成歩堂「史上初めての“異議あり!”」 (29)
……
……
成歩堂(ここはどこだ……?)
成歩堂(ぼくは事務所のソファで眠ってたはずなのに……)
成歩堂(ということはきっとこれは≪夢≫なんだろう)
成歩堂(だったら目を覚ましちゃえばいいんだけど……)
成歩堂(なんだろう……ぼくはこの世界でやらなければならないことがある)
成歩堂(そんな気がしてならない……)
成歩堂(とにかく歩いてみるか)
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ザワザワ…… ガヤガヤ……
成歩堂「!」
成歩堂(あそこに人だかりができてる……いったいなんだろう)
成歩堂「すみません」
通行人「なんだい?」
成歩堂(! ……この人の言葉!)
成歩堂(なんとなく……中国語っぽい気がする)
成歩堂(ぼくは中国語は“ニーハオ”と“ツァイツェン”しか分からないけど……)
成歩堂(どうしてぼくは相手の言葉が分かって、ぼくの言葉は相手に通じてるんだろう?)
成歩堂(うーん……きっと夢だからにちがいない。深く考えるのはよそう)
成歩堂「この人だかりはなんなんです?」
通行人「商人が品物を売りにきたから、みんなで見物してるんだよ」
成歩堂「なるほど……(せっかくだからぼくも見てみようかな)」
商人「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
商人「今回紹介するのはこの≪矛≫と≪盾≫だよ!」
商人「俺の説明を聞いたら、必ずみんな買いたくなるよ!」
成歩堂(≪矛≫と≪盾≫か……)
成歩堂(なんだろう、この感覚。無性に人差し指のあたりがムズムズする……)
商人「じゃあ説明を始めるよ!」
―商売開始―
~商品説明~
商人「この≪矛≫と≪盾≫はすごいんだ!」
商人「まず、≪矛≫はどんなものでも貫くことができる!」
商人「一方、≪盾≫はどんな攻撃をも防ぐことができる!」
商人「この≪矛≫と≪盾≫を持ってれば無敵! スキなんかありゃしない!」
成歩堂「…………」
成歩堂(なんだこれ……ツッコミどころがあからさますぎるぞ……)
成歩堂(たしか前に、御剣からもこういう昔話を聞いたような記憶がある)
成歩堂(こんな≪矛≫と≪盾≫を買う人がいるわけ……)
「買った!」
「一組おくれ!」
「私もだ!」
成歩堂「ええええええええええっ!!!」
成歩堂(だれもツッコミを入れないのなら、仕方ない……ぼくが入れるしかない!)
成歩堂「待った!!!」
商人「なんだい、アンタ」
成歩堂「ぼくは通りすがりの弁護士です」
成歩堂「今の≪商品説明≫に≪尋問≫をさせて下さい!」
商人「≪尋問≫だと……!?」
商人「するってえとあんた、俺の商品にケチをつけようってのかい?」
成歩堂「……そういうことになります」
ドヨドヨ…… ドヨドヨ……
商人「いいだろう……尋問してみてくれよ」
商人「ただし! もしおかしいところがなかったら……覚悟はできてるんだろうな?」
商人「なんたって、俺は自分の商売にイノチをかけてるからな」
成歩堂「どうしてくれてもかまいません」
商人「なに……ッ!」
成歩堂「自分の商売にイノチをかけているのは、なにもあなただけではない!」
成歩堂「ぼくだって自分の言葉に、いつだってイノチをかけているのです!」
商人「く……ッ!」
成歩堂(これぐらいハッタリかましたっていいよな……どうせ夢なんだし)
成歩堂「では、尋問を始めさせてもらいます」
―尋問開始―
~商品説明~
商人「この≪矛≫と≪盾≫はすごいんだ!」
成歩堂「待った!!!」
成歩堂「いったいどうすごいんですか?」
商人「それをこれから説明するとこだろうが! せっかちすぎるぞ!」
成歩堂「そ、それはそうですね。先を続けて下さい」
商人「まず、≪矛≫はどんなものでも貫くことができる!」
成歩堂「待った!!!」
成歩堂「どんなものでも……ですか。たとえばどのような?」
商人「たとえば敵の鎧や兜なんかでも、あっさり貫くことができるのさ!」
成歩堂「つまり……アクダイカーンなんかもあっさり倒せるわけですか」
商人「アクダイカーン? なんだそりゃ」
成歩堂「す、すみません。こっちの話でした」
成歩堂(ぼくもだいぶトノサマンに毒されてきてるようだ……)
商人「一方、≪盾≫はどんな攻撃をも防ぐことができる!」
成歩堂「待った!!!」
成歩堂「どんな攻撃をも防ぐことができる……本当ですか?」
商人「本当だとも!」
成歩堂「ですが、どうやらぼくの口での攻撃までは防げないようですね」
商人「ぐう……ッ!」
成歩堂(今の切り返し……我ながらよかったな。今度、法廷でも使ってみよう)
商人「ったく、あんたもしつこい男だな!」
成歩堂「あなたこそ、よほど自分の商品に自信があるようですね」
成歩堂「では今の矛と盾に関する説明、≪証拠≫として扱ってもかまいませんか?」
商人「もちろんだ!」
商人「この≪矛≫と≪盾≫を持ってれば無敵! スキなんかありゃしない!」
成歩堂「異議あり!!!」
商人「!?」ドキッ
商人「なんだ、今の“異議あり!”ってのは……! ものすごくドキッとしたぞ!」
成歩堂「“スキなんかありゃしない”……今あなたはこういいましたね」
商人「いったよ! それがどうしたってんだ!」
成歩堂「しかし、残念ながらあなたの説明は……ハッキリいってスキだらけです!」
商人「な、なんだと!? どこがだよ!?」
成歩堂「ではうかがいましょう」
成歩堂「あなたの売っている≪矛≫で、あなたの≪盾≫を貫こうとすると……」
成歩堂「いったいどうなるのですか?」
商人「え……ッ!」
成歩堂「あなたが証拠として扱っていいとおっしゃった、商品の性能についての説明……」
成歩堂「“どんなものでも貫く≪矛≫”と“どんな攻撃をも防ぐ≪盾≫”……」
成歩堂「これは明らかにつじつまが合わない……ムジュンしています!」
商人「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
成歩堂(この感覚……やっぱりたまらないな!)
ドヨドヨ…… ドヨドヨ……
「そういやそうだ……」
「うん、たしかに……」
「あの≪矛≫であの≪盾≫を刺したら、一体どうなっちまうんだ……?」
商人「くっ……!」
商人「み、みんな! 惑わされるなッ! これは……違うんだッ!」
商人「このツンツン頭のいってることはまやかしだ! 聞く耳持つな!」
成歩堂「異議あり!!!」
成歩堂「もしぼくのいってることがまやかしで、あなたが正しいというのなら」
成歩堂「それを簡単に証明する方法があるじゃないですか!」
成歩堂「さあ、今すぐ実演してみせて下さい!」
成歩堂「今あなたが売っている……自慢の≪矛≫と≪盾≫で!!!」
商人「ぐ……ッ!」
商人「いいだろう……証明してやるよ……!」
商人「どんなものでも貫く矛で……どんな攻撃も防ぐ盾を突いたら……」
商人「いったい……どうなるのかを……」
商人「どうなるんだ……? どうなってしまうんだ……?」
商人「ど、どうなるの……? ど、ど……どど、どどど……ど……」
商人「どうなっちゃうのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
――
――
通行人「いやーあんた、さっきはすごかったぜ!」
通行人「あんだけ自信満々だった商人をやり込めちゃうんだからな!」
通行人「あの商人、当分まともに商売できないだろうな。ざまあないぜ!」
成歩堂「いやあ、それほどでも……(あるけど)」
通行人「ところで、さっきあんたがいってた≪ムジュン≫って言葉はなんなんだ?」
成歩堂「ムジュンというのは、さっきの商人の≪矛と盾≫のように」
成歩堂「ある事柄とある事柄のつじつまが合わないことを指す言葉ですよ」
通行人「へえ、そんな言葉があるのかい。知らなかった!」
成歩堂「そしてぼくは、そのムジュンの先にある≪真実≫をつかむ仕事をしてるんです」
通行人「ふうん、よく分からないけどすごいことしてるんだな!」
通行人「だったら俺……その≪ムジュン≫って言葉を、もっともっと広めてやるよ!」
成歩堂「ええ、どんどん広めちゃって下さい!」
成歩堂(あまり使う機会がないに越したことがない言葉ではあるけど)
成歩堂「…………」
成歩堂(あれ……? 急に意識が遠くなって……)スウッ…
……
……
真宵「なるほどくん、起きてよ! トノサマン始まっちゃうよ!」
春美「起きて下さい、なるほどくん!」
成歩堂「ん、あ……ごめん、すっかり寝ちゃってたみたいだ」
真宵「んもー、なるほどくん、最近だらけてるよ!」
真宵「はみちゃんからもなんかいってやってよ!」
春美「うふふ……でもきっと、なるほどくんは真宵様を信頼しているからこそ」
春美「安心して睡眠を取られているともいえますね!」
成歩堂(安心して寝るというより、どっちかというとヤケになって寝るって感じだけど)
春美「ところでなるほどくん、寝言で“待った!”や“異議あり!”といってましたけど」
春美「いったいどんな夢をご覧になられてたんですか?」
真宵「あ、そうそう! あたしも気になってた! 法廷の夢でも見てたの?」
成歩堂「うーん、正直いってぼくも覚えてないんだけど……」
成歩堂「言葉を一つ作っちゃったような……そんな感じの夢だったような気がする」
おわり
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