エリカ「あなたが勝つって、信じていますから」 (439)

・ポケモン初代
・地の文あり
・レッド×エリカ風味
・書きながらの投稿なので誤字脱字ごめんなさい
・長編予定

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 開けた草原の中に一定の間隔で点在する家屋。
 マサラタウンで起こる出来事、噂は大小関わらず一時もすれば街全体に広がっていく。
 そんな場所で唯一世界に発信出来る場所、ポケモン界の権威オーキド博士の研究所内で、新しい二人のトレーナーが初戦に望んでいた。
「泣き虫でしかもポケモンも満足に扱えないのな! レッド」
「……」
 レッドとグリーン、この街に住む二人の少年の力関係はこの会話で押して知るところだ。
 グリーンはヒトカゲと共ににやついた顔でポケモンバトル勝利の余韻に浸り、レッドは目から零れそうになる雫を必死でこらえ、手を震わせながら倒れ伏したフシギダネにモンスターボールのリターンレーザーを当てた。
(勝負とは残酷なものじゃな)
 オーキド博士は孫の勝利を喜ぶわけでもなく、ため息を必死でこらえるような表情でレッドを見ていた。
 悲しくはないが少々虚しくはある。レッドは昔から口下手で、年の近いグリーンには毎度合うたびいじめられており、そのたびグリーンの姉やオーキド博士がグリーンを叱りつけるものの、劣等者を痛めつける喜びを覚えてしまった子供、グリーンを御しきれていなかった。
 レッドが精神的に強くなってくれればあるいは、またポケモントレーナーとして二人に共通の話題ができればと思っていたのだが……。
「よさんかグリーン!」
「うるせえじじい! 俺はもう姉ちゃんからタウンマップもらって旅に出るからな! ばいびー!」
 そそくさと出て行くグリーンをオーキド博士はあっけにとられたまま見送ってしまった。顔を伏すレッドとオーキド博士の間で沈黙だけが残る。
「レッド……」

 レッドのポケモンを回復させる。レッド自身も慰めなければならないだろう。
 しかしいつもならレッドがぐずりだすところだが……。
「……っ!」
「レッド!」
 レッドは涙を振り払い一目散に研究所から駆け抜ける。
「あら?」
「!?」
 レッドはドアまで走った所で人にぶつかりそうになり、少し減速した。
 マサラでは見ない女性だった。肩まで伸びる黒い髪、山吹色の和服からにじみ出る優雅な立ち振る舞いと気品。しかしレッドは彼女と目を合わせるのを避けて駆け出して行く。
「オーキド博士、あの子は?」
「おお、エリカさん。この前言っていたポケモンをあずける予定だった子の一人なんじゃが……。初戦に負けたショックで飛び出してしまってなあ」
「まあ……どんなバトルでしたの?」
「相手はわしの孫でグリーン、使ってたのはヒトカゲじゃ。今飛び出していったのがレッドで使ったのはフシギダネ。二匹とも今日が初めてだから、ひっかくと体当たりの応酬じゃったのう」
「なるほど。本当に初めてでしたのね」
「おお、しまった。旅立ちのついでにトキワタウンから荷物を持ってきて欲しかったんじゃが、二人共頼みそびれてしまったわい……」
「それなら私にお任せください。飛行ポケモンを持ちあわせていますので」
「おおすまんのう。ジムリーダーのおつかいなんてさせてしまって申し訳ない」
「いえいえ。オーキド博士のお役にたてるのなら、些細なことでも光栄なことです。それと一つ教えていただけたいのですけど」
「なんじゃ?」
 エリカはふわりと微笑む。
「レッドくん、どこに行ったのか心当たりはございますか?」

 彼は弱かった。
 彼は負け続けていた。年の近いグリーンを相手に、喧嘩でも、かけっこでも、川泳ぎでも。
 グリーンは口々にレッドを罵り、レッドは言い返せない歯がゆさと悔しさで逃げ出すしかない。
 それでもレッドは新しい勝負からは逃げなかった。グリーンに勝てることを一つでも、その負けん気の強さだけは誇りだった。
 そしてポケモン勝負。自分だけじゃないポケモンの強さを借りれば、あるいは。
 しかし、結果はいつもの敗北だった。
「……」
 草原に雨が降っていた。どこまで走ったのか、帽子と服が水分を吸って体に張り付いていたが、レッドからすれば大した問題じゃない。
「……」
 少し疲れた。レッドは座り込み、雨に打たれる水たまりをなんの意味もなく見つめていた。
(なぜ、勝てないのだろう)
 グリーンと自分は何が違うのだろう。グリーンはいつも自信満々だ。いつも自分は勝てるという確信があり、好戦的な笑顔を張り付かせて勝負に望んでいる。
 しかしレッドはそうではない。きっと勝てる。今回は勝てる。そんな想いと裏腹に、また負けるんじゃないか、自分はグリーンには勝てっこないんじゃないか。
 そんな感情が目の前を覆ってくる。いつもそうだ。
(一生、勝てないのかな)

 俯いた顔、雨が後頭部から目尻まで垂れてきて、地面に1つ2つと雫となって落ちていく。
「そんなところにいると、風邪を引いてしまいますよ」
 その言葉とともに、レッドの頭上に傘があった。しかしレッドから落ちる雫が止まらない。
 レッドは目元を一度拭ってから目線を横に移し、先ほどすれ違った和服の女性を視認してから、またすぐに地面へと顔の向きを戻した。
(ありゃ)
 エリカは肩を落とした。噂に聞いていた少年は大分敗北が堪えているらしい。
 彼を知るグリーンの姉曰く、
「レッド君、けっこう無口だからグリーンが調子にのっちゃうのよね……」
 オーキド博士曰く、
「レッド自身は優しい子なんじゃがなあ……。グリーンが一度怪我をしたことがあったんじゃが、すぐに走って大人を呼びに来てくれたんじゃよ。しかしグリーンは"レッドに見捨てられた"って勘違いしてしまってのう。後でグリーンに訳も話したんじゃが、それ以来グリーンとレッドが勝負事をするようになってしまったんじゃよ」
 そしてレッドは連戦連敗中。彼が逃げ出すと大抵この場所で塞ぎこむという。
 エリカは別にレッドに一目惚れしたとか、泣き虫な男の子を叱咤激励したいとか、そこまでの思いがあってレッドを追ってきたわけじゃあない。
(新しいポケモントレーナーの門出に、少しだけ手助けしてもかまわないでしょう)
 聞けば彼が使うポケモンは草ポケモンのフシギダネだという。エリカも草タイプを司るジムリーダーの一人。
「レッドさん」

「!」
 レッドの体がぴくりと動いた。
「オーキド博士にお名前をお聞きしました。私はエリカ、ポケモントレーナーをしております」
 レッドはなおも動かない。
「グリーンさんに、ポケモンバトルで勝ちたくはありませんか?」
 エリカは返答を待つ。数秒の沈黙の後、レッドはゆっくりと口を開いた。
「無理だよ。どうせ勝てない」
「どうして?」
「いつもそうなんだ。こっちがどんだけ頑張っても、グリーンはいつも僕よりも上なんだ。どうせ頑張ったって、無理だよ」
「なるほど……」
 中々手強い。さてどんなアプローチがいいだろうか。
「……レッドさんは、ポケモンの公式試合を見たことがありますか?」
 レッドがエリカの方を見ずに応える。
「テレビで、ニドリーノとゲンガーが戦っているのは見た」
「最近の公式戦ですね。あれはいい試合でした」

 エリカが弾むように続ける。
「ポケモンバトルに必要な戦略、戦術、技術……それら必要な要素が全て噛み合った試合はとても心躍るものです」
 レッドは無感動に、
「勝てなきゃ意味無いじゃん」
 とにべもない。
「ええ。試合、特にプロの公式試合はなによりも結果が求められます。しかしプロの公式試合だろうと、ポケモンを初めて持ったトレーナー同士の試合であろうと、ポケモンバトルで最後に勝敗を分ける、不変の要素があります」
 エリカは一度言葉を区切って、
「何だと思いますか?」
 レッドに微笑みかけた。
 レッドは不思議そうな顔をして、
「ポケモンの強さじゃないの?」
「いいえ違います」
 ばっさりと切り捨てられた。
「わかんないよ、ポケモンの強さより必要なものなんて」
「……ポケモンバトルで勝つために一番大切な要素、それは」
 雨が、勢いをなくしてきている。
「トレーナーとポケモンとの、絆です」

「……絆?」
「レッドさん、フシギダネを出してみてください」
 レッドは手元のモンスターボールを地面に放った。
「ダネフシッ!」
 地上に出たフシギダネは、雨の中嬉しそうに背中を揺らしている。
「なんで、喜んでるんだ?」
「レッドさん、オーキド博士からいただいたポケモン図鑑をフシギダネに向けてみてください」
「えっと……」
 レッドはポケットから赤い電子図鑑を取り出し、フシギダネへ向けた。
 フシギダネを感知した図鑑から電子音が響く。
『フシギダネ。たねポケモン。生まれてからしばらくの間は、背中の種から栄養をもらって大きく育つ』
「たねポケモン……そうか、雨で背中の種から栄養もらえて喜んでいるんだ」
「ええ。レッドさんこれを」
「これは……?」
 レッドはエリカから茶色い種子のようなものを受け取る。
「ポケモンフードです。これをフシギダネに」
「あっ」

 レッドがかがみフシギダネに差し出すと、フシギダネは一度匂いを嗅ぎ、はむはむと頬張った。
「ポケモンは剣や盾では決してありません。この地上に住む生物の一つ。好き嫌いがあり、感情があります」
 食べ終わったフシギダネが、もっと欲しいとキラキラした目でレッドを見つめる。
「ポケモントレーナーとはひとつひとつのポケモンを知り、そして相手に知ってもらい、絆を育み共に強さを目指す……。レッドさんあなたは今、フシギダネの一部を知りました」
 エリカがレッドにポケモンフードの箱ごと手渡す。
「しかしフシギダネの全てではありません。これからレッドさんはもっとフシギダネの事を知り、そしてフシギダネにあなた自身を知ってもらう必要があります」
「僕自身をフシギダネに知ってもらう?」
「ええ」
 フシギダネがまだかまだかと、レッドの周りを回り始める。
「互いの事を知り、共に切磋琢磨して絶対に切れない絆のもとに、望む勝利の光がある……。それがポケモントレーナーです」
「……」
 レッドは餌を食べるフシギダネを見つめる。初めてグリーンのヒトカゲと戦った時、自分はなにを考えていただろうか。
『グリーンに勝ちたい!』『このポケモンバトルでなら!』
『なんであっちの攻撃の方が強いんだ!』『あっちのポケモンにすればよかった!』
『どうせまた、勝てない』
「……」

「……僕も」
 レッドは初めて、エリカの瞳を真正面から見つめた。
「僕も、なれるかな。そんなポケモントレーナーに」
「なれるかどうかは、この世界の誰にもわかりません。大事なのは」
 エリカは抱擁力がこもった声で、
「"なりたい"という意思があるかどうか。レッドさん、ポケモントレーナーになりたいですか?」
 レッドは目をつぶった。
『レッド、お前ポケモンバトルも弱いんだな!』
『レッド、少しはグリーンに言い返したらどうじゃ?』
『レッドくんごめんね。グリーンにはいつも言ってるんだけど……』
 強くなれるだろうか。
 もうあんな目で見られることはなくなるだろうか。
 ポケモントレーナーになれば、グリーンに勝つことができるのだろうか。
……いや、勝つことができるかどうかじゃない。
 自分は望んでいる。なににも変えがたい強さを。
 勝利の光を。
「……ポケモントレーナーになりたい。なって、グリーンに勝ちたい」
「はい。それでは、レッドさんはまずなにを始めますか?」
「もっとフシギダネの事を知りたい。ポケモンのことも、ポケモンバトルの事も」
「ええ」
 エリカが本当の意味で微笑む。
「その、エリカ、さん」
「はい?」
 レッドがフシギダネを抱え上げる。
「よかったら、少し教えてくれませんか? ポケモンのこと、ちょっとでいいんで」
「もちろん。構いませんわ」
 雨はもう止んでいた。

 トキワシティ。ここにはトキワジムの他、ポケモントレーナーの殿堂であるセキエイ高原に続いている。
 その途上に目を合わせたポケモントレーナー二人の姿があった。
「ようレッド。この先はジムバッジが8個ないと進めないってよ! まったくケチンボだぜあの警備員」
 レッドは答えない。グリーンは気にした様子もなく言葉を続ける。
「そういやレッド、あれからお前ポケモンは捕まえられたか? じいちゃんの言葉に従うのは癪だけど、俺は一応集めてる。もう4匹も捕まえたちゃったぜ。レッドは何匹だ?」
「……2匹」
「俺の半分かよ! そんな調子じゃポケモン図鑑の完成も俺が先にしちゃうかもな!」
 はははっ! とグリーンは軽く笑う。そして腰のモンスターボールに手をかけた。
「知ってるかレッド、旅の途中でポケモントレーナーの視線が合ったら、やることは一つ」
「……」
 レッドが身を低くしてモンスターボールを構える。さまになっているレッドの姿に以外だったのか、グリーンが口笛を吹いた。
「へへっ。今度は長くもてよ。レッド! いけっ! オニスズメ!」
「いけっ!ポッポ!」

 鳥ポケモンのそれぞれの鳴き声が響く。
「オニスズメ! つつく!」
「ポッポ、すなかけだ!」
 オニスズメの攻撃に耐え、ポッポは正確にオニスズメの目にすなをかけていく
「相手のHP(ヒットポイント)を減らさなきゃ勝てないんだぜ、レッド!」
 グリーンが電子図鑑でポッポのHPを確認する。
「ポッポ、すなかけ!」
「はっ、つつくだ! オニスズメ! この前と一緒だなレッド!」
「……」
「なあレッド。お前とお前のポケモンのために言っとくぜ、ポケモントレーナーなんてやめちまえよ」
「!」
「ポケモントレーナーていうのはな、ポケモンを道具のように自在に扱って勝利を勝ち取るもんだ! どんなに強いポケモンを使おうが、命令してる奴がヘボだと勝てねえんだよ」
「……」
「お前て弱い上に口下手だろう? 使われてるポケモンがかわいそうだぜ! 俺なんかじいちゃんの孫だからポケモンのことだってお前よりわかってるし、バトルも強い! そうだ、俺が勝ったらポケモンよこせよ! お前の分も頑張ってやるよ。このグリーン様が、未来の世界チャンプのポケモントレーナー様がな!」
「…………」
 ポッポにオニスズメの攻撃が続く。レッドは顔を伏せ、帽子のつばで目線を隠す。
「…………違う」
 確かな、しっかりとした言葉だった。
「あん?」
「ポケモントレーナーは、そんなものじゃない!」

 レッドは顔を上げ、グリーンを正面から見据えた。
「ポケモントレーナーとはポケモンとの絆を育み、勝利の光を目指すものだ。好き勝手に命令して、道具のような扱いをして勝てるようなものじゃあない!」
「なっ!?」
 グリーンは知らない。こんな、こんな意思をもった煌きを放つ瞳のレッドなど、知らない。
「それを証明してやる! ポッポ! かぜおこし!」
 攻撃に耐えていたポッポの眼が開き、一気にオニスズメから距離をとって羽ばたく。
「くっ! オニスズメつつくだ!」
 しかしオニスズメの攻撃は外れた!
「なに!どうして!? もう一度だ!」
 グリーンは気づかない。オニスズメの眼がポッポのすなかけによって、途中から空を切っていたことを。
 レッドはオニスズメの命中率が十分に落ちてから、反撃にでたことを。
「トドメだ! かぜおこし!」
 ポッポが一段と甲高く鳴き、羽ばたいて作り出した風のかたまりをオニスズメにぶつける。
 オニスズメは力のない鳴き声を上げて、倒れ伏した。

「そんな……俺の、オニスズメが……」
 グリーンが呆然とした表情でオニスズメをモンスターボールに戻す。
「こんな……こんなの認めねえ! 畜生!」
 グリーンはバトルを中断して、走り去っていく。
「待てグリーン!……」
 レッドは追うのをやめて、ポッポに近寄った。
「よくやったぞポッポ。頑張ったな」
「ポー♪」
 ポッポにキズぐすりを使って背中を撫でると、ポッポが陽気にレッドへ擦り寄ってくる。
「皆、出ておいで」
 レッドが残り二つのモンスターボールをほおる。フシギダネとコラッタが元気に飛び出した。
「お前たちの出番、今回はなかったな。でも油断せずに行こう」
 フシギダネとコラッタ、そしてポッポがレッドの周りに集まる。
「さて道を変えて、まずはトキワの森か、今度はどんな森かな」
(あっ……そういえば、僕、グリーンに勝ったのか)
 しかし、今は些細な事に思える。不思議だ。
「ダネフシ?」
 もっと大事なことが、できたからだろう。
「……なんでもないよ。さて行こうか皆。まだまだ旅は始まったばかりだよ」
 少年は本当の意味で歩み始める。
 ポケモントレーナーになるために。
 タマムシシティであの人に礼を言うために。
 ポケモン達と共に勝利の光を目指す旅に。

今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。

 ニビシティ。そこではニビ科学博物館で宇宙博覧会が行われており、多くの観光客や研究者が訪れている。
 
 またニビシティにもトキワシティと同じくポケモンジムがあり、代々岩タイプを司るジムリーダーが訪れるポケモントレーナーの挑戦を受けていた。

「……ふう」

 ここはニビシティジムリーダーの事務室。

 普段は多くの関係者が出入りし、隣接するバトルスペースには多くの掛け声やポケモン達の咆哮が響く場所だったが、今はガランとして静かで、一人の男のため息だけが漏れていた。

 コン、コン。

「はい」

「入るわよ、タケシ」

「カスミか」

 ニビシティジムリーダータケシはデスクで片付けていた書類を置き、同業者であるハナダシティジム所属のカスミを出迎えていた。

 タケシは茶色いTシャツに緑のズボン、カスミは丈の短いTシャツとショートパンツのへそ出しルック。互いにかしこまった関係ではないことが見て取れる。

 ハナダシティはニビシティと隣接しており、またカスミはタケシはと歳が近いこともあって、ポケモンの事を話すことは少なくなかった。

 二人の間の空気は静かだった。

 タケシは元来口数が多い方ではなかったが、今日は一段と寂しげな雰囲気を纏っており、カスミもそんなタケシを認めながらもさして興味なさげに人のいないジムを眺めていた。

 カスミはただの広い空間になったジムの天井を見上げ、声を響かせる。

「本当にやめるのね。ジムリーダー」

「ああ、明日がニビジムの、いや、ジムリーダータケシの最後の営業になる」

「ふーん。代わりの人はすぐ来るの?」

「もうポケモン協会の方が新しいジムリーダーを選定しているそうだ。長くても一週間もすれば新しい人間が来るだろう」

「そう、一週間ね。その間旅のトレーナーは待ちぼうけってわけ」

 カスミの語気は強くない。ただ事実を言っているだけだった。

「俺を止めに来たわけじゃなさそうだな」

「そりゃそうよ。止める理由がないもの」

「……そうだな」

 カスミが今は誰も居ないバトルスペース中央、モンスターボールを模した白線の中央に立つ。手を頭の後ろに組んで目をつぶった。

 タケシはカスミの大分後ろに立って、明日で最後になるバトルスペースを眺めた。

「じゃあカスミはここに何しに来たんだ? バトルならまあ、今なら付き合うが」

 タケシは苦笑しながら言った。カスミは水のエキスパート、対してタケシは岩。自分で言っといて勝ち目は薄い。

 カスミは目を開ける。タケシを見ない。どこか中空を見ている。

「バトルは別にいいわ。あんたがどんな顔してるか、興味があっただけ」

「なんでやめるのかは聞かないのか?」

「別に興味ないわ。まあでも、あんたの顔が見れてよかったわ。少し判断材料になった」

「ジムを姉に任せて、最近ハナダに戻ってないって聞いたぞ」

「別に問題ないでしょ。ジムバッジ譲渡の権限は私達4姉妹なんだから、誰かいればいいわ」

「お前が4姉妹の中で一線を画す強さなのにか?」

 カスミはタケシに返答せず、タケシの横を通りすぎて手をひらひらと振る。

「明日最後の挑戦者を待つつもりだ。暇だったら来てくれ」

 タケシの言葉にカスミは何の反応もせずジムを去った。

「……さて、書類を片付けるか」
 

 タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。

「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」

「ん?」

 道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。

 見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。

 いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。

「いい連携だな、少年」

「え?」

「すまない、邪魔をしてしまったかな」

 タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。

「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」

「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」

「レッド」

「そうか。俺はタケシ」

 フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。


「タケシさんもポケモン持ってるの?」

「……ああ」

 タケシは少し考えてから腰のモンスターボールを選び、自らの隣に放る。

「コンっ!」
 
 現れたのは赤い毛にこじんまりとした6つの尻尾が特徴的なポケモン、ロコン。

「わっ。はじめて見るっ!」

「ロコンというんだ。この辺では珍しいかもしれないな」

 タケシはかがみ、ロコンの体を撫でる。ロコンは心底リラックスしたように、タケシに体を任せた。

「すごく懐いてるね」

「ありがとな。なあ少年、一つ聞いてもいいか?」

「ん、なに?」

「ジムに挑むということは、その先にあるポケモンの殿堂、セキエイ高原を目指すんだろう? どうしてそうしようって思ったんだ?」

「どうしてって……? ポケモントレーナーは皆目指すんじゃないの?」

「ポケモンとの付き合い方は様々だよ。セキエイ高原を目指す人は多いだろうが、中にはポケモンをペットとする人、ポケモン研究者や、土木作業や治水工事、ポケモンのケアや健康を扱うポケモンブリーダーという職業もある」

 タケシはロコンから手を離し、レッドに向かい合った。

「人それぞれのポケモンとの付き合い方がある中で、どうして君はポケモントレーナーになったんだい?」

 タケシは努めて優しく言った。別に糾弾しているわけじゃない。このフシギダネと良い関係を築いている少年がどうしてバトルの道に行ったのか、純粋な興味だった。

「……勝ちたいから、かな」

「勝ちたいから?」

「うん。ポケモンバトルってさ、僕だけじゃなにもできないじゃない。でもポケモンだけがいても、なにもできない。ポケモンがいて、トレーナーがいて、二つの心が通じあって初めて、勝てる」

「……」

「一人だけじゃできないことでも、ポケモンと力を合わせれば。仲間と一緒に勝ちたいから、喜びを分かち合いたいから、バトルで勝ちたいから、かな」

 少年の表情はキラキラしていた。タケシは憧憬にも似た感情でそれを眺める。

「ごめん、ちょっとうまく言えないかも」

「……いいさ。立派だな、君は」

 ニビシティジムで毎日連戦する日々。しかしタケシはある日、傷ついたポケモンを癒やすポケモンクリニックでのブリーダーたちの献身さを見て、迷いが生まれていた。

 自分はポケモンに戦いを強制してしまっていないか。もっと他の、ポケモンを愛する者としての付き合い方があるのではないか……。

 そんな迷いが生まれていた矢先、先日ヒトカゲを伴った挑戦者が来た。

 一度目はタケシが退ける。愛称から見て当然の結果で、タケシはがまんやタイプ相性の事をレクチャーしようと思ったのだが……。

「……うっ」

 その時、ヒトカゲを連れた少年から放たられた憤怒の視線。強烈な敵意。それに圧倒され、声をかけれずに彼を見送ってしまった。

 時を置かずしてその少年は再来した。今度はリザードを伴って。

 タケシは相手が持っているジムバッジの個数によって使うポケモンが決められている。

 リザードの力はタイプ相性をものともせずに、タケシのイシツブテとイワークを撃破していった。

 力技で押し通るのは悪いことじゃない。しかし、バトル相手に対しギラついた視線で攻撃してくるトレーナーとリザードの姿が、どうしても脳裏から離れなかった。

(俺がやっていることは、正しいことなんだろうか)

 この迷いに対して、タケシは考える時間が欲しかった。気づけば空いた時間、1から始めるポケモンブリーダー教本なんてものを読んでいる。

(今の俺は、ジムリーダーをやるべきじゃない)

 周囲の反対をよそに、タケシは一度自分の道を見直すことを決めた。

「そういえばレッド君は、ポケモン博物館に行ってみたかい?」

「ううん」

「貴重なポケモンの化石や、ポケモンに関わる岩石を展示している。時間があれば行ってみるといい」

「うん、そうするよ」

「今日はもうほどほどにしときなさい。明日ジムに挑戦するなら、体調もポケモンも万全にしとかないと」

「わかった。ありがとうタケシさん!」

「ああ、おやすみ」

 少年が駆けていくのをタケシは笑顔で見送る。

 自分もさっさと今日は寝よう。明日は朝一番に元気なフシギダネ使いが来るだろう。

(……俺の、ラストマッチのためにも)

今日はここまで。明日でニビ編終わりの予定です。
読んでくれた方ありがとうございます。

改行してみたんですが、こっちの方が読みやすいですかね?
あと誤字脱字については投稿する前に読み直しはしてるんですが、
投稿してから読むと気づくのが結構ありますね……申し訳ない。
エリカさんにはたっぷり出番がある予定?なのでお楽しみに。

誤字脱字は後日まとめて訂正します。

>>23に会話抜けがあったため訂正

 タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。

「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」

「ん?」

 道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。

 見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。

 いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。

「いい連携だな、少年」

「え?」

「すまない、邪魔をしてしまったかな」

 タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。

「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」

「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」

「名前は?」

「レッド」

「そうか。俺はタケシ」

 フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。

心地良い朝だった。天気は快晴。湿度も程よく、ポケモンたちのコンディションが万全であることは一目見て分かった。

「おはよう皆」

 ニビジムにタケシ他、ジム所属のトレーナー達が勢揃いしている。皆一様に、複雑な顔をしていた。

 タケシの門出を祝うべきなのか、寂しさから彼を引き留めていいのだろうか。

「タケシさん、やめないでください! 俺……まだまだ1000光年だってタケシさんに教わりたいっすよ!」

「光年は距離の単位だぞ、まったく」

 タケシがジムリーダーになってからジムに所属した少年が、こらえきれない涙を流しながらタケシに懇願する。

「ありがとな。今日の挑戦者の前座試合は、お前に任せる」

「……はい!」

「良い返事だ。さあ皆、俺の最後のジム戦だ。気合入れていくぞ!」

『はい!』

(今の俺には、ジムリーダーとして悔いが残っているかどうかすら自分でもわからない。だが、君のバトルに応えるくらいはできるだろう)

 ジムに開業のベルが鳴り、入り口のシャッターがゆっくりと音を立てて上がっていく。

 バトルスペースに朝日が差し込むと同時に、赤い帽子を被った少年の影が伸びる。

「ようこそ、未来のチャンピオン!」

 朝一番の挑戦者を受付が元気に向かい入れた。

 タケシは自分の出番が来るまで、自室で精神を集中させていた。

 手持ちは相手のジムバッジの個数に合わせ、イシツブテとイワークの二体。イワークは耐久力を活かしたカウンター技、がまんを備えている。

 正攻法で来る初心者相手に、相手を見る戦術性を教える極めて簡潔なデモンストレーションとも言える。

(ポケモン同士で傷つき傷を付け合うバトルにおいて疑問をもった俺でも、これから夢を目指す者の手助けくらいできるだろう。イシツブテ、イワークどうか俺に付き合ってくれ)

「!?……なんだ……!?」

 今まで聞いたことのないような歓声だった。自室までバトルスペースの轟音にも似た人々の声が響いてくる。

「タケシさん、出番ですよ」

「あ、ああ。しかし、この声は……?」

「いけばわかりますよ、皆待ってます」

 バトルスペースへの道を行く。いつもの数倍の眩しさと熱を感じるのは、気のせいではなかった。

「これは……!?」

 まるで一級スタジアムのようだった。突貫で作ったのであろうイワーク達を利用して作った階段上の観客席。

 そしてその席を埋める老若男女の大勢の観客たち、ニビシティの人口を考えれば驚異的な人数が集まっている。

『タケシさーん!』『頑張れー!』『その坊主つええぞー!!』『やめないでくれー!』

「にいちゃーん!! がんばれ~!」

 タケシの弟と妹達まで勢揃いしている。

「なっ……俺がやめることは、ジムの皆に口止めしていたはず……いや」

(……あのおせっかい娘め)

「すいませ~んタケシさん……負けちゃいました~……」

「わかった。後は任せろ」

 タケシはバトルスペースに立つ。相対するは、

「タケシさんって聞いて驚きました。でもすごく光栄に思います!」

 レッド。タケシの心に徐々に、熱い衝動が沸き起こってきている。笑っていた。

(馬鹿だな俺は。初心者にレクチャーなどど何を偉そうに。この観客達と、レッド君、そして俺のポケモンが望んでいることは)

「……俺はニビシティジムリーダーのタケシ。岩ポケモンを操るポケモントレーナーだ!」

「マサラタウンのレッド!」

『バトル開始い!』

「行くぞぉ! 行けぇ! イシツブテェ!」

「行け! コラッタ!」

 ポケモンの挙動ひとつひとつにジムが揺れる。
 
「コラッタ! 体当たりだ!」

「イシツブテ! 体当たりだ!」

 文字通り低レベルの争い。しかし、観客たちと、戦うトレーナーとポケモンが持つ熱気はどうだ。

『そこだぁ!』『いいぞぉ!』『頑張れー!』

「コラッタ! もう一度体当たり!」

「イシツブテ! かたくなる!」

(この少年は本気だ! ポケモンが持つ力、ポケモンとトレーナーとの絆を信じて戦っている! 俺はどうだ!)

 タケシが久しく忘れていた感情が、目を覚ましかけている。

「コラッタ、しっぽをふる!」

(ここだ!)

 相手がこちらの防御をさげようとした隙をつく。タケシとイシツブテの考えはシンクロしていた。

「イシツブテ! たいあたり!」

(イシツブテがこんなに早く! いや、俺の考えをイシツブテがわかってくれた)

 コラッタを倒したイシツブテがタケシをちらりとみる。タケシも頷いた。

「さあ、レッド。まだまだこれからだぞ!」

「くっ! いけ! ポッポ! かぜおこし!」
 
 イシツブテも連戦では長くもたなかったが、ポッポにある程度の打撃を与えることには成功していた。

「よくやったイシツブテ。もどれ」

 レッドはたまらず、タケシに叫ぶ。

「タケシさん! 俺今、すごいわくわくしてる! これがジムリーダーとの戦いなんだね!」

「ああ! 俺も久しぶりに熱くなってきたぜ!」

 タケシのポケモンは本気の編成ではない。だがそれがどうした。今持ちうる全ての力を出しきり、勝利を得ることになんの疑いを持とうか。

「これが切り札だ! いけ! イワーク!」

 舞い降りる巨体。種族値こそ見た目に反しているが、その巨影はマサラからやってきたレッドを圧倒する。

(でかい……だけど、俺と俺のポケモン達の熱い闘志が囁きかけてくる。トレーナーとポケモンとの絆があれば、勝利の光をたぐり寄せることができる!」

「いくぞ! フシギダネ!」

「草ポケモンか。だがその小さな体で、イワークの硬い体を打ち砕けるか?」

「超えれない壁などないと、俺は教わりました。俺とフシギダネの力を合わせれば、また一つ、見えなかった強さを身につけることがでる!」

「なら見せてみろ! イワーク! たいあたり!」

「フシギダネ! たいあたり!」

(最初は体当たりの応酬、このフシギダネの火力なら耐えることができる! よし)

「イワーク、がまん!」

 イワークの動きが丸まってとまり、フシギダネのたいあたりに対し反撃しなくなる。

「これは……一体?……まて! フシギダネ!」

(気づいたか。だが遅い、とめるのがあと一瞬早ければな!)
 
 既に数発フシギダネの体当たりがヒットしている。

「イワークのがまん、知っていたのかレッド?」

「いえ、初めて聞く技です。だけど、イワークの挙動から予測はできる。フシギダネ! やどりぎのタネ!」

「なに!?」

 フシギダネの背中のつぼみから種子が発射され、イワークの体を覆う!

「だが、イワークのがまんは開放される。イワーク! こうげきだ!」

「あとは削りきるまで! フシギダネたいあたりぃ!!」

 イワークとフシギダネの額が激突し、あたり一面に砂埃が舞う。

「……」

「……」

砂埃が晴れた時、立っていたのは巨影だった。フシギダネは倒れ伏している。

『……フシギダネ戦闘不能! ……え?』

 イワークの巨体が傾き、ずしんと大きな音を立てて倒れた。その巨体からは地面を伝って、フシギダネへ養分を送るやどりぎが伸びていた。

 それが一度脈打つと、フシギダネがゆっくりと立ち上がる。

『しっ失礼!……イワーク戦闘不能! 勝者! 挑戦者レッド!』

『うおああああああああああああああああ!!!』

「勝った…‥? 勝った……!! 勝ったぞ!!」

 レッドがフシギダネに駆け寄って抱き上げる。

「やった……!!」

「おめでとう。レッドくん」

「タケシさん……」

 イワークを戻したタケシが歩み寄る。

「こんな清々しいバトルは久しぶりだった。おめでとう。君にジムリーダーが認めた証、グレーバッジを進呈しよう」

「あ、ありがとうございます!」

 レッドは副品としてがまんのわざマシンも受け取る。

「俺、こんなに楽しいバトル初めてでした。ジムリーダーのポケモントレーナーって、本当に憧れます」

「憧れ、か」

「だって、イシツブテもイワークとも息ピッタリだったじゃないですか。俺も、そんなトレーナーになれるように、頑張ります!」

「……ありがとう。君のフシギダネの扱い方も見事だった。誰かに教わったのかい?」

「教わったってほどではないんですけど……でも、今の戦い方見たら、優雅じゃないって言われそうです」

「優雅……?……!!」

 草ポケモンを優雅なんて言う人は、タケシには一人しか思い浮かばない。

「言い師に巡りあったようだね。タマムシまで気が抜けないな」

「はい、それじゃあ」

「ああ、いい旅を」

 少年はまた駆け出していく。

 しかし去ろうとするタケシに対し、歓声と拍手がなりやまない。

 それを見て、ハナダのおてんば娘は微笑んでジムを後にした。

 ジムのトレーナーたちがタケシに駆け寄ってくる。

「タケシさん、俺、俺」

「皆、話したいことがある」

 ポケモンバトルで、ポケモンとの絆を証明している者達がいる。自分もそのうちの一人になりたい。熱いバトルを通して。

「書類を片付けたのが無駄になってしまうが、どうか俺を、ジムリーダーとして鍛えさせてもらえないか。まだまだ、ジムリーダーとして学ばなきゃいけないことがありそうなんだ」

「……!!」「もちろんです!!」「やった!! タケシさん!!」

『タ・ケ・シ・!』『タ・ケ・シ!』『タ・ケ・シ!』

(ありがとう、レッド。君ならばきっと……!)

 またひとり、ポケモントレーナーとして新たな扉を開く。

 レッドの旅はまだまだ続いてく……。

今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。
明日からハナダ編です。

文章が洗練されてて凄い読みやすい

 クチバシティジム、そこは電気ポケモン達の館。

 ゴミ箱に秘められた電磁ロックを解き明かした先に待ちかまえるは、ジムリーダーの中でも屈強な経歴を持つアメリカン。

(元軍人……一体どんな……)

 レッドの短い人生経験では想像もつかない。文字通り命をかけて戦場を駆けたポケモントレーナーが、レッドの実力を量るために待ち受けているのだ。

 目に見えぬプレッシャーに耐え、ゆっくりと扉をくぐる。そこには……。

「ヘーイ! コン、ニチハ! ミーがここのジムリーダーのマチスね! プアリトルボーイのチャレンジャーでもぉ、フゥルパワーネェ!」

「……は?……はい……?」

 迷彩服の上からでもわかる分厚い胸板に大柄な体、四方に尖った金髪にいかつい顔。その全てに似つかわしくないハイテンションな笑顔で、マチスはグッと拳を突き出したポーズでレッドを歓迎した。

 だいすきクラブの会長から聞いた話から、もっと厳格な壮年の男性を想像していたのだが……。いや、見た目は割りと想像通りだが、纏う空気が斜め上に行っている。

「オー、あれは……」

 マチスが観客席を見て目を細める。レッドも気づいた。ポケモンだいすきクラブの会長と大勢の大人達、そしてレッドに以前話しかけてきた二人の子供もいる。

「お兄ちゃーん!」

「頑張ってー!」

「ああ!」

 はしゃぐ子供と笑顔で応えるレッドをよそに、他の大人達は皆一様に渋い顔だった。会長がどう言って連れてきたのかは知らないが、彼らはこの状況が面白くないのだろう。

「マチスさん」

「オー! ソーリーネ! ユーとのバトル、ミーもとっても楽しみネー!」

「はい、俺もです。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「モチロンネー!」

「マチスさんはどうして、バトルを嫌うあの人達をポケモンバトルに誘ったのですか? それが原因で喧嘩の一歩手前までいったと、会長さんから聞きました」

「……」

 マチスの纏う空気から陽気さが消える。

「ユーには関係ないネ」

「!」

 マチスは別にレッドを睨みつけたわけでもなければ、語気を強めて言ったわけでもない。むしろ余計な事には首を突っ込むだけ面倒になるというような、気遣いすら感じた。

 しかしここで引くわけにはいかない。

「俺も考えていました。もし俺と俺のポケモン達が続けてきたバトルが否定されたら、どんなに悲しいか。バトルを嫌う人たちにも考えがあるのはわかってる。だけど、俺の感情がどう動いてしまうのか想像もつかない。あの人達になんて言えばいいのか、答えがでない」

 レッドは声を張り上げる。観客席にも聞こえているだろう。
 
「やめるネ。ボーイみたいなチルドレンは純粋にバトルを楽しめばいいネ」

「俺は昔、無口で泣き虫だった。ずっと自分を変えたくても弱い自分に打ち勝つ勇気がなかった。そんなときフシギダネと出会って、ポケモンとの絆の大切さを教えてくれた人がいた。努力と研鑽の上に、人とポケモン二つの心を合わせたバトルの勝利が、新しい世界の扉を開いてくれた!」

「……」

 観客からざわめきが聞こえる。マチスは笑顔を消し、レッドの言葉を待っている。

 レッドはフシギソウが入っているモンスターボールを握りしめる。

「見方を変えれば暴力のぶつかり合い。だけど、バトルを通して得られる確かな光があることを伝えたい。言葉では言い表せない、心を震わせる光を!」

「……ユーは本当にホットなポケモントレーナーネ。タケシとカスミの言うとおりネ」

「え」

 レッドが疑問の声を上げるまもなく、マチスがモンスターボールを構える。戦場で好敵手と相対した時のような笑顔を張り付かせて。

「それじゃあ、エキセントリックなバトゥ! 見せてみるネェ! 電気を操るクチバシティジムリーダー、マチス!」

「マサラタウンのレッド!」

「GO! ライチュウ!」

「行け! フシギソウ!」

『バトル開始ぃ!』

「そこまで言うならミーの一撃、耐えてみるネェ! ライチュウ! 10万ボルト!!」

「ラーイィ!!」

 レッドが今まで見たことない痛烈な一撃。あまりの電撃の眩しさにレッドは目を細める。

「フシギソウ!!」

「フシぃ……!!」

 フシギソウの立っている場所、その横の地面にすざましい焦げ跡残っている。

「なんとかダイレクトを避けたネ。だけど……」

「よしフシギソウ、反撃だ!……えっ!?」

「フっフシ」

 フシギソウの様子がおかしい、動きがぎこちなく反応が遅い。

「ミーのライチュウの10万ボルトは凄いパワーを持ってるネ! 足が止まれば、エレキトリカルカーニバルネ!」

「まずい! フシギソウ! はっぱかったー!」

「フッ……!?」

(ダメだ! しびれて動けない)

「今度は直撃ネ! ライチュウ! 10万ボルト!!」

「ラー……イィ!!」

「避けろ、フシギソウ!」

 無情だ。レッドの悲鳴は意味が無い。

「フシィァァァ!!?」

 フシギソウに10万ボルトが直撃する。草タイプは電気技に強いとは言え、強烈な一撃にフシギソウの悲鳴が響く。

「ああっ!」「フシギソウ!」

 観客席の二人の子供の声が木霊した。それだけじゃない。

「一気にとどめね! ライチュウ! 10万ボルトワンモア!!」

「くっ……フシギソウ! つるのムチ!」

 しかしつるはライチュウに伸びず、10万ボルトがまたもフシギソウに直撃する。

「フシィィィ!?」

(耐えてくれ! フシギソウ!……この声は!?)

『……なんてかわいそう』『やっぱり野蛮ねバトルなんて』『会長に言われてきたが、これはよくない』

「ほら二人共、帰るわよ。ポケモンが苦しむところなんて見てどうするの」

「え……でも」

「ん………」

(レッド君……)

 会長は何も言わず、戦況を見つめている。

(違う……)

「……悲しいけど、これもポケモンバトルネ」

 マチスの顔から好戦的な笑顔が消えていた。ただ、戦場で傷を負う相手を介錯するようにライチュウに命令を下す。

(違う)

 ライチュウが帯電し、マチスの命令を待つ。フシギソウは動かない。

(違うよなフシギソウ)

「ジ・エンドネ。ライチュウ! 10万ボルト!」

 特大の電光がフシギソウへ走る。

『おめでとうレッド君。こんな清々しいバトルは久しぶりだった』

『中途半端な所であきらめちゃだめよ! レッド!』

『"その先にある喜びを、大切な仲間と共に"。……その心を忘れなければ、ポケモン達はきっと、応えてくれますよ』



(俺達のバトルはっ! なによりも強靭な……絆の証だあ!!)



「……今だあ!! フシギソウ!!」




 フシギソウの眼がかっと開き、フシギソウの体から伸びていたつるのムチが脈動する。

(ワッツ!? あの動きは何ネ!? ……あ!)

 フシギソウのつるのムチはしっかりと発動していた。しかし目的は攻撃ではなく、地面。地面に突き刺さったつるのムチが地表をすくい上げるように張り巡らされ、一気に跳ね上がる。

(地面を、めくり上げる!!)

 つるによって繰り上がった地面がフシギソウの前面に展開され、電撃と相[ピーーー]る!

『なっなんだ!?』『いつあんな命令をしたの!?』『あのフシギソウ、痛くないのか……?』

「……すごい!!すごいよお兄ちゃん!フシギソウ!!」

「こ、こら……!」

「頑張れー!!」

 地面と電撃の衝突でライチュウとフシギソウの間に砂埃が舞う。レッドは畳み掛ける。

「はっぱカッター!!」

「フッシー!!」

「ラィィ!?」

「オーノー!?」 

 砂塵を切り裂き現れたはっぱカッターがライチュウに直撃する。

「フシギソウ!」

「フシ!」

 それだけで二人は通じあっていた。ライチュウが怯んでいる隙にフシギソウがレッドのもとに駆け戻り、レッドは回復アイテムを施す。

「卑怯とは言いませんよね?」

「モチロンネ! 状況を見て的確にアイテムを使うのも、ポケモントレーナーネ!」

 ライチュウが体制を立て直すと同時に、マチスがレッドに笑顔でサムズアップする。

「さあ、仕切りなおしだ! 勝つぞ! フシギソウ!!」

「フシ!!」

「迎え撃つネ! ライチュウ!」

「ラァイ!」

『なんて息のあった動きが……』『どうやったらあんなに分かり合えるんだ?』『戦っているのに、どうして』

「楽しそうなのか、かな?」

「え」

 連れてきた観客のつぶやきに、会長が答える。

「傷ついても、倒れてもなお、フシギソウは前を向いて戦う。それは、レッド君が強制させているからじゃろうか」

 フシギソウとライチュウの技がぶつかる。二匹は、笑っていた。

「皆、あの子、レッド君とフシギソウを見てどう思う」

「……」

「……かっこいい!」

 小さな男の子は、眼を輝かしている。

「私も、ポケモンとあんな関係を築きたい」

 小さな女の子は、胸に手を当ててポケモンから目を離さない。

「……わしもじゃ。ポケモンとトレーナー、共に頑張り、共に理解し、共に苦難に立ち向かう。そんな事ができるのは彼らが」

 戦う彼らが輝いて見える。

「ポケモンが、大好きだからじゃろう」

『……………!!!!』

「行けー!お兄ちゃーん!!」

「フシギソウも頑張ってー!!」

 二人の子供の声援が、観客席から届く。

「……ああ! やれるよなフシギソウ!」

「フシ!!」

「…………頑張れー!」

(!!今のは!?)

 子供の声じゃない。この声援は……!?

『頑張れー!』『そこだー!行けー!』『もっといいとこ見せてー!!』

「レッドくーん! 頑張るのじゃあー!!」

 あの大人たちが、ポケモンバトルに反対していた大人たちが叫んでいる。会長まで。

「……凄いね、ユーは」

 レッドは首をふる。

「俺のフシギソウとあなたの素晴らしいライチュウの熱い闘志が、伝わったんです。彼らが傷つき、それでも立ち上がって見せる不屈の精神と頑張りが、暖かく熱を持った声援となって帰ってきた」

 ポケモン達が中央で対峙する。帯電するライチュウ、葉っぱカッターを蕾の発射台に備えるフシギソウ。

「さあ、決めるぞ。フシギソウ」

「フシ!!」

「クライマックスね! ライチュウ!」

「ラィ!」

 戦いの中、ライチュウの位置取りは絶妙だった。フシギソウが追い詰められていたのは自分がめくり上げた地面の場所。土が柔なかくなっておりこれでは砂埃しかあげられない。

「もう地面のバリアは使えないネ! ライチュウラストアタック! 10万っボルトォォォ!!」

 レッドも慌てない。フシギソウもしっかりと前を見据えていた。

「はっぱ、カッタァァ!!!」

「ノー!? はっぱカッターが曲がる!?」

 フシギソウが放ったはっぱカッターはライチュウの電撃には真向から当たらず、フシギソウの左右から弧を描くようにカーブしてライチュウに直撃した。

 しかし当然、フシギソウに10万ボルトが直撃する。

「フシっ!?……フシィィィィ!!」

「ラァァァァイ!!」

 悲鳴ではない、勝利を得るための戦士の雄叫び。痛みに耐えながら、フシギソウが、ライチュウが絶え間なく相手に攻撃し続ける。

「ゴオォォォォォォ!!! ライチュウ!!!」

「行けええぇぇぇぇ!!!」

 少年と少女は、この日を一生忘れないだろう。

「凄い……」

「これが、ポケモントレーナー……」

 決着がつこうとしている。

 フシギソウがライチュウの10万ボルトに押され、後退している。

「ライチュウ!! ユーアーザ・ベストネー!!」

「フシギソウ……!!」

「フシィ……!!」

 それでもフシギソウは、はっぱカッターのカーブを正確に制御して打ち続ける。

(フシギソウの闘志は、決して諦めていない!! 俺がここでフシギソウの力になってやらなければ! なにか、なにか勝利の手立ては……)

 レッドは閃く。しかしこれは大きな賭け。失敗すれば均衡がやぶれ敗北は確実。しかしこのままでは。

『やれる!!』

(!!)

 幻聴か。いや。

「……フシギソウ! つるのムチ!!」

「ワッツ!?」

 信じられないことが起きた。フシギソウはライチュウの10万ボルトを受けながら、はっぱカッターを放ちながら、つるを勢い良く伸ばしてライチュウに叩きおろした!

「ラ!?」

 ムチは正確にライチュウの脳天を叩き、10万ボルトの勢いが弱まる。そして、

「ラァ……ィ」

 10万ボルトとはっぱカッターの放出の終わりはほぼ同じ。しかし地面に伏すライチュウと、悠然と立つフシギソウ。
 
 レッドは両の拳を天に突き上げて、感情を爆発させた。

『ライチュウ戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』

 クチバシティジムのバトルスペース。今は回復させたライチュウと共に、マチスは観客達を招いてバッジの授与式を行った。

「ナイスファイトネ! これがジムリーダーが認めた証、オレンジバッジネ! コングラッチュレーション!」

「ありがとうございます……! やった……!」

「わしからも言わせてくれ。おめでとうレッド君」

「会長……!」

「お兄ちゃん!おめでとう!」
 
 男の子と女の子もレッドに駆け寄ってくる。

「けどミーもびっくりしたネ! あそこでつるのムチを使うなんて! ユーにはなにか確信があったノ?」

 レッドは気恥ずかしそうに答える。

「フシギソウの、声が聞こえた気がしたんです。やれるって。今思えば、変な話なんですけど」

「全然、変じゃないヨ!! それはユーとポケモンの心が通じあってる証、スペシャルフレンドなら当然ネー!」

 笑顔でレッドを称えるマチスに、会長が連れてきた大人の一人が近づく。

「マチスさん、私達はあなたを誤解していた。あなたが話しかけてきた時、ロクに話も聞かずに敵視して……」

「ミーの経歴を考えれば仕方ないね。でもミーはただ、最近ロケット団がポケモン泥棒を行ってるから、ポケモンをセーブするための講習に誘いたかっただけネ」

「なっ……そうだったのか……。私達はそうとも知らず……」

「お母さん、受けよう」

「そうだよ。バトルのやり方くらい覚えとかないと、なにかあった時に守れないよ! 大切なパートナーなんだから!」

 二人の子供が親に訴える。いや、ここにいる全員に訴えていた。

「! あなた達……そうね。そうよね」

「マチスさん」

 会長がマチスに話しかける。

「ポケモンだいすきクラブを代表してお願いしたい。どうか私達に、大切なパートナーを守る術を授けてはくれまいか」

「モチロンネ! バット、一つだけ条件ありまーす!」

「条件とは……?」

「ミーも、ポケモンだいすきクラブに入れてほしいネ! ミーはピカチュウがだーいすきネ!」

 後ろでライチュウがおいとツッコミを入れてる気がするが気にしないほうがいいだろう。

「……っ。もちろんじゃ!」

「イヤッホー!! じゃあさっそく、今日の午後からネー!」

「それと、レッド君。本当にありがとう、心ばかりの礼に、これを……」

「これは……!」

 レッドが受け取ったのはポケモンだいすきクラブの会員証。そしてもう一つは高級マウンテンバイクの引換券、レッドの年齢ではまず手が出せない代物だ。

「ありがとうございます! でもこの引換券は……」

「君とポケモンとの絆には、それ以上の価値があるとわしは思っているよ」

「はい……ありがとうございます!」

 クチバシティジムを出ると、レッドは旅支度を整えてクチバシティの端に来ていた。

「もう、行っちゃうの?」

 見送りには少年と少女、そしてポケモンだいすきクラブの会長が来ている。

「ああ、まだまだ新しいポケモンと冒険が待っているんだ。またクチバシティに寄ることもあるだろうから、その時は……」

「違うよ」

「え」

「私達、こことは遠い場所の出身なの、明日、サントアンヌ号で帰っちゃう」

「そうだったのか……。じゃあこれならどうかな」

 レッドが二人の手を握る。

「俺はここで、誰よりも強いポケモントレーナーになって有名になる。そしたら君たちもポケモントレーナーになって名を挙げるんだ。そうすればどこに行ったってお互いの事がわかるし、会うことができるだろう?」

「そっか」

「うん、そうだね」

「……っと。そいういえば二人の名前を聞いてなかったな。聞かせてくれないか?」

「ブラック!」

「私はホワイト」

「ブラック、ホワイト。俺は絶対に、二人を忘れないよ」

「「うん!!」」



「レッド君、ポケモンだいすきクラブは、いつでも君を待っている」

「はい、また必ず伺います。会長もお元気で」

「うむ」

「ヘーイ! プアリトルボーイ!!」

 大声をあげながら走ってくるマチスは怖い。

「マチスさん!?」

「オーキド博士から伝言ネ! ニビシティの博士の助手に元に行って、届け物を取りに来て欲しいって言ってマース!」

「ニビシティ!? 仕方ないか。少し遠回りになるけど……」

 レッドはタウンマップを開く。すると会長が指差し、

「ニビシティならここからディグダの穴を抜けてすぐじゃ。それからハナダに行けば引換券の使える自転車屋がある。今ヤマブキへは通行止めになっているから、ハナダからイワヤマトンネルを通ってシオンタウンに行き、地下道からタマムシシティに行くのがいいじゃろう」

「なるほど……ありがとうございます!……それじゃあ、行ってきます!!」

 レッドは会長、マチス、そして未来のポケモントレーナーに手を振って旅立つ。

 ポケモンを大好きな心と、熱い闘志をその胸に宿して。

今日はここまでです。明日はついにあの人メインで……
>>79 ホントありがとうございます。

なんとかこのペースで最後まで駆け抜けたい。


投稿前に一言入れれば問題ないんじゃないかな

乙! エリカがロケット団に集団レイプされる話が投下されても大丈夫だぜ

このクオリティのラストバトルとか胸熱
オリジンなんてなかったんや!

過去作や別スレはあるのかな?

ギリギリを攻めればいいじゃない

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 タマムシシティ。レッドは次のジムがあるセキチクシティを目指すため、ヤマブキシティを離れ、タマムシシティの西からセキチクシティへ繋がるサイクリングロードを目指していた。

 レッドは怪我から回復した姿をエリカに見せるためタマムシジムに寄り、エリカに見送られながら再び旅立とうとしていた。

「怪我のないようになさってくださいね。ハンカチとティッシュは持っていますか? 回復の薬と食料の携帯は? ポケモン達の回復は? 怪我の具合は本当に……」

「だ、大丈夫だよエリカさんっ。本当にもう怪我は治ってるし、準備も万全だよ!」

 ベタベタとレッドの体を触りまくるエリカ。本人は心配であるがゆえに行っているために、レッドも無碍に振り払えず、声を上ずらせながら答えるしかない。

「……わかりました。でも、本当に気をつけてくださいね」

 エリカもやっとレッドから離れる。以前タマムシでレッドと戦い旅に送り出した途端、再会したのが彼の病室だったショックを、エリカは表面上大丈夫そうにしながらも引きずっているようだった。

「うん。エリカさん。これを……」

 そんなエリカを察して、レッドは用意しているものがあった。それは日記帳。

「これは……?」

「俺がマサラタウンを出た時からつけている、旅のレポート」

「え……そんな大事なものを、私に……?」

「エリカさんに持っていて欲しいんだ。これからも、カイリュー便でエリカさんに届けるよ。それにエリカさんはタマムシ大学でポケモンの研究をしてるんでしょ? ポケモン達と一緒にいて気づいた事も書いてあるから、役に立てるかなって思って」

 レッドがポケモン達と辿ってきた旅の記録。エリカはその重みをひしひしと感じながら、大事に受け取る。

「……わかりました。ですが、一時的に預かるだけです。必ず、取りに来てください」

「……もちろん。それじゃあ、行ってきます」

「……行ってらっしゃい。サイクリングロードは最近暴走族が出ると聞いています。どうか、お気をつけて……」

「うん!」

 さよならは言わない。レッドは後ろ髪が引かれる思いを振り切り、自転車にまたがってエリカへ手を振りながらサイクリングロードへ向かった。

 サイクリングロード。そこはタマムシシティから西南へ降った半島の先から、海上に架かってセキチクシティへの道を繋ぐ二輪車専用橋。

 橋そのものがセキチクシティへ下る坂状になっており、タマムシシティからセキチクシティへ向かう自転車搭乗者はペダルをこがずに一気に抜ける事ができる。

「おー!!」

 レッドも多くの利用者の例にもれず、自転車に座っているだけで風を切ることができる楽しさに興奮していた。海上を通っているだけあり、自転車から見える景色はまるで空を飛んでいるかのような光景だった。

(そういえば、こんな場所に暴走族ってどういうことだろう? この坂では皆坂に身を任せてスピードを出すだろうから、暴走も何もないと思うけど……。でも、あんな怪我をしたあとだ。気を引き締めて行こう。もう、仲間達に心配かけるわけにもいかないしね)

 そんなレッドの気の引き締めは、無駄に終わった。レッドが降っていた先、自転車の前輪の高さに合わせて張られたワイヤーが、猛スピードで来たレッドの自転車にひっかかる。

「へ」

 レッドが見る景色が空に舞い上がり、逆転した。自転車がワイヤーによって空に跳ね上がり、乗っていたレッドもまた、自転車のサドルから大きく上方に投げ出される。

 幸か不幸か、レッドが投げ出された場所は走者が緩やかに減速するためのカーブ地帯。レッドは自転車と共に落下防止柵を高々に超えて海上に投げ出され、どぼんという水音と共に気を失った。

(ん……あれ……? ここは……)

 潮の香りと共に、さざ波の音が聞こえる。また、レッドがいる場所がゆらりゆらりと揺れていた。海上に浮かぶ小舟だった。

「気がついたよ、ちちうえ」

「!? え……」

 レッドの顔を覗いていたのは覆面の忍び装束の少女。高い声とレッドよりも低い背丈、その少女が小舟の先端に立つ人物へと報告する。

「うむ! お主。怪我はないようだな」

 落ち着いていて少ししわがれた男性の声だった。しかし、少女と同じく彼も覆面、忍び装束を着ている。レッドは状況を把握した。どうやらサイクリングロードから海に投げ出され、彼らによって救われたのだろう。

「助けていただき、ありがとうございます。あ、俺の荷物……」

「ここだよ」

 少女がレッドの寝ていた横を指さす。荷物は水に濡れているが、中を荒らされた形跡はない。自転車も無事だった。

「あの、あなた達は……」

「すまぬな。お主をすぐに陸へ届けたいところだが、拙者達の用事がすんでからとなる。今は体を休めておくといい」

「え、ええ。あの、どうして覆面を?」

「あたいたちにも、事情あるのだ!」

 少女が舌足らずなしゃべり方で胸を張る。覆面の男は特に反応しなかった。

(答える気はないってことか……。悪い人たちじゃあなさそうだけど。仕方ない、今は言うとおり体を休めとこう)

 ピジョットを使って空をとぶ事も考えたが、現在地がつかめない場所でいたずらに飛ぶのはかえって危険だと思い直し、レッドは目を瞑った。

 覆面の者達も特に会話せず、海の上の小舟は静かに進んでいく。晴天だったが、しばらくすると海上を霧が覆い始める。

(……船が止まった?)

レッドは目を開ける。小舟は海上の大きな橋の下、その支柱に着けていた。覆面の少女がロープで船と支柱を固定する。

「一人船の上にいるのは危険だ。お主も上に上がれ。ポケモンは持っているか?」

「う、うん。ピジョットがいるから」

「よし、出てこいモルフォン!」

 覆面の男がモルフォンを出す。覆面の男と少女がモルフォンに掴まって橋に上がり、レッドもピジョットと一緒に上がった。

(ここサイクリングロード、だよね)

 ここまでくればレッドは彼らに付き従う必要もなさそうだったが、レッドは彼らが気になった。

 覆面の二人は霧の中を進んでいく。その先に人の笑い声が聞こえた。

 複数の野太い男の声だった。声の主達は皆派手なパンクルック。派手なバイクに跨がり談笑しているようだった。

(彼らは一体なにをするつもりなんだ……?)

「行け、モルフォン!」

「いけ! ズバット!」

「げっ! 忍者だ!!」

「やべえ逃げるぞ!!」

「え!?」

 覆面の男がモルフォン、少女がズバットを出現させると、パンクルックの男たちがバイクを発進させて逃げようとする。

「逃しはせんよ! 観念してもらおう!」

 しかしモルフォンとズバットがすぐさま行く手を阻む。

「ちい! やるぞ! 行け! ゴーリ……うわあ!」

 モンスターボールを投げようとした瞬間、モルフォンが男にサイケこうせんを発射して吹き飛ばす。

 もう一人のほうも少女のズバットによって、モンスターボールを握っていた手を打たれていた。 

「勝負をする気はない。さあ、荷物を全て出してもらおうか! そちらの男もだ」

 覆面の男が恫喝するとパンクルックの男たちは苦虫を噛み潰した表情で従う。レッドは驚愕した。

「なっ!? なにをしているんですか!? くっ!」

(こんな事をする人たちだったとは! 早くポケモンを出さないと……!)

「お主、動かん方がいい」

「!?」

 レッドは覆面の男に言われ初めて気づいた。レッドの背後にポケモンの気配がある。

「ドガア……」

(ドガース!? いつのまに!?)

「ポケモンを出して拙者達の邪魔をするのはやめてもらおう。さあ、荷物を全て出した後は両手を上げて跪くのだ」

「くそっ!」
  
 レッドが見ているしかないなか、パンクルックの男たちは持ち物を覆面の二人に回収され、今度は手足を縛られた上目隠しをされた。

「よし、後はいつも通りに」

「うん、行けズバット!」

 少女がズバットに命令すると、ズバットがサイクリングロードの地面すれすれを攻撃した。レッドが注意深く見ると、細い紐のような物が地面に落ちている。

(あれは……ワイヤー? 地面に張られていたのか?……!)

 レッドは自分が海に投げ出された時の事を思い出した。確かあの時、自転車が地面に張られたワイヤーで……。

「終わったよ、ちちうえ」

「うむ。少年も気づいたようだな。ドガース、戻れ」

 レッドの後ろにいたドガースが覆面の男のモンスターボールに戻る。 

「あのワイヤーは、彼らが張っていたんですが?」

 レッドはもうポケモンを出す気はなかったが、覆面の者達を見る眼は険しい。

「そうだ。奴らはこのサイクリングロードを根城にする暴走族。ふっ、暴走するだけならまだしも奴らは、コースにワイヤーを張って利用者が飛び上がるのを面白がっている上、けが人が出ても通報せずに荷物を強奪する始末。少年だって、拙者達がいなければ命が危なかっただろう」

「……そのことについては、感謝します。彼らが悪い人だとういうのも。しかしそれは、ジュンサーさん達の役割では?」

「ジュンサーなんて!」

 覆面の少女が叫ぶ。覆面の男はすぐに少女をいさめる。

「よせ。少年の言う事もわかる。だが、現状ジュンサー達の動きを待っていても被害が広がるばかり。現に彼らはこの霧を利用してワイヤーを張って獲物を待っていた。我らが海上から潜入して虚をつかねば、捕まえるのは難しかっただろう」

「……確かに。彼らはこれから?」

「船に乗せてセキチクシティに運ぶ。その後はこいつらの悪事の証拠をまとめて一緒にジュンサー達の元に引き渡す。匿名でな」

 覆面の者達が慣れた様子で男たちをポケモンで船に運んでいく。

「さて、少年。ここから自転車で下に降りていけばセキチクシティに行けるが、どうする?」

「……俺も、乗せてくだい」

「? なんで乗るんだ?」

 少女が不思議そうに言ったが、男は特に気にした様子はなかった。

「いいだろう」

 パンクルックの男二人が増え、また船が海上に出る。レッドは船に揺られながら、思案にふけっていた。

「逃げようとしても無駄だ。荷物は全てこちらが持っている上、ここは海上。下手な事はしないことだ!」

 覆面の男の声に、パンクルックの男たちは怯えた声を出す。ポケモンの技を向けられた事もこたえているのかもしれない。

(この覆面の二人、相当な使い手だ。ジムリーダー達と比べても遜色ないかもしれない。だが……)

 レッドが思い出すのは、先ほどのモルフォンとズバットに追い詰められて怯えるパンクルックの男たち。

 確かに治安を乱す者達を自主的な活動で捕らえるのは、称賛される事だろう。しかしレッドの脳裏に浮かぶのは、シルフカンパニーで自らを襲ったゴルバットの凶刃。

(ポケモンの技を人に向ける……。いや、覆面の人たちはいたずらに人を傷つけるために戦っているわけじゃない。正式なバトルでない以上仕方のない事だ。エリカさんだってゲームコーナーではねむりごなを使っている。わかってはいる。わかってはいるのだが……)

 レッドの心に残る謎のしこり。しかし、レッドがその謎を解く前に、船がまたしてもサイクリングロードの支柱に取り付く。

「行くぞ。少年もついてくるなら、飛べるポケモンをだすことだ」

「……」

 サイクリングロードに出ると、覆面の男がベトベトンを出し、パンクルックの男たちをその背中に乗せて運んでいく。

 覆面の少女はズバットと共に、レッドと覆面の男よりも先駆けしていき、しばらくすると戻ってきた。

「いたよ、ちちうえ。あそこの物陰に一人」

「うむ。行け、モルフォン! かぜおこし!」

(!! 相手が気づいてないところを!?)

 モルフォンが物陰でニヤついた笑みを浮かべているスキンヘッドの暴走族の男に迫る。すると男は気付いたのか、一気に恐怖の顔に歪んだ。

「ひいっ!?」

「……ピジョットお!」

「なに!?」

 スキンヘッドの暴走族にモルフォンのかぜおこしが当たる直前、レッドがピジョットをしかけ、ピジョットのかぜおこしで相殺した。

「なっなんだ。お前ら!?」

 スキンヘッドの男は訳が分からず混乱している。レッドは覆面の男たちと暴走族の間にピジョットと共に立つ。

 覆面の男と少女のレッドを見る瞳が、一気に敵意に変わる。

「なんのつもりだ、小童」

 レッドは表面上落ちつていたが、その胸中は迷っていた。

(今俺がやったことは、正しいことではないかもしれない。覆面の人たちは治安を守るため、正義のためにポケモンと一緒に戦っている。だけど……)

「……ポケモンが人を傷つけるところを、黙ってみている訳にはいかない」

 レッドとピジョットの体が勝手に動いていた。本当の正義など、レッドにはわからないし考えたこともない。ただ、レッドが言っていることだけが全てだった。

「ほう……」

「お前なにを言っているんだ! そいつは暴走族だぞ!」

「まあ待て」
 
 覆面の男が少女を制し、少女は不満げに押し黙る。

 レッドと覆面の男が無言で対峙する。すると、レッドの後ろにいた暴走族がモンスターボールを構えた。レッドも敏感にそれに気づいて振り返る。

「なんだか知らねえが、俺の前から消えな。俺はサイクリングロード暴走団の一人! 下手に歯向かえば痛い目を見るぜ!」

 スキンヘッドの男はレッドに助けられた事を微塵も気に止めず、モンスターボールを放りオコリザルを出現させる。

 レッドはふっと笑う。

「ポケモン勝負か? なら受けて立つ!」

「ああん? なんだこのガキ」

 暴走族はレッドをよくわからない生き物を見るような目で見る。 

「まあいい! オコリザル、奴を蹴散らせ! メガトンパンチ!」

「ピジョット! かぜおこし!」

 レッドはタイプ相性をいかし、ピジョットを上空に羽ばたかせてメガトンパンチを避け、オコリザルの背中にかぜおこしをクリーンヒットさせる。

「くそ! メガトンキック!」

 しかし負けじとオコリザルも飛び上がり、メガトンキックでピジョットに突撃する。

「ピジョット、つばさでうつ!」

 ピジョットも肉弾戦に応じる。つばさでうつとメガトンキックの激突は、以外にもオコリザルに軍配が上がった。

「よっしゃあ! もう一度だ! オコリザル! メガトンキック!」

「負けるなピジョット! つばさでうつ!」

(この少年……)

 覆面の男は静観していた。

 再びのピジョットとオコリザルの激突。今度は相打ちで両者吹き飛び、オコリザルが着地に失敗する。対してピジョットは空中で身を翻し体勢を立て直した。

「くそ! オコリザル!」

「ピジョット、かぜおこし!」

 オコリザルはかわしきれずに吹き飛び、力なく声を上げて倒れた。

「な!? くそ! 負けた……!」

 暴走族の男はオコリザルを戻し、苦い顔をしながらレッドを睨む。

「俺はマサラタウンのレッド。ポケモントレーナーです ポケモン勝負なら、いつでも受け付けます。……いい戦いでした」

 レッドはピジョットをボールに戻して、自ら暴走族の男に近づいていく。そして、握手をするように手を差し出した。

「なっ……なんのつもりだ……!!」

「あなたのオコリザル、凄く連携がとれていました。タイプ相性をものともせずに戦う姿は手ごわかった。大事にされてるんですね」

 スキンヘッドの男はキョトンとした後、吹き出して笑った。そしてレッドの握手に応じる。

「ははっ! わかる奴じゃねえか!……マサラタウンのレッドか。次は負けねえぜ」

 そしてレッドの握手に応じた。レッドは続けて話す。

「一つ知っていたら教えていただきたいことがあるんでいいですか?」

「ああん? なんだ?」

「今サイクリングロードで、コースにワイヤーをつけて利用客に怪我をさせる事件が起きています。なにかご存知でしたら、教えていただきたいのです」

「……」

 スキンヘッドの男はレッドの握手を離すと、罰が悪そうに自分の頭を掻いた。

「ああ、それは俺がいるサイクリングロード暴走団の一部の連中がやってる事だ。俺たちはジュンサーの眼を掻い潜るのに慣れてるからな。好き放題する奴らもいるってことだ」

「なるほど……ご協力ありがとうございます。もし知っていたら、そういった事が頻発する場所を教えてもらえませんか?」

「……俺がやってるとは、疑わねえのか?」

「ポケモントレーナーに、悪い人はいませんから」

 レッドの裏表のない笑顔に、暴走族の男は少しひるんだ。

「……この先のカーブと、セキチクシティ最後の直線の中間地点にある休憩所に行ってみろ。ただ、坊主。行くなら一人では行くな。必ずジュンサーか大人の奴と行け。世の中皆、聞き分けがいいやつばかりじゃねえからな」

「ありがとう。それじゃあ」

「……おう」

 スキンヘッドの男がバイクに跨って去っていく。

「甘すぎるな」

 消えていた覆面の男が霧から現れる。レッドも覆面の男に向き直る。

「奴は暴走団の一員。奴がワイヤーを張ったことがあれば、利用客の荷物を強奪したことがあるかもしれない」

「……そうかもしれない。……でも、俺は……」

 レッドは自らのモンスターボールを取り出し、見つめる。

「ポケモンと確かな絆を築いている人を信じたい。例えさっきの人が罪を犯していたとしても、オコリザルと共にガムシャラに頑張っていた事を思い出せば、自分の誤ちを自ら正そうと、行動を改めてくれると信じたい。被害を最小限に抑えることはもちろんです。だけど、ポケモンと一緒にいるがゆえに途中で道を誤ってしまった人の心を改める事も、同じくらい大事な事だと、俺は思います」

 シルフカンパニーでビルが倒壊した後、レッドがテレポートした場所で真っ先に助けに来てくれたロケット団員。さっきのスキンヘッドの男もきっと、バトルを通してなにか感じることがあったと、レッドは信じている。

「……甘いだけでなく、欲張りな小童だ。だが、だからこそポケモンとの絆の深きトレーナーとなれた、か」

 覆面の男が覆面を外し、素顔をレッドに晒した。

「ちちうえ!? なんで!?」

「あなたは……?」

 男は少女の声を無視し、レッドに名乗った。

「拙者はセキチクシティでジムリーダーをしているキョウ。こちらは我が娘のアンズ。お主のことは、各地のジムリーダーから話を聞いていた。大分無茶な事をしてたようだな」

「ジムリーダー!? 通りで……」

「小童。お主の言う事、拙者は実現不可能のことだと思う。世界には光があれば影があり、悪がいるから正義がいる。各地のロケット団と戦った君ならば、ポケモンを使い理不尽な事をするどうしようもない連中がいるのはわかるはずだ」

 キョウの言葉に、レッドは目を閉じる。そしてゆっくりと開き、自分に言い聞かせるように言った。

「ええ。だからこそ、ポケモントレーナーとして、自分にできることを俺はやるだけです。ポケモン達は皆純粋です。ポケモンと触れ合って生活している人であれば必ず、ポケモンと一緒にいられる喜びが記憶の底に眠っている。それを思い出すことができれば、必ず……」

「そんなの関係ない! あいつらは悪だ! すぐにとっちめてやらなきゃ」

「やめろアンズ、帰るぞ」

「ちちうえ!?」

「奴らが潜んでいる場所がわかった。さすがのジュンサーも、あらかじめ場所がわかっていれば取り逃すことはあるまい。拙者達は与えられた本分に戻る」

「……」

 アンズは納得していないようだったが、しぶしぶキョウに従った。

「お主もここからはサイクリングロードを降れ。脇の側道を通れば、奴らもいないだろう。さっきのスキンヘッドの男の言葉を信じるならな。まさか、一人で奴らのところに行くきはあるまいな?」

「……ありませんよ。大人の方の忠告は聞くものですから。あなたの本分がジムリーダーでありトレーナーを迎える事であるように、ジュンサーさん達も道を間違った人たちを捕まえて、更生させるのが本分ですから。今はそれを信じて、俺はセキチクシティのジムに向かいます」

(……純粋に過ぎるな。その純粋さが、濁らない世界でありたいものだ……。)

 しかしキョウはそう思いながらも、あえて視線をきつくしてレッドを見る。

「……先ほどの大言、貫くならばトレーナーとしての力をジムで見せてみろ。口だけでなくな」

 そう言ってキョウ達は霧に消えた。

 レッドは自転車に跨がり、緊急時に対応できるようピジョットを出して並走するようにする。

「ピジョット、戦ったお前はどうだった? さっきのスキンヘッドの人は、本当に悪い人だったのかな」

「ピジョォ!」

「はは、そうだよな。俺も、そう思うよ。行くか!」

 レッドはピジョットに微笑み、一気に坂を降る。霧が晴れ、視界にセキチクシティが現れた。

今日はここまで。明日でセキチクシティ編終わりの予定です。

>>229
>>230
すいません。言ってみただけでこのスレでエロ話を投稿する気は元々ないです。
やるとしたらこのスレの最後に告知した後に別スレを立てる予定です。やるとしたらですが。

>>231
オリジンは私結構好きですよ! タケシの話は大分参考にさせてもらいましたし……

>>232
ポケモン作品に限るとこんな感じです。

フウロ「君とアタシの理想郷」
エリカ「雨空の君へ」
グリーン「レッドがタマムシジムから進まない」

普通にググってもらえば某所でまとめてるので見ていただけるかと。

>>233
その辺は一般作品の醍醐味ですね。
ナツメさんを少しキス魔にしちゃったけど、安直だったかな? まあいいや。

>>234
ありがとうございます。長々と書いた分、新規に一気に読んでくれる方がいるのは嬉しいですね。

>>245
乙! 過去作全部読んでたことにびっくり

タマムシから進まないSSの大好きだわ

>>245
タマムシからの人か
あれは良かった

 セキチクシティ、そこは自然多き豊かな街。

 この街の目玉は自然の豊かさを生かしたポケモンゲットツアー施設サファリゾーン。

 サファリゾーンでしか手に入らない珍しいポケモンを求めて、多くのトレーナーが訪れる。

 レッドはそれを一瞥し後で寄ってみようと思いながら、キョウが待つセキチクシティジムを目指していた。

 しかし道中、目の前につい最近出会った女性が現れる。

「……あら、レッド! 嘘……すごい偶然………!」

「ナツメさん! どうしてここに?」

 ナツメがレッドに駆け寄って来てレッドの両手を握る。

「セキチクジムに使われてるギミックの監修に来たのよ。ジムを今度新しくするからって頼まれて……あ。これ、オフレコでお願いね」

 ナツメが顔をレッドに近づけウインクする。

「ジムを新しく? じゃあ、今日のジムの営業は……」

「それは大丈夫。ジムの営業に支障がでないようにスケジュールされてるから。今日も通常通り行われるはずよ」

「そうですか……」

 レッドは難しい顔をしている。

「どうしたの? なにかあったの?」

「いえ……。そのナツメさん。セキチクシティのジムリーダーって……?」

「そうね……。セキチクシティジムリーダーはキョウ。専門は毒タイプで、ジムリーダーの中でも古参の方ね。私もバトルを見たことあるけど、毒ポケモン使いの中ではカントーいちでしょうね」

「どんな方なんですか?」

「どんな、ねえ……。忍者の末裔っていうのは聞いたことあるわ。毒に対抗するための薬の知識も豊富。サファリゾーンや周辺をボランティアでパトロールしてて、市民の人からも信頼されているそうよ」

「……」

『小童。お主の言う事、拙者は実現不可能のことだと思う。世界には光があれば影があり、悪がいるから正義がいる。各地のロケット団と戦った君ならば、ポケモンを使い理不尽な事をするどうしようもない連中がいるのはわかるはずだ』

(キョウさんのあの言葉は、やはり経験に裏打ちされたものだったのだろう。だけど……、俺が戦うのは悪を倒すため……いや、素晴らしいバトルがしたいからだ。マチスさんと戦った時のような、見ている人すらも熱くさせる、そんなバトルを……)

 そしてレッドの脳裏にエリカの顔が浮かぶ。

(エリカさんも、故郷を守るために戦った。それは正しいことだ。だが、エリカさんが再び心に光を取り戻した時、キョウさんがやった事をするだろうか。ポケモンと共に、悪を打つ……)

 言葉だけならヒロイック。しかし、レッドは自身の行動を思い出す。オツキミ山の時のロケット団員。サイクリングロードでのスキンヘッドの男。そしてシルフカンパニーでのサカキ……。

「レッド? どうしたのそんなに眉間にしわ寄せて……。なにか、悩み事?」

「ああ、いえ。えっと……」

「言ったでしょ。あなたの力になるって。相談ならいつでものるわよ」

「ナツメさん……」

 レッドはナツメの顔を見て、今まで戦ってきた人たちの顔を思い出す。タケシ、カスミ、マチス、エリカ、ナツメ。そして……。

『勝負はおあずけだな! 待っているぞ!』

(皆……どこか晴れやかな顔をしていた)

 しかし、ただひとつの心残り。

『こんな……こんなの認めねえ! 畜生!』

(グリーン……)

 彼とはシルフカンパニーで出会った時、何倍もたくましくなっているように見えた。だが、レッドはグリーンの今の本質を、まだ知らない。

「大丈夫です。悩みは晴れました。ありがとうナツメさん」

「え!? あ、そっそう……。でもよかったわ。これからジムに挑むんでしょ? 私も同行してもいいかしら?」

「ええ。もちろんです」

 セキチクジムはにすぐに到着した。中に入ると、キョウがジム中央のバトルスペースで目をつむり正座している。その後ろにはキョウの娘のアンズが控えていた。

「来たか……む、ナツメ殿も」

「えっと、ジムのギミックの監修に来たんだけど……。先にやった方がいいかしら? ごめんね。すぐに終わるから」

 しかしキョウがレッドとナツメに手をかざす。
  
「否、その小童に小細工は不要。ナツメ殿、この戦いが終わるまで待っていただきたいが宜しいか」

「いいわ。頑張ってねレッド」

「はい」

 ナツメが観客席に移動する。レッドの顔は、覚悟を決めた戦士の顔。

(ほう……)

 キョウがその顔を見て、笑った。

「下がれ、アンズ」

「うん」

 キョウがバトルスペースに立つ。目を閉じて軽く顎を引き、直立するその姿はまさに時を待つ忍びそのもの。

 レッドもまた、モンスターボールをその手にしながら目を閉じた。

 嵐の前の静寂。突如訪れた張り詰めた空気に、ナツメとアンズも息を呑む。

「答えは変わらぬか、小童」

「一度ポケモンの手を取り、心を通わせたならば、確かな光が心に宿る。俺はそう学びました。ポケモントレーナーならば、ポケモントレーナーとしてぶつからないと分からない事がある。伝えられない事がある」

 レッドは目を開き、モンスターボールをキョウにかざす。

「俺がポケモントレーナーの道を進み続けるのは、バトルを通して得られる確かな絆があるからだ。共に戦う仲間だけじゃない。戦ってきたライバル達にも、俺は心のつながりを感じている」

 その言葉に、ナツメは驚く。

(レッド……!? まさか、あなた、サカキにも……)

「ファファファファ! まさかロケット団と戦いあんな目にあっておきながら、その道を進み続ける意味を確信したというのか!」

「ええ。キョウさん。あなたがサイクリングロードでやっていたことは、被害を迅速に食い止めるためには最善の手段でしょう。だけどやはり俺は、一人ひとりとポケモンバトルを通して、光ある道に気づく手助けがしたい」

 レッドは微笑んだ。自分が進む道が今、また一つ扉を開けた。

「俺達は、ポケモントレーナーなのですから」

「ならば小童。そのポケモン達とともに、拙者の心を震わせられるか?」

 レッドはモンスターボールを構えることで答えた。

「ファファファファ!! 始めるぞ小童! 行け! モルフォン!」

「行け! ピジョット!」

『バトル開始ィ!』

「モルフォン、どくどく!」

「ピジョット、空をとぶ!」

 モルフォンがジグザグに羽ばたきながら毒をまき散らすが、ピジョットは身にかかる毒に構うことなく突貫する。
 
 そのままピジョットの加速した体当たりが直撃し、モルフォンが地に落ちてバウンドする。

「影分身!」

「つばさでうつ!」

 モルフォンはすぐに体勢を立て直すと、その体がぶれて残像のように姿が分身する。ピジョットはその内の一つを翼で切ったがなんの感触もなく、切ったモルフォンの姿は空に消えた。

「つばさでうつ!」

「吸血!」

 両者の戦法は一気に分かれた。影分身、そして毒と吸血で持久戦に持ち込むモルフォン。タイプ相性を生かし一気に勝負を決めたいピジョット。

 観客席のナツメも冷静に戦況を見つめる。

(どくどくは普通の毒よりも消耗が早い……。だけど下手にピジョットを変えれば、それこそ毒を用いた持久戦を得意とするキョウの術中。ピジョットの一撃なら後一回当たりさえすればモルフォンを仕留められる。当たればだけど……)

「モルフォン、影分身!」

「くっ! つばさでうつ!」

 ピジョットの毒が回り始めるのと対照的に、モルフォンは冷静に吸血して体力を回復していく。

「ファファ! どうした小童! その程度では人の魂を震わすなど、夢のまた夢!」

「証明してみせるさ。俺とピジョットならば、どんな逆境だって跳ね返すことができる! ピジョット! かぜおこし!」

「無駄だ!」

 ピジョットのかぜおこしはモルフォンの分身を一つ消すだけ。しかし、レッドは繰り返す。

「かぜおこし」

「ふん! やけになったか……いや、これは!?」

 ピジョットはマッハ2で飛ぶ事ができる羽の持ち主、その翼が全力で風を起こせば、閉めきったポケモンジム内に強烈な気流が巻き起こる。

(あれは、シルフカンパニーで見せた……!)

 ナツメも気づいた。レッドとピジョットは風の流れを利用できる。

「ぬ……モルフォン!」

 モルフォンはピジョットがおこした乱気流にバランスを保つのがやっと。そのせいで、モルフォンとモルフォンの分身達の動きが鈍り始める。

(ピジョット! タイミングはお前に任せる。お前ならば、この乱気流の中で全てのモルフォンが一列になる瞬間を貫ける!)

 ピジョットの眼が見開いたのを、レッドは見逃さなかった!

「ピジョット、突進だあっ!」

「ピジョォ!!」

 ピジョットが羽ばたき、急旋回してモルフォン達に突撃する。自らが作り出し、ピジョットだけが入ることができる一瞬の風の道筋、そこには風に流されて身動きが取れないモルフォン達が直列していた。

 一つ、二つ、三つとモルフォンの分身がピジョットの突撃で消え、最後に残ったモルフォンがピジョットのくちばしに弾き飛ばされる。

 風の流れが止むと同時に、ピジョットは足で降り立ち、モルフォンは背中から落ちで動かなくなった。

『モルフォン、戦闘不能!』

「よくやったなピジョット。戻れ」

 レッドは消耗したピジョットを戻す。ピジョットが再び戦うには毒を直さなければならない故、実質的には相打ちだった。

「まずはお見事! 行け! マタドガス!」

「行け! バタフリー!」

「マタドガス、えんまく!」

「バタフリー! サイケこうせん!」

 放出されたえんまくはバトルスペースの半分を覆い、マタドガスはバタフリーから完全に見えなくなった。バタフリーのサイケこうせんは煙幕の中に消える。

(当たったのか!? 無闇に打ち続けるのも……)

「マタドガス! ヘドロこうげき!」

「フリー!?」

「バタフリー!」

 しかしえんまくの中からはバタフリー目掛けて正確にマタドガスのヘドロこうげきが飛んでくる。

「くっ! バタフリーあそこだ! サイケこうせん!」

 ヘドロこうげきが飛んできた場所へサイケこうせんを打ち込む。しかしマタドガスが悲鳴をあげないため、命中したのかどうかがわからない。

(さすがだ! 勝つための戦術をポケモンに徹底させている。だがこれを打ち破ることができる戦術を、俺とバタフリーが編み出す。今ここで!)

「……よし、バタフリー! しびれごな!」

「むう!?」

 バタフリーが羽ばたき、煙幕に覆われたフィールド全体にしびれごなを巻いていく。

「だが、攻撃は当たらん! ヘドロこうげき!」

 バタフリーにヘドロこうげきが直撃する。しかしレッドはそれを待っていた。

「そこだ、バタフリー!」

 バタフリーは煙幕内に突入した。そして、煙幕の中ガスが噴出している球体の影を見つける。

 しびれごなで動きが鈍ったマタドガス、この距離ならば外さない。

「しとめたぞ! サイケこうせん!」

「マタドガス、じばく!」

「なっ!?」

 煙幕が爆風によって吹き飛ばされ、後には力尽きたマタドガスとバタフリーが残る。

 あのままならばバタフリーのサイケこうせんがマタドガスを仕留めていた。そう判断したキョウの対応は早かった。

「非情だと思うか? 小童」

「勝つために次の仲間へと繋げる。あなたのマタドガスの反応は早かった。勝利への意思統一と自らの犠牲を厭わない気概がなければできないことだ。お見事です」

「……小童。いい戦いをしてきたようだな」

 互いにポケモンを戻す。キョウは笑っている自分に気づいた。

(年甲斐もない。こんな小童の言い分に熱くなり、あまつさえこのポケモンバトルを楽しいと感じている)

「小童。お主の目指す終着点はなんだ?」

「ありません。仲間達と遙かなる高みに行くのみ!」

(ポケモンリーグ優勝でもなく、ポケモンマスターでもなく、即答でそれか)

「ちちうえー! 頑張れー!!」

 キョウは観客席で叫ぶアンズを見た。

(アンズのポケモントレーナーとしての腕、申し分ない。拙者の後を充分に告げるだろう。その後拙者は、今までポケモントレーナーとして過ごしてきた全てを次代に伝えようと思っていたが……)

 キョウの心に、忘れかけていた火が再び灯る。

(高みか……)

「行くぞ小童! これが最後のポケモン! 行け! ベトベトン!」

「行け! フシギバナ!」

 フシギバナは毒タイプを持ち、ベトベトンは草に耐性がある。残る戦いの選択肢は真っ向勝負の肉弾戦。

「フシギバナ、突進!」

「ベトベトン、かたくなる!」

 フシギバナの巨体を生かした突進。ベトベトンもその体を硬質化させて迎え撃つ。

「すてみタックル!」

「ものまね!」

 フシギバナとベトベトンの額が真っ向からぶち当たり空気が振動する。もう、レッドとキョウの命令は必要なかった。

「フシギバナ! 一歩も引くなー!!」

「ベトベトン! そこだ! 行けえ! ぶっとばせぇ!!」

 キョウが拳を振り乱し叱咤激励すると、ベトベトンが応えるように硬質化したヘドロで拳を作りフシギバナを殴る。

「ち、ちちうえ……?」

「あらあら……」

 父親の変貌に戸惑うアンズと、顎に手を当てて微笑むナツメ。

「あんなちちうえ、初めて見る……」

「いいんじゃない? こういう暑苦しいのも、ポケモンバトルでしょ」

「バナぁ!!」

「ベトォ!」

 異種ガチンコファイトはお互いのずつきが炸裂し、両者倒れてゴングが鳴った。

 そして、ふらつきながら立ち上がったのは……。

『ベトベトン戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』

「見事小童。いや、マサラタウンのレッド!」

「こちらこそ。いい戦いができて、本当に嬉しかったです」

 キョウとレッドが近づき、笑顔で握手する。しかしすぐにキョウは手を離し、レッドに背を向けて歩き出した。

「そら! ピンクバッジを受け取れ!」

「おっと」

 キョウはレッドを見ずにピンクバッジを放り投げる。バッジはレッドの手元へ寸分の狂いなく収まった。

「ち、ちちうえ。どこへ……」

「ナツメ、戻ってポケモン協会へ伝えろ。本日を持って、キョウはジムリーダー代理として、娘アンズを指名する。キョウは今任期を持って退任し、後任にはアンズを推薦するとな!」

「ちょ、ちょっと。いきなりどこへ行くつもり!?」

 ナツメも慌ててキョウに叫ぶ。しかしキョウは気にせず自分の言いたいことをぶちまける。

「アンズよ。迷うことあれば今日(こんにち)のバトルを思い出せ。お前の実力は父が認める!」

「は、はい!」

「レッドよ。年甲斐もなく拙者を熱くさせてくれたな。拙者にとってジムリーダーは終着ではないと、錯覚してしまったではないか!」

 キョウは怒りながら笑っているようだった。

「ファファ! まずは手始めにサイクリングロードのトレーナーに片っ端から挑んでくるとするか。さらばだレッド! 高みでな!」

「……はい!」

 アンズとナツメはキョウの突然の変貌ぶりにキョトンとしていたが、レッドはその背中を逞しく思っていた。

(今、サイクリングロードの"トレーナー"って……。……高みか)

 また一つ、約束が増えた。しかし、嬉しさしかない。

「えっと、じゃあアンズ? その、ジムのギミックの監修いいかしら。バリヤードで見えない壁の点検するから、図面見せてもらっていいかしら?」

「え、あ、はい! こちらです! ええと、どこに置いてたっけちちうえ……」

 どうやらアンズの初仕事は、やけに事務的なことから始まったようだ。

 レッドはその様子を微笑んで見守りながら、ピンクバッジを胸元に取り付けた。

 その後レッドはナツメに腕を引かれて共にサファリゾーンに入ったり、何故かポケモンの戦い方についてアンズに相談されたが、大した話ではない。

 ナツメとアンズと別れ、レッドが次に向かうはふたご島、そしてその先のグレン島。

「えっと、ここからは海を超えるか。ギャラドスなら……ん?」

 海岸でギャラドスを出そうとした矢先、海の向こうから波に乗ってサーフィンする少女が見えた。

「待っていたわよーレッド! 波乗りの極意! このカスミが教えてあげるわー!! いやっほー!!」

 波から空に舞い上がりポーズを決める、スターミーをサーフボードにして乗っているカスミ。黒い水着が体のラインをくっきりと写し、太陽に照りつけられて鈍く光っている。

 ほどなくレッドがいる海岸まで猛スピードで海上を滑ってくる。

「えへへー。また会ったわねレッド!」

「カスミ、なんでここに?」

「だから言ったでしょ! ポケモンで海を超える波乗りの極意、この私が教えてあげるわ。不満かしら」

「それは、ありがたいよ。でも、ジムは?」

「今は休暇中よ、さ、レッドも水着に着替えて着替えて♪」

「え、水着持ってないけど……」

「なんですって!? じゃあさっそく買いに行きましょ! セキチクシティなら売ってるでしょ!」

 今度はカスミがレッドの腕を引っ張って行く。レッドは苦笑いしながらも、旅で出会う様々な人たちとの交流を、胸に刻んでいた。

 所変わってタマムシシティ。エリカの自宅。カイリュー便からレッドからの手紙が届く。

 それをエリカは自室で綺麗に封を空け、愛おしそうに微笑みながらその書面に目を走らせる。

(まあ、キョウさんがジムを空けたのはそんなことがあったのですね。レッドも怪我がなくてなにより……ん?)

 ナツメとカスミに関する記述でエリカの目がとまる。

(………ナツメさん、一緒にサファリゾーン行く意味ないですよね。それに、ジムを休んでまでカスミは……しかも水着って……)

「ふふ、ふふふ。ふふふふふふ」

 クサイハナが主の微笑みに、生まれて初めて恐怖した。
 

今日はここまで。明日からグレン島編です。

>>232
もう一作品忘れてましたのでこちらもどうぞ。

カトレア「ジムリーダー風情がトウヤに近づかないでくれる?」

>>246
>>247
>>248
実験的に会話練習で書いた話だったんですけど、意外と評判よくてびっくりしました。ありがとうございます。

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