前スレみたいなもの。
瑞鶴「加賀さん……好きです」 加賀「私も好きよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430034140/)
・以下、忙しい人の為の前スレのあらすじ。
ある日突然失踪した翔鶴の手掛かりを求め、幌筵島にやってきた瑞鶴。島の住人や幌筵の提督、再会した憧れの先輩の加賀と接しているうちに、
瑞鶴は姉が好きだったこの場所を守りたいと思うようになり、希望配属先を横須賀から幌筵に変更する。
↓
幌筵泊地で過ごしているうちに加賀と良い雰囲気になる瑞鶴。
↓
何者かの手によって深海棲艦に改造された翔鶴が瑞鶴達の前に立ちはだかる。最初は姉に矢を向けられないでいた瑞鶴だったが、
加賀を沈められたことで覚醒。最愛の姉に別れを告げて、自らの手で撃破する。
↓
奇跡的に一命を取り留めた加賀。瑞鶴は加賀に告白し、受け入れられて恋人同士となる。
その後、沈んでしまった翔鶴の分まで二人で一緒に生きていくことを誓う。
上記のスレの続きだったり、世界観を共有した小ネタ集なんかを書いていきたいと思います。
今回は構想、プロット等無いので思いついた時に気ままに書いていく形式になります。
前スレから読んで頂いてる方もこのスレからの方も、暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433684078
「START:DASH!!」
_____幌筵島、海岸
瑞鶴「まったくもう……海を汚すんじゃないっての」
翔鶴姉が沈んだあの日から2ヶ月。私は相変わらずこの場所にいる。
瑞鶴「はい。今日の任務、終了!」
捨てられた空き缶をゴミ袋に放り込んで周囲を見回す。
瑞鶴「うん、バッチリ綺麗になったね」
私達がこの場所でやってることは前までとほとんど変わらないけど、戦局の方は大きく変化していた。
まず、横須賀の主力艦隊が悲願だった沖ノ島海域攻略を成し遂げる。これにより西方海域への進出が可能になった。
しかしそれと同時に、アリューシャン列島に存在する敵泊地より続々と深海棲艦が出現。
瞬く間にアッツ島周辺まで占拠し、北方海域全域の制海権を握られてしまった。
この事態に対して大本営は西方、北方同時攻略作戦を発令。
内地の四つの鎮守府に所属する主要艦娘を集め、それらを二つのグループに分けてそれぞれの海域に派遣した。
西方攻略部隊は南西諸島海域の少し先にあるリンガ泊地を駐屯地として活動している。
では北方攻略部隊の駐屯地はと言うと……この幌筵じゃなくて、やや後方にある単冠湾泊地だ。
大本営は余程この場所を認めたくないらしく、主要拠点としては使わない方針みたい。
故に私達の艦隊も当然、北方攻略作戦には参加させてもらえず、本隊への補給物資等を調達するのが日課になっている。
???「瑞鶴」
不意に私を呼ぶ声。振り向くと、『あの人』がこちらに向かってくる。
瑞鶴「加賀さん……」
一航戦、加賀さん。私達の艦隊の主力空母で、私の……大切な人。えへへ。
加賀「こちらは大体片付いたわ」
瑞鶴「こっちも綺麗になりましたよ」
加賀「そうね。物ぐさなあなたにしてはよく頑張ったわ」
瑞鶴「翔鶴姉が好きだった場所だもん。汚れたままになんてしておけないよ」
加賀「良い心掛けね。私達の部屋もいつもこれくらい綺麗なら、私も助かるのだけれど」
瑞鶴「うっ……」
漫画やお菓子、艦載機なんかが大量に散らかってる私達の部屋の光景が頭に浮かぶ。
加賀「あなたも旗艦で秘書艦なんだから、掃除くらいはキッチリとやって欲しいものね」
瑞鶴「だって……秘書艦の仕事って忙しいし……」
加賀「私が秘書艦だった頃は、今のあなたの倍の量の仕事をこなしていたし、掃除だってやってたわよ?」
瑞鶴「ぐぬぬ……」
あ、そうそう。言い忘れてたけど私はちょっと前から加賀さんから旗艦を引き継いでいる。
まだまだ駆け出しで、みんなの助けを借りて何とかやっていってる状態なんだけどね。
瑞鶴「もう、加賀さんってば相変わらずお小言ばっかり。私のこと好きならさ、もっと優しくしてくれてもいいじゃん」
加賀「あら。好きだからこそ、立派になって欲しいと思ってるのよ?」
そう言って微笑む加賀さんを見ると、私の方は赤面して何も言えなくなってしまう。
加賀「さて。そろそろ戻りましょうか。帰ったら部屋の掃除よ」
瑞鶴「はーい」
_____幌筵泊地、執務室
掃除を手早く終えて入渠した後、私と加賀さんは提督さんから呼び出しを受けていた。
瑞鶴「提督さん、何か用?」
加賀「艦載機の整備をしたいので、手短にお願いします」
幌筵提督「うん。実は二人にね、大本営から指令が出ているのよ」
加賀「お断りします」
幌筵提督「ちょっと待って! 別に帰還命令とかじゃないから!」
大本営からの帰還命令は未だ定期的に来てるけど、私と加賀さんは無視してここに留まっている。
そんな態度だから、私達は軍の主作戦には参加させてもらえないままなんだけど……
私自身、今の境遇には不満も後悔もない。こうなるってわかってて、自分で選んだ道なんだから。
瑞鶴「それで提督さん、大本営からの指令って何なの?」
幌筵提督「雲龍型三姉妹を知っているかしら?」
加賀「聞いたことがあります。確か、呉の艦娘学校に通っている正規空母科の方達……」
幌筵提督「そうそう。彼女達、歳はバラバラだけど入学した時期は同じで、今年で四年目なんだけどね」
幌筵提督「西方、北方同時攻略をしている今、大本営は新戦力として少しでも早く実戦投入したいって考えてるのよね」
私達空母科は訓練期間が特に長い。実戦配備までには軽空母でも5年、正規空母なら6年を要する。
4年とちょっとの空母を実戦で使うと言うのは随分と急な話だ。
幌筵提督「そこで、あなた達が指導をして少しでも練度を上げて欲しいって話なのよ」
幌筵提督「場所は横須賀。期間は大体二週間ほどなんだけど」
加賀「へえ……あの大本営にしてはまともな指令ですね」
幌筵提督「でしょ? あなた達にとっても良い経験になると思うから、前向きに検討するとは言ってあるのよ」
加賀「ただ、私達が不在の間ここの防衛は……?」
幌筵提督「それも問題ないわ。あなた達が引き受けてくれるなら、北方攻略隊の一部の艦娘を泊地防衛要員として貸してくれるって」
加賀「なるほど。それなら安心です。私は引き受けても構いません」
瑞鶴「うん、加賀さんがそう言うんなら私も!」
まあ、貴重な経験になるのは確かだけど……それ以上に二週間も加賀さんと離れ離れになるなんてイヤだからね!
幌筵提督「決まりね。えっと、それじゃあ……次女の天城は赤城が指導することになってるから」
幌筵提督「雲龍と葛城。どちらを見るか二人で話し合って決めておいてね」
加賀「わかりました」
_____瑞鶴、加賀の部屋
私と加賀さんは、提督さんから貰った雲龍と葛城の資料を見ていた。
加賀「こちらが雲龍。22歳、式神を扱うタイプの空母娘みたいね」
神秘的な雰囲気を漂わせた銀髪の女性。あと蒼龍先輩よりもデカいかも。
加賀「それで、こちらが葛城。16歳。弓と式神、どちらも使えるようだけど」
加賀「それ故に未だに自分のスタイルを確立できないのが悩みらしいわね」
葛城は雲龍とは対照的に、活発そうな女の子。何となく昔の自分を見てる気分になる。
加賀「まあ、大体決まったようなものね。私が雲龍を見るわ」
加賀さんは私と違って式神も扱えるから、弓しか使えない私は必然的に葛城を担当することになる。
瑞鶴「それにしても、いきなり後輩に指導か~……ちょっと不安です」
加賀「それなら心配いらないわ。私って言う反面教師がいるじゃない」
自嘲気味に呟く加賀さん。同時に学生の頃を思い出す。確かに加賀さんは厳しかったけど……
やっぱり優しくしてくれた時の印象が強く残ってて……好きになっちゃった時のことを思い出してしまう。
瑞鶴「加賀さんは……その、反面教師なんかじゃ……ないです」
加賀「え? 何か言ったかしら?」
瑞鶴「わ、私! もう寝ます!」
急に恥ずかしくなってきたので、慌てて布団を被って紅潮した顔を隠す。
加賀「そう? おやすみ、瑞鶴」
_____数日後、横須賀艦娘学校
およそ5ヶ月振りに戻ってきた、この学び舎。
幌筵に行ってからの出来事が濃すぎた所為で、在学してた頃がもう随分と昔のことのように感じる。
???「お久しぶりですね、加賀さん。瑞鶴さん」
瑞鶴「あっ、鳳翔先生!」
加賀「ご無沙汰しております」
加賀さんが深々と頭を下げる。今まで一度たりとも見たことのない激レアシーンだ。
まあそれもそのはず。鳳翔先生は全ての空母の母とも呼ばれる偉大な存在。
赤城先輩を始めとして、今現在艦娘として活躍しているほぼ全ての空母はこの人に教えを受けている。
鳳翔「お二人の話は聞いていますよ。瑞鶴さん、良かったですね」
瑞鶴「えっ、あ、ありがとうございます……」
鳳翔「これで毎日二人分のお弁当を食べさせられてた私も浮かばれますね」
加賀「お弁当? 何の話ですか?」
瑞鶴「うぇっ!? 鳳翔先生! その話はダメ~!」
鳳翔「ふふ、後で本人から聞いてみてください」
加賀「わかりました」
学生時代、加賀さんには反発ばかりしてたけど、やっぱり仲良くなりたいって気持ちはあって……
お弁当を食べてもらおうと思って鳳翔先生から料理を習い始めた。
一ヶ月くらいで加賀さんの所にお嫁さんに出しても恥ずかしくないって太鼓判を押されたんだけど……
やっぱりダメだった。会うたびに意地を張って喧嘩になってしまったり、
加賀さんの口に合わなかったらどうしようって日和って一度たりとも渡せずじまい。
結局いつも鳳翔先生に食べてもらってて……いや本当に当時の私、ヘタレだったなぁ。
瑞鶴「そんな恥ずかしいこと、今さら言えるわけないじゃん……」
鳳翔「うふふ。若いって良いわねぇ」
その後、私と加賀さんは当時お世話になった人達への挨拶を済ませると、それぞれ指導する相手が待っている場所へと向かった。
_____弓道場
瑞鶴「こんにちは~」
これまた久しぶりにやってきた弓道場。今は横須賀には弓を使う空母がいなくて、ほとんど使われてないみたい。
これも時代の流れなんだろうけど……やっぱりちょっと寂しいな。
葛城「ん……?」
そんなことを考えていると、女の子の姿が目に入る。
長くて綺麗な黒髪にポニーテール。写真で見るよりも更に活発そうな子。
葛城「あなた、軽空母? どこの学校の人?」
瑞鶴「え?」
葛城「今日から、何とかって泊地から正規空母の人が来て指導をしてくれるらしいんだけど……」
葛城「あなたも一緒に受けるの? でもおかしいわね。鳳翔先生からはそんな話聞いてないんだけど」
瑞鶴「こほん。失礼。幌筵泊地所属、『正規空母』の瑞鶴です!」
葛城「え、嘘!? それじゃああなたが教官なの!? 私と歳変わんなくない!?」
瑞鶴「18です。あなたより二つ上よ」
葛城「そうなんだ。それじゃあ、今日からよろしくね!」
なんか、初っ端から凄まじく不安になってくる。私、ちゃんとやっていけるかなぁ……?
そしてその不安は、すぐに現実のものとなるのでした……
今日のメニュー。午前中はマンツーマンで射撃の指導。午後からは加賀さん達と合流して実戦演習を行う。
瑞鶴「じゃあ、まずは射撃練習から始めましょうか。とりあえず構えてみて」
葛城「わかったわ。よろしくお願いします」
足踏みから会まで。今までの軽いノリとは違って、結構凛々しくて様になってる。うん、射形はいい感じじゃない。
瑞鶴「それでね、まずはイメージして。ど真ん中を撃ち抜く自分自身を」
私は葛城の方を向きながら弓を引き、矢を的に向ける。
葛城「そうね。イメージは大事よね!」
瑞鶴「それで、撃つでしょ?」
葛城「うん」
視線は葛城の方に向けたまま。的を見ずに放った矢はそのままど真ん中を射抜いた。
瑞鶴「当たるでしょ?」
葛城「中らないわよ! それだけで中てられたら苦労しないわよ! 何言ってんのあなた!?」
瑞鶴「あ~、やっぱり?」
学生時代、私が最初に飛龍先輩から教わったこともこれと全く同じだった。イメージする、撃つ、当てる。
本当にただそれだけ。加賀さんは物凄く呆れて、その後私に徹底的に射法八節を叩き込んだ。
けど……自分で言うのも難だけど私は飛龍先輩と同じ、感覚だけで何となくやっちゃうタイプだったんだ。
加賀さんや翔鶴姉がどれだけ矯正しようとしても、一番最初に体が覚えてしまった形は中々抜けなかった。
だから、自分と違うタイプの人に何かを教えるのはすごく大変で……
その後も、私なりに頑張って教えようとしたんだけど……どうにも上手くいかなかった。
葛城「はあ……せっかく現役の正規空母から指導を受けられるって聞いたのに……」
瑞鶴「ごめんね? 私、ここまで人に教えるのが下手だったなんて思わなかった」
葛城「いや、あなただけの所為じゃないわよ。私に才能が無いから……」
はあ、と大きく溜息を吐いて、遠い目で語り出す葛城。
葛城「私、子供の頃少しだけ弓道やってたから、空母になった時にそれを活かせるんじゃないかって思ってたんだけど……」
葛城「呉には弓道の指導ができる先生がいなくて……仕方なく雲龍姉達と同じ式神を習い始めたの」
葛城「でも、好きだった弓道はやっぱり捨てられなかったから、独学で頑張ってもみたんだけど……」
葛城「結局どっち付かず。式神の扱いは雲龍姉達には遠く及ばないし、弓も正規空母としてはまだまだ……」
葛城「あ、ごめんね。こんな話、今日初めて会ったばかりのあなたにしても仕方ないことなのにね……」
瑞鶴「葛城……」
葛城「やっぱり、私が甘かったんだよね。今後はどちらかに絞って指導を受けるようにするわ」
瑞鶴「葛城は、式神は好き? それとも、お姉さん達に合わせて使ってるだけ?」
葛城「最初はそうだったけど……やってるうちに楽しいって思えたわよ」
葛城「上達して、雲龍姉や天城姉に褒められるのがすっごく嬉しかったし……」
葛城「だから今は、弓も式神も好きだけど……それじゃあ駄目なんだよね?」
葛城の意志を確認すると、私は口を開く。
瑞鶴「駄目じゃないよ」
瑞鶴「どっちの好きも、諦める必要なんてない。あなたにしか出来ないことだって、きっとあるはずよ」
瑞鶴「だから、無理に変わろうとしなくてもいい」
あ、これ。私の大好きな『あの人』が、いつか私に言ってくれた言葉だ。
瑞鶴「ねえ、式札。一枚貸してくれない?」
葛城「いいけど。あなた、式神は使えないって……?」
困惑する葛城から式札を受け取ると、それを鏃に付ける。
葛城「な、何? 何をする気?」
式神は使ったことはないんだけど、一応やり方は知ってる。基本はやっぱりイメージすること。
精神を研ぎ澄ませて動きをイメージし、式に命令する。囁き、詠唱。祈り……そして念じる!
瑞鶴「いっ……けぇーーーーー!」
残心は忘れずに、そのまま集中を切らさず式に命令。
葛城「えっ? 嘘……こんな!?」
放たれた矢は弓道場を縦横無尽に駆け、壁や天井に当たりながら跳弾めいた軌道を描き、最後には的の真ん中を貫いた。
葛城「なっ……嘘でしょ!? あなた、本当に式神使うの初めてなの!?」
瑞鶴「ふぅ。上手くいって良かった。ねえ、こんなのはどうかな?」
葛城「式神と弓矢のハイブリッド……そんなの、考えたこともなかった……!」
葛城「…………」
瑞鶴「葛城?」
葛城「ま、まあまあのアイディアじゃない? そ、そこまで言うんなら使ってあげてもいいわよ!」
瑞鶴「そっか。良かった」
そう言って、葛城の頭を撫でる。そう言えば、加賀さんもよくこんな風に撫でてくれたっけ。
葛城「な、何よ何よ!? こ、これくらいであなたを認めたりなんかしないんだからねっ!」
ああ、この子って本当に……昔の私を見てるようで微笑ましい。
私も最初は、加賀さんにこんな態度取ってたなぁ。
_____艦娘学校食堂
葛城「もう聞いてよ、天城姉!」
天城「あらあら、どうしたの、葛城」
葛城「それがさー! 私の教官が本当に教えるの下手でさ。地雷踏んだ気分だよ!」
天城「そうなの? 瑞鶴さん、まだお若いけど相当な実力者だと聞いていたのですが」
葛城「いやいや、確かに実力って言うか、才能? それはあるのかも知れないよ?」
葛城「式神使うのだって今日が初めてって言ってたのに私より上手く操ってたし……」
葛城「でもさ、だからこそ! 私の方にもっと歩み寄ってさ、上手くやっていけるように努力するべきだと思うんだよね!」
雲龍「楽しそうね、葛城」
葛城「ヴェェ!? 雲龍姉、いつからそこに!? て言うか、全然楽しくなんかないし!」
雲龍「でもあなた、弓道場から戻ってきた時心底嬉しそうだったじゃない。まるで新しい自分を見つけたかのような顔で」
葛城「は、ハア!? そんな顔、してないってば!」
天城「ふふ、葛城ったら素直じゃないんだから」
葛城「ち、違うから! 天城姉も変な勘違いしないでよ! だ、誰が……あんな奴!」
雲龍「これは、面白くなってきたわね」
葛城「もう、雲龍姉! この後の演習で覚えてなさいよ!」
_____横鎮、工廠
場所を移して横須賀鎮守府。この後加賀さん率いる艦隊との演習が行われる予定。
指導者が旗艦となって、随伴艦には教え子の空母一人。更に戦艦二人と護衛駆逐艦二人を加えた機動部隊を編成し、実戦演習を行う。
選択できる艦娘のほとんどがリンガ泊地から一時帰投している西方攻略隊のメンバーだ。
当然、みんな練度が高くて精鋭揃い。かなり豪華な艦隊が組めそう。
ルールは昼戦の間に相手旗艦を倒したら勝ち。ただし、どちらも倒されたり、
撃沈判定を貰わずに残った場合は単純に戦果の多かった方が勝ちとなる。
戦艦と駆逐艦はそれぞれ旗艦が指名することができるんだけど、被り防止の為のルールがある。
まず、どちらか一方が先に四人全員を指定する。一見すると先に選べる分有利に見えるが、
その編成を後手の相手に晒さなければならない。つまり、後手なら相手を見てから対策が取れるってこと。
瑞鶴「さて、そろそろ加賀さんの組んだ艦隊が発表される頃かな」
ジャンケンで勝った私は後手を選択。じっくりと相手を見てから対策を立てた方が勝ち易いと踏んだ。
猪突猛進とか単純馬鹿みたいなキャラ付けをされがちな私だけど、作戦を考えたりするのは結構得意だったりする。
こう見えても私、戦略家なんだからね……ホントだよ?
加賀(正規空母、旗艦)
金剛(戦艦)
比叡(戦艦)
夕立(駆逐艦)
時雨(駆逐艦)
雲龍(正規空母)
瑞鶴「これは……錚々たるメンバーだね」
予想通り加賀さんは手堅い面子を選んできた。戦艦、駆逐艦共に高練度で癖がない。
葛城「一番練度の高い金剛さんと比叡さんを取られちゃってるじゃない! 私、絶対先に選んだ方が良かったと思うけど!」
金剛型姉妹の残り、榛名は幌筵に居残り。霧島は北方攻略隊に編成されているのでこの場にはいない。
大和や武蔵は当然使用禁止。長門秘書艦や陸奥も今回の演習には不参加。そうなると……
瑞鶴「扶桑と山城の姉妹かなー」
葛城「航空戦艦を入れて制空権争いの補助をさせるのね。でもそれなら伊勢型の方が……」
瑞鶴「違うよ、葛城。私が扶桑姉妹に求めてるのは……火力」
葛城「え?」
瑞鶴「加賀さんの装備は恐らく普段と同じ。艦載機はオーソドックスな積み方をしてくるはずなのね」
瑞鶴「それに対してこっちも同じような装備で行ったら、練度で劣る分不利になるよ」
瑞鶴「それならさ、いっそのこと基本なんか投げ捨てたらどうかな?」
葛城「あ、あなた……一体何を考えてるの?」
数分後。艦娘を選択し、装備と作戦をみんなに伝える。
葛城「な、何よそれ!? ありえないわ! 私達は空母なのよ、空母!」
内容を聞いた葛城は大分ご立腹の様子。まあそれも仕方ないかな。
確かに今までこんな装備で戦いに出た空母の話なんて聞いたことがない。
それに、私の策も必勝ってわけじゃない。上手くハマれば有利になるだろうって程度のもの。
しかもそれすら相手側の装備次第。何らかのまぎれ一つで変わっちゃうような、か細い理。
それでも私には確信に近い物があった。加賀さんは基本を外した装備なんてしてこないって。
葛城「ねえ、みんなはいいの!? こんな、上手くいくかどうかもわからない作戦!」
扶桑「確かに一つの賭けではあるけれど……私と違って幸運艦である瑞鶴さんを、信じてみます」
山城「私も、扶桑姉様がそう言うのなら従うだけです」
天津風「いいんじゃないの? これよりも勝率の高い案、少なくとも私には思いつかないわ」
葛城「……わかったわよ。私だって負けたくないし」
瑞鶴「よし、行こう……!」
_____鎮守府海域、演習場
行動開始から数分。それ程広くない演習場だ。すぐに加賀さんの艦隊と接触する。
比叡「扶桑さんと山城さん!? 航空戦艦ですか!?」
夕立「制空権はちょっちピンチっぽい?」
加賀「いいえ、よく見て。主砲の数が減ってないわ」
金剛「飛行甲板も持ってないネ! と言うことは……普通の戦艦モード!?」
加賀(瑞鶴……何を考えているの?)
加賀「とにかく、仕掛けるわよ。第一攻撃隊、発艦始め!」
雲龍「さあ行きましょう。航空撃滅戦よ」
加賀さん達が艦載機を発艦。こちらも発艦体勢に入りながら、でも視線は加賀さん達の艦載機に注目。
集中してよく見る。加賀さんは天山32機、零戦52型を66機。雲龍は天山18機に、零戦52型が33機。
よしっ……! よし、よし! やっぱりそうだ。加賀さん達のスロットなら、その積み方がほぼ基本!
瑞鶴「全航空隊、発艦始め!」
葛城「行くわよ、雲龍姉! 負けないんだから!」
私達も発艦。瞬間、加賀さん達が驚きの表情を浮かべているのが見えた。当然だよね。
雲龍「あ、アレは……!?」
加賀「瑞鶴から52型が84機、葛城から48機……!? そんな、ありえない積み方を……!?」
そう。葛城に3機の彩雲を乗せ、それ以外は全て艦戦、零戦52型。その数は合計132機。
艦攻も艦爆も一切積んでいない。圧倒的な攻撃力が売りの空母としてはあるまじき編成。
通常、同数の空母を用いた演習では制空権が劣勢にならない程度の艦戦を積み、残りは攻撃機で埋めるのがセオリー。
取れるかどうかわからない航空優勢を狙いに行くよりは、攻撃の手を残しておいた方が結果的に殲滅力が上がる可能性が高い。
だけど、それを完全に読み切れるなら。加賀さんなら絶対にそうしてくるってわかってるなら……! こんな風に間隙を突くことができる!
瑞鶴「よし、航空優勢! 続いて対空砲火、お願い!」
天津風「さあ、撃ち落とすわよ!」
秋月「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」
私達の艦戦が撃ち漏らした天山を、秋月と天津風の二人が長10cm砲で次々と叩き落としていく。
防空駆逐艦と言うだけあって秋月の対空弾幕は凄まじく、熟練の加賀さんの攻撃機と言えど飛んで火に入る夏の虫状態。
天津風も秋月程ではないものの、駆逐艦の中では高い対空能力を誇る。残敵掃討には十分!
加賀「私の攻撃機が、全滅……!? そんな、馬鹿な……」
雲龍「こちらも駄目ね。全滅してしまったわ」
瑞鶴「よし、制空権は取った。相手空母も置き物にした! 後は頼んだわよ、扶桑、山城!」
山城「よし、行きます! 砲戦、開始!」
雲龍「くっ、やらせないわ……!」
山城が水偵を飛ばし、旗艦である加賀さんに狙いを定めて砲撃するが、すかさず雲龍が庇った。
雲龍「艦載機を飛ばせなくなった私にはこれくらいしか出来ることがないから……」
雲龍「みんな、後は任せたわ」
撃沈判定を受けた雲龍は早々に戦闘区域から離脱。数では有利になったけど、まだ油断はできない。
比叡「今度はこちらの番です! 行きますよ、当たって!」
比叡の砲撃。当然旗艦の私を狙ってくるが、そこは私の本領発揮! 回避には自信がある。後方に下がって距離を取りながら躱す!
金剛「捉えましたヨ! 撃ちます、ファイヤー!」
瑞鶴「えっ!? 嘘……?」
水偵も積んでないはずなのに、金剛の砲撃は予想より遥かに正確。躱しきれるか……!?
秋月「やらせません!」
瞬間、秋月が盾となって直撃。戦艦の一撃に耐え切れるわけもなく撃沈判定を受ける。
秋月「くっ、申し訳ありません。離脱します」
瑞鶴「ありがとね、秋月。あなたの行為、無駄にはしない!」
すぐに体勢を立て直して状況確認。加賀さんが金剛達に指示を出してるのが見える。
そっか。加賀さんとはずっと一緒に出撃してたから、回避の時の私の癖とかも見抜かれてるんだ。
それを金剛達に教えて……だから弾着観測も無しにあんな正確な射撃を……
金剛「受け取って下さい! ワタシのバーニング……ラァァァァヴ!」
瑞鶴「ごめんなさい! 私、加賀さん一筋なんで!」
指示を出す間も与えず金剛からの第二射。これは何とか躱すけど、比叡が続けざまに攻撃してきたら……
扶桑「させません! 主砲、撃てぇ!」
比叡「ひ、ひえぇぇぇ!?」
しかし、比叡の動きを読んでいた扶桑が徹甲弾を乗せた強烈な砲撃をお見舞いする。
さすがの金剛型戦艦とも言えど、耐えられず撃沈判定。この比叡の退場は大きい。
山城「やりましたね! 流石です、姉様!」
扶桑「ふふ、瑞鶴さんの采配のお陰よ」
そう。私が欲しかったのはこの火力。扶桑姉妹は通常の戦艦モードなら火力は改造された金剛型にも劣らない。
しかもこちらは制空権を取れること前提で水偵も乗せているので、弾着観測による攻撃力は相手を完全に上回っている。
航空戦艦の装甲も回避能力も制空力も犠牲にして火力を追求したこの作戦、今のところは成功してると言える。
比叡「お、お姉様、ごめんなさい」
金剛「ドントウォーリーね、比叡! 仇は必ず取りマース!」
加賀さん達の艦隊は一度体勢を立て直す為に警戒しつつ後退。残ったメンバーに作戦を伝えている。
こちらは数で有利なので、考える暇を与えず一気に畳み掛けたいところ。私は扶桑と山城に追撃の指示を出す。
瑞鶴「葛城、彩雲で金剛の動きを捕捉! 扶桑達の水偵に随時伝えて!」
瑞鶴「連携して弾着観測射撃の精度を高めるのよ!」
葛城「りょ、了解!」
制空権は取ってる。火力艦の数もこちらが上。後は金剛さえ倒せば、勝ちは一気に近づく!
扶桑「山城、行くわよ!」
山城「はい、姉様!」
扶桑姉妹の息の合った砲撃。しかし金剛もそれらを躱し続ける。高速戦艦の名は伊達じゃないってことか。
金剛「Shit! ちょっと激しすぎネー!」
金剛も反撃を試みるが、回避行動を取りながらなので正確な射撃は出来ない。
見当違いの方向に幾重もの水柱を立てるばかりだ。
扶桑「山城、挟叉よ!」
山城「はい! 必ず仕留めます」
ついに挟叉まで持っていった! あと数回で、当たる!
葛城「あ、あれ……? ああっ!? 扶桑さん、山城さん! 逃げて!」
扶桑「えっ……?」
葛城の突然の狼狽。私も理解する。あの二人が、いない……!
夕立「選り取り見取りっぽい?」
時雨「残念だったね」
水柱の中から姿を現した駆逐艦二人が、至近距離から大量の魚雷を撃ち出す。
扶桑「きゃああぁぁぁ!」
山城「姉様ぁぁぁーーー!」
回避など出来るはずもなく直撃。装甲の薄さも災いし、不運にも撃沈判定。
主力の火力艦二人を同時に失ってしまった……
扶桑「せっかく選んでくれたのに、ごめんなさいね?」
山城「やっぱり私達、欠陥戦艦だわ」
瑞鶴「そんなことない!」
瑞鶴「あの比叡を倒したし、戦艦娘の中で一番練度の高い金剛をあそこまで追い詰めた。二人とも、立派だよ」
瑞鶴「二人の頑張りを、絶対に無駄にはしないから!」
扶桑「ありがとう。そう言ってくれると、少し自分に自信が持てます」
山城「どうか、ご武運を……」
二人は去り際に時雨の頭をポンと撫でて、戦闘区域から離脱していった。
葛城「ごめん。私の所為だ……」
葛城「彩雲を飛ばしてたのに、金剛さんを追ってばかりで……」
葛城「ちゃんと注意してれば、あの二人の動きにも気付けてたかも知れないのに、私は……!」
瑞鶴「葛城だけの所為じゃないよ。私だって二人の動きを見落としてたし……」
瑞鶴「何より決めつけてた。駆逐艦に、戦艦や空母を落とす火力なんてないって……」
瑞鶴「だから脅威として認識してなかったんだ。完全に私の慢心だよ」
こちらで攻撃可能なのはもう天津風ただ一人。相手は戦艦を含む三人が健在。
夜戦には入れないし、普通に考えたら逆転は不可能な状況。でも……
瑞鶴「諦めたくない!」
時雨、夕立と距離を取りつつ、更に金剛の砲撃を躱しながら考える。
もう戦果では勝ち目がないので、加賀さんから撃沈判定を取るしかない。
一応、理論上は可能。だけど、そこまでどうやって運ぶか……
天津風「この二人の相手するの、結構しんどいわ」
時雨達と撃ち合う天津風。まだ被弾はしてないけど、ちょっと良くない。
彼女が中破でもして火力が落ちれば、加賀さんを倒すことは出来なくなる。
夕立「捉えたっぽい!」
天津風「うっ、やばっ! 当たる!?」
瑞鶴「危ないっ!」
私は全速力でダッシュして天津風を抱える。被弾したけどこの程度なら問題ない。
そのまま全力疾走で後退し、相手艦隊から距離を取る。
天津風「あ、ありがとう。助かったわ」
葛城「でもどうするの? もう時間も無くなってきてるし、このままじゃ……」
瑞鶴「うん。とりあえず作戦は決まった。最後の賭けだよ!」
私は作戦を二人に伝える。葛城の表情は険しく、天津風は呆れ顔。
まあ仕方ないよね。私自身も、何て馬鹿げた作戦なんだろうって思ってるし。
葛城「あ、あなた正気なの!? こんな作戦……!」
天津風「はあ……噂には聞いてたけど、多分それ以上の馬鹿よね、あなたって」
天津風「こんなの、成功する可能性は限りなくゼロだと思うけど……」
天津風「でも、やらなきゃ確実なゼロよね。いいわ、乗ってあげる」
葛城「わかったわよ。どうせ他に手は思いつかないし……勝てる可能性が少しでもあるんなら……」
瑞鶴「よし、じゃあ……行くよ!」
私は掛け声と共に全速前進。金剛達は一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに砲撃を再開する。
瑞鶴「そうだ、撃ってきて! 私はここだよ!」
単独で切り込んでくる私に、金剛、夕立、時雨は砲弾の雨を向けてくる。でも……当たらないよ!
金剛「おかしいデース! まったく当たらないなんて! 加賀、これは……?」
加賀「いつもの癖も無く、淀みない動き……! これは……葛城の彩雲!?」
そう。葛城の彩雲から金剛、夕立、時雨の放つ砲撃の着弾点を観測。
相手の動作の情報を随時送ってもらうことで次発の弾道も予測。後は私の速力があれば……!
時雨「そんな……ここまで避けるなんて!」
夕立「島風ちゃんよりも速いっぽい?」
ついに包囲網を突破! 金剛の真横を突っ切って、加賀さんに接近する!
金剛「Shit! 撃ち方止め! これ以上は加賀にも当たっちゃうヨ!」
加賀「やるわね、瑞鶴。でも、それでどうするつもり? 攻撃機は持ってないのでしょう?」
加賀「まさか、近接格闘でも仕掛ける気? 残念だけど、それで私を倒しても撃沈判定は出ないわよ?」
私は無言で加賀さんに近付いて、抱き寄せて……
加賀「んっ……!?」
唇を奪った。
金剛「What!?」
夕立、時雨「!?」
葛城「」
みんなは突然の出来事に、一切の反応が出来ない。時が止まる。
ただ、一人を除いて……!
天津風「いい風、吹かせるじゃない!」
固まってるみんなを尻目に超至近距離まで接近し、魚雷を放つ天津風。私はすぐに退避する。
加賀「……ッ!?」
直撃を受けた加賀さんは……撃沈判定! やった!
金剛「まさか、こんな作戦で来るなんて……! No Way!」
感嘆の声を上げる金剛。私と天津風は素早く敵陣から退避し、葛城と合流。
残り時間はあと僅か。このまま私がやられなければこっちの勝ちだ!
夕立「どうする? 残りの時間で瑞鶴さんを捉えるのは難しいっぽい」
金剛「これでFinish? なワケないでしょ! 金剛型class leaderの誇りに懸けて、ワタシは諦めないワ!」
金剛の全身全霊を捧げた渾身の一発が葛城に向けられた。
瑞鶴「あ、危ないっ!」
あ、あれ? 体が勝手に動いちゃったけど、そう言えば私……旗艦だった。
でも、もうその動きは止まらなくて……葛城を庇う形で金剛の砲弾をまともに受ける。
葛城「えっ!?」
天津風「ちょ、何やってんの……!?」
瑞鶴「い、いった~……い!」
演習用の模擬弾って言っても、やっぱ戦艦の砲撃は滅茶苦茶痛くて……思わず悲鳴を上げる。
私の判定は……大破! 良かった、まだ撃沈じゃない。何とか致命傷で済んだってやつ?
金剛「OH……ここまでデース」
同時に演習終了を告げる鐘が鳴る。旗艦撃破により、私達の戦術的勝利。
瑞鶴「いたたた……葛城は大丈夫? 怪我はない?」
葛城「な、何言ってるのよあなた! どう言うつもりなの!? 旗艦が、随伴艦を庇うなんて!」
瑞鶴「いや、私もホントわかんないんだよね。後輩を守らなきゃって思って、無我夢中で動いちゃったって言うか……」
ふと思い出す。いつか、加賀さんが私を助けてくれた時もこんな気持ちだったのかな?
瑞鶴「何にしても、無事で良かったよ」
そう言って葛城の頭を撫でると、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
加賀「瑞鶴……」
瑞鶴「あ、加賀さん! お疲れ様です!」
加賀「お疲れ様、瑞鶴。本当にあなたには、驚かされてばかりね」
加賀「装備が全て艦戦だったり、扶桑達を戦艦として使ったり……私を倒した時のあの作戦も……」
加賀「常識に囚われない奇策の数々……まあ結果が全てだし、見事だったと言っておくわ」
頭を撫でてくる加賀さん。思わず笑みが零れる。
葛城(あ……この人、こんな表情もするんだ……)
雲龍「葛城も、普段私達と演習する時とは艦載機の動きがまるで違ったから驚いたわ」
雲龍「まさか式神と弓矢を同時に使いこなすなんてね」
葛城「あ、あれはその……瑞鶴先輩に教わって……」
加賀「瑞鶴? あなた確か、式神は使えないって……」
瑞鶴「あー、はい。なんかイメージしてやってみたら出来たので……」
加賀「そう……飛龍と言いあなたと言い……何でも出来る子っているものなのね」
瑞鶴「そんな、加賀さんの方こそ……改になってどんどん練度上がってるじゃないですか」
加賀「そうね。練度でならまだまだ負けるつもりはないわ。精々頑張ってついて来なさい」
瑞鶴「いやいや、いつか絶対に追いついて、追い越してみせますから! 覚悟してて下さいね、加賀さん!」
加賀「ふふ……楽しみにしてるわ」
また加賀さんに撫でられて、自然と頬が緩む。ささやかだけど、幸せだなぁ……この瞬間が。
葛城(……この二人って、やっぱり……あれ? 何でだろう……胸が、痛む)
雲龍「……葛城、そろそろ帰りましょう」
葛城「え? あ、うん。そ、そうだね、雲龍姉」
雲龍「加賀さん、瑞鶴さん。本日はご指導ありがとうございました。また明日からよろしくお願いしますね」
加賀「ええ、それではまた明日」
葛城「瑞鶴先輩、明日もよろしくお願いします!」
雲龍「…………」
_____数日後。横須賀空母寮、瑞加賀の部屋
横須賀に来てから数日。ここでの生活も慣れてきたし、今では結構充実した日々を送っている。
瑞鶴「それでね、葛城ってやっぱり筋がいいんですよ!」
指導の方も最初の頃よりは上手く出来るようになってきたと思うし、こうして加賀さんに報告するのも日課になってる。
加賀「ふふ……楽しそうね」
瑞鶴「はい。私、瑞鳳にも先輩らしい指導とか出来なかったから。今は結構楽しいです」
加賀「特に葛城は誰かと違って、先輩に反発したりしない良い子だものね」
瑞鶴「か、加賀さん……昔のことは忘れて下さいよぉ」
加賀「忘れないわ」
加賀「今のあなたも昔のあなたも、私の好きな瑞鶴であることに変わりはないもの」
瑞鶴「!? わ、私、もう寝ます!」
聞いてて恥ずかしくなるような台詞。私は耐えられずに布団を被って顔を隠す。
もう……最近の加賀さんってば何なの本当に! 今までは私の方がグイグイ押していく感じだったのに。
恋の制空権、完全に加賀さんに確保されちゃってるなぁ……
_____更に数日後
訓練もいよいよ最終日。葛城達の練度もかなり上がってきたと思う。
ただ、今日は加賀さんの動きがどこかおかしかった。制空権を喪失した上、味方に的確な指示も出せない。
結果、葛城に3人も撃破されると言う失態。葛城の方はMVPが取れて大喜びしてたし、これはこれで彼女の自信になったと思うんだけど……
瑞鶴「加賀さん……?」
加賀「ごめんなさい。少し調子が悪くて……先に部屋に戻ってるわ」
雲龍「私も、今日の反省をしたいので先に戻ります」
雲龍「葛城、頑張るのよ?」
早々に演習場から引き上げる加賀さん。雲龍の方も、葛城に何かを告げると立ち去っていく。
私はすぐにでも加賀さんを追いかけたかったんだけど……
葛城「あ、あの……! 瑞鶴先輩! お話、いいですか?」
葛城が話し掛けてくる。ちょっと間が悪い、けど……無下にするわけにはいかない。
瑞鶴「ん、いいよ。葛城。どしたの?」
葛城「あ、あの……私、初めて会った時は失礼なこと言っちゃって……」
瑞鶴「そんなこと? 気にしてないって。全然、気にしてないから」
あ、あれ? 空返事をしてる。葛城の言葉、全然頭に入ってこないよ……
今の私の頭の中、加賀さんのことでいっぱいで……
葛城「先輩は、私に新しい道を示してくれた。演習でもいっぱい助けてくれた……」
葛城「ここまで私を強くしてくれた……」
だ、駄目だ……後輩が、真剣に話をしてるのに! ちゃんと聞かなきゃ駄目なのに!
葛城「わ、私、瑞鶴先輩のことが……」
それなのに、加賀さんのことが頭から離れなくて……
葛城「あっ……」
葛城(瑞鶴先輩……加賀さんのことを考えてる時の顔だ……)
葛城(指導中もそうだったよね。毎日のように加賀さん加賀さん加賀さん加賀さんって……言ってたなぁ)
葛城(やっぱり、今の私じゃ加賀さんには敵わないや……)
葛城「あの、これ! お守り……良かったら受け取って下さい!」
葛城「それで……こ、これからも、頑張って下さいねっ!」
鮮やかなピンク色の袋に、私と葛城を模した小さなぬいぐるみがくっついた、可愛らしいお守り。
多分手作り。私なんかにあげちゃうには勿体無いくらい良いものに見えるけど……
瑞鶴「ありがとね。大事にするから」
葛城「はい。引き止めちゃってごめんなさい。行ってあげて下さい……あの人のところへ……!」
あっ……何だ、お見通しだったのか。私、駄目だなぁ……後輩に、こんなに気を遣わせちゃうなんて。
瑞鶴「葛城、ごめんね。今度ゆっくりお話しよ!」
私はそれだけ伝えると、すぐに加賀さんを追って空母寮に向かった。
葛城「はぁ……何か、最初からわかってたはずなのに、結構堪えるなぁ……」
雲龍「葛城……あれで良かったの?」
葛城「雲龍姉、やっぱり見てたんだ……」
雲龍「演習で活躍して瑞鶴さんにアピール出来たし、絶好のチャンスだったのに」
葛城「うん。やっぱり瑞鶴先輩、今は加賀さんしか目に入ってないみたいだから……」
葛城「もっともっと強くなって、いつか瑞鶴先輩と肩を並べられるくらい強くなったら……」
葛城「その時瑞鶴先輩にはちゃんと私を見て欲しい……かな」
雲龍「そう。でも、あのお守りは……」
葛城「うっ……あ、アレは。咄嗟に渡しちゃったって言うか……」
葛城「ほ、ほら。急いでる瑞鶴先輩を引き止めておいてお礼言うだけってのも失礼だと思ったし……」
葛城「また天城姉に作ってもらうからいいもん!」
雲龍「そう。あなたがそれで良いのなら……」
雲龍「それに、あのお守りを持っていれば瑞鶴さんも少しはあなたのこと意識してくれるかも知れないわね」
葛城「ところでさ、今日加賀さんが調子悪かったのって雲龍姉の仕業?」
雲龍「葛城……あなたは私をどう言う目で見てるのかしら?」
雲龍「確かに私にとって、あなたと天城は世界で一番大切な存在よ。二人の為なら何でもしてあげたいって思ってる」
雲龍「けど……いえ、だからこそ。あなたのことを誰よりも理解しているつもりよ?」
雲龍「仮に私が何かをして、それで瑞鶴さんと結ばれてもあなたは決して納得しないでしょう?」
葛城「ん、そうだね。私はもっとちゃんと……正々堂々と勝負したいかな」
雲龍「ふふ……そう言うこと。だから私は、影ながら応援だけさせてもらうわ」
雲龍「頑張るのよ、葛城」
_____空母寮、瑞加賀の部屋
瑞鶴「加賀さん!」
勢いよくドアを開けると、苦悶の表情を浮かべながらベッドにその身を投げ出してる加賀さんの姿があった。
加賀「瑞鶴?」
瑞鶴「加賀さん。ちょっと失礼」
額をくっつける。加賀さんの顔が、唇がすごく近くて……キスしたい衝動を必死に抑えながら熱を測る。
瑞鶴「あっつ! え、加賀さんどうしちゃったの!?」
いくら体温の高い加賀さんでもちょっと考えられないレベルの高熱。
加賀「頭痛や腹痛、吐き気も酷いわね」
私だったら立ってもいられないような状態。それで演習にまで出るなんて……
瑞鶴「加賀さん、どうしてこんな状態で演習なんかに……」
加賀「あなたに弱い所を見せたくなかったの。私は、先輩……なんだから……」
加賀「なんて……そんなことを考えといてこの有様だから、笑えないし救えないわよね……」
瑞鶴「馬鹿……加賀さんのバカァ!」
強い口調で加賀さんに迫る。もう、溢れ出る気持ちを抑え切れなかった。
瑞鶴「弱い所があったっていい! 完璧じゃなくたっていいじゃないですか!」
瑞鶴「完全無欠に見えて実はちょっと抜けてるところが好き!」
瑞鶴「クールで冷静沈着に見えて実は沸点が低くてすぐに表情が崩れたりするところが好きです!」
瑞鶴「加賀さんは先輩だけどさ……私の、大切な恋人でもあるんだから!」
瑞鶴「だからこんな時くらい、私には……甘えてよ」
そう言って加賀さんを力強く抱き締めると、その表情に少しだけ安堵の色が戻ってきて……私はほっと胸を撫で下ろした。
_____数時間後
瑞鶴「で、結局原因は何なんですか? 昨日まではピンピンしてましたよね?」
加賀「恐らくお昼に食べたアレね……」
加賀「雲龍が戦闘配食のおにぎりを作ってくれたんだけど……その、あまり口に合わなかったのよ」
加賀「でも、せっかく作ってくれたのに残すのもアレかと思って全部食べたら……」
瑞鶴「あっ……確か、葛城が言ってました。天城は料理凄く上手なんですけど、雲龍は……」
瑞鶴「キッチンに立たせたら絶対にダメって言ってました」
加賀「なるほど……今度は料理の指導も必要になりそうね」
_____翌日
加賀「荷物はまとめた? 忘れ物はない?」
瑞鶴「えっと……大丈夫だと思います」
本土滞在も今日で終了。やっぱり、二週間なんてあっと言う間だったかな……
加賀「あら? 何か机に置いてあるみたいだけど?」
瑞鶴「あっ……」
葛城から貰ったお守り。そう言えば机の上に置きっ放しにしてた。危ない危ない。
瑞鶴「これ、葛城がくれたんです」
加賀「葛城? あの子が持ってたの?」
瑞鶴「はい。でも何で恋愛成就なんだろう? 私、もう彼女いるし、上手くいってると思うんだけどなぁ」
加賀「恋愛成就……あの子も大分苦労しそうね」
瑞鶴「え? 加賀さん、何か言いました?」
加賀「ふふ……後輩に指導出来る立派な空母になっても、鈍いところは相変わらずなのね?」
瑞鶴「え? 何ですかいきなり!?」
加賀(まあ、この子を渡す気はさらさら無いんだけど……)
何なんだろう? 加賀さんは微笑ましそうにこっち見てるし……
瑞鶴「うわっ……!?」
って思ってたら急に手を繋いできた。所謂恋人繋ぎってヤツ。
嬉しいけど、加賀さんの方からしてくるなんてちょっと珍しいな。
加賀「ここは、譲れません」
終
設定
瑞鶴(18):色々な才能を発揮し始める主人公。今回から改になった。自分に向けられた好意に対しては相変わらず鈍感。
加賀(23):瑞鶴の先輩で恋人。今回から改になってる。相変わらず他人の瑞鶴に対する好意には鋭い。
幌筵提督(22):百合大好き淑女。前スレでは瑞加賀をくっつけるために色々と頑張った。喋ると台無しになる残念美人。
鳳翔:全ての空母の母と呼ばれ慕われている、最古の空母。優しく、常に笑顔を絶やさないが怒ると怖い。
葛城(16):正規空母の卵。瑞鶴の指導により、式神と弓矢を同時に操ると言う新スタイルを確立した。
少々意地っ張りな面もあるが一度心を開いた相手にはとことん素直になる。
雲龍(22):雲龍型の長女で、姉妹の中では最も式神の扱いに長けている。妹達を溺愛している。
この時点ではメシマズ勢だったが、後に時雨に弟子入りして美味しいおにぎりを作れるようになる。
天城(20):雲龍型の次女。料理と裁縫が得意な、最も家庭的な子。妹の葛城を溺愛している。
扶桑(24):扶桑型戦艦の姉。妹よりほんの少しだけ前向き。ここでは通常戦艦モードと航空戦艦モードの使い分けが可能。
山城(22):扶桑を慕う妹。欠陥戦艦と呼ばれていることにコンプレックスを持っていたが今回の演習で少しだけ自信を付けた。
秋月(14):驚異的な防空能力を持つ駆逐艦。翔鶴が健在の頃はよく同じ艦隊で護衛を任されていた。
天津風(14):耐久、対空に優れる高性能駆逐艦。風を感じるのが好き。
時雨(13):まだ改二になっていないが瑞鶴に勝るとも劣らない潜在的幸運を持つ。扶桑、山城とは同じ艦隊で戦ってきた戦友。
夕立(13):駆逐艦の中でも随一の戦闘能力を誇る艦娘。秘められた火力は駆逐艦の域を遥かに超越していると言われる。
金剛(23):凄惨な過去を乗り越えて戦場に復帰した、鎮守府のエース。練度は全艦娘中トップ。
比叡(22):金剛を慕う妹。山城とはよく姉自慢対決を繰り広げている親友同士。
今回はここまでです。瑞加賀+葛城で書きたいことをとことん詰め込んだら物凄く長くなりました。
次回以降の話からはもう少し短くまとめられるようにしたいと思ってます。
それではここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
全力出撃できて道中の敵も弱い4-5より艦種制限が厳しい3-5の方が難しいと思いました。
今回は赤翔多目になってます。
「どんなときもずっと」
瑞鶴「うーん……朝か……」
窓から差し込む朝の光で目を覚ます。隣に加賀さんの姿は無く、布団も綺麗に片付けられていた。
瑞鶴「そう言えば加賀さん、今日食事当番だったっけ」
加賀さんの手料理。楽しみではあるんだけど、最近はちょっとした問題があって……それが私の悩みの種になっている。
瑞鶴「多分、今日も来てるんだろうなぁ……」
少し不安な気分で、私は食堂に向かった。
???「加賀さん。私、前に来た時も言いましたよね? ジャガイモの入ったお味噌汁は嫌いだって」
加賀「そ、それは……」
先週と全く同じやり取り。次に続く言葉も容易に想像が出来る。
???「これでは我が家の敷居を跨がせるわけにはいきませんね」
瑞鶴「もう、やめてよ!」
私は勢いよく食堂の扉を開けると、加賀さんに文句を言ってた声の主に詰め寄る。
瑞鶴「毎週毎週こっち来て、加賀さんと嫁姑ごっこなんかしないでよ、翔鶴姉!」
翔鶴「あら、瑞鶴。姑なんて酷い言い草ね。これは戦争なのよ?」
翔鶴「我が家ではお味噌汁の具はワカメ、お豆腐、油揚げしか認めていなかったはずでしょ?」
瑞鶴「いや、翔鶴姉がジャガイモの味噌汁嫌いなだけじゃん」
翔鶴「何言ってるの、瑞鶴? あなただってジャガイモの入ったお味噌汁が嫌いだったじゃない」
翔鶴「食べられなくてワンワン泣いて、お母様を困らせてたでしょう?」
瑞鶴「ちょ、翔鶴姉! その話は!」
加賀「えっ?」
瞬間、加賀さんの表情が凍り付く。ああ、知られたくなかったのに……
加賀「瑞鶴、本当なの? 今までは我慢して食べていたの?」
瑞鶴「か、加賀さん! そんなの昔の話ですし、この歳になって好き嫌いなんかしませんよ!」
鈴谷「へぇ~、瑞鶴にも随分とカワイイ時期があったんだ~」
加賀さんへのフォローを入れていると、いきなり鈴谷が後ろから抱きついてきた。
最悪。この子に聞かれたら絶対他のみんなにも伝わってしまう。加賀さんの次に聞かれたくない相手だったのに……
瑞鶴「どれくらい強打すれば、人の記憶って消えるのかな」
鈴谷「おっと! 鈴谷、これから出撃だった。行ってきまーす!」
思わず物騒なことを呟くと、鈴谷は即座に離れて窓から出ていった。逃げられたか……
瑞鶴「はぁ……」
仕方ないので鈴谷のことは諦めて、この騒ぎの元凶の方に向き直る。
瑞鶴「翔鶴姉……」
最初は翔鶴姉が生きてて、再会できたことに歓喜した。一緒にお風呂に入って、一緒に寝て……今まで出来なかった分まで存分に甘えた。
けど……こう毎週のようにやってきて、加賀さんと胃の痛くなるようなバトルを繰り広げてさ。
しかも私と加賀さんの関係にまで過度に干渉してくる。煩わしさは……全く無いって言っちゃうと嘘になる。
なのでさっき恥ずかしい過去を暴露された意趣返しも兼ねて、ちょっとした意地悪を言ってやろうと思う。
瑞鶴「で、翔鶴姉? 今日は何しに来たの? もしかして……とうとう横鎮クビになった?」
翔鶴「えっ!?」
瑞鶴「その……なんならさ、提督さんに相談しようか? ここに入れてもらえるように掛け合ってみてもいいけど」
翔鶴「ちょ、ちょっと待って瑞鶴! 誤解よそれは!」
翔鶴「やめて、そんなゴミを見るような目でお姉ちゃんを見ないで! ちゃんと全部話すから!」
慌てて捲し立てる翔鶴姉。その様には私が尊敬してた姉の面影は欠片も無いけど、これはこれで可愛いなんて思ってしまった。
翔鶴「えっと……西方、北方の制海権を取り戻して、この後は南方海域の攻略に移るわけなんだけど」
翔鶴「その二海域同時攻略作戦で備蓄していた資源をほとんど使い切ってしまったのよ」
翔鶴「それで、各鎮守府とも出撃は最低限に抑えて、遠征を必死にこなして資源の回復に努めているの」
翔鶴「だから燃費の悪い私達正規空母や戦艦の皆さんは任務には参加させてもらえずに、実質長期休暇みたいな状態になってるのよ」
瑞鶴「そうなんだ……翔鶴姉、良かった。ニートになったわけじゃなかったんだね」
翔鶴「もう、瑞鶴ったら……」
加賀「私は知っていたけど」
もちろん私も知ってる。けど……あれ? ここで加賀さんが話に入ってくるってことは……
加賀「今まで何も情報を集めていなかったの? そういう所が駄目なのよ、瑞鶴。秘書艦たる者、常に戦況は知っておくべきよ?」
加賀「だいたい、あなたは常日頃から……」
やっぱり。加賀さんがお説教モードに入っちゃう。何となく翔鶴姉には見られたくないから、話を逸らさないと!
瑞鶴「でもさ、翔鶴姉。毎週ここと横須賀を行ったり来たりはどうかと思うよ?」
瑞鶴「交通費だって安くないんだし……ほら、うち貧乏なんだからさ」
翔鶴「そうよね。加賀さんをからかうのが私のウィークリー任務だったんだけど、それも今回でおしまいにしようと思うの」
翔鶴「今日は瑞鶴達にどうしても知らせたいことがあって来たのよ」
瑞鶴「知らせたいこと?」
翔鶴「そう。数日前にね……」
_____数日前。横須賀空母寮
赤城「ただいま。今日も疲れたわ~」
ちょうど日付が変わるかどうかと言う時間帯に、赤城は帰宅する。
現在横須賀鎮守府は備蓄期間中で、出撃こそしていないものの彼女には別の仕事が与えられていた。
赤城「やっぱり私、事務仕事なんかよりも戦闘の方が向いてるんですよね」
資源の備蓄状況を延々とエクセルに入力するだけの単純な仕事。
とは言えパソコンに触れたことがほとんど無い赤城にとっては難解な作業であり、
本人曰くヲ級相手に制空権取る方が簡単とのこと。
翔鶴「おかえりなさい、赤城さん。良かったらこれどうぞ」
慣れない仕事で疲れている赤城を翔鶴が出迎える。彼女もつい先程、幌筵島から帰還した所。
向こうで買ってきたお土産のお菓子を赤城に差し出す。
赤城「ありがとう、翔鶴。また向こうに行ってきたの?」
翔鶴「はい。瑞鶴も加賀さんも、みんな元気でやってましたよ」
赤城「そう……」
嬉々として報告する翔鶴に、赤城は複雑な思いを抱く。妹やかつての仲間達に会いたい気持ちはわかる。
だから最初の内は彼女が幌筵島に行くことに反対もしなかった。それどころか自分から、会いに行ってあげなさいとも言った。
けれど、こう毎週のように通い詰めるなんて事態はさすがに想定外だった。
赤城「翔鶴、気持ちはわかるけど……それでも毎週と言うのはちょっとどうかと思うわよ?」
赤城「あちらにも都合ってものがあるでしょうし……」
翔鶴「赤城さん……」
翔鶴「私、怖いんです」
思いつめたような顔で俯いていた翔鶴が、顔を上げて力無く呟く。
赤城「怖い?」
翔鶴「はい。毎日同じ夢を見ます。みんな普段通りに過ごしていたはずなのに……ふと見ると沈んでいる……」
翔鶴「瑞鶴も加賀さんも……だから不安なんです。この目で無事を確かめないと」
赤城「翔鶴……何があなたをそこまで……」
翔鶴「私、深海棲艦に捕まってヲ級に改造されて……その時の記憶、全部残ってるんですよ」
赤城「!?」
翔鶴「あの時赤城さんに酷いことをしてしまった。この手で加賀さんを沈めた。その後、瑞鶴に沈められた……」
翔鶴「その時の罪悪感と恐怖が、ずっと私の中に渦巻いていて……だから不安になるんです」
赤城「翔鶴……」
今にも崩れ落ちて消えてしまいそうな翔鶴を、赤城は優しく包み込むように抱き締めて口を開く。
赤城「私の所為……でもあるのよね、翔鶴。ごめんなさい」
最近の自らを省みる赤城。翔鶴が起きる前に出勤し、寝静まった頃に帰宅。
仕事のある日はほとんどがそのパターンで、一週間の内に顔を合わせる機会は僅かだった。
赤城「私があなたに寂しい思いをさせてしまっていたのよね」
翔鶴「あ、赤城さん……私、そんなことは……!」
赤城「いくらあなたが痛ましい記憶を抱えていたとしても、それだけで潰れちゃうほど弱くはないでしょう……?」
赤城「あなたは優しいから絶対に口にはしないけど、私があなたとの時間をもっと大切にしていれば……」
翔鶴「ち、違うんです赤城さん。これは全部私の弱さの所為で……」
尚も気を遣う翔鶴を、赤城は更に強い力で抱き締める。そして、意を決してその言葉を伝えた。
赤城「翔鶴、私と結婚しなさい」
翔鶴「えっ? え~~~~~!?」
赤城「悲しみも不安も……あなたが抱えるその痛みも、全部私が吹き飛ばしてあげるから」
赤城「今度はもう寂しい思いなんかさせない。そんなこと考えられないくらいに、私が幸せにします」
翔鶴「あっ……」
突然の告白。その力強い言葉だけで、翔鶴を包んでいた負の感情が消え去ったのがわかった。
翔鶴「赤城さん、わ、私……あの……」
歓喜と羞恥の感情が入り混じる中で、翔鶴は必死に言葉を絞り出す。
翔鶴「よ、よろしく……お願いします……」
_____数分後
赤城「落ち着いたかしら?」
気が済むまで抱き合った後、二人は寄り添いながらベッドに腰掛けて語り合う。
翔鶴「は、はい。私、急にあんなこと言われるなんて思ってなくて……まだ夢を見てるような気分ですけど……」
赤城「そうね。私だって本当ならもっとこう、ロマンチックなムードの中で言いたかったわよ」
赤城「で、でも仕方ないじゃない。感情が抑えられなくて、爆発しちゃったんだから……」
珍しく顔を赤らめて、恥ずかしそうに話す赤城。翔鶴の前では滅多に見せない表情だ。
赤城「悔しかったのよ。その……あなたがあそこまで苦しんでいたのに、一番傍にいた私が気付いてあげられなかったことが……」
赤城「いつでも傍にいることが普通に感じてたけど、もっと大事にしようって思って」
赤城「だからあなたを一番安心させられる言葉を言いたかったの」
翔鶴「私は、きっと世界一の幸運艦ですね。赤城さんにここまで想ってもらえるなんて……」
赤城「翔鶴……」
赤城は翔鶴を優しく押し倒し、耳元でそっと囁いた。
赤城「空母でも出来る夜戦、しましょう?」
翔鶴「はい……」
恥じらいながらも受け入れる翔鶴の姿を見て、赤城の気分は更に高揚する。
赤城「翔鶴、好きよ。誰よりも好き。どんな時だって、あなたを見ているから……!」
翔鶴「私も、愛してます。赤城さん……」
翔鶴「と言うわけで私達、結婚することになりました」
瑞加賀「」
翔鶴「手紙でも良かったんだけど、やっぱり二人には直接伝えたくて……って瑞鶴、聞いてる?」
瑞鶴「あ、ごめん翔鶴姉。あまりにも唐突すぎたから一瞬意識が飛んでたよ」
よく見ると翔鶴姉の左手の薬指には明石の工廠で売っている指輪がはめられている。
瑞鶴「まあ何て言うの……その、おめでとう……でいいのかなぁ」
加賀「おめでとうございます、翔鶴さん。お二人の晴れ舞台、楽しみにしていますよ」
加賀さんはあれだけ弄られたのに素直に祝福の言葉を贈る。
なんか加賀さん、翔鶴姉に対してだけは甘くない? ちょっとずるい。
翔鶴「ありがとう二人とも。それじゃあ私は提督にも報告に行ってくるから」
そう言って立ち上がり、執務室へ向かう翔鶴姉。私とすれ違う際に、耳元でそっとある言葉を囁いた。
翔鶴「次はあなたが幸せを掴む番よ、瑞鶴。加賀さんと、頑張ってね」
瑞鶴「!?」
瞬時に頬は紅潮し、心臓が飛び出しそうになる。ヤバイ、ヤバイってこれは!
た、確かに加賀さんとはゆくゆくはそんな関係になりたいと思ってるけどさ!
そんな、結婚なんてまだまだ全然先の話だと思ってたし! こ、心の準備とか……!
加賀「瑞鶴、どうしたの? 熱でもある?」
羞恥で悶えてる私を心配して加賀が近づいてくる。あ、あれ? この距離……
瑞鶴「近い、近いですよぉ、加賀さん。顔が……ふぁぁ……」
そのまま額をくっつけてくる加賀さん。ダメだよもう! 今の私のメンタル状態で、それはダメ~!
加賀「熱は、ないようだけれど……」
瑞鶴「か、加賀さんの……馬鹿ぁ~~~~~!!」
恥ずかしさに耐えきれなくなった私は加賀さんを突き飛ばしてこの場から逃走した。
加賀「瑞鶴……何なの……?」
やっぱり、私にそう言う話はまだ早すぎたみたいだよ。
でも、加賀さんのことが大好きで……もっと深い関係になりたいって気持ちは本当。
だからその日が来るまで……待っててね、加賀さん!
終
_____オマケ
赤城「なんか私が家庭を顧みずに翔鶴をほったらかしにした駄目亭主みたいな風潮がありますけど……」
赤城「私は私で翔鶴に寂しい思いをさせられてたんですからね!」
翔鶴「えっ? 赤城さん、それって……」
赤城「あなたが瑞鶴さんに討たれたって聞いた時よ。あの時の瑞鶴さんは、あなたか加賀さん、どちらを助けるか選べたわ」
赤城「そして、目の前にいて確実に助けられるあなたよりも、どこに沈んでいったのかもわからない……」
赤城「生きているのかさえもわからない加賀さんを選んで、助けた……」
赤城「瑞鶴さんは私に、泣きながら何度も何度も謝ったわ……」
赤城「私はもう、運命だと思って受け入れるしかなかった。振り切ろうと必死になったわ」
赤城「でも駄目だった。気持ちはどんどん沈んでいって、出撃でも戦果を挙げられなくなっていった……」
赤城「西方攻略作戦では戦力外通告まで受けてしまって、長期休暇を言い渡されたわ」
赤城「挙句の果てに私の穴埋めで西方に出撃した瑞鶴さんは装甲空母姫にボコボコにされて沈みかけるし……本当に大変だったんだから」
翔鶴「そ、そんなことが……?」
赤城「でもね翔鶴、私が一番不安定だった時期はその比じゃないくらいヤバかったわよ?」
翔鶴「ええっ!?」
赤城「あれは確か8月頃だったかしら。私と加賀さん、瑞鶴さんで雲龍型三姉妹に指導をすることになったのよ」
赤城「そして、私が担当することになったのは次女の天城さん。ここまで言えば大体察しはつくでしょう?」
翔鶴「天城さんって……赤城さんのお姉様と同じ名前、ですよね? 確か、震災で亡くなられた……」
赤城「そう。私は天城さんに頼み込んで実の姉のように接してもらい、疑似姉妹プレイで現実逃避をしていたのよ!」
翔鶴「あ、赤城さん……」
赤城「そしてこれがその時の映像なんだけど」
翔鶴「な、何でそんなもの撮ってあるんですか!? そんな黒歴史、見せなくても……!」
赤城『姉様、姉様! 天城姉様! ずっと、ずっとずっと私から離れないで下さいね!』
天城『あ、ああ赤城さん!? さすがにこれはやりすぎでは無いでしょうか!?』
赤城『天城姉様!? ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 赤城、いい子になりますから!』
赤城『もう姉様を困らせるような事は言いませんから! だから嫌いにならないで! 一人にしないで下さい姉様~~~!』
天城『だ、ダレカタスケテー!』
赤城「とまあ、こんな風に壊れてたわけなんだけど……」
翔鶴「赤城さん!」
翔鶴「私、私もう絶対に赤城さんに寂しい思いはさせませんからッ!」
翔鶴「どんなときもずっと、赤城さんのお傍にいますから! ずっと一緒です!」
赤城「うん。上々ね」
完
設定
赤城(27):正規空母娘のリーダー。しっかり者のように見えるが意外と翔鶴に依存している。
普段は優しく翔鶴をリードするがベッドの上では誘い受け。
翔鶴(25):半年前に深海棲艦に改造され、かつての仲間や妹と矢を交えることになってしまった悲劇の艦娘。
その戦いで瑞鶴に討たれるが奇跡的に一命を取り留め、紆余曲折あって赤城達と再会を果たした。ベッドの上では意外にも攻め。
今回はここまでです。基本的に書きたい話から書いていくので時系列はバラバラになってます。
翔鶴が助かった時の話や西方攻略等の話も機会があれば書いていきたいと思ってます。
それでは読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。
加賀さんの対空迷彩フィギュアが瑞鶴カラーっぽくて気分が高揚してます。
いつかそのネタでも書いてみたいです。
今回かなり短いですが暇潰しにでも読んで頂ければと思います。
「Happy maker!」
瑞鶴です。私達が暮らしているこの幌筵島は8月でも平均気温は10℃強。
今日も肌寒さを感じる日だったんだけど……今、この執務室はそんなことを忘れるくらい異様な熱気に包まれている。
ちょうど私、加賀さん、鈴谷、榛名の4人が非番だったので、久しぶりに麻雀を打とうと言う話になった。
もちろんトップ以外全員に罰ゲームが科せられるルールは健在。今の状況は大体こんな感じ。
南四局オーラス 親:榛名
1位 瑞鶴:50400
2位 加賀:25900
3位 榛名:15700
4位 鈴谷:8000
まさに最終局面。熱くなるなって言う方が無理な話だとは思うけど、ここは冷静になって状況確認しよう。
私は今トップ目で、2位の加賀さんから跳直、または倍ツモを喰らったとしてもギリ勝ってると言う状況。
とは言え加賀さんは普通に強いし、この対局では一度も振り込まず倍満も和了ってる。油断は禁物。
榛名とはかなり点差があるけど、何たって親だ。連荘での逆転も十分ある。
ダンラスの鈴谷は……この局では三倍満以上を当てられない限り負けない。
もう少し点差が縮まっている状況なら、鈴谷は私が罰ゲームを受ける所を見たくてトップが確定しない和了りをすることもあるけど……
この点差ではそれも不可能。この局はとりあえず大丈夫だろう。
各々が自らの勝利条件を確認し、理牌に入ろうとした所で執務室の扉が勢い良く開かれた。
幌筵提督「みんな盛り上がってる~? でも、熱くなりすぎちゃ駄目よ?」
幌筵提督「ほら、アイス買ってきたから少しクールダウンしよ?」
瑞鶴「いい感じじゃない、提督! さーんきゅ!」
榛名「提督、ありがとうございます」
みんながそれぞれ好きな味のガリガリ君を手に取り、少しの休憩……となるはずだったんだけど。
鈴谷「いいこと思いついちゃった」
発端はその一言。思えばこの時から、私は自分の身に起こってる異変……
って言っちゃうと大袈裟だけど、ちょっとした変化みたいなものを自覚することになったんだ。
鈴谷「瑞鶴の当たり棒、トップの副賞として追加しない?」
色っぽい仕草でガリガリ君を頬張りながら提案する鈴谷。
一瞬、加賀さんの顔がキラキラしたのを私は見逃さなかった。
瑞鶴「いいよ、別に」
いつも私ばっかり2本食べてるし、偶にはいいかなって、本当に深く考えずにそう答えた。
加賀「燃えてきました」
榛名「榛名、頑張ります!」
それに気付いたのは11順目。ここまで一切の鳴きが入ってない静かな場だけど、普通に誰かが聴牌しててもおかしくない局面。
瑞鶴「あ……れ? 外れた」
手に持ってるガリガリ君の棒には、いつも見る1本当たりの文字が書いてなかった。
榛名「えっ? そんな、瑞鶴さんが外すなんて……!」
鈴谷「珍しいこともあるもんだね~」
加賀「残念です……」
確かにこれは珍しい。今までは例え他人が買ってきた物であっても、私が掴む物には大抵当たりが入ってたんだけど……
幌筵提督「まあそう言うこともあるでしょ。いくら瑞鶴ちゃんさすがに百発百中ってわけじゃないし」
瑞鶴「そうだよね。私だって、たまには外すし」
加賀「残念です……」
心底残念そうにしてる加賀さんは置いといて、とりあえず勝負再開。私は普通にツモ切りし、鈴谷の番だ。
鈴谷「う~ん、どうしよっかな~?」
中盤の勝負所ってこともあって、鈴谷は周囲に目を配らせながら逡巡する。
とは言え、加賀さんも榛名もポーカーフェイスは得意なので表情から状況を窺い知ることは難しい。
鈴谷「よっし、決めた。最後の戦、始めてみますか! カン!」
あっ……鈴谷が槓したのはドンピシャで私が欲しかった4萬。新ドラ表示牌は中。
鈴谷「ちぇっ、乗らなかったか~。まあ、リーチで」
そのまま嶺上からツモってきた南を切ってリーチ。和了りも遠のいたし、三倍満もあるかも知れないから私は降りるかな。
加賀「…………」
加賀さんは新ドラの白をノータイムでツモ切り。まあ、鈴谷は私に当てるしかないんだからまず安全だろう。
続く榛名も6索をツモ切り。そして私がツモってきたのは南。良かった、現物だ。しかも場に2枚切れ。私は迷うことなく切るが……
加賀「ロン」
瑞鶴「ふぇっ!?」
当たった!? しかも加賀さんはツモ切りだったから、山越し!?
加賀「チートイドラ5、12000よ」
新旧ドラに赤一つを使った七対子の跳満手。あれ、跳満? それだと……あっ! 鈴谷のリー棒……!
加賀「そう言うこと。捲ったわね」
1位 加賀:38900
2位 瑞鶴:38400
3位 榛名:15700
4位 鈴谷:7000
瑞鶴「鈴谷、あそこでリーチ掛けるなんて、どんな手を張ってたのよ!?」
鈴谷「んー、これだけど?」
そう言って開かれた手牌は役もドラも無い、完全なリーのみ手。
瑞鶴「ちょっと! これじゃ私が一発で振って裏8乗っても倍満止まりじゃない! リーチする意味が……!?」
ニヤニヤ笑ってる鈴谷を見て察した。そっか、鈴谷は最初から和了る気はなかったんだ。
私が罰ゲームを受けるのを見たいけど、狙い打ちだと難しいから供託棒を出して加賀さんが捲れる条件を1段階下げた。
まあその後でリーチしてる鈴谷の現物で、尚且つ加賀さんの当たり牌だった南を掴んだのは不運だったけど……
鈴谷「やっぱりちょっと前から思ってたんだけどさ……瑞鶴、麻雀弱くなったよね?」
瑞鶴「えっ?」
唐突な鈴谷の一言で私は最近の対局を思い出した。言われてみればそうだ。ごく普通に麻雀を打ってる。
以前なら役満を当たり前のように出して、圧倒的な豪運でみんなを一蹴してたのに……
榛名「榛名も思いました。その、瑞鶴さんが持ってる幸運の力みたいなものが極端に落ちてると……」
加賀「さっきのアイスも、外したわね」
そう言えば最近装備開発でもよく失敗するし、思い当たる節がありすぎる。
瑞鶴「どうしちゃったんだろう、私……」
幌筵提督「瑞鶴ちゃんっ!」
瑞鶴「うわっ!? 提督さん!?」
幌筵提督「多分その内わかると思わよ。だからあんまり深く悩まないでね?」
提督さんが抱きついてきて、全てを見透かしてるかのように言う。
瑞鶴「あーもう提督さん! おっぱいが邪魔!」
幌筵提督「そんなことより加賀さん。早く罰ゲームを」
加賀「そうですね。それじゃあまず瑞鶴から……」
ウェェ……何だろう。痛かったりするのはやだな……
加賀「次の対局、提督と交代して。それで……わ、私の膝の上に、ずっと頭を乗せていなさい」
瑞鶴「えっ?」
加賀さんは真っ赤になりながらそんなことを言い出して……みんなは生温かい目で見ている。
加賀「ひ、膝枕させなさいって言ってるの。早くして」
瑞鶴「は、はいっ!」
加賀さんに急かされて膝に頭を乗せる。柔らかくて、温かくて気持ちいい……
加賀「…………」
優しい手つきで撫でてくれる加賀さん。まさに至福のひと時って感じ……
瑞鶴「あっ……」
幸せ……何となくだけど理解した気がする。ちょっと強引な解釈かも知れないけど……
瑞鶴「私、加賀さんとこうしていられる時が一番幸せだって思ってるんだ……」
瑞鶴「だから、それ以上の幸運はいらないって言うか……運のバランスみたいなもの?」
瑞鶴「それを全部加賀さんの為に割り振ってるから、今までみたいなわかり易い豪運が無くなっちゃったんだと思う」
加賀「真顔で恥ずかしいこと言わないで」
そう言って加賀さんは頬を抓ってくるけど、その表情はどこか嬉しそうだった。
鈴谷「さてと。二人ともイチャイチャしてるところ悪いけどさ、次の対局始めよ?」
幌筵提督「そうだね~。久しぶりに本気出しちゃうかな!」
榛名「榛名、次こそは負けません!」
加賀「気分が高揚しています。今なら負ける気がしません」
再び加賀さんに撫でられて、あまりの心地良さに思わず寝ちゃいそうになる。
さり気なく鈴谷と榛名が罰ゲーム回避しようとしてることなんてどうでも良くなってきた。
瑞鶴「加賀さん……」
願わくば……もし今の私が自分の持ってる幸運の星に一つだけ願えるとしたら……
加賀さんと、ずっとこんな幸せな関係を続けられますように……ってお願いするかな。
瑞鶴「頑張って……」
鈴谷「何あの二人だけの空間。砂糖吐きそうなほど甘いんだけど」
榛名「お二人が幸せそうで何よりだと思いますよ」
幌筵提督「そうそう。これこそ私が求めてた安息の地! どんどんイチャついちゃって!」
加賀「…………」
その後、加賀さんは私を膝に乗せたまま無双しまくって三人全員を東場だけで飛ばした。
加賀「やりました」
完!
今回はここまでです。少し時間がない+プロットもなくて一つの話を書くのに大分時間が掛かってます。
なのでまた間を空けて、ストックを溜めてから次スレを立てようと思ってます。
もしまた見掛けましたらよろしくお願いします。
それではここまで読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
(`・ω・)bグッ!