加賀さんとローソンと、時々瑞鶴 (27)
翔鶴「ねえ瑞鶴、ローソンに買い物に行かない?」
瑞鶴「え? なんで?」
翔鶴「ほら、先日大本営からの通達で、加賀先輩がローソンでバイトすることになったでしょう」
瑞鶴「ふ、ふーん。そうなんだ」
瑞鶴「全っ然知らないけど。加賀さんが三日前の午前7時38分からローソン鎮守府店で働いてるなんて、全っ然知らなかったけど」
翔鶴「……」
瑞鶴「今日加賀さんが、バイトの先輩である鹿島や江風がいなくて、すごく不安で一人でバイトしてるなんて、全っ然知らないけど」
翔鶴「……そ、そう」
瑞鶴「で? なに? 翔鶴姉ローソン行くの?」
翔鶴「え、ええ。せっかくだし、何かお手伝いできることがあるなら、と思って」
瑞鶴「手伝うなんて、ダメだよそんなの! こんな時こそ、いつも偉そうにしてる一航戦に仕返しするチャンスだよ! あの焼き鳥製造機にぎゃふんと言わせてやるわ!」
翔鶴「ど、どうしてそうなるの……。いつもお世話になっている空母の先輩じゃない」
瑞鶴「翔鶴姉は優しすぎるんだよ! 見てて、私一人で加賀さんの邪魔してくるから!!」
翔鶴「あ、こら、待ちなさい瑞鶴!」
瑞鶴「アウトレンジで……決めたいわね!」
~ローソン鎮守府店~
瑞鶴(来てしまったわ)
瑞鶴(翔鶴姉を説得するのは大変だった……。こんなこともあろうかと、提督さんの使用済みハブラシを盗んでおいて良かったわ)
瑞鶴(翔鶴姉がローソンに来たら加賀さんの手伝いをするに決まってるし、そんなのは絶対にダメよ)
瑞鶴(あいつを困らせるのは私なんだからっ!)
ピロリロン ピロリロン
加賀「いらっしゃいませ」
瑞鶴「……」
瑞鶴(ふふ、加賀さんめ、私の変装に気がついていないようね)
瑞鶴(それもそのはず、今の私はサングラスにマスク、気付かれる訳がないわ!!)
加賀「……」
瑞鶴(すました顔しやがって……! 昨日ベッドであれだけ乱れてたくせに……!)
瑞鶴(的な感じだぜ加賀さんよぉ!!) ※乱れてません
加賀「……」
瑞鶴(さぁて、まずはどんな方法で加賀さんを困らせてやろうかしら)
瑞鶴(うまい棒10本を、わざわざ1本ずつ買うなんてどう!?)
瑞鶴(手間がかかる肉まんを、わざわざ1個ずつ買うなんてのもいいわね……)
瑞鶴(いやそれかおにぎりを1個ずつ買って、一回一回チンさせるのもありだわ)
瑞鶴「電子レンジで……決めたいわね!!」
加賀「えっ」
瑞鶴(し、しまった! 心の声が、つい外に出てしまっていたわ!)
加賀「……?」
瑞鶴(くっ。加賀さんが怪しそうにこっちを見ている、私のことを見ている!)
瑞鶴(相変わらず綺麗な顔してるわね……ドキドキするわ。ああ、加賀さん……)
瑞鶴(って違う! 私はあいつのことを好きでもなんでもないんだから! 私はあいつを困らせてやるんだから!)
加賀「……」
瑞鶴(あっ、こっち見なくなった)
瑞鶴(もう、なんなの!? あんたは私だけ見てればいいんだから!!)
羽黒「あ、あのー。このお弁当ください」
加賀「683円になります」
羽黒「は、はい……」
加賀「……」
羽黒「うう……!」
瑞鶴(ちょっとお、なにしてんのよ!)
瑞鶴(お弁当温めますか? って聞きなさいよ! 羽黒困ってるじゃない!)
瑞鶴(仕方ないなぁもう!)
瑞鶴「特別なべーんとー♪」
瑞鶴「あなたぁ~にあぁ~げる~♪」
瑞鶴「あっためるんだからぁ♪」
加賀「……」
加賀「はっ」
加賀「お、お弁当を温めますか?」
羽黒「えっ、あっ、は、はいっ! お願いします!」
加賀「かしこまりました」
瑞鶴(完璧だわ!!)
瑞鶴(まさに完璧な助言ソングだったわ。我ながら見事なアウトレンジ戦法だわ)
瑞鶴(さりげない歌で加賀さんの接客をフォロー……じゃなくて、羽黒の好感度を下げないことに成功したのよ)
瑞鶴(ふっふっ、これで加賀さんにはバイトに対する羞恥心が生まれたも同然。嫌がらせ作戦大成功ね)
ピロリロン ピロリロン
加賀「ありがとうございました」
瑞鶴(さぁて、次はどんな嫌がらせをしてやろうかしら)
瑞鶴「むっ」
瑞鶴(この商品棚の和菓子、適切な場所にお菓子が並んでいないわ)
瑞鶴(他のお客が勝手に場所を移動させたのね。全く、モラルがなってないわ。なってないんだから~♪)
瑞鶴(おおっと、私としたことが、前回のボケを引きずってしまっていたわ。気をつけないと)
ピロリロン ピロリロン
神風「加賀さん、お疲れ様です」
春風「本日は、和菓子のお買い物に参りました……」
加賀「いらっしゃいませ」
瑞鶴(なんというベストタイミングなの!?)
瑞鶴(このままじゃ、神風型の二人が間違った和菓子を買ってしまう可能性があるわ!!)
瑞鶴(でも私は店員さんじゃないし、和菓子を移動なんてさせられない!)
瑞鶴(加賀さんになんとか気付いてもらわないといけないわね!!)
神風「……えーっと和菓子はっと」
春風「神風お姉様、あちらのサングラスの方がいる場所では」
神風「あっ、そうみたいね! 行きましょ!」
瑞鶴(まずいわ!! こうなったら……)
瑞鶴「デデン!!」
瑞鶴「ダンダカダダンダーン、ダダダダーン、ダーン!」
加賀「……」
瑞鶴「ぴゃーぴゃーぴゃー ぴゃーぴゃーぴゃー ぴゃーぴゃぴゃー」
加賀「……この手に寄せる袱紗朱の色♪」
瑞鶴「この目開いて、菓子棚見れば♪」
瑞鶴「和菓子が違う、並びが変よ、へ~んよ~」
加賀「……」
加賀「はっ」
タタタッ ガサゴソ
瑞鶴(パーフェクトだわ!!)
瑞鶴(加賀岬にのせて、それとなく陳列棚のおかしな並びを気付かせてやったわ!!)
瑞鶴(くくく。加賀さんが困り果てながら和菓子の陳列を直しているわね。これであんたは更なる羞恥心を感じることとなったのよ!!!)
瑞鶴(我ながらパーペキな作戦ね。加賀さんもまさか私が瑞鶴だとは気付かないでしょ)
神風「……」
春風「お姉様……あの人は、その……」
神風「春風、これは愛なの。野暮なことは言っちゃダメ」
春風「は、はい」
加賀「失礼しました。和菓子の陳列が間違っていましたので、直させて頂きました」
神風「すみません、ありがとうございます」
春風「ではお姉様、司令官様へお出しする和菓子を選定致しましょう」
神風「うん! 司令官はどれが好きかなぁ」
瑞鶴(ふう。良かったわ。これで適切な和菓子が選ばれるわね)
瑞鶴(ふふっ。加賀さんの慌てようったら、見ていて気持ちが良かったわ。これでアイツの人望はダダ下がりね!!)
加賀「……」
瑞鶴(っ! こっちを見ている!? さ、さすがに加賀岬は不自然だったかしら! 私がこれまでに加賀岬を1万回以上聞いてて、カラオケでは絶対1番最初に加賀岬を歌うことがバレてしまったのかしら!)
瑞鶴(私が加賀岬販売の日に、わざわざ変装をしてまでCDを手売りしていたのがバレてしまったというの!!?)
加賀「……」スッ
瑞鶴(お、レジに戻っていった)
瑞鶴(ふう、私が加賀岬の公演で、一番最前列でノリノリでライトを振りながら全力応援していたことは、どうやらバレなかったようね……)
瑞鶴(さあ、次はどんなことで加賀さんを困らせてやろうかしら)
ピロリロン ピロリロン
赤城「加賀さーん、お疲れ様ですー」
加賀「あら赤城さん」
瑞鶴(あ、赤城さん!!?)
赤城「いやぁ、小腹がすきましてですね。ホットスナックをいただきに参りました」
加賀「そう。何が良いかしら」
赤城「そうですねぇ~」
瑞鶴(ホットスナック!!!)
瑞鶴(いわゆる、肉まん系やジャイアントビッグフランク、チキン、ポテトなどのあったかい商品のこと!!)
瑞鶴(常にホットな状態でお客様へ食べ物を提供できるコンビニの売れ筋食品よ!!!)
瑞鶴(まずいわ……。しかも購入者は赤城さんだなんて!! 大量に食品を購入していくことは必須!!)
瑞鶴(加賀さんが一品一品を適切な処理ができるか心配だわ!!!)
赤城「じゃあ、今日はおでんにしましょうかね」
加賀「かしこまりました」
瑞鶴(おでん!!!!)
瑞鶴(まさか汁物に手を出すとは思わなかったわ。でもこんな寒い季節にはぴったりだし、日本酒や焼酎なんかのおつまみにも最適よね!!)
瑞鶴(おでんとなると、まずは器の問題が出てくるわ。コンビニでおでんを入れる器は大きく分けて2種類。そう、大きいのと小さいのがある!!)
瑞鶴(赤城さんがおでんを頼むなら、大きい器でなければならないのは確実……。加賀さんはこれを適切に処理できるのかしら!!)
加賀「……」サッ
瑞鶴(最初から小さい器持っちゃったよ!!!)
瑞鶴(なんでそこで小さい器持つの!! それだとおでん3つくらいしか入らないでしょ!! あの赤城さんがおでん3つで満足する訳ないでしょ!!)
瑞鶴(このままではまずいわ、赤城さんと加賀さんの雰囲気が悪くなり、全空母の空気が険悪になり、全艦隊で戦争が始まる可能性がある!!)
瑞鶴(私がなんとか、大きい器の存在を加賀さんに気付かせなくては!!)
赤城「えーっと、それじゃあ……」
瑞鶴「……おーおーきな」
瑞鶴「うつわの」
瑞鶴「古時計♪」
加賀「……」
赤城「……」
瑞鶴(エクセレントだわ!!!)
瑞鶴(さすがにちょっと歌の選曲が古かったかもしれないけど、平井堅なんかもリメイクしている曲だし、さりげなく加賀さんに器を気付かせるには最適よね!!)
瑞鶴(さあ加賀さん! これで器は大きいのが正しいって分かったでしょ? 早く小さい器から大きいのに変えるのよ!!)
赤城「……なんか……変な人いますね」
加賀「……」
赤城「まあいいか。それじゃあですね、おでんは」
加賀「……」
瑞鶴(変えねえのかよ!!!)
瑞鶴(なにやってんのよ!! 私が身を尽くして器の歌を歌ってあげたというのに! かの名曲、大きな古時計から抜粋して、非常に分かりやすい訓示を与えたというのに!!)
瑞鶴(しかし時間はない!! まるで私の頭の中でチクタクチクタクが流れているようだわ!! 何か、何か別の方法で加賀さんに大きな器を教えてあげないと!!)
瑞鶴(仕方ない……あれを使うしかないわ!!!)
瑞鶴「……あー」
瑞鶴「たわわチャレンジしてみたいわぁ~」
加賀「……」
赤城「……」
瑞鶴「胸にスマホを乗せる、たわわチャレンジってのやってみたいわぁ~」
瑞鶴「しょうがない。ここでちょっとやってみようかな」
瑞鶴「よし! スマホよ!! 私のたわわな胸に乗りなさい!!」サッ
ガシャン
瑞鶴「……」
加賀「……」
赤城「……」
瑞鶴「はぁ。やっぱり私の胸にはスマホは乗らないわあ」
瑞鶴「大きな器じゃないとやっぱり乗らないわぁ。おでんも一緒だけど、大きな器じゃないと、たくさんのおでんを入れられないわぁ」
加賀「……」
加賀「はっ」
サッ サッ
加賀「赤城さん。大きい器を用意しているわ、遠慮なく商品を言ってちょうだい」
赤城「あら♪ ありがとうございます。ではとりあえず大根80個と……」
瑞鶴(マーヴェラスだわ!!!!)
瑞鶴(赤城さんが想像を絶するほどのおでんを注文しているけど、完全無欠な作戦だったわね!!!)
瑞鶴(くくく、加賀さんよぉ、今どんな気持ちだぁ? 屈辱的なカップロパイン症候群ってくらい辱めを受けているんでしょうね!!)
瑞鶴(とにかく。これで加賀さんにまた嫌がらせを実行してやったわ。私のスマホである新型iPhone7が破損したけど、加賀さんのためなら全く問題ないわ)
瑞鶴(さぁ、次はどんな嫌がらせをしてやろうかしら。ふふふ……)
赤城「では頑張ってくださいね、加賀さん」
加賀「赤城さん。ありがとう」
ピロリロン ピロリロン
秋月「わぁ~。ここがコンビニかぁ」
照月「秋月姉! お小遣い何に使おうか! 今日は1人30円も使えるよぉ!」
初月「提督から貰った1000円のうち、910円を貯金に回すなんて……さすが姉さんたちだ」
瑞鶴(な、なんてこと!! 秋月型三姉妹の来訪なんて!!!)
加賀「いらっしゃいませ」
秋月「あ、加賀さん、お疲れ様です!」
照月「制服、お似合いですね! 捗るゥ~!」
瑞鶴(くっ。あいつらは私の変装を見破ってしまうかもしれないわ。なんといっても、史実的に結構絡みあるし!!)
瑞鶴(ということは今回は私は加賀さんに味方してあげられないわね! くくく……慌てふためく加賀さんが見ものだわ!!)
初月「……瑞鶴、変な格好して何してるんだ」
瑞鶴「えっ」
加賀「えっ」
瑞鶴「は、はははは、はあ? わ、わわわわ、私は瑞鶴とかいうめちゃくちゃ可愛くてアウトレンジな艦娘ではありませんことよ!? てててていうか誰よそれ!!」
初月「え……。何言ってるんだ……。君、瑞鶴だろ?」
秋月「はわわわ! は、初月! 何言ってるの瑞……お客さんに!」
照月「と、突然変なことを言ってすみません瑞……! サングラスマスクの方!」
瑞鶴「あ、あははは。いいのよ、いいの。私は瑞鶴なんていう『さーんきゅっ』のセリフが可愛すぎる人は知らないし、ひ、人違いだと思うから!」
加賀「……」ジー
瑞鶴(うっ!! か、加賀さんがこっちを見ている!!!)
瑞鶴(秋月姉妹には全然、全く気付かれていないようだけど、これはまずいわ!! 加賀さんが私のことを気付く可能性がある!!)
瑞鶴(仕方ないわ!! 今日加賀さんへのお手伝……もとい嫌がらせはここまでのようね!!!)
瑞鶴(加賀さんをバイト初日から毎日嫌がらせしていた行為は、残念ながらここまでのようだわ!!)
初月「なぁ瑞鶴、どうしてそんな声を裏返らせているんだ? もしかしてここに、好きなやつでもいるのか?」
秋月「そんな訳ないでしょ、まさかあの瑞鶴さんが、尊敬する加賀さんのお手伝いをするために、変装してまでローソンに毎日通う訳ないでしょ!」
照月「そうだよ! 嫌がらせと名目をうち、でもそれは全くの嘘っぱちで、尊敬する先輩の力になろうと影で頑張って、スマホまでダメにしている訳ないじゃない! 捗るゥ~!」
初月「なんで捗るんだ」
瑞鶴(とにかくここは、退散した方がよさそうだわ!!)
瑞鶴(アウトレンジで……逃げたいわね!!!)ピューッ
秋月「あぁ。行っちゃった……。加賀さんを陰ながら暖かい目で見ていた瑞……あのお客さん行っちゃった……」
照月「瑞……。いや、あのお客さん、すごく店員さんのことを思っていたね……。こないだ酔っ払っていた時、加賀さんのことが大好きと言っていた瑞……いえ、あのお客さん……すごく店員さんのことを思っていたよね……」
初月「うーん。姉さんたちが何を言っているのか、僕にはさっぱり分からないよ。はぁ~、さっぱりさっぱり」
加賀「……」
~鎮守府 空母寮~
瑞鶴「はぁ~」
瑞鶴(さすがに今日はやりすぎたかな……加賀さんに気付かれてないといいけど)
ガチャ
翔鶴「あら瑞鶴、もうお風呂から上がったのね」
瑞鶴「うん。翔鶴姉も入ってきたら?」
翔鶴「私は今日は大丈夫。提督のハブラシと共に過ごすと決めているから。マリアナの後も……ずっと一緒に……」
瑞鶴「……そ、そう」
翔鶴「あ、そうだ、加賀先輩から貴方宛に、荷物が届いてるわよ」
瑞鶴「……はぁ? あいつから? な、なんの荷物よ」
翔鶴「加賀先輩のボイス付き目覚まし時計ですって。限定商品らしいからくださったのだけど、いらないなら捨てておきなさい、と仰っていたわ」
瑞鶴「ハッ! 何が好きであいつの声で毎朝目覚めないといけないのよ!!」
瑞鶴「ほんっと、いい迷惑だわ!!!」
この日以来、瑞鶴の部屋からは毎朝、加賀さんの声が響いていたのは言うまでもない。
艦
若干キャラ崩壊ですが許してくださいなんでもしますから。
ご愛読いただきありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
いい、、、凄く良い、、
好き!!(挨拶)