みく「みくは何も曲げないよ!」 (94)




『ボール』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451525014

■甲子園■

ワーワー
ドンドンパフパフ
カットバセーカッカー


モバP(アイドル甲子園に出場した俺たちチームシンデレラはここまで順調に勝ち進んできた)

モバP(気がつけば準決勝)

モバP(相手はあの765プロだ)

モバP(初出場の俺たちがここまで勝ち進んできたのは、勿論チームメンバーの頑張りもあるが……)

モバP(やはりエースでピッチャーのみくの功績が一番大きいだろう)

モバP(みくが投げる魔球に引っ張られるように、ここまで辿り着いた)

モバP(だけど……)

みく「……はぁ……はぁ」

みく「……っ」ザッ

みく「――にゃっ!」シュッ

春香「ここだっ!」ドンガラガッシャーン

カキーン!

モバP(打たれた!? いや――)

ファール!

モバP(ファールか……)ホッ

モバP(だが相手のバッターがみくのボールに合わせてきている)

モバP(このままだといずれ……)

モバP「審判タイムだ!」

ターイム!

モバP「みくっ」タタッ

みく「……はぁ、はぁ……あ、あれPチャン? どうしたの?」

モバP「みく……このままだとマズイ」

みく「……分かってるにゃ。このままだと打たれちゃうにゃ」

モバP「ああ……」

モバP「確かにみくの必殺魔球シンデレラキャットボールは凄い」

モバP「ただのストレートでありながら、速く、重い」

モバP「キャッチャーがきらりじゃなかったら、とてもじゃないが受けきれないボールだ」

モバP「それに投げた瞬間、ボールに猫耳とヒゲが生えて可愛らしい猫ちゃんみたいに見えるから、とても打ち辛い」

モバP「かわいそうでな」

モバP「この魔球のおかげで初出場の俺たちが、ここまでやってこれた」

モバP「みくのおかげだ」

みく「え、えへへ……ありがとうにゃ。照れるにゃ」ポリポリ

モバP「だけど……それが通用するのはここまでだ」

モバP「相手はここまで勝ち進んできた強豪プロダクションだ。勝つ為なら猫ちゃんの顔だろうがバットでぶん殴ることに躊躇はしない」

モバP「それに相手のバッターはあの春香さんだ。どんがらがっしゃん打ちとかいうふざけた打法だが……徐々にタイミングを合わせてきている」

モバP「このままストレート1本で行っても、もう2、3球もしないうちに……打たれる」

モバP「だからここらで、変化球を交えていこう」

みく「……」

モバ「みく?」

みく「……それでも」



みく「それでもみくは――ボールを曲げないよ!」

モバP「みく!? どうしてだ!? どうしてそこまでストレートにこだわる!?」

みく「だってこの魔球は……シンデレラキャットボールは……皆でのおかげで生まれた魔球だから」

みく「凛にゃんに杏にゃん、未央にゃんに卯月にゃん……一緒に試合に出てる皆だけじゃなく、応援してくれてるアイドル皆で作った魔球にゃ!」

みく「この魔球には皆の想いが篭もってるにゃ」

みく「みくはエースとして……皆の想いを背負っていきたいにゃ」

みく「この魔球には……皆の想い……真っ直ぐ前に向かって一緒に進み続けたい――その想いが篭もってるにゃ!」

みく「だからみくは……このボール以外、投げる気はないにゃ」

みく「我侭だと言われても仕方ないにゃ。……ごめんね、Pチャン」

みく「それでも……!」

みく「それでもみくは……ボールを曲げたくないにゃ!」

モバP「みく、お前……」

モバP「……分かった。お前がそこまで言うのなら、俺は何も言わない」

モバP「そうだよな。今までその魔球だけで勝ち進んできたんだ。これからも……だな」

モバP「分かったみく。俺から言えるのは一言だけだ――精一杯最後までやれ」

モバP「お前のアイドル魂を……球場の皆に見せてやれ!」

みく「分かったよPチャン!」

タイム終了!

みく「……」

みく「……」

みく「何とか誤魔化せたにゃ」

みく「何か気がつけば準決勝まで来ちゃったし、言うタイミングを完全に逃しちゃったにゃ」

みく「……」

みく「い、言えないにゃ……」

みく「今さら……ストレートしか投げれないなんて……」

みく「変化球なんてもともと投げられないなんて……」

みく「言えないにゃぁ……」

モバP(その後、真シンデレラキャットボールを試合中に編み出したみくの奮闘や)

モバP(幸子の連続ヘッドスライディング)

モバP(イチローの着ぐるみを着て、1本足打法を完コピした仁奈)

モバP(未央の「もう私外野手やめる!」宣言など)

モバP(皆の頑張りもあって、俺たちはアイドル甲子園に見事優勝した)

モバP(次はプロアイドル野球界だ)

モバP(先はまだまだ長い)

モバP(だが彼女達ならきっとたどり着ける。アイドル野球界のトップに)

モバP(俺はそう信じてる)


おしまい

打法云々に関してのツッコミは勘弁願いたい。ほら……自分水球部だったし。
だから……勘違いしてもしょうがない……すまない……。



『へそ』

モバP「……なあ、みく」

みく「……」ツーン

モバP「機嫌直してくれよ、なぁ」

みく「……」ツツーン

モバP「何度も謝ってるだろ? そろそろ許してくれないか?」

みく「……」ツツツーン

モバP「……」

みく「……」ツツツツーン

モバP「えい」ワキサワリ

みく「ひにゃぁっ!? も、もーいきなり脇触らないでよPチャン! くすぐったいにゃぁ」ニヘラ

みく「……!」ハッ

みく「……ふーんだ」ツーン

モバP「駄目か……どうしたものか」ハァ

モバP「なあ、みく。本当に悪かったよ。だがいつまでもそんな態度じゃ、まともに会話もできない」

モバP「そろそろへそを曲げるのも疲れただろ?」




みく「――みくはへそなんて曲げてないよ!」フシャー!

モバP(曲げまくってるんだよなぁ)

モバP「確かに……この間の日曜日、一緒に猫カフェに行くって約束を破ったことは謝るよ」

モバP「でもさ、しょうがないだろ」

モバP「土曜日の夜から、月曜日の朝にかけてまゆに監禁されてたんだからさ」

みく「……つーん」

モバP「最近は大人しかったからつい油断しちゃったんだよ。飲み物に睡眠薬とか混ぜなくなったし」

モバP「ああ、まゆも丸くなったんだなぁ……って安心してたら、帰り道にスタンガンでビリっとな」

モバP「参ったよ」ヤレヤレ

モバP「まゆもまゆで、割と衝動的な犯行だったらしくてさ。俺を気絶させた後のことを考えてなくて、家までまだまだ遠いところで気絶させたもんだから、俺を背負って3kmくらい歩くハメになってさ」

モバP「何とか俺を家まで連れ帰るとこまでは上手くいったけど、その後は筋肉痛でバタンだよ」

モバP「で、俺は完全に自由な状態で目を覚ましたけど、涙目で小鹿みたいにプルプル震えて俺に手錠をかけようとするまゆをほっとけないだろ?」

モバP「おかげで日曜日はまゆのお世話で潰れちゃったよ」

モバP「……いや、これは言い訳だな。何があろうと約束を忘れてたことには違いない」

モバP「みく! すまなかった!」

みく「……違うにゃ。そのことじゃないにゃ」

モバP「え、違うのか?」

モバP「……」

モバP「となると……これのことか?」ピラリ

モバP「この……俺に送られてきた、ラブホテル前で凛と一緒にいる所が映った写真が入った脅迫状の件か?」

モバP「……」

モバP「俺も油断してたよ。プロデューサーとして、業界人としてこういうスキャンダルに繋がる状況は避けたかった」

モバP「勿論、ホテルに入ったわけじゃないぞ?」

モバP「凛の送迎中にここを通ったんだ。どうやらその瞬間を悪意を持ったカメラマンに撮られたらしい」

モバP「いつもは車なんだけどな。この日は凛が『たまには歩いていこうよ。健康にもいいし。近道知ってるからさ』って言ってさ。それで……」

モバP「いや、凛のせいじゃないな」

モバP「油断していた俺のせいだ」

モバP「幸いこの脅迫状の主は俺が指示に従っている限り、マスコミにバラしたりしないらしい」

モバP「暫くの間、休みの日は凛と一緒に過ごすことって指示なんだけど……仕方ない」

モバP「すまないみく! 誤解させるような真似して!」

みく「……違うにゃ。その件でもないにゃ。というか、それ今知ったにゃ」ムスゥ

モバP「これでもないのか?」

モバP「……」

モバP「それなら……こいつらのことか?」

モバP「ずっと俺の腰に張り付いてる――」

輝子「フ、フヒヒ……親友のきのこ……」キノコーン

モバP「輝子と……俺の脚の間に潜り込んでる――」

乃々「明るい所とかむーりぃー……」モリクボーン

モバP「この2人のことか?」

モバP「説明するとだな。輝子はこの間ウチに来た時、俺が育ててるキノコをとても気に入ったらしくてな。それから『また見せてくれ』ってしつこくて……離れないんだ」

モバP「乃々は単純な話だ。今日、俺が使ってる机がいきなり折れ曲がっただろ? ベキッって。裕子がスプーン曲げの練習をしてたのとは、関係ないとは思うけどな……バッキバキに圧し折れただろ?」

モバP「だから隠れるところがなくなった乃々は仕方なく、俺の脚の間に隠れているんだ」

モバP「というわけなんだが……」

みく「……ふーんだ」ツーン

モバP「このことでもないのか……」

モバP(じゃあ、一体みくは何に対してへそを曲げてるんだ?)

モバP(幸子のスカイダイビングの次は即身仏に挑戦……いや、関係ないか)

モバP(クリスマスイベントの時、奈々さんに猫耳をつけて、猫ウサミン星人サンタとかいうわけの分からない生き物を生み出してしまったこと……も関係ないか)

モバP(……分からん)

みく「……さっきから何度も言ってるけど、みくはへそなんて曲げてないにゃ」

みく「……」

みく「でも……怒ってはないけど……心配……してるにゃ」

モバP「心配?」

みく「Pチャン。前にちゃんと休んだのいつにゃ?」

モバP「……去年の今頃?」

みく「それにゃ! そんなんじゃ体を壊しちゃうにゃ! みくはっ、みくはそれが心配なのにゃ……」

モバP「みく……」

モバP(そうか……みくがへそを曲げてたのは、俺のせいだったのか)

モバP(俺を心配して……でも俺は全くそんなみくの想いにちっとも気づかなくて……)

モバP「ありがとうな、みく」クシクシ

みく「にゃっ、きゅ、急に頭を撫でると髪型が崩れちゃうにゃぁ……もう」

モバP(休むか)

モバP(次の……正月イベントが終わって、バレンタインイベントが終わってから……ゆっくり休むとしよう)

モバP(これ以上、この可愛い猫耳アイドルのへそを曲げないように、な)

おしまい。



『理』


モバP(ついの俺たちの前へと現れた――ザ・デス)

モバP(だがその圧倒的な力を前に、仲間達――アイドルたちは次々と倒れていった)

モバP(残るは俺と凛、そしてみくのみ)

モバP(凛の潜在力は凄まじいものがあるが……その力はまだ未覚醒だ)

モバP(このままだと俺たちは……)

ザ・デス「食らえ我が死の力を!」ゴオオ

凛「くっ!」

みく「避けられないにゃ!」

モバP(ザ・デスが放つ死の波動が2人に届く瞬間。俺の体は自然と2人の前に出ていた)

モバP「ぐああああああああ!?」ブシャー

ザ・デス「フハハハハ! 未覚醒のアイドル2人を庇うとはな! 馬鹿な男め! 100人以上のアイドルをプロデュースする敏腕プロデューサーといえど、この程度か!」

モバP「ぐはあああああっ!」ブシャー

凛「プロデューサー!? ゆ、許さない……! ハァァ……!」キラキラ

凛「――はあああ! アオイライト・ブルー!」ズシャア!

ザ・デス「ぐふっ! ま、まさかお前は蒼の……そういうことか。我はここで消えるが、覚えておくといい……我が消えても我がウサミン星から侵略の手が尽きることはない……」シュワアア

モバP「……」

みく「大丈夫、Pチャン!? ……Pチャン?」

凛「はぁ……はぁ……みく? プロデューサーは?」

みく「……」ポロポロ

凛「ど、どうして泣いてるのみく!? ……う、嘘でしょ!?」

凛「ねぇ……ねぇってば! プロデューサー! 目を開けてよ!」ユサユサ

みく「凛ちゃん……もう……Pチャンは……」ポロポロ

凛「あ、ありえないよ……。だってさ、プロデューサーなんだよ?」

凛「アイドル界の連勤術師って……不死身のPって……それなのに……」

凛「……そうだ。みく! みくの能力『輪廻する猫の7つ魂(セブンキャットウォーク)』を使えば、プロデューサーを蘇らせ――」

みく「ううん。それは……できないにゃ」

凛「どうして!?」ガバッ

みく「Pチャンとの約束にゃ。もしこの戦いでPチャンが死んでも……みくの能力は使わないでくれって」

みく「人はいつか死ぬ。それは変えようがないこの世の理だって」

みく「その理を覆してしまえば、自分が今まで歩んできた人生の輝きも失われてしまうって」

みく「だから……」



みく「――みくは理を曲げないよ!」

凛「みくっ、だからって……あ」

みく「……っ」

凛(みくの握り締めた拳から血が……)

凛(そうだ。一番辛いのはみくなんだ。プロデューサーの命を蘇らせることができるのに、プロデューサーとの約束でそれができない)

凛(誰よりもプロデューサーを助けたいのはみくのはずなのに……)

凛「……みく、ごめんね」ガバッ

みく「凛ちゃん……」ギュッ

凛「辛いけど、プロデューサーが死んで……辛いけどっ。前に進まなきゃ、いけないんだよね」

みく「うん。それが……みく達アイドルの宿命にゃ」

凛「……アイドルって辛いね」

みく「そうにゃ、辛いのにゃ。でも……頑張ってアイドルをして、輝きを見せるにゃ。天国にいるPチャンに届くように」

凛「うん」

モバP(幽霊)「みくと凛は……もう、大丈夫だな」

モバP「いつの間にか、ここまで成長していたんだな」

モバP「最後まで側であいつらの輝きを見ていたかったけど、ここまでか」

モバP「……いい人生だったな」

モバP「本当に、いい人生だった」

モバP「じゃあ、行くか。天国でプロデュースでもしながら、あいつらが来るのを待っとくか」

モバP「まあ、ずっと先だろうけどな」スゥゥゥ

おしまい。

アオイライト×

アイオライト○

です。



『鼻』

みく「ふんふんふふーん、にゃにゃにゃにゃーん」ルンルン

未央「おやおやみくにゃん? 随分と機嫌がいいねぇ。何かいい事でもあった?」

みく「えっへっへ……今日は久しぶりにPチャンがみくに付きっ切りで……はにゃ!?」ビクッ

未央「ほーほー……それはそれは」ニヤニヤ

未央「そりゃご機嫌に鼻歌を歌いながらスキップもしますなぁ……うっしっし」

みく「ぐぬぅ……よりにもよって未央チャン見られるとは……不覚にゃ」

未央「まあまあ。このことは未央ちゃんの胸の中だけでしまっておくから。ゆっくり楽しんで来なされ。ほっほっほ……」スタスタ

みく「……いかんにゃ。気を引き締めないと」パンパン

みく「たかが1週間ぶりにPチャンと一緒に仕事をするだけにゃ。それくらい、それくらいで……えへへ」ニヘラ

■待ち合わせのオフィス街■

モバP「……」

みく「あ、Pチャーン!」タタッ

モバP「待てみく!」

みく「……!?」ピタァ

モバP「俺に……近づくな」

みく「ど、どうしたのPチャン?」

モバP「すまんみく。お前はきっと俺と久しぶりに会えたことで、半ば衝動的に俺に飛び掛かり、そのままパワーボムを決める気だった……だろう?」

モバP「パワーボムは決めないにゃ!」

モバP「なんにせよ。今の俺には近づかないでくれ。できれば今日の仕事中も5mは離れていて欲しい」

みく「それ完全に部外者の距離にゃ!」

みく「ど、どうしたのPチャン? みく……何かした?」オドオド

みく「何かしたなら謝るから、そんな酷いこと言わないで欲しいにゃ……」

モバP「そうじゃない! そうじゃなくて! その……今の俺……すげえ臭いんだ」

みく「へ?」

モバP「ここのところ忙しくて家に帰れなくてな、風呂も入ってないんだ」

モバP「だから凄く臭い。激臭プンプン丸だ。だから、その……近づかないでくれ」

みく「……なーんにゃ。そんなことだったのにゃ」ホッ

みく「Pチャン。みくはPチャンの臭いなんて気にしないにゃ。それにその臭さはPチャンがみく達の為に頑張ってお仕事をしてくれてる立派な証にゃ」ツカツカ

モバP「みく……お前……」ジーン

みく「だーかーら」ウデギュッ

みく「Pチャンはいつも通り、みくのすぐ隣を歩いてぐっふぉ」ブフッ

モバP「みく? ど、どうした、いきなり咳き込んだりして」

みく「な、なんでもないにゃ゛」

みく(……く、臭いにゃ!)

みく(凄く臭いにゃ! 臭いだけじゃなくて目も痛いにゃぁ!)

みく(で、でも……1度あんなことを言った以上、ここで『臭いからやっぱり離れて』なんて言えないにゃ!)

みく(そうにゃ! さっきも言ったとおり、この臭さはPチャンがみくの為にがんばってる証)

みく(だから――)




みく(そう――みくは鼻を曲げないよ!)

モバP「みく、ありがとうな。でも本当に大丈夫か?」

モバP「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今の俺、本当に臭いぞ」プーン

モバP「あの志希ですら『お、いい感じの臭いだ~。ハスハス~……あ、これはないわ』って言って真顔になったくらいだぞ」ププーン

モバP「俺が事務所に入った途端、だらだらしてた杏がだらけた姿勢のまま飛び上がって、そのまま全力疾走で帰宅した……それくらいだぞ」

みく「だ、大丈夫って言ったら大丈夫なのにゃ!」

みく(とは言ったものの……やっぱり臭いにゃ! 今までアイドルとして培った演技力で何とか顔には出さずにいられるけど……)

みく(あまりに臭すぎて変な汗かいてきたにゃ……)

みく(お、お気に入りの下着が汗でびしょびしょにゃ……)

みく「ち、ちなみにPチャン? お風呂入ってないって、具体的にはどれくらい……かにゃ?」

モバP「そうだな、大体1ヶ月かな」

みく「いっ――へ、へ~、そうなんだぁ……」ドンビキ

みく(まさかのマンスにゃ! ウィーク単位じゃなかったにゃ! そ、そういえば1週間前に会ったときも、ちょっと香ばしい臭いがしたかも……で、でもその時はちょっと男臭くていい臭いだなぁ……なんて)

みく(でもこれはないにゃ! 男臭いというか……純粋に臭いにゃ! 臭すぎて植物が枯れるレベルにゃ!)

カラス「カァカァ――ガァ!?」ボトッ

カラス「……ガァ」ピクピク

みく(今Pチャンの頭の上を通ったカラスが落ちたにゃ!?)

みく(公害にゃ! 公害レベルにゃ! 公害レベル『竜』くらいにゃ!)

みく(そして今気づいたけど、全体的な臭さに加えて喋ったときにものすっごく臭い息が出てるにゃ!)

みく(こ、これ餃子にゃ! にんにくたっぷりの餃子の臭いにゃ!)

みく(ランチにゃ……よりにもよってランチでくっさいの食べてるにゃ……)

モバP「あ、そういえば聞いてくれよみく。さっき麗奈がとんでもないことしてくれてよ。いたずらだよいたずら」

モバP「どんないたずらだと思う? アレだよアレ。シュールストレミング。アレを事務所で開けやがってさ」

モバP「持ってきた麗奈も立ったまま気絶するわ、小梅に憑いてるあの子が成仏しそうになるわ、慌てふためいた幸子が窓突き破ってどっかに行くわ、菜々さんが引きつけ起こすわ、蘭子が闇に飲まれるわ……もう散々だったよ」

みく(そりゃこのレベルの臭さに至るにゃ! 色々な要素が組み合わさってどえらいことになってるにゃ!)

モバP「……」

モバP「……なあ、みく」

みく「な、なんにゃ?」

モバP「やっぱり離れた方がいいよ。俺やっぱり臭いって。見ろよ、ここオフィス街の中心なのに、俺たちの周りだけ誰もいないぞ。皆俺の臭さを避けてるんだ」

モバP「なんか防護スーツ来た人が集まってきたし」

みく「……だ、大丈夫にゃ」

みく「例え……例え世界中の皆がPチャンから離れていったとしても――みくだけはずっと側にいるヴぇァっ!」

モバP「い、今、一瞬だけど白目むいてたぞ? そ、それに何か吐きそうに……」

みく「ち、違うにゃ! ちょ、ちょっと毛玉を吐きそうになっただけにゃ!」

みく(……も、もうっ、限界にゃ!)

みく(こうなったら――)チラリ



ラブホテル「カモンッ!」

みく(……)

みく(背に腹は変えられんにゃ!)

みく「Pチャン、ここに入るにゃ」グイ

モバP「え? い、いきなり何を……大体ここラブホ――」

みく「いいから。ちょっとお風呂入るだけだから」グイグイ

モバP「いや、お風呂ってやっぱり俺臭――」

みく「いいから、とにかく、いいから」グイグイグイ



――この後、滅茶苦茶シャワー浴びた。

おしまい。

『自分』


モバP「なあ、みく。どうしても駄目か?」

みく「駄目にゃ!」

モバP「これだけ頼み込んでも……やっぱり無理か?」

みく「むーりぃーにゃ!」フシャー

みく「何回頼まれても駄目なものは無理にゃ!」





みく「みくは自分を曲げないよ!」

モバP「いや、自分を曲げるとかそういう話じゃなくてだな……」

モバP「あのさ。俺とみく……もうすぐ結婚するんだよな?」

みく「そうにゃ。みくとPチャンはあと少しで夫婦にゃ! ……えへへ」ニヘラ

モバP「で、だ。みくが俺のところへ嫁入りするか、俺がそっちに婿入りするか。つまりどっちの姓を名乗るか――そういう話をしてたんだよな」

みく「そうにゃ」

モバP「俺はみくに俺の姓を名乗って欲しいんだけど……」

みく「駄目にゃ! みくは前川の姓を捨てる気はないにゃ!」

モバP「捨てるわけじゃないんだけどな」

みく「みくが『前川みく』じゃなくなる……それは自分を曲げるって意味にゃ! 文字通り!」

モバP「どうして自分の苗字にこだわるんだ? 理由を聞かせてくれないか?」

みく「……」

みく「……うん。あのね。みくにとって『前川みく』は特別なのにゃ。勿論パパとママの子供である証って意味もあるけど……それ以上に『前川みく』はアイドルとしてのみくなのにゃ」

みく「Pチャンに出会ったみく、騒がしい事務所で皆とアイドルになるための勉強をしたみく、皆と一緒にあのキラキラしたステージで歌ったみく、泣きながら引退ライブをしたみく……それは全部『前川みく』なのにゃ」

みく「もしみくが『前川みく』じゃなくなったら、あのキラキラした思いでが一緒に消えてしまいそうで……だから、みくは『前川みく』のままでいたいにゃ」

みく「あのキラキラを……忘れたくないにゃ」

モバP「……そうか」

モバP「そういうことなら、仕方ないか」

みく「……Pチャンはどうして、みくにPちゃんの姓を名乗って欲しいの?」

モバP「うん? そうだな……」

モバP「理由はみくと一緒だな」

みく「みくと一緒?」

モバP「そうだ。みくも言ったとおり、俺にとっても『前川みく』はアイドルなんだ。俺はそのプロデューサーでもあるが、一番のファンだった。俺を含めたファンの皆に愛される猫系アイドル……それが『前川みく』なんだ」

モバP「なんていうかさ……『前川みく』は皆のものなんだよ。俺1人が独占していいものじゃない」

モバP「俺は『みく』が欲しいんだ。俺が好きになったのは、アイドルじゃない、ただの『みく』だからな」

みく「Pチャン……」

モバP「だからなんていうか……上手くいえないな! こう、みくに俺の姓を名乗ってもらうことで、みくを皆の『前川みく』から俺だけの『みく』に――本当に何言ってんだ俺は?」

みく「……」ギュ

モバP「お、どうしたみく? 急に抱きついてきて」

みく「Pチャンが言いたいことは伝わったにゃ」

みく「……」

みく「……うん、分かったにゃ」

みく「よく分かったにゃ」






みく「みくは――自分を曲げるよ」

モバP「え? ってことは?」

みく「Pチャンの苗字を名乗るにゃ。アイドルとしての『前川みく』はもうおしまい」

みく「皆の記憶からアイドルとしてのみくが消えるのが怖かったけど……でも大丈夫にゃ。1番のファンがこう言ってるんだし。ねえ、Pチャン? もう引退して結構経つけど……『前川みく』は、ファンの、Pチャンの中でキラキラしてる?」

モバP「ああ、ずっと。出会った頃から俺の中で輝き続けてるよ」

みく「ならいいにゃ。ファンの皆の中でもきっと、同じようにキラキラしてくれてるにゃ」

みく「だったら大丈夫にゃ」ニコリ

みく「もう……これともお別れだにゃ」スッ


猫耳「……」

猫尻尾「……」

猫語「……」

みく「……んんっ。えっと……どうも、○○みくです。よろしくお願いします」ペコリ

モバP「あ、はい。こちらこそ」ペコリ

みく「何だか変な感じ……ふふっ」

みく「Pチャン。これからは『みく』を末永くよろしくね」

みく「あ、でも『前川みく』のことも……忘れないでね」

みく「約束だよ」

モバP(こうしてみくは生まれて初めて自分を曲げ『前川みく』じゃなくなった)

モバP(俺はきっと忘れない)

モバP(この胸に中にある『前川みく』という輝きを)

モバP(猫系アイドルを名乗りながら、魚が嫌いな彼女を)

モバP(猫のようにじゃれついてくる彼女を)

モバP(誰よりもアイドルに夢中で、真剣だった彼女を)

モバP(絶対に忘れないだろう)

モバP(それはきっと、他の皆も同じはずだ)

モバP(前川みくは――永遠だ)


おしまい。

というわけでこれで完結です。
誤字やら勘違いやら色々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
生まれて2回目に書いたSSで、初めて完結させたSSです。
初めて書いてるSSの方も完結させたいと思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

>モバP「おかげで日曜日はまゆのお世話で潰れちゃったよ」
お世話(食事)なのかお世話(排泄物)なのかで話が変わるな

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