モバP「美玲ー、今日はキグルミのお仕事をとってきたぞ」
早坂美玲「ふーん、まぁスタッフと打ち合わせとか頑張れよ」
P「……」
美玲「……」
P「……」ジー
美玲「な…なんだよ。なに見てんだよ」
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P「美玲、キグルミにはどういう人がする仕事だとと思う?」
美玲「そんなん、キグルミ被りたいヤツが仕事にするんだろ」
P「俺の仕事は?」
美玲「アイドルをプロデュースする仕事…って、何アタリマエのこと言ってんだ。いちいち言わせんなよ」
P「俺がキグルミの仕事とってこれたのはなんでだと思う?」
美玲「そんなん…」
P「…」ジー
美玲「……まさか」
P「アイドルの仕事としてもってきたから」
美玲「……誰の」
P「ウチの自慢のアイドル美玲の仕事に決まってるじゃん」
美玲「はああッ!!?」
美玲「オマエ、自分で何言ってるかわかってんのかッ!?キグルミなんて…そんなん、アイドルがやるもんじゃ…っつーか、なんでウチなんだよッ!」
P「そうか。ぬいぐるみの好きな美玲にはぴったりだと思ったんだけどなぁ」
美玲「なわけないだろッ!ぬいぐるみ好きなのと、キグルミに入るのは全然ちがうしッ!」
P「もしかしてキグルミは嫌いだったか?」
美玲「べ…べつに嫌いなもんか!それどころか、ぬいぐるみもキグルミも好きだけど…って、だから何言わせんだッ!」
美玲「そういうことじゃなくて!だからなんでウチがやんないといけないんだよッ!」
P「とあるアイドルはこう言った。『キグルミの気持ちになるですよ』―と」
美玲「…それがどうしたんだよ」
P「キグルミの気持ちにもなれないやつが、本当にキグルミを愛せると思うか?」
美玲「そんなの、キグルミの気持ちになることと、ウチがキグルミ被ることとはなんの関係もないだろ」
P「本当にそうか?」
美玲「……え」
P「―知っての通り、この事務所にはキグルミアイドルの二大巨頭がいる。そう、さっきの言葉を言った市原二奈と、上田鈴帆だ」
美玲「だから…その二人とかにやらせればいいじゃんか」
P「二人は自らキグルミをを演じることで、全力でキグルミを楽しんでる。今やキグルミ界のひっぱりだこだ。方向性は違うがな」
美玲「ウチの話きけよッ」
P「二人がキグルミを愛するのと、美玲がぬいぐるみを愛する気持ちは果たして一緒か?」
美玲「……ウチがぬいぐるみを好きな気持ちが二人に負けてるってでも言いたいのかよ」
P「そういうことじゃない。どっちが好きの度合いが大きいとか、そんなもの比べること自体野暮だしな」
P「…ただ、二人と美玲の気持ちには明らかに違うものがある」
美玲「…なんだよそれ」
P「そこに楽しんでくれる人がいるかどうか、だ」
美玲「…!!」
P「仁奈と鈴帆は、キグルミを被ることが楽しいからってだけでキグルミでアイドル活動をしているんじゃない」
P「そこには、それを見てくれる人の存在、全力で笑ってくれる存在がいるんだ。それを見てくれるお客さんがいるから、
二人はさらにキグルミで人を笑わしたり、和ませたりすることができる。全力で場を盛り上げて楽しませたいと思うから、
キグルミをますます愛することができるんだよ。こんなのひとりじゃ味わえないぞ?」
美玲「…」
P「キグルミの気持ちになるっていうのは、そういうことだと俺は思う。俺は美玲に、自分の好きなものを通して、人を幸せにできる気持ちを、わかってもらいたいんだよ」
美玲「そうかもしんないけど…ウチは…キグルミとか…ぬいぐるみとか…見る専門なんだよッ!それぐらいわかれよッ!」
P「いやそれは嘘だな。美玲は俺が用意した被り物の衣装を喜んで着てくれるじゃないか」
美玲「ぐッ…」
P「それに、被り物をしているときの美玲はとびきりかわいいしな。これはやらない手なんてない」
美玲「なッ!!?きゅ、急にかわいいとかやめろよ!もぅ!」
P「アイドルは夢を、幸せを与える仕事だ。もふもふの着ぐるみを身に纏おうが、全身キグルミで顔だけでてようが、
最初は抵抗があるかもしれないけど、自分がそれまでしてこなかったことに挑戦するのも、アイドルってもんじゃないか?
例えキグルミでかわいい美玲の顔が隠れていたとしても、美玲のかわいさは伝わるはずだ」
美玲「あーもーうるさいなー!わかったよ!だからそんなに不意打ちでかわいいかわいい言うなよッ!真剣なカオでかわいいって言われると困るだろッ!」
P「その気になってくれたか!」
美玲「でも、ちょっとだけだぞッ!だいたい、こんな暑い中、ウチがキグルミきたらどうなるかなんて、そんぐらいわかるだろ!」
P「大丈夫だ。今回キグルミの仕事をするのは美玲だけじゃない。ひとりじゃ暑さにやられちまうからな。今回の仕事は、美玲ともうひとりの二人一組でやってもらうぞ」
美玲「なんだとッ…」
P「既に本人に話しはつけてある。そろそろ約束の時間だから、ここに来るはずだけど…」
美玲「うぅ…」
P「安心しろ。キグルミにぴったりのアイドルを呼んである」
美玲(ウチは、今までずっとひとりでアイドルやってきたから誰かと仕事なんて…苦手なのに…)
美玲(キグルミっていったら、さっきプロデューサーが言ってた上田鈴帆か市原仁奈か…うぅ…いったいどっちなんだよッ!)
姫川友紀「おっはよー!プロデューサーっ!」ガチャ
美玲「」
P「おはよう、友紀。待ってたぞ」
友紀「おお、美玲ちゃん久しぶり―! 始球式のとき以来だね!」
美玲「よ…よう」
美玲(よりにもよって…コイツとキグルミのお仕事かよッ…!)
P「というわけで以前話した通り友紀には美玲とキグルミの仕事をしてもらうぞー」
友紀「地方営業ってやつだねぇー。どうせキグルミならねこっぴーのキグルミがいいんだけどなぁー」ブー
P「あれは特別なスーツアクターさんがやってるからアイドルはやっちゃダメなの」
友紀「やだなーそんなのわかってるよー。そう、ねこっぴーがキグルミだって知ったあの日から…」
美玲(本気で始球式のときまでキグルミだって知らなかったのか…?)
友紀「まぁでも、キグルミの仕事ってのも楽しそうだからいっか☆ 美玲ちゃん、よろしくぅ!」
美玲「いいけど、ウチに迷惑とかかけんなよなッ…」
友紀「被るだけだから大丈夫だってー。同じキャッツのファン同士、頑張ろーっ!」
美玲「って、勝手に好きな球団を一緒のにするなーッ!」
友紀「えーねこっぴーが好きなのにそれはないでしょーあはは」ペシペシ
美玲「べ…べつにあのデカイのなんか好きじゃないし!そんでまた叩くのやめろーッ!」
―― 一週間後 鎌倉市――
P「ようやく鎌倉に着いたぞー」
美玲「あ…暑い…」
友紀「うっはぁー暑い!絶交の野球日和って感じだね!」
P「武家の古都として名高いここ鎌倉は、つい先月に、世界遺産登録申請が取り下げられてしまったばかりでな。
その再挑戦の一環として、キャラクターのPR活動を推進しようってことで、今回採用されたんだよ」
美玲「そうなのか」
友紀「ええー!こんなにいいトコなのにー!スターの球団がある県なコトは除いてね」
P「関係者さんには野球の話はここでは控えような」
友紀「はーい。あ、そうだプロデューサー。今日はミヤザキの甲子園出場校の初戦だからできれば中継みたいんだけど…なーんて…」
美玲(仕事のときも野球の話か…)
P「ああ、そのことなら休憩室にテレビがあるらしいから、休憩時間中なら見てもいいぞ」
友紀「ほんと!? やったー!一応録画はしてあるけど」
美玲「録画してあるならいいじゃんか」
友紀「美玲ちゃんそれは違うよー。野球中継は生でしょ、生。ホントは球場で見たいけどね」
美玲(コイツ…ほんとに野球が好きなんだな…)
P「よし、キグルミのセットを運んできてもらったぞ」
P「今日はこの『牛若 ねこねこ丸』のキグルミを被って、自由に鎌倉巡りをしてもらうぞー。このシートで覆ってあるのが、胴体と、頭部かな。よいしょ」ファサ
友紀「おおー!なかなかかわいいじゃーん!」
美玲「これか…思ったより…でっかいな…」
友紀「しっかしアイドルが顔出しなしでキグルミでお仕事するってのも変な話だねー」
P「ついこないだの梅雨の撮影の仕事で、鎌倉には縁があってな、今回の仕事がまわってきたわけだ。
全国に鎌倉をPRするきっかけになるなら、どんなことをしてもいい経験になると思ってさ」
友紀「テレビで見たけど、あじさいきれいだったねー!」
美玲「しかし、これ、サイズとか大丈夫なのか?」
P「キグルミの体格は女性用に設計してあるらしいから、なんとかなるっていう話だけど…不安があるとしたら身長差ぐらいかな」
友紀「ダイジョブダイジョブ!こういうのって誰でも着れるようになってるもんだからへーきへーき!」
美玲(コイツのえらい自信はいったいどっからくるんだ?)
P「ただ、美玲は少し体が小さ目だから、ちょっとムレるかもしれないから気をつけてな」
美玲「むむ…」
P「45分間キグルミで鎌倉のまちをひとりで自由に歩いてもらって、その間ひとりは45分休憩。
残り15分でキグルミを交換するのの計1時間単位でひとり2回ずつやってもらう」
姫川「要するに攻守交代の入れ替わりで2回裏までやるってことだね」
P「ともかく、まちのPRの為の大切な仕事だ。同行のカメラさんに失礼のないように、それと」
P「今日はこれからさらに暑くなるからキグルミの方は交代する時間には毎回様子をみにいくよ。
俺は基本的に本部と打ち合わせしてるから。順番とかは二人で決めてくれ。それじゃまたな」バタン
美玲「い、いよいよか…」
友紀「美玲ちゃん、ここは先輩アイドルとして、先をゆずってあげるよ」
美玲「別にそんなんしなくてもいいし、どーせそろそろ甲子園の試合でも始まるからそれ見ときたいんだろ」
友紀「え、そうだけど?」キョトン
美玲「正直すぎるわッ!」
友紀「いいからいいからいってきなって、これ以上気温が上がらないうちにさ。それにあたしは暑いの慣れてるし」
美玲「そ…そういうところで気を使わなくていーんだよ…」
――更衣室――
美玲「キグルミの気持ちを知るため…か」
友紀「?」
美玲「な、なんでもねーよ。ともかくッ!ウチから先にやるからな」
友紀「じゃあ、アタマかぶせるの手伝ってあげるね!」
かぽっ
友紀「おー。やっぱり動いてるの見ると違うなー、うんうん」
美玲「なんだこれ…予想以上に重いし、動きづらい…」
友紀「よーし、美玲ちゃんファイト―!、んじゃーあたしはこのクーラーのきいた休憩室で甲子園見てるからさ」
美玲「いいけど…仕事はちゃんとやれよなッ」
友紀「うん、頑張る頑張る☆ あ~涼しい部屋は生き返る~」
美玲「…フンッ」
美玲(よーし、やってやるぞ…)
美玲(さて…キグルミを着て外に出てきたはいいけど…)
美玲(ものすごく動きづらいぞッ!)
美玲(この鼻のすきまのところから…外を見るのか…目からじゃないんだ…)
美玲(視界が狭いのは慣れてるけど…)
美玲(すっごいムレる…いつものフードの衣装の比じゃないし!)
美玲(うーん…眼帯の目のおくが…あついよ…)
美玲(こんなんで、ほんとにキグルミの気持ちになれるのか…)
美玲(ていうか…これ被って…どうすればいいんだ…動くと暑いし…)
美玲(キグルミって…こんなタイヘンなのかッ…)
女の子A「あー!ねこねこ丸だー!」
美玲「!!」
男の子A「ほんとだー!初めて見たー!」
女の子B「かわいー!さわってもいいのかなー?」
男の子B「それぐらいいいだろー」
美玲(や…やめろッ!)
男の子A「中に誰か入ってんのかなー」
男の子B「どうせオッサンとかがやってんだろ」
美玲(こ…これは…まずい流れだぞ…)
女の子A「やめなよー大変なんだからさー」
女の子B「えー?中に人なんていないでしょー!」
男の子A「ちょっとどついてみようぜー」
女の子A「やめなってー」
男の子B「このくらい平気だって!それ!」ドンッ
美玲(!?)フラフラ
美玲(うぁ…や…やめろちびっこどもッ…!道あけろーッ!)
美玲(キグルミの中だから…痛くはないけど…)
美玲(アタマが…ものすごくぐらぐらするー!)
男の子B「おりゃおりゃ」ドス
美玲「ぁゎッ!」
女の子B「あれ?今ねこねこ丸喋らなかった?」
美玲(やばっ…思わず声がッ!)
美玲(このままじゃ…まずいッ!いろいろとッ!でも暑くて、動けない…)フラフラ
美玲(だ…だれか…)
友紀「うわー。やっぱり動いてるねこねこ丸を見るのはかわいいなー!」
美玲「!?」
美玲(なんでここにッ!)
友紀「こらこら君たち、ねこねこ丸をいじめるな!」
男の子A「おねーさん誰?」
友紀「あ…あたしのことはともかく、ねこねこ丸をいじめちゃダメだからね、痛がってるよ!」
男の子B「だって、こいつが殴ってもいいって…」
友紀「いいっていったからって殴っちゃいけないでしょー、こんなにかわいいマスコットを」
女の子A「ほらーだからダメっていったのにー」
男の子B「うっさいなーもー」
美玲(助けられた…のか?)
友紀「ともかく、ねこねこ丸に謝りなよ」
男の子B「ねこねこ丸、殴ってごめんなさーい…」
男の子A「ごめんなさい…」
美玲(……)
友紀「うんうん。わかればいいよわかれば」
女の子B「でもほんとねこねこ丸、かわいいよねーー」
友紀「かわいいよねー! いやーでもねこっぴーには叶わないけどね!」
女の子A「あっ、それ知ってるー!」
女の子B「やきゅうのてれびにでてた!」
友紀「おっ、君たち話わかるクチ? 球団はどこが好きなのかな?」
美玲(おいッ!野球の話はしないって言われたはずじゃ…!)
男の子B「おれは横浜かなー!」
友紀「え?スターの球団!?あはは、ない、ない!」
友紀「ついこの間まで4連勝して3位浮上でいけるじゃんって思ってたけどあっさり3連敗にして5位に陥落!!
ゲーム差的にも大正義我がキャッツ軍に並ぶのは無理、無理!どうせ今シーズンも結局CSまで進めずに終わりだって!」
男の子B「なんだ敵チームかよー」
友紀「まぁ万年最下位ってことに絶望しないうちに応援するチームを変えた方がいいよ!かわいいかわいいねこっぴーがいる強豪キャッツにさ!」
男の子A「なんかこの姉ちゃんすっごい腹立つな…」
美玲(しょ…小学生相手に本気で煽ってんじゃねーッ!)
女の子B「わたしは野球のチームははよくわかんないなー」
友紀「じゃあ、そんな君たちにいかにキャッツが素晴らしいかあるかを教えてあげよう。
じゃあまずはこの前のウルフのサヨナラヒットの勇姿から…」
美玲(ちょっ…暴走しすぎだってのッ…!ど、どうしよう…)
男の子B「アーっ!思い出した!ねーちゃんこの前キャッツの始球式で投げてた人だ!」
友紀「あ、やばっ。バレた?」
男の子A「すげー!有名人じゃん!」
友紀「あ…あはは…そう…だったかもね…」
美玲(何やってんだオマエ!なんとかして止めないと!)ザシュッ
友紀「ぐほぁっ」バターン
女の子A「きゃーっ、お姉ちゃんがねこねこ丸にひっかかれたー!」
美玲(しまったーッ!)
女の子B「お、お姉ちゃんだいじょうぶ!?」
美玲(あ…あわわ…このままじゃ…)
P「ちょっと君たち、通してくれるかな…ああー!こんなところにいたのか!ねこねこ丸!探したぞ!それにねこねこ丸の飼い主も!」
P「ごめんねー、ちょっとねこねこ丸の餌の時間だから、この一人と一匹連れてくから!ごめんねー皆、ウチの者が迷惑かけて!」
美玲(プ、プロデューサー!)
P(ほら、さっさと撤収するぞ!)グィッ
美玲(お、おぅ)
P「すいません、お騒がせしましたー!」ドタドタドタ
友紀「き…危険球…退場…」ズルズル
男の子A「あのねーちゃん、ねこねこ丸の飼い主だったんだ…」
男の子B「じゃああのにーちゃんは誰なんだよ…」
――休憩室――
P「全く、俺が物陰から様子みてたからなんとかなったものを…関係者に知られてたら大目玉だぞ!」
友紀「ごめんなさい…」
美玲「わ、悪かったな…プロデューサー…」
P「まったく、カメラさんも編集でなんとかするって言ってくれたものの…イメージダウンになるようなことは避けてくれよ」
美玲「ううう…」
美玲「ていうか、なんでオマエはウチのところまで来たんだよ!」
友紀「だって動いてる美玲ちゃんを見たかったから…」
美玲「なんだよその理由!危ないところだったんだぞッ!」
友紀「にしても、美玲ちゃんも美玲ちゃんだよ!」
美玲「なッ!」
友紀「あんな攻撃してくださいと言わんばかりに棒立ちだったら、ちっちゃい子はどうしたのかなーと思って近づいてきて、いたずらし放題になっちゃうよ」
美玲「う…」
友紀「そう、美玲ちゃんのキグルミはね、なんというか、ファンサービスがたりなかったよ!」
友紀「野球の試合で、マスコットがファンに手を振ったりパフォーマンスしてくれるとうれしいじゃん?あれだよ、あれ」
美玲「あれって言われてもわかんねーよ…」
友紀「なんてゆーかこう、もっとねこねこ丸の腕をガーッてやって足をバーッて動かして体をグワーッってやる感じだよ!」
美玲(なんか昔見たキャッツの試合でこんな監督いた気がするな…)
友紀「ともかく、キグルミが直立不動とか挙動不審とかでも許されるのはドラゴンの球団のマスコットだけだから!」
美玲(なんだそれ…)
P「まぁ百歩譲っても鎌倉の小学生相手にキャッツを語ったらいかんだろ…」
友紀「う…それは…反省してます…」
美玲「まったく…」
P「ともかく今は過ぎたことを悔やんでもしょうがない。幸いにも今はキグルミ交換の時間だ。
せっかく自由に動かせてもらってるんだから、ねこねこ丸がいない時間を作らないように急いで着替える!
友紀、挽回頼んだぞ!」
友紀「はーい…」
P「美玲も休憩中はしっかり休んで次に備えるんだぞ。ただでさえ暑くて体調崩しやすいんだから」
美玲「う…うん…」
美玲「アイツ…ちゃんとやってんのかな」
美玲「プロデューサーは休んでろっていってたけど…」
美玲「アイツのことだから…なんかまたヘマしてるんじゃ…」
美玲「……」
美玲(…別にアイツのことが心配で見にいくんじゃないからなッ。ほんとだからなッ)
美玲(よし、アイツのキグルミが見えるとこまで来たぞ)
美玲(Pと同じく、物陰から見てよう)サッ
男性A「あー!ねこねこ丸みっけー!」
女性A「ウソ―!キャー!」
美玲(うわッ!)ビクッ
美玲(ねこねこ丸…すごい人気だな…)
カップル男「おー!手をふってくれたー!」
カップル女「かわいー!キュートー!」
美玲(フン…あいつちゃんとやってるじゃん)
美玲(ねこねこ丸って…動かそうと思えばあんだけカラダ動くのか…)
美玲(そっか、お客を楽しませるってのはあーゆうー…)
カップル男「じゃあ、写真撮るねー!ハイチーズ」パシャッ
ねこねこ丸(友紀)「……」ギュッ
カップル女「うわー!ギュッてしてくれたー!こんなこともしてくれるんだー」
美玲(にしてもあれは、やりすぎじゃないか?)
カップル男「ねこねこ丸、またねー!」
カップル女「バイバーイ!」
美玲(アイツ、ウチに言ったことはしっかりやってるんだな…やるじゃん…ん?)
ねこねこ丸(友紀)「……」ドドドドド
美玲(うわッ!こっち来たッ!)
ねこねこ丸(友紀)「……」ピタッ
美玲「な…なんだよ…」
ねこねこ丸(友紀)「……」ギュー
美玲「ふぁ!?は、離せ…苦し…」
ねこねこ(友紀)「……」ギュー
美玲「や…やめろぉ…」
美玲(あ…でも…なんか…もふもふしてる…柔らかい…)
美玲(でも…これ…すっごい暑い…うう)
P「おーい…そろそろ交代の時間だぞ…って、何やってるんだ二人とも…」
ねこねこ丸(友紀)「あ、プロデューサーお疲れー、いやーついつい」
美玲「……きゅう」パタン
――休憩所――
美玲「…オマエ。さっきはなんのマネだッ!暑くて倒れるところだったんだぞッ!」
友紀「いやー、お客さんの喜んでいる顔見たらさー、なんか嬉しくなっちゃってさー、なんだかテンションあがっちゃってー!」
友紀「ついつい美玲ちゃん抱きしめちゃった」
美玲「ついで済むかッ!」
友紀「あははは、ごめんごめん」
友紀「でも、本当にうれしくなっちゃうんだよね」
友紀「なんかさー、マウンドでダンスとかファンサービスしてくれるねこっぴーが、応援してるお客さんの喜んでるカオ見たときにおんなじ気持ちしてたのかなとか考えちゃったりして、」
友紀「試合中はキャッツの選手ばっかり見てたけど、マスコットの気持ちになって見るのもありだね!」
美玲「…また野球の話…」
友紀「あたしがキグルミ被ってるときも、そんな嬉しさ楽しさ満載の球場の光景とかってにシンクロしちゃってさー、
こういうときアイドルやってて良かったなって思うよ」
美玲(もっとこーいうのはキグルミを着こなしてるヤツがやるべきだとは思ってたけど…コイツはどんな状況でも楽しめるんだな…)
美玲(Pがコイツを選んだのはこういうことなのかも…)
友紀「いやー始球式も無事できたし、次は本気でねこっぴーのキグルミ枠狙っちゃおうかなー、
プロデューサーは難しいって言ってたけど、アイドルが球団のキグルミ被るって史上初じゃない?そうなったら幸せだなぁ~!」
友紀「あ、そろそろ時間だ。美玲ちゃん、最後のキグルミ後半戦、頑張ってきてね!フレーフレー」
美玲(とにかく…ウチはウチなりに精一杯楽しんでやってみよう…)
美玲「おぅ…さっきはひっかいて、悪かったな…オマエのおかげで、どうやってやればいいか、わかった気がするぞ」
友紀「いっけー!そこだー!ミヤザキノベガク―!! え?美玲ちゃんなんだって?」ワーワー
美玲「…なんでもないッ」
美玲(その後ウチとアイツで、キグルミの仕事をしっかり1回ずつこなし、程なくして時間がやってきた。)
美玲(キグルミの動きにも途中からだいぶ慣れてきて…なんとか最後までうまくやれたと思う。)
美玲(…のはずだったのだが。)
――休憩所――
P「いやーキグルミの仕事、なかなか評判だったな。最初はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたけど、なんとかなってよかった」
美玲「フン…これくらいはウチに余裕だぞッ!そ、それに…キグルミの中でも意外とちやほやされるのも…悪くないし」
P「子ども相手にもしっかり飛び跳ねて手を振ってくれた美玲、なかなかかわいかったぞ」
美玲「そ…そういうところは見てなくていいんだよッ!もうかわいいって言うな!いいからもう仕事終わったし、帰るぞッ!」
P「実はさ、そのことなんだけど、予想以上に好評だったから、さっき関係者の方と連絡とって、あと1回ずつくらい延長できないかって話がきたんだけど…」
美玲「ええー……これで終わりだと思ったのに」
美玲(まぁ…実際楽しかったから、もう少しぐらいいっか)
美玲「別に、ウチはまだまだできるよ。でも仕方なくなんだからなッ!」
P「引き受けてくれるか!よかった、これも二人のおかげだよ!」
美玲「まぁ、もとはといえば、この仕事をウチにもってきてくれたのはプロデューサーだし…」
P「カメラさんも、もう収録はしないって言ってくれて同行はしないらしいから、のびのびとやってもらっていいからな。
でも、無理だけはするなよ。更衣室にいる友紀にもきいてみてくれ」
美玲「うん…わかった」
――更衣室――
美玲「おーい?いるかー?」
友紀「あー!美玲ちゃんおかえりー!いやーお仕事おっつかれー!」ケラケラ
美玲「お、おう…それなんだけどさ、キグルミが好評だったからあと一回分延長してくれないかって話がきたぞ」
友紀「えー!もう一回入るの?あぁー…うん!大丈夫、よゆーよゆー☆」
美玲「そ、そうか」
美玲(コイツ、テンションおかしくないか?)
美玲(応援してた甲子園のチームでも勝ったのかな)
友紀「つーわけで行ってくるからあたしがさきに着替えてやっちゃうね!」
美玲「う、うん」
友紀「これでよしっ…と! 代打姫川、延長戦行ってきまーす!」ドタドタ
美玲(アイツ本当に大丈夫か?)
美玲(…ん?なんだこの缶)
美玲(ってこれ!缶ビールじゃないかッ!しかも結構な数ッ!)
美玲(アイツ…仕事が終わったからって…飲んだなら断れよ!)
美玲(ま…まずい、早くあいつを止めないとッッ)
美玲(い…いた!)
ねこねこ丸(友紀)「さーて、次の問題です。これは一体だれの投球フォームでしょー!」
男の子A「もー昔のキャッツの選手は出されてもわかんないからもーいいよー」
男の子B「ていうかねこねこ丸ってフツーに喋るんだな」
女の子B「ねこねこ丸って野球に詳しいんだねー!」
女の子A「てゆーかこの声さっきどっかで聞いたような…それになんだかお酒くさい…」
美玲(ちょっ…キグルミで野球選手のモノマネするなよ!)
ねこねこ丸(友紀)「いや-キャッツファンじゃなくても知ってなきゃおかしいのばっかり出してるのにー」ケラケラ
ねこねこ丸(友紀)「しょーがないなー、じゃはモノマネクイズはやめて、ここいらで一発芸といきますかー!」
男の子A「おっ!なになに」
男の子B「面白くなかったらゆるさねーぞー」
ねこねこ丸(友紀)「いやあマスコットとくればこれでしょ!まぁ見てなってーっ!」
ねこねこ丸(友紀)「史上初公開!ねこっぴー直伝、これがねこねこ丸のバク転だーっ!!」
美玲「何やってんだ馬鹿ーッ!」ザシュッ
ねこねこ丸(友紀)「んごっ」バターン
女の子A「キャーッ!突如現れたお姉ちゃんにねこねこ丸がひっかかれて倒れたー!」
女の子B「ねこねこ丸、大丈夫!?これ、アル中?きゅうきゅうしゃー!」
美玲「し、しまったーッ!!」
その後突如欠けつけたプロデューサーによってねこねこ丸は2度目の撤収騒ぎとなったが、
「史上初!しゃべる野球好きマスコット」という噂が近隣住民に広まり地元PRに全く関係がない地方の都市伝説として名を馳せることになり、
鎌倉に観光客が倍増することになったらいしいがそれはまあ別の話だ。
なんにせよ、仕事としては大成功だったから…いいかな。
それに、全身キグルミを被るってのも…意外と悪くないかなってこともわかったしな。
…ちなみに。
姫川「いやー、今日は仕事やるってのと、甲子園見るってののダブルヘッダーで、
仕事よーやく終わったと思って、甲子園も初戦勝って、こりゃ祝勝会やるしかねーなーって、ひとり休憩室でビールを数缶ほど…」
P「…」ゴゴゴゴゴ
友紀「あは、あははは」
P「俺が仕事の前に言ったこと思い出した?」
姫川「…思い出しました」
なお、姫川友紀はこの後Pにあとでこってりと絞りとられたもよう。
以上で終了です。
お気づきの方もいるかとは思いますが、作中の「牛若ねこねこ丸」は鎌倉市のマスコットキャラクター「牛若にゃん丸」を名前だけもじってますが、中身は一切関係ありません。
また作中に登場する団体や球団はフィクションであり実在する団体や球団とは一切合切関係ありませんが、作中のスターの球団のファンの方ごめんなさい。
読んでいただきありがとうございました。
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