男「テストかったるいから、もう一つの人格に頼もう!」 (26)

学校――

男(テストかぁ……かったるいな)

男(勉強なんて全然してないし、きっとひどい点数を取るに違いない)

男(だからこういう時は――もう一つの人格に頼もう!)

男(お~い、俺の代わりにテスト受けてくれ!)

男『任せとけ!』

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教師「よくやったな! 95点、学年トップだぞ!」

男「あ、ありがとうございます」



「すげぇ~」 「今回のテスト難しかったのに……」 「やるなぁ!」



男(俺のもう一つの人格は優秀だなぁ……ホント助かるよ)

校庭――

同級生A「次、お前の打席だぞ!」

同級生B「ツーアウト満塁だぞ! 絶対打ってくれよな!」

男「わ、分かってるよ」

男(なんでこんなチャンスに、俺に打席が回ってくるんだよぉ……)

男(お~い、俺の代わりに打席に立ってくれ!)

男『任せとけ!』

カキィンッ!



同級生A「やったーっ! 抜けたぁーっ!」

同級生B「回れ、回れーっ! 逆転だぁーっ!」



男(どうやらヒットを打ってくれたみたいだ。運動神経も抜群なんだよなぁ……)タッタッタ

道ばた――

ドンッ!

チンピラ「おいコラ、痛えじゃねえか」

男「あ……どうも、すみません」

チンピラ「すみませんじゃねえだろ? 金出せコラァ!」グイッ

男「ひいっ……!」

男(助けてくれーっ! 俺のもう一つの人格!)

男『任せとけ!』

ドゴッ! ドガッ! バキィッ!



チンピラ「は、はひぃ……すみませんでした、すみませんでしたぁっ!」

男「!」ハッ

男(ボコボコになったチンピラが土下座して謝ってる……さすが、もう一つの人格)

男(好きな子ができちゃったけど、告白する勇気がない……)

男(ていうか、フラれるのも怖い……)

男(だから頼む! 俺の代わりにあの子に告白してくれっ!)

男『任せとけ!』

女「今日はデートを楽しみましょ!」

男「う、うん」

男(……気づいたら、この子が彼女になっていた)

男(デート中にボロを出したくないから、また人格チェンジしなきゃいけないけど)



男(思えば俺は、物心ついた頃から、困ったらすぐもう一つの人格に頼っていた……)

男(勉強も、スポーツも、ケンカも、恋愛でさえ……なにもかも……)

男(なぁ……)

男『ん?』

男(お前はいつも主人格である俺に、いいように使われてるけど――)

男(本当にこれでいいのか? このままでいいのか?)

男『もちろんだとも! だってオレはそのために生まれたんだからな!』

男(……)

男(だけど悔しくないのか? お前の手柄は全部俺に取られてるんだぞ?)

男『別に?』

男(もし、お前が望むんなら、俺はお前にこの体を明け渡したっていいんだ)

男『オレはあくまで“もう一つの人格”だ』

男『お前の体を乗っ取る気はねえし、また、乗っ取ることもできねえよ』

男(そうか……)

男(もう一つの人格……なんていい奴なんだろう)

男(あれだけ優秀なのに、いつも俺を立ててくれる)

男(だけど、いい加減、このままじゃいけない気がしてきた!)

男(どんなに失敗してもいい、恥をかいてもいいから、自分の力で生きないと――)



ブロロロロ……!



「トラックが歩道に突っ込むぞ!」 「酔っ払い運転か!?」 「あ、危ないっ!」

男「!」ハッ

男(俺の目前に……トラック!?)

男(いつもなら別人格にチェンジして、トラックから素早く身をかわす場面だけど――)

男(自分の力で解決しないとッ!)



ドガッシャァァァァァンッ!

……

……

男(結論からいうと――)

男(俺は素手でトラックを殴り倒した挙げ句、中の運転手を無傷で救出していた)





男(ここから先の出来事は、まるで映画を早送りするかの如くだった)

男(“自分の力”を生まれて初めて自覚した俺は、瞬く間に人を集め、人の上に立ち――)

男(あっさりと世界を平らげ、全人類の頂点に君臨していた)

宮殿――

男(俺が王になってからというもの、世界は完全に平和となった……)

男『よう、久しぶり』

男(!)

男『ようやく、自分の力を恐れず使えるようになったようだな』

男(……ああ)

男『お前は生まれた時から、歴史上前例のない、突然変異の大天才だった』

男『赤子の頃にすでに頭はノーベル賞学者よりもよく、腕っぷしは世界チャンプより強く』

男『ひとたび能動的に動けば、どんな人間をも引きつけるカリスマ性を持ってた』

男『お前は本能的に分かっていたんだ』

男『“自分が才能を発揮してしまえば、あっという間に世界の中心人物になってしまう”と』

男『だから……お前は平穏に生きるため、もう一つの人格であるオレを生み出したのさ』

男『せいぜい“並みの天才”程度のオレをな』

男(うん……)

男『もし、オレにチェンジしなかったら、お前はおそらく――』

男『テストではオール100点、野球では軽々場外ホームラン……』

男『ケンカでは相手を死なせちまい、積極的に恋愛すればハーレムを築いていただろう』

男『お前はそれが嫌だったから、ずっとオレに頼ってたんだ』

男『だけど……今のお前ならもう大丈夫だ』

男『お前の心はもう、人類史上最高の頭脳と肉体に耐えうる器に仕上がっている』

男『お前なら……世界を正しい方向に導けるさ……』

男『じゃあな……』スゥゥ…



男(ありがとう……俺のもう一つの人格……)





<おわり>

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