瑞鶴「加賀さん……好きです」 加賀「私も好きよ」 (392)

アルペイベから艦これを始めて瑞加賀にハマり、アニメで再燃したので書き始めました。
書き溜めはなしですが脳内でプロットはできてるので少しずつまったりと投下していきたいです。

以下注意事項。

・二次創作故にゲームとキャラが違う等あるかも知れません。
・百合描写、女性提督が出てきます。苦手な方はご注意を。
・基本台本形式。たまに一人称視点での地の文が混じります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430034140

「憧れ」

瑞鶴へ
元気にしていますか? 最近は出撃ばかりであまり家に帰れなくてごめんなさい。
今度の作戦も長くなりそうだけど、瑞鶴の卒業試験までには帰還できる予定です。
同じ部隊に配属されて、一緒に出撃できる日を楽しみに待っています。

あまり無理はしないで、身体に気を付けて健やかに過ごしてね。

翔鶴

3月の下旬。そろそろ桜の咲き始めを予感させるある日の午後。私はその手紙を読んでいた。
何度も何度も繰り返し読んだ、私の大切な人からの手紙。

瑞鶴「この手紙が来てから、もう三ヶ月かぁ……」

艦娘学校の卒業試験はつい先日終わり、何とか合格することは出来たけど……
その間、翔鶴姉は一度も家に帰ってこなかった。それどころか手紙も電話も無し。
まあ、私も私で試験が忙しくて連絡を取る暇も無かったわけだけど……

瑞鶴「翔鶴姉、まだ忙しいのかなぁ? いきなり会いに行ったら迷惑かな?」

実際の期間は三ヶ月程度だけど、いつも一緒にいるのが当たり前だった人と急に会えなくなる。
その感覚は、もう何年も翔鶴姉に会ってないような、そんな気分にすらさせていた。

でも今は……卒業試験も終わって後顧の憂いも無し。そう考えると急に会いたい気持ちが強くなって……

瑞鶴「久しぶりに行ってみるかな! 横鎮に!」

思い立ったらすぐ行動! そう言えば私は、昔っからこうだった気がする。

_____横須賀鎮守府

瑞鶴「着いたッ! えーっと、確か空母寮は……」

横須賀鎮守府。本土に四つある鎮守府の中でも最大の規模を誇り、所属する艦娘達も精鋭揃い。
艦娘志願生のほとんどはここで戦うことを目指して日々鍛錬している。
私自身は、翔鶴姉の忘れ物を届けたりとかで何度か立ち入ったことがある。

???「あっれ~? 瑞鶴じゃん、超久しぶりー!」

不意に声を掛けられ、振り返ると見知った二人の顔。橙色と緑の鮮やかな着物が目に入る。

瑞鶴「あ、飛龍先輩に蒼龍先輩!」

二航戦。共に『あの人』と同い年で、翔鶴姉の一つ下。
艦娘学校にいた頃は、私の入学と入れ違いで卒業した翔鶴姉に代わってよく面倒を見てくれた。
私にとっては第二第三の姉のような存在の二人だった。

蒼龍「聞いたよ。艦娘学校の卒業試験受かって、配属希望も横鎮(ここ)にしたって」

瑞鶴「はい。希望が通るかどうかはわからないですけど……」

飛龍「瑞鶴なら大丈夫だって! 空母科じゃ一番だったんでしょ?」

瑞鶴「えへへ。もし一緒の部隊になったらよろしくお願いしますね」

蒼龍「うん。それで、今日はどうしてここに?」

瑞鶴「あ、そうだった。あの……翔鶴姉のことなんですけど……」

飛龍・蒼龍「!?」

瑞鶴「ええっ!? 二ヶ月前に幌筵泊地に転属!? それに、『あの人』も一緒に!?」

飛龍「そうそう。詳しい経緯は私達も知らないんだけどね」

蒼龍「空母娘のリーダーの赤城さんですら事情は知らないらしいわ」

飛龍「多分、知ってるのは提督と長門秘書艦くらいだと思う。私達も何度も聞いてるんだけど、教えてくれないんだよね」

瑞鶴「そうですか……」

幌筵に転属……翔鶴姉は、何も言ってはくれなかった……

蒼龍「そんな顔しないで、瑞鶴。翔鶴さんにだって、きっと考えがあったんだよ」

飛龍「そうそう。大事な卒検の時期だったんでしょ? 余計な心配を掛けさせたくなかったんだと思う」

瑞鶴「そっか……確かに翔鶴姉は、そう言う性格だよね……」

瑞鶴「でも、どうして急に転属になったんだろう……?」

飛龍「瑞鶴になら、話してくれるかも知れないね。身内なわけだし」

瑞鶴「うーん……でも、まだ正式に配属もされてない私に会ってくれるかな?」

蒼龍「それなら大丈夫。私達が紹介状を書くから」

瑞鶴「え? いいんですか!? そこまでしてもらっちゃって」

飛龍「何言ってんの? 可愛い後輩のためでしょ。これくらい当然よ」

蒼龍「それに、私達だって翔鶴さんのこと気になってるし」

瑞鶴「ありがとうございます!」

______横鎮待合室

待合室に案内されてから程なくして、その人は来た。

長門「遅くなってすまない。書類整理に手間取ってしまってな」

空母以外の艦娘についてはあまり知識のない私ですら、その人のことは知っていた。
横須賀鎮守府第一艦隊旗艦にして秘書艦。世界のビッグ7に名を連ねる、最強クラスの戦艦。
凛とした顔立ち、武人然とした立派な佇まい。その異名に違わない存在感を持つ人だ。

瑞鶴「い、いえ。こちらこそ……急に押し掛けてしまって」

長門「気遣いは無用だ。本来ならこちらから出向かなければならなかった事……」

瑞鶴「あの、それで……翔鶴姉はどうして……?」

長門「飛龍達に聞いたのは、翔鶴が幌筵泊地に転属になったところまでか?」

瑞鶴「えっ? あ……は、はい。そうです」

長門「翔鶴はな……現在、行方不明なんだ……」

瑞鶴「えっ? えーーーっ!?」

長門「彼女が幌筵島に行ってから一月程経った頃か。彼女は幌筵の提督に数日間の休暇届けを出した」

長門「出航記録を見るに船で本土まで戻ったのは確かだが、その後の足取りは掴めていない」

長門「現在は我が鎮守府の極一部の艦娘に捜索命令を出しているが、手掛かりは未だ無しだ」

瑞鶴「そう……ですか」

急転直下の展開。何が何やら、頭の中で情報の整理が出来ず、ただ曖昧に言葉を出してしまう。

長門「瑞鶴、この件はどうか内密にして欲しい」

長門「艦娘の中には翔鶴を慕っている者も多い。特に空母娘達はな」

長門「そんな彼女が行方不明だなどと知れたら、艦隊の士気にも影響するだろう」

長門「南西諸島海域の戦線が激化している現在、その事態は出来る限り避けねばならない」

瑞鶴「……わかりました」

まだ気持ちの整理が出来てないけど、一先ずはそう答えた。
飛龍先輩や蒼龍先輩が翔鶴姉のことを心配してくれてるのはわかってるけど……
まだ艦娘として配備されてない私の言葉で、艦隊の間に不安や混乱を齎すのはよろしくない。
今の私でもそれくらいのことは理解できた。でも……

瑞鶴「今日は私なんかの為に貴重な時間を割いて頂いて、ありがとうございました」

瑞鶴「それでは私はこれで……」

私はある決意をして、部屋を出ようとする。

長門「待ってくれ瑞鶴。せっかく来たんだ、手ぶらで帰すのもな。これを渡しておこう」

瑞鶴「これは……?」

長門「翔鶴が行方不明になったと聞いて、いつか君が訪ねて来るだろうと思い用意していた物だ」

長門「今の私に出来るのはこれくらいだ。この後どうするかは君次第だ」

瑞鶴「長門さん、ありがとうございます!」

_____数日後 幌筵島、柏原

瑞鶴「ふぅ、やっと着いた。北の果ての果て……幌筵島」

あの日、長門さんの話を聞いた後すぐに旅の準備をした。
やっぱり一度、この場所に来て自分の目で確かめてみたかった。
翔鶴姉がこの場所で、何をしてたのか。何を見て過ごしてたのか……
もしかしたら、翔鶴姉失踪の手掛かりが見つかるかも知れない。
他の人が気づかなかったり、見落としてたりすること……妹の私になら気づけるような何か……
そんな風に考えるのは傲慢かも知れないし、都合が良すぎるかも知れない。
でも私は……ちゃんと自分が納得出来るまで物事を追求しないと気が済まない。そんな性格だから!

瑞鶴「ここまでの旅券と資金をくれた長門さんには感謝しないと」

唯一の気掛かりだったお金の方も、長門さんのお陰で何とかなった。
ともすれば学生時代にバイトで貯めたお金を全部放出しなきゃいけないところだったから……本当に長門さんには感謝してもしきれない。

瑞鶴「さて、と。行きますか」

幸いなことに時間にはまだまだ余裕がある。私の配属は二週間くらい先の話だ。
それまでに何とか、手掛かりだけでも見つけたいな。

瑞鶴「うん、まずは泊地だよね。提督さんから話を聞かないと」

地図で現在地と泊地の場所を確認していると、忙しない足音と共にとある名前が耳に入る。

島民A(子供)「あー、翔鶴姉ちゃん!」

えっ? 翔鶴姉!?

島民B(子供)「今まで何してたの!? 一緒に遊ぶ約束してたじゃんか!」

瑞鶴「えっ? え?」

周囲に他に人はいない。どうやらこの子達は私に話し掛けているらしい。

島民A「あ、よく見たらこいつニセモノだぜ! 翔鶴姉ちゃんと違って胸が無い!」

瑞鶴「なっ!?」

島民B「甲板胸だー!」

瑞鶴「な、何なのよアンタ達はーーー!?」

島民C(お姉さん)「ちょっとアンタ達!」

私が声を荒げると、今度は子供達より少し年上の女の子が走ってきた。

島民A「ファッ!?」

島民B「やべぇよ、やべぇよ……」

瑞鶴「もう、何なのよ次から次へと……」

島民C「この子達が失礼なことを言ったみたいで……ごめんなさい」

瑞鶴「まあ、別にいいけど……」

私自身、胸のことを気にしてないわけじゃないけど……今はそんなの些細なこと。
それよりも、この子達が呼んだ名前。翔鶴姉を知っている……そのことの方が重要だ。

島民C「あの、貴女はもしかして、翔鶴さんの……」

瑞鶴「あ、はい。翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です」

島民C「やっぱりそうでしたか。翔鶴さんがいつも話していましたから」

瑞鶴「あの……翔鶴姉を知ってるんですか?」

島民C「翔鶴さん、非番の日はよく街に来てくれて、子供達の遊び相手になったり、勉強を見てくれてたんです」

島民C「ただ、最近は忙しいのか、ずっと会えてなくて……」

そっか。この人達は翔鶴姉が行方不明になってること、知らないんだ。

島民A「そうだなー。翔鶴姉ちゃんはこの貧乳と違って怒りっぽくないし、スカート捲っても許してくれるからな」

島民B「今度はちゃんと翔鶴姉ちゃん連れてこいよ! 甲板胸!」

瑞鶴「あ~もう! うるっさい! 私の翔鶴姉にセクハラすんなっ!」

島民A「わー、甲板胸が怒ったぞ~!」

島民B「逃げろ~! 爆撃されるぞ~!」

島民C「もう……あの子達ったら。ごめんなさい。今度、よく言っておきますので」

島民C「あ、もうこんな時間……すいません、私もこれで……」

島民C「翔鶴さんに会ったらよろしく伝えておいて下さいね。街の人達もみんな待ってますから」

瑞鶴「わかりました」

翔鶴姉……やっぱり、いろんな人達に慕われてるんだ。
優しくて綺麗で……カッコ良くて強い、私の憧れの翔鶴姉……
そんな翔鶴姉がこんな風に慕われてるのを見てると、私もちょっと嬉しくなるな。

_____幌筵泊地

瑞鶴「瑞鶴です。お忙しい中突然押し掛けてしまって……」

???「入りなさい」

あっ……この声、私の苦手な『あの人』の……私は恐る恐るドアを開ける。

加賀「久しぶりね、五航戦」

瑞鶴「加賀さん……」

一航戦、加賀さん。飛龍先輩達と同期で、翔鶴姉の一つ下。しかしその練度は、空母娘の中では赤城先輩に次ぐと言う。
艦娘学校時代の厳しい先輩。二航戦の先輩達が飴ならこの人は鞭と言ったところ。
正直、加賀さんには怒られてばっかりで、あまり良い思い出はないんだけど……
一つ、私の心に深く残ってる出来事があった。

空母科に入ってすぐのこと。空母娘なら誰もが通る道……自らの艦載機を発艦する為の武器選び。
当時、赤城先輩を始めとして多くの空母は弓を使っていたが、次第に技術無しでも高い性能を発揮できる式神に取って代わられつつあった。
最近では式神の力を増幅する杖や、特別な技能を必要としないクロスボウを使う空母も出てきている。
ともあれ翔鶴姉は、私に式神を使うことを勧めた。
確かに私は弓なんて触ったこともなかったし、作法やら何やら堅苦しくて面倒臭そうだと思っていた。
でも一応一通りは見ておこうと思って、弓道場に足を運んだ時、その人はいた。
凛として美しい顔立ち。完璧な射形。放たれた矢は真一文字に的の中心を射抜く。
その一挙手一投足に、私の心は奪われ……そして、私は弓を選んだ。
このことは翔鶴姉にも飛龍先輩達にも、ましてや加賀さん本人にも言ったことはないけど……
あの日の加賀さんの姿を忘れたことは、今まで一度たりともない。
そんなことがあったからか……加賀さんのこと、苦手な先輩ではあるのだけれど……心の底から嫌いだと思ったことはない。

加賀「五航戦? 何をぼーっとしているの? 座りなさい」

瑞鶴「あっ、は、はい! すいません」

アンタの顔見てたらあの時のこと思い出しちゃったなんて……言えるわけないじゃない。

加賀「提督は今、食料の買い出しに出ているわ。少し待っててちょうだい」

瑞鶴「はい」

加賀「お茶でいい? 何か質問があれば答えるけど?」

相変わらず事務的と言うか、必要最低限のことしか話さないって感じだなぁ……
聞きたいこと……あっ、そう言えば……!

瑞鶴「あ、あのっ! 翔鶴姉は、どうして急に転属になったんですか?」

翔鶴姉が行方不明……その事実にばかり考えが行ってしまって、長門さんから聞くのを忘れていた。

加賀「そうね……簡単に言えば、軍規違反……」

瑞鶴「えっ!? 嘘……翔鶴姉が、そんな……!?」

加賀「沖ノ島海域での作戦行動中のことよ……」

_____三ヶ月前、沖ノ島海域敵泊地深部

翔鶴「翔鶴より提督へ! 護衛駆逐艦、雷が大破しました。提督、撤退命令を!」

横鎮提督『しばし待て、翔鶴。今大本営に状況を報告している』

雷「何よもう……雷は、大丈夫……なんだから……!」

翔鶴「あなたの身を危険に晒すわけにはいかないわ。大丈夫、提督もきっとわかってくれる」

雷「でも、せっかくここまで来たのに……私のせいで!」

加賀「しっ……提督からの返答が来るわ」

横鎮提督『大本営より通達。進軍し、敵主力艦隊を撃滅せよ……とのことだ』

翔鶴「そんな!? このまま戦闘に入れば、雷が轟沈してしまうかも知れないのですよ!?」

翔鶴「どうか、ご再考願えませんか!?」

大本営『翔鶴よ……』

翔鶴「あ、大本営の皆さん。お願いします、どうか撤退命令を!」

大本営『沖ノ島海域の攻略は我々の悲願だったはずだろう?』

大本営『駆逐艦一隻の犠牲で、それを成せるのなら安い代償だと思わんかね?』

翔鶴「命の価値に安いも高いもありません……その全てが、等しく尊いものです」

翔鶴「私は旗艦として、大切な仲間を死地に送り込むようなことはできません」

翔鶴「帰りましょう……帰れば、また来られます……!」

大本営『おい、翔鶴! まだ話は……!』

翔鶴「皆さん、撤退しましょう。全ての責任は私が取ります! 旗艦命令です。全軍撤退!」

大本営『翔鶴、貴様! こんなことをして……横須賀に貴様の席があると思うなよ!?』

加賀「作戦は失敗……翔鶴さんはその責任を取らされる形で、この泊地に左遷となった……」

そっか……翔鶴姉が、まさか軍規違反なんてって思ったけど……
良かった。翔鶴姉は、私が大好きな優しい翔鶴姉のままだったよ……

瑞鶴「ん……? じゃあ加賀さんはどうしてここに?」

???「それはね~、加賀さんが翔鶴についていくって上に申し出たからなんだよ!」

勢いよくドアが開き、一人の女性が入ってくる。テンションの高い口調とは対照的に、容姿は神秘的で綺麗な人。
あとなんかおっぱい大きい。恐らくこの人がここの……

加賀「提督。私は別に、翔鶴さんについていきたかったわけでは……」

幌筵提督「初めまして、瑞鶴ちゃん。私がこの泊地の艦隊を指揮する提督よ。よろしく~!」

瑞鶴「あっ、瑞鶴ですっ! よろしくお願いします!」

提督さんが私の手を握ってぶんぶん振り回してくる。何か子供っぽいって言うか……
すごい美人なのに勿体無い気さえしてくる。所謂残念美人ってやつなのかな……?

幌筵提督「え~っと、それで何の話だっけ? あ、そうそう! 加賀さんだ加賀さん!」

幌筵提督「あの作戦で雷ちゃんが大破したのは、敵艦載機の攻撃から加賀さんを庇ったからなんだよね~」

幌筵提督「だから責任の一端は自分にもあるって言って聞かなくてね」

加賀「艦載機を撃ち漏らしたのは私のミスです。その責を負うのは当然のこと。だから別に翔鶴さんのことは……」

幌筵提督「いや本当は翔鶴のことが心配だったんでしょー?」

加賀「そんなことはありません。あの、提督。そもそも私の処遇など今はあまり関係のない話ですし」

幌筵提督「だってあなたあの日、異動が決まって落ち込んでた翔鶴を後ろから……」

加賀「提督! 私はそろそろ遠征に出ますので……失礼します」

加賀さんは手で顔を覆いながら部屋を出ていってしまった。加賀さんのあんな表情、久しぶりに見たな。

幌筵提督「ふふっ……加賀さんも素直じゃないんだから」

何て言うか……あの加賀さんすらタジタジになっちゃうなんて……この人結構すごい提督さんなのかも。

幌筵提督「加賀さんもね、最初のうちはここでの生活を退屈なものだと思っていたのよ」

瑞鶴「どう言うことですか?」

幌筵提督「この際だからはっきり言っちゃうとね、この泊地は各鎮守府から爪弾きにされた子達が送られる場所なのよ」

幌筵提督「大本営とかからは人材の墓場なんて言われてるしね」

幌筵提督「そして、ここでの主な任務は周辺海域の警備や偵察、本土への補給物資輸送……」

幌筵提督「横鎮第一艦隊の最前線でドンパチやってた彼女からしたら想像もできない世界だったでしょうね」

幌筵提督「でも、翔鶴はどんな地味な任務でも全力で取り組んだわ」

幌筵提督「機動艦隊の栄光と言うには程遠い任務かも知れないけど、必ず誰かの助けになってる……」

幌筵提督「それで幸せになれる人は必ずいるって、いつも言ってたわね」

幌筵提督「そんな翔鶴と、彼女を慕う島の人達の笑顔を見て加賀さんも変わったのよ」

幌筵提督「大本営からは何度も横須賀へ戻るよう命令が出ていたけど、それを無視して翔鶴を支えてくれていたわ」

幌筵提督「そして、翔鶴がいなくなった今も、加賀さんはここに残ってる……」

加賀『翔鶴さんがいつ戻ってきてもいいように、この場所は私が守ります……』

瑞鶴「加賀さん……そんなに翔鶴姉のことを……」

翔鶴姉の居場所と、それを守る加賀さん……か。私は……このままでいいのかな?

瑞鶴「ねえ、提督さん。私……」

幌筵提督「駄目よ、瑞鶴ちゃん」

提督さんは、私の考えてることを見透かしたかのように言葉を遮った。

幌筵提督「その選択は、あなたの今後の人生も左右する大事なもの。だから、簡単に決めて欲しくはないの」

瑞鶴「わかりました。少し街の方に出て話を聞いてみます」

自分でも驚くくらい、あっさりと引き下がった……確かに、少し流されちゃったのかも知れない。
配属先を幌筵泊地(ここ)に変えたいなんて、今安易に選択していいことじゃない。
私は当初の目的通り、街に出て翔鶴姉失踪の手掛かりを探すことにした。

瑞鶴「ふぅ……今日はこの辺にしておくかな」

街の人達に話を聞いてみたけど、翔鶴姉の行方について、特に手掛かりになりそうな話は聞けなかった。
ただ、翔鶴姉がここでどれだけ慕われてたかは再確認できた。みんな、翔鶴姉に会えるのを楽しみにしてて……

加賀「五航戦……どうしたの? こんなところで。そろそろ夕食の時間よ」

瑞鶴「加賀さん……」

加賀さんの話も同じくらい聞いた。翔鶴姉がいなくなってからは、加賀さんが代わりに子供達に勉強を教えたりしてるみたい。
ただ、勉強を教えるのは上手いけど、遊び相手は専ら提督さんや他の艦娘に任せてるそうだ。
子供との遊び方がわからないし、笑顔を作るのが苦手なんだとか。確かに子供達と遊んでる加賀さんなんて想像できないけど。

加賀「どうしたの?」

瑞鶴「加賀さん、私……」

私は意を決して、その言葉を口に出す。

瑞鶴「私、この艦隊で……この泊地でやっていきたいです!」

加賀「…………」

瑞鶴「翔鶴姉がここで何を見てたのかはまだわかりません」

瑞鶴「でも、翔鶴姉が守ってきたもの。今、加賀さん達が守り続けてるものを、私も……守りたいです!」

加賀「そう……」

加賀「あなたが真剣に考えて出した結論なら、私からとやかくいうことはないわ」

そう言って僅かに微笑み、手を差し出す加賀さん。私はその手を取って立ち上がる。

加賀「それなりに期待はしているわ」

瑞鶴「はいっ! よろしくお願いします!」

加賀「あなたは一度決めたらその考えを曲げないものね。学生の頃からそう……」

瑞鶴「え~? そうでしたっけ?」

加賀「あのみっともない寝かせ撃ち、まだやっているのでしょう?」

瑞鶴「あ、アレは……!? いいんです! ちゃんと当たってるし……撃ち方だけは譲れません!」

瑞鶴(弓を使い始めた頃……余興で加賀さんに色んな撃ち方を見せてもらって……)

瑞鶴(横撃ちしてる時の加賀さんが一番カッコ良かったから真似してるなんて……言えるわけないし!)

加賀「でも……それがあなたの良い所でもあるわね……」

加賀「そういう直向きさは、大切にしなさい」

そう言って私の頭を撫でてくる加賀さん。何よ……変わってないのは加賀さんも一緒じゃない。
普段はすっごく厳しいくせに、時折見せるこういうのがどうしようもなく優しくて、ずるい……

だから私は……

瑞鶴「まっ、私が艦隊に入ったら元戦艦のロートル一航戦さんの出番は無くなるかも知れないですねっ!」

加賀「頭にきました」

瑞鶴「あーっ! 痛い、いひゃいっ! ほっぺ抓らないで~!」

その優しさに呑まれちゃうのが何となく癪で……こうして茶化しては怒られたりを繰り返してる。
加賀さんは苦手だったけど、こうしてる時間はちょっと楽しかったかも……なんて思い出してみたり。

加賀「ちょっと瑞鶴? 何をニヤニヤしてるの? 気持ち悪い……」

えへへ……今度は、上手くやっていけるといいな……加賀さんと!

つづく!

次回「抜錨」

今回はここまでです。ここまで読んでいただいた方、レスくれた方、ありがとうございました。
分割等がなければ後6~7話程度で終わる予定です。暇潰しにでも読んでいただけると幸いです。

貼り忘れ。一応このSSでの登場キャラの設定です。

瑞鶴(18):主人公。練度はまだまだだが才能は誰よりもある。好きな人の前では素直になれない。

加賀(23):ヒロイン。瑞鶴を厳しくも優しく導く先輩空母。クールに見えるが沸点は低い。

翔鶴(24):多くの艦娘達に慕われている、おっとりとした性格の優しい空母。現在行方不明。

赤城(27):最年長の正規空母。練度も高いまとめ役だが鳳翔さんにだけは頭が上がらない。

飛龍(23):加賀の同期。瑞鶴を妹のように可愛がっている。搭載数では他の空母に劣るが純粋な実力なら最強との声も。

蒼龍(23):加賀の同期。翔鶴に代わって瑞鶴の面倒を見てきた。飛龍とは良き親友でライバル同士。

長門(25):横鎮の秘書艦。真面目で武人然とした人物だが年下の女の子に対してだけは甘い。



翔鶴さんは加賀さんより年上なイメージ。それでは失礼しました。

専ブラから書き込みできるかテスト

書き込めるみたいなので続き投下します。

「抜錨」

4月。始まりの季節。私もこの春から新しい場所での生活がスタートしようとしていた。

瑞鶴「空母瑞鶴、着任しました! 皆さん、よろしくお願いします!」

幌筵提督「ようこそ、幌筵泊地へ! 歓迎するわ」

笑顔の提督さんとは対照的に、加賀さんの表情は険しい。

加賀「3日遅刻。最初からこの調子じゃ先が思いやられるわね」

瑞鶴「だ、だって……! 樺太からの船が数日間運休になるって聞いたから……」

瑞鶴「それでも自力で千島列島を駆け抜けてきたんですよっ!」

開口一番にお説教モードの加賀さん。言いたいことはわかるけど、私だって好きで遅れたわけじゃないし……


加賀「樺太の船便は不定期な上に運休になるのが当たり前だと以前来た時に教えたわよね?」

加賀「次に来る時は余裕を持って出発しなさいって言ったはずよ?」

幌筵提督「まあまあ加賀さん。その余裕すらなかったのよ、瑞鶴ちゃんには」

加賀「どう言うことですか?」

幌筵提督「大本営が最後の最後まで着任を渋ってね。その交渉に時間が掛かったのよ」

加賀「大本営が……?」


幌筵提督「ええ。あの件で横鎮から翔鶴、加賀さんと二人の正規空母が抜けてしまった」

幌筵提督「そして加賀さんは再三の帰還命令を無視してここに留まっている……」

幌筵提督「大本営は穴埋めの為に何としても瑞鶴ちゃんを横須賀に配属したかったのよ」

幌筵提督「でも赤城、飛龍、蒼龍の三人は瑞鶴ちゃんの意志を尊重して幌筵行きを承諾。大本営にも掛け合ってくれたの」

幌筵提督「大本営も主力正規空母三人の申し立てとあっては折れざるを得なくなったんだけど、それがつい先日ってわけ」

加賀「そうだったの……ごめんなさいね? あなたの言い分も聞かずに……」

瑞鶴「い、いえ……私の方こそ、ちゃんと説明しなくて……」

幌筵提督「はい、お互いに謝った所でこの話はおしまい! 時間がないからちゃっちゃと次行くよ~」


幌筵提督「それじゃあ、この泊地に所属してる艦娘達を紹介するわね。はい、順番に自己紹介して」

鈴谷「はーい! 最上型重巡の鈴谷だよ! 窓際部署だけど賑やかな艦隊だよ。よろしくね!」

デカい……何がとは言わないけど。歳は同じかちょっと下かな? 認めたくないけど……

榛名「高速戦艦、榛名です。よろしくお願い致します」

デカい……何がとは言わないけど。今風のギャルな鈴谷とは対照的に、清楚な大和撫子って感じ。

浜風「駆逐艦、浜風です。貴艦を歓迎します」

デカい……何がとは……って、えっ!? 駆逐艦? 嘘でしょ?

浜風「あ、あの……何か?」

瑞鶴「あ、ううん! 何でもないの! 続けて!」

やばっ! つい胸をガン見しちゃった……変な人って思われなかったかな?


???「次は私ね」

あ、良かった。ぺったんこだ……何がとは言わないけど。って、あれ? この子、確か……

雷「雷よ。お姉さんにはその節でお世話になったわ。よろしくお願いするわね」

やっぱりそうだ。沖ノ島あ号艦隊決戦の時に翔鶴姉達と一緒に出撃してた護衛駆逐艦。

雷「あなたのお姉さんには命を救われたわ。だから恩人の妹さんのあなたにも私、何でもしてあげる!」

雷「困ったことがあったらどんどん私を頼っていいんだからねっ!」

あ、これ私ダメになるパターンだ。力になってくれるのは嬉しいけど、頼るのは程々にしておこう。

幌筵提督「さて、最後は……」チラッ

加賀「えっ? 私もですか? 今さら言うことなんて特に無いでしょう?」

幌筵提督「まあまあ。旗艦のあなたが締めなくてどうするのよ?」

加賀「はあ、仕方ないですね。航空母艦、加賀よ。艦隊旗艦及び秘書艦を務めさせてもらってるわ」

加賀「あなたにはそれなりに期待はしてる。頑張りなさい」


幌筵提督「え~、それだけ? 愛しの後輩が来たんだから、抱き締めてちゅっちゅするもんじゃないの? 普通は」

加賀「あり得ません。提督、また頭の修理が必要なのではないでしょうか?」

幌筵提督「ちぇっ。加賀さんの甲斐性無し~。まあ二人にはおいおいそんな関係になってもらうとして……」

幌筵提督「早速だけど瑞鶴ちゃんの歓迎パーティーやるよ!」

鈴谷「パーティー!? じゃあ今日はカレーいっぱい食べてもいいの!?」

幌筵提督「うん。いっぱい作るからどんどん食べなさいっ!」

鈴谷「やるじゃん提督! それじゃ早速食堂へGOだよ瑞鶴っ!」


_____泊地食堂

加賀「ふぅ……提督の作る肉じゃがは美味しいですね。さすがに気分が高揚します」

榛名「榛名、感激です」

正直、目を疑ってる。いや、私や加賀さんも結構食べるほうなんだけどさ……榛名はその比じゃない。
あの細い体のどこにあれだけ入るんだろう? さすがは戦艦娘って言ったところかな。

榛名「あっ、申し訳ありません。瑞鶴さんの歓迎会なのに、榛名ばかり食べてしまって……」

鈴谷「いいのいいの! 提督も沢山作ってくれてるんだし。こんな時くらいは遠慮しないでジャンジャン食べようよ!」

鈴谷は鈴谷でこれまた私や加賀さんに迫るくらいには食べてる。資源には結構優しくなさそうな艦隊だな~。

加賀「食べ物が無くなりました」

鈴谷「あ、本当だ~。でもこんなんじゃ全然足りないよね~」

瑞鶴「確かに、ちょっと物足りないわね」


榛名「は、榛名はもう十分いただきましたので……」グー

榛名「あっ……///」

鈴谷「よっし、決まり! ちょっくらギンバイでもしてきますか!」

瑞鶴「あ、それなら私行くよ。ちょっとお花摘みに行きたいからそのついでに」

鈴谷「お、マジで? さんきゅー!」

雷「じゃあ私も一緒に行くわ。司令官、たくさん作るから一人じゃ大変なんだから」

瑞鶴「そうなの? じゃあお願いしようかな」

雷「うん! 雷に任せなさい!」


雷「ねえ、瑞鶴……?」

瑞鶴「ん?」

雷「私ね、艦娘になった時からいつだって沈む覚悟は出来てたつもりだった……」

雷「でもね、あの沖ノ島で大破した時……本当はすっごく怖かったの」

雷「翔鶴さんには強がりを言ったけど、頭の中は死にたくない、でいっぱいだった……」

雷「あの人は……懲罰を受けるのをわかってて命令無視の撤退をしてくれたわ」


雷「私、ただ強いだけじゃダメだと思うの。翔鶴さんは本当の強さと優しさを持ってる人だった」

知ってる。知ってるよ、雷。だって私、その翔鶴姉の妹なんだから……

雷「翔鶴さんにはいっぱい、いっぱい感謝してる……だから、あの人が大好きだったこの場所を、私は守りたいの」

そっか……この子も、私と同じなんだ。

雷「一緒に頑張りましょう、瑞鶴!」

まったく、翔鶴姉ったら。こんないい子があなたを慕ってるってのに、どこほっつき歩いてんだか……
早く帰ってこないと、私だってふてくされちゃうんだからね!


_____数日後

幌筵提督「さて。今日はいよいよ、瑞鶴ちゃんを加えた作戦行動よ」

この泊地に来てから数日。ついにこの時がやってきた。初めての出撃……
大丈夫。艦娘学校で艦隊運動のノウハウは学んだし、ここに来てからも毎日演習で練度向上に努めてきた。
それに何たって、瑞鶴には幸運の女神がついていてくれるんだからっ!

幌筵提督「瑞鶴ちゃんは空母科でも優秀だったけど、何しろ初陣よ。みんながちゃんとサポートしてあげてね」

鈴谷「はーい! 鈴谷にお任せだよっ!」

浜風「艦隊の主力となる正規空母……必ずお守りします!」


幌筵提督「よしよし。それじゃあ加賀さん、今日の作戦内容の発表をお願いしますっ!」

加賀「はい。泊地からやや東へ向かった所。ちょうどアッツ島との中間点付近の海域にて、複数の深海棲艦の姿が確認されました」

加賀「恐らくこの泊地を目指して侵攻してきていると思われるこの艦隊を撃破……」

加賀「また、残敵がいる場合はその掃討が今回の任務になります」

鈴谷「まあ要するに、いつもの哨戒任務とほぼ変わんないってことだよね!」

ここ、幌筵泊地はちょうど北方海域の玄関口とも言われる場所にある。
この海域の深部には大規模な深海棲艦の泊地が存在すると言われているが、今の所この付近で大規模な戦いは起こっていない。
今回の作戦の様に敵の前衛艦隊や偵察部隊を迎撃したり、近海警備中に遭遇戦になったりと、比較的小規模なものばかりだ。

加賀「それでは行きましょう。一航戦加賀、出撃します」


_____北方海域

鈴谷「加賀さん、敵の編成わかった?」

加賀「間もなく接触します」

加賀「見つけました。重巡1、軽巡2、駆逐3……!」

鈴谷「空母なしの典型的な前衛艦隊だねっ! それならこっちの独壇場かも!」

浜風「油断は禁物ですよ、鈴谷。全力で行きましょう」

そろそろ目視距離に入るかな……? 初めての実戦。なんか、武者震いがしてきた……


加賀「敵艦見ゆ!」

掛け声と同時に加賀さんがこちらに視線を送る。私はそれに頷き、弓を前に向ける。

瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」

加賀「鎧袖一触よ……!」

放たれた全63機の九九式艦爆が加賀さんの艦攻隊と合流。その数は100にも届きそうなほど。
圧倒的な物量の攻撃隊は、ちょっとやそっとの対空砲火なんて物ともせずに敵艦隊に接触。直後に響く爆音。

イ級「グ……ズ……ギャァァァァム!」

ロ級「ウボァー」

雷「戦果は!?」

瑞鶴「駆逐2隻撃沈! 軽巡1隻中破確認!」

加賀「上出来ね。でも、敵旗艦は無傷よ。気を抜かないで」

瑞鶴「はいっ!」


最初の攻撃隊の着艦と第二次攻撃隊の編成を……と思ったら敵軽巡の主砲がこちらを狙っている。
やばっ……! 私はすぐに回避体勢に入るが……

榛名「やらせません!」

ホ級「ぬわーーっっ!」

榛名の35.6cm砲が火を吹き、一瞬にして軽巡を撃沈。やっぱ戦艦の火力ってすごいや……

雷「もう一匹の軽巡は私達が仕留めたわ!」

浜風「瑞鶴が中破させてくれたおかげです」

加賀「瑞鶴、第二次攻撃。行くわよ?」

瑞鶴「えっ? 待って、私まだ着艦が……!」

もう着艦も攻撃隊編成も終わらせたの? やっぱり加賀さん、早い……!

加賀「わかった。焦らなくていいわ」

そう言って加賀さんは攻撃機を発艦。駆逐艦を易々と撃沈してみせた。残りは旗艦の重巡リ級だけ。


瑞鶴「私だって、負けないんだから!」

漸く着艦を終えた私はすぐに攻撃隊を編成。稼働全機を発艦させる。

リ級「……!?」

私の九九式艦爆はリ級の対空攻撃を掻い潜って彼女を爆撃!

瑞鶴「やった!?」

加賀「まだよ……!」


爆煙の中からボロボロになったリ級が姿を現す。恐らくは大破状態。仕留め損なったとは言え、これなら……

鈴谷「よし、後はこの鈴谷にお任せっ!」

鈴谷が一気に加速して前に出る。リ級も砲弾を放つが、あんな状態での攻撃が鈴谷にあたるはずもなく……

鈴谷「うりゃー!」

リ級「ぐふっ……! だが……私を倒しても、第二第三の私が……貴様らを……!」

鈴谷に撃ち抜かれたリ級が爆発四散して撃沈。終わってみれば私達の完全勝利だっ!


_____幌筵泊地

加賀「作戦終了。艦隊、無事戻りました」

幌筵提督「お疲れ様。どう? 瑞鶴ちゃんの調子は?」

結局あの後、もう一度敵はぐれ艦隊と遭遇。交戦になったけどそちらの方も難なく撃破した。
私も2戦連続でMVPだったし、加賀さん、私のこと見直してくれたかな?

加賀「そうね……50点と言った所かしら」


幌筵提督「あら? 加賀さん手厳しいのね。MVP取ったのに?」

加賀「確かに航空戦での戦果は見事です。でも、砲撃戦での発着艦が遅い」

加賀「着艦に手間取っている空母なんて敵にとってはいい的よ。狙い撃ちされるわ」

加賀「護衛艦も毎回サポート出来るわけじゃないから、極力自分で避けなさい」

加賀「回避運動を行いながら着艦、及び攻撃隊の再編成が出来て漸く一人前と言えるわ」

瑞鶴「ぐぬぬ……」


加賀「でも……」

不意に加賀さんが私の前に立って、頭に手を置いた。

加賀「頑張ったわ」ナデナデ

瑞鶴「ふぇっ!?」

加賀さんに撫でられて頬が紅潮するのがわかる。あ~もう! 何でこの人はいつもこうなのよ!
直前までグチグチ厳しく言ってたくせに、急にこんな優しくするなんてずるい!

幌筵提督「あらあら。良かったわね、瑞鶴ちゃん」

周りは何かニヤニヤしてるし! もう、何でこんな羞恥プレイに耐えなきゃいけないの! イミワカンナイ!


マルヒトマルマル。みんなが寝静まった頃、私は一人着艦の練習をしていた。
二つの攻撃隊を編成し発艦。一方に私を攻撃するよう指示を出し、もう一方は普通にUターンし、着艦してもらう。
回避しながらの着艦……空母の基本的な動きが出来ていないと言う加賀さんの指摘は尤もだ。
思えば今日の2回目の戦闘でもそうだった。着艦で手間取ってる所に敵駆逐艦の砲撃を受けてしまった。
まあ、私は正規空母だから駆逐艦の攻撃が当たった程度ではかすり傷すら付かないけど……
もしアレが戦艦だったらと思うと……やっぱり、今のままじゃダメなんだって再認識する。

瑞鶴「翔鶴姉……」

ふと、その名前が口に出る。はっきり言って、今の私の実力じゃあ翔鶴姉の足元にも及ばないけど……
いつかきっと、翔鶴姉みたいに皆が安心して背中を預けられる様な空母になってみせる! そう自分を鼓舞する。


瑞鶴「はぁ……はぁ……! よーし、もう一本、行っくよーーー!」

翔鶴姉、見ててよねっ!

加賀「瑞鶴……」

加賀「あなたのその直向きさが、間違った方向に進まないことを願ってるわ」

つづく!

次回「敗北」

設定

鈴谷(17):幌筵泊地最古参の艦娘で、練度は最も高いがまだ重巡。提督の一番のお気に入り。可愛い。

榛名(21):幌筵泊地唯一の戦艦で、圧倒的な火力を有する。誰に対しても優しく振る舞うが、一人でいる時は時折悲しげな表情を見せる。

浜風(14):歳不相応の胸部装甲を持つせいで色々苦労してきた子。性格は大真面目で冗談が通じない。

雷(13):溢れ出る母性を持つ、ダメ提督製造機。自らの命を救ってくれた翔鶴によく懐いていた。

深海棲艦:なんかみんなネタ枠。

今回はここまでです。イベントが近いですができる限りペースを落とさずに投下できたらと思います。
それでは読んでいただいた方、レス下さった方、ありがとうございました。

忙しくなればなるほど筆が進む病気。
明日の朝は時間が取れなそうなので今から投下します。


「敗北」

瑞鶴「……ん、う~ん?」

朝の光が眩しくて、目を覚ますと眼前には聳え立つ双丘。何だろうコレ……

瑞鶴「柔らかい……」

???「んっ……!」

とりあえず触ってみると不意に色っぽい声が聞こえてきて、それまでぼんやりしていた意識が覚醒する。

瑞鶴「ああ、加賀さんだ。これ……」


えっ、加賀さん!? ちょ、やだっ! 何で加賀さんが一緒の布団で寝てるの!?
慌てて周囲を見回すと、グチャグチャに乱れた私の布団。あ、そっか……私、結構寝相悪い方だった。

加賀「…………」zzz

加賀さんはまだ寝ている。いつもは6時から射撃練習をするんだけど、今日は久々のオフだし、練習もお休みってことになった。

瑞鶴「私、上手くやれてるかなぁ、加賀さん?」

ポフッと加賀さんの豊満なお胸に顔を埋めながら呟く。別にこういうのが好きなわけじゃない。
ただ、マイ枕が蹴っ飛ばされて部屋の隅まで旅立っちゃったから、代用できそうなものでこうしてるだけ。


瑞鶴「着任してからちょうど一ヶ月かぁ……」

あの日……初めての出撃以降、夜中に秘密特訓してたのは結局みんなにはバレバレだったわけで……
みんな正規の作戦行動の後も、自分の時間を裂いてまで私の発着艦訓練に付き合ってくれた。
嬉しい反面、申し訳ない気持ちもあったけど……でもそのお陰でかなり上達したと思う。
加賀さんに文句言われる回数も減ったし、足を引っ張らない程度には、空母の動きってヤツが身に付いてきたと感じてる。

瑞鶴「でも……まだまだ翔鶴には到底追いつけないよね……私、翔鶴姉みたいになれるのかなぁ?」

目の前の柔らかいものをもふもふしながら、そんな考えが頭をよぎる。


加賀「ん……ぅ……し、翔鶴さん……」

加賀「そうやって寝ている私に悪戯をするのはやめて下さいと、前にも……」

瑞鶴「あっ……」

加賀「……瑞鶴?」

瑞鶴「はい」

加賀「どう言うつもりかしら? 弁解だけは聞いてあげる」

瑞鶴「枕が、無かったもので……はい」

加賀「………鎧袖一触」

瑞鶴「はい」


瑞鶴「いたたたた……もう、加賀さんってば、あんなに怒んなくてもいいじゃん!」

加賀さんに抓られた頬が痛む。大分長い時間抓られてて……加賀さん曰く、
なんか予想以上にもちもちしてて触ってるうちに気分が高揚してしまったらしい。

鈴谷「あはは、瑞鶴ってば本当面白いことするよねー! でもまあ、気持ちわかるよ」

鈴谷「寝起きで目の前にあんな立派な物があったらさあ、そりゃ埋めたくもなるよね~」

鈴谷「しかも加賀さん、体あったかいから余計気持ちいいんだよね~。まさに人を駄目にするおっぱい!」

人を駄目にするおっぱいか~。でも、アレを自由にできるんなら私、駄目になってもいいかも。

鈴谷「おっと、そろそろ出撃の時間だ! じゃあ、行ってくるね!」

瑞鶴「うん。気をつけてね」

私は鈴谷を見送ってから食堂へ向かう。今日は一日自由なんだし、ご飯食べた後は何しよっかな~?


_____執務室

幌筵提督「確か、今日は二人ともお休みよね?」

瑞鶴「そうですけど……」

幌筵提督「うん。じゃあ二人にお願いしようかな!」

加賀「あの、提督。私、久しぶりの休日なので本を読みたいのですが」

幌筵提督「まあまあ。そんな手間は取らせないから」


瑞鶴「で、何なの?」

幌筵提督「三日前に横須賀鎮守府から支援物資を送ったって連絡があってね」

幌筵提督「さっき輸送部隊が港に着いたって言うから、それを受け取って運んで欲しいの」

瑞鶴「え~、面倒だな~。提督さんが行けばいいじゃん」

幌筵提督「いやほら、私ってか弱い女の子じゃん? 主砲とか、そんな重いもの運べないし?」

幌筵提督「それに資料整理もまだ残ってるし、他の子達は出撃しちゃってるじゃない?」

幌筵提督「二人にしか頼めないの! お願い! 何でもするから!」

加賀「はあ……仕方ないですね」

瑞鶴「まあ、提督さんがそこまで言うんなら」

幌筵提督「やったー、二人ともありがとー!」


_____セベロクリリスク港

加賀「まさか、あなた達が来てたなんてね」

蒼龍「いやー本当、久しぶりだよね加賀さん」

飛龍「瑞鶴も。元気してる? 加賀さんにいじめられたりしてない?」

瑞鶴「うん。加賀さん、相変わらず厳しいけど私は楽しくやってるよ」

飛龍「なら良かった。信じて送り出した瑞鶴が、加賀さんに調教されてダブルピースビデオレターなんか送ってきたらどうしようかと」

加賀「あなた達は私を何だと思ってるの……? ちょっと腹が立ちました」


蒼龍「まあまあ加賀さん。ほら、これあげるから機嫌直して」

そう言って蒼龍先輩が袋から取り出したのは……見たことのある艦載機。確かあれは……

加賀「天山に彗星……」

私達が今使ってる九七艦攻や九九艦爆より1ランク上の艦載機。
開発に資源を使う余裕もないこの貧乏泊地にとっては装備品支給はありがたい。

飛龍「まだ量産体制に入ったわけじゃないから数は少ないけど、こっそり持ち出してきたよ」

加賀「いいですね。流石に気分が高揚します」

目を輝かせて艦載機を手に取る加賀さん。こんな表情は珍しいかも。


飛龍「ああ、それともう一つ」

燃料等の補給物資や装備品を受け渡ししながら飛龍先輩が口を開く。この人にしては珍しく真剣な表情。

飛龍「横鎮(うち)の翔鶴さん捜索部隊からの情報なんだけどさ……」

翔鶴姉の失踪……やはりいつまでも隠し通せることじゃないと判断されたみたいで、
赤城先輩、飛龍先輩、蒼龍先輩の三人には長門秘書艦より直々に伝えられたらしい。

加賀「まさか、翔鶴さんが?」

飛龍「いや、見つかったとかじゃないんだけど……」

蒼龍「先日、アリューシャン列島付近を捜索をしてる時にアッツ島に多数の深海棲艦の姿が確認されたんだって」

加賀「アッツ島に……?」

飛龍「うん。雷巡、重巡が中心だったけど、戦艦クラスや空母の姿も確認されてるよ」

加賀「戦艦に空母……この付近では一度も見掛けたことがなかったのに……」

蒼龍「深海棲艦側で何か大きな動きがあるのかも知れない。泊地襲撃部隊の編成中とか……」

飛龍「提督の方にも情報は届いてると思うけど、とにかく警戒は怠らないようにね! 慢心は駄目だよ、絶対!」

加賀「わかりました。忠告、感謝します」


瑞鶴「加賀さん、先輩達の言ってたこと、どう思う?」

加賀「そうね。あの情報だけでは何とも言えないけど……もし戦闘になるとしたら、今までのように簡単にはいかないわ」

加賀「空母を主軸とした機動部隊同士の戦いでは制空権の確保がより重要になってくる」

加賀「敵の規模にもよるけれど、私一人で航空戦を担うのは限界があるわ」

加賀「恐らくあなたにも、艦戦を積んで出撃してもらうことになる……」

航空戦……空母科の授業やこの泊地での演習でやったことがあるけど、演習と実戦は全然別物。
それはもう、初陣の時から嫌という程身に染みてわかってる。加賀さんの足を引っ張らずにやれるだろうか?



???「あっ、加賀さんだーーー!」

私が考え込んでいると、忙しない足音と共に聞き覚えのある声。あの子達は確か……

島民A「加賀さーーーん!」

いつか会った子供が加賀さんの胸に向かって頭からダイブしていく。加賀さんはそれをしっかりと受け止めて。

加賀「ん……危ないわよ?」

そう言って子供の頭を撫でる。加賀さん、子供には優しいんだ。なんか悔しい。

島民B「あ、翔鶴姉ちゃんのニセモノもいるぞ」

瑞鶴「もう! 私は翔鶴姉の妹の瑞鶴よ! ちゃんと覚えなさいって何度も言ってるでしょ!」


島民A「そんなことより、翔鶴姉ちゃんいつ戻ってくんの?」

島民B「俺達もうずっと待ってるんだぜ!」

うっ……それを言われると返答に困る。翔鶴姉は任務の為本土へ一時帰還してることになってるけど……
私は助けを求めるように加賀さんの方に視線を向ける。

加賀「そうね……」

加賀「あなた達が、ちゃんとピーマンを食べられるようになったら戻ってくるわ」

そう言って子供達の頭を撫でる。加賀さんらしくないけど、上手い躱し方だ。

島民A「本当に!? 俺、翔鶴姉ちゃんに会えるんなら何でもするぜ!」

島民B「早速ピーマンやっつけてくる! じゃーな、加賀さんと甲板胸!」

走り去って行く子供達。て言うかまーた私のこと馬鹿にしたしあの子達。でも……


加賀「瑞鶴……」

きっと加賀さんも今、私と同じことを考えてると思う。

瑞鶴「加賀さん。私、守り切るよ……この場所を!」

翔鶴姉の好きだったこの場所。翔鶴姉を慕ってくれる人達……あの子達の笑顔を、今は私達が守らないと!

加賀「そうね……」

相変わらず素っ気ない一言。でもその言葉に強い決意が込められていることは感じられた。


その日の夜、私達は執務室に集められた。提督さんはいつになく真剣な表情。

幌筵提督「つい先日、アッツ島に多数の深海棲艦が集結しているとの報告が入ったわ」

幌筵提督「今日鈴谷達に偵察に行かせたんだけど、予想通り敵の攻撃目標はこの泊地と判明」

幌筵提督「敵の侵攻ルートはコマンドルスキー諸島を経由してカムチャッカ半島側から攻めてくるものと思われるわ」

幌筵提督「カムチャッカ付近での迎撃戦となるとさすがに撃ち漏らした時のリスクが大きすぎる……」

幌筵提督「なのでこちらから撃って出ましょう。明朝よりコマンドルスキー諸島に向けて出発」

幌筵提督「恐らく敵の先遣隊と交戦になるのでこれを殲滅。そのままメードヌイ島に防衛線を張るわ」

幌筵提督「そして、態勢を整え次第アッツ島に進撃。敵北方侵攻艦隊主力を叩く。これが今回の作戦よ」

幌筵提督「皆にとって、この泊地に配属されてからは初めての艦隊決戦になるわ」

幌筵提督「はっきり言って今までの任務とは比べ物にならない程激しい戦いになると思うけど、あなた達ならきっと出来る!」

幌筵提督「それじゃあ加賀さんと瑞鶴ちゃんは装備の調整があるから残って。他の皆は解散。明日に備えてゆっくり休んでね」


_____翌日、北方海域

瑞鶴「うぅ……ん」

鈴谷「あれー? 瑞鶴眠そうだね~?」

艦隊はコマンドルスキー諸島に向けて進行中。私はと言うと、はっきり言って寝不足だった。

瑞鶴「そりゃ初めての艦隊決戦だもん。緊張して中々寝付けなくて」

そんなこと言うと加賀さんから嫌味の一つでも飛んできそうな気がして、つい身構えるが……

加賀「いつも通りやれば大丈夫よ。自信を持ちなさい」

返ってきたのは意外な言葉。優しくして欲しいなんて常に思ってるわけじゃないけど、
こういう言葉を聞かされると加賀さんから少しは認められてるんだって思えてきて……ちょっと嬉しくなる。

鈴谷「ちなみに私は完徹~。私も艦隊決戦初めてだけどさ、結構楽しみだな~」

瑞鶴「羨ましいわね。私もそれくらい余裕を持ちたいわ」

とは言え私と鈴谷じゃ場数が違うんだから、それも仕方ないか。何でも数をこなすことが基本。
今はとにかく、目の前の戦いに全力で集中しないと……


加賀「お話はそこまでよ。間もなく敵艦隊との接触が予想されるわ。警戒して」

鈴谷「りょ~かい!」

榛名「零偵より入電! 敵前衛艦隊を発見しました!」

榛名「軽空母、重巡、雷巡、軽巡1隻ずつ、駆逐2隻です!」

瑞鶴「来たわね、敵空母!」

加賀「瑞鶴、航空戦の用意を!」

瑞鶴「はいっ!」


私と加賀さんは空に向けて全艦載機を発艦! 彗星、九九艦爆21機、零戦21型が33機。
敵機動部隊との交戦が予想されたので、いつもより攻撃機を減らして対空重視の布陣だ。

加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

対する加賀さんは天山、九七艦攻を18機ずつ、零戦21型は圧巻の57機。この構成なら制空権は易々とは渡さない!

ヌ級「ぬおおおぉぉぉ!」

ヌ級が雄叫びを上げながら発艦するが、戦力の差は歴然! 敵艦載機を多数叩き落とし、制空権は確保!
とは言えその全てを落とすことは敵わず、何機かの攻撃機が仕掛けてくる。でも、それも対策済み。

雷「来たわね! 支給されたこの10cm連装高角砲が火を吹くわ!」

浜風「対空射撃、撃ち方始め!」

飛龍先輩達が持ってきてくれた、長10cm砲と呼ばれる駆逐艦の主砲。
艦隊防空の切り札と称されるだけあってその対空能力は凄まじく、航空戦で目減りした敵艦載機を次々と撃墜。
攻撃機は更に少なくなった。これなら簡単に避けられる!


瑞鶴「今度はこっちの番よ……! やっちゃって!」

私の艦爆隊と加賀さんの艦攻隊は敵の対空砲火に何機か落とされるものの、敵に比べて損害は軽微。
そのまま接触し、攻撃を仕掛ける。狙いはもちろん旗艦の軽空母。

ハ級「あべし!」

イ級「モガガル!」

しかし、ヌ級を中心に輪形陣を敷いていた敵艦隊。すかさず随伴の駆逐艦が旗艦を庇って轟沈する。

瑞鶴「旗艦は損傷なしね」

鈴谷「でも2隻は沈めたよ! 数で有利だし、一気に畳んじゃおう!」


榛名「前に出ます! 加賀さんと瑞鶴さんは着艦を!」

加賀「任せたわ」

榛名が零偵を飛ばす。制空権を確保したこの状況下なら弾着観測も容易にできる。

榛名「榛名、全力で参ります!」

重巡に狙いを定め、35.6cm砲での連続砲撃。オーバーキルとも言える火力を叩き出し、リ級を沈める。

鈴谷「榛名、気合入りまくりだね~。鈴谷も負けてらんないし!」

水偵を飛ばし、雷巡へ砲を向ける鈴谷。しかしチ級に迂闊に接近すると強烈な雷撃を食らってしまう。
鈴谷は魚雷を回避できる中距離を保ち、そのまま連撃でチ級を撃ち抜いた。
見掛けによらずこういう器用なことが得意なんだよね、鈴谷って。


雷「さあ、残りは旗艦と軽巡だけよ!」

浜風「ヌ級はまだ発艦準備中ですが、私達の火力で倒すのは難しいですね」

雷「じゃあ軽巡を。ヌ級は加賀さん達に任せましょう」

浜風「よし。浜風、突撃します」

ヘ級「貴様らァ! 調子に乗るなよ!」

雷「そんな攻撃当たらないわよ!」

ヘ級の速射砲による攻撃を持ち前の速力で躱し、主砲で反撃する雷。

ヘ級「クッ、生意気な!」

決定打にはならなかったものの、多少ぐらついて隙が出来る。

浜風「沈みなさい!」

その隙を突いて浜風が魚雷を発射。体勢を崩していたヘ級に回避する術はなかった。

ヘ級「うわああああああ!」


鈴谷「残りはあと1隻だよ! 着艦は!?」

瑞鶴「ご、ごめん。攻撃隊の編成がまだ……」

鈴谷「加賀さんは? 行ける?」

加賀「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

ぐぬぬ……もう、戦闘中でも遠慮なく言うんだから。加賀さんらしいけどさ。
ただ、その言動に違わない実力はやっぱり本物で。正確無比の攻撃でヌ級を捉えて大破、行動不能にさせた。


加賀「五航戦、後は任せたわ」

瑞鶴「はいはい。わかってますよ」

私は第二次攻撃隊を発艦。大破したヌ級相手に外すわけもなく、難なく撃沈した。

幌筵提督『はーい、みんなよくやったわ。これでメードヌイ島は確保したわね』

加賀「はい。こちらの損傷は軽微。少し休憩したらアッツ島に向けて進軍します」

幌筵提督『うん。ただ、恐らく第二波は敵の水上打撃部隊が来るわ。油断しないで!』

何だ、意外と空母戦もやれてるじゃない、私。これならきっと行ける!

瑞鶴「翔鶴姉……見ててね! あの場所は必ず守り切るから……!」


メードヌイ島とアッツ島のちょうど中間地点。敵の第二波と遭遇するなら恐らくこの辺りだ。

加賀「敵艦隊、発見しました……!」

索敵に成功した加賀さんだが、その表情が僅かに強張る。

加賀「瞳に赫い燐光……! 精鋭(エリート)クラス……!」

加賀「戦艦ル級、空母ヲ級、軽母ヌ級、重巡リ級……それぞれエリートが1隻ずつ、駆逐2隻です」

鈴谷「戦艦のエリート級……相手にするのは初めてだね~」

深海棲艦には通常よりも強力な個体が存在する。それが、赤いオーラを纏ったエリート級と呼ばれる存在。
南西諸島海域でしばしば確認され、敵の主力クラスだと思われていたが、最近では更に上位の個体まで確認されている。
ともあれ私にとっては初めて交戦する相手。しかも相手は戦艦や正規空母ときている。
提督さんや加賀さんも言っていた通り、今までとは比べ物にならない程強力な敵艦隊だ。


加賀「間も無く目視距離に入ります。航空戦用意!」

私は両手でパンッと頬を叩き、自らを鼓舞する。

瑞鶴「行きます! 第一攻撃隊、全機発艦!」

私と加賀さんが攻撃隊を発艦。先の戦いで多少落とされたものの、十分な数の艦載機が敵に向かう。

ヲ級「ヲ……ヲッ!」

ヌ級「ヌメヌメ……!」

2杯の敵空母が謎の咆哮と共に発艦。その数は先程のヌ級1杯の時とは比べ物にならない程多い。

加賀「さすがに多いわね。それでも数はこちらが上よ。瑞鶴、集中して」

瑞鶴「はいっ!」

航空優勢。こちらの攻撃隊が何機か敵の艦戦を振り切ってル級に仕掛けるが……


ル級「小賢しい……墜ちよ!」

戦艦ル級エリートの圧倒的な対空弾幕と強固な装甲の前に、戦果を上げることはできなかった。

浜風「くっ……さすがにこの数は、全て撃ち落とすのは難しいですね」

こちらの包囲を抜けた敵攻撃機は、駆逐艦の二人が中心になって対空砲火で叩き落とす。

加賀「敵味方共に損害は軽微。これより砲戦を開始します」

瑞鶴「榛名、鈴谷! 制空権は完全に取ったわけじゃないから、水偵を使う時は敵機に気をつけて!」

榛名「了解ですッ!」

鈴谷「おっけー!」

いつも通り、榛名と鈴谷の二人が前衛に出て先制攻撃を仕掛ける。私達の艦隊の必勝パターンだ。


榛名「主砲、砲撃開始!」

榛名は旗艦である戦艦に狙いを定めて砲撃するものの、当然のように敵駆逐艦が盾となる。

ロ級「ヴァー」

鈴谷「うりゃあぁ!」

そこへすかさず鈴谷の波状攻撃。今度は駆逐艦に庇う暇を与えない! 鈴谷の攻撃はル級に直撃。

鈴谷「やった!?」

ル級「脆弱なり……! 艦娘よ、堕ちろ!」

爆煙の中から姿を現すル級。損傷は全く見られない。彼女はその巨大で禍々しい主砲を鈴谷に向けて砲撃。

鈴谷「うわっ、やばっ……!」

ル級の反撃を間一髪のところで回避する鈴谷。その砲弾はちょうど鈴谷の後ろにいた私のすぐ横を掠めていく。
着弾点には凄まじい水柱が立ち、その砲撃の威力を物語っている。まともに食らえば中破、大破は免れないだろう。


浜風「くっ……化け物めっ……!」

雷「ってー!」

駆逐艦の二人が懸命に攻撃するが、ル級は微動だにせず装甲で弾き返す。

浜風「やはり駄目ですね。私達は随伴艦の掃討に専念しましょう」

雷「あの重装甲を打ち抜けるのはやっぱり……」

やはり駆逐艦や重巡では厳しい。榛名の弾着観測を利用した砲撃か、或いは艦載機の攻撃なら戦艦の装甲も貫けるかも知れない。
でも、私と加賀さんは敵空母の艦載機を抑えるので手一杯。この状態でル級に攻撃を加えるのは難しい。


瑞鶴「加賀さんっ!」

加賀「焦ったら負けよ。必ず好機は来る。今は待ちなさい」

鈴谷「きゃあぁっ! い、痛いし~」

鈴谷がリ級の砲撃を受ける。致命傷は避けたが、小破と言ったところか。
そうだ。ル級の強さにばかり目が行きがちだけど、重巡エリートだって決して楽な相手じゃない。

瑞鶴「加賀さん、私、前に出ます」

加賀「駄目よ……今はまだ」

瑞鶴「でも、このままじゃジリ貧です!」

空母。とにかく空母だ。どちらか一方さえ行動不能にしてしまえば制空権は完全に握れる。
そうなれば水偵を安全に飛ばせて、榛名の弾着観測射撃でル級を沈めることだってできるんだ。


瑞鶴「加賀さん、制空! お願いします!」

加賀「あっ、瑞鶴! 待ちなさい!」

私は着艦を終えると、加賀さんの制止を振り切って前衛に出る。即座に攻撃隊を編成。2杯の空母に狙いを定める。

瑞鶴「第二次攻撃隊、稼働機、全機発艦!」

ヲ「ヲッヲッヲッ……!」

ヌ級「ぬえりゃああああ!」

敵空母が発艦し、私の艦爆隊に襲い掛かるが後ろから合流した加賀さんの艦戦がこれらを掃討。
包囲網を突破した私の艦爆隊はヲ級の直上を取り、一気に爆撃を仕掛ける!


瑞鶴「食らえぇぇぇ!」

ヲ級「ヲヲ~~~~~!?」

数機の彗星による50番が直撃し、轟音と共にヲ級は大破。空母としての機能を停止した。

瑞鶴「や、やったぁ! 見たか、これが五航戦の本当の力よ!」

雷「瑞鶴、直上!」

直後、ヌ級の艦載機による急降下爆撃を受けるが……

瑞鶴「私が、こんなところで沈むわけない!」

即座に回避行動を取って難を逃れた。当たり前だよ。瑞鶴には、幸運の女神が……!?


ル級「…………」

目と目が合う。完全に射線上。あっ、これ、まずい……?

ル級「Lady Luck must be smiling on me!」

轟音。硝煙の臭い。そして体験したこともないような凄まじい衝撃。
視界は真っ赤に染まり、私を呼ぶような声が微かにするけど、耳鳴りが酷くて上手く聞き取れない。

加賀「ず、瑞鶴ッ!?」

加賀さんの、魂から絞り出すような叫び。多分、人生で一番声を張り上げた瞬間だったんじゃないかな?
ただ、意識はそこで途切れて……その声が、私の耳に入ることはなかった……

つづく!

次回「煌き」

今回はここまでです。次で一応一区切りつく予定。
備蓄は十分だしイベントも瑞加賀を中心に頑張りたいです。
ここまで読んで頂いた方、レス下さった方ありがとうございました。

E3まで突破したので投下。貧乳正規空母仲間が増えて瑞鶴も嬉しそうです。
イベントの出撃の間の息抜きにでも読んで頂けると幸いです。


「煌き」

瑞鶴「んっ……うぅ~ん……?」

ここ、どこだろう? ぼんやりとした意識のまま周囲を見回す。白い壁、白い天井。

鈴谷「瑞鶴っ! 良かった~……心配したんだからね!」

仲間の声で、薄っすらとしていた意識は一気に覚醒し、現実へと引き戻される。そっか、ここ、島の病院だ。

瑞鶴「鈴谷。私、あの後……」

鮮明に蘇ってくる、あの時の光景。私は戦艦ル級の砲撃をまともにくらって、意識を保てない程のダメージを受けた。

鈴谷「うん。瑞鶴のお陰で制空権が取れたから、うちらが優位に進められたよ」

鈴谷「旗艦の戦艦以外は全員撃沈。戦艦は形勢不利と見て撤退していったよ」

鈴谷「こっちも瑞鶴の退避が最優先だったから追撃はしなかったけど」

瑞鶴「そう……」


鈴谷「体、痛む? 一応高速修復材は使ったけど……」

瑞鶴「大丈夫。ちょっと怠いくらいかな」

鈴谷「そっか。もうすぐ加賀さん来るけどどうする? まだ寝とく?」

本当にこの子は、今時のギャルっぽい見た目とは裏腹にこういう気遣いができていい子だよね。
あんなことしちゃった後だし、加賀さんと顔を合わせ辛いのは事実なんだけど……

瑞鶴「私から会いにいくよ。怖いけど、逃げたくないから」

鈴谷「わかった。一人で歩ける?」

瑞鶴「大丈夫」


私は体を起こすと、ベッドから降りる。やっぱり、痛みはほとんどない。
そのまま部屋を出ようとしたところで振り返る。一番大事なこと、まだ言ってなかったな。

瑞鶴「ごめんね。迷惑掛けちゃって」

鈴谷「沈まれることが一番の迷惑だよ」

鈴谷「仲間が……大切な仲間が沈むところは、もう見たくないんだ……」

力無く、消え入りそうな程小さな声で呟いた鈴谷。私は聞こえなかったふりをして部屋を出ていった。


_____執務室前

加賀さんと提督さんの話し声が聞こえる。正直、後ろめたさはすごくある……
でも、ここで逃げたって何も始まらない。迷惑を掛けたんだから、その責任は取らないと。

瑞鶴「失礼します!」

幌筵提督「瑞鶴ちゃん……!」

笑顔で迎えてくれる提督さんとは対照的に、加賀さんは一切の表情を崩さない。
頭の中に色々な思いが交錯するけど、とりあえず一番に言いたいこと、言わなきゃいけないことを言おう。

瑞鶴「加賀さん、提督さん……ごめんなさ……」

謝罪の言葉を口にしてる最中に、加賀さんに抱き寄せられる。それは、あまりにも唐突で、予想だにしなかった行動。

瑞鶴「えっ……?」

加賀さんは相変わらずあったかくて、柔らかくて……至福の安堵感に包まれてるのがわかる。


加賀「無事で、良かったわ」

幌筵提督「キマシ!」

提督さんの奇声についビックリしてしまう。加賀さんも同じみたいで、私を抱き締める力がちょっと強くなる。

幌筵提督「こほん、失礼。私は榛名達に瑞鶴ちゃんが目を覚ましたことを伝えてくるから」

幌筵提督「加賀さんは瑞鶴ちゃんに現状の説明をお願いね」

幌筵提督「それじゃお二人さん、ごゆっくりと」

そう言って提督さんは部屋を出ていってしまった。加賀さんは……多分離すタイミングを逃したのか、そのままの体勢。


瑞鶴「私、あの時……」

仕方ないのでその状態のまま、さっきの話の続き。私があの時、何を思って行動したのかを話す。
戦艦を倒すには榛名の弾着観測射撃が不可欠だった。その為には水偵を安全に使用できるよう、制空権の確保が必要。
それにはまず敵空母を撃沈すること。どちらか片方さえ倒してしまえば後は多勢に無勢。制空権確保は容易になる。
実際、ヲ級を大破させたところまでは上手くいった。でも、その後……

瑞鶴「あ、あれ……?」

ル級の嘲笑。砲撃。大破。作戦失敗。あの時の光景が鮮明にフラッシュバックしてきて……

瑞鶴「へ、変だよ、私……なんで泣いて……?」

これは恐怖? 罪悪感? いや、それもあるだろうけど……多分それ以上に……


瑞鶴「私、わた……し、駄目だ……もう、こんなんじゃ……翔鶴姉みたいに、なんて……」

憧れだった翔鶴姉に近付きたい……同じ場所に立っていたい……! そう思ってこの泊地に来たのに、この有様。
私はきっと、一生翔鶴姉みたいにはなれない。そんな現実を突きつけられる。酷い喪失感……

瑞鶴「加賀さんっ! 加賀さ……」

加賀「あなたは、翔鶴さんにはなれない……」

加賀さんの抱き締める力が強まる。何でだろう……一番聞きたくなかった言葉……だった筈なのに。
その言葉は優しさに満ちていて、この温かさが加賀さんの体温に寄るものだけじゃないと実感する。

加賀「だってそうでしょう? あなたは瑞鶴。それ以外の何者でもない。他の何かになる必要なんて、無い」

瑞鶴「でもっ! 加賀さん、私は……!」

加賀「あなたにしか出来ないことだってきっとある。だから、無理に自分を変えようとしなくてもいいの」

ああ、またこの人は……私が本当に言って欲しかったことを……だから私、あなたのことが……


加賀「落ち着いた……?」

一通り泣いて、ようやく泣き止んだ私に加賀さんが優しい口調で声を掛ける。

瑞鶴「あの、加賀さん……」

加賀「何かしら?」

瑞鶴「大変言い難いんですけど」

そう前置きをして、顔を上げながら加賀さんからスッと離れる。


瑞鶴「加賀さんの服、鼻水まみれになっちゃいました」

加賀「あなたって子は……頭にきました」

引きつった顔の加賀さんが、今度は私の頬を掴んで容赦無く引っ張ってくる。

瑞鶴「い、いひゃいっ! わ、わざとじゃ……わざとじゃなひんですって~」

加賀「問答無用」

本当は、あなたのその優しさにもっと甘えたい。素直に感謝の言葉を口にしたい。
そう思ってるのに、いつもこうなっちゃう。私、変わらないなぁ。学生の頃から。
でも、それでもいいんだよね、加賀さんっ!


加賀「さて。それじゃあ現状の説明をするわ」

瑞鶴「はい」

加賀さんがようやくほっぺを解放してくれて、現状の説明に入る。

加賀「まず、敵艦隊の動きから。私達と交戦した戦艦ル級はアッツ島まで撤退したのが確認されてるわ」

加賀「その後、水上打撃隊を再編成してコマンドルスキー諸島まで侵攻。ベーリング島を占拠して留まっているわ」

加賀「敵主力艦隊の方は水上打撃隊から1日遅れて同島へ進行中。今日中には水上打撃隊と合流する見込みよ」

加賀「この後、水上打撃隊が先遣隊としてカムチャッカ半島方面から進軍してくる……と言うのが提督の予想ね」

瑞鶴「そうですか……」


加賀「そんな顔しないで。事態は悪いけど、まだ最悪じゃない」

加賀「もう一度……恐らくこれが最後のチャンスだけど、まだこちらから攻め入ることはできるわ」

加賀「明朝、こちらも部隊を再編成してベーリング島へ出発。途中で水上打撃隊との交戦になるはずよ」

加賀「これを撃破して、そのままベーリング島へ進軍。敵主力艦隊を叩く。これが今回の作戦よ」

瑞鶴「もし……また失敗しちゃったら……?」

加賀「あまり考えたくはないけど、この島での迎撃戦になるわね」

加賀「当然住人は全員避難させるけど、施設等に大きな被害が出るのは避けられないわ」

加賀「そして、最悪の場合はここを放棄して単冠湾泊地まで撤退することになる……」

瑞鶴「そっか……」

瑞鶴「じゃあ、負けられないですね」

加賀「当然よ」

ここを……翔鶴姉の居場所を、あいつらの好きになんかさせない! 絶対に!


_____食堂

瑞鶴「みんな……おはよ」

加賀さんから作戦を聞いた後、補給の為に食堂へ。ここでようやくみんなとも顔を合わせることになる。

榛名「瑞鶴さん……!」

浜風「もう起きて大丈夫なのですか?」

雷「本当に無茶するんだから! 今度はちゃんと私に守らせなさいよね!」

正直、何を言われても仕方ないと思ってたけど……やばい、みんなが優しすぎて泣きそう。


鈴谷「あんまり心配させないでよね。みんな、瑞鶴のこと大好きなんだからさ」

瑞鶴「鈴谷、みんな……ありがと」

鈴谷「まあでも、加賀さんにはかなわないけどね~」

加賀「……? 鈴谷、何を言っているの?」

鈴谷「だってさー、傷心の瑞鶴を抱き締めて、そのままでいいなんて台詞、私達には言えないもん」

えっ? 何でそれを!? あの場には私と加賀さんしかいなかったのに。


加賀「もしかして、提督……?」

幌筵提督「ふふん、実は退室する際にビデオカメラを仕掛けておいたのよ!」

瑞鶴「うえぇ!?」

幌筵提督「あんなオイシイ場面を私が独り占めするなんて勿体無いじゃない」

幌筵提督「二人のラブコメ生中継はみんなバッチリ目に焼き付けたわ」

加賀さんは顔を手で覆って伏せる。私も恥ずかしすぎてここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


榛名「その……榛名はまだ恋愛のこととかよくわからないですけど、お二人みたいな関係は素敵だと思います!」

浜風「ですが、作戦に支障が出ない程度に留めておいて下さいね?」

雷「そうよそうよ! そ、その、キス……とかまでならいいけど、その先は駄目よ! 二人にはまだ早すぎるんだから!」

ちょっと、みんななんか誤解してない!?

鈴谷「つーかwww瑞鶴の照れ隠しがさwww鼻水まみれwwwとかwマジ受けるんですけどwwwww」

幌筵提督「ちなみに私としてはどんどん仲が進展するのは歓迎! 特に初夜のシーンは是非ともビデオに納めたいね!」

前から思ってたけど、本当にこの人は……

瑞鶴「加賀さん……」

加賀「ええ。ちょっと、腹が立ちました」

瑞鶴「全機爆装、準備出来次第発艦! 目標提督さん! やっちゃって!」

幌筵提督「えっ!? ちょ、彗星は危ないって……ぎゃーーー!」


_____翌朝、カムチャッカ半島付近

瑞鶴「うぅ……眠っ……」

鈴谷「またぁ? 昨日加賀さんと激しくしすぎたんじゃないの?」

瑞鶴「爆撃されたいの?」

鈴谷「ごめんごめん」

まあでも、加賀さんが原因ってのもあながち間違いじゃない。提督さんが変なこと言うから……
つい意識しちゃって中々寝付けなかった。加賀さんの方はそんな素振り一切見せずに熟睡してたのに……
別に、強く意識して欲しいとまでは言わないけど……ちょっとくらいは気にしてくれても……ねえ?


瑞鶴「そう言う鈴谷はさ……」

気になる相手はいないの? そう言いかけて口を噤む。昨日、病室を出る時に鈴谷が呟いた言葉。
アレはきっと、そう言う相手がいたんだってこと。何となくだけどわかってしまう。
誰かから聞いたわけでもない。でも、何故かそれだけは確信に近い感じで察した。

瑞鶴「また徹夜? せっかく綺麗なんだからさ、もっと肌とか大事にすればいいのに」

咄嗟に出た誤魔化しの言葉。思えば、艦娘として戦場に出てる時点で的外れな言葉だなぁ。

鈴谷「えっ、や、やだ……鈴谷が綺麗とか……マジ、恥ずかしいって。もう……何言ってんの」

えっ? 何この可愛くて初々しい反応。普段のチャラい感じからは想像もつかないんだけど。


加賀「お喋りはそこまでよ。敵艦隊を発見したわ」

雷「敵編成は?」

加賀「戦艦ル級、空母ヲ級、重巡リ級それぞれエリートが1杯、駆逐2杯ね」

浜風「5隻ですか。前の戦闘から然程時間が経っていませんから、完全な再編成は出来なかったと言うことでしょうか?」

加賀「そうかも知れないわね。数の利を活かして一気に叩きましょう」

間も無く目視距離。私と加賀さんは発艦体勢に入る。

加賀「瑞鶴。他の相手には目を向けなくていいわ。空母だけを狙って」

瑞鶴「はい!」

この前と違って敵空母は1隻だけ。とにかく行動不能に追い込んで、制空権を確保する。やれるはずだ……!


瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」

ヲ級「ヲヲヲ……!」

ヲ級も発艦するが、制空力ではこちらの方が遥かに上。敵攻撃機の大半を撃墜する。

雷「今度は一機も通さないわよ!」

浜風「落ちなさい!」

包囲を抜けた攻撃機も、駆逐艦二人の長10cm砲で撃墜。防空は成功。後は叩くだけ!

瑞鶴「いっ……けえぇぇぇ!」

加賀「みんな、優秀な子達ですから」

ル級「おのれ……忌々しい! 落ちよ!」

戦艦の対空砲火は強力だが、この数を全て落とせるわけがない。まだヲ級を沈めるには十分!

ヲ級「ヲヲォォォォ!?」


瑞鶴「よっし、制空権確保! 榛名、鈴谷! 水偵飛ばしちゃって!」

鈴谷「やるじゃん!」

榛名「これなら、いけます!」

榛名が主砲を構え、戦艦に狙いを定める。その動きを察知した敵駆逐艦が盾になる為に動き出すが……

雷「させないわよ!」

浜風「沈みなさい!」

ロ級「たわば!」

ハ級「あじゃぱー!」

すかさずこちらの駆逐艦二人が砲撃。一撃で撃沈させ、露払いに成功する。


榛名「勝手は! 榛名が! 許しません!」

鈴谷「うりゃー!」

リ級「ごふっ……これで、勝ったと、思うなよォォォ!」

ル級「艦娘ごときが……調子に乗るなよ……!」

水偵を利用した連続砲撃で重巡は轟沈。旗艦の戦艦も大破状態。よし、これなら……!

瑞鶴「全機爆装! 第二次攻撃隊発艦!」

ル級「クッ……七面鳥がァ!」

戦艦が最後の力を振りしぼって連撃を放つが、大破状態で照準が定まらないのか、狙いは大きくズレて砲弾は私達の後方に着弾。
後方で幾重もの巨大な水柱が立ち、大破して尚強大な火力を有していることが窺える。しかし、それももう……!


瑞鶴「これで……おしまい!」

艦載機による一斉爆撃を受け、戦艦は膝をつきゆっくりと沈んでいく。

ル級「クッ……クク……それで、勝ったつもりか……?」

瑞鶴「!?」

あの時と同じ嘲笑。自らが今まさに沈もうとしているのに、まるで勝利を確信したかのような不敵な笑み。
嫌な予感がする……刹那、私の元に戻ろうとする艦載機からの警告。


瑞鶴「加賀さんッ! 避けて!」

加賀「っ!?」

轟音。先程戦艦が起こした水柱の中から別の戦艦が姿を現し、その凶弾で加賀さんを撃ち抜いた。

加賀「戦艦ル級が……もう1杯……? そんな……馬鹿な……!」

崩れ落ちる加賀さんに追撃を仕掛ける戦艦。私は全力でダッシュし、加賀さんを抱きかかえる。すぐさま回避し、既のところで難を逃れた。

榛名「瑞鶴さんッ! 加賀さんを頼みます!」

鈴谷「こいつは鈴谷達が!」

二人が前衛に出て応戦態勢。私は更に距離を取り、戦艦の砲撃に対応出来る位置まで退避する。


瑞鶴「加賀さん、大丈夫ですか!?」

加賀「…………!」

距離が近かったせいか、損傷はかなり大きい。あの時の私と同じくらいの大破状態。

加賀「あ、あいつは……どこから……?」

吐血が酷く、消え入りそうなほど小さい声で喋る加賀さん。

瑞鶴「そう言えば……索敵で確認された敵は5隻……」

いや、違う! 水上打撃隊は最初から6隻。あのル級だけが本隊から離れた位置で行動していたんだ。
他の5隻は囮。旗艦である加賀さんただ一人を仕留める為に、この罠を仕掛けた。
それもそのはず。ここで私達が撤退すれば、もう部隊を再編成しての出撃なんてことは出来なくなる。
後は敵主力艦隊を泊地付近で迎え撃つしかないけど……島に何の被害も出さずに迎撃するなんて不可能だ。
迎撃戦となるとこちらが圧倒的に不利。ならば敵としては、例え水上打撃隊を失うことになっても私達を撤退させる意味はある。


瑞鶴「加賀さん……」

加賀さんにこの考えを話そうとした時、残りの四人がこちらに向かって来る。敵戦艦は撃破。こちらの損傷は軽微。

雷「加賀さんは!?」

加賀「……大丈夫よ。心配いらないわ」

フラつきながら水面に立つ加賀さん。誰の目から見ても明らかだ。とても戦闘なんて出来る状態じゃない。

浜風「とにかく、提督に入電を。状況を説明して指示を仰ぎましょう」

瑞鶴「わかった」


私は提督さんに、現状と先程考えていたことを伝える。顔は見えなくても、苦悶の表情を浮かべているのがよくわかる。

幌筵提督『撤退ね。帰投次第各艦入渠。加賀さんには高速修復材を使うわ』

幌筵提督『その後、補給を済ませたら迎撃戦に備えましょう』

幌筵提督『私はみんなが戻るまでに住民の避難準備、及び単冠湾への支援要請を進めておくわ』

加賀「待って下さい、提督……」

加賀「進軍命令を。あの場所を……幌筵島を戦場にしたくはありません」


鈴谷「なっ、加賀さん何言ってんの!? こんな状態で一発でも貰ったら沈むかも知れないんだよ!?」

加賀「ならば一発も貰わなければいい話でしょう?」

幌筵提督『加賀さん、気持ちはわかるけど鈴谷の言う通りよ。あなたを失うわけにはいかないの』

加賀「私は沈みません。心配無用です」

鈴谷「あ~もう! こんな問答は時間の無駄だよ! 今の加賀さんなら力ずくで連れて帰れるから!」

加賀「そうね。確かに今の私では、無理矢理されたら抵抗する術はないわ」

加賀「でも……そんなことをしたら後でどうなるか、わかるでしょう?」

鈴谷「どうなってもいい! 一生恨まれても、謗られてもいい! 沈まれるよりは……ずっといいよ!」


加賀さんはきっとわかってるんだ。迎撃戦になったら、勝ち目は殆ど無いってことに。

まず、資源が無い。大本営から徹底的に軽視されてるこの泊地では、資源の備蓄なんてしている余裕はない。
遠征や任務で稼いでも、その多くは本土主要鎮守府への補給物資として送られてしまう。
特にここ数日は……私の大破に、今回の加賀さんの大破。他の子も無傷じゃないから、その修繕費で数少ない資源は大きく吹っ飛ぶ。
かろうじて補給は出来そうだが、それで凌げるのは恐らく第一波まで。そこで仕留められず、波状攻撃を受ければ終わり。

提督さんは最寄りの単冠湾へ支援要請を出すって言ってたけど、向こうの艦隊が遠征に出ていたら間に合うかは微妙な所。
また、仮に敵艦隊を全滅させたとしても、施設とかに大きな被害が出たらその復旧には膨大な資金や時間が必要になる。
そんなことになったら大本営は間違いなく幌筵泊地を放棄するだろう。それはもう、こちらの戦略的敗北に他ならないわけで……

ほら、素人の私がたった今思いつく限りでもこんなにも不安要素がある。それは多分鈴谷も、提督さん自身もわかってるはず。

鈴谷「とにかく、今は一刻を争う事態だから。ほら、瑞鶴も加賀さん引っ張るの手伝って!」

鈴谷が加賀さんの腕を掴もうとする。私はその鈴谷の腕を掴んで止めた。

鈴谷「えっ? 瑞鶴……?」

キョトンとした表情の鈴谷。そんな彼女を見つめ、私は意を決して口を開く。

瑞鶴「進もう」


言っちゃった。ああ……私は本当に、翔鶴姉にはなれないなって思った、決定的な瞬間。

鈴谷「なっ!? 瑞鶴、自分が何言ってるかわかってんの!?」

鈴谷が大声で怒鳴る。加賀さんを……仲間を本気で大切に思ってるからこその、真剣な表情。

瑞鶴「迎撃戦になったら私達は圧倒的に不利になるよ。でも今なら、敵を全力で叩ける……」

鈴谷「それで加賀さんが沈んでもいいって言うの!?」

瑞鶴「加賀さんは、沈まないよ……私が守るから。加賀さんは、何があっても沈ませない!」

私は鈴谷の肩に手を置いて、その目をしっかりと見据える。

瑞鶴「信じて、鈴谷。瑞鶴には、幸運の女神がついてるんだから……!」

鈴谷「~~~~~っ!!?」

顔を真っ赤にしながら外方を向いてしまう鈴谷。怒らせちゃった……かな?


幌筵提督『ちょっと瑞鶴ちゃん! 勝手なことは許さないわよ? ほら、鈴谷も!』

少しの間項垂れていた鈴谷だったが、顔を上げて答える。

鈴谷「あ~提督、ごめんね。鈴谷、機関故障しちゃったみたい」

幌筵提督『なっ……鈴谷!?』

鈴谷「反転出来なくなっちゃったからさ、もうこのまま進むしかないよね~。ね、みんな?」

浜風「そうですね。今度は守り抜きます! 絶対に!」

雷「大丈夫よ加賀さん。また私が助けるわ!」

榛名「行きますよ! 暁の水平線に、勝利を刻みましょう!」

瑞鶴「みんな……よし、行こう!」

幌筵提督『あ~もう! 瑞鶴ちゃん、加賀さん! 後でしっかりと懲罰受けてもらうわよ!』

幌筵提督『だから……絶対に、生きて帰ってきなさい……!』

瑞鶴「はいっ! 瑞鶴、進撃します!」


_____ベーリング島近海

瑞鶴「加賀さん、大丈夫ですか?」

加賀「大袈裟なのよあなたは。これくらい何ともないわ」

明らかに無理をしている。本来なら航行不能になっていてもおかしくない程のダメージだったはず。

瑞鶴「加賀さん……」

加賀「戦闘が始まったら私に構わないで。それを気にして勝てるような相手じゃないわ」

そう言うわけにはいかない。何があっても加賀さんを守るって誓ったんだから。


鈴谷「敵主力艦隊、発見だよ! うぇ!? アレは……!?」

雷「どうしたの? 鈴谷?」

鈴谷「空母ヲ級2隻、戦艦ル級1隻、軽巡1隻、駆逐2隻! 戦艦とヲ級1隻以外はエリートクラス!」

鈴谷「でも、そのもう片方のヲ級は……黄色い光……!」

加賀「金色の燐光……!? フラグシップクラスね……!」

瑞鶴「知ってるの、加賀さん!?」

加賀「ええ。エリートクラスより更に高い能力を誇る、恐らく深海棲艦の最上位種よ」

加賀「私も沖ノ島海域で何度か戦ったことがあるけど……一筋縄では行かないわ」


何でだろう……加賀さんが警戒している程の相手なのに、怯えは微塵もなく穏やかな気持ち。
弓を握った瞬間、心がすーっと落ち着いた。

瑞鶴「行きます! 第一次攻撃隊、発艦始め!」

ふと横に目をやると、加賀さんも弓を構えている。

瑞鶴「加賀さん!? そんな状態で発艦なんて……」

加賀「大丈夫。飛行甲板をやられているから着艦は出来ないけど、航空戦のサポートくらいならまだやれるわ」

加賀さんの放った艦載機は、普段と何ら変わりない、淀みない動きを見せた。
この大破状態で、ここまで艦載機を操れるなんて……とんでもない精神力と集中力。


ヲ級e「ヲッヲッヲッ!」

ヲ級f「罪深き艦娘共よ。今日が汝等にとって、審判の日となろう……!」

ヲ級f「主、北方棲姫様の名の下に、私が至高の評決を下してやる!」

わけのわからない台詞を吐きながら、ヲ級達も発艦。流石にその数はかなりの物だけど……
まだこちらの方が上回ってる。ギリギリだけど、航空優勢と言ったところ。

加賀「瑞鶴、わかってるわね?」

瑞鶴「はいっ!」

狙いはヲ級エリート。本当なら旗艦のフラグシップ級を沈めたいけど、敵の装甲を考えたら難しい。
でもエリート級なら……全力で叩けば中破程度には持っていけるはず!

ハ級「やらせはせん! やらせはせんぞォォォォ!」

しかし、またも駆逐艦が盾となり、ヲ級にダメージを与えることが出来ない。ここは数を減らせただけで良しとするしかないか。


ヲ級f「……すまぬ、同志ハ級よ。我の力及ばぬばかりに。艦娘共の断末魔を、お前に捧げる鎮魂の歌とすることを約束しよう」

ヲ級f「行け、同志ル級よ! 北方棲姫様の裁きの下、16inch三連装砲で、奴らの顎を食いちぎれ!」

ル級「フッ……いるじゃないか。死に損ないが……!」

敵戦艦が轟音を響かせて主砲を斉射。こちらのウィークポイントの加賀さんを狙ってくる。

瑞鶴「させないっ!」

私は咄嗟に加賀さんを庇う。幸いにも掠っただけ。損傷はほとんどない。


加賀「瑞鶴、話を聞いてなかったの? 私のことはいいから。あなたは発着艦に集中して」

瑞鶴「加賀さん、でも……!」

加賀「私は今の状態では艦載機の着艦が出来ない。逆に言えばする必要もないと言うことよ」

加賀「回避行動だけに専念すれば、敵の攻撃なんて喰らわないわ」

瑞鶴「加賀さん……」

加賀「さあ、行きなさい瑞鶴。あなたにはまだ、戦う為の矢がある!」

私は無言で前に出る。納得したわけじゃない。危ないって判断したら絶対助けに行くから。


鈴谷「瑞鶴、敵空母いるけど水偵飛ばしちゃうよ!」

瑞鶴「わかった! 加賀さんの航空隊と私の直掩機で、敵機なんか近づけさせないから!」

敵航空戦力が残ってる状態で水偵を使うのは不安だけど、今は一刻も早く敵を倒すのが先決。
当然敵も弾着観測射撃を利用されたくないので、水偵を真っ先に落としに来るが、それを直掩機で撃墜する。

瑞鶴「邪魔はさせない! 鈴谷、榛名! やっちゃって!」

榛名「全力です! てー!」

ル級「うおあぁぁぁぁ!?」

鈴谷「さてさて、一気に決めちゃうよ!」

ヲ級e「ヲヲヲッ~~~~~!?」

戦艦、エリート空母共に撃沈。戦況は一気に有利になる。


ト級「おのれ艦娘共め! 叩き潰してくれるわァ!」

浜風「うっ……!? ま、まだです! まだ、戦えます!」

軽巡の砲撃を受けて多少よろめく浜風。小破と言ったところか。すぐに主砲で反撃するが、無理な体勢で撃った為躱される。

雷「命中させちゃうわよ!」

すかさず回避位置を先読みした雷の雷撃が炸裂。軽巡は轟音と共に爆発四散する。

ト級「北方棲姫様ーーーーッ! ごめんちゃい!」

残りはフラグシップ空母と駆逐艦だけ! ヲ級の表情からは動揺の色が読み取れる。


ヲ級f「馬鹿な……何故、このようなことが……! 奴らは、大破艦を抱えている圧倒的に不利な状況だったはず……!」

ヲ級f「だが……今デッドラインに立っているのは我々……!」

ニ級「ぐわあああああ!?」

敵空母が茫然と立ち尽くしている隙に駆逐艦を撃沈。大勢は決した。

ヲ級f「くっ……どうやら、我々の負けのようだな」

空母は持っていた杖を捨て、両手を挙げて降伏のポーズ。それを見て私達は、ほんの一瞬、気を抜いてしまった。


ヲ級f「だが、我にも矜恃がある! 貴様のその命だけは、貰い受ける!」

刹那。空母は帽子から艦爆を取り出し、それを懐に抱えて加賀さんに向かって猛ダッシュ。自爆する気だ!
完全に先手を取られた。今、砲撃で仕留めようとすれば、加賀さんにも当たる可能性がある。
加賀さんの方は、ただでさえ足が遅い上に大破状態。まず避けることは不可能。それなら……!

瑞鶴「翔鶴型航空母艦は、伊達じゃないのよッ!」


私も全速力で加賀さんに向かって駆ける。40ノットを超える速度でヲ級を追い抜き、そのまま加賀さんを抱えて退避した。

ヲ級f「なっ……なん……だと……!?」

瑞鶴「これで、終わりよ!」

加賀さんをお姫様抱っこしたまま艦載機を放つ。完全に無防備になっていたヲ級は対応できず、大量の爆撃を受けた。

ヲ級f「……ああ。空が……綺麗だ」

そう言いながら、ゆっくり、ゆっくりと沈んでいくヲ級。終わったんだ……


鈴谷「よしっ! 敵主力部隊撃沈! 提督、これより帰還します!」

幌筵提督『本当、心臓に悪かったわ。こんなのはもうこれっきりにしてよね』

鈴谷「はーい。さ、みんな。行こう。凱旋だよ!」

瑞鶴「うん……帰ろう……」

あっ……加賀さん、お姫様抱っこしたままだ。怒られるかな……?

加賀「瑞鶴……」

瑞鶴「は、はいっ!?」

加賀「悪いけど、このままでいさせてもらってもいいかしら? 少し……いえ、とっても、疲れたわ」

瑞鶴「ふぇっ!? わ、わかりましたっ! 瑞鶴、責任を持って泊地まで曳航します!」

突然の言葉に戸惑ったけど、嬉しかった。加賀さんが、やっと私を頼ってくれた。

鈴谷「熱いね~お二人さん。どうするぅ? 今夜は夜戦しちゃう?」

瑞鶴「もう! 鈴谷の馬鹿! 私と加賀さんは、そんなんじゃないってば!」


_____泊地食堂

幌筵提督「いやー、今日はみんな本当によく頑張ったわ! 沢山作ったから、ガンガン食べちゃって!」

鈴谷「あざーす! 提督やるじゃん!」

幌筵提督「ってコラ鈴谷ぁ! お酒は駄目! 未成年でしょうが!」

鈴谷「ちぇっ。こんな時くらいいいじゃん」

幌筵提督「駄目駄目。規律ってモンがあるんだから。守るべきルールはちゃんと守る!」

鈴谷「はいはい、わかりましたよ」

加賀「その通りです、提督」

加賀「喜びの宴に水を指すのも難だとは思いますが、提督が酔い潰れる前に決めていただかないと」

加賀「命令違反をした、私への処罰を……」


真剣な面持ちで切り出す加賀さん。そうだ。結果はどうあれ、私達は背いたんだ。その責は負わなければいけない。

加賀「ただ……他の子達は旗艦である私の命令に従っただけです。処罰は私一人で……」

瑞鶴「な、何言ってんの! 加賀さんを連れて帰ろうとした鈴谷を止めて、進もうって言ったのは私だよ!」

瑞鶴「私も一緒に罰を受けます! 一人でカッコつけないで下さい! 一人で……背追い込まないでっ!」

幌筵提督「そうだねー。ここは二人に……かな」

加賀「瑞鶴……」

瑞鶴「いいんです、加賀さん。最初からそのつもりでしたし」


幌筵提督「よし決まりッ! じゃあみんな、二人に何して欲しい?」

瑞鶴「えっ?」

加賀「は?」

鈴谷「やっぱキスでしょーキス! お互い大好き同士なんだし!」

何この、宴会とかの罰ゲームみたいなノリは?

雷「何言ってるの!? そんなの駄目よ、二人には早すぎるわ! まだ手を繋ぐくらいまでしか認めないんだからね!」

瑞鶴「あのー、みんなちょっと? 話が変な方向に進んでない?」

榛名「榛名、壁ドンを実際に見てみたいです!」

浜風「私は……昼間のお姫様抱っこの逆バージョンを。加賀がしているのを見たい……気がします」

比較的真面目なはずの二人までこんなこと言い出す始末。私は加賀さんにアイコンタクトを送る。
今のうちにここから逃げ出しましょう……加賀さんもそれを察して頷き、立ち上がる。しかし……


幌筵提督「おっと、逃がさないわよぉ! 何か一つはやってからじゃないと……ね?」

鈴谷「キース! キース! キース!」

瑞鶴「鈴谷、うるさい!」

いつの間にか周囲はキスコールに包まれてて……どうにも逃げ出せそうにない状況。

加賀「仕方ないわね。すればいいのでしょう……?」

瑞鶴「ちょ、ちょっと加賀さん! そんな安易に決めるなんて! 私、初めてだし……」

加賀「私だって初めてよ? 瑞鶴は、私じゃ嫌なの……?」

瑞鶴「そ、そんなこと……私は、いいですけど。加賀さんは? 初めてが、私で……しかもこんな形でなんて……」

加賀「そうね。前までのあなただったら絶対お断りだけど……今日のあなたはそれなりに見られるようになったから……いいわ」

瑞鶴「わ、わかりました……」

ここまで来ちゃったらもう覚悟を決めるしかない。でもやっぱり恥ずかしいので目は閉じる。


鈴谷「あー、二人で世界作ってるところ悪いんだけどさ、瑞鶴からしてくれない?」

瑞鶴「えっ? は、はぁ!? な、何言ってんの!? 別にいいじゃない、加賀さんからでも!」

鈴谷「だって加賀さんさー、やっぱ大人の余裕ってヤツ持ってるし。瑞鶴からの方が面白そうだもん」

幌筵提督「そうね、鈴谷の言う通りだわ。ここは瑞鶴ちゃんからで」

駄目だ。こうなっちゃったらこの人達は絶対に退かない。断ったら更に過激な要求をされる。もう私に、退路はなかった。

瑞鶴「わかりました。でも、加賀さん、恥ずかしいから……目、瞑ってて下さい」

加賀「わかったわ」

加賀さんが目を閉じる。私はゆっくりと近づいていく。うわっ、加賀さんやっぱ超綺麗だな~。


加賀「どうしたの? 早くして」

瑞鶴「は、はい! 行きます!」

お互いの吐息さえもかかりそうな程の距離。

私は意を決して、加賀さんと……







唇を……重ねた。


加賀「!?」

瞬間、ドンっと突き飛ばされた。そこには余韻も何もあったもんじゃなくて……

加賀「なっ、ななな!? 瑞鶴、あなた!」

瑞鶴「えっ? え? あ、あの……私、なにか粗相を!?」

加賀「いきなり口にするなんて、何を考えているの!?」

瑞鶴「え~!? だ、だって……」

加賀「ふ、普通は頬とか、額とかでしょう!?」

瑞鶴「…………」

あ、加賀さんって思った以上に初心だったみたい。皆は笑いを堪えるのに必死だ。

加賀「まったく……これだから五航戦は。破廉恥だわ」

そう言って加賀さんは出ていってしまい、私はアウェーの中で一人取り残された。


あの後みんなにからかわれて散々な目に遭った。まあ、それだけならまだいいんだけど……
明日、加賀さんにどんな顔で会えばいいんだろう? 今から気分が重くなる。

瑞鶴「はあ……加賀さん、やっぱり嫌だったんだろうなぁ……」

加賀「そんなことないわ」

私が黄昏ていると、後ろからあの人の声。振り向くと加賀さんが立っていた。

加賀「さっきはごめんなさい。突然のことで驚いて……その、混乱してしまって……」

そう言いながら隣に座ってきて、そっと手を重ねてくる加賀さん。やっぱりこの人は、温かい。


加賀「私……感情表現が……その……みんなが見ていた手前、ただ恥ずかしかっただけで……」

加賀「瑞鶴。あなたを傷つけるつもりはなかったんだけど……」

顔を逸らしながら、色々と言い繕う加賀さん。滅多に見られない光景だ。
でも良かった。正直、嫌われちゃったんじゃないかと思ってちょっと凹んでたけど……その心配もなさそう。


瑞鶴「加賀さん……」

昨日今日で本当に色んなことがあったな……加賀さんの胸で泣いたり、加賀さんと一緒にこの島を守ったり、加賀さんとキスしたり。
加賀さんを失わなくて良かった。守れて良かった。そう思っていると、もう、言葉にせずにはいられなかった。

瑞鶴「好きです」

言っちゃった。今までどうしても素直になれずに言えなかった言葉。本当は最初から自分の気持ちなんてわかってた。
例えどれだけ冷たくされても、厳しいことを言われても……時折見せる加賀さんの優しさが嬉しくて、嬉しすぎて……
私はもう、どうしようもないくらいこの人のことを好きになっちゃってるんだって……ずっと思ってた。

加賀「私も好きよ」


瑞鶴「えっ!? 本当ですか!?」

加賀「同じ艦隊の仲間なんだから、当然でしょう? 急にどうしたの?」

一瞬、心臓が飛び出しそうなくらいドキッとしたのに……やっぱり加賀さんは加賀さんだったよ。

瑞鶴「ふっ……ふふ。加賀さんってばもう!」

思わず笑いがこみ上げてくる。もう、今はそれでもいいやって思えてきちゃった。
鈍足な上に鈍感。本当に甲斐性無しな人。でも、私は諦めない! いつか絶対に加賀さんを振り向かせてやるんだからっ!

瑞鶴「覚悟しててね、加賀さん!」

つづく!

次回「青空」

今回はここまでです。明日、明後日は忙しいのでイベも投下もペースが落ちるかも知れません。
それでは読んでくださった方、レスしてくれた方、ありがとうございました。

やっと休みが取れたので投下。今日からイベントも再開します。
順調に進めばGW中には完結すると思います。


「青空」

横須賀提督『私だ』

幌筵提督「あらあら。ご無沙汰ね。何か用かしら?」

横須賀提督『君の艦隊に所属している、幸運の空母の件でちょっとな……』

幌筵提督「ふーん。先に言っとくけど、私は今まで通りのスタンスを貫くつもりよ」

幌筵提督「本人が望まない限り、ここから連れ出すなんて認めないわ」

横須賀提督『ああ、承知しているよ。私とて、強引に連れ戻すような真似はしたくない』

横須賀提督『だが、大本営は違う。やはり彼女を横須賀に置いておきたいそうだ』

幌筵提督「それもこれも、あなたがいつまで経っても沖ノ島を攻略できない所為でしょうが」

横須賀提督『ああ、それを言われるとな……我々も人事を尽くしてはいるのだが』


横須賀提督『まあともかく、大本営は近々、彼女を説得するために使者を送るそうだ』

横須賀提督『まあ大丈夫だとは思うが、一応な。穏便に頼むぞ?』

幌筵提督「それは向こうさんの態度次第ね。まあ善処はするけど」

横須賀提督『うむ。では私はこれで失礼するよ』

幌筵提督「大本営の使者……ねぇ。中々面倒なことになりそうだわ」


_____数日後、泊地食堂

瑞鶴「あれぇ? なんか違うなぁ」

加賀「ええ。美味しいけど、特別絶賛する程じゃないわね。どうして急に卵焼きなんて作ろうと思ったの?」

瑞鶴「うん。一つ下の幼馴染みが作るの得意だったんで、久しぶりに食べてみたいな~って思ったんですけど」

瑞鶴「どうしてもあの味を再現できなくて……」

加賀「そう。あなた、才能の無駄遣いと言わんばかりに料理上手なのに、珍しいわね」

瑞鶴「なんか一言多くないですか?」

まあ、学校に通ってた頃は毎日お弁当作ってたし。加賀さんに食べてもらいたくて、必死に勉強してさ。
とは言っても、あの当時の私はヘタレ極まりなかったから、結局一年間で一度も渡せなかったのよね。
今ならこうして普通に手料理を振舞ってるのに。まあ、スキル自体が無駄になってないからいいか。


鈴谷「あ、ここにいた。瑞鶴、お客さんが来てるよ」

瑞鶴「え? 私に?」

鈴谷「うん、応接室で待ってるから来てってさ。あ、ついでに加賀さんも」

加賀「私もですか? わかりました」

瑞鶴「私達に用って誰だろ? 飛龍先輩かな?」


_____応接室

瑞加賀「失礼します」

入ってすぐ目に付く、特徴的な髪型の小柄な艦娘。私のよく知ってる子だ。

???「瑞鶴、久しぶりー!」

瑞鶴「瑞鳳……!」

さっき加賀さんに話していた幼馴染み。すごい、こんな偶然があるなんて。私の、悲しいくらい無い胸も自然と高鳴る。


瑞鳳「もう! 瑞鶴ったら酷いよ! 私に何の相談もなくこんなところにいるなんて!」

そうだった。在学中はよく、一緒に横須賀で艦載機を飛ばそうね……なんて話してたっけ。
私の幌筵行きは急遽、それも極秘に決まったことだったので身内への連絡も出来なかったんだ。

加賀「あの……話が見えないのだけど」

瑞鶴「あ、すいません加賀さん。この子は瑞鳳。艦娘学校時代の後輩で、幼馴染みなんです」

瑞鳳は加賀さんの卒業と入れ替わりで入学したので、直接の面識はない。

瑞鶴「んで、瑞鳳。こちらが加賀さん。この艦隊の旗艦で秘書艦も兼任」

瑞鳳「あ、はい。瑞鶴がお世話になってます……」

加賀「ええ。それじゃあ、用件を聞こうかしら」


瑞鳳「瑞鶴を横須賀に連れ戻すようにと。はいこれ、大本営からの指令書です」

瑞鶴「えっ!?」

瑞鳳が取り出した紙には、確かに私に対する帰還命令が書かれていた。私、戻らなきゃいけないの?

加賀「毎週毎週同じ文面。あの人達もよくも飽きないものね」

瑞鶴「毎週? それってどういう……」

加賀「一ヶ月ほど前から毎週来てるわよ、これ。私が握り潰してるけど」

瑞鶴「えっ、何ですかそれ!? 初めて聞きましたよ!?」

加賀「だってあなた、どうせ戻る気はないのでしょう? それなら同じことよ」

瑞鶴「ええ、まあ……」

確かにそうなんだけど……なんか自分が知らないところで命令違反してたのは後ろめたい気持ちになる。でも……


瑞鶴「今はちょっと、戻れない……かなぁ」

瑞鳳「どうして? どうしてなの、瑞鶴!? 一緒に横須賀に行こうって約束したじゃない!?」

瑞鳳「私、必死に頑張ったんだよ! 瑞鶴みたいな才能はないけど、横須賀に配属されるように努力したのに!」

瑞鶴「あ、いや、その……これには海より深い事情があって……」

そうだ。艦娘の中でも、翔鶴姉の失踪のことを知ってるのはごく一部だけ。
瑞鳳からしてみれば、今の私はただ約束を反故にしたようにしか見えないんだ。

瑞鶴「ねえ加賀さん。翔鶴姉のこと、話してもいいですよね? そうじゃないと多分納得しないと思います」

加賀「いいんじゃないかしら? それで引き下がるとは思えないけど」

少し加賀さんの言葉が引っ掛かったけど、私は瑞鳳にこれまでの経緯を説明した。


瑞鳳「そう……だったんだ。事情はわかった。でもこの場所は、私との約束よりも大事?」

瑞鶴「うっ……そ、そんなの……」

冷静に考えてみる。翔鶴姉がいたこの場所……? 違う、そうじゃない。
今の私にとってここは……加賀さんと一緒にいられる場所。その思いの方が強かった。だから……

瑞鶴「ごめん、本当にゴメン。瑞鳳。今の私には、ここが一番大切なんだ」

瑞鳳「どうして……? どうして私じゃダメなの!? 私が軽空母だから!? 弱いから、瑞鶴の隣には立てないの!?」

瑞鶴「えっ!? ちょ、待って! 誰もそんなこと言ってない!」

瑞鶴「瑞鳳、どうしちゃったの? なんで、そこまでして……?」


加賀「鈍いのね?」

瑞鶴「は、はあ!? ちょっと加賀さん!? 何なんですかいきなり!」

加賀「言葉の表面だけを捉えるんじゃないの。その内にあるものをキチンと理解しなさいってことよ」

瑞鶴「それ、加賀さんにだけは絶対に言われたくないんだけど!」

私は加賀さんに詰め寄る。あ、顔近い。でも、構うもんか。
本当に鈍すぎるのは加賀さんの方だってこと、今日こそは言ってやるんだから!

瑞鶴「加賀さんこそ! 鈍すぎるのよ! 天才的だわホント!」

加賀「は? どう言うことかしら? まったく心当たりがないのだけど」

瑞鶴「心当たりがないのがいけないの! 普通だったらとっくに気がついてるわよ!」

気が付けば瑞鳳そっちのけで加賀さんと口論。


瑞鳳(この二人……そっか、瑞鶴。そう言うことだったんだね。あなたがここを離れたくない理由……)

瑞鳳(思えば、学生の頃からそうだった。毎日のように加賀さん加賀さん加賀さん加賀さんって……言ってたなぁ)

瑞鳳(やだ……やだよ、瑞鶴。ずっとあなたの隣にいたのは私。小さい頃から一緒にいたのは私なんだから!)

瑞鳳「あ、あの! 加賀さん!」

加賀「……なに?」

瑞鳳「私と……勝負してくれませんか!?」

突然そんなことを言い出す瑞鳳。何考えてんの?


瑞鳳「私が負けたら、大人しく帰ります。でも……私が勝ったら、瑞鶴には横須賀に戻ってもらいます!」

加賀「瑞鶴に戻る意志がない以上、勝負も何もないでしょう?」

加賀さんは至って冷静だ。良かった。好きな人と大事な幼馴染みが争うところなんて見たくないよ。

瑞鳳「あれ? 逃げるんですか? 軽空母の私に負けるのが怖い?」

加賀「頭にきました。いいでしょう、受けて立ちます」

瑞鶴「ちょ、加賀さん!?」

加賀さん沸点低すぎ! 瑞鳳も瑞鳳で、何でそこまで拘るの!? もう意味わかんない!

加賀「それで、何で勝負するの? 射撃? 実戦演習? ハンデはどれくらい必要かしら?」

瑞鳳「そうですね……こんなのはどうでしょうか?」


_____部屋の外

幌筵提督「いや~、いい百合修羅場だね~。幼馴染みの幼妻と現地妻の争いとか、瑞鶴ちゃんマジ主人公属性!」

鈴谷「でもさ~、どうするの? このままじゃ瑞鶴、横須賀に戻っちゃうよ?」

幌筵提督「大丈夫でしょ。加賀さんが負けるわけないし」

鈴谷「提督、勝負の内容聞いてなかったでしょ? この勝負、加賀さんには絶対勝ち目ないよ?」

幌筵提督「あーうん、ちょっと興奮してて聞いてなかったけど。加賀さんに勝ち目のない勝負って何よ?」

鈴谷「それは……」


_____瑞鶴、加賀の部屋

瑞鶴「どうするんですか加賀さん!? よりによって、あんな勝負受けるなんて!」

加賀「あそこまで馬鹿にされて、引き下がるわけにはいかないわ」

瑞鶴「まあ、百歩譲って勝負を受けるのはいいです。でも、内容まで全部瑞鳳に決めさせるなんて!」

瑞鶴「加賀さんが負けたら私、横須賀に連れ戻されるんですよ!?」

加賀さんが受けた勝負……それは潜水艦哨戒任務。北方海域にも、数は少ないながら敵潜水艦の姿が確認されてる場所がある。
明日その場所に出撃し、潜水艦を撃破した数を競うと言うもの。


瑞鶴「それをこんな……100%負ける勝負なんて……!」

潜水艦……それは私達正規空母にとって数少ないウィークポイント。私達の艦載機は、潜水艦に対してほとんど攻撃ができない。
正規空母に搭載される艦載機の妖精さん達が受ける訓練は航空戦に特化していて、対潜に関しては全くと言っていい程手付かずなんだ。
一方で軽空母の方は、搭載数や戦闘力で正規空母に劣る分、多彩なことが出来る様にと対潜訓練もある程度受けている。
もちろん、本職の駆逐艦や軽巡には大きく劣るけど、それでも対潜能力0の正規空母相手に負けるわけがない。

瑞鶴「加賀さん、私……やだよ。まだここにいたいよ……」

加賀「わかってるわ。何とかすればいいのでしょう?」


_____翌日、アリューシャン列島

瑞鳳「それじゃあ改めて確認しますね。1時間以内にどれだけ潜水艦を倒せるかを競います」

瑞鳳「通常クラスは1ポイント、エリートを倒したら3ポイント、フラグシップは5ポイントです」

瑞鳳「ただし、安全最優先のため大破したら速やかに撤退。お互いが大破してしまったら、その時点でのポイントで勝敗を決めます」

瑞鳳「よろしいですか?」

加賀「ええ。わかったわ」

瑞鳳「それじゃあ、始めます!」

瑞鳳が発艦する。彼女のお気に入りの九九艦爆9機、対潜能力の高い九七艦攻が18機、偵察機の二式艦上偵察機が3機。

加賀「……発艦始め」

対する加賀さんは……偵察機の彩雲を12機、九七艦攻を36機。自慢の45機搭載のスロットは今は沈黙している。

瑞鶴「加賀さん……大丈夫かな? 策はあるって言ってたけど……」


瑞鳳「見つけちゃいました! 攻撃隊、やっちゃって!」

開始から数分。早速瑞鳳が潜水艦を発見。攻撃隊が一箇所に集まり、爆雷を投下する。

カ級「アッー!?」

直後、爆音と共に敵潜水艦の反応が消失。撃破に成功したみたいだ。

瑞鳳「やったあ! まずは1ポイント先取よ!」

瑞鶴「か、加賀さん!」

加賀「まだ始まったばかりよ。焦らないで」

瑞鳳(瑞鶴……また加賀さんばっかり見て……でも、それも今日でおしまいなんだからっ!)


加賀「見つけたわ」

程なくして、加賀さんが呟く。私にも見える。そっか、加賀さんが言ってた策ってこれのことだったんだ!

加賀「鎧袖一触よ」

カ級「!?」

そうだ。潜水艦だって、何も無限に潜行しているわけじゃない。浮上している時だってある。
こちらの潜水艦娘なんかも潜るのは戦闘中くらいで、普段は浮上しながら航行してるし……
ともかくこの間隙を突くことができれば、対潜能力0の正規空母でも潜水艦を撃沈できる。


瑞鳳「いただきです!」

しかし、瑞鳳の方も浮上している敵に気付き攻撃隊を嗾ける。

カ級「イ゛ェアアアア!?」

加賀さんと瑞鳳の攻撃隊が交差する中で敵潜水艦は撃沈。

加賀「……そちらの取りね」

瑞鳳「そうですか。じゃあ遠慮なくいただきます」

えっ? タイミングは間違いなくセイム。それならもっと揉めてもいいのに……!

加賀「さあ、次行くわよ」

加賀さんは気にする素振りもなく着艦体勢に入る。とにかくこれで2点差。敵潜水艦は滅多に浮上しない。
もしかしたら今のが最後のチャンスだったのかも知れないのに……これを逃したのは痛すぎる。


瑞鶴「残り10分です!」

勝負も終盤。瑞鳳はあれから堅実に撃破していき、現在4ポイント。加賀さんは未だに戦果なし。

瑞鳳(よし、ここまで離せばまず負けない。元々この勝負は私が圧倒的に有利。ちょっとえげつなかったかも知れないけどさ……)

瑞鳳(絶対に負けたくなかった。この人に瑞鶴は渡さない! 私、瑞鶴を取り戻す為なら何でもするよ!)

普通に考えたらもう逆転不可能な程の点差。それでも加賀さんの顔に焦りの色は見られない。

瑞鶴「加賀さん……」

もうやめよう……加賀さんの負けるところなんて見たくない。それを伝えに、加賀さんに近寄る。


加賀「……!? 瑞鶴、ダメよ! 来ないで」

瑞鶴「えっ?」

レーダーを見ると敵艦反応。距離は大分近い。そして直後に水面には細長い魚雷の影。マズイ……!?

加賀「ちっ……!」

刹那、加賀さんは私の前に立って魚雷の直撃を受ける。凄まじい轟音と爆煙。

瑞鶴「かっ、加賀さん!?」

噴煙を掻き分けて加賀さんの姿を探す。いくら正規空母の装甲でも、あんな近距離から魚雷を受けたら……


加賀「まったく……」

煙の中から加賀さんが姿を現す。飛行甲板も艤装もかなりの損傷。かろうじて大破には至らない程度の中破。

加賀「注意力散漫よ、瑞鶴」

瑞鶴「ごめんなさい……私、その……」

加賀「でも、無事で良かったわ」

そう言って頭を撫でてくる加賀さん。こんなことしてもらう資格、今の私には無いのに……


瑞鶴「加賀さん、帰りましょう。私が守ります! 何があっても守りますから!」

加賀「このままじゃ終われないでしょう? 決着はキチンとつけないと」

瑞鶴「こんな状態で、何が出来るんですか!? もう勝負なんてどうでもいいですから!」

瑞鶴「瑞鳳は私が説得しますから。加賀さんが沈んじゃうのは……やだ」

加賀「優しいのね瑞鶴。あなたの気持ちは嬉しい。でも……」

直後、加賀さんは冷たい目で潜水艦がいた方を睨む。その目付きに少し戦慄を覚えた。

加賀「このままじゃ腹の虫が治まらないの」

表情を変えないまま27ノットの速度で潜水艦のいたところに向かう加賀さん。
でも、この状態で何をする気なの? もう発着艦も出来ないのに……


加賀「逃がさないわ」

瑞鶴「え~~~っ!?」

そのまま海にダイブし、潜水艦を捕まえて水上に引きずり出した。金色のオーラを纏った、フラグシップ級だ。

ヨ級「なっ……アナタ、あの距離で雷撃を受けて……!?」

加賀「残念だったわね。あの程度で沈む程、私はヤワじゃないわ」

ヨ級「死に損ったのね……だけど、その損傷で何が出来……ぶへぁっ!?」

挑発してくる潜水艦の顔面に鉄拳を入れる加賀さん。怯んだ相手を押し倒し、更に連打を浴びせる。

ヨ級「ぐえっ! い、痛ッ!? あ、アナタ……こんなやり方! それでも、艦娘なの!? あん!」

尚も無言のまま殴り続ける加賀さん。艤装部分も構わず殴ってるので逆に加賀さんの手からも鮮血が流れて痛々しい。


瑞鳳「…………」

私も瑞鳳も唖然としながらそれを見ていた。正直、怖くて動けない。

ヨ級「ちょ、ごめんなさいマジ調子乗ってました! 許して下さい何でもしますから!」

瑞鶴「はっ!? か、加賀さん!」

私は金縛りとも言える状態からようやく抜け出し、加賀さんに駆け寄る。

瑞鶴「加賀さん! もうやめてぇ! それ以上は……加賀さんの方が!」

加賀「はぁ……はぁ……そうね。終わりにしましょう」


ヨ級「」

ぐったりしている潜水艦を掴み、宙に放り投げる加賀さん。そのまま弓を構え、残っていた最後の矢を撃ち出す。
45機の彗星が一斉に追尾し、爆弾を投下。当然避ける術などなく、潜水艦はそのまま爆発四散した。

加賀「やりました」

瑞鶴「わかったから、とにかく撤退よ撤退! 瑞鳳も、帰るよ」

瑞鳳「う、うん……」


_____泊地入渠施設

やっと帰ってきて入渠中。途中、会敵することはなかったけど、みんな終始無言で妙に空気が重かった。
と言うか今も二人とも黙っちゃってるし……私が切り出すしかないのかな。

瑞鶴「え、えっと、それじゃあ結果発表します。瑞鳳は4隻撃沈で4ポイント」

瑞鶴「加賀さんはフラグシップ級撃沈によって5ポイントで、加賀さんの勝ち……ってことでよろしいでしょうか?」

加賀「そうね。制限時間内だったし、ルールに則るなら私の勝ちです」

瑞鳳「……はい。問題ありません」

漸く口を開く二人。私はホッと胸を撫で下ろす。これでこの場所に……加賀さんと一緒にいられる。


加賀「瑞鳳。あなたが瑞鶴をとても大切に想っている気持ちはわかります」

加賀「でもね、この子にはこの子の生き方がある。それを否定する権利は誰にもありはしない……」

加賀「だから私は、瑞鶴にその意志がない限りここから連れ出すことは認めません」

瑞鳳「はい……私、自分の都合ばっかりで瑞鶴の気持ち、全然考えてなかった……」

瑞鳳(それに、今日の出撃でわかったよ。瑞鶴と加賀さんの間に、割って入る余地なんてない……)

瑞鳳(少なくとも今は……ね)


瑞鳳「でも私、諦めませんから。無理矢理連れ戻すことはもうしませんけど……」

瑞鳳「いつか瑞鶴の方から一緒に戦いたいって言ってもらえるように、努力します!」

加賀「そうね、良い心掛けだわ。瑞鶴は鈍感だから大変だとは思うけど……」

か、加賀さんまた自分のこと棚に上げて……! もう何なのよ! わざとやってんの!?
今日は加賀さんに迷惑掛けちゃったし、何言われても口答えしないでおこうと思ってたけど、これは流石に頭に来た。


瑞鶴「加賀さんには言われたくないっての! この鈍足鈍感空母!」

加賀「は? 昼間も同じようなことを言ってたけど、何のことだかわからないわ」

瑞鶴「もう、信じらんない! 馬鹿じゃないの加賀さん! このバ加賀!」

加賀「頭に来ました」

もはや定番になった台詞と共に、加賀さんが私の後ろに回り込む。加賀さんのくせに信じられない程俊敏な動き。

瑞鶴「あいたたたっ! やめて、もげる!」

そして、私の小さな胸を掴むと一気に力を入れて握ってくる。

瑞鶴「つ、潰れる!? やだやだ、これ以上胸ちいさくなるのやだぁ!」

瑞鳳(ふふっ……でも、壁は高そうだなぁ……頑張らないと!)


_____泊地食堂

幌筵提督「いやー本当どうなることかと思ったわ。やっすい挑発に乗って潜水艦撃破数勝負受けるなんて」

鈴谷「しかも負けたら恋人失うペナルティ付きでさ。それで勝っちゃう辺り流石加賀さんだけど」

加賀「恋人ではありません」

幌筵提督「でもあの瑞鳳って子も相当な根性者よね~。あの加賀さんに恐れずに勝負を挑むなんて」

瑞鶴「そうそう。あの子、ああ見えて昔っから一本芯が通ってるって言うかさ」

鈴谷「いいよね~瑞鶴は。あんな風に慕ってくれる子がいてさ。羨ましいな~」

雷「ほんと、器量よしで料理も上手。瑞鶴には勿体無いくらいよね」

瑞鳳が作ってくれた卵焼きを頬張りながら、微妙に失礼なことを言う雷。


鈴谷「あーあ、鈴谷もあんな後輩欲しかったな~」

瑞鶴「そうだね~。慕ってくれる可愛い後輩がいるって、幸せなことですよね? 加・賀・さ・ん!」

加賀「そうね。どこかの生意気な後輩も見習うべきだと思うわ」

あっさりと一蹴。はぁ……私も瑞鳳みたいにちゃんと態度に出してれば、今頃はもっと距離も縮まってたのかなぁ?
でも、それも難しそう。私は瑞鳳ほど素直じゃないし、加賀さんは私ほど単純でもない。
お互いの性格からして、最初からベリーハードモードなんだ、これは。
でも、私は負けない! 自分を曲げないで……私は私らしく、加賀さんを落としてみせる!

五航戦、瑞鶴! 頑張りますっ!

つづく!

次回「絶望」

設定

瑞鶴(18):鈍感な加賀さんに苦労するヒロイン属性かと思ったら本人もやっぱり鈍感だった、どこまでいっても主人公属性な主人公。

瑞鳳(17):瑞鶴の幼馴染み。謎の卵焼き推し。瑞鶴より胸が無いが瑞鶴と違って気にしてはいない。

今回はここまでです。あと少し書くのが遅かったら瑞鳳のポジションは葛城になってたかも知れません。
瑞加賀と葛城の三角関係を日々妄想しているのでこのSSが完結したら書いてみたいとか思っております。
それではここまで読んで頂いた方、レス下さった方、ありがとうございました。

加賀さん受けで書いてるつもりですが基本的には瑞加賀なら何でも好きです。
シチュもそれこそ普通のイチャラブからギスギスした喧嘩ップルまで何でもござれです。

今回は予定を変えて、お蔵入りする予定だった部分のSSを加筆、修正した物を投下します。
本編登場艦娘の過去話なので少し瑞加賀要素は薄いですが読んでいただければ幸いです。


「喪失」

それは、ある雨の日の話。加賀さんと雷は遠征に出ていて、他のメンバーはお留守番。

鈴谷「あーあ、なんかマジ退屈なんだけど~。提督~、何かないの?」

先程から静かに本を読んでいる榛名、浜風と違って鈴谷はこんな調子。
ここに置いてある漫画は読み尽くした。小説の方はと言うと、手に取っただけで気分が重くなり、
表紙を開くと頭が痛くなり、活字を読み始めると2、3ページで意識不明になるらしい。

幌筵提督「そうねぇ……あ、そうだ。瑞鶴ちゃんとはまだアレ、やってないんじゃない?」

鈴谷「それだ! 提督、早く用意して!」

幌筵提督「はいはい、ちょっと待ってて」

何だろう? よく見たら榛名と浜風も、読んでた本を閉じてこちらに注目している。

浜風「瑞鶴は幸運艦ですから、相手にとって不足なしですね」

榛名「腕が鳴ります。榛名も全力でお相手しますね!」

ちょ、何なの一体? その疑問は、直後に戻ってきた提督さんを見て解消される。


瑞鶴「全自動卓……麻雀かぁ」

幌筵提督「もちろん打てるわよね、瑞鶴ちゃん?」

瑞鶴「打てるけど……いいの? 私、強いよ?」

鈴谷「自信満々だね~。雷も最初はそう言ってたっけ。第六駆逐隊の中じゃ響に次ぐ強さだって」

浜風「ちなみに一番弱いのは暁だそうです」

鈴谷「雷も今でこそうちらとそこそこ打ててるけどさ、最初はボコボコだったんだよ?」

瑞鶴「へー、みんな強いんだ。楽しみ」

幌筵提督「ちなみにトップ以外はトップの命令を何でも聞くって罰ゲームがあるから、気合い入れてね!」

罰ゲームかぁ……どんなことやってもらおうかなぁ? あんまり過激なのはダメだよね。
加賀さんがいれば、あんな命令やこんな命令をして恥をかかせることもできたのになぁ。

榛名「それでは早速打ちましょう!」


_____東一局 親:鈴谷 ドラ:中

鈴谷(さてさて。良い手牌だねぇ。この手なら、ここを持っておく必要もない) 東

榛名(鈴谷さん、ノータイムで打東ですか。ダブ東を考慮する必要がない程の好形……中々手強そうですね)

榛名(でも、榛名もドラの中が対子です。誰かが鳴かれるのを警戒して早めに切ってくれれば、一気にプレッシャーを掛けられそうです) 北

浜風(榛名は無難なオタ風切りから。私は索子の混一が近そうですね。となると、鍵はこの浮いた中一枚)

浜風(鳴かれるのも面白くないですし、これは使う方向で行きますか) 9p


瑞鶴「ツモ」

瑞鶴、手牌
一一一二三四五六七八九九九 ツモ:五

瑞鶴「地和、純正九蓮。ダブル役満の16000、32000で鈴谷のトビね」

鈴谷「」

榛名「」

浜風「」


瑞鶴「やったぁ! 私の勝ち!」

鈴谷「ちょ、ちょっと待った!」

瑞鶴「なに?」

鈴谷「うち、ダブルはないから! 複合もシングル役満扱いだから鈴谷、まだ飛んでないよ!」

瑞鶴「そうなんだ。じゃあ次の局行こうか」

鈴谷「そうそう。勝負はまだまだこれからだって!」


_____東二局終了

1位 瑞鶴:81000
2位 榛名:17000
3位 浜風:17000
4位 鈴谷:-15000

鈴谷「」

浜風「幸運艦とは聞いてましたが、まさかこれ程とは……」

榛名「恐れ入りました。全然敵いません」


鈴谷「も、もう一回! もう一回やらせて! 今度は負けないから!」

幌筵提督「それはいいけど、罰ゲームの後で、ね?」

鈴谷「うっ……いいよ、やってやろうじゃん! 何でもするよ!」

瑞鶴「う~ん、何でもするって言ってもなぁ……」

これが加賀さん相手だったら、迷うことなく恥ずかしいことさせられるのに。

瑞鶴「あ、そうだ。罰ゲームとはちょっと違うかも知れないけどさ……」

ふと、前から気になってたことを聞いてみようと思った。
今までは機会がなかったけど……今は面子的にもちょうどいい。


瑞鶴「みんながここに来る前の話……って言うか、どうしてここに来ることになったのか。聞いてもいいかな?」

加賀さんと雷は知ってる。沖ノ島攻略失敗。その責任を翔鶴姉と共に負ってのこと。

鈴谷「あ~、その話かぁ……ある意味罰ゲームだねぇ」

瞬時に場が凍り付いたのがわかった。これ、失敗したかも……

瑞鶴「あ、ごめん。聞いちゃいけないことだった? それならいいよ、無理に話さなくても」

浜風「私は構いません。いつか話さなければならないことでしたから」

榛名「榛名も大丈夫です。瑞鶴さんになら……話しても構いません」

鈴谷「そっか~。じゃあラスの鈴谷からいくよ~」

瑞鶴「本当にいいの? 話し難いことだったりしない?」

鈴谷「瑞鶴だからこそ話すんだよ。それだけ信頼してるってこと。無い胸を張りなよ!」

瑞鶴「一言多い!」

鈴谷「ごめんごめん。それじゃ、始めるよ」


鈴谷「鈴谷はここに来る前はパラオにいたんだ。着任はちょうど軍が南西諸島防衛線を突破した頃かな」

鈴谷「南西諸島海域諸作戦での物資調達や支援艦隊なんかをやってたよ」

鈴谷「その時によく一緒に組んでた、熊野って言う重巡がいたのね」

鈴谷「見た目も性格も正反対なのに不思議と気が合ってね……出撃も休日もいつも一緒だったよ」

鈴谷「でも……そんな日々も長くは続かなかった……」

鈴谷「横須賀の第一艦隊が沖ノ島攻略に乗り出してね。鈴谷達も支援部隊として出撃することになったの」


鈴谷「まず、横鎮の攻略本隊が駐屯していたトラック泊地から沖ノ島に向かって出発」

鈴谷「その後、時間を置いてから鈴谷達支援部隊もパラオから沖ノ島海域を目指すって流れだったんだけど……」

鈴谷「進行中に敵機動部隊に捕捉されてね。そのまま交戦になったんだけど、こっちは鈴谷と熊野以外は駆逐艦が二人だけ」

鈴谷「当然勝てるわけもなくてさ。駆逐艦二人の退避を優先して鈴谷と熊野がしんがりになったの」

鈴谷「首尾よく駆逐艦は逃がせて、あとはうちら二人も離脱するだけだったんだけどね……」

鈴谷「結局駄目だった。敵を振り切れなくて……熊野は鈴谷を庇って……沈んだ」


鈴谷「その後は横鎮の本隊が駆けつけて来てくれて、鈴谷だけは助かったんだけどね……」

鈴谷「しばらくは頭の中が真っ白だったよ……何も考えられなくて、何もせずに部屋に引きこもる毎日」

鈴谷「提督は優しくしてくれたけど、思考の方はどんどんネガティブになっていって……」

鈴谷「いっそのこと鈴谷も……なんて思ったんだけど……その時に提督から聞いたんだよね」

鈴谷「実は熊野って、鈴谷の妹だったんだって。あ、ママが違うから見た目はあんまり似てないんだけどさ」

鈴谷「ともかく……妹が命を懸けて守ってくれたのに、何もせずに後を追うなんて駄目だってようやくわかったわけよ」


鈴谷「んで、ここから心機一転、頑張ろうって思った矢先に、鈴谷がこの間に無断欠勤しまくってたのが大本営にバレてさ……」

鈴谷「結局パラオをクビになってここに飛ばされたってわけ」

瑞鶴「ちょ、何か初っ端から重い……」

そう言えば、鈴谷が前に呟いてたっけ。大切な仲間が沈むのはもう見たくないって……

幌筵提督「そうそう、最初は鈴谷と二人っきりだったのよね~」

鈴谷「うんうん。今でこそ賑やかな艦隊になったけど、あの時はマジ大変だったよね~」

鈴谷「つーわけで、鈴谷に関してはこんなとこ。はい次どうぞー」


浜風「では次は私ですね」

また鈴谷みたいに重い話なのかな? ちょっと聞くのが怖いけど、ここまで来たらもう引けない。

浜風「私はちょうど一年前、当時出来たばかりの宿毛湾泊地に着任しました」

浜風「所属していた艦娘は私以外は姉の浦風、指導の為に横須賀から一時転属してきた軽巡の五十鈴だけでした」

浜風「主な任務は対潜哨戒でしたね。特に南西諸島防衛線突破後は鎮守府海域でも敵潜水艦の姿が多数確認されるようになりました」


浜風「それで、任務や艦娘達との仲は良好だったのですが……提督が中々の曲者でして……」

浜風「その、事あるごとに触ってきたり……セクハラを働くような人でした」

浜風「スキンシップと称して触ってくる提督は各地にいますけど……その提督は明らかに度を超えたものでした」

幌筵提督「ホント、酷い話よね~。お触りは節度を持ってってのが基本なのに!」

浜風「そんなある日、作戦が終了して帰投したのですが……不覚にも全員中破させられてしまって……」

浜風「浦風と五十鈴を先に入渠させて、私は提督に戦果報告に行ったんです」


浜風「提督は私の報告を聞いても上の空で、目を血走らせながらぶつぶつと何か呟いてるようでした」

浜風「そして……突然立ち上がると、私に襲い掛かってきて……押し倒されて……」

浜風「私は抵抗して、艤装で提督の頭を強打してしまったんです」

浜風「あの時の提督は決して普通の状態ではありませんでした。度重なる作戦失敗を上層部に咎められ……」

浜風「兵装開発も上手くいかず、大本営に戦力増強を具申しても却下されて……追い詰められていたんでしょうね」

浜風「提督は幸いにも命に別状はありませんでしたが憲兵に連行されて更迭。私も幌筵に転属になりました」

なんか浜風も鈴谷に負けず劣らず重い……


浜風「ただ、浦風や五十鈴とは今でも交流があるんです」

浜風「宿毛湾に新しく来た提督は中々のやり手で……セクハラも程々で、開発や艦隊運用に関しても有能だそうです」

浜風「新しい艦娘も配属されて、何とかやり直せそうだと言っていました」

瑞鶴「そっか。浜風は、そっちに戻りたいとは思わないの?」

浜風「未練がないと言ったら嘘になりますが……今はここが私の居場所だと思ってますから」

浜風「瑞鶴、加賀、鈴谷、榛名、雷。もちろん提督も、翔鶴も。みんな大切な仲間です」

幌筵提督「嬉しいこと言ってくれるじゃない。今夜、夜戦する?」

浜風「お断りします」

幌筵提督「ちぇっ、残念。それじゃあ次、榛名いってみようか」


榛名か……何て言うか、品行方正な大和撫子だし、軍規違反とかそう言うのからは一番無縁そうなんだけど……

榛名「……榛名は……着任当初は呉にいたのですが、訓練が終わるとすぐにショートランドへ転属になりました」

榛名「そこで金剛お姉様を始めとする金剛型姉妹、それに一部の精鋭艦の方達と共に極秘任務に従事していたんです」

榛名「アイアンボトムサウンドを抜けた先にあるガダルカナル島のリコリス航空基地……」

榛名「そこに突如出現した新種の深海棲艦、飛行場姫を倒すことが榛名達に与えられた任務でした」

瑞鶴「飛行場、姫……? 聞いたこともないけど……」

榛名「はい。深海棲艦はまだまだ謎が多い存在ですし……特にそのアイアンボトムサウンドでの戦いは極秘中の極秘」

榛名「一時期はその名を口にしただけで解体処分になるとも言われていた程です」


榛名「その後も大本営によって徹底的に隠蔽、黒歴史化されてしまいました」

瑞鶴「ちょ、そんな大変な話、こんな罰ゲームなんかのノリで喋っちゃっていいの!?」

榛名「これは、榛名の罪でもあります。聞けば榛名を見る目が変わってしまうかもしれない……」

榛名「正直、話すのはとても怖いです。でも……瑞鶴さんならどちらにしてもきっと真摯に聞いてくれる……」

榛名「例え蔑まれることになっても……瑞鶴さんには聞いて欲しいと思ってます。駄目ですか?」

瑞鶴「……ん。駄目じゃない。話してみて? 榛名が望むことは言えないかもだけど。それでも良かったら」

榛名「はい、ありがとうございます。それじゃあお話ししますね」


榛名「ガダルカナル島攻略は、最初は順調だったんです」

榛名「当時最高水準まで鍛えられた練度の艦娘、潤沢な資源……榛名達は快進撃を続け、アイアンボトムサウンドまで進軍しました」

榛名「ですが……そこから先に待っていたのは地獄でした」

榛名「待ち構えていた敵艦隊はそのほとんどがフラグシップやエリート級……」

榛名「しかも、ショートランドからの距離の都合上、アイアンボトムサウンドは夜の間に抜けなければいけませんでした」

榛名「必然、戦いは全て夜戦です。そうなると敵艦は駆逐艦ですら大きな脅威となります」


榛名「それなら昼になるまで待てば良い……とも考えましたが、それもダメなんです」

榛名「飛行場姫は自己修復機能を備えていて、時間と共に再生していくんです。少しでも時間が惜しい状況でした」

榛名「結局榛名達は必死に夜戦を抜け、飛行場姫と燃料や弾薬が尽きるまで交戦……」

榛名「帰投後、補給と入渠は最低限で済ませて再び出撃……これを繰り返すしかありませんでした」

榛名「しかし、何十回と出撃しても飛行場姫のいる基地まで辿り着くことすら難しい状況……」

榛名「潤沢にあった資源は刻一刻と減っていき、ついに最初に備蓄した分の10%程度にまで落ち込んでしまいました」





榛名「追い詰められた提督はついに……悪魔に魂を売ってしまった……」


_____ショートランド泊地、執務室

榛名「提督、明日の出撃者リスト……これは何かの間違いではないのですか!?」

SI提督「何か、おかしなところでもあったか? 榛名?」

榛名「榛名が旗艦で、随伴艦に金剛お姉様。ここまではいいのですが、他の駆逐艦の方達は……?」

SI提督「ああ、大本営に意見具申してな。増援部隊を派遣してもらえることになった。明朝には到着する予定だ」

榛名「ですが、その、練度があまりにも足りていないように見えます。学生の方もいらっしゃるようですが……?」

榛名「これでは敵前衛艦隊との戦いすら突破出来ません。確実に誰かが大破して撤退することになりますよ?」

SI提督「撤退する必要はない」


榛名「は?」

SI提督「彼女らは君達姉妹を守る盾だ。君らを確実に護衛し、航空基地まで導いてくれれば良い」

SI提督「もちろん、100%完全に守り切るのは不可能だろうが、それでも到達率は高まるはずだ」

SI提督「首尾よく飛行場姫に打撃を与え、戻ってきた後は金剛姉妹のみ補給と入渠を行い、再度出撃に備える」

SI提督「生き残った艦は、まだ動けるものは引き続き出撃。盾にもなれなくなった者は艤装解体して本土に帰す」

SI提督「これを何度も繰り返す。飛行場姫を倒すまでな。ん? どうした、榛名?」

榛名「提督! こんな非人道的な作戦、榛名は許しません!」


SI提督「榛名。言いたいことはよくわかる。だがな……悲しいが、これは戦争なんだ」

榛名「だからってこんな……轟沈前提の作戦なんて!」

SI提督「榛名、榛名ぁ、頼むよぉ! 飛行場姫を倒せなかったら、俺は更迭……いや、断頭台に上がることになる!」

SI提督「どんなことをしてでも、倒さなきゃいけないんだよ! 例え、この手を血で染めることになっても!」

SI提督「頼む、榛名……! 助けてくれ! 俺を、助けてくれよォ!」

榛名「提督……」


榛名「榛名は……提督が好きでした。優しくて、責任感があって……いつもみんなを見ていてくれた……」

榛名「大好きだった提督が、ここまで変わってしまうなんて……そう考えると、心に黒い感情が芽生えてきたんです」

榛名「勝てば……この戦争に勝ちさえすれば、提督は元の優しい性格に戻ってくれる……榛名の大好きだった提督に……」

榛名「榛名は……愚かな選択をしました……何人もの方が、榛名達の盾となって沈んでいきました」

榛名「比叡お姉様や霧島も、いくつもの夜を超えていく内に心は次第に壊れていきました」

榛名「金剛お姉様だけが、正気を保って提督に意見具申を続けました。もうこんな戦法はやめようと……」

榛名「戦場でも、金剛お姉様が逆に駆逐艦の方達を庇って大破……撤退を繰り返しました」

榛名「帰投するたびにお姉様は提督に殴られ、乱暴されて……それでも逆らうのをやめなかった……」

榛名「そしていよいよ資源の方も底が見えてきて……飛行場姫は未だに健在。提督はついに最後の決断を下しました」


SI提督「榛名よ、明日が最後の出撃となる。恐らく後一度……一度でも三式弾を撃ち込めれば、飛行場姫は倒れる!」

SI提督「比叡、霧島は先の出撃で大きく損傷している。資源を修復に使ってしまえば出撃は叶わんだろう」

SI提督「榛名、お前がやるんだ……! お前と金剛で……駆逐艦共を率いてあの飛行場姫に鉄槌を!」

榛名「しかし、金剛お姉様は……」

SI提督「構わん」

榛名「えっ?」

SI提督「最後の決戦だ。ヤツ一人、大破進軍で沈んでも構わん! お前が飛行場姫を倒すのだ!」

SI提督「そうすれば俺は……失わずに済む! やってくれるな? 榛名……もう俺にはお前しかいないんだ!」


榛名(ここで榛名はようやく正気に戻ったんです。そして、確信しました)

榛名(提督は……もういないんだって……)

榛名「出来ません……」

SI提督「な、何!? 榛名、貴様今何と!?」

榛名「金剛お姉様を犠牲には出来ません……! いえ、他の皆さんも……もう、誰一人、犠牲にしたくありません!」

SI提督「今さら何を言うか! 51隻! もうそれだけ沈めているのだぞ! 金剛や駆逐艦の1隻や2隻、もはや変わらん!」

SI提督「それに、アレだけ駆逐艦を沈めておきながら身内は沈めたくないなど……それこそ傲慢だと知れ!」

SI提督「今までの尊い犠牲を……幼き命を無駄にする気か、榛名ァ!」


榛名「!? 抜け抜けと、よくもそんなことを……!」

SI提督「ん? 何だ榛名? 何をブツブツと言っている?」

榛名「勝手は……」

SI提督「おい榛名! 何だと言うんだ、一体……!」

榛名「榛名が……」

SI提督「チッ、使えんクズが。もういい。貴様と金剛は解体だ。その資源で比叡と霧島の修理費を賄う」

榛名「許しません!」


榛名「次の瞬間、榛名は……主砲で、提督の頭を吹き飛ばしました」

榛名「榛名はすぐに自ら大本営に連絡し、数日後には本部に連行されました」

榛名「作戦は中止となり、南方海域の拠点であるショートランド、ブイン、ラバウルは全て放棄され、全軍本土まで撤退」

榛名「本土に戻った後、参加艦娘全員にアイアンボトムサウンドに関する全ての事柄に対して、緘口令が敷かれました」

榛名「榛名は軍法会議に掛けられましたが、提督側の明らかな非が認められて執行猶予付きで釈放……」


榛名「その後は呉に戻るよう命令されたのですが……拒否しました」

榛名「もう誰も信じられませんでした。艦娘として戦うことなどとても出来そうもない精神状態で……」

榛名「自主解体処分を申し出ようとしたところで、ここの提督と出会ったんです」

榛名「提督は……榛名達の事情をご存知のようでした。そして、榛名を優しく抱き締めてくれて……」

榛名「その時に榛名は……人として失ってしまった何かを取り戻すことができたような気がしたんです」

榛名「榛名はすぐに幌筵泊地へ転属を志願し、それが受理されてここに来たんです」

幌筵提督「ちなみに金剛達も今では戦線に復帰してるわ」

榛名「生きて……その罪を背負いながら生きて、戦い抜くことが贖罪なんだと……榛名達は思っています」


なるほど、榛名が話すのが怖いと言っていた理由がわかった。あまりにも想像を絶する世界。
榛名自身も、きっととても辛くて……今でも罪の意識に苛まれているんだと思う。
そんな榛名に、今の私が言ってあげられることは本当に陳腐で、ちっぽけなことなのかも知れない。

瑞鶴「榛名……私がいるから……!」

それでも私は……その言葉を口にして伝えたいと思った。

瑞鶴「悲しみや不安に押し潰されそうになったら、私が一緒に支える! それが仲間ってモンでしょ」

榛名「あ、ありがとうございます……榛名、嬉しいです……」


_____瑞鶴、加賀の部屋

今日はみんなの話を聞けて良かったかな。みんな、色んなものを背負ってこの場所にいるんだ……
それを知って、一緒に悩んだり、支え合ったりすることで艦隊の絆はより深まったと思う。

加賀「瑞鶴、そろそろ夕食の時間よ」

瑞鶴「あ、はい。今行きます」

私は立ち上がると加賀さんの横に並び、歩き出す。

瑞鶴「ねえ加賀さん、今度麻雀打ちませんか?」

加賀「私に何をさせたいのかしら?」

どうやら今日無双したことは伝わってたらしい。私が加賀さんから聞きたいこと……そうだなぁ……


瑞鶴「恋バナとか聞きたいです。初恋の人の話とか!」

加賀「翔鶴さんよ」

あまりにもあっさりと、表情一つ変えないまま答えた。

加賀「でも駄目だったわ。あの人は、赤城さんと付き合っていたから」

瑞鶴「え? え~!? ちょ、何ですかその話!? 翔鶴姉からは何も聞いてなかったんですけど!」

瑞鶴「詳しく! 詳しく聞かせてください!」

加賀「今度、時間がある時にね?」

そう言ってはぐらかす加賀さん。もう! 絶対麻雀で飛ばして聞き出してやるんだから! 覚悟してよね、加賀さん!

つづく!

次回「絶望」

今回はここまでです。イベはE5まで突破したので後はまったりとE6を攻略していきたいです。
それでは読んで下さった方、レス下さった方ありがとうございました。

前回はアレなネタを扱ってしまったので閲覧注意等一言入れるべきでした。配慮が足らず申し訳ありませんでした。
また、榛名に関してこちらの意図と違って読み取られてしまったのは私の表現力不足です。不快な思いをされた方、申し訳ないです。

赤翔に関してはいつか書いてみたいと思ってます。イベントも終わったのでゆっくりと妄想から始めたいですね。

今回もまったり投下していきますので暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。


「絶望」



それは……突如私達の前に現れた小さな死神。破壊を具現化した、漆黒の悪魔。



周辺海域の哨戒中、索敵機からの入電があった。敵艦隊を発見したらしい。

瑞鶴「こちら瑞鶴。敵艦隊を発見しました。編成は輸送ワ級フラグシップ、戦艦ル級エリート2隻、駆逐3隻です」

瑞鶴「南方海域へ向かっているものと思われます。提督さん、どうする?」

幌筵提督『南方への輸送部隊か……よし、叩いちゃいましょう。ただし、深追いは厳禁よ!」

瑞鶴「はい! 機動部隊、戦闘に入ります!」

敵はまだこちらに気づいていない。今なら攻撃機で一気に叩ける!

瑞鶴「第一攻撃隊、全機発艦!」

加賀「攻撃隊、発艦始め……!」

今日は空母戦は無いと踏んでいたので艦戦は加賀さんに最低限積んでいる12機だけ。
他、私に12機の彩雲。残りは全て艦攻、艦爆と言う超攻撃的編成。


ル級A「!? 艦娘共かッ!? こんな時に!」

ル級B「例の物だけでも、何としても戦姫様の元にお届けするのだ!」

戦艦が対空砲火を放つが、圧倒的な物量の前には焼け石に水。包囲を抜けた多数の攻撃隊が仕掛ける。

イ級「うわあぁぁぁぁぁ!」

ロ級「つ、強すぎる……!?」

ハ級「何やて!? この、ワテが……!?」

首尾よく駆逐艦を撃破して露払いに成功。続いて榛名、鈴谷が水偵を飛ばす。


榛名「榛名、全力で参ります!」

旗艦の輸送艦に狙いを定め、強烈な連撃を放つが……

ル級B「させぬわぁ!」

戦艦の1隻が輸送艦を庇い大破。でもこれはこれで、敵の主力を無力化出来たから結果オーライ。

鈴谷「よし、突撃しちゃうよ! 鈴谷にお任せ!」

ル級A「調子に乗るなよ、小娘が!」

鈴谷の前にもう1隻の戦艦が立ち塞がる。即座に砲撃を放つが、戦艦の装甲は硬く、損傷は軽微。

加賀「第二次攻撃隊、発艦開始」

しかし、鈴谷の攻撃で怯んだル級に加賀さんの艦載機が攻撃を仕掛ける。

ル級A「くっ……ここまでか!」

体勢を崩していた戦艦は為す術もなく沈む。よし、後は旗艦だけ!


雷「任せて!」

浜風「突撃します!」

ル級B「くっ……止むを得ん! ヤツを解放しろ! 急げ!」

ワ級「しかし……彼女はまだ制御が……!」

ル級B「破壊されるよりはマシだ! 早くしろ!」

ワ級「ええい、どうなっても知らないからね!」


輸送艦がタンクを開くと、中から小さな女の子が出てくる。漆黒のパーカーに身を包んだ少女。
その体からは怪物の顔を模した巨大な尻尾が生えている……異様すぎる容姿。
深海棲艦なのはわかるが、艦種は不明。駆逐艦ほど人間離れした姿ではないし、巡洋艦程体は大きくはない。
しかしその尻尾から生えてる主砲は明らかに大口径の物。全てがチグハグな感じで不気味。嫌な予感がする。

???「…………」

そいつはこちらを見て敬礼のようなポーズを取ると、満面の笑みを浮かべて言った。

レ級「こんにちは! 死んでください!」


刹那、そいつの尾の先から次々と艦載機が発艦される。その数、140!

鈴谷「うぇ!? 何あいつ!? 空母なの!?」

しかし数が多すぎる。空母ヲ級フラグシップでさえその搭載数は96機。こいつはそれを遥かに上回っている。

加賀「くっ……駄目ね……制空権完全喪失!」

瑞鶴「何よアレ!? 全部艦戦なの!?」

こちらは最低限の艦戦しか積んでいない。制空権を取れるはずもなく、攻撃隊のほとんどが撃墜された。

雷「ちょ、何かこっちに向かってくるわ!?」

敵の艦載機はそのまま急降下爆撃の体勢……嘘でしょ……あれ、艦戦じゃない!?


加賀「爆戦……!? 対空砲火、用意して!」

浜風「だ、ダメです! 数が多すぎて……!」

雷「きゃあぁぁぁあ!」

鈴谷「い、痛っ……!」

前に出ていた雷、鈴谷の二人は直撃を受けて大破……! 浜風は何とか回避したけど、このままじゃ、マズイ……!

レ級「さあ、楽しもうよ!」


間髪入れずに主砲からの砲撃。大破している二人には目もくれず、榛名を狙ってきた。

榛名「きゃあっ!?」

その砲撃は榛名の装甲を軽く貫いて、一撃で大破まで持っていった。

榛名「は、榛名……まだ、やれま……」

何とか立ち上がろうとするが、損傷が酷く、そのまま意識を失った榛名。
私はすぐに駆け寄り、崩れ落ちそうになるその身体を支える。

瑞鶴「くっ……! どうすれば……」


浜風「私が突撃します」

瑞鶴「浜風、そんな……危険だよ!」

浜風「損耗したお二人の艦載機では恐らく奴は倒せません。しかし、接近して至近距離から雷撃を当てれば……」

瑞鶴「でも……!」

加賀「いえ、浜風の言う通りよ。危険だけど、賭けに出るしかないわ」

確かに雷撃距離まで持っていけば、撃破するチャンスはあるかも知れないけど……
全身凶器みたいなあんな奴に、至近距離まで近づくのがまず現実的じゃないって言うか……


加賀「私が弾除けになります。雷撃距離まで入ったら躊躇なく撃ってください」

瑞鶴「そんな、加賀さん駄目だよ! 旗艦なんだから! 弾除けなら私が!」

加賀「瑞鶴、あなたの装甲で奴の砲撃を受けたら轟沈しかねないわ。でも私なら……直撃しない限りは耐えられる」

瑞鶴「でも……! 榛名を一撃でこんなにした奴だよ!? 直撃したら……!」

加賀「それでも、ここで誰一人欠けることなく勝つにはこれしかない。瑞鶴、私を信じて」

瑞鶴「……わかりました」

加賀さんがそう言うなら……私は信じるしかない。

加賀「大破した三人の退避は任せるわ」

瑞鶴「はい。加賀さん、ご武運を!」


レ級「作戦会議は終わったかい? じゃあ、再開と行こうか!」

どうやらこっちの作戦が決まるまで待ってたらしい。余裕の表情を浮かべて……ホント憎たらしい。
でも……すぐに後悔させてやるんだから!

瑞鶴「鈴谷、大丈夫?」

鈴谷「うん。こんな派手にやられたの初めてだわ……」

雷「あいつは一体何者なの?」

瑞鶴「わからない……けど、恐らくあの戦い方からして航空戦艦だと思う」

鈴谷「航空戦艦か……伊勢や日向達とは飛行機の数が桁違いだねぇ……」

雷「あ、もうすぐ雷撃戦の距離に入るわ!」

見ると、浜風は無傷。加賀さんも小破すらしていない。これなら行ける……!


加賀「よし、入った……! 浜風!」

浜風「はいっ! 沈みなさい!」

加賀さんが飛び退き、浜風は魚雷を発射。至近距離! 回避する術はない!

レ級「あは、面白いことするね~。じゃあボクも! てーーー!」

瑞鶴「えっ?」

目を疑うような光景。尻尾の先から、今度は魚雷!? 魚雷発射管を搭載してる戦艦ってのも聞いたことがあるけど……
それでいて正規空母を上回る艦載機まで積んでるなんて……どんな構造してんのよ!?

加賀「くっ……!?」

そのまま着地点を狙われた加賀さんは魚雷をモロに受ける。

瑞鶴「か、加賀さん!」

私は気絶している榛名を鈴谷達に預けるとすぐにそちらに向かう。


浜風「そんな……馬鹿な!?」

一方で浜風が放った魚雷も直撃はしたみたいだが、かすり傷がついた程度。

レ級「くすぐったいってば、もう!」

そして、近くにいた虫でも払うかのように副砲で浜風を攻撃し、当然のように一撃で大破させる。

瑞鶴「嘘……でしょ? たった1隻の、相手に……!」

レ級「さぁて、残りはお姉ちゃんだけだね?」

敵に主砲を突きつけられる。私は加賀さんを抱き締めながら、敵を睨むことしかできない……


レ級「つまんないなぁ。ねえ、お姉ちゃんは誰から殺して欲しい? 特別に選ばせてあげるよ」

私にできること……まだだ……! まだ全部はやってない!

瑞鶴「…………」

私は加賀さんを離し、立ち上がると突きつけられた主砲を手で払う。そして、一歩踏み込んで敵の顔面に拳を入れる!

レ級「んグッ!?」

あまりにも予想外の行動だったらしく、敵は大きく後ろに吹っ飛んだ。

瑞鶴「加賀さん……ごめん。私にできること、たったこれだけだったよ……」

殺される……けど、命の限り時間を稼ぐから……せめて他のみんなが逃げ切るまでは……!


レ級「……く、くくく」

敵は、立ち上がると途端に笑い出した。おかしくてたまらないと言った様子。

レ級「あっ、ははははは! いい、いいねお姉ちゃん! 面白いよ!」

そのままゆっくりと近づいてくる。こちらにまともな攻撃手段がないと知っている為か、驚くほど無防備。

レ級「ねえ、友達になろうよ! ボクは戦艦レ級。お姉ちゃんは?」

瑞鶴「は?」

レ級「教えてくれないとその青いの、嬲り殺すよ?」

そう言って加賀さんに主砲を向ける。どうやら対等な意味のお友達と言うわけではないらしい。


瑞鶴「正規空母……瑞鶴」

レ級「そっかー、瑞鶴か。ねえ、瑞鶴?」

レ級「今度はさ、もっと強い艦隊を連れて来てよ! ボクはガダルカナル島の東、サーモン海域の北の方にいるからさ」

レ級「その時こそ、本当の虐殺を見せてあげる。約束だよ? 破ったりしないよね?」

レ級「ボク達、友達だもん……ねッ?」

瑞鶴「!?」

レ級はそう言って、倒れている加賀さんに副砲を掃射する。

瑞鶴「や、やめてー!」

私は咄嗟に加賀さんを拾い上げて緊急回避。数発被弾した加賀さんを抱えながら距離を取る。


レ級「あはははは! 必ず来てよ、瑞鶴! 待ってるから!」

一通り遊び終えた……と言った感じで悪魔は去っていった。助かった……の?

幌筵提督『瑞鶴ちゃん!? 大丈夫なの!? 返事をして!』

瑞鶴「あ、提督さん……」

幌筵提督『あ、良かった、生きてたのね。移動しながらでいいから報告して!』

瑞鶴「はい。私は無傷。他のみんなは大破。特に加賀さんと榛名は重体です。緊急手術を要します」

幌筵提督『わかった。用意しとくわ』

その後、私達は会敵することなく泊地に帰投。途中、上手く話せなかった部分もあるので、
詳細は彩雲から撮っていた映像で確認してもらうことにした。


______翌日、泊地執務室

瑞鶴「提督さん、おはようございます」

幌筵提督「おはよ」

提督さんは疲れ切った表情。あの後、加賀さんと榛名は普通の入渠ではとても治せないので大規模な修理が必要となった。
泊地の妖精さん達も総出で事にあたり、その甲斐あって二人は何とか一命を取り留めた。
榛名の方は今朝目を覚ましたが、加賀さんはもう二、三日掛かる見込み。
修理が終わった後も提督さんは彩雲で記録していた戦艦レ級の映像を朝まで見ていた。

幌筵提督「正直、信じられない。あんな深海棲艦がいるなんて……悪夢よ」

瑞鶴「提督さん……どうするの?」

幌筵提督「ハッキリ言って、私達みたいな窓際艦隊がどうにかできる相手じゃない……」


瑞鶴「提督さん、私……」

幌筵提督「でも、瑞鶴ちゃんはやる気なんでしょう?」

瑞鶴「はい……加賀さんをあんな目に遭わせたあいつは……許せない」

幌筵提督「とりあえず本土へ行くわよ。奴のことはもう大本営に送ってある」

幌筵提督「私達が到着次第、横須賀で本土の提督達が集まって緊急対策会議が開かれることになってるわ」

幌筵提督「瑞鶴ちゃんはそのまま横須賀で整備を行い、本土の艦娘達と艦隊を組んで出撃してもらうわ」


瑞鶴「提督さん……!」

幌筵提督「本音を言うと、行かせたくない。戦艦レ級の戦闘能力は常軌を逸しているわ」

幌筵提督「本土で精鋭中の精鋭を集めて、6対1で挑んでやっと勝てるかどうか……と言ったところよ」

幌筵提督「今度こそ本当に沈められちゃうかも知れないんだから……笑顔で送り出せるわけがない!」

幌筵提督「でも、あなたは困ったちゃんだものね。止めても絶対に一人で行っちゃうでしょう?」

瑞鶴「そうだね」

幌筵提督「それなら、賭けてみるしかないじゃない。瑞鶴ちゃんの幸運に……!」

瑞鶴「うん。ありがとね、提督さん! 絶対にあいつを倒してくるから!」


_____翌日、横須賀鎮守府応接室

久しぶりにやってきた横鎮。提督さんは他の鎮守府の提督達と戦艦レ級対策会議に出ている。
提督さんは昨日のうちに大本営に掛け合い、戦艦レ級討伐艦隊の結成を要求した。
大本営は意外にも二つ返事で承認。遊撃部隊を結成し、装備の貸し出し等も可能な限り各鎮守府に対応させたらしい。
私は、その面子が来るのでここで待つように言われたんだけど……一体誰が来るんだろう?

???「失礼します!」

???「ごめん、待った~?」

瑞鶴「あっ……!」

見慣れた顔。橙色と緑の鮮やかな着物を着た二人……!


瑞鶴「飛龍先輩、蒼龍先輩!」

飛龍「聞いたよ、今回の任務。かなり危険な奴が相手なんだって?」

蒼龍「でも私達がいれば百人力だよ! 一緒に加賀さんの仇を取ろう!」

瑞鶴「はいっ! よろしくお願いします!」

先輩達が一緒に戦ってくれる……! これ程心強いことはない! 三人ならきっとあいつからも制空権を取れるはずだ!


飛龍「それにしても瑞鶴は偉いよね? 加賀さんの為に、一度コテンパンにされた相手にも立ち向かっていくなんて」

瑞鶴「え? べ、別にそんな……加賀さんだけの為ってわけじゃ、ないし」

飛龍「そんな偉い瑞鶴には先輩からプレゼントをあげよう」

蒼龍「あ、飛龍。また倉庫から勝手に試作機持ち出して! 提督に怒られても知らないからね?」

飛龍「武器ってのは使うものよ」

瑞鶴「こ、これは……!?」

飛龍「烈風。今私達が主力として使ってる零戦52型を遥かに上回る、最強の艦戦よ」

凄い……私、今まで52型すら一度も積んだことないのに……でも、それなら……


瑞鶴「これは先輩達が使うべきです。技術もあるし、私より大きいスロットも持ってるし……」

飛龍「それは違うよ瑞鶴。数や技術なんて些細な問題。一番大事なのは気持ちだよ」

飛龍「だから、勝ちたいって今、一番強く思ってる瑞鶴が使うべきなの」

瑞鶴「先輩……ありがとうございます!」

私は烈風を受け取って、より一層強く誓った。必ず勝つって……!


飛龍「それともう一つ……」

蒼龍「うぇぇ!? まだ持ってきたの? 烈風一つだけでも極刑モノなのに!」

飛龍「違う違う。これは幌筵の提督から預かった物だよ」

飛龍「使いこなせるかどうかは瑞鶴次第だけど……」

先輩が取り出したもう一つの艦載機。これは……私はこれを知ってる……!

瑞鶴「使います……!」


???「失礼します! 南方特別遊撃艦隊……と言うのはこちらでよろしいでしょうか?」

私達が装備換装を終えると、また別の艦娘が部屋に入ってきた。凛とした顔立ちだが髪型は可愛らしいポニーテール。
赤いミニスカに、左足にだけ纏っているニーハイが特徴的。あとデカい。何がとは言わないけど。

矢矧「私は軽巡矢矧。そしてこちらが……」

いつの間にかもう一人、艦娘が部屋に入ってきていた。雰囲気も服装もこの矢矧とよく似ている。

大和「戦艦大和です! 今回の作戦、ご一緒させていただきます。よろしくお願いします!」

瑞鶴「えっ!? 大和って、あの……!?」

私でも知ってる。あの長門秘書艦をも上回る戦闘能力を持つ、最強の戦艦。大艦巨砲主義の頂点……!

蒼龍「よし、これで全員揃ったね! 新型戦艦にはこの五人で挑むよ!」

二航戦の先輩達に、最新鋭軽巡の矢矧。そして最強の艦娘大和。錚々たる面子。これならきっと……!

瑞鶴「加賀さん、私、絶対に勝つから……見ててよ!」


_____サーモン海域北方

レ級「瑞鶴、早く来ないかな~。きっとすっごい強い奴らを連れて来るんだろうな~。楽しみ!」

???「レ級、こんなところにいたの?」

レ級「あ、戦鬼様! うん、友達を、待ってるんだ!」

南方棲戦鬼「へえ……」

レ級「そうだ! 戦鬼様も一緒に遊ぼうよ~! きっとすんごい強い奴らが来るよ! 楽しいよ!」

南方棲戦鬼「うふふふ……面白そうじゃなぁい。じゃあ、ご一緒しようかしらねぇ」

レ級「あは、やったぁ! あはは、素敵なパーティーになりそうだね、瑞鶴!」


_____翌日、南方海域

矢矧「南方海域……この地獄に再び来ることになるなんてね……」

飛龍「え? 南方って今まで手付かずだったんじゃないの?」

矢矧「あっ、そ、そうね! 遠征で来たことがあるだけなのよ!」

あっ……矢矧のその口振りから察する。きっとこの人もアイアンボトムサウンドの参加者。この世の地獄を見てきた人……
そんなことを考えてるうちにサーモン海域に入る。いつ会敵してもおかしくない状況。


大和「零観より入電! 敵艦を発見しました! 敵艦は2隻。一方は戦艦レ級で間違いありません」

大和「もう一方は艦種不明。禍々しい艤装に搭乗した、ツインテールの女性です!」

矢矧「南方棲戦鬼! 気をつけて、そいつも相当厄介な相手よ!」

レ級「あは、やっぱり来たね瑞鶴! さあ楽しもうよ!」

瑞鶴「航空戦、開始します! 飛龍先輩、蒼龍先輩! お願いします!」

飛龍「了解! 空母戦は先手必勝だよ! 全力で叩きます!」

蒼龍「全艦載機、発艦始め!」

私は提督さんから貰った艦載機を21機、零戦52型21機、天山12機、そして今回の決戦の切り札、烈風を21機発艦する。
飛龍先輩と蒼龍先輩は37機の零戦52型と、それぞれ27機ずつの天山、彗星を発艦。制空、攻撃両取りの布陣。


レ級「さあ、壊し尽くそうね! 行くよ、戦鬼様ー!」

南方棲戦鬼「では、始めましょうか」

レ級はこの前と同じく爆戦を140機。戦鬼は艦爆と艦戦70機ずつと、こちらも140。化け物じみた搭載数だ。
数だけで見ればこちらの方が正規空母まるまる1隻分くらい劣ってるけど……

飛龍「二航戦の誇り、見せてあげる!」

蒼龍「横須賀の機動部隊を甘く見ないで!」

瑞鶴「加賀さん……力を貸してください!」

艦戦の数はほぼ互角。だが烈風の性能の分だけこちらが有利。制空権は優勢!

大和「対空砲火、撃ち方始め!」

撃ち漏らした敵艦載機は、大和が圧巻の対空砲火で次々と撃ち落とす。
しかしそれでも、元々の敵機の数が多すぎる。その全てを撃墜するのは不可能で、何機かが爆撃を仕掛けて来る。

蒼龍「いたっ……まだ、やれます!」

こちらは蒼龍先輩のみが小破。一方でこちらの攻撃機は、その多くが包囲網を突破したがレ級の装甲の前に有効打は与えられなかった。


瑞鶴「これより砲戦、開始します! 大和、矢矧、水偵の用意を!」

大和「はい、お任せください!」

矢矧「航空戦は任せたわ! まずは戦鬼を倒すわよ!」

南方棲戦鬼「ふふ、舐められたものねぇ。私の砲撃はホンモノよ? 喰らいなさぁい!」

前に出る大和に、戦鬼は強力な砲撃を喰らわせるが……

大和「それで直撃のつもりなの?」

大和は微動だにせず無傷。他の艦なら大破してもおかしくない砲撃。やっぱすごいや、この人。


矢矧「大和、撃って! そいつは装甲は薄いわ!」

大和「狙いよし。全主砲、薙ぎ払え!」

敵の主砲よりも更に巨大な、大和の46cm三連装砲が火を吹き、一撃で戦鬼を大破まで持っていった。

南方棲戦鬼「ぐっ……わ、私は、もう……やられは……!」

レ級「あーあ、戦鬼様やられちゃったぁ」

相方が大破したってのに、レ級の方は表情一つ変えず、余裕の笑み。


レ級「ねえ、瑞鶴?」

こちらへ砲撃を繰り出しながら、唐突に話し掛けてくる。応じてる余裕はないので当然無視。

レ級「あの青いの、死んだ?」

瑞鶴「!?」

レ級「ボクってさぁ、沈めるのは好きじゃないんだ。だって一瞬で沈んじゃったら、自分の無力さを痛感する時間がなくなるじゃない?」

レ級「だから死ぬなら陸の上で……って考えてるんだ。大切な人に看取られながら……」

レ級「お互いに後悔や怨嗟の感情を吐露しながら、死んでいって欲しいな。あの青いのはどうだったの?」

瑞鶴「き、貴様ァァァ!」


飛龍「瑞鶴!」

前に出ようとした瞬間、飛龍先輩に頬を叩かれた。一瞬で我に返って冷静になる。

瑞鶴「飛龍先輩……!」

飛龍「やっすい挑発に乗らない! 瑞鶴は旗艦なんだよ!」

飛龍「その判断一つ、行動一つでみんなが危険になったりするの! 自覚して!」

瑞鶴「は、はい。すいません……」

飛龍先輩の叱咤。これで落ち着いて、もう一度戦況を確認する。敵は南方棲戦鬼が大破。レ級は無傷。制空は優勢。
やはりまずは手負いの南方棲戦鬼を倒す。その後、空母三人はエアカバーに徹して大和の弾着観測射撃でレ級を仕留める。


瑞鶴「矢矧、大和! レ級は私達が引きつけるから! 二人はその間に戦鬼を!」

矢矧「了解! 行くわよ、大和!」

大和「はい! 大和、突撃します!」

大和が前に出て戦鬼を狙い撃つが、敵もさる者。回避に徹して直撃を許さない。

大和「矢矧、今です!」


南方棲戦鬼「な、何……!?」

戦鬼は大和の砲撃回避に集中していて、矢矧の動きを見落としていた。
気がつけば雷撃戦距離。あそこまで詰められてたらもう避けられない!

矢矧「油断したわね? 阿賀野型を軽巡と侮らないで!」

南方棲戦鬼「そ、そんな……まさか、そんなことが……!?」

近距離からの魚雷が炸裂。戦鬼は爆発四散して沈んでいった。


レ「やっぱり戦鬼様じゃ役者不足か~。これは、ボクが頑張らないとね!」

蒼龍「きゃあっ!? ひ、飛行甲板に直撃しました! 艦載機、発着艦不能です!」

しかし次の瞬間。ついにレ級の砲撃が蒼龍先輩を捉え、大破。

飛龍「くっ……この! 蒼龍に何すんのよ!」

飛龍先輩が攻撃隊を嗾けるが、強固な装甲を持つレ級にはダメージを与えられない。


レ級「さてさて。次はお前だ!」

大和「その程度……蚊に刺されたようなものです!」

レ級「あれ~?」

大和はレ級の砲撃を受けても微動だにせず無傷。しかし、レ級の表情は余裕のまま。

レ級「じゃあ、これはどうかな~?」

刹那、レ級は一気に加速して大和との距離を詰める。あの距離は……まずい!

瑞鶴「大和、そいつから離れて!」

矢矧「雷撃!? させないわよ!」

レ級「君はお呼びじゃないって!」

副砲で一閃。耐久力に定評のある矢矧を一瞬で大破まで持っていき、尚も勢いは止まらない。
低速艦の大和には回避する術はない……!


レ級「高速深海魚雷、行っちゃって~!」

大和「っ……!」

至近距離からの魚雷が直撃。前の加賀さんよりも近い……!

大和「うぅ……こんなところで……大和は、沈み、ませんっ……!」

耐えてる! 大破までは達していない中破状態。大和は即座に主砲で反撃するが、レ級もすぐに離れて直撃を避ける。

レ級「あれあれ? お姉ちゃん、主砲の威力が落ちてるよ?」

大和「くっ……瑞鶴さん、申し訳ありません……この状態では、レ級の装甲は……」

そんな……頼みの綱の大和の主砲がダメとなると……もうあいつにダメージを与える手段は……!


飛龍「うわっ!? や、やられた……誘爆を防いで!」

瑞鶴「飛龍先輩!?」

ついに飛龍先輩まで捉えられて大破。 まともに戦えるのは私だけ……!
でも……私の艦載機の威力じゃあいつには通用しない!

レ級「あはは、やっぱりボクの方が強かったよ! そうだよね、誰もボクには勝てないんだ!」

くっ……また、負けるの……? 奴にダメージを与える術は……本当に……


いや、諦めるのはまだ早い! 落ち着いて、今使える兵装の確認! 天山が9機。提督さんから貰った零戦62型が18機……

瑞鶴「62型……!? そうだ、これなら……!」

あった……まだある! 上手くいけばあいつを沈められる! 今の状態でも、あいつに勝てる!

瑞鶴「けど……」

私は今、空母として最低のことをしようとしている。例えこれであいつを倒しても……きっと加賀さんはすごく怒るだろうな。
提督さんはきっと、こんな事態も想定してたんだと思う。けど……使って欲しくなかったに決まってる! こんな戦法!
でもいい。謗られてもいい。見限られてもいい。どんな手を使ってでも、加賀さんの仇を取りたい!

レ級「あれ~? 瑞鶴、もう戦意喪失? それともまだ何か考えがあるのかな? いいよ、待っててあげる」

幸いにも敵は、自分が負けるなんて微塵も考えていないらしい。慢心した態度で、余裕の表情。


瑞鶴「……やるしか、ない。大和!」

私はまだ動ける大和を呼び出し、作戦を伝える。話していて、大和の表情がどんどん険しくなっていくのがわかる。

瑞鶴「あなたを危険な目に遭わせちゃうし……納得も出来ないかも知れない」

瑞鶴「でも……私達にはもうこれしかないと思ってる……だから……」

大和「わかりました。引き受けます」

瑞鶴「大和……!」

大和「あなたの……瑞鶴さんの幸運を、大和は信じます!」

瑞鶴「ありがとう。行こう……!」


大和「さあ、ここからが大和の本領発揮です! 遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って、目にも見よ!」

大和「大和型戦艦、一番艦大和! 推して参ります!」

レ級を見据え、正面から愚直に突撃する大和。敵の艦載機は全て着水している。
どうやら砲撃と雷撃だけで戦うつもりらしい。それなら尚更好都合。こっちの作戦は奴には悟られていない!

レ級「まっすぐに向かって来るなんて、そんなに死にたいのかな~? それなら望み通り!」

突撃する大和に向けて主砲を斉射するレ級。しかし、中破しているとは言え大和の装甲は強固。
ダメージは皆無ではないものの、致命傷には至らない!

レ級「ちっ、しぶといなぁ~! それならもう一回!」

ついに切り札の魚雷を発射するレ級。かなりの近距離……! 大和、お願い!


大和「や、大和は……沈み……ません!」

直撃の瞬間にガードを固めた大和は大破状態で何とか耐えるが、直後にその場に崩れ落ちた。

レ級「あ……ははは! ボクの勝ちだぁ! 中破で火力が足りないから、接近しての砲戦を挑もうって魂胆だったんだね!?」

レ級「でもボクの方が上だった! 君が必死で考えた最後の作戦も、所詮は徒花!」





瑞鶴「そうでもないわよ?」


レ級の真正面。砲も、魚雷も届かない尻尾の内側。完全なるゼロ距離。

レ級「ず、瑞鶴!? いつの間に!?」

そのまま彼女の心臓に矢を突き立て、零戦62型、爆戦を全機発艦。

瑞鶴「ごめん……みんな、ごめんね!」

18機の62型は全てレ級と共に爆発四散。私は目を逸らさずにその様を見届ける。


レ級「特攻……だって……? そん、な……馬鹿……な!」

そう。大和が名乗りを上げて突撃した際、私もすぐ後ろにピッタリとくっついて接近していた。
私は大和の巨大な艤装に完全に隠されていたので敵からは視認できない。
正面からの攻撃は全て大和が受け止めてくれる。雷撃もガードを固めれば一撃くらいは耐えられる算段。
後は絶対に外さないゼロ距離を取るだけ。これも魚雷直撃の際の噴煙に紛れることで上手くいった。

一か八かの大博打だけど……幸運の女神は私に微笑んだ。

レ級「い、イヤだ……死にたくない! 死にたくないィィィイ!!!」

最後の最後まで、生への執着を見せながら悪魔は南方の海に沈んでいった。

終わったんだ……


大和「う、う~ん……いたた……瑞鶴さん! 敵戦艦は!?」

大和が意識を取り戻して起き上がる。良かった……ちゃんと生きてる。

瑞鶴「うん……勝ったよ……」

でも……私は勝利の為に様々なものを犠牲にしてしまった……その代償は決して小さくはない。

???「そんなしょげた顔すんなよ嬢ちゃん。立派だったぜ!」


唐突に、パイロットの妖精さんが話し掛けてくる。

瑞鶴「妖精さん……でも!」

62型妖精「まあ、嬢ちゃんがいきなりあたいらの命をくれ、なんて言い出した時は何事かと思ったけどな!」

大和「あれ? 瑞鶴さん、その妖精さんって、62型のパイロットさんですよね? 特攻したんじゃ……?」

瑞鶴「え!? そんな、無い無い! さすがに妖精さんを乗せたまま特攻なんて出来ないわよ!」

瑞鶴「みんな飛行甲板に退避させてたわ」

大和「え? じゃあ瑞鶴さんが気に病んでることって……?」


瑞鶴「パイロットにとって機体はさ、何物にも代え難い大切なものだと思うの」

瑞鶴「常に一緒の戦場を駆けて来た相棒……それはもう、命にも等しいって言っても過言じゃない」

瑞鶴「それを私は奪った……必ず壊れるってわかってる使い方をしちゃったんだ」

62型妖精「まあ確かに、機体を失っちまったのは悲しいけどよ。まずは勝つことだろ!」

62型妖精「勝って命さえあれば、また作り直せる!」

62型妖精「それこそ、加賀姐さんの飯のボーキサイトを半分にしてでも提督ちゃんに作り直しさせるさ!」

62型妖精「だから嬢ちゃん……そんなに気にすんな」

瑞鶴「そっか……ありがとね!」

そう言って私は、飛行甲板の上の妖精さん達に敬礼した。


蒼龍「でも本当勝てて良かったよね~。大和がやられた時はもうダメかと思ったよ~」

飛龍「そう? 私は最後まで瑞鶴を信じてたわよ?」

蒼龍「えー? 大破した後はずーっと多聞丸にお祈りしてたじゃん」

飛龍「なっ、いいじゃない別に! もう祈るしか出来なかったんだからさ!」

大和「まあまあ。帰ったら皆で祝勝会を開きましょう! 大和ホテル自慢のフルコースを振る舞いますよ!」

大和「って、ホテルじゃありません!」


矢矧「相変わらずの自爆芸ね。それだけ元気があるなら自分で移動したら? 大和重いし」

大和「むっ、矢矧! 女の子に重いだなんて、失礼ですよ! 大和、傷付いちゃいます」

矢矧「はいはい」

飛龍「ところで大和! 料理の中に七面鳥はあるの!? 私、アレ好きなんだ~」

瑞鶴「七面鳥ですって!? 冗談じゃないわ!」

飛龍「え、ちょ、瑞鶴? 何怒ってるの?」

蒼龍「もう、飛龍ったら。色々と台無し……」


_____横須賀鎮守府応接室

幌筵提督「瑞鶴ちゃん……」

帰投して提督さんと顔合わせ。底抜けに明るいこの人にしては珍しく、曇った表情。
やっぱり気にしてるんだろうなぁ……私に、あの戦法を使わせちゃったこと……

瑞鶴「提督さん、私」

駄目だ。気に病ませたくないのに……気丈に振舞わなきゃいけないのに、声が震える。

幌筵提督「ごめんね……」


ギュッと抱き締められる。あ、加賀さんの方が大きい。

幌筵提督「あなたに、とても重いものを背負わせてしまった……」

瑞鶴「ううん、いいの、提督さん。アレが無かったら私はこの場所にいなかったから……」

瑞鶴「だから、提督さん……ありがとね!」

満面の笑みで返したけど、正直気は重い。加賀さんはどう思うのかなって考えると……胸が痛くなる。
でもいいんだ。終わったことはもう取り消せない。どんなことを言われても受け入れよう。
やるって決断したのは私なんだから……!


_____数日後、幌筵島セベロクリリスク港

瑞鶴「うーん、久しぶりに帰ってきた! もう一万年くらいみんなと会ってないような気がするよ~」

幌筵提督「ふふ。加賀さんも瑞鶴ちゃんに会えなくて寂しかったんじゃないかしら?」

瑞鶴「ないない。あの人に限ってそんなこと、あるわけないよ」

瑞鶴「超鈍感だし、足遅いしお小言がうるさいし、胸が無駄におっきいし」

加賀「あら、随分な言葉ね、瑞鶴?」

あっ……加賀さんの出迎え。どうしよう、言葉が出ない。加賀さんが生きてる。
動いてる……喋ってる……そんな当たり前のことが、嬉しくて嬉しすぎて……


瑞鶴「加賀さんッ!」

自分でも驚く程の勢いで抱きつく。加賀さんは私を優しく受け止めて、抱き締めてくれた。

瑞鶴「加賀さん、加賀さん……加賀さん! 加賀さんッ……!」

駄目だ、言いたいこと、言わなきゃいけないこと……いっぱいあるのに、言葉は出ない。

加賀「よく、頑張ったわ……」

あ、今の加賀さん、超優しいモードだ。涙が出そう。
でも……私にはそんな言葉を掛けてもらう資格は無いんだ……言わなきゃ。


瑞鶴「加賀さん……私は、空母としてやっちゃいけないことをやりました……」

加賀「聞いてるわ。あの状況では他に手はなかったと思う。それに……」

加賀「一番辛かったのはあなたでしょう? その気持ちを忘れなければそれでいいの」

瑞鶴「加賀さん……!」

もう……相変わらずずるいよ、加賀さん。提督さんに抱き締められた時は何とか我慢できたのに。
そんな優しい言葉かけられたらさ、涙、止まらなくなっちゃうじゃん。
しばらくは加賀さんの胸に顔を埋めながら泣くことにしよう。


加賀「まったく……瑞鶴はいつからそんな甘えん坊になったのかしら?」

加賀「でも……いいわ。頑張ったから、今日だけ特別」

幌筵提督「ひゅーひゅー。二人だけで世界作っちゃってさ」

幌筵提督「ラブラブなのは結構だけどさ、みんな待ってるからなるべく早く泊地に戻るわよ?」

加賀「そうですね。でも……あと少し……ほんの少しだけ、このままでいさせてあげてください」


_____泊地、執務室

鈴谷「おー、瑞鶴じゃん! お疲れぇい!」

浜風「聞きましたよ。あの化け物のような戦艦を倒したと……」

雷「やるじゃない瑞鶴! ここまで強くなってくれて、私も嬉しい!」

榛名「お帰りなさい、瑞鶴さん……」

ああ、帰ってきたんだなぁ……やっぱり私にはこの場所が一番だよ。

瑞鶴「ただいま……」

つづく!

次回「水底」

設定

矢矧(18):大和のお世話係。鉄底海峡での惨状を知っているので、仲間を守りたいと言う意識は人一倍強い。

大和(20):最強の戦艦だが実戦は今回が初めて。見た目に反して結構子供っぽい面もある。

戦艦レ級:珍しくネタ枠じゃない深海棲艦。南方に溜まった51隻の艦の怨念と4隻の戦艦の負の感情を集めて作られた兵器。
北方棲姫より与えられた艦載機も搭載している。単騎で無双するほど強いが慢心して敗北するタイプ。

南方棲戦鬼:戦姫の手下でレ級のお目付け役。膨大な体力に高い火力、駆逐艦以下の紙装甲を併せ持つネタ枠。
任務や大鯨掘りで5-2を訪れた際、彼女の編成が出るとボーナスステージと称される可哀想な子。可愛い。

今回はここまでです。続きもまったりと推敲中です。

E6甲クリアしました。最初から最後まで瑞鶴旗艦の機動部隊です。攻略は水上打撃隊が主流だけど私は機動部隊の方が好きです。
色々妄想しながらやってたら失敗しても楽しかったです。空母お姉様から瑞鶴への攻撃を加賀さんが庇って大破、
その後瑞鶴の攻撃で空母お姉様を撃沈とか最高に燃えました。

それでは読んで下さった方、レスして下さった方、ありがとうございました。

機動部隊攻略編成載せときます。

第一艦隊
瑞鶴改Lv113 流星601/流星601/流星改/艦隊司令部施設 ※運を無駄に60まで上げてあります。意味は特にないと思います。
大和改Lv98 51砲/46砲/零観/一式徹甲弾
武蔵改Lv93 51砲/46砲/零観/九一式徹甲弾☆4
加賀改Lv111 烈風/流星改/天山友永隊/烈風
翔鶴改Lv93 烈風改/流星改/流星改/烈風
大鳳改Lv92 流星改/烈風601/烈風601/烈風

第二艦隊
川内改二Lv86 20.3/20.3/探照灯
島風改Lv80 10cm+高射/10cm/13号改
雪風改Lv70 五連装魚雷/五連装魚雷/四連装魚雷☆4
Bis dreiLv98 46砲/38改/夜偵/九一式徹甲弾☆4
大井改二Lv81 甲標的/2号砲/2号砲
北上改二Lv79 甲標的/プリン砲/プリン砲

ルートは全て中央、陣形は全て戦闘隊形。ラストだけ間宮伊良湖でキラ付け+全力決戦支援を出します。
基本戦術は可能な限り艦攻を増やして雑魚を掃討、割合ダメを重ねてボスクラスを無力化することです。
なので徹底するなら道中支援を出すのも全然アリだと思います。
大破退避を考えると、特に拘りが無ければ瑞鶴の流星改と翔鶴の烈風改の位置は絶対に交換した方がいいです。
それと探照灯持ちを二番以降に下げること推奨。庇う効果で攻撃機会が潰されるのを防げます。
資源効率度外視の決戦艦隊なのでコストが物凄く重いのは当然ですが、艦攻が多いのでボーキも凄まじい勢いで減ります。

Hマス
泊地水鬼は凶悪ですが随伴艦が弱いので運が良ければ開幕戦で雑魚を掃討できます。
敵の数さえ減れば水鬼に割合ダメが重なっていくので、上手くいけば第二砲撃戦の大和型の攻撃で損害状態にできます。
第一砲撃戦は運頼みですがそこまで当たらないのでここでの大破率は低いです。
それと運がいいと航空戦で艦爆が全滅してその時点で行動不能になります。

Kマス
癒し。よほど運が悪くない限り被害は出ないでしょう。

ボス前
基本はHマスと同じ。雷撃が当たるし装甲も低いので無力化できる確率は上ですが被弾率も高いです。
随伴艦がそこまで弱くないので運が悪いと被害が嵩みます。

ボス
祈るだけ。旗艦撃破できるかどうかは道中の被害次第です。S勝利率は7割ってとこだったので削り段階でも支援出すのはアリです。
最終編成では大鳳だけ中破他無傷だった上に支援が働いたので余裕を持って撃破できました。

出撃回数は多分12回行ったかどうか。最終編成は2回目でクリア。1回目はキラなしで大破2隻撤退だったので、
2回目は全艦キラ付けしたら上記のように大鳳だけ中破で他無傷でボス到達できました。
何かの参考になれば幸いです

前置きが長くなりましたが投下開始します。


「水底」

ここは……どこ? 私は何故、ここにいるの……?
還らないと……どこへ? 私の帰る場所……

???「んッ……」

頭の中に突如入ってくるそのノイズ。

???「瑞鶴……」

誰……? 艦娘の名前……? 私はその子を、知っている……?


???「頭が……痛い」

不愉快な思考が脳を巡る。一体何だと言うの……?

???「沈めないと……」

精神が圧迫される。一刻も早く、その子を沈めないと。
私の思考は、きっと壊れてしまう。

???「行かないと……」

幌筵泊地へ……


_____6月4日、鎮守府海域

こんにちは、吹雪です! 横須賀鎮守府所属、翔鶴さん捜索艦隊旗艦を務めさせて頂いてます!
今日は一人で付近の海域を捜索する予定だったのですが……今、私の隣には憧れのあの人がいるのです。

吹雪「赤城先輩と一緒に行動出来るなんて、私、感激です!」

赤城「そう? それなら、期待を裏切らないよう頑張らないといけませんね」

吹雪「でも良かったんですか? せっかくの非番なのに……」

赤城「翔鶴がいなくなってから大分経つわ。私、これでも結構寂しいと思ってるんですよ?」

赤城「だからもう、捜索隊からの報告を待ってるだけじゃ駄目だって思ったの」

吹雪「でも赤城先輩、沖ノ島攻略の主力艦でもあるのに……」

赤城「大丈夫、そちらの作戦に支障が出ない程度にはしておきますから」

正直私は心苦しい。当然だ。翔鶴さんは赤城さんにとって、特別な人。
一日でも早く見つけて会わせてあげたいのに……


赤城「……!? 索敵機より入電、敵艦発見です。空母ヲ級、単独で行動中のようです」

吹雪「ヲ級ですか!? クラスは!?」

赤城「フラグシップ……なのかしら? 金色のオーラを纏ってはいるけど……瞳に蒼い炎……アレは一体……?」

空母ヲ級か……フラグシップ級と戦ったことはないけど……とにかく全力で赤城さんを守らないと!

赤城「む……どうやら、敵もこちらに気づいたようです。戦闘準備を!」

赤城「ヲ級1隻ならば今の装備でも制空権は確保出来ますが……対空見張りを怠らないで!」

吹雪「はい!」


赤城さんに言われ、長10cm砲を用意。すぐに目視距離に入る。
確かに確認できる。普通のヲ級とは少し雰囲気が違う……

赤城「さあ、用意はいい? 第一攻撃隊、発艦してください!」

ヲ級改「全航空隊、発艦始め!」

赤城「!? その声は……!?」

吹雪「赤城先輩!? あ、アレ……!」

ヲ級の放った艦載機を見て驚愕する。数が……尋常じゃない!


赤城「なっ……!? 144機!? やっぱり、ただのヲ級じゃない!」

こちらの艦戦は52型が32機だけ。対して敵は艦戦が36機、対空戦が可能な戦闘攻撃機が72機だ。勝ち目は無い!

赤城「くっ……制空権喪失! 吹雪さん、対空砲火、お願いします!」

吹雪「は、はい! 赤城先輩、必ずお守りします!」

ヲ級改「直掩隊も、攻撃隊の援護に回って」

長10cm砲で攻撃隊を狙い撃つけど、とてもじゃないけど捌き切れない!

吹雪「だ、駄目です……数が多すぎて!」

赤城「!? 直上!?」

撃ち漏らした爆撃機が赤城さんの直上を取り、急降下。ダメだ、間に合わない!


吹雪「あ、赤城さーーーん!?」

赤城「くっ……飛行甲板をやられました。吹雪さん、貴方だけでも逃げて!」

吹雪「そんな! 赤城さんを置いていくなんて!」

赤城さんは中破。私の力じゃヲ級相手には傷一つ付けられない。絶望的な状況……しかし……

ヲ級改「……私、行かなくちゃ」

吹雪「あ、あれ?」

ヲ級は何かを呟くと、艦載機を収納。そのまま反転し、離脱しようとしている。

吹雪「赤城先輩、よくわからないですけど、帰っていくみたいですよ?」


ヲ級改「瑞鶴……!」

赤城「!?」

吹雪「え? 今あいつ、何て……?」

赤城(やっぱり、間違いない……あの子は……!)

赤城「待って! 翔鶴! 貴方、翔鶴でしょう!?」

え!? 翔鶴さん!? いや、確かに。さっきまでそんな余裕なかったから見れなかったけど……
その容姿には間違いなく翔鶴さんの面影があった。


ヲ級改「……? 私の……邪魔をしないで……」

赤城「翔鶴、貴方どうしちゃったの!? そんな姿になって……!」

翔鶴さんは、赤城さんの問い掛けに答えるでもなく、近づいてくる。

ヲ級改「赤城……さん?」

赤城「んっ……!?」

えっ!? そのまま赤城さんの唇を奪って……って、何これ!?
確かに、お二人がそう言う関係なのは知ってたけど! でも今は……!

吹雪「あ、あわわ! 赤城さん!?」


赤城(翔鶴……この子は確かに翔鶴だけど……私の翔鶴じゃない……)

赤城(やだっ……やめて! 翔鶴以外の子が……私の体に……唇に……触らないで!)

赤城「やめてっ!」

ヲ級改「きゃっ……!」

赤城さんがヲ級を突き飛ばして拒絶。私はすぐに赤城さんの元に駆けつける。

吹雪「あ、赤城先輩、大丈夫ですか!?」


立ち上がった翔鶴さんは、チラリと赤城さんを見て、呟いた。

ヲ級改「私、行かないと。あの子の、所へ……行ってあの子を……沈めないと!」

赤城「翔鶴……!?」

吹雪「赤城先輩。今は、帰りましょう。曳航しますから」

これ以上ここに留まるのは危険。戦闘が再開されたらもう守り切る自信はない……ここは退こう。


赤城「はい。吹雪さん……お願いします」

赤城「それと……至急、幌筵泊地の提督へ連絡を。出来れば、今すぐに!」

吹雪「は、はい!」

赤城(あの子の目的はやっぱり……! 瑞鶴さん、気を付けて……!)

赤城(そして加賀さん……瑞鶴さんを、守ってあげて……!)


_____幌筵泊地執務室

瑞鶴「赤城先輩が、空母ヲ級と交戦して中破!?」

加賀「赤城さんがヲ級1隻に遅れを取るなんて考え辛いですが……」

幌筵提督「残念だけど事実よ。今しがた、護衛駆逐艦の吹雪から連絡が入ったわ」

幌筵提督「吹雪曰く、通常のヲ級フラグシップよりも更に強力な個体らしいわ。その上……」

幌筵提督「いえ、やめときましょう。とにかく、誰が相手でも戦う以上は全力を尽くすのよ!」

提督さんが、一瞬私の方をチラッと見て言葉を濁した。何なんだろう一体……
でもまあ、提督さんに言われるまでもなく。私達は全力で迎え撃つだけだ!


幌筵提督「さて。ヲ級は赤城達と交戦した後、まっすぐにこの泊地に向かって進行中」

幌筵提督「皆は明日のマルロクマルマルより出撃。ちょうどブッソル海峡付近で交戦になる見込みよ」

幌筵提督「ちなみに敵の航空戦力はあの戦艦レ級にも匹敵するほどらしいわ」

幌筵提督「装甲も通常のヲ級より強化されていると考えると、制空権はより重要になってくるわね」

幌筵提督「今回は烈風もない上に空母二人だから厳しいと思うけど、可能な限り制空重視でいくわ。二人とも、頼むわよ!」

瑞鶴「はい! 任せてください!」

加賀「心配いりません。みんな優秀な子達ですから」


_____6月5日、ブッソル海峡

鈴谷「敵さん、単騎で攻めてくる気なのかな?」

加賀「単騎でも圧倒的な力を誇るレ級のような化け物もいるわ。油断しないで」

鈴谷「そーだね。あんな目に遭うのはもうごめんだし、気合い入れていかないとね!」

榛名「水偵より入電。空母ヲ級、発見しました! 瞳に蒼い燐光。吹雪さんの報告通りです! 単独でこちらに向かってきています!」

加賀「瑞鶴、目視距離に入ったら一気に仕掛けるわよ」

瑞鶴「はい!」

直後、敵空母の姿を確認。私は矢を取り出し構えるが……


瑞鶴「えっ……?」

加賀「……!?」

鈴谷「ちょ、アレって……!?」

雷「嘘!? だって、そんな……!」

ヲ級改「瑞鶴……」

瑞鶴「しょ、翔鶴姉!?」

見間違うはずがない。艤装こそ敵空母のそれだけど、それを纏っているのは間違いなく翔鶴姉。
私のよく知ってる、大好きな……大切な姉……

ヲ級改「瑞鶴……会いたかった……」

なっ、何で……!? 何で、翔鶴姉!? どうしてそんな格好してるの!?

ヲ級改「…………」


加賀「翔鶴さん……いえ、空母ヲ級。あなたの目的は何? 瑞鶴をどうするつもり?」

ヲ級改「……瑞鶴を、沈めて……幌筵泊地を破壊します」

瑞鶴「!?」

ヲ級改「不愉快な思考が私の精神を圧迫する……幌筵島と、瑞鶴と言う名前……」

ヲ級改「それらが私にとって何を意味するかはわかりませんが……不快なノイズです」

ヲ級改「ならばそれらが無くなれば、私はこの苦しめる声から解放されるでしょう……」

加賀「その二つは、あなたにとって掛け替えのないもの。大切なものなのよ?」

ヲ級改「理解不能……排除します。全航空隊、発艦始め」


鈴谷「ちょ、加賀さん!? どうするの!? 相手、翔鶴さんなんでしょ!?」

加賀「やるしかないでしょう?」

有無を言わさず発艦する翔鶴姉。加賀さんも発艦準備に入ってるけど……!

加賀「瑞鶴! 航空戦よ! 用意して!」

だ、ダメ……ダメだよ、加賀さん! 相手は翔鶴姉なんだよ!?

加賀「瑞鶴、早く!」

やだ……やだよ! 翔鶴姉と、戦うなんて……!

加賀「ちっ……! 第一航空隊、発艦!」

鈴谷「だ、ダメだ……敵の艦載機の方がずっと多い! 瑞鶴、何やってんのさ!?」

加賀「航空劣勢! 対空射撃、用意!」


雷「やってやるけど……数が多すぎよ!」

浜風「やれるだけやるしかありません! 撃ち方始め!」

榛名「瑞鶴さん、直上!」

瑞鶴「えっ? っ……!?」

榛名が私の前に立ち、そのまま上空に三式弾を掃射。敵機は撃墜され、私は辛うじて難を逃れた。

榛名「瑞鶴さん……立ち上がってください! このままでは榛名達は……!」


浜風「うっ!? くっ……で、でも、こんな痛み……金剛や、信濃に、比べたら……!」

雷「きゃあっ!? や、やられたけど……雷は、まだ、大丈夫なんだから!」

敵艦攻、艦爆の雨あられで味方は次々大破……このままじゃみんなやられる……でも……

加賀「仕方ないわね。榛名、鈴谷と一緒に前衛お願い」

榛名「は、はい! やれるだけのことはやります!」

鈴谷「鈴谷にお任せ! そっちは頼むよ!」


加賀「瑞鶴、聞いたでしょう? もうアレは、あなたの知ってる翔鶴さんじゃないの」

座って塞ぎ込んでる私に、加賀さんが話し掛けてくる。膝を曲げて目線を合わせて……まるで子供をあやすかのように……

加賀「辛いのはわかるわ。でも、そんなのはみんな同じ……」

加賀「みんな翔鶴さんのことが好きだったわ。お世話にもなった。憧れの存在だった……」

加賀「でも……例えあの人だろうと、大切な仲間や大事な場所を奪うような存在ならば……」

加賀「私達は戦わなくてはいけない……! それが、私達艦娘の使命なのよ」

瑞鶴「やだ……嫌です……私は……そこまで割り切れない。だってあれは……翔鶴姉だよ……!」

加賀「わかった……」

加賀さんはそれっきり何も言わない。怒りもしない。でも諦めたような目もしていない。
ただ無言で立ち上がり、踵を返して前線に戻っていく……私は未だに、震えて何も出来ない。


鈴谷「きゃぁんっ! や、やだ……恥ずかしいから、見ないでって!」

榛名「くっ……被弾しました……でも、まだやれます!」

体の方は動かないのに、戦況は驚くほどよく目で追える。鈴谷、榛名が大破。
加賀さんは、制空権を相手に握られている状況でまともに発着艦すら出来ない。徐々に被弾が増える。

瑞鶴「私が……私さえ沈めば…他のみんなは助かるの……かな?」

翔鶴姉とは戦いたくない……でもこれ以上みんなが傷付くのも見たくない……ならそれしか……

瑞鶴「みんな……ごめんね……こんなことに、なっちゃって……」

私はよろよろと立ち上がり、重い足取りで歩を進める。覚悟はまだ出来てないのか、震えは止まらない。


ヲ級改「瑞鶴……今、連れて行ってあげる。静かな優しい海の底へ……」

私の動きに気付いた翔鶴姉が、攻撃隊を嗾ける。大量の艦爆、艦攻が選り取り見取り。
投下される爆弾が、放たれる魚雷が、すっごくスローに見えた。ああ、私……ここで終わるんだな……

瑞鶴「せめて、加賀さんと……もっと、ちゃんと……」

加賀「瑞鶴ッ!!!」

瑞鶴「えっ?」

加賀さんが私の前に立ち、その身を盾に全ての攻撃を受けた……


瑞鶴「かっ……加賀さん!?」

私は崩れ落ちる加賀さんを抱きかかえる。

加賀「まったく……あなたって子は……ほんとに、最後の……最後まで、世話の焼ける……子……」

瑞鶴「加賀さんどうして!? どうして、私なんかを!?」

加賀「さあ、どうしてかしら……ね? あなたの……考えなしで、向こう見ずな所……移っちゃった……かしら……?」

酷い吐血と、今にも消え入りそうな声。それでも加賀さんは、喋るのをやめない。


加賀「楽しかっ……たわ……瑞鶴。私の想像を……遥かに超えて、成長するあなたを……見るのが」

加賀「あんなに生意気で……甘ったれで……口答えばっかり……だったのに……ね」

加賀「ふふ……甘ったれなのは……今も、かしらね……?」

やめて、もうやめてよ。加賀さんのくせに何でそんなに饒舌なのさ!? そんな、もうこれで最期みたいな……!

加賀「瑞鶴、後は……頼みました」

嫌だ……聞きたくない! そんな言葉、聞きたくないのに!


瑞鶴「加賀さん! お願いだから、もう……んっ!?」

喋らないで……そう言おうとした私の口を、加賀さんの唇で塞がれた。優しくてあったかい……だけど血の味。

加賀「我が艦隊旗艦に……幸運の女神の祝福を……」

そして、抱き締めていた温もりは手からするりと逃げていって……冷たくて暗い、海へと沈んでいった……

瑞鶴「あっ……加賀さん……加賀さん、加賀さん! 加賀さぁーーーーーん!!?」


私……私は、バカだッ……! 加賀さんが……ここまでしてくれないと気づけないなんて!

瑞鶴「翔鶴姉は……もう、いないんだ……!」

私は目の前の敵を見据えて矢を取り出す。そして、あの時と同じ命令を出した。

瑞鶴「総員、飛行甲板」

パイロットの妖精さん達を全て避難させ、敵に突撃する。もう、この戦法を使うことに迷いはなかった。


ヲ級改「瑞鶴……何も悲しむことはないわ。すぐに後を追わせてあげる」

鈴谷「瑞鶴ッ!? 危ない!」

敵の放つ艦爆の雨を、艦攻の嵐を……全速力を出しながら全て紙一重のところで躱す。

瑞鶴「翔鶴姉……!」

一気に詰めてゼロ距離。瞬きする間に4本の矢全てを撃ち出し、75機全部、特攻させる。

瑞鶴「さようなら……!」

艦載機は全て爆発四散。敵も艤装全てが吹き飛び大破。


翔鶴「瑞……鶴……?」

翔鶴「強く……なったわね……あなたなら、もう……大丈夫。私が……いなくなっても……」

私を見つめながら微笑み、徐々に沈んでいく翔鶴姉。そっか……正気に戻ったんだね……
でも……それももう長くないことを、私は悟っていた。

翔鶴「あの人……を……貴方の一番大切な……加賀さんを……助けて……あげて」

翔鶴「鈴谷さん、榛名さん。雷さん、浜風さん……後は、お願いね……?」

そう言い残して、翔鶴姉も冷たい海に沈んでいく……翔鶴姉……ホント、勝手なんだから……
勝手にいなくなって、こんな形で再会しちゃって……最後まで、こんな……こんな……!


鈴谷「瑞鶴!」

瑞鶴「鈴谷。悪いけど、これお願い」

近づいてきた鈴谷に、弓と飛行甲板、それに胸当てを預ける。私にはまだ、やるべきことが残ってるんだ。

瑞鶴「加賀さんを、助ける」

鈴谷「失敗したら許さないからね」

瑞鶴「うん」

仲間達に見守られながら、私は加賀さんを追って冷たい海へ潜っていった。


冷たくて暗い海……そう思っていたけど、視界は驚くほど良好。
艦娘の艤装のお陰か、海の中でもある程度は適応出来るようになってる。
とは言え、私も加賀さんも潜水艦娘ではない。潜水できる時間も限度があり、
そのある程度を超えたらもう沈むしかない。

瑞鶴「絶対、絶対に、見つけ出すから! 加賀さん……!」


もう随分長く潜ってるかな? 水太りは気にしないけど、塩辛いのはちょっと辛いかな。だって私、甘党だし。
なんて余裕かましてる場合じゃない。ちょっと、息が苦しくなってきたかも。限界までそう遠くないことを告げる警告。

瑞鶴「お願い、早く……」

私はもう何もいらないから……! 幸運も、戦果も……新しい艦載機もいらない!
ただ……加賀さんがいてくれれば……それだけでいい! だから加賀さん、お願い……!

瑞鶴「あっ……!」

見つけた! 今もなお、どんどん深い所へ沈んでいく加賀さん。


瑞鶴「加賀さん!」

全力で追いかけて、精一杯手を伸ばす! もう、残された時間はだいぶ少ないけど……!
もう少し……あと、少しでいいんだ……!

瑞鶴「加賀さん……!」

もう少し……もう、ちょっと、だけ……! 届け、届け! 私の想いも全部乗せて!
強く、強く思いを紡いで……願いは更に強く! この手を繋いで……帰るんだ! 加賀さんと!

瑞鶴「つーかーま、え……た!」

その手を、掴んだ。

つづく!

設定

ヲ級改:翔鶴が何者かに改造された姿。構想段階では空母水鬼がゲームの方に登場してなかったのでこちらになった。
一番大切な赤城のことは深層心理で覚えていたため、彼女を沈めることは出来なかった。

吹雪(13):翔鶴捜索艦隊の旗艦。他のメンバーには睦月、白露がいる。優しい年上のお姉さんが好き。

白露(14):名前は欠片も出て来てないけど当初は浜風のポジションが白露だった。より大きなおっぱいを求めて浜風に変更された。

今回はここまでになります。次回で完結です。
ここまで読んで下さった方、レス下さった方、ありがとうございました。

昨日投下した後2時間ほどKマス掘りしてたらRoma出たので私のイベは終了です。
今回で最終回になりますが投下していきます。最後までお付き合いいただけると幸いです。


「希望」

_____幌筵島、病院

目を覚ますと、いつかの病院のベッドの上にいた。周囲を見回すと、白い天井に白い壁。そして私を見守る鈴谷。

鈴谷「起きた? 瑞鶴」

私は即座に体を起こすと、真っ先に聞く。

瑞鶴「加賀さんは!?」

あの時、加賀さんの手を取って……その後の記憶は無い。


鈴谷「……いないよ」

鈴谷は、ただ一言、そう呟いた。嘘……!? 間に合わなかった……の?

瑞鶴「そんな……鈴谷、嘘でしょ? 嘘って言ってよ!」

鈴谷「瑞鶴、よく聞いて。あのね」

取り乱している私を宥めるように口を開く鈴谷。でも、やだ……聞きたくない!

鈴谷「加賀さんは……」

瑞鶴「そんな……そんなの、やだ! 加賀さん!」


私はベッドから飛び出ると、ただがむしゃらに走った。思考がついていかない。
現実を受け入れられない……加賀さんがいない世界なんて……考えられない!

瑞鶴「はぁ……はぁ……」

走って、走って……気がつけば病院の屋上。何、考えてるんだろう、私……
馬鹿だなぁ。私は艦娘なんだから、こんな所から飛び降りたくらいで死ねるわけないのに。
いや、そもそも後を追うなんて……そんなの考える事自体が、加賀さんに対する裏切りだ。

でも……加賀さんのいないこの世界の風は、私には冷たすぎて……
色んな考えが頭の中でゴチャゴチャしてて、まとまらない。


瑞鶴「はぁ……何やってんだろ、私……」

とりあえず、気持ちを落ち着ける為に……今言いたいこと、言ってみよう。
ちょうど場所も場所なんだし……ね。

私はスーッと大きく息を吸った。

瑞鶴「加賀さぁーーーーん!!! 大・好き・です!!!」

瑞鶴「加賀さん!!! あ・い・し・て・るーーー!!!」

ふぅ……屋上から思いっきり叫んで、気持ちは少しスッキリした。その当人はもう、いないんだけど……


瑞鶴「加賀さん……私、生きるよ!」

そう心に誓った。



……瞬間。

瑞鶴「えっ?」

93機の九九艦爆が向かってくるのが見える。あれ? 私の他に、この島に空母なんて……

瑞鶴「あっ……」

察した。そして……今まさに爆撃されるって言うのに私の顔は、自分でも気持ち悪いって思えるくらい、ニヤけてたと思う。


_____幌筵泊地、執務室

加賀「まったく……あなたはただの馬鹿じゃなくて、度し難いレベルの大馬鹿だわ」

加賀「損傷があまりにも酷かったから、本土で大規模整備をしていただけよ」

加賀「やっと帰って来れたと思ったらあなたは……あんな場所で……あんな、事を……何考えてるの!?」

瑞鶴「えへへ~、すいませーん」

正座しながら聞く、久しぶりの加賀さんのお説教。駄目だ……嬉しすぎて、頬が緩んじゃう。


加賀「はあ……もういいわ。今のあなた、何を言っても無駄みたいだし」

加賀「私も帰ってきたばかりで疲れているし、休ませてもらうわ」

加賀「あなたもまだ本調子ではないのでしょう? 部屋でゆっくり休んでいなさい」

そう言って話を打ち切ろうとする加賀さんの肩を、提督さんが満面の笑みで叩く。

幌筵提督「いやいや加賀さん。これで終わりじゃないでしょう?」

見ると、他のみんなも部屋の入り口を固めて逃げ場を塞いでいる。


加賀「何かしら? 今度は私に何をやらせる気?」

幌筵提督「告白の、お返事」

あっ……そう言えば。加賀さんがアレを聞いてたんなら、つまりはそう言うことになるよね……今更気付いて、頬が紅潮する。

加賀「……仕方ないわね」

顔を赤らめながら、正座していた私の手を取って立ち上がらせる加賀さん。
でも目は見てくれない。照れてるんだ。加賀さん可愛い!


加賀「…………」

瑞鶴「…………」

しばらくの沈黙。周囲は何も言わずに温かく見守ってくれてる。
ほらほら加賀さん。早く言わないともっと気まずくなっちゃうよ~?
なーんて余裕かましてるように見えるけど、私の方も実は心臓はバクバクだ。
フラれたらどうしようかって……時間が経てば経つ程不安の方も大きくなる。

加賀「瑞鶴……」

長い、すっごく長かった沈黙を破って口を開く加賀さん。もう……遅いっての。


加賀「好きよ……愛してるわ」

瑞鶴「加賀さん!」

瞬間、パッと笑顔を浮かべて加賀さんの胸に飛び込んだ。
加賀さんは優しく受け止めて、抱き締めてくれる。

瑞鶴「加賀さんっ、加賀さん……良かった……嬉しいよぉ、加賀さん!」

感極まって加賀さんの胸で泣き出す。最近の私、泣いてばっかりだ……
でも……今日の涙が一番嬉しい。


瑞鶴「加賀さん」

顔を上げて、加賀さんと見つめ合う。お互いの吐息さえもかかりそうな程の距離。
いいよね……? 私は、ほんの少しだけ背伸びをして、加賀さんと唇を重ねた。

加賀「んっ……」

良かった、今回は突き飛ばされなかった。周囲からは私達を祝福してくれる拍手が沸き起こる。
正直言っちゃうと、死ぬほど恥ずかしい。けど……なんかもう今さらいいや。
そう開き直って、随分と長い間唇を重ねていた。


_____深夜

夜の海って、綺麗。水面に映える月と、鼻腔をくすぐる潮風。静寂の世界を彩る波の音。
さっきまで賑やかな祝賀会の場にいた所為か、この静かな場所がとても心地よく感じる。

加賀「瑞鶴」

一人風を感じていると、加賀さんも抜け出してきて隣に座る。そして、ごく自然に手を重ねる。

瑞鶴「あれ? もうみんな寝ちゃいました?」

加賀「まさか。みんなまだまだ元気。朝まで盛り上がる気よ、あれは」

瑞鶴「あはは……その方がみんならしいですよね」

まったく……私と加賀さんの祝賀会だってのに、本人達そっちのけなんだから。


加賀「でも……あなたとこんな関係になるなんて、思わなかったわ」

お酒を一口流し込んで、加賀さんが語り出す。

加賀「本当、最初の印象は最悪だったのよ? 翔鶴さんの妹だって聞いたのに、礼儀のれの字も知らない生意気な子で……」

加賀「でも、あなただってそうでしょう? いつもキツく当たっている嫌な先輩……そう見られても仕方なかったわね」

瑞鶴「最初はそうでしたね。いつも高圧的で、私を見下して。何様のつもりなんだって、思ってましたよ」

瑞鶴「でも、そのお陰で私も頑張ろうって、見返してやろうって気にもなれたんです」

瑞鶴「それに、すぐにわかりました。その厳しい言動も、全部私の為を思って言ってくれてるんだって」


瑞鶴「だから時折見せる加賀さんの優しさが、どうしようもなく嬉しくて……きっとその時から……」

瑞鶴「加賀さんのこと、ずっと好きだったんです……」

瑞鶴「ねえ、加賀さんは……いつから私のことを?」

あ、今の私。すっごく恥ずかしいこと聞いてる? 加賀さんは、もう一口お酒をグイッと流し込んで答える。

加賀「意識していたと言う話なら……きっと最初からよ」

加賀「生意気な後輩だけど、どこか危なっかしくて、ちゃんと見ていないとって……」

加賀「ずっと長い間……死んだ妹と重ねているのだと、自分の中では思ってたわ」


加賀「その気持ちが揺らいだのは……あの時。泊地侵攻部隊と戦った日……」

ああ、私にとっては、加賀さんと初めてキスした日だ。

加賀「あの日からあなたを見る目が変わっていったわ。あなたはあなたで色々してくれたじゃない」

加賀「私の為にレ級を倒してくれたわ。翔鶴さんに沈められた時は……命を、助けられたわね」

加賀「そ、そこまでされて……好きにならないわけがないでしょう?」

真っ赤になった顔を手で覆って俯く加賀さん。きっとすっごく勇気を出して言ってくれたんだろうな。


瑞鶴「加賀さん……キス、したいです」

加賀「駄目よ瑞鶴。お酒が残ってる」

瑞鶴「今の私は……お酒より加賀さんに酔いたい……な」

加賀「…………」

うわあああああ! 何言っちゃってんの、バカじゃないの私!? こんなの全然私のキャラじゃないってのに!
人生史上一番恥ずかしい台詞だよこれ! むしろこんなこと言っちゃう自分に酔ってるよ!


加賀「ふっ……くく……」

加賀さんは笑いを堪えてるし! せっかくいいムードだったのに台無し! もう、私のバカ!

加賀「ふふ……でもあなたのそう言うところ、私は好きよ?」

瑞鶴「うー……」

こうして……私達が恋人同士になって初めての夜は残念な雰囲気で過ぎていった。
まあ、この方が私達らしいとも言えるけどさ。

それに、私達は歩み出したばっかりなんだし。まだまだこれから……だよね!


_____翌朝?

瑞鶴「う~ん……ん? 何だろうこの匂い……? 卵焼き……かな?」

翔鶴「おはよう、瑞鶴。今、朝ごはん作ってるの。すぐ出来るから、待ってて」

瑞鶴「うぇぇ!? 翔鶴姉、どうしてここに!?」

翔鶴「何言ってるの、瑞鶴? 私はずっと、ここにいたじゃない」

瑞鶴「えっ? え? 何がどうなってるの?」

翔鶴「あ、大変! 卵が焦げちゃう! 瑞鶴、ちょっと待ってて!」

そう言ってパタパタとキッチンの方へ走っていく翔鶴姉。


翔鶴「きゃああ!」

直後、謎の爆発音と共に響く姉の悲鳴。私は溜息をつき、またか……と思ってキッチンへ向かう。

瑞鶴「もう、翔鶴姉ったらさ。何で毎回毎回卵焼きだけでフライパン爆発させちゃうかなぁ……」

翔鶴「うぅ~、ごめんね、瑞鶴。今日こそはいい所見せようと思ったのに」

瑞鶴「いいよいいよ。ご飯は私が作るからさ、翔鶴姉はお皿並べといて」

翔鶴「本当に、駄目なお姉ちゃんでごめん……」

瑞鶴「もう、翔鶴姉ってば大袈裟な……っ!?」

えっ!? 翔鶴姉の体が、半透明になってる……まるで今にも消えそうな感じ。


翔鶴「最後まで、お姉ちゃんらしいこと、何一つしてあげられなくて……」

瑞鶴「ちょ、ちょっと待ってよ、翔鶴姉!」

その姿はどんどん薄れていって……でも声だけははっきりと聞き取れる。

翔鶴「でも、貴方ならもう大丈夫。瑞鶴には、加賀さんがいるもの」

翔鶴「いつまでも二人仲良く過ごしてね。さようなら、瑞鶴。遠い、遠い所で、私も二人を見守っています」

瑞鶴「待って、翔鶴姉! 行かないで! 翔鶴姉ぇぇぇぇ!」


瑞鶴「ハッ!? ここ……は?」

目が覚めると、いつもの部屋。加賀さんが心配そうに私の顔を覗き込む。

瑞鶴「夢……か」

加賀「あの人の、夢を見たのね?」

翔鶴姉の名前を叫んでいたらしく、加賀さんはすぐに察した。私はコクリと頷く。

加賀「私も、あの夜以来時折夢に見るわ。そして、その度に思ってしまうの」

加賀「あの人を差し置いて、私が幸せになっても良いのかって……ね」


加賀さんの言いたいこと、後ろめたい気持ちもわかる。
私だってこんな夢を見るくらいだ。心に残るものがないわけじゃない。けど……

瑞鶴「私は……あの時翔鶴姉を討ったこと、後悔はしてません」

だって加賀さんを……最愛の人を沈めた相手だよ? 例え翔鶴姉でも、許せなかったよ。

瑞鶴「あの時の迷いも、苦悩も、決断も……その全てが間違いだったなんて、思いたくありません!」

瑞鶴「翔鶴姉だって、きっとそうです。私達が負い目を感じたまま生きていく事なんて……望んでるわけがありません」

私は加賀さんを見つめ、力強くそう言い放った。

瑞鶴「それでも……!」

瑞鶴「それでも加賀さんが立ち止まって、悩んだりするんなら……私が支えますから」


加賀「……まったく。立派なこと言うようになって……瑞鶴のくせに」

自嘲気味に加賀さんは微笑む。最近は私の前だとよく笑うようになったから、
笑顔もそこまでレアじゃなくなってきたんだけど……それでも新鮮さは薄れない。



加賀「そうね。好きになって、私は少し臆病になった……みたいね」

直後、加賀さんに抱き寄せられる。加賀さんの体は相変わらず温かくて、優しかった。

加賀「けど、あなたがそう言ってくれるなら……大切なあなたと一緒なら、私は歩き出せるわ」

瑞鶴「はい。ずっと一緒です……!」


瑞鶴「加賀さん……」

瑞鶴「好きです」

加賀「私も好きよ」

いつかと一言一句違わないやり取り。
けど……あの時とは違った音色が、私には確かに聞こえた!



と言うわけで今回のSSはここで終了です。

一応続き等も考えていて、この後は横須賀の艦隊が2-4を突破したり、
2-5に出撃した幌筵艦隊がリ級改に出会い、彼女に熊野の面影を見た鈴谷が戦いを挑んだり、
RJに煽られた加賀さんが瑞鶴に手を出そうと(性的な意味で)して仲違いになったり、翔鶴は実は生きてたり、
黒幕は実は大本営だったり等の展開がありますがそれはまた別の機会にと言うことで。

このスレは一応良い小ネタが思いついたら投下しようと思ってるので、少しの間HTML化せずに残しておきます。

もしこのSSで少しでも瑞加賀に興味を持って頂けた方がいらっしゃれば幸いです。
それでは最後まで読んで下さった皆さん、レス下さった皆さん、ありがとうございました。

たくさんのレスありがとうございます。
とりあえず続きを書くにしろ小ネタ集を書くにしろ大分時間が掛かりそうですので、
しばらく間を空けて、ゆっくりと構想を練りながら別スレにて書こうかと思います。
その際は必ず瑞加賀とわかるスレタイ、同じ酉で書きますので、もしまた見掛けたらよろしくお願いします。

それでは最後までお付き合いいただいてありがとうございました。

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