男「いや……俺、昨日は一日中家にいたけど」
女「え!?でも……私、昨日デパートで男くんを見かけたよ」
男「他人の空似じゃないか?」
女「………いや、でも確かにあれは…」
男「そういわれても、俺は確かに昨日は家から一歩も出てないしな……」
女「………嘘、ついてない?」
男「俺がお前に嘘をつくと思うか?」
女「……………」
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女「……わかった。男くんのこと、信じる」
男「逆に聞くが、なんでそこまで昨日見たやつを俺だと断定するんだ?」
女「私が男くんを見間違うはずがない」
男「……………」
女「……一応今のところは、信じてあげるけど」
女「もし嘘だったら、承知しないから」
男「…………………」
男(俺の名前は男。その名前の通り、どこにでもいる、ごく普通の男子高校生だ)
男(ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の家庭で育ち、ごく普通の高校に入学……)
男(そして……ごく普通の、恋人を作った)
男(いや、ちょっと普通とはいい難いか)
男(それでも、今俺は普通に幸せな学園生活を送っている)
男(そんな普通な俺だから、万が一にも彼女にそんなくだらない嘘なんてつくはずもない)
男(ましてや、浮気など)
男(まぁ、妬いてる彼女を見るのも、微笑ましくて楽しいが)
男「心配しなくても、俺を好きになるようなやつなんてお前くらいだよ」
女「そんなことないよ!男くんが知らないだけで、実は結構モテるんだよ?」
男「心配性のお前がいったところで説得力ねぇよ。どーせまた変な勘違いでもしてんだろ」
女「委員長さんとか部長さんとか、あと眼鏡さんとか、男くんが好きだって言ってたもん!」
男「そいつら全員男だろうが!俺にそっちのケがあったらお前となんか付き合ってねぇ!」
女「………それもそっか」
男「しかしこんなクソみたいなやり取りで俺は本当に女子からモテていないという事実が明らかとなった……」ゲンナリ
女「モテたいの……?」ハイライトoff
男「いやっ、女がいてくれたらなんでもいいです」
女「や、やだなぁもうっ!男くんったら」バンッ
男「あがッ!?」グキッ
女「きゃあ!大丈夫?男くん!」
男「い、いい加減……お前は自分の怪力を自覚しろ……」ピクピク
女「ご、ごめん……」オロオロ
だいたいこんな雰囲気で。
一応書ききってはいるのでエタることはありません
【部室】
男「うぃーっす……」
部長「や、来たかね男君」
後輩「あ、せんぱーい、お疲れ様です」
白衣「………………」ガガガガガ
男「今日は何作ってんすか?」
部長「ふっ、完成したら教えてやろう!」
男「えー、いいじゃないっすか。俺だって物理部の一員なんですし」
部長「これは私が設計し、白衣君が組み立てる……いわば、物理部史上最高傑作となるものなのだ!そうやすやすと教えてやるわけにもいくまい」
後輩「私たち後輩は自分の製作をやれ、だそうですよー」
男「ちぇっ、どうせまたロクなもんじゃないだろうに……」
部長「舐めてもらっては困るなぁ、この作品は、完成したらノーベル賞も間違いなしのものだぞ?」
男「ははっ、それは凄いっすね」
後輩「完成す・れ・ば、ですけどねー?」
部長「ぐぬっ……」
白衣「…………問題ない」
男「?」
白衣「……これは、必ず、完成させる。どんなに時間をかけたとしても、必ず」
後輩「……白衣ちゃんがここまで真剣なのも珍しいですね」
部長「それほどまでに、今回の発明は素晴らしいということだ!わはははは!」
男「うっさんくせぇ……」
男「さてと……」
後輩「先輩は何作るんですか?」
男「ん?ああ、俺はパソコンをね」
後輩「え?デスクトップのカスタマイズですか?」
男「そんなものを文化祭で展示してどうする……違うよ、俺が作るのは、パソコンそのものだ」
後輩「………え、まさか」
男「そ、部品を集めて、一から作る。設計図はもう作ったよ。あとは素材を集めて組み立てるだけさ」
後輩「うっわぁ!凄いです先輩!ガラクタばかり生み出す部長とはやはり格が違いますね!」
部長「聞こえてるぞ……」
男「……作るとはいっても、所詮は20年前のスペック程度のものしか作れない。今のPCと比べたら、ガラクタも同然さ」
後輩「それでもすごいですよ。スペックはどうあれ、PCの形をしたものを作れるなら、そこから改良を加えることで今以上のPCを生み出すこともできるんですから!」
男「そういってもらえると、ありがたいかな。後輩は何作るんだ」
後輩「えっと、私はAIを作ります!」
男「へ」
後輩「与えられた情報を元に、条件反射的に受け答えをする従来のAIとは違い、与えられた情報を元に思索し、答えを出し、学習する。また、喜怒哀楽などの感情メカニズムも搭載して、本当に生身の人間と遜色ないAIを作り出します!」
男「」
後輩「つい昨日、一番の難関だった人間の感情メカニズムを解明しました。あとはこれをもとにプログラミングするだけです!」
男「」
【家】
男「……………ただいま」
妹「……お帰りお兄ちゃん。どうしたの」
男「兄ちゃんはなぁ……今大きな壁にぶち当たっているんだ……才能という壁にな……」
妹「な、なんかわかんないけど……どんまい」
男「うう、ううう……」
【部屋】
ドスン
男「ふう………」
男(あーーー……ベッド気持ちいいーー……)
男「………スマホでもするかぁ」
男「ん、女からLINE来てる」
女『思い出した。男くん、昨日後輩ちゃんとデートしてたんじゃないでしょうね』
男「………………ふ」
男『ばーーか。少しは俺のこと信じろよ』
女『私だって信じたいよ。でもさ、でもさ…』
男『お前のそういうところも好きだから、別にいいんだけどな』
女『えっ……』
男『でもさ、やっぱり自分の好きな人に、自分の気持ちを疑われるっていうのは、やっぱ辛いよ』
女『う、うう………』
男『お前だって、嫌だろ?俺が逐一お前に「浮気してないか」「浮気してないか」なんて言ったら』
女『う、うん………』
男『だったら……俺の言ったことは100%信用しろとまではいわないけど、少しは信用してくれてもいいんじゃないか?』
女『……そう、だね。ごめん。私、自分の気持ちでいっぱいいっぱいで……』
男『あー謝らなくていいって。言ったろ?俺はお前のそういう……なんか、ひたむきなところが、好きなんだ』
男『お前はお前でいてくれていい。自己否定なんてする必要は無いんだ』
女『……やっぱり、男くんは優しい』
男『彼女には優しくするのが、普通の男だ』
女『……そうだね。私は、男くんの彼女なんだ』
女『よし!ちょっと自信ついたよ。ありがとう男くん。時間取らせてごめん。文化祭近いもんね?』
男『いいっていいって。息抜きも必要だしな。お前も空手、頑張れよ』
女『もちろん!それじゃ、また明日』
男『ああ、また明日……』
男「…………………」
男「……やっぱ、可愛いな……女」
男「……………」
男「…………勉強するか」
《火曜日》
【教室】
男「」ガラガラッ
委員長「ああ、男くん」
男「ん、委員長。おはよう」
委員長「君、昨日はどうしたんだい?」
男「は?何のことだ?」
委員長「とぼけるなよ。昨日の、公園でのことだ」
男(公園………?)
男(公園というと、駅の近くにあるあの大きな公園のことだろうか)
男(いや、仮にそうだとしても、そうでないとしても……)
男「……俺、昨日は真っ直ぐ家に帰ったぞ?」
委員長「……はぁ?」
男「いやいや本当だって。どこの公園かは知らないけど、公園なんて行っていない」
委員長「……本気で言っているのか?」
男「嘘をついているように見えるか?」
委員長「………………」
委員長「……夢、だったのかな」
男「大方そんなとこだと思うぞ。まだ少し寝ぼけてるんじゃないのか?ちょっとは体休めろよ」
委員長「ああ……もしかしたら、疲れてるのかもな、なんせ君のことを夢に見るくらいだし」
男「どういう意味だよ」
委員長「はは、冗談だよ冗談」
男「ったく……」
女「あ、男くん!おはよう!」
男「あ、ああ……おはよう」
委員長「おっと、僕はお邪魔のようだね」
女「はいっ!」
委員長「……もう少し遠慮を覚えようね」
男「ごめんな、こんなやつで……」
委員長「構わないよ。見苦しいところを見せてすまなかった。それじゃ、またね」
男「ああ、じゃあな」
【昼休み】
男「………なぁ、女」
女「何?そんなに私のお弁当を食べたいの?」
男「いや、そうじゃなくてさ……」
女「そっか……男くんは私のお弁当食べてくれないのか……頑張って作ったんだけどなぁ残念だなぁ」
男「あーわかった貰います貰います!女のお弁当食べたいからください!」
女「もー!男くんってばがっつきなんだからっ!」バンッ
男「ぐほあッ!?」グキッ
女「あ、あわわわわ……ごめんつい……」
男「こ、これだからこいつの調子に合わせるのは嫌なんだ……」
女「ご、ごめんね。私のお弁当あげるから許して……ほら、卵焼き。あーん」
男「あ、あーん……」
男「って、するかっ!」
女「…………ッチ」
男「おい、聞こえたぞ今の」
女「なんのことかわかりませーん」
男「……はぁ、まあいいよ。卵焼き、貰うぞ」
女「どうぞー」
男「……………」モグモグ
女「どう?」
男「うまいよ」
女「やったっ」
男「で、話を戻すけどな?」
女「うわぁ、露骨……」
男「お前が話の腰を折るのが悪いんだぞ」
女「はいはいごめんね。……で、何かな?」
男「一昨日……俺をデパートで見たって言ったよな?」
女「え?う、うん……でも、それは男くんじゃないんだよね……?」
男「いや、確かに俺じゃないんだけど……あのさ、それってちらっと見かけただけか?」
女「……うん、ほんの、ちらっと見えただけ」
女「追いかけて探そうとしたけど、人ごみの中に紛れちゃって、見つからなくて」
女「……って、どうしたの急に?昨日私がいったときは信じてくれなかったよね?」
男「……あー、いや、なんだ」
男「ああはいったものの……ちょっと気になってな。なんか薄気味悪いだろ?こういうの」
女「まぁ、気持ちはわからなくもないけど…」
女「……ねぇ、何か隠してない?」
男「俺がお前に隠し事なんてするかよ」
女「どうだか……」
男「……昨日もいったけどさ、ちっとは彼氏のことを信用してくれてもよくないか?」
女「うっ……」
男「まぁ急に改めろっていっても無理だとは思うけどさ」
女「うう……だって、やっぱり心配で」
男「お前に心配されなきゃならないほど、俺は落ちぶれちゃいねーよ」
女「私より力ないのに?」
男「痛いところついてくるなぁ……」
女「男くんって割と思いつめるタイプだから、やっぱり不安にはなるよ」
女「私に心配かけまいとして、無理に気丈に振舞ってるんじゃないかって、疑わずにはいられない」
男「………その気持ちだけで、十分だよ」
男「確かに、俺は一人で思いつめることもいろいろあったりするけど」
男「俺が話したいと思ったときは、ちゃんとお前に話しているつもりだ」
女「…………」
男「つまりな、俺が何も言わないってことは……俺が、何も話したくないってことなんだ」
男「だから、待っていてくれないか」
男「俺がお前に打ち明けるのを」
男「俺が今、溜め込んでいるもん全部、いつかはお前にも話してやるから……さ」
女「……わかったよ」
女「今は、そういうことにしておいてあげる」
【家】
男「…………女が見た俺、委員長が見た俺……」
男「俺じゃない、俺に似たナニカ……」
男「……まさかな、まさか……」
男「……………………」
妹「……お兄ちゃーん、いるー?」ガチャリ
男「うわぁっ!?」
妹「きゃっ!?」
男「い、い、妹……!ノックもなしで部屋を開けるな!学校で習ったろ!」
妹「し、したもん!お兄ちゃんが呼んでも呼んでも返事しないのが悪いんでしょ!?」
男「へ、呼んでた、俺を?」
妹「そーだよ……ご飯だよーって呼んでるのに、いっこうに降りてくる気配がないんだもん」
男「全く気づかなかった……」
妹「ふーんだ、妹の声が聞こえなくなるくらいまで、一体ナニを考えてたんだか」
男「なっ……!い、いや!お前が想像しているようなことは断じてしてない!誓ってでも!」
妹「はいはい。わかったからご飯だよ。冷めちゃうから早く食べよ」
男「ちょっと待ってくれ!俺の話を―――」
《水曜日》
【教室】
男「おはよう」
女「あ、男くん。おはよう!」
委員長「おはよう」
眼鏡「………おはよう」
男「ん?珍しいな、眼鏡が朝早いなんて」
眼鏡「……昨日はうっかり9時にベッドに入っちゃって………」
男「おいおい……」
委員長「ま、早寝早起きはいいことだろう」
女「早寝(9時)早起き(4時)」
男「ホントお前の生活スタイルどうなってんだか……」
眼鏡「どうなってようが俺の勝手だろ」
男「そうなんだけどさ」
先生「ほらー、みんな席について!HR始めるよ」
男「あー、授業始まるから俺、席いくわ」
女「ばいばい、また間休みにね!」
男「……間休みは、寝たいんだけどな……」
先生「あー、それと飯塚」
男「はい?」
先生「……昼休み、職員室に来なさい」
【職員室】
男「なんすか?」
先生「……白々しい。なんで呼ばれたかくらい、わかっているんだろう?」
男「は?」
男(何度も言うが、俺はごく一般的な、特にこれといって特筆することも何も無い、普通の男子高校生である)
男(こんな風に先生に呼び出しを食らったのだって、人生で初めての経験だ)
男(心当たりなど、あるはずもない)
男「なんの………ことですか?」
先生「……………」
先生「本気で、言っているのか?」
男「……………!」
男(委員長のヤツと、同じ反応………?)
先生「………………」
男「……何を、見たんですか、先生」
先生「……君が、夜の商店街を徘徊するところをだよ」
男「…………!」
先生「日付はとっくに変わっていて、あたりは人一人いなかった。だからこそわかる……あれは、確かに君だった」
先生「でも、君にはその記憶がないという」
男「……先生は、その俺を見てどうしたんですか」
先生「もちろんとっ捕まえて、家に帰そうとしたさ。厳重注意もしてな」
先生「だけど……君はそれに応じようとはしなかった。気味の悪い笑顔をたたえながら、自分の家とは逆方向へ歩いていった」
男「………………」
先生「……恥ずかしい話だが、無性にそんな君が恐ろしくなってね」
先生「私は黙って歩き去る君を見送ることしかできなかった」
男(昨日僅かに俺の脳内に浮かんだ仮説は、これによって急激に真実味を帯び始めた)
男(俺ではない、俺に似たナニカ……その目撃情報が、三日連続で、俺の耳に入ってくる)
男(信じられない。こんなものは馬鹿げている。けれど、この状況が、それを疑うことを許さなかった)
先生「信じられないかもしれないが」
男「………」
先生「君には、夢遊病のケがあるようだ」
男「………」
先生「ご家族にも連絡を入れる。一度、精神科へ行くことをおすすめするよ」
男「わかりました、ありがとう、ございます…」
男(ドッペルゲンガー)
男(曰く、自分そっくりの姿をした分身)
男(その存在は古来より認知され、今や世界クラスの都市伝説として名を馳せている)
男(ドッペルゲンガーに出会ったものは、死ぬ―――)
男(怪談という類のものにそう詳しくない俺でさえも、知っていることだ)
男(……この仮説が正しいのかどうか、俺にはわからない)
男(俺のことが嫌いなやつの、悪質ないたずらだという可能性だってあるし)
男(あいつらが共謀して、俺を嵌めようとしているのかもしれない)
男(また、女のそれは幻覚で、委員長と先生のは夢だったということもある)
男(どちらにせよ、俺のドッペルゲンガーとやらには……なるべく遭遇しないよう心がける必要があるだろう)
男(デパート→公園→商店街……)
男(この不気味な状況をなお一層際立たせているのは、"俺"が目撃されている場所の順番だ)
男(だんだんと、学校に……ひいては、俺の家に近づいてきている)
男(駅は学校の南にあり、俺の家は学校の北にある)
男(……明日で目撃情報が止めば、特にこれといった心配も起きないんだけどな)
男("出会う"……この言葉の指し示す意味が、どれだけ広いかはわからないが)
男(恐らく、俺が"俺"を認識した時点でアウトだろうな……)
男(…………そう、アウト)
男(見つかれば、命はない)
男「…………ぅっ……」
男(吐き気を、催す)
男(今まで……ごく普通の人生を歩んできた俺には、当然命を賭けることなど、経験したこともない)
男(脳が、体が、拒絶する。手足が震える。手から、脇から、背中から、とめどなく汗が溢れ出てくる)
男(………こええ)
男(こええ、こええよ。何なんだよこれ。俺が何をしたってんだよ。何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだ。ふざけんな)
男「……クソッタレが……」ドンッ!!
男(だけど、いくら壁に八つ当たりをかましたところで状況が変わるわけでもなく)
男「…………くっ……そ………」ポロポロ
男(一人……恐怖に心を蝕ませていくのみ)
男(人は、こんなにも孤独だ)
とりあえずここまで
続きは明日投下します
《木曜日》
【家】
男「……………」
男(昨日は、部活をサボった)
男(部長や後輩からはLINEが来てたが、全部未読スルーだ)
男(せめて女には心配かけまいと、なんとかLINEでたわいもない話をしたが……)
男「……逆に心配かけてねぇといいな」
男(支度をして、学校へ行く)
男(昨日はつい考えすぎて取り乱してしまったが、まだこの現象がオカルトのものだと決まったわけではない)
男(今日……なんの目撃情報もなければ、恐らくは)
男(安心できるのだろうから……)
【教室】
男「おはよ」
眼鏡「……お、男じゃん。おはよ」
男「ん?ああ、眼鏡。今日も早いな。どした」
眼鏡「さっきも言っただろ。昨日早く起きすぎたせいでまた早く寝ちまってよ……」
男「いい傾向じゃないか。ようやく目の下の隈もとれてくるんじゃね?」
眼鏡「俺の隈そんな酷いかなぁ……?寝不足気味とはいっても毎日3時間は」
男「いや、ちょっと待ってくれ」
眼鏡「?どうしたよ」
男「………お前、さっきなんて言った。『さっきも言っただろ』だって?それじゃ、まるで……」
眼鏡「あ?どした急に。お前、途中まで俺と一緒だっただろ」
男「…………………………は?」
男(眼鏡の家は、学校と駅の間くらいにある)
男(さっきも言ったが、俺の家は北側)
男(逆方向、なのだ)
眼鏡「どうした?ついにボケたか?」
男「……ボケたのは、お前だろ。俺の家とお前の家は逆方向だ。俺がお前と一緒に登校するなんて、ありえない」
眼鏡「ん?…………え?は?マジで?」
男「……一つ聞くぞ眼鏡。"俺"はなんで、お前と最後まで一緒に登校しなかった」
眼鏡「そ、それはお前が……忘れ物をしたって、言ったから……」
男「……………」
男("俺"の行動範囲は、制限されている?)
眼鏡「な、なぁ……どういうことなんだよ。あいつは、お前じゃないのか……?」
眼鏡「なら!お、俺と一緒に登校した、お前はっ……!一体、誰だったんだ!?」
男「……俺が、知るかよ………」
男(………これで、ほとんど確定的だ)
男(ドッペルゲンガーは、実在する)
男(その行動範囲は、日が経つにつれて広くなる)
男("俺"は……たぶん俺を探してる)
男(見つかれば………恐らく、俺は)
男(死ぬ)
【昼休み】
女「男くんっ、一緒にお弁当食べよー」
男「……ごめん、昨日部活休んじゃったからちょっとでも作業進めないとダメなんだ。一人で食べて!ほんとごめん!」
女「えっ……そんな……」
男「埋め合わせは、またするからさ……」
女「……………」
眼鏡「……ま、男にもそういうときもあるんだろ。文化祭前でピリピリしてんだろうし、そっとしといてやろうぜ」ポン
女「きやすく触るなっ!!」ブンッ!!!
眼鏡「あいだぁっ!?」ガシャーーン!!!
委員長「おお……見事な背負い投げ……」
友「男のやつ……よくあんな子と付き合えてるよな……」
【部室】
男「……よーす」
後輩「あっ!先輩きたっ!」
部長「おまっ……どうして連絡を寄越さなかったのだ!私たちがどれだけ心配したと!」
男「ごめんなさい、急に体調悪くなって……帰ったらLINE確認もせずに寝ちゃって……」
後輩「なら朝でもいいから一言下さいよー……この1日気が気じゃなかったんですよー?」ハァー
男「う……それは、申し訳ない」
部長「まぁ、元気そうならなりよりなのだがな。で、どうした男君。君は昼休みはいつも愛しの彼女のしっぽりランチタイムを決め込んでいるのだろう?」
男「その言い方なんか語弊があるのでやめてくれませんかね……いえ、あまり文化祭へ向けての準備が芳しくないので少しここで作業をしようと」
部長「なるほど!それはいい心がけだ!存分に励みたまえよ!」
男「……アンタは何もしなくていいのか」
部長「私か?私の仕事はもう終わったからな。あとは白衣君が組み立てるところを見ているだけが仕事よ」
白衣「…………………」キィィィィ
男「……なんか、不思議な形っすね」
部長「造形は特に拘ってないからな。これは存在自体が世界そのものを揺るがせる代物よ。そんなものに凝る必要もないわ」
男「相変わらず言葉だけはご立派ですねぇ。後輩を見習って欲しいものです」
後輩「…………うーん」カタカタカタカタ
男「どうした、難航してるのか?」
後輩「いえ……もうAI自体は完成したんですけど」
後輩「"器"が、ね……」
男「器?人工知能を、生身の人間に……?」
男(この後輩ならそのくらいのことはしそうだ)
後輩「そんなこと出来てもやりませんよ!CIAでもないんだから……」
男「なぜそこでCIA?」
後輩「まま、それはいいとして」
先輩「はあ」
後輩「先輩は、『ソードアートオンライン』とか、『メカクシティアクターズ』といった作品を知っていますか?」
男「SAOの方なら、名前くらいは……」
後輩「あ、ならそっちで説明をしましょう。そこに、ユイちゃんという、人工知能のキャラクターが出てくるんですが」
男「ほう、ほう」
後輩「そのユイちゃんとっても可愛いんですよ。ちっちゃくて、綺麗な髪をしてて、澄んだ瞳をしていて……」
男「お、おう……」
後輩「やっぱり、AIといったら、そういうものじゃないですかー」
男「……同意を求められても賛成はできないが、なぜお前が人工知能の研究をするのにpixivを開いているのか、その理由はわかった」
後輩「自分で絵がかけたら楽なんですけど、そういうわけにもいかなくって。声はなんとから自分ので代用しましたけどねー」
男「……それもう高校の文化祭で発表するような内容じゃないだろ……」
男(冗談抜きにこいつがノーベル賞取れるわ)
男「………はぁー」
後輩「どうしたんです、ため息なんかついて」
男「ただ今絶賛自己嫌悪中だよ」
男(まったく、この後輩ときたら)
男(軽く、常識を超えていってくれる)
男(俺が今直面している問題なんかよりも、こいつの方がよっぽどオカルトだよ)
男(たかだか自分との鬼ごっこに怯えてたのが馬鹿らしくなるくらいだ)
後輩「先輩ほどの人でも、自己嫌悪なんてするんですね!」
男「嫌味たらしく聞こえないのが憎らしい」
後輩「?」
男「なんでもない。忘れてくれ」
【帰り道】
男「………悪かったな、今日は」
女「別にいいよ。部活……頑張って」
男「んー……そう、だな」
男(……今日、俺が女と昼飯を食わずに部室へ行ったのは、別に文化祭へ向けての製作が難航しているからでは、ない)
男(むしろ、それ自体は非常に順調だ)
男(ただ、忘れたかった)
男(自分の置かれたこの理不尽な境遇から、逃げ出したかった)
男(物理は、嫌なことを忘れさせてくれる)
男(辛いとき、悲しいとき。どんなときでも、機械を弄っていたら、それだけで楽しくなることが出来る)
男(人間誰しも、そういうものの一つや二つ、あるだろう)
男(俺はそれがたまたま物理で、また、物理部という居場所だった、それだけのことだ)
女「………?」
男「……あのさ、俺今から凄い事言うけどいいか?」
女「………なぁに?」
男(……でも、俺は気付かされたのだ)
男(逃げてるだけじゃ、ダメだと)
男「俺は命を狙われてる」
女「………………」
男「……信じないならそれでいい。いつもの俺の戯言と思って聞き流してくれれば」
女「信じるよ」
男「………そうか」
女「せっかく男くんが話す気になってくれたんだもん。そんなの、信じられないわけないでしょ」
男「……ははっ、お前は優しいな」
女「彼女が彼氏に優しくするのはふつー」
男「そうだったな」
女「それに……男くん、何かに凄く怯えてる」
男「……………」
女「必死に強がってるけど、わかる。怯えながらも、その何かに立ち向かおうとしてる」
男「……やっぱり、女には、何もかもお見通しなんだな」
女「………当たり前だよ、恋人だもん」
女「男くんが寂しいときには側にいてあげる。男くんが悲しいときには一緒に泣いてあげる。男くんが怯えているときには守ってあげる」
女「男くんのことが、好きだから」
男「……そっか、そうだよな」
男(今更みっともない強がりはいらない)
男「俺は今、怖くて怖くてたまらない。だから頼む、俺を守ってくれ、女」
男「その代わり、約束するよ」
男「お前が辛い時は、俺が命に替えてでも、絶対に守ってやる。一生だ」
《金曜日》
【家】
ピンポーン
女『男くんー、学校いこっ』
男「…………」
ガチャリ
男「ごめんな女……付き合わせちまって」
女「大丈夫……男くんを守るためだもん」
妹「あ、お義姉さんじゃないっすか。どうしたんすか?家、南の方でしょ?」
男「……ちょっと訳ありでな。行こうぜ、女」
女「うん………」
妹「お、おうおう………?」
男(俺は常に誰かといるようにした)
男(奴に出くわさないための、見張りのためとか、色々理由はあるけれど……)
男(一番の理由は、俺が心細いからだ)
男(戦うと腹をくくったものの、それでもこれは命を賭けたデスゲーム)
男(しかもその敵は……自分自身)
男(見つかれば、即敗北の超ハードモード)
男(……一人では、このプレッシャーに耐えられそうにもない)
男(そこに、いてくれるだけで)
男(そう、側にいてくれるだけでいい)
男(それだけでも、俺はこんなにも救われる)
男「……ところで、お前は」
女「なに?」
男「もっとこう、気になったりはしないのか、俺が誰に命を狙われてるかとか、なんでそんなハメに陥ったのかとか」
女「男くんがいわないってことは、いいたくないってことなんでしょ?」
男「…………ああ、そうだ」
女「なら、いいよ。私は私に出来ることをやるから」
男(……………)
男(……まったく、コイツは……)
男「……あーもう。女、大好きだ。愛してる」
女「……!私もっ!」
【教室】
男「おはよう」
女「おはようございますー」
委員長「ん?今日は2人か。珍しいな」
眼鏡「……………」
男「ちょっと色々あってな」
委員長「そうか。深くは追求しないよ」
男「………」
男(今日は、やつの目撃情報はない……)
男(……でも、これは恐らくまだ俺の耳に入っていないだけ……)
男(または、昨日は誰にも目撃されていないだけ、ということもある)
男(眼鏡の家の近くまで来て、その後は引き返すだなんて考えられようもない)
男「…………なぁ、ちょっといいか」
友「ん?どうした」
男「昨日の夜に……なんか不審人物を見かけたとか、そういうのはないか?」
友「な、ないけど……どうした、急に?」
男「いや、ないならいいんだけど……」
友「なんだよー、気になるじゃんかよー、いえよー!」ウリウリー
男「………」
男「……昨日、妹が泣きながら帰ってきた」
友「は………?」
男「いつもより帰りが遅いから、少し心配はしてたんだ。でも友達の多い妹のことだ、大方マックにでも行っているのだろうと思って、大して探そうともしなかった」
友「な、何言ってんだよ、お前……」
男「……のんきに、テレビなんかみて笑ってたよ。撮りだめしてたバラエティーがあったからな、妹もいないし、これでゆっくり見ることができると思ってな」
男「俺がそんなことをしている間、妹はどんな目にあっていたと思う……?」
友「や……やめ、やめてくれ……」
男「……泣きながら語ってくれたよ、小太りの眼鏡をかけた男に路地裏へ連れ込まれ、そして………」
友「わ、わかった!!俺が悪かった!!もう聞かない!!だからその生々しい話しをやめてくれ!!」
男(……すまん、妹!)
男(昨日ドッペルゲンガーのことを調べているうちに、俺は一つの結論にたどり着いた)
男(本来、ドッペルゲンガーへの対処法など存在はしないのだが……)
男(そもそも、俺の経験しているこの怪異は、本来のドッペルゲンガーとは少し異なるものだ)
男(ドッペルゲンガーは長い時間をかけて自分の影として張り付いているか、ふとした拍子に自分の分身を視認してしまうか、ドッペルゲンガーにまつわる逸話とは、大体こんなもの)
男(少しずつ、少しずつ、人の恐怖を駆り立てるように近づいてくるドッペルゲンガーの話は、実話として語られるものの中には、ない)
男(ところで皆さんは知っているだろうか、『メリーさんの電話』という、これまた有名な都市伝説のことを)
男(俺は昨日初めて知った、そして驚いた。俺が経験しているこの現象は、どちらかというとその『メリーさんの電話』に近いのだ)
男(『メリーさんの電話』では、最後メリーさんは主人の背後まで近づき、振り返ったところを惨殺する)
男(……なら、その主人が、最後のメリーさんからの電話をとらず、そのまま遠くへ逃げてしまったら、メリーさんはどうなるのだろう?)
男(……俺が、思ったのは、こういうことだ)
男(奴は、一日単位でじわじわと、俺の場所へと近づいている)
男(なら……奴が完全に、俺のいる場所……学校や、俺の家に存在することができるようになってから、一日逃げ切れば……奴はどうなる?)
男(あくまでこれは仮説の一つ……いや、希望の一つでしかない)
男(だが、こうとでも思っておかないと、気が狂いそうだ)
男(……たった、一日。たった一日逃げ切れば、俺は解放される)
男(永遠に逃げ続けなければならないとわかれば……そのときは、そのときだ)
男(今は、今日を逃げ切ることを考えよう)
1行でまとめると、
「学校で目撃情報があってから丸一日逃げ切ればいいんじゃね」
ということです
【部室】
男「こんにちはー」
白衣「………………」
男「……あれ、白衣だけか。お疲れ」
白衣「………………」
男「部長とか、後輩は?」
白衣「……………さぁ」
男「そっか………」
男(結局、今日は俺の目撃情報は耳にしなかった)
男(奴の存在を自分の中でほぼ確定させている俺にとっては、それは情報の不足でしかない)
男(最後の綱は、部長か、後輩か……)
男(…………ま、今うだうだしてても意味無いか)
男「……じゃ、俺も作業始めるかな……」
白衣「………あのさ」
男「っと、なんだ。白衣が俺に話しかけてくるなんて珍しいな」
白衣「………昨日、ありがと」
男「え………?」
白衣「……何その顔。人がお礼してるのに」
男「え、あ、いや、だって……」
男(昨日……?俺は昨日こいつに会ってなんかいない。それどころか……今まで、ロクにこの後輩と会話を交わしていない)
男(だとすると、考えられるのは……)
男「……俺、お前に何したんだっけ」
白衣「はぁ?」
男「い、いやぁ……ちょっと、昨日はいろんなことがあったからさぁ、ついつい忘れちゃって…」
白衣「…………なにそれ」
男「ごめん、ごめん。失礼だとは思うんだが、ちょっと教えてくれないか?」
白衣「……………変なやつ」
白衣「小学校、わかる」
男「ああ。ここのちょっと南東にいったところにある、小学校だろ」
白衣「そこの近くに、自販機あるじゃん」
男「ああ………」
白衣「わたし、そこに500円玉落としちゃって……途方に暮れてたんだけど」
男「……………」
白衣「男が、とって、くれた……」
男「………そうか」
白衣「……本当に覚えてないの?」
男「……悪い」
白衣「…………そっか」
男(なんなんだよ)
男(お前は俺の分身で、俺を殺すために俺を探していて)
男(……それでも、白衣のことは助けようとして)
男(わけ、わかんねぇ)
白衣「……………」
男「………その時の俺、どんな感じだった」
白衣「……優しそうに、微笑んできた……」
男「……何か言われたか」
白衣「………さぁ、言われたかもしれないし、言われなかったかもしれない」
男「…………そっか」
白衣「…………あの"男"は、誰」
男「……俺が知りたいよ」
白衣「…………じゃあ」
白衣「今、ここにいる男は……?」
男「…………………」
男「俺は、俺だ」
バタン
部長「ふっ!遅れて申し訳ない!」
男「………あ、部長ー」
白衣「……………………」
後輩「こんにちはー、先輩。ごめんなさい、掃除とかいろいろしてたら遅くなっちゃって」
男「謝ることはないだろ。俺だってなんやかんやでいつも遅くなるしな」
白衣「……あー、部長。できたよ、大方」
部長「なに!?本当か!?」
白衣「後は微調整と作動チェック、あと実験もしてみたいんだけど……」
部長「なるほどなるほど!それだけならば今週中には終わるだろう……お披露目は、月曜日になりそうかな?」
男「お、ようやくそれが何か教えてくれるんですか?」
後輩「わー楽しみだなー」
部長「ふっふ……後輩くん、そんな棒読みをしていられるのも今の内だぞ。そうと決まれば白衣くん、今夜は私の家に泊まりたまえ!オールナイトで最終チェックだ!」
白衣「はいはい……わかりましたぁー」
後輩「……ありゃ、帰るんですか?」
部長「ここでは設備が少し心許ないのでね、これから先の開発は私の家で行う。明日も学校を休むことになるだろうな」
男「大変っすね。頑張ってください」
男(一体、どんなものが出来上がるのやら……)
男(かくして、部室は後輩と2人きりだ)
男「器は見つかったか?」
後輩「それが、なかなか見つからなくて……候補はたくさんあるんですけどねー」
男「……見せてみてくれ」
後輩「これです」
男(金髪ツインテ、銀髪ロング、茶髪ポニー……)
男(様々な髪をした女の子たちが映し出される)
後輩「どれもよくて、迷ってるんですよ……いっそのこと、全パターンで作りたいんですけどね〜。感情は再現できても、性格の差異の再現が難しいですから………」
男「……だったら、さ」
後輩「はい?」
男「俺に、選ばせてくれないか」
後輩「………?先輩にもこういう趣味が?」
男「まぁ、ないとは言わないけど……」
男(サブカルチャー自体には疎いが)
男(少なくとも、俺は二次キャラに嫌悪感を抱く人間ではない)
後輩「……いいですよー、私一人で悩んでいても、一生決まらないでしょうし」
男「そうか、ありがとう」
男「………なら、この娘とかどうかな」
男(そういって指したのは、メイド服を身にまとった、無表情なキャラクター)
後輩「おっ、先輩はメイド服属性ですかぁ」
男「なっ……!別にそういうわけじゃない!」
後輩「今度連れていってあげましょうか?アキバのメイド喫茶」
男「だから、そんなんじゃないって……!」
男(……本当に、特に深い意味はなかった)
男(ただ、そう……俺という存在を、どこかに遺しておきたかったのかもしれない)
男(こういうのを、死亡フラグ、なんていうんだっけか)
男(……それでも、やはり何か欲しかった)
男(たとえ俺が消えたとしても、俺の存在の証が、目に見える形で残っていて欲しかった)
後輩「……そうですね、私もその娘は結構お気に入りだったんですよ」
後輩「記念すべき第一号は、この娘にしますっ!」
男「おめでとう。ようやく完成に近づくな」
後輩「ええ!先輩が決めてくれたおかげです。ありがとうございます!」
男「ああ……俺も、俺の製作を頑張らないとな」
後輩「先輩のPCが完成したら、そのPCにこのAI1号……『アイちゃん』をダウンロードしてみてください!」
男「キャパオーバーするんじゃないか……」
後輩「しないようにするのが先輩のお仕事です!先輩なら楽勝ですよ!」
男「……そうだな、楽勝、だよな」
後輩「そうですそうですっ!」
男(俺と、"俺"……)
男(どっちが消えても、おそらくは大差のないことなんだろう)
男(分身だろうが、そいつは俺の形をしている以上、俺であることに代わりはないのだから)
男(……それでも、それだとしても)
男(俺は"俺"を認めない)
男(俺の姿形をして、俺と同じ声をして、俺と同じ思想を持っているとしても)
男(後輩が先輩と、白衣が男と、部長が男君と、妹がお兄ちゃんと)
男(……そして、女が恋人と呼んでくれている存在は、紛れもない俺自身なんだから)
男(奪われて、たまるか)
眠いので切ります。
次の投稿でラストです。
見てくれている人レスしてくれている人、ありがとうございます。励みになります
ドッペルゲンガーのこと周りになんで言わないんだ
周りと協力すれば逃げやすいだろうに
>>64
ドッペルゲンガーのことを詳しく相談したところで協力の方法が「そばにいる」くらいしか思いつかず……。
話しても話さなくてもあまり変わらない上に、仮に話したとしてもドッペルゲンガーなんて突拍子もない存在を信じてくれるかどうかもわからないので、誰にも話さないという選択をしました。
いや「そばにいる」以外にも方法はあるだろ!と思う人もいるかもしれませんがまぁ閃きは人それぞれですので……
最後の投下します……
《土曜日》
【家】
男「行ってきまーす」
妹「いってらっしゃーい」
男「お前は休みでいいな」
妹「私はまだ中学生だからねー」
男「受験あんだろ。勉強しろよ」
妹「あーあー聞こえなーい」
男「こいつ……」
【通学路】
女「へぇ、後輩ちゃんすごいね」
男「だろ?部長もガラクタばかり作るとはいえ、工学の知識自体は俺の何倍もあるし、白衣は機械修理に関しちゃ普通に金取れるレベルだしよ……」
女「世間一般で見たら、男くんもだいぶすごい部類だとは思うんだけどね……」
男「才能の世界ってのはそこまで甘くないんだよな。世間一般でどうだろうが、トップレベルの奴らと張り合えなけりゃ意味がない」
女「大変だねぇ、男くんも……」
男「女は、そういうのはないのか?」
女「私は負けたことないからなぁ……」
男「……お前もそっち側の人間か」
【教室】
委員長「おはよう」
眼鏡「………っあー、ねみー……」
男「眼鏡、今日も早いな」
眼鏡「今日日直だからな……」
女「そういうところは、割と律儀だよね眼鏡くん」
委員長「男くんは顔色悪いようだけど、大丈夫かい?」
男「文化祭近いからな。毎日半徹で作業だよ」
委員長「物理部は毎年クオリティが高いからね。去年の男くんの作品、なんだっけ」
男「シューティングゲーム……」
委員長「そうだった、かなり完成度高くて、大盛況だったじゃないか。今回も期待してるよ」
男「……今年はそんなもんとは比較にならないくらいの作品作ってる奴がいるからな」
眼鏡「?」
【4限終了】
【放課後】
【部室】
男「……こんちゃーす」
女「こんにちは〜」
男「って、誰もいない……」
女「部長さんと白衣ちゃんは今日お休みじゃなかったっけ?製作関係で」
男「あ、そうだったな……ま、いいか。弁当食いながら作業するわ。あまり食欲わかないかもしれないけど、いいか?」
女「男くんがいてくれたら、それでいいよ」
男「……あんまそういうこというなって」
女「へへ。だって照れる男くん可愛いんだもん」
男「うっせーよ。ったく……」
ガラガラッ
後輩「こんにちは〜……って、誰もいないか…」
男「……おー、後輩。お前も来たか」
後輩「……………え?」
女「どうしたの?」
後輩「ま、待って、くださいよ、先輩……」
男「………どうした、何があった。いや……お前は、何を見た」
後輩「だって先輩……さっき、急いで教室の方へ戻っていってませんでした?」
男「……………ついに、か」
女「……男くん?」
後輩「何なんですか、いったい、何がどうなって………」
男「あー心配すんな後輩」
後輩「へ、………?」
男「うちのクラスに、俺にソックリな顔のやつが一人いるんだ」
後輩「は、はぁ……?そんな話、聞いたことも…」
男「じっくり見ればわかるんだろうけどな、アイツも急いでたらしいし、チラッと見ただけじゃわからないのも無理はない」
後輩「で、でも確かにあれは!」
男「もし仮にそれが俺だとして、なんで俺はここにいる」
後輩「………………」
男「説明できないなら、それが答えだ」
ガタッ スタスタスタ
後輩「……どこに行くんですか」
男「………ちょっとトイレにな」
後輩「私も行きます」
男「ダメだ」
後輩「何故ですか!」
男「俺は男性で、お前は女性だからだ」
後輩「……………」
男「……すぐ戻るから、待ってろ」
後輩「あっ、先輩!!」
女「後輩ちゃん!」ガシッ
後輩「………っ!」
女「……男くんを、信じよう」
女「男くんは、黙っていることはあっても、嘘だけは絶対につかない」
後輩「………………」
女「男くんがすぐ戻るって言ったなら、それは絶対だよ。男くんは絶対に戻ってきてくれる」
後輩「………………」
女「……だから」
後輩「うっせぇんですよ……」
女「………?」
後輩「うっせぇんですよ!!彼女だからって調子乗りやがって!!」
後輩「女先輩にはわかんないでしょうね!!好きな人が辛い顔をしているのに、ただ黙って見ているしかできない人の気持ちは!!」
後輩「ほんの少し先輩よりも遅く生まれたせいで!!ほんの少し先輩と出会うのが遅かったせいで!!私には側にいる権利すらも与えてはもらえない!!」
後輩「こんなのが納得できるわけありますか!?こんな理不尽に、女先輩だったら耐えられますか!?ねぇ!!」
女「…………わかんないよ、そんなの」
後輩「………っ…」
女「……私は男にちゃんと選んでもらえたし、男からちゃんと抱えてるものを打ち明けてもらった。後輩ちゃんの抱える不安なんて、わかるはずもない」
後輩「………………」
女「でも……これだけは言えるよ」
女「男くんは、君の抱えるそれ以上の不安と重圧に押し潰されそうになりながら戦っている」
後輩「…………!」
女「……自分の不運を喚く前に、することがあるんじゃないの。本当に、男くんのことが好きならさ」
後輩「………ぁ、ぁ…………」
後輩「………ぁぁぁああああああ!!!」
女「男くん……私だって不安なんだよ……」
女「君は……一体何と戦っているの……?」
【走る】
男(………学校を飛び出し、俺はひたすら走り続ける)
【走る】
男(このあとの"俺"の行動はだいたい予測がつく)
男(タイムリミットが今日までだとするなら、なおさらその予測は当たるだろう)
【走る】
男(………妹の、LINE)
男(久しぶりに開くな)
男『今日は部長の家に泊まります。晩御飯いらないから、そこのところヨロ(`・ω・´)スク!』
男(スマホをしまう)
【走る】
男(走る)
男(目指すは、駅)
【個室】
男(………都心の、ネットカフェ)
男(さすがにここまで来たら、やつも追ってくることは出来ないだろう)
男(……と、言いたいところだが)
男(雨風を凌げるような場所で、現在の俺の所持金で行けるところなど限られている)
男(あくまで俺の敵は"俺"だ……だから、なんとかして"俺"を欺かなくてはいけない)
男(部長の家は学校の最寄り駅から一駅離れている)
男(なんとか……時間稼ぎになってくれるといいが……)
男「………ん」
男(後輩から……LINE来てるな)
男「……………」
男(……何を、言われるのだろう)
男(酷く、怯えている自分がいる)
男(全く……情けないな)
男(散々心配かけたんだ。こんなことくらいで一々ビクビクしていてどうする!)
男「………っ!」
後輩『先輩なら、大丈夫です』
男「………………」
男「……は、はは………」
男「そうだよな……大丈夫だよな!敵は……たかだか俺程度のやつだ!」
男「不安がることなんか……何もないか!」
男「はははははは!」
男「…………」
男(相変わらず、この後輩は俺に勇気をくれる)
男(狙っていようといまいと、その存在自体が、俺にとってのエールとなってくれる)
男「……もしも、女と出会っていなければ」
男(なんて)
男「そんな仮定に、意味は無い、か……」
男『ありがとう、後輩』
男「……………今は、11時半……」
男(日付が変わるまで、あと30分)
男(別に日付が変わればドッペルゲンガーが消えてくれる保証なんてないが)
男(少なくとも、俺が寝てしまいさえすれば、もうそれで俺と"俺"が出会うことはない)
男(……だから、少しでも安心したいのだ。さっきから、恐怖と緊張で全く眠くならない)
男「………11時50分……」
男(あと、十分………)
男(たった600秒が、こんなにも長いとは)
男(はやく、はやく、はやく……)
どくん どくん
男「…………11時55分」
どくん どくん どくん
男「………………11時57分」
どくん どくん どくん どくん
男「…………11時、59分………!!」
どくん どくん どくん どくん どくん どくん
男「………………0時、0分、0秒」
男(日付は、変わった)
男(俺は、生きている)
男「………は、はぁぁぁぁ〜………」
男(抱えていた鞄に顔を埋め、安堵の息を吐き出す)
男(張り詰めていた緊張が解け、途端に眠気が俺を襲う)
男(このままこの睡魔に身を任せさえすれば……俺の完全勝利だ)
男「…………」
男(この1週間)
男(普通の家庭に生まれ、普通の家庭で育ち、普通の高校に入り、普通の青春を謳歌する)
男(普通な俺の、普通じゃない1週間)
男(ようやく、それに終止符が打たれる)
男(もう、体はぴくりとも動かない)
男(意識も、ずんずんと奥深くへ沈んでゆく)
男(正直、疲れた)
男(もう休んでもいいだろう……)
男(……これで、俺の……)
カツーン
男「……………!!」
カツーン
男「……………は」
カツーン
男「…………おい、おい」
カツーン
男「ふざ、けるなよ」
カツーン
男「……なんで」
カツーン
男「なんでだよ……」
カツーン
男「なんでなんだよぉぉっ……!」
……………
男「ひぃっ………」
ガラガラガラガラ……
男「あ…………あ……………」
「………やっと」
男「やっと、見つけた」ニンマリ
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
《日曜日》
【個室】
男「………ん?」
男(目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋にいた)
男「……どこだ、ここ……」
男(あたりを見渡し、ここがどこなのかを探る)
男「……デスクトップのPC、着たままの制服、ふかふかのマッサージチェア……」
男「……ネカフェ?」
男(机の上に、領収書らしきものを発見する)
男「……ネットカフェ、ポポイ……なるほど、確かにここはネットカフェで合っているようだけど」
男(そこで浮かぶ一つの疑問……)
男「……俺はなんで、ネットカフェなんかにいるんだ?」
【電車】
ガタン ゴトン
男(俺は、ここ一週間の記憶が曖昧だ)
男(自分が何をして、誰と話し、何を学んだか、そういった漠然としたものは覚えている)
男(……でも、それだけ)
男(この一週間の感情が欠落している……といえばわかりやすいだろうか)
男(俺の覚えている記憶には、俺の"感情"がない)
男(女に慰められた記憶はある。でも何で俺がおちこんでいたのか、という記憶はない)
男(後輩に勇気づけられた記憶はある。でも後輩からもらった勇気で、俺が何を為そうとしていたのか、という記憶はない)
男(探ってみると、ネカフェに行った記憶も、ちゃんとあった)
男(……でも、なぜ俺がネカフェに行ったのか。その理由は、全くわからない)
男(………そう、まるで)
男(この一週間の記憶を、後から無理やり植え付けられたみたいに……)
男(……でもただ一つだけ、覚えていることがある)
男(灰色の記憶の中で、一つだけ異彩を放つその記憶)
男(俺は、確かに何かを探していた)
男(それを見つけないと、大変なことになってしまうということは、覚えている)
男(だけど、その何かは、残念ながら思い出せない)
男(それを俺は見つけることが出来たのか)
男(それすらも、わからない)
男(電車は進む)
男(決められた道に沿って進んでゆく)
男(おそらく、俺も同じはずなのだろう)
男(定められた運命というものに従って、俺という存在は突き動かされゆく)
男(それでも、線路が全く見えない恐怖というものは)
男(先の読めない不安というものは)
男(耐え難いものがあった)
男(それでも俺は進んでゆく)
男(与えられたレールに沿って進んでゆく)
男(この失った一週間についても、いずれわかる日が来るのかもしれない)
男(……ならば、その時まで待つことにしよう)
男(今は、疲れた)
男(……考えるのは、もう、やめだ―――)
男「……………ん」
男(着信……この番号は、家か?)
男(母さんか、妹か……どうしたんだろう、もしかして俺はネカフェに泊まることを伝えていなかったのかな……?)
男「もしもし……妹か?」
妹『お兄ちゃん!?聞いて!大変なの!』
男「どうしたそんな血相変えて……」
妹『あのね………!!』
男「………女が、死んだ?」
男(そう)
男(俺たちは、与えられたレールに沿ってしか、進むことはできない)
男(与えられた、運命からは)
男(決して、逃れる事は出来ない)
男(この不条理な世界は、そういうふうにできている)
終
いろいろとあやふやですが終わりです
ドッペルゲンガーの正体や、今後の展開などは今お前らが想像していることでほぼ合ってます
ホラーssなのにあまり不気味さが足りなかったかも知れませんがそこはご愛敬…
ここまで見てくれた人はありがとうございました。
>>99 え、ごめんやっぱわかりにくいか
解説というか、自分の中の構想をいうが
・ドッペルゲンガーは日曜日に死ぬことになる女を助けるため過去へ戻った男自身
・男をのっとったドッペルゲンガーは、ドッペルゲンガーの記憶を失い過去の自分と融合
それとなく仄めかしたつもりだが無理があったかごめんなさい
このSSまとめへのコメント
雑すぎる