理樹「なんでチョコ?」 (30)
理樹(下駄箱に入っていた板チョコを見つめてそう思った。ただ、思っただけではなく声に出していたらしい。隣にいる真人にまで聞こえるくらいには)
真人「おっ、なんだよ理樹!下駄箱にチョコレートなんてラッキーじゃねえか!今日はきっと良いことが起きるぜ」
理樹「そんな卵を割ったら黄身が二つ入ってたみたいな事言われてもねえ…」
理樹(喜ぶべきかもしれないけど、突然得体の知れないプレゼントを渡されてもただ不気味なだけだ)
理樹「ん…」
真人「食わないのか?半分貰っていい?」
理樹「いや、なんかチョコの裏にメモが書いてあるんだ」
真人「どれどれ…」
理樹(なんの変哲もないメモにはこう記されてあった)
『義理ではないです。PS.いつも頑張っていますね』
理樹「あっ…!」
真人「んー?なんじゃこりゃ」
理樹「真人!そうだ思い出したよ!今日は2月14日じゃないか!」
真人「ああそういうことか!」
理樹・真人「「今日はバレンタイン(煮干し)の日だ!」」
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教室
理樹(真人と発想の食い違いに戸惑いつつも教室に入った。すると珍しくリトルバスターズの女子メンバーが僕らを出迎えてくれた)
「「「ハッピーバレンタイン!!」」」
真人「うおっ!?」
小毬「はーいこれ理樹君と真人君の分!」
クド「ギブユーチョコレート!なのですーつ!」
鈴「これをやる。小毬ちゃんと一緒に作ったんだ」
葉留佳「さー2人ともありがたく受け取れー!」
来ヶ谷「うむ。こういう恒例行事は初めてだからお姉さんは充分楽しんだよ」
理樹「うわわっ」
理樹(そしてみんなから色とりどりのチョコを両手いっぱいに貰った。これだけ食えば胸焼けは確実だ)
真人「あれ?誰か煮干しはくれないのか?」
理樹(と言うわけでチョコ渡しタイムは終了した。クラスの男子の中には喜んだり絶望したりと色んな顔が見える)
西園「……………」
理樹(その中で、西園さんだけが少し戸惑ったような顔をしていた。こんな顔を見るのは初めてかもしれない)
理樹「どうしたの西園さん?」
西園「…………いえ…あの…」
西園「失念していました…」
理樹「なにが?」
西園「……………今日がそういう日だという事を」
理樹「あ…なるほど」
理樹(確かに西園さんには貰っていなかった。確かに失礼かもしれないけど西園さんがチョコを作る姿は思いつかないかも…)
西園「あ、明日作ってくるのは………ダメみたいですね」
理樹「そ、そうだね…」
理樹(虚しいなあ)
理樹「あっ!」
理樹(みんながそろそろ席に着こうとする中で1つ重要なことを思い出した)
西園「どうか、されましたか?」
理樹「どっ、どうしよう!貰っちゃったんだ僕!チョコを!」
西園「はあ」
理樹(それは見ていたから分かるという風な目で見る西園さん。なのでちゃんと説明を付け加えた)
理樹「違う、そうじゃないんだ…義理じゃあないんだよっ」
西園「と、言うと」
理樹「下駄箱に入ってたんだ…!誰か名前は書いてなかったけどとにかく貰ったんだよ…っ」
理樹(既に近くにいた西園はしょうがないにしても出来るだけ他の人に知られないよう声を抑えて言った。そして、その要領を得ない乾いた叫びで西園さんはちゃんと状況を理解してくれたらしい)
西園「………なるほど。そのチョコにはなんと書かれていたんですか?」
理樹「うん…いつも頑張っていますねって…!」
理樹(そこでHRのチャイムが鳴った)
キーンコーン
理樹(貰ったチョコのことばかりを考えていて今日の授業は全く頭に入らなかった。先生に当てられでもしたらボロボロだったろう)
西園「直枝さん」
理樹「わっ!」
西園「傷つきます」
理樹「ご、ごめん!考え事してたんだよ…」
西園「チョコの事ですね?」
理樹「う、うん…」
西園「誰が渡したか分かりますか?」
理樹「いやそれが全く…」
西園「では、今日はそのお相手を見つける…というのはどうでしょうか」
理樹「えっ?」
理樹(そういう西園さんの目はかなり輝いているように見えた。その理由は簡単だ。何故なら片手に推理小説を持っているから…)
理樹部屋
理樹(放課後。誰かに聞かれてはまずいので僕の部屋で作戦会議を開くことになった)
西園「まず、直枝さんが貰ったチョコを見てみると本命であることが伺えます」
理樹「う、うん…」
理樹(改めて自覚させられると少し恥ずかしい)
西園「そして誰かのイタズラである可能性を省くと、実はかなりこれを送った犯人の対象が絞られますね」
理樹「は、犯人って…」
西園「『いつも頑張っていますね』という文章。これは直枝さんがリトルバスターズとして野球を頑張っていることを知っている人間のことだと思われます」
西園「そして、その野球チームとして活動していること自体を知っている人間、それを何度も見ている人間。これらの要素を含んでいる人間といえば…」
理樹「た、確かにそう言われてみれば……って」
理樹「それってほぼリトルバスターズのみんなじゃない!?」
西園「それ以外の人間もいますが…まあその話は後にするにしても、直枝さんの仰ることで間違いはありません」
理樹(そんな…リトルバスターズの誰かが僕にチョコを…!)
理樹「い、いや違う!そうだ!それなら僕に義理チョコを渡したのはなんでさ!?みんな渡してくれたよっ」
西園「当たり前です。1人にだけチョコを渡さなければ不自然ですから」
理樹「なるほど……」
理樹(そうなればもう誰が僕に渡したのか分からない。いったい誰が僕にチョコをくれたんだ!?)
眠い続く(∵)
明日って今さ!
理樹(西園さんのアドバイスの下、リトルバスターズ全員に事情聴取を始めることにした)
屋上
小毬「ほえ、下駄箱にチョコ?」
鈴「そんなもの渡してないぞ」
理樹「西園さん……」
西園「はい。2人他はないでしょう。ご協力ありがとうございました」
理樹「ええっ!?」
西園「なにか?」
理樹(ここから探偵小説のようなアリバイなんかを聞き出すのかと思えば、西園さんはあっさりはいそうですかと帰ろうとしていた)
理樹「いやいやいや…ここからなにか2人に聞き出したりしないの?」
西園「彼女達が嘘をついていると思いますか?」
理樹「い、いや…確かにそうは思えないけど…」
西園「お二人は推理する必要のない人間だからこそ一番先に片付けておこうと思ったのです。だから直枝さん、本当の探偵ごっこはここからですよ」
理樹(と、屋上を後にする西園さん)
理樹「ああ、ちょっと待ってよ!」
鈴「………今のはなんだったんだ?」
小毬「さぁー?」
教室
葉留佳「理樹君にチョコ!?ち、ちょっと待ったぁ!それって誰かが理樹君に本命ってやつを……!!!」
理樹(葉留佳さんにこのリアクションをされてからやっとこの質問の仕方はまずいと思った。ストレートに聞くより遠回しに言っていかないとそもそも推理どころではなくなってしまう)
理樹「まあまあ、それは置いといてさ」
葉留佳「置いとくような話題じゃないですヨ!」
西園「……ところで葉留佳さんはだいたい一番乗りに食堂に来ますよね」
葉留佳「えっ?急になんの話?」
西園「直枝さん。犯人が下駄箱にチョコを入れるとしたら普通いつ行動に移すと思いますか?」
理樹「そりゃあ早朝の誰も来ない朝か、前日の夜か………」
葉留佳「ま、まさかこのはるちんを疑っておいでかぁ!?」
西園「疑っているだなんて人聞きが悪いです。直枝さんにチョコを入れたこと自体なにも悪いことではありませんから。ただ直枝さんがどうしても渡した人の正体が知りたいと…」
理樹「言ってないよ!?」
葉留佳「いやはや、びっくりしたけど私はなんにもやってないですヨ…」
西園「ほう」
葉留佳「だってさーそういう特別なチョコって手作りで気合い入れて作るものだよ?だのに板チョコはないっしょ普通」
理樹「あ…確かに」
西園「なるほど…そう言われてみればそうかもしれません」
理樹(その言葉で2人の恋愛に対する配慮が全く無かったことに気付いた。犯人の身になって考えないとこんな調子じゃ正体は絶対に掴めない)
葉留佳「じゃっ、犯人見つかったら教えてねぇん!」
理樹(用事があったのか葉留佳さんは言うだけ言うと走り去ってしまった)
女子寮
理樹「……この学校の女子寮ってもっと男子がいることに危機感持っていいと思うんだけど」
西園「まだ夕方ですし、それに直枝さんだから許されている部分もあるんですよ」
理樹(それは襲ってくる心配がないから…という情けない理由らしい。悔しながらも我ながら納得してしまった)
西園「では今度は荒波立てない質問で行きましょう」
理樹「うんっ」
理樹(目の前のクドの部屋のドアをノックした)
ガチャ
クド「はーい…あっ、美魚さん、直枝さん。こんにちはです。今日はどうされました?」
理樹(やはり自然に挨拶された…)
理樹「う、うん…実は僕の下駄箱に見慣れないものが入っててさ。クドは心当たりある?」
西園「…………!」
クド「わふー下駄箱ですか?うーん…よく分からないです」
理樹「そっか、変なこと聞いてごめんねっ。それじゃあ行こうか西園さ…」
西園「能美さん。よろしければそちらのゴミ箱を拝見してもよろしいでしょうか」
クド「ゴミ箱……ですか?」
理樹(と、すぐ近くにあった黄色い円柱型の箱を指差しな)
西園「もしかしたら犯人は能美さん、あなたかもしれません」
理樹「ええっ!?」
理樹(対するクドの反応は…)
クド「ご、ごめんなさーい!!」
理樹「ええぇーーーっ!?」
理樹「ほ、本当にクドがやったの!?」
理樹(さっきは嘘をついているようには見えなかったのに……)
西園「能美さんは全員が手作りの中、1人だけ市販の物でした。なら板チョコを不思議ではありません。それにそのゴミ箱の中の包装。もしかしたら直枝さんのチョコを入れていたものかも…」
理樹「ま、まさか!」
クド「こ、これの事ですか?これなら皆さんに渡すチョコの包装の袋……だったはずのものです」
理樹「はず?」
理樹(クドは恥ずかしそうに頷くと、その袋を引っ張り出し、その下に埋まっていたゴミを僕らに見せた)
クド「最初はその包装で終わらせようとしたんですがどうも上手くいかず、結局全部が破れるかクシャクシャになってしまうかでおじゃんとなってしまったのです」
クド「そして最終的にはもう一つ買って、佳奈多さんに手伝ってもらう事になりました……」
理樹(そう語る彼女の背中は暗かった)
西園「そういう事でしたか…」
理樹「でも、それじゃあなんでさっきはあんな事言ったの?」
クド「そ、それは…なんとなく謝ってしまいました!」
理樹(なんじゃそりゃ!)
西園「これでまた候補が一つ無くなりましたね」
理樹「じゃあバスターズのメンバーで残るは来ヶ谷さんくらい?」
西園「そう思いますか?」
理樹「ど、どういう意味…?」
西園「では、あの手紙とチョコを持って直枝さんの下駄箱の元へ向かう来ヶ谷さんを想像してみてください」
理樹(……………)
…
………
…………………
下駄箱
来ヶ谷『……り、理樹君はちゃんとこれを読んでくれるかなぁ…恥かしいから私の名前を付けることはとうとう出来なかったが、せめて大事な想いだけでも……』
ゴソゴソ
来ヶ谷『う…心がドキドキするよぉ…でも入れなきゃ…えいっ…!』
来ヶ谷『この気持ち…少年に届くように……』
……………………
………
…
理樹「………確かにないね…」
西園「でしょう?」
「あら、部屋の前でどうしたの。私かクドリャフカに何か用?……げっ、直枝…」
理樹(後ろで声がした。僕を見て『げっ』という人物と言えば……)
西園「こんばんは二木さん」
佳奈多「こ、こんばんは…」
西園「二木さん。唐突ですがチョコは作りましたか?」
佳奈多「チョコ?」
理樹「ふ、二木さんにも聞くの!?」
西園「はい。後で言うつもりでしたが、バスターズ以外にも私達の活動を知る人はまだ数人います。二木さんはそのうちの1人ですから」
理樹「でも二木さんが僕に…とか絶対ないから!」
西園「世の中にはツンデレというものが存在します」
理樹(二木さんから未だかつてデレらしきものを見た事がない)
佳奈多「うーんチョコねぇ…作ったと言えば作ったわね」
西園「詳しくお願いします」
佳奈多「く、詳しくと言われてもただ私は葉留佳のチョコを手伝っただけよ。それとクドリャフカの包装も」
西園「手伝ってばかりですね。自分が渡すためのものは?」
佳奈多「ないわね。これでも元風紀委員よ?誰かと付き合うなんてありえないわね…。ええ、ありえないわ」
西園「そうですか。それではまた…」
佳奈多「まったく誰も彼もこの時期になるとチョコを持ってくるんだから…果てはあーちゃん先輩まで…」
西園「寮長が?」
佳奈多「ええ、義理だとは思うけどチョコを買っていたわ。チョコ作りは下手だからといってなんの手も加えていない板チョコをね」
理樹「!」
西園「!」
理樹(僕らは同時に目を見つめあった)
廊下
西園「意外でした…直枝さんは寮長のことを?」
理樹「うん。男子の中じゃ割と中はいいほうだと思うけど…」
理樹(思うのは思うけど、まさかあの寮長が…ぼ、僕にそんな……)
理樹「あ…ええー…」
理樹(顔が真っ赤になってしまう。いやいやいや、それはないって…!いやでも…)
西園「『あの子ってもしかして僕に気があるんじゃないかな』という思い込みは必ず外れるらしいですよ」
理樹「ぐさっ」
西園「……ですが、今回は本当にあり得るかもしれません」
「クッ、こしゃくな!」
「「「頑張ってください!佐々美様!」」」
理樹「あれは…」
理樹(先の方で鈴がファイティングポーズを取っていた。そしてそれと対峙しているのはお馴染み笹瀬川さん)
西園「一応聞きますか?彼女も候補の1人ですが」
理樹(ちょうど寮長室に向かう途中だったのでついでに聞いておくことにした)
理樹「ごめん、ちょっと喧嘩ストップしてもらっていい?」
鈴「ん、理樹か」
佐々美「もうなんですの!?せっかく盛り上がってきたところでしたのに」
理樹「ごめんごめん。ちょっと聞きたい事があったんだ」
西園「笹瀬川さん。あなたはチョコを誰に渡しました?」
佐々美「チョコですか?フッ…それはもう、私は宮沢様に渡し済みですわ!あとはもはや他の方に必要ありません」
理樹「うん、だよね。ごめん止めちゃって。それじゃ2人とも頑張ってね」
理樹(あまりに予定調和だったので驚きもしなかった。僕らが戦闘区域から離脱すると、また2人はバトルを再開させた)
理樹(寮長室の前に着いた。寮長は、特別な理由でもない限り、放課後は寮長室に居座っている。しかしそれは用事があるからという訳でもなく、最初こそ仕事は山程あったらしいが、今はもう習慣で通っていると聞いた)
理樹「入ります」
理樹(ノックをしてドアノブを回すと、やはり彼女はいた。今日は特にやる事もなさそうなのでのんびり茶菓子を楽しんでいたようだ。そして僕らの姿を認めると、賑やかな笑顔で迎えてくれた)
あーちゃん先輩「おーよく来たわね直枝くん!歓迎するわっ!そしてそっちのあなたは確か西園さんね」
西園「こんにちは」
理樹(寮長は僕らに横に備え付けてある客用のソファーに腰掛けるよう促すと、両手の指を交差させて、いつもの人の依頼を聞く態勢に入った)
あーちゃん先輩「ところで今日はなんの用件かしら?」
理樹(意識してしまうとうまく喋れないかもしれないので、万全を期して目線で西園さんにパスした)
西園「…はい。用件と言うほどでもなく、ただの確認なのですが」
あーちゃん先輩「ほうほう、お聞きいたしましょう」
西園「ズバリ言わせていただきます。あなたは誰にチョコを贈ったんですか?」
理樹(その言葉を発してから、寮長の笑顔が一瞬引きつるのにさほど時間はかからなかった)
あーちゃん先輩「そ、それはどういう意味?」
西園「板チョコ…」
あーちゃん先輩「!!」
理樹(その時の寮長の反応はなかなか観れるものではなかった。だからこそ西園さんの推理を裏付けるものとなりつつあった)
西園「あなたから直接言ってもらいたいのです。あなたは誰にチョコを渡しましたか?」
あーちゃん先輩「な、なんでそんなこと知っているの……」
西園「私の灰色の脳細胞からすれば初歩的な事だよワトソン君。うちのカミさんがねぇ、じーちゃんの名にかけて真実はいつも一つと言ったのです。古畑任三郎でした」
理樹「決め台詞混ぜすぎて意味分からないからっ」
西園「さあ大人しく観念してください。証拠は上がっているんですよ?」
あーちゃん先輩「あ…う……」
西園「吐けば楽になります」
理樹(一見本当に何かの探偵小説を読んでいるかのように錯覚してしまった。しかし、犯人はそもそも犯罪を犯しておらず、探偵側がむしろ暴かなくていいと言える事実を認めさせようとしていることが、そのセオリーと外れていた)
理樹「む、無理に聞き出さなくったってさ…」
理樹(それでも、そう西園さんをたしなめようとしている今でも、寮長の動機については興味津々だった。マジか。寮長マジか)
西園「………………」
理樹(無言の圧力で寮長に迫る西園さん。哀れなり寮長。普段の人をおちょくる余裕はどこにも見当たらない)
ガラッ
「うぃっす」
理樹「?」
理樹(と、そこへ誰かが寮長室に入ってきた)
恭介「あれ……何やってるんだお前ら」
理樹「あっ、恭介」
寮長「な、棗君!?」
西園「恭介さん。今は邪魔です」
恭介「なっ……」
理樹(真実を追うものにとって言葉を選ぶ余裕はなかったようだ)
恭介「と、取り込み中だったか…すまん……」
理樹(うなだれる恭介。このまま帰しては可哀想なのであえて恭介の用件を優先させた)
理樹「まあまあ、西園さんも!ちょっとだけだから、ね?」
西園「はあ……」
恭介「わ…悪いな。用事といっても大した事じゃないんだ。ただ寮長に礼を言おうと思っただけさ」
理樹「何のお礼?」
恭介「………一応聞くが言っていいのか?」
理樹(困ったように指示を仰ぐ恭介。その質問に…というか結構前から顔を赤らめていた彼女は答えた)
あーちゃん先輩「いや棗君、それが2人はもう何故かこの事知ってみたいなのよ…もう流石の私もお手上げだわ~…」
恭介「げっ、マジかよ!」
理樹「えっ、何の話?」
西園「……恭介さんと寮長の事で…ですか?」
恭介「ん?」
寮長「…………えっ?」
理樹(どうも話が食い違ったようだ)
理樹「……………………………」
恭介「ハハハハハッ!!なんだよそりゃあ!」
寮長「う、ううぅ~~!!」
西園「…………すいませんでした」
理樹(かたや腹を抱えて笑い、かたや自分のデスクに顔を埋めて羞恥心を押し殺し、かたや悪気はなくともとんでもない事をしたことに対し謝罪を述べていた)
理樹「つまり西園と僕は寮長が下駄箱にチョコを置いたと思っていたんだけど…」
恭介「実際は寮長は俺に渡していた訳だ!そうとは知らず寮長が早とちりしてお前らに何故ばれたのかと焦っていた所にちょうど俺が帰ってきたということか。まあ板チョコというキーワードが重なったし無理はないけどな」
寮長「でも今回は振り回されちゃったわ…」
恭介「ま、そんな騒ぐ事でもねえだろ。確かに勘違いは恥ずかしかったのかもしれねえが義理チョコなんか誰でにでも渡すもんだしな」
寮長「………そ、そうだよね…」
西園「ですがまた振り出しに戻ってしまいましたね。結局誰が直枝さんに板チョコを渡したんでしょうか?」
恭介「その問いに対する答えは簡単だ。俺が入れといた」
理樹「え……」
理樹「えええええええええ!!」
西園「!?」
恭介「なんてことはない。最近は男が男にチョコを渡すなんてのも珍しくないらしいからな。こうして普段頑張っている理樹に対してエールをと思ったのさ。まあ、名前を書き忘れてこんなことにはなっちまったんだが」
理樹(だ、脱力だ……まさか送り主がリトルバスターズで一番近い存在だったなんて…)
西園「つ、つ、つまり!それはその!直枝さんの事が………っ!」
恭介「は?………あっ!いや!そういうつもりで送った訳じゃねえ!!」
理樹(言葉の真意が分かった恭介は慌てて発言を撤回しにかかっていた。なんというかもう、一気に謎が解けて逆にカオスな事態となってしまった)
………………………………
…………………
…
食堂
理樹(もう辺りはすっかり日が沈んでそろそろ晩御飯の時間になってしまった。今日は特になんの約束をしている訳でもないし真人達には先に2人で食べていると連絡をしておいた)
理樹「はあ…なんか今日は色々疲れたよ…」
西園「疲労回復には甘い物がオススメです」
理樹(そう言って西園さんは僕にチョコレートを差し出した。色とりどりのマーブルが透明の袋に入っているものだった)
理樹「これは?」
西園「先ほど購買の方で買いました。直枝さんには結局渡していなかったので………他の3人には秘密ですよ?」
理樹「あはは…ありがとうっ」
理樹(もうチョコは懲り懲りだと思っていたけど、いざまた貰うと素直に嬉しい自分が情けない。単純だなあ…僕は)
理樹「………………あっ」
西園「どうか、されましたか?」
理樹「いや、なんでもない…ふふっ」
西園「………そういう自分だけ楽しむというのは人としてどうかと思います」
理樹「ご、ごめんなさい」
理樹(何故西園さんの声のトーンでキツい言葉を浴びせられるとこうも謝ってしまうんだろう)
理樹「いやさ、寮長が恭介にチョコをあげたでしょ?」
西園「はい」
理樹「あれ、恭介は義理だったと言ってたけど寮長が用意したチョコはこれまでのことを踏まえるとあれ一つだけだったんだなと思って」
西園「ああ、なるほど。そういうですか」
理樹(二木さんが言っていた通り寮長は本当に手作り出来なかったというだけだったのだ)
西園「ですがそういう事ですと私も一つだけ…直枝さんにだけしか渡していませんが」
理樹「あっ…そ、そうなるね…」
西園「………………………………」
理樹「………………………………」
西園「食べましょうか」
理樹「…そうだね」
終わり
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