奴隷商人「俺が魔王討伐のパーティーに?」(226)

奴隷商人「なんだって魔王を倒しに行くとかまっとうなことを俺がしているのかわからねえ」

奴隷商人「つーかせっかく参加した勇者のパーティがなんかイメージ違う……」

勇者「さっきから何をいってるんですか……?」

女魔法使い「ほっときなよ、いつもの酔っ払いさ」

姉魔法使い「勇者君は気遣いができるやさしい子だもんねー」

妹魔法使い「お兄様、今日はそろそろここで野宿いたしましょう」

初めてスレたてるししかも即興で書いてるが大丈夫か……?

奴隷商人「突っ込みたいところはいろいろある……」グビ

奴隷商人「突っ込みどころその1は、勇者のパーティが異様に魔法使いに固まってるとこ」

奴隷商人「一度メンバーに聞いてみたら……」

(回想)

姉魔「えー? だってメンバーを厳選しなきゃいけないのに魔法が使える人間を選ばなきゃいけない理由がないでしょ?」

妹魔「格闘技や剣術を如何に使えようと遠距離での高火力を保証する魔法使いの方が便利、それだけです」

女魔「まーいざとなったらのときのためにあたいたちも剣くらい使えるしな」

(回想終わり)

奴隷商人「たしかに、いた反論の余地がないのは確かなんだが……」

奴隷商人「俺がおとぎ話でおばあちゃんから聞いてた勇者のイメージと違うし……なんか違うし」グビ

女魔「ちょいと! また酒を飲んでんのかい!」

奴隷商人「うっせー! 酒が飲みたいときだってあるんだよ!」

姉魔「あ、あの……もしよかったら私たちのテント作るの手伝ってくれる……かな?」

妹魔「というか手伝いなさい、それは義務です」

奴隷商人「へいへい」

奴隷商人「突っ込みどころそのにー」

奴隷商人「まあ俺の存在なんだけどな……?」

奴隷商人「俺が俺自身をつっこまなくちゃならんとか意味わからんな……」グビ

奴隷商人「明らかに不似合いなはずなのになあ、俺と勇者一行」テントヒロゲ

勇者「っ!」バッ

女魔「どうかしたかい!?」

勇者「女さん……この辺りに敵がいます! 黒い魔力を感じる!」

妹魔「! あそこ!」

魔物「!!!!!!!!」コエニナラナイコエ

妹魔が指差したその先には、逆光の夕日に背を向けたグレムリンの群れが空を舞ってこちらに突っ込んできていた。

勇者「迎撃準備!」

姉魔「勇者君! 角度13の方向45から60、距離は約550だよっ!」

女魔「奴隷商人! ぼさっとするな! さっさと迎撃準備だ!」

奴隷商人「お、おう!」

勇者「中近距離の対空魔法を使ってください!」

妹魔「対空魔法『赤の四十二番』、発動準備よし! 角度良し!」

女魔「アレは新型のグレムリンだ……赤の四十二番では火力不足かもしれないよ!」

姉魔「私も迎撃用攻撃魔法を展開するわね!」

勇者「面で攻撃して地帯戦術をとってください!」

妹魔「奴隷商人、準備はできた!?」

奴隷商人「まかせろ!」

そういって奴隷商人は、勇者たちが乗っていたのとは別の方から、薄汚れた一人の少年を引きずり出してきた。

少年「…………」

少年はぐったりしていて、眼が片方つぶれている。

奴隷商人「自分で立てよ……ったく」

奴隷商人は少年を強引に立たせると、妹魔の横にひざまずかせた。

奴隷商人「妹魔! 存分にやってくれ!」

妹魔「わかりました!」

妹魔はそういって奴隷の手を取ると、ナイフで彼の掌に思い切り突き刺した。

奴隷「……」ウツロ

突き刺さったナイフは青白く光りだした。

妹魔「奴隷の生命力を魔力にして……いっけー!」

妹魔のかざした手のひらから霧のようなどす赤い霊体が噴き出す。

空中を舞うグレムリンたちは構わず突っ込んでくるが、その直前で霊体が液体のようなものに変わる。

姉魔「赤の四十二番……濃硫酸霊体放出……をくらいなさい!」

グレムリン「キキッ!」

グレムリンたちの酸がかかると、黒く、さびた鋼のような肌が焼け焦げ、ずるりとピンク色の肉が飛び出した。

何匹かのグレムリンはその苦痛と衝撃に耐えきれずにまっさかさまに地面に落ちてつぶれていく。

奴隷商人「勇者、おれさー」

勇者「後にしてくださいっ! まだ殺り残してます!」

奴隷商人『いや、グレムリンの死に声って屠殺される豚の声に似てるよなって思っただけなんだけど……」

奴隷「……」

女魔「途中から声に出てるよこのバカ商人!」

女魔は奴隷の近くまで来ると、今度は奴隷の左肩にナイフを突き刺し、えぐった。

女魔「こいつをくらいな! 緑の二番!」

同じようにナイフからは青白い閃光がほとばしり、次の瞬間生き残ったグレムリンたちが残らず地面に墜落した。

奴隷商人「なあ……緑の二番って……」

勇者「そうですね、脳を膨張させて破裂させる魔法です」

奴隷商人「えっげつねえなオイ……」

女魔「アタイだって好きじゃないさ……」

女魔「だけどあの距離なら魔力を大量に必要とする赤の魔法より緑の方がいいと思ったのさ」

姉魔「緑の魔法は生体操作系だからねー。じつは壊す分にはコストが低いんだよ」

奴隷商人「いやいい笑顔でそんなこと言われてもな」

姉魔「な……ひ、ひどいよっ奴隷商人君! まるであたしが血も涙もないみたいに!」

姉魔「勇者君! この子どう思う!? ひどくない!?」

勇者「ま、まあ、ほら、グレムリンも倒したことですし!細かいことは!」

奴隷商人「いったれよ勇者……正直あの発言はアレだって……」

姉魔「アレ!? アレってなんなのよーもう!」

奴隷商人「少なくともおしとやかとは違う何かだな、そう思うだろ勇者?」

勇者「……」

姉魔「え、ちょっと勇者君ひどいよっ!」

妹魔「はいそこまでにしましょう。そこの奴隷の彼も疲れているみたいですし」

グレムリンの肢体がいくつかころがる野に、同じように放っておかれた少年が気絶していた。

女魔「あー、今日は結構大きな呪文を使ったしなー」

妹魔「そうですね。赤の魔法は強力ですが、エネルギー消費が激しすぎるのか困りものです」

奴隷「……」

女魔「あ、起きた起きた」

勇者「だ、大丈夫ですか?」オソルオソル

奴隷商人「無駄だよ勇者……放っておけ。後始末は俺がする」

勇者「でも……僕たちのために体を張ってくれたんですし……」

奴隷商人「そういう意味じゃねえんだよ……そいつは耳が聞こえねえんだ」

勇者「……え?」

奴隷商人「まあだから安かったんだがな。ギルドでたらいまわしにされてたんだ」

奴隷商人「だからそいつと話したいときは文字で会話するんだ、こんな風に」

奴隷商人は落ちていたグレムリンの爪で地面に「部屋に戻れ」と書いた。

奴隷「……了解しました、主様」

呂律のまわらない舌でそういうと、二本のナイフが刺さったまま奴隷は馬車に戻っていった。

勇者「……」

姉魔「ゆ、勇者君! 深く考えちゃだめだよっ! あいつらはそういうものなんだよ、ね?」

妹魔「まったくですよ勇者様」

女魔「おまえが勇者としてアタイたちを率いることは、あいつらが奴隷であることと一緒さ」

勇者「……そう、だよね」

奴隷商人「……俺を見るなよ」グビ

奴隷商人『やれやれ、さすが貴族出の坊ちゃんは手がかかるな』

奴隷商人「まあ、それはそれとして、だ、勇者」

勇者「は、はい、なんですかっ!?」ビクッ

奴隷商人「いくら消耗品とはいえ、あのまま傷を野ざらしにしとくのはまずかろう」

奴隷商人「だれかが手当てをしなくちゃならん。お前やってこい」

勇者「ぼ、僕がですか?」

奴隷商人「本来商品の管理は俺の仕事だが、テントを張らなくちゃならんのでな」

奴隷商人はそういって救急セットを勇者に渡した

勇者「失礼、します……ってくさっ!」

勇者「なんだこのひどいにおい……」

奴隷「……勇者、さま……?」

少女奴隷「ご主人様から言いつけでもあったんですか?」

勇者「いや、そこの怪我している君の治療をしたいと思って……」

少女「そうですか! ではこちらへ」

勇者『六人乗りの馬車に八人も詰め込まれている……狭い』

ちょっと風呂入ってくる

勇者「思ったよりも傷が浅い……よかった」

奴隷「……」

勇者「……よし!傷口の縫合終わったよ!」

勇者「後はこの軟膏を塗って薬草と一緒に包帯を巻けばおしまい!」

勇者「どう? 痛くない?」

奴隷「……」スッ

奴隷が差し出した黒板には、「アリガトウ」とだけ書かれていた。

勇者「そんな! 例を言うべきなのは僕たちなのに!」

奴隷「『みんなをまもってくれて、アリガトウ』」

勇者「僕たちは、ただ……」

少女「そこまでです勇者様」

勇者「君は……」

少女「少女とでもおよびくださいまし。勇者様、お気遣いは感謝します」

少女「ですが、ここはほれ、かのように汚らしく、狭苦しい場所」

少女「奴隷の身であるわたくしたちこそこのような環境でもありがたく住まわせてもらっておりまするが、普通のお方、ましては勇者様ともあろう高貴なお方のお身にさわりがあるといけませぬ」

勇者「そんなことないよ!」

少女「何が違うのです? それに、私どもは奴隷商人様の所有物。あまりべたべたと関わり合いになりますとこちらとしても困ってしまうのです」

少女「ですから、どうかお引き取りくださいまし」ペコッ

勇者「……あ……う……」

次の日

女魔「ねー勇者、そろそろ次の街につくのかい?」

勇者「え……ど、どうだろう? 奴隷商人さん知ってます?」

奴隷商人「ったくしょーがねーなー。たぶん次の街までは今日中につくとおもうぜ」

妹魔「しっかりしてください、勇者様」

姉魔「まあまあ妹ちゃん。わたしたちの勇者様だもん、私たちで支えなきゃ」

奴隷商人「それにしても勇者はぼけっとしすぎだよな」

勇者「す、すいません」

奴隷商人「そんなことじゃ、次の街がどんな街だってことも知らないんじゃないか?」

勇者「はい……何しろ異国の地なので」

妹魔「奴隷商人は次の街について知っているのですか?」

奴隷商人「ああ。一度行ったことがあるぜ。何しろ商人だからな」

姉魔「へー、どんなところだったのかしら?」

奴隷商人「まあちょっと特殊な街だな。そのせいで俺は儲け損ねたんだが」

奴隷商人「聞いて驚け、なんと次の街では奴隷が存在しないんだ」

勇者「え?」

奴隷商人「それだけじゃない、貴族も王族もいないときたもんだ」

奴隷商人「街のモットーは「市民の街」っていうらしくてな。その街に入った瞬間奴隷が奴隷でなくなるんだと」

女魔「アタイもどこかで聞いたことがあるよ……でも嘘だと思ってた」

奴隷商人「ところがどっこい、これが本物なんだな」

奴隷商人「ま、そういうわけで俺は商品をぜんぶ吐き出してもうけも出せずすごすご帰るしかなかったってわけ」

妹魔「面白いですね、その話。でもそのようなことをすれば街が逃亡奴隷であふれて秩序が乱れるのでは?」

姉魔「それに、奴隷の持ち主が黙っているとも思えないわ」

奴隷商人「おいおい、こっちは馬車を運転してんだからそんなに一気に訊くなよ」

勇者「……奴隷商人さん、聞かせてくれませんか」

勇者「お願いします」ペコ

奴隷商人「頭を下げられちゃしょうがねえな。まず姉魔の質問から答えるぞ」

奴隷商人「次の街は内陸ながら大河につながる港もあるうえ、鉱脈も近くにある一大都市で税を大量におさめている」

奴隷商人「しかも都市の実質的な指導者はこの『月の国』の王族に連なる血脈だ。帝国からお墨付きをもらっているのさ」

しえん

姉魔「すごいわね……私たち『墨の国』の人間からしたら想像もつかないわ」

奴隷商人「ハン、まあそうだろうな。俺は世界中をまわったが、なかなかこういう思い切った街は少ないもんだ」

妹魔「次は私の質問に答えるのです、奴隷商人」

奴隷商人「あ? 確か秩序の話だっけ?」

妹魔「そうです」

奴隷商人「まあ、逃亡奴隷がこの町に逃げ込んで自由を得た……そのあとを考えりゃすぐわかる」

女魔「まどろっこしい言い回しだね」

奴隷商人「そういうなよ。こいつはなかなか面白い問だぜ?」

奴隷商人「女魔、なんでお前は魔法使いになろうと思った? まあそれは自分の選択だったとしても、勇者が勇者になったのは選んだことじゃない」

奴隷商人「結局、人間は何かにならないといけないのさ」

奴隷商人「そうしないと生きていけない」

奴隷商人「そして、そうしないと生きてはいけないのさ」

勇者「……奴隷商人も?」

奴隷商人「ったりめーだろばか。何を決まりきった事を」

妹魔「逃亡奴隷の話、ちゃんとしてください」イライラ

>>30 サンクス 初めてだからなんか手ごたえつかめなくて怖いから助かる

奴隷商人「じゃ、解答な。妹魔、逃亡奴隷が逃亡した、で逃亡奴隷の人生が幸せに終わると思うか?」

妹魔「……あっ!」

奴隷商人「まあ夜伽話ならそこで『めでたし、めでたし』って本を閉じんだろうけどな」

奴隷商人「人生は長いぜ。そして生きるためには飯を食わなくちゃならない」

奴隷商人「ところがどっこい、商業都市で一人前の商人として生きるために必要なもの―――すなわち、コネ、カネ、技術」

奴隷商人「逃亡奴隷がそんなもん持っているわけがないだろ?」

奴隷商人「商売に参加するにはそれだけじゃなく、ギルドへの参加が不可欠だ」

奴隷商人「ま、結局のとこ奴隷は奴隷だったときと同じかそれ以上にひどい生活を送ってるのが大抵のオチさ」

奴隷商人「借金を返せなくなってまたほかの街で奴隷の身分に落ちる人間も腐るほどいる」

奴隷商人「そのうえ、奴隷ではないということはメシの保障がどこにもないことを意味する。そりゃそうだ、持ち物じゃないからな」

勇者「それって結局……結局形を変えた奴隷制度みたいなものじゃないですか!」

女魔「しかも奴隷の供給源には事欠かない……何しろ向こうから来てくれる」

妹魔「表向きは奴隷制度なんかないっていうけど、結構えげつないですね」

奴隷商人「ま、俺の仕事を街が肩代わりしてるみたいなもんだしな」

奴隷商人「でも奴隷は結構生きがいを感じて働いている奴は多いぜ。成り上がるやつもいる」

奴隷商人「そういう点ではあながち悪いともいえないと思うぜ」

奴隷商人「っと。話している間に街に着きそうだ。みんな準備しとけよ」

勇者・女姉妹魔「了解!」

そういうと、森を走っていた二台馬車の目の前に整備された石畳の道が現れた。

石畳の轍の上を、馬車は進んでいく。

女魔「そういえば奴隷商人、お前の奴隷は街に入ったら困るんじゃないのかい?」

姉魔「そうよね。奴隷が解放されてしまうわ」

勇者「もしかして、彼らを解放するためにこの街に……?」

奴隷商人「ちげーよ、ばか。俺は外に残ってお前たちの帰りを待つつもりだったんだよ」

奴隷商人「お前らの『墨の国』の王様がいうにゃ、『月の国』に魔王がいて魔物を生み出しているんだろ?」

しかし、まあ魔王倒しても奴隷商人がパーティーにいたんじゃカッコはつかないよな

おお勇者と商人がまともすぎる

魔法使い達は割り切ってるんだろうけど冷酷や残酷なイメが固定しそうだな

支援

勇者「そう、だから僕たちは『墨の国』に潜入して調査を続けているんだ」

勇者「そしてそれが選ばれた人間である僕としての義務……」

女魔「……勇者////」

姉魔「勇者くん、かっこいい!///」

妹魔「どこまでもお仕えいたします勇者様……///」

奴隷商人「どうしてこうなった」

さらに進むこと一時間。森をようやく抜け、街の所有する銅鉱山の地帯に入る。

妹魔「これだけ険しいと兵隊を送り込んでも攻撃は難しそうです、勇者様」

姉魔「しかもその周囲には森……待ち伏せにはうってつけね」

女魔「奴隷商人の言うことにはこの先には川があるんだろ? どうやったってこんな街落とせないぞ」

奴隷商人「……だといいんだがな」

勇者「奴隷商人さん……?」

少女「ご主人様! ここは危険です!」

後ろの馬車から少女が叫ぶ。

奴隷商人「やはりか」

勇者「どういうこと!? 何か敵影が……いや、でも僕が見落とすはずが……」

>>39 >>40 ありがとー まじ心強いよ

少女「勇者さま!逆でございます!なにも「見えない」からこそ問題なのです!」

勇者「!!!」

女魔「そういえば……これだけ大きな街の街道なのに、いまだに馬車一台どころか働いている人間すら見当たらないのはおかしいね」

奴隷商人「そゆことな。……みんな、つかまってろよ!」

奴隷商人は大きく叫ぶと、手綱を握りしめて馬をさらに走らせた。

険しく細い天嶮の崖道を、早馬のような速度で二台馬車が轟音と共に駆け抜けていく。

勇者「あ、あっぶうなあああああ!」

妹魔「は、はやく曲がるですうううううわああ!!!」

姉魔「……」ジワ

女魔「ど、奴隷商人! 姉魔が限界だ!いろんな意味で!」

奴隷商人「ここは止まれない! 付け加えるなら姉魔の限界の先を俺は見てみたい!」

姉魔「……も。も。も。」ジワジワ

女魔「い、いい加減にしろ奴隷商人!ここから先は姉魔の女の子としての尊厳がいろいろダメになるぞ!」

妹魔「お、お姉さま我慢なさってくださいってうわあああああはやいこわあああ!」

勇者「……みんな!前の道に!」

崖道の前には、野に幾重にも折り重なった人間の死体と、それをむさぼる数えきれないほどのピクシーがうごめいていた。

>>43外野レスに反応するとうるさい奴がいるから心の中で感謝すると良い

おもしろいスレは支援来て当たり前と思えばおk

勇者「と、止まらないとぶつかる!」

奴隷商人「止まるな! どのみちあれだけ多いピクシーに馬車に取りつかれればおしまいだ!」

奴隷商人「走り続けて奴らを突破する!」

女魔「道がふさがってるのがみえねえのかよ!」

奴隷商人「魔法で吹き飛ばせ!」

女魔「奴隷がいないと撃てない!」

奴隷商人「甘ったれるなクソアマ!」

女魔「でも!」

勇者「僕が……」

勇者「僕がまりょ奴隷商人「なら俺を使え!」

>>47、48 感謝。レスはこれからなるべく返さないようにする。初めてだから反応があると嬉しくてさ……つい。

全員「!?」

奴隷商人「四の五の言うな! 距離残り五十! 女魔、赤の13番だ!」

そう怒鳴ると、奴隷商人は女魔の儀式用ナイフを自分の脇腹に突き刺した。

勇者「奴隷商人さん!」

女魔「……魔力充填! 発射制御終了姿勢制御終了目標確認!手続き完了!赤の十三番放出!みんな頭を下げろ!」

凶悪な勢いでピクシーの群れに突っ込んでいく馬車。

二重の牙を持ち、四枚の羽根をうならせて飛ぶピクシーも同じように馬車に向かってくる。

百、二百では済みそうにない群体が一斉に馬車にとびかかろとうとした刹那に、それは起きた。

女魔「赤の十三番!」

女がそう叫ぶと、周囲の空気が皮膚に痛いほどに振動した。

次の瞬間、ピクシーたちの体が一斉に破裂する。

ぶくぶく、と目玉から口から耳から、泡を吹いて吹っ飛ぶもの、あるいは今しがた喰らった人間の指が裂けた腹から飛び出すもの。

骨格が奇妙に膨れ、次の瞬間には骨が千散と砕けるもの。

いずれにしても、生き残ったピクシーは皆無だった。

奴隷商人はその脇腹にナイフを深々と突き立てたまま、脂汗を流しつつその煉獄を駆け抜けた。

奴隷商人「……こういう、ときに。いいたかった……言葉が……」

妹魔「無理しないで下い奴隷商人! 傷は浅くありません!」

奴隷商人「言いたかった……言葉があるんだ」

勇者「奴隷商人さん!」

奴隷商人「汚ねえ……花火だぜ」

そういうと、奴隷商人はその手綱を勇者に押し付けて気絶した。彼の腹からはとめどなく血があふれていた。

次に奴隷商人が目覚めると、そこは素朴な山小屋だった。

奴隷商人の隣には老婆の奴隷とその手から魔力を補給し、回復魔法―――緑の九十八番を発動している姉魔が座っていた。

姉魔「あ……お、お、お、ど、奴隷商人くうんんん!」

奴隷商人「イタイイタイイタイイタイすごい痛いから抱きしめないで!でもちょっといいかも……って嘘やっぱり痛い!」

姉魔「ヴぉおおおおん!うわあああああんよかったよおおおおお!」

奴隷商人「無理無理無理!マイムマイムはできない!やめてすごいいたい!」

奴隷商人「結局絞められた痛みで失禁するまで離してもらえなかった」グスン

妹魔「お、起きたのですね奴隷商人。半禁呪扱いされている赤の十三番を発動させてこれだけ早く回復するとは驚きです」

奴隷商人「回復魔法のおかげだろ」

妹魔「……赤の十三番は、魂を削る以上に命を削る恐ろしい魔術ですから、そうとも言えません」

奴隷商人「型っ苦しい話はいいんだよ」

奴隷商人「結局あの後どうなった?」

妹魔「……山を抜けるルートで、より敵に発見されにくいであろう方を選んで走りました」

妹魔「途中、何回か魔物に襲われましたが、警戒を常に切らさなかったおかげでいつも通りに対処することができました」

妹魔「あなたのおかげです、ありがとうございます」

奴隷商人「……それだけか?」

妹魔「……ッ!」

勇者「いいんだ妹魔、ここからは僕が話すよ」

妹魔「勇者様……」

奴隷商人「……」

勇者「僕たちは……君が倒れたあと、何体かの魔物と交戦し、殲滅した」

勇者「でも……こちらにも被害が出た。甚大な、被害が」

勇者「あの、少女って子を、守れなかった」

勇者「君の、大切な積み荷を……」

勇者「すまない……」

奴隷商人「……」

妹魔「私が……加減もわからず、赤の十三番をあの子を媒介に撃ってしまったばっかりに……」

妹魔「奴隷の死には……慣れています」

妹魔「私たちと彼ら。天秤にかけたとき、生き残るべきなのは私たち、という信念もあります」

妹魔「それは、私たち魔法使いと勇者さまを天秤にかけたときに死ぬ覚悟とです」

妹魔「ですが……」

妹魔「私の未熟さが彼女を殺してしまった。そこは変わりません。あなたの大切な積み荷を損なわせてしまった」

妹魔「申し訳、ありません……」

奴隷商人「……いいよ」

妹魔「……」

奴隷商人「俺は許す。俺のものを死なせたことを、俺は許してやるよ」

勇者『『俺は』……ってどういう意味だろう……?』

言い忘れた
デフォかどうか知らないから言っとくんだけど俺のssではキャラの思考を『』で書いてますあしからず。
蛇足だったらごめんなさい。

つかなんか話の着地点が見えないぞ……コレ終わるのか?

妹魔「……あの子を……葬ってきます」

奴隷商人「白い花が好きだったから」

妹魔「……はい」

奴隷商人「あれで結構お酒は飲む子だったから」

妹魔「……はい!」

奴隷商人「じゃ、行ってきな。涙は見せるなよ」

妹魔は真っ赤になって唇を噛みながらすごい勢いで山小屋を飛び出していった。

二人きりになった部屋で、勇者はうつむいたままだったが、語り始める。

勇者「……奴隷商人さんは、すごいです。僕なんかよりよっぽど勇者にふさわしい」

奴隷商人「まあな」グビ

勇者「勇気も、決断力も、知識も、度胸も……それに比べて僕は……」

奴隷商人「まあはっきり言って、お前が奴隷なら微塵の価値もねえことはわかる」

勇者「奴隷……なら」

奴隷商人「だから、そんなに自分を否定するなよ」

奴隷商人はその掌を勇者の頭に乗せた。

奴隷商人「屑の自己憐憫野郎なんてきいてて楽しくないからな」

勇者「……僕は、屑、ですか」

奴隷商人「俺は人間の価値に関しては嘘をつかねえよ」グビ

奴隷商人「二束三文だよ、お前」

奴隷商人は微笑む。

奴隷商人「お前よりも価値の低い人間はいないから、卑下しても謙遜しても誰も喜ばない。いや、お前が何をしようと何も変わらないんだよ」

奴隷商人「だから、しょうがないんだよ。お前は悪くない。ただ、ただ駄目だっただけだ」

奴隷商人「お前の感動は、一念発起は、ふてくされは、嫉妬ややっかみは、情愛は、敵愾心や誠意には価値がない」

勇者「……」

奴隷商人「深い穴を想像しろ。深い、深い穴だ。お前はそれだよ。お前の存在は穴の形のようなもので、お前の形はないと同じだ」

奴隷商人「穴は自分の形を持たない。穴という存在はない。たまたま周囲の大地の形がそういう風に削れて穴のように見えるんだ」

奴隷商人「お前は神託を受けた『勇者』としてそこにあるだけの存在だ」

奴隷商人「穴に金をかける奴はいない。せいぜい埋めて均してから土地として使うだけだ」

奴隷商人「屑には使い道がある。穴には使い道がない。ただただ虚ろなだけ――――」

勇者「酒。」

奴隷商人「は?」

勇者「酒を寄越せっつってんだろ!!!!」

そういうと、勇者は奴隷商人が飲んでいたフラスコをひったくり、思い切り飲み干した。

奴隷商人「ちょ、おまそれおr勇者「るっせええよ!」

勇者は泣き出した。酒を飲みながら、とめどなく涙が眼尻からあふれてくる。

勇者「僕は穴なんだろうが! 酒くらい放り込めなくて穴もくそもあるかよ!」

奴隷商人「……あいよ」

奴隷商人がもう一本酒を差し出すと、それも一気に飲み干す。口の端から惜しげもなくこぼれる酒が、涙とまじって床に落ちた。

勇者「あなたは……なんであなたはそんなに強いんだ! なんで揺るがないんだよ!」

勇者「僕はあなたを理解できない!」

勇者「僕はさっきあなたが自分にナイフを刺したとき、見た」

勇者「服の隙間から、確かに見たんだ!」

奴隷商人「……」

勇者「あなたが昔、奴隷だった時の傷を!」

勇者はそういって奴隷商人の服をまくり上げた。

そこからのぞかせる腹筋には、儀礼用ナイフ特有の三角傷が幾重にも重なってついていた。

勇者「あなたは……昔、奴隷だったんでしょう?」

奴隷商人「……そうだ。そして、違う」

勇者「は……?」

奴隷商人「後は、自分で考えな」

そういうと、奴隷商人はまた寝床にこもってしまった。

なんとかここまで書いたけどこういうテイストってssにふさわしいのか……とふと怖くなってきた
だってお色気シーンとかおもらしのほかに皆無なんだぜ……?
ここまでの出来がちょい聞きたいす

84点。

>>77 深く突っ込めないかんじの点数やな……なんにしてもありがとうございます

マウンテンデュー買ってきて再開

(勇者と奴隷商人がアルコールの力でいちゃいちゃしているころ)

姉魔「今日は疲れたわね……」

女魔「ああ……この半年で一番多く魔物と戦った気がするぞ……ほら、お前も飲むといい」トクトク…

姉魔「ふふ、こんな辺鄙な場所で女魔ちゃんのお酌で飲めるなんてね。なんか変な気分だわ」

女魔「普段なら酒なんて飲まずに交代で見張りしなきゃなんねーけど、な。どのみちこれ以上は奴隷から魔力を搾り取れん」

女魔「魔術の使えぬ魔法使い……まあ仕方あるまいよ。それに久しぶりに酒を楽しむのも一興さ」

女・姉魔「カンパーイ」

姉魔「……それにしても……まさかお風呂があるなんて、ね。ステキだけど」チャプ

女魔「鉱山労働者は山にこもりっきりで働く、きつい仕事だ。ほかの街や国ならきっと奴隷がやらされているのだろうが、ここにいるのはあくまで『市民』だけだからな」

女魔「それ相応の扱いが必要って事だろーよ。ま、アタイは体をきれいに出来るだけで満足さ」

姉魔「見て、天窓から月が見えてる……雰囲気あるわね」

女魔「そうだな」

姉魔「雪解け水を沸してのお風呂なんて初めてだけど、なかなかいいものね」

女魔「……」

姉魔「……」

姉魔「あの……ね?」

女魔「何?」

姉魔「女魔ちゃんってさ、いつから魔法を習ってた?」

女魔「さあ……お父様が習え、と言ってきたときは……確か五つか六つの時だ」

姉魔「へえ、ずいぶんと早いのね。私は12歳からよ」

女魔「あいにく私はお転婆でな。そうだ……あの時は私は騎士に成なりたかった」

姉魔「あ、なんかわかるわね」

女魔「全く笑えるよ……あのころにはもう騎士なんて絶滅しかけていたのに、な」

姉魔「なんで?素敵だと思うわよ?」

女魔「姉魔……」

女魔は苦笑いをして、月を仰いだ。満月がぽっかりと天窓に浮かんでいで、箱庭のようだった。

女魔「そう、正義の白い騎士の話が大好きだった……なんで忘れていたんだろうな」

姉魔「女魔ちゃんは……だからいつも剣を持ってるの?」

女魔「そうだ……と思う。旅に出てからは護身用として買ったものだが、きっと私は根っこのところで剣士に、騎士になりたかったんだろうな」

女魔「白騎士の話は、知っているか?」

姉魔「うん、知ってる。お兄様がよく「白騎士ごっこ」の悪役を私にさせたの」

女魔「『私の剣は私のためにふるうのではない。わたしが生きるとき、わたしのためにしたことはない』」

姉魔「あはは、懐かしいわね。そういって魔王と刺し違えるんだったっけ」

女魔「本当に……本当に、あこがれてたんだ」

女魔「一人でもあきらめず、何も頼らずに戦う姿に……」

女魔「だから、最初に奴隷から魔法を取り出したときは、悔しかった」

女魔「私はじぶんの力だけで悪と戦いたかったんだな、あの時は」

姉魔「……今は違うの?」

女魔「折れ曲がっちゃったのさ、アタイは」

女魔はもう一口酒をあおると、そこで黙りこくった。

姉魔「……わたしもね」

姉魔「折れ曲がっちゃったんだ、きっと」

姉魔「奴隷をね、どうやっても奴隷にしか見えないの。あれは人間だ、私たちと同じ人間だって言い聞かせてみてもね、ダメなの」

姉魔「路傍に転がる石みたいにしか感じられないの」

姉魔「それが、つらいと思えないの。……まるで悪人よ」

姉魔も酒を一口含んだ。

翌日。

勇者たちは無事に下山した。途中にいくつか壊滅した山小屋があったが、昨日の戦闘で大分狩ったのか下山の時の戦闘はなかった。

女魔「一時はどうなることかと思ったけど、無事に下れてよかったね!」

妹魔「魔法を使わずに済むのはありがたいことです」

女魔「そうだな……って、あ!アレは例の河じゃないか?」

奴隷商人「そのようだ。行くぞ!」

勇者「……いきましょう」

後ろの馬車にも奴隷商人が声をかける。

馬車は走っていく。走って走って、ようやくついた川の向こう側に――――

もうもうと火の手が上がる城壁が見えた。

奴隷商人「あー、そっかー」

奴隷商人は妙に得心した様子で顔をしかめた。

奴隷商人「なぁるほど、なあ。それで山岳の採掘場に誰も兵隊が派遣されなかったわけだ」

勇者「奴隷商人さん……アレは……その……」

奴隷商人「戦火だよ、戦火。見りゃわかるだろ。あーあ、せっかくの麗しの都、月の国の商業都市が台無しだ」

奴隷商人「だが……ま、戦争ともなれば俺の出番だな」

勇者一行は、そこで意見が二つに割れた。

勇者、妹、奴隷商人は「商業都市に入るべき」、残りの二人は「迂回して次の街にこのことを知らせに行くべき」ということだった。

勇者「目の前で魔王の輩に人が嬲られているんだよ!?」

勇者「ここを避けるなんてことはできない!」

姉魔「落ち着いて、勇者さま」

女魔「……われわれの戦力では、そもそも魔王軍と正面切って戦うことはできない……このたびの目的も、魔王の居場所を突き止めることだろう」

女魔「そしてわれわれ人間の国が連合を組んで魔王を数で仕留める。そういう取り決めだったはずだ」

勇者「それは……そうだったけど……」

女魔「あんたが勇者と呼ばれる所以は、アタイたち人間が結集した暁にはいのいちに人間の軍の先頭に立ち、魔王を仕留める」

女魔「その役目をわすれちゃったのかい?」

女魔「情に流されるなよ、勇者。アタイだってなさけなくてやってられない気分なんだ」

奴隷商人「戦場があるときはおれのかきいれどきだからな、まあ俺としては行かない手はない」

妹魔「私も都市に潜入するべきだと思います」

妹魔「私たちには普通の人間とは違って、奴隷がいます」

妹魔「彼らを囮にしたり壁にしたりすれば、どんな危険な展開でも切り抜けられるはずです」

妹魔「それに、都市の市民を救助しなくてもいいんです」

勇者「……それ、どういうこと?」

妹魔「つまりですね、偵察ですよ」

妹魔「どのみち避けては通れない敵がいるのですから、少しでも戦いを有利に持っていきましょう」

その一言で商業都市への潜入が決まった。

奴隷商人「……とは言ったものの、どこから這入るかな」

勇者「魔族が敵に襲われたときに侵入した入口を使えば……」

奴隷商人「魔族の真後ろにでちゃうだろーねー。きっと人気者になれるぞ」

勇者「うぐ……」

女魔「結局、自力でこじ開けるしかないかな……」

勇者「何とか入ったけど」

奴隷商人「こりゃひでえな」

そこにあったのは、血みどろになって横たわる人間と魔族の亡骸だった。

路地という路地、街辻という街辻に凄惨な戦闘のあとがのこっていた。

奴隷商人「はは……見事見事。いや、すげえ。なめてたわ、商業都市」

奴隷商人「奴隷か傭兵の兵隊抜きでここまで戦えるとはたまげたもんだ。見ろよこの魔族の死体の数。並みの戦闘じゃこんなに魔族を殺せない」

女魔「……確かに。これは少しおかしい」

女魔「人間が……数だけでなく、地力で魔族を押している……?」

奴隷商人「まあともかく、だ、人間側はいま少しでも兵隊がほしいに違いない。在庫をさばきに行くぜ」

都市の人間「止まれ! 貴様らは何者だ!」

勇者「私は墨の国から派遣された勇者です。ここに墨の国の紋章が」

奴隷商人「そんでもって俺が奴隷商人だ。どうだ、兵隊を買わないか?」

都市の人間「……ここは月の国の皇帝殿下が認めた自由の街だ。奴隷を解放しろ」

奴隷商人「半壊してるがな」

都市の人間「我々はきっと魔族を殲滅する。きっとだ」

都市の人間「なぜなら、それが自由の民の務めなのだからだ」

というわけで寝落ち
明日は忙しいのですこししか書けないと思う
いろいろつたなくてすまん あと対人対応がまずかったのもすまん 気を付ける

復帰
都市の人間2「急げ! 敵の第二陣が襲ってくるまでにバリケードを築くんだ!」

都市3「槍を持て!男も女もない!街に忠をつくせ!」

妹魔「……このような士気の高い軍隊は初めてです」

姉魔「聖地攻略の騎士団や魔王討伐の軍でも、ここまでの覇気はなかったわ……」

女魔「ああ、町中が一つに心を合わせている……みんな決死の覚悟だ。さっきみた夥しい戦果はそのせいか」

勇者「……きっと……きっと、みんな、自分の守りたいものを守るために戦っているんだ」

勇者「だから、こんなに強いんだ」

奴隷商人「……」

勇者「みんな、聞いてくれ。……僕は、僕はあの人たちと同じように、この街を守るために戦いたい」

女魔「は?」

妹魔「ここは偵察のために訪れた、そういったはずです勇者様」

勇者「君たちの手は借りなくてもいいんだ。僕が、戦いたいんだ」

勇者「誰かのためじゃなくて、自分の満足のために戦いたい」

勇者「自分が納得できるまで、やりたいんだ。戦う理由を、誰かにもらうわけじゃない戦いを」

勇者「だから、行くよ」

妹魔「勇者、さま……だって、それは、それはダメですよ。だって、魔法使えないじゃないですか」

女魔「勇者、お前……正気でいっているのか」

姉魔「確かにこの街の人は強いわ……体もそうだけど、それ以上に、心がね。でも、魔族の前ではあっさりと殺されてしまうのよ」

勇者「分かってるよ、みんな。大丈夫だ」

勇者「まあ死ぬかもしれないけど、だけど大丈夫なんだ」

奴隷商人「……ま、やりたきゃやるでいいんじゃねーの」

奴隷商人「どのみち勇者なんて「つくられる」もんだしな、替えはきくさ」

女魔「おい……いまなんつったてめぇ!」

勇者「いいんだよ女魔。奴隷商人の言う通りさ」

勇者「……それに、奴隷商人。お前にも何か考えがあるんだろう?」

奴隷商人「はァ? なァアんのことでしょうかあ? 俺は生まれてこの方考えを持ったことなんてないザマス」

勇者「……まかせたよ」

奴隷商人「……とっとと行けば?」

姉魔「勇者君をそそのかさないでください、奴隷商人さん!」

妹魔「お姉さま、こいつに何を言っても無駄です」

奴隷商人「さっすが妹ちゃん、俺のことそんなに理解してくれててうれしいぜ」

妹魔「……あなたなんて、どうでもいい。私は勇者さまの意思を尊重するだけです」

奴隷商人「……カァアクィイイイイっすねぇステキステキー」

妹魔「あなた、さっきから様子が変ですよ?」

勇者「今に始まった話じゃないさ」

姉妹女魔「それもそうだ」

奴隷商人「よーしお前らが俺のことどう思っているかすげえよくわかった」

勇者「じゃ、本当に行ってくるよ。君たちは安全な場所に避難しておいてくれ」

奴隷商人「まあちょっとまて、勇者」

奴隷商人「今思い出したんだが、お前、俺に金を渡していたな」

勇者「は?」

奴隷商人「いやあすまんすまん、商品の受け渡しにこんなに手間取ったのは初めてだ。まったく商人の名折れだな」

勇者「……あんた何言っているんだ?」

奴隷商人「いやあ、まあな、なんというかすまんな」

奴隷商人「あれだけの大金をもらっておいてなんだ、とりあえず馬車に積んでいる俺の商品をもっていけ」

奴隷商人「それなりに武術の心得があるやつもいるしな」

勇者「……おまえ……それって」

奴隷商人「べつに、ただの商談さ」

奴隷商人「というわけで、お前ら! 集合!」

つき従っていた奴隷たちが、一斉に

奴隷たち「はい、ご主人様!」

奴隷商人「いまからお前たちの所有権をこのへたれ勇者(笑)に移す」

奴隷商人「お前たちは全力でこいつを守れ」

奴隷たち「了解しました」

勇者「……みんな、いいのか?」

少年奴隷「……『死にたくは、ない』」カリカリ

少年奴隷「『だけど、僕たちは君のモノだから』」

少年奴隷「『君の意思に、従うものだから』」

少年奴隷「君が、何かをしたいと思うのなら」

少年奴隷「僕たちは、それに従うよ」

少年奴隷「行きましょう、ご主人様」

勇者「……ありがとう!」

奴隷商人「バカ、礼なんていらねえんだよ。もっと傲慢になれ」

勇者は、無言で笑って戦場にかけ出して行った。

女魔「行っちまったよ……私等はどうする?」

姉魔「決まってるでしょう、追わなくちゃ! 勇者様に何かあったら旅が終わるわ!」

妹魔「それに、私たちは勇者様の輩。いわば奴隷と同じです」

妹魔「彼を守る義務がある」

魔法使いたちもまた、勇者を追っていく。

奴隷商人が一人、がれきの中に残されていく。

奴隷商人「……行っちゃったかい」

奴隷商人「んじゃまあ、俺もちょっくら行ってきますか……いうところのビジネスってやつにな」

(勇者サイド)

魔物の第二陣が到着し、市民との衝突が始まっている街辻。勇者たちは街の人間に混じり、率先して魔族と戦っていた。

姉魔「赤の四十番、撃ちます! 下がって!」

赤い稲妻が、八本の腕を持つゴーレムたちに炸裂し、燃えカスだけが後に残っていた。

勇者「みんな!敵の前線が崩れた!突っ込むんだ!」

市民「了解した!いくぞ!」

街のあちこちで火の手が上がり、悲鳴がこだまする。

そんななか、勇者たちは持ち前の魔術と魔族との戦闘の経験を活かし、最前線で魔物たちと競り合っていた。

勇者「でやあああああ!」ザク

魔物「ギャアアアアア!」

市民1「すごい……あの少年、さっきから剣だけで魔物と渡り合っている」

市民2「それだけじゃないぞ! 魔法もかなり強力だ。見ろ、魔物がひるんでいる」

市民3「勝てる……これなら勝てるぞ!」

勇者「でやぁああああっ! 殺った!」ザシュ

勇者は血みどろで歯がこぼれ始めた剣を今にも市民に噛み付いてきそうだった緑色のオーガに放る。

もともと戦場で拾った誰の者とも知らぬ剣は、その刀身を逆光に閃かせながら風を切り、オーガの胸に吸い込まれるように突き刺さった。

オーガ「うがああああ!」

突然の呻くオーガの懐に一足飛びで飛び込むと、渾身の力で剣を掴み、ぐりぐりと敵の内部をかき回した。

この世のものともつかぬような絶叫と、自らの顔面に降りかかる大量の体液にひるみもしない勇者が、そこにいた。

勇者だけではない。剣を持った市民たちはみな狂騒の中で自失しながら武器をふるっていた。

刺し違えるもの。囮になってわざと食われるもの。深手を負ってなお、魔物に剣を突き立てるもの。

人の戦とは思えないような光景が広がっている。

市民「殺せ!殺せ!勝鬨までもうすぐだ!」

市民「町を守れ!」

死者の手から拾った剣をもって死にゆく人間たちの群れに魔族たちが全体的に気おされている中、一か所、その流れに飲み込まれていない場所があった。

ほかの魔物とは明らかに一線を画す禍々しい八面六臂の化け物が、そこにたたずんでいた。

その怪物の周りに人間は居ず、引き裂かれ焼かれた亡骸だけがその理由を物語っていた。

勇者「……アレは……?」

妹魔「いたっ!勇者様!」

姉魔「探したんだよこのバカ!」

女魔「姉魔が勇者をバカ呼ばわりするなんて……というかそれアタイが言うべきだよ」

姉魔「女魔ちゃんはだまってて! いま本当にわたし怒ってるんだから!」

妹魔「こんなに起こっている姉さまは初めてです……が、……」

妹魔は目の前に立ちふさがる化け物をもう一度眺めた。幾多もの矢を撃たれたはずなのに、化け物の体には傷一つついていない。

奴隷たち「勇者様。われわれ奴隷にも損耗が2人出ました」

奴隷たち「しかし、街の西側を中心に魔物の勢力を駆逐しつつあります」

勇者「……わかった」

勇者「お前たち、僕の頼んでいたことはやってくれたかい」

少年「・・・・・うん」

少年「西側が終わり次第、すぐにできるよ……」

女魔「アタイはそこの少年奴隷から話を聞いた時にはさすがに無理だと思ったけど」

女魔「さすが勇者、といったところかしら」

姉魔「だからって勇者君は無鉄砲すぎるよ! 今まではこんなことなかったのに!」

姉魔「それに、勇者君の「計画」を成功させるためには、私たちだけであの化け物を引き留めないといけないんだよ?」

妹魔「間違いなくアレは今まで対峙してきたなかで最強クラスの敵です……」

勇者「そのくらいわかっているさ」チラ

勇者「でもね……僕だって、せっかく見つけた戦う理由を、こんなところで放り出しておきたくない」

勇者「それにね、なんかあいつにだって勝てそうな気がしているんだ」

勇者はそういうと、敵にまっすぐにぼろぼろの槍を向ける。敵も敵で、勇者の殺気と呼応するようにその八本ある腕を鉈のように変化させ、翼を展開する。

妹魔「勇者様……それは楽観が過ぎるというものでは」

勇者「そのくらいでいいのさ。傲慢でいい。そうでないと、僕の都合で命を張る連中に顔向けできないよ」

勇者たちと化け物の戦闘が始まった。

(そのころ)

奴隷商人「はっはあ!あっぶねえな!」ヒョイヒョイザク

器用に魔族・ラミアの攻撃を避けつつ、すれ違いざまに一匹の喉もとに短剣を突き刺す。西の港地区に侵入している奴隷商人は、波打ち際に浮いている船を器用に飛び越えつつ、お目当てのものを探していた。

奴隷商人「つーか広すぎだ商業都市! ドックだけで何個あるんだよ!」

ラミアの群れ「キシャアアアア!」

奴隷商人「そしてテメーらも群れすぎなんだよおおおおお!」ザクザク

ラミアは人魚に近い魚人族だが、その見た目は人間と似ても似つかない。むろんその膂力も人間が到底及ぶものではない。

しかし、奴隷商人は持ち前の逃走技術でその攻撃をかいくぐりながら、ある都市のなかの一点を目指して駆け抜けていく。

奴隷商人「って!いうけど!これじゃ!死んじゃうって!」ヒョイヒョイザクヒョイヒョイヒョイ

奴隷商人「逃げてる最中になんか敵増えてきてるし!」バッ

ラミアたちの鋭い尾、牙が飛び交う波打ち際で、紙一重の攻防が繰り広げられていく。

もはや天才的というべきその回避能力を、しかし数の力でラミアたちは徐々に圧倒していく。

奴隷商人「ちっくしょう!そろそろもうダメだっ!」ヒョイヒョイヒョイヒョイザクヒョイヒョイザクヒョイ

ラミアたち「キシャアアアアアアアアア!」ザバアッ!

奴隷商人『あ。』

奴隷商人『やべ、この牙は避けらんねえ』

奴隷商人『死んだ』

???「そこの男!いますぐ思い切り前のボートに飛び移れ!」

奴隷商人「!!!!!ッあああ!」ダン!

四方八方の水面からとびかかってくるラミアの凶刃の包囲網。奴隷商人はその正面から突っ込んできたラミアを踏み台にして、かろうじてボートまで跳んだ。

しかし、ボートのヘリに手がかかっただけで、体のほとんどはラミアの狩場である川の中に落ちてしまう。

奴隷商人『……な、なにをやっているんだおれわ』バシャバシャ

奴隷商人『死んだ。今度こそ本当に死んだ』

???「おらぁっ!白の七番を展開!」

誰ともつかぬ人間がそう叫んだ次の瞬間、ラミアたちの前に民家ほどの大きさもある大鷲のつがいが現れ、ラミアたちを一蹴した。

大鷲の鋭い爪に触れるだけで、骨ばったラミア性質の体が面白いように裂かれていく。

瞬きの間に、あれだけいたラミアの群れはこれ以上ないほどに殲滅されつくしていた。

???「……ふう、間に合った」

奴隷商人「た、たすかった……名前を聞いてなかったな(それにしてもイケメンだな)」

街主「ああ、私は街主といって、この町の筆頭書記を務めさせてもらっている」

街主「……というか、君は私の顔を知らないのかい? この町に住んでて?」

奴隷商人「なにしろよそ者なもんでね。それにしてもすごい魔法だった。白系統はなかなか使い手がいないと聞いたが、すごい威力じゃないか」

街主の護衛「あったりまえだよ!街主様の魔法にかかればあんな雑魚軽いもんですよね!」

街主「……私は無力さ。街の人間をたくさん死なせてしまった」

街主「もっと……私に力があれば!」

護衛「そ、そんな!西の敵は駆逐したし、街主さまはできるだけのことをしましたよ!」

奴隷商人「それに、今は戦時だ。余計な干渉に浸るのはお勧めしないぜ」

街主「わかって、いる……」ギリ

奴隷商人「ん? まて、さっき西地区は殲滅したといったな」

街主「ああ、なんでも東の方に勇者が来ているらしい。彼らの奮戦のおかげで西方面の敵を包囲して殲滅することに成功した」

街主「今は二手に分かれて港と東地区にそれぞれ兵隊を差し向けているよ」

街主「……もしかして、君、勇者一行の―――」

奴隷商人「……ちゃうよ。俺はただの奴隷商人さ。アンタを探していた」

奴隷商人「俺と、契約をしないか」

奴隷商人「……というわけだ。どうだ?」

護衛「てめえ! そんなふざけたことを言いに来たのか!」

護衛「自由の市民として、てめえを殺しても――――」チャキ

街主「やめろ、護衛。剣を退くんだ……そいつ、私たち二人がかりでもおそらく倒せんよ」

奴隷商人「随分俺のことを高く『買って』くれるねえ」

奴隷商人「そんなら、おれもお前さんがたに高値を付けてやるよ」

奴隷商人「さあ街主! 乗るか! それとも反るか!」

奴隷商人「今、決めるんだ」

街主「なあ護衛」

街主「私の選択は……正しかったのか?」

護衛「俺……俺は、くやしいです!」

護衛「あんな奴の口車に乗らざるを得ないなんて!」

護衛「あんなやつ初めて見た……あんな悪魔みたいな取引を、まるで野菜でも扱うみたいに笑いながらっ・・・・・!」

護衛「怖い……俺、怖いよ……街主様……」

街主は、護衛の少女の手をそっと握ると、やさしく少女を抱き寄せた。

街主「ごめんな。……ごめんなっ……」ギュッ

街主は少しの間、護衛の少女の震える肩を抱いていたが、やがて、少女のすすり泣く声は止んだ。

護衛「い……いぎま……エグ……行きま、じょう! まだ戦いは、おばって、お、終わってないです!」

護衛「グズ……自由の民として……わたしは……最後まで戦います!」

街主「……強いな、お前は」

街主(それに比べて、私は……)

街主(自分の弱い部分をお前に肩代わりさせている、私は……)

街主「……一緒に来てくれ。一緒に戦ってくれ。一緒に守ってくれ!」チャキ

護衛「……はっ、喜んで!」グズ

(そのころ)

勇者「なんなんだよ……なんなんだよこいつはっ!」ブン!

女魔「赤の十三番が……アタイの最強魔法が効かないなんてそんな出鱈目ありかよ!」

妹魔「化け物……いえ、そんな言葉では足りませんね」

勇者「危ないっ!みんな隠れろ!」

魔物「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!」ゴウッ

姉魔「打たれ強いにもほどがある……きっとどこかに弱点があるはずね」

妹魔「姉さま!急所こそ外れましたが傷は浅くありません!」

姉魔「っていっても、ね……」チラ

剣奴「ぜやあああああああっ!」ブン

少年「……」ヒュンヒュン

姉魔「魔法抜きであんなに頑張っている子たちのまえで、あたしたちが膝をつけるわけないでしょ!」

女魔「……ああ! そうだな!」

勇者(とはいってももう限界だ)

勇者(姉魔は肩をえぐられてもうほとんど利き手が動かない)

勇者(さらに、戦闘に参加していない奴隷から搾り取れる魔力はもうほとんどゼロに近い)

勇者(さいわい、最初の2名以外人死には出ていないものの、だからこそ一瞬で互いをかばって全滅しかねない)

魔物「フンッ!」ゴウッ

魔物の体中からさらに鋭利な詰めが生えた腕が生え、さらに市民の死体を食って戦闘中も大きく成長を続ける魔物は、一向に疲労の色を見せない。

むしろ、今の方が初めて戦った時よりも強くなっているのが、勇者にはわかった。

勇者(全滅を避けるためには……っ!)

勇者「……剣奴、少年、お前たちはもっと前に出ろ! その間に俺たちはいったん散開する!」

剣奴、少年「・・・・・・了解」コク

女魔「お、おい勇者!あいつら死んじまうぞ!」

勇者「……そのほかの人員は散開! 合図を出すまで剣奴と少年はここを死守しろ!」

勇者(すまない・・・・・・ふたりとも・・・・・・・)

剣奴「……行っちゃったよーうわーマジ行っちゃったよふざけんなよくそマジコエンだっつのつーかなんかずっとしゃべってなかったから口動かすのも億劫だしああもうやだなあ怖い怖い怖いってもう」ヒュンヒュン

少年「剣奴。ぼく耳遠いから勇者様みたいに叫んでくれないと聞こえないよ」ヒュンヒュン

剣奴「あーあーそうでしたそうでしたねえ少年君は耳が遠いんでしたねえじゃあ今からでっかくさけぶけど『あれなんだよふざけんな!』でかいし固いし早いし怖いぞ! いくら慣れてるからっていい加減泣くぞ! あとしゃべり倒すぞ!」

少年「剣奴。きこえない」ヒョイ

剣奴「そもそもおしゃべりな俺とこいつだと相性悪いんだよなーでもあのくそったれ勇者の近くにいるのもなーんかやだしなー結局身内でしゃべる方が楽だしなー」

少年「しゃべってないで手を動かそうよ。っていうか避けるので精いっぱいだけど」ヒュン

少年「剣奴、あとどのくらいしのげそう?」ヒョイドカーン

剣奴「んー、死ぬ気でやれば2分。死ぬことを前提にしたら3分(ハンドサイン)」

少年「……」ハァ

剣奴「ま、勇者のクソはどうだか知らないけどよ、旦那にゃあなんか考えがありそうだったからよ、何とかなるだろ。最悪死ぬだけだし、せいぜいおしゃべりしながら楽しくやろうぜっ……っとおおおお!あっぶね!」ヨケル

剣奴「っはっ!まあなんだ!死ぬ気で死ぬんだ!なんかすっげえぞ今の俺!」

剣奴「闘技場なんかでおきまりでおざなりな剣奴なんかと喧嘩してた過去より旦那の口車に乗った今が正解でなくてなんだっつーの!」バシュッ

剣奴はそう叫ぶと、敵の腕の一本を跳んで避け、また全力で斬りつける。まるで踊る鹿のような軽やかな足取りで、剣奴は魔物の馬鹿力をいなし続ける。
まさに戦士ではない、剣奴としての業が煮詰まったような戦い方が、そこにあった。

少年「……剣奴……あんなに強かったのか」ダッ

剣奴「!!ぼさっとするな少年! 右だ!」

その剣奴の表情をみてようやく自らに迫る危険に感づく少年。右目がつぶれているその視界を狙っての攻撃には、どうしても反応が遅れてしまう。

剣奴「あぶねえっ!」ブン

剣奴は少年奴隷に伸びる一本の腕に腰につっていた手斧を投げつけ、見事にしとめたがもう一本の腕はとらえきれない。

少年「くっ……」

少年が自らをかばおうと体を丸めたその瞬間――――

街主「待たせたな、客人」

二羽の神々しく輝く大鷲が、腕を疾風とともに叩き切っていた。

街主「召喚魔法白の七番。……醜悪な化け物風情には負けんよ」

護衛「あれが……敵の頭か。俺たちの頭にかなうと思うなよ」

護衛はそういうと、自分の二の腕に刺さっていた細身のナイフを握った。泡のような光の筋が二本、大鷲とのつながりを強調するように白く閃く。

街主「客人。勇者はどこですか」

剣奴「しらん。どっかいった」

護衛「はあ? なんだそりゃ」

街主「……恐れをなして逃げたのですか。情けない」

勇者「……僕はここだよ」

街主「ほう、戻ってくるとはいい心がけだ」

護衛「……ほかの奴らはどうしたんだよ、魔法の一つも使えない勇者様よう」

勇者「安全なところに置いてきた」

勇者「ま、途中でキュプロクスの群れとカチあったから遅くなったけどね」ボロ

勇者「その立ち振る舞いからすると……あなたがこの街の主、だね?」

勇者「すまないけど、あいつを倒すために協力してほしい」

勇者たちが話し合っている間も、二羽の大鷲は絶えず魔物に攻撃をする。剣や弓矢の攻撃とはちがい、魔物の肉を切るという戦果は上がっていた。
しかし、敵は敵、そのすさまじい生命力を以って瞬時に自己再生をする。
そのたびに歪んでいく敵の肉体は、どんどんと凶悪なフォルムを帯びていった。

街主「倒すのはいいが、こっちの白の七番で全力で攻撃しているのにあのざまだ。

勇者「さっきひらめいたんだ……」

勇者「僕をあいつまで近づけさせてくれ。勝算はある」

街主(こいつ……間諜から聞いていたのとはずいぶん印象が違う)

街主(勇者はただのお飾り、本当の戦力は三人の魔女だと聞いていたが……)

護衛「……やるなら……はやく、しろ」ゼエゼエ

街主(護衛の魔力消費も激しい……やるしかない)

剣奴「決まりだな」

そういうと、いったんは退いていた剣奴と少年が、その両手に新たに手斧を一本づつ握って敵に駈けだしていく。

剣奴「街主! 奴の右側面は俺と少年が引き受けた! 逆側は頼む!」ブン

勇者(あの無数の腕を潜り抜けて懐に潜り込めるのは一瞬)

勇者(剣を投げればひるむオークとはものが違う)

勇者(だが……あれだけの魔物、かなり高位の魔物に違いない)

勇者「いまだっ!」ダッ

勇者はがれきの影から魔物の唯一の死角、股下に全力で飛び込んだ。

魔物「がああああああ!」ブン

少年「邪魔……させない!」ザクッ

そして勇者は剣を放り捨て、代わりに魔法に使うための儀礼用ナイフを二丁取り出した。

勇者「ぜぁっ!」ブス

二本を敵に突き刺し、片手でそれぞれの柄を握ったまま、朗々と叫んだ。

勇者「試験術式無色の零番、起動!」

いつものようにナイフが淡く、そしてだんだんと強く光をはなっていく。

しかし、次の瞬間、あり得ないことが起きた。

勇者「いっ……けええええええ!」

勇者の体と魔物の体が、同時に目もくらむばかりの光を放ったのだ。

街主「……無色の、零番だと!?」

街主「あいつ……あいつ、まさか!」

街主はその間隙に、勇者がやった術式について、そしてそれをどう使ったのかについての答えを導き出した。

剣奴「何が起こって……!」

護衛「う……くそ、何も見えない!」

光が止んだ時、そこには倒れ伏す勇者と動かなくなった魔物の姿があった。

(そのころ)
天まで刺し貫くような閃光が上がるのを確認したパーティ一行。

女魔「勇者……あいつ、うまくやったみたいだ、な」ボロ

姉魔「女魔ちゃん……あまり、離さない方が……つっ!」ボロ

妹魔「あんなもの……うまくいったとは言えません!」ボロ

妹魔「無色の零番を……『魔力試験回路』を自分を介したショート回路で組み立てるなんて!」

妹魔「たしかに、相手は相手自身の生命力に刺し貫かれることでしょう」

女魔「通常の魔法は……味方を魔力源にして発動させる」

女魔「しかし、条件さえ満たせば敵からだって魔力を引き出せる、なんて考えを実戦で使うなんてね」

妹魔「……あれほどの体力を持つ魔物ですが、自分自身には勝てない、というのも道理です」

妹魔「でも! あんなことをしたら、勇者様もそれと同じかそれ以上の負担を受けるはずです」

妹魔「魔力を、それも強大な魔力を変換もせずに直接体に入れるなんて聞いたことがありません!」

妹魔「勇者様……どうか御無事で……」

女魔「無事なわけが無いだろ。……まあ、生きていればそれでいい。それだけで、十分だ」

姉魔「……勇者だもん」

姉魔「私は、大丈夫だって、信じてるよ」

(奴隷商人side どこか高い塔の上。閃光が上がった瞬間)

奴隷商人「はっはあ! 考えたじゃねえの勇者君! たしかに、死なば諸共の精神で命を拾うってことはままあるからな」ニヤニヤ

奴隷商人「ま、生きてるだけは生きてるとは思うからとりあえずいーかどーでも」プイ

水晶玉「……い! おい!」

奴隷商人「はいはーい、および?」

水晶玉「二日前から移動させておいてその言いぐさはなんだ。お前がいい商品を持っているというから、わざわざ部隊まで組んできてやっているんだぞ」

奴隷商人「アンタは部隊、ウチは舞台――――それぞれ持ち場があるってもんさ、そう愚痴るな」

水晶玉「で? まだそっちには魔物が残っているんだって?」

奴隷商人「ああ。やっこさんがた、敵の頭を殺ったとおもって今頃大喜びなんだろうがな」

奴隷商人「どっこい、敵だって考えてるさ。あいつらが戦力を固めて魔族の主力部隊を殲滅しているうちに、ちょろちょろと魔界への門を開いた阿呆がいるようでな」

奴隷商人「門自体は小さいが……数が多い、グレムリンの軍団をひとつふたつ送り込むには十分だ」

奴隷商人「ま、街主あたりは気づいているんだろうがな。ぼろぼろになって気が緩んでる今のままじゃ太刀打ちはできんだろうさ」

水晶玉「……了解した。もうそちらの城壁が見えたのでな、次は現地で会おう―――」ブツッ

奴隷商人「……はいよ、んじゃね」ブツッ

奴隷商人「さああっって。一番おいしいところをかっさらいに行きますか」

奴隷商人は塔をまたのぼり始める。

奴隷商人「まあ馬鹿でもわかることとして、だ」コツコツ

奴隷商人「堅守を誇る街が、どだいふつうの魔族の侵攻ってだけであっさり陥落するわけがねえんだよな」コツコツ

奴隷商人「そういうケースの原因は古今東西一つっキリさ」コツコツ

奴隷商人「―――裏切り者、だよ」

塔のてっぺん、鐘楼の場所まで奴隷商人が上ると、一人の少女が街を見ながら腰かけていた。

少女「ふーん。やっぱ、わかっちゃったわけか」

奴隷商人「まーね。ほら、俺って頭いいから」ニヤニヤ

少女「じゃあ、あたしってやっぱバカだったんだね」

少女「でも、いいよ」

少女の薄い胸には、深々と魔術用のナイフが突き刺さっていた。その痛々しい姿とは裏腹に、少女は微笑みながら奴隷商人の方を向く。

少女「ねえ、知ってる? 死人ってね、切っても切っても血が出ないの」

少女「死んだら血が冷たくなって、体の中で固まっちゃうからなんだよ」

少女「わたしもね、もう血が出ないの」

少女「ふしぎでしょ」

奴隷商人「……奴隷商人は、奴隷商人ギルドで正式に奴隷商人として認められるとき、いくつかの秘儀を授かる」

奴隷商人「ギルドに参加していない奴隷商人と俺たちとの違いは、そこだ」

奴隷商人「その秘儀の中に、生きたまま心臓を人質にとる方法がある」

奴隷商人「奴隷商人に心臓を抜かれた人間は、半死人として持ち主の命令を絶対に聞くようになる」

奴隷商人「こちとら世界中の奇形や奇人を売りさばいてきたんだ。少々のことじゃ奴隷商人をごまかせねえよ」

少女「あーあ、あたしって本当に浅はかなんだなあ」

少女「でも、ね。頭よくなりたいなんて、全然思わないんだ」

少女「この町の人間みたいに、タテマエだけとおして汚いことにふたをしてそれで満足になれるくらい、賢い人間にはなれない」

少女「なりたくないよ」

少女はそこで涙をこぼした。

少女「ねえ、私の話を聞いてくれる?」

少女は涙を流しながらも、それでも笑顔で言った。奴隷商人は袖に隠していた鉈を握ると、言葉を返す。

奴隷商人「……断るね」

少女「わぁ、酷い人ね」

奴隷商人「死人は商ってない。死人には触れない。死人は殺されて、それでおしまいさ」

奴隷商人「だからお前はそこでおしまいだ。……もう、終わっていいんだ」

そういうと、お互い笑顔のまま、奴隷商人は少女の首を切り落とした。

奴隷商人「……寝てろ」

少女が魔物の本体として機能していたようで、少女の首が塔から地面に叩き付けられた瞬間、砂上の絵のように例の魔物が消え去っていったのは、奴隷商人以外、だけも知らないこととなった。

奴隷商人は少女の体も塔から投げ落とすと、少女が座っていた場所に代わりに腰かけ、街を見下ろした。

火の手がところどころ上がる街に、夕日が沈む。

紫に染まる空が、大地にちかづいてくる。

奴隷商人「さあさあ、お手並み拝見と行こうか!」

そう言い放ったと同時に、街の各地に仕掛けられていた『門』の封印が解けた。

おそらく少女の死に反応したのだろう、小さいながらも数多くの門が一瞬開く。

グレムリンが、あちらこちらから、埃のように飛び出してくるのを、塔の天辺からみながら、奴隷商人は薄く笑った。

つかれた
とりあえずオチは都市篇はきめたので続きは後で書く
ていうか勉強しないと明日の免許詰むので微妙のとこですいませんけど落ちます

なんかキチガイがいて怖いのでとりあえずage

管理人さんに期待

グレムリン、ゴブリン、オーガ……

どれも低級の魔族といって差し支えはなく、対処さえ誤らなければ並みの人間でも十分互角に戦える程度の魔物たちだ。

火を恐れ、協調性を持たず本能のままに生きる彼らは、所詮少々気の利いた獣の群れのようなものだ。

しかし、いまこの瞬間―――すなわち、街の防御力が決定的に下がっているこのときなら。

あるいは、彼らですらこの町を壊滅せしめる力を持っているのだった。

市民「……ば、ばかな!どこからこんな敵が!」

市民「も、もう終わったはずだったろ!? うああああああ!」グサッ

空からはグレムリン、地には飛び跳ねるゴブリンとうごめくオーガの鉄槌。

やっとのことで戦いが終わったと思いこんだすきにつけこんだ攻撃だった。

街主「……あの男の言う通りになるとは……」

護衛「街主様……」グッタリ

街主「護衛、みんなの様子は?」

護衛「一応みんな街主様のおっしゃるとおりに武装を継続していたので、何とかパニックは避けられています」

護衛「敵が先ほどに比べると弱いのも本当です」

護衛「ただ……数が多い」

街主(……まずい。おそらく今の街では防ぎきれない……)

女魔「……アタイたちなら、アタイらの魔法を使えば」

街主「お前たちのだって深手を負っていることには間違いない」

女魔「そんなこと……うっ!」グラ

女魔の腕に巻かれた包帯から血がにじむ。傍らに座っていた奴隷の一人が、彼女の肩を支える。

姉魔「……」ゼイゼイ

妹魔「……どのみち、いま体力を魔力に移せるほど残している人間は……そういないでしょう」

妹魔「万事休す、ですか」

街の路地、四方八方を目的もなく、ただ血を追いかける狂気が跋扈する。

逃げ遅れた市民は、必死の抵抗むなしく囲まれ、殺されていく。

勇者「……」

勇者はあのあと治癒魔法を受け、何とか肉体的には生き延びたものの、魔力に侵された魂はいまだに目覚めようとしなかった。
そんな勇者の手を、優しく姉魔が握る。

姉魔「勇者君……ごめんね……」

姉魔「君の頑張りに……わたしたち……応えられそうにないよ……」ギュッ

奴隷商人「……はーい、お元気?」

女魔「お前……今までどこに……!?」

奴隷商人「まーまー、こっちもやることがあったんだって、結構忙しくてな」ヘラヘラ

護衛「……来たか。と、言うことは……」

奴隷商人「商談は成立だ。ま、俺の方の『納品』はすぐだよ。問題はあんたらの方だな」

街主「……わかっている。対価は払うさ」

奴隷商人はそこでくしゃっと笑う。そして、手に持っていた水晶玉に、ひとこと声をかけた。

奴隷商人「はじめろ!」

水晶玉「了解だ奴隷商人。派手にやらせてもらおう」

次の瞬間、天から無数の雷か降り落ちた。あまりにも静かに、雨のように、それは降り続ける。

それを合図にしたように、街に統制のとれた軍隊がなだれ込む。

あまりにも異様な光景が、また目の前に広がっている。

勇者がようやく目を覚ました時、塔の窓から見える景色を、そう思った。

音もない、虐殺。音もない、絶叫。音もない、いくさ火。

ゴブリンを踏みつぶす騎馬の足音すら大地にしみ込むような、そんな戦いぶりだった。

市民たちの狂想からくるものとは異質の、機械的な強さが、敵の魔物を圧倒していく。

この場にいる誰もが、その戦いぶりに圧倒され、勇者が目を覚ましたことにすら気づいていなかった。

奴隷商人「……よう、起きたか勇者ちゃん」

勇者「……奴隷商人、さん……げふっ」フラ

勇者「……あれも、あなたの仕込みですか……?」

奴隷商人「ま、そういうことだな。最近本業の方がおろそかだったもんで稼がせてもらった」

勇者「……あいつらは……いったい?」

奴隷商人「……勇者、さ」

奴隷商人「そら、もう戦争がもう終わったぞ」

勇者「……じゃあ、僕たちは……街の自由を護れたんですね……?」

奴隷商人「……無理しないで寝ろ」

奴隷商人がそう微笑むと、勇者はまた崩れるように眠りに落ちた。

満足そうな顔に、一筋だけ涙を浮かべていた。

勇者が次に目を覚ましたのは、仰々しいベッドの上だった。

勇者「……ここは……どこだ……?」ガバ

護衛「……よう、起きたかい」

勇者「君は確か……」

護衛「俺がだれかなんてどうでもいいことだ」ギロ

護衛「それより、貴様が目覚めたら連れてくるように言われている」

勇者(状況はわからないが、僕たちはとにかく街を守り切った)

勇者(ならば今考えるは僕と仲間の安全……街の人間が僕たちを害するとは思えないが、このただならぬ雰囲気はなんだ?)

護衛「……つきました」コンコン

街主「勇者を入れろ」

???「きたね・きたね・きたねぇ勇者君。ずううっと会いたかったんだよ?」

真っ白なドレスを着た背の高い女が、街主の隣に立っていた。

勇者「あなた……僕のことを知っているんですか?」

???「なんたってかわいい『勇者の』後輩だからね。もっとも私は女だから、聖女と呼ばれるがね」

奴隷商人「……俺がよんだのさ」

聖女「そうさ・あたしは・こいつに呼ばれた」

聖女「きみが『墨の国』の勇者であるように、『月の国』を背負って戦っている、この私がね」

街主「……今回の戦い、最後に現れた手勢は彼女の私兵団だ」

奴隷商人「そう。そして彼女にその昔に私兵を『売った』のは俺さ」

奴隷商人「勇者、お前に対して剣奴たちを売ったように、な」

奴隷商人「鉱山に入った時点できな臭い感じがしていたからな。ギルドを通じて聖女に連絡をつけておいたのさ」

街主「……結果的に、それが最善手となったようだ」

聖女「なあに・気にする・ことはない」

聖女「私だって・見返りは・もらってる」ニコ

勇者「……なんだって?」

聖女「『月の国』皇帝殿下の名において・私は・宣告する」

聖女「いまから・この街は・私が支配することを」

勇者「それって……つまり……」

街主「そうだ。この男は……奴隷商人は……街を生き残らせるために、街を殺したのだ」

街主「……この街の輝かしい共和制も、ここに終わる」

聖女「奴隷商人・とっても・ありがとう」

聖女「街ひとつ・たしかに・買い取らせてもらうよ」

奴隷商人「……まいどあり」

勇者「待てよ奴隷商人! それじゃあ―――それじゃあ僕たちが守った自由は――――」

聖女「悪いね・勇者君・君の手柄も・僕が頂く」ニコ

聖女「皇帝殿下への・とてもいい・土産話になりそうだ」

勇者「な……!」

奴隷商人「そういうことだ勇者。この場は退け」

ふざけるな、と勇者の怒号が飛ぶ。

勇者「街主! それでいいのかよ! こんなやつらの好き勝手にさせていいのか!」

勇者「誇りを以って自由を護るんじゃなかったのかよ!」

街主「……私は市民の命を預かっている。あたら無駄に散らせるわけにはいかん」

街主「勇者よ。お前の働きに、市民に代わって礼を言おう」

勇者「……やめろ……やめろよ……」ボロボロ

街主「本当に、有り難う」ペコリ

勇者は茫然自失となって、その場に膝から崩れ落ちる。

聖女「それじゃ・これで・話は終わったかな?」ニコ

奴隷商人「……こちらの取り分について、まだ話していないぜ」ギロ

聖女「……私の・軍を・動かしてやったろ?」

奴隷商人「それっぽっちで済むと思うな、この女狐」

聖女「あんまり・私を・怒らせるな・下等階級・つぶすぞ」

奴隷商人「やるかい? ……俺をつぶせばギルドまで動くぞ?」

聖女「……冗談だよ・冗談さ・たしか・勇者と市民の安全の保障・それに来る魔王戦での・助力だろ?」

聖女「覚えてるさ」

奴隷商人「それならいい」

勇者「……」

勇者「ふざけるなっ!」

その次の瞬間には、勇者の右手から発されるまばゆい光が聖女を襲っていた。

聖女「!!!」

紙一重でそれを避ける聖女。

聖女「まさか・本当に・本物かよ……?」

街主「やめろ勇者! 悔しいが、確かに聖女がいなければ私たちは無防備にさらされるんだぞ!」

街主「それに……市民も人質になっているんだ!」

勇者「……くっ!」

勇者はその手の光を自らかき消すと、悔しそうに唇を噛んだ。

聖女「君・器用な・真似するね・興味がわいてきた」

聖女「『ただ……ただまだ青いぜ。君は何にもわかっちゃいない』」

聖女「『なるほど君は本物の勇者かもしれない』」

ずっと張り付いていた薄ら笑いが顔から消え去った聖女は、彫像のように冷徹な面持ちで言い放った。

聖女「『だからって、君は今回の戦争で何ができた? 敵の親玉を殺したのだって、君一人の力なんかじゃ全然ないだろう? わたしだってそうさ。遍く人間は無力なのさ』」

聖女「『おとぎ話じゃないんだ、四、五人で魔王とその王国に立ち向かって勝てるわけが無いだろう?』」

聖女「『私たちは力学の中に生きている。それは数の世界だ。それは政治の世界なんだよ』」

聖女「『一人で強くなった君たちは、弱いからこそ群れ集まった衆愚には勝てないのさ』」

聖女「『本当に魔王に勝ちたいなら』」

聖女「『本当に魔王に勝ちたいなら』」

聖女「『私のように軍を率いて力を以って民を抑え、兵隊を取り立て』」

聖女「『奴隷を買い、利益を上げ』」

聖女「『他人を操り、不確定要素を根こそぎにする』」

聖女「『ここまでして強くならないと駄目さ』」

勇者「……」

勇者は眼を開いて、聖女の目の前に立っていた。

聖女「『殺してもいいよ。私を殺したいでしょう? いいよ』」

聖女「『私は聖女だけど、聖女が私でなくちゃいけない理由なんてないの』」

聖女「『かけがえのないものなんて、ない。それをよく知っているでしょう? ねえ、奴隷商人?』」

奴隷商人「……街はくれてやる。消えろ」

聖女はため息をついて首を振ると、音もなくその場から消えた。

>>199
聖女の「・」のことだったら文字化けじゃなくてそういう喋り方なんじゃね

とりあえずこんな感じで書いてみた。
続きをどうするかはまだ悩んでます
今日はひとまず落ちかな?
なんか展開希望とかあったらどぞ

>>203
そうですよ
まあパンチが足りなかったからキャラづけにやってみた

再開
街主「……さて、私はどうするかな」

勇者「……どうするって、あなたは街の――――」

街主「街の主は今は聖女だ。おそらく……当分私はこの町にはいられまい」

勇者「……僕のせいだ」

街主「話は最後まで聞くものだ、勇者」

街主「お前が私に対して負い目を感じていると思うなら、ひとつ頼まれてほしい」

勇者「……何でも聞くよ」

街主「そうか。では言わせてもらおう」

街主「当分の間、私と護衛は街から追放される。そこで、お前たちには私たちをかくまってほしい」

勇者「……え?」

奴隷商人「素直に言えよ、『お供にしてください勇者様』ってさ」ニヤニヤ

街主「……償え、勇者。お前には赦しを売ってやる。だから、後はお前が選ぶだけだ」

奴隷商人「あーらま俺のセリフとられちゃったわねー。……で、どうするよ勇者?」

勇者「……こんな僕でいいのなら、喜んで」

街主「決まりだな」

(街主・護衛がパーティーに加わった)

女魔「うーん」

姉魔「……どうしたの女魔ちゃん。痛々しいくらい全身包帯ぐるぐるのまま考え込んじゃって」

妹魔「姉さま、私たちみんなアバラから尺骨までボキボキに折れれます」

女魔「……いやな? 勇者についてなんだが」

女魔「あの怪物を身を張って倒したのは確かにすごいことなんだが、勇者には怪物以上にダメージがあったはずだよな・・・・・・・?」

女魔「なんで……あんなすぐ回復しているんだろう、って思って」

(三人の魔女は教会病院で治療を受けている)

姉魔「えー、私たち半分命削ってまで治癒魔法かけてあげたから、じゃない?」

妹魔「姉さま、あの魔物……実は悪魔だったのですが、あの者の名を知っていますか?」

姉魔「え……知らないけど……? けど結構特徴的だったわね。そういえば瞳が目玉に二つあって……それから……」ハッ

女魔「……無数の腕から生える蛍色の刃……なんで今まで思い出せなかったんだ!」ハッ

妹魔「『二次方程式の悪魔』『前後不覚の鬼』……仇名こそ多いですが、最も有名な呼び名はこうでしょう……「サヴァソルダ」」

妹魔「魔界の上級悪魔です」

女魔「……白騎士の物語ではこうも語られていた……すなわち、『撫で斬る悪魔』」

女魔「そんな奴の魔力……到底まっとうな人間が受けきれるものではない」

姉魔「だ、大丈夫……に見えるんだけれど……でも……」

女魔「……これもまた、勇者としての器がなせる業なのかもしれん。神がもたらした奇跡だな」

女魔「ただ……」

姉魔「?」

女魔「後遺症、みたいなものが残っていないといいがな」

(勇者、少女が死んだ尖塔に奴隷商人とのぼっている)

勇者「……結局さ、僕のやったことってなんだったんだろう?」

勇者「戦う理由……街の自由を護れなかったのに、僕は、僕のこの戦いが無意味であるように思えないんだ」

勇者「それは、僕の甘えかな?」

奴隷商人「戦う人間の魂ってのはそういう風に出来てんのさ。戦って生き残ると、負け戦でもすがすがしく思い出せる」

奴隷商人「そうでもしないと、心が持たねえのさ」グビ

勇者「……そっか。やっぱ奴隷商人は厳しいけど正しいや」

勇者「風、強いね」ビュウビュウ

奴隷商人「……ま、あくまでそれは俺個人の考えだ。違う考えの奴らもいるだろうさ」

勇者「はは、慰めてくれてるの? 奴隷商人らしくないね」

奴隷商人「ちげーよ」グビ

奴隷商人「本当にそう思ってるやつらがいるってことさ」クイ

奴隷商人はそういうと、塔の上から街を指差した。

勇者「……?」ミル

瓦礫と廃材の傷跡がいまだに深く残る街でが、夜の闇に包まれている。

塔の上の奴隷商人がその手に持ったカンテラを大きくかざし、一つ鐘を突いた。

威風堂々としたのびやかな音が、夜の闇を切り裂いていく。

奴隷商人「あのさあ、お前、『墨の国』の王からなんて名前もらってたっけ?」

勇者「……? ああ、勇者に任命されるときか。その日に蛍がやたらと多かったから、『蛍火の勇者』って占い師がつけてくれた」

奴隷商人「へえ、いい名前じゃないか」

勇者「ああ、僕も気に入っているよ。……あの日は、僕の人生最良の日だったと思う。あの日の光景は、きっと一生忘れない」

奴隷商人「人生は長いぜ? 忘れられない景色も、きっと増えていくさ」

勇者「さっきから何を――――」

そういったとき、勇者の視界の端で何か動いた。

勇者「え?」

息をつく暇もなく、こんどは逆の端でまた何かが動く。街で何かが起きているようだ。勇者は塔の欄干から身を少し乗り出して街を見た。

ぼつ、ぼつ、ぼつと、だんだんとその間隔をあけて何かが起きている。

やがて、勇者にもその正体がわかった。

奴隷商人「……偽蛍火、っつーんだとさ。もともとは戦争のあと、戦死者と戦士に感謝を示す古代の慣習で、今はもうすたれてたんだと」

奴隷商人「ある種の金属を粉にして燃やすと、まるで蛍のような色になるらしい」

街はいまや完全に蛍色一色に染まっていた。

あちらにも、こちらにも。命が光を放つように、はかなく、小さく、揺れる炎が星屑を散らしたように眼下に広がっていた。

勇者「……すごい……」

奴隷商人「ったく、酔狂な奴らだぜ」グビ

奴隷商人「ま、おかげでいいもん見せてもらったが――――こいつは俺のもんじゃねえな」

奴隷商人はそう言って去り、勇者は一人、その風景を見下ろしていた。

勇者「……」

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