櫻子「肝試し??」 (45)

ゆるゆりの二次創作(SS)、さくひまです。
こういうのは初めてなのですが、頑張ります。

肝試しをしよう、という話が持ち上がったのは給食のときだ。ちなつちゃんが何の前置きもなく言い出して、
隣のあかりちゃんはそれに賛同し、私と向日葵も特に用事がなかったので同意した。
今日は宿題もないし、明日は土曜日。ちなつちゃんの提案を断る理由もないし、本音をいうと少し怖かったの
だけれど、私こと大室櫻子は虚勢を張って頷いた。すると隣の向日葵も、負けじと胸を張って首肯した。

制服を押し上げる豊かな胸の膨らみが、私の対抗心を刺激する。「おっぱい禁止!」と言い合っているうちにその日の給食は過ぎた。

デザートのプリン、まだ食べてなかったのに……。これも全部、向日葵のせいだ!

ちなつ「さて、到着! さっそく始めましょう!」
 
元気よく宣言したちなつちゃんが、辺りを見回す。夏真っ盛りの熱気は、夜になるとひんやりとした湿気を含みはじめる。
生い茂る新緑の隙間を、生ぬるい風が吹き抜けた。

近くにお墓とかはないけど、辺りの暗がりだけで十分に怖い。粟立った肌に、じわりと汗の粒
が膨らむ。

向日葵「さ、櫻子……」

右横から向日葵が、震えた声で私の名を呼ぶ。
 
むむ、さては怖いんだな……。いや、私も怖いんだけどさ。

櫻子「あっれ~? もしかして、怖いんだ?」

向日葵「あ、当たり前ですわ。そういう櫻子は、怖くないんですの……?」

櫻子「も、もっちろん!」

向日葵「……膝が震えていますけれど」

櫻子「こ、これはその、なんとか震いってやつだっ」

向日葵「武者震いですわね」

向日葵と言い合っていると、その間に段ボール箱を抱えたちなつちゃんが割り込んできて、
私たちの掛け合いを制した。

ちなつ「ほら、あとは二人だけだよ」
 
そう言って、後ろの方を流し見る。そこには、肝試しのメンバーであるあかりちゃん、結衣先輩、
京子先輩の姿があった。彼女たち三人の傍らには、別の段ボール箱が置かれている。

……およ? なんで段ボール箱が二つ必要なのだろう。一つでも事足りる気がするんだけどなあ。
ふと覚えた違和感は、ちなつちゃんの急かすような声にかき消された。

ああっ、向日葵ってばもう引いてるし! この私が最後なんて!

櫻子「えいっ!」
 
向日葵が引いたクジを横合いから奪い取る。

向日葵「ああっ、ちょっと櫻子。それ反則ですわよ」

櫻子「へへ~ん。そんなルールないもんね~」

向日葵「常識で物事を考えてほしいですわ……。まあ、あなた以外がペアなら誰とでもいいですし、
さして支障はないと思いますが……」

櫻子「むむっ、なんだと~~! このおっぱい星人!」

向日葵「む、胸は関係ないですわ!」

ちなつ「――はい、それじゃクジを開いてください」

ちなつちゃんに水を向けられ、私たちは言い争いを止める。……ま、まあ、私も向日葵以外なら
誰とでもいいかな。あいつとは腐れ縁だし、こんなときまで一緒じゃなくても……。

ちなつ「二人とも何色の丸が書かれてた?」

さくひま『赤だけど(ですわ)』

ちなつちゃんの問いに対して、私たちの声がシンクロした。え、うそ……。

ちなつ「じゃあ、二人ともペアだね」

そう言い置いて、段ボール箱を抱えたちなつちゃんがとてとてと三人の輪に戻る。

ちなつ「お先に二人からどうぞー!」

ちなつちゃんの声に促され、私と向日葵は、そろりと林の方へ歩を進める。

櫻子「なんで向日葵なんかと……」

向日葵「それはこっちの台詞ですわ……」

ちらりと目配せし、互いにがっくりと肩を落とす。今日はついてないなー。まあ、別にいつも
のことだからいいんだけどさ。別に嫌ってわけじゃないし……。


     ∧_∧  ∧_∧
ピ.ー (  ・3・) (  ^^ ) <地の文付きとは珍しいですね 支援(^^)。
  =〔~ ̄ ̄ ̄∪ ̄ ̄〕

  = ◎――――――◎                      山崎渉&真ぼるじょあ

>>8
ありがとうございます、最後まで頑張ります。

櫻子「って、ちょっと向日葵。そんなくっつかないでよ」

私の腕にぽよよんっ、と柔らかな感触が押し当てられる。

櫻子「当てつけかっ!」色々な意味で!

向日葵「い、いやその……怖くて」

櫻子「ふ、ふん。私は別に怖くないし……まあ、どうしてもっていうんなら、くっついてても
いいけどさ」

向日葵「ではその、お言葉に甘えて……」むにゅ。

櫻子「だーかーらー、おっぱい当てるなって! それ外せ!」

向日葵「取り外し不可ですわ!」

あーもう……なんか暑苦しいし。それに、胸の感触が柔らかくて……。ほんと、何を食べたらこんなに
大きくなるんだろ。やっぱ牛乳かな?
 
向日葵「そういえば櫻子。この肝試し、何かルールがありましたよね?」

櫻子「んん?」

おっぱいに対する疑念を深めていると、向日葵が確認するように問うた。突然の言葉に思考が
追いつかない。……肝試しにルール?

櫻子「そんなのあったっけ?」

向日葵「ありましたわ。給食の時間に吉川さんが話していました」

櫻子「どんなの? 私、ごはんに夢中で聞いてなかったし」

向日葵「ほんとあなたは……」

こめかみを押さえ、向日葵は思い返すような口調で、

向日葵「林の向こうに神社があって、そこに置かれている紙片を持ち帰るのですわ」

櫻子「なんだ、普通じゃん」

向日葵「――ただし」

余裕ぶって返したその言葉に、向日葵が人差し指を立てる。意味ありげな間を置いたあと、
少し硬めの声で続けた。

向日葵「その途中に、指示が記された看板があるらしいですわ。それに従わないと失格に
なって、しかも罰ゲームがあるのだとか……」

櫻子「げげっ、罰ゲーム!?」

そんなの聞いてないよっ! しかも指示って……一体どんなことが書かれてるんだろ。
胸を大きく……という内容だったら問答無用で看板を蹴り倒して帰るけど。

向日葵「あれ……じゃないかしら」

櫻子「うえ……」

向日葵が指差した先に、さっそく一つの目の看板が立ててあった。うう、簡単な指示だったら
いいけど……って、んん? そこで私は、天啓にも似た閃きを掴み取った。さすが天才たる私、
常人とは発想力が違うね。

櫻子「その指示ってさ、別に無視してもいいんじゃない?」

向日葵「なっ……」

私の提案に、向日葵は唖然としている。ふふん、きっと感嘆しているんだよね。

向日葵「ダメですわっ。きっと、誰かが監視していますっ」

と思ったら、ただ呆れているだけだった。ちぇっ、つまんないの。

櫻子「そんな監視なんて大袈裟な。現にほら――」

辺りを見回してみる。私たちを囲むように生えている雑木林の列、そこを冷たい風が渡っていく。
生ぬるい夜風に薙がれ、周囲の木々から、ざわざわと葉音が漏れた。それが人の声みたいに聞こえて……。
背筋が寒くなると同時に、湿った草木の匂いが届く。

私たちって今、本当に林の中にいるんだ。いつもの見知った場所じゃないんだ、という実感が
深まると共に、寒々しい怖気が走った。

思わず、ぶるりと身を震わせる。

櫻子「ほ、ほら……誰もいないじゃん」

向日葵「そ、それは……確かに」

向日葵の語尾が震えている。あれ、私もか……?

櫻子「だから無視しても――」

『駄目……だよ』

櫻子「ええっ!」向日葵「きゃあっ!」

咄嗟の行動――だろう。私の右腕に、向日葵がぎゅっと抱きついてきた! 重量感のあるおっぱい
に、私の腕が埋没する。左右からむにゅっと圧迫され、力が強まるたびに胸の形が変わる。ひぃ、おっぱいお化けだ……。

櫻子「み、右腕が埋もれる……」

痛くはない……というか、悔しいことに少し心地良い。それに、ぎゅっと密着しているせいか、
嗅ぎ慣れたシャンプーの香りと向日葵の体臭が漂ってくる。石鹸みたいないい香りが、私の鼻腔を満たす。

向日葵の……匂い。なぜだか、込み上げてくる恐怖心が薄まった。少しだけ、冷静さを取り戻す。

向日葵「お、お化けですわ……っ。櫻子が、無視しろなんていうから……。だから呪われて……
櫻子のせいで……っ」

涙混じりの声で、さり気なく私に責任転嫁する向日葵。

櫻子「ちょっと待って」

向日葵「……ふぇ?」

先ほどの声を思い返す。あれは……、

櫻子「あかりちゃんの声、だったような……」

向日葵「え……赤座さん、ですか?」

半信半疑の面持ちを向けてくる向日葵に、私は力強く頷く。

櫻子「うん、確かにそうだった」

向日葵「ですが、赤座さんの姿はどこにも……」

一緒になって辺りを見渡してみる。が、あかりちゃんと思しき姿はどこにも見当たらなかった。

『ルールを破っちゃ……駄目だよ』

けれど、声は聞こえる。つまり……、

櫻子「そっか。あかりちゃん、透明になれるから……」

向日葵「ええっ!? あ、……そういえば」

最初は驚いたふうの向日葵だったが、ふと思い出したのだろう。そう、私たちは以前、
あかりちゃんによって透明化されている。加えてあかりちゃん自身も、これまで何度となく
アッカリ~ンしていた。

向日葵「要するに、赤座さんが透明化してついてきていると……?」

櫻子「そうなるね。ということは、ルールの無視はダメかー……」

名案だと思ったのに。まあ、仕方ない。そんな難しい指示でもないだろうし、
きっと私たちがこなせる程度のハードルだろう。

櫻子「どれどれ……」

しぶしぶ看板の前に歩み寄る。そうして、そこに書かれた文字を覗き込み――

櫻子「え……?」

目の錯覚かと、一瞬自分を疑った。もう一度、今度はためつすがめつ看板の内容を確かめる。

『次の看板に辿り着くまで、パートナーと手を繋ぐ』

間違いじゃない……と思う。そこに書かれていたのは、とっても簡単な指示だった。

櫻子「向日葵、これ……」

向日葵「ええ、それだけ……のようですわね。まあ序盤ですから、徐々に難易度が上がっていく
のかもしれませんけど……」

向日葵も不思議がっている。よりにもよって、手を繋ぐって……。そんなの、小学生だってできる。

向日葵「では、その……繋ぎましょうか」

躊躇いがちに、向日葵が手を差し出す。……暗闇の中でもよく解る、きめ細かな手のひら。
人形のように精緻で、強く握っては壊れてしまいそうな気さえする。

櫻子「う、うん。まあ、従わないと罰ゲームだし? ……だからその、仕方なく、繋いでやる」

向日葵「なっ……! わ、私だって、櫻子と手なんて……。これは、不可抗力ですわ」

櫻子「ふかこうりょ……? とにかく、私もそれだから!」

別に、手くらい平気だし。何でもないし。そう自分に言い聞かせつつ、
少し乱暴に向日葵の手を掴み取る。

向日葵「痛っ……」

櫻子「――あ、ごめん。強く握りすぎちゃった……」

慌てて力を緩め、優しく向日葵の手を握り直す。おぼろげだった手のひらの感触が、
今度ははっきりと伝わってくる。

柔らかくて、温かい……。

何だか、懐かしい気分に浸っているような……不思議な感覚だった。

向日葵「こうしていると、その……懐かしいですわね」

櫻子「えっ」

向日葵が遠い目をして、空に視線を移す。

向日葵「ほら、昔はこうして、手を握り合っていたでしょう? 小さい頃、私たちは仲が良くて……」

櫻子「あ、あああっ! なんかそーゆーの照れ臭いじゃん! やめろよぉ……」

向日葵「うふふ。櫻子の手、少し冷たいですわ」

櫻子「向日葵はその……少し温かい」

って、なんだよこの雰囲気! なんか、良く解らないけどおかしい気がする!

櫻子「早く行こっ」

向日葵の手を引っ張り、ずんずんと先に進んでいく。

向日葵「あ、ええ……」

いつもは反抗的な向日葵が、今に限って大人しい。うぅ、調子狂うなあ……。

こうも落ち着いた雰囲気だと、その口調も相まって、まるでお姫様みたいだ。

……向日葵なら、似合いそう。なら、私は――

向日葵「ねえ、櫻子」

櫻子「んぇっ!」

向日葵「ちょっと、ヘンな声上げないでください。それよりも、ほら――」

空いた方の手で、向日葵が指差す。視線の先に映るのは、次なる看板。

なぜだか、きゅっと手のひらに力がこもった。

向日葵「……櫻子、手……」

櫻子「……あ、うん……」

促され、手のひらを離した。残っていた向日葵の温もりが、すぅっと薄れていく。

なんだろう……この気持ち。自分でも判然としないのだけど、胸がもやもやする。

櫻子「次の指示は……っと」

その思いを振り切るように、正面の看板に目を移す。どれどれ……。

『数十秒の間、パートナーと抱き合う』

……またしても目を疑った。抱き合うって……。

『ルールを破っちゃ……駄目だよ』

またしてもそこで、あかりちゃんの声が響く。……どうやら、無視するわけにもいかないらしい。

向日葵「数十秒って、ずいぶんと曖昧な指示ですわね。そこら辺は、本人のさじ加減で
いいのかしら……」

そう独りごちた後、私の方に向き直った。

けれど、向日葵は自分の爪先を見下ろしている。垂れた前髪が目元を覆い隠し、
その表情は窺えない。

向日葵「櫻子……」

静かな語調で、私の名を呼ぶ。そうしてふと、俯き加減だった頭を上げた。そこには、
何かを覚悟したような光が宿っている。

え……向日葵?

向日葵「これから抱きつきますけど……いいかしら」

呟くような声の向日葵――その表情は、暗がりでも解るほど、真っ赤に染まっていた。

さくひまっていいですよね

櫻子「そ、そんな赤くならなくたって……。た、確かに恥ずいけど……」

向日葵「そう言う櫻子も、少し赤いですわよ」

櫻子「き、気のせいだ! 向日葵のバカっ!」

大きく叫び、すうっと深呼吸。覚悟を固め――一息に飛び込んだ。

向日葵「え、あ――」

優しく抱き留められる。けっこう勢いがついてしまったのに、胸元のクッションがそれを
緩和する。頬に当たる柔らかな感触、ほっと落ち着くような手触り。ふと、向日葵の匂いが立ち昇ってくる。

先ほどの安堵が――いや、それよりも大きな安心感が、どっと押し寄せてくる。けれど、それと
同じくらい膨れ上がる感情もあって。……それは、猛烈な羞恥心。

二律背反する想いに囚われ、私の心が、激しくかき乱される。なんだよこの気持ち、
よく解んないよ……向日葵。

櫻子「うぅ……なんか、すっごく恥ずい」

向日葵「私もですわ……。けど、」

そこで言葉を区切り、向日葵は、抱きしめる力を強める。

向日葵「なんだか、嫌な気分ではないですわ……」

櫻子「まあ、私も……かな」

うん、確かに悪い気分ではない。けれど、その気持ちを素直に出せない。もどかしい想いが、
心臓の鼓動を速めていく。内心に溜め込んでいた感情が、出口を求めて暴れ回っている。

>>21
最高ですよね! 

櫻子「もう……十秒経ったよね」

私の中にある、及び腰の自分がそう言った。逃げ出したい気持ちが、本音に勝った。

向日葵「ですが……」

……向日葵の手に、ぎゅっと力が込められる。まるで、私をかき抱くように。離したくないみたいに……。

向日葵「指示では、数十秒とありましたわ。なので、もう少しだけ……このまま……」

櫻子「んんっ、向日葵……」

気つけば、私も力も込めていた。背中に手を回して、爪を立てるみたいにぎゅっと、
向日葵にしがみ付いていた。離したく……ないっ!

櫻子「あ……」

でも、ふと目が合って――どちらからともなく、私たちは身を離していた。

櫻子「あ……えと、なんかごめん」

向日葵「い、いえ。別に、大丈夫ですし……」

櫻子「そ、そっか。んじゃ、指示もクリアしたし先に進もう。そろそろ神社が見えてくると
思うけど……」

無理やり話題を変え、立ち止まりかけていた足を動かす。先に進もうとしたところで、
服の袖がちょんっと引っ張られた。

振り返ると、向日葵が俯いている。

向日葵「あ、あの。なんだか怖いですし……。それに、寒くなってきたので。もう一度だけ、
手を繋いでも……」

弱々しい力。振り解こうと思えば、きっと簡単にできるだろう。

でも私は――、

櫻子「うん。そこまで言うなら……いいよ」

ぶっきら棒に言い、手を差し出す。たちまち、向日葵の温かな手のひらが重なった。

向日葵「ほんと、妙な気分ですわ……」

櫻子「……わ、私も……」

それきり、私たちの間に会話はなくて。葉のそよぐ音だけが、耳朶を叩いている。

それでも決して、意識から消えない温もりがある。向日葵の体温が、手のひらを通じて伝わってくる。
それを噛みしめているうちに、ふと視界が開けた。頭上を覆っていた草木が後ろへ流れ――でこぼこした土の感触が、
靴裏から離れる。代わりに、つるりとした石畳の硬さを感じた。

もう……着いちゃったのか。

私たちの数メートル先には、どこか荘厳そうな神社が建っている。

私と向日葵の、終着点。

……けど、何だろう。

その傍らに何か、ふと引っかかるものを捉えた。目を凝らすと、それは最後の看板だった。
賽銭箱の横に立てかけられている。

櫻子「見てみようか、向日葵」

向日葵「ええ、そうですわね」

互いに頷き合い、看板の側まで歩み寄る。木製の角に手を掛け、横倒しになっているそれを
起こす。ちゃんと文字が読めるよう角度を調整し、そして…………。

『――お互い、いま思っている本音を打ち明ける』
 
……ああ、そうか。……そう、だったのか。

今になってようやく、私は理解した。今回の肝試しは、決して突発的な催しではなかった。
おそらく前々から、ごらく部のメンバーで準備していたのだ。今思えば、段ボール箱が二つあったのもおかしい。
あの箱にはきっと、私たちのクジしか入っていなかったのだろう。

そして、極めつけはあの指示だ。おかしなルールだった。その内容も、簡単なものばかりで。
……その、妙なスキンシップが多かった。つまりこれらの指示は、私たちを接近させるのが目的で。

なぜなら私たちには、勇気が足りていなかった。……必要、だったのだろう。背中を押してくれる切っ掛け、
勇気を振り絞る足掛かりを、あかりちゃんたちは用意してくれたのだ。……ほんと、お節介だよ。

なんて、本当は嬉しかった。気恥かしさが、別の言葉を口にした。……私って、天の邪鬼だからさ。
内心でも、ずっと自分に嘘をつき続けていた。

でも今は、この時だけは、素直になろうって思えた。

心の深いところに仕舞いこんでいた想いが、波濤のように押し寄せる。もう、限界。喉まで出かかった本音を、
抑えきれない。もう、止まらない――。

櫻子「――好き」

言って、しまった。

向日葵「……え?」

櫻子「私、向日葵のことが好きなんだよっ! 悪いか!」

もう、半ばやけくそだ。あとは野となれ山となれ――私は今まで溜め込んでいた想いを吐き出すように、
大きな声で捲し立てた。

櫻子「いつもいがみ合ったり喧嘩したりしてるけど、でも! それは恥ずかしいからで、
素直になれないからで! だからほんとは、もっと向日葵と仲良くしたい! 
他の人が向日葵と近くにいたらムカつくし、私にもかまってほしいって思うし、ああこれは言う必要なかった……
と、とにかく! 私は向日葵のことが好きなの! 昔からずっとずっと、大好きなの! 
仕方ないだろ、向日葵のバカぁっ!」

……あはは、結局、変わっていない。

内心でどう思っていようと、表面上では悪口を言ってしまう。私の、悪い癖。

向日葵……きっと怒って……。

向日葵「私も、大好きですわ」

櫻子「……え?」

向日葵は、それこそ花が咲くような笑みを浮かべて、私を見つめていた。

向日葵「聞こえなかったんですの? 私は、櫻子が好きと言ったのです。
ほんとは臆病な私を、明るい笑顔で導いてくれる櫻子が、好きなのですわ。
昔から今も、ずっと……っ」

櫻子「向日葵…………」

向日葵「櫻子…………っ」

好き、という一言には色々な意味合いがあるけれど。今、私たちが感じているこの想いは、
きっと『そーゆー好き』だ。

さくひま「……ん」

唇を通じて分かち合うこの想いが、それを証明していた。

あかり「あ、櫻子ちゃんに向日葵ちゃんだ!」

元来た道を引き返すと、あかりちゃんの元気な声に出迎えられた。その周りにはちなつちゃん、
京子先輩と結衣先輩の姿もある。

あかり「あ、二人とも手繋いでる……」

あかりちゃんの指摘に、私たちは急いで手を離す。

櫻子「こ、これはその、違くて……」

向日葵「なんとなく、その、雰囲気というものでして……」

櫻子「そうそう、ふいんき。って……あれ?」

なんで、あかりちゃんがここにいるの? 私たちを監視していたはずなのに……。

あかり「ああ、もしかして……」

あかりちゃんの意味深な視線を受けた京子先輩が、くくっと笑みを漏らす。

京子「それね、あかりの声を録音したテープ。最初の看板のとこだけに置いておいたんだけど、
上手く騙せたみたいだね」

結衣「まったく京子は……」

得々と語る京子先輩の言葉に、結衣先輩が呆れたような息を漏らす。

京子「それで、二人とも。神社の前に置いておいた紙片はもう開けたの?」

ニヤニヤ笑いを滲ませた京子先輩が、私たちの顔を覗き込んでくる。
あ、そういえば二つ折りにされてたっけ……。

向日葵「まだ、ですわ」

京子「ならさ、開けてみ?」

そう促された向日葵が紙片を開け、なっ、と言葉を詰まらせた。え、何て書いてあったの?

私も自分の紙片を開けてみた。そこに書かれてあった文字は――。


『二人とも、カップル成立おめでとう! 喧嘩はほどほどにね!』


……ほんと、何も言い返せない。照れたように俯く向日葵の頬には微かな赤みが差していて……
彼女も、私と同じ気持ちらしい。まさか、ここまで見越されていたとは。京子先輩の慧眼には恐れ入る。

櫻子「……んん?」

と、そこで。何やら不吉な感じがして……。そういえば、京子先輩の言葉に違和感があるような……。

向日葵「最初の看板……だけですか?」

向日葵が口にした言葉。そう、それだ。確か二つ目の看板でも、あかりちゃんの声が聞こえたはず……。

あかり「え……?」

ごらく部メンバーの間に、重い沈黙が降りる。

あかり「あかりの、生き霊……?」

静寂を破るあかりちゃんの指摘に、

京子「に、逃げろ――――ッ!」

京子先輩の声が続き、みんな転がるようにして走り出した。え、ええっ! ちょっとそんな急に!

櫻子「わ、私たちも逃げるぞ!」

遅れていた向日葵の手を掴み、二人一緒に走り出す。

向日葵「あ、ありがとうですわ、櫻子……」

櫻子「ううん。だって私たち、その、恋人だし? 彼女を守るのはとーぜんだろ」

向日葵「ふふ……」

愛の逃避行(?)をしながら思う。

向日葵は、何があっても絶対に守る。

私の、掛け替えのない親友――そして、恋人だから。

櫻子「ねえ、向日葵……」

向日葵「はい?」

櫻子「……好き」

向日葵「ふふ、私もですわ」

繋いだ手のひらに、互いの想いがぎゅっと込められた――。

                            ――おわり

以上です! 少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです!

乙、面白かった

>>34
>>35
ありがとうございます!
地の文つきの変わったSSでしたが、目を通してくれたようで嬉しいです。

良ければ感想など下されば幸いです。

地の文苦手だけど
読みやすかったよ


     ∧_∧  ∧_∧
ピ.ー (  ・3・) (  ^^ ) <乙だYO(^^)。
  =〔~ ̄ ̄ ̄∪ ̄ ̄〕

  = ◎――――――◎                      山崎渉&真ぼるじょあ

>>38
>>39
ありがとうございます!
また何か思い浮かんだら、またスレ立てするかも……。
では、こちらこそ乙でした!

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