【瑞加賀】加賀「瑞鶴は私のこと好きよね?」 瑞鶴「愛してます!!!」 (353)


前スレみたいなもの。

瑞鶴「加賀さん……好きです」 加賀「私も好きよ」
瑞鶴「加賀さん……好きです」 加賀「私も好きよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430034140/)

【瑞加賀】瑞鶴「加賀さんって私のこと好きだよね?」 加賀「……好きよ」
【瑞加賀】瑞鶴「加賀さんって私のこと好きだよね?」 加賀「……好きよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433684078/)

上記のスレの続編となります。
書き溜めはありますが逐次修正等しながらなので今回もまったり投下となると思います。
前から読んで頂いてる方もこのスレからの方も、暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450882939


「未来」

10月の半ば。軍による西方、北方同時攻略作戦が開始されて二ヶ月が経過した。
戦局の方はと言うと……飛龍先輩を中心とする北方攻略の方は滞り無し。近日中にアリューシャン列島の方まで突入できる見込み。

ただ、西方攻略隊の方は少し芳しくない。作戦開始からしばらくは、破竹の勢いとも言える快進撃を続けてたんだけど……
敵東方艦隊の本拠地であるカスガダマ島沖での戦いでここ一ヶ月程足止めを喰らっている。
原因は新型深海棲艦の出現とか色々あるんだろうけど、一番はやっぱり赤城先輩の不調だろう。
翔鶴姉が沈んでから明らかに調子を落としていって……それでも持ち前の精神力で戦線を支えててくれたんだけど……
それも限界に達して、つい最近艦隊から外されて長期休暇を言い渡されたと聞いた。

私は本土に赴いて赤城先輩に何度も何度も謝った。あの人は運命だったのだから仕方ないとか、気にしないでって言ってくれたんだけど……
こんな状況になってる以上、私としては気にしないわけにはいかない。翔鶴姉を沈めちゃったのは、他ならない私なんだから。


鈴谷「おーい瑞鶴~、お客さん来てるよー」

部屋で戦果報告書とにらめっこしながら色々考えていると、鈴谷が来客を知らせに来る。
一体誰だろう? 今日はそんな話は特に聞いてなかったんだけど……

瑞鶴「わかった、すぐ行くから」

私は資料を整理して机の中にしまうと、足早に応接室に向かった。


_____応接室

瑞鶴「失礼します!」

応接室に入ると、真剣な面持ちで座っている加賀さんの姿があった。その正面に二人の来客。
一人は私のよく知ってる、見知った顔。もう一人は……加賀さんから聞いたことがある、名前だけは知ってる人。

葛城「瑞鶴先輩! お久しぶりです!」

彼女は立ち上がると勢い良く抱きついてきて、私は少し体勢を崩しながら受け止めた。

瑞鶴「もう、危ないよ?」

加賀「近い……」

不機嫌そうにこちらを睨みつけてる加賀さんの顔が見えたので、私は少しだけ距離を取った。


葛城「す、すいません。久しぶりに先輩に会えたから、嬉しくなっちゃって……」

瑞鶴「ま、まあとりあえず座ろっか」

私は加賀さんの隣に座って手を重ねる。険しかったその表情が少しだけ柔らかくなったのを見て一安心。とりあえず本題に入ろうかな。

瑞鶴「それで、ご用件は? えっと……龍驤さん?」

龍驤「おっ、ウチのこと知ってるんか? そいつは光栄やな! よろしゅうな、瑞鶴」

瑞鶴「はい。よろしくお願いします」

龍驤……加賀さんと同い年で、共に一航戦として活躍してたって言う歴戦の空母。


龍驤「さて、ほんじゃ早速本題に入るけどな。カスガダマ沖でウチらが苦戦しとるっちゅう話は聞いとるやろ?」

瑞鶴「はい」

龍驤「その原因も……まあ、キミらならわかってるはずや」

赤城先輩のこと。やっぱり、改めて言われると胸が苦しくなる。

龍驤「今は蒼龍の奴が軽空母と組んで出撃してるんやけどな、如何せん力不足や」

龍驤「ウチや北方組に編成されてる飛鷹、隼鷹レベルならまだ戦いにもなるが、それでも赤城の代わりとなると厳しい」

龍驤「しかも、蒼龍は自分が赤城の分まで頑張らなって躍起になっとる。あの調子じゃいつ潰れるかもわからん」

龍驤「かと言って北方から飛龍や飛鷹、隼鷹らを呼び戻すっちゅうわけにもいかんやろ?」

龍驤「そんなことしたら今度は北方の方が行き詰まる。せっかくアリューシャン付近まで制海権を取り戻したのに、水の泡や」

龍驤「そこでウチが大本営に掛け合ってな。幌筵所属の正規空母の手を借りたらどうやって」

龍驤「さすがにこんな事態やしな。連中もどちらか一人だけって条件で、渋々了承したっちゅうことや」


瑞鶴「私が行きます!」

私は即答した。なんかもう、居ても立ってもいられない状態。

龍驤「ま、まあそう結論を急ぐなって。焦ったって何もいいことはないで」

龍驤「西方攻略隊も消耗が大きくてな、今は疲労抜きや資源の回復に努めとる」

龍驤「攻略が再開されるのはもう少し先の話やから、それまでにじっくり考えて結論を出して欲しいんや」

瑞鶴「は、はい……すいません。その、私……」


龍驤「まあ気持ちはわかるけどな。せや、ちょっと気分転換も兼ねて、葛城を連れてこの泊地を案内したってや」

龍驤「自分らが西方に行ってる間、この子が防衛要員としてここに残ることになっとる」

龍驤「今のうちに色々知っといた方がええやろ。な、葛城?」

葛城「はい。先輩さえ良ければ、よろしくお願いします!」

確かに、今の私はかなり焦ってる。龍驤の言う通り一度気分を落ち着けた方がいいか。

瑞鶴「わかった。じゃあ葛城、行こうか」

葛城「はい!」

葛城の手を取って足早に応接室を出て行く。加賀さんの顔を見ている余裕は無かった。


龍驤「さてと……加賀、そんな怖い顔すんなや」

加賀「別に……」

龍驤「わざわざ人払いしたんや。ウチの言いたいこと、わかるやろ?」

加賀「さあ、何かしら? 想像もつかないわね」

龍驤「あ~もう! 相変わらずの捻くれモンやな! ウチと一緒に西方に来て欲しいんよ!」

龍驤「瑞鶴の才能はウチも認める。けど、アイツもまだまだヒヨっ子やろ? 色々と危ういんや」

龍驤「安定した戦力を考えるならお前が来た方がええ。一航戦の鬼神言われたその力、見せたってや!」


加賀「まあ、赤城さんの為に手を貸すのは吝かでは無いけれど……」

龍驤「心配なんか? あのヒヨっ子と葛城が必要以上に進展してまうのが」

加賀「馬鹿なことを言わないでちょうだい。お笑いのセンスの無さは相変わらずね、龍驤」

龍驤「お得意のポーカーフェイスが崩れとるで加賀。何や、随分変わったな。一航戦の鬼神様がまるで恋する乙女やん」

加賀「……だから違うって言ってるでしょう?」

龍驤「わかったわかった。まあ、さっきも言った通りまだ少し時間もある。それまでに決心してくれればええわ」

龍驤「ウチは信じてるで、加賀!」

加賀「…………」


_____数時間後、瑞加賀の部屋

泊地を一通り案内した後葛城と別れ、敷いた布団に大の字になって身を投げ出す。
ちょっと疲れた。葛城が大はしゃぎしちゃってさ。そんなに泊地が珍しいのかな?

瑞鶴「えっと明日は……」

天井を見つめながら明日の予定について考えていると、ドアが開かれて加賀さんが帰ってくる。

加賀「瑞鶴、起きてるかしら?」

瑞鶴「あ、加賀さん。ちょうど良かった!」

私は飛び起きると、今考えていたことを伝える。


瑞鶴「明日からの朝練、葛城も一緒にやりたいって言ってたんですけど、いいですよね?」

加賀「!? ええ、構わないわ」

ほんの一瞬だけ驚いたような表情が見えたんだけど、多分気のせいだよね。

瑞鶴「やった! あの子、加賀さんのこともすっごい尊敬してたから、きっと喜びますよ!」

加賀「そう……そんなことよりそろそろ夕食の時間よ。早く来なさい」

瑞鶴「はーい」

もう、相変わらず素っ気ないんだから。あんないい子に慕われてるんだから、もう少し喜んでもいいのに。

加賀「行くわよ」

そう言って私の手を取って歩き出す加賀さん。あれ? 加賀さんからこういうことしてくるの、珍しいな。


_____三日後

葛城「それでねー、その時雲龍姉ったら……あ、あれ? 瑞鶴先輩? 聞いてます?」

瑞鶴「ん? あ、ごめん葛城」

午後の訓練が終わり、葛城と一緒に街へ買い出しに行った帰り道。

葛城「瑞鶴先輩、大丈夫ですか? 最近ちょっと上の空って言うか、その……」

言われてみれば確かに。ふと間が空くとどうしても考えちゃう。加賀さんのことを……

瑞鶴「加賀さんがね……」

龍驤と葛城が来てから、加賀さんと一緒にいる時間が少なくなった。
朝練では私が葛城に指導をしてるんだけど、加賀さんはそれを静観してるだけ。
多分私の指導のやり方とかを見てくれてるんだろうけど、やっぱり口出しとかして欲しいし……
それに、加賀さんは龍驤と話してることが多い。まあ昔からの戦友だし、積もる話もあるんだろうけど……

瑞鶴「やっぱり、ちょっと寂しいよ……」


葛城「瑞鶴先輩?」

瑞鶴「あ、何でもないよ葛城。さ、早く戻ろう」

上目遣いで顔を覗き込んでくる葛城。ダメだなぁ私。また葛城に心配を掛けちゃって……
この子の前ではちゃんと先輩らしくしてなきゃいけないのに。

瑞鶴「よし、葛城! 泊地まで競走だよ! 負けた方がジュース奢りね!」

視線を逸らして話を打ち切り、泊地に向かってダッシュ。

葛城「あ、ずるいですよ先輩~! 待ってください、私、駆逐艦の機関使ってるから足は遅いんです~!」

ごめんね、葛城。加賀さんとは今日にでもちゃんとお話しするから……


_____その日の夜、瑞加賀の部屋

お風呂から上がって部屋に入ると、加賀さんも戻っていた。ちょうど良かった、話がしたかったんだ。

瑞鶴「あの……」

加賀「瑞鶴。明日、時間はあるかしら?」

え? 加賀さんの口から出てきたのは思わぬ言葉。でもこれって、ちょっとマズい。

瑞鶴「あ、あの……すいません。明日は葛城に島を案内する予定が……」

加賀「葛城と? また?」


瑞鶴「はい。その、加賀さん、明日は予定があると思ってたから……」

加賀「なんの話かしら?」

瑞鶴「今日、加賀さんと龍驤が話してたところに通り掛かって、詳しい内容までは聞けなかったんですけど」


龍驤『ほな、明日はよろしゅうな?』

加賀『ええ、わかったわ』


瑞鶴「とか聞こえたのでてっきり……」

加賀「はあ……相変わらず早とちりなのね」

これ以上ないって程、呆れた顔を浮かべる加賀さん。私、また何かやらかしちゃったのかなぁ?


加賀「明日はあなたと出掛けようと思ってたから、その帰りにお菓子を買って来るよう頼まれただけよ」

瑞鶴「そ、そうだったの!?」

タイミング最悪。最近離れてた加賀さんとの距離を戻せるチャンスだったのに……

瑞鶴「本当にごめんなさい! 私、また……」

加賀「まあ、先約があるのなら仕方ないわ。またの機会にしましょう」


加賀「でも、島の案内はもう済んだんじゃないの?」

瑞鶴「そうなんですけど、まだ一つだけ行ってない場所があって」

私も割と最近、加賀さんに連れられて知った、この島で一番綺麗な景色が見られる場所。
大分道が険しくて、艦娘くらいの身体能力がないと辿り着けない。つまり提督さんや島の人達すら知らない秘密のスポット。
加賀さんも昔翔鶴姉に教えてもらったらしい。その場所を、加賀さんは「硝子の花園」と呼んでいる。

瑞鶴「あの、硝子の花園に。あそこ、すっごい綺麗だし葛城もきっと喜びま……」

加賀「やめて」

私が言い終えるよりも早く、加賀さんが低い声で遮った。心なしかその体が震えてるようにも見える。


瑞鶴「加賀さん?」

加賀「あそこは、私とあなたと……翔鶴さんの場所」

瑞鶴「え? 加賀さん、そんな意地悪言わなくても」

加賀「他に誰もいない……誰も、いらない……」

瑞鶴「ちょ、加賀さん? どうしちゃったの? なんか変ですよ!?」

加賀「瑞鶴。あなたは私が鉄でできてるとでも思っているの?」

瞬間、ドンッと押し倒されて……物凄い力で抑え込まれた。


瑞鶴「えっ!? ちょ、やだ! 加賀さん、何!?」

力だって私の方があるはずなのに、全然振り解けない。徐々に恐怖が頭を支配してくる。

加賀「もう限界なの。あなたのその無自覚な優しさが、私を苦しめるの!」

瑞鶴「んっ!?」

そのまま服を脱がされて、貧相な胸を揉まれながら唇も奪われた。やだ……怖い。

瑞鶴「か、加賀……しゃん……」

舌を入れられながらも必死の抵抗を試みるけど、全部徒労に終わる。全く動けない……
やだ、やだよ。私、いつか加賀さんとは一線を超えてみたいとは思ってたのに……それが、こんな形だなんて……


瑞鶴「か、加賀さ……い、痛っ……」

唇が解放されたと思ったら今度はキスマークを付けられる。首筋、胸、お腹……
まるで加賀さん自身を刻みつけるかのように、幾重にも……
私は……加賀さんのものだけどさ……やっぱり、こんなの嫌だよ……

瑞鶴「だ、誰か……助けてッ!」

叫んだのと同時に加賀さんの動きはピタッと止まって、程なくして忙しない足音が近づいてくる。


榛名「瑞鶴さん!」

幌筵提督「瑞鶴ちゃん、一体何が……!?」

幌筵提督「加賀さ……! 何をしているの!?」

加賀「…………」

提督さんは普段の穏やかな様子からは想像もできないくらい声を荒げて加賀さんに詰め寄り、私から引き離した。
加賀さんは抵抗もせず、膠着したまま沈黙を貫く。


幌筵提督「懲罰房……榛名、連れて行って」

榛名「えっ!? でも、提督! それは……」

加賀「いいのよ、榛名。連れて行って……」

榛名「は、はい……」

そのまま榛名に連行される加賀さん。その表情を見る余裕も、止めようって思う気持ちも、今の私には無い。


幌筵提督「瑞鶴ちゃん、大丈夫だった……?」

提督さんが私を抱き締めてくれる。一瞬、加賀さんにされたことがフラッシュバックしてきて身構えそうになるけど……
でもそれ以上に提督さんは優しくて、温かくて。すぐにその恐怖は払拭された。

瑞鶴「提督さん……わたし、私……」

幌筵提督「落ち着いて。焦らなくていいの。あなたのペースでいいから」

瑞鶴「私、西方に行きます……今、『あの人』と向き合う勇気、私には無いよ……」

幌筵提督「わかった。龍驤には私から伝えとくから」

そう言って私から離れ、部屋を出て行こうとする提督さん。私はその服の袖を掴んだ。

瑞鶴「待って、行かないで……」

幌筵提督「もう、仕方ない子。誰か呼んでくるから、来たらちゃんと離してよね」

瑞鶴「うん……」

我ながら情けないと思うけど、でも本当に一人になるのが怖いんだもん。


葛城「提督に、瑞鶴先輩!? どうしたんですか!?」

瑞鶴「葛城……」

幌筵提督「ごめんね、葛城。そばにいてあげて……」

葛城「は、はい……わかりました」

彼女は提督さんから説明を受けると、すぐに私に寄り添って……手を重ねてきた。小さいけど、優しくて温かい手。

幌筵提督「それじゃ葛城。後は頼んだわよ」


瑞鶴「加賀さん……加賀さん……」

葛城「あ、あの……瑞鶴先輩?」

葛城が心配そうに私の顔を覗き込んで、話し掛けてくる。

瑞鶴「ん? あ、あれ……ごめん、葛城。あの、私……」

葛城「いいんです……先輩が落ち着くまで、そばにいますから」

瑞鶴「ごめん」

なんかもう本当に、それしか言葉が出てこない。私はこの子に、どれだけ心配を掛けて来ただろうか……

葛城「私はずっと、瑞鶴先輩の味方ですから……」

結局その日は、私が寝付くまで葛城がずっと傍にいてくれた。


_____翌日、セベロクリリスク港

雷「本当に行っちゃうの? 寂しくなるわね」

翌朝。龍驤と共に出航する私を、『あの人』を除いたみんなが見送りに来る。

瑞鶴「もう、雷。何もずっと向こうにいるわけじゃないんだし。全部終わらせて帰ってくるから」

浜風「あまり無理はしないで下さいね、瑞鶴」

瑞鶴「大丈夫だよ、浜風。私は旗艦なんだから、みんなを残して沈んだりなんかしないよ」


瑞鶴「鈴谷、榛名、葛城」

何度も、何度見回してみても、やっぱり『あの人』はいない……

瑞鶴「この島を、みんなを守ってあげて……」

榛名「はい! もちろんです!」

葛城「この命に代えましても!」

鈴谷「誰に言ってんのよ、誰に」


龍驤「瑞鶴、そろそろええか?」

瑞鶴「うん、今行く~」

龍驤に急かされて、私は船に向かって歩き出した。

幌筵提督「瑞鶴ちゃん……御武運を!」

瑞鶴「はい。行ってきます……」

あれ? 自分では精一杯、力の限り元気な返事をしたはずなんだけど、その声は意外な程響かなかった。


_____数日後

浜風「大変ですっ!」

鈴谷「どしたの~? そんなに慌てちゃってさ」

浜風「たった今、リンガから連絡が入ったのですが……!」

浜風「瑞鶴が、装甲空母姫の攻撃により大破。意識不明の重体だそうです!」

榛名「えっ!?」

雷「ウソ……でしょ!?」

葛城「…………」

つづく!

今回はここで一旦切ります。

もっと早くから投下できたらと思っていたのですが中々時間が取れませんでした。
書き溜め自体は最後まであるので修正次第随時投下していきたいと思ってます。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。

それではここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

おはようございます。続き投下していきたいと思います。


「未来2」

榛名「瑞鶴さんが、大破……!?」

幌筵提督「……止めるべき、だったのかしら?」

鈴谷「あんなことがあった後だし……仕方ないと思うよ」

幌筵提督「とにかく、あの人にも伝えないとね……」

葛城「あの、私が行きます」

幌筵提督「葛城……」

葛城「あの人とちゃんと話をしないといけないんです、私……」

幌筵提督「わかった。任せるわ。後から私も行くから」


_____地下懲罰房

葛城「加賀さん!」

加賀「何かしら?」

葛城「瑞鶴先輩が敵の空母にやられて危篤だって……」

加賀「!? そ、そう……あの子もまだまだね」

葛城「なっ、加賀さん! それだけですか!?」

加賀「どうしようもないでしょう? 今の私に出来るのは、あの子の無事を祈る事だけよ」

葛城「会いに行ってあげて下さい!」

加賀「私にその資格があるとでも?」

葛城「資格なんてどうでもいいんです! 加賀さんじゃないと駄目なんです!」

葛城「私じゃあの人の支えにはなれないから……瑞鶴先輩には、加賀さんが必要なんですっ!」


加賀「でも、私は……」

幌筵提督「そうよ葛城。加賀さんは謹慎中の身よ?」

葛城「て、提督!?」

幌筵提督「加賀さんへの正式な処分が下りたから、それを伝えに来たの」

葛城「そんな、提督! せめて、せめて瑞鶴先輩に会うまでは……!」

加賀「いいのよ、葛城。覚悟は出来ています……」


幌筵提督「それじゃあ加賀さん。本日よりリンガ泊地への異動を命じます」

加賀「!?」

幌筵提督「現地の西方攻略部隊と協力して敵東方主力艦隊撃滅に尽力すること」

幌筵提督「並びに、負傷した正規空母の心身のケアと警護をしてもらいます」

加賀「提督……よろしいのですか?」

幌筵提督「こんな形で終わるなんて、あなたは望んでいないでしょう? あの子だってきっとそうよ」

幌筵提督「だから、行ってきなさい。加賀さん!」

加賀「はい……!」


葛城「お気をつけて!」

加賀「葛城、ありがとう。帰ってきたら、素敵な場所に連れて行ってあげるわ」

葛城「え? どこですか?」

加賀「硝子の花園よ」

葛城「ふぇっ!? あ、あの、すいません! 私、瑞鶴先輩一筋なんで!」

幌筵提督「百合の迷路? キマシ? ねえキマシ?」

加賀「あなた達は何か大きな誤解をしているわ……」


_____数日後、リンガ泊地

加賀「やっと着いた……ん?」

蒼龍「加賀さん!」

加賀「蒼龍。わざわざ来てくれなくても良かったのに」

蒼龍「いや、でも……とにかく真っ先に謝りたくて」

蒼龍「加賀さん、本当にごめんなさい! 私がついていながら、瑞鶴をあんな目に遭わせちゃって!」

加賀「気にすることはないわ。あなたは自分のことで手一杯だったのでしょう?」


加賀「疲労が全く抜けていないわね? こんな状態で酷使し続けた提督にも責任があるわ」

加賀「それに何より……一番の原因は私なんだから……」

蒼龍「加賀さん、やっぱり瑞鶴と何かあったんだ……」

加賀「そうね。ちょうど五月蝿そうなのも来たから、ついでに話すわ」

龍驤「おいこら加賀! こっち着いたんなら連絡くらい寄越さんかい! ウチがどんだけ待ってたと……」

加賀「とりあえず泊地に行くわよ。事情は歩きながら話すわ」


加賀「……と言うことがあったのよ」

龍驤「加賀……お前変わったとは思ってたけど、まさかそこまで拗らせてたなんてな……」

蒼龍「まあ確かに瑞鶴って、無自覚に誰とでもフラグを立てちゃうような子だけど……」

蒼龍「それでも加賀さんが嫉妬して、手を出しちゃったなんてビックリだよ」

加賀「そうね。私は許されないことをしてしまった。あの子に何を言われても受け入れるわ」

蒼龍「瑞鶴、きっと加賀さんのこと嫌いになったりはしてないと思うよ?」

蒼龍「こっちに来てからもずっと加賀さんのことばっかり気にしてたし……」

加賀「あの子はまったく……優しすぎるのよ……」

蒼龍「でもそう言うところを好きになったんだよね?」

加賀「そ、そうよ……」

龍驤「結局最後は惚気かい!」


_____リンガ泊地、執務室

加賀「航空母艦加賀、推参致しました。提督、お久しぶりです」

横須賀提督「久しいな、加賀。来て早々で悪いが、明日カスガダマ沖に出撃してもらいたい」

横須賀提督「随伴艦は金剛、蒼龍、島風、夕立、そしてプリンツ・オイゲンで行く予定だ」

加賀「提督、意見具申を」

横須賀提督「何かね?」

加賀「蒼龍を休ませてあげて下さい。疲労が限界にきているはずです」

蒼龍「え? そ、そんな……加賀さん、私、まだ戦えるよ!」

加賀「無茶しないで。あなたに沈まれたら、飛龍に会わせる顔がないわ」


加賀「提督もわかっているでしょう? これ以上蒼龍を酷使したらどうなるか……」

横須賀提督「そ、それは……」

蒼龍「で、でも、ここで私が抜けちゃったら……加賀さん一人で航空戦を担うなんて無茶だよ!」

加賀「大丈夫。一人、心当たりがあるわ」

龍驤「ウチの出番っちゅうワケやな?」

加賀「あなたは座ってて」

龍驤「おいィ!?」

横須賀提督「何を考えている、加賀? まさか……」

加賀「ええ、説得してみせます。なのでその方向で編成を考えておいて下さいね」


_____リンガ泊地、某所

加賀「失礼します……」

赤城「あら、加賀さん。こちらに来ていたの?」

赤城「あ、天城姉様。ごめんなさいね。こちらは加賀さん。元一航戦の同僚なんです」

赤城「翔鶴、加賀さんにお茶を用意してあげて」

加賀「赤城さん……」

赤城「ちょっと、加賀さん。天城姉様が挨拶して下さってるのに、無視するなんて失礼じゃないですか?」

加賀「あの、赤城さん?」

赤城「あ、翔鶴、ありがとう。まったく、加賀さんは相変わらずよね。まあいいわ。四人でお茶にしましょう」

加賀「赤城さんッ!!!」

赤城「……!?」

加賀「目を、覚まして下さい……!」


赤城「あ、ああ……」

加賀「お姉様も、翔鶴さんも……もう、いないんですよ」

赤城「い、イヤ……やめて! 聞きたくない!」

加賀「赤城さん! 目を背けないで! もう、逃げるのはやめましょう……!」

赤城「加賀さん、どうして? あなただって、大切な人を失ったことがあるのに……!」

赤城「私の悲しみ、失意、絶望……全てわかるはずでしょう!?」

加賀「……お忘れですか、赤城さん? あの時は……あなたがいてくれました」

加賀「あなたが共にいてくれたから、私は妹を失った悲しみの中でも立ち上がれたんです」

赤城「加賀、さん……!」

加賀「今は私がいます。あなたが悲しい時ずっと、支えると誓います。だから、もう一度……!」


赤城「…………」

赤城「一航戦の誇り……私はあの日、最愛の人と共に失ってしまった……」

赤城「ならば、取り戻さなくてはいけませんね!」

加賀「赤城さん!」

赤城「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、加賀さん。私はもう逃げません……!」

赤城「誇り高き一航戦として、共に戦います!」

加賀「上々ね。行きましょうか……!」


_____リンガ泊地、病院

瑞鶴「んっ……うーん……? ここ、は……?」

白い天井に、白い壁。全身を覆うような気怠さ。何度か体験したことのある感覚。

瑞鶴「えっと……い、痛っ! いたたたた!」

体を起こそうとしたところで首と背中に激痛が走り、朦朧としていた意識は一気に覚醒する。

龍驤「お、目ぇ覚めたか、ヒヨっ子」

同時に部屋に入ってくる、小柄な空母の姿。腕にはお菓子や果物が入ったカゴをぶら下げてる。

瑞鶴「龍驤。私……そっか。あの時、装甲空母姫にやられて……」


龍驤「どうやら記憶の方も問題無いようやな。とりあえず一安心ってとこか」

龍驤「自分が運ばれてきたん見た時は正直生きてるとは思わんかったで」

龍驤「それくらいズタボロやったんやけどな。まあ幸運の空母の面目躍如ってとこか」

瑞鶴「ごめん。大見栄切ってこっちに来たのにこのザマで……こんなんじゃ加賀さんにも顔向け出来ないや」

龍驤「何やこんな時まで加賀のことかい。自分、あいつに酷いことされて逃げてきたんとちゃうん?」

カゴからリンゴを取り出し、淡々とウサギさんを量産しながら話す龍驤。その手付きは意外な程器用。


瑞鶴「私も悪いんだよ。加賀さんがあんなになるまで気付けなかったんだから……」

瑞鶴「もっと加賀さんとの時間を大切にすれば良かった……いつだってそばにいるのが当たり前だと思ってた……」

瑞鶴「私、やだよ。ムシが良すぎるかも知れないけど……加賀さんとの関係、これでおしまいにしたくないよ」

溢れそうになる涙はグッと堪えることが出来たけど、弱気な発言はつい零れ落ちてしまった。

龍驤「ぷっ……お前らってホンマにオモロいな」

リンゴの皮を剥く手を止めて、龍驤は笑い出した。あ、あれ? 今の流れ、笑いどころなんてあったかな?

龍驤「お互い超鈍感なくせに、根っこの部分じゃ互いを何よりも大切に思っとる」


龍驤「正直羨ましいわ。ウチじゃ、あいつと分かり合うことは出来んかったからな……」

瑞鶴「龍驤……」

龍驤「心配すんなやヒヨっ子。あいつだって、自分とやり直したい思てるに決まってるやん」

龍驤「せやから、次にあいつと会う時笑顔で迎え入れる準備だけしとき」

そう言って私の頭を撫でてくる龍驤。この感覚、加賀さんに撫でてもらった時と似てる……
やっぱりこの人も、小さくたって立派な先輩空母なんだなって、思ってしまった……

龍驤「加賀……こんな良い子残して沈んだりしたら許さんからな……」

龍驤「だから……気張ってけや! 戦友……!」


_____西方海域 カスガダマ島沖深部

東方中枢艦隊が待ち受ける海域深部。ここに来るのは三週間振りくらいでしょうか。
あの時私が倒したのは装甲空母鬼と呼ばれる新種の深海棲艦。そして、今敵艦隊の旗艦を張っているのはその強化個体だとか。
戦艦の大口径主砲を携え、艦載機運用能力と雷装まで持ち合わせる。以前瑞鶴さんが倒した戦艦レ級を彷彿とさせますね。

瑞鶴さん……私の代わりにこの海域に出撃して、大怪我をしたとか……本当に申し訳ないことをしてしまったわ。
帰ったら……ここの制海権確保の報告を土産に、お見舞いに行かなくてはいけませんね。

さて。こちらの戦力は万全とは言えない状態。金剛さんが中破、夕立さんは小破。
特にメイン火力となる金剛さんが、初戦で戦艦タ級の砲撃を受けて中破してしまったのが痛いです。
ここは私と加賀さんでカバーしなければなりませんね。


プリンツ「偵察機より入電! 間も無く敵艦隊と接触するよ!」

プリンツ「編成はこれまでと同じ。姫を中心に駆逐艦2隻、例の不気味な球体が2つです!」

夕立「もっと近づかないとわからないけど、今までのパターン通りならきっと潜水艦も居るっぽい!」

装甲空母姫「懲りずにまた来たのね。いいわ。あの空母の小娘のように……沈めてあげる」

加賀「あいつが、瑞鶴を……!」

赤城「加賀さん……! 冷静になって」

敵の挑発に乗って前に出ようとする加賀さんを制止する。クールに見えて激情家なところは相変わらずなんだから。
この戦い、加賀さんには特別な役割がある。こんなところで自滅させるわけにはいかない。


赤城「さあ行きますよ、航空戦です!」

装甲空母姫「愚かしい。航空戦で、私に勝てると思っているの?」

浮遊要塞A「グゴゴゴゴ……!」

浮遊要塞B「姫ニ仇成ス者……破壊セヨ」

敵が艦攻と艦戦を発艦。浮遊要塞と呼ばれる球体からそれぞれ30機ずつ、そして姫からは96機ずつ。その合計は312機。

赤城「多いわね。加賀さん、いけるかしら?」

加賀「鎧袖一触ですよ」

赤城「そうだったわね」

こちらも発艦を開始。私は最近開発された艦戦、紫電改二を62機、九七艦攻とは一味違う流星を20機発艦。
加賀さんは我が軍最強の艦戦である烈風を46機、流星が20機。加賀さんに乗せてる艦載機は今回は諸事情によりこれだけ。


金剛「ヘイ、敵の飛行機の方が倍以上多いネ!」

夕立「ぜ、全力で対空砲火しなきゃマズイっぽい!?」

加賀「心配いらないわ」

両航空戦力が激突。瞬く間に敵の艦載機を撃墜し、航空優勢。こちらの艦攻が接触する。

加賀「みんな、優秀な子達ですから」

装甲空母姫「こ、こんなハズは………!?」

ニ級A「姫様には触れさせんぞーーー!」

敵駆逐艦の1隻が旗艦を庇い、爆発四散。他の敵は無傷だけど、数を減らせただけでも上々ね。

島風「よし、これくらいの数なら余裕!」

一方でこちらは、目減りした敵艦攻の魚雷を的確に回避。被害は軽微。


ヨ級「それなら、これでどうかしら?」

夕立「ソナーに反応! 雷撃が来るっぽい! 島風ちゃん!?」

島風「そんな遅い魚雷で島風を捉えようなんて甘いよ!」

敵潜水艦の奇襲も、速力に優れる島風さんは難なく躱す。

赤城「これより砲戦を開始します! 島風さん、夕立さんは対潜をお願いします!」

夕立「任されました!」


金剛「中破してたって、皆さんの力になってみせるネー! 全砲門、ファイヤー!」

ニ級B「ひ、姫様ーーー!?」

金剛さんが水偵を飛ばして敵艦を捕捉。強烈な砲撃で、敵駆逐艦を一撃で仕留める。

装甲空母姫「おのれ……忌々しい艦娘共め!」

金剛「Shit! 喰らってしまいました……!」

しかし次の瞬間、装甲空母姫の禍々しい凶弾が金剛さんに直撃。大破状態。

赤城「金剛さんは後方へ退避! 夕立さんは金剛さんの護衛をお願いします。潜水艦への警戒も怠らないで!」


夕立「わかりました! 全力で守り切るっぽい!」

島風「敵潜水艦はまだ健在だよ。旧式の爆雷しか無いからちょっと厳しいかも!」

夕立「とにかく手当たり次第にいっぱい投げるしかないっぽい? ぽいぽいぽ~いって感じで!」

島風「駄目だよ夕立ちゃん、ちゃんとソナーで位置を見極めてから直撃させないと」

夕立「う~……そう言う細かい作業は苦手っぽいのに」

赤城「とにかくやるしかありません! こちらは水上艦の掃討に専念しましょう」


赤城「オイゲンさん、私と加賀さんが露払いしますから、あなたは旗艦をお願いします!」

プリンツ「えっと、加賀? 私が倒しちゃってもいいの?」

加賀「構いません。今は強敵との戦闘中……私情を挟んでる余裕はないの」

プリンツ「わかりました! 必ず戦果を上げてきます! あいつらを倒して、ビスマルク姉様を迎えに行くんだから!」

オイゲンさんが前衛に。浮遊要塞と姫が迎撃態勢に入るのを見て私達も第二次攻撃隊の発艦を開始する。

加賀「第二次攻撃隊、稼働機。全機発艦……!」

浮遊要塞A「グギャアァァァ!?」

オイゲンさんに主砲を向けていた浮遊要塞の片割れは加賀さんの攻撃隊により撃沈。私ももう片方の浮遊要塞に狙いを定める。


赤城「艦載機の皆さん、お願いします!」

攻撃隊から放たれた魚雷が浮遊要塞を捉えるが……

浮遊要塞B「!? 我、被害甚大……シカシ、マダ姫様ノ盾ニ……!」

プリンツ「主砲、よーく狙って……Feuer!」

浮遊要塞B「ヤラセハ、セン!」

仕留め損ねた浮遊要塞が、装甲空母姫を庇ってオイゲンさんの砲撃を受け撃沈。


装甲空母姫「沈みなさい!」

プリンツ「おわっ!?」

間髪入れず装甲空母姫の砲撃。オイゲンさんはバランスを崩しながらも何とか躱すが……

島風「プリンちゃん、潜水艦! 雷撃来るよ!」

プリンツ「ふぇっ!?」

ヨ級「仕留めるわよ」

装甲空母姫「終わりね、異国の小娘!」

島風さんが爆雷と砲撃で同時に追撃するけど間に合わず、双方から魚雷の挟撃を受ける。

プリンツ「わ、私が、こんなんで沈むわけ……ないん、だから……!」

オイゲンさんは何とか轟沈せずに踏みとどまっているけど、かなり酷い大破状態。敵も次発装填態勢。マズい……


赤城「私が護衛に向かいます! 加賀さん、島風さん、サポートを!」

加賀「了解!」

島風「今度は逃さないんだから!」

加賀さんは素早く着艦を終えて、攻撃隊を編成。島風さんも距離を詰めて潜水艦に追撃を仕掛ける。

赤城「オイゲンさんっ!」

装甲空母姫「沈……ぐっ!?」

敵の主砲がオイゲンさんに向けられるが、間一髪のところで加賀さんの艦載機の攻撃が間に合った。
装甲空母姫は体勢を崩し、放たれた砲弾は明後日の方向へ着弾。その隙にオイゲンさんを抱きかかえて後退。


プリンツ「赤城、ごめん。倒せなかったよ……」

加賀「潜水艦は?」

島風「駄目。速いし、硬いし……捉え切れないよ」

赤城「少し良くない流れね。一度態勢を立て直しましょう」

夕立「でも、そろそろ日が落ちて夜になっちゃうっぽいよ」

金剛「いくら赤城や加賀でも、夜戦で艦載機を飛ばすのは無理デス」

島風「夜戦火力の要のプリンちゃんと金剛は大破。私と夕立ちゃんも対潜装備だから、潜水艦を無視して姫を攻撃しても倒せないよ」

プリンツ「私が轟沈覚悟で姫に突撃して、至近距離から攻撃を浴びせれば……」

赤城「それは駄目よ。誰一人欠けることなく敵を撃破するのが至上命令です」


夕立「それならもうここは撤退するしかないっぽい? 夜戦に入っても勝てないし……」

赤城「そうでもないわよ。加賀さん、行けるわよね?」

加賀「問題ありません。私が突撃します」

金剛「What!? 加賀、何言ってるデース!?」

私と加賀さんのやり取りに、他の四人は驚嘆の声を上げる。まあ無理もないですね。
加賀さんは正規空母。通常、夜戦では行動不可能。でも今回加賀さんには特別な装備を持たせている。

島風「フラグシップの潜水艦だって残ってるんだし、ここは引いた方が……」

加賀「今夜の勝負は、引くに引けない。譲れはしない……!」


赤城「夜の帳が下りてくるわね。行きますよ! 我、夜戦に突入す!」

凛々しく号令を掛けるものの、今の私に出来るのは加賀さんの盾になることくらい。
加賀さんの前に立ち、装甲空母姫に向かって突撃する。

赤城「夕立さんは大破したお二人の護衛を! 島風さんは私と一緒に加賀さんの護衛に付いて下さい!」

夕立「もうこうなったら赤城さんと加賀さんを信じるしかないっぽい!」

装甲空母姫「夜戦で無力な空母と対潜装備の駆逐艦に、何が出来ると言うの?」

敵の主砲がこちらに向けられるが、一撃くらいなら耐えられる自信はある。それよりも警戒すべきは潜水艦。

島風「夕立ちゃん、潜水艦そっちに行ったよ! 二人を全力で守って!」


夕立「任されたっぽい!」

敵潜水艦の狙いは大破した二人か。それなら夕立さんに任せて、私は装甲空母姫の攻撃を捌くのに集中。

装甲空母姫「何を考えてるかわからないけど……沈めてあげるわ!」

敵の主砲が唸りを上げて斉射。旗艦の私を狙ってくる。大丈夫、耐えられる!

赤城「一航戦の誇り……! この程度で砕けはしません!」

直前にガードを固めていた為、何とか中破で耐える。仕留められる距離まで接近もできた。後は加賀さんに託すだけ!


赤城「島風さん、護衛をお願いします」

島風「了解。加賀さん、任せたからね!」

加賀「ええ、心配いらないわ」

弓矢をしまい、今回の決戦仕様の艤装を展開する加賀さん。

夕立「えっ!?」

金剛「OH!?」

加賀「加賀、戦艦モード。夜戦を敢行します……!」

その場にいた誰もが驚愕する。41cm連装砲を2門搭載した加賀さんの戦艦モード。今回の決戦の切り札。
装甲空母姫は出来れば自らの手で倒したかったけど、空母の攻撃機だけでは如何せん火力不足。
それを補う為に、加賀さんが戦艦だった時に使っていた艤装を引っ張り出して改造したもの。
従来の加賀型戦艦の圧倒的な火力や重装甲を復元することはできなかったけど、
艦載機を積むスペースを増設して、不安定ながら空母としての運用も可能にしていた。


加賀「瑞鶴……仇は必ず取るわ……! 全主砲、斉射! 薙ぎ払えッ!」

金剛さんみたいなポーズを取り、意外とノリノリで砲撃する加賀さん。
しかしその火力は健在で、強烈な連撃で装甲空母姫を撃ち抜いた。

装甲空母姫「ウボァー!? そ、そんな……この、私……が! おの、れ……艦娘ども……め……!」

怨嗟の声を上げながら沈んでいく装甲空母姫。さて、こちらは片付いた……

赤城「島風さん、夕立さん! 潜水艦は!?」

島風「距離はどんどん離れていくよ。旗艦がやられたのを見て撤退するみたい」

夕立「こっちは二人とも無事っぽい!」

よし。大破こそ出たものの、当初の予定通り誰一人欠けることなく勝利。
これで皆さんに迷惑を掛けた分も、少しは取り戻せたでしょうか?

赤城「それでは帰りましょう。提督へ、勝利の報告に!」


_____リンガ泊地、執務室

瑞鶴「そろそろみんな帰ってくるはずだよね……うぅ、加賀さん、大丈夫かなぁ?」

龍驤「瑞鶴、ソワソワし過ぎやで。少しは落ち着かんかい」

瑞鶴「だ、だって……」

龍驤「あいつはちょっとやそっとの事でくたばったりせえへんって。自分が一番よくわかっとるやろ?」

いや確かに、龍驤の言うことは尤もなんだけどさ。それでも心配せずにはいられないって言うか……ほら、恋人として、ね?

天津風「そもそも瑞鶴。あなた、一週間は安静にしてないと駄目って先生にも言われてたでしょう?」

天津風「立ってるのが不思議なくらいの大怪我なのに、ここまで歩いて来るなんて……信じられないわ」


瑞鶴「いやー、これも加賀さんへの愛の成せる業って言うか……今の天津風と同じだよ」

瑞鶴「島風が心配で、居ても立ってもいられなくなってこんな時間に起きてきたんでしょ?」

天津風「は、ハァ!? な、何で私が島風なんかのこと! イミワカンナイ! 馬鹿じゃないのあなた!?」

この反応、初めて翔鶴姉に「加賀さんのこと好きなの?」って聞かれた時の私と同じだ。ちょっと楽しい。

天津風「ちょっと、何ニヤニヤしてんのよ!?」

龍驤「おっ? 戻ってきたで」


赤城「艦隊、帰投しました!」

横須賀提督「おお、皆無事か!」

赤城「金剛さん、オイゲンさんは大破。私は中破ですが他三人の損傷は軽微です」

加賀さんは見た感じ無傷。私はホッと胸を撫で下ろした。

横須賀提督「そうか。では加賀以外は先に入渠してきたまえ。戦果報告は後でも良い」

横須賀提督「龍驤、天津風。ドッグ開放の準備をする。手伝ってくれ」

天津風「え? 私達も? そんなの提督一人でも……あっ……」

龍驤「そう言うことやな。しゃーないなー、今回だけ特別やで?」

二人が私と加賀さんを交互に見ながら、納得したかのように部屋を出ていく。
もう……提督もだけど、みんな気を遣いすぎだっての……

龍驤「それじゃあお二人さん、ごゆっくりな?」


加賀「…………」

程なくしてみんなが出て行って、加賀さんと二人っきりの執務室。
どうしよう……言いたいこと、いっぱいあるけどタイミングが難しい。

加賀「瑞鶴……」

いや、でも……とにかく一番最初に言わなきゃいけないことを……何のことはない。今までと同じだ。
一番に伝えなきゃいけないことは真っ先に口にしてきた。だから、今回も……

瑞加賀「「ごめんなさい」」

あっ……完全にタイミングが被った。もう、私達ってこんな時まで間が悪いんだから。


加賀「その、あなたのことも考えずに嫉妬してしまって……あんなことを……」

瑞鶴「私の方こそ……いつもいつも加賀さんには迷惑ばっかり掛けてるのに……」

瑞鶴「それなのに加賀さんの気持ちには全然気付けなくて……」

瑞加賀「…………」

ど、どうしよう……変に被ったせいで仲直りしたいって言い出すタイミングをお互いに逃した感じ。
こうなったら行動で示すしかない。今までだって、私はそうしてきたんだから。

瑞鶴「加賀さん……!」

加賀「んっ……」

加賀さんに抱きついて唇を重ねる。本当はもっと余韻を愉しみたいんだけど、
今は気持ちを伝えるのが先決。名残惜しいけどすぐに唇を離し、口を開く。


瑞鶴「加賀さん、私、このまま終わりにしたくないです……」

瑞鶴「これからも色々と迷惑掛けちゃうかも知れないけど……私と一緒にいて下さい……!」

加賀「瑞鶴……」

刹那、加賀さんに抱き寄せられて……優しく包み込むように抱き締められる。

加賀「私も……あなたと一緒にいたい……」

顔を真っ赤にしながら、力強く言い放つ加賀さん。良かった、これで仲直りだね。


加賀「瑞鶴……」

前みたいな無理矢理じゃなくて、優しく布団の上に押し倒された。って言うか何で布団なんかあるのよ、この執務室……

加賀「夜戦……していいわよね?」

夜戦……つまりはそう言う事なんだよね? 今の、優しく温かい加賀さんになら……いいかな。

瑞鶴「優しく……してくださいね」

加賀「心配いらないわ」

加賀さんは私の服に手を掛けて、ゆっくりと脱がそうとする……瞬間。


???「瑞鶴ー! 加賀さん達、帰ってきたー?」

瑞加賀「!?」

勢い良く執務室のドアが開かれて、入ってきたのは緑色の着物を着た残念な先輩。

蒼龍「うぇっ!? か、加賀さん何やって……?」

龍驤「おいコラ蒼龍! 自分何しとんねん! せっかくイイとこやったのに!」

瑞鶴「えっ!? 龍驤……!?」

いや、龍驤だけじゃない。他に気配は7つ。みんないる。ドッグへ行くフリをしてずっと見てたんだ……


加賀「提督……これはどう言うつもりかしら?」

横須賀提督「すまぬ……すまぬ! 二人が夜戦に入ったら必ず動画にして送って欲しいと娘に言われていたのだ」

瑞鶴「娘? あの、私と加賀さんの夜戦を見たい女の人とか……私世界中でたった一人しか心当たりが無いんだけど……」

瑞鶴「この提督さんってもしかして……」

加賀「ああ、言ってなかったわね。この提督は私達の提督の父親よ」

横須賀提督「そうなんだ! 私は娘の為に仕方なく……」

加賀「まあそれとこれとは話が別です」

横須賀提督「ですよねー」

加賀「今日の私は戦艦モードですから、お仕置きも少し痛いかも知れませんよ。覚悟して下さいね」

次の瞬間、執務室は光に包まれた。


_____数日後、幌筵島

久しぶりに戻ってきた幌筵島。ただ、みんな任務の最中とのことで出迎えはなかった。

瑞鶴「ちょっと寂しいですよねー加賀さん」

加賀「仕方ないわ。みんな忙しいのよ」

瑞鶴「みんなの顔、真っ先に見たかったんだけどな~」

そんなことを話しながら、足早に泊地に向かう。道中、色んな人達に声を掛けられた。
私が装甲空母姫にやられたって聞いて心配してくれた人も多くて……ちょっと嬉しかったな。


瑞鶴「旗艦瑞鶴、ただいま戻りました!」

程なくして泊地に着き、執務室の扉を開けるけど……

瑞鶴「あ、れ? 真っ暗……?」

まだ昼間だってのに……瞬間、甲高いクラッカーの音と共に部屋の明かりが点いて……

瑞鶴「うわっ、眩しっ……!」

幌筵提督「瑞鶴ちゃん!」

鈴谷、榛名、浜風、雷、葛城「誕生日、おめでとう!」


瑞鶴「あれ……? みんな、任務があるって聞いたけど……」

鈴谷「そうそう。『瑞鶴の誕生日をお祝いせよ』、私達にとっての最重要任務だよ」

誕生日……そっか。今日は11月27日。最近は本当に忙しすぎて、そんな事考える余裕すら無かったんだ。

榛名「瑞鶴さん、おめでとうございます。これからも旗艦として、頑張って下さい!」

浜風「料理の方も、皆で心を込めて作りました。お口に合うかわかりませんが、是非食べて下さい」

雷「19になったのよね。こんなに立派になってくれて、私は嬉しいわ」

葛城「先輩、おめでとうございます」

みんながそれぞれ祝福の言葉を送ってくれて、涙腺が緩む。駄目だ、主役の私が泣いちゃ駄目……

加賀「瑞鶴、おめでとう。そして……生まれてきてくれて、ありがとう」

なんて考えてたらこの人は……瞬時に涙腺は崩壊し、我慢できなくなって加賀さんに抱きついて胸で泣く。
加賀さんはそっと包み込んでくれて、その温かさで心がいっぱいになる。嬉しい時の涙って、全然止まらないね。


瑞鶴「誕生日パーティー……か」

思えば、最後に誕生日パーティーとかやったのはもう7年も前になるのか。
私が艦娘学校に入る前。あの頃は、翔鶴姉も艦娘として着任する前だったし、お母さんもまだ生きてた。

入学する直前くらいにお母さんは事故で亡くなって、翌年から翔鶴姉も任務で帰れないって事が続いた。
友達の川内や瑞鳳におめでとうって言ってもらったことはあったけど、パーティーはやらなかったな。
私、自分から祝って欲しいとか言い出せるタイプじゃなかったし……

雷「瑞鶴、何ぼ~っとしてんの? 恒例のプレゼントタイムよ!」

葛城「瑞鶴先輩! これ、みんなで心を込めて作りました!」

鈴谷「早く開けて! 絶対びっくりするからさ!」


瑞鶴「こ、これって……!?」

渡されたプレゼント箱を開けると、出てきたのは烈風。まだ量産化の目処も立っていない最強の艦戦。

幌筵提督「どうよ瑞鶴ちゃん! すんごい苦労して作ったんだからね! それはもう、幾多のペンギンの山を越えながら……」

みんなでお金を出して資材を買って、提督さんと葛城がレシピを徹底的に研究。数日前からずっと開発に明け暮れてたらしい。

瑞鶴「みんな……私、嬉しいよ。こんな素敵なプレゼント貰ったの初めて」

勿論、最強の艦戦が手に入ったのは嬉しい。けどそれ以上に、みんなが心を込めて作ってくれたって言うのが私にとっては一番の贈り物だった。
私、ここに来て本当に良かった。どんな戦果を上げた時よりも、みんなといられる今が一番幸せ。


瑞鶴「さて……と」

みんなにお礼を言わないと。泣いてばっかりじゃ、カッコ付かないもんね!

瑞鶴「みんな、今日は私の為にこんな素敵なパーティーを開いてくれて、本当にありがとね!」

瑞鶴「私、旗艦としてはまだまだ頼りないかも知れないけど……みんなと一緒に頑張って行きたいと思ってるから」

瑞鶴「これからも……よろしくね!」

今日一番の笑顔で感謝の言葉を口にすると、みんなは温かい拍手で応えてくれた。

つづく!

次回「眠り」

設定

瑞鶴(19):今回あんまり活躍しなかった主人公。相変わらず超鈍感。

加賀(23):瑞鶴の先輩で恋人。相変わらず超不器用。戦艦モードは不安定すぎるので実用化はされなかった。

赤城(27):加賀の元同僚。恋人の翔鶴を失って壊れかけていたが何とか復活。
戦場での指揮能力は圧倒的。

龍驤(23):加賀、赤城の元同僚。軽空母勢の中ではトップクラスの練度を誇る。
加賀とは良き親友で、お互いに遠慮なく何でも話し合える仲。

プリンツ・オイゲン(16):ドイツの艦娘。とことん素直で頑張り屋な性格。浅瀬が苦手。
カスガダマ沖を攻略してシーレーンが回復した後はビスマルクと再会できた。

装甲空母姫:ゲームの方ではすっかり旧型機の印象がついてしまったボス。実際、輪形陣だとこんなに強くはない。
ただし単独での艦載機搭載数192だけは未だにトップのはず。

今回はここまでです。次は翔鶴姉中心の設定補完的な話になります。
少し間が空くと思いますがご了承下さい。

それではここまで読んで下さった方、レスして下さった方、ありがとうございました。

少し間が空きましたが投下再開します。
今回瑞加賀要素の薄い設定補完話ですがお暇でしたら読んで頂ければと思います。


「眠り」

_____1月中旬 幌筵泊地

この島に来てからそろそろ一ヶ月になります。生活の変化にも大分慣れてきたし、皆さんとの関係も良好。
加賀さんも漸くやる気を出してくれたみたいで、任務の方も滞り無く順調です。
今日の任務が片付いたら、久しぶりにあの子と連絡を取ってみようかしら。私の大切な妹、瑞鶴と……


幌筵提督「さて。それじゃあ今日の任務の確認ね」

幌筵提督「島の外れに防空壕があるのは知ってるわよね? 多分ずっと昔に使われてたものだと思うわ」

幌筵提督「落盤かなんかで崩れてて、奥までは行けないようになってるんだけど……」

幌筵提督「まあそう言う場所のお約束で、子供達がそこを遊び場にしてたのよ」

幌筵提督「遊んでる最中にね、中から人の声が聞こえたんだって。その場にいた子達はみんな聞いたらしいわ」

幌筵提督「街の人達に聞いてみたら、その子達以外にも近くを通る時たまに声を聞いたって人もいるのよ」

幌筵提督「とにかく気味が悪いから調べて欲しい……と言うのが今回の依頼ね」

幌筵提督「まあただの調査だから、翔鶴一人で大丈夫だとは思うけど……心配なら加賀さんと一緒に行ってもいいわよ」


翔鶴「加賀さ~ん、オバケとか怖いので、ついてきてくれませんか~?」

提督の話を聞くや否や、私は目を輝かせながら加賀さんに懇願するけど……

加賀「オコトワリシマス」

予想通り一蹴。

翔鶴「そうですよね、加賀さん怖がりですものね」

加賀「なっ!? ち、違います! 今日は子供達に勉強を教える約束があって!」

翔鶴「うふふ。そう言うことにしておきます。結果報告は事細かにしますので、楽しみにしてて下さいね」

加賀「私には関係のないことですし、聞きませんから」

あたふたしてる加賀さんの顔が見れたので満足。このデイリー任務をこなさないと、私の一日は始まらないのです。

翔鶴「それじゃあ加賀さん、提督。行ってきますね」

加賀「行ってらっしゃい」

幌筵提督「気を付けてね~」


_____防空壕

道を塞いでいた岩を爆弾で破壊して内部へ。中は予想通り暗闇の世界。探照灯を持ってきておいて良かった。

翔鶴「ここまで……ね」

中に入ってから物の2、3分で奥まで到達。そこまで深い壕じゃないみたい。
当然ながら人の姿など無く、風通しも無いので人の声と聞き間違えそうな要素は見当たらない。

翔鶴「本当にオバケの仕業なのかしら? 私、霊感は無いのよね」

なんて冗談を言っても、突っ込みを入れてくれる人は周りにはいない。とりあえず部屋を隅々まで探してみましょう。


翔鶴「あら?」

あまり広い部屋ではなく、程なくしてそれは見つかった。

翔鶴「声の正体はこの子だったのね……」

壊れた艦載機と、そのパイロットだったと思われる妖精さんの服。
私達艦娘の艤装の妖精さん達は、その命が尽きると直ちに自然へと帰る。
ここに入り込んでしまった妖精さんが、落盤で出られなくなって助けを求めてたのだろう。
そしてここ数日で、ついに力尽きてしまったと言うことね。

翔鶴「あら?」

艦載機を回収しようとしてしゃがみ込むと、ふと足元に違和感を覚える。


翔鶴「まだ何かありそうね」

部屋の床には板が敷かれていて、私が今立っている場所は明らかに他とは感覚が違う。
その下に何らかの空間があることが容易に想像できる。

翔鶴「艦載機の皆さん、お願いしますね」

パイロットの妖精さん達を機体から降ろし、整備用の工具等で慎重に床板を剥がすよう指示する。

翔鶴「これは……!」

床板の一部を削り取って出てきたのは、更なる地下へ続く石造りの階段。
穴を掘って、板を敷いただけの簡易な作りの防空壕からは明らかに浮いている。
これが瑞鶴の好きな漫画だと、この下には悪の組織の秘密基地があったりするんだろうけど……

翔鶴「……行きますか」

ここでまごついてても何も始まらない。私は意を決して階段を下りる。


石造りの螺旋階段を下りて少し歩くと、これまた重々しい漆黒の扉に出くわす。
鍵は掛かっていないみたいで、扉は容易に開いた。人の気配は無いけど、少し身構えながら足を踏み入れる。
加賀さんにはあんな風に言ったけど、実は私も結構怖がりだったりするのよね。

とりあえず部屋の中心にあった机に探照灯を置く。それだけでは部屋の全容は把握出来ないので、
更に艦載機を大量に並べてライトを点灯。十分な明るさを確保して部屋の調査に移る。

部屋は階段と同じく石造り。床には食料の空袋やインスタント食品の容器、本などが散らかっていて、人が生活していた痕跡がある。
家具は部屋の真ん中にある机以外には本棚のみ。床に散らばっている物を含めても、本の数はそれ程多くは無い。

翔鶴「……っ!」

そして、部屋の隅には白骨化した遺体。部屋の様子からしてあるとは思ってたけど、
やっぱり身構えていても急に目にすると少しは動揺してしまいます。


さて。遺体の手の近くには一冊のノートとフラッシュメモリ。見た感じ、壊れてはいない。
一先ずフラッシュメモリを懐にしまい、ノートの方を開いてみる。

翔鶴「これは……」

深海棲艦の絵……? 兵装やスペックが事細かに書かれている。深海棲艦の研究者の方だったのでしょうか?

翔鶴「……!?」

しかしその考えはすぐに否定される。ノートの後半には深海棲艦の艤装の設計図や、対艦娘用の戦術などが書かれていた。
この遺体は深海棲艦側の技術者のもの? 深海棲艦に肩入れしている人間がいると言うこと? それがどうしてこんな所に?


色々と疑問は尽きないけど、とりあえずわかっているのはこのノートが深海棲艦と戦う上で非常に有益な情報を齎してくれると言うこと。
恐らくフラッシュメモリの方にも深海棲艦に関して何か重要な情報が入っていると思われる。

翔鶴「部屋に戻ってからでもいいんだけど……」

何となく。本当にただ何となくだけど、ここで見なきゃいけない気がして……私は持ってきたノートパソコンを立ち上げる。
フラッシュメモリを挿して中身を確認すると、先程見たノートとほぼ同一内容のデジタル画像と、動画が一つ。

『あなたがこの動画を見ている時、恐らく私はこの世にはいないだろう』

動画を再生すると、この手のお決まりの台詞からスタート。この遺体の人なんだと直感した。

『……………………』

『……………』

『……』

…………………………………………


『あなたがどうか、この欺瞞に満ちた世界を是正してくれる人物であることを祈る』

翔鶴「そんな……もしこれが本当なら、私達は……」

目にするべきでは無かった、あまりにも信じられない……信じたくない内容。

私達艦娘は元々人型侵略兵器として、大本営によって極秘に開発、設計が進められていた。
そのプロトタイプとして造られたのが、現在私達が戦っている深海棲艦に酷似した艦達。
彼女達は兵器としての完成度を高める為、様々な非人道的実験に使われて……その多くが海の底に沈んでいった。
深海棲艦の正体……それはこの時に沈められた艦達に怨念が宿って蘇ったものだと言う。
自らを沈めた大本営への復讐と、元々持っていた侵略兵器としての本能……それが彼女達を戦場へと駆り立てている。


大本営はこれに対抗する為に、深海棲艦を造った際の技術を応用した、艤装と呼ばれる兵器を開発した。
そして、独自の調査システムを用いて艤装に適合する人間を各地から捜し出して徴兵。
学校と言う形式の軍事施設で戦闘訓練を受けさせて、艦娘として戦場に送り出した。
これが今日に於ける、私達艦娘と深海棲艦の戦争の真相……

思えば私達は、今まで深海棲艦について何一つ知らされていなかったんだ。
その名の通り突如深海から現れた、人類に害成す敵……その正体の一切が不明。
軍令部に言われたその言葉を、ただ盲目的に信じていた。
もしこの動画の内容が真実であるなら、私達の存在意義すら揺らいでしまう……

勿論、この動画で説明されたこと全てを簡単に信じるわけじゃないけど……
以前から大本営に対する不信感と言うのは確かにあった。
それが強まるきっかけとなるには十分だった……


_____幌筵泊地、執務室

幌筵提督「ご苦労様、翔鶴。オバケはいた?」

加賀「わ、私はこれで失礼します!」

幌筵提督「まあまあ、せっかくだから報告を聞いていこうよ」

慌てて逃げ出そうとする加賀さんを捕まえて満面の笑みを浮かべる提督。
この人は……知っているのかしら? 聞きたいけど、怖くて聞けない。

だって、一番尊敬するこの人が私達を欺いてずっと戦争をさせてたとしたら……
私はきっとこの世の全てを信じられなくなって、狂ってしまうだろう。


幌筵提督「ん~? どったの、翔鶴? まさか、本当にオバケがいた?」

翔鶴「いましたよ……亡霊が……」

幌筵提督「え?」

翔鶴「すいません、提督。今日は疲れてしまったので……調査報告はまた後ほど」

幌筵提督「……翔鶴?」

不思議そうな表情の提督と、青ざめてる加賀さんを尻目に部屋を出て行く。


_____翔鶴、加賀の部屋

翔鶴「…………」

昼間のことを私なりにまとめてみる。

あの動画を真実だと仮定するなら……遺体の人はその機密を持ち出して逃亡。
追われる身となった。そして逃げ込んだ先があの防空壕。
地下に逃れた後、持ち込んだ艦載機によって落盤を起こして人の手では容易に進入できないよう封印を施した。
後は艦娘の誰かが自らを見つけてくれることをただひたすら待っていた……と言うのが私の考え。

翔鶴「動画のこと……やっぱり提督に聞く勇気はないわ……」

翔鶴「行くしかなさそうですね……東京に」

それからしばらく悩んで出した結論。大本営に行って確かめるのが一番確実だと考えた。


_____翌日、執務室

幌筵提督「なるほど……妖精が入り込んじゃってたのね」

加賀「ほら、やっぱり幽霊なんていなかったでしょう? こんな騒ぎは大概にして欲しいものね」

心底安心し切った表情の加賀さん。ついからかいたくなるけど、今は報告の方が優先。

翔鶴「はい。それで内部はかなり老朽化していて、落盤の可能性も高くて非常に危険なので……」

幌筵提督「わかった。例の防空壕は立ち入り禁止としておきましょう」

翔鶴「はい。そうしていただけると……」

昨日の出来事の報告。勿論地下のことは話していないし、地下への入り口も塞いでおいた。
これでしばらくは、あの場所に調査の手が入ることはないと思われる。後は例のことをお願いするだけ。


翔鶴「それで、提督。任務の方も一段落ついたので、少しお暇を頂きたいのですが……」

幌筵提督「休暇を?」

翔鶴「はい。実は私、この泊地に来たことをまだ瑞鶴に言ってなくて……」

翔鶴「ちゃんと話をしたいと思ってたんです。それに、卒業試験も近いので色々とアドバイスもしたいし」

加賀「瑞鶴……そう、あの子ももうすぐ実戦配備されるのね」

翔鶴「うふふ。加賀さんは瑞鶴のこと特に気に掛けていましたよね。楽しみですね」

加賀「別に……私はただ先達として教えるべきことを教えていただけです」

翔鶴「瑞鶴も加賀さんと一緒に戦えるのを楽しみにしてますよ」

加賀「ありえません。私はあの子には嫌われてますから」

翔鶴「そうかしら? 瑞鶴は加賀さんのこと、大好きだと思うけど」


幌筵提督「本当に!? キマシ!? ねえ、キマシ案件なの!?」

加賀「提督までそんな……翔鶴さんもからかわないで下さい」

加賀「私と瑞鶴がそんな関係になるなんて、未来永劫ありえませんから」

ああ、加賀さんのこの様子だと本当に瑞鶴の気持ちには気づいてないみたい。
まあ瑞鶴も瑞鶴で、素直に好意を伝えられない意地っ張りな面があるから仕方ないかも知れないけど……

幌筵提督「まあいいわ。こっちは大丈夫だから、行ってきなさい」

翔鶴「ありがとうございます、提督。それじゃあ加賀さん、後のことは頼みますね?」

加賀「わかりました」

瑞鶴をダシに使っちゃった……まあ、事が済んだら瑞鶴にも会いに行く予定だから嘘は言ってないけど……


_____数日後 大本営会議室

翔鶴「失礼します」

異様に広い会議室に入ると、奥には軍令部の方達が3人。

翔鶴「本日はお忙しい中、時間を割いて頂いてありがとうございます」

軍令部A「全くだ。我々は君と違って多忙なんだ。手短に頼むよ」

軍令部B「今さら何の用だ? 言っておくが、横須賀にお前の居場所はないぞ!」

第一部一課に所属するお二人は私に厳しい言葉をぶつける。まあそれも仕方のないこと。
軍の悲願だった沖ノ島海域攻略を目前にして、私は命令違反の撤退をしてしまった。
上層部の方達からは要注意人物として目を付けられている。


次長「まあまあ、お二人ともそう言わずに」

次長「今日、我々が栄えていられるのも現場の彼女達の働きがあってのこと」

次長「非礼、お詫び申し上げますよ。翔鶴さん」

軍令部次長。40代の男性と聞いていたけど、外見は20代後半と言われても違和感がないくらい相当お若く見える。
末端の私からしたら雲の上の存在だけど、先の上官達と違って物腰柔らかで非常に紳士的。

本来なら問題を起こした私が上層部と話をしたいと言っても門前払いにされるだけなんだけど、
今回はこの次長の計らいがあって、特別に謁見を許可された。感謝はしたいところだけど、話の内容によってはこの人も……


次長「それで、翔鶴さん。本日はどう言ったご用件でしょう?」

翔鶴「はい。私が現在配属されている幌筵泊地に、古い防空壕があるのはご存知でしょうか?」

軍令部B「ふん、知らんわそんなどうでもいい拠点の話なぞ!」

翔鶴「その地下で、このような物を見つけたのですが……」

険しい表情で怒鳴り散らす上官殿を無視して、次長に例のノートを手渡す。

次長「これは……ほう、興味深い資料です」


軍令部A「じ、次長!? それは!?」

翔鶴「そしてこちらが……」

冷静な次長とは対照的に動揺の色を浮かべる上官殿二人。私は間を置かずにノートパソコンを起動し、例の動画を再生する。

軍令部B「こ、これは……何故、こんな物が……!」

軍令部A「次長! マズイですよこれは!」

二人の上官殿の顔がみるみる青くなっていく。最早確認するまでもないことだけど……

翔鶴「これは、本当のことなのでしょうか?」


次長「……それで?」

表情一つ変えず、涼しい顔のまま言葉を返す次長。

次長「仮にこれが真実だったとして、貴女はどうする気ですか?」

次長「生い立ちがどうであれ、今の深海棲艦は人類に害成す敵であることに変わりはないのですよ」

次長「まさか、彼女らに同情して滅びを甘受するべきなどと考えているのですか?」

翔鶴「そ、そんなことは……! 私はただ、これが真実であるのなら……!」

次長「公表して、大本営が過去の過ちを認めた上で立ち向かうべき……などと綺麗事を?」

翔鶴「……はい。私はそう思っています」

次長「そうですか。あの方と同じ事を……やはり母娘か……」

少し俯きながら呟く次長。今何て言ったのか……最後の方はよく聞き取れなかった。


軍令部B「次長、このままではマズイですよ。余計なことを口走られたら……」

軍令部A「知られたからには、やはりタダで帰すべきではないかと……」

次長「……そうですね。彼女はあの方と同じで聡明だ。先のことまで踏み込まれては困る。少しだけ、教育を受けてもらいましょうか」

瞬間、凄まじい轟音と共にドアが吹き飛び、女性が部屋に入ってくる。

翔鶴「あなたは……!?」

長く綺麗な黒髪に、艶やかな漆黒のドレスを纏った美女。しかしその背後には異様な存在。
戦艦クラスの主砲を肩に乗せた、禍々しいと言う言葉すら生温い醜悪な獣。
容姿から深海棲艦と思われるけど、例のノートにも該当する艦の姿はなかった。


次長「さあ、可愛がってやりなさい。戦艦棲姫!」

翔鶴「全航空隊、発艦!」

私は即座に艤装を展開し、大量の艦爆を嗾ける。あの巨体だし、距離は実際の海戦に比べて遥かに短い。回避する術はない!

戦艦棲姫「何かしら、それ……?」

翔鶴「そ、そんな!?」

大量の九九艦爆による爆撃を受けたのに、戦艦棲姫と呼ばれた女性は傷一つ付いていない。


戦艦棲姫「沈みなさぁいっ!」

その巨大な主砲が火を吹くけど既のところで回避。砲弾は分厚い鉄筋コンクリートの壁を跡形もなく消し飛ばした。
こんな砲撃を一度でも受けたら、間違いなく致命傷となる。その上こちらの攻撃では敵の装甲を貫けない。

戦艦棲姫「へえ、今のを躱すなんて……少しはやるじゃない」

敵は次発装填中。私も立ち上がり、相手の動きを警戒しながら着艦を始める。

翔鶴「……あなた達の目的は大本営への復讐ではなかったのですか? どうして彼らに従っているの!?」

着艦と第二次攻撃隊の編成をしながら、先程から疑問に思っていたことを口にする。彼女は深海棲艦ではないのか……?


戦艦棲姫「あら? 本当に何も知らないのねぇ……この人間達は、自らの保身の為に貴方達を売ったと言うのに」

翔鶴「えっ……?」

軍令部B「ちょ、戦艦棲姫様!?」

次長「困るな。そっちの方こそ、本当に隠しておきたかった真実だと言うのに」

どう言うことなの……? 次長が私達を売った? まさか……!?

戦艦棲姫「いいじゃない。どうせこの小娘は、ここで死ぬしかないのだから!」

そう言って彼女は副砲を掃射。主砲の一撃と違って威力はないけど、弾速が速くて連射も利く。
徐々に被弾が増える。このままじゃ体力を削られて、いずれは主砲の餌食になってしまう……


軍令部B「ふはは、圧倒的ではないか! 我が軍は!」

翔鶴「……!」

跳躍。不用意に前に出てきた上官殿の背後を取って、喉首に矢を突き立てる。

軍令部B「なっ!? 翔鶴、キサマァ!」

勿論本当に殺めるつもりはない。脅しでこの場を切り抜けて、何とか人目につく所まで逃げる。
そうすれば、敵もそんな目立つ場所で追撃するわけにはいかなくなるはず。
ノートもフラッシュメモリも捨てることになるけど、バックアップは別の媒体に取ってあるので問題はない。
惜しいのはノートパソコンの加賀さんフォルダに入ってる寝顔画像集だけだ。


翔鶴「抵抗を止めて、道を開けて下さい!」

軍令部B「くっ、た、助け……!」

次長「待て、殺すな!」

翔鶴「それなら彼女を撤退させて……!?」

次の瞬間、私は次長の言葉が誰に向けて発せられたものなのかを理解した。戦艦棲姫の主砲はこちらを向いたままだ。

次長「例の空母ヲ級改の艤装……彼女を素体にして性能を試してみたい」

戦艦棲姫「さあどうかしら? 小娘があまりにも脆すぎると殺っちゃうかもね?」

軍令部B「じ、次長!? 何を!? や、やめ、助けてくれェーーー!」

翔鶴「くっ……!」

戦艦棲姫は躊躇なく主砲を斉射。私は上官殿を突き飛ばして砲弾の軌道から外す。
そのまま私自身も回避体勢に入るけど間に合わず被弾……凄まじい衝撃。


次長「生きていますか。さすがは翔鶴型……中々の防御性能ですね」

冷笑を浮かべながら私の髪を掴む次長。私は……辛うじて意識は保ってるけど、指一本動かせない……

次長「それでは最後に一つだけ、本当のことを教えてあげよう」

次長「大本営の中にはね、私とその腹心を中心に深海側に協力している連中が存在する」

やっぱり……そう言うこと……か。


次長「我々は深海棲艦に抵抗することへの無意味さにいち早く気付いたのです」

次長「何せ彼女らは、この世界に負の感情が蔓延る限り無限に湧いてくる。勝ち目などありはしない……」

次長「そこで我々は、深海棲艦側と接触を図り取引を持ちかけました」

次長「こちらの情報を流したり、深海側の兵装開発に協力する代わりに彼女らが地上を制圧した際は我々を特別な待遇で迎え入れる……と言う物です」

次長「勿論、他の者達に我々の動きを悟られないよう、目立たない範囲での行動ですがね」

次長「それでも僅かずつではあるが、戦局が深海側に有利になるよう仕向けていたのですよ」

このことを、誰かに伝えないと……でも、もう動けない。駄目……意識が、遠くなって……

戦艦棲姫「ウフフ、良かったじゃない小娘。真実を知ることができて……!」

次長「それではお別れだ、翔鶴さん。君が、君の意思を取り戻すことはもう二度とないだろう」

戦艦棲姫と次長の嘲笑が響く中で、私の意識は途切れた。


_____6月5日 ブッソル海峡

瑞鶴「翔鶴姉……! さようなら……!」

ヲ級改「っ!?」

凄まじい轟音と衝撃。それまで希薄だった意識は一気に覚醒し、同時に頭の中にこれまでの記憶が流れ込んでくる。

翔鶴「瑞……鶴……?」

ああ、そうか。私は赤城さんを傷つけて……加賀さんを、この手に掛けてしまったのか。
色々と伝えたいこともある。謝らなければいけないことも、たくさんあるのに……


翔鶴「強く……なったわね……あなたなら、もう……大丈夫。私が……いなくなっても……」

翔鶴「あの人……を……貴方の一番大切な……加賀さんを……助けて……あげて」

今、ここで瑞鶴が引き揚げてくれれば私は助かるかも知れない。でも、そうなると加賀さんは……
だから、私のことはいい。私は沈むけど、それでいいの。
精一杯微笑みながら、瑞鶴に私の最後の願いを託す。勝手な言い分かも知れない。
あの子にまた、重いものを背負わせてしまうかも知れないけど……それでも私は、瑞鶴が一番大切な人と一緒にいられることを願った。

翔鶴「鈴谷さん、榛名さん。雷さん、浜風さん……後は、お願いね……?」

そして、かつての仲間達に大切な妹を託すと……私は糸が切れた人形のように崩れ落ち、冷たい水底に沈んでいく。

瑞鶴……最後の最後まで、お姉ちゃんらしいこと、何一つしてあげられなくてごめんなさい……
赤城さん……あなたと出会えて、あなたを好きになって良かった。
加賀さん……どうか、生きて……生きて、瑞鶴と一緒に……

お母様……今、そちらに行きます……


翔鶴「…………?」

冷たくて暗い海の中。体は動かせず、意識も朦朧としたままだけど、私はそれを認識した。

???「翔鶴……」

翔鶴「お母……様……?」

柔らかくて優しいその声色。聞き間違えるはずもない。
数年前、民間船に乗っていた際に深海棲艦の襲撃を受けて亡くなったお母様の声。

翔鶴「迎えに来て、くれたのですね……お母様……」

瞬間、とても優しくて温かい光に包まれるのを感じながら……私は自らの命の終焉を認識した。


_____11月 タウイタウイ泊地

58「て、てーとく! 大変でち!」

タウイ提督「何じゃ、騒々しい」

58「人が、打ち上げられてて……とにかく来るでち!」

タウイ提督「わわっ! これこれ、老い先短い老人をそんな急かすでない!」

168「あ、司令官!」

タウイ提督「みんな来とったか。打ち上げられてた人間とはその娘じゃな」

19「すっごい美人さんなのね!」

8「ただ、この女性。どこかで見たことあるような気がするのですが……」


タウイ提督「むっ……翔鶴! 翔鶴ではないか!?」

58「しょーかく……思い出したでち! 確か横須賀機動部隊にいた、あの美人さん!」

タウイ提督「うむ……しかし、何故この娘がこんなところに?」

タウイ提督「確か今年の始めに行方不明になって、6月頃に深海棲艦と化した姿で妹やかつての仲間達の前に姿を現した……」

タウイ提督「そして幌筵艦隊と死闘の末に実の妹、瑞鶴の手により撃沈されたと聞いとったが」

19「うぅ……姉妹同士で戦うなんて哀しいのね」


タウイ提督「まあともかく、生きてはいるようじゃな。高速修復材を使って入渠させ、意識を取り戻すのを待とう」

58「じゃあゴーヤは大本営に連絡するでち!」

タウイ提督「待て。今は待った方が良いだろう」

58「どうして?」

タウイ提督「ワシの、長年の勘みたいなモノじゃ。意識を取り戻すまで待とう」

58「ふーん。てーとくがそう言うなら……」


_____数日後

翔鶴「う、うー……ん……?」

ここ……は? 私、生きてる……? あの時、確かに沈んだはずなのに……

58「目を覚ましたでち!」

布団から起き上がると、周囲には潜水艦娘の子達と老提督。と言うことはここは……タウイタウイ?

タウイ提督「大丈夫か? 自分の名前は? ワシが誰だかわかるかね?」

翔鶴「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。ご無沙汰しております、老師」

潜水艦隊を駆り、オリョールに於ける通商破壊作戦で多大な戦果を上げている老提督。
海軍の中では最年長で、他の提督や艦娘達からは老師と呼ばれ尊敬されている。
私も東部オリョール海を攻略する際、横須賀に来ていた老師に助言をして頂いたことがあった。


タウイ提督「うむ。お主は数日前にこの島の海岸に打ち上げられておった」

タウイ提督「しかし、お主が沈んだのはここから遥か遠いブッソル海峡付近。それも5ヶ月以上も前のこと」

タウイ提督「これについて何か覚えていることはあるか?」

翔鶴「えっ……!? 5ヶ月も……!?」

いや。そもそも私自身が、あの時確かに自分は沈んだものだと思っていたし……

翔鶴「す、すいません老師。私、その……」

駄目……一気に流れてくる記憶と、今の状況が飲み込めずに混乱する一方。

タウイ提督「すまん。事を急ぎすぎたようじゃ。まずは食事にしようか。イムヤの奴がちょうどカレーを作っておる」

翔鶴「えっ? でも……」

19「いいから来るの! イムヤのカレーは絶品なのね!」


_____タウイタウイ泊地 食堂

タウイ提督「そうだな。まずは順を追って話してもらうことにするか」

翔鶴「はい。あ、でもその前に……お代わり、貰ってもよろしいでしょうか?」

久しぶりに食べるカレー。しかもそれがイムヤさんの自信作だけあって美味しすぎて……ついいっぱい食べたくなってしまう。

168「飛龍と一緒にご飯食べてる時にも思ったけど、やっぱり空母ってすごく食べるのね」

168「ま、その方が作り甲斐があるってものだけど! どんどんお代わりしちゃってね!」

翔鶴「ありがとうございます! いただきます!」


翔鶴「ご馳走様でした。生き返ったような気分です」

食事の時間が終わる。本当はもう少し食べたかったんだけど、他の泊地と言うこともあるので遠慮してしまって。カレーは控えめに6杯だけ。

タウイ提督「うむ。それでは話してもらおうか。1月にお主が行方不明になったと聞いているが……」

翔鶴「はい。私は……」

翔鶴「瑞鶴に会いに行こうとしてたんです。幌筵に左遷されてから、一度も連絡を取っていませんでしたから」

翔鶴「でも、その途中で深海棲艦と遭遇してしまって……多勢に無勢。敗れた私は彼女等に鹵獲されてしまいました」

翔鶴「そして、改造された空母ヲ級の艤装を取り付けられて……深海棲艦側の尖兵にされてしまったのです」

違和感。私の記憶……確かにこれで正しいはずなのに、頭の中で何かが「違う」と囁いてるような気がする。
でも……どれだけ手繰り寄せても他の記憶は出てこなくて……諦めて話を続ける。


翔鶴「その後は恐らく老師もご存知かとは思われますが……かつての仲間達に矢を向けました」

そして、加賀さんをこの手で……あっ、そうだ! 加賀さん! 加賀さんはあの後……!

翔鶴「老師! すいません、その……加賀さんは!? 加賀さんはどうなったんですか!?」

タウイ提督「そうじゃったな……お主は加賀を……だが、安心せい。お主の妹が命を懸けてサルベージしたわい」

タウイ提督「今でも幌筵泊地で二人仲良くやっとる。中々お似合いのコンビだと評判じゃぞ?」

翔鶴「そ、そうですか……良かったぁ……」

心の底から安心する。本当に良かった。瑞鶴、加賀さん……


タウイ提督「うむ。では話を戻そうか。瑞鶴に沈められた後のこと、覚えておるか?」

翔鶴「その……沈んでいく中で、亡くなったお母様の声が聞こえたような気がして……」

翔鶴「お母様が迎えに来てくれたんだって思ったんですけど、そこからはよく覚えてません」

翔鶴「何かの光に包まれたかと思ったら意識を失って……気がついたらここにいました」

タウイ提督「そうか。奇跡と言って片付けてしまうにはあまりにも不可解じゃな……」

タウイ提督「だが何にしても、せっかく助かった命じゃ。大事にしなさい」

翔鶴「はいっ……!」


_____大本営 軍令部会議室

次長「彼女が生きていたと?」

軍令部C「はっ! 先日タウイタウイより報告がありました。現在横須賀に向かっているそうです!」

軍令部D「死に損なったか……どうします? 戦艦棲姫様の力をお借りして、今度こそ本当に……」

次長「いえ、捨て置いて構いませんよ。例の大規模作戦の準備で忙しいのでね」

軍令部D「しかし……聞いたところによると奴は、この戦争の真実を知っていると……!」

次長「問題ありません。ヲ級に改造した際に記憶を改竄しておきました」

次長「それよりも今、私が興味があるのは妹の方。幸運の空母……」

次長「彼女の利用価値がどれ程の物かは、その作戦で明らかになるはずです」

次長「その時は貴女にも出てもらいます。よろしく頼みますよ、空母水鬼……」

空母水鬼「はい……」


_____大本営 深海棲艦会議室

戦艦棲姫「何故、あの娘を助けたの……?」

空母水鬼「…………」

戦艦棲姫「あなたなんでしょ? あの沈んだ小娘を拾って助けたのは」

空母水鬼「そうです。次長に報告でもしますか?」

戦艦棲姫「いいえ。そのことについて糾弾するつもりはないの。ただ純粋に興味があるだけよ」

空母水鬼「あの子は……私にとって特別な存在なの。だから、あそこで終わって欲しくなかった……」

戦艦棲姫「肉親の情ってヤツかしら?」

空母水鬼「そう取ってもらっても構いません」


戦艦棲姫「へえ……以前のことをしっかりと覚えているのね」

戦艦棲姫「でもそれなら尚更、例の作戦はとても辛いものになるんじゃないかしら?」

戦艦棲姫「あなたにとっても、あの小娘達にとっても」

空母水鬼「そうね。でもそれを乗り越えられなければ、この欺瞞と絶望に満ちた世界を変えることはできません」

空母水鬼「全ては彼女達の心の強さ次第でしょう。私はできることをやるだけです……」

空母水鬼「それでは私はこれで……」

戦艦棲姫「……まだ、変わることを望んでいるのね」





戦艦棲姫「母娘揃って、おめでたい子達……!」


_____横須賀港

翔鶴「老師、色々とお世話になりました」

タウイ提督「うむ。翔鶴、達者でな」

58「たまには遊びに来て欲しいでち!」

翔鶴「はい。いつか必ず……!」

老師と潜水艦娘の皆さんに別れを告げて船を降りる。

翔鶴「本当に、帰ってきたんだ……この場所に!」


少し歩くと、見知った三人の姿。蒼龍さんと飛龍さん。あれ? 赤城さんだけは何故かこちらに背を向けている。

蒼龍「翔鶴さんッ!」

飛龍「本当に……本当に生きてたんだ! 翔鶴さん!」

二人の後輩が抱きついてくるけど、赤城さんは背を向けたまま微動だにせず。

翔鶴「あ、あの……」

飛龍「おっと、私としたことが。翔鶴さんに会えたのが嬉しすぎてつい空気の読めないことを……」

蒼龍「翔鶴さん!」

そう言って私の背中を押す二人。大好きな赤城さんの背中が……綺麗な黒髪がすぐ目の前にあって……
こういう時、何て言えばいいんだろう? ごめんなさい? 会いたかった? いや、違う。


翔鶴「赤城さん……」

翔鶴「ただいま……!」

赤城「翔鶴……!」

赤城さんが振り返って、胸に飛び込んでくる。私はそれを受け止めて、力一杯抱き締める。

赤城「ふぇぇ……しょーかく、おかえり……翔鶴……!」

人前では決して涙を見せたことがなかったあの赤城さんが、こんなに……
私は、どれだけこの人に悲しい思いをさせちゃったんだろう……どれだけこの人に、愛されてたんだろう……
そう思うと胸がいっぱいになって、赤城さんをより強く、もう二度と離さないってくらいに強く抱き締めた。



その後も赤城さんにはいっぱい泣かれて……ベッドの上では鳴かされて……本当に戻ってきたんだって実感する。


_____翌日 横鎮空母寮

さて、後は幌筵の子達に会うだけなんだけど……どうも瑞鶴と加賀さんは二人で長期休暇を取って出掛けてるみたい。

蒼龍「二人とも翔鶴さんが生きてたことも知らされてないみたいですよ」

赤城「そうね。あの二人がそれを知ったら間違いなく旅行を中断して帰ってきてしまうもの。あの提督なりに気を遣ってるのよ」

飛龍「でも、これはこれで面白そうだね~。いいこと思いついちゃった」

悪戯っぽい微笑みを浮かべる飛龍さん。こう言う時の彼女は本当に生き生きしてる。

飛龍「二人には最後の最後まで伝えないでおいてさ、帰投したら翔鶴さんが出迎えるってのはどう?」

飛龍「きっと二人ともすっごく驚くと思うよ」

蒼龍「もう、飛龍ったらロクなこと考えないんだから。いくら何でもそれはねぇ……翔鶴さん?」


翔鶴「そうね。特に加賀さんに対しては……沈めてしまった負い目がありますから」

飛龍「でもさー、見たくない? 翔鶴さんのことお化けだと思って狼狽える加賀さんの顔……」

翔鶴「!?」

何それ見たい。すっごく見たい! でもダメ。ダメよ、翔鶴。私は加賀さんに酷いことを……

赤城「…………」

翔鶴「あ、赤城さん?」

赤城さんは無言で、満面の笑みを浮かべながら私に三角頭巾と白装束を渡してくる。
ああ、やれってことなのね。赤城さんの命令には逆らいたくないけど、やっぱり加賀さんに悪いし……出来れば穏便に済ませたいな。


蒼龍「ちょ、赤城さんまでそんなこと……」

赤城「蒼龍、あなたこの前加賀さんに41cm砲で痛めつけられたのを忘れたの?」

蒼龍「あ、あれは、そもそも赤城さんが瑞鶴と加賀さんのセッ……夜戦を覗こうとしたから……!」

蒼龍「完全に自業自得じゃないですか! 私はとばっちりですけど!」

は? 加賀さんと瑞鶴が、夜戦……?

翔鶴「ちょっと蒼龍さん? その話、詳しく聞かせてくれない?」

蒼龍「え? あっ……」


蒼龍さんを審問して色々聞き出した。加賀さんが瑞鶴を無理矢理襲ったこと。
それで仲違いをしたけど紆余曲折あって仲直り。そして良い雰囲気になってまた加賀さんが瑞鶴を押し倒した……と。

うふふ。加賀さん、やってくれますねぇ。あなたは結婚するまで清い関係を貫いてくれるタイプだと思ってたのに……

飛龍「て言うかさー、今二人っきりで旅行してるんだよね。絶対ヤってるよねあの二人」

翔鶴「!? ふふ……うふふふふふ……赤城さん、私、行ってきますね」

飛龍「あーあ、蒼龍の所為で翔鶴さんが見たこともないような黒い笑みを浮かべてるよ」

蒼龍「ちょっ!? 私が悪いの!? 元はと言えば二人が……!」

赤城「今度は加賀さんに46cm砲でどやされるかも知れませんが……強く生きるのよ、蒼龍」

蒼龍「えっ!? ちょっとぉ! やだやだ! なんで私ばっかり~!?」

翔鶴「加賀さん、待ってて下さいね」

その後、加賀さんは私の幽霊姿に予想以上に驚いてくれて……その顔は新しく作った加賀さんフォルダの記念すべき1枚目を飾ったのでした。

つづく!

次回「別離」


設定


翔鶴(24):瑞鶴に沈められたと思われていたが空母水鬼に救出される。加賀さんをからかうのが生き甲斐。
この後赤城さんと婚約した。

戦艦棲姫:多くの艦を率いる深海側のボス格。好戦的で、圧倒的な火力と装甲を持つ。

空母水鬼:謎に包まれた深海棲艦。一体誰の母親なんだ……!?

今回はここまでです。次回の投下は年が明けてからになると思います。
それではここまで読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。
良いお年を。

あけましておめでとうございます。
新年ボイスのさり気ない瑞加賀に歓喜しつつ投下していきたいと思います。

今回の話で完結になりますが長いので数回に分けての投下となります。


「別離」

_____8月 横須賀鎮守府大演習場

瑞鶴「よし! ここで……決める! 攻撃隊、いっけえぇぇぇ!」

翔鶴「きゃあぁぁぁっ!」

赤城「翔鶴!?」

翔鶴「や、やられました……」

横須賀提督『そこまで! 横須賀艦隊全艦撃沈判定! よって、演習は幌筵艦隊の勝利!』

瑞鶴「やったぁ! 加賀さん、やったよ! 私達の勝ちだよ!」

そう言って加賀さんに駆け寄りハイタッチ。本当はパイタッチしたかったんだけど殴られそうなのでやめた。


雷「本当に勝っちゃったの、私達!?」

浜風「努力の成果ですね」

鈴谷「瑞鶴、やるじゃん! 大和と翔鶴さん倒したのは凄かったよ!」

榛名「榛名、感激しました!」

撃沈判定を受けて場外に退避してたみんなも駆け寄ってくる。そうだ。この勝利、私一人の力で掴んだものじゃない。
私と加賀さんが制空権を取り、浜風と雷が露払いと護衛を。鈴谷と榛名がきっちりと相手の主力に効果的にダメージを与えた。
まさにみんなで掴んだ勝利。余興の演習とは言え、横須賀で最高の練度を誇る艦隊に勝ったんだ。

加賀「瑞鶴……」

加賀「よく頑張ったわ」

優しく微笑んで、頭を撫でてくれる加賀さん。みんなと一緒に戦えて、本当に良かった……そう思える至福の瞬間。


翔鶴「瑞鶴、加賀さん……」

翔鶴「私達の完敗よ。二人とも本当に強くなったわね」

赤城「練度ならもう私達よりも上ですね」

瑞鶴「えっ!? そ、そんな、勿体無い言葉!」

赤城「ふふ。瑞鶴さんったら珍しく謙遜しちゃって。ね? 加賀さんもそう思うでしょう?」

加賀「そうね……私が見る限りでは、お二人よりも練度は高くなってると思います」

瑞鶴「~~~~~っ!」

加賀「でも、この勝利に慢心しないでこれからも精進を……って、なっ!?」

一瞬、頭が真っ白になるけどすぐに我に返って加賀さんに抱きつく。


瑞鶴「加賀さんっ! 加賀さん加賀さん!」

加賀「ちょっ、瑞鶴!? 何をしているの、離れなさい! 皆見ているでしょう!?」

加賀さんが私を認めてくれた! あの赤城先輩よりも、翔鶴姉よりも強いって!
嬉しすぎて、加賀さんをより強く抱き締めた。

加賀「い、痛いっ! 痛いわ、やめなさい瑞鶴!」

翔鶴「あらあら」

赤城「二人は本当に仲良しね」

私と加賀さんの関係は良好。未だに喧嘩したり、ぶつかり合ったりすることもあるけれど……
最後にはお互いの良いところも悪いところも認めて、受け入れて……高め合っていく。
恋人であって好敵手。先輩であって良き相棒。そんな最高の関係が、これからもずっと続いていくと思ってた……



少なくともこの時までは……


_____10月 幌筵泊地

加賀さんが大破した。浜風と一緒に南方のサーモン海域に偵察に行ってたんだけど……
ちょうど私があのレ級を倒した辺りの場所で、見たこともない深海棲艦と遭遇。
艦載機による攻撃はその重装甲に跳ね返され、禍々しい主砲から放たれた凶弾でなす術もなく大破。
その後敵は追撃をせずに撤退していき、浜風に曳航されて何とか帰還は出来たんだけど……
加賀さんの意識は戻らず……今朝方、呉の海軍病院に搬送された。
艤装もうちの泊地では修復不可能な程の状態。こちらは横須賀の海軍工廠で大規模整備中となっている。

瑞鶴「加賀さん……」

戦艦レ級にみんながやられた時と似たような感情がふつふつと沸いてくる。
行きたい。今すぐ加賀さんの仇を討ちに南方に行きたい……けど、私は旗艦なんだ。
勝手に暴走して突っ走るわけにはいかない。第一、敵についての手掛かりは殆どない。


鈴谷「瑞鶴~、提督が呼んで……うわぁっ!?」

色々と考えていると、鈴谷が私を呼びに来た……のはいいけど、何? その驚き様は?

瑞鶴「す、鈴谷……? どうしたの?」

鈴谷「いやだって今の瑞鶴、ガチで人殺しそうな顔してたよ! 怖いってマジで!」

瑞鶴「えっ?」

そっか……私、そんな顔してたんだ……加賀さんのことになるといつもこうだ。


瑞鶴「ごめんね、鈴谷」

一旦深呼吸して心を落ち着ける。よし、これで大丈夫。

瑞鶴「えっと、提督さんが呼んでるんだよね? すぐ行くから」

鈴谷「瑞鶴!」

立ち上がって部屋を出ようとする私を、鈴谷が呼び止める。

鈴谷「私達が、いるから……! 瑞鶴にはみんながついてるんだからね。忘れないで……」

瑞鶴「ん、ありがとね」

ヤバい。その一言が嬉しくて、つい頬が緩む。私は悟られないように足早に部屋を出て行った。


_____執務室

瑞鶴「失礼します」

幌筵提督「瑞鶴ちゃん……良かった。一人で加賀さんの敵討ちとか行っちゃってたらどうしようかと」

瑞鶴「もう、提督さん。私はそこまで単純じゃないよ?」

幌筵提督「そうだったわね。ごめんね」

少し頬を膨らませる仕草を見せると、提督さんは素直に謝罪。
まあ、本当にほんの少し……欠片1ミリくらいはそんな考えもあったんだけどさ。


瑞鶴「で、提督さん。何の用なの?」

幌筵提督「うん、大本営から指令が来てるのよ。次の作戦で瑞鶴ちゃんの力を借りたいって」

瑞鶴「大本営が?」

珍しいな。今まで私達のことなんて、まるで存在しないかのように扱ってきたのに。

幌筵提督「もし話を聞く気があるなら一週間以内に横鎮まで来るようにって」

瑞鶴「提督さん、その作戦って……」

幌筵提督「ええ、情報漏洩防止の為に詳細までは書かれてないけど……恐らくはレイテね」

瑞鶴「レイテ……か」


赤城先輩達が西方海域を攻略したのが去年の11月。それから3ヶ月後……翌年の2月から、軍による南方海域の攻略が開始された。
南方攻略自体はゆっくりだけど着実に進んでいた。5月にはポートモレスビーを攻略。
8月のあの大演習の後は、持ち得る全資源を投入してサブ島沖に出撃。
その最深部で南方海域を統べる深海棲艦、南方棲戦姫と交戦することになった。
激戦の末に彼女を退けたことで艦娘側は南方戦線に於ける優位を確立。海域攻略も時間の問題だと思われていた。

しかしそれから数日後、サーモン海域北方から現れた深海棲艦の大部隊が南西諸島海域に侵攻してきた。
軍はサブ島沖攻略の際に備蓄していた資源を殆ど使い切ってしまい、主力を動かすのが難しい状態。
南西諸島周辺の泊地に滞在している残存戦力で抵抗を試みたものの、多勢に無勢。レイテ島上陸を許してしまった。
不幸中の幸いで轟沈艦は出ていないものの、迎撃に参加したブルネイとタウイタウイの艦娘達はリンガ泊地まで後退。
これによって南西諸島海域の制海権は喪失。本土と西方、南方が分断されて、各地の資源を本土に輸送するのが非常に難しくなった。
一刻も早くレイテ島を占拠している深海棲艦を撃滅し、シーレーンを回復させなければ資源集めすらままならなくなる。

幌筵提督「瑞鶴ちゃん、どうする?」

レイテ……私はその場所に、何故か苦手意識を持っている。ずっと昔っからそう。
名前を聞くだけで身構えてしまい、近くを通るだけで言い知れぬ不安に襲われる。


瑞鶴「行きます」

それでも私は即答した。加賀さんが深海棲艦にやられて……敵討ちしたいけど独断では動けない。
そんなモヤモヤした気持ちがここ数日続いてたから、それを何かにぶつけたかったんだと思う。

幌筵提督「わかった。お父さ……横須賀の提督には私から伝えておくわ」

ああ、そっか。確か横鎮の提督ってこの人のお父さんなんだっけ。

幌筵提督「ん? どしたの、瑞鶴ちゃん」

瑞鶴「いや、その、親娘二代で提督やってるのってすごいなーとか思ってさ……」

幌筵提督「そうかなー? そう言えば、瑞鶴ちゃんのご両親は何してる人なの?」

……そっか。提督さん、翔鶴姉とはそう言う話はしなかったのか。


瑞鶴「両親はもういないよ」

幌筵提督「え?」

瑞鶴「お父さんは私が生まれる前に亡くなった。体が弱くて、持病があったみたいで」

瑞鶴「お母さんは、艦娘学校に入る直前くらいかな。乗ってた船が事故に遭って亡くなった」

幌筵提督「そ、そうだったんだ……ごめんね? 辛いこと聞いちゃって」

瑞鶴「ううん、いいの。その後は翔鶴姉がずっとお母さんの代わりもやってくれててさ」

瑞鶴「生活も苦しかったけど、二人で協力して生きてきたのは良い経験になってると思うよ」

幌筵提督「そっか」


瑞鶴「あ、でも心残りが無いわけじゃない……かな」

瑞鶴「お母さん、よくジャガイモの入った味噌汁を作ってくれたんだけどさ……」

幌筵提督「ああ、食べられなくて泣いちゃった話?」

瑞鶴「うぇ!? て、提督さん! 何でその話知って……あっ」

鈴谷だ。もう、あのお喋りJKめ。いつか絶対爆撃してやるんだから。

瑞鶴「まあ、その……ジャガイモ自体は好きなんだけど、味噌汁に入ってるのは何か苦手で」

瑞鶴「お母さんは好き嫌いとかして欲しくなかったから、色々レシピをアレンジして作ってくれたりしたんだけどね」

瑞鶴「結局最後まで食べられないままだったなぁ……」

瑞鶴「っと、話が長くなっちゃった。そろそろ部屋に戻るね」

幌筵提督「瑞鶴ちゃん……どんな作戦かはわからないけど、無茶だけはしないでね?」

瑞鶴「わかってるって! 加賀さんを残して、私が沈むわけないじゃん」


_____数日後 横鎮応接室

横須賀提督「待たせたな。早速だが軍令部次長より考案されたレイテ島奪還作戦の説明に入らせてもらう」

応接室で待たされること1時間。横須賀の提督が大量の資料を片手に部屋に入ってくる。
うちの提督さんのお父さん……なんだけど、面影は殆どない。提督さんはお母さん似なのかな。

横須賀提督「この作戦は三つの艦隊を編成し、それらを二つの部隊に分けて行う」

横須賀提督「まず空母を軸とした第一艦隊と護衛の第二艦隊から成る連合艦隊」

横須賀提督「こちらが攻略の主力となる艦隊だ。レイテ島に突入し、敵旗艦を叩いてもらう」

横須賀提督「だがいくら精強な機動部隊と言えど、敵の機動部隊と何度もぶつかって消耗してしまっては主力を倒すのは難しいだろう」

横須賀提督「加えて現在の資源備蓄状況ではそう何度も出撃は出来ん。一度の失敗も撤退も許されない状況だ」


横須賀提督「そこで第三艦隊の出番と言うわけだ。こちらも機動部隊を編成し、エンガノ岬付近に出てもらう」

横須賀提督「こちらの小規模な機動部隊が単独で行動中と聞けば、敵も必ず機動部隊を動かして撃滅に来るだろう」

横須賀提督「敵機動部隊を釣り上げ、本陣の守備が手薄になった所を連合艦隊で叩くと言うのが軍令部が考案した作戦だ」

横須賀提督「第三艦隊……言うなれば囮機動部隊の旗艦を、君には務めてもらいたい」

囮機動部隊……確かにそれが成功すれば、レイテ奪還には大きく近づくけど……

瑞鶴「そんなに上手くいくかな? 囮機動部隊を撃破しに来るとしても、最低限の戦力しか向けてこないことも……」

十分考えられる……って言うか、それが普通だ。敵からしたらわざわざ本陣の守りを薄くして、リスクを負う必要はない。


横須賀提督「いや。君が旗艦となれば敵は必ず撃沈せんと、多数の戦力を向けてくるだろう」

瑞鶴「私にそんな、戦局を左右するような力は……っ!?」

横須賀提督「偵察部隊から確認も取れている。敵機動部隊の旗艦は……こいつだ」

差し出された写真を見て戦慄する。かつて私が南方で沈めた大悪魔……破壊を具現化した黒き死神……

瑞鶴「戦艦レ級……!」

横須賀提督「ああ。以前君が倒したものと同一個体であることが確認されている」

なるほど……こいつなら、私には全力で復讐に来るかも知れない。

瑞鶴「…………」


横須賀提督「瑞鶴、この際だからハッキリと言っておく。この作戦、第三艦隊は特に危険に晒されるだろう」

横須賀提督「何せ最低限の人数で敵の精鋭機動艦隊を何度も相手にせねばならんのだからな」

横須賀提督「撃滅は勿論期待されてはいない。出来る限り時間を稼いで撤退するのが役目だが……」

横須賀提督「最悪の場合は轟沈すら覚悟しなければならない。それだけ苛烈な戦いとなるだろう」

横須賀提督「だから私も無理強いはしない。君がこんな作戦は受け入れられないと言うのなら、また別の作戦を考案するよう申し立てるつもりだ」

確かにこの囮機動部隊作戦は私がいないと成立しない。他の作戦って言っても、そんなすぐに思いつくものでもないし。
補給線を断たれてる現状では時間が経てば経つほど不利になっていく。それなら多少リスクを負ってでもすぐに作戦行動に移れた方が……

瑞鶴「大丈夫です。引き受けます」

横須賀提督「……すまない」

提督は力無く答える。きっとこの人も、この作戦は本意ではないのだろう。
でも……それでも私達は、大切なものを守る為に戦わなくちゃいけない。それが艦娘の使命なんだから……!


横須賀提督「随伴艦はこちらになる。確認したまえ」

手渡された資料に目を通す。前にレ級と戦った時と同じく5人編成。見知った顔も入ってる。
幼馴染みの軽空母、瑞鳳。西方攻略の時に一緒に戦ったプリンツ・オイゲン。
その西方海域解放によってこちらの艦隊と合流したドイツからの助っ人、戦艦ビスマルク。それに……

瑞鶴「葛城……!」

横須賀提督「彼女か。最近メキメキと力を付けてきてな。君を目標に相当な努力をしてきたようだぞ」

前の演習の時に彼女の動きは見せてもらった。確かにすごい成長してたけど……

瑞鶴「それでも、レ級が相手となると……」


あの悪魔を相手に葛城を守りながら戦い抜く自信は……はっきり言って無い。それ程までにレ級の力は頭一つ抜けてる。

瑞鶴「あまりにも危険すぎると思うんですが……」

???「先輩っ!」

瞬間、応接室のドアが勢いよく開かれて……今話題に出ていた彼女が駆け寄ってくる。

葛城「葛城は大丈夫ですからっ! 先輩と一緒に戦いたいです!」

横須賀提督「ヤツの恐ろしさは彼女も知っているよ。君がレ級と戦った時の映像を何度も何度も見ているからな」

横須賀提督「それでも彼女は、君と共に在りたいと……この囮機動部隊に志願したのだ」


瑞鶴「葛城……」

彼女の目をジッと見つめる。決意を秘めた、力強い目付き。

瑞鶴「保障は出来ないよ……?」

葛城「承知の上です! むしろ葛城が足を引っ張りそうになったらその場で切り捨てちゃって下さい!」

瑞鶴「わかった……一緒に行こう!」

彼女の覚悟と意志を確認した私はそれ以上何も言わず……ただ、絶対に守り切ると背中で答えた。


_____横鎮空母寮 客室

艦載機の整備も何とか終了。夕食の時間までまだ少しありそうだし、第三艦隊のみんなに挨拶でもしとこうかな。

???「瑞鶴、いる?」

瑞鶴「あれ? 翔鶴姉? それに先輩達も」

扉が開かれて、翔鶴姉と赤城先輩、蒼龍先輩が部屋に入ってくる。飛龍先輩の姿は見当たらない。

瑞鶴「どうしたの?」

翔鶴「瑞鶴! 囮機動部隊の旗艦を引き受けたって話、本当なの!?」

瑞鶴「ああ、その話ね。うん、どこまで時間を稼げるかわからないけど、頑張るよ」

翔鶴「そんな……危険すぎるわ。相手は戦艦レ級だけじゃないのよ!」

蒼龍「確認されただけでも敵空母の数は10隻以上……たった5人で相手に出来るとは思えないよ」

瑞鶴「確かに危険だけどさ、それだけの価値がある作戦でしょ? 今はとにかくレイテを取り戻すのが先決なんだから」


赤城「生き急いでるわね? 瑞鶴さん」

瑞鶴「えっ?」

それまで黙ってやり取りを見ていた赤城先輩が口を開く。生き急いでる……か。

赤城「私達の置かれている状況はよろしくない。言うなれば真綿で首を絞め付けられている状態」

赤城「その上加賀さんまであんな目に遭ってしまって……あなた自身もどこか焦っているのでしょう?」

ああ、やっぱりこの人には何もかも見抜かれてるなぁ……

赤城「作戦はもう発動してしまった。今さら変更なんて出来ないでしょう」

赤城「だからせめて最後まで……決して自暴自棄にならずに、冷静に、臨機応変に、色々なことに考えを巡らせなさい」

瑞鶴「赤城先輩……」


赤城「あなたの帰りを待っていてくれる人、あなたを失ったら悲しむ人がたくさんいるのよ」

赤城「それをどうか、忘れないで……」

翔鶴「瑞鶴……!」

瞬間、翔鶴姉に抱き締められる。この感覚、本当に久しぶりだ。

翔鶴「必ず、帰ってくるのよ……瑞鶴」

瑞鶴「翔鶴姉……!」

そう……だよね。今の私に必要なのは、敵を撃滅する武勲でも、玉砕覚悟で戦う勇気でもない。
死なないこと……ただ、それだけだ……! それを改めて認識する。


_____横鎮 食堂

瑞鳳「あっ、瑞鶴! 久しぶり~!」

第三艦隊のメンバーが集まってる食堂に行くと、開口一番に瑞鳳が駆け寄ってくる。
今までも横須賀に行く機会は結構あったんだけど、その時に限って瑞鳳は任務や遠征に出てたりして会えなかった。
ちゃんと話をしたのは1年以上も前……幌筵での例の件以来だ。

瑞鳳「今日は瑞鶴の為にいっぱい玉子焼き作ってきたから、食べて!」

葛城「ちょっと瑞鳳先輩! 抜け駆けはずるいですよ! 私だって瑞鶴先輩の為にオニギリ作ってきたんですから!」

瑞鶴「ちょ、二人とも……苦しい、やめっ……!」

二人の後輩に無理矢理食べ物を口に押し込まれる。まったくモテる女は辛いぜ……なーんてね。


プリンツ「瑞鶴久しぶり~! 相変わらず賑やかだね~!」

瑞鶴「オイゲン! それに……」

お握りと玉子焼きを一気に水で流し込んでから、そちらに視線を向ける。
重巡プリンツ・オイゲンとは西方攻略以来の再会。そしてもう一人が、恐らくこの第三艦隊の最重要戦力。

ビスマルク「Guten Abend! 私が戦艦ビスマルクよ」

スラッとした美脚に、流れるようなサラサラの金髪。オイゲンは可愛い系だけど、この人はまさに正統派美人って感じ。

ビスマルク「あなたが旗艦の瑞鶴ね? このビスマルクを率いて戦えることを誇りに思いなさい!」

瑞鶴「うん。短い間だけどよろしくね、ビスマルク……」

その凜とした佇まいに、同性の私でも思わず見惚れそうになる。


葛城「ちょっと瑞鳳先輩! あの二人、すっごい絵になってませんか!? お姫様と女騎士みたいな感じで!」

瑞鳳「ぐぬぬ……もう、瑞鶴! これ以上フラグ乱立なんてさせないんだからぁ!」

瑞鶴「んー? どしたの、二人とも……そんな怖い顔しちゃってさ」

ふと見ると、二人が物凄い熱視線を送っているのに気付く。
ああそっか、ドイツの艦娘と会うの初めてだから緊張してるのか。まったく可愛い後輩達だなぁ。

瑞鶴「大丈夫だよ! 今の見てたでしょ? ちゃんと日本語通じるから!」

瑞鳳・葛城「もう……! 瑞鶴(先輩)の、鈍感!」


_____数日後 瀬戸内海

いよいよ作戦決行の日だ。恐らくはあと数日のうちに起きる、レイテ沖での戦い……
この一戦に、私達の未来が懸かっていると言っても過言ではない……けど、今の私にはそんな重圧は皆無だった。

葛城「瑞鶴先輩、何だかスッキリした顔をしてますね?」

瑞鶴「まあ、その……ちょっと色々あってね~」


昨日の夜、加賀さんが意識を取り戻した。病室に入ってその姿を見た時は色んな思いが溢れて、言葉が出なかった。
すぐに駆け寄って唇を奪って、舌を絡めて……しばしの沈黙の後に今回の囮作戦に参加することを告げた。

みんなの前では気丈に振る舞っていたけど、本当はレイテが怖くて仕方ないってことも伝えた。
それを聞いた加賀さんは微笑して、自分も何故かミッドウェーが苦手なのだと語ってくれた。
どうやら殆どの艦娘が、理由はよくわからないけど苦手とする海域があるらしい。
赤城先輩や二航戦の二人は加賀さんと同じでミッドウェーが、翔鶴姉はマリアナが苦手なんだとか。

それでも翔鶴姉は、赤城先輩と一緒にマリアナでのあ号艦隊決戦で勝利してそれを乗り越えてみせた。
大切な人や守るべきもの……そう言ったものがあれば乗り越えて行けるんだって聞いて少し勇気を貰った。


その後は……加賀さんに優しく押し倒されて、唇を重ねて。体を……重ねた。
翔鶴姉と赤城先輩がいつもやってる、空母でも出来る夜戦。
お互い初めて同士だから恥じらいもあったけど、それ以上に温かくて、幸せな気持ちに包まれて……



最後に、必ず生きて帰ってくるって約束をした。


プリンツ「あれ? レーダーに反応? 単艦みたいだけど……」

出港からしばらく経って、オイゲンがそれに気付く。深海棲艦? こんな場所で?
まだ戦闘区域にすら入っていない。当然、索敵機も出していないから相手の正体は不明。

瑞鳳「瑞鶴、どうするの?」

仮にここで戦闘になって燃料や弾薬を消費したとしても、明日、大分にでも寄って補充すれば問題ないか……

瑞鶴「全艦警戒体勢! 瑞鳳、葛城は目視距離に入ったらいつでも発艦できるようにして……ん?」

まだ結構遠いけど、ぼんやりと見えてくる。あれは……


瑞鶴「あ、やっぱ今のなし! 大丈夫、味方だよ」

プリンツ「嘘!? この距離から見えるの!?」

ビスマルク「空母娘はとても目が良いって聞いてたけど……」

葛城「いや、私には全然見えないですよ!」

瑞鳳「瑞鶴が特別なんです」

とりあえず戦闘にはならないけど、でも何であの人がこんなところにいるの?


瑞鶴「こんな所で何してるんですか、飛龍先輩!」

みんなも驚きの顔を浮かべている。飛龍先輩は第一機動艦隊に編成されてたはず。
私達とは別ルートで、ちょっと前にレイテへ向かって出発したと思ってたのに……

飛龍「いやーそれがさー。寝坊したら置いていかれちゃって」

葛城「えぇーーー!?」

飛龍「結構頑張って追いかけたんだけど、途中でこりゃダメだなって思って」

飛龍「仕方ないからここで君達が来るのを待って、こっちの部隊に加わろうと思ったんだよ」

ビスマルク「なんていい加減なのかしら。規律が緩んでるどころの話じゃないわよ」

この人が……飛龍先輩が、こんな大事な決戦の時に、そんなこと……あり得るのかな?


飛龍「ずーいーかーくー!」

瑞鶴「うわあっ!?」

なんてことを考えてると、頭を掴まれて耳打ちをされる。

飛龍「この作戦、ハッキリ言って嫌な予感がするんだよね……」

瑞鶴「えっ?」

飛龍「軍令部の連中、多分瑞鶴達の生存は期待してないと思うんだよね」

飛龍「冷静に考えてみたらさ、この少人数で何十隻もの精鋭機動部隊を相手にするなんて無理に決まってるよ」

飛龍「連中にしてみたらレイテ島の奪還は至上命令。だけど、逆に言えば……」

飛龍「それさえ達成できれば、末端の艦娘がどうなろうが関係ないってスタンスなんだと思うよ」

飛龍「だからこんな無茶な作戦をゴリ押してきたのよ。瑞鶴が断らないのをわかった上でね」


瑞鶴「飛龍先輩……」

飛龍「見過ごせるわけがないじゃん。可愛い後輩が、上の奴らにいいように使われてむざむざと沈んでいくなんて……」

飛龍「そんなの、私が許さない!」

飛龍先輩は本気だ。独断でこんなことをして、どんな処分が下るかもわからないのに……
それでも飛龍先輩は来てくれた。私達を助ける為に……!

ビスマルク「ちょっと二人とも。さっきから何をコソコソと話しているの?」

瑞鶴「あ、ごめん。えっと、飛龍先輩も一緒に来てくれることになったから」

プリンツ「本当!? やった、心強いよ!」

飛龍「まあ任せといてよ。さあ瑞鶴、行くよ!」

瑞鶴「はいっ!」


_____エンガノ岬

呉を出てから数日。敵の哨戒網を潜り抜け、ここまで辿り着いた。
索敵機からの情報によると、私の姿を見たと思われる「アイツ」が多数の艦隊を率いて接近中とのこと。
主力連合艦隊はこちらが戦闘に入り次第レイテ突入の予定。いよいよ決戦の時だ!

飛龍「見えてきたわね……第一波、来るよ!」

目視距離。戦艦レ級を旗艦に、戦艦ル級改1隻、重巡リ級2隻、後期型駆逐艦が2隻。

レ級「やあ、久しぶりだねえ瑞鶴。会いたかったよ」

赤いオーラを纏って更に強大になった悪魔。その言葉遣いは穏やかだけど、底知れぬ憎悪がこもっている。

瑞鶴「こっちはアンタの顔なんて二度と見たくなかったんだけどね」

けど、どうしてだろう? あの時みたいな威圧感を全く感じない。


レ級「去年の5月に君に沈められてから、ずっと復讐することだけを考えてきたんだ!」

レ級「絶望と苦痛の中で……沈めッ!」

咆哮と同時に尻尾から次々と艦載機を発艦。その数、180! 前よりも大分増えてる……けど!

瑞鶴「航空戦用意! 航空隊、全機発艦!」

飛龍「オッケー! 徹底的に叩くわよ!」

飛龍先輩と同時に全機発艦。以前戦った時とは艦載機の性能も練度も比べ物にならないほど上がってる。

飛龍「お、烈風改? 瑞鶴、スゴイ物積んでんじゃん!」

瑞鶴「加賀さんから預かったんです。今の私なら、きっと使いこなせるって」

そう。これは大切な艦載機……加賀さんの宝物。これをあの人に返す為にも、私は負けられないんだ!


葛城「行くわよ! 葛城だって、出来るんだから!」

瑞鳳「数は少なくても、瑞鶴の力になってみせる!」

やや遅れて二人も発艦。こちらの艦戦は烈風改24機、私と飛龍先輩の烈風が33機。
葛城、瑞鳳から発艦された紫電改二が合計で48機。数は相手の方が遥かに上だけど……!

レ級「なっ……!?」

両陣営の航空戦力が激突。こちらの艦戦がレ級の艦載機を次々と叩き落としていく。

瑞鶴「制空権……確保! 攻撃隊、一気に叩いて!」

レ級「こんな……こんなハズは!?」

ほぼ損失無しで敵の包囲網を突破した熟練航空隊が一斉に攻撃を仕掛ける!


リ級A「グホッ!? バカな……この、威力は……!?」

リ級B「光……が……!?」

レ級「ば、馬鹿な……このボクが……!? こんな、こんなはずは……!?」

重巡1隻がレ級を庇い盾となるが、そんなの物ともせず一気に中破まで持っていった。
更にもう1隻の重巡も沈める大戦果! これでこっちが圧倒的に有利。このまま一気に畳み掛けたい。

レ級「くっ……ナメるなァ!」

直後、レ級は体勢を立て直して切り札の魚雷を発射。しかし中破していて上手く狙いを定められないのか、容易に躱す。


瑞鶴「砲戦、開始します! 全艦突撃用意!」

ビスマルク「腕が鳴るわね!」

水偵を飛ばしたビスマルクが先陣を切って敵陣に突撃。レ級に狙いを定めて主砲を斉射する。

後期イ級「やらせはせん!」

しかし、すかさず駆逐艦が盾となってレ級への直撃を許さない。

レ級「沈めェ!」

間髪入れずレ級の砲撃。放たれた砲弾は自らの盾となった駆逐艦もろとも吹き飛ばし、私に向かってくる。

瑞鳳「瑞鶴ッ!?」

私は即座に横っ跳びで回避。砲弾は艤装を掠めただけで無傷。
駆逐艦を撃ち抜いた影響で僅かに威力と速度が減退したのが幸いした。


プリンツ「よし、露払いは任せて! 主砲、砲撃開始!」

後期ロ級「グギャアァァァァ!」

今度はオイゲンが切り込んで主砲で一閃。駆逐艦を撃沈。残りは戦艦クラスの2隻だけ!

ル級改「艦娘共がッ……調子に乗るなァ!」

主砲を構えながら前衛に出てくるル級改。狙いは葛城か! フォローが間に合うかどうかのギリギリの距離!

葛城「こ、怖くなんか……ないんだからぁ!」

瑞鳳「いつまでも、瑞鶴に守られてばっかりじゃないのよ!」


着艦を終えた二人がル級改に攻撃を仕掛ける。攻撃隊は相手が斉射するよりも早く捕捉!

ル級改「グッ……アァァ! ば、バカな……この、私がッ!?」

攻撃隊の同時爆撃を受けた戦艦は唸りを上げて爆発四散。二人とも、すごく強くなってる。私がフォローに入るまでも無かった。

葛城「ず、瑞鶴先輩ッ! 見ててくれました!?」

瑞鳳「私達だって、頑張れば活躍できるのよ!」

瑞鶴「すごいよ二人とも! あの戦艦を倒しちゃうなんて!」

これで障害は無くなった! 私は攻撃隊を再編し、レ級を見据える。


レ級「くっ……この役立たず共めッ!」

瑞鶴「よし、決めますよ! 飛龍先輩!」

飛龍「オッケー、やっちゃおうか! 自信持っていきなよ、あんたならできる!」

瑞鶴「はい! 攻撃隊、発艦!」

レ級「な、何だ、これは……こんな、こんなことが……?」

相手は対空砲火で抵抗を試みるけど、練度の高い攻撃隊には焼け石に水。よし、決める!

レ級「馬鹿な……こ、このボクが……こんな、奴らに……!」

大量の攻撃機がレ級を一気に撃ち抜いた。あの大悪魔が、自分でも驚くくらいあっさりと沈んでいく。


瑞鳳「す、すごいよ、瑞鶴、飛龍さん! あいつをあんなあっさりと……!」

葛城「先輩、流石です!」

ビスマルク「中々やるじゃない。今回だけは一番を譲ってあげるわ」

飛龍(瑞鶴……私の友永隊よりも早く接触してレ級を貫いた。本当にこの子は、底が知れないわね)

レ級「クク……精々、喜んでいるが……良いさ。精鋭機動部隊は、君達を捕捉している……!」

レ級「奴等の、物量に……勝てる、ワケが……!」

そう言い残して沈んでいくレ級。それがただの負け惜しみじゃないことはわかってる。
この勝ちに慢心するつもりはない。ここから先も気を引き締めて行かなくちゃ!


プリンツ「偵察機より入電! 敵艦隊第二波、来ます!」

瑞鶴「編成は?」

プリンツ「空母ヲ級改2隻、ヌ級1隻、戦艦タ級2隻、軽巡ツ級1隻です!」

プリンツ「ツ級はエリート、他は全員フラグシップクラス! 輪形陣を組んでます!」

ついに本格的な機動部隊のお出ましか。今のは敵の航空戦力がレ級だけだったから対処も簡単だった。
けど、ここからはそうはいかないみたい。苛烈な航空戦が幾度となく繰り広げられることになるだろう。

瑞鶴「でも……退くわけにはいかない! みんな、いくよ!」


_____数時間後

瑞鶴「はぁ、はぁ……! これで、終わって……!」

ネ級「きゃあぁん! や、やるじゃん……でも、まだまだ……これから……だし」

第四波の最後の敵を撃沈。これまでの敵編成はいずれも第二波と同等の精鋭機動部隊。
度重なる戦闘でこちらの被害も拡大しつつある。私はかすり傷で済んでるけど、飛龍先輩とビスマルクは小破。他の三人が中破。
特に葛城と瑞鳳の中破が痛い。着艦が出来ない為、二人の仕事は直掩機による航空支援に限られてしまう。

瑞鶴「潮時か……?」

稼いだ時間は十分とは言えないかも知れないけど、これ以上の被害は看過できない。
燃料や弾薬、艦載機の消費も激しくなってきてる。もう一波、凌げるかどうかさえわからない。
あとは翔鶴姉達に全てを託して撤退した方が……


瑞鶴「総員、撤た……」

プリンツ「ダメです! 敵機動部隊第五波接近中! 捕捉されてます!」

瑞鶴「くっ……仕方ない。みんな、対空戦の用意をしながら聞いて!」

瑞鶴「この戦闘、敵の殲滅は考えなくていいから! 損害を与えて、隙を見て撤退して!」

考える。赤城先輩が言ってた通り、追い詰められている極限状況でも尚、考えなきゃダメだ。

瑞鶴「最悪の場合は私と飛龍先輩がしんがりになります! 私が命令を出したら躊躇わず撤退するように!」

葛城「そんな……! 先輩を置いて逃げるなんて!」

瑞鶴「葛城! 戦場では上官の命令は絶対だよ!」

厳しい言葉を投げ掛ける。でも仕方ない。こんな状態で甘いことは言ってられないんだから。


葛城「……………………」

瑞鳳「葛城、信じようよ。瑞鶴が加賀さんを残して沈むわけがない!」

葛城「先輩。絶対、絶対に無茶はしないって約束してください!」

上目遣いで懇願される。でも約束なんてできないよ。無茶をしなきゃ、みんなを救えないかも知れないんだから。

飛龍「大丈夫大丈夫。私もついてるんだから」

飛龍「それに、しんがりになるのはあくまで最悪のパターンになった時だけ」

飛龍「先制攻撃で叩いて逃げちゃえばオッケーなんだからさ。とにかくこの航空戦、集中して!」

葛城「わかりました! 全力で行きます!」


プリンツ「敵編成、空母ヲ級改2隻、戦艦タ級1隻、重巡ネ級2隻と……アレは、何だろう……?」

怪訝な顔をするオイゲン。まさか、ここに来て今まで見たことのない新型深海棲艦の登場ってワケ?

プリンツ「飛行甲板と対空砲がついた艤装に座ってる、銀髪の女の人……」

目視距離。翔鶴姉みたいな綺麗な銀髪。でも顔はヲ級の帽子みたいな艤装で隠されていて見えない。
飛行甲板がついてるってことは、空母か。ヲ級改2隻に加えて恐らく鬼、姫クラスの空母。


瑞鶴「でも……やるしかない! 航空戦用意ッ!」

飛龍「よし、全力で叩くわよ!」

空母水鬼「全航空隊、発艦始め……!」

号令と共に敵も発艦。あの旗艦から発艦された艦載機は……艦戦66機、艦攻と艦爆が60機ずつ!
あのレ級エリートをも上回る、デタラメな搭載数。しかもその全てが髑髏の形をした新型艦載機。
私と飛龍先輩の航空隊に、葛城、瑞鳳の直掩機が合流して敵航空戦力とぶつかり合うが……

瑞鶴「ダメ……制空権が取れない! 航空戦力拮抗!」

飛龍「敵攻撃機、結構抜けてくるよ! 対空砲火、用意して!」

ビスマルク「ちょっと数が多すぎるわよ!」

プリンツ「だ、ダメです! 防ぎ切れません!」

二人が必死に防空に努めるが、さすがにあの数を撃墜するのは不可能。敵機の大半が攻撃を仕掛けてくる。


瑞鳳「きゃあぁぁぁ!」

葛城「痛っ……き、機関部は!? 機関部はまだ無事、よね?」

瑞鶴「瑞鳳、葛城!?」

敵機の攻撃で二人が大破。対してこちらの戦果はネ級1隻を中破させただけ。

プリンツ「このままじゃ水偵も飛ばせないよ。それは相手も同じだけど……どうするの?」

ここが分水嶺。私と飛龍先輩がしんがりとなってみんなを退避させるか、少しでも戦力を残して戦うか。


瑞鶴「ビスマルク。ちょっと大変だと思うけど、三人の護衛……頼まれてくれる?」

ビスマルク「曳航ならオイゲンだけで十分でしょう? 私は残るわ」

瑞鶴「いいの? 保障は出来ないよ?」

ビスマルク「当たり前じゃない。このままで終われるわけがないでしょ?」

ビスマルク「そういう訳だからオイゲン、二人のこと、頼むわよ」

プリンツ「わかりました、ビスマルク姉様。必ず再会できるって信じてますから!」

瑞鳳「瑞鶴、絶対に戻ってきてね! 約束だからね!」

葛城「先輩……どうか、ご武運を!」

オイゲンは二人を連れて撤退。三人の安全を確保しつつ、私達も隙を見て撤退……できるかな?


瑞鶴「私は……」

私は別に、自己犠牲が美徳だなんてこれっぽっちも思っちゃいない!
そんなものはアニメやラノベの主人公にでも任せておけばいい!!!

瑞鶴「あの人が……加賀さんが、待っててくれてるんだから! こんなところで、沈むわけにはいかない!」

砲戦開始。早々に着艦を終えて攻撃体勢に入る。とにかく一番損傷の少ない私が1隻でも多く倒す!

空母水鬼「やらせは……しないよ!」

瑞鶴「あれ? その声……」

遠い昔に聞いたことあるような、どこか懐かしさを感じる声……


飛龍「瑞鶴! 何ボサッとしてんの!? 来るよ!」

瑞鶴「うわぁっ!?」

真上まで迫ってきた敵機の急降下爆撃を間一髪のところで躱すが、目の前には重巡。今攻撃されたらさすがに避けきれない……!?

ネ級A「いただきっ!」

ビスマルク「させないわ! Feuer!」

ネ級A「やぁん!」

ビスマルクの砲撃で中破していたネ級は撃沈。もう、何やってるんだ私は! もっと集中しないと!


私はすぐさま体勢を立て直し、敵艦隊を見据える。よく狙いを定めて……

瑞鶴「攻撃隊、稼働機! 全機発艦!」

タ級「っ! 馬鹿な……こ、この、私が……!?」

攻撃隊の数は大分減っちゃったけど、それでも何とかタ級を撃沈。あと4隻!

飛龍「やるわね、瑞鶴! こっちも行くよ! 友永隊、発艦!」

ネ級B「いやあぁぁぁ!」

よし! 飛龍先輩もネ級を撃沈。これで数だけなら互角!


ヲ級改A「ネ級がやられたようね。まあ、あの子達はこの艦隊の中では最格下」

ヲ級改B「手負いの艦娘ごときに倒されるとは、深海棲艦の面汚しよ」

2隻のヲ級達は余裕の表情。でも、それなら付け入る隙はある。だって慢心してるってことでしょ?

ヲ級改A「堕ちろ!」

飛龍「ッ!? や、やられた! 誘爆を防いで!」

瑞鶴「えっ?」

ヲ級の艦載機が一瞬で飛龍先輩を捉えて大破まで持っていった……そんな!? 先輩の回避力でも躱せないなんて!

ヲ級改B「そういうことさ。てぇっ!」

ビスマルク「うぐっ!? 舵は……ちょっとヤバいわね……」

直後、もう1隻のヲ級の攻撃によってビスマルクも大破させられる。


瑞鶴「ふ、二人とも……!?」

飛龍「あー、やられちゃったか~。こうなったら仕方ないかな」

こんな時でも飄々とした物言いの飛龍先輩。でも、何かを覚悟したかのような目……

飛龍「ここは私が引き受ける。瑞鶴はビスマルクを曳航しながら離脱して」

瑞鶴「!?」

そして口から出てきたのは、予想通りにして一番聞きたくなかった言葉。

瑞鶴「そ、そんなの……」


ビスマルク「撤退ぃ? 認められないわぁ。やられっぱなしじゃ私の気が済まないの。最後まで暴れてやるわよ」

私が言葉に詰まっていると、ビスマルクが前に出て進言。飛龍先輩は微笑して返した。

飛龍「アンタ、聡明そうに見えるけど大概馬鹿よね」

ビスマルク「寝坊した所為でこんなことになってる誰かさんには言われたくないわね」

飛龍「違いないや。背中、任せてもいいかな? 戦友……!」

ビスマルク「仕方ないわね。まああなたも、このビスマルクの背中を守ってもいいのよ?」


飛龍「はは。そう言うわけだからさ、瑞鶴。一人で離脱して。出来るわよね?」

瑞鶴「イヤです。そんなこと、できません」

当たり前だ。一番余力がある私が残って二人を撤退させる。それ以外の選択肢はありえない。

飛龍「あのね瑞鶴。冷静になって。ここで三人とも沈むのと、一人でも生き残るの。どっちがマシだと思う?」

瑞鶴「そんなの決まってるじゃないですか。全員が生き残ることです」

瑞鶴「私は絶対に逃げない! 二人の安全を確保するまで、逃げてなんかやらないんだから!」

ビスマルク「……どうやら、一番の馬鹿はこの子みたいね」


飛龍「こうなったらもうアンタは絶対に考えを変えないわよね。ホント、昔っから困ったちゃんなんだから……」

瑞鶴「ええ。だから早く逃げ……」

飛龍「もう手遅れみたいよ」

先輩が指差した方向からは駆逐艦5隻に軽巡が1隻。敵の増援部隊か。
距離はまだ大分あるけど、大破した二人の速度じゃ振り切れそうにない。

飛龍「わかったでしょ? アンタ一人じゃ引きつけられる敵の数にも限界がある。撤退しても追撃されるわ」

瑞鶴「そ、それでも……それでも私は!」


飛龍「わかってる。だからもう退けなんて言わない。三人で戦おう……最後まで!」

瑞鶴「飛龍先輩……」

飛龍「別に、ヤケになって言ってるわけじゃないわよ? ほんの少しだけど、まだ希望はある」

多分、先輩は私と同じことを考えてる。

瑞鶴「旗艦さえ倒せば……敵は退くかも……ですね」


ビスマルク「簡単に言ってくれるじゃない。私と飛龍が大破しているのに、どうするつもり?」

飛龍「瑞鶴。あなたにもう一回、重荷を背負わせちゃうけど……」

瑞鶴「やります」

飛龍「いいの? 加賀さんの烈風改、壊しちゃっても」

瑞鶴「加賀さんはきっと、烈風改より私のことを大事に思ってくれてますよ」

飛龍「違いないや。よし、行こう!」

作戦は決まった。前にレ級やヲ級改となった翔鶴姉を倒すのに使った禁じ手。
飛龍先輩とビスマルクが敵を引きつけて、私が敵旗艦の懐に飛び込む。
そして、ゼロ距離から全艦載機を特攻させる! もうこれしか手はない!


ビスマルク「さあ、かかってらっしゃい!」

飛龍「多聞丸……見ててね!」

ヲ級改A「観念したか。では、沈め!」

ヲ級改B「二度と浮上できぬ、海の底へ!」

飛龍「こちとら毎日赤城さんや翔鶴さんと訓練してんのよ! そんな攻撃なんて!」

ビスマルク「甘く見ないで!」

二人は最後の力を振り絞って回避! やった、これでヲ級達は着艦を終えるまで攻撃できない!

瑞鶴「もらったぁ!」

持ち前の速力で一気に詰めてゼロ距離。ここなら外さない!


空母水鬼「……瑞鶴」

瞬間、敵の飛行甲板から大量の艦載機が突撃してきて……

瑞鶴「!?」

そうだった。特攻は私だけの専売特許じゃない。言ってしまえば空母なら誰だって出来るんだ。

瑞鶴「っ……!」

今まで受けたこともない衝撃。思わず声にならない悲鳴が上がる。
私って、酷いヤツだなぁ……翔鶴姉に、こんな痛い思いさせてたなんて……

瑞鶴「ぅあぁぁっ!?」

更に別の方向からの衝撃。振り返ると増援の駆逐艦達に包囲されていた。
魚雷5、6本くらい撃ち込まれたのか……艤装は殆ど吹き飛んで大破。
まだ沈んでないのが奇跡って言える程の状態。


瑞鶴「……ここまで……か」

空母水鬼「瑞鶴……やはり貴方でも、変えられなかったのね」

今、こいつは何て言ったんだろう? 優しげな声色だったけど、よく聞き取れない。

空母水鬼「おやすみなさい、瑞鶴……」

次の瞬間には敵空母が発艦。もう動く気力もないし、私はただ空を睨んで覚悟を決めるだけ。

翔鶴姉、先に逝くね。飛龍先輩、最後まで、言うことを聞かない駄目な後輩でごめんなさい。
瑞鳳、葛城……二人になら、空母の未来を任せられる。だからどうか、無事でいて……



加賀さん……さようなら。


瑞鶴「や、やだ……沈みたくない……沈みたく……ない、よ」

やっぱ無理! 怖いよ……覚悟なんて、出来るわけない!
やだ、やだよ、死にたくない! 助けて……加賀さん、助けてよ!!!
 
加賀さん……! 加賀さん、加賀さん! 加賀さん!

瑞鶴「加賀さーーーーーん!!!」

つづく!


設定

飛龍(24):二航戦の片翼で非常に練度の高い正規空母。瑞鶴を妹のように可愛がっている。
飄々としているが仲間を想う気持ちは誰よりも強い。

ビスマルク(23):西方攻略後に軍に加わった、ドイツの戦艦娘。雷装を備え、昼夜問わず比類なき火力を発揮する。
非常にプライドが高いが自らが認めた相手には協力を惜しまない。

葛城(17):瑞鶴の後輩。彼女を目指して鍛練を積んだ結果、ル級改すら倒せるようになった。
瑞鶴のことはまだまだ諦めていない、とことん一途な性格。

瑞鳳(19):瑞鶴の後輩。彼女を慕う気持ちは相変わらず。似たような境遇の葛城とは気が合い、共に行動していることが多い。

戦艦レ級:地獄から蘇った悪魔。エリートクラスになって攻撃方法もパワーアップしているが再生怪人は弱い法則で瞬殺される。
実際のゲームではここまで上手く行くことは稀で、相変わらず5-5攻略を阻む強敵として立ち塞がっている。

空母水鬼:レ級撃沈後に機動部隊旗艦を引き継いだ謎の深海棲艦。瑞鶴のこともよく知っている様子。

今回はここまでです。今後もスローペースで修正、投下作業を進めたいと思います。
それではここまで読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。

少し遅い時間ですが投下再開します。
お暇な時にでも読んで頂ければ幸いです。


「別離2」

瑞鶴「あ……れ?」

敵の艦載機が急降下爆撃の態勢に入った瞬間、思わず目を閉じたけど……痛みも衝撃も襲ってこない。

瑞鶴「温かい……」

それどころか、温かい何かに抱かれて揺蕩うような感覚。私は恐る恐る目を開ける。

加賀「瑞鶴……」

瑞鶴「加賀さん!?」

何だ、夢か。そうだよね、加賀さんがこんな所にいるわけないんだもん。
これは、私が死ぬ直前……もしくは死んだ後に見てる、都合のいい幻想。

だってほら。加賀さんの服と艤装が、青と緑を基調にした対空迷彩仕様になってる。
夢の中でお揃いの迷彩だなんて、本当に私の願望丸出しだなぁ。


瑞鶴「そうだ」

どうせ夢なんだし、ちょっとくらいイタズラしても良いよね。

加賀「んっ……!」

その豊満な胸を揉みしだいてみる。温かくて、柔らかくて気持ち良い。

加賀「な、何するの、馬鹿!」

瑞鶴「いったぁぁぁい!」

思いっきり平手打ちをされて、それまで朧げだった意識は一気に覚醒し、現実へと引き戻される。


瑞鶴「か、加賀さん……? 本当に加賀さんなの!?」

夢じゃなかった……本当に、加賀さんが助けに来てくれたんだ! 加賀さん、加賀さん! 加賀さん!

瑞鶴「加賀さん! うぅ……怖かった……怖かったよぉ……」

加賀さんの胸に顔を埋めて泣き出す。どれだけ泣いても涙は止まらず、一生分の涙を使い切っちゃうんじゃないかと思うほど。

瑞鶴「うへへ……加賀さんのおっぱい柔らか~い」

そんな自分がちょっと小っ恥ずかしくなって、こんな風にふざけてみたりするんだけど……

加賀「馬鹿っ……!」

予想通り、一発ゲンコツを貰う。このいつものやり取りが、本当に幸せだなぁって感じる。


加賀「まったく……そこまで元気なら、これはいらないわよね?」

そう言って加賀さんが胸の谷間から取り出したのは、応急修理女神の妖精さん。
どんな酷い損傷状態でもすぐに直してしまう熟練の修理屋。女神様、ちょっとそこ代わってください。

瑞鶴「ああんもう、加賀さん意地悪しないで~。私、こんなボロボロになるまで頑張ったんだよ」

加賀「まあ、それは認めるわ。本当によく頑張ったわね」

優しげな微笑みを浮かべながら撫でてくれる加賀さん。
普段のクールで無表情な加賀さんが好き。
私のイタズラに怒ってすぐに手を出してくる、意外と沸点が低い加賀さんも好き。
でも、私を撫でてくれてる時の優しくて温かい加賀さんが一番好き!


瑞鶴「それで……えっと、どうして加賀さん達がここにいるんですか?」

さっきまで加賀さんとイチャイチャするのに夢中だったけど、よく見ると翔鶴姉達もいる。
赤城先輩、翔鶴姉、蒼龍先輩、大和、武蔵の第一機動艦隊と、その護衛の第二艦隊。
護衛メンバーは……阿武隈、大井、北上、島風、夕立、金剛か。今回の作戦の主力連合艦隊が、敵機動部隊と交戦しているのが見える。

加賀「私は……今回の作戦、何か嫌な予感がしていたのよ。あなたに二度と会えなくなるような気がして……」

加賀「本当はあの夜に止めたかった。行かないでと言いたかった……」

加賀「けれど、私一人の意見で発動された作戦を中止することなんて出来るわけがない……」

加賀「あの日、あなたを見送った後、私はすぐに横須賀に艤装を取りに行ったわ」

加賀「でも、まだ整備が終わってなくて……仕方なく試作の対空迷彩艤装を持ち出したのよ」

加賀「ほ、本当は嫌だったのよ、あなたとお揃いなんて……勘違いしないで?」

テンプレ通りのツンデレ台詞をいただいたけど、加賀さん……私のことそんなに心配してくれてたんだ。嬉しいな。


加賀「その後は……戦艦霧島と比叡、駆逐艦の吹雪を連れてあなた達を追いかけたわ」

瑞鶴「あれ? それじゃあ他のメンバーは?」

加賀「ここに着く少し前に、プリンツ・オイゲンと葛城、瑞鳳に会ったわ」

加賀「護衛が中破しているオイゲンだけでは心許ないから、霧島達に任せて別れたのよ」

瑞鶴「じゃあ、加賀さんは一人でここに?」

加賀「ええ。オイゲンから、赤城さん達がここに向かっていると聞いて……彼女が戦線を離脱した後すぐに入電が来たそうよ」

加賀「私と同じタイミングで到着するみたいだから、三人とも護衛に回しても問題ないと判断したわ」

瑞鶴「そうなんだ……赤城先輩達がここに来たってことは、もう敵の主力部隊は倒したの?」

加賀「敵主力は……いなかったのよ」

瑞鶴「えっ?」


_____数時間前 レイテ湾

武蔵「妙だな……もうすぐレイテ島だと言うのに、敵の小隊どころか深海棲艦1隻すら見当たらないとは」

蒼龍「瑞鶴達が機動部隊を釣り上げているとは言え、護衛部隊の一つや二つは残っていてもおかしくないんだけど……」

金剛『ヘイ、赤城! こちら、第二艦隊金剛デース! 観測機が敵艦を発見しましたヨ!』

赤城「本当ですか!? 敵の編成は!?」

金剛『それが……見たこともない新型の深海棲艦が1隻だけデス。対空砲が沢山ついた艤装に座ってる子供、みたいデスけど……』

金剛『散々索敵しましたが、それ以外見つかりませんでした』

赤城「どういうことなの……? とにかく、私達も合流します! それまで攻撃は控えて下さい!」

金剛『了解デース!』


???「ふふ……来たんだぁ……へーぇ、来たんだぁ……」

赤城「あなた一人ですか? 目的は一体何?」

???「……いいよ。せっかくだし、教えてあげる」

???「深海棲艦の本当の目的は、幸運の空母を沈めること」

翔鶴「えっ!? 瑞鶴を!?」

???「あの子はね、危険なんだって。この戦争に於ける特異点なんだとか」


???「早急に始末しなければ危険だって上の奴らも言ってたわ」

???「そこで、手始めにレイテ島を制圧して艦娘達の出方を伺ったのよ」

???「強行突入をするには資源が心許ない状況。かと言って何もしなければ、補給線が断たれてる以上は緩やかな死が待つのみ」

???「斯くしてお前達は決断を迫られ、結果、思惑通りに瑞鶴を囮として使ってきた」

???「あとはレ級を始めとする全機動部隊をぶつけるだけ」

???「いくら瑞鶴に幸運の力があろうと、あの大部隊を相手に勝てるわけがない……!」


赤城「してやられましたね……釣り上げられたのは私達の方だった、と言うことですか……」

翔鶴「エンガノ岬に急ぎましょう! 今ならまだ間に合うかも知れません!」

金剛「赤城! この子はどうするの!?」

赤城「……! 今は少しでも時間が惜しいです! エンガノ岬へ向かいましょう!」

???「フフッ……精々急ぐことね……」





防空棲姫「……瑞鶴……さん。お願い、どうか今度は……沈まないで」


加賀「と言うわけだったのよ」

瑞鶴「そんな……敵の目的が、私を沈めることだったなんて……」

あの時……私は横須賀の提督に、自分には戦局を左右するような力なんて無いって言った。
無論今でもそう思ってるし、この状況自体が罠で、敵には更なる目的があるんじゃないかって勘繰ったりしてるんだけど……

瑞鶴「どの道、まずは敵を全滅させることですね」

???「そうそう、難しいこと考えるのは後だよ! まずはこの状況を切り抜けないと!」

あっ、この声は……! 私は安堵の息をつき、そちらに振り向く。


瑞鶴「飛龍先輩、ビスマルクも! 良かったぁ……二人とも無事だったんだ」

飛龍「何とか赤城さん達が間に合ってね。応急修理女神を受け取ったのよ」

ビスマルク「間一髪ってところだったわね」

葛城達も加賀さんが連れてきた部隊が護衛してるみたいだし、何とか一人の犠牲も出さずに済んだ……

ビスマルク「さて、反撃開始よ。散々好き放題やってくれたあの機動部隊に一泡吹かせてやりましょう!」

瑞鶴「そうだね! 行こう!」

私もやられっ放しで引き下がれるような性格じゃない。私達4人は、前線で戦っている赤城先輩達の下へと向かった。


翔鶴「瑞鶴! 良かった……本当に、無事で良かった……!」

瑞鶴「心配かけてごめん、翔鶴姉。でも大丈夫だよ。加賀さんが助けてくれたから」

翔鶴「加賀さんも本当にありがとう。今日は特別に瑞鶴の頬にキスまでは許してあげますね」

こんな時でも加賀さんをいじる姿勢は崩さない翔鶴姉。エッチなことしちゃったとはとても言えないなぁ……

加賀「そ、そんなことより、戦況はどうなっていますか?」

加賀さんも察したようで、すぐに話を逸らす。まあ、ちょっとだけ戦線から離れてたし、状況確認は大事だ。


赤城「現在は阿武隈さん率いる第二艦隊が、敵の増援部隊と交戦中です」

赤城「例の新型空母……大本営は空母水鬼と名付けていましたね」

赤城「彼女は護衛のヲ級改が倒されると、この場を増援部隊に任せて撤退していきました」

赤城「こちらを片付け次第、追撃に向かおうと思ってたのですが……如何せん数が多くて、時間が掛かりそうですね」

赤城「瑞鶴さん。あなたがここで部隊を再編成して、追撃に向かって下さい」

瑞鶴「私が……ですか?」

赤城「ええ。敵の増援部隊は連合艦隊が引き受けますので、あなたは5人を選んで空母水鬼を……」

瑞鶴「わかりました。編成を考えてみます」


加賀「私が行きます。あなたの隣は譲れません」

ビスマルク「ちょっと! 私を外したらどうなるか、わかっているわよね?」

飛龍「このままじゃ悔しいし、私も出来れば追撃隊がいいな~」

まあ、この流れは必然。そうなると残りは二人か……出来れば一人は戦艦がいいかな。

武蔵「火力が必要なら大和を連れて行け。以前共に戦ったことがあるのだろう? ならば私よりは連携が取り易いはずだ」

瑞鶴「わかった。大和、お願いできる?」

大和「はい! 戦艦大和、推して参ります!」


瑞鶴「さて、残り一人だけど……」

私はその人の前に立って、スッと手を差し出した。

瑞鶴「翔鶴姉、一緒に来てくれる?」

翔鶴「瑞鶴、いいの?」

瑞鶴「一緒に戦おう……!」

問いかける翔鶴姉に、私はそう返した。本当にただの直感だけど、翔鶴姉と一緒に戦った方がいい気がしたんだ。

翔鶴「わかったわ。一緒に行きましょう」


赤城「行くのね、翔鶴。それじゃあこの子をあなたに……」

翔鶴「赤城さん……この子は……!?」

翔鶴姉が受け取った妖精さん、九七艦攻乗りみたいだけど……あれは確か、村田隊。
飛龍先輩の友永隊や、蒼龍先輩の江草隊と並び称される精鋭中の精鋭。通称、雷撃の神様。

赤城「あなたの天山に、乗せてあげて! さあ行きなさい、翔鶴!」

翔鶴「赤城さん……はい! 必ずあなたの元に帰ってきます……!」

蒼龍「飛龍……気をつけて!」

飛龍「あんたを残して沈むわけないでしょ。心配しないで待っててよ」

蒼龍「きっとだよ! 約束だからね!」

そうだ、私達は負けるわけには行かないんだ……こうして待っててくれる人がいるんだから!
必ずみんなの所に帰ってくる……そう心に誓って、私達は戦場に向かった。


追撃を開始してから数十分。私達は前線の第二艦隊のメンバーとすれ違う。

阿武隈「敵水上打撃部隊、接近中! これより先制雷撃を仕掛けます! 私が重巡を狙います!」

阿武隈「北上さんと大井さんは戦艦をお願いしますね!」

大井「はいっ! 北上さん、やっちゃいましょう!」

接近してくる敵艦隊の編成は、戦艦ル級改1隻、戦艦ル級1隻、重巡ネ級が1隻。
残りの3隻は赤城先輩と蒼龍先輩の航空攻撃によって撃沈されたみたい。


阿武隈「あ、あれ? 北上さん、私の指示に従ってくださ~い!」

北上の放った魚雷は指示とは違って重巡に向けられる。そして、そのまま阿武隈の魚雷と同時に直撃。ネ級を沈めた。

阿武隈「もう、北上さんは戦艦だって言ったじゃないですか~!」

北上「いやー、阿武隈っちの雷装だと多分あの重巡落とせないじゃん? この北上様が手を貸してあげたんだよ~。そ・れ・に~……」

北上「先制雷撃で同じターゲットを取るの、仲良し魚雷って言うらしいよ~。私と阿武隈っちにピッタリじゃん!」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら阿武隈に抱きつき、彼女の前髪を弄り倒す北上。

大井「北上さん、戦闘中ですよ! 阿武隈さんも、私の北上さんを誘惑しないで下さい!」

阿武隈「な、何で私が悪いことになってるんですか~!?」

横須賀に行った時にたまに見かけるけど、この三人はいつもこんな感じ。ちょっと楽しそう。


ル級改「貴様らァ! 図に乗るなよ!」

唯一生き残ったル級改が距離を詰め、攻撃体勢。しかし……

阿武隈「うるさいです!」

大井「海の藻屑と……」

北上「なりなよ~」

同時に魚雷を撃ち込まれ、さしものル級改も耐えられずに撃沈。
この三人、何だかんだ言っても仲良いよね。


金剛「ヘイ、瑞鶴! ここは私達に任せて、先を急ぐネー!」

夕立「夕立も頑張るっぽい!」

島風「あんまり遅いと私達が追いついて全員倒しちゃいますからね!」

第二艦隊のみんなに見送られる。私は彼女達に敬礼して応えた。

瑞鶴「必ず勝つよ……! みんなのここまでの頑張り、絶対に無駄にはしない!」


_____サマール沖

第二艦隊と別れてから数刻。飛龍先輩の彩雲がついに敵機動部隊を捕捉した。
敵も部隊を再編成しているらしく、迎撃態勢で待ち構えている。いよいよ決戦の時だ!

飛龍「敵編成……旗艦は空母水鬼! 随伴艦には装甲空母姫2隻、戦艦タ級、後期型駆逐艦2隻!」

装甲空母姫……西方攻略の時はこいつにボコボコにされたっけ。
でも……今なら負ける気がしない! 加賀さんだっているんだ、あの時とは違う!

瑞鶴「これより航空戦、始めます! 全艦載機、発艦開始!」

号令と共に発艦。放たれた艦載機の総数は圧巻の342機。しかもそれら全てが最高クラスの練度を持つベテランだ。

空母水鬼「全航空隊、発艦始め……!」

装甲空母姫A「沈めてあげるわ!」


空母水鬼は最初と同じ、髑髏の形の艦載機を186機。装甲空母姫達は艦戦と艦攻を96機ずつ発艦。
その数は合計570機とこちらを大きく上回ってるけど……

装甲空母姫B「なっ、何……だと……!?」

こちらの艦戦が敵機を次々と撃墜。そうだ、あの髑髏の艦載機はともかく装甲空母姫が積んでいるのは旧型機。
最高の練度を誇る私達の艦載機の敵じゃない!

瑞鶴「制空権、確保!」

とは言え敵の攻撃機の数は312機。大和達の対空砲火を合わせても全機撃墜は難しく、幾つかは包囲網を突破してくる。

大和「させません!」

私の前に立った大和が航空攻撃の大半を引き受けるが……

大和「それで直撃のつもりですか?」

その圧倒的な装甲で弾き返し、かすり傷一つってところ。相変わらず頼りになるわね!


瑞鶴「よし! 攻撃隊、一気に叩いて!」

後期ニ級A「グワーーー!」

後期ニ級B「アイエエエエエ!?」

駆逐艦がすかさず空母水鬼の盾となるが、こちらの攻撃を全て受け止めることは不可能。
少数だが空母水鬼に打撃を与えることに成功する。

空母水鬼「くっ……!」

直後、爆撃を受けた空母水鬼の頭部の艤装が破壊され、その素顔が明らかになる。


瑞鶴「あ、あれは……!?」

翔鶴「そ、そんなっ……どうして!?」

私と翔鶴姉が同時に驚愕の声を上げる。だって、嘘だよ……こんなの……

翔鶴「お母様っ……!」

空母水鬼「…………」

見間違うはずがない。その優しくて、どこか儚げな顔つき……8年前と同じだよ……!

空母水鬼「…………」

お母さんは……何も答えない。黙々と艦載機を着艦させていく。戦うしか、ないのかな……?


加賀「瑞鶴……?」

心配そうに私を見つめる加賀さん。私……私は……

翔鶴「瑞鶴……」

同時に蒼ざめた顔の翔鶴姉に手を握られる。その手は震えていて……まるであの時の私のよう。

瑞鶴「翔鶴姉……」

辛い……私だって辛いよ。けど……! 私は翔鶴姉と対峙した時、加賀さんに言われた言葉を思い出す。

瑞鶴「例え相手がお母さんだったとしても……それが大切な仲間や場所を奪う存在なら……!」

瑞鶴「私達は戦わなくちゃいけない! それが、艦娘の使命なんだ!」


翔鶴「ず、瑞鶴……でも……!」

瑞鶴「翔鶴姉ッ!!!」

私は翔鶴姉の肩に手を置き、その目を正面からしっかりと見据える。

瑞鶴「翔鶴姉の、一番大切な人を思い浮かべて……!」

瑞鶴「失ってからじゃ、遅いんだよっ……!」

半ば、自分に言い聞かせるように口にする。私はあの時、一度失っちゃったから……
今こうして加賀さんと一緒にいられるのだって、本当にただ単に運が良かっただけ。
あんな思いはもう二度と、誰にも味わわせたくないッ! だから……私は戦うんだ!

翔鶴「瑞鶴……そうね。戦わなくちゃ、守れないものもあるわよね」

私が言い放つと、翔鶴姉も凛とした顔付きで敵を見据える。


加賀「あんなに甘ったれだったあなたが、言うようになったものね」

瑞鶴「か、加賀さん!? あの時のことは、その……忘れてください!」

加賀「忘れるわけないでしょう?」

加賀「あなたのことを、好きなんだって初めて自覚した日なのだから……」

瑞鶴「~~~~~~~~っ!?」

瑞鶴「ほ、砲雷撃戦、開始します! 全艦、突撃用意!」

小っ恥ずかしくなった私は外方を向いて話を打ち切り、号令を掛ける。
もう、加賀さんってばこんな時にまで……!


大和「大和、行きます!」

先陣を切って大和が突撃。お母さ……空母水鬼に狙いを定めて斉射するが……

空母水鬼「その程度か?」

大和「そ、そんな……!?」

圧倒的火力を誇る大和の砲弾が直撃したのに、かすり傷程度しか付かない。とんでもない装甲……!

タ級「無駄よ!」

ビスマルク「っ……! やるわね……! でも、これからよ!」

間髪入れずに敵戦艦の砲撃が飛んでくるけど、ビスマルクは直撃を避けて小破。あれくらいの損傷なら問題ない。


ビスマルク「甘く見ないで! Feuer!」

タ級「ぐっ……!」

すかさず主砲で反撃し、一撃でタ級を撃沈。よし、これで残りは3隻!

瑞鶴「行くよ、翔鶴姉!」

翔鶴「ええ。任せて、瑞鶴!」

私と翔鶴姉は攻撃隊を同時に発艦。装甲空母姫に狙いを定め、一斉攻撃を仕掛ける!

装甲空母姫A「ウボァッ!? だ、だが、この程度……!? グアァァァ!?」

私の攻撃機が敵の体勢を崩し、直後に翔鶴姉の攻撃隊が一斉に爆撃。一気に中破まで持っていった。


装甲空母姫A「くっ……沈めェ!」

敵はすぐさま主砲で反撃してくるが、これは加賀さんに掠っただけ。

加賀「見敵必殺よ。行きます」

加賀さんは即座に二の矢を射掛けて発艦。中破している装甲空母姫に回避する間も与えず撃沈。まさに鎧袖一触!

飛龍「よっし、残りの1隻も徹底的に叩いちゃおう!」

装甲空母姫B「図に乗るなァ!」

飛龍「おっと……少しはやるじゃない」

激昂した装甲空母姫の主砲が飛龍先輩を襲うけど、何とか直撃は避けて小破止まり。


飛龍「さあ友永隊、頼んだわよ!」

先輩は自慢の精鋭部隊、友永隊を発艦。装甲空母姫も回避を試みるが、熟練の攻撃隊が完全に捕捉する。

装甲空母姫B「グフッ……ま、まだ、だ……こ、この私は……沈まん……ぞ!」

撃沈はできなかったものの、一撃で大破させた。よし、これでまともに動けるのは空母水鬼だけ……ッ!?

翔鶴「きゃあぁぁぁっ!」

えっ……?

瑞鶴「翔鶴姉!?」

空母水鬼の攻撃で、一瞬の内に翔鶴姉が大破。制空権はこっちが完全に確保してるのに、こんな正確無比の攻撃を……?


瑞鶴「くっ……このっ!」

加賀「続きます!」

空母水鬼「瑞鶴……」

今度は私と加賀さんが同時に発艦して波状攻撃を仕掛けるが……

空母水鬼「残心を、忘れないで」

まともに直撃したのに空母水鬼はほぼ無傷。怯むことなく艦載機を飛ばして反撃してくる。
しまった、残心……! 加賀さんにいつも言われてたことだったのに、翔鶴姉がやられて動揺しちゃってた。
私に回避体勢を作らせないまま、髑髏の艦載機は高速でこちらに向かってくる……ヤバい!

飛龍「瑞鶴ッ!」

刹那、飛龍先輩に突き飛ばされて既のところで直撃は避ける。直後に轟音。

飛龍「くっ、やられた……誘爆を防いで」

代わりに盾になる形となった飛龍先輩は大破。くっ……私の所為だ……!


ビスマルク「やってくれたわね、お返しよ! Feuer!」

装甲空母姫B「させぬ……させぬわぁ!」

飛龍先輩の仇とばかりにビスマルクが攻撃するけど、瀕死の装甲空母姫が最後の力を振り絞って盾となって撃沈。
空母水鬼には、未だに決定的なダメージを与えられていない……! やっぱり、大和に賭けるしか……!

空母水鬼「やらせは……しないよ!」

しかし次の瞬間には再び空母水鬼が攻撃してくる。着艦、発艦共に私達とは段違いの早さだ。

加賀「直掩機、迎撃に向かって!」

私と加賀さん、翔鶴姉に飛龍先輩も直掩機に指示を出して迎撃に向かわせるが、四人掛かりの包囲網もあっさり突破される。

ビスマルク「うっ……や、やられたわ……何なのよあの威力は……!」

砲戦の要のビスマルクまで一発で大破。いよいよもって大和に託すしかなくなったか……!


瑞鶴「加賀さん、全力で大和のサポートを! 空母水鬼を倒すには、大和の徹甲弾射撃しかないです」

加賀「そうね。大和、偵察機を出して」

大和「わかりました! 大和、突撃します!」

大和が観測機を飛ばすと、空母水鬼もすぐに艦戦を嗾ける。私と加賀さんも即座に艦載機を発艦して応戦。
はっきり言って艦載機運用の技術じゃ完全に負けてるけど、ここを守りきらないと私達に勝ち目はない。精神を研ぎ澄ませて航空戦に集中!

翔鶴「やらせはしません!」

飛龍「今度は通さない!」

空母水鬼「……!?」

私と加賀さんの艦載機に、翔鶴姉と飛龍先輩の直掩機も合流。敵の艦戦を撃墜! よし、今度は守り切った!


大和「敵艦捕捉! 全主砲、薙ぎ払え!」

空母水鬼「っ…………くっ!?」

大和が空母水鬼を捉えて徹甲弾を発射。強固な装甲を一気に撃ち抜いて中破! 空母としての機能を停止させた。

瑞鶴「お母さん……」

戦うことを決意したはずなのに、頭の中に一瞬ちらつく。今なら話が出来るかも知れない……そんな願望が。

空母水鬼「甘いわね……」

直後、艦載機が攻撃を仕掛けてくる。直掩機が残ってたって言うの!?


加賀「瑞鶴っ!」

瑞鶴「うわっ!?」

完全に油断してて無防備だったけど、敵の動きに気づいた加賀さんに抱きかかえられてその場から回避。難を逃れた。

空母水鬼「勝ったと思っていたの? それこそ、慢心ね」

しかしそれも束の間。お母さんは直掩機を大量に操って次々と攻撃を仕掛けてくる。
その威力も精度もかなりのもの。何とか躱し続けるけど、こっちに反撃に転じる隙を与えない。

瑞鶴「このままだと……」

加賀「夜の帳が……下りてくるわね」


そうこうしてる内に時間はどんどん過ぎて行って、徐々に直掩機からの攻撃も止んでくる。
夜……か。こっちは大和が小破で健在。だけどお母さんも……多分夜間でも艦載機を飛ばせるはず。

大和「瑞鶴さん、翔鶴さん……」

直掩機からの攻撃が完全に止まったのを確認してから少しだけ後退。夜戦に入るかどうか……

大和「今一度お聞きします。倒してしまっても良いのでしょうか?」

大和からの問い掛け。最後の決断……私は意を決して口を開く。

瑞鶴「うん、いいよ、大和。勝って、みんなのところに帰ろう……」

さっきのやり取りでわかった。空母水鬼は……まだ戦意を喪失してはいない。まだ戦いは、終わってない!


大和「わかりました……! 戦艦大和、夜戦を敢行します!」

飛龍「……っ!? 大和ッ! 直上!」

先輩の声で上空を見上げると、髑髏の艦載機。夜間で、しかも中破しているのに……それでもこの速さと正確さ。

大和「そ、そんなっ!?」

瞬間、大和が攻撃を受ける。艦載機の威力に衰えは全くなく、強固な装甲を物ともせず一瞬で大破……
二人の戦艦が大破したことで、こちらに真っ当な攻撃手段は無くなった……それなら……


瑞鶴「それなら、私がやるしかない……!」

私は意を決して口を開いた。覚悟なんて、もうとっくに出来てる!

瑞鶴「加賀さん、私……行ってくるね。この悪夢を、終わらせる!」

加賀「瑞鶴、あなたまさか!?」

瑞鶴「大丈夫だよ加賀さん。あの戦法は使わないから……私を信じて」

加賀「わかった。行ってきなさい」

私がこういう時一歩も引かない性格だって知ってるからか、加賀さんはあっさり折れて私を送り出した。


瑞鶴「行くよ……!」

空母水鬼を見据えて一直線にダッシュ。相手の艦載機の攻撃を躱しながら、一気に近距離まで詰める!

瑞鶴「お母さん、私……私ね……」

そのまま矢を上空に放って艦載機を発艦。即座に相手の直上を取る。
この夜間、私の腕じゃアウトレンジから攻撃を仕掛けてもまず成功はしないけど……この距離なら当たる!



瑞鶴「ジャガイモの入った味噌汁、食べられるようになったんだよ」

攻撃隊は直上から一気に爆撃。艤装を撃ち抜いた。


空母水鬼「瑞……鶴……」

爆撃を受けた空母水鬼……お母さんは、優しい微笑みを浮かべながら崩れ落ちる。

瑞鶴「お母さんッ!」

私達はお母さんに駆け寄る。その表情は先程までと違ってとても穏やか。

空母水鬼「強く、なったわね……瑞鶴……」

空母水鬼「それと……ごめんなさい。二人にはとても辛い思いをさせてしまったわ……」

瑞鶴「いいんだよ、お母さん……帰ろうよ。帰って、また三人で……」

正直、聞きたいことはいっぱいある。でもそんなのは後回し。今ならまだ、お母さんは助かるかも知れないんだ!


翔鶴「お母様……!」

翔鶴姉がお母さんに手を伸ばした瞬間……背後から轟音。

空母水鬼「ぐ、ぁっ……!」

翔鶴「お、お母様っ!?」

禍々しい凶弾がお母さんを撃ち抜いた。

空母水鬼「戦艦……棲姫……! な、何故……?」

砲弾が飛んできた方を振り向くと、漆黒のドレスに身を包み、醜悪な獣を従えた女が一人。


戦艦棲姫「あなたがここで沈んでくれた方が、私にとっては都合が良いのよ。その子達が真実を知る必要はないの」

空母水鬼「そん、な……だって、あなた……は……!」

戦艦棲姫「あなたみたいな役に立たない忌々しいガラクタと一緒にしないで」

戦艦棲姫「私は変わることなど望んでいない。戦いさえそこにあれば良い……!」

空母水鬼「そん、な……」

戦艦棲姫「さ、もういいでしょう? 最後に愛しの娘達に会えたのだから、幕引きとしてはこの上なく上等ではなくて?」

言いながら戦艦棲姫と呼ばれた女は主砲を斉射。私は身を乗り出して庇おうとするけど間に合わず……

翔鶴「お母様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

空母水鬼「翔……鶴、瑞鶴……ごめん……な、さ……!」

必死に手を伸ばすけど届かない……お母さんは、冷たくて暗い海の底に沈んでいく……


瑞鶴「そんな……何で! 何で、こんなっ……!」

瑞鶴「ゆ、許さないっ……!」

加賀「瑞鶴ッ!」

敵を睨みつけ、考えなしに突撃しようとしたところを加賀さんに制止される。慌てて周囲の確認。
そうだ、今は私と加賀さん以外の四人が大破。しかも敵はあの戦艦棲姫だけじゃない。
夜だからちょっと視界が悪いけど、目視できるだけで他に5隻。重巡や戦艦達が待ち構えてる。

戦艦棲姫「どうしたのぉ? 怖気付いたかしら?」

挑発されるけど、行っちゃ駄目だ。みんなの安全を確保するまでは……!

???「ヘーイ、ここはワタシ達に任せるネー!」

瞬間、後方から聞き覚えのあるやたらテンションの高い声。この声は……!


阿武隈「第二艦隊、これより夜戦に突入します!」

島風「瑞鶴さん達は大破したみんなを連れて、今のうちに離脱しちゃって!」

第二艦隊のみんなが合流。前衛に出て戦闘準備に入ると同時に私達に退避するよう促す。私は……

瑞鶴「戻ろう。赤城先輩達のところまで……」

加賀「瑞鶴、いいの……?」

瑞鶴「はい。金剛達に託します」

こんなに敵と味方が入り乱れる戦況じゃ、私のインファイト戦法はとても使えそうにない。
残ってもただ棒立ちしてるだけで、足手纏いになるのは目に見えている。それならみんなの安全確保が最優先だ。

加賀「あなたがそう決めたのなら……戻りましょう」


サマール沖から離脱して一時間ほどで赤城先輩達第一艦隊の姿が見えてくる。見たところ全員損傷はほぼ無し。

ビスマルク「みんな無事みたいね。もっとも、こっちは酷い有様だけど」

蒼龍「飛龍ッ!? だ、大丈夫なの!?」

飛龍「当たり前でしょ。私を誰だと思ってんのよ?」

武蔵「大和、お前がそこまでやられるとはな……」

大和「あ、甘く見たわけじゃないんだけど……」

それに比べてこっちは私と加賀さん以外の四人が大破と凄惨な状況。蒼龍先輩も武蔵も心配そうな顔で相方に近寄る。


赤城「翔鶴……おかえり」

翔鶴「赤城さん……あ、赤……ぎ、さん……」

目一杯の涙を浮かべて赤城先輩に抱きつく翔鶴姉。赤城先輩はそれを優しく包み込む。

赤城「いいわ、翔鶴。今は、泣いてもいいのよ……」

赤城先輩はお母さんが沈んじゃったことは知らないはずなんだけど、翔鶴姉の表情を見て何かを察したんだろう。
こういう以心伝心の関係って、すっごく憧れる。加賀さんって鈍感な時はとことん鈍感だから余計にね。

加賀「…………」

瑞鶴「あっ……」

なんて考えてたら加賀さんも無言で私を抱き締めてくれた。えへへ、ありがと、加賀さん。
何とか涙、堪えられそうだよ。


赤城先輩達と合流してから小一時間ほど。だんだん空が白み始めて来た。夜明け……か。

金剛『ヘイ、赤城! 聞こえてマスかー?』

赤城「金剛さん! 戦果はどうですか?」

金剛『随伴艦は全て撃沈。デスが、旗艦の戦艦棲姫だけは逃がしてしまいました。観測機で追跡してますが、南方に向かっているようデス』

金剛『ワタシ達も燃料や弾薬が尽きたし、阿武隈、北上、大井の三人が仲良く大破してしまったので、追撃は出来ませんでした……』

赤城「そう……まずは大破艦の保護を優先しましょう。こちらに合流して下さい」


金剛『了解! 今からそちらに向かいマース!』

阿武隈『大井さんが指示に従わないからですよ~!』

大井『阿武隈さんこそ、北上さんを惑わすようなことばかり言って!』

北上『二人とも仲良いね~。もう付き合っちゃえば?』

阿武隈『なっ!? き、北上さんの馬鹿ーーー!』

無線の向こうから姦しい声が聞こえてくる。こんなんで戦闘中は息ぴったりなんだから凄いよねこの子達。


赤城「さて。これでレイテに集結した深海棲艦は戦艦棲姫とあのレイテ島の前にいた子供以外は撃沈出来たと思われます」

赤城「この状況では敵も撤退せざるを得ない……南西諸島海域の制海権は取り戻したと言っても良いでしょう」

赤城「瑞鶴さん。あなたはこの後どうするの?」

先輩からの問い掛け。艦娘側は大破こそ多数出たけど轟沈は無し。目的も果たしたし、作戦は戦略的勝利……でも、私は……!

瑞鶴「戦艦棲姫を追います。あいつを倒さないと、この戦いは終われない!」

瑞鶴「加賀さん。これは、私の個人的なワガママなんだけど……ついてきてくれるかな?」

加賀「ええ。あなたが行くところなら、どこへでも……!」

そう言いながら私の手を取り、目をしっかりと見据えながら答える加賀さん。
やだ、これってプロポーズ? 恥ずかしすぎて思わず目を逸らしてしまう。


赤城「行くのね。私と蒼龍、武蔵さんはまだ戦闘可能ですから、お供しますね」

???「いやいや、ここは私達にお任せだよ!」

聞き慣れた声。嘘……? あの子がここに? 私は勢い良くそちらを振り向く。

瑞鶴「鈴谷ッ!」

鈴谷「遅くなってごめんね~。幌筵からレイテってマジ遠くてさ~」

鈴谷を先頭に、榛名、雷、浜風。お馴染みのメンバー……私の、最高の戦友。

榛名「瑞鶴さん、加賀さん! 本当に無事で良かったです!」

雷「もう、私達に何の相談もしないで行っちゃうんだから!」

浜風「あなたにはいつだって、私達がついてますから……! もっと頼って下さい」

ちょっと、何この展開。今日は一生分の涙を使い切ったと思ってたのに、また泣きそうになっちゃう。


榛名「ここは榛名達に任せて、皆さんはお姉様達と合流したら速やかに離脱して下さい」

鈴谷「赤城さん達も燃料や弾薬、結構ヤバいっしょ? 大丈夫、瑞鶴はうちらが責任持って面倒見ますから」

赤城「……わかりました。お任せしますね」

翔鶴「瑞鶴、あまり随伴艦の皆さんにご迷惑をお掛けしちゃダメよ?」

もう、翔鶴姉まで! 私は旗艦だってのに! よし、見てなよ!

瑞鶴「行くよ、随伴艦達! 私について来ーいっ!」

頬を両手で叩いて気合いを入れ、高らかに宣言する。

鈴谷「ん。やっぱ瑞鶴には泣き顔よりもそっちの方が似合ってるよ」

私は最高の戦友達と共に、最後の決戦へと向かった。

つづく!


設定

大和(21):艦隊決戦の切り札。去年のレ級との戦いの後も多くの実戦を経て練度を上げた。

金剛(24):連合第二艦隊の主力を担う高速戦艦。練度トップの座は加賀と瑞鶴に明け渡したが実力は未だに健在。

阿武隈(18):連合第二艦隊旗艦。北上のことが好きだがつい素っ気ない態度を取ってしまう、素直じゃない性格。

北上(18):阿武隈、大井の同期。阿武隈に好意を持っているがついからかってしまう、素直じゃない性格。

大井(18):阿武隈、北上の同期。北上を慕っているが、ライバルの阿武隈のことも憎からず思っている。

防空棲姫:レイテにて赤城達を待っていた新種の深海棲艦。その真意は不明。

今回はここまでです。あと2回の投下で終了の予定です。
それではここまで読んで下さった方、レスして下さった方、ありがとうございました。

投下再開します。「別離」は今回で最後になります。
お時間のある時に読んで頂ければ幸いです。


「別離3」

瑞鶴「あっ、そう言えばさ……」

戦艦棲姫の追跡を開始してから小一時間程経った頃。ふと思い出したことがあった。

瑞鶴「南方で加賀さんを大破させた深海棲艦ってあの戦艦棲姫なの? 確か、艤装を担いだ獣を従えてるって聞いたけど」

加賀「確かに似ていたけど、違うわね。私が戦ったのは、あの戦艦棲姫を更に強化したような相手だったわ」

浜風「戦艦棲姫の画像を見ましたが、別人ですね。魔物は頭が二つありましたし、主砲も一回り大きかったです」

加賀さんと、護衛していた浜風は口を揃えて言う。つまり、あの戦艦棲姫の後ろに更に強力な奴が控えてるかもってことか。


榛名「観測機より入電! 戦艦棲姫の部隊を捕捉しました! 随伴艦には戦艦ル級改1隻、重巡ネ級エリートが1隻」

榛名「後期型駆逐艦のエリートが2隻。それに、艦種不明の深海棲艦が1隻! ただ、加賀さん達が戦った戦艦ではないようです」

ここにきて新種の深海棲艦か。でも関係ない! 邪魔をするんなら全員倒すまでだ!

瑞鶴「目視距離に入ります! 各艦、戦闘態勢!」

新種の深海棲艦。リボンを付けた黒髪の女性だけど、下半身は化物みたいな艤装と一体化していると言う異様な姿。


戦艦棲姫「こんな所まで追ってくるなんて、しつこいわねぇ」

水母棲姫「哀れな艦娘達……人類を守る価値なんて、本当にあるとでも思ってるの?」

不気味な姿の深海棲艦からの意味深な問い掛け。でも、そんなこと関係ないよ……!

瑞鶴「誰かを守るとか守らないとか、今はそんなのどうだっていい! 私はお母さんを沈めたアンタを許さない!」

水母棲姫「わかってないのねぇ……この世界の真実も知らない小娘が! 息巻いてんじゃないよ!」

戦艦棲姫「哀れな艦娘達……二度と浮上できない水底へ、沈みなさい!」


水母棲姫「さあ行くよ!」

直後、水母棲姫と呼ばれた深海棲艦の艤装から艦載機が発艦される。真っ赤なオーラを纏った、髑髏の形の機体が32機。

瑞鶴「第一次攻撃隊、全機発艦!」

こちらも艦載機を発艦。私と加賀さんで合わせて烈風改44機、烈風24機、攻撃機の流星改は114機。

鈴谷「おっし、鈴谷もサポートしちゃうよ!」

瑞鶴「待って!」

航空戦補助の為に瑞雲を発艦しようとした鈴谷を制止した。何か、嫌な予感がする。

瑞鶴「航空戦なら私達だけで十分だから、瑞雲は取っておいた方がいいよ」

鈴谷「んー、瑞鶴がそう言うんなら……」

そうこうしてる内に両軍の航空戦力が激突。予想通りこちらの方が圧倒的に勝っていて、制空権を確保。


瑞鶴「よし、鎧袖一触! そのまま一気に叩いちゃって!」

敵の艦載機は次々と撃墜され、こちらの損害は軽微。後は攻撃隊がどれだけ戦果を上げられるか……

水母棲姫「勝った気でいるの? 甘いのよ!」

瑞鶴「えっ……?」

目を疑うような光景。水母棲姫の対空砲火によって、熟練の流星改が次々と叩き落とされていく。
水母棲姫の装備している主砲……莢砲か! 速射性に優れ、対空戦闘で威力を発揮する代物。
鈴谷の瑞雲を止めておいて良かった。6機程度じゃ間違いなく全滅させられてた。

水母棲姫「あははっ! 面白いように墜ちて行くわねぇ! まるで七面鳥みたい!」


瑞鶴「くっ……七面鳥ですって!? 冗談じゃないわ!」

加賀「頭にきました」

精神を集中させて攻撃機を操作。何とか包囲網を突破しようと試みる。

瑞鶴「私達の精鋭を……なめるなァァァッ!」

後期ロ級B「グアァァァァッ!」

ル級改「この程度か……!」

かなりの数の艦攻が落とされた上に、相手が的確に旗艦を庇った。
駆逐艦1隻は撃沈したものの、残りはル級改に擦り傷をつけた程度。


水母棲姫「お次はこいつよ! ぶち抜かれなさいよ、ほらほらァ!」

こちらが砲雷撃戦の準備に入る前に敵の先制攻撃。物凄い勢いで魚雷が迫ってくるけど……躱せる!

水母棲姫「何ッ!?」

あっさりと回避。水母を名乗ってる時点で甲標的を積んでることはわかってた。
わかってれば、躱すのは簡単!

瑞鶴「砲雷撃戦、開始します! 全艦突撃用意!」


榛名「榛名、参ります! 全力ですッ!」

先陣を切ったのは榛名。水偵を飛ばして戦艦棲姫を捕捉し、徹甲弾を乗せた強烈な一撃を放つ!

戦艦棲姫「小賢しい真似を!」

榛名の砲撃がまともに入ったのに、相手の損傷は小破程度。
フラグシップクラスの戦艦さえも一撃で撃沈できる威力なのに……とんでもない装甲と耐久力!

戦艦棲姫「沈みなさい!」

加賀「なっ……!」

反撃とばかりに敵も巨大で禍々しい主砲から斉射。これは加賀さんに掠った程度だけど……
直撃は避けたのに、それでも小破。攻撃面でも途方もない力を持っていることが容易にわかる。


鈴谷「あんなのを何度も食らうわけにはいかないね~。ここはソッコー片をつけるっきゃないかな~」

ネ級「おっと、ここは通さないよ!」

前に出ようとした鈴谷の前に敵重巡が立ち塞がる。私も早く着艦を終えて、援護に行かないと!

鈴谷「なんかアンタさ~、鈴谷と被ってない?」

ネ級「一緒にしないで。レベルが違う」

鈴谷「はっ! 上等ッ!」

鈴谷が瑞雲を飛ばすけど、ネ級は目もくれず前に出て主砲を構える。


ネ級「沈めぇ!」

鈴谷「うりゃぁ~!」

二人が同時に斉射。でも瑞雲で弾着観測してた分だけ鈴谷の方が精度は上。相手の砲弾は艤装を掠めただけ。

ネ級「くっ……!」

一方で鈴谷はキッチリと直撃させて中破まで持っていき、更に追撃の構え。

鈴谷「はい、これで……おしまいっ!」

ネ級「きゃあぁぁぁぁっ!」

二撃目も外さず、一気に撃ち抜いて重巡を撃沈。よし、ここまではいい流れ!

鈴谷「ふふん、ざっとこんなもんよ!」


ル級改「くっ、艦娘共め……! そう何度もやらせるかァ!」

怒号と共にル級改が凄まじい勢いで突撃してくるけど、こっちも発艦準備はOK! 迎撃態勢は出来てる!

瑞鶴「第二次攻撃隊、稼働機、全機発艦!」

発艦された攻撃隊は素早く接触し、適確に敵戦艦を捉える! よし、いける!

ル級改「グッ……だ、だが……この程度!」

瑞鶴「加賀さんッ!」

加賀「ええ。鎧袖一触よ」

私の攻撃隊がル級改を中破させ、体勢を立て直す隙を与えず加賀さんの攻撃隊による追撃が入る。

ル級改「グアァァァァァァァッ!?」

熟練攻撃隊の連続爆撃を受け、さしものル級改も爆発四散して撃沈。見たか、これが私と加賀さんの力なんだからっ!


雷「やるわね、二人とも。私達も負けないんだから!」

浜風「よし、行くぞ雷。幌筵護衛駆逐艦の力、今こそ見せる時です!」

雷「はーいっ!」

後期ロ級A「貧弱な艦娘風情が! 真の駆逐艦の力と言うものを教えてやる!」

浜風「相手にとって、不足なしです!」

浜風と敵駆逐艦が撃ち合うけど、お互い回避能力に長けた艦同士。中々決定打が入らない。
でも、相手と違ってこっちは二人いる。浜風は撃ち合いを続けながら、敵を徐々に雷の方へ誘導していく。


浜風「雷、今です!」

雷「逃がさないわよ! てぇー!」

雷撃距離まで詰めて魚雷を発射。あの距離なら回避するのは困難。当たればまず沈められる!

後期ロ級A「ぐわあぁぁぁぁ!! す、水母棲姫様、万歳!」

魚雷の直撃を受け、敵駆逐艦は成す術もなく爆発四散。これで残すはボス格2隻だけ!


水母棲姫「図に乗るんじゃないよ、小娘!」

雷「きゃあぁっ!」

浜風「雷ッ!?」

しかし次の瞬間、水母棲姫の主砲が雷を捉えて砲撃。一撃で大破まで持っていった。
さすがに姫を名乗るだけあって、その砲撃火力もかなりのもの。
駆逐艦の装甲じゃあ一発でも喰らえば命取りになる。

瑞鶴「浜風、雷を曳航しながら後退して!」

浜風「了解です!」


水母棲姫「おっと、逃がすと思ってんのかい? もっと、もっと黒くなりなさいな!」

榛名「これ以上は、やらせません!」

鈴谷「ただの航巡だなんて思わないでよねっ!」

水母棲姫「ぐっ、ぁっ! な、生意気ね!」

水母棲姫は追撃に入るけど榛名と鈴谷が連続砲撃でこれを阻止。一気に中破まで追い込み、雷撃能力を封じた!

戦艦棲姫「小娘が! 泣き叫びながら、沈んでいけッ!」

榛名「きゃあっ!? や、やられました……」

だが直後に戦艦棲姫の魔獣が咆哮を上げて斉射。
恐ろしいまでの破壊力と精度で、榛名さえも一撃で大破させられた……


瑞鶴「こっちも攻勢に出ないと! 加賀さん! 攻撃隊の再編成、出来てる?」

加賀「誰に聞いてるの? 瑞鶴、行くわよ」

瑞鶴「はい! 第二次攻撃隊、全機発艦!」

加賀さんと一緒に攻撃隊を発艦。中破している水母棲姫に狙いを定める!

水母棲姫「馬鹿ね……さっき七面鳥のように落とされたのを忘れたの?」

瑞鶴「落とせるものなら、落としてみなさいよ!」

水母棲姫「なっ……!? 早ッ!?」

私達の攻撃隊は、相手が対空砲を構えるよりも早く直上を取って一気に爆撃を仕掛ける。
砲雷撃戦の場合、敵との距離は航空戦のそれよりも遥かに短い。熟練の攻撃隊であれば、接触までの時間は更に縮まる。
いくら速射性に優れた莢砲を装備していても、まともに撃ち落とすのは至難。

水母棲姫「ぐっ……あぁぁぁっ!」

敵の強固な装甲を撃ち抜いて大破……いや、このダメージなら航行不能になっていてもおかしくないはず。


水母棲姫「あっ……こ、ここは……」

あれ? さっきまでは憎悪の塊のような険しい顔をしていた水母棲姫だったけど、今の表情は憑き物が取れたかのように穏やか。
ただ戦意を喪失しただけとはとても思えない程の変化。もしかしたらこの人も、お母さんと同じで……

水母棲姫「そう……そういうこと、だったの、ね……あ、ありが……」

戦艦棲姫「チッ……役に立たぬガラクタめッ!」

瞬間、戦艦棲姫は主砲を一斉射。辛うじて浮上している状態だった水母棲姫はなす術もなく沈んでいった。
どうして? いくら戦えなくなったからって、仲間をこんな簡単に切り捨てるなんて……それに、水母棲姫の最期の台詞は一体……?


戦艦棲姫「あなたも……沈みなさいッ!」

瑞鶴「!?」

間髪入れずに副砲からの掃射。しまった……! 戦闘中だってのに、私はまた……!

鈴谷「瑞鶴っ!」

次の瞬間には鈴谷が目の前にいて……掃射を受けて大破させられた……

鈴谷「もう……瑞鶴ってば、本当に世話が焼けるんだから」

瑞鶴「ごめん……」

そうだ。答えの出ないことを今考えても仕方ない。目の前の敵を倒すことに集中しないと!


瑞鶴「浜風、三人を護衛しながら後退して! あいつは私と加賀さんで何とかするから!」

浜風「了解です。でも、無理はしないで下さいね」

浜風に傷ついた三人の護衛を任せると、私は正面に向き直って敵を見据える。

瑞鶴「全機爆装! 攻撃隊、発艦!」

戦艦棲姫「ふふ、無駄なことを……!」

相手は対空砲を構えもせず次発装填体勢。避けるつもりもないってことか。馬鹿にして……!

瑞鶴「攻撃隊のみんな! 五航戦の意地を見せてあげてッ!」

戦艦棲姫「ぬるいわ」

爆煙の中から、涼しい顔をした戦艦棲姫が姿を現わす。私の、最高練度の攻撃隊でも歯が立たないの……!?


戦艦棲姫「さあ、もう十分でしょう? そろそろ母親の所へ……お逝きなさい!」

瑞鶴「うっ……!」

間髪入れず戦艦棲姫の反撃。砲弾が艤装を掠める……たったそれだけのことで小破。

瑞鶴「まずいわね……!」

戦艦棲姫の強固な装甲の前には、正攻法でいくら仕掛けても通用しない。
このまま無駄に弾薬を消費させられてジリ貧になったらいよいよ勝ち目はなくなる。
リスクを負ってでも勝負に出ないといけない。それは加賀さんだって気付いてるはず。


瑞鶴「加賀さん、私に考えがあります」

攻撃隊の再編成をしながら加賀さんに駆け寄る。

加賀「聞かせてちょうだい」

瑞鶴「はい……」

次発装填している戦艦棲姫の様子を伺いながら、作戦を話す。加賀さんは表情一つ変えずに聞いている。

加賀「駄目ね、リスクが大きすぎる。仮に奴を倒せたとしても、あなたも沈んでしまう可能性があるわ」

話し終えると同時にバッサリと一刀両断。確かに危険な賭けなんだけど……

瑞鶴「でも加賀さん! このままじゃ……」

加賀「ええ、だからこそ……よ? リスクを背負うなら成功率だってそれに見合うよう高めないと駄目」

加賀「でも目の付け所は悪くないわ。一つ手を加えましょう」

瑞鶴「えっ?」

加賀「…………」


加賀「これでどう? 役割分担が出来ているから、あなたの作戦よりは成功率は高いはずよ」

瑞鶴「でもそれだと加賀さんが! 加賀さんだけを危険に晒すなんて、私には……」

加賀「瑞鶴。これはもう、あなただけの戦いじゃないのよ。一人で背負い込もうとしないで」

加賀「あなたは旗艦なんだから……もっと周りに、随伴艦に頼ることも覚えなさい」

瑞鶴「加賀さん……」

加賀「大丈夫よ。私を信じて。あなたが信じてくれていれば……私は絶対に沈まないわ」

私の肩に手を置いて、力強く言い放つ加賀さん。もう、相変わらずズルいんだから。
そんな風に見つめられて言われたら……信じるしかないじゃない!

瑞鶴「わかりました……!」


戦艦棲姫「愚かな艦娘達……死ぬ覚悟は出来たかしら?」

加賀「覚悟するのはあなたの方よ!」

加賀さんが戦艦棲姫に向かって真っ直ぐに突撃。私はその場で矢を取り出す。

戦艦棲姫「いいわ。どんな小細工を弄しようが、全てこの力でねじ伏せてあげる!」

敵が主砲を加賀さんに向ける。今だッ! 私は全力でダッシュし、即座に加賀さんの真後ろまで詰める。

加賀「瑞鶴ッ!」

瑞鶴「行きます!」

跳躍。直後に加賀さんは飛行甲板を自らの頭上に掲げる。私はそれを踏み台にして更に高く飛翔。

戦艦棲姫「!?」

戦艦棲姫は咄嗟には対応できず、そのまま加賀さんに主砲を斉射。私はそれと同時に空中で発艦する。


戦艦棲姫「なっ……に!?」

どんな艦だろうと斉射の瞬間は完全に無防備になる。ガードを固めることも、シールドを展開することも出来ない。
また、砲が巨大であればある程砲撃時の反動は大きく、体勢を立て直すまでに時間が掛かる。

その隙を突いての攻撃。最初は私が突っ込んで、敵の砲撃を誘い出すと同時に発艦して仕掛ける作戦だった。
発艦が終わったら即座にガードを固めるか回避行動を取って砲弾に備える……同時に攻撃を確実に命中させなければいけない。
成功率が限りなく低い上に独り善がりな作戦だと加賀さんに窘められた。言われても仕方ないや。
一緒に戦ってくれてる加賀さんのこと、何も考えてなかったんだもん。

でも、今度は違うの。加賀さんが前進して砲撃を引きつけ、その間に私が決める。
加賀さんは、私なら絶対にできるって信じて送り出してくれた。身を挺して守ってくれた。
だから私も……必ず応えてみせる! 見ていてよ!

瑞鶴「これで……終わりだぁぁぁぁぁッ!」

今、願いを込めた一撃が……爆ぜたッ!


戦艦棲姫「あああああ!?」

無防備となった戦艦棲姫は攻撃隊一気に撃ち抜かれて大破。その戦闘能力を喪失した。

瑞鶴「加賀さんッ!」

戦艦棲姫が崩れ落ちるのを確認し、後ろを振り返る。お願い……無事でいて……!

加賀「大丈夫よ……あなたが信じてくれていたから……」

損傷は中破といったところ……良かった……本当に……!


加賀「……瑞鶴ッ!?」

安堵の表情を浮かべていた加賀さんの顔が一瞬で強張る。直後に背後から強烈な殺気。

瑞鶴「えっ……!?」

振り返ると、目の前にはあの魔獣がいて……その豪腕にガッチリと掴まれて引き寄せられた。

戦艦棲姫「驚いたわね。まさか、あんな捨て身で来るとは……」

戦艦棲姫「私は沈むわ。力を蓄える為に、またしばらく眠りにつかなければならないけど……あなたも道連れよ」

瑞鶴「!?」

言いながら戦艦棲姫は大破した主砲を私に向ける。これなら撃たれても大したダメージは無いけど……
相手は今にも爆発炎上しそうな状態。斉射が引き金となって大爆発を起こすかも知れない。
自爆する気か……! 何、この漫画とかでよく見るベッタベタな展開は……


加賀「瑞鶴ッ!」

瑞鶴「来ないで! 出来る限り遠くに逃げてッ! 戦艦棲姫は自爆する気だよ!」

加賀「なっ……!?」

瑞鶴「早く逃げて! もう時間が無いの!」

加賀「あなたを置いて行くなんて……そんな、こと……!」

私は必死に抜け出そうと抵抗するものの、ビクともしない……その間にも弾薬が装填されていくのがわかる。

瑞鶴「鈴谷、榛名ッ! 加賀さんを連れて退避して! 早く!」

自力で出来る事はもう何も無い。後はみんなを逃がして運を天に任せるだけだ。
鈴谷達もそれを察したか、加賀さんを引っ張って後退する。


加賀「瑞鶴! 待って! あなたを失ったら私は……!」

加賀「あなたのいない世界に意味なんて無いッ! 私、私は……あなたのことが……!」

はは、こんなに感情を高ぶらせた加賀さん、初めて見た。そこまで私のこと想っててくれたんだね……嬉しいな。

瑞鶴「加賀さん……」

私は何とか振り返り、精一杯の笑顔を見せた。加賀さんは大粒の涙を流している。
翔鶴姉が死亡認定された時も、人前では決して涙を見せなかった加賀さんが……今は形振り構わず感情を露わにしてる。

瑞鶴「加賀さん、愛してます」

そんな加賀さんが大好きで、最後の最後まで好きなままでいられて……本当に良かった……

加賀「瑞かッ……!」

次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が襲ってくる。私の全てが海色に溶けて、深みへ落ちていく……
そして、記憶の全てが海色になって、光へと消えていった……

つづく!

次回「海色」


設定

瑞鶴(19):練度は十分だが大本営の嫌がらせによりカタパルトが支給されない為、まだ改二になっていない主人公。
鋼のメンタルを持つがまだまだ周りが見えてない面もあった。

加賀(24):戦艦艤装をつけたり対空迷彩をつけたりと色々忙しい人。練度は全艦娘中トップ。

鈴谷(18):瑞鶴の悪友ポジション。制空補助から砲雷撃戦まで色々器用にこなせる子。

榛名(22):幌筵艦隊の頼れる戦艦。改二になって火力や精度に磨きをかけた。

雷(14):幌筵艦隊の護衛駆逐艦。翔鶴が横須賀に復帰した後も幌筵に残って泊地防衛に務めている。

浜風(15):幌筵艦隊で一番真面目で常識人な艦娘。駆逐艦にしては立派な胸部装甲を持つが艦隊の中では下から三番目。

戦艦棲姫:深海棲艦側の大幹部。非常に好戦的で、戦争そのものを目的としているような節がある。

水母棲姫:新種の姫クラス。単縦での先制雷撃は強烈。更に、ツ級以上の対空迎撃能力を備える厄介極まりない難敵。
沈む直前に意味深な言葉を残す。

今回はここまでです。次回で完結となりますが少し間が空くと思います。
それではここまで読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。

投下再開。今回で最終回になります。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。


「海色」

瑞鶴「んっ……ここ、は……?」

朧げな意識のまま周囲を見渡すと、真っ白な海がどこまでも続いてる。
私は、あの爆発に巻き込まれて……

瑞鶴「……よっ、と」

大丈夫、どうやら歩ける。見た感じ、損傷はどこにもない。
今度こそ本当に死後の世界ってトコに来ちゃったのかな?

瑞鶴「…………」

しばらく歩いてみるけど何も見つからない。見渡す限り、どこまでも海が広がってるだけ。


瑞鶴「加賀さん……」

不意に好きな人の名前を呼んでみた……瞬間、海は血のように赤く、空は闇よりも深い黒に染まる。

瑞鶴「うぇっ……何なのこれ……!」

そんな中で前方に目をやると加賀さんの姿。いや、それだけじゃない。赤城先輩に飛龍先輩、蒼龍先輩も!

瑞鶴「加賀さーん!」

私は足早にそっちに向かうけど……

瑞鶴「えっ!?」

四人の姿がどんどん薄れていく。

瑞鶴「加賀さん、待ってよ!」

その背中に触れようとするけど、みんなの姿は完全に消えてしまって……精一杯伸ばした手は虚空を掠めた。


瑞鶴「そんな……どうして……!」

しばらく呆然と立ち尽くしていたけど……周囲の風景が見覚えのあるものだと気付く。

瑞鶴「ミッドウェー……」

海軍が誇る世界最強の第一機動艦隊、南雲機動部隊の4空母が沈んだ場所……

瑞鶴「えっ?」

何、言ってるんだ私……? 突然頭の中にそんな記憶が入ってくるけど、どこかおかしい。
加賀さんも赤城先輩も、二航戦の二人だって健在だ。そもそも、今までミッドウェーが戦場になったことなんて無い。


瑞鶴「っ!?」

頭の中で情報を整理できず混乱していると、突然周囲の風景が変化した。これは、マリアナ……?

瑞鶴「翔鶴姉! 大鳳!」

視線の先には翔鶴姉と、後輩の大鳳の背中。近づくと、先程と同じようにその姿が徐々に薄れていく。

そっか。マリアナはこの二人が沈んだ場所。大鳳の方はこれが初陣だったのに……
頭の中に当たり前のように入ってくる、まったく覚えのない情報。一体何なんだろう……


瑞鶴「今度は、私か……」

三度変化する風景。レイテ……それだけで自分が沈んだ場所だと理解できた。今度は私自身が消えていくのかな?

瑞鶴「あっ……」

しかしその考えはすぐに否定される。前方に私の幻影。当然、近づくとどんどん消えていく。

瑞鶴「栄光の空母機動部隊はここで壊滅。この後は……あ、あれ?」

私の幻影が消えて、周囲を見回すとまたミッドウェー。加賀さん達4人の幻影も。どうなってるの?

瑞鶴「加賀さーん!」

今度こそ、何か話せるかな? そんな淡い希望を胸に走って行くけど、やっぱりみんな追いつく前に消えてしまう。
同時に周囲の風景はまたマリアナへ。翔鶴姉と大鳳の背中が見えるのもさっきと同じ。


瑞鶴「はあ……」

もう何回、何十回繰り返したかな? 幻影を追いかけたけど、何にも触れられない。

瑞鶴「何なのよ、もう……」

さすがに疲れてきたのでその場で座り込んで目を閉じると、空母以外の艦娘のことも頭に入ってくる。
色んな海で色んな戦いがあって、戦艦も駆逐艦も、巡洋艦も……殆どの艦が沈んじゃったんだよね。

私の艦隊の仲間達も……加賀さん、雷、私と鈴谷、浜風。榛名は……大破着底だったか。

???『…………か……す……』

っ!? しばらく座り込んでると、突然囁くような声が聞こえる。

???『何度でも……繰り返す……変わらない、限り……!』

今度はハッキリと聞き取れた。声色は加賀さんか、赤城先輩に似てる。
その声の方へ走るけど、何も変わらない。追いつけない追いかけっこを声の通りに何度も繰り返すだけ。


瑞鶴「何度でも、繰り返す……か」

ああ、そうだった。色々と思い出してきた。これは過去に実際にあったこと。繰り返されてきた戦場の記憶。

加賀さんが、まだ軍に配属されてすらいない私を五航戦と呼んで、私は何の疑問も持たずにそれを受け入れてた。
浜風が、一度も会ったことないはずの金剛や信濃の痛みを知っていた……
ほとんどの艦娘には苦手とする海域があった。当たり前だ……かつて自分が沈んだ場所なのだから。

この世界そのものがループしてるのか、それとも先代の艦娘とかがいて、何年か置きに戦争が起きているのか。
それはまだ思い出せないけど……一つ確かなのは、私達は深海棲艦との戦いを何度も何度も繰り返してきたってこと。


瑞鶴「…………」

私は一旦立ち止まり、漆黒の空を仰いでスッと大きく息を吸い込んだ。

瑞鶴「変われるよッ!!!」

悲しみに閉ざされて、泣くだけじゃ前には進めない。私は精一杯叫んで、天に向けて矢を放つ。

瑞鶴「加賀さんと……大切な仲間達と一緒なら、私はどこまでも歩いていける!」

瑞鶴「過去だって取り戻せる! 運命にだって抗ってみせる! きっと未来も切り開けるよ!」

根拠なんてどこにもない。もしかしたら、過去にも同じことを言って失敗してたのかも知れない。
それでも私は、今度こそこの戦いを終わらせたいと願った。

放たれた矢は漆黒の空を切り裂き、周囲は最初の暖かい海色を取り戻す。
これで帰れるのかな? それとも……


瑞鶴「!?」

ふと見ると前方に女性が一人。長い髪にサイドテール。銀髪なんだけど、雰囲気は翔鶴姉よりも赤城先輩に似てる。
それにどことなく加賀さんの面影も。深海棲艦……なのかな? 服はボロボロで、色々危ない所が見えそうなんだけど、艤装は付けてないみたい。

空母棲姫「…………」

女の人は私の前に立って、顔をマジマジと見つめてくる。ちょっと恥ずかしい。

空母棲姫「綺麗で真っ直ぐな目をしているわ……あなたの母親と同じ……」


瑞鶴「えっ!? お母さんのこと、知ってるの?」

今のところ襲ってくる気配も無いみたいだし、思い切って聞いてみよう!

瑞鶴「あの、お母さんって空母水鬼のことだよね? どうしてお母さんが深海棲艦に?」

空母棲姫「知りたいの? それがあなたにとって、とても残酷な真実だったとしても……?」

瑞鶴「もう何を言われても大丈夫だよ。教えて」

空母棲姫「そう……」

彼女は淡々と話し出した。遠い遠い昔の話……深海棲艦の出自のこと。
そして、軍令部の一部が深海側に肩入れしていることを。


空母棲姫「あなたの母は軍令部次長の腹心だったわ。けれど、あの男と違って深海側に協力するのを良しとしなかった」

空母棲姫「それどころか深海棲艦に関する事実を公表して、大本営が過ちを認めた上で立ち向かうべきだと説いたのよ」

空母棲姫「深海派筆頭だった次長は、口封じの為にあなたの母を捕らえて監禁したわ。表向きには、船の事故で亡くなったことにしてね」

空母棲姫「その後も深海派に協力するよう説得を続けたけど、彼女は首を縦には振らなかったわ」

空母棲姫「説得不可能と判断した次長は、最後の手段に出た……」

瑞鶴「あの艤装をくっ付けて、深海棲艦にしちゃったってこと……?」

空母棲姫「そう。あなたも気付いているでしょうけど、鬼や姫の名を冠する深海棲艦は量産型のイロハ級とは全くの別物よ」


空母棲姫「負の感情が凝り固まって出来た、言うなれば概念のような存在のイロハ級に対して」

空母棲姫「鬼や姫は人間に専用の艤装を取り付けたもの……つまり艦娘と同じ存在なのよ」

やっぱりそうなんだ……あの戦艦棲姫や水母棲姫も……そして、この人も。

空母棲姫「この艤装を付けられた者は深海棲艦が放つ負の感情に囚われ、彼女らと同じように人間に対して憎しみを抱くようになる」

空母棲姫「私や空母水鬼は艤装を付けられてからまだ日が浅いわ。今はその支配にも抗えているからこうしてあなたと話も出来ているけど……」

空母棲姫「それでも戦闘になると自身を制御できなくなり、歯止めが効かなくなってしまう」

空母棲姫「私も空母水鬼もいずれは戦艦棲姫と同じようになってしまうでしょうね。あの、憎しみのままに血と戦争を求める殺戮機械に……」


瑞鶴「ちょ、ちょっと待って! お母さんはもう沈んじゃったんじゃないの!?」

空母棲姫「沈んではいるわね。でも死んではいない……戦艦棲姫が沈む前に言っていたでしょう?」


戦艦棲姫『私は沈むわ。力を蓄える為に、またしばらく眠りにつかなければならないけど……』


空母棲姫「今は深海で眠っているだけ。しばらくしたら力を取り戻して活動を再開するわ。それが何を意味するか……わかるわよね?」

瑞鶴「お母さんと、何度も何度も戦わなくちゃいけない……ってこと?」

空母棲姫「そう。その上戦う度に艤装の支配は強まっていって……最後にはあなた達のことも完全に忘れてしまうのよ……」

そうか……これが私達にとっての残酷な真実……か。


瑞鶴「鬼や姫クラスの深海棲艦も、倒しても何度も復活するってこと? それじゃあこの戦いはずっと終わらないの?」

空母棲姫「それは……」

瑞鶴「うっ……!?」

瞬間、立ち眩みしたと思ったら周囲が急に明るくなってきた。

空母棲姫「……そろそろお目覚めの時間のようね」

瑞鶴「ちょっ、待ってよ! まだ聞きたいことがいっぱいあるのに……!」

空母棲姫「大丈夫よ。あなたならきっと真実に辿り着ける。レイテを生き残ったあなたなら……ね」

声と共に女性の姿もどんどん薄れていって、記憶と共に海色に溶けていく。


空母棲姫『瑞鶴……目を覚ました時、きっとあなたはここでの事を殆ど忘れているでしょう……』

空母棲姫『でも、もしほんの一片でも、心のどこかで覚えていたのなら……それがあなた達の未来を切り開く希望になるわ』

空母棲姫『また会いましょう、瑞鶴。今度は加賀と一緒に、戦場で……!』


_____幌筵泊地、執務室

加賀「艦隊、泊地に帰投しました。作戦報告書はこちらになります」

幌筵提督「はい、お疲れ様」

加賀「ご不明な点があったら鈴谷に聞いて下さい。私は用があるので……失礼します」

幌筵提督「あ、ちょっと加賀さん!」

加賀「はい?」

幌筵提督「その……たまには休んでよ。任務が終わった後、いつも南方のあの場所まで行っちゃうでしょ?」

幌筵提督「そんな生活続けてたら加賀さんの方が保たないよ?」

加賀「心配には及びません。任務に支障が出ないようにはしているつもりです」


鈴谷「何言ってるの加賀さん。明らかに無理してんじゃん」

鈴谷「別に鈴谷達だって、瑞鶴のこと諦めたわけじゃないよ? ただ、あの後あれだけ捜しても手掛かり一つ見つからなかったわけだし」

鈴谷「同じ場所を闇雲に捜したところで見つかりっこないよ」

鈴谷「だから偵察機の映像とか、あの時の潮の流れなんかを分析した情報を集めて地道にさ……」

加賀「ええ。だからそっちの方はあなた達に任せているでしょう? 私は自分が納得するまで捜すだけよ」

鈴谷「加賀さん!?」

加賀「もういいでしょう? 時間が惜しいので……失礼します」


_____南方海域付近

ありったけの偵察機と電探を載せてまたこの場所へ。もう何度目の捜索か……数えるのはとうにやめてしまった。

加賀「瑞鶴……」

最愛の人の名を呟きながら、空を睨んで矢を構える。

加賀「必ず……私が見つけ出す……! 全機発艦……っ!?」

発艦と同時に全身を襲う激痛。放たれた艦載機は彩雲40機と翔鶴さんから借り受けた、試製景雲46機。

景雲……ごく最近開発された、大重量艦載機と呼ばれる機体。翔鶴さんや大鳳のように、強化された装甲甲板を持っていなければ発着艦すら困難な代物。
私のような旧型艦が無理に使えば、身体への負荷は凄まじいものになる。けれど、そんな事気にしてる場合じゃない。
索敵能力に優れ、より広い範囲を捜索できるこの子達なら小さな痕跡でも発見出来るかも知れない。今は、そんな僅かな可能性にでも縋りたい。

加賀「まったく……いつの間にあの子は、私の中でこんなに大きくなったのかしら……」


捜索を始めてから小一時間程経過したところで、景雲からの入電。

加賀「……何かしら?」

景雲妖精『我、敵艦を発見す!』

加賀「!?」

そんな、馬鹿な。この辺り一帯は非戦闘海域。あの戦艦棲姫への追撃戦以外で戦いが起こったことは一度もないはず。

景雲妖精『敵艦、空母ヲ級改1隻。小破未満の軽微な損傷を負っているものと思われます』

なるほど。他の場所で戦闘があって、ここまで逃げてきたと言うわけね。相手は高い索敵能力を持つ正規空母。見つかるのは時間の問題か。
こちらが単独で行動中と知れば、敵は必ず仕掛けてくる。艦攻どころか艦戦すら積んでいない今の状態で応戦は不可能。
このまま着艦を行わずに離脱しても、私の速力で振り切れるかどうかは微妙なところ。
それに何より……翔鶴さんから預かった大切な景雲。捨てるわけにはいかない。


加賀「全航空隊、海域より離脱します。着艦体勢に入って」

仕方ない。着艦しながらひたすら回避に徹し、敵が発艦できなくなる夜になるのを待つしかない。

加賀「来たわね……」

全軍離脱の指示を出してから数分後、電探に敵の艦載機の位置が表示される。捕捉されたみたいね。
彩雲は全機着艦出来た。景雲も相手の艦載機を振り切って着艦体勢。撃墜されることはないと思うけど……

加賀「く……っ!!」

1機目の景雲が着艦。掲げた飛行甲板に凄まじい衝撃が走る。大重量艦載機と呼ばれる所以……その痛みは発艦時の比では無い。

加賀「あと、45機……!」


20機程度着艦を終えたところで敵の艦載機が見える。艦戦21機、艦攻45機、艦爆は10機。
ヲ級改の本来の搭載数は144機だから、前の戦闘で相当損耗したみたいね。それでも、私一人を沈めるには十分な数。

ヲ級改「あら? 非戦闘艦が偵察機片手に彷徨いてると思ったら、とんだ大物だったわね」

敵空母は艦載機を操りながら語りかけてくる。当然、返答をしている余裕は無い。

ヲ級改「今日は随伴艦は全滅するし、艦載機もたくさん落とされるしで散々だったけど……」

ヲ級改「まさかこんな場面に出くわすなんて。あなたを倒せば、先の戦いの失態も帳消しになるだろうね」

言いながら攻撃隊を嗾けてくる。これは……着艦をしながら躱せるようなレベルじゃない。


加賀「……くっ!」

艦爆の急降下爆撃は何とか躱すものの、本命の艦攻隊による魚雷が飛行甲板に直撃。中破。

加賀「飛行甲板をやられました。着艦不能です。まだ着艦出来てない子達は最寄りのラバウル基地を目指して下さい」

景雲妖精A『そ、そんな……加賀さんを置いて行くなんて……!』

加賀「あなた達が残っていてもどうにもならないでしょう? 早く行きなさい」

景雲妖精B『特攻……特攻すれば、きっとアイツだって沈められます!』

加賀「駄目です。そんな形であなた達を失ってしまったら、翔鶴さんに顔向け出来ません」

景雲妖精A『でも命には変えられないでしょう!? 我々は加賀さんの為ならこの命を捧げる覚悟は出来ています!』


敵は着艦体勢に入っていてしばらく艦載機は飛ばせないけれど、直掩の戦闘機はまだ残っている。
今特攻したとして、包囲網を突破して敵にぶつかれるのは精々1機か2機。発着艦不能になる程の致命傷を与えられる可能性は限りなく0に近い。

加賀「そんなことをしてもあなた達の命を無駄に散らすだけよ。今の私には、幸運の女神はついていないのだから……」

景雲妖精B『加賀さん……』

加賀「私に考えがあります。よく聞いて」

ヲ級は南方海域で艦娘達と交戦して、ここまで撤退してきた。このまま南方まで飛べば、その部隊が見つかるかも知れない。
最悪、無線で連絡が取れる距離まで行けばSOSを出せる。ここで無策のまま夜になるのを待つよりはまだ可能性があると言える。

景雲妖精A『りょ、了解です……加賀さん、どうかご無事で!』

作戦を聞いた偵察隊の子達は進路を変えて南方へ。ヲ級はそれを追う素振りすら見せない。


ヲ級改「無駄なことを……すぐ楽にしてあげるわ」

装備換装を終えたヲ級が再び発艦。中破している所為で思い通りに動けない。これは……避けられないわね。
そして今の状態でまともに喰らえば……恐らく私は沈む。

加賀「瑞鶴……」

もういない、あの子の名前を呼ぶ。本当は私自身もわかってた。ただそれを認めたくなかっただけで……

加賀「あなたはもう、いないのよね……」

あなたに触れられないのなら……あなたの笑顔を見られないのなら……
この世界に、意味なんてない……

ヲ級改「終わりね。沈みなさい!」

加賀「瑞鶴……! 今、あなたのところへ……」


瑞鶴「させるかぁーーーっ!」

烈風改を始めとする艦戦隊で加賀さんの真上にいる敵攻撃機を撃墜。
そして、流星改から放たれた魚雷がヲ級を正確に捉えた!

ヲ級改「ぐっ……な、何故……? あなたは……沈んだ……はずじゃ……」

敵はこちらを振り向き、睨みつけてくるけどもう沈むしかない状態。攻撃は出来ない。

まあ、私自身も何で生きてるのかなんてわかんないんだけどさ。
あれだけ大きな爆発に巻き込まれたのに、艤装も艦載機も直ってるし。

瑞鶴「加賀さんっ!」

沈み行くヲ級を無視して加賀さんの方に向かう。良かった、被弾はしてないみたい。
敵の攻撃隊は全て撃墜。まあみんな、優秀な子達ですから!


加賀「……ずい……かく?」

瑞鶴「もう、加賀さんってば駄目じゃないですか~。いくら非戦闘海域だからって、艦戦すら持ってこないなんて」

加賀「…………」

あれ? 加賀さんは放心状態。私がここにいるのが信じられないかのよう。いや、それは私もなんだけどさ。

瑞鶴「加賀さ~んっ!」

とりあえず揺さぶってみたり、ほっぺを突っついてみるけど反応は無し。よしよし。

瑞鶴「加賀さ……っ!?」

中破して露わになってる、豊満で艶かしいお胸に手を伸ばそうとしたら、物凄い勢いで抱きついてきた。

加賀「ずい……か……く……瑞鶴っ! 瑞鶴!」

私の、悲しいくらい無い胸に顔を埋める加賀さん。泣いてるんだけど、その表情を決して私には見せようとしない。
そんな部分もまたいじらしくて、愛らしくて……私は加賀さんをギュッと抱き締めた。


瑞鶴「加賀さん……」

こんな時に私が掛けるべき言葉。そんなのは一つしかない。決まってるよ。

瑞鶴「ただいま……!」

加賀「瑞鶴……」

漸く顔を上げて、その優しい笑顔を見せてくれる加賀さん。えへへ……好きだなぁ、この笑顔。

加賀「おかえり」

次の瞬間には、加賀さんの方から抱き締めてくれた。この感覚も随分久しぶりだ。

遠くへと広がる海の色は暖かくて、まるで夢の中で描いた絵のようなんだけど、この温もりは紛れもなく本物で。
本当に加賀さんの……大切な人のところに戻ってこれたんだって実感する。


加賀「それにしてもあなた、今までどこにいたの?」

加賀さんを曳航しながら帰港中、当然の疑問を投げ掛けられる。ただ、その答えを私自身も知らない。

瑞鶴「いや、それが本当に私にもよくわかんないんです」

瑞鶴「気がついたら南方の入り口辺りにいて、すぐに景雲……でしたっけ? あの艦載機を見つけて……」

瑞鶴「加賀さんがピンチだって聞いたんで光の速さで走ってきたんですけど」

瑞鶴「沈んだ後のことは何も……あっ」

一つ、思い出したことがある。酷く朧げで、頼りない記憶だけど……


瑞鶴「夢を、見ました」

加賀「夢?」

瑞鶴「はい。加賀さんのお母さんの夢……」

加賀「あなた何を言っているの? 会ったこともないでしょう?」

瑞鶴「それはそうなんですけど、何となくだけどわかったんです。加賀さんのお母さんなんだって……」

瑞鶴「それで、なんかすっごい重要なことを伝えられたような……えっと、何だったかなぁ……」

駄目だ。必死に夢の内容を思い出そうとするけど、肝心な部分は霞掛かったように見えてこない。


瑞鶴「ああもう駄目、思い出せない! きっとアレですよ。娘のことをよろしくねって感じの」

加賀「ふふ、何それ。まったく、あなたって子は……」

微笑しながら撫でてくる加賀さん。えへへ……

瑞鶴「まっ、お義母さまに託されたことですし! これからも守ってあげますよ、加賀さん!」

加賀「調子に乗らないの」

瑞鶴「あいたたた! い、いたっ、いひゃいですって! ごめんなさーい」

調子に乗って加賀さんの背中をバンバン叩くと、予想通り反撃を受けてほっぺを抓られる。
このやり取りも久しぶりだな。えへへ、感動の再会ってのも悪くないんだけど、やっぱ私と加賀さんの関係って言えばこんな感じだよね。


_____幌筵泊地

途中、会敵することもなく無事に泊地に帰投。時刻はマルフタマルマル。
さすがに深夜なので島の人達に会うことはなかった。

瑞鶴「提督さん達、もう寝ちゃってるかなー? 失礼しまーす」

幌筵提督「!?」

瑞鶴「あっ……」

鈴谷「ずい……鶴……!?」

執務室に入ると、みんなの……大切な仲間達の姿。私は即座に駆け寄る。


幌筵提督「瑞鶴ちゃん!? 加賀さんも、無事なの!?」

鈴谷「本当に今までどこほっつき歩いてたの!? べ、別に泣いてなんかないし……」

榛名「瑞鶴さん……良かった……本当に、良かったです」

浜風「瑞鶴。必ず戻ってくるって、信じてました」

雷「もう! どれだけ心配したと思ってるのよ?!」

みんな、暖かい言葉で迎えてくれて……私は溢れそうになる涙を堪えながら提督さんの前に立って敬礼する。

瑞鶴「旗艦瑞鶴、ただいま戻りましたッ!」

幌筵提督「うん。おかえり……瑞鶴ちゃん」

そう言って提督さんは私を抱き締めてくれた。この温かさ、私はきっとこの先忘れない。いつまでも忘れないよ。


鈴谷「それにしても本当に良かったよ。瑞鶴も勿論だけど、加賀さんのことだってすんごい心配だったんだからさ」

瑞鶴「え? 加賀さんも?」

浜風「そうですね。あなたがいなくなった後の加賀は、とてもじゃないけど見ていられないような状態でしたよ」

加賀「ちょっと、二人とも。やめなさい」

鈴谷「加賀さんったら毎日毎日、いつ寝てんだってくらいに瑞鶴が沈んだ場所に通いまくって捜索を続けてたの」

鈴谷「そんな生活してたらいつか壊れちゃうよって言っても全然聞かなくて、止めようものなら物凄い形相で睨んでくるしさー」

鈴谷「いやーマジ殺されるかと思ったわ~」


榛名「そう言えば、榛名も見てしまいました。少し前に翔鶴さんがここに来ていたんですけど」

榛名「加賀さんは、瑞鶴さんを守り切れなくてごめんなさいって何度も何度も翔鶴さんに謝り倒していて……」

榛名「それでその、一週間以内に瑞鶴さんが見つからなかったら切腹して詫びますって言い出して、翔鶴さんの方はドン引きしてました……」

雷「私も、ちょっと前に加賀さんが落ち込んでて、もう見てられなくなったからギュッて抱き締めてあげたんだけど……」

雷「胸の辺りが瑞鶴に似ててとても落ち着くって言われたわ」

加賀「」

瑞鶴「も、もうやめてーみんな! 加賀さんが息してないの!」

真っ赤になった顔を手で覆いながら蹲る加賀さん。いや、私からしたら嬉しいんだけどさ。


幌筵提督「ほら、瑞鶴ちゃん。加賀さんの気持ちに、応えてあげなきゃ」

次の瞬間、提督さんに背中を押されて加賀さんの前に。みんなも期待を込めた眼差しで私達を見ている。
この流れって……もう、結局みんなしてこういう方向に持って行きたかっただけか~。
仕方ないなぁ。ちょっと癪だけど、私も加賀さんに伝えたいこと、あるんだからね!

瑞鶴「加賀さん!」

私は蹲ってる加賀さんを抱きかかえる。このお姫様抱っこの体勢もいつ以来だったか……随分懐かしく感じる。

加賀「ず、瑞鶴……?」

真っ赤になってる加賀さんの顔を引き寄せる。お互いの吐息さえも掛かりそうな距離。


瑞鶴「加賀さん……本当にありがとね。そこまで加賀さんに想って貰えるなんて、私は幸せだよ」

瑞鶴「今さら、改めて言うことでもないかも知れないんだけど……」

瑞鶴「加賀さん、愛してます」

加賀「まったく……真顔でよくそんな恥ずかしいことが言えるわね。これだから瑞鶴は……」

顔を真っ赤にしながらも視線は私を見つめてくれてる加賀さん。
私がただ黙って見つめ返していると、加賀さんも根負けして口を開いた。

加賀「……愛してるわ、瑞鶴」

えへへ、やっと聞けた。私達は少しの間見つめ合った後、お互いに唇を重ねた。直後に沸き起こる、みんなからの祝福の拍手。
照れくさいとか、恥ずかしいと言った感情は一切無くて、ただ純粋に嬉しかった。

この泊地に配属されて、みんなと一緒に頑張ってここまでやって来れて本当に良かった。
みんなと出会えて、色んな事を乗り越えてきて……こんなにも心が一つになる世界を見つけた。
失った物もたくさんある。それが切なくて、時を巻き戻してみたくなることもあるよ。

それでもやっぱり、みんなといられる今が最高!


翔鶴「うふふ……瑞鶴ったら」

赤城「翔鶴? 何を読んでいるの?」

翔鶴「赤城さん。瑞鶴から手紙が来たんです」

赤城「あらあら……あの二人もなのね……」

赤城「小鳥の翼がついに大きくなって、旅立ちの日が来たのね」

翔鶴「あの二人には幸せになって欲しいですね。私達に負けないくらいに!」

赤城「そうね。瑞鶴さん、加賀さん……どうか幸せを掴んでくださいね」

赤城「今回こそは……ね」


翔鶴姉へ
元気にしていますか? 最近は忙しくて、あんまり顔を出せなくてごめんね。
今は休暇を取って加賀さんと旅行に行っています。少し長くなりそうだけど、翔鶴姉と赤城さんの結婚式までには帰れると思います。
横須賀で二人の晴れ姿を見られるのを楽しみにしています。

あまり無理はしないで、体に気をつけて健やかに過ごして下さい。

瑞鶴

P.S. 私も加賀さんと結婚します。




このSSは今回で終了となります。まだ解決してない問題も残ってますが、続編等は今のところ考えてないです。
今後は瑞加賀や赤翔なんかの単発ネタ等を思いついた時にスレ立てして投下していこうと思っています。

それではここまで読んで下さった方、レス下さった方、最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました。
良い瑞加賀を。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月21日 (日) 12:51:08   ID: GmKIF111

とりあえず作者さんが提督でありラブライバーなのはわかったwww
瑞加賀、大変おいしいです

2 :  SS好きの774さん   2018年06月04日 (月) 07:56:43   ID: tCtNm4b2

随所にラブライブネタが織り込まれててこの作者さんとは気が合いそうだと感じた、いい瑞加賀をありがとう

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