【艦これ】重巡加古はのらりくらり 弐 (425)
前スレ
【艦これ】重巡加古はのらりくらり
【艦これ】重巡加古はのらりくらり - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445149547/)
※加古の自叙伝風なSS、あくまで風
※独自解釈、バイオレンスな描写、オリ艦、その他もろもろがあるので注意
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455380210
※注意※
弥生「このSSは……加古さんの自叙伝風のSS……です……」
漣「バイオレンスな描写、独自解釈、オリ艦、その他もろもろが含まれておりますよ」
曙「それから前スレを読まないと多分話の流れがさっぱりわからないわよ」
漣「それでは!漣ちゃんの活躍をとくとご覧あれ!」
弥生「……あの」
漣「どったの弥生ちゃん」
弥生「もう、私たち死んでる……」
漣「……はっはっは、ご冗談を」
弥生「だってほら、足無いし……」
漣「SSにお足はいらないのヨ!」
弥生「いや……そういうのいいから……」
曙「コイツうまいこと言ったつもりかしら」
※お足のくだりをやりたかっただけです、ごめんなさい
-敵は幾万-
翔鶴型と共にやって来た第三十駆逐隊改め第七駆逐隊はあたしと古鷹の隷下についた。
「なんだ、結局戻ってきたのか」
「だって、うーちゃんたちがいないと加古さんも古鷹さんもなーんにもできないっぴょん」
「ふふ、言うじゃない」
「私は辞めようって思ったんだけど、どうしてもってみんなが言うからぁ」
「如月ちゃんが一番やる気だったよねー」
「そうですね」
「んもう」
心の傷はかなり回復したみたいだ、きっとあの悲しみを乗り越えることができたんだろう。
凝りは多少残ったかもしれない、しかしどうあっても前に進まなきゃいけないようだ。
青葉と衣笠の元にも第二十二駆逐隊が就いたらしく、馴染みのメンバーだ。
弥生がいないことだけが本当に残念でならないよ。でも思い出話が出来るぐらいにはみんな消化できたようだ。
第六戦隊
古鷹、加古、青葉、衣笠
第七駆逐隊:睦月、如月、卯月、潮
第二十二駆逐隊:皐月、文月、長月、菊月
さて、翔鶴たち第一航空戦隊が配備されると、作戦は本格的に始動する。
このだだっ広い海じゃ今までの小手先の戦術は通用しない。純粋な艦隊戦の強さで勝敗が決するだろう。
ウェーク島からは以前の呑気な空気は完全に消え失せ、緊張感が漂っていた。
提督もこのウェーク島にやって来ている。一蓮托生の意気なんだろうが、大丈夫かよ。
「今回の作戦を任されてな。この戦いの敗北は日本の敗北だろう」
とかなんとか言ってるが、果たして務まるのか問題だよ。
「侵攻部隊は暇そうなのをありったけかき集めてきたから、挨拶しとけよ」
ありったけってのは見ればわかる。ガラガラだったウェーク島が艦娘たちで賑わっているからね。
「あ!加古さんっぽい!」
「え!?加古さん!?」
と白露型の連中がいた。久しぶりに顔を見たよ。
「おう、久しぶりだな」
「久しぶりだね」
「お前らはどこの所属だ」
「僕は第一水雷戦隊だよ」
「第二水雷戦隊っぽい!」
二水戦、となるとアイツか……。
「神通」
「……」
「なんだよ、その態度」
「レズが移るので触らないでください」
移ってたまるか!……ひょっとして誰かから感染したのかな、あたしも。
「え!?加古さんってレズなんですか!?」
「失望したよ、ガチで」
ほら見ろ、これだもん。いや否定はできないんだけどさ。
「ていうかお前たち知ってるだろ」
「改めて失望したよ」
古鷹は満更でもなさそうにニコニコこちらを見ている。
「お前からもなんとか言ってよ」
「でも事実でしょう?」
これだもんこれだもん。
実のところ、神通たちは先のミッドウェーの戦いに出撃していたが、神通の判断で撤退してきたんだそうな。
航空艦隊を見捨てたって言われることもあるが、判断は正しかったと思う。
なんせ水雷戦隊に対空戦闘なんてやれって言う方が無理だし、撤退した部隊は無傷だったからね。
あの時、航空艦隊は素早く見切りを付けることができなかったが為に被害が拡大したんだそうな。
「神通さんよ、そいつらはあたしの教え子だから」
「……むやみに部下を死なせたりはしません、少なくとも実戦ではね」
ひょっとすると彼女は自分の厳しすぎる訓練に罪悪感を抱いてるのかもしれない、そんな言い方だった。
袋叩きにされた上に擁護もされなかったんじゃ思うところもあるんじゃないか。
それとも、あたしが訓練した艦娘たちを見て思ったのか、それはわからない。
ただ一つ言えるのは、彼女が以前のような鬼教官ではなくなったということだ。
他にも、伊勢や長門なんかの戦艦や吹雪たち特型、龍驤や鳳翔、ロシア海軍だの台湾海軍まで見かけたから、
相当な兵力を集中している。でも数だけじゃ勝てないってのは歴史が証明している。
あたしたちだって、数も少ないのに大部隊を打倒したこともあったからね、敵にもそれができないわけじゃないはずだ。
一通り挨拶を終えた頃、提督が皆を広場に呼び集めて前に立つ。
「かの戦いの敗北は記憶に新しいだろう。万全を尽くしたが、奮戦虚しく敗れた。
しかし、それは我々の弱さの証明ではない、敵もまた勇猛果敢であったということだ。
前回のミッドウェーでの損害は相当だが、向こうの被害もまた甚大だ。
瑞鳳の偵察隊によれば、飛行場の復旧はまだまだ半ばといったところだという。攻めるならば今だ。
速やかに防衛戦力を撃破して飛行場を叩き、ミッドウェー諸島を解放する。決行は明日の朝5時とする」
提督が言い終えるとそのまま解散となった。
その夜は、第六戦隊で集まって食事を取っていた、最後の晩餐とも言うべきかな。
「堅き心の一徹は、石に矢の立つためしあり」
「なんだそりゃ」
「石に立つ矢のためしあり、などて恐るる事やあるっぴょん」
「よくご存知ですねェ」
なんでも、『敵は幾万』って軍歌の一節らしい。
「それならこれは。骸を馬蹄にかけられつ、身を野晒になしてこそ」
「世に武士の義といわめ、かしらぁ」
「そういう悲壮な歌詞はご飯がまずくなるからやめてよ」
衣笠が言った。
「それに、艦娘だから馬はいないし、骸を鮫に喰われても、かな?」
まずくなるんじゃないのかよ。さっきよりも気分が悪くなる歌詞だ。
「喰われるよりはねぇ、まぼられつってした方が歌いやすいよ」
「文月、お前よくそんな言葉知ってるな」
「まぼられつって……」
まぼる。食べるって意味で、召し上がるか貪り食うかの二つ説があるらしい。いや、んな事なんで知ってるんだよ文月は。
「身を野晒ってのもおかしいから、身が水底に堕ちてこそ、かな」
古鷹も乗り始めた。そもそもあたしは元の曲を知らないからついていけないや。なんで知ってんだお前ら。
「骸を鮫にまぼられつ、身が水底に堕ちてこそ、世に艦娘の義といわめ、などて恐るることやあるってね!」
「おお、今度替え歌の特集でも組んでみようかな」
何故だか替え歌談義に花を咲かせていた。まぁ、なんでもいいさ、盛り上がれば、これで最後になるかもしれないし。
その夜はみんなで一緒に寝た。本当は寝るのも惜しかったんだけど、作戦に寝坊しちゃマズイしさっさと寝たよ。
今夜はここまで
なんやらかんやら言って2スレ目です
「この艦娘を出して欲しい」などと要求してる感じになってしまってるから自粛やの
-懐かしい顔ぶれ-
翌早朝、空母たちが航空部隊を出撃させた。
噂の新型機を一目みようと艦娘たちが空を見上げる。そこに提督が言った。
「そう、あれが新たな戦闘機、紫電改二だ」
「へー」
「立派ねぇ」
「うん、立派立派」
空母か飛行機好きでもなきゃ零戦との違いなんてわかんないから、なんとも妙な褒め方だ。
「それからあれは彗星、雷撃機は天山だ」
「へぇー」
「違いわかる?」
「さっぱりなのです……」
「お前ら……」
残念だけど、あたしたちにはさっぱりわからないよ。水上機なら自信あるけど。
ところで、明石の簡易工廠については結局立ち消えとなった。近すぎるからだ。まあ当然だ。
代わりに修理と治療の技術を学んだ部隊が配備される。衛生兵とか工兵みたいなもんだ。
なんと、あの磯波もそうだった。
「以前、加古さんのお腹から弾丸を引きずり出した時から、ちょっと勉強してて……」
なんだかお腹が痛くなってきちゃった、変なこと思い出させやがって。
しかしこれは頼りになる。五月雨や雷なんかも、心優しい艦娘たちはみんなこの訓練を受けたみたいだ。
今までは明石や秋津洲なんかに任せっきりだったからね、いいことだよ。
「第五戦隊、第六戦隊、出撃準備」
となるとあたしたちの出番だ。
「制空権を確保後、艦爆隊、艦攻隊と共に敵艦隊を襲撃せよ」
「第五戦隊、了解しました」
「第六戦隊、了承です」
妙高と古鷹がビシッと敬礼を決めて答える。
第一、第二航空戦隊から出発した航空隊はギューンと機体を鮮やかに煌めかせ、飛んでいく。すぐに見えなくなった。
「妙高、私たちも」
「わかりました、古鷹さん」
浜辺から海の中に飛び込み、機関を始動。ふわっと水の上に浮くと同時にしっかり体勢を整え、海を踏みしめる。
「第五戦隊、参ります」
「第六戦隊、出撃します!」
二つの戦隊とその随伴部隊がウェーク島を飛び出した。
第五戦隊
妙高、足柄、那智、羽黒
第十一駆逐隊:吹雪、初雪、深雪、叢雲
第六駆逐隊:暁、雷、電、スチュワート(響修理中の為)
第六戦隊
古鷹、加古、青葉、衣笠
第七駆逐隊:睦月、如月、卯月、潮
第二十二駆逐隊:皐月、文月、長月、菊月
妙高たちの随伴部隊はなんとも懐かしい顔ぶれだった。
「あ、カコさんジャナイ、それにフルタカさんも」
「スチュワート、お前日本語出来るようになったんだな」
「イカズチさんに教えてもらってるんデス」
「そうよ、私の自慢の愛弟子なんだから!」
「マナデシとは、What does that mean?」
「えーっと、Beloved pupil、かしら」
「Really!?」
仲が良さそうで何よりだ。彼女も仲間たちを失っていたが、無事に乗り越えられたのだろう。
しかし、吹雪たちはずっと暗い顔をしている。白雪の件だろう。
白雪はこのミッドウェーに散った。それも、北上の爆発に巻き込まれるというなんともやりきれない死に方だ。
彼女たちにとっては弔い合戦となる。顔は暗くても拳は固く握り締められて、憤怒が見え隠れしていた。
だが、
「吹雪」
「……加古さん」
「リラックスしろ、リラックス」
「わかって、ます。わかってますってば」
怒るのも無理もないってことはわかってるよ。でもその怒りに身を任せて突飛な行動をされてはかなわないからね。
仇を討とうってんなら、冷静、冷酷にやらなきゃな……。
そうやって艦隊でべちゃくちゃ喋ってるうちに、遠くの空で空戦やってるのが見えた。
「艦隊、停止」
妙高が全体に指示を出す。全員が停止し、その場にしゃがみこんだ。
双眼鏡を覗き込むと、さっきの紫電改二が敵の戦闘機と戦っていた。
「やるねえやるねえ」
「やっちまえ!」
さて、ここいらで新鋭機の実力をじっくりと見物させてもらおうか。
今夜はここまで
>>17
ほっぽちゃんみたいな外伝とか補足的に出すのは割と好きだから問題ないざます
なお生死については
-ヘアピン-
とは言ったものの、特筆すべきことはない。ただ紫電が敵機を一方的に叩き落としまくったからだ。
敵側は従来と変わらない戦闘機で、速度も火力も圧倒的に上回る我が軍の戦闘機に為す術もなく、
格闘戦をせずともボロボロ墜落しちまったから特別面白いものでもなかったが、みんな歓喜の声を上げていた。
「やったぁ!」
「ざまぁ見ろボケェ!」
「尻尾巻いて帰れや!」
……この頃になると、もう女の子らしさとかそういうのは全て投げ捨てちゃってるのかもしれない。
聞いた話じゃ女子校もこんな感じらしいんだから、まあ別段変わったことではないのかな?
とにかくこの調子なら空は安泰だ。ならばここからはあたしたちの踏ん張りどころ。
「全艦、前進」
妙高の号令により、艦隊は進む。
「ねぇ、加古さん」
「ん」
卯月が話しかけてきた。
「うーちゃん、死ぬかもしれないっぴょん」
「はぁ?何を言ってるんだ」
冗談かと思ったが、目は本気だ。
「今日の運勢、最悪だったっぴょん」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこととは何!」
まぁ、そういう縁起悪いのは気味が悪いよな。不安になるのも仕方ない。
「バカバカしい、そんなもん信じてるのか」
「青葉日報に書いてあったっぴょん」
「ありゃー、占いコーナー入れたのは間違いだったかな」
と青葉が会話に入ってくる。
「あんなのデタラメだろ?」
「いえ、結構本格的に占ってますよ」
「嘘でもデタラメって言え!」
こりゃ本気で死んじまうかもしれない、それだけは絶対に嫌だ。
「で、でも、ただの占いですから!」
「あたしは面白くない冗談は嫌いだ」
「そんな本気で怒んないでよ、ただの占いだって」
卯月そっちのけでなんだか無性に腹が立つ、それがただのジンクスや占いであっても、
自分の部下に死の宣告をされたようなもんだと憤りを感じていた、ちょっと過剰反応だったけどさ。
「そうだ、ラッキーアイテムですよ。それさえあれば」
「何を渡せばいい」
「えーっと、そうだ、そのヘアピンとか」
あたしはスッとヘアピンを引き抜いて卯月に手渡した。
「これだ」
「でも、これって」
「いいから!」
「……ありがとぴょん!」
笑顔で、受け取ってくれた。あの件からきっとあたしはナイーブになってるんだろう、
このラッキーアイテムってのはきっと青葉の口八丁だろう、それでも渡さずにはいられなかったんだ。
艦隊の仲間がいなくなるのがどうしても嫌で嫌で仕方なかった。
「皆さん、静かに」
妙高の命令にみんな口を閉じる。彼女は耳に手を当ててみせた。ソナーを使えということだろう。
この感覚ばかりは艦娘じゃないとわからないが、ソナーに意識を集中すると、確かに何かいる。
進行方向の右に三隻、こちらの様子を窺っているようだ。空気は一変し、戦闘ムードになる。
駆逐艦たちは砲に投射爆雷を装着し、対潜戦闘に備えた。妙高がこちらに合図を送る、水上機を発艦せよとのことだ。
背中のカタパルトに搭載された零水偵を発射し、おそらく敵がいるであろう場所に飛ばす。
制空権は既にこちらのものだから撃ち落とされる心配はないが、万一の被発見に気をつけて低空で飛ばした。
古鷹機や青葉機もそれに続く。目標に爆雷を投下、水柱が三つほど上がった。
確認すると、水の中に藍色の絵の具を垂らしたかのような紋様が浮き上がってきている。
無事撃破したのようだが、それもつかの間。
「Torpedo!」
スチュワートが叫んだ、雷跡が真っ直ぐ、足柄の方へと向かっている。
「うにゃ!?」
たった今倒した敵とは全く逆方向からだ、足柄はかろうじて防御体勢を取ることができ、
飛び上がった魚雷の爆風を受けてもかすり傷で済んだようだ。
「やってくれたわね……!」
「囲まれてるのか」
「対潜戦闘用意!」
那智が周囲を見渡す。妙高と羽黒、衣笠も偵察機を発艦した。
駆逐艦たちは散開して、重巡部隊を中心に半径4kmの円を描くような輪形陣を作る。
きっとこちらの動きは随分前から観察されていたんだろう。
しかし制空権を手に入れている以上、これを突破するのは難しいことじゃない。
索敵する偵察機と攻撃する駆逐艦、ハンターとキラーに役割分担して戦う戦術は対潜水艦戦の定石とも言えるだろう。
だが一体、何匹潜んでやがるのか。
今夜はここまで
最近某幼魔園のせいでのじゃロリが個人的にホットワードだ!
初春いいかも!
連載小話
【北方棲姫の冒険】
第六回:膠着、防御陣地!
二人の活躍は凄まじいものだった。これに影響を受けた北東欧州連合艦隊の面々は猛攻を加える。
深海棲艦側は気圧されてしまい、どんどん戦線を縮小、後退していき、
ついにフィンランド、スウェーデン、ノルウェーから弾き出されてしまった。
北方棲姫はコラ半島で冬を越えることに決める。
コラ湾、トゥロマ川、ヴェルフネトゥロムスキー貯水池などを挟んで防御陣地を構築し、そこで連合艦隊を待ち構えた。
この陣地は堅牢で、北欧、東欧の艦娘たちでの突破は不可能と結論づけられ、戦線は膠着状態に陥る。
-前哨戦-
「おそらく、ウヨウヨ潜んでいると思います……」
そう口にするのは羽黒だ。この憶測は間違っていないだろう。
しかし、レーダーやソナーを使うのは未だに慣れない、
見えないし聞こえないのにそこにいるのがわかるってのは気色悪い感覚だ。
さらに偵察機と同期しながらだから頭を使うよ。
『潜水艦撃沈なのです!』
遠くで水柱が上がり、遅れて爆音が聞こえた。先ほどの雷撃の主だろう。
『やるなァ電!帰ったらご褒美やるよ』
『てへへ……』
『あー、お二人さん?ノロケなら他所でやって欲しいんだが』
電と深雪の無線に長月が割り込んだ。やっぱ二人はそーいうアレなのか。
対潜水艦戦と言えば駆逐艦の出番だから隊のみんなはここぞとばかりに張り切っている。
さしずめ、第二次ミッドウェー海戦の前哨戦とも言おうか。
「方位94、距離306」
『了解よぉ』
偵察機を使って得た情報、方位角と距離を伝えれば付近の駆逐隊が向かい撃破する、
対潜水艦戦闘というのはこれの繰り返しで、重巡としては退屈なもんだ。
「方位76、距離231」
「そっちは何匹沈めたんだ?」
「今んところ四つだな」
「ふっ、うちの駆逐隊の方が優秀なようだ。こっちは七匹だ」
「そうだな」
那智の部下自慢に適当に相槌を打つ。睦月型と特型じゃそりゃ特型のが優秀だろ。
「……しかし、あまりにも数が多い。どういう事なんでしょうか」
「気をつけた方がいいかもですねェ」
そこで妙高が全員に注意を呼びかけようとする。
「全隊、雷撃に注…」
と次の瞬間だ、妙高の目前に魚雷が飛び上がった。爆発の破片がこちらまで飛んできて、肌を傷つける。
「妙高!」
「嘘だろ!?雷跡は見えたか!?」
少しパニックになりかけたが信じられないことに、妙高は先の呼びかけを続けた。
「雷撃に注意、雷跡が見えない新型魚雷の様です、皆さん警戒を!」
周りの駆逐隊は騒然としていたが、すぐに索敵に戻った。
「妙高、平気?」
古鷹が駆け寄って肩を貸した。
「ええ。羽黒、雷を呼んでくれる?」
「雷さん、第五戦隊への合流を!」
『わかったわ!』
中破ぐらいってところだ、顔や胸がひどく焼け焦げている。
「無理はするな」
「いえ、対潜水艦戦で私はこれぐらいしかできませんから」
「そうは言うがな」
「無茶よ」
彼女の姉妹艦たちはしきりに心配している。
「甘いなァ、こんなの第六戦隊ならちょちょっと避けちゃいましたよ」
と青葉が何故かからかい、那智に睨まれ、
「って衣笠が言ってた」
「はぁ!?」
お前たちはコントでもしているのか?
「青葉が救いようのない程のバカでごめんなさい」
と古鷹がきっちり締めくくった。妙高が俯いてプルプル震えていたから、まあ良しとしようじゃないか。
雷が戻ってきて、妙高の傷の応急処置をし始める。
「ひどい、ひどいわ、ひどーい!」
ぶつくさと言いながら、彼女に包帯を巻いていく。もっとボキャブラリーはないのだろうか。
「だって、ひどいの他に言いようがある!?無いじゃない!」
「無いけどさ」
「まったく、美人が台無しじゃない……」
そうつぶやきながら手当を続けた、妙高はこそばゆいような顔をしている……んだろう、火傷でわかんねえや。
「雷跡が見えないんじゃ、気がつかずに通り過ぎたものもあるんじゃないか?」
「おっそろしいなァ」
「雷跡が見えないとは言え、透明になったわけじゃない。目を凝らしてみるんだ」
戦闘開始からそれなりの時間が経った今、この衝撃の事実が判明した。それまでの間よく当たらなかったもんだよ。
ひょっとすると数を揃えることができない代物なのかもしれないが、これは上に報告すべき事柄だ。
となると、潜水艦だけじゃない、巡洋艦はもちろん駆逐艦であっても敵はこれを使うだろうから、
これからの戦いはより一層厳しくなるやもしれん。
「何をモタモタと話をしているんです、索敵はどうしました」
包帯をグルグルと上半身に巻きつけた妙高が言った。そんな格好じゃカッコがつかないな。
「少しだけ、休む間があればいいんだけれど」
「休んでる暇はありません」
「第十一駆逐隊、第六駆逐隊、戦果を報告せよ」
『第十一駆逐隊、敵潜水艦を5隻撃沈』
『第六駆逐隊、4隻撃沈よ』
「了解した」
そこで那智がこちらに目配せをする。
「どっちが多く沈めたかな、勝った方に酒でも奢るんだ」
「……第七駆逐隊、第二十二駆逐隊、戦果はどうだ」
『第二十二駆逐隊、4隻』
『第七駆逐隊、撃破数8です!』
「言っておくが、あたしは飲むぞ」
「やっぱ無しだ」
こいつ、自分から持ちかけといて……。
「最初の3隻を合わせると、合計24隻。敵の潜水隊を一個戦隊をまるっと沈めたかもしれない」
「敵側の編成とか知ってる?」
「知りませんねぇ」
「とりあえず駆逐隊は呼び戻して、警戒は交代でやりましょう」
指令を出すと、駆逐艦たちが集まる。みんなに怪我はない様子だったが妙高の姿を見て驚いていた。
まるでミイラみたいだからな。
今夜はここまで
改はひたすら対抗演習するゲームだったよ……
-殴り合い-
ミッドウェー諸島が偵察機からも見えるようになってきたから、もう近いだろう。
敵機はさっぱり見当たらず、完全に制空権を掌握したようだ。
既に艦攻隊と艦爆隊が空爆を開始していた。
「遅れちゃう!」
「全艦、全速前進」
艦隊は速度を早めて進む。そこで瑞鶴からの連絡だ。
『こちら瑞鶴、敵基地を破壊、空なら任せて』
「了解、敵残存部隊は」
『それが……見当たらなくって』
「まさかでしょう?」
『な、何よ、こっちだって真面目に…』
というところで妙高は一方的に無線を切った。
「ということらしいけど。古鷹さん?」
「敵もおそらく決死の覚悟で反撃してくると思う。戦艦はまず間違いなくいるはず」
「少なく見積もっても3はいると思うな、前回作戦では戦艦は1しか落とせなかったそうだ」
「……あいつもいます」
「あいつとは、吹雪」
吹雪は拳を握り締め、歯を食いしばっている。
「深雪」
「北上と白雪を殺した戦艦、戦艦棲姫だ」
北上は重雷装艦だった、魚雷に誘爆すれば例え艦娘であっても即死だろう。
しかも、その爆発は周囲まで巻き込み、白雪も砕け散った。
重雷装艦ってのはバカみたいな武装だが、それまでに十分活躍していたわけだから頭っから否定することはできない、
しかし、不用意といえば不用意だ、そういうわけで北上は死んだ。
戦艦棲姫の砲弾が魚雷に直撃したのでは、と推測されている。
爆発の瞬間を見た者はいない、北上は後方に控えていたからだ。白雪がそばについていた。
吹雪と初雪、深雪や大井は真後ろで轟音がしたかと思った瞬間に爆風で遥か前方に吹き飛ばされたと言うんだから、
爆発の壮絶な威力を物語っている。
「仇は……取る」
珍しく初雪もやる気だ、まあ当然か。
「おっと、皆さん、お出ましですよ!」
青葉が叫ぶ、妙高が停止の合図を出し、艦隊は停止した。
「敵軍部隊がこちらに接近していますねェ!」
「艦隊、戦闘準備!」
「青葉、艦種は?」
「戦艦5、巡洋艦4、駆逐艦16、連中も本気みたいですねェ」
「戦艦が5隻も?」
「嘘じゃないですよ!ホントだって!」
艦隊はざわつき始める、戦艦5隻相手取るのは厳しい、だが、
「正面からの殴り合いね!漲ってきたわ!」
「この那智の得意とする分野だな」
妙高型は馬鹿なのかイカれてるのか、奴らとやり合うつもりだ。
「えー、やるの?」
「やるしかないみたい……」
衣笠と古鷹は不満そうだ、あたしだって不満だ、分が悪い勝負は好きじゃない。
「艦隊、迎撃態勢」
しかしだ、ここまで来たなら腹をくくろうじゃないか。
全員匍匐の体勢で敵を待ち受ける。艤装が生きてるかぎり水に沈むことはないから、匍匐の姿勢も取れるんだ、
原理はよくわからない、妖精さんの技術はこういう意味不明な物も多々ある。
「砲を撃ち尽くせば、抜刀しての斬り合いになるよ」
「んな馬鹿な」
そのまま伏せて待っていると、遠くに黒い点が見え始める。
「撃て!」
妙高の号令と同時に敵部隊への攻撃が始まった。しかし、先頭に陣取っている戦艦に攻撃は阻まれた。
「やはり、厳しいですか」
「あれが噂の戦艦棲姫!」
流石の重装甲だ、重巡や駆逐艦の砲弾での貫徹はこの距離だと難しい。
「近接戦闘用意」
駆逐艦たちが魚雷の安全装置を外し、投射爆雷を砲に取り付ける。重巡らも魚雷の発射準備に移る。
「ここからが正念場」
覚悟を決めたその瞬間、後ろからプロペラ音が聞こえる。
「おお!あれは!」
「航空隊だ!」
『途中で無線切りやがって!私たちが新兵だからって信用してないんでしょ!』
「これであの戦艦をどうにか出来る!」
「艦隊、攻撃開始!」
古鷹の号令で艦隊は立ち上がり、攻撃を開始。航空隊と同時攻撃を仕掛けた。
駆逐隊が正面から、天山が敵艦隊の両側面を陣取り、雷撃を仕掛ける。
慌てて回避運動に移ったらしいがもう遅い、爆発が次々と起こり敵艦隊に損傷を与えた。
「巡洋艦2、駆逐艦3、撃沈。戦艦2、大破」
菊月が双眼鏡を覗きながら戦果報告をする。
しかし、連中は進軍を止める気はないらしく、まだこちらに向かってくる。
「爆雷撃て!」
駆逐艦たちの爆雷が放物線を描き、敵艦隊へと飛んでいく。
それを見ても停止する気はないらしく、真っ直ぐ向かってくるから、おそらく奴らは覚悟を決めたんだろう。
こうなった兵士を止める術は殺す他にない、死ぬまで戦い続けるだろう。
水柱が上がったが、有効打を与えることはできなかった。
「砲撃開始!」
今度は重巡も揃って一斉射撃だ。無数の火の玉が敵艦隊を襲う。
その着弾を待たずして妙高からの次の指令だ。
「今より、突撃を実行する!」
「私たちの死に場所は戦場よォー!」
足柄の興奮は最高潮に達しているようだ、彼女ほどの戦闘狂は艦娘多しといえどそうはいないだろう。
『バカ!何やってんのよ!』
だが、瑞鶴からの抗議が入った。それに那智が噛み付く。
「ここで征かずして何が艦娘か!」
『あんたが死んで作戦が失敗したらもっかい殺すわよ!爆撃隊が向かってるからそれまで我慢して!』
ついでにお叱りの言葉ももらった。そういうことなら仕方がないと妙高は、
「そうでしたか、後退します」
「……ちょっと残念」
羽黒のつぶやきだ。妙高型はみんな好戦的なようで、いつもこの調子なんだと。恐ろしや。
艦隊は急速に後ろに下がる。牽制射撃や雷撃を放ち敵の砲撃を回避つつの後退だ。
「下手くそー!当ててみろー!」
「そんなこと言わないの!」
深雪が囃したて、吹雪が止める。
敵の様子を見るにかなり頭にきてるようで、ロクに狙いを定めもせずにバンバン撃ってくるから、
命中弾どころか至近弾さえも受けずこちらの損傷は全く無い。妙高が先の魚雷の傷を痛がってるぐらいだ。
「風と海水が傷にしみます」
「モルヒネ打っとく?」
「そんな、栄養剤みたく言わないで……」
「だって、鎮痛剤さえ使ってないじゃないの。そんなんじゃダメよ」
妙高と雷が言い争いをしているが、あれほどの傷を我慢できるのはすごいよ。
「違うわ、火傷が深くまで行ってるから神経が焼けちゃってるのよ!」
そりゃ一大事だ。でも艦娘はそんなことじゃくたばらない、それが良い事か悪い事かはわからないけど。
修復剤でパパッと直せりゃいいが、あれは患部を浸したまましばらく安静にしなきゃいけないから、
海の上じゃどうしても無理なんだ。陸でも戦場に湯船を持っていくわけにもいかないからね。
そうこうしているうちに爆撃隊がやってきて、敵艦隊に群がる。
「全艦、反転して敵艦隊を追い詰めます!」
速度を維持したまま大回りに旋回し、敵艦隊に突撃する。
「天皇陛下、バンザーイ!」
「ええ!?」
「一度言ってみたかったんだ」
「そりゃいいや、天皇陛下ァバンザァイ!」
皐月たちが声に出して叫びたい日本語の上位に入る言葉を叫び出した、もうノリノリで。
敵部隊は対空戦闘をしつつの防衛だから、弾は変な方向へ飛びまるで当たらない。
敵駆逐艦の2、3隻程を沈めた辺りで敵部隊と衝突、白兵戦が始まった。醜い殴り合いだ。
先んじて飛び出したのは足柄で、戦艦棲姫の一人に飛びかかり、顔面に短刀をブッ刺した。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「戦艦だからって、天狗になってるんじゃないわよ!」
その足柄を引き剥がそうとリ級が動くも、羽黒の砲撃を首筋に受け、青黒い血を吹き出した。
駆逐ロ級たちもその巨大な口を開けて喰らいついて来るが、口に爆雷を放り込まれて粉々に砕け散っていった。
深海側もただではやられまいとタ級がその艤装を振り回し、睦月の頭をかち割った。睦月は海上に倒れる。
「睦月ちゃんを、よくもぉぉぉ!!」
如月が声を張り上げ、主砲の砲身を握りハンマーのようにそのタ級の頭に振り下ろした。
ゴシャッと嫌な音がして、そいつは片膝を付くも、如月は今度は砲を振り上げてた。
顔面にぶち当たり、やはり嫌な音を立て悲鳴一つ上げることもなくタ級は沈黙した。
「睦月ちゃん!」
如月が睦月に駆け寄ったが、プルプルと震えてはいるがどうやら無事な様子だ。
「はいはい、ちょっと傷を見せてね」
と雷が手当を始める。
辺りは凄惨とも言うべき光景が広がっている。青と赤の血が舞い、乙女たちが殴り合いの死闘を繰り広げている。
この白兵戦というのは全く絵にならない。というのが顔だ、恐ろしく歪んでいるとか。
青葉はちゃっかりと一歩下がって写真を撮っていたらしくてその時はご満悦だったが、
写真を現像してみてゲンナリしたという話だ、あまりにも顔がブサイク過ぎるんだと。
青葉はこれを殺意と憎しみでグシャグシャになった顔、と表現していた。
あたしたちはというと戦艦棲姫を古鷹と衣笠が羽交い絞めにしてあたしが短刀を何回も突き刺したりと、
三人で嬲り殺しにしていた。簡単に言ってしまったが、人間こういう時は恐ろしい程残虐になれるもんなんだ。
駆逐隊たちも同様だ。集団で一方的に刺殺していた。終わった頃には軍服は返り血でぐしょぐしょになっている。
そんな中、先程の爆撃隊は上空でグルグルと回ってぼんやり飛んでいた。
今夜はここまで
グラッツェさん来た!これでグラッツェ!
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【北方棲姫の冒険】
第七回:突破、防衛線!
長らく防御を行ってきたが、北方棲姫はこの防勢では不利だと考えなんとかここから戦線を動かしたかった。
そこで、大規模な突撃を仕掛けることにする。参加兵力は2000とも3000ともされている。
とにかく数を揃えただけで、練度は度外視していたが、少数である連合艦隊には十分な脅威となる。
そうしてついに、突撃を敢行、恐ろしい程の被害を出し、第一波、第二波を撃退された。
続いての第三波で連合艦隊は耐えきる事が出来ず、撤退。
しかしこの撤退で北方棲姫軍は勢いに乗り、そのまま無停止で進撃。
数の劣る連合艦隊側はどうすることもできずにヘルシンキまで後退し、
スウェーデン、ノルウェーの失陥を許してしまう結果となった。
しかし、損害比率だけで見るとこの戦いは人類側の圧勝であり、
艦娘の損害がスウェーデン海軍のオスカーⅡの1人であるのに対し、深海棲艦は600~800もの戦死者を出していた。
日本海軍では艦娘の喫煙は三笠が不注意から自身の弾薬に引火させ、沈没寸前となった事故以来原則禁止である。
さらに言えば、艦娘たちは教育などの影響からタバコそのものを好んでおらず、
化粧品や洗髪剤などの美容品のように艦娘の固定需要を確保する事が出来なかったのだ。
タバコは軍事物資と言うにはいささか時代遅れであった。
そもそもこの時勢にタバコよりも優先すべき買い物は幾らでもあるのだから、喫煙する人々さえも消えていった。
ついにタバコはその市場での価値を完全に失ってしまった。
初霜書房刊『贅沢は無敵だ -趣向品たちの興亡-』より
べ、別に某スレに露骨に影響を受けたわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!
-捕虜-
『無事倒したようだな』
提督からの無線だ。
『別働隊も無事に迎撃部隊を撃破したようだ』
「では、上陸しますか」
『そうだな、お前たちが最も近いから一番乗りはくれてやる。すぐに別働隊も向かわせる』
「了解です」
さて、帝国海軍が夢にまで見たミッドウェー諸島に悠々と上陸させてもらおうか。
「一番乗りはもらったわ!」
「ま、待って!暁が一番よ!」
足柄と暁が速度を上げて進みだした。みんな彼女たちを追いかける。
ウキウキした気分を隠せない様子で、放っておけばそのうち鼻歌歌いながらスキップでもしそうだ。
あたしたちは戦いに勝利したんだ。
「しかし、服が返り血で真っ青だ」
「顔や髪の毛もね、お風呂入りたいなぁ」
「そだね。……青葉ったら、ずっと写真撮ってるんだから」
「あいつ戦ってる時も撮ってたよな」
青葉は艦娘たちの背中をパシャパシャとカメラに収め、満足そうだ。
「いい写真が撮れましたよ、ええ!」
「上陸したところを撮らなくてもいいのか?」
「そうでした、急がねば!」
ザッと速度を上げ、島に向かっていく。よくもまあそんな元気があるよ。写真撮ってただけだから当然か。
あたしたちはもうヘトヘトだったが、睦月が気がかりなので雷たちの元に向かう。
雷と如月は睦月を二人の肩で支えていた。
「どうだ具合は」
「応急処置は済ませたわ。今は意識を失ってるだけ、入渠ドックに入ればすぐに治るわ」
「そうか、無事だったか」
「よかったわぁ……睦月ちゃん……」
如月はポロポロと涙を零している。
「ずっとこの調子なのよ、なんとかして」
「ま、そっとしといてやれって。睦月はあたしが担ごう」
と、彼女を背負おうと思ったがあたしの艤装が邪魔だ。じゃ、抱っこでもしようってなると今度は彼女の艤装が邪魔だ。
「古鷹、睦月の機関を持ってくれるか」
「わかった」
睦月が背負っている機関を取り外して、彼女を抱きかかえる。
「ありがとう、加古さん」
「お安い御用さ」
例のごとくお姫様抱っこになっていたそうだ、古鷹は少しだけ頬を膨らませて見せた。
ミッドウェー島に上陸すると、既に足柄たちが残存艦たちを制圧していた。
「戦闘の意思は無いみたいね」
「そうか」
「医務室とかそういうのはある?」
「コッチ」
「あなた、日本語話せるのね!?」
近くにいたチ級が立ち上がり、雷を連れて行く。
「如月、古鷹、睦月を」
「ああ、うん」
「潮、卯月」
「……」
「ぴょん」
座り込んでぼんやりとしている捕虜たちの前に立った。大体十数名ほどだろうか。
「腹拵えしとかないか」
ポケットから、携帯糧食を取り出し、捕虜たちに配る。
「ほら、海でも見ながら食べな」
「アア、アルガトウ」
「イタダキマス!」
「Thank you!Thank you!」
「妙高、ここはあたしらに任せて、残党狩りに行ってきな」
「わかりました。第五戦隊、こちらへ!」
妙高たちは島の奥に走っていく。
「青葉と衣笠も行ってこい」
「で、あんたたちはここでのんびりとするわけね、調子いいんだから。皐月ちゃん、行くよ!」
「はいはーい!」
青葉と衣笠、第二十二駆逐隊もどこか奥へと消えていった。
捕虜たちは美味しそうに携帯糧食を食べている。海を見ながらだから、全員こちらに背を向けて。
「美味いか?」
「Nice taste」
「ウマイ!」
「そりゃよかった」
そう言って、あたしは主砲をそいつらに撃ち込んだ。続いて卯月と潮も撃ち始める。
辺りは血の海となり、青い水たまりが出来ていた。
「……しまった、どう処理するか考えてなかった」
今度からは穴でも掘らせようかとか、そんなことを考えていたように思う。
今夜はここまで
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【北方棲姫の冒険】
第八回:出撃、北欧救援隊!
北方棲姫はいくつかの誤算をしていた。
まず一つ、ラップランド地方とスウェーデン、ノルウェーの全土を支配下においた北方棲姫だが、
思いの外戦力は集まらなかった。避難が完了していたからだ。
もう一つはスカンジナビアの広大さである。兵站の維持が難しくなってしまった。
そして最後の一つは、連合艦隊にとっても嬉しい誤算であった。
イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの各海軍合同での北欧救援隊が編成されたことである。
救援隊はノルウェー沿岸部より上陸し、戦線を後方から食い破った。
北方棲姫軍は即座に防衛に当たるも、この救援隊は今まで戦ってきた小国海軍とは違い、
圧倒的な強さで深海棲艦を蹴散らしていった。
さらに連合艦隊も同時攻撃を開始、戦況は人類側に大きく傾いたのだ。
-墓標-
『今の砲撃音は?』
「問題ない」
『ふぅん、それよりすごいもの見つけたんだよ、来て』
衣笠からの通信だ。何かを見つけたらしくて、少し声色が変わっていた。
「二人共、行くぞ」
「はいはい」
二人を連れ、島の東側の方へと向かう。衣笠によれば、以前からミッドウェー海戦の慰霊碑あった場所らしい。
途中で那智たちが呑気に歩いていた。
「加古、捕虜たちは?」
「んー」
「んーって……まあいい、その様子なら妙なことにはなってないんだな」
「ん」
「先の砲声は」
「ん~」
「はぁ……」
肩をすくめ、彼女たちは捕虜のいた場所へ歩いていく。
2kmほど進み衣笠たちと合流した。まるで信じられないことが起きたかのような騒ぎだ。
「これって……」
「……」
慰霊碑の隣に、真新しい墓石、墓標が二つ立っている。
「これはなんだ?」
「ミッドウェー海戦の、艦娘たちの墓でしょうか」
青葉は写真を撮って、その墓標に綺麗な日本語で刻まれている文字を読み上げた。
「“祖国に命と青春の全てを捧げ戦った私たちの勇敢な敵、日本人のために”、ですか」
「赤城、加賀、飛龍……こっちは名簿かしら」
そこで、あたしはフラッと倒れそうになり、文月に支えられる。
「ふわっ、大丈夫?」
「どうかしたの、加古」
「いや……」
世界中の人々を拐って自らの尖兵とした。
スチュワートの仲間だって、無残に殺された。死体も辱められた。
あたしの仲間だって、弥生だって殺されたんだ。だというのにこれは……。
深海棲艦もピンキリってことはわかってた、わかっていたんだ、わかっていたはずなのに。
「私は、私は何をしていたんでしょうか……一体何を……」
潮がポツリと言葉をこぼす、その通りだ、あたしたちは一体何をしたんだ?
この憎しみはただの勘違いだったとでも言うのだろうか。
「これは一体何でしょうか、今更それはないじゃないんじゃないですか、なぜ徹頭徹尾残虐非道で……」
名簿には朧の名も刻まれている。
「こ、こんなもの……」
自然と、砲身を向けてしまう。
「加古?一体何を!?」
「待って、どうして砲を!」
青葉と衣笠に取り押さえられた。
「こんなもんあたしたちに見せつけてどうしろって言うんだよぉー!!」
叫び声が響く、涙が溢れる、この心臓が震えるような感覚はなんだろうか。
この気持ちが後悔なのか、こんな物は薄ら寒いだけだと怒っている心なのかはまるで見当がつかない。
そんなのが全部がごっちゃになって、もう何が何だかわからなくなっちゃった。
「そうだろ……こんな物見せつけられて、どうする!?」
卯月と潮に怒鳴りつける。二人も顔を俯かせて泣いていた。
そこに血相を変えた那智が走ってきた。
「加古、お前、一体何した!?」
「那智さん?ちょっと加古の様子が変で……」
「なぜ殺した!捕虜は長野の収容所に送られることになっている!」
そう言ってあたしの胸ぐらを掴み上げた。
「お前のやった事は規律違反だ。潮、卯月、お前たちは加古を止めなかったのか」
「……」
二人は無言だ。
「まさか、まさかだろ?お前たち三人とも……加古ォ!!」
バッと突き飛ばされ、尻餅を付く。
「自分が何をしたかわかっているのか?」
「わからない、わからないんだ、どうすればいい」
「答えろ、なぜ殺したんだ」
「わからない」
那智の平手打ちが飛んできて、頬に痛みが走る。
「那智!やめて!」
「そうですよ、一体どうしたって言うんですか」
「黙っていろ!」
衣笠と青葉が那智を止めようとするが、那智の気迫に気圧され、黙り込んだ。
駆逐艦たちも呆然とこっちを眺めている。
「さぁ、答えてもらおうか」
「わからない」
那智は今度はあたしの顔面を蹴り上げた。鼻が潰れるような感覚がして、血が溢れ出してくる。
「わからない、わからないっつったろ……」
「ああそうか、これでも思い出さんか!」
艤装の主砲を手に取り、あたしの頭に振り下ろす。
もう痛いという感覚は無くなっていたから大したことはない、でも頭が割れたようで他が溢れ、意識もぼんやりとし始める。
「あんた、加古を殺す気なの!?」
「黙れ!」
彼女は頭に血が血が上って正常な判断が出来なくなっていたんだろう。
唐突にガシャッと音がする。装填の音だ。卯月が那智に砲を向けていた。
「なんだ、私にも捕虜たちのように砲を浴びせるか?」
「ぴょん」
「撃てるものなら試してみろ」
ガオンッ!と音がすると血と肉片が飛び散る。那智の右腕が無くなっていた。
「あ、が、あぁ?」
卯月の砲から煙が立ち上っている、彼女が撃ったんだ。
「う、腕が、う、腕が、ああ」
予想外の出来事に狼狽えている。まさか本当に撃たれるとは思っていなかったんだろうね。
卯月はというと、無表情のように見えるが若干したり顔のようにも見えた。
そこで意識が途切れる。
次に目が覚めたのは医務室だった。体を起こすと、雷が椅子に座っている。
「はぁ……仕事を増やさないで欲しかったわ」
「……」
「そうね……確かにあなたはとんでもないことをした」
「そうだな、何やってんだろう、あたし」
「でも仕方ないわ」
「仕方ない?何言ってんだよ」
「私が同じ立場なら、やっぱり同じことをしたと思う」
「どうしてそう思う」
「どうしてって……だって、だってさ、あなたって家族も深海棲艦に殺されて部下も殺されて残虐な部分も見て、
それであの状況でおめおめと降伏してきた捕虜を撃ち殺すなって言う方が無理な話よ」
「それは……」
「大丈夫、誰があなたを非難しても私がいる、助けるわ」
それを聞いてなんだか初めて胸にずっとつっかえていた物が取れたような気がした。
「那智は、那智は無事か」
「不思議ねぇ、自分を殺そうとした相手を心配するなんて」
「殺そうだなんてしてないだろ、那智も」
「……当たり所がよかったから生きてるけど、普通ならこれ艦娘でも死んでたわよ」
「そ、そうなのか」
あの野郎め……だが、こっちに非がないとは言えないからなんとも。
「とにかく元気そうね、本土に帰るまで右手はお預けだけど。ただちょっとブルーになってるわ」
彼女は、あたしが捕虜を銃殺したことを決して非難しなかった。
「そう言えば、チ級がいたけどアイツは……」
「気になる?彼女は殺すんだから殺されるのも当然だって言ってたわ。かなりドライね」
あたしに気を使ったのか、命を握られてるから下手なことを言わなかっただけなのかはわからなかったが、
少しだけ気が楽になった心地だ。
ミッドウェーは占領部隊に引き継ぎ、攻略部隊は本土で休暇を取ることになる。
みんな墓標を見て驚愕の表情を浮かべていた。さらに遺品がまとめられてあるのを青葉が発見する。
血に塗れて焼け焦げた軍服だったが、遺族に手渡されることとなった。
怪我をした睦月は帰る頃にはピンピンしていた、しかし気がかりなのはやはり卯月と潮だ。
あたしはどうなっても構わないが、彼女たちの処遇はどうなるのか、あたしは帰りの船でそれをずっと考えていた。
今夜はここまで
連載小話
【北方棲姫の冒険】
最終回:さらば、北方棲姫!
北方棲姫軍は敗北を確信し、スカンジナビアの放棄を決めた。
ノルウェー北部の沿岸より脱出し、スヴァールバル諸島へ向かうも、
偵察機の情報によるとそこには英海軍が待ち構えていた。
方向を変え、ヤンマイエン島に向かったが、やはり英海軍が先回りしており、
最終的にはグリーンランド東部の無人地帯へと上陸した。
しかしそれさえも察知した英海軍は逃げる北方棲姫軍を執拗に追撃し、
その最後の追撃のドサクサで北方棲姫は行方知れずとなった。
以降、彼女が姿を現すことは無かったが、
グリーンランドの現地民に保護されているという噂が実しやかに語られている。
8.第六戦隊の最期
中部太平洋を手に入れた日本海軍は南太平洋へと目を向ける。
第六戦隊は再びソロモン諸島へと足を踏み入れることになる、あたし抜きで。
こんな馬鹿な話はない、四人揃っての第六戦隊だ。
しかし、先の件であたしと卯月、潮は呉にある軍の精神病院に叩き込まれてしまった。
-入院生活-
あたしたちは先の事で軍法会議にかけられた。あたしをメッタ打ちにした那智もだ。
しかし雷があたしたち全員が戦闘ストレス反応、心的外傷後ストレス障害の患者であったと主張し、
提督や司令長官の取り計らいもあって処罰は免れたが、代わりに海軍呉病院に入院することになった。
病室も相部屋にしてもらった。那智は佐世保の方にいるらしい。
「なぁ、潮。広島には何があるんだ」
「厳島神社と原爆ドームでしょうか」
「他には?」
「大和ミュージアム」
「つまんなそうっぴょん」
「そうですか……」
観光地の話をしてはいるが、別に外に出してもらえるわけじゃない。
この病院に一日中閉じ込められているってのも退屈だ。ゲームとかトランプは置いてあったが、
数日もすればやり尽くして飽きてしまう。
「ふわぁ、ねみ」
「あーーーー退屈っぴょん」
今は窓の外をぼんやりと眺めている。自分たちの他に艦娘の姿は見かけなかったが、いるにはいるらしい。
いつも時間さえあれば探していたがどうにも出くわさない。
ある日、慰問ということで間宮という艦娘が来てくれた。
「アイスクリンですどうぞ」
「アイスクリームとどう違うんだ」
「どっちでもいいぴょん、美味しいから」
「それもそうかな」
厳密に言うと違うらしいが、まあ細かいことはどうでもいい。みるみる元気が出てきたよ。
「なあ間宮さんよ」
「どうされました?おかわりですか?」
「おかわりは後でいただくとして、戦況についてはどうだ」
「そうですね、インド洋方面も本腰入れて掃討を開始するそうですよ。今まではイラクまでの航路だけだったので」
「他には?」
「それから、ソロモン諸島に向けて第六戦隊が出発したそうです」
「なんだって?」
「ご存知ないのですか?」
「ここじゃ情報は何にも入ってきやしないんだ」
「まぁ、治るまで戦争のことは忘れて養生しろって事でしょうね」
「そうは言ってもなァ」
「ピンピンしてますねPTSDと聞いてますが」
「いや、そうなんだが、やっぱりここで呑気に寝てる場合じゃないよ」
一刻も早くソロモンに行かなきゃならなくなったぞ。しかしどうしようか。
間宮が帰った後も古鷹たちが気がかりで仕方なかった。
というよりは、後方で何もせずにじっとしていられないって気持ちの方が強いかな。
しかしだ、脱走したところで向こうに行く手立てもない。艤装一つじゃ心もとないんだ。
「なあ、戦場に戻りたいよな」
「戻りたいっぴょん」
「何もできずにじっとしてるのはもどかしいです……」
でもあたしたちにはどうすることもできない、ただ時間だけが過ぎていった。
今夜はここまで
一応終わりに近づいてはいるけどもちっとだけ続くんじゃよ
【第二次ミッドウェー海戦】
一度目のミッドウェー海戦とは違い、この二度目の戦いでの日本軍の損害は僅かであった。
ベーリング海日米連絡航路によって米国が息を吹き返しつつあったため、
深海棲艦主力部隊は北米西海岸へ集結していたのだ。
ミッドウェー島守備隊は何度も支援を要請したが、ついに日本軍の侵攻が開始され、
守備隊は決死の奮戦を行うも惨敗、降伏した捕虜も全て殺害された。
これにより日本軍は中部太平洋の制海権を掌握し、深海棲艦は太平洋戦線における主導権を失う。
-お嬢様艦娘-
どうしようもないまま時間だけが過ぎていく日々だった。
こんなもどかしい事はない、今頃古鷹たちはソロモンで戦っているんだろう、
あたしは病院でのうのうと暮らしているんじゃカッコがつかないよ。
とある日、窓の外の海を眺めていると艦娘が訓練しているのが見えた。多分新型の巡洋艦だろう。
少し興味が湧いたので、見に行ってみようと卯月と共に外出許可をもらった。
「しかし、意外とすんなり許可出たな」
「出たところで、どうせソロモンまで行く足がないっぴょん」
「そうだけどさ」
同じ呉市内の中だったからってのもあるだろう。
埠頭まで行くと、こちらに気がついた香取が近くまで寄ってきた。
「あら、あなた方が噂の……」
「どういう噂だ?」
「いえ、少しよろしくない噂です」
「だろうな」
やっぱり、話は広まっているみたいだ。
「なんでも、女性関係にだらしないと……」
そっちか。
「まあいいや。新型か?」
「ええ、最上型重巡洋艦です。もう訓練も半ばというところなんですが……」
「何かあったか」
「実は、あまり言うことを聞いてくれなくて」
あの『鬼の香取』の言うことを聞かないたぁ胆の据わった連中だ。
「それが、上からですね、あまり厳しくするなと……」
「どういうこった」
「……『お嬢様』なんですよ、彼女たちは」
お嬢様艦娘とは、驚いた。いつから戦争は貴族のお遊びになったんだ。
「戦争が貴族のお遊びなのは昔っからっぴょん」
そういう身も蓋もない話もあるが今は置いておこう。しかし厳しくしなきゃ訓練にならないだろう。
「甘っちょろい訓練で死なれでもしたら、それこそ一大事だろうよ」
「その通りです、私もそう言ったのですが……」
軍令部ってのはこういうところがあるからいかん。
「あたしが手伝ってやろうか」
「え、でも……入院しているんじゃ?」
あたしの服装を指差して言う。確かにこの格好じゃアレだな。
「ちょいと服を貸してくれ」
それで、香取とお揃いの教官用の服を着てみたがあたしには似合わないようだ。
「ぶっくくくく……似合わないっぴょん!」
「このタイツが良くないな……」
「それで、一体どうするおつもりですか?」
「そりゃあ、泣いた赤鬼だ」
あたしが突然やってきて散々痛めつけてやれば、ちったぁ香取のありがたみがわかるだろうよ。
「それで、手伝ってもいいが、こっちにもお願いがある」
「なんでしょうか」
「ソロモンまで行きたいんだが、PTSD扱いだから前線に出してもらえないんだよ」
「あら……」
「あたしと卯月、潮の三人だ。よろしく頼むよ」
「出来る限りはやってみますね」
「っと、そろそろ昼食の時間だな……麺類がいい」
「麺類?用意させましょう」
「いや、あたしじゃない」
「はい?」
「最上型に食べさせるんだよ」
食堂にて、最上型の四人がスパゲッティを美味しそうに食べている。
訓練の後ってこともあるだろうし、普段はあまりいい物は出ないもんだからだろう。
あたしはよく銀蝿してたからうまいもんたらふく食ってたけどね。弥生と卯月と一緒に。
しかし弥生は……と、考え始めると動けなくなるからパチンと頬を叩き、食堂に入る。
「食事止め」
パッと彼女たちの手の動きが止まった。
「あたしは今日の半日だけ指導することになった加古だ」
「食事中になんですの」
「深海棲艦はお前が飯食ってる時でも殺しに来るぞ」
あたしも飯食ってる時に殺したし、とミッドウェーでの光景がよぎる。
「う、うん、そうだね、今から訓練?」
「お腹いっぱいなんだけど」
「腹が膨れてたら味方が死にそうでも助けにいかないのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
見るからにみんな不満そうだ、顔に思いっきり出てる。白露型も最初はこんなんだったよ。
「走るぞ」
「わかりましたわ、いつ集合すれば?」
「いや、今から走るんだ」
「今!?食べたばっかじゃん!」
「なんか問題でもあるか?」
「こんな状態で運動なんか出来ません」
「やれ」
四人は沈黙する。あたしの主義として暴言を使うやり方はしないが、やるべきことはきっちりやってもらう。
「心配するな、たったの30kmだ」
「さ……」
「ちょうど広島市内を観光したいと思ってたんだよ」
艦娘は肉体も強化されてるから、この程度で肉体的にバテることはない。
ただし、艦娘になりたての彼女たちのとっちゃ精神的に辛いはずだ。
辛くないはずなのに辛いと脳が勘違いするのを肉体に合わせて調整しなきゃならないんだと。
「さあ、行こうか」
彼女たちは渋々、食堂を出る。
今夜はここまで
さて近年可決された同性婚についての法案、後押しする団体の裏に艦娘在郷軍人会があったというのは公然の秘密ではあります。
初霜書房刊『艦娘の秘め事』より
-誰がために戦うのか-
広島市の中心までの道程はおよそ30km、歩けば6時間かかる。走るんだから1、2時間は早まるだろうが。
しかし、鈴谷が走り出して30分もしない内に音を上げ始めた。
彼女は立ち止まり下を向くと地面に胃の中身を全て吐き出してしまった。
「何をしている」
「だってぇ……」
彼女が一番食べていたから、キツいのは当然だろう。
「あの、彼女を休ませてあげてください」
熊野が心配そうに言う。最上と三隈も立ち止まってこちらを見ていた。
「誰が走るのをやめていいと言った?」
「え?で、でも」
「いいからさっさと走れ」
「……わかりました」
苦虫を噛み潰したかのような顔だ。握り拳がブルブルと震えている。
三人ともこちらをひと睨みすると、再び走り出した。
しかし香取の訓練はこの程度の厳しさも無かったのだろうか、勝手な想像だが彼女は権力に強くなさそうではある。
「げほっ、げほっ」
「気が済んだら走れ」
「あんたは、私たちに何をさせたいの……?」
鈴谷はこちらを睨みつける。
「お前、何しにここに来たんだ?」
「それは……」
何しに来たのか、なんて人のことを言えたもんじゃないんだけどね。
「戦争をしに来たんじゃないのか」
「だって、パパが前線に出なくてもいいって……」
「パパ……」
確かに夢のような話だ。艦娘にはなる、前線には出なくていい、しかも父親までいるとは!
こいつの父親はかなりの金持ちらしい、軍需産業かそこらの幹部なんだろう。
そうでなきゃここまで口出し出来ないだろうしね、よっぽどのお偉いさんと見える。
「じゃあ、帰るか。今から艦娘を辞めてもいい」
「え……?」
まさか、という顔だ。
「ここにいても辛いだけだろう」
「……」
「ただ、最後に言っておくとするなら、お前が辞めても三人は戦場に行くだろう。
その間お前は内地で悠々自適に暮らすんだ。好きな事をして好きな人と過ごす……。
しかし三人はお前の目の入らない所で死んでいくんだ。まあ当然だな、そして…」
「もういい!わかった!」
サッと鈴谷は立ち上がり、前を走る三人を追いかける。
少し卑怯だったかもしれないが、焚きつけるにはこの手に限る。
しかし、あたし自身に向けられた言葉かもしれない。
あたしが今こうしている間にも古鷹たちは戦っているんだ。それこそ再会する時は死体になっているかもしれない。
早くソロモンに行ける日が来るといいが。
続いて前を走る熊野も嘔吐してしまった、しかし鈴谷はそんな彼女を励まして、
体に吐瀉物が付いてしまうのも憚らず彼女を抱えて走ろうとする。
その度に遅い、ペースが落ちてる、誰が抱えていいと言ったと怒鳴りつけてなかなかいい感じに嫌われたようだ。
そうして4時間程でようやく広島市に辿りついた。
「思ってたより遅かったな」
「……」
「じゃ、あたしは観光でもしてくるから。そうだな、一時間後にここにまた集合だ」
そう言って、あたしは市内を散策する。街を歩きながら考えるのはやはり第六戦隊の事だ。
皮肉なことにここは平和の街を自称している、そんな所で早く戦争に行きたいと考えているあたしはかなり異質だろう。
どこを見ても目に付くのは平和の文字、辟易する。戦争の申し子たる艦娘の来るべきところではなかったかもしれない。
でっかい公園でデモ隊が騒いでいるのが見えた。『戦争反対』、『深海棲艦と対話を』、耳障りのいい言葉だ。
どうせ連中は空襲や砲撃を受けたわけでもないんだろう。だからそんな事が言える。
次の瞬間に自分や親しい人物を殺されるかもしれないんだ、艦娘の多くは深海棲艦と対話しようだなんて考えていない。
ましてや部下、姉妹艦を殺された艦娘なら尚更だ。流石に捕虜を撃ち殺すのはあたしだけだろうが。
そう、全ては戦友のためで、家族や国ももちろん大事だが、何よりも先に立つのが戦友のためだ。
寝食を共にし、訓練を行い、戦場に向かう。特別な環境と特別な関係、まさしく絆の姉妹たちと言える。
艦娘の原動力はそこだろう、『誰がために戦うのか』と聞かれればその多くが『戦友のため』という答えだろう。
あたしはこの呉に来てから早く前線に戻りたいとそればかりを考えていたんだ。
一時間後に集合地点に戻ると、全員しっかり揃っていた。
「てっきり誰も残ってないかと思ってたよ」
「次の命令は」
「帰りも走る。行きより早く到着しなかったら今日の飯も風呂も無しだ」
「わかりました」
最上がそう答え、四人とも何も言わずに走り出す。
さっきと雰囲気が変わったのはきっと気のせいじゃない、鈴谷が何か言いだしたんだろうな。
まさか病室に押し入ってくるとは考え難いが、もしかすると今夜にでも夜襲があるかもしれない。
帰りは誰も立ち止まることなくスムーズに進んだ。
タイムも大幅に縮まったが、そういう競技でもないからこれはどうでもいいか。
最後にもう一つ焚きつけておこうと考え、嫌味を言う。
「半日だからランニングしか出来なかったが、まあいい。きっと次会うのは戦場だろう」
「……」
「あたしも重巡洋艦だが、新型がこんなに甘っちょろい連中だとは思わなかったな」
皆顔を険しくする。
「こんな連中なら香取教官も教えがいがないだろうな。非常に残ね…」
「うわあああ!!」
と掴みかかってくる鈴谷!意外にも喧嘩っ早かったか!
最上と三隈、熊野も続く、鈴谷の拳があたしの頬にめり込む。
「ぐはっ、やりやがったな!」
「ふざけんなこの野郎!」
「そうだよ!酷すぎる!」
神通はもっと酷かった、なんて思ってる場合でもない。
「やるかガキども!」
とにかく四人で殴る蹴るだから、あたしも全力で反撃してやった。
結局、気がついた香取が慌ててやってくるまでの数十分間、お互いにボロボロになるまで殴り合った。
以来人が変わったかのように真面目に訓練を行うようになったそうだ。
うまいこと闘争心に火を点けることができてよかったよ。今になって神通の気持ちが少しだけわかった気がする。
刺激を与えれば、結束する。単純だが有効な手だ。
……いや、彼女はただ単にサディストなだけだったのかもしれないが。
今夜はここまで
最近は何かと忙しくて(huluで映画見たり)少し遅くなってしまい申し訳ない
-ソロモンへ-
散々殴り合ったわけだから大怪我だ。医者にどやされた。
外出許可はもうしばらくは貰えないだろうね。
「退屈だなァ」
「自業自得でしょう」
「そう言ってくれるな」
潮の苦笑いが横目に見える。
病院でじっとしているしかないから、退屈なもんだ。
香取からの連絡もないから前線に行くのも叶わない。きっと手間取ってるんだろう。
そこで病院内をウロウロとしていたわけだが、例のもう一人入院している艦娘をついに見つけた。
「お前は戦艦か」
「そうね……」
実に暗い戦艦だった。どうにも戦いで姉妹艦を失ったというから当然だろう。
「辛いわね、お互い」
「いや、あたしは……」
「いいのよ、無理しないで。私は扶桑型戦艦の妹の方、山城」
「あたしは加古だ、お前も…」
「あ、扶桑姉さまはもういないから、山城型戦艦ね……」
「う、うん……」
本当に暗いやつで、こっちまで暗くなってきた。なんか部屋までも暗いし。
「あたしとお前じゃここに来た理由が違うだろ。お前は本当にPTSDで……」
「あなたも少しおかしいわ。私と同じく」
「なに?」
面と向かっておかしいとは初めて言われた。
「話は聞かせてもらったもの、あなたも私と同じ」
「そうかなァ」
「そうよ」
なんともふわふわとした言い分だ。よくわからない。
「お前は前線出たくないのか」
「そうね、出たくないっていうか、出る必要もなくなったっていうか」
「姉ちゃんがいないからか」
「……そうね」
この頃は姉妹艦や戦隊に欠員が出始めた頃だ。扶桑も長く続く戦いや攻勢で犠牲となったんだろう。
特にこういうロートルは脱落を始めて、それでも前線でまともに戦えてるのは金剛型と球磨型ぐらいだ。
扶桑は戦死した戦いを最後に退役のはずだったんだが、帰らぬ人となってしまった。
「はぁ……不幸だわ……」
「そもあたしたち艦娘が幸福であったことはあるかい」
「どうかしらねぇ」
「艦娘の幸福は戦場で死ぬことかな」
「艦娘によりけりよ」
「それもそうか」
「あなたは戦場に行きたいの?」
「そうだね、古鷹たちが戦っているから」
「扶桑姉さまも、そうやって仲間のために戦って、死んだの」
「お前の姉ちゃんは立派だな」
「ええ、立派よ。扶桑姉さまは最高だったわ。それに引き換え私は……」
「そうやって卑下するこたァないじゃないか」
「いえ私は、生き残ってしまったわ。でも扶桑姉さまは……」
「山城……」
あたしもそうだ。あたしよりも価値ある人間ばかりが死んで、あたしはのうのうと生き残っている。
「だから、不幸なのよ……」
「もしよければ、あたしと一緒に来い」
「……死に場所を、用意するつもり?」
「一緒に死んでやるつもりはないけどね」
「いいわ、乗ってあげる。扶桑姉さまに会いたいもの」
「まあ、それは好きにしたらいいよ」
戦艦一人が増えたところで問題はないだろう、あとは香取の返事を待つだけだ。
そして数日後、病院にある訪問者がやってきた。
「おひさかも」
「秋津洲か。まさかお前が?」
「そのまさかかも!」
「二式飛行艇からバーって飛び降りるっていうっぴょん?」
「……なんで知ってるかも?」
「え?」
「訓練期間は一週間!空挺降下の訓練を受けてもらうかも!」
半ば謹慎のような形のあたしたちを戦場に連れ出すってわけだから、色々と条件付きのようだ。
「要は艦娘の空挺降下の実験ってわけか」
「そういうこと。さ、訓練を始めるかも!」
山城についても話したが、今更増えようがどうでもいいらしくあっさりと許可が出た。
しかし、二式飛行艇は降下出来るように作られてるのかと思ったが、
「そんなの、無理矢理にでも突き落とすかも」
と言いやがるから、よくこんなムチャクチャをやるもんよ。
それから一週間、空挺降下の訓練を行ったが、陸の第1空挺団とかいう連中が監修した
恐ろしく厳しいもので、戦場に向かう前にヘトヘトになりそうだったよ。
即席の空挺艦隊(おかしな表現だが)でも元々それなりに精鋭だったから様にはなるだろう。
そうして日本を発ち、太平洋の占領地を経由して、夜中のソロモン諸島上空を飛んでいる。
「上から見るのは初めてだな」
「懐かしいぴょん」
下の海では流れ星のようなものが見えたから、多分戦闘を行っているんだろう。
誰が戦っているのかはわからないが、死人が出ないことを祈るばかりだ。
「そろそろ、降りるかも」
「よし、降下準備!」
先頭はあたしだ、ドアを開けて下を見る。機関を始動させる。
「じゃあ行くぞ!」
そう叫び、そのまま飛行機から飛び降りた。
今夜はここまで
-ショートランド泊地-
真っ暗闇の中をゆらゆらと落ちていく。
見渡す限り黒で、目を閉じてレーダーに意識を集中していた。
周りに浮かんでいる物が8つ、卯月、潮、山城と補給物資だろう。
無事に降下出来ているようで助かった、訓練じゃ何度か失敗もしたからね。
降下地点はソロモン海北西、前線拠点のあるショートランド諸島の近くだ。
しかしこの暗闇では正しい地点に降りることが出来るのかは疑問だが。
波の音が徐々に近づいてくる。きっともうすぐだろう。
そう思った次の瞬間に足の裏に衝撃が走ってそのまま横に倒れてしまった。
艦娘ってのはすごいもんで艤装が生きてる間は水の中に沈むことはない、水面に手を着くことだって出来る。
もちろん、水面に落ちると地面に落ちたのと同じふうになる。
「いってぇ……足くじいた……」
周りから波の音に紛れて小さな悲鳴や水の音が聞こえるから、みんなも着水したんだろう。
レーダーを頼りに補給物資を探す。さあ持ち運ぼうと抱えると、妙に柔らかい。
違和感を感じて、ペタペタと触っていくとむにゅむにゅとした部分を見つけた。
「柔らかい?」
「私よ、山城よ。そこはお尻よ」
「ああ……動かないから物資かと思った」
「動けないの、バランスを崩して倒れたの」
「ああ、そういう……」
「不幸だわ……」
なんとか彼女を起き上がらせて、物資捜索の続きを始める。
卯月と潮の二人も無事だったようで、無線で連絡が来た。
『うーちゃん、大地に立つ!海だけど』
『無事に着水できました』
「了解、各自物資の回収後ショートランド泊地を目指せ」
月明かりもないこの暗闇での合流はできなくはないが難しいだろう。
それから無事に物資を見つけ、山城と共に泊地に向かって進む。
その途中で、不思議な出来事に遭遇した。
遠くに灯りが見える。
「……深海棲艦か?」
「姿勢を低くしましょう」
「倒れるなよ」
双眼鏡を覗き灯りの主を見た、しかしどう見ても見知った顔なんだ。
「春雨?」
そう、あの髪型と顔は春雨だ。ただ様子が変だ。
「あれは深海棲艦じゃない?」
「う、うん……肌の色も艤装も……」
妙に色白で黒の艤装を装備している。
「は、春雨……じゃない……?」
「春雨って?」
「あたしの教え子の一人だ、まさかだろ、春雨、だがなぜ」
なぜ彼女は深海棲艦の格好をしているんだ?
偵察か偽装か、他に理由があるのかはわからない。
ただ、ものすごく嫌な予感がしていたんだ……半分ぐらいは杞憂だったけど。
そのままその春雨のような深海棲艦はあたしたちに気がつかずに去っていった。
あたしたちもそのまま追いかけたりはせずに進み、ショートランド泊地に到着。
でもまだ夜遅かったから、とりあえず見張りに言って寝させてもらってまたその朝に、ようやく顔合わせする。
「か、加古……?」
「よく来てくれましたよ加古!」
「抜け出したってわけね、あんた最高!」
古鷹も青葉も衣笠も喜んでくれた。これでこそ第六戦隊だ、四人いなきゃ片手落ちさ。
「加古、よかった、来てくれて……」
「あたしがいなくて寂しかったろ」
「すっごく、寂しかった」
古鷹は人目を憚らず抱きしめてくる、まあ気にするほど人目もないんだが。
睦月型や暁型の他にも白露型の面々もいて、懐かしい顔ぶれだ。巡洋艦となると神通や川内もいる。
ただ、一つ気になることがあって、春雨はちゃんとそこにいるんだ。
「春雨、お前生霊となって放浪したりしてない?」
「ええ……?」
だよな。そんな反応するのも当然だ、あたしだってするよ。
しかしそれに反応して難しい顔をしたのは他ならぬ提督であった。
「お前も見たか」
「他にも見た奴がいんのか」
「ああ、悪そうな春雨、わるさめと便宜上呼んでいる」
「ギャグみたいな名前だな、どういうやつなんだ?」
「さぁ、わからん。交戦してないからな」
「そうかい」
「わかるのはきっとやつが新型の棲姫級だろうってことだ」
「でもなんで春雨を模しているんだ?」
「実はここに来て春雨は一度大怪我をしていてな、手が吹っ飛んじまったんだ」
「なんだと?」
そりゃあ気の毒に。だが治療はできたようで今の彼女は五体満足である。
「それ以来だ、やつが出没し始めたのは」
「ふーん……あたしにはよぉわからん」
「ひょっとすると深海棲艦は、艦娘を喰らって進化するのかもしれない」
「はァ、喰ったヤツの姿かたちを真似すんのか」
「流石に無いとは思いたいがね、一つの想像としてだ」
それが本当だとすると、とんでもないバケモノだな。この世のものとは思えない。
提督との話も終わってみんなの元に戻ると、艦娘たちは物資を漁っていた。
結構補給が滞っていたらしく、娯楽やら甘味やらに飢えていたようだ。
みんな慰問袋を覗きながらお菓子や缶詰の果物を嬉しそうに頬張っている。
「素敵なプレゼントっぽい!」
「そんなにがっつかないの!レディはがっつかないのよ!」
「遠慮なく食えばいいじゃないか」
「そ、そうかしら?じゃあ!」
しかし素敵なプレゼントはこれだけじゃない。
「手紙が来ているから名前を呼んだら取りに来い」
と、家族からの手紙もやっぱり嬉しいらしくって、みんな名前を呼ばれるのを今か今かと待っていた。
これは内緒話なんだけど、実は何人か手紙が届いていない艦娘もいたんだが、
それはあんまりな話だからあたしと秋津洲で偽手紙を書いておいたんだ。
手紙が来ない寂しさというのは、それはもう例えようもないぐらいなもんだ。
「誰から来た?やっぱりお母さん?」
「もう長いこと顔も見てないよ……」
「その写真兄さん?帰ったら紹介してよ」
「妹が艦娘になりたいって」
みんな手紙談義に花を咲かせている。
あたしたちの偽手紙はどうやらバレてないようで安心した。
いつかバレるんだろうけど、まあその時はその時だ。
そんな中、神通が泣きながら手紙を読んでいるのを見てなんだか複雑な思いだ。
だってさ、それ書いたのって秋津洲だし……よっぽどの名文を書いたと見える。
ここまで
のらくろアニメを配信してるサイトを見つけたけど、
月額課金の上ポイントまで買わされて泣いた
>>1は神通に恨みでもあるのかwwww
-戦いの後は?-
懸念事項は二つ、一つは補給だ。
ソロモン海はもちろん、ビスマルク海なんかの南太平洋には潜水艦がウヨウヨいる。
第一次ソロモン海戦で睦月たちが散々沈めたはずなんだが、連中はまた数を増やしていた。
あたしたちが持ってきた補給物資で多少はマシになった。しかしそれもいつまで持つか。
艦娘はともかく、提督なんかの普通の人間じゃ飢えは厳しいものだろう。
食えるときに食うべきか、切り詰めて大事に食べるか問題だ。
それからもう一つは、かの春雨を模した深海棲艦だろう。
駆逐艦の棲姫級であることは容易に推測できる。
なぜ、春雨を模しているのか?
そもそもの服装や装備も全く異なるから偽装の効果もイマイチだろうし、
精神的な効果を狙っているんなら、人型の深海棲艦を散々撃ってきた艦娘にとっちゃ今更なことだ。
やはり容貌は強化改装の副産物なのだろうか。
ぼんやりと海を見つめて考えていると、無線連絡が入る。
『すぐに司令部に来て』
こりゃただ事じゃないなと考えながら、提督のいるテントへと走る。
そこには提督と古鷹が雑談をしていた。
「どうしたってんだよ、呼び出して」
「加古、お前万里の長城に興味はないか?」
「はぁ?」
「あとは韓国料理とか、パラオのリゾート、ベトナムやタイ、ビルマやインド、とにかく旅行だ」
「何が言いたいんだ」
「もしお前が望むなら、この戦いがお前の最後の戦いになる」
「最後……?」
ということは任期満了ということだろうか、あるいは、
「へえ、旧式はお役御免ってか」
「そうじゃない。古鷹たちもそうだが、お前たちは十分に戦った」
「そうかな」
「そうだ。もう自分の人生を歩んでもいい頃だ」
「自分の……人生……」
考えたこともなかった、自分の人生だなんて。
そうか、戦争はいつか終わってしまうんだ、そうすればあたしはどうなるんだろう。
戦争していない自分なんてついぞ考えたこともなければ、思いにもよらなかった。
以前の生活に比べたら、今の方が断然マシだ、あたしはこれに向いてたからね。
戦争は、終わって欲しくないな。
「まあ、適当に」
そんなことを口に出せることもなく、曖昧な答えを言う。
「いいじゃない、加古。一緒にどこか旅行に行こう」
「考えとくよ」
「加古!」
急に古鷹が叫び顔を近づけてくる、どうやら怒ってるらしい。
「あなたは普通の人生を歩まなきゃ」
「なんだよ、いきなり」
「わかるんだから」
「何がよ」
「そりゃあなんでも」
「普通はもう無理だよ」
「ダメだよ」
ダメって言われたってもうどうしようもない、時間は巻き戻せないんだから。
「加古、私もそう思う。お前はいらん経験ばかりして、学校の記憶だってもうほとんど覚えてないだろう」
「そうだけどさ」
余計なお世話だよ、いちいちうっさいんだ、わかってるんだよそんなこと言われなくたってさ。
こう口やかましく言われるとなんだか腹が立ってくるのはどうしてだろうね。
「眠いから昼寝する、また後で」
と足早にその場を離れた。二人はまだ何か言ってたけど無視して出てきたよ。
自分の寝床で体を横にしてぼんやりと考える。戦争が終わった後の事なんて考えたこともなかったし、
あたしはどうすりゃいいのかさっぱり見当もつかない。
いっそのこと、終わった直後にでも人間同士で戦争でも始めてくれりゃいい。
ロシアとか中共とか北朝鮮とか、日本の敵はうんざるするほどいる。
そうすりゃあたしは喜んで従軍するよ。
自分の思考を省みるに、どうやら戦争に取り憑かれてるのかもしれない。
もう考えるのはやめて昼寝をしようって時、非常サイレンが鳴った。
空襲か、はたまた敵艦隊の襲撃だろうか。
いずれにしたって戦闘の準備をしなきゃいけない、昼寝の時間は終わりだ。
まだ一睡も出来ていないっていうのに。
今夜はここまで
なんだか前回から開いてしまって申し訳ない
>>183
美保関事件を知った時点で神通の命運は決まったのだ……
というのもあってなんとなく悪いこと汚いことをやらせやすい、個人的に
別に嫌いなわけじゃなくてむしろ好きかも
-地獄からの使者-
敵の技術開発部門は相当に優秀なようで、またしても新型艦が現れた。
大本営に報告後、秘匿名称レ級と名付けられるこいつは初陣にショートランド泊地の強襲を選んだようだ。
寝床を飛び出して艤装を装着しさあ出撃だというところで哨戒していた響と暁が戻ってきた。
全くの未知なる敵の遭遇に、二人は焦燥しきっていた。
「報告、報告です、とにかく敵よ!」
「落ち着け暁、艦種は」
「空母?戦艦?でも雷装を……」
「とにかく、あいつはヤバイ、今までとは比べ物に……」
響はいつでも飄々としていたが、この時ばかりは焦りを隠せていなかった。
「何か、写真は、風貌はわからないのか」
「あ、そうよ!響が撮ったでしょ!」
「う、うん、これ」
とスマホを差し出して写真を開いてみせた、そこに写っていたものを見て、あたしたちは愕然とした。
「笑ってる……」
画面で、フードを被った少女がこちらに敬礼をして笑っていたんだ。
巨大な尻尾のようなものが生えていて先端に駆逐イ級のようなものが口を大きく開いている。
「とにかく、響はこれを提督に報告しろ。お前たち運が良かったかもしれないよ」
「うん、うん、わかった」
響が司令部へと駆け出したが、よろよろと千鳥足だ。震えてまともに走れないんだろう。
「もう何人か緊急出撃してるんだろうな、心配だ」
「私も出るわ」
暁は再び戦場へと戻る気らしい。
「いつもなら休んでろって言うんだけどな」
未知なる敵への恐怖というのは、どうしても抑え難いもんだ。
「さあ来い暁、第一次ソロモン海戦の再現と行こう」
「もちろんよ!」
二人で海に飛び出す。
「敵の数は?」
「一隻よ、でも凄まじい火力で写真を撮って逃げるのが精一杯だった」
「何の艦種かわからないのか」
「主砲は大口径、航空機を飛ばして雷撃も撃ってくる、いくらなんでも詰め込みすぎよ」
「なら防御面に難がありそうだな」
と、この時は思っていた。
「ん、あいつか」
「多分ね」
既に何名かが戦闘を行っていたが、ヤツに反撃する様子はない。
「来たね、加古!」
「衣笠、状況は」
「それが反撃もしてこないんだけど」
「おかしな奴だ」
しかし砲撃が通用している様子もなく、ただケタケタと笑っている。
砲撃を繰り返し戦っていた村雨と皐月も、既に砲を下ろしていた。無意味だと悟ったのだろう。
「雷撃は」
「雷撃だけは避けられる」
「魚雷は流石にまずいというところか」
『衣笠ッ!敵に動きが!』
「何!?」
皐月の無線が飛び、敵に目をやるとなんと皐月目掛けて飛びかかっていた!
尻尾が大口を開け食らいつこうとするが、皐月は咄嗟に腰の太刀を抜き切り払った。
唸り声が海上に轟き、レ級がたじろぐ。
「皐月、さん!」
「ごめんよ!」
村雨は皐月を抱きかかえると、レ級から離れるため速度を上げた。
「呑気に話してる場合じゃないな、行くぞ衣笠!」
「了解、暁ちゃんはあの二人と合流して援護を!」
「わかったわ!こっちにいらっしゃい二人共!」
ただでさえ件の駆逐棲姫の問題もあるというのに、とんでもない奴がやってきたもんだ。
速度で敵を翻弄しようと二手に分かれたが、思わぬことにヤツは速度もずば抜けていた。
レ級は衣笠の背中を追い始める。
「追いつかれるぞ!撃て!」
「なんてっ、くそっ!」
衣笠は振り返り、主砲をやたらめったらにばら撒いた。あたしも狙い撃ちする。
しかし怯む様子はなく、ジリジリと距離を縮めていく。
『雷撃いくわ!』
暁の無線と同時に、駆逐艦三人の魚雷が飛び出してレ級を狙う。
3本の雷跡は真っ直ぐ目標へと向かったが、レ級の尻尾のおそらく副砲が魚雷を撃ち、破壊した。
レ級はそれらを気にも留めず衣笠を見つめて笑っている。
「気色悪いんだよッ!」
衣笠も魚雷を発射した、これならまず間違いなく当たる。
アイツはまだキヒッとでも聞こえてきそうな顔でニタリニタリとした表情だ。
まもなく魚雷が炸裂し、爆炎に包まれてしまった。
「よし、来い衣笠」
『う、うん』
衣笠は敵と距離を取り、こちらに近づいてきた。
「あいつ、なんなんだ」
「おぞましい」
まさしくそうとしか言い様がない。ただ、おぞましいという表現では少し足りなかったかもしれない。
煙が晴れるとそいつはまだ健在であった。青い血が垂れ、顔から笑みは消えている。
「怒らせたのかな」
「正直に言っていいか」
「何?」
「怖い」
「私も」
これはただの軽口じゃない、足が、全身が、ガクガク震えていてすぐにでもその場から逃げ出したかった。
しかし巡洋艦という立場がそれを許さない。
「古鷹たちはまだ?」
「村雨、司令部と連絡を」
「う、うん……こちら哨戒隊、応答願います」
あたしたちは集まってレ級を見ていた。ポタポタ血を流しているがピクリとも動かない。
先程からあたしたちに向け砲は撃たないから、多分コイツはあたしたちを喰おうとしている。
「戦争というよりは怪獣退治だね」
「言ってる場合かよ」
怪獣退治で軍隊が勝てた試しがあるだろうか?大抵は他所から来た宇宙人が助けてくれる。
食べられることへの恐怖や嫌悪感など、精神的負担も大きいからこういうの相手は苦しい戦いだ。
「今急いで向かってるって!」
「神通たち二水戦とも合流できないもんかね」
「それは難しいと思うよ。今は前線にいるから」
単なる戦艦や空母ならまだ対処しようがある。しかしだ、こいつは一体どうすればいい?
さあ開幕だとばかりに、ヤツの艤装から艦載機が飛び出した!
単なる航空戦艦なら大した数は出てこないだろう、だがこいつは違う。
無数の漆黒の球体が空を埋め尽くす。
「航空戦艦って、あんなに……」
「あの数じゃ正規空母並みじゃないの……?」
地獄からの使者、というものがいるとするならばまさしく彼女がそれだろう。
今夜はここまで
-十字砲火-
「全艦、対空戦闘!」
艦娘たちは空を埋め尽くす艦載機に対空機銃を放つ。
しかし何の効果もない。爆弾は次々と投下され、魚雷がうじゃうじゃと這い回る。
『一旦下がろう!』
「どこへだ!」
この後ろは泊地だ、退く事はできない。
『このまま避け続けるだけじゃジリ貧だよ!』
『どうすればいいの、加古さん!衣笠さん!』
駆逐艦たちも指示を待っている。とにかく増援を待つしかないだろう。
「もうすぐ増援が来る、それまで持ちこたえるんだ!」
とは言ったものの、果たしていつ来るのか。もう来てもおかしくはないはずなんだが。
すると、レ級が動いた。戦艦とは思えない速度で進み出し、村雨を標的に定めたようだ。
「来るぞ!村雨!」
『わかってる、わかってるわよ!!』
航空攻撃を躱しながら逃げるわけだから、思うように体を動かせないみたいだ。
「村雨に近づけさせるな!」
『わかったわ!』
皆が砲をレ級目掛け撃ち込むも、まるで意に介さない様子で怯みさえもしない。
「チクショウ!」
あたしはいてもたってもいられずに、村雨を助けに駆け出した。
爆撃や雷撃なんか無視して真っ直ぐ進み、レ級に体当たりを叩き込む。
「くらえっ!!」
「きゃんっ」
と意外にも可愛い声を上げて体勢を崩し、海上に仰向けに倒れる。
あたしはすぐさま短刀を抜き、喉目掛け振り下ろした。
しかし。
「なっ、こいつ!」
短刀が貫いたのは彼女の手のひらだ。
「きゃははは……」
それでもこいつはニヤニヤと笑っていやがる。
『加古!離れろ!』
衣笠の無線が聞こえたと同時にそいつの体を蹴って後ろに下がる。
だが、レ級はそれを許してはくれないらしく、尻尾があたしの右手に食らいついた。
「いがっ!」
「ヒヒヒッ」
一気に噛み切られたらよかったのに、歯と歯の隙間に肉が残り、それがあたしを苦しめる。
「いやあああああああああ!!痛い痛い痛い!」
引き剥がそうと体ごと引っ張るが、なかなか引きちぎれてはくれなかった。
それをいいことにこいつは歯ぎしりしやがって、ぶちぶちと音を立て肉が潰れていく。
この痛みとあっては、叫び声を上げることもできないよ。
『加古さん!』
暁が砲を撃ち、その着弾の爆風でようやくちぎれてくれた。
それを皮切りに尻尾への集中砲火が始まる。レ級は少し怯み、あたしはその隙を見て距離を取った。
ちぎれた腕の断面から血が溢れ、赤い航跡を描いている。
「痛い、痛い……」
「加古!無事!?」
衣笠が駆け寄ってきたが、あたしの傷を見て唖然とした。
「こ、これは重傷……」
「どうにかしてくれよォ」
衛生科の駆逐艦は今は出てきていない、結局この傷は衣笠が取り出したハンカチで覆う。
『ぜんっぜん当たんない!』
そうしている間にもレ級は激しく動き砲弾を回避する、まるでこちらを嘲笑うかのようだ。
「遅れてごめん!」
「援軍ですよ!」
そこでようやく古鷹、青葉が到着した。第六駆逐隊の残りのメンバーと山城を引き連れている。
「遅いよ古鷹!青葉!」
「すみません!ってそれ……」
「か、加古……腕……どうしたの……」
二人はあたしの腕を見て唖然とした。
「いや、こんなのをのんびり見てる暇はない、散開!」
航空隊が増援部隊にも襲いかかる。しかし標的の数が増えたためか先程までの苛烈さは無くなった。
『加古、泊地に戻りなさい』
「断る」
予想はしていたが、古鷹のお小言だ。きっぱりと断ったはいいが、口うるさいのは古鷹だけじゃない。
「加古さん!傷を見せて!」
「い、雷か、いてて、よせって」
雷は素早く掴みかかり、治療を始めた。
「いいから!私は医者よ?助けるわ!暁、響、電、援護して!」
三人があたしたち二人を取り囲み、対空射撃と魚雷の破壊を行う。
衛生科ってのは相当な頭と勇気がないと難しいという話だから、頭が下がるばかりだ。
テキパキと消毒を済ませ、包帯を巻く。染みて恐ろしく痛いが辛抱辛抱。
「よし、出来たわ!あまり無理はしないでね!」
戻って修復剤を使えばいい、なんて考えもあるかもしれないが、衛生科の登場は意外と画期的らしく、
中破状態からの進撃もある程度可能となったって話だ。
さて、治療が済んだとなればなんだか元気が戻ってきたよ。
「あの野郎一匹に舐められて、このまま引き下がれないな」
『加古、お願いだから……』
「うるさいなァ!」
この時は本当に意固地になっていた。意地でもあの野郎を叩きのめしたくて仕方がなかったんだ。
腕を食われて意地にならないやつがいるとも思えないが。
艦娘たちは砲弾と航空攻撃を掻い潜りながら距離を取って様子を伺っている。
『……あいつをL字の陣形で十字砲火を行う』
古鷹は諦めてくれたようで、作戦を指示する。
『山城は第六駆逐隊と共に全面を、残りは側面に陣取る』
『了解、支援攻撃を行うわ』
と、山城の主砲が火を噴いた。さすがのレ級も戦艦の砲撃を無視することは出来ず、
遠目からでも焦る様子が伺える。
『今だ、私に続いて!』
古鷹が駆け出す、それに続いて残りのメンバーも怯んで隙を見せているレ級の側面へと回り込んだ。
『撃ち方ァ、始め!』
古鷹は全員揃っているのを確認し、間髪入れずに命令を下した。
一斉に射撃が始まり、レ級めがけ砲弾の嵐が降り注ぐ。
この頃になると敵機のほとんどが攻撃を終え、しかし母艦に戻れず、ただ上空をグルグルと回っていた。
「砲も魚雷も撃てるだけ撃ち込んでやりましょう!」
青葉もノリノリで撃ち続けている。
だが奇妙なのは敵だ、あの性能ならこの集中砲火でも反撃の一度ぐらいは来るはずだと考えていた。
衣笠も、嫌な予感を顔に出している。
敵の様子を見ると、尻尾を海の中に沈め、手で体を守っている。
あの主砲や航空機を載せた尻尾を水にすずめて大丈夫なのかと感心しちゃったが、
こいつは雷装も持っているということを失念していた。
突如爆発音が響き、辺りを見渡す。
「村雨は、村雨はどこに行ったんですか?」
「え?一体何が?」
「総員散開!」
蜘蛛の子を散らすかのように陣形を崩し、四方八方へ逃げ回る。
「魚雷!?航空戦艦じゃ……」
「撃ち続けろ、あいつ体勢を立て直しちまうぞ!」
「わ、わかってるけど」
『古鷹、電が!』
山城からの無線だ、向こうにも被害が出たらしい。
「古鷹、どうする!?」
「答えてください古鷹!」
「こ、このままじゃ……!」
古鷹は頭を抱えて俯き、答えた。
『総員撤退』
今夜はここまで
結構空いてしまって申し訳ない
シド星の支配者になるために忙しかったのだ……
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第一回 健気な旅立ち
ドイツのヘッセン州にあるアルスフェルトという小さな田舎町にとある少女がいました。
名前をフレデリカ・シュミットといいます。
「おかぁちゃん、深海棲艦とかいうのがいて大変らしいズラ」
「知ってるズラ、何べんも聞いたズラ」
彼女はいつも新聞を読みあさっては、お母さんに読んで聞かせていました。
「フレデリカはお利口さんズラねぇ」
「えへへ……」
平穏な日々を過ごしていましたが、戦況の悪化に伴い、生活は日に日に苦しくなっていきました。
「おかぁちゃん、今日もこれだけズラ?」
「ごめんなさいズラ、どこも厳しいみたいズラ」
彼女は思います、母親に苦労をさせたくはないと。
ある日、いつものように新聞を読んでいるとある募集広告が彼女の目に止まります。
それは艦娘の募集広告でした。
お給料もそれなりに良さそうです。
「これズラ!」
思い立ったが吉日、その日のうちに彼女は荷物を纏めてハンブルクへと旅立ちました。
家族への置き手紙だけを残して。
ほっぽちゃんに続いて小話第二弾
比較的明るい話だから心配しなくてもいいよ!
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第二回 偶然の出会い
「もんげぇぇーーーー!!!」
彼女は無事ハンブルクに辿り着きます。
過去にお母さんと一緒に旅行に来た事があるからです。
しかし、市内となれば別です。
それに町中にドイツ語ではない奇妙な言葉を話す浅黒い人々がいるのです。
「ひょっとして、スペインに来ちゃったズラか!?」
彼女はすっかり怯えてしまいました。
そうしているうちに荷物を置き引きされてしまい、どうする事も出来ずにベンチに座って俯いていました。
そこにとある女性が話しかけてきます。
「ちょっといいかしら」
「……何ズラ?」
「艦娘になるために来たんだけど、道知ってるかしら?」
顔を上げてみると、金色の長髪を靡かせた長身の女性が立っていました。
「お、オラも艦娘になりに来たズラ!」
「ちょうどよかった!じゃあ一緒に行きましょう!」
「でも道はわかんないズラ……」
「そっかぁ、この街はごちゃごちゃして道がいっちょんわからないものね。いたらん人たちもたくさんいるみたいだし」
「ズラぁ……」
結局、二人は揃って途方に暮れてしまいました。
「私はエルネスティーネ、あなたは?」
「フレデリカ、ズラ。ヘッセンのアルスフェルトってとこから来たズラ」
「へぇ、私はバイエルンのローテンブルグ」
「ローテンブルグ……どんなところズラ?」
「聞きたい?ま、そこまで言うなら教えてあげてもいいばってんが」
「教えてズラ!」
どうやら彼女も言葉の節々に田舎臭さが残っているようです。
本編が暗いからこっちに力が入るのも仕方ないのじゃ!
わらわは悪くないのじゃ!
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第三回 ちょっと一休み
「にしても、置き引きねぇ。都会ばほんと怖いわね」
「そうズラね」
二人は喫茶店で一休みする事にしました。
客の多くが浅黒い人々でしたが、この場所で問題を起こそうとする人はいませんでした。
「しかし、ここ汚いわね。ちゃんと掃わいてるのかしら」
「あんまり綺麗じゃないズラね」
その近くに一人、苛立った様子で歩いている人がいます。
「何処もかしこも害虫どもが目に付いてイライラする」
彼女は不満をブツブツ口に出しながらキョロキョロとしています。
そこに、喫茶店の二人が目に止まります。
「ん……珍しい……ひょっとすると……?」
すぐに駆け寄りました。
「そこのお二人さん!」
「うわ!何ズラ!」
「しゃあしいのが来たわね」
「そのいかにもな訛り……田舎から艦娘になるために出てきたと見た!」
「なま……嘘、訛ってた?」
「方言丸出しでしたけど!?」
「よくわかったズラね」
「実は私もなの、艦娘になるためにウィーンから来てね」
「これも何かの縁ね。座って、奢ってあげるから」
「やった!オネーサマ!」
「オネ……なにそれ」
「ヤーパンのマンガ、知らないの?」
「知らないわ」
「マンガって何ズラ?」
「そういう純朴さも素敵!」
もう一人の彼女は少し……
「改めまして私はヘルマ・ブリンクマン、ウィーンから来たの」
「フレデリカ、ズラ。よろズラ」
「エルネスティーネよ、よろしくね」
「エルネスティーネ!」
「な、なによ」
「オネーサマと呼んでも!?」
「ええ……?」
「だってオネーサマって感じだし!」
いえ、大変な変わり者のようでした。
(本編は)明日まで!明日までお待ち下さい!
白露「多摩にゃんはどうしてにゃーにゃー言ってるのにゃー?」
多摩「手軽に馬鹿の振りができるから」
白露「」
-あっけない勝利-
「おい、皐月はどうした」
撤退中にふと思い、声をかけるが返事はない。後ろを振り向くと幽鬼のようなものがそこにいた。
「うわっ」
「ふふ、ひひっ、これね、村雨、ひひひ」
よく見ると皐月、だが全身を赤く染め、顔や胴体に何かの破片が突き刺さっている。
一瞬で弾け飛んでしまったんだろう、こうなれば修復剤も無意味だ。
そして皐月はその“村雨”を体中に浴びてしまい、おかしくなってる。
「殿はあたしがやる。片手落ちでも足止めぐらいなら」
この状態だ、あたしが適任だろう。
「勝手に決めないで。ここは衣笠さんの出番でしょ」
衣笠も名乗り出た。
「なんでお前まで……」
「二人ならひょっとしたら生きて帰って来れるかもしれないじゃない?」
「んなバカな」
でも古鷹は絶望したかのような表情だ。
「どうした、早く決めろ」
「な、何も、二人が出ることはないんじゃない……?」
「はぁ?」
古鷹らしくない言葉だ、友人を失うかもしれないなら怖気づくのも無理はない。
だが。
「いいか、早く決めろ、少なくとも山城にだけは手を出させちゃならないんだ」
「そうだよ古鷹、彼女足が遅いから」
「そ、そうだ、駆逐艦に」
「この状態の皐月にどれだけ時間稼ぎが出来る?」
「あ、青葉が出ます!」
「お前は広報の仕事があるだろうが」
「そんなもの、どうだって」
「もういい行って、二人で残るから」
衣笠が追い払うように手を振る。
「私が指揮官だから」
「もう臆病な指揮官はごめんだ」
土壇場で臆病風に吹かれる指揮官はね。
「……」
「もう諦めましょう、この目は死ぬ覚悟をした人の目です……」
「……勝手にしなさいッ!!」
ようやく観念したのか、二人は皐月を連れて泊地へと進み始めた。
三人の背中が小さくなっていく。
さぁ、こういう時こそ踏ん張りどころだ。何も希望を捨ててるわけじゃない。
ただここで死ぬのも悪くはない、とあたしは思っていた。
「あいつ砲弾は弾いちまうけど、魚雷を無効化するほどの装甲じゃないんだろうね」
「そうね、魚雷だけは必ず回避してる」
「……もう、怖くないのか?」
「覚悟は決めたけど、これだけは言わせてね」
そう言って息を大きく吸い込み、叫んだ。
「お父さーーーん!お母さーーーん!」
「なんだいそりゃ」
呼ぶ親がいるだけ羨ましいとちょっぴり思った。
さてそろそろだろう、山城たちの支援攻撃も止んだところでレ級も動き出す。
顔を見るに相当ご立腹の様子だ。艤装には艦載機がここぞとばかりに戻っていく。
「衣笠、魚雷貸せ」
「はぁ?加古だけにいいカッコはさせないけど」
「一緒に死ぬか」
「御免こうむる」
「じゃあどうする」
「二人は奇跡的に勝利して、一緒に泊地に帰るってのはどう?」
「ふふん、いいでしょう、じゃあその筋書きで」
正直に言うと、この時はどちらかが死ぬと確信していた、でももうどうしようもない。
あたしと衣笠は二手に別れ、レ級を挟撃する。不思議と言葉はいらなかった。
どちらかが釣りどちらかが引導を渡す。ただそれだけの簡単な話だ。
揃って主砲を構えた。右手がないから火力は落ちてるが、どうせ気を引くだけだから一緒だ。
さあこっちを向けと念じながら撃ち込む。
ヤツの人間体に当たってるはずなんだがまるで効いてる様子はない。
それどころか、さあどちらからやろうかとばかりにあたしと衣笠を見比べている。
ふとした瞬間こちらと目が合い、ニタリと笑いやがる、だからその顔面に砲を撃ち込んでやった。
「ぐぎっ!?」
「さあ来やがれクソ野郎」
顔に当てられるのは別のようだ、すぐに向かってきた。
尻尾が大口を開き、雄叫びを上げる。
『加古!』
「大丈夫」
きっと衣笠はあたしが死ぬつもりなんだと思ったんだろうが、そんなつもりはない。
そもそも殿なんだから出来るだけ足止めしなくちゃいけないからな。
魚雷の安全装置を外し、発射管から引き抜いて左手に持つ。
うまいこと左手だけ食わせてやればこいつの尻尾はくたばるだろうよ。
ついに目前まで接近してきた、やつの大口あたしに食らいつくかと思われたが、
そううまく事は運ばないのが常だ。
「動きが、止ま」
瞬間顎に鈍い痛みが走り、視界がグルグルと回る。
どういう訳か、ただ単純に拳で殴られたらしい。
意識が朦朧として、視界が歪む。
なんとか上体を起こして、二人の方に目をやると、すぐ近くで取っ組み合いをしている。
文字だけ見ると本当に滑稽な話だ。
砲の照準もままならないが、何度か撃ってみる。当然見当違いの方向へ飛ぶ。
ふと左手に魚雷を握り締めていることを思い出し、レ級に投げつけた。
うまいこと爆発を起こし、レ級の体が四方八方にちぎれ飛ぶ。
衣笠も吹っ飛ばされた。あたしも咄嗟に左手で体を守ったから、ついに両腕が使い物にならなくなっちまった。
「う、うう……」
このバラバラになった状態でもまだ息がある様子だ、だがいずれ死ぬだろう。
ひょこひょこと海上を蠢きながらもなんとか立ち上がり辺りを見渡す。
衣笠が腰を下ろして呆然としていた。
「おい、どうした」
「目が見えない」
「さっきの爆風か……まぁ、治してもらえよ」
「加古、レ級は」
「バラバラに弾け飛んだよ、まだ息はあるけど死ぬのも時間の問題だ」
そう答えると、衣笠はニコリと微笑む。そう、勝利したんだ。
なんともあっけない勝利だが、思えばその事の方が多い。
最初っから、こういう風に肉薄特攻をしてやれば被害は軽く済んだかもしれない。
それはまあ酷な話で現実的じゃないが、そもそも今回はあたしが片腕で敵さんが油断していたのもあるだろう。
このような凶悪に強いやつでも、一つの油断が死につながるんだから恐ろしい。
ただ勝ちは勝ちだ。あたしは衣笠の手を肩まで誘導して、抱える。
奇跡的な凱旋だったが、本当の悲劇はこの後の方かもしれない。
本編は今夜はここまで
-加古ちゃんの誕生日!-
加古「ああ?誕生日?」
司令長官「そうじゃ、書けるじゃろう?」
加古「忘れたよ、誕生日なんて祝ってもらったこと覚えてないし」
司令長官「ふうむ、困ったな……書類不備なんてものじゃないわい、これじゃ白紙じゃ」
古鷹「艦娘になれませんか?」
司令長官「いや、元々孤児は多いからなれないわけじゃない。じゃあ今日がお前さんの誕生日じゃ」
加古「は、はぁ?」
古鷹「それいいですね!」
加古「ちょっと待てよ、誕生日ってそういうことじゃ……」
司令長官「まあまあいいではないか。これからは楽しい誕生日を過ごしたまえ。大淀くん!」
ガチャ
大淀「はい、大淀参りました」
司令長官「こいつを頼むよ、不備の部分は……ね」
大淀「かしこまりました」
古鷹「早速祝いましょう、ね!」
加古「あ、う、うん……」
司令長官「一応、18時までには宿舎に戻ってきてくれたまえ」
古鷹「はぁ~い!」
加古「なんでこいつはこんなに……まだ出会ったばっかだってのに」
司令長官「バカみたいに人のいいやつというのはいつの時代にもいるもんじゃよ」
加古「へぇ、そーすか。あ~あ、怠い……」
~翌年~
加古「ってことがあって、あたしの誕生日は4月10日になったんだ」
卯月「へぇ!4月はうーちゃんの月ぴょん!」
加古「どういうことだ?」
卯月「睦月如月弥生……って知らないぴょん?」
加古「いや、そういうのは全然」
卯月「日本の古い月の数え方っぴょん!卯月は4月っぴょん!」
加古「へぇ、よく知ってるな」
卯月「うーちゃんの月に生まれるだなんて、加古さんは幸せ者っぴょん!」
加古「なんだいそりゃ」
卯月「とにかくおめでとぴょん!これあげるぴょん!」
加古「……なにこれ」
卯月「知らないっぴょん。如月ちゃんが誕プレにって」
加古「ふぅん……」
卯月「あ、古鷹さんと二人きりの時に開けてって言ってたぴょん」
加古「まあいいや、お礼言わなきゃな」
卯月「うーちゃんからの誕生日プレゼントは、こいつっぴょん!」
加古「……なにこれ」
卯月「化粧水っぴょん!」
加古「あたしは化粧なんかしないけど」
卯月「まあまあ、いつか使う事になるっぴょん!ぐふふ!」
~その夜~
加古「……卯月も如月もなんかゲスい顔してたな」
古鷹「なんだろうね、開けてみてよ」
加古「うん」ゴソゴソ
パカッ
加古「……???」
古鷹「!!!」
加古「なあ、何だこれ」
古鷹「これが……加古砲……///」
加古「えっ」
この後滅茶k(ry
今夜はここまでぴょん!
書いた後は本編とおまけの落差でなんか変な感じになってしまいますわ
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第四回 海軍基地にやって来た
三人は2、3時間ほど歩き、ようやく目的地へとたどり着きました。
「もんげー!立派な建物ズラ!」
「驚いたわね」
「やっと、着いたの、もお、歩けないよぉ……」
「えーっと、このパンフレットによると、ここで艤装を受け取ってキールに送られるのね」
「ぎそー?何ズラそれ」
「艦娘がからってるアレよ」
「それも知らないのに艦娘に……もういいや……はふぅ……」
門前で三人が話しているところに建物の中から人がやってきました。
「やあ君たち、艦娘の志願者かい?」
「そうズラ!」
「よかった、人が足りなくてね。なんてったって妖精さんは気難しくってさ」
「妖精、ズラか?」
「何言ってんのこの人」
「妖精さんだなんて、ふふふ」
彼は頭を掻いて照れ臭そうにしています。
「まぁ、そう思うよね。でも妖精さんはいるんだよ。それとね……」
そして改まった風にこう言いました。
「ようこそ、ドイツ海軍へ。エルネスティーネ・リンデマン」
「え?」
「ヘルマ・ブリンクマン」
「ふえっ、なんで!?」
「フレデリカ・シュミット」
「ズラ!?」
「僕は君たちを待っていたよ」
三人はなんだか、気味が悪くなってしまいました。
どうして自分たちの名前が知られてしまっているのでしょうか。
「このヘンタイストーカー!」
「えぇっ!?」
本名は艦長の名前を捩ってるだけのお手軽ぴょん
ドイツ海軍は潜水艦隊と水上艦隊に大きく分けられる。
潜水艦隊は狡猾で冷静沈着な精鋭部隊だが、水上艦隊は田舎者の集団であった。
というのが、都市部の適性を持つ少女は既に潜水艦隊として優先的に徴兵されており、
残ったのは移民、難民の二世などの適性を持たない者たちばかりであった。
したがって地方の田舎町やオーストリア、スイスなどのドイツ語圏の国々から集められた。
初霜書房刊『世界の艦娘 vol.8 “ドイツ”』より
-不運の連鎖-
この悲劇というのは、いくつもの不運が重なって起きたものだ。
結構な時間戦い続けていたためか、気が付けば辺りは薄暗くなっていた。
「もう日没が近い、早く戻らなきゃ」
「ま、待って、スピード出さないで……」
衣笠は不安がっているようだ。
「わかった、じゃあゆっくり帰ろうか」
「ありがとう……ごめんね……」
「あたしも衣笠に助けられたようなものさ」
それに、レ級を倒したとは言え爆風を浴びせたのはあたしの魚雷だし。
「連絡しなきゃ」
「ダメだ、無線は壊れてるよ」
「んー……私もダメみたい」
艤装に取り付けられた無線機はウンともスンとも言わない。
仕方がないからそのまま、ゆっくりと泊地へと帰る。
島が見えてくる頃には日は沈み、シルエットがほんの少し見える程度だ。
探照灯も壊れ、レーダーと勘を頼りに少しずつ進む。
泊地は不気味なぐらい静かだ。
「おかしいな、誰も待ってはくれてないのか」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
どうにも、歓迎されているような空気じゃない。
「おーい、誰か…」
突如の閃光と共に砲声が鳴る。あたしには何が起きたかわからなかった。
それに呼応するかのように次々と砲火が降りかかる。
「何!?どうして!?」
「わからん!なんでだ!なんでだよ!」
衣笠の手があたしの肩を強く握り締める。次の瞬間にはパタタタッと顔に温かいものがかかった。
すると、衣笠の手からはスッと力が抜け、だらりと垂れ下がる。
「お母さん……」
そう呟いたのが聞こえ、それが衣笠の最期の言葉だった。
「待てー!撃つなー!味方だー!」
棒立ちの状態だからいい的だ。渾身の叫びで呼びかけるが、砲火が止む気配はない。
そのまま5分間ぐらい砲弾の雨を浴び続けて、それでようやく雨は止んだ。
探照灯の光が向けられ、悲鳴とどよめきが上がる。
慌ててこちらに向かってくる音が聞こえた。
「加古さん!衣笠さん!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
夕立と春雨、それから五月雨だ、泣いているのがわかる。
「すみません!すみません!本当にすみません!」
「衣笠、さん……?」
彼女はピクリとも動かない、それどころか、艤装から浮力が消えていた。
それはすなわち死を意味する。あたしの手に引っかかってかろうじて浮いていると言ったところか。
「嘘でしょ……?」
「うそ、そんな、そんなのって……」
「まさか今の……」
そうだ、と言おうとしたが、声が出ない。どうしてもどうしても声が出なかった。
きっとここで肯定すれば彼女たちはすぐにでも自殺しただろう。出なくてよかったかもしれない。
「い……いや、レ級にやられたんだ、もう死んでたよ」
「そう……ですか……」
出来るだけ顔に出さないようにしてるつもりだろうが、表情は少しだけ安堵の色を見せる。
「もう戻っていいぞ、どうせゆっくりにしか動けん」
「あの、衣笠さんを」
「いや、あたしが抱えて行くさ」
そう言うと三人は振り返り、先に泊地へと戻ろうとした。
しかし一人、五月雨はあたしの変わった様子に気がついたようだ。
「加古さん、その手……」
「ん、ああ」
「衣笠さんを……」
そして衣笠の肌に触れた五月雨の表情が激変し、絶望したかのような顔に早変わりする。
「あ、あの……その……」
「持ってくれ、実は限界だったんだ」
「は、はい……あの……」
「内緒だぞ、この戦いが終わるまでは」
「……わかりました」
結果としてその約束が破られることはなかった。彼女は退役の三日後に自殺したからだ。
本当に迂闊だったよ、あたしがもっとうまく隠せていれば彼女は死なずに済んだかもしれないのに。
泊地に戻ると、話すまもなく雷に強引に救護室へと連れて行かれてしまった。
今夜はここまで
五月雨事件
駆逐艦五月雨は退役から三日後、実家付近の山中で自殺を図ったとみられ、持ち込んだ大量の弾薬を点火し大爆発を起こした。
辺り一面が焦土と化すほどの爆発であり、轟音は隣町まで聞こえたとさえいわれている。
爆風に飛ばされた木や石の破片と山火事により近隣住民の重軽傷者42名を出したが、五月雨以外に死者はいなかった。
この事件は世間の艦娘とその親族に対する風当たりを強めたが、同時に退役艦娘の精神医療についての見直しが為される事となった。
初霜書房刊『艦娘の事故・事件・犯罪辞典』より
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第五回 集まった艦娘志願兵
「なぁんだ、そうだったズラかぁ」
「みんな急に家を飛び出しちゃうなんて、感心しないよ」
なぜ彼が彼女たちの名前を知っていたかというと、彼女たちの親から連絡があったのです。
彼はお喋りが好きなようで、案内している時でもずっと喋っていました。
「…つまりは、僕が目指しているのは艦娘による警察国家で、純粋な愛国心に監視された社会なんだ。そうすればこの国に巣食う害虫どもを皆殺…」
「ず、ズラ……」
「怖いです」
「な、なんちゃってね……」
優しそうな見た目に似合わずとんでもないものを抱えているようです。
「さあ、彼が技術将校だよ」
「フン、揃ったか……」
「あー、喉渇いちゃったズラ。んぐんぐ」
「飲んどる場合かーーッ!」
「ズラぁ!?」
技術将校は妙にテンションの高い人物でした。
「さあ、君たちも来て」
「……」
「新しく三人増えているな」
「えっ?なになにー♪あっ……」
奥から連れて来られた三人も艦娘志望でした。
物静かな子はマルティナ・バルツァー。
堂々としている子はコジマ・ジルヴィア・ヴェネッカー。
人見知りしている子はフリーダ・シュネーヴィントといいます。
「みんな、仲良くしてね」
「よろズラー!」
これは運命的な出会いでした。
後にドイツ海軍でも最も有名になる6人がここに集結したのです!
もう暗い話なんかうんざりだ!助けてくれ!
時系列的には白露型を訓練している辺り
どれが誰だかわかるかな!?
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
第六回 田舎娘、艦娘になった
6人の少女たちは艦娘となり、訓練を受ける事になります。
「エルネスティーネ……じゃないビスマルク、ちょっといいズラか?」
「嫌ねぇおっさんみたいで、レーベレヒト・マース」
彼女たちは始め、この艦娘名に困惑しました。
「U-511なんて……番号だし……」
「まぁ、妖精さんだからね」
でも将校たちはその一言で済ませてしまいます。
「その妖精さんってなんズラ?」
「うーん、艦娘とその艤装を司る神、とはちょっと違うけどそんな存在かな」
「変なの」
艦娘となった彼女たちは様々な教育も受けます。
「艦娘の体はァァアアアアアアッ!!我らがゲルマン妖精さんの最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!ので、出来るだけ壊さんように」
「う、うん……」
「ごくごく」
「飲んどる場合かーーッ!」
「ズラぁ!?」
また、個性的な教官ばかりでした。
「東京メトロなんか実際大した事ねぇ、オレ達が日本語を使いこなせるようになれば、あんなの敵じゃない!イタリア語や英語じゃなくて、やっと日本語を訓練できるんだ!オレは日本語を一語残らず習得して、この狭いドイツの中から出る!」
「エ、エレン先生?気合い入れたところ悪いですけど、あなたが教える立場ですよ?」
艦娘たちは順調に成長していきました。
訛りも消えていきました。
「マース、シュルツ、君たちは駆逐艦暁にように強くなるんだ」
「アカツキ?」
「日本の駆逐艦ね」
「そう。彼女は敵艦隊に果敢に立ち向かい空母を撃破した凄い艦娘なんだ」
「なんだか、怖そうだね」
「多分すごくムキムキかも……」
「それはわからないけど、その暁は凄い駆逐艦だから、ぜひ目標にして欲しいな」
「よし、頑張ろう!」
そして、初陣の時がやって来ます。
最も有名な日本の艦娘である彼女だが、一般に言われているほどの活躍はしていないよ。
空母を撃沈したのは本当だけど、戦艦を単独で撃破した事や、50の敵潜水隊を全滅させた事などは事実無根だ。
駆逐隊としての戦果や吹雪型全体の戦果などを一纏めにされていたりもするので一概に全てが嘘や噂とは言い難いが、
あんまり言うと彼女調子に乗るからよして欲しい。
武勲艦娘であるのは間違いないのだが……。
--駆逐艦暁について、雨森 四郎 横須賀鎮守府司令長官。しかしまともに聞き入れてもらえなかったようだ。
この世界の暁ちゃんは超有名って設定
本編はまだ待ってください!
-不本意の帰還-
「まさかと思うけど、彼女……」
雷もどうやら、衣笠の不審な点に気がついたようだ。医者は騙せない。
「……」
「いや、やめておきましょうか」
「誰にも言うなよ」
「言わないわよ」
雷は右手の包帯を外し、衣笠のハンカチを取り出した。
「これ、遺品になっちゃったわね」
「黄色のハンカチ……」
目が痛くなりそうなほどの真っ黄色で、衣笠のお気に入りのハンカチだった。
「そういえば、黄色のハンカチは幸せを意味するんだとさ」
「へぇ……」
「衣笠は言ってたよ、幸福の黄色いハンカチって映画があるんだと」
「聞いたことないわね」
「ああ、なんだそりゃって聞いたら1977年の映画だってよ、もう何十年も前だ」
「また随分と古い……」
「だから……だからあたしは助かって、衣笠は死んだのかな……」
「……そういうこと、考えない方がいいわ」
「世の中辛いことばっかりだ、とても辛い」
あたしは、涙を堪えることが出来ずに泣いてしまった。
「心配しないで、もう国に帰れるから」
「……何?」
「この負傷じゃ戦闘は無理よ」
「な、なんだって、帰りたくない」
「えぇ?」
「だってまだ来たばっかりじゃないか、まだあたしは」
「言い方を変えましょうか、このままじゃ足手纏いになるだけだから帰りなさい」
「待ってくれ、修復剤は」
「司令官の許可がないと使えないわ。許可は出ていない」
「そんなものいらないだろ」
ふぅ、とため息を吐いた雷はあたしの胸ぐらを掴んだ。
「振り払ってみて」
「い、嫌だ、送還されたくない」
「今のあなたに出来ることはないわ」
出来ることはない、ないかもしれないが、それでもこの気持ちは抑えられない。
「じゃ、じゃあ、もう、ひと思いに殺してくれ……」
「呆れた」
すると古鷹がドアを蹴っ飛ばして飛び込んで来た。
「加古!何を!」
「うわっ」
「……帰りたくないのはわかるよ、でもそんなこと言っちゃダメ」
「そうだ、みんなで帰ろう、こんなところ守らなくったって」
「仲間を殺されて敵に背を向けて帰るつもりはない」
「それはあたしだって」
「あなたは、帰るべきよ」
「どうして!」
「生きて帰れるチャンスを、無駄にしないで、しっかり生きて」
あたしなんかが生きて何の価値がある、そう思っていた。
どうしてこんなに必死にあたしを帰そうとするのかは結局本人に聞くことはできなかった。
卯月や潮にも諭されて、渋々と帰る事にしたんだが、この選択には本当に後悔しか残らなかった。
翌日、ラバウルから護衛部隊やってきてあたしを連れ出す。
「また本土で!」
「帰ってくるから心配しないでー!」
様々な言葉をかけられたがあたしの気分は最悪だった。
もっと国に帰りたいやつはいるはずだし、あたしが帰ったところで待ってくれている人もいない。
「また会いましょう、加古さん!」
そう言って再会できたのは何人いた?みんな嘘つきだ、古鷹さえも!
「あたしだけ帰されるのは、お前たち、理不尽に思わないか?」
「戦える人が残って、怪我人は後ろに下がる、当たり前っぽい!」
「そう教えたのはあなたじゃないか、加古さん」
そうだったかな、いずれにせよ彼女の言い分も尤もだ。
修復剤さえ使わせてもらえれば、こんな傷なんて……。
そもそもなぜ使わせてもらえないのかは、結局最後までわからなかった。
どうにも古鷹が怪しいと睨んでいるんだが、もう確認のしようがない。
仲間たちの手を振る姿が遠ざかり、小さくなっていく。
こちらは振り返そうにも腕がない。
護衛部隊に初霜がいて、話しかけてきた。
「これは一体何があったんです?」
「色々あってね、敵の新型戦艦にしてやられたんだ」
「それは……お疲れ様でした」
「あたしは、あたしはまだやれるんだ、こっそり修復剤でも使ってくれれば」
「……いえ、あなたには撤退命令が出ています」
「なぜ!?なぜあたしだけ!!」
声を荒たげて問いただしても、初霜は首を振るばかりだ。
「これは命令です、従っていただきますよ」
「なんだよ、一体誰がこんなことを……あたしはまだ役に立てるのに……」
なんて不甲斐ない、こんなことがあっていいはずがないだろう。
「そうやって言うのは良くないですよ、帰りたくても帰れなかった人もいるんですから」
「うん……うん……わかってるよォ……」
お先は真っ暗だ、何も見えない。
今夜はここまで
遅くなって申し訳ない
悩んだ末こういう展開に
連載小話
【田舎娘、艦娘になる】
最終回 水上艦隊の初陣
ある時、敵襲の報せがイギリスから飛んできました。
「敵は戦艦のクセして爆雷だの魚雷だの航空機だのを撒き散らすそうよ」
「我らドイツ海軍水上艦隊の出番というわけだな」
ビスマルクとグラーフツェッペリンは奮い立っています。
「艦隊戦か……よし、行こう」
「腕がなるわよ!」
レーベレヒトマースとプリンツオイゲンもやる気のようです。
「……」
「あぅ……」
マックスシュルツは黙り込み、U-511はそんな彼女にビクビクしています。
しかし敵は待ってはくれません、出撃の時間です。
6人は勇んで北海へと飛び出しました!
幸い敵艦はすぐに見つかりました。
ドイツ軍艦娘は高性能な精密機械をうんと積んでいるという特徴があります。
索敵や弾道計算の精度が軍を抜いて高い理由です。
しばしば『過保護』と表現されることもありますが、艦娘候補が少ないドイツにとっては理に適ったものなのです。
その高い性能により、敵艦を迅速に捕捉する事が出来ました。
「ビスマルク姉様、あれじゃない?」
「ぽいわね」
相手はこちらに気が付いていないようです。
「ではビスマルクとオイゲン、マース、シュルツでヤツを強襲し撹乱しろ、私が航空攻撃でゆーの元へ誘導する。ゆーはそこを叩け」
「ゆーちゃん頑張って!責任重大だよ!」
「えっと……」
「緊張させること言わないの」
さあ作戦開始です!
近づいてみると敵艦はかなり傷ついた様子です。
イギリス海軍にやられたのでしょう。
「可哀想だけど、僕らも仕事だから」
「フォイヤ!」
マックスシュルツの掛け声と共に砲火が降り注ぎます。
そこにグラーフツェッペリンの航空機も加わり、敵艦は慌てて逃げ出します。
「むぅ、そっちじゃない」
マックスシュルツがすかさず回り込みました。
敵は完全に戦意喪失しているようで、右往左往とし始めます。
「フォイヤー!フォイヤー!」
「逃がさないわよ」
そしてついにU-511の待機地点まで追い詰めました。
「えいっ」
放った魚雷は正確に命中し、敵は爆炎を上げて斃れました。
「やったばい!」
「ズラぁ!」
感極まって訛りが飛び出しましたが、なりふり構わず大喜びです。
かくしてドイツ海軍水上艦隊は名声を獲て、活躍していくことになります。
ところで、この敵艦の撃沈が欧州戦線の危機を救ったという話がありますが、それはまた別の機会にでも……。
レ級の試作と実戦配備
レ級は設計開発が完了すると、先ず欧州と太平洋で戦闘実験が行われた。
欧州ではブリテン島の周囲を一回りという課題が出されるも、ドーバー海峡での連戦とドイツ軍の奇襲により未帰還となり、
満足な戦闘データを回収する事が出来なかったため、欧州での配備は見送られた。
一方太平洋では、インドネシア近海の横断という課題で戦闘は複数回起こったがいずれも快勝、目撃者を全て排除し海域を離脱、帰還した。
日本海軍側は生存者がいなかったためにこの事実を認識できなかった。
そうして実戦配備され、ソロモン海戦にて猛威を奮う事となる。
戦闘データの共有は派閥争いのため行われなかったようだ。
初霜書房刊『図解 深海棲艦』より
取り敢えずドイツ艦娘編を畳む
-さよなら海軍鎮守府-
本土に帰り着いて数日後、日本海軍は南太平洋での戦闘終結を宣言した。
深海棲艦南太平洋艦隊が降伏したんだという。
街はその一時の勝利を盛大に祝った。
でもあたしはとてもそんな気にはなれず、ただぼんやりと日々を過ごしていた。
この勝利の決め手となったのはやはりソロモン海戦だという。
報告によるとあのバケモノ、レ級がうじゃうじゃといたって話だから気が気じゃない。
それを知ってか知らでか港にはいつもポツポツと人が立っていた。
娘たちの帰りを待つ親族らだろう。
彼らはずっと海を見つめて待っている。
「今日はまだ帰っては来ませんよ」
「あ、あなたは……」
「どこかでお会いしましたっけ?」
「洋美の上司さんですよね?」
洋美?はてそんな艦娘はいただろうか?
「洋美、というと……」
「種子島洋美です、確か……村雨って艦娘で……」
「村雨……」
こういう偶然というのは起こってほしくなかったよ。
「申し訳ありません、あたしは負傷で戦線を離脱した身でして……」
と腕の継ぎ目を見せる。
「ああ、そうでしたか……」
「報告もまだ上がってきてはいませんので、お役に立てず申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
もう村雨は死んでいると、どうして本当の事が言えるだろうか。
彼女は遺品らしい遺品も残らなかった。
いかれちまった皐月にへばり付いた血と肉片だけが彼女が存在していた事を証明している。
いくら艦娘と言えどこうなっては即死だ。
涙が込み上げて来て、でも悟られるわけにはいかず、慌てて踵を返し、その場を立ち去った。
部屋に戻ると泣きはらす、皆は戦い、苦しんでいたのにあたしだけが後ろに下がって生き残るなんて、
こんな卑怯な艦娘もいないだろうと思った。
そうしてついに、ソロモン諸島の部隊が帰ってきた。
あたしは古鷹の姿を探すが、いない。
卯月と潮も、睦月型や白露型も何人か姿を消している。何度探しても見当たらないんだ。
必死になって探しているところに、青葉がやってきた。
「ああ、無事だったか。古鷹は」
「……」
彼女は何も答えない。
「おい、どうしたって言うんだ、卯月は、潮は、春雨や涼風もいないがどうしちまったってんだよ」
「いや、その、ははは、窮鼠猫をなんとやらと言いますか……」
顔が引きつっている、何かを言い出せないような様子だ。
「いえ、あの、その、とてもじゃないが、言い出しにくくて」
「言い出しにくいようなことが起きたのか」
「そうですね……」
そう言って青葉はその場に座り込んで啜り泣きを始めた。
「そっか」
いざこういう時になってみると不思議と冷静で、
どうしてこんな悲しいことがあるのか、という気持ちももちろんあるが、
こっちも散々殺したんだからしょうがないとも思っていた。
涙も出なかった。きっと死を受け入れられないんだろう。
「人間どうせ百までは生きられやしないんにゃ、早いか遅いかの違いだけで」
後ろから唐突に話しかけてきたのは多摩だ。
「酷い事言うじゃないか」
「酷いのはこの戦争にゃ」
思えばその通りで、思春期の少女を兵士に仕立て上げ未知なる生物と戦わせるのを許容する世界なんてのは、
傍から見ればおぞましい物だ、艦娘が深海棲艦への唯一の対抗手段でなければ到底まかり通るものじゃない。
それでは、そのおぞましい世界のために散っていった若い命たちは?
「もううんざりだ、誰かが死ぬなんて」
「まるで人生の苦さを噛み締めたって顔だにゃ」
「だってそうじゃないか」
もう何も残ってはいない、あたしを愛してくれた古鷹はこの世にはいなくなってしまった。
第六戦隊として戦った衣笠もいない、青葉もあたしも片手落ちだ。
いつだってついて来てくれていた卯月、片腕になると張り切っていた弥生、
潮もいない、白露型の駆逐艦たちも何人かがその命を落とした。
待っている家族だって……。
「もう残っているものはほとんど何もない」
「ひどいにゃぁ、多摩は勘定に入れてくれないにゃ?」
「ほとんどって言ってるじゃないか」
「ま、無茶なこと言うけど元気出せにゃ」
こいつといると調子を崩されちまうよ、彼女なりの励まし方なんだろうけど。
「そうそう、司令長官が呼んでたにゃ。これからのことで」
「これからのこと?」
「行ってみればいいにゃ」
それだけ伝えて、多摩はまたフラフラと去っていった。
あたしは司令長官の部屋まで行き、そのこれからのことについて話す。
「古鷹については、残念だったな」
「古鷹も覚悟はしていたはずだよ」
「そうか……ともかく、お前はこのまま退役することができる」
「退役……」
「そうだ、軍隊生活をやめて世の中に出ていく。もちろん艦娘を続けることもできる」
「あたしは……退役することにするよ」
古鷹との約束がある、しっかり生きろと。
「そうか、そう言うと思っていたよ」
彼は引き出しから書類を取り出して、こちらに見せる。
「ここに名前を」
「あの、司令長官」
「なんだね」
「今までありがとうございました、その、司令長官はあたしにとってお父さんみたいで」
「バカ、別れるのが惜しくなること言うな」
柄にも無いことを言っちゃったかもしれない、でも昔っから言いたかった事だ。
「古鷹型重巡洋艦娘、加古、願いにより予備役を命ずる」
「ヨーソロー」
「最初もそんなこと言ってたな、思えば長い付き合いだ」
そうして部屋を出て、鎮守府の仲間たちに別れを告げ、町に飛び出した。
特に行く宛があるわけでもないんだけどね。
今夜はここまで
遅くなって申し訳ない
べ、別に工場長になってたわけじゃないんだからね!
本編の投下は次回で最後かも、なんか補足とかで欲しいのがあれば今のうちにどうぞ
乙
哀しい、哀しいな
他の本編未登場の日本艦娘達の小話ことか
おつ。きついな。
あの世の艦娘達の加古の印象とメッセージ。
ああ、会敵して交戦が始まってからもう何時間が経つのでしょうか。
このアイアンボトムサウンドに一体どれだけ居ればいいのでしょうか。
皆疲れ果て、頭を垂れたまま航行しておりますから、さながら葬儀行列の様相を呈しているのです。
「もう疲れた」と古鷹さんが珍しく弱音を吐いてしまいます。
敵影が見え、最初に砲撃を開始してから、もう2度は日が沈むのを見ました。
疲労困憊、などという表現では足りないほど疲れ切っています。
深海棲艦の艦隊が私たちを照準しているのにも関わらず、それに対する言葉一つ交わしはしないのです。
皆無言で砲を撃ち、無言で艦隊運動を続けます。
そんなふうだから気が付けば周りには誰もいなくなってしまい、やむなく私は近くの島のジャングルの中へと隠れました。
初霜書房刊『第七駆逐隊戦記』より
加古、皐月の離脱、衣笠の損失後、深海棲艦の攻撃も苛烈さを増した。
熾烈な攻防戦が行われていたが、最終的な決戦の海としてアイアンボトムサウンドが選ばれることとなる。
始まりは偶発的な会敵で、たまたま移動中であった本隊同士が鉢合わせた為に始まった。
戦いは苛烈を極め四日間の内に陸海空合わせ計17回の戦闘が行われた。
多数の犠牲を出しながらも日本海軍は深海棲艦艦隊を撃破しこれに勝利した。
深海棲艦南太平洋艦隊はこの戦いにより戦力のほとんどを喪失し、降伏する事になる。
初霜書房刊『艦娘戦史』より
南太平洋艦隊の降伏後わずか3ヶ月、日本海軍はサンフランシスコに上陸を果たし太平洋の制海権全てを掌握した。
これにより米海軍が息を吹き返し、中南米、大西洋と徐々に人類は海を取り戻していった。
アフリカでは、イタリア海軍のモザンビーク解放により深海棲艦アフリカ艦隊が降伏する。
北欧の戦いも終結し、最後の戦いの海として選ばれたのは黒海であった。
深海棲艦はアナトリア半島、バルカン半島、ウクライナ、スタヴロポリ地方、グルジアなど黒海沿岸を全て占領しており、
セヴァストポリを本拠地として活動していた。この戦争でも最も凄惨な結末を迎えたドナウ・デルタの戦いなどを経て、
多国籍連合艦隊はクリミア半島を解放、長らく続いた深海棲艦との戦争は終わった。
共通の敵と戦った人類はついに一丸となると世界中の多くの市民が期待したが、
その期待は日露のシベリアにおける小競り合いによって裏切られることとなる。
初霜書房刊『艦娘戦史』より
戦後の艦娘たちの生活はまァまちまちだ。
ある者は以前の生活に戻り、ある者は軍隊に残った。
夢を叶えたヤツもいれば、堕落した生活を送るのもいる。
世界平和のために活動する連中もいれば、汎艦娘主義を掲げ艦娘の優位性を説く輩もいる。
だがこの汎艦娘主義ってやつ、かなりキケンな臭いがするぜ。
あー、とにかくだ。世間様にはある程度馴染めてるよ。
――艦娘たちの戦後について、天龍
とりあえず思いついた分だけ
イベントやる気が全く起きず、ログインすらしていない……
>>348
小話については艦娘を指定してもらわないと厳しいものがあるかも
>>349-350
追加は禁止!禁止です!ていうかあの世の艦娘のメッセージて……某Y神社の風景でも書けばいいのかしら
【ドナウ・デルタの戦い】
ルーマニアのドブロジャ、ウクライナのオデッサ州に位置する広大な三角州での多国籍連合艦隊と深海棲艦の戦闘である。
ヨーロッパ戦線でも最大級の戦いであり、深海棲艦が最後に勝利した戦いでもある。
-戦いの背景-
深海棲艦を黒海に封じ込めることに成功した連合軍は深海棲艦に対し根気よく降伏を呼びかけていた。
ここまで追い詰めたならば深海棲艦の敗北は明確であると思われており、
また、バルカン半島での深海棲艦は撤退を繰り返しており、両軍に損害は少なかったが、
地雷などの罠を大量に設置して撤退していたために、艦娘たちには厭戦感情が蔓延していた。
一方、深海棲艦はこの一連の撤退を作戦の一部として実行しており、ドナウ・デルタに強固な防衛陣地を構築、
多数の地雷を駆使し、連合艦隊をこの陣地まで巧みに誘導することに成功した。
-両軍の状況-
・欧州連合艦隊
イタリア、フランス、ドイツ、イギリスを始め、オランダやポーランドも参加。
前述の深海棲艦の撤退が繰り返された事から艦娘たちは今度もまた撤退するだろうと考え、
作戦準備や地形の確認、偵察などを怠っていた。
また、ドナウ・デルタでの戦闘が予想された頃、ルーマニア政府により自然環境に配慮し空爆を控えるよう要請を受け、
すべての航空戦隊はアナトリア半島に移動した。
・日本海軍西方艦隊
日本の艦娘は欧州連合艦隊の雰囲気やドナウ・デルタの地形からこの作戦には消極的であった。
西方艦隊第十一水雷戦隊旗艦の暁は「敗北は必至」と愚痴をこぼしていたという。
・アメリカ欧州派遣艦隊
戦争全体でも大きな活躍を為すことができなかったために、この作戦に最も積極的であった。
降下訓練を受けた駆逐艦娘ら40名が配備され、作戦開始を今か今かと待ちわびていた。
・深海棲艦の防衛部隊
全軍に一矢報いようという気概に満ち溢れており、士気はかなり高かった。
陣地を市街地でなく湖や沼地、森林に構築し、伏撃の構えを取った。
また小規模の潜水隊を各地に多数配置し、散発的な遊撃戦を挑むことを指示した。
-戦いの経過-
序盤戦
・初日
連合艦隊は駐屯地であったトゥルチャ、イズマイールを出発しドナウ・デルタに侵入するも、
トポルガ湖の防衛部隊に早くも足止めされ、撤退を余儀なくされた。
一度駐屯地に戻り部隊を再編、作戦を多方面からの電撃戦に変更する。
・2日目
ドイツ海軍を主体とした部隊が再びトボルガ湖に襲撃、日本軍の砲撃支援を受け猛攻を加える。
深海棲艦もこれに反撃を加えたが、独日両軍は肉薄攻撃を仕掛け、トポルガ湖の陣地は奪取された。
しかし同日、ルング湖、チレイウバツ湖に進撃した他の部隊は軒並み敗走しており、
2日目にして作戦の雲行きに暗雲が立ち込めていた。
また、この日の戦いによりドイツ軍の前線指揮を執っていたアトミラール・ヒッパーが戦死、
同部隊のプリンツ・オイゲンに指揮権が移譲された。
・3日目~6日目
作戦全体の責任者であったイタリア海軍中将のジャンマルコ・コルブッチはルーマニア政府に空爆の許可を申請したが、
拒絶されてしまう。イタリアの第2戦艦戦隊とフランスの第1巡洋戦隊の混成部隊が再びルング湖とチレイウバツ湖に進撃し、
粘り強く前線を進めルング湖陣地を奪取した。
これを奪い返そうと深海棲艦はトポルガ湖より撤退してきた部隊と共にルング湖を挟撃した。
しかし、米海軍増派部隊の支援攻撃もありチレイウバツ湖を死守するのが精一杯で、陣地奪回に失敗した。
ただしこの戦闘でフランス海軍は多数の損害を出していた。
・7日目、8日目
米海軍欧州派遣艦隊の指揮官であるクリスティアン・ゴーリー少将の発案の元、この日の夜に降下作戦が実施されることとなる。
各国の将校は強く反対したがゴーリーはこの作戦を強行。米海軍駆逐艦30がフルトゥナ湖に降下した。
しかし深海棲艦はこれを待っていたかの如く猛烈な対空砲火を浴びせ、空挺部隊は壊滅する。
これを受け日本海軍西方艦隊第十一水雷戦隊決死の覚悟で救助に向かったが、生き残っていたのはクリーブス級カーミック、マドックスの2名のみであった。
フルトゥナ湖の状況は凄惨を極め、遺体の多くが刺殺体であり、頭部が欠損していた。
中盤戦
米海軍の欧州撤退やスペインや北欧、タイ、台湾からの増援、それによる戦力再編成に忙しく、大きな戦いは起きていない。
・9日目
深海棲艦は隠密行動を取っていた潜水隊に指示を出し、攻撃を開始。
連合艦隊は不意を突かれた形になったが、英海軍駆逐隊の奮戦により被害は最小限に食い止められた。
10日目、11日目、12日目は戦闘は起こらず、両軍はひと時の安らぎを得た。
・13日目
再編成を終えた連合艦隊は大規模攻勢を開始、この攻撃の察知が遅れた深海棲艦は始めは混乱したが、
随時体勢を立て直すと反撃をしつつ、イルガニイ・デ・スス北部の湖が点在する地域に後退した。
終盤戦
終盤になると艦娘側の疲弊、消耗が目立った。
一方、深海棲艦は情報網の整理、部隊の配置換え、陣地再構築、兵員増強、武器弾薬補給などを行い防備を整えた。
この周到な用意により連合艦隊は苦しめられることとなる。
大勢が決する20日目までの間、ドナウ・デルタ各戦線では終日熾烈な白兵戦、遊撃戦が繰り広げられ、両軍に多数の死傷者が発生した。
・14日目、15日目
連合艦隊が陣地を構築する間もなく深海棲艦は攻撃に乗り出す。
タタルチュク湖に駐留していたオランダ海軍第2戦隊は猛攻を受け死者こそ出なかったが大破多数の壊滅状態になり、
タイ海軍、台湾海軍の艦娘に撤退支援を受け後退した。
守ってばかりでは勝てないと考えたイギリスの巡洋艦レパルスは独断で志願者を集め、混成遊撃隊を編成し、
深海棲艦の防御陣地に夜襲をかけ、ブルトゥル北部の農地にある陣地を奪取した。
・16日目
ついにルーマニア政府より空爆の許可が下りる。
空爆の準備のため各軍の航空戦隊を呼び戻し、準備を進める。この日戦闘は起こっていない。
深海棲艦はこの動きを察知し、防空棲姫や防空巡洋艦を配備した。
・17日目
航空戦隊による空爆が開始され、陣地に爆撃が刊行された。
ある程度効果的に損害を与えたが、対空砲火による被害も決して無視できるものではなかった。
また、連絡不足によりブルトゥル北部の農地にも爆撃が加えられ、グロスター級軽巡リヴァプールが死亡した。
レナウンはこれを悔やみ、陣地を放棄し撤退する。
・18日目、19日目
深海棲艦が姿を消し、空爆の効果は抜群と思われた。
しかし、前線を進め陣地の占領後に深海棲艦の伏兵が現れ、各地で遊撃戦が始まる。
ここで深海棲艦も空母を投入し、潜水艦、水上艦、航空機による三次元攻撃によって連合艦隊、
特にイタリア海軍、フランス海軍、イギリス海軍は壊滅的被害を受け、戦線を離脱することを決定した。
・20日目
ジャンマルコ・コルブッチ中将はこの戦いの敗北を認め、全軍に撤退命令を下す。
大した損害を出していなかった日本海軍西方艦隊とドイツ水上艦隊は撤退支援を買って出た。
殿として陣地に残り深海棲艦の追撃を幾度も退け、全軍の撤退が完了した後に撤退を開始した。
こうして、20日間にわたるドナウ・デルタの戦いは終わったのである。
-両軍の戦死者-
・連合艦隊
空母1
戦艦4
巡洋艦8
駆逐艦37
潜水艦2
・深海棲艦
戦艦1
巡洋艦3
駆逐艦6
潜水艦11
-結果-
この戦いの結果は深海棲艦の圧勝とも言えるものであり、戦争の終結は遠のいた。
ほとんど全世界の海軍が集結し、圧倒的戦力差があったにも関わらず防衛部隊は勝利し、
セヴァストポリの深海棲艦司令部は驚愕したという。
深海棲艦側は損害を極力抑えるため、優勢であっても設定された目標程度の被害を与えれば撤退するという手法を取った。
その結果、損害比率はこれまでの戦いとは比べ物にならないほど異質な数値を叩き出すことになる。
この敗北は各国の厭戦感情を増大させ、特にアメリカはこれ以降深海棲艦との戦闘に参加しなかった。
またイタリア、フランス、イギリス、オランダの艦娘たちに深刻な打撃を与え、長期の入渠を強いられた。
以降の戦いでの主力はドイツ海軍、日本海軍、ロシア海軍となる。
さらに空爆の影響で世界自然遺産であるドナウ・デルタの自然環境は甚大なダメージを受けてしまい、
多くの犠牲を払ったが、何一つ結果を得られなかったという苦々しい結末を迎えた。
以上、ドナウ・デルタの戦いでした。他のはちょいと待っててちょんまげ
結構ガチな出来になって自分でもワロタ
乙乙ー
セヴァストポリ攻略戦と捕虜になった深海棲艦がどうなったか書いてくれませんか?
【最上と鈴谷】
最上「あの加古とかいう奴がソロモンから帰ってきたよ!」
鈴谷「文句の一つでも言ってやんないと気が済まないね」
三隈「三隈はご遠慮させていただくわ」
熊野「私も、こういう事は行動で見返してやりたい質ですわね」
最上「そっか、じゃ2人で行ってくるよ」
鈴谷「うん、行こ!」
三隈「ほどほどにね」
…
コソコソ
最上「確か食堂に……」
鈴谷「あ、いた」
最上「お食事中かな」
鈴谷「わっ!犬食いしてる!下々の者は嫌ですねぇ~」
最上「ん?ちょっと待って、様子がおかしい……よ……」
鈴谷「そう?あ……」
最上「…………戻ろうか」
鈴谷「うん、そうだね……」
その後の2人はより一層訓練に励むようになったとか。
【二水戦】
那珂「それじゃ、矢矧ちゃん!お願いね!」
矢矧「いや、私にそんな資格は……」
那珂「ほんとは那珂ちゃんが引き継ごうって思ってたんだけどぉ、那珂ちゃんってアイドルだし?」
矢矧「は、はあ……」
那珂「矢矧ちゃんが適任だと思うよ」
矢矧「……でも私は、3人も」
那珂「決めたんでしょ、戦い続けるって」
矢矧「それは……」
那珂「悲劇のヒロインは那珂ちゃん一人でじゅーぶんなの!プンプン!」プンスカ
矢矧「……」
那珂「じゃ、よろしくー♪第二水雷戦隊旗艦の矢矧ちゃん!」
矢矧「え、ええ……」
那珂「お歌のレッスンがあるからまたねー!」
矢矧「はい、さようなら……」
矢矧「……」
矢矧(今度は……今度こそ誰も……!)
矢矧時代の二水戦は、神通時代ほどの苛烈さは無かった。
しかし、終戦で解散になるまで一名の戦死者も出していない。
結構ベタな感じだけどたまにはよいよね!
>>373
セヴァストポリじゃなんかドイツ軍が活躍したらしいぞ!終わり!
そんなもの書く気力は残ってないのです……
深海棲艦の生き残りはほっぽちゃんの計らいでグリーンランドに移住したらしい
という事にしておこう
【木曾と天龍】
木曾「……」
天龍「おいおい、まだ引きずってんのかよ」
木曾「……当たり前、だろ」
天龍「さっさと立ち直らないと、出世できないぜ?」
木曾「指揮権限が剥奪されてる俺に言うことか?」
天龍「そうだったな」
木曾「もういいだろ、ほっとけよ」
天龍「そうはいかねーな。退役しない以上、立ち直ってもらわんと問題だぜ?」
木曾「……」
天龍「矢矧はしっかり訓練に励んでるみたいだが、お前はどうだ」
木曾「俺は……俺は何をやってるんだろうな」
天龍「希望すりゃ今日にでも退役できるだろ」
木曾「俺はどうすりゃいい、お前ならどうする」
天龍「オレか、そうだな、オレは気にせず死ぬまで戦うだけだ。いやちったぁ気にするがね」
木曾「いや、気にしないなんて俺には……」
天龍「自分で聞いといてなんだそりゃ、ウジウジするな気色悪い」
木曾「ああ、俺はウジウジした負け犬だ……」
天龍(め、めんどくせぇ~~!引き受けるんじゃなかったこんなこと!)
その後、天龍は数ヶ月かけてようやく木曾を立ち直らせた
木曾「お前らの指揮官は無能だな!いや、無能なのは俺か……」ブツブツ
天龍「はいはい、大丈夫だから」
龍田(……この子、もう天龍ちゃんがいないとダメなんじゃないかしら~)ガビーン
【白露型】
白露「半分に、なっちゃったね」
時雨「そうだね」
夕立「……」
五月雨「うん……」
江風「クソッ!なんなんだよ!」バンッ
時雨「しょうがないよ、これが戦争だから」
江風「ンだと!じゃあお前は村雨の姉貴たちが死んだのは運がなかったとでも言いてーのか!?」
時雨「そうだね、いつ誰が死ぬかなんてわからないさ」
江風「前からその知った風な口を聞くのが気に入らなかったが、もう我慢の限界だね!」
白露「やめなさい、江風」
五月雨「そうだよ!こんな時に喧嘩なんて!」
時雨「喧嘩だなんてねぇ、ただ子犬がじゃれてるだけさ」
夕立「時雨も余計なこと言わないで!」
江風「畜生、なんで死んだんだみんな……お前ら平気な顔してっけど辛くないのか!?」
時雨「辛いよ、胸が締め付けられるようさ。でもね、こんなことでいちいち立ち止まっていられないんだよ」
白露「そう思うと、悲しむ時間さえもないのかぁ……」
五月雨「……」
夕立「……私は……悲しむことよりも、みんなの仇を討ちたいと思っている」
白露「仇討ち……」
夕立「死んだみんなが喜ぶかはわからない、だから自分のためにやる」
江風「……」
五月雨「自分のため?」
夕立「そう。ダメかな」
時雨「いや、いいと思うよ」
白露「そうね、私も賛成」
五月雨「やりましょう……!」
江風「……そうだ、やってやるぜ、すぐに地獄を賑やかにしてやらぁ」
この事象はさして珍しい物ではない。
過去にも艦娘たちの間で繰り返され、またこれからも起こることであろう。
戦友の死は、かくも恐ろしい選択を少女たちに強いるのである。
セヴァストポリではドイツ軍とロシア軍が過去の資料を持ち出してきたためかスムーズに事が進むことになる。
また深海棲艦の士気も高いものとは言えず、銃口を向けるだけで手を挙げて降伏してきたという。
作戦開始よりおよそ四時間後、深海棲艦は降伏した。これにより全ての深海棲艦が降伏し、戦争は終結した。
指揮を執ったドイツ軍将校は「最後の戦いにしてはあっさり終わって肩透かしを食らった」と話していたという。
初霜書房刊『艦娘戦史』より
とりあえずここまで
そろそろ本編の方に手をつけようかしら
【皐月】
『深海棲艦はグリーンランドにて保護される事となり…』
皐月「……」
如月「戦争は終わったのね」
皐月「理不尽だと思う」
如月「え?」
皐月「全員だ、どうして全員を殺さないのかな」
如月「……あれでも、元は人間だから」
皐月「どうして!!遊び半分で僕たちを殺そうとした連中をどうして『保護』なんて出来るんだ!?」
如月「!」
皐月「僕の中で戦争は!今でも続いている!!」
如月「皐月」
皐月「毎晩夢に見る、あの時の!村雨の目を!死ぬ間際に僕の方を見た、でも次の瞬間!!体中に飛び散って!!」
如月「皐月、落ち着いて」
皐月「僕も死ねばよかった、僕も死んだら……こんな……」
如月「皐月……」
深海棲艦のグリーンランドでの保護が発表された途端に世界中の元艦娘の精神疾患が急増する、
そして各国に駐在するデンマーク大使館はそのほとんどが破壊の対象となった。
-戦いの果てに-
「趣味は」
「寝ること」
「特技は」
「敵をぶっ殺す事です」
鎮守府を飛び出したところで行く宛もなし、就職もうまくいかなかった。
最初こそ真面目にやっていたが途中からはもうこんな適当な有様だ。
「しかしどうも得体の知れない」
「じゃ、帰りますよ、帰ればいいんでしょ」
どうせ面接なんざ嘘つき大会だし、そういうことなら向こうさんに軍配が上がる。
退役後の艦娘の就職ってのはやっぱりどこも難航しているらしかった。
でも金だけは手付かずで残ってたからホテルで部屋を借りて毎日酒を浴びるように飲むだけの生活を送っていたんだ。
ある時、この本を書くきっかけになった人物が訪ねてきた。
「どうも、元気そうですね」
「なんだよ、初霜か」
「今は、酒匂 雅とお呼びください?」
彼女の本名だ。そう言ってづかづかと部屋に入り込んでくる。
「どうせ仕事もしてないんでしょ」
「よくわかったな……いやわかるか」
「わかりますとも」
うんうんと頷きながら、手に持っていたカバンを開く。
「まず一つ、青葉さんが立ち直ってくれました」
「なに?青葉がか」
彼女はソロモン以来随分と塞ぎ込んでいたが、初霜に誘われてそちらで働くことになったらしい。
もちろん、青葉日報の方も忘れてはいないようだが。
「それだけじゃないだろ」
「そうです」
彼女はカバンから原稿用紙を取り出す。
「なんだこりゃ」
「あなたの体験を本にしてみません?」
「本?あたしは難しいことは書けないよ」
ロクに学校にも行けてないんだ、よく考えたら小学校中退って事になる、のかな。
「いえいえ、それはもちろん補助しますよ、初春が」
「初春がかよ」
「実は!お父さんの会社に手伝ってもらって出版社みたいなものを作ろうかと思い立って!」
「そうか、で、あたしに本を出せと」
「その通り、艦娘について知りたい人は大勢いるはず」
「ふぅん」
艦娘について知って欲しいってのは思うところがある。
人知れず死んでいった艦娘たちも多いわけだから、彼女たちについて知ってもらいたいし、
そのきっかけや助けになるんであれば、喜んで本を書こうと思った。
「よし、一肌脱ごうじゃないか」
「そうこなくては」
「しかしあたしでいいのかね」
「孤児で艦娘で仲間を失ったっていうんだから注目を浴びますよ」
「ちぇっ、余計なこと聞いちまったな」
そういうことは正直に言って欲しくなかったもんだよ。人の境遇をダシにしやがってさ。
「初春型のみんなは元気か」
「お陰様で全員生きて退役出来たわ」
「そりゃあ……すごいな」
五人以上の駆逐艦で全員が生還した艦級というのは非常に珍しい。
そして彼女はその生還した六人全員を誘い出版社を立ち上げた。それが初霜書房だ。
「さてさて、どうやって書店に……」
初霜は一人で考え事を始めてしまう。
今時、本なんて流行るのかどうかはわかんないけど、一定の需要はあるだろう。
かくして本を書く事になったわけだ。
そうして自分に起こった出来事と、その時考えた事を思い出すに、
どうやらあたしというのはあまり自分を持っていないように思う。
というのが、ある時は好戦的で、またある時は戦いにうんざりしていたり、
周囲に流される事も多い、この本だって初霜に言われて書き始めたんだ。
のらりくらりと行ったり来たり、なんと中身のない人間だろうか、
そもそも持ってた物全て失っているんだから中身というものがあるはずもなく、
結局のところ加古という艦娘は薄っぺらいヤツだったんだ。
さて、本をこうして書き終えたんだけど、これからどうしようだなんて考えてはいない。
そういえばあの女の子は元気だろうかとか、そう考えながらも足は向かない。
なんだか後ろめたくって、会いに行く勇気がないんだ。
悪いことだってたくさんしたんだから、彼女には会わない方がいいかもしれない。
でも彼女の事だから、自力であたしを見つけに来るかもしれない、その時は観念しよう。
古鷹はあたしにしっかり生きろと言ったわけだが、果たしてどうすればいいか途方に暮れている。
どうせあたしの足りない頭じゃいつまで経っても答えを出せないだろう。
その答えを教えてくれる人ももういないしね、戦争は良い人間ばかりが先に死んでいくからやりきれないよ。
とまぁ、書く事も一通り書き終えた事だし、ここで一つ筆を置こうと思う。
ここで終わりとなると、やっぱりちょっと一抹の寂しさが残るよ。
これで完結です
重苦しい話を長ったらしく書いてしまいましたが
どうもここまで読んでくれてありがとうございます
次は明るい話を書きたい、書く!
パk参考にしたもの
・漫画、アニメ
のらくろ自叙伝他、のらくろシリーズとのらくろのアニメ(1970年の方)
駆逐艦魂(水木しげるの漫画)
・映画、ドラマ
プライベートライアン
バンドオブブラザース
ザ・パシフィック
炎の戦線エルアラメイン
戦争のはらわた
ランボー(おまけの皐月のとこだけ)
・ウェブサイト
わが青春の追憶(敷波、磯風の元乗組員のウェブサイト。最近閉鎖したが電子書籍になったらしいぞ!)
Wikipedia
Googleマップ
とその他もろもろ
キャラ崩壊とか原作を無視した部分とか大量にありますがここまでお付き合いいただきありがとうございます
補足の要望の一部が書けてないのでもうちっとだけ続くんじゃよ
某Y神社は、そう、まあ、そうねぇ
国際機関の権威の失墜は世界に戦乱の嵐を巻き起こす事になった。
戦後、あるいは戦中に領土の火事場泥棒というのは頻発し、国際問題となっている。
中でもロシアは(解決済みのものも含め)多くの領土問題を抱えていた為格好の的となった。
更に、戦後すぐに起きたシベリア紛争(第二次日露戦争とも)の勃発とそれに乗じた欧州の隣国により
多くの領土が掠め取られ、樺太を始め北東部プロイセン、カレリアなど、これまでの鬱憤を晴らすかの如く蹂躙された。
ロシアは抗議声明を発するも国際社会の同情を買うことさえ叶わず泣き寝入り状態になっている。
またこれらの国境紛争は艦娘の通常軍に対する圧倒的優位性を証明した。
初霜書房刊『艦娘が変えた戦争』より
足元から見(上げ)た重巡加古という艦娘
古鷹「……」ジー
加古「……」
古鷹「素晴らしいです」キラキラ
加古(いつからこんな変態になったんだろう)
脱衣所から(覗き)見た重巡加古という艦娘
加古「ふぃ~、訓練のあとの風呂は気持ちがいいな」
衣笠「だねー」
古鷹「……」ジー
加古「……」
衣笠「……」
古鷹「素晴らしいです」キラキラ
加古「入ってくりゃもっと近くで見られるだろ!?」
衣笠(レズ怖、戸締りしとこ)
>あとこの世界にいる例の加賀さんが見たい
加賀「……」
赤城「もう……死んでますよ……」
加賀「頭にきました」
深海棲艦との戦争は終わった。
我らは立ち上がり、彼女たちを倒したのだ。
しかし、彼女たちの産んだ娘が今もすくすくと成長している。
――終戦時に某SNSで広まった言葉
以上です
なんか適当な感じで申し訳ないが、早く次の構想に行きたいんじゃ!!!!!!!
お付き合いいただきありがとうございました
乙でした。雷さんと磯波は生き延びたのかな。
>>418
完全に忘れてたけど、そのふたりは一応生きてます
時々補足で出てくる変な本は大体磯波ちゃんが書いてるという設定なのです
おつ
でも見たかったのはこれじゃないの……
>>422
正直、スマンカッタ
このSSまとめへのコメント
面白かったよ
いい作品をありがとう。