救急隊員「急患だと!? 救急車出撃ィィィィィ!!!」(25)

<救急病院>

同僚「おーい、近くの町で急患が出たらしい! 男性がブッ倒れてるんだとよ!」

救急隊員「急患だと!? 救急車出撃ィィィィィ!!!」

同僚「おいおい、そう焦んな。最近はイタズラ通報も多いんだからよ」

同僚「ま、リラックスしてのんびり安全運転で行こうや」

救急隊員「バカヤロウ! いかなる時も全速で出撃すんのが救急車の心意気ってもんだ!」

救急隊員「エンジン始動!」キュルルル…

救急隊員「アクセル全開ィ!!!」グンッ

救急隊員「いざ発車ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

ブロロロロロロ……!





同僚「あのバカ……俺たちを乗せないで行っちまいやがった」

ブロロロロ……!

救急隊員「飛ばすぜ、飛ばすぜ、飛ばすぜェェェェェ!!!」

救急隊員「――ん」

救急隊員(ったく、危ねェな。今日は一般車どもがどきやがらねェ……どうなってやがる)

救急隊員(あ、そういやサイレン鳴らすの忘れてた)

救急隊員(ついでにいうと俺の愛車はサイレンブッ壊れてたっけ!)

救急隊員「じゃ、いつものように窓を開けて――」ウイーン

救急隊員「大きく息を吸って……」スゥゥ…

救急隊員「ピィィィィポォォォォォォ!!!」

救急隊員「ピィィィィィィポォォォォォォォォ!!!」

救急隊員「ピィィィィィィィィプォォォォォォォォォ!!!」

運転手A「おっ、この声はアイツか」スイッ



運転手B「救急車だ、道をゆずらないとな」スイッ



運転手C「いつも思うけど、本物のサイレンより声がデカイってどういうことなんだ……」スイッ

ブロロロロロロ……!

救急隊員「よしよし、ちゃんと道ができやがったぜ」

救急隊員「まるでモーセが起こした奇跡みたくなってやがる」

救急隊員「ピィィィィィッポォォォォォォォォォォウ!!!!!」ギャルルッ



ブロロロロロロロロ……!

ブロロロロロロ……!

救急隊員「あん? おめえらは――」



暴走族A「チィッス!」

暴走族B「お久しぶりっす!」

暴走族C「相変わらずの暴走っぷりっすね!」



救急隊員「バカヤロウ、これは暴走じゃねェよ! 人助けだ!」

暴走族A「しっかし信じられないっすよ、アンタが元ゾクでも元ヤンでもないなんて」

暴走族A「もしアンタがゾクだったら、伝説の一つや二つ作ってたでしょうに」



救急隊員「へっ、俺ァガキの頃から将来は救急車の運転手になるって決めてたんだ!」

救急隊員「ゾクなんつうもんに入る余裕なんざなかったよ!」

救急隊員「事故って俺の仕事増やすんじゃねェぞ、クソガキども! んじゃな!」

ブロロロロロ……!



暴走族A「……かっこいい」

暴走族B「真の漢ってのは、きっとああいう人のことをいうんだろうな」

暴走族C「ああ、そうに違いないぜ」

<現場>

患者「う、ううう……」ハァハァ…

レーサー「しっかりして下さい! 先ほど救急車を呼びましたから!」

作曲家「この方の生命のリズムがどんどん弱まっています……ダメそうですね」

青年「いいなぁ……死ねるなんて羨ましいなぁ……」



ちなみにこの四人、全くの赤の他人である。

ギャリリリィ!!!

救急隊員「着いたぜ! 患者はどいつだ!」ガチャッ



患者「息が……苦しい……」ハァハァ…

レーサー「来て下さいましたか!」

作曲家「おおっ、荒々しいリズムで登場しましたね」

青年「あーあ、どうせ助けられっこないのに、わざわざ来ちゃって……」



救急隊員「ええい、めんどくせえ! 全員車に乗りやがれ!」

救急隊員「おめぇら、ブッ飛ばすから舌噛むんじゃねェぞ!」

救急隊員「ピィィィィィポォォォォォォォォ!!!」

救急隊員「ピィィィィィィィィポォォォォォォォォ!!!」

ブロロロロロロ……!




青年「うわぁっ! 速すぎじゃないですか!?」ガクンッ

作曲家「うおおおおお!? なんという独特のテンポ!」ヨロッ

レーサー「このド迫力……! ボクのF1マシンにも負けちゃいない……!」

患者「いてっ」ゴンッ

救急隊員「ピィィィィィポォォォォォォォォ!!!」

救急隊員「ピィィィィィィィィポォォォォォォォォ!!!」



作曲家(おおお……この旋律……! この猛々しさ……! こ、これだ……!)

作曲家(私は長らく活動を停止していたが、ようやく新曲を作ることができそうだ!)

作曲家(ありがとう運転手さん! おかげでスランプを脱しましたよ!)



患者「あだっ」ガンッ

救急隊員「ピィィィィィィポォォォォォォォ!!!」ギャルルッ



レーサー(ふむ……粗削りだが、すさまじいテクニックだ……!)

レーサー(今度のグランプリ、やはり世界には勝てないとすでに諦めていたが……)

レーサー(ボクのテクニックにこの人のテクニックを取り入れれば、優勝も夢ではない……!)



患者「あうっ」ガツッ

救急隊員「ピィィィィィィィィィィポォォォォォォォォォォォウ!!!」ブォンブォンブォン



青年「ひぃぃぃぃぃっ! スピードメーター振り切れてるじゃないかぁ!」

青年「こんな怖い目にあったのは生まれて初めてだぁぁぁぁぁ!」

青年「世の中は下らないって決めつけて、冷めたことばかりいってごめんなさい!」

青年「もう死にたいなんていいません! だから降ろしてぇぇぇ!」



患者「きゃんっ」ゴッ

<救急病院>

ギャルルルゥ!

救急隊員「到着ゥ!」ガチャッ



同僚「相変わらず早いな! 往復で5分かかってねえぞ! ――で、患者は?」



救急隊員「めんどくせェから、通報現場にいた奴らを全員乗せてきた!」

同僚「ったく、しょうがねーなぁ……」

患者「全身あちこちぶつけてたら、打ちどころが良すぎて、すっかり回復しました!」シャキーン

作曲家「おおお……新しいメロディが次々に生まれてくる……!」パァァ…

レーサー「今度のグランプリ、必ず優勝してみせます!」ビシッ

青年「ボクは生きてる……! 生きてるってなんて素晴らしいんだ!」ジーン…



同僚「みんな元気じゃないか。やっぱりイタズラだったのか」



救急隊員「イタズラでよかったぜ……。急患なんてのは、いねぇに越したことねぇからな」







― おわり ―

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