『終末艦これショート』 (1000)


【浮き砲台三人娘 Chapter1】


伊勢「あー……のどかだねー。いい天気だし、このまま昼寝でもしたら気持ちよさそー」

日向「こんな時に、呑気なものだな……伊勢」

榛名「でも……こんなに晴れ晴れとした空……榛名、久々に見ました」

日向「私達は常に奴らと対峙していたからね……空を見る心の余裕なんてなかった」

日向「しかしこうじっくりと空を見上げてみるのも……案外悪くないものだな」

榛名「今が戦時中であるという事を、忘れてしまいそうですね」

日向「こらこら、そんなことを言っていると、今前線にいる翔鶴達に怒られてしまうぞ」

榛名「そうですね。翔鶴さん達が帰ってきたら……きっと怒ってくれますよね」

日向「…………」

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伊勢「ぴゅーひょろろろろろ~~」

日向「……何だ伊勢、突然変な声を出して」

伊勢「よくさ、こういう快晴の日って、ぴゅーひょろろろろろ~~って鳥の声するよね?
日向さぁ、あれなんて鳥か知ってる?」

日向「……鳶か」

伊勢「へーそうなんだ~」

日向「おい、ちょっと待て……それだけか」

伊勢「え、何が?」

日向「何か意味があって聞いてきたんじゃないのか? まさかただ聞いただけか?」

伊勢「うんそうだけど」

日向「はぁ……お前というやつは……」

伊勢「まぁいいじゃんいいじゃん」


榛名「私、鳶の鳴き声って好きです。ウグイスやオオルリ、コマドリなんかは
日本三鳴鳥として有名ですけど……鳶の鳴き声の方が綺麗だと思います」

伊勢「日本四鳴鳥にしちゃおう!」

日向「バカを言うな」


ぴゅーひょろろろろろ……


日向「……またか。伊勢、いい加減に……」

榛名「違いますよ。あれ、見てください」



ぴゅーひょろろろろろ……


日向「――鳶、か」

伊勢「おっ、なんてタイムリーな」


日向「ふっ……まるで平和だな。雲のような平穏だ」


NEXT【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter1】

【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter1】

――深海棲艦出没海域――


加賀「YA☆RI☆MA☆SI☆TA☆」

天龍「今日も加賀は絶好調だなー、さすが一航戦」

電「なのです!」

初風「私は妙高姐さんの方が怖いわ」

赤城「加賀さん、お疲れ様」

加賀「赤城さん……やりました」

瑞鶴「ふぅ……」

赤城「瑞鶴ちゃんも、お疲れ様」

瑞鶴「おつかれですー……」

加賀「本当に疲れているのかしら。さして活躍してもいないのに」

瑞鶴「なんですって!?」

加賀「別に五航戦の子に言った訳ではありませんが」

天龍「小学生かあんたは」

赤城「もう加賀さんったら……あまり瑞鶴ちゃんをいじめちゃダメよ」

加賀「赤城さんは甘すぎます。この戦場ではコーヒーに角砂糖五つ
入れるような甘ったるい艦娘から脱落していくのよ……そこの五航戦ように」

瑞鶴「クソレズの分際で……」


加賀「は? 今何か?」

瑞鶴「別にー? あーレズくっさいわー何かレズ臭い空母の匂いするわー」

加賀「頭にきました」

瑞鶴「何で頭に来るのー? 別にあんたのこと言った訳じゃ……あっ!
もしかして図星なの!? ぷっひゃひゃひゃひゃ!」

加賀「鎧袖一触です」

赤城「ちょ」

瑞鶴「ギニアッ」スコーン

電「はわわ、瑞鶴さんに九九艦爆が命中したのです!」

初風「首繋がってる?」

天龍「相変わらずだなぁおい」

――泊地――


天龍「おっし、艦隊帰投だ」

加賀「旗艦は貴女ではないわよ、天龍」

天龍「いいじゃねえかこまけーことはよ~。よーしお前ら、飯食いに行くぞー!」

電「なのです!」

初風「……ま、行ってあげてもいいけど」

加賀「全く……あの子ときたら」

赤城「いいじゃないですか加賀さん。それよりどうですか加賀さん、この後一緒にお食事しませんか」

加賀「気分が高翌揚します」

赤城「決まりですね。あ、瑞鶴ちゃんも一緒にどう?」

瑞鶴「私ですか? えっと~……」

加賀「即答できぬ者に赤城さんとの食事に同席する資格はないわ。地獄へ落ちなさい」


赤城「加賀さんや、ちょっと辛辣すぎやしないかい」

瑞鶴「……赤城さんには悪いですけど、そこの焼き鳥空母と相席すると暑苦しいので
ご遠慮させていただきます」

赤城「売り言葉に買い言葉だコリャア」

加賀「七面鳥」ボソ

瑞鶴「七面鳥ですって!?」

赤城「あーはいはいどうどう。それじゃあまた後でね瑞鶴ちゃん。ほら加賀さん行くわよ」

加賀「お前のねーちゃん紐パンー。エロテロリストー」

瑞鶴「ぐぬぬ……!」

――泊地内・食堂――

雪風「ガツガツぱくぱくもぐもぐむしゃむしゃガツガツぱくぱくもぐもぐむしゃむしゃ」

赤城「あら、いい食べっぷり」

加賀「……この子は?」

五十鈴「何か、他の泊地からのお客さんみたいよ」

榛名「よっぽどお腹が減っていたみたいで……」

金剛「どんどん食べてビックになるネー」

加賀「そう……」

赤城「コレは負けてはいられませんね。一航戦・赤城、食べます!」

加賀(さすが赤城さんね。常に頂点に君臨しなくてはプライドが許さない。これぞ一航戦)


赤城「それはそうと加賀さん。最近あなたどうしたの?」ムシャムシャ

加賀「どうもしませんが?」

赤城「とぼけちゃって。凄い活躍じゃない。沢山MVP取っちゃって」モグムシャ

加賀「……結果としてそうなっているだけです」

赤城「結果として……ね」ムシャ……

加賀「赤城さんもご存知だと思うけれど、近頃は物資を安定して確保するのが
難しくなってきました。艦載機もタダじゃない、被害を最小限に留めようとすれば
自然とこうなります」

赤城「頑張るわね。やっぱりあの子達の為?」

加賀「あの子達……とは?」

赤城「五航戦の子達」


加賀「ああ、あの口の減らないチキン南蛮とオブ・ジョイトイの事ね」

赤城「オブ・ジョイトイって、古いわよ……」

加賀「……別にあの子達は関係ないわ。物資を節約するのは当然のこと。でも……」

加賀「いざという時にボーキサイトがなくて、足手まといになられては困る……位は思っていたかもしれないわね」

赤城(加賀さんってば、素直じゃないんだから……)

加賀「……私の顔に、何か?」

赤城「いえ、相変わらずかわいいわねって思っただけよ」

加賀「ふぉ……!」

天龍「うお、加賀さんめっちゃ輝いてる」

電「なのです」

初風「あの程度なら、妙高姐さんの方が光っていたわ……」


――五航戦・自室――

瑞鶴「それであいつなんて言ったと思う? 翔鶴姉は空母界のエロテロリストやー
だってさ。翔鶴姉こんなに散々言われて悔しくないの?」

翔鶴「加賀先輩は、気難しい方だから……」

瑞鶴「寧ろ煩悩まみれよあんな奴」

翔鶴「瑞鶴、先輩をそんなふうに言ってはダメよ。それに加賀先輩も、瑞鶴の事を
気に掛けてくださっているのよ。まぁ、少し屈折した接し方だけど……」

瑞鶴「ふん。今に見てなさいよ……艦載機の妖精さん達の練度はまだ勝てないかも
しれないけど、性能は私達のほうが上なんだから。いずれ追い越して顎で使ってやる」

翔鶴「もう、瑞鶴ったら……」


瑞鶴「それよりも翔鶴姉、体の方はもう大丈夫なの?」

翔鶴「だいぶ前に完治しているわ。もうそろそろ戦線復帰できるかもね」

瑞鶴「いーよいーよそんなに急がなくても! 私が翔鶴姉のぶんまで
頑張っちゃうんだから!」

翔鶴「あまり張り切りすぎて空回りしてもダメよ」

瑞鶴「もー、わかってるってばー」


「――瑞鶴殿、瑞鶴殿!」

翔鶴「あら、あなたは……」

瑞鶴「流星の妖精さん? どうしたの?」

「瑞鶴殿に至急お伝えしなくてはならない事がありまして……いやはや
少し困ったことになりまして!」

瑞鶴「一体、どうしたの?」

「実は……」



――泊地・港――

磯波「はぁ、演習なんですねぇ~」

初雪「やだ、引きこもる」

吹雪「ちょっとみんな! もっとやる気出してよ!」

叢雲「あんたが旗艦じゃ、やる気出ないんじゃないの?」

吹雪「吹雪型ネームシップなのに!」

満潮「どうでもいいけど早くしてくれない? こっちの方は準備出来てるんだけど?」

朝潮「はい。いつでも出撃可能です」

荒潮「すきよぉ~」

大潮「クチクカンオオシオデス!チイサナカラダニオッキナギョライ!クチクカンオオシオデス!」



吹雪「ほらみんな早く用意して! 朝潮さん達の迷惑になっちゃうからっ」

初雪「めんどくさい……」

吹雪「……ん? あそこにいるのって……」

叢雲「……確か、正規空母の」

朝潮「瑞鶴さんです」


瑞鶴「くっ……!」

吹雪「ず、瑞鶴さん一体どうしたんですか!?」

瑞鶴「ちょっと出るわ!」

吹雪「出るって……お一人でですか!? あの、ちょっと!?」

吹雪「え、ええー……行っちゃった」

叢雲「行っちゃったじゃないわよ。様子がおかしかったわよ、あの人」

大潮「こりゃあ……何かヤバイことが起きてそうだな。大事にならねえといいが」

初雪(あいつ、口が利けたのか!?)


翔鶴「瑞鶴待って、瑞鶴ったら!」

瑞鶴「止めないで翔鶴姉。これは……私の責任だから」

翔鶴「一人で海域に出るのは危険よ! 事情を話せばきっと提督が艦隊を……」

瑞鶴「ごめん翔鶴姉。でも……行かなくちゃ。今こうしてる間にも……あの子は!」

翔鶴「瑞鶴! あぁっ……」

翔鶴(こんな時に、艤装の修理が終わってないだなんて……
どうして私っていつもこうなのかしら……!)


――泊地正面海域――

瑞鶴「あの子がまだ無事ならば、きっと何らかの信号を飛ばしてくるはず」

瑞鶴(何で確認しなかったんだ私! 帰還してない子がまだいたなんて……!)

『実は、搭乗員の一人の姿が見当たらなくてですね。確かに甲板に帰還する際は
編隊に加わっていた筈なんですが……母港で点呼をとってみると……やっぱり一人
足らなくてですね』

『あの海域に置き去りに……ということになってしまいますかね』

瑞鶴「戦いである以上、未帰還機が出るのは仕方のないこと……だけど
こんなことで……ッ!」

瑞鶴(落ち着け瑞鶴! まずは艦載機の信号を拾うのよ!)

瑞鶴(どこなの!? お願い……無事でいて!)


――深海棲艦出現海域――

「まさか、機関部が故障するたぁ、ついていないねぇ……救難信号はちゃんと
とどいているだろうか?」

「そもそも、自分一人の為に艦隊を動かしてくれるか……」


瑞鶴「見つけた」


「……おやまぁ、これはこれは。瑞鶴嬢じゃあ、ありやせんか
こんなとこまでご苦労なことでさぁ」

瑞鶴「……ごめんなさい、こんな所で一人置き去りにして」

「お嬢が謝ることじゃあございません。助けに来てくださっただけでも
ありがたい話です」

瑞鶴「……心細かったでしょ? 一人でこんな大海原に取り残されたんだもの。
本当に……ごめんなさい」


「ほんともう大丈夫ですから。そう頭を下げんといてください」

瑞鶴「でも……」

「元はといえば機体の故障が原因です。それにこうして助けに来てくれたんです
それでいいじゃあ……、ありませんか」

瑞鶴「そう、かな」

「ま、そんなに誠意を見せたいってんなら、帰ったら間宮でもおごってくださいや
そうだそれがいい、そうときまればさっさと帰投だ」

瑞鶴「……全く、調子いいんだから」

「へへへ…………ぅ? 何だ……潮の流れが……?」


瑞鶴「どうしたの?」

「いやですね…………ッ!?」


「――お嬢! 危ないッ!」


瑞鶴「えっ!?」

戦艦タ級「…………ッ!」

瑞鶴「深海棲艦!? は、発艦準備!」

「だめだ!タ級の砲撃の方が早い!」

瑞鶴(……! 間に合わ……)




??「……全く、世話が焼けるわね」



ゴオォォォォーーーーーーン!


――午後五時。深海棲艦出没海域にて戦闘あり。


戦艦タ級「!?!?!?」

瑞鶴「これは……天山……?」

「けっ、あいつら……加賀の艦載機の連中か」


加賀の放った第一次攻撃隊が敵艦隊に攻撃開始。
戦艦タ級中破、雷巡チ級大破の大打撃を与える。


加賀「艦隊も組まずにたった一人で出撃するなんて……軽率ね」



瑞鶴「なっ、何であんたがここに!?」

加賀「そんなことより早く発艦準備をなさい。砲撃、来るわよ」

瑞鶴「わ、わかってるわよ! 全機発艦、目標……深海棲艦・戦艦タ級!」

加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

戦艦タ級「……ッ! ……っ、……」


――――――
―――




――戦闘終了――

瑞鶴「ふぅ……どうよ、五航戦の力、なめんじゃないわよ!」

加賀「……戦闘終了。母港に帰投します」

瑞鶴「……ちょ、ちょっと待ってよ!」

加賀「何か?」

瑞鶴「いや、その……あんたが来てくれなかったら、ちょっとやばかったし
その……た、助かったわ」

加賀「……ちゃんとお礼が言えたのね。驚いたわ」

瑞鶴「それってどういう意味ですか……」

加賀「もっとも、お礼を言われる事なんてなにもないのだけど。私はただ
食後の軽い運動がてら深海棲艦でもしばこうかとふらついてただけだし」

瑞鶴「うわ……弱いものいじめかっこわるーい」


――戦闘終了――

瑞鶴「ふぅ……どうよ、五航戦の力、なめんじゃないわよ!」

加賀「……戦闘終了。母港に帰投します」

瑞鶴「……ちょ、ちょっと待ってよ!」

加賀「何か?」

瑞鶴「いや、その……あんたが来てくれなかったら、ちょっとやばかったし
その……た、助かったわ」

加賀「……ちゃんとお礼が言えたのね。驚いたわ」

瑞鶴「それってどういう意味ですか……」

加賀「もっとも、お礼を言われる事なんてなにもないのだけど。私はただ
食後の軽い運動がてら深海棲艦でもしばこうかとふらついてただけだし」

瑞鶴「うわ……弱いものいじめかっこわるーい」

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   ミスったでち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


加賀「そんなことよりも……此度の無断での出撃、一体どういうことかしら?」

瑞鶴「それは……」

加賀「言い訳は聞きません。いい? 単艦でこの海域に出るということがどれだけ……」

赤城「……それは加賀さんも一緒でしょ?」

加賀「! ……赤城さん」

吹雪「私達もいますよ~」

朝潮「丁度演習で、出撃準備はできていました。司令官の迅速な判断に感謝します!」


赤城「全く……加賀さん、貴女も勝手に出撃しておいて、説教できる立場?」

加賀「い、一航戦ですから」

赤城「一航戦にそんな権限ないわよ」

赤城「瑞鶴ちゃんもお疲れ様。災難だったわね」

瑞鶴「赤城さん……すいません、私」

赤城「……話は翔鶴ちゃんから聞いてるわ。全く、無茶するんだから……
それで、妖精さんは……?」

「機体はてんで動きやせんが、自分はこの通り健在ですぜ、赤城さん」

赤城「それはよかった。ふふふ……なんだかんだで加賀さんって瑞鶴ちゃんの事
放っておけないのよねー」

加賀「な、別にそんなことありません」

赤城「そんなこと言って、瑞鶴ちゃんが一人飛び出したって聞いた時なんか、加賀さん
顔色変えて飛びだしていったじゃない。周りの制止も振り切ってまぁまぁ。お陰で泊地は大騒ぎ」

瑞鶴「えっ……?」

加賀「し、知りません! お、お先に帰らせていただきます!」

赤城「あらまぁ、加賀さんが焼き鳥になってしまったわ」

磯波「真っ赤なんですねぇ」

赤城「ねぇ瑞鶴ちゃん……加賀さんはね、普段そっけない態度をとっているかもしれない
けど本当はとてもあなた達の事を心配しているのよ」

瑞鶴「……わかりづらいですよ」

赤城「まぁ、加賀さんは普段そういうの表に出さない人だから……でもわかってあげて
あの人、不器用なのよ」

瑞鶴「……そりゃあ、そうでしょうね。ホント、おかしな奴」




加賀(……あかぎさんたら、よよよけいなことを!)

瑞鶴「あー、おっそーい!」

加賀「島風か何か?」

瑞鶴「翔鶴型の速力をもってすれば、あんたの速力全開なんて屁みたいなもんよ」

加賀「……逃げ足にしか使えない速力ほど無意味なものはないわね」

瑞鶴「…………」

加賀「あら、言い返してこないの?」



瑞鶴「ありがと」




加賀「!?」 

加賀「……今、あなた……」

瑞鶴「ほらほら、早くしないと追いてくぞぉ~」

加賀「ま、待ちなさい!」

大潮「……仲良きことはいいことだ……此度の出撃の戦果は、彼女達のかけがえのない
笑顔……それでいいんじゃあないか?」

満潮「誰よあんた」

大潮「クチクカンオオシオデス!」


瑞鶴「五航戦・瑞鶴! 行きます!」

加賀「一航戦・加賀。五航戦の子には負けません!」




NEXT【ソロモンの涙】

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          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   そ、そろそろ休むでち

       ji::〈 "  ヮ  ;/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃三┃`-!:::::j  オリョクルはまるゆに任せてきたでち

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
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【ソロモンの涙】


時雨「ねえ、夕立」

夕立「しぐれちゃん、なーに?」

時雨「もうその辺にしときなよ……戦果は十分じゃないか、深追いは禁物だよ」

夕立「夕立、まだまだパーティし足りないっぽい! 敵はみんなこの夕立が
殲滅するっぽい!」

時雨「夕立……」



本国からの物資の支援が困難になり、戦況は次第に傾いていった。
度重なる深海棲艦の侵攻。徐々に疲労の色を見せる艦娘達。
決定的となったのは先の海戦での"航空戦力"の多大な喪失である。
これにより泊地は戦力と資源の温存を図る為、軽巡・駆逐艦を
中心とした水雷戦隊を多く編成。
激化する深海棲艦の攻撃の真っ只中に、彼女達を送り込んだのだった……。


金剛「今日もティータイムネー」

木曾「相変わらずお前は茶ばかり飲んでいるな」

金剛「だってぇー、テートクが出撃させてくれないんだからぁー! しょうがないデース!」

榛名「今は資源が足りませんから……榛名達戦艦が出撃すると、資源はあっという間に
底をついてしまいます」

金剛「わかってるデース。紅茶自棄飲みしマース!」


黒潮「木曾はん、木曾はん」

木曾「何だ、出番か?」

黒潮「せや。出撃やー」

金剛「うゥー! 木曾はずるいデース! また出撃してー!」

木曾「ふっ……こっちとしては、たまに休みも貰いたいもんだがねぇ……
さて、ぼちぼち行くとするか」

榛名「……ご武運を」

金剛「紅茶を沸かして待ってるネ!」



――泊地・港――

天龍「おっ、木曾じゃねーか」

木曾「……なんだ、お前らも出撃か?」

天龍「こっちはチビ共の訓練だけどな。そっちは……まぁ敵さんと戦闘だよな。
あー羨ましいぜ」

木曾「鍛錬も大事な任務だ。気を抜くなよ」

天龍「わぁーってるよ。ちぇ、俺も雷巡化すればなー。
そういうかっこいいマンと着けてよー」

木曾「ま、マントは関係ない」


天龍「あ……そうだ、ちょいと小耳に挟んだんだがこういう噂知ってるか?」

木曾「……なんだ?」

天龍「龍田のやつが以前鎮守府のお偉いの口からポロっと出たのを
聞いたらしいんだけどよ……俺達が戦ってる深海棲艦
……実は、轟沈した艦娘もアレになるって話だぜ」

木曾「はぁ? 何だそれは……」

天龍「詳しいことはわからねぇけど、深海棲艦は海底に巣を持ってて
そこで轟沈してきた艦娘を深海棲艦に変えちまうって話だ」

木曾「噂だろ? ばかばかしい」

天龍「だけどよー、俺達艦娘が轟沈した後ってどうなんのか
俺達は知らねー訳だろ? だからもしかしたら……」

雷「天龍ー! もー行っちゃうわよー!」

天龍「……っと、呼ばれちまったか。それじゃあ俺様はお先に失礼するぜ」

木曾「ああ、そっちも頑張れよ」

木曾「…………」

木曾「深海棲艦が艦娘か……グロテスクな推論だねぇ」




明朝、木曾を旗艦とした水雷戦隊は敵艦隊の侵攻を阻止すべく
深海棲艦が出没する海域へと出撃する。編成は以下の通りである。


【対深海棲艦水雷打撃艦隊】

旗艦
重雷装艦・木曾
随伴艦
駆逐艦・陽炎
駆逐艦・黒潮
駆逐艦・雪風
駆逐艦・時雨
駆逐艦・夕立


木曾「よぉし、全員準備はできたか? 出撃するぞ!」

陽炎「陽炎出撃しまーす!」

黒潮「ほな、出撃やー」

雪風「艦隊をお守りします!」

時雨「……ほら、夕立、行くよ」

夕立「……ぽい」

木曾「お前達……遅れるなよ」

時雨「うん、わかってるさ」

雪風「雪風、お姉ちゃんや皆さんのお役に立てるよう、頑張ります!」

黒潮「お姉ちゃん達も負けてられへんわ~。ねー、陽炎ちゃん?」

陽炎「もっちろんよ! それにしても、雪風も大分ウチの泊地に慣れて
きたみたいね!」

雪風「はい! お姉ちゃん達のお陰です!」

陽炎「もー、この子ったら! うりうり!」

雪風「くすぐったいです~陽炎お姉ちゃん~」

夕立「……」

時雨「……」

時雨(夕立、やっぱり君は……)


木曾「…………」

木曾(夕立か……姉妹艦の白露と村雨が沈んでから元気が無いな
……まぁ無理もないが)

木曾(……本当は心の傷が癒えるまで休ませてやりたいところだが、
そうも言っていられない。何よりもうそんな余裕が無い)

木曾(……果たして今日も無事に、泊地に帰れるのかねぇ?)

木曾「ふっ……らしくないな。この重雷装艦の俺が、弱音を吐くなんて」



時雨「夕立」

夕立「…………」

時雨「ねぇ、夕立ってば」

夕立「! ……ぁ、しぐれちゃん、何かご用事っぽい?」

時雨「……夕立、何か……ぼーっとしてるからさ」

夕立「ゆきかぜちゃん見てたっぽい」

時雨「雪風? あぁ……彼女は奇跡の駆逐艦だからね」

夕立「そうじゃないっぽい。ゆきかぜちゃんには……かげろうちゃんみたいな
お姉ちゃんがいて……」

夕立「少し、羨ましいなって思ってたっぽい」

時雨「……夕立、僕が、いるじゃないか」

夕立「……ごめん」

時雨(やっぱり、僕じゃ白露の代わりは務まらないのかな……
情けないな。こんな時、白露や村雨がいれば……)

時雨「ダメだなぁ、僕……」



――深海棲艦出没海域――

木曾「ここからは敵のテリトリーだ。各艦警戒を怠るなよ」

陽炎「了解です!」

雪風「雪風……頑張ります!」

黒潮「雪風ちゃんはうちが守ってあげるからなぁ、心配せんでもええよ」

陽炎「私もね!」

雪風「えへへ……」

夕立(……ゆきかぜちゃんは、何もわかってないっぽい。守るって、簡単に言うことが
どれだけ恐ろしいことなのか……)



――数カ月前――

時雨『あぐっ……! この僕が……!』

白露『時雨!』

時雨『中破……だね、まぁ、いいさ』

五十鈴『隊列を乱さないで! くっ……このままじゃ! 支援艦隊はまだなの!?』

村雨『通信ありません……五十鈴さん……!』

五十鈴『今は持ちこたえるしか無いわ! あああっ! なんて数なの! くそっ!』

夕立『夕立、しぐれちゃん守るっぽい!』

五十鈴『ちょっと! 隊列を乱さないでってr』


ドゴォーーー―ン!!



五十鈴『かは……!?』

村雨『い、五十鈴さん……?』


午後8時20分 重巡リ級の砲弾が五十鈴に直撃。致命的な損傷を被る。


五十鈴『ふ、ふん……たかが、上部兵装を……やられただけよ』

五十鈴(これはもう、ダメね……)

五十鈴『白露さん、あなたは姉妹を率いて戦線を離脱なさい』

白露『ええっ……五十鈴さんはどうするのぉ!?』

五十鈴『私は敵艦隊との戦闘を続行します』

白露『そ、それって……』

五十鈴『今は戦闘中よ! うろたえてるんじゃないわよ! あなたが一番
お姉ちゃんでしょ!』

白露『!!』


五十鈴『あなたには成すべき事がわかっているはずよ。
……守ってやんなさい、妹達を』

白露『ぅ……はい……!』

白露『駆逐艦白露! 以下三隻、戦線を離脱します!!』

夕立『離脱!? しらつゆちゃん……いすずさんが』

白露『いいから早く! 村雨は時雨を補助よ!』

村雨『こっちはスタンバイオーケーよ!』

白露『五十鈴さん……ごめんなさいっ! 全艦、白露に続いてー!』





五十鈴『……よくできたわね、お姉ちゃん』


五十鈴『さて、と……』


五十鈴『山本提督や山口提督も乗っていた……この五十鈴の力、
とくと見せてあげようかしらね!』





軽巡洋艦・五十鈴。駆逐艦・白露以下三隻を退却させ単艦、敵艦隊との戦闘を継続。
奮戦するも計2000発余りの集中砲火と三本の魚雷を打ち込まれ、撃沈す。




時雨『五十鈴……彼女は僕達を逃がす為に……』

夕立(夕立のせいだ……隊列を乱したからいすずさんは……!)

白露『村雨、追撃して来る敵艦は?』

村雨『無いわよー……』

白露『五十鈴さんが頑張ってくれてるんだ……』

白露(五十鈴さんの覚悟……しかと受け取りました!)

白露『我が艦隊は速やかにこの海域を離脱します。速力全開!』

村雨『さぁ、時雨。村雨の手に掴まって』

時雨『悪いね……』

白露『夕立も遅れないでね!』

夕立『もう、隊列は乱さないっぽい!』



村雨『……逆探に反応! 進行方向に敵艦あり! 数4!』

時雨『どうするの? 避けて行くかい……?』

白露『この海域に長く留まる余裕なし……このまま突っ込むよ! ついてきて!』

村雨『了解!』

夕立『ぽい!』


午後9時。白露型駆逐艦隊、会敵。



――敵艦見ゆ!――

村雨『重巡1 駆逐3!』

白露『重巡は怖いけど……、夜戦ならこっちにも分があるよ!』

白露『村雨達は駆逐艦の相手をして!』

夕立『しらつゆちゃんは……?』

白露『重巡をやるよ! 大丈夫、だって一番艦だもん! あなた達は
この白露お姉ちゃんが守っちゃうんだからー!』

時雨『……くるよ!』

夕立『夕立……名誉挽回っぽい!』


――戦闘開始!――

夕立『素敵なパーティしましょ!』

駆逐イ級『……っ……!』

夕立、砲撃戦で駆逐イ級を1隻沈める。

村雨『はいはーい! 村雨、やっちゃうからね!』

続く村雨の砲撃も敵に損害を与え、

夕立『魚雷発射管よーい!』

雷撃戦にて敵駆逐艦を一掃。

時雨『やった……!』

村雨『おお~……ぐ』


ドオォォォーーーン!



村雨『ちょ、まっ……!?』

時雨『村雨ッ!』

村雨、被弾。

夕立『むらさめちゃ……え!?』

白露『…………』

白露、大破。戦闘能力を失う。

重巡リ級『……ゥ……ッッ!』

夕立(こんなこんな……どうにかしないと、どうにかしないと!)


夕立『うわああああああーーーーーーー!』

夕立、単艦リ級に突撃。

ズドン! ズドン!

夕立『うそ……どうして、どうして当たらないっぽい!』

重巡リ級『…………』スチャ

夕立(やられる……ッ!)



重巡リ級、砲撃。駆逐艦一隻を沈める。




夕立『……? あ、れ……』

夕立『なんで、あたし……』

白露『……ゆだち』

夕立『しらつゆ、ちゃん……?』

白露『……よかた、一番、最初にし、ずむのが……あたし……で』

白露『いすずさ、あたし、ちゃんとおねえちゃん……できたよ……』

夕立『あ、ああ……っ!』

夕立『ああああああああああああああああああああああああああっ!』

時雨『夕立ッ! くっ……!』

重巡リ級『!!!』


ドゴオォォォォン!


重巡リ級、錯乱した夕立の放った魚雷により沈黙す。

戦闘終了。敵艦隊全滅。
駆逐艦・白露 轟沈。



夕立『うう、ううう……!』

時雨『夕立……』

夕立、被害艦二隻の曳航を敢行す。

時雨『む、無理だよ夕立……二隻も同時に曳航なんて……』

夕立『うううううう~~っ!』

村雨『――夕立、もう、十分よ』

夕立『……むらさめちゃん?』

村雨『夕立、村雨をここで、切り離そっか……』

夕立『むらさめちゃん! 何言ってるっぽい!』

村雨『さっき重巡にもらった一撃……結構大きくってさー……
村雨、正直もう限界なのよね……』

夕立『ほんと、なに、言ってるの……?』

村雨『だからね、村雨より被害の少ない……時雨を、曳航してあげて』

時雨『村雨……』


夕立『ゃ……』

夕立『やだ! やだやだやだ! そんなの無理に決まってるっぽい!』

夕立『むらさめちゃんを置いていける訳無いっぽい!』

夕立『しらつゆちゃんに続いて、むらさめちゃんまでいなくなったら……夕立……!』

村雨『でもね、夕立。ここでみんな沈んだら……白露が浮かばれないの。
彼女の、白露型駆逐艦一番艦の、曇りなき行動を……無駄にする気?』

夕立『ううう…………そんなの、そんな言い方……卑怯っぽい』

時雨『村雨……ごめん』

村雨『時雨が謝る必要なんて無いわよ? これでいいんです、これで』

夕立『うううううう~~! うあああああああ~~!』




夕立、村雨の曳航を断念。
白露型駆逐艦三番艦・村雨。曳航の甲斐も虚しく夜の海に沈む。




夕立『うわああん! うわああああああーーーーーーーん!』

夕立・時雨の二隻、母港へと帰投。
五十鈴を始めとした多くの艦が沈み、艦隊は解散となった……。



――戦闘海域――


夕立(――思いだせ、あの戦いを。思いだせ、ソロモンの悪夢を)

夕立(夕立には、力が足りなかったっぽい)

夕立(でも今は違うっぽい! もう誰にも……夕立を守らせたりなんかしないっぽい!)

黒潮「!! ……敵艦発見やー!」

木曾「よし、お前達、戦闘準備だ!」

陽炎「了解!」

夕立「ソロモンの悪夢……見せてあげる!」

木曾「……ん? 夕立、お前ちょっと出すぎているぞ……下がれ」

夕立「夕立、突撃するっぽい!」

木曾「おい!」

時雨「夕立!?」



――戦闘開始――




木曾「おい夕立! 聞いてるのか!?」


しらつゆちゃん、むらさめちゃん。


黒潮「なんやのあの子……敵の砲撃の真っ只中に突っ込んで、命が惜しくないんか!?」


夕立こんなにこんなに、


陽炎「な、なんなの……! なんなのよ、あの子……」


強くなったっぽい。


木曾「……驚いたねぇ。こいつぁ、本当に駆逐艦か……?」


これでもう誰も傷つかない。みんな夕立が倒すから。


夕立「……もう終わり? ちょっとつまんないっぽい」


ズドン!


午後3時・水雷戦隊会敵。
駆逐艦夕立が突出するも、夕立は単艦で敵部隊に大打撃を与える。
その後艦隊は有利に戦局を進め、圧倒的な勝利を収めた。


木曾(大した戦闘能力だ。だが、危ういな……)

時雨「夕立! ダメじゃないか勝手に飛び出して……」

夕立「しぐれちゃん! ごめんっぽい!」

時雨「もうこんなことしちゃダメだよ」

夕立「大丈夫、夕立、絶対負けないっぽい!」

時雨「確かに夕立は強いよ。でもこんな無茶な戦い方……」

夕立「足りないっぽい」

時雨「え?」

夕立「敵さん、全然倒し足りないっぽい」

夕立「夕立、もっともっとたくさん敵さん倒したいっぽい!」

時雨「ゆ、夕、立……?」


夕立「足りない足りない足りない! こんなんじゃ足りない!」

夕立「夕立まだまだ強くなれるっぽい!」

時雨「夕立、もうやめてよ……今の夕立見てると、苦しいよ」








夕立「もっとパーティしましょ! 最高に素敵なパーティしましょ!」








NEXT【浮き砲台三人娘 Chapter2】

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          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  めしくってくるでち
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  もしかしたら後一回投下するかもでち

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   まるゆ、コンビニ遠征でち。ファミチキ買ってこいでち
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   まるゆ……あいつは良い奴だったでち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   今はごーやの運となってごーやの中で生き続けているでち
        V`ゥrr-.rュイ人人   
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



【浮き砲台三人娘 Chapter2】


伊勢「あー……暇!」

日向「まぁ……そうなるな」

榛名「榛名は好きですけどね。こうやって何もせずにゆっくりするのは」

榛名「榛名、高速戦艦ですから」

日向「そういう問題か」

伊勢「そっか、榛名は金剛型だもんねー」

榛名「はい!」


日向「……すこしいいか?」

伊勢「ん? どーしたのさ日向~」

日向「榛名……君は金剛型だ。私達伊勢型よりも早く生まれた訳だが……」

日向「その、なんというか……君のほうが歳上なんだよな?」

伊勢「あー……そういえば。榛名ってば日向と違って妹オーラ出てるからさ、
ついつい呼び捨てで呼んでたわ」

日向「悪かったな、妹っぽくなくて」

伊勢「じゃあ今度から榛名さんって呼ばなくちゃね」

榛名「榛名、別にそういうの気にしませんので。今までどおり接していただけると嬉しいです」

伊勢「あ、そう? じゃあこれからもしくよろー榛名」

榛名「はい!」

日向「……私はそんなに妹っぽくないか」


伊勢「よく考えてみると榛名達金剛型は、みんなのお姉ちゃんみたいなもんだよね」

榛名「金剛型は前弩級戦艦や弩級戦艦の先輩方の意志を継いで生まれた、
最初の超弩級戦艦です。前線に立ち、常にみんなを引っ張ってきました」

伊勢「そうだよねー。やっぱ長門とか大和とかこいつら調子乗ってんなーとか
思ったりするの?」

榛名「そんなこと思ったりしませんよ……みんなみんな、頑張ってくれました」



榛名「みんなみんな、本当に頑張りました……」



日向「君は……今まで沢山の艦を見てきたんだな」

榛名「沢山の艦と出会いました。沢山の艦と別れました」

榛名「榛名が今まで大丈夫だったのも、そんな皆さんのお陰なんだと思います」

榛名「勿論、伊勢さんと日向さんにも感謝していますよ」

伊勢「照れるってばー!」

日向「改めて言われると、そうなるな」


榛名「榛名はもう、最後の金剛型となってしまいましたけど……お二人がいたから
榛名はがんばれました」

日向「かつて共に浮き砲台となった仲だからな」

伊勢「そんなかつての三人がこうしてまた浮き砲台になるっていうのはさ
なんか縁みたいなのを感じずにはいられないよね」

日向「いっそ浮き砲台として売り出すか。私達は浮き砲台のプロだ。浮き砲台なら任せろ」

伊勢「再就職には困らないじゃん。日向ってば頭いいなー」

榛名「ふふふ……」

榛名(榛名は、お二方のそういう所に救われたんですよ……)



榛名「そういえば、さっきの話題に戻るんですけど……」

榛名「日向さんがいまいち妹っぽくないのって、多分甘えが見られないからだと
思うんですよ」

日向「あまえ……?」

榛名「日向さんって、とても頼りがいがある方だと思うんですが……
隙がなさすぎるっていうか……」

榛名「もう少し伊勢さんに隙を見せてもいいんじゃないでしょうか
姉妹艦なんですし」

日向「何で私がこんな奴に隙を見せなくてはいけないんだ……
隙を見せることは弱みになる。推奨はできないな」

伊勢「そーゆーところが可愛くないって話なんだよねー」

榛名「いいじゃないですか。姉妹なんだから弱みを見せても」

日向「……やれやれ、一体私にどうしろと言うんだ」

榛名「山城さんが扶桑さんに甘えるみたく、日向さんも甘えればいいんですよ」

日向「あの脳内違法建築の真似をしろというのか……?」

日向「無理だ」


伊勢「もー! たまには妹らしいところ見せてよ日向ー! お姉ちゃんは悲しいよっ」

日向「む……」

日向(お姉ちゃん……お姉ちゃんか。これは妹らしい台詞だ)

日向(そうだ、伊勢をお姉ちゃんと呼んでから抱きつく。これだ)

日向「……おねえちゃん」ダキッ

伊勢「うわっ」

日向「…………」

伊勢「…………」

日向「…………どうだ?」

伊勢「そんな無表情でお姉ちゃんと呼ばれた挙句抱きつかれても……」



伊勢「普通に怖いわ」



日向「よし、死のう」

榛名「日向さん! 早まらないで」


日向「止めるな榛名! これは末代までの恥だ!
護衛艦ひゅうがに申し訳が立たない!」

榛名「可愛かったですよ! 日向さんとっても妹ぽかった!」

日向「……やめてくれ。わかってるんだ自分の愚行は。
……ああ、数秒前の自分に主砲ぶち込みたい」

榛名「伊勢さん! 空気呼んでください!」

伊勢「あー、まぁ、空気読んでも良かったんだけどさ」


伊勢「やっぱ日向はいつもの日向のほうがいいなって……思ってさ」


榛名「伊勢さん……」

日向「伊勢……」






日向「何を良い話で落とそうとしてるんだ?」



護衛艦ひゅうがはひゅうが型護衛艦の一番艦。いせは二番艦。
来世では姉妹が逆転しているので、日向さんは妹らしくないって心配する必要はないのだ。
良かったね、日向さん!

NEXT【番外編 黒き魚雷のデチペジオ ~イムヤ・ノヴァ~】

     , -――---、

    /       丶
   ∥/レ∟||∥|| il  :|  今日はこのへんにしておく。
    | l ┃  ┃.i j |   でち公、ナノマテリアルを回収してきて。
    i 〈 ".  o  "| .l  |  
    | `ゥr、-.rッイ| |/ l
   ∥ / i`父イ i j | _

  >< ̄ 'J ̄ ̄i.ノ ̄ ̄)∋)

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  こっちでもこき使われるでち……。

       ji::〈    ヮ  ;/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

     , -――---、

    /       丶
   ∥/レ∟||∥|| il  :|
    | l ┃  ┃.i j |  きゅーそくせんこー
    i 〈 ".  o  "| .l  |  
    | `ゥr、-.rッイ| |/ l
   ∥ / i`父イ i j | _

  >< ̄ 'J ̄ ̄i.ノ ̄ ̄)∋)

【番外編 黒き魚雷のデチペジオ ~イムヤ・ノヴァ~】


―あらすじ―
鎮守府より新型兵器の極秘輸送任務を命じられたでち公率いる
潜水部隊Bチーム。
しかし目的地に到着する前にでち公共は敵対潜部隊と遭遇してしまう。
抵抗虚しく機能性重視の水着の機能は失われ、イクの魚雷は沈黙する。
薄れゆく意識。でち公は楽しかったあの日々の走馬灯の中を泳いだ。
楽しかったオリョクル。辛かったオリョクル。みんなで頑張り制覇したオリョール海域。
でち公の眼前に浮かぶのは、オリョクルで回収した燃料燃料時々弾薬……。


58「こんなオリョクルだけで人生を終えるのは嫌でち!!」ザバァ

58「……あれ、ごーや、生きてるでち?」


58「ここどこだろ……?」

168「」プカー

58「あっ、イムヤだ」

58「ねーねーイムヤ! 起きてよぉ」

168「はっ! きゅ、急速潜行!?」

58「潜らないでよぉ。 敵はいないよぉ」

168「どういうこと? だって私達……対潜部隊に襲われて……」

58「ごーやも起きたばかりだからわからないでち」

168「とりあえず、他の二人も探さないと……」

58「はっちゃんはわからないけど、イクなら多分そこで浮いてるよぉ」

おっぱい「プカー」

168「なによ、このおっぱい」

58「イクでち」

168「ムカつく巨乳ね。魚雷撃ってもいい?」

19「イクを撃っちゃダメなの!」

58「気がついたようでち」

168「ちっ」


19「一体何なの? ここはどこなのね?」

58「わからないよぉ。妖精さん、ここがどこだかわかる?」

「ワカリマセンネ。少なくとも……我々が元いた海域とは全く異なる場所デス」

168「全く異なる場所って、妖精さんでもわからないような海域なの? ここは」

19「……あー! あそこに艦艇が見えるのね」

58「どうせ水上艦でしょ」

19「輸送艦かも知れないのね! ちょっと現在地を聞いてくるのね」ザブン

168「ちょっと待って。いくら深海棲艦じゃないって言っても、不用意に近づいちゃ……」



――??・艦内――


??「……ソナーに反応あり。不確定のユニット。感三」

??「……? 何だ? タカオのユニットか?」

??「どうでしょうか……」

??「タカオの動きは?」

??「依然、海上を台風の目と共に航行中」

??「妙だな……このユニットの正体がわかるか?」

??「正体不明の艦艇」

??「おいおいちょっと待てって。艦艇? こんな小型の!?」

??「……それは本当なのか?」

??「あれが何なのかは私にはわからない。一つわかるのは、あれが艦艇としての
機能を持っているということだけ」

??「タカオはそういった兵装を持っていたか?」

??「データにはない。でも……」

??「タカオのユニットじゃないと思う、多分」


――名古屋沖海域・台風の目――

??「……妙なのがいるな。感度は……って、確認するまでもないか」

??「401のデコイにしてはおかしいが放っておく理由もない。
何が目的かわからないが――」



タカオ「どちらにせよ、この重巡タカオの虚を突けると思わないことね」



――タカオ、対潜ミサイル発射。

19「うわわわわ! 突然撃ってきたのーー!」



I look across the raging war and feel the steady beating of my heart.



168「だから不用意に近づくなって言ったじゃない!」



――嵐の前の静けさに 刃を振り下ろしてくんだ



168「って、OP入ってる場合じゃないわよ!」

58「でちーーーーー!」



――概念伝達空間――

58「でち?」

19「なのー?」

168「あれ、私達……」

??「あなた達……霧の艦艇ではないの?」

168「誰!?」

イオナ「私は潜水艦イ401。イオナ」

19「せんすいかん、なの?」

58「ごーやたちと一緒でち!」

イオナ「あなた達は……何?」

168「何って……潜水艦よ。というよりここは何なの!?」

イオナ「ここは概念伝達空間。詳しいことは……ググれ」

58「でち!?」

イオナ「簡単に言うと大量の情報を瞬時にやりとりできる空間。
現実における一秒にも満たない」


168「ちょっと待って、現実って、私達……もしかして今襲われてる真っ最中?」

イオナ「大丈夫。現実では一秒も経ってない」

19「とっても便利なのね」

58「これさえあればオリョクル漬けでも休めるでち」

168「そういう問題じゃないでしょ!」

イオナ「それよりもあなた達、本当に潜水艦? それにしては少し……形態がおかしい」

58「ごーやたちは艦娘でち!」

168「帝国海軍の艦艇が生まれ変わった存在。それが私達、艦娘よ
私は伊号潜水艦伊168。イムヤでいいわ」

58「伊58。ごーやだよ! 苦くなんか無いよ!」

19「イク、イクのー!」

イオナ「艦娘……聞いたことがない」

19「あなたは違うのー?」

イオナ「私はメンタルモデル。霧の艦艇を動かす為のコアが時間の概念を得て
自らで考え行動するために生まれたユニット」

168「同じ伊号潜水艦なのに、異なる存在……」


イオナ「一つ聞きたいことがある。あなた達は……敵?」

168「……今襲ってきてるのは、あなた?」

イオナ「違う。あれはタカオ。霧の艦艇の重巡洋艦」

168「霧の艦艇ってのが何かわからないけど、高翌雄は日本の軍艦ではないの?」

イオナ「霧の艦艇はどこの国にも属さない。突如として現れ人類を海域から
駆逐した存在。旧日本海軍の艦艇の名前と姿を借りてはいるけど別物。寧ろ敵。
圧倒的に」

19「じゃあそいつイク達の敵なの! あいつ、突然イク達を撃ってきたのー!」

168「……あなたはどっちなの? 敵なの、味方なの?」

イオナ「私は重巡タカオと敵対してる」

168「そう。じゃあ……ここは、共同戦線といかない?」

58「まずは助けてくだち!」

イオナ「ちょっと待って。群像に聞いてみる」



――霧の艦艇イ401・艦内――

イオナ「群像。正体不明の艦艇とコンタクトが取れた」

群像「……それは本当か? イオナ」

イオナ「かくかくしかじかまるまるうまうまという訳」

群像「……俄には信じ難いな。旧日本海軍の艦艇……その生まれ変わりの存在。艦娘」

僧「人間側からしてみれば、霧の艦隊も十分ぶっ飛んだ存在ですけどね」

杏平「ぶっ飛びすぎだっつーんだよ、ついていけねーぜ」

イオナ「どうする、群像」

群像「……その、"艦娘"達は……我々の敵ではないのだろう?」

イオナ「そう。タカオの攻撃を受けてピンチ」

群像「……なら話は簡単だ。1~3番。音響魚雷発射」

群像「イオナ……その艦娘達には急速潜行後、海底に沈座するよう伝えてくれ」

僧「いいんですか? こちらもタカオにバレますよ」

群像「いいんだ。このイレギュラーを……逆に活かす!」

群像「いおり、ヒュウガからの分捕り品を使うぞ」


――名古屋沖海域・海中――

168「急速潜行後、海底に鎮座ですって!? 一体何をするつもりなの!?」

58「今は言う通りにするしか無いよぉ」

19「あー! あいつ、おっきい対潜ミサイル飛ばしてきたのー!」

168「嘘!? 追ってきてる!?」

58「ごーやの魚雷さんはおりこうさんなのでち!」バシュン

19「イクの魚雷がウズウズするのー!」バシュン

168「密かに確実に沈めるの!」バシュン


潜水艦隊、魚雷発射。タカオの対潜ミサイルを相[ピーーー]。


          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
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        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  面倒な仕様でち……

       ji::〈    ヮ  ;/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><


――名古屋沖海域・海中――

168「急速潜行後、海底に鎮座ですって!? 一体何をするつもりなの!?」

58「今は言う通りにするしか無いよぉ」

19「あー! あいつ、おっきい対潜ミサイル飛ばしてきたのー!」

168「嘘!? 追ってきてる!?」

58「ごーやの魚雷さんはおりこうさんなのでち!」バシュン

19「イクの魚雷がウズウズするのー!」バシュン

168「密かに確実に沈めるの!」バシュン


潜水艦隊、魚雷発射。タカオの対潜ミサイルを相殺す。



――海上――

タカオ「……対潜ミサイルがやられたか。ホント、何なんだこいつら」

タカオ「侮っていた。数を増やすか……?」



キイィィィィィイイイン!!



タカオ「……! 音響魚雷ッ! 401か!」



58「みみみみみみがああああああ!」

168「い、今よ! 急速潜行!」

19「なのね!」


潜水艦隊、イ401の放った音響魚雷の炸裂に乗じて急速潜行。
タカオの探索網から姿をくらます。


タカオ「……私の探知から逃れるなんて……やるじゃない」

タカオ「でも愚かね。401、あなたの位置はもう感知したわ」

タカオ「これで決める……超重力……!」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド…………!


タカオ「……なん、だ……、あれは!?」



――イ401・艦内――

杏平「一隻に見えるように重なってやがった! 発射空間軸タカオを固定!

群像「捕まえたぞ! 仰角マイナス三度!」


群像「超重力砲! うてーーーーーーー!」





イ401。超重力砲を発射。タカオの随伴艦である潜水艦501を破壊す。






――海中――


バシュウウウウウン!


168「な、何なのあれ……」

19「すごいのー」

58「かっこいいでち!」

168「何がなんだか分からないわ……頭が追いつかない」

「168さん、どうやらここは……我々の住む世界とは別の世界のようデス」

168「……えぇ!?」

58「異世界でち!」

19「何だかそんな気はしてたのー!」

168「嘘っ!」



――名古屋沖海域・海上――

群像『……重巡タカオ、聞こえるか? これは警告だ。我々は次の攻撃で貴艦を
撃沈することができる。全機能を停止し、速やかに我が管制下に入られたし』

タカオ「この私に……巡航潜水艦風情の指揮下に入れというの!?」



58「……巡航潜水艦風情とはしつれいでちー!」バシュン



タカオ「!? クラインフィールド展開!」

ドゴン!

タカオ「……稼働率三%。旧式の兵装か。何なのよあんた達は!」

19「これははっちゃんのぶんなのね! そしてこれもはっちゃんのぶんなのね!」バシュンバシュン

168「はっちゃん死んでないって!」

19「そしてその次のぶんもだ! その次の次の次のも! その次の次の次のも次の次も!」

19「はっちゃんのぶんだァーーーーッ! これもこれもこれもこれもこれもこれも!」

バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュン

タカオ「ちょ、痛、やめなさいって! なんなのよもう!」



群像「あれが艦娘……」

イオナ「……群像、どうする?」

群像「タカオのユニオンコアのキーコードを領収。武装をロックしろ」

イオナ「了解」



重巡タカオ。イ401により武装を24時間ロックされた後
イ401艦長・千早群像の勧告により、太平洋へと撤退す。



――イ401・艦内――

群像「……で、君達が伊号潜水艦『伊168』『伊58』『伊19』か?」

58「そうでち! 危ないところを助けてくれてありがとね」

静「……これが本当に、旧日本海軍の艦艇なの……!?」

いおり「なーに、フツーの女の子じゃない」

僧「スク水セーラーの女の子が普通ですか……」

58「機能美にあふれた、提督指定のスクール水着だよ」

群像「……君達は"艦娘"と呼ばれる存在であり、その"深海棲艦"と呼ばれる敵と
戦っている……そういう話で間違いないか?」

168「ええ、そうよ」

群像「……我々は艦娘と呼ばれる存在も、深海棲艦と呼ばれる存在も見たことがない
少なくとも俺達の世界では」

19「イクの世界にも霧の艦隊なんていう連中はいなかったのー!」

群像「そこから導き出される答えは……」

イオナ「お前達はこの世界の住人ではない」


杏平「おいおい……マジで言ってんのか」

「いえ、その認識で間違いありまセン」

いおり「きゃー、何この子、かわいー!」

「我々は妖精……イムヤさん達のクルーデス」

群像「ほう、俺達と同じだな」

僧「スケールはずいぶん違いますけどね」

「この空間の次元座標は我々が元いた場所と多きく異なりマス。何らかの原因で
我々はこの世界へと迷いこんでしまったのデショウ」

群像「……イオナ、わかるか?」

イオナ「対象の残留重力は確かにこの空間軸のものではない」

杏平「マジかよ……」

群像「……君達の話、信じよう」

「話のわかる艦長殿で助かりマス」


群像「それで君達は……これからどうするつもりなんだ」

58「ごーやは元の世界に帰りたいでち」

168「新型兵器の輸送任務の途中だったしね」

僧「何だか、我々と状況が似てますね」

群像「これも何かの縁か……」

58「という訳で、元の世界へ帰る方法、教えてくだちぃ!」

杏平「いやいや、俺達異世界へ行く方法なんてわかんねーぜ?」

19「現実は非情なのね」

168「別に元の世界へ帰る方法を教えてくれなくてもいいわ。でも私達はこの世界のこと
全然わからない。だから暫くの間、私達をここにおいてもらえないかしら?」

群像「……君達には、俺達と敵対するといった意志はないんだな?」

168「疑り深いわね、無いわよ」

群像「……わかった。君達を我がイ401クルーは歓迎しよう」


19「艦長がイケメンで助かったのね」

僧「いいんですか? 艦長」

群像「害はないんだ。それに、艦娘という存在にも興味がある。な、イオナ?」

イオナ「メンタルモデル以外の艦と接触するのは私も初めての体験」

イオナ「こんなへんてこな連中見たこと無い」

58「へ、へんてこーー!?」

19「まぁチャンプルーは伊号潜水艦の中でも特に異質だから仕方ないのね」

58「イクてめぇ……ちょっと工廠裏こいでち」

イオナ「本当……笑わせてくれる」

168(全然笑ってるように見えないけど……)


――こうしてでち公共は霧の潜水艦イ401に同行することになったのである。


19「……そういえばはっちゃんは?」

58「完全に忘れてたでち!」

群像「……ふう、まずは人探しか。イオナ、頼めるか?」

イオナ「いつでもがってん」


その後、潜水艦伊8の捜索を開始した401であったが、伊8が見つかることはなかった。
妖精さん達の摩訶不思議通信機にも全く反応はなく、
彼女はこちらに飛ばされてはいないのではないか? という憶測がなされ捜索は打ち切り。
でち公共は元の世界ではっちゃんが無事でいることを願って、現海域を後にしたのだった。



168「それにしてもおっきいわね……」

58「居住性も良さそうでち。まるゆの奴が見たら泣くでち」

群像「……イオナ。ちょっと頼めるか?」

イオナ「どうした、群像」

群像「あそこのお客さん達に艦内を案内してやってくれないか?
この艦で行動を共にする以上、どこに何があるか知っておいた方が
色々と不便がないだろう」

イオナ「了解した」


168「この潜水艦、私達とはぜんぜん違うのね」

58「同じ伊号潜水艦とは思えないでち」

19「制御システムからしてまるで別物なのね」

イオナ「霧の艦艇と旧帝国海軍の艦艇は別物。比べてはいけない」

19「あ~! イオナなの~!」

イオナ「これから艦内を案内する。ついて来て」

168「わかったわ」

58「でち」


イオナ「ここが作戦会議室。ここであれこれ敵をぶちのめす算段を考える」

168「小さいけど機能的ね」

58「ねえねえ、イオナは晴嵐積んでないでち?」

イオナ「晴嵐。旧帝国海軍所属潜水艦・伊401の格納していた攻撃機」

イオナ「私は伊号潜水艦・伊401とは異なる存在。それは積んでない」

19「やっぱりしおいちゃんとは別人なの」

イオナ「しおい……? それは誰?」

58「伊401の艦娘でち」

イオナ「それは、一度会ってみたい」

19「しおいちゃんは裸族なのね」

イオナ「らぞく……?」

168「余計なことは教えなくていいの!」


イオナ「ここは休憩スペース。食べたり飲んだりできるところ」

イオナ「アニメも見れる」

19「中々快適そうなところなのね」

168「あっ、スマホの充電ここでしていい?」

58「イムヤはスマホ中毒でち」

168「う、うるさいわね……」

イオナ「充電なら勝手にしろ。そこにコンセントが有る」

168「助かるわ」

イオナ「……その端末はこの世界でも使えるの?」



イオナ「ここは機関室。艦艇のあなた達に説明は不要ね」

イオナ2号「せっせっせっせ」

168「な、何よこいつら」

いおり「何って、イオナ2号だけど」

168「えっと、あなたは……」

いおり「四月一日 いおりよ。技術機関担当! 以後よろしくぅ」

19・58・168「よろしくね(なの)(でち)」

58「それでイオナ、こいつらは何でち」

イオナ「これは私の補助ユニット。さすがに私一人じゃ手が足りない」

イオナ2号「ビシィ!」

いおり「この子達すごい働き者よ。それにこの子達がいれば一人でも寂しくないしね」

58「妖精さんみたいなものでちね」

イオナ「それじゃ次に行く」

いおり「じゃあねみんな~。あ、ここには気軽に来てもいいから」

19「わかったの!」


……その後もでち公共はイオナに艦内を隅々まで案内された。

イオナ「ここはトイレ。艦娘はトイレするの?」

168「え、えっとそれは……」

19「イオナはどーなの~?」

イオナ「メンタルモデル、トイレしない。イメージ大事」

168「何のイメージよ……」

その中ででち公達は不思議な潜水艦イオナとの交流を楽しみ。

イオナ「ここは個室区域。あなた達の部屋も勿論用意してる」

58「ほんとでち!? 久しぶりに暖かいお布団で休めるでち……」

イオナ「あなたはどういう生活を送っていたの?」

58「……聞きたいでち?」

イオナ「いや、いい。何か遠慮しとく」

次第に親しみを持つようになったのであった。

イオナ「これは超重力砲」

58「さっきのビームでち!?」

19「やっぱりかっこいいの!」

168「何よ、こんなの潜水艦に積むなんて邪道だわ」

58「ごーやはこれ積みたいでち!」

58「ごーやもビーム撃ちたいでち! ごーや、これほしいでち」

19「イオナ、これちょうだいなのね」

イオナ「無理」

168「そりゃそうよ」


イオナ「……これでひと通り案内したけど、質問は?」

19「はいはーい! オフロは? お風呂はないのね!?」

イオナ「個室にシャワーが備え付けられている。フロはない」

58「えぇ~……ごーや、おふろがいいよぉ……」

イオナ「今度群像に打診しておく」

19「やった!」

168「……ねえイオナ。あなたはどうしてここまで私達に親切にしてくれるの?」

イオナ「親切? 私は群像の言うことに従っているだけ」

イオナ「でもあえて言うなら、異なる存在とはいえ同じ潜水艦と交流するのは初めて
だから、少し、普通の接し方ができないのかもしれない。おかしかったらやめる」

58「やめなくていいよぉ」


19「イオナには同型艦はいないなの? 伊号潜水艦とは違う存在だって言ってたけど
400とか402とかいたりしないなの?」

イオナ「いる。でも霧の艦艇は基本的に人類の敵。そして人類に味方する私は
彼女達霧の敵」

イオナ「同型艦どころか、他のメンタルモデルと交流したこともろくに無い」

168「そうだったの……」

58「じゃあごーや達がイオナのお友達になるでち!」

イオナ「おと、もだち?」

19「楽しいことを共有する仲間なのね!」

イオナ「……いいの?」

168「何よ、私じゃ不満だっていうの?」

イオナ「そんなことはない。友達……潜水艦の友達は初めて」

ごーや「なら決まりでち! イオナとごーやは無敵のコンビでち!」

イオナ「……くす。やっぱりあなた達は面白い」



こうしてイオナに新しい友達ができた。彼女達はつかの間の平穏を楽しみ、
友好を深めていくのであった……。



――何処かの海域――


??「……タカオが出奔したか。一体何を考えているのか」

??「肉体の限界が思考を産み、思考が事故を形成するというメリットは理解できたが」

??「これがもたらすデメリットもまた、看過できないもの」

??「……イ401。やはり奴は危険だ」




コンゴウ「そろそろこの私が直々に手を下してやらなくてはならないだろうか……?」




――to be continue……。


          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|   ケッコンカッコカリで忙しいから
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   今日はここで一旦切るでち。
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   もちろんここにいるてーとくは
        V`ゥrr-.rュイ人人   ごーやとケッコンカッコカリするでちね?
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



                _ _
             x /      ヽxx
              爻爻L」L」L」| 爻爻
              ^| |TT TT | |ツ  
             | ト __ .ィ| |
             | |に:{{_}}|こ)
             |//⌒/⌒/ /:ヽ
             ( つ に二 く:.:.:.|
               /:.:.:./:.:.:.:ハ.:.:.ヽノ
           /:.:.:./:.:.:.:/:.ハ.:.:.:.)

              ー=ー=一ー―’

[一昨日からずっと出番を待っているコンゴウさんの図]


――横須賀港――


静「ここが……艦長の育った街なんだ……」

58「横須賀もずいぶん風変わりしたんだね」

杏平「霧の連中が攻めてきたからな……まぁ、お前達の世界の横須賀が
どんなのかは知らないけどよ」

僧「港湾管制局のビーコンに乗りました」

群像「ビーコン確認。イオナ、任せたぞ」

イオナ「任せろ」

19「イオナ、一人でこの艦を動かせるのー? すごいのー!」

イオナ「それほどでもない」

杏平「ま、今は俺達も操縦に加わってるけどな」

58「なんかこの人あんまり役に立たなそうな顔してるでち」

杏平「はぁー!?」

58「かんちょうは凄く有能そうな顔してるでち」

杏平「イケメンか! イケメンだからか! 所詮俺は三枚目かぁーー!?」



イ401クルーはタカオ戦で消費した物資を補給する為、横須賀港へと寄った。
艦長・千早群像らの故郷ということもあり気分も高翌揚する一行。
しかしここにもまた、沢山の思惑が渦巻き、彼らを待ち構えていたのだった。


――横須賀・地下ドック――


熊代「私どもがここで貴艦の保守点検作業をさせていただきます。
現場監督の熊代です。よろしくお願いします」

熊代「お疲れでしょう。ここは我々に任せてゆっくりしてください!」

群像「よろしくお願いします」

群像「……それじゃあ、俺は少し用事がある。みんなはゆっくりしててくれ」

いおり「おっけー艦長!」

168「……何だか、私達すごく見られてるような気がするわ」

イオナ「イ401のクルーは有名人。自然と視線も集まる」

杏平「いや、そういうことじゃないと思うぜ……」

僧(スク水セーラーは……やはりあざといですね)

イオナ「何かよう?」

58「イオナはその、霧の艦艇でちね?」

イオナ「そう」

58「霧の艦艇は人類の敵なのに、イオナは何で人間に味方するでち?」

イオナ「わからない……」

168「わからないの?」

イオナ「私は群像のふね。群像の為に働く。それだけ」

19「イオナは一途なのね」

杏平「お前らも戦ってんだろ? その……深海棲艦とかいう連中と」

168「そうよ」

イオナ「あなた達は何の為に戦うの?」


168「それは……なんでだろ? それが私達の存在理由だから?」

58「ごーやたちもよくわかんないでち!」

19「でも、深海棲艦は悪い奴らなの。放ってはおけないのね」


静「誰も皆、戦いたくて戦い始めるわけじゃない……」

静「いつの間にか巻き込まれているんだ……」


杏平「そうだな……まぁ俺は今の生活嫌いじゃねえが、平和に勝るもんは無いって思うぜ」

58「この世界もごーや達の世界も、早く平和になってほしいでち」

イオナ「……ところで、あなたはなぜそんな語尾で話すの?」

58「でち!?」




「おい! お前らなんだ!? や、やめろ!」

杏平「なんだ……?」

「……イ401のクルーだな? ご同行よろしいか?」




58「あれ……イオナー。なんかみんないかついおっさんたちに
連れてかれちゃったよぉ」

168「ちょっと、大丈夫なの?」

イオナ「ん、問題ない。座して待て」

19「座して待つのね!」



――15分経過。

19「まだ帰ってこないのね」

168「まぁ、それなりの用事があるんでしょ……」

58「でちでち」

イオナ「でち……?」

――30分経過。

19「遅いのー……」

168「何をやってるのかしらね……」

58「でっちでち」

イオナ「でっちでち」


―― 一時間経過。

168「さすがにちょっと心配になってきたわ。明らかにあやしいおっさんだったし」

168「ねえイオ……」

58「でちでちでちでちでちでちでち!」

イオナ「でちでちでちでちでちでちでち!」

168「ああもう、うるさい!」

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
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        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
なんやかんやあって群像達は北代議士とかいう意地悪爺さんに捕まってしまうでち。

でもなんかこの爺さん原作だとそこまで意地悪じゃなかったでち。
アニメだと意地悪だったでち。メディアの違いを理解しろということでちね……。
そんな訳で群像達は北代議士とギスギスしたお食事会に招待されるでち。
そこで北代議士はイオナを政府に返還しろと要求するでち。
当然群像は要求を拒否するでち。交渉決裂でちね。
そしてそれと時同じくして、"アレ"がやってくるでち。


ということでキンクリでち。


※詳しく内容を知りたい人はヤングキングアワーズ連載で現在発売中の
『蒼き鋼のアルペジオ』の単行本1~8巻、
もしくはアニメ『蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-』
のブルーレイ/DVDを買おう!


――数時間後。



――横須賀港前海域――


「き、霧の大戦艦……二隻いるぞ!」


キリシマ「……気付かれたよ、ハルナ」

ハルナ「…………ああ、そうだね」

キリシマ「さて、これからどうしようか」

キリシマ「まずは中に入れてもらわないと……門を開けてくれるといいんだけど
そうも行かないみたいだし」

ゴゴゴゴゴゴ……

キリシマ「手加減はしないと。コンゴウは許してくれてもヤマトに怒られる」


ズドオォォォン!!


霧の大戦艦ハルナ・キリシマ、横須賀港に向けて砲撃。

キリシマ「17年ぶりだね人類の皆さん。このハルナとキリシマが
401に会わせてもらいに来たよ」

ハルナ「……きたよ」


――横須賀港・地下ドック――

群像『待たせたなイオナ』

イオナ「おそい」

イオナの元に長らく姿を消していた千早群像から連絡が来た。
一体何があったのだろうか?

群像『すまん迎えに来てくれないか? 場所は……』

イオナ「わかった。その方法で行く」


イオナ「……クラインフィールド展開」フォン


168「出港するみたいよ」

58「ごーやたちも出撃するでち」

19「なのね!」

イオナ「三人は先に群像のところへ行って。陸路で」

58「え、どうしてでち?」

イオナ「行けば群像が説明してくれる」

イオナ「とりあえずこれをもっておけ」ゴトン

168「なによこれ、魚雷? ねえ!」

イオナ「お世話になりました。出港します」ビシィ!

168「ちょっと!」



イオナ「――さぁ、イ400型の戦い、始める」


潜水艦イ401、出撃。


――横須賀海域海上――


キリシマ「さて、401はどこから出てくるかな……」

ハルナ「第一第三ゲート。海中出港口の可能性もあり」

キリシマ「ハルナは第三の方。私は第一の方を巡回する」

ハルナ「了解」


ズズズズズズズ……


ハルナ・キリシマ「!」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド!


潜水艦イ401。霧の艦艇との戦闘を開始。
イ401。大量の火器を放った後……


キイィィィィン!



音響魚雷に乗じて潜行!



ハルナ「……401ロスト」

イ401、霧の艦艇の探知を外れ、姿をくらます。

キリシマ「……いいだろう、狩りだしてやる」


――慰霊塔前――


杏平「……で、俺達はここでひたすら待つって?」

群像「上手く行けば、イオナはここに来る」

群像「……これから来る三人次第だが」

58「かんちょー!」

群像「……来たか」

168「ちょっとどういうことよ! 突然いなくなったと思ったら
何だか戦闘みたいなのが発生してるし!」

群像「君達にこんなことを頼むのは非常に心苦しいんだが、事は急を要する。
だから手短に言おう」

群像「君達……艦娘の力を貸してくれないか?」

19「なのー?」

58「ご、ごーや達の……でちか?」


群像「今、イオナは霧の大戦艦級二隻と交戦状態にある」

168「戦艦……!」

群像「俺達は何としてでもイオナと合流したい。そこでだ」


168「私達が敵をひきつければいいのね」


群像「……理解が早くて助かる」

58「一宿一飯の恩義もあるでち。それぐらいおまかせくだち!」

いおり「わるいわね、あんたたちみたいなちっさいのを戦いに巻き込んで」

168「艦娘を甘く見ないでよね。霧の軍勢なんかに遅れは取らないんだから!」

群像「そして敵を引きつけるだけじゃない。寧ろこっちのほうが本題だ」

群像「この作戦においてかなり重要な役回りをしてもらうが……大丈夫か?」

58「かんちょう、ごーや達に任せてよ!」

168「艦娘をなめないでよね!」

19「イク、頑張っちゃうのね!」


群像「そうか……よし、じゃあ作戦の概要を説明する!」



――横須賀・海中――


58「わぁ、戦艦三笠だよアレ」

19「凄いのね~」

168「全く呑気なんだから。はぁ……まさかこんなことになるなんて」


群像達と別れたでち公共は"作戦"を遂行すべく横須賀の海に潜っていた。


19「イクの魚雷がウズウズしてきたのー!」

「でもイクさん。こちらの兵器は霧の艦艇には効きませんよ」

168「敵を引きつける事はできるわ」

168「伊号潜水艦の力、見せてあげる!」



――横須賀・海上――


ハルナ「……何か、ちっこいのがいる」

キリシマ「私のセンサーには引っかかってないが?」

ハルナ「何か特殊な装甲(スク水)を纏っている。データを送る」

キリシマ「……なんだぁ? こいつら、人間じゃないみたいだが……」

ハルナ「人型の……艦艇」

キリシマ「メンタルモデル……じゃあ、無いみたいだな。新型の兵器か?」

ハルナ「わからない……どうする?」

キリシマ「401が先だ」



168「で、どうするの? 霧の艦艇を引きつけるって言っても……」

58「ごーやのとっておきを使うでち!」

168「まさか、回……」

58「ちがうよぉー!」

58「てーとくにもらった、53cm艦首(酸素)魚雷でち!」

19「こっちは晴嵐なのー! しおいちゃんから借りてたのね!」

168「あっ、ずるい! 潜水空母だからってそんなの積んじゃって!」

19「これを使って、奇襲を仕掛けるのね!」

168「わかったわ。いくわよ!」

58「でち!」





ハルナ「……一隻、浮上する」

キリシマ「何をするつもりだ?」


19「晴嵐はともだちなのね!」バシャン


伊19、急浮上。晴嵐を飛ばし霧の艦艇を急襲。


ドゴオオオオオオオオオオオオン!


キリシマ「こっちは魚雷かっ」

同時に伊58、53cm艦首(酸素)魚雷を発射。
しかし霧の艦艇にダメージは見られない。



――海中――


イオナ「……始まった。機関ステルスモード始動」

イオナ「……いや、これだけうるさいなら急いでも大丈夫でち」



168「魚雷1番から4番装填! さぁ、戦果を上げてらっしゃい!」


伊168、霧の艦艇に向けて魚雷発射。海中をかき乱す。


ハルナ「海中騒音レベル最大。ソナー感度ごく低下」

ハルナ「401探知不能」

キリシマ「クククク……それが狙いか」

キリシマ「いいだろう……あの騒がしい奴等から沈める!」




――慰霊塔前――


群像「イオナは80ノットでこちらに向かっている。もう来るぞ」


ゴオォォォォォォォォ……


イオナ「おまたせでち」

群像「遅いでち!」

杏平「お前ら、でち公の語尾伝染ってるぞ」



――海上――


キリシマ「……旧型の水上機。連中、おかしなものをもってるな」

ハルナ「姿は旧日本海軍の水上機『晴嵐』。だけど性能はぜんぜん違う」

キリシマ「うっとおしいね。黙らせようか」


霧の大戦艦・キリシマ、対空ミサイルを発射。




――海中――


19「!? 晴嵐……撃墜されたのね!」

168「嘘!? こんなに早く!?」

58「酸素魚雷……もう一発いくでち!」




ハルナ「……ソナーに反応あり。パターンからして魚雷だけど……どうする?」

キリシマ「いいや。こいつらと遊ぶのはもう飽きた」

キリシマ「……驚け」


霧の大戦艦・キリシマ、海中に超圧力の衝撃波を発生させる。






――海中――








58「でち!?」中破!

   168「嘘!?」中破!

      19「なの!?」中破!



58「て~とく指定の、スクール水着がぁ!」

168「どうしよっ! まだ予定の半分しか時間を稼げてないじゃない!」

19「イク達、大ピンチなのね!」



キリシマ「――さて、そろそろ終わらせるか。大戦艦級の火力にひれ伏すがいい」


バシュン! バリバリバリバリ……


キリシマ「!?」

ハルナ「侵食魚雷! クラインフィールド制御開始!」


霧の艦艇、侵食魚雷の攻撃を受ける。


キリシマ「……気付かなかった!?」

キリシマ「401の奴か……やってくれるじゃあないか!」




――イ401・艦内――


静「キリシマ、ハルナ。回頭を開始」

群像「イオナ。深度は任せる。海底を這え」

イオナ「這う」

群像「――これからは俺達の番だ。艦娘達を逃がすぞ」



――海中――


19「イオナ達、きたのー!」

168「た、助かったぁ」

58「ごーやたちは退避するでち!」

168「そうね……来るべき"機会"に備えて」




――海上――


キリシマ「ハルナ。今コンゴウから通信があった」

キリシマ「グズグズしていたらコンゴウが到着するよ! 我々の手で決着をつける!」


キイィィィィィィィィィィィィィン!


イ401、音響魚雷を発射。


キリシマ「またか! 小賢しいことをする!」

ハルナ「音響魚雷によりソナー感度低下。重視力センサー反応ゼロ」

キリシマ「エンジンを切ったか……」

キリシマ「……ここは一つ、頭を使ってみるかね」





――海中――


168「ここでいいかしら?」

58「イク、早くするでち」

19「だってぇこの魚雷重いのー!」




――イ401・艦内――


イオナ「ん、もう一隻来る。コンゴウかな」

杏平「いよいよ『黒の艦隊』のおでましか~」

群像「どれくらいで到着しそうだ?」

イオナ「45分以内」

僧「……グズグズしてるともう一隻増えるということですか」

群像「どこからの情報だ?」

イオナ「共同戦術領域にアップロードされた」

群像「……悪くない兆候だ。故意にリークしてきたということは」

僧「敵も焦っているということですね」


群像「……よし、手筈通りフェーズ2に移行する!」




――海上――


ドオォォォーーーン!


イ401。通常弾頭と共に侵食魚雷を発射。


ハルナ「!! ……通常弾頭に混じって侵食魚雷。クラインフィールド!」

キリシマ「慌てるな! 直撃はしないさ」

結果的にダメージを与えることはできなかったが、
霧の艦艇二隻に精神的な揺さぶりをかける。

ハルナ「……401、海底建築群の中に進入」

キリシマ「ククク……我々二隻が遊ばれているよ、ハルナ」

キリシマ「すごいな、401は! こんな楽しいことは初めてだ!」

キリシマ「奴は私の手で沈める! 絶対にだ!」



霧の艦艇、圧倒的多数の魚雷を発射!





――イ401・艦内――


静「魚雷発射音多数! 三連射を確認! 数60以上!」

杏平「大戦艦級はとんでもねえことするな!」

群像「うろたえる必要はない。作戦通りに行けば勝機はある。全員ショックに備えろ」

群像「艦固定! 絶対に動くなよ!」



――海中――


19「うわわ! なんなのね!? あのでたらめな数のミサイル!」

168「こんなの反則じゃない……」

58「……侵食魚雷の準備をするでち」

19・168「!!」




――海上――


キリシマ「……ふん。この程度で沈むわけがない。ガレキに埋もれてるはずだ」

キリシマ「そしてそこから脱しようともがき苦しみ始めた時が、貴様らの最後だよ」

ハルナ「……重力子機関最大出力波を確認! キリシマ……!」

キリシマ「! ……ハルナ、グズグズしているとコンゴウが来る! "あれ"をやるぞ!」


ズオォォォォォォォ………!



168「嘘! 海が……割れてる!?」




キリシマ「捕まえたよ、401」



――イ401艦内――


静「キリシマ・ハルナ、機関音上昇!」

群像「餌にかかったか……ガレキの重さにもがいているように見せかけろ!」

イオナ「夜もひと踏ん張り。頑張ってもいい?」





――海上――


キリシマ「ガレキが邪魔だろ! 吹き飛ばしてあげるよ!」


霧の大戦艦、ハルナ・キリシマ。超重力砲でイ401をロック。
401の機体を浮上させる。




――イ401・艦内――


群像「兵装以外で使っていない部位への部位へのエネルギー供給を全面的にカット!」

群像「正念場だぞ!」

杏平「!? あいつら……合体してやがる!」

群像「慌てるな! 二隻とも沈めるチャンスが来たと思え!」

杏平「やる気だよ……この人」

群像「イオナ! 艦娘達にデータを転送!」

イオナ「がってん」



「58さん、イ401から観測データがきました」

「超重力砲を発射するときには発射する方向のクラインフィールドを
開放しなければならない」

58「……そこを狙うの?」

「ハイ!」

58「予定通り、イオナから諸元データが来たら発射でち」

168「なによ、こんな時だけ偉そうにしちゃって」

19「イクの……イクの侵食魚雷がウズウズするのー!」



霧の大戦艦二隻のロックに全力で抵抗するイ401。
しかし無常にも船体は浮き上がり、超重力砲の照準に入ってしまう。

キリシマ「ふふふ……そうだ、もがき苦しめ!」

ハルナ「超重力砲……発射するよ!」





――401より発射角諸元データきまシタ!――





58「……おりこうさん侵食魚雷、発射でち!」


バシュン!


静「……伊58、侵食魚雷発射音!」

群像「牽制弾幕発射!」


バシュウウウウン!


ハルナ「また侵食魚雷が混じってる」

キリシマ「ふん! その手はもう食わないよ!」

ハルナ「縮退臨界!」

キリシマ「終わりだ、401!!」


バシュン!


キリシマ「!!」

ハルナ「!!」





”伊58”の放った侵食魚雷、霧の艦艇に命中。



ハルナ「クラインフィールド緊急展開!」

キリシマ「くそ! フィールド展開演算が、間に、合わ……!」

ハルナ「侵食反作用計算が……間に合わない、壊れちゃうよ、私達……」



群像「――畳み掛けるぞ! 全力左舷回頭! Feuer!」



霧の大戦艦二隻。イ401の攻撃により……消滅。




――戦闘終了――



――横須賀海域・海上――


イオナ「みんな……霧の大戦艦二隻は……」

58「ごくり」

イオナ「見事、撃破した」

19「や……」


でち公共「やったーーーーーー!!」


58「やったでち! やったでちーー!」

イオナ「あまりだきつかれると、苦しい」

19「ちゃんぷるーの魚雷が仕事したのね!」

168「これくらい、大したこと無いんだから!」




群像「お疲れ様。今回の作戦は君達の協力あってこそだ。感謝する」

19「かんちょうってば、照れるのね~」

杏平「しっかし、本当に霧の大戦艦二隻をやっつけちまうとはなぁ」

いおり「大したもんだね、おチビちゃん達!」

58「ちっちゃくないよぉー」

19「今日はお祝いチャンプルーなのね」

58「苦くないよぉ」

群像「それじゃあ、我が母港の硫黄島に凱旋とまいろうか」

58「早く帰って休むでち」

イオナ「私は帰って『ハイソニックミクちゃん』を見る」

19「なぁにそれ? イクも見るのー!」



168「うーん……何か忘れているような……」



霧の大戦艦二隻を打ち破ったイ401クルーとでち公達。
しかし彼らの先にはまだ更なる敵が待ち受けているぞ!
負けるなイ401クルー!
そしてすっかり馴染んでしまったでち公達は
元の世界に戻るという目的を思いだすことができるのか!?
次回も波乱の展開がでち公度もを襲う!


――??海域――


コンゴウ「ここはどこだ?」

深海棲艦達「…………」

コンゴウ[何だこいつらは]

コンゴウ「……おい、マヤ。聞こえているのか?」

コンゴウ「マヤ! マヤ! ああこの際ヤマトでもいい!」

コンゴウ「…………」

コンゴウ「……だ、だれかぁ~」





~next stage_mist fleet final operation "E3"~





NEXT【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter2】

     , -――---、

    /       丶
   ∥/レ∟||∥|| il  :|
    | l ┃  ┃.i j |   お疲れ様。今回でごーや編は終了なの。
    i 〈 ".  o  "| .l  |  
    | `ゥr、-.rッイ| |/ l
   ∥ / i`父イ i j | _

  >< ̄ 'J ̄ ̄i.ノ ̄ ̄)∋)

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  え、これで終わりでち……?

       ji::〈    ヮ  ;/::::::|
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><


白鯨……? 知らない子ですね。

    ドッカン
                 ドッカン
                           ☆ゴガギーン
                .______ /
 .              .|    |    |

  __       ___.|    |    |     ,.r-=
  ゝ_ヽ|-|――-./ __∠|    |    |    (( -――-.(ソ
 /_/:::::::::::::::::::::::丶_ \    |    |  /::::::::::::::::::::::゚丶

  ̄∥::::::::::::;:::::::::::::::::::|  ̄|.     |    | /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ノ|::::::::::::::::::::::::::::::::::j   |    .|    | 〈|::::l ┃三┃`-!:::::j < 鯖を破壊するでち! 復旧させてはならないでち!
 / iヾ::::::::::::i:::::::::::::::::|    |    ロ|ロ    .| ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   \___________
  ,ノノ`ゥrr-.rュイ入::ゝ  .|    .|    |  V`ゥrr-.rュイ人人

 〃   | (   :) i | ヾゝ_|    .|    |   ,/1::ー:'::! i
 >< ̄ ̄ ̄ ̄ i.ノ ̄ ̄ )::::::)    |    |( ̄) ̄ ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
    (  ̄  ̄ / ̄ ̄ ̄ ̄|    .|    |.  ̄⊂ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄

     し' ̄し'      └──┴──┘     ̄ ̄∪


【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter2】


――うそ、でしょ?


「そんなはずはない。あそこには二航戦の子達がいたはず。
あの子達が負けるはずが……」

「あそこは落ちたんだ」

「もしかしたら、生き残ってるかもしれない……!」

「生き残りは、この前来た雪風だけだ」


「彼女達はもう……」



――泊地内・食堂――


赤城「加賀さん。今夜、炙りボーキでもどう?」

加賀「ありがたいお誘いですけど……今日のところは遠慮させていただきます」

赤城「何かご用事かしら?」

加賀「いえ、今日はそういう気分になれなくて。すみません」

赤城「そう……わかったわ。また今度にしましょう」

加賀「はい。それでは、失礼します」


瑞鶴「…………」

翔鶴「あら、どうしたの瑞鶴?」

瑞鶴「いや、あいつなんか……最近元気ないなって」

翔鶴「いつもと……同じように見えたけど」

赤城「……鋭いわね、瑞鶴ちゃん」


瑞鶴「赤城さん?」

赤城「加賀さんはああ見えてメンタル弱いのよ、決して表には出さないけど」

瑞鶴「あいつ……どうしてあんなに落ち込んでるんですか?」

赤城「……これを言ってもいいものか、わからないけれど……まぁいずれわかることか」

赤城「実はね……南前線の泊地が、落ちたのよ」

瑞鶴「!!」

翔鶴「え……?」

赤城「立ち話も何だし、座って話しましょう」



赤城「どんぶりめしって侘び寂びよねー」

瑞鶴「そんなことより赤城さん。泊地が落ちたって……!」

赤城「……ああそうそう。先日の深海棲艦の攻撃でね、落ちたみたいなの。
これはまだ一部の艦娘にしか知らされていないんだけどね」

赤城「あそこには私や加賀さんと共にミッドウェーに臨んだ二航戦の子達がいた……」

翔鶴「生き残りは……?」

赤城「この前、駆逐艦の雪風って子が来たでしょ? あの子だけよ」

瑞鶴「じゃあ、二航戦の人達とかは……」

赤城「……お察しのとおりよ。まぁ、戦いですからね。いつか戦闘で命を落とす
こともありましょう」

翔鶴「赤城さんは……お強いのですね」

赤城「私がうじうじしていたら皆を守ることができませんから。
一航戦の誇りにかけてもそのようなことはできません」

赤城「だけど……加賀さんは私ほど割りきれてはいないのよ」

瑞鶴「あいつ……」

赤城「今日も何とかして元気をだしてもらおうと思ったんだけど、ダメね」

翔鶴「仕方がないですよ……私も今聞いて、とてもショックを受けました」

赤城「でもきっと、加賀さんはあなた方とは比べ物にならない程ショックを受けているはずよ」



瑞鶴「……ちょっと、あいつに会ってくる」



――空母用射的演習場――


加賀「ふっ」

ストン!

加賀「……狙いが上手く定まらないわね」

加賀(……動揺しているのかしら、私)

加賀「蒼龍も飛龍も、戦う為に生まれてきた。戦いで沈むことは
何らおかしなことはない。それは仕方のないこと。なのに、私は……」

加賀「情けない、こんなことで心を乱すなんて」



「……こんなことって、あんた本気でそんなこと思ってんの……?」



加賀「……あら、五航戦が何かしら」

瑞鶴「……仲間だったんでしょ。それを、本当に"こんなこと"で片付けられるの?」

加賀「いきなり何を言うかと思えば。五航戦の子には関係のないことよ」

瑞鶴「……あんたはいっつもそう。外面ばかり気にしてさ。
戦う為に生まれてきた? 戦いで沈むことは仕方のないこと?
ふざけんじゃ無いわよ!」

瑞鶴「自分の気持ちを否定してまで強がってどうするのよ!
悲しんだっていいじゃない! 沈んでほしくなかったって、
嘆いたっていいじゃない!」

加賀「あなたに……」




加賀「あなたに私達の何がわかるの……!」




瑞鶴「ッ……!」

加賀「私は彼女達の死を受け入れたわ。でも感情に流されて匹夫の勇に走るのは
愚かなこと……」

加賀「五航戦のあなたと一緒にしないで」

瑞鶴「ぐっ……!」

加賀「……失礼するわ」





赤城「加賀さん……」

加賀「あら赤城さん。私の顔に何か?」

赤城「……あなた、ひどい顔してるわよ」

加賀「そう……」

赤城「加賀さん。あなた、本当に彼女達の死を受け入れたの?」

加賀「……当然です」

赤城「なら、何で……雪風ちゃんに彼女達の最期を聞きに行かないの?」

加賀「……それは、必要なこと?」

赤城「死と向き合うということは、そういうことよ」

加賀「無駄な感傷は、無駄な思考を産み、無駄な行動を引き起こします」

加賀「彼女達は死んだ。それがわかれば十分です」

赤城(わかってないじゃない……あなたはまだ、どこかで実感できていない)

赤城(彼女達の……死を)



日向「今度の海戦は航空戦が主体となるらしいな。まさかの航空戦艦の時代か」

熊野「いえ、航空巡洋艦の時代ですわ」

瑞鳳「軽空母の時代だもん」

伊勢「ちょっとちょっと日向さぁ、航空戦艦だって浮かれるのはいいけど
今も敵の大軍勢が侵攻して来てるんだよ?」

日向「今度の戦いは大規模な物になるだろうな。だが心配はいらない
艦載機を放って突撃する無敵の航空戦艦の前に敵はない」

最上「早く瑞雲バンバン飛ばして、三隈にみやげ話を持ち帰りたいなぁ」

伊勢(その航空戦力が、この前大きな打撃を受けてるんだけど……
みんな浮かれ過ぎじゃない?)

伊勢(何か、嫌な予感するんだよね……)




――泊地・通路――


瑞鶴「何よ、あいつ……」

瑞鶴(そりゃ、五航戦はミッドウェーに参加できなかったけど……
あんな言い方ないじゃない)

瑞鶴「……ん?」

雪風「えっと、えっと~……」

瑞鶴「あれ、あの子は確か……」

瑞鶴(唯一の生き残り……雪風)

瑞鶴「……どうしたのあなた、こんなところでウロウロして」

雪風「ふぇ、あの……雪風、道に迷ってしまって……」

瑞鶴「あなた、まだこの泊地に来て日が短いものね……」

瑞鶴「どこに行きたいの?」

雪風「えっと、加賀さんの部屋です!」

瑞鶴「!! ……どうして加賀さんの部屋に?」

雪風「雪風は、加賀さんにお伝えしなくてはならないことがあるのです」

瑞鶴「……それって、二航戦の方々のこと?」

雪風「ご存知でしたか……」


瑞鶴「ちょっと、話をしても……いい?」



雪風「私にお話できることでしたら、何でも聞いてください。あの……」

瑞鶴「五航戦の瑞鶴よ。加賀さんとはまぁ、ライバルみたいなもんかな?」

雪風「瑞鶴さんですか……かの、幸運の空母とよばれた!」

瑞鶴「あなたの幸運にはかなわないわよ。それより……」

瑞鶴「……少し辛いかもしれないけど、あの日のことを聞かせて欲しいの
彼女達が沈んだ、運命の日のことを……」

雪風「……わかりました」



雪風「……雪風達は、後退する戦況を打開しようと敵主力艦隊の奇襲に
向かったのです。ですが……」



――――――
―――



――深海棲艦支配海域・深部――


菊月『くそ……夕月もやられた……! このままじゃ艦隊は……!』

蒼龍『何でこっちの動きが……!?』

飛龍『わからないけど、こうなった以上やるしかありません!』

筑摩『索敵機の応答、ありません! まさか……!』

名取『ふえぇ……索敵ががら空きだったの!?』

卯月『マジパないぴょん!』

雪風『艦隊は……雪風がお守りします!!』


戦力は十分な筈でした。ですが、筑摩さんの索敵が結果として仇となってしまって……。



名取『あ、あぁ、ぁ……すみませんっ……名取もう……逝きます』

名取『みなさん、どうかご武運を……』




午後3時 軽巡洋艦・名取 沈没。





菊月『卯月……後のことは任せる』

卯月『らしくないぴょん……いつもみたいにカッコつけるぴょん……』

菊月『……ここが、私の墓場、か……今度はちゃんと沈めるんだな
……この、暖かな海に』




午後3時20分 駆逐艦・菊月 沈没。





――そして、午後4時10分。


筑摩『敵機多数接近! 迎撃してください!』

飛龍『くっ……いくらこちらの練度が高くても、数が多すぎる! ギリギリまで粘って……!』

蒼龍『飛龍!』

飛龍『……ぇ?』



航空母艦・飛龍、敵爆撃機の急降下爆撃を受ける。



雪風『!』

飛龍『……誘爆っ……まにあわな……』

蒼龍『飛龍!』

飛龍『……ごめん蒼龍……先、いくわ』

蒼龍『やだやだ何言ってるのよ! 雪風、消火を補助して!』

雪風『は、はい!』

飛龍『その必要はないわよ、自分のことは自分が一番良くわかってる……』

蒼龍『飛龍……!』

飛龍『……これじゃあ加賀さん達との約束、守れそうにないわね』

蒼龍『何言ってるのよこんな時に!』

飛龍『ああ、悔しいね……最後の一艦になっても、戦うつもりだったのに』

蒼龍『飛龍……!』


飛龍『……雷撃処分、お願いします』






航空母艦・飛龍。航行不能。駆逐艦卯月により雷撃処分。






蒼龍『……飛龍、あなたは……ミッドウェーで私達の仇を取ってくれた』

蒼龍『今度は……私があなたの仇を取る番です!』

蒼龍『みんな! 敵に一矢報います! ついて来て!』

筑摩『お伴します!』

卯月『バカばっかりぴょん……』

雪風『雪風もお伴します!』



私達は最後の攻勢に打って出ました。でも結果は……



蒼龍『うぅ……なんでまた甲板に被弾なのよ……!』

筑摩『筑摩、突撃します! ……みなさん、お達者で!』

卯月『ついてくぴょん。一人じゃ荷が重いでしょ? ……雪風! 後は
頼んだぴょん!』





卯月『みんな! ……桜の丘で、また会おう!』






雪風『筑摩さん……卯月ちゃん……!』

蒼龍『……あなた方の勇姿、決して忘れません』

雪風『みんな……どうして……!』

蒼龍『……雪風、もうこの艦隊は壊滅するわ』

蒼龍『あなたには泊地にこのことを伝えて欲しいんだけど』

雪風『そんな……蒼龍さ』

蒼龍『……!』



ドゴォーーーーーーーン!



航空母艦・蒼龍。敵の第二攻撃隊・対艦攻撃機により深刻なダメージを受ける。


雪風『あ……』

蒼龍『なんの、これしき!』

雪風『もう無理ですッ! やめてください……!』

『二航戦の搭乗員をなめないで頂きたい! 蒼龍さん、俺達はいつでも行けますぜ!』

蒼龍『そう……、目標・敵深海棲艦の姫……でかいの、一発お見舞い、して……』ヒュッ


『了解! 攻撃隊発艦する!』ブウゥゥゥン



蒼龍『……これでなんとか、飛龍達の弔い、になれば、いいけど……』

雪風『蒼龍さん……』

蒼龍『そうだ……雪風、これ、持っていって』

雪風『これは……?』

蒼龍『間宮の、無料引換券。この前、MVP取った時もらった、んだけど
……もう使えないから』

蒼龍『それに、飛龍も、嘆いてたし、ね……加賀さんに間宮、おごるって約束の、こと』

蒼龍『でもこれで……約束は、果たせた、ね。飛龍』

雪風『雪風は……雪風は!』

蒼龍『じゃあね雪風。頼んだわ、よ』



――航空母艦・蒼龍。雪風に後を託し、沈没。



この海戦は私達の圧倒的大敗北で幕を閉じます。
そして航空戦力を悉く失った泊地は……、その後の侵攻で壊滅しました。




―――
――――――



雪風「……だから雪風は、これをお渡ししなくてはならないのです。
そして伝えなくてはいけません。この引換券に込められた想いを」

瑞鶴「そんなことが……」

雪風「でも雪風、この泊地に来てから加賀さんとお会いしたことがなくて……」

瑞鶴「あいつ……!」

瑞鶴(わざと雪風ちゃんを避けてるのね……)

瑞鶴「……わかったわ、あなたを加賀さんに会わせてあげる」

雪風「本当ですか!?」

瑞鶴「ええ。この私が、何としてでも会わせてみせる!」



――数日後。

――泊地・港――


最上「僕の飛行甲板がもっと瑞雲を飛ばせと囁いているよ」


五十鈴「うわ、うざいのと組むことになっちゃったわね」

最上「どうしたんだい? もしかして僕の飛行甲板が羨ましいのかい?」グイグイ

五十鈴「ちょ、押し付けないでよそんなの!」

加賀「…………」

天龍「……お、なんだ加賀、今日は赤城は一緒じゃないのか? 珍しいな。
空母二隻編成だったし、てっきり一航戦コンビで来るもんかと……」

加賀「…………」

天龍「おーい、聞こえてっかー?」

加賀「! ……何か用かしら?」

天龍「おいおいしっかりしてくれよー」

加賀「少しぼーっとしていただけよ。戦闘になれば遅れは取りません」


「――どうだか。慢心の一航戦がよく言うわ」



加賀「その声は……五航戦!」

瑞鶴「せいかーい」

加賀「何故あなたがここに? 何故赤城さんではないの?」

瑞鶴「私が提督さんに言って編成変えてもらったのよ」

加賀「はぁ……まぁ、精々足を引っ張らないように」

瑞鶴「それはこっちの台詞ですよーだ!」

天龍「……んで、残りの一人は誰だ?」

瑞鶴「この子よ」

加賀「!!」



雪風「駆逐艦・雪風です! 皆さんのお役に立てるよう、頑張ります!」



天龍「おー、お前……確か新入りか」

五十鈴「雪風……幸運の駆逐艦ね」

天龍「幸運の空母と駆逐艦が揃って縁起がいいなぁおい」

瑞鶴「この子まだ来たばかりでしょ? 早く艦隊に馴染めるように
いろんな人達と組ませた方がいいって私が提督さんに提案したの」

加賀「余計なことを……」ボソッ


雪風「本日は何卒、よろしくおねがいします!」


最上「――ところで君、瑞雲は飛ばせるのかい?」

五十鈴「駆逐艦相手に何言ってんのよ、無理に決まってんでしょ」

雪風「そ、そうですね。水上機はちょっと……」

最上「へぇ~、瑞雲飛ばせないんだぁ!」ドヤァ

天龍「こいつのことは無視していいからな、雪風」



――泊地正面海域――


加賀「……いいですか、本日は敵輸送部隊の殲滅が主な任務です
泊地からの情報によると、護衛戦力は強くても重巡エリート級程度とのこと」

天龍「ま、余裕だな」

五十鈴「あんたの装甲じゃ一発大破だって十分ありえるんだから、油断しないことね」

天龍「へっ、ご忠告どーも」

瑞鶴「雪風ちゃん……わかってるわね」コソコソ

雪風「は、はい!」

瑞鶴「提督さんに無理言って加賀さんと一緒の艦隊に入れてもらったんだから
この機を活かしてなんとか加賀さんに話しかけるのよ」

雪風「わかりました!」

加賀「……そこ、無駄話はしないように」

雪風「ひゃい!」

瑞鶴「はいはいりょーかい」

加賀「全く……」



最上「そろそろ深海棲艦の縄張りだね。偵察機を飛ばしてもいいかな?」

加賀「まだ早いわ、待ちなさい」

天龍「……あいつぜってー水偵飛ばしたいだけだぜ?」

五十鈴「航空巡洋艦ってみんなああなのかしら?」

天龍「全くだ。水上機なんていらねーって」

五十鈴「そういえばアンタ、一機も積めなかったわね……」

天龍「うるせー! ……ったくよ、木曾の奴も水上機なんかいらねえって言ってたくせに
積んでるしよ……確かにオレは旧式だけどよぉ……ブツブツ」

加賀「あなた達、私語は謹んで。任務中よ」

天龍「お、おう……」

加賀「我が艦隊は後一時間程で敵領海に突入します。聞いておきたいことがあるなら
今の内に済ませてください」

瑞鶴「……雪風ちゃん、今よ」ボソッ

雪風「あ、あの加賀さん!」

加賀「ッ! ……あなたは、雪風」

雪風「加賀さん……雪風、あなたにお伝えしなければならないことがあるのです」

加賀「……それは、今すぐ伝えなくてはいけないことですか?」

雪風「いや、今すぐというわけでは……」

加賀「では、後でいいですね」


瑞鶴「ちょーっと待った!」


加賀「…………」スィー

瑞鶴「コラ待ちなさいよ! 先に行くな~!」


加賀「……なんですか、ぴーぴーぴーぴー七面鳥みたいに」

瑞鶴「雪風ちゃんが話あるって言ってんでしょ!」

加賀「今は戦闘前です。個人的な話をしている暇はないわ」

瑞鶴「一時間もあるってアンタ自分で言ってたじゃない!」

瑞鶴「それに……アンタ、あの子が何を話そうとしているのか、察しが
ついてるんじゃない? 個人的な話……だなんて」

加賀「だとしたら……何?」

加賀「あなたがとやかく言う問題では無いわ。無暗に首を突っ込んでこないで」

瑞鶴「……取り付く島もないって感じね。怖いの? 雪風ちゃんの話を聞くのが」

加賀「……いい加減にしなさい。あまり私を煽らないで」

瑞鶴「煽ってなんかいないわよ。事実よ事実。何でも口先で取り繕えると思ったら
大間違いよ、豆腐メンタルの加賀さん?」

加賀「……」グッ(静かに片羽絞めにする音)

瑞鶴「あだだだだだだッ!?」

五十鈴「ちょ、なにやってんのよ二人共!」

天龍「これから戦闘だってのにかんべんしてくれよ~」

雪風「あわわわわ……」

最上「そんなことよりもう偵察機飛ばしていいかな?」

天龍「お前はブレねぇなおい! ある意味羨ましいよ!」



雪風「結局、加賀さんとはお話できませんでした……」

瑞鶴「ごめんね、雪風ちゃん……」

雪風「い、いえそんな……」

瑞鶴「全く、加賀さんってなんでいつもああなの……?」

雪風(……瑞鶴さんと加賀さんって、もしかして……仲が悪いのでしょうか?)

天龍「おう、新入り。何か心配なのか?」

雪風「天龍さん」

天龍「あの二人の事心配してんのか?」

雪風「ええ、まぁ……」

天龍「大丈夫だって、いつものことだ」

五十鈴「そうそう、あの二人はいっつもあんな感じだから」

雪風「そう、だといいのですけど……」


加賀(……怖い? 私が恐れているというの? 何を? あの雪風を?)

加賀(……一航戦の私が何かに恐れを抱く訳がない)

加賀(私は彼女との話を必要としてはいない。彼女の話に、私の認識している以上の
事実はないから)

加賀(事実さえわかればいい。主観は感情を伴い、著しく冷静さを奪う。
過去を悔やみ立ち止まってしまうことを、彼女達は望んではいない)

加賀(……私は、前を向いて敵を倒さなくてはいけない。少しでも多くの敵を
倒すことが、彼女達への手向けとなりましょう)


最上「ねえそろそろ敵の縄張りだね、偵察機飛ばしていいかな?」

天龍「おい、このやりとり一時間くらい前にも……」

五十鈴「一時間経ったならいいんじゃない? ねえ加賀?」

加賀「え? ああ、そうね。最上、飛ばしてもいいわよ」

最上「よーっし! 僕の零式水上偵察機、いっくよー!」バシュン

五十鈴「いいチャージインね」

天龍「索敵にしくんなよ」

最上「大丈夫だって」

――深海棲艦出没海域――


加賀「最上、索敵の結果を報告」

最上「二時の方向。このままいけば数分後に会敵だね」

最上「数は8。輸送が2隻に重巡1。後は駆逐艦だね」

加賀「……そう。索敵ご苦労様でした。泊地から事前に受け取っていたデータとも
合致しますし、どうやら目的の輸送部隊と見て間違いないようですね」

天龍「何だ大したことねーじゃねぇか。さっさとブチのめしに行こうぜ!」

加賀「油断は禁物よ。まずは落ち着いて……第一航空隊、発艦用意」

瑞鶴「アウトレンジで、決めたいわね」

最上「航空戦かい? 僕も参加するよ!」




――航空戦開始!――





――戦闘終了――



最上「僕がMVPなのかい? まぁ、空母とは違うんだよね、空母とは」


天龍「おいまじか」

瑞鶴(あいつの事ばかり気にしてたらMVP持ってかれてた……)


航空巡洋艦 最上、輸送ワ級を瑞雲で仕留め
更に砲撃で重巡リ級を中破に追い込む大活躍を見せる。
以降艦隊は戦局を有利に進め、無傷に近い形で敵艦隊を殲滅する。


五十鈴「空母が重巡にMVP取られるなんて珍しいわね」

最上「航・空・巡・洋・艦!」

五十鈴「はいはい……」

加賀「……では、艦隊帰投します」

瑞鶴「……」

瑞鶴(……表には出さなくても、攻撃の精度にはモロに現れすぎよ、アンタ
……やっぱり無理してるじゃない、全く)

瑞鶴(練度が自慢の一航戦らしくもない……攻撃のミス。
本当に豆腐メンタルなのね、アンタって。でも……)

瑞鶴(いつまでもそんなんじゃ、困るのよ)

天龍「おいおい加賀のやつ調子悪いんじゃないか? 大丈夫なのかよ」ボソッ

五十鈴「一時的なものでしょ? そういう日だってあるわ」

天龍「そうだといいけどな」

瑞鶴(……悔しいけど、一航戦は艦隊のみんなを引っ張っている。そんな一航戦が
こんなんじゃ、みんなも心配になっちゃう……)

瑞鶴(満足に実力も発揮できないで、無理して戦って……見てらんないわ!)

瑞鶴(なんとかしないと……!)




――泊地・港――


加賀「艦隊帰投よ」

天龍「ふーっ! 疲れた疲れた!」

五十鈴「皆さんお疲れ様。私は早めに補給を済ませてさっさと寝るわ」

最上「僕は飛行甲板の整備にでも行こうかな!」

加賀「それでは私は……提督に作戦結果を報告してきます」

雪風「……あの、加賀さん! 少し、お時間よろしいですか?」

加賀「ごめんなさい、今日は早く休みたいの。要件なら明日以降に」

加賀「……では、失礼します」

雪風「あっ、加賀さん……」

瑞鶴「……あのバカ、そうやってまた……」


――泊地・食堂――


瑞鶴「おつかれでーす、赤城さん」

赤城「食べるべきか、食べぬべきか、それが問題だ」

瑞鶴「……何言ってるんですか、赤城さん」

赤城「いやね、なんか私が食いしん坊キャラみたいな風潮が滞り無く
この泊地全体に蔓延しているじゃない?」

瑞鶴「ええ、まぁ」

赤城「何か食いしん坊キャラって嫌だし、キャラ変更しようか悩んでいたのよ
食べるべきか食べぬべきか……」

瑞鶴「その二択はおかしい」

赤城「そこで導き出した答えがこれよ、読書」

瑞鶴「……読書キャラですか(誰かとかぶってないか?)」

赤城「知的でしょう?」

瑞鶴「本は何を読んでいるんですか? ……『ハムレット』?
シェイクスピアの? でもたしかこれって演劇の……」

赤城「私あまり本とか読んだことなかったから、こういう台詞多めの内容の方が
読みやすいのよ。それにハムレットって、何か美味しそうな響きじゃない?」

瑞鶴(それ結局食いしん坊キャラから脱却できてないんじゃあ……)


赤城「まあそんなことは置いといて、加賀さんの方はどうだったの?」

瑞鶴「……さっぱりですよ。こっちの話なんかまるで聞く耳持たず。
そのくせ無理しちゃって」

赤城「困ったわね……加賀さんってばほんとに頑固なんだから」

瑞鶴「あの石頭め……何か手を考えなくちゃ。うーん……」


熊野「……あら、赤城さん。ごきげんよう。そちらは……瑞鶴さんですわね」


赤城「おや、熊野さん。こんにちわ」

瑞鶴「どもー」

熊野「まぁ! これはハムレットではありませんこと? 赤城さんもシェイクスピアに
ご興味がおありで?」

赤城「あ、いや、活字を読もうと思って。ちょっと手を出してみただけなんですけどね」

熊野「懐かしいですわ……昔はよく工廠を抜けだして鈴谷と近くの劇場で
『マクベス』の演劇を鑑賞したものです」

熊野「『眠りはもう無いぞ! マクベスが殺してしまった!』なんて言って!
ああ、本土に帰ったらまた演劇を見たいものですわね……」

瑞鶴「演劇……演技……」ピキーン


瑞鶴「……そうだ! これだわ!」




――泊地・執務室前――


加賀「それでは失礼します」パタン

加賀「…………」

加賀(……蒼龍、飛龍……先に逝くなんて……)

加賀(もう、くだらない賭け事をする相手もいなくなってしまったのね)

加賀(あなた達の死は決して無駄にはしない……そのためにも私は、前へ進む)

ザッザー……

加賀「……?」

『えー……臨時放送です』

『この放送を聞いている、どっかの焼き鳥レズ空母……』

加賀「は?」


『あんたの大切な赤城さんはこの五航戦・瑞鶴が捕らえたわ!』

『いやー! 加賀さーん! 助けて下さーい! 五航戦フラッシュされちゃうー!(棒)』


加賀「……赤城さんが五航戦フラッシュを!? いけないわ!」


『助けたくば表に出てきなさい! 私は逃げも隠れもしないわ!』


加賀「……七面鳥風情が、何を考えてるのかしら……!」



――泊地正面広場――


雪風「ほ、本当にこんな三文芝居で来るんですか……?」

赤城「三文芝居……」

瑞鶴「大丈夫よ。あいつは赤城さんの事になると正常な思考ができなくなるから」



「赤城さん……赤城さん!!!!!」



瑞鶴「ほうら来た」

加賀「五航戦ンンンンッッ! 今日という今日は……!」

瑞鶴(あ、雪風ちゃんを見た)

加賀「…………脱兎」

瑞鶴「……逃げるの?」

加賀「」ピクッ

加賀「……今、何と?」

瑞鶴「いやーねぇ、かの誇り高き一航戦さまがお逃げになるのですかと
聞いただけですけどぉ?」

加賀「私がそんな安い挑発に乗るとでも?」

瑞鶴「……やっぱ逃げてるわ、あんた。二航戦の人達の死から」

加賀「……もう一度言ってご覧なさい。次は容赦しない」

瑞鶴「なんどでも言ってやるわよ! あんたはね、仲間の死をから逃げてる
大馬鹿者だって!」

加賀「頭にきました」


ドゴォ!



瑞鶴「ぐは……!」

雪風「す、素手で殴った……!」

赤城「瑞鶴ちゃん!」

瑞鶴「ぁにすんのよこの! 焼き鳥空母が!」

ボコォ!

加賀「うぐっ……やったわね!」

ドカ!

瑞鶴「何度だってやるわよ! あんたがちゃんと話を聞くまで!」

バキ!

加賀「何度も言わせないで……あなたには関係のないことよ!」

加賀「彼女達は国の為に死んだ。私はその意志を継ぎ、戦いを勝利に
導かなくてはならない。そうしなくては、彼女達の誇り高き死を無駄にすることになる!」

瑞鶴「そんな優等生な答えを聞きたいんじゃないわよ! あんた自身は、どう思ってんのよ!」

加賀「私はただ、戦いに勝利することしか考えていないわ。きっと彼女達もそう願ってる」

瑞鶴「この……わからず屋……!」

瑞鶴「こんのおぉぉ……わからずやああああああああ!」



バッッッキィィィィィィィィィィ!




加賀「へぶ!?」ドグシャアッ

赤城「加賀さん!」

加賀「うぐぅ……五航戦くせに……!」

瑞鶴「はぁ、はぁ……雪風ちゃん。あれを渡してあげて」

雪風「は、はい!」

雪風「か、加賀さん」

加賀「雪風……」

雪風「はい、これ……」スッ

加賀「! ……これは、間宮の……」

雪風「はい。二航戦のお二方が、あなたに。『ちゃんと約束は果たしたって』」


――加賀が雪風から渡されたものは、端が焼け焦げてボロボロになった間宮の引換券です。
その随所から滲み出る壮絶な戦禍の残り香が……彼女達の最期を告げるのでした。



雪風「確かに、お渡し致しました」

加賀「……何で」

加賀「……何でわざわざこんな……っ! 最期ならもっと、それらしいものが
あったじゃない……! 本当、あの二人はっ……!」



   飛龍『この賭け、乗った! 負けた方が間宮一回おごりで、どうよ!』

                     蒼龍『そんな大口叩いて、私知らないよ?』

飛龍『嘘!? 負けた!?』

              蒼龍『言わんこっちゃない……』



飛龍『たはは……今はちょっと手持ちが……今度必ずおごるからっ! 約束するって!』



加賀「全く……もう!」

加賀「おごるなら……ちゃんと生きて帰って、しなさいよ……!」

加賀「…………ばかっ」

瑞鶴「……!」


瑞鶴(ない、てる……)

瑞鶴(泣いてる……この人が泣く顔なんて、見たことなかった)

瑞鶴「何か、凄い罪悪感感じてきた。本当にこれで、よかったのかなぁ……」

赤城「いいのよこれで」

瑞鶴「赤城さん……」

赤城「加賀さんは今まで一人でいろいろなものを抱え込んでた
だから……これでいいの……」

瑞鶴「赤城さん、あなたも……」

加賀「……雪風さん」

雪風「はい」


加賀「教えてもらっても、いいかしら……彼女達の最期を」


雪風「……わかりました」



――――――
―――



雪風「……これが、お二方の最期です」

加賀「――ありがとう」

加賀(……私は、あなた達の最期を知れてよかった。不本意だけど、今回はあの子にも
感謝しないといけないようね……)

加賀(……蒼龍。飛龍。今はゆっくりと、お休みなさい)

瑞鶴「ようやくお話が終わったみたいねー。アンタ、前よりは大分マシな顔になったじゃん」

加賀「瑞鶴……」

瑞鶴「全く、世話かけさせないでほしいわねー」

加賀「とんだお節介ね」

瑞鶴「なんですって!」

赤城「まぁまぁ、その辺にしておきなさい二人共」

加賀「ふん……ま、さっきのパンチは、中々効いたわ。五航戦の子も中々やるのね」

瑞鶴「とうぜんよ!」

加賀「……空母の能力には一切関係しないけど」


赤城「……ねぇ、加賀さん。あなた、もっと私達に頼ってくれてもいいと思うの
一人で抱え込まないで……私達、仲間でしょ?」

加賀「ですが」

赤城「ですがもなにもない! 加賀さんが気落ちしてるとみんな気を使っちゃうでしょ!
それって、みんなに迷惑をかけてるってことよ」

加賀「……うぐ」

赤城「だからあなたは、黙って私達を頼ればいいの! 辛い時悲しい時、
いつでも相談にのるわ」

加賀「……考えておきます」

瑞鶴「ほんと、素直じゃないわねあんたー。たまには素直に私を頼ってくれていいんだから!」

加賀「なんで五航戦なんかに? お断りします」

瑞鶴「はぁ? 人がせっかく親切に言ってやってんのに!」

加賀「あなたに悩みを聞いてもらうなら壁に話しかけていた方がマシです」

龍驤「なんやて?」

赤城「ふふ……あなた達って、本当に仲がいいのね」



加賀「だれが」
瑞鶴「こんな奴と!」




……雨降って、地固まる。


雪風「無事丸く収まって……本当に良かったです!」


しかしそれで終わらないのが現実です。




『深海棲艦の軍勢、更に規模を増しています。今のところ動きはないようですが……』



「……そうか」



「今度の海戦、必ず勝たなくては……!」



NEXT【大和ホテル繁盛記】

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        │   │:   │<「……どうでもええけどこの『だれが!』『こんな奴と』って終わり方ベタすぎやと思うで」
        │   │:   │
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         \_ │:::   |

           \|___|


また次回でち。

     演 習 番 長 
    , -、      , -、

    1  〉     {  }
  、_」 LNヽ、   ヽ {_
   }   r7 ノ _r-、<   l
   `ー1 (/  ̄    }| lヽノ
     ||`ニ=" <´ {|

     1_}  ` ー‐′ヽ′

はじまるよー


【大和ホテル繁盛記】


拝啓、矢矧様。そちらの戦況は如何でしょうか? 
二水戦の華々しい戦果、常々耳にしています。


「ヤマトチャン! 今日も宜しく頼むよ~」

大和「は、はい」


かつて共に戦った戦友として、あなたの目まぐるしい働き嬉しく思います。
また共に出撃したいものですね。


「今日もお客様に一流のおもてなしを提供するのです。大和の威信を賭けて!」

「「「おー!」」」


大和はというと、そうですね……最近はもっぱら……


「大和グランドホテル、開店です!」


ホテル、やってます……。





――本土・鎮守府/一般開放区域――


「わー! これが大和グランドホテルかー!」

「豪華ディナーに連日連夜のフルオケ! そして娯楽施設も完備!」

「苦労して予約取った甲斐があったヨ!」

ワイワイガヤガヤ

大和「うぅ……ホテルじゃないですぅ……今はホテルですけど」

大和(ど、どうしてこんなことに……)


帝国海軍の最終兵器・大和。その重装甲と超火力を備えた彼女はそれを遺憾なく
発揮……することもなく、鎮守府でホテルをやっていた。

元々持て余し気味であった大和型戦艦ではあったが、近頃はそのバカにならない維持費が
無視できない数字となって鎮守府に襲いかかっていた。
このままでは破綻すると危機感を覚えた上層部は、大和のその居住性の良さに目をつけ、
妖精さん相手にビジネスを開始した。
あの戦艦大和での高級ディナーが食べれるとの触れ込みで宣伝したところ、これが何と
予想以上に反響があり、連日連夜超満員の客が押し寄せた。予約も殺到しており、
司令部は嬉しい悲鳴を上げる事態に陥る。

かくして、戦艦大和はその重装甲と超火力を日夜持て余す傍ら、妖精さん達の間で
「今一番熱い観光スポット」として脚光を浴びていたのだった。

大和(いくら出撃がないからって、ホテルにされるなんて……)

大和「こんなのって……あんまりです!」

「ちょっとヤマトちゃん! もうそろそろ花火打ち上げだから! 準備準備!」

大和「は、はいぃ!」



――――――
―――



「本日の大和グランドホテルは閉店でーす! お疲れ様っした!」

「「「おつかれー」」」

「ヤマトちゃんもおつかれねー」

大和「はぁ、お疲れ様です……」

大和「……」

大和「……今日もホテル営業、明日もホテル営業」

大和(毎日毎日同じことの繰り返し……)

大和「大和は、こんなことをするために生まれたのではありません……」


「んー? あれ、ヤマちゃんじゃん。どったの?」


大和「あ、北上さん。今お帰りになられたのですか?」

北上「そーだよ~。もーここ何日間ずっと働かされっぱなしで困っちゃうよねぇ~」

大和「お疲れ様です。あ、よかったらこれどうぞ」

北上「わぁ! 美味しそうなアイス! 悪いねぃ」

大和「大和は常時アイスを生成できる冷房環境が備わっていますので」


大和「……それで、今回の作戦はどうだったんですか?」

北上「もっちろんこの北上様の酸素魚雷で敵艦隊は総崩れ! ヲ級のケツにでっかいの
ぶち込んでやりましたよ、フフン」

大和「そうなんですか」

北上「味方の艦隊に目立った被害もなかったし大勝利。ま、重雷装艦の実力をもってすれば
当然の結果だよね~」

大和「……北上さんは凄いですね。いつも戦果を上げて帰ってきます」

大和「ろくに活躍もせず、いつまでも鎮守府に留まることしかできない私とは大違い……」

北上「……ヤマちゃんもさぁ、こっちで頑張ってんでしょ?」

大和「頑張ってるって言っても、ホテルですよホテル! 皆さんは日夜深海棲艦と
戦っているというのに……」

大和「大和は、自分が情けないです。私なんかよりも戦果を上げている北上さん達の方が
凄いに決まってるのに、役に立たない私ばかりがちやほやされて……。北上さん達の方が
もっともっと優遇されるべきなんです」


北上「そ、そんなことないってば。ヤマちゃんの方がずっと凄いって」

大和「ろくに戦果も挙げられない私の何が凄いのでしょう?」

北上「そりゃあ、その大きな艤装に46cm砲。技術の粋を結集した装備の数々……
これが凄くなくてなんだって言うのさ」

大和「超火力の大砲も、最新鋭のレーダーも、敵を倒せなくては意味がありません
……こんな大きな艤装だって、ホテルになるのが関の山」

大和「やっぱり大和は役立たずです」

北上「いやいや! そんなことないよー? うん! ヤマちゃんはほら、あれ……」

北上「あ、アイスとか作れるし、さ……」

大和「……そうですね。大和はいっそ、アイスクリーム屋にでも転職したほうがいいのかも
しれませんね」シュン…

北上(あちゃー……ヤマちゃん凹んじゃったよ)

大和「……すみません、お疲れの北上さんに愚痴をこぼしてしまって」

大和「長い航行でお疲れでしょう。ゆっくりと休んでください。それでは……」

北上「あ、うん……」

北上「……あたし、人を励ますのってあんまり得意じゃないんだよね~……」



――鎮守府内・司令官室――


比叡「――以上が今回の作戦のご報告です」

元帥「うむ、ご苦労だった」

大井「提督、今回の海戦では北上さんが大活躍したんですよ。今回は北上さんのおかげで
勝利できたようなものです」

北上「もー、やめてよ大井っち~。あたしだけの力じゃないって~。三隈っちの索敵のお陰で
先制雷撃当てられたし、ちとちよの航空支援があったからあたしらも対空気にせず戦えたんだし」

北上「ま、スーパー北上様の酸素魚雷の力は確かに凄いけどねぇ」

大井「謙遜しつつ仲間を持ち上げながらも決して自身の力を下卑しないスーパー北上様の
人格にシビレル憧れるゥ……」ウットリ

摩耶「まぁ実際航空戦力はありがたいよな。あたしの対空火器だけじゃ心許ないところもあるし」

三隈「やはり、航空巡洋艦に改装したのは正解でしたわね!」

山城「…………」

山城「あの、提督」

元帥「? どうしたのかね?」

山城「私と扶桑姉様の、航空戦艦への改装はまだなんですか?」

元帥「あー、そうだったな。その辺は今議論を進めているところだよ」

山城「……早めにおねがいしますよ。航空戦艦にさえなれば、私も扶桑姉様も……」

比叡「航空戦艦なんかにならなくても、扶桑さんも山城さんも十分ご活躍できると思いますけど~……」

山城「ふん、優秀な金剛型様には私達の苦労なんてわからないわよ」

山城「旗艦だからって調子に乗ってるんじゃないの?」ギロリ

比叡「ヒエッ……」

能代「て、提督の前なんですから、その辺にしておきましょうって」

山城「わかってるわよ……」


北上「……あー、提督さ、ちょっといい?」

元帥「何かな」

北上「いやね、ヤマちゃんのことなんだけどさ……そろそろ前線に出してあげてもいいんじゃないかなって……」

元帥「どうしたと言うんだ突然」

北上「だって、ずっとホテルさせてるのはやっぱりなんていうかねぇ、ほら……」

元帥「……大和ちゃんは我が軍の切り札、秘密兵器だ。うかつに出撃はさせられん」

元帥「そして運用には莫大な金が掛かる。ホテル経営もまた、致し方のないことである」

元帥「来るべき決戦にて、大和ちゃんは万全を期していなければならんのだ」

北上「…………」

元帥「我々は近々艦隊を再編し、大規模な攻略作戦を展開する予定だ。君達はその中核を担うことになる。
余計なことは考えなくていい」

北上「……そーですか」


――鎮守府・通路――


摩耶「ふぃー。疲れたぜー」

三隈「あぁー^^ くまりんこくまりんこ」

能代「次の出撃までの、つかの間の休息ですね~……」

大井「北上さんっ。明日は私達出撃無いですし、街にでもお出かけしませんか?
以前飛鷹さんに教えてもらったレストランに行ってみたくって」

北上「まぁ……そうねぇ……」

大井「北上さん?」

比叡「浮かない様子ですね。どうかなさったのですか?」

北上「……比叡さんはさ、ヤマちゃんの事どう思う?」

比叡「? 大和さんですか? 彼女は凄いですよね~。全てにおいて規格外です」

北上「うーん……でもその期待が、ヤマちゃんにとって結構重荷になってるみたいなんだよねぇ~」

比叡「どういうことですか?」

北上「いやね、さっきヤマちゃんと会ったんだけどさ……彼女、全然出撃させて
もらえない訳じゃん? そのことでヤマちゃん、気に病んじゃってさぁ~。
自分は役立たずだって、落ち込んじゃってるみたいなんだよ」


比叡「そうだったんですか……」

大井「他人に気遣いできる北上さん素敵……」

山城「……贅沢な悩みね。私なんか、欠陥戦艦だから出撃させてもらえなかったのに」

比叡「い、今こうして立派に働けているんですからいいじゃありませんか~」

山城「ふん……当然よ。今回も役立たずだったら、本当に生き恥だし」

北上「まぁとにかくさ、何とかして、ヤマちゃんの元気を取り戻してあげたいんだけどさ……
何かいい考えないかなって」

比叡「うーん……大和さんは妹のようなものですし、私も何かしてあげたいのですが……」

北上「大井っち、なにか良い考えない?」

大井「えーっと……そうね、何か夢中になれるものとか、別のことで気分転換させるとか
そういった事しか……」

北上「ヤマちゃんの好きなコトとかわかんないしなー……」

山城「……要は、あの箱入り娘に自信を持たせてやればいいんでしょ?」

北上「え?」



山城「だったら、私にいい考えがあるわ」



大井(なんだろう……何故か不安しか無い……)



――鎮守府兵舎区域――


将校A「大和さんお疲れ様でーす!」

大和「あ、どうも……」

将校B「大和さん今日もお努めご苦労さまです。お食事の用意もできていますので
よろしければどうぞ。三星シェフが腕をふるって作った絶品ですよ」

大和「はぁ」

大和(……私は、なにをしているんだろう)

大和(敵艦艇の一隻も沈めていないのに、このような待遇を受ける資格があるのかしら)

大和(いや、ない)

大和(……皆さんの期待が、重いです)


――息苦しい。ここにいたくない。


――――――
―――



――鎮守府近郊・海岸沿い――


大和「……抜けだしてきちゃった」

大和「……みんな困ってるかな。いや、奢りすぎね……」

大和「置物の戦艦なんて、いてもいなくても一緒」

大和「いっそこのまま戦艦をやめても……」


「美味しい美味しい駆逐艦ラムネだよー。美味しいラムネだよー」


大和「……何、こんな時間に……露店?」

??「駆逐艦ラムネだよー! 美味しいラムネだよー!」

大和(駆逐艦ラムネってなに!? 気になるけど……何か危なそうだから関わらないでおこう。
こんな時間ににラムネ売ってるとか変だし……)

??「美味しいラムネだよー!」

大和「……」テクテク

??「美味しいよー!」ザッ

大和「!?」

大和「な、何で回りこんでくるんですか!?」


??「む、驚かせてしまったか。済まない、あまりに貴女が浮かない表情をしていたものだから、
放ってはおけなくてな」

大和「なんですか、あなた……」

??「なぁに、ただのしがないラムネ売りのお姉さんだ。冷え込む夜間、年端もいかないお嬢さんが
こんな場所を出歩いているのは不自然に思ったので、つい声をかけてしまったよ」

大和(こんな時間にこんな場所でラムネ売ってる人の方が不自然ですけど……)

??「何かあったのだろう。しかし初対面の人間にその心の内を話してもらえるとも思ってはいない
私にできることといえば……」

??「このラムネを振る舞うことぐらいだ」スッ

大和「あ、ありがとうございます……」

??「甘いモノを摂取すれば、少し気も紛れるだろう」

??「因みにそのラムネは『駆逐艦・暁味』だ」

大和「は?」

??「駆逐艦・暁の汗の味がする」

大和「……はい?」

??「む、お気に召さなかったか? ならばこちらの『駆逐艦・島風味』もあるぞ」

大和「な、なんなんですかそれ……」

??「何って、駆逐艦ラムネだが?」

大和「何でそんなのラムネにしようと思ったんですか!?」

??「美味しそうだからに決まっているだろうッッッ!!!!!」



それは、これ以上に無いくらいの真顔だった。



大和「ごくごく……」←結局普通のラムネをもらった

??「しかし、本当に普通のやつでいいのか? 何ならもうひとつおまけしてもいいが」

大和「け、結構です!」

??「そうか……残念だ」

大和「…………」

??「しかしこの辺の海もずいぶんと平和になった。お陰でこうしてラムネを売れる」

大和「あの……」

??「何だ?」

大和「自分よりも役に立っている人達がいるのに、自分は何の役にも立っていないのに、
自分ばかりが良い待遇を受けているのって……どう思います?」

??「……む?」

大和「あ、た、例え話なんですけどっ」


大和(あう……何でこの変なラムネ売りの人にこんなこと言っちゃったんだろう……
私、自暴自棄になっちゃったのかしら……?)

??「…………」

??「そうだな……私は別におかしなことだとは思わない」

大和「……どうしてですか?」

??「それはそれに見合う価値があると見込まれているから、そういった待遇を受けているのだろう?」

大和「でも、全然役に立ってないんですよ……そんな人が、いい思いばかりするなんて
おかしいですよ……」

??「……見えていないのかもしれんな」

大和「えっ……?」

??「自分の価値観だけで物事を図っていては、どうしても目先のものにばかり囚われてしまう
それでは自分の本当の価値にも、物事の本質にも気付けんさ」

大和「……よく、わかりません」

大和(私はただ、艦娘としての役目を全うしたいだけなのに……)

??「フッ……悩め悩め。沢山悩んで、その先に得た答えこそが、お前を強くするだろう」

??「そうして人は成長していくんだ」

大和「はぁ……」

??「では私はそろそろ失礼しよう。性少年達が駆逐艦ラムネを待っている」

大和(どうしよう、通報したほうがいいかな……)




??「むう……何故大和は駆逐艦ラムネを口にしなかったのか」

陸奥「……いや、そりゃ普通の人は飲もうと思わないわよ」

??「何だ陸奥、来てたのか」

陸奥「大和の事が気になってね。ていうか、もしかしてあの子、あなたの事に気がついてないの?」

陸奥「あなたがあのビックセブンで日本の誇りとまで言われたあの"戦艦長門"だってこと」

長門「そのようだな……こんな対魔忍みたいな格好してる奴そうそういないし、気付くものかと
思っていたのだが……」

陸奥「それ自分で言う?」

長門「……まぁ、そんなことより大和だ。奴は今、ずいぶんと悩んでいる。懊悩と煩悶を繰り返し、
堂々巡りの迷宮へと迷いこんでしまっているようだ」

陸奥「あの子の気持ち、分からないでもないけどね
私も、あなたも……かつての戦争では母港で待機していることが多かった」

長門「……あの頃の私達は、あんな顔をしていたのだろうか?」

陸奥「……さぁ、ね」



――鎮守府――


大和「大和、帰還しました……」コソコソ

元帥「ああ! 大和ちゃん!」

大和「ぅああ!? ……て、提督」

元帥「どこへ行っていたのかね! 心配したんだぞう!」」

大和「あの……少し、夜風にあたっていただけですよ」

元帥「むむ! 全く、関心しないぞ! 勝手に出歩くなんて!
大和ちゃんにもしものことがあったら……私は!」

大和「は、はい……すみません」

山城「……提督、少し過保護すぎなんじゃない?」

元帥「む? 何だ山城か」

山城「大和がこんな事をするなんて珍しいわね。何か嫌なことでもあった?」

大和「いえ、そんな……」

山城「……嘘ね。その返事からは自分の言葉が真であるという意志が微塵も感じられないわ
確信に欠けて曖昧で、自らに疑問を投げかけているような、そんな心の内がにじみ出ている」

大和「……ッ!」

山城「……大方、連日連夜のホテル経営に嫌気が差したんでしょ?」

元帥「そうなのか!? そうなのか大和ちゃん! もしもそれが本当であるならば
大和ホテルの臨時休業も辞さん! 明日は休業だ! 決まりだ決まり!」

大和「あ、あのぅ……」

山城「ダメダメ。それだけじゃ大和の気は収まらないわよ」

元帥「じゃ、じゃあどうしろと!」



山城「そうね……じゃあ、こんなのはどうかしら?」



――翌日。

――海岸線沿い公道・バス内――


舞風「んー! 青い空! なびく潮風に輝く海岸線! ここまで天候に恵まれてると、
踊っりたくなっちゃいますねー!」

皐月「ねーねー! 目的地はまだなの!?」

鳳翔「……ふふ、もう少し掛かりますよ」

大和「駆逐艦の子はみんな元気ね……」


拝啓、矢矧様。大和は今日、ホテル業務をお休みして海水浴に行っています。
海水浴をした後は近くで行われるという花火大会に行くつもりです。

……大和は、こんなことをしていていいのでしょうか?


大和「はぁ……」

鳳翔「……おや、大和さん。どうなされたのですか? そんなに溜息を吐いて。
せっかく提督からお暇を頂いたのですから、楽しまなくては損ですよ?」

大和「……そうは言っても、大和、戸惑っちゃいます。私達は海の平和を守る艦娘なんですよ?
今も深海棲艦が跋扈しているというのに、こんなことをしていてもいいのでしょうか……?

鳳翔「海を守る正義の味方にも、息抜きは必要です」

大和「でも私は……いつも鎮守府にいるんですよ? そんな私が息抜きなんてする必要ないんです
結局私、みんなに気を使わせちゃってるだけなんですよ……はぁ」

鳳翔(これは……中々に重症ですね。果たして山城さんの作戦はうまくいくでしょうか……?)


北上「やー、まさか戦闘以外で海に行くことになるなんてねー。でもどうせなら他の所のほうが
良かったと思わない? ねー大井っち?」

大井(海水浴ということは、スーパー北上様のスーパーボディをご拝見できるということ……!)

大井(はぁはぁ……考えてるだけでも少し濡れてきた……とりあえずカメラ準備しとかないと……)

北上「ん? 大井っち?」

大井「あ、すみません、ぼーっとしてて!」

北上「変な大井っちー」

鬼怒「…………」ジ-

北上「……え、何? 何ですか?」

鬼怒「  ┗О┛  」

北上「マジで何なの……」

阿武隈「あっ! 鬼怒ちゃん、その人に近づかないほうがいいよ! 魚雷狂の変人だから!」

北上「あーてめぇ阿武隈! 人を腫れ物みたいに! ていうかいたの!?」

阿武隈「な、何ですか……来てちゃ悪いですか!?」

北上「あー……まぁいいけどさ、激突だけはしないでよ。阿武隈ってどんくさいんだから」

阿武隈「ど、どんくさくなんか無いもん! 言われなくても、激突なんかしませんから!」


大井「――まぁ仮に激突しそうになっても、その前に私が貴女を殺るから安心して?」ニッコリ


阿武隈「ひぃ!?」

山城「ちょっとそこの巡洋艦達! 車内なんだからおとなしくしなさい! 一般の方々も乗ってるのよ?」

阿武隈「す、すみませぇん!」

山城「……ったく」

山城(さて、後は手筈通りに行けばいいけど……頼むわよ、比叡)



潮「はぁ~……」

漣「潮ちゃんどうしたの? 悲しそうな顔なんですが、それは」

潮「漣ちゃん……私、海水浴に行くことになるなんて思わなくて……」

漣「あれ、もしかして泳げないとか?」

潮「違うの……その、み、水着になるのが恥ずかしくって……私、みんなと違って胸が変だから……」

漣「贅沢な悩みキタコレ! 何を恥ずかしがることありやがりますかこのパイオツカイデー!
そんなの、どーんと見せればいいのです!」

潮「む、むりだよう……」

漣「全く、この子の引っ込み思案には困ったもんだねぇ……」

『停車します。お降りの方は……』

??「…………」

漣「ん……?」

漣(なんだ、あのあからさまに怪しい風貌の奴は……)



文月「鳳翔さぁん? あのね、文月、海に行ったら砂のお城作るの~。
完成したら、鳳翔さんにも見せてあげるね~」

鳳翔「あらまぁ、それは楽しみですね」

大和「……」

大和(鳳翔さん、駆逐艦の子達に慕われてるなぁ……まぁ、出撃のない
ホテル戦艦なんかよりは慕われて当然ね……)

鳳翔「……また、ろくでもないことを考えてますね?」

大和「え"」

鳳翔「全く、顔に書いてありますよ? どうせまた自分を責めるようなことを考えていたのですね?」

大和「そ、そんな、ま、まさか」

鳳翔「……本当に仕方のない人ですね、あなたは」

大和「うぐ……」

鳳翔「……先程、大和さんは自分はいつも鎮守府にいると言いましたけど、それは私も一緒ですよ」

鳳翔「私は練習艦ですから、実際に敵と一戦を交えることはありません。いつも鎮守府にいます」

大和「でも、鳳翔さんは私と違って役に立ってるじゃないですか。練習艦にもなれない私なんて……」

鳳翔「……本当に、そうでしょうか?」

大和「へ……?」

鳳翔「私達にとって役に立つということは、戦うこと? ……果たして本当にそれだけですか?」

大和「それは……どういう?」


「きゃーーー―!?」


大和「!?」



大和「な、なに!? 突然!?」

??「くっくっく……皆さん、聞いてください! このバスは私が乗っ取らせていただきました!
乗客の方々は全員速やかにこの私に従って頂きたいのですが!」

山城(あのバカ……バスジャック犯なのに腰が低すぎよ!)

??「従っていただけないのであれば、この方がどうなっても知りませんよ?」グイッ

霞「……くっ」

山城(そう、それでいいのよ……)




北上「なになに? なんかのイベント?」

大井「おそらく……山城さんの仕掛けじゃないかしら」

北上「ああそう、じゃああたし達は静観決め込んどいた方がいいってわけね?」

大井「そうですね……」



大和「!! ……バスジャック犯だなんて……ああ、なんてこと! 
今はみんな艤装を外しているから、普通の女の子と変わらないっていうのに!」

鳳翔(……前もって聞かされていたので私は驚きませんが……これが山城さんの"策"
なのですね……はてさて、うまくいくといいのですが……)

大和「どうしよう……艤装なしで何とか出来るの……? でも、相手は凶器を持っているのよ……
うかつに手を出したら……いや、でも……」

山城(そうよ。正義感の強い貴女なら……きっと行動を起こす。手筈通りにいけば比叡扮する
バスジャック犯は大和に打ちのめされて……皆はその勇気を讃え、大和はみんなから称賛を浴びる!)

山城(そうすればきっと大和も自分に自信がつく。もう自分が役立たずだなんて思わなくなるはずよ!)

山城(さぁ……早く行動なさい!)



比叡(うーん、演技とはいえ、霞さんにこんなことをするのは気が進まないなぁ……)

比叡(でもまぁ、大和さんのためですから! 頑張ります!)

比叡「さー! 皆さん、私の言うことに従っていただきますよ!」

霞「ぐぬぬ……!」

大和「まっ……まってください!」

山城(来た……! 手筈通りに頼むわよ。比叡!)

比叡(わかってますってば)

比叡「……なんですかあなた? まさかこの子を助けようとでも?」

大和「そ、そうよ……!」

比叡「でも残念ですね! 少しでも動いてみなさい! この子のキレイなカラダに
このナイフをおったててしまいますよ!」

大和「く……!」



霞「……勝手にすればいいじゃない」




比叡「え!?」

霞「ナイフでも何でも勝手に刺せばって言ってんの。そんなことも分からないの?」

比叡「い、いやいや……ナイフ刺したら死んじゃうんですよ? わかってますか!?」

霞「……私はもう一度死んでいるようなもんよ。そもそも軍艦として生まれた時から常に死は覚悟していたし
実際いつも死と隣合わせの海を航行していたわ。死は怖くない……」

比叡「そんなぁ! 怖がってくれないと困りますよ~!」

霞「はぁ? 何? あんたそれでもバスジャック犯なの? 殺すならさっさと殺しなさいよ」

霞「……それともそんな覚悟もないのかしら? とことん小心者ね、この屑!」

比叡「ヒエー!」

比叡(ど、どうしよう……)

山城(……なんでよりによってそんな歴戦の駆逐艦人質にとってんのよ、アホ!)

霞「大方何をやっても中途半端な屑が軽い気持ちで犯罪に手を染めようとでもしたんでしょ?
でも中途半端な屑は犯罪をやり通すことすらできない……何をやっても屑なのよあんたは」

比叡「ヒエー……」

霞「ほんとそういう奴ってイライラするのよね! いつも他人に縋ってばかりで、
自分が荷物になっていることに気がつかない! 死して詫なさいよこの屑!」

比叡「ぐすっ……す"み"ま"せ"ん"!」ボロボロ

山城(何泣いてんのぉ!?)


大和「あのー……ハンカチ、お貸ししましょうか?」

比叡「うぇ……す"み"ま"せ"ん"大和さん……」

大和「え……何で私の名前を?」

比叡「あ」

山城(……あのバカ)

文月「あのねぇ、文月ねぇ、最初からわかってたんだよ~」パサ(覆面を剥ぎ取る音)

比叡「あぁ!?」

文月「やっぱり比叡さんだったぁ」

大和「……何、やってるんですか?」

比叡「あはは……気合、入れてたんだけどなぁ……」

山城「もう! 何でこうなるのよ!」





かくかくしかじか……


大和「……つまり、これは私を元気づけるためにやったことなんですね……?」

比叡「だって、大和さん落ち込んでるって聞たので……良かれと思って」

山城「ほんと、何ヘマこいてくれてんのよ! 私の計画は完璧だったっのに!」

北上「いや、何となくこうなる予感はしてたよ……」

大和「……はぁ、結局大和がみなさんに気を使わせてしまったということですね」

山城「そうよ! いつもウジウジしてるあなたが悪いのよ!」

大井「フォローを入れるどころか責任転嫁するとか……たちが悪いわ」

漣「これが山城クオリティ」

山城「こっちは頑張ったっていうのに酷い言われよう……あぁ、不幸だわ」

大和「まぁ、私の為にやってくれたことですから……感謝はしています」

比叡「ホントはもっと上手く演る予定だったんですけどね~。霞さんもすみません」

霞「こ、こちらこそ……酷いことたくさん言っちゃってその……ごめんなさい」

鳳翔「……形はどうあれ、皆さんこんなにも大和さんの事を想っているんです
これはとても幸せなことだとは思いませんか?」

大和「……面目ないですよ、ほんと」シュン

文月「そんな顔しないでぇ? 文月、大和さんにも笑顔でいて欲しいのぉ」

大和「……そうですね。いつまでも辛気臭い顔してても、皆さんにご迷惑をお掛けしてしまいますね」

大和「みなさんありがとうございます! 大和はもう大丈夫です! 今日は目一杯たのしみます!」

文月「よかったぁ!」

漣「なんか結果良ければ全て良し的な?」

山城「私のお陰ね!」

北上「うーん……」

北上(本当に……大丈夫? 何か、あんまり大丈夫じゃないオーラが出てる気がしないでもないけど……)




わいわいがやがや

響「ハイジャック騒ぎが終わったら、みんなまた海の事で騒ぎ始めたね」

暁「……ちょっと遊びに行くからってみんな浮かれちゃって、子供なんだから」

響「暁は楽しみじゃないのかい?」

暁「海なんか見慣れてるじゃない。今さら何を楽しむっていうの?」

響「暁はあまり乗り気じゃないんだね」

暁「レディーはこういう時一歩引いて落ち着いているものよ。
一緒になって騒ぐような時期はもう卒業したのです」


――海水浴場――


暁「わぁー! 見てみて響、シャチさんのフロートがあるわよ! あれ乗ってもいいのかしら!?」

響「暁。君って奴は……」



海! 常夏の太陽に照らされた乙女たちの柔肌が小麦色の砂浜と共にコントラストを演出する。
戦いに明け暮れる艦娘達も、今日ばかりは艤装を脱いで、眩しい水着に衣替え!


潮「はわ……やっぱり、恥ずかしいよぉ~~~!」ボヨン

愛宕「ぱんぱかぱーん! 愛宕、抜錨しまーす!」ボヨヨン

夕張(レイプ目)

皐月「皐月、でるよ!」

弥生「弥生……出撃です」

睦月「睦月の砲雷撃戦、開始するよ!」

漣「いや、海戦違うからね」

睦月「えへへ、つい癖で」

大井「はぁあああああああん! 北上さん! いいよぉ! いいよぉおおお!」

北上「もー大井っち、水着姿撮るのやーめーてーよー」

阿武隈「……こんな人の往来のど真ん中で恥ずかしくないの?」ドンビキ

北上「なんか言ったか阿武隈ァ! オラァ!」

鬼怒「…………」



鬼怒「  ┗О┛  」




鳳翔「皆さん、楽しんでおられるようですね……」

大和「そうですね……。あ、鳳翔さんは泳がないんですか?」

鳳翔「私は皆さんの荷物番をしていますので」

大和「えぇ、荷物番なんて大和がしておきますから、泳いできてもいいですよ」

鳳翔「まぁ、天下の大和さんが荷物番ですか」

大和「もー……なんですか? 別に、大和が荷物番してもいいじゃないですかぁ……」

鳳翔「お気持ちはありがたいですけど、あまり日に焼けたくはないので、遠慮しておきます」

大和「そうですか……」

鳳翔「大和さんは泳がれないのですか?」

大和「私は……いいですよ」

鳳翔「……やっぱり、まだ気になさっているのですね?」

大和「な、何のことです?」

鳳翔「わかり易すぎですね」

大和「う……」

鳳翔「そんなしょぼくれたお顔は似合いませんよ。ほら、何かあっちでやるみたいですよ。
混ざってきたらいかがですか?」

大和「はぁ……鳳翔さんには敵いませんね。わかりました、少し気分転換になるかもしれないし
行ってきます……」

鳳翔「行ってらっしゃい」


北上「おら阿武隈ァ! 謝るなら今のうちだよ~?」

阿武隈「誰が北上さんなんかに!」

大和「あのう、どうしたのですか……?」

北上「ちょっと聞いてよヤマちゃんさぁ、阿武隈の奴
人の顔面にボールぶつけやがったんだよ~」

大和「はぁ……」

阿武隈「だからその後ちゃんと謝ったじゃない!」

北上「あんなもの謝罪の内に入らないね! 頭を深々と垂れ、奴隷のように這いつくばり
慈悲を求める瞳であたしの機嫌を取らないと謝った内に入らないから」

阿武隈「またそういう滅茶苦茶なこと言う!」

大和「あはは……」

北上「両者お互い引かない。このままじゃ埒が明かない」

北上「そこでここはビーチバレーで対決しようって話になったんだけど
……ヤマちゃんはさ、もちろんうちのチームに入ってくれるよね?」

大和「えっ、ええ!?」

阿武隈「なっ……ずるいですよ! 大和さん、ぜひうちのチームに!」

大和「あのぅ、その……」

北上「決められないか……なら、恨みっこなしだ。阿武隈、じゃんけん」

阿武隈「負けないんだから~!」



夕張「ビーチバレー対決! 審判はこの、兵装実験軽巡・夕張にまかせてくださいね!」

北上「大井っちとヤマちゃんがいれば……無敵だよねっ」

大井「頑張りますっ」

大和「はいっ」


北上チーム

北上・大井・大和


阿武隈「うぅ……大和さん取られちゃったぁ」

比叡「まぁまぁ、海戦ではありませんし、こちらにも十分勝機はありますよ」

阿武隈「そ、そうですよね!」

鬼怒「パナイ島」


阿武隈チーム

阿武隈・鬼怒・比叡


かくして両雄は、ビーチバレーという土俵の上で雌雄を決する事になった……



夕張「それじゃあ準備はいい? サーブはどちらから?」

北上「譲ってやるよ阿武隈ァ……せめてもの慈悲だァ」

阿武隈「舐め腐りやがりましてぇ~~~っ! 絶対勝つ!」

夕張「それでは、サーブは阿武隈チームから! スタート!」

阿武隈「やる時は……やるんだから!」スパン!

北上「おうふw サーブショボイよ! 落ち着いていこー」

大井「北上さん」ポン!

北上「ナイス大井っち! ヤマちゃん、やっちゃって」パス


大和「ふっ!」シュパアァン


比叡「ひえぇ!」ポスン


比叡「な、なんとかクリア」

阿武隈「ナイスです! 比叡さん!」

鬼怒「┗О┛」パス

阿武隈「右サイドガラ空きなんですけどぉ!? えーい!」スパンッ

北上「さっ……させるか……!」ダッシュ

大井「北上さん! 気をつけ……」



北上「おごふ!?」ドコォ



阿武隈「あっ……」

北上「……」バタン

阿武隈「き、北上さん?」

北上「……一度ならず、二度までもぉぉぉぉ……!」プルプル

北上「大井っち、殺っちゃって!」

大井「北上さんを傷つけるの……誰?」

阿武隈「ひっ」ビックゥ

大井「死ね!」ヒュン


ドッコオオオオン!


阿武隈「死ーん」

夕張「ストップストップ! そういうゲームじゃねえからこれ!」


それから程なくして逆上した阿武隈が北上に艦首から突っ込み、
ビーチバレーはルール無用の血戦へと発展していった……。



大和「何かまともにバレーできなかったなぁ……」

大和「…………はぁ」

大和「! ……だめだめ、こんな溜息なんて吐いてちゃ、またみんなに気を使わせちゃう……」

大和「とはいってもなぁ……」


「ラムネだよー! 美味しい駆逐艦ラムネだよー!」


大和「こっこの声は……」

長門「駆逐艦のあどけなさが舌先に広がる、背徳の味だよー!」

大和「……また、あなたですか」

長門「む、奇遇だな。もしかしてこの『駆逐艦・初風味』のラムネが入荷したのを嗅ぎつけてきたのか?
これはとてもレアなモノだからな……」

大和「違いますって」

長門「ふむ、ちがうのか……」

大和「私をなんだと思ってるんですか……」

長門「素質はあると思う。くちくの良さがわかれば、我々は無二の友になれると思う」

長門「とりあえず一晩語り明かさんか?」

大和「遠慮しておきます」

長門「つれないな……」

大和(あ、やっぱりこの人危ない人なのかな……)


長門「ところで、今日お前には何が見えた?」

大和「……はい?」

長門「今日一日……とはいってもまだ半日程度か。だがその中でお前は彼女達と過ごし、
何かを見つけることができたはずだ」

大和「……何も」

大和「何も、見えてなんかいませんよ。私は……」

長門「心当たりはないのか? お前はお前の思っている以上に必要とされているんだぞ?」

大和(そういえば……さっきのバレーでは何か少しだけ必要とされていたような……
いやでも、あれはただの遊びだし……)

大和「そんなことありません。私は結局、皆さんに心配かけてばかりでしたよ……」

長門「……ふっ、そうか。こんなにも見えやすく、色濃く浮き出ているというのに何も見えんか」

大和「……?」

長門「なぜ、彼女達はここまでお前を心配するのだろうな。お前のようなめんどくさい奴
放っておくのが一番だと考えるのが普通だ」

大和「……悔しいけど言い返せないです」

長門「それでも皆はお前を心配する。その意味を、肌で感じ取っているお前は何故わからない?」

大和「どういう、ことです?」

長門「希望だ。お前という存在の中に、皆は希望を見出しているのだろう」

大和「希望……?」


長門「お前の分厚い装甲も、46cmという超火力砲も、敵を倒す為だけにあるんじゃあない」

長門「何者をも打ち砕ける矛としての存在感が大切なのだ。
何者も打ち破れぬ盾としての存在感が大事なのだ」

長門「お前という存在があり続ける限り、皆の心が折れることはない。お前は希望なのだから」

大和「私が……?」

長門「だから皆は心配するのだ。お前の希望の光が曇れば、皆は忽ち不安を覚える。皆はお前を通して、
自らの内に巣食う不安を見るのだ」

長門「お前は何をすべきか。そんなこと、わかりきっているだろう?」

大和「……私が、私で在り続けること……」

長門「そうだ。それが一番難しくもある」

長門「お前は自らの待遇を疑問に思っていたな。しかしだな、そんなものは些細な問題だ」

長門「今身に余る施しを受けているのなら、後にそれを返すほどの働きをすればいい。
それ位言ってのけないと、皆の希望は務まらんよ?」

長門「一番難しいのは、お前が皆の希望で在り続けることなのだ。何者をも打ち砕く46砲も、
アウトレンジには及ばない。何者も打ち破れぬ装甲も、数の前には及ばない」

長門「だがお前は、それを実現しなくてはならん。それが……お前の役目だ」

大和「あなたは……一体……?」

長門「私は……」


「だ、誰かーーーーーーー!!」


大和「……!」


大和「皆さん! いったい何が!」

文月「シャチの、浮き輪に乗った暁ちゃんがぁ……」

皐月「鮫だよ、鮫に囲まれてるんだ!」

大和「ええ!? ここ海水浴場じゃないの……?」

夕張「軍が所有している演習区域……を今回海水浴場として使ってるだけみたいですよ。本来遊泳区域ではないと……」

北上「……通りで。他の観光客も、売店の店員もよく見たら鎮守府で見た顔ばっかりだし、とんだプライベートビーチだ」



     鮫
   鮫 暁「ぴゃーーーー! 響ぃ! 助けてぇ~~~!」
     鮫



響「暁……くっ、艤装があれば!」

阿武隈「わわわ、今から艤装取ってくる?」

大井「そんな時間あるわけ無いでしょう……!」

潮「ど、どうしたら……!」

大和(……私は、私の正しいと思うことをする! 大和の正義の心が、希望に繋がるのなら!)





大和「……わかりました。大和に考えがあります」




比叡「……考え? 一体何ですか?」

大和「……私が鮫を引きつけます。その間に、暁さんを救出してください」

比叡「はい!?」

大和「比叡さん……救出の役、頼まれてくれますか?」

比叡「いやいや! ダメですって! 危険すぎます!」

大和「今! 一番危険なのは……彼女です!」

比叡「いくら艦娘とはいえ、水中で魚相手に……」

大和「戦艦大和、出撃します!」バシャン!

比叡「……って! ああもう、待ってくださいよ!」バシャン!


大和(今、自分が何をすべきなのか……ようやく見えてきた)

大和(今できる最善を尽くすことが、希望に繋がるんだ。それを考えもせずに私は今まで
……何をやっていたのかしら)

大和(艤装だとか、装備だとか、そんなの関係ない。要は、在り方が重要なんだ
矛がなくても大和は敵に向かっていける。盾がなくても大和は皆を守れる!
だって本当の矛と盾は、大和の心の中に存在していたのだから!)

大和(私は、純度百%の清く正しい心を持って、自分のできる事をやればいいんだ!
それを皆に示すことができれば、それは……希望になる!)

大和(今まで気付かなかった。こんな大きなもの自分が背負っていたなんて
……みんなの希望を一身に背負っていたなんて)

大和(でも今はもう、以前のように息苦しくない。進むべき道が見えたから……!)


大和「さぁこっちよ! サメさん!」


鮫「」ザバン!

大和(来た……!)

大和「比叡さん! 後は頼みます!」

比叡「ヒエー! ムリしないでくださいよ! もう!」




大和「はっ……はっ……は……」

大和(マズイ……思った以上に早い……このままじゃ……)

睦月「大和さん!」

皐月「大和ー!」

文月「大和さぁん!」

大和(皆が呼んでる……こんな、こんなところで……死ねないのに!)

大和「!!」

鮫「シャア!」グァ!




「やれやれ、いくらなんでも無茶がすぎる。だがその心意気、気に入った!」



41cm連装砲 シャッ
      41cm連装砲 シャッ
            41cm連装砲 シャッ


ドオォォォーーーーーーーーーン!



大和「え……?」

鮫(プカー)

大和(火薬の匂い……これは、砲撃!? 一体誰が!?)

長門「よし! 今日も調子が良いな」

大和「え? あ、あれは……ラムネ売りの人!? でもなんで……艤装を!?」

比叡「暁さん、もう大丈夫ですよ!」

暁「こ、怖くなんか……怖くなんか無いんだから!!」グズグズ

比叡「うわー……こんがり焼けてますね、鮫。さすが長門さんの砲撃」

大和「え……? ナガト? ナガトって、あの長門!?」

比叡「はい。何でここにいるんでしょうかね、あの人。まぁ助かったからいいですけど」

大和「……へぇあ」ヘナヘナ


結局、比叡は暁に加え、気が抜けて溺れかけた大和までも一緒に引っ張って泳いで行くことになったのでした。



――花火大会会場・河原付近――


漣「打ち上げ花火キタコレ!」

潮「わぁ……綺麗……!」

舞風「いいですねー! 盆踊り、踊っちゃいます?」


どーん! どどーん!


大和「……もう、どうして今まで黙っていたんですか」

長門「いや、別に黙っていた訳ではないのだが……」

大和「皆さんも! 知ってたなら教えて下さいよ、長門さんのこと!」

比叡「い、いやぁ、てっきりもう面識があるものかと」

山城「世界のビックセブンも大した知名度じゃないのね」

鳳翔「まぁ、こういうこともあるのですね」

大和「私、てっきり本当にラムネ売りの人かと思ってたじゃないですか……」

山城「こんなラムネ売りがいてたまるか。見てわかるでしょこんなの……個性的すぎるし」

大和「まぁ、いいですけど……」


長門「……うむ! やはり、いい面構えになったな、大和」

大和「そうですか……?」

長門「迷いが消えた、良い表情だ。これなら連合艦隊旗艦を任せても大丈夫だな」

山城「こんな小娘に連合艦隊旗艦なんて百年早いわよ!!」

北上「はいそこ嫉妬しない!」

大和「鳳翔さん……私、あなたの言ってることがわかりました。戦うこと以外でも
私は誰かの役に立てるんだって」

鳳翔「そうですか……わかっていただけましたか」

大和「寧ろ、それこそが重要だったんです。長門さんの言葉で、ようやくそれに気付けました」

大和「本当に有難うございます……!」

長門「よせ、面と向かって言われると照れくさい」

大和「言わせてください。今日はあなたに助けて貰いっぱなしなんですから」

長門「なら私も言わせてくれ……今日の大和の行動を見て、私は確信したよ。やはりお前は皆の希望だ」

長門「お前の取った誠の行動は、お世辞にも冷静な判断に基づいた行動とは言えない
それどころか、軽率であったと非難を受けてもおかしくはない。しかしその心は、純粋な正義に
満ち溢れていた。その姿に皆は希望を抱いただろう」

長門「大和、お前はこれからも皆の希望で有り続けろ。いや、あり続けてくれ。きっとこれは、皆の願いだ。
そして私の願いでもある。何故なら私も、お前に希望を抱く一人なのだから……!」


大和「長門さん……!」

大和(この人……本当に凄い人だ。変なラムネ売りとか思ってたけど、今は何だか尊敬できそう……)

長門「あ、ところで比叡。一つ聞きたいのだが」

比叡「はーい、なんですか?」

長門「その、暁ちゃんはおもらし的なものをしてたりしなかったか?」

比叡「は?」

長門「いやほら、鮫に囲まれたんだぞ? 暁ちゃんなら間違いなく漏らしてるはずなんだが……
おい、どうなんだ比叡!」

比叡「いや、そんなわからないですよ!」

長門「匂いとかでわかるだろう!!!! 何やってんだこのタコ! ハゲ!!!」

長門「それだけが……それだけが楽しみで午後を過ごしてきたというのに!」

長門「こんなことなら駆逐艦の周りに潜って海水がぶ飲みすればよかった……」

大和(あ、前言撤回しよ……)


どーん! どん!


大和「……たーまやー」


大和の長門に対する尊敬は、花火のように一瞬で華々しく散っていきました。


夜の帳は花火に魅せられ、花火の夜空はもう少しだけ延長です。

花火はまだまだ続きます。
今日ばかりは艦娘達も自分の砲弾ではなく、極彩色の花火に目を向けるのでした。




拝啓、矢矧様。

「ヤマトちゃーん! 今日もホテル頼むよー!」

大和は、やっぱり結局相も変わらずホテルやってます。出撃は相変わらずありません。

大和「はーい!」

でも、今はそれが苦ではありません。何故なら、これが今私にできる最善だからです。
戦う事が私の全てではない。それを知ったから、最善に気付くことができたのです。

だから今はもう胸を張って言えます。


大和「大和ホテル、開店です!」


大和は、ここで一生懸命頑張っています。




矢矧「大和、あっちで上手くやれてるみたいね。一時はどうなるかと思ったけど……」



矢矧「安心して、大和。あなたの出番はもうすぐ来るわ。来るべき……東方作戦でね」



NEXT【ソロモンの悪夢に捧ぐ鎮魂歌】

              ,.r-=

               (( -――-.(ソ
             /:::::::::::::::::::::::゚丶
             /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
           〈|::::l へ`' へ`-!:::::j   このSS書き始めて提督はランキングが

            ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   3000ほど落ちたらしいでち
             V`ゥrr-.rュイ人人
              ,/1::ー:'::! i    
          ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

長門もながもんもどっちも好きなんじゃあ~^^
ゴーヤ君、東京クルーズいこう!


「……突き破れ! 夕立の艤装錬金!」

                  「く・ま・の・ん★ くまのんとお呼びになって? トオォォォォン!」

「知りたいのなら教えてやる。ただしお前の装甲でこの徹甲弾を凌ぐ事が出来たらな…」

                  「私をその名で呼ぶな。その名は終戦時に捨てた。私にその名を名乗る資格はない。
                  今の私はВерныйだ。」

「絶対にお姉様に辛い想いをさせないと誓うなら、私はいくらでもあなたの力になってあげます。
守りたい者が一緒なら、私達は戦友だ」

                  「答えろ……答えろキャプテン・キソー!」



      「夕立が皆を守るから……誰か、夕立を守ってくれ……」



艤装錬金 横鎮放送局より、この春放送開始!


「燃料ぶち撒けろォ!」


始まります。



【ソロモンの悪夢に捧ぐ鎮魂歌】


天龍「おらお前らー! さっさと集まりやがれ!」

電「はわわ」

雷「なになに、何なの?」

若葉「敵襲か」

初風「なんですって……もしかして妙高姉さん!?」

陽炎「初風あなた……いつか妙高さんに〆られるわよ」

黒潮「完全に持ちネタにしてるなぁ、初風ちゃん」

雪風「雪風、到着いたしました」

叢雲「いきなり人を呼びつけて、どういうつもりかしら?」

綾波「ごきげんよう、みなさん」

朝潮「新しい作戦でしょうか?」

満潮「さっさと要件を言いなさいよ」

時雨「……何かな」

夕立「…………ぽい」


天龍「木曾、言ってやれ」

木曾「……いいか、よく聞け。ここにいる連中は皆それなりの修羅場をくぐり抜けた
歴戦の駆逐艦だ。個々の能力は申し分ないと、俺は思っている」

木曾「だがしかし! それだけではこの先の戦い、生き残ることができない!」

叢雲「……じゃあ、どうしろっていうのよ」

木曾「まぁ待て。そう結論を急ぐな。いいか、お前達には一つ、足りないものがある
それは……連携だ。チームワークだ」

木曾「これからは個々の力ではなく、互いに連携を高めることが大切だと俺は思った!
……そこでだ」

木曾「お前達にはこれでチームワークを高めてもらう! 天龍!」


天龍「あいよ!」ババーン


満潮「なによこれ……」

叢雲「楽器じゃない……」

若葉「楽器か」

木曾「そうだ、楽器だ。これからお前達には軍楽隊を組んでもらう」

陽炎「ぐ、軍楽隊ぃ!?」

天龍「演奏ってのは一人が先走ってもいけねぇ。遅れてもいけねぇ。
全員の足並みをそろえなくちゃ調和は生まれねーもんだからな」

天龍「チームワークを鍛えるには、もってこいの方法だ」


叢雲「ありえないわね。今がどういう時かわかってるの? こんなことやってる暇……」

電「わぁ……! 雷ちゃん! これはなんて言う楽器なのですか?」

雷「これはクラリネットね。こっちはトランペット!」

綾波「あの、少し触ってもよろしいですか?」

木曾「いいぞぉ!」

若葉「若葉だ。吹くぞ」

若葉「音がでないぞ」

雪風「これぇ! 吹き方がわかりませぇん!」

陽炎「あーもう、ちょっと貸してみなさい!」

叢雲「……」ソワソワ

天龍「なんだ、気になるのか?」

叢雲「べっ、別に!」

神通「……フルートは、こう持ちます」

叢雲「わ、ちょっと……」

神通「こことここをおさえて……そう。吹いてみてください」

叢雲「」ペー

神通「……はい。それが、ドの音です」

叢雲「そ、そう……」

天龍「楽しいか?」

叢雲「べ、別に、楽しくなんか無いわよ!」

木曾「神通、教え方上手いじゃないか」

神通「那珂ちゃんのバックミュージック担当してましたから……」

木曾「ああ、あいつな……」

天龍「よっしお前ら! やるからには徹底的にだ! 練習の成果は演奏会で披露する!
まずは各々やってみたい楽器を選べ!」


駆逐艦達「はーい!」


時雨「……天龍達も、面白いことを考えるね、夕立」

時雨「……夕立? あれ?」


――泊地・港――


夕立「……ぽいぽいぽいぽいぽぽいぽーい」

夕立「……夕立、なんで抜け出してきたんだろ」


つまらないから? いや違う。

好きじゃないから? いや違う。


夕立「夕立は……何も」


何も、感じなくなったから。


夕立「……でも、それでいいっぽい」

夕立「夕立は、ソロモンの悪夢でなくちゃいけないっぽい」

夕立「……しらつゆちゃん、むらさめちゃん」


――ゆう、だち……。


夕立「……?」


――ゆうだち……ゆうだち……。


夕立「この声は……しらつゆちゃん!?」

夕立「そんな……どうして!?」


――ゆうだ「夕立さん!」


夕立「!」


雪風「お探ししましたよ! 時雨さんから夕立さん、突然いなくなっちゃったと聞きましたので!」

夕立「……ふーん」

夕立(さっきのは、一体……)

雪風「夕立さんも一緒に演奏しましょう! 雪風、さっき初めてトロンボーン吹いたんですよ」

夕立(さっきの声……もう聞こえないっぽい……)

雪風「楽器を演奏するのって、こんなに難しかったんですね!」

夕立(うるさい……)

夕立「夕立は……楽器なんか演奏しないっぽい!」

雪風「えっ……」

夕立「夕立のことは……放っておいてほしいっぽい!」

雪風「あっ、夕立さん! 待ってください! 雪風達と、一緒に演奏……」

雪風「雪風達と……」



夕立「……さっきはゆきかぜちゃんに酷いこと、言っちゃったっぽい」

夕立「……きっと、嫌われちゃったっぽい」

夕立(……でも、そのほうがいいかも。ソロモンの悪夢なんだから、
味方から好かれている悪夢なんて、そんなのおかしいっぽい)

夕立「……そう、これでいいっぽい」


――駆逐艦寮――


ガチャリ

夕立「……」

時雨「あっ、夕立!」

電「帰ってきたのですね。皆さん心配していたのです」

陽炎「夕立! 雪風から聞いたわよ! アンタ、演奏したくないんですって?」

雷「楽器が演奏が苦手なら大丈夫! シンバルがあるじゃない!」

黒潮「せやー。シンバルなら叩くだけやからねぇ」

若葉「若葉だ。音が出るようになったぞ」ピュッヒョロー

夕立「……なにそれ? 新しい遊びっぽい?」

若葉「演奏だ」

夕立「馬鹿みたい。楽器の演奏なんて時間の無駄っぽい」

満潮「……ちょっと、確かにバカみたいなことかもしれないけどね、そういう言い方は
ないんじゃないの? あいつらもバカなりに考えてんのよ」

夕立「こんなお遊びしている暇があったら、訓練の一つでもしたらどーぉ?」

朝潮「遊びではありません。これも立派な訓練です」

電「あ、あの……みんなの連携を強化する為に、チームワークの訓練を……」

夕立「くだらない。こんな考えじゃ、この先生き残れないっぽい?」

叢雲「……アンタ、さっきから聞いてれば偉そうに! 何様のつもりよ!」




夕立「じゃあ聞くけど、この中で夕立に勝てる子……いるっぽい?」




叢雲「何言ってんのよ、アンタ……」

夕立「あなたは、夕立に勝てるのかしら?」

叢雲「な、何よ……やろうっていうの? この私と!」

夕立「……青ざめたな。今あなたは恐れを感じたっぽい……この、夕立に!」

叢雲「な、なんですって!」

初風「私は妙高姉さんの方が怖いわ! 夜中に会ったらちびる自信あるわ!」

雷「はいはいそこまで! 二人共喧嘩はやめなさいよ! 叢雲も熱くなんないの」

叢雲「熱くなんか……!」

陽炎「夕立。あなたも言いすぎよ?」

夕立「……興ざめした。夕立帰るっぽい」

陽炎「ちょ、ちょっと!」

時雨「夕立! 待ってよ」


バタン


電「……行って、しまいました」

満潮「何、アイツ。かなり感じ悪いわね」

叢雲「くっ……夕立がああいう子だとは思わなかったわ。全く……!」

綾波「夕立さん。一体どうなさったのでしょう……」

雷「きっと夕立さんにも何か理由があるのよ! ねぇ陽炎?」

陽炎「そうね……そうだ、雪風、あんたさっき夕立と会ってきたんでしょ?
何か知らない?」

雪風「雪風はわかりません。ですが……雪風にはあれが夕立さんの本心だとは思えないのです」



――泊地・廊下――


時雨「待って、待ってよ夕立!」

夕立「……しぐれちゃん、なーに?」

時雨「夕立……さっきのは一体何なんだい? 君は自分の強さをひけらかすような事は
決して言わない子だったじゃないか」

夕立「夕立は……」

夕立「夕立は、ソロモンの悪夢だから……」

時雨「夕立……?」

夕立「しぐれちゃんも夕立と一緒にいたら、悪い子って思われるっぽい」

時雨「夕立! ちょっとどこ行くのさ」


夕立「夕立が一人になれるところっぽい」




――泊地・大広間――


金剛「ヘイヘイキッソ! あなた達なんか面白いことやってるみたいじゃないデースかー」

伊勢「駆逐艦の子達に楽器なんか持たせちゃって、どういう風の吹き回し?」

木曾「ぁ? 何だもう噂を聞きつけてきたのかい。よほど暇なのか、お前ら」

金剛「ぐぬぬ……今はPOWERを蓄えてる時期なのヨ……」

日向「そうだ。決して怠けている訳ではない」

天龍「ま、なんでもいいけどよー」

金剛「それより、どーいう事デスか? いきなり軍楽隊だなんて」

木曾「艦の連携を高める為に演奏を通してチームワークを強化」

木曾「……というのは建前で、あいつらに息抜きをさせてやりたかったんだ」

榛名「息抜き……ですか?」

天龍「ここんとこあいつらは厳しい戦闘続きだ。毎日戦闘戦闘じゃ、
あいつらも可哀想でよー……」

天龍「何か、あいつらが楽しめるような事をしてやりたいって思ったんだ」

金剛「それで音楽ですかー。Musicはいつの時代も人々の心を癒してきた
偉大なものですからネー! ゲイジュツはバクハツデース!」

日向「人は古来より辛い時や苦しい時、いつも音楽に助けられてきた
悪くない考えだと思うぞ、私は」

天龍「そうだろそうだろ?」

木曾「……一人で突っ張ってるあいつも、楽しんでくれるといいんだがねぇ」

榛名「……夕立さんのことですか?」

木曾「ああ……そうだ。最近のあいつときたら、危なっかしくて仕方がねぇ。
このままじゃいつか……壊れちまう」

日向「彼女の心の傷が、少しでも癒やされればいいんだが」

木曾「さぁ、どうなることかねぇ……」



――数日後・制海圏内海域――


神通「……本日の任務は巡回警備です。あの、いくら制海圏の中とはいえ
注意は怠らないよう、十分に配慮してください」

電「はいなのです!」

雪風「はい! 雪風は沈みません!」

若葉「若葉だ。了解した」

時雨「了解したよ」

夕立「……ぽい」

神通(……白露型駆逐艦・夕立。姉妹艦の轟沈で精神的に不安定な状態にあると聞いています)

神通(彼女のことは、注意して見ておかなくてはなりませんね)



電「雪風さん、トロンボーンどこまで吹けるようになりましたか?」

雪風「雪風、大分うまくなったと思います!」

若葉「そんなことより敵はまだか」

電「で、できれば、敵さんとはお会いしたくないのです……」

若葉「何故だ」

時雨「戦闘がないに越したことはないからね……」

夕立「……そんなの、つまんないっぽい」

若葉「お前は傷つくのが怖くないのか」

夕立「……そんな当たり前のこと聞いてどうするの?」

若葉「どうもしないぞ」

夕立「ふーん、なにそれ」

若葉「若葉は傷付くのも嫌いじゃないぞ」

夕立「夕立、そういう趣味はないっぽい」

電「はわわ! 若葉ちゃん変態さんだったのです!?」

若葉「違うぞ」

時雨「あはは……」


~数時間後~


神通「……皆さん、そろそろ休憩にしましょう。接岸するのでついて来てください」



――海域内・孤島――


神通「……あの、皆さん、昼食の時間ですが……お弁当はしっかりと持ってきていますね?」

電「はいなのです! 雷ちゃんに作ってもらったのです!」

若葉「若葉だ。今日の弁当は……鱚の天麩羅か。鱚か……ん?」

若葉「鱚か……キスか……」

若葉「キスカ」

時雨「……もしかして、それが言いたかっただけかい?」

若葉「そうだ」

時雨「はぁ。……あ、夕立、一緒にお昼食べようよ」

夕立「夕立はあっちで食べるから、しぐれちゃんはみんなと一緒に食べててほしいっぽい」

時雨「……どうしたのさ夕立。最近様子がおかしいよ」

夕立「夕立は、一人が好きになってきたっぽい」

若葉「厨二病か」

夕立「なんでもいいっぽい。とにかく夕立は一人で食べるっぽい」

時雨「……わかったよ。夕立がそれでいいなら」

夕立「……ぽい」

時雨(夕立……君は最近、何を思いつめているんだい……?)

時雨(この僕じゃ、君の力にはなれないのかな……?)


雪風「……時雨さん」

時雨「雪風……どうしたんだい?」

雪風「夕立さんの事が、気になるのでしょうか?」

時雨「まぁね……でも、夕立は僕に立ち入ってほしくはないみたいなんだ」

雪風「……雪風と時雨さんはかつて、呉の雪風・佐世保の時雨と並んで評された仲です。
雪風、時雨さんのお力になります!」

時雨「え、ちょっと雪風。君は一体何をするつもりだい?」

雪風「雪風、少し夕立さんとお話してきます!」

時雨「……やめておいたほうがいいよ。今の夕立はちょっと精神的に不安定なんだ」

時雨「もしかしたら、雪風に酷いことを言ってしまうかもしれない。でもそれは夕立の本心じゃ
無いはずなんだ……」

雪風「わかっています。雪風、夕立さんは優しい人だって信じてますから」

時雨「雪風……」


雪風「雪風……出撃します!」



――海岸――


夕立「……海。際限無く続くこの海は世界中に繋がっているっぽい」

この海には沢山の悪意が棲んでいる。
沢山の無念が沈んでいる。

……こんなものが世界を覆っているのだ。

夕立「考えてみると、怖い話よね」

一人になると、心細くなる。

夕立「夕立はソロモンの悪夢。恐れるものなんて何も無いっぽい」

夕立「一人だって平気だもん」



「そんなことはありません。ひとりぼっちは……寂しいものですよ」



夕立「誰っ!?」

雪風「こんにちわ、夕立さん。雪風、夕立さんとお昼を食べる為に推参いたしました!」

夕立「……誰もそんなこと頼んでないっぽい!?」

雪風「隣、座りますね!」

夕立「そんなの許可してないっぽい! ぽいぽい!」

雪風「お昼は誰かと一緒に食べたほうが美味しいですよ~!」

夕立「もう……勝手にすればいいじゃない……」



雪風「今日は~♪ 瑞鳳さんに頂いた卵焼きがあるんです! 早速一口……」

パクッ

雪風「……ンまぁ~ーーーいッ!!! この男の本能をくすぐるような甘さ……!
例えるなら幼いころ、両親の実家に行った時の祖父祖母から感じる『どんなお願いも聞いてくれる』
感つーか、大鳳のタンクの溶接っつーか……とにかく甘い! 絶妙な甘さです!」

雪風「そうだ、夕立さんもお一つ如何ですか?」

夕立「いらない。夕立、食欲ないっぽい」

雪風「ひょうでふか、それは残念でふ」モッチャモッチャ

夕立(口に物を入れて喋るタイプっぽい……)



雪風「ふぅー。ごちそうさまでした!」

夕立「…………」

雪風「あー気持ちいい風ー! そう思いませんか? 夕立さん!」

夕立「…………」

雪風「ええと、そ、そういえば夕立さんも東方艦隊にいたことありましたよね?
実は雪風も所属していたことがあったんですよ。一時的なものだったんですけどね」

夕立「…………」

雪風「あの時比叡さん達と見た海も、この海のように綺麗でしたねぇ」


夕立「……この海は、綺麗なんかじゃないっぽい」


雪風「へ?」

夕立「深海棲艦と、艦娘の血で汚れた汚い海」

夕立「夕立は、こんな海嫌いっぽい」

雪風「……そんなことを言うのは、やはり姉妹艦が沈んだからですか?」

夕立「……だったら何かしら?」

雪風「雪風は、夕立さんのお気持ちが痛いほどよくわかります」

夕立「……嘘っぽい」

雪風「嘘じゃ、ありません。……雪風の元いた泊地の艦娘さんはみんな、
海の底にいますから」

夕立「……!」


雪風「それだけじゃありません。雪風は、今まで沢山の艦が沈むのを見てきました」

雪風「雪風も最初は、海が嫌になりました。沢山の悲しみが溶けて、沢山の憎悪が渦巻く
この海が怖くなりました。ですが、気付いたんです」

雪風「今まで沈んでいったみんなも、今頑張っているみんなも」

雪風「この海を守る為に、戦ってきたのだと。いつか自由になった海を夢見て、戦ってきたのだと」

雪風「みんなこのきれいな海が好きで、愛してやまなかった」

雪風「何故なら、母なる海は全てを受け入れるから。楽しいことも悲しいことも苦しいことも。
そして、今は海の底で眠る艦娘達も」

雪風「そんな海が、汚い訳がなかったんですよ」

雪風「そう考えると、海がまた綺麗に見えるようになりました。やっぱり雪風も海が好きだったんです」

夕立「…………」

雪風「雪風は、みんなが沈んで一人になった時、どうしようもなく寂しかったです。
あの感覚は忘れません……」

雪風「……夕立さんはかつての雪風と似ています。雪風は夕立さんに同じような思いを
してほしくないです! せっかく夕立さんの周りには心配してくれるお仲間さんがいるのです!
一人でも大丈夫なんて言わないでください!」

夕立「ふん、夕立は強いから一人でも平気っぽい」

雪風「……夕立さんは、優しい方です。だからそんなことを言うんですね」

夕立「意味分かんない」

雪風「夕立さんはさっき、傷付くのは怖くないと仰りました」


雪風「雪風は知っています。夕立さんが傷つくのを恐れないのは、皆の為なんだって。
自らの身を呈してでも仲間を守る、心のやさしい方なんだってことを」


夕立「……ふーん、なにそれ」

夕立「全く見当はずれっぽい。夕立は単純に傷なんて気にしないって言いたかっただけっぽい」

雪風「夕立さん……」

夕立「お話はこれでおしまい? なら、夕立は行くっぽい」

雪風「…………」


雪風「……見てられないですよ、今のあなた」




――制海圏内・海域――


神通「……えっと、皆さん。休憩後のこの時間が一番気が抜けるといいます。これより巡航を
再開しますがくれぐれも気を抜かないよう……」

若葉「若葉だ。抜かりはない」
電「なのです」
時雨「大丈夫さ」
雪風「雪風は、気抜けません!」

夕立「……ぽい」



若葉「若葉だ。腹が重いぞ。それに少し眠い」

電「はわわ! 若葉さん、今気を抜くなって言われたばかりですよ!?」

時雨「こういうことを言えてる内はまだ大丈夫だと思うけどね……」

夕立「…………」

雪風(夕立さん……)



夕立(みんな夕立のこと……きっと悪い子って思ってるっぽい)

夕立(だから夕立みたいな悪い子が傷ついても、誰も気に病むことはないっぽい)

夕立(誰も傷付けさせない。みんなも、みんなの心も。そう決心したんだもん)

夕立(ちょっと寂しいけど……夕立は確実にソロモンの悪夢に近づいてるっぽい)

夕立(ソロモンの悪夢になればきっと……もうあんなことは起きないっぽい)

夕立(そうだよね、吉川艦長……)

神通「……っ! 皆さん……落ち着いてくださいね」


神通「敵艦隊です」


夕立「!」



電「はわわ!?」

神通「敵はこちらに気付いています。一時の方向距離80km・数6~9。
速やかに戦闘準備を行ってください」

若葉「敵か」

雪風「振りかかる火の粉は振り払わなければなりません!」

時雨「やっぱり何事も無く、とは行かないみたいだね」

夕立「……よーやく敵さんと戦えるっぽい! 待ちくたびれたっぽい!」

神通「……我が艦隊は間もなく敵艦隊と対峙します。皆さん落ち着いて、
艦隊行動を乱さぬようにお願いします」

電「りょ、了解なのです!」

時雨「夕立、この前みたいなのはダメだよ?」

夕立「わかってるっぽい」

時雨(ほんとにわかってるのかな……?)




――敵艦見ゆ!――




雪風「駆逐6軽巡2……戦艦1!」

電「せ、戦艦!?」

若葉「お、落ち着け。戦艦如き若葉の魚雷で……」



警備巡航艦隊、会敵。深海棲艦の艦隊は戦艦一隻を擁している模様。



神通「……あの、戦艦がいるからといって慌てず冷静に戦闘を行ってください。
演習の通りに対処すれば必ず勝利できます」

神通「えっと……皆さんはまず周りの駆逐艦を片付けてください。いいですね? いきますよ?」




駆逐イ級「……ッ! ッッ!」

時雨「いくよ!」ドン!

駆逐イ級「!!」


時雨。早々に駆逐イ級にむけて砲撃。


雪風「仰角良し! 逃がしません!」ドン!


時雨の放った砲弾がイ級の手前に落ちたことを確認すると雪風は素早く
着弾地点を計算し、その射程にイ級を収め……主砲を放った。


ドゴォン!

駆逐イ級「……ゥ、……、」


イ級、沈黙。


雪風「これが呉の雪風と……」
時雨「佐世保の時雨の力さ」


時雨・雪風、息の会った攻撃で駆逐イ級一体を撃沈す。



戦艦ル級「……ッッッ!」

神通「さて。戦艦が厄介ですね……夜戦であれば探照灯を向けて集中砲火をすれば片付くのですが……」

戦艦ル級「ッ!!」ドォン!ドォン!

神通「……恐ろしい砲撃ですが、戦艦の砲撃は命中率が高くはありません」

神通「次の砲撃までに……軽巡を沈めます」スチャ

軽巡ホ級「!!」

神通「遅いですよ。戦艦に向かうと思いましたか?」

神通「……捉えました。撃ちます」


ドン!


神通、瞬く間に軽巡ホ級を撃沈。


神通「なんとか当たりましたね……ふぅ」



若葉「若葉だ。撃つぞ」ドン!

電「電の本気を見るのです!」ドン!

駆逐イ級「…………」スカッ

電「全然弾が当たらないのです~!」

若葉「集中しろ」



ドオォォォォォーーーン!



電「はにゃあー!?」


戦艦ル級、駆逐艦・電に向けて砲撃。しかし近弾に終わる。


電「あ、危なかったのです……」

若葉「余所見をするな! 駆逐の主砲がこちらに向いてるぞ!」

駆逐ロ級「……!」カチャ…

電「はわわ!? か、回避運動を……」

駆逐ロ級「!」ドン!


駆逐ロ級、戦艦の砲撃に怯んだ電の隙を突き砲撃。


が、しかし……


夕立「どいて!」ドン!ドン!

電「はう!?」バシャン


夕立、電を突き飛ばし、そのまま駆逐ロ級に砲撃す。
駆逐ロ級は撃沈。夕立も小破の被害を受ける。


若葉「おい、ちゃんと艦隊行動を取れ」

夕立「なぁにそれ」

若葉「話が通じないぞ」

電「あ、危ないところをありがとうございます、夕立さん!」

夕立「邪魔っぽい」

電「……え?」

夕立「まともに戦えないなら下がってて」

電「!!」

若葉「言い過ぎだぞ」

夕立「ふん、こんな連中、夕立だけで十分っぽい」




夕立「……最高に素敵なパーティしましょ!」




夕立、単艦敵艦隊に突撃を開始。



駆逐イ級「……!」ドン!

駆逐ハ級「……」バババババ

夕立「それ、威嚇のつもりっぽい?」


駆逐二隻に挟み撃ちにされるも夕立はまるで動じず、


夕立「よりどりみどりっぽい!」

ドン! ドドン!

駆逐イ級「!」
駆逐ハ級「!?」


なんと二隻まとめて撃沈してしまう。


夕立「……お次は戦艦っぽい」


夕立の勢いはそれだけに留まらず、彼女は尚も突撃する。
目標は戦艦ル級。


戦艦ル級「……ァァァ!」

夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」


ドゴォン!



戦艦ル級「!??!?」

夕立「……? 魚雷っぽい?」


戦艦ル級、中破。


時雨「……夕立! 全く君というやつは!」

夕立「しぐれちゃん……これは?」

時雨「みんなで一斉に魚雷を放ったんだよ。航行能力を低下させてこっちは撤退する算段さ」

夕立「撤退? 敵さんにとどめ刺さないっぽい!?」

時雨「中破といえど戦艦だよ。駆逐艦の装甲じゃ中破でも十分に脅威さ。
それに、旗艦があの損害じゃ敵も侵攻しては来ないだろうし」

夕立「夕立、敵さんにトドメさしてくるっぽい!」

時雨「ダメだよ。君はただでさえ艦隊行動を乱しているんだ」

夕立「敵さん見逃すっぽい? そんなのできる訳無いっぽい~~!」

時雨「僕は君を引きずってでも艦隊に引き戻すつもりだよ」

夕立「う……わかったっぽい」



戦闘終了。夕立の小破以外の目立った被害はなく、艦隊は満足の行く勝利を収めた。



――艦隊帰投――


若葉「若葉だ。泊地に帰投したぞ」

電「あ、あの……夕立さん」

夕立「なにかご用事っぽい?」

電「先ほどの戦闘では……その、すみませんでした。あの戦いの時からずっと
言いたかったんですけど……中々言い出せなくて」

夕立「……戦闘になれば敵味方の砲撃が入り乱れて、砲弾が自らの身体を貫くこともあるっぽい
そんなことわかりきっているのに、そんな状況下であなたは一々そんなことを考えてたの?
そんな暇があるなら、少しでも敵に砲撃を浴びせて戦力を削ごうと考えるべきっぽい」

電「でも、電は……!」

夕立「いい加減にしてほしいっぽい。あなた、戦いを舐めてるのかしら?」

電「ぁ……あう……」グスッ

時雨「夕立! いくらなんでも……」



神通「戦いを舐めているのはあなたの方です」



夕立「……どういうこと?」

神通「夕立さん。あなた、艦隊行動を乱しましたね。あれほど重ね重ね忠告したのに、
一人で突撃して」

夕立「だから何かしら? 夕立、駆逐艦沢山やっつけたっぽい?
夕立、褒められることはあっても責められることなんて何も……」

神通「あなたが勝手なことをしなければ、艦隊は無傷で帰投できました」

夕立「誰も傷ついてなんか……」

神通「あなたが、傷ついているでしょう」


夕立「……」

神通「駆逐艦の装甲はとても薄いです。軽巡の一撃でも十分沈められる程に。
駆逐艦一隻ができる事など限られています。それ以上を求めれば……沈みますよ」

夕立「……夕立は、沈まないっぽい」

夕立「夕立は他の子とは違うっぽい! 夕立はソロモンの悪夢! どんな相手でも負けは」



パァンッ!



夕立「……ッ!」

電「はわわ!?」

若葉「ビンタか」

神通「はぁ……口で言ってもわからないようですね。仕方がありません」

神通「駆逐艦・夕立。あなたには独居房で反省してもらいます」

夕立「なにそれ……」

時雨「じ、神通……あの、そこまでする必要はないんじゃない、かな」

神通「ダメです。これは必要なことです」

時雨「なんとかならないかな……ぼ、僕も一緒に謝るし」

神通「時雨さん、あなたは関係ありませんよ。妹を庇いたい気持ちはわかりますが
ここは受け入れてください」

時雨「わかっ、たよ……」

雪風「時雨さん……夕立さん……」


駆逐艦・夕立、艦隊行動を乱したとして罰せられることが決まる。
神通の進言により、彼女は一人独居房へと送られた。


――泊地・独居房――


天龍「ここが独居房だ。ったく、お前も懲りねーな……」

夕立「……」

天龍「何かあったら呼べよ。扉の前で俺達軽巡が交代で見張ってるからよ」

夕立「……ぽい」


ガシャン


夕立「……暗いっぽい」


そこは何もない、鉄の箱だった。
冷たい黒が部屋中を埋め尽くし、外界へと繋がる僅かな隙間から
辛うじて月光が降りてくるのみの、幽寂とした正方形の立体だった。


夕立「……どうして夕立がこんな所に」


夕立は横たわり、ふてくされる。
彼女は黒の中に一人、隔離されていた。
冷たい床が著しく彼女の体温を奪っていく。
少しでも寒気を紛らわそうと独房に差し込む月明かりに当たるけども
月明かりは彼女を温めてくれる事はなく、それどころかより一層体温を奪っていった。
少なくとも夕立自身はそう感じた。


夕立「冷たい……」


夕立は体以上に心が冷たかった。夜の闇が部屋に溶け込んでいくのと同じように、
寂寞とした独居房に充満する黒が徐々に夕立の心を侵食していくようだった。
夕立は今、どこまでも孤独で隔絶された空間に一人、置き去りにされた感覚を味わっていた。


夕立「しらつゆちゃん、むらさめちゃん……」



夕立「寂しい……」




――駆逐艦寮――


陽炎「聞いたわよ雪風。夕立、独居房に入れられたんですって?」


雪風「はい……」

黒潮「あらー! それは……災難やなぁ。時雨ちゃんも心配やね?」

時雨「……まぁ、仕方ないさ」

叢雲「ふん! いい気味よ! ちょっと強いからって、最近調子乗ってたんだから」

時雨「夕立は、自分の功績を自慢したりするような子じゃないはずなんだ。本当だよ……」

満潮「どーかしら。力を持てば誰しも傲慢になるわ」

雪風「果たして、本当にそうでしょうか……?」

叢雲「? 何よ雪風、アンタ……アイツの肩持つっていうの?」

雪風「夕立さんは、心の優しいお方なんです! ほんとです! 雪風は今日確信いたしました……!」

叢雲「どういうことよ……?」

雪風「夕立さんはきっと、誰も傷つけたくないんですよ。だからああいう態度をとっているんです!」

雪風「夕立さんは、ご自身が傷つく事に対して皆さんが心を傷ませないように
ああやって皆さんを突き放すような真似をしてるんです!」

時雨「!!」


叢雲「わ、わざと悪態をついてるっていうの? 信じられないわ、そんなの……」

電「電は……」


電「電は、夕立さんが本心であんな酷いことを言う人だとは思えないのです」


雷「電……?」

電「夕立さんは、傷を負いながらも電のこと守ってくれました。夕立さんが何を言おうと
それは事実なのです」

電「電は……そんな夕立さんが暗い部屋で一人閉じ込められているなんて……
我慢ができないのです! 電は夕立さんをお助けしたいのです!」

雷「……わかったわ、電」

雷「あの子を、助けたいのね?」

電「雷ちゃん……!」

雪風「そうです! 夕立さんを助けましょう! あんな暗い部屋に一人でいては
さぞお辛いでしょうから」

叢雲「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 助けるったって、どうすんのよ!」

叢雲「それに私はまだ、雪風の話信じてる訳じゃないんだからね!」


時雨「……僕は行くよ」


陽炎「時雨!」

時雨「……僕は、夕立が苦しんでる時……何も姉らしいことをしてやれなかった
ここで僕が立たなきゃ……僕が、やらなくちゃいけないんだ」

時雨「たとえ僕一人でも行くさ」

電「電もいくのです!」

雪風「雪風もお供します!」

綾波「じゃあ、私もついていってもよろしいですか……?」


時雨「綾波……?」

綾波「夕立さん、最近様子がおかしかったじゃないですか。それって、そういうことなんだなって。
納得したら、綾波スッキリしました。夕立さんとは、少し縁も感じますし、ここはお供しましょう!」

陽炎「……は~っ! 全く、仕方ないわね。私も行くわ」

黒潮「陽炎ちゃんがついてくならウチもウチも!」

初風「ついでについてくだけよ、ついでに」

満潮「……馬鹿ばっかね。それについてく私も馬鹿だけど」

朝潮「素直じゃないのは、満潮も一緒ね」

満潮「なっ……ウザいのよ!」

朝潮「ふふふ……」

若葉「若葉だ」

雷「……みんな行くみたいだけど? アンタはどうすんの」

叢雲「くっ……何よ! これじゃあ、私が悪者じゃない!」

電「叢雲さんが仲間になりたそうにこちらを見ているのです」

叢雲「……ああもう! わかったわよ! アンタ達に任せておいたら、
何しでかすかわかったもんじゃないからね!」

時雨「みんな……ありがとう」

雷「よーっし! じゃあみんな行くのね?」

雪風「雪風が夕立さんをお救いします! 皆さん、行きましょう!」

朝潮「……それで、どこへ向かうのでしょうか?」

電「決まってるのです!」



雷「直談判よ!」




――泊地・独居房――


夕立「あれからどれだけの時間が経ったっぽい?」

夕立(まだ夜はあけない)

夕立(もう何度も夜を繰り返したかわからないくらいの時間が経ったと思ったのに)

夕立(……まだ、一晩も過ぎてないっぽい)

夕立(夕立は、ソロモンの悪夢なのに、どうしてこんなに寂しいの)

夕立(……夕立みたいな悪い子のところには、誰も来ないのに)



雷『てんりゅー! いるんでしょ! ここを開けなさーい!』



夕立「……?」

天龍『おいおい、何だお前ら』

若葉『若葉だ』

陽炎『この中にあの子がいるんでしょ? ちょっと開けてもらえないかしら?』

天龍『はぁ!? 無理に決まってんだろ!』

夕立「みんな……な、なんで……?」

電『夕立さんは悪くないのです! ここからだしてあげてください!』

夕立「!?」


雪風『そうです! 夕立さんはただ、皆さんをお守りしていただけなんです!』

天龍『あ~……例えそうだったとしてもよ? 俺にそんな権限ねぇよ』

黒潮『そんなつれない事いわんといてーな』

雷『そうよそうよ! そこは何とかしなさいよ!』

夕立「なんで……」

天龍『無茶言いやがって! 俺はここの見張りを任されたんだ! 何人たりとも通さねー』

初風『じゃ、仕方ないわね……』

天龍『お、おい……なんだよ』

満潮『アンタが悪いんだからね』

電『大丈夫なのです。痛みは一瞬なのです』

天龍『お、おいふざけんな! 俺とやろうってのか!?』

朝潮『こちらは駆逐艦が11。そちらは軽巡が1です』

天龍『くっ……上等だこら! 人呼ぶぞ!』

陽炎『何が上等なのよ。人呼ぼうとしてんじゃない』

夕立「なんで? ……夕立はだって、悪い子っぽい?」

雷『みんな、突撃よ!』

雪風『天龍さんの身柄を拘束いたします!』

天龍『ちょ、ま……』

夕立「なんで……」

綾波『推して参ります!』

ドタドタドタドタ

天龍『ばっ……やめ……』

バタバタバタバタ

ドタバタドタバタ……

ドタ……バタ……

…………

……



天龍『おい! 何だこの格好は! 離せ!』


雷『独居房の鍵はっと……あった!』

雪風『……では、開けますね』

夕立「……!」



ガチャリ




夕立「…………」

時雨「夕立……」

夕立「……みんながん首揃えてどうしたっぽい? あ、もしかして助けに来てくれたっぽい?」

陽炎「夕立」

夕立「でも必要ないっぽい! 借りなんて作りたくないし、何より夕立ここ、結構、気にいってるっぽい!」

電「夕立さん……もう、いいのです」

夕立「暗くて、静かだ、し……みんなの、うるさい声、も聞こえ、ないし……」

雷「夕立さん。もう無理はしないで」

夕立「無理なんて……無理なんてしてないぽい!」

雪風「じゃあ何で、夕立さんは……」



雪風「夕立さんは、そんなに泣いてらっしゃるのですか?」




夕立「えっ……?」


暗闇で見えなかった涙が、月明かりに照らされ頬を伝う。
夕立はここで初めて、自分が涙を流していることに気がついたのです。


夕立「うそ……これ、違うっぽい! これ違うっぽい!」

夕立「夕立はソロモンの悪夢! 涙なんか……涙なんか!」


時雨「もういいんだ夕立!」ギュッ


夕立「あっ……」

時雨「もう、いいんだ……」


それは時雨の肌が暖かかったから。夕立の心の氷河はみるみる溶けて。


夕立「う……うう……うあああああああああああああん!」


夕立は、大粒の涙を流した。




雪風「夕立さん、教えてください。どうして突然みんなにあんな態度をとるようになったのですか?」

夕立「……夕立は、もう誰もしらつゆちゃんやむらさめちゃんみたいな目に
遭わせたくないって思ったっぽい」

時雨「やっぱり……君はずっと二人のことを気に病んでいたんだね」

夕立「しらつゆちゃんもむらさめちゃんも、夕立のせいで沈んだっぽい。夕立を守るために」

夕立「だから夕立はもう、誰にも守られないように、誰も失わないように強くなろうとしたっぽい」

時雨「それが……ソロモンの悪夢」

夕立「ソロモンの悪夢は敵からも味方からも恐れられたっぽい。だから夕立は……」

電「ソロモンの悪夢になる為に……みんなを突き放した」

夕立「だって、ソロモンの悪夢になればみんなを守れるから……」


夕立「夕立は、みんなも、みんなの心も守りたかったっぽい」


時雨「何で一人でそんなに頑張ろうとするのさ……夕立の馬鹿!」

雷「ほんと、馬鹿よね」

満潮「みんなの心は、今の話を聞いて罪悪感で押しつぶされそうなんだけど?」

夕立「ごめん……やっぱり夕立、黙ってたほうが良かったっぽい?」


叢雲「それで夕立が傷つくことに何も感じなくなってしまうことの方が怖いわよ、全く」


夕立「むらくもちゃん……」

叢雲「心配かけさせて……そういうことなら早く言いなさいよ、ほんと」

叢雲「……ごめんなさい。あなたの真意に気づくことができなくて」

夕立「そんな! 夕立の方がむらくもちゃんに酷いこと言っちゃったっぽい~~!?」

叢雲「……でも、これで仲直りね」

夕立「……ぽい!」


電「お二人が仲直り出来て、良かったのです……」

夕立「電ちゃんもごめんね……色々酷いこと言って」

電「い、いえ……いいのです。電にも悪いところはありましたから……」

雪風「……そうだ、仲直りの印に……夕立さんにアレを聞かせませんか? みなさん!」

夕立「アレ……?」

陽炎「いいわね!」

朝潮「練習の成果を見せる時です!」

黒潮「そうと決まれば……」

雷「早速行くわよ!」

夕立「え、ちょっと、どこへいくっぽい~~!?」

時雨「来ればわかるさ。さ、いこう夕立」



天龍「……へっ、どうやら解決したみたいだな」

天龍「……まぁ、こっちの問題は解決してないみたいだけどな!」

天龍「早いとこ、この紐解かねえと……こんなみっともない格好、他の連中に見られたら……」

木曾「……」

天龍「oh……」

木曾「お前、そんな趣味が」

天龍「ちげーし! ちょっと縛られただけだし!」

木曾「縛られたのか。そういうプレイか」

天龍「プレイ!? 何のことだよ!」

木曾「……それよりいいのかい? こんなに好き勝手したのに見逃してさ」



木曾「神通」



神通「……水を差すのもアレですし……今は見なかったことにしましょう」

木曾「へっ、粋なことをするじゃねぇか」

天龍「そんなことよりよ、この紐早く解いてくんねーかな」

木曾「ぁん? ……ていうかこれ亀甲縛りだな。誰が縛ったんだ……あいつら駆逐艦だろ……」

天龍「……確か電だったな」

木曾「……まじか」

神通「ちょっと……あの子を見る目が変わりそ……」

天龍「で、その亀甲縛り? の何がマズイんだ?」

木曾「まじでか……」

神通「ちょっと……天龍さんを見る目がかわりそ……」

天龍「おいィ! 詳しく教えろって!」



――泊地・総合ホール――


電「えー、お集まりの皆さん! こんにちわ!」

夕立「こんにちわっぽい!」
 
電「クラリネット担当の電なのです!」

雷「同じくクラリネット担当の雷よ!」

電「今日皆様にお集まりいただいたのは他でもありません! 私達、この度軍楽隊を
結成いたしまして! 本日は練習の成果を皆様に見ていただきたいと思ったのです!」

雷「今日は私達の演奏、い~っぱい聞いていってもらうからね!」



叢雲「……観客一人しかいないのに、この下り必要なの?」

陽炎「一応、雰囲気は出るじゃない?」

満潮「ていうか……私達一曲しか曲知らないんだけど?」

黒潮「まぁまぁ、雰囲気や雰囲気」



時雨「夕立、僕達……まだ楽器始めたばかりだし、その……上手くないかもしれない」

雪風「でも……楽器の演奏はとっても楽しいんだということを、雪風は夕立さんに教えたいのです」

夕立「しぐれちゃん、ゆきかぜちゃん……」



電「――それでは聞いてください」



『聯合艦隊行進曲』
ttp://www.youtube.com/watch?v=w8YlOU0O-5E








――それは、指揮者もいない滅茶苦茶な演奏でした。


陽炎「~♪」

初風「~♪♪」


ぎこちない旋律と曖昧な音階を行き来するメロディ。お粗末もいいところです。
でも……。


電「ー♪」ニコッ

雷「ー♪」ニコッ


彼女達が本当に楽しそうに演奏するものだから、
音の一つ一つからこれ以上にないほどに沢山の『楽しい』の気持ちが溢れでていたから、


夕立「わぁ……!」


長らく空っぽだった夕立の心は、『楽しい』という気持ちでいっぱいになったのです。


時雨「……夕立、君は確かに他の駆逐艦よりも強い力を持っている。でも、僕達は所詮駆逐艦」

雪風「一人一人の力は、戦艦や空母の皆さんに遠く及びません。でも、みんなで力を合わせれば
きっとそれ以上の力を発揮できると、雪風は信じています!」

電「一人で頑張るよりも、みんなで頑張ったほうがいいのです! 戦いも、演奏も!」

雷「だから、も~っと私達を頼ってくれていいのよ!」



――ね! 夕立!――



夕立「みんな……」

夕立(……吉川艦長。夕立は、間違ってたのかな)

夕立(夕立、吉川艦長の真似をしてみたけど……全然ダメだったっぽい)

夕立(夕立は、ソロモンの悪夢にはなれなかったっぽい。でも、ソロモンの悪夢は必要なかったのね……)

夕立(夕立は、ほんとは弱くて、誰かに支えてもらわないとダメっぽい)

夕立(だから、夕立はみんなと一緒に頑張るっぽい)

雪風「さぁ夕立さん! あなたも一緒に演奏しましょう!」

夕立「……ぽい!」



今までありがとう。そしてさようなら、ソロモンの悪夢さん。




夕立「――さぁ、素敵な演奏しましょ?」




NEXT【浮き砲台三人娘 Chapter3(終)】

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      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   そろそろストーリーも後半戦でち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   ハッピーエンドになればいいでちね
        V`ゥrr-.rュイ人人   
         ,/1::ー:'::! i
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始まるっぽい


【浮き砲台三人娘 Chapter3(終)】



日向「ううむ……」

伊勢「どうしたのさ、伊勢。そんな難しい顔しちゃって」

日向「いや、たいしたことじゃあ無いんだが……」

日向「私達はなぜ、艦娘という形で再びこの世に生を受けたのだろうなと、ふと疑問に思ってな」

榛名「そういえば、そうですね。……今まであまり考えたこともありませんでしたが」

日向「戦うだけなら、兵器としての私達で問題なかったはずだ。何故このような姿で……」

伊勢「それはアレだよやっぱり、船は女性として扱われていたしさ……」

日向「それだけとは考えにくい。何か、別に理由があるはずだ……」

榛名「艦娘として生まれた理由……もしかして」

伊勢「おっ、榛名何かわかったの?」

榛名「たぶん……」

日向「聞かせてはくれないか? 榛名」



榛名「はい。私達が艦娘として生まれた理由……それはズバリ、恋をする為です!」


伊勢台詞訂正


日向「ううむ……」

伊勢「どうしたのさ、日向。そんな難しい顔しちゃって」

日向「いや、たいしたことじゃあ無いんだが……」

日向「私達はなぜ、艦娘という形で再びこの世に生を受けたのだろうなと、ふと疑問に思ってな」

榛名「そういえば、そうですね。……今まであまり考えたこともありませんでしたが」

日向「戦うだけなら、兵器としての私達で問題なかったはずだ。何故このような姿で……」

伊勢「それはアレだよやっぱり、船は女性として扱われていたしさ……」

日向「それだけとは考えにくい。何か、別に理由があるはずだ……」

榛名「艦娘として生まれた理由……もしかして」

伊勢「おっ、榛名何かわかったの?」

榛名「たぶん……」

日向「聞かせてはくれないか? 榛名」



榛名「はい。私達が艦娘として生まれた理由……それはズバリ、恋をする為です!」



日向「こ、こい……?」

榛名「はい。私達は女性として扱われていながら、軍艦時代はそのような色恋とは無縁でした
一生の殆どを戦いで消費しました。女性として生まれたのなら一度くらい恋をしないと……
悲しいじゃないですか」

日向「な、なんだ? 金剛の影響か?」

榛名「どうでしょうね……」

伊勢「恋ね……考えたこともなかったよ」

日向「我々は兵器なんだぞ。恋なんて……そんなものにうつつを抜かしていてはだな」

榛名「でも、少なくとも提督に恋していた金剛お姉さまは、毎日がとても楽しそうでした」

榛名「それに、兵器じゃないですよ。私達は"艦娘"です」

日向「む……そうか」

伊勢「日向ってば頭固すぎー」

日向「私はお前や金剛のように器用な生き方はできない。生まれてから今までずっと生きるのに必死だ」

伊勢「……それは違うよ、日向」

日向「……?」

伊勢「私も金剛も、皆誰しもが生きるのに必死だった。皆それぞれの生き方を模索して、懸命に生きようとしたのよ」

伊勢「沢山の物を見て、色んな物に興味を持って……出会って、別れて……そして時には恋をして」

伊勢「私達はその中で、新しいものが自らの心の内で生まれるのを感じたはず。
そしてそれは様々な形で自分達の内から外へと飛び出した。
絵だとか、料理だとか、愛情だとか、そういうものを私達は生み出すことができた」

榛名「皆、生きるということを知らなかった。だから私達は……がむしゃらに生きるという事を求めたのかもしれません」


日向「そうか、そうよね……みんな、必死に生きた。器用な生き方をできる奴なんていない、いる訳無いんだ」

日向「金剛のやつが、あんなに提督にアプローチしていたのは……ただ、生きたかったからなんだな」

伊勢「そういう意味じゃ金剛はさ、誰よりも一生懸命だったのかもしれないね……」

榛名「そうですね……金剛お姉さまはいつもまっすぐに生きていました」

日向「……金剛は、幸福であったのだろうか?」

伊勢「こりゃまた難しい話をする」

日向「幸福というものがよくわからなくなってしまっだんだ。兵器であれば戦うことでその本望を全うすることができるが
艦娘はそう単純じゃない」

日向「私達は決して恵まれた境遇にはない。それどころか苦しいことばかりだったような気がする……」

日向「あいつ、金剛だって……決して報われた訳じゃなかっただろう」


榛名「……兵器は幸せを感じることはありません。ですが、私達は幸せを感じることができます」

榛名「確かに、辛いこともたくさんありました。死にたくなるくらい、苦しいこともありました」

榛名「それでも……それでも私達は、何かを生み出す事ができる力に明日を夢見たのです。
いつか辛いことを凌駕することもできるかもしれないそれに、希望を見出したのです。それは
破壊しかできない兵器だった私達の、幸せだったんです」

榛名「金剛お姉さまはきっと、いえ、絶対に幸せでした。報われるとか報われないとかじゃないんです。
お姉さまはいつも全力で一生懸命生きて、いつも自分の満足のいくように生きていました……」

榛名「金剛お姉さまは最期まで提督に恋していました。どんな苦難にも負けない恋心を持つことができた
お姉さまは、とても幸せそうでした」

日向「そうか……金剛のやつは幸せだったのか……」


日向「私も、幸せになれるだろうか……?」



伊勢「あれれ~? 色気のない日向もついに女の幸せに目覚めちゃったの?」

日向「どうしてそうなるんだ……」

伊勢「命短し恋せよ乙女よ。恋しなくちゃ損なんだし、今すぐにでも始めよう!」

日向「……異性が周りにいないんだが、それは」

伊勢「別に異性とじゃなきゃいけないって決まりはないじゃん?」

榛名「えっ」

伊勢「さあここに二人の艦娘がいます! 一人は伊勢型の一番艦・伊勢! そしてぇ」

榛名「え、えっと……金剛型三番艦、榛名です……?」

伊勢「さぁ! 選べ!」

日向「選ぶわけ無いだろう」

伊勢「あらら、手厳しいのね」

日向「頭おかしいのか?」

伊勢「だって、今はこの二人しかいない訳じゃん?」

日向「私にそういう趣味はない!」

伊勢「わかった、仮に! 地球上でこの三人しかいなかったらどっち選ぶの!?」

榛名(なんて極端な……)


日向「伊勢と榛名、お前ら二人でくっつけ」


伊勢「その手があったか! って馬鹿!」



伊勢「もー! 日向ってば真面目に答えてよー」

日向「何故そこまで拘る……」

伊勢「なんてったって、乙女プラグイン内蔵してるからね……」

榛名(乙女プラグイン……?)

伊勢「ねー、日向ってば!」

日向「あーもう! わかった! しつこいな……どっちか選べばいいんだろう、選べば」

伊勢「YES! YES! YES!」

日向「……どちらと言われれば」

伊勢(伊勢知ってるよ! 日向ってば本当はお姉ちゃん大好きっ子なんだってこと!)


日向「榛名だな」


伊勢「ズコー!」

榛名「は、榛名でよろしいのですか!?」

日向「いや、まぁどちらかと言えばだからな……榛名は可愛いし、いい奥さんになりそうだ」

榛名「いい奥さんだなんて……////」

日向「伊勢はいい奥さんというビジョンがまるで見えてこない」

伊勢「いやまぁ、確かに榛名は可愛いけどさ……そりゃあ偏見ってもんよ」



伊勢「私だって、脱いだら凄いんだからー! 大戦艦級の夜戦火力にひれ伏しなさい!」

日向「ほーらこうやって痴女発言する。こんな尻軽ビッチが良妻になる筈がない」

伊勢「ちょ、ちょっと! 冗談よ! ビッチじゃないし! まだ処女ですー」

日向「そういう生々しい発言はやめよう」

伊勢「日向、私達は姉妹艦でしょ? 私のことは何でも知っていてもらいたいの……」

日向「気持ち悪いからやめろ」


伊勢「……じゃあさぁ、逆に榛名はどうなのよ?」

榛名「はい? 榛名ですか?(何が逆なんだろう……)」

伊勢「だって、榛名結構モテそうな感じだしさぁ~、ていうか喪失した?」

榛名「え……////」

日向「おいばか、セクハラだぞ」

伊勢「いいじゃん同姓なんだし。で、どうなのさ~? 榛名のことだし、異性と付き合ったこと位あるんじゃない?」

榛名「は、榛名……そういうのはまだ……////」

伊勢「えー! うっそだぁ~! 経験はないとしても、付き合ったことくらいあるでしょ~?」

榛名「本当にそういうの無いんです……すみません」

日向「……まぁ、ここは周りに異性があまりいないからな」

伊勢「異性ならいるじゃん! 提督!」

日向「何でもありだな……」

榛名「んー……提督のことは、確かに好きですよ」



※鎮守府の提督とこの泊地の提督は別人です。


伊勢「お!」

日向「マジか」

榛名「でも、それは金剛お姉さまのように異性としての愛情ではなく……その、家族というか。
榛名は、提督の事……その、恥ずかしいんですが……お父さんのようなものだと思っています」

伊勢「あー……そういうパターンか」

日向「何を期待しているんだお前は」

伊勢「まぁパパってのもありかな」

日向「何がありなんだ。いいかげんにしろ」

伊勢「何さ、日向だってちょっと気になってたじゃん」

日向「……うるさい」

伊勢「やーもうダメよ二人共! 女として生まれたからには恋しなくっちゃ!
そんなもたもたしてると、すぐ行き遅れて婚期を逃すわよ!」

日向「婚期って……飛躍し過ぎだろう」

伊勢「飛躍し過ぎじゃないわよ。恋の先にあるもの、それはケッコンでしょ!」

榛名「ケッコン……ですか。軍艦の頃は考えられないことですね」

日向「船と結婚したらそれはそれで怖いが」


伊勢「確かに船の頃は不可能だった……でも、艦娘となった今ならそれができる!」

日向「まぁ……そう考えられなくもないな」

榛名「私達が艦娘として生まれたのは……やはり、そういうことなのでしょうか?
軍艦時代、恋すること無く沈んでいった私達に、神様がチャンスを与えてくださったのでしょうか?」

榛名「何だか、恋しなくてはいけないような気になっちゃいますね」


伊勢「私に惚れるなよ、榛名。もし本気になってしまったら、私の瑞雲を制御できる自信がない」キリッ


日向「……伊勢、それはもしかして私の真似か?」

伊勢「せやな」

日向「死ね」

榛名「あはは……」

榛名「……」



榛名「恋、それができたら……私も金剛お姉さまのように生きれたのでしょうか?」

日向「…………」




――――――
―――



伊勢「ふぅー……今何時だろ」

伊勢「全く静かね。不気味なくらい。ホント、静かすぎて眠くなってこない? 榛名」

榛名「…………」

伊勢「榛名?」

榛名「……すー、すー……」

伊勢「ありゃ、榛名寝ちゃってるよ」

日向「私達はもう長いこと眠っていないし、ここは随分と静かだ。眠ってしまっても仕方ないさ」

伊勢「……せっかくだし、もう少しだけ眠らせてあげよっか」

日向「そうだな。寝ている時だけは、何もかも忘れられる」

伊勢「立ったまま寝るなんて、よっぽど疲れてたのかな~」

日向「無理もない、榛名は本当に辛い目にばかり遭ってきたんだ。このボロボロの艤装と
華奢な体で、一体どれだけの修羅場をくぐり抜けてきたのか……」

伊勢「ほんとだよ……こんなになるまで頑張ってさ」


日向「……私達は、無力だな」

伊勢「何さ、急に」

日向「もう満身創痍の体の榛名に、浮き砲台をさせてまで戦わせて……」

日向「伊勢、私はね、榛名にこう言ってやりたかったんだ。この戦いに勝利して、いつか平和な世界が来て
そしたらきっと、榛名は心の底から生きていてよかったと思える日が来るはずなんだって」

日向「だから、一緒に生き残って、生きていてよかったと思える日を一緒に探そうって、
そう言ってやりたかったんだ」

伊勢「プロポーズかよ」

日向「違う」

伊勢「はぁ……そんなの、起きたら言ってやればいいじゃんさ」

日向「わかってて言ってるだろう。現実は、もう目を背けられない所まで来ている」

日向「私達は無力で、現実は非情だ。私達が助かる可能性など万に一つもない」

伊勢「日向のせいじゃないじゃん……これはさ、こればっかりは……仕方のないことなんだよ」

日向「仕方のない……か」


伊勢「……まぁ、こんなんになっちゃったけど、私は案外悪く無いと思ってたわよ、浮き砲台」

伊勢「日向がいて、榛名がいてさ。二人と一緒にいたら、不思議と絶望感がないんだ」

伊勢「状況は最悪かもしれないけど、二人と共に最後の戦いを迎えられるなら……いいかなって」

日向「……そうか。実は、私も同じことを考えていた」

日向「何だかんだで、姉妹艦なんだな……ふふっ」


「……私も、気持ちはお二人と同じです」



伊勢「榛名……」

日向「起きて、いたのか」

榛名「日向さん……あなたは、榛名がいつか生きててよかったと思える日が来ると、
そう仰っていましたね……」

日向「……すまない、聞いていたのか。無責任な発言だった」

榛名「いえ……違うんです。榛名はもう、生きててよかったと、心の底からそう思えているのです」

日向「……でも君は、金剛のようには……」

榛名「お姉さまはお姉さまです。確かに憧れはしますけど……私には私の幸せがあります」



榛名「榛名は……伊勢さん、日向さんのお二方に会えて……本当に良かったと思います。
お二方がいたから、榛名は今日を生きててよかったと思えるのです」



日向「わ、私達か……?」

伊勢「あ、あはは……そういうの弱いんだよね、私」

榛名「三人一緒なら、どんな困難にも立ち向かっていける。そんな勇気が湧いてきます」

日向「そうか。私達の気持ちは、一つだったんだな」

伊勢「何か、もう負ける気がしないね!」

日向「いや、それはさすがに無理があるだろう……浮き砲台でどうやって勝つんだ」

榛名「気合です! 気合入れていきましょう! そうすればきっと!」

日向「比叡じゃないんだから……」



一人じゃ挫けそうな劣勢でも、三人なら笑って迎え撃てる。

榛名は、そんな気がしました。

――そして、私達は……。



泊地正面。敵影多数接近。
敵空母第一攻撃隊、発艦開始。


伊勢「敵艦隊のご到着ね。……ようやく私達の出番って訳?」

榛名「榛名達はもう大丈夫です。いかなる砲弾にも、いかなる爆撃にも立ち向かっていけます」

日向「そうだ、浮き砲台の意地、見せてやろうじゃないか!」

伊勢「……砲戦、行くわよ! 日向! 榛名!」

日向「撃つぞ……それ!」





榛名「榛名……全力で参ります!」





これで、榛名達浮き砲台三人娘の、他愛もないお話はおしまいです。


NEXT【東方作戦】

              _ _‐ニ二:_: :‐-. ..

             //_/_ / ` ヽ 、: :丶
             . :" ̄ ,: : : : : : ̄ `・ 、/\: : \
         /: : : :/ !: : : :l.: : : : : : ::.\/ヽ.: : .

       _,.. /.: : :/ /  !: : : :ト: : : : : : : : : :\,ノ!_:_ i
     i"   i.: : :.i /   .l: : :l l ヽ: : : : :.\\_ \.∧! ,.._
.       '< _i.: : :,'l/    i: : ll.l  \.: : : :.\ヽ ̄.l i"  >.
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        l.: :〈 ///  __   /// .l : : : : : ,': : : : !
.         l: l: :.>    \/     .l: : : : : ,'. : : : ::!
         i:l!: : : : `!: ー----‐= '' ´, l: : : : :,'. : : : : :!
         .i.li: : : : :l \/l l∨ / ./ .l: : : :.,'. : : : : : !
         i! V: : : ! /-l //./ /__  i: : ,'l,'. : : : : : :.l
           V: :.! .i .〈 { i l ,'   ヽ!: :/.'. : : : : : : :.l
            ゞ:l/.  }ー-‐.,'   l!:/l : : : : : : : : : l
                i   l:i:i:i:i,'     !::::l: : : : : : : : : :.l
              / .,匕!':i:i:;ム.=   ト.、ヽ:: : : : : : : : :i
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また次回でち

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      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   もうすぐホワイトデーでち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   てーとくからのお返し楽しみでち
        V`ゥrr-.rュイ人人
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


【東方作戦】



某日、鎮守府は膠着状態にあった戦線を打開すべくある作戦の決行を発表した。
――通称『東方作戦』。旧来の東方艦隊を再編し、水上艦の大艦隊を結成。その艦隊を
率いて敵包囲網の突破を期待する作戦……という話なのだが……。



――鎮守府――


山城「ちょっと提督! これは一体……どういうことよ!」

元帥「……見ての通りだが?」

山城「聞いてないわよ……こんなの! 何で扶桑姉さまが……東方艦隊の新しい旗艦に!」

元帥「……良いではないか。彼女は喜んでいた、久々に旗艦になれると」

元帥「栄えある東方艦隊を率いることができるのだ、何が不満なのか……」

山城「ふざけてるの……? 何が東方艦隊よ、こんなの……囮じゃない!」

元帥「……ただ、敵を引きつけてくれればいい。進んで犠牲になれとは一言も言ってはいない」

山城「支援の航空戦力もなしに? ……呆れた」

元帥「仕方がないのだ。この作戦の主は手薄になった敵泊地を少数精鋭の別働隊が叩くことなのだから
航空戦力をそちらに割いては攻略に不安が残る。速やかに敵泊地を奪い取る……
それこそが重要なのだ……一刻も早くシーレーンを確保し、他国との連携を回復せねばならない」

山城「……もういいわ。私が直接扶桑姉さまを説得すればいいだけだし」

山城「失礼しましたッ」


バタン



元帥「……むぅ……中々うまくはいかんものだな……私は肝心なところでいつも中途半端だ……」



――鎮守府・修理ドック――


山城「扶桑姉さま!」バン!

扶桑「あら……山城? どうしたの、そんなに血相を変えて」

山城「姉さま! 今すぐ東方艦隊の旗艦を降りてください!」

扶桑「……いきなり何を言い出すの、山城。せっかく旗艦になれたんですもの……降りるなんてイヤよ」

山城「姉さまは騙されています! 姉さまは囮です! 東方艦隊そのものが囮なんです!」

山城「無能な軍令部の作戦に振り回されてその身を危険に晒す必要はありません!
さぁ、こんなむちゃくちゃな作戦、ボイコットしましょう!」

扶桑「……いやよ」

山城「ど、どうして!?」

扶桑「……私は伊勢や日向には負けたくないの」

扶桑「勿論、山城……貴女にもね。私は今度こそ、役に立ってみせなくてはならないの」

山城「ね、姉さまぁ……」

扶桑「それに、私が降りたら誰が旗艦を務めるの? この"囮艦隊"の」

山城「……それは」

扶桑「あなたが、務めるとでも言うの? それじゃあ私は、自分の代わりに妹を囮に差し出した
最低な姉になってしまうわ……」

山城「でも、姉さま……」

扶桑「囮だとしても……私はそれを立派に務め上げてみせます。それが私に課された役目だというなら」

山城「意志はお変わりにならないのですね……」


扶桑「私は提督の……皆の役に立ちたいの……」


山城(どうしてあんな提督のために……!)

山城「わかりました……ですが、お姉さま一人にそのような重荷を負わせる訳にはいきません」



山城「私も艦隊に加わります」




――数日後。

――鎮守府・大講堂――


元帥「諸君! 時は満ちた! この作戦が成功すれば戦局は大きくこちらへ傾き、他国との連携も回復する
連携が回復すれば、深海棲艦との戦いにも終わりが見えてくることだろう!」

元帥「この作戦は必ず成功させなくてはならない! だが安心し給え、我々にはあらゆる事態に対する備えがある!
失敗など恐れる必要はない!」

元帥「勝利は我々の手にあり! 諸君ら東方艦隊の健闘を祈る!」


第一東方艦隊、第二東方艦隊、第三東方艦隊。それぞれに編成された大勢の艦娘達が一同に会し、
男の言葉を聞いていた。大勢の艦娘の中を様々な思いが駆け巡っていったが、最終的に皆同じことを考えた。
この戦いは今後の行く末を左右する程の大きな海戦になるだろう……と。


第一東方艦隊:旗艦『扶桑』
東方海域へ出向き敵主力を叩く打撃艦隊。極めて大規模な編成だが、航空戦力は実質皆無。
対空装備にて敵航空戦力に対抗する算段だった。


第二東方艦隊:旗艦『大和』
第一東方艦隊の進軍により、恐らく手薄になるであろうサーモン海の泊地を叩き、
サーモン諸島の奪還及びシーレーンの確保を目的とした、大艦巨砲主義の提督が
満を持して投入した超弩級戦艦を中心とした少数精鋭艦隊。
当初は南方泊地の二航戦を編入する予定ではあったが、機関の整備が長引いた為
軽空母の飛鷹・隼鷹・千歳・千代田が代わりを務めた。


第三東方艦隊:旗艦『伊8』
潜水艦を中心に編成された艦隊。敵の補給及び支援の分断が目的だが、状況によって他の艦隊の支援に
当たることも視野に入れられている。伊58等のロストした潜水艦の代わりに伊400型潜水艦が投入されている。


※赤城ら空母機動艦隊を含む勢力はこの時、海域の戦線維持で身動きが取れない為、作戦には不参加だった。
陸奥も鎮守府待機の為不参加。




――鎮守府・港――


わいわいがやがや……

皐月「第一東方艦隊だってさ、なんかかっこいい響きだよね!」

長月「第一というのがいいな……非常に良い!」

望月「んあぁ? あたし、あんまプレッシャーかかるようなのはイヤなんだけど……」

弥生「……こんな大艦隊、初めて、です」

山城(この子達は……自分達が囮にされるって知らないのね……)

扶桑「さぁ、皆……集まって」

山城(姉さま……本当に、よろしいのですか……? こんな……)



「……何だその情けない顔は。これから出撃する戦艦の顔とは思えないぞ」



山城「……アンタ、長門……何しに来たのよ」

長門「くちく達の様子を見るついでに……お前がどんな顔をしているのか見に来た」

山城「はぁ、第二東方艦隊の精鋭さんは随分と余裕ね。
アンタの好きな駆逐艦が囮に使われるっていうのに」

長門「……私の好きな駆逐がいつ囮になった?」

山城「あなたならわからないはずないでしょう? この作戦は完全に第一東方艦隊を囮としているわ」

長門「……確かに、軍令部の意向としては、それが正しいのかもしれんな」

山城「無能な提督を持つと、苦労するわ」


長門「提督は……提督なりに頑張ってはいるさ。しかし立場上、あいつは私情を挟む訳にはいかない。
だから冷たいことを言ってしまうかもしれないが、きっと本心では、彼女達には沈まないでいて
ほしいと願っているはずだ」

山城「ふん……どうかしら」

長門「作戦の全てが提督の一存で決まるものではないよ。軍令部の意向もある。
彼個人を無能と避難するのは短絡的だそれに……」

長門「作戦はあくまでも敵を引きつけることだ。囮だからと自棄になり、無駄に命を捨てることではない」

長門「敵艦隊の撃破ではなく、あくまで敵の注意を引きつけるだけでいい。攻略戦より遥かに楽だ」

長門「とはいえ作戦の要であることに違いはない。提督は……お前達の力を信じているから、
この大事な役目を任せたのではないか?」

山城「提督が……?」

長門「私よりも速力の劣るお前達は泊地強襲等の電撃戦より、防戦の方に向いている。合理的な判断だ
本当に提督がお前達を捨て駒のように扱っていたのなら、潜水艦隊など送り込まないさ」

山城「あれは、第二東方艦隊の支援でしょ……?」

長門「軍令部の目もあるし、名目上はそうなっている。が、実質こちらの支援に当たるのは伊8らの直属だけさ」

山城「……そ、それじゃあ……」


長門「上手く潜り込ませた提督に感謝しておくんだな。――あいつは、決してお前達の死を望んではいない」


山城「……」

山城「……私、あの人に酷いこと言ったわ」

長門「そうか」

山城「何もわかってなかった。私……なんてことを」

長門「ふ……ならばその働きを持って誠意を示せばいいだけのこと」

長門「無事生き延びて、誰一人欠けること無く帰投しろ。囮だからと不貞腐れるのではなくてな。
お前も戦艦の端くれだ、これくらいできるだろう?」

山城「……あ、当たり前よ!」

長門「そうだ。それでいい。さっきの腑抜けた顔じゃ、とてもくちくを守れる様子ではなかった」



長良「山城さーん! もう出撃するみたいですよー!」

山城「……そろそろ行かなくちゃいけないみたいね」

長門「しっかりと頼んだぞ。お前達の働きが、作戦を左右する」

山城「わかってるわよ。……それじゃあね」


長門「…………」

陸奥「あらあら、さっきまで他人に偉そうなこと言ってたくせに、不安そうな顔になってるぞ?」

長門「いや、くちくがな……」

陸奥「……長門、あなた……いいかげんにしなさいよ」

長門「戦場に赴く駆逐の背中を見送るのはいつだって不安になる……」

長門「だが扶桑姉妹のことは心配しとらん。あいつらも、そこまでヤワじゃないだろう」

陸奥「あら、意外と信用してるのね」

長門「提督も信じているのだ。私達も信じよう……」

陸奥「そうね……」



――司令室――


「提督殿、第一東方艦隊出撃しましたな」

元帥「君は今回の作戦……どう思う? 参謀妖精くん」

「私ですか? そうですな……扶桑も山城も性能的には不安が残りますが、まぁやってくれるでしょう
敵は多くてもこちらの艦隊を上回る数は揃えられないはず……空母機動艦隊の方の対応にも戦力を
割いているでしょうしね。念のため駆逐艦達には10cm高角砲を配備していますし……駆逐艦が多い
とはいえ迎撃にも十分対応できるはずです……まぁ、妖精の私から言えるのはこのくらいですかね」

元帥「……何はともあれ、うまくいくと良いのだが」




――鎮守府・港――


大和「……さて、第一東方艦隊も出撃しましたし」


大和「――第二東方艦隊も出撃しましょう!」


比叡「大和さん、まだ早いですよ。あまり早く出撃しても意味が無いですし」

霧島「私の計算によると、出撃は最低でも一時間後になりそうですね」

隼鷹「大和ってば焦りすぎんよ~」」

大和「す、すみませんっ。大和、旗艦になるの初めてで……」

千歳「わかりますよ。初めては緊張しますもんね」

千代田「私もお姉との初めての時は……とっても緊張しちゃった! てへ☆」

飛鷹「ちょ、何言ってんだこいつ」


長門「……ま、そう緊張するな、大和。肩の力を抜け。演習通りにこなせばいいんだ」


大和「長門さん……駆逐艦がいないとまともですね」

隼鷹「頼りになるんだけどそこだけが問題だよなぁ~」


飛鷹「敵がこっちの大艦隊におびき寄せられるまで、私達は目立たないように航行すればいいのね」

大和「……正直な所、もう少し艦娘の数を増やしてもらいたかったですね……たったの八隻はやはり心細くて……」

比叡「そうですね~、でもこれでも増えた方なんですよ? 当初は飛鷹さん達ではなく二航戦のお二方が編成に
入られる予定でしたから、元は六隻編成でしたし……まぁこちらは少数精鋭と銘打ってますし、仕方ありませんよ」

飛鷹「戦線の優劣は第一東方艦隊に掛かってるわ……、あの子達、大丈夫だといいけど」

比叡「大丈夫です。皆さん、頑張ってきたんですから……きっとうまくいきます!」

霧島「……それはそうと、皆さん装備の方は大丈夫ですか? 念のため三式弾の装備は欠かせないでください」

長門「徹甲弾は?」

霧島「必要ありません」

長門「うー! うー! 長門徹甲弾積むー!」

隼鷹「かわいくねー……ひたすらにかわいくねー……」

長門「む、可愛く頼んでもやはりダメか?」

霧島「なんでいけると思ったんですか……」

長門「つまんねー事聞くなよ!」

隼鷹「それ言いたいだけだろぶっちゃけ」

千代田「千歳お姉ェ! 千歳お姉のわがままなら私、いくらでも聞いちゃう!」

千歳「はいはい」

千代田「千歳お姉ェ! お姉は私にとっての新たな光だ!」

飛鷹(扱いに慣れている……)



――海上・第一東方艦隊――



扶桑「あぁ……空はあんなに青いのに……」


扶桑「どうしてこんなに大艦隊……」

山城「ど、どうなされたのですか姉さま」

扶桑「私なんかがこんな大艦隊を率いていいのか急に不安になってきたの……」

山城「エェー!? このタイミングで!?」

加古「お、おいィ……マジで言ってんのかそれ?」

長良「大丈夫ですよ! みんなコンディション最高ですし!」

扶桑「コンディション最高でも船体が真っ二つに割れることもあるのよ……」

球磨「そ、そういう不安になるようなことは言うんじゃないクマ!」

扶桑「FUKOのゲージがMAXになりそう」

龍田「……あらぁ~……旗艦がこれで、ほんとうに大丈夫~?」

山城「ちょっと自信ない」

加古「山城さんよ、あんた妹だろ? なんとかしてくれよ」

山城「え、ええと……」

山城「ね、姉さま! どうなされたのですか! 以前はあんなに意気込んでいたじゃないですか!」

扶桑「いざ海域に出たら心細くなってきて……というか、正直な所あの時割りと勢いで言ってたし……」

山城「はえ~~~!?(白目)」



皐月「なになに? どうしたの?」スィー

文月「扶桑さん、かおいろわるいのぉ~?」スィー

山城「あっ、だ、大丈夫よ二人共! 姉さまは今なんかええと、ホームシックになってるだけだから!」

皐月「ホームシックぅ? なにそれ?」

文月「文月知ってるよぉ~。お家が恋しくなることでしょぉ?」

山城「そうよ。扶桑型はかつてのあまりに長すぎるドック生活のせいでドックから離れると禁断症状を起こす
体質になってしまったのよ。これがなければ、かのレイテ突入も可能だったというのに……憎い体質ね」

加古(話盛りすぎだろ)

皐月「ええ! だ、大丈夫なのそれ!」

山城「だ、大丈夫よ! 禁断症状は三十分くらいで収まるから!」

扶桑「あれ? 何故かしら、艦載機が見える……あははっ大きいー。……彗星かな? いや違う……違うな。彗星はもっとばあーって動くもんな」

皐月「ほんとに大丈夫なの?」

山城(現実逃避はやめてください姉さまぁ!)


文月「扶桑さん、不安なのぉ~?」

扶桑「クックック……黒マテリア」

文月「ん~……そうだ! 文月のこれ、貸してあげるねぇ?」

扶桑「クックック……っ? え、これは……?」

文月「前に一杯頑張った時に~、偉い人から貰ったお守りだよぉ」

文月「きっと扶桑さんの事守ってくれるから、使ってねぇ~」

扶桑「……あ、ありがとう」

文月「それじゃあ文月達、戻るねぇ。じゃあねぇ~」スィー

皐月「ばいばーい!」スィー

扶桑「…………」


古鷹「……扶桑さん、誰だって皆不安です。数はこちらが勝るはずという情報を得ても、無事に作戦を遂行できる確証なんて
どこにもありません」

古鷹「だからこそ、そういう時……旗艦であるあなたがしっかりとしなくてはいけないんですよ」

扶桑「そうね……そうだわ……」

扶桑(あの子達を、囮なんかで沈ませたりなんかしない……その為にも私がちゃんとしないと!)

扶桑「みんな……ごめんね。もう大丈夫よ、私」


扶桑「艦隊は私が勝利に導きます!」


山城「姉さまぁ……よかったぁ」

加古「あー、一時はどうなることかと思った」

古鷹「皆さん、一丸となって作戦を成功させましょう!」

長良「そうですね! やっちゃいましょう!」

龍田「ウフフ、天龍ちゃんよりも活躍しますよ~?」

球磨「なんだかんだで、皆の気持ちが一つになってよかったクマー」

山城(なんだ、そこまで悲観するような状況じゃないじゃない……)

山城(いけるわ……そんな気がしてきた)




文月「戻ったよぉ~」

睦月「乙なのです!」

如月「扶桑さんは……どうだったの~? あの人のきれいな肌、あんなに真っ青になっていたから」

文月「なんかねぇ~、ただのホームシックだってぇ」

皐月「すぐ治るってさ」

弥生(うそ臭い……)

長月「旗艦なんだからしっかりしてもらわないとな。味方の士気にも影響を及ぼす」

文月「お守り貸してきたから大丈夫だよぉ~」

長月「まぁ所詮、深海棲艦など烏合の衆。私達の敵ではない」

望月「はぁ……まーた始まった。あたしらなんて所詮駆逐艦だってのに」

皐月「でもさ、正直な所、これだけの戦力があって負ける事なんてあるのかな?」

長月「ないな。無敵艦隊だ。南方の卯月や菊月、三日月達にも見せてやりたいな
……この大軍勢! いやあ、壮観だ!」


弥生「……」

皐月「ん? どうしたの弥生? 浮かない顔だね? 弥生も気分悪くなった?」

弥生「いえ……その、弥生、こんな大きな艦隊に参加するのは初めてで……」

弥生「それに、この戦いはきっと……何か大きな分岐点になりそうな気が……」

睦月「あー、緊張してるのかにゃ?」

長月「ふん、我が同型艦ともあろうものが……情けない」

望月「まー、そんなに肩肘張らなくてもいいんじゃない? どーせあたしら駆逐艦が
できることなんて限られてるっしょ?」

如月「そんなに怖い顔してると、可愛い顔が台無しよ?」

弥生「……弥生は、かわいくなんか」

如月「もぅー、この子ったら謙遜して」

睦月「弥生は可愛いのです! うりうり!」

弥生「あう、頭を撫でないでください」

文月「弥生ちゃん、かわいー」

弥生「むう……」

睦月「にゃはは」

弥生「……」



弥生(……何事も無く、作戦が無事終われば……いいのです、が)



――――――
―――



――サーモン海域・第二東方艦隊――


大和「ふぅ、戦闘終了ですか……」


出撃した第二東方艦隊はサーモン海域へと進行した。今まで敵艦隊と二度の戦闘があったが、
いずれも危なげなく勝利を収めている。


比叡「お疲れ様。大和さん、ここまで大分いい感じに来てますよ!」

大和「あ、ありがとうございます……!」

比叡「さすが超々々弩級戦艦! 心強い!」

霧島「まぁここまでは想定内ね、何と言っても大和さんは最強の戦艦なんですからね?
当然の結果ですね? ま、この調子で、どんどんがんばってください」

隼鷹「期待してんぞ~? 国の命運がかかってんだからさ~?」

大和「き、期待に応えられるよう、大和頑張りますぅ!」

飛鷹「ほらほら、そうやってわざとプレッシャー与えない」

隼鷹「あ、ばれた?」

霧島「フフフ……金剛お姉さま譲りのちょっとした茶目っ気です」

比叡「私は本心から言っただけなんだけどなぁ……」


千歳「流れはこちらにあります。この調子でどんどん進撃していきましょう」

千代田「Yes! 千歳お姉ェ!」

比叡「よーっし、それじゃあ次もこの調子で参りましょう!」

長門「…………」

比叡「おや、長門さん、どうかなされたのですか?」

長門「む、いや、たいしたことじゃない……ただ……」

長門「あまり敵の数が減っているようには……見えない気がしてな」

比叡「そーですかね? 気のせいじゃないですか?」


長門「……だといいが……」


――第一東方艦隊――


加古「うーん……」

古鷹「あら、どうしたの加古」

加古「何か、水偵からの連絡が中々来ないんだよー……おっかしいなぁ」

古鷹「……何か、あったのかも」

加古「いやぁー、水偵の妖精の奴、寝不足だって言ってたしなー」

古鷹「ちょっと……大切な作戦なのよ? わかってる?」

加古「そんなこと言っても、あたしのせいじゃないし……ま、あいつも手練だし
寝不足程度で……」


「皆さん! 敵艦隊を発見しました! このまままっすぐに進んでいけば間もなく鉢会います」


加古「ほうら、ちゃんと来た……」

「敵艦隊の規模は……」

扶桑「……い、いえ、聞かなくてもわかるわ……ここからでもわかる……ッ!」

長良「な、なにあれ……なん、なの……!?」


――司令室――


「……そろそろ、第一東方艦隊が深海棲艦の軍勢とぶつかる頃でしょうか……?」

元帥「敵艦隊の数はわかっているのかね?」

「今のところは何とも……」

元帥「そうか……」

元帥(無事、敵を引きつけられていると良いのだが……)

元帥「第二東方艦隊の方はどうなっている?」

「只今サーモン海域を進行中との事。そろそろ先行している潜水部隊から
深部の様子が報告されるはずですが……」


「第三東方艦隊旗艦・伊8より入電! 」


元帥「……報告を」

「そ、そんな……」

元帥「どうした……?」

「サーモン海域最深部……敵艦艇多数! 姫級も確認されています!」

元帥「くっ……おびき寄せるのに失敗したか……まずは第二東方艦隊に指示を……」


「第一東方艦隊より入電!」


元帥「……ああ。敵は引きつけられなかったのだろう? 待ち構えていたとしても通常艦隊……」

「いえ……違います……」


我々は気づいていなかった。彼女達の恐ろしさを。


「敵艦隊……第一東方艦隊を遥かに上回る数の大艦隊を展開……待ち構えています」


元帥「は? 何を、言っている……?」


そして我々は思い知るのだ。敵の強大さを。


――戦闘開始――


山城「ど、どういうことよ……敵艦隊はこちらを下回る数だって……」

扶桑「うろたえてはダメよ山城! 敵航空隊の攻撃が来るわ……すぐに備えて!」

扶桑「大丈夫……第二東方艦隊がサーモン海域を攻略するまでの時間を稼げば……」

長良「敵機多数接近……か、数300以上!!」

扶桑「ぇ……」







その時見たものは、爆撃というにはあまりに壮絶すぎる、地獄の業火だった。








「駆逐艦・白雪轟沈! 如月大破!」

「駆逐艦・天霧轟沈! 第20駆逐隊……か、壊滅です……!」

「被害まだまだ拡大します! 報告しきれません!」

「ば、ばかな……たかが一度の攻撃で……ここまで被害が!」


第一東方艦隊、敵艦隊と遭遇。その規模は予想をはるかに上回り、
第一東方艦隊の対空処理能力を超えた開幕爆撃は艦隊に多大な被害をもたらした。


元帥「……扶桑! 大和! 聞こえているか! 作戦は中止だ! 今すぐ戻れ!」

大和『提督!? い、一体何があったのでしょうか!?』

元帥「甘く見ていた……我々の認識が甘かったのだ」

元帥「敵は遥かに強大だった。敵はそれを……隠していたのだ。思惑通りにやられた」

大和『そんな……』

元帥「この作戦の遂行は不可能と判断した。よって直ちに艦隊は帰還すること」



事態を重く見た鎮守府提督は軍令部の意向を無視して即座に艦隊の撤退を要求する。



扶桑『いいえ、提督……もう遅いわ……戦いは避けられない』

元帥「くっ……」

大和『え、な、長門さんどうしたんですか……代われって? えぇ?』


長門『……話は聞かせてもらったぞ、提督』



元帥「な、長門……」

長門『我々はこれより第一東方艦隊の救援に向かう』

元帥「何を考えてるのだ……すぐさま撤退だといっている! どうにかなる戦力差ではない!」

長門『提督、お前の言うこともわかる……だがしかし、このまま仲間を見殺しにもできない
だから信じてくれまいか? 私達は決して死にはしないし、艦隊の皆も、これ以上死なせはしない!』

長門『提督!』



扶桑『……いいえ、あなた達はそのまま攻め込むのよ』



元帥「扶桑……?」

扶桑『……作戦は成功していた。第一東方艦隊はちゃんと敵を引きつけていた』

扶桑『なら……第二東方艦隊が攻め込まない手はないわ』

元帥「いや……危険すぎる。第二東方艦隊の向かうサーモン海域最深部だって
少なくない敵勢を抱え込んでいるのだ……この作戦は破綻している」

扶桑『長門……あなたはどう思うの? 決して突破できない海域なの?』

長門『……勝てぬ戦ではないよ。シーレーン確保は無理でも、敵の指揮系機能を落とすことはできる』

扶桑『これは今しかできない事よ。私達が引き付けている敵がサーモン海域に戻ってきたら……
それこそ絶望的な状況になる』

元帥「しかし……」


扶桑『提督、私、戦闘を続行します。被害を最小限に……敵も足止めしてみせます!
……大丈夫、私には考えがあるわ……!』

長門『扶桑……できるのか?』

扶桑『バカにしないで。旗艦なんですもの、無謀なことはしないわ。合理的な事をするだけよ……』

扶桑『だからお願い、私に、私にこの作戦をやらせてください、提督……!』 

長門『扶桑……お前……』

扶桑『長門……わかっているわね? 私達は絶対に作戦を成功させなくちゃいけない
そのためにはあなた達の勝利は必須なの……私はあなた達の事、信じてるから……だから……!』

長門『……まかせておけ。この戦艦長門、必ずや敵大将を討ち取ってみせる』

扶桑『提督、私を……信じてください! お願いします……!』

元帥「扶桑……!」


元帥「すまん……!」



元帥「作戦を……続行する」





――東方海域――


「うぅ~、いたいよぉ……」

                              「注水を急いで! 至急頼みます!」

「死にたくないよ……だれかたすけて……!」

                              「負傷艦は後方に下がって! みんな、補助を手伝って!」

「だれかぁ~! 誰か火を! 誰かぁ~!」




皐月「みんな下がって! 敵の攻撃は僕達が引きつけるよ!」


文月「文月の本領発揮だよ~」


ドン! ドン! パララララ……


弥生「如月……今の内に……」

如月「ぅ……髪、が~……」

弥生「今は髪のことなんて気にしないでください……」

龍田「砲雷撃戦は任せて~?」

長良「長良の足についてこれる!?」

加古「……おい! どうすんだよ! 今は駆逐軽巡共が敵の攻撃を引き付けてっけど、このままじゃ全滅だぞ!」

扶桑「わかっているわ……だから、これより艦隊を二つに分けます」

山城「姉さま、まさか……」

扶桑「第一艦隊は残存戦力をまとめて撤退。第二艦隊は……」


扶桑「私と一緒に、交戦を続行します」



加古「……マジかよぉ」

山城「扶桑姉さま……そんなのダメです!」

扶桑「合理的な判断に基づく作戦よ。第一艦隊の旗艦は山城……貴女が務めなさい」

山城「! 姉さま! ……無茶です、そんなの」

扶桑「私情は捨てなさい山城。こうすることが最善の道なの」

古鷹「……作戦も果たして味方も逃がす……これなら確かに不可能ではないけど」

山城(囮の囮……なんて酷い話……ッ!)

加古「常識的に考えて、誰がそんな役目を……あ、あたしゃごめんだよ!」


如月「私……なってもいいわよ?」


弥生「如月!?」

如月「大破してるけど……幸い機関部はまだ無事なの。速力ならまだ少し出るわよ?」

弥生「そんな体で……無茶、です」

如月「こんな体だからよ……皆の足手まといなんて、ごめんよ……」

如月「最期くらい、好きにさせて……」

弥生「……わかりました。なら、弥生もお供します」

如月「え……」

弥生「もう、私を置いて行かないでください」

如月「はぁ……全く」

如月「ほんと、あまえんぼさんねっ」


加古「…………くっ、真っ先に自分のことを考えた自分が情けねえ」

古鷹「情けなくなんか無いわ。生き残るのも立派な任務です」

加古「古鷹……」


山城「姉さま……今度は、私も共に行かせてはくれないのですか……?」

扶桑「あなたには、第一艦隊を無事送り届けるという役目があります」

山城「姉さまは酷いです。残酷です。妹にこんな選択をさせるなんて……」

扶桑「そうね。私はダメな姉ね……」

山城「私は姉さまと離れたくはありません!」

扶桑「……聞き分けが悪い子ね、山城。大丈夫よ、そう簡単に死にはしないわ」

山城「姉さま……」

扶桑「無理はしないわ。きっと生きて帰ってくる。だからあなたも……皆を守って」

山城(確かに……私は皆を守るって決めた……でも、その皆には、姉さま、あなたも含まれているんです……)

山城(誰一人欠けること無く……はもう無理だけど……私は、諦めたくない!)

山城「わかりました。私達は第一艦隊を率いて撤退します」

扶桑「そう、それでいいのよ……山城」



山城(私は……姉さまが思うほど、聞き分けがいい妹なんかじゃない……)




第一東方艦隊。想定外の事態の為、艦隊を第一分隊と第二分隊に分ける。
第一分隊は戦艦・山城を旗艦とした撤退艦隊。第二分隊は扶桑を旗艦とした囮を続行する艦隊。
極めて少数な編成になった第二艦隊は実質、捨て身の足止め艦隊だった。



――第一東方艦隊/第二分隊――


扶桑「……ごめんなさいね、あなた達まで巻き込んじゃって……」

龍田「私旧式だし~、ねぇ?」

球磨「まっ、チビ共を逃すのもお姉ちゃんの役目クマー」

如月「ふぅ……苦しい戦いになりそう……」

弥生「……駆逐艦なので、こういう扱いに慣れています、から」

扶桑「そんなこと言わないで。まだ、沈むと決まった訳じゃないわ。
どんなに絶望的な状況だとしても、まだ生き残れるかもしれない」

扶桑「……これはあなたに渡すわね。私が持っているより貴女が持っていたほうがいいわ……
文月ちゃんに会えたら、返してあげなさい」

弥生「……文月の、お守り……」

扶桑「……それじゃあみんな、準備はいい?」


扶桑「……第二分隊、攻撃開始よ」



――――――
―――



――東方海域・第一東方艦隊/第一分隊――


望月「みんな~、撤退ですよ~」

長月「扶桑達……遅いな。一体何をやっているのか……」

加古(足止めのこと……こいつらには言うなって言われたけど……)

古鷹(結局あとで知ることになるのに……)

山城「…………古鷹、加古、ちょっといい?」

古鷹「……どうしたんですか?」

加古「ちゃちゃっと撤退しないといけないんだから、手短になー」



山城「……あなた達に、旗艦を譲ります」



加古「はぁ?」

山城「あなた達重巡なら艦隊を統率できるでしょう? 友軍の潜水艦もじきに到着するはずだし
難しいことはないわ……」

古鷹「突然何を……一体、どういうことですか……?」

山城「私……やっぱり戻る」

古鷹「!」

加古「な、何考えてんだぁ!?」

山城「……扶桑姉さまを置いていくなんて無理よ」

山城「私達はいつも共にあった。境遇も、出撃も。だからこれが……自然な流れなのよ」

古鷹「そんな……でも!」

山城「何を言われても行くつもりだから」

加古「……勝手にしろ!」

山城「そ……じゃあ、後は頼んだわよ……」

加古「……バカヤロウが……!」

古鷹「これも、抗いようのない……因果とでも言うの……?」







睦月「あれ? おかしいなぁ~……ソナーに反応が……」


――東方海域・第一東方艦隊/第二分隊――



扶桑「主砲、副砲、撃てぇ!」ドオォォン!

龍田「天龍ちゃんよりは上手でしょ?」ドン!

弥生「弥生……いきます」ドン


第二分隊、敵艦隊前線部隊に砲撃。直撃こそしなかったものの牽制にはなり、
敵も中々近づけない様子であった。第二分隊はそのまま砲撃を続ける。
がしかし、徐々に牽制の力は弱まっていき、着実に敵の侵攻を許してしまう。


球磨「被弾クマー! さ、さすがにこの数は堪えるクマ……」

龍田「このままじゃ、囲まれてしまいます~……どーしようかしら?」

扶桑「くっ……」

扶桑(まだ、まだよ……こんなところで……引けないわ!)

扶桑「みんな! もう少しこらえて!」

球磨「なかなかしんどい……クマ!?」

龍田「まずい! 魚雷!?」


敵駆逐艦群は魚雷を第二分隊に向け一斉に発射。



ゴオォォォーーーーーン!




龍田「くっ……! みんな、大丈夫!?」

如月「な、なんとか、ね……」

弥生「! ……く、球磨さんが!」

球磨「も……もう少しで皆に当たるところだったクマ……」

扶桑「あなた……!」





球磨「この球磨の力を持ってしてもここまでかクマ……多摩、北上、大井、木曾
……姉ちゃん、先に逝くクマ」











軽巡洋艦 球磨、多数の敵魚雷をその身に受け、甚大な被害を被る。
その後、軽巡洋艦・球磨は浮力を失い、間もなく沈没す。





龍田「……!」

弥生「し、死ぬの……? 弥生……ここ、で」

如月「落ち着いて……弥生!」

龍田「敵の砲撃……止みませんね……あは」

龍田「あはは……皆もう終わりよ。でもこんな所……天龍ちゃんには見せられないわねぇ~」

龍田「天龍ちゃんみててー? 龍田、頑張っちゃうねー?」



軽巡洋艦・龍田。単艦突撃。



龍田「あははははは! 敵はどこ! 死にたい船はどこかしら~?」

ドォン!

龍田「かは……!?」

龍田「な、なに……痛いじゃな……!」

ドン! ドン! ドン!

龍田「あ"……あぐぅ……この!」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!

龍田「ぁ……ぅぁ……」

「…………」

龍田「……!!!」







バシュン!


軽巡洋艦 龍田、単身突撃の末、集中砲火を浴び行動不能。
雷撃で沈められる。


扶桑「みんな……ごめんなさい、ごめんなさいっ……!」

扶桑(このままじゃ……!)


弥生「これで……どう!」ドン!


扶桑「! 弥生……!」

弥生「弥生は……死ぬことが、怖くなんかありません、から!」

扶桑(嘘よ……あなた、足が震えてるわ……!)


弥生「――今度は睦月より……先にいける……!」


扶桑「!!」

扶桑(この幼い少女にこんな顔をさせてしまうなんて……私は、
私は……駆逐艦一隻でさえも守ることができないの!?)

戦艦ル級「……ッ!」スチャ

扶桑「……!」

扶桑(終わる……今度こそ、終わってしまう……!)

弥生「私が盾に……!」

扶桑「ダメッ!!!」



ドオォォーーーーーーン……!



敵前線艦部隊、突如として向けられた斉射により多数の被害を受ける。





「全く……、無茶をするんですから」



扶桑「な、何で……あなた、山城!」

山城「私が扶桑姉さまをおいて逃げるなんてこと、できるわけない……」

扶桑「馬鹿な子……! 本当に馬鹿な……ッ!」

山城「うへぇ、馬鹿は姉さまも一緒ですよ……」

扶桑「全く……もう!」

扶桑「……」

扶桑「はぁ……もう、いいわ……山城、私と貴女って、本当に切っても切れない縁なのね」

山城「どこまででもお供します、姉さま!」

扶桑「……じゃあついてくる? 行き先はぁ……地獄、だけど……?」

山城「もちろん! 姉さまとなら地獄でもどこでも!」



扶桑「……そう、じゃあ、行きましょうか」




扶桑「主砲、うてぇ!」

姉さま。

山城「砲戦用意! うてー!」

なぁに山城。

扶桑「最大船速……いけるかしら?」

私達は結局、不幸だったのでしょうか?

山城「鈍足ですって? ナメんじゃないわよ!」

どうかしら……?

「扶桑さん! 敵の砲撃、来ます!」

扶桑「回避運動よ!」

だけどこれだけは言えます。今の私は決して自らの生を嘆いてはいないと。

山城「被弾!? そんな……!」

姉さまと一緒なら、どんな不幸も辛くないんです。

扶桑「山城! 大丈夫!?」

私もよ、山城。

山城「まだ、いけます……!」

きっと私達、不幸を克服したのね。不幸を克服したから、私達はきっと……



弥生「て、敵航空攻撃隊……第二陣来ます!!」





――幸福でも、あるのよ。――




その時爆音が、海を覆った。




弥生「ぅ……?」

如月「……」

弥生「! 如月!!」

如月「あ……気がついた?」

弥生「な、なんで……如月……」


弥生「弥生をかばって……!」



如月「……生きて、弥生」



如月「あなたは、生きて……!」



弥生「如月!」

如月「……」

弥生「きさ、らぎ……?」

弥生「そん、な……」


ジジー……


『……えているか!? 聞こえているか!』

『第二東方艦隊が泊地戦姫を撃破した! 勝利だ! 我々の勝利だ!』

『艦隊は速やかに戦線を離脱せよ! 繰り返す……』


弥生「……何が、勝利なの……」

弥生「これが、これが弥生達の求めていたもの……?」

弥生「こんな、ものが……!」




生きて……!




弥生「!」

如月「……」

弥生「生き、なくちゃ……」

弥生「絶対に、生き残るんだ……!」

弥生「……まだ、文月に、お守り……返してない……!」

弥生「生きなくちゃ……!」




駆逐艦 如月、大破しつつも最後まで艦隊に従軍する。
最期は敵航空隊の攻撃から弥生を庇い、その一生を閉じる。


山城「弥生……あの子、無事に帰れるかしら……?」

扶桑「大丈夫よ山城……きっと、文月のお守りが、彼女を守ってくれるわ……」

山城「そう、ですか……」


扶桑「……やっぱり私、沈むのね」


山城「そうですね……」

扶桑「……私、守れたかしら……弥生を、皆を……」

山城「ええ、姉さまは守ることが出来ました……」

扶桑「きっと、皆の不幸を私達が引き受けたのね……」

扶桑「もしそうなら、私達の不幸体質も捨てたものじゃないわね……」

山城「姉さま」

扶桑「なぁに、山城」

山城「扶桑姉さま……あちらの世界でも、ご一緒に……」

扶桑「ええ、私達はずっと一緒よ」






扶桑「やっぱり空は、今日も青い……」








戦艦 扶桑・山城。圧倒的劣勢にありながらも最期まで砲撃をやめること無く
果敢に戦った。敵航空隊の攻撃により、共に果てる。




こうして東方艦隊は多大な被害を被りながらも、深海棲艦の姫を撃破することに成功した。

……以上が、『東方作戦』の全容である。




――数日後。


――鎮守府・司令官室――


将校「……みんな、東方作戦……ご苦労だった。
泊地戦姫を撃破したお陰で近日中にもサーモン海域は……」

長門「……誰だお前は?」

将校「? おや、聞いてないのか? この度新しくこの鎮守府を指揮する事になったものだ」

大和「……前の提督は?」

将校「ああ、彼は元帥の階級を剥奪されて軍法会議に掛けられているよ」

長門「……何?」

将校「……軍令部には元々彼のことを快く思わない人間もいたし……何より、
軍令部をその絶大な権力をもってして解体しようとまで目論んでいたようだからね
なれば、反発を受けるのは必死。巨悪は滅されるべき。当然の成り行きだとは思うが」

比叡「そんな……酷い!」

霧島「一体誰がそんなことを!」

将校「そんなことを、君達が知る必要はない」

霧島「…………」

将校「専横なトップは消えたんだ。今日からはこの腐った鎮守府という組織を
浄化していかなくては……」


弥生「……あの」

将校「……どうしたのかな?」

弥生「む、睦月達は……第一東方艦隊/第一分隊の」

弥生「私……ついさっきドックから出たばかりで……何も」



将校「あー、彼女達か……第一分隊は全滅したよ」



弥生「え……?」

将校「撤退途中に深海棲艦の潜水艦隊と出くわしたようでね……皆一気に沈められた」

弥生「? ……え?」

将校「皮肉だよなぁ……味方の潜水艦と勘違いして警戒を解くなんて」

将校「潜水艦隊の支援を勝手に変更しなければ、こんな事にはならなかったってのに」

将校「彼の心中をお察しするよ……自分が同じ立場だったらぞっとするね」

弥生「そんな……睦月……皐月……文月……みんな……!」

弥生「そんなそんなそんなそんなそんなそんな……!」

将校「君は運が良い。第一東方艦隊の唯一の生き残りだ。胸を張るといいぞ!」

弥生「あ……あぁ……」




弥生「いやああああああああああああああああああああああああッ!!」




弥生の掌から落ちる、小さな小さなお守りは、

彼女にとっての、呪いとなった。






――そしてその後、戦況は目に見えて悪化することになる。





元帥「……すまない、あの時……やはり撤退をするべきだったのだ……私は本当に無能だ……!」

元帥「すまない……本当に、すまない……!」



鎮守府を指揮していた提督は軍令部の謀略により称号を剥奪され軍直轄の施設に軟禁される。
後日、室内で腹を切って亡くなっている所を発見された。



――鎮守府・港――


長門「……難儀だな。無謀な作戦に駆り出されるなんて」

比叡「まぁ、命令ですからね~……」

長門「この前の作戦も、やれ元帥が悪いだ、艦娘が悪いだで……話にならん」

長門「新しい提督を置いたと思ったら……今は『次世代艦娘建造計画』なんて謳ってるよ」

霧島「……本当に有能な人間が消されて、本当に無能な人間が残った……」

霧島「本当に、救いようのない状況ね……」

長門「それでも妖精達は信用できる。もしかしたら本当に"次世代艦娘"なんてものが
拝めるかもしれないぞ……?」

霧島「希望的観測に基づく思考をし始めたら終わりよ。戦争末期じゃないんですから」

長門「少なくとも……上層部はそんな連中ばかりだ」

比叡「みんながみんな、そうでは無いはずです。きっと中にはまだ、まっとうな精神を
もった人がいるはずです」

比叡「私は信じています。だから私は、後に繋げるために今日を戦うんです!」

長門「そうか……」





比叡「比叡! 気合! 入れて! 行きます!」







戦艦 比叡・霧島、サーモン海域の制海権奪還に向かう。しかし新提督の着任等によって生じた組織再編等の
遅れが、すっかり敵に軍備補強期間を与えてしまい、比叡らはより強力となった敵艦隊と対峙することになる。
未確認の"戦艦棲姫"等強力な戦力の前に、艦隊は敗北を喫し、比叡・霧島は共にサーモン海の底に沈んだ。





弥生「……弥生はもう、終わりにします」

弥生「……終わりに、させてください」

弥生「なんで」

弥生「……それでも尚、生きろと言うのですか!」



弥生「……やめてください。ごめんなさい、赦してください。もう嫌なんです」



駆逐艦 弥生。第一東方艦隊唯一の生き残りであったが、ある日突然姿を消す。





……その後、彼女の行方を知るものはいなかった。






――南方泊地――


飛龍「……蒼龍、この前の作戦の報告、聞いた?」

蒼龍「んー? いやまだだけど……」

飛龍「敵艦隊は依然として健在……それどころか、前にも増してより強固な艦隊を展開しているって」

飛龍「そして、その艦隊は……次にどこを狙うんだろうね?」

蒼龍「もしかして……ここ? とかだったり……?」

飛龍「……」

蒼龍「え、なにそれ……本気で言ってるの?」

飛龍「私達も、覚悟を決めないとね……」

蒼龍「ごくり……」

飛龍「まぁそう悲観することないって! 新造艦も期待できるみたいだし」








飛龍「えっと、なんて名前だっけか……うーんと、確か……大鳳だったかな?」



NEXT【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter3】

              ,.r-=

               (( -――-.(ソ
             /:::::::::::::::::::::::゚丶
             /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
           〈|::::l へ`' へ`-!:::::j  ようやく話もスレのタイトルに近づいてきて

            ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  内容もよりハートウォーミングになってきだでちね 
             V`ゥrr-.rュイ人人  でも最早ショートじゃねーよというツッコミは受けないでち
              ,/1::ー:'::! i    
          ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

色々詰め込み過ぎたっぽい。何か話がつながってきてるっぽい。
また次回っぽい。ぽいぽい!

群像の日誌

○月×日
夜、クルーの杏平と僧、艦娘の伊58とポーカーをやった。
でち公の奴、やたらツイていたがきっと幸運艦だからに違いない。
最近イオナがでちでちと彼女の真似をするようになって微笑ましい。

○月■日
今日、メンタルモデルのイオナから魚雷をもらった。
霧に対して効果的な侵食魚雷だ。。
伊19が欲しいというので与えてみたらあいつ、またがったりこすりつけたりして
一向に発射する気配がない。

○月△日
今朝5時頃、スク水を着た潜水艦娘たちに叩き起こされシュトーレンを作らされた。
何でもかつての仲間が好きだったらしい。
潜水艦達は『オリョクルばかりやってたからこんなことになったんだ』と言っていた。

○月◆日
昨日からなんだかイオナの様子がおかしい。
そういえば最近語尾に必ずでちをつけていたような気がする。
不気味だ。

○月□日
あまりにイオナでちでちとしか言わなくなったので伊58に見てもらった。
「一時的なものですぐに治るでち」と彼女は言った。安心した。
きょうはぐっすりと眠れそうでち。

○月▲日
朝起きたら、イオナだけでなく僧達もでちでち言っていた。
潜水艦達が静かなので、でちでち言いながら見に行ったら、
Z1とかいうよくわからない艦娘を連れていた。
イオナがでちとしか喋らなくなった

○月◇日
昨日、オリョクルから逃げ出したまるゆが一匹解体されたって話でち。
夜、からだ中 スク水。
しゃべろうと、口を動かしたら 語尾にでちがつくでち。
いったいおれ どうなっているでち

○月@日
やと オリョクル おわた おっきな ぎょらい
今日 あ号終了 カレクル いく

でちでち コンゴウーきた
ぼっちなんでじゅうりょくほう
うった でち


でち
うま

※間に合わなかったので前後編に分けました。後編は今日頑張って書くでち。


【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter3/前編】


――泊地――


赤城「……えー、空母の皆さんでしたらご存知のことと思いますけれど、近年の戦闘という
ものは航空戦が主体となりつつあり、私達空母の重要性は極めて高くなっています」

赤城「空母の活躍が戦況を左右する可能性もあるので、私達に掛かる責任は重大です。
……現状でも私達は高い練度を有してはいるものの、それに甘んじて慢心しては
いけないと私は考えます。提督も概ね同じ意見のようでした」


赤城「そこで、航空戦力の集中強化を行う為に、今日より私達空母一同は纏まって行動し
訓練を行いたいと思います」


瑞鳳「私達って、いつの間にか一航戦・五航戦っていう風に別れちゃってたからね、いいかもねっ」

加賀「……何で五航戦の子なんかと」ムスッ

翔鶴「か、加賀先輩~……」

赤城「加賀さんや、そうも言っていられないのも現実でしょう?」

赤城「東方作戦でも潰しきれなかったサーモン海域の敵艦隊は今も尚、私達の脅威として
眼前に立ちふさがっている」

瑞鶴「……二航戦の人達でも敵わなかった艦隊……なんだよね」

瑞鳳「そんな敵に……私達は勝てるの?」

加賀「……情けない。戦う前からそんな調子では先が思いやられます。これだから五航戦は」

瑞鶴「五航戦五航戦って……、言わせていただきますけどね、加賀さん。国が一番つらい時、
一航戦として戦線を支えていたのは私達なんですけど!? ミッドウェーで速攻沈んだ
どっかの焼き鳥空母の尻拭いをしていたのは他の誰でもないこの私達なんですけど!?」

加賀「真珠湾以前から戦線を引っ張ってきたのは私達よ? 私達なくして
真珠湾のあの功績はありあえなかった」

瑞鳳「あちゃあ、こればっかりはいつものことだからしょうがないけど、
このままじゃお互いずっと龍驤ちゃんだよねぇ?」

龍驤「……あの、それはアレ? 平行線言いたいんか?」

瑞鳳「……////」

龍驤「人のことネタにしてボケといて照れんなや。ちょっち格納庫出そか……」




赤城「まぁまぁ二人共。いがみ合っている場合じゃないのはわかっているでしょう?
瑞鶴ちゃん、不安なのはわかるけど、その為に私達は一緒に訓練するのよ。加賀さんも
わかった?」

加賀「……赤城さんが言うなら、仕方がないわ。邪魔だけはしないでください」

瑞鶴「そっちこそ!」

赤城「全く、この二人は本当にしょうがないわね……」

翔鶴「喧嘩する程なんとやら、とも言いますから……」

瑞鳳「その点私達は仲良しだよねぇ、龍驤ちゃん」

龍驤「ま……仲間意識っちゅーもんを少なからず感じるしなぁ、瑞鳳からは」

瑞鳳「喋る壁の仲間っていうのはちょっと……あの、ぬりかべとかと戯れててください」

龍驤「キミね、友情破壊したいんか?」

瑞鳳「これも私なりの愛情表現ってやつですよ」

龍驤「うわー、いややわー、歪んでるわー」

翔鶴「仲がいいのね、二人共」

龍驤「フルフラット空母同盟やからね。後一人で三国同盟の完成や」




――鎮守府・ドック――


大鳳「……へっくち!」


「たいほーさん、どうしたですか?」

大鳳「いえ、今何か……?」





とまれかくまれ、空母一同はこれまで分かれていた訓練を纏まって行うようになりました。


――泊地・港――


赤城「それでは今回は、サーモン海域から攻めてくるであろう深海棲艦を想定した模擬戦を
行いたいと思います」

翔鶴「模擬戦……ですか」

赤城「敵旗艦である可能性が高い姫級は航空戦から雷撃、夜戦までこなす驚異的な存在です
また先制雷撃までも行う未知の深海棲艦の存在も確認されています」


??「――なるほど。それを想定して……私を呼んだと言うわけか。航空戦艦の、この私を!」

??「……僕の瑞雲、ウズウズしてる(意味深)」

??「仕方ありませんわね……このわたくしの力を見せてあげましてよ? トオォォォォン!」


伊勢「そういう無駄に隠さなくてもいいから。ていうか、隠してもバレてるから」

龍驤「キミたち個性的すぎや」

日向「……全く、登場シーンは大切だろう? 航戦イエロー」

伊勢「……航戦イエロー? なにそれ……」

日向「……」ポン(伊勢の肩に手を置く音)

伊勢「マジでか」


最上「僕は航巡レッドさ!」

熊野「わたくしは航巡ゴールドですわ!」

日向「そして私は……」


日向「航戦鼈甲!」



龍驤「統一感無い上に自分だけめっちゃいいの選んでるやん」

赤城「べっこうってお高いんですよね」

翔鶴「日向さんって、こんな人だったかしら……?」

瑞鳳「なんか、航空戦艦に改装してからずっとこうらしいよ」


伊勢「ていうか私がイエローっていうのが何か気に喰わないし! ちょっと日向!」

日向「なんだ、イエローはいやか?」

伊勢「あったりまえじゃん! ていうか何なのこの呼名……」

瑞鳳(まぁ、常識的に考えてこんな呼び名嫌だよね……)

伊勢「イエローとか食いしん坊キャラじゃない! ピンクとかにしてよ!」

瑞鳳「えぇ、そういう問題!?」

日向「わかった。じゃあ伊勢は航戦イエロー・オルタナティヴだ」

龍驤「イエローは譲れないんか……」

日向「伊勢も私も黄色っぽいしな……」

瑞鳳(根本的にはあんまりかわってないんじゃ……)

伊勢「まぁ、それならいいかな……」

瑞鳳「えぇー……納得しちゃうんだ」

龍驤「これもうわからんな」

最上「……それじゃあ改めて! 伊勢から!」

伊勢「えっ?」

最上「名乗り!」


伊勢「えっと……航戦イエロー・オルタナティヴ!」

最上「航巡レッド・フルカスタム!」

熊野「航巡ゴールド・グランデ!」

日向「そして私が……」



日向「航戦鼈甲・オブ・ザ・サンクチュアリ零式だ」



龍驤「日向こじらせすぎやろ」

龍驤「ていうかキミたちねぇ……かっこいいからってすぐに真似するのはどうなん?」

日向「パルスのファルシのルシがパージでコクーン」

加賀「……この茶番はいつまで続くのかしら」

赤城「えーっと……まぁちょっと話がそれてしまいましたけど、今日は仮想深海棲艦姫級として
航戦航巡の方達に模擬戦の相手をしていただきます」


日向「模擬戦とは言ったが……制空権、別に奪ってしまっても構わんのだろう?」


龍驤(無理やって)

赤城「こちらは空母六隻編成で模擬戦を行います」

五十鈴「こっちの足りない分は私と陽炎が入るわね」

陽炎「陽炎艦隊入りまーす」

赤城「模擬戦は索敵から開始するので両艦隊は相手に居場所を教えず別れてください
訓練では演習用の弾を使用します。各隊は判定用の妖精さんを必ず伴ってください」

赤城「……以上、質問がなければ準備が整い次第、早速模擬戦を行おうと思うのですが」

瑞鶴「はいはーい! こっちの艦隊の旗艦は誰がやるんですかー?」

加賀「何を当たり前のことを聞いているのかしら。そんなの、赤城さんに決まって……」


赤城「いえ、旗艦は……翔鶴ちゃんにやってもらうわ」


加賀「「!?」」瑞鶴

翔鶴「え、ええ?! 赤城先輩。あの、なんで……」

赤城「あ、別に私じゃなかったら加賀さんでも瑞鶴ちゃんでも良かったんだけど……」

翔鶴「どういうことですか……?」

赤城「この先の戦い、何が起きるかわからない。私が沈むことだってありうる。
……まぁ無いに越したことは無いけれど、だけどもしもそういうことになって
他の人が旗艦をやることになって……その時、旗艦になる子は予め旗艦に
慣れておかないと色々困るでしょ? この泊地に来てから空母艦隊の
旗艦は私ばっかりだし。だから、訓練ではいろんな人がやった方がいいと思ったの」



加賀「赤城さんが沈むなんてことはありえません!」

赤城「私もそんなつもりはありませんよ。あくまでも、もしもの時、よ」

赤城「……という訳だから、翔鶴ちゃんよろしくね」

翔鶴「あ、あの……私が旗艦だなんて恐れ多……」

赤城「大丈夫よ、あなたの力はそれに十分値するわ。自身を持って」

加賀「くっ……五航戦の子が旗艦だなんて」

瑞鶴「んんwどんな感じどんな感じ?w」

加賀「……頭にきました」シュパッ

瑞鶴「あたんないわよ! ていうかまた九九艦爆? 同じ手は二度食わな……」

加賀「かーらーのアイアンクロォ」ガシッ

瑞鶴「あががががが……!」

翔鶴「ずいかく~! 先輩やめてぇ~!」




――泊地・整備ドック――


翔鶴「それではえっと、皆さん艦載機の準備は終わりましたか?」

瑞鶴「終わったよ! 翔鶴姉」

加賀「そんなこと見ればわかるでしょう。聞くまでもないわ」

加賀「……赤城さんの提案なので一応今回は従うけど、
私はあなたが旗艦だなんて認めていませんからね」

瑞鳳「たかが訓練なのに……」

龍驤「まー、加賀はこういう奴やからねぇ。あーそれよりちょっちいいかな?」

翔鶴「どうなさいました?」

龍驤「いやー……その、なんていうん? みんな戦闘機の数が少なない?
って思ってさ……」

加賀「? 十分だと思いますが……」

龍驤「うちらって空母やろ? 今回は随伴艦もおらへんし……直掩機は大切やと思うんけど」

翔鶴「確かにそうかもしれませんね……」

加賀「しかしこれ以上対艦攻撃機や爆撃機を減らしてしまっては打撃力に欠けてしまいます
特に戦艦級の装甲は厄介よ。私は寧ろ攻撃隊を増やした方がいいとさえ思っているわ」

赤城「やられる前にやれ……ということね」

翔鶴「う~ん……難しいところですね……」

加賀「早く決断しなさい。どちらの方がいいの? これくらいの判断ができないと旗艦は務まらないわよ?」

翔鶴「あ、あう……」アセアセ

加賀「ケケケ……ッ」

瑞鶴「こら! 翔鶴姉をいじめるな!」

赤城「加賀さん、あまりいじわるしちゃダメよ?」

加賀「すみません、赤城さん」

瑞鶴「翔鶴姉に謝んなさいよ! ゴラァ!」



赤城「……翔鶴ちゃん、自分の思ったようにすればいいのよ。今回は訓練なんだから」

翔鶴「ありがとうございます、赤城先輩……えっと」

翔鶴「航空隊の編成は変えないでいこうと思います」

加賀「そう。……まぁ、いいけれど」

龍驤「そっか……」

赤城「それじゃあ準備も整ったことだし、行きましょうか」

瑞鳳「相手艦隊のみんなを待たせるのも悪いからね」

龍驤「ん~……やっぱりちょっち心配やなぁ」

瑞鶴「……」


こうして、翔鶴を旗艦とした空母機動艦隊は模擬戦へと臨むのだった。




――泊地近郊・演習海域――


翔鶴「皆さん、索敵は慎重に行ってください。第一段の索敵線は赤城先輩加賀先輩
第二段は私と瑞鶴、第三段は龍驤さんと瑞鳳でお願いします」

瑞鳳「索敵ね。わかったわ」

加賀「……」

赤城「あら、加賀さん。九七艦攻だけではなく天山も索敵に加えるの?」

加賀「敵を発見し次第、あわよくば攻撃に繋げようかと」

瑞鶴「索敵は慎重にって翔鶴姉の言葉聞かなかったの? そんな博打やめてくれません?」

加賀「練度の高い一航戦なら問題はないわ」

加賀「あなたは大人しく彩雲でも飛ばしてなさい。まぁ、それでもうちの子達はそれ以上の
索敵能力を持っているけど」

瑞鶴「翔鶴姉ぇ~こいつ何とかしてよ~。やっぱ慢心の一航戦だよ~」

龍驤「こればっかりは一航戦の気質やからなぁ……」

翔鶴「え、ええっと……加賀先輩、大変恐縮なんですが、ここは大人しく索敵に専念した方が……」

加賀「……一航戦なら皆こうするわ。赤城さんもそうでしょう?」

赤城「んー、まぁ、そうするわね……」

加賀「ほら」ドヤッ

赤城「でも翔鶴ちゃんの言うことも一理あると思うわよ」

翔鶴「……わかりました。とりあえず加賀さんの索敵についてはそのままでいいと思います」

翔鶴(本当は索敵に集中してもらいたいけど……ここは先輩の顔を立てましょうか……)

瑞鶴「翔鶴姉ぇ……」

翔鶴「大丈夫よ瑞鶴。先輩方を信用しましょう」


空母機動艦隊、計18機の索敵機を飛ばす。


龍驤「はぁ~……」

瑞鶴「どうしたの? そんなに長いため息ついちゃって」

龍驤「瑞鶴か……いいよなぁ……」

瑞鶴「えっと……何?」

龍驤「それ、紫電改やろ?」

瑞鶴「直掩機のこと? これは紫電改二よ。うちの艦隊で今一番新しい機体がこれね
一航戦の先輩方は何故か零戦使ってるみたいだけど……」

龍驤「使いやすさとかあるんやないの? まぁ……うちなんて未だに九六式なんやけど。
開発資源が足らなくて配備できないってのは分からないでもないけど、せめて零戦位は欲しいんけどなぁ……」

瑞鶴「……積めない訳じゃないんでしょ? 攻撃機は天山だし……」

龍驤「うちの性能って極端やから……提督にも守りより攻めって言われてるし。そのせいで新しい戦闘機を
なかなか配備してもらえないんやけどね……」

龍驤「そもそも一航戦自体、攻撃に重きを置く傾向があるからなぁ~」

瑞鶴「そういえば、龍驤さんも一航戦の経験があったんだよね……」

龍驤「せやで~。赤城や加賀にも負けへんで~」

龍驤「それと、さん付けはせんでもええよ。龍驤ちゃんって、可愛く呼んでな~」

瑞鶴「それじゃあ、龍驤ちゃん」

龍驤「ほんまにそのまま呼ぶ奴があるか。呼び捨てでええから」



瑞鶴「そういえばさっきから気になってたんだけど……いい?」

龍驤「なんやなんや」

瑞鶴「龍驤はなんだか直掩機に拘ってるみたいだけど……」

龍驤「あは、気づかれてしまったかー……」

龍驤「まぁ、大したことじゃないんやけど……うちってあの戦争で沈んだ時、直掩機9機しか付いてなくてなー
いや、元はといえば敵に発見されたうちが悪いんけども……なんて言うんかなぁ~」

龍驤「いっつも思ってしまうんよ。あの時もっと直掩機がいたら、沈まなくてもすんだかもしれないって」

龍驤「トラウマ……ってやつなんかな。あはは……」

瑞鶴「でもわかるなぁ……私も翔鶴姉が沈んだマリアナ沖海戦やエンガノ岬での事は今でも
時々思い出すし……やっぱりもう二度とこんな思いはしたくないって思うよ」

龍驤「んー、湿っぽくなってあかんなぁ……」


瑞鳳「なーにしんみりしちゃってるの二人共」



龍驤「づほか」

瑞鶴「昔のことを思い出してたらちょっとね……」

瑞鳳「昔は昔。大切なのは今! でしょ?」

瑞鳳「龍驤ちゃんが直掩機心許ないって言うなら、私が守ってあげるって」

龍驤「なんやづほ~、気ぃ使ってくれてるんかぁ~? ういうい、ういやつやなぁ!」

瑞鳳「龍驤ちゃんはまな板コンプレックスで常日頃からストレスに晒され続けてるんだから
こういう時は労ってあげないとね~」

龍驤「一言多いんじゃボケ。アンタも変わらんやろ」

瑞鶴「まぁ、瑞鳳の言う通り……昔は昔。悲しいことがたくさんあったけど、今は昔とは違う
私や翔鶴姉、皆がいる。龍驤は一人じゃないんだからさ……」

瑞鶴「だからその……あまりうまくは言えないんだけど……大丈夫だよ、きっと」

龍驤「なんや、瑞鶴まで……」

龍驤「……ま、ありがとうな」



加賀「……! 見つけたわ、敵艦隊よ!」



――敵艦見ゆ――


翔鶴「皆さん、攻撃隊の発艦準備に入ってください!」

加賀「ふ……その前に出会い頭の一撃、お見舞いします」


航空母艦・加賀の放った天山らは発見した敵艦隊に肉薄。
索敵攻撃に入る。


伊勢「来たわね……! だけど、甘いのよッ!」


ドォン! バシュウゥゥン……!



「!? 加賀さん、天山全機ロストです……!」

加賀「な……!?」

「……相手に位置を特定されました! 敵艦隊、向かってきます」

加賀「おかしい……私の天山なら伊勢日向や五十鈴の迎撃も抜けれたはず……何か……ある……!」

翔鶴「落ち着いて対処しましょう! まだ敵艦隊の射程には入っていないはずです!
第一次攻撃隊で戦力を削ぎます」

赤城「翔鶴ちゃん、日向達は瑞雲を搭載しているわ。制空権争いもしなくちゃいけないし
……おそらく第一次じゃ倒しきれない」

翔鶴「一筋縄ではいきませんか……」

瑞鶴「やるじゃない……そうこなくっちゃ!」




――戦闘開始――


日向「全艦瑞雲を放て! 航空戦も砲撃戦もできる我々の恐ろしさを
存分に刻み込んでやれ!」


仮想姫級部隊。瑞雲を一斉に射出。


日向「そして突撃! これだ!」


その後、全艦は最大船速で前進を開始する。


翔鶴「全航空隊! 発艦始め!」


空母機動艦隊も敵艦隊に対し攻撃隊を差し向けた。
六隻の空母から放たれる艦載機の大編隊は壮観の一言に尽きる。


加賀「……嫌な予感ね。さっきの天山撃墜と言い……何か……」


空母機動艦隊の送り出した大編隊、日向らの水上機部隊と激突。
制空権を得る。それに加え、想定よりも早く敵艦隊への攻撃を
行うことに成功した。


五十鈴「敵の第一次攻撃隊よ!」

陽炎「伊勢さん、アレやっちゃって!」



伊勢「さぁ、三式弾発射するわよ!」




「報告! 第一次攻撃隊の攻撃 ――敵損害中破2小破1! 帰還した艦載機は80前後……!
紫電改二を除く航空機は甚大な被害を受けている模様!」

赤城「あれだけあった艦載機が半分以下……!? 200はあったはずよ!」

翔鶴「水上機の被害にしては大きすぎます! いくら対空特化の五十鈴さんが
いるからといってもこれは……」

加賀「やはり、あれしかない……三式弾……!」

瑞鳳「三式弾って、あの三式弾……!?」

加賀「そうよ。まさかとは思ったけど……それしか考えられない。水上機の数が想定よりも
少なかったのが気になるし……おそらく誰か一人は瑞雲ではなく対空装備できてる」

赤城「おそらく伊勢ね。日向は瑞雲を放って突撃することしか頭にないでしょうし」

翔鶴「しかし予想外でした。まさか三式弾とは……」

加賀「味方が使っていた時はさして絶大な効果があった訳じゃなかったから失念していたけど
……敵に回したらこんなことになるなんて」

龍驤「カタログスペックっちゅーのは怖いなぁ」

瑞鳳「妖精さんのオーバーテクノロジーの産物だよねー」

龍驤「うちもカタログスペック並にバルジつけてもらってもええんやで……?」

赤城「一応補用の艦載機がありますが、合わせても150機いきませんか……」

翔鶴「まずいですね……どうすれば……」

瑞鶴「あーもう! 考えるよりやるしか無いよ翔鶴姉!」

翔鶴「そうね……こうなったら、私達の速力で相手を撹乱するしか……!」



瑞鳳「敵艦隊! 接近してきます!」

日向「待たせたなお前達! 今すぐ沈めてやるぞ、そら!」ドン!

熊野「ヒャアアアアアア!」ドン!

龍驤「わわわ、砲撃が来るでー!」

翔鶴「皆さん! 私達が前線にて敵を引きつけます! その隙に第二次攻撃隊を!」

赤城「……了解」

加賀「早々にやられないでくださいね」

瑞鶴「アンタじゃあるまいし!」

加賀「……ぶち込まれたいのかしら?」

瑞鳳「もー! 今戦闘中だってっ」


五航戦・瑞鶴、翔鶴。敵艦隊の砲撃を引きつけるために突出。


瑞鶴「翔鶴型の速力、見せてあげる!」

最上「そう? じゃあ僕は瑞雲を見せてあげるね!」ヒュン

日向「そしてダメ押しの瑞雲! ドン! 更に倍!」ヒュン

熊野「この熊野の瑞雲……甘くはなくってよ? トオォォォォン!」ヒュン

翔鶴「先輩方! 急いでください!」

伊勢「……いや、まぁ間に合わさせないけどね!」



ドオォーーーーン!




瑞鶴「翔鶴姉!?」

翔鶴「……あら、やられちゃった?」

瑞鶴「しょーーーかくねぇーーーーー!」

「翔鶴さん、中破判定です」

翔鶴「そんな死んだみたいなリアクションしないで、瑞鶴。まだ中破だし、
そもそもこれ訓練だし」

日向「敵前線は崩れた! 全艦突撃! 私に続け!」

五十鈴「五十鈴には丸見えよ!」

陽炎「いよいよ私の出番ね!」

最上「飛行甲板は伊達じゃないってね」


加賀「……あまりよろしくない状況ね」

赤城「なんとか時間を……!」

龍驤(……今のうちには皆がいる。せやかて、守られるだけは性に合わへん)


龍驤「……龍驤ちゃん、やったるで!」



翔鶴「うっ……このままじゃ……」


五航戦・翔鶴、瑞鶴。依然、回避運動を続けるが距離を詰める敵艦隊に徐々に追い詰められ
後退していく。砲撃が命中するのは最早時間の問題だった。


瑞鶴「五航戦なめんじゃないわよ!!」

日向「気合だけではどうにもならないこともある。それを教えてやろう、ほうら!」ドン!


航空戦艦・日向、瑞鶴に向けて砲撃す。


瑞鶴「!!」

瑞鶴(く……もう避けられない……ここまでか……!)


「ちょっと待ったあああああ!!」


日向「!?」

龍驤「うおおおおおおお! 見たってや、ウチとてたまには、進んで壁になるんや!」

龍驤「ぐへっ!?」


軽空母・龍驤、瑞鶴を庇い被弾。撃沈判定。
そして……


龍驤「よっと、うぇ!? わわわ、あかーん! 勢いがつきすぎてしもた、こりゃあマズイで!」

龍驤「ほんまアカンて、アカンよ!」


転覆。


瑞鶴「……これはひどい」



その後、空母機動艦隊は旗艦の翔鶴が討たれ敗北。
同じく撃沈判定を受けた加賀は「9発命中は多すぎる」と抗議したがその意見は受け入れられなかった。

――泊地・港――


日向「ふっ……どうやら今回は私達の勝利のようだな。しかしそう悲観することはない
君達の実力は相当なものだった。ただ……航空戦艦の時代が来たという、それだけのこと」

加賀「航空戦艦の力ではなく、三式弾の力です。そして瑞雲ではなく三式弾を積んでいた伊勢は
実質戦艦です。そこを間違えないで」

最上「あれれ、撃沈した加賀さんがなにか言ってるね。負け犬の遠吠えなのかい?」

日向「おいおい最上、勝者というのは敗者に対しても寛大でなくてはならないんだ
そういうのはよくない」

加賀「だからあなた達の力ではなく三式弾の力と……」ビキビキ

赤城「まぁ、あれは三式弾という名の別物よねぇ……もっと良い艦載機を積まないとキツイわね。
私も紫電改二積もうかしら……」

日向「さて、空母連中を負かして気分がいい。今日は奢るか。君達はどうする?」

陽炎「え? おごってくれるの? やったぁ!」

五十鈴「良いんじゃない?」

日向「なんでも食べたいものを言ってみろ。今なら連れて行ってもいい」

熊野「神戸牛!」

陽炎「間宮のパフェ!」

最上「じゃあね~僕、瑞雲!」

陽炎(瑞雲しか言わねえなこいつ)

日向「はっはっは~、最上め、その水上機ジョークはレベルが高すぎるぞ~!」

陽炎(ほんとにレベル高すぎて意味分かんないわよ)

伊勢「日向ってば調子のりすぎ……あぁ、なんかごめんね? みんな」

加賀「いいです……次回完膚なきまでに叩き潰しますから」ムスッ

赤城「加賀さんってば……あ、気にしないで伊勢。それよりもいい訓練になったわ、ありがとう」

伊勢「そう? ……それならよかったけど」

日向「ほうら伊勢! ご飯食べにいくぞご飯! 今日は私の奢りだ」

伊勢「へ~、気前いいじゃん日向~。あ、それじゃあ私達はそろそろ行くから~」

日向「ふっ……さらばだ空母諸君」


赤城「……じゃあ、私達もご飯にしましょうか」


――泊地・食堂――


赤城「……ではこれより、模擬戦の反省会を行います。意見のある方は?」

加賀「はい。ズバリ敗因は五航戦が旗艦だったからです。やはり旗艦は一航戦がするべきです」

瑞鶴「よく言うわあんなに被弾してたくせにー……」

加賀「あ、あくまでも妖精さんの判定によるものですから……」

赤城「加賀さん。妖精さんは中立よ? そこは素直に認めないと」

加賀「うっ……た、確かに私は撃沈判定こそ受けました」

加賀「しかしそれはあの三式弾という名の何かのせいです。……あんなの、超性能もいいところだわ」

赤城「まぁ、それはあるわね……そして対策を取ることができなかったのも確か」

赤城「翔鶴ちゃん、あなたはその速力を生かし相手の攻撃を引きつけた。
咄嗟の行動だったんでしょうけど、旗艦の行動としてはあまり評価できないわね」

翔鶴「すみません……あれしか思いつかなくって」

瑞鶴「翔鶴姉はすぐ自己犠牲に走るんだから……」

赤城「何にせよ、課題はまだまだ山積みね……でもまぁ、最初はこんなものでしょう
これから徐々に改善していけば……」


瑞鳳「あ、そういえばあれがあったよね……龍驤ちゃんの転覆」


加賀「……そんなこともありましたね」

龍驤「こらづほ! せっかく人が空気に徹して話題に上がらないようにしとった言うんに!」

瑞鳳「わ! 龍驤ちゃん!? あまりに喋らないものだから壁だと思ってたんだけど!」

龍驤「こないなキュートな壁があったら困るわほんま……ってアホー!
ええかげんにせぇよ!」

赤城「でも、あの時の龍驤は自ら壁になりに行ってたわね」

瑞鳳「『ウチとてたまには、進んで壁になるんや!』なんて言っちゃってねぇ。
もう壁になればいいじゃん」

龍驤「ほ、ほらぁ……そやって掘り返す。だから嫌やったんや、この話題に触れるの」

加賀「龍驤、あれはあなたらしくもない行動だったけど……どうかしたの?」

龍驤「いやぁ、なんというか……皆は一人のために、皆は一人のためにっていうか……」

瑞鳳「大一大万大吉?」

龍驤「そう、それや! ってちゃうわ!」

加賀「まぁなんでもいいけれど……、実戦で転覆はしないように」

龍驤「うっ……うち、独特のシルエットやから……ちょっちバランス悪いんよね
寧ろ今まであんまり転覆してなかった事の方が不思議っていうか……あはは」

赤城「今度からは気をつけてくださいね」

龍驤「いやー……はは、面目ない。ほんま、面目ないなぁ……」

加賀「……」


――――――
―――



――泊地・港/桟橋――


瑞鶴「……龍驤?」

龍驤「なんや瑞鶴か。うちに何か用?」

瑞鶴「いや用事は特にないけど……ていうか、こんなところで何してんの?」

龍驤「んー? いやぁ、すこーし昔の男の事を考えてて……」

瑞鶴「えっ!? 龍驤ってそういう相手いたの!?」

龍驤「……松本っちゅー男やったんやけどな。あいつはほんまに酷い男やったで」

龍驤「うちの体を好き勝手に弄くり倒してからに
……おかげでうちはこんな体になってしもたわ」

瑞鶴「え……なにそれ////」

龍驤「格納庫拡張されたりなぁ……」

瑞鶴「か、拡張……」

龍驤「そんなことがあってもあいつ、結局最終的には大和の設計補佐に行ったわ……」

瑞鶴「そんな! 龍驤の体を弄んでおきながら大和に乗り換えるなんて信じられない!
そんな男、別れて正解!」

龍驤「……あの、そろそろツッコんで欲しいんやけど……」

瑞鶴「突っ込む!? む、無理だよ私女だし……いくら昔の恋人との肉欲の日々のことを
思い出して火照ってしまった体を鎮めて欲しいって言われても、ついてないもん!
ま、まぁ女同士でもそういうことは出来るみたいだけど……でも突っ込むのは無理だよ」

龍驤「おーい、嬢ちゃん? 戻ってきーや」


瑞鶴「……なんだ。設計士さんの話か……」

龍驤「できれば早く気付いて欲しかったなぁ。自分のネタを自分で解説することほど
恥ずかしいものはないやろ?」

瑞鶴「だって、わかりずらいよ!」

龍驤「せやろか……結構わかりやすかった気するけども……」

瑞鶴「ま、まぁそれはそうと……松本さんはなんでそんなに龍驤の設計をコロコロ変えたんだろう?」

龍驤「……それは多分、どーしようもなかったからやと思う」

瑞鶴「どうしようもなかった?」


龍驤「うち……知ってるんよ。自分が欠陥空母だって言われてたこと」


瑞鶴「……!」

龍驤「出来上がったうちは失敗作やったんや。あの人はそれでも何とかしようと頑張って
でもやっぱりどうしようもなくで、こんな歪な形になって……」

龍驤「いやほんと……まともな空母なら第四艦隊事件であないなことにはならへんよね……
って、なんか自虐みたいになってごめんなぁ……あはは……」

瑞鶴「失敗作だなんて……龍驤は歴戦の空母じゃない」

龍驤「ありがと。でもなぁ、うち……やっぱりみんなの足引っ張ってるなーって思うこと
結構あるんよね。不安定やし、艦載機もあまり積めへんし……」

瑞鶴「もう! 何言ってるのよ! そんなんじゃ、深海棲艦にも
今日の模擬戦みたいに負けちゃうよ!」

龍驤「深海棲艦か……ごっつ強いのが近づいてきてるらしいやないか……」

龍驤「うち、怖いわ……。そないな化物と渡り合えるんやろかって不安になる
本当はうち、足手まといちゃうんかって疑いたくなる」

龍驤「赤城や加賀が羨ましい。あいつらは確かに慢心するけど、決して怖気づいたりしない
不安を矜持と自信で塗りつぶすんや」

龍驤「うちにはどっちもない……ほんま羨ましいなぁ。赤城と加賀、羨ましいなぁ……」

瑞鶴「龍驤……」


龍驤「あはは、なーんかつまらんこと話してしまったなぁ。ごめんごめん~」

瑞鶴「つまらなくなんか……ないよ」

龍驤「まぁ、気にせんといてよ。したらうち、もういくわ」


龍驤「さいなら~」


瑞鶴「…………」

瑞鶴「……で?」

瑞鶴「いつまでそこに隠れてるつもり、加賀先輩?」



加賀「瑞鶴あなた……何故私の気配を!」ザッ



瑞鶴「……そもそも、龍驤に声掛けたのもアンタがそこでこそこそやってるのが見えたからだし」

加賀「どれだけ私のことが好きなんですか。やめてください、そういうの」

瑞鶴「ベッ別に好きじゃないから! ていうか、アンタこそなんでそんな物陰に隠れてたのよ
龍驤に何か用でもあったの?」

加賀「別に何か用があったという訳ではありませんが……あの子、様子がおかしかったから……
少し、覗いていただけ」

加賀「決して励まそうとして出るタイミングを失ったとか、そういうのじゃありません」

瑞鶴「そーなんだ(棒) ちょっと邪魔しちゃったかなー私」

加賀「ええほんとに……」


瑞鶴「…………」

加賀「……私の顔に何か?」

瑞鶴「いや、アンタの顔になんてミジンコ程にも興味はないんだけどさ」

加賀「は?」

瑞鶴「アンタって、私よりも龍驤と付き合い長いでしょ? だから、なんで龍驤があんなに
改装されたのか、知ってるかと思って」

加賀「……そうね」

加賀「龍驤は……当時の軍令部の都合に振り回され続けたのよ。いや、龍驤だけじゃない……」

加賀「私も元は戦艦だった。そして、一度は廃艦にまでなりかけた……軍令部の都合でね。
だからあの子の気持はよく分かる」

加賀「私達は兵器だった。どんなに振り回されようと、どんなに無謀な作戦だろうと
従わなければならなかった……」

加賀「でも私は知っている。そんな境遇の中にあっても彼女、龍驤は懸命に戦い続けた事を
笑われようとも蔑まれようとも、彼女は国の為に戦い続けた……それは確かなこと」


加賀「そんなあの子を、誰が馬鹿にできるものですか」


加賀「龍驤は私達を過大評価しているみたいだけど……それは違う。私は今でも、あの子とは
対等であると思っているわ」

瑞鶴「……アンタって、意外と仲間思い?」

加賀「意外とが余計です」


瑞鶴「……アンタみたいなのでも仲間のために熱くなること、あるんだね」

加賀「熱くなんかなってません」

瑞鶴「あ、そっか。焼き鳥空母だから常に熱いもんね」

加賀「煽るか褒めるかどちらかにしなさい」

瑞鶴「……アンタが龍驤の事を対等に思ってるのは判ったけど……でも本人がそう思うとは
限らないのよね。そこが問題」

加賀「……こればっかりは、本人次第ですから。本人が乗り越えなくちゃ駄目……」

加賀「それに、龍驤ばかりに構っていられないのも事実よ。戦いの時は着々と近づいている。
それにむけて私達も訓練しないと……今回のような失態は許されません」

瑞鶴「わかってるわよ……」

加賀「……でも、一応あなたも龍驤のことを気にかけてくれていたのね
そのことについては……不本意ながら、感謝はしておくわ」

瑞鶴「……」

加賀「……何かしら?」

瑞鶴「いーえ、別に。ただ加賀さんって、こういう仲間を気遣える一面もあったんだなって」

加賀「悪いですか……」

瑞鶴「んーん。いいと思うよ。いつもそんな感じだったら素敵なのに」

加賀「……あなたに素敵だとか言われても、少しも、ナノほどにも嬉しくありませんから」

瑞鶴「あーそうですか~」




――泊地・五航戦部屋――


瑞鶴「ふわぁ~……っと、今日もつかれたぁ~……」

翔鶴「今日もお疲れ様、瑞鶴」

瑞鶴「今日の模擬戦は悔しかったなぁ~」

翔鶴「今後の課題を残すものだったわね。もっと頑張らないと……」

瑞鶴「あんまり頑張り過ぎないでよ。翔鶴姉はすぐ無茶するんだから」

翔鶴「それはあなたも一緒でしょ?」

瑞鶴「翔鶴姉ほどじゃないしっ」

翔鶴「まぁいいわ。明日も早いし、今日はもう寝ましょう……」

瑞鶴「そーだね……」



赤城「いえ、まだ寝てはいけませんよ」



瑞鶴「!?」

翔鶴「赤城先輩!? いつの間に……」

赤城「もう言ったと思いますが、今日より空母一同は纏まって行動しなくてはなりません
それは睡眠から食事に至るまで……」

瑞鶴「あれって、訓練ではって意味じゃあ……」

赤城「我々の連携には未だ不安が残ります。同じ釜の飯を食い、同じ寝床につけば、
その中で一種の仲間意識が培われるはずです。それはきっと連携の不備を解消して
くれることでしょう」

赤城「……という訳で、今から龍驤の部屋に行くから……二人共ついて来てくれる?」

翔鶴「は、はぁ……」

瑞鶴「空母一同ってことは……当然アイツもいるのよね……」



――泊地・龍驤の部屋――


龍驤「……いや、別に全員で寝るのは構へんけどさ……」

加賀「……何か?」

瑞鶴「やっぱりいた……」

龍驤「なーんか嫌な予感しかせーへんで……」

瑞鶴「……加賀さんってぇ、案外可愛いパジャマ着てるんですねぇ……意外でしたぁ」

加賀「ぐ……あなたは袴のままなの? だらしがないわね……」

瑞鶴「だって面倒くさいし……」

加賀「あなたらしいわね」

瑞鶴(くっそ、おっぱいでかいな……こいつ……)

龍驤「不思議やな。瑞鶴が今考えとる事がわかってしまったわ」

瑞鳳「龍驤ちゃんも? 奇遇だなぁ」

龍驤「感じるで感じるで~、同類の気配をビンビン感じるで~」

瑞鶴「この括りに入れられてしまうのは何となく嫌だ……」

龍驤「諦めーや。瑞鶴ちゃんよう、あんた、見るからに……圧倒的にうちら側の艦娘やで」

瑞鶴「い、一緒にしないでっ」

加賀「……彼女達は一体何を話しているのですか?」

赤城「肉まんの話ですよ、加賀さん」

加賀「はぁ。何故今肉まんの話を……」

赤城「鈍いわね……まぁ、そこがあなたの良い所でもあるんだけど」



瑞鳳「えっと、龍驤ちゃん、部屋物色してもいい?」

龍驤「いいわけないやろアホ」

瑞鳳「えっと何々……『格納庫をまさぐられると搭載数アップ!?
今流行の空母艦娘事情……』」

龍驤「こらづほ! 何勝手に見とんのや!」


瑞鶴「……ふぅ、それにしても急よね、赤城さんも。突然皆で寝ようだなんて……」

加賀「赤城さんも赤城さんなりに龍驤の事を気遣っているのよ」

瑞鶴「……ふーん」

赤城「Zzz……」スヤァ…

瑞鶴「当の本人は寝てるけど」

加賀「赤城さんは規則正しい生活をしていますから。……模範にしたいものです」

瑞鶴「誘っておいて真っ先に寝るって自由すぎるでしょう……」

翔鶴「赤城先輩も疲れていらっしゃるのよ」

瑞鳳「そーゆー二人はあんまり疲れてなさそうだね」

瑞鶴「いや、疲れてるけど……睡魔に襲われるほどじゃないってだけだし」

龍驤「はー、はー……まぁ、まだ若いからやろなぁ」

加賀「それは赤城さんが若く無いという意味ですか」ビキビキ

龍驤「そんなこと一言も言ってへんやん……」

加賀「五航戦が疲れていないのは単に訓練で手を抜いているからでしょう」

瑞鶴「ぁんですって!?」

龍驤「はいはい、ここでおっ始めるのは堪忍してーや」


瑞鳳「せっかく空母の皆で寝るんだから……恒例のアレ、やっちゃいますか!」

加賀「恒例のアレ……とは?」

龍驤「加賀は鈍いなぁ~……年頃の娘が布団囲んですることといえばアレしか無いやろ!」

瑞鳳「恋話でしょ!」

加賀「コイ・バナ?」

龍驤「うん、ちょっちニュアンスおかしいな」

瑞鶴「うーん……恋話かぁ」

翔鶴「恋話……!」

龍驤「皆年頃の女の子やし、恋の一つや二つ、したことあるやろ?」

加賀「……はぁ、恋愛の話ですか」

龍驤「加賀は一番そういうのとはかけ離れてるやろ~、恋したことあるん?」

加賀「ありますとも」

龍驤「へー……相手は誰や」

加賀「勿論赤城さんです」

瑞鶴「まーこいつならそうなるでしょーよ!」

加賀「一航戦の象徴たる彼女はそれに相応しい存在です。強く、優しく
そして誇りを以って敵と対峙する赤城さんの凛々しい姿ときたら!」

龍驤「ちゃうちゃう! そーゆー小学生が仲の良い同姓に抱いた友情を恋心の勘違いする
みたいなのやなくて、もっとこう、ドロッドロのねちっこいアレよ、わかる?」

加賀「わかりません」イラッ



瑞鳳「ねちっこいのなら……私、提督にやられたことある……かも?」


龍驤「なんやて!?」

瑞鶴「なんですって!?」

翔鶴「く、詳しく聞かせてくれないかしら!?」

瑞鳳「えと、まぁ……大したことじゃないんだけど……」

瑞鳳「私が秘書官やった時のことなんだけどね、
……提督ったら、何かちらちら私の胸を見てきたの……」

瑞鶴「そ、それで……!」

龍驤「ええやないか……ほのかにエロイ感じになってきたでー!」

翔鶴(ドキドキ)

瑞鳳「それでね、急に提督が『彗星を貸せ』なんて言って急に
私の格納庫を弄ってきたの!」

龍驤「アカーン! これは際どい話になってきたでー!」

瑞鶴「提督さんが……そんなこと!?」

翔鶴「いけません……これはいけませんよ……」



瑞鳳「それでね、提督は言ったの……『ない』って」



龍驤「……はい?」

瑞鳳「彗星は整備が大変だから積んでなかったんだけどね……
まぁこれだけなんだけど、私的には結構どきどきしたっていうか……あれ?」

瑞鳳「どうしたのみんな?」

龍驤「づほ……提督に馬鹿にされてるで? それ、胸がないってことや……」

瑞鳳「えっ」

瑞鶴「あ、あはは……まぁ、ドンマイづっほ」


龍驤「全く、それのどこがねちっこいんや~」

瑞鳳「ななな……! そんなぁ……!」

龍驤「いやー、途中までは良かったんやけどなぁ、づほ。惜しいなー」

瑞鳳「……ぐぬぬ、それなら龍驤ちゃんは何かないの?」

龍驤「うちなんかありすぎて困るわー」

瑞鳳「偉い自信じゃないの……」

龍驤「うちはほら、こないなかわいい女の子な訳やん? だからしょっちゅう
男の人から声かけられるんよ~」

龍驤「『お嬢ちゃん、少しお兄さんとあそこ行こうか』なんて言うてなー!
きっと物陰に連れ込んでやらしい事するつもりだったんやー!」

瑞鶴「……あの、それって……もしかして、迷子と間違われてるだけなんじゃ……」

龍驤「……」

瑞鶴「あそこ(迷子センター)」

龍驤「んなもんわかっとったわ……そこは空気よんでくれへんかな……?」

龍驤「完全に幼児と勘違いされてたわ……『お母さんとはぐれたの?』がいつもセット
やったわ……空母でも体は駆逐艦並や、悪いかボケ……」

瑞鳳「もういっそそっちの層狙いでもいいんじゃないかな」

龍驤「それはちょっち簡便な!」

瑞鶴「何か、まともな恋愛経験ある人いないね……」

龍驤「瑞鶴はどうなんや?」

瑞鶴「私はそういうの特に……翔鶴姉は?」

翔鶴「はぁ、はぁ……」

瑞鶴「……翔鶴姉?」

翔鶴「あの、先程からどなたかわからないんですけど……私のおしりを愛撫してくるんですけどぉ……」

瑞鶴「えぇ!?」

赤城「むにゃむにゃ……シャトーブリアン……」モミモミ

加賀「赤城さんったら、寝ぼけているみたいね」クスクス

翔鶴「いやあの、できれば助けてほし……ひゃうん!?」

じたばた

翔鶴「やっ……そんなところ……!」

じたばた

赤城「うおォン……」

じたばた

翔鶴「ちょ……そこは……だめぇ!?」

するり

翔鶴「あっ……!」


その瞬間、翔鶴のパジャマが赤城によってずり下げられ、

彼女の過激な下着が顕になった。


龍驤「oh……」

瑞鳳「わー……すごく、紐パンです」

加賀「……翔鶴、あなた」

翔鶴「////」

加賀「ド変態ね」

加賀「超弩級ド変態ね」

翔鶴「言い直さないでくださいぃ!」


こうして、空母娘達の夜は更けていく……。


瑞鳳「……すやすや」

赤城「満腹? 知らない言葉ですね……Zzz……」

翔鶴「せんぱぁい……もうやめてくだひゃい……Zzz……」

瑞鶴(……みんなもう寝ちゃったのかな?)

加賀「赤城しゃん……」ゴロリ

瑞鶴「わっ、ちょっと加賀さん……なんでこっちに……!?」

加賀「赤城しゃん……赤城しゃん……」ギュッ…

瑞鶴「ちょ」

瑞鶴(胸があたってるって……やっぱりでかいなおいィ……)

瑞鶴(胸元がはだけて……エロいッ……ドキドキ……)

瑞鶴「いやいや、ていうかなんで私こいつ相手にドキドキしなくちゃいけないのよ……」ゲンナリ

加賀「赤城しゃん……ごめんなさい」

瑞鶴「……?」



加賀「先に沈んで、ごめんなさい……」



加賀「蒼龍、飛龍……ごめんなさい……ごめんなさい……」

瑞鶴「……」

龍驤「……なんやねん、それ」


瑞鶴「龍驤? 起きてたの……?」

龍驤「……いつも冷めてて棘だらけの加賀の中身がそれなんやな、きっと。
普段は決して見せないくせに……」

龍驤「ずっとそれを押し殺しているんやろな。加賀にも弱い一面はある……せやけど、皆にそないなとこ、
見せられへんもんな」

龍驤「うちは、自分が情けないわ……自分はいくら弱音を吐いても問題無いからって……
メソメソ情けないことばっかり言って」

龍驤「……皆、弱音の一つや二つ、いくらでももってるのになぁ。赤城だって、加賀だって……」

瑞鶴「弱音の一つや二つ、吐いても良いと思うよ」

瑞鶴「弱音吐いて、スッキリして……また明日から頑張ればいいじゃない。
……あなたには仲間がいるんだから、吐けるだけ吐き出せばいいよ」

龍驤「あはは……なんか、悪いなぁ~……うち、助けてもらってばっかりや」

龍驤「今日のうちの部屋で寝ようって言い出したのも、きっとうちに気をつこうてくれたからなんでしょ?」

瑞鶴「赤城さんがそこまで考えていたかはわからないけどね……」

龍驤「ここまでしてもらって、このままじゃアカンよな……うん、アカン」



龍驤「よっしゃ! 明日からはもう泣き事言わへん! うちはうちにできる事をする!
その中で最善を尽くす!」



瑞鶴「そう、その意気だよ。でもたまには泣き事言ってもいいからね」

龍驤「へへ……ほんま、ありがとな」

瑞鶴「どうも」

龍驤「はぁ~……それにしても、こうやって大勢で寝るってうち、はじめてかも……」

瑞鶴「私もそんなにないかな……」

龍驤「暑苦しくてかなわんけど……このぬくもり、案外悪く無いわ……」

瑞鶴「そうだね……」


――翌日。


龍驤「よっしゃあ~! 龍驤ちゃんやったるでぇ~!」

加賀「……龍驤、何だか昨日とは目つきが変わったわね……」

加賀「あなたが何か吹き込んだのかしら? 瑞鶴」

瑞鶴「……はぁ、別に私は何も言ってないわよ。言ったのは寧ろ、アンタの方」

加賀「はぁ……?」

瑞鶴「ま、いいけどさ……結果オーライ?」




――その日から、空母達はいつも一緒に行動するようになった。



赤城「何だか無性にシャトーブリアンが食べたいわね……」

翔鶴「っ!」ゾクッ


ご飯を食べる時も。


赤城「龍驤! 右舷に敵艦隊接近!」

龍驤「まかしとき!」


戦う時も。


加賀「かわってくもの かわらないもの 飽きっぽい私が~♪
はじめて知った この永遠を 君に誓うよ~♪」

瑞鳳「いえー!」


遊ぶ時も。


赤城「いいお湯……」

翔鶴「生き返りますね……」


お風呂にはいる時も。


瑞鳳「それじゃあ電気消すからねぇ」

龍驤「ねよねよ~」


寝るときも。


加賀「……ぉはよ、ございます」

瑞鶴(やべぇ、なんか事後みたい……加賀さんって何で一々エロいんだろう)ドキドキ


そして朝起きる時も。



そんな生活を暫く続けた後、変化は訪れた……!


――泊地・食堂――


加賀「瑞鶴」

瑞鶴「はい醤油」

翔鶴「あの……」

赤城「水ならいりませんよ」

瑞鳳「龍驤ちゃん」

龍驤「誰が十勝平野やボケ」


吹雪「あ、あの……最近空母組の方々が怖いんですが」

叢雲「もはやテレパシーね、あれは」

磯波「テレパシーなんですねぇ」

初雪「むむむ……」

吹雪「は、初雪……? どうしたの?」

初雪「テレパシー使えたら、喋らなくてもよくなるって思って、した」

吹雪「テレパシーを?」

初雪「うん」

叢雲「無理に決まってんじゃない」

初雪「空母の人達はできてるし……」

吹雪「あれはまたテレパシーとは別物だから……」



――泊地・港――


加賀「――待ちわびたわ、この時を」

日向「リベンジマッチか、面白い、受けて立つぞ?」


そして今日、空母機動艦隊は彼女達と対峙した。
再び相見える、以前の模擬戦と同じ構成の二つの艦隊。
因縁の対決……空母娘達にとっては、以前敗北を喫した仮想姫級艦隊への
リベンジの時だった。


瑞鶴「侮らないでよね、今の私達は絶好調なんだから」

最上「負けたら君たちの艦載機を全部瑞雲に替えるけど、いいかな?」

瑞鳳「なにその罰ゲーム……」

龍驤「へん! 全員ぐちょぐちょにしたるでー」

五十鈴「何よぐちょぐちょって……」

最上「響きがエロいんだよなぁ」

熊野「ふふ、軽く返り討ちにして差し上げますわ」

赤城「その余裕、いつまで続くかしらね?」

翔鶴「そうです。以前の私達と同じと思っては困ります!」

陽炎「私と五十鈴さんは完全に巻き込まれてるんだけど……
まぁ、とりあえず陽炎、抜錨します!」

龍驤「お、なんや宣伝か?」

陽炎「二巻も発売中ー!」

龍驤「やかましいわ」

日向「……航空戦艦は無敵だからな。まぁ、せいぜい頑張ってくれよ。」

伊勢「無敵は言いすぎだって……」





――泊地近郊・演習海域/空母機動艦隊――


赤城「今回はリベンジマッチ。雪辱を晴らすべく、旗艦はあの時と同じ翔鶴ちゃんよ」

加賀「あの日向を完膚なきまでに叩きのめせると思うと、さすがに気分が高揚します」

瑞鶴「間違いなく今から煽る台詞考えてるよこの人……」

翔鶴「皆さん、以前は敗北こそしたものの、私達はあの時より確実に強くなっています
落ち着いていけば、必ずや勝利をつかめる事でしょう」

赤城「その為に、以前のような慢心はしないようにね。特に加賀さん」

加賀「赤城さんに言われるとは……わかっています」

龍驤「索敵はうちに任せろー」



――――――
―――



――泊地近郊・演習海域/仮想姫級艦隊――


五十鈴「……正面敵影多数! 艦載機来たわ!」

日向「今回ものこのこ倒されにやってきたようだな……伊勢! やってしまえ!」

伊勢「あの、旗艦は私なんだけど……まぁいっか」

伊勢「三式弾、行くよ!」


航空戦艦・伊勢、空母機動艦隊の第一次攻撃隊に向け三式弾を発射。
が、しかし……!


「!! ……敵機広範囲に拡散。隊列が崩れるギリギリの密度で依然として飛行中!」


伊勢「あちゃあ……この前ほど劇的な効果はないわね。ま、そりゃ警戒されるか……」

日向「小癪な……だが問題ない、瑞雲を放って突撃だ! これぞ無敵の方程式だ!」

陽炎「あの、私達瑞雲飛ばせないんですが」

五十鈴「そうよ、どうするのよ」

日向「……気合だ、気合で避けろ」

五十鈴「」

陽炎(その時私は、大戦末期の軍令部のお粗末さを感じたわ……やれやれ、
無茶なところに突っ込まされるのは駆逐艦の宿命ね)


仮想姫級艦隊、突撃開始。しかしそれはあまりに無謀な突撃だった為、
陽炎と五十鈴は早々に落伍、最上は熊野に衝突した。


加賀「三式弾さえ攻略してしまえば後は案外脆いものね……」

翔鶴「戦況はこちらが優勢です! みなさん、わかっていますね!?」

龍驤「言われなくてもわかってるで」

瑞鳳「伊達にずっと一緒に過ごしてないもん!」


瑞鶴「さぁ、第二攻撃隊……発艦開始よ!」



日向「私達だけになってしまったか……しかし回避にかけては定評のある私達の動きを
捕らえることができるかな!?」

加賀「……愚かね。以前と全く同じ戦法で来るなんて」

日向「勝てば官軍! このまま押し切らせてもらう!」


ドォン!


日向、夥しい量の攻撃隊の中を自慢の回避力で強引に突破。そのまま砲撃に移る。

加賀「この状況でもまだ撃ってくるなんて、見事ね」

赤城「しかし精度はあまり良くないようですね。無理もありませんが」

瑞鶴「赤城さん! 二人の接近を許す前に!」

赤城「わかっています。加賀さん、日向の方を頼める?」

加賀「願ってもないです」

赤城「じゃあ私達は……」

翔鶴「伊勢さんですね」

瑞鳳「うん!」

赤城「理解が早くて助かります……相手は戦艦です、こちらもあまり余裕がありません」

翔鶴「この一撃で決まりますね……!」

赤城「ええ。では、行きますよ……!」


航空母艦・赤城、伊勢に対して集中攻撃を仕掛ける。



伊勢「まぁ、そうなるわね……だけどこっちもタダじゃ終わらないわよっと!」



ドォン! シュパアァァン……!


「赤城さん! あんな近くで三式弾炸裂されちゃ近づけませんぜ!」

赤城「あの距離じゃ自身にも被害が出るはず……!」

伊勢「肉を切らせて骨を断つ! 戦艦の装甲をなめないでよっ!」

赤城「……見事です。ですが……」


赤城「やはりここで終わりです」


翔鶴「捉えました! 次弾装填はさせません!」

瑞鳳「やっちゃいましょう!」


伊勢「……こりゃ、参った」


航空母艦、赤城。あえて伊勢に三式弾を撃たせ、次弾装填の隙を作る。
翔鶴・瑞鳳は攻撃隊を突撃させ、見事伊勢に魚雷を当てた。伊勢は大破判定となる。



日向「くっ……伊勢がやられたか……かくなる上は、一隻でも撃沈してみせる!」


日向、最大船速で突撃を開始。その目標は龍驤のようだった。


龍驤「う、うちか!?」

日向「あなたが一番脆そうだからね……それ、ずいうーん!」シュパッ

龍驤「はぁ~ん……? 言うてくれるやん……、うちが一番弱そうってこと?」

龍驤「……なめんなや、三下ァ!」ガション

日向「12.7cm高角砲……!?」

龍驤「こなくそー! しにさらせー!」バババババ


軽空母・龍驤、高角砲で日向の瑞雲を迎撃。
瑞雲を撃墜することに成功。


日向「良くも瑞雲を……しかし、この距離ではもう勝ち目はない!」


航空戦艦・日向、龍驤に肉薄!


龍驤「……さて問題、うちの攻撃隊は今どこにいるでしょうか?」

日向「……!? ま、まさか」



龍驤「答えは直上や! アホ面晒しや!」



ドオォォォォン!



日向「くぅ……!」


航空戦艦・日向、龍驤の爆撃機により中破判定。



日向「……ふぅ、やるじゃないか。五分の力とはいえ
航空戦艦の私をここまで追い詰めるとは……」

瑞鶴「はぁ~ん? じゃあもっと攻撃してもいいわけね?」

加賀「鎧袖一触です」

日向「ちょ」


加賀・瑞鶴、ダメ押しの波状攻撃。


日向「波状攻撃だけは勘弁してくれぇ……」


――こうして模擬戦は、空母側の華々しい勝利で幕を閉じた。



――泊地・港――


加賀「……」

日向「……」

加賀「弱過ぎなんだけどマジ!」

加賀「誰だよ航空戦艦を無敵って言った奴は」

加賀「誰だよ航空戦艦を無敵って言った奴は出てこいよ!」

加賀「解体してやるよ!」

加賀「……よえーなまじ無敵無敵とか言ってまじで」

加賀「瑞雲放ってるだけじゃねえか!」

加賀「そういう模擬戦じゃねえからこれ!!」

日向「」

伊勢「満足した?」

加賀「ええ、とっても……」スッキリ




瑞鶴「龍驤!」

龍驤「なんや瑞鶴、そんなに急いで」

瑞鶴「すごかったじゃん今日の! 高角砲でバンバン敵機を撃ち落とす
空母らしからぬ活躍!」

龍驤「まぁー、アグレッシブなのがウチのとりえやし? それに……
赤城や加賀の真似しても仕方ないしなぁ」

赤城「でも、今日のは本当に凄かったですよ?」

龍驤「な、なんや赤城ぃ……照れるやないか……大したこと無いってあんなん」

加賀「……いいえ、そんなことはないわ龍驤。あなたは今も昔も、
立派な一航戦よ。胸を張りなさい」

龍驤「加賀まで……」

瑞鳳「まー龍驤ちゃんに張るほどの胸はないけども!」

龍驤「こらづほ! 最後の最後で台無しやないか!」

翔鶴「うふふ……」

瑞鶴「あははっ! おっかしー!」

龍驤「な~に笑っとるんや! 瑞鶴も他人ごとじゃないで!」

瑞鶴「なんですって~!」



……ずっとみんな一緒に居られたらいいのに。私は強くそう思った。



――泊地・執務室――


提督「いいか、ここにいる艦娘は皆、この泊地の主力を担う者達ばかりだ」

瑞鶴(うわー……戦艦や空母が一同に揃うなんて)

瑞鶴(……いや、案外とあったか? そういうこと)

加賀「……瑞鶴、提督の前よ、集中なさい」

瑞鶴「はいはい」

提督「そんなお前達を呼んだのはそう……」


提督「"あの深海棲艦の艦隊"と……近々雌雄を決しなければならない旨を
伝えなくてはいけなくなったからだ……」


瑞鶴「……あの艦隊。東方艦隊も、二航戦でも止められなかった……あの……!」

金剛「oh……それはデンジャラスなお知らせネー」

赤城「いずれ来るとは思っていましたが……」

翔鶴「いざその時が来ると……」

木曾「ま、少しは骨がある連中だと聞いてるがねぇ……?」

神通「その程度で済めば、いいのですけれど……」

提督「……お前達が不安に思うのもまぁ、わからんでもないんだがね……しかしだ
こちらも、引くわけにはいかん。前線の泊地が落ちれば、必然的に次の最前線はここになる」

提督「やらなきゃ、やられるだけだ……」

瑞鶴「……」

提督「今度の海戦は絶対負けるわけにはいかん。それは国のためでもある
だが、お前達のためでもあるんだ……」

提督「……こんなおじさんで、頼りないかも知れんが……」



提督「この戦いは必ず勝つ……! だから、信じて着いて来てくれないか?」





加賀「……はぁ、何を今更」

赤城「ほんと、今更ですよね?」

金剛「私はいつも、テートクの言うことならどんな願いもYESYES枕ネー」

榛名「榛名は大丈夫です。お会いした時から提督のこと、信じてますから……」

伊勢「提督ったら水臭いですよ? そんなの、聞かなくてもわかっているでしょ?」

日向「日向は艦隊にて最強。案ずるな、必ずや私が勝利に導いてみせるさ」

最上「大丈夫、僕の瑞雲さえあればね」

熊野「勝利の暁には神戸牛をご馳走していただきますわ。いいかしら?」

木曾「不安なのか? ふ……俺に任せておけ」

神通「皆さんと一緒なら……負ける気がしません」

翔鶴「みんなと一緒になって築き上げてきたこの泊地……決して深海棲艦なんかに
落とさせはしません!」

瑞鶴「そうだよ! 私達は絶対に負けないって信じてる! そして提督さんの事も!」

提督「ふ……何だ瑞鶴、そのついでみたいな言い方は」

瑞鶴「実際そうかも」

提督「ぬかしおる」

金剛「テートクゥ! 私はいつでも提督のこと信じてるネー!
信じてベットで待ってるんだから早く襲いに来てヨー!」

提督「すまない、私は朝潮ちゃんに添い寝してやらなくてはならないんだ……」

金剛「また駆逐艦デスかー!?」


提督「なんというか、駆逐艦は心が洗われるんだ……子供を持つってこういう気持ちなんだなって」

赤城「結婚を通り越してお父さんになっちゃってるわね」

提督「そうかも知れん……だが勘違いしないで欲しい。駆逐艦だけではなく、
私はお前達もみんな、私の娘だと思っている」

瑞鶴「お父さん下着一緒にしないでって言ってるじゃん! お父さんキモい!」

加賀「お父さん、またあの女と会ってたの?」

最上「お父さん瑞雲買ってよ」

日向「父さん、私……東京出てビックになる」

赤城「お父さんめし」

提督「お前達なぁ……」


本当に本当、皆でいると自然と笑顔になった。


皆で居るこの時間が、大好きだった。


そして運命は――。


――数日後。

――戦闘海域――


加賀「……いよいよね」

赤城「……皆さん、準備はいいですか?」

翔鶴「なんだか、緊張してきました……」

瑞鶴「大丈夫だよ、私達が負けるはずない!」




運命はきっと、この戦いで決まるのだ。




――to be continue……。



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      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j   壁メインの話が終わったので一区切りでち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   後編は明日までに何とかしたいでちが難しいかもしれないでち
        V`ゥrr-.rュイ人人
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Z3ちゃんかわいい!!!!!!!


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                                                  (( -――-.(ソ
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                                               ji::〈    ヮ  u/::::::|
                                                V`ゥrr-.rュイ人人
                                                 ,/1::ー:'::! i
                                           .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><
       

はじまります



【ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ Chapter3/後編(終)】



――海上・空母機動艦隊――



赤城「……月がよく出ているわね。こんな日は、月を肴に一杯やりたくなります
……なんて」

加賀「赤城さん、飛龍じゃないんですから……」

瑞鶴「案外余裕ですよね……赤城さん」

金剛「まーま、リラックスするのはいいことデース。心の余裕は大切ネー」

瑞鶴「……今頃、川内達は敵と交戦中かー……」

翔鶴「首尾よく進めばいいのですが……」

金剛「……ウーン……これは勘ですけケドも……多分敵は、夜明けまでは
攻勢に出ないと思いマース」

加賀「あら、奇遇ね。私もそう考えていました」

赤城「今や敵艦隊は私達の艦隊の規模を超えています
……きっと、敵が取る行動は一つ」



赤城「真正面からの物量押し……」



瑞鶴「私達相手に力押しで勝てると思ってる訳? 舐めてるんじゃないの?」

赤城「……そこが狙い目よ、瑞鶴ちゃん」


瑞鶴「え?」

赤城「慢心させるだけ慢心させてやればいい。その結果を私達が突き付けてやるまで」

加賀「……敵の油断はそれだけこちらの優位となる。簡単な話です」

赤城「そんな簡単な話が、かつての私達はわかっていなかったんですけどね……」

翔鶴(この人達の言葉だから……重みがある)

加賀「でも、もうかつての私達ではありません。

加賀「二度と繰り返したりしない……全力を以ってして敵艦隊に当たります」

瑞鶴「決戦の時は近い……か」

瑞鶴(今は川内達、第一夜間強襲艦隊が敵艦隊に奇襲を仕掛けてる……そして次は……)



瑞鶴は思い出す。数日前に行われた作戦の説明の模様を……。



――――――
―――




――数日前。

――泊地・作戦会議室――



提督「まずはこれを見て欲しい。これは現在我が泊地が保有する戦力の全てだ」


《泊地保有戦力》

・戦艦
金剛 榛名
伊勢 日向

・空母
赤城 加賀 翔鶴 瑞鶴
龍驤 瑞鳳

・巡洋艦
最上 熊野
五十鈴 木曾 天龍 川内 神通

・駆逐艦
吹雪 初雪 叢雲 磯波
綾波 
雷 電
若葉
白露 時雨 村雨 夕立  
陽炎 不知火 黒潮 初風
朝潮 大潮 満潮 荒潮


提督「最前線となる我が泊地としては申し分ない戦力だ……が、しかし
……報告を聞いた者は知っていると思うが、敵艦隊は我々の数を大きく上回る」

提督「従って我々は個々の高い技量と練度、そして数多の戦略を以ってして
その戦力差を埋めなくてはならん。辛く厳しい戦いになることだろう」

提督「これから艦隊編成と作戦概要を説明するが、皆、しっかりと聞いて欲しい
国の命運、泊地の命運……そして何より、お前達の命運がかかっているのだから」


そう前置きをしてから、提督は今回行う作戦を艦娘達に話し始めた。




提督「敵艦隊の現在地は上がってきた報告から予測できる。従って我々は
それを迎え撃つ、もしくは先手を取って攻める形になる訳だが……」

提督「正直な所、正面から敵艦隊とやりあっても、こちらの勝機はあまりないと
言っていい。いや、勝てないことはないかもしれんが……それを遂行する為の
被害を考えるとあまり得策とはいえんのだ……」

提督「そこで私が考えた作戦はこうだ。まず始めに戦闘を行うのは……夜だ」

川内「もしかして、夜戦!?」

提督「ふふ、さすがに川内は飛びつくのが早い。そう、夜戦だ」

提督「水雷戦隊で構成された艦隊で敵艦隊を突く。夜戦なら軽巡や駆逐でも
十分に勝機はある。そしてこれを務めるのは第一夜間強襲艦隊……旗艦は川内だ」

川内「やったーーー! 夜戦だーー! やっせん~♪ やっせん~♪」

瑞鶴「川内うるさい!」

提督「しかし川内、第一夜間強襲艦隊の目的は敵艦の撃沈ではない。あくまでも
敵艦隊の統率を乱し、艦隊行動を崩すことにある」

提督「深追いせず、できるだけ戦場を引っ掻き回すことに尽力しなさい」



◇第一夜間強襲艦隊◇

《旗艦》:軽巡洋艦 川内
駆逐艦 若葉
駆逐艦 朝潮
駆逐艦 大潮
駆逐艦 満潮
駆逐艦 荒潮




提督「そして第一夜間強襲部隊に続き、別の側面からもう一つの艦隊で
敵に攻撃を仕掛ける。第二夜間強襲艦隊だ。旗艦は……神通」

神通「あの、ご期待に添えるかどうかはわかりませんけど……頑張ります」



◇第二夜間強襲艦隊◇

《旗艦》:軽巡洋艦 神通
駆逐艦 綾波
駆逐艦 白露
駆逐艦 時雨
駆逐艦 村雨
駆逐艦 夕立  




提督「第二夜間強襲艦隊は基本的には第一とやることは変わらない。がしかし、
第一夜間強襲艦隊は第二が来た時点で一度離脱する。つまり、第二夜間強襲艦隊は
第一夜間強襲艦隊を逃がす役目もある。たのんだよ」

神通「はい!」

提督「第二夜間強襲艦隊が場を引っ掻き回したらすかさず第一夜間強襲艦隊は反転
再び攻勢を仕掛ける。その間、第二夜間強襲艦隊は離脱」

提督「こうして深追いせずにヒット・アンド・アウェイで夜間は絶えず敵に攻撃
を仕掛けていく。敵艦の撃沈は重要視しなくてもいい。神通は探照灯を使わないように」

神通「うっ……わ、わかりました……」


提督「こうして艦隊を乱した状態で敵は夜明けを迎える。そしてここからが
本番だ……まず前線は伊勢……お前さんが率いてくれ」

伊勢「わかりました。航空戦でも砲撃戦でもどーんと来なさい」


◇前線打撃艦隊◇

《旗艦》:航空戦艦 伊勢
航空巡洋艦 熊野 
 水雷戦隊
 《旗艦》重雷装艦 木曾
 駆逐艦 雷
 駆逐艦 電
 駆逐艦 叢雲
 《旗艦》軽巡洋艦 天龍
 駆逐艦 吹雪
 駆逐艦 初雪
 駆逐艦 磯波 


提督「前線艦隊は敵の攻勢を食い止めつつ、敵を押し込めるんだ。水雷戦隊を二手に分け、
なるべく勢いのある攻撃を仕掛けて欲しい。攻撃が外れた時の事などは考えなくてもいい
とにかくがむしゃらに攻撃するんだ……怒涛の攻勢に入ったかのように」

天龍「へへ、いいねー、そーいうの待ってたんだよ!」

木曾「俺の重雷装なら、そのまま敵を仕留めてしまうかもしれないけどなぁ?」



提督「……そんな彼女達を援護するのは龍驤……お前が率いる航空爆撃艦隊だ」

龍驤「へ……? うちが旗艦?」


◇航空爆撃艦隊◇

《旗艦》軽空母 龍驤
航空戦艦 日向
軽空母 瑞鳳
航空巡洋艦 最上
 防空隊
 《旗艦》軽巡洋艦 五十鈴
 駆逐艦 陽炎
 駆逐艦 不知火
 駆逐艦 黒潮
 駆逐艦 初風


提督「日向は航空戦艦だが……、空の戦いではお前が一番適任だと思うのだが」

龍驤「そっかぁ……そかそか! へへーん、提督、中々いいセンスしとるやないか!」

龍驤「よっしゃ! うちの力、見せたるでー!」

提督「航空爆撃艦隊は航空戦力により味方を支援する。航空機は戦闘機と爆撃機中心だ。
制空権奪取の際には空母に対し急降下爆撃を行う事を頭に入れておいて欲しい、
また、状況に応じて日向や最上は前線に出ることも考えて行動するようにしなさい」

日向「任せておけ」

最上「僕らは無敵の瑞雲コンビさ」

提督「そして最後に……空母機動部隊。旗艦は……赤城」

赤城「……一航戦の誇りにかけて、務め上げてみせます」


◇空母機動艦隊◇

《旗艦》:正規空母 赤城
正規空母 加賀
正規空母 翔鶴
正規空母 瑞鶴
戦艦 金剛
戦艦 榛名


提督「これまでの攻勢はつまるところ、敵を仕留めるための下準備だ
恐らく敵の統制系は乱れ、陣容は密度が高くなっているはず……」

提督「そこに、お前達空母の総攻撃を仕掛ける。この攻撃で敵艦を一網打尽にする」

提督「この海戦の行く末は、この攻撃に懸かっていると言っても過言ではない」

瑞鶴「ごくり……!」

翔鶴「せ、責任重大ですね……!」

加賀「全く、何を狼狽えているの……」

瑞鶴「だって……」

加賀「もっとしゃきっとなさい。あなた達の努力は、私も知っているわ」

加賀「大丈夫よ。自分達の力を信じなさい……」

瑞鶴「加賀さん……」

翔鶴「先輩……」

加賀「とまぁ、五航戦の子はこうでも言っておけばコロッと立ち直るから単純ね」

瑞鶴「な!」

加賀「足手まといになられるのはゴメンですから、形式的に激励してみました」

瑞鶴「はぁ……そういえばあんたは、そういう奴だった」

加賀「でも、少しは気が楽になったでしょう?」

瑞鶴「べ、別に~?」

翔鶴「ふふ……そうですね。少なくとも、肩の力は抜けました」

赤城「加賀さんったら……」



提督「さて……以上が作戦の概要だ。ひと通り理解してくれたと思う」

提督「長々と話しておいてなんだが……お前達も知っての通り戦場というものは
何が起こるかわからん。全て作戦通りに行くことなんてのはだなぁ、まぁ……稀な訳だ」

提督「未知の深海棲艦。予期せぬトラブル。想定外の戦況変化。
その全てに対し完璧に対応するのは難しい」

提督「だがしかし、どんな状況でもこれだけは絶対に守ってほしいということが一つだけある」

提督「それは……」



提督「お前達全員、必ず生きて帰るということを第一に考えて欲しいということだ」



艦娘一同「……!」

提督「私はこう見えてもさみしがりやでね。一人でも艦娘がいなくなると、
寂しくてノイローゼになってしまうかも知れん」

提督「だから、必ず全員生きて戻ってきなさい」



「「「……はい!」」」




―――
――――――



――海上・空母機動部隊――



瑞鶴(そう、提督さんは言ったんだ。必ず生きて帰って来いって)

瑞鶴(できるよね、私達なら……)

金剛「! 戦果リザルト、上がったヨ~」

加賀「!」

榛名「……報告来たみたいですね、金剛お姉さま」

赤城「……それで、第一夜間強襲艦隊の状況は……?」

金剛「……oh、あまり状況はよろしくないみたいネー……」

瑞鶴「嘘……!」

赤城「……詳しく教えていただけませんか?」



金剛「旗艦、川内大破」



加賀「……!」

瑞鶴「あいつ……夜戦だってはしゃぐから……!」

翔鶴「それで、川内……彼女は無事なんですか!?」

金剛「……第二夜間強襲艦隊の頑張りもあって、幸い轟沈は免れたみたいデス……
現在は応急修理要員達によって戦線復帰を目指してマスが……正直苦しいでショウ……」

瑞鶴「よ、よかったぁ……」

加賀「よくなんかありません……旗艦を失った第一夜間強襲艦隊は、もう機能しません」

赤城「……妥当なところで、龍驤の所の防空隊を代わりに出すくらいかしら……?
とにかく、今私達が狼狽えても仕方がありません。信じて待ちましょう……提督の判断を」



彼女達は知らなかった。現在もう一つのトラブルが、今まさに前線で起こっているということを。





――前線・第二夜間強襲艦隊――


神通「……川内姉さんは、ちゃんと一時撤退できたかしら……?」

白露「一番最初に砲撃開始!」ドン!

綾波「撃ちます! てーっ!」ドン!

神通「それにしても……報告がないのはおかしい……」


神通はこの時気付いてはいなかった。彼女自身の通信機能が故障していたことに。


神通「……何かあったのでしょうか? だとしても私はただ……作戦を実行するだけです」


しかし、これこそが……彼女達、第二夜間強襲艦隊の奮闘の始まりであった。


時雨「電探に感有り! 敵数10越え! 艦種まではちょっと特定できないかな……」

神通「夜戦になれば戦艦も駆逐艦もあまり変わりません」

村雨「えぇー……それはちょっと、言い過ぎでは~?」

夕立「戦艦さんも、駆逐艦さんも、みんな一緒にパーティするっぽい?」

神通「えっと、ではまず探照灯を……」

時雨「……それは提督に禁止されてるじゃないか」

神通「あ、そうでした。では……」

神通「全艦隊突撃」キッパリ

時雨「え」


神通「ギリギリまで近づいて魚雷を放ちます。時雨さん、位置はわかりますか?」

時雨「ええっと、左舷11時の方向……距離は……」

神通「距離は必要ありません。見える位置に来たら発射します」

時雨「夜戦で見える位置までって……」ゲンナリ

村雨「むちゃくちゃなんですけどぉ~」

綾波「突撃ですか? じゃあ綾波、一足先に行きますね」

白露「あぁっ! ちょっと、一番は渡さないよーっ!」

夕立「さぁ、素敵なパーティしましょ?」

時雨「本気なのかい……?」

村雨「こ、困るんですけどー……」


第二夜間強襲艦、突撃。


ドォン! ドン!

神通「ぬるい砲撃……あの、皆さん。タイミングは指示しますので……
各自魚雷装填を怠らないでください」

白露「りょーかいしました!」

時雨「! 右舷より敵艦接近だよ!」

綾波「右舷ですね! そーれ!」


ドォン!


時雨「沈黙……?」

村雨「いえ! まだよ!」

夕立「よりどりみどりっぽい!」


ドンドン!


夕立「……これでどうかしら?」

村雨「敵艦、沈黙……」

時雨「君達は一体何なんだい……」

綾波「さぁ?」
夕立「ぽい?」

神通「あの、そろそろ魚雷発射しますよ。進行方向真正面に魚雷を放ってください。
ではいきますよ……3、2、1……」


第二夜間強襲艦隊、魚雷発射。


ゴオォーーン……!


夕立「あたったっぽい?」

時雨「わからないね……」

神通「砲撃が止みました。恐らく当たりましたね……」

村雨「あ、あたってよかったぁ……」

綾波「……それじゃあ、このまま畳み掛けましょ~!」

時雨「な、何を言っているんだい君は……提督は深追いするなって」

神通「……いえ、この機を逃す手はありません」


神通「このまま敵艦隊に切り込みます」


夕立「夕立突撃するっぽい~! 今日はたくさんパーティするっぽい!」

村雨「も~勘弁してってば~!」


第二夜間強襲艦隊はその後も獅子奮迅の活躍を見せる。
彼女達は結局、救援に駆けつけた五十鈴達の存在にも気付くこと無く
なんと夜が明けるまでずっと戦い続けたのだった。



――海上・泊地艦隊後方――



神通「艦隊戻りました」

川内「あー……神通おつかれー」

陽炎「神通さん!? 無事だったの!?」

神通「せ、川内姉さん……どうしたのその傷……」

川内「いやー……実は早々に大破しちゃってねー。応急で今は何とか
中破まで持ち直したけど」

神通「はぁ、そうだったんですか……?」

川内「……知らなかったの?」

神通「えっと、実は通信機が壊れてたみたいで……」

神通「なんか、結局、夜通し戦ってました……」

黒潮「えー……なんやのそれ……」

川内「いいなぁー。私ももっとたくさん夜戦したかった~っ!」

神通「……そういえば、陽炎さん達は五十鈴さんと防空にあたっていたはずですが……?
何故ここに?」

陽炎「川内さんが早々に大破しちゃったからねー、代わりに私達が
第一夜間強襲艦隊の穴埋めをしたの。朝潮達は疲労した私達の代わりに
防空に当たっているわ」

初風「五十鈴はんは休みなしみたいやけどなー。本人ぼやいてたで~」

不知火「……神通、提督が心配しています。早くご連絡を」

神通「……川内姉さん、通信機お借りしてもよろしいですか?」

川内「いいよー」

神通「さて……」



神通「……あ、提督、ですか……? 神通です」



神通「第二夜間強襲艦隊……全員無事で、任務完了致しました!」




――前線・打撃艦隊――


伊勢「うわー……神通達、相当暴れまわったみたいね」

熊野「お粗末な隊列ですわね……」

天龍「何だ、数が多いだけの烏合の衆じゃねぇか!」

木曾「これは叩かない手はないなぁ! そうだろう?」

熊野「簡単に言ってくれますわね……この数、本来ならば無謀な規模ですわよ?」

伊勢「まぁ数の不利は否めないけど……作戦通りいけば、いける!
みんな、手筈通り、頼むわよ!」


熊野「でもその前に……アレ、どうするつもりですの?」


伊勢「……敵の攻撃隊ね……どうしようか?」

伊勢「……なんて、言ってみるんだけどね」


ブウゥゥゥン……


雷「味方の戦闘機……」

電「龍驤さん達の艦載機なのです」


龍驤達の放った航空支援隊が前線に到着。敵航空機と交戦を開始する。




熊野「最上の瑞雲も混じってますわね……どれ、私も加勢して差し上げますか」バシュン


航空巡洋艦 熊野、龍驤らの航空隊に向けて自らの瑞雲を飛ばし編隊に加える。


伊勢「ということでみんな! いくよ! 空の心配は必要ないわ! 龍驤達が守ってくれる!」


雷「私に任せておいて! 守るわ!」

電「なのです!」

叢雲「ま、そっちも精々頑張りなさいよ」

吹雪「叢雲もね」

初雪「やだ、お家帰りたい……」

磯波「引きこもりなんですねぇ……」

天龍「……よーしお前ら、俺について来い!」

木曾「重雷装艦のこの俺の魚雷……受けきれるかな? 出るぞ!」



前線打撃艦隊、攻撃開始。




――海上・航空爆撃艦隊――


龍驤「ふぅー……何とか、間に合ったみたいやなぁ」

瑞鳳「みんな、大丈夫かなぁ?」

日向「……時に最上、もし航空支援に瑞雲が駆けつけたら、お前ならどう思う」

最上「勝利を確信する」

日向「つまり、そういうことだ……」

満潮「なにそれ!? 意味分かんない!」

最上「約束された勝利の瑞雲」

龍驤「アホなこと言っとらんで、真面目にやらんかい」

瑞鳳「……龍驤ちゃん張り切ってるねぇ~」

龍驤「うち、旗艦やし? それにようやくウチも零戦積んだし?
ま、正直今のうちは無敵やな」

日向「それはない」

最上「そうだね」

龍驤「キミ達ねぇ……一度自分の面、鏡で見た方がええんちゃうか?」






――前線・打撃艦隊正面隊――


重巡リ級「……!」ドオォン!

伊勢「くっ……」

軽巡ト級「ッ!」ドンドン!

伊勢「さすがに数が多いわね!」

瑞雲「シエンナノカイ?」ヒュン!


ボオォォン……!


伊勢「サンキュー瑞雲!」

熊野「ふぅ……夜間強襲艦隊の活躍と、航空支援がなければ、とても五分には
持ち込めませんでしたわね……」

伊勢「そうね……これは長くは持たないかも……みんな……頑張って耐えてっ」


――海上・水雷戦隊/木曾隊――


木曾「……どいつもこいつも無駄に興奮しやがって」

木曾「そんなに沈みたいのかねぇ?」

電「はわわ! 敵さん近づいてくるのです!」

雷「ぼさっとしてないで迎撃よ! 電!」

叢雲「……私の前を遮る愚か者め! 沈め!」ドン!

駆逐イ級「……ッ?」サッ

叢雲「ちぃ! 近弾か……!」

雷「任せて! 撃つわ!」


ドォン!


駆逐イ級「!!」ガコン

駆逐イ級「……ッ! ……、……」


駆逐イ級、撃沈!


雷「雷様にかかればこの通りよ!」

叢雲「くっ……手柄を取られたわ」

木曾「いいぞぉ! お前達!」

電「でもでも! どんどんくるのです!」

木曾「ふ……なぁに心配いらないさ……」


木曾「見せてやるよ……酸素魚雷……全門斉射ぁ!」


バシュンバシュンバシュンバシュバシュバシュンッ!!


重雷装艦 木曾、大量の酸素魚雷を敵艦隊に向けて発射。


ドゴォーーーン!


木曾「へっ……大分スッキリしたじゃないか」

電「木曾さんかっこいいのですーー!」

雷「天龍よりもずっと頼りになるわね!」

――海上・水雷戦隊/天龍隊――


天龍「っへくし! おい誰だ俺様の噂をしてる奴は……」

天龍「あ、アレか? 俺が強すぎるから、噂してんのか~?
照れんなぁ~おいぃ」

吹雪(……大丈夫かなこの人)

天龍「つってもアレだな、いくら俺が強くても数が多すぎる」

天龍「これじゃあ長くは持たねぇぞ……」

磯波「ここは、私も頑張るときなのです!」

初雪「私もやる時は、やる」

天龍「そうだな……いっちょ踏ん張ってみるか!」



前線艦隊、奮戦! 圧倒的数の不利にありながらも敵に立て直しの隙を与えない!

――海上・空母機動艦隊――


金剛「前線のみんな、頑張っているみたいデース」

瑞鶴「もどかしいわね……提督さんからの通信はまだなの?」

赤城「慌てないで……今は機を伺う時です……」

加賀「龍驤……頑張っているようね。敵航空機は全然こちらに来ていないのだから」

翔鶴「皆さんの頑張りに応えるために……私達も頑張らなくてはいけませんね」

榛名「そうですね……」


ジジッ……


『赤城、聞こえるか……?』

赤城「提督、ですか?」

『あぁ……そうだ』

『機は熟した。私はお前に命令を下す……』



『空母機動艦隊……万全を以って敵艦隊を攻撃せよ!』



赤城「第一次攻撃隊発艦用意!」

加賀「ようやくですか」

瑞鶴「よし! アウトレンジ決めるわ!」

翔鶴「全航空隊、発艦開始です!」

赤城「行きますよ皆さん! 目標、敵艦隊!」



赤城「我が泊地の総力を以って、敵艦隊を殲滅します!!」



空母機動艦隊、満を持して攻撃隊を飛ばす。
彼女達の思いを乗せて、攻撃隊は敵艦隊へと飛んでいった。


――前線・打撃艦隊正面隊――


伊勢「これ以上はもうキツイ……かな?」

熊野「……見てください! アレ!」

伊勢「……ようやく、来たわね」



――前線・水雷戦隊/木曾隊――


木曾「遅すぎるぜ……全く」

雷「みんな、やっちゃって!」



――前線・水雷戦隊/天龍隊――


天龍「よっしゃあーー! やっちまえ!」

吹雪「すごい数……これなら……!」



空母機動艦隊の攻撃隊、敵艦隊に肉薄。



――前線・敵艦隊上空――



敵艦載機「……!」

『へっ……! 敵さん来やがったみてぇだな!』

『俺達一航戦の搭乗員に勝てるもんか!』

『一航戦だけにいい格好はさせませんよ!』

『五航戦のやつらか……ふん、俺達について来れるかな!?』

『行きますとも!』

敵艦載機「!!」ババババババ

『遅いね!』ドン

敵艦載機「!?」


ドゴーン!


『かっかっか! 手応えのない! このまま旗艦に突撃だあああ!』

『手柄は独り占めさせませんよ!』

『やれるもんならやってみな!』

『戦艦タ級! 高射砲を向けてきます!』

『戦艦の砲撃なんて恐れるな! 当たりゃしねえさ!』


バババババ……


『そんなへなちょこ弾、当たらな……』


ボンッ!


『え……?』

『お、おい……?』

『ナンダ? 今の、当たったの……?』

『タ級の砲撃! まだ来ます!』

『ば、ばかn』


ボンッ!

――海上・空母機動艦隊――


「報告! 敵艦隊の対空装備! 極めて優秀也! 味方航空隊、被害拡大!
戦艦タ級、新型の信管を搭載した対空装備を配備している模様!」

加賀「どういうこと……?」

瑞鶴「嘘……ま、まさか……!」



翔鶴「VT、信管……?」



加賀「それは、一体……?」

瑞鶴「いつもアンタが言ってるでしょ? 七面鳥七面鳥って……」

瑞鶴「私がそう呼ばれるに至った元凶よ……当たらなくても炸裂する
新しい信管……!」

榛名「そんな……!」

加賀「三式弾と同じ要領で対応すれば……」


瑞鶴「三式弾なんかとは訳が違う!」


瑞鶴「もう、ダメ……アレを破る方法なんて、思いつかない……」

加賀「……瑞鶴、あなた……何故、弱音を吐いているの?」

加賀「私達がやらなくては……前線の艦隊はどうなるの?」

瑞鶴「そんなこと言ったって……」

翔鶴(瑞鶴は、アレがトラウマになっているのね……かくいう私も、だけど)

瑞鶴「そんな……あんまりだよ……! なんでこんなところで……!」


――前線・水雷戦隊/天龍隊――


天龍「お、おい……なんか、空の様子が様子がおかしいぞ?」

吹雪「……! 初雪!」

軽巡ヘ級「!!」バシュン

初雪「!! いや……ッ!」

ドゴン!


駆逐艦 初雪、敵魚雷直撃。大破。




――海上・航空爆撃部隊――


敵艦載機「ッ!」バババババ

龍驤「くぅ……! 敵の艦載機がこんなところまで~……?」

日向「一体前線はどうなっているんだ……?」

朝潮「対空迎撃を開始します!」

満潮「ウザいわね……こいつら!」



――海上・空母機動艦隊――


「敵対空迎撃! ますます激化していきます! このままでは……!」

加賀「何か、何か手はないの? やはり三式弾と同じ要領で……」

瑞鶴「無駄だよ、そんなの」

加賀「……あなた、本気で言っているのかしら」

加賀「戦いを、諦めるの?」

瑞鶴「違う! 諦めたくなんか無い……でも、無理なんだよ……」

瑞鶴「もう何もかも、おしまい……!」


加賀「馬鹿なことを言わないで。私達を信じて戦っている前線の子達を、
その信頼を! 裏切るつもり!?」


瑞鶴「うぅ……」

加賀「……もういい。私達だけでも何とかしましょう、赤城さん」

赤城「ですが……」

加賀「あの子はもう役に立たない」

金剛「加賀……その言い方はBADネー」

金剛「みんな、ちょっと落ち着きなヨ。確かに敵の装備は強力……
でもここで思考停止したら、それこそ本当に終わりデース」

赤城「……そう、ですね。すみません金剛さん」

加賀「……私は至って冷静です。その上で、
私は彼女を切り捨てると言っています」

赤城「加賀さん……」


――前線・打撃艦隊正面隊――


パン! パン! パララララ……


伊勢「そんな……あの大編隊でも、敵わないの……?」

熊野「わたくし達、ここで……果てますの……? まだ、最後の神戸牛
……食べてないのに。鈴谷と、おしゃれな服をもっと買いたかった……!」



「終わるのはまだ早いよねっ!」



ドン!


伊勢「……味方の砲撃?」

熊野「あ、あなたは……川内さん!」

川内「川内参上! 助けに来たよ!」

伊勢「川内、あなた……まだ大破から復帰したばかりでしょ!?」

川内「皆の苦戦を聞いて、後方でのうのうとしていられるほど
……私達は薄情じゃない! そうだよね、みんな?」

陽炎「寧ろここからが私達の見せ場よ!」

不知火「そうね……不知火はいつもよりもずっと……切れているわ」

黒潮「ほな、突撃や!」

初風「……妙高姐さんはいないわよね? ここ。海中から現れたりしたら……
わあああ怖い! 失禁する自信あるわ……」

神通「あの……私達も、お手伝いします」

綾波「砲撃戦いきます! てぇーい!」

夕立「まだまだパーティは終わらないっぽい?」

白露「一番初めに敵艦撃沈するんだから~!」

時雨「……僕は正直疲れたかな」

村雨「村雨も疲れてるんですけど~……」

伊勢「みんな……!」

熊野「行きましょう! まだ終わってない、終わらせませんわ! トオォォォン!」

――海上・空母機動艦隊――


「報告! 川内ら水雷戦隊、前線に加勢! 戦線、一時的に持ち直しました!」

瑞鶴「嘘!? あの夜戦馬鹿、大破してたんじゃ……」

翔鶴「皆が皆、頑張ってる……なのに!」

瑞鶴「私達は……無力だ」


赤城「……それは違うわ、瑞鶴ちゃん」


瑞鶴「え……?」

赤城「かつての戦いでは……あなた達は新生一航戦として頑張っていた。
早々に散っていった私達に代わって、その殆どの戦いが劣勢の中にあっても
最後まで敵に立ち向かった……」

赤城「あなた達には辛い戦いばかりさせてしまった。私達が沈まなければ
あなた達だけにその重荷を背負わせる事にはならなかったのに……ごめんなさい」


そう言って赤城は……翔鶴と瑞鶴を抱きしめた。


瑞鶴「あ……」

翔鶴「えっと……」

赤城「あの戦いが、二人にトラウマを作ってしまった……本当にごめんなさい」

翔鶴「そんな、先輩が謝る必要なんて無いですよ……」

赤城「だけどね、翔鶴ちゃん、瑞鶴ちゃん。今は……私達がいるの。あの時とは違う……
もうあなた達だけに重荷を背負わせたりしない!」

赤城「私達が力を合わせれば、どんな困難だって打ち破れるはずよ。VT信管が
なんだって言うんですか! 私達が培ってきたものは! 時間は……その程度の
ものじゃないでしょう?」


赤城「大丈夫。私達無力なんかじゃない。きっと……できるわ」



瑞鶴「……」

瑞鶴「……翔鶴姉」

翔鶴「ええ、わかってるわ瑞鶴。やりましょう!」

瑞鶴「そうだよね……私、なに一人で自己完結してたんだろ……そうだよ、
あの時とは違うんだ! ……負けっぱなしっていうのは、性に合わないし
……リベンジよ、今度は負けない!」

加賀「立ち直ったのなら、早く第二次攻撃隊の発艦準備をなさい」

瑞鶴「ぁ……か、加賀さん……」

加賀「……何か?」

瑞鶴「あの、すみませんでした。私……取り乱して、情けないこと言って……」

加賀「……反省しているのであれば、もういいわ」

瑞鶴「私、もう弱音を吐いたりなんかしません! 決して諦めたりもしない!
だから……」



瑞鶴「一緒に、戦ってくれますか……?」




加賀「そうね……帰ったら、間宮の甘味でも奢ってもらおうかしら?」

瑞鶴「……!」

翔鶴「先輩……!」

加賀「まぁ、期待はしているわ」

瑞鶴「……はい!」



赤城「……さて、仲直りも済んだところで本題よ」

金剛「感傷に浸る暇もないネー」

榛名「何か策はあるのですか……?」

赤城「翔鶴ちゃん、瑞鶴ちゃん。あなた達……流星は、持っていたわよね?」

翔鶴「はい。ありますけれど……2、3機程度しかないですよ? まだ量産の
目処が立っていなくて……」

赤城「少なくてもいいのよ……今必要なのは少数での打撃力と……速力。
これが一番重要よ」

赤城「通信妖精さん。VT信管はタ級以外にも配備されていましたか?」

「いえ……新型の信管は恐らくタ級だけです。他は従来の信管でしょう」

赤城「敵旗艦の位置は?」

「はっきりとはわかりませんが……戦艦ル級フラグシップや空母ヲ級フラグシップが
仰々しく取り囲んでいる箇所があります……恐らくそこに……」

赤城「そうですか……それさえわかれば結構!」

瑞鶴「赤城さん……一体どういう……?」

加賀「私にはわかります……赤城さん、やるんですね?」



赤城「ええ……第二次攻撃隊で……敵の旗艦を落とす!」


――前線・海上――



龍驤「しっかしまぁー、こらあかんなー! 後方で大人しくしとったほうが良かったわー!」

瑞鳳「前線に行くって言いだしたのは龍驤ちゃんでしょ~?」

龍驤「すまんなぁ、ウチ、意外と大胆な所あるから」

日向「意外でも何でもないが?」

軽巡へ級「ッ!!」ドン!

駆逐イ級「……ッ」バン!

最上「くっそぉ! こいつら、無駄に数が多すぎるよ!」ドゴン!

伊勢「龍驤の隊も合流して……これでもう前線に出れる艦はほぼ出尽くした感じね……
それでも持ちこたえるのがやっとなんて……!」

熊野「諦めてはいけません! 勝利は、諦めぬ者にのみ訪れるのですわ!」チャキ


ドォン……!


軽巡へ級「!? ……ッ……」

熊野「お一人様天国にご案内ですわ!」

陽炎「私達も負けてらんないわね!」

不知火「すい! らい! せんたん! 行きます!」

黒潮「不知火ちゃん……それちょっとおかしない?」



川内「……あれ、なんか……味方の航空機の様子が変じゃない?」



神通「……あれは……?」

日向「何をやっているんだ……あんなに密集して、狙い撃ちにされるぞ!」

瑞鳳「密集しようがしまいが、どのみちVT信管で……」

龍驤「……いや、何かおっぱじめる気やな……赤城達は……」


――深海棲艦・艦隊中枢部――


空母ヲ級「ヲッ……ヲッ……」

戦艦ル級「……」

戦艦棲鬼「オロカナ……イチモウダジンニシテヤル……シズミナサイ」


戦艦棲鬼、戦艦タ級や空母達に敵航空隊の殲滅を指示する。
命令に従い、タ級達は高射砲による対空砲撃を開始。
戦闘機もそれを補助。VT信管を搭載した砲弾が、赤城達の航空隊に襲いかかる。




――前線・水雷戦隊/木曾隊――



木曾「さすがに分が悪いねぇ……」

電「木曾さん!」

雷「空を見て!」

叢雲「何をやっているのかしら、あれ……」

木曾「さぁさっぱりだ……トチ狂ったとしか思えないぜ」



木曾「だがもし、あの動きに意味があるのなら……信じてみるか? あいつらを……」

――海上・空母機動艦隊――



「赤城さん! 味方航空隊被害甚大! これ以上は危険です!」

赤城「お願い……もう少し耐えて!」

加賀「瑞鶴……まだなのかしら?」

瑞鶴「あと少し……あと少しで……!」

翔鶴「!! ……敵旗艦、捉えたみたいです!」



赤城「……よし! 一航戦の搭乗員の皆さん! ここが踏ん張りどきです!
精一杯タ級を引きつけて!!」



加賀「あなた達は優秀です……誇りを以って敵に当たりなさい!」






――前線・敵艦隊上空――



『へへ……五航戦どもの支援ってのは、気に食わねぇが……』

『赤城さんと加賀さんに頼まれちゃ、やらねぇわけにはいかねぇよな! お前ら!』

『おうともさ!』

『俺の視力を舐めるなよ!』

『おーい、お前ら墜されるなよ~?』

『墜ちないよ! まだ紫電改に乗ってないんだからさ!』


航空隊、縦横無尽に空を駆け、戦艦タ級を翻弄する。
しかし敵の対空装備は強力で、航空隊の総数はもはや開戦時の2分の1を割っていた。


戦艦棲鬼「フフフ……オワリダ……」


彼女は静かに、しかし確実に勝利を確信したことだろう。だがしかし!



戦艦棲鬼「!? ……ナンダ、アレハ!」


『真打ちは……遅れてやってくるものです!』


流星、敵艦隊の背後を突き接近!


戦艦棲鬼「ゲイゲキ……!」


戦艦棲鬼、急遽タ級に迎撃を要請。しかし、彼女達は前方の航空隊の対処に追われ、
それどころではなかった。


戦艦棲鬼『アエテソチラニ、ヒキツケテイタノカ……!』


戦艦棲鬼『コシャクナ!!!』


戦艦棲鬼、随伴艦の戦艦ル級や空母ヲ級と共に迎撃を開始。
信管は通常のものだった。


瑞鳳「させない!」

龍驤「ウチらが守ったるで!!!」


軽空母龍驤、瑞鳳。瑞鶴翔鶴らの流星を支援。敵艦載や砲撃から流星を守る。


赤城「瑞鶴ちゃん! 翔鶴ちゃん!」

加賀「やりなさい!!」

翔鶴「落ち着いて……捉える!!」



瑞鶴「目標……敵旗艦! 戦艦棲鬼! 行け!!!」





戦艦棲鬼「!!!!!」





ドゴオオオオォォォォーーーーーーン!!!






――海上・空母機動艦隊――



「流星の雷撃……多数命中! 敵旗艦・戦艦棲鬼……沈黙!」


赤城「……ふぅ」

瑞鶴「……やったの? 私達……やれたの?」

翔鶴「ええ、やったのよ、私達……! やり遂げたの……!」

瑞鶴「やっ……」



瑞鶴「やったぁーーーーー!!」



金剛「Fu~……一時はどうなるかと思ったネー」

榛名「旗艦を失った深海棲艦は最早脅威ではありません。敵はじきに統率を崩し、こちらの戦力でも
十分に撃破可能となるでしょう」

赤城「ほらね、言ったとおりでしょう? 私達ならきっとできるって」

翔鶴「みなさんのご助力があったからこそ、敵旗艦にこうして攻撃を仕掛けることが出来ました!
感謝です!」

加賀「赤城さんの考えた作戦なのだから、当然の結果よ」

金剛「素直じゃないネー加賀は。瑞鶴達も頑張ったんだカラー、もっと褒めてあげなヨー!」

加賀「……何故一々褒めなくてはいけないの?」

瑞鶴「うっ……やはり手厳しいようで……」



加賀「あなた達なら必ずやり遂げると信じていました。これもまた、当然の結果
……一々褒め立てることではないわ」


金剛「oh……」

瑞鶴「加賀さん……加賀さん!!」

加賀「ちょ、抱きつくのはやめなさい! まだ戦いは終わってはいないわ!」

瑞鶴「加賀さん加賀さん加賀さーん! ありがとーーー!!」

翔鶴「あらあら、瑞鶴ったら」

赤城「よほどうれしかったのね……」

金剛「さぁ~! 後は残った烏合の衆を……ッ!?」



金剛「榛名!!! 避けて!!!!」



榛名「……え?」



バシュン!!!



戦艦 榛名、魚雷直撃。中破。


赤城「!?」

加賀「なっ……」

瑞鶴「え……?」

翔鶴「は、榛名さん!?」

榛名「うぅ……これは、一体……!?」

金剛「……あれは……何だかやばそうなのがいるデース……」



レ級「……ニマァァ」



瑞鶴「なに、あれ……」

翔鶴「あんな深海棲艦、見たことがない……!」

金剛「ッ! 来る! さっさと戦闘準備に入りなサイ!!!」

赤城「くっ……直掩機と補用を合わせても……心許ない数ですね!」

加賀「敵は一隻! 恐れる必要なんてありません」

金剛「榛名は下がっているネ! 高速戦艦・金剛! 突撃しマース!」


戦艦 金剛、レ級に突撃を開始す。


レ級「……ニィ!」ヒュン!


赤城「艦載機……!?」

加賀「極めて少数です! 恐れる必要はありません!!」

翔鶴「みなさん! 金剛さんを支援してください!」

瑞鶴「……やってやるわよ!!」



レ級、艦隊機を発艦。それに合わせて空母達も航空隊を差し向ける。




金剛「全砲門、Fire~!」ドォン!

レ級「ニヤァ……」ドゴン!

金剛「こいつ……ッ!」

金剛(先制雷撃……青色の艦載機……そしてこの耐久……)


金剛「こいつは相当やばそうデース……!」


加賀「敵の航空隊は少数……突破できるわけが……」


パァン……!
              ドンドン!
   バババババババ……!


「せ、制空権喪失……!?」

瑞鶴「嘘……!?」

加賀「あ、ありえないっ……直掩機は特に練度が高い妖精をつけていたはずなのに……!」

赤城「加賀さん! 前を見て!!!」

加賀「……ッ!!」


レ級艦載機の航空爆撃が、加賀を襲う。
既のところで回避する加賀であったが……?


赤城「加賀さん! 大丈夫!?」

加賀「……問題ありません。回避しました」

瑞鶴「……!」


それは瑞鶴の角度からしか見えないものだった。
赤い染みが、加賀の脇腹を染めている。
瑞鶴にはそれが何であるのかが明確に分かった。


瑞鶴(回避できるわけないじゃない……あなたは私より、ずっと遅い……!)





ドゴオオオン!!!



金剛「NO~~~ッ!?」

榛名「金剛お姉さま!?」

金剛「くっ……こいつ、中々やるデース……」


戦艦 金剛、レ級砲撃により中破。


瑞鶴「よくも……!」

翔鶴「瑞鶴、落ち着いて……激情に身を任せてはダメ」

赤城「……敵の艦載機、性能が違いすぎる……!」

加賀「諦めてはいけません。勝機は必ずあるはず……」

瑞鶴「……」


瑞鶴は見逃さない。加賀が飛行甲板で自身の傷を隠していることを。


翔鶴「でも、先輩……!」

加賀「無いのなら……私が作るまで!」ヒュン!


航空母艦 加賀、攻撃隊を発艦。


加賀「私の、誇り高き一航戦の搭乗員達が負けるはずがない……!」

レ級「♪」


レ級は空中の航空隊を加賀の攻撃隊に差し向ける。
その結果……




「全機、ロスト……です」


加賀「そんな……!」

レ級「ニヤニヤ……」

加賀「くっ! 攻撃隊!」

瑞鶴「……無理すんじゃ無いわよ! だってアンタ……!」

加賀「瑞鶴……わかっているのなら、皆まで言う必要はないわね」



加賀「私はもう、"覚悟ができている"」



瑞鶴「!!」

加賀「恐らく……アレは、今の戦力じゃ倒せない。なら、私が……」

瑞鶴「ふざけないでよ……アンタ、自分を犠牲にしようっていうの!?」

赤城「どういうことですか!? 加賀さん!」

翔鶴「加賀先輩!?」

加賀「それで艦隊が助かるのであれば……」

瑞鶴「……ほんと、ばかなんだから」

加賀「馬鹿ですって? 瑞鶴……誰に向かって言っているのかわかっているのかしら?」

瑞鶴「馬鹿も馬鹿、大馬鹿よ……! 自分が犠牲になろうだなんて、馬鹿の極みよ……」

加賀「……それしか方法が」



瑞鶴「私は加賀さんを沈めない。絶対に沈めない」




加賀「……!」

瑞鶴「だって、私は約束したから。決して諦めないって約束したから」

瑞鶴「勝手に沈んだりしないでよ。間宮、奢れなくなっちゃうでしょうが……」

加賀(蒼龍、飛龍……いつだったか、あなた達ともそんな約束をしたことがあった……)

加賀(その約束は、完全な形ではなかった……けど、今度は、この子になら……
それができるかもしれない)

加賀「……瑞鶴、何か考えでもあるのかしら?」

瑞鶴「一応あるけど、どうなるかはわかんない……だけど、やるしかないんだ!」


瑞鶴「みんな……力を貸して!!」


赤城「ええ、もちろんよ!」

翔鶴「私はいつでも、瑞鶴の味方よ?」

加賀「はぁ……」



加賀「……仕方がありませんね」




金剛「shit! そろそろきつくなってきたヨ~……」ドン! ドン!

金剛(せめて……せめてもっと近づければ……!)


航空戦、雷撃、砲撃。全てをこなすレ級を前に、金剛は苦戦を強いられていた。
あと一撃を貰えば大破も辞さない、逼迫した状況が続いている。


瑞鶴「金剛さん!」

翔鶴「私達が援護します!」

金剛「空母が前線に出ても大丈夫ナノ!?」

翔鶴「翔鶴型の速力は金剛型に比肩、もしくはそれ以上とも言われています
被弾しなければどうということはありません!」

瑞鶴「金剛さん! 私達があなたをアレの近くまで守ります! だから金剛さんは……」

金剛「至近距離でFire~デスか?」

瑞鶴「……そうです。かなり危険ですけど、やってくれますか?」

金剛「問題ないネ~。私もそうしようかと考えていたところデース!」

赤城「航空隊は何とか私達が引きつけます! ですから金剛さんはアレを!」

金剛「ワカリマシタ……皆さん、少しだけ私に力を……」


金剛「さぁさぁ! ここからが金剛型の速力の見せ所デース! 気張っていきマース!」


赤城「攻撃隊発艦!」

加賀「鎧袖……一触!」

加賀(意識が……もうろうとっ……)


瑞鶴「翔鶴姉!」

翔鶴「ええ、瑞鶴!」


戦艦 金剛、翔鶴と瑞鶴を伴って再度突撃。赤城らは航空支援を開始する。



レ級「ニッコリ」


レ級、砲撃、艦載機、魚雷を滅茶苦茶に放つ。


金剛「oh! クレイジーネ!」

赤城「……くっ! 攻撃が激しすぎる! 守りきれない!」

敵艦載機「!」ブゥン


敵艦載機、金剛に接近!



レ級「ニヤリ……!」

瑞鶴「させ、るかぁ!!!」ガション


パアァァン……バシュウウン!


瑞鶴の、12cm30連装噴進砲が吠える!
敵艦載機撃墜!


レ級「!!」

金剛「はあああああああああ!!」






金剛「BURNING[零距離]……LOVE[斉射]ーーーー!!」






ドッゴオォォォォォォーーーーーン!!




金剛「はぁ、はぁ……」

レ級「……、……」

金剛「……とっとと海の底に還りなサーイ」



レ級、撃沈。




榛名「お姉さま! 大丈夫ですか!?」

金剛「榛名~、ムリしないでくだサーイ」

翔鶴「一体、何だったんでしょう……あれは」

金剛「うぅ~……手強い相手だったヨ~……できることなら、二度と戦いたくないネ」

加賀「……ッ!?」フラッ

赤城「加賀さん!? どうしたんですか!?」

加賀「少し、めまいが……」

赤城「大丈夫ですか!?」

瑞鶴「……全く、帰ったら治療しなさいよ、それ」

赤城「治療……? 加賀さん、何か……隠していますね?」

加賀「い、いえそんな……」

赤城「み・せ・な・さ・い!」

加賀「いえこれは……違うんです!」

赤城「何を隠しているの! こら加賀さん!」

瑞鶴「なんだ、案外元気そうじゃない」

翔鶴「……色々ありましたけど、これでなんとか帰還できそうですね……」


ジジッ……ジジー……


赤城「? 通信……?」


『……聞こえているか、空母機動艦隊』


赤城「……あら、提督? どうしたんです?」

『……撤退だ。今すぐ撤退……しなさい』

翔鶴「撤退? まだ前線は……」


『前線は……総崩れだ』


赤城「……なんですって?」

『既に各自退却を始めている……』

瑞鶴「ちょ、ちょっとまってよ……敵の旗艦は私がしっかりと……」

『沈んでいなかった……奴は、まだ辛うじて生きながらえていた』

翔鶴「!!」

『敵の耐久は……予想していたよりも大分高かった。大破だが、指揮系統は落ちていない!』

赤城「それでは、前線は……」

『……ひどい有様だ。語る事さえ憚られる』

『お前達も早急に戦線を離脱するんだ。でないと……』


金剛「……どうやら無理みたいデス、提督」


『……!?』

榛名「そんな……!」


レ級「……ニィ?」

レ級「♪」

レ級「クスクス」


赤城「一隻だけじゃ……なかったの!?」

瑞鶴「……そんな」



それはまるで、終わらない悪夢を見ているようだった。



――――――
―――




戦艦棲鬼「――ミナゾコニ……シズミナサイ!」





彼女達は互いに互いを信じていた。



吹雪「初雪は私が守るんだから!!」ドン!

磯波「……こないで、来ないでください!!」ドン!


重巡リ級「……」スチャ


ドゴン!


磯波「ぁ……」

吹雪「い、磯波っ!」

初雪「……!」



駆逐艦 磯波、轟沈。


吹雪「磯波ッ! ……ぅ、よくも……よくも!!」

吹雪「うわああああああああッ!!」


バコン!


吹雪「え……!?」

駆逐イ級「……」

駆逐ロ級「……」


バシュン!


吹雪「かはっ……」

吹雪「そん、な……駄目ですっ……駄目……」

吹雪「はつ、ゆき……」

初雪「ふ、ふぶk……!」


重巡リ級「……」チャキ



ズドン!



駆逐艦 吹雪、轟沈。



初雪「あ……あぁ!」




だから彼女達は決して諦めなかった。



龍驤「敵の航空隊はうちが引きつけるで! まかしとき!」

龍驤「攻撃機は……ひいふうみいと……あーもうようわからんわ」

龍驤「旗艦として……一航戦として! うちが皆を守ったる!」

瑞鳳「龍驤ちゃん!!」

龍驤「きっと赤城や加賀がなんとかしてくれる! 繋げるんや! づほッ!」



龍驤「明日を!!!」



敵艦載機「……」ヒュウゥゥゥゥ……




ドゴオォォォォォォォォン……!!




軽空母 龍驤、轟沈。





川内「あはは……さすがにちょっとまずったかな……?」

神通「川内姉さん……! もう下がって……!」

川内「……神通はさ、いつも私や那珂の暴走を止めてくれてたよね……」

神通「突然、何を……!?」

川内「本当はお姉ちゃんの私がやらなくちゃいけないってのにさ……」

川内「だからなんて言うのかな……最後だけはお姉ちゃんらしいとこ、見せといた方が
いいかなって思ったんだ……」

神通「……!」

川内「これからまた私暴走するけど、今度は止めないでよ……?」

神通「姉さん! 待っ……」



川内「……たまには、夜戦以外もいいよね?」




軽巡洋艦 川内、轟沈。




朝潮「必中ッ!」ドン!

満潮「その先は地獄よ!!」ドン!

大潮「か、囲まれますよぉー……!」


戦艦ル級「……ッ」


荒潮「せ、せんかん……!」

満潮「馬鹿! 怯むんじゃないわよ……!」

五十鈴「取り乱しちゃ駄目よ! 艦隊行動を守って!」

朝潮「! ……砲撃が……来る!」


戦艦ル級「ッ!!」



ドォン!!



大潮「がッ!!!!!」

荒潮「いやぁッ!」


朝潮「大潮! 荒潮!」



大潮「」

荒潮「あら……い、いたいじゃない……!」



駆逐艦 大潮、轟沈。



しかし信頼というものは時として残酷だ。



朝潮「ッ! 助けます!!」

荒潮「来ないでッ!!」

朝潮「!?」

荒潮「きちゃ、だめよう……戦場のど真ん中で救助なんて、敵の良い的よぉ~?」

朝潮「関係ありません! 助けます!」

荒潮「来ないでって、言ってるじゃない!」ドン!

朝潮「……ッ!」サッ

朝潮「何故……どうして、荒潮!!」

荒潮「あなたはこちらに来ては駄目……なんだか、そんな予感がするのよ……」

朝潮「そんなっ……」



荒潮「そう、それでいいの。何だか少し、救われたようなきがするわ…ぁ……」




駆逐艦 荒潮、轟沈。




皆が皆を信じるからこそ、見えなくなる。



満潮「時雨!! もうこっちは持ちこたえられない!」

時雨「……最上!」

最上「くっそぉ……中破かよ……冗談じゃないよ……!」

最上「……瑞雲も、全部墜とされちゃったし……散々だよ……」

時雨「最上! キミはもう戦える状態じゃない!」

最上「……いや、まだ終わりじゃ無いよ? 航空甲板が駄目でも、三連主砲がある!」

満潮「そんな状態で戦うつもり? 地獄を見るわよ!?」

最上「地獄ならとうに見た……スリガオ海峡でね。君達もそうだろう?」

時雨「……!」

最上「……時雨、満潮。二人とは、なんだかんだで色々縁があったよね」

最上「扶桑も山城もここにいればよかったんだけど」

時雨「彼女達はもう……」

満潮「……!! 敵砲撃来るわ!!」

時雨「最上!!!」


「全く、世話が焼けますわね! ヒャアアア!!」


ゴオォォン……!



最上「熊野……!」

熊野「間に合ってよかったですわ。航空甲板はもう使い物になりませんけど」

最上「航空甲板は盾じゃないってば……」

熊野「さて……時雨、満潮。あなた達は後退なさい」

時雨「熊野!? 何をしようと言うんだい!?」

熊野「何を勘違いしているかは知りませんけど、中破の最上を補助するだけですわ」

熊野「あなた達は先に本隊と合流なさい。私達もすぐに行きます」

時雨「でも……」

熊野「心配なさらないで。この熊野、そう簡単に沈むような艦じゃなくってよ?」

満潮「……絶対に追い付いて来なさいよ!」

時雨「二人共……気をつけてね」

最上「大丈夫だって!」




強い絆は重く、彼女達は身動きをとれなくなってしまう。


最上「……それで、熊野さんは動かないのかい?」

熊野「生憎と……先程の攻撃で機関部が故障してしまいましたわ」

最上「あは、僕と一緒じゃないか」

熊野「何とまぁ……それは……ひどい状況ですこと……」

熊野「はぁ~……今の状況……鈴谷が見たらどう思うかしら?」

最上「なっさけないって笑いとばすんじゃないかな」

熊野「そうですわね……ひどい状況ですものね……」

最上「それでも、時雨達を退避させられただけでも……よかったよ」

最上「……あーあ、三隈、元気かなぁ~……」

熊野「鈴谷は元気かしら……?」

最上「……なんか、僕と熊野って、ちょっと似てるかもね?」

熊野「姉妹艦ですから……でも、わたくしはそんなに瑞雲マニアじゃなくってよ?」

最上「これからなろう、今日から始めよう瑞雲教」

熊野「結構です」

最上「あはは……」

熊野「…………」

最上「それじゃ、最後の砲戦、始めますか」

熊野「……ですわね」

最上「別に付き合わなくてもいいのに」

熊野「始めようかと言ったのは最上ですわ」

最上「そっか……」

最上「……ごめん、付きあわせちゃってさ」

熊野「姉妹艦のよしみで、しょうがなくですわ」


最上「素直じゃないなぁ、最後まで」

熊野「それがこの、熊野という艦娘ですから」



航空巡洋艦 最上、轟沈。
航空巡洋艦 熊野、轟沈。


その信頼は重力を伴って……。



陽炎「みんな! 油断しないで……!」

初風「わ、わかってるいるわ……」

黒潮「たまらんなぁ。こんな戦い、あんまりや~きっついわぁ~……」

不知火「黒潮……口を動かすより手を動かしなさい」

不知火「前方に敵駆逐群あり。どうするの、陽炎」

陽炎「このまま押し切るわ!」

不知火「ふふ……いいわね。徹底的に追い詰めてやるわ!!」

黒潮「ほな、砲撃開始や~!」ドン

初風「早く消えなさいよ! てーっ!」ドン

陽炎「不知火! いくわよ! 攻撃!」ドン

不知火「……沈め!」ドン


駆逐イ級「!?」

駆逐ロ級「……ッ!」



ドッゴオオオン!!



陽炎「やったぁっ! 命中ね! 不知火!」

不知火「そうね、かげろ……」


ドゴン!



不知火「……ッ?」

陽炎「し、不知火……?」

不知火「くっ……そこか!」ヒュン!


ズゴオォォォォン……!


潜水ヨ級「!?……、……ッ……」スゥー……


黒潮「潜水艦!?」

不知火「やっぱり、ね……」

初風「不知火姉さん……大丈夫、なの?」

不知火「こんなんで不知火は沈まないわ。敵駆逐群に包囲される前に抜けましょう」

黒潮「せ、せやね」

不知火「不知火は後方に付きます……先頭は引き続き陽炎でお願いします」

陽炎「わ、わかったわ。早いとこここを抜けましょう! 行くわよ皆!」

黒潮「出るでー!」

初風「出るわ!」


不知火「…………やはりさっきの魚雷は……致命傷だったわね」


陽炎「!? ……不知火、なんでついて来て無いのよ……!」


不知火「……不知火に落ち度でも?」



陽炎「あのバカっ! 皆反転! 不知火がまだ……!」


敵駆逐群「……!!」バシュン

不知火「死なばもろとも……あなた達も一緒よ!!」バシュン




ゴオォォォーーーーン……!



陽炎「嘘、不知火……!」

黒潮「そんな、嘘やろ……」

初風「不知火、姐さん……!」



駆逐艦 不知火、轟沈。




伊勢「……提督。もう前線は……崩壊したわ」

『……ッ!』

日向「これ以上の戦闘は、無駄な犠牲を生むだけだ……!」

『ぐっ……全艦隊、撤退……!』



『繰り返す! 全艦隊は速やかに撤退せよ!!』




――彼女達を海の底へと引きずり込むだろう。






―――
――――――




――海上・空母機動艦隊――



加賀「あなた達は行きなさい。ここは私が引き受けます」

瑞鶴「……何を、言っているんですか? 加賀さん」

翔鶴「そうです! 加賀先輩を置いてなんていけません!」

加賀「足の遅い私を伴っていては、連中から逃れることはできないわ。
私はここで敵を迎えうちます……その隙にあなた達は戦線を離脱して」

瑞鶴「ふざけないで……言ったでしょう? 私は決してあなたを沈めないって!」

加賀「……それで、艦隊が全滅しては……意味がありません」

瑞鶴「だったら! あいつらを倒す方法を考えよう! きっと何か……まだ手はあるはず!」

加賀「……あなただってわかっているでしょう? 全員が全力を出して
一隻を沈めるのがやっとだった……もうこちらに勝ち目はないの」

瑞鶴「諦めるなって言ったじゃない……だから私は!」

赤城「ごめんなさいね、瑞鶴ちゃん……でもこれは諦めじゃない」

赤城「生きていれば、きっと……チャンスはやってくる。
だからこれはそのための、戦術的撤退……」

加賀「そうよ。あなた達が生きていれば、いずれ連中を倒す力を手に入れることができるはず
その意志を持ち続けていれば……それは諦めなんかじゃない」

瑞鶴「違う! 私は……私は、加賀さんを諦めたくない! 提督さんの言葉を忘れたの!?
生きて帰るということを第一に考えろって!」

加賀「……瑞鶴」


加賀「私はどちらにせよ、もう長くはない。だからこの身は、最後の力だけは、
……あなた達の為に使いたい」


瑞鶴「加賀さん……!」

翔鶴「加賀先輩を一人になんて、できません!」


赤城「一人にはさせないわ。私も共に残ります」



翔鶴「赤城、先輩!?」

加賀「赤城さん……なにを!?」

赤城「そんなひどい怪我をしている加賀さんを一人ぼっちにはさせられないわよ
それに……加賀さん一人には、その役目……少し荷が重すぎるわ」

加賀「駄目ですっ……赤城さん、あなたは、あなただけは……!」

赤城「……ここで引けというの? 加賀さんを置いて私だけ引いたら
……一航戦の誇りに傷がつきます」

加賀「赤城さん……ッ!」

赤城「……金剛さん。二人のこと、頼めますか?」

金剛「どうしても行くっていうのデスか……?」

赤城「はい。こうするしか、艦隊が生き延びる方法はありません」

金剛「そう、デスか……」

瑞鶴「二人共、何言ってるのよ……!」

瑞鶴「もう、私達だけに重荷を背負わせたりしないって……言ったじゃないですか……」

瑞鶴「一緒に戦ってくれるって、そう言った……!」



瑞鶴「嘘だったんですか……!」



赤城「嘘じゃないわ……私達はこれからも、共にあなた達と戦い続ける……」

赤城「肉体は滅びても、その意志は共にある……そう、一航戦の誇りとして」


赤城「一航戦の名を……あなた達に譲ります」

赤城「これからはあなた達が、一航戦となって皆を引っ張っていくのよ」


翔鶴「そんな……先輩方がいないと私!」


瑞鶴「いらない……そんなのいらないよ! 私は五航戦のままでいいよ!!」


瑞鶴「だから……一緒に、帰ってよ……!」



レ級「ニッコォ……」



赤城「!! ……金剛さん、早く行ってください。今こうして話せているのは、
ただの連中の気まぐれに助けられているに過ぎません」

加賀「私達の全力を以って、敵を食い止めます……」

金剛「ワカリマシタ……全艦隊、撤退開始しマス……」

翔鶴「ぁ……先輩、私……!」

赤城「翔鶴ちゃん。あなた達には……また辛い想いをさせてしまうかもしれない
でも私は、あなた達の強さを知っている。……あなた達ならそれを乗り越えられる。
必ずやこの海に平和を取り戻してくれると確信している。
……だから、生きのびて」

翔鶴「……ぅ……わかりましたぁ! 一航戦・翔鶴として……先輩方に、恥じない戦いを……
戦いを……ぐっ……うぅぅぅっ……!」ボロボロ……

瑞鶴「いやよ! 嫌だ! 絶対に私はここに残る!」

加賀「はぁ……瑞鶴。よく聞きなさい」

瑞鶴「何よ!」

加賀「私はあなたに会えてよかった」


瑞鶴「な……!」

加賀「私はあなたの言う通り、ミッドウェーであっさりと沈められた。
慢心と奢りで何もできないままに」

加賀「……でもこうして艦娘として再び生を受け、あなたと出撃する中で……
私はいつも全力を出して戦うことができた。それは瑞鶴、あなたというライバルがいたから」

加賀「全力で戦える。これほど幸せなことはなかった……今日の戦いなんて、
それはもう、満足したわ。欲を言えば、勝ちたかったけれども……」



加賀「ありがとう、瑞鶴。あなたのお陰で、私の存在は救われたのよ……」



瑞鶴「なんで今……言うのよ! やめてよ……!」

加賀「そんな私が、最後にしてやれることといったら……これくらいしかない。
だから私を惨めにさせないで。覚悟を、誇りを、汚さないで……お願い、あなた達を
……守らせて」

瑞鶴「うっ……うううう!!」

赤城「皆さん行ってください! 敵が動き出す前に!」

金剛「赤城……武運を」

赤城「ありがとうございます……」


金剛「……回頭! 最大船速で突き抜けるネ! みんな、遅れちゃNOなんだカラ~ッ!」


榛名「……赤城さん、加賀さん……すみません!」

翔鶴「……いくわよ、瑞鶴」


瑞鶴「……絶対に!」

瑞鶴「絶対に二人の意志は継ぐから!! だから……!」




瑞鶴「安心、して……ください……!」




加賀「……ありがとう、瑞鶴」



赤城「行きましたか……」

加賀「……赤城さん。私は今でもあなたに引いてほしいと思っています」

赤城「言ったでしょ? そんなことをしては、一航戦の誇りが傷つきます」

加賀「一航戦の名はあの子達に譲りました」

赤城「じゃあ……私の個人的な感情かしら」

加賀「それはつまり……LOVEですか?」

赤城「かもね?」

加賀「ふおぉぉぉ!」ブシュ

赤城「ほらほら、傷口開いてるわよ」

加賀「すみません、私としたことが……」

赤城「……最期の時にこうして、加賀さんと肩を並べて戦える。
こんなに嬉しい事はありません」

加賀「私も同じ気持ちです、赤城さん」


レ級「ニタニタ……」

レ級「ニヤニヤ……」


赤城「さて……」

赤城「……行きましょうか、加賀さん!

加賀「ええ……」



赤城「攻撃隊……発艦! 最後の一航戦の誇りを刮目なさい!」

加賀「ここは譲れません! 最後の一航戦の誇りにかけて!」





こうして、赤城と加賀は……空母機動艦隊の残存戦力を逃がすその役目を全うし……



海に、沈んでいった。



海戦は泊地の決定的な敗北だった。海戦の大局はここに決し、艦隊は多大な被害を被ったのだった。

それからいくつかの時が流れて……。



――泊地・執務室――



提督「…………」


彼は眺めていた。先の海戦で失った艦娘達を。


・戦艦
金剛 榛名
伊勢 日向

・空母
赤城× 加賀× 翔鶴 瑞鶴
龍驤× 瑞鳳

・巡洋艦
最上× 熊野×
五十鈴 木曾 天龍 川内× 神通

・駆逐艦
吹雪× 初雪 叢雲 磯波×
綾波 
雷 電
若葉
白露 時雨 村雨 夕立  
陽炎 不知火× 黒潮 初風
朝潮 大潮× 満潮 荒潮×


金剛「……沢山、沈みマシタ……」

金剛「沢山の仲間が、あの海に沈んでいきました……」

提督「そうだな……」

提督「これから、どうなるのだろう……我々はいつまで戦い続けなければ……」

金剛「提督がそんな事言っちゃ、NOデスヨ?」

提督「すまんな……失ったものがあまりにも大きすぎて
……少し、弱音を吐いてしまったよ」



提督「……彼女は、弱音を吐いてくれるだろうか?」



――泊地・駆逐艦寮/吹雪・初雪・磯波部屋――


ガチャリ


電「初雪さん、調子はどうですか……?」

雷「おかゆ持ってきたわy……」


ぶらん……ぶらん……


初雪「……」


電「え……?」

雷「電っ! 見ちゃ駄目!!!」




皆さん、ごめんなさい。
私、もう怖い。戦うのが怖い。海に出るのが怖い。
海に出るくらいなら、私、吹雪達の所にいきます。

                   初雪
         [駆逐艦 初雪が残した遺書より]




駆逐艦 初雪、自室にて首を吊って自殺している所を駆逐艦雷らに発見される。



――泊地・空母用射的演習場――



瑞鳳「はぁ……ここもすっかり寂しくなっちゃったよ、龍驤ちゃん」

瑞鳳「ぬりかべでもなんでもいいから、化けて出てきてくれないかなぁ?」

瑞鳳「……ツッコミがつかれたって言うなら、私が代わりにツッコミしてあげるし」

瑞鳳「胸のサイズだって、龍驤ちゃんの方が大きいってことにしておいてあげるし」

瑞鳳「だから」



瑞鳳「もう一度声を聞かせてよ……龍驤ちゃん」




――泊地・港――



翔鶴「瑞鶴」

瑞鶴「あ……翔鶴姉」

翔鶴「またここにいたの? いつまでもこんな所にいると、風邪を引いてしまうわよ?」

瑞鶴「そうだよね……ごめん」

翔鶴「……瑞鶴、あなたが気に病むことはないわ。あの戦いでは、皆が皆、全力だった。
誰が悪いなんてない……ただ敵が、あまりに強大すぎただけ……」

瑞鶴「……わかってるよ」

瑞鶴「わかってる……感傷に浸ってばかりもいられない。私達は、前を向いていかなくちゃいけない」

瑞鶴「どんなに辛くても、弱音を吐いてなんかいられない。だって私達は一航戦なんだもん
一航戦の遺志を受け継いだ私達の、諦めないその姿勢がみんなを導くんだから……」

翔鶴「瑞鶴……」

瑞鶴「約束したんだ……決して諦めないって。だから絶対に、深海棲艦になんか負けない」


瑞鶴「たとえそれが……地獄であっても! この意志は折れはしない!
少しでも多くの勝利を刻むこと……それが、散っていった皆への、手向けとなる!」


翔鶴「瑞鶴、あなた……」




決意をその心に誓う瑞鶴のその姿は、


まるで、かつての加賀のようだった。


NEXT【装甲空母は砕けない】

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   l::「ヽ:::|/  TT {/  TT   ト::|l  |:::::::::::::::::::}
    ',ヽィ::::|  ∪     ∪   |::|l  {::::::::::::::::::,'   明日投下するって宣言してからどれだけ掛かってるのよ……
    ヽ: :}::i   , ,      , , j:::ノ /:::::::::::::::::,'  
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                                              〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  違うんでち、予想外に長引きすぎたんでち……

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                                                V`ゥrr-.rュイ人人
                                                 ,/1::ー:'::! i
                                           .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

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   l::「ヽ:::|/  TT {/  TT   ト::|l  |::::::::::::::::::}        |:::::::::::::::| 三式爆雷|
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                                               ji::〈    ヮ  u/::::::|
                                                V`ゥrr-.rュイ人人
                                                 ,/1::ー:'::! i
                                           .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

ギャグ挟まないと精神的に削れるゾこれ~。また次回でち。

              ,.r-=

               (( -――-.(ソ
             /:::::::::::::::::::::::゚丶
             /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
           〈|::::l へ`' へ`-!:::::j  "諦めなければ"ハッピーエンドになるかもしれないでちよ?

            ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  ごーやを"信頼"してほしいでち!
             V`ゥrr-.rュイ人人
              ,/1::ー:'::! i    
          ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><


あ……雪 風 忘 れ て た 


雪風さんは故障でお休みということにしておいてください。幸運能力で危機回避的なね。

時系列ごっちゃになってアカンなー、荒が出てきたっぽい

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   l::「ヽ:::|/  TT {/  TT   ト::|l  |:::::::::::::::::::}
    ',ヽィ::::|  ∪     ∪   |::|l  {::::::::::::::::::,'   うっかり忘れてた雪風の補足よ
    ヽ: :}::i   , ,      , , j:::ノ /:::::::::::::::::,'    後付けという名の
.     ',:::::l_    'ー=-'   ,ィ:::|  |:::::::::::::::::::}
      }:::i `=‐-t--r-ァ:</:|::j  |:::::::::::::::::::i
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       /  ,': : : : : : : : : 、ヽ //  }ノ}::::}

短いです

【大海戦のその後に~雪風補足~】


雪風「雪風、修理が完了いたしました!」


泊地に響き渡る、少女の声。それは重く沈んだ泊地の空気に相反するように
浮き上がり、雪風を孤立させる。


天龍「あぁ、雪風……お疲れ様……」

雪風「……?」


彼女達の顔に映るのはただただ疲労の色ばかりで……

摩耗しきった彼女達を見て、雪風はどうしようもなく不安になった。


雪風「あの……一体何が……?」オロオロ

若葉「若葉だ。少しこっちに来い」

雪風「えっ……、な、なんですかぁ?」

若葉「……お前は修理でドックにいた。だからあの海戦には参加していない
そんなお前が事情を知らないのも無理は無い」

雪風「……その口ぶりでは、先の海戦は……」


若葉「敗北という言葉すら生ぬるい、ひどい戦いだった」


雪風「……!」


若葉「沢山の艦娘が壮絶な最後を迎えた。絶望的な状況だった。故に皆、精神が不安定だ。
……特に姉妹艦が沈んだ奴は辛いだろう、暫くそっとしておいてやれ」

雪風「雪風は……そんな時、何も出来ずにドックで休んでいたんですね……」

若葉「気に病むな。あの戦いでは皆が死力を尽くした。誰かに責任があるだなんて
誰も考えてはいない。実際、お前がいようがいまいが状況は変わらなかった」

若葉「寧ろ出撃しなかったのは、ある意味幸いだ。出撃していたら、
お前もただではすまなかったかもしれない」

雪風「……こんな時に、要らない幸運を発揮してしまったということですね……」

若葉「果たして本当に幸運か?」

若葉「この先は更に過酷な戦いが待っている。いっそ沈んだほうが楽だったかもしれない」

雪風「……雪風は、沈みません」

雪風「たとえどんなに辛い運命が待っていようとも……それから目を背けることだけは
したくないんです!」


雪風「その為に雪風の……幸運はあるんです!」


若葉「雪風。おまえは」



本当は幸運なんかじゃ、無いのかもしれないな。




             「回ニニO
         _--ー「T「 ̄\  /二\

        「 l L_コュ 凵  ヽ |(::::::::::)| 
        L 」コー゙゙゙゙゙ ̄ ゙゙゙̄ーヽ`二´.| 
  /二\,, /: : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ\ 〆) 
. |(::::::::::)レ: : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : ヽ>ヽ 
 .ヽ`二/: : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ: : : : : : :.ヽ 
. ヾ : :/: : : : : /: : : : : : : :ハ -/-ト: | 、.: : : : : : |    
  `フ: : : : |: : :|ーヾ: : : : :| i/  |:/ ヾ: : : : : : :|    
  |: : /: : |: : ハ: | ヽ\: :ヽ  __´   |: : : : : : ヽ

  |: :ハ: : : ヽ:| ヾ __.   ̄ ,,=≡ニ=,,. |: : |: :|: : :ヽ  
   V >、ヽヾ ,,=ニ≡      /// ノ: : レ: : : : ヾヽ   しれぇ! 雪風を忘れてしねぇ!
.    /: : : : :.| ´    _´___   ∠: : : : |: ルレ 
.    |: :|: : : :|.///   ト--ー゙|   ,,. |: : :/レ     
     |: | : : : :ヽ    ヽ _ノ_,,-i::´fヨヽ |       
    レヽ: : :ト: :ド ̄ ̄日フヽ  |:::::::::::::ヾ 
      ヽ_:ヾ     >::::::____::,ー 、::/ヽ       
         ̄     ド:(  {   .|ベ/ ヽ     !
              | ヽヽ__ゝーノソ>  ト___ 
              |  (`ー(ー´ \. ハ::::::::ヽ 
              ヽ |   ∧   ,ヘト::::::::o|ヽ 
               ヽ|    トoヾ_へ\\::::| | 
                ヽ_/ ヽoヽ  ,,ゝ弋コヾ|


なんか上手い具合に収まったようです。

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   l::「ヽ:::|/  TT {:/   TT   ト::|l  |:::::::::::::::::::}
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    ヽ: :}::i   , ,      , , j:::ノ /:::::::::::::::::,'   今回からはもうコメディ色あんまりないかも
.     ',:::::l_    'ー=-'   ,ィ:::|  |:::::::::::::::::::}
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さっき書き終わったばかりなんで始まります。



【装甲空母は砕けない】



どうも! 装甲空母大鳳です! 翔鶴型を改良して生まれた最新鋭の空母で、
この度、栄えある連合艦隊に配属されることになりました。
かつての戦いではあまり活躍できなかったけれど、大丈夫!
今の私はあの頃と違って十分な設備と人員によって生まれました!
これで本来の力をお見せすることができるわ!
今度の敵は海を跋扈する謎の艦隊、深海棲艦。海の平和を脅かす不届き者に、
装甲空母の力、とくと見せてあげる! ……負けないわ!



――鎮守府・港――



大鳳「艦隊、帰投しました!」


響「おつかれ。今日も大鳳はすごかったね」

暁「大鳳さんが先制攻撃で殆ど撃沈しちゃうんだもん。暁達の出番が無かったわ」

大鳳「今日はたまたま絶好調だっただけですから!」

矢矧「……そんなこと言って、もう随分と長いことMVPの座を
独占しているのではないのかしら?」

矢矧「過度な謙遜は嫌味になるわ。気をつけたほうがいいわよ」

大鳳「あ、すみません……」

大鳳(……言ってもいいのかしら? 相手の深海棲艦が弱すぎるって)

大鳳(ううん駄目。それこそ本当に嫌味になっちゃうわ)

大鳳(私は最新鋭の装甲空母。艤装も装備も最新式……旧式の艦より強くて当然なんだから
それに驕ってはダメ……)


とは思いつつも、大鳳は深海棲艦の手応えの無さに拍子抜けしていた。
他の艦娘が苦戦する深海棲艦とはこの程度なのかと、侮っていた。


大和「矢矧、お疲れ様」

矢矧「あら大和。出迎えてくれるなんて珍しいわね」

大和「……出迎えというか、監視というか」

長門「ほーれほれ駆逐達よ、疲れてはいないか? ラムネあるぞ?」

矢矧「……なるほど」

大和「長門さん、それ、変なもの入ってないですよね?」

長門「何だその目は、失礼な。私がくちくにそんなことするはずがないだろう!!」

大和「駆逐艦ラムネとか売ってた人が言っても説得力無いんですよ」

長門「大和……新米の頃は可愛かったのに、こんなに生意気になって」


長門「その点駆逐はいい!! 時を経てもその純粋さは
変わることがないのだからな!! だからこそ気にいった!!」


大和「はぁ……」


大鳳「……」

大和「? 大鳳さん? 何でしょうか?」

大鳳「あ、いえ……」

大鳳(彼女は、連合艦隊最強の戦艦である大和さん。そしてあちらがビックセブンと謳われた
戦艦長門さん)

大鳳(……お二方は連合艦隊の顔ともいうべき存在。そして戦艦としては完成された性能を
持っている。ですが……心配です)

大鳳(彼女達は強い。けれど、戦艦では……限界がある)

大鳳(この先、どこまでその大艦巨砲主義を貫き通せるのか……)


司令「やぁ、大鳳ちゃん。お疲れ様~」


大鳳「あっ、提督! お疲れ様です!」

長門「……ふん、何をしに来た? 貴様」

司令「僕が僕の艦隊の艦娘の様子を見て何が悪いんだい?
あと長門君さぁ、上官に対して貴様はないんじゃない?」

長門「私の上官はかつてこの鎮守府を指揮していたあいつだけだ」

司令「……はぁ、もうさ、亡くなった方の話は止そうよ。
死んだんだからそっとしておいてあげなって」

長門「貴様……どの口d」


大和「口を慎みなさい……ッ!」



大鳳「!?」

長門「大和……」

大和「あなたのような人間が、彼のことを軽々しく口にするのは許されない……!」

大鳳(大和さんがこんなに怒るなんて……)

司令「……ひー、怖い怖い。ったく、態度と消費資材の量だけは超弩級なんだからなぁ~
連合艦隊旗艦様は」

大和「…………」

長門「……時に提督様よ、貴様……確か『次世代型艦娘建造計画』とかで
忙しいんじゃなかったのか?」

司令「あー……アレは僕向きじゃあ無いから他の人間に任せたよ」

長門「……まるでおもちゃだな」

司令「何か言ったかい?」

長門「いや……何も」

大鳳(提督は、艦娘の皆と仲がとても悪いです……私としては、
皆仲良くしてもらいたいのですけれど……)

司令「……あー、とりあえずさ、大鳳ちゃんはいつもの人に戦果の報告しといてね」

大鳳「あ、はい」

司令「それじゃあ僕は失礼するよ……何だかおじゃま虫みたいだからねぇ?」


そうして、今現在この鎮守府の提督を務める男は去っていった。


長門「……ふん、提督の椅子に座っているだけのボウフラが」


彼の背中を見送る艦娘達の目は皆、嫌悪の色に満ちている。
誰もが皆視線にストレスを内包していた。
……しかし大鳳は違った。
だからこそ大鳳は何だかとても居心地が悪くなってしまい、
そそくさと彼女達のグループから離れていったのだった。



大鳳「はぁ……こんなにギスギスしてて大丈夫なのかしら」



「指揮官と兵士が対立し、基本的な組織行動さえままならない。
戦争以前のお粗末な状況だな……」



大鳳「……あなたは」

研究員「そろそろ覚えてくれたぁー? 自己紹介とか面倒だし二度はしないって」

大鳳「確か、花見さん……でしたよね?」

研究員「そうだよぉ。覚えてくれて、ありがとにゃん!」

大鳳「はぁ……」

大鳳(この人は……妖精さん達による新型兵装の研究に携わっている研究員……らしいですけど)

大鳳(つかみどころがないというか、得体の知れないというか、変な喋り方というか)

研究員「何? 僕のことそんなに見つめてどうするの?」

大鳳「……あなた、本当に研究に関わっているの?」

研究員「疑うのか……この私を」

大鳳「だって、ある日突然研究だデータだって言われて一方的に調査されて
……私には実態がまるで見えてこないもの」

研究員「調査は秘密裏に行われるものだ……情報が連中の手に渡らんようにな……」

大鳳「誰ですか連中って……」

研究員「悪の組織」

大鳳「真顔で言わないでください」


研究員「もー、大鳳さんは疑り症なのです!」

大鳳「せめて証拠のようなものを見せていただければ……」

研究員「それも、ひ・み・つ? 乙女には秘密が付き物なのよぉ~?」

大鳳「……何も教えてくれないのね」

研究員「でもさ、新しい機体を使うのは楽しいでしょ?」

大鳳「そうですけど……」


大鳳は彼女に頼まれて、度々新型の兵器のテストプレイをしていた。
大鳳自身新鋭機であるので、試験的に機体を運用するのは慣れていた。


研究員「お前は新しい装備が使えて嬉しい。私はデータが取れて嬉しい。
ギブアンドテイクではないか……?」

大鳳「それは、まぁ」

研究員「だったらさぁ~、そういうめんどいことは詮索しないで欲しいんだよねぇ~」

大鳳「……むぅ」

研究員「ほらほら、わかったらデータ取り終わった艦上機をさっさと返してよね」

大鳳「……因みに」

大鳳「この機体の名前はなんですか? もしかして、橘花……?」

研究員「んぁ? まー……結構いい線いってるんじゃない?」

大鳳「……違うの?」

研究員「これ以上はノーコメント♪」



大鳳「……」

研究員「どうしたの? 浮かない顔だね」

大鳳「……何でみなさんは、提督の事が嫌いなのでしょう?」

研究員「唐突だな。今に始まったことでもないだろう?」

大鳳「やっぱりこのままじゃ……まずいと思います」

大鳳「絶対良くないわ、こんな状況。お互い歩み寄っていかなくちゃ……」

研究員「このままじゃまずいってことくらい、誰だって
判ってんじゃないのー?」

大鳳「じゃあ、何で……」


研究員「……お前はなんのために戦っている?」


大鳳「えっ……?」

研究員「何のために戦っている?」

大鳳「……そんなの、深海棲艦を倒すために決まっています」

研究員「……なるほどー。まぁ、50点ってとこかなぁ~?」

大鳳「どういうことですか?」

研究員「……まぁ、50点程度なら問題ないよ。だけど提督はそれが……」


研究員「0点だっただけって話」


大鳳「0点?」

研究員「本質的に奴とここの艦娘は合わないのだ。
両者は永遠に平行線を行く存在だ」

研究員「私もあいつは好きじゃないしにゃあ」

大鳳「……そう、ですか……」

研究員「奴はそれだけのことをしてきた。今更その穴を埋めようとしても
穴は無限にそれを飲み込んでいくだけだろう」

研究員「ま、もっともあの人は穴を埋める気も無いだろうけどね」

大鳳は比較的着任が新しい艦娘だ。だから彼女は知らない、"東方作戦"の全容を。
故に大鳳は、他の艦娘と違ってあの新しい提督にも別け隔てなく接する。
そんな彼女に、人は愚かだとか哀れだとかいう感情を向けた。
だから大鳳はいつも言いようのない居心地の悪さを感じていた。

皆に仲良くして欲しいというのは彼女の本心ではあるものの、その言葉には
彼女自身の「この居心地の悪さを解消したい」という思いも少なからず含まれていただろう。

現に今も、大鳳は居心地の悪さを感じていた。目の前の研究員の少女に向けられる視線によって。


大鳳「……あなたは」

研究員「……何かしら?」

大鳳「あなたは何の為に研究をしているんですか?」

研究員「そんなことを聞いてどうする?」

大鳳「何かかしら理由があるものじゃないですか……なんとなく気になって」

研究員「……そうだねぇ」


研究員「……私は、皆の想いに動かされているだけ」


大鳳「想い……?」

研究員「皆の想い、その延長線上にたまたま私がいた。それだけのこと
私の全ては私の意志じゃない」

大鳳「……どういう、意味ですか?」

研究員「さぁねっ!」


一瞬、本当に一瞬だけど、大鳳は本当の彼女を垣間見た気がした。









研究員「……私としたことが、余計なことを話してしまいました」

研究員「……それであなたは、いつまでそこで隠れて見ているの?」

研究員「……これを積みたいって? ……これはあなたには過ぎたるもの、です」

研究員「そう消沈しないでください。もうすぐあなたは……生まれ変わるのですから」




――鎮守府・空母演習場――



ブウゥゥゥゥン……

大鳳「……やっぱりさっきの機体より烈風のほうが使いやすいわね!
この編隊が見たかったの!」

青葉「いやぁ~凄いですね! 烈風! 流石は大鳳さん!」

大鳳「あなたは、重巡の……」

青葉「青葉です! 恐縮です~。大鳳さんの素晴らしいご活躍は常々耳にしております!
いやぁその強さの秘訣、知りたいものですねぇ? どうですか? コラムなど連載されてみては?
バックアップしますよ~?」

大鳳(……鎮守府で落ち着ける場所が欲しいと思うのは、贅沢かしら?)

青葉「あ、なんか露骨に煙たがっている顔してますね~?」

大鳳「そ、そんなつもりじゃ……」

青葉「わかりましたよ~。大鳳さんにはここだけの特ダネ、教えします!
だから機嫌直してくださいね?」

大鳳「特ダネって?」

青葉「……ある一部の艦娘のみが見る、謎の妖怪の話です。そいつは両手で猫を掴んで
艦娘の前に現れ、意味深な言葉を残して去っていく……」

大鳳「妖怪? ばかばかしい……」

青葉「それが馬鹿にできないんですってば。初めに見たのは確か
……千歳さんだった筈です」

青葉「彼女は何の前触れもなく突然現れたと言います。
そして自らのことを"エラー"と名乗ったとか」

大鳳「……で、そのエラー娘が何を言ったの?」



青葉「『あなたは運命の超越者足りえるか?』と」



大鳳「運命の超越者……?」

青葉「意味はわかりません。でも、気になる言葉ですよね?」

大鳳「そうかしら?」

青葉「あとは北上さんや大井さん、それに響さんも出会ったそうです。
彼女達の時は上記した言葉の他に『深海棲艦の正体は何だと思いますか?』だとか
『この世界の理を感じていますか?』だとか言って……とにかく意味深なんですよ」

青葉「コイツ絶対なにか知ってますよ! はぁ~……できることならお会いしたい!
そして、心ゆくまで取材させていただきますぅ!」

大鳳「……はぁ、所詮与太話でしょ? 北上さん達、そういうの好きそうだし……
きっとからかわれているのよ、あなたは」

青葉「いいえ! 私のゴーストが囁くのです! これはマジモンだって……」

大鳳「……どこにそんな根拠があるのやら」


バカバカしいと思いながらも大鳳は、心がざわめくのを感じていた。
得体の知れない気持ち悪さが喉元までせり上がってきたけれど、
今更その話に食いつくのも気が進まなかったので、大鳳はその気持ち悪さを
ぐっと飲み込み、自らの体内で消化した。


――――――
―――




――鎮守府・港――



大鳳「艦隊帰投いたしました!」

潮「疲れ、ました……」

朧「早く休みたい、かな……?」

漣「……ねぇ、そういえば最近……」


漣「響、見ないよね……?」


潮「そ、そういえば……」

朧「……この間行われた作戦で、沈んだって噂があるよ」

潮「え!? そそ、そんな……!」

漣「……でもおかしくない? それなら既に私達知ってるはずじゃ……」

曙「……隠してんのよ、提督と軍令部が」

漣「どういう、こと?」

曙「……自分達に都合の良い情報しか流さない。都合の悪いことは隠蔽する
そういう連中なのよ……なんでそんな隠蔽をするのかは、知らないけど……」

曙「今の提督に比べたら、前のクソ提督がどれだけマシだったか……」

潮「曙ちゃん、あんまりそういう事を言っては……」

漣「ま、噂は噂だからねぇ……何より大事になったら暁が黙ってないだろうし、
本気にしないほうがいいと思いますよっと」

曙「でも、あの提督ならやりかねないと思わない?」


大鳳「……」


今日も大鳳はどこか居心地の悪さを感じていた。
ギスギスとした空気が渦巻き、鎮守府を覆う。膜のように。
日に日に規模を増すそれは、最早大鳳以外でも感じ取る事が出来た。




大鳳「今日も勝った。私は今日も、勝ったんだ……」


自分に言い聞かせるように、大鳳は呟く。
今日の勝利を、自らの力を、確認する為に。

大鳳はこれまでと変わらず勝ち続けていたし、勿論彼女自身
深海棲艦に負ける気配など微塵も感じなかった。
しかし、いつからか勝利を祝う者が減っていき、疲労感ばかりを口にする者が増えた。
誰もが皆、この戦いの先が見えなかった。
だから大鳳だけは、しっかりと勝利の積み重ねを意識した。
そうすることで、少しでも事態が好転しているような気になるからだ。

そんな時、彼女はふと、一人の艦娘の姿を発見する。


まるゆ「……」トテトテ

大鳳「あれは……まるゆさん?」



――鎮守府裏庭・外れ――



まるゆ「……ごーやさん、イムヤさん、イクさん……」

まるゆ「まるゆ、また来ましたよ」

まるゆ「もうオリョール海も潜水艦の独壇場ではなくなってしまいました」

まるゆ「これからまるゆ達は……どうなるのでしょう?」

大鳳「まるゆさん」

まるゆ「? あ……、大鳳さん!」


まるゆの表情が明るくなる。
まるゆは陸軍工廠の艦娘。故に鎮守府にはあまり馴染めずにいた。
そんな彼女と、大鳳は気が合った。


大鳳「たまたま見かけたから……こんな所で何をしているの?」

まるゆ「……先輩方と、お話していました」

大鳳「……そう」


まるゆの前にあるものは、何か文字が刻まれている石碑だ。
大鳳は全てを悟った。


まるゆ「先輩方は、まだまるゆが着任したばかりの頃……敬礼の仕方も分からない
まるゆにたくさんのことを教えて下さいました。みなさんは素直じゃないので、
そんなことをしてやった覚えはないって怒るでしょうけど」

まるゆ「皆さんの、そういうところが好きだった……」

大鳳「いい先輩だったんですね」

まるゆ「ええ、ほんとに。先輩方がいなければ、まるゆなんて三日で陸軍に戻ってましたよ
満足に潜れないし、魚雷も打てない。そんな潜水艦に、本来なら居場所なんて無かった筈なんです」

まるゆ「そんなまるゆに、先輩方は居場所を作ってくださった。知っていますか? 
当時の潜水艦隊は連合艦隊屈指の練度を誇る精鋭部隊だったんですよ?
一番最初に未制圧の海域に進むのはいつも潜水艦隊だった。
そんな艦隊にいてもいいんだって思うだけで、まるゆは誇らしかった。
今はもう補給線分断任務が中心となってしまいましたが……」

大鳳「潜水艦は随分数が減ってしまったものね……」




まるゆ「……まるゆ、実は一度解体されかかってた事があるんです」


大鳳「えっ……?」

まるゆ「ふふふ、驚きましたね。まぁそうなりますよね……」

まるゆ「寧ろそういう話が出てこない事のほうがおかしいんです。
元々軍令部の方は陸軍の船をあまり良く思っていなかったようですし……」

大鳳「……陸軍と海軍の確執には、本当に頭を悩まされるわね」

まるゆ「そんなこともあって、悲しいけどまるゆはしかたがないかなぁって思ってたんですけど……
その矢先ですよ、先輩方が突然オリョールクルージングをボイコットし始めたんです」

まるゆ「先輩方は『働きたくないでち!』『休みよこすの!』といつもの論調を
展開していましたが……今思えばアレはまるゆのためにやっていたのかなって。
潜水艦の数が足りなくなって、まるゆがオリョールに借り出されるようになって
そのまま解体の話は立ち消えです」

まるゆ「オリョール海のシーレーン確保は、それほど重要で、それを担う先輩方の存在は
軍にとってとても大きかった……」

まるゆ「まるゆ、思うんです。昨今の戦線の激化は、東方作戦後からと言われていますけど……
そうじゃない。先輩方が沈んだその日から、始まっていたんじゃないかって。
オリョール海のシーレーンを破壊された、その時から……」

まるゆ「先輩方は本当に、強かったんです。多分一番戦果を上げていたのは、
先輩方潜水艦隊だったはずです。今じゃ信じられないかもしれませんけど。
でも、敵の戦艦や空母をあんなに沈めたのは、先輩方だけだと思うんです
いつも皆さん少ない損害で帰ってきたので、わからなかったかもしれませんが……
オリョール海は皆さんが思うよりもずっと過酷な海域で、
でもそれを悠々周れたのは、並外れた先輩方の練度があったから」


まるゆ「戦艦や空母を、先輩方が食い止めてくれていたから
……皆余裕を持って戦えたんです」



まるゆ「でもその事実を、皆さんは知らない。先輩方は功績を誇らない人達だったから。
出撃の時なんていつも文句を言っていましたし、とても働き者には見られなかったでしょう。
でも、先輩方はその実、誰よりも平和の為に戦っていたんです。称賛の言葉さえ求めず、
いくら酷使されてもそれを笑い話にして……どんな過酷な任務もこなしてきました」

まるゆ「そういう方達だったんですよ」

大鳳「私も、彼女達にお会いしてみたかった」

まるゆ「面白い方達ですよ?」

大鳳「……それがかなわないのは本当に、残念」


まるゆ「……先輩方はあんなに頑張っていたのに……彼女達の死は、
こんな質素な石一つで済まされてしまうんですね」


まるゆ「まるゆは悔しいです……戦線を支えていたのは、先輩方だった……!」

まるゆ「なのに、こんな扱いって……あんまりでしょう!」

大鳳「っ……」


大鳳は何も言えなかった。自分は毎日のように褒め称えられ、チヤホヤされている。
そんな自分が彼女達に何を言えるというのだろう。後ろめたく思う大鳳は、閉口するばかりだった。



――鎮守府・食堂――


陸奥「あら、大鳳じゃない。今からご飯?」

大鳳「え、ええ……」

陸奥「じゃあ同席してもいいかしら?」

大鳳「いいですよ。私も今、丁度話し相手が欲しかったところですから……」

陸奥「あらあら、何か悩み事?」

大鳳「自分は今まで如何に、何も知らなかったんだろうって、気付かされたんです」

陸奥「……一体どうしたの?」

大鳳「戦果を上げて、評価されるというのは当たり前のことだって思ってました
でもそれは、恵まれていたことなんですね……」

陸奥「……そうねぇ、評価される子がいれば、中々評価されない子もいる。
二人が同じくらい頑張っていたとしても、結局は人の主観によるものだから」

大鳳「そういうものでしょうか……?」

陸奥「重要なのはその後じゃない? 自分は評価されている。あの人は評価されない
かわいそう。おしまい。それじゃ駄目でしょ?」

大鳳「そうですよね……」

陸奥「せっかくそれに気付けたんだもの、ならば考えるべきよ、その意味を。
そして自分がどうすべきなのかを」

大鳳「意味、ですか……?」

陸奥「あらゆる事に意味はついてくる。それを見極めるのが大切なのよ?
あ、そこの七味取ってくれない?」

大鳳「はい、どうぞ」

陸奥「それでなんだけど、例えb……」


バサッ


大鳳「あっ……」


大量の七味がむっちゃんのラーメンを襲う!


陸奥「……と、とまぁ、私ってこんなふうに運が悪いじゃない?」

大鳳「ええ、まぁ……」

陸奥「私の不幸にも、何か意味があるんじゃないかと考える」

大鳳「……それで、陸奥さんの不幸にはどんな意味が?」


陸奥「戦いの中で不幸が起きないように、日常生活の中で不幸を消費していると考えているわね!」


大鳳「……ポジティブ・シンキング、ですね」

陸奥「……まぁ、それで沈んでちゃあ世話ないけどね」ズーン

大鳳「いきなりネガティブにならないでください」

陸奥「まぁそれはともかく、何事にも意味があって、それをどう捉えるかが
大切だってことを言いたいの」

陸奥「って、こんな答えじゃ駄目かしら?」

大鳳「……いえ、陸奥さんの言っていることは正しいと思います」

大鳳(意味か……きっと、当たり前になりすぎて忘れてしまっていることを
ちゃんと見なおせってことかしら…・・?)

陸奥「……ならいいけど。大鳳、あなたに悩んでいる暇なんてないわよ?
期待の新人なんだから」

大鳳「……そうですよね。もっと頑張らなくちゃ」

陸奥「あなたの働きには皆期待してるんだから、ドンドン活躍してやりなさい」

大鳳「……はい!」


陸奥の言葉で、大鳳の心は少しだけ軽くなった。
そして彼女は更に戦果を上げることを、決心したのだった。


大鳳「さぁ~って、私もお刺身、いただきます。お醤油お醤油っと」


カポン


大鳳「あ……」


大量の醤油が大鳳の刺身を襲う!


陸奥「そういえば、あなたも不運艦だったわね……」


――――――
―――



――戦闘海域――



北上「あたし達の司令官は無能だー!」バシュン


バコオォォォン!!


北上「よっし、今日もお仕事完了!」

大井「北上さんの惚れ惚れする雷撃……思わず見とれちゃう」

初霜「敵艦隊、全滅、ですね」

初春「相変わらず凄まじい雷撃じゃの~、北上は」

摩耶「それよりもさっきのはなんだよ……確かにあいつは無能だけどな」

北上「言いたくもなるって。今すべきことはこの海域に出撃することじゃないってのにさ
……ホント、無能の極み!」

初霜「ですが……」

北上「ここの敵なんてさして脅威じゃないんだよ。あたしらを出すには過剰戦力ってヤツよ。
本当に戦力が必要なのはきっと、前線泊地の方なんだ……」

大井「北上さん……」

北上「前線ではこんなのとは比べ物にならない程の深海棲艦が待ち受けてる。
あたしらはこんなことしてる場合じゃないんだってば……」

摩耶「んなもん、皆わかってる……わかってるんだよ……!」

大鳳「……」


大鳳「今日も大鳳は勝利しました」


大鳳(勝利したはずなのに……)



まるで戦況が好転している気がしないのは、何故?




――鎮守府・港――


大鳳「艦隊が帰投しました」

北上「じゃ、おつかれ」

摩耶「おう、おつかれ」

初霜「おつかれ、さまです」

大鳳「……おつかれさまです」


事務的で、最低限の挨拶を交わし、艦隊は解散する。
まだ報告も終わっていないにもかかわらず……。
それ程までに、艦娘達は疲労しきっていた。

先の見えない戦い。連携の取れない鎮守府。摩耗する戦力。
それらの要因によって流入する不安を、大鳳は否定する。


大鳳「私は今まで、ずっと深海棲艦に勝ち続けてきた……」

大鳳「私は深海棲艦より強い! だから大丈夫!」


それだけが、己の力だけが……今の大鳳の支えだった。



――鎮守府・空母演習場――


ヴゥゥゥン……

大鳳「烈風と流星……この編隊が負けるはずない!」

長門「……熱心だな、関心な事だ」

大鳳「長門さん……ですか」

長門「しかし、あまり根を詰め過ぎてもいけないよ。
体を壊してしまっては元も子もない」

大鳳「……別にこれくらい、どうってことないです。もうそろそろ新鋭機も
配備されますし……それに見合う技量を身につけないと。経験が浅い事だけが
この大鳳の欠点ですから!」

ヴゥゥゥン……

大鳳「新鋭機を搭載して、ますます強くなる私! 期待しててください!」

暁「わー! 大鳳さんってやっぱり凄いのね~! 出撃の後も訓練だなんて!」

大鳳「暁さん。どうしたんですか、こんなところで」

暁「最近激しい戦いが多くなってきたでしょ? だから空母の戦い方を見て
参考にしようと思ったのよ」

長門「ン~……駆逐艦には空母の戦い方なんて全然参考にならないのに……
暁はかわいいなぁ!」

暁「い、いつも鎮守府にいる長門さんは黙ってて!」

長門「」



大鳳「勉強熱心なのは大変素晴らしいことです。偉いわ」

暁「もー、子供扱いして! 失礼しちゃうんだから!」

大鳳「ふふふ……」

暁「……あの、大鳳さん……一つ、聞いてもいいかしら?」

大鳳「何かしら?」



暁「暁達は……きっと、深海棲艦に勝てるわよね?」



大鳳「……!」

暁「……ちょっと不安になっちゃって。響がいないから、
心細くなっちゃったのかな……?」

大鳳「……それは、その」


大鳳は、すぐに答えてやることができなかった。
一言「大丈夫」といえば済むはずなのに、どうしてもその一言が出てこなかった。

そして大鳳は、その事実が信じられなかった。


暁「あ……」

暁「ご、ごめんなさいっ、つまらないこと聞いちゃって……勝てるに決まってるわよね!
あはは、何下らないこと聞いてるんだろ、私……」


長門「……大丈夫だ」



暁「長門さん……?」

長門「我が艦隊にはこのビックセブン・長門がついている。深海棲艦など、
この41cm連装砲で一捻りよ!」

暁「……そうよね!」


暁の表情がぱぁっと明るくなる。


暁「長門さんはいつも鎮守府にいるけど、出撃した時は凄いものね!」

長門「戦艦長門は最終兵器だ。普段は温存されている故に出撃は少ないが……
このビックセブン長門が居る限り、艦隊に敗北はない!」

暁「なのです!」

大鳳(なんて、心強い言葉……あれなら、暁さんも……)

大鳳「……!」



大鳳は見てしまった。
長門の目を。酷く疲れ、精神のすり減った目を。




暁「それではお暇、なのです」

長門「うむ!」

大鳳「……」

大鳳「長門さん」

長門「ん? どうかしたのか、大鳳」


大鳳「……私達は深海棲艦に、勝てますよね?」


長門「……さぁね。私には皆目見当もつかない」

大鳳「私には、大丈夫と言ってくれないんですね」

長門「鎮守府に居ることの多い私でも、駆逐達に頼られるくらいはできる。
だが大鳳……お前に頼られることは、もう私ではできないよ」


長門「お前はもう、私よりも強い」


大鳳「そんなこと、無いですよ……」

長門「ふっ……謙遜しよる。いいんだ、わかっている。
もう戦艦の時代ではないことぐらい……」

大鳳「連合艦隊の顔ともいうべきあなたが、らしくない……」


長門「らしくない……か。そうだな……」

長門「以前の私であれば、お前にも大丈夫と即答していただろうな
戦艦の時代が終わろうと、関係ない。皆はこの長門が守るとな」

長門「今でもその気持ちに変わりはない。負けるつもりもない。
だが……なんだろう。あまりに先が見えないものだからか……わからなくなってしまった」

長門「見えていたはずのものが見えなくなってしまった……といった感じか。
今の私の瞳は、酷くくすんでいるからな。あの頃見えていた勝利のビジョンは、
今となってはもう見えなくなってしまったよ」

長門「どうしようもない上層部と、一向に減らない深海棲艦達。ビックセブンといえど、
嘆きたくもなるさ……」


はぁ……、と溜息と共に押し出される疲労感。
長門は孤独だった。連合艦隊の顔ともいうべき彼女は、頼られこそすれど、
誰かに頼る訳にはいかなかった。

そしてその姿は、大鳳自身にも重なった。
大鳳は気付かされる。これから自分は誰にも頼ることができないのだと。


大鳳「頼れるのは……己の力だけ」

大鳳「大丈夫……大丈夫……私は、強い」

長門(……この感覚、かつて感じたことがある)




長門(戦争末期の、終末へ至るあの感じだ……)





――鎮守府正面海域――


大鳳「……疲れた。もう、訓練する気力も起きない」


大鳳は自らの内に生まれようとする不安を必死に追い出す為に、
ひたすら鍛錬に打ち込んでいた。
気がつけばもう空は暗く、月が海を照らしている。


大鳳「夜戦は無理ね……そろそろ帰ろうかしら?」

大鳳「……あら?」


そろそろ引き上げようとしていた矢先、大鳳はある艦娘の姿をその目に収める。


大鳳「鈴谷さん……?」

鈴谷「あり? 大鳳ぢゃーん! なになに? こんな時間まで何やってんの?」

大鳳「訓練ですけど……」

鈴谷「やー、真面目だねぇ~。毎度、お疲れ様でーっす」

大鳳「鈴谷さんは、こんな遅くにどこへ行くつもりなんですか……?」

鈴谷「んー……」


鈴谷「ちょっと、前線の泊地まで……ね?」


大鳳「はい?」

鈴谷「いやぁ~、熊野にお気に入りの香水貸してたの思い出して~
返してもらおうと思ってさ。くまのんは結構抜けてるんだよねぇ」

大鳳「……あなたが、何を言っているのかわかりません」

大鳳「こんな夜中に一人で、前線の泊地に向かうですって?
そんなの……自殺行為ですよ!」


鈴谷「だったら、何?」



大鳳「何って……」

鈴谷「鈴谷はもう行くって決めたし。止めても無駄だよ」

鈴谷「大鳳も知ってるでしょ? 前線の状況を……」

鈴谷「戦線は押され最前線にあった泊地は落ちた。そして今……熊野が居る
泊地は確実に深海棲艦に包囲され始めてる」

鈴谷「このままじゃ、熊野がいる泊地は……!」

大鳳「落ち着いてください。近い内にも鎮守府が援軍艦隊を組んで……」

鈴谷「……鎮守府? 今の鎮守府が何かすると思う?」


鈴谷「鎮守府は、熊野がいる泊地を見捨てるつもりだよ」


大鳳「え……?」

鈴谷「強い艦娘はもう絶対に本土近辺から動かさないだろうし。
……結局今の軍令部の連中は、我が身が大切なんだよ」

大鳳「そんな……」

鈴谷「でもまぁ実際、人々を守る為には本土の守りは手薄にしちゃいけないし……
半端な戦力を寄越しても無駄に艦を失うだけだって、それもわかってる」

大鳳「なら……!」

鈴谷「だから、行くのは鈴谷だけ。無謀だってわかってるよ。……わかってる。
でも、熊野を見殺しになんてできないんだ」

鈴谷「これは鈴谷のわがままだから、他の人は巻き込まないよ。
鈴谷一人なら本土の守りに影響はないから」


鈴谷「だからさ……ねぇ、ここは見逃してよ」



大鳳「……だめですよ、そんなの、駄目です!」

大鳳「無駄に命を捨てに行くようなものですよ!」

鈴谷「ここで行かなかったら、その後の鈴谷の命なんて、嘘だよ」

鈴谷「そんなことしてまで、鈴谷は嘘の人生を歩みたくないし」

鈴谷「熊野を助けたいって気持ち、熊野に対する想いだけは
……絶対に嘘なんてつきたくない!」

大鳳「……勝手に出撃なんて、許されませんよ。連合艦隊から除籍されるかもしれない」

鈴谷「栄光の連合艦隊……か。でもね、大鳳……」



鈴谷「仲間一人助けられない連合艦隊の名に、意味なんて無いよ」



大鳳「!」

鈴谷「そんなのこっちからでてってやる。連合艦隊クソ食らえだ
勝手に除籍でもなんでもしてくれていいよ」

大鳳「駄目ですよ! 行かせません! 鈴谷さんのお気持ちもわかります
けれど! 私も……目の前で命を捨てに行くような真似を許す訳にはいかないんです!」

鈴谷「……大鳳は優しいね。でも……」チャキ


鈴谷は連装砲を構える。咄嗟に身構える大鳳であったが、砲身は鈴谷自身の頭へ向いた。


鈴谷「ここは絶対に通してもらうかんね。じゃなきゃ鈴谷、自分の頭ぶちぬくし」


大鳳「鈴谷さん……ッ!」

鈴谷「来ちゃ駄目だよ~……そう」

大鳳「くっ……なんで……?」

鈴谷「そうだよー。それで……いいんだよ」


鈴谷は単艦、前線泊地に向けて出撃する。
彼女の遙かなる航路を、大鳳は黙って見送ることしかできなかった。




――――――
―――





――それから大鳳は、徐々に摩耗していった。




曙「……」

潮「……」

曙「私達が、私達が何したっていうのよ……!」

潮「こんなの、ひどすぎます……!」

大鳳(また誰か、沈んだの……?)


戦況は悪化の一途を辿り、次々と艦娘は減っていった。


夕張「無茶な作戦ね……でも、これも命令」

夕張「せめて、最後に皆が助かるデータが取れればいいけど……それも無理そうね」

大鳳(……また、無駄に誰かを沈めるの?)


戦況の悪化に伴い、軍令部は無茶な作戦をいくつも要求してきた。


大鳳「頑張らなくちゃ……力のある私が頑張らなくちゃ……」


それでも大鳳は前を向いて戦い続けた。彼女は恵まれた性能を持っていて、
深海棲艦にも負けなかった。それが彼女の唯一の原動力だった。
故に彼女は、使命感に突き動かされ続けた。

それはきっと、辛く、厳しいものだったに違いない。
それでも彼女は、その歩みを止めることはなかった……。



あの時までは。




――海上・巡航艦隊――


大鳳「…………」

羽黒「あの、鈴谷さんの除籍が、本日決まったようですね……」

摩耶「ああ、そうか……そういえばあいつ……いなくなったんだったな」

鳥海「異例のことだそうですよ。この除籍は……」

北上「あたしらは艦娘だからねぇ~。船の頃と同じと思ってもらっちゃあ困るってもんよ」

大井「いっその事、私達も抜けませんか? 北上さん♪」

北上「それもいいかもねぇ~」

摩耶「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ……ったく」

大鳳「……皆さん、任務中ですよ?」ニコ

摩耶「お、おう……」

大鳳「……」

摩耶「お、おい鳥海……あいつ大丈夫なのかよ……あんな疲れた笑顔してる奴
初めて見たぜ……」

羽黒「大鳳さんは最近ずっと旗艦を務めていますから……えと、お疲れなんでしょうか?」

摩耶「あんなんで旗艦が務まるのかよ……心配だぜ」


大鳳は休みなく出撃していた。それは本人きっての願いだった。
敵と戦えば、そこには安心があった。敵を倒せば自分の力を確認できた。
大鳳は深海棲艦を沈める機械となっていた。


「水偵隊より入電! 敵艦発見!」

大鳳「……敵ですか」


今日も苦戦すること無く戦いは終わるだろう……
そう、大鳳は高を括っていた。彼女は自分の勝利を疑わなかった。



羽黒「きょ、距離、方角は?」

「距離3万、まるきゅーまるです!!」

摩耶「30km……余裕を持っていくか」

大鳳「攻撃隊発艦用意。艦隊は輪形陣を維持しつつ針路を変更」

大鳳「いい風ね……今日もアウトレンジで一網打尽よ」

「第一次攻撃隊、発艦します!」

北上「お、お得意のアウトレンジ戦法ですか~?」

大井「今日も私達の出番はなしかしら……?」

大鳳「……何が起こるかわかりません。気を引き締めてください」


そう言っていた大鳳の気が一番緩んでいたのかもしれない。


「!? 報告……敵艦隊に姫級有り! 繰り返す! 敵艦隊に姫級有り!」


大鳳「……姫、級?」



それは今まで大鳳が戦ったことのない深海棲艦だった。



「水偵より入電! 制空権……五分の模様!」


大鳳「制空権が取れなかった……?」

北上「あれ? なんか……様子がおかしい感じですか?」

「敵艦隊針路変更! 艦隊は間もなく敵艦隊と衝突します!」

摩耶「おい、大丈夫か……?」

大鳳「……いいわ。私は装甲空母。接近戦に持ち込まれても、何の問題もありません」

大鳳「このまま敵を迎え撃ちます!」


――戦闘開始――



戦艦タ級「……ッ!」

羽黒「ふ、フラグシップ……!」

北上「めんどくさそ……」

装甲空母姫「……クスッ」

大井「あっちには姫級もいるわ……」

大鳳「嘘……あれってもしかして、装甲空母……?」

装甲空母姫「……ッッッ!」


装甲空母姫、艦載機を発艦。


大鳳「深海棲艦のくせに……いいわ、私が相手してあげる!」

大鳳「皆さん、そちらは任せます! 私は……敵旗艦を沈める!」

摩耶「おい、旗艦が指揮を放棄するなって……」

大鳳「烈風と流星の編隊を見せてあげるわ!」

摩耶「聞いちゃいねぇ……」





装甲空母姫「……ッ」


装甲空母姫は直掩機を伴い突進。


大鳳「空母が突撃!? 舐めているのかしら……まずは烈風でその邪魔な直掩機を
墜します! 戦闘機の皆さん!」

「了解!!」


現在軍で尤も性能が高いとされている戦闘機・烈風。その機体性能をもってすれば、
制空権が確保できなくとも直掩機を剥がすことくらいは容易に行えた。
姫級の直掩機は次々と烈風に墜とされていく。


大鳳「よし、後は急降下爆撃で沈めます!」


装甲空母 大鳳、彗星一二甲型爆撃機を発艦。彗星はすぐさま姫級を捉える。



大鳳「今よ!」



ドオォォォォォン……!



大鳳「……直撃ね、姫級なんて見たこと無いからどんなものかと思ってたけど……
意外と大したこと……」


ドォン!


大鳳「……え?」


大鳳「う、嘘……被弾!? 燃料庫は!? 燃料は大丈夫!?」


装甲空母 大鳳、中破。



装甲空母姫「……クスッ」チャキ

大鳳「……なんで、空母が砲撃なんか……」

「大鳳さん! 第二射きます!」

大鳳「!! 機関部は大丈夫……艦載機もまだ飛ばせる!」

大鳳「お、面白いじゃない! この程度、大鳳はびくともしないわ!!」


装甲空母 大鳳、遊撃に回っていた流星と烈風を呼び戻し装甲空母姫に向ける。
幸い、姫級は先程の爆撃で中破しているようだった。


大鳳「状況は五分と五分……いいわ、やってあげるんだから!」


大鳳はそのまま流星と烈風の編隊でゴリ押しした。
対する装甲空母姫も艦載機を繰り出したが、今一歩烈風には及ばない。


大鳳「一気に畳み掛けます!!」



ドッゴオオオオオン!!



大鳳の攻撃隊による二度目の攻撃!


装甲空母姫「……、……」


姫級、行動不能。


大鳳「……やった」


大鳳「中々に強敵だったけれど……最後に勝ったのは私よ!!」


大鳳は姫級に対して声高に宣言する。その力を誇示するかのように。


装甲空母姫「……ニヤリ」


しかし姫級は悔しがるでももだえ苦しむでもなく、勝ち誇った顔をしていた。


大鳳「……」ゾクッ

大鳳「あ、あなたなんかすぐ沈めちゃうんだから……! 攻撃隊!」


その時だ。


ドン!


大鳳「……な」

大鳳「なに、これ……」


装甲空母 大鳳、大破。



戦艦タ級「……」スチャ

大鳳「そんな、戦艦……!?」

大鳳(やだ、あし、うごかな……)

戦艦タ級「……」ジリジリ

摩耶「何やってんだ! 敵は一人じゃねーんだぞ!」

大鳳「ぁ……」


この時ようやく、大鳳は自分が慢心し、身勝手な戦いをしていたことに気付いた。


戦艦タ級「……ッ」

大鳳「あ……あ……」


沈められる。明確な殺意を持って、深海棲艦は主砲をこちらに向けている。
こんな色濃い殺意を、大鳳は初めて間近で感じた。そして彼女のその瞳は……恐怖で染まった。



戦艦タ級「ッッッ!!!」ドォン!!!

大鳳「嫌っ……」

大鳳(死にたくない……!)

羽黒「……!!」



ゴオォォォォォン……!



大鳳「ぅ……?」

羽黒「やらせは、しません……!」

大鳳「え? え? 羽黒、さん……?」


重巡洋艦 羽黒、大鳳を庇い被弾。被害甚大。


鳥海「嘘……!」

大鳳「わ、私のせいで……!」

羽黒「……あなたが沈むのを、二度も見たくはないから」

大鳳「私、わたしは……あぁ」


止めどなく涙が流れてくる。
彼女は完膚なきまでに"敗北"した。そのせいで、今まで彼女の心の近郊を
保っていたものは一切合切崩壊し、涙腺を決壊させた。



戦艦タ級「ッ!!!」


戦艦タ級、主砲を構えさらなる砲撃へと移ろうとする。



北上「まー、そうはさせませんよっと。大井っち、いくよー」

大井「はい、北上さんっ」



バシュンバシュンバシュンバシュンバシュバシュバシューン!



戦艦タ級「!?」


バコオォォーーン!!


魚雷の炸裂音。水しぶきの音。黒く焦げる硝煙。
その全てが涙の膜に揺れて輪郭が煩雑になる、


大鳳「ぁ……」


大鳳の意識は、そこで途切れた。



――??――


ひた……ひた……


大鳳「ぅ……ううん?」

大鳳「あれ、ここは……?」


大鳳の視覚に認識が宿る。そこは何もない黒の線で縁取られた白い空間だった。


大鳳「一体ここは……もしかして私、死んだの?」


ひた……ひた……


猫「にゃーん」

大鳳「ねこ……?」



「あなたは死んでなどいませんよ。装甲空母・大鳳さん」



大鳳「誰!?」

??「私は誰でもない。しいて言うならばそう、この世界の……」


エラー娘「エラーのような存在」


そう言うと、少女は擦り寄ってきた猫の両手を取り、持ち上げた。


大鳳「あなた……エラー娘?」


大鳳はいつか青葉に聞いた与太話を思い出した。エラー娘。
……一部の艦娘の前にしか現れない謎の存在。



エラー娘「そう呼ぶ人もいるでしょう」

大鳳「……ここは夢? それとも現実?」

エラー娘「それは些細な問題です。どちらもあなたの主観が体験し得る、
一繋がりの世界なのですから」

大鳳「あなたは何なの? 何の目的で私を……」

エラー娘「私がお目にかかるのは本来、普通の艦娘では至れない領域に達した艦娘の皆さん
だけなのですけれど……大鳳さん、あなたは特別です。その存在そのものが因果に反している」

大鳳「意味がわからないわ……」


エラー娘「あなたは運命の超越者足りえるかもしれないということです」


大鳳「何、何なの……運命の超越者?」

エラー娘「時に大鳳さん。あなたは自分が何の為に生まれてきたのか、
考えたことがありますか?」

大鳳「……何の、為……ですって? そんなの、戦う為に決まっています!」

エラー娘「戦って、その後には何があるんですか?」

大鳳「平和な、世界よ!」

エラー娘「平和なんて無い。人々が争う世がやってくるだけです」

エラー娘「ならば、人々が一致団結して深海棲艦に立ち向かう、
今の世の中のほうがよっぽどいい。そうは思いませんでしょうか?」

大鳳「……ふざけないで! 今が良いわけないわ! こんな、こんな救いのない世界……」


エラー娘「そう。この世界には救いがない。あなた達艦娘は元々滅びの運命に定められた存在。
いかに姿形を変えようと、因果は終末に収束する。それは抗いようのない事実なんですよ」


エラー娘「……それでもあなたは、立ち向かいますか? この終末に向かう運命に」


大鳳「……」


大鳳は答えられなかった。


エラー娘「……残された時間はもうあまりありません。選択を誤らないでください。
さすればあなたは、運命の超越者足りえるかもしれない……」


大鳳「ぁ……待って! あなたは一体何者なの!?」


そこで大鳳の意識は回帰した。





――鎮守府・修理ドック――



大鳳「……はっ!」

研究員「おや~、起きたみたいでござりまするなぁ~」

大鳳「あなたは……ッ! いいえ、そんなことより羽黒さんは!? はぐ……痛ッ……」

研究員「あまり動くなよ。運び込まれてからまだ三日しか経っていないんだ」

大鳳「でも、羽黒さん……羽黒さんが!」

研究員「心配し過ぎだって。あの子なら、隣のドックでお休み中だよー」

大鳳「え……そうなの?」

研究員「気になるならあとで見に行け」

大鳳「……そう、……よか、た……!」


大鳳「本当に、よかった……!」


吹き出した涙が、ドックに溜まる通常修復剤の中に解けていく。
大鳳は心の底から安堵した。心の緊張が抜け、涙はより勢いを増していった。


研究員「あなたと同じく、長期入渠コースよ。全く……無理し過ぎなんだからぁ~」

大鳳「……私は、今まで深海棲艦に負けたことがなかったんです」

研究員「自慢か?」

大鳳「でも、今回は負けました」

大鳳「私は強くなんかなかった。そして……もう、諦めが付きました」

大鳳「我慢しなくていいんだって。この不安を我慢することはないんだって」


大鳳「ああ、もう、私達は……終末に向かってるんだって」



研究員「…………」

大鳳「今まで沢山沢山、頑張ってきた、けど……駄目だった。今まで、見ないふりを、
してたけ、ど……ぐすっ……駄目だった……」

大鳳「頑張れば頑張るほど、現実が、見えてきて……それでも、勝ち、続けてたから
それだけが、私、の、真実だった……!」

大鳳「でも、負け、たから……現実を、突き付けられたから……
今まで無視してたこと、全部、無視できなくなって……!」


大鳳「……前線には、もっと強い深海棲艦が居るって、知ってます
私達が深海棲艦と渡り合えてたのは、前線の艦娘さん達が食い止めて
くれてるからだって知ってます……」

大鳳「そんな前線がもうすぐ崩壊して、敵の本隊がこちらにやってくるっていうことも
知っています……勝ち目がないってことも全部全部、知っています……!」

大鳳「でも……それを受け入れて終末を迎えられるのは、良かったかもしれないわ……」


研究員「……たった一度の敗北で、何をそんなにへこたれてるのさ!」


大鳳「でも……」

研究員「……あなたには、因果を克服する力がある」

大鳳「そんな力、ないわ……」


研究員「ならば、あなたは何故、今もこうして生きているの?」


大鳳「へ?」

研究員「ならばあなたは、何故今までこんなに沢山の出撃をして、沢山の戦果を上げられたの?」

研究員「艦娘は皆、遅かれ早かれかつての因果をたどりつつある。それはこの世界の因果なのか、
私達が持ち込んだ因果なのかはわからない……」

研究員「……あなたはかつて、何の活躍もせず、たかだが魚雷一発で沈んだ……」

研究員「でも今のあなたは違う……勝利を重ね、みんなが頼れる空母になった」

研究員「……それは、因果を克服したと言えるのではないかと思う、です」


大鳳「私は……因果を、克服した……?」

研究員「あなたは出撃して、戦って、そして帰ってきた……それだけでも
褒められるべきこと、です」

大鳳「そんな当たり前の事……今更褒められるなんて、思わなかったわ
当たり前すぎて、忘れてた……」

大鳳「まぁ、かつての私は、そのあたりまえのことさえ叶わなかったんだけど……」

大鳳「……やだ、また涙が出てきちゃうわ……本当に、情けない」

研究員「それで、いいんです。今はたくさん泣いてください。そして辛いことは全部、
涙とともにサヨナラです」

大鳳「あなた……意外といい人だったのね」

研究員「な、何のことだ? 私はプロフェッサー月子! マッドサイエンティスト!
いい人などではない!」

大鳳「ふふふ……」


大鳳はかつて、魚雷一発で沈んだ空母だった。
そんな彼女は今、尚も沈まずにいる。

その事実が、ほんの少し大鳳の心を救ったのは、言うまでもないだろう。




研究員「……あなたには力がある。だから、あきらめないで」

研究員「大丈夫。因果はあなた一人で覆すものではないですから……」




――それから少し、時は流れて。


――修理ドック――


大鳳「羽黒さん……調子はどうですか?」

羽黒「はい……まだ戦線復帰は難しいみたいです……大鳳さんの方は……?」

大鳳「私もまだちょっと……」

羽黒「そう、ですか……」

大鳳「……羽黒さん。あなたには、本当に感謝し尽くしても足りない程の恩義があります」

羽黒「そ、そんな、私、あの時はただ必死で……」


謙遜する羽黒の体には、タ級の砲撃の痕跡が生々しく刻みつけられている。


大鳳(すごい傷……この傷を。私は彼女に負わせてしまった)

大鳳(泣き言なんて言っていられないわ。私は……もう……!)


大鳳は羽黒の傷を見て決心する。それはきっと、茨の道だ。




――鎮守府・港――



大鳳「いい風……」


「……結論は出ましたか? 大鳳さん」


大鳳「……エラー娘、さん?」

エラー娘「呼び名はお好きにどうぞ」

大鳳「何の結論、かしら?」


エラー娘「あなたは立ち向かいますか? この終末に向かう運命に」


大鳳「……ええ、立ち向かうわ」

エラー娘「その先が滅びだとしても?」

大鳳「全てを受け入れて、立ち向かいます」

大鳳「私は私の因果を克服したんだもの。次は……この世界の因果を変えてみせる」

大鳳「あなたは前に、私は何の為に生まれたのかって聞いたでしょう?」

大鳳「今、ようやく理解した……! 私の生まれた意味、その本質が今ならそれがわかる!
きっとこの、どうしようもない世界の因果を克服するために……生まれたんだって」

大鳳「艦娘は滅びの運命にあると、あなたは言った」

大鳳「その運命だって、変えてみせる……!」

大鳳「それが運命の超越者って、事なんでしょ……?」

エラー娘「……さぁ? どうでしょうか?」

大鳳「なんだっていいわ。私はもう、目を背けない」


大鳳「……負けないわ!」



修正でち


――鎮守府・港――



大鳳「いい風……」


「……結論は出ましたか? 大鳳さん」


大鳳「……エラー娘、さん?」

エラー娘「呼び名はお好きにどうぞ」

大鳳「何の結論、かしら?」


エラー娘「あなたは立ち向かいますか? この終末に向かう運命に」


大鳳「……ええ、立ち向かうわ」

エラー娘「その先が滅びだとしても?」

大鳳「全てを受け入れて、立ち向かいます」

大鳳「私は私の因果を克服したんだもの。次は……この世界の因果を変えてみせる」

大鳳「あなたは前に、私は何の為に生まれたのかって聞いたでしょう?」

大鳳「今、ようやく理解した……! 私の生まれた意味、その本質が今ならわかる!
きっとこの、どうしようもない世界の因果を克服するために……生まれたんだって」

大鳳「艦娘は滅びの運命にあると、あなたは言った」

大鳳「その運命だって、変えてみせる……!」

大鳳「それが運命の超越者って、事なんでしょ……?」

エラー娘「……さぁ? どうでしょうか?」

大鳳「なんだっていいわ。私はもう、目を背けない」


大鳳「……負けないわ!」







――それから時は、更に流れて。

――司令官室――



提督「大鳳ちゃん。これさ……流星改って言うんだ」


提督。私はあなたの事……信じていました。


提督「新鋭機だよ! これさえあれば敵艦隊なんて怖くないよね!」


着任して間もない私に、親切にしていただいて……本当に、嬉しかったんです。


提督「今回も敵艦隊をぱぱっとやっつけちゃってよ、頼むよ」


だから、私は貴方の事をずっと信じていたかった。


提督「ほ、本当に頼むよ……この戦いに負けたら、決号作戦ってヤツを
発動しなくちゃならないんだ。それだけはなんとしても避けたいからさぁ……」


でも……今の提督を、私は信じられそうもありません。
今回の作戦だって、最早作戦の体を成していないじゃない。だから……


大鳳「……提督」

提督「ど、どうしたんだい……?」



大鳳「今まで、ありがとうございました」



提督「大鳳、ちゃん……?」



さよなら、提督。




――鎮守府正面――



大和「……皆さん、揃いましたね」

大和「これまでに、沢山の艦娘が散っていきました」

大和「……私達は彼女達の想いに報いなければなりません」


大和「誇りをもちなさい! 我々は誇り高き連合艦隊の艦艇です!
深海棲艦達にその威光……見せつけるのです!」


矢矧「……こうして見ると、何だか見たような顔ぶればかりね」

霞「ああ、そうね。全く……どいつもこいつもなさけないったら!」

初霜「やっぱり、こうなっちゃうのね……」

浜風「何か……でも、何かが……違う……?」


大鳳「そう……この、大鳳がいます!」


大鳳「皆さん! この大鳳が必ずや艦隊を勝利に導きます!」

矢矧「勝利にって……大鳳、あなた、本気で言っているのかしら?」

大鳳「本気も本気です! 装甲空母は伊達じゃありませんから! 流星も改になったんですよ!」

矢矧「そういう問題じゃ……」

大和「……ふふふっ」

矢矧「……大和?」


大和「なんだか、本当に勝てるような気がしてきました」

大鳳「勝てる気、じゃなくて勝つんです!」

矢矧「……あなた……どこか打ったの?」

大和「何を言うの矢矧? 彼女は正しいわ……やるからには、勝たないと!」

霞「あーもうバカばっかり! いいわ、とことん付き合ってあげる!」

初霜「やっちゃいます!」

浜風「それもありですね」

矢矧「……はぁ。あなた達ときたらほんと……」


矢矧「ま、いいわ……今度はすべてを護りきるから!」



大和「矢矧も大概じゃない」

矢矧「う、うるさいわね……」

大鳳「さ、出撃しましょう!」



長門(……大鳳、お前は一体……何がお前をそうさせるんだ?)




――最終防衛海域――



大和「敵は……こちらの10倍……いや、それ以上かもしれません」

初霜「うん! ちょうどいいわ!」

大鳳「ランチェスターの法則なんて知りません!」

霞「そうよ! クズ共がいくら徒党を組んでもゼロにゼロを掛けるようなものだわ!」

浜風「それは言い過ぎです」

矢矧「今更後にも引けないしね……どうするのかしら?」

大和「勿論、迎え撃つわ!」

霞「骨のある奴がいればいいけど」

初霜「雪風ちゃんの分まで、幸運発揮しちゃいます!」

浜風「相手にとって不足なしです」

矢矧「……ま、そういうの、嫌いじゃないけど?」

大鳳「私はこの鎮守府に着任して、沢山の艦隊に編入されたけど……」


大鳳「こうして艦隊の皆が一丸となったのって、初めてかも……ふふっ」


つい最近まで感じていた居心地の悪さは、もうなくなっていた。


大鳳「さぁ、装甲空母の力、見せてあげる!」


人は私を愚かだと言うかもしれません。

諦めれば楽になれるのにと、思うかもしれません。

だけどもそれは、放棄してしまうことだから。

仲間を、居場所を、想いを、投げ出してしまうことだから。

可能性が少しでもあるなら……最期まで、戦い続けるわ。



それが私の、選んだ選択。



大鳳「私の意志は砕けない! 装甲空母は砕けない!!!」

NEXT【ソロモンより、呪いのような祝福を全ての艦娘に】

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  駆け足気味でごめんくだち!

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   今回は下準備の回だからあんまり深く掘り下げなかったでち!
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

一航戦やソロモンと違って予め話考えてた訳じゃないからやけに時間掛かったでち。
後次回はぽいぽいちゃん好きは覚悟しておいた方がいいかもしれないっぽい?

金剛「榛名!!! 避けて!!!!」


榛名「……え?」


バシュン!!!



戦艦 榛名、魚雷直撃。中破。



赤城「!?」

加賀「なっ……」

瑞鶴「え……?」

翔鶴「は、榛名さん!?」

榛名「うぅ……これは、一体……!?」

金剛「……あれは……何だかやばそうなのがいるデース……」



レ級「……ニマァァ」



瑞鶴「なに、あれ……」

翔鶴「あんな深海棲艦、見たことがない……!」

金剛「ッ! 来る! さっさと戦闘準備に入りなサイ!!!」



赤城「……いえ、ここは私に任せてはもらえないかしら?」



加賀「……赤城さん!?」

金剛「赤城……ユー、何か手でもあるんデスかー?」

赤城「簡単な事です……私に逆らうということがどういうことなのか、
あの方に知っていただくだけですよ」

瑞鶴「……? 赤城さん、何をするつもりなんだろう」

翔鶴「さぁ……?」



赤城「こんにちわ。先ほどの魚雷はあなたのものですね?」

レ級「……にっこり」

赤城「あなたは私達に危害を加えようとしているようですが……
本当にいいんですか? そんなことして」

レ級「……?」

赤城「私を誰だと思っているんですか?」

レ級「??」

赤城「まだお分かりにならないようですね。仕方がありません……」




赤城「ハツネミクデス」




加賀「えぇーー!?」

瑞鶴「いやいや確かに間違いじゃないけど……」


赤城「どうですか! あなたはこの電子の歌姫に攻撃することができるんですか!?」

赤城「したいのであればお好きにどうぞ……しかし初音ミクの名は全国の中学生を中心に男女別け隔てなく
果ては海外に至るまで知れ渡っています。そんな相手に危害を加えたらどうなると思います?」

赤城「忽ちツイッターは炎上! 住所は特定され、ごめんなさいと泣きツイート残して
退会に追い込まれるのが落ちです……」

赤城「それでもいいんですか!? 炎上しますよ!!」


瑞鶴「いや、無理でしょこんなんで……絶対無理でしょこれ……炎上なら自分の艦載機でさせてくださいよ……」

加賀「いくら赤城さんといえどこれは……」


レ級「えっ、それ困る!」


瑞鶴「マジでか」




エラー娘「カットカットカーット!!」



エラー娘「……赤城さん」

赤城「はい」

エラー娘「あなた、何やってるんですか。台本と違うでしょ」

赤城「ちょっとした一航戦ジョークですよHAHAHA」

エラー娘「……はぁ、今度からはちゃんとやってくださいよ? 夕張さん、すみません、
もう一度最初から撮ってください」

夕張「撮影はこの兵装実験軽巡夕張に任せといて!」

あきつ丸「それでは、『ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ』シーン20!
テイク2いくであります!」



エラー娘「3 2 1 キュー!」



金剛「榛名!!! 避けて!!!!」


榛名「……え?」


バシュン!!!



戦艦 榛名、魚雷直撃。中破。




赤城「!?」

加賀「なっ……」

瑞鶴「え……?」

翔鶴「は、榛名さん!?」

榛名「うぅ……これは、一体……!?」

金剛「……あれは……何だかやばそうなのがいるデース……」



レ級「……ニマァァ」



瑞鶴「なに、あれ……」

翔鶴「あんな深海棲艦、見たことがない……!」

金剛「ッ! 来る! さっさと戦闘準備に入りなサイ!!!」


加賀「……今こそ、この機体を使う時ね……」

58「アーイモアーイモ……」

瑞鶴「!?」


加賀「星間飛行よ」ヒュン


VF-25F「思わざれば花なり。思えば花ならざりき。ただ、感じるままに俺は飛ぶ!!」





『星間飛行』
歌:伊58



58「水面が~揺らぐ、風の輪が拡がる~♪」

VF-25F「まどろっこしいのは無しだ!!」ビュウウンガション!

レ級「ちょ」

58「流星にまーたーがって、あなたに急降下~♪」

レ級「流星だったらまだマシだったんですけどねぇ」

VF-25F「隙あり!! 終わりだあああ!!」ドドドド!!


レ 級 艦 載 機 全 滅 ! !


VF-25F「ランカ!!」

58「(∪^ω^)アルトくぅ~ん」



エラー娘「おいこら」




エラー娘「……それは何ですか?」

加賀「バルキリーです」

エラー娘「それでキミは?」

58「ごーやだよ! 苦くなんか無いよ!」

エラー娘「なんでいるの?」

58「お歌を歌いに来たでち!」

エラー娘「あのさぁ……そういう中の人ネタもういいから……」

VF-25F「ランカ!」

エラー娘「キミはもう帰ろう」


あきつ丸「それでは、『ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ』シーン20!
テイク3! であります!」



エラー娘「3 2 1 キュー!」




金剛「榛名!!! 避けて!!!!」


榛名「……え?」


バシュン!!!



戦艦 榛名、魚雷直撃。中破。



赤城「!?」

加賀「なっ……」

瑞鶴「え……?」

翔鶴「は、榛名さん!?」

榛名「うぅ……これは、一体……!?」

金剛「……あれは……何だかやばそうなのがいるデース……」



レ級「……ニマァァ」



瑞鶴「なに、あれ……」

翔鶴「あんな深海棲艦、見たことがない……!」

金剛「ッ! 来る! さっさと戦闘準備に入りなサイ!!!」


翔鶴「……出ましたね、深海棲艦! 今日こそあなたの悪行、成敗してくれます!」


翔鶴「ポートモレスビーパワー……メークアップッ!」


でーでででーでー♪
でーでででーでー♪




説明しよう!!
ごく一般的な正規空母・翔鶴は不幸と妹への劣情が混ざった特殊なエネルギー『ポートモレスビー波』
が臨界点へと突破すると、謎の美少女紐パン戦士『ビューティクレイン』に変身することができるのだ!!


きゅるるーん!!


翔鶴「美少女紐パン戦士、ビューティクレイン! 国に代わって……お仕置きよ!」


瑞鶴「翔鶴姉!?」

翔鶴「……いいえ、ビューティクレインよ!」

レ級「げぇ! ビューティクレイン!」

翔鶴「人々の平和を乱す深海棲艦よ! 海を人々に返しなさい!!」

レ級「お前なんかにやられてたまるものか! 航空爆撃を喰らえ!」

翔鶴「させない! ニイタカヤマノボステッキ!! いくわよ!」


翔鶴「キューーーーキューカンバクーーーーーエスカレーションッ!!」


ドッキャアアアアアアン!!


レ級「ぬわーーーーーーーーー!」ピューン!


翔鶴「……人々と海の平和は、このビューティクレインが守る!!」


瑞鶴「翔鶴姉……どうしちゃったの?」

翔鶴「あっ、焼き鳥仮面様~♪」

瑞鶴「その呼び方はやめて!」



エラー娘「お前らええかげんにせいよ」




エラー娘「翔鶴君。何か言い訳は」

翔鶴「だって中の人ネタはやめろって……」

エラー娘「そういうこと言ってるんじゃないんですよ台本どうりやってくださいって
言ってるんですよ! 台本通り!!」

赤城「ある意味計画通りではあるわね」

加賀「そうですね」

エラー娘「あなた達も! 余計なことしないでくださいよ!」

加賀「良かれと思って」

赤城「良かれと思って」

エラー娘「わざとやってんだろ!」

金剛「あはは……ま、まぁ……みんな場を和ませるためにやったんでショウ? それなら
ノープロブレムネー」

エラー娘「といいつつ金剛さん苦笑いだよ! 金剛さんこれでも最年長の大御所なんだから!
皆さん! 真面目にやってください!」

金剛「」

榛名「エラー娘さん! 金剛お姉さまに年齢の話はNGです!」

エラー娘「ホント頼みますよ! 次こそちゃんとやってくださいよ!」

あきつ丸「それでは、『ある泊地に一航戦と五航戦がおりましたとさ』シーン20!
テイク4! であります!」



エラー娘「3 2 1 キュー!」





金剛「榛名!!! 避けて!!!!」


榛名「……え?」


バシュン!!!



戦艦 榛名、魚雷直撃。中破。



赤城「!?」

加賀「なっ……」

瑞鶴「え……?」

翔鶴「は、榛名さん!?」

榛名「うぅ……これは、一体……!?」

金剛「……あれは……何だかやばそうなのがいるデース……」



レ級「……ニマァァ」



瑞鶴「なに、あれ……」

翔鶴「あんな深海棲艦、見たことがない……!」

金剛「ッ! 来る! さっさと戦闘準備に入りなサイ!!!」


赤城「……ファイナルフュージョン、承認」

加賀「了解! ファイナルフュージョン! プログラム……はぁーっ!
ドラーーーーーーイブッ!!」



榛名「よっしゃあ!!」



ハハハ ハルハル大戦艦 ハハハ ハルハル大戦艦!



榛名「大戦艦の……メモリアル重力子エンジンを見せてやるぜ……!」


榛名「フュージョン!!」


君達に最新情報を公開しよう。
やってこない改二。
霧の艦隊が残したナノマテリアルとは何か。
今唸る榛名の主砲が、戦艦レ級を捉える。


ぼくらの大戦艦~♪




榛名「光になぁれえええええええええ!!!」




ハハハハ ハルハル大戦艦~♪




レ級「あ、なんかもうお腹いっぱいっすわ」

エラー「うん! そうだね!」




エラー娘「もう……何なの君達」

加賀「いやあの、戦闘準備に入っただけですが……」

エラー娘「ふざけるた事言うのも大概にしろよコノヤロウ」

エラー娘「もういいですよ。もうあなた達には何も期待してませんので」

瑞鶴「ま、まぁまぁ……落ち着いて」

エラー娘「落ち着いてますよ……私は至って落ち着いてる……」

赤城「……ハツネミクデス」ボソッ

瑞鶴「ぷっ」


ブチッ


エラー娘「んもおおおおおおおおおお!! なんなのもおおおおおおおお!!」


エラー娘「猫にしてやる……何もかも猫にしてやる!!!」

金剛「NO~!? ちょっと早まるのはやめなヨ~!」


エラー娘「もう誰も! 何者も私を止めることはできない!!」


赤城「あっ」

加賀台詞修正

エラー娘「もう……何なの君達」

加賀「いやあの、戦闘準備に入っただけですが……」

エラー娘「ふざけた事言うのも大概にしろよコノヤロウ」

エラー娘「もういいですよ。もうあなた達には何も期待してませんので」

瑞鶴「ま、まぁまぁ……落ち着いて」

エラー娘「落ち着いてますよ……私は至って落ち着いてる……」

赤城「……ハツネミクデス」ボソッ

瑞鶴「ぷっ」


ブチッ


エラー娘「んもおおおおおおおおおお!! なんなのもおおおおおおおお!!」


エラー娘「猫にしてやる……何もかも猫にしてやる!!!」

金剛「NO~!? ちょっと早まるのはやめなヨ~!」


エラー娘「もう誰も! 何者も私を止めることはできない!!」


赤城「あっ」



                  -‐‐─--
               ´           `  、

                /                   ヽ
             /       ___
.            !     - ‐艦 |\/| こ   、        \
           │ //    _ \ /    れ  、      ヽ
           ! / , -‐/. / ̄i  !  ̄ i ‐        ヽ
              〉/   / ./     〉 λi  ヽ !`丶   \      }
          / i′ /| /へ、  \ ヽ廾弋   i   ヽ  丶     i
           ! ! / リ∩      ー‐ゝ、.\ヽ |     |\   ヽ    !
.            i  i i   | |       |│  `.|    !巛 ヘ  i   /          通信エラーが発生した為、
          !  〉亅.  ∪         |│   i   入ミミミ∧ |
           ,‐| / ヽ            `´    i   γ¬ミミミ 〉|ノ 廴__      お手数ですが、オンラインゲームトップより
.         ! i .!        __       .!   / ノ 巛へ/弋廴__く
         〉、y ゚。         ヽ丿         !  /- く⌒《》  入 \          ゲームの再開をお願いいたします。
         ! |ヽ `=- _,、 ___ ,、 _   -‐/ /彡彡\/ ̄ \i´
.        i  .! \! / ミ〉 .〈 \ ! !  ソ/-‐  ´  ! `、
        i  , 〈   .( ,ゝ--∧ー i乙/¨\        i   !
        ! λ \  実:ω;実´ `)   }         /   |
        乂从ヽ ヽ、 i `:;:;:;:´ 〉‐- -‐´i        //   /
           ヽ杁__ ゝ:;:;:;:;:;  i(´A`)  〈     ´ /   ノ
                   | :;:;:;:;  /ニニ二ニニl     メ´
               ノ _  ./ ! |  |  i ヘ
                 / ノl l│.  i  |.  |  i ヘ
             し.´│|.i 入 !  |  .i  i   〉
                    し   `ト ┴-‐┴ー‐ ´
                    | |     | |
                         !ー|    !ー|
                    | |     | |
                    し    し

                       ¨      ¨




          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  エイプリルフールだったから良かれと思って

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

ぎりぎり間に合ったでち。>>648は加賀さんじゃなくてエラー娘の台詞修正だったでち。
というか何かずっとエラーはいてたりIDコロコロ変わったりで鯖不安定すぎィ!

うーんこの不安定さ

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  今回は小ネタも挟まないようにするでち。

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

夕立完結編、はじまるよー


【ソロモンより、呪いのような祝福を全ての艦娘に】



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



千歳「……何の、こと?」


エラー娘「あなたは普通の艦娘では至れない領域へと達しました。
それは改造で得られるものではなく、自らの成長によって、
或いは因果の昇華によって到れるものです」

エラー娘「そんなあなただからこそ、見えるものがあるはず。
その境地にあなたは至った」

千歳「私はそんな大層なものになった覚えはありません。
……それに、見えるって何が?」

エラー娘「本当に正しいことは何か。悪意の在処。そして……」


エラー娘「終末に至る運命」


千歳「終末……?」

エラー娘「あなたになら見えるはずです」

千歳「……何のことだか、さっぱり」

エラー娘「あなたは戦わなくてはならない。艦娘の宿命と」

千歳「宿命、ですか……」



千歳「軍艦の頃から色んな物を背負ってきたけど……いい加減開放されたいものね」





――あなたは、運命の超越者足りえますか?



北上「んー? ちょっと意味が良くわかりませんねー」

大井「そうよ、あなた、訳わからないこと言って北上さんを
困らせないでくれない?」

エラー娘「本当はわかっているはずです。あなた方はあなた方の枠を超えた。
その絶対的な力に……気づかないはずがありません」

北上「……まぁ、重雷装巡洋艦が本気を出せば、多少はねぇ?」


エラー娘「……嘘ですね。あなたは本気を出していない」


エラー娘「軍令部のお粗末な作戦に振り回され、あなた達が戦うのはいつも格下の相手。
本当の全力なんて、出したことがないはず。自分達を持て余す軍令部に苛立っているはず」

北上「まー、あたしって強すぎるからねー」

大井「流石北上さんっ」

エラー娘「……こう考えたことはありませんか? 無能な軍令部に従うより、
自分のやり方で戦った方がはるかにマシだと」

北上「……そうは思わないよ。艦隊は全体が機能して万全。
あたし一人が独断で行動しちゃ、皆困っちゃうしさー」

エラー娘「ならばあなたが皆を率いればいい。あなたにはその力がある」

北上「いやいいよー。あたしそういうの柄じゃないしさ~」

大井「北上さん……私の心の旗艦はいつもあなた……!」

エラー娘「……ならばその力、あなた方は一体何に使うつもりですか?」

北上「そりゃあもちろん……」


北上「海の平和と、愛の為だよ。ね、大井っち?」


大井「私の愛はいつも北上さんと共に……」




――あなたは、運命の超越者足りえますか?



五十鈴「? 何? 何が言いたいの?」


エラー娘「あなたは何故戦うのですか? あなたはもう十分に頑張った。
かつての戦いで死力を尽くし、沈んでいった」

エラー娘「にも関わらず……あなたは再び満身創痍の戦いの中に身を投じている。
何故ですか? 何が貴女をそうさせるのですか?」

五十鈴「……なんで戦うのか、ですって?」

五十鈴「そんなの、今も昔も変わらないわ。海の平和の為に、戦っているだけよ」

エラー娘「矛盾ですね。平和であることを願うのに、それ以前にあなたは兵器。
戦うことを宿命付けられている存在……平和には無用の長物」

五十鈴「そうね……確かに私はかつて"兵器"だった」

五十鈴「でも今は違う! 自分の意志を持ち、考える事ができる!
私は"艦娘"! 生まれ変わったのよ!」

五十鈴「私達が艦娘という存在に生まれ変わった意味……それはもう
二度と繰り返さないこと!! 今の私達にならそれができる!」

エラー娘「……かつての戦争の清算ですか?」


五十鈴「清算なんかじゃないわ。受け継ぎ報いる為よ……」


五十鈴「私はあの戦争を否定しない。……やり方は正しくはなかったかもしれないけど、
みんなの想いや戦いは否定したくない。彼らの存在が、命が、未来を繋げ、
そして巡り巡って私という存在に辿り着いた」

五十鈴「そんな私がすべきことは……彼らの戦いは決して無駄なんかじゃなかったって
この存在を以ってして証明することよ」

五十鈴「それが私の戦う理由……わかった?」

エラー娘「また……同じ結末を辿るかもしれませんよ?」



五十鈴「変えてみせるわよ、そんなの。その為の二度目なんだから」



エラー娘「艦娘達は皆、終末の因果を孕んでいる。艦娘という存在の因果は……
この世界に破滅を引き寄せ、再び終末を繰り返そうとしている」

エラー娘「彼女にそれを覆す力があるかどうか……運命の超越者足りえるならば、或いは……」




――あなたは、運命の超越者足りえますか?



響「……あの戦いは、避けられなかった。そしてあの結末もまた……逃れようのない運命だった」


響「だけど、それでも……私は諦めたくなかったんだ」

響「暁も、雷も電もみんな……随分と先に逝ってしまった。
長い時間私は一人で先の世を見ていた……」

響「平和な世の中だった。争いが完全になくなった訳ではないけれど……人が、人並みの幸福を
手にすることが出来る世の中だった。私達が望んだ世界が、そこにあったんだ。だけど……」


響「だけど私は……ッ! みんなと、みんなと一緒にその風景を見たかったんだ……!」


響「仕方ないこと、どうしようもない事だとわかっていても……後悔が尽きることはなかった」

響「だから私は決めた。二度目は起こさないと」

響「今度は皆で迎たい……笑顔の明日を」

エラー娘「それが、あなたの願いですか?」

響「そうだよ……もうあんな思いをするのはゴメンだ」


響「そのためならば……私はどんな過酷な戦いにだって赴こう
不死鳥のごとく、何度でも何度でも立ち上がるよ」


エラー娘「……その想いの強さが、運命を凌駕できる事をお祈りいたしましょう」





――あなたは、運命の超越者足りえますか?



エラー娘「あなたには薄々気付き始めているはずです。この世界の理に」


神通「……世界の理……ですか」


エラー娘「艦娘と深海棲艦。善意と悪意。この母なる海に沈むものは何か……」

エラー娘「あなたは気付き始めている。この戦いには果てがないことを」

神通「だとしても……」


神通「果てが無いとしても、私は戦い続けます」


エラー娘「それはあまりにも残酷な選択です」

神通「そうでしょうか? あながち悪いものでもないですよ」

神通「戦いは無くなりません。でも、戦って死ぬことは……なくなるかもしれない」

神通「100は無理でも、100に限りなく近づけることはできる……それで十分です」

神通「何を以ってして平和と言うか。何を以ってして正義なのか。そんなの人それぞれ。
万人が納得する完璧なんてありませんから」

神通「だから私はちょっと妥協して、最適解を最大限に追求します。
完璧じゃなくてもいい……でも、出来るだけベストに近づけるベター……」


神通「それなら……いずれ訪れるかもしれないという期待が持てます
そんな世界を夢見て、戦えます」


エラー娘「受け入れることで、克服する……それもまた一つの選択ですね」




――あなたは、運命の超越者足りえますか?



木曾「運命? そんなもの、この重雷装艦の酸素魚雷で切り開いてやるよ」


エラー娘「その酸素魚雷、向ける相手は深海棲艦ですか? それとも……あなたの姉妹ですか?」

木曾「……何を言ってるのか、わからないねぇ」

エラー娘「どうでしょうか? あなたの頭の片隅には、その可能性が浮かび上がっているはずです」

エラー娘「艦娘は、轟沈すると深海棲艦になると」

木曾「……あぁ、そんな話もあったな」

エラー娘「轟沈したあなたの姉妹があなたの前に現れた時、あなたは姉妹を撃てますか?」


木曾「撃つさ」


エラー娘「……即答ですね」

木曾「そいつが俺の姉妹艦であれ、そうでなかれ。海の平和を脅かしていることに
違いはないんだろう? ならばやることは変わらない」


木曾「変わる事といえば……ただの撃破が、姉妹や仲間の鎮魂に変わるだけさ」


エラー娘「迷いなきその意志は……もしかすると運命を超えるかもしれませんね」




――あなたは、運命の超越者足りえますか?



エラー娘「あなたは名実共に、ソロモンの悪夢に相応しい存在となった。
その力であなたは何をするんですか?」


夕立「何って、今までと変わらないっぽい。夕立はできる事をするだけよ?」


エラー娘「静かに終わりつつあるこの世界で、今まで通りになんてできる筈がありません」

エラー娘「それではいずれあなたも……向こう側へと行きますよ?」

夕立「向こう側? 何のことかしら?」

エラー娘「……こんな話を聞いたことはありませんか? 沈んだ艦娘は深海棲艦になると」

夕立「……噂でしょ? 夕立は知ってるっぽい!」

夕立「沈んだ艦娘よりも、深海棲艦の総数の方が明らかに多いっぽい!
やっぱりそんな話出鱈目っぽい!」

エラー娘「……信じるも信じないも、あなたの自由です」


エラー娘「救いは求めるものではなく、見出すもの。ですがその裏に潜む絶望も
紙一重に存在しているということを……忘れないでください……忘れないでください……」



――泊地・港――



「――立、夕立!」

「夕立!」

夕立「っぽい!?」

時雨「……こんなところで寝てちゃ駄目じゃないか、夕立。
今日は出撃があるってこと、ちゃんと覚えているかい?」

夕立「寝てた……っぽい?」

夕立(さっきのは……夢?)

夕立「何だったのかしら……?」


夕立は白波湛える海の水平線の向こう側をじっと見つめた。
そこには何か夕立自身も知らないものがあるような気がして、不安になった。


陽炎「夕立ー! 時雨ー! 早く早く! 点呼に遅れるわよー!」

時雨「ま、待ってよ……」

夕立「ぽい!」


神通「……あ、あの……皆さん、集まりましたか?」


叢雲「大分前から来てるわよ」
綾波「綾波、準備万端です」
雷「雷は大丈夫よ?」
電「なのです!」
若葉「若葉だ」
朝潮「はい。いつでも出撃可能です」
満潮「いつまで待たせる気かしら?」
陽炎「私の出番ね?」
黒潮「ぼちぼちやなー」
初風「ごはん、まだなの?」
雪風「艦隊をお守りします!」

時雨「ふう……間に合った」

夕立「真打ちは遅れて登場するっぽい?」

叢雲「馬鹿なこと言ってないで、さっさと並びなさいよ! 全く……」


神通「全員揃ったようですね」


神通「……本日は、敵の巡航艦隊の偵察を行います。敵の撃破ではなく、あくまでも偵察です」

神通「私と共に航行する第一艦隊には戦闘の用意もしていただきますが、
基本的には戦闘が起きないのが好ましいです……」

朝潮「常に戦闘には備えるようにしています!」

神通「また、第二艦隊の皆さんはなるべく敵を避けてください。
重ね重ね言いますがこれは偵察です。あなた方は敵を発見することではなく、
敵のいない場所を調査することに専念してください」

若葉「若葉だ。了解だ」


神通「編成は各自確認しておいてください。準備が整い次第、出撃します」


◇第一偵察隊◇

《旗艦》:軽巡洋艦 神通
駆逐艦 雷
駆逐艦 朝潮
駆逐艦 満潮
駆逐艦 黒潮
駆逐艦 初風


◇第二偵察隊◇
《旗艦》:駆逐艦 陽炎
駆逐艦 叢雲
駆逐艦 綾波
駆逐艦 電
駆逐艦 若葉
駆逐艦 時雨
駆逐艦 夕立
駆逐艦 雪風



――海上――


電「今日は雷ちゃんと別れて任務なのです……」

雷「もー、司令官ってばそういう所融通が効かないんだからっ
やっぱり私が秘書艦務めてあげないと駄目ねぇ」

叢雲「アンタみたいなお子様に、秘書艦が務まるのかしらね?」

雷「あーっ! 叢雲ってばひっどーい!」

叢雲「秘書艦には私のような落ち着いて大人っぽい艦娘がふさわしいのよ」

陽炎「……どっちも大して変わんないじゃない」

叢雲「ど、どこ見て言ってんのよっ」

黒潮「まぁ、うちら駆逐艦やしねー。胸は今後に期待ゆうことでー」

雪風「でも、雪風と同じ陽炎型の浜風ちゃんは雪風よりもずっと大きかったです」

陽炎「あの子は例外だから(白目)」

朝潮「胸の大きさが秘書艦に関係するのですか?」

満潮「意味分かんないわよ。そんな訳ないじゃない」

初風「じーっ……」

朝潮「な、何か?」


初風「朝潮、あんた……胸、少し大きくなったんじゃない?」


満潮「!?」

叢雲「なん……」

雷「……だと!?」

朝潮「言われてみれば、確かにそういう気も」

叢雲「私なんて艦娘として生まれてから一度も大きくなったこと無いのに……」

雷「いいのよっ! 司令官は私のようなスレンダーな体型の子を愛してくれるんだからっ」

若葉「ロリコンか」

時雨「それはそれでどうかと思うな……」


夕立「……」

時雨「……夕立?」

夕立「ぽい!? あ、しぐれちゃん。なぁに?」

時雨「いや、何か夕立、ぼうっとしていたからさ……どうかしたの?」

夕立「んー……ちょっと今日見た夢のこと考えてたっぽい?」

時雨「夢? それはどんな……」


神通「……えっと、皆さん。そろそろ偵察海域に入ります。
艦隊は第一偵察隊と第二偵察隊に別れてください」


朝潮「了解!」

陽炎「両舷全速! さぁみんな、私に着いて来て!」

綾波「さぁ~、いきましょ~」

時雨「あ、ああ、うん……」

夕立「……」

夕立(なんだろう……)

夕立(あの夢を見てから……ずっと胸騒ぎがする)

夕立(どうしてかしら……?)


――海上・偵察海域――


陽炎「皆! しっかりと目を凝らして、敵がいないか確かめてねっ」

叢雲「勝手に仕切ってくれてるわね……全く」

陽炎「なによー。旗艦だから当然でしょ?」

叢雲「アンタが旗艦だなんて、全くありえないわね!」

叢雲「常識的に考えて艦齢の高い私が旗艦でしょ?」

陽炎「年功序列じゃなくって、実力主義ってことよ」

陽炎「この中じゃ陽炎型が一番最新鋭だしねー。その上ネームシップなんだから
旗艦としての不足はないと思うけど?」

叢雲「私の実力がアンタに劣っているとでも?」

電「はわわ、皆さん、仲良くなのですっ」

時雨「ほらほらそこ、喧嘩はやめなよ」

若葉「任務中だ」

陽炎「わかってるわよ、もー……」

叢雲「ふんっ」

時雨「なんだか少し不安になってきたよ……」

雪風「大丈夫です! 艦隊にはこの雪風が付いていますから!」

夕立「ソロモンの悪夢もいるっぽい!」

綾波「鬼神もいますよ」

時雨「君達って、本当にそうは見えないよね……」

夕立「っぽい?」

綾波「自分でもよくわかりませんね」

雪風「能ある鷹は爪を隠すと言いますから」

時雨「君達は隠してる訳じゃなく、自然体でそれじゃないか……」

夕立「……」


なんとなくまとまりがない艦隊。皆が皆どこか散漫だった。
歯車が噛み合わないような、そんな感覚がなんとなく艦隊全体に充満する。

そのなんとなくは積み重なり、静かな崩壊を招くのだ。


電「夕立さん。軍楽隊の課題曲はもう覚えましたか?」

夕立「ううん……まだちょっとわからないところがあるっぽい」

夕立「夕立だけ皆から遅れてるから……足を引っ張っちゃってごめんなさい」

電「そ、そんなこと……気にすること無いのです! 夕立さんは入るのが少し
遅かったんですから、皆より遅れてしまうことは仕方がない事なのです」

電「なんでしたら、帰ったら電と一緒に練習するのです!」

夕立「いなずまちゃん、ありがとー!」

時雨「そうだよ。焦る必要なんて無いさ……時間はたっぷりある」


若葉「果たして本当にそうか?」


時雨「……何がだい?」

若葉「戦局は後退していく一方だ。果たして若葉達には、一体後どれほどの時間が残されているのか」

叢雲「な、何よアンタ……誇り高き帝国海軍の艦艇がそんな弱気になるなんて、情けないわよ」

雪風「大丈夫です……今は辛い状況が続いていますが、
きっと打開できるチャンスは訪れるはずです」

時雨「そうさ。それに泊地がピンチになっても、本土にはまだまだ強い艦娘が控えている
いざとなったら彼女達が助けてくれるさ。……だから大丈夫」

若葉「そうか。それを聞いて安心したぞ。最近お前達は皆意気消沈していた。
てっきりもう諦観しているのかと思って心配していた。だから今のような発言をした」

若葉「若葉の杞憂か。ならいい」

時雨「そうなんだ……」


若葉の言葉が各々の心に重くのしかかる。皆口々にそれを否定していても、
心の内では「自分達は深海棲艦に勝てないのではないか」という疑念を少なからず抱いていた。

彼女達の口は一気に重くなり、会話はプツンと途絶えた。



電「あ、あれ……敵さんじゃないですか?」



叢雲「敵!? どこ、どこよ!?」

電「ほら、あそこ……」

綾波「駆逐艦が……一隻ですか?」

叢雲「なんだ、たった一隻?」

時雨「はぐれたのかな……?」

陽炎「妙ね……まだ日は落ちてないわよ?」

叢雲「なんだっていいわ。さっさと沈めちゃいましょ?」

陽炎「ちょ、忘れたの!? 今日の任務は、偵察であって戦闘じゃない」

叢雲「倒せる敵を倒せる時に倒さないでどうするのよ!」

陽炎「そういう行き当たりばったりの戦い方はよくないわよ。それはかつての戦争で
さんざん思い知らされたでしょうに」

叢雲「その時の柔軟な判断によって成功させてきた作戦だってたくさんあるわ
状況に応じて判断する能力……そういうものが旗艦には重要なのよ? わかってる?」

陽炎「考えた上での結論よ。無駄なリスクは回避すべきなのよ」

叢雲「陽炎、アンタは慎重すぎるわ。そんなんだからサウスダコタを見逃すのよ」

陽炎「そ、それは今関係ないじゃない!」

時雨「またなのかい? 君達は……」

雪風「け、喧嘩はやめてくださいぃ」


電「あ……敵さん、こちらに気がついたみたいなのです」


叢雲「ああもう! グズグズしてるから!」

陽炎「もうっ! 全軍鱗次陣に移行! 陣形運動急いで! 敵を逃しちゃ駄目!」

綾波「や~りま~すよ~!」



第二偵察隊、敵駆逐艦を追撃。


夕立「よりどりみどりっぽい!」ドン

バシャン!

夕立「っぽい!」ドンドン!

バシャン!

駆逐イ級「!!」


駆逐艦 夕立、第一射近弾、第二射夾叉。


時雨「逃さないよ!」


ドゴン!


駆逐艦 時雨、砲撃着弾命中!


駆逐イ級「……、ッ!? ……、……」


敵は一隻であった為、艦隊は難なく敵艦を撃破した。


叢雲「……手応えないわねぇ。最初からこうしていればよかったのよ」

陽炎「早く元の偵察ルートに戻らないと……」


しかし彼女達は気づいていなかった。何故敵の駆逐艦が一隻ではぐれていたのかを。


電「あれ……なんだか周りが……」


敵の駆逐艦を追うことに夢中になって、彼女達は周囲が見えていなかった。


時雨「これは……霧?」


叢雲「いつの間にこんな霧が……」

陽炎「……まずいわね、どんどん濃くなっていくわ。
探照灯と浮標の用意しとかなくちゃ……」

雪風「どうしますか……このままでは偵察は困難です」

陽炎「今神通さんに連絡を入れるわ。待ってて」

若葉「この霧は……あの事故を思い出すな。あの衝突さえなけえば……」

電「なんだか、暫く待機みたいですね」

時雨「そうだね……」

夕立「……嫌な霧」


陽炎は神通に通信を送ったが、艦隊は作戦行動中なのか中々繋がらなかった。
その間にも霧はどんどん深くなっていき、景色を白く染め上げていく。


夕立「……」


際限なく続く白に、夕立は吸い込まれてしまいそうだった。
霧の織り成す白の境界は、まるでこの海域だけが外界から隔絶されたかのような
錯覚を呼び起こす。


「……ぅだち、……ゆうだち……」


だからその声も、錯覚のはずだった。


夕立「……!」


「ゆうだち……ゆうだち……」


夕立("この声"……前に泊地の近くで聞いた……あの声)

夕立(しらつゆちゃんみたいな、声)

夕立(そんな筈ない。だってしらつゆちゃんは……)


そう思いつつも、夕立は自然と前進していた。


陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ラン[ピザ]ーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」

陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ラン[ピザ]ーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」

陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ランデブーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」


電「え……」

叢雲「いないって、どういうことよ……」

時雨「いつの間にか、消えてたんだ……!」

陽炎「そんな……! 一体どうして!?」

若葉「この霧の中で独断行動をするのは危険だ」

雪風「今すぐ夕立さんを探しに行きましょう!」

電「そうなのです! 今ならそう遠くには……」

陽炎「ダメよ。危険すぎだわ……」

雪風「どうしてですか!」

陽炎「ただでさえ敵との戦闘の可能性があるのに……それに加えてこの霧の中」

陽炎「司令や神通さんに聞いてみないと……」

叢雲「……返ってくる答えがわからないほど馬鹿じゃないでしょ? アンタも」

陽炎「なんですって!?」

叢雲「この状況下でGOを出す司令官なんていないわ。指示を仰ぐだけ無意味」

叢雲「それとも、そんなこともわからないの?」

陽炎「……元はといえば! あなたが駆逐艦一隻に拘るからこんな事になったんでしょ!」

叢雲「なによ、他人に責任を押し付ける気なの? それでも旗艦?」

陽炎「言わせておけば!」


電「いい加減にしてください!!!」


陽炎「!」
叢雲「!」

電「今は……そんなことで言い争っている場合じゃないのです……」

綾波「そうです。今すべきなのは……これから私達がどうするのかを考えること」

陽炎「そ、そんなこと言っても……夕立がどこに行ったかなんて誰も……」

時雨「……そう、だよね。こんな霧の中、夕立を探すのは無謀だ」

時雨「ここは一旦引くのが、最善なんだよね……」

雪風「時雨さん……」


「あのう……私、見ました」


雪風「え!?」

陽炎「あなたは……雪風の乗員の妖精さん?」

「夕立さんは……徐に針路を東に取り、進んでいきました。
まるで何かに吸い寄せられているかのように」

電「何かに吸い寄せられている……?」

叢雲「深海棲艦の仕業かしら?」

雪風「……夕立さんは東へ行ったんですね?」

「はい! たしかにこの目で見ました!」

電「ならば善は急げなのです! 夕立さんを追いかけるのです!」

綾波「助けられるなら、見捨てたくはないです。助けたくても助けられなかった
子は何人もいるから……」

雪風「雪風は……夕立さんをお守りしたいです!」

陽炎「……わかってるの? この先へ進むということは……敵のテリトリーに
足を踏み入れるってことよ……?」

時雨「そうだよ……夕立のことをそこまで想ってくれるのはうれしいけど……
それで皆まで危険な目にあったら……僕は」


若葉「勝算がないこともないぞ」


時雨「え……?」

若葉「この霧、味方だけにマイナスに働いている訳じゃない」

若葉「敵もこちらを発見しづらくなる。敵のテリトリーで動くのには寧ろ都合がいい」

若葉「この時しかない。この霧に乗じて夕立を回収し、速やかに離脱する……」

若葉「奇跡の作戦だ」


叢雲「……キスカ島撤退作戦か。面白いじゃない」


電「……やりましょう」

電「可能性があるのなら、助けたいのです!」

雪風「大丈夫です! 雪風がついています!」

綾波「ここで引いたら……みんな、絶対に後悔します」

叢雲「全く、アンタ達ときたら……」

若葉「奇跡の作戦をこんな形で再現することになるか。奇妙なものだ」


陽炎「……私は旗艦である以上、みんなの命を守る義務がある。夕立の事は大切よ?
だけど救出作戦は艦隊全体を危険に晒すことになる」


陽炎「だから今一度問いかけるわ。この先は敵のテリトリー……もしかしたら全滅だって
あり得るかもしれない」


陽炎「……それでも、いくの?」


叢雲「聞くまでもないわね!」
綾波「はい、大丈夫です!」
電「なのです!」
若葉「若葉だ。いつでも出撃可能だ」
雪風「絶対大丈夫っ!」


陽炎「……はぁー……ほんと、仕方ないわね!」

陽炎「いいじゃない、やってやろうじゃないの!」

時雨「みんな……!」

陽炎「第二偵察隊は、これより夕立の回収に入りまーす!」

陽炎「各艦は均等に距離を保って進行してね! 霧中信号は忘れないでよ」



こうして、第二偵察隊は駆逐艦 夕立の捜索に乗り出した。



限りなく続く白。霧の白に自身が蝕まれていき、存在の境界が曖昧になる。


「ゆうだち……」

夕立「……しらつゆちゃん、なの……?」


夕立を呼びかける声は優しく、甘美な響きを彼女の耳に届けては幻惑する。


夕立「ねぇ、どこにいるの……」

「夕立さん! 一体どこへ行こうと言うんですか……!」

夕立「ねぇ、姿を見せて……夕立は、あなたの正体が知りたいっぽい!」

「き、聞こえてない……」


乗員の妖精の言葉は夕立の耳の中を素通りしていく。
今の夕立には、あの謎の声しか聞こえていなかった。


「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「そっちなの? そっちにいるっぽい?」


徐々に近づく声。呼応するかのように高鳴る鼓動。
夕立はもう随分艦隊から離れていた。


「ゆうだち……」

夕立「!!」


その時、霧の中に人影が見えた。
その人影に、夕立は見覚えがあった。


夕立「……なんで? そんなはず……!」


ドォン!


夕立「!! 砲撃!?」

夕立「……どこ?」



霧の中で行われた砲撃。それは夕立に向けられている。
夕立は狼狽すること無く冷静に周囲を見渡した。
夕立は判断する。霧に乗じて敵は攻撃を仕掛けていると。


夕立「邪魔しないでほしいっぽい」ジャキ

夕立「そこかしら!?」ドン

バッッッシャアァァァン……!

夕立「……手応えがない」

夕立(霧の中じゃ……敵の位置が掴みづらいっぽい)


霧の中では砲撃を当てることさえままならない。相手の位置すらも把握できないのだから。
対して夕立は先程から動いていない。これでは良い的だった。
ここはまず何よりも動くことが先決であり、定石だった。
しかし夕立はそれをしなかった。


夕立(……面倒っぽい)

夕立「撃ってきなさい。それがあなたの最期よ?」


夕立は宣言する。返事はない。
空気はしんと染み入るように水気を帯びている。
水気が音を吸収し、無音に近い空間を生成していた。


バシャン……ザザザザザ……


夕立(……来た)


静まり返る海上に響く、船が海に航跡を描く音。
それが徐々に近づいてきて……その時が近いことを示す。


ギギギ……ドォン!


夕立「そこよ!」


ドォン!


敵の砲撃。直後に火を噴く夕立の主砲。
敵の放つ砲弾は夕立の体を掠め、艤装に被害をもたらした。
直後、夕立の前方にて炸裂する着弾の音。捉えた。
夕立は小破の被害を被ったものの、霧の中で敵を仕留めたのだ。


夕立「……さぁ、とどめを刺してあげるっぽい?」


夕立は白の中に浮かび上がる黒煙に近づいていく。
敵に止めを刺す為に。
しかしどういう訳か、それに近づけば近づくほど夕立の呼吸は荒くなっていき
心音を刻むリズムを乱した。

いよいよ夕立は敵と対面する。霧の中には人影が浮かび上がり、
その輪郭を徐々に確固たるものとしていく。


夕立「……!?」


そのシルエットを見て、夕立は絶句した。


夕立「しらつゆ……ちゃん!?」


白露型一番艦・白露。その影は彼女を象っていた。


夕立「なんで、どうして……なんでしらつゆちゃんが撃ってきてたの!?」


「ゆうだち……ゆうだち……」


彼女は答えない。ただ夕立の名を呼ぶだけだった。


夕立「しらつゆちゃん!」


夕立にはわかる。確かに彼女がそこにいるということが。
姉妹艦にしかわからない、存在の気配……それを夕立は感じ取っていた。


「ゆうだち……たすけて……ゆうだち……」

夕立「しらつゆちゃん!!」


夕立は駆け出す。白露の影が揺らめく場所に。

そして彼女は知るのだ。この世界の理を。


夕立「……え?」


そこにいたのは、


「ゆうだち……ゆうだttttttt」

夕立「なん、で……?」


一般的な深海棲艦の駆逐艦だった。


――海上・第二偵察隊――


陽炎「みんな! ちゃんと陣形は守ってる!?」

電「はわわ! 何とか大丈夫なのです!?」

陽炎「!? 電! なんであなたこんな前にいるのよ!」

電「ええ!?」


霧の中での艦隊行動を想定していなかった第二偵察隊は、航行さえもままならない状況だった。


陽炎「ちょっとちょっとかんべんしてよもう~」

電「す、すみません」

叢雲「さっきから霧中信号忘れてるわよ! しっかりしなさい!」

雪風「ゆ、雪風は大丈夫です!」

若葉「若葉だ」

時雨「みんな、ちゃんとついてきてるかい!?」

陽炎「……」


陽炎「……綾波の、霧中信号が……ない?」


叢雲「……なんですって?」


事態は決して好転すること無く、悪転を繰り返し坂を転げ落ちていく。



――海上・霧の中――


綾波「……みなさん、一体どこに……?」


一層濃くなる霧を前にして、艦娘同士の間隔を変更せずに維持したのは失敗であった。
最後尾にいた綾波は濃さを増す霧により、艦隊からはぐれてしまったのだ。


綾波「……あのー! だれかぁー!」


呼びかける声は虚しく響き、再び寂寞とした霧が降りてくる。


綾波「!!」


しかし綾波は見つけた。霧の奥で光るものを。
探照灯だ。陽炎の探照灯に違いない。
綾波はぱぁっと顔を綻ばせると、逸る気持ちを抑えて前進する。

だがそれは、接近するに連れて徐々に疑わしいものとなり……


綾波「……あれ?」


いざ対面した時には、それが全く別のものであることに気がついたのだ。


戦艦ル級「……?」

戦艦タ級「……ッ」

綾波「あれ? あれれれれ?」


綾波「あのー……もしかして……敵の本隊さん、でしょうか?」




――海上・第二偵察隊――


陽炎「どうしよう……綾波までいなくなるなんて」

叢雲「もう少し速度を落として、慎重に行かないと駄目なようね……」

電「こんなことになるなんて……電達は、間違っていたのでしょうか……?」

叢雲「ここまで来ておいて何言ってるのよ!」

若葉「もう後戻りはできない」

時雨「……どうして」

時雨「ここには幸運艦が二人も居るじゃないか! それなのに、どうしてこんなことに……」

雪風「……綾波さんなら、多分大丈夫!」

時雨「……なんでそんなことが言えるんだい、雪風」

雪風「それは……その、雪風の勘です!」

時雨「キミはどこまでもポジティブだね……」

陽炎「……どうするの? 綾波を探すの? 夕立を探すの? それとも引き返す?」

陽炎「この霧の中じゃ二手に分かれる訳にもいかない。どちらかを優先しなくちゃいけない」

陽炎「この決断が、彼女達の命運を左右するかもしれない」

電「それは……」

叢雲「……」

陽炎「あなた達が決められないなら私が決めてもいいわ。私は旗艦だからね」

陽炎「責任も、結果も、全て私が引き受けてあげる。それならみんな気が楽でしょ?」

若葉「陽炎、自棄になるな」

陽炎「自棄になんか……」

叢雲「……何アンタ一人で背負い込もうとしてんのよ。
……勝手に話を進めるんじゃないわよ」


叢雲「これは誰の決断でもない、隊の決断よ。その責任は皆が負う。
だからアンタ一人で勝手に背負い込まないでよね、全く」

陽炎「叢雲、あなた……」

若葉「ならば今は夕立を追うのが先決だ」

時雨「それは……どうしてだい?」

若葉「夕立の様子がおかしいと雪風の乗員は言っていた。それが気がかりだ。
正気を保っている綾波なら危機回避はできる。しかし夕立はそれすらも怪しい」

陽炎「……なるほどね」

叢雲「綾波には悪いけど……少しの間だけ我慢してもらうしか無い……か」

電「大丈夫でしょうか……」

雪風「心配ですが……早く夕立さんを見つけて、綾波さんとも合流しましょう!」

陽炎「そうね……」


そうして偵察隊は、夕立を先に捜索する事に決めたのだった。



――海上・霧の中(夕立)――


夕立「……深海棲艦」

「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「全く、何を考えていたのかしら? しらつゆちゃんが生きてるわけ無いっぽい!」

「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「も、もう……まだ幻聴が聞こえてる……」


夕立は言い聞かせる。目の前の駆逐艦は深海棲艦だと言い聞かせる。
けれど、頭に響いてくる声が夕立の理性をかき乱す、


夕立「さぁ、早くこの深海棲艦、沈めなくちゃ!」


夕立は主砲を構える。大破している深海棲艦にとどめを刺そうと砲を向ける。


だけど、


夕立「沈めなくちゃ……」


なのに、


夕立「沈めなくちゃ、いけないのに……」


どうして、手が震えるのか。


夕立「照準が定まらない……ぽい」


本能が、拒否しているのだ。姉妹に主砲を向けることを。


夕立「でき、ない……」

「ゆうだち、ゆうだち……」

夕立「う……うぅっ」



夕立はもう何がなんだかわからなくなって、目を閉じてしまう。
視界を閉ざし、真っ暗な世界で一人、真実から逃避するように。

でも、夕立は見えてしまった。
視界を閉ざすことで、純粋な気配のみが夕立の脳内に流入する。
深海棲艦が居るはずの場所に、夕立の脳内が映しだしたビジョンは、

紛れも無い、白露の姿だった。


夕立「しらつゆ、ちゃん……」

白露「夕立……ごめん」

夕立「なんで、謝るの……」


白露「あの、あたし……深海棲艦になっちゃったー…だから、早く……沈めて」


夕立「そんな訳ない! 艦娘が深海棲艦になるなんてこと……」

白露「深海棲艦は……海に沈んだ船の魂と怨念で出来てるんだって」

白露「それは艦娘だけじゃなくって、今まで沈んできた沢山の船、
その全てが含まれているんだよ……」

白露「そして艦娘は軍艦の魂を核にして生まれた存在。同じ船の魂から生まれた深海棲艦
とは近い存在……艦娘はその影響を最も受けやすい」

白露「そもそも艦娘は船だもん、深海棲艦にもなるよー……」

夕立「嘘! そんなの、あんまりすぎるっぽい!」


夕立「じゃあ……じゃあ夕立達に……艦娘に、救いはないってことじゃない!!」


白露「それは……」

夕立「それに……また、しらつゆちゃんが沈む所なんて、見たくない!!」

夕立「夕立はしらつゆちゃんを沈めたくなんか無い!!」

白露「ごめん……夕立。でも……あたし、このままじゃ……また誰かを傷つける」

白露「……あなたに、その傷を負わせたように」

夕立「こんなの、かすり傷っぽい!!」

白露「勝手なことを言ってるって、わかってるよ。でもこれ以上耐えられない……」

白露「もうどうにかなっちゃうの!! あたしじゃどうしようもないんだから!!」

白露「助けて夕立。おねがい……おねがい……ッ!」

夕立「ほんと……勝手だよ、身勝手すぎるっぽい!!」

夕立「夕立にそんなことを頼むなんて……ひどすぎる」




「ほんと、酷い姉よね~……」



夕立「へ……?」


ドォン!


夕立「あが……!?」


意識が飛びそうなほどの衝撃。機関部の悲鳴。
夕立は顔をゆっくりと上げると、そこには……


村雨「夕立、お久しぶり~?」


夕立「むらさめ、ちゃん……?」

村雨「はいはーい、村雨だよー?」

夕立「むらさめちゃんまで……!」


夕立はゆっくりと目を開ける。頭部から伝う生ぬるい液体が血だということに気付いたのはこの時だ。
そして村雨のビジョンが映っていた場所にいたのは……やはり深海棲艦だった。


夕立「あぁ……そうなんだ」

村雨「どーしたの? 夕立?」

夕立「希望と絶望は紙一重。こんなにも近くに、いつもそばに絶望はあった……」

村雨「希望も絶望もあるんだよ? 夕立も早くこっち側に来たらいいんじゃないかしら~?」

夕立「それも、いいかも」


夕立「むらさめちゃんになら、沈められても……」




――海上・霧の中(綾波)――


逃げればよかったかもしれません。
即座に逃げていれば、この霧の中。まだ逃げられるチャンスはありました。


綾波「はぁ~……ごくりっ」


でも、この敵の数……戦力。きっと偵察隊に当たったら、ひとたまりもありません。
だから……。


綾波「綾波! 行きますッ!!!」


――このこみ上げる熱さはタービンの熱? いえ、違います……
この熱さは、覚悟を決めた者の心に宿る炎。命を燃やす、炎!


駆逐艦 綾波、単艦、敵巡航艦隊の本隊に突撃。


戦艦タ級「!!」ジャキ

戦艦ル級「ッ!」スチャ

駆逐艦群「!!!!!!!!!!!」ガガガガガガガコン

綾波「おっとぉ……」


ドッッゴオオオオオン!
            ズゴン!
 ドン!
    ドン!
       ドン!


敵艦隊、一斉砲撃。


綾波「寄ってたかって! 恥ずかしくないんですかぁ~っ!」


しかし綾波、回避、回避、回避!


綾波「やられっぱなしじゃ、終わりません!! てぇーい!!」


ドン! ドン! ……ドオォォォォン!



駆逐イ級「!??!? ……、……」

駆逐イ級、直撃弾により撃沈!


駆逐ロ級「ッッッ!」

駆逐ロ級、炎上!


綾波「や~りま~した~!」

駆逐ハ級「ッ!」ドン!

綾波「おっとっと!」

戦艦ル級「……ッ……、ッ!」スチャ

綾波「!!」


戦艦ル級、綾波に照準をあわせ……砲撃!


ズゴオオオオオン!!!


綾波「ったぁ~……魚雷管が……」

駆逐イ級「!」ドン!

駆逐ハ級「ッ」ドン!

綾波「あうっ……・やめてくださいっ……」


間断なく続く攻撃。当初は押していたかのように思えた戦局は、
すぐさま劣勢へと移ろいだ。故障部が引火し、綾波の艤装は炎上を始める。

でも、それでも、綾波は後退せず。


綾波「まだ!」

ドォン!

駆逐イ級「ッッ!?」


ひたすら砲撃を続けた。


綾波「戦えるはずです!」

ドォン!

駆逐ハ級「!?」

綾波、敵駆逐艦二隻を撃沈す。


綾波「力がみなぎってくる……!」

綾波「この身は、心は、魂は! 今、信ずるべき仲間の為に燃えている!
正しき事をなす為に燃えている!」



綾波「この炎を消すことなど、誰にも出来はしません!!」



駆逐艦 綾波、戦艦ル級に向けて魚雷を発射。
その勢いは留まることを知らず、ぐんぐん伸びていき……


ゴオォォォォォォォォン!!!!


戦艦ル級「ッ……!」


ル級を中破させるにまで至る。
鬼神の異名を持つ彼女は、その名に恥じない活躍を見せた。

が、しかし……彼女は既に、満身創痍だった。



綾波「……ふぅ、ここまで……ここまでやれれば……きっと、大丈夫ですよね……」

戦艦タ級「……」ジャキ




綾波「綾波、もう、ここまでみたいです」






ドォン……!





――海上・霧の中(夕立)――



この世界はなんて残酷なんだろう。


村雨「はいはーい! 早く夕立も深海棲艦になろうねー?」


この世界はんて救いがないのだろう。


白露「夕立……助けてよ……夕立……」


夕立「う……うぅ……なんで……なんで夕立達がこんな目に……」

夕立「夕立達が、何をしたっていうの……?」


「艦娘の存在……それ自体が呪いのようなものです」


夕立「あなたは……!」

エラー娘「どうも、夕立さん」

夕立「教えてほしいっぽい……これは全部、あなたのせいなの?」

エラー娘「私は何もできませんよ。ただ居るだけ。ただ知っているだけ」

夕立「じゃあ、誰が悪いの……一体、一体この悪意は! どこから来ているの!!」


エラー娘「それは……人間ですよ」


夕立「人間……?」

エラー娘「この静かな海を最初に犯したのは誰か。最初に戦いを始めたのは誰か
最初に船を沈めたのは誰か……」

エラー娘「全ては人間の業……」

エラー娘「母なる海は全てを受け入れる。人間の業も全部。だからでしょう……
溜まりに溜まった業は、いつしか海を守る善意へと変質していった」

エラー娘「深海棲艦とはつまり、純粋な海の善意なんです」

エラー娘「もっとも、人間にとっての善意とは限りませんけどね……」

夕立「……そんなのって」




エラー娘「あなたは至った。この真実に至った。さぁ、あなたはこの救いのない世界に
立ち向かいますか?」

夕立「……立ち向かって、どうするっていうの? この呪われた因果に……」

夕立「夕立はもう、つかれたっぽい……」

村雨「なら、早く楽になっちゃいましょうか?」

夕立「うん。もう……これ以上……」


「――夕立!」


夕立「……?」


「夕立ー!」          「若葉だ」
       「夕立さーん!」

        「さっさと出てきなさいよ夕立!」

「おい、夕立」              


夕立「みん、な……?」


夕立「皆が、夕立を探してくれてる……」


夕立は思い出す。
夕立の頭には、あの日の演奏が、その風景が流れ込んでくる。

楽しかった。一時だけど、苦しいことばかりだったけれど、あの時は、


あの時だけは確かに……夕立は、救われていたのだ。


夕立「……ごめん、むらさめちゃん」

夕立「やっぱり夕立、そっちにはいけないっぽい」


ドン!




村雨「……そう。そうね……それが正しいわ」

村雨「ごめんね、沢山いじわるして」

夕立「……わかってた。むらさめちゃんは、酷いことできる子じゃないっぽい」

村雨「あはは……けっこう悪役頑張ってみたんだけどなー……」

夕立「演技へたっぽい」

村雨「あー、酷いじゃないー!」

夕立「ほんと、酷い……」

村雨「……」

夕立「……」

村雨「村雨、もういくね」

夕立「……むらさめちゃん」

村雨「かつての私の死は、あなたのせいじゃない。あれは私の選んだ結末よ」

村雨「夕立はやさしいから負い目を感じているかもしれないけど……気にしちゃ駄目だよ?」

夕立「むらさめちゃん!」

村雨「じゃあね?」

夕立「ぁ……」



そうして、村雨のビジョンは消えた。
残っていたのは、深海棲艦の残骸だった。





白露「村雨……逝けたんだ。よかったー……」

夕立「しらつゆちゃん……」

白露「今度は私のばんじゃないですかー! 早く、一思いにやっちゃってー?」

夕立「……しらつゆちゃん、ごめん」


ドォン!


白露「……夕立が謝ること無いよ。誤らなくちゃいけないのは寧ろこっちだもん」

白露「ごめんね……姉妹を撃たせて。辛いことばかり押し付けて……」

夕立「今の夕立の命は、しらつゆちゃんなくしてはありえないから」

夕立「だから、しらつゆちゃんのお願いなら、夕立なんでも聞いてあげるっぽい」

白露「あぁ……あたし本当に」



白露「幸せな……姉だ」



白露のビジョンが消える。
夕立の視界には、永遠と続く黒だけが残された。
目を開けると、どこまでも白い景色……。
それはまるでこの世界の、裏と表。



エラー娘「夕立さん。あなたはこれから一体どうするつもりですか?」

夕立「……夕立は、皆の為に……」

夕立「このちっぽけな存在を、せめて……少しでも夕立を救ってくれた……皆の為に……」

エラー娘「夕立さん、あなた……まさか……」



――海上・第二偵察隊――


陽炎「この近くに反応があったのよ! 多分夕立の……」

叢雲「近くにいるのね!?」

雪風「早くお助けしなくては!」

電「あ……あれ! みなさん! あれを!」

時雨「! ……夕立!」


夕立「……みんな、ただいまっぽい?」


若葉「! お前……」


彼女達の前に姿を表した夕立は、全身ボロボロで……血だらけで……
浮いているのがやっとな状態だった。


時雨「夕立!? どうしたのさその傷!」

陽炎「深海棲艦の仕業ね!」

叢雲「どこにいるの!? この私が蹴散らしてやるわ!」

夕立「いいの。もうおわったっぽい」

時雨「夕立……?」


夕立は、酷く疲れた声をしていた。
顔は見えない。
時雨はその時、言い表せぬ不安に駆られた。


陽炎「敵と交戦して、勝ってきたのね?」

夕立「っぽい」

電「ぶ、無事でよかったのです……」

叢雲「これを無事と呼べるかは怪しいところだけど……」

陽炎「夕立。あなたはゆっくりと休みなさい。私達が守ってあげる」

雪風「夕立さんが無事見つかったことですし……次は綾波さんですね」

叢雲「案外進行先で待ってるかもしれないわね」


時雨「夕立……本当に心配したんだよ?」


夕立「しぐれちゃん、ごめんなさい」

時雨「全く、キミときたら昔から……」

夕立「……! 何か、来るっぽい!!」

陽炎「! ……複数艦接近! 綾波じゃない!」


ドオォォォォォォォォン!!


叢雲「!!」

電「はわわ!」

若葉「敵襲か」


戦艦タ級「……ッ」


電「戦艦さんなのです……!」

時雨「しかも、二隻もいる……!」

若葉「どうする。こちらは手負いが居る。逃げきれるかどうかわからない」

陽炎「もちろん、戦うわ!」

雪風「そうです! お守りします!」

叢雲「そうこなくっちゃね!!」


夕立「あの戦艦ル級……中破してるっぽい?」


陽炎「……ホントだわ」

電「よく見ると、他の艦もところどころ負傷しているのです」

時雨「一度戦闘になったのかな……でも相手は……?」

陽炎「……まさか」


夕立を除く全員が息を呑んだ。
ここにいない艦娘……その少女のたった一人の孤独な戦いを、
彼女達はようやく知ることになった。



叢雲「な、何言ってるのよ……神通達にやられたのかもしれないでしょ?」

電「そうなのです!」


そんなはずがないのは自分達が一番良く知っていた。この時間内に神通達と戦闘をし、
ここまで退避してきたというのは現実的に考えて無理がある。
途中で綾波と戦闘があったと考えるのが妥当だった。

だから、彼女達は狼狽えて……敵の砲撃をむざむざと許してしまった。


ドン! ドン! ドオォォォン!!


電「はにゃああ!?」


駆逐艦 電、中破!


叢雲「あ、ありえないわ!!」


駆逐艦 叢雲、中破!


陽炎「くっ……みんな落ち着いて!」


一時の油断から戦線は一気に崩れる。
陽炎自身も未だ狼狽の色が消えないというのに、更に負傷艦が増えたとあっては……。
最早彼女の対処できる範疇を越している。状況は最悪だ。


夕立(このままじゃ、みんなが……そんなこと、させない)

夕立(……吉川艦長、夕立に……力を)


夕立「今一度ソロモンの悪夢となる、力を!」


夕立は、死力を振り絞った。


時雨「ゆう、だち……?」


その瞳は赤く染まり、血だらけのその姿はまさに……


夕立「……最高に素敵なパーティしましょう?」


ソロモンの、悪夢だった。



夕立「夕立突撃するっぽい!!!」

時雨「夕立! 待って!」


時雨の制止も聞かず、夕立は勇ましく、そして鬼気迫る勢いで敵艦隊に突撃した。


夕立「これでどうッ!?」ドンドン!

戦艦タ級「!!!」ドォォン!

陽炎「戦艦と一対一なんて無茶よ! 若葉! 援護に回るわよ!」

若葉「無茶を言うな。こっちは他の敵艦で手一杯だ」


その戦い方はあまりに壮絶だった。


駆逐イ級「!」ドン!

駆逐ロ級「!!」ドドン!

夕立「……なにそれ? もう、おわり?」

夕立「こんなの全然痛くないっぽい!!」


駆逐艦 夕立、敵の砲撃を物ともせず突進。


駆逐達「ッッッ!!?」

夕立「誰も夕立を止められないっぽい!!」


ドォン! ドンッ! ドンッ!


駆逐イ級「!?」

駆逐ロ級「……、……」


駆逐艦 夕立、駆逐艦二隻撃破!


夕立「はぁ……はぁ……あとは、戦艦二隻!!」

時雨「夕立! 無茶だよ! キミはもう……そんな体じゃ!」

夕立「しぐれちゃんは……下がっててほしいっぽい」

時雨「僕は夕立を一人にしない! 今の夕立は一人になったら……なんだか……」


時雨「沈んでしまいそうだ……」


夕立「……しぐれちゃん」

夕立「夕立は、許されたっぽい」

夕立「しらつゆちゃんと、むらさめちゃんに許されたっぽい」

時雨「何を、言っているんだい……?」

夕立「これでようやく夕立は……心のつかえがとれたっぽい」


夕立「皆の為に、戦えるっぽい!!」


時雨「君はもうソロモンの悪夢じゃない! 悪夢じゃないんだ……!」

時雨「だからもう、やめてよ……!」

夕立「最後のパーティ、始めましょ!!」

時雨「夕立!!!」


夕立は決して立ち止まらなかった。


夕立「あなた達はここで……沈むっぽい!!」ドン!

戦艦ル級「ッ!」ドオォン!


戦艦ル級と相打ち。ル級は撃沈し、夕立は立っていた。
しかし彼女の横腹は大きく吹き飛んで……

それでも尚、彼女は戦いをやめなかった。

正気の沙汰ではなかった。そんな状態で戦える訳がなかった。


夕立「最後の、魚雷、よ……」

夕立「これで、おわる……」


バシュン!



ドッゴオオオオン!!



夕立の放った魚雷は、見事に戦艦タ級を仕留めた。



雪風「……!」


その痛々しい姿……戦い……その全てを、雪風はその目に焼き付けた。


時雨「夕立……夕立……ッ!」


時雨にはもはや涙で見えてはいなかった。彼女の、夕立の顔は見えてはいなかった。


時雨「かえ、ろう……」

時雨「帰ろう夕立……」

夕立「……」


夕立は背を向けて佇んでいる。
声はなかった。声帯が焼け焦げていたから。


時雨「僕が、曳航していくよ……」

時雨「一緒に帰ろう、夕立」


夕立は振り返った。時雨は涙で顔がよく見えない。



夕立「……sぐrちゃn」




夕立「……a…、……」




時雨「……え?」



瞬間、夕立は自らの艤装に向けて、


砲弾を撃ち込んだ。


時雨「……ぁ」


海上で、爆発が起きる。
それは全てを吹き飛ばすように。塵一つ残さないまでに。


陽炎「な、何!? 何が起きたの!?」

若葉「おい、時雨!」





敵艦隊の残存戦力を片付けた陽炎達がやってくる。
そこには放心した時雨と、神妙な面持ちで佇んでいる雪風が居るだけだった。





――海上――



神通「おかしい……いくら霧とはいえ、遅すぎます……」

朝潮「何かあったのでは……?」

初風「妙高姐さんか……」

黒潮「いや、味方やんそれ」

満潮「……! 来たわ!」

神通「……!」


霧の中から現れる、第二偵察隊。
彼女達は心身共にボロボロで……。


神通(綾波さんと、夕立さんがいません……)



大きなものが、欠けていた。




――数日後。


――泊地・大広間――


雪風「……時雨さん!」

時雨「雪風……」

雪風「軍楽隊の練習、見に来ませんか? 気分くらいは紛れると思います……」

時雨「……ごめん、やっぱり今は……そういう気になれないよ」

雪風「そう、ですか……」

時雨「夕立は、皆の為に最後まで戦った。夕立自身も……その行動に悔いはなかったと思う」

時雨「でも……なんで、なんで夕立は最後……自分の艤装を撃ったんだろう」

時雨「それに最後、なんて言ってたのか……わからなくて」

時雨「ねぇ、雪風。夕立は報われたかな? 皆を助けたことで少しでも彼女の心は……救われたかな?」

雪風「……ええ、きっと。最後に皆さんを救えたのですから。きっと……」


自分達に対して都合の良い解釈なんて、いくらでも出来るんです。

でも……雪風だけは、真実と向き合います。



そう、雪風は……、嘘をつきました。




夕立「……最高に素敵なパーティしましょう?」


夕立さんはきっと、静かに絶望していたんです。


夕立「こんなの全然痛くないっぽい!!」


皆の為に戦っていたのは、それは紛れもない事実です。


夕立「あなた達はここで……沈むっぽい!!」


でも、彼女は、あの時、間違いなく……何かから開放されたがっていたんです。
死に場所を求めていたんです。


夕立「これで、おわる……」


彼女は何かを知ってしまったのかもしれません。今となってはそれもわかりませんが……


雪風はあの時の夕立さんの顔を見ていました。その顔は最後の一時まで、



絶望していたんです。




夕立「……sぐrちゃn」



――しぐれちゃん。



夕立「……a…、……」





――この世界の方が、よっぽど悪夢だったっぽい。






エラー娘「……夕立さんは、その魂が消滅しました」


エラー娘「もう魂の輪廻に乗ることもない。本当に、粉々に砕け散ってしまったのです」

エラー娘「さぁ、いよいよ終末は近いです」

エラー娘「あなたはこの先、目をそらさずに真実を見続けていられますか?」


エラー娘「陽炎型駆逐艦、雪風さん」


雪風「……雪風は、この因果に縛られた時から……既に覚悟しています」

雪風「全てを見届けます! 全てを覚えています!」


雪風「例え雪風だけでも……真実を……覚えていたい!」


雪風「それくらいしか雪風が彼女達にしてあげられることはありませんから……」

エラー娘「……結局あなたも、かつての因果に囚われているのですね」


エラー娘「あぁ、なんて残酷。願わくば、この世界に救いがあらんことを……」




――泊地・執務室――


提督「綾波……夕立……先の作戦では、大切な仲間を二人も失ったよ」

提督「私のやり方は、間違っていたのだろうかね……」

金剛「テートクのやり方は、間違ってはいまセン。ただ……」


金剛「もう、限界なんデス……」


提督「……本部から支援物資が途絶えてずいぶんと経つ。先日とうとう連絡もつかなくなったなぁ」

提督「本当に本当に……手詰まりだ。こればかりは言いたくなかったんだがね……」

金剛「皆薄々感づいてマスよ、それくらい」

提督「……金剛、お前さんに一つ訪ねたい」

金剛「なんデスかー?」


提督「少しでも永らえるのと、一時でも輝くのと……お前さんなら、どちらがいい?」


金剛「そんなの……」

金剛「テートクと最後まで、フォーリンLOVEネ」

提督「答えになっとらんぞ……」


資源は枯渇し、燃料も底が見えてきた。


提督「覚悟を、決めるか……」



終末は、近い。

        , ´  ̄ ̄ ̄ `ヽ
       .′(>ry<)   ',
       |     ハ      i
      LL| | | | | | L| lh|   夕立編 おしまいっぽい?

.        j ┃   ┃ | l| l|
        (______| l|ノ|
       | l|/〈∨〉ヽ| l| l|

        川:::::::Y:::::: 川 l|

次回は何やるかちょっと迷っているっぽい。

【鈴谷の遙かなる航路】

【提督日誌】
になると思うっぽい。

どっちにしろあと2、3話位で終わらせたいっぽい。

誰か夕立ちゃんがハッピーになれるSS書いて

今日中に投下するでち
残業怖いでち

 /::::`ヽ/}/´::::::::::::::::::`丶/ヽ/:::::::\
:::::::::/}/::::::::::::::::::::::::::::::::::::\_>、::::::::::::\
::::::/ /:::::::::::::/::::::::::ィ::::::人:::::::::ヽ \::::::::::::ヽ

:::/ /::::::::::::::/::::::/ ,'::::/  ヽ::::::::ヽ ヽ:::::::::::.ヽ
/  .l:::::::::::::,':::/\ .i::/  / ヽ:::::::',  }:::::::::::::::::',
   l::「ヽ:::|/  TT {:/   TT   ト::|l  |:::::::::::::::::::}
    ',ヽィ::::|  ∪     ∪   |::|l  {::::::::::::::::::,'
    ヽ: :}::i   , ,      , , j:::ノ /:::::::::::::::::,'   でち公、仕事よ
.     ',:::::l_    'ー=-'   ,ィ:::|  =3:::::::::::::::}
      }:::i `=‐-t--r-ァ:</:|::j  |:::::::::::::::::::i
      j:ノ ,'\~`ヽ-/⌒/ゞ リ  j:::::::::::::::::::l 
       /  ,'.乂-廿`ノヽヽ   /:::八::::::::::i
       /  ,': : : : :/ : : : ) `、//  }ノ}::::}
                                                   ,.r-=

                                                  (( -――-.(ソ
                                                /:::::::::::::::::::::::゚丶
                                                /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
                                              〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  そろそろイベントの準備に専念させてくださいでち

                                               ji::〈    ヮ  u/::::::|
                                                V`ゥrr-.rュイ人人
                                                 ,/1::ー:'::! i
                                           .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

始まります。


【鈴谷の遙かなる航路】



――ふざけんなっ


ふざけんなふざけんなふざけんなっ!


鈴谷「前々から嫌な提督だとは思ってたけど……前線を見捨てるなんて!
ホントありえない!!」


重巡洋艦 鈴谷は怒りに震えていた。彼女はつい先程聞いてしまったのだ。
前線泊地の孤立、それに伴う鎮守府の対応……、
国土防衛を優先し、前線の救援には向かわないという決定。
それらは焦燥感の滲む複数の声と共に司令室より漏れでて鈴谷の耳に入った。


鈴谷「今前線には……熊野がいるんだよ!?」


最上型重巡洋艦の末っ子で鈴谷の妹である熊野。彼女は最上型一番艦の最上と共に今、
前線の泊地で厳しい戦いを強いられている。
そんな彼女達を、鎮守府は見捨てた。鈴谷は今すぐにでも司令室に乗り込もうかと
激情を滾らせたが、既のところで思いとどまり、踵を返した。


鈴谷「……今あいつらをぶっ飛ばしたとこで、どうにもなんない。
上官に反逆した罪人として扱われておしまい。そんなことしてる暇ないっての……」


鈴谷「……鈴谷が、鈴谷が熊野を助けに行かないと!」



重巡洋艦 鈴谷、単身、前線泊地の救援に向かうことを決意する。

鈴谷「……えっとー……誰にもバレてないよね?」

鈴谷「そもそも今の時間、このへんは誰も居ないか。艦娘はみんな待機してるか
夜間哨戒に行ってるかだもんね」


装備も燃料も準備万端。過剰に弾薬を持っていったのは咎められることではあったが
ここには戻ってこないつもりでいる鈴谷は気にも留めない。


鈴谷「……それじゃあ、最上型重巡・鈴谷、出撃ーっと!!」


夜間。一隻の艦娘が夜の大海原へと飛び出す。
彼女の旅の門出を見守るものは誰一人としておらず、鈴谷の孤独な旅はひっそりと幕を開けた……。


のだが……。


大鳳「鈴谷さん……?」


鈴谷(あっちゃぁ……いきなり誰かと合うなんて……ま、いっか)

鈴谷「あり? 大鳳ぢゃーん! なになに? こんな時間まで何やってんの?」

大鳳「訓練ですけど……」


出撃してまもなく、鈴谷は装甲空母の大鳳に遭遇した。大鳳は夜遅くまで訓練をしていたようだ。
予想外の事態ではあったものの、もう十分鎮守府からは離れている。何を言っても問題はないだろう。


鈴谷「やー、真面目だねぇ~。毎度、お疲れ様でーっす」

大鳳「鈴谷さんは、こんな遅くにどこへ行くつもりなんですか……?」

鈴谷「んー……」


鈴谷「ちょっと、前線の泊地まで……ね?」


嘘をつくつもりもなかった。鈴谷はもう鎮守府には戻らない気でいたのだから。


大鳳「はい?」

鈴谷「いやぁ~、熊野にお気に入りの香水貸してたの思い出して~
返してもらおうと思ってさ。くまのんは結構抜けてるんだよねぇ」

大鳳「……あなたが、何を言っているのかわかりません」

大鳳「こんな夜中に一人で、前線の泊地に向かうですって?
そんなの……自殺行為ですよ!」


鈴谷「だったら、何?」


大鳳「何って……」

鈴谷「鈴谷はもう行くって決めたし。止めても無駄だよ」

鈴谷「大鳳も知ってるでしょ? 前線の状況を……」

鈴谷「前線は押され最前線にあった泊地は落ちた。そして今……熊野が居る
泊地は確実に深海棲艦に包囲され始めてる」

鈴谷「このままじゃ、熊野がいる泊地は……!」

大鳳「落ち着いてください。近い内にも鎮守府が援軍艦隊を組んで……」

鈴谷(なにもわかってない……)


鈴谷はまるで何も知らない様子でいる大鳳に苛立っていた。そもそも鈴谷の体内には
放出されずに行き場を失った、熊野達を見捨てた提督達への怒りがくすぶっており、
それを大鳳にぶつけてしまうのは致し方がないことだった。


鈴谷「……鎮守府? 今の鎮守府が何かすると思う?」


だから鈴谷は、無知なる大鳳にこれでもかという位に冷たい声色で言い放つ。


鈴谷「鎮守府は、熊野がいる泊地を見捨てるつもりだよ」


大鳳「え……?」

鈴谷「強い艦娘はもう絶対に本土近辺から動かさないだろうし。
……結局今の軍令部の連中は、我が身が大切なんだよ」

大鳳「そんな……」


大鳳の青褪めた顔を見て、少しは気が晴れたのか鈴谷は冷静になる。
そして、大鳳に申し訳ないことをしてしまったと自己嫌悪に陥った。


鈴谷「でもまぁ実際、人々を守る為には本土の守りは手薄にしちゃいけないし……
半端な戦力を寄越しても無駄に艦を失うだけだって、それもわかってる」

大鳳「なら……!」

鈴谷「だから、行くのは鈴谷だけ。無謀だってわかってるよ。……わかってる。
でも、熊野を見殺しになんてできないんだ」

鈴谷「これは鈴谷のわがままだから、他の人は巻き込まないよ。
鈴谷一人なら本土の守りに影響はないから」


鈴谷「だからさ……ねぇ、ここは見逃してよ」


それは、鈴谷の覚悟だった。


大鳳「……だめですよ、そんなの、駄目です!」

大鳳「無駄に命を捨てに行くようなものですよ!」

鈴谷「ここで行かなかったら、その後の鈴谷の命なんて、嘘だよ」

鈴谷「そんなことしてまで、鈴谷は嘘の人生を歩みたくないし」

鈴谷「熊野を助けたいって気持ち、熊野に対する想いだけは
……絶対に嘘なんてつきたくない!」

大鳳「……勝手に出撃なんて、許されませんよ。連合艦隊から除籍されるかもしれない」

鈴谷「栄光の連合艦隊……か。でもね、大鳳……」



鈴谷「仲間一人助けられない連合艦隊の名に、意味なんて無いよ」



大鳳「!」

鈴谷「そんなのこっちからでてってやる。連合艦隊クソ食らえだ
勝手に除籍でもなんでもしてくれていいよ」

大鳳「駄目ですよ! 行かせません! 鈴谷さんのお気持ちもわかります
けれど! 私も……目の前で命を捨てに行くような真似を許す訳にはいかないんです!」

鈴谷「……大鳳は優しいね。でも……」チャキ


鈴谷は連装砲を構える。咄嗟に身構える大鳳であったが、鈴谷の砲身は自らの頭へ向いた。


鈴谷「ここは絶対に通してもらうかんね。じゃなきゃ鈴谷、自分の頭ぶちぬくし」


鈴谷はどこまでも本気で、それが彼女の覚悟の現れだった。


大鳳「鈴谷さん……ッ!」

鈴谷「来ちゃ駄目だよ~……そう」

大鳳「くっ……なんで……?」

鈴谷「そうだよー。それで……いいんだよ」


鈴谷はそのまま夜の大海原を往く。背に感じる大鳳の視線を、鈴谷は苦しく思った。


鈴谷「……ごめんね、大鳳」


正義感の強い大鳳のことだ、彼女はきっと深く気に病んでしまうだろう。
しかし鈴谷は、それでも行かなくてはならなかった。



鈴谷「……夜間航行、月明かり綺麗でロマンチックぅ~♪」


皓々と輝く月は夜の大海を照らし、打ち寄せ弾ける飛沫は星の粉に変わる。
先の見えない底なしの闇は空と海の境界を取り払い、世界を一つにした。
空も海も全部月の領域に支配されてしまったようで……
鈴谷はさながら、星の海を航行しているような気分になった。


鈴谷「たまにはこんな夜間クルージングもいいじゃん?」

鈴谷「今度熊野と一緒に、夜の海を宛もなく彷徨うのも悪くないかもねぇ……」


星の大海を往く鈴谷の心は随分と軽くなっていた。


鈴谷「……熊野も今、同じ空を見てるのかな……?」

鈴谷「だったら、嬉しいなぁ」

鈴谷「……それにしても、鈴谷も随分大胆な事やったよねぇ~……
勝手に鎮守府飛び出しちゃうんだもん」

鈴谷「まぁ、昔っからよく工廠から抜け出したりしてたし~
……よく熊野を連れだしてさ」

鈴谷「最初に抜けだした時も……熊野が一緒だったなぁ」


鈴谷は過去に想いを馳せる。ぼうっと星の海に浮かび上がるイメージ。
それは確固たる映像となって鈴谷の意識に映しだされていく。



――――――
―――



――鎮守府・工廠――



鈴谷『ほら熊野! 大丈夫だって! いこーよ!』

熊野『いけませんわ! わたくし達、まだ竣工も終わってませんのに……』

鈴谷『後は艤装だけぢゃーん! 本体はこの通り完成してるんだから大丈夫!』

熊野『しかし……』

鈴谷『鈴谷退屈だしぃ~……熊野だってそうでしょ? 外の世界、見てみたいと思わないの?』

熊野『それは……見てみたい、ですけれど……』

鈴谷『よっし! じゃあ決まりぃ! さぁ熊野姫、お手を拝借しますよ~』

熊野『ああっ! ちょっと鈴谷、手を引っ張らないでっ』


鈴谷は熊野の手を取り、こっそり工廠を抜けだして外界へ飛び出す。
彼女達はまだ見ぬ未知の世界へ飛び込むトラベラーだった。


鈴谷『わわ、初めて鎮守府の外に出たしぃ~!』

熊野『き、危険ですわ……不審者とかにあったらどうしますの!?
誘拐とか、されてしまうかもしれませんわ!』

鈴谷『大丈夫大丈夫~! その時は鈴谷が守ってあげるって、お姫様?』

熊野『も、もうっ! 鈴谷ったら!』

鈴谷『さぁ、こんな何も無い鎮守府前なんか後にしてさ!』

鈴谷『街に行こうよ! ほら、すっごい! 街の灯がここからでも見えるよ!』

熊野『まぁ……!』

鈴谷『ほらほら時間も限られてるんだし、ちゃちゃっといきましょー!』


そう言って熊野の手を取る鈴谷は、お姫様を連れ出すナイトのような気分になっていた。
二人は魅惑的な光に導かれ、夜の街へと吸い込まれていく。この先は全て、未体験ゾーンだ。


――繁華街――


熊野『まぁ……なんて綺麗なのかしら?』

鈴谷『うわー……すっげー……としか言い様がないよねー』


眼前に広がるネオンの光。見たことのない位の大勢の人。
大スクリーンに映し出される映像や道路を行き交う流線型のボディ。
その全てが、鈴谷達の知る世界とは一線を画していた。


鈴谷『なんていうか、なんていうか……言葉が見つからない感じ?』

熊野『鈴谷鈴谷! こっちこっち! これをご覧になって?』

鈴谷『ふぇ? なになに、どうしたのさ熊野』

熊野『これこれ! 凄いですわ!』

ロボ『デチデチ、デチデチ』バシャバシャ

熊野『ロボですわ! しかも泳いでますわ!』

『おや、こちらの自立型玩具"チャンPULU"に目をつけるとはお客様も
わかっていらっしゃる!』

『こちらの玩具は、愛情を持って接してやるとなんと、言葉を覚えるんです!』

ロボ『オリョールハイヤデチ、オリョールハイヤデチ』

『ほらこのように!』

熊野『あらまぁ、おりこうさんなのねぇ……』

鈴谷『鈴谷達の世界には、こんなのなかったよねー!』

熊野『これだけではありませんわ! 全部が全部! 何もかもわたくし達の世界には
なかった物!』

熊野『あら! あれは何かしら!? 鈴谷、行ってみましょう!』

鈴谷『待ってよ~。全く、熊野ってばあんなに渋ってたくせに』


今度は熊野が手を引いて、夜の街を縦横無尽に駆け抜ける。好奇心は猫をも殺し、
熊野の不安などあっという間に吹き飛ばした。



熊野『まぁ、いまどきの喫茶店はオシャレなのねぇ。あそこなんか、
この熊野に相応しい雰囲気ではなくって?』

鈴谷『試しに入ってみる?』

熊野『あら、お金は持ってきているのかしら?』

鈴谷『鈴谷さんをなめてもらっちゃあ、困るよくまのんやい』

鈴谷『万札でぇい! もってけドロボー!』

熊野『なんだかよくわかりませんけど、これなら安心ですわね』

鈴谷『いざ、喫茶店へ!!』


――それではご注文をどうぞ――


熊野『えっと……』

・ラテ        S/T/G
・エスプレッソ   S/T/G
・マキアート    S/T/G
・アメリカン     S/T/G
・フラペチーノ   S/T/G
・カプチーノ     S/T/G

熊野『』

鈴谷(何がなんだかわかんねぇ……)

熊野(この丁というのは何? 丁字のこと?)

熊野(何故お茶をするのに丁字だの何だのを気にしなくてはいけないのかしら?)

『あの、ご注文は……?』

熊野『!!』

熊野『あの、えっと……』

鈴谷『熊野?』

熊野『……!』

熊野『か、カプチーノ……』 


熊野『複縦陣で!』


『へ……?』

熊野『あ……うぅ……』

熊野『失礼致しますわ!!!!』バッターン

鈴谷『ちょっと熊野! 熊野ーー!?』


熊野『……わたくしには、ハードルが高すぎましたわ』

鈴谷『まーま、最初だから仕方ないって』

鈴谷『あ、ほら、あれ見てよ。コンビニってやつじゃない?』

熊野『あれが、こんびに……? 24時間営業!』

鈴谷『入ってみようよ~!』

熊野『ええ!』


――らっしゃいぁせー――


鈴谷『わー、なんでも揃ってるねぇ』

熊野『豊かな国ですわね……。あの頃の皆にも見せてあげたいですわ』

鈴谷『本におかしに日用品まで揃ってるし~、便利な世の中になったもんだよ
これがこの国のいたるところにあるって言うから驚きじゃん?』

熊野『俄には信じられませんわね……』

鈴谷『漫画もあるしぃ、ちょっと読んでいこうかn……!?』

熊野『あら、どうしたの鈴谷?』

鈴谷『なんでもない! なんでもないからくまのんはあっちに行ってなさいって』

熊野『あら、鈴谷、何か隠しているのではなくって?』

鈴谷『そんなことないってば!』

熊野『何を隠しているの! 見せなさい!』

鈴谷『あぁーんもう! 熊野のわからず屋!』

熊野『……へ?』


//エロ本コーナー//


熊野『と……とととと……!』


熊野『とおぉぉぉぉう!!!』


鈴谷『だから言ったのに……』



――繁華街・娯楽区域――


熊野『全く! なんであんなハレンチなものが平然と置いてあるのかしら!』モグモグ

鈴谷『まぁー……あれには鈴谷もちょっとびっくりしたかなぁ~?』

熊野『先程から散々な目にあっていますわ』モグモグ

鈴谷『でも、その肉まんは美味しいでしょ?』

熊野『……まぁ、悪くはない味ですわ』


様々なトラブルに見まわれながらも、二人はその全てを楽しんでいた。
ちょっとしたアクシデントも二人にとってはどれも新感覚。
二人の探検を彩るちょっとしたスパイスになった。


熊野『それにしても……ここらはさっきの場所とは大分雰囲気が違いますわねぇ』

鈴谷『映画館とか色々あるよ~』

熊野『あら、あれは……』

『今日はマクベス、マクベスやるよ―! 席まだ空いてるよー!』

鈴谷『演劇? 熊野、興味あるの?』

熊野『ええ! 演劇ってなんだか、こう、お上品でオシャレな感じではなくって?』

鈴谷『まぁ、熊野が見たいならいいけど……』


――さぁ、間もなく開演です!――


『眠りはもう無いぞ! マクベスが殺してしまった!!』

鈴谷『……』

鈴谷(ぶっちゃけこういうの、鈴谷には合わないかも……)

鈴谷『ねぇくまの……』

熊野『……な、なんてこと!』ドキドキ

鈴谷『おやおや……』


鈴谷(まぁ、熊野の事見てれば、飽きないか)



それが、鈴谷達が最初に見た外の世界だったっけ?





―――
――――――


鈴谷「結局鈴谷は芝居のこととかよくわからなかったけど……」

鈴谷「熊野はその後も度々劇場に連れてけってうるさかったっけ?」

鈴谷「懐かしいなぁ……もう何十年も前の事のように感じるや」


星空に溶けていく思い出と共に、夜は更けていく。




――翌日。


鈴谷「今日も快晴! ドンドン進んじゃいますからねー!」


鈴谷は止まること無く航行を続けていた。精神的にも肉体的にもまだ余裕があるようだ。


鈴谷「そういえば……熊野はかつて、たった一人で本土を目指したことがあったんだっけ……」


鈴谷は以前、熊野からその話を聞いていた。
鈴谷は先に沈んだ為、熊野のその後は知らない。故に熊野の口から語られた事だが、
熊野は単艦、敵の攻撃に晒され満身創痍になりながらも、母港に帰る為
何度も何度も本土を目指したのだという。


鈴谷「結局、母港に帰ることはできなかったんだっけ……?」

鈴谷「……鈴谷は」


鈴谷「鈴谷は、絶対に……熊野の元にたどり着いてみせるからね!」


とにかく鈴谷は熊野の元気な顔を見て早く安心したかった。

鈴谷は順調に航路を進む。敵と遭遇してしまえば単艦だ、非情に危うい状況であることは
変わりないのだが、この日は運良く敵との遭遇はなかった。


問題は、その次の日だった。



――翌日・海上――


鈴谷「うっそ、やば……」

敵艦載機「……!!」ババババ

鈴谷「撃ってくるなってぇ! このー!」ドドドドド


鈴谷は敵の航空隊と遭遇する。偵察隊だろうか、そこまでの大群ではなかったが、
単艦の上に対空装備も万全ではない鈴谷にとっては骨の折れる相手だった。


鈴谷「帰れ帰れ! こっちは忙しいの!」

敵艦載機「……ッ!」


何とか追い払うことに成功した鈴谷だったが、事態はそう簡単に収束するものではなかった。
偵察隊に見つかり、戦闘が起こった以上……敵は鈴谷の存在を感知し、そして襲い掛かってくるだろう。


鈴谷「……こりゃ、長居はできないねぇ……」


鈴谷は船速を上げ、できるだけ現海域を早く通り抜ける事にした。
しかしシーレーンも意味を成さないこの海では、安全な場所などどこにもなく。


鈴谷は間もなくして、敵に捕捉された。


「電探に感有り!」

鈴谷「距離は!? 方位は!?」

「3万5000! ひとふたまるですなぁ。
結構速い速度で近づいてきてるっぽいですぞー」

鈴谷「このまま突っ切る!!!」


最大船速で敵の包囲網から抜けようと考えた鈴谷だったが敵は複数だ。
当然鈴谷の進行方向にも敵艦隊が待ち構えていた。


重巡リ級「!!!!」

軽巡ホ級「ッ!」ドォン!

雷巡チ級「ッ!」バシュン!


火薬の匂いと砲雷撃の轟音が盛大に鈴谷を出迎える。

鈴谷「ちぃッ!」

鈴谷「そんなの当たんないってば!!」ビュン!


敵は重巡1雷巡1軽巡2駆逐2。後方に控えた重巡リ級が砲を構えると、
それに従うように他の深海棲艦は攻撃を始める。鈴谷は第一波を何とか無傷で回避した。
が、それは当然無理をした結果であり、それを持続させるなど不可能な話だった。


軽巡ホ級「ッ!」ドォン!


バスンッ! 


鈴谷「くぅ……ちょっとかすったかも!」


軽巡ホ級の砲撃によって小破する艤装。今は無視できるダメージだが、
このまま攻撃が続けば、いずれは大破も見えてくる。
そうなる前に、鈴谷は攻勢に出なければならなかった。


鈴谷「こんなトコで、立ち止まってる暇ないんだってば!!」


鈴谷は回避運動から緩やかに攻撃態勢に移行し、突撃を開始する。
無謀かもしれないがこの戦力差だ、鈴谷が先に進む為には多少の賭けに
出なくてはならなかった。


鈴谷「一か八か……敵の旗艦を潰す!!」


敵の旗艦は重巡リ級。同格の相手をこの劣勢でねじ伏せるのは至難の業だが、
迷っている時間はなかった。一秒の決断の遅れが命取りとなる。鈴谷はやるしかなかった。


ドォン! ドォン!
         ドコン!
 バシュン!


砲撃の歓迎をくぐり抜け、魚雷の追撃をかわしつつ、鈴谷は重巡リ級に接近する。
擦り切れ焼き焦げ数多の傷が鈴谷に刻まれたが、いずれも軽症。鈴谷の猛進を止めるには至らない。


「発砲諸元!」

鈴谷「方位仰角そのまま! 信管秒時ギリギリまで粘って!」

鈴谷「全門斉射の初弾で命中させるよ!」

鈴谷「鈴谷が近づけるまで近づくから! 頼むよ!!」

「了解!!」


かなりの無茶は承知の上だった。だが鈴谷にはそれを成功させる覚悟があった。


重巡リ級「ッ!?」スチャ


鈴谷が肉薄する。敵の懐に入ってきた鈴谷に対し重巡リ級は浮足立っていた。
主砲を構えるも、照準が定まらない。


鈴谷「今だよ! 全門斉射!」

重巡リ級「ッッッ!!」


ドォン!!
       ドォン!!


互いに交差する砲撃。強い覚悟を持ったものが勝ち、弱いものが散る。


鈴谷「ぐっ……痛いし……!」


重巡洋艦 鈴谷、重巡リ級の砲弾により中破。


重巡リ級「……、……」

「弾着! 敵重巡に命中しました!」

鈴谷「もー動けないね! 悪いけど、ここは通らせてもらうよ!!」


重巡リ級、大破(後に沈没)。
敵旗艦の機能が停止し統制が乱れている隙に鈴谷は戦闘を離脱した。



鈴谷「はぁ、はぁ、危なかった……」

鈴谷「みんな、さっきは無茶な要求にも応えてくれてありがと~……」

「鈴谷さんが信用してくださったんです、我々もそれに応えぬ訳には行きません」

鈴谷「ふぅ~……一時はどうなることかと思ったぁ~……なんとかなるもんだねぇ」

鈴谷(あぁでも、今回は切り抜けれたけど……次は……ちょっと苦しいかな……)


鈴谷は既に中破している。同規模の戦闘を行えば、次はおそらく持ちこたえられない。


鈴谷「……祈ろっか、敵と遭遇しないことをさ」


辛うじて速力は失われていないものの、艤装のダメージは深刻だ。
鈴谷自体も沢山の傷を負っており、その姿は痛々しい。

それでも鈴谷は進むのだ、この不安の敷き詰められた航路を。



明くる日、天候は崩れ、随分と酷い大雨となった。



鈴谷「もうマジ最っ悪! 髪ボッサボサじゃーん!」


降り注ぐ雨。うねる大海は大荒れの様相を呈している。
気温も低下し、切りつけるような寒さが鈴谷の肌を襲った。
雨雲は唸るような声を上げ発光する。雷鳴。雷が落ち、空気が震えた。

打ちつける雨が鈴谷の体の傷に染み入る。辛く険しい航路を鈴谷は一人進む。


鈴谷「きっと熊野もこんな思いをしたんだ……」

鈴谷「こんな思いをして……熊野はそれでも諦めなかったんだ」

鈴谷「鈴谷だって諦めないし! 熊野に会うんだ……!」


鈴谷「絶対に熊野に元に行くんだから!」


そんな鈴谷の願いを阻まんとするかのように、海は更に荒れて、荒れて。
響く雷鳴は怒号のように降り注いだ。


鈴谷「どんな大荒れもへっちゃらだい! 鈴谷はこんなの全然平気だし」


時折波に足を取られつつも、鈴谷は強がりを押し通し航行した。

広く、広い大海原。先の見えない旅路で一人、鈴谷は雨にも負けず、風にも負けなかった。
その歩みは勇ましく、迫り来る孤独感を跳ね飛ばした。


鈴谷「この程度で鈴谷と熊野の絆を阻もうったって、そうはいかないよ!」


それは全てから元気。でもそれが今の鈴谷の心のシールドであり、またそのシールドの
動力源となっていたのはやはり熊野の存在だった。

結局この大雨は鈴谷の意志を挫くことはできずに、


やがて青空へと移ろいだ。


鈴谷「……やっと、雨あがったね」

鈴谷「もうびしょびしょ……きっと今の鈴谷、酷い格好だ」

鈴谷「熊野に笑われるかなぁ……?」



――翌日。


鈴谷「今、どこらへん進んでるんだろ……」


鈴谷は疲弊しきっていた。長距離航海に加え、単艦での戦闘。中破での航行続行。
そして海の大荒れ。

鈴谷の顔色は優れない。大分無理が出始めている。


鈴谷(こんなところで止まってる訳にはいかないっての!)


自らを奮い立たせ、鈴谷は今日も海を往く。敵と遭遇しないことを願って。

しかしその願いを、あざ笑うかのように、


戦艦ル級「……」スチャ

鈴谷「くっ……こいつら……!」


敵艦隊は鈴谷の前に立ちはだかった。


鈴谷(まずい……こんな状態で戦艦とやりあえるわけないし……)

戦艦ル級「ッ!」


ドッゴオオオン!!


鈴谷「わわわ! 撃ってきた! あーもうっ! 考えてる暇ない!」


鈴谷は咄嗟に回避する。既にボロボロの身ではあるが、機関の損傷は少ない。
十分に回避はできた。しかし射撃能力は従来の二分の一程度まで落ち込んでしまっている。
敵の撃破はあまり見込めないだろう。
となると苦しくなるのは回避の方だ。いずれは捕捉され、被弾は免れない。


駆逐ロ級「ッ!」ドン!

軽巡ホ級「ッ!」ドン!

鈴谷「うっ……く……!」


激しさを増す敵の攻撃に、鈴谷も無駄口を叩けなくなってきた。




重巡リ級「ッ!!」


ドゴン!


鈴谷「あぐっ!?」


鈴谷の体が遥か後方へと吹き飛ぶ。辛うじて水面に立っていた鈴谷ではあったが、
その一撃は大きく、鈴谷を大破にまで追い込んだ。


鈴谷「はぁっ、はぁっ……!」

鈴谷(こんな、ところで……こんな、ところで沈むわけにはいかない、のに……)

鈴谷「こんの……!」


砲を構える腕が震える。鈴谷には、迫り来る敵艦の動きが随分と緩慢に見えた。
でも自身の体の動きはそれ以上に遅く、身動きがまるで取れなかった。



鈴谷(いやだ、いやだいやだいやだ! こんなところで沈みたくない!
まだ熊野と……熊野と会ってないのに!!!)



そんな鈴谷の想いが通じたのか、それはどこからとも無く現れた。



「か弱い乙女を寄ってたかっていじめるたぁ、粋じゃないねぇ!」

「俺達が……お前らの腐った性根を叩き直してやる!」


鈴谷「あれは……彗星!?」


艦上爆撃機・彗星……それも従来のものより高性能なもののようだ。
彗星を中心とした編隊は空を駆け敵艦隊をかき乱しては爆撃によりその戦力を削いでいく。


「さぁ艦娘さん! あなたはこちらへ……!」

鈴谷「えっと、あなた達は一体」



「我々は芙蓉部隊……この海域の防衛を行っている航空部隊です!」



――航空基地――


「すみません……ここではあまり艦娘さんの修理をできるような設備がなくて」

鈴谷「いいよいいよ、無いよりは全然マシだし……」


芙蓉部隊に助けられた鈴谷は彼らの本拠地である基地に連れられていった。
その基地には艦娘の姿はなく、いるのは航空機の搭乗員である妖精だけであった。


鈴谷「ここには艦娘がいないんだね~……」

「……本来ならここには空母の艦娘さんがいらっしゃる筈だったらしいですが、
いかんせん空母の数が足りなくなったとかで。新しく空母を建造すると言っても、
……敵は待ってくれませんからね。代わりに私達航空隊が防衛の任を受けました」

鈴谷「世知辛いねぇ……」

「いえいえ、我々自ら志願したことですから。我々芙蓉部隊は鎮守府で埃を被っていた彗星等をかき集め、
万事に備えていたんです。そしたら調度良く前線基地防衛の話がやってきまして」

「現在に至るというわけです」

鈴谷「そうなんだ……」


鈴谷は知らなかった。前線に彼らのような部隊がいたのだということを。


「……とは言え、ここもずっと持ちこたえてはいられませんがね。
早く戦況が好転するといいのですが……」

「全く、いつになったら撤退命令が下るのか。……艦娘さん、
本土の方は今どんな感じなんですか?」

鈴谷「それは……」


鈴谷は何も言えなかった。あの鎮守府の酷い有様を、前線で戦う彼らの耳に入れたくはなかったのだ。



――――――
―――



鈴谷「うーん……とりあえず中破くらいにまでは持ち直せたかな?」


鈴谷は暫くの間基地に留まった。早く熊野の元へ行きたいという気持ちはあったが
先の戦闘のダメージは無視することができず、また、轟沈の危機に瀕して少し頭が冷えた事も一因した。

この先の海域……きっとこれよりもさらに苦しいものとなるだろう。
自分は果たしてそんな海域を抜けることができるのだろうかと、鈴谷は自らに問いかける。


鈴谷「うー……駄目だ駄目だ、弱気になっちゃ! ここでくじけたら、
きっともう前に進めなくなる……」


鈴谷はそれが何よりも恐ろしかった。恐怖に屈し、熊野を見捨ててしまうことを。
それでは、あの軍令部の連中と一緒だ。


「鈴谷さん、調子はどうですか?」

鈴谷「あ……うんまぁ、大分良くなった感じ?」


その時、基地の妖精が鈴谷の様子を見に来た。
鈴谷はここ数日基地の妖精たちのお世話になっている。


「あまり無理をなさらないでくださいね。本隊からはぐれて焦る気持ちはわかりますけど……」


本隊からはぐれたというのは鈴谷が咄嗟についた嘘だ。あんなところで単艦、うろつく艦娘など
怪しいことこの上ない。鈴谷には何かもっともらしい理由が必要だったのだ。


「今日も我々は深海棲艦の連中をコテンパンしてやりましてね~……」

鈴谷「……」

「あれ? どうかなさったのですか? 鈴谷さん」


鈴谷「……芙蓉部隊のみんなって、いつ頃からここで戦ってるの?」


鈴谷はふと疑問を投げかける。



「うーん……結構長いことここで戦っていますかねぇ」

鈴谷「不安になったことはないの? 故郷に帰りたいって思ったことは?」

「そんなの、当然あるに決まってるじゃないですか」

鈴谷「……それでも皆は、戦い続けてるじゃん。どうして、戦い続けられるの?」

「それは……なんていうか、少し烏滸がましい話になってしまうんですが……」


「我々がやらなければ、誰がやるのか……という話です」


「我々がここを防衛しなくて、誰が防衛するのだと」

「防衛の任に着くことは誰にでも出来ます。しかし、ここを防衛しきるのは我々にしかできません。
この任務は他の誰でもない、我々芙蓉部隊にしか務まらないものだと、今では思っています」

「そりゃ辛いこともたくさんあります。ですが、我々がやらなくてはならないんです
我々にしかできないんです」

「もし今この任を放棄して、その結果少しでも、極端な話一人でも犠牲が出れば、我々は
生涯消えることのない負い目を感じ続けることになるでしょう」

「これは人のためでもあり、自らのためでもあるのです。こんな時代だから、
我々はそういったところに魂の救いを求めるんですよ。
戦いに意味を見出して、自分の行動に意義を付加したいんです
そうでもしないと、とてもやってられませんしね」

「……こんな理由じゃ、いけませんかね?」

鈴谷「……そんなことないよ」

鈴谷「ありがとう。今の話聞いて、鈴谷目が覚めたよ」

鈴谷「そうだよね……鈴谷にしか出来ないことなんだ。鈴谷がやらなくちゃ……」


熊野は……!



その日の夜、鈴谷は基地を立つ事にした。




――夜間・海上――


「本当にこの先に行くんですか?」

鈴谷「うん! そうだよ?」

「いくら本隊に戻るためとはいえ……この先は深海棲艦がうじゃうじゃいますぜ」

「本土に戻ったほうが懸命だとは思いますが……」

鈴谷「ありがと。でも決めたんだ……」


鈴谷「……大切な人が待ってる。行かなくちゃ」


「……わかりました。そこまで仰るなら……」

「夜の世界こそ我々芙蓉部隊の真骨頂。鈴谷殿をお守りします」

「しかし我々がついていけるのは途中までです。その先は……」

鈴谷「いいよ、わかってる」


鈴谷「これは……鈴谷にしか出来ないことだから!」


熊野に会いたい。熊野の元気な姿がみたい。その強き想いが鈴谷を突き動かした。


鈴谷「……熊野、今行くからね」


呟く鈴谷の瞳に迷いの色はなかった。そこには躊躇いも戸惑いもなく、
彼女の行動にそれらが伴うことはないことが伺えた。

しかし彼女にはただ一つ、後悔があった。

鈴谷(あーあ、こんなことになるなら、やっぱりあの時……)


鈴谷は思い出す。熊野と別れたあの日のことを。


――――――
―――



鈴谷『え? 熊野……前線に行くの?』


熊野『ええ、そうですわ~』

鈴谷『そんな、なんで突然……どういう風の吹き回し?』

熊野『ま、わたくしこの度航空巡洋艦に改装しましたし? 砲撃も航空戦も
こなせる航空巡洋艦が引っ張りだこになるのは必然という訳ですわ』

鈴谷『もがみんのついでに改装してもらっただけじゃん』

鈴谷『ていうか最上自体も修理のついでだし』

熊野『あらあら嫉妬? 鈴谷、悔しかったらあなたも航空甲板を付けてらっしゃい』

鈴谷『熊野ってば調子のりすぎ……嫉妬とか、そんなんじゃないし』

熊野『あら、じゃあ……鈴谷はどうしてそんなに面白くなさそうな顔をしているのかしら?』

鈴谷『それは……』

熊野『あっ! わかりましたわ! 鈴谷ったら、わたくしと離ればなれになるのが
寂しいのではなくって?』

鈴谷『!!』

熊野『わたくし達、今までずっと一緒だったものね。あらまぁ、鈴谷ったら
案外寂しがり屋なのかしら?』

鈴谷『そ……そんなんじゃないやい!』

鈴谷(そんな訳……)


そんな訳……あるよ。


それはあまりに唐突で、鈴谷の意志とは無関係に訪れた。受け入れられるわけ無いじゃん。
鈴谷と熊野は今までずっと一緒だったんだよ? 離ればなれになるなんて……考えられないし、


考えたくも……なかった。



熊野『別にいいんですのよ? 寂しいなら寂しいと言っても。行かないでくれって
泣いて懇願するならこの熊野、鎮守府にとどまってあげてもよろしくってよ?』


熊野がいないと寂しいよ。行かないでくれって泣いて懇願したかったよ。

でも鈴谷……こういう時、正直になれないんだ。


鈴谷『何言ってんだか! 熊野の方こそ、そろそろ鈴谷離れしたらどーなの?』


行かないで。その一言が言えなかった。


熊野『なんですって? わたくしはもう立派に今時のレディとして成熟しています!
鈴谷と一緒にしないでくださる!?』

鈴谷『なにをー!?』


そんな風に、鈴谷は熊野と別れたんだ。その時から鈴谷と熊野の道は二手に分かれた。
別に特別なことなんてなくって、それじゃあバイバイまた明日、みたいな軽さでさ。

でも、熊野の背中を見送った時……鈴谷は事の重大さを実感したんだ。


熊野『それではごきげんよう、鈴谷』

鈴谷『……ッ!』


今まであなたは同じ道を歩んでいたのに、いつもあなたが隣にいたのに。
今は背を向け一人、あなたは別の道を往く。

そこで初めて知ったんだ。あなたの背中がこんなにも小さいことに。
私の中のあなたの存在が、こんなにも大きかったことに。

私、知らなかったよ。あなたがいないとこんなにも心細くなるなんて。
こんなにも寂しくなるなんて。こんなにも不安になるなんて。


鈴谷『熊……ッ!』


呼びかけようと思った頃には、あなたはもう随分遠くへ行っていて、
分かれた道はどんどん離れていって。



私は一人、取り残されちゃったよ。


鈴谷『……いやだ』

鈴谷『このまま別れたら、鈴谷はもう熊野に会えなくなるような気がする……!』

鈴谷『そんなの絶対に……嫌だ!!』



だから私はあなたの往った道を辿る。あなたのことを追いかける。
そして今度はちゃんと言うんだ……行かないで、一人にしないでって。



熊野……どうか、どうか無事でいてください。





――鈴谷さん! 敵艦隊です!!





鈴谷「!!」


意識が現実へと引き戻される。
切羽詰まった妖精達の声。駆け抜ける緊張感が敵勢の規模を物語る。


「報告! 敵艦多数発見! 夜間での視界の為確証は持てませんが
戦艦級、空母級共に確認出来るだけでも2、3隻はいます!」

「うろたえるんじゃあない! 制空権の喪失した戦場などいくらでも経験してきただろう!」

「鈴谷さん……重ね重ねお尋ねしますが……本当に行くんですか?」

鈴谷「もっちろん!」

「……わかりました。我々が先陣を切ります。鈴谷さんは後に続いてください!」

鈴谷「わかったよ! へへ、ここが正念場だー!」


「さぁ我らが芙蓉部隊の力、存分に発揮してくれる!! ゆくぞぉ!!」

「おーーーッ!!」


鈴谷「絶対にここを抜けて……熊野に会うんだ!!」


たった一つの決意を胸に鈴谷は単艦、

数多の赤い光がうごめく闇の中へと飛び込んでいく。


赤い光の突き刺さるような殺意は空を彷徨い、獲物を待ち構えていた。


――戦闘開始!――


「戦闘機は爆撃隊を支援しろ! 大物を狙う!!」

「敵空母の艦載機発艦を確認!」

「なぁに、連中の夜間戦闘の練度など大したことはない! 軽くもんでやれ」


ドドドドド……
       パン! パァン!


鈴谷「鈴谷もいくよ!」


ドォン!


いくら修理をして中破程度にまで回復したとはいえ、鈴谷に蓄積しているダメージは大きい。
しかし彼女の砲撃は、それを感じさせない程の豪快さを秘めていた。

ばしゃんと、鈴谷の砲弾が海に落ちる。それを皮切りに、今度は深海棲艦の砲弾が闇の中から飛んでくる。
鈴谷の砲撃の何十倍も激しく、降り注ぐ砲弾の雨は尽く鈴谷の針路を阻む。


鈴谷「ひゅう~……けっこうやるじゃーん! でも……そんなんじゃ鈴谷は止められないよ!!」


それでも鈴谷は退かない。


鈴谷「こんなので……鈴谷の覚悟は挫けない!」


鈴谷の意志は揺るがない。何者にも崩せない、確固たる意志がそこにある。


砲弾と魚雷が入り乱れ、時折航空機が接近しては芙蓉部隊の戦闘機に捕捉され撃墜される。
鈴谷は砲弾をばら撒き、当たってるか当たってないかもよくわからないままに応戦した。
あちこちで爆音が鳴り響き、最早それが敵の爆発なのか味方の爆発なのかわからない。
確実にわかることは、この一寸先の闇で命のやり取りが行われているということだけだった。


鈴谷「うっそ……もうなの……!?」


急拵えの修理で回復した機関が早くも不穏な音を立て始める。万全の状態でも苦しい状況
なのに、鈴谷は中波の状態でそれをくぐり抜けようとしているのだから当たり前だ。


鈴谷「いかれる前に、押し通る!!」


時間の猶予はもうあまりない。鈴谷は速力を緩めること無く突き進む。


軽巡ホ級「!!」バッ

鈴谷「ん!」


闇の中から鈴谷の前に躍り出る軽巡ホ級。この距離なら軽巡でも十分に致命傷を与えられる。


鈴谷「鈴谷の邪魔しないでくれる!」


ドォン!


軽巡ホ級「ッ!?」


鈴谷は無駄のない動作で軽巡を沈める。一瞬でも判断が遅れれば危なかったが、
今の鈴谷には迷いがない。砲撃までの思考に少しの滞りもなかった。


その後も敵艦と遭遇する事はあったが、鈴谷は難なく切り抜けていく。
今の彼女は極限状態にある。その集中力は計り知れない。
故に、そんな彼女を並の深海棲艦が止められる訳がなかった。

だからだろう。


鈴谷「……きたか」

戦艦ル級「……!」

重巡リ級「ッ!」

空母ヲ級「……」


敵は万全を以って、鈴谷を迎えうつ。この戦力差を覆すのはまず不可能だ。


空母ヲ級「ヲッ!」ヒュン

鈴谷「ヲッ! じゃないよマヌケがぁー!」


それでも鈴谷は前へと進む。理屈じゃなかった。鈴谷の意志が揺るがぬ限り、
彼女が立ち止まることはないだろう。そして彼女の意志は、鋼の覚悟によって支えられている。

鈴谷が止まることは、恐らくもうないだろう。彼女が止まる時……それはきっと、


その生命が、尽きた時。


敵艦載機「ッ!」ヴゥゥゥン……


空母ヲ級が飛ばした艦載機が鈴谷に襲いかかる。
夜間の練度はあまり高くないとはいえ、数が集中すれば脅威だ。

芙蓉部隊の機体も他の敵機に追われていて、鈴谷を支援できる余裕は見られない。
鈴谷は一人で敵の攻撃をくぐり抜けなければならなかった。


ゴオォォン!!


鈴谷「くぅっ! 危ないしぃ!」


敵攻撃隊の爆撃。鈴谷は立ち上る水柱を右に左に回避して進む。

対空火器は以前の戦闘で大破し使いものにならない。
鈴谷は一方的に敵航空隊の攻撃を受け入れる他なかった。

鈴谷「ほらほらどこ狙ってるの? 鈴谷はこっちだよ!」


それでも鈴谷は懸命に敵航空隊の攻撃を避け続けた。それは鈴谷の執念の回避だった。


鈴谷「どんなもんだい! そんなんじゃ鈴谷さんは……」


しかし、その回避もずっとは続かない。


戦艦ル級「ッ!!!!」スチャ……ガコン!

鈴谷「やばっ……!」


待ちわびていたかのように、戦艦ル級は射程に入った鈴谷に砲口を向ける。
鈴谷も主砲を構えて応戦の姿勢を取るが……


ドッゴオオオオン!!


鈴谷「がっ……!」


腕ごと主砲を吹き飛ばされる。
片腕と砲戦機能を失った鈴谷は窮地に立たされた。


鈴谷「全く、泣きたくなるような苦境だねぇ……ほんと」


だが鈴谷の瞳は未だ闘志の炎を宿している。こんなにも満身創痍なのに、
鈴谷は決して諦めなかった。


戦艦ル級「ッ!!」ガコン!


戦艦ル級の第二射がくる。


鈴谷「鈴谷の腕一本もってったんだから……そっちも魚雷の一本や二本
覚悟してもらわないとね!!」


バシュン!!

         ドッゴオオオオン!

  
鈴谷「……残念だったね。当たったら鈴谷も沈んでた」

戦艦ル級「……ッ!!」


戦艦ル級、鈴谷の魚雷により大破。戦闘続行不可能。



鈴谷「行かせてもらうよ。熊野が待ってる」


鈴谷は戦艦ル級の横を通り抜ける。空母の二次攻撃までにはまだ時間がある。
鈴谷は早くここを通り抜けてしまおうと考えた。

しかし、彼女は忘れていた。夜戦において最も脅威なのは……



ドン……!



鈴谷「……ぁえ?」


鈴谷の視界が歪む。艤装から黒煙が立ち昇る。
鈴谷は敵の砲撃を食らったのだ。



重巡リ級「……」

鈴谷「ぐ……そいえば……いたんだ、重巡……」

重巡リ級「……!」チャキ


重巡リ級の砲撃は鈴谷を捉え、鈴谷は甚大な被害を被る。
もはや戦闘を続行できる状態ではなかった。


鈴谷「……くそっ!」


魚雷管も動作不能。鈴谷にはもう、リ級に対抗できる手立てが残されていなかった。


鈴谷「ここまで、せっか、く……ここまできた、のに……!」


悔しさに打ちひしがれる鈴谷。対してリ級は不気味に口元を歪ませて鈴谷を見下していた。
勝利を確信した表情……命を奪い取る快楽。そんなものがリ級から感じられる。

無慈悲に向けられる砲口。鈴谷は決して目を背けてなるものかと歯を食いしばった。



そんな鈴谷の覚悟を、彼らは見捨てなかった。




「ボラアアアアア! 我が急降下爆撃を受けてみよ!!」



ゴオオォォォォォン!!



重巡リ級「!?」


「第二陣! 続け!!」

「鈴谷さんを先へ送り届けるんだ!!」

「鈴谷さん! ここは我々が引き受けます!! あなたは早く先へ!!」


鈴谷「みん、な……」

鈴谷「ありがとう……ありがとう……!」


鈴谷は既に限界を超えた機関を無理やり動かし、目一杯加速する。




芙蓉部隊の助力のお陰で、鈴谷はとうとう敵の包囲網を抜けた。




鈴谷「もう、機関……うごかない、や……」


敵の包囲網を抜けると同時に、鈴谷の機関部は事切れたかのように動かなくなった。


鈴谷「くま、の……」


鈴谷は、前へと進んだ。機関部は動かないので自らの力で少しずつ進んでいくしか無い。
鈴谷の体は既に満身創痍すら越えて、浮いているのが奇跡的な状態だった。


鈴谷「くまの、くまの……!」


熊野への想いのみが、鈴谷を動かしていた。


鈴谷(鈴谷、熊野を助けるために来たのに……これじゃあ、本末転倒だ)

鈴谷(……何言ってんだか。最初からわかってたじゃん、こうなることくらい)

鈴谷(結局鈴谷は、熊野に会いたかっただけなんだ)

鈴谷(その為の理由が欲しかっただけなんだ……)

鈴谷「だめ、だなぁ……こんなんだから、鈴谷……肝心な、ときに……
肝心なこと、いえない……」


鈴谷は空を見上げる。そこには満天の星空。

気がつけば、鈴谷が鎮守府を発った時と同じ星の海が眼前に広がっていた。

朦朧とする意識の中、鈴谷はその星の海で様々な記憶の断片を見た。
その記憶はほんの短い間だけ再生されて、星の粉へと還っていく。
規則性はなく、つながりもない。

だけど……その全ての記憶の中には、いつも彼女がいた。


鈴谷「くまの、くまの……」

鈴谷(鈴谷、まだ熊野に言ってないこと……たくさんあるんだ)

鈴谷(今度は素直になるから……もう意地悪言わないから……だから……!)


鈴谷「もう鈴谷を、一人に、しないで……」




――鈴谷。



鈴谷「……!」

鈴谷「くま、の……?」


――鈴谷!


鈴谷「熊野!」





星の海は弾け、鈴谷の前方に光が収束する。それはみるみる鈴谷を包み込んでいった。




――――――
―――



鈴谷「!?」

鈴谷「……くまの、どこ? くまの……」


鈴谷の意識が回帰したのは、あの夜から半日が経とうとしていた頃だった。
鈴谷はあれから随分と漂流していたが、鈴谷の意識はあの夜から地続きで今現在に繋がっていた。

だからこの青空の下が、鈴谷の見た光の向こう側なのだ。


鈴谷「くまの……」


尚も鈴谷は彷徨う。彼女の中で、着実に何かが迫っていた。


「鈴谷」


その時、鈴谷の耳に懐かしい声が響く。


鈴谷「ぁ……」


それは、彼女が求めてやまなかった……あのおしゃれな重巡の声。


「鈴谷」


その姿が、鈴谷の目を、結晶体を、視細胞を満たす。



鈴谷「熊野……!」



そう、重巡熊野の姿が、そこにはあった。


鈴谷「くま……ッ!?」

鈴谷(あれ……)



こえ、でないや……。



そこで鈴谷の、命の火種は尽きた。



天龍「おい! お前! 大丈夫か! しっかりしろ!」


熊野の姿の幻は消え、本当にそこにいた艦娘である天龍の姿が顕になる。


電「はわわ! 大変なのです!」


随伴していた駆逐艦達を引き連れ、天龍は沈みゆく鈴谷の体を支えた。


叢雲「な、なんてひどい有様よこれ……!」

雷「た、助けるわ!」

天龍「いや、いい……」



天龍「もう、尽き果ててる。命のその一片まで、出し切っちまってる……」



陽炎「それって……」


それ以上天龍は何も言わなかった。駆逐艦達も口を閉ざし、
そのまま空っぽになった鈴谷を天龍達は泊地へと連れ帰った。



――――――
―――



――泊地近辺・裏山の麓――


日向「……こんなものでいいか」

天龍「……わりぃな、お前らにも手伝ってもらっちまってよ」

伊勢「いいって、どうせ私達は出撃がなくて暇だしね」

日向「……何故彼女は、命を賭してまで……こんな所まで来たのだろう」

天龍「さぁな……」

伊勢「鈴谷。あの海を渡ってきたあなたの勇姿、私達はきっと忘れない……」



伊勢「だから今はゆっくりと休みなさい。あなたの愛する、姉妹の隣で」




鈴谷は、泊地の裏山の麓にある墓地に埋葬された。

彼女のお墓の隣には、先の大海戦で亡くなった熊野のお墓があった。


こうして鈴谷は、ようやく熊野と一緒になれたのだ。
そう、文字通り……これからずっと……。








――鈴谷!







鈴谷「はっ!?」

鈴谷「なになに!? ここどこ!?」




熊野「全く……待ちくたびれましたわよ?」



鈴谷「熊野……!」

鈴谷「熊野熊野熊野! 熊野~~っ!」

熊野「あまり人の名前を連呼しないでくださる?」

鈴谷「なにさ! 鈴谷は熊野に会うために、こんなに苦労してきたんだよ!」

熊野「知っていますわよ。まぁ……かつて私の辿った航路に比べたら、
イージーモードもいいところですけど」

鈴谷「それ言い過ぎ! 鈴谷のほうが、もっともっともーと苦労したし!」

熊野「そこまでして……そんなにわたくしに会いたかったのかしら?」

鈴谷「……うん」

熊野「へ?」

鈴谷「そうさ、私は熊野に会いたかった!」

鈴谷「その為なら山を越え谷を越え……海をこえて来ちゃいましたってこれは事実だからね!」

熊野「はぁ~? 前々から思ってましたけれど鈴谷……あなたって本当におバカさんなのねぇ」


鈴谷「馬鹿でもいいよ。熊野と一緒に入れるならさ」


熊野「なっ……////」

熊野「今日の鈴谷は、ちょっとおかしいですわ。調子が狂います」

鈴谷「どんどん狂っちゃえ」

熊野「それではわたくしの威厳というものが……」

鈴谷「ところでさ、ここってどこなの?」

熊野「……さぁ? どこかの……海かしら?」

鈴谷「なんだか……見渡すかぎり海って感じ。果てがない感じ!」

熊野「それが何だと言うのですか? わたくし達はたった一隻で
敵の跋扈する海を渡った勇敢な最上型重巡洋艦!」


熊野「そんな二人が揃ったのなら、越えられぬ海域などありはしませんわ!」


鈴谷「……へへ、そうだね!」

熊野「そうと決まればさっさと行きますわよ。
この先に何があるか、この目で確かめるとしましょう!」

鈴谷「あ……まってよ熊野。これだけは言っておきたいんだ」

熊野「あら? まだ何かあるの?」



鈴谷「もう鈴谷を、一人にしないでね!」



熊野「あらま、鈴谷ったら……」




熊野「当然ですわ。わたくし達はこれからもずっと、一緒ですわ!」




こうして二隻の重巡洋艦は、遙かなる航路に舵を取る。
大丈夫、二人なら彼女達は、どこまででもいけるのだから。




NEXT【提督日誌】

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  次回からまとめの話に入るでち……

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  なんやかんやで二ヶ月近くも続いてるんでちねこのSS……
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

赤城さんにしばふ先生が乗移るクソSS書いたのはわたしです

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弱過ぎなんだけどマジ!
誰だよダメコン必須って言った奴はよ! 誰だよダメコン必須って言った奴はよ!
出てこいよ! 俺がオリョクルさせてやるよ!
よえーなマジ鬼畜鬼畜とか言ってよ!
課金してるだけじゃねえか!
そういうゲームじゃねえからこれ!



こういうゲームだから!!
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今回前後編に分けるでち……今日中に後編書くでち……

【提督日誌/前編】

[艦娘]

まずはこの記録をつけるに至った経緯を話しておかなくてはならんだろう。
今現在、この世界は深海棲艦なる未知の存在に脅かされつつある。
勿論我々は連中に対し様々な手段を講じてきたが、どれも悉く一蹴され、
我々の力では太刀打ちが出来なかった。

そこで我々は古来よりこの国に住まい、我々人間とは異なった文明を築く
"妖精"に協力を求めた。基本的に彼ら(或いは彼女ら)は一方的にしか
コンタクトとらない。故にこちらの要求を訊いてくれるかどうか不安では
あったが、その心配は杞憂に終わった。
妖精たちも事態を重く捉えているのだろう。彼らは快く協力をしてくれた。

かくしてここに、未曾有の危機を前にして初めて、我々人類と妖精は手を組んだのである。

前振りはここまでにしよう。上記の内容は伝聞の為簡単な概略のみをかいつまんで説明した。
が、しかしこれより記載する内容は私が実際に見て、実際に感じたものであることである。
そのことをここに明記しておく。

先日、艦娘という存在が初めて我々の目下に晒された。
艦娘は上層部のみがその実態を知るいわば機密事項だった。
どんなものかと気になってはいたが、まさかあんなものだったとは……。


将官「これより、近海の巡航及び、深海棲艦の討伐を行う!!」

将官「今回戦闘を行うのは我々ではない! 例の艦娘だ」

士官A「カンムス……?」

士官B「とうとうお披露目か……カンムスとは一体何なのだ」

大尉(泊地提督)「あの深海棲艦と渡り合うのだ、
さぞや屈強で強靭な風貌の何かに違いない……」

士官A「大尉殿は夢が無いですなぁ……」


将官「"彼女達"は既に進水式を終えている。がしかし、このような公の場で
航行するのは初めてのことだ。皆、盛大な拍手を以って彼女達を出迎えるのだ」

将官「わかったな? では早速ご登場願おう! 金剛ちゃん! 比叡ちゃん!
榛名ちゃん!」

大尉(泊)「……"ちゃん"?」


「私達の出番ネー? Call Me!」
           「気合! 入れて! 行きます!」
                        「はい! 榛名は大丈夫です!」


大尉(泊)「なっ……!」


そこで私が見たものは、
水面を優雅に滑る、可憐な少女達の姿だった。


金剛「ワーオ! 皆さんワタシ達に注目してマース!」

榛名「す、少し……緊張してしまいますね」

比叡「そんなんじゃダメですよ~榛名! もっと堂々としないと!」

榛名「さすが比叡お姉さま……こういう場に慣れてますね……」

比叡「まっかせといて!」

金剛「オハヨーごじゃいマース! ワタシ、帰国子女の金剛デース!
ワタシのBURNING LOVE!! 皆さんに届いてマスかー?」


大尉(泊)「なっ……」

士官A「か、かわええ……!」

士官B「どういうことなんだ……あれが、カンムス……?」


士官達がどよめく。あの獰猛な深海棲艦に対抗するのがこんな可愛らしい
娘っ子だというのだから当然だ。


将官「諸君達が動揺するのもわかる! しかしこれが妖精さん達の
作った結果なのだから仕方がない!」

将官「しかし侮る事なかれ! その力は確かなものだ、既に外洋にて
深海棲艦の撃沈に成功している!」


士官B「ほんとかねぇ……あんな子たちが深海棲艦を撃沈したなんて、俄には
信じがたいぜ」

士官A「将官殿がああ仰っているのだからそうなんだろう! だったら
かわいいに越したことはないじゃないか! 何に文句があるんだ!」

士官B「……お前、それでいいのか……」


将官「今回は彼女達の力を直にその目で確かめてもらうべく……特例で
諸君らには彼女達艦娘の戦闘に随伴してもらう」

将官「本来ならば我々など彼女達の戦闘の邪魔にしかならない所を
特別にだ! そこをよぉく理解して、心に留めておくように!」


こうして我々は船に乗せられ、艦娘達と共に海へ出た。
未だに半信半疑の者。物珍しさに興奮する者。可愛ければよしとする者。
様々な思いを乗せ、船は深海棲艦が出没するという海域へと進む。


――深海棲艦出没海域――


比叡「水上機より入電! 敵艦発見!」

金剛「早速お出ましデスカー? いえーす! ワタシ達の晴れ舞台、
見ててくださいネー!」

榛名「榛名! 頑張ります!」


大尉(泊)「お、いよいよ始まるか……」

士官B「お手並み拝見と参りますか……」

士官A「あんなか弱い女の子達をあの危険な深海棲艦共と戦わせるなんて……」

誰だってそう思うだろう。私もそう思ったさ。
しかしそれは杞憂だった。


金剛「全砲門! Fire~!」

榛名「主砲! 副砲! 斉射です!」

比叡「まかせて! 撃ちます!!」


華奢な少女達の背負う艤装は凄まじい爆音と共に砲弾を撃ちだし、
深海棲艦に無慈悲な砲撃を浴びせる。


金剛「ヘイヘイヘーイ! これでfinish? なわけないでショ~!」


その時私は、戦う彼女達を見て不覚にも、


美しいと思った。


深海棲艦……"イ級"を始めとした"ロ級""ハ級"は瞬く間に殲滅される。
後に残ったものは立ち上る黒煙と軍人達の歓声だった。


榛名「凄い歓声です……」

金剛「ありがとごじゃいマース! ありがとごじゃいマース!」

比叡「あはは~この程度、当然ですよ! 当然!」


こうして我々の中に彼女達の力を疑う者はいなくなった。
これから艦娘という存在は徐々に認知されていき、
受け入れられていくことになるだろう。

しかし……何故妖精達は単なる兵器ではなく、艦娘を作ったのか
……それが謎だ。

[指揮官]

先日、晴れて私は大佐に昇格した。それにより、私は初めて艦娘達の指揮という
任に就く。艦娘の登場より早三年、時が立つのは早いものだ。まさかこんなに早く
艦娘の指揮を執ることになるとは……。
まぁ指揮と言っても私が指揮するのは駆逐隊。駆逐艦の艦娘は皆見た目が幼く、
私が結婚をしていたのならばちょうど娘に当たる年齢に見えなくもない。

……娘か、良い響きだ。いつか娘が欲しいものだ……。


皐月「君があの有名な特型駆逐艦の一番艦って、ちょっと信じられないよね」

望月「なんつーか、地味だねぇ」

若葉「地味だな」

吹雪「地味って……私、世界を震撼させた特型駆逐艦の一番艦なんですよ!?」

弥生「駆逐艦に派手さは必要ありません……から」

如月「全くそれじゃ駄目よ~弥生。せっかく艦娘として生まれたんだから、
女も磨かなくちゃ」

弥生「如月は髪を気にしすぎです。戦闘中にも気にするのは……」

如月「髪は女の命でしょう?」

弥生「……どう思います、指揮官」

指揮官(泊地提督)「ま、アレだ……如月、戦闘中は戦いに集中しなさい。
よそ見してて怪我をしてしまったら元も子もない」

如月「うふっ……指揮官ったら如月のこと子供扱いして。気付いてないのかしら
……如月、もう子供じゃないのよ? ほら、見てよこの肌。このしなやかなボディライン」

指揮官(泊)「しゃ、洒落にならなくなるからやめなさい」

如月「あなたと、燃え上がるような一夜も悪くないって思ったんだけど?」

吹雪「な、何を言ってるんですか! 破廉恥! 破廉恥ですよ」

睦月「指揮官顔真っ赤っ赤~っ! にゃはは!」


駆逐艦の艦娘は個性豊かで様々な個体がいる。しかしひと度戦闘に入れば彼女達も
立派な軍艦、深海棲艦に勇敢に立ち向かう姿は頼もしい限りだ。



金剛「皆さんおはよーごじゃいマース! 今日も張り切ってまいりまショウ!」

若葉「む、あれは東方艦隊か」

吹雪「我が軍の中核を担う連合艦隊、その中から選りすぐりの艦娘を
集めて編成されたと言われる東方艦隊! 私もいつか所属してみたいですね~」

弥生「……私は、いいです。東方艦隊より、今の部隊の方が私にはあってます、から」

指揮官(泊)「東方艦隊か……戦艦を主軸とした東方海域制圧部隊……」


当初は東方海域のシーレーン確保の為に編成された部隊だが、未だに敵勢力を
駆逐できずにいるのが現状だ。それどころか敵の戦力は増す一方だと聞く。
かつてあれほど一方的な戦いを見せていた金剛型戦艦達も、最近では五分の戦いが多いらしい。

恐ろしいのが"エリート級"と呼ばれる上位の深海棲艦の登場だ。これには手を焼いていると、
上官が呟いていた。艦娘がいれば深海棲艦などなんとかなると軍令部は楽観視していたようだが、
……そううまくいくはずがないのだ。

金剛「……!」

指揮官(泊)「……?」

金剛「……ニコッ」フリフリ

指揮官(泊)「……お、おぉ……?」


金剛が私に向かって手を振っている。鎮守府内では何度か会っているものの、
私のような掃いて捨てるほどいる有象無象の内の一人を覚えていてくれているのだろうか?
どうだろうな?
とりあえず私は手を振り返した。彼女は眩しいくらいの笑顔で応えると、そうそうたる東方艦隊の
艦娘達を引き連れて去っていく。

……彼女達のような少女を戦場に送るのは、未だに抵抗がある。
しかし我々には今のところ彼女達しか深海棲艦に対抗する手段がない。
ならば私ができる事は……最善の指揮を執り、彼女達を無事生かして帰還させることだ。
私は私のできる事を成す。


若葉「指揮官。出撃はまだか」

指揮官(泊)「まぁそう急かすんじゃあない。これより本作戦の概要を説明する」


目の前のことからコツコツと。積み重ねが大事なのだ。

[航空戦力の時代]

近頃は前線も調子が良いらしく、連戦連勝の日々が続く。
戦線も安定し、脅威に思われたエリート級にも対応できるようになった。
やはり、空母が投入されたのが大きかったのだろうか。

我が鎮守府の艦隊長官である元帥……、実はあの人にはかつて色々お世話に
なっていたことがあるのだが、その話は置いといて、あの人は根っからの大艦巨砲主義者だ。
一応空母が重要ということは理解しているだろうが……やはり戦艦に重きを置くのだろう。
(私がかなり失礼な発言をしていることは、この場を以って謝罪する次第である)
正直な所、あの人は戦術においては凡才だ。いや、彼の能力は決して低くないし、
元帥に相応な指揮能力は持ち合わせているだろう。
誤解しないでいただきたいが、私に彼を貶める意図はない。
寧ろ恩義さえ感じている位だ。だからこそなのだ、私はあの人が心配だ。
肥大化した権力は良からぬものを惹きつける。そこが怖い。

……話が逸れたが、私はこの空母の艦娘の登場に期待している。
空母は戦艦よりも遥か遠くより攻撃を仕掛けることができる。
これは相当なアドバンテージとなる。現在確認されている
暫定戦艦級深海棲艦"ル級"も空母の前には手も足も出ないだろう。

期待の新造艦、空母。……彼女達もまた、一癖も二癖もある艦娘な事には違いないのだが……。


指揮官(泊)(あれは……噂の空母の艦娘か。お食事中のようではあるが……)


赤城「めし、めし……うまっ……うまっ……!」

加賀「赤城さん、もうその辺にしておいた方が……」

赤城「命短し食せよ乙女、ですよ加賀さん!」

加賀「そんなに食べてると食いしん坊キャラとして定着しかねませんよ」

加賀「もしそうなったら、一航戦の誇りが……」

赤城「大丈夫大丈夫、私達、空母よ? 今や空母は艦隊になくてはならない存在
華々しい私達の活躍を前に、食いしん坊のイメージなんて弱い弱い。
皆さんの頭に残っているのは頼もしい空母のイメージだけ!」

加賀「はぁ……赤城さん、そんなこと言っていると……」

鳳翔「……でも最近、お肉、ついてきたのではないですか?」

赤城「え?」

鳳翔「ほらこんなに」グニ

赤城「ひゃうぅ!?」

鳳翔「こんなだらしない……三・段・式・甲・板!
……こんなお腹じゃ、示しがつきませんよ?」

赤城「うっ……」


長門「む、何だ赤城その腹は! たるんでいるぞ! 私のこの割れた腹筋を見習え!!」

加賀「赤城さんのぷにぷにのお腹も好きですよ、私」

赤城「い、一航戦の誇り……こんなところで失うわけには……!」


指揮官(泊)(中々に個性的な艦娘達だ……)

山城「……あんな大飯食らいが何故チヤホヤされているのか……おかしいとは思わない?」

指揮官(泊)「ギャッ!」

山城「何よ、人の顔見るなりそんな声出して……こんな男にさえも恐れられるほど
ひどい顔してるのかしら、私って。ああ、不幸だわ……」

指揮官(泊)「いや別にそんな事は無いよ君ィ。寧ろべっぴんさんだと私は思うがね」

山城「……こんなおっさんにべっぴんさんとかいう年寄り臭い褒め言葉で
口説かれるなんて、やっぱり不幸だわ」

指揮官(泊)「口説いてない口説いてない」

山城「ふっ……そうよね。こんな幸薄い艦娘が口説かれる訳ないわよね……」

指揮官(泊)(めんどくさいぞコレぇ!)

扶桑「めんどくさいかもしれないけれど~、うちの妹、山城を嫌いにならないで
あげてくださいね」

指揮官(泊)「ぴゃ!?」

扶桑「そんなに驚かなくったって……」

指揮官(泊)「君達はアレかな、背後から忍び寄る習性でもあるのかな?」

山城「扶桑姉さまが地縛霊みたいな空気醸してるからって幽霊呼ばわりはどうなのよ!」

扶桑「山城、この人、そんなこと言ってないけれど……」

指揮官(泊)「……君達は確か、扶桑型戦艦姉妹だったな」

山城「不幸型戦艦とか言ったら呪い殺すわよ」

指揮官(泊)「君は一体何なんだ」

扶桑「すみません、山城ったら空母がちやほやされるのが羨ましいみたいで……」

山城「そ、そんなんじゃありませんから!」

指揮官(泊)「航空機の時代だからなぁ……」

山城「……はぁ、やっぱりそうなのね。今からでも空母に改装できないかしら……」

指揮官(泊)「そりゃ無茶だと思うがね……」

扶桑「どうかしらぁ……? もしかしたら、私達も航空戦力を持つことが
できるかもしれないわよ、山城」


山城「えっ……?」


扶桑「あなたは忘れているわね……航空戦艦という存在を!」

山城「航空戦艦……!?」

扶桑「そう、戦艦の砲戦と空母の航空力を兼ね備えた無敵の戦艦
……私達はその可能性を秘めているの!」

山城「戦艦と空母の力を兼ね備えたって……それ無敵じゃないですか、姉さま!!」

扶桑「そう、そして最強の水上機……瑞雲を積むことができる!」

山城「ひゃ、ひゃああ~~~!」ガクガク(腰が抜ける音)

扶桑「航空戦艦イズジャスティス!」


指揮官(泊)(航空戦艦は器用貧乏になるような気がせんでもないが……)


そもそも彼女達はその、航空戦艦とやらに改装してもらえるのだろうか……?


[戦力の拡大]

味方の戦力が充実していくというのはいいことだ。しかしそれは同時に
そうせざるを得ない状況になりつつあるということでもある。
先の海戦では、エリート級の更に上"フラグシップ級"なる深海棲艦が確認された。
こいつの登場により海域攻略は一気に停滞。何とか南西諸島海域までは
制圧できたものの、この先も今までと同じように行くとは思えない。

にも関わらず、軍令部は北方と西方を同時に攻略するなどという無謀な方針を打ち出す。
南西諸島海域制圧完了で慢心しているのだろうか……?
東方艦隊にだって余力はあまりないというのに軽率だ。
余裕がなければ無理が出る……当然の帰結だ。そのしわ寄せは確実にどこかに現れる。


58「ぷはぁ~、今日も働いたでち! でちでち!」

19「早くベットで休むのね」

8「シュトーレンはやく! なにやってんの!」

168「スマホスマホスマホ……(禁断症状)」

指揮官(潜水部隊)「帰ってきたばかりで悪いんだけれど」

指揮官(潜)「もう一度出撃してくれないかな」

58「……ほんと、笑わせてくれるでち」

指揮官(潜)「大丈夫、後一回出撃できるわ!」

19「このクソアマ……自分が何言ってるのかわかってるの?」

168「指揮官……私達、ここ最近ずっと出ずっぱりよ? そろそろ休まないと……」

指揮官(潜)「わかっているわ。でも、今戦線を維持する為にはあなた達の働きが
必要なのよ……」

58「はっ、まるゆにでも潜らせておけばいいでち! ごーやは断固として出撃を拒否するでち!」

指揮官(潜)「悪いと思ってるんだよ……この山を越えたらいくらでも休ませてあげるから……」

58「そーやってどれだけの潜水艦を騙してきたんでちか! 自分は散々悪い男に騙されてるっていうのに!」

指揮官(潜)「……おいこらゴーヤァ……てめ、人が下手に出りゃ調子づきやがって……」

58「!!」ビクゥ

指揮官(潜)「オラゴーヤァ! 言うこと聞かねーとテメーの格納庫にぶっとい酸素魚雷ぶち込んで
文字通り潜母にすんぞゴラァ!」

58「お、オニでち! おにちくがいるでち!」


指揮官(潜)「つべこべ言わずに出撃しろオラァ!!!」


58「ひー!」ピュー

168「また、出撃なの……」

19「ブラック鎮守府なのね……」

8「長距離航海なら誰にも負けません(錯乱)」


とぼとぼ……


指揮官(潜)「……ふぅ、行ったわね」

指揮官(泊)「おやまぁ、大変そうですな……」

指揮官(潜)「あら、ごきげんよう」

指揮官(泊)「潜水艦の艦娘は変わり者が多い。まとめ上げるのにも苦労するでしょう?」

指揮官(潜)「……そんな苦労、あの子達の頑張りに比べたら……屁みたいなものです」

指揮官(潜)「本当はあの子達にもっとお休みをあげたいんですけどね……でも、ここが
踏ん張りどころなんです」

指揮官(潜)「戦線は今、彼女達によって支えられています。もし穴が開けば……そこから一気に
前線は崩れる……」

指揮官(泊)「潜水艦はあらゆる局面で活躍する艦種ですからね。上層部はいまいちそこを
理解できていない訳だ……」

指揮官(潜)「あんな連中に彼女達の素晴らしさは理解できないわ」

指揮官(潜)「彼女達は私の自慢の愛娘達。どんな艦娘にも引けは取らない」

指揮官(泊)「彼女達のこと、信頼しているようですね」

指揮官(潜)「ええ、あの子たちは私の誇り。でも、きっと私は嫌われているわ。
こんな指揮官だもの」

指揮官(泊)(戦況が好転すれば……潜水艦達を酷使せずに済むんだが……)


[栄光の連合艦隊]

大和という艦娘が今日、竣工した。彼女の存在は今まで一部の者しか知らなかった。
秘匿されていたのだ。私はもうある程度の地位に収まっているのでその存在は
それとなく知っていたが……実物を見るのは先日が初めてだった。
なんというか……、大艦巨砲主義を体現したかのような艦娘というのが第一印象だ。


大和「戦艦、大和! 聯合艦隊、出撃です!」

衣笠「おぉ~ついに来たね、大和型!」

青葉「さぁ大和さん! 艦娘になられた感想を一言!」

大和「あの、えっと……別にいいですけど」

日向「……ついに来てしまったか、大和型」

伊勢「どーしたのよ日向。仲間が増えるのはいいことじゃん」

日向「……ああ、そうだな。確かに良いことだ。だが気にしてしまうんだ
かつての戦争では……ここから大きく戦況が変わった」

日向「……杞憂で済めばいいが」


かつての戦争……艦娘達には、この世界ではない別の世界の記憶があるらしく、
特にそこで行われた戦争についてはとても色濃く記憶が残っているらしい。
戦いから戦いへ……終わることのない戦禍の中に駆り出される彼女達の運命には
少なからず同情の目を向けてしまう。


白露「白露以下白露型駆逐艦四隻、駆逐艦・夕立の大破により帰還しました!」

夕立「もーばかー!これじゃあ戦えないっぽい~」

時雨「これはもう、しばらく東方艦隊には戻れないかな……」

村雨「はいはーい! けが人が通るよー? 道開けてぇー!」

ドン

電「はわわ!?」深雪「うわっ!?」


どっしーん!


深雪「死ーん」

電「あいたたた……村雨さんに押されてぶつかっちゃったのです……」

天龍「もはやお家芸だなこれは」

叢雲「全く、アンタ達何回ぶつかる気よ……」

電「無論、死ぬまで」

天龍「洒落になってねーからな、それ」


川内「さぁ、今日も夜戦だーー!!」

天龍「うお、なんだなんだ?」

那珂「那珂ちゃんとオールナイトだよ? きゃは!」

神通「この姉妹疲かれる……」

熊野「どこかの馬鹿が、騒いでいますわね」

鈴谷「それより今日はどこいく? 熊野」

熊野「あなた、また抜け出すつもりですの……?」

千代田「私も千歳おねぇと夜戦!!」

千歳「空母は夜戦できません」

隼鷹「冷静かっ」

飛龍「……それじゃあ瑞鳳の胸と龍驤の胸……どちらがより成長するか賭けましょうか!」

加賀「なんでそんなくだらない賭け……」

蒼龍「龍驤に500ボーキ」

赤城「私はその倍賭けるわ!」

加賀「赤城さん!?」

飛龍「さぁさぁ、加賀はどうするの!?」

加賀「……200ボーキ、瑞鳳に」

飛龍「じゃあ私はどっちも成長しないに10000ボーキでどうよっ!」

赤城「ちょ、そんなのあり!?」

飛龍「できないとは言ってないからねぇ……ふっふっふ」

加賀「頭にきました」

龍驤「ちょっと君達ィ! 人の胸で賭け事すんのやめてくれない!?」

瑞鳳「ていうか、どっちも成長しないってどういうこと!?」

赤城「安心してください。私が勝つ為に、龍驤……あなたの胸を大きくしてあげます」ガタッ

加賀「なら私は瑞鳳ね……こうなったら意地でも大きくしてあげるわ。光栄に思いなさい」ガタッ

龍驤「ちょ、目が怖いって」

瑞鳳「や、んあ!? 格納庫弄るのやめてってば!!」


金剛「……艦娘もずいぶん増えて、ここも賑やかになったネー
アナタも、そうは思いまセンカ?」


指揮官(泊)「……最初の頃は、金剛型だけだった。ここ数年で随分と増えなすって」

金剛「もう……十年近くも前の事になりマス」

指揮官(泊)「時が経つのは早いもんだ。私は初めて見た君達の戦闘を昨日のことのように
思い出せる」

金剛「ワタシも思い出せマスよ? あの時のあなたの顔を」

指揮官(泊)「冗談はよしなさい。あの大勢の中で私の顔を覚えるなんて無理だろうに。
それどころか君と私はそれほど交流がある訳でもない、今でも私の顔がちゃんと覚えられて
いるのか心配になるくらいさ。……今日話せているのも、君の気まぐれだ」

金剛「モー! 疑り深い男は嫌われちゃうワヨ?」

金剛「あなたの目、その信念の篭った目。忘れる訳無いでショー?」

指揮官(泊)「私の目に、そんなものは宿っちゃあいない。私はただのしがないおっさんだ」

金剛「いいえ、あの時ワタシはあなたの瞳の奥に……光るものを見マシタ。
あなたになら……ワタシの……て、て……」

指揮官(泊)「て?」

金剛「うぅ、ええっと……! やっぱなんでもね~デース!」

霧島「……金剛お姉さま、いつもはグイグイといくのに肝心なところではヘタレですね」

比叡「そんな金剛お姉さまも、魅力的ですよ! グッと来ます! たまんねぇ!」

榛名「すみません、おじゃまでしたか?」

指揮官(泊)「全然邪魔ではないよ。君達と話すのは初めてだったな……」

榛名「そうですね……」

指揮官(泊)「前々から気になっていたんだが、霧島。君は何故艦娘お披露目のあの時いなかった?」

霧島「……前日に少し、トラブルが」

比叡「あの時機関が故障しちゃったのは、不運でしたね~」

指揮官(泊)「そうか、それは災難だったな……」

金剛「あの頃の霧島は色々空回りしてましたからネー。
マイクチェックしすぎて艤装壊しちゃうなんてェ、霧島ベリーキュートデース」

霧島「傷を掘り返すのはやめてください」


榛名「それにしても……不思議ですよね。こうしてまた皆さんとお会いできるなんて……」

比叡「かつては皆その想いを一つにして戦い、そして沈んでいった」

霧島「まさかこうしてもう一度お姉さま方とお会いできるなんて……」

金剛「それだけじゃありまセン。あの頃の皆と会えました。空母や駆逐艦、巡洋艦達も……」

金剛「ワタシはまた皆と会えて、嬉しいデース!」


扶桑「……でもそれは、再び私達が戦わなくてはならないことを意味するのよ……」


比叡「うわ! びっくりした! なーんだ、扶桑さんですか」

指揮官(泊)「相変わらず背後から現れるな君は……」

扶桑「私達は軍艦。戦う為に生まれた存在。それは艦娘になっても変わらないわ……」

金剛「モー何ネー。ワタシ達のティータイムに水刺さないでヨー!」

榛名「……扶桑さんは、そんなに戦いを望んでいるのですか?」

扶桑「そうよ。前はろくな戦いもできないまま沈んだのだから」

扶桑「今回は大丈夫。航空戦艦への改造も計画されているし……
もう以前のような欠陥戦艦ではなくなるの」

扶桑「今度こそ、軍艦としての勤めを果たせるわ」

榛名「……榛名は、あまり戦いは好きではありません」

指揮官(泊)「考えは人それぞれだ。ただ……どんな考えであれ、皆無事に母港へ
帰ってきてほしいとは思う」

指揮官(泊)「それ以上、私は何も望まんよ」

金剛「……」


金剛「……やっぱり、アナタがワタシのテートクに……」



[転機]

本日、鎮守府に急な知らせが届いた。胸騒ぎがした。何だか嫌な予感がすると
思っていた。そしてこういう時に限って、私の勘はよく当たるのだ……。

潜水部隊がやられた。兵器輸送任務の為に出撃していた彼女らは、まるで
待ち構えていたかのような対潜部隊に一網打尽にされたのだ。
部隊の被害は深刻で、無事に帰還できたのは伊8だけだった。


指揮官(潜)「……」

指揮官(泊)「……」


言葉が見つからなかった。私は彼女に何と声を掛けてやればよかったのだろう。


指揮官(潜)「……私のせいだ」

指揮官(潜)「私の無茶な命令のせいで、彼女達は……!」

指揮官(泊)「あまり自分を攻めるのは関心しない」

指揮官(潜)「だって、結局私は! ……結局私は、あの子たちをこき使うだけ
使って、沈めたのよ……?」

指揮官(潜)「捨て艦なんかよりももっとおぞましい……糾弾されるべき
外道の所業よ。私は決して許されてはいけない……」

指揮官(潜)「今でも彼女達の声が脳裏に焼き付いてる……沈んだ彼女達の
怨嗟の声……うあ……ああああああああああああああ!!」

指揮官(泊)「おい、ちょっと君……どうしたんだ?」

指揮官(潜)「ゴーヤの声が聞こえる……イクの声が聞こえる
……イムヤの声が聞こえる……!」


指揮官(潜)「皆の声が聞こえる! ははははは!!」


……間も無くして、彼女は部隊の指揮から外された。


艦娘を沈めた人間はこうも狂ってしまうのだろうか……?


[泊地]

戦禍はますます拡大し、敵も味方もより強大な力を貪欲に求めていった。
深海棲艦の数は増え続け、戦線は各地へと分散しつつある。

先日、私は少将の地位を得た。それに伴って私は何と、ある泊地の
司令官を命じられた。前線の泊地……激しい戦いが予想される海域に
少将になったばかりの人間を置いても良いものかと疑問に思ったが、
聞くところによると元帥氏の推薦があったのだという。
彼に期待されているというのは嬉しい半面、プレッシャーも大きかった。


――鎮守府・港――


泊地提督「……今日は泊地へ向かう日だ。同行する艦娘は確か……」


霧島「まさか、私達四姉妹が別れる日が来るなんて……」

金剛「仕方ないヨー。増え続ける深海棲艦と戦う為に、各地に艦娘を
分散させるっていうのが上の判断なんだカラー」

比叡「私! お姉さまと離れたくありません! うわああああん!」スリスリ

金剛「比叡は甘えん坊ネー!」

比叡「この神々しい太ももとお別れなんて……涙ァー!」スリスリスリスリ

霧島(ドサクサに紛れて金剛お姉さまの太ももを堪能してる……)

榛名「私も。比叡お姉さまや霧島と別れるの、辛いです」

霧島「しっかりと金剛お姉さまをサポートするのよ、榛名」

榛名「はい、榛名にお任せください!」

比叡「金剛お姉さまに悪い虫がつかないよう頼みますよ!」

榛名「は、はい……大丈夫です。榛名、頑張ります」

比叡「特にあそこの提督とか気をつけてくださいね」

榛名「え、ええ!?」

比叡「提督という立場を利用して金剛お姉さまにあんな事やこんなことを……はっ!」

比叡「そうだ、提督になろう!!!」

霧島「比叡お姉さま、自分が何を言っているのか理解していますか?」

金剛「ワタシは比叡が一番心配デース」

比叡「金剛お姉さまが心配してくださってる! 嬉しくて……涙ァー!」

霧島「やっすい涙だな」


提督(あの金剛を私が指揮することになるとは……世の中わからんものだ)


比叡「金剛お姉さまの太ももはマジ神ってるから……」

霧島「いや、知りませんが」

こうして金剛を始めとした沢山の艦娘達と共に、私は泊地へと向かったのだった。



――泊地――


飛龍「ここが……我が艦隊の拠点となる訳ね」

蒼龍「やだ、中々いい場所じゃない!」

加賀「悪くはないわね」

赤城「ご飯が美味しければどこでもいい!」

龍驤「まー、まだ中身見てみないしなぁ、何とも言えへんわ」

利根「うむ! 我が新天地としては申し分ない!」

筑摩「利根姉さんが満足なら、私も不服はありません」

五十鈴「ふぅん……いいんじゃない?」

天龍「おもいっきり暴れられるんなら、俺はどこだっていいぜー?」

木曾「と、遠征番長が仰っております」

天龍「おい! だれが遠征番長だってェ!?」

木曾「前線はオレに任せろぉ……お前は鼠輸送でもやってな」

天龍「なめやがって! ぶった切ってやる!」

龍田「も~天龍ちゃんってば返り討ちにされるの、わかってるでしょ~?」

天龍「龍田てめぇ!」

吹雪「け、喧嘩は駄目ですよ!」

電「なのです! 仲良くするのです!」

暁「みっともないわよ、レディーとして」

卯月「争うぴょん……もっと争うぴょん……!」

卯月「そしてもっとうーちゃんを楽しませるぴょん……!」

菊月「ククク……闘争こそが我が安寧……!」

雷「そこ、悪乗りしないの!」


金剛「素敵なマイホーム……賑やかなファミリー達……」

金剛「楽しい新婚生活になりそうデースね? ア・ナ・タ?」

提督「早々にめんどくさいなお前は」

金剛「あっ! 今ワタシの事をお前と言いましたネー!?」

提督「まぁ……これからは金剛は私の部下ということになるしな。
嫌だったのであれば改めんこともない」

金剛「お・ま・え……だなんて、女房かってー! ンモー! テートクー!」

提督「ちょっとこのテンションついていけないんだけど」

金剛「モー! テートクゥ! つれないデース!」

榛名「まぁまぁ、提督も長旅でお疲れなんですよ」

提督「榛名……お前はいい子だなぁ。うちの娘になるか?」

金剛「!? テートク! 榛名だけ贔屓なんてズルいデース!
ワタシも娘にしてクダサーイ!」

若葉「女房と言ったり娘と言ったり忙しいやつだ」

提督「全くだ……ってお前もこの泊地に配属されてたのか」

若葉「若葉だ。着任したぞ」

提督「……果たして本当に大丈夫なのだろうか、この泊地」

若葉「若葉がいる限り負けはないぞ」

提督「どっからくるの? 君のその自信……」


こうして前途多難な泊地生活は幕を開けた。



[最初の海戦]

我々が泊地に着任してから息つく暇もなく、最初の戦闘は訪れた。
深海棲艦が防衛圏内に出現したのだ。戦力は戦艦一隻と随伴艦。
もしかしたら空母がいるかもしれないとのことだが、数は少なく小隊程度だ。
対する泊地の戦力は金剛型戦艦二隻、空母五隻(空母が多めなのは私の希望だった)
利根型重巡二隻、天龍型軽巡二隻、球磨型一隻、睦月型駆逐艦三隻、吹雪型四隻、
暁型四隻、初春型一隻だ。
この中から私は討伐部隊として金剛、榛名、赤城、加賀、蒼龍、飛龍を向かわせることにした。

彼女達は私が考える今現在での最強の布陣だ。その力を確かめておきたかった。


――泊地・執務室――


提督「……金剛達は無事にやれているだろうか」

木曾「不安なのか?」

雷「大丈夫よ! 金剛さんたちならきっとやってくれるわ!」

利根「うむ、我が泊地の精鋭なのだからな!」

提督「金剛は艦娘の中でも一番のベテランだ。余程のことがない限り大丈夫だとは思うが……」


そうは言っても今までの部隊だけを指揮していた頃とは訳が違う。泊地の、最高責任者として
私は艦隊全体を指揮しているのだ。やはり責任の重さが違う。不安になるなという方が無理だ。
提督は戦場に赴かない。作戦を決めたら後は戦地に艦娘達を送るだけだ。
報告があるまで私はこうして艦娘達の無事を祈ることしかできない。
座して待つのがこんなにも辛いとは……いや、実際に戦闘を行っている艦娘達の方が
遥かにつらい思いをしているのだ。この程度……

と思っていると、金剛達から連絡が来た。


金剛『テートク!!!』

提督「金剛か、どうかしたのか」

金剛『なんでも艦娘とでもケッコンできる制度があるみたいデース!!!』

提督「だからなんだ」

金剛『モー……テートクゥ! そんなの……ワタシの口から言わせないでヨー!』

提督「切るぞ」

金剛『あーちょっとまってちょっと待って!』

加賀『全く……ちゃんと報告してください』

金剛『オゥ、ソーリーね。テートクゥ! 艦隊……』

榛名『艦隊、無事に作戦を遂行致しました』


金剛『先に榛名に言われたデース!?』

提督「そうか……やったか」

赤城『戦果の詳細は泊地に帰還してから報告いたします』

提督「それで……被害の方は」

赤城『全員、傷一つなく』

蒼龍『正直楽勝だったかな? なんて……』

飛龍『慢心はダメ絶対!』

提督「そうか……そうか……!」

提督「わかった。それじゃあお前達、さっさと帰って来なさい」

赤城『了解です』

提督「……ふぅ」

木曾「ふ……随分と不安だったようじゃないか」

叢雲「全く、小心者ね、アンタ」

利根「提督よ、もう少しどっしりと腰を構えんと、この先務まらぬぞ?」

雷「大丈夫よ司令官! これから慣れていけばいいんだから!」

提督「何だこの子!? 天使か……?」

雷「天使じゃないわ、雷よ! 司令官!」

提督「あぁ~^^」

提督「雷はいい子だなぁ。それに比べてお前達は……」

叢雲「何よ?」

木曾「なんだよ」

提督「……はぁ~」

利根「溜息!?」


こうして、泊地に着任してからの初めての海戦が終わった。
討伐隊に目立った損傷はなく、余裕を以って敵艦隊を撃破することができたという報告を
帰還した艦娘達から聞いた。まぁこうなるだろうと予想はしていたが……
やはり報告を聞くと安心する。

だが戦いはまだ始まったばかりなのだ。気を引き締めていかねばなるまい。


[白露型]

海域攻略も順調な今日このごろ、我が泊地に新しい艦娘が配属されることになった。
白露型駆逐艦……初春型の次の世代の駆逐艦だ。それが四隻、うちに配属される、
彼女達は元は東方艦隊の水雷戦隊に所属していたこともあったらしい。
その働きには期待できそうだ。


白露「白露型駆逐艦、一番艦白露です! はい、一番艦です!」

村雨「はいはーい!」

夕立「ぽいぽーい!」

時雨「君達、ちゃんと自己紹介してね……」

提督「中々個性的な面々じゃないか。ようこそ、我が泊地へ」

金剛「皆ひさしぶりネー!」

白露「お久しぶりです!」

榛名「今日から共に、この泊地で頑張りましょう!」

夕立「夕立! がんばるっぽい!」

時雨「きっと役に立ってみせるさ」

飛龍「では、今日は白露達の着任を祝って一杯やりましょうか」

提督「お前は毎日一杯やってるような気がしてならんが……」

飛龍「気のせい気のせい」

卯月「よく来たぴょん新入り共。ここのドンを務めている卯月だぴょん
明日から顎で使ってやるから覚悟しておくぴょん」

白露「ブフーッ! ぴょんって、ぴょんって!」

村雨「ウケるんですけどー」

卯月「なっ……ここにきて口調を小馬鹿にされるとは思わなかったぴょん……!
今までそんなことなかったぴょん……」

三日月「それは皆さんが優しい方だったからですよ、卯月姉さん。
気を使ってくださった皆さんに感謝しないといけないですね」

卯月「ぷっぷくぷー! ここで頭を下げたらうーちゃんが変な口調だって
ことを認めてしまうぴょん! それだけは絶対にしないぴょん!」

時雨「もうそれ殆ど認めてるようなものだよね……?」

天龍「お前らが新入りか。俺は天龍……フフ、怖いか?」

夕立「うわぁ、また変な人っぽい人が来たっぽい」


天龍「何が変なんだよおい……これか? 頭のこれか? でもそれなら
龍田のリングの方がもっと変……」

龍田「天龍ちゃあん? 姉妹艦いえど許容できないこともあるわよぉ?」ゴゴゴゴゴゴゴ……

天龍「なんだよ人の事変とか言っておきながら!」

龍田「天龍ちゃんは頭のそれとか関係なしに変だけど、私のこれは無くてはならない
かけがえのないアレなのよ~?」

天龍「初耳だよ! て言うかかけがえのないアレって抽象的すぎんだろ!」

木曾「これが我が泊地名物の天龍田漫才だ」

夕立「わー! 中々楽しませてくれる余興っぽい!」

村雨「もっと見せてもっと見せて~」

天龍「漫才じゃねえって!」


そんな訳で新たに来た白露達を、艦娘達は皆歓迎した。
こうしてまた少し、泊地が賑やかになったのだった。




[敵主力艦隊襲撃戦]

始めに言っておくが、この海戦は本当に危なかった。一歩間違えれば
取り返しの付かないことになっていただろう。
空母機動艦隊による快進撃。海域攻略は順調に進み、いよいよ敵の拠点とも
呼べる海域まで到達することができたのだが……我々はそこで新たな深海棲艦と遭遇する。

今までの深海棲艦とは一線を画する存在……私はこれを"鬼級"と呼ぶことにした。


赤城『!? 嘘……仕留め損なった!?』


事前の偵察により明らかになっていた敵拠点に空母によるアウトレンジでの
攻撃を仕掛ける。想定ではこの奇襲で敵の主力艦隊は壊滅する筈だった。
しかし……想定外の敵がいた。それが鬼級……今までとは違う深海棲艦だ。
利便上、ヤツのことは『泊地棲鬼』と呼ぶことにする。
泊地棲鬼の強さは凄まじく、我が空母機動艦隊は初めて、長期戦に持ち込まれた。


金剛『fu~……中々歯ごたえがある敵デスネー』

利根『悠長なことを言っている場合ではない!』

蒼龍『やだやだ被弾!? 痛いじゃない!』

赤城『!! 加賀さん! 敵の砲撃が!』

吹雪『守ります!』

加賀『吹雪!?』


ドッゴーーーン!!


駆逐艦 吹雪、大破。それを皮切りに艦隊の被害は徐々に広がっていく。
ここまで我が艦隊が敵に押されるのは初めてだった。だからといって
焦ってはいけない。


天龍『オラァ! 援軍の到着だー! さて、暴れるぜお前ら!』

響『ウラー!!』

夕立『さぁ、素敵なパーティしましょ!』

若葉『若葉だ。援軍だ』


こちらには十分な準備と、数の用意がある。落ち着いて戦えば
勝てない相手ではなかった。


金剛『ここからはワタシ達のステージデース!』


そして、歴戦の戦艦である金剛がいる。彼女なら冷静に戦況を見極め、
それに対応することができるだろう。


赤城『攻撃隊発艦! こんどこそ……終わりです!!』


泊地棲鬼「……!!!」



こうして、何隻か大破艦を出しつつも……我々は見事泊地棲鬼を打ち破った。



――泊地・修理ドック――


提督「吹雪、大丈夫か?」

吹雪「はい! この程度すぐに治ります!」

赤城「治るからと言って、またあんな無茶をされては困まりますよ? 吹雪」

吹雪「す、すみません……」

加賀「だけど、あなたのお陰で私は航空機発艦能力を失わずに
敵を倒すことが出来た。……そこは感謝しているわ」

提督「まぁ何より、皆無事に帰ってこれたのだ。これに勝る戦果はない」

吹雪「……はい!」

利根「さて、しみったれた空気はそこまでじゃ!」

筑摩「今宵は大海戦の勝利及び敵深海棲艦の主力撃破を祝って、パーティです。
お食事の準備もできていますよ?」

木曾「祝勝会だ。今日ばかりは無礼講、ハメを外してもいいゾォ!」

赤城「そう言われてみれば、どこからともなく美味しそうな匂いが……
加賀さん、参りましょうか」キリッ

加賀(出た……赤城さんの一航戦モード……
決戦に備えた時の赤城さんの眼だわ……!)

提督「全く、お前達は食い気ばかりじゃあないか」

赤城「花よりボーキ」


その日の夜は、我が艦隊の大勝を祝って祝勝会が行われた。

――泊地・大広間――


夕立「ん~! 真に美味っぽい!」

三日月「本当に美味しいです。この料理、雷さんが作ったんですよね?」

雷「そうよ! まだまだ沢山あるから、もーっとおかわりしてもいいのよ?」

白露「一番最初におかわりするよ!」

利根「これこれ、そう慌てずとも料理は逃げぬぞ?」

提督「これは驚いたな……雷ちゃんがこんなに料理上手だったとはね……
やはり天使か」

暁「司令官! あ、暁も手伝ったのよ!?」

響「野菜の皮むきをね」

暁「きー! 響は余計な事言わなくてもいいのー!」

電「電も頑張ったのです。雷ちゃんほどじゃないけど……」

卯月「しれいかぁ~ん! うーちゃん、ちょっと酔ってきちゃったぴょ~ん」

提督「睦月型はウーロン茶で酔うのかな」

卯月「なーんて……隙あり! ぴょん!」

ヒョイパクー

提督「あっ、こら! 盗み食いは行儀が悪いからやめなさい」

卯月「しれぇかんのお稲荷さん美味しかったぴょん」モグモグ

暁「司令官の、おいなりさん……!?」

提督「ん? 暁ちゃんは今何を想像したのかな?」

暁「え!? べ、別になんでもないわよ!」

提督「私のお稲荷さんの事を考えたんじゃあないかな?
全く、そういう知識だけは一人前のレディーのようだな」

龍驤「キミィ、何かそれ……エロ同人の台詞みたいやで」

龍田「ウフフフフ……駆逐艦に手を出すのは禁止されています~」

叢雲「私の前を遮るロリコンめ! 沈め!」

提督「ちょっとしたジョークだというのに、お前達は容赦がなさすぎや
しないかね?」

叢雲「ロリコン相手にはこれくらいでいいのよ!」

初雪「と言いつつ……、内心自分もストライクゾーンに入っている事に安堵する
叢雲であった……」

叢雲「なっ」


磯波「典型的ツンデレなんですねぇ」

初雪「ツンデレとか面倒くさい……」

叢雲「好き勝手言わないでよ!」

提督(やっぱり駆逐艦っていいなぁ……)

天龍「おいおい、駆逐艦ばっかと戯れてっと本当にロリコン認定しちまうぞ~」

提督「それは失礼というものよ。お前だって駆逐艦とばかり絡んでるじゃないか」

天龍「好きで絡んでる訳じゃね~し。構ってやってんだよ。お前と一緒にすんな」

提督「天龍ちゃんってば、素直じゃないのねぇ~、ウフフ……」

龍田「それは誰の真似ですか~?」ツンツン

提督「龍田、刃が当たってる刃が当たってる」

筑摩「おや、空母の皆さんが何かを始めるようですよ……」

提督「アレは何を持ってるんだ? ……ダーツか」


飛龍「この賭け、乗った! 負けた方が間宮一回おごりで、どうよ!」



蒼龍「そんな大口叩いて、私知らないよ」

加賀「愚かね飛龍。一航戦の私達に戦いを挑むとは……匹夫の勇と知りなさい」

赤城「ククク……理屈じゃねぇんだ、加賀さん」

蒼龍「……む、加賀さんってば二航戦のこと舐めてない?」

飛龍「慢心していると痛い目を見るわよ?」

加賀「安心なさい。慢心なんてしないわ、真っ向から全力で叩き潰してあげる」

飛龍「言ってくれるじゃないっ」

蒼龍「それじゃあどっちから投げる?」

加賀「先攻は譲ってあげるわ」

蒼龍「ふ~ん……そっか。それじゃあ、遠慮無く! いっちゃいますよ!!」


蒼龍、第一投目!!



蒼龍「あちゃー、ど真ん中はいかなかったかぁ」

龍驤「いや、ほとんどド真ん中やん。100点やで」

飛龍「蒼龍、少し調子悪いんじゃない?」

蒼龍「そうかも!」

龍驤「自分ら偉いドヤ顔やん……」

加賀「ま、正規空母なだけはありますね。しかしその力をひけらかす
ようではまだまだ。見てください、赤城さんのあの集中っぷりを」


赤城「コオォォ……!」


龍驤「なんか赤城、波紋の呼吸みたいなのしとるで……」

加賀「目覚めさせてしまったわね、赤城さんの中の一航戦を。
間宮を賭けるなんて言わなければ目覚めることもなかったというのに……」

龍驤「そんなんで目覚めてええんか? 一航戦……」

赤城「では、いきます……」


赤城「黒毛和牛!!」


龍驤「集中どころかめっちゃ別のこと考えてるやないかキミィ!」


赤城、第一投目!!


龍驤「! ど、ド真ん中や!」

加賀「ふっ……流石ね、赤城さん。一航戦の名に恥じぬ結果です」

蒼龍「ま、今のところは同点ね、今のところは……」

飛龍「次は私の番ですね」

飛龍「実は私、ダーツやるの初めてなんだよね」

蒼龍「え、何でそれで賭けしようと思ったの!? 馬鹿なの!?」

飛龍「なんかよくわからないけどイケると思ったからね。
へのつっぱりはいらんですよ」

蒼龍「な、なんだかよくわからないけどすごい自信だ……」

飛龍「では二航戦! いきます!」


飛龍第一投目!


飛龍「あぁ!? 明後日の方向に!!」

加賀「ふふ……0点確定ですね」

蒼龍「やだやだ! 何やってるのよもう!」

赤城「!! ……来たぜ、ぬるりと」


その時、不思議なことが起こった。
明後日の方向へ飛んでいったダーツの矢は偶然にも泥酔中の
五十鈴の元へと飛んでいき……


五十鈴「これが五十鈴の力よ!」ブルンブルンバチンバチン

時雨「うわぁ……五十鈴、君……酔うととんでもないことになるんだね」


そしてたまたま五十鈴が酔った時にのみ見せるおっぱいサンバの真っ只中に
飛び込んでいった。五十鈴の超弩級胸部装甲が飛んできたダーツを弾く!
ダーツはそのまま的に飛んでいき……的に刺さる!


蒼龍「うそ……当たった!?」

龍驤「……んなアホな……」

飛龍「どうよ! 80点!」

加賀「いやいやいや、何ですか今のは。あんなの無効です」


赤城「いや、運も実力の内……ここは認めましょう」


飛龍「よっし!」

加賀「!? 赤城さん!? どうして!」

赤城「……加賀さん、あなたはこの程度で狼狽える人じゃないでしょう?」

赤城「あなたなら100点を取る。何も問題はありません」

加賀「……そうでしたね」

提督「お前は加賀を随分と信頼しているようだな、赤城」

赤城「おや提督。いらしてたんですか」

提督「見てたら少し気になりだしてねぇ。次投げるのは加賀か」


加賀「そうよ。一航戦の力、お見せしましょう」


赤城「加賀さん……頼んだわよ」

加賀「はい……では」


加賀「いきます……!」グッ(例のあの構え)


提督「!?」

飛龍「ちょw加賀さん何そのポーズww」

蒼龍「え!? え!? ……加賀さん!?」

加賀「……何か?」

蒼龍「いや、何かって……」

提督「おい加賀ちゃんw君初心者!?w いや初心者にしたってそのポーズは
おかしかねぇかw」

飛龍「何で片足上げてるの!?wwwww」

加賀「……やはり愚かね、あなた達は。目に映る物が全てではないのよ……?」


加賀「鎧袖一触です」


蒼龍「!?」


加賀の投げたダーツの矢は、凄まじい速度を伴って、
先に刺さっていた蒼龍の矢を粉々にし、突き刺さった。


飛龍「」

提督「ぐうの音も出ねぇ」

加賀「どう? これが一航戦の力です」

龍驤「一航戦って、なんなんやろうな」

赤城「これで私達のリードね」

飛龍「なんの! ここからが本番です!」

蒼龍「いや、何かもう無謀な気が……」

加賀「いいわ……やるからには徹底的でないと面白くありません」


その後も白熱した戦いが繰り広げられたが、加賀の独特なフォームによる
投射は全て正確に的を居抜き、結果としてそれが埋めようのない差となった。



加賀「やりました」


終わってみれば一航戦の勝利。


飛龍「嘘!? 負けた!?」

蒼龍「言わんこっちゃない……」

加賀「YARIMASITA」

赤城「間宮……わかっていますね?」

蒼龍「うう……飛龍、いくら持ってる?」

飛龍「たはは……今はちょっと手持ちが……今度必ずおごるからっ! 約束するって!」

加賀「……その言葉、信じていいのかしら?」

飛龍「二航戦に二言はない! そうよね蒼龍!?」

蒼龍「二航戦だからこそ二言があって欲しい!」

提督(それにしても、加賀の構えには驚かされたなぁ…………ん?)

提督(あれは、金剛か。彼女の性格なら、こういう場で進んでははしゃいでいる
筈なのに……屋外で一人なんてどうかしたのかねぇ?)



――泊地・バルコニー――


提督「金剛。そんな所で何をやっているんだよう。こっちへ来て
皆で勝利の美酒に酔いしれようじゃあないの」

金剛「テートク……」

提督「どうしたんだ、冴えない顔して」

金剛「テートク。今回の海戦、どう思われマスか……?」

提督「何を言い出すのかと思えば……我が艦隊の大勝利じゃあないか」

金剛「はい、確かにワタシ達は勝利しました。デスが……危うい勝利でした」

提督「……」

金剛「こんな戦いが続けば……いずれ……」


金剛の言わんとしていることはわかる。確かに……"今回は"大丈夫だった。
しかしこの先、鬼級と同等、もしくはそれ以上の敵がどんどん現れたとして
……我々は勝ち続けることができるのだろうか? 誰も沈めずに闘いぬくことができるのだろうか?

祝勝会で無理やり忘れようとしていた現実が、眼前にそびえ立つ。


……吹雪の大破がよっぽど応えたようだな、金剛も、私も。


金剛「ワタシは不安デス。ワタシ達はあんな敵と、これから戦い続けなければならない
と思うと……」


だからといって私が沈んでいては示しがつかん。彼女達の不安を払拭するのも
提督としての勤めだ。


提督「……お前らしくもない。金剛、確かに今回は危うい場面もあった……しかし
同時に私は必ずや皆無事に帰還できると信じていた。お前達の力を信じたんだ」

提督「そしてお前達は現にこうして帰ってこれた。お前達の力は、やはり
私の信じる通りのものだった」

提督「お前達の力は十分深海棲艦に通用する。私の指揮に至らぬところがない限り、
お前達は決して連中に負けはしないだろう」


提督「そして約束しよう。私が必ずや艦隊を勝利に導く。だから金剛、お前も
もっと自分の力を信じなさい」


金剛「テートク……もしかして、元気づけて、くれてマスか?」

提督「思ってても口に出しちゃあイカんよ君。そこはそれとなく察してくれんか?」

金剛「フフ……やっぱりテートクはワタシの見込んだ通りの男デース」

提督「見込まれてたのか……」

金剛「テートクにこれだけ信頼されちゃ、ワタシ、もっと頑張りたくなっちゃいマース!」

金剛「テートク! ワタシ、沢山活躍するから! 目を離しちゃ、NOなんだからネー!」

提督(復活したか……)


金剛が元気になって何よりだ。がしかし、彼女の抱いていた懸念は少なからず私の中にも存在する。


問題は山積みだ……さて、どうしたものか。

[出会いと別れ]

以前の海戦で確保した拠点に新たな泊地を設けるに伴って、各地の艦隊を再編することになった。
我が泊地は前線に位置する。故により手強くなっていく深海棲艦に対応していかなくてはならない。
戦力の増強、特に航空戦力の強化は予てより打診していたので、この機会に大幅な強化が予想される。
新鋭機の配属も期待できるだろう。
しかし入っていくばかりではない。艦隊再編ということは、今まで我が泊地で共に戦ってきた艦娘も
何人か他の艦隊に配属されてしまうということだ。既に二航戦の蒼龍・飛龍。利根型の筑摩。
睦月型の卯月・菊月・三日月は新設された泊地の艦隊への編入が決まっている。
また、軽巡の龍田や駆逐艦の暁・響は本土の部隊に編入されるようだし、
重巡の利根は改装の為本土へ戻る。

大幅に入れ替わる泊地艦隊。艦娘達は皆別れを惜しんでいた……。


赤城「さらなる前線への転任ですか……大変ですね、あなた達も」

蒼龍「いやほんとに……」

飛龍「まっ、二航戦の活躍にこうご期待ってことで! ねっ?
あ、ふたりとも慢心はダメ、ぜったい! だからね?」

加賀「……言われなくとも、理解はしているわ」

赤城「本当に、あっちでも元気でね。戦いが落ち着いたら、どこかご飯でも
食べに行きましょう」

加賀「まだ間宮奢ってもらっていないですからね」

赤城「そうですとも!」

蒼龍「ま、まだ覚えてたかそれ……」


卯月「さぁみんな、新天地へと赴くうーちゃんを盛大に送り出すぴょん!!」

雷「寂しくなるわね……三日月」

村雨「しっかりもののあなたがいなくなると、こっちも寂しくなっちゃう~!」

吹雪「三日月さん! あちらでもがんばってくださいね!」

三日月「はい! 皆さん、ありがとうございます」

卯月「なんでみんな三日月ばかり!?」

三日月「これが人徳の差です」

菊月「ククク……この菊月、常に孤高よ……」

卯月「こんな中二病と同じ扱いなんて嫌ぴょん!!」


叢雲「……しょうがないわね、全く。安心なさい、ちょっとした冗談よ」

電「菊月さんも卯月さんもファイトなのです!」

菊月「声援に応えるのも、悪く無い……か」

卯月「ぷっぷくぷー! 最初からそう言ってればよかったぴょん!」


卯月「卯月、新しい泊地でもがんばりまぁ~す!!」


天龍「……龍田、本土の守りは、頼んだぞ」

龍田「あら~、私ただの軽巡よ~? そういうのは戦艦とか空母とかにお任せします~」

天龍「お前は俺の妹だ。いわば俺と同等の力を持っている訳だ」

天龍「つまりだ、空母や戦艦と並ぶ実力を秘めている筈だ! いいか龍田、軽巡なんて
枠に収まってんじゃあねーぞ? お前の力、ガツンと連中に見せてやれ!」

龍田「もう~天龍ちゃんったら……そんなこと言われたら、龍田、少し頑張っちゃうかもね~?」

天龍「それとこいつらのことも頼むぞ。一緒に本土の部隊に配属されるみたいだからな」

響「そうだね」

暁「激しい戦闘にばかり駆り出されて、困っちゃうわ」

電「暁ちゃん、響ちゃん……離れるのは寂しいよ」

雷「私達っていつも一緒だったからね……」

暁「な、何言ってるのよ二人共。そんなことでくよくよしてちゃ、
一人前のレディーにはなれないわよ!?」

響「二人共……」


ぎゅっ


雷「わわ!? 響、いきなりどうしたの!?」

電「響ちゃん……」

響「もう少しだけ、抱きしめさせてくれないか……二人のぬくもりを、
覚えていたいんだ……」

雷「響……」

暁「……」プルプル

暁「……もー! 暁だって寂しいんだからー! 暁も混ぜなさいよー!」

天龍「全く、我慢できないなら最初から素直になっとけっての」

龍田「ウフフ……」


利根「……提督よ、しばしの別れだな」

提督「利根型が抜けるのは、正直少し戦力的に痛いが……やむ得ん」

利根「安心せい、改装が終わったらすぐに戻ってくるぞ?」

筑摩「本当に、皆さんには姉さんともどもお世話になりました」

榛名「いえそんな、利根さんも筑摩さんもとても良く働いてくださいました」

金剛「向こうへ行っても、ワタシ達の絆は変わりまセーン!」

利根「筑摩よ、あっちでも気を抜かずにな」

筑摩「利根姉さんも、しっかりと改装してきてくださいね」


利根「今度会うときは航巡じゃ。座して待つが良い!!」


……こうして艦娘達は、それぞれの戦場へと旅立っていった。


それと入れ替わるように、新たな艦娘達が泊地へと着任する。


瑞鶴「五航戦瑞鶴です!」

翔鶴「五航戦、翔鶴です。転任した二航戦の先輩方の後任、しっかりと務めさせて頂きます」

加賀「五航戦……」

瑞鳳(あ……なんか空気が険悪に)

加賀「五航戦ごときに二航戦の代わりが務まると思って? 笑止」

瑞鶴「ど、どういう意味よそれ?」

加賀「言葉通りの意味よ」

瑞鶴「なななななな!」

赤城「はいはい! それじゃあ今日のところはこのくらいにしましょう!」

翔鶴「そ、そうですね~!」

龍驤「……先が思いやられるなぁこれ」



天龍「おー、何か初っ端から険悪なムードじゃねえかー」

五十鈴「……ホントに大丈夫なの? 心配なんだけど」

木曾「加賀はああいう奴だろう。今更何を言っても仕方がないさ」


日向「無敵の航空戦艦、日向だ。瑞雲ともどもよろしく頼む」

伊勢「ちょ、あたしの紹介はなし!?」

金剛「oh~……航空戦艦デスかー! これは心強いデースねー」

榛名「戦艦榛名です! これからよろしくおねがいしますね!」

伊勢「あ、よろしく~。あたしは航空戦艦・伊勢!」

最上「そして航空巡洋艦の最上だよ」

熊野「神戸生まれのおしゃれな航空巡洋艦、熊野ですわ~」

提督「こうしてみると、大分航空戦力が強化されたな……」

川内「航空戦だけじゃなくて、夜戦もね?」

五十鈴「あらあなた達、川内型ね」

神通「新しくこの泊地に着任します川内型軽巡洋艦・神通です」

川内「同じく川内型一番艦・川内! 軽巡の魅力、たっぷりと教えてあげる!
もちろん夜戦でね!」

提督「やべぇ……なんかエロい子が来た……」

天龍「エロイのはてめぇの脳内だけだ」


陽炎「陽炎型駆逐艦・一番艦陽炎! 本日より着任いたしましたー!」

不知火「同じく、二番艦、不知火」

黒潮「かったいやろこの子。この子の事は気軽に"ぬいぬい"って呼んだってなー?」

不知火「沈め」

初風「初風です。怖いものは妙高姐さんです。この泊地、妙高姐さんはいないわよね……?」

朝潮「朝潮型ネームシップ、朝潮です! 朝潮型の力、お見せします!」

大潮「クチクカンオオシオデス! チイサナカラダニオッキナギョライ! クチクカンオオシオデス!」

満潮「満潮よ。私、なんでこんな部隊に配属されたのかしら?」

荒潮「すきよぉ~?」

綾波「あはは……みなさん、個性が強いですね……あ、私、綾波型駆逐艦の綾波です」

提督「わぁ、駆逐艦がいっぱい」


金剛「もー! テートクは小さい子が来るとすぐこれデース!」

朝潮「あなたが司令官ですか?」

提督「いかにも。君は……朝潮ちゃんだね?」

朝潮「はい! この朝潮、司令官のご命令とあらばどんな戦場にも出撃します!」

提督「なんて健気な子なんだ……君達をそんな激しい戦場には決して送り出さんよ」

朝潮「お気遣いありがとうございます! ですが、私達は艦娘、そのような心配はご無用です!
どうぞなんなりとご命令を!」

提督「それじゃあ私の娘になってくれないか……?」

金剛「テートク!?」



こうして、顔ぶれも新たに、新・泊地艦隊の戦いの日々が始まった。



          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j 後編でち……

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  
        V`ゥrr-.rュイ人人    
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

始まります。

【提督日誌/後編】


[軍令部]

艦隊が再編されて少し経つが、新任の艦娘達も大分ここに馴染めているようだ。


加賀「翔鶴。この泊地では目玉焼きにソースをかけるのは禁忌とされているわ
今すぐそれ捨てなさい」

翔鶴「えぇ!?」

瑞鶴「ちょっとアンタ! 何めちゃくちゃなこと言ってんのよ! 翔鶴姉、
こんな奴の言うこと聞かなくていいからね」

加賀「新入りの癖にここのルールも守れないなんて、やはり五航戦ね」

瑞鶴「ぁんですって!?」

赤城「あら、でも意外とソースもイケるわね」ムシャムシャ


一部の艦娘の間で喧嘩が絶えないが、まぁ喧嘩する程なんとやらといった感じで、
私は暖かな目で見ている。

それは置いといて、先日、あの元帥殿から連絡があった。
間接的なやりとりはしていたものの、直に話すのは数年ぶりのことだった。


元帥『久しぶりであるな……提督君』

提督「お久しぶりです……」

元帥『そちらの泊地はどうかね、うまくやれているのかね?』

提督「まぁ、ぼちぼちですな……」

元帥『そうかね……』

提督「……それで、本日はどういったご用件で?」

元帥『何、久々に君と話をしたくなってな……』

提督「それだけじゃあ、ないでしょうに」

元帥『……鋭いな、君は』

提督「わかりますよ。あなたから直々に連絡が来るなんて」

元帥『……実はな、近々我が鎮守府は大規模な作戦行動に移行するつもりなのだよ』

提督「大規模な作戦……?」


元帥『"東方作戦"……軍令部はそう名づけた。第一艦隊で敵艦隊をおびき出し、
手薄になった敵本拠地を第二艦隊で攻めるという……まぁ簡単なアウトラインはこんな感じかね』

提督「おびき出す……」

元帥『……第一艦隊の旗艦は扶桑にやってもらおうと思っているのだ』

提督「扶桑……そういえば、彼女の航空戦艦への改装はなされたのですか?」

元帥『それは……軍令部が中々首を縦に振らなくてな』

提督「まさか、彼女を、第一艦隊を捨て駒にしようだなんて、考えてはいませんよね?」

元帥『……君は物怖じせずに目上の者にもズバズバと意見をいうのだな』

提督「彼女達は兵器ではありません、艦娘です」

元帥『軍令部の奴らは捨て駒にするつもりらしいがね。私は……彼女達を捨て駒にする気はない。
しかし……囮になってもらうことに変わりはない』

提督「あなたのらしくないやり方だ。何をそんなに急いでいるんです?」

元帥『君も気づいているだろう……深海棲艦、奴らの成長の早さを』

元帥『今はまだなんとか渡り合えている。しかし……奴らは果てしなく湧いてくる上に、
我々の予想を上回る早さで進化していっている……このままではまずい。私の勘がそう告げるのだ』


元帥『今! 叩ける時に叩いておかなければならぬのだよ! 我々は大きな分岐点に立たされている!
選択の時間はもうあまり残されてはいないのだ……!』


提督「それでも……賢明なやり方とは思えませんな」

元帥『君はまだ若い……しかし、私に残された時間は……そう長くはない』

提督「……ご病気ですか?」

元帥『いや、そんなことはない。この通りピンピンしておるわ』

提督「ならば何故……?」



元帥『なんとなくな、そんな気がするのだよ。私の勘がそう告げるのだ』



[陰り]

東方作戦は大成功だったと、大本営からの通達が来た。
……しかしこれがどうもきな臭い。これには『我東方艦隊深海棲艦泊地戦姫撃破二成功ス』
と書かれてはいるものの、こちらの被害は一切書かれていない。

……まさかとは思うが、囮となった第一艦隊は……。

胸騒ぎに駆られた私は元帥に連絡を取ろうとした、のだが一向に連絡がつかない。
それどころか、部署の人間もまるっきり変わってしまっているようで……
なんでも鎮守府の組織を再編している最中らしい……。
まるで話が見えてこない。一体今、鎮守府では何が起きているのだろうか……?


提督「……むう」

金剛「ヘイテートク! どーシタの? そんなに難しい顔してサー」

提督「いや、この前の東方作戦の通達が来たんだが……どうも様子が変でなぁ」

金剛「東方作戦の東方艦隊は……比叡達がいる艦隊……デス」

提督「あ……そ、そうだな。すまん、不安を煽るような事を言って。
でも安心しなさい、彼女達は今後の作戦行動にも含まれている。
ほら、ここに載っているだろう?」

提督(扶桑型がいないのは……いつも通りドックにいるからなのか、それとも……)

金剛「テートク……ワタシ、何か嫌な予感がしマス。この鎮守府……何か
信用できないデース」

提督「元帥の様子もおかしかったしな……杞憂で済めばいいんだがねぇ」


ガチャリ


瑞鶴「失礼します! 翔鶴姉! ほら気をつけて!」

翔鶴「提督、ただ今帰還しました……」

提督「翔鶴……どうしたんだ、そんな傷……」

翔鶴「私って、怪我しやすいので……すみません……少し入渠しますね……」

提督「あ、ああ、ゆっくり休みなさい……」

瑞鶴「それでは、失礼します!」


バタン


提督「……ありゃ暫く前線は無理だな。一体……どういうことだ。」


そういえば以前、元帥は深海棲艦の成長の早さを指摘していたな。
それをこんなに早く実感する日が来ようとは……。
つまるところ、我が艦隊はその力を増す敵艦隊に手こずり、中々海域を制圧できずにいる。
こちらは戦力を大幅に強化したはずなのだが……奴らはもうこちらに追いついたとでも言うのだろうか?
ならばこの先は……どうなるのだろう。


金剛「テートク……また難しい顔してマスよー?」

提督「む、そうか?」

金剛「……心配しなくても大丈夫デス。テートクがワタシ達を信じてくれる限り、
ワタシ達は……負けないんだカラ!」

提督「ああ、そうだな……」


私は少し後悔している。あんなことを言ってしまったことに。
あの頃は勝利を疑ってはいなかった。しかし今はどうだ? あの頃と同じように
「勝てる!」と胸を張って言えるだろうか?

……今更何を言っている。皆を勝利に導くと、金剛に言っただろう。
その言葉は嘘だったというのか?

だが、考えてしまうんだ。この戦いに、本当に果てがあるのかと。いつまで戦い続ければ、
誰を倒せば終わりなのかと。

……何を考えているんだ。司令官である私が、皆を引っ張って行かなくてはいけないのに……
こんな弱腰では、利根やみんなに笑われる。



[分岐点]

……先日、戦艦比叡、及び戦艦霧島の轟沈が確認された。
確認されたという表記をするのは、これは大本営の発表ではないからだ。
鎮守府内部の……現体制に不満を持つ何者かが流した情報だ。
最初は疑心を持っていたが、具体的な情報が開示されるに連れて
その事実は徐々に現実味を帯び始め……そして、確信へと変わった。


金剛型戦艦比叡、および霧島は……サーモン海の海に沈んだのだ。


榛名「嘘……そんな……! 提督! 嘘ですよね!」

提督「……私もどれだけ嘘であって欲しいと願ったか」

金剛「……テートクが言うんデス。間違いないのでショウ……」

榛名「そんな……比叡お姉さま……霧島……!」

金剛「……」

提督「金剛……お前、大丈夫か?」

金剛「ワタシ達は軍艦。戦いの中で沈むのは、おかしなことではないデス……」

金剛「そして、ワタシ達は艦娘。感情があるからこそ、悲しめる。
心があるからこそ、二人の意志を継げマス……」

金剛「……ゆるしまセン! 絶対にゆるさないんだカラ! 深海棲艦……絶対に許さない!」

金剛「絶対に仇は取りマス……! それが、姉として二人にしてやれることデス……!」

榛名「金剛お姉さま……無理はなさらないでください!
金剛お姉さままでいなくなったら、榛名は……」

金剛「大丈夫デスよ、榛名。お姉ちゃんは絶対に負けまセーン!」

金剛「信じるもののラブがあれば、ワタシはいくらでも戦えマース!」

提督「……」


……彼女の信頼は、盲目的だ。その信頼が、とてつもなく重かった。

何故だろうか。東方作戦は成功したのではないのか。なのに何故、
我々は繰り返し劣勢に追い込まれているのだ?


我々は、分岐を誤ったのか?



[つかの間の休息]

日夜激しい戦闘にその身を投じる艦娘達を労うため、今夜はちょっとしたごちそうを
振る舞うことにした。とはいえ私に料理の心得などまるでありはしないので、雷達や
妖精さん達に手伝ってもらった訳だ。しかしこのままでは私は大して役に立っていない事に
なってしまうがご安心いただきたい。こういう日の為に私はアレを用意しておいたのだ。


提督「さぁ、今日は日頃のお前達の活躍を讃えて、ちょっとしたごちそうを
用意させてもらった」

日向「なんだ? どういう風の吹き回しだ?」

伊勢「まーまーいいじゃん日向ー! ご馳走してくれるって言うんだから、
素直にその厚意にあずかりましょ」

金剛「テートクゥ! ワタシ達の為にこんな素敵なDinnerを用意してくれて、
アリガトごじゃいマース!」

榛名「せっかくですので、皆さん、いただきましょう」

天龍「おーおー! ちゃっちゃと食おうぜ、こっちは腹ペコなんだよ」

吹雪「待ってください! 食事の前は、しっかりと挨拶をしましょう!」

提督「うむ! ブッキーの言う通り!」

吹雪「ぶ、ブッキー!?」

提督「嫌かな……?」

吹雪「い、いえ……司令官にならそう呼ばれても……って何私言ってるんだろ!?」

初雪「ん、吹雪も隅に置けない」

朝潮「では、僭越ながら、私がひと声かけさせていただきます」

朝潮「皆さん、お手を合わせて……」


「「「いただきまーす!!」」」



綾波「それではさっそく、いただきましょうか」

榛名「お鍋ですか……皆さんでこうやって囲んで食べるの、榛名大好きです!」

瑞鳳「こっちはカレイの煮付けだぁ~!」


金剛「もぐもぐ……ん~! ベリーベリーデリシャスヨー! あぁ、この料理から
テートクのラブを感じるデース……」

提督「言っておくがな金剛、この料理作ったの雷たちだからね?」

金剛「What!?」

雷「雷の愛情たっぷり栄養満点フルコースよ! たくさん食べてね!」

木曾「ははははは! 残念だったな金剛。提督"の"ラブじゃなくて、提督"への"ラブで!」

金剛「shit! クレイジー眼帯ガール!」

熊野「ひゃあああ!? これは中々に美味ですわね!」

五十鈴「いきなり声上げるのやめてくれない……?」

叢雲「ま、悪くわないわね……」

満潮「ふん、確かに嫌いではないわよ……」

陽炎「アンタ達、ほんっとーに素直じゃないわね!」

黒潮「もっと自分の気持ちに正直になり~や」

荒潮「あらあら、二人共~? そんなに無愛想だとダメよ~?
こんな時くらいやわらかーくなりましょうよ~」

叢雲「無愛想度なら不知火の方が上じゃない!」

満潮「そうよ! 先にアンタの所の妹をどうにかしなさいよ陽炎!」

不知火「……」

陽炎「し、不知火は……ああ見えても結構可愛い所あるのよ?」

叢雲「目をそらすな目を」

川内「みんなわかってないなー」

陽炎「川内さん……?」

川内「よぉく耳をすませてごらん」

黒潮「むー……?」


不知火「……」モッキュモッキュ


陽炎「か、かわいい! 効果音が可愛い!」

川内「その通り! 駆逐艦の魅力は十人十色! 皆それぞれ良い所があるんだよね!」

満潮「あほくさ……」

川内「まぁ私は、元気な駆逐艦もおとなしい駆逐艦も大好きだけどね! 夜戦の次に!」

夕立「駆逐マニアっぽい?」

時雨「以外な一面だね……」

神通「な、長門さんほど重症ではないですから……」



翔鶴「瑞鶴、野菜もちゃんとバランスよく食べないとダメよ……?」

瑞鶴「あれ、私偏った食べ方してたっけ(棒)」

翔鶴「もう、瑞鶴ったら!」

加賀「全く、五航戦は他人の事も考えられないのかしら? 一人だけお肉ばかり食べていたら、
他の人がお肉を食べられなくなるでしょう」

瑞鶴「別に肉ばっかり食べてないし……寧ろ加賀さんは野菜沢山とった方が
いいんじゃないですか? 無駄な所に脂肪が沢山ついてるようですし!」

加賀「……瑞鶴、あなたはもう肉を食べることを禁止します」

瑞鶴「はい!?」


加賀「春菊だけよ……春菊だけ食べることを許可するわ」


瑞鶴「はあああああああ!?」

瑞鳳「も、もう! こういう時くらい喧嘩はやめようよ~」

龍驤「せやで。せっかく提督が用意してくれたんやから」

赤城「まあまあ、加賀さんもあまりうるさく言ってはダメですよ。お肉はまだこんなに
たくさんありますしね!」

翔鶴「瑞鶴も、ちゃんと野菜を食べなさい!」

瑞鶴「ぶー……わかりましたぁー……」

最上「あれ、みんな箸をおいてどうしたんだい? もっと食べないと」


ぼちゃぼちゃ



加賀「!? ……最上、あなた……今何入れたの!?」

最上「なにって、瑞雲さ!」

瑞鶴「頭おかしいんじゃないの!?」

最上「それが意外といけるんだなぁこれが」

赤城「意外とイケる? ふむ……」ヒョイ

加賀「あ、赤城さん!? やめてください!」

赤城「あーん」パク

赤城「もぐもぐもぐ……んん!?」


赤城「うまい! これは中々癖になるお味で!!」バーン


加賀「いやいやいや!」

翔鶴「でも、本当に美味しいのかも……私も一機いただこうかしら……?」

瑞鶴「翔鶴姉! 早まらないで!」

赤城「ところで加賀さん……」

加賀「はい?」

赤城「九九艦爆の代わりに瑞雲積んでみる気はないかしら?」

加賀「最上ィ! 赤城さんおかしくなったじゃない!!」


多少のハプニングはあれど、評判は概ね好評。艦娘達の顔に心からの笑顔が宿り、
場に和やかな雰囲気が訪れる。

ここで満を持して、私はアレを投下した。



提督「さぁお前達、今日はこれだけじゃあないぞ! これを見ろ!」

赤城「そ、それは……!」

加賀「ま、間宮の……!」

瑞鶴「限定スイーツ……!」

朝潮「これは……! 一体どうしたのですか! 司令官!」

提督「こういう日の為に冷凍してとっておいたんだよ。さぁお前達、遠慮せずに食べなさい」


白露「わぁ……! どれが一番美味しいの?」

提督「どれも美味しいぞ」

夕立「夕立はこれ! いっただきま~す!」

村雨「ん~! 舌が幸せ~!」

熊野「この濃厚な風味、上品な後味……文句なしの絶品ですわ!」

日向「……たまにはこういった甘味も悪くないな」

榛名「ええ! 榛名、感激です! 提督、私達のためにこんな素敵なデザートを用意して
くださってありがとうございます!」

提督「これで少しでも戦勝に赴くお前達の労いになれば幸いだよ」

金剛「ンモー! テートクゥ! 粋な気遣いが憎いデース! このこの~!」

提督「わかったから金剛、お前も好きなモノを食べなさい」

金剛「じゃあテートク……これ、ワタシに食べさせてくれマスカ? あ~ん……」

伊勢「おっ! 相変わらず金剛はすっげいアプローチ!」

雷「司令官! 雷が食べさせてあげるわね!」

提督「あ~ん……パク! んまあああああああい!!」

伊勢「がしかしここで雷……ッ! あまりにも酷い仕打ち……ッ!」

金剛「テートクゥ!? ワタシもあ~んしてあげマース! こっち向いてヨー!」

伊勢「一途……あまりにも一途すぎるよ金剛……ッ! あたし、泣けてきた……!」

日向「まぁ、提督のアレはただの照れ隠しのような気がしないでもないが……」



翔鶴「では、私達もいただきましょうか」

瑞鶴「さーってと! じゃあ私はこれにしようかな……」

加賀「私はこれに……」

瑞鶴「む」

加賀「何か?」


瑞鶴「……ちょっと、これ私が狙ってたやつなんだけど」

加賀「知りませんが。早く手をどけなさい」

瑞鶴「これは私のよ! 私が先に目をつけたんだから!」

加賀「証明する手立てはないでしょう? それに、あなたは先輩を敬うという事を知りなさい
こういう場面では先輩に譲るのが常識というものです」

瑞鶴「ぐぬぬ……そうやって威張り腐ってるから先輩として敬えないのよ! 悔しかったら
敬われるような先輩になったらどうなのよ! 具体的に言うと、これを私に譲るとか!!」

加賀「これは譲れません」

瑞鶴「ぐぬぬ……!」

翔鶴「もう、瑞鶴ったら! 加賀先輩もやめてください!」

赤城「またなの? あなた達は本当に……」

朝潮「……あの、お二方」

加賀「何かしら? 今取り込み中なのだけど」

瑞鶴「できれば後にしてほしいっていうか!」

朝潮「……もしよろしければ、私のをあげましょうか? それと同じもののようですし
私は他のものをいただきますから」

加賀「え……」

龍驤「……なっさけないな、こんな小さな駆逐艦にまで気を使われるなんて」

陽炎「朝潮のほうがよっぽど大人ね」

瑞鶴「うっ……」

加賀「返す言葉がありません……」


瑞鳳「ほら! 喧嘩ばかりしてるから! 自業自得!」

天龍「ちげーねぇな」

初風「そうよ、喧嘩ばかりしてると妙高姐さんが出るわよ」

川内「なまはげか何か?」

初風「川内、あなた……そんなこと言ったら妙高姐さんに殺されるわよ!
悪い艦娘はいねがーって!」

川内「初風って割りと妙高さんのこと馬鹿にしてるよね」


そうして楽しい夜は、更けていく……。


赤城「間宮のスイーツ……美味しいわね」

加賀「間宮といえば……前にこんな席で、二航戦の二人に間宮をおごってもらう約束をしたわね」

赤城「そうね……二人共、元気でやってるかしら……?」

瑞鶴「……加賀さん! さっきはよくも恥かかせてくれたわね!」

加賀「それはこっちのセリフですが?」

瑞鶴「こうなったら勝負よ! この場で雌雄を決してくれる!」

加賀「あらいいわね。なら……勝負は」



加賀「ダーツで対決なんて、どうかしら?」



赤城「あら、加賀さんったら……」




[前線の崩壊]

我が泊地に、一隻の駆逐艦がやってきた。
彼女の名は"雪風"幸運の駆逐艦として知られている彼女だが、彼女が持ってきた
知らせはこの上なく不運なものだった。


提督「前線の泊地は壊滅……生き残ったのは、君だけか」

雪風「はい」

金剛「……」

赤城「ッ! 確かあそこには……二航戦の二人がいたはずですが? 彼女達は……?」

雪風「……」

赤城「そん、な……」

提督(蒼龍、飛龍、筑摩、卯月、菊月、三日月……あそこにはかつてこの泊地にいた彼女達が
いたはずだ……!)

提督(みんな、沈んでしまったというのか!? ……くそっ!)

雪風「雪風だけが、こうしてのうのうと生きのびてしまいました……すみません」

金剛「雪風……」

提督(……何をやっているんだ私は。今一番辛いのは、この子だ。私はこの子の……
心を守ってやらなくては……!)

雪風「……奇跡の駆逐艦だなんて、笑えちゃいますよね。結局自分一人が助かったところで、
何も変えられないのに……」

提督「そんなことを言うな。お前が生き残ったからこそ、我々は前線泊地の
状況を知ることができた。お前が生き残ったことには、ちゃんと意義がある」

提督「お前がいなかったら、誰が沈んでいった彼女達の無念を伝えると言うんだ……」

雪風「雪風は……」

提督「……辛かったな、雪風。もう、我慢するな……」

雪風「雪風は……雪風は……うぅ……ぐす……ううぅぅぅ~~……!」グスグス



雪風「雪風はッ……皆さんをお守りできませんでした!!」



雪風「すみません、蒼龍さん! すみません! 飛龍さん!」

雪風「みんなみんな……すみません……すみません……!」ボロボロ

提督「ああ、今は……泣いていいんだ、雪風」

赤城「加賀さんは、この事実を受け止められるかしら……?」

金剛「……辛いですネ」

赤城「はい。きっと加賀さんは、二人の死を素直に受け入れられないと思います」

金剛「違うヨ。赤城、あなたのことデス」

赤城「えっ?」

金剛「あなたも辛かったでショウ? おねーさんの胸で泣くと良いネ」ギュ

赤城「しかし、一航戦の誇りが」

金剛「ずっと一航戦であり続けたら、きっと壊れてしまうヨ。今くらいは、一航戦の誇りも
忘れて、金剛におねーさんさせるネ」

赤城「すみません……」


赤城「…………少し、泣きます」


提督(辛いな……艦娘が沈むというのは)


雪風「卯月さん! 菊月さん! ごめんなさぁいっ……!」

赤城「……蒼龍、飛龍……!!」


提督(……執務室が、涙で溢れてしまいそうだ)




[運命の足音]

ずっと目を逸していたかった。しかし私はこの泊地の提督だ、それは許されない。
前線の泊地が落ちてから、いつかこんな日が来ると思っていた。泊地を壊滅させた敵艦隊が
次はこの泊地を狙うことなど、容易に想像できた。
連中はこの泊地に向けて侵攻を開始している。最早一刻の猶予も許されない。
鎮守府に支援を要求したが、返答は曖昧だ。友軍の支援は期待できない。
……だから私は、私のできる事をした、手を尽くした。資材も貯めた、
装備もできるだけいいものを用意した。

そんな私が今日できる事といえば……彼女達を信じて、祈ることだけだ。


提督「……第一夜間強襲艦隊、準備はいいか」

川内『いつでも夜戦、大丈夫だよ』

提督「第二夜間強襲艦隊、準備はできているか?」

神通『既に次発装填済みです』

提督「前線打撃艦隊。首尾はどうだ?」

伊勢『滞り無く……順調よ!』

提督「航空爆撃艦隊……異常はないか?」

龍驤『うちの胸が小さすぎるゆーこと以外は、何も問題あらへん!』

提督「空母機動艦隊……お前たちがこの海戦の要だ、頼りにしているぞ」

赤城『お任せください。必ずや敵の旗艦を沈めてご覧にいれます』

提督「……そうか」

提督「ではこれより、作戦を開始する! 敵艦隊を撃退し、制海圏を防衛せよ!!」



今までにない程の深海棲艦の大軍勢との海戦が、始まったのだ。



川内『提督、ごめん……私、大破しちゃって』

提督「構わん。後方へ下がれ、川内」


艦娘達から連絡が来る度に、私は指示を出した。
しかし、彼女達の無線からだけでは、戦況を正確に知ることはできない。
やはり、最終的な判断は……現地の彼女達に託すしか無いのだ。


提督「……頼む、頼むぞ……!」


信じて祈った。ただひたすらに。
私が最終的に出来ることは、これくらいしかない。
こんな時に何もできない……提督とは、これほどまでに辛いものなのか。


――信じるもののラブがあれば、ワタシはいくらでも戦えマース――


金剛の言葉が蘇る。ああ、信じるさ、信じるとも。
お前たちが生きて帰って来てくれるなら、私はいくらでも信じよう……!


神通『第二夜間強襲艦隊……全員無事で、任務完了致しました!』


提督(よし、良いぞ!)


最初は順調だった。


提督「赤城、聞こえるか……?」

赤城『提督、ですか?』

提督「あぁ……そうだ」

提督「機は熟した。私はお前に命令を下す……」


提督「空母機動艦隊……万全を以って敵艦隊を攻撃せよ!」


ここまでは作戦通りだった。


加賀「提督……敵に新型の装備が……え? VT信管?」



しかし現実はそう上手くはいかない。予想していた最悪のケースさえ上回っていく。




磯波「ぁ……」


駆逐艦 磯波、轟沈。


吹雪「そん、な……駄目ですっ……駄目……」


駆逐艦 吹雪、轟沈。


龍驤「きっと赤城や加賀がなんとかしてくれる! 繋げるんや! づほッ!」

龍驤「明日を!!!」


軽空母 龍驤、轟沈。


川内「……たまには、夜戦以外もいいよね?」


軽巡洋艦 川内、轟沈。


駆逐艦 大潮、轟沈。

駆逐艦 荒潮、轟沈。

航空巡洋艦 最上、轟沈。
航空巡洋艦 熊野、轟沈。
駆逐艦 不知火、轟沈。

轟沈、轟沈、轟沈轟沈轟沈轟沈……




提督「なんて、なんてことだ……!! これはあまりにも……!」


伊勢『……提督。もう前線は……崩壊したわ』

提督「……ッ!」

日向『これ以上の戦闘は、無駄な犠牲を生むだけだ……!」』

提督「くそ……くそっ!!!」

提督「……ぐうっ」

提督「全艦隊、撤退……!」



提督「繰り返す! 全艦隊は速やかに撤退せよ!!」



それからは、一人でも多くの艦娘が帰還するのを願った。
よもや赤城達が"レ級"なる新手の深海棲艦と戦っているなど、思いもしなかった……。




[喪失]

――あの海戦から、どれだけの時が経ったのだろうか。
私はあの出来事が、未だに信じられずにいる。
私は結局、無力だった。いくら信じたところで、何も守れやしないんだ。

あの海戦は、我が泊地の大敗北で幕を閉じた。

わかっていた、あの大艦隊を相手に、全員が無事に帰還できる訳がないのだと。
それでも私は……いや、もう全ては終わったのだ。何を言っても言い訳だ。

赤城と加賀が沈んだ。金剛や瑞鶴達を逃がすために……満身創痍になりながらも敵を
食い止めたのだという。

航空巡洋艦の最上と熊野も沈んだ。軽巡の川内も駆逐艦の磯波も。大潮も不知火も荒潮も。

そして……吹雪も。

皆沈んでいった。


提督「金剛、私は……」

金剛「いいんデス。わかってマス……」

提督「いや、言わせてくれ……私はどこまでも愚かで、嘘つきだ」

提督「艦隊を勝利に導くなどど大言壮語しておきながら、このザマだ……」

提督「すまない……本当に済まない……!」

金剛「……それであなたの気が済むなら、ワタシは……」


ポッカリと穴が空いた。泊地に、皆の心の中に、私の心の中に。

泊地の裏山の麓に墓を作った。もちろんそこに彼女達はいない。彼女達は、あの海に沈んだのだ。

だが私は今日も未練がましく、彼女達の墓を回る。これでは彼女達の為に建てた墓ではなく、
私の為に建てた墓だ。何とも情けない。



――泊地近辺・裏山の麓――


若葉「毎日毎日ご苦労だな」

提督「若葉か」

若葉「若葉だ」

提督「……毎日墓に通う私は、滑稽に見えるだろう?」


若葉「墓守に転職しろ」

提督「お前は昔からそういう物言いだな……」

若葉「お前は随分変わった。あの頃のお前はそこまで淀んだ目をしてなかったぞ」

提督「……そういえば、お前ともずいぶん長い付き合いだな、若葉」

若葉「この泊地では一番付き合いが長いぞ。吹雪と同じくらいだからな」

提督「お前と吹雪は……私が艦娘の部隊の指揮をし始めて、最初の頃に受け持った艦娘だ
そりゃあもう随分と長い」

若葉「……後悔しているか?」

提督「何を?」

若葉「お前の、お前自身の選択を」

提督「……後悔、しない訳がないだろう……! こんなに沢山の艦娘を沈めて、
後悔しない提督がいるのなら……そいつは血も涙もない畜生に違いない」

若葉「若葉は、後悔していないぞ」

若葉「若葉だけではない。この泊地の艦娘は皆……沈んでいった者も含めて
……後悔なんてしていない。あの五航戦の妹の方は知らないが」

若葉「若葉達は皆全力で戦った。そしてお前も、やれるだけのことはした。
若葉達はお前の指揮に何の不満もなかった。若葉達の信じるお前の指揮だから
後悔がなかった。自分の行動に、迷いがなかった」

提督「……」

若葉「若葉は駆逐艦だ。難しいことはわからない。だがこれだけは言うぞ。
必要以上に自分を責めるな。見ているこっちが心配になる。ひいては艦隊の士気にも繋がる」

提督「……お前にまで心配をかけていたとは、なんとまぁ情けない話だ」

若葉「しゃきっとしろ。顔を上げろ。若葉達はもうお前についていくと決めた。
そこに後悔はない。どんな結末を迎えようと、お前の下で戦えたのならば
若葉達は満足だ。若葉達はできる事をする。お前もできる事をしろ」

提督「……ほんとうに情けない。若葉に慰められるとは」

若葉「こういうのは吹雪の仕事だ。若葉は長話が苦手だ」

提督「ふっ……まぁ、そうだよな」

若葉「笑ったな。それでいい。お前が暗い顔をしていると皆も暗くなる。それでいい」

提督「……こうなったら、とことん抗ってみるかね? そうなると……この先
辛くなるじゃあないか……あー、しんどい。もう歳だなコリャ」

若葉「若葉はそれに付き合うだけだ」


私はもう、私の成すべきことを投げ出さない。そう心に誓った。


[苦境]

制海圏を失ったことにより、物資の輸送は滞り、我が泊地は慢性的な資源不足に陥った。
それにより、出撃は軽巡と駆逐艦で編成された水雷戦隊が中心となった。
彼女達が行うのは哨戒と航路の確保。まずは物資が届かなければ話にならない。
今は攻勢に出れない……がしかし、そう悲観するほど戦力が残っていないわけではない。
耐える時だ……機会を伺い、見極めるのだ……。


金剛「テートク! ワタシの出撃はまだナノー!?」

提督「戦艦空母は資源の消費が激しい。お前達を出撃させる余裕はない」

日向「戦艦空母ではないぞ提督。航空戦艦だ」

提督「そういうことをいってるんじゃあ無いんだがね」

瑞鳳「軽空母なら、どう?」

提督「そもそもボーキサイト自体がね……結構痛いんだよ。わかるかい?」

瑞鳳「んー、わかんない」

提督「格納庫弄ってやろうか? ホラホラホラホラ」

瑞鳳「ンアッ! ンアー!」


バタン!!


天龍「オイお前ら! 大変だ!!」

提督「執務室の扉は静かに開け閉めしろってお母さんに習わなかったのか小娘ッ」

天龍「ふざけてる場合じゃねえんだよ!! こっち来い!!!」


天龍のただならぬ剣幕に、私は胸騒ぎを覚えた。そして向かった先には……。


提督「どうしたんだ……お前達……!」


時雨「……艦隊、帰投したよ」

夕立「……」


満身創痍の、時雨と夕立がいた。



提督「その傷は!? 他の艦はどうした!? 旗艦の五十鈴は!?」

時雨「沈んだよ」

提督「!!」


本日哨戒任務についていた五十鈴を旗艦とした水雷戦隊。
しかし帰ってきたのは……見ての通り、時雨と夕立だけだった。


時雨「みんな、懸命に帰ろうとしたさ。でも何とか辿りつけたのは、僕達だけ……」

夕立「……夕立のせいで、みんなが……しらつゆちゃんが
……むらさめちゃんが……あああああああああああっ!」

時雨「ごめんみんな。夕立はこんな状態だし……早くドックへ連れて行ってくれないかな?」

提督「ああ……そうだな」

提督(……耐えるんだ。冷静になろう……ここで感情任せに指揮をとってどうする?
実際に戦うのは彼女達艦娘なんだ……皆のことを考えろ……!)

天龍「……ざけんな! 深海棲艦の連中……ぜってーゆるさねー……!」

天龍「今すぐ俺を出撃させろ! 提督!」

提督「……必ず仇は取る。しかし今はその時じゃあない訳だ……」

提督「すまん。我慢してくれ……天龍……!」

天龍「でもよ!」

金剛「天龍。今すぐにでも出撃したいのは皆同じデス。だけど今は
準備も何も整っていまセン。ここで出撃しても犠牲が増えるだけデス」

金剛「大丈夫。きっと提督が、彼女達の無念を晴らす方法を考えてくれます」

天龍「……ああもう! くそっ!」

提督「金剛、すまんな……」

金剛「いえ……ワタシはテートクのことをちゃんと理解してマスカラ」

榛名「夕立さん、心配ですね……時雨さんはまだ大丈夫そうでしたけど……」

瑞鳳「瑞鶴も最近変だし……はぁ、この泊地……一体どうなっちゃうんだろ」


[五航戦と一航戦]

かつて赤城と加賀が背負っていた一航戦の名は、五航戦だった鶴姉妹に受け継がれた。
その意志と共に……。まぁ、これが中々厄介な事になっていた。


翔鶴「提督」

提督「翔鶴か……どした?」

翔鶴「妹の瑞鶴の事なんですが……最近あの子、様子がおかしいじゃないですか」

提督「まぁ……な」


以前の瑞鶴は気さくで、どちらかといえばとっつきやすい艦娘だった。
しかし今の瑞鶴は180度変わって、どこまでも他人に厳しく、自分に厳しく、
近寄りがたい存在となっていた。
この前敵艦を取り逃がした時も、ものすごい怒りようだったのが記憶に新しい。


――――――
―――



天龍「す、すまねぇ……今回は……敵艦一隻、取り逃がしちまった」

提督「そうか……」

瑞鶴「……何をやってるの? なんで追撃しなかったの?」

天龍「いや、こっちもチビどもに被害が出ててよ……進軍は
出来ねぇって判断したんだ。俺だって本当は戦いたかったんだぜ?」

提督「無理な進軍はは控えろと私も言っているしな」

瑞鶴「たかが中破程度でしょ!? 敵艦一隻沈められない戦力じゃない!
それをむざむざ見逃すなんて、あなた、何を考えてるの?」

提督「おい、瑞鶴」

瑞鶴「敵を一隻でもとり逃せば、そいつは情報を本隊に持ち帰って対応してくる。
甘いのよ、あなた。戦いは情報が何よりも重要。わかってる? 倒せる敵を
倒さないなんて、とんだ腰抜けね、あなた」

天龍「……黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」


瑞鶴「誇り高き我が艦隊が、我が身の可愛さに追撃すら出来ないとは、
笑わせてくれるわね! あなた達に艦娘としての誇りはないの!?」

天龍「なんだと!」

提督「おいお前達! やめなさい!」


一触即発の状況だったが、私の一声で何とかその場は収まった……。



―――
――――――


提督「以前の瑞鶴は、誇りだなんだと拘ったことはなかったのにな……
一体どうしてしまったというんだ」

翔鶴「きっとあの子は……加賀先輩の影を追い続けているんだと想います」

提督「加賀の……?」

翔鶴「あの子は加賀先輩から一航戦の名を受け継いだ。その意志も。
だから彼女は一航戦であろうとする。瑞鶴なりに、加賀さんの意志
を受け継いで……ああいう風になってしまったのかも」

提督「しかしあれは……一時期の加賀より酷い。加賀の幻影を追い続けるがあまり、
加賀以上に一航戦の名に囚われてしまっている」

翔鶴「あの子のにとってそれほど一航戦の名は重く、加賀先輩の存在は
大きかったのでしょう」

提督「……加賀には瑞鶴という存在がいた。しかし今の瑞鶴には……」


加賀と瑞鶴。二人は二人でバランスが取れていた。だが今の加賀のように
なってしまった瑞鶴に、そんな相手はいるのだろうか?


加賀……お前はなんてものを残して、沈んでしまったんだ……。


[軍楽隊]

近頃は駆逐艦たちにも厳しい戦いを強いている。毎日毎日辛い戦闘に駆り出される
彼女達の精神が心配だ。駆逐艦達に心の拠り所を作ってやりたかった。
そこで私達は考えた。駆逐艦達に軍楽隊をやらせてみてはどうだろうかと。
音楽は良いものだ。音楽に触れることで、そこに楽しみを見出してくれればいいのだが……。


電「~~~っ!」プー

雷「そんなんじゃだめよ、電」

電「ぷはぁ! 難しいのです……」

陽炎「それじゃあいくわよ! ワンツー」

黒潮「陽炎ちゃん、舞風ちゃんみたいやで」

初風「いいから早くやりましょうよ……」

綾波「~~♪」

満潮「綾波、アンタすごいわね……それ、コントラバスでしょ?」

朝潮「流石ソロモンの鬼神と呼ばれただけはありますね」

満潮「それは関係ないと思うけど……」


提督「……どうなんだ、軍楽隊の様子は……」


神通「えっと、みんな楽しんでるみたい、ですよ……?」

提督「そうか、よかった……」

提督「ん? そういえば……夕立の姿が見えないが……?」

神通「彼女は……」


天龍「あいつは……参加したくないんだと」

提督「……そうか」

天龍「……そんな顔すんなって。あいつらも俺も、それじゃあいけないと思ってる
ぜってー夕立も仲間に入れてやっからよ……だからもう少しだけ待ってくれよ」

神通「彼女は、姉妹艦を失い……自暴自棄になっています。ですが……今ここにいる
艦娘達は皆、姉妹艦や親しい艦娘を失った子ばかりです。ですが……」

叢雲「……あの、神通」

神通「……どうしました?」

叢雲「ちょっとここのパートがわからないんだけど、教えてくれない?」

神通「いいですよ。すぐ行くので、待っていてくださいね」

叢雲「できるだけ早くしなさいよ!」

神通「はい……」

天龍「叢雲……あいつは確か、この泊地でも特に酷い姉妹艦の死を
立て続けに見てたな……」

神通「そう、彼女はこの泊地で姉妹艦を三隻も失っています。ですが、そんな彼女も
今ではあのように……一生懸命生きています。嫌になるような現実からも目をそらさず
立ち向かっています」

神通「だから私は信じています。夕立さんもいずれ、立ち直って
……皆と一緒に、演奏してくれる事を……」

提督「……そうだな。仲間はずれなんて、悲しいだけだろう」


私は願った。いつか駆逐艦全員が揃って演奏できる事を。
全員揃った暁には、皆で彼女達の演奏を聴くのだ……。




[杳として知れず]

今朝、哨戒中の巡航艦隊が漂流していた重巡洋艦の鈴谷を発見した。
発見された頃には既に彼女の息は無く、彼女のその身はこの泊地の墓地に埋葬された。
なぜ彼女はこんな海域を漂流していたのか。彼女は鎮守府の艦隊所属の艦娘だ。
一体本国で何が起きているのか……わからない。近頃は救援物資も、連絡も来ない。
こちらの連絡にも応答しない。まさか本国はもう既に……。

いや、やめよう。こんなことを考えるのは。私はまず、この泊地の艦娘達の事を
考えなくてはならない。決断の時は近い……。


金剛「鈴谷は、無事……お墓には入れマシタ?」

天龍「ああ……姉妹艦の最上や、熊野の墓の隣に埋葬してやった」

金剛「そう、デスカ……」

榛名「……榛名は、もう嫌です……!」

提督「榛名……?」

榛名「榛名はもう、艦娘が沈むのを見たくありません……!」

榛名「榛名はもう、さんざん見てきました……艦娘になる前から!
皆さんが沈んでいくのを、榛名は見てきました……!」

榛名「榛名はもうこれ以上……嫌なんです……!」

榛名「逃げましょう! ここを放棄して!」


瑞鶴「逃げるって、どこへ?」


榛名「!!」

瑞鶴「……情けない。かつて終戦まで戦い抜いた戦艦である
あなたから出たセリフとはとても思えない」


提督「瑞鶴……やめろ」

瑞鶴「ここはもう敵に包囲されているの、逃げ場なんて無いんだから……
私はあなたの事を見誤っていたのかしら? 私はあなたの事、最後まで戦い抜いた
誇り高き帝国海軍の艦艇だと思っていたのに……ただ単に臆病だっただけみたいね」

瑞鶴「逃げ出したいなら勝手に逃げればいい。そんな臆病者、うちの艦隊にはいらない」

榛名「!!」

提督「瑞鶴! お前……!」


金剛「……瑞鶴。それ以上ワタシの妹を貶すと……ゆるしまセン」


瑞鶴「金剛さんは逃げ出したりなんかしないよね?」

金剛「……当たり前デス。ワタシは、比叡と霧島の仇を取らなくては
ならないのデスカラ……!」

瑞鶴「そうよ! あいつらを皆殺しにしなくちゃ! 今まで沈んでいった皆が浮かばれない!
彼女達の誇りを守るためにも、私達は必ず勝利する! その為にここは徹底抗戦すべき!」

瑞鶴「提督! 連中はもうすぐそこまで侵攻してきてる……早く私達空母に! 出撃の命を!」

金剛「……そうネ。そろそろ、ワタシも出撃したいと思ってマス。テートク」

榛名「榛名は……っ! 榛名は……っ!」


……出撃。お前達が出撃したところで……今の状況は変えられないんだ……


提督「今はまだ、その時じゃあない」


この言葉で何回、私は彼女達をごまかしてきたのだろうか。


金剛「テートク!」


見えない……見えないんだよ、私達の勝利が、その方法が。


参ったな……、本当に、参った。





[演奏会]

今日は予定していた軍楽隊の演奏会だ。とても楽しみだ。
ああ、楽しみ、楽しみだとも。彼女達は今日の日の為に練習してきたんだ。


――泊地・総合ホール――


雷「……どうも、泊地艦隊軍楽隊です」

電「クラリネット担当の、電なのです……」

雷「同じく、クラリネット担当の雷よ……」

電「今日皆様にお集まりいただいたのは他でもありませ……私達、この度軍楽隊を
結成いたしまして……本日は練習の成果を皆様に見ていただきたいと思ったのです……」

雷「みんな、この日の為に……一生懸命練習しました……だから"今日はみんなで"演奏します!」

電「今まで辛いことが……うっ……たくさんあったけど、私達こうして……ひぐっ……!」

電「ううううう~~~~っ! ぐすっ、ひぐ!」

雷「こら電……! なに、泣いてるのよぉ……そんなんじゃ、ダメよ……今日は、皆で演奏するって
言ったじゃない……!」


電「でも、でも……夕立さんも、綾波さんも……黒潮さんも初風さんも叢雲さんもみんなみんな……!」


陽炎「くっ……!」

時雨「夕立……」



ホールの壇上には、楽器を構えた艦娘達と、持ち主の居なくなった楽器の置かれた空席の椅子がまばらに
置かれていた。


雷「頑張って……約束したじゃない、電。皆の為に、今日の演奏は成功させるって……!」

電「うぅ……ううううう! わかっているのです……わかって……うっ、えぐっ!」

電「それでは、ひっく電達の演奏、きいて、くださいぃ……」


それは、私が想像していた演奏会とはあまりにかけ離れていた。


雷「~~♪」
電「~~♪」


雷:クラリネット
電:クラリネット


彼女達に笑顔でいてほしいから、私は彼女達に楽器を与えたんだ。


若葉「~~っ♪」


若葉:チューバ


なのに……何故だ。


陽炎「……~♪」


陽炎:トランペット
黒潮(沈没):コルネット
初風(沈没):コルネット


何故彼女達はこんなにも悲しみに満ちた演奏をするんだ。


雪風「っ……~♪ ~♪」


雪風:トロンボーン

叢雲(沈没):フルート

綾波(沈没):コントラバス


そんなの、わかりきっているじゃあないか……。


朝潮「ー♪」
満潮「ー♪」

朝潮:オーボエ
満潮:オーボエ


これはここにはいない彼女達への、葬送曲なのだ。


時雨「……♪」


時雨:フルート
夕立(沈没):シンバル



ああ……私は、彼女達にこんな顔をさせたくて、軍楽隊を結成させたんじゃないんだ。

違うんだ……なんでなんだ……どうしてこんな……!


[終末]

この記録をつけてからもう随分と経つが、おそらくこれが最後の記録となるだろう。
私は結局、無能であることに変わりはなかった。しかし、それを彼女達には言えない。
彼女達にはせめて、まともな指揮官の下で戦えたと思っていてほしいからだ。

……さて、この場を以って、私は様々な方々に感謝を述べたい。

まずは故郷の両親。私を産んでくださってありがとうございました。
今こうしてお国の為に尽くせるのは、ご両人の存在があったからこそです。
厳しくも私のことを常に案じて育ててくださった父上様。慈愛を持って
人の為に生き、私の人生の見本となってくださった母上様。本当にありがとうございました。

続いて元帥殿。あなたには様々な恩義があります。さんざんお世話になった上、
この泊地艦隊を指揮する提督に任命してくれた事には、本当に感謝の言葉をいくら並べても
足りないくらいに、感謝しております。ありがとうございました。

次に艦娘達にも感謝を述べたい。
今までずっと共に戦ってきてくれた若葉。辛い時いつも頼りになった木曾。
新戦力として戦線を支えてくれた伊勢・日向。
航空戦力で苦境を打開してくれた翔鶴・瑞鶴・瑞鳳。
軽巡とは思えない働きで戦場を駆け抜けた神通。
駆逐艦の面倒をよく見てくれた天龍。
その明るい性格で世話を焼いてくれた雷。その優しい心で皆を支えてきた電。
駆逐艦の中でもリーダーシップを発揮して皆をまとめてくれた陽炎。
沢山の辛い境遇を乗り越えてここまで共に戦ってくれた雪風。
礼儀正しく真面目な朝潮。素直じゃないが誰よりも周りを心配できる満潮。
本当は自分も辛いのに、それでも他の艦娘を気づかってくれた時雨。
いつも私のことを支えてくれた榛名。そして……。

こんな私を、ずっと信じてくれていた金剛。

今まで出会ってきた艦娘、そして、沈んでいった艦娘……。

その全てに、私は感謝をしたい。

私の人生はきっと、君達の為にあった。

だから最後まで私は、この命を君達の為に使おう……。



提督「……以上が、作戦内容だ」

提督「我が泊地の残り資源は少ない。おそらくこれが、最後の全力出撃となるだろう」

金剛「……!」

榛名「うぅ……」

提督「これが、最後のチャンスだ。皆、全身全霊を以って臨むように」

瑞鶴「これで終わるわけがない……私達が負けていいはずがない!」

瑞鶴「絶対に勝つ! ここで勝てば、突破口は開ける!」

翔鶴「瑞鶴……あなた、本気で……」

瑞鶴「翔鶴姉まで何腑抜けた顔してるの? そんなんじゃ勝てる戦いも勝てないよ?」

瑞鶴「皆もそうだよ! 艦娘としての誇りはどうしたの!? 深海棲艦に屈するつもり!?」

伊勢「瑞鶴、あたし達はもう……」

日向「伊勢、いい。言わせてやれ……」

伊勢「日向……」

日向「あいつはもう、何を言っても決して諦めやしないだろう。あまりにも辛いことが
起きすぎて……あいつの精神はもはや私達の及ばぬ所まで達してしまった。
幾重にも渡る辛い現実が……瑞鶴に決して折れない心を与えてしまったんだ」

日向「どんなに傷ついても、あいつは戦い続けるぞ。最後のその一時まで。
折れれば楽になれるのに、それさえも許されない。なんて酷い話だ」


瑞鶴「私は一航戦……私が艦隊のみんなを引っ張って行かなくちゃいけないんだから!」




――泊地・港――


金剛「んー! 風が気持ち良いネー!」

金剛「海はこんなに静かなのに……明日にはこの海で、大きな海戦が行われるんデスネ?」

提督「そう、だな……」

金剛「……テートク、心配いらないヨ? ワタシが敵の旗艦を沈めて、勝ち星を飾って
あげマース!」

金剛「だからテートク、ワタシから目を離しちゃ、NOなんだからね?」

提督「……わかっているさ」

金剛「テートク、ワタシの事を信じてくだサイ。必ず、必ず敵の旗艦を沈めてみせマス……!」

提督「……いや、信じない」

金剛「えっ……?」

提督「私はそんなこと、信じはせんよ。私が信じるのは、金剛……お前が無事に
帰ってきてくれるということだけだ。そのことだけを私は信じている」

提督「……失格かな、提督として」

金剛「ふっ……テートク。テートクはやっぱり、最高デース!!」

金剛「……でもね、それじゃあダメデース。テートクも、わかってるデショ?」

金剛「そんな甘い考えは、もう通用しないって」

提督「だからこれは、私の願望だ」

金剛「テートク。私を信じてくだサイ」

提督「どうしても、信じなくてはいけないのか……?」

金剛「信じてくれれば、ワタシはどんな辛い戦いも戦い抜けマス。だから……」


ぎゅ……


提督「金剛……」

金剛「今は抱かせてくだサイ……アナタの為ならワタシ、どんな強大な敵にも
立ち向かえマス……!」

提督「私は……」

金剛「テートク、私を信じて?」


提督「……ああ、わかったよ。お前を信じるよ、金剛」


金剛「テートク……!」

提督「だが私はあきらめないからな、お前が無事に帰ってきてくれることを……」

金剛「テートクゥ……そんな事言われたらワタシ……ワタシ……あ、あい……」

提督「? ……どうした?」

金剛「やっぱりなんでもねーデース!!」



提督の仕事は決断することである。
誰かがそんなことを言っていた。




しかし私はこう思う。提督の仕事とは、信じることであると。




――最終決戦・当日――



金剛「それでは、泊地遊撃隊……出撃するネー!」

榛名「榛名、出撃します……!」

伊勢「さてさて、ひと暴れしようかしら……?」

日向「瑞雲はおいてきた。今回ばかりは……致し方あるまい」

翔鶴「一航戦、翔鶴……出撃します!」

瑞鶴「見てて、加賀さん……必ずや艦隊に勝利を刻むから。一航戦・瑞鶴、出撃よ!」

瑞鳳「瑞鶴……あまり無茶しちゃ、だめなんだからね」

木曾「重雷装艦の力、見せてやるよ……!」

神通「えっと……まぁ、がんばります」

天龍「よっしゃあ! 抜錨だ! チビ共、遅れんなよ!」

雷「任せて!」

電「大丈夫なのです!」

若葉「若葉だ」

陽炎「陽炎型ネームシップとして……この名に恥じない戦いを!」

雪風「決して目を背けません……最後まで見届けます!!」

朝潮「朝潮型の力、その全てを……出しつくします!」

満潮「今度の地獄はどんなところかしらね? 時雨」

時雨「……そんな地獄を、僕は生き抜いた。こんなところじゃ、終われない」






金剛「――それじゃ、行ってくるヨ、テートク」

提督「ああ、健闘を祈る!」







見送る彼女達の背中は輝いて。


金剛「みなさ~ん! ワタシについてきてくださいネー!」


水上を滑る彼女達の姿は、やはり美しかった。


先頭を往く金剛の姿は特に輝いて、美しくて、そして……儚かった。


私は見送ることしかできない。彼女の背中を見送ることしかできない。


何度も引きとめようと思った。しかし気付いた頃にはもう、私の声が届かない所に彼女はいた。


小さくなる彼女の背中。暁の水平線に彼女は吸い込まれていく。




残されたのは空っぽになった泊地と、空っぽの男だけだった。




NEXT【素晴らしき終末】

最終的には信じるしか無いのです。
装備を揃え、レベルを上げ、資源を貯め、万事を尽くしたら後は艦娘達を信じて送り出すしか無いのです。
今はイベント期間中。イベントのような鬼畜海域ではそれが顕著に現れます。

あなたはたまたま大破した艦娘をつかえないと一蹴し、攻略から外してはいませんか?
どうせ今回もワンパン大破だ。そう思って出撃ボタンを押してませんか?

"信じる"というフレーズを何度もしつこく書いてきました。
それは私が艦これは艦娘を信じるゲームだと思っているからです。


だらだらと続いてきたこのSSも次回、最終幕です。最後は少しいつもと変わった形式になると思います。

もしかしたら、一人の艦娘を救えるかもしれません。
今までお付き合いいただいた皆様なら、きっと、救えるはずです……。

ではまた、オリョールの海でお会いしましょう……。

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j おばんでち! 最後の話は皆に参加してもらうでち……

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|   とはいっても選択肢が少しあるだけでち……
        V`ゥrr-.rュイ人人    皆のこと、ゴーヤは信じてるでち……
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

このスレ意外と人がいたことに驚愕してるんですが……
全く、シャイなんだから
異論がなければ十時頃開始っぽい。実は最後まで書けてないから
最後まで行けるかどうかはわからんゾ!



ある空母は戦いの最中、空を仰ぎ見る。



大鳳「……皆さん……大鳳は……最後まで意志を貫き通しました」

大鳳「たとえこの身が滅びようとも……その意志は、砕けない……」

大鳳「……私の意志は、運命を変えられたでしょうか?」



空に投げ掛けた問いは行き場を失って瓦解する。
終末の空が、そこにはあった。



ある戦艦は対峙する。途方も無い数の敵艦と、粛清に塗れた善意に。



大和「私は……あなた達に負ける訳にはいかないの」

大和「私の主砲があなた達を沈める限り、皆は勇気が持てる」

大和「私の装甲が打ち砕けぬ限り、皆の希望は潰えない!!」

大和「私は連合艦隊旗艦・大和! こんなところで、沈めませんから……!」



彼女はひしめく深海棲艦を睥睨する。敵艦より放たれるは艦上機の群れ。
終末の景色が、そこにはあった。




ある重巡は敵陣の中を一人征く。満身創痍の体は今にも崩れ落ちそうだ。



鈴谷「一人で海を進むのが……こんなにもつらいものだったなんて……」

鈴谷「熊野ってば、頑張り過ぎだよねー……」

鈴谷「ま、今度は鈴谷が会いに行くから、安心してよ……」

鈴谷「絶対に絶対に、熊野に会うんだから……!」



彼女は怯まず、深海棲艦の眼が光る海を進む。絶望に敷き詰められた闇が充満する、この海を。
終末の夜が、そこにはあった。





ある駆逐艦は絶望する。救いのない世界を知ってしまったのだ。



夕立(きっと、夕立はもう……沈むっぽい)

夕立(沈んだら、深海棲艦になる……じゃあ夕立は、どうすればいいの?)

夕立(深海棲艦になるのなんて、嫌っぽい。皆を傷つけたくなんか無い)

夕立(だったら夕立は……"沈んじゃいけない")

夕立(……あぁ、もうこうするしか無いっぽい。夕立は、塵一つ残さぬように、消滅しなくちゃだめ)

夕立(……でもやっぱり、嫌だなぁ。せめて最期は、最期の時だけは……)


夕立(安らかに、眠りたかったなぁ……)



彼女は救いのない二択を迫られた。安らかなる死、それと引き換えに深海棲艦となるか
それを拒み、自らの体を爆滅するか。この小さな駆逐艦の身には、あまりに残酷な二択だ。
一切の救いがない、終末の世界が、そこにはあった。



ある空母は諦めない。どんな絶望が押し寄せようとも、彼女は決して諦めない。



瑞鶴「赤城さん……加賀さん……安心してください」

瑞鶴「誇り高きあなた方の意志は、確かに私が受け継ぎました……」

瑞鶴「見ててください……此度も必ずや、艦隊に勝利をもたらしてみせる!」

瑞鶴「一航戦・瑞鶴出ます! 一航戦の誇り、見せてあげるんだから!!」



その狂気的なまでの信念は、彼女を無謀な戦いへと駆り立てた。
圧倒的な戦力差でも、どんなに体が傷つこうとも、彼女が諦めることはないのだ。
彼女が行くのは荊棘の道。終末の因果が、そこにはあった。





ある戦艦は願った。もう一人しかいない姉妹艦の無事を願った。



榛名(金剛お姉さま……榛名は、榛名は……)

榛名(金剛お姉さまに沈んでほしくはありません!)

榛名(比叡お姉さまも、霧島も沈んでしまいました……榛名にはもう、あなたしかいないのです)

榛名(あなたが沈んでしまったら私は……!)

榛名(榛名は、榛名はあなたさえいれば……もう何もいりません!)

榛名(どんなに辛いことだって、金剛お姉さまがいれば頑張れます!)

榛名(だから!)

榛名(……だから、いかないで……!)



この先へ行けば、無事では済まされない。そんなことわかっていた。
それでも旗艦の金剛は進む。提督を守るため、艦娘の意地を見せる為に。
彼女達の行く先に待ち構えているのはきっと、辛く激しい海戦だ。


彼女達の目指す先。終末の海が、そこにはあった。








        ――終末艦これショート 最終幕――




             【素晴らしき終末】  








――海上・泊地遊撃隊――


金剛「今日も絶好の砲撃戦日和ネー」

日向「おいおい、なんだそれは。聞いたことがないぞ」


明朝、泊地残存戦力によって編成された泊地遊撃隊は侵攻を続ける敵艦隊を退ける為出撃する。
目標は敵旗艦の姫級。圧倒的不利を覆すには敵旗艦の撃破が必要不可欠だ。


金剛「翔鶴、偵察隊の方はどーデスカ?」

翔鶴「もう少しで予測地点へと到達します……敵の陣容は間もなく明らかになるはずです」

瑞鳳「敵はできるだけ少ないほうがいいなぁ……なんて」

瑞鶴「甘いこと言ってんじゃないわよ。寧ろ敵は多いほうが好都合、まとめて殺れるんだから」

瑞鳳「どうしてそういう思考になるの? 瑞鶴……本当に…どうしちゃったの?」

瑞鶴「どうもしてないわよ。私達に負けは許されない。にも関わらずそんなことを口にするなんて……
瑞鳳、アンタまだ五航戦の感覚でいるんじゃないの?」

瑞鳳「そんなこと……」

瑞鶴「何としてでもやり通さなくちゃいけないのよ、私達一航線は」


瑞鳳(瑞鶴、私、あなたが心配……一航戦の名に、あなたが押しつぶされやしないか……心配なの)



木曾「……いよいよだな」

天龍「おう! ちゃっちゃと暴れてぇな~」

神通「天龍さんは……単純でいいですね」

木曾「まー、こいつは馬鹿だからな」

天龍「んだと! こういう時にビビって動けねーよりマシじゃねえか!」

木曾「フッ……それはまぁ、言えてるな」

神通「私、好きですよ。そういうの」

天龍「へっ、わかってんじゃねーか」

神通「私達水雷戦隊は先駆け切り込む突撃隊。怖気づいては話になりません」

天龍「おうよ、勢いだ、勢いが大事なんだよ~」

木曾「お前、勢いで生きてる所あるからな」

天龍「そう褒めんなって」

木曾「褒めてない」


若葉「お前達、怖いか?」

若葉「これから始まる海戦は、おそらく、勝てる見込みが一割にも満たない」

若葉「それが何を意味するか、お前達でもわかるだろう」

雷「……それでも、戦わなくちゃ。じゃないと司令官もみんなも、守れないじゃない!」

電「戦いたくは無いですけど……戦わなくちゃ、誰も守ることなんてできないのです!」

時雨「もう見てるだけなんて嫌だ。夕立のように、一人で逝く艦娘を見るのは……嫌なんだ」

雪風「……そう、ですよね。見てるだけなんて……ダメですよね。雪風は……」

雪風「雪風は戦います! 戦い抜いてみせますから! そして今度こそ……!」

陽炎「雪風、あなた一人に背負わせはしないわ。私がついてる。私も一緒に、戦う」

雪風「陽炎お姉ちゃん……」

満潮「本当に、来るとこまで来たって感じよねー……」

朝潮「司令官の命とあらば、この朝潮、どこまでも作戦に従事する次第です」

満潮「ほんっと、アンタって昔から生真面目よね。そんな生き方、辛くない?」

朝潮「辛くなんて思ったこと、無いわ。姉として、あなた達の手本になれたこと……
それを誇りに思うことはあれど、悔いたことなんてありません」

満潮「なによそれ。私達なんて皆好き勝手やって……私だって、こんなんだし。素直じゃないし」

朝潮「その代わりにあなたは、誰よりも懸命に戦っている。言葉で気づかえぬ分、
戦いの中であなたは仲間を思いやっている。そういう所を含めて……
私はあなたのような妹を持ててよかったと思う。誇りに思う」

満潮「……やめてよ。なんでこんな時に言うのよ……」



若葉「皆、いい表情をしているな。臆する者は誰一人としていないか」

若葉「若葉は、ここで沈めない。若葉には何か……
守らなくてはならないものがある。それが何かは思い出せない」


若葉「だけど確かに、若葉には、守らなくてはならないものがある


金剛「……ヘイ榛名、元気ないネ? どーしたのサ」

榛名「……何故皆さん、前を向いていられるのでしょうか?」

榛名「失うのが、怖くないのでしょうか?」

榛名「榛名は、怖いです……大切なモノを失うのが……」

金剛「榛名……誰だって失うのは怖いヨ。だからこそ、戦うのデス。大切なモノを、守る為に……!」

榛名「……お姉さま」

榛名「金剛お姉さま……どうか! どうかあなただけは沈まないでください!」

金剛「モー……何ネ。榛名は心配性デース。金剛お姉ちゃんは沈まないって、
言ってるデショ?」

榛名「金剛お姉さまが生きていてくれるなら、榛名はどうなっても構いません!
金剛お姉さまが生きていてくれさえいれば……!」

金剛「コラ!」

ゴチン!

榛名「あいたっ」

金剛「……榛名、そんなこと言っちゃ、NOなんだカラ。榛名が沈んでワタシだけ助かっても
なーんにも嬉しくありまセーン」

金剛「榛名はワタシが守りマース。だから榛名も、ワタシを守ってクダサーイ
お互いがお互いを守れば、きっと大丈夫デース!」

榛名「金剛……お姉さま……!」

金剛「大丈夫、大丈夫ヨ榛名。ワタシ達は無敵のコンビだったデショ?
二人一緒ならどんな逆境も乗り越えられマス!」


おねえさまのその言葉を……榛名は、信じていたかった。




――戦闘海域――



翔鶴「……偵察隊より入電、敵艦隊発見しました! 戦艦8空母・軽空母12
重巡8軽巡10……駆逐艦50!」

瑞鳳「制空権は取れそうにないね……」

日向「……厳しい戦いになりそうだな」

伊勢「敵は手強い方が燃えるってものでしょー!」

金剛「ふっふー! ひっさびさの戦闘ネ~! さぁ、暴れまくるワヨ!」



◇泊地遊撃隊◇

《旗艦》:戦艦 金剛
《僚艦
戦艦 榛名
駆逐艦 朝潮
駆逐艦 満潮

《主力航空部隊
正規空母 翔鶴
正規空母 瑞鶴
軽空母 瑞鳳
航空戦艦 伊勢
航空戦艦 日向
駆逐艦 雷
駆逐艦 電

《水雷戦隊
軽巡洋艦 神通
軽巡洋艦 木曾
軽巡洋艦 天龍
駆逐艦 若葉
駆逐艦 陽炎
駆逐艦 雪風
駆逐艦 時雨


一五○○、泊地遊撃隊、敵艦隊ト会敵

全艦、総力ヲ以テ敵艦隊ヲ撃退セヨ



――戦闘開始――


BGM:決戦!鉄底海峡を抜けて!
http://www.youtube.com/watch?v=lzLkns_8slk




瑞鶴「……第一次攻撃隊、発艦開始。敵艦隊を一網打尽にせよ。
我らが一航戦の誇りを見せなさい」ヒュン

翔鶴「瑞鶴……あまり突出してはダメよ。航空隊、続いて!」ヒュン

瑞鶴「私のことを心配するより敵艦を一隻でも多く沈める事を考えて、翔鶴姉」

翔鶴「瑞鶴ったら……」

瑞鳳「サポートは任せて! 戦闘機は攻撃隊の援護に回って、おねがい!」ヒュン

瑞鳳(私、これでも二人よりもお姉ちゃんなんだもん。二人共、私が守るからね……!)

神通「水雷戦隊、出ます! 皆さん、私に続いてください」

天龍「よっしゃ! パーッとひと暴れしてくるか!」

木曾「先制雷撃は俺に任せろ。敵の戦力を大幅に削いでやるさ」

陽炎「陽炎! 戦闘入りまーす!」

雪風「お守りします!」

時雨「夕立……君の力を、僕に分けてくれ!」

若葉「若葉だ。敵を駆逐するぞ」


第一次攻撃隊発艦開始。同時に水雷戦隊は先陣を切る。



金剛「さぁ、ワタシ達も続くネー!」

榛名(金剛お姉さまは……榛名が守ります!!)

朝潮「霧払いは私達にお任せください!」

満潮「駆逐艦にも意地があるわ! 見てなさい!!」


金剛を中心とした高速部隊もそれに続く。
高まる緊張。行く先に待ち構えるは敵の大艦隊。
海の上を滑る少女達は誰一人として速力を落としはしない。
既に翔鶴ら一航戦の放った航空隊が敵艦との交戦を始めている。
立ち上る黒煙。放たれる機銃の音。迫り来る運命の時。

やがて始まる砲雷撃戦。始めに動いたのは木曾だった。


木曾「先制雷撃だ! 重雷装の醍醐味、とくと味わうがいいさ……!」


木曾の魚雷発射管より放たれるすさまじい量の魚雷は海上に軌跡を描き、扇状に広がっていく。
ロングランス。すさまじい雷速を誇るそれは次々と敵艦に襲いかかってはその身を貫いた。


「水偵より入電! 重巡1大破! 軽巡1大破! 1撃沈! 駆逐2撃沈!」


木曾「まぁ上々だな」

天龍「負けてらんねぇな! 行くぞお前ら! 天龍様について来い!」

若葉「いいだろう。若葉、出るぞ」

時雨「素敵なパーティの始まりだね……」

神通「では私達は別方向より攻め入ります。行きますよ」

陽炎「まっかせといて!」

雪風「奇跡の駆逐艦の力、お見せします!」


水雷戦隊、二手に別れ進撃を続ける。重雷装艦・木曾、魚雷次発装填の為反転。


金剛「さぁ、ワタシ達の出番ネー! Fire~!」


ドォン!


入れ替わりに金剛達高速戦艦が砲撃と共に中央を進行。



南方棲戦鬼「ココハ……トオシマセン……オチナサイ!」

戦艦タ級「……ッッ!」ドォン!

戦艦ル級「ッ!」ドォン!


中央では戦艦三隻を中心とした深海棲艦の前線部隊が展開していた。


ズズーン! ザッバーン!


金剛「oh! 危ないネー! ……しょっぱなからイレギュラーなエネミーが混じってるデース!」

朝潮「敵艦の攻撃を引き付けます! 満潮、行くわよ!」

満潮「私が出なきゃ話にならないようね!」

榛名「皆さん! 水上打撃部隊ばかりに気を取られないよう気をつけてください!
敵航空隊の対艦攻撃にも警戒を怠らないよう!」

朝潮「了解!」


金剛「やられっぱなしじゃ、終わらないワヨ! 発砲諸元OK? イエース!」

「旋回完了! 仰角よーし! 照準よーし!」

金剛「主砲! 全門斉射! [BURNING・LOVE!!]」


ドオォォォォォン!!


南方棲戦鬼「マモレ!!」

戦艦タ級「!!」ササッ!


金剛の第二射。目標を捕捉するも戦艦タ級がかばい、決定打とはならない。


金剛「アイツ……わざわざ味方の戦艦に守らせるとは……少なくとも"装甲はタ級以下"」

金剛「それどころか、あの対応からして……もっと低いかもデースね」

「敵艦、詰めてきます! 針路変わらず! 距離二万!」

金剛「イエスイエスイエース! 榛名、準備はできてマスカ?」

榛名「はい、いけます!」

金剛「後はギリギリまで引きつけるワヨ!」

「対空電探に感有り! 右舷より敵機接近!」

榛名「!! 対空戦闘用意!」

朝潮「ここは私達に任せて、お二人は敵艦の迎撃に集中してください!」

満潮「対空戦闘用意! 高角砲発射準備!」


朝潮と満潮は対空戦闘に備える。程なくして敵航空隊は訪れた。


敵艦載機「ヴヴヴヴヴ……」

満潮「来たわね……! 右60度仰角10度に備え!」

朝潮「対空戦闘! 攻撃始め!!」

満潮「馬鹿ね! その先にあるのは地獄よ!!」


高角砲が敵艦載機を迎え撃つ。敵機の数は100程度だったが、
駆逐艦二隻にはあまりに荷が重すぎる。



金剛「二人の為にも、早いとこアイツを沈めちゃいまショウ!」

「おふたりとも! 敵艦来ますぞ!」

榛名「全力で参ります!!」


戦艦・榛名、砲撃。


戦艦タ級「ッ!!! ……! ……」

南方棲戦鬼「!!!」


戦艦タ級、撃沈!


南方棲戦鬼「マモ……」

金剛「やらせないワ! 全砲門、FIRE!」


榛名と金剛の連携により、間断なく行われる砲撃が南方棲戦鬼を襲う!


南方棲戦鬼「ガ……!」


南方棲戦鬼、被弾。大破!


金剛「イエス! やっぱりアイツ、装甲薄いネ!」

「敵鬼級回頭! 速力18ノット!」

金剛「逃がさないワ!」

榛名「金剛お姉さま! 深追いは……」



ドッゴオオオオオオオオオン!!



金剛「!? あっちの方から……朝潮!? 満潮!?」



朝潮「満潮!」

満潮「くっ……あぐぅ……!」

朝潮(沈む……このままじゃ、満潮が沈む!!)

朝潮「助けます!!」


駆逐艦・満潮、敵攻撃機により大破。損傷が激しく、沈むのはもはや時間の問題と思われた。
姉妹艦の朝潮は彼女の救助に向かう。彼女はどこまでもまっすぐだ。
その行動に迷いなど無い。たとえ自らの身が、敵航空隊の攻撃に晒されようとも。


朝潮「満潮! しっかりして!」

満潮「……もう、ほんとに……あんたって……」

朝潮「良かった! まだ意識が……!」


その時、朝潮に向かって敵機の集中攻撃が行われる。


バババババババ……


朝潮「あぁ……!」

朝潮「くぅっ……救援中に、攻撃……なんて、卑怯、な……!」

満潮「なにやって、のy……ばか……!」

満潮「じぶんまで、ひだん、してちゃ、いみな……!」

朝潮「そうしなくちゃいけないって、思ったから……!」

満潮(ああそうか……荒潮、アンタがあの時こいつの救助を拒んだのは……そういう……)

朝潮「みち、しお……」

満潮「ぁによ」


朝潮「……来世、でも、姉妹艦だといいわね……」


満潮「……」




満潮「そう、ね……」




駆逐艦・朝潮、満潮。懸命に対空戦闘を行うも健闘虚しく……沈没す。



「報告! 駆逐艦朝潮・満潮の二隻……沈没を確認……!」

榛名「嘘っ……!」

金剛「……!」

榛名「酷い……なんでこんなに……!」

金剛「榛名。ワタシは今……かつて無いほどの怒りをその身に宿していマス」

金剛「沢山の仲間が沈められました。比叡と霧島、愛すべき妹達が沈められマシタ」

金剛「榛名……ワタシはもう……止まれマセン」

榛名「金剛、お姉さま……?」



神通「こちらは寡兵、ですが悲観しないでください」ドン!

神通「深海棲艦個々の戦術能力はあまり高くはありません」ドンドン!

神通「落ち着いて着実に数を減らしていきましょう」ドン!

陽炎「こんな状況で! よく落ち着いていられます……ねっと!」ドン!

神通「これでも長年二水戦の旗艦を務めていましたから」ドドン!

雪風「神通さんの強さと、雪風の幸運が合わされば無敵です!」

陽炎「おいおーい、私が抜けてるけどー?」

神通「……さて、無駄口をたたいていられるのも、ここまでですか……」

陽炎「……!」


レ級「にっこり」


雪風「!! あれって……!」

神通「……他に控えていた戦艦級が、まさかアレとは……」

神通(見るのは初めてですが……アレがおそらく"レ級"……)

神通(この脅威……早く伝えなくては……!)

空母ヲ級「ヲっ!」ヒュン

陽炎「空母ヲ級! 艦載機を繰り出してきます!」

神通「……連絡の暇さえ与えてくれないのですか。ならば戦いながら連絡するまで!」


――海上・主力航空部隊――


「翔鶴さん! 瑞鶴さん! 神通さんより連絡が……!」

翔鶴「神通さんから……?」

瑞鶴「何か、嫌な予感がする……連絡妖精さん、繋いで」

「了解!」

ザザーッ……

神通『軽巡洋艦、神通です』

瑞鶴「どうしたの」

神通『我、深海棲艦レ級ト交戦二突入ス。レ級です……至急援護をこちらに……!』ドンドン!

瑞鶴「レ級……ですって!?」

瑞鶴(あいつは……加賀さんを……!)

陽炎『神通さん! 危ない!!』

神通『!?』


ズドオォォォォン!!


瑞鶴「ちょ、ちょっと! 大丈夫!? 神通!」

翔鶴「いったい何が……」

神通『問題、ありません。とにかく至急救援を、お願いします』


そこで神通の連絡は途切れた。


瑞鶴「……」

日向「どうしたんだ?」

瑞鳳「瑞鶴、すっごい怖い顔してるよ?」

瑞鶴「……行かなくちゃ」

瑞鶴「あいつは……レ級だけは、絶対にこの手で!!」

翔鶴「瑞鶴!?」


瑞鶴は突然針路を取り、最大船速で海上を駆け出す。
瑞鶴の様子からただならぬ気配を感じた翔鶴達は、急いで後を追うが……。



雪風「じ、神通さん……!」

神通「……大丈夫、次発、装填済み……です」

陽炎「あ……あ……!」


陽炎は目を離すことができなかった。
レ級の砲撃によって、神通の胴体にポッカリと開いた穴から。


神通(私としたことが……慢心でしたね。彼女がこれほどまでに、強いなんて……)

神通(私は所詮軽巡。戦艦の砲撃を貰えばこうなることくらい……わかってたはずなのに)

神通(なんて、情けない……だけど今は、嘆いてもいられない……)

神通「魚雷、発射です……」バシュン


空母ヲ級「ヲっ!?」



神通は致命傷を受けながらも、魚雷を発射し……空母ヲ級一隻を沈める。


神通「よし……」

レ級「ニマー……」

神通「!!」


そんな彼女の姿が、レ級を刺激してしまったのか……砲戦後静観していたレ級は
艦載機を次々と繰り出し、神通へと接近する。


神通「くっ……!」ドン!ドン!

レ級「クスクス……!」


迎撃する神通。しかしレ級はまるで引く様子がない。それどころかどんどん神通へと
接近していき……!


神通「……ッ!」

レ級「ニヤァ……」



バコン!



神通の体を、真っ二つに吹き飛ばした。


雪風「あ……じんつう、さんが……真っ二つに」


既に戦意など喪失していた。あの神通が、あまりに一方的にねじ伏せられるのを
目の前で見せつけられて……尚、向かって行く勇気など……二人にはなかった。


レ級「ニッコォ……」クルリ

雪風「ひっ……!」

陽炎「……! 大丈夫よ雪風! あなたは私が守る!!」

雪風「陽炎、お姉ちゃん……!」


次の獲物を求めて、レ級は目に入った雪風達に狙いを変える。
陽炎は雪風の前に立ち、レ級を睨んだ。頭ではどうしようもないことがわかっていても、
姉として、譲るわけにはいかなかった。


レ級「ニヤニヤ……」

陽炎「……ごくり」


陽炎の恐怖心が汗となって滴り落ちる。陽炎は、その身に受けるレ級の殺意から
逃げ出したくて仕方がなかった。怖くて怖くて泣き叫びたいくらいだった。
本当は立っているのがやっとで、体なんて動かなかった。


雪風「陽炎お姉ちゃん……逃げて……!」

陽炎「大丈夫よ……雪風。次の魚雷で、沈めてやるわ。あんなやつ……!」


それでも彼女は、妹の前では気丈に振る舞う事をやめなかった。


レ級「ニッコリ」シュン!

陽炎「来る……!」


陽炎は魚雷を放つ。彼女達駆逐艦に残された、唯一必殺の武器だ。

だが、しかし……いくら必殺の武器とはいえ……相手が悪すぎる。


レ級「♪」

敵艦載機「ッッ!!」

陽炎「あ……」


陽炎の魚雷に敵の艦載機が突っ込み、相殺される。
陽炎の唯一絶対の武器は、ここに敗れたのだ。


レ級「にぱ♪」グアッ!

陽炎「雪風!」ダキッ

雪風「お姉ちゃん……!」


陽炎は目を瞑る。もう何も考えることはできなかった。
陽炎はただ雪風を守るために、咄嗟に彼女を抱きしめた。


ドォン!


砲撃。レ級の砲撃ならば、駆逐艦など簡単に沈められるはずだ。


陽炎「……?」


しかし陽炎は沈まなかった。それどころか、傷ひとつなかった。


レ級「……!!!」


レ級の脇腹を抉り取る、背後からの砲弾。


神通「……油断、しました、ね……?」


それは上半身だけになりながらも砲撃を行った、神通の主砲より放たれた砲弾だった。


レ級「!!!!!!」ビキビキ


怒りに震えるレ級。神通は砲撃をやめない、


レ級「~~~~~ッッ!!」


言葉にならない咆哮を上げるレ級は、神通に向かって全ての艦載機を差し向けた。


「させないわよ……全航空隊、レ級を攻撃して!!」


レ級「!!」


あさっての方向より現れた航空隊から身を守るため、レ級は艦載機を反転させる。
その挙動は浮き足立っていて、紫電改二の絶好の的だった。


「……面白いように落ちる。ふん、まるで七面鳥ね」

神通「瑞鶴、さん……」


駆けつけたのは、正規空母 瑞鶴だった。


瑞鶴「神通。あなたはよく頑張った。あなたは我が艦隊の誇りよ」

瑞鶴「だからもう……休みなさい」

神通「……ありがとう、ございます」

神通「どうか、ご武運を……」



軽巡洋艦 神通。体が真っ二つになろうとも最期までレ級に砲撃を浴びせ続ける。
心優しき二水戦の旗艦は、その壮絶な一生を閉じた。



瑞鶴「……さてと」

レ級「……!」

瑞鶴「どれだけ待ち望んだことか……どれだけこの時を待ち望んだことか」

レ級「……?」

瑞鶴「お前を沈める為に、私は今まで身を削ってきた。あの日から、お前達の顔を
忘れた事なんか一度だってなかった!」

瑞鶴「あー……今日、ようやく報われる……お前に、安らかな死など与えない。
苦しみ悶え、その苦痛により加賀さんに懺悔させた上で……お前を殺す」

瑞鶴「お前を殺す。絶対に殺す。そうだ、焼き鳥だ。焼き鳥がいいなァ……」ニヤァ

レ級「」ゾクッ



瑞鶴の瞳は底知れぬ狂気に支配されていた。レ級は初めて恐怖を感じる。
瑞鶴は、深海棲艦でさえも恐れる程の、もっとどす黒い感情に身を窶していた。


瑞鶴「第二次攻撃隊、発艦開始」ヒュン

レ級「!!」ヒュン


有無を言わせず、瑞鶴はレ級に攻撃隊を差し向ける。
レ級も応戦する為、艦載機を向かわせた。


ドン! ドン!

         パラララララ……


制空劣勢。やはり機体性能が違うのか、レ級の航空隊の方が上手だった。


レ級「ニヤ……!」

レ級「……!?」

瑞鶴「満足した? それで満足した?」

瑞鶴「じゃあ見せてやるわよ。これが私の、一航戦の誇り高き戦い方よ」


制空権もなく、圧倒的不利な上空を爆戦62型が駆け抜ける。敵艦載機は迎撃を試みるも
紫電改二がそれを許さない。


レ級「……ニィ!」


接近する爆戦。多少の爆撃なら耐えられると高を括っていたレ級だったが……
どういう訳か、爆戦は一向に速度を下げようとはしない。


レ級「……!!」


そこでレ級はようやく気付いた、"アレ"ははなっから爆撃する気など無い。
"アレ"は直接ぶつかってくるのだと。


バコオォォォォォン!!


レ級「……ッ!」


気付いた頃にはもう遅い、レ級の身体は忽ち炎上を始めた。


レ級「~~~~ッッッ!!!」

瑞鶴「あっはっは! 燃えてる燃えてる! 焼き鳥だ!」


瑞鶴「どうだ! 見たか! これが一航戦の力よ!! 
一航戦の名は伊達じゃないんだから!」

翔鶴「瑞鶴……あなた……なんて事を!」

瑞鶴「あっ! 翔鶴姉! みてみて、私、あのレ級を一人でやっつけたよ!」


遅れてやってきた翔鶴に、瑞鶴は嬉々としてレ級討伐を報告する。


翔鶴「瑞鶴! あなた……自分が何をしたかわかってるの!?」

瑞鶴「何って、あのレ級を、前は皆で戦っても一体倒すのがやっとだったレ級を、
私一人で! 空母一隻で沈められたんだよ! これで一航戦の先輩方にも
顔向けできる……」

翔鶴「……馬鹿!!」


パシン!


翔鶴の平手打ちが、酔客の頬を捉える。


瑞鶴「……ッ! 何、すんのさ……翔鶴姉!」

翔鶴「あなたは……一番してはいけないことをしたの! 特攻なんて……
それだけは絶対にしてはいけなかった! 先輩方に顔向けなんてとてもできない……!」

瑞鶴「……一航戦なら、こうするのが当然。同じ状況なら、きっと加賀さんだって
同じことをしてた」

翔鶴「ふざけないで! 加賀先輩がこんなことするはずない!!」

瑞鶴「いいや、してたよ。恥じて生きるより、誇り高き死を。それが一航戦。
翔鶴姉も……結局は五航戦の頃の気分が抜けてないんだね……」

翔鶴「こんなの、一航戦の戦い方じゃない!」

瑞鶴「翔鶴姉にはわからないよ。五航戦の翔鶴姉には」


瑞鶴「私は違う。翔鶴姉と一緒にしないで」


翔鶴「あなた……ッ!」



瑞鶴にはもう、翔鶴の……姉の言葉さえも届かないというのだろうか?





日向「なんだこの有り様は……」

伊勢「わ~、大分出遅れちゃったわね」

日向「仕方がないだろう。伊勢型は低速鑑だからな……」

瑞鳳「というか、翔鶴型が早すぎ……」

電「つ、疲れたのです……」

雷「陽炎! 雪風! 二人共無事……?」

陽炎「なんとか、ね……」

雪風「……」

雷「雪風、あなた大丈夫……?」

雪風「まだです……!」


レ級「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


雪風「まだ終わってないです!!!」


レ級「ッッ!!!」


雪風が叫ぶのと同時だった。炎上するレ級が突如発砲してきたのは。



瑞鶴「な……!」

瑞鶴(こいつ、まだ息が……!)

翔鶴「瑞鶴!」


翔鶴が瑞鶴の手を取る。その時世界は急速に速度を失い、
瑞鶴に3分の1倍速の世界が訪れる。
瑞鶴の目に映る世界は、全てスローモーションになっていた。


瑞鶴(やだ、翔鶴姉……!)


翔鶴のことだ、妹の瑞鶴を庇おうとするのは当然のこと。
翔鶴はやはり、自分の身を呈して瑞鶴を守ろうとする。


瑞鶴(翔鶴姉、ダメ……!!)


動こうにも体がついて思考についていかない。この世界中で、
彼女の意識だけが先行していたのだ。



瑞鶴(来る……!!)


迫り来る弾丸。空気を削り取り回転してくるそれは間もなく姉の体を……


貫きはしなかった。それは、翔鶴の体に到達することはなかった。


瑞鶴「え……?」


瑞鳳「……二人は、私が守るんだから!」


二人の前にでて、その砲弾を受けたのは……瑞鳳だった。


瑞鳳「うあ……!」

翔鶴「瑞鳳!!」

瑞鶴「なん、で……どうして……?」

日向「くっ! おい伊勢! 砲戦だ!」

伊勢「わかってるわよ! 食らいなさい!」


ドォン!
     ドォン!


レ級「ニヤァ……、…………」


レ級、伊勢日向の砲撃により撃沈。


翔鶴「瑞鳳! あなたなんで……!」

瑞鳳「……翔鶴ってさ、なんか、自己犠牲的な所あるじゃない……?」

瑞鳳「あのね、翔鶴がいなくなったら……瑞鶴はきっと……もう本当に
戻れなくなっちゃうと思うんだ……だから、あなたはここで沈んじゃいけないの」

瑞鳳「翔鶴にしかできないから……瑞鶴を支えられるのは、
翔鶴だけだから……」

翔鶴「だからってあなたが犠牲になっていいはずがない!!」



瑞鳳「姉妹は一緒が一番だよ。二人が支えあってこその姉妹だよ……それに」

瑞鳳「前に龍驤ちゃんがこうやって瑞鶴を守った時のこと、思い出して」

瑞鳳「龍驤ちゃんも同じことするんだろうなぁって思ってたら、体が勝手に動いてたの」

瑞鶴「瑞鳳……」あなた

瑞鳳「ごめんね瑞鶴。今回は最後まで一緒に……戦えそうにないや」

瑞鳳「私って瑞鶴のこと……妹みたいに思ってたんだ」

瑞鳳「私がおねーちゃんで、瑞鶴は妹」

瑞鳳「でもやっぱり……本当のおねーちゃんの方が、いいよね」

瑞鶴「馬鹿……そんなの関係ない!」

瑞鶴「瑞鳳は……かつての戦争でも最期まで共に戦ってくれた……私の大切な人よ!」

瑞鳳「そっか。それじゃあ最後にお姉ちゃんから一言」


瑞鳳「あなたは加賀さんじゃない。加賀さんにはなれない」


瑞鶴「……!!」

瑞鳳「無理に、一航戦であろうとする必要なんか、ないんだよ……」

瑞鳳「ありのままのあなたが、いちばん、なん、だから……」

瑞鶴「……無理だよ、今更」

瑞鶴「もう私は、後には引けないんだ……!」

翔鶴「瑞鶴! あなたそれでもまだ……!」

瑞鳳「翔鶴、いいの。それが瑞鶴の答えなら……」

翔鶴「でも……!」

瑞鳳「だからあなたが付いていて、翔鶴。瑞鶴を支えてあげて」

翔鶴「瑞鳳……わかったわ」


瑞鳳「そろそろいくね……皆に会いに行かなくっちゃ」

瑞鶴「待って! 瑞鳳!」

瑞鳳「ずい……」

瑞鶴「瑞、鳳……?」

瑞鶴「瑞鳳……ねぇ、瑞鳳ったら! 瑞鳳!」

日向「瑞鶴……もうやめておけ。この海に……還すんだ」

瑞鶴「ぁ……あう……」



軽空母 瑞鳳、レ級の砲弾を真正面から受け、再起不能となる。
瑞鶴達を守って誇らし気な表情を浮かべた彼女は、ゆっくりと海へと沈んでいった。



伊勢「……マズイわね、そろそろ戦線維持が辛くなってきた」

電「でもでも! レ級さんはやっつけたのです!」

雷「そうよ! とりあえずのところは……」

日向「残念だが。奴らは一匹だけじゃあ無いみたいだぞ」

電「え……?」


レ級「ニヤニヤ」

レ級「ニマァ」


瑞鶴「……また、このパターンか……」

翔鶴「瑞鶴……?」

瑞鶴「翔鶴姉。やっぱり私、最低だ。瑞鳳が沈んでも尚私は……」


瑞鶴「この生き方を、やめられないでいるんだもん……!」


翔鶴「瑞鶴……!」



瑞鶴は泣いていた。大粒の涙をこさえて、人目も憚らず泣いていた。
止めどなく流れ落ちる涙の濁流は、もうどうしようもなくなってしまった彼女の心の悲鳴だった。



「報告します。軽巡洋艦神通、軽空母瑞鳳……轟沈しました」


金剛「……もう、一刻の猶予も許されないようデスね……」

榛名「お姉さま……一体何を?」

金剛「ワタシは……敵旗艦を狙います……!」

榛名「お姉さま!? 無理です! この中を行くのは……」

金剛「……比叡は! 霧島は! きっとこの程度じゃ諦めなかった筈!」

金剛「何を言われても、ワタシは行きマス」

榛名「……引く気は、無いのですか」

金剛「愛するマイシスターの頼みでも、こればっかりは譲れません」

榛名「榛名は……」



1.最後まで、金剛お姉さまにお供します

2.金剛お姉さまを行かせはしません



          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j  ここで一旦切るでち
       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  選択肢は多数決で決めるでち
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><

飯食ってくるなのね。次のレスまでに多い方の選択肢を採用するのね。
一つヒントを上げるなら、決まってしまっている因果は変えられないということだけなのね。

          ,.r-=

          (( -――-.(ソ
        /:::::::::::::::::::::::゚丶
        /::/レヘ::::;ヘ:::::i:::::::|  
      〈|::::l ┃`' ┃`-!:::::j 用事が入ったので次の選択肢まで投下するでち

       ji::〈 "  ヮ  "/::::::|  夜も投下できるといいでちが
        V`ゥrr-.rュイ人人  
         ,/1::ー:'::! i
   .  ( ̄) ̄  ̄ ̄i.ノ ̄ ̄><


1..最後まで、金剛お姉さまにお供します


榛名(……金剛お姉さまは、こういう時……何を言っても無駄ですからね。
わかっていました。お姉さまはそういう方です)

榛名(だけど……榛名はお姉さま一人で行かせたりしません。
お姉さまは榛名が守ります。榛名はそう決めたのです)


榛名「榛名は、最後まで金剛お姉さまにお供します」


金剛「……無理してついてこなくても良いのにー、榛名は大馬鹿者デース」

榛名「榛名はお姉さまを一人で敵陣に向かわせるような妹ではありません」

榛名「榛名もお供します。お姉さまを一人にはしません!」

金剛「oh……榛名。あなたはなんて出来た妹なのカシラ?」

金剛「わかったネ。榛名、私についてこれるゥー?」

榛名「はい! 榛名は大丈夫です!」



――金剛・榛名、敵艦隊に突撃――



金剛「全砲門、Fire~!」

榛名「主砲! 砲撃! 開始!」

「弾着! 重巡二隻に被弾確認! 大破1中破1!」

金剛「まだまだ行くネー!」

「敵艦載機多数接近! 数200以上!」

榛名「対空戦闘用意! 25mm三連装機銃で迎撃してください!」


ドォン!


榛名「お姉さま!」

「敵砲撃夾叉!」

金剛「shit! 夾叉ナノ? 機関最大、高速戦艦の速力、見せてあげるネ!」

「榛名さん! 迎撃間に合いません! 敵機爆撃に備えてください!」




ゴオオオオオオオオオン!



榛名、敵航空隊の爆撃により中破!


金剛「榛名! 大丈夫!?」

榛名「この程度で、榛名は沈みません!」

金剛「良くも! 私の可愛い妹を……許さないんだカラ!」ドォン……バシュン


戦艦金剛、三式弾を発射。敵航空隊を退ける!


「……敵機退散していきます!」

金剛「どう? 私の力はすごいでショ? このまま……」


南方棲戦鬼「ウグ……!」


金剛「アイツを狙うネ! 榛名! ヤツを倒して、その先の旗艦を……沈めマス!」

榛名「はい! お姉さま!」

金剛「バーニング……」


ドゴン!


金剛「!?」


「敵魚雷二発直撃!」

榛名「お姉さま!?」

金剛「大丈夫まだ動ける! それよりも榛名、私の砲撃に続くネ!」

榛名「は、はい!」

金剛「比叡……霧島。あなた達の力、少しだけ貸してクダサイ……」

金剛「Burning Love!」


ドオォォォォォォォォォォン!


「夾叉!」

金剛「榛名!」



榛名「はい! 榛名、全力で……参ります!」



戦艦榛名・南方棲戦鬼に向けて砲撃。



南方棲戦鬼「ソンナ……マサカ……ソンナ、コトガ……!」


砲弾は見事直撃。南方棲戦鬼はようやく深海へと還っていく。


金剛「……さてと、前半戦はこれでフィニッシュデース」

榛名「……お姉さま」

金剛「ええ、わかってマス。旗艦の取り巻きは……おそらく、レ級」

金剛「榛名。今からでも……アナタだけでも……」

榛名「……榛名は、大丈夫です」

榛名「お姉さま……榛名は……最後までお伴すると申し上げました。
その気持ちに変わりはありません」

金剛「そう、デスカ……」



レ級「にっこり」

レ級「ニヤリ」

レ級「ニコニコ」


榛名「! ……お姉さま!」

金剛「ヘイヘイヘーイ! ドンドン集まってきてくださりやがりマシテー」

金剛「私の速力に、ついてこれるカシラー!?」

金剛「……榛名、速度では高速戦艦のワタシ達に分があるはず。このまま突っ切りマス」

榛名「……はい! お姉さま!」


戦艦金剛、レ級により構成された最終防衛線を強行突破することを決める。


金剛「さぁ、金剛型の底力、見せてあげるネー!」

榛名「榛名! 参ります!」


レ級「ニッコリ」


全速力で駆け抜ける金剛型姉妹、彼女達の眼前に立ちはだかるは深海棲艦レ級。


「レ級、艦載機を発艦!」

「こちらは雷撃です!」

「レ級の砲撃、来ます!」

金剛「やっぱりレ級の相手はしんどいネー!」

榛名「お姉さま! お互い近くにいては危険です! 一旦離れましょう!」

金剛「いえ、ここは……一点集中突破デス! 一人になるのは危険ヨ!」

「敵機多数接近!」

金剛「対空戦闘用意! 仰角15度に備え!」

榛名「目標捕捉! 攻撃開始!」


戦艦 金剛・榛名、三式弾と機銃による対空戦闘を行う。ここまで敵艦隊に深く入り込んでいると、
航空隊の支援も得られない。加えてレ級の機体は高性能だ……戦艦の対空戦闘でどうにかなるものではなかった。



金剛「くぅ……うるさい小バエデース!」

榛名「一向に数が減りません……!」

「左舷より魚雷接近! 回避してください! 距離10000 雷速40ノット!」

金剛「次から次へと……!」

榛名「回避します!」

金剛「金剛型の速力にをもってすればこの程度、造作もありまセーン!」


戦艦 金剛・榛名、その速力を生かし魚雷を回避……


レ級「ニヤリ」


ドォン!


がしかし、ここで図っていたかのようにレ級の砲撃は的確に金剛達の進行方向を狙う。
誘導されていたのだ。魚雷を避けることを見越していたのだ。


金剛「あぁっ! 砲塔が!」


レ級の砲撃により、金剛三番主砲塔に損害。三番主砲塔は機能を喪失する。




榛名「お姉さま!」

金剛「ノープロブレムヨ榛名! このまま押し切る!!」

レ級「ニヤニヤ……」

金剛「邪魔ヨ、どきなさい! Fire!!」


ドン!
   ドン!
      ドオォォン!


立ちふさがるレ級に対し、金剛は砲撃を浴びせる。


レ級「ッッ!!」

金剛「くっ……流石に硬いネ」

レ級「ニッコリ」ヒュン

榛名「お姉さま! 艦載機また来ますよ!!」

金剛「オーウ榛名、慌てちゃダメデース!」

金剛「一人じゃダメなら二人同時! 全門斉射フルバーストに懸けマス! 」

レ級「ニヤァ……!」

「レ級、左舷からも一体接近してきます!」

金剛「対空迎撃も怠らないでネ!」

レ級「ニコッ」


ドォン!


榛名「撃ってきた!」

金剛「他のやつには構わなくてもいいデス! 正面のアイツさえやれれば!」

敵艦載機「ッ!」ヒュウウゥゥゥゥ……

「爆撃来ます!」

榛名「榛名の対空迎撃能力を見くびってもらっては困ります!! 三式弾!」


ドン……バシュウゥゥン!!


「相殺!」

金剛「あと少し……榛名、タイミングを合わせて!!」



熾烈極まる集中攻撃を掻い潜る金剛姉妹。艤装はところどころ黒煙が立ち上り、
機関部は無理が生じて悲鳴を上げている。
だがそれでも、二人は信じて疑わなかった。二人ならきっと、抜けられると。

いよいよ距離が近くなる姫級を守るレ級と金剛姉妹。互いの目があった瞬間、
互いが次の一撃での決着を予期していた。

海上を掛ける金色の少女達。迎え討つは深海のバーサーカー。

互いの線が一直線に結ばれた時、瞬間は訪れた!



金剛「榛名! 今デス!!」

レ級「!!」


榛名「主砲! 副砲!! 全門……斉射!!!」
金剛「BURNING・LOVE!!!」


レ級「ッ!」ドォン!




 ドッゴオオオオオオオオオン!




レ級「……、……」


レ級、金剛・榛名の息の合った砲撃により……撃沈。


榛名「やった……!」

金剛「まだ、ヨ……榛名……まだ奴が残ってるネ!」


戦艦棲姫「……ク」


戦艦棲姫。この艦隊の旗艦である。


金剛「……余裕が無いようデスね、あなた……」

榛名「どうやら以前の海戦の傷が……まだ癒えていないと見ました」

金剛「赤城……加賀……アナタ達のやってきたことは、決して無駄じゃなかった」



金剛「今ここで……それを証明する!!!」



戦艦棲姫「!! シズマナイワ、ワタシハ……!」スチャ


戦艦棲姫が主砲を構える。しかしそれよりも早く、金剛の砲撃が彼女の砲塔を吹き飛ばした。




戦艦棲姫「ッッ!!!!」

金剛「アナタは、ここで沈む!! 榛名!」

榛名「お姉さま!!」



金剛「受けナサイ!! これが……艦娘の! ワタシ達の……信念の一撃ヨ!!!」



戦艦棲姫「!!!!!」


轟音が木霊する。
空気の震えが、海域全体に広がっていく。
それを全ての深海棲艦が、全ての艦娘が感じ取った。
今宵、一つの決着がついたのだ。


戦艦棲姫「イツカ……シズカナ……ソンナ……ウミデ……」


戦艦棲姫の瞳に映るのは、もうすっかり暗くなってしまった空。
今感じるのは、自らの身体に働く海の底への引力と……久しく忘れていた、死の感覚だった。


「報告! 戦艦金剛及び戦艦榛名、敵旗艦の撃破に成功!!」


日向「!? ……なんだと、本当か!?」

木曾「し、信じられねぇ……あの戦力で正面突破したっていうのかよ」

伊勢「二人共……なんて無茶を……!」

瑞鶴「……ならば後は、敵の残存戦力を叩くのみ!!」

日向「と言いたいところだがな、瑞鶴。こちらにももう戦闘続行出来る
力が残っていない。ここは引くしかあるまい」

瑞鶴「くっ……」

翔鶴「レ級もいますからね……」

「旗艦、金剛さんからは既に撤退命令が下っています! 皆さん!」

瑞鶴「くそっ! せっかく旗艦を潰せたのに……!」

翔鶴「撤退しましょう、瑞鶴……」

天龍「まぁいいじゃねえか。これってつまり、俺達の勝ちってことだろ?」

伊勢「これが本当に……勝利と呼べるものかは、わからないけどね……」


日向「金剛、お前……本当に無茶しすぎだ。馬鹿なこと考えてなければいいけれど……」


――海上――


金剛「やってやったネ……」

榛名「榛名は、お姉さまをお守りできて……良かったです……! 本当に、良かった……!」


金剛・榛名の両名は戦線を離脱した後、夜の海を航行する。
二人共傷だらけ、今敵に襲われたら間違いなく撃沈されるだろうという状況なのに、
二人の間には不思議と絶望感がなかった。


榛名「榛名、この海戦が始まった時……心配だったんです。金剛お姉さままで沈んでしまうのではないかと
心配だった……」

榛名「榛名が沈むのはかまいません。実際、私はそれを覚悟してこの海戦に臨みました。
きっと皆さんもそうでしょう。皆覚悟していた……勝てる見込みなんて殆ど無い戦いですから」

榛名「でも、榛名達は勝ったんです……そしてこうしてまた……金剛お姉さまと母港へ帰る事ができる……」

榛名「比叡お姉さま、霧島……見ていてくれましたか? 榛名……金剛お姉さまを守れました!」

金剛「……榛名、アナタはよく、頑張りマシタ……」

榛名「はい! 榛名、頑張りました! お姉さまがいたから、榛名はここまで頑張れたんです!」

金剛「不可能に近い状況だった。でもこうして、敵の旗艦を沈められた。
戦艦一隻の犠牲でこれなら……大戦果ネ」


榛名「お姉さま……? 今、なんと」


金剛「元々ワタシのワガママだったんだモン……沈むのは、ワタシひとりで十分」

金剛「……ゴメンネ榛名。ワタシ……もう、ダメデス……」

榛名「お姉、さま……?」


ガクンと、金剛の体が傾く。彼女の体は既に限界に達していたのだ。
それでも尚、戦い続けることができたのは……金剛の、艦娘としての意地、
妹達の無念、そして……榛名を守りたいという気持ちが綯い交ぜになって
彼女を突き動かしていたからだ。
それを果たせば、当然動力源は無くなる。動力源を失った満身創痍の
金剛の体が沈むのは、当然の道理だった。


金剛「さっきの、魚雷が堪えたネ……」

榛名「やだ、嘘……お姉さま!? え、曳航します!」


無理やり曳航しようとする榛名を金剛は制止する。
榛名が差し伸ばした手は行き場を失い、右往左往した。



金剛「無理をしないで。あなたもボロボロでショウ?」

榛名「お姉さま……せっかく一緒に帰る事ができるのに……!」ボロボロ……

金剛「いいよ、榛名。たくさん泣いてクダサイ」

金剛「たくさん泣いて、悲しみも苦しみも全部流したら……また、あの素敵な笑顔の榛名に戻ってクダサイ」

榛名「無理です……そんなの、榛名には……」

金剛「……ゴメンネ榛名。おねーちゃんは嘘つきです。沈まないと言っておきながらこんな……」

榛名「う、嘘なんかにしないでください!」

金剛「……テートクの嘘つきが伝染ったネ」

金剛「でもあの人の嘘は、温かい。そしてその暖かさの分、自分は苦しい思いをしてきたのでショウ」

金剛「ま、みんなテートクのごまかしなんて、お見通しでしたけどネー」

金剛「それでも、どんなに苦境に立たされても……弱音を吐いても、テートクは決して"諦める"という
言葉だけは使わなかった。それはテートクが、ワタシ達を信じてくれたから……そんなテートクだから、
ワタシはアナタを信じれた」


金剛は空を見上げて月に話しかける。同じ月を提督が見ていることを願って。


金剛「テートク、愛してるデース……」



ボソリと呟くように、金剛は泊地で待つ提督に告白をする。
ここに提督はいないのに、金剛はとても小さな声で言うのだ。
あれだけ普段からアプローチをかけていても、根は奥手なのだ。

榛名は心の奥が締め付けられる思いだった。ここで沈んでしまえば、
彼女の想いが提督に届くことはないのだから。


金剛「……榛名、私はあなたのような妹を持てて、誇りに思います」

金剛「あなたと過ごした時間、私は忘れません。あなたに最後を見届けてもらえること
私は幸せに思います」

榛名「待って、沈まないで!」


榛名は金剛の手を必死につかむ。だけれど、死の引力には逆らえない。


「無理です榛名さん! 曳航は不可能です!」


榛名「あっ……」


金剛の手が、榛名の手から滑り落ちる。
再び掴もうとしても、その手はもう届かない。








金剛「どうか、武運長久を……私、比叡達と一緒に……榛名を見守っているネ」











戦艦 金剛。榛名と共に敵旗艦を撃沈する戦果を上げるも……
泊地へと辿り着くこと無く、沈没。




――泊地・母港――


――おい! 榛名が、榛名が帰ってきたぞ!


日向「無事だったのか……!」

電「榛名さん!」

伊勢「榛名!」

榛名「……榛名は、榛名は……だいじょう」

日向「無理するな……お前は大丈夫なんかじゃない!」

榛名「榛名は、金剛お姉さまが、榛名は……」

日向「金剛は、沈んだのか……」

榛名「……はい」

日向「……そうか」

榛名「榛名は、これからどうすればいいのでしょうか」

日向「榛名。君は生きろ」

榛名「生きてどうしろというのですか。もう榛名は……嫌です。もう榛名は……」

日向「姉の分まで生きろ。その命で、何ができるのかを考えるんだ」

榛名「わからないです……榛名、何も……」

伊勢「ゆっくりでいいんだよ。急がなくても」

伊勢「私達も一緒に考えてあげるからさ。ね、日向」

日向「ああ。君が生きている。これほどまでに嬉しい事はない
金剛も、いや……金剛が一番そう思っているさ」

榛名「伊勢さん……日向さん……」

伊勢「さ、榛名……提督に報告しに行こう」

榛名「……! そうだ、榛名は……榛名は提督にお伝えしなくてはならないことが!」

榛名(お姉さまの……金剛お姉さまの気持ちを……!)





――テートク、愛してるデース――





――そして少し、時は流れて。


泊地の資材は、底をつきました。
救援もなく、艤装を修理する事さえできない。
敵の旗艦を撃破したことにより、今すぐ泊地が壊滅させられる可能性はなくなりましたが……。
それも結局終わりが少し遅れただけでした。勝っても勝っても、また新しい深海棲艦が現れる。
どちらにせよ、後は静かに終末を迎えるだけ。戦う力が残っていない私達は、
終末を迎えるだけ……なんです。

榛名はというと……。


伊勢「さて、出撃するわよ!」


日向「海面にプカプカ浮いているだけの行為を果たして出撃と呼べるのか?」

榛名「浮き砲台……というやつですから」

伊勢「細かいことはいいじゃん! さぁ、出撃よ!」

日向「やれやれ」


金剛お姉さま。比叡お姉さま。霧島。見ていますか?
榛名は今、浮き砲台をやっています。
これからどうなるのかはわかりません。
でも、榛名は大丈夫です。
伊勢さんや日向さんもいます。
みんなみんな、良い方達です。
榛名は今、自分に何ができるのか、それを考えていこうと思っています。


だからお姉さま方。榛名を見守っていてください。


伊勢「榛名、準備はできてる?」



榛名「……はい! 榛名は大丈夫です!」




――執務室――


提督「金剛……」

提督「お前、本当にいなくなってしまったのか……?」

提督「……」

提督「私は、最後までお前の想いに向き合うことはなかった。私は、司令官として
だけではなく……男としても、無能だな」


静かに終わりを迎える我が泊地は、出撃することももう無い。
皆が終末を受け入れ、皆が思い思いに過ごしていた。


……一人を除いて。


翔鶴「……失礼します」

提督「翔鶴か。どうしたのかな」

翔鶴「妹の瑞鶴のことなんですが……あの子、また勝手に燃料を使って……もう自由に使える量なんて
残っていないのに」

提督「かまわんよ……出撃はもう、暫くはない」

翔鶴「……提督。あの子、まだ、戦おうとしているんですよ? 艦載機が飛ばせなくなっても、
戦おうとしてるんです……」

翔鶴「そんなあの子を……私は、助けてあげたい。だけどあの子は……
それを拒むんです……」

提督「……こんな状況にあっても、瑞鶴は諦めていないんだな」


一航戦の呪縛。瑞鶴はそれに囚われている。特に……加賀への執着が酷い。
瑞鶴は諦めない。だがそれは彼女に残酷な運命を強いる。


翔鶴「提督、力を貸してください。瑞鶴を……助けてください!」


提督「瑞鶴を……助ける、か」

提督(どうすれば……彼女の心を救うことができるのだろう)

翔鶴「提督!」

提督「私は……」


1.瑞鶴の信念を信じてやる

2.瑞鶴を呪縛から開放してやる

ここまで。選択肢多数決は次レスまで集計

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