【ゆるゆり】櫻子「きたさく短篇集!」 (35)
※北宮初美×大室櫻子の短篇集です。
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【1. かていかのせんせい!】
北宮「それじゃあ今日からミシンを使った授業になります。わからないところがあったら声かけてね。作った物は誰かにあげてもいいよ」
櫻子「ふふん、じゃあ今日は櫻子様が超上手いのを作ってみせるから、それを向日葵にくれてやろう!」
向日葵「あなたミシン使ったことありましたっけ?」
櫻子「ない! けど天才だからすぐマスターできるのー♪」
向日葵「……ああそう」
あかり「あかり、ソーイングセットとかは使うけどミシンをちゃんと触ったことはあんまりないんだぁ」
ちなつ「ちょっと緊張するねっ」
北宮「焦らなくていいから。まずは手順通り、ゆっくり丁寧にやること」
「「はーい!」」
~
あかり「うわぁ……向日葵ちゃん上手だね~」
向日葵「こういうのは家でもしょっちゅうやってますので……慣れてるだけですわ」
ちなつ「いいないいな~♪」
あかり「あかりもだんだん慣れてきたよ。思ったより難しくないんだねぇ」
きゃっきゃっ
櫻子「…………」
向日葵「天才櫻子はどうですの? そろそろマスターできました?」
櫻子「い、今やってるから!」
向日葵「やってるってまだ糸もちゃんとかかってないじゃないの……どうりで何の音もしてこないと思いましたわ」
櫻子「うるさいなーもう……! すぐに追いつくから大丈夫なの!」
向日葵「……あっそう。期待して待ってますわね」
櫻子(うぅ、くそ~……)
~
あかり「ちらほら出来上がってきた人がいるみたいだねぇ」
ちなつ「私のも完成したよ~。ほらっ」じゃーん
あかり「うっ!? わ、わぁ~上手~……」
櫻子(うぅ~……)もんもん
向日葵「櫻子大丈夫ですの……? 私の完成品あげますから、これを参考にしなさい」
櫻子「いーい! 一人でやるから!」
向日葵「でも今日中に終わらなかったら放課後居残りになっちゃうんですのよ?」
櫻子「うるさいなー! あっちいけ!」
向日葵「なっ……なんですのその言い方は……!」かちん
櫻子「向日葵がいると集中できない!」
向日葵「あなたは集中よりも人の教えることを素直に聴きなさいよ!」
あかり「わぁ~! 二人とも落ち着いて……!」
ちなつ「もう櫻子ちゃん! 喧嘩するくらいなら最初から見栄なんか張らないでよ~……!」
あかり「ひ、向日葵ちゃん、とりあえず今日は三人で先に帰ろっか? 櫻子ちゃんも完成したら機嫌直ると思うから……」
櫻子「ふんっ」ぷいっ
向日葵「ふん……///」ぷいっ
~
<放課後>
櫻子(や、やっとできてきた……!///)
櫻子(あ……向日葵のくれたやつ……)ちらっ
櫻子(…………)
櫻子(……向日葵のに比べたら……私のなんて全然下手だな……)
櫻子「……っ」がっくり
櫻子(こんなの見せたらバカにされちゃう……作り直さなきゃ……っ)ぶちっ
「あれ、どうしたの」
櫻子「!」
北宮「……もうすぐ完成じゃないの? それ」
櫻子「先生……でも、上手にできなかったから」
北宮「いいよーこれくらい。充分充分」
櫻子「でも……こんな下手なの、向日葵に見せたらバカにされるもん……」
北宮「…………」
北宮「……じゃあ、ちょっと直すか」
櫻子「えっ?」
北宮「せっかくここまで作ったのに、無駄にしちゃダメ」
櫻子「で、でもこれは……直すよりまた1から作った方が早いですって……!」
北宮「……大室、これは美術の授業じゃないよ」
櫻子「?」
北宮「どちらかといえば……新しい綺麗な物を作るんじゃなくて、古い物を直す授業。先生はそう思ってる」
櫻子「…………」
北宮「こんなのいくらでも直せるから。貸してみな?」
櫻子「は、はい……」
北宮「手作りも、手直しも同じ……大切なのは、綺麗に形を作ることじゃない」
北宮「ひとつひとつ丁寧に、誰かのことを想って作る……そうすれば、自然と心の込もったものになっていく」
北宮「作った時間も、直した時間も、全部ここに込められる……それが大事なの。それが何物にも代えがたい “あたたかさ” になって、これに宿る……でも壊しちゃったらそれまででしょ?」
櫻子「先生……」
北宮「古谷の作ったものを見て、古谷に負けないように工夫して、古谷をうならせるくらいのものを作りたい……その想いがこれには込められてる」
櫻子「なあっ、そんなこと……!///」
北宮「見た目にはわからないかもしれない。でも……わかる人もいるはず。少なくとも古谷は、絶対わかってくれると思うよ」
櫻子「!」
北宮「……さ、ここまで直しといたから。またここからやってみな」
櫻子「わぁ……///」
北宮「自分の満足いくまでやればいいよ。何時までも付き合うから。困ったことがあったら呼んでね」
櫻子「先生!」
北宮「……ん?」
櫻子「あのね、私ミシン使うの怖いの! だから一緒にやって?///」
北宮「……今言うのか、それ……」
櫻子「いいじゃん教えてよ~! もう残ってる生徒私しかいないんだしっ」
北宮「も~わかったよ……ったく」よいしょ
櫻子「ねえ先生、私のこと知ってるの?」
北宮「んー? 大室でしょ」
櫻子「わーすごい! 私家庭科の授業でしか先生と会わないから、知られてないのかと思ってた!」
北宮「生徒の顔と名前を覚えるのは先生の一番大事な仕事なの。それに大室は1-2でも目立ってるだろ」
櫻子「えへへ、そうかなぁ~……♪」
北宮「古谷と大室。家庭科の一番できるやつと、一番できないやつ」
櫻子「はぁ!? なにそれ!?///」
北宮「あのねぇ、ミシンに糸かけるのに30分近くかかってたのは大室だけだったよ?」
櫻子「うぇええー! 見てたの!?」
北宮「先生はいつでもみんなのこと見てるもんなの。さあほら、やるよ」
櫻子「う~……///」
北宮「早くやろうとしなくていいの。落ち着いてゆっくりやること」
櫻子「ゆっくり……」
北宮「ちゃんと手で抑えて……正しい姿勢で」
櫻子「わ……先生の手あったかい」
北宮「……こら~、前向け」
櫻子「えへへへ……///」
北宮「さっきも言ったように、心を込めて作れば自然と動きも丁寧になるから」
櫻子(心をこめる……)
北宮「ちゃんと古谷の顔を思い浮かべて」
櫻子「はぁー!?///」がたん
北宮「いてっ、あぶなっ! 急に立つなー!」
櫻子「先生こそ変なこと言わないでよ!///」
北宮「……あっ……?」
北宮「ははぁ~……なるほどな……♪」にやり
櫻子「っ……?」
北宮「うん、うん……じゃあやっぱ私いない方がいいか。その方が大室も古谷のこと考えられるでしょ」
櫻子「ちょっ、だから向日葵は関係ないってば!///」
北宮「いいっていいって。私も野暮じゃないから、わかるからさ」
櫻子「何が!?」
北宮「それじゃ先生は職員室にいるから、完成したら持ってきてね。古谷にあげても大丈夫か見てあげるよ」
櫻子「だから~~!///」
――――――
――――
――
―
<翌日>
櫻子「せんせー!」がらっ
北宮「んー? あー大室か」
櫻子「あのね、昨日作ったやつ向日葵にあげたよ! 超びっくりしてた!」
北宮「ふ~ん……ま、私の見立てで古谷に負けないくらいの出来栄えになったからね。よかったね」
櫻子「うん!///」
北宮「……で、用事は何? 私ちょっと今授業の資料作るのに忙しいんだけど」
櫻子「ええ~? せっかく遊びに来たのに……」
北宮「遊びって……もう、先生には遊んでる暇なんかないの。ほら帰った帰った」しっしっ
櫻子「え~構ってよ~!」ぎゅっ
北宮「こ、こらっ!///」
「その辺にしておいたほうがいいよ、大室さん」
櫻子「あっ、南野先生」
南野「あんまり先生の邪魔はしない方がいい。特に北宮先生は怒ると怖いんだから」
櫻子「えー怖くないよ! 昨日はすっごくやさしく色々教えてくれたもん!」
北宮「なっ……!///」どきっ
南野「……あれ、そうなの?」
西垣「ほう……? 何か面白そうな話が聞こえてきたな。大室、ちょっと詳しく聞かせてもらおうか?」
南野「私も聞きたいなこれは」
北宮「ちょっと、先生っ……! そんな面白い話でもないですから……」
西垣「先生は大人しくしててください、今は大室と話してるので」
北宮「くぅっ……!」
南野「どんなことがあったの? 何か言ってくれたとか?」
櫻子「えっとねー、私の手をとって一緒にミシンやってくれたり、心を込めて作ったものはあったかいとか教えてくれたり……」
南野「へぇ~……///」にやにや
北宮「大室! 教室もどれ!///」
西垣「まだ戻らなくてもいいぞ。それでそれで?」
櫻子「あとそれからねー……」
北宮(くそ……厄介なのに懐かれてしまった……///)わしゃわしゃ
~
【2. はじめてのてすと!】
櫻子『あっ、せんせーおはよー!』
櫻子『せんせー聞いて! も~宿題が終わらなくって大変なの!』
櫻子『ねえせんせー知ってる? 私こう見えても生徒会なんだよ!』
櫻子『先生さよならー! また明日~♪』
櫻子『せんせー!』
櫻子『せんせ~♪ あ、ちょっと! 無視しないでよ~!』
北宮(……何かこの頃、大室とやけによく会う気がする……なんでだろう)はぁ
北宮(人懐っこい奴なんだな……)
「せーんせ!」ぎゅっ
北宮「うわぁっ!///」どきっ
櫻子「どしたの?」
北宮「どうしたはこっちのセリフだ! いつからそこに!?」
櫻子「今来たとこだけど。先生がぼーっとしてるから気づかなかったんじゃない?」
北宮「おどかすなよ……ったく」はぁ
櫻子「えへへへ……わー先生これお菓子? 食べていい?」ぴりっ
北宮「おい! 許可を得る前に袋を開けるな!///」
櫻子「いいじゃんこれくらい。私給食だけじゃ足りなくてさ~……こっちはせーちょーきなんだよ? せーちょーき!」ぱくっ
北宮(成長する見込みもないだろ……)ちらっ
櫻子「んっ! どこ見てんの!?」
北宮「見てない見てない……っていうかそんなことより、用がないなら帰ってよ。それ食べたら教室戻れ」しっしっ
櫻子「そんな固いこと言わないでよ~。それにあそこにも生徒いるよ?」
西垣「たこ焼きはうまいなー松本~……」もっもっ
りせ「……///」もぐもぐ
櫻子「あれがいいなら私もいいでしょ? ねっ?」
北宮「いや、あれもあんまり良くないんじゃないかな……」
~
<翌日>
こんこん
櫻子「失礼しまーす♪」
北宮(うわっ……)
櫻子「先生こんにちはー!」
北宮「……な、なに? 今日は何か用があるの?」
櫻子「えーと、特にないけど」
北宮「はぁ……だからさぁ、生徒が職員室に遊びに来ちゃだめなんだってば」
櫻子「いいじゃんちょっとくらい~。あっこれなに?」
北宮「机の上の物に勝手に触らない! っていうか先生は遊んでる暇なんかないんだよー……」
櫻子「なんでー? せんせー家庭科の先生なんでしょ?」
北宮「……そうだけど?」
櫻子「じゃあ暇じゃん」
北宮「……おい、それどういう意味だ?」ぴきっ
櫻子「なんか数学とか国語の先生に比べたら、家庭科の先生って暇そう!」
北宮「言ってくれるな……女子校の家庭科の先生がどれだけ大変か教えてやろうか……!」ごごご
櫻子「わーい♪ じゃあここ座るね」
北宮「…………はっ、乗せられるところだった。じゃなくて今は構ってあげられる暇もないんだよ、この後授業もあるし」
櫻子「この後の授業、うちのクラスでしょ?」
北宮「……あ、ほんとだ」
櫻子「私先生と一緒に教室戻るから!」
北宮「はぁ……わかったよ。大人しくしててね」
櫻子「えへへへ……♪」
~
<授業中>
北宮「ここはたぶんテストに出すから、よく覚えとくようにね」
櫻子「えー!? 家庭科ってテストあるの!?」がたっ
向日葵「むしろなんで無いと思ってたんですの」
あかり「あははは……」
北宮「赤点取ったらもちろん補習あるよ。といってもそんな難しいテストじゃないけど」
ちなつ「よかったー、それなら大丈夫そう」
北宮「家庭科はこの筆記テストの点数と、実習やレポートで成績をつけるからそのつもりでー」
「「はーい」」
櫻子「…………」
北宮「……どした大室?」
櫻子「ひえっ!? べ、別に……」
北宮「んん……?」
北宮(こいつ……自信ないのかな)
北宮(あれ……それともまさか、わざと赤点取って補習受けようと考えたり……? いやいや、それは考えすぎか……)
櫻子(先生のためにも……家庭科ぐらいは、頑張らなきゃ……)ごくっ
~
<期末テスト後>
北宮「どれ、いよいよ大室の採点か……」
北宮(……あれ?)
北宮「合ってる……合ってる……」きゅっきゅっ
北宮(なんだ……あいつやればできるんじゃないか……!)
櫻子「失礼しまーす……」がらっ
北宮「あっ、大室」
櫻子「あ、せんせー」
北宮「すごいじゃん。大室のテスト、平均よりだいぶ上の点数だったよ。ちょっと見直した」
櫻子「あ、あぁ~……家庭科はね?」
北宮「?」
東「……北宮先生、大室さんはどうやら担任の先生に呼び出されてここに来たみたいですよ」
北宮「担任……?」
櫻子「じ、実は今回のテスト……家庭科以外ぼろぼろで……えへへっ……///」
北宮「はぁ!? なんで!」
櫻子「勉強の時間を家庭科にいっぱいつぎこんだら、それ以外に手がつかなくってさぁ……」
北宮「こら~~! ちゃんと考えてやれ!」
櫻子「次は! 次は頑張るからっ」てへっ
北宮「ったく……!」
北宮(……ってこれ、私にも責任があるみたいになってないか……?///)
~
【3. ふるたにとおおむろ!】
<職員室>
向日葵「失礼します」がらっ
向日葵「んん……」きょろきょろ
向日葵「……どうやらまだ来てないみたいですわね……あの、北宮先生」
北宮「ん?」
向日葵「ちょっとここに潜ませてもらってもよろしいですか?」
北宮「……は?」ぽかん
向日葵「よいしょ……」もぞもぞ
北宮「いやいやいや、え、なに……!?」
向日葵「すぐ終わりますので、もうすぐ来るはずなので……」
「失礼しまーっす♪」がらっ
北宮「あっ」
櫻子「やっほ~せんせー! 遊びに来……」
向日葵「こら櫻子!」ばっ
櫻子「うひゃあああ!? 向日葵なんでこんなとこに!?」びくっ
向日葵「今日は昼休みに生徒会の残ってる仕事がありますからねって言ったじゃないの! 全然見当違いな方に歩いてくからこんなことだろうと思いましたわ!」
櫻子「あ、あ~忘れてた……」
向日葵「ほら行きますわよっ」むんず
櫻子「うぇーん先生におやつもらおうと思ったのに~……」
北宮「ふーん……古谷は大室の扱いにかなり慣れてるな」
東「あの二人、小さい頃からずっと一緒の幼馴染らしいですよ」
北宮「へぇ……にしては仲がいいのか悪いのかって感じだけど」
東「仲は良いんじゃないですか? うちの授業でもお互いの絵を一生懸命描いてましたし」くすっ
北宮(そういえば……最初に大室と話したときも古谷のことを意識してたな……)
~
<放課後>
櫻子「あっせんせー! 今帰り?」
北宮「あー。もう帰るとこ」
向日葵「さようなら先生」
北宮「……二人は一緒に帰ってるのか?」
向日葵「はい、生徒会がありましたし……それに家も隣なもので」
北宮「隣! へぇ~……♪」
向日葵「?」
北宮「大室、ちゃーんと古谷を家まで送り届けてあげるんだぞ?」ぽん
櫻子「……は、はぁ!? 何笑ってんの!?」
北宮「一人で家に帰るってのは寂しいからな。特に学生時代はさ」
櫻子「ちょ、勘違いしないでよ! そんなんじゃないから!」
北宮「古谷も、大室がいたら退屈しなそうでいいね」
向日葵「はい……?///」
北宮「じゃあね」すたすた
櫻子「も~!///」ぷんすか
北宮(……ふふ、どうやらあれは本物だな)
北宮(大室にも、結構可愛い所あるんだな……)ふっ
~
<昼休み>
櫻子「やっほー先生! 何してるの?」
北宮「次の調理実習の準備。忙しいから構ってあげられないよ、帰った帰った」
櫻子「そんなこと言わないでよ~、せっかく貴重な休み時間を使って遊びに来てるのに」
北宮「友達と遊べばいいじゃん。古谷とか」
櫻子「は、はぁ? なんで向日葵なんかと……」
北宮「あれ? 大室は古谷と遊びたいんじゃないのか」にやにや
櫻子「そ、そんなわけないじゃん! あいつと一緒にいるとお小言ばっかりだし……それで疲れちゃうから先生のとこに来てるのに」
北宮(えっ……?)
櫻子「先生は私の癒しなの! 昼休みくらいは心ゆくまでリラックスしたいんだよね~♪」
北宮「大室は……古谷のこと、嫌いなのか?」
櫻子「えっ……」
櫻子「き、嫌いってわけじゃ……ないけど……///」
北宮(……??)
櫻子「……ああもうっ、せんせー向日葵の話禁止! それならまだ家庭科の特別授業してくれた方がいい!///」むすっ
北宮「やだよめんどくさい」
櫻子「えええ~!? 先生とは思えない発言!」
北宮「授業は授業中だけ。休むときは休むのがわたし流だから」
櫻子「おおっ、私と同じだ!」
北宮「お前は授業中もあんまり取り組めてないって話を聴くけどな」
櫻子「う……」ぐさっ
北宮「……まあいいや。ともかく勉強だけは真面目にやっておきなよ? 後で痛い目みるぞ~」
櫻子「もう……そんなの毎日のように言われてるもーん」
北宮「できてないから言われてるんだろうね」
櫻子「それもしょっちゅう向日葵に言われてる! せんせー勉強の話禁止!」
北宮「先生が勉強の話をしなくなったら、それはもう先生じゃないんだよ」こつん
櫻子「あいてっ」
北宮「ったく……ほらもうすぐ昼休み終わるぞ。もどって次の授業の予習でもしてな」
櫻子「ちぇー……」
がらっ
綾乃「あれ、大室さん」
櫻子「あっ、杉浦先輩だー!」
京子「先生ー、もう入っちゃっていいの?」
北宮「じゃあ、各自荷物を置いて準備して。チャイム鳴るまでには手を洗って席についておくように」
綾乃「わかりました」
櫻子「ふーん、調理実習やるのは杉浦先輩たちのクラスだったんだ……何作るの?」
北宮「肉じゃが。お前も来年になったらやるんだぞ」
櫻子「へー! 楽しみにしとこ~♪」
北宮「古谷によーく教わっとけ」
櫻子「も、もう! だから向日葵の話は禁止だってば!」
北宮「……はいはい」くすっ
~
【4. ちょうりじっしゅう!】
櫻子「待ちに待った調理実習~!」いぇーい
ちなつ「櫻子ちゃんそんなに楽しみだったの? 料理好きなんだっけ」
櫻子「いや? ごはん食べられるのが楽しみだったの」
向日葵「はぁ……」
北宮「今日はご飯とお味噌汁を作ります。ただこれだけだからってバカにしないこと。ちゃんと作るのは意外と難しいからね」
櫻子「ご飯くらいいつもやってるよ? お米洗って炊飯器にいれるだけじゃん」
北宮「洗うってなんだよ……米を研ぐって言え? そして炊飯器は使わない。今日は鍋でご飯を炊いてもらう」
櫻子「ええっ、鍋でー!? そんなことできるの!?」
北宮「お前ほんと致命的だな……古谷、同じ班なんだから大室をカバーしてやってくれ」
向日葵「は、はい」
ちなつ「お米を研ぐときは、たとえ冬でも温かいお湯でやっちゃだめなんだって。その温度でお米の質が変わってまずくなっちゃうの。だから必ず常温以下の水でやること」しゃっしゃっ
櫻子「へー、知らなかった!」
あかり「そして、研いだお米をそのまま水に漬けておくの。30分以上つけておくと、お米が水分を吸って良い状態になるんだよぉ」
向日葵「あなたごはん炊くのくらいは家でもよく任されるんですから、ちゃんと覚えておきなさいね」
櫻子「よーし……」メモメモ
北宮「この間にみそ汁の準備。まずは水を張った鍋に昆布をいれて、出汁をとります。蓋はしないで弱火にかけること」
向日葵「20分ほど火にかけて、沸騰する前に昆布を取り出す。決して沸騰させてはいけませんわ。昆布に小さい気泡が出始めるのが目安ですわね」
あかり「今度はかつおぶしを持って、ここにふわふわ入れちゃうの。かきまぜたりしないで、そのままかつおぶしが沈むのを待ってね」
ちなつ「沈み切ったら火を止めて、アクを静かにとる。そして2分ほど再加熱させて、火をとめて放置! かつおぶしが鍋底に沈んだら、濾し布でだし汁を濾すの。だし汁はこれで完成だよっ」
向日葵「こうしてできただし汁をまた鍋に戻して、切っておいた豆腐やわかめを入れて煮立たせる。少し沸騰して具材に火が通ったら火を止めるんですわ」
あかり「静かになったら、いよいよ味噌を溶きながらいれるの。そしてまた煮立つ直前まで火にかけて、長ネギを加えて火を止めたら完成~!」
櫻子「ん~、おいしそうなお味噌汁ができた……♪」
ちなつ「さあ、ごはんの準備もしちゃわないと」
あかり「櫻子ちゃん、 “はじめとろとろ、なかぱっぱ” って知ってる?」
櫻子「なにそれ、なんの呪文?」
あかり「これはね、お米を炊くときの火加減のことなんだよ~」
向日葵「“ぶつぶついったら火をひいて、赤子泣くとも蓋とるな” と続きますわね」
櫻子「な、なに? よくわかんない……」
ちなつ「最初はとろとろの中火で加熱するの。このままよく見ててね」
かた……かた……
櫻子「わ、沸騰してきた! 泡が蓋から出てきちゃってるよ!?」ぽこぽこ
北宮「このときも慌てずに、火を止めたり蓋を取ったりはしないこと。このまま2~3分ほど加熱を続ける」
あかり「そうしたら少し火を弱めて3分、続けてまた弱火にして、5~7分ほどかけるの」
向日葵「ここまでできたら火を切る……でもまだ蓋を開けてはいけませんわ。このまま10分ほど待つんですの。これを『蒸らし』と言いますわ」
ちなつ「そして充分に蒸らして落ち着いたら……はい、蓋とっていいよ!」
櫻子「おお~~! ご飯だ!///」ぱかっ
あかり「しゃもじで軽めにさっくり混ぜておこうねぇ」
北宮「うん……上手にできてるな。みんな手際もいいね」
櫻子「えへへへ、いや~それほどでも……///」
向日葵「……まあいいですけど」はぁ
あかり「上手にできたね~」
ちなつ「今度は家でもやってみようかな?」
櫻子「うーん、こんなに良いごはんとお味噌汁ができたのに……おかずがないのがもったいないなぁ」
北宮「ちょっとしたおかずなら先生が作っておいたから。各自とってっていいよ」
櫻子「おおーすごい! 先生やるじゃん!」
北宮「やるじゃんって……先生はやれて当然だから」
向日葵「あら……この昆布の佃煮、さっき出汁をとるのに使ったやつですね?」
ちなつ「へーすごいっ。無駄がないんだね」
北宮「余ったかつおぶしでほうれん草の煮びたしも作ったから、好きに食べて。食べ終わった班からレポート書いて提出するように」
あかり「おいしいね~♪」
櫻子「ん~、家庭科さいこーう!///」
――――――
――――
――
―
<家庭科準備室>
櫻子「失礼しまーす」がらっ
北宮「ん? 大室か」
櫻子「ねーせんせー、今日の調理実習すっごい楽しかったよ! 私、こんなに楽しかった授業はじめて!」
北宮「そ……そう……///」
櫻子「今は何してるの?」
北宮「同じだよ。一年の他のクラスが明日調理実習だから、その準備」
櫻子「ふーん……そっか、家庭科の先生は一人で全部の学年の生徒を見るから大変なんだね」
北宮「お、やっとわかってきたか? 私の大変さが」
櫻子「うん! 先生はすごいよ!」
北宮「ふふ……」
北宮「調理実習を見てるとね……その子がどんな性格の子なのかっていうのが、ありありと見えてくるんだ」
櫻子「へー、そうなの?」
北宮「失敗を恐れずにチャレンジする子。慎重に丁寧に、手順通りにやらないと不安になっちゃう子。大変な役を買って出る子。足りないものを補おうとする子……たとえ普段は隠しているところでも、全部見えちゃうんだよね」
櫻子「すごいすごい……! じゃあ私は!? 私はどんな子に見えた!?」
北宮「元気な子」
櫻子「はぁ!? そんな見えてないんじゃんか! いっつも言われるわ!///」
北宮「うそうそ。でも……学ぼうとする姿勢は見えた気がするよ。大室らしからんけどさ」
櫻子「わ、私だってやるときはやるんだもん」ふんっ
北宮「今日の実習を普段の生活に活かすこと。お前も一応家の料理当番とかが回ってくるんだろ?」
櫻子「え、なんで知ってるの!?」
北宮「古谷に聞いたからな」
櫻子「くぅ、いつの間にか先生が向日葵と繋がってる~……」
北宮「あんまりここに遊びに来てたら、古谷に迎えに来てもらうこともできるから。そのつもりでな」
櫻子「ちぇー、厳しいなぁ」
北宮「…………」とんとん
櫻子「ねえ、先生は……どうして家庭科の先生になろうと思ったの?」
北宮「んん? ……忘れた」
櫻子「忘れちゃったの!?」
北宮「子供の頃は……まさか自分が家庭科の先生になるなんて、夢にも思わなかったよ」
櫻子「へぇー、不思議だね」
北宮「でも……後悔はしてない。今はもう家庭科の先生になれてよかったと思ってる」
櫻子「ふぅん……」
北宮「……なんでそんなこと聞くんだ?」
櫻子「いや、なんか……」
櫻子「私も、先生みたいになれたらいいなーって、ちょっと思ったから……///」
北宮(!)
櫻子「で、でも無理か! 私なんて勉強嫌いだし、料理とかもへたっぴだし……家庭科の先生なんて一番向いてないよね」えへへ
北宮「そんなことない」かたん
櫻子「えっ……?」
北宮「……私だって、昔からこういうことが得意だったわけじゃない。勉強だって好きじゃなかった。調理実習の授業をサボったことだってある」
櫻子「ええっ!」
北宮「古谷みたいな子と言うよりは……大室、お前に近い子だったと思うな……///」
櫻子「先生が……私に……?」
北宮「でもそんな私でも、こうして現に家庭科の先生になれてる。だから大室だって今から頑張れば、できないことなんて何にもないよ」なでなで
櫻子「……そう、かな」
北宮「その代わり大変だぞ? 私だって無茶苦茶努力したんだから……それだけは覚悟しておけ?」
櫻子「……うん!」
北宮「よし……じゃあ今日はもう遅いから帰れ」ぽんっ
櫻子「わかった……ありがと先生!」
北宮「うん」
櫻子「じゃあねー、また明日!」
北宮「気をつけて帰れよ」
たたた……
北宮(…………)
『ねーせんせー、今日の調理実習すっごい楽しかったよ!』
『私、こんなに楽しかった授業はじめて!』
『私も、先生みたいになれたらいいなーって、ちょっと思ったから……///』
北宮(……生徒にこんなこと言われたの、初めてかもしれない……)
北宮「…………」
北宮(……先生になって、よかったな……///)ふっ
~
<大室家>
櫻子「ふんふーん……♪」
撫子「な、なに……? 櫻子があんなに楽しそうに料理してるの初めて見るけど」
花子「急に当番代わってあげるとか言われたし……何食べさせられるのか怖いし」
向日葵「ふふっ、実は今日調理実習があったんですわ」
撫子「なるほどそれでか……にしても、あの子がここまで影響受けるのも珍しいね」
櫻子「あーあー、私もピアス開けちゃおっかな~……///」
花子「……なんか言ってるけど、あれも調理実習の影響……?」
向日葵「……間違ってはいないかもしれませんわ」
撫子「中学生がピアスなんてダメに決まってるでしょ。せめて高校卒業してからにしな」
櫻子「わかってるもーん!」にしし
おしまいです。
ありがとうございました。
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