魔王城 王座の間の前
勇者「いよいよ魔王との戦いだな」
戦士「おう」
魔法使い「……もう魔王を倒すの、諦めよう?」
勇者「魔法使いちゃん?」
魔法使い「ムリだよ、もうムリ」
戦士「おい、やめろ。それ以上言うな」
魔法使い「こんな状態で勝てるわけないじゃないか」
勇者「……。」
魔法使い「戦士くんはさっきの戦いで、肩を切り裂かれて剣を握るのもやっと」
魔法使い「僧侶ちゃんだってもうほとんど回復魔法も打てない」
魔法使い「私なんかもう、炎をひとつ出せたら上出来なぐらいだよ」
僧侶「魔法使いちゃん……」
魔法使い「こんなんじゃあ、もう魔王に勝てっこないじゃない……」グスッ
>魔法使いは泣き崩れた。
とある農村
村人「おいおいおい、そんなに塞ぎ込んでちゃあいけねえぜ」
村娘「……」
村人「そんなに暗い顔してちゃあ治る病気も治らなくなっちまう。美人も台無しだ」
村娘「……」
村人「こんな日は、外でも見て元気をだそうぜ?」
>村人は窓を開けた。
村娘「やめて」
村人「へ?」
村娘「私、外を見たくないの」
村娘「窓から見えるところに木があるでしょう?」
村人「ああ、うん。春には綺麗な桃色の花をつける木だよね」
村娘「あの木、日に日に葉っぱが減っていってるのよ」
村人「そりゃあ、秋だもの」
村娘「私が病気にかかった頃には青々としていたの」
村娘「でも少ししたら茶色く元気がなって、今じゃあもう数えるぐらいにしか葉っぱは残ってない」
村娘「これって、私みたいじゃない?」
村人「考えすぎだよ」
村娘「ええ、もちろん馬鹿馬鹿しいと思っているわよ。あの木と私の体には何も関係ない」
村人「それなら」
村娘「それでも、なのよ」
村娘「それでも、カラカラになって落ちていく葉っぱを見ていると、弱っていく私自身と重ね合わずにはいられないのよ」
村人「ダメだよ、そんなんじゃあダメだ」
村娘「うん。ダメね。もう私はダメなのよ」
村人「……」
村娘「そんなに悲しい顔をしないで。あなたの悲しい顔を見ていると私もつらいのよ」
>村人は窓を閉じた
村人「ごめん、ちょっと出かけてくるよ」
村娘「……ねえ」
村人「なんだい」
村娘「近くの壁に葉っぱの絵を描いて、葉っぱは落ちないから元気を出せ、なんてことを言わないでよね」
村人「……」
村娘「あなた、絵が下手なんだからすぐにわかっちゃうわよ」
村人「それなら」
村娘「それなら?」
村人「どうしたらいんだよ? 君に死んでほしくないんだよ」
村娘「……」
>村娘はただ悲しそうな顔をしている。
村娘「せめて、ずっとそばにいてちょうだい? それだけで私は幸せよ」
村人「……うん、俺も君がずっとそばにいてくれたなら幸せだ」
村娘「意地悪ね」
村人「君ほどじゃないよ」
>ただ静かな秋の時間が過ぎていく…
-とある戦場-
兵士「隊長、突撃の許可を!」
兵士「女騎士殿はわれわれ、雑兵のために命をかけて魔王軍に切り込み、退却するための突破口を開いてくれました」
兵士「そんな彼女が敵陣に取り残されて囲まれているのです」
兵士「私たち有志100人に、救出のための突撃許可をください!」
隊長「ならん」
兵士「我々の恩人が囲まれているのですよ!?」
隊長「だめだ」
兵士「私たちを救出しようとしたせいで、彼女が危機に陥ってるのです」
隊長「知っている」
兵士「ならば、救出するのが我らの義務なのでは」
隊長「我々は、彼女に報いるために生き延びねばならぬ」
兵士「……隊長、あなたは自分の命が惜しいだけなのでは」
隊長「なんとでもいえ。俺だってな…」
>隊長は苦々しそうに咳払いした
隊長「とにかく、命令に従ってもらうぞ」
>女騎士は敵陣で孤軍奮闘している
>ゴブリンが背後から斬りかかる。
>女騎士は左手を切り裂かれてしまった。
>女騎士は、右手一本でなんとか応戦しているが苦しそうだ
>隊長は歯を強く噛み締め、剣を握る手に力をこめた
兵士(ああ、隊長どのもすぐにでも助けに行きたいんだ)
兵士(それでも、彼女の意思を無駄にしないように一人でも多くの命を救おうとしている)
兵士(女騎士殿一人で我ら1000人を救うことができたというのに)
兵士(我々は、彼女一人を救うことができない)
兵士(なんて無力なのだろう……)
-とある洞窟-
盗賊「ああ、俺はなんて最低なやつなんだろう」
盗賊「あんなことをするだなんて、俺には悪魔がついていたとしか思えない!」
盗賊「結婚するんだって言って幸せに言ってた姉貴」
盗賊「盗賊なんかに堕ちた俺とは違って、真面目に生きてきた姉貴」
盗賊「クズみてえな俺にも優しく接してくれる姉貴」
盗賊「そんな姉貴に」
盗賊「ムラムラきて、アレした後に姉貴をつい殺しちまうなんて」
盗賊「俺は正気じゃなかったんだ」
盗賊「そうだ、悪魔が憑いてたんだ」
盗賊「俺は悪くない。正気ならあんなことしねえ」
盗賊「俺は悪くねえ。俺は正しくていいやつなんだよ」
盗賊「親父を殺したクリスマスのときだってそうだ」
盗賊「友人をぶっ殺したいからナイフ買ってくれって言ったら」
盗賊「親父の野郎、ふざけんなって怒りやがった」
盗賊「そのくせ、ナイフ買えるお金でケーキなんざ買ってたから」
盗賊「つい悪魔に気を許して、親父をメッタ刺しにしちまったんだ」
盗賊「姉貴泣いてたっけなあ。あれはかわいそうだった」
盗賊「俺だってバレなくてよかったわ」
盗賊「本当、俺は悪くないんだけど」
盗賊「なんかカッてなって、ヤッちまうんだよな」
盗賊「本当、自分で自分が怖いわ」
盗賊「俺は死のう」
盗賊「俺が悪いやつになりそうで耐えられない」
盗賊「首吊って、楽になろう」
-とある街道沿いの河原-
商人「どうしよう」
>女商人は川に石を投げた
>石はトプンと音を立てて水に沈んだ
商人「お金、全部とられちゃった」
商人「強盗ってなにさ。ひどくない?」
商人「おかげで、元手のお金全部取られて借金だけ残っちゃった」
商人「馬車を修理したばっかだからお金なんてないよ」
商人「あー詰んだー」
商人「お金、なくなったらどうなんのかなあ」
商人「やっぱり売られんのかなあ」
商人「私の美貌、豊満な体が豚みたいな男に貪られちゃうのかあ。やだなあ」
商人「いやん」
商人「……いや、言うほど美人でもないし体は貧相だけど」
商人「だれが貧相やねん」
商人「……あー、きっついなあ」
商人「つらいなあ」
商人「もう何も考えたくないや」
商人「とりあえず、今日は空見て過ごそ」
~♪ ~♪
商人「ん、この三味線の音はなんだろう」
ハァー ドッコイショードッコイショ!
ドッコォイショー ドッコイショ!
ソーランソーラン!
商人「空から何かがこっちに向かってくる」
ヤアアアアアアアレン
ソーラン ソーラン
ソーラン ソーラン ソーラン
村人「なんだろ?」
>村人は窓を開けた
( ゜A ゜)< ハイッハイッ!
村人「なんだあれ。人が踊りながら空を飛んでるぞ」
村娘「なにそれ。」
兵士「空を見ろ!あれは何だ!」
「鳥か!」
「飛行機か!」
「いや あれは」
隊長「ソーラン節だ!」
声を嗄れよと 歌声あげて
腕もちぎれよ 舞姿 チョイ
ヤサァ エェンヤァアアアアアアア……
兵士「踊り子の一団が、加速しながら魔物に向かっていく……だと……!?」
サーノ ドッコイッショオオオオオオオオ
ドゴオオオオオオオオ!
兵士「時速100kmで移動しながらソーラン節を踊る一個師団が敵陣に突撃したぞおおおおおおおおおおおおお」
「ハッピだけしか着ていないのに、武装したモンスターを弾き飛ばしていく!」
「ゴブリンだろうとオークだろうと関係ないぞ!」
「奴らのソーラン節は止められない!」
隊長「全軍、遅れるな! 続けええええええええ」
ハァー ドッコイショードッコイショ!
ドッコイショードッコイショ!
アァー ソーランソーラン!
ソーラン ソーラン!
ハァー ドッコイショードッコイショ!
ドッコイショードッコイショ!
アァー ソーランソーラン!
ソーラン ソーラン!
魔物の軍団が大きくどよめいた
ゴブリンもハーピーもオークも、全ての魔物が大きく動揺している。
その理由がわからないのは、先ほどまで剣を交わしていた隊長らしき赤オークと女騎士のみ。
原因を探ろうと五感を研ぎ澄ませた女騎士の耳に聞こえたフレーズは、
ハァードッコイショー ドッコイショ
女騎士は耳を疑った。なぜソーラン節が聞こえるのだ。
ついに私は気がおかしくなったのか……。
赤オーク「ソーラン節、ダト…!?」
どうやら赤オークにも聞こえていたらしい。
その直後、赤オークは時速120kmで移動する一団に撥ねられ吹き飛んで死んだ。
嵐のようなソーランが過ぎた後に兵士らの隊長がやってきて、女騎士はわけのわからないままに救出された。
女騎士「なんだ! なんなのだ、これは!?」
ほんとなんだこれ
>村人は口をポカンと開けながらソーラン節を踊る一団を見ている
捻じりハチマキ 長バンテンよ
踊れ踊れと ソーラン節よ
ヤサア、エエンヤアアアアアアアアアア
ハァーのドッコイショー
彼らはソーラン節を踊りながら時速100kmで過ぎ去った。
村人「なんだあれ……千人はいたぜ」
村娘「……」
村人「村娘、どうしかした?」
村娘「今ので葉っぱ、全部散っちゃった」
村人「あっ……」
村娘「なんで辛そうに顔をふせてるのよ」
村娘「私は生きてるじゃない」
村人「……!」
村娘「あそこまでバカなもの見てると、私もバカになった気がしちゃってね。葉っぱなんてどうでもよくなっちゃった」
村人「ありがとう……」
>村人はおいおいと泣き出した
村娘「そんな、お礼をいわれることじゃないよ」
村人「それでも、ありがとう……」
>村娘は少し照れくさそうにしている
村娘「桜の花、一緒に見ようね」
村人(ソーラン節、ありがとう。)
オラが多喜雄の ソーラン節は
今じゃ北海道の 南中節よ
ヤサァ エエンヤアアアアアアア
ハァー の ドッコイショー
商人「なにこれ、行列が終わらないんだけど」
商人「もうずっと人が途切れない……。何人いるんだ」
ギャアアア!
>商人は叫び声を耳にした。
商人「あれはなんだろう…」
>商人は叫び声のする方、行列の末尾の方を見た。
鎧の男「ぐあああああああああああ」ズガガガガガガガガ
商人「たいへんだ! ソーラン節の踊り子に男が引きずられている!」
商人「鎧のマントがひっかかったんだ!」
商人「人が引きずられているのにソーラン節をやめないなんて、クレイジーすぎるよ!」
鎧の男「ぐあああああああああああ」チャキ
商人「男が引きずられながら剣を引き抜いた!?」
スパン
商人「おお! ひっかかっているマントを切り裂いた! これで男は自由だ!」
商人「ソーラン節から解放された男がドドドドドと音を立てながら、川の方に転がっていく」
ドッパーン!
商人「そのまま男が、水しぶきを盛大に舞い上げながら川に叩きつけられたぁ!」
商人(……実況するのちょっと楽しいかも)
ビタッ ビタッ
商人「巻き上げられた水しぶきが全て落ちてきて、」
鎧男「ぷはぁ!」
商人「そして、あの男の人が浮かんできた!」
(´・ω・`)プカー
(( (´・ω・`)ドンブラコ ドンブラコ
商人「あれ、あの男の人浮かんだまま流されてない?」
ドンブラコ ドンブラコ >
商人「やべっ」
女商人は人命を救助すべく川に飛び込んだ。
鎧を脱いだ男「重たい鎧を脱ぐまでは出来たんだけど」
鎧を脱いだ男「俺、カナヅチで泳げなくてさあ。浮かんだままながされちゃった」
鎧を脱いだ男「海まで流されるところだったよ、あっはっは」
商人「ゼェゼェ……わ、笑い事じゃないです……」
鎧を脱いだ男「あっはっは、ごめんね」
商人「私が泳ぎ得意じゃなかったら、あなた死んでましたよ」ゼェ…ゼェ…
鎧を脱いだ男「いやあ、本当に君がいてくれてラッキーだった。ありがとう」
鎧を脱いだ男「お礼しなくちゃいけないね。ちょっと前まで勇者やってたから、それなりに礼はできると思うよ」
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