【瑞加賀】 瑞鶴「大好きはもう隠さない」 (71)
イベントが終わったので投下します。ごく普通の瑞加賀SSです。
昔書いてた長編SSとの繋がり等は多分ありません。
・軽めの百合描写あり。
・独自設定、解釈等あり。
苦手な方はご注意を。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1481275191
━━━━━幌筵泊地 演習場
瑞鶴「よーし勝った! 今日もいい感じ!」
午後の演習が終了。お隣の単冠湾泊地の艦隊との戦いは何とか勝利で終えることができた。
葛城「やりましたね! 瑞鶴先輩、さすがです!」
艦娘になってから約三年。結構力を付けてきたと思うし、こうして慕ってくれる後輩も出来た。
私も少しは『あの人』に近づけたかな……?
???「この勝利に慢心しては駄目よ、五航戦」
瑞鶴「加賀さん……」
幌筵泊地に所属するもう一人の正規空母、一航戦の加賀さん。私が師事している熟練の先輩空母だ。
今回の演習では人数や戦力バランスの関係で戦闘には参加せず、終わった後にアドバイスとかをしてくれることになっていた。
この加賀さんって人、普段は無表情無愛想で何考えてるかわからないんだけど、私に対してはやたら厳しいんだよね。
お小言やお説教も多いし……同じ一航戦でも優しい赤城先輩とは大違い。正直、赤城先輩に師事してる翔鶴姉を羨ましく思う時もあったよ。
でも……いざ戦闘になると凛とした表情で艦載機を操って、その圧倒的な技量で誰も寄せ付けない強さを発揮する。
まあ何て言うか……認めたくないけど、カッコいいんだよね……
それにその、時々……ホントーにたま~になんだけど……優しいとこもあるし。
そんなこの人のことが、私は……
加賀「今回の演習、勝ったとは言え内容は決して褒められたものではないわ」
なーんて考えてたらいきなり厳しい言葉をぶつけられて、私は蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまう。
加賀「この子に無茶をさせ過ぎよ。あなたは旗艦なんだから、仲間の練度を把握してそれに見合った指示を出しなさい」
そう言いながら葛城の肩をポンと叩く加賀さん。
瑞鶴「そ、それは……その……」
確かに、私が出した指示は艦娘になったばかりの彼女には少し荷が重いものだったかも知れない。
加賀「戦場では旗艦の言葉一つ、判断一つが艦隊の命運を分けるのよ。それを忘れないで」
瑞鶴「はい……」
厳しい言葉だけど正論。もし実戦で同じことをやったら、葛城が沈まない保証なんてどこにもなかった。
そうだ。この人は厳しいけど、いつだって正しい。そしてその厳しい言葉も私の為に言ってくれてるんだ……それはわかってる。
わかってるんだけどさ……
加賀「あなたは本当によく頑張ったわね。偉いわ」
葛城「えへへ……ありがとうございます、加賀先輩」
私には絶対に見せてくれないような優しげな表情を浮かべて葛城を褒める加賀さん。
何、この差は? そりゃ私は葛城と違って可愛くないし、素直でもないけどさ……
瑞鶴「むー……」
頬を膨らませて不満を訴えてみるけど、加賀さんは全く気付いてくれない。
瑞鶴「もう本っ当に腹立つよね、あいつ!」
泊地に戻る途中。私は一緒に歩いている幼馴染みの駆逐艦、初月に愚痴をこぼす。
初月「瑞鶴、そんな言い方はないだろう? 加賀だって君の為を思って……」
瑞鶴「で、でも! みんなの前で……あんな、こと……!」
あの後の反省会で、私は作戦指揮について思いっきりダメ出しを食らった。
いや、まあそれ自体は言われても仕方のないことだし、別に良かったんだけど問題はその後。
加賀『でもまあ勝ったのは事実よね。そこは……よく頑張ったわ』
なーんて言いながらみんなの前で頭を撫でてくるの。私の顔は一瞬で真っ赤になって大破状態。
本当は嬉しかったはずなのに、素直になれずについ加賀さんの手を払ってしまった。
反省会の内容は完全に忘れちゃったし、葛城にもみっともない姿見せちゃったな……
初月「瑞鶴、君はいつもそうだよね。もう少し自分の気持ちに正直になった方がいいと思うよ」
初月「って、これ言うのもう何回目だろうね……」
やれやれと言った感じで溜息をつく初月。そう、この言い慣れた感じで諭されるのはもはや恒例行事。
この子には幾度となく加賀さんに関しての愚痴を聞いてもらっている。
瑞鶴「し、仕方ないじゃん……こんな事吐き出せるの、初月くらいしか……」
他の艦隊メンバー……加賀さんは論外として、鈴谷には絶対話したくない。120%からかわれるに決まってる。
榛名は……真面目すぎる性格だから重く受け止めちゃいそうで、何となく悪い気がしてくる。
葛城もね。私、一応あの子には慕われてるし、ちゃんと良い先輩ぶってなきゃいけないんだから。
初月「まあとにかく。僕から言えるのは、今の関係から先に進みたいなら自分から変わるよう努力しなくちゃ駄目ってことだね」
初月「君はやっぱり意地っ張りなところとか、鈍感なところはいい加減治した方が良い」
瑞鶴「それは……私だってわかっ……って!」
瑞鶴「ちょっと待って! 意地っ張りなのはまあ、100歩譲って認めるけど鈍感って何さ!?」
初月「瑞鶴……本気で言ってるのかい?」
一瞬呆れたような表情を浮かべた後、何かを訴えかけるように見つめてくる初月。
でも、私にはそんなこと言われるような心当たりは全くなくて……むしろ逆に加賀さんの鈍感さの方に困ってるくらいだし。
初月「やれやれ。どうせその様子だと……私の気持ちにも気付いてないんだろうな」
ボソッと消え入りそうな声で何かを呟いた初月。「私の」とか聞こえたような気もしたけど……
でも初月って自分のことは「僕」って言うよね。聞き間違いかな……?
瑞鶴「ねえ、初月。今なんて……」
初月「瑞鶴、早く泊地に戻ろう。今日は提督が海老フライを作ってくれるそうだよ」
初月「早く行かないと鈴谷に全部食べられてしまう」
そんな私の言葉を遮って、初月は走り出してしまった。もう、何なのよ急に……
結局愚痴を聞いてもらってたのに、私にはモヤモヤが残る形になってしまった。
━━━━━数日後 瑞鶴、加賀の部屋
それは、ある晴れた日の午後のこと。いつもと何ら変わりのない日常になると思っていた。その時までは……
鈴谷「チーッス! 瑞鶴、書類整理終わった~?」
榛名「お邪魔します」
買い出しに行っていた二人が部屋に入ってくる。手に持ってるのは買ってきた食材と……封筒?
鈴谷「ちょうど商店街の方で福引きやっててさ~。ジャーン! 見て見て~!」
瑞鶴「あっ、これって」
柏原ボウル……確か最近オープンしたボーリング場だ。この島での数少ない娯楽施設。その無料チケットが2枚。
鈴谷「ちょうどこの日ってウチら一日中遠征で居ないんだよね~」
榛名「確か瑞鶴さんと加賀さんはお休みでしたよね? 一緒に行ってきてはどうでしょうか?」
瑞鶴「本当に? いいの?」
榛名「ええ。このまま使わないというのは勿体無いですし」
鈴谷「運が壊滅的に悪い鈴谷が頑張って当てたんだからね。加賀さんとの仲、一気に進展させちゃいなよ!」
瑞鶴「う、うん……頑張る」
この二人には加賀さんの事とかあんまり相談したこと無かったんだけど……ここまでしてくれるなんて……
瑞鶴「二人とも、ありがとね! 私、頑張るから!」
━━━━━数時間後
何と言ってもボーリングは大得意だ。平均スコアは220を超える。だからそこは問題ないんだ。
問題なのは、加賀さんをどうやって誘うか。デートの約束を取り付けることができなくちゃ、
どれだけボーリングに自信があったとしても所詮は絵に描いた餅。失敗するわけにはいかない。
瑞鶴「私、加賀さんの前だとつい意地張っちゃうからなぁ……」
わかってはいるのにどうしても治せない、私の悪い癖。本当はもっと素直になりたいのに……
初月「瑞鶴? こんな所で何をぶつぶつ言ってるんだい?」
瑞鶴「えっ!? は、初月? いつからそこに……?」
初月「いや、たまたま通り掛かっただけだけど……」
うぇっ……初月にも気づかないくらい考え込んでたのか。
瑞鶴「あ、えっとその……加賀さん見なかった?」
初月「加賀ならさっきまで葛城と一緒に弓道場にいたけど……ああ、でももう上がるって言ってたから入渠にでも行ったんじゃないかな?」
瑞鶴「そっか。ありがと、初月!」
初月「い、いや……」
私はすぐさま浴場の方へ向かって走り出した。だから……この時彼女が最後に呟いた言葉は耳に入らなかったんだ。
初月「瑞鶴……すまない」
━━━━━浴場、更衣室前
加賀「ふぅ……」
大浴場の前まで走ってくると、ちょうど良く加賀さんの顔が見えた。
瑞鶴「……っ!?」
加賀「? 五航戦、何をボーッと突っ立っているの? 邪魔よ」
瑞鶴「えっ!? あっ、えーっと」
お風呂から上がったばっかりなんだから当然なんだけど、加賀さんは髪を下ろして浴衣を着ていた。
その姿があまりにも綺麗で心を奪われて、つい立ち尽くしてしまった。こんなの不意打ちってレベルじゃないわよ!
瑞鶴「こほんっ」
いけないいけない。このままペースを乱されたらまた心にもないことを言っちゃって当初の目的を果たせなくなる。
落ち着くのよ瑞鶴。
瑞鶴「加賀さん、今週の土曜日非番だよね!? い、一緒にボーリング行かない!?」
言いながら無料チケットを見せる。随分早口だったような気がするけど、ちゃんと伝わったはず。
加賀「ちょうど良かったわね。私もそこに行こうと思ってたの」
えっ? 加賀さんがボーリングとか、ちょっと意外なんだけど。
加賀「初月からそのチケットを貰ったのよ。ボーリングは苦手だから代わりに楽しんできて欲しいって……」
初月が? でもあの子、運動神経抜群だしボーリングもかなり得意だったはずだけど……どういうことなの?
加賀「でもこれではチケットが1枚余ってしまうわね」
確かに。チケットも当日のみ有効だし、少し勿体無いな。初月ったら本当にタイミング悪いんだから。
加賀「ああそうだわ、葛城も誘いましょう」
瑞鶴「!?」
加賀「この日は鈴谷も榛名も初月も遠征だし、提督も予定があるみたいだから一人でお留守番と言うのも可哀想でしょう?」
瑞鶴「そ、そうですね……」
断る理由がない。「加賀さんが好きだから、二人きりで行きたい」なんて言えたら苦労しないわよ。
加賀「時間と集合場所はどうするの?」
瑞鶴「えっと、じゃあ9時に現地集合でお願いします」
加賀「わかったわ。遅刻しないでね?」
瑞鶴「わかってますよ」
━━━━━数時間後 瑞鶴、加賀の部屋
瑞鶴「あーもう……何なのよこの人は」
加賀「…………」
時刻はマルフタマルマル。本当は叫びたい気持ちでいっぱいだったけど、隣で寝てる加賀さんを起こさないように布団の中で丸くなりながら呟く。
瑞鶴「加賀さん……葛城のこと好きなのかなぁ……?」
この人は、私に対してはとことん厳しいのに葛城にはとても優しい。って言うかメチャクチャ甘い。
そりゃ私は気は利かないし、出会った頃から生意気で、加賀さんとは言い争いも絶えないし。
素直で良い子な葛城と、扱いの差はあって当然なのかも知れないけどさ……
鈴谷『加賀さんってさぁ、葛城のこと好きなんじゃない?』
以前鈴谷が悪戯っぽい笑みを浮かべながら冗談混じりでそんなこと言ってたっけ。
加賀さんの、葛城に対する態度はそういったものじゃないとは思うんだけど……私はあの人のことを完全に理解してるわけじゃない。
もしかしたら本当に……そんな疑問は拭えない。
瑞鶴「まったく、人の気も知らないでぐっすり寝ちゃってさ……」
ふと、隣で寝ている加賀さんの顔を覗き込む。やっぱりこの人は、吸い込まれそうなほど綺麗で……
瑞鶴「こんなに近くにいるのに……心の距離は一向に縮まらな……っ!?」
無意識の内に顔を近づけていて、いつの間にか吐息が聞こえる距離まで接近してたことに気づく。
うわぁ……加賀さんすっごい綺麗だし、いい匂いがする……って!
な、なななっ……何やってんのよ私は!?
加賀「んっ……?」
瞬間、加賀さんの目が開く。私は咄嗟に離れようとするけど、うまく動けず至近距離で目と目が合ってしまう。
加賀「ずい……鶴? 何をしているの……?」
あれ? てっきり怒られるかと思ったけど、返ってきたのは意外にも優しい声色。
そっか。こんな時間だし、寝ぼけてて状況を把握できてないんだ。それなら誤魔化せるかも!
瑞鶴「え、えっとですねぇ! 目が覚めてトイレに行こうと思ったら、加賀さんの布団が乱れてたから! な、直してたんですっ!」
って、頭ではわかってるのにどうしても声が上擦る。これじゃあ何か疚しい事があるって思われちゃうよ!
加賀「ん……そう……優しいのね。ありがとう……」
あ、あれ? またしても意外な言葉を返されて、私の動揺も頂点に達するかというところ。
加賀「でも、あなたも……風邪を引かないように、気をつけなさい……」
言いながら、私がわざと外してたパジャマの第一、第二ボタンに手を掛けて止めてくれる加賀さん。
ちょっと……何なのこのシチュエーション……頭が真っ白になって、何も考えられない。
加賀「おやすみ、瑞鶴……」
最後に私の頭をそっと撫でて、加賀さんは再び眠りに就いた。
瑞鶴「加賀……さん……」
あ、あれ……さっきまで何考えてたんだっけ? それまでの思考を全て吹っ飛ばす、あまりにも衝撃的なことが起こったせいでもう何も考えられない。
瑞鶴「もう寝よう……おやすみ、加賀さん」
このまま勢いで加賀さんの布団に潜り込んじゃおうかとも思ったけど、今の私にそんな勇気はなかった。
━━━━━土曜日
瑞鶴「うわー! 遅刻遅刻遅刻~~~っ!」
瑞鶴「もう、提督さん! ちゃんと起こしてくれるって言ったのに一緒に寝落ちするなんて信じらんないっ!」
幌筵提督「し、しょうがないじゃない! 私だって疲れてたんだから~!」
瑞鶴「って、こんなこと言ってる場合じゃない! 行ってきます!」
幌筵提督「瑞鶴ちゃん待って! ほら、お弁当!」
瑞鶴「あ、そうだった!」
今朝、5時に起きて提督さんと一緒に三人分のお弁当を作っていた。
私自身、料理は得意だし提督さんの協力もあって美味しくできたと思うんだけど……
さすがに早起きしたせいか、作り終えた後に眠くなっちゃって。
瑞鶴『ふあぁ~……眠い! でも今寝たら絶対寝過ごすから頑張らないと』
幌筵提督『瑞鶴ちゃん、私が起こしたげるから寝ちゃってていいよ』
瑞鶴『えっ!? でも提督さんもかなり早起きだったし、お弁当作りまで手伝ってもらっちゃったのに……』
幌筵提督『いいのよ、これで瑞鶴ちゃんと加賀さんの仲が進展するなら……』
瑞鶴『ん、わかった。ありがとね、提督さん!』
とか言ってた矢先に提督さんも寝落ちしてこの有様だよ!
瑞鶴「とにかく! 行ってきますっ!」
幌筵提督「車には気を付けるのよ~」
私は提督さんからお弁当を受け取ると自転車置き場へ猛ダッシュした。
この時間なら、飛ばせば5分~10分遅れくらいでボーリング場に辿り着けるはず。
瑞鶴「それくらいなら大丈夫だよね。私が時間にルーズなの、加賀さんは知ってるはずだし」
瑞鶴「はぁ、はぁ……さすがに、全速力は疲れるなぁ……」
マルキュウマルマルを少し回ったところでボーリング場が見えてくる。思ってた以上に人が多い。
瑞鶴「あ、加賀さんと葛城!」
人混みの中で二人の姿を見つける。距離はまだ大分あるけど、私が加賀さんを見間違うはずがない。
瑞鶴「あ、葛城……」
よく見ると葛城がソフトクリームを食べている。多分加賀さんの奢り。ずるい、私も後で奢ってもらわないと!
瑞鶴「……!?」
不意に自転車を漕ぐ足が止まる。加賀さんが、葛城のほっぺについたクリームを指で拭き取ってそれを口に運んだ。
そして、優しげな表情を見せて葛城の頭を撫でる。そのやり取りはさながら恋人同士のそれ。
瑞鶴「あっ…………」
瞬間、私の中で何かが折れる音がして……気がついたら来た道を力無く引き返していた。
━━━━━幌筵泊地寮
瑞鶴「はぁ……」
幌筵提督「あ、あれ? 瑞鶴ちゃん!?」
寮に戻ると出掛ける準備をしてる提督さんに出会す。
幌筵提督「どうしちゃったの? 何か忘れ物?」
瑞鶴「…………ごめんなさい」
それだけ告げて、ダッシュで自室に戻って布団を被る。ああ……私、何やってるんだ。
こんなことしても何にもならないのに……加賀さんとも余計顔を合わせ辛くなるだけなのに……
頭ではわかっていても私はいつの間にか考えることを放棄していて、そのまま深い眠りへと落ちていった。
━━━━━翌日
瑞鶴「ん……うーん」
寝ぼけ眼をこすりながら時計を確認。マルナナマルマル。
不貞寝して、途中何度も目が覚めちゃったんだけどその度に無理矢理眠りに就くってのを繰り返してた。
隣に目をやると、加賀さんの姿はすでになく布団も片付けられている状態。
この後会ったら……昨日のことは何て言えばいいんだろう……て言うか、どの面下げて会えばいいのよ。
やだな……会いたくない。このままずっと寝ていたい。夢の中でなら、もっと素直になれて加賀さんとも仲良く出来るかも知れないのに。
……なんて現実逃避していても仕方ない。ちゃんと謝らなくちゃ。こういうのは時間が経てば経つほど気まずくなるだけなんだから。
私は意を決して飛び起きると、早々に布団を片付けてみんなが集まってる食堂に向かった。
━━━━━寮食堂
瑞鶴「お、おはよーございます!」
幌筵提督「あ、瑞鶴ちゃん。おはよー」
葛城「先輩っ! 熱はもう下がったんですか!?」
えっ、熱……? どういうこと?
鈴谷「まさか当日になって熱出して寝込むなんて、瑞鶴にしてはツイてないよね~」
葛城「加賀先輩ってば1時間待っても瑞鶴先輩が来なくて、色々と大変だったんですよ」
葛城「最初は怒ってたんですけど、30分過ぎた辺りから事故にでも遭ったんじゃないかって心配しだして……」
葛城「10時頃に提督から電話があって、熱はあるけどとりあえずは無事って聞いて一安心してましたよ」
瑞鶴「て、提督さん……?」
幌筵提督「まあ今回は残念だったけど、また次の機会があるよ」
提督さんが私にウインクをしてくれて察した。そっか、色々取り繕ってくれたんだ。私、あんなことをしちゃったのに……
瑞鶴「あ、あれ? そう言えば加賀さんは……?」
周囲を見ると、加賀さんだけいないことに気づく。
幌筵提督「ああ、そっか。昨日の夜みんなには言ったんだけど、加賀さんは今朝から横須賀に行ってるわ」
幌筵提督「試作艦載機の試験運用をするってことで呼び出されて、10日間ほど滞在する予定よ」
瑞鶴「そう……なんだ」
ちゃんと加賀さんに話して謝りたかったけど……タイミング悪い。いや、そもそもは私が全部悪いんだけど……
幌筵提督「そう言うわけだから、しばらくは加賀さん抜きになるけど、まあ頑張って行きましょう」
幌筵提督「それじゃあ今日の作戦の説明に入るけど……」
提督さんが今日の出撃について話し始めるけど、内容は全く頭に入ってこない。
━━━━━幌筵泊地近海
榛名「これで……決めますッ!」
ヲ級改「グッヲヲヲヲヲ!?」
榛名の砲撃が敵空母を貫いた。これで敵艦隊は全滅。でもこっちにもかなりの被害が出てしまった。
加賀さんがいないってのに、よりにもよってヲ級改率いる機動部隊と遭遇。葛城と鈴谷が中破させられた。
瑞鶴「ここに留まるのは危険ね。撤退するわよ」
敵の主力と思われる部隊は撃破できてる。それならこれ以上被害を出さない為にも、ここは退いた方がいいだろう。
瑞鶴「何より……」
私はここまで指示は最低限しか出せず、戦果も芳しくない。明らかに加賀さんのことを引き摺ってる……こんな状態で戦闘を続行するのは危険だ。
瑞鶴「ホント、何やってんのよ私……」
加賀さんの代わりに旗艦の位置に立ってるってのに……もっとしっかりしなくちゃいけないのに……
榛名「瑞鶴さん! 敵空母が!」
ヲ級の方に目を向ける。敵は沈んでいきながらも最後の力を振り絞って艦載機を発艦している。
瑞鶴「そんなっ……!?」
敵の艦載機は一番ダメージの大きい葛城に真っ直ぐに向かってくる。
魚雷や爆弾を落とすような動作が一切ない。特攻して自爆するつもりだ!
瑞鶴「は、初月! 対空砲火は!?」
初月「駄目だ! 装填が間に合わない!」
私の艦載機も駄目だ。今から発艦しても間に合わないし、直掩機も距離があって追いつけない!
それなら……私が盾になるしかない! 大丈夫、私の速力なら行ける! しっかり被弾箇所さえ選べば最悪でも中破程度で踏み止まれるはず!
瑞鶴「葛城は、私が守……ッ!?」
勢い良くダッシュした矢先、悪魔の囁きが脳裏をよぎる。
もしこのまま葛城を守れなかったら、加賀さんは……
瑞鶴「……っ!? 馬鹿! 何考えてんのよ私は!」
そんな考えはすぐに断ち切る。時間にしてコンマ数秒くらい。でもその間は確かに存在したわけで、その分だけ初動が遅れた。
何とか葛城の前に立つことはできたけど、敵の艦載機はもう目の前。被弾箇所は選べない。
葛城「ず、瑞鶴先輩ッ!!!?」
瑞鶴「ああ、本当に今日の私、ダメダメだ……」
刹那、轟音と同時に凄まじい衝撃に襲われる。これ下手したら私沈むな。まあ、仕方ないか。
一瞬とは言えあんな馬鹿なこと考えちゃったんだ。多分罰が当たったんだろう。
それに、これで良かったのかも知れない。加賀さんは、私よりも葛城が沈んじゃった方がきっと悲しむだろうから。
半ば諦観混じりの感情が渦巻く中で、私の意識は深い海の中に呑まれていった。
━━━━━数日後 幌筵島病院
葛城「せんぱ……瑞鶴先輩……!」
瑞鶴「んっ……?」
気怠げな体を起こすと、横には心配そうに私を見つめる後輩の姿。私、助かったのか……
瑞鶴「…………」
体は少し怠いけど痛みなんかはほとんどない。艤装の持つ防御性能全てを引き出して守ったから軽傷で済んだのか。
その代わり、艤装が吹き飛んだ所為で精神面の方に影響を受けて結構な時間眠ってたみたい。
瑞鶴「あ、そうだ! 葛城、葛城は大丈夫だった!?」
葛城「は、はい……先輩のおかげで……」
瑞鶴「そう、良かった」
私はベッドに座り直して、今にも泣きそうな顔をしている葛城の頭を撫でる。
葛城「ごめん……なさい。私のせいで、先輩がこんな目に……」
瑞鶴「いや、あれはヲ級の撃沈をしっかり確認しなかった私のミスだよ」
瑞鶴「こんなんじゃ、加賀さんにまた怒られちゃうかな……」
葛城「喜ぶに決まってます。無事で良かったって」
瑞鶴「そうかなぁ?」
そりゃあの人だって、仲間が沈んじゃって平気でいられるほど冷血じゃないだろうけどさ……
瑞鶴「でもやっぱり私って、加賀さんには嫌われてるし……」
葛城「そんなことないですよ! 加賀先輩、瑞鶴先輩のこと大好きじゃないですか!」
瑞鶴「は?」
ごめん葛城。君が何を言ってるのか全然理解できないや。
葛城「だって加賀先輩、私といる時はいっつも瑞鶴先輩の話ばっかりしてくるんですよ!?」
瑞鶴「えっ?」
葛城「この間のボーリングの時だって、加賀先輩言ってましたよ」
~~~~~~~~~~
葛城『やった、ストライク! ターキーですよ加賀先輩!』
加賀『すごいわね葛城。でもその言葉、あの子の前では言わない方がいいわよ』
葛城『瑞鶴先輩ですか? そう言えば何故か七面鳥嫌いですもんね』
加賀『ふふ、そうね。きっとパーフェクトが取れる腕があっても意地になって三連続ストライクは取らない性格よ、あの子は』
葛城『加賀先輩、今日はいつにも増して瑞鶴先輩の話ばっかりですね』
加賀『そうかしら? ごめんなさい、あなたとの時間を蔑ろにするつもりはなかったのだけれど……』
葛城『そ、そういう意味じゃないんですけどっ! あ、あの……ずっと気になってることがあって! 聞いてもいいですか!?』
加賀『ええ、いいわよ。何でも聞いて』
葛城『加賀先輩は私にはとっても優しくしてくれますけど、瑞鶴先輩とはぶつかり合ってばっかりじゃないですか』
葛城『私の指導方針で揉めたり、任務中の作戦内容から朝食のメニューまで、いろんなことで喧嘩してて……』
葛城『でも、加賀先輩が瑞鶴先輩の話をする時はとっても楽しそうで……だから気になるんです! 瑞鶴先輩のこと、どう思ってるのか』
加賀『そうね……今から話すことは、あの子には内緒よ?』
加賀『瑞鶴は、私が初めて指導を受け持つことになった後輩で……とても才能のある子だったわ』
加賀『それこそ空母の中でも随一の天才と呼ばれる赤城さんや飛龍に匹敵する……或いは上回るほどのね』
加賀『ただ、私はその才に慢心することなく誰よりも強くなって欲しいと思っていた……』
加賀『その為に課した訓練内容はとても厳しいものだったけど、あの子は文句は言いつつも決して弱音を吐くことなくついてきてくれたわ』
加賀『私はそれが嬉しかった。私の想像を遥かに超えて強くなっていく彼女を見るのが楽しかった』
加賀『けれど……1年くらい経った時かしら。ようやく気付いたのよ。私と瑞鶴の間には、とても深い溝があるということに』
加賀『まあ、それも当然よね。私は自分の考えばかりをあの子に押し付けてしまったのだから……』
加賀『技術や練度は着任当初より格段に高まったわ。でも、それ以上に成長できる可能性を……私はあの子から奪ってしまったのかも知れない』
加賀『そう考えると罪悪感も芽生えてきたから……少しだけ歩み寄ろうと努力はしたわ』
加賀『でも駄目だった……普段とは違う言葉を掛けたり、褒めたりしても瑞鶴は顔を真っ赤にしながら怒って……』
加賀『もう、この子と私の間にある溝は埋まることはないんだって思い知らされたのよ』
葛城『加賀先輩……』
加賀『そんなことがあったからかしら。せめてあなたには優しくして、同じ失敗を繰り返さないようにと思っていたのだけれど……』
葛城『そうだったんですか……じゃあ瑞鶴先輩のことは……?』
加賀『ええ。例えどれだけ嫌われていても、瑞鶴は私にとっては大切な後輩よ』
加賀『そんなあの子が成長して、強くなってくれるのが嬉しくないわけがないじゃない』
加賀『許されることじゃないかも知れないけど、これからも可能な限りあの子の隣で成長を見守っていきたいと思ってるわ』
~~~~~~~~~~
瑞鶴「!?」
な、何それ。それが本当だったら……ううん、この子はそんな嘘をつくような子じゃあない。
だったら私、今までずっと勝手に勘違いして迷走してたってこと……?
瑞鶴「だってそんな……加賀さん、ずっと私のこと……」
いや違う。加賀さんは、ちゃんと歩み寄ろうとしてくれてたじゃないか。
その手を払い除けて、拒絶し続けたのは……私だ……
瑞鶴「私、馬鹿だ……! わかってたはずなのに……加賀さんの厳しい言葉も態度も私の為を思ってのことなんだって!」
瑞鶴「それなのに、ずっと意地張ってて……!」
ダメだ、涙が出てくる。後輩の前だからもっとしっかりしなきゃいけないのに……
葛城「やっぱり瑞鶴先輩って加賀先輩のこと好きだったんですね……」
葛城「伝えるべきだと思います。きっと気持ちは一緒のはずですよ」
瑞鶴「葛城、どうしてあなたはそこまでして……」
葛城「瑞鶴先輩と加賀先輩は、葛城が一番尊敬していて、お慕いしている先輩方ですから……」
葛城「そんなお二人が幸せになってくれることが、葛城の一番の願いで、幸せでもあるんです! 駄目ですか?」
一点の曇りもない綺麗な眼差しで見つめられる。今の私には眩しすぎるくらいだ。
瑞鶴「ダメじゃない……」
私は意を決して立ち上がる。さっきまで全身を覆っていた気怠さは吹き飛び、今はもう次の行動に移りたい気持ちでいっぱいだった。
瑞鶴「私、ちゃんと加賀さんに気持ちを伝えるよ」
葛城「瑞鶴先輩……!」
瑞鶴「葛城、ありがとう。それとごめんね? なんかみっともない姿ばっかり見せちゃって……」
葛城「そんなことないです。瑞鶴先輩は、いつだって私のヒーローですよ!」
瑞鶴「ヒーロー、か……えへへ、おかしいな。ヒロインでしょ?」
私は葛城に見送られながら病室を後にした。次にやるべきことは決まってる。今はもう迷わない!
えっと、とりあえずは泊地に戻って生存報告とみんなに謝罪。その後すぐに提督さんに許可をもらって本土へ。
加賀さんが戻ってくるまでまだ一週間もあるんだ。そんなの待ってられない!
瑞鶴「あっ」
病院の出口で、幼馴染みの駆逐艦の姿を見かける。彼女も私に気づくとこちらに歩いてきた。
初月「やあ。意識、戻ったんだね。良かった」
瑞鶴「うん。初月にも心配掛けちゃったね」
初月「いや、本来だったらあの艦載機は僕が墜とさなくちゃいけなかったんだ。すまない、僕が不甲斐ないばかりに……」
瑞鶴「そ、そんなことないよ! そもそもは私の見逃しが原因だし、判断が遅れたのだって、その……」
瑞鶴「と、とにかく! 初月が気に病むことはないよ」
初月「…………」
瑞鶴「それにね。怪我の功名って言うのかな……私、少し変われそうな気がするんだ」
初月「加賀に会いに行くのかい?」
瑞鶴「えっ? 初月、どうしてそれを……?」
初月「病室の前で……すまない、盗み聞きするつもりはなかったんだけど」
瑞鶴「何だ、別に部屋に入ってきても良かったのに」
瑞鶴「初月にはずっと言われ続けてたからね。私もこれから素直になってみようって思ってさ」
初月「駄目だよ、瑞鶴。加賀には会いに行かないでくれ」
瑞鶴「えっ?」
今まで見たこともないような真剣な表情で迫ってくる初月。思わず気圧される。
初月「もし君が加賀と今より進んだ関係になってしまったら……僕はこの艦隊にいられなくなる……!」
瑞鶴「何それ? どういうことなの?」
初月「瑞鶴。私はずっと……艦娘になるずっと前から君のことが好きだったんだ」
瑞鶴「えっ……え~~~~~!?」
初月「一年前、私がここに着任して瑞鶴と再会した時……君は既に加賀に恋をしていた……」
初月「それでも君は私にとって一番大切な人だから……自分の気持ちを抑えて君を守ると誓ったんだ」
初月「君を守り抜く騎士である『僕』になりきることで、君への想いを断ち切ろうとしてた」
初月「でも駄目だったよ……加賀への愚痴を吐きつつも、どこか嬉しそうに話す君を見るのが辛かった……」
初月「表面上は反発し合っていても、深い部分では互いを大切に思っている二人を見ていると胸が苦しくなった」
初月「君達を二人きりにさせない為に、ボーリング場のチケットを加賀に渡して葛城を誘うように仕向けた……」
初月「私は弱いから……私は、君を守る『僕』にはなれなかったんだよ……!」
瑞鶴「初月……」
初月「こんな状態じゃ私はもう、ここにはいられない。きっと誰も守れないと思うから……」
この子がずっと、私に鈍感って言い続けてきた理由……そういうことだったんだ……
初月「瑞鶴……お願いだ、行かないでくれ。加賀に気持ちを伝えないで……」
縋るように抱きつき、私の小さな胸で泣く初月。この子のこんな姿見るの、初めてだよ。
普段は私なんかよりずっと落ち着いてて、どっちが年上なのかわかんないくらいなのに。
でも……ごめん、初月。
瑞鶴「ごめん。私、この気持ちはもう止められないんだ……」
初月「瑞鶴……それじゃあ、私は……」
瑞鶴「でも、初月がいなくなっちゃうのもイヤだ」
初月「は?」
瑞鶴「私、加賀さんともっと先の関係に進みたい! でも初月とも一緒にいたいよ!」
瑞鶴「小さい頃からずっと一緒だった幼馴染みだもん。例え加賀さんと上手くいったとしても……その先に初月がいないなんて私は絶対に嫌!」
瑞鶴「私のわがままだってわかってるけど……何かを掴むことで他の何かを諦めたくないんだ!」
彼女の震える手を握りながら、私の一方的で勝手な願いを吐き出す。
初月「は、はは、瑞鶴……無茶苦茶だよ君は。まさか、そんなこと言われるなんて……」
初月「あんな引き止め方をして……君の恋路を邪魔したりもしたのに……」
瑞鶴「いいの!」
初月「こんな弱い僕でも、一緒にいてもいいのかい?」
瑞鶴「いいの! それに、初月は弱くなんかないよ!」
大粒の涙を流して、歳相応の表情を浮かべる初月をぎゅっと抱き締めながら答える。
瑞鶴「だって初月、私に好きって言ってくれたじゃん」
瑞鶴「私が3年間、加賀さんにずっと言えなかったことを言えたじゃない」
瑞鶴「私なんかよりずっと強いよ……! だから、一緒にいてよ……初月!」
初月「瑞鶴……わかったよ。こんな僕でも、君が必要としてくれてなるなら……僕は今度こそ本物の『僕』になるよ」
瑞鶴「それじゃあ初月、私そろそろ行くね」
初月「ああ。きっと気持ちは伝わるよ。信じてる……」
瑞鶴「ありがとね。行ってくる!」
私はその場から駆け出して、全速力で泊地に向かって走り出した。
瑞鶴「初月には、本当に色々と迷惑を掛けちゃったな」
あの子の着任当初から加賀さんへの愚痴をずっと聞いてもらってて……
それが初月を傷つけることになってたのに私は全然気付かなくて……
それでも初月は私と一緒にいてくれた……愛想尽かさずに見守っててくれた。そして、これからも。
だから私も……もう逃げないで、進むべきなんだ。新しい場所へ!
━━━━━幌筵泊地
泊地まで全力で走ってくると、見知った二人のお出迎え。私は大きく手を振って二人の名前を呼んだ。
瑞鶴「鈴谷、榛名!」
鈴谷「お、瑞鶴じゃん!」
榛名「そんな全力で走ってて大丈夫なんですか、瑞鶴さん!?」
瑞鶴「うん。怪我の方はもう全然って感じ。丈夫なのが取り柄だしね」
鈴谷「まあ鈴谷はわかってたけどね~。瑞鶴はアレくらいでくたばるような奴じゃないって!」
榛名「そんなこと言って、毎日毎日神社にお参りに行って瑞鶴さんが早く目を覚ますようにお祈りしてたじゃないですか」
鈴谷「ちょ、榛名! 余計なこと言うなし!」
瑞鶴「へ~。鈴谷ってばいつも私のことからかってばっかの癖に、そこまで心配してくれたんだ~」
鈴谷「~~~~~っ! う、うるさいなぁ! そうだよ、心配だったよ! 瑞鶴のこと大好きだし! 悪いの!?」
瑞鶴「ううん、嬉しいよ。ありがとう」
言いながら鈴谷の頭を撫でると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。不覚にも可愛いと思ってしまう。鈴谷の癖に。
鈴谷「も、もう! そんなことより早く執務室行きなよ!」
ああそうだった。早く提督さんに報告して、その後は外出の許可を貰わないと!
瑞鶴「うん。それじゃあまた後でね、鈴谷、榛名!」
━━━━━執務室
瑞鶴「失礼します! 幌筵艦隊旗艦代理瑞鶴、只今戻りまし……ッ!?」
勢い良くドアを開けて、ズイっと部屋の中に踏み込んでいった足が止まる。
そこに提督さんの姿はなくて、代わりにいたのは……
瑞鶴「加賀さん……? どうしてここに?」
加賀「あなたが大破したと聞いて……私自身も迷っていたのよ。戻るべきかどうか……」
加賀「ただ、赤城さんと翔鶴さんに言われたわ。自分の本当の気持ちと向き合って、後悔しない選択を取るべきだと……」
瑞鶴「で、でも! 大事な試作艦載機の運用実験だよ!? 私情ですっぽかして、どんな処罰が下るかもわからないのに……」
加賀「それでもあなたが心配だったから……会わないときっと後悔すると思った」
加賀「だから私は自分の取った行動が間違いだとは思っていないわ」
瑞鶴「加賀さ……! あっ……」
瞬間、加賀さんに抱き寄せられてその温かい体温に包まれる。
加賀「瑞鶴。信じられないかも知れないけど、私はあなたのことはとても大切に思っているの」
ううん、知ってるよ加賀さん。ただそれを私が認められなかっただけで……
加賀「こんなこと、あなたには迷惑だったかも知れないけれど……」
瑞鶴「そんなことないっ!」
加賀さんの言葉を遮って声を絞り出す。言わなきゃ。加賀さんだってちゃんと自分の想いを伝えてくれたんだから。
私の、胸の奥に秘めてた本当の気持ち……大好きはもう隠さない!
瑞鶴「加賀さん……私、私ね……」
加賀さんの温もりを全身で感じながら、一気に顔を近づける。それこそお互いの吐息が聞こえる距離まで。
瑞鶴「好きです。加賀さんが好き。加賀さんの声が好き。凛としててカッコいいところも好き。本当は誰よりも優しいところが好き」
瑞鶴「加賀さんの全部が好き! 大好きだよ……!」
精一杯の気持ちを言葉に込めて、私は加賀さんに告白した。
加賀「……………………」
加賀「えっ?」
やたらと長い沈黙を破って加賀さんの口から紡がれたのは、その一言のみ。まあ、それも仕方ないよね。
加賀「私は、あなたには嫌われていると思っていたのに……」
瑞鶴「ずっと、ずっと前から好きでした……でも私は意地を張ってたから……」
瑞鶴「子供だったから……自分の気持ちも、加賀さんの優しさも受け入れられなかっただけなんです」
加賀「そう……だったの……」
加賀「私は……私も、あなたのことは好きよ。誰よりも大事に思ってる」
加賀「でも、私の『好き』があなたの『好き』と同じものなのかどうかはまだわからないの」
あっ……そっか、そうだよね。私、何を浮かれてたんだろう……
加賀さんはただ私を嫌ってはいないってだけで、告白したとしても両想いになれるわけじゃないのにね。
加賀「だから……研究が必要ね。手伝って欲しいわ」
瑞鶴「えっ? それって……」
加賀「これからあなたと一緒に同じ時間を過ごして……私の『好き』の本当の意味を確かめたいの」
瑞鶴「加賀さん……」
加賀「そ、その。私、突然だったから少し戸惑っていて……今はこんなことくらいしか言えないけど……駄目かしら?」
瑞鶴「ううん、ダメじゃない。嬉しい……」
そう言って今度は私の方から抱きつくと、加賀さんは優しく頭を撫でてくれた。
瑞鶴「えへへ……」
思えば私達、ずっとすれ違ってばかりだったな。言葉だけじゃ足りないのに、その言葉すら足りなくてお互いを傷つけて……
でも、ほんの少しのきっかけで素直になれた。すれ違ったあとで同時に振り向いて、気持ちは一緒だったってわかったんだ。
瑞鶴「あの、加賀さん……もし良かったら次の休みの日に一緒にアクアリウムに行かない?」
加賀「ええ、良いわよ。今度は二人きりで……ね?」
瑞鶴「はいっ!」
今日は、私と加賀さんが新たな道を歩みだした日。二人にとってのsailing day。
この先どんな未来が待ってるかはまだ誰にもわからない。
きっと今までみたいに些細なことで喧嘩して、ぶつかり合ったりすることもあると思う。
それでも私は、加賀さんと一緒ならどんな困難も乗り越えていけるって信じてる。
そうして絆を深め合った先にきっとある新しい景色を望む為に……私達の船は往く!
We say ヨーソロー!
完
と言うわけで色々な「すれ違い」をテーマにした瑞加賀SSでした。
少し前まで闇の瑞加賀SSを書いていましたがエターなったので気分転換に光の瑞加賀を書きたいと思い、
「想いよひとつになれ」を聴いたり恋アクのPVを見てたりしたらインスピレーションが沸いて書いてみました。
それとSSとは関係ないですが劇場版の瑞加賀は素晴らしかったです。
まだ見ていない瑞加賀クラスタの皆様につきましては是非一度は見ておくことをオススメします。
それではここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。
良い瑞加賀ライフを。
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