モバP「望月聖にプロポーズされた」 (126)

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 ◇

赤茶けた色の綺麗な瞳が視界一杯に広がる。

「…………あ、あの、その……」

瞳が揺れ、今度は一房の黄金色の髮が眼前に垂れてくる。

「……あのっ」

黄金色の持ち主、赤茶色の瞳を持つ少女は更にずずいっ、とこちらに顔を近づけてくる。
近い。もう少しで鼻と鼻がぶつかりそうな距離だ。

いつもは控えめな性根の持ち主である少女はなにかの意思を秘めた瞳を再びこちらにむけてくる。

「あげますっ、……から」

なんの話だそれ。
まるで意味が分からない。

困惑する俺を余所に、少女、望月聖は真っ直ぐにこちらに向けてくる。
潤んだ瞳、赤く染まった頬。愛らしい顔つきがドアップで迫る。

「わたしの声、一番大事なもの!、あげます……から。あなたを……その、あなたの全部、……わたしに、く、ください!」

気づけば俺はプロポーズされていた。
年端もいかない、俺の半分も生きていないような少女に。

それは世間様からは冷凍ビーム的な視線を受けそうなプロポーズであった。

頭の中ごと凍りついたような気分だった。
思考が回らない。

恐らくはアホみたいというか、アホそのものの顔をしているだろう俺をじぃっと見ながら、聖は真剣な顔つきを僅かに緩めて首を僅かに傾げた。

それから少しだけ興奮したようにふんすと鼻を鳴らし体をこちらに寄せてくる。

「……あの、もっと……ほしい、ですか」
「なにが!?」

条件反射に仰け反る。

なに、なんなの。えっちぃ話、えっちぃ話なのか。
1×歳相手にえっちぃ話なの。
田舎の母に涙ながらに謝罪しなくちゃいけないの、俺。

「……そう、ですよね。声だけじゃ、足りない……、かな。ぜんぶ、全部わたしも差し出すべき、ですよね」

聖が顔を伏せ、一言ぼやいた。

「俺がお巡りさんに差し出されそうなんだが、それは」
「合意の上、ですから……大丈夫です、ね?」

なぜか上目遣いでこちらを見上げてくる聖。
幼女との合意の上でお巡りさんに差し出される俺ってシチュエーションかな。
……特殊性癖すぎやしませんかね。

「……?」

なぜか彼女、望月聖は不思議で堪らないというようにこちらを見ている。
しかし、不思議で堪らないのはこっちである。

「わたしの声、すきですよね……?」
「好きだけど」

これは紛れも無い本音だ。
俺は聖の声に惚れ込んでいる。

「……じゃあ、わたしの声……欲しい、ですよね」
「そのりくつはおかしい」

俺は何者だ。他人の声を奪う悪魔かなにかか。

「……交換……しましょう?」

確かに惚れ込んではいる。
だが、だが、だ。
その声とエクスチェンジされそうになっている俺という存在とは一体なんなのだ。

「……ね?」

鈴を転がすような愛らしく、どこか安心する声。
この声となら、いや、この声ではきっと吊り合わない。俺という存在の価値がきっと足りない。

「……交換しましょ。そー、しましょ?」

子供の頃にどこかで聞いたような囁き。
気づけば俺の小指に小さく、ほっそりとした小指が絡まるというよりはくっつけられていた。

「ひどい鮫トレだなこれ」

こんなに価値のあるもの相手に差し出すものを俺は生憎持っていない。
そんな俺のぼやきは空気に溶けていく。

「……俺のこと、からかって遊んでるだろ?」
「……んと、……どうかな……?」

目の前でいたずらな笑みを浮かべる望月聖は初めて彼女を見た時とはまるで別人のようで、少しだけ面白いような気がした。

「お前も冗談が言えるようになったのか……純粋だった聖も汚れてしまって……はぁ」

聖に無言で脛が蹴り上げられて俺は痛みに膝を抱え、蹲る。
なぜかそんな哀れな俺の背中に、さも当然のように座り込む聖。

「……もしかして、怒っていらっしゃる?」
「……別に」

その声はいつになく冷たかった。

 ◇

住宅街を外れて少し人気の少ない路地を歩くとその先には小さな教会がある。
特に敬虔な信徒、という訳ではないのだが、日曜日の午後四時半くらい。決まって俺は協会の近く、とある場所へ赴く。

ナウなやんぐらしく、教会から少し離れた荒れ地にあるペンキの禿げたベンチに腰掛け、軽く足を組む。

手入れされない半ば荒れ地と化した場所にぽつりと取り残されたように残されたベンチ。
当然周囲には人の子一人居らず、やや背丈の高い植え込みが自己主張をしているだけだ。

午前中からお昼ごろにかけては、教会で近所の子どもたちの聖歌隊とは名ばかりのなんちゃって合唱団が好き勝手活動していたりするのだが、この時間になると静かなものだ。

―――そろそろだ。

瞼を閉じて、耳を澄ます。
小さな声が流れてくる。
鼻歌交じり、囁きのような旋律。

天使の歌声を聞ける日はきっといいことがある。そんな気がするのだ。

 ◇

 ◇

人は慣れる生き物、みたいです。

伝える努力をしなければ、人には伝わりません。
わたしの好きなものが、大事なものが、他人にとって必ずしも特別なわけでもないみたいです。

歌うことは、きっと……好き。

だけれど、そこにはなんの意味もありはしません。
最初は興味深そうに、すごいと言っていた人も少しずついつもの距離に戻っていく。

「……今日も、いる」

最後に聖歌隊のお友達とお別れしてどれだけ経っただろう。
少しだけ空の色が陰り始める。

――そろそろ、です。
教会の窓から外を覗くと、植え込みの影からひょっこりと男の人の首が生えている。
少しだけ、高い位置にある窓の縁に背伸びをして肘を掛ける。

意味なんて、ない。

吹けない口笛交じりに。
時々、苛立ちを込めて。
いいことがあった日には喜びを乗せて。

思いつきのままに、滅茶苦茶に、どこかで聞いたような歌を。
そして、途切れ途切れの、瞬間、瞬間の閃きを、歌う。

ぐちゃぐちゃのリズムに合わせるように、小さく遠くに見える首が揺れる。
何日も、何ヶ月も、もう数年繰り返してきた流れ。

わたしにとって意味のない囁きはあの心地よさそうに揺れる頭にとって心地よいものなのだという確信を持つのに長い時間が掛かった。

最初に踏み出したのはいつだった、かな。

わたしが小さく囁きながら、ぼろぼろのベンチに近づいた日。
何日も、何ヶ月も、何年も背中を向けたまま揺れるだけだった影がこちらを向いて、小さく微笑みを浮かべて初めて、わたしを見た。

きっときっと、いつか。
交換しましょう。
わたしがまだ意味を見いだせないけれどそれでも大好きな、歌をあげます、から。

そんなわたしの歌に意味を見出した、あなたの楽しそうな笑顔を、わたしに、わたしだけに、ください。

 ◇

一旦ここまで。
多分、きっと、続く。
おやすみ。

過去作教えてもらうことってできますか?
駄サンタは読みました

>>119
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関裕美「プロデューサーさんの日記…?」
関裕美「菜々さんから誕生日に貰った兎のぬいぐるみが…」
関裕美「奈緒さんの誕生日?」向井拓海「おう」
関裕美「願い事手帳」
五十嵐響子「朝起きたら犬だったんです」

古いのとか多いけどこのへんはそんなに変なのはないと思います(願望)

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