四条貴音「雪朋風花」 (38)
アイドルマスター四条貴音のss。
書き溜めあり。
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事務所
音無小鳥「……ピヨピヨピピピ……ヒヨコがぴょん……」カタカタ
ガチャ
四条貴音「お疲れ様です」
小鳥「あら、おかえり貴音ちゃん」
貴音「ええ、只今レッスンから戻ってきました」
小鳥「お疲れ様。お茶でもいかが?」
貴音「お気遣い感謝します。それでは頂きます」
小鳥「すぐ出せるからちょっと待っててね……はい! どうぞ」コトッ
貴音「ふふっ。小鳥嬢の煎れるお茶は大変、美味ですね」
小鳥「うふふ。そんなに喜んで貰えるなら私もこのお茶も満足よ」
貴音「なんと、小鳥嬢はお茶の気持ちが分かるのですか!?」
小鳥「も、勿論よ。私にかかればお茶の気持ちぐらい……」
貴音「そうでしたか……お茶の気持ちが分からないわたくしはまだまだ修行が足らぬという事ですね」
小鳥「えっとぉ。あはは……」
P「おかえり貴音。レッスンはどうだったか?」
貴音「ええ。トレーナー殿にも歌唱力を誉められました」
P「そうかそれは良くやったな」
貴音「ええ、この事に慢心せず次に臨みたいところです」
P「おう、それでなんで湯飲みをじっと見つめてるんだ?」
貴音「お茶の気持ちを知るためです」
P「?????」
貴音「それではわたくしはお先に失礼します」
P「また明日な」
貴音「ええ、また明日ですね」クスッ
小鳥「……?」
P「さて、残りの仕事でも片付けるか……」
小鳥「プロデューサーさんプロデューサーさん」
P「どうしました?」
小鳥「貴音ちゃんってプロデューサーさんがスカウトしてきたんですよね?」
P「ええまぁ。そうですね」
小鳥「どこで見つけたんですか? あんな綺麗な子」
P「どこですかって……えっと雪山ですね」
小鳥「雪山ですか! スキーでもやっていたんですか?」
P「まぁ、僕の方が趣味でスノーボードをやってたってところですかね」
小鳥「なるほど……言われてみれば貴音ちゃんと雪ってなんだか合いますもんね」
P「そうですね……それはそうと小鳥さんはお仕事の方は」
小鳥「そういえばそうでした。一緒に早く片付けちゃいましょうか」
P「はい、よろしくお願いします」
P(どこでスカウトした……か)
三ヶ月前 某所ゲレンデ
P(せっかく息抜きに来たのに……)
P(吹雪が凄い……こりゃ最悪死ぬかもな。せめて一人くらいはアイドルをスカウトしたかったな……)
~~~♪
P(……ん? なにかが聞こえる)
P「歌声……か?」
???「~~♪」
P(雪景色と同化してしまう程の綺麗な白銀の髪……透き通るような白い肌……それに美人だ)
P「え……と……こんにちは……?」
???「おや、こんな吹雪の日に客人とは珍しいですね」
P「あはは、どうやら道に迷ってしまいまして」
???「それは大変です。近くに吹雪を凌げる場所が有りますのでそちらへ」
P「すみません。助かります」
???「この洞穴の中ならきっと大丈夫でしょう」
P「ありがとうございます」
???「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
P「……? どういうことでしょうか」
???「あの吹雪はわたくしが呼び寄せたものでして……」
P「ええぇっと……あなたは」
???「はい、俗に言う『雪女』というものです」
P「……雪女ですか」
???「もしや信じておりませんね?」
P「いや、あんな吹雪の中で平然と歌を歌われていたら嫌でも信じますよ」
???「……そうでしたか」
P「雪女さん」
???「貴音です。四条貴音と申します」
P「貴音さん」
貴音「なんでしょうか?」
P「僕を凍らすつもりですか?」
貴音「そのつもりがあれば、わざわざ助けたりなどしませんよ」クスッ
P「そう言われればそうですね」
貴音「確かに、仲間の内では大切なものを氷漬けにするというのが流行りではありますが」
P「とんでもない流行りもあったもんですね」
貴音「雪女は淋しがり屋で寿命は長いものですから、形崩れずにずっと傍に居てほしいと。そういう種族なのです」
P「そうなんですか、確かに人間も永遠を願う人はそう少なくはないですね」
貴音「そうでしょう。仲間のうちではそれが愛だと申す者もいます」
P「愛ですか」
貴音「わたくしにはその言葉がよく分からず、困っておりました」
P「無理に理解をしようとしなくても良いんじゃないでしょうか?」
貴音「そうは思います。ですが、興味を一度持ってしまうとどうしてもその事ばかり気になってしまって……」
P「それは大変ですね。僕の方もうまく答えが出ることを祈っています」
貴音「……」ジー
P「……え?」
貴音「愛については人間が一番良く知っているとじいやから聞きました」
P「僕に愛を教えろと?」
貴音「ここで出会えたのも何かのご縁、どうか……」
P「うーん、僕自身から愛はどうたらと語ることは出来ないと思います」
貴音「そうですか……」シュン
P「あ、いや、でもきっかけなら作れると思います」
貴音「きっかけですか?」
P「え……と、アイドルなら愛を歌うこともあるし、何かのきっかけになるはずだし……?」
P(見た目も歌声もレベルが高い。こんなところに独りでいるのが勿体無い位に……とんでもない逸材だ)
P「ええ……! ええ、興味があるならですけど」
貴音「成程……アイドル……分かりました。この四条貴音。精一杯アイドルの務めを果たしてみせましょう」スッ
P「おお……本当ですか、よろしくお願いします」スッ
P(手ぇ冷た)
P「ところで雪女って雪山以外だと溶けたりとか……」
貴音「その点については同族が流したただの噂なので問題はありません」
P「……噂」
貴音「北の方にいんたーねっとなるものを使いながら嘘の情報を拡散させる雪の妖精がいるのです」
P「なるほど」
貴音「どうやら自分への危害が及ばないようにやっているようで」
P「危害ですか、いろいろと大変なんですね」
貴音「ええ、妖精として働くぐらいなら嘘でもなんでもついてやると仰っていました」
P「なる……ほど?」
現在 P宅
P(なんとか早めに片がついて良かった……)
貴音「お帰りなさい。プロデューサー」
P「うん、ただいま」
貴音「今日はわたくし自らが夕餉を用意して参りました」
P「ま、まじか……」
P(この手の展開って大抵トンデモ料理が出てくるんだよなぁ……かき氷とか)
貴音「豚の生姜焼きです。どうぞ」コトッ
P「なんと……」
貴音&P「いただきます」
P「……」モグモグ
貴音「お口に合えばよろしいのですが……」
P「いや、おいしいよ。めちゃくちゃおいしい」
貴音「そうですか。それはなにより……では、なぜそんな神妙な顔になっているのでしょうか?」
P「いや、貴音が料理を出来たのが意外で」
貴音「料理くらいなら昔からしておりました。ただ、調理場に珍妙な箱ばかり並んでいて少し迷いましたが」
P「電子レンジとかか……そこはベタなんだな」
貴音「これから人の暮らしに慣れていかなければいけません」
P「そうだな、ゆくゆくはここを離れてもらわなければいけないし」
貴音「……それは真ですか?」
P「流石にアイドルとプロデューサーが同居はなぁ……ばれたら大変だよ」
貴音「その気になれば粉雪に化けて人目を忍ぶことも出来ますが」
P「いつまでもそれは通用しないだろ。とにかく一人で生きていく術も学ばないとな」
貴音「愛を知るために山を降りてきたのに一人にならないといけないとは……真、難しき問題ですね」
P「それについては追々……な」
ーーーーー
ーーー
ー
貴音「……」
P「どうした貴音。眠れないか?」
貴音「いえ、今宵は月が綺麗だと思いまして」
P「確かにいつもより大きく見える気がするな」
貴音「ですが、満月は明日の夜になると小鳥嬢に聞きました」
P「そうなのか、ならちょうど良いじゃないか」
貴音「……?」
P「明日はミニライブだろ?」
貴音「ええ、そうですが……」
P「満月を背に歌を歌うなんて盛り上がるだろうな」
貴音「成程、ろけぇしょんはばっちりということですね」
P「まぁ、貴音なら観客を雰囲気にのませることも容易いだろう」
貴音「買い被りすぎですよ」
P「大丈夫だって、貴音なら出来る」
貴音「プロデューサーにそう言われるとなんだか出来る気がします」
P「じゃあ今日はしっかり睡眠を摂って明日に備えなきゃな」
貴音「……はい」
P「……毎日言ってるが一緒には寝ないからな」
貴音「分かっていますとも」
P「それじゃあ、おやすみ」
貴音「はい、お休みなさい。プロデューサー」
翌日 ライブ会場
P「ミニライブといえど野外だから結構広いな」
貴音「春の宵、目を閉じれば風が微かに吹いています。きっとこれは」
P「そうだな、この風は追い風になってくれるはずだよ」
貴音「桜と満月と夜風と……春風駘蕩とはまさにこのことですね」
P「しゅんぷうたいとう?」
貴音「ふふっ。いつもの私みたいな発音になっておりますよ」
P「意地悪するでない」ペチン
貴音「あうっ」
P「準備は?」
貴音「見ての通り」
P「よし」
貴音「ふふっ。ご期待に沿えるよう頑張ってみます」
P「背中は……大丈夫だな」
貴音「背中……ですか?」
P「いや、なんでもない」
スタッフ「四条さん、スタンバイお願いします!」
貴音「では参ります」
貴音(舞台に上がると心なしか気分が高揚しますね)
貴音(背中には……なるほど、月と……プロデューサーがわたくしを見守っております)
貴音(きっとこの中で歌うのは楽しいことでしょう)
貴音(願いは……)
貴音(できれば沢山の人に聴いて頂けたらと思います)
貴音「願うは……」
貴音「二つの月……ですね」
P「お疲れ様」
貴音「如何でしたでしょうか?」
P「最高だったよ」
貴音「そうでしたか、これで一安心ですね」
P「おう、ご飯でも食べに行くか」
貴音「なんと! それはよい考えですね!」
P(ライブ終わったから空腹なのか……)
貴音「これは……?」
P「ラーメンを食べたことがないのか?」
貴音「らぁめん?」
P「ラーメン。地元の近くにクラゲラーメンなんてものもあったな」
貴音「くらげらぁめん……面妖な」
P「まぁまぁ、早く食べないと冷めるぞ」
貴音「そうですね。それでは頂きます」
P「どうだ? うまいか?」
貴音「……」ズゾゾゾゾゾゾ
P「……貴音」
貴音「……」ズゾゾゾゾズルッズゾゾゾ
P「……貴音さん?」
貴音「……」ズルッズゾゾゾゾゾゾズゾゾゾゾゾ
貴音「……」
貴音「……おかわり」ボソッ
貴音「……という事がありまして」
小鳥「プロデューサーさんが虚ろな目をしながら財布を逆さにしてたのはそんな訳があったのね」
貴音「らぁめん。一言ではその深さを表現しきれない……なぜわたくしは今の今までに、らぁめんに巡り会えなかったのでしょうか」
小鳥「そんなにおいしかったんだ……プロデューサーさんと二人きり……」ピヨヨ
貴音「ところで小鳥嬢、その手に持っている本は……?」
小鳥「ピヨッ! え~っとこれは普通の恋愛小説なんだけど……」
貴音「恋愛……?」ピクッ
小鳥「貴音ちゃんも女の子だものね。私はもう読み終わったから貴音ちゃんも読んでみる?」
貴音「感謝致します。この本を用いて少々勉強して参ります」
小鳥(勉強……? あ、役作りの事ね。貴音ちゃんったら真面目なんだから)
貴音「ふむ、あなた様……成程」ブツブツ
P宅
P「ただいま」
貴音「お帰りなさいませ。あなた様」
P「……!!」
貴音「どうしたのでしょうか?」
P「あなた様?」
貴音「小鳥嬢からお貸しいただいた本にそう書いてありました」
P「ピヨヨ……」
貴音「だめでしょうか?」
P「ダメじゃないが……ダメじゃないが」
貴音「ダメじゃないと?」
P「ダメじゃない!!」
貴音「……なんと」
P「正直グッとくる!」
貴音「なんと!」
P「だけど勘違いされるから皆の前でそれは駄目だぞ」
貴音「分かりました。あなた様」
P「うむ」
貴音「あなた様」
P「どうした貴音」
貴音「少し散歩をしませんか?」
P「珍しいな貴音が散歩だなんて」
貴音「ここに来はじめた頃はうまく順応できるか不安でしたから」
P「確かに、月が見えない日は夜中によく泣いてたもんな」
貴音「き、聞いていたのですか?」
P「あ、やべ」
貴音「……もぅ」
P「今はどうだ?」
貴音「どうでしょうか。わたくし自身ではよく分かりませんね」
P「そうか、まぁいいさ。ゆっくりで」
貴音「それでも最近は雪女らしさが無くなって来ているような気がしますが……」
P「なら、俺を凍らすか?」
貴音「出来ないと分かっていて聞くとは……やはりあなた様はいけずです」
P「ラーメンを凍らして食べられなくなったもんなぁ」
貴音「たとえ、共に永遠に生きようとも氷がわたくし達を隔てていては……言葉を交わし、肌に触れ、そうして傍に居て、そうでなければ意味が無いのだと」
P「貴音らしいな」
貴音「わたくしですか?」
P「うむ。なんか……そう。そんな感じ」
貴音「だんだんと虫のこえも聞こえてきましたね」
P「季節は……もうすぐ夏か」
貴音「そうですね。冬に出会い、春を越えて今、あなた様と隣に居ます」
P「暑いのは大丈夫なんだっけか」
貴音「いえ、アイスがあれば大丈夫です」
P「アイス?」
貴音「はい、できれば沢山」
P「本当に?」
貴音「……ッ!」
P「貴音。こっちを見なさい」
P「もぅ久々にかっかしたから暑くなってしまったよ」
貴音「……ふむ。あなた様、手を」
P「手?」
貴音「はい、如何でしょうか?」ギュッ
P「……あったかい」
貴音「なんと、あなた様を冷やすつもりでしたのに……わたくしは雪女失格でしょうか」
P「どうだろうか」
貴音「わたくしは一体……」
P「貴音は貴音だよ。俺の大切なアイドル四条貴音だ」
貴音「大切……大切ですか……」
P「ああ、貴音にはいつも傍に居てほしい」
貴音「ふふっ。わたくしは……これ程までに嬉しいと思ったことはありません」
貴音「確かにあたたかいです。夏の暑さではなくわたくしの心が……これが幸せというものなのでしょうか?」
P「幸せ……か」
貴音「……あなた様」
P「ん?」
貴音「わたくしはアイドルです」
P「……ああ」
貴音「ですから、わたくしの歌を聴いてくださいますか?」
P「俺にか?」
貴音「はい、あなた様だからこそ聴いてほしいのです」
P「分かった」
貴音「ふふっ。ありがとうございます。まずは、ろけぇしょんですね」サァァァ
P(雪が風に乗って……これは、そうか)
貴音「それでは聴いてください」
P(……風花か)
貴音「如何でしたか?」
P「……貴音」
貴音「はい」
P「ありがとう」
貴音「ふふっ。こちらこそありがとうございます」
P「えっと……まぁいいや。そうだな、クラゲラーメンでも食べに行くか」
貴音「……! ハイ! 喜んで!!」
ーーーーー
ーーー
ー
貴音「くらげというものはゆったりと海の中を漂い、見ているわたくしもとても癒されますね」
P「これからそのクラゲを食べるんだけどな」
貴音「あなた様は少し無粋です。今は食べ物の事は少し忘れましょう」
P「まさか貴音からそんな言葉が出るとは……」
貴音「あなた様はわたくしをどう思っているのですか……」
P「腹ぺこお姫ちん」
貴音「なんとっ!」
P「……なぁ貴音」
貴音「どうなさいましたか?」
P「俺の故郷の言い伝えというか……おとぎ話みたいなものなんだが」
貴音「……」
P「雪女は下界に舞い降りた月世界のお姫様って話なんだ。もしかして貴音は……」
貴音「……それは」
P「それは?」
貴音「ふふっ。とっぷしーくれっとです。あなた様」
短いですが終わります。
雪女は月世界の姫が舞い降りたものというのは確か、山形県の小国地方の言い伝えで、クラゲラーメンも、同じ山形県の鶴岡市にある水族館で食べられる筈です。
あとはクラゲって海月って書くよねという話しでした。
ありがとうございます。
おまけ
事務所 レッスン室
P「貴音が犬を拾ってきた」
犬「ばうわう!」
貴音「艶のある見事な黒の毛色をしておりますね」
P「捨て犬という訳でもなさそうだしなぁ……」
犬「ワオーーーーン!!!!」
貴音「……!」
P「……ッ!!」
犬「ハッハッハ!」
P「凄い遠吠えだ……レッスン室で良かったな」
貴音「フム……まるで遠くに響かせるような……」
犬「……!」
P「ん?」
犬「ばうわう!」
P「え……なに怖」
貴音「……響?」
犬「ばうわう! ばうわう!」
貴音「ふふっ。響と申すのですね」
P「貴音に懐いた様だし、しょうがないから飼い主が見つかるまでうちで飼うか……」
おわり。
ありがとうございます。
遅筆ではありますが響編もいつか書けたらなと思います。
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