佐藤心「グングニル」 (19)
・P視点
・地の文あり
・BUMP OF CHICKENの同名曲とのクロスSS
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「これ、一緒に出ようよ!はぁと達ならいけるって!」
喫茶店で遅めの昼食をとっていると、こんな声が聞こえてきた。
声のした方にちらっと眼を向けると、どうやら隣の席で三人の女性が話しているようだった。
テーブルには1週間後に開催されるコンテストのチラシが置かれている。
「これ」とは、つまりそのコンテストのことなんだろう。
「コンテストに出る!優勝する!事務所の目に留まる!デビューする!やーん完璧☆」
「心ちゃん・・・それさすがに出来過ぎだから・・・」
「そうそう、それに前も言ったでしょ?あたしたちはもうアイドルを辞めたんだって」
「でも・・・!」
「あの時も続けようって言ってくれてたのは心だった。それを押し切る形になったのは悪いと思ってる。でも、もう、無理なんだよ・・・」
「・・・」
「・・・そっか」
しばしの間沈黙が流れた後、ツインテールの女性が口を開いた。
「分かった、じゃあこのコンテストははぁと一人で出る!」
「「えっ!?」」
「だって二人の気持ちを無視するわけにはいかないし・・・」
「い、いやでも、衣装は!?三人のはもう処分したよね?」
「今から作る!」
「間に合うの?」
「はぁとが本気出せばちょちょいのちょいよ☆」
「そっか・・・分かった、応援してるね、心ちゃん」
「ありがと☆二人の分も頑張るね!」
そう言うと彼女は席を立ち、帰っていった。
残された二人は、しばらく無言のままだったが、唐突に片方が話を切り出した。
「心ちゃんのこと、どう思う・・・?」
「んー、さすがにちょっと夢見すぎかなーって感じもするかな」
「だよね、昔からあんな感じだったとはいえ」
「なんか気合入っちゃってるのかな。優勝できるかもわからないし、そもそも優勝したって本当にデビューできるとは限らないのに」
「そうだよねー・・・あ、私たちもそろそろ帰ろっか」
「ああ、そうだね」
話を終えた二人は席を立ち、ゆっくりと店を出て行った。
「ふぅ・・・」
思わぬ形で人の話を盗み聞いてしまった上、なんとも複雑な気持ちになってしまった。
最後に二人がツインテールの女性を否定したのは・・・特に悪意などないのだろう。
ツインテールの女性が成功するということは、過去の諦めた自分を否定することにつながる。
それを無意識に避けるがゆえに、ああいう意見になってしまったことは理解できる。
それは分かる、分かるが。
「容易く人一人を値踏みしやがって・・・」
そうつぶやかざるを得なかった。
―――――――――
――――――
―――
コンテスト当日。
会場の入り口に、喫茶店で見た三人が居た。
「衣装は完成したの?」
「うん、ばっちりだぞ☆ほら!」
そう言いながら、衣装を取り出し広げて見せる。
黄色を基調にした、ポップはデザインの衣装。
背中側から見えているのは・・・羽?
なんにせよ、一週間で作ったというのなら十分な出来だろう。
「わ~、すごいねぇ」
「まぁこれもスウィーテイー女子力ってやつよ☆」
そんなことを言いながら、二人は他愛のない話を続けている。
もう一人は口に手を当ててずっと黙ったままだ。
「あっと、もうそろそろ時間じゃん☆それじゃあ行くね☆」
そう言うと彼女は荷物をまとめ、二人に手を振って参加者・関係者用の入り口に向き、右手を振り上げる。
「よーっし☆いっくぞー!!」
気合を入れて歩き出そうとする。
そのとき、黙っていた彼女が口を開いた。
「ねぇ心、ほんとにコンテストに出るの?」
歩き始めていた彼女が、ピタッと足を止める。
「・・・そりゃ、そのためにここに来たんだから☆」
「それはそうだけど・・・」
伏し目がちに話し始めていたが、迷いを振り切るように頭を少し振って、まっすぐ、相手の背中を見て話し始めた。
「このコンテストに出ても、優勝できるとは限らない。
優勝しても、デビューできるとは限らない。
デビュー出来ても、続けられるとは限らない。
前に心が言っていた道なんて、本当に狭い道でしかない」
一呼吸置き、さらに続ける。
「今ならまだ、ちょっと遅くなったとはいえ、普通の生活も出来る。
でも、これ以上アイドルを続けると、いよいよ間に合わなくなるよ。
それでも、まだ続けるの?今も未来も不安定なアイドルを」
ここまで言い切り、彼女は返事を待つ。
「・・・それでも」
背中を向けたまま一言そう呟き、そして振り返る。
「それでも続ける。だってアイドルははぁとの夢だから!」
はっきりと言い切った彼女の目には、強い意志が込められていた。
いくら目の前に壁が立ちはだかっても、夢を終わらせないという意志が。
―――――――――
――――――
―――
「さてみなさんお待たせいたしました!ただいまより、346プロ協賛、長野アイドルコンテストの開幕です!」
コンテストが始まった。
観客席には空席がそこそこあるが、まぁそこまで大きなコンテストでもないから仕方ない。
先ほどの彼女たちがどこに居るか、観客席を見渡してみたが・・・さすがにそう簡単には見つからない。
そうこうしている間にコンテストの趣旨説明も終わり、いよいよ始まる様だ。今はそちらに集中しよう。
「エントリーナンバー一番、佐藤心さんです、どうぞ!」
「はぁ~い♪みんなー!アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆」
トップバッターで出てきたのは、先ほどの彼女だった。
アイドルではよくある自己紹介ではあるが、トップバッターというのが痛いか。観客席の反応が薄い。
「・・・あれぇ、おかしいなぁー?反応が聞こえないぞ?もう一回、アナタのはぁとを・・・」
「すみません、曲の方をお願いします」
「えっ?あ、はい・・・ええと、『メルヘンデビュー!』です!よろしく☆」
『メルヘンデビュー!』・・・346プロで活躍中のアイドル、安部菜々の持ち歌だ。
電波気味ではあるが、盛り上がれるアイドルソングとして知名度もある。
ただ、客層や空気に上手くマッチしないと。
「そのとき空から、不思議な光が降りてきたのです・・・」
ただの空回りになってしまう。
「いち!に!ナナー!」
曲は中盤に差し掛かっているが、やはり合いの手は聞こえない。
彼女もパフォーマンスでなんとか盛り上げようとはしているが、効果は芳しくない。
そして、そのせいで普段以上に体力も削られているだろう。
歌や踊りが途切れるようなことがあれば、優勝は絶望的だ。
今の状況は、まさに崖っぷちに立たされていると言える。
しかし、それでも。
「ウサミンハートに☆」
手でマイクを握りしめて。
「キュンキュンきらめく☆」
体で大きく踊って。
「ホントの気持ち☆」
顔は楽しそうに笑って。
「キャハッ!乙女のヒミツだよ ブイッ☆」
目は強い意志を輝かせて。
「大事な大事なときめきだモン☆」
彼女はまだ、歌い続ける。
「もういっかい?もういっかい☆」
最後のサビに入ったとき、何か聞こえた。
「ウサミンパワーで☆」
「・・・パワーで」
合いの手が、聞こえた。
「メルヘンチェンジ☆」
「メルヘンチェンジ」
はっきりと、聞こえた。
「みんな大好き 好き好き大好き☆」
「「「うー どっかーん!!!」」」
割れんばかりの声が、聞こえた。
観客席を見る。
誰もが合いの手を入れている。手を振っている。
ステージの、アイドルに向けて。
そしてそのアイドルは・・・。
「「「「ミンミンミン! ミンミンミン! ウーサミン!!」」」」
光輝くステージの上で、負けないくらいに輝いていた。
―――――――――
――――――
―――
「・・・サー。プロデューサー!」
ハッと気が付くと、目の前には彼女・・・佐藤心が立っていた。
「起こしちゃった?でも用事があるって言われてきたから、それ聞かなきゃなーって思って☆」
「ああ、大丈夫。ちょっと昔を思い出してただけだから」
「昔・・・?」
「ほら、デビューのきっかけとなったあのコンテスト」
あぁ、と声を出し、そして目を閉じる心。
コンテストで優勝した心は346プロからアイドルデビューした。
担当プロデューサーには当時審査員をしていた自分が付き、以降二人三脚でこれまでやってきた。
「懐かしい・・・でもなんでまた?」
「このファンレターを見て、ね」
そう言って手に持っていた封筒と手紙を差し出す。
「心の、第一のファンからだよ」
第一のファン?と首をかしげながら封筒に目を落とす心。
差出人のところを読んだ瞬間、あっと声を出した。
そこには、デビュー前に心とユニットを組んでいた二人の名前があった。
手紙には、
「コンテストで輝く心を見て、自分たちも歌を歌う夢を追い続けたくなったこと」
「アイドルではなく、二人組の歌手として、活動をしていたこと」
「最近ようやくある事務所に雇ってもらえたので、その報告とお礼を言うために手紙を書いたこと」
が書かれていた。
読み終えた手紙を胸に抱き、心はこう呟いた。
「二人も、頑張ってるんだ・・・」
「みたいだな」
「・・・よーし!はぁとも負けないように頑張らなくっちゃ☆」
「ああ、その意気だ」
「じゃあそのためにも今日は帰るね!しっかり休んで明日から頑張る☆」
「おう・・・ってちょっと待った。まだ用事が済んでない」
「あ、忘れてた」
てへぺろ、と言いながら戻ってくる心。
「それで、用事ってなんだったの?」
「ああ、総選挙の中間結果が発表されてな。結果は・・・」
―――船は今 嵐の真ん中で
―――世界の神ですら
―――「彼女を」救う権利を欲しがるのに
おわり
以上、アイドルマスターシンデレラガールズSSでした。
最初に書いておけばよかった・・・。
それはさておき
元々グングニルってシュガハさんに合うんじゃねえかなーと思っていたんですが
中間結果がタイプ別5位っていうのを見た瞬間、今嵐の真ん中じゃん!と思い立ち、
初心者にも関わらず居てもたってもいられずに書いてしまいました。
拙文だとは思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
そして総選挙、「佐藤心」に一票を投じていただければ、もうこれ以上の幸せはありません。
どうか、よろしくお願いします。
では、HTML依頼出してきます。
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