勇者「これから魔王退治の道中、よろしくな!」
盗賊(女装少年)「はい✩ 精一杯頑張ります♪」
武道家(ナルシストのオカマ)「美の神に愛されしアタクシにお任せを」
僧侶(どう見ても女の子にしか見えない男の娘)「ああ。最初は街道から港を目指すんで良いんスよね?」
勇者「…………」
勇者(致命的に人選を間違えたーっ!! 俺のハーレム計画、カムバーーーーーーーック!!」
盗賊「さあ、行きますよ勇者サマ♪ 冒険の旅にレッツゴー、です✩」グイグイ
勇者(あ、なんかいい匂い)
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僧侶「武道家、鏡じゃなくって前を見て歩け。危ないだろ」
武道家「ご心配なく。人や魔物、草花の気配を手繰れば暗闇でも自分の姿はハッキリと認識できますわ」
僧侶「ああ、そうか――いや、それじゃ結局前が見えてねえじゃねえか!!」
盗賊「勇者サマ、勇者サマ? 見てください、白鳥が飛んでいきますよ!」
勇者「ウン、ソーダネ」
勇者(一見すると華やかなパーティなんだけどなあ。何をどう血迷ったらこんなことに……。
酒場のマスター、ちゃんと話聞いてたのか? ボクは『選りすぐりの可愛い子』って言ったのに!!)
盗賊「勇者サマ? 上の空で歩いてると危ないですよ? 武道家ちゃんみたいになります」キャピキャピ
武道家「ああ……転んだ姿も美しい、ア・タ・ク・シ」キラキラ
僧侶「言わんこっちゃねえ。おら、立てるか?」サラサラ
勇者(マスター、カマっぽかったからかなあ……。ちゃんと『可愛い女の子』って言わないとダメだったかなあ)
僧侶「ん? リーダー、敵性モンスターだ」
勇者「なんだって!? すぐに戦闘準――」
武道家「たりゃ!」ドカッ
ドラゴン「ぐへっ」グシャ
盗賊「とぉーっ!」ズバッ
ベヒーモス「ぎゃばっ」ドシャ
僧侶「戦闘ならもう終わる。準備するのはこっち」
E 解体用ナイフ
勇者(……逞しいなあ)
――港町・装備品加工店
武道家「開幕からドラゴンを狩れるなんて幸先がいいわね。アタクシ、幸運の女神にも愛されてるのかしら?」
僧侶「リーダー、ドラゴンキラーとドラゴンシールド、どっちがいい? 俺の推薦はシールドだが」
盗賊「え~? 勇者サマにはカッチョイイ剣を持っててもらいたいよ! 断っ然キラーだね✩」
僧侶「シールドなら俺以外みんな装備できるぞ」
武道家「アタクシ、こっちがいいわ。ドラゴンスカート。デザインも美しいし、炎と冷気、雷にも耐性が付くのよ」
盗賊「それ可愛い! 勇者サマ、あたし用に一着作ってほっし~な~♪」
僧侶「そいつは女性用の装備だ、バカタレ共」
勇者(結局、シールドを2つ作った。そしてベヒーモスの毛皮が誰も装備できないドレスになった)
――船上
盗賊「船旅も楽じゃないよねえ……僧侶ちゃん、お水――うぷっ」
僧侶「飲んだそばから吐くことになるぞ。ほら、この草噛んでろ。楽になるから」サスリサスリ
盗賊「ありがと……。優しいね、僧侶ちゃんは」
僧侶「ヒーラーがサディストだったらパーティが崩壊するからな」
武道家「やっぱ船乗りっていい体してるわね~。あの筋肉、アタクシとは別のベクトルの美しさを感じるわ」フキフキ
僧侶「戻ったか。リーダーは?」
武道家「甲板で女の子ナンパしてたわ。盛り上がってたし、邪魔しちゃ悪いと思って」
盗賊「あんだってぇぇぇ!」ガバッ
僧侶「お、復活した」
盗賊「あたしの勇者サマに粉掛けようとするのは誰だァーッ!!」ドドドドドーッ
――甲板
勇者「それじゃ、向こうについたらビーチで、ね。……それとも、今夜も二人、ここで月を見てみないかな? 食事でもしながら――
ん……え、盗賊? どうしたの、顔色青いけど――え! 走ってきた勢いで胃液が? 何を言っているの!? 待って! こっち来るなーーーーッ!!」
盗賊「オロロロロロロッ」
武道家(頭から盗賊クンのゲロを被った勇者クンはゲロ臭が取れなくなり、到着するまで船室に一人で引きこもっていたわ)ヤレヤレ
――港
盗賊「はぁぁ~ん♥ 揺れない地面ってス・テ・キ♥」フラフラ
勇者「ねえ、僧侶? もうゲロの臭いしないよね? 大丈夫だよね?」
僧侶「ええい、擦り寄ってくるんじゃあない!」
勇者「!? や、やっぱまだ臭うんだ……」シュン
僧侶「いちいちしょげてんじゃねえよ! 武道家、あんたからも何か言ってやって――」
武道家「見て見て! そこの露天で素敵な香水買っちゃった♪ 勇者クンにも付けてあげる♪」プシュー
勇者「うわあああああああああああああん!!」ダダダダーッ ザッブゥン
勇者「冷てぇぇぇーっ!!」バシャバシャ
僧侶「…………。武道家、盗賊と宿の手配を頼む。あっちは俺が担いで持って行くから」
武道家「らじゃ。あとお風呂とタオルの用意もしておいてもらうわ。……盗賊クン、立てる?」
盗賊「もうちょっと待って~。ここの石畳がひんやりして気持ちいいのぉ~」
武道家「お馬鹿なこと言ってないの。顔が汚れるわよ」ヒョイ
盗賊「わぁ~、武道家さんって力持ちだねえ。でもお姫様抱っこがいい、肩に担がれると胃が圧迫されてウエップ」
武道家「しょうがない子ね、まったく」ウフフ
――宿屋の一階・酒場
旅人の情報収集といえば、人の集まる酒場に限る!
だが、港町の酒場には予想外の強敵が勇者一行を待ち構えていたのだった!
大男「ぐへぇ……もうムリだぁ……」
武道家「フン! まだまだ、この程度じゃアタクシを酔潰せないわよ?」
荒れくれ者A「すげえ、あの姉ちゃん。もう樽一個分は飲み干してるぜ?」
荒れくれ者B「ばーっか、あいつオトコだよ。声で分かるだろ」
荒れくれ者A「ぎゃにーーーーーーーっ!?」ガガーン
盗賊「僧侶くぅん、この美少女がお酌が呑めないってのかぁ~? 生意気ぃ~」
僧侶「絡むな、近寄るな、オカマ野郎! お前はリーダーんとこ行ってろ!」
盗賊「勇者サマなら酔いつぶれたから部屋に運んどいたよ」
僧侶「あ、そ。……そんなに呑んでたか?」
盗賊「ううん。お猪口に軽く注いだのクイッってしたら、バターンって。漫画みたいでビックリしたよぅ」
僧侶「武道家とは正反対だな。……なんか軽食でも持って行ってやるか」ドッコイショ
盗賊「……僧侶くんって面倒見いいよね~。もしかして、あたしたちってライバルだったりする~?」
僧侶「だから、ヒーラーがサディストだったらパーティが崩壊するだろうが。お前も大概にしておいけよ?」
コンコン
僧侶「勇者~、もう寝てるのか~? 何か腹に入れておいたほうが良い――」
娘1「あぁん、あん♥ す、すごいわあなた! 今までの中でも一番――くぅぅん♥」
娘2「や、やだっ……二人いっぺんなのに、私たち――はぁぁぁぁん♪」
勇者「あははは、二人とも可愛いよ。ああっ、ボクも――そろそろ――――ええっ!? そ、僧侶ぉ!!」
娘2「えっ……あら、勇者さんのお友達? あらやだ、負けず劣らず可愛いお方。一緒にどう?」
僧侶「ケッコーです。あ、勇者。メシ持ってきたから、寝る前に食えよ。じゃ」バタン
娘1「うふふ、ウブな反応」
武道家「さあ! 次の挑戦者は――って、僧侶クン? ちょっと、酒樽抱えて何する気――ええ!? ダメよそれ一気飲みしたら!! やめっ、およしなさい! コラーッ!!」
――翌朝ッ!!
盗賊「うぇぇぇ……ぎぼぢわるいよぉぉぉ……」
僧侶「なんで俺とか武道家がピンピンしてるのに、お前一人グロッキーなんだよ。ほら、酔い醒ましのお粥」
盗賊「それよか魔法で何とかしてよ、ヒーラーなんでしょぉ?」ズズズッ
僧侶「こんなことでいちいち魔法に頼ろうとするんじゃないっつうの」
勇者「ふああぁぁ、おはよぉ~」
武道家「おはよう、勇者クン。アタクシと僧侶クンは朝ごはん済ませちゃったわよ。これはあなたの分」
勇者「ああ、あんがと。なんでお粥?」
僧侶「昨夜があれだったからな。軽いものの方がいいだろ」ジトッ
勇者「うぅ……」
盗賊「胃にしみるよぅ~」
――そんでもって!
盗賊「そんじゃま、魔王の城目指してぇ~! しゅっぱ~っつ♪」
僧侶「阿呆、そっちじゃねえよ。……そういやリーダー、俺達は一応、魔王を退治するって名目で国に雇われてるんだが。魔王ってどんな奴だ?」
武道家「あれま。僧侶クンでも知らないことがあったのね。魔王わね、魔物の親玉を指す俗称のことよ」
盗賊「よーするに悪い奴の親玉なんでしょ? 杖とか振り回してガオーってカンジの」
僧侶「それは知ってる。今回の魔王がどういう奴なのか、って事だよ」
勇者「ああ、それはね――長くなるから、次のページで彡☆」アイキャッチ
魔王!!
それは、魔物を支配し、自在に操る能力を持つ邪悪な存在――。
この世界の各地に定期的に出現し、人々に迷惑をかける悪い奴なのだ!
その容姿・性質は多種多様だが、一概に強大な闇の魔法を使いこなすため直接的な戦闘力も非常に高い。
故に、魔王が出現した際には特殊な能力を持った『勇者』が選定され、魔王退治にスペシャリストとして送り込まれるのだ!
盗賊「え!? 勇者サマって何か特別な力を持ってるんですか!?」
武道家「そりゃ勇者なんだから。ちなみに、アタクシにもあるのよ。ビューティフラッシュ!」ペカー
僧侶「洞窟探索とかには便利そうだな」
勇者「ゴホン。――勇者の持つ能力は、魔王と関連性があったり、場合によっては有効打になる。というか、魔王の出現と同時に目覚めるわけだから。
ボクもついこの間までただのジゴロ――遊び人だったのが、今や国の支援を受けた英雄さ」キラッ
盗賊「じゃあ、魔王やっつけちゃったら元の木阿弥? だったらあたしん家来ませんか? いくらでも養っちゃいますよ♪」
勇者「か、考えとく……。ともかく! 今回の魔王はボクの能力から推理できる……ということでもあるのさ」
僧侶「完全に分かるわけじゃないのか」
武道家「でもまったく情報がないよりは、俄然あったほうがいいじゃない? 勇者クン、どんなチカラを持ってるのかしら?」ワクワク
勇者「いくつかあるんだけど、まず顔を見ただけで処女か非処女かが分かったり、あと性感帯が光って見えたり、服の上から体のラインが見えたり、他には――」
僧侶「回復剤と食料の買い忘れは無いか? この先は補給できる街が無いからな」
武道家「魔王の城がある『幻影の森』って、だいたい南に150キロだったかしら。歩くと骨が折れそうね」
勇者「…………」
盗賊「勇者サマ? あたし、いつでも準備できてますから♪」
勇者「ああ、うん」
僧侶「……で? 真面目な話、魔王ってどんな奴だと思う?」
武道家「色狂いのビッチ」
僧侶「……だよなぁ。一気にやる気が急降下」
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盗賊「ひどいよ、勇者サマ!! 僧侶くんの(後ろの)処女をあげちゃうなんて!!」プンプン
武道家「案外ともう開通済みかもよ、あの子」
僧侶「後ろも処女だし、俺は童貞だ!! ……悪かったなチクショウめ!!」
勇者「……今度紹介しようか?」
僧侶「結構だ!! オラ、さっさと行くぞ!!」
道中、突如として一行の前に現れた煌びやかな屋敷!!
銀細工の施された黄金の門が開くと、そこに現れたのは!!
美女軍団『ようこそおいでませ! 桃源郷へ!!』
勇者「わっふーーーーーい! いらっしゃいましグエッ」
僧侶「阿呆が!! 迂闊に触ろうとするんじゃねえ、いくら請求されるか分かったもんじゃねえぞ!!」
盗賊「ぐぬぬ、やっぱりおっぱいなのか!? ……ところで僧侶くん、自称童貞なのにこういうお店、詳しいの?」
僧侶「あ? 旅の知識として常識だろ? 美女に触ると祟る――つうか、なんなのこの建物?」
武道家「……ここが噂の桃源郷だったのね」
僧侶「トウゲンキョー……知ってるのか、武道家?」
武道家「セレブ御用達の超高級クラブよ。一晩で10000Gとか溶けていくって話。なんだか本当っぽいわね」
なお、勇者一行がいる国の平均的な年収が、およそ90Gである!!
大富豪「ドハハハハ! ご安心ください、すべて私の奢りです。今日は存分に楽しんでください」
この男は、大陸一の豪商と言われる大富豪!
道中で勇者一行は、魔物に襲われていたところに遭遇し、彼を救助したのだ!
武道家「でも、本当にいいのかしら。お礼だっていうなら素直に受け取るけど」
大富豪「某、他人に貸しを作るのが苦手でしてな。命を助けてもらった恩となれば、相応の持て成しをせねばなりますまい」
勇者「ねえねえ、おさわりアリ? ここってどこまでしていいの? あ、君いいお尻してるね。そっちの君はすばらしいウエストラインをお持ちだ」
武道家「ここって宿泊もできるのよね? 女の子はいいから、壁全部が鏡になってるような部屋ってないかしら?」
盗賊「ゆ、勇者サマ~ん♥ お尻ならこっちもどうですかぁ~ん♥」プリン
勇者「ああ、あっちにガチムチのいい男がいたから、行ってみたら?」
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僧侶「……静かに呑める場所、ある?」
美女軍団『ではでは、4名様ご案な~い♪』
大富豪「……では、ごゆっくり。最後の晩餐を楽しむが良いわ。勇者一行様? ドハハハハハッ!!」
美女軍団『勇者サマの~♪ ちょっといいトコ見てみたい~♪ イッキ、イッキ♪』
勇者「ぷは~っ! まだまだ!! もういっちょ来ーい!」
盗賊(あれ? 勇者サマって下戸じゃなかったっけ? ……てか、なによあの女ども! 勇者サマにあんな触ってもらって――ぐぬぬ!)
赤いドレスの美女「あらあら。彼氏を取られて嫉妬かしら?」
盗賊「え!? そんな、勇者サマとはまだ恋人じゃないですよ……いやん♪」
僧侶「……勇者の奴、そのうち脱ぎだしたりしねえよな」クイッ
和服美人「あらあら、男らしい呑みっぷり! もう一杯どうです?」
僧侶「ええ、いただきます。――ふう」
和服美人「うふふ。それにしても、お兄さん。綺麗な顔していますね。女性でもこれほどの方はそうそういませんわ」
僧侶「…………」クイッ
和服美人「あ、もしかして気にしてらっしゃいました? 申し訳ございません……」
僧侶「気にしないでください。その手のツッコミは聞き飽きてますので」
大富豪「気に入ってもらえたようで何よりですな。存外に楽しんでおられるようで」
僧侶「ええ、ご馳走様です」
大富豪「あなたは神職の方ですので、もしかするとお気に召さないのではと心配しておりましたが、いやはや取り越し苦労だったようですな」
僧侶「まあ……それにしても、すごいお店ですね。大富豪さんがオーナー様なんですか?」
大富豪「いいえ。ただ、オーナーとはいささか古い知り合いでしてな。接待に使わせてもらっているんですよ」
僧侶「へえ」
盗賊「おりゃーっ! ヒップアターック!!」ドーン
僧侶「ぶほっ!? ……テメエ、何の真似だコラァ!!」
盗賊「なんでいなんでい、やっぱおっぱい無いのが悪いのか!! あんにゃろう、両手に花束抱えて行きやがって!! どーせあたしは男ですよーっだ!」
大富豪&和服美人(うそぉん!?)
僧侶「荒れるのは構わねえけど、俺に当たりに来るんじゃねえっつの。つうか、また二日酔いでダウンしても知らんぞ」
盗賊「ふん、いいもーん。きっと優しい僧侶くんが看病してくれるから……ね♪」
僧侶「すんませーん」
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僧侶「ふあ……っ。そろそろ俺は引き上げる。お前も程々にしろよ」
盗賊「あたしも寝る。……勇者サマなんて、もう知らないんだから」
和服美人「では、お部屋にご案内します。ごゆるりと……お休みくださいまし。それこそ、永遠に」ニヤリ
――小一時間経過・僧侶の部屋
盗賊「どいつもこいつも、男なんてぇ! さんざん『かわいいね』『愛してるよ』なんて言っても、あたしも男だって知った瞬間に手のひらクル~よ? バッカみたい、最低! ねえ、聞いてるの!?」
僧侶「あ~、はいはい。男なんてそんなもんだよ」クィッ
盗賊「口では『そういうのもいいよね』だとか『カワイイは正義』って言っても、内心では気持ち悪がってんだろー! 知ってんだよー!」ヒック
僧侶(……いつまで絡まれてんの、俺?)
盗賊「結局さぁ~、男の娘の需要なんて二次元にしかないんだよぉ~。結局体がすべてなんだろ~、勇者サマだって……ヒック」
僧侶「あ~? 勇者とならお前でも充分チャンスあんじゃねえか?」
盗賊「気休めはよしてよ」
僧侶「いや、割と本気で。たまに満更でもなさそうだし、力尽くで押し倒したら勢いでなんとかなるんじゃねえかな」
盗賊「え!? そ、そうかな? 本当にそう思う?」
僧侶「ああ」
盗賊「……よっしゃ!」グィィィィィー プハァ
盗賊「あたし、勇者サマのとこ行ってくる!!」ドドドドドド バタン
僧侶「……はあ。これでやっと寝れる。ふぁぁぁ」
バタン
僧侶「あん? どうした、忘れ物――」
金髪ロリ巨乳「失礼いたします」
僧侶「……あん?」
――同時刻・武道家の部屋
武道家「はぁぁぁ~ん♥ 言ってみるものね、右を見ても左を見てもアタクシがいる……ス・テ・キ♥」
コンコン
武道家「は~い? どなたですか?」
和服美女「失礼いたします。夜のお相手を勤めますよう、大富豪様から――」
武道家「あ、間に合ってるわ。お構いなく」
和服美女「え!? あ、いや、そう言われましても……」
武道家「それじゃあね。大富豪さんにはアタクシから言っておくわ」バタン
武道家「やれやれ。アタクシ、十歳の時からこうなんだから」
鏡の中の武道家「ソウヨネ」
武道家「…………え?」
――同時刻・勇者の部屋
ゴージャスな美女「では、今宵はごゆるりとお楽しみ下さいませ」シュル
勇者「あ! 待って待って、服はボクが脱がすから!」
ゴージャスな美女「左様ですか? では、どうぞご随意に」クルッ シュルシュル
勇者(くふふふっ、実はこの瞬間が一番好きなんだよな~)シュルシュルシュル
勇者(あ、あれ? ナイトドレスにしては構造が複雑……)シュルシュルシュルシュルシュルシュル
勇者「ああ、なるほど。ブラとキャミソールが一体化してるのね。じゃあ上から脱がす方が……)シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル
勇者「って! さっきからシュルシュル言ってんのなんだよ!?」
黒蛇「シャー」シュルシュル
勇者「イヤァァァァアアアアアアッ!! なにこれ!? なんでこんなもんがベッドにぃぃぃぃぃ!?」シュルシュルシュル
勇者「ひぃぃぃ! なんで絡み付いてくるんだよ、こいつらぁぁぁ!! ヤダこれ取って!! 取ってぇぇぇ!」
ゴージャスな美女「はっ、みっともない。女々しく泣き叫ぶんじゃないよ。あの可愛い顔したプリーストの方が、よほど肝が据わってるじゃないか」
勇者「そんなこと言ったって!! 昔からニョロニョロしたものって生理的にダメなんですぅぅぅぅ! 痛い痛い、締まってる締まってる!!」ギチギチ
ゴージャスの美女「みっともないのに加えて、失礼な奴。みんなこのアタシの可愛いペットさ」オーヨシヨシ
勇者「ペット……あの、できればボク、アブノーマルなプレイは遠慮したいんですけど……」
ゴージャスな美女「おめでたい頭だねえ。ここまでされて、サービスなわけがないだろうが! とぉ!」バサァ
勇者「おおぉぉぉ!」
勇者(メリハリのついたナイスバディ!! 小ぶりなスイカの如き双球を包むのは、黒いラバーのチューブトップ! 当然のように、下半身は急角度のブラックブーメラン一丁!!)
勇者「」アリガタヤー
ゴージャスな美女「拝むな! ハン、勇者じゃなくて『男者』だね、このマヌケが!! あんたの目の前にいる、このアタシこそ! あんたが倒すべき魔王サマだっつうの!!」
勇者「なんだって!? ……君のような美しい女神に支配されるなら、人間も幸福かもしれないね」キラキラ
魔王「……色々な意味で終わってるみたいだね、あんた」
――武道家の部屋
なんと! 鏡に映っていた武道家が一斉に飛び出し、本物の武道家に襲いかかった!
武道家「これは……これは! な、なんて素晴らしいの!! アタクシが! アタクシがこんなにたくさん!!」
ニセ武道家「シャオラァー!」
武道家「はぁぁぁん♪ なかなか小粋なサービスじゃない? ……だけど」ドゥーン
ミス! 武道家は攻撃をかわした!
武道家「そこのあなた! 眉毛の本数が三本多いわ!!」ドーン
ニセ武道家「ぐわーっ!」パリーン
武道家「あなたはまつ毛のカールが甘い!! そっちのあなた! グラスの色が濃いわ!」ドシャーン バシーン
ニセ武道家「ぎゃーっ!」パリーン
武道家「そっちのあなたも! あなたも! そして、あなたも!」ズドーン
ニセ武道家「ぐっぱぁぁぁぁ!」パリーン
武道家「髪の色素が薄いわ」
和服美人「ば、馬鹿な……私の幻鏡術を、こうも容易く!!」
武道家「甘いわね。データが足りなかったんじゃないかしら? 外見もそうだけど、技のキレもイマイチよ」
和服美人「くっ! なら、私自身の手で葬ってくれる!!」ヘンシン!
武道家「あら……その妖気、サミュバスってヤツ?」
サキュバス「食らうがいい!! 我が必殺の幻惑光線を!!」
正体を表したサキュバスの両目が妖しく輝くと、虹色の怪光線が部屋を満たした!
人間の感覚器官に作用し、様々な幻覚を見せる驚異の魔術である!!
サキュバス「うふふふ♥ さあ、いらっしゃい。本当の快楽というものを教えてあげる」
並の男であれば、彼女の作り出した厳格によって瞬く間に理性を奪われてしまうことだろう! しかしっ!!
武道家「あら、行っちゃっていいの? なら遠慮なく――奥義! ヨシコ・イン・ザ・スカイ!!」ドシャァァァァン
サキュバス「ギャわっぱわわわァァァァァ!!」ドカーン
武道家「おバカさん。アタクシを魅了できるのは、アタクシだけよ。アデュー」☆彡
武道家「って、決めポーズしてる場合じゃなかったわ。あの大富豪さん、胡散臭いと思ってお酒飲まないでおいたけど、どうやら当たりだったみたいね。
僧侶クンはともかく、勇者クンとか盗賊チャンは心配ね」
――盗賊サイド
盗賊「うう、僧侶くんに乗せられて勇者サマの部屋まで来ちゃったけど……あうう! 体は男でも心は乙女だからね! いきなり襲いかかるなんてムリ! やっぱムリぃ!!」
盗賊「」ウロウロウロウロ
盗賊「はぁぁ~……部屋に戻ろう。はぁぁぁ~……」
老婆「あの、もし?」
盗賊「ひゃわっ! ……あ、な、なんでしょうか?」
老婆「申し訳ない、驚かせてしまいましたか。あたしはこの店のオーナーです。そちらの部屋のお方に御用ですかな?」
盗賊「あ、あの、用っていうか、用があるんだけど踏ん切りがつかないっていうか」モジモジ
老婆「ほっほっほ。若いものはいいですな。ただ、そちらの方には大富豪様の頼みで、当店で一番の美女をお付けしています。今はいられますと、少々気まずいことになるのではありませんか?」
盗賊「……なんですって?」ピクピク
老婆「下での騒ぎっぷりも拝見しましたが、きっと中でさぞやハッスルしているのではありませぬか」ホッホッホ
盗賊「ぐぬぬ……――はぁ。なら、やっぱ帰ります」
老婆「おや? その様子……もしや、あの方とはただならぬ関係であったりしましたかな?」
盗賊「そうなりたいと思っていたんですけど……。はははは」
老婆「よろしければ、このババアがお話を聞きましょうか? これでも人より長く生きていますので、何かアドバイスができるやもしれませんぞ?」
盗賊「いえ、それは――そうですね。話だけでも」
老婆の自室という、最上階の豪華な部屋で、盗賊は彼女に自分の抱えているものをポツポツと話し始めた。
盗賊は、傭兵の集まる酒場で失恋してやけ酒を煽っているところを勇者にスカウトされた!
盗賊「最初は『君のような美しい女性が傷心しているのに、放っておくことなんてできない』って慰めてくれたのに……あいつもあたしが男だって知った瞬間……ああああ! 思い出したらまた腹立ってきた!!」
老婆「な、なんと……その容姿で男子であったとは……この老婆もまだ、人を見る目を養わねばなりませぬな。……ところで。それでしたらこの老婆、ひとつ良い話を知っていますが」
盗賊「なに? 相手の性癖を変化させる薬でもあるの?」
老婆「あいや、変えるのは相手ではなく……自分の性別ですよ」
盗賊「……なぬ!?」
老婆の話はこうだ。
その昔、とある国の王があろう事か同性を見初めてしまい、その国は世継ぎ的な意味で存亡の危機を迎えた!
そこで!! 国王は国の魔術師や薬師を総動員し、性転換の薬を開発!! 以後、女王となって意中の相手と添い遂げたという!
盗賊「それ、側室の人とかもらえば良かったんじゃない?」
老婆「飽く迄もおとぎ話ですから。ただ、薬の方は実在するのですじゃ」ゴトッ
盗賊「……これが?」
老婆「左様ですじゃ」
盗賊「…………」ゴクッ
盗賊(お、落ち着け! いくらなんでも渡りに船すぎる! しかも性別を変える薬ぃ!? ありえない、ありえないって! まだ死人を蘇らせるってほうが信ぴょう性があるって!)キュポン
が、考えとは裏腹に盗賊の手は薬瓶の蓋を開けて、さながら風呂上がりにイチゴ牛乳を煽るかのごとく一息に飲み干したのだった!
盗賊「ぷはーっ、まっず! なにこれ!!」
老婆「躊躇せずに飲みなさったな……。くっくっく、これでこの小娘……あいや、小僧は……」
盗賊「……なんともないんですけど。やっぱ偽物じゃない、その薬?」
老婆「……あれ?」
盗賊「はぁぁぁ~、話聞いてくれてありがとうございました。これで失礼します」
老婆「あ、ああ……」
老婆(馬鹿な! あの薬は超即効性の毒薬! 飲めば即死、さらにゾンビとなって我らが支配下に置かれる! なのになぜ!?)
盗賊「あ~あ、期待したわけじゃないんだけど、やっぱ落ち込む――うっ!!」
老婆(おっしゃ! なんだ、ちょっと効くのが遅かったってだけか!)
盗賊「すみばぜん、ドイレ貸じでぐだざい、吐きそう……っ!!」ウエップ
老婆(あらぁ!?)
……………………
盗賊「あーっ、スッキリした。それじゃ、おやすみなさい」バタン
老婆「……もしかして、薬間違えた?」ペロッ
老婆「……グッ! グワワワワワッ!! ――ガクッ」チーン
――廊下
盗賊「あ~、やっぱ飲みすぎたかな。吐いたらスッキリしたけど」
武道家「盗賊ちゃん! 大丈夫!? 怪我してない!?」
盗賊「武道家さん!? どうしたんですか、血相変えて!」
武道家「その様子だと、まだ襲われてないみたいね。実は――」カクカクシカジカ
盗賊「なんですって!? 勇者サマ!!」ダッ
武道家「待ちなさい! 敵の陣中なんだから慎重に――」
盗賊「ぎゃーっ! 落とし穴だー!」
武道家「言わんこっちゃない。ていうか、盗賊だったら罠回避ぐらいしなさいよ!」
――僧侶の部屋
サキュバス「ガハッ……な、なぜ私の術が通用しない……ガクッ」
僧侶「ふん。一人旅が長かったからな、精神耐性スキルは必須だ。あとな、命を取ろうなんて、ぼったくりにしても悪質すぎる」ドンッ
僧侶「武道家は一人でも大丈夫だろうが、リーダーと盗賊は……。勇者の部屋は真上だったか。世話の焼ける奴らだ」
――勇者の部屋
魔王(むっ!? 他の三人に仕向けた刺客が全滅した? 仕方ない、残りの戦力も投入し、一気に殲滅させるとするか)
勇者「いだだだだだ! ダメだって、関節はそっちに曲がるようになってないうぎゃああああああ!」
魔王「あ~、騒々しい。外見はともかく、中身はてんで腰抜けだね。大の男がびーびーと」
勇者「あばばばばば……きゅぅぅぅ~」
魔王「やれやれ。気を失ったか、だらしない。吸い殺してやろうと思ったけど、こんな軟弱者じゃ食いでが無さすぎるな」
勇者(……ふっ、引っかかったな! 気絶したのは嘘だよ~っだ。美女に嘘をつくのは気が引けるけど、向こうも騙してきていたんだし。そのうち誰かが助けに来てくれるハズ! それまで耐える!!)
魔王「まあでも、顔は悪くないね。ちょっと細いけど、でもあっちの僧侶の子のが好みかな」
勇者(ちくしょう!)
魔王「……? んん~? こいつ、服の下に何か隠してる?」
勇者(あっ、しまった!)
コンコン
魔王「?」
突然、部屋に響いたノックの音!
魔王は一瞬、勇者の仲間が訪ねてきたと思ったが、敵は既に一度、刺客を退けている! 仲間の安否を確かめるのなら、わざわざノックなどしない。
そして、手下達には呼び出すまで部屋に入らないように言い含めてある。ならば――。
魔王「ドアごとぶっ飛ばす! せやっ!」
魔王の放ったどす黒い炎の玉はドアを瞬時に飲み込み、その向こう側に立っていた人物を消し飛ばした――かに思われた!
僧侶「あっつ!? あっつーーーーーっ!!」
魔王「えぇぇぇーっ!?」
だが、僧侶の耐久力は、魔王のそれなりに本気で放った一撃を易々と堪えたのだった!
勇者「僧侶ぉぉぉぉ! よく来てくれた! ありがとう、愛してる!!」
僧侶「やかましい! 様子を見に来てみれば、なんだその哀れな姿は。お前、今日から勇者じゃなくて『男者』な、マヌケ」
勇者「それ、さっきも言われた!」
魔王「よもや、地獄の火炎を耐える人間がいるとはな。くっくっく! ますます気に入ったぞ、僧侶!! 勇者などとは手を切って、我がものとなるが良い!!」
勇者「……どちら様ですか?」
魔王「ふっ! よくぞ聞いてくれた! 我こそは今代の魔王なり! 夜を統べるサキュバスの女王だ!」
僧侶「魔王だと? 本拠地に攻め入られる前に、自分から打って出たってことか」
魔王「気づいていないのか。お前達がいるこの場所は、既に幻影の森の中なのさ。この店はもともと、我が眷属が人間を捕らえるための蜘蛛の糸!」
僧侶「大富豪もお前らの餌か」
魔王「ああ。以前に引っかかった男だ。命を助けてやる代わりに引き込みをやってもらった。つまり、お前たちはとっくの昔に我術中に引き込まれていたというわけだ!」
僧侶「回りくどい真似しやがって。だが、ここで会ったが百年目って奴だ。ここでぶちのめしてやる」
魔王「くくくくく! 後方支援主体のプリーストが、一人で戦えるのか?」
僧侶「プリースト? 何言ってやがんだ、テメエ? 確かに回復魔法も使えるが――」外す→僧侶の法衣
僧侶「俺のジョブは――」E 力たすき
僧侶「僧侶は僧侶でも」E ねじりはちまき
僧侶「モンクだ」E右手→炎の爪 左手→光の爪
僧侶「うりゃあ! 2回攻撃だーっ!」ベシベシッ
魔王「なんとぉーっ!!」
勇者(知らなかったーっ! あれ、それだと武道家二人もパーティに入れてたってこと?)
魔王「くぬぅ! だが、どちらにしろ一人で何ができる!? 生憎と我も接近戦は得意だ! この槍術を見るがいい!!」
魔王が魔力によって作り出したのは、騎兵が使う馬上槍――ホーリーランスと呼ばれる大型のものだった!
それを片手で軽々と振り回すその姿に威圧される僧侶であったが!
魔王「あ」ガスッ
室内でそんな大きな得物を振り回せば、天井に刺さるのは自明の理!
隙だらけになった白くてくびれた腹に、僧侶は情け容赦ないブローを叩き込んだ!!
魔王「おぐっ!? ……ひ、ひどいですわ……ガクッ」
勇者「……え? ちょっと待って! 今ので終わり!?」
僧侶「…………。みたいだな」
勇者「と、とにかく良し! これで世界も平和になった!! あははは、勇者大勝利!」
僧侶「いいのか、それで!?」
魔王「良いワケありませんわーッ!! げほっ、げほっ!」
勇者「生きてたー!!」
魔王「よくもよくも! 乙女の柔肌に青あざこさえてくれましたわねぇぇぇ! 許しません、許すものですかぁぁぁ!」
僧侶「? おい、あんた口調が変わってるぞ」
魔王「こっちがナチュラルですわ! 魔王っぽい威厳とか考えてましたけど、キャラに気を取られて攻撃が疎かになってましたの!」ガン
魔王がランスの石突きで床を叩く。瞬間! 彼女の纏った妖気が爆発的に膨れ上がった!
額の左右から曲がりくねった角と、肩甲骨から長大なコウモリの翼手を生やし、そして全身のいたるところに三日月を模した文様を浮かべた異様な姿! まさに魔王!!
僧侶「第二形態ってやつか。面白い!」シュッ シュッ
魔王「お黙りあそばせ!! 生憎と私、殴り合いなんて野蛮な真似は好みませんの。戦わずして勝つ! それこそ王の貫禄というもの! 受けなさい! 我が奥義、誘惑の術<テンプテーション>を!!」
魔王の全身から放った七色の光線が、瞬く間に室内を埋め尽くす!
僧侶「ぐっ! な、これは――なんだ!?」
勇者「うわ、すごく甘くていい匂い……。例えるなら、春風に遊ばれる乙女の髪の毛のような――うっ!!」
僧侶「ど、どうした勇者――」
勇者「お……お姉さまぁぁぁぁん♥ むしろ女王さまぁぁぁぁ♥」ピョーン
魔王「ひぃぃぃぃ! 縛り上げてるのになんて跳躍力! 来ないでくださいまし、気持ち悪い!」
勇者「ああ♥ その蔑みの視線……もっと! もっと罵って! 貶めて! 踏んでください! ぶってくださいまし! 女王さまぁぁぁぁん♥」
魔王「来るな!」ゲシ
勇者「あうん♥」
魔王「はあ、はあ、はあ。こ、こういう弊害があるからなるべく使いたくはありませんでしたの。でも、この技を食らったら最後、身も心も私の恋奴隷と化し、そこから逃れる術はありません!」
魔王の奥義、誘惑の術<テンプテーション>。
光により視覚! 香りにより嗅覚! 超音波により聴覚! 密度を増した魔力により触覚! 全てに対し同時に魅了の魔法を掛けることにより、いかに強い精神力の持ち主であろうとも骨抜きにし、意のままに操ってしまう!
そしてこの技は、口づけにより味覚をも支配することで真に完成するのだ!
僧侶「ぐ、う! あぁぁっ!」
魔王「ふふふふ、我慢強いですわね。でも、それもこれでおしまい。私のベーゼ、受け取りあそば――」
僧侶「ぶえーーーーーっくしょーーーーーーーい!!」ビチャー
魔王「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
僧侶「なんじゃこの臭いは!? 鼻がぶえっくしょい! 鼻の奥が痛えへっくしょーい! 喉が焼けるやいさほーい!」
僧侶「ぶえっくしょん! へっくしょん! どっこいしょっ! あんじゃこりゃあ! なんつーえげつない技を使うえっちくしょーい!」
魔王「いやあああ! 目が! 目に鼻水が!! 目がぁぁぁぁ!」
勇者「はあはあ♥ 女王様のお顔にネバネバがはあはあ♥」
なんということだ! 僧侶は魔王の放つ香りによって粘液をやられていた!
鼻と喉に加えて、両目も真っ赤に充血して滝のような涙を流し、魔力に触れたむき出しの上半身もまた真っ赤に腫れあがり、耐え難い痒みを訴える!
それは、現代で言えば重篤な花粉症にも似た症状だった!
だが、そのことが僧侶を魅了から守っていたのだった。
もっとも、どちらにしろまともに戦える状態でないのは言うまでもない!
僧侶「ゲホッ! ゴホッ!! くっ、負けるかエクション! どこだ、どこにいる魔王サクション! 涙で何も見えないジャネットジャクソン!!」
魔王「ううっ、汚された気分ですわぁ……! どこまでも忌々しい――」
僧侶「そこかうぇっくしょーい!」ビチャビチャビチャー
魔王「うわぁぁぁあああああああぁぁぁん! さっきより多いですわぁぁぁ!」
僧侶「べっくしょい! へくしょい! へーちょ。ずばっしゃーっ!!」ビチャチャチャチャチャー
魔王「いやっ、やめ――熱っ!? やめて! いやぁぁぁ! 許して――ひぃぃぃぃぃっ!!」
勇者「はあはあ♥ 女王様が、女王様が白濁したネバネバを全身に浴びて――……ふぅ」
ドタドタドタドタッ バン!!
盗賊「勇者さま、大丈夫ですか!?」
武道家「下にいたサキュバス達は、みんな倒したわ! あとはあなただけよ、魔王――なにこれ?」
白濁した粘液の塊『た、助けて……グズッ、えっぐ……』プルプル
僧侶「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ちょ、ちょうど良かった……何か、飲み物をくれないか? だ、脱水してて……」ヨロヨロ
勇者「女王様アンアン 女王様アンアン」
武道家「…………。えっと、お茶でいいかしら?」
盗賊「うわぁ……」
盗賊「ツンツン」
魔王『』ビクッ
盗賊「ツンツクツン」
魔王『』ビクビクンッ
武道家「やめなさい! はい、お茶。おかわりもあるわよ」
僧侶「ありがと」グビグビグビグビ
勇者「あの~、そろそろボクを開放して欲しいんですけど。いい加減、この体制が辛い……」
武道家「ごめんなさい! 忘れてたわ、今縄を解く――」
黒蛇「シャー」
武道家「…………。ごめんなさい、勇者クン。アタクシ昔から爬虫類って受け付けない性質なの」ススススッ
勇者「えぇーっ!! ……と、盗賊! 盗賊っ!」
盗賊「ツンツン、ツクツン。ツンツクツン」
魔王『』ビクビクビクンッ
武道家「一心不乱につついてるわね。ていうか……この謎の塊、なんなの?」
僧侶「ぷはーっ! ……あ? 魔王」
武道家「へ?」
魔王『』ブチッ
魔王「いい加減にしやがりませ、この腐れたオカマシーフがぁぁぁっ!!」ドオーン
盗賊「ぎゃーっ!」
勇者「藪をつついてヤマタノオロチ!?」
魔王「く、くっ、屈辱ッ!! 未だかつて、この私を粘液まみれにした者もいなければ、道端に転がる犬のクソのようにつつきまわしたバカもいませんでした!
その命知らずな無礼っぷりに経緯を評し……私の裏の姿で跡形もなく消し飛ばして差し上げます!!」ビュオッ
武道家「……は、いいけど、オーラと一緒に飛び散ってるわよ? 先にシャワー浴びてきなさいな」
魔王「ことごとく、馬鹿にするんじゃありませんわーぁぁぁぁぁ!! チェンジフォーム・ドラゴン!!」ピロリロリオン
僧侶「げっ! 武道家、勇者を連れて外に!!」
武道家「アイサー!」
館を破壊し、姿を現した魔王!!
金色に輝く満月を背景に翼を広げた、二足歩行の巨大なドラゴン! その全身は、ショッキングピンク!
武道家「ダサイ!! 致命的にダザイわ、魔王!!」
魔王『うるっさいですわ!! あ~、もう! だからこの姿は晒したくなかったのに……! この姿を見た以上、抹殺ですわ!』
勇者「ひい、ひい! ぶ、武道家! 連れて逃げてくれたのは感謝するけど、先にこれ解いて! いい加減に関節が悲鳴あげてるの!」
武道家「そんな余裕ないわよ! 我慢なさい、男の子!」
勇者「ボクは、せ、繊細なんだよ!」
僧侶「武道家、とりあえずそのへんの草陰にでも放り込んでおけ! 奴が来るぞ!!」
武道家「アイサー! じゃ、ちょっと待っててね、勇者クン。すぐ終わらせてくるから♥」ダダッ
勇者「決戦なのに置いてかれたー!!」
魔王『まずは目障りな貴方から!! お腹のアザと粘液まみれにされた、恨みはらさでおくべきかー!』
魔王の桃色吐息!
僧侶たちは猛毒ガスに包まれた!
盗賊「セコッ!! そこは灼熱とか凍てつく冷気じゃないのゴフッ!」
魔王『いえ、私サキュバスですのよ?』
武道家「どこまでいっても間接攻撃主体ってことね。なら、付け入る隙は充分にある! 無呼吸闘法、受けなさい!」アチョー
魔王の両目が妖しく光る!
武道家は麻痺した!
武道家「げっ!」
魔王「ぶっ飛びあそばせ!」
魔王はバシルーラを唱えた!
武道家は遥か彼方へ吹っ飛ばされた!
武道家「ちょっと待! セコイにしてもほどがぁぁぁ――」キュピーン
僧侶「武道家! くそっ、盗賊! 仕掛ける――」
盗賊「ごめん、僧侶くん……もう、あたし、ダメみたい……」 ←HP1
僧侶「耐久力低っ!?」
盗賊「だってあたしは回避系だから、スリップダメージは点滴ガクッ」 ←HP0
魔王『……どうして真っ先に倒そうとした貴方が残ってますの!? 納得行きませんわ!! ホーリーランス!』ジャキーン
僧侶「ちぃ! 盗賊を治してる暇はないか! でりゃぁぁぁ!」
勇者「ああ、どうしよどうしよ! 僧侶一人じゃジリ貧だよ! ボクも援護しないと……ああ、もう!! このヘビ、いい加減に――あ」
その時! 勇者の目に飛び込んできたのは、サラダ油の容器だった!!
それも未開封! 屋敷が破壊されたとき、調理場から飛んできたらしい!
勇者「……いやあ、それはさすがに……でも、武道家はどっか飛んでいった。盗賊は瀕死……ふふふふっ! ええーい、ままよ!」
勇者はメラを唱えた!
サラダ油の容器が弾けた!!
勇者「うぎゃあああああああああっつうぅぅぅぅぅぅぅーっ!!」メラメラメラメラ
魔王『これで、ジ・エンドですわーっ!』
僧侶(マズッ!?)
勇者「僧侶、どいてぇぇぇ! 火炎斬りぃぃぃ!」ズババッ
魔王『おうぐっ!?』
僧侶「勇者!? 何事だ、お前!? 火だるまじゃねえか!」
勇者「ははっ、ガラにもなく無茶しちゃったよ。てか、早く治してもらえると助かるかな」メラメラメラ
僧侶「悪い。ディアラマ! ついでに、盗賊にサマリカーム!」
勇者「回復魔法それなの!?」
盗賊「はっ! ふう、死ぬかと思った。あ、勇者サマ!? もしかして勇者サマが助……け、て?」
勇者「あ、あははは……ひどい格好になっちゃたな。服ボロボロ」
盗賊「えちょ、待って……ゆ、勇者サマ……お、おっ! 女の子ぉぉぉぉぉーっ!?」
魔王『うそぉぉぉぉぉぉ!? だってあな、あなた! お店じゃうちの子口説きまくって――えぇ!?』
僧侶「そういう趣味なんだろ? 前にも宿の部屋に女連れ込んでたし」 道具→渡す→僧侶の法衣→勇者
勇者「タイミング悪く部屋に乱入されたっけねえ。あのあとノーリアクションだったから、バレてないのかと思ってたけど。あ、服ありがと」E 僧侶の法衣
盗賊「おあおあまおまおおまおおおおおおっ!! う、裏切り者ーっ! 乙女の気持ちを弄んだのね!! この外道!!」
僧侶「何言ってんだ、お似合いだぞ、お前ら」
盗賊「女の子同士なんて冗談じゃないわ!」
勇者「黙れオカマ野郎! いくら可愛くたって、こっちも女の子にしかキョーミありませんよ~っだ!」
盗賊「え、可愛い……そ、そんなこと言われたって嬉しくないんだからね!」プイッ
魔王『おおお女の子……気付かなかった、私が……か、仮にもサキュバスの女王がわわわわ』
僧侶「方々に大波乱が巻き起こってるな。んじゃ、今のうちに――タルカジャ、タルカジャ、タルカジャ、タルカジャ、チャージ!」
魔王『お、女の子から吸精しようと……ひぃぃぃ! な、なんてこと――って、あら?』
僧侶「竜の弱点――逆鱗って確か喉の辺りだったよな。せぇーの!」ドゴォ
魔王『げふぅぅぅっ!?』
盗賊「ちょっと……かなり? す、すごい大きい……」
勇者「触るな、揉むな! 触れていいのは美少女だけ――あれ?」
僧侶「……終わったぞ」
武道家「ただいまー! さあ、戦列に復帰――え? どういう状況、これ?」
魔王『まだまだぁーっ!』
なんと、魔王は食いしばって耐えた!
僧侶「ちっ! ならもう一撃――」
魔王『いてつくはどう!』
別名・デカジャ!
僧侶「あっ、ひでえ!」
勇者「無駄な足搔きだ、魔王! パーティが揃った以上、もうお前に勝ち目はない!」
武道家「ねえ、盗賊ちゃん。気のせいかしら、勇者クンの胸にメロンが二つついてるように見えるんだけど。なんかの病気?」
盗賊「女の子だったんだってさッ!! フン、だ!!」
武道家「……よ、世の中分からないものねぇ……。あ、僧侶クン?」
僧侶「俺はれっきとした男だよ!! つうか今、半裸なんだから分かるだろ!!」
武道家「そうじゃなくて。勇者クンが」
勇者「」チーン
僧侶「何があった!?」
魔王『全身やけどでもう限界だったようで。デコピン一発でこの始末ですわ』ヤレヤレ
盗賊「つっかえねー」
武道家(とことん辛辣ね。憎さ百倍ってヤツ?)
勇者「くっくっく! ボクは弱いのは当たり前だろう、ついこの前まで遊び人だったんだぞ!!」
僧侶「ならもう下がってろ」
勇者「馬鹿言っちゃいけないな、僧侶。ボクはここに来て、ついに自分の役割というのが見えた気がしたよ。……魔王! この勝負、僕たちの勝ちだ!!」
魔王『生意気な! もう一度、桃色吐息でじわじわとくたばりあそばせ!』
勇者「ふっ! 僧侶、ちょっと耳貸して」ゴニョゴニョ
僧侶「はぁ!? こんな時に何言って……あ。そういえば、お前の能力!」
勇者「さあ、早く! 残念だけど、ボクには実行できる体力と身体能力がない!!」
僧侶「わーったよ!」ダダッ
魔王『受けろ、桃色――はぅん♥』バタン
盗賊「……え? どうしたの、急に倒れた?」
勇者「はははは! 悪いな、魔王! ボクには女の子の敏感な部分が見えるのさ! 背びれの下から六番目から三番目の辺りを下から撫で上げる、それが君の弱点だ!」
僧侶(実際にやったの俺なんだがな。つうかこいつのウロコ、よく見るとハート型してる……)
勇者「僧侶! 次はしっぽの付け根! 下側から反時計回りに!」
僧侶「そりゃ!」
魔王『ひゃうっ♥』ゾワッ
勇者「次!右わき腹を脇の下にかけて三往復!」
僧侶「よっしゃ!」
魔王「ひぃん♥」ゾワワワワッ
勇者「今だ!! 逆鱗をくすぐれぇぇぇぇ!」
僧侶「おっけぇ!」コチョコチョコチョコチョ
魔王『ひぃぃ♥ あっ♥ ダメッ♥ ダメだった、ら♥ あん♥ ――――くぅぅぅぅぅん♥』バシュゥゥゥゥン
なんと! 魔王のドラゴンフォームが解けた!
武道家「それはいいけど……ひどい絵面よ、僧侶」
盗賊「うん、すぐ退いた方がいい。半裸の女性に馬乗りとか、かなりアレだから」
僧侶「おわっと!」バッ
魔王「あ……」
武道家(あ、残念そう)
僧侶「…………」
盗賊(こっちも惜しいなあ、て顔してる……)
勇者「ふっ、これぞ勇者の力――」
魔王「僧侶……」ハアハア
勇者「あるぇー?」
盗賊「あんた指示出してただけじゃん」
魔王「……あの、ええと……お、覚えてらっしゃい! 次に会った時は、体が粉になるほど吸い尽くして差し上げますわーーーっ!!」
魔王は空高く飛び上がると、彼方へと飛び去っていった!
盗賊「って、逃がしちゃダメじゃん! 討伐報酬もらえないよ!」
武道家「大丈夫じゃない? 魔王は魔物を統率してこそ魔王。眷属のサキュバスは全滅させたし、僧侶クン次第じゃもう人を襲うこともないでしょ」
僧侶「俺の身の安全は?」
武道家「大丈夫。貴方ならきっと負けないって、アタクシは信じてるわ」
僧侶「やかましいっ!!」
こうして、世界から魔王の危機は去ったのだった!
だが、今度は僧侶の貞操が危機にさらされる!
頑張れ、僧侶! 君なら勝てるよ(笑)
勇者「ねえ、盗賊? ボク、役に立ったよね?」
盗賊「……あの、元気出して。ね?」
勇者「……うん」
ほんのちょっぴりエピローグ
一路凱旋!!
国王「よくぞ魔王を倒してくれた! 勇者よ、どうだろう? 姫の婿となり、この国の王となってはくれないか?」
勇者「申し訳ございません。ボクは元来流れ者。一つの所に留まれる性分ではないのです」
姫「そんなご無体な! で、ではせめてひと晩の契だけでも――」
武道家(うっわぁ、姫様ったら大胆……てか、相当な問題発言よね、あれ)
盗賊(ていうか、なんで勇者が魔王倒したみたいになってるの?)
僧侶(その分、報酬の割合はこっちが多めになってんだから、いいだろ。それより問題は――)
魔王(まったく。いつまでこんな堅苦しい格好で待機させられますの?)
僧侶(だから外で待ってろっつったのに)
魔王(でも、目を離したら貴方、一人でどこか行ってしまうでしょう? ぜぇぇぇ~ったいに、逃がしませんわ♪)
武道家(あらあら)
盗賊(まあまあ)
僧侶(こいつら……俺は修行僧だぞ? 女人との接触は、戒律違反なんだ)
盗賊(あんだけ酒とか肉かっくらっててよくもまあ)
勇者「ただいま~。さ、打ち上げ行こうか!」
武道家「あれ? お姫様、いいの?」
勇者「彼女、ノーマルだから」
魔王「うわぁ……」
勇者→遊び人「あ~あ、これで元の木阿弥かぁ」
武道家「アタクシもまた職場探さないと。どこかにいい戦場は無いかしら」
僧侶「俺は修行の旅に戻る。ま、どこかであったらそのときは手を貸すさ」
魔王「私も着いていきますわ」
僧侶「来ないでいいから!」
盗賊「あたしは……どうしよっかな。ギルドに戻っても退屈だし……」チラッ
遊び人「ボクはパ~ス。まだ見ぬ美女がボクを待っているんでね」
盗賊「……よし。ならあたしは遊び人と一緒に行ってあげよう。美女を毒牙から守らないと」
遊び人「いらないよ!?」
武道家「そう、残念ね」
一同が、それぞれ明日への想いを胸にジョッキを傾けていると――一人の男が近づいてきた。
勇者2「君たち、ちょっといいかな。実は今、魔王を倒すためのパーティを集めていて――」
一同「!?」
終わり
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