裏庭
恭介(鈴が凄い形相で読書中の俺の元に駆け寄ってきた。全力で走ってきたんだろう。既に肩で息をしている)
鈴「どーもこーもない!今日、中庭で猫の世話してたらなんかあたしを見つけるなり近づいてきたんだ!」
恭介(今の説明だけだとまったく問題がないように感じる)
恭介「おいおい、そりゃ理樹はお前の彼氏なんだし近寄るくらい当たり前だろ。むしろなんで逃げてくるんだよ」
恭介(もしや、もう倦怠期という奴なのか。最近の若者はませてるなあ)
鈴「だって……あっ、来た」
「……ぅ……ぐす……」
恭介「ん?………うおっ!?」
恭介(鈴が走ってきた道からノロノロと己の体を引きずるような歩きでこちらに近づいてくる生徒がいた。よく見ると、それは俺もよく知っている男だった)
理樹「鈴…鈴……なんで僕の元から離れるのさ…僕はこんなにも鈴のことを愛してるのに……!」
恭介(何故か理樹がボロ泣きで鈴に愛を囁いている。その言葉は呪いの呪文のようで、全身から悲しみのオーラが湧き出ている。いったいどうしたらこんな事になるんだ)
鈴「……恭介はあんな状態の理樹が追ってきても逃げないのか?」
恭介「いや…えっと……」
恭介(確かに俺だったら一旦部屋に籠って、震えながら真人達に助けを要請するだろうな)
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鈴「ひっ!」
恭介(鈴が慌てて俺の背中に張り付いた。まるで最初に理樹と出会った時のようだ……)
理樹「鈴……?」
恭介(ほとんど前を見ずに前を進んでいた理樹がやっとこちらに気付いた)
理樹「鈴っ!よかった……まだ悪い人には捕まってないんだね。恭介といたなら安心だ…もうずっと離さないよ……」
鈴「き、恭介……」
恭介(後ろで俺のシャツを掴む手が更に強くなった。何が起きたか知らないがまずは話を聴かねば始まらない)
恭介「え、えーと……」
理樹「どうしたの恭介?」
恭介「理樹、なんかお前疲れてないか?いつもと様子が変だが……」
理樹「僕?僕はいたっていつも通りさ…元気だよ」
恭介(だったらその死んでる目はなんだ)
恭介「客観的に見るとそうでもないぞ。なんだか今日は特に鈴への愛情が高ぶってるようだが」
理樹「愛……?ふっ……ふふふっ…!」
恭介・鈴「「!!」」
恭介(背筋がぞくっとした。今日の理樹は絶対おかしい。来ヶ谷が転ぶのと同じくらいおかしい)
理樹「そりゃそうだよ…彼氏は彼女を全力で守らなくちゃならない。ずっとそばにいるべきなんだ。だってそれが愛なんじゃないかな?」
鈴「ストーカーだと思うぞ…」
恭介「シッ!」
理樹「ねえ恭介、それじゃちょっと2人きりにしてくれないかな?鈴に用があるんだ」
恭介(鈴が震えた。理樹に恐怖を覚えたんだ)
恭介「……退いたらどうするんだ?」
理樹「どうって…ただまっすぐ僕の部屋に連れて行ってずっと鈴をお世話するんだ。もう他の男に鈴の可愛い姿を見られないように窓もバリケードで封鎖して真人には謙吾の所で寝てもらう。そしてこれからは僕が鈴にご飯をあげて勉強も教えるんだ。なに、僕だって案外やる方だから赤点は取らせないよ。流石にシャワーとトイレには外に出ないとダメだからその時だけ窓からこっそり女子寮に出てもらうよ。もちろん悪い男が待ち伏せしてないか下見してからだけどね。あと残った時間は2人でずっと愛を育んでいくんだ。これから大きなベッドを注文しようと思う。そうしたら寝る時も一緒さ。鈴もずっと僕といられて嬉しいんじゃないかな?嬉しいよね。とにかく今のところはここまで考えてる。あとのことはまた鈴と一緒に決めるよ。ああ、もちろん男に会わせないと言ってもリトルバスターズのみんなは違うよ?ただ、真人に出て行ってもらうのは鈴と僕の生活は、真人には少し刺激が強いかなと思ったからで………」
恭介(………………)
恭介「鈴……」
鈴「なんだ……」
恭介「3秒数えたら2人で逃げるぞ」
鈴「それは3と言ってから走るのか3と言って同時に走り出すのかどっちだ?」
恭介「どっちでもいいだろっ」
恭介(今の理樹はもう手に負えない。今は戦略的撤退だ)
恭介「行くぞ…1…2…3!」
恭介(俺たちは走った。脇目も振らずとにかく理樹と正反対の方向へ)
恭介「ハァ…ハァ…!」
鈴「恭介!どこに逃げるんだ!?」
恭介「分からん!とりあえずついてこい!」
恭介(北北西に進路をとった。そして恐る恐る理樹の方を向くと……)
理樹「……………」
恭介「…………?」
恭介(不思議な事に俺たちを追いかける素振りすら見せず、こちらを見ながら誰かに電話するだけだった)
恭介「なにか不気味だがとにかく理樹の視界から消えるしかない。この先の男子寮へ避難しよう。俺の部屋ならしばらくは安全のはずだ」
鈴「分かった」
恭介(それにしても何故理樹はあんな調子に…そしてさっきから気になっていたが、ずっと手に持っている本はなんなんだ?いろいろ疑問はあるが、とにかく今は走るしかない)
恭介部屋
恭介「鈴。まず一応聞いておくが、理樹がああなったのに心当たりは?」
鈴「あるわけないだろ」
恭介「だよな。あったらお兄ちゃん泣いてた」
恭介(鈴と理樹の仲に問題はないという事は他の誰かに影響されたということか。理樹は影響されやすいからな。誰かに変なことでも吹き込まれたに違いない)
ピンポーン
恭介・鈴「「!」」
恭介(俺たちはお互いに目を合わせた。理樹がここに来たということだろうか?)
鈴「恭介…絶対に開けるな」
恭介「相手が理樹ならな」
恭介(静かにドアの方まで近付き、2度目のチャイムを鳴らされないうちに質問した)
恭介「誰だ?」
「あ、僕ら風紀委員です。棗さんですか?」
恭介(ドア越しに聞いたことのない声が返事をした)
恭介「ああ。その風紀委員が何の用だ?」
「実は最近、寮全体の風紀が乱れているとのことでこうして一部屋ずつ様子をチェックして回っているんです。とりあえず開けてもらっていいですか?」
恭介(よりによってこんな日に面倒くさいのが来たか…理樹じゃないというだけマシなんだが)
恭介「それはいいが今は客がいるんだ。そういう勘違いはしてくれるなよ?」
「兄妹共に学校じゃ有名ですしそんな誤解はしませんよ」
恭介「それもそうか!ハ、ハ………ハ?」
恭介(俺は鈴にだけ聞こえるように呟いた)
恭介「……鈴っ、そっちの窓を開けろ…っ」
鈴「なんで?」
恭介「用心のためだっ」
恭介(鈴は俺の顔を見てこくりと頷くと静かに窓を開けた)
恭介「予備の運動靴が俺のベッドの引き出しに仕舞ってある。ちょいと大きいかもしれないがそいつを履いておけ…」
鈴「分かった」
「棗さーん?」
恭介「あ、ああ!ちょっと待ってくれ!」
恭介(最後に念のためドアのチェーンをかけておく。もちろん他の部屋にはない特注品だ。まさか工芸部の置き土産が役に立つ時が来るとは)
恭介「今開ける。だが、その前に一つ質問がある」
「なんですか?」
恭介「何故俺の部屋に鈴がいることを知っている」
恭介(数秒の沈黙のあと、むこうの本性が姿を現した)
ガチャッ!ガチャッ!
「すいませーん。開けてくださーい!」
恭介(乱暴にドアノブを回す音が聞こえた。やはり何かおかしいと思ったんだ。やれやれ、嫌な予感というのは嫌なくらいよく当たる)
恭介「誰が開けるもんか!お前らいったい誰の命令でこんなことを!」
恭介(そう言いつつ鈴にジェスチャーで外へ出るように合図した。ここはもうダメだ。俺の予想だときっと…)
「開けてくれないならこっちから開けますよ」
ガチャリ
恭介(これほどまでに鍵がハマる音を不快に思った事はない。奴ら合鍵まで持っていやがった)
ガンッ
「あっ、クソッ!チェーンをかけてやがる!誰かチェーンカッター持ってこい!委員長に吹っ飛ばされないうちに!」
恭介(ありがとう鎖。お前の努力は無駄にはしない)
……………………………………
数十分前
佳奈多『ええっ?棗先輩が鈴さんを!?』
理樹「うん。そうなんだ。恭介が鈴を僕の前から遠ざけようとしてるんだ。今、きっと恭介の部屋で鈴を監禁しようとしてるに違いない。お願い!僕じゃ歯が立たないから二木さんの力を貸してくれないかな?」
佳奈多『分かったわ!近くの男子の委員を向かわせるから!べ、別に勘違いしないでよね!あなたの為じゃなくて学校でそんな事件を起こしたくないだけだからっ!…それじゃまた後でかけ直す。それじゃっ』
理樹「うん……了解」
ピッ ツーツー
理樹「恭介…なんで鈴を連れ去ってしまうのさ?」
……………………………………
現在
鈴「つ、次はどこに行くんだ!?」
恭介「こっちだ!」
恭介(靴下のまま土の上を走るのはかなり抵抗があったが今はそんなことを気にしている暇はない。今のがもしも理樹の差し金だとしたら今の理樹は俺でも手に負えない存在になっているかもしれないからだ)
茶室
恭介「頼もーっ!」
ガラッ!
クド「わふ?」
あーちゃん先輩「んー?」
恭介(次の隠れ家は茶室だ。ここは理樹にとっても俺にとっても縁はないような場所だ。それが逆に理樹や風紀委員の捜査網を外すことになってくれるはずだ。多分)
恭介「ぜぇ…ぜぇ……っ!」
鈴「はーっ…はーっ……」
恭介(そしてどうやら先客がいたようだ。仲良くお茶を楽しんでいるようだが、俺たちが来たことで少々荒れることになるかもしれない)
あーちゃん先輩「そんな息を切らしてどーしたのお二人さん」
クド「お、おふたりとも凄い汗です!何かあったんですか!?」
恭介「いや…ちょっとな。少し匿ってくれ」
すまん明日本気だす(∵)
乙
あんたを待ってたよ
あーちゃん先輩「匿わせてって、棗くん今回はどんな事しでかしたの?」
恭介「あー……今は聞くな」
恭介(いたずらに無闇な事を言って混乱させたくはない。とにかく真人と謙吾に助けを要請しよう。理樹側に付いていないといいが……)
恭介「それよりもう座布団が既に1枚用意されてるな。誰か来る予定だったのか?」
あーちゃん先輩「ううん、もう帰った子だよ。あと一つあったかしら?」
クド「あっ!そ、そ、それなら私が用意してきます!部長はおっ、おっ、お茶を用意しておいてくださいです!」
鈴「悪いな」
恭介(相変わらず慌ただしい奴だ。なんか今日は特に落ち着きがないな)
プルルル……プルルル……
ピッ
謙吾『もしもし、宮沢謙吾だ』
恭介「謙吾!」
謙吾『あいにく今は出られない。それではこれからピーッという音をお聞かせしよう』
ピーッ
恭介(………………)
あーちゃん先輩「はーい。お待ちどう」
恭介(寮長が木のテーブルに2つの湯のみを置いてくれた。なんか泡立て器みたいなやつでシャカシャカしてくれると思ったが期待外れのようだ)
クド「持ってきました!恭介さん。どうぞ」
恭介「ありがとう」
あーちゃん先輩「それで電話の相手はどうだった?」
恭介「どうも忙しいらしい。もう1人の方はそもそも携帯を持ち歩いているかすら怪しいし……さて、どうしたものかな」
あーちゃん先輩「じゃあここでゆっくりしていけば?」
恭介「考えがまとまるまではそうさせてもらおう」
ズズズ……
鈴「美味い。もう一杯」
あーちゃん先輩「はいはい、どうぞ」
恭介「ううむ……」
恭介(やはり直接理樹に会わないことにはどうにもならない。そもそも何故鈴にあそこまで執着するか分からない程だ。しかし、今の理樹に近づくのはどう考えても……)
あーちゃん先輩「棗君は飲まないの?冷めちゃってもしらなかいよ~?」
恭介「あ、あぁ……」
ゴクリ
恭介「ガハッ!?」
鈴「どーした?」
恭介「げほっ…げほっ…!あ、甘すぎだろこれ!」
鈴「そーか?シロップ入れた紅茶みたいで美味しいぞ」
恭介「俺には逆にシロップに紅茶を入れてるようにしか思えないぞ!?」
あーちゃん先輩「うーん…やっぱり苦い薬を相殺するのに角砂糖10個は無理があったかー」
恭介「なに?」
鈴「う、うん…?なんだか眠くなってきた………」
恭介(そう言うやいなや鈴が机に頭を突っ伏した。おそらく、眠ってしまったんだろう。そしておそらく、その原因は……)
恭介「お、お前らまさか……」
あーちゃん先輩「いやぁ、ごめんね棗君!実はさっきその座布団に座っていたのは直枝君だったの」
恭介「罠か!」
あーちゃん先輩「さっき棗君たちが来る前に直枝くんが睡眠薬を持ってやってきて『もしかしたらここへ来るかもしれないからその時は少し苦いけど飲み物にこれを盛って』ってお願いされちゃってさ。何があるのかは知らないけど可愛い後輩の頼みは断れないわよね~ってことで」
恭介「いやいやいや!鈴も可愛い後輩だろ!」
クド「あ、あの!私は止めようとしたんですが……!」
あーちゃん先輩「だってとっっっても面白そうじゃない!結局失敗しちゃったけど棗君を嵌める機会なんてそうそうないし」
鈴「すぴー……」
恭介「クッ、覚えてろよ!いつかこの借りは……!」
「この中にいるぞー!全員で抑えろー!」
恭介(入ってきた入り口の方から男達の声が聞こえた。風紀委員だろう)
あーちゃん先輩「裏口ならこっちよ。フェンスが破れてて裏庭の方へ直接行ける」
恭介「なんだと?」
あーちゃん先輩「何度も言わないわよ。それに直枝君にはこれを飲ませること以外は何も言われてないしねっ」
恭介(一瞬、これも罠かと疑った。しかし、俺はこいつの性格をよく知っている。こいつは勝負の勝ち負けよりも勝負がどれだけ長引くかどうかが重要なタイプだ)
恭介「……礼は言わないぞ」
恭介(俺は鈴を担いでそっちの方向へ向かった)
あーちゃん先輩「どーいたしまして!」
ガラッ
「いたぞ!あっちだ!」
クド「わ、わふー!せめて靴は脱いでから来てくださーい!!」
恭介「ハァッハァッ!鈴…昔に比べて重くなったな…!これも成長というものか……っ!」
恭介(眠った鈴を背負って裏口を出ると確かにフェンスが大きく剥がれていた。その奥は裏庭の茂みになっており、巻くにはちょうどいいカモフラージュとなっていた)
ガササッ
「どこへ行った!?探せ、まだ近くにいるはずだ!」
「本部、本部!こちらパトロール、目標を見失った!」
恭介「ふぅ…………」
恭介(なんとか逃げ切ったか。やれやれ、一時はどうなることかと…)
「やははのはー!動くなー!ミスターキョウスケッ」
恭介「……お次はなんだ?」
???「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!」
葉??「理樹君の指令を受けたため、鈴ちゃんの平和を守るため」
葉留?「愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーなカタキ役!」
葉留佳「三枝葉留佳!!」
カッ!
葉留佳「銀河を駆けるはるちんには!ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
葉留佳「なんちゃって☆」
シーン……
葉留佳「あ、あれ……?」
恭介(次の資格があんなのでよかった。今のうちにトンズラこくぜ!)
カチッ
恭介「カチッ?」
恭介(逃げた先の足元には縄が敷かれていた。まさに俺の足に引っ掛けるにはぴったりの……)
シュッ…!
恭介「まずいっ!」
ビヨーン……
恭介(慌てて足を退けると人が余裕で入れそうな、かなり古典的な網が木の枝に垂れた。なるほど。ああやって人はミノムシになるのか)
葉留佳「ちょっと待ってくださいヨ!せめて全部言ってから逃げてーっ!」
恭介(三枝が慌てて追いかけてきた)
恭介「悪いが今はお前に構っている暇はない!」
恭介(再び走り出した脚を三枝のこと一言が止めた)
葉留佳「おおっと動いちゃダメっすよ恭介さん!さっきのようなトラップはここら一帯に張り巡らせてありますぜっ!」
恭介「ば、馬鹿かよ!」
葉留佳「グッヘッへ~!バカがバカなりに恭介さんを止める術を考えた結果がこれなのだ!」
恭介「ふざけんな!その努力はどっか別のとこで使いやがれ!女らしさ磨くとか!」
葉留佳「ムッキー!あたしが女らしくないってゆーんですか恭介さんはー!?」
恭介(どうする…俺1人だけならなんとかなるが鈴を担いでいる今この罠を避けるのは難しい…。先に三枝を無力化するか?)
葉留佳「まぁ、いいッスよ。何故ならはるちんは第二の恐ろしい罠を仕掛けたのだからっ!その名もビー玉スプラッシュ!この手に持っているヒモを引っ張ればあらかじめ仕掛けていた大量のビー玉が木の枝から地面に降って相手は確実に転がってしまうのだ!」
恭介「な、なんてことを……」
葉留佳「喰らえ!半径20mエメラルドスプラッシュをー!」
恭介(もはや絶望的…そんな時、後ろの方から声がした)
「こっちだ恭介氏」
恭介「その声は……」
来ヶ谷のテラス
来ヶ谷「面白いことに巻き込まれているな」
恭介「そうだな……さっきは助けてくれてありがとう」
来ヶ谷「”貸し”ということにさせてもらおう。それより何故、恭介氏はあそこまで執拗に多方から狙われているんだ?」
恭介「見ていたのか…そうだな。俺自身よく分かっていない。ただ理樹の人望の厚さは怖いってことは理解した」
来ヶ谷「今も追われているなら鈴君だけでもどこかへ移した方がいい。まあ、私が預かってもいいが眠っている彼女にどこまで我慢出来るか分からないからな」
恭介「確かに信用出来ないな」
来ヶ谷「確か屋上には小毬君と美魚君がいたはずだ。彼女らに預かってもらえ」
恭介「屋上か……」
屋上
恭介(そこは相変わらず行くには面倒なところだった。しかし、行ける場所が狭すぎるため風紀委員が来ても対処出来そうではある)
鈴「ん……むにゃ…」
美魚「恭介さん。鈴さんが起きましたよ」
小毬「よ、良かったー…!」
恭介「そうか…まあしばらくは置いといてくれ。寝起きに無茶は出来ない」
恭介(それにしても……このままただ逃げ回っているだけじゃダメだ。理樹がこうなった原因を推理しないと。理樹は昨日まではピンピンしていたはずだ。なのに今日見てみると絶望の化身と化してしまっていた。これには絶対に訳が……)
キィ……
恭介(その時、入り口の窓が再び開く音がした)
恭介「嘘だろ……」
そういやこの人のシリーズで理樹が敵(?)になるのは初めてか?
理樹「…………………」
恭介(もちろんそれは冗談でもなんでもなく、理樹その人だった。例の本もまだ持っていた)
恭介「理樹……なんでこの場所が分かった…」
理樹「なんでって……匂いで」
恭介「マジかよ……」
鈴「うっ…り、理樹っ」
理樹「ああ、鈴!また会えたね…もう二度と僕の元から姿を消さないって約束してよ……僕はっ!!君を探す間ずっと心が傷ついたよ…苦しかったよ…痛かったよ…っ!でも、だからこそ君の大切さずっとずっと確かめられたよ。そういう意味ではこの『本』にも感謝しなくちゃいけないのかな…」
恭介(と言って、苦虫を噛み潰したかのような顔で本を睨んだ)
理樹「もう鈴以外には何もいらない。ずっと2人で生きていこう…鈴だって僕さえあれば充分だよね?それが……愛し合うということなんじゃないかな」
恭介(遂に暴走した理樹は本を捨てて鈴の元に飛びついた)
恭介「うおっ!?」
理樹「ううぅ……!!鈴っ、鈴……!」
鈴「や、やめぇー!!」
小毬「えぇぇえーーっ?」
美魚「こ、これは……」
恭介(理樹はただひたすら鈴を抱きしめた。俺の予想だと鈴の腹を包丁で突き刺したり、そのまま無理やり屋上から無理心中したりするのか思ったがそんなことは無かった)
理樹「ぐすっ……鈴……っ」
恭介「………………」
恭介(とりあえず今は放っておいても大丈夫そうなので理樹が落とした本を読んでみることにした)
恭介「なになに……『立華さん家ノ男性事情?』」
恭介(表紙はなかなかセクシーな物だった。きっと悪友にでも借りたんだろう。どれどれ、中身は……)
ペラッ
恭介「………………」
ペラッ
恭介「………………!」
ペラッ
恭介「………………?」
ペラッ
恭介「………………っ」
ペラッ
恭介「!!!!!!」
ペラッ
恭介「うあああぁぁぁぁあああーーーーーッッ!!!」
小毬「こ、今度は何ですかーっ!?」
鈴「な、なぁ?」
恭介「フゥーッ…フゥーッ……もう…分かった……フゥーッ……」
恭介(………………………)
恭介「もういい……フゥーッ…………はぁ」
恭介(今、全てが分かった。そうか、そういう事だったのか。理樹がああなるのも充分頷ける。もしも今以上に感情移入して読んでいれば俺自身危ないところだった…これは禁書だ。よくもこんな……くそっ)
美魚「恭介さん。どうされましたか?」
恭介「ああ、西園か……こ、この本を知っているか?」
恭介(俺はブツに目を逸らしながら答えた)
美魚「………いいえ、知りません」
恭介「そうか、なら読むな。これはまともな人間が読んだら死ぬぞ」
美魚「どのような内容なんですか?」
恭介「………………主人公はごく普通の平凡な男の子だ」
恭介「その男の子はひょんな事からお隣の一家に居候することになった。家庭の事情で美女しかいないそこは男からすればまさにムヒョッス最高な環境だったんだろう」
恭介「そしてその3人とも生活を続けるうちに恋愛に似た感情を持ち始め、まさにハーレムといった状況が男を取り巻くようになり、人生のピークを迎えた」
恭介「しかし、その後、全員で向かった旅行先でその3人は地元の若い兄ちゃん達に口説かれてしまう……」
恭介「男はそんなことも知らず、旅行から帰っても心あらずな3人との生活を続けるんだ……」
恭介「ううっ……ぐすんっ!」
西園「それはそれは…」
鈴「き、恭介ーっ!理樹がずっと抱きついて離れない!助けてくれー!」
恭介「うう、理樹!今なら分かるぞお前が鈴を離したくなくなった気持ちが!俺も鈴がチンピラに取られたら死んでも死に切れねえ!俺にも鈴を抱かせてくれーっ!」
恭介(説明しているうちに感極まった俺は理樹と共に涙を流しながら鈴へ抱きついた。だって当然だろ?たった1人の妹なら)
鈴「ば、バカ兄貴!理樹の一緒のことすなーっ!!」
小毬「わ、わ、私はどうすればいいのー!?」
美魚「鈴さん……」
鈴「み、美魚っ!」
美魚「……諦めてください。今の2人はテコでも動きませんよ」
鈴「な、なんでじゃーーーーっっ!!!」
終わり(∵)
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