海未「それが歪んだ形だとしても」 (45)
微エロ。
シリアスです。
ことり「穂乃果ちゃんのことが好きです!ことりと、付き合ってください!!」
穂乃果「……はい、喜んで……///」
二人しかいない教室。
薄い扉を挟んだその向こう。
私の大切な幼なじみが、私の尊敬する親友が……私の大事な仲間のことりが……私の大切な幼なじみで、私の尊敬する親友で……私の愛した穂乃果と結ばれた。
一つの愛が生まれた歓喜の瞬間を見たとき、こんなにも心が空っぽになるとは思いませんでした。
二人は私に一番に付き合い始めたことを伝えてくれるでしょうか?
私と変わらず仲良くしてくれるでしょうか?
私は二人に気を遣わなければいけませんね。
……などと、現実から目を背けたように的はずれなことを思い。
嬉しさも、切なさも、悲しさも、喜びも、寂しさも……全てを汚ならしくかき混ぜたような重さだけを感じて、私はその場を離れました。
穂乃果……
ことり……
穂乃果……
ことり……
穂乃果……
私は……
嗚呼……この世に神様がいるのなら、どうか……私のこの思いを消してはいただけないでしょうか……
胸を締め付けるこの痛みを……拭い去ってはいただけないでしょうか……
――――――――
次の日、いつも通りに二人と登校前の待ち合わせ。
いつも通り、私が一番早くに到着しました。
そして、いつもとは違う……ことりと穂乃果が一緒に来ました。
固くお互いの手を繋ぎながら。
――――――――
ことり「……ビックリ……した?」
海未「え、ええ。まあ……そうですね……。なんと言いますか、おめでとうございます……?で、いいんでしょうか……?」
穂乃果「いやぁ♪照れるなあ……///」
海未「……ふぅ、そんなニヤついた顔では、すぐにみんなに知れ渡ることでしょうね」
ことり「とりあえずμ'sのみんなには伝えておこうかなって。でも、やっぱり一番最初に海未ちゃんに伝えないとって、穂乃果ちゃんが」
穂乃果「なんたって、海未ちゃんは最っ高の幼なじみだからねっ!」
ズキッ
海未「……ありがとうございます、穂乃果。改めて、二人とも……おめでとうございます」ニコッ
穂乃果「ありがとうっ!」
ことり「ありがとう///」
――――――――
告白はどちらからですか?
……知っています。
きっかけはなんだったのですか?
……想像がつきます。
もう、口付けは済ませたのですか?
……知りたくありません。
私は深く聞かず、口を結び、幸せそうに手を繋ぐ二人を静かに見つめました。
そんな下世話な質問をして苦しむのは、きっと私の方なのですから。
――――――――
絵里「ハラショー!!穂乃果とことりが!?」
希「おー♪おめでとう♪」
にこ「アイドルは恋愛禁止!……って怒鳴るのもヤボよね。でも、アイドルとして、節度ある交際を心がけなさ――――」
穂乃果「こーとりちゃーん♪」モッギュー
ことり「やーんっ♪」モッギュー
にこ「聞きなさいよ!!」
希「んふふ~♪ではでは~♪」
絵里「馴れ初めなんかね~、詳しく聞いちゃおうかしらね~♪」
ことり「ふぇっ!?は、恥ずかしいよぉ~///」
穂乃果「エヘヘ~///」
にこ「うわ、全力でニヤけてるわね……」
海未「知らぬ仲でなし、なにを照れているのですか……まったく」
海未「……………………」
海未「……ああ、ちょっと失礼します。喉が渇いたので、なにか飲み物でも買ってきます」
穂乃果「あ、私も行くー」
海未「穂乃果の分も買ってきてあげますよ。その間、根掘り葉掘り聞かれてしまいなさい」
穂乃果「うえぇ!?」
海未「……では」
絵里「観念しなさーい♪」
ことり「だ……」
ことほの「だれかたすけてぇ~!」
――――――――
ダメですね……私は……
気を抜いたとたん、笑顔が崩れそうになってしまう。
二人が結ばれて、喜ばしいのはもちろん本心です。
共に同じ時間を過ごし、思いを募らせた……かけがえの無い友人。
喜ばしくないはずがありません。
だからこそ……
素直に二人を祝福出来ない自分が、とてつもなく嫌な存在に感じました。
このやり場の無い思いは、いったいどうすればいいのでしょう。
と、そんなやるせなく歩を進めていた私の耳に届いた――――
好きなの――――
という、甘く情熱的な言葉。
――――――――
真姫「……………………」
凛「……………………」
真姫「……………………好きなの、凛。……あなたのことが好き。お願い、私と……付き合って」
凛「……………………うん///」
――――――――
間女のように物陰に隠れ、初々しく言葉を交わす一年生二人を見て、盗み見を懺悔しながらも私は昨日の出来事と重ね合わせました。
リフレインする光景。
告白した側とされた側。
紅潮した頬も、気恥ずかしそうに泳ぐ視線も。
そんな二人を見てしまい、希望と絶望が入り交じったような表情の花陽も。
全てが昨日を思い返させる。
私もきっと、あんな顔をしていたのでしょう。
形容し難い感情を塗りたくった、仮面のような顔を。
ふと花陽と目が合うと、花陽はなんとも切ない微笑みを浮かべました。
笑みを作る気にもなれずに、私は音も無く……気配も無く、そっとその場から姿を消しました。
――――――――
ピッ
ガコン
海未「………………これ、炭酸じゃないですか……。何故こんなものを……」
海未「……こう何度も告白の現場を目撃するとは、天文的な確率ではないですか……歌詞の一つや二つ出来てしまいそうですね」
海未「………………真姫と凛が……」
???「ビックリ……した?」
海未「……………………花陽」
花陽「エヘヘ……」
海未「…………そうですね。多少、驚きました。が、今はそうでもありません。人が人を好きになるのに、理由は要りませんから。それがたとえ、友人同士だとしても」
花陽「そうだよね……」
海未「……………………つかぬことを伺います」
花陽「うん……」
海未「……凛のことが、好きでしたか?」
花陽「……………………なんで?」
――――――――
昨日の私と、同じ顔をしていましたから。
――――――――
海未「いえ。別に、なんとなくです」
花陽「海未ちゃんでもそんなこと言うんだ。ちょっと、意外。……うん、好きだった」
花陽「大好きだった。……ううん、大好きだよ」
花陽「子どものときからずっと一緒に遊んで、一番の仲良しで、私が一番……凛ちゃんのこと好きなんだって……凛ちゃんもきっと、私のことが一番好きなんだって……勝手に……そう思ってた……」
――――――――
同じです。
花陽……
私も、そう思っていました。
誰に言われるでもなく、どちらかが切り出すわけでもなく、いつしか自然と交際の始まるような……そんなことあるはずもないのに。
約束したわけでもないというのに。
ただ勇気が出なかっただけの言い訳は、湯水のように溢れ出てきました。
――――――――
花陽「真姫ちゃんが凛ちゃんに告白したときね、私……嬉しかったんだよ?私の大好きな二人が付き合うことになって、とっても嬉しかったの……でもね……やっぱり、ちょっぴり寂しくて……泣きそうになっちゃった」
海未「……………………」
――――――――
私もです。
だけど、泣くに泣けなかった。
それはあの二人を否定することになるのですから。
何故私でないのですかと。
何故横から拐うようなことをするのですかと。
私だけのものなのに。
そんなことを言う資格も思う権利も、誰にも有りはしないのに。
花陽を見れば、今にも泣きそうに身体を小さく震えていました。
スカートの裾をギュッと握って。
告白の瞬間を見ちゃうなんて、二人に悪かったかな……アハハ……
取り繕った笑顔を見るのが、心苦しくなりました。
だから――――――――
私は――――――――
――――――――
海未「……泣くことが出来ないなら、せめてその憂いは、私が片棒を担ぐことで楽にはなりませんか?」
花陽「……海未……ちゃん?」
海未「花陽……穂乃果とことりも、付き合うことになりました」
花陽「穂乃果ちゃんと……ことりちゃんが……?」
海未「ええ。……花陽、私も同じです。思い続けた愛しい人が、大切な友人と交際することとなり、どこか寂寥感のようなものを抱いています」
海未「けして憎くはないのです。それでこの先、関係が崩れることを望むはずもなく、関係を崩すこともしたくはない。無論、二人を愛憎故に傷付けることなどもっての外です。ですが……このやり場の無い思いは、一人で抱え込むにはツラいのです。張り裂けそうに脈打つ鼓動も、耳の奥でつんざくような耳鳴りも……私は花陽の苦しみを、花陽は私の苦しみを、お互いに少しずつ分けあうというのはどうでしょう」
花陽「……どういう……こと?」
――――――――
どうやら神様は無く、いたのは……冷たい血の流れた悪魔だったようです。
――――――――
海未「花陽、私と付き合ってはみませんか?」
――――――――
腕を引き、身体を抱きしめ、耳元で甘く囁き、頬を撫で、目を見つめ、唇を重ねる。
唇を離すと、今度は花陽から唇を重ねてきました。
これが返事だと言わんばかりに。
なんの感動も無い……それは花陽も同じ。
なんと滑稽な。
なんと醜悪な。
そう思うのも無理はないでしょう。
お互いに、欠けたものを埋めるためだけの共依存。
誰でもいい。
花陽である必要も、私である必要も皆無。
ただ、都合が良かっただけのこと。
穂乃果と凛の代替品として。
恋愛という、光より眩しく、炎よりも熱い、何よりも尊い感情の一片も、ここには有りはしなかったのですから。
――――――――
――――――――
花陽と付き合うことになってから、一週間。
穂乃果とことり、凛と真姫たちが幸せそうに毎日を謳歌するのと同じくして、私たちも仲を睦まじいものにしていました。
私たちの仲は、誰にも話してはいません。
騒がれるのは好きではありませんし、穂乃果とことり、凛と真姫は、きっと私たちに気を掛けるでしょうから。
何よりも……話せるほど誇らしいものでもないことです。
――――――――
花陽「海未ちゃーん♪ご飯炊けたよー♪」
海未「花陽……家に泊まりにと呼んで、さっそく食事というのはどうなのですか?」
花陽「ううっ……だって、練習たくさん頑張って、お腹すいたから……」
海未「ほどほどにしておかないと、またすぐダイエットする羽目になるんですよ。日頃から節制していれば、そんなことにもならないでしょうに」
海未「三食をしっかり食べるのは基本中の基本ですが、食べ過ぎは論外です。間食も本当は抑えるべきなんですよ。わかっていますか?はな――――」グウゥ
花陽「……………………」
海未「~///」カアァ
花陽「……おにぎり、食べる?」つ△
海未「……いただきます///」ハムッ
花陽「おいしい?」
海未「ええ……とても」
花陽「よかった♪」
花陽「海未ちゃん、ご飯つぶついてる」
海未「んむ?」
花陽「」ペロッ
海未「……………………///」
花陽「おいしいね、海未ちゃん♪」
海未「…………ええ」
海未「そういえば、ご両親の姿が無いようですが」
花陽「町内会の慰安旅行だって。明日の夜には帰ってくるみたいだよ?」
海未「そうですか……」パクッ
花陽「……海未ちゃん」
チュウ
プハッ
花陽「エヘヘ……甘いね」
海未「……食事中ですよ。甘いのは、お米のせいです」
花陽「うん。そうだよね……」
――――――――
甘いはずがないことなど、わかっているでしょう。
なんせ、私たちは……お互いを好いてはいないのですから。
足りないものを埋めるだけの、ギブアンドテイクの関係。
恋人ごっこと言うならばそうでしょう。
つまりは……ただの慰め合いです。
――――――――
花陽「お風呂湧いたけど……一緒に、入る……よね?」
海未「ええ。もちろんです。私たちは、恋人なのですから」
花陽「うん……///」
――――――――
私は凛の代わり。
花陽は穂乃果の代わり。
それを理解し、受け入れた。
愛情などまるでない、酷く歪んでいることをわかっていながら、私たちはお互いを求めました。
お互いを見ようとはせず、重ねた影に思いを馳せるだけで。
――――――――
ピチャン…
花陽「気持ちいいね」
海未「ええ」
花陽「狭くない?」
海未「強いて言うなら、花陽の胸が邪魔ですね」ツンッ
花陽「ぴゃあ!?う、海未ちゃんっ!」
海未「フフ、つい。羨ましいと思いまして」
花陽「う、海未ちゃんだって……スタイルよくて……羨ましいよぅ……。この控えめな胸も……まるで、凛ちゃんみたいで……」ツウゥ
海未「っ……///」
花陽「感じる?」
海未「……………………っ」
チュッ
花陽「ん///」
海未「続きは、ベッドの上にしましょう……」
花陽「……ガマン、したくないの」
海未「はな――――」
ンムッ
――――――――
小さな浴槽の中で、私たちは唇と肌を重ね合わせました。
濡れた髪を掻き上げ、首もとに舌を這わせる。
白い肌に吸い付き、小さな赤い点を作った。
爪が背中をを柔らかく引っ掻くのがくすぐったくて、ピクンと身体を震わせてしまったり。
胸を……腹部を……大腿を……お湯の中で指が秘部に触れる。
慣れない手付きで、探り探りで。
時折口の端からもれる声が、色香を増しているようにも思えました。
憂い潤んだ瞳……上気する息遣い……
もしも……私が花陽を"ちゃんと"好きだったら……
もしも……花陽が私を"ちゃんと"好きだったら……
これはどれだけ……甘美な時間に成り得たことでしょう……
――――――――
花陽「お願い……海未ちゃん……。にゃあって……言ってくれないかな……?」
海未「……にゃあ」
花陽「丁寧な言葉遣いもやめて……自分のこと……名前で……呼んでくれないかな……?」
キュッ
花陽「ほら……私も……サイドテールにしてみたよ……。どうかな、海未ちゃん……」
海未「……かよちんがそれを望むなら、海未は……そうするにゃ」
――――――――
また重ねた唇は、もはや苦くしかなく……
そんなことをしても、なれるはずなんかないこと……私たちは、わかっているのに……
口の中に滑り込ませる舌を絡ませながら、頬に涙を伝わせた……
好き……
胸に歯を立てて。
好き……
秘部に指を沿わせて。
大好き……
強く身体を抱きしめながら、喘ぎ声と嗚咽とを混じらせて、けしてお互いにではない無情な愛の言葉を囁く私たち。
愛してる……
実るはずのない目の前の恋。
私たちは……これが間違いだとしても、お互いを求め続けるのでしょう。
お互いを見ぬまま。
二度と叶うことのない恋を抱いて。
――――――――
花陽「好きだよ……凛ちゃん……」
海未「海未もだよ……穂乃果……」
――――――――
そして私たちはまた口付ける。
吐瀉物のように込み上げてくる、途方もない不快感を甘露として呑み込みながら。
誰も正さない過ちであるも。
たとえそれが、どれだけ歪んだ形だとしても――――――――
おわり。
グロ無しでうみぱなしてみました。
―――――――――
花陽に交際を提案した翌日、私は考えていました。
付き合うとは、いったいどういうことなのでしょう。
なにをすれば、それは恋人たりえるのでしょう。
共にいれば。
共に食事をすれば。
口づけをすれば――――
……きっとどれも違うのでしょう。
何をしても、何があっても、私は"花陽"のことを恋人として好きにはなれそうにありませんから。
無論、花陽も同じように。
―――――――^
花陽「おはよ、海未ちゃん」
海未「おはようございます、花陽」
花陽「……………………」
海未「……………………」
――――――――
絵に描いたようなぎこちなさ。
言葉がつまり、ふと視線を逸らしてしまう。
気恥ずかしいなどという甘酸っぱいものではけしてなく、罪悪感も似た背徳感が脳裏をよぎりました。
普段の関係さえ忘れてしまいそうな、薄暗い感情が。
それを払拭しようとしたわけではありません。
ごく自然にしようとしただけです。
顔を下に向ける花陽の顎を持ち上げて、半ば無理やりに唇を押し当てました。
――――――――
……プハッ
花陽「……誰かに見られちゃうよ」
海未「誰もいませんよ。恋人ならば、これくらいのスキンシップは当然かと思いまして」
海未「いやでしたか?」
花陽「……ううん。キスされるの、すごく……気持ちいいよ」
海未「……そうですか」
穂乃果「うーみちゃんっ!!一緒にご飯食べよ~♪」
海未「いえ、実は生徒会の仕事が少し残っているのを思い出して。先に二人で食べていてください」
ことり「ええっ?じゃあことりたちも行くよ!」
穂乃果「そうだよそうだよ!海未ちゃん一人に押し付けちゃ悪いよ!」
海未「本当に少しだけなんです。私の分の仕事で二人の手を煩わせるのも気が引けますし。ゆっくり食事してください。なるべく早く戻るようにしますので」ニコッ
穂乃果「でも~……」
グウゥゥゥ
穂乃果「はうっ!!///」
ことり「穂乃果ちゃんたら……」
海未「クスッ……ほら、お腹の虫が暴れる前に」
穂乃果「うぅ~……じゃあ早く戻ってきてね!」
海未「ええ。もちろんです」
ことり「あ、じゃあこれあげる!」
海未「サンドイッチ?」
ことり「何も食べないとお腹すいちゃうでしょ?軽く摘まめるように♪」
海未「ありがとうございます、ことり」
海未「それでは、後ほど」
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