとする。だが、私の行動を妨げたものがいた。

二度目の爆発。

その爆発は私を戦車から強引に引きずり下ろし、私を頭から地面に叩きつけた。叩きつけられた私は意識を失いかける。

薄れていく私の視界に入ったのは、弾薬に引火してハッチや砲口から火を吹く戦車と、いつの間にかいた黒い鳥だった。


ー神様は人間を救いたいと思っていたー


ーだから、手を差し伸べたー


ーだがそのたびに、人間の中から邪魔者が現れたー


ー神様の作る秩序を、壊してしまう者ー


ー神様は困惑したー


ー人間は救われることを望んでいないのかってー


ーでも神様は人間を救ってあげたかったー


ーだからー


ー先に邪魔者を見つけ出して[ピーーー]ことにしたー


ーそいつは「黒い鳥」って呼ばれたらしいわ ー


ー何もかもを黒く焼き尽くすー


ー死を告げる鳥 ー

ガチタン&パンツァーか

とりあえず、メール欄にsagaっていれよう

mail欄にsagaって入れるとピーが入らなくなるぞ

「!!!」

私は跳ねるように起き上がる。 口で荒く呼吸をした後、周りを見る。見たところ、病院の一室のようで、口には人口呼吸器がつけられていた。

一瞬、何故こんなところにいるのかと思ったが、ハッと思い出した。あの時、私は戦車から落ちたのだと。

そのあと、やってきた看護師に大丈夫ですかと声をかけられたり、医師に自分の状態を言われた。あと一週間近く入院らしい。

私は、眠っていた時のあの言葉を覚えていなかった。

次の日の朝、私が目覚めたのを聞いた訪問者が現れる。

赤星小梅。黒森峰の元副隊長だった。

小梅は、私が無事だったことに安堵の表情を浮かべる。だが私のことはどうでもいい。私はあの時の事故について聞く、小梅は、やはり聞いてきたか、とでも言いそうな顔をした。そして彼女は語り始めた。

あの事故は、不幸が重なりあって起こったものだと。

カーボンに亀裂が走っていたこと。

不燃製の燃料が他の油と混ざってしまい、化学反応で燃えるようになってしまったこと。

エンジンに無理をさせすぎて、限界が来ていたこと。

そして小梅は最後にこう言った。

戦車に乗っていたチームは、全員死亡したと。

全員死亡した。

そう聞いた私は、絶望した。

小梅は、あなたは悪くないと言ったが、目の前で彼女を助けることができなかった。そしてその結果、彼女達は死んでしまった。その事実が私の罪悪感を呼び起こし、私の眼から涙を流させた。

小梅は私を慰めてくれたが、それでも涙は止まらなかった。



ー夜ー

私は天井を見つめていた。

涙も止まり、小梅も去った。今の私には隊長として、彼女達を助けられなかったという事実しかなかった。

あの子は、西住みほは助けることができたのに。

その時の私は、それだけを思うことしかできなかった。

次の日、病室を移すことになった。

新しい病室のベッドで横になっていると、隣のベッドから音楽が聞こえてくる。

何故だろう、気になる。

私はカーテンを開け、隣のベッドを見る。

そこには、ベッドから上半身を起こしている、左腕にギブスを巻いている女の子と、小太りの少し老いた男性がいた。私は少女と目が合った。

少女「…何」

ほんの少しの沈黙の後、少女は聞く。

私も、自分からカーテンを開けたというのに戸惑い、言葉がでない。ほんの少しのあと、ようやく言葉が出る。

エリカ「あ、いや…ちょっと音が気になったから…」

そう言うと、男が気づく。

男「あっ、すいません。マギー、このお姉さんがうるさいってさ。」

少女「あっ、ご、ごめんなさい。」

マギーと呼ばれた少女は音楽を止める。だか、私は気になっただけでうるさいとは思っていない。

エリカ「ああ、いや、曲が気になっただけだからそこまでしなくてもいいから。その、ごめんね。」

そう言うと、彼女は少し食いついたように聞く。

マギー「気になったの?」

エリカ「そう、どんな曲かなぁって。」

ともかく、私は不機嫌な感じに思われないように話した。それがわかったのか、彼女も穏やかな表情を浮かべる。

マギー「これはね、Day After Dayって言うんだよ。」










エリカさん病んじゃうの?

おもしろ

私はその曲を知らなかった。まあ、もともと私は音楽に疎いから当たり前だろう。

彼女は、その曲を最初から再生させる。二つのベッドがある病室に音楽がながれる。

全て英語の歌詞であったが、何か心に響いた。

エリカ「いい曲ね。」

私がそう答えたら、マギーは、でしょ?と言った。その後、私は自分の名前を言っていなかったことを思い出した。

エリカ「私は逸見エリカって言うの。あなたは?」

マギー「マグノリアって言うの、みんなからマギーって言われてるの。この人は私のおじいちゃん。」

男「どうも、孫が心配で来たんですよ。」

男は、孫思いの優しい人であった。

それから私とマギーは話しをした。

彼女は事故にあって、左腕を骨折したものの、明日には退院するらしい。

それから、家族のこと、 将来のこと、好きなもののこと、いろいろなことを話した。

お互い、楽しい時間を過ごした。

だが、その中で私は、戦車道についての話をすることはなかった。

次の日、マギーは退院することになった。

マギー「ありがとうエリカお姉ちゃん」

エリカ「ええ、一日中だけだけど、楽しかったわ。」

マギー「うん、お姉ちゃんも早く退院できるといいね。」

エリカ「ええ」

マギー「バイバイ、お姉ちゃん」

エリカ「バイバイ」

そう言って、マギーは手を振りながら両親と病院を去って言った。

私は最後まで戦車道の話をしなかった。なぜなら、

「隊長!助けてください!」

「い…痛い…痛い…」

「死にたくない!」

「熱い!!熱い!!!」

「ああああアァ!!!!」

私の脳裏に、彼女達の最期の生の叫びがこびりついていたからだ。



私が入院している間、色んな人が訪れた。

皆、心配してくれていた。彼女も、西住みほも来てくれた。

彼女は気弱だけど、優しく、仲間思いだったのは、黒森峰にいても、大洗に行ったときでも変わらなかった。

その優しい彼女に、あの黒い鳥の姿は見当たらなかった。

いろいろな人が来た。いろいろな人が私を励ました。

でも、あの時の記憶の苦しさはどうしても消えなかった。

だから私は、戦車道から去ることにした。あの時にできた左腕の傷を連れて。

このエリカさんは戦車道に戻ってくるのだろうか

エリカもきついけど
整備担当が精神的に死ぬだろこれ

それでも逸見は立ち上がるよ…………
何なら五体が四散しても這い上がってくるよ…………

整備担当者は確かに首吊るレベルだな

10代の女の子が背負うには重過ぎる…

それから私は、卒業したあと、大学に行かずに故郷を離れ、東京の企業に就職した。

戦車道をやめたことに関しては、皆残念がってはいたが、私はそう決めたんだ。周りが何と言おうと、変える気はない。今のところは。

会社での仕事ぶりは、優秀だと言われている。私は言われたことをやっただけなのに、過大評価だ。

この会社は、実は社会人の戦車道のチームがあるのだけども、私はそうなんですかと興味がないように振りまく。誘われてもそれらしい理由をつけて断った。

もうあの戦場に戻る気はない。そう思っていた。

言われたことをちゃんとやれる人材は貴重なんだよな

戻っちまうんか…

このエリカは諦めたふりをしてるんだ…

ある休日のこと、私はたまたま戦車道の試合に遭遇した。まさかこんなところで試合をしているとは。

大きなモニターに映っていたのは、西住みほだった。彼女は大学で仲間と戦車道をやっているらしい。彼女の戦い方はやはりすごいの一言だ。今の私には関係ないが、やはり見てしまう。だがその時だった。

彼女が、黒い鳥に見えた。

私は驚いた。そして、胸が、心臓が、ドクンドクンと強く動いていた。

その後、試合は終わり、みほは勝った。試合が終わり、胸の激しい鼓動は落ち着いて言った。

次の試合は、同僚に誘われてからだった。基本、こういう時は断っていたのに、なぜか断らなかった。

この試合もみほが出ている。少し不利の状態のようだ。だが私はなぜかわかっていた。

黒い鳥の彼女は、己の状況を逆転させ、勝っていった。

そして、私の胸も高鳴っていた。

本当に私はどうしたのだろう。私はもう、辞めたというのに。

期待

それから何度も、私は彼女の試合を見ることになった。まるで何かが呼んでいるかのように。運命というやつが予定し、実行させているかのように。

彼女はありとあらゆる戦車を屠っていった。まるで、何もかもを焼き尽くすかのように。

何もかもを焼き尽くす黒い鳥。

それを見ている私の胸はいつものように高鳴りをあげていく。
その高鳴りは、いつしか私の奥底の魂が叫んでいるかのようだった。

挑みたい、あの黒い鳥に挑みたい。

私は抑えつける。もう辞めたんだと、無理なんだと、無理矢理に。

ようやく胸の高鳴りを抑えつけたあと、私は帰路についた。

私は、どうすればいいのかわからない。

あの高鳴りを抑えつけると、苦しくなってくる。その苦しみは前より酷くなっていく。どうにかしなければ。

そう考えていると、花屋の前を通りかかる。その花屋の花の中に、一際目立つ花を見つけた。

青い、木蓮の花。

その木蓮の花は決して青ざめたものではなく、むしろ、青く光り輝く宝石に見えた。

その花に見とれていると、エプロンをかけた男の人が声をかけた。花屋の人だろう。

店員「何か、気になった花でもありましたか?」

エリカ「あの、この木蓮の花…」

私は、この花について聞いた。どうしても、気になった。

店員「ああ、その花ですか?実は最近、品種改良で偶然できた花で、綺麗だから出荷することになったそうなんですよ。私もこの花を見た時、即決で入荷することにしましたよ。私の娘も見とれてました。」

エリカ「へぇ…」

花屋の男は、この花について説明した。そして私はこの花を買うことにした。

エリカ「この花、一本ください。」

青い木蓮の花を一本買って、自宅へと帰っていった。

名前は、ブルー・マグノリアだそうだ。

自宅に着き、さっき買った青い木蓮の花を適当に花瓶に入れ、テーブルに置く。私は、テーブルの前に座り、今日のことを考える。

みほを見た時のあの胸の高鳴り、だんだんと強くなっていく衝動。挑みたいという、魂の叫びのような何か。

どうすれば、どうすればいいのか。

私は、5人の人間を救えなかったのに。

5人の人間を苦しめ、死なせてしまった罪があるのに。

戦車道をやめたのに。

エリカ「どうすればいいの…」

私には分からなかった。でも、その時だった。

ーエリカお姉ちゃんー

エリカ「…マギー?」

聞こえたのは、入院した時に楽しく話した女の子の声だった。



結局戦車道好きなんすねエリカさん

もちろん彼女は目の前にはいない。幻聴だ。だがその声はなぜか、安心して聞ける声だった。そしていつの間にか私はその声に悩みを打ち明けていた。

エリカ「マギー、私、どうしたらいいかわからないの。辛くて、苦しくて…」

マギーは答えを出した。

ー自分の感情に、素直になればいいよー

エリカ「素直…」

ーお姉ちゃんは、無理に抑えつけて苦しんでる。だから、素直になればいいんだよ。ー

エリカ「…駄目よ、私は、あの時あの子たちを死なせたの…きっと、恨んでる。」

ー大丈夫。きっと大丈夫ー

エリカ「大丈夫って…」

ーあなたは、乗り越えられるー

そこで、目が覚めた、いつの間にか眠っていたようだ。

その時目に入っていたのは、漏れた光に照らされ輝く青い木蓮の花。その時耳に入っていたのは、あの時あの子と一緒に聞いた、Day After Dayだった。

青い木蓮の花を見つめながら、マギーの言葉に従うことにした。





マナ

それから私は、会社の戦車道チームに入った。

その時、皆は驚いていた。いつも断っていた私が入ると言うから、そこは思っていた通りの反応だった。

次の日、初めての練習に参加する。経験者で、なおかつ強豪の出身だということで、腕を見せてもらう、ということになった。

あてがわれた戦車はアメリカのシャーマンで、黒森峰が使うような戦車ではなく、一緒に搭乗するチームメイトは、経験はあるものの、ほぼ弱小と言ってもいい学校の出身であり、ブランクのある私は、これは大した結果は出ないだろうと思っていた。だが、それは違った。

ドォン!!!!

パヒュ!

エリカ「…」

私のチームは、社会人の中でも強い部類に入るチームの全員に勝利した。それは、私でも考えられなかった結果だった。

練習後、私はチームの皆に歓迎された。

とんでもない新人が現れた。そう言って皆、大喜びしていた。

自分がここまでできたとは、そう思いながらチームの空気を受け入れることにした。



帰る前、私は自分が乗っていた戦車を見つめていた。

また、やることになってしまった。

後ろを振り向く。そこには人の形ではない、人の影が5つ見えた。

あのとき死んだ、彼女達。私はその彼女達に叫ぶ。

エリカ「ごめんなさい!でも、どうしても、どうしてもやりたいの!今以上に恨んでもいい!今以上に呪ってもいい!だから!もう一度、

もう一度チャンスをちょうだい!お願い!」

5つの影は、消えていった。

私の目には、懇願の涙がたまっていた。

わたしはたまった涙を袖で拭い、その場を後にした。

もう後には戻れない。戻らない。

あの黒い鳥を墜とす為に。

盛り上がってきた

うむ

ー半年後ー

相手チーム隊員「くそ!相手にヤバいのがいる!援護!」

ドォン!

相手チーム隊員「こっちもやられた!」

ドォン!

相手チーム隊長「ここまでか…」

ドォン!

私が入ってからというもの、私のチームは連戦連勝した。大半は私が敵を倒したからだった。

チームの皆からはエースと呼ばれ、私の戦車はシャーマンからパーシングに変わった。

戦車が変わっても、相手を倒すだけだ。

乙です。
パーシング持っているって事は、この会社は結構景気が良いんだろうな。

戦車道やってる時点でそれなりの金はあるでしょう
あとなんとなくルーズベルトゲーム思い出した

ーその半年後ー

相手チーム隊員「来たわ…」

相手チーム隊員2「ええ…あれが…あの戦車が…」

相手チーム隊長「ブルーマグノリア…」

全体を黒く塗り、その黒の中に少し青いラインが入っているパーシング、そのパーシングのエンブレムは青い木蓮の花のもの。

西住流にも島田流にもとらわれない圧倒的な戦い方。

いつしか私には異名がついていた。

ブルーマグノリア。前、花屋で買ったあの木蓮の花と同じ異名である。

そして今日も勝った。圧倒的な力で。

私は強さを手に入れた。どんな相手でも撃ち砕ける圧倒的な力を。

みほは、あの黒い鳥は今の私の姿を見ているのだろうか?見ていてもいなくても、見せつけてやる。私の存在を、強さを。

いつしか私が所属しているチームは、社会人チームの中で最強の存在となった。

そしてある知らせが届いた。

大学選抜チームとの試合。

ついに、この日が来た。

エリカすげえな

試合の日は数日後、その日までは練習の日々だった。

私は、あの黒い鳥の彼女のことをずっと考えていた。やっと、やっとあの黒い鳥と戦える。西住みほと。

私はいつも以上に力が入っていた。あの黒い鳥に挑み、勝つために。

帰り道、私は偶然知っている人に会った。

まほ「…久しぶりだな、エリカ。」

エリカ「…久しぶりです。隊長、いや、まほさん。」

私、再会を喜ぶわけでも、ましてや見下すわけでもなく、淡々と話した。

まほ「おまえが戦車道をまたやるとは思わなかった。」

エリカ「ええ、倒したい相手ができたんです。あなたの妹の西住みほを。」

まほ「みほを?」

私は、彼女の姉に話す。

エリカ「そうです。彼女は、西住みほは倒したい相手なんです。どうしても、戦車道に戻ってでも。」

まほ「…みほを恨んでいるのか?」

エリカ「違います。私には彼女が黒い鳥に見えるんです。」

まほ「黒い鳥?」

目の前の彼女は、よくわからない、という表情をしている。

エリカ「わからないかもしれませんが、私にはそう見えるんです。全てを焼き尽くし、私を再び戦場へと誘った黒い鳥に。」

まほ「…」

私は続けて話す。

エリカ「だから…私はみほと貴方達大学選抜に挑みます。あの時の逸見エリカではなく…ブルーマグノリアとして。」

まほ「そうか…」

目の前のまほは、私の変わりようを感じていた。そしてこう言った。

まほ「エリカ…お前は変わってしまったな…」

エリカ「はい…」

そして、私と彼女は去った。今度は、敵同士で会うために。

試合二日前。

今日は作戦会議だった。大学選抜のチームメンバーに目を通す。

皆、知っている。あのとき一緒に戦い、相手になった人達だった。だからこそ、対策を立てやすい。

私は次々と意見を出す。その意見には、みほと私を戦わせるという思惑もあった。

会議が終わり、あとは二日後の試合に備えるだけだ。

取り敢えず、黒い鳥によるエリカの仲間が事故死する事が無い様に祈っておこう。

前日。

明日だ。明日彼女達と戦うことになる。

あの西住みほに、黒い鳥に。

必ず、あの黒い鳥を堕としてやる。

そう考えている中、一羽の黒い鳥が降り立つ。私はその黒い鳥を睨む。

明日、必ずお前を倒すと呟きながら。



そして、その日は来た。

私はエースではあったが、隊長でも副隊長でもない。

隊長と副隊長が礼をした後、試合は始まった。

ようやく、彼女と戦うときが来た。

一度戦車道から身を引いた私に、あの胸の高鳴りを与え、また戦車道へと誘った彼女に。

彼女は仲間と共に私達を焼き尽くしに来る。だが、今の私はそう簡単にはいかない。逆に倒してやる。

行くわよ、黒い鳥。

エリカ「前進…!」

私は戦車を走らせる。あの胸の高鳴りと共に。

試合中盤、ありとあらゆる場所で鳴り続ける砲撃という咆哮と、爆発という断末魔は、一層激しくなっている。

私は今までに4輌撃破した。それがチームの士気を上げたのか、
大学選抜と互角以上の激闘を繰り広げている。

私は今、瓦礫が多い地点にいる。あのときの胸の高鳴りが激しくなっているからだ。

私は確信していた。

彼女が、西住みほがここに来ると。

そして一輌の戦車が現れた。その戦車のキューポラから彼女が現れる。

みほ「…エリカさん。」

エリカ「久しぶりね、みほ。」

彼女が、黒い鳥に見えている。

みほ「お姉ちゃんから聞いたよ。私を倒したいって…」

そうだ、私はお前を倒す為にいる。

私は、気を失っていた時の言葉をいつの間にか話していた。

エリカ「あるおとぎ話をしてあげる。その世界は、破滅に向かっていた…」

皆、私の話を聞いていた。

エリカ「神様は人間を救いたいと思っていた。だから手を差し伸べた。」

皆は、私に恐ろしいものを感じたのだろうか。

エリカ「だけどその度に、人間の中から邪魔者が現れた。神様が作る秩序を、壊してしまうもの。」

皆は、私に何も言わない。

エリカ「神様は困惑した。人間は救われることを望んでいないのかって…」

私は、話し続ける。

エリカ「だから、先に邪魔者を見つけ出して殺すことにした。」

私は、こんな、訳のわからない話を。

エリカ「そいつは、黒い鳥と呼ばれたらしいわ。何もかもを焼き尽くす。死を告げる鳥。」

私は、躊躇わず。最後まで話した。

話が終わった後、みほは言う。

みほ「…あなたは、それになりたかったの?」

エリカ「…違う…私は…」

私は、答えを出す。

エリカ「…もう負けたくないだけ。私以外の他の、誰にも。」

あの高鳴り、私の奥底の魂が、そう叫んでいたのかもしれない。ここに来て、ようやくわかった気がする。そして、

エリカ「始めましょう、倒すわ、貴方を…」

その後、二つの叫びが響く。

みほ「前進!」

エリカ「前進!」

二つの戦車が突き進む。

エリカ「撃て!!!」

私の戦車が砲弾を吐き出す。だが、その砲弾は彼女の戦車には当たらない。

ガキィン!

エリカ「くっ…」

彼女の戦車の砲弾が私の戦車の表面を擦る。だがやられた訳じゃない。私は怯まず彼女の戦車に突き進ませる。

今度こそ…!!

エリカ「撃て!!!」

ドォン!

エリカ(当たった!)

放った砲弾が当たる。しかし、ほんの少し、それでも私達では敵わない相手じゃないことがわかった。

エリカ「今のでいいわ!落ち着いて、当てることだけを考えて!!」

私は砲手にそう言った。


二輌の戦車が、瓦礫まみれのフィールドを駆け回り、砲口から咆哮を上げ続ける。

その砲弾は当たるべき戦車に躱され、そのまま飛んで行ったり、地面に激突したりしている。瓦礫とその破片が何度も何度も跳ね上がった。

このままでは、ラチがあかない。

そう思った瞬間、砲口がこちらを向いている。

エリカ(まずい…!)

ドォン!

砲弾が戦車の一番装甲の厚い部分に当たり、それまで瓦礫の上にいた戦車を引きずり落とす。

私は戦車の周りを見る。白旗は上がっていない。

私は他の乗員に声をかける。



エリカ「大丈夫!?」

装填手「こっちは大丈夫!」

通信手「問題ないわ!」

砲手「こっちもまだ撃てる!」

操縦手「こっちもいけるわ!」

みほはこっちを見て、砲口をこちらへ向けている。

だが、まだだ。まだ負けてはない。

ーまだよ、まだ戦えるー


ーここがー


ーこの戦場がー



ー私の魂の場所よ!!!ー



また、私の戦車は息を吹き返し、黒い鳥に挑む。

また、戦車の咆哮が始まる。 だが、その時だった。

あの時、助けられなかった、呪っていると思っていた声が聞こえてくる。

ー負けないで、隊長ー

ー私達がついてますー

ー隊長ならやれますー

ー頑張ってー

ー諦めないでー

それは、私の背中を優しく、強く押すものだった。

私の身体に力がこもる。そして、違いの戦車の砲口が向き合い、







ー撃て!!!!ー






咆哮が重なり、その直後の爆発も重なる。



二つの戦車は、互いが互いの命を奪い、奪われたかのように沈黙する。

そして、白旗が上がる。それは、互いの戦いを褒め称えているかのように見えた。

相打ちだった。

私は、全身の力が抜けた。

私は、あの黒い鳥を討った。だが、勝ったとは思えなかった。

溜息をつき、ボソボソと呟く。

エリカ「…ごめんなさい…勝てなかったわ…」

その時、また声が聞こえる。

ーいいんです。こっちこそ、ごめんなさいー

ー心配だったんです。隊長のことー

ー私達のせいで、隊長が苦しんでー

ーでも、隊長が戻ってよかったー

ー私達は、もういきますねー

彼女達は、昇っていった。私はそれを見るために、天を見つめた。

みほ「エリカさん!」

みほの声が聞こえる。

エリカ「みほ…」

みほ「大丈夫ですか?」

エリカ「…」

彼女は、私にこう言った。

みほ「…私は心配だった。エリカさんが戦車道をやめてしまったから…でもまた戦車道を始めた時はよかったと思った。けど…あなたから恐ろしいものを感じたから…」

エリカ「そう…」

思い出した。彼女はこんなに優しかったんだ。

エリカ「ごめんなさい…」

みほ「そんな!謝ることないよ。」

私は彼女を見た。彼女についていた黒い鳥はまるで、飛び去っていくかのように消えていった。

黒い鳥は焼き尽くしていった。あの時の悲しい記憶を、その記憶からの苦しみを。

そして、私達のチームは敗北した。





乙です。
エリカのトラウマが消えて(薄れて)良かった。

逸見エリカに平穏のあらんことを

あれから数年。

エリカ「ふぅ…」

やっと泣き止んだ。自分も昔こうだったのかと思うと、母や父の苦労が身に染みてわかる。

私は結婚して、女の子を授かり、母親となった。

この子が戦車道をやるのかどうかはわからない。

もし、この子が戦車道をやるというなら、私はあの女の子と青い木蓮と黒い鳥の話をしよう。私の苦しみを焼き尽くした話を。

私はそう思った。娘の温もりと言う幸せを感じながら。


テレビのニュースキャスター「昨日、中東の〇〇の地中深くで、ロボットのような物体が発掘されました。物体の大きさは6、7メートルで、現地の専門家も驚きを隠せず、世界中から注目が集まっています…」







これで終わりです。

最後のニュースはいらないかもしれませんが、発掘された物体はACです。

乙乙

なるほど、これからが地獄の始まりか……


黒い鳥ってそう言う意味か・・・レイ◯ン=黒い鳥なるほど

どゆこと!

乙です。

コジマはいかん…

乙です。
最近カオスなガルパンSSが増えてきたせいもあってか、シリアスながらも引き込まれました。
それだけに、最後のニュースはいらなかった。

俺は最後のニュースわりと好きだな
まあ元々AC好きだから色々想像できるのが好きなだけかもしれん

>>79も言ってるように"ガルパン"のSSとして読んで楽しんできたってのに
語らない事で語るのだなと思ってきたことが
実は別のゲームのワードですよークロスSSでしたーとか言われても

というかこのオチでどんな反応が返ってくると思ったんだろか
ドラえもんやジョジョの様に皆AC大好きで皆まとめのコメ欄のように原作台詞連呼するなりきり厨で埋められると思ったんだろうか

うわ気持ち悪
他人の評価うかがって書いてる人ばっかじゃないから安心してまとめ豚しといていいよ

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