【艦これ】重巡加古はのらりくらり (1000)



自叙伝というのは前書きも自分で書かなきゃいけないってもんだ。

別に自分の思想なんかを啓蒙だとかそういう気概は全くもってない。

ただ、知って欲しいっていうのは少なからずある。

何をかって?

それはまあ色々と。

色々というのはとかく色々であって、艦娘ってものはこういうもんだよってこった。

そういうもんを知ってもらいたいんだよ、あたしは。


※加古の自叙伝風なSS
※独自解釈、バイオレンスな描写、その他もろもろある予定


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445149547


-浮浪児-


この日本で浮浪児を見るなんて大東亜戦争の敗北以来じゃなかろうかね。

深海棲艦の攻撃によって保護者を失ってしまった子供が大勢いた。

大人は働けるからなんとかなるさ、でも子供はそうはいかない。

児童養護施設なんてのは金持ちのガキが行くところさ。

でも案外と逞しく生きてるもんだ、乞食や掻っ払いなんかやってね。

あたしもその一人だった。

その日を生きるのに精一杯だったし、親の顔なんかおぼろげにしか覚えていない。

さてどうやって金や食い物を稼ごうって話だ。

ゴミ箱漁るのはもちろん、山なんかで山菜を採ったり、蛇なんかいた日にはもう大喜びだ。


それに腕っ節にも自信があった。

買春目的のスケベオヤジをボコって身包みを剥いでやった事もある。

あたしは乞食や娼婦になるぐらいなら山賊にでもなってやろうって思ってたんだ。

それでも夜は気を抜けない。

同業者やゴロツキの襲撃、ヤクザの『仕入れ』なんてのは日常茶飯事。

夜に安眠したことなんか一度もない。

だから昼でも隙あらば睡眠を取るって形で誤魔化していたのさ。

全く、こんな日本に誰がしたんだっつの。深海棲艦だけどさ。

この辺ばかりは野郎が羨ましかったよ、下品な話だが女は守るべき穴が一つ多いんだもん。

そんな生活を送っていたんだが、ある日転機が訪れる。


またスケベオヤジをボコボコにして、戦利品を数えていた時のこと。

こちらの様子を伺う、茶髪の女の子がいた。

同い年か向こうのがちょっと上ぐらい。

「なんだよ」

声をかけると近付いてくる。

身なりはキラキラしてて、いかにも幸せな家庭出身ですって出で立ちだ。

「その人、私のお父さんなんです」

驚いたよ、このおっさんあたしぐらいの娘がいるのに……。

「ごめんよ、ぶっ飛ばしちゃった」

「いいんです。もう関係ありません」


流石のあたしも不憫に思ったね。

自分の父親のこんな姿見せられちゃなぁ。

彼女は手を握り締めて震えていたんだ。

てっきり拳の一つでも飛んでくるかと身構えたが、それはなかった。

ただ静かに泣いていたんだ。

こんな誘いに引っかかるスケベオヤジが悪いとはいえ、彼女の人生に大きな傷をつけたのは間違いない。

ちょっと罪悪感があったから、彼女を近くのファミレスに連れ込んだ。



「好きなの頼め、奢るよ」

もちろん、たった今手に入れた金でだが。

しかし彼女は俯いたままだ。

あたしは向かいから隣に席を移動した。

そして、彼女の手を取り、握る。

するとポツリと話し始めた。

「ただの、浮気だと思ってた。携帯を覗いてね、それで後を付けてきた」

「……」

「あなただけじゃなかった、以前にも他の子と会って……」

難儀な話だ、あたしにどうしろって言うんだよ。


しかし本当に可哀想だ、父親が自分と同じぐらいの子を買春しようってのは気持ち悪いだろう。

あたしにはその親もないから完璧に気持ちを一生理解することはないが、安易に想像できる。

「もう家には帰りたくない」

「はぁ?」

何を言い出すんだ、と思ったがどうにも彼女は本気のようだね。

「贅沢言うな、お母さんもいるんだろ」

「お母さんも嫌い、すぐぶつんだもの」

今時子供の問題っていうのはごまんとあるもんで、どの機関もまともに取り合っちゃくれないって話だ。

帰る家があって、毎日ご飯にありつけて、それくらいなんだと思ったよ正直。

これは困ったと頭を抱えた。

でもまあ、1日ぐらい面倒見てやろうってその日はホテルに泊まる事にしたのさ。

金もあるしね。



それで、最近のラブホテルってのは随分とスイっと入れてくれるもんだよ。

女の子二人でも簡単に泊めてくれた。

普通のホテルより安いんだってな。

彼女は顔を赤くして俯いていたけどね。

いやあたしだって入るのは初めてだよ。本当に。

普通のビジネスホテルは泊めてくれなかったんだからしょうがないだろ。

それともこの子にも野宿させろって言うのか?

しかしこれは、結果的にはよかった。

ゲームだのカラオケだのが置いてあって楽しめたからな。

ラブホだからって何もマチガイを犯したわけじゃないからな、一応。


その、ゴムをいじって騒いだりとか、エロ番組見たりとかはしたけど、いや、やめようこんな話。

とにかく、あたしは久々のベッドでゆっくり眠るつもりでいた。

でも彼女が抱きついてきて、これはなんか、初めての感覚だった。

こればっかりは言葉では表せない、人に抱き締められたって経験はその時が初めてだったからね。

天使の腕の中とでも言おうか、そんな感じ。

一度味わった至福の時が忘れられるはずもない。

あたしはコロっと堕ちちゃったわけだ。情けもなく。



翌朝、彼女は調べ物をしていた。

「何見てるんだ」

「んー、就職先?」

そう、艦娘だ。

軍隊なら食いっぱぐれない。

あたしをこんな境遇にした深海棲艦に一発お見舞いできる。

「戦争に行くのか」

「そう」

「あんたが行くなら、あたしも行く。行かないなら行かない」

そうは言っても、顔に書いてあったんだろうな。

結果は言わずもがな、あたしは艦娘になろうと決めたんだ。



-加古の誕生-


そうと決まれば思い立ったが吉日、鎮守府とやらに足を向けたんだ。

それなりに身なりを整えて、門をくぐる。

メガネをかけた茶髪の番兵さんはぐっすりと熟睡していた。

番兵、とは言うが、みんな艦娘だ。戦闘員は全員。

起こすのも悪いし、そっとしておいてあげたのさ、優しいだろ?

中に入るとなんだか偉そうな建物がずらりと並んでいる、仰々しいところだと思ったね。

そこに白い髪の女学生みたいなのが銃を引っさげてランニングをしていた。


「おい、そこの」

「おいとはなんだ」

「ここの偉いのに会いに来た」

「司令長官に、あ、失礼しました、面会ですね。あちらの建物に入れば案内がおります」

「うむ、ご苦労」

肝を据えて堂々とやればこんなもんよ。

「はぁ、ヒヤヒヤした」

「別に悪い事しようってわけじゃないだろ」

これから艦娘になろうって人間を無碍に追い返す事はないはずだし。



言われた建物に入ると、いかにも真面目そうな女性がいた、彼女が案内人だろうか。

「エー、司令長官とやらに会いたいんだが」

「面会ですか、ご予約は……」

「つべこべ言わんと早く案内しろよ」

「もう、乱暴な言葉遣いはやめて」

「しかし、あなた方のような艦娘はデータにありませんね」

ギクッとした。

そりゃないだろうな、まだなってないんだからな。

別に悪いことはしてないけど、勝手に入ったのは事実だ。

「とにかく、ここの責任者の部屋を」

「ご案内します」

「あ、うん」

何かを察した様子が気になったが、あっさり案内してくれるんだもん。驚いた。


それで、案内されたは執務室。

案内人は用事が済むとサッとどこかへ行ってしまった。

スカート穴空いてるぞ。ポケットのところ。

とりあえず、舐められないように扉を蹴っ飛ばして開けたんだ。

「だれかッ!」

びっくりしたよ、あたしたち二人共。

凄まじい剣幕でこっちに振り向いたのはまさしくお偉い将軍という容貌。

「あ、どうも」

「何だお前は」

「艦娘になりたいんだけど、二人共」

「なに?」

「ヨーソロー」

海軍じゃよく使う単語だと思って言ったけど、今思えば全くの見当違いな使い方だな。


「そういう用事は事務所に行け」

「でも、直接言ったが手っ取り早いんじゃないか」

「ここはお前たちのような者が来るところではない、出ろ」

そのお偉いさんは怖い顔で立ち上がり、あたしたちを部屋から蹴り出した。

鍵をかけたらしく、いくらノブを回してももう開かない。

これには困ったが、そこがあたしの腕の見せどころ、ピッキングして鍵を開けてやった。

「あ、どうも」

「うるさいやつだな、ここに入ってきてはいかんと言うのに」

「艦娘になりたいんだけど」

「わかったわかった」

根負けしたのかお偉いさんは机から書類を二枚取り出した。


「お前たちは国のために命を捨てる覚悟があるのか」

「どこに捨てるんだ」

「どこと限ってるわけじゃないが」

「むやみに捨てちゃ散らかるぜ」

「くだらん洒落はよしなしゃれ」

「あんたも捨てるのかい」

「もちろん、海軍と一蓮托生だ」

「へぇ、ご立派」

「やりにくいな」


そんなやり取りがあって、書類も書き終えた。

と言っても、あたしは名前欄しか書くところはなかったけどもさ。

後から聞いた話だけど、このお偉いさんはどうやら海軍で一番偉いのだったらしい。

司令長官だったか、いや無知ってのは怖いね。

そのあと当番兵、というか秘書艦がやってきた。

大井といって、長い茶髪の娘だがそいつが言うにはちょうど新型艦娘の生体が欲しかったそうで、

随分と都合のいい時に入ったもんだ、でもそういうことなら司令長官も勿体ぶらなくたっていいと思ったがね。


さて、艦娘になったんだ。

詳しくは機密事項だからここには書けない。

簡単に説明すると、改造手術で深海棲艦と戦う超人になったってわけだ。

にしても人生ってのは色々あるもんだ。

今朝艦娘の事を知ったのに、午後にはもうその艦娘だ。

ここで初めて、『加古』という名前を貰った。

んで、もう一人いたのが『古鷹』だ。

姉妹艦らしい、向こうが姉で。

姉妹っていうのはいい響きだね、本当、家族が出来たんだって。

それとこの制服だ、学生たちを羨ましく思ってたから、ついつい子供みたくはしゃいでしまったのさ。

今でも古鷹にからかわれる時があるよ、全く、恥ずかしい限りだ。

一旦停止、続きは夜にでも
なんかあったら言ってちゃぶ台


-第六戦隊-


あたしら二人、加古と古鷹は新兵として訓練を始めた。

一般的には訓練は辛いものだというけど、あたしゃ飯が食えてベッドで眠れりゃ十分だ。

古鷹はヒイヒイ根を上げていたが、それでも厳しい訓練になんとかついてきた。

そんなある日、肩に金の縄を引っさげたいかにもな軍人がやってきた。

割合に若くてなかなかのイケメンだと思ったね、古鷹もちょっとニヤけていた。

ついでにやってきたのが、オレンジ色の服の艦娘、神通だ。

今でも苦手だね、こいつは。


「私は、これよりお前たち二人によって新設される第六戦隊の指揮官となった」

「戦隊?戦隊なら五人ではないのですか?」

「二人以上の艦娘が所属すればそれはもう戦隊だ。あと、サンバルカンとかもいるだろ」

「さん……?」

「……ゴホン、ともかく、私はお前たちの所謂提督になった所存だ」

「よろしく候」

「何か質問は」

「歳は」

「25だ」

「彼女は」

「できたことは一度も……一体何を言わすのかね、教師じゃあるまいし」


提督は意外とジョークの通じるヤツのようだ。

ところでだ、提督が艦娘相手に喧嘩を売ればどうなるかはわからない。

生身の人間より圧倒的に強いからね。

実験じゃ象やサイを嬲り殺したというじゃないか。

結局提督よりも艦娘の方が大事なんだ。

つまるところ、ブラック鎮守府、と言っても軍隊なんてみんなブラックだけどさ、

そういう類の物は一つも存在しないのさ。できないと言ってもいいね。

あんまり詳しくは書けないけど、毒物だって無毒化するし、女社会に男の理論は通用しないから、

言葉巧みにだまくらかそうって訳にはいかない。

もしブラックな提督がいたんならそいつはきっと相当な努力家だ。


とにかく、提督っていうのは結構気を遣う職業のようで、

こういった若い士官が生まれるのも離職率が高いからなんだ。

偉いものがいなくなるのだから、下のものを無理やり偉くするしかない、苦肉の策だってことさ。

「もう一人のその艦娘は?」

「こいつは神通、お前たちを訓練しにやってきた」

「神通です。どうぞよろしく」

凛として、なかなか良さそうな教官だと思ったんだがね。一杯食わされた。

畜生、思い出すだけではらわたが煮えくり返る心地だ。

こいつには散々絞られたんだ。

これまでの訓練よりも、遥かに厳しくなっちまった。


どうにも神通は精神論がお好きなようで、水も飲めないし一日12時間訓練して休憩はたったの40分だ。

体罰も大層好まれてるようで、もう顔がパンパンに腫れてしまっている。

宿舎にヘトヘトになって帰ってきても、休まることはない。

少しでも備品が汚れていたならばすぐに叩かれる。

その結果、あたしたちはどんどん弱っていった。

これを見かねた提督や、他の軽巡たちが止めには入るんだが、頑固な神通は全く聞き入れない。

それどころか、神通の気迫に逆に丸め込まれてしまうんだ。

あたしと古鷹はこいつに『キチガイ神通』とあだ名した。『キチ神様』とかも言ったな。

それともう二人新人が入ってきた。青葉と衣笠だ。

今まで二人に来ていたのが、四人に分担されたからだいぶ楽にはなった。


しかしそれでもキツいものはキツい、軍隊だからってここまでされちゃ死んじまうよな。

上に押し付けられるとやっぱり下は団結するようで、新人二人とも2日もすれば打ち解けた。

第六戦隊はこうして集結したんだ、思えば長い付き合いさ。

そんな生活でも慣れてしまえば、僅かな時間の自由行動で色々遊んだりできる。

ガールズトークに励んだりな。あたしは正直興味なかったが。

当然、身の上話もしたんだ。

「あたしは加古ってんだ。よろしくー。出身は路上」

「路上って路上?」

「戦災孤児だったの」

「苦労してるのねぇ」

「そうでもないよ、今の方がずっとキツい」


「私は古鷹です。加古と家出してそのまま艦娘になりました」

「すると、加古さんは白馬の王子様ってことですか!?」

「んなアホな」

「そうです」

「おい」

「青葉です。趣味は写真です!」

「すると従軍カメラマンか」

「カメラウーマン?」

「ああ、その手があったか……」

「えぇ……」

「ま、まぁ、艦娘でもカメラは撮れますし」


「衣笠さんよ、よろしくね」

「自分のことさん付けで呼ぶのか」

「変ですね……」

「変です」

「変だね」

「ひどい!そんなに変!?」

何を言っても笑って冗談が言えるんだから友達ってのはいいもんだと思ったね。

それに引き換え、気に入らないのがあの神通だ。

二言目には姿勢がなってないとかなんとか理由をつけてぶつんだから始末に負えない。

四人はあいつに恨みを抱えていた。

あたしと古鷹、衣笠はまだいいんだ。飯を台無しにされたりとかそういうものだったからね。

まだマシなだけではあるけどさ、だが青葉は写真が趣味だったが、カメラをぶっ壊されちまった。

これにはもうみんな怒り心頭だ。それからの四人の態度は劇的に変わったんだ。

神通の気の良くなるように、不平不満も口にせず黙って訓練をこなしていった。

もちろん、復讐のためにだけどな。

一旦停止、また後で
何かあったら言ってちゃぶだい


-海軍精神注入棒-


あんまり柄のよくない話だが、まあ聞いてくれ。

そういう媚売った生活を続けてりゃ、あの神通でも思うことはあるんだろう。

あたしたちを夕食に招いてくれた。その前夜、四人で作戦会議を開く。

「どうする?」

「決まってます、チャンスです」

「古鷹はやけにやる気ですね」

それもそのはず、古鷹は親にぶたれるのが嫌で逃げてきたのに、またぶたれるとは恨みつらみも計り知れない。

特に一番厳しく絞られていたのは彼女だというのもある。

青葉とてカメラを壊されたんだがそれ以上に古鷹は頭に来ていたようだ。


「御恩返しは明日決行だな」

「酒を土産に持っていこうか」

「そりゃいいですね、酔わせたところをガツンと」

「手緩いです、そうだ、ひざ掛けを持っていきましょう」

「そんなものどうするんです」

「包んで袋叩きにしてやります」

「おーこわ」

「海軍精神注入棒を持っていこうかしら」

「慈悲の精神を注入してやるんですね」


「じゃあ合図をしたら青葉がひざ掛けをかぶせます」

「頼んだぞ青葉、あたしはそのあと体当たりしようか」

「いいですね、確実に倒してくださいよ」

「そこで私と古鷹が先じて精神を注入してやるわ。そこからみんなで」

「決まりね」

古鷹が締めると、みんな布団に入った。

こんなにワクワクしたのは本当、あたしは初めてだな、やってることは最低だけど。

翌日の訓練は早めに終わった。

それでも辛さは大して変わらないのが神通のやり方だ。


早速準備に取り掛かる。

あたしは注入棒を手に入れるために執務室に向かった。

別になんでもよかったんだが、注入棒でやるっていうのがいいんだ、もう儀式だな。

ノックをすると返事が聞こえたので入る。

「どうも、提督」

「加古か、こうして会うのは初めてかもしれない」

「訓練が厳しゅうござーますから」

「……」

提督は顔を曇らせる。

「やはり、か、彼女には少し問題があるかもな」


「問題外だけどな」

「むぅ……それで、何か用事があったんじゃないか」

「はぁ、海軍精神注入棒を貸してくれって話」

「あぁ?あれか?」

「必要なんだ」

「まさか神通に」

ギクッとしたが、どうにもニュアンスが違うようだ。

「信じられん、神通め、いくら訓練とはいえこんなものを持ってこさせるとは」

なにか勘違いをしているらしい。

「貸して」

「……私が、ビシッと言いつけねばなるまい」

「いいから」

「そ、そうか……?まあ、何かあれば言ってくれ」


注入棒を受け取る。どうやら提督はあたしたちに同情的らしかった。

残念ながらその必要はもうないね。自分たちで何とかしてやるのさ。

そのあと、神通の宿舎へと向かった。

あいつこんな一戸建てを貰ってたのか、と益々憎しみが湧いてくる。

衣笠も酒保から酒を買い込んできたし、青葉もひざ掛けを持っている。

あたしの注入棒は古鷹に手渡した。制服の中に隠しているようだ。

呼び鈴を鳴らすと上機嫌の神通が出てくる。

「やあやあ、来てくれたわね」

「お誘いいただきありがとうございます」

「手土産としてお酒を持ってまいりました」

「気が利くじゃない」

すっかり機嫌をよくしている。料理は出前だろうか、ずらりと豪華に並んでいた。


わいわい騒ぎながら食べ始める。

この間にも神通は労いの言葉一つないんだからある意味一貫してるよ、そこは褒めておきたいね。

衣笠がどんどんお酌をついで神通の顔も赤くなってきた。

まず手始めに褒め称え、次に自虐し、また褒め、とやってると神通のやつグイグイ酒を飲むじゃないか。

次第に呂律も回らなくなってきた。

さぁ、そろそろ、と。青葉がひざ掛けを掴む。

あたしは合図となる言葉を言った。

「随分と酔ってらっしゃいますね」

「んぁ~~~そうねぇぇ~~~~」

「ところで、最近夜は肌寒いですから、ブランケットをおかけしましょう」

その瞬間、青葉が神通にひざ掛けを投網のようにぶっかぶせた。

そこであたしが猛然と体当たりを仕掛け、突き倒す。


神通がぶっ倒れて、もがいてるところに古鷹が海軍精神注入棒でおもっきり殴りつけた。

ギャッ!と声がしたが、そんなことは関係ない、残りの三人もすかさずおどりかかった。

殴る蹴る踏みにじるはもちろん、挙げ句の果てには部屋にあった椅子など小物などをガンガン叩きつけた。

完全に出来上がってたので抵抗する力もなく、ヒーヒー声がするばかり。

こっちはもういっさい無言だ。無我夢中で殴りつけていた。

数ヶ月分の鬱憤だから気の済むまで充分に叩きのめしてやった。

さあもういいだろうというところで、青葉が部屋を漁り始める。

「戦利品をいただこうと思って」

神通は伸びてるしこりゃあいい、とみんな神通の私物を漁り始めた。

あたしは高そうな時計を失敬してやった。


青葉はデジカメを発見したみたいで、これでいいかァと壊されたカメラの代わりに頂戴したそうだ。

古鷹は高級布団を掻払い、衣笠は食べ物を片っ端から袋に入れていた。

事が済むとサッと何食わぬ顔で神通の宿舎を飛び出し、寝床に戻る。

そして寝支度を整えるとみんなで古鷹が取ってきた高級布団に潜り込んだ。

狭くて暑かったがその時は全然気にならず、むしろ気持ちがいいほどだったね。

しばらくすると暗闇の中で古鷹が笑い始める。

つられて青葉と衣笠も笑い、あたしも笑っちゃった。

こんなにスッとした気分は初めてで、その日は四人ともぐっすり眠った。

翌日に誰かが見つけたらしいが、重傷だそうな。まああんだけ叩けば普通はひき肉だよ。

この話が鎮守府中に広まっても誰も気の毒そうな顔をしないから、

他の人から見てもよっぽどひどかったんだろうなあの訓練は。


特筆すべきは球磨型軽巡で、連中はどこか嬉しそうでニコニコしていた。

川内型は一応最新型の軽巡で、球磨型はロートルだからどこか僻みがあったんだろう、

訓練が終わったあと、誰かしら飯に誘われたり、酒保で奢ってくれたりと入れたり尽くせたりだったから、

みんなで顔を見合わせて笑っちゃったよ。

そんでもって、神通は来なくなった。どこかに飛ばされたんだ。

実を言うと彼女は前線での訓練で部下と姉妹艦に大怪我をさせてここに来たんだと。

それでまたここで同じことを繰り返そうとしていたところ提督が通報した次第だ。

きっと注入棒を取りに行った時だろう、彼も彼で動いてくれていた。

まあ結局はあたしらで散々袋叩きにしちまったけど。

そのせいか性格が激変して、オドオドして人の顔色ばっかり伺ってらっしゃるとかなんとか。

ちょっと気の毒な気もしたが、あたしらを散々いじめ抜いた罰だ、まあ諦めてもらおうか。

今日のところはここまで
何かあったら言ってちゃぶだい


-はぐれ駆逐艦-



こう言っちゃなんだが、第六戦隊であたしだけ先じて実戦を経験したんだ。

まあ、自慢するほどのことじゃないけど、でもこれはあたしの一生の誇りになった出来事だ。


神通が去ってからの日々の訓練は提督が付くこととなった。

こっちもスカートだから見られるのはちょっと恥ずかしいけど、酷い訓練になることはない。

その日も海沿いで訓練をしている時だった。子供たちが砂浜で手を振っている。

提督がその横から指示を出す。

「古鷹ーッ!よそ見をするな!加古!寝るなーッ!青葉!子供の写真を撮るんじゃない!衣笠はよしッ!」

神通の訓練が終わってからしばらくはこんな調子で緩んでいたんだ。


そうして、訓練も終わって帰路につくところだった。

帰りにあたしはちょっと小腹が空いて、古鷹たちには先に帰ってもらって一人コンビニにいた。

唐揚げかフライドチキンかどちらにしよう最近なんでも高いからな、と迷っていた時、非常事態が舞い込んできたんだ。

「深海棲艦だ!艦娘のねーちゃん!来て!」

さっき手を振っていた子供たちの一人だった。

「なにッ」

あたしは手に持った商品を放り出し、店を飛び出した!

これは一大事だと鎮守府に連絡しようかと考えたが、生憎その時は携帯を持ってきてなかったんだな。

それに増援を待っていれば手遅れになる可能性だってある。

あたし一人でも、と海へと向かった。艤装を外していなかったのは本当にツイてたね。


砂浜にたどり着いたが、確かに遠くに黒点が見えたが、遠ざかって行くんだ。

「なんだ、逃げてるじゃないか」

「女の子が攫われたんだよ!」

「なんだって」

こうしちゃいられない、と海に飛び出す。

話によると深海棲艦はよく女児を攫うんだとか。

一応報せは出ているのだが、この時は本当にたまたまいた子が攫われたらしい。

なんで女児を攫うのか、なんて考えたくもないね。

なんとか追いつかなくてはならない、と出力を上げ追いかける。

砲撃しちまえば、女の子まで海の藻屑さ、そんなことはできない。


あれは確か、駆逐艦イ級だ、こんなところまでやってくるとは哨戒部隊は一体何をやってるのか。

そんなことを考えながらジリジリと距離を詰めていく。

本来なら追いつけないはずなんだが、艦娘というのは不思議なもので、精神が物を言う。

世のため人のため国のためという正義がある時は自分でも驚く程の闘志が漲るもんだ。

愛国心を発明したナポレオンって男は偉大だと思ったね。

もう僅かに手が届きそうな距離まで近づき、

「この野郎!」

と一喝したが、波の音がやかましくて聞こえてやしない。

そこで砲を撃つわけにもいかないから、猛然と飛びかかった。

「グアッ」

イ級が哭く。そしてあたしを振り払おうと蛇行を始めた。


ここで手を離すわけにゃあいかないだろ、あたしは懐から白兵戦用の短刀を取り出し、目ん玉に突き刺した。

「ギィイィィイィイィイイィィィィ」

イ級は悲鳴を上げ、のたうち回る。あたしは海上に投げ出された。

艦娘は艤装が壊れるまで水には絶対に沈まないようにできているから、

水の上だろうが地面に叩きつけられたのと同じで、鈍い痛みが走る。

しかしこんなことは苦にもならない、あの女の子を助けなくては。

イ級はこっちに向き直り、口を開けて突進してきた。

こっちを食べるつもりかッ、と身構える、だがいい案が浮かばない。

ついに目前と迫ってきて、飛びかかってきた。


瞬間辺りは真っ暗になる。夜になったわけじゃない、ここはイ級の腹ん中か。

中はそれなりの空洞になっていた。臓器とかそういう類の物は見当たらなかったから不思議だなぁ。

「うぅぅ……」

女の子の声が聞こえる。

「おい、いるか」

「あ、誰!?」

「あたしは艦娘だ、助けに来たよ」

「よかったァ」

女の子はこっちに抱きついてきた。

「しかし、どうやってここから出るか」

彼女がいるんじゃ砲は使えない、生身の人間じゃ至近距離の砲の衝撃波に耐えられないんだ。


なんとか一矢報いてやろうと体内を殴りつける。

するとぐわんぐわん揺れ始めた。一筋の光が差し込む。

「口はこっちか」

そういえば、と機銃を取り出す。これなら衝撃波の心配はない。

「ちょっとうるさいぞ」

そう言うと女の子は手で耳を塞ぐ。

そしてあたしは女の子を抱え、機銃をやたらめったらと撃ちまくった。

「ゴォッゴォッ」

イ級の嗚咽が聞こえる、そしてそのまま外に放り出された。


水面に打ち付けられたが女の子は無事なようだ、慌てて体勢を立て直し陸地を目指して全速前進だ。

悔しいが、この子を抱えた状態での戦闘に勝ち目はないからね。

イ級も観念したようで、追っては来なかった。運が良かったよ。

ここで追いかけられたら果たしてどうなっていたかわからなかったね。

陸地になんとか戻ると、ドッと疲れが出てきて倒れ込んじまった。

女の子とその親は泣きながらお礼を言ってるが、それに受け答えする気力は残ってなかったもんだ。

倒れたまま、これも艦娘の勤めさ、とカッコつけても全くそれはカッコがつかないんだ、加古なのにさ。

すると女の子がお礼と言って、自分につけていた大小二つのヘアピンをくれた。

ちょいと可愛いとは言い難いが、受け取らないのも悪いから、その場で付けてもらうことにしたんだ、

こういうのは柄じゃないんだけど、まあ、悪い気はしないね。このヘアピンとも長い付き合いになる。

ただ、ちゃんとオチはついていて、これが初陣だったんだと気がついたのは鎮守府に戻ってからで、

気づいた途端に体に震えが走り、そのままブッ倒れて鎮守府を騒がせちまった。

いやホント、深海棲艦というのはやっぱり恐ろしいもんだよ。

とりあえずここまで



-とんだ随伴艦-


さて、先の出来事を報告すると鎮守府は大騒ぎになった。

目の前まで敵が迫っていたんだ、そりゃ騒ぎにもなる。

哨戒部隊の望月って子はこっぴどく叱られていたし、彼女には珍しく反省もしていたとかなんとか。

司令長官が艦娘たちを集める。鎮守府はただならぬ空気に包まれていた。

「諸君、話には聞いただろう、我が日本の目前に深海棲艦が現れた。加古くんが撃退してくれなければどうなったことか」

パチパチと拍手が聞こえる。小っ恥ずかしいからやめてほしいなったく。

「ここで我々は、大規模な反攻作戦に出るべきだと思うが、どうかね、大淀くん」

「はい、見たところ重巡洋艦の訓練も十分に終えています。やってくれますね、第六戦隊」

「もちろんです」

古鷹が答えた。あたしたち三人も、古鷹に同調する。


こうして思うと感慨深いものだ。

路上で無為に過ごして社会の外れものだったあたしが、その社会のために命を投げ出すんだ。

元より捨つべき命かもしれなかったが、誰かの役に立てるんならその方がいいに決まってる。

路上生活が遥か遠い昔のように思えた。

「では各自任務に取り掛かれィ!」

司令長官が一喝すると、艦隊は機敏に行動を始めた。

あたしたちの前に提督が立つ。

「第六戦隊、気を付けェーッ」

さぁいよいよ戦いの時だ。

「只今より、深海棲艦の捜索及び撃破を命ずる」

「はいィ」

「A班、B班と二手に別れ行動してもらう。A班は古鷹と加古、B班は青葉と衣笠だ」

ちょっとそれは残念だったが、固まっていては広域を索敵できないんだろう、仕方がない。


「随伴艦として、睦月型駆逐艦の面々を用意した!挨拶しておくように」

彼女らはちっこいとはいえ一応先輩だ。ちっこいとはいえ。

古鷹には睦月と如月、あたしは弥生、卯月だった。B班の二人はそういえば聞いてないな。

「では、兵装の確認後に係船岸に集合、急げよ」

提督は命令を伝えると、執務室に引っ込んでいった。

古鷹と身支度を整えていると、随伴艦の四人がやってきた。

数ある駆逐艦の中から戦友となるのだから、いたわってやるつもりだったが、

蓋を開けてみると、とんだ問題児だったわけだ、特に卯月は。

古鷹の方の睦月と如月なんかは可愛げがあっていいんだが、

弥生は無口で無表情、卯月は天真爛漫というよりは破天荒と言ったほうが近い。


「卯月で~す!うーちゃんって呼ばれてま~っす!」

「あたしは加古ってんだ。そっちのは」

「……」

「返事ぐらいしたらどうなのさ」

「弥生」

「卯月、弥生、二人共よろしくな」

握手しようと手を出すも、ピクリとも動かない。

「どうした」

「ぷっぷくぷー!うーちゃんだぴょん!」

「はぁ?」

どうやら卯月と呼んだのが不服のようで、頬を膨らませて口をとんがらせる。

「うーちゃん」

「ぴょん!けいれい!」

卯月、もというーちゃんはぴょんと跳ねて敬礼をする。

弥生はその間ずっと無口、無表情、直立不動だった。

なんとも扱いにくそうなのが随伴艦になっちまったよ。この調子じゃどうなることやら。

今夜はここまで
何かあったらどうぞっぴょん


-第六戦隊の初陣-


係船岸に向かうともうすでにあたしたち以外は揃っていた。

「遅いよ、加古」

古鷹に小突かれる。

時刻は夕暮れ時だった。

提督が前に立ち、大声で号令を出す。

「これより、作戦を開始する!A班は北東、B班は南東へと向かえ!」

「はいィ」

「では!出航!」

景気よく出航ラッパの音が鳴り響いた。


それと同時に、第六戦隊の面々は海に飛び出す!

そして機関を鳴らし、勇んで進んでいった!

しかし行けども行けども海しか見えず、全くの梨の礫なんだからさあ困った。

「海しか見えない」

「そうだね」

「偵察機を出そうか」

あたしは腰に分解収納された零水偵を組立て、カタパルトに取り付けた。

「加古、大丈夫?使い方わかる?」

たりめぇだ、訓練してただろ一緒に。なんかちょっと馬鹿にされた気分。


無視して偵察機を飛ばす。実を言うと結構危ない行為なんだこれは。

昼間に出すと敵に自分たちの居場所を知らせることとなる。

水上艦や潜水艦ならまだしも、空母に見つかればたちまち攻撃隊がやってくるんだ。

そんな事とは露知らず、あたしたちは呑気に偵察を行っていた。

尤も、この当時はまだ深海空母は確認されていなかったんだけどね。

弥生と卯月の様子を見るに退屈そうだったんで声をかける。


「実戦は初めてじゃないんだろ」

「哨戒任務ならっぴょん」

「戦ったことあるかい」

「んや」

「そっかぁ。弥生は」

「卯月と一緒」

「そっかぁ」

弥生とは会話にならない、苦手だ。


すると青葉から通信が入る。

『敵を捕捉!……違ったぁ、暗礁でした。あ!敵!……なんだイルカか、どれ写真を一枚』

「いい加減にして」

古鷹が怒っている。これでも青葉は真面目にやってるつもりなんだから始末に負えないんだ。

こいつの見間違いにはこの後の数々の戦いでも散々苦しめられる事になるんだから。

にしたって、偵察機も敵を発見できないんだ。見渡す限り海、海、海。

辺りも薄暗くなってくる。なので偵察機を帰投させた。

「弱ったなァ」

「この暗闇じゃ、探せない」

第六戦隊の初陣が何の戦果も無いんじゃそりゃあんまりだ。


弥生たちも緊張している、夜間に奇襲されちゃあたまらないからな。

古鷹が提督に意見を仰ぐ。

「提督、いかがいたしましょうか」

『敵も発見できず、日没か……うーん……』

提督が悩んでいるうちについに辺りは真っ暗になってしまった。

港町の光が遠くに見える。

「綺麗っぴょん」

「綺麗……」

なーに呑気なことを言っているのか。


『諸君、聞け』

提督からの通信が全員に入る。各自、耳を傾けた。

『イ級駆逐艦の襲撃に遭い、第六戦隊はそれを追って沖合を索敵するもすでに敵影見えず。よって母港に引き返す』

やれやれ、無駄足だったかい。艦隊は溜息を吐いて母港へと進路を変える。

正直なところ、戦闘にならずに済んで胸を撫で下ろしたさ、だって殺し合いなんかしたくないだろ?

しかし古鷹は不服のようで、

「せっかくここまで来たのに、提督は弱気だな」

などとのたまっていやがった。卯月も同じ意見のようで、

「イ級にみすみす逃げられましたー、だなんて言えっこないっぴょん!ぷっぷくぷー!」

とグチグチ言っていたんだ。弥生は相変わらずのだんまりだったが。

あんたたちは実際に目の当たりにしていないからそんなことが言えるのさ、と言ってやりたかったが、

いずれは経験することだろうし、そんなこと言って弱虫と思われるのも嫌だったから、

あたしはうんうん、と相槌を打っていたよ。

続きは後ほど


-戦友うーちゃん-


無事帰投したのはいいんだが、なんとも落ち込んだ雰囲気だ。

敵に逃げられちまったんだからしょうがない。

「解散、疲れただろう、ゆっくり休め」

提督が労いの言葉をくれるけど、まぁなんとも焼け石に水だ。

あたしは卯月と弥生を誘って風呂に入ろうと思ったが、弥生はさっさと自室にこもってしまったようだ。

仕方がないので卯月だけを呼び出す。

「うーちゃん、風呂入ろう」

「ぴょん」

「それは、はい、か、いいえ、か、どっちだ」

「はいっぴょん」

どうやら来るみたいだ、こいつはこういうところがあるから時々何言ってるのかわからないんだよ。


着替えを持って入浴場、言わば入渠ドックに行くと、いちいちやかましいんだこいつは。

「うわっ!モッサモサっぴょん!」

何がとは言わない。

でも案外と上司に尽くしてやろうという気はあるのか、桶に湯を汲んできて、

「加古さん、お背中流すぴょん」

と言われた時にはあたしも嬉しかったね。

今まで背中なんて流してもらったことは一度もなかったから、なんだか心にじんわり来ちゃった。

するとこいつはスキ有りとばかりに手を前に回しあたしの胸を揉み始めた。

変態ヤローが、最初っからそれが目的か。雰囲気なんてありゃしない。


「うひひひひひひ」

「おい、やめろッ」

「マシュマロみたいっぴょん!」

別に減るもんじゃないけどさ、ムズムズしてくるからやめて欲しいんだなこいつは。

あたしは卯月の手を振り払い、サッと体の向きを変え、卯月を持ち上げる。

「うひゃー!」

そうして湯船の放り込んだ。ザバーンと飛沫を上げる。

「調子に乗るなっつの」

「ふひひ~」

卯月は満面の笑みだった。いや、小悪魔的笑い?多分それがこういう顔の事なんだろうね。


さて、入浴の帰りになんか奢ってやろうってつもりで酒保へ連れて行った。

「なんかいるか」

「んー。じゃあ、スナックとチョコをもらうぴょん」

「どっちか片方にしないか」

「じゃあチョコ三つ」

「それじゃあ余計高くつくじゃないか」

「えー……」

「わかったわかった、じゃあスナックとチョコだな」

「いや、待って、うーん……」

「早く決めろい」

そこに弥生が通り掛かった。こちらに気がつくと慌てて駆け寄ってくる。

「怒ってなんかないですよ……怒ってなんか……」

嘘いえ、怒ってるじゃねーかよ。

奢ってもらえるとなるとみんなこうだもんな、調子がいいや。

今日はここまで
なんかあったら言いなさいよ!このクソ提督!


-卯月との約束-


結局弥生にも買ってあげることになったよ。

しかも弥生のヤツ、買ってもらったらすぐ部屋に戻りやがる、なんてヤツだ全く。

「弥生はいつもああなのか」

こういうことは卯月に聞くのがよし、だなんて思ったんだが、

「知んない」

とだけ答えられてしまった。

「今度弥生に聞いてみてくれよ」

「ぴょん」

多分、はい、だと思う。


「ところでだが、いっつもぴょんぴょん言ってるけどそりゃなんでだ」

「ぴょんはぴょんだぴょん」

「はぁ、そうか、家族の前でも?」

「そりゃそーぴょん」

「ははーん、本当にそうかな」

「うーちゃん嘘つかないぴょん!」

それがもう嘘だからな、こいつめ。

「家族といえば、あたしは家族がいないってこと言ったっけな」

「知ってるぴょん」


「そっか、お前の家族は?」

「お父さん、お母さん、おじいちゃんにお兄ちゃんがいるっぴょん」

「へぇ、お兄ちゃん何歳?」

「17ぴょん」

「ほう」

これはちょっと、見てみたい気がする、卯月の見てくれから考えると……。

「どう、どんなお兄ちゃん?」

「やけに食いつくぴょん」

「教えてくれたっていいだろ」


「……まぁ、贔屓抜きで、それなりにかっこいい、かも、ぴょん」

「ほほう、ほうほう」

「会いたいって言い出すぴょん」

「会いたい!」

「ほら」

そりゃそうだ、かっこいいって聞いちゃ女の子は黙ってられない。

いい人だったらいいな、もしも一目惚れなんかされちゃったらどうしようか、

なーんて想像が膨らんじまうのは、きっとあたしがそういう経験が皆無だったからだ。


「ひっどい顔ぴょん」

呆れられてしまった。そんなに顔に出てたんだろうかね。

「なんなら、連れて行ってやるぴょん」

「本当かッ」

「加古さんをうーちゃんの上官だって紹介したいぴょん」

そう言われるとなんか照れくさい、上官だなんて、まだ大したことはしてないんだけどな。

「そんなら、次の休日にでも」

「もちろんぴょん」

約束を取り付けた、本当にこれは楽しみだ。

それに友人の家に遊びに行くなんて経験も初めてだから、それからの毎日はワクワク上機嫌で過ごしたんだ。

でもこんなことするのは間違いだった、あたしにはそんな資格なかったんだよ。

続きは後ほど
ちらっと>>1を見て重大なことを書き忘れていた

※このSSはのらくろシリーズの影響を強く受けております、なのでパkごほんごほん、似たような展開があったりなかったり




…やっぱりそか。『のらくろ自叙伝』や『のらくろ』の臭いがしてた
ところでイッチはどこで あんな古い作品知ったんだ?


-哀しい思い上がり-


何が間違いだったっていうのはこれから話すけど、こんな惨めな話なんてないよ。

今思い出しても落ち込んでしまう。


みんなにとっての一番の楽しみと言えば、休日に家に帰るってことだ。

家族に無事な顔を見せて、寝転んで好きなもの食べさせてもらって、

小遣いもらって帰ってくるんだからどんなに楽しいことか。

その楽しさは、家も親もないあたしにも想像がつく。

だから休日のみんなの顔は喜びに輝いている。

外出証を貰えば我先にと門を飛び出して行ってしまうんだ。

それを誰もいない宿舎の窓からぼんやり眺めているのはいつだってあたし一人だった。


でも、今日は違う。

あたしは外出証をもらって、意気揚々と門を出た。卯月と共に。

「楽しみだな!」

「ぴょん!」

あの約束した日から今日までで、あたしたちは随分と仲良くなっていた。

もちろん弥生だって忘れていない、でも残念ながらこの話には出てこない。

それから、電車で四つ五つぐらいの駅を過ぎ、ちょっとした田舎町に出た。

電車なんて初めて乗ったから、ホントすごい早いんだこれが。……まああんたらは知ってるよな。

とにかく住んでた町から出たことなんてなかったから、何もかもが新鮮だったのさ。

わかるだろ、ちょっとした旅行に行ったような気分さ。


十数分ほど歩くと、卯月の実家についたんだ。

「ここがかぁ」

「ちょっと行ってくるぴょん」

中で何やら話している、母親だろうか、再開を喜んでいる声が聞こえた。

「おいで!」

呼ばれたので、玄関に入る。

「どうも、はじめまして、重巡洋艦加古です」

「まあどうも、上官さんですね、うちの子がお世話になってます」

「いえ、逆に教わることばかりですよ」

電車の乗り方とかね。


「さあどうぞ、上がってください」

「お邪魔させていただきます」

こうしてある程度礼儀がなってるのは提督のおかげだ。以前のあたしならこうはいかなかっただろうな。

中に入ると、それなりに裕福そうだった、まああたしに比べりゃ誰だって裕福だ。

「加古さん!お兄ちゃんだぴょん!」

「僕の妹がお世話になっています」

彼が兄だ、確かに卯月の言う通りの、うん、いやそれ以上に。

「は、はじめまして」

なんか小っ恥ずかしくって、下を向いちまった。

「さあさ、召し上がってください」

テーブルにたくさんの料理が並べられて、とても美味しそうな匂いだった。


「加古さんも遠慮なくどうぞ」

「ははは……」

なんというか、こういう経験は初めてだから、わかんないや、顔が見れないっていうか。

家族っていうのは、こうやって団欒するものなんだな、とは思うが、それを思うがゆえに居づらくなってきた。

あんまり邪魔しちゃ良くないかもって思い始める。

そりゃ、みんな良くしてくれてるけど腹ん中じゃ何考えてるかわからないし。

ちょっと考えすぎだろうか。

「ところで、加古さんのご家族は?」

「え?家族ですか、いません」

「はぁ」

「戦災孤児だったんで、軍隊に入るまでは路上生活を……」

「……」


一瞬で空気が変わった、それも同情するような感じではない。

卯月はというと、食べ物に夢中だ。

ああ、この人たちは違うんだととてもじゃないが居ても立ってもいられなくなっちまった。

「ああ、そうだ、うーちゃん、用事を思い出したから帰るわ」

「え?」

「どうも、ごちそうさまでした」

そうして慌てて出て行く。当然見送りには誰も来なかった。

玄関で靴を履いていると、話し声が聞こえる。


「あんな乞食を、どうして連れ込んだの」

「そうだぞ、何か盗まれるかもしれないのに」

「え?え?」

「二度と連れてこないで、浮浪児なんて!」

聞こえてるんだよババア、畜生。こんな惨めな事ってあるかよ。

お前たちだって一歩間違えればこうなったかもしれないのに、あたしの方が国のために頑張ってるのに、

そんな言い草ってあるのか、のうのうと暮らしていけるのはあたしたちのおかげじゃないか。

卯月はどんな顔してるんだろうな、歯を食いしばって怒ってくれてるのか、同調して笑っているのか。

ああ、悪い方悪い方に考えちまう、卯月、お前だって笑いたきゃ笑っていいんだぜ。

勝手に笑うがいいさ、さあお笑いよ、ウンと馬鹿にしてみろ。そんなの慣れっこだ。


古鷹のやつさえも、母親と仲直りしやがったらしい、畜生、寂しくなんかあるもんか。

あたしは寂しくないぞ、今更寂しくなるやつがあるか。畜生、ずるいよ、あんたたちばっかり!

ああそうだ、昔っから休日に家族みんなで並んで歩いてる人たちを見ると胸がキュッと締め付けられるんだ。

押し殺したはずの両親との思い出が息を吹き返して、あれはもう二度と手に入らないんだって自覚させるのさ。

強く一人で生きてきたけど、ああいう家族団欒を目の当たりにするとどうしても堪らない気持ちになる。

これからどんな偉業を成し遂げたって立派に出世したってそれを心から喜んでくれる人はもうあたしにはいないんだ。

軍服を来てみんなと同じだって勘違いしたんだ、思い上がりも甚だしい。結局浮浪児は浮浪児のままなんだね。

そんなことを考えながら、とぼとぼ駅へと空を見ながら歩き、涙を拭う。

涙なんて勝手に出てくるんだけど、何の涙なのかはわからないしわかりたくもない。

誰もいないからいいけど、あたしが空見て泣いてるだなんて誰にも知られたくはないね。


こうやって出て行ったはいいんだけど、電車の乗り方がわからないから駅で卯月が来るまでずっと待ってたんだよ。

惨めな話さ。なんだか辛気臭い話をしちゃった、やめようか、こんな話。

今日はここまで
なんかあったら道祖神

>>90
のらくろはなんか気がついたら知ってた
復刻版の単行本全巻と漫画全集+自叙伝なら持ってるよ!
世界にもこんなに朗らかで、滑稽で、痛快な本は珍しい。ゼヒ誰方も早くご覧下さい!


-秘書艦はつらいよ-


しかしまあ、休日を終えてみれば艦娘たちの元気のないことないこと。

家族に会ってしまうと途端に厭戦感情が蔓延ってしまうんだと。

なんともだらしがないね、所帯持ちというか係累のある連中は。

それにつけてもあたしを見てみろ、今日も元気に生き生きと頑張ろうってんだ。

別に気を紛らわせようなんてことじゃない、本当だ。まあちょっとは思ってる。

そんな時、提督より直接指令が入ったんだ。なんでも秘書艦だってさ。

わざわざあたしを指名してくれるとは嬉しいね。と思いきや順繰り順繰りやってくるんだと。


なんとも複雑な気分で執務室に向かう。ノックもせずに入り込んでやった。

「む、来たか。ノックぐらいしなさい」

「へいへい」

「今日から一週間、秘書艦に任命する」

秘書艦なんて、提督の身の回りの世話だろうか。

横に突っ立ってるだけならいいんだけどなんて思うが、どうにもそうはいかないらしい。

特にあたしというのは学校というものに行ったことがないから、

畜生、こんなところでも惨めな思いしなきゃいけないのか、とかく学がないから苦労した。


経理だのなんだの頭を使う仕事ばっかりだ。本当、神経がくたびれて、たまったもんじゃない。

俸給や支出の計算だの金銭の管理というのはいくら気をつけても勘定が合わなかったり、

合っても実際に金が足りなかったりするんだ。

提督に手取り足取り教えてもらうのも癪なんで、使い方も知らない電卓を打って頑張ってはみるものの、

どうしても足りなくて、結局自腹で不足分を埋めたことさえもあった。

中にはここぞとばかりに給料をちょろまかすヤツまでいて、


「これは汚いから綺麗な札に変えてよ」

「汚くても使えるだろ」

「ハァ?何言ってんの?気分が違うのよ気分が。わかる?クソ秘書艦」

「クソとは何だよ……じゃあこれは」

「うん、なかなか綺麗ね」

「じゃあ汚い方を置いていきな」

「今そこに返したわよ」

返したといっても、こっちには山のように札が散らばってるんだからどれだかわかりゃしないので、

結局うやむやで誤魔化されちまう。こんな手に引っかかるんだもん、あたしの頭がよくない証拠だ。


備品だって、大して壊れても汚れてもないのに交換したがるのがいるんだ。

やれ毛布が破れただの砲身が擦り切れただの、申請するだけ申請して、新しいの貰えばそれきりだ。

古いのを出せって言っても、もうとっくに質屋か金物屋にありますとか言いやがって、

もう口で言うのもめんどくさくなってきたからふざけた事抜かすやつにはビンタを食らわせてやることにしたんだ。

神通の再来だと喚く奴もいたが、神通の訓練はこんなものじゃないし、

そもそも神通の訓練を受けたのはこの鎮守府じゃあたしら四人だけだ。

どうしてもしようがない時には提督に泣きつくしかなくなる。

そうすると提督はあたしには特別甘くて、優しく慰めてくれるし、やり方をしっかり教えてくれるので、

最初っからこうすりゃよかったといつも最後には思うんだ。


掃除なんかも下手くそさ。今までは片付ける必要もなかったんだから。

「うまく窓が綺麗にならないよ」

「貸してみろ、新聞紙を使うんだ」

「高いところは手が届かないぜ」

「私なら届きそうだ、代わろう」

「掃いても掃いてもうまく埃が取れないなァ」

「こういう風に静かに掃くんだ」

という具合だ、なんとも情けない話だよな。


かといって眠りこけていると、スカートを引っ張って起こしやがる。正直な話、満更でもないんだけど。

だが役得というのもあって、提督がなんでも奢ってくれたり、

特にこの提督というのはそれなりに見てくれがいいもんだから、二人っきりになるのも悪い気はしない。

直接提督と話す機会があるから、悪い事吹き込まれまいと艦娘たちは揉み手して謙ったりと、

まるで自分が偉くなった気分、こんなことでもないと秘書艦だなんてやってられないってもんだ。

今日はこんだけ
なんかあればどうぞォ

のらくろが下地といっても、比較的暗めの自叙伝が下地だから
そんなにひょうきんな話にするつもりもあまりないのです


ところで全くの無関係だけど、

A.加賀さんの秘密

B.加賀さんより愛を込めて

のどっちがいいと思うかしら
こっちも途中まで書き溜まってるんだけどどっちを優先すべきか

確かに言われてみればどうでもいいことで悩んでるなあと思ったにゃしぃ、もう適当に決めちゃうにゃしぃ


-集合写真-


ある日四人は提督に呼び出されて執務室に出頭した。

なにやら重大な話ではなかろうかとみんなそわそわしていたんだ。

「我々第六戦隊は台湾の高翌雄を根拠地とし、フィリピン解放に参加することが急遽決まった」

フィリピンは南部を深海棲艦に占領され、その現状はどうなっているかよくわからない状況だ。

つまりは基地移動であり、この日本から離れることとなる。

「だから今日は訓練は無しだ、家族との挨拶は今日のうちに済ませておけ」

ケッ、またあたしだけのけ者か、つまんねーの。

そうなりゃまたしても一日手持ち無沙汰だ、寝て過ごそう。


ベッドでさっさと眠りに着くと、気がつけばすっかり夕方になっていた。

丸一日寝てたなァ、飯でも食おうか、と食堂へ向かったら、第六戦隊の3人が揃っていた。

「加古、こっち!」

古鷹があたしを呼ぶ。あたしの気も知らないで気楽なもんだ。

横に座るとまず一つ大あくび。

「ついに前線ですね、腕がなりますよ」

と青葉が言う。確かにここが艦娘の腕の見せ所ってやつなんだな。

「でも故郷を遠く離れるのは寂しいよ」


衣笠はちょっと暗い顔をしている。あたしだって家はないけどこの街に愛着がないわけじゃないから、

気持ちは理解できる。しかし海軍ならば外征も当然やるもんだ、深海棲艦に占領されてんだから尚更。

艦娘になった時点で故郷を遠く離れるのは決まっていたって言ってもいい。

「そうね、でもそんな弱気じゃいけない」

古鷹は意外と好戦的なようで、俄然やる気を出している様子だ。

「そういえば、艦娘ってどうやって基地を移動するんだろう」

「そのまま何百キロも自分の足で行きたくないな」

「いや、専用の母艦があるらしいですよ」

「なるほど、艦娘母艦ね」


前線や基地の移動には自衛艦を改装した、艦娘母艦あるいは嚮導艦と呼ばれるものを使う。

簡易な工廠、応急用の入渠ドックも揃っている、まさしく動く前線基地だ。

「急に決まったから、家族にきちんと別れの挨拶ができなかったし寂しい」

衣笠がボヤく。基地移動ということは、しばらく日本とはご無沙汰するわけだ。

当然家族とも会えなくなるのであたし以外の艦娘はみんな寂しそうだった。

ぼんやりと雑談をしていると、話の流れから記念の写真を撮ろうって事になって、

鎮守府を背景に四人で騒いでいた。するとそこへ司令長官がやってくる。

「おや、写真か?後で我が輩も入れてくれんかね」

「もちろんです」

そうこうやってるうちにだんだんと人が集まってきて、集合写真の様相になってきて驚いた。


艦娘はもちろん、技術将校や事務員までも馳せ参じて楽しそうにしている。

「まだかい、ポーズ取るのも疲れてきたよ」

「私は後ろの隅っこの方がいいな」

「ちょっと、まだ仕事があるクマ」

「いいからいいから、ねえ北上さん」

「この写真を長官室の一番目立つところに飾ろう」

「男前に撮ってくれよ」

これはもう一騒ぎだ。


「なんだか、大騒ぎになっちゃった」

古鷹が呟く。しかし顔は綻んでいたんだから、きっと楽しかったんだろう。

一方、衣笠の方はそうでもなくて、

「四人で撮りたかったのに……」

とぶつくさ言っていた。青葉はというと、

「これはいい写真が撮れそうです」

とか言ってたが、そんな安っぽいデジカメで果たしていい写真が撮れるかね。

「大切なのは撮ったその時の状況、思い出なんですよ」

なんとも洒落た事を言いやがる。そりゃあ楽しい思い出が写真に残ればいい事だよ。

「青葉にしちゃ柄にもない事言うじゃないか」

「おや、人聞きの悪い」

と二人で笑いあった。

続きは後ほど
「高雄」が入ってる部分でsagaを忘れるという痛恨のミス


2.フィリピンの戦い


さて、第六戦隊は本土に別れを告げ、台湾の高雄警備府へと着任する事となったんだ。

南シナ海を奪還し、マラッカからインド洋へと進出、中東とのシーレーンを確保するための第一陣だったのさ。

石油は備蓄分と中露からの分があるんだが、連中あんまり信用ならんから、

やっぱり直接手に入れたいと日本政府は考えたんだろうな。

それに中露の艦娘なんざたかが知れてるしな。


-海ゆかば-


出発の日、第六戦隊とその隷下部隊は嚮導艦へと乗り込んだ。

デッキから港を見ると、大勢の人々が日の丸の旗を千切れんばかりに振ってくれている。

ところで、深海棲艦が現れてから戦前時代の軍歌が小ブームになったりして、

それを艦娘風にした替え歌が流行ったんだ。陸海外国みんなごっちゃにしてね。

そんで、多分『出征兵士を送る歌』だったか、それの替え歌が下から聞こえてきた。



我が船霊に 召されたる

命榮えある 朝ぼらけ

讚へて送る 一億の

歓呼は高く 天を衝く

いざ征け艦娘 大和撫子


輝く御旗 先立てて

越ゆる勝利の 海原よ

討つべき敵は 深淵の

底より出てたる仇敵ぞ

いざ征け艦娘 大和撫子


大層な歌詞だがこういう力強い歌は、いつまた空襲が来るかと不安に苛まされる市民の心に安心感を与えるもんだ。

となると歌のような活躍をしなくては、と一層気を引き締めるのもいれば、

バカバカしいと一蹴してしまうのもいるんだと。あたしは悪くないとは思うけどね。

軍歌というなら艦娘に求められるのは『海ゆかば』の精神なのだから、あたしたちは何処で死のうが悔いはないという建前だ。

建前というのは、それを望まない艦娘もいるっていうことだな。

実際、弥生を連れ出すのに苦労したんだまた。


「行かないっ」

「行かなきゃダメなんだお前は!睦月からもなんとか言って!」

「弥生ッ!何のために艦娘になったのあなたは!」

「弥生ちゃん聞き分けてよぉ……」

「嫌だぁ、聞いてないもん!」

「いずれこういうことになるってわかってたでしょーが!」

「弥生、行きたくないのはみんな同じっぴょん」

戦隊総出での大騒ぎだったよ、柱にしがみついて動かないんだもん。

「ねえ加古、無理に連れ出すよりは……」

「そうだなぁ……今度の特型って連中に頼んでみようか……」

「まだ訓練が終わってないから、危険な目に合わせるかもしれないけど」


なんて古鷹と話していると、睦月型としての矜持か、自分のために他人を危険な目に合わせるのが嫌なのか、

それはわからなかったが、自分で身支度をし始めた。

「心配するなよ、弥生。あたしがいるし、古鷹もいる。卯月や睦月、如月もいるんだ」

「そうだよ、睦月たちがついてる!」

「うーちゃんもいるぴょん!」

「死ぬときはみんな一緒よぉ」

「そ、それは縁起が悪いよ如月……」

「……」

そうやってなんとか弥生を連れてくることに成功した。


今は卯月といっしょに艦内を何か物珍しい物はないかとうろついている。

しばらくすると、船は大きな汽笛を鳴らし港を出た。

自分の船室に戻ると、古鷹もくつろいでいた。

「ここ最近ずっと寂しそうだね」

「うん、まあね」

「卯月から聞いた」

「……そっか」

あたしはベッドにゴロンと寝転ぶ。すると古鷹も隣に寄り添ってきた。なんなんだ、顔が近い。


「加古、私がいるからね」

そう言って、あたしのお腹に手を乗せた。

「うん……あんがと」

なんとも言えない雰囲気のまま、二人は沈黙していた。

でも古鷹の指があたしのお腹とへそを弄り回すもんだからくすぐったいんだ。

そのままスススッと下に進もうとしたので流石にそれは止めた。

畜生、こんな趣味があったなんて、あたしの明日はどっちなんだとめちゃくちゃ悩んだのを覚えているよ。

今夜はここまで
何かあればどうぞっぴょん


-揺らり揺られて嚮導艦-


古鷹に襲われそうでなんだか眠れなかったもんだから、甲板をうろついていたんだ。

海から見る夜空ってのはまた格別で、遮るもの一つ無い満天の星を望むことができる。

すると後ろからガチャンガチャン音がするのでびっくりして飛び上がった。

「ひゃっ」

「あはは、私ですよ」

「なんだ青葉か」

「夜の警備は眠くてしようがないです。ふわぁ~あ」

青葉は大あくびをした。


「ご苦労さん」

「夜中の警備なんて何の意味があるんですか」

「そりゃ深海棲艦の奇襲を警戒するんだろ」

「写真も撮れないのに」

「夜中にフラッシュなんて焚くなよ、頼むから」

「チェッ」

「しかし、今潜水艦に襲われると警備が重巡だから分が悪いな」

「この海域の掃討は済んでいますから、まあ万が一ってこともありますけど」

「じゃ、戦闘になるかな」

「かもしれませんが、まっぴらゴメンですよ」


「そんな了見で大丈夫かね」

「戦闘よりも写真です」

「でも艦娘じゃないか」

「戦闘も出来る、従軍記者です」

「戦闘が出来るんなら従軍記者とは言えないぜ」

「細かいんだなァ」

青葉はへそを曲げてしまった。

あたしは写真を趣味に持ってるわけじゃないのでよくわからないけど、

やっぱりカメラマンというか、記者というのはなんでも写真や記事を優先してしまうものなんだろう。

でもそれじゃあ、身勝手にも程があるというもんじゃないのかと思ってしまう。


青葉と別れ自室に戻ろうと歩いていると、提督の部屋に明かりがついてるのを見つけた。

覗き込むと、何やら書類をしたためているようだったんだ。

「よっ」

「ん、なんだ加古か。もう寝ろ」

「眠れなくてね」

「昼間居眠りばかりするからだろう」

「ケッ」

そりゃそうだけど、もっと言い方があるってもんだ……いや、無いな。

「しかしこんな遅くまで何を」

「やる事は沢山ある。いつもの業務に加え、作戦も考えなくてはならないし、向こうに提出する書類もある」


「大変そうだ」

「ああ、大変だ。だから寝ろ、明日はお前が警備の担当だ」

「ここで寝てもいいか」

「はぁ?」

だって古鷹にさ……そんな趣味は無いんだ、あたしは。

「ああ、別に構わんが」

「やった」

「どうせ朝までかかりそうだ、そのベッドは一晩好きに使えばいい」

「じゃあ遠慮なく」

あたしは提督のベッドに潜り込んだ。


「提督、戦争てのはなぜ起こるんだ」

「……今回に限っては、全て私たちに大義名分がある。深海棲艦が船を沈め、街を破壊し、人を殺した」

「じゃあ復讐の戦争ってわけか」

「それはお前が一番よく知ってることだ」

「でもわざわざフィリピンまで行くことあんのかね」

「それは戦後の権力を広げるためさ。助けてやればその国は恩義を感じるだろう、そうすれば何かと手配してくれる。

 日本の影響力は拡大する、人は助かる、私たちにも勲章が増える、いい事尽くしだ。私たちの命を危険に晒す事を除けばな」

「あたしは死んでもいいと思ってるよ」

「私はお前に死んで欲しくないと思ってる」


「なんでさ」

「お前は知らないことが多すぎるからな、そして知らんでいいことばかり知っている」

そう言われちゃかなわない。でも提督だって、知らないことも多いだろ。

「とにかく、自暴自棄になるなよ加古。お前に死なれたら、私はきっと泣くぞ、あまりの不憫さにな」

「ケッ」

どうせなら、もっと洒落た理由をつけて欲しかったもんだね。

それだけ言うと提督は仕事に戻った。そんな背中をずっと眺めていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

今夜はここまで
何かあれば何なりと


-高速戦艦-


台湾では熱烈な歓迎を受けた。まあ彼らの心情を顧みれば、これは当然とも言える。

艦娘が進駐することによってある程度の安全が保証されるということだからね。

さらにフィリピンもマズイって話なら敵はもう目と鼻の先だ。

警備府には見慣れない艦娘がいた。

「あなたたちが第六戦隊ですね?」

長身長髪の、まさに淑女という出で立ちの艦娘がそこにいた。

「私は、戦艦榛名。一緒に頑張りましょう」

戦艦を見たのはこの時が初めてで、あたしたちなんかよりも随分と大人だなーってのが第一印象だったね。


「私が第六戦隊の司令です。あなた方の指揮官は」

「はい、ご案内しましょう」

提督は彼女についていった。手持ち無沙汰なので、その場でだらだらと雑談をする。

「早速作戦かな」

「さあな、わからん」

「今度こそ、訓練の成果を見せつけてやりたいわね」

「ふわぁ~あ、そうですねぇ」

「青葉、眠いの?」

「今朝は徹夜で警備でしたから……ううん」

「今朝といえば、加古。あなた提督の部屋から出てきたけど……」


「あ、ああ」

「ちょっと詳しく教えて衣笠」

「いや、私は見ただけなんだけど……そうよ、加古、詳しく教えて!」

「スクープの予感です!あくびなんかしてる場合じゃありませんねぇ!」

「いや、それはだな……」

「変なことされてない?まさか無理やり」

「違うってば、大体古鷹、お前が変なことするからだぞ」

「え、それについても詳しく!」

などとわいわい話していると、後ろから一喝されてしまった。

「あなたたちッ!」


後ろに立っていたのは巨人だった。

「ひっ!巨人だ!」

「巨大殺人ロボットだ!」

「なんですってェーッ!」

素っ頓狂な悲鳴を上げると、巨人だのなんだの言ったのが気に食わなかったのか、

そいつは怒り出してしまった。だってこんなにでっかい人初めて見たんだ、驚くさ。

メガネをかけたそいつは艦娘で、先の榛名の妹だという。

「こんなところでだらだらやってないで、早く荷物を運び込みなさい」

「はいィ」

隷下部隊にも号令を出し、警備府の施設へと慌てて入り込んだ。

荷物を運び終わり、廊下に並ばされると、そいつは自己紹介を始めた。

「私は霧島。高速戦艦よ。あなたたちと作戦を共にすることがあるかもしれないわ。よろしくね」

聞いた話によると、戦艦というのはこんなでっかい連中ばっかりなのかと弥生が怯えていたとかなんとか。

流石にそれはないだろう、と思いきや、結構いるんだな、これが。

続きは後ほど、かも
もしかしたら今夜はおしまいかも


-上陸支援-


早速命令が下り、あたしたちは出撃することとなった。

「今度こそ、戦闘になるだろうね」

「壮烈な砲戦が繰り広げられるわけね、腕がなるよ」

みんな俄然とやる気を出してるもんだから、なんだか一抹の不安を覚えた。まあ杞憂なんだろうけど。

指揮はうちの提督が執るらしく、どうにも緊張した様子だった。

しかし作戦というのが、単純な上陸支援だというから、なんだかガッカリだ。


「それが最善手だ。無難に作戦を終えることこそ軍人の本領だぞ」

「しかしなァ」

「ミンドロ島、サマール島を同時に襲撃し、深海棲艦の陸上施設を破壊するんだ」

「陸上部隊がでしょう?」

「ああ、そうだが」

「しかし陸上部隊に深海棲艦が倒せますかね」

「陸軍の、海上駆逐連隊とかいうのがいてな、いや大隊だったか」

「へぇ、その連中は海上って言うけど、陸でも強いのね」

「じゃあ護衛はいらないんじゃないですか?」

「いや、艦娘の陸戦特化型みたいなものに改造されているらしくてな、海ではてんでダメなんだ」

「なるほどなァ」


と一通りの作戦概要を聞いた。向こうさんの準備は既に完了しており、あとは私たちを待つばかりだったとか。

せっかちな連中だ。急いで出撃準備を整えた第六戦隊と隷下部隊は海に出た。

そこで提督からの無線が入る。

『第六戦隊を二分する。以前と同じくAとBで別れろ』

AとBと言えば、古鷹とあたし、青葉と衣笠だ。まあいつものコンビだな。

『A班がサマール島、B班はミンドロ島の部隊を支援しろ』

そう言って提督は各自の集合地点を伝えると、無線を切った。

「いつになったら四人一緒に戦えるのかね」

「さあね、私は別にこれでもいいけど」

「おいおい」

そんな会話を交わしながら、あたしたちは集合地点へと急いだ。


集合地点には陸軍部隊と思われる者たちが集結していた。

「遅いでありますな!海さん!」

「だって今日来たばっかりだぜ」

「エッ!それはお気の毒に!」

意外と話のわかるヤツでよかったよ。どうも怒鳴られるってイメージがあるからね、陸は。

「我々カロ艇は陸戦仕様に改造されているのであります」

「それは聞きましたね。で、何をすればいいんでしょう」

「我々はこれより突撃するであります、その支援を」

「無策だなァ」

「奇襲戦術であります」


作戦のことはよくわからないので、とりあえず黙って従っておこう。

そういえば、深海棲艦にそういう指揮系統というものはあるのだろうか、なければいいな。

「では、第二中隊!戦闘準備!」

「ちょっと、本当にやるつもりですか?」

「もちろんであります、死すべき時は今なるぞ!」

しょうがないので、支援してやる他ないようだ。なんだかなぁと思いつつ、彼女らを護衛する。

「どういうことぴょん?」

「わかんないな」

「うん……」


もっとも、上陸戦などというものは強襲か隠密かしかないわけだから、彼らの行動を一概に馬鹿にすることはできない。

陸には陸のやり方があるんだろうか。

そうして、サマール島に突撃するも、敵の反撃もないため拍子抜けであった。

それにつけても驚いたのが、カロ艇の連中である。

陸に上がった途端さながら漫画の超能力者のように、凄まじいスピードで地を駆け宙を舞うもんだから、

ものの10分で島全体を偵察し終えたという。何なんだこいつら。

「変でありますなぁ、島全体もぬけの殻であります」

「住民しか見当たらなかったであります」

「どういうことなんだろうね、加古」

「あたしが知るかよ」


「提督」

『加古か、そっちはどうだ』

「サマール島は無血で占領したよ、誰もいないんだから」

『そうか、連中は我々のどちらかだけを潰そうと思ったようだ』

「なに?」

『B班は戦闘中だ、それもかなりの数らしい。急いで救援に行ってやってくれ』

そんな重大な事項を提督は淡々と話す。


「古鷹」

「わかってる、戦隊、B班の支援に向かいます。如月と弥生はここで待機し、万が一の襲撃に備えてください」

「了解よぉ」

「了解……」

「行きます!」

「ご武運を!」

上陸部隊の中隊長が敬礼をした。

「みんな、無事だといいけど」


-ミンドロ海峡海戦-


提督からの無線によると、どうもミンドロ海峡で戦闘が繰り広げられているらしい。

今はシブヤン海を通っているが、どうにも駐留戦力のほぼ全てを投入したと考えられる。

そこが違うんだよな、深海棲艦のオツムはまだまだ未発達のようだね。

『ここで殲滅できれば、フィリピンは救ったも同然だ』

しかし、個人の心情としては青葉たちが無事なら撤退したいってのがある。

死んでないだろうな、と冷や汗が吹き出すが、

「大丈夫っぴょん!あの人たちがこんな簡単に死ぬはずがないっぴょん!」

「そうですよ!睦月たちが保証します!」


お前たちに保証されたって何になる、と思ったがその通り、あいつらがそんな簡単に死ぬはずがない。

一緒に厳しい訓練を乗り越えてきたんだ、こんなところで死んでしまっては、

あたしたちの沽券にも関わるからね。泥を塗ってくれるな。

……なんて思えるはずもなく、ただ顔を青くして力なく頷く事しかできなかった。

古鷹も不気味なぐらいダンマリだったから、相当さ。

卯月と睦月に励まされながら、ミンドロ海峡にたどり着くと、確かに轟音が聞こえる。

「戦闘準備!」

皆が武装を構える。遠くに見えるのは確かに深海棲艦だ。こちらにはまだ気がついていない。

「主砲狙って……撃てぇー!」

古鷹の号令により、四人は一斉砲撃を始める。


深海棲艦の陣形の中に水柱が上がり、慌てふためき始めた。

この野郎、死ね!と念じながら撃って撃って撃ちまくるが、どうにも当たらない。

「加古さん!落ち着いて!」

睦月が叫ぶ。それでハッとしても、すぐ頭に血が上ってしまうんだ。

深海棲艦が振り返り、こちらにも砲撃を撃ち始めた!

バシャバシャと自身の周りにも水柱が立ち始める。

「私に続いて!」

古鷹が先頭に立ち、指示を出した。戦隊は猛スピードで辺りを蛇行する。

「これじゃ狙えない」


「単縦陣!雷撃用意!」

すると古鷹は蛇行をやめて大回りする、合わせて後ろのあたしたちも反転し、ちょうど敵と水平の形になった。

「撃てぇーッ!」

古鷹が叫ぶと各自2本の魚雷を発射、8本の魚雷が列をなし雷跡をつけながら進んでいく。

敵側も慌てて回避しようと陣形を乱した。敵艦の2隻に命中、あたしと睦月が撃ったものだった。

大破炎上し、もがき苦しむ様が見える。奴らには痛覚があるようだ、なんだか気の毒な気もする。

そこにダメ押しとばかりに砲弾の雨あられを浴びせた。

連中は総崩れのようで、散り散りになったところを各個撃破で追い詰める。


「ブッ飛ばすッ!」

「調子が出てきたぴょん?」

水を差しやがって、別にいいじゃないか、やっと緊張がほぐれてきたんだもん。

確実の砲弾が命中する距離まで敵に接近すると、なんとなく奴らの悲鳴が聞こえるような気がするんだ。

「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

だが、悪く思うなって事さ、だって先に手を出してきたのはあんたたちだぜ?

訓練の成果というのは恐ろしいもので、あのちっこい睦月ですら人型の敵にガンガン鉛玉をぶち込んでいる。

人は慣れればなんだって出来るんだろう怖い怖い、と呑気なことを考え始める。余裕が出てきたんだ。

こうなると、気になり出すのは青葉たちだ、無事だろうか。


「青葉、衣笠、大丈夫か!」

無線を飛ばす、するとすぐに返事が帰ってきた。

『ええ!なんとか!さっき魚雷を食らってしまって衣笠が大破しましたが、なんとか無事です!』

嫌な汗が出てきた。古鷹の顔を見ると、微妙な顔をしている。ちょっと軽率だったよな。

とりあえずこれは黙っておくとして、安否は確認できたのでホッとしたよ。

『作戦を継続しますので、そのまま支援をお願いします!』

「了解です、衣笠は」

『三日月と長月に護衛させて、台湾まで運んでもらいます』

「わかりました」

なんとかなりそうでよかったよ本当に。


その後、2島を無事占領し、生き残った住民たちの避難も完了した。

大変感謝されて小っ恥ずかしかったよ。でも提督は、

「お前たちの活躍だ、胸を張っていいんだぞ」

と言ってくれたから、まあちょっとは調子に乗らせてもらったね。

しかしどうやら、この戦いでフィリピンでの勝敗は決したというわけではなかったようだ。

翌日にも、偵察部隊の報告によると増援部隊がミンダナオ島にやってきたのが確認された。

この国での戦いはまだまだ続くんだ、全くもって往生際の悪い連中だな。

今夜はここまで
戦闘をうまく書くのはなかなか難しいよぅ


-衣笠の安否-


ちょっと時間は戻って、衣笠についてなんだけど、これが結構な騒ぎになったらしくてね。

この話は聞いた話だから正確ではないけど、今に生きるか死ぬかって状況だったみたいだ。

提督も大慌てだったとか、工作艦明石に飛びかかったんだと。

「明石ッ!衣笠が戦死だ!なんとかならんかなんとかならんか!!」

「いや、戦死した艦娘は治しようがありませんよ」

と明石も困り果てていた。そこで、

「勝手に殺すな、まだ生きてるよ」

「ひどいです司令官」


と長月と三日月に言われるもんだからヘナヘナと地面に座り込んで、

「よかったァ」

って胸を撫で下ろしたようだ。でも危険な状態には変わりないから、すぐに入渠させたんだと。

「どうか神様、私の命に替えてもよろしいですから衣笠をお救いください」

「男の人は出てってください!」

何やら大変心配していたって話さ。妬いちゃうよな本当。

検証の結果、魚雷は深海のものだと断定された。あたしたちの撃った魚雷は届いてはいなかったみたいだ。よかったァ。

あたしも怪我すれば提督に心配してもらえるかなァとかぼんやり考えながら、病室へと向かう。


入ると、衣笠と青葉が話をしていた。

「あ、加古」

「治ってよかったな、痛くないか」

「大丈夫、もう戦線に復帰できるんだけど……」

「提督が少なくとも一日ぐらいは安静にしろってやかましいですって」

全く、お優しいな提督は。誰にも彼にも優しい男はモテないんだぞ。

あたしはどんな顔をしていたのか、青葉がニヤニヤしている。


「なんだよその顔は」

「いえいえ、別にィ」

なんかムカつくので衣笠にだけ挨拶して、病室を立ち去った。

しかし戦場は恐ろしいところだ、一歩間違えればボロ雑巾のように死んでいくんだから、

今更ながらとんでもないところに来てしまったよ。

うだうだ考えても仕方ないといえば仕方ないのかな、とにかく衣笠は無事そうでよかった。


-深海棲艦侮りがたし-


このまま勝利の波に乗って砲の嵐もなんのその、だなんて思うかもしれないが、

なかなかどうしてうまくいかないものだ。

先の戦いだって運良くあたしたちが回り込んだから助かったようなものだ、

正面から戦っていれば、全員海の藻屑だったぜ、連中は戦艦を含んだ水上打撃部隊だったらしい。

睦月の魚雷が戦艦に命中したのが敵の運の尽き、そのまま一気に畳み込んだんだ。

勝ったから良かったんだけど、深海棲艦は決して侮るべき相手ではないということだ。


勝ったから強い、負けたから弱いなんて考えはもう古い。

緒戦の勝利は最後の勝利を保証するものじゃないってのは、あたしたちはよーく知っている。

大東亜戦争だってそうだ、真珠湾攻撃が成功したか否かは議論の種だが、

少なくとも盧溝橋とマレー半島じゃ敵を退けている。でも最後には負けたんだ。

とまあ、長々と書き連ねたけど、つまるところ、連戦連敗を重ねている。

みんな体中に生傷を作って疲れ果てた顔をしているんだ。

衣笠みたいに長期の入渠を必要とする者まで出る始末だ、これは風向きが良くない。

古鷹や卯月たちも怪我してしまって、第六戦隊で動けるのはあたしと弥生と青葉だけになってしまった。


こんな体たらくでは出撃もままならないんだ。全く、これじゃあルソン島からも追い出されちまうよ。

にしても弥生は出撃を嫌がっていたのが、今じゃ何の抵抗もなく作戦に参加している。

「もう慣れたのか」

「うん……ちょっとは怖いけど……」

「だよな、誰だって死にたかねえよ」

「それに、加古さんが守ってくれる……」

「弥生の方こそ、頑張ってくれてるからみんな助かってるよ」

「……」

弥生は顔を赤らめて俯く。こんなに可愛い艦娘は他にいないだろうな、きっと。


さて艦娘たちは、深海棲艦の逆襲に備えて艤装をつけた戦闘態勢のまま過ごしていたり、

実際に戦闘に出て傷だらけで帰ってきたりと、そのの労苦は察してもらわなければ可哀想だ。

駄弁ってるだけじゃ話題もなくなるし、怪我してちゃトランプだってできやしないからね。

そんなとき、

「各隊、慰問袋を取りに来い」

との伝達が来た。慰問袋っていうのは戦地にいる兵隊のために国民から募って中に色々と詰めた袋だ。

日用品だの、お菓子だの、おもちゃだの、士気を鼓舞するために送られるんだとさ。

その時は、イモン袋とは何って思ったけど、開けてみると何が入っててもありがたいものなんだよ。


第六戦隊みんなに配ってやると、子供みたいにはしゃぎながら受け取った。まあ子供なんだけどな。

しかし勘定が合わない。調べてみたがちょろまかしているのはいないし、

どうやら単純に一つだけ不足していたようだ。で、あたしの分が無いわけだ。

ふん、いいさ、仲間はずれのされるのはあたしの得意分野だし、と不貞腐れていたところに弥生が来て、

「一緒に、お菓子……」

と数少ないクッキーを分けてくれたんだ。涙が出るほど美味しかったよ。

「泣いてる……?」

「目にゴミが入ったんだ」

「歯ブラシとかもある……一緒に」

それは流石に断った。いや、歯ブラシの共用はちょっと……なぁ?

今夜はここまで、前回の投稿は誤字だらけだったな!
何かあれば言ってくださいまし


-新型艦娘-


このままでは埒があかないとうちの提督じゃないもう一人の指揮官が集合をかける。

ハゲてたからハゲ提督とでも呼ぼうか。で、そのハゲが言うんだ、

「本土より新型艦娘が来たので、その護衛を任命する」

そこで選ばれたのが、あたしと青葉。それから最近増援に来たらしい特型駆逐艦の連中だったんだ。

吹雪、初雪、磯波の三人だった。

「新型艦娘って、誰のことでしょう?」

「来ればわかる」

と新型については教えてくれなかった。そんなだからハゲるんだぜ。


それで、特型の連中なんだが、吹雪と磯波はともかく初雪が曲者で、ぐうたらぐうたらしている。

「どっかの誰かさんと似てますねぇ」

あたしと似てるって言いたいのか、そうなのか、こいつのは惰眠だがあたしのは仮眠だ!

「あたしは加古ってんだ。こっちは青葉。第六戦隊所属だ」

「どうも!恐縮です!」

「吹雪です!」

「初雪」

「磯波と申します」

「お前たちは新型については聞いてるか」

「いえ、私たちも全然……」


「第六戦隊といえば、あの事件」

「初雪ちゃん!」

「あの事件って?」

「……神通さん」

「あぁ、あったなぁそんなことも」

「懐かしいですねぇ」

全く、つまらないことで名を売ってしまったもんだ。

しかしこんな話が知れ渡ってると、言うことは黙って聞いてくれる。

袋叩きにされたくないんだろう、いや別にしないけどさ。


特型の連中はどうも相当なエリートのようだ。睦月型は叩き上げって感じだが、

こいつらの動きは無駄が少ない、命令にも忠実で、各個の能力も非常に高いようだ。

それも吹雪型、綾波型、暁型いずれもその傾向があり、巡洋艦たちからもちやほやされてたりする。

事実、こいつら以上に使いやすい駆逐艦は陽炎型まで待たなくてはならなかった。

いや、他にも理由は色々あるんだけど、それは後の話にでも。

そうして2日ほど訓練していると、ようやく到着の報せが入る。

待ちわびたとばかりに出迎えたその艦娘の名は、鳳翔といった。

彼女の登場は戦場の姿を大きく変えてしまうことになるんだから、空母ってのは恐ろしいもんだ。

「鳳翔です、みなさんよろしくお願いしますね」

「私たちが命に替えてもお守りします!」


青葉が畏まって敬礼する。

「命だなんて、そんな」

と鳳翔さんはオロオロし始める。ほんの言葉の綾を本気にするんだからお人好しにも程があるよ。

「なんだか、お母さんみたいな人だね」

「うん」

「お母さんかァ……」

みんななんだかしみじみしてるけど、あたしには遠い記憶だからその気持ちはよくわからなかった。

きっと脳みそが精神を守ろうと、始めっから親なんかいないって思い込ませたんだ、

だからあたしは戦争以前の記憶が曖昧で、親を失ったって現実味は未だにない。

寂しいと思うことはあっても、『失った』ではなく『持っていない』の寂しさなんだ。


「あれがお母さんか」

「ええ?お母さんっぽいじゃないですか」

「いや、わからんね」

「うそー!」

吹雪は大げさに驚いてみせる。こいつはあたしのことは知っているんだろうか。

しかしお母さんか、お母さんねぇ、そんなの羨ましくないし。

全然羨ましくない、羨ましいとも思ったこともない。もし思ってたとしても、

それは持ってないから欲しいってだけ話なんだ、って誰にあたしは言い訳してるんだろうね。

艦娘になってから、格の違いを見せ付けられることが多くなってきて、いい加減参ってきちゃったよ。

今夜はここまで
艦娘の竣工順は史実通りと見せかけて全くのデタラメである


-ボホール海海戦-


この鳳翔さんというのが恐ろしく強い艦娘でね、航空隊がガンガン爆弾や魚雷を放つから、

敵も慌てふためいて逃げ惑うんだ。そこにあたしたちが肉薄すると、面白いくらい総崩れになる。

「もう全部鳳翔さん一人でいいんじゃないかな」

「うん」

と吹雪と初雪も言う。確かにそんな気がしてきた。

「敵に空母を出してこられると厄介ですね」

「ああ、出てこないことを祈る」

この心配は後に現実化するが、今はまだその時ではなかった。


鳳翔さんの登場により、今まで押し返されていたのが破竹の勢いで進撃するものだから、

深海棲艦連中も恐慌に陥ってることだろうよ。

さて、ついにフィリピンでの勝敗を決める戦いが始まる。

スリガオ海峡からボホール海を抜けて移動中に、敵主力艦隊と遭遇した。

「敵艦隊出現、戦艦3、重巡1、駆逐2!」

と鳳翔さんが叫ぶ。

「こりゃ結構骨が折れそうだ」

「鳳翔さんがいるから……」

「でも戦艦3隻だなんて」

戦隊に不安が広がるが、そんなことを言っている場合ではない。


敵もこちらを認識しているのか、まっすぐ向かってきているから逃げても無駄だろう。

「戦闘準備!お願いします!」

鳳翔さんは艦載機を放つと、急加速して後方へと下がっていった。初雪もその護衛に向かう。

「よし、任されました!」

と青葉が答える。ここで提督より通信が入る。

『戦艦か、やれそうか』

「まっ、任しといてくださいよ」

鳳翔さんがいることがあたしたちに過剰な自信を与え、気が大きくなっていたんだ。


『この海域の敵戦艦がまとめてやってきたんだ、ここで叩きのめせばヤツらフィリピンを諦めるかもしれん』

確か似たようなこと前にも言ってたよね。縁起の悪いこと言いやがってこの。

鳳翔さんの艦載機が頭上を過ぎ去る、心強いもんだ。

敵空母がいない以上戦闘機はお留守番、九九艦爆と九七艦攻の独壇場だ。

攻撃隊が敵部隊を襲うも、流石に戦艦はびくともしていない様子だ。

『なかなか硬いですね』

「みたいだな、よし、磯波来い」

「吹雪は私に!」

「はいッ」

ここで二手に分かれる。高速で接近して先制的に雷撃を放つのだ。


敵は未だに上空へと注意を向けている。その隙に魚雷の射程圏内へと近づいた!

「撃てッ」

「当たって!」

シュパッと魚雷が飛び出し、そのままシュルシュルと敵陣へと近づいていく。

艦娘の魚雷っていうのは機敏に動く深海棲艦を捉えるために高速かつある程度の誘導性能を持っているんだ。

そして目標に達すると、その場で炸裂する。二本の足に当てようったって難しいからね。

だが深海の駆逐艦となれば話は別だ、あいつは水に浸かってる面積がでかいから放った魚雷がモロに命中し爆散した!

戦艦ル級の一隻ががこちらに気づき、砲撃をしてきた。砲弾は顔の横を通りすぎ、後方で水しぶきを上げる。

「この野郎ッ」

こちらも負けじと撃ち返すと、ル級もさらに射撃を強める。


「えいっ!」

磯波の砲弾がタ級の右の武装に命中、弾倉を貫いたらしく爆発し、タ級の右半身が吹き飛んだ。

青黒い血をまき散らしながら海中に沈んでいく。まずは一隻だ。

「やるな磯波ッ」

「はいっ!」

青葉隊の攻撃も敵の重巡に致命傷を与えたようで、リ級がうずくまっている。

さて次の目標は、と辺りを見回していると、

「加古さん左ッ!!」

と磯波が叫んだ、瞬間駆逐艦ハ級が水中から飛び出し、今まさにあたしに食らいつかんと大口を開けていた。

以前と似たような光景だ、だが今回は違うぜ。


「加古スペシャルをくらいやがれ!」

と咄嗟に叫び、いや、なんか思いついたんだ、勢いってやつだよ。

それでだ、思いっきりその目ん玉に拳を叩きつけてやった。

グシャッと気色悪い感覚がして、グリグリと腕が飲み込まれていく。効果はテキメンでそいつはそのまま絶命した。

おびただしい量の返り血を浴び、全身が真っ黒になってしまった。

「ひぃ」

と磯波が引いている。ドロドロして気持ちが悪いんだよこれがまた。

しかしそんなことを気にしている場合ではなく、次の目標に移らなくてはならなかった。


あと二隻の戦艦に攻撃を、と考えていたら、突如として腹部に激痛が走る。

戦艦ル級の砲撃が命中したんだ。声も出なかった。そのショックなのか機関が停止してしまう。

不幸中の幸い、当たったのが副砲で中破程度のダメージではあったが、

痛くて痛くてしようがない、ここまで痛いと吐き気までするんだな、想像を絶するものだ。

磯波がなんとか肩を持ってくれたが、フラフラになっていた。言葉を交わそうにも、うめき声しか出ない。

「加古さん、しっかり」

砲弾の雨の中、磯波が応急手当をしてくれている。弾を腹の中から引きずり出し、ガーゼを当ててくれた。

『二人共、海域を離脱してください!』

と鳳翔さんからの通信が入るが、そうは問屋が卸さない。


「まだ……戦える……」

「そんな、加古さん」

「うるさいッ!」

磯波を払い除け、停止した機関を再始動させた。もうこん時は意地だったね、必ず仕返ししてやろうって。

中破にしては驚く程体が動いた。極限状態ってやつなのかもしれない。

あたしを撃ったル級はこの様子を見てかなりビビったみたいなのか、口をあんぐりと開けていた。

「磯波、行くぞッ、前進一杯ッ!」

缶を最大出力で動かし、敵に肉薄すべく突撃する。機関から焦げた臭いがし始めた。

磯波もそれについてくる。様子を見ると、やはり磯波も機関が赤く焼けているようだ。


「雷撃用意!」

ガシャと艤装が音を立て、魚雷発射管が臨戦態勢に入った!

「これ以上はッ」

磯波が警告するが、ここまでくればもうヤケだ。

缶が爆発するのが先か、魚雷が命中するのが先か、それとも敵の砲弾に伏すのが先か、

ル級も近づかせまいと雨あられのごとく弾をばらまく。

しかしそんな当てずっぽうがこのあたしに通用するか!と、

気迫があれば弾が勝手に逃げていくんだとばかりに、雄叫びを上げた。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そしてまさに目前といった50mまで接近し、魚雷を放つ。この距離では必中だ!

それに呼応して磯波も魚雷を発射、もはやあいつに逃げ場はない。


ル級は魚雷目掛けて機銃を掃射するも、まもなく命中、火の渦火の雨が空に舞い上がり踊り狂った。

熱風がここまで吹いてきたから慌てて顔を覆ったけど、腕に火傷を負ってしまった。

肉薄したのはちょっと後悔している、磯波はあたしを盾にしやがったみたいで無傷だった。このヤロー。

「やったな」

「やったじゃないですよッ!!」

磯波に怒られちゃった。あたしを盾にしたくせになんて生意気なやつだ。

青葉たちの方も、怪我はしたらしいが鳳翔さんと共同で戦艦を撃沈したらしい。

これにて敵艦隊は全滅した。そこで提督からの無線が入る。

『よくやった!』

何がよくやっただ、何の命令も出さなかったくせに、と思ったが、

多分命令を出されたところでその時の状況で判断するだろうなぁとも思ったので、口に出すのはやめといてやった。

今夜はここまで
何かあったら言ってちょ

乙でした
ちなみに装備や弾の大きさはどのくらい?
加古の細いおなかにぶち込まれるくらいだから小さいとは思うんだけど

>>211
はっきり言って重要ではない部分かつ人によって想像が異なる部分なので特に決めてはいませんが、
基本的に所謂『艦娘の艤装』ですのでちっこいです
妖精さんパワーで深海棲艦にダメージを与えるので大きさは関係ないのです
妖精さんパワーは女の子にしか宿らない不思議な力なのです


-傷だらけの凱旋-


戦闘が終わってみると腹の傷も腕の火傷もズキズキ痛むからこれはもうおぞましいほどの痛みだ。

この状態で根拠地まで戻らなくちゃいけないんだからたまったもんじゃないよ。

合流すると、みんなあたしの姿に驚いた。そりゃそうだ、返り血で全身真っ黒と思いきや腹から血を流してるんだから。

「ひぃ!?大丈夫ですか!?」

青葉が悲鳴を上げる。やめてくれ、傷に響くんだから。

「いや、そこまでないよ」

やせ我慢だけど。しかしよく生き残ったものだ。


後の話だけど明石曰く、砲弾が偶然不発だったから助かったんだと。爆発してりゃ腹から木っ端微塵だったわけだ。

身の毛のよだつ話だよ。しかしおかげで休養のために本土に戻ることが決まった。

代わりに妙高型が来るんだとかなんとか、次世代の重巡洋艦だ。

根拠地に戻ると万歳三唱が聞こえる。が、あたしの姿を見るとしんと静まり返った。

古鷹が棒立ちしてる観衆を押しのけてやってくる。

「加古!加古!」

「いてっ」

ガバッと抱きついてきた。磯波は跳ね飛ばされたが、どこかにこやかだ。

「ただいま、古鷹」

「よかったぁ」

古鷹は大粒の涙を流す。戦闘の状況を聞いていたらしい。


その様子を見てか、再び万歳三唱が始まった。

なんてやってる場合ではない、血が足りなくなったのかふらりと倒れてしまった。


目が覚めた時には既にフィリピンは解放されていた。三日間気を失っていたという。

体を起こすと、第六戦隊の面々と明石が揃っていた。

「加古!」

「わわ!まだ安静にですって!」

明石が古鷹を抑える。

「終わったのか」

「フィリピンは解放しました!いや残念ですねぇ、式典にMVPが出席なさらなかったのは!」

「祝賀パレードやらパーティーやらももう全部終わったわよ」

そっか、そりゃ残念だ。あたしだって頑張ったのにな。


運命やらタイミングやら、そういう類の連中はあたしのことが随分と嫌いのようだ。

「提督は」

「提督なら、次の作戦があるからって執務室にいるよ」

そうかい、あたしの事なんかどーだっていいんだな、お前は。

衣笠とは随分と対応が違うじゃないか、ふん、いいさ、あたしなんか。

なんでこんな思いしなきゃなんないんだと、なんだか悲しくなってきちゃった。

「そっか……いいよ、みんな戻って」

「あれ、聞きたくないですか?パレードの話!」

「せっかく色々考えてきたのに。青葉が大恥かいた話とか!」

「ちょ、ちょっとそれは勘弁して!」

「目が覚めたばかりだから、また後でね」

とみんな部屋を出ていった。

「何かあればこのナースコールを」

明石はあたしにスイッチを渡して、部屋を出ていった。

一旦停止、続きは後ほど


-あたしは寂しいんだ-


病室のベッドで天井をぼんやり見つめているとノックの音がした。

ひょっとして提督かも、と心が躍ったが、今度は卯月と弥生、磯波がやってきた。

「加古さーん!」

「無事?」

「目が覚めたって聞いたから……」

「ありがとう」

みんな嬉しそうだ、あたしも嬉しいよ、こんなに心配されてちゃ、本当にね。

それに比べて提督はこんな時でも仕事仕事、顔も見せやしない。


「提督は?」

「司令官なら、衣笠さんと……」

「なに?」

ははーん、そうか、来るわけないよなそれじゃあ、なんだ、結局のところあれか。

「加古さん、どこか痛いの……?」

弥生が心配そうに見つめてくる。心がちょっとね。

「提督に何か、御用でも?」

「いや、もうないよ。それより式典がどんなだったか聞かせてくれ」

「うん!それでねー」

卯月たちは色々と楽しいことを話してくれたみたいだが、なーんにも頭に入らなかった。


夜にもなると、体も動くようになってくる。

どこに行くでもなく警備府内をうろついて自分の生い立ちを振り返ってみると、

取り柄もないストリートチルドレンなんだから世間一般から見れば恵まれない環境で育った、

汚らしくて教養もない女なんだ。そんな女が艦娘、軍人となって今や英雄と称えられるんだから、

それだけで十分な幸運の持ち主なんだろう。何も言うことはない。

でもだからと言って根っこが変わるわけじゃない、自分でも気がつかないうちに育ちの悪さを露呈しているのかもしれないし、

誰も彼もが本当のところあたしのことを見下しているのかもしれない。

それが理由で提督にも振られるんであって、それは環境が悪いのであって、

全ては深海棲艦の落っことした爆弾の落ちどころが悪かったって話なんだから、運命というのは非情なものだ。


これは決して乗り越えられる壁ではなく、あたしは永遠に『普通以下』だと運命づけられているんだよ。

とまあ、この時はこんなふうにネガティブな考えがグルグルグルグル頭ん中を回っていたんだ。

気づくと涙が溢れていて、何が目的で生きてきたのか、生きていることに疑問さえ感じ始めていた。

こんなこと言うと意気地がないって思うかもしれないけどあたしだって恋もすれば泣く時だってあるのさ。

波止場に座り込んでいると、鳳翔さんが後を追ってきた。

「お目覚めになりましたか」

「ああ、昼間ぐらいにね」

「辛そうですね」

この人は他人の感情に敏感なのか、こういう事には目ざといんだ。


逆に言えば顔色伺ってばかりいるということでもあるんだけど。

「辛かったら、吐き出してしまったほうが楽ですよ」

「いやいい」

「……私、こう見えて『艦隊のお母さん』って呼ばれてるんですからね」

気に入ってるのかよ。意外とひょうきんな人だよね、鳳翔さん。

「いいよ、あたしのお母さんはあんたなんかより立派だし美人だし優しいんだ、多分」

「そうですか……じゃあ、私が吐いてもいいですか?」

「好きにしろ」

「私は、今の立ち位置に正直疲れたりすることがあるんです、愚痴を聞いたり甘えられたり」


「へぇ、『艦隊のお母さん』ってのは気に入ってるんじゃないのか」

「それは気に入ってますけど……でも疲れる時もありますよ」

「だったら愚痴言ったり甘えたりすればいい」

「……」

くたっとあたしにもたれかかってきた。おい、ひょっとしてお前もか。

「ありがとう、私ってば、甘えられる人がいなくて……」

そんなつもりはないんだけど、まあいいか。

こんなことされると自分の悲しみなんてすっかり忘れてその人の事を考え始めるんだもん、

随分とお人好しになっちゃったもんだよ、このあたしも。


-ホントにホントにご苦労さん-


さて、引き継ぎも終わって本土に帰る日がやってきた。

台湾で何かやったわけじゃないから、見送りの観客はまちまちだったけど、

それでも歓声は大きかった。日章旗と旭日旗が翻る。

「加古さん!船上でもパーティがあるみたいですよ!」

「んー」

ようやく参加できるのか、とワクワクするもんだ。

でもみんなはまたかーって顔をしている。全く贅沢な連中だよ。

甲板でのんびりしてると、ハゲ提督の放送があった。


『昨日の祝賀会は肩肘張って心苦しかったかもしれないが、今日は無礼講だ。どうせここは海の上だ、誰も見てはいない』

ワッと歓声が上がった。なんだ、そんな雰囲気だったのか。それなら損した気はしない。

早速会場に集まると、人だかりが出来ていてもう大騒ぎである。

酒もじゃんじゃん配られるらしいけどよく考えるとあたしたち未成年だぜ?まあ、誰も見ちゃいないか。

始まっちまったらそりゃもう大事で、あの弥生ですら酔っ払ってふらついていた。

酒ってのをここで初めて飲んだんだけど、こりゃ結構いけるんだわ。ビールでもチューハイでもなんでもグイグイ飲んでいた。

そうしていると完全に酔っ払いと成り果てた鳳翔さんが、ここで一曲と軍歌の替え歌を歌い始める。



寒い早朝物干場

汚れまみれた軍服を

洗う姿の夢を見た

お国のためとは言いながら

ホントにホントにご苦労さん


来る日来る日をカンパンで

護る前線制海権

ニュース番組見る度に

熱い涙が零れ落ち

ホントにホントにご苦労さん


今日もまた降る雨の中

強風波浪に大時化に

荒れ狂う高波その上で

友を労わるあの姿

ホントにホントにご苦労さん


母よ私の帰る日にゃ

家族みんなでご馳走の

用意を忘れず待っててと

手紙に涙の跡を見る

ホントにホントにご苦労さん


結構暗めの曲だからか、みんなしんみりしちまって微妙な空気になったけど、

鳳翔さんは一人で騒ぎ続けた。ダメだこりゃ、と誰もが思ったんだが、

どうやら彼女の歌にはまだ続きがあって、

「こっからが本番ですよ」

と意気込んで、再び歌い始める。



嫌じゃありませんか艦娘は

早起き早飯早着替え

刑務所暮らしじゃあるまいし

すっぴん顔とは情けない

ホントにホントにご苦労さん


重い艤装を背負いつつ

進んで行こうかどこまでも

勇んで進みはするけれど

未だに見えない真珠湾

ホントにホントにご苦労さん


いつになったら帰れるの

湯水のごとく湧く連中

黒い艤装に白い肌

教えて欲しいなスキンケア

ホントにホントにご苦労さん


お偉いさんは老いぼれで

若い提督にゃ妻があり

艦娘さんには暇がない

恋をするのも一苦労

ホントにホントにご苦労さん


これはみんなに大ウケで宴もさらに盛り上がった。

これだけ騒いだんだから、あたしは失恋したことなんてすっかり忘れてしまった。

まぁもうどうでもいいかな、なんて思ったんだ。

みんなブッ倒れたり部屋に戻ったりで静かになった頃、あたしは隅っこの方でまだチビチビやっていた。

そこに古鷹がやってくる。

「加古」

「古鷹、飲んでるか」

「もう酔いは覚めてきてる」

「そっか」


「加古、寂しい?」

「……いや、もう寂しくないかもね」

「そう……提督のこと」

「ああ、もういいんだ、なんかどうでもよくなっちゃった」

「そう……よかった」

よくはないだろう、と思ったが、まあ彼女にとっちゃよいことかもね。

「お前も飲み直せばいい」

「ここで飲んだら、襲っちゃうかも」

「そん時はそん時だ」

「……そう」

古鷹の目が怪しく光った。そして酒を飲み始める。


「おいおい」

グイグイ飲んでいくので、急性アルコール中毒で死んでしまうんじゃなかろうかと気が気でなかったけど、

そこは艦娘、グゥとイビキを立てて眠るだけで済んだ。……あたしを襲うまでもなくぶっ潰れたわけだね。

ヨダレを垂らし無防備な姿を晒して眠っている古鷹を見て思わず苦笑いをしてしまう。

確かにこうしてみると女の子も……いやそれは、だめだ、人の道を踏み外すような真似は、

と結構真剣に悩んだが、まだ先の話だろうし、それは未来の加古に任せようと酒瓶を手に取る。

ミライのカコってのもおかしな話だけどさ。

今夜はここまで
なんかあればどうぞ

ちなみにこの曲の替え歌っぽい
https://www.youtube.com/watch?v=YTc5R-DylVI

大変申し訳ありませんが、火曜か水曜ぐらいまで更新はできません


3.特殊任務


フィリピンの戦いが終わり、あたしたち第六戦隊は一時的に後方勤務に移った。

まあちょいとした骨休めってところだろうか。

結構呑気してたんだけど、あたしにとある命令がくだされちまったんだよ。

この話は軍事機密だから固く口止めされていて、戦争の裏にはいつだってこういう話はあるもんだ、

もう時効だろうし、話してもいいだろう。


-後方勤務-


せっかく凱旋して故郷に戻ってきたってのに、提督はどっか前線に行っちまうから、

衣笠の背中は哀愁を漂わせ、非常に湿っぽくって鬱陶しい。

まあ、何も行動をしなかったあたしが悪いんだけども、あたしにとっちゃこういうのは

当て付けに感じてしまうので、ウジウジした言葉なんかを口にすればすかさず頭にチョップを入れていた。

青葉は何が何だかわかっていない様子で、古鷹にしつこく聞いていたが、

「知らない」

と一蹴されていた。本当に記者かお前、見ればわかるだろ、自分で言うのもなんだけど。

しかしまぁ、優柔不断でウジウジしてどっちつかず、っていうのよりはさっぱり衣笠に決めちまうのは、

かえって清々しくて諦めもつくものだ。


後方勤務は随分と暇なもので、しかも最近は新人も入ってこないしで、

目の前に敵がいるわけじゃないから想像ばっかり逞しくなりがちでね、

自分の力を過大評価するもんだから訓練にも身が入らないと来たもんだ。

特に提督ってのはなんでも自身の艦娘に任せっきりだからその能力の実態を今一把握できなかったりもする。

だからまぁ、あたしら第六戦隊の重巡には階級と勲章が贈られたが、

隷下部隊の駆逐艦たちは何にもなしで、未だに下っ端なんだ。

そりゃあまりにも可哀想だからあたしたちがよくしてあげている。


今日も炊事場で肉を誤魔化して弥生、卯月と大きなステーキを食べていた。

皿から溢れんばかりに盛り付けられた肉を二人共ムシャムシャと口いっぱいに頬張っている。

肉汁を滴らせながら食う時の美味さったらないね、前線部隊には悪いけどさ。

なんてやってると、いつぞやのハゲ提督が現れた。慌てて隠そうとしても、もう遅い。

「あ、あたしが二人に」

「いやいい、気にするな。ついでにワシにも作ってくれ」

そう言うと彼は置いてあった椅子に腰掛ける。

ステーキを焼いて差し出すと、彼は丁寧に肉を細かく切って食べ始める。


こういうたらふく食って腹を膨らませている時ってのは緊張感を欠く物であって、

ハゲ提督の気焔万丈が始まった。

「ワシは戦争が好きで提督をやっとるんだが、後方勤務などは心外でならん。

 前線に出て、自分の声で艦娘たちに指揮を出し、敵艦隊との壮絶な決戦をやってみたいものだ」

提督なんてのは命令を出すだけで実際に戦わないからこういう減らず口が叩けるんだ、

とあたしたち三人は微妙な顔をしていた。

「おい加古よ、軍人は名誉を尊ばなくてはならん、軍人の最高の名誉は戦場で死ぬことだ。

 今度こそ戦死、沈没を覚悟することだ」

「それはあんたも同じだろうが」

「いや、ワシは死なん」


「砲弾が当たれば死ぬだろ」

「ワシが死んだら誰が指揮を執るのだ」

「最高の名誉とやらはいらんのかね」

「死んで最高の名誉を頂戴するよりも、生きて勲章を貰う方がいい」

「あ、そう」

「それにだ、弾など当たらんという信念を持っていれば、弾は自ずから逃げていく。何事も精神が第一だからな」

精神力だけで戦争に勝てているんなら、今頃アメリカは日本の植民地だよ。

こういう思想は、旧海軍を受け継いだ海上自衛隊、またそれを受け継いだ今の海軍のお偉いさん方にも

蔓延っているもんだから、あたしはナイフとフォークを舐めながらこれからの先行きが心配になってきた。

艦娘は精神が物を言うとはいえ、指揮官には合理的に考えてもらわにゃ明日にでも水漬く屍だよ。

ここまで
何かあればどうぞ


-深夜の再会-


夜眠る時は深く眠れない方なんだが、その日は特に寝つきが悪かった。

古鷹が乳を弄ぶもんだから変な声が出ちゃって、そんな時は顔を引っ叩いてやると渋々と自分のベッドへと戻る。

最近はきっと欲求不満なんだろう、と思うようにしている、でないとやってられん。

それで、目も覚めちゃったから窓の外をぼんやり眺めていると、

どうもうろちょろしている小さな人影が見えた。しかもどうにもこっちの様子を覗っているではないか。

あたしはバッと跳ね起き、機銃を持ち出して外へと飛び出した。

この警戒厳重な鎮守府に乗り込んでくるとは相当な曲者に違いない、

深海棲艦か、はたまたスパイか、番兵はどうなったのか、とか考えながら音のした方向へと走る。


「貴様何者かッ」

「あっ、やっと見つけた!」

「えっ?」

あたしはキョトンとした。鎮守府の外に知り合いはいないはずだが。

「あたしは加古だが、過去にお会いしたことある?」

「あるよ」

「何か用かい」

「逢いに来たの」

スマホの明かりを頼りにして、顔を覗き込むと、彼女はいつか助けたあの女の子だった。


「あ、あんたは。何しに来たんだよ」

「逢いに来たんですって。はいこれ」

すると彼女は鞄からおっきなスポンジみたいなのを取り出した。

「なんだこれ」

「シフォンケーキ、私が作ったの」

ここで突っ立って食べるわけにもいかないので、とりあえず食堂へ連れて行った。

そこでケーキをひと欠片いただく。

「うん、こりゃ美味しい」

「ほんとォ?」

「店でも出せるんじゃないか」

でもあたしの貧乏舌じゃ当てにならないか。


「私、艦娘になるつもりなんだけど」

「……」

それはちょっと、考えてしまうな。彼女には痛い思いはして欲しくはない。

「やめとけ」

「どうして」

「怪我すると痛いし、死ぬことだってあるから」

「加古さんがいなかったらどうせ死んでいたもん」

「だったら、その命は大切にしてやってくれ」

「でも、加古さんのために……」

「お前が何かする必要はない」

「私だって加古さんの役に立ちたいのに!」


どうしたものかと考えると、一つだけ妙案が浮かぶ。

「……手紙だ」

「えっ?」

「手紙。気が向いた時でいいから送ってくれ。恥ずかしい話、家族がないからあたしには手紙が来ないんだ」

「……うん、それって、家族になれってことね」

「違うってば」

ケーキを食べ終わると、彼女はすぐに鎮守府を立ち去った。

まあ、こうやってあしらっておけばそのうち飽きるだろう。艦娘の事なんかもすぐ忘れるさ。

こいつがどうしようが勝手なんだけど、あたしのせいで戦場に踏み込んだなんてのはちょいとね、

その上くたばりでもしたなら目覚めが悪くなることは決まったようなもんだ。

こんな美味しいシフォンケーキを作れる手に引き金なんかは似合わないのさ、なんてね。

今夜はここまで
御意見御感想御指導御鞭撻、よろしくです


-極秘呼び出し命令-


ある休日、いつものように一人ポツンと部屋でダラダラしていると、ノックの音がする。

開けてみると司令長官がいたんだ。驚いたよ。

「あ、あんた、司令長官」

「入ってもいいかね」

「ああ、どうぞ」

ツカツカと靴を鳴らして入り込んでくる。高級将校ってのはなんともバリッと決めた服装でカッコがいいんだ。

それが例え、司令長官のような小太りのおっさんだとしてもな。


「どうかね、調子は」

「まあまあ」

「そうか、君は家族がいないから、こういう日は寂しがってやいないかと気になってな」

「……もう慣れちまったよ」

まぁ、それなりにな。でもちょっとは寂しい。

「もしも、耐え切れなくなったら言ってくれ、なんとか協力してやろう」

「どうも」

「それから、ちょっとこれから用事があるから私の自宅まで来てもらいたいんだが」

「ええ?うん、わかりましたァ」

「これは極秘だ」


しかし、その時はあたしにだけ何かご馳走でもしてくれるのかなぁとか、

もしかして息子の嫁に、とか言われるのか、そうなったらどうしよう顔がいいならまんざらでもないなぁとか

呑気なことを考えていたわけだ、あたしだって女の子だし。古鷹?古鷹ねぇ……

それでだ、司令長官の自宅はそれなりに立派で、圧巻だった。

玄関の戸を開けると、中にいたのはなんとも冴えない男であった。

「こいつは息子だ、海軍兵学校に入るために猛勉強中なんだが」

「へえ、さいですかァ」

ちょっとがっかりだが、まあ許容範囲だ。人間中身だ、外見がある程度よければの話だが。

「おかえりなさいお父さん、いらっしゃいませ、艦娘さん」

深々と頭を下げる。


「やあどうも」

あたしは軽く手を挙げて答えた。

そこにまた、司令長官の奥さんが出てきたが、まあおばさんだな、流石に身なりは整っている。

「おや、艦娘かい、とんだ来客もあったものね」

こいつは気に入らない、艦娘というか若い娘に敵対心でも抱いてるのだろうか。

軍人の妻にはこういうタイプもままいる。夫が偉いんで自分まで偉いと勘違いするもんだからタチが悪いね。

司令長官はあたしを茶の間に案内した。

「まあ、楽にしておくれ」

楽にしろったって、こんな仰々しい家じゃ気も休まらないもんだ。

それでいて自分は酒を取り出してチビチビやってるんだもん。


「君には家族はいないんだな」

そらきた、いよいよか、ここでうっかり同意してしまうとあの冴えないのを押し付けられると思ったんで、

「うん、でもいずれはいい人を見つけるつもりではあるけど」

「はあ?見つける?誰をだ」

「そりゃもちろん、お婿って言うか……」

「ふむ、まぁ、その話は待ってくれ」

「いや、待たないけど」

「私には考えがあってだな、それについて君に相談することがあるんだ」

「いや、絶対にお断りだよ」

「話も聞かずに断るやつがあるか」


「でも聞いてからじゃ断りにくくなるし」

「断らせんぞ!」

司令長官は声を荒たげる。

「これは軍の命令だ」

「ええ!そりゃひどい!命令で婿を押し付けるなんてそりゃあんまりだよ」

「いやそんな話はしとらん」

「じゃあ縁談じゃないの」

「何を思い違いしとるんだちゃんと聞け」

このところ国内で不穏な動きがあるらしく、どうやら多くの戦災孤児、特に女児が行方不明になっているという。

「深海棲艦が女児を狙うっていうのは知っておるじゃろう」

大本営の推測では、艦娘と同様に深海棲艦の建造にも寄り代が必要で、女児がそれに当たるのではという話だ。


しかし、それだけではない。

「何者かが手引きをしている、としか考えられん」

沿岸部はもちろん内陸部でも行方不明者が多発しているという。

身寄りのない子供を拐って、それを深海棲艦に『輸出』しているのだという話だ。

「さながら悪徳な戦国大名のようじゃ」

戦国時代、キリスト教徒に接近した大名は武器や火薬が欲しいがためにこぞって自領民を奴隷として海外に売ったという。

それが、どのような結果を招くかなどお構いなしに。こんなのを有り難がってる連中の気が知れないぜ。


「そこでだ、それを調査するための特務機関があるにはあるんだが、手が回らん」

「そいつらは全部で何人ぐらいいるんだ」

「それは極秘だ」

「へー、んじゃまた」

「待て待て、帰るな」

「だってあたしに押し付けるんでしょ」

「それはそう、だが、間諜というのは」

「この変態ヤローが!」

「そっちのカンチョウではない、防諜だ」


「下手すりゃ人間を殺さなきゃいけないってんだろ、ゴメンだね」

「相手が人間だとか、そんな心配をしている場合ではない、お前だって戦災孤児の寂しい気持ちは知っているだろう。

 そんな境遇の子達が更なる絶望の淵に叩き落とされておるのだぞ、お前が適任だと思うから相談したんじゃないか」

お前が適任とはなんとまぁ果報な言葉だ。……ああ、やっぱりあたしはお人好しなのかもしれない。

「そこまで言うなら、引き受けようじゃないか」

「生きて再び帰れる保証はないぞ」

「なぁに、ほんの小手調べ。苦しゅうない」

なんだ、ふてぶてしく引き受けちまったのはいいが、最初に家族のことを聞いたのはこれだからか、

畜生馬鹿にしてやがらぁ、家族がいるやつをこう簡単に死地には送れないからな。

死地に入るのも誰が為、だよ全く。

今夜はここまで
御意見御感想御指導御鞭撻、よろしくです


-弥生、張り切る-


さて、一人じゃどうしようもないから誰かしら連れて行きたいんだけど、

一緒に死ねと言われて死ぬ奴なんていないからさあ困った。思えばこんな難しい仕事もないよ。

あたし一人にこんな大役が務まるかどうか甚だしく怪しいもんだね。

そも、現場を抑えなければ敵さんがどこにいるのやらわからない。

数日ほど怪しいところを見回っていると、弥生がとある報告をしてきた。

「最近、変なトラックが多い」

「変なトラックだぁ?」

「海沿いに、秘密の場所があるんだけど……」

「うん」


「最近、なんだか、いつもトラックが停まってて……」

「別にトラックは変じゃないだろう」

「いや、深海棲艦が乗ってる」

「馬鹿なんでそれを先に言わんのか」

「誰かに、言ったのは、これが初めてで……」

「うーむ、こりゃ確実にアレだな」

「アレって?」

ちょっと気が引けるが、その秘密の場所を知っているのはこいつしかいない。

「弥生、あたしと来い」

「えっと……」


「大丈夫だ、あたしが死にそうな時はさっさと逃げろ」

「それは嫌です」

「何を言う、お前には家族がいるだろう」

「家族は家族、あくまでもこの命は自分だけの物です」

「だからってあたしのために使うことはない」

意外と頑固なタイプのようで、死んでもいいなんて言うんだ。死んじゃよくない。

コイツに話すんじゃなかったよ、とちょっと後悔しつつも、ついに折れてしまった。

「わかった、じゃあ弥生、お前はあたしの片腕だ」

「片腕……」


そう言われると誰でも忠誠を見せたい気が起こるものらしくて、弥生は随分と張り切っていた。

今日は動かない、自室に戻って二人で遺書でも、と思ったが、

「縁起が悪い、と思う……」

と弥生に諭されてしまった。まあ確かに死ぬ気なんざ毛頭ないんだが。

そんで、その日は二人で一緒の部屋に寝たんだ。

古鷹と卯月が怪訝な顔をしていたが、まあこんなことをペラペラ喋るわけにもいかないんで、

一言も話はしなかった。


-廃ビルの地下-


翌日にも、例の場所にはトラックが停まっていた。運転手らしき男が外に出てタバコを吸っている。

きっとあの荷台の中に誘拐された子供たちがいるんだろう。

「助け出さなきゃ」

「いや、心を鬼にして、連中の足取りを追うんだ」

弥生は不満そうだ、確かにここで子供達を助けることはできるが、

そんなことをすればこちらの計画が露見し、既に攫われた子達を永遠に助けることができなくなってしまう。

弥生は理解したようだが、納得できない様子だ。

しかし、深海棲艦の姿が見えない。


「確かに、トラックに乗っていたんだな」

「うん……」

しばらく見張っていると、海が波打つ。深海棲艦が上がってきた。

何やら会話をしている。深海棲艦っつーのは喋れるんだな。

「この発信機をつけてくるから、後ろから援護してくれ」

支給された小さな発信機だ。ちょうど影になるところからこっそり近づいて、取り付けた。

拍子抜けだが、面倒なことにならないのはいい事だろう。

これで後は待つだけだ。どこに行こうが逃がしはしないぜ。

すると、ちょうど物陰に隠れたタイミングでトラックが動き始める。

運が良かったよ、だがおかしなことが一つ、荷台に一切手を付けなかったという点だ。

引き渡しているというわけではないのだろうかね、ちょいと子気味悪い。


郊外で発信機の移動が停止し、場所を突き止めた。車が運転できるわけじゃないので、

近くまでタクシーで向かう。しばらく歩くと、そこは廃ビルであった。

「不気味……」

弥生がつぶやく。まさしくその通りで、今にも崩れそうな苔むした廃ビルだったんだ。

さあ鬼が出るか蛇が出るか。見張りはいないようなので、ちょいとお邪魔させてもらう。

中に入ると、遠くで金属音がしている。薄気味悪い。

なるべく音を立てないように、忍び足で音のする方を探す。しかし、一階には何もなかった。

「……地下、かもしれない」

「地下か」

確かにこういう時の秘密のアジトというのは地下だと相場が決まっている。

「よし、行くか」

暗闇の中、覚悟を決めて、地下への階段をゆっくりと降った。

その、廃ビルの地下にあったものは、あたしたちの想像を遥かに超えていたんだ。

今夜はここまで、ちょいと短いですが
御意見御感想御指導御鞭撻、よろしくです

神通ディスってんじゃねーよ
あー気分わりぃ
読んで損した


-こんな凄惨な話はない-


階段を降りると扉がある。扉に耳を当て、様子を伺った。

人の気配、気色の悪い金属音、うめき声。

「どうする……」

弥生がこちらを不安そうに見つめている。

ここで突入すべきか、返り討ちにあっては無意味だ、としばし考えたけど、

あたしはそういう小賢しい真似は苦手だし、いま胸の中に燃え上がる義憤を押さえ付ける事もこれ以上できない。

「砲の準備をしろ」

「了解」


カチン、と安全装置を外す音が響く。隠密行動のため、駆逐艦の小口径砲しか持ってこれなかったが、

至近距離で当たれば例え戦艦だろうがひとたまりもない代物だ、この心配は杞憂だろう。

「3、2、1……」

グワッ!と扉を蹴破り、突入する。

「動くな!」

住を構えると、二人いた、一人はいかにもな風貌の男だが、もう一人は、深海棲艦、

技術将校だろうか、見たことのないレオタードのような服装であった。

「な、クソッ、もう嗅ぎつけたのか」

男が狼狽する。


「弥生、そいつを頼んだ」

すると弥生は近づいて、そいつの頭をぶん殴った。変な悲鳴を上げながら倒れる男。

おいおい、殺してないだろうな、と思ったが、ひとまずは無事のようだ。

「あとは貴様だ、深海棲艦」

砲を突きつける。何やら物言いたげな表情だ。

「だから、言ったのだ、こんなところではいずれ見つかると」

「何ごちゃごちゃ言ってやがる」

「私を殺すか?」

「そういうわけにもいくまいよ」

そいつはフンッと鼻を鳴らす。口を割る割らないにしろ重要人物だ、殺すわけにはいかない。


すると突然、弥生の悲鳴が聞こえた。

「他に誰かいるのか」

「いや、ここには私とそいつだけだ」

「来い」

グイとそいつを引っ張って弥生の方へと向かう。

「乱暴はよせよ」

「弥生、何が見えた」

「あ……あぅ……」

あたしは、つい探照灯を照らしてしまった。


「ウッ!」

そこには大勢の子供たちの、足、が乱雑に置かれていた。

足だ、ただの死体ならどれだけ良かったか。

いくつもの足が、右か左かもわからない足が、積み重ねられて、山になっていた。

気分が悪くなる、弥生も口を押さえていた。

「な、なんだこりゃ」

「不要な部分だ、重雷装艦は足を必要としない」

「ここで作っているのか」

「ああ、そうだ」

驚いた、深海棲艦、少なくとも重雷装艦チ級は、日本製だったんだ。


「もう相当数が配備されている」

ちくしょう、ふざけた真似を、なんたる侮辱だ、こんなことって。

弥生は腰が抜けた様子で、ガタガタ震えている。

あたしの中で、怒りの炎がメラメラと燃え上がる、だがここで冷静さを欠いてはならないんだと言い聞かせ、

なんとかそれを飲み込んだ。この女は連れて帰らなければならない。

「弥生」

呼びかけるも返事はない。ただすすり泣いているだけだった。

「お前にはまだまだ聞くべきことがある」

「ああ、いいとも」

「やけに素直だな」


「断ったところで、私は痛い目に遭うのは嫌なんだ」

調子のいいやつ。それでコイツはこういう裏工作をやっていたわけか、でもそれってどうなんだ。

「ところでだ、子供たちはもういないのか」

「いるよ、向こうに」

「……」

「大丈夫だ、別に罠なんかは仕掛けていない」

とりあえず、その話を信じて、彼女の指差した扉を開く。

ギィッと金属製のドア特有の甲高い音を鳴らし、中を覗くと、重雷装艦チ級がズラリと並んでいた。

大きな機械は金属音を鳴らして艤装を組み立てているようだ。


チ級の一人がこちらに気がつくと、叫び始める。

「助けて!」

それにつられて皆が助けて、ここから出して、と喚き散らし始めた。

「おい、お前、これは、助かるのか」

「まず無理だろう、艤装をつけた瞬間から人間だった時の記憶は薄れていく。外せば命はない」

「じゃ、じゃあ……」

「艤装をつけたまま助けたって、いずれ記憶がなくなり、怨みだけの存在となって暴れ出す」

「あたしは……あたしはどうすればいい……」

「……」

するとそいつは、チ級たちに繋がれたバルブのようなものを閉めた。


「これで、生命維持のための燃料の供給は断たれた、いずれ息を引き取る」

チ級たちはワーワー罵詈雑言を浴びせてきた。

「助けることはできないのか」

「人間に害を為さない形では不可能だ」

「そうか……」

無念、悲しみ、情けなさ、こんな惨めな事はない、

目の前の大勢の人々を誰一人として助け出すことのできないこの無力感は、到底言葉で表せる物じゃなかった。

彼女たちは皆死んでしまうんだ、ひょっとして、このまま深海棲艦として生まれ変わった方が

彼女たちにとっては幸せだったのかもしれない。

このまま深海棲艦になって自分たちの家族や友人を殺してしまうかもしれなかった、

だから、仕方がなかったんだと一言で済ませてしまってもいいものなのだろうか。

なんと情けない、艦娘であるのに、彼女たちを救うべき立場にあるのに、助けることができなかった。

そして、同じ戦災孤児であるのにあたしだけが助かったのだから、世の中というのは不条理なものだ

今夜はここまで

>>279
たった今読み返してて気がついたがこんなレスがあったとは

『艦娘は清廉潔白でも、ましてや聖人君子でもない』というのがコンセプトの一つですので
人によっては面白くないものでしょうが、そこはそういうSSと思ってもらうしかありません


-白雪の話-


この作戦により、沿岸警備隊、すなわち海防艦などが多く徴用、建造されることとなる。

今までは深海棲艦が陸上にて作戦行動を行うとは考えられていなかったんだ。

一先ずはこれで国民の安全は守られることとなるだろう。

現場からは大量のレアメタルが見つかった、やはり人身売買が行われていたようだ。

連れ帰った深海棲艦は尋問により空母と判明し、その技術は俗に言う『龍驤型空母』の建造に役立った。

また重雷装艦たちもその場で荼毘に付され、彼女たちの艤装の仕組みは後の改球磨型や甲標的など、

様々な水雷の分野に活用されることとなった。……彼女たちが、不本意だろうが遺してくれた遺産だったんだ。


この作戦で弥生は一時的に軍隊から離れることとなった。あの光景がかなり響いたようでASDと診断されたそうだ。

ひと月ほどの心理療法を受けるらしい。それ以上長引けば今度はPTSDと診断されるとか。

しかしあたしは、自分でも驚く程にかの出来事に対して冷静だった、冷酷といってもいいぐらいに。

既に陰惨な経験をある程度積んでいるからとか、心がそういう質なんだとか、色々憶測を立ててみたが、

要はイカれたのが後天性か先天性かの違いでしかないから、結局のところあたしには戦争の才能があったってだけの話なんだ。

とにかく、弥生がいなくなった以上は単独で任務を行おうと思ったが、司令長官の指示で白雪が新たにやってきた。

説明しようと思ったら、一通り概要は聞いていたようだ。


「じゃあゆっくり、尋問の結果を待ちましょうか」

「どうなると思う」

「一先ず今回は、末端の連中は芋づる式に摘発されるでしょう」

「黒幕はどうなるかな」

「それを探さなくてはなりません。しかも相手は深海棲艦、手を組んでいるなら戦闘部隊も潜んでいる可能性があります」

「一戦交えることになりそうだ」

「最悪市街戦になるでしょう」

「悪い奴もいたもんだ、人類の敵と手を組むだなんて」

「金でしょう、金は大抵の人を狂わせます。この時代レアメタルは大変高価ですから」

「金か、でも長期的に見れば損なんじゃないか。戦争に負けたら金なんか役に立たない」


「その通り、ちょっと考えればわかります。ですが現に手を組んだ」

「どういうことなんだ」

「人類が勝つという確固たる自信があるんです」

「なんだそりゃ、自分は深海棲艦に肩入れしているのに」

「そうなんです。戦場のことなんかまるでわからない市民やゴロツキなんかは負けるかもしれないと思うはずなんです、

 しかし今回の黒幕はそうじゃない、勝ちうるということを知っている、知る立場にあるんですよ」

「ということは」

「私たちの中、あるいは指揮官たちの中に裏切り者がいる」

まァただの憶測ですけどね、と彼女は付け加えた。


彼女の言う話はもっともだ。獅子身中の虫、ということなのだろう。

「司令長官は」

「間違いなくシロではないでしょうか、でなきゃこんな命令は出しません」

あたしは安心したよ、彼が裏切り者ならこれは大事だ。こうなれば、調べるべきはこの鎮守府だ。

白雪に命じて艦娘、指揮官、整備士や客人に至るまで全ての素行調査をやらせた。

この白雪という艦娘は恐ろしく有能で、瞬く間に資料を集め提出してきたんだ。

こうして見るとここに勤務している将校ってのは意外と多いんだが怪しい奴は一人、

外出の時間が不自然で、回数も多いと来たもんだ、嫌疑はかけてもいい。

そいつは立派にヒゲを蓄えている、ヒゲ提督とでも呼ぼうか。

第十六戦隊司令、つまり球磨たちの指揮官だったんだ。

今夜はここまで
何かあればどうぞ


-切れ者タマ公-


どうやら白雪がこんなに早く資料を出せたのはどうやら多摩のおかげらしい。

彼女が正確な情報を記録していてくれたんだという。

やけに早いと思ったぜ全く、と思いきやそれは半分ぐらいで残りは自分で調べたらしい。やっぱバケモノだ。

とりあえず、一言お礼でもと思い彼女の部屋を訪問した。

「にゃあ、なんにゃ」

彼女はソファで眠そうにしている。

「ちと礼をしに来た」

「怖いにゃ」

「違う違う、そのお礼じゃない」


「何かしたかにゃ」

「白雪に教えてくれたそうじゃないか」

「ああ、あれがどうかしたにゃ」

「ありがとう、礼を言うよ」

「そんなことで礼を言われちゃ万年頭を下げなきゃならないにゃ」

そう言って多摩はゴロンとソファに寝転んだ。

「で、なんで必要だったにゃ」

それを聞かれちゃ痛いところだ、なんとか誤魔化さなきゃ。


「ああ、それはちょっと好奇心でね」

「好奇心?」

「誰が何してるのか、誰と仲がいいのか、結構わかるんだよアレ」

「ふーん……深海棲艦との仲良しさんも見つかるにゃ」

「そうそう……えっ?」

「多摩はなーんでも知ってるにゃ」

なんだい、知ってるなら先に言えってんだ。

彼女はこの疑惑について知っていたので、白雪の時にピンときたのだという。


「にゃっはっはっはっは」

変な高笑いをした。なんだそりゃ。

「いつ怪しいと思ったんだ」

「秘書艦の時、ぼんやり書類を眺めていたんだにゃ」

多摩は書類の写しを取り出した。金属を業者に売ったと思われる伝票だ。

「すぐさまコピーを取ったにゃ」

「よくそんなことが出来たな」

「多摩は経験豊富だからにゃ」

数年前のロシア戦線に参加した艦娘には常識らしい、あそこは敵は深海棲艦だけとは限らなかったとかなんとか。

特に主力となりシベリアに駐屯した球磨型は情報戦に長けており、ロシアへの日本の機密情報の流出を防いだ。

現地雇用者はスパイだと思え、というのは外交、諜報関係じゃ基本中の基本なんだという。


「あいつはそのロシアからの付き合いだけど、残念だにゃ」

「しかし、これだけじゃ繋がりがあるかどうかはわからないな」

「うんにゃ、掴んでいるにゃ。だから動きがあればまた報告するにゃ」

「はァ、じゃああたしらすることないじゃん」

「そうだにゃあ。それからもう一つ、お前さん、利用されてるにゃ」

「何?」

「司令長官にゃ。彼にとってヒゲのは邪魔でしかないにゃ」

「どういうことなんだ?」


「ヒゲのは艦隊決戦主義者で、司令長官に強攻策を何度も提言しているにゃ」

「そうすると、司令長官は慎重派か」

「そうにゃ。司令長官にとってヒゲのは目の上のたんこぶだにゃ」

「でもこれってどうなのかにゃ、今にも深海棲艦に占領された土地の人間は殺されているかもしれないにゃ」

「なら早急に助けるべきなのか」

「いや、失敗すればこちらの被害も無視できないものになるにゃ」

「んん?じゃあどうすればいいんだ」

「それを争っているわけにゃ。そこで、司令長官があることを吹き込んだにゃ」

「じゃあ人身売買は」

「いやそれは違うにゃ、少なくともあの人はそこまで外道じゃないにゃ」

「ホッ」


「海底のレアメタルだにゃ、どさくさに紛れて集めて売り払えば小遣い稼ぎになる、と」

「なるほど、国内の工業にとっても資源が買えるのは嬉しいことだしな」

「最初こそ小遣い程度だったのが、どんどんエスカレートしてより多くのレアメタルを欲しがったにゃ」

「そうなるとその分艦娘たちを動員しなきゃいけなくなるな」

「そうにゃ。しかし、深海棲艦と対話が可能であることに目を付けたヒゲのは、ついに禁忌を犯すにゃ」

「むぅ……」

「金に目の眩んだヒゲのはもはや正義なんか忘れてしまって、司令長官の座は安泰、というわけにゃ」

「そういうこと、か」

「でも、そんな奴軍隊に必要かにゃ?」

「それであたしに、命令を……」


「なんだか、人間不信になっちゃいそうだにゃ」

「うん……」

多摩は背中を掻きながらあくびをした。

「ふわぁーあ。とまぁ、そんな具合にゃ」

「伊達に歴戦じゃないってわけか」

正直なところ、驚きを隠せない。こんな飄々とのんびりとしてそうな艦娘がこれほどとは、

一体誰が想像できるんだろうな。意外に優秀なのは多摩の方だったか。

「さっきも言ったけど、何か動きがあればその時は手伝えにゃ」

「そりゃお互い様だ」

だが、一つだけ釘を刺さねばなるまい。

「もし、あたしたちが嗅ぎまわってると密告してみろ。その時は」

「心配症だにゃあ」

多摩はふぅーとため息をつき、伝票の写しをしまうとそのまま眠ってしまった。

今夜はここまで
ななな何かあればどどどどうぞ


-ヒゲの提督粛清命令-


白雪にその事を話すと、顔を真っ赤にして怒り出した。

「それは、司令長官の命令ですか」

「いや、別に」

「じゃあ何故ッ!もし多摩さんが敵側だったらどうするんです!!」

「そんなはずは」

「独断でそう決めるなんて、あまりにも慎重を欠いています」

「……すまん」

確かにこの行動は軽率を免れないだろ、やっぱりあたしはこういうこすずるい真似は向いてないのかもしれない。


それから数日ほど何にも連絡がないのでのんびりしていたんだが、ある雨の日に多摩から電話があった。

『ついに動き出したにゃ』

「なんだと」

『司令長官からすぐに命令が下るはずだにゃ』

「気が早いな」

『そんな悠長なことは言ってる場合じゃないんだにゃ』

すると、扉からノックの音がする。

「ああ、来たよ。切るぞ」

『あいあいにゃー』


「どうぞ」

と言うと扉が開く。司令長官と白雪だ。

「その様子だと、知っているようだな」

「ああ、何から何まで聞いたよ」

「確かに、ワシの落ち度だ、まさかあそこまでやるとは思わなかったよ」

「レアメタル自体は必要なものだし、別に司令長官が人身売買を唆したわけじゃないから」

「そう言ってもらえるとありがたい」

「それで、ついに動き出したんだな」

「ああ、やつめワシを引きずり下ろそうとしているようだ、じゃがそうはいかん」


「司令長官」

白雪が催促する。ゴホン、と一つ咳払いして、

「気をつけッ!」

と言った。

「ヒゲの提督、村田海軍中将は明朝を期して暴動を起こすべく、暴徒に命令を発した。

 これを未然に防ぐべく、第十六戦隊、第六駆逐隊、第七駆逐隊は市内の警戒にあたる。

 第六戦隊、及び第十一駆逐隊、第三十駆逐隊は村田中将の私邸を包囲し、村田中将を逮捕せよ。

 また、警戒部隊の旗艦を多摩、包囲隊の旗艦を加古とする、以上」

さァ大変だ、のんびりなんかしていられない、しかし白雪の方に先に伝達が行くんだから、

あたしってば信用されてないのかな。まぁこれは流石にしょうがないか。


とにかく、ぐずぐずして時を逸すればヒゲの提督に察知され、事態はより複雑になるだろう。

あたしは該当の部隊の元へと走った。みんな慌てて艤装を装備し、門前に整列した。

「今回の旗艦はあたしとなった、よろしく。なんて言ってる場合じゃない!駆けあーしッ!」

誰かのツッコミが聞こえてきそうだが、日々の訓練のかいあってか機敏な動作を示した。

ヒゲ提督はレアメタルを売った資金で私腹をこやしているからか、郊外に大きな別荘を建てていた。

部隊がそこにたどり着くと、門前にいかにもなならず者たちが日本刀だの拳銃だのぶら下げて立っている。

こちらに気がつくと、中から数十人ほどぞろぞろと現れてきた、中には抜き身を構えて臨戦態勢の者もいる。


しかしこちらは天下の艦娘様だ、そんなガラクタは通用しない、あたしは構わず命令を出す。

「第十一駆逐隊右翼、第三十駆逐隊左翼、単横陣!第六戦隊前ぇ!」

ザッと隊形を変え、主砲と機銃を構える。あたしは先頭に立った。

「無駄な抵抗はやめて、武器を捨てろ!お前たちに勝ち目はない!」

威勢良く言ったつもりだけど、どうやら向こうさんには滑稽に映ったらしい。

「ははは、お嬢ちゃん方、そんなおもちゃ並べて軍隊ごっこかい?」

「どうだい、おじさんたちがいいとこ連れて行ってやろうか」

あいつら立場わかってんのかよ、と後ろで睦月のボヤキが聞こえた。

そりゃあまあ、結局のところでこっちの見た目は普通の女の子だから、掛け合いはうまくいかない。


-古鷹の負傷-


するとこの時、駆逐艦一威勢のいい深雪が軍刀を抜いて飛び出した。

「埒があかねーんなら、こうすりゃいいんだよ!」

彼女はそう言って、相手側に近づいていく。

「おいおい、おじさんは不死身なんだよぉ」

嘲笑の声が聞こえたが、お構いなしに先頭にいた男を軍刀で突いた!

その男の様子を見ると、どうやらおもちゃにしか思っていなかったらしく、

なんの回避行動も取らなかったが、深雪の軍刀が腹に突き刺さり地面に倒れこんだ。

「不死身とは、おっしゃいますねぇ。ざまあみろだ、お前ら社会のゴミなんぞ皆殺しにしてくれる」


血のついた刀を振り上げ、勝鬨を上げた、これに呼応したのか、駆逐隊が一斉に砲火を浴びせ始める。

「もういい、撃てェッ!」

あたしは慌ててちょっとだけ遅い号令を出した。古鷹や青葉、衣笠も撃ち始める。

ならず者連中は、ある者は百発ぐらいの銃弾をぶち込まれて蜂の巣になり、

またある者はガオォーンと轟音を鳴らして発射される砲弾を喰らい粉々になる。瞬く間に全滅してしまった。

深雪も無数の流れ弾を受けたようだが、割とピンピンしていた。

「さて、ヒゲの提督を探しましょう」

古鷹が言う。だが周りの様子を見ると、流石は艦娘なだけあって人型の的を撃つのは得意だが、

人の死体を見るのはあまり慣れていないようで、自分たちで築き上げた死体の山を気味悪がっていた。


「古鷹、アイツを探すぞ。青葉、衣笠、外を頼んだ」

「了解ですです」

青葉は割と元気そうだが、衣笠は口を押さえて青い顔をしていた。

機銃や砲の痕でボロボロになった扉を蹴破り、別荘に入り込む。

もう抵抗は無いだろう、とすっかり安心しきっていたんだが、これがいけなかったんだ。

どうもかなり大きな洋館らしく、ドラマに出てくるものそのまんまな階段があった。

ロビーの真ん中で、辺りを見回していると砲声が鳴る。と同時に古鷹がうずくまった。

「あうぅぅぅぅぅぅがあぁぁぁぁぁ」

古鷹が顔を押さえ込んで呻き声を上げている。あたしは慌てて索敵を始めたんだ。

だが二階は少し薄暗く、敵さんは見当たらない。


「ど、どこだ!」

再び砲声が鳴った、しかし今度は逃がしはしない、二階の、左から二番目の支柱だ。

ガォン!と砲を撃ち込むと、黒い血が飛び散る。やはり深海棲艦だったようだ。

あたしは二階に駆け上がる、向かった先には重巡リ級の死体が転がっていた。確かに息の根を止めることが出来たようだ。

また階段を下って古鷹の元に駆け寄る。

「古鷹、無事か」

「うぅうぅ……目が……足が……」

一発目で左目、二発目で左足を撃ち抜かれたようで、血を流して倒れ込んでいる。

畜生、やりやがって、あの重巡めが、よくも古鷹を、だが仇はとった。


「出よう、後は青葉たちに」

「加古ぉ……」

古鷹の肩を持ち、なんとか館を出ることができた。

「青葉、事情が変わった、後は頼んだ!」

「古鷹!?深海棲艦がいたの!?」

「ああ、要警戒だ、平気そうな駆逐艦を何人か連れていけ」

「え、ええ……古鷹は……」

「だ、大丈夫だよぉ……」

嘘つけ、大丈夫なんかじゃないクセに。


青葉と何人かの駆逐艦が館に入るのを見届けると、古鷹を座らせて、傷口を見てみた。

左足、膝を貫いているようで、足を動かすとプラプラしていた。古鷹が苦痛に唸る。

「すまん、あたしが軽率にあの館に入ったから」

「加古のせいじゃないよぉ」

「そう言ってくれると、少しは気が楽になる」

あたしの気が楽になったってしょうがないんだ、畜生、どうして古鷹がこんな目に。

目といえば、と思い出して問いかける。

「古鷹、目は」

「痛い」


かなり痛むようで、無事な方の右目からは大粒の涙が溢れ出ていた。

その涙を手で拭うと、なぜだかわかんないんだけど、彼女口元を緩ませるんだ。

それを見ると、なにか古鷹に無理をさせているみたいでなんだか自分が情けなくなってきちゃった。

溢れそうになる涙をなんとか我慢しながら、衣笠に指令を出す。

「衣笠、あたしは古鷹を入渠させに戻るから、後は頼んだ」

「うー、わかったァ」

衣笠はまだ調子が悪いようだが、了承してくれた。

そして古鷹を、聞いた話じゃこれお姫様抱っこって言うんだってな、そんな風に抱え上げて、

鎮守府に向かって一直線に走り出す。振り落とされないよう、古鷹の腕はあたしの首の後ろにしっかりと回されていた。

今夜はここまで
何かあれば、よろしくです


-哀れな空想家-


例の事件は無事に収束し、青葉たちによってヒゲの提督は拘束された。

軍法会議にかけた後に銃殺されるだろう。将校たちは、彼の罪状を読んでドン引きしたとかなんとか。

海軍内に彼の肩を持つ者は存在しなかった、それこそ街のならず者たちや深海棲艦ぐらいであり、

彼と同じ決戦主義者ぐらいはいたが、それは主義主張が同じだから同調していただけの話だ。

部下であった球磨型さえも、気にも留めていない様子であり、既に知っていたと言わんばかりの態度で、

彼女たちの洞察力というのはまだまだ健在であったということを物語っている。


しかし多摩曰く、

「外で何やってるかはわからなかったにゃ、失態にゃ」

との事なので、弥生の精神的負担は無意味な犠牲ではなかったんだ。

立派な海軍将校から金の亡者に成り下がったヒゲの提督。おそらく他人事ではないんだろう。

誰にだって欲はある、金だったり、名誉だったり、それこそ、誰それとエッチしたいとか、

恋慕、性愛だって欲の一つだし、死にたくないってのも、ある種の欲ではある。

誰しも普遍的に欲を持っているんだから、それに従うのは、まあ人に迷惑をかけなきゃ悪いことじゃない、

悪いのはその、人に迷惑って部分だし、欲に目が眩んでしまうってことだと思う。

特に軍人というのは私欲を抑え込み、徹底して利他的に振舞うべき存在だ、現実にできている者は少ないが。


ヒゲの提督は金のために、ならず者たちに餌をやって戦災孤児たちを攫わせ、

あろうことか敵であるはずの深海棲艦に売り渡した、多数のレアメタルと引き換えに。

結果よければ全て良し、なんて言葉があるけど、だからと言って過程でどんなことをやってもいいってのは

そりゃ違うんじゃないの、って思うんだよ。だから彼は粛清されたわけだし。

それともう一つ、彼の別荘からは、壮大と言っていいほどの計画書が見つかった。

司令長官を引きずり下ろして、海軍と艦娘によって世界を支配する、といった誇大妄想のような書類群だった。

きっと深海棲艦と取引したことで、そいつらさえも手玉に取れると勘違いしたんだろう。

だが実態はそうじゃない、深海棲艦にとって海底に膨大にあるレアメタルよりも兵士の素材となる女児の方が

価値が高かったってだけの話だし、人身売買ってのを置いとくと、互いに得するギブアンドテイクなんだ。

だから手玉どころか、ただ単に対等に商売をやっているだけだったんだ。


こうなってみると、豪華な別荘に一味徒党を従えて、全て我が意のままとほくそ笑んでいたであろうヒゲの提督は、

かのドンキホーテよりも哀れな空想家であったことが暴露されてしまった。

昔からこういう夢を描いてかえって破滅に終わった野心家は、そりゃたくさんいただろうさ。

そういう野心、空想を抱えていたからこそ、あたしたちが人身売買を突き止めて破綻させたことに逆上し、

一味を駆り出してあたしたちに指令を出した司令長官を抹殺しようとしたんだ。

まるで自分は既に偉いと言わんばかりの傲慢さを感じる、大変な自惚れだ。

数日後、ヒゲの提督は処刑された。もちろん銃殺刑だ。

さらに、多摩やあたしや弥生、白雪なんかは勲章を頂戴した。その夜に多摩があたしを飲みに誘ってくれた。


「今日はめでたい日だからじゃんじゃか飲むにゃぁ」

多摩の部屋には酒やつまみがズラリと並んでいる、祝い酒だから気兼ねなく、と思ったんだけど、

古鷹と弥生の事が気がかりでなんだか酒が美味くない。

「ちょっとちょっと、なんにゃその顔は、もちっと楽しげにしろにゃ」

そうは言っても心配事があるもんだから、無茶だ。

と、思ったんだが飲んでいるとなかなかいい気持ちになってきて、

今心配してもしょうがないかーだなんて思い始めてきた。

「炊事場に行こう、こんなさもしいつまみじゃ酒がまずくなる」

「お、いいにゃいいにゃぁ」

途中、白雪なんかも無理やり連れてきて、一晩中飲んでたんだ。

翌日、炊事当番が悲鳴を上げることになるが、何がどうなったかはご想像におまかせする。

司令長官にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

今夜はここまで
ご意見ご感想、よろしくです


-黒いリボンと菊の花-


これはまたあたしの失敗談なんだけど、まあ笑い話にでも、こちとら笑えないんだけどな。

古鷹が件の怪我で入院しているんだから、こういう見舞いの時は花がいいと聞いたもんで、

街に出て花屋へと向かったんだ。

「いらっしゃいませ艦娘さん、どんなお花をお探しですか」

「いや、ちょっとね」

とりあえずは一通り見てみると、綺麗な白い花が置いてあった。古鷹にはぴったりだと思う。

「この花はなんて言うんだ」

「それは菊の花ですが」


店員はなぜだか暗い雰囲気になったんだが、とにかくこれが欲しかったので、

「これがいいな」

「はぁ、お悔やみですか」

「おくや……まあそんなところかな」

お悔やみの意味をこの時は知らなかったもんだから適当に返事をした。

「では黒いリボンにしましょうか」

「うん」

古鷹はどっちかというとこういう黒や白なんかの色が似合う、と個人的には思う。

世慣れないもんだから、これがどんな意味を持つかだなんてさっぱりわからずに、

花屋が包んでくれたままを持って帰ってしまったんだ。


鎮守府に戻ると艦娘たちはあたしを見るなりどよめく。が、今は興味もないので古鷹の元へと急ぐ。

ノックして病室に入ると、古鷹と明石がいた。

「あ、加古」

古鷹の顔がパァっと明るくなる。左目には包帯を巻いていた。

「そいじゃ、伝えましたからね」

明石はそそくさと部屋を立ち去る、きっと気を使ってくれたんだろう。

「古鷹、元気か」

「加古の顔見たら元気になっちゃった」

「そっか、見舞いに花を買ってきた」

自慢げに花束を渡す。


「わぁ……これって……そっか……」

古鷹は少しだけ哀しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。

「ありがとう、嬉しい」

でもあたしは、何か気に入らなかったのかな、と不安になってしまったよ。

「なんか、ダメだったか?古鷹のイメージにぴったりだと思ってさ。今度はまた別のにするよ」

「いいの、加古が持ってきてくれたんならなんだって嬉しい」

「そっか」

また、無理をさせてしまったかもしれない。


「そういや、目、大丈夫か」

「うん、実はもう手術は終わったの」

「本当に?」

「義眼なんだけど、動くし、なんとちゃーんと見えちゃうの!」

それは、義眼と呼んでもいいものなのだろうか、もはや超越しているだろ。

明石曰く、艦娘は丈夫だし修復剤の超回復があるからこういう部分は何かと融通が利くのだそうな。

「もう包帯外していいんだって」

「そうか」

「加古が外してくれる?」

「手は怪我してないだろう」


「いいから」

「わかったよ」

恐る恐る、包帯を解く。包帯の下に隠れていた古鷹の左目は、元の目よりも明るい黄色がかった色だった。

「どう?」

「綺麗だ……」

でも、不自然な綺麗さでもある。オッドアイ、って言うんだっけか、ひと目で義眼とわかるものだ。

あたしは、胸が苦しくなってきた、やっぱりあの時はあたしの不注意のせいだったんだ。

「古鷹、ごめん、あたしのせいで」

「ええ?」

「だってそうじゃないか、あたしが確認を怠ったのが」

「まだそんなこと気にしてる」


「何か、できることがあったら言ってくれ」

「んもう」

古鷹はハッとして、少し考え始める。そして、少し俯いたのち固唾を?み、こう言った。

「できることって、なんだっていいの」

「もちろん、できることはできることだ」

「じゃあ……き、きき、キスも、してくれるよね」

彼女はフイッと向こうを向いてしまったが、耳まで赤くなっていた。

あたしも思わず赤面する。

「な、何を、お前」

「なんだって、て言った」

「言ったけどさァ」


きっとこれは、彼女は本気だ。冗談だと思いたいんだが、

「じゃあ、じゃあ約束守ってよ」

「うぅ……わ、わかった」

これはもう、覚悟を決めよう。古鷹が望むんなら。

ゆっくり、顔を近づける。古鷹は目をつぶって、口をとんがらせた。

そこに優しくちょんっと唇を引っ付け、慌てて顔を離す。

「こ、これでいいだろ」

「……うん」

古鷹の顔はもう真っ赤っかになっていて、俯いている。

あたしの顔も赤くなっているんだろう、ポカポカしていて、心臓はドカドカ暴れまわってやがる。


「じゃあ、もう、帰るかんな、お大事にな」

と言うと、古鷹はちっちゃく手を振ってくれた。

それで、ドアの方を見ると磯波が呆然と立っていた。

「あ、その、あの、菊の花って、縁起が悪いって、お伝えしたかったんですけど」

磯波は何やら言い訳をしているが、あたしの頭には何にも入ってこない。

「えーっと、その、アリなんじゃないかな、と思います、はい!」

そう言って一目散に逃げていった。あたしはなんだか体から力が抜けて、その場に座り込んじゃったよ。

それで古鷹とあたしが付き合ってるって噂がたっちまったもんだから、しかも全くの誤解とも言えず、

どうしようか途方に暮れていた。古鷹の方はまんざらでもなかったみたいだが。

今夜はここまで
なにかあればどうぞ


古鷹「こんな義眼が……じゃあ加古にウニャウニャを生やすのも!」

明石「技術的には可能ですが、倫理的にダメですね」


4.白露型珍騒動


本土でウダウダやってる間にオホーツクとセレベス海で勝利を収め戦線が拡大し、これにより艦娘の需要が増した。

そこで政府は全国から適性のある、詰まるところ運動が得意であったとかり、頭脳明晰だったり、

忠誠心や愛国心のとりわけ強い女生徒を厳選し、艦娘として徴用した。

そのため、志願した者もいるが、半ば強制的に連れて来られた者もいる。

そういう連中は士気が低くて素行も悪い場合が多く、上官たちの悩みの種となった。

特に白露型駆逐艦はその典型だったんだが、それをあたしが受け持つ事になっちまったんだ……。


-暫しの別れと弥生の帰還-


古鷹と弥生が入院しているからといって、戦線の拡大が待ってくれるなんてことはありえないんだが、

最近というのは特に連戦連勝で、徐々に東南アジアは解放されつつある。

北は千島列島、南はブルネイと結構な範囲になったもんだから、なかなか人手が足りなくなってきたんだと。

そこで、青葉、衣笠、他軽巡洋艦や駆逐艦たちが駆り出され、しばらくの別れとなる。

「手紙出しますから、お元気で!」

「ああ、死ぬなよ」

「縁起の悪いこと言わないでよ!」

あたしと古鷹はと言うと、あたしも前線に出るつもりでいたんだが、

司令長官が古鷹と弥生のことを配慮してくれたのかあたしはまだ本土にいることとなった。


弥生は回復に向かっているらしく、もうすぐ戻ってくることができそうだという。

しかし古鷹は、膝に受けた深海棲艦の砲弾が周囲を蝕んでいて、治療には時間がかかるという。

これは深海棲艦の兵器の一つでもあり、ただの人間ならば触れただけでも全身の肉がグズグズになって死ぬらしい。

随分と恐ろしい兵器で、それに対抗できるのが艦娘だという。詳細は軍事機密だ。

ともかく鎮守府は随分と寂しくなってしまった。特型の連中も前線に行ってしまうし、

睦月型もあたしらの部下の睦月、如月、卯月以外はみんな海外に出て後方勤務をこなしている。

他に残る者は、訓練教官の大井ぐらいで、あとは名前もわからんような海防艦ばかりだった。

鎮守府は、以前と比べると驚く程静かになっていた。


「なんだか、寂しいっぴょん」

「だねー」

食堂のテーブルで卯月と睦月がダラダラしている。沿岸の警備は海防艦たちに一任しており、

訓練が終われば特にするべきことはないから暇でしようがないんだ。

「古鷹、早く治らないかねぇ」

「膝が悪いって言ってたぴょん」

「膝は悪くしたら長引くって言うし」

「そうなのか」

「てきとーに言ったけど」

「なんだい」

そんな他愛もない会話を繰り返す日々が続いていた。せめて近くに楽しげな食堂でもあればいいんだが、

現実はそう都合はよくないもんだ。こんな時勢じゃ飯屋は仕入れもままならない。


でも結局娯楽といえば食べることしかないし、隙さえあれば炊事場で小腹を満たしていたもんだから、

あたしと卯月と睦月はちょっと太ってしまった。これじゃ市民に睨まれちまうぜ。

そんな時、弥生がついに帰ってくるのだという。これには両手を挙げて大はしゃぎだ。

そこで退院の祝賀会が行われ、鎮守府一同が出席して随分と騒いだ。

「どうだ、具合は」

「うん、良くなった……」

「しかしあれだな、また戦場に戻ってくるとは」

「卯月と加古さんだけじゃ、心配だし……」

「言ってくれるね」


弥生が帰ってきたことは本当に嬉しかった。

この様子なら大丈夫そうだ、と不安はすっかりなくなってしまったよ。

卯月たちも同じように思ったらしく、明るい笑顔を見せていた。

ただ弥生本人はというと、古鷹のことを気にかけていた、まあ知らないうちに怪我してたんだから当然だ。

これでまた六人揃って頑張ろうって思ったんだけど、まさしく嵐の前の静けさというか、

鎮守府に大変厄介で、はたまた妙に愉快な嵐が迫っていたんだということを、

この時のあたしたちは知る由もなかった。

今夜はここまで
何かあればどうぞ

背景の説明が不足しているような気がして心配になってるけど補足説明はあったがいいかな


-艦娘大徴用令-


戦線が拡大したってことで、部分的な徴兵令、まあ艦娘はあくまで艦艇扱いだから徴用と言ってもいいだろう、

とにかくそれが大々的なキャンペーンとして行われた。

徴兵令ってのはもちろん表面的には志願を募るものだが、自治体ごとにノルマが課せられたとか噂だ、

実質的には強制的な手段が取られたんだろうさ。あんまりそういうのはよろしくないとは思うけどね。

能力が高い者が優先されるってのはちょっとどうかと思うが、政府の方針だ、

あのお偉いさんがたは艦娘ってものをちっとも理解していない、艦娘は頭や体力より心意気だ、

無理やり連れてきたところで覚悟も決まっていない連中なんか宛にならんのだ、と司令長官は憤っていた。


この鎮守府には十人ほど増員され、訓練がなされることになる。

新人の入営当日、鎮守府の門前は大賑わいだった。十人と聞いていたんだけど、

見送りはその十倍もあるんじゃないかってぐらいに多くて、艦娘たちは大慌てである。

受付をしていた大淀も流石にこれにはてんやわんやで、あたしも家族やらなんやらの質疑応答を任された。

「お休みはいただけるんですか」

「無いわけじゃないけど、有事にはいつでも呼び出しますよ」

「お給料は」

「命かけてるんだからそれなりの支払いはあります」

「あのー、前線に出たりしませんよね」

「出るに決まってるでしょうが」

「そんな!横暴だ!」

と訳のわからん親もいるわけだ。大井なんかも出てきてるが、意味不明な質問にイライラしている様子だった。


こんなのを見ていると、自分がこの艦隊に入った時のことを思い出す。

何の取り柄もない自分が世の役に立っているんだから、司令長官や提督には感謝してもしきれないぐらいだ。

しかしそう思うと、学生でありながらここにやって来た彼女たちがなんとも気の毒な気がしてならない。

こういう人が死ぬような仕事はあたしみたいなボンクラがやるべきことなんじゃないかな、と思うんだ。

でもそれじゃ成り立たないんだろう、政府は徴兵令という判断を下した。

そうしているうちに役者が揃ったようで、受付のテーブルを前に整列している。

大淀がその前に立ち、話を始めた。

「ではそちらから自己紹介を」

「あ、はい、あたしは松田……」


「いえ、今からあなたの名前は白露です」

「え?」

「今までの名前なんかすっかり忘れて下さい、今日から、少なくとも海軍の中では白露と名乗りなさい」

「は、はい……白露です」

とまあ一人ずつ順番に命名される。こんな儀式があるとは知らなかったよ。

白露に続き時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風と名付けられ、

ここに白露型駆逐艦娘が誕生した。さらに大淀はこちらを向いて言う。

「それから、加古」

「ん」

「あなたがこの子達の面倒を見るんです」


「はぁ?」

「司令長官からの推薦です。頑張ってくださいね」

「おいおい」

聞いてないよ、そんな、いきなり言われたって……そうか、それで前線に出なくても良かったのか。

しかし大井がいるからそっちに任せればいいじゃないか、と司令長官に聞いたんだが、

彼女も近々前線へと行ってしまうらしい。艤装の重雷装艦としての改装がそろそろ完了しそうなんだとか。

ちぇっ、損な役回りになっちまったぜ、と思ったがその分卯月と弥生が所謂当番兵として

身の回りの世話だのなんだのをやってくれるようになるらしいから、少しぐらいは楽になるのかもしれない。


卯月はともかく、弥生はなぜかやる気満々だ。というのが、

「弥生は、加古さんの片腕……」

といつぞや言った言葉を律儀に守っていくつもりらしくて、いじらしいやら健気やらで、

こんな可愛いやつが部下について案外あたしは幸せ者なのかもしれない。

なんて思ったのも束の間、白露型はなんと言うか、一風変わった連中揃いだったんだ。

今夜はここまで
補足については、どっから何を言えばいいのかわからんぴょんから、何か質問してくれれば答えるぴょん


-白露型の第一印象-


大淀からの詳しい説明を受けた後、あたしはこいつらを集合させた。

さて、こうして並べると壮観だね、教官になるとは随分と偉くなったもんだ。

となるとやることは一つだろうか。

「あたしがお前たちの教官になった加古ってんだ。よろしく」

神通の件もあるから、可愛がってやらなければいけないな、袋叩きにはされたくないし。


「改めて、自己紹介してもらおうか。一番艦から」

「はぁーい!呼びましたか―?」

「うん」

「白露型駆逐艦のいっちばーん艦、白露です!」

元気がいいのは一番艦、白露だ。一番になにやらこだわりがあるらしく、隙さえあれば一番を分捕ろうとする。

何が彼女にそうさせるのかはわからないが、一番を取ると意気込んでるのは悪いことじゃないな。

「時雨」

「……他に言う事はないのか」

「ないよ」

時雨は飄々とした雰囲気の変わった子だった。集合前の様子を見るに誰かしらについて回るってことはないが、

輪の中にはいるというか、別にみんなと悪い雰囲気ではなさそうだから変わった子だからって心配はいらないだろう。


「はいはーい!村雨だよ。みんな、よろしくね。オシャレのことならなんでも聞いてね」

「ここじゃオシャレはできんよ」

「女の子はどんな時でもオシャレを忘れちゃダメよ、特にあなたみたいな野暮ったい人にはなってはいけないの」

「失礼な……」

彼女は村雨、白露型の中心的存在になっていた。どうやら女の子らしくオシャレに気を使っているんだが、

それゆえに軍隊の規則に不満が多いらしく、なんとか穴をすり抜けようと考えてるらしい。

「夕立っぽい!よろしくね!」

「ぽいって、夕立だろう」

「わかんない人っぽい、頭に弾薬が詰まってるっぽい?」

このぽいぽいやかましいヤツは夕立。なんとも失礼な事を言うヤツだが、悪気がないのがタチが悪い。

人のことは言えないけど頭はそんなによろしくないらしく、逆に訓練ではいつでも好成績を収めた。


「五番艦の春雨です、はい」

「美味しそうだな」

「春雨っぽい!?食べるっぽい!」

「うぅ、違います!なんでこんな名前に……」

春雨だ。彼女はあんまりここに来るのは本意ではなかったらしい。

訓練よりは学科の方が得意で、戦闘よりも輸送作戦がいいみたいだ、司令長官は満足そうだった。

「有近です!」

「はぁ?」

「あ、違う!五月雨です!よろしくお願いします!」

五月雨だ、有近は本名だという。

送られてきた資料を見るに、こいつがまた手のかかるドジっ子らしい、要注意人物。


「七番艦、海風です。加古教官、どうぞよろしくお願いします!」

「随分とやる気があるが、志願か」

「はい!お国のためにやれることをと思いまして!」

「まあほどほどにな、真面目な奴はすぐ死ぬから」

「ふえっ!?」

とまあ脅しかけてやったのが海風だ。生真面目な性格で、問題行動もほとんどない、

模範的な艦娘だ。みんながみんなこうだといいんだが、まず第一にあたしがそうじゃないからな。

八番艦に山風ってのもいたんだが、どうも存在感が薄いらしくて、はっきりしない。

特に悪行動が目立ったわけでもないみたいだから、どんなやつだったかなァと頭を捻らせても全然出てこない、

しょうがないから彼女についての描写は省略する。

ただ資料には残ってるらしくて、いつの間にかやってきて平然と終戦まで生き残り、退役していったらしいとか。


「……ンだよ」

「お前さんの番だ、自己紹介を」

「はっ、知ってんだろーが」

「みんなに紹介する意味もあるんだけど」

「チッ、九番艦の江風だよ」

この柄のよくないのが江風だ、彼女も徴兵で来たんだろう、結構に悪そうな感じだが、

それは無理やり連れてこられたことへの反発だろうから、気を使ってやらなければいけない。

「ちわ!涼風だよ!私が艦隊に加われば百人力さ!」

「随分と大きく出たな」

「そうだろうそうだろう!あたいがこの艦隊を変えてやらぁ!」

「それじゃ、どうしても改革してもらわなきゃいけないね」

「できらぁ!」

この大口叩いとるのが涼風、白露型の十番艦だ。悪い奴じゃない。

ただ、思いつきや気まぐれで突飛な行動を起こすから気が気でしょうがないんだ。

さて彼女たちの紹介だが、実のところこれらは第一印象、あるいは初めの方の印象だ、それで変な書き方になったんだが。

これからどんどんこの第一印象というのが全くアテにできないというのを思い知らされることとなる。

とりあえずここまで



-行われている訓練についての大まかな流れの説明っぽい!-
艦娘の基本的な訓練というのは、陸軍兵の訓練を一部参考にして、さらに艦娘の特性を織り交ぜた特殊なものです。
まず最初に水上での歩行訓練であり、それから基礎的な射撃、雷撃訓練や爆雷の投射訓練、
陸上戦闘の訓練、上陸戦とその支援、さらには応急処置など数多くの訓練をこなします。
それに加えて艦種ごとに特別な訓練を受けます。駆逐艦や巡洋艦であれば、船団護衛、近接戦闘術。
戦艦や空母には艦隊指揮、偵察機による観測射撃、航空隊指揮。潜水艦は長距離航行と隠密行動など、
それぞれの艦種の特性に見合った訓練が行われています。
戦闘訓練の他にはサバイバル技術や、水泳、スキーなどのスポーツ他、調理なども教育されます。
また学科では軍事学に加えて駐屯地における振る舞い方やその国の文化なども学びます。
当然、艦娘たちはそれを習得するだけの素質を持ったエリートです。
例え素質がなくたって習得させるのが軍隊というものです。


大井「わかりましたか?」

加古「そんな一気にポンポン言われてもわかんないよ」


-イマドキの艦娘-


下品な話ではあるんだけど、一つ。

ここは軍隊なんだから学校と比べると、緩い所もあるが厳しい所はとことん厳しい。

例えば髪型なんかはこっちじゃ誰も気にしないし、度が過ぎなければある程度自由だ。

しかし、被服に関しては1から10まで厳重に規定されている。

何から何まで教えてやらんといけないから骨が折れるんだまた。

「下着は指定のものを着用しろよ、いくつかデザインは選べるけど」

「えー!」

「新しいの買ってきたのにー!」

こいつらは修学旅行か何かと勘違いしているんじゃないだろうな。


「捨てろとは言わないから、家に送り返せ。今夜送り方を教えるからな」

「そーいえば、あの日はどうするっぽい」

「艦娘にあの日は無い、当然妊娠もしないよ」

「じゃあエッチしたい放題って事かしら」

「んなわけあるか、将校たちの前でそんな話はするなよ」

こんな事知ったら男はショックだろうな。あたしもショックだもん、学校行ってた連中ってみんなこうなのか?

とりわけ白露と村雨は男関係で特に酷くて、同じ白露型でさえも引くほどのものであった。

外で済ませてくるんならまだいい方で、夜中に抜け出したり、男連れ込んだりして大変な問題児だったんだ。

「今度連れてきたらまとめてスパイ容疑で射殺するからな」

と釘を刺して、ようやく鳴りを潜めたが、改善しない場合の解体まで考えられたのはこいつらぐらいだろうな。


こういうのがいると柄の悪いのが嗅ぎつけてやってくるんだよ。

よく番兵が絡まれてたりするのを追っ払うんだが、しつこい連中もいるんで、

そんな時は相手が軍隊だと教えてやるために、色々と脅しかけなきゃいけない。

一回一回出向いて警告するだけってのも面白くないので、スパイ容疑の警告文を送りつけて出頭させ、

応じないものには集団で武装して訪問するってのを繰り返していたらこういうことは自然と減っていった。

結構ノリノリでやってたのか睦月と卯月は残念がっていたな。

そんなこともあって、二人は一時期孤立していた。

となるとあたしのところに来るんだよまた、昼寝でもしようと思ってたのに。


「だって、門番に見つかったら文句言われるし」

と白露は言う。そりゃ当然だ。

「お前ら徴兵の艦娘と違って志願の艦娘はそういうのはてんで素人なんだよ。あしらい方も知らない」

「じゃあ処女って事?」

「多くはそうだね、一人二人はチラホラいるみたいだけど」

特に睦月型は全員が未経験だった。如月はちょっと脳内経験値が高かったが。

「ふぅーん」

「加古さんは、どうなのかしら」

村雨が聞いてきた、どうでもいいだろそんな事。


「あたしも未経験だよ」

「あらあらあら~」

「じゃあいい人紹介しよっか?」

「いや必要ないよ」

そんなので純潔を差し出すんなら浮浪児時代にとっくに売春してるよ。

「だいたい何が楽しいんだよ、金でももらってるのか」

「もらう事もあるけどね」

古鷹が聞いたら卒倒するだろうな。

「それに未経験のまま戦死するのもねぇ」

まあそれは尤もな意見だろう、だからこそ二人の素行をある程度黙認している。


「とにかくヤルのは勝手だが、性病もらってきたら艦娘みんなの前で発表するからそのつもりで」

「えー!艦娘って性病になるの!?」

「進行はしないけど定期検診で引っかかるぞ」

高雄型の愛宕とやらが引っかかったという噂だ、ホントかどうかは知らん。

流石にそんなことは恥ずかしいと思ったのか、彼女たち二人は今までよりは大人しくなった。

それですっかり安心しきっていたんだが、卯月が

「こんなのが流行ってるぴょん……」

と、恥ずかしそうに、その、あれだ、大人のオモチャってのを持ってきたもんだから慌てて村雨に問い詰めた。

「なんだこれは」

「なんだって、これは一人で慰める時に使うのよ」

「そうじゃない、どうしてこんなものが流行っている」


「だって、ストレス溜まるじゃないの、軍隊生活って」

「風紀的に良くない」

「でもエッチするのは黙認してたでしょ、今更」

「う、うーん……それもそうか……」

そういうことはコッソリやれ、とだけ言ってもう観念してやった。

彼女の言う通りにストレスが溜まるのはわかるし、それを発散できるんであればこういう物も必要なのかもしれない。

どうやら男連中にはバレていないらしいし、見知らぬ人間を鎮守府に入れてるわけでもないし、

大っぴらに未成年がセックスするのを認めるわけにもいかない。

それならもう自慰ぐらい好きにさせてやるってのが筋ってもんだろう、怒られたんなら怒られた時にまた考えればいい。

ただ、そんなにイイモノなのかと一回だけ借りてみたけどどうもしっくりこなかった。

どうせならもっといいやつを持ってきて欲しかったとは思わなくはない。

今夜はここまで
体験談にお下品な話はお約束ではないでしょうか!?
白露、村雨ファンには悪いことをしてしまったよ……


-鎮守府鮮魚市-


重巡のあたしに爆雷の訓練をやれって言ってもそりゃ無茶な話だ。

そこで、卯月に予習をさせてもらったんだがどうにもうまくいかない。

水上機に航空爆雷を落とさせるのは出来るんだけど、自分で落とすとなるとなんとも難しい。

「とにかく練習あるのみ!ぴょん!」

と身も蓋もないことを言われてしまった。そもあたしに教官なんかやらせるのが間違っているんだ、

学科の時みたいに大淀が代わってくれたらいいんだけど、あいつは心が狭い。

「それじゃあなたじゃなくて、私が教官みたいじゃないですか」

だってさ。なんであたしが指名されたのか不思議でならない、単なる気まぐれだろうか。


そんな調子で訓練の日がやってきてしまった。しょうがないから結局弥生を連れてきちゃったよ。

弥生は片腕だから、と意気込んでいた。だがしかし、

「始める……まず……して……」

とボソボソ話すので、白露型の面々は頭の上にハテナマークが浮かんでいた。

「全員、近づけ」

「はぁーい」

これじゃどうしようもないので近くに呼び寄せる……が、まだ航行も慣れていなかったのか、

海風が勢い余って弥生に突っ込む。弥生は後ろに倒れた。


「うわぁっ」

「おいおい、大丈夫かい」

「下手くそっぽい~」

「ダッサ」

とはやし立てる白露型たち。

「おいおい、そう言うなよ、初めはみんなこんなもんだ」

「加古さん」

「ん」

立ち上がった弥生が話しかけてきた、ちょっと焦ってる様子だ。


「どうした」

「爆雷落とした」

「退避ィッ!!」

と同時に倒れてる海風を担ぎ上げてその場から離れる。みんなも慌てて逃げ出した。

五月雨がバランスを崩して前のめりに倒れたのと同時に爆音が海中で鳴り響き、水柱が上がる。

「怪我はないか」

「死ぬかと思ったぜ……」

誰も怪我が無いようでよかったんだが、問題は海風だ。原因になったからか半べそをかいている。

「ごべんなざいぃ」

というか思いっきり泣いていた。


「誰も怪我しなくてよかった」

「恐ろしいなぁ、訓練で死ぬなんて浮かばれないよ」

「水の上には浮かんでいるけどね~」

まあみんな無事そうだ、もう軽口叩いてら。するとしばらくしてから涼風が叫んだ。

「あーっ!魚!」

爆雷の水圧にやられてぷかぷかと魚が浮き上がってきた。

「網!網持ってない!?」

「持ってるわけないだろこのバカ、手だ!手でつかめ!」

白露と江風がはしゃいでいる。


「それじゃ、一番多く取れたやつには酒保で何か奢ってやる」

と言うとわぁっと一斉に魚を取り始める、しかし村雨は嫌そうな顔をしていた。

海風はというと、ずっとあたしにしがみついていたから、

「お前さんも行ってきな、見ての通り誰も気にしちゃいないよ」

と言ってやると、涙を拭って魚を拾い始めた。

10人掛かりで拾い集めたもんだから手づかみでもそれなりに大漁で、その日の夕食は新鮮な魚を腹いっぱい食べた。

少し前まで漁師だって満足に海に出られなかったこのご時世だから魚なんか海軍の外じゃ滅多と食べられない。

中には艦娘になってから初めて食べたって奴もいるんだから、深海棲艦の脅威によって

どれだけ日本が疲弊したかは想像に難くない。しかしこれだけ漁れるとなると商魂たくましいやつも出てくる。


翌日、自主練と言って爆雷を抱えて夕立と時雨が海に出ていった。

感心なことだ、と思ってのんびりしていたんだが、その事を大淀に話すと、

「ちゃんと監督してください!」

と怒られちゃった。仕方がないから慌てて沖に出ると、クーラーボックスを抱えた二人が、

浮いた魚を網で掬い取っていたところに出くわしたもんだから、苦笑いだよ。

「お前ら、そんなに魚がうまかったのか」


「いや、その、これはだね……」

「売るっぽい!売ってお小遣いに」

「こら夕立シー!」

そんなことされては今や数少ない漁師が商売上がったりだ。それに爆雷で漁をするのは環境によろしくない。

結局のところ、二人は司令長官にやかましく叱られることとなる。

司令長官の説教を受けてしょぼくれてる夕立に対し、時雨は獲ってきた魚を献上してなんとか懐柔しようとするんだから、

こんな面白い話はないだろうな、白露型みんな大笑いしていた。

そんな姉妹艦たちを見て時雨は不機嫌な犬みたいな顔をして黙ってふてくされていた。

今夜はここまで

皆様色々とありがとうございます!


-寒中水泳大会-


寒い冬の朝、物干場で五月雨と涼風が洗濯物を洗っていた。どうやら下着らしい。

「そんなもん洗濯機に放り込んじまえよ」

と言うと五月雨はムッとした表情で答える。

「涼風ちゃんと同じこと言って!下着はですね、意外と繊細なんですよ」

「でもよぉ、どうせ支給品だろ!?」

「愛着湧かない?」

そうかなァとは思うけど、まあわからなくはない。


「それに、洗濯機に入れる前に洗わないと汚いじゃないですか」

「そうか。あたしは卯月か弥生がやってくれてたから全然気が付かなかったよ」

あいつらすぐ持って行っちまうんだよな、洗濯物全部。

「それじゃダメです。いざ前線に出たらどうするんです」

前線に出たら垂れ流しだろうよ、洗ってる暇なんかないだろうし。

「前線で下着の具合を気にする奴なんていねーって」

と涼風が言いたいことを言ってくれた。するとヒュウっと冷たい風が吹く。

「うー、冷た~い」

五月雨は手を擦り合せる。


「ほれ」

と手を握ってやると確かに冷え切っていた。

「冬の海はこんなもんじゃないよ」

飛沫を浴びて、しかも高速で移動するんだから寒いなんてものじゃない。

まあ防寒着はもちろん着るんだけど、それでも寒いものは寒いんだ。

なんて考えてると突然お腹がヒヤッと冷たくなった。

「うへっ」

「ウヒヒ、あったかーい!」

と涼風があたしの服の下に手を突っ込んでいた。手はキンキンに冷えていて具合が悪くなりそうだ。


「直はやめろ直は」

「減るもんじゃねーしいいじゃんか!」

減るわ、体温が。無理矢理引っぺがすと、あー!と何かを思いついたみたいだ。

「寒さに耐える訓練だ!」

「え?」

涼風はまさに妙案閃いたり、という表情だが、五月雨は怪訝な顔をしている。

「それって……寒中水泳とか?」

「それだよそれ!」

涼風は一人で勝手にはしゃいでいる。


「じゃあ洗濯が終わったら水着に着替えて埠頭に集合でいいかな」

試しに言ってみると、涼風は満面の笑みで、

「おう!」

と言って洗濯物を適当に片付けると準備に走っていった。

「あー……こりゃどうしてもやらんとあいつ納得しないだろうな」

「ハァ……」

五月雨は余計な事言っちゃったって顔をしているがもう遅い、まあ一度ぐらいは経験しても損はなかろう。

あたしも冬の訓練で散々泳がされたからな。実際戦闘中にずぶ濡れになることは多い。


自身も水着に着替え、卯月たちにボート出すように指示し、埠頭で待っていると、

不満そうな顔で白露型の面々が水着姿で現れた。

「この寒過ぎる中を……うーぶるぶるぶる」

「五月雨ちゃん余計な事言ったっぽいィ」

「ごめんなさァい」

「早く早く!」

涼風以外は暗い面持ちだ。

「じゃああそこのブイに触ってまた戻ってくるんだ」

そう遠くにはないが、この寒さだから辛かろう。ひょっとすると水温の方が暖かいかもしれない。


「本格的にまずい時はボートを用意してあるから」

「はぁい」

「でも何もないんじゃやる気出ないっぽい」

「じゃあ一着はあたしが酒保でなんでも奢ってやる」

「そう言われると俄然やる気が出てきた」

「絶対いっちばーんはあたしだよ!」

「いーや!あたいだね!」

白露や夕立、江風に涼風は闘志をメラメラ燃やしているが、他のはそれでもやっぱり嫌そうだ。


とりあえずしばらく水に慣らさせて、スタートの合図を出すと一斉に飛び出した!

もちろん大人気なく本気を出させてもらう、あたしは泳ぎには自信があるんだ。

涼風が先頭に躍り出た、あたしの目前に来たもんだから顔に水が掛かってえらいこっちゃだ。

それなら奥の手があるぞ、とバタフライだ、飛沫を上げて泳ぐもんだから後ろはたまったもんじゃないだろうね。

「プー!こりゃひどい!」

「大人気ないぞ!」

こちとら奢りがかかってるんだから当たり前だぜ。そいでなんとか涼風を追い抜く。

ブイに触って後ろを見ると、涼風、夕立、江風、白露はすぐそこだが、

時雨は背泳ぎでのんびりと、五月雨は大きくコースを外れて泳いでいる、村雨は早くもボートに乗って休んでいた。

春雨と海風は犬かきっぽい動きでゆっくりと近づいて来ている。


「ごらぁ!村雨ぇ!」

と叫ぶも、村雨はボートからのんきに手を振っており、運転している卯月も肩をすくめた。

しょうがないので反転して、そのままゴールへと向かう。

「早いっぽい」

「かなわねえや」

もちろんあたしが一着だ。だが陸に上がってやることはまず、村雨に問いただす事だった。

「お前、早くにボートに乗り込んだな」

「だって足つったもの」

「本当か?」

「本当」


試しにふくらはぎをツンと突いてみると、

「いだぁ~~~~~!」

と叫ぶからこりゃ本物だ。失礼しました。でも日頃から運動してるくせにつるなよ。

「うーちゃんが何か加古さんに奢ってあげるっぴょん!」

「あーあ、いいなぁ」

きっと一着だからって気を使ってくれたんだろうが、

「まあいいさ、自分だけ食ったってうまかない」

と言って断った。そんでもって如月に頼んでおいた風呂がそろそろ沸いている頃だろう、

みんなで風呂に駆け込んだ。風呂がこんなに気持ちいいなんてことは滅多ないだろうな、

寒い中泳いだもんだからすっかり疲れ切っちまって、みんなで湯船の中で眠っちまった。

とりあえずここまでぴょん


-退院祝い-


そうやって訓練しているうちに、古鷹はすっかり回復して訓練を始めていた。

「よかった、元気そうだな」

「すっかり良くなったよ」

こうやって久しぶりに元気な姿を見せてくれるとなんだか涙が出そうになるよ。

しかし、目はオッドアイのままだ。だがこれはこれでカッコいいかもしれない。

「かっこいい?」

「いや、間違えたよ、綺麗だ」

ふふっ、と古鷹は微笑む。彼女の笑顔というのは以前からそうだが天使のような笑顔で、

彼女にはなんだか天使の素質があるのかもしれない、意味わかんないけど。


せっかく元気になったことだし、みんなで退院祝いでもと提案した。

「いや、加古と二人がいいな」

「お、そうか」

とまぁ、休日に二人で街に出かけたわけだ。

映画館だのなんだのって、入ったことなんて一度もなかったもんだからもう大興奮だよ、あたしがね。

古鷹の退院祝いだってのにあたしばっかり楽しんじゃってさ、悪いことをしたもんだ。

でも古鷹は満足そうな様子だった、まあ腹ん中じゃ何考えてるかわからないんだけど、

終始ニコニコしてたもんだからきっと不満はないのだろう、と信じたいぜ。

そんなこんなで夜になり、酒とつまみを買ってきたらばやることは一つだろう。


「そんなに気に入ったの?お酒」

「まあね」

古鷹の部屋でちょっとした宴会だ、二人だけのね。

この間の船上での反省もあってか古鷹はちょっとづつ飲んでいた。

あたしは相変わらずグイグイ飲んでたんだけどね、どうもあたしは酒に強いみたいだ。

「加古、ありがとう」

「何が」

「入院中いつもお見舞いに来てくれていたでしょ」

「そうだっけか」

小っ恥ずかしいからしらばっくれる。


さて、それから2時間3時間と飲み続けるもんだから、古鷹がもうすっかり酔っ払ってえらい騒ぎだ。

あたしはというと眠くなってきちゃったもんだから最初とはあべこべだな。

「加古、加古加古、飲まないの」

「パジャマはどこやったっけ」

「お祝いはどうなるの」

「一人で、どうぞ」

「いや」

「もう飲まん」

フラフラと服を脱ぎ始めるけど、ここまで酔ってるとなかなか脱げないもんだ。

「加古加古加古加古加古かこかこかこかこかこ」

「うるさいなぁもう飲まんと言っただろう」


なんとか脱ぎ捨てて、パンツ一枚になったところで古鷹が突進してきた。

「うわっ」

「ウヒヒ」

そのままベッドに押し倒されちまった。

「そんなことしたってもう寝るよ」

しかし古鷹はジッと顔を近づけてくる。そんなに見つめられちゃったらなんだか顔が赤くなっちゃうよ。

もう変な雰囲気になってしまったから、心臓がバクバクいっててとても眠気なんて覚めちまった。

「な、なんだよ」

そしてついに古鷹は目をつぶる。これはきっとそういう合図なんだろうと、あたしも目をつぶった。



結論から言うと何もなかった。ガバッと覆いかぶさってきて覚悟したんだが、

古鷹のやつそのままイビキかいて眠っちまった。ケッ、別になーんにも期待なんかしてなかったよ。

今夜はここまで
イベント頑張れ


-基地祭-


基地祭ってのがあって、定期的に鎮守府を開放して訓練の見学や屋台なんかで楽しむイベントだ。

にしたって、こんな寒い冬にやることなんてないと思うけどね。

なんでこんな時期に急遽開催が決まったのかっていうと、徴兵艦娘の影響だ。

彼女たちの親族らの強い要望、また艦娘たちの嘆願もあってか全国同時開催ってことになった。

春雨と江風は志願でなく徴兵された艦娘であるというのは最初に説明した通りだ。

ただ江風については、元々明るい性格らしくて一応みんなと打ち解けて、

なんとか頑張って前向きにやっていこうとしているんだけど、

春雨の方はうまくいかない様子だ、別に孤立したりしているわけではないが、

彼女はこの状況自体に納得がいっておらず、常に家に帰りたがっていた。


時折、夜中にすすり泣く声が聞こえるのは彼女が家族を思い出して泣いているからだという。

そんなもんだから春雨はこの日はずっと上機嫌で、親の元へと一目散に走っていった。

他の子達も大なり小なり同じことを思ったみたいで、やっぱり親元へと駆けていく。

こういうのを見るとやっぱり壁を感じてしまうんだ、でも別に羨ましくなんかないよ、

両親がいるやつに嫉妬だなんて全然してない、むしろ気が楽だ、強がりじゃないよ。

でももし両親があたしに残っていれば艦娘にはならなかっただろうし、

そうなると古鷹や卯月と弥生、青葉、衣笠、それから白露型にも出会えてないんだから、

ある意味あたしは両親が先にくたばってくれたことに感謝の気持ちを抱いているのかもしれない。


その顔も覚えていない両親がなんと言うかは知らない、お前なんて娘じゃないとでも言うかもしれなけど、

死人に口なしだ、お前らなんかもうどうでもいいんだ。

なんてことを考えているから顔に出ちまって、こうやって今心配そうに取り囲まれるんだ。

「加古さん、暗いね」

「加古さんのお父さんとお母さんは!?」

「シッ!きっと不仲なんだよ、そっとしといてやれってば」

ある意味では正解だ。ところで卯月はというと、

「親には来るなって言ったぴょん」


という調子で、きっとあたしの件についてなんだろうが、

「そんなつまらないことで親と別れるような真似はするんじゃないよ」

「あんなの親でもなんでもないぴょん」

「悔やんだってあたしは知らんぞ」

「悔いはないぴょん、うーちゃんは加古さんの家族っぴょん!」

「家族か」

そう言われると、なんだか照れくさくなっちゃってそれ以上何も言えなくなっちまうよ。

まぁ、そうなんだろう、あたしにとっちゃ艦隊が家族みたいなもんだ、

それがいいことなのかどうかはわからない、きっと世間様から見るとすごく寂しい事なんだろうというのは

なんとなく予想がつくし、結局のところ血は繋がっていないんだけど、あたしはそれでいいんだ。

少し思い立って司令長官に『オヤジ』って言おうとしたけどなんだか恥ずかしくて声が出なかった。


教官ってことで親族らの質問だの文句だのに追われていると、集合がかかった。

既に全員集まっているようで、あたしが最後に来たんだ、司令長官が前に立って命令を出す。

「集まったな、親類の強い要望で急遽白露型のみで演習が行われることとなった」

「おおー」

「えー、やだなぁ」

「いっちばーんいいとこ見せなくちゃ!」

「詳しい内容は古鷹、加古に任せる。それじゃあ、準備に取り掛かれ、以上!」

と言い放ってさっさと立ち去ってしまった。いきなり呼び出しておいてこれとは無責任なやつだ。

あたしと古鷹は顔を見合わせてため息をついた、家族も見てるんだからこりゃどうしても成功させなきゃいけない。

今夜はここまで
イベントもやる、SWBFもやる、SSも書く、これらを同時にやらなくっちゃいけないのが以下省略


-演習-


紺色の長ったらしい外套を着込んで、あたしたちは鎮守府から遠く離れた海上にいた。

遠くで如月がカメラを構えている、また上空から秋津洲とか言う奴が動かしているらしい

二式飛行艇が全体をバッチリ写していた、生中継だ。さて、こうなったら頑張らなきゃいけないよ。

というのがチーム分けが白露型五人づつを二つに分かれ、古鷹とあたしを旗艦にするっていう

全く同艦種の編成で、まさに旗艦の指揮能力が問われる組み合わせだ。

さらに、あたしと古鷹は火力と装甲が駆逐艦と比べると桁違いなので、小口径砲の使用に加え、

必ずしも撃破する必要はない、というルールを加えた。

さらに、『勝ったチームの言うことをなんでも聞く』とかいうとんでもないことまで口走り、

まあなんだ、とにもかくにも勝たなくちゃいけなくなっちまった。

あたしのチームは白露、村雨、春雨、海風、江風の奇数番艦の編成だった。


あたし自身は古鷹型の二番艦なんだけどね、いや、艤装付けるのがスムーズにいかなかったんだよ、

古鷹はさっさと終わらせちゃって、あたしはその、要領が悪いから……まあそんなことはいいんだ。

とにかくこれであっさりコテンパンにされちゃ、頭が悪いのを公衆の面前で露呈しちまうから、

もう冷や汗がダラダラと止まらなかった。別に名誉とかそういうのじゃなくて恥ずかしいんだ。

しかしまあ、そんな姿を見せちゃいけないから、態度には出さないけど。

「作戦会議だ」

「はぁい」

一つだけ優位点があるとするならば、あたしは彼女たち全員についてよく知っているということだ。

性格、得意なこと、苦手なこと、癖などこれは大きなアドバンテージだと思う。


そう思うと普通は緊張が解けてくるって話はよくあるだろうが、そんなことは全くなかった。

「あー、ちょっと、考えさせてくれ」

「えー」

「あたしが一番に飛び出して」

「一番にやられたけりゃ勝手に行けよ」

「チームワークが大事です!」

「でも、夕立ちゃんとか怖いし……」

「そうねぇ、時雨ちゃんもなかなか」

好き勝手に言い合っている、あんまり士気は高くないようだ。

確かに夕立の戦闘センスはずば抜けている、だからこそ彼女は挑発に乗りやすい、勝負を挑めば必ず向かってくるだろう。

時雨についても意外と熱しやすい。彼女はつかみどころが無いようだが内面はかなり感情的な様子を見せていた。


「だとすれば、本隊から引き離すことは可能かもしれない」

彼女たち二人は白露型でも飛び抜けている。誤解を恐れずに言えば、深海棲艦殺しの才能がある。

この演習に勝ちたいのなら早期に叩きのめしておくべきだ。

「各個撃破ですか!」

「ちょっと待って。そんなの簡単に想定できるんじゃない」

言われてみればそうだ、あたしのオツムで思いつくんなら古鷹だって思いつくだろう。

「裏の裏をかきましょう!」

「裏の裏の裏をかかれたらどうすンだ」

「そしたら裏の裏の裏の裏を」

「キリがないよぉ」


各個撃破を読んで、挟み撃ちを仕掛けてくるかもしれない、個人の実力に関してはあちらのが上だ、

ならばいっそのこと行き当たりばったりでやってみるか、なーんて考えてもいい案は浮かばない。

「どうしたもんかねぇ……」

「魚雷をいきなりかっ飛ばして、やっつけたらどうでしょう!?」

「そんなもので倒せるなら苦労はしないわよ」

案外悪くはない手だ、フィリピンの戦いでも使っていた。

「なんにしろ、相手側がどう出るかにもよるな」

「ンだよ、それじゃやっぱ行き当たりばったりってことか」

「やっぱあたしが一番に」

「いってらっしゃい」

「お気を付けて」

「じょ、冗談だよ、きっと」


白露が騒いでいるのは無視して、とりあえず偵察機に意識を集中する。

どうにも敵の動きは全くないようだ。

「爆雷でも落としてみてはどうでしょうか」

「多分すごく怒るぞ、古鷹」

「はァ、冗談です」

そんなら、こっちから出向いてやろうじゃないか、いいだろう古鷹、ここで一つ勝負だ。

「全員、雷撃の準備だ」

「出るの?」

「了解です!」

「あたしの後に続け、単縦陣だ」

「わかりました」

「戦隊前進」


一斉に機関を鳴らし、行動をはじめる。敵にはまだ動きがない。

十数kmほど進んでようやく敵影を発見、敵側左翼から攻勢を仕掛ける。一先ずは先制雷撃だ。

「撃て」

計六本の雷跡が敵集団に伸びる。古鷹は様子を見ているようで攻撃をしてこない。

「夕立と時雨を挑発しろ、白露、村雨、任せた」

「わっかりましたー!」

「村雨のちょっといいとこ、見せたげる」

二人は夕立と時雨を狙い、砲撃を開始。そこでようやく反撃が来る。

誘い込むために距離を取るが、あまり積極的に深追いはしてこない。

「きっと古鷹が何か吹き込んだんだな」

「手懐けられてンのかね」

先制の雷撃は難なく回避された。


「どんどん砲を叩き込んでやりましょう!」

海風はやたらめったらと砲撃している。江風、春雨も同様だ。その時、前方に雷跡が見えた。

「止まれ」

「おっと、危ない危ない」

向こうさんも同じことを考えていたようだ。

「しかしこれじゃ埒があかないな」

「突撃して、やっつけたらどうでしょう!」

「お前頭ん中でよく考えてから物しゃべれよ」

海風は思いついたことをそのまま意見として述べているようだ、意見を出してくれるのはいいことだが。

春雨も江風もいい案は浮かばないようで、このままはジリ貧だと判断し一時的に下がることにした。が、しかし。

「んん!?追撃!?」

「何がしたいかわかんないわね!?」


古鷹たちも動き出す。こりゃますますわからん、何の策でもあるのか。

「よくわからんがとにかく迎撃!」

「いっくぜー!」

こちらも反撃を開始する、しかし正面にいくつか雷跡が現れた。

「散開!魚雷を回避しろ!」

こういう時一つに固まるとまずいのでバラけさせたんだが、これがまずかった。

というのが、敵は始めからこうやって孤立させるのが目的で、

こっちは夢中になって反撃しているもんだから気がつけば周りには誰もいなかった。

やっぱり実力は向こうのが上で、砲撃によって徐々に徐々に誘導されていたようだ。

なるほど、ちっとも被弾しないとは思ったよ、初歩的なミスだ。

こうやって単独で戦うのは圧倒的に不利だ、例え無線で連携を取れるとは言っても、

いつでも無線が使えるわけではない、無線封鎖の状態だとこれはマズイ、偵察衛星使ってるわけでもないしな。


前方から夕立、時雨が向かってきている。

「加古さん!勝負っぽい!」

「失望させないでくださいね」

その直後に砲声が鳴り響く、二人とも一斉に射撃を開始したようだ。

慌てて横っ飛びに跳ねると今までいた位置に水柱が4本、真面目に訓練しているようであたしは嬉しいよ。

だがしかしそう一直線に来られるとこっちも的あて気分だ。バンバン砲を撃ち合う。

焦って回避運動を始めたようで、当然ながら向こうさんの命中率もかなり落ちていた。

「あ!こ、これじゃ狙えないっぽい!」

あたしは魚雷を撃ち込む、すると二人は慌てたのか妙な動きでフラフラとバランスを崩していた。

一先ずは夕立を狙い、引き金を引いた。


「いっちょあがり~」

「あーん!ひどいっぽい!」

夕立は被弾し、中破判定。後は時雨か、こりゃ余裕だなと思った時、頭に衝撃が走る。

「だぁっ!?」

ガオォンと砲を弾いた音がした、見事にデコに当たったみたいで頭がガンガンする。

「いたたたた……」

怯んでる所にどんどん砲弾が飛んでくる。というか、とっとと仲間の救援に行かないとマズイかな。

「僕を倒してからにしてほしいな」

「へいへい」

響く砲声に爆発音、悪いがまだまだ相手にゃならんよ。時雨は煙に包まれる。

「うぐっ、やめてよ、大人げないじゃないか」

「うるせー」


そも、ここまで巡洋艦に接近してきたのはまずかったな、編成の関係で仕方ないとは言え。

あたしたちぐらいになると数km以内なら必中だ。

しかしまぁ、結果は予想通り、分断されて各個撃破されたのはあたしらのようだった。

なんとか涼風を撃破したらしいが、五月雨に山風、古鷹はニンマリしている。

「か、加古さ~ん」

「分断されて一気にやられちゃったわぁ」

五人はしょんぼりしていた。あたしもしょんぼりだ、まんまとしてやられたんだからな。

こんな単純な手にやられちまうのはあたしの頭の悪い証拠だ。やっぱり指揮官がバシッとしてると違うな。

「いや、流石に古鷹は冴えてるな」

「約束、忘れないでね。なんでもするんでしょ?」

古鷹は口笛でも吹かんばかりの上機嫌である、

対照にあたしら6人は何をやらされるやらなんやらで不安とも不機嫌ともとれる顔をしていた。

一体何をやらされるってんだよ、くそう。

今夜はここまで
なんかイベントのやる気が出ない、グラッツェさんも出ない
瑞穂瑞穂って騒いでるけど瑞鳳じゃないの?って思ってたらそんな子いたんですね!先日知りました!


-卯月は見た-


官能小説じゃないんだからこういう事は書きたくないんだけど、

まぁ予想通りというかなんというか、古鷹はあたしのベッドに入ってきた。

「あったかーい」

「これが望みか」

「ん?これじゃないよ」

「ああ?」

確かに、こいつは無言で入ってきやがった。

「じゃあ出てけ」

「寒いもん」


「酒臭い、お前酔ってるな」

「当たり」

当たりじゃないだろ、しかし酒の臭いってこんなに臭かったんだな、気をつけておこう。

「ご褒美だよ」

そう言って古鷹は強引に口付けし、舌をねじ込んできやがった。

口の中で古鷹が暴れまわって、なんだか頭がクラクラするよ。

こっちも舌を使って追い出そうとするが、逆にそれに絡みつかせてきて、

そのまま1分ぐらいはされるがままだった。

ちゅぱっ、と音を立てようやく口が離される。

「これで、いいだろ」

「お願いした覚えなんてないよ、加古が勝手に受け入れたんだもの」

これだよ、このままなし崩し的に最後まで行ってしまいそうだ。


気づけば古鷹はあたしの胸を触っている。

「おい、よせって」

とは言ってみたが、やっぱり古鷹は無視して胸を揉み続け、膨らんできた先端をつまみあげる。

「んっ」

「加古ってここ好きだよね」

「違う」

「だって、一人エッチの時もずっと弄ってるし」

なんで知ってるんだ畜生、見られてたのか。

「ちょっと失礼」

とパジャマのボタンを外し、脱がされてしまう、ブラまで外されちまった。

寒いはずなんだが、なんか顔も胸もポカポカして熱い。


「どうして、抵抗しないの?」

「……うるさい」

抵抗したって無駄だろ、くそ、言わせるつもりなんだろうがそうはいかない。

今度は古鷹のやつ、舌で弄び始めた。

「あぐっ、ちょっと」

甘噛みしてみたり舌で弾いてみたりとやりたい放題だ。

「やめてよ、女の子同士だろ?」

「だからでしょ?」

「ええ?」

「加古の可愛い顔、もっと見たいな」

ああもういいよ、好きなだけ見ればいい、好きにしちまえ。


別に拒絶とかそういう気持ちは一切なかった、実のところ満更でもないのかもしれないが、

古鷹に対しては、なんだか責任があるような気がしてあたしは強く出れないんだ。

なんてったって、あたしが勝手に連れ出したようなもんだからな。

でも彼女がいつだか言ってたのは全く逆で、あたしが窮地から救い出してくれたんだとさ。

まああんな親父だ、近いうちに娘に手を出そうなんて考えそうだから、古鷹を救ったってのは間違いない。

しかし傷の舐め合いさ、こんなものは。艦娘同士の恋愛みたいなのは別段珍しいことじゃない、

極限状態や共に命懸けで戦って困難を乗り越えていくんだから、そういう感情を抱くのよくあることなんだ。

とりわけ、良くない境遇から艦娘になったあたしたちみたいなのだと関係を持つのはすぐだ。

それは結局のところで傷の舐め合いなわけで、こんな特殊な環境にしか適応できない連中の最後の拠り所なんだろう。


古鷹はあたしの体を貪り尽くす、もう顔も胸もヨダレまみれだ。

そうしてついに、下の方に手を伸ばした。脱がせ易いように腰を浮かせると、

「本当に嫌だったら、言ってね」

ここまでしといてヘタレるやつもないだろうが。下着は自分で脱いでやった。

そうして体を起こし、ベッドから足を下ろして開く。古鷹はまじまじと見ていた。

恐る恐る指でいじる。

「んっ」

自分以外に触られたことなんて初めてなんだからこそばゆくてしょうがない。


クンクンと臭いを嗅いで、顔をしかめる。

「舐めるのは、今度にしよっか」

ちょっとショックだ。ただ気になるのか癖になったのかしきりに嗅いでいる。

そうして、グイっと押し広げて、突起をつまむ。

「んっ!」

「私もね、ここ好きなの」

「も、もういいだろ、やめてくれ」

古鷹はニコリと微笑んで、つまんだ指をグリグリと動かす。

「あ、あああぁ、あぅ」


敏感なんだから声が出ちゃうんだ。と、その時にチラッと見えたんだが、

扉が少し開いている。そこに向かって股を開いてる形になるんだけど。

「ふ、古鷹ぁ、ねえ」

「ん?」

気づいてるのか気づいてないのかわからない返事だ、誰かが見ているような気がするんだよ。

「そこに誰かいる」

「えっ?」

「ぴょんっ!?」

卯月か……卯月か……まずいところを見られてしまった。


「あ、その、これは、艦隊司令より命令書ですぴょん」

「うん、ご苦労……」

「それじゃあ、ほどほどにぴょん」

卯月は慌てて逃げていった。畜生、見られちゃった、どこまで恥を晒せばいいんだあたしは。

見られたのが卯月でよかった、のか?弥生だったら?そんなことはどうでもいい、

問題はあいつが口に戸を立ててられる人間じゃないって事だ。

翌日にはもう噂になってて、何かと囃し立てられるもんだから、ああ面白くない。ちっとも面白くない。

約束の件もうやむやになってしまって、まぁそれはそのうちにでも果たすとしよう。

ちなみにみんなはおやつを奢ってもらったり罰ゲームだったりで、

古鷹もきっと素直にそんな風にすればよかったって思ってくれりゃあいいんだが、

まだまだ何かを考えている様子だ、これ以上あたしにどうしろってんだよ。

今夜はここまで
それもこれもグラッツェさんが出ないのが悪いんだ!!


-最重要事項-


司令長官からの命令は白露型を長距離練習航海へと連れて行くことであった。

ああ、アレかぁ……とあまりいい思い出はない。この訓練は艦娘にとっての洗礼のようなものだ。

最も重要な事を学び、究極の選択を迫られる過酷な訓練である。

本当を言えばこんな事は香取教官か鹿島教官にお願いしたいのだが、

彼女たちは空母だの潜水艦だのの指導に忙しいみたいだ。

「全員、聞け。明日から長距離練習航海に出発する事になった」

ざわざわとどよめく。

「なんですかーそれ」


「戦力移動、海上護衛の基礎の部分だ。長い間目的地を目指しながら海の上で生活してもらう」

「楽しそうっぽい!」

んな事を言っていられるのは今のうちだ。

「海の上で寝てもらう」

岩礁なんて見つけりゃ運のいい方で、大抵は立ち寝か不眠不休になる。

一応、自動航行なるものはあるにはあるが、あんまり上等なものでもないし、慣れなければ休憩すらままならない。

「やっぱり全然楽しくなさそうっぽい!」

「無茶な事言うわね、海の上で寝るなんて」

「本当にそんなことが出来るんですか?」

「出来ないと眠いぞ」

「えー!」


無理だ無理だと言うから無理なんだ、とまでは言わないが何事も挑戦してみるべきさ。

もちろん出来ない。いや、出来ないこともないがあまりオススメはしない、疲れ取れないし。

これらは脅かしで、実際には輸送艦や艦娘母艦がついてきてくれるから交代で見張りをやるぐらいだ。

さて問題はもう一つある。かなり重要だからしっかり説明しなくちゃならない。

「よく聞け、超重要事項を話すから、心して聞け」

なんだなんだとこちらに集中している。

「これは艦娘にとって最も重要なことと言っても過言じゃない」

ゴクリとの音が聞こえるかのように、緊張が走った。

「おしっこだ」

「はぁ!?」


「おしっこって……馬鹿にしてるのかい?」

「なんだ、糞尿って言ったほうがよかったか」

「女の人が、はしたないわ加古さん」

「あー、じゃあお小水についての講習だが……」

「えー、おしっこじゃん」

「その、おしっ……って何が重要なんですか?」

みんな不思議な顔をしている。あたしも最初はそう思ったよ、でもこれほど重要なことはない。汚い話だけども。

「わかってないなぁ……」

「ンだよ、馬鹿にしやがって」

「ほう、じゃあお前はおしっこの話を聞かないというんだな?」

「ンだよその言い方、まるでおしっこが大事だなんて言い方」

「女の子がおしっこおしっこ言わないの!!」


「もしお前が海の上でおしっこしたくなっても誰も助けてやらんぞ」

「あぁ~~!そういうこと!気がついた!」

白露は合点がいったようだ。続いて五月雨と海風、時雨も気がついたようで、

「江風、ここは大人しくおしっこについて聞こうじゃないか」

と言う。いや厳密にはおしっこだけじゃないんだが、まあいいや。

「おしっこの話をしようか」

ただ夕立だけはよくわかっていないようで、

「なんでおしっこで盛り上がってるの……」

となんだかついていけていない様子だ。純情な男子学生が聞いたら卒倒するだろうな、この光景は。


そうして、沖合にて講習を行う。なんだか呑気な様子だ。

「いいか、まず履物と下着を下ろす」

ズルッと五月雨が下を脱ぐ。

「いや、まだ実際にやらなくていい」

「あひっ、すいませんっ」

あはははは、と笑いが起こった。笑ってられるのも今のうちだろうね。

「で、しゃがんで用を足す」

「そんなの知ってるよ」

「ではやってもらおう」

「え?」

空気が静まり返った。


「どうした、早くやれって」

「いや、でもみんないるし……」

「みんなも遠慮せずどうぞ」

「いや、あの、無理よ」

「人がいるのに」

「実戦でもそうだな」

「あっ……」

ようやく、戦場での排泄の重大性に気がついたようだ。

みんな唖然とした顔をしている、流石に同性でも排泄する姿を晒すのは恥ずかしいようだ。


平然と排泄を出来るようになってからが一人前、とは言われないが、

艦娘にとっては出来て当たり前の行為だ、というか出来なきゃ漏らすだけだ。

漏らしてしまうと、ノーパンで過ごすか気持ち悪いのが寄港するまで続くかを選ばされてしまう、

そんなだからそりゃみんな出来るようになるさ。

中には立ちションしたり、思いっきりおっ広げてする豪傑までいるんだから面白い。

アレを軽くイジるのがコツと聞いたが、こんなこと今すぐにでも忘れたいよ、嫌な知識を覚えてしまった。

ともかくも、排泄は無防備状態になるんだからサッとやってもらわないと困るって訳なんだな。

当然戦友の見守る中で出来なければならない、一度は経験させた方がいいと大井から教えてもらった。

「やるしかないっぽい」

と夕立が先んじてパンツを下ろし、放尿した。続いて五月雨、春雨、涼風と続く。


「うぅぅ……」

「大事な、事だから……」

「しょうがねーよな……」

なんだかあきらめの境地だけど、どうせすぐに慣れるよ。

白露と海風もなんとか達成、残るは時雨、村雨、江風だ、残るべくして残ったような気もする。

「どうした、三人とも」

「僕は遠慮しておくよ、もし必要になったらその時はするさ」

「今がその必要な時じゃないのかね」

「むぅ……」

渋々、下着を下ろす。

「……わ、わかったわよ!」

村雨もし始めた。


「さて、残るは江風だけか」

「勘弁してくれねーか……」

何か嫌な理由でもあるのか頑なに拒む。

「別にいいけど、漏らしても知らんよ」

「うぐぐぅ……」

江風はみんなに睨まれている。そんな中でも夕立は気楽なもんで、

「あ!そうだ!加古さんもやってないっぽい!」

「そうよ!おしっこしなさいよ!」

と余計なことを思い出したようだ。村雨もそれに乗っかる。人の小便見て楽しいのか?

別にあたしは抵抗がないので、サッと下ろして済ませたら、なぜか拍手が起こった。

小便して拍手されるなんてバカバカしい話じゃないか。

そうして迎えた、翌日からの長距離航海だったが、江風はついに観念したのか、

無事に事を済ませたようだ、ただ大きい方は……まぁ彼女の名誉のためにこれは伏せておくことにしようか。

ほとんど言ってるようなものだけどさ。

今夜はここまで
糞回、いや尿回


世界各国の潜水艦娘に最も恐ろしい瞬間を質問してみたところ、
全ての国の艦娘が口を揃えて「味方水上艦隊の排泄」と答えた。

初霜書房刊『愉快な艦娘さん -各国海軍ホントの事情-』より


みたいな感じで時代背景を補強してくのはどうよ!?
諸事情により携帯から

ありゃ、sage消し忘れた


-告別行進曲-


その日の午前の訓練も終わり、暖房の効いた食堂で昼寝をしていると、古鷹に起こされる。

「加古、司令長官だって」

「んー、後で古鷹が教えてくれよ、それじゃダメ?」

「ダメ」

と司令長官の執務室まで引きずられた。司令長官が何の用事だ、と思っていたんだが、

どうも卯月らも呼び出されたらしく、こりゃまた大事だぞ、と気を引き締めた。

「ついに大規模作戦の時が来た」

あたしたちが白露型を訓練しているうちに結構な勝利を収めたようで、

マリアナ、パラオ、インドシナ半島東部、インドネシアのカリマンタン、セレベスを解放し、

各戦力大規模攻勢の準備に取り掛かっているらしい。


「それで、私たちはどこへ行けば……」

「一先ずはパラオへと向かえ。そこでまた指示を出そう」

古鷹の問いに司令長官は答えた。しかしパラオ、どんなところかあまり想像がつかなかったんだが、

あとで聞いた話じゃ結構なリゾートって感じらしいから結構楽しみだ、まあ戦争に行くんだけどね。

正確な日時を聞いたあと、執務室を出る。白露型はまだまだ訓練を続けるそうだ。

「はあ、日本ともしばらくお別れか」

「どうせすぐ戻ってくるぴょん」

「そうだね」

一人も欠けることなく、とっとと終わらせて帰るつもりでいたんだ、当然だろ?


後日、噂はすぐに広まった。引き継ぎ作業を見られていたらしく、白露が飛んできた。

「南方に行くって本当!?」

「ん、ああ」

白露は唖然としていた、そこまで別れを惜しんでもらえるなら教官冥利に尽きる。

「別に二度と会えなくなるわけじゃないぜ」

「そう、だけど……」

やはり寂しそうだ。まあ出会いもあるなら別れもあるんだから、そうやって湿っぽい空気を醸し出されると

こっちは気が気でしょうがないじゃないか、もっとシャキッとして見送って欲しいもんだぜ。

ちょっと今日のところは会わなきゃいけない人がいるから、そこいらで失礼して鎮守府を出た。


まあ察しがつくと思うが、いつぞやの女の子さ。待ち合わせ場所に急いで行くとそわそわした様子であたしを待っていた。

「すまんね、遅くなって」

「いや、今来たところです」

前会った時から数ヶ月、半年近く経ってると、この年頃の女の子というのは随分と様変わりする。

ちょっぴり大人っぽくなっててドキッとしちゃった、古鷹じゃあるまいし。

「悪いね、土産もなくてさ」

「いいんです、会えただけで……」

もしかしてこいつも古鷹と同じく、と思ったしまさにその通りだったんだが、この子はむしろ可愛いもんだね、古鷹には悪いけど。


「あたしは南方に行くよ」

「しばらく、会えないってことですか」

「うん、手紙出すから」

ごく最近の衛星通信やらインターネット通信やら無線通信はかなり調子が悪い。深海棲艦による各国分断の悪影響で、

技術者を含めたマンパワーが第一次産業に吸収され、それらの維持に必要な材料や技術が徐々に失われつつあるようだ。

その結果、アシさえあれば技術のいらない手紙でのやり取りが増えてきた。

もちろん郵便屋も人手不足だから、いつ届くのかは気を長くして待たなくてはならないんだが。

「一つ、いいですか」

「なんだ」

「私の家まで来てもらえませんか、近くなので」

そう言われるとホイホイついて行きたくなるんだが、あたしはちょっと他人の家にはトラウマがある。


「上がらなくていいなら」

「そんな、上がってください」

「いいってば」

こいつもまた強引なやつで、またもや引きずられた。この子の家も割といい暮らししてるみたいで、

こんな家に住住んでみたいもんだと見上げる。

「上がってってば」

「あたしは元々浮浪児だから……」

「それが何の関係があるんですか」

「何の関係もないけどさ」

もう力づくで強引に引っ張るんだから、ついに観念して上がってしまうことにした。

あたしがビクビクしてるのを見てその子は大変驚いている様子だ。


すると彼女の母親がいて、あたしを見るなり頭を下げる。

「どうもこの度はうちの娘がありがとうございます」

「もう昔の事です」

上げてもらって頭下げられるのも変な気分だし、とっとと用事を済ませて欲しかったんだが、

このお母さんの話が長い長い、女の子も呆れていたみたいでスパッと話をやめさせて、あたしを私室に連れ込んだ。

「はい、レアチーズケーキです」

「チーズなんて高級品だろ」

「なんとか見つけたんですよ」

これじゃ気分は最後の晩餐だと複雑な気分だったが、一口食べればそんな気はすっ飛んじまった。


うまいのなんのってさ、しかしレアチーズケーキとはよく言ったものだ、今やレアなのはチーズだぜ。

「うまい」

「よかった」

ニッコリと微笑んでくれる、こんな時勢にこれだけの贈り物をくれるんだから、

なんだかじんわり来るよ、あたしの涙腺は意外と緩いんだもん。

「もう一つだけわがまま聞いてください」

と彼女はあたしに唇を突き出した。下手すればもう二度と会えないわけだから、あたしは黙って願いを聞いてやったよ。

尤もあたしには死ぬ気なんてさらさらないんだけどな。しかし、艦娘とその周りってのは同性愛が流行ってんのかね。



鎮守府に戻ると中から『蛍の光』が聞こえ、門前では古鷹と弥生が待っていた。

「どこに行ってたの」

「ちょいとね」

「女の臭いがする」

「はぁ?」

何を言ってるんだか、って思ったがこいつ目がマジなんだ。弥生もビビってた。

「二人共、みんな待ってるから……」

古鷹はジトーっとあたしの目を見つめる。

「待ってるんだろ?行こうぜ」

このまま見つめられちゃかなわんからそそくさと歩き出した。

蛍の光のメロディ聞き、歌詞はどんなだったっけと考えながらぼんやりと本土の思い出に耽る。

今夜はここまで


「蛍の光」の元の「オールド・ラング・サイン」のメロディーは
「告別行進曲」、「ロングサイン」という題で海軍兵学校の卒業式で使われたらしいな!

告別行進曲
https://www.youtube.com/watch?v=m771kUu9FCY



>>493みたいのも面白いから期待


5.ソロモンの狼


南方への大規模な攻撃が開始された。シンガポールからソロモン諸島までの島々を一気に叩くとか。

かなり大規模な作戦のようで、日本の艦娘に加え、ロシアのシベリア艦隊や台湾海軍さえも総動員されたって話だ。

しかし、日本の艦娘以外の外洋での戦闘能力は低く、それらの国自体の疲弊も相まってか、

結局のところはマレー半島付近の沿岸部以外では日本の艦娘単独での戦いだったわけだ。

一見無謀のように見えたんだが、航空部隊の活躍によって深海棲艦はかなり消耗しているという話で、

ここで攻め込んでさらに追い詰めるというお偉いさん連中の目論見があったみたいだ。

事実、この戦いは後に『パーフェクトゲーム』と呼ばれる事となる。

それほどまでに一方的な戦いだった、ということはつまり、それだけ戦線が拡大したということでもある。


-艦隊集結-


白露型のみんなは軍艦行進曲が演奏される港で、帽子を力いっぱい振って見送ってくれた。

そして、パラオの港についてもまた、軍艦行進曲で迎え入れられる。

パラオってのは南の島という話で、確かに南の島だったんだが生憎その日は雨だった。

「こんな天気じゃ気が滅入っちまうよ」

「まあまあ」

天の気まぐれと書いて天気と読むんだから愚痴ってもしょうがないんだが。

ともかくも、あたしたち第六戦隊は再集結した。前線司令部には大勢の艦娘たちが集まっている。


「お、久しぶりです!」

「青葉か」

見知った顔だ、衣笠も一緒にいた。だがなんというか、ぎらついた目をしている。

やっぱり戦場にいるやつは違うんだな、気を引き締めた顔つきだ。

しかしこれでも中身はいつもの二人なんだ。

「連れてった睦月型はどこっぴょん!」

「あ……そ、それはですねぇ……」

青葉は苦い顔をして目配せをしている。衣笠も俯く。

「まさか、とは思うけど」

古鷹が不安そうに聞く。あたしだってまさかとは思いたい。


しかし彼女の目はそのまさかだ、と語っている。

「先の戦いで、水無月、夕月は戦死してしまいました、それで……」

「そうなの……」

再開の喜びはスッと無くなってしまった、卯月たちは今にも泣き出しそうなぐらいに表情をこわばらせている。

水無月、夕月とは別段親しくはなかったが、そんな彼女たちを見るとなんだか胸が締め付けられる気分だ。

本土で呑気していたあたしたちはこの報せによって一気に戦場に引きずり込まれた。

「彼女たちは、そっとしておいてあげてください」

「そうだな、それがいいかもしれない」

「睦月ちゃん、あなたたちは行ってやって」

「うん……」


暗い顔でトボトボと歩く。彼女たちの気持ちはあたしには身にしみてわかるさ、わかるとも。

だが、結局は前を向いて歩かざるを得ないんだから、現実ってやつは随分と冷酷な奴だ。

あと関係ないけど、こういう悲しみは時間だけが癒してくれる、だなんて抜かすやつもどうも信用できん。

暗い雰囲気のまま言葉を交わしていたが、ついに呼び出しがかかる。

「全ての水雷戦隊旗艦、重巡洋艦、戦艦、空母は集まれ」

となると結構な数になる。あたしが聞いたってしょうがないだろうけど、呼び出されちゃ仕方がない。

集まると、いつぞやの榛名、霧島に伊勢、日向、蒼龍、龍驤、妙高型に神通、那珂、長良が揃う。

榛名はこちらに気がつくと小さく手を振ってくれた。

だが神通もいる。じーっとこっちを見つめて、いや睨んでいて、あたしら四人は苦笑いしてしまう。


「あはは、久しぶり」

「ええ、どうも、おかげさまで」

やっぱりなんというか、オーラがあるもんだから萎縮してしまうよ。

いやあたしたちもやりすぎたかなぁーとか思っちゃったりなんかしちゃったりして、

別に言い訳じゃないんだけど神通の訓練にも問題があったと思うからそこはまあ、諦めて欲しいよ。

だが彼女を見る限りそんな気は全くないような気もするから、同じ屋根の下で寝るんならうかうかしてられない。

しかし幸か不幸か彼女とは別の海域の担当となる。

「第六戦隊、お前たちはソロモン諸島へと向かってもらう」

「はァ、一番隅っこのとこかい」

「神通が推薦してくれてな、お前たちなら必ずやってくれるだろうと」

神通がニヤリと笑みを浮かべる。したり顔だ。だがそれがどうしたドンと来いだ。


「全力を尽くします」

と古鷹が自信たっぷりに答える。もちろん青葉や衣笠、あたしだってやってやろうって勢いだ。

本土から一番遠く離れることになるから補給の面なんかがかなり不安定な海域だろう。

もし、ニューギニアなどの部隊が退却すれば、たちまち補給線が断たれ野垂れ死にするね。

かなり危険な海域であることは間違いない。かのガダルカナル島もソロモン諸島にある。

だが補給線についての心配は、古鷹曰くあまりしなくてもよさそうとのことだ。

一度起こした大きな過ちを繰り返すことはない、仮にそうなれば海軍の無能を再び晒すことになるだろう、

そんなことになればまさしく国の恥だから、司令部はそれだけは全力で阻止するはずだ、という考えで、

昔はともかく今の海軍が厚顔無恥でないことを祈るばかりだ。

もし今の海軍が厚顔無恥のあかんたれだったなら?そんなことは考えたくもないね、犬死は御免こうむるよ。

今夜はここまで、構想ではここで折り返し地点
ついにグラッツェさんは出なかったよ……

>>510
見事にスルーされてあれかなーと思ったけど、まあいいんじゃないって人が多ければ書いてみたりなんかしちゃったり


-神通の話-


それで、ソロモン諸島までさっさと行ければいいんだが、そういうわけにもいかない。

考えるまでもなくビスマルク海やらニューブリテン島やらを抜けていかなきゃいけないらしく、

そんならその辺りが終わってから命令を出せって思うんだが、やっぱり神通が一枚噛んでるようだ。

この作戦の最高責任者のノッポな提督曰く、

「もちろん、諸君らの戦いぶりを期待しているよ」

だとさ、自分は戦わないもんだから気楽な事言いやがる。


つまりはニューギニア方面隊の連中と協力してビスマルク海を抜けた後に、ソロモンでの戦いという事になる。

となるとそいつらに挨拶しとかないとな。

「お久しぶりです」

ニューギニア部隊の旗艦は榛名だった。

「フィリピン以来ですね」

「再開できて嬉しいです」

古鷹が応じた。向こうじゃそんなに会話を交わしたわけではないが、同じ戦場を共にすると連帯感が顔を出す。

「しかし難儀なことになりましたね」

「ああ、あの事かい」

「敵はソロモン方面から向かってくることが確認されているんです」

ほう、それじゃ本拠地である可能性もあるわけか。


「それなら是非とも叩きのめしておくべきね」

衣笠は俄然やる気のようだ。

「勝てないと思ったら、すぐに逃げるべきです。生きてさえいれば再戦の機会はありますから」

「そうは言っても軍人は死ぬもんですね、死ぬべき時は今なるぞ」

と青葉がおどけてみせるも、榛名は顔を曇らせた。

「私の、私の部下も同じことを言って……」

どうやら地雷を踏んじまったらしい。青葉はやっちまったって顔になった。

艦娘全体の戦死者は、決して少ない数ではない。特に艦娘としてのダメージコントロールが確立される以前、

睦月型より古い型の駆逐艦ともなると、戦死率は極端に上がるんだ。

さらに彼女たちの勇猛果敢な性格もあってか、目覚しい活躍はしても帰ってこないなんてのはザラで、

まだ十分に活躍できるはずの神風型や峯風型の連中の姿をあまり見かけないのはそういう理由がある。


そしてまた榛名も、そんな勇敢な部下を失ったのだろう。

「すみません、失言でした」

と青葉が頭を下げる。

「いえ、いいんです。勇敢なのは結構なことですが、無謀と履き違えてはいけませんね」

榛名という艦娘の人の良さったらないよ、この人は何をすれば怒るんだろうね。

ともかくも、彼女たちに協力してもらってビスマルク海を抜けなくてはならない。

「しかし、提督のやつ遅いね」

「そうだね」

久々に提督の顔を拝んでやろうってのに、会議から戻って来ないんだ。

暇潰そうにも外は雨だから観光なんかやってられん。


仕方がないから風呂にでも入るかというわけで、風呂で暇を潰す話になったが、

四人で浴場に入ると神通がいた。空気が凍りつく。

「どうも……」

「ああ、どうも」

せっかくの楽しいお風呂の時間が台無しだな、とか思いながらとっとと体を洗って湯船に浸かっていた。

すると神通はこちらに近づいてくる。

「お久しぶり」

「そうだね」

少しだけ身構える。神通はあたしたちに立ちはだかり、言葉を続けた。

「ありがたく思ってくださいね、おそらく激戦区ですよ」

「それはそれは、お気遣いありがとうございます」


古鷹は意外と喧嘩っ早いからすぐに噛み付く。

「先日はどうも、おかげでビクビクと顔を伺う日々ですよ」

「結構なことじゃないですか」

古鷹は立ち上がり、神通は仁王立ちの体勢だ。女二人が全裸で口喧嘩というのは実に滑稽な光景だよ、シャレじゃなくて。

青葉が肘打ちして来た。なんだと思ってそちらを見たが、神通のアソコを指差している。

見てみるとその、なんというか、生えかけな感じで、

「なんか、エロい」

とか青葉が言うから思わず吹き出しそうになる、その発想がまた変態だしね。

上の口は偉そうなのに下の口がちんちくりんなもんじゃ格好がつかないよ。

そしてその態度とのギャップが激しいからツボに入ってしまって、堪えるのに必死だったもんだから、

途中から神通と古鷹の口論は全然頭に入ってこなかった、ちっとも覚えてないや。


で、いつの間にやら古鷹と神通がこっちを見ていた。

「ん?ぶふっ、なんだよ」

神通は顔を赤くしてふくれっ面をしている。古鷹はジトっとした目で見つめてくる。

「あ、青葉も見てたよ!」

「誰もどこを見たとか一言も言ってないんだけど」

しまった、あたしとしたことが!

「な、別に、あたしは」

「神通に、目移りしたって言うの?」

神通の顔が羞恥から驚愕の色に変わった。青葉と衣笠も同様だ。

「え、二人って、そういう」

「そんな気配はあったけどいつの間に……」

「本土で何があったか気になりますねぇ」

「ねえ、答えてよ」

突如始まった痴話喧嘩に神通は戸惑いを隠せなかったから、すっかり空気は変わってしまった。

以来は青葉、衣笠は神通と以前ほど険悪な関係ではなくなったが、

あたしと古鷹は、なんというか、神通は腫れ物扱いしてきやがるからムカつく。

やっぱり神通は嫌いだ!生えかけのくせに!

とか言うと卯月の

「モッサモサっぴょん!」

という言葉が思い出される。あんまり人の毛の話はよろしくないな。うん。

とりあえずここまで
スマホから試験的に投下だぴょん



そもそも戦場において人肌恋しくなるのは当たり前なんです。

手近にあるこの美しくも艶かしいカラダを持つ戦友たちとて同じことを考えていますから、

彼女たちが触れ合い、絡み合うのは時間の問題でした。


初霜書房刊『艦娘の秘め事』より


いざこれを書くとなるとあんまり思いつかない
初霜書房は戦後に某戦記文学を読んだ初霜ちゃんがブチ切れて立ち上げた出版社、という設定なのです!


-始動-


「何か見えた?」

「なーんにも」

艦娘母艦の上での衣笠との会話だ。今はビスマルク海のど真ん中にいる。

どこを見ても海しかなく、恐ろしく退屈だ。

「あ……いや気のせいか」

何か見えたかと思ったけど、なんでもないただの波だった。

「あ、イルカ」

「もう見飽きた」


日光が照りつける。双眼鏡を持ち、並んで警備を行っていたんだ、

でも出発してからは駆逐艦1,2隻の散発的な襲撃が起こっただけで、

偵察機からの様子を見ても、特に変わった様子は見受けられなかった。

どうにも、敵が消耗しているというのは本当らしく、深海棲艦との戦争が遠い国の話のようだよ。

警備を交代して中に戻ると、連日の哨戒で疲れ果てた駆逐艦たちが眠っている。

霧島もそこにいたが、帰ってきたあたしたちを見ると口元に指を当てた。わかってらァそんなことは。

話をするために結局廊下に出る。


「どう、新型駆逐艦は」

霧島が質問してきた、やっぱりあたしの話は伝わってるみたいだ。

「流石に半ば強制なだけあって、根性はないな」

もちろん、志願の艦級に比べてだが。十二分に勇猛であるというのは知っているよ。

「新型と言えば聞いた話、潜水艦の計画があるそうよ」

「潜水艦?そりゃ無茶だろう」

数時間数日と海中に独りでいるストレスに耐えられるのだろうか。

「それが、適合者が現れたらしいわ。それも3人!」

「ほぉー」

「これからどんどん増えるかもしれない、と予測しているわ」

潜水艦がいてくれればこっちのもんだ、心強い。


「それにしても」

先程から何人か野郎が廊下を通っている。

「こいつらは」

「ニューブリテン島の占領部隊よ、1000人ぐらいしかいないけど」

「ふぅん」

陸上自衛隊、今は陸軍だけど、そこの連中らしい。

深海棲艦に既存の火器は通用しないんだが、唯一怯ませることができたのが、

火炎瓶、焼夷弾、火炎放射器だったんだ。この部隊はそういう兵装を装備している。

無いよりはマシ程度で、住民の保護や避難誘導、治安維持が目的の部隊だ。

結局陸でも艦娘が主力となる。……と、いうことは、

「ひょっとして、乗り込むのか、島に、あたしらが」


「そうなるわね」

「えー」

「えーじゃない」

陸で戦うとなると、いつもと調子が違ってくるなァ。

陸上の艦娘は単純に主砲と装甲が物を言うんだ、魚雷なんかお荷物になっちまう、当然といえば当然だけど。

そうなると気を引き締めていかなきゃならない、いつもと違う事するといつもと違う事が起きるもんだ。

「先に言って欲しかったぜ」

「私たちは直接指令を受けたから」

となると提督だな、あいつめ、伝え忘れやがったな。


しかしまあ、末端で好き勝手に作戦を立ててるんだから、それって大丈夫なのかって思う時があった。

今回だって、上陸部隊から駆逐艦を外し、ソロモン方面隊のあたしら重巡四人を入れている。

「なあに、上に持ってく時は誤魔化すさ」

とは提督の言だ。果たしてそれでいいのかね。


数日ほど後の夜中、ゴワゴワした迷彩服を着込み、上陸部隊の尖兵として、

榛名、霧島、古鷹、青葉、衣笠、そしてあたしは、静かに母艦を発った。

作戦始動だ。

今夜はここまで
最近はなにゃらかにゃら忙しいっぽい


-闇夜の行軍-


深海棲艦の習性の一つとして、占領時は都市部以外に重きを置かないというものがある。

奪われた膨大な領土でも、都市さえ占領下に置けば解放は容易い。

離島などもがら空きの場合も多いため、少ない戦力であっても十分に立ち向かえるんだ。

ただし、必然的に市街戦が多くなるという側面もある。

あたしたちは、北端の砂浜に物資を満載したボートを運び揚げると、装備を整え森の中に入り込む。

「この辺りはポツポツと家屋があるから、そこに警戒して」

霧島は言う。まずは辺りの警戒だ。この森は静かだった、僅かに動物の鳴き声なんかが聞こえてくる程度で、

人間や深海棲艦の気配は無く、家屋にも人は既に住んではいなかった。


「全員殺されてしまったのかな」

青葉が震えた声で言う、そうではないと信じたいんだが、いかんせんこの状況だ。

「都市部に行っているのかもね」

「そうだと願うよ」

「みなさん、無駄話はほどほどに」

榛名がピシャっと止める、確かに思わぬ伏兵が潜んでいるかもしれないからね。

それから数kmほど道沿いに歩いたが敵に出くわす事はなかった。

もちろん民間人も見当たらない。

「ここまで静かだと変ですね」

青葉が言う、実に不思議だ、まるでこの島にあたしたちしかいないかのようである。


「深海棲艦襲来時、オセアニアは逃げ出す暇さえもなかったという話です、最悪のパターンはありえます」

そうやって怖いことを言ったのは榛名だった。彼女は歴戦だから、こういう事にも慣れているかもしれない。

「そんな……」

「希望を捨てちゃいけないよ」

そう言って自分たちで元気づけても結局人間の気配はしなかった。

あまりにも何にも出くわさないので、ある時、ふとした疑問を隣にいた霧島にぶつけてみることにする。

「なぁ、霧島さんよ」

「……そうね、いい加減退屈だもの」

「何が?」

「無駄話でもしてみるかって話」


「ああ、そういう」

「で、何?」

「いや、深海棲艦ってのはなんで人間を襲うんだろうね」

「さあ」

「連中はあたしらになんかされたんかな」

「したかもしれないし、してないかもしれない」

「それじゃ会話になんないだろ、真面目に答えろ」

「そうね、私の推測だと、彼女たちは怨恨、怨霊なのかもしれないわ」

「オバケか」

「そう、平将門みたいな」


「じゃあ誰の恨みなんだ」

「色々あると思うわ、ヨーロッパ、アメリカ、日本による征服、太平洋戦争、中共との小競り合い……」

西欧諸国の原住民虐殺、圧政はもちろん、太平洋に散った若人の無念や支那の横暴に対する怒りなど、

様々な怨恨が具現化したものが深海棲艦だと言うんだ。

「そんな、じゃあオバケと戦ってるのか」

「そうじゃないと説明がつかないもの」

「うーん……」

そう言われると、艦娘でなきゃ倒せないんだから難儀なものだ。オカルトチックだとはあたしも思う。


「別の種族、海底人の侵略ってわけじゃないよな」

「あら、そういう考え方もあるのね」

あたしはそう思う、そう思った。なんで艦娘じゃないといけないかは知らないけど、

例の事件の時も、怨霊というほどあたしたち人間を恨んでいるようには見えなかった。

ただ、無感情だった。まるで虫けらでも見るかのような目つきだったんだ。

「あたしたちを、種族を増やすための餌としか考えてないんじゃないか」

「……その考えがもし正しければ、未来は絶望的ね」


「どうして」

「この戦いは生存競争になるわ」

「生存競争?それがどうした?」

「どちらかが絶滅するまで続くって事」

「……やっぱり、あたしが言った事は無かった事にしてくれ」

「もう聞いちゃったからどうしようもありません」

無駄話もこんなところで、一行は大きな交差点を左に曲がった。

一先ずはラバウル市街の確保が目的だ。

今夜はここまで



やった!待ちに待った夜戦だ!
ああ!夜戦!素晴らしい夜戦!敵はどこだろう!どこにいる!見つけ出してやる!
すぐに見つけるぞ!さあ魚雷だ!雷撃!探照灯照射!
[判別不可]しい夜戦!こん[判別不可]!夜戦は[判別不可]

[以下、著者が興奮状態で書き綴ったと推測され、多くが判別不可、よって次章まで省略する]


初霜書房刊『水雷魂』より


-深海棲艦量産体制-


「しかし、六人で占領しろって、アメリカ映画もびっくりね」

「そうねぇ」

衣笠と霧島が話している、確かに突飛な話だけど、量産も出来ない現状じゃある程度仕方ないんだな。

左に曲がれば後は真っ直ぐ道なりに進むのみ、そうすればラバウル市街はすぐだ。

山の中の一本道を進んでいく、深夜で灯り一つ無いから真っ暗だ。

このまま敵と遭遇せずにたどり着ければいいんだが、そう甘くはなかった。

「なんというか、気配がするな」

「怖いこと言わないでよ」

古鷹と話しているが、確かにさっきから何か雰囲気が違うような気がするんだ。


「慎重に」

榛名が呼びかける。みな息を殺して進んでいく。

しかし、次の瞬間道の向こうに閃光と轟音が鳴り響く!

かと思えば先頭の榛名が右手を振り上げた、カォーンと甲高い音が鳴る、敵弾を弾いたようだ。

「戦闘準備!」

みんな慌てて横っ飛びに草むらに飛び込んだ。

「霧島、三式弾!」

「はい!」

三式弾は対空用の砲弾だが対地、陸上でも有効だ、特にこういう森の中では。

霧島の砲から爆音が轟くと無数の弾が炸裂、辺り一面は火の海へと姿を変えた。

すると敵の姿もぼんやりと浮かび上がってくる。


「そこね!」

衣笠が叫び砲撃を開始した、釣られて青葉も撃ち始めるが盲滅法で手応えはない。

「ど、どこ!?どこ!?」

「そこ!そこ!」

どこそこじゃわかんねえよって思っても、そうとしか言い様がないんだろう、二人は大騒ぎだ。

草木に燃え移った火で相手の姿が見えたのは敵も同じようで、至近弾も多くなってきた。

立ち上がるとすぐに砲声が鳴る。

「霧島、再び三式弾を」

「了解」

三式弾の第二射が放たれた、今度はきちんと敵めがけて。


この三式弾というのは無数の小さな砲弾をバラまく榴散弾であり、面的制圧には持って来いだ。

炎はさらに燃え広がり、向こうから悲鳴も聞こえてくる。おそらく命中したんだろう。

あたしたちも乗じて主砲副砲機銃を撃ちまくった。

「前進ッ」

榛名の号令と共に部隊は前にじわじわと進み始める。

「多けりゃ勝てると思ったか!」

「くたばれ!」

怒号混じりで進撃する、待ち伏せたあいい度胸だ。包囲の心配もあったが、どうせ六人だ、

上陸した時点で孤立してるようなもんさ。騒ぎを聞きつけたのか前線司令部から通信があった。


『何事かね』

「現在、ラバウル市街へと至る山道にて敵の待ち伏せを受け交戦中」

『了解、すぐに支援を送る』

榛名は簡単に返事をするとすぐに無線を切る。その間にも砲火は飛び交っていた。

すると敵の一人、リ級らしき影が飛び込んでくる。

「うっ!?」

衣笠の目前に迫ったその次の瞬間、文字通り火を噴いた!

「も、ももも、燃えるぅぅぅうぅぅぅう!!」

素っ頓狂な悲鳴を上げてのたうち回る衣笠、直後リ級に砲火が集中し、そいつはバラバラになっちまった。

「大丈夫かよ衣笠!」


あたしは衣笠に駆け寄ったが、まだ体に火がまとわりついていた。

艦娘だから死にはしないだろうが、火傷は負うし、痛覚は生きてるからとにかく凄惨な状態だ。

「あつい!あついあつい!だれかだれかだれかけして!」

「おらしっかりしろい!」

転がる衣笠に携帯消火器を吹き付ける。艦娘は戦闘で炎上することもあるのでこういうのを持たされるんだ。

「これも使ってください!」

青葉の分も手渡され、それも吹き付けた。しばらくして火は無事に消えたが、

結構な時間燃えていたので衣笠の姿は変わり果てて、ゾンビみたいになっていた。


「ありがとう、助かったわ」

「その姿でピンピンしてちゃキモイな」

「神経まで焼かれちゃったかもしれない」

「グロい……」

「え、本当?鏡貸して」

「戦闘で死にそうって時に呑気なこと言ってんじゃないわよ!」

霧島にどやされちゃった。その後はなんとか敵を撃滅することが出来た。

衣笠の様子を詳しく書くと気分が悪くなるけど、顔も含めて上半身の皮膚がチーズみたいにとろけて、

とにかく見ていられない状態でその癖元気に動き回るもんだから、アレは本当にやばかったね。


なんというか、本人以外は気分が悪いのでその戦闘が終わってからずっと無言で市街地を目指す。

衣笠は不思議がってたが、勝手に鏡を見て納得していた。

「大丈夫、修復剤で美人な衣笠さんに元通りよ!」

修復剤ってのは便利だなァ、しかしショックはあまり受けてないようで安心したよ。

青葉が写真に収めていたらしい、後で明石が研修に使いたいとかで買い取ってもらったとか。

さて、ラバウル市街でも戦闘は続く。

あとからやって来た自衛隊の兄ちゃんたちの活躍もあってか、制圧作戦はうまくいったんだ。

狭い屋内じゃ連中もうまく力を発揮できないようで、こっちの火炎放射器でどんどん追い詰められ、

そこであたしら艦娘にトドメをさされちまうもんだから、ちったぁ同情するぜ。


なんとか全ての深海棲艦を炙り出した頃にはもう時刻は昼過ぎになっていた。

そうして一行は、中心部にあった大きな倉庫の前に来ている。

「あそこね、ヤツらが厳重に守っていたところは」

「突入しましょう」

榛名と霧島は俄然やる気だ、ラバウルでの最後の総仕上げだと息巻いている。

巨大な倉庫の扉を開くと、なんというかあたしには見覚えのある光景が広がっていたんだ。

「やっぱりそうか、ここでも……」

他のみんなは唖然としていた、人間が餌としか見なされていないとあたしは言ったが、

厳密なことを言うなら資材扱いと言った方が正しいかもしれない。

「こ、これって……」

震えながらも青葉は写真をパシャパシャと撮っていやがる。


溶鉱炉にも見える建造設備に生きた人間がコンベアで運び込まれていく。

やはりというか、深海棲艦の製造には何かしらの形で人間が必要なんだろう。

ここでは駆逐艦が建造されており、人間に加え鋼材、燃料、希少金属などがあれば、ものの十数分で作れてしまうという、

恐ろしくも画期的な設備だったんだ、いつぞやのチ級工場と違い、こっちは量産に適した工場ってわけか。

確かに、こんなものがあれば無尽蔵に軍隊を作り出すことができる、

連中の数がやたらと多いのもこいつのおかげなんだろうね。

そうするとショックなのは、あたしたちが元民間人を相手に戦っていたって事実だ。

どちらにせよ、元には戻れないんだからしょうがないとはいえ、特に榛名が落ち込んじまった。


「こんなことって……じゃあ私は今まで……」

「今更考えたってしょうがないわ」

霧島は割り切っているのか強がりなのかはわからないが、榛名を元気づけようとしていた。

古鷹と青葉、衣笠も、榛名ほどじゃないけど落ち込んでいる。

まさか敵が、異型の怪物が人間が改造された存在だったなんて、考えたくもない、悪い冗談だと思っても当然だろうよ。

しかし現実だったんだ、それが目前に降って掛かってきた、そりゃ衝撃も受けるさ。

こんな技術は不要だ、こんな悪魔みたいな設備はぶち壊しちまおう、と住民を助け出したあと、

爆薬を大量に詰め込んで倉庫ごとぶっ飛ばしてやった、というか榛名が強行した。

……この量産技術を使った未来もまたあったのかもしれないが、少なくともあたしたちは破壊したんだ。

だってそうだろ、同じ艦娘が大量にいるだなんて、キモイよ。




占領後はかつての今村将軍のように、自給自足可能な要塞を建設しようと考えられていたんだ。

かの聖将にあやかるって意味合いももちろんあった、験担ぎだな。

しかしまあとにかく今は休養が必要だろう、あたしたちソロモン部隊もラバウルに二日三日ほど停泊することとなった。

今夜はここまで
修復剤便利!オイテケ!


-手紙-


ソロモンへの進撃は順調に進んでいったんだ。

というのも、敵側の抵抗も散発的かつ小規模で、難なく撃破していった。

この時の戦訓、経験は後の勝利に大いに関わっていて、この消極的な攻撃はあたしらをただ強くするだけだったんだ。

そりゃあもう実践的な訓練だったよ。まるで自分らが無敵であるかのような錯覚すら覚えたね。

ともかくもあたしらはブイン、ショートランドを解放し前線拠点を建設し始めた。

いよいよここからが正念場だ。

「しかし、若いのに色気のない」


と、あたしは思うんだよ、自衛隊員、というか陸軍だが整備士だの工兵だのが数百人いるんだ、

でも別段関わることもないし、話したとしても世間話ぐらいで、気の利いたことは言いやしない。

衣笠と提督はこそこそとよろしくしているんだろうが、あたしらはそういうのはさっぱりさ。

そういう気持ちもちょっぴりはあったんだけど、すっかり萎えちゃった。

「別にいいんじゃないの」

古鷹は言う。ひょっとしてお前の仕業じゃないだろうな。

「まさか」

やりかねんとは思うが、まあ信じておこうか。


「じゃあトランプでもしようかな」

そう言ってあたしは荷物を漁り始める。するとそこに睦月がやって来た。

「お手紙ですって。それと慰問袋」

「お、きたきた」

漁るのをやめて受け取った。

「加古さんには2通」

「うん?」

2通とは不思議だ、あたしに手紙を出すやつなんか1人しか知らんぜ。誰からだろう。


「……弥生のかーちゃんか」

「へえ、弥生ちゃんの」

「なんだろう」

「見ていいですか?」

「悪かないと思うけど」

封筒を開く。そこに書いてあったのは、弥生から聞いたであろう出来事の話と、その感謝の文だった。

「弥生ちゃん……」

「なんか、小っ恥ずかしいな。やっぱ見ないでくれ」

慌てて手紙を懐にしまった。あとで弥生に一言聞いてみようかな。


小っ恥ずかしいってのは、内容を見られるのもそうだが、難しい漢字とかが読めないってのがバレちゃうことだった。

実のところ手紙とか書類はこっそり卯月に教えてもらっている、これはあたしと卯月だけの秘密だった。

あいつも意外に博識で色々と学ぶことばかりだった、今でこそこうやって利口ぶってるけど。

バレていたとしてもそれをとやかく言う人もいなかったんで、やっぱりあたしは周りに恵まれていたんだろう、

こんなにありがたいことはないよ。

しかし手紙が来るほど感謝されるようなことはしたつもりはないんだけどな。

弥生のヤツがなんか脚色でもしたんだろうか、あとで聞いてみたが、やっぱり結構誇張してたみたいだ。

もう1通はやっぱりあの子からで、何気ない世間話のような内容で特筆すべきことはなかった。


「ガム食べる?」

古鷹が差し出す。慰問袋に入っていたという。

「うん」

クチャクチャと三人でガム噛んでると、招集がかかったんで噛みながら集合した。

「諸君、いよいよここからが本当の戦いだ」

提督が仰々しく喋くっている。これがまたいちいち大げさで、スケールのでかい話だ。

「日本を、ひいては世界を救うために――」

ほらね。すると退屈したのか睦月がプクーとガムを風船みたく膨らませる。なかなかうまいもんだ。


あたしも膨らますと、これもうまいこといってかなりの大きさになった。睦月も負けじと膨らます。

が、二人揃って提督に顔を引っ叩かれてしまった。ガムがベットリと顔につく。

「とまあこんなふうに、敵の奇襲攻撃には気をつけるように」

アハハハハと笑い声が聞こえる。あたしら二人も苦笑いするしかなかった。

そのあとでたっぷり古鷹に叱られちゃった。そりゃあ、命懸けてんだから当たり前だけどさ。

今夜はここまで
時間がない、ナイル川のなーい





時々別の国の艦娘と交流する機会があり、私物の交換会が行われることもあった。
特に生活雑貨は高値で取引され、日本の物は割と人気だったようだ。
制汗剤や化粧品などもいい値がついたようで、わざわざ家から『商品』を送ってもらう者までいたらしい。


初霜書房刊『愉快な艦娘さん -各国海軍ホントの事情-』より


ちょっと前のお話

12月25日

加古「クリスマスプレゼント貰った?」

白露「え?ああ、うん、届いたけど」

加古「そっかァ、じゃあいい子だったんだな」

白露「え、うん……かもね」

加古「あたしも貰った、でも不思議だよ」

白露「何が?」

加古「別にそんないい子にしてたつもりはないんだけどさ、サンタさんの判断基準は随分緩いんだなって」

白露「サンタって……」

加古「多分、みんないい子にしてたって事だからおまけで貰ったんだろ、ラッキー♪」

スタスタ

白露「……」

卯月「毎年アレぴょん」

白露「毎年……」

卯月「ほんっとに、もう、可愛い……っぴょん」

白露「本当の事教えたりは……」

卯月「本気の古鷹さんを撃退出来るんならどうぞ」

白露「ああ、そういう……まあ別に本人は幸せそうだからいいのかな?」

クリスマスネタっぽい
別に書いていたクリスマスSSは遂に当日間に合わなかった……
日曜日には!日曜日にはできるはずだから!


-あわや一大事-


さてショートランドでのあたしたちの戦いを挙げたらキリがないんだが、一つ書くとすればこの話だろう。

ソロモン諸島、チョイスル島の半分を解放したところで、ベラ島への上陸を計画しており、

その前段階作戦として付近の掃討、海上戦闘哨戒を命じられた。

まあ普段の戦闘は難なくこなすもんで、気が緩んでたわけだ、こう言っちゃ怒られちゃうかもしれないけど。

ずっと気が張ってちゃ疲れるし手を抜ける時に手を抜いておかないと過労死しちまうよ。

「古鷹さんや」

「なぁに?」

退屈しのぎに話しかけてみるが、古鷹は手元のスマホに目を落としたままだ。


「そんなに面白いか、それ」

なんたらストライクだったか、あたしは2分で飽きたんだが古鷹は暇さえあればやっている。

忙しそうに指を動かしてさ、指をつりそうだよ。

「面白くないよ」

「じゃあなんでやってんのさ」

「さぁ?」

古鷹ってのはこういうとこがある、あたしは適当にあしらわれたわけだ。

フンと鼻を鳴らして周り数kmに目をやると、青葉は一生懸命写真を撮ってるし、

衣笠は動画を見ているらしくスマホの画面に釘付けだ。

他の駆逐艦たちも思い思いの行動を航行しながらやっている、全く器用なもんだよ。


そうしているといつの間にやらあたしだけしか真面目にやってないってことになるからとんだ貧乏クジだ。

まああたしは寝るか飲むかが趣味だからしょうがないといえばしょうがないかもしれない。

ともかくも、そんな時に限って敵さんがおいでなさるのが世の常だ。

気づいた頃にはすっかりと浸透されていた。少し離れたところでチ級が海中から不思議そうな顔を覗かせている。

「敵艦隊出現!戦闘準備!」

と慌てて号令を出す、無論古鷹がああだからあたしが代わりに出したわけだが、

当の古鷹はビクッと驚いてスマホを海に落としちゃったようだ、いい気味だね。

「敵の数は!?」

「雷巡一隻を確認」

「攻撃開始!」

彼女は膨れっ面のまま命令を出した。


敵のチ級は一隻だから簡単にやっつけることができると皆が予想したんだけど、

回避に専念しているようでなかなか思うように当たらない。

「ったくぅ、すばしっこいなぁー」

衣笠が無線でボヤいた。

「なんだか誘い込まれてるみたいですねぇ」

と青葉。確かにこの予想は当たっていた。

古鷹はスマホをダメにされたのを怒っているみたいでどんどん追撃命令を出す。

いや正確にはあたしが叫んだせいで落としたんだろうけど原因は連中だし、まあ細かいことはいいだろう、

彼女は冷静さを若干欠いていたというわけだ。それでいて権限を持ってるもんだからな、しっかりしてくれよ。

「落ち着け古鷹」

返答はない、こりゃ聞く耳は持ってないようだね。


罠だと分かっても彼女一人を置いていくわけにもいかないので、艦隊はまだまだ追撃をかける。

気がつけばすぐそばに島がある、どう見てもベラ島ではない。

そもそもこの作戦はベラ島をぐるっと回って帰ってくるだけのはずだったんだ、

最初は確かベラ湾にいたはずだから、左手に見えるのはきっとコロンバンガラ島だ。だがすぐ右手にも島が見える。

「まずいっぴょん!!」

卯月が気がついたみたいで、無線が飛んできた。

「ブラッケット海峡っぴょん!待ち伏せされてるぴょん!」

このブラッケット海峡ってのは地図を見てもらえればわかると思うんだが、かなり細いところだ。

さらに南側にはまさしく隠れるにはうってつけの場所があり、ここで挟撃されれば命はなかっただろうね。


古鷹も流石にハッとしたのか、

「引き返します」

と退却命令を下した。こっちの様子を察したチ級は残念そうな素振りで眺めている。

殿の衣笠がシッシッと手を振ると反転してさっさと帰っていった。

あわや一大事というところでなんとか乗り切った、というよりは誘いを振り切ったんだ。

泊地に戻ると古鷹は提督に叱られてしまったようで、かなり落ち込んでいた様子だった、始末書も書いたみたいだ。

損害もなしにそこまでしなくちゃいけないかねと提督に聞いてみたけど、

「始末書を書いて形を残す事で忘れないようにするんだ」


との事だ。心情や状況がどうであれ、あたしたちは古鷹に殺されかけたんだから当然といえば当然かもしれないけど、

それでもなんだか古鷹がかわいそうでしょうがないよ。

これを言うとやっぱりみんなの意見は、駆逐艦たちなんかは怒られて然る可しだという態度だし、

青葉はまだまだ甘いと言うし、衣笠は微妙な顔をしていた。

みんな口を揃えてあたしが甘いんだと、やっぱりそうなのかなァ、そりゃ命を懸けてるし死にたくはないけどさ、

落ち込んでいる姿を見るとアレだね、どうにもあたしというのは古鷹が絡むとまともな判断が出来なくなるみたいだ。

それにね、いくら自分に非があるからって、ひとりぼっちになっちゃ堪えるだろ、

あたしぐらい彼女を甘やかしてやったほうがバランスが取れるってもんさ……多分ね。

今夜はここまで
『Fallout4をやる』『SSを書く』『HoI2 DHもやる』『睡眠を取る』『Warthunderをやる』『艦これもやる』。
全部やらなくっちゃあならないってのが俺の辛いところだな。
覚悟はいいか?無理だ。


-いざ、飢餓の島へ-


秋津洲の二式飛行艇というのは大変に高性能なもので、偵察から爆撃までなんでもこなすという話だ。

ここで説明しておくべきことは秋津洲についてだが、彼女は特殊艦娘として実物大、という表現はなんか変だが、

とにかく実物大の二式飛行艇と実艦を有する。他にも明石や速吸なんかもそうなんだと。

秋津洲はその二式飛行艇のパイロットでもあるわけだ。噂じゃUS-2やオスプレイも操縦できるらしい。

そんな彼女の偵察の結果、ガダルカナル島に深海棲艦の拠点が確認された。

彼女はガ島の絨毯爆撃を進言したらしいが、実地に乗り込んで情報を入手したい上層部は拠点の占領を命じた。

それで最も近くにいたあたしらに白羽の矢が立ったというわけだ。


既にサンタイザベル島まで上陸、掃討は完了しているからそんならやりましょう、ということになった。

まあ時期が早まっただけだ、こんな辺鄙な島にも人は住んでいるようで北部には市街地が形成されているから、

いつかは行かなきゃいけない島だった。

「しっかし、縁起が悪いですよ」

青葉は不安そうだ。大東亜戦争ではガダルカナル島で日本軍の主に陸軍兵士が補給切れにより大勢が餓死したという。

そんな中でもトラック泊地の海軍将校は大和ホテルにて贅を尽くしていたというのだから、辻参謀も嘲笑するわけだ。

その辺もしっかりと勉強した艦娘たちにとって旧海軍の評判というのは虫けら同然であったが(米豪軍の評判はもっと悪いけど)、

旧海軍の事を悪く言うことをよく思わない提督もいるからあまり口にはされなかった。

だが共通認識であったのは確かだ。この認識は後の大和竣工時にひと悶着を起こすことになる。


まあ先の事はともかくもこのガダルカナルという島は日本にとっちゃ曰く付きなんだ。

「ただでさえ贅沢は出来ない状況なのに」

「どっちにしろ潜入だから支援は期待できないんじゃない?」

衣笠の言う通り、これは短期決戦で終わらせるつもりなんだろう。そんな長いことあんな島にいたくないぜ。

「諸君」

後ろから聞こえたのは提督の声だ。

「話は聞いてるみたいだな」

「まあ、噂程度ですけど」

「その通り、君たち第六戦隊の四人にはガダルカナル島への上陸を命ずる」

「えー」

衣笠がぶうたれる。


「えーじゃない」

「どうせ補給もないんでしょ」

青葉も不満げだ。

「ああ、だから三日以内に終わらせろ」

「三日かァ」

「上陸し、敵の拠点を捜索、正確な位置を報せろ。何か有用な情報があれば持ち帰れ、以上」

「いつもにも増して無茶なこと言うよね」

「しかしなぁ、秋津洲の奴が急かすらしくて」

「そりゃあ、一帯を消し飛ばしゃ手っ取り早いからね」

「さて、どうしますか古鷹」


さっきからダンマリを決め込んでいた古鷹だが、

「命令とあれば行きましょうか」

と言うからには早々に決断していたようだ。尤もあたしらのリーダーは古鷹だから、

彼女が白といえば白なんだ、この間はちょっぴり失敗しちゃったけど、それでも全ての信頼を失ったわけじゃない。

「まっ、そうこなくっちゃね」

「敵の写真を頂いちゃいましょうか!」

と二人はやる気だ、となるとあたしも俄然やる気が出てきたよ。

「よっしゃ、あたしたちの出番だね」

「頼んだぞ、第六戦隊。必ず生きて戻るように。では出発は明日の午前1時とする、解散」

提督は去っていった。夜中の出発となると、今からでもグッスリ眠っておかないとな。


「みんな、ちょっといい?」

古鷹が皆を引き止める。

「どうしました?」

「なになに?円陣でも組む?」

衣笠があたしと青葉の肩に手を回す。古鷹も手を伸ばし円陣を組んだ。

「最近は空母とか航空機が目立ってるから、私たち重巡部隊の活躍もここいらで見せつけてやろう」

古鷹が珍しくなかなか熱い事を言うもんだから、三人ともぽかーんとしてしまった。しかし、しかしねぇ……。

「いや、スポーツのノリじゃないんだから……」

「まあまあいいじゃない!」

満面の笑顔で言われてもなァ、流石にそんな軽い感じで命のやりとりなんかしたくないぜ。


秋津洲
艦種:水上機母艦

秋津洲は艦娘でありながら、工作艦艦長、航空機操縦士、航空機整備員、艦娘整備員を兼任した。
太平洋戦線において九七式飛行艇や二式飛行艇などに乗り込み、深海棲艦の大型艦数十隻と駆逐艦以下の小艦艇50隻以上(正確な数は不明)を撃沈するという戦果を挙げた。
また、敵戦闘機を12機撃墜したエースパイロットでもある。
戦意を失い逃げ惑う深海棲艦さえも徹底的に追撃して殺害したために「翡翠の死神」、「和製ルメイ」、「ジェノサイド秋津洲」などと渾名されるようになる。


初霜書房刊『艦娘図鑑』より

今夜はここまで丸
あ、あくまでこのSSの世界の中の秋津洲ちゃんだから……

–本編とはあんまり関係のない部分の世界観の補足っぽい妄想かも-


住民は徹底的に甘やかせ。
食糧、消費財、娯楽、ありとあらゆる贅沢を用意しろ。
職を与え、犯罪は公正公平に取り締まり、平穏の味を覚えさせろ。
たとえ賛美の言葉を受けようと謙虚に振る舞え、いい顔をしろ、人望を集めろ。
どんな小さな不満にも細かく対処し、社会的弱者を労わり、少しでも不満を取り除け。
本土の連中が羨む程に。

–-三笠幕僚長より樺太千島総督府、総督国後への命令書


夜中、小柄な女性が一人で出歩いているのを見かけて作戦の成功を確信しました。

–-樺太千島総督府、総督国後からの報告



日本はサハリンの市民を洗脳し、骨抜きにした!邪悪な分断工作だ!

–-戦後、ロシア軍サハリン市民虐殺事件について、ロシア軍高官の発言



国後
艦種:海防艦

国後は、主にオホーツク海で活躍した艦娘であり、樺太千島総督府の総督でもあった。
人望に厚く、現地住民から愛されていたが、戦後のロシア軍サハリン市民虐殺事件にて地元住民を庇い、ロシア軍艦娘スターリングラードの砲火を受け死亡。
彼女の死は地元住民による樺太千島日本編入運動を熱狂的にし、これにより日露の溝は大きく深まった。


初霜書房刊『艦娘図鑑』より

いらんかなァとは思ったけどせっかく書いたし投下


-緑の砂漠-


その日は朔日で、月明かりがほとんどない真っ暗闇の海を海図とにらめっこしつつ自らの勘で駆けていく。

目指すはガダルカナル島、人口6万人を擁する、あるいは擁しているはずの島だ。

荷物を載せた小型艇を引っ張って艦隊はなるべく静かに移動していた。

とは言うが、流石に機関の音と波をかき消すことは出来ないので気持ち的にはって事だが。

艤装の装甲は一応防音仕様で、爆音は鳴らないけどそれでも結構うるさいんだ。

遠くにぼんやりと島の影が見える。

「あれじゃないか」

「ラッセル諸島を越えた先だから、間違いないよ」

見た感じ警備艇などは配備されていない様子で、そのまま難なく島の北西部の小さな砂浜に上陸し、小型艇を引き上げた。


「ふぅ、さて忙しくなりますよ」

「青葉、衣笠、周囲の警戒を。加古は穴を掘って」

「了解です!」

「えー、あたしだけか」

「私は荷造りするから」

青葉と衣笠は副砲に消音器をつけると、森の中に消えていった。

大口径砲の小型化が可能な艦娘ならではの装備だ。流石に主砲の消音器の開発は難しいみたいだが。

あたしはスコップを持ち出して、大きな穴を掘る。船をそのままにしておくわけにはいかないから、

堂々と置かずに埋めておくんだ、痕跡が見つかると面倒だし。ぶっちゃけ要らなかったんだけどね、今回の場合。

しかしまあそこは艦娘だから、パパッと掘っちまおうかとガンガン掘り続けた。

1時間ほどして荷造りまで終わらせたところで、ちょうどその頃に二人が森から出てくる。


「周囲に敵影無しです」

「連中は相変わらずザル警備よね」

もしかしたら罠かもとは思ったが、流石に島全体を警備するほどの余剰戦力はないのだろう、ということで落ち着いた。

そんなもんこっちだって無いしな、潜入されることがあらかじめわかってるなら別だが。

「じゃあ、これ。みんな一セットづつ、食糧は考えて食べてね、ジャングルにトイレなんか無いから」

「野グソか、野グソは得意だぜ」

「ぶっ、ちょっと、笑わせないでよ」

衣笠が吹き出しそうになった、そもそもみんな海上で用を足すわけだから苦手な艦娘はほとんどいない。

「それと、例の薬については私が指示を出すまで使わないで」

「了解でーす」

例の薬っていうのは覚醒剤の事なんだが、艦娘の体じゃ効果が切れればさっさと分解しちまうから体に害はない、

問題は精神的依存の方で、あの高揚感を一度味わうと……という話だと提督から聞いた。


まあ使うような状況にならなければいいだけの話だし、いよいよの時は明石が何とかしてくれるだろうよ。

今回については安心してください、使ってませんよ。

「しかし、小島とはいえ四人で探せとは無茶苦茶だよな」

「諜報員は一人で何千万人もいる敵国に潜り込むんだから、それに比べれば」

「それとこれとは別じゃないです?」

「見つけたらどうするんだ」

「可能なら潜入して、その後発煙筒で報せる。あとは猛ダッシュで離脱する、敵の追跡と艦砲射撃と空爆が来る前に」

無茶苦茶だと思ったんが、意外とそうでもなかったらしい。

戦後に判明したことだが、この頃は深海棲艦の装備更新が追いついてなかったようで、

守備隊以外は一斉に引き上げ、もし海上で戦えば重巡四人でも拮抗出来るほどだったらしい。

尤も、そういう資料が深海側に残っていたことの方が驚かれたそうだが。

そんな風にだらだらと雑談しながら密林を進む。お決まりのパターンだ。

夜中だからどっち向かってるかわからなかったが、敵基地がどこにあるかもわからんので同じことさ。


翌日の昼前、錆びたトラックを発見した。

「何があるか見てみようか」

「罠だったら嫌ね」

「嫌で済めばいいけど」

辺りを確認しつつ、トラックを調べる。座席には何も無い。

「荷台かな」

何も考えずに覗き込んでしまう。

荷台には白骨が綺麗に並べられていた。服も着たままだ。荷台の底はドス黒い何かで染められている。

「ウゲッ」

「これって……」

「きっと市街地から逃げてきたんでしょう」


「じゃあ、奴らが現れてから数年間ここに放置されていたってことに……」

こうなってしまえばもはや性別さえもわからない、そんな彼らの境遇を察すると、

胸をつんざくような切ない気持ちになった。四人でトラックに手を合わせ、先を急ぐ。

進む先々に簡易なテント、焚き火の跡、骨の積み重なった窪み、逃亡生活の様相が伺えた。

どんどん薄暗い気持ちになり、会話も途切れ途切れになっていく。

ここは緑の砂漠、ジャングルにはバナナやヤシの木があると想像されがちだが、これらは立派な農作物であり、

自然に繁殖することはない。さらに土地も痩せこけているため果実もほとんど存在しない。

キャッサバやタロイモは焼畑農業で作るものだ、逃亡生活でそんなことができるだろうか?

主な食料は動物ということになるが、むざむざ捕まるほど動物もアホではないから、

死因の多くは餓死であることが推測される。無性に腹が減ってきたので持ってきたクラッカーをこっそり一齧りした。


「数ヶ月なら、望みはあったでしょうが」

襲来直後は艦娘の登場まで一方的に蹂躙されていたし、登場しても自国周囲が限界だったのだから、

しかもその頃のあたしらはただ子供だった。結局どうしようもなかったという虚しさだけが心の中を吹き抜ける。

「あーあ、しょーがないしょーがない」

そういう時、艦娘たちはみんなこう自分に言い聞かせて忘れようとした。

この『ああしょうがない』の精神は意外と重要だ、何でもかんでも抱え込もうなんて世の中そう甘くはない、

精神的疲労でぶっ倒れるくらいなら『もう済んだこと』と言い切ってしまう方が楽だし、

人間楽な方に逃げていくもんだから、みんなこの言葉を使い始めた。

不謹慎だとか無責任だとか外野の連中は好き勝手言いやがるが、これが浸透した事で艦娘たちの精神的負担が大幅に減ったのもまた事実だ。


とある川を渡ろうという時、青葉があるものを見つける。

「これって、何か引きずった跡でしょうか?」

「まだ新しいわね」

上陸してから大体50kmは歩いただろうか、その間は逃亡した島民の痕跡しか見つけられなかったが、

ついに何か手がかりになるものを見つけた。ようやくか、と安堵したよ。

「辿っていこう」

「戦闘準備」

肩にぶら下げていた砲を手に取る。足跡は川下へと続いていた。

「ついに来ましたか、期限に間に合ってよかった」

跡を辿り川を下っていくと民家が見え始める、それも手入れが行き届いている。


「島民か深海棲艦かはわからないけど、確かに誰かが住んでいるみたい」

体が見えないように隠れて住宅街を偵察すると、深海棲艦たちが何人か見えた。

何やら雑談でもしているような和気あいあいとした雰囲気だったもんだから、驚いた。

「連中もあんなことするんだな」

「気味が悪いというか、あまり考えたくはないわね」

「あいつら警備隊か、はたまた本隊か」

「とりあえず、今は放っておかない?」

「川を下ろう」

その場を離れ進み続ける、幸いにも敵には遭遇しなかった。

先は市街地であったが、深海棲艦の襲撃時そのままなのか、瓦礫の下から草が生い茂る、

人類の終末を想像させる荒廃した風景が広がっていた。


ところで、遠くに石の塔のようなものが見える。

「アレなんだ」

「記念碑か何かでしょ」

「いや、それに吊るされているやつ」

古鷹が双眼鏡を覗く。すると小さく驚愕の声をあげ、あたしに双眼鏡を手渡した。

あたしも見てみると、艦娘が数人、裸で吊るされていた、傷だらけである。日本人ではないようだ、となると、

「アメリカ軍、かしら……」

「許せない、深海棲艦め」

衣笠が憤る、もちろんあたしたちだって。グワッと頭に血が上り始め、髪の毛が逆立つような感覚が走る。

「待って、一人だけ生きてるみたい」


「助けよう」

衣笠が飛び出した!

「あ、待て!」

制止の声も無視して一目散に彼女の元へと走る。銃声が聞こえ始めた、バレたんだ。

「衣笠のバカーッ!!」

こうなってはもう仕方がない、と三人も飛び出し衣笠を追いかける。

「死ね!死ね!」

衣笠が相当頭に来ているようで、撃つたびに深海棲艦を口汚く罵る。

おかげでこっち三人が冷静でいられたので、まあそれは良しとしよう。でも女の子としてそれはどうなんだ。

「どうしようかなァ」

古鷹が呟く、ホントどうしようかね。

吊るされた艦娘の元までの遮蔽物は瓦礫が少しあるだけだし、結局艦砲を防げるような強度もないから丸裸の状態だ。

あたしも何発も体中に銃撃を受けたが、敵軍に重巡以上の艦がいなかったこともあり、なんとか動けた。


「痛い!ですねぇ、ほんとに」

「嫌になっちまうなァ」

軽口を叩き合いながら四人で茂みの中に伏せていた、だがそれもどれほど持つか。

たかだか100m程度の距離だが、生い茂る草と瓦礫、砲火に阻まれて、相当な距離に感じたな。

敵はホ級が4隻、ヘ級が2隻で必死の形相で撃ってくる。

砲と艤装に取り付けられた防盾で凌いではいるがこのままでは埒が明かない。

「突撃しよう」

「あー、それしかないかやっぱ」

副砲の消音器を外し、主砲には三式弾を装填、いつでも突撃は可能だ。敵も一箇所に固まっているから楽でいい。

「突撃ッ」

古鷹の号令により、四人はバッと立ち上がり猪突猛進の勢いで吶喊する。

相手は一瞬たじろいで、砲声が止んだ。


「糞が、死ねゴミどもッ」

にしても相変わらず衣笠は口が悪い。弾丸をばら撒きながら敵陣に到達、そこからは殴り合いが始まった。

こうなりゃこっちのもんだ、連中はステゴロは苦手なようで後ずさりするがもう遅い。

目に付いたヘ級に掴みかかり渾身の力で殴りつける、つけている仮面がぐにゃりとひしゃげて、

隙間から青い血が溢れ出してきた。ギャッ!と悲鳴を挙げてあたしを引き剥がそうとするが、

こいつの右手は砲になっておりうまく掴めないでやんの。もう一度殴るとカクンと力が抜け、動かなくなった。

顔を上げ、辺りを見渡すと、古鷹がホ級に首を絞められていたので、ホ級の顔面を蹴り上げる。

たまらず古鷹から手を離した、そこであたしは短刀を抜いて胸を一突きした。

ズッと刃が入り込む感触は何度やっても慣れないもんだ、そのままグシャグシャと刃を回す。

その間、ピクピクとかすかに震えていたホ級だったが、すぐに絶命した。

「大丈夫か」

「ゲホッ、ありがとう加古」

青葉の至近距離での砲撃を最後に、敵部隊は全滅した。


「吶喊は何も考えなくて楽ですね、はじめからこうすればよかった」

「増援が来る前に、彼女を救出しましょう」

記念碑を見てみると、どうやらガダルカナル島で戦死した米兵を祀った慰霊碑みたいだ。

衣笠はその慰霊碑に無理矢理よじ登り、強引にロープを切る。ゴリラかお前はとか思ったが、

火事場の馬鹿力というやつだろう、一刻も早く助けたかったんだろうな。

残念ながら、その生き残った子以外は既に絶命しており、そのまま連れて帰る他はどうしようもなかった。

「大丈夫ですか?私たちは日本海軍です」

古鷹が話しかける。英語だったんであたしはさっぱりだったが、後から聞いた内容を書かせてもらう。

にしても一体どこで習ったんだろうな。


「ああ……日本人か……」

「一体ここで何が」

「艤装を……」

その子は近くにあった倉庫を指差す。

「私は、スチュアート、艤装を……」

「衣笠、お願い。この子はスチュアート」

「うん」

衣笠は倉庫に飛び込み、いくつかの艤装を担いで出てきた。

「それ……」

スチュアートが指差した物を彼女に取り付ける。すると少しはマシになったようで、上体を起こした。

「スチュアート、ここの敵軍の拠点はわかる?」

「……そこの川の、一番上流にあった」


「どうして吊るされていたの」

「仲間と共に上陸したんだ、でも負けた。上陸部隊は皆殺しにされた。逃げ延びた艦娘は潜伏して戦ったが……」

数ヶ月ほど前、米海軍の艦娘が上陸するも、上陸後に包囲殲滅、生き残りが島内を逃げ回ってゲリラ戦を行っていたが、

先日に拠点を見つけたところで捕らえられ、このような状況になってしまったのだという。

「拠点の位置がわかった以上、一刻も早く退散しましょうよ」

「正直、この子が助かっただけでも十分だと思う」

古鷹は少し考える。

「じゃあ、発煙筒は誰が……」

「んじゃあたしが行こうか」

とあたしが名乗りを上げたのさ。足には自信があったし、何より他の三人は結構傷だらけだ。

ならば一番軽傷なあたしが行くべきだろう、と力説すると、

「気をつけてね」

と発煙筒を手渡してくれた。

今夜はここまで
参考:Google マップ


-降り注ぐ砲弾-


川の上を艤装を使って突っ走る。こうなればスピード勝負だ。

先ほど住宅街にいた連中がこっちに気がついたのか追ってきた。

連中の方が流石に早いがなんのことはない、振り返って弾幕を浴びせると、ひるんで距離を離していく。

いきなりスピードを上げてとばしていくと先の戦闘の傷口がなんだかズキズキ痛んできた。

それでも速度を緩めることなく突き進んでいく、何やら真新しい建物が見えてくる。きっと連中の拠点だ。

川の上に立つ歩哨らしき深海棲艦が何やら聞き覚えのない言語で叫んだ。

しかしすぐに主砲でぶち抜いてやった、辺りに青い血が飛び散る、拠点はもう大騒ぎだ。

砲声が拠点の方から散発的に聞こえるが肝心の弾が飛んでこなかったんで、多分やたらめったらに砲を撃ってるんだろう、

慌ててるからといってヤケクソにも程があるんじゃないか?訓練とか真面目にやってんのか?


とりあえず、その隙に乗じて発煙筒を点けてその建物の屋根の上にぶん投げた。

赤い煙が立ち上る、なるほどこりゃ一目でわかるな、と何故か妙な感心をしつつ反転し、

今度は逆に追っ手のど真ん中を突き抜けた。しばらくすると遠くで砲撃音が聞こえ始める。

「おーやっとるやっとる」

と軽口叩くのもつかの間、近くで着弾音。サーッと血の気が引いていったのを感じたよ。

「下手くそ!」

帰ったら一発殴りつけてやる!と心に誓い川をぶっ飛ばして進んでいく、

ボーゥと風切り音が鳴り響き、真横に着弾、川岸に叩きつけられる。艤装のせいで背中が余計に痛い!

痛みでのたうち回っている間にも砲弾はドカドカ降ってきた、この時は本当に参った。


なんでこんな役引き受けたんだろうとか、撃ってるやつ死ねとか、

もう故郷日本を拝むことはないんだろうなんて、惨めさと怒りと悲しみとが、

走馬灯のようにグルグル頭の中を回り、そのうち涙が溢れ出てきたね。

なんとか気を持ち直して衝撃で停止した機関を再始動させようとするけどウンともスンとも言わないんだ。

「ふざけんなよ、もぉ~~!」

と涙目で怒鳴りつけたり肘打ちしたりして艤装に当たっても何も変わりはない、こいつはへそを曲げたんだ。

もうどうしようもないし、ジャングルの中を岸に向かって泣きながら走った。

果たして傍からどう見えていたか問題だが、目撃者はいなかったようで名誉は守られた、のか?

どれくらい走ったか、何度も転びながらもようやく浜辺にたどり着き、沖合の艦娘に手を振る。


が、帰ってきたのは砲弾である。そりゃそうだ、この状況じゃ深海棲艦かと思うよな、あたしだって思うもん。

飛んでくる砲弾にどうしようもなく蹲る。早く殺してくれ!と心の中で強く念じながら。

横向いてたから肩や横っ腹に何発も砲弾が刺さり、血肉を垂れ流した。

命からがら逃げ帰ったら味方の集中砲火だから、こんな怖くて苦しい絶望はないよ。

しばらくすると気がついたのか砲声が止む、顔を上げると駆逐艦数人が血相を変えてこちらに向かってきた。

死なずに済んだと安堵するよりも先に慌てて涙を拭い取る。

「大丈夫ですか!?」

「んなわけないだろこのバカどもが!」

思わず怒鳴りつける、彼女たちに罪は……なくもないが、ここまでされちゃ誰だって怒るよな。

「申し訳ありません~~~」

とよく見ると睦月と如月だ、それに今回は榛名たちの隷下にいた第七駆逐隊の連中もいる。


みんなワンワン泣いているもんだから、こっちがなんだか申し訳なってきて、

「ああ、もういいよ、生きてるし」

と言ってしまうのはもうしょうがないんじゃないかなと思う。誰だってそうするし、あたしだってそうした。

でもそう言ってしまっても、傷口がふさがるわけでもなしハラワタはみ出させてるから、

彼女たちの罪悪感を余計に刺激したみたいで、泣き声はさらに激しくなるんだ。いいから早く手当してくれ。

「やかましい、もう、うごっ」

さっき怒鳴ったせいか、口から血がボトボトこぼれ始める、そういえばかなりの重傷だったなァとか思い片膝を付いた。

となると駆逐艦たちは一斉に泣き止み、あたしを抱きかかえる。思いの外意識ははっきりしていた。

『こちら第六戦隊司令、聞こえるか』

提督からの無線が思い出したかのように飛んできた、無線封鎖が解かれたんだ。


喋ろうにも口の中に溜まった血が邪魔して泡を吹くような声しか出ず、

「こちら睦月!加古、大破です!現在第七駆逐隊と共に曳航中!どうぞ!」

と睦月が代わりにやってくれた。

『ホニアラ市街地より敵艦隊の出撃を確認した、陸上攻撃を取りやめ海上戦闘に移る』

「加古さんはどうします!」

『睦月、如月で運べ。第七駆逐隊は応戦へ』

しかし駆逐艦二人で曳航というのは結構無茶な事で、重巡なら一人につき四人と規定されていたんだ。

四人でなきゃ安全に運ぶことはできないとされていた、特に戦闘が行われている海域では。

「せめて三人に、三人にしてもらえないでしょうか!」

『沖合に榛名一人なんだ、それに古鷹たちを戦闘に加えるわけにはいかない』


あの下手くそ艦砲射撃は榛名か、チクショウ覚えとけよ、生きて帰ったら鼻っ面ぶん殴ってやるわ。

ともかく、一足先に作戦海域を離脱中の三人は任務を終えた直後だから、こういう判断になったんだろう。

あの三人も今のあたしほどじゃないが、中破程度のダメージは受けていた。

軽巡揃いの連中でも流石に戦艦一人じゃ厳しいから、たとえ駆逐艦でも数が欲しかったというわけだ。

しかし、侮ってもらっちゃ困る。なあ古鷹?

『第六戦隊は出れます』

古鷹の無線だ。そうこなくちゃね、第六戦隊の名が泣くぜ。

『青葉も突撃取材しちゃいます!』

『ここは衣笠さんたちにお任せ!』

と続く二人、もう感涙ものだね。さあそれじゃあさ、あたしだけこんなところでくたばっちゃいられないだろ?

抱える睦月と如月を押しのけて、止まっていた機関を始動、今度はしっかり動き出した。


「ちょっと!安静に!」

制止を無視し、口の中の血を吐き出し、こう言い放った!

「よっしゃあ!あたしの出番だね!」

『いや、加古は引っ込んでて』

酷いこと言ってくれるじゃないか古鷹よ、だがこうなったあたしは止められない。

痛む体に鞭打って歩を進めようとするが、睦月と如月がしがみついてきて、

「待ってください!」

「ほんとに、ほんとに死んじゃう!」

『仕方ない、第六戦隊、加古以外は作戦海域に戻って戦闘に参加せよ。加古以外』


なんだい、せっかくあたしがやる気出して頑張ろうってのにさ、みんなひどいぜ。

あーあ、こうなったらいじけたもんねー、やってらんねーとか思っていたら、

急激に眠気が襲ってきた。

「あー、マジで死ぬー。死ぬほど寝かせてー」

「えぇ!?」

「ダメ、寝ちゃ!」

と睦月と如月が騒ぐ騒ぐ、うるさい、もうあたしは寝るんだ、出撃もさせてくんないんだから、

眠ったっていいじゃないかァとか喋ってたつもりだったが、ふがふがとしか言えてなかったみたいだ。

そうして、二人の呼び声と無線の向こう側の音と砲声を子守唄にあたしはグッスリと眠ってしまった。


Q.アメリカ軍こんなとこで何しとるん

A.ハワイ、カリブ海でやられっぱなしなので腹たち紛れに南方進出、キリバスやサモアを経由してきたらしい
 ていうか軍司令部が大恐慌を起こしていて自分たちが何やってるかわかってないっぽい


Q.って、なんで榛名ちゃんが!?

A.爆撃ついでに艦砲射撃やっとくか~と昨日ぐらいに戦力移動してきた


今夜はここまで


秋津洲「秋津洲がいる事も忘れちゃダメかも!いつ煙が上がってもいいように作戦中の昼間は上空で偵察してたかも!」

榛名「砲撃の際は秋津洲ちゃんからの情報を頼りに行っていました」

秋津洲「間接射撃かも!目標地点の距離、方位、標高を測定して射撃要求を攻撃部隊に送るかも!」

榛名「受け取った情報を算定して仰俯角や左右旋回角、弾薬を調整して射撃します」

秋津洲「そこで着弾を観測して、修正要求を送るかも!」

榛名「その要求に従って再び射角を調整し射撃、射撃目標を達成するまで繰り返します」

秋津洲「時には自分の艦載機を使って一人でやらなくちゃいけないから、艦娘は大変かも……」

榛名「でも榛名は大丈夫です!」


参考:Wikipedia


描写し忘れていた申し訳ない
加古の知りえない情報ではあるが、何か挟むべきだったかも

あとスチュアート(Stuart)じゃなくてスチュワート(Stewart)でした。ごめんちゃい


-サボ島夜戦-


そのまま事が穏やかに済むと思ったら、これは大間違いであった。

あたしが目を覚ました時は水上機母艦秋津洲で治療を受けていたんだ。

「あ、目が覚めたかも」

「……終わったのか、戦いは」

「いや、まだ続いてるかも、あれからもう6時間と23分」

「何?」

驚いた、それほどしか寝ていなかったということも然ることながら、あれからまだ戦っているという事にだ。


「どういうことだ」

「敵の新型艦が出現した」

新型艦とは空母、軽空母と軽巡洋艦であった。それぞれヲ級、ヌ級、ト級と命名されることになる。

「不意の爆撃を受けて榛名ちゃんが大破、サボ島に逃げ込んでそれからずっと篭って戦っているかも」

「寝ている場合じゃないな」

「傷はちょびっとだけ回復してるけど、疲労はまだまだ溜まってるかも」

「いや、寝ている場合じゃないよ」

無理くり起き上がろうとする、が、

「よさんか加古ッ!」

提督がここで出てきやがる、引っ込んでろ、これはあたしの戦いだ。大体お前影薄いんだよ!


「……提督、出撃させてくれ」

「それはできん、仲間を思う気持ちはよくわかるが、お前、この状態で出ては死ぬぞ」

「大変結構、さあ出撃だ」

「待て加古」

「では古鷹たちはどうなる、あいつらだって休憩なしでやってるじゃないか、あたしだけ寝てるわけにはいかない」

「とにかく安静だ」

「……」

提督はそのまま立ち去る。出撃命令が出ないんならもうどうしようもない。

「クソッ……」

「おっとォ」

突然秋津洲がおどけたような声を上げる。


「薬品が目にしみたかもォ、大変かもォ、これでは誰かが抜け出してもわからないかもォ」

何言ってやがる、そう言いつつあたしの艤装に応急処置と補給までしてるのはどいつだ。

しかし秋津島はふぅ、と息を吐くと演技をとっととやめた。なんだそりゃ。

「いやー、大破したのを6時間で仕上げるのは大変だったかも」

「すまん、秋津洲」

「全滅しそうになったら、島ごと皆殺しにしてやるから後の事は心配しないで欲しい」

「そりゃどうも、そこまで言われちゃ生きて帰って来なきゃ癪だな」

コイツの場合本気でやりかねんから恐ろしい。

「外、暁と雷が待ってるかも」

そう言って、秋津洲は壁に向かって砲を撃ちやがった!ズガァンと轟音が鳴り、破られた壁からはオレンジ色の空が見える。


「すまん、ありがとう!」

あたしはそう言ってその穴から飛び降りる、確かに下には暁と雷が待っていたが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。

「ちょっと!やりすぎじゃない!?」

「平気かも、まあ修理は大変だけど。ここまでやったんだから生きて帰って来なきゃ爆撃の標的かも」

秋津洲が呑気な調子で手を振る。いつもこれだが、それでこの突飛な行動を取るんだから驚きさ。

でも意外な一面を見れた気がするよ、ありがとう秋津洲。

「ちょっと!泣いてるの?大丈夫、あたしがいるじゃない!」

気がつけば涙が頬をつたっていたようだ。雷が心配そうに見つめ、励ましてくる。

「ああ、そうだな、でも急ごう、大事な人がいなくなる前に」



島の西側に敵は確認できなかったので、そのまま上陸し島の沿岸を隠れつつ南にぐるりと回って向こう岸まで走る。

戦っている皆の気持ちを思えばどうってことないさ、二人もしっかりついてきてくれている。

以前にも書いたと思うけど特型駆逐艦というのは大変優秀で、生きろと言えば生き死ねと言えば死ぬ、との評判だ。

どんな命令でもパニックにならずにきちんと聞いてくれるから相当訓練を積んでるんだろう。見た目からは想像もできない。

しばらくして洋上の敵艦隊が見えるようになった、航空機が空を飛んでいる。定期的に爆撃を繰り返しているようだ。

「見ろよ、ありゃUFOみたいだぜ」

「すごいわね、どうやって飛んでるのかしら」

暁は首をかしげる。しかし、敵には空母がいてこっちにはいないってのは不利なんてもんじゃない。

空母を倒すなら空母しかないのだ。だが夜は違う、今や薄暗くなってきているから敵も焦っているはずだ。

「どっちか探照灯持ってるか」

「暁の出番ね、見てなさい」


「いや貸せ。夜戦で決めよう」

以前鳳翔から聞いた、空母は夜になると役立たず、という話を思い出したんだ。

真偽はどうあれこれに賭けることにした。しょんぼりした暁から探照灯を受け取り、艤装に取り付ける。

「部隊との合流はしないの?」

「いや、今合流しても的がデカくなるだけだ。とにかく連絡を取ろう」

無線機の電源を入れる。

「こちら加古、聞こえるか」

『加古?どうして……』

「状況は」

『榛名さんが大破して第七駆逐隊と共に山中を逃亡中、青葉と衣笠が第三十駆逐隊と共に行方不明』

「無線は」

『通じない、無線機が壊れているのかも』

「第三十駆逐隊は無線機を持ってないのか」

『今日は持ってきてないのかも……』


そんな簡単に言ってもらっちゃ困るよ、しかしこれじゃどうするか。彼女ら抜きでやるしかない。

一先ずは空母だろうがこれは夜戦で片付けるとして、問題は軽巡洋艦だ。

「敵は全部で何隻いる」

『数えただけで、空母1隻、軽空母2隻、軽巡4隻に駆逐艦が沢山』

おいおい、こりゃ結構本気の編成だぜ。

「空母は夜戦で潰す、敵空母の撤退開始か日没時点で敵艦隊に夜襲をかける」

『そんな、無茶な』

「夜中に大破艦抱えて島中逃げ回るか?朝には補給を終えた空母が戻ってくるぞ」

『海域から離脱できれば……』

「青葉たちを置いて帰るか?それよりも敵空母に打撃を与えて自分から撤退させた方がいい」

新型空母が沈んだとあれば連中の士気も下がるだろう、それだけは向こうも避けたいはずだ。

尤も、あいつらが組織的な戦闘を行っていればの話だが。


「攻撃は最大の防御って言うだろ?」

『……わかった、私と漣、潮で突入する』

「あたしたちが交戦を始めたら、それが合図だ。頼んだぜ」

それだけ聞いて無線機を切る。

「聞いたな、準備はいいか」

「雷に任せてよ!」

「夜戦は得意なんだから!」

頼もしい二人の返事を聞き、敵の動向を窺う。そろそろだろう。

航空機を全て収納し終えると、敵空母が向きを変え撤退を始める。

「行くぞ二人共、魚雷戦用意」

「了解」

隠れていた草むらを飛び出し、海の上に出た。左に雷、右に暁を引き連れ、機関を鳴らす。


「探照灯を点けたら攻撃開始だ」

全速力で接近、肉薄し、探照灯を照射する、真正面に敵空母が見えた。

目が眩んだような、眩しそうな顔をしたが、すぐに絶望の色へと変わる。

「てぇッ」

両隣からそれぞれ一発ずつ、魚雷の発射音が聞こえ、雷跡が走る!

「散開ッ!」

次の号令だ、二人は左右に散らばり、暗闇に消えていく、瞬間、轟音が轟いた、魚雷が命中したんだ。

雷跡からすると暁の魚雷だ。敵空母ヲ級は炎上し、その明かりで敵艦隊の位置が顕となる。

ヒィィィィィィと断末魔の叫びが聞こえ、空母は沈没、敵はやたらめったらと砲弾をばら撒く。

「撃退できればいいと思ってたが、ここで叩きのめすか!」

「当然よ、やっちゃいましょ!」

雷が答えた、ここでこのまま一気に押し込んでおけば、敵の損害は計り知れない。


新空母が初陣で沈むだなんて、まさかそんな事になるとは思わなかっただろうから、

敵の士気と設計建造した者の事を思うとちょっとだけかわいそうになってきた。

「そんな攻撃当たんないわよ」

雷は余裕そうだ、特注の碇をスレッジハンマーみたいにぶん回して敵軽巡の頭をかち割った。

これは決してデタラメを書いてるわけじゃない、近接武器はみんな自分の性に合った武器を持ってるもんだ。

あたしなんかは短刀だし、どこぞの軽巡の木曾は軍刀みたいな打刀を持ってるし、鎌や手斧を持ってる奴もいたな。

とにかく軍人だし残酷だの非道だのを考えてる場合ではないから返り血浴びてもケロッとしてらァ。

敵艦隊は司令塔が崩されちまったわけだから、もはや烏合の衆と変わらない、そこに古鷹たちの突入もあり、大混戦となった。

軽空母なんか何もすることができないから、ただひたすらあたふたしてるだけだった。

そこを探照灯で照らしてやると、暁が魚雷を3発撃ち出した。

「やぁ!」

どうもこいつは雷撃の才能があるようで、吸い込まれるように雷跡は二隻の軽空母に進み、爆発炎上、

まもなく沈没した。暁の戦果は既に空母一隻、軽空母二隻という駆逐艦では異例の戦果だ。


「ふふーん!」

暁のしたり顔が立ち上る炎に照らされて、ちょっと怖い。

あたしはというと、その間ずっと集中砲火を受けていたわけだ。二人の目標を照らし続けているからな。

だが所詮は軽巡、駆逐艦の砲、致命傷とはなり得ない。苦痛がずっと続くという意味でもあるが。

艤装、特に弾薬や機関関係の部位を出来るだけ晒さずに肉体や防盾で受ける防御体勢は艦娘の基本だ。

でもせっかく秋津洲に治療してもらった体がまたボロボロになってしまったよ。

「ぶっ飛ばす!」

こちら目掛けて砲撃してくる新型軽巡に照準を合わせ、射撃!

やや横にそれたみたいで右側の砲塔に命中し小規模の爆発が起き、内部が露出する。

「まだまだァ!」


ひるんだ相手に続けて引き金を引き、再び同じ砲塔に命中、今度は弾薬に引火したようで、

大きな爆発を起こし、木っ端微塵となった。周りにいた敵艦が明らかに動揺し始める。

古鷹たちの攻撃もあり、敵艦隊はほぼ壊滅状態だ。すると後ろの方にいる駆逐艦がこっちに背を向けて逃げ出した。

それを皮切りに敵部隊は撤退を始める、追撃はしなかった、その必要はないだろ?

「加古!」

「古鷹、勝鬨を上げてる暇はないぞ、榛名の救助と青葉たちを探さなきゃ」

しかし大勝だ、奇襲がここまでうまくいったのは戦争全体を通しても稀だろうね。

すると気を良くした暁が軍艦行進曲の調子で歌い始める。



守るも攻めるも黒鉄の

鎧を纏いし童女(わらわめ)よ

浮かべるその人日の本の

御国の四方を守るべし

真鉄の乙女 日の本に

仇なす敵を打ち払え


海行かば 水漬く屍

山行かば 草生す屍

大君の 辺にこそ死なめ

長閑には死なじ


「のどって何かしら!?」

自分で歌っといてなんだいそりゃ。

「馬鹿ね、穏やかに死ぬことはないって意味よ」

「えー!やだぁ!」

この替え歌は自分で考えたらしいが、わらわめとかよく知ってると思うよ本当に。

聞いた話じゃ誰でも若いうちはこういう妙ちくりんな事考えてるらしいんだが、あたしにはいまいちピンとこない。

島を探照灯で照らしていると、睦月が顔をひょっこり覗かせていた。

「あ、いた」

指を指すとシュッと隠れてしまう。小動物か何かかお前は。続いて青葉たちがぞろぞろと現れる。

あたしたちも上陸し、合流した。


「どこ行ってたのよ、青葉!」

古鷹が叱りつける。

「いやぁ、道に迷いまして……」

「無線機落とすしさぁ」

青葉と衣笠はバツが悪そうに苦笑いしていた。

「もう、睦月ちゃん。しっかりしてって言ったじゃない」

「ごめんにゃしぃ……」

いやいや、そりゃあんまりだろ、いや青葉がやらかさないとは限らないが。

「ドンパチ賑やかになってる方に出てきたんです」

「それで、見てたんだけど」

「見てないで助けろよ」

「あ、アハハハハ!」


笑って誤魔化そうって魂胆か、チクショウ。大勝で終わったからよかったものを、

これで大損害が出ていれば責任問題になるんだぞ、そうなりゃもう軍法会議だ。

第七駆逐隊が榛名を引き連れて戻ってきた。

「はぁ……全員無事で何よりです、はい」

「あんたは無事じゃないでしょーが!」

「は、榛名は大丈夫です、多分!」

いやどう見てもボロボロだが、なんとか運べそうだ。こんだけ数がいれば多少中破大破艦が混ざってたって護衛には問題ない。

「さぁ、最後の仕事です。全員揃って無事に帰還しましょう」

古鷹がそう言うと、艦隊は前線司令部のある秋津洲へと向かって進め始めた。

今夜はここまで
で、ソロモンの狼はいつ出てくるんだ?(白目)


-狼-


「知っとるか、キミら『ソロモンの狼』って呼ばれてんねんで」

「狼ぃ?」

本土行きの輸送船の甲板で龍驤と話していた、曰くソロモン諸島での戦いが知れ渡っているとか。

「せや、ラバウルからのショートランド、ガダルカナルにサボ島。最後にゃ空母まで沈めたらしいやんか」

「空母を沈めたのは暁だ」

「キミの指揮下やん」

まあ確かにそうだが、あれは暁の奮闘あっての事で、あたしは何もしていない。

「部下の奮闘は、指揮官の手柄でもあるんやで。逆もまた然り」

「そうかねぇ」


なんだかそう言われちゃ小っ恥ずかしいよ。しかし、狼ねぇ。

「狼ってのは、どういう意味なんだ。一匹狼みたいな」

「狼は孤高ってイメージがあるけどちゃうねん。集団生活する社会的な動物や。狩りも群れでする」

「ふんふん」

「それでなぁ……わかるやろ?そんな感じや、肩書きというか別名というか、称号みたいな?」

「なんとなくわかった」

とりあえず褒められてはいるらしいから素直に喜んでおこう。MVPがいるとしたら間違いなく暁だが。

「にしても憧れるわぁ、艦娘の鑑やで、伝説的戦いぶりやん!」

「何の事だかわからん」

「これやもん」


どうやら、満身創痍でも戦おうとした事に対しての評価らしい、そんな褒められるようなものかね。

「あたしは憧れられるような人間じゃないよ」

「謙遜せんでよろしい」

「復帰できたのは秋津洲の功績じゃないか」

「だからキミら全員揃って『ソロモンの狼』なんやで」

他所の海域はどうやらあたしたちほど熾烈な戦いはしていなかったようで、みんなケロリとした様子だ。

深海棲艦は日本から遠い、つまりの自身の本拠地に近い場所により強力な戦力を配備していたんだ。

だとすると、敵艦隊戦力を解析することで敵軍の『本土』を探すことができるだろう。

ただ現状はインドネシアよりはソロモンの方が近い、ということしかわからないが。


新造艦や海防艦に占領地を任せ、主力戦闘部隊のうちいくつかの部隊は一時的に本土で休養ということになった。

第六戦隊もその中の一つだった。長い船旅を経て夜の日本の港町の灯りを見たときは久々に文明を見たと感激したね。

すると夜中だというのに港町は大騒ぎだ。軍歌とラッパ、クラッカーの音がけたたましく鳴り響く。

「やっぱり、日本が一番だっぴょん」

誰が言ったか、どのような場所を訪れたとしても、一番素晴らしい場所はやはり母国なのだという。

愛国者が持つ誇りとはそういうものなんだ、艦娘だって同じだよ。やっぱり母国が一番だ。

これを言うと右翼だのなんだの騒ぐ連中が、昔はいたらしいんだが、

自分の所属するコミュニティに愛着が湧かない人間が果たして存在するだろうか?という話だよな。

検疫を済ませ、列をなして港に降りると、万歳三唱の大歓声だ。人々は日章旗と旭日旗を千切れんばかりに振っている。


「なんだか照れくさいや」

「え?何?」

「なんだか!!照れくさいな!!」

「あぁ」

うるさくって会話もろくすっぽ出来やしない。家に帰ってさあ休もう、と思いきや観閲式だのがあるんだと、

当然大不評だ、こっちは疲れてるんだぜ?帰ってすぐやることかよって思うよ。案の定、みんなグッタリしていた。

その次は勲章親授式だとよ、これはちょっぴり楽しみだ。やっぱり戦功が形や物になると口角が上がるよ。

ただし、戦後の栄典は戦争を前提に作られてないっぽいので制度の改革が必要だとの噂だ。

あたしたち第六戦隊は旭日単光章を頂いた。暁はなんと旭日双光章と第2級防衛功労章を頂戴したらしい。

深海棲艦の新型空母を三隻も沈めた功績だろう、暁のしたり顔が目に浮かぶ。



さて、空っぽになった軍宿舎にあたし一人だけポツンといた。

ソロモンの狼といえば聞こえはいいけど、結局のところあたしに限れば一人ぼっちの女の子さ。

帰りを待つ家族も、帰る家さえもない。それもこれもみんな深海棲艦のせいなんだというが、

今まではピンと来なかった、だがこの戦いを通じてようやく実感が湧いてきたよ。

あいつらが南方で、どれほど人を殺したのか、スチュワートの件についてもそうだ、

裸で、それも米軍の慰霊碑に吊るすとなると、連中の残忍さをよく表している。

一人になるとこういう事を考えてしまうからよくないな。数日は軍宿舎で一人だったんだ、

日に日に敵気心が勝手に増幅していくし、それを止める者もいない。

抑え込まれていた心の奥底の憎悪が戸口を叩き始める。

ひょっとして、それこそ童話の狼みたく扉をぶち破って入ってくるかもしれない。



第六駆逐隊旗艦、特三型駆逐艦一番艦の暁三等海佐です。本名は高須賀織というんですけど、艦娘としては暁です。
こんな立派な勲章を私なんかが頂いてもいいのかなと思うわけですが、こうして頂ける以上は受け取ります。
今回、敵空母つまりは敵の新兵器を三つほど撃破したという功績でこの勲章を頂戴しました。
結果として深海棲艦の出端をくじく形になり、この戦果が多くの人々を救うことになるのではないかと確信しています。
仲間たちの頑張りと日々の訓練、努力の賜物です。仲間たちの努力、日々の努力によって、大きなことを成し遂げました。
これは何も戦争に限った話ではありません。勉強、スポーツ、仕事、どれにしてもついてくるものなのです。
あなた方にこの戦争、あるいは私たちの戦いを通じて『常に努力する人こそが救われる』ということを学んで欲しいのです。
努力というのはただ闇雲に頑張るという意味ではありません、常に最適解を探求し実行するということです。
国民みんなが常に努めて怠らない事で、この凄惨な生存競争を勝ち抜くことが出来るのではないかと思います。


――暁の勲章親授式後の演説……のメモ。緊張で固まってしまって壇上から抱え降ろされた。


今夜はここまで
栄典について調べてたけど、面倒くさくなったので適当にそれっぽいやつにしてます


6.雪の進軍


日本海軍は大攻勢を無事に成功させた。

暁による空母撃沈は敵の威信、勢いを徹底的の削ぎ落としたようで、

この後しばらくは敵の積極的攻勢が無く、大きな戦いも起こらなかった。

この機を逃す手はなく、千島より北方のベーリング海への進撃が決まる。

アラスカ経由でアメリカ、カナダとの連絡手段を確立するためだ。

そこで極地戦経験者と南方で武勲を挙げた者たちが選抜され、北太平洋作戦に従事する事となる。


-新米指揮官-


一週間ほど孤独を満喫していると、知り合いの艦娘から遊びに来いとの連絡が頻繁に来る。

古鷹、青葉、衣笠はもちろん、弥生や卯月、睦月如月からも誘いを受けたんだが、

とてもじゃないけど家族団欒に踏み込もうだなんて気にはなれなかったのでお断りした。

「毎日一人じゃ寂しかろうて」

「そうでもないさ、静かだとは思うけど」

司令長官が心配そうに言う。部屋で一日中ぼんやりしているわけじゃない、町に出かけたり、

時々あの子と会って話をしたりはしているから、全く退屈ってわけじゃないんだ。


「そうじゃ、新しい巡洋艦娘がおってな」

「へぇ」

「それも、佐世保の方の大将の孫娘とかでの。よろしくと言われとるんじゃ」

自分の孫娘を艦娘にするたぁ、大した愛国心だ。しかし将軍の孫娘じゃこりゃ腫れ物扱いだろうなァ。

「会ってみるか?」

「どっちでもいい」

「じゃ、会え」

わかった、このおっさんはあたしに押し付けたいんだな。

そうわかっていながらもついてっちゃうのはあたしがちょろいからだけど。新型巡洋艦となれば興味があるしね。


連れて行かれたのは訓練場、そこには四人の軽巡洋艦娘が訓練をしている。

「矢矧、連れてきたぞ」

訓練を一旦中断し、矢矧と呼ばれた艦娘が駆け寄ってきた。

「初めまして、阿賀野型軽巡洋艦の矢矧です」

「そうかい、古鷹型重巡の二番艦、加古だ。よろしく」

「佐世保の、誰だったか、米内将軍の娘のそのまた娘だったかな」

「本名は原一代ですけど、矢矧と呼んで欲しい」

「別に本名はどうだっていいんだけど、艦娘である以上は矢矧と呼ぶよ。決まりだから」

しかし呼ばれたってことは、向こうはこっちのこと知ってんだな。


「そこそこ有名よ、内じゃ不屈の重巡として、対外的には暁の上官としてね」

「あれは一時的に指揮を執っただけだよ、あたしの部下は第三十駆逐隊だ」

「へぇ~……」

矢矧はそれだけ言って訓練に戻った。

「ところでだ、加古。次作戦については聞いておるか」

「いや、何も」

「北太平洋、アリューシャン列島だ。そこで、南方で活躍したお前に行って欲しい」

司令長官は服装を整えると、頭を深々と下げる。

「ちょっと、そんなことされなくったって、黙って行くよ」

「ホント?ラッキー♪こうするとみんな断れないみたいなんじゃよ」

「おいおい」

せこいジジイだ、嫌と言わせないために頼みごとにはいつもこれだという。


とは言っても、司令長官の頼みを断る人間は横須賀にはいないよ。流石にお菓子買って来いとかは断られてるけど。

しかし北方となればさぞかし寒いんだろうと考えるが、当然行くのは夏の間だ。

作戦開始は6月、となると遅くとも10月までに終わらせなきゃいけないんだから猶予があるとは言えないが、

それでも冬まで長引くならば一時的に退却する計画だ。もちろん、計画に過ぎないから冬季戦の準備は怠らない。

参加戦力は以下の通りである。

北東方面艦隊

指揮官:雨森司郎中将 横須賀鎮守府司令長官

第七水雷戦隊
木曾
第七駆逐隊:漣、曙、潮

第八水雷戦隊
天龍
第二十一駆逐隊:初春、子日、若葉、初霜

第一挺身戦隊
加古
第十九駆逐隊:磯波、綾波、敷波


挺身隊となるとイメージは悪いが、別に特攻するわけじゃない、身を擲つ覚悟なのは事実だが。


全ての艦娘は冬季戦の演習を受け、準備は万端というところで待ったがかかる。

「えー、新たに作戦に加わる人員が増えた。米内大将からの要望でな」

とのことだ。誰が来るのやらとみんなで話していると、やって来たのは先の矢矧だった。

「是非とも実戦経験を、とのことでだ」

司令長官はあまりよろしくない顔をしていた、当然だ、阿賀野型はまだ訓練を完了していない。

「みんなよろしくね」

どこぞの大将殿は一体何を考えているというのか。

とりあえずここまで
すごい今更だけど皆さんあけましておめでとう


-北方棲姫-


「矢矧は死ぬかもな」

木曾が言う。極地戦に限らず特殊な戦闘はまともに訓練を受けてない奴には厳しいものだからね。

「うーん、残念。じーさんのエゴで死ぬたぁ死んでも死にきれんね」

天龍も同調した。あたしら旗艦三人は食堂で飲みながら話をしていた。駆逐隊たちも騒いでいる。

休暇なのに呼び出されたのもいるし、せめて飯ぐらい食わしてやろうってこった。

「木曾さん、本当に全部奢りなんですかぁ?」

「ああ、俺たちはお前らよりか給料がいいからな」

「メシウマ!」


給料はね……実際には危険が大きい駆逐艦の方が手当の分だけ多かったりする、トホホ。

噂じゃ内地で引っ込んでる戦艦たちはよく周りにたかるそうだ。

「勝手に殺しちゃよくないよ」

「そりゃそうだが、じゃあどうするんだ」

どうするんだろうね。訓練不足のまま死なれてあたしたちの責任になっちゃ困るもの。

「ところでだ、これは眉唾ものの話なんだが」

天龍が意味深長に口を開く。

「深海棲艦の司令官級がいるって話だ」


「司令官級って、どういうこと?」

「潜特型の連中からの報告で、米軍の飛行場を偵察したところ、主導する深海棲艦が見えたとかでな」

潜特型というのは伊四〇〇型潜水艦の事だ。『せんとくがた』と読む。

「アリューシャンの米軍飛行場というと、近場じゃアッツ島か」

「事前に偵察が出来てんなら話は早い」

「いや、そうもいかんらしい」

彼女はつまみの焼き鳥、ねぎまを手に取り箸で葱と鶏を分けている。

「その指揮官だ、戦力は未知数だろ。ただの指揮官ならいいんだが、大戦力なら話は別だ」

「んじゃ、こればっかりはわからないわけだ」


そして、ネギだけが乗った皿をこちらに差し出した。

「ネギも食えってば」

「お前ネギついてないやつ頼めっつったろうが」

「俺はねぎまの鶏が好きなんだ、とにかくそいつを司令部は『北方棲姫』と名付けたんだと」

「ほくほーせーき?なんだそりゃ」

「北方に棲む姫、だとさ。洒落た名前付けるよな。連中にはもったいない」

深海棲艦はある艦種からは女性の形をしている場合が多いから、それでだろう。

あたしは差し出されたネギを食べ終えると、せかせかと忙しそうに歩き回る給仕を呼び止める。

「ごめん、ねぎまとビール。あとでいいから」

「はい、かしこまりました」


「お、サンキュー」

「天龍、あんたにはやらんよ」

「自分で頼め、俺たちはネギは食べ飽きた」

そういえば、先程からカメラのフラッシュを感じるんだが、どこで撮ってるんだろう。

「あ、あれは」

カメラといえば青葉だ。青葉がこちらに向かってピースサインをしている。

「ん、姉妹艦か」

「近いけど似たようなもんだ」

彼女がカメラを抱えて近づいてくる、昔神通に壊されたカメラだった。

「久しぶり、青葉。カメラどうした」


「部品買って直したんですよ、これは出征祝いにお母さんが持たせてくれた物でして……」

そりゃあ、あんな計画進んで立てるわけだ。

「んで、なんで俺たちを」

「実は、広報をやってるんです!プロパガンダですよ!」

「プロパガンダか、俺たちを雑誌にでも載せようってか」

「ええ、絵になりますから。新しく新聞を発行するんですよ!名付けて『青葉日報』!」

「そういうのはあまり好きじゃないな、オレとしては」

「しかも経済効果も期待できますよ。紙、印刷、運送とあらゆる雇用を生み出しますからね」

「それなら、まあわかる」

「記念すべき第一号は、『イケメン艦娘特集』と……」

「お前それ本当にプロパガンダか?」

青葉はニヤリと笑うとすぐに立ち去ってしまう。

あたしは話をしているうちに届いたねぎまを食べようとしたけど、既にネギだけとなっていた。

今夜はここまでかも


「青葉日報」の宣伝効果は絶大であった!
艦娘の志望者が殺到し、血書を叩きつける者まで現れる始末であったのだ。
それを見た陸軍が対抗し、専用の広報部を設立、月刊誌「陸の艦娘」を創刊した。
結果として陸軍艦娘の志望者も増大し、陸海両軍共に大量増員と艤装建造用の予算が組まれる事となる。
しかし、とあるやんごとなきお方の「軍は国中の少女を根こそぎ動員する気かね」という鶴の一声により、
最終的に海軍は陽炎、夕雲、秋月型駆逐艦の一部と雲龍型空母。
陸軍は6名の護衛空母と各10名の五式雷撃艇、五式砲撃艇の採用に留まった。


初霜書房刊『初霜書房に至るまで』より


青葉「いやー、あの時は危うく広報部そのものが消滅するところでしたよ!」

初霜「この二つの広報部は初霜書房の前身となります」

青葉「なんで自分の名前付けたんです?」

初霜「ち、違うの!若葉が勝手に!」


-出撃準備、未完了-


案の定、矢矧の出撃準備は手間取った。司令長官が連絡を取ったところ、

「矢矧の訓練が終わるまで待て」

との事である。終わる頃には晩秋だ。

「俺たちだけで行くわけにゃいかんのか」

「もちろん言ったさ。でもダメだと」

「それじゃ、死にに行くようなもんだぜ」

彼にだって立場というものがあるから、あまり責めるのは酷だ。


だが死にに行くようなというのはまさしくその通りで、古今東西問わず寒さは兵士たちを殺してきた。

待ってる間のあたしたちは防寒の知識と極地での戦術を研究し始めることとなる。

また、なんか広報のゲームを作るとかでその取材もあったがこれは取るに足らない出来事だ。

ある時、木曾にこう言われる。

「どうだ、加古。俺の話を聞いてみないか」

「断る」

「まあまあ、ちょっと話を聞くだけだよ」

端から断らせるつもりはないじゃないか、とその話とやらを聞くことにし二人して適当な階段に座り込む。


「八甲田山を知ってるか」

「知らないよ」

「まあそういうな、重要な話だぞ。昔その山で陸軍の兵隊さん方が遭難したんだ」

「陸軍の兵隊が?訓練はやっていなかったのか」

「訓練のために登って、それで大勢が亡くなられたんだ」

「そんな無茶な訓練をよくやるよ」

「日露戦争前で、ロシアを敵に見据えていたからな。でだ、今作戦においても重要なことだぞ」

「寒さ対策だね」

「そうだな。気象条件はともかく、装備と情報を整えなけりゃならん。尤も艦娘が凍死するかは試した事がないが」


「凍死しないのか?」

「するかもしれん」

「どっちだよ」

「わからん、だから万全の体制を整えるんじゃないか」

木曾はふんと鼻を鳴らすと、立ち上がる。

「俺はもっと詳しい情報を調べてみるから、お前も頼んだぞ。全部隊に通告するんだ」

「ありがとう、こっちも色々と調べてみる」

彼女はそのまま立ち去っていった。こっちも色々と調べなきゃな。


そう思ってあたしは山岳戦について調べ始める。離島ってのはどうしても足場の悪いもんだから、

たとえ山岳地帯でなくても何か役には立つんじゃないかと思ってね。

しかしこういうのはどうしても眠くなるよ、アルピーニだかアルペンだか眺めてたら寝そうになったんで、

鎮守府内を散歩していたところ、祠があるのを見つけた。

「おや、こんなのがあったとは」

全く知らなかったよ、毎日誰かしら訪れているみたいできちんと手入れされているようだ。

あたしというのはこういうのはあんまり興味がないから、二礼二拍一礼というのもただの形式に過ぎないと思ってる。

でも形式でも拝むこと自体に意味があるそうで、精神が清められるとかられないとか。


その時ふと思ったのが、中には何があるんだろうという事だ。

気になってはいたが、覗くとなるとなんとなく縁起が悪いような気がする。

「やめとこう、これから作戦って時に」

興味がないからって験担ぎしないわけでもなし、余計なことはやめておこうとその場を離れようとすると、

「おい!あんた!」

「うわ、なんだ」

何やら呼び止められてしまった。

「あ、敷波か、どうした」

「どうしたもこうしたもないよ、その中覗いたでしょ!」


「いや、覗いてないよ」

「え?そう?」

「覗いちゃ悪いかな」

「悪いよ、そりゃ。神様も覗かれたくはないだろうしね」

そりゃそうだ、神様にもプライベートって物があるだろう。

「お参りしとこうよ」

「ん、そうだな」

別に精神を清めようだなんて気概はないけど、験はいくら担いでもいいもんだ。

今夜はここまで
ツァ!


-アッツ島沖海戦-


「こんだけほっとけば飛行場も完成してるだろうな」

「最悪だな」

木曾と天龍が話していた。あれから数ヶ月を経て、あたしたちは幌筵泊地にいる。

「あなた方は本当にこの時期から行くつもりなんですか」

「ああ、軍令部殿の御命令だからな」

「なら全員遺書でも書いてください」

そう言うのは樺太と千島列島の総督、国後であった。


「縁起でもないこと言ってくれるじゃないか」

「私が許可を出さなかったと引き返してもいいんですよ」

「いや、それには及ばん。飛行場が出来ているだろうしな」

「吹雪じゃ飛行機は飛べん、そこを狙う他ないよなぁ」

「途中までになりますが、八丈と石垣を護衛につけましょうか」

「ここの防備も重要だ、守りに専念してくれ」

矢矧はというと、第九水雷戦隊として編成されその護衛として第三十駆逐隊が呼び出されることとなった。


第九水雷戦隊
矢矧
第三十駆逐隊:睦月、如月、弥生、卯月


「せっかく、ミッドウェーの大作戦に参加しようとしてたのに!ぷっぷくぷー!」

「へえ、そっちじゃそんなんやってたのか」

その頃、中部太平洋ではミッドウェー海戦が行われていたそうだ。

古鷹たちに変わりがなければいいが、こんなところで後生の別れになっちゃたまらない。

「寒い……」

「寒いねー」

睦月と弥生が寄り添っている。如月はお洒落なマフラーを風に靡かせて……何やってんだ?

「なに、パッとやってパッと帰ってくれば、初冬ぐらいには終わるさ」

思ってもないことは言うもんじゃないけどね。


「諸君、集まったな」

司令長官が作戦内容を説明し始めた。

「今作戦は、アリューシャン、アラスカより北米との連絡航路を確立する為のものである。

 事情により時期が大幅にずれてしまったが、諸君らの健闘を祈っているよ」

細々とした作戦内容を聞いた後、部隊は出航した。

「誰一人欠けることの無いよう、お願いします。霧にご注意を」

国後とその姉妹が港から手を振って見送ってくれた。駆逐艦たちは元気に手を振り返していた。



幌筵より直線距離にしておよそ1200km、出発して48時間ほど何も無い海を進んで、次第に辺りは霧に包まれた。

天龍たち第八水雷戦隊が小さな船に物資を満載し、それを引いて進んでいる。

子日がゴソゴソと荷物を漁っていたが、見つけた初霜に叱られていた。

「時間的には、アッツ島はそろそろだね」

「休憩しませんかァ」

「もっと早く言えって、敵の目前だよ。クラッカーでも食ってろ」

「パサパサして美味しくないんですもん」

磯波はこの二日間ずーっとグチグチ言ってるが、よくもまあ飽きないものだ。

「何事もなく、上陸させてもらえればいいんですけど……ふわぁ~あ……」

綾波が大きなあくびを一つ、ぶっ続けで行軍してるもんだから皆疲労困憊だ。


「加古、あれを見ろ」

霧の中に入り込んだところで、木曾が話しかけてきた。

「人影だな」

「まさかこんなところに味方などおるまい」

周りを確認する、確かに全員揃っていた。

「敵かしら」

「味方な訳はない、でもどうするよ」

矢矧、天龍も集まり、艦隊に緊張が走る。

「深海棲艦の偵察部隊だろう、というのが俺の考えだ。そして向こうもこちらが敵か味方かわかっていない様子だ」

人影は動きを見せず、こちらに注視しているようだ。


「ぶっ潰せばいいだろ、今やり過ごしても気付かれてる以上はもうどうしようもないぜ」

「ならばそうしようか。第七水雷戦隊、第一挺身隊、第九水雷戦隊は戦闘準備。第八水雷戦隊は物資を守れ」

「ケッ、オレも戦いたかったぜ。下がるぞお前ら!」

天龍が号令をかけると、二十一駆もサッと下がっていく。個性豊かなメンバーの癖して一糸乱れぬ動きだから意外だ。

「第一挺身隊戦闘準備」

「九水戦、砲戦準備!」

ガチャコン、と艤装の音が海上に鳴り響く。

「方位ヒトサンヨン、距離サンナナマルゴ」

木曾が方位と距離を読み上げ照準。艦娘たちが一斉に砲を向けるのはやや滑稽だが、壮観な光景だ。


「撃ちィ方始めェ」

「撃ち方始めッ」

木曾の号令を復唱し、一斉射撃だ。金属を殴りつけるような音が無数に響き、敵影の周りに水柱を上げる、

影が蠢き、慌てた様子でこちらから離れようとする。

「梯形陣、追うぞ!」

木曾が威勢良く言い放った、応よ!と駆逐艦たちも彼女を追う。

敵は機関部を損傷したのか距離はみるみるのうちに縮まっていく。

しかし一つだけだったはずの影の数が、気が付くといくつも見えていた。

「敵艦隊出現、各戦隊散開!」


木曾隊、矢矧隊、そしてあたしの戦隊で三方向に分かれた。

『敵艦隊、巡洋艦リ級2隻、重雷装艦チ級4隻、内1隻は大破、駆逐艦ハ級が4隻』

こんな状況でも木曾は冷静に敵艦隊を判別するから、やっぱり年季の違いを感じるよ、

あたしだって戦場に出て長いはずだけど、こいつには敵わないね。

『接近して魚雷撃ちます!』

矢矧の通信だ、しかし木曾は、

『ダメだ、まずは砲戦で削らなければ。ここからの雷撃ならば許可する』

と返した。巡洋艦が4隻いるもんだから、接近すれば駆逐艦が危ないんだ。


横目に矢矧隊からの雷跡が見えた。今の返事を聞いて魚雷を撃ったんだろう。

通常ならばともかく、この霧なら当たるかも知れない……ん、霧。

「総員、敵の魚雷に警戒しろ。この霧じゃ敵がいつ撃ったかわからんぞ」

「りょうかーい!」

『了解した、加古』

『わかったわ、流石は先輩』

流石と言われちゃ照れるしかないが、気づかなければ危ないところだった。先輩か、悪い気はしないね。

敵側からも砲声が響き、周りに水柱が上がり始めた。蛇行して躱してはいるが、このままじゃ戦いの終わりが見えない。

今夜はここまで
今章を雪の進軍と銘打ったはいいが、調べてみるとアリューシャンは雪より霧っぽいのね
いや、寒いのは寒いみたいだけど、極寒てほどでもないらしい……


-濃霧の騒動-


戦闘開始から3時間半頃、若干数の被弾はあったが取るに足らない程度だ。それは敵側も同じで未だに勝負はつかない。

『このままじゃ埒があかないな』

敵艦隊から付かず離れずの位置を維持し、砲戦を敢行しているがこの霧だ、なかなか決定打を与えられない。

……戦闘開始から5時間、霧が濃くなってきた。腹が減ったが、休憩もできない。

いつの間にか双方、攻撃が散発的になり始める。

「接近して叩きのめそうか」

「でも、魚雷が……」

「さっきので最後、でした……」

「はぁ……どうしようかね……」


『木曾だ。魚雷あるか』

「無い、撃ち尽くした」

『矢矧も無いそうだ』

「万事休すだな」

砲弾も尽きかけている、これは非常にマズイ。

『霧が濃い今のうちに浸透し、残りの弾薬でどうにかしようと思うが、どうだ』

『異論は無いわ』

「よし、それで行こう」

隷下部隊を引き連れ、おそらく敵がいるであろう方向に静かに近づく。急加速さえしなければそこまで音は大きくない。

額や背中に汗が垂れてきて、それが寒さで冷えてしまって凍えるようだ。吐く息が白く染まる。


2000、1500、1000と近づくにつれ、心臓が悲鳴を上げる。

左側に人影が見え、ギョッとして砲を向けたが、卯月が手をバッテンにしているのが見え砲を下ろした。

木曾の戦隊も揃っており、部隊は再び集結する。

チラッと矢矧の顔を見かけたが、この世の終わりのような顔をしていてなんかこっちの緊張が少し和らいじゃった。

みんな互いに互いの顔を見て安堵している様子だ。よそ見しながら進んでいると、あたしは何かにぶつかる。

足に引っかかったわけじゃない、文字通りぶつかったんだ。何もないはずの海上で。

目前にリ級が立っていた、それも唖然とした顔で、周りにも深海棲艦らしき者が立っている。

この信じられない光景に艦娘たちはどうすることもできず、ただ突っ立ってぼんやりと眺めていた、深海棲艦も同様である。

病的なまでに透き通った白い肌、金属のような鈍色の髪、そしてその目は金色に光っている。


最初に動いたのは木曾だった、彼女は腰の軍刀を抜き、振り上げた。

それを見た青い目のリ級が腕の砲を構え、こちらに照準した。すると両軍一斉に砲を構える、あたしと金の目のリ級を除いて。

そのまま、時間だけが過ぎていく。誰も砲を下ろそうとはしないが、引き金を引こうともしなかった。

ここで戦えば、双方の犠牲は計り知れないだろうが、かと言って武装解除するわけにもいかない。どん詰まりだった。

しかしそこで卯月が口を開いた。

「ここはひとつ見逃してやるからお前たちは向こうへ行くっぴょん」

果たして日本語が分かるのかどうかが不安だったが、向こう側も口を開いた。

「何を言うか、見逃してやるのはこっちだ。お前たちこそすぐに立ち去れ」

チ級が渋い日本語を流暢に話す。なんだか変な感じだ。それに乗じて深海棲艦どもがジャップだの売女だの喚き立てる。

こちらも負けじと腐れシロンボとかイカくさ女とか言い始め、悪口の応酬が始まった。砲をぶっ放すよりはずっと平和的でいい。

しかし誰も引き金を引く度胸がある奴はいないようで、一向に戦闘は始まらなかった。


この霧じゃ双方援軍も期待はできない、結局のところ痺れを切らした深海棲艦がジリジリと後ろに下がり始める。

帰れ帰れとヤジが飛び出す、敵艦隊はサッと裾を翻すが如くこちらに背を向け去っていった。

「た、助かった……」

緊張が解け、みんな脱力し始める。ため息が何度も聞こえた。

「よかった、ションベン漏れそうだったんだよ」

と木曾が防寒着のベルトを外して下半身を露出し、立ったままおしっこをし始めた……。

「げぇ、ばっちい」

敷波が露骨に嫌な顔をする。木曾らしくない行動だが、ひょっとすると場の空気を和らげたかったのかもしれない。

もっとやり方があると思うんだが。しかし矢矧がそれを見て、自分も催したのかベルトを外そうとする。

が、焦ってるのかうまくいかず、

「あ、ああぁ~~~……」

と履物を履いたまま垂れ流してしまった、かわいそうに……。


「大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃないわ……」

睦月が駆け寄るも手遅れだ、矢矧の下はグッショリ濡れてしまっていた。汚いし寒いしで最悪だろうな。

彼女が一番緊張していたから、まあ仕方ないかもしれないが、木曾もちょっとは遠慮してくれたら結果は違ったかもしれない。

「俺が悪いのか?ションベンしただけなのに」

「あんたの放尿シーンなんか見たくないのよこのクソ女!」

「木曾だ」

やっぱりコイツはみんなをどうにか笑わせようとしているのかもしれないね……。

とまあ、そんなこんなでアッツ島に上陸、天龍たちも後からやって来た。


日が落ちて、野営地の簡易テントの中、矢矧は半裸で毛布に包まって半べそをかいている。

「しかし、こんなのは奇跡としか言い様がない」

「ああ、全くだ」

「何度聞いても信じられねーよ」

「天龍よ、お前がいたら真っ先に撃ってただろうな。いてくれなくて助かったよ」

「ケッ、そりゃどうも……いい加減お前泣き止めって」

「だってぇ、この歳でぇ……」

確かにこの歳でのお漏らしは恥ずかしいかもしれないが、ここは戦場だぜ、生きてるだけで丸儲けさ。

「この晩はあたしが見回りするよ」

「すまんな、俺はグッスリ眠らせてもらう事にする。おやすみなさぁい」

「しっかり見張っとけよ加古。ほら、行くぞ矢矧」

「ぐすっ、おやすみなさい……」

「ああ、おやすみ」


武装して外に出ると野営地からはすでに寝息とイビキが聞こえ始めていた。

この寝ずの番を引き受けたのは、一人で考えたいことがあったからだ。

もし、仮に、深海棲艦が全員あんな連中だったとしよう。だとすれば、だとすればだ。

あたしのこの憎悪は、一体誰にぶつければいいんだろうか。振り上げた拳の下ろす先が見つからないのは困る。

なんだか色々な心情が複雑に入り乱れて、どうすればいいのかわかんなくなっちゃったよ。

そんなあたしの気持ちを知ってか知らでか月が明るく顔を照らしていた。きっと月には悩みなんか無いんだろうなァ。

今夜はここまで
おしっこ回再び


-悪い報せ-


数週間ほど島内の掃討を行い、ついに飛行場、ネイビータウンの深海棲艦を撃退した。

時節はもう冬だから、氷雪気候ではないといえ凍えるような寒さだ。

人間大であるが故に小さな島でも掃討や殲滅に時間がかかるというのは艦娘の数少ない欠点である。

現在艦隊は米軍の兵士たちが使っていたとみられる建物を借りて、そこに駐留している。

ある朝、可愛い艦娘たちの寝顔をずっと眺めていたい気持ちを堪え、全員起床させた。

「司令部より伝令です、加古さん」

一足早く起きていた初霜が無線機を使っている。


『アッツ島には着いたようだな』

「飛行場も確保して、今はネイビータウンにいる。どうやらここの飛行場は使っていなかったらしい」

『そうか、ではシェミア島もそうだろうな。ならばそこらはすっ飛ばしてキスカ島へ向かえ』

「了解、キスカ島だな」

『キスカを足がかりに飛び石作戦だ』

飛び石作戦、アイランドホッピングまたはリープフロッギング(蛙飛び)というのは、

第二次世界大戦の太平洋戦線においてアメリカがとった戦略だ。

堅牢な拠点を無視して戦力の薄く、地理的に重要な島に戦力を集中させて攻め落としてゆくというものである。

『重要な地点のみを占拠し、掃討には時間をかけなくていい』


「随分と差し迫った言い分だな」

『ミッドウェーで負けた』

「なに?」

ミッドウェー海戦は大攻勢以来初めての大敗北だったんだ。

先手を取ったにもかかわらず攻撃部隊は撃退され、壊滅状態に。特に航空艦隊は徹底的に追撃され、ほとんどが全滅する。

撤退中の陸軍部隊も攻撃され、大勢の死者が出る始末であった。

無事だったのが潜水艦隊と、作戦の成功に見切りを付け早々に撤退した神通率いる第二艦隊だけであった。

それ以外は何かしらの損害や戦没者が出ている。


「なんてこった……」

『とにかく、北だけでもなんとか白星を上げてくれ、完全に士気を失う前に』

「わ、わかった、任せてくれ」

えらい事になってしまった、ひょっとすると出撃時期が大幅に遅れたのは幸運だったかもしれない。

急いで各隊の旗艦を司令室に集め、この事を話す。

「そうか……球磨姉さんたちも参加するという話を聞いた」

「無事だろう、あいつらが簡単に死ぬわけがねーじゃねーか」

「そうだが……心配だ」

いつになく木曾は不安そうだ。ここまで弱々しいトーンで話しているのを見るのは初めてかもしれない。

だが、ここで落ち込ませるわけにはいかない、艦隊に波及しては困る。


「わかってるさ、それぐらい。もう大丈夫だ」

再びいつもの調子に戻る。

「……これは、どうする?駆逐艦たちに言うべきか?」

「いえ、言わない方がいいわね」

「あたしもそう思っていたんだ」

矢矧の答えに同調する、聞いといてなんだが、既に自分の中で答えは決まっていた。

この作戦が終わるまでミッドウェーの敗北について駆逐艦に教える必要はないだろう。

姉妹艦たちが参加したという駆逐艦も多い、無用な心配をかけるべきじゃない。


「じゃあ、飯食うか」

天龍が立ち上がり、食堂へ向かう。矢矧もそれに続いた。

あたしも行こうと立ち上がったが、木曾は動こうとはしない。

「加古、聞いてないか、姉さん達の安否を」

「……いや」

「正直に言ってくれ」

実のところ、あたしは聞いていた。戦没者の名前を。その中に球磨型の名前はひとつだけ、あったんだ。でも、

「本当に聞いてないんだ」

「まぁ……それそうか……すまんな、さて飯でも食うか」

木曾というのが、人の感情に敏感なタイプじゃなくて助かったのかもしれない。


食堂で飯を食ってると、磯波が不安そうな顔でこちらを見てくる。

「あの、その……」

「なんだよ」

「いえ、その、様子が変だと思って……」

「寒いからな」

「あ、そう、そうですね……」

このちょっとした疑念が艦隊の士気に関わらないか不安ではあったが、どうすることもできず、

どうにかうまいことはぐらかそうと苦労したよ。


【ミッドウェー海戦】

ミッドウェー諸島を巡っての海戦である。両軍ともに凄まじい数の損害を出した。
解放戦線は大きく後退し、中部はマリアナ、南部はポートモレスビーまで後退した。
一方、同時に進行していた北部での作戦は成功し、ベーリング海日米連絡航路が確立された。

この海戦によって日本海軍は蒼龍以外の主力空母を失い、可動空母が軽空母のみという危機的状態に陥る。
戦艦や巡洋艦も複数戦没し、士気低下と厭戦感情の加速に悩まされることとなった。
深海棲艦も水上艦部隊の損害が激しく、進撃不能の状態になり、
翔鶴型、雲龍型、大鳳の就役までの以後十数ヶ月は戦線が膠着する事となった。



今夜はここまで
某南瓜氏の加古鷹は百合素晴らしい!となって百合シーンを入れたくなるけど
ザ・パシフィックを見て中和する


-矢矧の不調-


あの話をしてから矢矧の調子が少し悪い。

時々ぼんやりと何かを考え込んだと思ったら、急に怯えたように縮こまるんだ。

睦月が心配して話を聞いているみたいだが、寒いだけとの答えが返ってくるらしい。

まあ、ミッドウェーの大敗を聞いて自分たちも死ぬんじゃないかって感覚が芽生えたってところだろう。

へんちくりんな格好して水の上走って異形の敵と戦ってるもんだからたまに戦争してるって事を忘れそうになるよ。

思えば異種族間の片方が片方を滅ぼすまで続く戦争なんだから生存競争と言ったほうが望ましいかもしれない。


そりゃ戦争を忘れて鎮守府でロマンスだのほのぼのだのできればいいんだが、そういうわけにもいかないよな。

とにかく時間的猶予はあまりないらしいから、このアッツ島も出ることになる。次の目標はキスカ島だ。

「キスカの次はどこだ」

「アダック島にしようと考えている、市街地もある。その次がニオルスキー、ウナラスカ」

木曾が大まかな流れを話す。ウナラスカの敵拠点を破壊できれば、日米の輸送船団が襲われることもないだろう。

無論ある程度の海防艦が必要にはなるが、そこはアメさんにどうにかしてもらおう。



アッツ島より300kmのキスカ島、そこで敵守備隊と何度か交戦した時も

矢矧はかなり不調だった。臆病風にでも吹かれてしまったのかなかなか前に出ようとしなかったんだ。

第三十駆逐隊がベテラン揃いだからその状態でも切り抜けてはいるものの、これを気に入らないのが天龍だ。

「矢矧、何故前に出なかった!駆逐艦を盾にする気か!」

天龍が怒鳴りつけるがただ静かに涙を流すだけだった。

「フフフ、怖いか?怖いだろうな、だがテメーがその調子だからお前の部下たちはもっと怖いんだぞ!」

現に睦月たちは不満を口にしているし、他の駆逐艦たちも隠れて矢矧の悪口を言い始めている。

見つけては注意しているが、矢矧がいつまでもあの調子だから改善には程遠い。


そんな中、深海棲艦がキスカ島での最後の攻撃を仕掛けてくる。

「敵軽巡ホ級1隻、駆逐イ級2隻、です」

「このキスカ港に真っ直ぐ向かってきてるよ。あいつら、玉砕する気だな」

「見上げた敢闘精神ですねぇ」

磯波、敷波、綾波の報告を聞いた。

連中を動かしているのは意地とか矜持だろう、こんなやけっぱちの攻撃が成功するはずがない。

「木曾」

「俺もそう思う」

「何も言ってないけど」


「どうせ矢矧にやらせて自信つけさせようって魂胆だろ」

「お見通しか」

これぐらいなら、というわけだ。案外あたしらの方が戦争を甘く見ているかもしれない、

しかしいつまでもしょぼくれてもらっちゃ困る、ここいらで復帰してもらわなければ。

もちろん支援砲撃はするし、いざという時は助けに向かう。

木曾は矢矧を呼び出すなりこう言い放った。

「矢矧、お前が行くんだ」

「……」

彼女は黙り込んだ、目は恐怖の色を見せている。


「ここで名誉回復といこうじゃないか、なぁ?みんなに馬鹿にされたままでいいのか」

鈍い性格でもないから自分が陰口を言われていると気づいてないわけがない。

唇をかみしめて俯く。涙が頬を伝い、体をブルブル震わせている。

「いいか、敵が上陸してきたら飛び出して砲を撃つだけだ」

木曾が諭すように言うがそれでも彼女は俯いている。木曾はため息をつき、

「第三十駆逐隊、連れていけ。こいつには無理にでも戦ってもらわなけりゃ困る。ただでさえ戦力は多くないんだ」

と言い放った。ショック療法のつもりだろう。確かに4戦隊いるとは言え全て水雷戦隊だ、あまり頑丈じゃない。

この号令を聞いて駆けつけた睦月たちが矢矧を引き連れ、港へと向かう。あたしたちも支援砲撃の準備に取り掛かった。



『うげっ、手足が生えてるよ』

丘で着弾観測をしている敷波が気持ち悪い報告をしてきた。水陸両用タイプのイ級だろう、コイツははっきり言って気持ち悪い。

「状況は」

『矢矧さんとこ揉めてるね』

「なんだって?」

今回の戦いの主力となるはずだった矢矧隊は、敵が上陸したにも関わらず攻撃を加えていない。

慌てて睦月に無線で話しかける。


「お前たちは何をしている」

『それが、矢矧さんが攻撃命令を出さなくって……』

「なんだって、敵はもうそちらに向かっているんだぞ」

『えぇッ』

「早く攻撃させろ」

しかし結局矢矧は攻撃命令を出さず、矢矧隊の目前まで来た敵に木曾の部隊が集中砲火を浴びせ撃破した。

この体たらくに、駆逐艦たちは不満よりも不安が高まったように感じる。

とりあえずここまで


-思い違い-


決して順調とは言えない。数日かけてなんとかアダック島に上陸、占領できたが、艦隊の団結心は既に瓦解しつつあった。

「矢矧は信用できないぴょん」

卯月が言う。睦月や如月、弥生もそれに同調した。

「指揮官を変えてくださいよ」

「加古さんの、片腕なのに……」

「このままじゃいつ死ぬかわからないわ、あいつの盾になるなんてまっぴらゴメンよ」


この状態で戦闘はままならない、適当な駆逐艦に変わらせようと木曾に言うが、

「それはできない」

「どうしてだ」

「矢矧にはきちっとやってもらわなければ、それが一番だからだ」

「それはわかってる、でも駆逐艦たちは矢矧を全く信用していない」

「黙れ!現場指揮官は俺だ!」

その時、あたしは重大な勘違いをしていたことに気がついた、本当に危ないのは木曾だ。

彼女は口ではミッドウェーの事を気にしていない素振りだが、内心相当焦っている。

加えて矢矧の戦意喪失、駆逐隊の士気低下による戦闘効率の悪化、焦燥するのは無理もない。

早く早く任務を終わらせようと視野が狭まって一つの事に固執し始めているわけだ。

何故あたしは今の今まで気がつかなかったのか。


「木曾、お前……」

「黙れ黙れ黙れ!」

もはや会話にもならない、本気でマズイ状況だ、この環境のストレスもあるんだろう。

木曾はその日も出撃したがったが無理を言って休息にし、天龍と各駆逐隊の旗艦、睦月、磯波、漣、初春を呼び出した。

「みんな、よく聞いてくれ。かなりまずい状況だ」

「まずい?そりゃどういう……」

天龍はあまり人の気持ちに敏感じゃないから、ピンと来ていない様子だった。

「矢矧は、わかるよな」

「アイツ、ほんっと臆病者ですヨ」

「うーん……」

「困ったもんだにゃぁ」

「まぁ言わずもがなじゃな」


かなり散々な評価だ、でもそれは重要じゃない。

「だが、木曾も相当焦っている」

「おいおい、あいつはそんなヤローじゃないぜ」

「いや、本気で言ってる」

「……もしかして、例の事か?」

「例の事ってなにヨ」

「隠し事は良くないぞ」

天龍はしまったという顔をしたのでなんとかフォローをする。

「いや、この作戦は急いで終わらせろと急かされてるんだよ」

「ああ、そうそう。だから木曾も焦ってるんだろう」


「そんなこと隠す意味ありますぅ?」

「急いては事を仕損じるって言うからな、お前たちを焦らせたくなかった」

「でも状況が変わったから、木曾があの調子だからそれでみんなにも注意してくれって話」

無理矢理納得させようと畳み掛ける。どうやらうまくいったらしく、

「うーん。そっかぁ……」

「そんなことで焦る漣たちじゃないですけどー」

という調子だからもう心配はいらんだろう。

「とにかくだ、このままじゃ氷漬けの死体になるのがオチだ、何とかして木曾と矢矧の気を落ち着かせなければ」

「でも、どうやって……」

「それをみんなで考えるんだろう」

皆黙りこくって考えるも、妙案一つさえ浮かばず、結局その日は解散となった。

思えばこの時意地でも何か手を打っておくべきだったと思う。結果から言うと、手遅れになったからだ。



木曾はどうしても矢矧を使いたいようで、ついに矢矧を中核に据えた作戦を立てる。

天龍とあたしが意義を申し立てても、聞き入れやしない。

「らしくないな、木曾」

「黙れ、こうでもしないとあいつは動かん」

「ショック療法は無理だと思う」

「俺はな、あいつに早く一人前の指揮官になって活躍して欲しいんだ」

「度が過ぎてる、このままじゃ誰か死ぬぞ」

「死なないさ、ベテラン揃いの駆逐隊だぞ。死ぬもんか」

「呆れたぜ」

天龍はそれだけ言い捨て、去っていく。

「お前に俺の気持ちがわかってたまるかよ」

と木曾が小さく呟いた声が聞こえた。



木曾に言われた通りの作戦を矢矧に説明する。ニオルスキー村への突入作戦だ。

村とは言うがプレハブや倉庫が立ち並んでいるだけで人が住めるのかって様子だが村なんだから住んでたんだろう。

敵軍の陣地が構築されて待ち構えているのが遠目からでも見える。

「いいか、この作戦は如何に敵に狙わせず速やかに肉薄するかが鍵だ。白兵戦では艦娘に分がある。

 特にこの島には遮蔽物が少ないが決して恐れず突き進め。余程の大火力の砲撃を受けない限りは致命傷にはなりにくい。

 それがたとえ駆逐艦でもな、だから多少の被弾は覚悟して攻撃される前にぶっ潰すわけだ」

「……私に、出来るかしら」

「あたしもお前には任せたくないが木曾のヤツ、気でも狂ったみたいだ」

「そんな……」


「第七駆逐隊と第二十一駆逐隊はお前の隷下につける、だから心配するな、みんな頼りになるヤツばかりだ」

「……」

「木曾と天龍はタイミングを見計らって側面から突入し敵の陣地を掻き乱す。

 あたしたちは……支援砲撃だ。はっきり言ってお前たちの前を張りたいんだが、恨むなら木曾を恨め。

 力になれなくてすまない、お前の頑張りに期待してるよ」

「期待されても、困る……」

矢矧は、かなり怯えてるみたいだ。この調子じゃ、この戦いは負けるかもしれない。

そう思い、矢矧に問いかける。

「今からでも遅くはない、代わろうか?」

だが、それは木曾が許さなかった。


「ダメだ」

「お前はどうして矢矧に固執する」

「……」

「もし、被害が出たら、誰か死んだならッ!その責任は必ず追求してやるからな覚えておけよッ!!」

あんまりな態度だったから怒鳴りつけてやった。木曾は面食らった顔をしていたが、そんなものは無視して彼女の前から立ち去る。

確かに現場指揮官はアイツだ、最終的にはアイツに従わなけりゃならん。

でもこれぐらい良いだろ、大事な部下と戦友が危険な目に晒されているんだぞ。文句言い足りないくらいだ。

もちろん、あたしが件の敗北について話してしまったという事もあるかもしれない、

だが人の命を預かる者があの調子では……不幸は、起こるわけだ。

今夜はここまで
今回もそうだけど、次回は多分嫌な気分になるから苦手な人は逃げた方がいいかも不知火です


-憎悪の応酬-


「吶喊!」

叫び声を上げながら突撃部隊が進む。

「こっちも支援砲撃だ、敷波!」

『はいはい!』

敷波が前線の近くで偵察し、距離と方位を報告する。

心配だった矢矧も前進中でひょっとしたらいけるかも、と思える程だ。


「前進!ぜんしーん!」

「撃てーッ!」

雄叫びを上げ散開した艦娘たちがそれぞれ村に突入する、散らばった状態では敵も狙いがつけにくい。

だが矢矧は、途中まで調子よく走ってはいたが近くに着弾するとすぐ建物の陰に隠れてしまった。

「止まれ!止まって!第九水雷戦隊止まれ!」

「第三十駆逐隊停止ぃ!」

「第七駆逐隊止まって!……ってなんで!?」

「第二十一駆逐隊、停止じゃ!じゃがここはマズイぞ!」

彼女たちはベテランだ、だからこそ無茶な命令でもパニックにならずに従ってしまい、

なんと遮蔽物も何もない道のど真ん中に停止してしまった。


「隠れて!遮蔽物を探して!早く!」

睦月が叫ぶ。駆逐艦たちは地面を這いずり回ったりしてなんとか矢矧の元に逃げ込んだ。

『へ!?何してんの!?』

「進め!進め!何やってんだ!動け!」

後ろから叫んでも聞こえるわけがないが、叫ばずにはいられなかった。

矢矧は完全にビビっている。

「退却して!退却ー!」

「何やってんの矢矧!」

「なぜ止めたんですか!!」

「ふざけんな!」


あたしは無線を繋ごうと何度も声をかけるが、まるで聞こえちゃいない。

「誰か出ろ、矢矧と話がある」

『若葉、了解した。待っててくれ』

何度か呼びかけてようやく若葉に通じた。

「なんでこんなことしたのよアンタ!殺す気!?」

「わからない!わからないわよそんなの!!」

「旗艦、作戦を!」

「加古からだ、出ろ矢矧」

「どうするのよ!」

「わかった!第七駆逐隊は向こうの建物に移動して攻撃を仕掛けるのよ!」

「あんたバカじゃないの!?こんな状態でどうやって向こう側に行くのよ!!」

矢矧は大パニックを起こして、何を言っているのか自分でもわかってない様子だった。


「いいから無線に出ろよ」

「こっちで、支援砲撃をかけるわ」

「そんなもん後ろに任せればいいじゃないの!」

「ここにいちゃ建物ごとぶっ飛ばされちゃうよぅ!」

「無線に出ろよだから」

「だから支援砲撃かけるって言ってるじゃないのよ!!!なんでわかんないの!!?」

「……曙、潮、行くよ」

漣が心を決める。仕方なしにと曙、潮も立ち上がった。

第七駆逐隊が飛び出す……が、飛び出した瞬間狙いをつけられていたのか漣は敵の砲火を浴びて倒れた、

曙も大口径の主砲を胴体に受け、文字通り吹っ飛んじまった。

残った潮だけが駆け抜けて目標の小屋に辿り着き隠れたが、これではただ単に孤立しただけだ。


「一撃!?まさか戦艦がいるの……?」

「お願いだから加古と話をしてくれよ矢矧ッ!」

「えっと、誰か!そこのあんた!潮を助けに!」

「え、あ、はい」

「待って!支援射撃は!」

「早く行って!」

弥生が指名され、飛び出す。だがやはり集中砲火を受けて倒れてしまった。

今まで戦ってきた戦友が無様にやられていくのを見るというのは本当に耐え難い苦しみだ。

胸の奥から食道や喉を通って口までススッとハサミで引き裂かれるような感覚、とあたしは個人的に表現する。

あたしたちはその様子を遠くから見ていた。もはや居ても立ってもいられない。


『別働隊、攻撃を開始する』

「遅いんだよバカが!早く行け!」

木曾の無線に怒鳴り散らす。遠くに二人が軍刀を掲げて走っていくのが見えた。

それと同時に敵の制圧射撃が止む。

「よし、今のうちに!行くぞ!もう支援砲撃なんざ無意味だ!」

「はいっ!」

あたしたちも矢矧の元へと向かった。

そこにいた駆逐艦たちは気丈に振舞ってはいるものの、明らかに動揺している。

血まみれで体の一部が欠損した漣と弥生が寝かせられもがき苦しんでいた、

皮膚は砲弾の破片で裂け、熱で焼け爛れている。


「あ!加古さん!」

「助かった……いや、もう助かったとは言えないか……ぴょん……」

向こうから潮が走って来る、かと思えば、曙が吹っ飛んだ辺りの土をかき集め始めた。

「ああ、曙ちゃんがぁ」

「誰か、潮をこっちに隠れさせろ!」

「潮!早くこっちに!」

初霜が潮を引き摺ろうとするがジタバタと暴れるため、数人で抱えて持ってきた。

「ああああ!!曙ちゃんがあああ!!」

「ちっとは漣の心配もしてよぅ」

漣がその様子を見て言う。磯波は漣の手当を試み、服を破って体を一通り見ると一滴の涙を落とした。

深海棲艦の兵器の毒素とも言うべき物が漣の傷口という傷口をドス黒く塗り固めている。

「ごめん、もう無理、何も言えねぇ」

それが彼女の最期の言葉となった。


「あの……加古さん……」

「喋るな弥生、お前まで死んでくれるな」

弥生も息絶え絶えだが、あたしに何か伝えようとしている。

「私は……ちゃんと、片腕出来ていましたか……」

「ああ、出来ていたよ、だから喋るな」

そんなどうでもいいことなんか、気にする必要はないんだ、ただ生きてくれれば。

でもその祈りは通じなかった。砲弾の破片が胸や腹に深くいくつも刺さって、毒素が既に体中を食い荒らしていた。

「よかった……」

弥生は、それだけ言って事切れた。生命というのは一度死ねば二度と蘇らない、艦娘も同じだ。

結局、弥生も、曙も、漣も救う事は出来なかった。身体中から力が抜け、途方もない無力感に襲われる。

こんなにあっけなく死ぬものなんだ。


「加古さん、加古さん!」

綾波が呼びかけてくる、まだ戦闘は終わってはいないんだから当然だ。

「すまん、頼んだわ」

今のあたしには指揮を執るなんて無理だ、だから綾波に任せた。

「わかりました……誰か、状況は」

「砲撃が止んでる今がチャンスぴょん、別働隊を援護するぴょん」

その時は、卯月を薄情なやつだと思った。弥生が死んでもいつもの調子だったからだ。

如月も、睦月も、戦場で見かける普通の姿だ。……あたしがダメなだけなんかね。

「よし、爆雷投射で建物を潰しつつ突撃します。磯波、あなたはここでみんなを見てて」

「わかった……」

「艦隊、突撃!」

建物に砲で撃っても貫通して大したダメージを与えられない、そんな時は爆雷を擲弾のように使えば効果的なんだ。

何人かが爆雷投射器を砲身の先端に取り付け、部隊は走り出した。


残されたのは磯波と、ブツブツつぶやいている潮、頭を抱えて蹲る矢矧、動かなくなった漣と弥生、そしてあたし。

「弥生……」

声をかけても、目を開けることはない。死んだんだから当たり前だ。

ひょっとしたら生き返るかも、というのもちょっとだけあった。ここで声をかけずにいられるか?こんな別れはあんまりだ。

木曾を殴り飛ばしてでも矢矧と変わるべきだった、そうすれば、もっとうまくやれただろう。

少なくとも、あたしは部下を犬死などさせはしないと断言する。どれほど後悔したことか。

戦争に犠牲は付き物、と人はよく言ったもんだ、その言葉通り三人は犠牲となった。

戦場には常に死が付き纏うってのはわかってるんだ、そんなことは言われなくてもわかってる。

ふとした瞬間に別れが訪れる事もあるってわかってるはずなのに、どうしてこんなに悲しくなるのか。


しかし不思議と次の瞬間には、戦場の状況が鮮明に見えてきた。戦闘はまだ続いている。

次なる犠牲を出さないため、あたしは走った。

「あ、加古さん!」

磯波が呼び止めようとする。

「すまん、ちょっと行ってくる!」

なぜだか無性に元気が有り余っているよ。

その後、一時間ほどで掃討が完了し、ニオルスキー村を占領。敵が何人か降伏してきた。

戦艦ル級と重雷装艦チ級が数名ぐらいだ、連中にはプライドはないのかねぇと雑談してると、

そこに潮がひょこっと顔を出す。


「潮、大丈夫か」

潮はこちらの問いかけに答えず、そこらの瓦礫を一つ拾い上げ、ル級の目に突き刺した!

ル級がギギィィィィと悲鳴を上げる。

「お、おい!潮!おい!やめろ!」

「いや、だってこいつが漣ちゃんと曙ちゃんを殺したんですよ?」

ごく普通の事のように潮は話す。

「だが、捕虜だぞ」

「でも人間じゃないんですよ?」


人間じゃない、そうだ、深海棲艦は別に人間じゃないんだからいたぶろうが何しようが非人道的ではない。

むしろ害虫駆除ということで、良い事なんだ。そういう認識に切り替わったように感じる。

それを聞くと、あたしもなんだか試してみたくなったんだ、魔が差したとか言い訳はしない。

先の砲戦で熱くなった砲身をチ級の肌に押し付ける。悲鳴を聞くと恐ろしく気分が高揚する。

あたしがやってるのを見てタガが外れたのか駆逐艦たちが一斉に捕虜を虐待し始めた。

殴る蹴る踏みにじるは当たり前、刃物で皮を削ぎ落としたり、火を押し付けたりして、

あたしたちは戦闘意思のない捕虜を虐待して死なせたんだ。酷いヤツらだと思うか?

でも、でもね、こっちにだって言い分があるよ。

日本国土を無差別に砲撃してさ、市民を殺して回った深海棲艦が殺されるのなんて当たり前だと思ったんだ、

ましてや家族を、戦友を、目の前で殺した奴だ、復讐したくならない奴は人間の心を持ってないと思う。

戦争なんだから少なからず憎悪の応酬が起こるのは自然の成り行きだろう。

今夜はここまで
深海→艦娘はよく見るが艦娘→深海はあんま見かけないなぁとか思ったりなんかして……どっちも見かけないか
いや、薄い本はともかく


-天は私たちを


あれ以来、矢矧と木曾はいないような扱いを受けている。

睦月たちも奇妙な事にケロッとしていて、潮も今やすっかり普通に過ごしている。

むしろ綾波たちや初春たちの方が動揺しているように見えるぐらいだ。

ただ潮はあの場所の土をかき集めて詰め込んだ飯盒を、大事そうに抱えてはいるが。

かく言うあたしも弥生を失った悲しみはあるんだけど、不思議と平気なんだ。実に奇妙だと思う。

現在はウナラスカ島、ポーテージ湾の沿岸部にいる。吹雪の中で上陸したおかげで敵に見つかることはなかった。

指揮権限は天龍に移った。だが、ここからどうするかだ。天龍と二人で話をしている。


「この雪じゃ敵さんも動けないんじゃねーか」

「だろうね。こっちも偵察機が飛ばせんから状況がよくわからん」

「あまりのんびりは出来ない、飯が足んねえんだ」

戦闘は避けてきたから弾薬はある。だが、食糧品の底が見えてきた。

「こっから山ん中突っ切ってビーバー海峡に抜けちまって、もう一度山を越えてダッチハーバー港を街側から奇襲するんだ」

「ああ、悪くない考えだね。この雪の中を進むってことを除けば」



というわけで、川沿いに山の隙間を抜けて雪中進軍だ。

「なだらかな丘で助かったよ」

「しっかし、白いな」

ただひたすら白い雪の上を川に沿って歩くだけ。こんな退屈なことはない。

「ふわぁ~あ、ねみ」

「ば、バカぁ、雪山で寝るやつがあるか」

ちょっとした冗談だが、天龍はびっくりして話しかけてくる。

結構呑気なのはアリューシャン自体が思ってたより寒くなかったからだ、

まあ寒くてもせいぜい-3度程だから、防寒着で十分暖かい。


駆逐艦たちも雑談しながら歩いている。例の二人は一番後ろでしょぼくれているが。

つくづく軍隊で居場所を失うことの恐ろしさよ、だがまああたしがよく言って聞かせたのもある。

「どんなに殺したくても仲間だから絶対に直接暴力を振るっちゃダメだ」

ただし、暴力以外ならば黙認している、もちろん口に出して認めちゃいないがね。でもダメとも言ってない。

わかっているのかいないのかは知らないが、二人は何も言わない。甘んじて受け入れているのかもしれない。

別にいじめを正当化する気はないよ、どんな理由があってもいじめは悪だ。ただ悪と認識した上でやっているだけで。

こうでもしないと、本当に殺してしまいかねなかったんだよ。潮も三十駆も恐ろしく気が立ってたんだ。

何かにぶつけないとやってられないんだろう、半分あの二人に殺されたようなもんだったから。

少しのガス抜きを認めるのは、艦隊を守るための苦肉の策だった。


ところで、天龍が退屈したのか、こう叫んだ。

「軍歌ぁー!雪の進軍!」

みな顔を見合わせて、キョトンとしている。

「歌えよ!」

どうやら天龍はこういうのが好きらしい。

「はじめー!ほら!歌って!」

しょうがないからみんなで歌い出す。



雪の進軍氷を踏んで

どれが河やら道さえ知れず

馬は斃れる捨ててもおけず

ここは何処ぞ皆敵の国

ままよ大胆一服やれば

頼み少なや煙草が二本


焼かぬ乾魚に半煮え飯に

なまじ生命のあるそのうちは

こらえ切れない寒さの焚火

煙いはずだよ生木が燻る

渋い顔して功名噺

「すい」というのは梅干一つ


着の身着のまま気楽な臥

背嚢枕に外套かぶりゃ

背の温みで雪解けかかる

夜具の黍殻しっぽり濡れて

結びかねたる露営の夢を

月は冷たく顔覗き込む


命捧げて出てきた身ゆえ

死ぬる覚悟で吶喊すれど

武運拙く討死にせねば

義理にからめた恤兵真綿

そろりそろりと頚締めかかる

どうせ生かして還さぬ積り



なんともやる気の出なくなる歌だ。帰りたくなっちゃったよ。

天龍が選曲はともかくこうやって場を盛り上げようっていうのは、彼女が辛気臭い空気が嫌いだからなんだという。

多分この、二人を虐め抜いてやろうっていう空気が嫌で嫌で仕方なかったんだろう。

難儀なもんだ、二人が悪いのはもちろんわかってるし、駆逐艦たちの気持ちもわかる、

でもいじめは嫌いだし、だからと言って溜め込ませるわけにもいかない。この軍歌は天龍の悪あがきだった。

「ほら!木曾も矢矧も歌えってば!」

と彼女は常にあの二人を気遣っていた。余計に苦しめてそうだが、好きなようにやらせておこう。


さて、一旦ビーバー海峡に出た後、再び上陸した。雪は降り続いていたからおそらくバレてはいない。

だがアリューシャンのどこかにあたしたちがいるというのは向こうも知ってるだろうから、

ひょっとするとふらっと警備が現れるかもしれない。それだけを要注意して、ユーガデージ湾の獣道を進む。

「雪が、弱くなってきたな」

「こういうところの天気は変わりやすいからね」

しかしどれだけ行っても敵の偵察部隊も全く見えず、相変わらずのザル警備だ。

乗り込む分には都合がいいが、戦う頃には敵地の奥深くってのが問題だね。

「いい加減、暖かいお風呂に入りたいわぁ」

「そうだねぇ」

「早く国に帰りたい……」

後ろの話し声に愚痴が増えてきたのは決して気のせいではないだろう、士気は格段に落ちている。


日が落ちてきたところで、オーバーランドドライブの山道で一晩明かす事になった。

みんな疲労でうなだれている。簡易テントで寝転んでいると、卯月が入ってくる。

「どうした」

「……」

寂しいんだろうか、黙って寄り添ってきた。

「どうしたんだ?」

「……」

彼女は黙り込んでいたが、いきなりあたしに抱きついて胸に顔を埋める。

「お、おい、卯月……」

そうして、声を殺して忍び泣きを始める。手は力いっぱい握られていた。


彼女と弥生は、それこそ本当の姉妹のように行動を共にしていたんだ。

弥生がいるところに卯月がいて、卯月がいるところにはいつだって弥生がいた。

でも、それももう先日までの話だ。

彼女はずっとそうして泣いていたが、しばらくすると泣き疲れたのか眠ってしまった。

あたしは彼女を抱き上げて、第三十駆逐隊のテントに帰しに行く。

テントを覗くと睦月と如月が向かい合って眠っている。頬には涙の跡が見える。

卯月をその横に寝かせ、またその横にあたしも寝た。


「起きてください!起きろー!」

声が聞こえる。相当に焦ってるような声。初霜の声だ。

確か初霜は夜中の見張りを……と考えたところで飛び起きた。

「何事だ!」

テントを飛び出して叫ぶと、血相を変えた初霜が走ってきた。

「偵察機です!偵察機が上を!」

「偵察機?」

空を見上げると、雲一つない美しい澄んだ青が広がっている。

「天は、私たちを見放したのでしょうか?」

初霜の不安そうな声が聞こえた。

今夜はここまで
艦これ改よ、そなたはどうなってしまうのか
俺が密かに片足靴下の呼んでいるあのファッションはみっともなくて嫌いなんだよぉぉぉぉ!!


-凶報-


「起きろー!起きろー!」

急いで寝てる艦娘たちを叩き起す。部隊は騒然となった。

「何事でしょうか」

各隊の旗艦たちが集まってきた。

「おい、木曾と矢矧は」

「はぁ、あちらに」

「連れて来い!」

あいつら、こんな時でもしょぼくれてるみたいだ。イライラしてきたよ。


「なんだよ」

「なんだよとは何だ。今朝初霜が上空に偵察機が通ったのを見つけた」

「えぇ、じゃあ私たちの位置は」

「きっとバレたぞ」

「今に爆撃が来るんじゃ……」

「ああ、どうやら天気は快晴らしいからな。絶好の爆撃日和だ」

一斉に空を見上げる。すると遠くから聞きなれない低い音が響いてくる。

「多分、空襲だと思うんですが……」

「どうする、加古」


「第三十駆逐隊は天龍に任せる。木曾、矢矧、一先ず先日のことは忘れろ。木曾は第二十一駆逐隊、矢矧は第十九駆逐隊に付け」

初春と磯波は一瞬だけすごく嫌そうな顔をした。

「今は感情より優先すべきことがある。なんなら磯波、いよいよの時はお前が指揮を采れ」

目の前で戦力外扱いされても、もう打ちのめされているのか矢矧は何の反論もせずただ俯いているだけだった。

「悔しくないのか、痴れ者!」

初春が怒鳴りつけても無反応だ。

「今それどころじゃないだろ、対空戦闘だ!」

あたしは潮の元へと走った。対空砲火の音と爆弾の風切り音が鳴り始める。


潮はというと、山道を外れたところで曙を抱え漣に寄り添ってブルブル震えていた。

「おい、空爆だぞ」

「でも二人が……弥生ちゃんも……」

「物資運搬用のソリに……乗ってもらって、運んで行こう」

「はい……」

「第七駆逐隊は今からあたしの指揮下に入る。ついて来い!」

「はいっ」

ソリに繋がれた紐を二人で握るってそのまま駆け出した。



爆発音がこだまし、周りで大小の雪崩が起きている。

「うーん、巻き込まれちゃまずいな。早くここを抜けなければ、でもどうやって?」

天龍が頭を抱えている。

「各隊を散開させろ」

そこで、木曾が口を開いた。まともに喋ってるのを久々に聞いた気がするよ。

「すまん、と言って済む話じゃないが、俺に出来るのはこれぐらいだろう」

「いやそんなことは後でいい、何かアドバイスを」

「地図によると麓に教会がある。そこで集合だ、今は一目散に逃げるんだ」

「よし、各隊、散開して麓まで駆け抜けろ!教会があるはずだからそこで落ち合おう!」


天龍が号令を出した途端、部隊は駆け出した。

「よし!命令は聞こえただろ!走れ走れー!」

皆一斉に走っていく。

「潮、行こうか」

「はい」

あたしたちも走り始めた。対空砲で反撃している艦娘はどうやら少数派で爆撃の音ばかりが聞こえる。

途中、獣道や別の道に入り込んだりで数がだんだんと減り、ついに二人だけになってしまった。

爆撃もすっかり止み、風の音とソリを引き摺る音だけが響く。無事に難を逃れたようだ。


「はぁ、みんな無事だといいけどね……」

「そうですね……」

「……お前さぁ、この戦い終わったら艦娘をやめろ」

「え?」

「家でゆっくり休め、家族とね。いるんだろ家族」

「どうして……ですか?」

「お前の精神状態は普通じゃないし、第七駆逐隊は壊滅しただろ」

「……まだ、朧ちゃんが」

「……」

あたしの沈黙を察してなのか、潮は目を見開いてこちらを見つめる。


「こんなことを、伝えなきゃならないのは気が重いが」

立ち止まり、向かい合って言った。

「朧はミッドウェーでの敗走中に蒼龍を守るために殿として戦地に残った。還ってこなかったそうだ」

彼女の大きな瞳から涙が溢れ出す、震えで歯がガチガチと鳴っていた。

「そ……そんな……みんな死んだなんて……」

「だから、この作戦が終わったらお前は艦娘をやめろ。なんならあたしが嘆願書を書いてもいい」

「どうして……どうしてそれを……今……」

「いや……どうしても、隠しきれなかった。あたしは、ミッドウェーの戦死者を聞いてるんだ」

あのおっさんが、どうしてあたしにみんな教えたかというと、あたしがつい聞いてしまったんだ。

「誰が死んだんだ」

とね、あいつは馬鹿正直にみんな教えてくれやがったよ。


自分が楽になりたかったから潮に話した、と言われてもその通りだとしか言えない。

でもどうにかなりそうだったんだよ、誰かと共有したかった。

「ずっと気が張っててつい……ごめん、自分勝手だよな……」

「あ……」

「ごめん、ちょっと、一人に」

「加古さん」

その場から逃げようとすると、潮が背中に抱きついてきた。

「ど、どうした、あっ、おっぱい大きいのなお前」

「加古さん……」

「どうしたら、そ、そんなに、大きく」

「……」

「う……うぐぅ……」


あたしは、あたしが涙を見せちゃいけないと踏ん張ってきたのに、ちくしょうこれじゃあ格好がつかないよ。

それでも大声で泣き出したいのを何とか堪える。嗚咽の声だけがしばらく響いた。

「もう、大丈夫?」

「ああ、落ち着いてきたよ。お前こそ大丈夫かよ」

「はい」

本当に大丈夫なのだろうか、というのはお互いに思ってるようで、顔をまじまじと見つめ合った。

「あの、そんなに見つめられると……」

「あ、いや、ごめん。大丈夫かなと思ってさ」

「……」

「……」

妙な沈黙が続く。そのまま黙って歩き続けた。なんなんだろう、この空気は。

今夜はここまで
古鷹「何!?このSSのヒロインは私じゃないんですか!?」
卯月「うーちゃんじゃないっぴょん!?」
という状況。百合ハーレム建設することが、俺の本来の計画なのだよ
加賀さんの方もなんか書かなきゃって思ってるけどこっちばっかり進むっぽいィ


-妖精さんの超科学-

・妖精さん鋼
艦娘の艤装や武器、砲弾を構成する金属っぽいやつ。
これでシェルターを作れば核爆弾の爆心地でも生き延びる事ができ(妖精さん談)、
これでハサミを作れば分厚い鉄板をぬるりと引き裂く(妖精さん談)というよくわからない物質。
どこから調達するのかもどうやって加工するのかも全然教えてくれない。

・妖精さん機関
どうやら発動機らしいということ以外は一切わからない機械。機械なのかさえも不明。まことに奇っ怪。
多くの艦娘の背中についてるアレである。重油数L入れれば巡航速度20ktで航続距離6000kmとかいうわけのわからない機関。
何を使ってるのかもどんな仕組みなのかもやっぱり全然教えてくれない。

・妖精さん火薬
艦娘の主兵装である砲弾や魚雷の爆薬として使われている。
ほんのひと匙で現代戦車をもぶっ飛ばす超強力な火薬。取り扱い注意。
これがふんだんに使われている艦娘の艤装は……。

・妖精さんラジコン
艦載機や甲標的。操縦者の考えた通りに動き、五感を共有する。無論空母は特殊な訓練を受けなければならない。
武装は前述の妖精さん火薬を使った武装なので、チビでも凶暴だ。

・艦娘
人間の女の子を主原料とした兵器。意地でも兵器と呼ばないと提督たちの精神が危ない。
怪力と強靭で老いない肉体、修復剤による超回復力、深海棲艦の毒素以外の薬物耐性を得る。オツムは自分で何とかしろ。
無重力で破裂することも、水圧で潰れることも、アルコールで凝固することも、もちろん放射能でとろけることもない。
でも流石に同じ艦娘の攻撃は通用するので、フレンドリーファイアに要注意。
女の子なら誰でも持ってる妖精さんパワーを目覚めさせることで艦娘になるらしい。
ぶっちゃけ女だったら何歳でもいいらしい(妖精さん談)。
ただ、12歳から18歳までの女の子が最もパワフルな時期なので大体みんなこの年代。
一度艦娘になれば二度と人間に戻ることは出来ないが、オミットされた生殖機能を復元することは出来る。
老いることがなく、寿命も無くなる、体は無駄に健康なので死ねない、
死にたい時は同僚に介錯を頼むか、妖精さんに解体してもらおう。

・高速修復剤
艦娘に使うとみるみるのうちに傷が治る優れもの。マスカット風味。
ちぎれた手もくっつくし、飛んでった足も生えてくるので気味悪がられ、艦娘たちからはあんまり好まれてないらしい。


このSSの妖精さん周りの設定っぽい。そういえば妖精さん出てきてないな……

-妖精さんの超科学-
・艦娘についての追記
兵器である艦娘に老いは不要というスタンスの妖精さんの偉い人、星☆凛氏が失脚し、
総選挙の結果、ヒルター氏率いるナス党が最大議席を獲得、
凍結されていた艦娘の老化についての研究が再開された。


自分で書いといて艦娘がちょっとかわいそうになったわけじゃないよ!
本当だよ!


-雪原の死闘-


教会にたどり着くと、すでに全員が揃っていた。

「死んだかと思ったぜ」

天龍が軽口を叩いてくるが、様子を見る限り本気で心配していたようだ。

「すまんな、心配かけて」

「心配なんかしてねーよ」

みんな休憩を取っている。矢矧も無事に辿りついたようだ。

木曾は窓から外の様子を覗っている。

「来たか」


「様子はどうかね」

「俺たちはツイてるらしい、見つかってないよ」

そりゃ幸運なこった、ダラダラ歩いて来たからもしかしたらと思ったんだけどね。

「ただ、ここからだ。飛行場まで5km、やろうとしてやれない距離でもない。悪天候か夜を待てばいい」

「今朝見張りをやってた奴らは今から休め。決戦は夜だ」

外をチラと見ると、徐々に霧が出てくるのが見えた。みんなは武器の手入れをしたり、服を脱いで体を拭いたりしている。

あたしも、ちょっと休憩を取ろうと横になって、そのまま眠りこけてしまった。



夜中に肩を叩かれ、目が覚める。

「加古さん」

「ん、潮か……ふわぁ~あ、よく寝たよ」

まず一つ大あくびをする。

「あくびしている場合じゃありません」

どうにも、緊張感のある雰囲気だ。

「どうかしたのか」

「攻撃を受けたんです」

飛び起きて武器を取る。

「どこだ、どこにいる」


「砲撃を受けたんですよ、それも街中!」

「砲撃ィ?」

どうやら、そんな砲撃の中でもあたしはぐっすり眠っていたようだ。

「幸い、この教会には当たりませんでしたが」

「神のご加護だろうな」

「みんな外で待ってますよ」

「それを先に言えバカ」

荷物をまとめて慌てて呼び出した。

「グッスリと眠ってたな。あの砲撃の中を」

外で待っていた天龍が言う。


「あたしは神経が図太いんだ」

「どうやらそうらしい。よし、飛行場に砲撃を敢行する」

目標までおよそ5km、近すぎるぐらいだ。砲弾は容易く届く。

飛行場の北方棲姫とやらを夜間砲撃で叩きのめそうってわけだ。

夜間なら飛行機だろうがなんだろうがどうってことない……はず。ひょっとすると夜間爆撃機とかあるかもしれないが……。

まあとにかく、昼間よりはマシってことは確かだな。

方位と距離を見て仰角を調整し、着弾観測の準備を待つ。

「こんな時のために三式弾を山ほど準備しておいたんだ」

「これで敵基地は壊滅ですかね」

「当たればな、当たれば」

風とかがあるから当たるとは限らない、まあ当ててみせるけどね。


『準備完了です』

丘の上に登った初霜からの無線が届き、

「よし、撃ち方ァ、始めェ!」

天龍の号令と共に轟音が鳴り響く。しばらくすると遠くからパラパラといった音が聞こえてきた。

『やった!大当たりです!飛行場炎上!』

「聞いたか!まだまだぶち込んでやるぞ!」

次々と砲声が轟き、初霜が無線越しに興奮しているのが伝わってきた。

そこで敷波が前の様子を窺っているのが見える。

「どうした?」

「いや、なんか動いた気がして……」

すると再び砲声が響いた、だがあたしたちじゃない誰かの物だ。


「伏せろ!」

その砲弾はあたしたちの前方に着弾し、怪我人はいなかった。

だが次の瞬間、いきなり昼に、いや太陽がぽっと現れたと言うべきか。

「照明弾だ」

打ち上げられた人工の太陽が周囲を照らす。

「前方に敵影!」

「敵が来たぞーッ!」

黒い影が蠢き、こちらを睨んで進んでくる。陸上型の深海棲艦たちだ。

「撃てぇ!」

けたたましい砲声、銃声が鳴り出し、戦闘が始まった!

防御陣地も築いていなかったために至近距離での戦闘になる。

相手の声、それから特に目が見える距離の戦いは恐ろしくて仕方がないよ。


「チャージ!チャァーージ!」

「ウラァーーーッ!」

「ブッコロス!!」

素材となった少女の国の言葉を話すのか、それとも他に法則があるのかはわからないが、

日本語やロシア語、もちろん英語も混ざって聞こえてくるから精神衛生上よろしくない。

というか、多国籍の連合軍を彼らも作るのか、と妙に感心したよ。

「爆雷投げます!」

先にも解説したが、爆雷は手榴弾のように使うことも出来る。一回一回時限信管いじらなければいけないけど。

誰かの声がした後に前方で炸裂音と悲鳴が聞こえ、敵集団は一瞬たじろぐ。

「潮、側面に回り込んで十字砲火だ、ついて来い」

「あ、はい」

二人だけだが、重巡の火力なら十分だろう。姿勢を低く保ち、右側面を目指し移動する。


しばらく走ったが、暗闇の中で突然何かにぶつかった。

「あぁ?」

「ア……」

深海棲艦、リ級と目が合う。それもあの金色の目をしたリ級だ。以前、互いに見て見ぬふりをしたあの戦隊だろうか。

「ダーイニップ!」

横っ腹に鈍痛が走った、別のヤツだろう、あたしに蹴りを入れてきた。

「うわあああああ!!」

潮がそいつに後ろから飛びかかって首を絞める。

「ゲゲゲグ……」

「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」

そいつの苦しむ声、潮の唸り声が暗闇の中から聞こえ、ついにゴキッという嫌な音が響くと、静かになった。


あたしたちは二人で唖然としていたが、その音で正気に戻ると、互いに掴みかかり殴りあった。

果たして正気に戻ったと表現していいものかどうか、どっちが正気でどっちが狂気かわからん。

いくつも拳を貰いつつも、なんとか蹴っ飛ばして上乗りしてやった。

「すまんな、そういうことだから」

懐から短刀を取り出し、胸に突き立てようとするが、あたしの腕を掴んで抵抗する。

「離せ、お前を殺さなきゃあたしが死ぬんだ」

見逃してもらった恩があるとはいえこれは戦争だ、結局どちらかが生き残る。

「Never forgive you」

「何?」

掴んできた手の急に力が急に抜け、サクッと刺さりこんでしまった。

ブルルと体が震えると、そのまま動かなくなる。


『Never forgive you』、『絶対に許さない』とまで言われてしまったあたしの明日はどっちだ。

ともかく、こいつには流石にビビっちまったよ。

「加古さん、行きましょう」

「う、うん……」

しかし戦意喪失しちゃいられない、先を急ごう。

小川を沿って移動し、側面から奇襲する。敵集団が陣地を形成しているところだった。

「潮、あたしは肉薄して三式弾をブチ込む、お前はあたしに構わず爆雷を撃ち込みまくれ」

「………………了解です」

少し間を空けて、潮は了承してくれた。短刀を構え、駆け出す。

「撃て潮!」

ポンッと軽快な音を立てて爆雷は飛び、穴を掘っている敵巡洋艦を吹き飛ばした。

同時に、あたしは主砲を叩き込む。飛び散る肉片、飛び交う怒号、両手の艤装を駆使し無我夢中で撃ちまくった。

反撃もあったが、そんな傷にも構わず、とにかく引き金を引いたんだ。


弾薬が尽きる頃には敵の反撃も無くなっていた。辺りは次第に明るくなり、惨状を朝日が照らす。

「これ……全部私たちが……」

「ああ……」

深海棲艦の死体が地面を埋め尽くしている、地面を青黒く染めて。

生きてる奴もいるのかわずかにうめき声が聞こえてくる。

「加古ー!潮ー!」

教会の方から声が聞こえた。艦娘たちが走ってくる。

「無事だったか、いなくなったから死んだかと……」

天龍はやっぱり心配性のようだ。何人か負傷していたようだが、みんな無事でなによりだ。

「圧巻だな……オレ達は何人殺したんだ?」

「わからん」


敵の思惑としては、数の優位によってそのまま挽き潰すつもりだったんだろうが、

艦娘たちの奮戦のよってその野望は打ち砕かれた。

「残弾を確認しろ!」

「もうすっかり空だ」

「弾は品切れだよぉ」

「まずいな……少ししかない」

あたしも確認したが、三式弾は尽き、主砲弾、副砲弾もほとんど無くなってしまった。

「ここまで激しく戦うとは思わなかったからな」

そこに初霜が戻ってきた。

「みなさーん!」


「お前今更降りてきたのかよ!」

「うわっ、ひっどい惨状ですね」

初霜のやつめ、ずっと丘の上で待機していたみたいだ。まあ何か命令を出せる状況だったかと言えば、そうじゃないんだが。

「港にでっかいたこ焼きが浮いてるんですよ」

「何を言っている」

彼女はなんだかよくわからない子供みたいなことを言い始めた。

「でっかいたこ焼きなら腹一杯食べたいよ」

「敵の新兵器かなァ」

敵の新兵器だとすれば、もはやこちらには打つ手がない。

「おそらく、浮き砲台かと。大口径主砲を持ってるみたいで」

「たこ焼きとて侮れない、か……どうしよう、詰みだぞこれは」


「木曾、矢矧、何かないか」

「いや、弾がないなら戦はできん」

「支援が来るとも思えないし……」

だがこれはゲームじゃないから投了は出来ない。どうしたもんかなァ。

「背後から忍び寄って、やっつけたらどうでしょう!?」

「どうやってだ」

「それは、その……」

勢いよく意見を出した睦月も、思ったことを口に出しただけだった。なんだよもう。

困り果ててどうしようもなくたむろしているところに、子日が叫んだ!

「あー!あれーー!!」

彼女は上空を指差している、その先には白い天使がいたんだ、これは比喩だけどその時のあたしたちにとっちゃ本物の天使のようなもんさ。


「零戦……?」

「味方だ!」

航空隊がこちらに向かってくる。

「ありゃ龍驤の航空隊だぞ」

「よくわかるな天龍」

「バッカおめー味方の航空隊ぐらいわかって当然だろ」

天龍は照れくさそうに言った。

「こうしちゃいられん、丘に登るぞ!」

木曾が言い出し、丘を駆け上がる。つられてみんなも登りだした。

そこから飛行場を眺めると、浮き砲台らしきものは粉々に吹き飛んでいて、格納庫は火の海と化していた。

「バンザーイ!」

誰からともなく万歳三唱が始まる、なんともあっさりとした勝利だが、個人的にはこういう時の方が多いように感じる。

そうして長い長い緊張が解け、みんなしゃがみこんで涙を流し、すすり泣く声が青空に響いていた。

今夜はここまで
教会は一応実在してるけど、周りの地形の整合性とかは全然考えてないので気にしてはならない
だってウナラスカ島とか行ったことあると思う?
ハッ、百合ハーレム建設だなどと、その気になっていたお前らの姿はお笑いだったぜ(検討中)

潮ちゃん死にたがり症候群にかかってね……


7.ミッドウェーの墓標


ミッドウェーの敗北で大勢の艦娘たちを失った。

彼女たち自身はもちろん、彼女たちの経験やノウハウも全て喪失したこの戦いは、

艦隊に厭戦感情を蔓延らせ、艦娘の帰りを待つ家族たちをも刺激し、退役を懇願する艦娘を生み出した。

しかしそれでも闘志を絶やさず、戦い続けることを拒まない艦娘たちは確かにいて、

彼女たちもまた、かの因縁の地ミッドウェーへと赴くこととなる。

祖国の威信と栄光を取り戻し、先達の仇を討つために。


-勝つには勝ったけれど-


龍驤の爆撃隊が飛行場、浮き砲台を破壊し、ウナラスカ島を占領、アリューシャンでの決着は付いた。

その後、アリューシャン各地に拠点を建設し、日米の連絡航路として活用することになったそうな。

帰りの輸送船では噂の北方棲姫とやらを捕まえたとかなんとかで話題はもちきりだった。

それこそ、動物園に珍しい動物がやって来た、とかそんなノリでね。

「見に行ってみようか」

「……」

第三十駆逐隊と潮を連れて見に行ってみると、小さな白い女の子が檻の中で座り込んでいる。

ぼーっと宙を見つめているので、見張りの海防艦に話を聞いてみると、

「ずっとこの調子です」

とのことだ。怯えてるでもなく、落ち込んでるわけでもない、全く呑気なもんだよ。


話しかけても何も反応を示さないからその辺にあった椅子に座って見てると、

卯月がどこからか持ってきた金属の棒をそいつに叩きつけた。

ヒュンッと空を切りパシィーンと肉にぶつかる。北方棲姫は悲鳴を上げた。

「あ、いけません!」

海防艦が慌てて二人を止めようとするが、結局突き飛ばされてしまった。

「あなたからも何か言ってください!」

と言われてもな、どうも止める気にならず、叩き続ける卯月を眺めるだけだった。

睦月と如月、潮も特に彼女を咎めたりはせずに見ているだけだ。

「このことは、上に通告しますよ!」

そう言われてようやく二人に、

「やめろ」

と一言。卯月は手を止めて棒をその場に捨て、立ち去っていってしまった。三人も、それについて行く。


「あなた方は、一体どういう教育を受けたのですか!」

海防艦はカンカンだ。

「そんなに怒るなよ」

「怒りますよ!死なれでもしたら!それに捕虜ですよ!?敵とは言え無抵抗の人相手に!イカれてる!」

イカれてる、確かにそうかもしれない。あたしたちはイカれちまったんだろう、精神が擦り切れたとでも言うか。

「ごめんよ、あいつら姉妹艦を失っててな」

「えっ?あっ……う……」

言葉を失ってるよ、海防艦ってのはこれだもんね。普段前線に出ることがないから、小奇麗なことよく言うんだ。

ちょっと、羨ましい気もするけど。


「いや、すまんね。あたしも軽率なことをしたもんだよ。連れてくるべきじゃなかった」

「いえ……その……」

「まあ、なんだ。お前にはわかる日が来ないかもしれない、でもそれでいいと思う」

なんとも要領の得ない変なことを言って、あたしもこの牢を去った。

北方棲姫の様子をチラッと伺うと、殴られた部分を手で押さえて震えている。でも何の感情も湧かなかったよ。

今にして思えばこの戦いの傷跡の凄まじさよ。あたしたちは重大な傷を心に負ってしまったようだ。

勝つには勝ったけれどもこれじゃあ死んだのと同じのような気もする。



長い船旅を終え、ようやく本土の土を踏む。やはり祖国は素晴らしい。

「よっしゃ、ひとっ風呂浴びるか!」

と天龍が輸送船を威勢良く飛び出す。わいわいとそれに駆逐艦たちが続いていく。

あたしも降りると、司令長官、雨森司令がいた。

「ご苦労様」

「ああ。知ってるとは思うが、弥生と漣、曙が戦死した」

「……聞いているとも、何も言うまい」

「助かるよ」

暗い顔をしているが、どうも彼女たちの事だけではないらしい。


「本当に申し訳ないと思っている」

といきなり頭を下げるから何事かと思った。

「どうしたんだ」

「彼女たちの死の責任が、お前と天龍にあると言うんだ」

「なんだと?」

そうか、そう言えば矢矧はコネで来たやつだったからな。しかし矢矧は押し付けるような性格じゃないはずだ。

コネで艦娘になったんだろうが、その熱意だけは本物だった。もちろん木曾もそんなことをやるとは思えない。

「米内か」

「その通りだ」

頭にグアッと血が上るのを感じる。そりゃそうだろう、こんなことされちゃ誰だって憤怒の炎が燃え上がる。


「どうにかならないか」

「矢矧が直接言えば、あるいは……じゃが聞く耳を持つとも思えん」

これじゃ矢矧が一番可哀想だ。彼女の自責の念はひしひしと伝わってくるし、

何とかして償いたいと思っているところにこれだと、彼女自殺するかもしれん。

「そうだ、多摩は使えないか」

「そう来ると思ってたにゃ」

と、突然割り込んでくるのは多摩その人だ。どっから来たんだよ。

「多摩か、お前平気なのか」

「何がにゃ?」

「だって北上が」

「ああ」


ミッドウェーで斃れた球磨型というのは、北上の事だ。

「あんな重雷装じゃ死んで当然にゃ」

彼女は自身の魚雷に敵弾が命中し、白雪を巻き込んで爆死した。当然二人共肉片一つ戻って来ていない。

「しかし他人を巻き込むとは出来の悪い妹にゃ」

「悲しくないのか」

「これまでも戦友が大勢死んだにゃ、今更姉妹の一人や二人」

彼女も長いこといるから、慣れっこって事だろうか。にしても少々ドライ過ぎるが。そもそも慣れるものなのか?

「話戻していい?」

「ああ、何か手を打ったのか」

「別に」

「なんだいそりゃ」

手を打つ必要は無いということだろうか。


「ただこのことをちょーっと、矢矧に教えただけにゃ」

後から聞いた話じゃどうやらこの時、矢矧に対して脅迫紛いな事をやったようだ。

そこまでしなくても自分から言いに行ったのに、とは矢矧談だ。

「しかし米内は聞く耳を持つかな」

「聞かなかったら、その時は話をおおーーきくすればいいにゃ」

多摩は手でカメラのジェスチャーをしてみせる。あたしはふと青葉の顔を思い浮かべた。

「それをも凌駕する恐ろしい程の厚顔無恥ならどうするよ」

いや、青葉は厚顔無恥じゃない、と思う。面の皮は厚い方だけども!

「その時は矢矧が……んふふ」


恐ろしいヤツだよ本当に、こいつだけは敵に回したくないよ。こんな冷酷な艦娘は他にいないだろうね。

姉妹が死んでもケロッとしてるし、仲間を殺すのも躊躇しない素振りだし、冷酷無情を絵に書いたようなヤツだ。

幸い米内大将は矢矧の言に耳を貸してくれたようで、矢矧は再訓練、木曾は指揮権限の無期限停止という処分となった。

これに不服だったのが駆逐艦たちだ。罰が軽すぎると怒っている。なだめるのに本当に苦労した。

あたしだって不満だったさ、責任を押し付けようだなんてさ。

でも多摩と雨森司令がなんとか動いたりしてくれたおかげで、米内大将は職権濫用を追及され失脚したらしいから、

少しだけ、溜飲が下がったような下がってないような心地だ。

今夜はここまで
もう>>900かよ……

これは神風特別攻撃隊が輸送艦に命中した映像だけど、爆沈の想像の足しにでもどうぞ(余計な気遣い)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25115637
https://www.youtube.com/watch?v=uMs4IJQVRYM

>>908
>海防艦が慌てて二人を止めようとするが、結局突き飛ばされてしまった。

>そう言われてようやく二人に、

二人になってるが分身したわけじゃなくて誤字、ごめん


-第二次改装-


港で第六戦隊の面々と再会を果たした。

「よかった……本当によかった……!」

と古鷹が飛びついてきて、あたしの唇に奇襲攻撃を仕掛ける。まんまと浸透され蹂躙されてしまった。

「ぷはっ……い、いきなりはやめてくれ……」

衣笠と青葉も微妙な顔をしていた。青葉のカメラはパシャパシャと音を立てている。

「お前それ、どうするつもりだ」

「もちろん記事に」

「やめてね」

「えー、感動的な再会じゃないですかぁー」


明らかに棒読みで、こちらをおちょくってるようだ。そりゃ、あたしが男なら格好もつくがな、

女同士のディープキス写真なんて、一般誌に載せれるわけないだろう!?

「本当、加古が男だったらよかったのにねぇ、古鷹」

「いや……うーん……」

悩むな悩むなあたしは女だ、これでもな。

「ていうかさ、加古、相当臭いよ」

「そうか……?」

自分の服を臭ってみると、確かにこれは耐えられん。

「風呂なんか無かったしな」

古鷹はよくそんなあたしにキスなんか出来たもんだ。いや歯磨きはしてたから口ん中はまだマシだ。


「加古、洗ってあげるから」

と手を引く、風呂にでも連れて行くつもりだろう。

「写真撮っても?」

ダメだろう。

「衣笠さんも背中流してあげたいなー」

こんなにちやほやされるんだから、たまには一人での任務も悪かないよ。

風呂では揉みくちゃにされちゃったよ、古鷹の手はなんかヤラしいし、衣笠はくすぐってくるし、

青葉は写真撮ってやがる。流石に記事にはしないみたいだが。

こうやって騒がしいと、再会の嬉しさであたしが泣いてたのも気付かれていないんだろうね、

恥ずかしいから都合がいいんだけどさ。



それともう一つ、弥生は本名は梶本愛乃というんだが、彼女を家に帰してやった。

骨壷に詰められての無言の帰宅となってしまったが、彼女の母はただ一言、

「愛乃がお世話になりました」

と言っただけで、でもあたしは何も言えなかった。

思えばこんな理不尽なことはないよ、彼女のような本来なら家族と幸せに暮らしていたはずの少女が死んでしまうんだ、

悲しいし、悔しい、どんな手を使っても彼女を救ってやるべきだった。

死んだのが自分じゃなくてよかった、と普通は思うらしいんだが、あたしは違くて、

どうして死んだのがあたしじゃなかったんだろうってしばらくずーっと考えていた。

そんなもんだから、睦月、如月、卯月、それから潮にも、退役することを勧めた。

「でも……」

と全員がなんとも煮え切らない風だ。


「じゃあこうしよう。あたしが上にお前たちを本土沿岸警備に配備するよう言ってやる。

 それで、ゆっくり体を休めながら考えたらいい。もしそれでも戦いたいってんなら復帰しろ」

司令長官に掛け合うと、快諾してくれたよ。この人は本当によくやってくれるよ。

そうして、第三十駆逐隊は第七駆逐隊に吸収された。番号の若い方に合わせるんだとさ。


第七駆逐隊:潮、睦月、如月、卯月


異例の混成駆逐隊であったが、異なる艦級混成の駆逐隊はこれからどんどん増えることとなる。

彼女たちは博多に配属され、とりあえずひと時の別れとなった。


見送った後、第二次改装の話が舞い込んでくる。

「第二次?改装なんて初めてだが……」

「便宜上、ですよ」

「いや、便宜上でも第二次は……」

「細かいところはいいんです!とにかく!性能がぐんと上がりますよ!」

明石は強引に話を進めた。妙なことにはならないと思うんだが、

「しかし、ちょっと新技術を試させていただきますよ」

「おいおい」

「重要なプロジェクトです!」

そう力強く言われてもなァ。


「加古、私も一緒に受けるから」

と古鷹まで乗り気だ。というかこいつはあたしと一緒ならなんでもいいんだと思う。

「それなら、受けるよ」

まあ古鷹が改装するってんならしょうがない。ちょっと新技術ってのが気になるが。

「じゃ、衣笠さんも!」

「私は遠慮しとこうかなぁ……」

衣笠は乗り気なんだが、青葉は微妙な顔だ。気持ちはわかる。

そうして明石はあたしたちを薄気味悪いドックに連れて行き、そこにあったカプセルみたいなのに詰め込まれちまった。

下から水が上がってきて、安全とわかっていても恐ろしいもんだよ。

「おいおい、なんだこりゃ」

「溺れないの?」


明石は自信満々の顔で、

「大丈夫!多分問題ないはずです!」

このヤロー、『多分』と『はず』って言いやがった。青葉は気にせず外から写真を撮っている。

「ドラゴンボールみたいですねぇ!」

「ドラ……何?」

「はー!衣笠ったら、モグリですね?」

「ごめん、私も知らない」

「逆にあたしが知ってると思うか?」

「ジェネレーションギャップを感じます」

「同い歳でしょーが」

なんてくだらない話をしていたら、ついに頭まで水に浸かり、なんだかむやみに眠くなって来た。

ボコボコと泡を吹きながら、意識が暗転する。



パッと目が覚めた、まだカプセルの中だったが、水は抜けていた。

「終わった、のか?」

「成功ですよ!まさか成功するとは!」

「おい」

「いや、別に失敗する可能性があったわけじゃないですよ」

目が泳いでいる。絶対これ実験台にされちゃったよ。

「古鷹、衣笠」

「ああ、おはよう。加古」

「うーん、寝てたのね……」

二人も無事だ、思わず胸に手を当て撫で下ろそうとしたら、違和感を感じた。


「ん?」

「あ、あれ、ちょっと……」

「っかしなー……あれ?あれ?」

みんな体に異変を感じているようだ。もっと言うなら、みんな自分の胸を触っている。

「……そーゆーコトは、部屋に戻って一人でやって欲しいものですねぇ」

明石がニヤニヤしているが、こいつ何か知ってるな。

「明石、こりゃどういうわけだ?」

「トイレに鏡がありますから、どうぞ」

明石がスイッチを押すと、音を立ててカプセルが開いた。

三人とも飛び出しトイレへと向かおうとするが、小走りしたところで立ち止まり、解せないという顔をした。


「……なんだか、変?」

「変ねぇ」

「うん……」

顔を見合わせてみると……よく見ると別人だ、古鷹っぽいのと衣笠っぽいのがいた。

「ええ、誰お前」

「あれ?でも、あれ?」

「まあまあまあ!皆さん鏡を見てくださいな」

明石があたしたちを引き摺ってトイレへと連れ込み、鏡の前に立たせた。


「か、変わってる……顔が……」

鏡には、見慣れた顔ではなく、目つきの鋭いあたしによく似た人物が映っていたんだ。

なんというか、眼前に稲妻がほとばしるような、そんな感覚を覚えた。

明石が言うには、艦娘になって凍結されていた肉体年齢を4歳進めた、という話だ。

「じゃあ、あたしは……」

…………そういえば自分の歳って覚えてねえや。

古鷹は18歳相当になったから多分あたしも18歳ぐらいだろう。知らんけど。

今夜はここまで
いくつか頭とケツの改行ミスってるけどごめんなさい


連載小話
【北方棲姫の冒険】

第一回:大脱走、シベリア超特急!

アリューシャンで敗北し、千島列島の占守島に幽閉された北方棲姫はなんとか脱出しようと計画を立てる。

当時は日露共同での警備で、ロシア艦娘はやや経験不足であることを突き止め、北方棲姫はロシア艦娘に取引を持ちかける。

「牢をウラジオストクに移せば、(日本には内緒で)深海の技術を分け与える」

という内容で、ロシア軍はこれに興味を示し、日本の警備隊の反対を押し切り、収容地をウラジオストクに移動、

しかし、北方棲姫は脱獄、逃亡した。

シベリア鉄道を使ってロシアの中央連邦管区へと向かった北方棲姫は、住宅地を襲撃し兵力を集めた。

ロシア海軍バルチック艦隊がこれを迎撃し、モスクワの陥落は防がれたが、

土地を略奪しながら北方へと進撃、白海を渡ってムルマンスクを占拠、ラップランド地方の北東部を支配した。

この一連の出来事に激怒した日本海軍の猛抗議によってロシア海軍は樺太と千島列島の警備から解任され、

極東における影響力が低下、日本による樺太千島の住民の懐柔を許し、戦後のシベリア動乱の遠因となっている。


-戦闘疲労-


北方の戦いからどうもやる気が出ない、というかずっと疲れている。そんな調子が数週間続いている。

改装する前からだったからこれの影響ではないはずなんだが、どうにも活動的になれない。

明石に診てもらったところ、戦闘ストレス反応、心的外傷後ストレス障害と診断された。要はPTSDってやつだ

あたしは症状としては軽い方らしい、博多と時々連絡を取っていたが、潮の症状はやっぱり酷いそうだ。

せっかく第二次改装したってのにやってる事といえば酒飲んでるだけで、

これじゃよくないと外に出ても、ふらふらと居酒屋か酒店に足を運んじまう。

なんせ金だけは掃いて捨てるほどあるからね。訓練も何もかもサボってこれだ。


ミッドウェーから帰還した艦娘、特に無傷で退却した部隊以外のところはどこも似たような状況なんだと。

最近見かけるのが、第十一駆逐隊の深雪と第六駆逐隊の電が人目も気にせずイチャイチャしてたんだけど、

そのまま部屋に入ってエッチでもしてんだろう。問題は、週に何度も見かけるってことだ。

明らかに以前より粗暴になった艦娘もいるし、ずーっと表情が固まったままの艦娘もいる。

とにかくひどい状況だ。そんな時、磯波に呼び出された。

「お前は平気なんだな」

「そうでもないんですよ」

綾波と敷波か……確かあいつらもアレだったな、いやあたしが言える事じゃないけどさ。


「もうずっと、一人なんです」

「ふーん」

持ってきた瓶ビールを一口飲みつつ、そんな相談あたしにしてどうすんのさ、なんて思ってた。

「こんなこと加古さんにしか頼めないし……古鷹さんには悪いけど……」

「お、おい」

「加古さんっ!」

磯波が覆いかぶさる。あたしの服を無理に引き剥がすからちょいとビビった。

「ま、待った、待った」

「ごめんなさいっ」

瓶を奪われ、磯波がビールをラッパ飲みする。


「ぷはっ、意外と悪くないんですね……」

「だろ?だからコッチじゃなくてそっちにしようよ」

「嫌です」

磯波はカプッとあたしの鎖骨に噛み付いて、そのままなし崩し的にあたしと磯波は……。

という風に、艦娘たちの戦闘疲労は相当なものだったんだ。意外な奴がケロッとしてたりもするけど。

暴力衝動、アルコール依存、性依存、不安、無感動、摂食障害、言語障害、自己嫌悪、様々な症状が、

大敗のあとにはいつも問題になっていたんだ。唯一薬物依存だけはいなかった。艦娘にそういうのは効かないからね。

妖精さんの技術でも流石にこれはどうしようもなかったようだ。感情をとっぱらうわけにもいかないだろ。

士気低下と厭戦感情の蔓延は非常に深刻な問題となっていたが、非常に幸運なことだ、

現状の膠着状態では戦闘の必要に駆られず、時間と共に艦娘たちの心は回復していった。

今夜はここまで
このSS書くためだけに、妙に知識が増えていく……
GoogleマップとWikipediaは神

連載小話
【北方棲姫の冒険】

第二回:結成、北東欧州連合艦隊!

ラップランド地方の侵略に最も危機感を募らせたのはフィンランドである。

首都の目と鼻の先に敵が存在し、なおかつ防衛戦力も持ち合わせてはいなかったからだ。

フィンランド海軍は素質のあるものを募ったが、多数の応募があったにも関わらず、

主力艦艦娘となれる人材はわずか5名のみであった。

さらに不運は続く。南西スオミ県の港湾都市トゥルクの工場で海防戦艦イルマリネン級の艤装生産が行われたが、

凍った海、陸では泥濘や凍土、雪原での戦闘など専用の装備を多数用意しなくてはならず、

航続距離が大幅に削減され、巡航速度であっても1300km程度という、艦娘でも最も短い航続距離となってしまう。

その上、二つの艤装完成後に空爆が行われ、生産が不可能な状況となり、

応募者の残り3名は北ポフヤンマー県のオウルで急造された潜水艦ヴェチネン級となった。

この戦力不足を補うべく外交官は各地を駆け回る。しかし周辺国も同じことを考えていたようで、

交渉はすんなりと終わり、北東欧州連合艦隊が編成されることとなる。

この連合艦隊に参加した国はフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、

ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドと9つの海軍であったが、

多くの国が数人の艦娘しか持っておらず、リトアニアに至っては元掃海艇の訓練艦プレジデンタス・スメトナのみである。

その為、実質の主戦力はフィンランド、スウェーデン、ロシアの三ヵ国の海軍艦娘であった。


-激励-


そんなこんなで性的に堕落した休暇を送っていたわけだ。

野郎とヤろうったって、機密保持の観点からダメって事らしいから、それならもう艦娘同士でって事だ。

最近はそういうのは落ち着いてきた、もう戦力として復帰してもいい頃だろう。

休暇ってのは退屈だが、絶対に必要だ。戦闘効率維持とPTSD防止のためにね。いや、堕落した休暇は別の意味で良くないけどさ。

まとまった休暇を取る事が不可能ならともかく、取らせない上官なんてのは後ろから撃ち殺されても文句は言えないよ。

さて、待ってましたと言わんばかりに作戦が舞い込んだらしく、提督があたしたちを呼び出す。久々に顔を見た気がするよ。


「あの戦いからもう随分と経つが、未だに翔鶴型竣工の目処は立っていない」

「難産ですねぇ」

「ああ。そこで第六戦隊、お前たちにウェーク島の再占領を頼みたい」

「前線拠点にするわけですね」

「その通りだ古鷹。物資を集積し決戦に備える。瑞鳳の偵察によると防衛戦力は皆無だそうだ」

「すんなりいくといいけどね~」

いや全くだ。こういう時に事がうまく進むことはあまりない。

それで、準備をしていたんだがまたしても呼び出された。今度は食堂に集まれって話だ。

途中で磯波と合流したんで、隣に座る。

「何かあったんでしょうか」

「さあね」


周りを見ると、みんな何も聞かされていないようで顔を見合わせている。

塞ぎ込んで引きこもっていた吹雪なんかも連れ出されていたから、相当なもんだと覚悟したよ。

すると、司令長官が焦ったような驚いたような顔で前に立つ。

「あ、あー、そのー。お客様が皆様にお会いしたいと」

えらく畏まった言い方だったから思わず笑っちゃったよ。

そうしてそのお客様が入ってくる。空気が凍りついたんだが、あたしにはなんでかわからなかった。

「誰このおっさん」

「おおおおっさんだなんて恐れ多いですよ!」

「へ?」

艦娘たちはじーっとそのおっさんの顔を見ている。


「誰なんだよ、磯波」

「この国で一番偉い人」

どう見ても普通のおっさんなんだけどなァ、でもそう見えたのはあたしだけだったみたいで、

ミッドウェーで傷ついた艦娘たちに激励の言葉を掛けてくれた。

なんでも、この話を偶然聞いたとかで、直接会ってなんとか励ましたいと飛び出してきたとか。

一人一人熱心に語りかけて、感極まったのか涙を流す艦娘もいた。磯波もその一人だ。

そんで、あたしの番になる。

「あなたは、古鷹型重巡洋艦の加古さんですね」

「よくご存知っすねェ」

「それはもちろん、暁さんの勲章親授式の時に見かけましたから」


見かけただけで覚えてくれてるとは、律儀な人だ……思い出した、確かにあたしも見かけた気がするこの人。

「確かに、お会いしたような気がします。お久しぶりっす」

「お久しぶりです」

「あたしってばそんなに目立ってましたっけ」

「目立たなくたって覚えていますよ」

「へー」

「先の戦い、北方ではどうでしたか」

「あれは……」

ふと、あの事を思い出し、急にバツが悪くなっちゃった。

「あれは、あんまり」


「そうですか……色々と辛いこともあるかもしれません」

「辛いことだらけっすよ」

「その辛い事に、自ら進んで立ち向かうあなたたちに私は尊敬と感謝の念を常々抱いています」

「そんな、尊敬されるようなことしてないっすよ」

あたしは尊敬されるような人物じゃない、出自もわからない野良犬だ。

「そう自分を卑下してはいけません」

「これはもう性格だから……」

でもまぁ、そこまで言われちゃしょうがないよな。

そんな御言葉を頂戴してしまったんなら日本人としては応えなきゃいけないじゃないか。


「とにかく、頑張らせていただきます、はい」

「よろしい」

ニコリと微笑んで、隣の古鷹に話しかけ始めた。古鷹は唖然として、うんうん頷いているだけだ。

しかしまさしく驚きだ、こんな人が軍事施設に激励しに来るとは。

昨日までの自分が恥ずかしくなっちゃったよ、口が裂けてもここ最近の事は言えないね。

人間権威には弱いようで、それは艦娘も同じだ。一番偉いって人が直接会いに来てくれたもんだから、

「あの御方のためなら死ねる」

という認識が艦娘の間に広まっていった。天性のカリスマってのは本当にすごいよ。

今夜はここまで
イベント頑張れ


連載小話
【北方棲姫の冒険】

第三回:進撃、北方棲姫!

北方棲姫はコラ半島を完全に手中に収めると、夏にフィンランド、ノルウェー領内へと侵入、

フィンランド海軍はイナリ湖にてこれを迎撃したが、経験不足により惨敗、死者を出す前に退却した。

イナリ湖を少し南に行ったイパロでの奮戦によって敵の進撃を食い止める。

ノルウェー海軍も完膚なきまでに叩きのめされ、ストールスレットまで大幅に後退したため、

スウェーデン北部まで危機に陥る。この逃亡劇により戦域が大幅に拡大した。

北方棲姫はコラ半島の領民を兵力として使っていたために、大規模な軍を揃えていたが、

一方の連合艦隊側は指揮系統の混乱と経験不足、兵力不足に常に悩まされ艦隊保全的戦略を采り、

負けが見えてきた途端に撤退、という戦闘を繰り返したためジリジリと追い詰められていった。

その中でフィンランド艦娘とロシア艦娘だけが食い下がったが、結局同盟国軍の撤退により側面を奪われ、

包囲される前に脱出せざるを得ず、彼女たちの同盟国への不満は募っていった。

そんな調子で北方棲姫の初のスカンジナビア侵攻は大成功に終わる。


-文句は言いたかないけどさ-


ウェーク島には本当に防衛戦力はいなくて、難なく上陸できた。

設備も撤退してきた時のままだから、多分深海棲艦も軍を進めてはいないんだろう。

好都合だ、何より設営の手間が省けて楽だし。ここからミッドウェーまではぴったり1900kmらしい。

『明石はここに簡易工廠を作りたいみたいだが』

とは提督の言葉だ。前線で修理しては出撃、という反復攻撃を狙っているんだろう。

にしては少々近すぎる気もするけど、

『今度の新鋭機は別格だぞ』

と言うからにはよっぽど自信があるんだろう……でもまだ配備できてないんだが。


「こういう見込みでの行動は嫌すぎるよ」

「そうだねえ」

この島には第六戦隊の他に第五戦隊や第二航空戦隊の祥鳳と瑞鳳も来ていた。

赤城、加賀、飛龍を失い、蒼龍は修理中、なので二航戦の後釜に入ったのがこの二人だった。

ちなみにこの時期の第一航空戦隊は鳳翔と龍驤だから、空母決戦が行われてたら本当にやばかったよ。

ウェーク島はかなり平穏だった。

ただ、食事を一週間交代で作る時に悲劇は起こる。こういう文句は言いたかないけどさ。

作れるやつ得意なやつってのは限られてるんだが、それでもひどい飯に当たる時があるんだ。


まず瑞鳳。

「はい、卵焼き」

「ま、またか……」

「美味しいでしょ?」

「美味しいけども」

彼女は病的に卵焼きが好きだった。他の料理が作れないのだろうかと思って色々やらせた結果、

こいつはわざと卵焼きを作っていることがわかった。もううんざりだ!

しかしなぁ、こいつの涙はちょっと反則なんだ、どうも庇護欲を掻き立てる。それにだ、

「だって卵焼きって、普通の日常って感じするじゃない」

とか健気なこと言われちゃ、もう文句は言えないよ。言えないだろ?言える奴がいたら連れて来い。


そしてもう一人が足柄だ。

「じゃーん!カツカレーよ!勝負に勝つ!戦争に勝つ!もりもり食べてね!」

「う、うん……」

絶品だ。量が多い事と異常に辛い事とその辛さと油で胃とケツを徹底的に痛めつける事を除けばな。

カレーも多いがカツも多いんだ。いっつも翌朝まで残る。そしてケツがヒリヒリと……。

「どうにかしてくれよ」

「私のカレーが美味しくないとでも言うの?」

「お前のせいでみんな下痢だぞ」

「げ、下痢って……カレーの話してるのに……」


「せめて辛いのを何とかしてくれ」

「でも美味しいでしょ?」

「美味しいけども」

救いというべきか、二人共料理の腕は確かってことだ。味はいい。

他にも食事の問題は尽きない。瑞鳳が卵使い過ぎて卵だけなくなったり、

足柄が揚げ物しすぎて油がなくなったり、代わりに重油使って腹壊したり……本当に死ぬかと思った。

あの時に下痢便垂れ流しながらブチ切れた妙高の顔は今思い出しても傑作だ。

というかもう重油を使うという発想が面白すぎて腹抱えて笑ってたな。あたしも漏らしてたけど。


臭いし腹は痛いし最悪だったよ、本当に参った。それで妙高が

「もう今度から揚げ物に重油は使ってはいけません!」

と最後に言い放つんだ。そんなこと言ったって誰が使うんだよ、そんなアホは足柄ぐらいだとみんな大爆笑だ。

多分この時敵が来てたら壊滅してただろう、笑いながら。ある意味では幸せな死に方だな。

そんな風に愉快で平穏な生活を送りながら翔鶴型を今か今かと待ち続けていた。

いや、それは嘘だな。このまま翔鶴型が完成しないで、ずっとここで楽しく過ごしたいって思っていたよ。

多分みんなそう思ってたと思う。でもそういうわけにもいかないのが世の常、

ウェーク島に上陸してから3ヶ月、ようやく翔鶴型が完成したとの報せが入る。

その時のみんなの少し寂しそうな顔は、何故だかあたしの心に強く残っている。

今夜はここまで
清霜多すぎ!耐えられん!



連載小話
【北方棲姫の冒険】

第四回:凍結、スカンジナビア!

北方棲姫の軍団はスカンジナビア半島の北半分を制圧し、ボスニア湾への進出を始める。

南部主要都市も戦略爆撃によって工業力は疲弊しており、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの三ヵ国は虫の息であった。

しかし、季節は冬へと差し掛かる。地面と湖、海、あらゆるものが凍り始めた。

アリューシャンのような比較的暖かい冷帯とは違い、スカンジナビアの冬は全てが凍りつく。

驚いた北方棲姫は軍団の進軍を停止させた。

フィンランド海軍の旗艦、イルマリネンはこれを利用しない手はないと進言。

この三ヶ国の軍隊は伝統的に冬や雪に強いと思われており、戦果が期待された。

人類側の反撃が始まる。


連載小話
【北方棲姫の冒険】

第五回:無双、ヴァイナモイネン!

中でも優れた戦果を残したのが、イルマリネン級のヴァイナモイネンである。

彼女は相棒のドロットニング・ヴィクトリアと共に前線を駆け回る。

ヴァイナモイネンは無口であったため、ドロットニング・ヴィクトリアが常に世話を焼いていた。

ある時彼女は何も言わずに一人で突撃した、仲間たちは驚いたが、

ドロットニング・ヴィクトリアは弾薬を抱えてそれを追いかける。

最初、彼女たちは攻撃を受けなかった、敵たちも目の前の光景が信じられなかったのだろう。

しかし、二人が浸透して次々と深海棲艦を撃破していくと、猛反撃を加えた。

二人は雪と氷の地形を巧みに利用してこれを回避し、進撃を続ける。

深海棲艦側の司令部が移動してきたロヴァニエミ付近まで到達したが、そこで弾薬が尽きたため、

その辺に捨ててあったスノーモービルで戻ってきた。二人に怪我はなかった。


二人の奮戦により深海棲艦軍は慌てて後退し、ロヴァニエミを放棄した。

深海棲艦は深い痛手を負った。たった二人に蹂躙された事の精神的打撃も凄まじく、士気が大幅に減衰する。

ヴァイナモイネンの戦果報告は「敵を倒した」という一言だったという。

ドロットニング・ヴィクトリアは「(ヴァイナモイネンの戦果は)100から数えていない」と話し、

詳細は不明だが多分100~200ぐらいだろうという大雑把な記録が記された。

艦種も様々で多くは駆逐艦ではあったが、中には戦艦までいたという。

攻撃の際、ドロットニング・ヴィクトリアは武器を持っていなかったので、落ちていたスコップで戦っていたが、

そのスコップでタ級戦艦を倒したとされている。しかし、実際にはレ級戦艦であったことが確認された。

この戦いは艦娘の陸戦における圧倒的優位性を証明した戦いとされているが、

ただ単にヴァイナモイネンとドロットニング・ヴィクトリアが異常に強かっただけという主張も見られる。



次スレ準備中DAAAAAAAAA!!
なんか補足とかで欲しいのがあればどうぞ


-艦娘の死について-

加古「艦娘が死ぬとどうなる」

明石「人間と変わりませんよ。死ぬ時は死ぬんです」

加古「生き返らせたりできないのか?」

明石「死ににくく、あるいは死ななくは出来るみたいですが、死んだ以上はもう無理なんだと」

加古「……みたい、ってのは妖精さんか」

明石「そのへんはどーしても教えてくれないのよね。あ、でも」

加古「何か手はあるのか?」

明石「いや、複製ならと思って……」

加古「複製?」

明石「肉体をコピーなら出来るんじゃないですかね、深海棲艦の技術でそっくりそのまま」


加古「……でも、深海棲艦の技術なら他の誰かを犠牲にせにゃいかんのだろうが」

明石「そうです、それにはたして記憶まで複製できるのか、複製できたとしてそれは同一人物と言えるのか……」

加古「つまり、ダメってことか」

明石「諦めるほかありません、覆水盆に返らず、艦娘でも死んだら全ておしまいです」

加古「そっか……」

明石「前を向いて歩くしかありません」

加古「あたしはいいんだが、あんな若いのに死んだら可哀想だ、あたしが代わりに死ねば……」

明石「過ぎた事だから忘れろ、とは言いませんが。そんな風に言うと怒る人がいますよ。私もその一人です」

加古「ケッ、わかってらァ……」


大鳳
艦種:航空母艦

翔鶴型建造のノウハウを活かし作られた特注の空母艦娘で、ボウガンタイプの航空艤装を装備している数少ない艦娘の一人。
日本海軍唯一の装甲空母であり、戦争後半の主力空母でもあった。
竣工後すぐに治療を終えた蒼龍と共に第二航空戦隊に配属され、主にハワイ海戦、サンフランシスコ沖海戦などで活躍した。
華々しい活躍や戦果を上げたわけではないが、常に前線を支え堅実に作戦を成功させたため評価は高い。
新旧様々な艦上機を搭載し、末期には艦載型の橘花、FH-1ファントム、シーバンパイアなども装備した。
本人のお気に入りは彗星だという。
あまり大きな声では言えないが過敏性腸症候群を患っているらしい、本人は頑なに否定している。


初霜書房刊『艦娘図鑑』より


大和型の艦娘は翔鶴型と同時期に竣工した。
しかし、すでに戦術は航空部隊と高速艦隊を主軸とした機動戦術へと完全に移行してしまっており大した期待はされず、
弾薬も専用の物が多く量も必要であったため補給部隊からもいい顔はされなかった。
また、大和型の建造にはかの悪名高い米内将軍が深く関わっており、それも彼女たちの肩身を狭くする要因の一つとなる。
極め付けは所謂『史実』である。艦娘たちからは「縁起が悪い」、「本当に使えるのか」などの声が上がる。
自慢の火力も当時としてはややオーバースペック気味であったため、
それなら補給の面で扶桑型や伊勢型の方がいい、と作戦投入もなく、
竣工から三週間後、初めての任務は観艦式であった。その翌日に事件は起こる。
不満を溜めた大和型の二人は呉鎮守府を占拠し、待遇の改善を訴えた。
鳳翔の航空攻撃によりこれは鎮圧されたが、鳳翔も彼女たちの要求に賛同した。
こうして大和型も前線に配備されることとなったが、本格的な活躍は欧州派遣作戦まで待たなくてはならない。

初霜書房刊『艦娘戦史』より


あくまでもこのSSでの設定だ!みんなの鎮守府とは全く関係ないぞよ!
カレーは近所にあるネパール人が経営するインドカレー屋の海老バターカレーが好きです。絶品なんです。

次スレ立てました。みんなで見ようねぇ!

【艦これ】重巡加古はのらりくらり 弐
【艦これ】重巡加古はのらりくらり 弐 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455380210/)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月22日 (木) 00:37:13   ID: n5DmdJo8

イイネ!

2 :  SS好きの774さん   2016年02月10日 (水) 22:59:25   ID: Ul37iIy7

この手の小説形式はハーメルンでやれ、とか思ってたんだが、数レスで引き込まれた
やはり読まず嫌いはいけないなと猛省
続きに超期待してる

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom