1スレ目
八幡「好感度がわかるスイッチ……?」静「うむ」【コンマ】
八幡「好感度がわかるスイッチ……?」静「うむ」【コンマ】 - SSまとめ速報
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2スレ目
八幡「それでも俺は……本物の好感度が欲しい」【コンマ】
八幡「それでも俺は……本物の好感度が欲しい」【コンマ】 - SSまとめ速報
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3スレ目
いろは「やっぱり先輩の好感度は間違ってますね」【コンマ】
いろは「やっぱり先輩の好感度は間違ってますね」【コンマ】 - SSまとめ速報
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六行でわかる前スレのあらすじ
1、大志でキマシタワー?
2、結衣でもキマシタワー?
3、そして、あざといゆきのん頑張れ
4、サブレには結衣母がいるよ!
5、だけど、小町が救われないんで
6、好感度引き継いでニューゲーム
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449668882
前スレ>>640からの続き
【翌日、昼休み】
結衣「あ、えと……ヒッキー」
八幡(ん? ……どうして由比ヶ浜が俺に話しかけてくる? 奉仕部に入らなかったから、繋がりはなくなったはずじゃ……)
結衣「その……えっと。これ、受け取って欲しいんだけど」スッ
八幡(……クッキーの包みだ。前みたいにラッピングしてないし、しかも市販品。とりあえず木炭の様なクッキーを食わなくて済んだ事はありがたいが……)
八幡「……これ、もしかして、サブレの一件でか?」
結衣「え、覚えてたの、ヒッキー」
八幡「ああ、まあな(つうか本当なら忘れてたんだが)」
結衣「あ、そっか。だったら話が早いかも。あの……これ、お礼って言うか、お詫びって言うか……」
結衣「あの時はありがとね。あと、ごめん。私のせいでヒッキー、苦労したみたいだし……。私、それ、今まで知らなくて……」
八幡「…………」
八幡(……手作りじゃないって事は、奉仕部に依頼しなかったのか、由比ヶ浜?)
八幡(……いや、奉仕部に依頼した結果、市販のクッキーに変えた可能性はある。雪ノ下あたりは絶対に根気よく教えるだろうが、それだと先に由比ヶ浜が音を上げるだろう)
八幡(だが……この時点でこんな事を言われるのは前の時と明らかに違ってる)
八幡(葉山や海老名さんの事もあるし……前の時とは少し変わった感じになったのか?)
八幡(だとしたら、これを言われるのは、もうこれで貸し借りチャラにして終わらせようという由比ヶ浜のメッセージだと言える)
八幡(俺が誕生日プレゼントを由比ヶ浜に渡した時と同じだ。これでこれまでの関係をなかった事にして、どちらも普通のスタート地点に戻ろうと由比ヶ浜は言ってきてる)
結衣「えっと……ヒッキー。受け取ってくれるかな……?」
八幡(……だったら、受け取るしかないだろうな。前と違って言い訳を述べずにさっさと)
八幡(……ぼっちの俺と仲良くしてたら、由比ヶ浜に風評被害がくる。妙な噂を立てられて由比ヶ浜に迷惑がかからない様に、あっさりと受け取ってしまうべきだ)
八幡「ああ、ありがとな。貰える物は病気以外は貰う主義だから受け取っておく」
結衣「あはははは……そっか。うん……なら、はい(やっぱり私、あの時の事で嫌われてるのかなあ……)」
八幡「……それと、由比ヶ浜」
結衣「あ、うん、何?」
八幡「あれは俺が勝手にした事だから、お前が何か気を遣う必要とかはないからな」
結衣「う、ううん。気を遣ってるって訳じゃ……(優しいってのはあると思うんだけど、私、男の子自体苦手なんだよね)」
八幡「別に俺は何も気にしてないから、お前も何も気にしてくれるな。むしろ、気にして欲しくないまである。俺は一人が好きなんだよ」
結衣「あ、うん……わかった。なんかホントにごめんね、ヒッキー……」
八幡「用は済んだか? なら、俺、飯を食いたいんだが」
結衣「あ、私、もしかして邪魔? ごめん、じゃあもう戻るから。……ごめんね」
結衣「」クルッ
結衣「」タタタッ
八幡(良し。グループ内に戻っていった)
八幡(後はさっきの事を一部始終、三浦や戸部に言えばそれでこの問題は解決だ)
八幡(お礼を貰ったというのに横柄な対応をした俺の良くない態度の方に攻撃がいき、由比ヶ浜は傷付かない。むしろ、慰められて同情されるだろう)
八幡(俺は元々ぼっちだ。一人でも問題ない。なのに奉仕部に入ったから、雪ノ下や由比ヶ浜にも色々と迷惑をかけた。もうあいつらと俺は深く関わらない方がいい)
八幡「ああ、ありがとな。貰える物は病気以外は貰う主義だから受け取っておく」
結衣「あはははは……そっか。うん……なら、はい(やっぱり私、あの時の事で嫌われてるのかなあ……)」
八幡「……それと、由比ヶ浜」
結衣「あ、うん、何?」
八幡「あれは俺が勝手にした事だから、お前が何か気を遣う必要とかはないからな」
結衣「う、ううん。気を遣ってるって訳じゃ……(優しいってのはあると思うんだけど、私、男の子自体苦手なんだよね)」
八幡「別に俺は何も気にしてないから、お前も何も気にしてくれるな。むしろ、気にして欲しくないまである。俺は一人が好きなんだよ」
結衣「あ、うん……わかった。なんかホントにごめんね、ヒッキー……」
八幡「用は済んだか? なら、俺、飯を食いたいんだが」
結衣「あ、私、もしかして邪魔? ごめん、じゃあもう戻るから。……ごめんね」
結衣「」クルッ
結衣「」タタタッ
八幡(良し。グループ内に戻っていった)
八幡(後はさっきの事を一部始終、三浦や戸部に言えばそれでこの問題は解決だ)
八幡(お礼を貰ったというのに横柄な対応をした俺の良くない態度の方に攻撃がいき、由比ヶ浜は傷付かない。むしろ、慰められて同情されるだろう)
八幡(俺は元々ぼっちだ。一人でも問題ない。なのに奉仕部に入ったから、雪ノ下や由比ヶ浜にも色々と迷惑をかけた。もうあいつらと俺は深く関わらない方がいい)
連投失礼
沙希「……って事でさ。昨日は邪魔して悪かったね。謝っとくよ」
三浦「別に。もういいし。つか、何回も謝られると逆にうざったいんだけど」
沙希「わかった。……ただ、由比ヶ浜に当たるのだけはやめなよ。あの子、何も悪くないんだし」
三浦「はあ? いつ、あーしが結衣に当たったって言うの?」カチンッ
沙希「当たってないならそれでいいよ。じゃ」クルッ
三浦「ちょっと! あんたさあ」
戸部「あー、ストップストップ、優美子! 落ち着こうぜ、マジで!」
三浦「……っ」フンッ
戸部「そんなイライラすんなって、な? ほら、結衣と比企谷君の話も終わったみたいだしー」
三浦「……わかってる。にしても……」チッ
結衣「お待たせー、優美子」タタタッ
三浦「ああ、うん。で、どうだった? 比企谷、何か言ってた?」
結衣「あ、えっと……(あれ? 優美子、なんか知らないけどめっちゃ機嫌悪そうだし……)」
三浦「で?」
結衣「あ、うん! あ、あの……気にしなくていいみたいなそんな事言われたかな。(本当は、関わってくるな、みたいな空気出してたけど、そんなの言えないし……)」
三浦「ふうん……。なら、別に向こうは怒ってなかったって事? 良かったじゃん、結衣」
結衣「そ、そうなんだよね。良かったかなー、なんて」
戸部「うしっ! それなら俺、ちょっと比企谷君と話をしてくるわ。一緒に飯でも食おうぜって誘ってくる。いつも一人で食ってるしさー」
三浦「そうだね。なら、あーしも行くわ。ほら、結衣も」
結衣「え!? わ、私も!?」
三浦「あんた、さっきクッキー渡してんじゃん。結衣がいた方がこっちも向こうも話がしやすいっしょ」
戸部「だべ。じゃあ行こうぜー。比企谷くーん!」タタッ
三浦「ほら、結衣。さっさと来るし」スタスタ
結衣(うわー……。まずいよ、どうしよ、どうしよ)オロオロ
戸部「ちょー、比企谷君。折角だしさー、比企谷君もこっちで飯とか食わね?」
八幡(は? おい、何だこれ。俺、嫌われて当然の事したんだぞ? 何で笑顔で飯とか誘われてんの?)
三浦「あんたさあ、ずっと一人でご飯とか食べてんじゃん。さっきの結衣の件もあるしさあ、他にも聞きたい事とかあるし。だから、あーしらのとこに来なって」
八幡(しかも三浦まで来たぞ。もしかして、笑顔で俺、便所に呼び出しとかされてんの? ぼっちのお前はここで食え的な)
結衣「あ、えと……い、嫌ならいいんだよ。無理言ってるのこっちの方だしさ……」
八幡(そして、由比ヶ浜が何かに怯えた様に目線を斜め下に向けている。これはボコられるから、上手い事断って逃げろって事か? いつのまにか、かなりピンチになってるんだが、俺)
戸部「ほらほら、比企谷君、こっち来て食おうぜ!」
八幡(考えろ、考えるんだ八幡。ここから上手い事逃げ出す起死回生の一手を!)
三浦「なに、あんた? もしかして、あーしらの事、嫌ってんの?」
八幡(ヤバい。脅しを受けてる。嫌いだとか言ったら、容赦ない一撃が待ってるはずだ。というか、どっちにしろ、このまま拉致されるパティーンですか、俺?)
八幡「いや、あれだ……。そういう訳でもないが、俺はここが好きだからな……」
八幡「じ、自分の席じゃないと落ち着かない人間でな。悪い……」
三浦「は? なにそれ?」
八幡(流石にきついか……。だが、ここから一歩でも動いたらマジで便所飯直行コースだろ。教室にいる限りは手を出してこないだろうから、何とかここはやり過ごすしかない)
三浦「めんどくさい奴だし。つか、もういいし」
八幡(助かった……)ホッ
結衣(良かった……)ホッ
三浦「戸部。今日はここでご飯にしよ。ちょいそっちの机寄せて」
戸部「オッケー。じゃ、結衣は俺らの弁当持ってきてくんない? その間に用意しとくわ」ガタッ、ガタッ
八幡(は!?)
結衣(ええっ!?)
【数分後】
八幡(……何故か三浦たちと飯を食っている俺がいる)
三浦「でさ、何? あんた、骨とか折ったんっしょ? あーし、骨折とか経験ないけど、あれ、どんな感じなん?」
戸部「つーか、車来てんのに突っ込むとかマジ怖いしー。よく飛び込んだわー、それ」
八幡「……なんかもう反射的なもんだったからな。あと、骨折した時の痛みは覚えてないぞ。俺、気を失ってたし」
三浦「気が付いたら病院みたいな、そんな感じなん?」
戸部「テレビとかでよくあるパターンとか、マジで?」
八幡「……おう。マジで。目が覚めたらベッドの上で寝てた(というか、何で俺も普通に話してんだよ)」
結衣(……サキサキと一緒に食べる約束してたけど、言い出せる雰囲気じゃないし)
結衣(サキサキ、ごめん。怒ってないかな……)チラッ
沙希「……」スッ
結衣(……? 口パク……?)
沙希(ま・た・あ・し・た)
結衣「!」パアッ
八幡「……というか、その……俺からも一つ聞いていいか?」
三浦「ん? 何?」
八幡「葉山とか……海老名さんは誘わないのか……? 飯に」
三浦「海老名……? 誰それ?」
戸部「いや、俺も知らないしー」
八幡(名前も覚えられてないのかよ!)
海老名(今、何か私の名前が出たような……)チラッ
海老名(まあ、どうでもいいか。それより、今日はとべはちとかいうカップリングが出来てるなんて。ぐふふふ……)ジュルリ
八幡(そして、何か嫌な視線を感じる……! 気のせいだと誰か言ってくれ)
八幡「じゃあ……あれだ。葉山は……?」
三浦「あー、あいつね」
八幡(凄いめんどくさそうな言い方)
戸部「隼人君はさー、最初の方はいいかなってつるんでたんだけどー」
八幡(最初の方はって事は……後から追い出されたのか、あいつ……。本当にあの好感度が引き継がれた感じだな……)
三浦「なんつーかさあ。性格つーか、性根が腐ってんだよね、あいつ。だからつるむのやめたし、ハヤオとは」
八幡(それどこの映画監督だよ? しかも崖の上に立ってそうな感じまでするぞ)
戸部「ま、そういう事でさー、一人抜けてどこか物足りないつーか。だから、比企谷君も俺らとつるまない? 比企谷君ならマジ歓迎するし」
三浦「あーしも。あんた、結構話しやすいしさ。それに良い奴だってわかってからね。つるんだら楽しそうじゃん?」
八幡(そういえば、前のあの好感度の時も似たような事を言われたな……。ある意味、これが本物か……)
八幡(戸部や三浦の言葉は、多分嘘や冗談じゃないだろう。それならもう……)
八幡「……わかった」
戸部「マジで! いや、良かったわー、比企谷君、あんま乗り気じゃなさそうだったしー」
八幡(……留美とかの事を考えると、キャンプには参加したいからな。そう、これはその為であって、断じて俺が友達が欲しいとかそういう訳ではない。いや、ホントに)
八幡(……それに、『あの事』もあるしな……。出来れば葉山グループや奉仕部とは完全に縁を切りたくはない。間接的にでも接触を持っておくべきだ)
三浦「ま、あーしらもこんな誘い方をしたの初めてだしさあ。つか、普通ならクサくて有り得ないんだけど」
戸部「いや、でもー、そういうのが青春とか言うんじゃないの、優美子ー? 俺的には、こういうのもアリだしー」
八幡(言っとくが、俺的には絶対にナシだからな。青春ドラマのノリとか気持ち悪くて引くタイプだ)
結衣(うーん……また男の子が増えるのかあ。可愛い女の子ともっと友達になりたいのに……)チラッ
八幡(……とか、考えてそうだな。由比ヶ浜が女の子好きならの話だが。悪かったな、俺で。本当に)
結衣(でも、まあ、ヒッキーだし……戸部っちよりは全然いいか……)
結衣(私、嫌われてるっぽいけど……そこは仕方ないみたいなところあるしね。うん。これからちょっとずつ仲良くなっていこう)
第二話
『一目で尋常じゃない材木座と見抜いたよ』
【昼休み、教室】
戸部「さあて、そんじゃ飯にすっべ!」トコトコ
三浦「あーし、もうお腹ペコペコだし」トコトコ
戸部「ほい、机つけてーと」ガタッ、ガタッ
三浦「あーし、今日ここね。席、借りっから」ストン
八幡(というか、何であれ以来、俺のとこに来んの? マジであの時の、ここの席が好きとかいう口からでまかせ信じてるのか?)
八幡(いや、それ以前の問題として、クラスの連中に俺がグループの中心みたいに勘違いされちゃうから、やめて。俺、オマケみたいなもんだからな。むしろその内、戦力外通告されるまである)
葉山「……」ジィーッ
八幡(そして、何故か葉山から敵意のこもった視線が毎回の様に送られてくる。お前、少しは擬態しろよ。何でお前がぼっちになってんだよ)
海老名「むふ……むふふふ……」ジィーッ
八幡(そして、その視線を勘違いして絶対に良からぬ妄想にしている人からも、やけにニヤニヤした視線がくるんでやめてくれ。正直、鳥肌が立つ)
三浦「つかさあ、比企谷、あんた今日もパンなん? それにまた甘ったるいコーヒー買ってっし。そんな食事、毎回してたら栄養片寄るっしょ」
八幡(そして、あーしさん。なんかやたら俺の心配してくるのやめてくれ。多分、母ちゃん目線で見られてるんだとわかってはいるが、間近でそういう事を言われると、妙な勘違い起こしちゃうかもしれないから)
戸部「つうか、比企谷君、この前のテスト超良かったらしいじゃん? 俺なんかめっちゃ悪かったのにさー」
八幡(いや、俺、高校生活二回目だからな。復習何回もしてるようなもんだし、テストの内容だって微妙に覚えてるから。悪くなるはずねえんだよ)
戸部「良かったら、今度俺の家で勉強会とかやらね? テスト前だけでもさあ、教えて欲しいっつーかー。オナシャス」
八幡(おいおい、人の家で勉強会とか、それもう仲の良い友達レベルと勘違いしちゃうだろ。ずっとぼっちだった人間をいきなり段階もおかずにリア充ワールドに放り込むのはやめてくれ。どうすればいいか本気でわからないんだぞ)
結衣「……」オドオド
八幡(そして、由比ヶ浜は……。ん……?)
三浦「結衣ー、あんたも早く来なよ」
結衣「あ、えっと、ごめん優美子……。今日は私、川崎さんと一緒に食べようかなあって……」
三浦「はあ?」
結衣「」ビクッ
八幡(しまった。これがあったか……)
三浦「あんたさあ、この前からやけに川崎さんとつるんでるよね。何? あーしらと一緒にいるの、嫌なん?」
結衣「ち、違うの……そういうんじゃなくてさ」
三浦「なら、どういう訳?」
沙希「」トコトコ
沙希「三浦、別にそういうんじゃないって。由比ヶ浜は嫌だなんて言ってないでしょ。ただ、私とご飯一緒に食べるってだけでさ、そういうのやめなよ」
三浦「あーしは今、結衣と話してんだけど。何で川崎さんがしゃしゃり出てくるん? 引っ込んでて」
結衣「あ、あの……」オロオロ
八幡(女子特有のグループ争い……。前は川崎じゃなく、これが雪ノ下だった。あの好感度を考えればこうなってもおかしくはなかったが……)
八幡(だが、俺はどうすればいい。前は葉山が仲介に入って収まったが……)チラッ
葉山「…………」モグモグ
八幡(あいつ、無視を決め込んでるぞ。そういや、川崎の事を大嫌いだったな。三浦の感情を逆なでする可能性もあるし、干渉する気は間違いなく0だ。これ、まずくないか……?)
八幡(本来なら、この一件は由比ヶ浜自身が解決しなければいけない問題なんだ)
八幡(人と合わせる事、空気を読む事、そればかりを気にして自分の意思や意見が出せない。それを直すにはやはり自分自身が変わらなければならない)
八幡(とはいえ、変わる事が決して良い事とは俺は思わない。現状を維持するのもやはり大事な事だろう。だが)
八幡(それを続けていたら、由比ヶ浜の場合は三浦や川崎の事で板挟みに合い続けるのは確実だ。問題はそこにある)
八幡(要は、由比ヶ浜がこれ以上三浦から文句を言われなければいい訳だ。その後の由比ヶ浜自身の事は由比ヶ浜自身で決めればいい。俺が解決だとか手助けするとか、そんなのは思い上がりだ)
八幡(だとしたら、俺のやるべき事は……)
沙希「……だからさ、そういうんじゃないって。三浦と結衣が友達なのは変わんないんだし」
三浦「そんなん決まってるっしょ。つか、あーしは結衣に尋ねてるんだけど。マジで黙っててくんない?」
沙希「そうは言ってもさ。私も関係ないって訳じゃないし」
結衣「あ、う……」オロオロ
八幡「」ガタッ
戸部「え? ちょっ、比企谷君?」
八幡「」スタスタ
八幡「俺と……い、一緒に飯を……食わないか、戸塚?//」
戸塚「え? 僕? 何で?」キョトン
戸部「比企谷君までよそ行くの!? それ、ないっしょー!」
三浦「は?」クルッ
結衣「え?」クルッ
沙希「……?」
八幡(これでいい。こうすれば俺にも非難の矛先がいく)
八幡(というよりも、三浦からしたらグループから裏切り者が二人出たようなものだ。このままだとグループ崩壊の可能性まで出てくる)
八幡(更に言えば、戸塚は戸部と相性がかなりいい。戸部も上手く誘ってしまえば今度は三浦が孤立する)
八幡(どうする、三浦? このままだと収拾がつかなくなるぞ。どう動く?)
三浦「ちょい、比企谷。あんたまで何してんの? それ自分勝手過ぎっしょ」
八幡「いや、話が長くなりそうだったからな。男は男だけで食わせてもらおうかと思っただけだ」
八幡「戸部も戸塚と一緒に食わないか。男同士だけでしか出来ない話もあるだろ」
海老名「!///」ブハッ
八幡(おい……誰かあの人止めてあげて。物凄いにやけ面でダラダラ鼻血流してんぞ)
戸塚「え、でも何か急って言うか……//」
戸塚「僕、二人の事を全然知らない訳だし///」モジモジ
八幡(なにこの可愛い生き物。男だとわかってても堕ちちゃうだろ、こんなの//)
戸部「…………//」ボーッ
八幡(だが、それで良し。戸部にも効いている。今が懐柔するチャンスだ)
八幡「あー、それはあれだ……。知らないからわかり合おうみたいな。むしろ、わかり合いたいみたいな、そういう感じのだな」
八幡(おいおい、何だよこの青春一直線な台詞は。こんなクサイ台詞言うとか、穴があったら入りたいどころか、穴を掘ってそこで死にたいだろ。恥ずかしすぎる)
海老名「わかり合うとか……もうこれは!///」ブハッ
八幡(そして、海老名さんが貧血起こしそうな感じで血を吹いてるんだが。あれだけ派手なリアクションしてるんだから、誰か気にかけてあげて!)
八幡「……戸部もいいよな? 戸塚と一緒に飯で」
戸部「あー、ま、たまにはそういうのもアリっつーかー。うん//」
戸塚「僕もいいよ。いきなりで驚いちゃったけど、二人の事、前から気にしてたし//」
八幡(よし、落ちた)
三浦「っ……!」
沙希「……なら、私らも三人で食べる? 三浦が良ければの話だけど」
結衣「あ、うん! ね、そうしよ、優美子! 皆で食べようよ!」
三浦「……川崎さんと? あーしが?」
沙希「私は別にいいよ。あんたの事も少し興味あったし」
結衣「優美子、お願い。いいでしょ? ヒッキー達も向こうで食べるみたいだしさ。ね?」
三浦「っ……わかったし。ただ、あーし、言いたい事は言ってくタイプだから、川崎さんが気分悪くなっても知らないけど」
沙希「いいよ。変に本音とか隠されるより、私、そっちのが好きだし」
三浦「あ、そ。なら、もういいし」ストン
結衣「良かったあ。ごめんね、優美子」ストン
三浦「何で謝ってんのか全然わかんないし」
沙希「ま、いいじゃん。こういうのはさ、気持ちだよ気持ち」ストン
八幡(……まだ不安は残るがとりあえず丸く収まったみたいだな。とりあえずはこれでいいだろ)
【その日の授業後】
戸部「比企谷君、今から帰りー?」ポンッ
八幡「……おう(肩とかいきなり叩くのやめてくれ。経験ないからびっくりしちゃうだろ)」
八幡「戸部は……サッカー部だよな、今から」
戸部「そ、ちょい空気が悪いんだけどねー。隼人君、上手いんだけど人望ないから、そのせいで周りがギスギスしてるとこ少しあるしー」
八幡(高性能ぼっちってのも考えものだな……。周りに嫉妬やら食らって更に環境が悪化していくパターンだ。やはりぼっちは目立たないに限る)
戸部「比企谷君はー、部活とか入んないの? つか、サッカー部入ったら俺的にもいいんじゃないかって思うんだけどさー」
八幡「いや……流石にこんな中途半端な時期から入ってもな。それに、俺は基本団体競技が嫌いでな。パスがいくら待っても回って来ないっていうトラウマを思い出す」
戸部「いくらなんでもそれは盛りすぎっしょー。そのネタ、マジでウケるしー」
八幡(完璧に事実なんだがな……。自虐ネタがネタとして扱ってもらえない)
三浦「あれ、戸部。まだ部活行ってなかったん?」
戸部「ちょっと比企谷君をサッカー部に勧誘してたんよー。断られたけどー」
結衣「そういえばサキサキは部活とかやってないの?」
沙希「私は他にやる事があるからね。時間の無駄はしたくないんだ」
戸部「戸塚君はテニス部だっけ? 向こうは人間関係とかどうなん?」
戸塚「ああうん……何て言うのかな。皆、仲はいいと思う。ただ、人が少なくて困ってるところはあるんだけど……」
八幡(……いつのまにかだ。川崎と戸塚が加入して三浦グループがメンバーチェンジされてる)
【廊下】
沙希「……ちょっと待って」ピタッ
結衣「え?」
三浦「どしたん、川崎?」
沙希「何か向こうに変なのが待機してる」
戸塚「変なの? どういうこ……あ」
戸部「あー、マジでいるわー……。誰なんあれー?」
材木座「ふふふふふふふっ。待ちわびたぞぉぉ、八幡っ!!」キラン
八幡(材木座……。流石にそこは空気を読んで欲しかった……)
沙希「……もしかして、比企谷の知り合い?」
八幡「……ああ、まあな。材木座って名前だ」
三浦「つか、あの格好なに? 何でコートみたいなん羽織ってんの?」
戸塚「随分、個性的なんだね……比企谷君の知り合いって」
八幡「……あれでも俺の唯一の親友なんだ」
戸部「マジで!? 比企谷君、それパないわー!」
材木座「あ、う……八幡? ちょっと良いか」チョイチョイ
八幡(……流石に材木座でも動揺するよな、そりゃ)
結衣(別に言うほど変じゃないと思うんだけど、私の方がおかしいのかな……?)
材木座「一体、どういう事だ、八幡? 何故、お主があのようなリア充どもと一緒にいる? 貴様こそ真のぼっちではなかったのか?」ヒソヒソ
八幡「……話すと長くなるが、実際のところは俺にも謎な面が多い。いつのまにかこうなってて、俺も驚いてる」ヒソヒソ
材木座「貴様、我と言う親友がいながら、一人でぼっちから離脱するとはどういう事だ。真のぼっちを二人で目指すと夕陽に固く誓った仲ではないか。我は手酷く裏切られた気分だぞ」ヒソヒソ
八幡「お前とそんな事をした覚えはない。勝手に思い出を捏造するな」ヒソヒソ
三浦「…………」
結衣「…………」
沙希「…………」
戸塚「…………」
戸部「…………」
三浦「で、その材木座だっけ? あんた、こんなところで何してるん? そんなに紙の束抱えて」
材木座「う……わ、我はだな。アカシックレコードより得た我が魂の記憶とも言えるものを、この世に残す使命を帯び」
三浦「訳わかんない事グダグダ言うなし。さっさと答える」
材木座「あ、う……しょ、小説を書いたのでその感想を貰いたくて……」
八幡(流石、三浦。あの材木座を速攻で黙らせた)
八幡(というか、奉仕部に持っていかなかったのか。あの残念過ぎた小説を。前も俺の方に持ってきたという事かよ)
戸部「ちょっと比企谷君。あれって、何? ひょっとして中二病とかいうやつ?」
八幡「……そうなるな」
沙希「中二病?」
結衣「ヒッキー、何それ?」
戸塚「どういう病気なの?」
八幡「ああ、それはだな……」
沙希「ふうん……。世の中にはそういう奴もいるんだね」
戸塚「妄想なんだね、つまり」
八幡「容赦なく言うとそうなる」
戸部「パないわー、マジでー」
三浦「で、その妄想を書いたから、見て感想を欲しいって事なん?」
材木座「そ、そうなのだ……。ネットで晒すと辛辣な意見が多そうで、我の心が砕け散る可能性があるからな……。だから、我が魂の盟友とも呼べる八幡に感想を聞こうと、こうして待ち伏せていた次第だ」
八幡(……何で待ち伏せる必要があるんだよ)
戸塚「だけど、これ。結構、書いた量多いよね……。読むの大変そうだなあ」
材木座「それで、どうだろうか。我としては、八幡のみならず、他の多くの意見も聞きたいところなのだが」
三浦「感想ねえ……」
結衣「あ、私はしてもいいよ。部活とかやってないし、結構時間あるから」
沙希「私は……どうしようか」
戸塚「僕も部活あるから……うーん」
戸部「どうすっかなー……」
シークレット好感度
三浦→材木座 ↓1
戸部→材木座 ↓2
戸塚→材木座 ↓3
沙希→材木座 ↓4
三浦→材木座 72
戸部→材木座 78
戸塚→材木座 97
沙希→材木座 20
三浦「あーしも見て感想言ってやっていいよ。あんた、訳わかんなくてちょっと面白いし」
戸部「俺もオッケー。部活の後に読む事になるからー、今日中は無理かもしれないけどー」
戸塚「僕もそれで良ければ// 頑張って読んでみるね」ニコッ
材木座「なんとー!! この材木座、感動に震えているぞぉぉっ!! 八幡!」
八幡「お、おう……」
材木座「良い友を持ったではないか。お主には勿体ない程にな」ニカッ
八幡「……おう。ありがとな//」
沙希「悪いけど、私はパスするよ。読む時間とかないんでね」スタスタ
結衣「あ、沙希! ……あーあ、行っちゃった」
戸塚「川崎さん、興味なかったのかな……」
三浦「ま、いいっしょ。比企谷を合わせて五人も読むんだし」
戸部「だべ。じゃあ、その持ってる小説もらっていい?」
材木座「うむ。皆の者、受け取ってくれぇ!」サッ
八幡(意外だ……。三浦とか戸部、絶対に引くと思ってたんだが……)
八幡(あいつら、普通にいい人過ぎじゃね? そして、戸塚の何故かはにかんだ様な表情が気になる)
八幡(まさか、材木座までとか言い出さないでくれよ、戸塚。俺はそれだけが不安だ)
【そして、翌日】
戸塚「ん……」コクリ、コクリ
八幡(眠そうだな、戸塚。無理してあれを読んだって言ってたしな。俺は一度読んでるからいいが、他の連中が悲惨だ)
戸部「あふっ……」
八幡(戸部も部活終わった後に途中まで読んだらしい。今日はあいつも流石に元気がない)
沙希「ああ、そういえば昨日のあれ、どうだったの? 面白かった?」
結衣「……えっと、難しい漢字が沢山あったかな」
沙希「?」
結衣「ね、優美子はどうだった? 私、あれ途中まで読んで寝ちゃったんだよね」
三浦「1ページ読んで読む気なくしたし」
結衣「だ、だよね……。ちょっときついよね、あれ」
三浦「あーしも無理して10ページぐらいは読んだんだけどさ。そっから先は無理。超つまんね」
八幡(だよな……。雪ノ下の時よりストレートな分、材木座にとってはきつそうだが……)
【授業後、部室】
雪乃「…………」ペラッ
ガラッ
葉山「やあ、雪ノ下さん。こんにちは」
雪乃「こんにちは」
葉山「今日はサッカー部は休みにしたから、こっちに顔を出しに来たよ」
雪乃「そう」
葉山「ところで、そろそろ何か依頼がないかな? 未だに一件も来てないんだけど」
雪乃「ないわ」ペラッ
葉山「それは残念。二人で何か共通の事をするというのは、良いコミュニケーションに繋がるからね」
雪乃「あなたと良いコミュニケーションを取る気は、私にはあまりないのだけど」
葉山「という事は多少はあるという事だね。僕もまだ脈ありと見ていいかな」
雪乃「あなたのそのポジティブのところはある意味感心するわね」
葉山「それはどうも」
雪乃「皮肉を言ったのだけど?」
【同時刻、教室】
材木座「……それで、我の小説はどうだったのであろうか?」
三浦「超つまんなかった。二度と読もうとか絶対に思わないぐらい」
材木座「ぐはあっ!!」
戸部「頑張って良いとこ探したんだけど、無理だったわ。ごめんな、材木座君」
材木座「ぐふうっ!!」
結衣「で、でも、漢字とかの勉強にはなったと思うよ、きっと」
材木座「ぬはあっ!!」
戸塚「あの……面白いって思う人にはきっと面白いと思うよ。だから、あの、めげないで」
材木座「ふぐうっ!!」
八幡(めった切りだな……。あの時とどっちがマシだったんだろうか)
材木座「は、八幡……。八幡はどうだったのだ……?」
八幡(前の俺は『何のパクリだ?』と尋ねて材木座にダメージを与えてしまった。だから、今回の俺はこう言う)
八幡「で、これ何のパクリだ?」
材木座「ぐほおっ!!」
八幡(すまん、材木座。だが、この過程を経てお前が更に頑張る事を俺は知っている)
八幡(言ってみればこれは、獅子が我が子を千尋の谷に突き落とす様なものだ。頑張れ、材木座)
材木座「……ふ、ふふふふ。まさか、デビュー前にしてこの様な試練が与えられるとは……」
沙希「試練っていうか、素直な感想でしょ」
材木座「いや、これは試練なのだ! 我を更に高みへと引っ張る為のな!」
八幡(まあ、間違っちゃいないがな……)
材木座「それに何より、酷評とはいえ、人に好きなものを読んでもらい、その感想を聞けるというのは良いものだ」
材木座「読んでくれた皆の者にはこの材木座、感謝をしているぞ」
三浦「ま、最初は誰でも下手って言うしね」
戸部「書いてる内に自然に上手くなっていくっしょ」
結衣「そうだよ、一回ぐらいで諦めたら勿体ないし」
戸塚「また書いたら読むからさ。元気出してね」
沙希(……あんま、無責任な事は言わない方がいいと思うんだけどね)
材木座「温かい……。これほどまでに人の温かさを感じた事がこれまであるだろうか、八幡っ!」
八幡(いや、知らないけどな……)
八幡(でも、あいつもこれまで悲惨だったからな。今回の件で付き合いみたいなものが出来ればいいが……)
シークレット好感度
材木座→三浦 ↓1
材木座→戸部 ↓2
材木座→戸塚 ↓3
材木座→沙希 ↓4
コンマ了解。寝ます
材木座→三浦 53
材木座→戸部 15
材木座→戸塚 72
材木座→沙希 69
材木座「それではな、皆の者。我はまた執筆作業へと戻る」
材木座「だが! 受けたこの恩は忘れぬ。いつか危機が訪れた時は遠慮なく我を呼ぶがいい!」
材木座「我はその時また現れる! そして、困っている友の為に、全力を尽くして戦ってみせようぞ!」
三浦「わかった、わかったって。読んで感想言っただけだなんだから、あんま気にするなし」
戸部「そうそう、俺ら大した事をしてない訳だしー」
結衣「また普通に遊びに来ればいいよ。待ってる」
戸塚「うん。また来てね、材木座君」ニコッ
沙希(……もう来なくていいんだけどね)
八幡「……良かったな、材木座」
材木座「ああ! それではさらばだ! 三浦優美子、戸部タケル、由比ヶ浜結衣、戸塚彩加、川崎沙希! そして、八幡!!」
戸部(今、俺だけ名前間違えられなかった? マジで!?)
材木座「」ババッ!!
材木座「結界!!」バンッ
八幡(……またやってるのか)
八幡(……こうして材木座は去っていった)
八幡(小説の結果は、やはり誰が見ても残念なものだった。だが……)
三浦「でもさあ、あいつのキャラ超面白かったし。悪い奴じゃなさそうだよねえ」
戸部「それ言えてるしー。今度、材木座君も誘ってどっか遊びに行く?」
戸塚「あ、いいね、それ。人数多い方が楽しいし」
結衣「私もそれ賛成! やっぱり色々な人がいた方がいいよね!」
沙希「じゃ、私はこれで」クルッ
結衣「ダメー! サキサキもだよ、ね、優美子?」
三浦「ま、いいんじゃないの。川崎抜けると、女、少ないし」
沙希「……意外だね。三浦がそんな事言うなんて」
三浦「別に、川崎の事あーしそこまで嫌ってないし。つか、結衣がやけに気に入ってっから、ハブとか嫌じゃん?」
沙希「ハブね……。私、いつのまに仲間みたいな扱いになってたんだ」
戸部「一度、一緒に飯食えばもう仲間みたいなもんっしょ!」
戸塚「それ、もう少年漫画とかのノリだよね。でも、いいと思う、そういうの」
沙希「お人好しだね、あんたら……」ハァ
沙希「ま、いいけどさ。時間が空いてたら私も行くよ。あ、そうだ、三浦。あんたの携帯番号教えて。連絡取れないと困るし」
三浦「ん。ちょい待つし」スッ
八幡(……材木座も川崎も、元は三浦たちとほとんど関わりがなかった。それが今、変わりつつある)
八幡(川崎はどうなるかわからんが、少なくとも材木座にとっては明るい未来になりそうだな)
三浦「そういや、比企谷。あんたも。あーし、まだケー番聞いてなかったし」
八幡(……他人から聞かれるとか一年ぐらい前の材木座以来だ。ヤバい、ちょっと嬉しい)
戸部「ていうか、それ俺もー。戸塚君もまだ聞いてないし」
戸塚「あ、うん。ちょっと待って」
結衣「サキサキ、私にも教えてよ」
沙希「ああ、うん。赤外線いける?」スッ
八幡(番号交換……。それが一通り終わった後には、俺のアドレスに一気に五人も登録が増えていた)
八幡(訓練されたぼっちである俺は、もちろん自分から使う事はないだろう。中学時代の悲惨な経験もあるからな)
八幡(だが、この先に少しだけ違った未来が見えた気がしたのも確かなのだ……)
第三話
『比企谷八幡は静かに物事を解決していく』
【体育の授業】
八幡(今日はテニスだ)
八幡(だが、今の俺は壁打ちをする必要がない。クラスには戸塚も戸部もいるから、俺はそのどちらかとペアを組めるからだ)
八幡(さらば、ぼっちの日々。さらば、一人壁打ちの日。いざ)
戸塚「あ、戸部君。お願いがあるんだけど……僕とペアを組んでもらってもいいかな?//」←上目遣い
戸部「あ……うん// 俺で良ければ」
八幡(……いや、知ってたけどね。つうか、俺、壁打ちとか好きだし)
八幡(それに戸塚と一緒に前に訓練したから、俺もテニスの腕上がってて、むしろ練習なんてしなくていいまであるし……)
八幡「」ポーン、スパンッ ←壁打ち中
八幡「」ポーン、スパンッ
葉山「いくよ、それっ!」パシンッ!!
大岡「曲がったよ、スゲー!」
葉山「ただのスライスだよ、大袈裟だな」
八幡(葉山は大岡とか。あいつのコミュ能力は流石だな。三浦グループから追い出されても、また新しい派閥を形成しつつある)
八幡(だが、肝心の葉山自身が、仲の良いグループみたいなものを作りたがってないのか、特定の誰かとつるむみたいな事を避けている節がある)
八幡(好感度の時の葉山は吹っ切れていたからな……。グループのしがらみみたいなのを嫌っているんだろう。ある意味、小町によく似てるな。誰とも会話するが誰とも仲良くしないタイプになってきている)
戸部「うわ、流石、戸塚君! テニス部だけあって、めっちゃうまいわー」
戸塚「そんな事ないよ。それに戸部君も上手だよ//」
戸部「いや、それお世辞っしょー。俺とか超下手だし」
戸塚「ううん。ラケットの振り方とか、すごいサマになってる。フォームが綺麗なんだ//」
戸部「マジで? イケてる?」
戸塚「うん//」
八幡(……いや、全然羨ましくとかないし。俺も混ざりたいとかそんな事思う訳ねーし)
八幡「」ポーン、スパンッ
八幡「」ポーン、スパンッ
八幡(にしても……)ポーン、スパンッ
八幡(戸塚の依頼がそろそろ奉仕部にいく頃だな。あの時は由比ヶ浜が戸塚を連れてきたが、今のところ、由比ヶ浜は奉仕部に関わってないみたいだし、どうなるのか)ポーン、スパンッ
八幡(そして、もし奉仕部に依頼がいったら、その後にどう三浦を止めるかだな。今の内から考えておくか……)ポーン、スパンッ
【授業後】
戸塚「比企谷君、ちょっといいかな?」
八幡「ん? どうした、戸塚?」
戸塚「実はさ……相談があるんだけど」
八幡(来たか……。しかも、由比ヶ浜の方じゃなくて俺の方に)
【説明後】
八幡「用件はよくわかった。……ただ、俺はテニスにそこまで詳しい訳じゃないから、あまり力になれないと思うぞ。だから、助っ人を頼んでもいいか」
戸塚「助っ人って?」
八幡「……奉仕部っていう部活があってな」
戸塚「奉仕……部?」
【部室】
八幡「」コンコン
「どうぞ」
ガラッ
八幡「……ウス」
戸塚「こんにちは」
雪乃「こんにちは」
葉山「……ヒキタニ。それに、戸塚も」
八幡「葉山……。お前、何でここに?」
戸塚「あ、葉山君、やっはろー」
雪乃「……あなたの知り合いなの?」
葉山「知り合いと言えば知り合いかな……。ただのクラスメイトだけどね」
【説明後】
雪乃「……そう。あなたの用件はわかったわ。そして、依頼の内容も」
八幡「つう訳で、お願いしてもいいか」
葉山「正直、気が乗らないな。だが、依頼は依頼か……。俺は構わないが、雪ノ下さんはどう思う?」
雪乃「特に問題ないわ。やり方も特訓とシンプルな手段で済むものだし」
戸塚「あ、じゃあ!」
雪乃「ええ、奉仕部としてこの依頼を受けるわ」
戸塚「ありがとう、雪ノ下さん。僕、嬉しいよ」ニコッ
雪乃「///(可愛い)」ドキッ
雪乃「いいえ……奉仕部として当然の事をするだけよ//」ドキドキ
葉山(……雪ノ下さんのその反応。あまり面白くないな。戸塚は敵な様な気がする)
八幡(ああ、そういえば、まだ雪ノ下に戸塚の性別を伝えてなかったな。多分、誤解してるぞ、あいつ)
八幡「……それじゃあ話もまとまったし、俺はこれで帰るな、戸塚」ガタッ
戸塚「え? 比企谷君?」
八幡「言ったろ。俺じゃたいして役には立てないって。特訓するって事なら、葉山も雪ノ下もいるし、俺はむしろいない方がいいだろ。邪魔にしかなりそうにないからな」
戸塚「邪魔なんて、そんな事は……」
雪乃「いいえ。やる気が彼にないというなら、引き上げてもらった方がいいわ。長くなりそうな事だし、こちらのモチベーションにも関わってくるのだから」
八幡「そういう事だ。じゃあな」スタスタ、ガラッ
ピシャン……
戸塚「比企谷君……」
八幡(……これでいい。俺は雪ノ下や葉山から好かれてないからな。何より、戸塚と雪ノ下の相性を考えると、本当に俺が邪魔者になりかねない)
八幡(ただ、葉山がいたのだけは誤算だな……。あいつ、いつのまに奉仕部に入ってるんだ)
八幡(戸塚と葉山の相性は確か悪かったはずだから、妙な感じにならないといいが……。とはいえ、あいつも火のないところにわざわざ火をつけるような真似はしないだろう……)
八幡(それと、三浦か……。ただ、三浦は戸塚の事をそれなりに気に入ってるから、あいつが特訓してると言えば、それで引っ込んでくれるとは思う)
八幡(あくまで多分だけどな)
【特訓前】
雪乃「え……。あなた、男の子なの?」
戸塚「うん。よく間違われるんだけどそうだよ。僕、男だから」
雪乃「……そう」
戸塚「あれ? どうしたの、雪ノ下さん?」
雪乃「いいえ、何でもないわ……。それでは早速始めましょうか」
戸塚「あ……うん(何か落ち込んだ顔してた?)」
葉山「…………」
【それから数日後、昼休み、教室】
八幡「あれからどうだ、戸塚?」
戸塚「うん。雪ノ下さんが親切丁寧に特訓に付き合ってくれてね。凄いよね、雪ノ下さん。テニスも上手いしテストの成績もいいし、僕、憧れちゃうよ//」
八幡「そうか……。ちなみに、葉山はどうだ?」
戸塚「葉山君? 葉山君も普通に練習に付き合ってくれるよ。ただ、淡々としててあまり喋ってくれないから、僕としてはちょっと苦手なところもあるけど……」
八幡(……葉山と戸塚はやはり合わないんだな。ただ、特訓にしては割り切って付き合っているようだし、別に構わないか)
戸塚「あ、それじゃあ僕もう行くね、比企谷君」
八幡「ああ。頑張ってな」
戸塚「うん」ニコッ
八幡(守りたい……この笑顔)
三浦「?」
三浦「比企谷、何か最近、戸塚が毎回の様に昼休みいなくなっけどさあ。あれ、どしたん?」
八幡「ああ、あれか。戸塚がテニスの特訓始めてな。それで昼休みも練習してるんだよ」
三浦「へえ、そうなん。どこでやってんの?」
八幡「……テニスコートだ」
三浦「ふうん。面白そうじゃん。あーしも見に行こうかな」
八幡(来たか……)
三浦「比企谷、あんたも一緒に来る? 結衣とか誘ってさ」
八幡「いや、俺はやめとく。前に一度戸塚から注意を受けてるからな。気まずい」
三浦「は? 注意?」
八幡「戸部とこの前二人で行ったんだ。そうしたら断られてな」
三浦「戸部も? どうしてよ?」
八幡「テニスコートを使おうとしたら、それが駄目だったみたいでな。許可を取ってる生徒以外は使えないそうだ。下手に使うと、許可が取り消されるらしい」
戸部「あれ、何? 戸塚君の話?」
三浦「そ。戸部、あんたも注意されたん?」
戸部「そうそう。雪ノ下さんからマジ顔で注意されてさー。比企谷君とソッコー帰ってきたんだって」
八幡「戸塚の邪魔にもなりそうだったし、あいつの事を考えたら何もしない方が良さそうだぞ」
戸部「だべ。優美子も行くつもりなら、やめといた方がいいってマジでー」
三浦「あ、そ……。ま、いいけど……」
八幡(渋々といった感じで折れたな。先に戸部と一緒に行っといて正解だった)
八幡(……ただ、三浦が雪ノ下に多少の反感を持った感じだが、前よりはずっとマシだろう。これで、戸塚の件は片付いたと見るべきだ)
八幡(となると、次は……。会社見学でのあれか……)
第四話
『クラスの仲は円満に進んでく』
戸部「比企谷君、会社見学どこの班にするとかもう決めた?」
八幡「いや、まだだけどな」
戸部「ならさあ、俺と一緒に行こうぜ。戸塚君も誘ってさあ」
八幡「ああ、そうだな……」
戸部「よっしゃ。なら、今から戸塚君も誘ってくるわー。戸塚くーん!」タタッ
八幡「…………」
結衣「ねえ、優美子。今度の会社見学の班なんだけどさ」
三浦「あー、あれね。確か三人一組だっけ? なら、別にもういいっしょ」
結衣「え、もういいって?」
三浦「あーしと結衣、あと川崎でいいって事。どうせ結衣の事だから川崎を誘うんでしょ? ならそれでいいから」
結衣「優美子、やっぱり私の事わかってるね。ありがとう、優美子//」ダキッ
三浦「ああもう、暑苦しいから離れろって」
八幡(あれ……? チェーンメール起きなくね、これ?)
とりあえずここまで
二周目って事でどうしても八幡が解決してく……
また今度
第五話
『川崎沙希は悩まない』
八幡「そういえば、もうすぐ夏期講座の申込が始まるな」
戸部「比企谷君、それ受ける気? やっぱ努力家は違うわー。マジパないわー」
三浦「つーか、戸部は大丈夫なん? この前のテスト悪かったんっしょ?」
戸部「うわ、それ言う? マジで凹むからやめてよー」
沙希「……夏期講座か」
結衣「そっかあ……ヒッキー、夏期講座受けるんだ。真面目だし。私、どうしようかなー……」
八幡「って言っても、俺の場合は目的が微妙に違うんだけどな」
戸塚「どういう事?」
八幡「スカラシップってのがあってな」
沙希「……?」
【その日の授業後、川崎家】
沙希「ただいま」
大志「あ、お帰り、姉ちゃん。今日は何だか少し早いね」
沙希「ああ、うん。良い事聞いたからさ。いつもは結衣と適当に話してから帰る事が多かったけど、ちょっと断ってきた」
大志「良い事って?」
沙希「あんたにはまだ秘密。それよりも、これから私、勉強するからさ。テレビのボリューム少し小さくしといて」
大志「あ、うん。わかった」ピッ
沙希「あんたも後で勉強やりなよ。私もこれから頑張っていくからさ」
大志「うん。わかってる。にしても姉ちゃん、ちょっと嬉しそうだね。一体、何を聞いたの?」
沙希「だから、秘密だっての。大体、あいつの言ってる事自体はとても誉められたものじゃなかったしね」
大志「だから、そういう言われ方をしたら余計気になるじゃん、姉ちゃん」
沙希「だろうね。じゃあ、私はこれから勉強するから静かに」
大志「姉ちゃんの意地悪!」
沙希「姉貴ってのは大体そういうもんなんだよ。覚えときな、大志」
大志「くそーっ」
第六話
『葉山隼人は揺るがず、比企谷八幡の未来は揺らいでく』
【部室】
雪乃「…………」ペラッ
葉山「雪ノ下さん、一つ聞いていいかな?」
雪乃「何かしら?」
葉山「この前、戸塚君の依頼が終わったよね」
雪乃「そうね」ペラッ
葉山「それで、俺もサッカー部の事があるから、ずっと奉仕部には来れない。こっちに顔を出せるのは多くて週に二・三回ぐらいだ」
雪乃「そうね」
葉山「その来れない時、君はずっと本を読んで過ごしているのかい?」
雪乃「そうね」ペラッ
葉山「淋しくはないのかい?」
雪乃「いいえ」
葉山「そんなに強がらなくていいよ。正直に言って欲しい」ニコッ
雪乃「読書の邪魔をしないでもらえる?」
葉山「ここは女の子をもう一人ぐらい入れた方が良くないかな。そうすれば雪ノ下さんは俺がいなくても淋しくないし、俺は可愛い女の子と仲良くなる機会が増える。一石二鳥だよ」
雪乃「あなた、本当にぶれないわね。軽蔑に値するわ」ペラッ
葉山「俺はこの部活をハーレム状態にしたいんだ」キリッ
雪乃「とりあえず黙ってもらえる? いえ、むしろ黙りなさい」
ガラッ
静「二人とも、いるか?」
雪乃「先生、ノックをして下さいと何度も」
静「やかましい。黙っていたまえ」
雪乃「それが生徒に取る態度ですか?(ワイルド)//」ドキドキ
葉山「君のその態度も少し考えた方がいい」
静「そんな事よりもだ。二人とも、ろくに活動をしてないようじゃないか。私は君達をここで遊ばす為に奉仕部を許可した訳ではないぞ」
雪乃「そうは仰られても、依頼自体がないものですから」
葉山「そもそも遊んでいる訳でもありませんし」
静「何もしていないのなら遊んでいるのと同じだよ。やはり君達二人だけでは奉仕部は駄目なようだな。一人、監視役をつけた方がいいか」
葉山「監視役ってどういう事ですか」
静「細かい事は気にするな、葉山。それよりも君達二人に命令を与える」
雪乃「命令?」
静「来週までに、一人、新しい人材を奉仕部に入れたまえ。つまり、新しい部員の獲得だな」
雪乃「先生、それは流石に無」
葉山「わかりました。任せて下さい」キリッ
静「……やけに聞き分けがいいな。どうした、葉山……」
【廊下】
雪乃「あなたが安請け合いをするものだから、結局、無理矢理決めさせられてしまったわね」ハァ
葉山「人が増える事自体は良い事だよ。部に活気も出るし、俺の青春ラブコメも幅が広がるしね」ニコッ
雪乃「あなたのその妄言にいちいち付き合うのもいい加減疲れてきてるのよ。……それで、どうするつもりなのかしら?」
葉山「もちろん、これからスカウトに行くよ。何人か心当たりはいるからさ。雪ノ下さんも一緒に来るかい?」
雪乃「そうね……。妙な人を入れられても困るし、甚だ不本意かつ不愉快だけど、あなたの言葉に乗ってあげるわ」
葉山「雪ノ下さんは相変わらずツンデレだね。ただ、そこが俺からすれば魅力的に映るのだけれど」ニコッ
雪乃「あなたのその気持ち悪いほどのポジティブシンキングはどうにかならないのかしら? 鳥肌が立つのだけど」
葉山「さ、それじゃ行こうか。すぐに見つかるよ、きっと」
雪乃「…………」
【グラウンド】
いろは「え? 奉仕部ですか?」
葉山「ああ、そういう部活があってね。俺も入ってるんだ。ただ、人数が少ないから少し困っててね」
いろは「へえ、そうなんですか。大変ですね」
葉山「ああ。それで色々と考えたんだけど、いろはとかどうかなって思ってね。優しいし思いやりがあるし、奉仕部にとってぴったりの人材だと思ってさ」ニコッ
いろは「やめて下さいよ、葉山先輩。私なんかそんな全然ですよお。そういう事言われるの多いんですけど、私的にはそんな風に全然思ってなくてぇ」
雪乃(典型的なぶりっ子ね。私の好みからはかけ離れているわ)
葉山「それで、お願い出来ないかな。サッカー部のマネージャーと掛け持ちでいいからさ」ニコッ
いろは「ごめんなさい、葉山先輩。私、今やる事が多いので、ちょっと余裕ないんですよね。本当にすみません」ニコッ
葉山「……そっか。それなら仕方がないね」
いろは「はい。あ、それじゃ私、やる事あるんでこれで失礼しますね」ペコッ
葉山「ああ。また」
いろは「」タッタッタ
葉山「…………」
雪乃「あの子は完全に脈なしね。諦めた方がいいわよ」
葉山「……いや、その内きっと振り向かせてみせるよ。俺はもう迷わないからね。もちろん雪ノ下さんの事も諦めないよ」ニコッ
雪乃「勧誘の話よ」
葉山「…………」
【校門前】
三浦「は? 奉仕部?」
葉山「そう。優美子に手伝って欲しいんだ。一人部員を集めてこいって平塚先生から言われてね。こんな事を頼めるのは優美子しかいな」
三浦「する訳ないっしょ、なに考えてんの。結衣、行くよ」
結衣「あ、うん……でも、いいの?」
三浦「いい。つかもうハヤオとは関わりたくないし」
葉山「まあ、そう言わないで。少しでもいいから話を聞いてくれないかな、優美子?」
三浦「聞かない。てか、あーしの事名前で呼ぶのやめてくんない? 馴れ馴れしいんだけど」
雪乃(……格好いいわね// 結構好みかも……)ドキドキ
葉山「わかった。なら三浦さん」
三浦「だから、しつこい。嫌だって言ってんじゃん。ウザいんだけど」
沙希「三浦もこう言ってるからさ。そこまでにしときなよ。迷惑だよ、あんた」
葉山「……」ハァ
葉山「わかった。悪かったね、三浦さん」
三浦「」フンッ
三浦「行くよ、結衣」スタスタ
結衣「あ、待って、優美子」タタッ
沙希「ったく……」タタッ
葉山「これで二連敗か……。流石に傷付くな」ハァ
雪乃「この様子だと、三連敗の準備をしといた方が良さそうね」
雪乃「……それで、次は一体誰に断られに行くのかしら?」
葉山「いや、大丈夫さ。三度目の正直というやつだよ。次こそは」
雪乃「二度ある事は三度あるというわよ」
葉山「心配性だな、雪ノ下さんは。とにかく俺に任せてくれ。それに、今日のところはこれでお仕舞いだから」
雪乃「明日もまた傷付きに行くのね。そういう性癖でも持っているのかしら?」
葉山「それは雪ノ下さんの方だろ? とにかく大丈夫さ。今日はこれでお開きにしよう。勧誘したい人はもう帰ってしまっているだろうしね。明日、休み時間にでも話してみるよ」
雪乃「……わかったわ。それじゃ、また明日」
葉山「そうだね、それじゃ家まで送ってくよ」ニコッ
雪乃「聞こえなかったのかしら? また明日と私は行ったはずよ?」
葉山「参ったな。ガードが固い。仕方がないから、今日は諦めるよ。気を付けて帰ってね」
雪乃「ええ、言われなくてもそうするわ」
葉山「ああ、それと」
雪乃「何かしら?」
葉山「陽乃さんが君に会いたがっていたよ」
雪乃「そう。それなら、私は会いたくないと伝えておいてちょうだい。それじゃあね」クルッ、スタスタ
葉山「やれやれ……。伝言を伝えたら、また機嫌が悪くなるんだろうな。損な役回りだ……」フゥ
【その日の夕方、比企谷家】
八幡(どうしたらいいんだろうな……。さっきからずっと、俺は携帯とにらめっこしてるんだが……)
八幡(その原因はLINEで入ってきたこのメッセージだ……)
『あんた、今度の日曜ヒマ? ヒマならチョイ買い物に付き合って欲しいんだけど』
八幡(あーしさんから、何で買い物のお誘いが来てんだよ? これは夢か、幻か?)
八幡(というか、買い物に誘うなら、由比ヶ浜とか戸部とか川崎とか戸塚とか他にいくらでもいるだろ。どうして俺を誘うんだよ?)
八幡(……とにかく返事をしないとまずい。が、どう返事すりゃいいのかで、かれこれ三十分ぐらい迷ってる)
八幡(行くのか断るのか……。どっちを選んだとしても十分怖いんだが……)
プルルル、プルルル
八幡(とか思ってたら本人から電話かかってきたぞ、おい)
八幡「……もしもし」ピッ
『比企谷? つか、あんた、返事遅すぎ。既読ついてから何分経ってんの』
八幡(LINEの既読怖えよ。ぼっち慣れしてる人間にとっちゃ脅威だろこれ)
『で、ヒマなん? ヒマじゃないん、どっち?』
八幡(この勢いだと、ヒマじゃないと言えば理由聞かれるだろうな。やる事が特に何もないから、それは困る。かといって行きたくないなんて言ったら、マジで俺の立場がヤバくなりそうだ)
八幡「……ひ、ヒマだけどな」
『あ、そ。なら、十時にモール前で待ち合わせね。それでいいっしょ?』
八幡「……おう」
『なら、忘れないようにしなよ。じゃ』
ツーツーツー……
八幡(結局、行く事になったんだが……)
八幡(何でこうなったんだ? 俺、あいつの買い物に付き合う必要とかまったくなくね?)
八幡(三浦の考えてる事がイマイチ理解出来ない……。それともあいつらリア充にとってはこれが普通なのか……?)
今日はここで終わり。また
【翌日、教室】
相模「奉仕部?」
葉山「うん。と言っても、ただ奉仕するんじゃなくて、その人の手伝いをするって感じなんだけどね」
葉山「言ってみれば、人の自立を促す部だよ。頑張っている人の背中を後押しする様な、そんな部活なんだ」
相模「へえ、そうなんだあ」
葉山「それで今、俺と雪ノ下さんでその部活をやっているんだけど、先生から人員を補充しろと言われていてさ。少し困ってるんだ。だから、良かったら相模さん、うちの部に入ってくれないかな」
相模「え、でも、うちじゃあまり力になれないと思うけど……」
葉山「そこを何とかお願い出来ないかな。それに、相模さんなら力になれないなんて事は絶対にないと思うよ。人望もあるし、周りからの評判もいいしさ」
相模「えっと……// 本当に葉山君はそう思ってる……?」チラッ
葉山「もちろんだよ。本心からさ」ニコッ
相模「なら……やってもいいかなって//」コクッ
葉山「良かった、助かるよ。それなら今日の授業が終わったら部室まで案内するから。これからよろしくね、相模さん」ニコッ
相模「う、うん……//」
八幡(葉山のやつ、相模を奉仕部に誘ってるのか……?)
八幡(あの様子だと相模も奉仕部に入るみたいだな。となると、もう奉仕部も完全に別物か……)
八幡(……この様子だと、文化祭のもどうなるかわからないか。……前の時と変わってきてるから、依頼に関しても今まで通りにはいかないかもしれないな)
【授業後、部室】
葉山「紹介するよ、雪ノ下さん。こちら、同じクラスの相模南さん。奉仕部に入ってくれるそうだ」
相模「よろしくお願いしまーす」ニコッ
雪乃「……こちらこそ(……何故か知らないけど、この人を見てるとイラッとするわ。どうしてかしら?)」
相模「へえ、ここが奉仕部の部室なんだ。でも、なんかなんにもないね」
葉山「二人だけしかいないからね。部費もたいしてある訳じゃないし。とりあえず、空いている椅子にでも座って」
相模「うん。あ、場所とかどこでもいい?」
葉山「どうぞ。お好きな場所に」
雪乃「それにしても、まさか葉山君が本当に新入部員を見つけてくるなんて……。一体、どういう犯罪行為をしたのかしら?」
葉山「待ってくれよ。脅迫以外の選択肢が俺にはないのかい? 普通に誘っただけだよ。彼女も乗り気で助かってる」
雪乃「相模さん、この軽薄でゲスの塊の様な男はそう言っているけど、実際のところはどうなのかしら? もしも弱味を握られているというなら、逮捕に私も全力で協力をするつもりよ」
相模「え? えっと……?」
葉山「酷いな。そんなんじゃないよ、本当に」(苦笑)
相模「えっと……要は入る理由みたいなの? それが知りたいって事?」
雪乃「そうね。脅迫以外で言えば、脅しとか……」
葉山「一応突っ込ませてもらうけど、それは同じだよね?」
相模「うーん、入った理由か……。色々あるんだけど……//」チラッ
葉山「?」
雪乃(……まさか葉山君目当て……? 外見だけはいいから可能性としてなくはないのだけれど……)
相模「でも……やっぱり一番は奉仕部に興味を持ったからっていうのかな。うちも、上手く言えないんだけど、人の手助けをするとか、そういうのってちょっとやってみたいって前から思ってて……」
相模「あ、でも、そんな偉そうな事じゃないんだけど。うちは何て言うか……やりがい? みたいな事を探してたとこがあるって言うかあ」
相模「なんか中身がないんだよねぇ、うち……。一生懸命取り組めないみたいな。辛くなると、楽しちゃおう楽しちゃおうって考えちゃって。でも、このままだとそれでいつか失敗しそうだなって自分でも不安に思ってて」
相模「だから、どこかで自分を変えてみたいって気持ちがスゴいあって……。これがその機会になったらなあって。あ、ごめん、何かうちスゴい恥ずかしい事言ってるよね。めっちゃ照れるんだけど//」
葉山「……いや、いいと思うよ。自分を変えてみたいって思う事は大事だと思うし、それによってやっぱり人間って成長していくものだと思うしさ」ニコッ
相模「そう……?// あ、でもやっぱ照れる// 恥ずいー」
雪乃「…………(何故か更にイラッとくるわね)」
相模「あ、ええと、とにかくそういう事だからさ。雪ノ下さん。これからよろしくね」ニコッ
雪乃「え? あ……ええ。そうね」
相模「うちさあ、実を言えば雪ノ下さんには前から憧れてて//」
雪乃「え」
相模「雪ノ下さんって、頭もいいし、スポーツも得意だし、上品だし、大人びてるし、なんかもう女の子の理想を全部持ってる感じじゃない? だから、うちも雪ノ下さんみたいになりたいなあって前から思ってたんだよね」
雪乃「……私はそんな憧れられる様な人間ではないわよ」
相模「ほら、そういうクールなところもやっぱカッコいいし。うち、そういう万能な人ってホント理想なんだー」ニコッ
雪乃「……そう。誉めてくれてありがとう、とだけ言っておくわ」
葉山「それじゃあこの紙に名前とかクラスとかを記入してもらえるかな」
相模「あ、うん。入部届けだよね。すぐ書くから」カキカキ
葉山「これで人員補充の件は完了だね」
雪乃「……そうね」
葉山「あれ? 嬉しくないのかい、雪ノ下さん?」
雪乃「なんて言えばいいのか困ってる状態ね……。とりあえず、平塚先生には報告に行ってくるわ」スタスタ
相模「雪ノ下さんってホントにクールだよね、カッコいいなぁ」
葉山「ああ、うん……(クールと言うよりも、あれは嫌がってたような……)」
葉山(……まあ、いいか。雪ノ下さんはツンデレだし、その内、仲良くなるだろ。…………多分)
【日曜日、朝】
八幡「ふぁ……眠……」トコトコ
小町「!?」
小町(あのお兄ちゃんが……。日曜日は休む為にあるのであって、そんな日に普段通りの早寝早起きをするのは間違っているって言い切って、お昼ぐらいまでゴロゴロしているあのお兄ちゃんが……)
小町(こんな朝から起きて活動するなんて……!)
八幡「つうか、何着ていきゃいいんだ……。変なの着てったらキレられそうだしな……」ガサゴソ
小町(し、し、し、しかもー!!)
小町(身だしなみを気にしてる!! これはまさか!!)
小町(デートなんじゃ!!)ドキドキ
小町「お、お兄ちゃん……あのさ」オズオズ
八幡「あ? 何だよ……」
小町(ヤバい! 寝起きで機嫌が悪いよ、お兄ちゃん。これは聞かない方がいい。っていうか、怖くて聞けない!)
小町「コ……ココアいれるけど、いる?」オズオズ
八幡「いや、いらない。どうせ朝飯食ったらすぐに出てくしな」
小町「そっか……なら無理には勧めないけど(やっぱりデートなのかな? 気になる気になる気になる)」
八幡「ふぁ……」
小町(ここは妹として、こっそり後をつけてみる必要があるね。うん!)
小町(お兄ちゃんが変な女に騙される可能性もあるし、小町がそこら辺はしっかり見極めないと!)
【モール前】
八幡(とりあえず、自分ではものすごく無難な服に落ち着いたんだが……)
八幡(大丈夫か、これ? やっぱ小町に見てもらった方が良かったか? とはいえ、それをしたらあいつ、絶対に首を突っ込んでくるだろうからな)
八幡(そもそもこれが何かの罰ゲームじゃないかと心のどこかで疑っている俺もいるし、タチの悪いイタズラだという可能性も捨てきれていない。ここで何時間待っているかの賭けをしているとかまであり得る)
八幡(……色々考えていたら本当にそんな気がしてきた。大丈夫なんだろうな、俺?)キョロキョロ
小町「」コソコソ
小町(スタンバイオーケー!)
小町(時間からして待ち合わせは十時ってとこかな? ていうか、お兄ちゃん、遠目から見ても全然落ち着いてないし、やっぱりこれはデートの可能性が高いよ)
小町(ていうか、待ち合わせでお兄ちゃんをこれだけ待たせるとか、それだけで小町的には減点もんだよ。お兄ちゃんの恋人候補メモに減点書き込んでおかないと)メモメモ
三浦「あー、いたいた。比企谷、ここだし」ツカツカ
八幡「お、おう……」
八幡(良かった……。罰ゲームではなかったか。そうだったら明日から不登校まであったぞ)
八幡(つうか、三浦ってやっぱり目立つんだな。周りから微妙に注目集めてるし、そしてその視線が、あんな男と待ち合わせかよ、みたいに思えて痛い。マジでとっとと帰りたい)
小町(うわ、スタイルいい! ていうか、お兄ちゃん、そのギャルっぽい女の人とどこで知り合ったの!? お兄ちゃんと接点が全然掴めないんだけど!?)
三浦「じゃあ、さっさと行く? 今日は時間使ってじっくり選びたいしさあ」
八幡(なにそれ? 深読みしちゃいそうな事言うのやめてもらえませんか? 俺以外のやつなら、ずっと一緒にいたいみたいな、そんな風に勘違いしちゃうかもしれないだろ)
小町(うーん……流石に会話までは遠くて聞き取れないか。でも、明らかに待ち合わせしてたし、これもうデートだよね?)
小町(小町的にはギャルっぽ過ぎて期待通りみたいな感じじゃないけど、でも美人だしお洒落だしスタイルいいし、そこら辺はオッケー。問題は性格だよね)
小町(まだお兄ちゃんと付き合ってるのかもわからないし、とりあえず今日一日は後をつけよう! お兄ちゃんが何かされそうで色々と心配だし!)
三浦「とりあえずさ、最初は小物からだよね。だから、そっから行くから」スタスタ
八幡「……おう」スタスタ
小町(ギャルさん! 距離遠い!! 二人とも何でそんなに離れて歩くの! もっと近付かないと!)
小町(お兄ちゃんは奥手なんだから、ギャルさんがそれぐらい察して歩かないと! なに考えてんの、もう!)
小町(相手が小町だったら、もう腕まで組んでるところだし! ほら、近寄って!)
三浦「つかさあ、比企谷。あんた何でそんな離れて歩くん?」
八幡「いや……。近くにいたら、ツレと思われてお前に迷惑がかかるだろ」
三浦「はあ? 何でそれだけであーしに迷惑がかかるの? ていうか、あんた、あーしのツレでしょ。言ってる意味がわかんないんだけど」
八幡「いや、だから、例えばクラスの奴らとかに見られたらデートとかと誤解されるかもしれないだろ。だからだな」
三浦「たかだか買い物に二人で来てるだけじゃん。自意識過剰過ぎ。別に見られて困る事してる訳じゃないんだし、いいっしょ。なんか聞かれたらはっきり言ってやればいいだけだし」
八幡「……まあ、三浦がそれでいいなら俺はいいけどな」スタスタ
三浦「そうじゃなくて横。普通、二人でいたら横並びに歩くもんっしょ。何で後ろにいるん?」
八幡「……ここでいいのか?」スタスタ
三浦「そ。じゃあ、行くよ」
小町(よし! 隣に来た!)
小町(でも、全然ロマンチックな感じになってないし、何かお兄ちゃん仕方なくって表情してたし!)
小町(絶対何か変な言い方したよ、あのギャルさん! 小町的にまた減点だよ! もう!)
【雑貨店】
三浦「んー……どういうのがいいだろ」
八幡「……一応、聞いときたいんだが、何を買いに来たんだ?」
三浦「あれ? あーし、言わなかったっけ?」
八幡「いや、まったく聞いてないぞ」
三浦「今日は結衣の誕生日プレゼント買いに来たん」
八幡「……ああ、もうすぐだもんな」
三浦「そ。って、比企谷、あんた結衣の誕生日知ってたん?」
八幡「……メールアドレスからな。直接聞いた訳じゃない」
三浦「ああ、それで。ま、結衣のやつ、単純だかんね。今時、アドレスに誕生日入れるとかそうないんだけど」
八幡「で、今日はそれを選びに来たって事か」
三浦「そ。だから、結衣とは来れないじゃん? 川崎誘っても良かったんだけど、あーし、未だにあいつとはそんな仲良くないからさ。チョイ誘い辛くて」
八幡「……こう言っちゃなんだが、俺もあまりお前と仲良いとは思えないんだけどな」
三浦「比企谷の場合は逆っしょ」
八幡「逆?」
三浦「合う合わないとかじゃなくて、わざと仲良くなるのを避けてる感じがすんだよね、あんたの場合はさ」
八幡「…………」
三浦「戸部とか前に言ってたから。比企谷を遊びとか誘っても全然乗り気じゃないって。あいつ寂しがってたし」
八幡「……俺も悪いとは思ってんだぞ。ただ、俺はそういうの慣れてないから苦手なんだよ。結局、仏頂面して過ごす事になりそうだし、だったら、初めから一人でいた方がいいみたいなとこがあってだな」
三浦「んな事わかってっから。ぼっちネタは散々聞いてる訳だしさぁ。だから、今日は戸部とか戸塚とかじゃなくて、比企谷誘ったん」
八幡「……それって、同情って事か? 一人でいる俺を哀れんでみたいな」
三浦「そうじゃないっての。あんた、本当に面倒なやつだし。どんだけひねくれてるん?」
八幡「……悪かったな」
三浦「だからさぁ、結局、原因は比企谷が遊ぶ事とかに慣れてないからっしょ? だったら慣れればそれで済む話な訳じゃん?」
八幡(そういう問題って感じじゃないんだがな、俺の場合。好感度を知ってしまっているってのと、俺自身、それまでの積み重ねが長すぎたってのがあるから)
三浦「ま、比企谷からしたら、あーしとか戸部とかはチャラっぽく見えるかもしんないけどさあ、別にあーしらだって初めからこうだった訳じゃないんだし。つまり、慣れなん」
八幡(それだと俺、これから遊びまくってチャラ男になれって言われてる事にならないか?)
三浦「だから、あーしらとかと、何回かこうして買い物行ったり遊びに行ったりとかすれば、流石の比企谷も慣れるっしょ? だから、今日は比企谷誘ったん」
八幡(なるほどな……。つまり……)
八幡「……つまり、お前なりのぼっちに対する調教って訳か」
三浦「な// 調教とか変な事言うなし!」
小町(調教!? 何の話してるの、お兄ちゃんたち!?)
三浦「とにかく、そういう事。今日一日はあーしにしっかり付き合いなよ」
八幡「そうだな。もう来ちまったし、それでいいけどな」
三浦「は?」(威圧)
八幡「悪かった。しっかり付き合わさせてもらう。だから、睨むな、マジで」
三浦「それと、一応言っとくけど」
八幡「……何だよ?」
三浦「あーしは気に入った奴としか買い物とか行かないから。あんた、あーしから気に入られてるって自覚しときなよ」ズイッ
八幡「……お、おう//」
八幡(つうか顔が近いだろ。離れてくれ//)
小町(うう……! 会話がスゴい気になる! 二人とも何を話してるの……!)
小町(こうなったら、もうちょっと近くに……!)コソコソ
三浦「あー、そうだ。あと」スッ……
八幡(離れてくれたか……//)ドキドキ
三浦「あんたも何でもいいからさぁ、今日、結衣の誕生日プレゼント買ってくんない? 比企谷のだけ無かったら結衣凹むだろうしさ。そんぐらいはしてくれてもいいっしょ?」
八幡「ああ、いいぞ。元から俺も買うつもりで来てた訳だしな」
三浦「ならいいけど。何買っていいか悩むようならあーしが相談に乗るから」
八幡「……わかった。その時は頼む」
三浦「ん」
八幡「…………」
八幡(ひょっとして……三浦のやつ、こっちが本命か? 俺が由比ヶ浜への誕生日プレゼントで悩むと思って、それで誘ったのか……?)
八幡(……だとしたら、本当に母ちゃん目線だな。世話焼きというか、気配りが出来てるというか……細かなところにまでさりげなく気を遣うし間違いなく嫁に欲しいタイプなんだろうが……)
三浦「比企谷、これなんかどう? 結衣のやつ、好きそうじゃね?」
八幡(しかし、葉山に興味ない今、あーしさんの眼には誰も映ってなさそうなのがな……)
八幡(このままだと結局、三浦は彼氏が出来ないまま高校卒業しそうな気がするんだが……。もったいないより報われないって方が遥かに正しい。誰かいい男紹介してあげて)
【しばらく後】
三浦「……どうだろ。比企谷、これとこれだったら、どっちが結衣喜ぶと思う?」
八幡「……由比ヶ浜はどっちかって言うと、その二つじゃなくてこっちのバカっぽい方じゃないか?」
三浦「はぁ? これは流石にないっしょ。結衣、そこまでガキじゃないし」
八幡「いや、あいつはこういう方が好みだろ」
小町「」コソコソ
小町(うーん……。何かデートっぽくない。本当に二人で買い物に来てるって感じだし。実はそこまで進んでる仲じゃないの?)
小町(ていうか、それよりもさっきからずっと気になってるんだけど、二人が言ってる『由比ヶ浜結衣』って、お兄ちゃんを事故らせた原因を作ったあの女の事だよね?)
小町(何でお兄ちゃんがそんな女の為にプレゼント選んでる訳? 何か腹が立ってきたんだけど……)ムーッ
小町(あのギャルさんはともかく、お兄ちゃんの声が小さくて全然聞こえないし、おかげで理由とかもよくわかんないし……)
小町(こうなったら、もうちょっと近くまで寄って、会話を……)コソコソ
三浦「つかさあ、あんた、さっきからあーしの選ぶもの全部にケチつけてない?」
八幡「別にケチつけてる訳じゃないぞ。由比ヶ浜に合う合わないは俺にはわからんからな。が、あいつが喜ぶかどうかを聞かれてるから、俺は率直な自分の意見を述べてるだけだ」
三浦「それをケチつけてるっつーの。大体、あんたの中の結衣ってどんな感じなん? どういう系統のが喜ぶとか思ってんの?」
八幡「ぶっちゃけよく知らんが、あいつの好みって全部ゆるくてふわふわしたもんみたいな気がするな。さっきから三浦が選んでる、そういういかにもギャルっぽいのは好きでつけるような感じには思ってない」
三浦「ゆるくてふわふわしたもんって? ……例えばこういう感じの……っと」トンッ
小町「あ、ごめんなさい……!(ヤバイ! 接近しすぎた!)」
八幡「ん?」
小町(マズイ! 小町ピンチ! 急いで離れて……!)クルッ
三浦「ちょっと、あんた」
小町「」ビクゥッ!!
三浦「それ、ハンカチ落としてんだけど」
小町「あ、あはははは……。ありがとうございます」サッ
小町「じゃあ、これで」ソソクサ
小町(良し、セーフ! バレてない!)
八幡(あれ……小町じゃねーか? あいつ、まさかつけて来たんじゃないだろうな)
八幡「…………」
三浦「どしたん、比企谷?」
八幡「……悪い。ちょっとトイレに行ってくる」
三浦「あ、そ。じゃあ、あーし、ここにいっから」
八幡「おう」タッタッタ
八幡(で、一旦離れて……)
八幡(目立たないところに隠れる……。もし小町が尾行してたなら、近くにまた戻るはずだが……)
小町「」コソコソ
小町「あれ……? お兄ちゃんがいつのまにかいなくなってる……」
八幡(本当に尾行してたのかよ)
八幡「」ソロソロ
小町「あれー? お兄ちゃん、どこ行ったんだろ?」キョロキョロ
八幡「小町」
小町「」ビクゥッ!!
小町「お、お兄ちゃん……」
八幡「……何やってんだよ、お前」
小町「あ、あれだよ、買い物に来てて。お、お兄ちゃんこそどうしたの?」オロオロ
八幡「……買い物だよ。……そうだ。ついでだからお前も来い」ガシッ
小町「え、ちょっ、待って! お、お兄ちゃん!?」
三浦「へえ。比企谷に妹なんかいたんだ」
八幡「ああ、小町って言ってな。さっき見かけたんで連れてきた」
小町「あ、あの、妹の小町です。よろしくお願いします」ペコッ
三浦「あーしは三浦優美子。よろしく。へぇ、結構可愛いじゃん」
小町「可愛いだなんて、そんな! 三浦さんの方こそカッコいいって言うか綺麗ですよ!」
三浦「あんがと。よく言われっけどね」
小町(自信家だよ! やりにくいよ!)
八幡「それで三浦。物は相談なんだが、小町も一緒に連れていっていいか?」
小町「!?」
三浦「別にいいけど。丁度、女の意見も聞きたかったとこだし」
八幡「じゃあ、頼むわ」
小町「お、お兄ちゃん! それはちょっとまずいんじゃ」アセアセ
八幡「何でだ? 三浦がいいって言ってるなら問題ないだろ」
小町「で、でも! 小町邪魔って言うか……!」オロオロ
三浦「何で邪魔なん? 逆に歓迎だし」
小町「いや、その……! ええと……!」オロオロ
八幡「じゃ、行くか」スタスタ
三浦「ん。次の店に気に入るのあればいっけど」スタスタ
小町「あああ……! お兄ちゃんのデートが……!!」
【帰路】
八幡「」トコトコ
小町「うぅ……」トボトボ
八幡(あの後、予定通り、早目に切り上げられたから由比ヶ浜に会う事なく、モールを出れた。前は雪ノ下がプレゼント選ぶのに手間取ってサブレに来られたからな)
八幡(同じように途中で雪ノ下さんも見かけたが、こちらも雪ノ下がいないから声をかけられる事なく済んだ。そもそも雪ノ下さんとはこの時が初対面で、今は面識がない訳だから、声をかけられるはずもないしな)
八幡(で、その後、三浦から飯まで誘われて、更にその後、カラオケまで連れていかれたが、小町がいたおかげで特に何事もなくやり過ごせたし、結果的にはオッケーだ)
『今日は何だかんだで楽しかったし。ヒマあったら、また今度誘っから』
八幡(もちろんあれが社交辞令だという事を俺は知っている。また今度誘うと言われ、ずっと誘われなかった事なんてこれまで何回もあるからな。最初に遊んだ事自体をなかった事にされるまである)
八幡(……ただ)
八幡(三浦が良い奴だという事だけは、確かだ。それについては今日でよくわかった)
八幡(あと、小町が珍しくテンパってて面白かったな)
小町「今日は小町疲れたよ、お兄ちゃん……」ハァ……
八幡「何でお前が疲れるんだよ。お前なら、そういうのは慣れてるだろ」
小町「だって、お兄ちゃんに恥をかかせちゃいけないって思ってめちゃくちゃ気を張ってたし……」
小町「あと、三浦さんに不愉快な思いさせちゃいけないって、すっごい気を遣ってたし……」
小町「こんなに緊張したの、お兄ちゃんが事故にあった時以来だよ! 手がプルプル震えるんだよ! どうして小町なんか誘っちゃったの!」
八幡「単に面白そうだったからな」
小町「!?」
八幡「あと、俺だけだと会話の全部が俺にふられてめんどくさい。小町が来てからは会話の半分以上が小町にいって楽だった」
小町「お兄ちゃんが楽なのは良かったけど、でもそれだとお兄ちゃんと三浦さんの仲が深まらないじゃない。小町すっごい邪魔しちゃった気分で一杯だよ!」
八幡「邪魔なんかしてない。何故なら、俺と三浦の仲がこれ以上深まる事は有り得ないからな。その逆なら十分有り得るが」
小町「そんな事ないから言ってるのに! お兄ちゃんはもっと自分に自信を持つべきだよ。小町が妹じゃなかったら、とっくの昔にお兄ちゃんに告白してるよ!」
小町「あ、今の小町的にポイントマックスだし! むしろカンスト気味だし!」
八幡「訳わからん事言ってないでとっとと帰るぞ。八幡的に今のポイント最低だからな」
小町「うぅ……お兄ちゃんの意地悪!」
八幡「」トコトコ
小町「」トボトボ
小町「あとさあ、お兄ちゃん……」
八幡「何だよ?」
小町「三浦さんから聞いたけどさあ……由比ヶ浜結衣って人と友達なんだよね……? あの人のせいでお兄ちゃん事故にあったんじゃん、本気なの?」
八幡「……別にもう済んだ事だろ。大体、あれは俺が勝手に飛び出しただけだ。俺が怪我したのは俺の責任なんだよ」
小町「そんな訳ないじゃん」ボソッ
八幡「先に言っとくけど、由比ヶ浜とは『友達』だからな。変に噛みつくなよ。俺に迷惑がかかる」
小町「……わかった。我慢する」ムスーッ
八幡「ならいいけどな」
小町「でも、お兄ちゃんの為に我慢するだけだからね。今の小町的にポイント最低だよ。こんな事言いたくなかったよ」
八幡「……うるさい。とっとと家に帰るぞ」
小町「……うん」
ここまで。次はキャンプ
第七話・第八話
『未来は好感度で切り開かれる』
【部室】
相模「それにしてもさあ、本当に依頼とかないんだね。うち、昨日ずっとここに座ってただけだし」
葉山「まあ、依頼がないって事は悩んでる人が少ないって事だから、それはそれで良い事だよ」(苦笑)
雪乃「…………」ペラッ
相模「でも、張り切ってきたのに肩透かしって感じ? 何しようか困っちゃったしさあ」
葉山「それはほら。お茶を飲んで雪ノ下さんと話とかね」
相模「えー、無理無理。雪ノ下さん、スッゴい真剣に本とか読んでるんだもん。話しかけたら邪魔になっちゃうよ。そんなのうちには出来ないって//」
葉山「え…………」
雪乃「…………」ペラッ
葉山「じゃあ、その……俺がいない時とかは何をしてるんだい?」
相模「いない時? 葉山君がいない時は雪ノ下さんとたまにほんの少し話をして……」
相模「雪ノ下さんにお茶をいれて……」
相模「雪ノ下さんの本を読んでる姿にちょっと見とれて……」
相模「でも、見てるのも邪魔かなって思って、結局、隅の方で教科書とか出して勉強とか?」ニコッ
葉山「…………そうなんだ」
相模「雪ノ下さん、スッゴい綺麗でさ。勉強しながらちょこちょこ見てるんだけど、もうそれだけでドキドキしちゃって。本当にこの部活入って良かったなあって思う//」
葉山(……友達というより、熱烈なファンが出来た感じかな。というか雪ノ下さん、いつもずっと本を読んでいるだけなのか? 何か話しかけてあげてもいいと思うんだが……)
雪乃「…………」ペラッ
相模「あ、そうだ、葉山君。今日もうち勉強するつもりなんだけど、葉山君って頭良かったよね?」
葉山「……良いかどうかはともかく、成績は悪くはないと自分では思っているよ」
相模「ならさあ、うちに勉強教えてくれない? 葉山君が家庭教師してくれたら、うち、めっちゃ頑張れそうなんだけど」
葉山「え?」
相模「あ……///」カァッ
相模「えと、一人でやるよりも的な? 教えてもらったら張りとか出てくるしさ//」
葉山「ああ、そういう意味で」
相模「う、うん!//」
雪乃「…………」ペラッ
葉山「そうだね。ずっとって訳にはいかないけど、少しの間、勉強を教えるぐらいなら、別に構わないよ」
相模「ホントにー! ありがとー、うち嬉しい!」ニコッ
葉山「でも、人に教えるとか慣れてないから上手く出来るかどうか自信はないよ」
相模「ううん。教えてくれるだけでも嬉しいからさ。ありがとね、葉山君」
葉山「どういたしまして。それで、何の教科を教えてほしいの?」
相模「あ、えっと、結構一杯あるんだけどー」ガサゴソ
雪乃「…………」ペラッ
雪乃(何故かしら……)
雪乃(二人とも特に何をしたという訳でもないのに、さっきから微妙にストレスがたまっていくわ……)
雪乃(特に相模さん。私に好意というより憧れを向けているようなのだけど、どうにも駄目ね。今すぐ暴言を吐きたい気分になるわ)
雪乃(こんな感情は初めてね……。もしかして、私は葉山君の事で相模さんに嫉妬をしているのかしら……?)
雪乃(…………)
雪乃(いえ、それはないわね。天地がひっくり返っても有り得ないわ)ペラッ
ガラッ
静「奉仕部の役立たずども、いるか?」
相模「!?」
葉山「……先生。俺達に何か恨みでもあるんですか?」
雪乃「不意打ちは卑怯ですよ、平塚先生。訂正を求めます///」ドキドキ
静「そう言われてもな。実際、そうだろう。お、相模もいたのか。どうだね、奉仕部は? 見事に何も活動してないだろう」
相模「あ、えっと……そうですね。今のところは」(苦笑)
静「そんな君たちの為に私が仕事を持ってきた。まだ先の話だが、小学生によるキャンプがあってな。その手伝いを今から探しているんだ。君たちは暇だから強制参加にする」
相模「え……?」
葉山「横暴ですね、平塚先生。職権濫用ではないですか?」
雪乃「行きます(小学生の可愛い女の子)//」ドキドキ
葉山「!?」
静「今回は聞き分けが早いな、雪ノ下。私も楽でいいが」
雪乃「平塚先生の頼みなら断る訳にはいきませんから(小学生の女の子が沢山……癒しになるわね///)」
静「……何か違和感があるが、まあいい」
相模「先生、雪ノ下さんが行くならうちも行きます!(うわー、葉山君や雪ノ下さんとキャンプとか超興奮する///)」
静「……ん? 何かこっちも違和感がするな。逆に段々心配になってきたぞ、私は」
葉山「雪ノ下さんと相模さんが行くなら当然俺も行くよ(このイベントで好感度を上げるチャンスだな)」
静「うん……。何故か君だけは違和感を覚えないな。だが、逆の心配がふつふつと沸いてきた」
雪乃「それでは、奉仕部は全員参加という事で宜しくお願いします」
相模「何か超楽しみー。花火とかやれるかな」
葉山「空気も美味しいだろうし、星空とかも綺麗だろうね。小学生の世話っていうのが少し面倒だけど」
静「言っとくが、そっちがメインだからな、葉山。あと笑顔でさらりと本音を言うのはやめたまえ。建前を君は覚えろ」
【教室】
結衣「って事でさー。なんか、今、小学生のキャンプの手伝いを募集してるらしいよ。手伝ったら、内申点貰えるんだって」
三浦「キャンプねえ。結衣はそれ行きたいの?」
結衣「私? 私は特に……どっちでもいいかなみたいな?」
三浦「ふうん。戸部はー?」
戸部「内申点貰えるなら行ってもいいかなって感じー? 戸塚君はどう?」
戸塚「僕はちょっと興味あるかな。楽しそうだし」
結衣「沙希はどう?」
沙希「私は興味ない。他にやる事もあるし、行く気はないかな」
結衣「そ、そうなんだ。あ、えっと……ヒッキーは?」
八幡(留美の事があるしな。放置はしたくない)
八幡「俺は行く」
沙希「行く……? 行きたいとかじゃなくて?」
八幡「ああ、行く。平塚先生に頼んでくればいいんだよな?」
結衣「あ、うん。そうみたい。でも珍しいね、ヒッキーが自分から行くって言うなんて」
八幡「……ちょっとな。内申点が美味しいし、小学生の面倒とかそんなに大変じゃないだろうから」
三浦「ふうん……」
三浦「なら、あーしも行こうかな。結衣とかどうする?」
結衣「え? あ、ええと……」
戸塚「僕も行くよ。翔も一緒に行かない?」
戸部「オッケー行くって。優美子や比企谷君とかも行くなら、なんか楽しそうだしー」
結衣「あ、じゃあ私も行くー!」
三浦「て事は、あーしらはほとんど全員参加ね」
八幡「……川崎はやっぱり行かないのか?」
沙希「そうだね。悪いけど、私は行かないよ。ごめんね、結衣も三浦も」
結衣「あ、ううん! 行きたくないならしょうがないよ。気にしないで」
三浦「ん。なら比企谷、職員室に行くつもりなら、悪いけどあーしらの事も話しておいてくんない?」
八幡「ああ、わかった。それなら行ってくる」クルッ
三浦「あ、そうだ。あと、比企谷」
八幡「?」
三浦「折角だし、材木座とか誘ったらどうなん? あいつ、あれから全然見ないし」
戸部「優美子、それマジ、ナイスアイディア! 材木座君も来たらもっと面白いし!」
戸塚「うん! それいいと思う! 比企谷君、呼ぼうよ!」
結衣「決まりだね! じゃあ、ヒッキー。中二も一緒に誘って」
八幡「お、おう……」
八幡(あれ? 何か材木座が大人気なんだけど、どうなってんだこれ)
八幡(いや、俺的にもそれは全然問題ないんだが……むしろ、嬉しいまであるんだが。とはいえ、違和感が半端ないな。何であいつ、これまでぼっちだったんだ?)
【その夜】
『ふはーっはっはっは!! やはり我の力が必要なようだなあ、八幡よ!!』
八幡(LINEでも、半端なく面倒だな、あいつ……。別にいいんだが)ポチポチ
『俺だけじゃなく、三浦グループのほとんどからお前は誘われてんだよ。で、どうするんだ? 来るのか?』
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡(……いきなり返事来なくなったぞ、おい)
ピピッ
八幡(あれから十分ぐらい経ってようやく返ってきたか。何て入ってきたんだ?)ピッ
『ふふふふふ。その様な戯れ言で騙される我と思ったか、八幡よ!! 今回は何を企んでいるのだ、吐け!!』
八幡(…………)
八幡(気持ちは凄いわかる。俺だってそんなメール入ってきたら絶対に信用しないからな。……だが、事実だ)
八幡「」ポチポチ
『本当だ、と言ってもどうせお前は信用しないだろ。とにかく来ないか? 俺が孤立しない様にしてくれ』
ピピッ
『やはりそんな事だろうと思っていたぞ!! こう見えても我はなかなか忙しいのだがな。だが、友の為ならいついかなる時でも馳せ参じようぞ!!』
八幡(良し。材木座、ゲットだぜ)
八幡(後は……戸部と三浦の母ちゃんが車で全員送ってくれるって事になったし、交通手段は問題なしと。材木座が入って六人だから、車に乗るメンバーは多分アミダで決める事になるだろうがな)
八幡(それと、小町は誘わない、これでいい。あいつは来る必要がない)
八幡(となると、残りの心配は留美の事だが……)
八幡(やはり、『あれ』で片付けるのがベストだろうな……。これで、戸部や三浦を悪役にする事なく問題が解決する……はずだ。きっと)
【そして、キャンプ当日】
ピンポーン
小町「はーい」トタトタ
ガチャッ
小町「あ、三浦さん。お久しぶりです」ペコッ
三浦「小町じゃん。久しぶり。比企谷は?」
小町「お兄ちゃんなら、もう用意は済ませてると思うんで、ちょっと待ってて下さい。お兄ちゃーん! ってそこにいたの!?」
八幡「……存在感薄くて悪かったな。チャイムの音が聞こえてきたんで出てきたんだよ」
小町「ち、違うよ、小町そういう意味で言ったんじゃないからね!」アセアセ
八幡「悪いな、三浦。わざわざ家の前まで迎えに来てもらって」
三浦「行く途中だし、別に。それよか、もう用意は出来てるん?」
八幡「ああ、もう終わってる。持ってくのはこれだけだ。それじゃあ、行ってくるぞ、小町」
小町「あ……うん。行ってらっしゃい」
三浦「じゃね、小町」
小町「あ、はい! お兄ちゃんの事をお願いします!」ペコッ
八幡「」ガチャッ
バタンッ……
小町「……」ハァ……
小町「行っちゃった……お兄ちゃん」
小町「うーっ……本当は小町も一緒に行きたかったのに……」
小町「お兄ちゃんと一緒に出かけるチャンスだって思ったのに……」
小町「お前は来るな。由比ヶ浜もいるし邪魔にしかならない。何より、俺が連れていきたくない。とか、酷いよそんなの……」
小町「小町も行きたかったのにぃ……」シュン
【奉仕部メンバー、待ち合わせ場所】
相模「雪ノ下さん、葉山君、おはよー」タッタッタ
葉山「おはよう。何だかかなり嬉しそうだね。顔に出てるよ」
相模「あ、ヤバい、マジで? だって、この三人でキャンプとか超楽しそうだしさ」ニコッ
雪乃「…………」
相模「雪ノ下さん、私服も綺麗ー。流石だよねー」
雪乃「……あらそう。ありがとう」
相模「ね? 葉山君もそう思わない、雪ノ下さんの私服初めてみたけど、制服よりも数段綺麗になってるよね」
葉山「そうだね、雪ノ下さんは何でも着こなすけど、そういう服もよく似合うと思うよ」
雪乃「……ありがとう(……正直、反応に困るわね。誉められてるのだから、他に言いようがないし)」
静「君たち、お世辞はそこまでにしてさっさと車に乗りたまえ。置いていくぞ」
相模「お世辞って……。お世辞とかじゃないですって。それに、先生もカッコいいですよ」
静「当然だ」
雪乃「まったくその通りね。相模さん、早く乗りなさい」
相模「」
葉山「……相変わらずの二人だな」
【運転中、戸部家の車の中】
戸部母「こうして実際に車で走ってみるとわかるけど、結構遠いのね」
戸部「山ん中だからねー。にしても、懐かしいわー。俺も小学校の頃行ったしー」
戸塚「僕もだよ。材木座君はどうだった?」
材木座「わ、我もそうだな(八幡よ、何故我と同じ車でない! 聞いてないぞ、こんな話は!)」
戸部母「我って変わった言い方ねえ……」
戸部「あー、材木座君は中二病ってやつでー」
材木座「ぬぐほおっ!」
戸塚「翔、今はそれ、言わない方がいいんじゃないかな……」(苦笑)
戸部母「あら、翔だなんて下の名前で呼ばれてるの? ひょっとしてあなた、翔の彼女?」ニコッ
戸塚「あ、彼女だなんて、そんな///」カァッ
戸部「いや、戸塚君、そこ顔赤らめるところじゃないしー!」アセアセ
戸部母「……戸塚『君』?」
【キャンプ場所、到着後】
結衣「あ、いた。やっはろー、戸部っち。あと、彩ちゃんも中二もやっはろー」
戸部「うーすっ! 優美子たちも無事について何よりだわー」
戸塚「やっはろー、比企谷君。そっちは来る時どうだった? 一人だけ男の子で会話とか大変だったんじゃない?」
八幡「いや、そうでもなかったぞ。俺は相槌打ってるだけみたいなもんだったしな。会話のほとんどは三浦の母ちゃんと由比ヶ浜がしてた」
三浦「あーしの親が余計な事ばっか聞くもんだから……」ハァ
戸塚「余計な事って?」
八幡「三浦の学校での様子とかだよ。うちの母ちゃんもあんな感じなとこあるし、どこでもそれは変わんないみたいだな」
戸塚「そうかもね。僕のとこも結構心配性だから、そんな感じかも」
結衣「そういえば、そっちはどんな様子だったの?」
戸部「ああ、こっちはこっちで話は弾んだんだけどねー。ちょっと材木座君がまずい感じになっちゃったっていうかー……」
八幡「……何かやらかしたのか、あいつ?」
戸部「違う違う、その逆なんだって。母さんも混じって、俺ら、ちょっと材木座君に質問攻めしすぎた感じでさー。あれ、悪い事したわー」チラッ
材木座「……八幡。我はもう体力のほとんどを使い果たした。後は頼んだぞ」グテッ……
八幡「お前、まだ何もしてないだろ、おい」
三浦「つかさあ、あれ。平塚先生と一緒にいるの相模じゃね? あと、ハヤオもいるし」
戸部「ホントだ。俺らの他にもまだいたんだ」
戸塚「あ、雪ノ下さんもいる」パアッ
結衣「サガミンだ、やっはろー!」ブンブン
材木座「…………」グテッ
八幡(……どうやら材木座は車内でコミュ力にあたって体力のはとんどを吸いとられてしまったようだ。無視されるのは慣れてるが、歓迎されるのは慣れてないだろうからな……あいつも)
静「お、三浦たち先に来てたか。紹介しよう、奉仕部の面々だ。彼らもボランティアで参加だからな、仲良くするように」
相模「あれー、三浦さんたちも?」
葉山「やあ、みんな。まさかこんなところで会うなんて奇遇だね」
雪乃「……平塚先生、この人達は?」
静「内申点を餌に釣った魚たちだ。自己紹介は各自で適当にやってくれ。雪ノ下以外は同じクラスだから、特に問題ないだろ」
戸塚「雪ノ下さん、やっはろー」
雪乃「あら、戸塚君。こんにちは。あなたも来ていたのね。嬉しいわ」
戸塚「うん。僕もだよ」ニコッ
八幡(そして、出発前のオリエンテーリングも終わり、俺達も山の中に)
八幡(留美は簡単に見つかった。顔を知ってる事もあるが、全員がグループ行動をしている中でぼっちは別の意味で目立つからな)
八幡(ここら辺は前と同じだ。だが、違うところもある)
葉山「…………」
八幡(葉山が留美に声をかけない。雪ノ下や俺と同じで、一時期のあいつもぼっちに近い状態だったからな。それに、グループから追い出されたという意味じゃ葉山も留美も同類だ。そこら辺は空気を察したんだろう)
八幡(ただ、その代わり……)
相模「どうしたのー? 一人? 班の子達は?」
留美「……向こう。心配しないで」タッタッタ
相模「あ、行っちゃった……」
八幡(相模が前の葉山みたいな事をしている。目立つし、誰か一人ぐらいは気にするだろうから、それはもう仕方ないか……)
八幡(そして、他の面子は……)
三浦「材木座、あんたマジで大丈夫? さっきからずっと顔色悪いけど」
材木座「ぬおうっ! だ、大丈夫だ! 我なら平気だから心配は無用!」タジタジ
戸塚「どう? チェックポイントは見つかった?」
小学生A「うん! ありがとうね、お姉ちゃん!」
戸塚「えっと……あはは、参ったなあ」(苦笑)
戸部「戸塚君、マジで間違われる事多いし。やっぱ大変なん?」
戸塚「少しね。もう慣れちゃったけど」
結衣「雪ノ下さん! 蛇! 蛇がいるよ!」ビクッ
雪乃「……あれは確か青大将だから、毒は持ってないわよ。気性も大人しいらしいし、こちらから近寄らなければ平気な……由比ヶ浜さん? 何で私の後ろに回るのかしら?」
結衣「だ、だって、雪ノ下さん頼りになる感じだからつい……」
雪乃「……それはともかく、服は引っ張らないでもらえる?」
八幡(特に問題なく過ごしているな。こちらは多分、トラブルになるような事はないだろう)
八幡(……となると、やっぱり留美だけか。気にかけないといけないのは)
葉山「」トコトコ
八幡(ん……?)
葉山「比企谷、さっきから君もあの子を気にかけているみたいだね。……相模さんがさっき声をかけていたけど、どう思う?」
八幡「対応としてはあれで正解だ。変に構われるとより孤立するからな」
葉山「それについては俺も同感だな。目立たず、騒がずがいい」
八幡「ぼっちにはぼっちの生き方ってものがある。可哀想と思われない、生意気だと思われない、見下されない。この三つを守らないとイジメの対象になる。ぼっちは身を守る為に、一人で誇り高く生きなきゃいけないんだよ」
葉山「……意外だな。リア充の君がそういう事を言うのか」
八幡「リア充? は? 誰がだ?」
葉山「君以外に誰がいるんだ? クラスの中で一番影響力の強いグループに属していて、人望もあり、成績も良い、スポーツも出来る。何より、美人の三浦さんから気に入られている。立派なリア充だろ?」
八幡(え……? おい、それマジで? つうかどこの葉山だよ、そいつ)
葉山「だから、そんな君が、まるでぼっちになった事があるような言い方だったんで意外に思ったんだよ。ひょっとして、中学や小学校の時にそんな経験でもしたのかい?」
八幡「いや……むしろそれしか経験して来なかったというかだな……。今はそうでもないみたいだが、ぼっち歴は間違いなくこの中で誰よりも長いんだよ、俺は。むしろ、ぼっちのプロと自称するまである」
葉山「……にわかには信じられないけどね。……まあ、いいさ。それで、あの子の事をどう思う?」
八幡「どう思うって何だよ?」
葉山「君はどうするつもりかって聞いてるんだよ。実はさっき相模さんから相談を受けたんだ。どうにかしたいって彼女は思ってるみたいだから、君に協力するつもりがあるなら君達と協力出来るだろうと思ったのさ」
八幡「相模がね……。お前自身はどう思ってるんだ?」
葉山「そうだね……。正直なところを言えば、余計なお節介だと思っているよ。放っておいてもいいものに、わざわざ首を突っ込む必要はないだろうから」
八幡「……見捨てるって訳か。自分に関係ないし、得にもならないから」
葉山「それもなくはない。でも、本当のところは、あの子の自業自得だってところかな」
八幡「…………」
葉山「色々と他の子達にさりげなく話を聞いてみたら、あの子達がああいう風にグループの中の誰かを仲間外れにするのは前から何度かあったそうだ」
葉山「つまり、今までやってきた事の順番が遂に自分に回ってきただけの事だよ。自分も参加しといて、自分がされる側になったら誰かに助けてもらうなんて話がおかしいだろ? 助かるなら、自分自身の手で助かるべきというのが俺の考えだ」
葉山「それに、俺たちが介入する事で話がよりこじれる可能性もある。これまで何度もあったなら、また自然と戻る可能性も高い。それを潰しかねないしね」
八幡「……つまり、何もしない方が良い結果になるとお前は思ってるって事なんだな?」
葉山「最終的には、それがあの子の為になると思う。あえて言うなら脅してけしかけるぐらいだろうね。このままいくと、中学校になっても辛い想い出ばかりが残るよって」
八幡(正しく、中学生の時の俺か……)
葉山「それに、今は無視されているだけで済んでるけど、これから先、更に本格的なイジメに変わる可能性もある。それも脅しの材料になる」
八幡「それで、自主的に仲直りまで持ち込ませるって事か?」
葉山「効果のほどはあまり期待出来ないけど、そんなところさ。それが俺の考えだよ」
八幡「……一応聞いておくが、あのグループに戻るのはもう諦めて別のグループに入るってのはどうなんだ?」
葉山「……どうだろうね。俺は、イジメは一つの例外なくイジメる側が悪いと思っている人間だけど、ただ、イジメられる側にも必ず何かの原因があるとも思ってる。あの子自身が変わらない限り、どこのグループに入っても似たような事はまた起こるんじゃないかな」
八幡「……なるほどな。それがお前の結論か……」
ここまで
【夕食準備中】
材木座「八幡……。我は何故か今日死ぬほど疲れたぞ……」グテッ……
八幡「悪かったな。ほったらかしにして。……やっぱり今日は誘わない方が良かったか?」
材木座「いや……。そうではない。……ただどうしていいかわからず困ったというだけで……来ない方が良かったとは我は思ってはいないぞ」
八幡「大人気だったみたいだな。小学生相手にも」
材木座「うむ。我を中心とした軍団が出来た程だ。【無限聖騎士団(インフィニティクロスセイントズ)】と名付けてやったら、大喜びでな」
八幡(……俺はとんでもない怪物を小学生の群れに解き放ってしまったかもしれない)
三浦「比企谷ー! サボってないであんたも手伝うし」
八幡「とうとう見つかって呼ばれたか……。じゃあな、材木座。戦場に行ってくる」
材木座「すまぬな、八幡よ。我がこの様な体でなければ、共に戦場を駆け抜けられたものを」
八幡「気にするな。こちらは元から何も期待してない」
材木座「辛辣な奴め……。だが、気を付けろよ。生きて無事にここまで帰って来るが良い」
八幡「おう。……グッドラック」スタスタ
材木座「ふっ。知らぬ間に強き男になったな、八幡よ。我は嬉しいぞ」フフフフッ
雪乃(……突っ込んだら負けという奴なのかしら、これは)
相模「」トントントントン
結衣「わあ。サガミン、切るの上手だね」
相模「え? そう? これぐらい普通な気がするけど……」
結衣「ううん。私より全然上手いし。ほら、私がジャガイモとか剥くと、何か小さくなるだけで、全然上手く剥けないんだよね」
戸塚「……というより、由比ヶ浜さん、ひょっとして料理苦手?」
結衣「う……まあ」
八幡(しまった。こっちの爆弾を忘れていた)
結衣「でも、今日は私も頑張っちゃうから。サガミン、何かする事ある?」
相模「んー……なら、ニンジン切ってもらおうかな。はい、これ」
八幡「いや、待て相模。由比ヶ浜には皿の用意以外何もさせるな。折角のカレーを消し炭にされたくはないだろ」
結衣「ちょっと、ヒッキーなにそれ! 今の酷くない!?」
三浦「だね。今のはホント比企谷が酷いし。結衣が料理苦手って言っただけでそこまで言う事ないっしょ」
八幡「……なら、三浦。お前と由比ヶ浜で一緒に作ってみたらどうだ? 俺は戸部や戸塚たちと一緒に作る」
三浦「なにそれ? あーしらとどっちが上手く出来るか勝負って事?」
結衣「なら、私たちはサガミンも合わせて女の子三人チームだよ。いいよね、サガミン!」
相模「え? うちもなの?」
三浦「……なに? あーしらとじゃ不満なん?」
相模「あ、違う違う。そんな事ないって。ちょ、ちょっと驚いちゃっただけだから」
八幡「なら決まりだな。戸部、悪い。お前もこっちのチームで参加してくれ」
戸部「オッケー。俺、こういう展開好きだしー。料理対決とか燃えてくんじゃん? 男の手料理ってやつ? それを見せてやろうぜー」
三浦「言ったね、戸部。なら、あーしらがきっちり勝って、黙らせてやるから」
戸塚「なんか……大変な事になってきたね、比企谷君」
八幡「大変というか、緊急避難だな。あっちは地獄になるだろうから」
戸塚「?」
葉山「……やれやれ。これは、俺一人で火をつけてご飯を炊く流れだな……」パタパタ
留美「」トコトコ
雪乃(あら、あの子は……)
材木座(む……あの雰囲気はもしや)
留美「……あなたたちは料理、作らないの? 向こうで何か盛り上がってるみたいだけど」
雪乃「ええ。私の役目はお米をといでおく事で、それはもう終わっているもの。後は飯ごうの火加減を見つつ、料理が出来たらお皿に盛り付ける事ぐらいね。それ以外はあそこにいる必要はないわ」
留美「……あなたは?」
材木座「我も同じだ。それに、今は少々、悪しき気があの空間を支配しておるのでな。ここで休養して静観すべしと我が体内に眠るもう一人の人格が忠告している」
留美「……ばっかみたい」
材木座「ぬぐっ……!」
雪乃「そういうあなたはどうなのかしら? 見たところ、料理に参加するつもりがまるでないみたいだけど。確か山の中でもグループの子たちから一人離れていたわよね」
留美「……見てたんだ」
雪乃「ええ、可愛……目立っていたのでね」
留美「川?」
雪乃「向こうに川があるそうよ」
留美「?」
材木座「?」
雪乃「それはともかく」
材木座(結局、何だったのだ?)
雪乃「私たちは少し休憩しているようなものよ。だから、その内戻るわ。でも、あなたは戻る気がないのではないのかしら?」
留美「……戻っても、私のする事は何もないから」
材木座「ぼっちか。よくわかるぞ、その気持ち」ウムウム
留美「……何がわかるの?」
材木座「我も中学の時の調理実習はそうであった。材料だけ渡してな。後は何もせず、ただ邪魔にならぬようにはしっこで見ておるのだ」
雪乃「そして、調理が終わると、机の上に他の子たちより二割ほど少ない自分の分が並べられるから、それを黙って食べるのよ。食べ終わったら自分の分の食器だけを洗ってそれで終わりね。これが調理実習というものよ」
留美「……そこまで酷くはなかったけど」
留美「……でも、やっぱり、あなた達もそうなんだ。二人とも雰囲気が他の人と違ったから」
< ちょっ! 結衣、あんたニンジンの皮剥いてないし!
< え? 皮?
雪乃「正確に言うなら、そちらの中二病の彼は、ぼっちだったと過去形で語られるべきね。今も現在進行中で一人なのは恐らく私だけよ」
材木座「そう。我には八幡という魂の盟友がいるからな! 更にはここに来て、一気に ……なぬ? 雪ノ下雪乃。貴様、ぼっちなのか……?」
< あー! 焦げてる焦げてる! 由比ヶ浜さん!
雪乃「話し相手がいる、という意味ではぼっちとは言えないかもしれないけれど、友達と呼べる存在が一人もいないのは事実ね」
材木座「……そうか」
留美「いるだけマシな方だと思う。私には一人もいないし」
< ストップ! 結衣! ルーは炒めなくていいっての! だからストップしろし!
雪乃「それは私に対する慰めかしら? あるいは自虐かしらね? それとも相談かしら?」
留美「全部違うと思う。多分、愚痴。今まで言いたい事を言えなかったから、誰かに話したくなっただけだと思う」
< 材料丸ごと一気に入れてどうするの! 順番守ってよ、由比ヶ浜さん!
< だ、だって! 今、入れていいって!
材木座「何か吐き出したい事があるなら、遠慮なく我に言ってみるがよい。自分で言うのも何だが、我は長きに渡り孤高の道を貫き歩んできた強者だ。大体の事は共感出来るぞ」
雪乃「私もそうね。長い間、一人でいる事を選択した人間よ。あるいはそう選択させられてきた人間と言えるかもしれないけれども」
留美「……うん。わかる。なら、少しだけ聞いて」
< あんたもう何もするなし! 向こう行ってて!
< ちょっ、優美子!?
【調理後】
雪乃「……ずいぶん斬新なカレーね。独特の苦味に加えて、まるで砂が入っているかのような食感が口の中でするなんて……」モグモグ
相模「……やっぱりこうなっちゃったかぁ。焦げてるの多かったしね……」モグモグ
三浦「……ちょっと結衣止めんの遅すぎたかんね」モグモグ
結衣「……ご、ごめん。一生懸命やったんだけど……」シュン
戸塚「えっと……良かったら半分こちらのと混ぜない?」
戸部「そうすれば多少は良くなるかもだしー」
葉山「うん。こっちのは美味いな」モグモグ
八幡「お前、いつのまにかちゃっかり混ざってんな……」
材木座「八幡よ……。何故か我の分だけないのだが……」
葉山「ああ、ごめん。向こうのが酷かったから、こっちのを勝手に頂いてるよ」モグモグ
八幡「おい」
【夕食後】
雪乃「……という事が先程ありまして。奉仕部として依頼と捉え、活動を考えています」
材木座「左様。我もその手助けをするつもりだ。弱きを助け強きを挫くは当然の事!」
静「なるほど。小学生の群れの中に、はぐれメタルがいたか」
八幡(どういう言い方してんだ、あの人)
静「それで、君達的にはどうしたいんだ?」
相模「うちもそれ気付いていたし、どうにかしたいって思ってる。みんなはどう?」
三浦「あーしもかな。一人とか可哀想じゃん」
戸部「俺もそれに賛成だしー」
戸塚「僕もだね。出来る事はしてあげたいって思う」
結衣「私も!」
葉山「……俺は保留かな。方法によっては反対もするし、賛成もするよ」
八幡「…………」
三浦「比企谷はどうなん?」
八幡「俺も元はぼっちだからな。協力しない理由がない」
静「ふむ」
静「つまり、賛成多数という事だな。ならば、君達で考えて君達で勝手にやりたまえ。クレームや苦情が来た時だけは、私の監督不行き届きという事で責任だけは取ってやるから、好きにやるといい」
八幡(投げっぱなしか……。だが、責任を取ると言うあたり、教師としての自覚はあるんだな)
静「ただし、これだけは覚えておけよ。君達が何かした結果、上手くいけばそれでいい。だが、失敗してより悪い状態へと変わる事もある。無視だけでなくイジメへと加速したりな」
静「もしそうなった場合、君達はあの鶴見留美という子に対して一切の責任を取れないという事を忘れるな。些細な事で人の一生それ自体が変わる事もある。それをよく頭に入れて行動するように」
結衣「……中途半端な気持ちで関わるなって事ですか?」
静「違うな。失敗を恐れる心を持てという事だ。覚悟を持って最善を尽くしてから臨め。失敗してもいいという軽い気持ちではいるな」
雪乃「仰る通りです」
静「良し。なら、私はこれで小屋へと戻るぞ。夜に備えてもう寝ておきたいからな」スタスタ
葉山(釘をさしたと取るべきか、発破をかけたと取るべきか、難しいラインだな……。だが、基本的には生徒に任せて放置か。こちらも無関心と取るべきか、生徒の自主性を重んじていると取るべきか……)
雪乃(あの言葉、流石ね。素晴らしい教師だわ)
戸部(やっぱ平塚先生カッコいいわー。ホント、マジで憧れるしー//)
相模(先生、スゴいなあ。生徒に任せておいて、失敗したら責任取るとかそう言えないでしょ。皆が好きになる理由がわかるって感じだよね)
戸塚(……もしかして関わるの、面倒くさかったのかな? どうなんだろ?)
【平塚先生が去った後】
葉山「……それで、これからの事についてだけど。みんなは具体的にはどうするつもりなのかな。何か案がある人はいるのかい?」
相模「それは……」
雪乃「さっきの平塚先生の言葉もあるし、そう簡単には思い付かないわね……」
材木座「ふむう……。なかなかに難しき問題だな」
八幡「……その事なんだが、俺に一つ提案がある」
結衣「なに、ヒッキー?」
八幡「これだ。俺の家の押し入れにあったんだがな」スッ
戸塚「なにこれ……? 何かのスイッチみたいだけど……」
八幡「好感度がわかる機械、らしい」
三浦「好感度?」
【説明後】
葉山「……なるほどね。中途半端にまとまっているグループを一度壊して、新しく再生させるって事か……」
八幡「そういう事だ。誰だって口に出してないだけで、好き嫌いってのはあるだろ。特にあの子がいたグループはハブったりくっついたりを繰り返しているらしい。だから、内心では好きじゃないと思っているやつもかなりいるんじゃないのか」
八幡「それを数値で出してはっきりさせてやる。自分が誰から気に入られているか、あるいは嫌われているか、それがわかれば自然とグループは気の合う同士でまとまるはずだ。つまり、グループは一度壊れた後に、分裂してまた再生する」
材木座「まるで不死鳥の如くだな!!」
八幡「不死鳥というより、細胞分裂だな。それに、やり方が自然で手間も時間もかからない。ゲームだとか言って、あの子のグループにこの好感度スイッチを使わせるだけで済む。後は、自然と成り行きに任せて、仲間割れするのを待つだけだ」
八幡「俺はこれが一番の解決法だと思う」
八幡(正直、葉山のさっきの案も俺は否定出来ていない)
八幡(何故なら、葉山の案は正論だからだ。問題解決の手助けをするという奉仕部の理念とも合っている。雪ノ下の言葉を借りるなら、俺達は釣竿を渡し釣りの仕方を教えるだけで、実際に魚を釣るのは本人の役目なのだ)
八幡(だが、俺のやり方は根本から違う。魚が欲しいのなら釣るのではなく、網を使えばいいと言っているようなものだ。結果的に魚は手に入るのだからと。つまり、本人は魚の釣り方を知らないまま終わる。また同じ場面に遭遇したら、留美はまた同じ事を繰り返すだろう)
八幡(だから、それが正しいやり方だとは俺は思わない。だが、それでも俺はこういう方法しか思い付かないし、葉山の案にも賛成出来ない)
八幡(何故なら、葉山の案は正しいが、正しいからと言って効果があるとは限らないからだ。正しいやり方と効果があるやり方は別物だし、根本的に正論というものは厳しい。優しくはない)
八幡(葉山も恐らくそれがわかっている。わかっているから効果はあまり期待出来ないと言っていた。その上で葉山は本人の為にそれを選んだ。あるいは、それが出来ないようなら全て自業自得だと割り切った)
八幡(……だが、俺はその割り切りが出来ない。だから、結局、前と似たような道を行く。ただし、今回は前の方法よりも確実にいいはずだがな)
八幡(これなら、前の時の様に葉山や三浦たちを悪役にする必要がない。そして、グループの再生が恐らくかなり早い)
八幡(そして、再生したグループはきっと本物のグループだ。ちょっとやそっとでは揺るがないだろうし、また誰かを仲間外れにする事もないだろう。それが大きい)
八幡(このスイッチを使うのは裏技みたいなもんだが、とはいえ、俺は裏技は好きだ。やはりこの方法が俺の中のベストだ)
戸部「うーん……比企谷君の案、解決ってより解消って感じ? いいのか悪いのか難しいとこだけどー……」
三浦「一つだけ質問があんだけどさあ、比企谷。そのスイッチ、正確な数値が出んの? でたらめな数値だったら、結局意味なくね?」
八幡「それなら問題ない。この機械は間違いなく正しい数値が出る。その事についてはすでに立証済みだ」
雪乃「立証済み?」
八幡「前に計った事があるんだよ。一年ぐらい前の話だけどな」
戸塚「そうなんだ。誰と計ったの?」
八幡「……親戚のオジサンオバチャン達とだよ。色々あって人間関係が一変したがな。ただ、最後にはうまい事まとまったぞ」
結衣「えっと、それってつまり効果はあるって事だよね? なら今回もいけるんじゃない?」
相模「そうなるよね……。うん、ちょっと思ってたやり方とは違うけど、いけそうな感じはあるかも……」
八幡(……それにしても、やっぱりこのスイッチの事を覚えているのは俺だけみたいだな。最後にスイッチを持っていたからか? 理由はわからんが、とにかく今はあるものを最大限に活用しよう)
葉山「…………」
八幡「葉山、お前はどう思う? 好感度の正しさは俺が保証する。その上でお前の意見を聞いてみたいんだけどな」
葉山「……良いんじゃないかな。君の言葉を全面的に信用するとしての話だけどね。気の合わない人間と無理して付き合う必要はないと俺も思うし、だったらグループは壊してしまってもいいと思う」
葉山「本質的な解決にはならないと思うけど、すぐに効果が出るという意味では良いと思うよ。だから、賛成かな」
八幡「……そうか。それを聞いて少しは安心した」
葉山「むしろ、俺自身が好感度を確かめたいぐらいだね。そのスイッチ、後で借りる事は出来るかい?」
八幡「使いたければ好きにすればいいけどな。……ただし、後の事は保証しないぞ」
葉山「……嫌な言い方をするね、君は」(苦笑)
八幡「そういう性格なんでな」
八幡(だが、結局、葉山がそのスイッチを使う事はなかった)
八幡(戸部達がそれを留美たちのグループに渡し、好感度を計り終えた後、そのスイッチが忽然と消えたからだ)
八幡(……そして、そのスイッチは『元からなかった』様な状態になり、留美たちは『初めから』別々の班にバラけていた)
八幡(つまり、最初から留美はぼっちではなくなっていたし、その事について話し合った事自体なくなっていた)
八幡(つうか……なんてスイッチだよ。好感度が正確に出る時点でおかしいと思ってたが、完全にSFの世界のスイッチだぞ、あれ)
八幡(多分、俺の時と同じで留美たちの時間が遡ったんだろうな。好感度だけはそのままで。でないと、説明がつかない)
八幡(そして、消えたスイッチは多分、最後に使った子の家にでも転がっているんだろう。が、それが誰かを俺は見てないから回収どころか最早特定すら不可能だ。最後に持っていた人間以外、あのスイッチに関する記憶まで消えてるだろうからな)
八幡(仮に最後に使った本人に聞けたとしても、その事を多分正直に話しはしないだろう。俺がそうだったように)
八幡(……つまり、諦めるしかない、という事になる)
八幡(ある意味……これで良かったのかもしれないがな)
八幡(俺はあの時、取り返しのつかない失敗を一つしている……。そして、また計る事になったら、わかっていても俺はきっとその失敗をまた繰り返すだろう……)
ここまで。もうちょいキャンプ
【夜】
静「よーし。諸君ら、今日はご苦労だったな。特に何も問題なくこれているし、初日は上々というところだ。全員、今日はゆっくり休むといい」
静「それと、葉山。男と女のロッジは当然違うが、夜這いだとか覗きだとかの不埒な行為を考えるなよ。男たちはお互いに監視しあって不埒者を出さない様にしろ」
葉山「……何で俺だけ名指しなんですか」
静「女たちもだぞ。夜中にトランプやお菓子だとかを持って遊びに行こうなどと考えるなよ。自分の身体を大切にしろ。あいつらは基本性欲しか頭にないウサギどもと同じだからな」
八幡(……いや、確かにウサギは年中発情してるが、その例えはおかしい)
三浦(つうか、ウサギ可愛いし)
静「とにかく、私の監督下の元では、不純だろうと純粋だろうと異性交遊は断じてさせん!」
戸塚(純粋も認めないってどういう事!?)
静「だが、男同士なら不純でも許す!」
八幡(何か変な事言い出したぞ、あの人)
静「では、解散してさっさと寝たまえ。明日も君達には朝早くから働いてもらうからな」クルッ、スタスタ
雪乃「そうね。すぐに寝に行くわよ。私達は遊びに来た訳ではないのだから」スタスタ
結衣「……雪ノ下さんっていつもあんな感じなの?」ヒソヒソ
相模「なんか平塚先生が関わってくると、少し変わっちゃうっていうか……」ヒソヒソ
【女のロッジ、布団の中】
雪乃「…………」
相模「」ニコニコ
雪乃「……相模さん。横でじっと見られてると寝にくいのだけど。あなたには人を気遣うという心がないのかしら?」
相模「あ、ご、ごめんね。つい……」
雪乃「つい?」
相模「雪ノ下さんとこんなに近くに一緒にいるんだなあって思ったら、うちホント嬉しくなっちゃって」テレッ
雪乃「……正直、気持ち悪いのだけど」
三浦「……普通にドン引きだし」
結衣「サガミン、マジキモいし」
相模「え、ちょっと、何で集中砲火!?」アタフタ
【男のロッジ、布団の中】
戸塚「駄目だよ……翔/// そんな事されたら、僕……」ムニャムニャ
八幡(……眠れない。無理だろ、これ)
材木座「八幡よ、起きているか……?」
八幡「おう、何だよ?」
材木座「実は今、重大な事に我は気づいたやもしれぬ」
八幡「重大な事?」
材木座「我はもしかしたら、枕が変わると眠れぬ体質なのかもしれぬ」
戸部「!」ブフッ!
八幡「戸部がツボッたぞ」
葉山「っ……」プルプル
八幡「お前もか、葉山」
【女のロッジ、布団の中】
相模「こういう時って、やっぱ話題は恋話しかないと思うんだけど……雪ノ下さんって誰か好きな人とかいる?」
雪乃「いたとしても、あなたにだけは言いたくないわね」
相模「」
三浦「つか、結衣とかどうなん? あーし、前から気になってたんだけど」
結衣「私? 私はえっと……そういう話はいいかなーって。あはは……」
三浦「隠すなし。折角だから言えばいいっしょ。ほらほら言ってみ」
結衣「いやホントにそういうのは困るって言うかね、そ、それより優美子とかはどうなの? いるの?」
三浦「あーし? あーしは今のとこいないかな。チョイ気になってる奴はいっけどねー」
結衣「ホント!? 誰、誰?」ワクワク
三浦「急に元気になりすぎだし」
結衣「だって気になるじゃん、ね、教えて教えて」
三浦「ま、いっけどね。今、気になってるんは比企谷」
結衣「ヒッキー!?」
相模「え!?」
雪乃「……比企谷君を?」
【男のロッジ、布団の中】
戸塚「そんな……雪ノ下さんまで……あっ///」ムニャムニャ
八幡(戸塚のイメージがどんどん崩れていく……。どんな夢見てるんだ、一体……)
戸部「つかさあ、こういう時の定番ってやっぱ恋話っしょー。比企谷君とか、今、気になってる子とかいないのー?」
八幡「俺はいない。昔はいたけど、もうフラれてる様なものだしな」
戸部「マジで!? 誰、誰?」
八幡「急にテンション上がったな。つうか、誰にも言う気はないぞ。もうかなり前に終わった話だしな」
戸部「ちょー、それはないっしょー。比企谷君、それはノリ悪いしー」
八幡「いつもの事だろ。それより戸部はどうなんだ? 告白とかするつもりなのか?」
戸部「え?」
八幡「気になってる人がいるんだろ、お前は。どうするつもりなのかと思ってな」
戸部「ちょっ、何で比企谷君、知ってる訳?」
八幡「見てて何となくな(という事にしておく。好感度の事を話しても意味ないだろうからな)」
戸部「うわ、マジでー。ちなみに誰かも知ってるん?」
八幡「イニシャルを言っていいなら言うぞ?」
戸部「言っていいよ。つか、聞かないと安心出来ないしー」
八幡「イニシャルは……名前がSで名字がH(平塚静)だ」
戸部「うわ、マジで!? そんなバレバレなん、俺!? ショックだしー……」
材木座(リア充の会話か……。残念ながら我はついていけぬ……)
葉山(……よし、いろはでも雪ノ下さんでも三浦さんでもないな)
【女のロッジ、布団の中】
相模「超意外ー。どうして比企谷君なの?」
三浦「どうしてって、特に理由なんかないし。あいつ、ちょっとほっとけなかったかんね。それで面倒つーかお節介焼いてたら、段々と少し気になり始めてきたって感じだし」
結衣「あるよね! そういうの、あると思う!」
雪乃「……ちなみにそれはまだ『気になる』という段階であって、明確に好きだという訳ではないのよね?」
三浦「そ。これからどうなるかなんてあーしにはわかんないけどね」
雪乃「」ホッ
結衣「?」
三浦「相模。あんたはどうなん?」
相模「うち? うちは……えっと……//」
雪乃「……その反応だといるのね?」
結衣「もしかして、雪ノ下さんだったり?」ワクワク
相模「ち、違う違う。うちはそういう変な趣味はないから。普通に男の子が好きだって」
雪乃「……変な趣味、ね」
結衣「変かあ……」ショボン
相模「?」
三浦「?」
【男のロッジ、布団の中】
戸塚「あっ……材木座君まで……/// そんな風にされたら……僕もう……」ムニャムニャ
八幡(……戸塚って、もしかしてビッチ系清純男子なのか……? 夢の中で何人と何をしてるんだよ……)
戸部「にしても参ったわー。比企谷君、俺の好きな人、絶対に内緒でオナシャス。流石にこの人の事だけはバレたくないしー」
八幡「ん? ……ああ、それはわかってる。誰にも言ってないし、言う気もないからな」
戸部「サンキュー。そうしてもらえるとマジ助かるしー。材木座君も今日の話は聞かなかった事にしておいて。頼むわ」
材木座「良かろう。で……いくら出すのだ?」
戸部「口止め料いるの!? マジで!?」
葉山(……好きな人か。俺は多すぎるからな)
葉山(だけど、本当に好きなのは……いろは。あいつだけだ)
葉山(この恋はいつか叶うんだろうか……)
【女のロッジ、布団の中】
相模「うちが好きなんは、やっぱり内緒で/// ごめん、恥ずいから」テレッ
三浦「ノリ悪いし。そこまで言ったなら言えばいいっしょ」
相模「で、でも……/// ムリムリ、ごめん、ホント」
三浦「ったく。言ったの、あーしだけじゃん。なら……雪ノ下さんは?」
雪乃「男で、という意味なら今のところ戸塚君が気に入っているわね……。正直、女の子としてしか見ていないけれど」
相模「でも、それって好きっていうのとは違わない?」
雪乃「いいえ、戸塚君がもし女の子だったとしたら、きっと好きになっていたと思うわ」
三浦「は……? それってつまり……レズって事?」
雪乃「ええ、そうよ。私は男より女の方が好きなの。少なくとも、これまで見てきた中では、男性よりも女性の方に魅力を感じているもの」
結衣「!(仲間!)」
相模「え……!?」
三浦「うわ……マジで?」
【男のロッジ、布団の中】
戸塚「比企谷君まで……良くないよ、こういうの、ん//」ムニャムニャ
八幡(遂に俺まで出てきたんだが……。俺、戸塚の夢の中で何をしてるんだ……)
戸部「材木座君はどうなん? 誰か気になる子とかいないの?」
材木座「わ、我は特には……」
戸部「マジで。じゃあ、俺ぐらいなんかなー。戸塚君も気になるんだけどさー。もう寝てるみたいだしー」
八幡(……お前が一番気に入られてるんだけどな)
戸部「んー……。隼人君は?」
葉山「俺はハーレムを作りたいね」
戸部「……マジで引くしー。聞くんじゃなかった的な?」
葉山「男の夢だろ、ハーレムは」
戸部「……もう寝るわ。おやすみー」
葉山「……自分勝手なものだな。だけど、俺ももう寝るよ。お休み」
材木座「みんな、寝てしまうのか……。ならば、我も悠久の眠りにつくぞ、八幡よ」
八幡「お前、それだと二度と起きてこない事になるぞ?」
材木座「なぬ!?」
八幡(しかし……)
八幡(正直な事を言えば、俺はある意味、今の葉山の事をどこか羨ましく思っている)
八幡(そんな風に思う俺は間違っているのだろうか……)
【女のロッジ、布団の中】
雪乃「私が同性愛者という事で、何か問題でもあるのかしら?」
三浦「問題でもっつうか……問題しかないっつーか……。普通引くっしょ。ね、結衣?」
結衣「え、えっと……。そうかもしれないって言うか……そうじゃないかもみたいな……」
三浦「どっちなん? はっきりしろし」
雪乃「どちらにしろ、他人は関係ないわ。自分に対して正直に生きているのだから。例え異端と言われようと嘘をつくよりは遥かに良いと私は思っているし」
結衣「!!」
三浦「そうかもしんないけどさあ……」
結衣「わ、私も!」
相模「え? なに、急に? 由比ヶ浜さん?」
結衣「私も女の子の方が好きだし! サキサキなんか大好きだし!」
三浦「!?」
相模「!?」
雪乃「……ひょっとして、あなたもなの、由比ヶ浜さん?」
結衣「うん! 私も女の子の方が好きだよ! ていうか、男とか苦手だし!」
三浦「結衣……?」
相模「……えっと」
【翌日、川辺】
戸塚「翔! ほら、早く入ろうよ! 冷たくて気持ちいいよ!」
戸部「ちょっ、急ぎすぎだし、戸塚君! っとと」ツルッ
戸塚「あ、危ない!」ダキッ
戸部「え……!?」
戸塚「良かった。転ぶところだったね、翔」ギュッ
戸部「あ、うん……。ていうか、その……近いっていうか……///」
戸塚「あ、ご、ごめん……///」パッ
八幡(抱き合った後に頬を赤らめて離れる男二人……。海老名さんが見てたら、興奮のあまり失神しそうな光景だな)
雪乃「由比ヶ浜さん、あちら側なら良さそうじゃないかしら。流れも緩やかだし、浅いから溺れる心配もないわ」
結衣「だね! じゃあ、一緒に行こう。ゆきのん!」
八幡(そして、昨日何があったかは知らないが、由比ヶ浜が雪ノ下の事をゆきのん呼ばわりしている。久々に聞いたな、あれ……)
相模「葉山くーん、うちらもあっちに行こうよ。めっちゃ遊びやすそう」
葉山「そうだね。是非すぐ行こう」ニコッ
相模「う、うん//」
八幡(向こうは向こうで奉仕部としてまとまっているのか……? 前は考えられない組み合わせだったんだがな……)
静「材木座……。お前はもう少し運動しろ。何だその贅肉は! 今晩の焼き肉になりたいのか!」
材木座「」
八幡(そして、暴言を吐く教師。いつかクビになるんじゃないか、あの人?)
三浦「比企谷、あんたなに一人で黄昏てるし」テクテク
八幡「……そんなカッコいい事はしてないんだがな。ただ、人間観察をしていただけだ。妙にしっくり来てるもんでな」
三浦「変な言い方だし。つか、あんたもそんな事してないで、遊びなっての」
八幡「俺はこうしてる方が好きだ。俺にとっては遊びみたいなもんだしな」
三浦「またなん、あんた?」ハァ……
八幡「……そういう性分なんだよ。それと、あからさまに溜め息つかれると結構傷付くからやめてくれ」
三浦「だって比企谷、全然変わってないし。あーしがこの前、折角遊びに連れ出したってのにさあ」
八幡「人間そうそう変わるもんじゃないだろ。それよりお前、由比ヶ浜と何かあったのか?」
三浦「は? ……どうしてわかるし」
八幡「見てりゃわかる。今日、朝から由比ヶ浜とほとんど喋ってなかっただろ。最初は喧嘩でもしたのかと思ったんだが、見てるとお互い気まずくて避けてるみたいな感じだったからな」
三浦「……意外と比企谷、見る目あんだ」
八幡「長い事ぼっちをやってると、自然と人間観察が得意になるんでな。俺の数ある特技の中の一つだ」
三浦「でも、最終的には言う事それなん? 自虐ネタ絡み辛いっつーの」
八幡(……そういえば俺も前にそう思ったな。海老名さんの事で)
三浦「ま、結衣とは昨日チョイあってね……。別にケンカとか嫌いになったとかじゃなくて、話しかけるタイミングがつかめないっつーか……。話すタイミング逃したっつーか……。わかるっしょ、何となく。今は気まずいん」
八幡「そうか……。たまには、そういう事もあるだろうな。それはわかる」
三浦「だから、代わりにあんたがあーしに付き合いなっての。戸部も戸塚も向こうで遊んでるし」
八幡「その理屈もわかる。が、俺が付き合う理由がない」
三浦「つかさあ、比企谷。あんた段々生意気になってきてね? あーしにそんだけ言うやつ、他にいないんだけど」
八幡「慣れってやつだな。この前、色々と連れ回されたおかげで三浦にはもう慣れた。その成果だ」
三浦「だから、それが生意気だっつーの。ったく」
八幡「大体だな、川で遊びって何すりゃいいんだ? あいつらみたいに川に入ってきゃあきゃあ言いながら水をかけあえばいいのか? あえて聞くが、それ本当に楽しいか? 冷静に考えると、水をかぶるだけでまるで面白くないと思うんだがな」
三浦「んな事はしてから考えなっての。ホント、生意気な上に面倒くさいやつだし」グイッ
八幡「おい、待て。何で腕を引っぱ」
三浦「それっ!」ドンッ
八幡「とっ!」ジャボンッ!!
三浦「前から思ってっけど! 比企谷は色々考え過ぎだっつーの!」バシャッ!!
八幡「……笑って水かけんなよ。イジメとか思っちゃうだろ」ベチョッ……
三浦「またそういう事ばっか言うし。それにこういうのはかけられる方が悪いってのが常識なん! 当たり前っしょ!」バシャッ!!
八幡「だから、そん……ごはっ! 顔に、もろかかったじゃねーか」ゲホッ、ゲホッ
三浦「ほら、比企谷。あんたはされっぱなしで満足なん? 反撃しようとか考えないん? 男のくせにそれは情けなさ過ぎじゃね?」ニマリ
八幡「……おいおい、まさかそんな安い言い方で俺を挑発してるつもりか? 言っとくが、俺はとある人から理性の化物だと言われた事があるぐらぶはっ」ゲホッ、ゲホッ
三浦「喋り過ぎだし。ゲームの最中に呑気にしてたらダメっしょ? テニスなら速攻であーしが点取ってんだけど?」フフン
八幡「……あー、そうかよ」ゲホッ……
八幡(別に俺はこんな事ぐらいで怒ったりはしない。そして、もちろんあんな見え見えの挑発に乗ったりもしない。そもそも負けるのに関しては俺が一番だし、挑発を挑発とわかってて乗る馬鹿なキャラでもないからな)
八幡(だが、三浦はこれをゲームだと言いテニスを引き合いに出した。つまり、これは遊びではなくスポーツ的な何かだ)
八幡(だとしたら、これは試合も同然だ。俺は試合に負けるのは気にならないが、勝負に負けるってのは気に入らない。華は相手に渡しても、実だけは取りにいく人間だからな)
八幡(つまり何が言いたいかと言えば、こうして三浦に勝たせっぱなしにしておくのが俺は気に入らないという事だ。だから……)
八幡「」ジャブジャブ
三浦「なに、比企谷、逃げんの? あんたホントこういうノリふぐっ!」ゲホッ、ゲホッ
八幡「これで俺のポイント1だな」
三浦「……チョイ比企谷。今、あんた、水かけやすい様にわざと深いところ行ったっしょ? オマケにあーしの顔狙ってかけなかった?」ゴゴゴゴ
八幡「顔面無効ルールとは聞いてないからな。それに顔狙いなら動きが止まる。つまり、勝つための戦術だ」バシャッ!!
三浦「ちょっ!? また!」ゲホッ、ゲホッ
八幡「これでポイント2。同点だな」
三浦「」カチンッ
三浦「いい度胸だし」スタスタ、ドボンッ
三浦「それっ!」バシャンッ!!
八幡「残念だったな。顔は狙ってくると思ってガード済みだ。それに隙だらけだぞ」バシャッ!!
三浦「うっ!」ゲホッ、ゲホッ
八幡「更にポイント1だな」
三浦「」カチンッ
三浦「あんた、あーし女なんだけど! 女の顔狙うとかマジで有り得ないし! それに髪これだけ濡れたら乾かすの大変だってわかってんの!」バシャンッ!!
八幡「知るか。こういう時だけ、女だ男だ言い出す奴を俺は認めない派だ」バシャンッ!!
三浦「ちょっ! あったま来た! 元はと言えば、あんたがグダグダ言ってっからっしょ!」バシャンッ!!
八幡「そっちこそ、最初から顔狙いだっただろがほっ!」ゲホッ、ゲホッ
三浦「今、あーしの水が顔に当たったし! ポイント1追加だから!」バシャンッ!!
八幡「俺のもさっきから当たってるだろ。ポイント3追加だからな」バシャンッ!!
三浦「何でそんな多いし!」バシャンッ!!
八幡「これまでの分合わせてるからだよ」バシャンッ!!
相模「……何だかんだで仲良いよね、あの二人」
結衣「ていうか、ヒッキーが遊んでるとこ、初めて見たし」
雪乃「あれは……遊んでるのかしら?」
葉山「むしろ、イチャついてる様にしか俺には見えないけどね。みんな、悪いけど、ちょっと行ってくる」
相模「どこ行くの?」
葉山「何か腹が立つから、比企谷の足をひっかけてくる」
相模「葉山君!? それはやめた方がいいよ! 良くないって!」
【川遊び後】
三浦「つうか、比企谷のせいで耳にまで水入ったし。ったく」トントン
八幡「俺は鼻にまで入ったんだけどな」
戸塚「でも、楽しかったよね。最後、チーム戦にまでなったし」
戸部「材木座君、何か女の子たちから総攻撃受けてて、メッチャ、テンパッてたんだけどー。あれ、思い出してもウケるわー」
葉山「材木座君はモーションが大きすぎたね。攻撃までの間に余分な時間や台詞をつけてるものだから、流石にあれは狙い撃ちされるよ」
材木座「その様な冷静な分析など不要! 逆に悲しくなるではないかぁぁ!」
相模「ていうか、次は仮装なんだねー。ちょっと面白いかも、これ」
雪乃「肝試しのお化け役という事だったけど、あまり役に立ちそうな衣装はないみたいね……」
三浦「比企谷、あんたさっきの罰としてゾンビだから」
八幡「……何となく予想はしてたけどな」
結衣「私、何にしようかな! 何か可愛いのないかな」ゴソゴソ
【着替え後】
結衣「じゃじゃーん! ゆきのん、これどう? 魔法使い! 可愛くない?」
雪乃「そうね……。典型的なオタクと呼ばれる層に受けそうな、いかにもな衣装で、由比ヶ浜さんにはよく似合ってると思うわよ」
結衣「ちょっと待って、ゆきのん! それ、誉めてるの!?」
相模「葉山君、葉山君、うちのはどう? 化け猫」ニャン
葉山「うん。よく似合ってるよ。相模さんって猫っぽいところあるし」ニコッ
相模「そ、そうかな// ありがと」
八幡(気ままなところとか、ワガママなところとかは確かに猫に似てるな……)
戸塚「雪ノ下さん、どうかな、これ? 翔に勧められて着てみたんだけど……//」
雪乃「吸血鬼ね。戸塚君になら吸われてもい……よく似合ってると思うわよ」
戸塚「あの……雪ノ下さん、今、吸われてもって言わ//」
雪乃「私のはどうかしら? 雪女よ」
戸塚「え、あ、うん。……とても綺麗だと思う。雪ノ下さんって和服とかスゴい似合うね」
雪乃「……そう。ありがとう//」
戸部「俺のはどう? イカしてね? 一つ目小僧」
葉山「独創性と奇抜さにかける上に、リアリティがない。当然、怖さもない。失格だな」
相模「ちょっとそれはないかなあ。きついって」
材木座「零点だ! 出直して来るが良い!」
戸部「俺だけなんか厳しくない!?」
八幡(……その三人に聞いたのが間違いだったな、戸部)
三浦「比企谷、あーしのはどうよ? 小悪魔。イケてね?」
八幡「小悪魔って言うより、悪魔だな。むしろメドゥーサまである」
三浦「あ? あんたマジで一回死んどく?」ゴゴゴゴ
八幡(今、かなりメドゥーサに似てるな……。というか、今、リアル肝試しになってるぞ、俺……)
葉山「それで、比企谷はゾンビだっけ? よく似てるよ」ニコッ
八幡「ノーメイクノー衣装だぞ。喧嘩売ってるのか、葉山?」
材木座「八幡よ! 我のはどうだ! 古より復活した【邪王練冥魔(ダークアクトギルガメッシュ)】なるぞ!」
八幡「お、おう……。いいんじゃないか……?(何だよそれ?)」
結衣「中二、それカッコいいし!」
雪乃「悪くないわね……」
八幡「!?」
【肝試し中】
八幡「っと……。あいつらが行って十分経ったら次の組だからな。こっちに来て用意しとけよ」
小学生A「留美ちゃん、次、私達の番だね。結構ドキドキしてきちゃった」
小学生B「なんか待ってる間の方が怖いよね。こういうのって」
留美「私はそうでもないかな。偽物だってわかってるから」
小学生C「うわ、余裕ー。怖いとかないのー?」
留美「ううん。そんなには」
小学生A「そんなにはって事はちょっとはあるんだ?」
留美「……ちょっとだけ」
アハハッ、ダヨネー
八幡(…………)
八幡(今回、俺はきっと、留美には顔すら覚えられないんだろうな……。だが、それが普通だ。これで良かったんだろう)
八幡(ぼっちとしてのろくでもない思い出が留美に残る事はない。ある意味、一番良かった結果かもしれない。好感度スイッチは消えたが、それについて後悔は特にないしな……)
【肝試し終了後】
静「諸君、私たちの役目もここまでだ。ご苦労だったな」
静「もう特にする事もないし、後は各自で好きに夜を楽しみたまえ。ただし、昨日も言ったが異性交遊や犯罪行為は慎む様に。くれぐれも高校生らしくという前提を忘れるなよ」
静「それでは、今日はこれで解散だ。十時までには全員ロッジに戻って布団の中にいる様に。後で確認しに行くからな」クルッ、スタスタ
葉山「これで終わりか……。こうして終わってみると早かったね」
相模「だよねー。本音を言えばもう少しいたかったなって感じ」
三浦「とりあえず、ロッジで打ち上げっしょ。パーっとやるし」
戸部「だべ! 最後だしさあ、派手に騒がないと!」
結衣「ヒッキー、行こ! 中二も!」
材木座「うむ! 八幡よ、今宵を存分に楽しもうぞ!」
八幡「……そうだな。上手くいったし、乾杯といくか」
戸塚「雪ノ下さん、お疲れ様。僕たちも早く行こう」
雪乃「そうね、戸塚君もお疲れ様」
【翌朝】
戸部「さーてと、そんじゃ母さんたちが来るまで俺らは待ちだし」
戸塚「そうだね。雪ノ下さんたちは平塚先生の車で来たんだっけ?」
雪乃「ええ、だから帰りも」
キキィッ、ガチャッ
陽乃「ひゃっはろー、雪乃ちゃん。元気してた?」ニコッ
雪乃「姉さん! どうしてここに?」
八幡(……遂に来たか)
陽乃「どうしてって、そりゃ雪乃ちゃんを迎えに来たんだよ。当たり前でしょ?」
雪乃「……どうして私を迎えに来る必要があるのかしらね。放っておいてもらえないかしら」
陽乃「そうはいかないかなあ。私は雪乃ちゃんのお姉さんなんだしね。それに、可愛い妹と少しでも一緒にいたいじゃない?」
雪乃「可愛い? よくも言えたものね、そんな恥知らずな言葉が。私は姉さんから可愛がられた覚えはこれまで一回もないわよ」
陽乃「お姉さんの愛がわからないなんて、雪乃ちゃんは酷いなあ。これまでずっと仲良しだったじゃない。ね、隼人?」
葉山「陽乃さん……。その質問は俺も困るかな。答えにくい」
陽乃「隼人までそんな事言うんだ、冷たいなあ。隼人だけはいつでも私の味方だと思ってたのに」
葉山「冗談もその辺にしといて欲しい。誤解を生みそうだしね」
陽乃「はいはい、隼人はいっつもそうだね。他の事ならともかく、私達の事に関してはまるでコウモリみたいでさ。どっちつかずは男の価値を下げちゃうよ?」
葉山「…………」
八幡(相変わらず容赦ないな、あの人……)
静「お、陽乃。来たか」
陽乃「ひゃっはろー、静ちゃん。雪乃ちゃんと隼人をもらいに来たよ。行きは送ってくれてありがとね」
静「構わんさ。ついでだからな。本当ならどこかでお茶をとでも言いたいが、相模を送っていかなくてはならなくてな。それはまた今度にしよう」
陽乃「そうだね。それじゃ、雪乃ちゃん、隼人。帰ろっか」
雪乃「いいえ、私はその車には乗らないわ。平塚先生の車で帰るから」
静「雪ノ下。迎えに来てもらってそれはないんじゃないか? 君は陽乃の車で帰りたまえ」
雪乃「……っ」
陽乃「そういう事。ほら、雪乃ちゃん、早く車に乗り……あれ?」
八幡(気付かれたか……)
陽乃「隼人、あの子たちは雪乃ちゃんのお友達?」
葉山「……そうだね。クラスは違うけど、同級生だよ」
陽乃「へえ、同級生ねえ……」
結衣「……ゆきのん。あの人、ゆきのんのお姉さん……なんだよね?」
相模「……雪ノ下さん?」
雪乃「…………」
八幡(……そういえば、雪ノ下さんと相模の好感度ってどんなものなんだろうな)
シークレット好感度
陽乃→相模 ↓1
相模→陽乃 ↓2
ほい。キャンプは大体これで終わり。また
陽乃→相模 75
相模→陽乃 65
陽乃「」テクテク
陽乃「こんにちは、みんな。雪乃ちゃんの姉の陽乃です。よろしくね」ニコッ
結衣「……こんにちは」ペコッ
相模「こんにちは。あ、私、相模南っていいます。雪乃さんと同じ部活に入ってます。初めまして」ペコッ
陽乃「ああ、そうなんだ。じゃあ南ちゃんかな。そっちの子は?」
結衣「……由比ヶ浜結衣です。ゆきのんとは友達……だよね?」
雪乃「どうしてそれを私に聞くの?」
陽乃「ふうん。そっか、そっかあ。二人とも、雪乃ちゃんのお友達なんだ。なら、うちの雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね。雪乃ちゃんはちょっときついところあるけど、とっても良い子だからさ」ニコッ
相模「あ、はい。それはもう」ペコッ
雪乃「……姉さん、余計な事は言わなくていいわ」
陽乃「それと……そこの君は? 雪乃ちゃんのお友達?」
八幡「……いえ。知り合いです。ろくに話した事もないんで」
陽乃「あははっ、正直だね。うん、そっかそっか。知り合いかあ。そうなんだ」ニコッ
八幡「…………」
陽乃「だったら君に聞くけど、あの南ちゃんとガハマちゃん以外の他のみんなもそんな感じなのかな? あの子たち以外は友達じゃなくて知り合いって感じ?」
八幡「……さあ。雪ノ下に聞いたらどうです? なんせ知り合いなんで、雪ノ下の交遊関係とか知りませんから」
陽乃「……へえ。なるほどね……。そっかあ、確かにそうだよね」
八幡「…………」
陽乃「君はなかなか面白いね。そういう返しが来るとは思ってなかったからさ。他の子とはちょっと違うかなあって思うんだけど、よく言われない? あ、もちろん誉めてるんだよ。個性的って事で」
八幡「人と話す事も少ないんで、よく言われる事自体ありませんよ」
陽乃「そ。友達少ないんだ。それはうちの雪乃ちゃんと一緒だねー。何ならお姉さんが友達になってあげようか?」
八幡「……遠慮しときます。後が怖そうなんで」
陽乃「あれー、私、怖がられる様な事したかなー? おかしいなー」
葉山「…………」
葉山「陽乃さん、その辺で」
陽乃「ああ、うん、そうだね。それじゃ今度こそ行こっか。雪乃ちゃんも、まさかこの期に及んでワガママとか言わないよねえ?」
雪乃「…………」
葉山「……それと、陽乃さん。雪ノ下さんも俺達と同じ車だと、相模さんが帰り一人になってしまうんだけどね。だから、それはあまり良くないと思う。彼女も話し相手がいないと寂しいだろうし」
陽乃「ふうん……。そうなの? 南ちゃんは雪乃ちゃんがいないと寂しいのかな?」
相模「あ……えっと……。その……。ちょっとそうかもって」
陽乃「……ふうん。……そっか、そっかあ。なら、ごめんね。私、気付かなくてさあ。それなら雪乃ちゃんは静ちゃんの車で送ってもらうといいよ」
相模「」ホッ
陽乃「あ、でも、隼人はもらってくね。でないと私が今度は寂しくなっちゃうからさ」ニコッ
相模「あ……。そう……ですよね」
陽乃「じゃ、悪いけど静ちゃん、そういう事だからまた雪乃ちゃんお願い出来る? 埋め合わせは今度するから。お願い」
静「お前は相変わらずで、ある意味ほっとするな。わかった。きちんと送ってやるから安心しろ」
陽乃「うん。ありがとね。それじゃ、隼人行こ」
葉山「……ああ。それじゃみんな、これで」
相模「あ、うん……。またね、葉山君」
葉山「また今度」
陽乃「じゃあねー、みんな、バイバーイ」ヒラヒラ
八幡(台風の様に来て台風の様に去っていったな)
八幡(……あの人と次に会うのは文化祭か。だが、雪ノ下にとってはきっとまた今日みたいな繰り返しになるんだろうな。雪ノ下さんとでは力関係がはっきりしすぎてるし、あの二人の仲が良くなる事もないだろう……。これは俺にはどうしようもない)
八幡(そして、文化祭がどうなるかも、もう予測がつかない……。ただ、相模だけは実行委員にさせないつもりだが……)
雪乃「…………」
第8.5話
『比企谷八幡は過去に学んだ上でまた繰り返す』
【夏休み中、比企谷家】
八幡(外は炎天下だ。セミもやたら鳴いていて夏を演出している。外を歩いてる人たちもハンカチやミニタオルで汗を拭いながら酷暑を過ごしているようだ)
八幡(そんな中、どこにも行かず家でクーラーにあたりながら快適な引きこもりをするのは至上の贅沢だと俺は思う)
八幡(どうせ今頃、リア充たちは海だ山だと青春の一頁をどこかしらで飾っているんだろう。そんな奴らを見たくはないという面においても俺は家で引きこもりの道を選ぶ)
八幡(何より外に出たくない。単純に面倒だし暑いからな)
< お兄ちゃん! お兄ちゃん!
八幡(ん? 何か小町が呼んでる……)
< 電話! 電話鳴ってるってば! 三浦さんからだから、もう小町が取っちゃうよ!
八幡(……三浦から電話? っていうか、俺の携帯の話か? そういや部屋に置きっぱなしだったな……)
八幡(は? 三浦から電話? 何で? 夏休みにまであいつが俺に電話をかけてくる理由とかないだろ)
『海、行っから』
八幡(マジか……)
『やっぱ夏と言えば海っしょ。戸部や結衣たちとかと予定合わせて、あーしら全員で行こうと思ってんだけど』
八幡(流石、正真正銘のリア充。俺がこのグループに入っているのが謎なぐらいのリア充度を発揮してるな)
『あんたも行く? つうか来な。やっぱ全員で行きたいし』
八幡「強制かよ」
『今回は強制。どうせ比企谷の事だから、あんた、家でずっと引き込もってたいとか思ってんじゃないの? 強制じゃないと絶対出てこないっしょ』
八幡「人を穴熊みたいに言うな。だいいち、俺は結構外出してるぞ」
『そうなん? どっか遊びに行ってるん?』
八幡「あれだ……近所のコンビニとかだな。よく行ってるぞ。むしろ、常連と言っていい」
『やっぱあんたは強制ね。日にち決まったら教えっから。そんじゃね』ガチャッ
八幡「……言うだけ言って切ったな、あいつ」
八幡(……いや、別に誘われて嬉しいとかないからね。俺は強制なんだし。三浦は全員で行くって事にこだわっただけで、俺が誘われる理由もそれだから。弁当に入ってる緑のギザギザみたいなあれと同じだ。オマケ以下みたいなもんだから)
【海】
戸部「うっわ! っべー! マジ海だし! 潮の匂い超するし!」
三浦「戸部、落ち着けっての。意味わかんないから、もう」
結衣「よーし! 今日はもうひたすら泳ぐし! せーのっ!」タタッ
沙希「ちょっと、結衣。その前に準備体操」ガシッ
結衣「はう!」
戸塚「それにしても、今日は楽しみだね」ニコッ
八幡「おう……。まあ、そうだな。泳ぐだけなんだけどな」
三浦「まーたあんたはそういう事言うし。大体、海は泳ぐだけじゃないから」
戸部「だべー。ピーチバレーして、海の家で焼きそばとか食ってー、スイカ割りしてー。むしろそっちがメインっしょ!」
沙希「スイカ割りは流石に無理だけどね。スイカ持ってきてないし」
結衣「サキサキ、早く行こうよ!」
沙希「だから、結衣。準備体操してからだって。でないと足つるよ。こういうの馬鹿にしちゃ駄目だって」
戸部「なら、おっさきー!」タタタッ
沙希「戸部! あんたもだから!」
八幡(何故かおかんが二人に。そういえば、川崎って妹や弟の面倒見はいい方だったな)
三浦「じゃ、あーしも先に軽く泳いでこっかな。戸部ー」スタスタ
結衣「あ、優美子もこっち来て準備体操するし! 私だけとか恥ずかしいじゃん!」
沙希「そうだね。三浦も来なよ」
三浦「え? いいって、あーしはそういうの」(苦笑)
沙希「駄目」
結衣「だし!」グイッ
三浦「え、ちょっと、結衣。待って、引っ張るなし!」
戸塚「……それにしても、あの三人って全員スタイルいいよね」
八幡「それについてはめちゃくちゃ同意する。巨乳ばかりだしな。(しかも、歩く度に揺れて、かなりいい)」
戸塚「比企谷君も、そういうところはやっぱり男の子なんだね。ちょっと安心しちゃった」ニコッ
八幡「それ、どういう意味だ、戸塚? 何故か凄く気になるんだが」
戸部「ちょー、戸塚君も比企谷君も早くこっち来てよー。気が付いたら、俺一人だけとか、これどんな放置プレイだよー?」
戸塚「ごめん、ごめん。今行くね、翔ー」タタッ
八幡「というか、お前が勝手に駆け出したんだろ」スタスタ
戸部「いやいやいや、そこは青春ドラマのノリ的な? 海があったら飛び込みたくなるのが男ってやつでしょーが」
戸塚「翔のそういう真っ直ぐなとこ、僕、好きだよ」ニコッ
戸部「ちょっ、戸塚君、直球過ぎて流石にそれは照れるって」
八幡「俺もそういう単純なところがわかりやすくて好きだぞ」
戸部「比企谷君はさー、もうちょい素直になろうよー。俺、比企谷君に愛されてるの知ってっしー」
八幡「……頼むから、大声で誤解を招く発言はやめてくれ。恥ずかしいだろ」
沙希「……それにしても、戸部たちって全員性格バラけてんのに、上手くまとまってるよね」
結衣「だよね。最初どうなるかなって不安だったけど、ヒッキーもずいぶん馴染んだよね」
三浦「戸塚と戸部が性格甘いっていうか、優しい感じだかんね。辛めで面倒くさい性格の比企谷がそこに丁度良くハマったっぽいし」
沙希「それと、やっぱり戸塚って正真正銘の男なんだね……。水着になって初めて納得した」
結衣「彩ちゃん、脱がなかったら女の子で通っちゃうからね。更衣室で着替える時もみんなびっくりしてたってヒッキー言ってたし」
三浦「でも、体つきは結構しっかりしてんね。筋肉それなりについてっし」
結衣「戸部っちもサッカー部だけあって、やっぱ筋肉あるよねー」
三浦「なのに、比企谷だけイマイチなんだよね。もやしって訳じゃないけど、もうちょいついてた方があーしは良いと思うんだけど。したら、いい感じになるのに」
沙希「三浦……。あんた、なんか目線がエロい」
三浦「は? んな事ないし! 普通だし!//」
【しばらく遊んだ後、休憩中】
戸部「ん! これマジウマ!」
八幡「何故か知らんが、海で食べる焼きとうもろこしって別格の様に美味いよな」
結衣「きっと、塩の味が違うんだよね!」モグモグ
沙希「結衣、塩はここで取ってる訳じゃないよ」
結衣「し、知ってるし! 潮風の匂いとかそういうのが味に影響してる的な事を言いたかったんだし!」
三浦「いか焼きもかなりイケてね?」モグモグ
戸塚「だよね。美味しい」パクッ
戸塚「ねえ、翔も食べてみる? 焼きとうもろこしと少し交換しない?」
戸部「マジで! さっきからそっちも気になってたんだわー。戸塚君、マジ天使」
戸塚「そんな、大袈裟だよ// じゃあ、はい。そのまま食べて」スッ
戸部「ありがと!」パクッ
戸部「じゃあほい、戸塚君。今度は俺の分」スッ
戸塚「うん//」パクッ
八幡(……間接キス、キマシタワー)
沙希「結衣も一口食べる? あたしのと交換で」
結衣「うん! じゃあ、先に私から。はい」スッ
沙希「ん」パクッ
沙希「うん。美味しいね。じゃあ、結衣。はい」スッ
結衣「うん!」パクッ
八幡(こっちも間接キス、キマシタワー……)
三浦「…………」
三浦「」チラッ
八幡(……え? 今、何で俺の焼きとうもろこし見たの? いや、流石にそれは自意識過剰か? 俺と三浦じゃそういう流れになるはずないよな?)
三浦「比企谷……」ツカツカ
八幡「お、おう……」
三浦「あーしも焼きとうもろこし食べたいんだけど」
八幡「……そうか」
三浦「…………」
八幡「…………」
三浦「あんたの、あーしによこすし」ニマリ
八幡「は?」
三浦「よいしょっと!」ガシッ
八幡「お、おい。腕掴むな」
三浦「」パクッ、モグモグ
八幡「!?」
三浦「うま! あーしもこっちにしとけば良かったかも」モグモグ
八幡「おい待て。どんだけ食うんだ。俺の分が」
三浦「あ、比企谷にはそっちのイカ焼きあげるわ」モグモグ
八幡「お前、そっちのほとんど無くなってんじゃねーか。ていうか、まだ食べるのかよ」
三浦「つーか、もうここまできたら諦めろし」モグモグ
八幡「馬鹿、俺が焼きとうもろこしをどれだけ味わって食おうと思ってたか。食べるのやめろ」
三浦「だって、比企谷抵抗しないし。食べていいかと思って」
八幡(いや、抵抗しないというか、出来ないんだよ。水着の状態で体触って引き離すとか普通に無理だろ。もしかしてわかってやってんのか、三浦のやつ)
三浦「ん。うま。ごちそうさまだし」モグモグ
八幡(結局、残り全部食べやがった……。ていうか、そろそろ腕離してくれませんか? さっきから、三浦の顔や胸がかなり近い位置に来てるんですけど……//)
三浦「さーてと。そんじゃ、もうそろそろまた遊びに戻る? 比企谷」パッ
戸部「あ、その前に俺、向こうでラムネ買ってくるわー。海って行ったらラムネも外せないっしょ」
八幡「じゃあ俺も行く……// ついでに焼きもろこしをもう一つ買ってきたいからな。ほとんど三浦に食われちまったし」ガタッ
三浦(あ……。ヤバ……。ひょっとして比企谷怒らせた、あーし……?)
戸塚「なら僕も行くよ。ついでに皆の分の飲み物買ってこようか? 皆も何か欲しいでしょ?」
沙希「そうだね。なら、お願いするよ。あたしオレンジで」
結衣「彩ちゃん、私はラムネ!」
三浦「あ、なら、あーしも一緒に行く。コーラ飲みたくなったし」
戸部「いいって、いいって。優美子はここで待っててよ。俺たちで全員分買ってくるからさー。そんじゃ行こっか」テクテク
八幡「確かビンで売ってる屋台あったよな。あそこまでちょっと遠いからな」スタスタ
三浦「あ、ちょっと待っ」
戸塚「うん。ちょっと待っててね、三浦さん」タタッ
三浦「ちが……」
三浦「マズ……。やらかしたし……」
結衣「ん? どしたの、優美子?」
三浦「いや、だって今……。比企谷怒ってたっぽいし……」
沙希「そう? 怒ってた、比企谷?」
結衣「ううん。そんな感じしなかったけど。怒ってるって言うより、照れてた?」
三浦「……照れる? 何で?」
沙希「そりゃ、三浦があんな事したからね。比企谷、ああいうの慣れてないだろうし、照れてもおかしくないんじゃない?」
三浦「ああいうのって?」
結衣「体近かったし、優美子水着だし。ヒッキー、照れてもおかしくないって」
三浦「そうなん? ……比企谷、マジで怒ってなかった?」
沙希「うん。少なくともあたしはそう思った。それより、三浦って結構そういうの遠慮ないよね。積極的っていうか」
結衣「優美子、サバサバしてるからね。えっと、何だっけ、ボディタッチとか? 普通にするし」
三浦「ん、まあ……。あーしはあんま気にしないんだけど……。それって、しない方がいいん……?」
沙希「好きな相手ならいいんじゃない? 好きな相手以外でやるのは、余計な誤解生みそうだけど」
結衣「なら別にいっか、ヒッキーだし。って、あ……」
三浦「ちょっと結衣ー……」
結衣「ご、ごめん! つい!」
沙希「……? なに、三浦って比企谷の事好きなの?」
三浦「ん、まあ……。なんつーの……。好きって言うか……気になる?」
沙希「ふーん……。意外と言えば意外だね。比企谷は三浦のタイプじゃないと思ってたけど」
三浦「あーしもそう思ってたんだけどね……何だろ。……比企谷みたいなんも、そんな悪くないかなって……」
沙希「ふうん」
【屋台】
戸部「にしても、比企谷君、優美子に気に入られてんねー。さっきの見ててこっちが反応に困ったしー」
八幡「は? 俺は焼きもろこしを食われただけだぞ。むしろ、あれだ。イジメ的な部類だろ。グループの中で最も地位の低いやつから搾取される的な」
戸塚「比企谷君、もしかして照れてるの?」
八幡「いや、だからあれはそういうのじゃなくてだな。三浦が単に焼きもろこしを食べたくなって、余ってた俺から奪い取りにかかったってだけだ。だいいち俺、買い直してるし。余分に金がかかってるし」
戸部「ま、イチャイチャした分の必要経費的な?」
戸塚「それに、また三浦さんと半分こして食べるんだよね?」
八幡「な訳あるか。これは全部俺が食う」
戸部「ま、でもそれ、多分半分は優美子がお金出してくれるって。そうじゃなかったとしても、どっかで優美子、絶対比企谷君に一回は奢ると思うしー」
戸塚「三浦さん、ああ見えて義理堅いところあるしね」
八幡「……それは確かにそうかもしれないけどな。だが、この分を三浦が出すという保証にはならないし、そもそも俺は精神的苦痛を受けた訳であって」
戸部「俺さー、最近、わかった事あるんだけどさ。比企谷君って、口数多い時って大体、言ってる事と逆の事思ってるっしょ?」
戸塚「あ、それわかる。結構天の邪鬼だよね」
八幡(いや、やめてもらえませんか。俺にそういう安っぽいレッテル貼るの。密かに傷付いてるんですが)
【休憩所】
三浦「にしても、ホント結衣はお喋りだし」
結衣「ごめんってば、優美子ー。機嫌直してよー」
沙希「そういえば、結衣は好きな人とかいるの?」
結衣「え、あ、ちょっとそれは!」アタフタ
男1「お、あの子たち、良くね?」
男2「あー、いいじゃん。丁度向こうも三人だし、全員可愛いし、揃って巨乳だし。むしろ、ベストだろ」
男3「男もいないしな。ナンパして下さいって言ってるようなもんだわ。行こうぜ」
男1「だな」
男1「よー。君ら、メッチャ可愛いね。結婚を前提に俺たちにナンパされない?」
男2「お前、そればっかだな。ドスベリしてるからやめろって言ってんのに」
男3「つうか、君らって女三人で泳ぎに来たの? 暇だったら俺らとちょっと付き合わない? 少しでいいからさ」
三浦(うわ……面倒くさいの来たし)
沙希(ナンパね……。たまにされるけど、ここまで露骨なのも珍しいかな)
結衣(……大学生? ちょっと怖いかも……)
三浦「悪いんだけど、あーしらツレがいっから」
男1「あれ、そうなの? ツレって男?」
沙希「普通に考えればそうでしょ。そういう訳だからさ、他の子たちをナンパしに行きなよ」
男2「うわ、マジで。それは残念。でも、その男ら、どこ行ってんの? 近くにいないみたいだけどさあ」
結衣「今、屋台に行ってるから……。すぐ戻ってくると思うし……」
男3「へー、そいつらイケメン? 俺らより?」
沙希「そういう問題じゃないでしょ。あんまりしつこくされるとこっちも困るんだけど。それに、あんた達より顔はいいと思うよ」
男1「うわ、そう来たか。なら、もうしょうがないな」
男2「だな。俺らよりイケメンってんなら、どうしようもないわ。悪かったね、邪魔して」
男3「つうか、そいつらどんなイケメンよ? 逆に気になってきたわ」
三浦(結構タチの悪いナンパだし……。男いるって言ってんのに、まだしつこくいるし……)
結衣(戸部っちとか、早く戻ってきて……)
戸部「お待たせー、みんな。ってあれ?」テクテク
戸塚「……えっと、知り合いの人?」
沙希「違うよ。全然知らない人」
三浦「急に声かけられたから。やっぱ女三人で残ったんが良くなかったわ」
男1「おっと。マジで男連れか」チッ
男2「しゃーない。行こうぜ」
男3「だな、解散解散」テクテク
八幡(あいつら……ナンパにきたのか)
結衣「良かった。ヒッキーたちが戻ってくれて」ホッ
八幡(由比ヶ浜のやつ、本当に安心したような顔してんな。あいつらガタイいいし、歳も多分俺たちより上か……。三浦や川崎はともかく、由比ヶ浜は怖かったのかもな)
戸部「あ、そうだ。これ、ラムネね、結衣」
結衣「あ、うん。ありがと、戸部っち……」チラッ
男1「はー、めんどくせ。また探すのかよ」
男2「なかなかいないのにな、女だけの三人組って」
男3「いても野郎連ればっかだしよ」
戸部「んー……。優美子、場所変えね? 何か空気悪いしさー」ヒソヒソ
三浦「ん。そうだね。どっか向こうで飲むわ。ケチついたし」スクッ
結衣「うん。向こう行こ」タタッ
戸塚「そうだね、ちょっと離れた方がいいかも……。少し歩こうか。あ、これ、川崎さんのオレンジジュースね」テクテク
沙希「ありがと。悪いね」テクテク
戸部「て事で、俺らも行こっか。比企谷君」
八幡「ああ、そうだな」
男1「」ブフッ
男2「ちょ、あれ、マジで?」
男3「あいつ、ツレだったの? 一人だけオタクっぽいの混じってんだけど。マジウケる」
戸部「……!」
八幡(あいつら……。そんな離れてる訳じゃないから、聞こえてんだよ)
男1「つか、あいつだけスゲー浮いてるし」
男2「なにあれ? あいつ、あの中の誰かの彼氏とか? マジ有り得ねーんだけど」
男3「いやいや、パシりだろ、多分あのロン毛の。一人だけ明らかに違うし」
男1「だな、彼氏はないわ。ぜってー、パシリ」
男2「もし彼氏とかだったら笑うわ。あんなん連れて歩いてたら恥ずかしくて死ねるレベルだろ」
戸部「っ……」カチンッ
八幡(俺の事なんかどうでもいいだろ。ほっとけよ)
沙希「戸部ー、比企谷ー。何してんの、遅いよ、あんたらー」
結衣「戸部っち、ヒッキー! 置いてっちゃうよー」
男1「ヒッキー」ブフッ
男2「マジ見た目ヒッキーだし、ウケる。家で引きこもりとかしてそうだし」
男3「ちょ、写メ撮っとく、あいつ」
男1「いやいや、流石に写メは可哀想っしょ。にしてもオモレーな、ウケるわー」
戸部「ウッゼ……! 何なのあいつら!」
八幡「……さっさと行こうぜ、戸部。相手にするな」スタスタ
戸部「いや、でも……!」
八幡「第一に、あいつらが言ってるのは俺の事であってお前の事じゃない。だから、別に戸部が怒る理由がない。第二に、俺は半分引きこもりみたいなのもんだし、こん中じゃ浮いてるのも事実だ。だから、問題ない」スタスタ
戸部「そんな事ないって! てか、あいつら、単にナンパ失敗してイラついてるだけじゃん。女連れの俺らが羨ましいだけっしょ! 比企谷君のが勝ってっし!」スタスタ
八幡「声が大きいんだよ、戸部。あいつら絡んでくるかもしれねーだろ。由比ヶ浜とか怖がってたし、だいいち面倒だ。それに、そうなったら三浦や戸塚とかにも迷惑がかかる。それはお前も嫌だろ」スタスタ
戸部「っ……。それはわかっけどさ、でも……」
八幡「大体、俺はケンカとかガンの飛ばしあいとか、そういう事に関しては物凄く自信がない。負ける事に関しては俺が一番だと思ってるしな。だから、負けない様に逃げる」スタスタ
戸部「え?」
八幡「三十六計逃げるに如かずって言うだろ。妙な事になる前に無視して逃げれば、それは争いを回避したって事でつまり俺の勝ちだ。だから、ほっとけ」スタスタ
戸部「……っ。わかった。比企谷君がそう言うなら、俺も黙ってるわ」
八幡「そうしてくれ。あと、由比ヶ浜達にはさっきの事言うなよ。あれだ……。俺の話題とか出されても困るだけだし、むしろあいつらの言う事に納得して、ネタにされて笑われる可能性まである。あと、これを機に全面的にパシリにされそうで怖い」
戸部「いや、それはないしー……。まあ、黙ってるけど……」
【しばらく後、砂浜】
「比企谷ー」
八幡「…………」
《つか、あいつだけスゲー浮いてるし》
《なにあれ? あいつもあの中の誰かの彼氏とか? マジ有り得ねーんだけど》
《いやいや、パシりだろ、多分あのロン毛の。一人だけ明らかに違うし》
《だな、彼氏はないわ。ぜってー、パシリ》
《もし彼氏とかだったら笑うわ。あんなん連れて歩いてたら恥ずかしくて死ねるレベルだろ》
「比企谷! 比企谷ってば!」
八幡「!?」ビクッ
三浦「なに、そのリアクション? つか、どんだけボーッとしてんの、あんた?」
八幡「……三浦か。驚かせんなって。心臓にスゲー悪いだろ」ドキドキ
三浦「てか、さっきからずっとあーし呼んでたんだけど。そんでも気付かなかったじゃん、あんた」
八幡「……そうなのか? いや、悪い。まったく気付かなかった」
三浦「ん。まあ、いいけど。それより、あっちのピーチバレーのコート使っていいらしいんだわ。だから、今からそれしようって結衣が張り切ってっし。2・2だから、比企谷、あーしとペア組んでやんない?」
八幡「……三浦とか?」
三浦「そ。結衣、戸塚と組むらしいからさ。あーしらで叩き潰してやろ」ニマリ
八幡「…………」
三浦「どしたん、比企谷? やるっしょ?」
八幡「……いや、俺は戸部と組むわ。三浦は川崎とでも組めばいいだろ」
三浦「は? 何で?」
八幡「そっちのが勝てそうな気がするからだ。じゃあな」スタスタ
三浦「…………」
三浦「……やっぱ、さっきの事、怒ってんじゃん。比企谷……」
三浦「つか、焼きとうもろこしぐらいで根に持ちすぎだし……。確かにあーしが悪ノリしたけど……。ああもう!」
三浦「」ハァ……
三浦「」トボトボ
沙希「どしたの、三浦? 何か元気ないけど」
三浦「……比企谷、やっぱさっきの怒ってたっぽい。ペア組もうっつったら断られたし」
沙希「そんな風には見えなかったんだけどね……。でもあいつ、よくわかんないとこあるし……そうだったのかな?」
三浦「やっぱあれ、あーしが悪いん?」
沙希「……どうだろうね。こっちが軽いおふざけのつもりでも、向こうにとってはそうならない時ってたまにあるし……」
三浦「つか……どうすりゃいいの、あーし……」
沙希「さあ……。でも、今は下手に絡まない方がいいんじゃない。ちょっと時間置いて、向こうの頭が冷えた頃に謝れば? 基本的に仲はいいんだから、それで済むと思うよ」
三浦「それマジで……?」
沙希「多分だけどね」
三浦「わかった……。そうしてみるし」
沙希「うん。それと、ピーチバレーやるんだよね? だったら、三浦、あたしと組まない? いつもこういう時、結衣と組んでるからさ。たまには三浦とも組みたいんだけど」
三浦「……ん。相談乗ってもらったしね。いいよ、そんで」
沙希「じゃ、やろうか。それと、元気出しなよ。でないと、負けるよ」
三浦「あんがと。あと、一つだけ言っとくけど、あーし負けんの嫌いだから。手抜きとかなしで川崎もやって」
沙希「わかった。にしても、やっぱ三浦はそっちのがいいね」クスッ
【帰りの電車内】
戸部「はー、もう今日マジで遊んだしー。ていうか、最後、軽い気持ちでやったピーチバレーが効いたわー。俺もう、ももがパンパンなんだけど。見てこれ。乳酸たまりまくり」
沙希「砂浜だとあれキツいよね。あたしもちょっと疲れたかな」
結衣「ていうか、沙希と優美子って強すぎない? 結局、私たち全員、一回も勝てなかったし」
戸塚「最後惜しかったんだけどね。でも、楽しかった。疲れたけど、来て良かったなあ、今日」
三浦「めっちゃ、はしゃいだしね。あ、そうだ。結衣、ポッキー食べる? さっき売店で買ってきたから」
結衣「あ、食べる食べる。ありがとね、優美子」
三浦「……あと、比企谷、あんたも食べる? その……あんたのとうもろこし、あーしが食べちゃったし、そのお返しっつうか……お詫びっつうか……」
八幡「おう……。なら、もらう。俺はもらえるものは病気以外、何でももらう主義だしな」
三浦「ん。なら、はい。(良かった……。もう怒ってないみたいだし……)」
三浦「あ、てか、比企谷。チョコボールもあんだけど、あんたどっちがいい? つか、両方食べる? あーしも食べたいし」
戸部「あー、俺もなんか買っときゃ良かったかもー」
沙希「あたし、買ったけどね。三浦と一緒だったし」
戸部「マジで! なら俺に」
沙希「これはあたしの。戸部にはあげない」
戸部「ちょ、それないわー。俺にくれる流れだったじゃん、今のー。マジ凹むしー」
アハハッ、ダヨネー。トベッチ、カワイソー
八幡(……終わり良ければ全て良しという言葉がある)
八幡(帰りの電車の雰囲気は良かった。俺も正直に言えば今日は楽しかった。この雰囲気が居心地好いとも思えた)
八幡(……だが、同時に俺の中で魚の小骨の様に引っ掛かっている出来事も今日は確かにあったのだ)
《だな、彼氏はねーわ。ぜってーパシリ》
八幡(確かにそうだろうな……。あいつらは悪意を混ぜてそう言ったのだろうが、はたから見たら多分俺だけ浮いているのは恐らく事実だ)
八幡(リア充の群れの中にぼっちが一人混じっているんだ、それは確かに目立つだろう。そして、その構図は不良の中に一人オドオドした奴が混ざっているのと同じ構図だ。つまり、パシリや財布と思われても仕方ないものだ。異分子が一人だけ混じっているのだから)
八幡(別に俺がそう思われる事自体はいい。これまで似たような事は何回もあったのだから。だが、三浦や戸部、由比ヶ浜とかはどうなんだ。パシリや財布を持っていると誤解されてそれで構わないのか)
八幡(そんな事を考える事自体、本来なら間違っている。前の時、奉仕部にいた時に俺はそれを学んだ。だが、だからこそ思うのだ)
八幡(あの時の二人からの好感度を。由比ヶ浜も雪ノ下も、本音を言えば恐らく俺の事をマイナス扱いしていたはずだ。連れだと思われたくないと考えていたんじゃないのか)
八幡(だが、あの二人は優しさと付き合いの良さだけで俺をずっと排除しようとはせず、同列の仲間の様に扱っていた。そう、単に口にしなかっただけの話だ)
八幡(……なら、今回もそうでないという保証がどこにある)
八幡(確かに三浦も戸部も最初は俺に対して好感を持っていて、だから同じグループに誘ったのだろう。だが……)
八幡(その好感度はずっと変動し続けているはずだ。あれからずいぶん経った今、俺の好感度も変わっているはずなんだ。俺の存在をマイナスに感じ、下がっている場合だって十分に有り得る。表面上だけは仕方なく仲間扱いしている可能性も有り得るのだ)
八幡(そして、仮にそうだったとしても、俺は恐らくその事に気付かない。前の時、そうだった様にだ。俺は雪ノ下や由比ヶ浜の二人から邪魔だと思われていた事に全く気が付かなかった)
八幡(結局のところ、空気や雰囲気を読めない人間なのだ、俺は……。だからこそ、俺は自問しなければならない)
八幡(俺はこのグループに居続けていいのか、と。三浦たちの迷惑になっていないだろうか、と)
八幡(迷惑だと思われる事自体は別にいい。だったらすぐに俺が出ていけばそれで済む話だ。だが、迷惑だと内心思われているのに、それに気付かないのだけは避けたい。何故なら、葉山のように、その内、それを通告される可能性があるからだ)
『比企谷。あんた、いい加減マジウザいんだけど。つかもう、あーしのグループから出てってくんね?』
『つうか、比企谷君。空気読みなって。わかっしょ、そんぐらい? わざわざ言わなくてもさあ。俺らから、嫌われてるって』
八幡(……想像するだけで自殺もんだろ。だから、それだけは絶対に食らいたくない。食らう前に自分から出ていく事を選ぶ)
八幡(だが……その判断がつかないのだ、俺は。嫌われてるか嫌われていないのか、その判断が……。もう好感度スイッチもないのだから確かめようがない……)
八幡(結局、俺はまた迷い続ける。だったらいっその事、初めから出ていけばいいという考えもある。だが、それも俺はしたくない。一度居場所を失った経験が俺にそう思わせる)
八幡(それでも俺は……本物の好感度が欲しい。そういう事だ。結局、それに尽きてしまうのだ……)
ここまで。グダってんのわかってんだけど、すまんがもう少しグダグダさせる
良いお年を
第九話
『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』
【夏休み終盤、サイゼ】
戸塚「今日は楽しかったね。三浦さんと比企谷君も来れば良かったのに」
戸部「だべー。つか、最近優美子、付き合い悪くなった? 今日のカラオケも気が乗らないって断ったしー」
戸塚「そういえば、最近、こうして集まる事自体少なくなったよね。三浦さんの影響かな? 七月とかかなり多かった気がするけど……」
結衣「だよね。遊びに行くーって時、優美子が企画する事多いからね。湖行こっかってなった時もあれ優美子でしょ?」
沙希「釣りしてバーベキューとかやりたいって突然言い出したんだよね」
結衣「そうそう。なんか行ってきた話を中学の時の友達から聞かされたらしくって」
戸塚「自分も行きたくなっちゃったんだ。三浦さんらしいって言うか」
戸部「花火やろうって言い出したのも優美子だっけ? なのにここ最近、ずっとあれなんだよねー。遊ぼうって言っても断られる事多くてさー」
【ショッピングモール、カフェ】
三浦「サンキュ、小町。買い物に付き合ってくれて」
小町「いえいえ、そんな! 小町、死ぬほど暇だったんで! むしろ買い物に付き合わなきゃ死んじゃうぐらいなんで」
三浦「……あ、うん。そうなん」
小町「それに、三浦さんにはこの前花火やる時に誘ってもらった恩がありますし。おかげでお兄ちゃんとの夏休みの思い出が出来ましたし、お兄ちゃんの友達も知る事が出来ましたし、更にお兄ちゃんのアピールまで出来ちゃいましたし、お兄ちゃんの」
三浦「あ、えっと……前から思ってたけどさあ。小町、あんたってブラコン?」
小町「むしろ、近親愛ですよ。妹じゃなかったら多分もう告白して一線越えてますね」
三浦「え…………」
小町「やだなあ、三浦さん、冗談ですよ。お兄ちゃんの事は兄として好きってだけですって」
三浦(……何か冗談に聞こえないから怖いんだけど)
【比企谷家】
八幡(……今頃、三浦たちはカラオケか)
八幡(いや、別に寂しいとかは普通にないから。行きたくないって断ったの俺の方だし)
八幡(正直、今は三浦とあまり会いたくないからな。気まずい空気になるのはわかってる……)
八幡(……それよりも少し、いや、かなり気になっている事がある。今日、小町がやけに機嫌良くどこかへと出かけていった事だ)
八幡(ひょっとして、戸部とか小町をカラオケに誘ってないよな? 花火の時に初めて会って以来、あいつ口を開けば小町小町だったから心配なんだが……)
《っべー! 超可愛い! 八幡君、あの天使誰よ!?》
八幡(小町の方も戸部をそれなりに気に入ってたしな……)
《お兄ちゃんの友達なんですよね? ならもう是非小町と仲良くして下さい》
八幡(ヤバイ、何か無性に心配になってきた。あいつがいい奴とはいえ、戸部が義弟とか嫌だぞ、俺は)
カマクラ「」テクテク……
カマクラ「…………」
カマクラ「」ガブッ!!
八幡「痛っ! またお前か、カマクラ!」
カマクラ「」スタタタッ
八幡「……あいつ、俺の近くに寄る度に俺の足噛んで逃げるからな。くそっ……」
【サイゼ】
戸部「そういや、八幡君も最近付き合い悪いんだよねー。今日も断られたしさー」
戸塚「というか、比企谷君の場合、三浦さんみたいに強引に誘わないと来ない感じするけどね」
結衣「ハッチーそこまでヒッキーじゃないと思うんだけどな。やっぱ今日は普通にお金なかったんじゃないの? 夏休み結構遊んだし」
沙希「…………」
戸部「そいや、八幡君って俺らで集まる時にほとんど顔だしてたっけ? 材木座君が八幡君いないと来ないってのもあったんだろうけどさー」
戸塚「あと、小町ちゃんもそうだよね。二人とも、人見知りなのかな?」
結衣「中二はそうかもしんないけど、小町ちゃんの場合ハッチー大好きだからでしょ? あれだけ好かれてるのもスゴいっていうか……うん」
戸部「そうなんだよねぇ……。やっぱアレそういう感じだよねぇ……」ハァ
沙希「ていうか、さっきから気になってるんだけど、結衣、いつから比企谷の事、ヒッキーじゃなくてハッチーって呼ぶようになったの? 何かあったの?」
結衣「え、ああそれは……」(苦笑)
戸部「あ、ちょっとねー……理由が」
沙希「?」
【ショッピングモール】
三浦「そういや、小町、戸部とはどうなん?」
小町「?」
三浦「戸部、小町の事、やたら気に入ってる感じだったじゃん。メアドもソッコーで交換してたしさあ。あれから、デートとか誘われたりしてないん?」
小町「ああ……。そういえば今日カラオケ誘われたんですけど」
三浦「あ、悪い。ひょっとしてあーしのせいで断った?」
小町「いえ、お兄ちゃんが行かないって言ってたんで。それだけです」
三浦「……ああそう。えっと……他に誘われたりとかは?」
小町「ありましたけど、お兄ちゃんが行(以下略)」
三浦「なんつうか、あれなん? あんたの世界って比企谷中心に回ってんの?」
小町「当たり前じゃないですか。むしろ、お兄ちゃんの為に小町がいるみたいな? あ、今の小町的にポイント高いです!」
三浦「…………」
【サイゼ】
戸部「……って訳なんよー。八幡君には口止めされてたけどー、結衣には流石に言っとかなきゃって思ってー」
沙希「海でそんな事あったんだ……。だからか……」ハァ
戸塚「そうだね……うん。ヒッキーは引きこもりみたいな誤解生むかも……。だけど、パシリってのはどう考えてもないよ。……ただ、比企谷君は気にしそうだけどさ、そういうの」
結衣「うん。戸部っちもだから八幡君って名前で呼ぶようになったし、私も名前の方で呼ぼうって思って」
戸塚「僕らも変えた方がいいかな、それ……?」
戸部「無理して変える必要はないと思うけどね。てか、俺や結衣が呼び方変えたら、八幡君、何かやけに気にしてたしー」
沙希「ていうか、ハッチーはハッチーで変だと思うよ。あたしが比企谷でもそれは気になると思う」
結衣「そんな変かな? 私は結構気に入ってるんだけど」
戸塚「ヒッキーよりはいいと僕は思うよ。普通に八幡君とかでもいいと思うけど」
結衣「うーん……でも、やっぱりハッチーの方がしっくりくるかなあ」
沙希「未だに結衣の感覚があたしにはよくわかんない」
【ショッピングモール】
三浦「ところでさ……小町」
小町「何ですか?」
三浦「比企谷ってさ……あーしの事、何か言ってた?」
小町「!」
三浦「…………」フイッ
小町(これはアレだよね! もうそういうアレだよね! お兄ちゃんの事が気になってるって事だよね!)
小町(だったら小町としては全力で嘘をつくべきだよね! お兄ちゃんの幸せの為に!)
小町「そりゃ、もちろんですよ! 家に帰るとお兄ちゃん、三浦さんの話題ばっかりですから!」
三浦「うわ……やっぱそうなん? マジで……」シュン……
小町「!? (あれ? 小町、何かミスった!? 三浦さん、何で落ち込んでるの!?)」
【サイゼ】
戸塚「あ、そういえば……。それで思い出したけど、三浦さんも一回比企谷君の事名前呼びしてたよ」
戸部「マジでそれ? 優美子が?」
戸塚「うん。ただ、その後結局、比企谷ってまた元に戻ってたけど。だから本当に一回だけで……」
沙希「…………」
結衣「彩ちゃん、それっていつ?」
戸塚「皆で花火した時だったから、十日ぐらい前? 時間だと、ロケット花火をするちょっと前ぐらいだったと思う」
結衣「そういえば、その後、優美子ってかなり機嫌悪くなかったっけ? 帰りもほとんど喋らなかった気がするんだけど……」
戸部「それってつまりー……その時、八幡君と何かあったって事?」
戸塚「そういえば、あれから僕、三浦さんと比企谷君見てないや……。最近、三浦さんが付き合い悪いってもしかしてそれが原因だったり? 二人とも今日来てないし」
結衣「ひょっとして、優美子とハッチー、その時ケンカでもしたのかな……?」
沙希「…………」ハァ
沙希「……ま、いいか。口止めされてた訳でもないし、原因もわかったし」
結衣「?」
沙希「……あたし、そのケンカの事、知ってるんだわ」
結衣「ホントに!? 何があったの?」
沙希「ちょっと離れたところから偶然聞いちゃったんだけどね。実はさ……」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
三浦「まーたあんたこんな隅っこで一人花火してんの?」
八幡「……おう。なんつうか、落ち着くからな。ぼっちの習性みたいなもんだ」
三浦「今のあんたのどこがぼっちだっつーの。それより、八幡、そろそろロケット花火やっから、こっち来なって」
八幡「……それはいいが、今、お前、名前で呼ばなかったか……?」
三浦「あ、うん。戸部が名前で呼んでたし、結衣もハッチーとか言ってから。あーしもこれから比企谷の事、八幡って呼ぼうかなって思ったんだけど」
八幡「いや、でも……それまずくないか? 呼び捨てだし」
三浦「はあ? さんとかつけろって言いたいの? あんた何様なん?」
八幡「いや、そうじゃなくてだな。お前って、戸部とか戸塚は名字で呼ぶだろ。なのに俺だけ名前呼びで、しかも呼び捨てとかだと……あれだ。何か妙な誤解受けるかもしれないだろ」
三浦「別に名前呼びぐらい大した事じゃないっしょ。戸部はあーしや結衣の事名前で呼んでっけど、変な誤解とかされた事一度もないし」
八幡「それは……戸部だしな。こう言うのもあれだが、あいつ、いかにもチャラそうだろ。だから、特に気にされないんだろうけど、俺の場合そうじゃないし……。だいいち三浦から名前で呼ばれる男が俺一人だけって事自体がな。誤解されても仕方ない話だぞ」
三浦「細かい事言うなし。気にしすぎだっての。大体、なに? あーしに名前呼びされるのが嫌なん? 迷惑とか思ってる訳?」
八幡「いや、そういんじゃなくてだな……。ただ……」
三浦「ただ?」
《なにあれ? あいつもあの中の誰かの彼氏とか? マジ有り得ねーんだけど》
《いやいや、パシりだろ、多分あのロン毛の。一人だけ明らかに違うし》
《だな、彼氏はないわ。ぜってー、パシリ》
《もし彼氏とかだったら笑うわ。あんなん連れて歩いてたら恥ずかしくて死ねるレベルだろ》
八幡「…………」
三浦「ただ、何なん?」
八幡「迷惑……って訳じゃないが、名前呼びはされたくないっつうか……。普通に今まで通り、比企谷の方がいいんだけどな……。お前だって、妙な勘違いとかされたら嫌だろ? それの防止って意味でもな」
三浦「それ……結局、あんたが迷惑って思ってるって事なんじゃないの?」
八幡「だから、そうじゃなくてだな。三浦が迷惑するだろうと思って俺は言ってんだよ。変な噂が立ったら消すのにも大変だしな」
三浦「……あ、そ。あーしの為にわざわざ言ってくれてんだ。なにその親切? ムカつくんだけど」
八幡「……悪かったな。で、話はもういいか? ロケット花火するんだろ」
三浦「っ……!」
三浦「何なん、その言い方! ……もういいし!」クルッ、スタスタ
八幡「…………」
【ショッピングモール】
小町「それ、三浦さんが悪いんじゃないですか! 何でムカつくとかお兄ちゃんに言うんですか。例えお兄ちゃんが怒らなくても、小町の方が怒りますよ。お兄ちゃん、悪くないし」
三浦「だって……ムカついたし。……あーし、名前で呼んだだけじゃん。なのに……」
小町「お兄ちゃんの方は名前呼びされて迷惑じゃないって言ってるじゃないですか。どこが腹立つんですか」
三浦「……だって比企谷、はっきり迷惑じゃないって言ってくんなかったし……。あーしだっていきなり名前で呼ぶとか、結構緊張っていうか……度胸いったのに……。なのに、比企谷……名前呼びは嫌だとか言い出すしさ……」
小町「ていうか、三浦さんが一言、恋人に間違われても平気って言えばそれで済んだ話ですよね。どうしてそれを言わなかったんですか」
三浦「いや、だって……。そんなん、もう告白みたいなもんじゃん。……あーしから言える訳ないし」
小町「小町なら躊躇いなく言えます」
三浦「つか、あんたそれ妹だからっしょ……。ん? そっちの方がおかしくない……?」
小町「おかしくないです。とにかく、三浦さん。それ全部、三浦さんの責任ですから。お兄ちゃんに後で謝って下さい」
三浦「……マジで? あーしが謝るん……?」
小町「はい。だって、お兄ちゃんからしたら、何もしてないのにムカつくとか言われたんですよ。三浦さんが謝るのが当たり前じゃないですか」
三浦「う……。つか、比企谷、やっぱイラついてた? あーしの事、家で何て言ってたん……?」
小町「あ、それは嘘なんで。三浦さんの話題とか出た事ないですし」
三浦「」
【サイゼ】
戸部「あー……それマジかー……。八幡君、何してんのもう」
結衣「ていうか、それハッチーが悪いんじゃん。優美子可哀想だし」
戸塚「悪くはないと思うんだけど……。悪いっていうより、まずい?」
沙希「……だよね。人の好意を拒絶しちゃってるからね。優美子の事がそんなに好きじゃなくて、比企谷が本当に迷惑だって思ってるようなら、あたしも何も言うつもりはなかったんだけどさ」
戸部「海の事、多分気にしてそう言ったんだろうからねー……。気持ちはわかるけど、それはないわー、八幡君」ハァ
沙希「戸部は名前呼びしてるのに、優美子は名前呼びを拒否されてるからね。比企谷が何も言わなければ済んだ話だったのに……。何でこじれさすかな、わざわざ」
戸塚「でも、原因がわかってまだ良かったよ。三浦さんにその事話せばきっとわかってくれるだろうから」
結衣「二人とも仲は悪くないもんね。だから、優美子の方はそれで解決すると思うけど……」
沙希「問題は比企谷の方だね。……あいつの方をどうにかしないと、結局、また似たような事言い出すでしょ」
戸部「八幡君自身も気にしてるだろうからねー。そこら辺どうにかしてあげたいって思うけどー……」
結衣「どうするの?」
戸部「それがわかったら苦労はしないってー」
沙希「だよね。優美子じゃないけど、比企谷面倒くさい性格してるしさ。どこかひねくれてるって言うか……簡単にはいかないんだよね、あいつ」ハァ
戸塚「うん……。ちょっとどうしたらいいか悩むよね」
【ショッピングモール】
三浦「やっぱ比企谷、あーしの事、迷惑がってたんかな……。それか、どうにも思われてないのかも……。何も話題に出ないってやっぱそういう事だろうし……」
小町「いえ、それはわかんないですけどね。そもそもお兄ちゃん、学校の事とか小町に一言も話さないですし」
三浦「え?」
小町「小町、お兄ちゃんに嫌われてるんで。話しかけても無視される事が多かったですし」
三浦「マジで……?」
小町「はい。でも、三浦さん達と仲良くなってから、そういうの減って、結構話してくれるようにもなったんですよ。そこはスッゴい三浦さんたちに感謝してるんです」
三浦「……そういえば比企谷って、家の話、ほとんどしないね」
小町「お兄ちゃんの嫌いな言葉って、お兄ちゃんでしょ我慢しなさい、お兄ちゃんのくせにわがまま言わない、ですからね……。ま、こっちはこっちで色々と問題あるんです。でも、前よりはお兄ちゃん優しいですよ。最近は話しかけると、三回に一回は会話してくれますし」
三浦「……何でそれであんたが比企谷の事好きなのか、それがもう謎だわ」
小町「そこはやっぱお兄ちゃんだからってのもありますけど……。でも、小町が本当に困ってる時はお兄ちゃん絶対そばにいるし助けてくれるっていうのがあるからかな。小学校の時、小町が寂しがってたら何だかんだで早く帰ってきてくれましたし。お兄ちゃん、スゴい優しいんですよ」
三浦「……そうなん?」
小町「本音を言えば、実は小町の事、内心ではそこまで嫌ってないんじゃないかなあ、なんて思ったりとかもたまにしますからね。こんな事言うとお兄ちゃんに頬っぺた両手でぐいってつねられちゃうんですが」
三浦「……なんつうか、コメントしにくい」
小町「あ、この事、お兄ちゃんには絶対内緒にして下さいね。小町がこんな事三浦さんに話したのがバレたらお兄ちゃんに怒られちゃうんで。小町、これ以上お兄ちゃんに嫌われたら生きていけないですし」
三浦「……何かあーしより、あんたの事の方が心配になってきたわ」
【サイゼ】
戸塚「あの、ちょっといいかな、みんな」
沙希「?」
結衣「どうしたの、彩ちゃん?」
戸塚「みんなは奉仕部って知ってる?」
戸部「あー、確か雪ノ下さんがやってる部活だよね。相模さんや隼人君もいたけどー」
結衣「それがどうかしたの?」
戸塚「この事、雪ノ下さんに相談してみようかと思って。僕、前に雪ノ下さんに悩みを解決してもらった事あるから、今回もきっと手助けしてくれると思うんだ」
沙希「……でも、それはまずいんじゃない? 比企谷のあの一件を話さないといけないんでしょ? あたしらグループの中ならともかく、他の人に言う事じゃないと思うんだけど。あの話が広まったら比企谷的には余計まずいし」
戸塚「そこは隠して話すつもり。当事者じゃないから、匿名って事で。雪ノ下さんもそれはわかってくれると思うし、秘密にして欲しいって言えば誰にも言わないでいてくれると思う」
結衣「……どう思う、戸部っち?」
戸部「んー……俺的には俺らだけで解決したいってのがあるけどー……。でも、良い方法が思い付かないからねー……」
戸塚「聞くだけ聞いてみようかなって。雪ノ下さんが依頼として受けてくれるかもわからないし、まずは相談みたいな感じで」
沙希「……結衣はどう?」
結衣「ゆきのん、いい人だし真面目だから話はちゃんと聞いてくれると思う。あと、秘密をバラす様な事もきっとしないと思うけど……」
戸部「なら、ダメ元で一回相談に乗ってもらう?」
沙希「……わかった。なら、そうしようか。ただ、あたしらは一旦退散して、話すのは戸塚一人にお願いしてもらうって形でいい? でないと、向こうも誰の事か大体見当つくだろうしさ」
戸塚「うん。わかった。じゃあ、電話して相談に乗ってくれるか聞いてみるね」
ここまで。ピーチバレーってなんだろね(自戒)
【しばらく後】
戸塚「ごめんね、雪ノ下さん。夏休み中だって言うのに」
雪乃「いえ、構わないわ。戸塚君の頼みだし、それに私も丁度時間が空いていたから」
相模「ていうか、超びっくり。雪ノ下さんから電話がかかってくるとか思わなかったしー。嬉しいなあ」
葉山「本当だね。こうして会えただけでも嬉しいよ」ニコッ
雪乃「二人とも、あからさまなお世辞はいいわ。逆に反応に困るだけだし」
相模「」
葉山「」
戸塚「……あの、ごめんね、二人とも。わざわざ来てもらって」
雪乃「それで、戸塚君。どういった相談かしら?」
戸塚「あ、うん。実は……」
【説明後】
雪乃「……そう。なるほどね。つまりそのAさんとかいう自己中心的な人とBさんとかいうヘタレな臆病者の仲をどうにかして欲しいとそういう事ね」
戸塚「そんな事一言も言ってないんだけど……」
葉山「要は、気まずくなってしまったAさんとBさんの関係を直したいって事だろ?」
戸塚「うん……。ごめんね、AさんとかBさんとかそんな説明の仕方になって」
雪乃「いえ、それについては問題ないわ。あまり人に知られたくない依頼というのもあるでしょうし」
相模「それで、Aさんについては理由を説明すれば納得してくれると思うからそれは大丈夫だけど、Bさん相手にはどうすればいいかって事だよね?」
戸塚「うん。二人の関係を上手く元に戻す方法があればいいんだけど、それが思い付かなくって」
雪乃「依頼の内容はわかったわ。後はこの依頼を受けるかどうかという事だけど……」
葉山「……戸塚君。その前に一つ聞きたいんだが、そのAさんとBさんは男と女だったりするのかな?」
戸塚「うん、そうだけど」
葉山「リア充爆発しろ」
戸塚「え?」
雪乃「その男は放っておいていいわ。ちょっとした病気みたいなものだから」
戸塚「……え?」
葉山「悪いけど、俺はこの依頼を受ける気はないよ。個人的な理由でね」
戸塚「ええと……」
雪乃「そこの男は放置しておくとして、私の意見を述べるなら」
戸塚「うん」
雪乃「残念だけど期待には添えられない、という事になるわね。当事者が誰かを隠している以上、奉仕部として実際の活動をするのはかなり制限がかかるし、その制限の範囲を考えると依頼を成功させる可能性が極めて低いという結論が出てしまう訳だし」
相模「質問とかそういう事も出来ないし、やっぱ難しいよね」
雪乃「ただ、奉仕部への依頼ではなく単なる個人的な相談という形なら乗れるわ。それでも良ければやらせてもらうけれど」
相模「うん。それならうちも協力するよ。うちにとっては初めての依頼な訳だし」
戸塚「そう? 良かった。なら、それでお願いするね」
葉山「…………」
【雪ノ下案】
戸塚「それで、雪ノ下さんはどうしたらいいと思う?」
雪乃「そうね……。やはりBさん本人に問題があるわね。迷惑になるかもしれないと思うという事は、つまり本人が引け目を持っているという事よ。言い換えるなら、自信がないという事にもなるわね」
戸塚「自信?」
雪乃「そう。付き合ってると周りに誤解されても、それがAさんの迷惑にならないという自信ね。例えばそこのH君なんかは、事実はともかくとして本人はそういう自信に満ち溢れているわ。もしもH君がBさんの立場だったらそんな悩み自体絶対に抱えないはずよ」
葉山「それ、匿名にする意味あるのかな、雪ノ下さん?」
相模「えっと、つまりBさんに自信をつけさせれば、丸くおさまるって事? でも、どうやってやるの?」
雪乃「男女交際において自信をつけられる要素と言えば、経験、容姿、コミュニケーション能力、そういったところかしらね。それに自信が持てれば上手くいくと思うのだけど」
葉山「だけど、経験は無理だね。それだとAさんの立場がなくなってしまう」
雪乃「つまり、容姿とコミュニケーション能力に自信を持ってもらう、という事ね。それなら……」
【比企谷家】
『八幡君、服とか買いに行かない?』
八幡「は? 服?」
『そ。秋物の服とかそろそろ見ておきたいところっしょー。つか、良ければ俺が八幡君のコーディするよ。めっちゃ似合うの見つけてあげるしー』
八幡「いや……服は間に合ってるから。つうか、服買う金とかないし」
『探せば安くていいのとかもあるって。小物とかもあるしさ。それに、こういうんは買わなくても、試着とかだけでも結構楽しいもんだし』
八幡「それはない。試着だけとか何が楽しいのか俺にはまったく理解出来ない。つうか俺、服にあまりこだわりとかないし」
『そう言わずにさー。八幡君、結構イケメンじゃん? 服バッチ決めたらかなりイケてると思うんだけどー。これを機に髪とか染めてもいいと思うしー』
八幡「悪いが、俺、そういうのする気ないぞ。それに、もうすぐ夏休み終わるだろ? 新学期に入ってそんな格好で来たら、夏休みデビューみたいに思われる事間違いなしで恥ずかしいだろ」
『あ、えっと……』
八幡「すまんな、戸部。別のやつを誘ってくれ」
『うん……。仕方ないか。わかった、バイバイ。またねー』
【サイゼ】
『て事でー、無理だったわ、ごめん』
戸塚「ううん。ありがとう。また何かあったら連絡するね」
戸塚「……という訳で、失敗に終わったみたい」
雪乃「そのBさんは買い物にすら行かないのね……。容姿や雰囲気を変えて自信を持たせるつもりだったのだけど、まさかスタート地点でつまずくとは思ってもいなかったわ」
戸塚「その人、難しい性格してるんだよ。作戦を変えた方がいいかも」
【相模案】
相模「なら、次はうちの案言うよ」
戸塚「何か良い考えがあるの?」
相模「良い考えっていうか、ちょっとズルするんだけど」
戸塚「ズル?」
相模「結局、Bさんにモテるって自信を持たせればいいって事でしょ? だったら……」
【公園】
結衣「ハッチー、ごめんね。急に散歩とか誘ったりして。たまたま近くまで来たし、サブレもきっと会いたがってたと思うしって事で」
サブレ「わん!」
八幡「いや、犬は好きだからいいぞ。丁度コンビニでも行こうかと思ってたし、その途中まで付き合うだけだからな。よしよし」ナデナデ
サブレ「わふわふ!」フリフリ
女1「わ、ちょっと見て見て、向こうの公園にイケメンいるんだけど」テクテク
女2「あ、ホントだ。カッコいい。ヤバイねー」テクテク
八幡「…………」
結衣(よし、成功だし! サガミンが考えた誉め殺し作戦。海の時と逆パターンならハッチーも絶対自信持つよね)
結衣(あの二人は戸塚君の知り合いだけど、ハッチーとはクラス違うから多分顔を知らないはずだし、ならバレる事もないはずだし)
結衣「ハッチー、さっきの聞いた? イケメンだって」
八幡「ああ、聞いてたぞ。確かにその通りだよな」
結衣「あ、ハッチーもそう思う!?」
八幡「おう。サブレは本当にイケメンだぞ。ジャニーズみたいな顔つきが特にな。お前はモテるぞ」ナデナデ
サブレ「わん!」フリフリ
結衣(作戦失敗だし……)
【サイゼ】
『ていうか、サブレ、イケメンじゃないし!』
戸塚「……とにかく失敗したんだね。うん、わかった。ありがとう」
戸塚「……という事で、相模さんの案も駄目に終わったんだけど」
相模「何で犬と間違えるかなぁ……。しかもその後、きっぱりと全否定したんでしょ? 普通、自分の事かなって少しぐらいは思わない?」
雪乃「恐らく、Bさんは余程、自分というものに自信がないのね。……これはなかなかの強敵だわ」
葉山(他人が幸福になる手伝いとか心底どうでもいいんだが……)
戸塚「えっと……葉山君とかはどうかな?」
葉山「…………」ハァ
戸塚「依頼を受けないってのは聞いてるけど、何か良い案とかあったら教えてくれると嬉しいんだけど……」
葉山「良いかどうかはともかく、あるにはあるよ。ただ、あまりお勧めはしないけどね」
雪乃「戸塚君、そこの男には虚言癖があるから相手にしない方がいいわよ」
戸塚「え、でも……」
葉山「酷いな、雪ノ下さんは。俺はこれまで嘘をついた事が一度もないよ」
雪乃「ほら見なさい。嘘つきの常套句が出てきたわ。嘘かどうか俺の目を見てくれとか、神に誓って真実だとか、この投資は絶対に外れませんとか、これらは全部嘘つきが自分からそれを白状しているようなものね。これで納得してくれたでしょう」
戸塚「えっと……投資は例えがよくわからないんだけど……」チラッ
葉山「……わかった。そこまで言うなら俺の案を言うよ。あまり気が進まないけどね」
【葉山案】
葉山「一番簡単なのは、AさんがBさんに対してはっきり言う事だよ。自分は付き合ってると思われても迷惑でないと」
雪乃「正論ね。でも、それが出来ないから戸塚君がこうして相談に来ているのよ」
相模「確かに、言うのはちょっと勇気がいるよね、それ」
葉山「なら、荒技になるね。その逃げ場を消すしかないだろう」
相模「逃げ場?」
葉山「そう。逃げ場。今はそれを言わなくても良い状況にあるから、Aさんはそれを言わないんだろう? よくある話だよ。『友達』と呼ばれる関係にとどまって、お互い先に進もうとしないし、そこにいたがる。そこなら何があっても自分は傷付かないからね。だから、その逃げ場をこちらで奪ってやる」
戸塚「それって……具体的にはどうするの?」
葉山「噂を流す。AさんとBさんが付き合ってるっていう噂をね」
戸塚「!?」
葉山「こういう噂が出たら、AさんにとってもBさんにとっても、もう逃げ場所がない。Aさんは嫌でもその噂について答えなきゃいけない事になるし、Bさんはそれを聞かざるを得ない」
葉山「だから、その時、Aさんがその噂を迷惑だと思ってないと言えばそれでこの問題は解決する。そうだろ? 至極簡単な事だよ」
戸塚「でも、それはいくらなんでも……」
雪乃「そうね。その案には賛成出来ないわ。そもそもBさんは噂を作りたくないと考えているのだから、それはBさんにとって良い結果とは言えないわ。もちろんAさんにとっても良い気分のものではないでしょうし」
葉山「だろうね」
雪乃「仮に百歩譲ってAさんがそういう噂が出ても何も気にしないとするわね。でも、そうだったとしても、Bさんがその噂についてやはり責任を感じ、Aさんからの好意を更に拒絶しようとする可能性も高いわ。その場合、余計状態が悪化するはずよ。最悪、今の二人の仲を潰しかねないわ」
相模「そうだよね……。付き合ってもないのに噂が立つってやっぱり嫌だと思う……。お互い余計に気まずくなりそうだし……」
葉山「それもあるだろうね。俺もそういう可能性は十分あると思うよ。でも」
葉山「悪いけど、そういったマイナス面まで俺は面倒見るつもりはないよ。そもそも、それだけ面倒なBさんの事は初めから放っておけばいいと思うし、それでも放っておけないというならAさんが素直にそれを言うべきだと思うからね」
葉山「それを二人とも出来ないというなら、こちらで無理矢理解決に持っていくしかないだろ? 当然、無理矢理やればどこかに綻びも出るよ。失敗するリスクも出てきて当然だし、それはハイリスクなものになる。それが当たり前の事だと俺は思うけどね」
雪乃「……つまり、上手くやりたいなら自分達で解決しろと貴方は言いたいのね」
葉山「奉仕部の精神には乗っ取ってないけど、そういう事になるね。本人からの依頼ならともかく、他人がお節介で片付けるような問題ではないと俺は思う」
相模「葉山君、その言い方はちょっと……」
戸塚「ううん……そうだね。……そうかもしれない。……ごめんね、関係ないのに、みんなの時間取らせちゃって」
雪乃「いいえ。戸塚君が気にする事ではないわ。悪いのは全部そこの空気を読めない男であって、あなたが謝る必要は皆無よ。むしろ、失礼な事を言ったH君が謝るべきね」
葉山「悪いね、戸塚君。ただ、小さな親切、余計なお世話という言葉もあるし、この事は本人達に解決を委ねた方がいいと俺は思うよ。戸塚君がすべき事は、Bさんの悩みを解決する事じゃなく、AさんとBさんが話し合える場を用意する事じゃないかな」
戸塚「うん……。考えてみるよ。みんな、ありがとう、相談に乗ってくれて」
葉山「いいさ、気にしないでくれ」
雪乃「あなただけはその台詞を言う資格がないわよ。厚顔無恥という言葉を知っているのかしら?」
相模「あの……ごめんね、役に立てなくて。次に何かあったら気にせずまた依頼しにきてね」
戸塚「……うん」
相模(何か嫌な間が空いたなあ……)
【翌日・サイゼ】
戸部「ないわー。隼人君、それはないわー」
沙希「噂を流すとか、ある意味、本末転倒だからね」
結衣「それに、言い方ってものがあるし」
戸塚「でも、余計なお節介って言われると、それは否定出来ないんだよね……。三浦さんや比企谷君から相談受けた訳でもないし……」
戸部「そうかもしんないけどさー、普通心配するっしょ? 俺はお節介とか思わないし。ていうか、それが出来ないから俺ら困ってんじゃん? かといって、噂を流すとかそれもマジ無理だしー」
結衣「バレたら優美子とハッチー、メッチャ怒るだろうしね」
沙希「そもそも、気まずくなってる二人をどうにかしたいって、そんなにお節介?」
戸塚「多分、気まずくなってる原因の方だろうね。普通にケンカしたとかそういうのじゃないから……」
結衣「そりゃ恋愛絡みだと余計なお節介になるの多いかもしんないけどさ。でも……」
戸部「だよねー。このままにしとくのもアレだしさー。やっぱ俺らとしてはこれ以上こじれる前に早く仲直りして欲しい訳じゃん」
沙希「結局、振り出しに戻るんだね」
戸塚「うん……」
沙希「……それで、どうする?」
戸塚「二人をとにかく会わせるのが一番だと思う。会話してもらわないとどうにもならないし。そこら辺は葉山君の言ってる事もそんなに間違ってないと思うんだ。二人で解決してもらうのが一番だから」
戸部「だけど、会ったとしても話するかな? 比企谷君も優美子も俺らとばっか話して、二人で話す事なさそうじゃね?」
結衣「なら、二人っきりにしちゃう? そうすれば流石に話すよね?」
沙希「そうした方がいいかもね。あたしらはその間どっか行ってるって感じで」
戸部「そういや、今度花火大会あるから、あれにする? 途中で俺らはぐれる感じでさー。人込みでやりやすいと思うけど」
戸塚「そうだね。花火大会に皆で行く事にして、屋台とか回る間に途中でバラけて……」
結衣「で、花火終わったら合流だね。うん、いいかも」
沙希「あ……でもその花火大会、あたし、弟と一緒に行く約束してるよ」
戸部「別にいんじゃない? 一緒に来れば。八幡君も前に小町ちゃん連れてきてたしさ。それに人数多い方が逆にバラけやすいっしょ」
沙希「そう? それならいいけど」
戸塚「あ、なら、僕も雪ノ下さん、誘っていいかな?」
結衣「いいんじゃない。あと、中二も誘おう!」
沙希「どうでもいいけど、かなり人数多くなりそうだね」
戸部「いいって、いいって。夏休み最後のイベントだしさー」
長くなったけど、ここまで
八幡と葉山じゃ「自分が傷つく」のレベルが全然違う
八幡は骨折でも「カスリ傷」と強がるし、葉山は突き指程度でも「治療費払え」と平気で言える
八幡は自ら泥を被ろうとするが、葉山はそういう余計な事は絶対しない
とはいえ今の葉山は自分の行動を以前のように小賢しく誤魔化さないから、そこはナチュラルで好感が持てる
【三浦家】
三浦「花火大会?」
『うん! 皆来るって言ってるし、優美子も行くでしょ?』
三浦「あ、うん……。つうか、あーし、小町と行く約束この前したんだけどさ」
『小町ちゃん来るんだ。あ、じゃあ、もしかしてハッチーも一緒?』
三浦「……それはわかんない。小町は出来れば連れてくるって言ってたけど、期待しないで下さいみたいにも言ってたし」
『そうなんだ。……うん、わかった。とにかく優美子は来るんだね』
三浦「そだね。行く」
『なら、こっちでもハッチー誘ってみるから。優美子、ファイト!』
三浦「何であーし今応援されたん?」
『あ、えっと……優美子、今、ハッチーと気まずい感じでしょ? その理由、私たちもこの前聞いちゃったのね。あと、ハッチーの理由の方も』
三浦「……比企谷の理由?」
『ハッチーには内緒にしといてよ。実は海に行った時にさ……』
【比企谷家】
八幡「まだ行くのか、花火大会にも……」
『まだって言うほど、遊んじゃいないでしょ。特に比企谷は最近ほとんど顔出してないし』
八幡(前の時は確か花火大会には行ってなかったよな、川崎って? いや、会ってないだけで、行ってた可能性はあるか……。三浦たちも葉山とかと行ってそうだしな)
『で、どうせ比企谷、その日暇でしょ。みんな来るって言ってるからあんたも来なよ』
八幡「いや、暇じゃない。俺はその日一日、何もしない事をする事に決めてるからな」
『つまり、暇って事でしょ。プーさんじゃないんだから』
八幡「夏休み終わるまで俺はだらけまくると決めたんだよ。それに、わざわざ人混みの中に出かけたくない」
『あ、そ。相変わらずだね、あんたも。優美子が面倒くさいって言う気持ちわかるわ』
八幡「ほっとけ。とにかく今回俺はパスするからな」
『そうもいかないから。こっちにもちょっとした事情があってね。あんたは今回強制』
八幡(何で俺、また強制なんだよ)
『その日はあたしが迎えに行くから。逃げたり居留守使ったら覚悟しときなよ』
八幡(言い方完璧にヤクザじゃないですか。なにこれ怖い)
『じゃあね。また』
ガチャッ、ツーツー……
八幡「どうすんだよ、脅迫電話になってんだけど……」
【某同人誌専門店】
海老名(あれ、あそこにいるの……)
静「」ジーッ
海老名「こんにちは。また会いましたね、平塚先」
静「ストップだ! 海老名! それ以上は言うな!」ガシッ
海老名「むぐ!」
静「こんなところで先生などと言うな。前も言っただろ。私にも立場というものがあるのだぞ」ヒソヒソ
海老名「ふぐふがん」
静「ふう……。気を付けたまえ」
海老名「……すみません。えーっと……静さん?」
静「うむ。海老名も買い物か?」
海老名「いえ、近くに寄ったから習性で来ちゃいまして。買いたいんですけど、この前のコミケでお金がないんですよ。先……静さんは今年コミケどうでした? 行きましたか?」
静「一応な。出遅れたので、二つぐらいしか狙ってたところは回れなかったが。しかし、戦利品もあるぞ」
海老名「お、何ですか、それ。気になるじゃないですか」ニマリ
静「聞きたいか、ふっふっふ」
【葉山家】
葉山「花火大会?」
『うん。もうすぐ近くであるでしょ。うち行きたいなって思ってるんだけど、一人だとやっぱり行き辛いし……。友達とか誘ったんだけど断られちゃったから……。だから葉山君、その日どうかなって』ドキドキ
葉山「……近くっていうと、ああ、あの大会か。でも、あれは少しね……」
『あ……い、嫌ならいいんだよ、無理しなくても。うちもそこまで行きたいって訳でもないし、行けたらいいなあ程度だから』
葉山「いや、そういう訳じゃないよ。実は陽乃さんからもう誘われてるんだ。それで、一緒に行く事になってるから」
『あ……』
葉山「彼女は挨拶回りとかあるから、合流は遅くなる予定なんだけどね。だから、早い時間帯から行くなら大丈夫だと思う。その後、陽乃さんと一緒でも構わないなら、三人で花火も見れると思うけど」
『……ご、ごめんね。もう予定入ってたんだ。それなら二人のデート邪魔するのもあれだし、やっぱやめとく。ホントごめんね、時間取らせちゃって』
葉山「いや、邪魔にはならないよ。陽乃さんは基本的に来る人を拒まないし、それに、陽乃さんと俺とはそういう関係じゃないからさ」
『でも……。幼馴染みって雪ノ下さんから聞いたし、昔から仲も良かったって……。だから、やっぱりうちは邪魔になるんじゃないかなって思うんだけど……』
葉山「そんな事はないよ。俺は相模さんが誘ってくれて嬉しかったし。だから、相模さんさえ良ければ一緒に行きたいとは思ってる。駄目かな?」
『う、ううん// なら……』
葉山「そうだね。一緒に行こうか」
『うん///』
【雪乃のマンション】
雪乃「花火大会に?」
『うん。皆で行こうって話になってるんだ。雪ノ下さんも来ない?』
雪乃「皆と言うと、三浦さんや戸部君たちかしら?」
『うん。でも、ずっと皆と一緒って訳じゃないよ。途中で何人かずつにバラけようって話になってるし』
雪乃「……そうね。折角の戸塚君からの誘いだし……行く事自体は構わないけれども……でも」
『……でも?』
雪乃「基本、私は団体行動というのが好きじゃないのよ。苦手と言ってもいいわね。だから……」
『やっぱり駄目なのかな……? 僕、雪ノ下さんにも来て欲しいって思ってるんだけど……』
雪乃「……駄目、ではないわ。それなら……現地集合という形にしてもらっても構わないかしら? バラけた頃にひっそりと合流するのなら……」
『いいよ、それで。ありがとうね、雪ノ下さん。僕、楽しみにしているから』
雪乃「え、ええ……// それで、いつ頃に合流するかだけど……」
【雪ノ下家】
陽乃「ふーん。花火大会、南ちゃんも来るんだ」
『勝手に決めて悪かったね。だけど、構わないだろ?』
陽乃「いいよ、別に。隼人も両手に花とかしたいだろうしさ。もういっその事、雪乃ちゃんも誘ったら?」
『生憎、この夏休み、デートの誘いは全部断られててね。今回もそうだったよ』
陽乃「へえ、そうなんだ。もしも私だったら、断りはしないんだけどなあ。でも、隼人、私の事はろくに誘ってくれないしさあ。流石に私もちょっと嫉妬しちゃうよ?」
『本気でそう言ってるなら、誘うよ。でも、そうじゃないってのがわかってるからね。俺は陽乃さんのオモチャになる気はないよ』
陽乃「酷いなあ、隼人は。私はいつだって本気なのに。だいいち、嘘つきは隼人の方でしょ? 本気でないのに雪乃ちゃんに構ってさ」
『…………』
陽乃「これで、もしも雪乃ちゃんがその気になったら、その時、隼人はどうするんだろうね? 雪乃ちゃんと付き合うのかな?」
『いや……。その前に、雪乃ちゃんが本気にする事自体ないと思うよ』
陽乃「逃げるのが得意だねえ、隼人は。でも、そんな事ばかり言ってると、その内、誰かに後ろから刺されちゃうかもしれないよ。気を付けた方がいいんじゃないかな?」
『……わざわざ、忠告ありがとう。……背後には気を付けるよ』
陽乃「冗談、冗談。本気にしすぎだって、隼人。そんな事あるはずないじゃん」
『……だといいけどね』
【某同人誌専門店】
静「そういえば、海老名。夏休みが終わったら文化祭があるだろ」
海老名「そうですね。でも、愛とホモだけが友達の私にはあんまり関係ないですけど」
静「果たして本当にそうかな? 文化祭でやる内容によってはなかなか面白い事にならないか?」
海老名「……その顔は、何か企んでますね?」
静「ふっ。例えばだ」
静「もしも文化祭でお前たちのクラスがやる出し物が、演劇とかになったらどうだ? しかもその演劇の内容が男と男のラブロマンスにでもなったら?」
海老名「!」キュピーン
静「気が付いたか、海老名。そう、文化祭にはホモ要素があふれている!」
海老名「なるほど……。つまり、今の内から色々と根回しをしておけば……」
静「出し物の内容を演劇にして、お前が演出を担当する事も十分可能だ」
海老名「静さん……私、やります! 全てはホモの為に!」
静「うむ! よく言った! それでこそ私の生徒だ!」
【そして花火大会当日、比企谷家】
小町「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
八幡「……何だよ?」
小町「三浦さんから聞いたけど、お兄ちゃん花火大会に行くんだよね?」
八幡「…………」
小町「実は小町も三浦さんと一緒に行く事になってるんだよねー。だから、出来る事ならお兄ちゃんと一緒にお祭り行きたいなあ、なんて思ってるんだけど……」
八幡「…………」
小町「……ごめん。ちょっと小町調子に乗ったかも。だから、無視とかはやめてお兄ちゃん」
八幡「…………」
小町「あ、じゃあじゃあ、小町とお祭り行ってくれたらお兄ちゃんに何か奢るから。わたあめとか、わたあめとか、わたあめとか」
八幡「…………」
小町「って、お前それ、わたあめオンリーじゃねーかよ。どれだけ俺わたあめ好きなんだよ。アホか」(声真似)
八幡「…………」
小町「……何かツッコんでよ、お兄ちゃん。小町、悲しいよ」
ピンポーン
八幡「……来たか」スクッ
小町「あ、大丈夫! 小町が出るから。お兄ちゃんはそのままゆっくりしてて」トタタタッ
八幡「…………」
< あれ、沙希さん! どうしたんですか、あ、ひょっとしてお兄ちゃんを迎えに?
八幡(やっぱり川崎か……)
【玄関】
沙希「なんか久しぶりだね」
八幡「……おう」
大志「初めまして! 俺、姉ちゃんの弟の大志って言います。よろしくっす」ペコッ
八幡「おう(大志も来てたのか。かなり久しぶりに見たな)」
小町「それにしても沙希さん、浴衣メッチャ似合ってますねー。綺麗ですよ。ね、お兄ちゃん?」
八幡(だから、俺に振るなよ、そういう話題を。空気読めよ、小町)
沙希「ありがと。比企谷はどう? これ似合ってる?」
八幡「まあ……。似合ってる、と思う」
沙希「そ。ありがと」
八幡「……おう」
八幡(……何かこう完全に社交辞令だな)
小町(小町的にお兄ちゃんのお嫁さん候補ナンバーワンなんだけど、沙希さんその気なさそうなんだよね……。これは脈なしかも……)
沙希「で、予告通り、比企谷迎えに来たから。あと、確か小町だっけ? あんたの事も三浦から頼まれてる」
小町「あ、ありがとうございます」ペコッ
八幡(これ小町も一緒に行く事になる流れか……)
小町「えっと……。あと……川崎君も久しぶり」
大志「ああ……うん。久しぶり」
小町「…………」
大志「…………」
八幡(何だよこの友達の友達に会ったみたいな空気。いや、実際、似たようなものなんだろうけどな)
沙希「そういえば、大志。あんた達って同じ学年だったっけ?」
大志「……あ、うん。何回か話した事……あったけ?」
小町「……あったかな? あったような気もするけど……」
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡「……なら、小町。お前大志と一緒に行け。俺は川崎と行くから」
小町(お兄ちゃんが物凄く珍しく積極的に! なら、小町はもちろん!)
小町「うん、じゃあ小町は川崎君と一緒に行くね! いいよね、川崎君?」
大志「え……(そういうの苦手なんだけど。大体、姉ちゃんと一緒に行きたいし)」チラッ
沙希「……別に四人で行けばいいでしょ。(比企谷と二人だと優美子に誤解されるかもしれないから大志連れのあたしが来る事になったのに。だいいち、こんなブラコンな妹、大志と仲良くさせたくない)」
八幡「いや、だけど、あれだ。若い者は若い者同士的な面もあるだろ」
沙希「見合いの席のおじさんじゃないんだからさ。それに、わざわざ二人に別れて行く意味ないでしょ」
小町「小町的には、大志君と二人で全然いいですけど」
大志「やっぱり大勢の方がいいと俺は思う。姉ちゃんもああ言ってるし」
八幡「わかった。ここは公平にジャンケンで決めよう」
沙希「する必要ないから。四人で決定。異論はある? あったら全部却下だけど」
八幡「おい」
沙希「それよりも、比企谷に小町、あんた達その格好で行くの?」
八幡「俺はこれでいいけどな。小町は……」
小町「あ、小町もこれでいいです」
八幡「……確か、浴衣あったよな。小町、お前それに着替えてこい」
小町「え? お兄ちゃんが言うならそうするけど……でも」
八幡「いいからさっさと着替えてこい。時間押してるしな」
小町「あ、うん! ダッシュで行ってくるから! ちょっとだけ待ってて!」トタタッ
沙希「…………」
沙希「……比企谷。小町って浴衣嫌いなの?」
八幡「いや。そうじゃなくて、多分、浴衣が親が買ったやつだからだろ。……俺と出歩く時はそういうものを着ちゃいけないってあいつは勝手にそう思ってんだよ」
沙希「何で?」
八幡「……俺が知るかよ」
沙希「……?」
【交差点】
小町「お兄ちゃんと一緒にお祭りとか何年ぶりかなあ。どう、お兄ちゃん? 小町、浴衣似合ってる?」テクテク
八幡「似合ってるも何も普通だ」テクテク
小町「そう? 小町的にはかなりいい感じだと思うんだけど」テクテク
八幡「…………」テクテク
小町「ごめん、お兄ちゃん。小町、また調子に乗ったかも。だから無視はやめてってば」
沙希「…………」
大志「何か……比企谷さんとこって仲悪いみたいだね、姉ちゃん」ヒソヒソ
沙希「うん……。みたいだね。でも……」ヒソヒソ
大志「でも?」ヒソヒソ
沙希「……いや、何でもない」ヒソヒソ
【駅前】
相模「お待たせー、葉山君! ごめんね、待った?」
葉山「いや、丁度今、来たところだよ。それよりも今日は浴衣なんだ」
相模「うん。折角だから着ていったらってお母さんに言われてー。でも、うち浴衣とかあんまり似合ってないでしょ? だから、どうしよっかなって散々迷ったんだけど」
葉山「そんな事ないよ。よく似合ってると思う。色も落ち着いた色で大人っぽい雰囲気が出てるし、いつもより数段可愛く見えるよ。やっぱり女の子は浴衣の方がいいよね」
相模「そ、そう?/// ていうか、葉山君、お世辞上手過ぎ。うち、本気にしちゃうじゃん」
葉山「本気にしてくれて構わないんだけどね」ニコッ
相模「やだもう。やめてってば///」カァァ
葉山「それじゃあ、行こうか。色々と回りたいしね」
相模「う、うん///」
ここまで
【お祭り広場】
結衣「あ、来た来た。みんな、やっはろー!」
八幡「うす」
戸塚「お疲れ様、川崎さん。無事に比企谷君連れてこれたんだね」
沙希「うん。そんなに手はかからなかったね。聞き分けは良かったよ」
八幡「俺は猛獣か何かかよ?」
結衣「ハッチーが猛獣とかそれ盛りすぎだし」
戸部「うっわ! 小町ちゃん、超浴衣似合ってるしー! メッチャ可愛いってそれ!」
小町「あ、どうもー、戸部さん。お久しぶりです。あと、浴衣誉めてくれてありがとうございます」
三浦「小町も浴衣着てきたんだ、似合ってんじゃん」
小町「そういう三浦さんもメチャクチャ似合ってますよ。だよね、お兄ちゃん?」
八幡(だから、空気読めっての。俺を無理矢理引きずり込むな)
三浦(小町、もうちょい空気読めっての。いきなりだと気まずいっしょ)
三浦「比企谷も……久しぶりだし」
八幡「……おう」
三浦「…………」
八幡「…………」
小町「お兄ちゃん、お兄ちゃん、浴衣、浴衣。誉めて。誉めないと」ヒソヒソ
八幡(だから、無茶ぶりはよせっての。中学の時からずっとフラれまくってた俺がこの場でそんな気のきいた事を言えるかよ)
三浦「えっと……その……あーしの浴衣、どう?」
八幡「まあ……あれだ。その……」
材木座「おお、八幡! 久しぶりだな! 会いたかったぞ!」テクテク
八幡「え、あ、ああ……。材木座か」
小町(空気読んでよ! 材木座さん!!)
三浦(……ちょっと! あーし、めっちゃ勇気出したのに!)
【少し離れた場所】
相模「やっぱいいよね、お祭りって。こういう賑やかなのうち好きだなあ」テクテク
葉山「そうだね。夏の風物詩だし、こういう雰囲気が良いよね。屋台とかも楽しみの一つだし」テクテク
相模「あ、あっち金魚すくいがある。子供の時、うち得意だったんだよ。お祭りの度に金魚取ってきたもん」
葉山「そうなんだ。それなら、後でやってみる? 帰りにでも」
相模「あ、ううん。今は取っても入れる水槽とかないし。お母さん困らせちゃうから」
葉山「そう」
相模「葉山君とかはどうだった? 金魚すくいやった事ある?」
葉山「俺はないよ。親が、金魚が可哀想だってさせてくれなかったからね」
相模「あ、そうなんだ。あ、でも今思うとちょっとそうかもね」
葉山「代わりに射的はよくやったかな。そっちは得意だったよ。向こうにあるけど行ってみる? 良かったら好きなの取ってあげるけど」
相模「ホントに? 行く行く。楽しみー」ニコッ
【三浦グループ】
結衣「あ、優美子。わたあめあるよ。私、食べたい!」
三浦「ああ、うん……。じゃあ、あーしも買おっかな」
沙希「あたしも。大志、あんたはどうする?」
大志「じゃあ俺も」
戸部「八幡くーん、わたあめだって。俺らも買わね?」
八幡「……いや、俺はいい。向こうにリンゴ飴あったからあれにする」
小町「あ、ならお兄ちゃん、リンゴ飴は小町が買って来るから! お兄ちゃんはわたあめの屋台で待ってて」
八幡「…………。材木座、一緒に買いに行こうぜ」スタスタ
材木座「む? だが良いのか、八幡……?」テクテク
小町「あ、お兄ちゃん、待って! だから、無視はやめてってば」トタタッ
戸塚「……何か八幡君、どこかぎくしゃくしてるよね。小町ちゃんも含めて」ヒソヒソ
結衣「だよね。優美子とは距離取ってるし、小町ちゃんはあからさまに無視してるし……」ヒソヒソ
戸塚「三浦さんはまだわかるとしても……。小町ちゃんと何かあったのかな?」ヒソヒソ
プルルル、プルルル
戸塚「あ、来たかな」ピッ
結衣「ひょっとしてゆきのん?」
戸塚「うん。今、着いたみたい。じゃあ、僕、迎えに行ってくるから。計画通り、由比ヶ浜さんたちも、このタイミングでバラける?」
結衣「そうだね。じゃあ、中二とサキサキにも伝えて来よっと。気が付いたらいなくなってたって感じではぐれるって」
戸塚「うん」
【戸塚、雪ノ下組】
戸塚「お待たせ、雪ノ下さん。待った?」
雪乃「ええ、そうね。でも大した時間ではないわ」
戸塚「ごめんね、それじゃ一緒に回ろうか。雪ノ下さんはお祭りとかどう? よく行く方?」
雪乃「そうでもないわ。むしろ……嫌いな方だったわね」
戸塚「え……」
雪乃「姉さんの事は戸塚君も知ってるわね? 私とあまり仲が良くないという事も知っているかしら?」
戸塚「あ、うん……。キャンプの時少し見ただけなんだけど、仲はあまり良くなさそうに見えたから」
雪乃「ええ、そうなの。子供の時からずっとそう。だから、お祭りに行く度に、姉さんは必ず私にちょっかいをかけてきたわ。例えば、競争とか。どちらが金魚を多くすくえるかとか、どちらが良い景品を当てられるかとか。私はそれで姉さんに一度も勝った事がなくて、そして私が負ける度に姉さんは勝ち誇ってこう言うのよ」
『雪乃ちゃんって、本当に何の才能もないんだねえ』
戸塚「それは……ちょっと酷いね」
雪乃「そのせいで、私はすっかりお祭りに行く事が好きではなくなってしまったのよ……。三つ子の魂百までと言うけど本当ね。良い思い出がこれまで一つもないんですもの」
戸塚「あの……ごめんね。なのに僕、誘ったりして」
雪乃「いいえ、だからこそ戸塚君が誘ってくれたのは嬉しかったの。だって……。今日、良い思い出が初めて出来そうだから」
戸塚「……雪ノ下さん」
雪乃「……行きましょうか、戸塚君//」ニコッ
戸塚「うん」ニコッ
【沙希・大志・結衣・材木座組】
大志「上手くいったすかね?」
結衣「多分ね。丁度いっぱい人がきてくれたおかげで、上手くはぐれられたと思う」
材木座「というか、八幡と三浦氏をくっつけようなどと画策していたとは……! 八幡め、いつの間にそのようなリア充ぶりを発揮しおって!」
沙希「くっつけるってより、仲直りだけどね。お互い会話もなかなかしないから、二人きりにするのが一番良さそうだと思ってさ」
結衣「ま、こっちはこっちで楽しもうよ! あ、ほら、水風船とかメチャ懐かしいし」
大志「あー、俺も小さい時、買ってもらって遊んだっす」
沙希「あんた、勢いよくやるからすぐに輪ゴムが切れて割っちゃっんたんだよね。覚えてる?」
大志「あれ? そうだったっけ?」
沙希「そうだよ。で、わんわん泣くから代わりにあたしのあげたんだよ。それも忘れたの?」
大志「うわ、本当に。全然覚えてないよ、俺」
沙希「恩知らずだよね。まったく」(苦笑)
大志「ごめん、姉ちゃん」(苦笑)
材木座「しかし、二人は仲が良いな。八幡のとことはかなり違って」
結衣「ハッチーもちょっとは見習えばいいのに。小町ちゃんあれだけハッチーに話しかけてたのに、ほとんど無視してたし。あれじゃ小町ちゃん、可哀想だよ」
【戸部・小町組】
戸部「小町ちゃん、今日八幡君となんかあったのー? やけに八幡君、つっけんどんだったけどさー」
小町「いえ、いっつもあんな感じですよ。小町、お兄ちゃんに嫌われてるから仕方ないんです」
戸部「はあ? マジでそれ? なんで?」
小町「うーん……。自分で言うのも何ですけど、うちの親が後から生まれた小町の事、大事にし過ぎてるんですよね。何かあれば全部小町優先にしちゃって……。多分、それが原因だと思います。だから、お兄ちゃんが小町嫌うのも仕方ないんです」
戸部「いやでもそれ、小町ちゃんには直接関係ないじゃん。言い方悪いかもだけど、八幡君の逆恨みみたいなもんでしょ、それー」
小町「でも、誕生日プレゼントだって値段全然違うんですよ? 洋服とか買ってもらう回数もまるで違うし、どこか出掛けるってなったら親はまず小町を連れてくんです。小町は可愛いからね、って。お兄ちゃんは留守番でいいでしょって。お兄ちゃんからすれば可愛くないって言われてるようなもんです」
戸部「あ、でも……。それは親が贔屓してるって事で小町ちゃん自身は……」
小町「小町はそれに気付かなかったんです。単純に親から優しくされて服とか買ってもらって喜んでたんです。だから、お兄ちゃんが小町の事を嫌ってるなんて長いこと気付きもしなかったんです。お兄ちゃんがずっと傷付いてるのも知らずに……。だから、小町の責任なんです」
戸部「そんな事ないって。小町ちゃん、悪くないから。マジで!」
小町「……小町、お兄ちゃん好きなんですよ。だから、小町が悪いとか悪くないとか、どうでもいいんです。お兄ちゃんが小町を嫌ってるなら、それは小町が悪いんです」
戸部「小町ちゃん、そういう考えは直した方がいいって、絶対……」
【三浦】
三浦「あれ……?」キョロキョロ
三浦「みんな、どこ行ったん? いつの間にか誰もいなくなってんだけど……。さっきまでそこにいた比企谷までいないし」
三浦「とりあえず結衣に電話して……」ピッ
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル……
三浦「出ないんだけど。気付いてないの、結衣? なら、戸部とか……」ピッ
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル……
三浦「何で戸部も出ないん」
【八幡】
八幡(おいおい、金魚すくいの屋台をちょっと見てる間に、いつのまにか誰もいなくなってんだけど)
八幡(まさか……ハブられたのか? 比企谷とか置いていけばいい的な? そんな事はないと信じたいが、マジでそうだったら立ち直れねえぞ、俺)
八幡(電話かけても何故か誰も出ないし、三浦はずっと通話中だし……)ツーツーツー
八幡(この歳で迷子も問題だが、ハブられてそうなったとしたら更に問題だろ、俺)
八幡(ヤバい。段々不安になってきた。とにかく誰か見つけないとまずい。探すか)
八幡(来た順序からいって多分向こうの方にいると思うんだが……)テクテク
【三浦】
三浦「マジでみんなどこ行ったん? 誰とも連絡つかないし、なんなんこれ?」
三浦「とにかく、誰か見つけないと……」キョロキョロ
三浦「ん……。あれってひょっとして……」
相模(葉山君、ホントに射的うまかったなあ……。景品のぬいぐるみ取ってうちにくれたし)
相模(それに、顔いいから、周りの子が羨ましそうにうちの事見てくるし。気分いい)
相模(葉山君も気を色々と遣ってくれるし。うち今スゴい幸せかも。……今日、葉山君誘って良かった)ニコッ
三浦「ひょっとして相模?」テクテク
相模「え?」クルッ
三浦「あ、やっぱ相模じゃん。なに、あんたも来てたん?」
相模「あ、三浦さん……。三浦さんも来てたんだ」
三浦「そ。結衣とか戸部とかに誘われてね。相模、あんたは?」
相模「え? ええと……その……//」
葉山「お待たせ、相模さん。悪いね、急に電話がかかってきちゃって。今、終わったから」テクテク
葉山「あれ、三浦さん?」
三浦「……ハヤオ。あんたも来てたんだ」
相模「あ、うん。葉山君と一緒で//」
葉山「久しぶりだね、会えて嬉しいよ」ニコッ
三浦「あーしは会いたくなかったんだけどね。へえ……あんた相模と来てたん?」
葉山「うん。彼女から誘われてね。三浦さんは?」
三浦「あーしは結衣とかと。にしても、相模が誘ったんだ。ふうん……。二人とも仲良いじゃん」
相模「あ、違うよ// 誤解のないように言っておくとそういうんじゃないから。葉山君は今日うちに付き合ってくれただけで」
葉山「そう。本当にそれだけだよ。彼女とは特別な関係でも何でもないから変な誤解はしないで欲しいな、俺としては」ニコッ
相模「……!?」
三浦「あ、そ。別にハヤオの事なんかどうでもいいし。それより、結衣とか戸部とか見なかった?」
葉山「いや、見てないね。ひょっとしてはぐれたの? 良かったら俺も一緒に探そうか?」
相模「え……」
三浦「いい。あんたらの邪魔する気ないし。じゃ、あーしはこれで行っから」
葉山「そうか……。残念だね。なら、また学校で」
三浦「ん」クルッ
相模「…………」
葉山「あと、三浦さん。その浴衣良く似合ってるね。とても綺麗だよ。美人なのが一層引き立つね」
相模「っ……!」
三浦「あ、そ。あんがと」テクテク
葉山「……振り向いてももらえないのか。残念だな」
相模「ぅ…………」
ここまで
【八幡】
八幡(……なかなか見当たらないな。あいつら、どこに消えたんだ……?)テクテク
「あ、比企谷くーん!」
八幡(……?)クルッ
海老名「あ、やっぱり比企谷君だ。はろはろー、私の事わかる?」
八幡「……海老名さん?」
海老名「そう、当たり。良かった、知っててくれて。誰?とか言われても不思議じゃないからね、私」
八幡(確かにぼっち街道突き進んでるからな、この人……。ただ、普通のぼっちと違うのは、幸せそうだという事だ。ある意味で最強のぼっちだろ)
海老名「ところで、比企谷君は一人?」
八幡「いや……。三浦や戸部とかと一緒に来てる。海老名さんは?」
海老名「私は一人だよ。オフ会の帰りにちょっと覗いてみただけ」
八幡(何のオフ会かは聞かないでおいた方がいいだろう)
海老名「それで、適当に回ってたら比企谷君を見つけてね。そっか。比企谷君、やっぱり三浦さんたちとか。これは丁度いいね」
八幡(そして、意味ありげな笑みを見せる海老名さん。その笑みに何の意味があるかはわからないが、良い予感だけはまったくしない)
海老名「実は、ちょっと三浦さんたちと一度話してみたいと思っててね」
八幡「……三浦たちと? (……興味がわいたのか? 元は友達だしな)」
海老名(今度の文化祭の事で布教活動しておきたいから。三浦さん、影響力高いから味方に出来たら百人力だしね)
八幡(海老名さんが三浦たちと仲良くしたいというなら、俺が断る理由はないよな)
海老名「だから、比企谷君に会えて良かったなって。良かったら三浦さんとか紹介してくれないかな? というか、他の人達は?」キョロキョロ
八幡「……何かはぐれたみたいでな。今、迷子なんだ」
海老名「……え?」
八幡(やめて。そんな真顔で、いい歳して何言ってるのみたいな顔は。八幡、恥ずかしくて死んじゃう)
八幡「……て事でな。何故か電話も誰も出ないんだよ。俺も今探してるところなんだ」
海老名「電話も出ないって変な話だよね……。まあ、でも、比企谷君と一緒にいれば、いつかは三浦さんたちと会えるって事だから……。うん、なら私も一緒に探すのを手伝ってあげるよ」
八幡「……つまり、ギブアンドテイクって事か?」
海老名「そうだね。そんな感じ。二人で探した方が見つけやすいから比企谷君も助かる、私も自然に三浦さんたちと話せるから私にも得がある。比企谷君が私の事を紹介してくれたら尚更いい。悪い話じゃないでしょ?」
八幡「まあ、確かにな……。紹介ぐらいなら構わないし」
海老名「本当? ありがとう、助かるよ。なら、お礼に比企谷君にそこのたこ焼きを奢ってあげよう。ただし、半分だけどね。私も食べるから。コミケで使っちゃって、お金、今なくてね」
八幡(行ったのか……。いや、行って当然と考えるべきか)
八幡「つうか、別に奢ってくれなくても構わないぞ。さっきも言った通りギブアンドテイクだからな」
海老名「そう? でも、私がもう食べたくなっちゃってるんだよね。でも、一人で食べるのも悪いし、やっぱり半分あげるよ」
八幡「なら、半分の半分でいいけどな。なんなら俺が半額出してもいい。というか、俺もたこ焼き買えばそれで良くないか?」
海老名「わざわざ買わせるのも悪いじゃない。でも……半額出してくれるなら嬉しいけど」
八幡「……なら、ほい」チャリ
海老名「ありがと! それなら買ってくるから。ちょっと待ってて」トタタッ
八幡(あれ? 俺、うまく乗せられてないか?)
【三浦】
三浦「つうか、マジでどこ行ったし……。何であーし、携帯持ってて人を探さないといけないの」キョロキョロ
三浦「結衣からやっとメール来たと思ったら、『がんばって』とか意味わかんないし」テクテク
三浦「何これ? 自分で探せ的な? あーし、何かイジメられる様な事した?」テクテク
三浦「結構、広いし人が多いんだから、探せとかマジでムリ……いた。あそこにいんの、比企谷じゃん」
八幡「…………」
三浦「つか、あいつも何か一人っぽい……」
三浦「……これ、あーしから話しかけんの? でもそれ、何か気まずいし……。あーし、迷子になってた的な感じで恥ずいし……」
三浦「近くまでいって……あいつから話しかけてくんの待つ感じの方がいいかな……?」テクテク
海老名「」トタタッ
海老名「比企谷君、お待たせ。買ってきたよ。半分こね」
八幡「おう、サンキュ」
三浦「!?」
海老名「比企谷君、そっち半分ね。私はこっち半分だから」
八幡「おう」スッ
八幡「」パクッ
海老名「どう?」
八幡「ああ、うまいな」モグモグ
海老名「良かった。なら、私も」パクッ
海老名「うん、美味しい」モグモグ
三浦「…………」
海老名「それじゃ、行儀悪いけど、歩きながら行く? 急いで探した方がいいよね? 花火始まっちゃうし」
八幡「そうだな。あと、たこ焼きは俺が持つぞ」ソッ
海老名「あ、ありがと。じゃあ、まずはあっちから行ってみようか」
八幡「おう」
海老名「ところで比企谷君、この夏はどうだった? 戸部君や戸塚君たちと何かなかったかな?」グフフフ
八幡「……何かってなんだよ」パクッ
三浦「……何なん、これ」ボソッ
三浦(……結衣が海での事話してくれたから、そうじゃないって勝手に思い込んでたけど)
三浦(比企谷、マジであーしの事、迷惑に思ってたかもしんないじゃん……)
三浦(つか、横のあの女誰なん? どこかで見たような気がするんだけど思い出せないし……)
三浦(結構、可愛いし……)
三浦(比企谷も何でその女と二人でいんの? 何で二人でたこ焼き分けてんの? もしかして、デートだからって抜けてきたん?)
三浦(マジで何なん……)
三浦(声かけて聞けばすぐにわかるけど……。比企谷、その子誰なんって。あーし、皆といつのまにかはぐれたんだけどって)
三浦(でも、言える訳ないっしょ、んなもん。あーし、みっともなさ過ぎじゃん。大体、誰か聞いて彼女とか言われたらあーしどうすんの? はぐれたから一緒に回ろって言うん? 無理っしょ、そんなん)
三浦(……結構近くにいるのに、あーし、むっちゃ遠いじゃん……。比企谷に声かけらんない……)
三浦(声かけらんない……。あーし……)
【相模・葉山】
陽乃「ひゃっはろー。南ちゃん、久しぶりー」
相模「あ、はい……。お久しぶりです」ペコッ
陽乃「あれ? 何か元気ない? それに、ちょっと固いよ、南ちゃん。気をつかわなくていいって言ってるのに。ねえ、隼人」
葉山「そうだね。歳もそんなに違う訳じゃないんだし」
相模「あ、でも、やっぱりちょっと緊張っていうか……」
陽乃「そっかあ。なら、それは花火でも見ながらほぐしていこっか。こっちこっち。最高の席に招待するからさ」
相模「最高の席?」
葉山「陽乃さんは招待客だからね。来賓席だよ。一般のお客さんは入って来れない」
相模「え?」
陽乃「そ。父が県会議員やってる関係でね。こんな風に娘の私が代わりに呼ばれる時があるんだよ」
相模「県会議員……」
陽乃「で、隼人の親はうちが経営してる建設会社の顧問弁護士をずっとやってるの。親同士仲が良いから、小さな頃から私たちも遊んでたって訳。雪乃ちゃんと一緒にね」
相模「そうだったんですか……」
陽乃「うん、そう。それじゃ、行こうか、隼人」グイッ
葉山「……!?」
相模(え!? 腕、組むの……!?)
葉山「…………。陽乃さん、これは何の冗談かな?」
陽乃「え? これって何の事?」
葉山「腕だよ。わかって言ってるよね? どうして俺と陽乃さんが腕を組んで歩くんだい? そういう仲じゃないだろ?」
陽乃「ああ、ごめんごめん。南ちゃんがいるから今日はしない方が良かったんだよねえ。いつものくせでついね」
相模(いつも……!?)
葉山「陽乃さん……。ちょっとそれは洒落になってないんだけど」
陽乃「怒らないでよ、隼人。ちょっとからかっただけじゃん」
葉山「ちょっと? 冗談だろ?」
陽乃「そう、冗談。南ちゃん、今のは全部冗談だからね。私と隼人との仲を誤解しないでよ。私たち、本当に付き合ってないからさあ」
相模「…………そうですか」
陽乃「そう。ほんの冗談」ニコッ
相模「……大丈夫です。……もう、よくわかりましたから」
陽乃「うんうん。流石南ちゃんだね。ほら、隼人。南ちゃん誤解してないって言ってるよ。冗談だってちゃんとわかってくれてるでしょ? それに引き換え、隼人は本当に冗談通じないよねえ」
葉山「……っ」
陽乃「それじゃ、改めて行こうか、南ちゃん。今日はいい席でたっぷり花火を楽しんでってね」ニコッ
相模「……はい。……ありがとうございます」
葉山「陽乃さん」
陽乃「隼人もそんな怖い顔してないでさあ、楽しまないと。折角、両手に花なんだからさ」
葉山「……俺は今日の事、忘れないですよ。教訓にします」
陽乃「敬語なんて堅苦しいねえ、隼人。一体どうしちゃったのかなあ? 何か不満でもあるの?」
葉山「……ええ、たっぷりと」
陽乃「ふうん。そっかあ。相変わらず隼人は真っ直ぐで可愛いねえ。そういうところ、私は結構好きだよ」
葉山「……嘘ばっかりだね、陽乃さんは。俺は陽乃さんのそういうところは好きじゃない」
陽乃「それは残念。またフラれちゃったかな? お姉さん、悲しくて泣いちゃう。隼人は本当に酷いよねえ。そう思わない、南ちゃん?」
相模「…………いいえ。……葉山君はいい人だと思います」
葉山「っ……」
陽乃「いい人だって。良かったねえ、隼人? 誉めてもらえて嬉しいよね?」
葉山「…………」
【八幡・海老名】
海老名「なんか人が移動しはじめてるね。ひょっとして、もうすぐ花火の打ち上げ時間?」
八幡「みたいだな。なのに、三浦たちは未だに見つからないままだ」
海老名「みんな、そっちに移動してるんじゃない? 見やすい場所に。つまり、みんなが行く方に」
八幡「……だとしたら、人混みになって余計に見つけにくいか」
八幡(つうか、未だに電話に誰も出ないとか、マジでハブられてそうで怖い……。トラウマ思い出すから勘弁して欲しいんだが)
海老名「まずいね。花火始まると移動するのも難しくなるだろうし」
八幡「人混みかき分けて探す訳にもいかないからな。場所の横取りかとも思われるし」
海老名「電話は相変わらず? メールとかも?」
八幡「……おう」
海老名「何かあったのかな……?」
八幡「……さあな」
海老名「心配だよね。気持ちはわかるよ。私も前に似たような事あったし」
八幡「似たような事?」
海老名「うん。中学の時に友達と本屋に行った事があってね」
海老名「そこで探してたBL本を見つけてテンション上がっちゃったんだよね。あ、BLって言うのはボーイズラブの略で男同士の愛を描いた話の事なんだけど」
八幡(まずい、今スイッチ入ったんじゃないか、これ)
海老名「それで猫まっしぐらで飛び付いて、友達に勧めながらそこで他に良い本がないか漁ってたの。そしたら、気が付いたらいつのまにか私の周りに誰もいなくなっててね」
八幡(悲しい話を聞いた。なにこれ)
海老名「友達に電話しても誰も出てくれないし、仕方なく帰って。それで、次の日学校に行ったら、私はぼっちになってたんだ」ニコッ
八幡(……何て答えりゃいいんだよ。つうか、笑顔でそんな事を言われても反応に困る)
海老名「まあ、あの子たちは本物の友達じゃなかったんだろうね。私が友達だと勝手に勘違いしていただけで。擬態しない私も悪かったんだろうけど」
八幡(本物、か……)
海老名「でも、後悔はあまりしてないよ。好きなものを好きって言えない世界なら、そんな世界私はいらないし」
八幡「…………」
海老名「そういう本物が欲しいって言ったら、比企谷君は笑うかな?」
八幡「……いや。笑わない。笑える訳ないしな」
海老名「そう。いい人だね、比企谷君って。ま、聞き流しておいて。余計な事言った」
八幡「余計でもないぞ。少なくとも俺は……そう思う」
海老名「……ありがと」ニコッ
海老名「なんかほとんど初対面なのにいきなりこんな話してごめん。比企谷君、何か話しやすいんだよね」
八幡(俺が元ぼっちだったからか、もしくは好感度のせいかわからないが、そう言われて悪い気はしない。……もちろん、これだけで妙な勘違いとかはしないが)
海老名「それにしても、三浦さんたち、本当にどこ……」
ヒューン……
ドオンッ!!
< ワー、キレイー
海老名「あ……。始まっちゃったね」
八幡「そうだな」
海老名「ごめん、変な事言って時間取らせて。私と比企谷君じゃ境遇とか全然違うのに、不安がらせる様な事まで言って。最悪だね、私」
八幡「そんな事はないけどな」
海老名「ううん、ごめん。今からでも私、ちょっと探してくるね。比企谷君はどうする?」
八幡「……いや、ここで花火見る事にする。それで、終わってからまた探す。どうせ花火の間に見つかったとしても、そいつらの邪魔になるだけだからな。見つかったとしても、俺はここを動く気はないし合流する気もないぞ」
海老名「……それって、ひょっとして私に気を遣ってくれてるの? 私が花火見れるようにって」
八幡「な訳ない。俺は面倒くさがり屋だからな。単にわがまま言ってるだけだ」
海老名「……そっか。面倒くさがり屋なんだ。なら、見つけても意味がないし、私も一緒になって面倒くさがり屋になっちゃうけどいい?」
八幡「俺に確認する必要なんかないし、俺がそれを止める理由もないだろ」
海老名「そうだね。そっか……ありがとう」ニコッ
八幡「いや。別に……」
ヒューン……
ドーンッ!!
ヒューン……
ドーンッ!!
陽乃「綺麗だねー。こういうの見ると、もうすぐ夏が終わるなんて嘘みたいだよね」
葉山「…………」
相模「……そうですね」
陽乃「今頃、雪乃ちゃんどうしてるかなあ? 隼人、誘ったのに断られちゃってるし、気になるよねえ?」
相模「……!?」
葉山「そうだね……」
陽乃「南ちゃん、隼人はこんな風に強敵だから気を付けてね。単純そうに見えて結構奥が深いよ、隼人は。一筋縄じゃいかないから。そんな相手じゃないと、私も苦労しないし面白くも何ともないからね」ニコッ
相模「……何の話……ですか?」
陽乃「わからなければそれでいいよ。ただ、中途半端ならやめた方が良いって事。これはお姉さんからの忠告だよ。でないと、自分が傷付いちゃうからね」
相模「……はい」
葉山「……余計な口を挟みすぎだよ、陽乃さん」
陽乃「だって、隼人が相手してくれないから寂しくてねー、つい。ごめんね、隼人」
葉山「……っ」
相模「…………」
【花火終了後。戸塚・雪乃】
戸塚「凄かったね。とても綺麗だった」
雪乃「ええ。花火があれだけ綺麗だと思ったのは、これが初めての事ね」
戸塚「雪ノ下さん……。今日は楽しんでもらえたかな?」
雪乃「……そうね。楽しかったわ。思わぬところで、レアなパンさんグッズも手に入ったし」
戸塚「それにしても、雪ノ下さんってパンさんが好きだったんだね。何か意外って言うか、ギャップで可愛いなって思っちゃった」
雪乃「いえ、別に好きという訳ではないわ。ただ、集めているだけで……//(計算通りね)」
戸塚「また今度、どこかに誘っていいかな? ディスティニーランドとか、僕も行きたいし//」
雪乃「え、ええ。あなたがどうしても行きたいと言うのなら、仕方ないから付き合ってあげてもいいわ//」
戸塚「」クスッ
戸塚「ありがとう」
雪乃「いいえ。それよりも、今、どうして微かに笑ったのかしら? そちらの方が気になるわ//」
戸塚「何でもないよ。気にしないで」ニコッ
【結衣・沙希・材木座・大志】
結衣「綺麗だったねー」
沙希「そうだね。来て良かった」
ピピピッ
結衣「あ、メール。彩ちゃんからだ」ピッ
沙希「どうしたの?」
結衣「ゆきのん送ってくから、先に行くって。彩ちゃん、上手くやってるね」
材木座「何だとお! こちらでもそんな恐ろしきカップル量産化計画が進行していたのか!」
大志「でも、戸塚さんだと、あんまりカップルって感じしないっすよね」
結衣「なんたって彩ちゃんだしね。戸部っちの方はどうだろ? 上手くやってるかな?」
沙希「あと、比企谷もね。裏目に出て、余計こじれてないといいんだけど……」
【戸部・小町】
戸部「マジで感動したわー。やっぱ花火っていいよねー」
小町「そうですね。それより、お兄ちゃんたち、上手くやってるかな」
戸部「あ、そ、そうだね。優美子と比企谷君、仲直りしてっといいけど」
ピピピッ
戸部「っと。噂をしてたらなんとやらってやつー? 優美子からだわ」ピッ
小町「……どうでした?」ドキドキ
戸部「……っべー。何これ……? 何かあったっしょ、これ絶対」
小町「戸部さん、どうしたんです!? お兄ちゃんたちに何かあったんですか!?」
戸部「これ、優美子からのメール……」スッ
『悪いけど、先に一人で帰っから。他のみんなにもそう伝えといて』
小町「!?」
八幡(その後、俺のところに戸部から電話が来た)
八幡(どうやら、戸部は俺と三浦の二人でいると思っていたらしい。だが、俺といたのは実際は海老名さんだ)
八幡(事情を聞いた俺たちはすぐに由比ヶ浜たちと合流した。それで話を聞くうちに、はぐれてから誰も三浦の姿を見てない事について知った)
八幡(しかも、そのはぐれたのも由比ヶ浜たちの計画だという事まで知ってしまった)
《悪い……。比企谷と優美子が気まずい感じになってたから、二人だけにしようと思って……。そうすれば打ち解けるんじゃないかって思ったからさ……》
《電話に出なかったのも、二人でいるとばかり思ってたからさー……。邪魔になると思って、俺ら……』
《まさか、ハッチーまで一緒にはぐれてたなんて思いもしなかったんだ……ごめん》
八幡(とにかく、その事を説明して謝ろうという事になり、代表で由比ヶ浜が三浦に電話をかけた)
八幡(その時、三浦はもう家に着いていた。時間から逆算して、多分だが恐らく三浦は花火が始まる前かその途中で帰ったはずだ)
八幡(由比ヶ浜は電話ごしだと言うのに何度も頭を下げて謝っていた。だが、電話が終わった後の由比ヶ浜の表情は曇りきっていた)
《優美子、怒ってなくて……。もういいからって。気にしてないからって……。悲しそうな声でそればっかり言われて……》
八幡(泣きそうな顔でそう言った由比ヶ浜。由比ヶ浜に限らず、戸部、小町、川崎とかも似たようなものだった。全員がお通夜の様な暗い顔をしていた。はぐれてから花火の時間まで三浦はずっと一人でいたのだから。これなら激怒してくれた方が遥かにマシだろう……)
八幡(そんな中、海老名さんが由比ヶ浜たちとろくに話が出来る訳もなく……)
八幡(彼女は気まずい表情で一足早く去っていった)
八幡(俺たちも、全員ろくに会話する事なく、雰囲気が重いまま家路へと着いた)
八幡(由比ヶ浜の話によると、三浦はほぼ全員に電話をかけたらしい……。だが、俺だけが三浦からの着信がなかった……)
八幡(それが何を意味するかは……大体、察しがついてしまう。三浦は俺に電話をする気がなかった。俺だけは一緒にいたくないと考えたからだろう……)
八幡(こうして楽しく終わるはずだった花火大会は、ほぼ全員が楽しく終わらせようと努力したにも関わらず、全員が重苦しい空気を味わって終わった)
八幡(こうして、俺の夏休みは終わったのだ……)
ここまで
ようやく文化祭
第十話
『決戦、文化祭実行委員』
【夏休み明け、始業式の日】
戸部「つー訳でさー、マジゴメン、優美子!」
三浦「ん。わかってるっての。結衣から全部聞いてるし、これまでメールとかもメッチャ来てんだからさ」
沙希「それでも、直接謝らないとあたしらの気がすまないからね。本当に悪かったよ、ごめん」
三浦「いいっての。もう気にしてないし。戸塚もそういう訳だから謝んなくていいから」
戸塚「でも……。ごめんね、三浦さん」
結衣「優美子、ホントゴメン!」
三浦「だから、わかったっつーの。これ以上謝られるとあーしが嫌になってくるっしょ。おしまいにしろし。この話はもうなし。わかった?」
結衣「うん……わかった」コクッ
戸部「良かったー。俺、マジで心配だったからさー。責任とか超感じたしー」
三浦「だから、終わりにしろっての、戸部。もう花火の話題は出すなし」
戸部「あ、ワリぃ、優美子」
八幡「…………」
八幡(花火の件はこれで片付いたみたいだな……)
八幡(三浦も気にしてないとあれだけ言っているから大丈夫だろう。多少トゲが残ってる気はするし、元気がないようにも見えるが……。しかし、元の鞘に戻ったには戻った)
八幡(…………)
八幡(いや、俺は謝る必要はないよね? 一緒にはぐれて一人になってた訳だし。特に三浦に謝る理由がないし、むしろ、謝ったら三浦の機嫌を更に損ねる可能性まである)
八幡(だから、今はこうして離れた席で寝たフリをしているんだがな……。三浦とは未だに気まずいままだし、それに今から混ざるとタイミングはかって来たみたいに思われそうだし)
八幡(ここはステルスヒッキーの本領発揮だ。俺はそこらの机や椅子と同じだ。背景に溶け込むんだ、八幡)
ガラッ
海老名「」テクテク
海老名「あ、おはよ、比企谷君」
八幡(いきなり声かけられたぞ、おい……)
八幡「……うす」
海老名「うん。はろはろー」ニコッ
三浦「……!」
三浦(あいつ、祭りの時に比企谷と一緒にいたやつじゃん……)
三浦(思い出した! そういえば、いたし! どっかで見た顔だと思ってたら、同じクラスのやつじゃん)
三浦(確か、名前が……海老名だっけ? BL大好きなオタク女で、ツレもいなくて、ずっと一人で変な本読んでニヤニヤしてるそんなキモいやつだったはずだし……)
三浦(つうか、何でそんなやつと比企谷が仲良くなってんの? いつのまに? あーしの知らないとこで何かあったん?)
三浦(ああもう、何かそんなのどうでもいいし! とにかく、このままだとあのオタク相手にあーしが負けたっぽくてムカつくんだけど!)
三浦(つうか、あーしが負けるはずないじゃん。顔もスタイルもあーしの方がいいんだし。前から比企谷と仲良かったんだし! こんなキモいやつ相手に、何かずっと落ち込んでたのがバカみたいじゃん、あーし!)
海老名「ところで、比企谷君」
八幡「……何だ?」
海老名「三浦さんとはあれからどう? 大丈夫だったの?」(小声)
八幡「ああ、それなら多分解決した。ついさっき、戸部たちが謝ってそれで元通りになったっぽいな」(小声)
海老名「そう。なら良かった。ちょっと心配してたんだけど、無事におさまったんだったら安心した」
八幡「……おう。何かあの時は悪かったな。探すの手伝ってもらったのに」
海老名「いいよ、別に。大した事じゃないし」
八幡「おう……(ヤバイ、ちょっと笑顔が可愛いと思ってしまった//)」
三浦「」イラッ
結衣「ん? 優美子?」
沙希「どうしたの? さっきから向こうの方見て」
戸部「あれ? 八幡君と海老名さんじゃん。いつのまに」
戸塚「そういえば、花火大会の時も一緒にいたっけ。偶然会ったって言ってたけど……」
海老名「なら、比企谷君……」
八幡「?」
海老名「三浦さん紹介してもらえる件って、まだ有効かな? 私、役に立たなかったけど、一緒になって探した訳だし、お願い出来る? ていうか、お願い。文化祭までそんなに時間ある訳じゃないしさ」ズイッ
八幡「お、おう。(つうか、何でこんなに真剣なんだ。文化祭までにそんなに脱ぼっちに賭けてるのか? 確かに文化祭を一人で過ごすのは嫌だって気持ちはよくわかるが……)」
三浦「…………」チッ
結衣「ヒッキーたち、何の話してるんだろうね?」
沙希「さあ。ただ、比企谷ちょっと引いてない? あいつ、強引なのに弱いし、何か無理な頼み事でも言われてるのかな」
戸部「つうかー、あの子っていっつも教室の隅で一人ニタニタ笑ってる子でしょ? こんな事言うのもあれだけどー、俺、正直、あの笑い方受け付けないんだわ、マジで。キモいっていうかー」
戸塚「……あまり言いたくないけど、確かにちょっとね。僕、見られてる事結構あって、鳥肌立った事何回もあるし……」
海老名「じゃあ、悪いけど、今からお願い。よろしくね、比企谷君。上手いこと取りなして」
八幡「まあ……やれるだけの事はする。期待に添えれるか自信はないけどな」ガタッ
八幡(何せ、前の好感度そのままなら、あのメンバー相手にはきついだろうからな……)
八幡(だが、探すの手伝ってもらったし、文化祭ぼっちが辛いってのはわかるから、出来るだけの事はするつもりだが)
海老名「ありがと。助かるよ」
八幡「いや、大した事じゃないしな。紹介するだけだし」テクテク
三浦「何かこっち来たんだけど」
沙希「何の用だろね。比企谷連れて。あたしも、ああいう子、あんまり好きになれないんだけどさ」
戸部「わかるわー、それ」
戸塚「……うん」
結衣(あれ……? 何か空気スゴく悪くなってる?)
八幡「三浦……。今、ちょっといいか?」
三浦「……何?」
沙希「何か用?」
八幡(あれ? 何か空気冷たくね? しかも川崎、三浦とダブルなんだけど。俺、何も話してないのに、既に凍死しそうな冷たい視線を浴びせられてるぞ)
八幡「いや、その……あれだ。実は紹介を頼まれてな」
三浦「は?」
八幡(やめて。睨まないで。石になっちゃうだろ。三浦のこの目、かなり久々に見た)
沙希「比企谷、紹介ってその子の事? 海老名さんだよね。だったら、わざわざ言わなくても知ってるんだけど」
戸部「だべー。花火大会の時も会ったしさー」
戸塚「……僕は会ってないけど、名前は知ってるよ。同じクラスだし」
三浦「なら、紹介する必要なんかないっしょ。あーしも名前ぐらい知ってたし」
結衣「あ、えと……」オロオロ
八幡(三浦グループの空気が最悪な件について。海老名さん、どんだけ嫌われてんの? これ、来るなって暗に言われてるだろ。それとも俺が嫌われてるのか?)
海老名「……あ、っと。(流石に今はマズイかな……?)」
八幡(その後、海老名さんに服をそっと引っ張られた。恐らくそれが撤退の合図だと察した俺は即座に話を濁して、その場から戦略的撤退をする事を選択した)
八幡(三浦の機嫌の良い時を狙おうと思い決着を後日に回した訳だが、その後日も結局は悲惨な結果に終わった。三浦は海老名さんに対してかなり冷たく、正にけんもほろろという感じだったからな)
『文化祭に何するかなんて、その内決めんだから今はどうでもいいっしょ。わざわざそんな事を話しに来たん、あんた?』
『あ、ええと、その……。実は私に提案があってさ。演劇をやりたいなあって思ってるんだよね。やる劇も実はもう決めていて』
『んな話、よそでやって。あーしは興味ないっての』
『う……』
八幡(ここで海老名さんが投了した)
八幡(正直、俺はこれ以上力になれそうにないと思った。元ぼっちに対して、ぼっちでなくなる様にするお願いなんてはっきり言って不可能だろ)
八幡(だから、この件は奉仕部の面子に頼ろうかと思ったんだが、それは海老名さん本人に断られたしな。そこまでしてもらわなくてもいいよ、と少し困った様な疲れた様な表情で俺はそう言われた。海老名さんは海老名さんで、流石にこたえたらしい)
八幡(その顔を見て、正直、どうにかしたいと思ったんだが、俺の力ではどうしようもない。そもそも、この時には、海老名さん自身が諦めてしまっていたしな)
八幡(三浦以外にも他の女子に話しかけていたようなのだが、全員にやんわり首を振られ続けた事でどうやら心を折られてしまったらしい。俺も似たような経験をしてるからその気持ちはよくわかるが……)
八幡(……やはり、この時期になってからは無理があったようだ。友達関係が決まっている状態からの、脱ぼっちはキツい。それを思い知らされた)
八幡(最終的にはまたぼっちになって、いつもの席で薄い本を一人で読んでいる海老名さんの背中は前より少し寂しそうに見えたな……)
短いけどここまで
【数日後、学校】
結衣「でさ、昨日サキサキに教えてもらった通りに作ったんだけど、それが上手くいかなくて」モグモグ
沙希「ああ、本当に作ったんだ。里芋の煮っ転がし。でも、今日のお弁当に持ってきてないって事は……」
結衣「違うし! 食べたの。捨ててないからね」
三浦「てか結衣、あんた料理あれだけ駄目だったのに、まだやってたん?」モグモグ
結衣「だって悔しいじゃん。せめて一品ぐらいは美味しいの作れるようになりたいと思って」
戸部「そういう前向きなところ、結衣らしくて俺はいいと思うよー。いいと思うけど、さっぱり上達しないってのがネックだけどー」モグモグ
結衣「ちょ、ちょっとは上手くなってるし!」
八幡「……お前、この前、卵焼きとか言って黒い怪しげな物体を持ってきただろ? 初期からほとんど上達してないんじゃないのか?」モグモグ
戸塚「……食べられるものじゃなかったのは否定出来ないのがちょっとね」
結衣「みんなして酷いし! 私、頑張ってるのに」
沙希「ま、頑張るのはいい事だけどね。結衣はそういうとこが長所な訳だし」
三浦「それは言えてっかもね」モグモグ
結衣「あ、ありがと、サキサキ、優美子。二人だけが私の味方だし」
沙希「だけど、あたし、味見だけはしないよ」モグモグ
三浦「あーしもね」モグモグ
結衣「え」
< アハハ、ソレモヒドイヨネー、キビシー
八幡「…………」
八幡(いや、いつも通りの日常なんだけどね? これでいいんだけどな)
八幡(花火大会の一件も完全に片付いたみたいだし、少し残っていたギクシャクした感じも全員から消えた。グループは元通りになったと言っていいだろう。万々歳だ)
八幡(ただ……)
八幡(あれから、三浦が俺に話しかけてくる事がほとんどなくなってるのは何故だ……)
八幡(夏休み前なら多分……)
『あーしも料理とか作ろっかな。そういや比企谷って料理出来たっけ』
『つうか、比企谷。あんま結衣をイジメんなっての。代わりにあーしがあんたをイジメるよ』
『てか、比企谷、またそのコーヒーなん? どんだけ好きなん、あんた』
八幡(この内の一つぐらいは多分言われていた。だが、始業式以降まったくそれがない)
八幡(流れで会話はするし、気まずい雰囲気も特になくなっているんだけどな……。単純に三浦から絡んでくる事がなくなってる。LINEもまったく送られて来なくなった……)
八幡(そして、そうなってから気が付いた事だが、俺の学校での会話が気持ち的に三割ほど減った。LINEに至っては全体の七割近く減っている。これまで三浦がどれだけ俺に話しかけてきていたかを俺はそれで初めて知った)
八幡(思い出してみれば、今までかなりの頻度で三浦からLINEが送られてきていたんだよな……)
八幡(俺がツイッターをやってないから自然と多くなるらしい。戸部や戸塚からもちょくちょく送られてきた。縁がなかったからよく知らんが、リア充ってのはそういうもんなんだろう)
八幡(由比ヶ浜も何だかんだでたまに送って来るからな。川崎はLINE自体好きじゃないらしく、滅多に送ってこないが)
八幡(だが、その中でもやはり三浦の量は多い)
八幡(ほとんど意味のないやり取りが多かったんだが……)ピッ
8/1
『これ、ヤバクね? 超高いんだけど』(画像添付)
『ヤバイな。どこだよ、ここ』
『東京タワー』(画像添付)
『人がゴミのようだな』
『アホなん?』(スタンプ添付)
『よせ。直球はキツい』
『旅行に行ったのか?』
『親戚の家に行くついでに寄っただけ』
『だから、お土産ないから』(スタンプ添付)
『それは知ってる』
『何で知ってるん?』
『俺がもらえる訳ないしな』
『むしろ、慣れっこだ』
『だから自虐やめろし』
『こんだけ自虐されてるあーし可哀想』
『お返しか』
『決まってんじゃん』(スタンプ添付)
8/3
『アイスの新しいの買ってきたんだけど』(画像添付)
『美味いのか?』
『美味そうじゃね?』(画像添付)
『食べたくなるな』
『イケてたし。チョコ部分が特に』(画像添付)
『もう食べたのかよ』
『実はシュークリームも買ってきてるし』(画像添付)
『やめろ。ホントに食べたくなっちゃうだろ』
『クリームたっぷりっしょ』(画像添付)
『だから、よせって』
『ごちそうさま』(画像添付)
『比企谷ー?』
『ついコンビニ行ってきちゃっただろ』(画像添付)
『美味そう』(画像添付)
『満足』(画像添付)
『あーしさん?』
『その言い方はすんなっての! 反則!』
8/5
『テレビ見た?』
『いつのだよ』
『さっき』
『何チャンだ?』
『あれマジでヤバくね?』
『何がだ?』
『あ、ドラマ始まったし』
『おい』
『気になるだろ』
『何だったんだよ』
『何でもない』(スタンプ添付)
『いや、明らかに嘘だろ』
『絶対俺の反応楽しんでるよな?』
『だって面白いし』
『もう寝るぞ』
『わかったっての。ほら』(動画URL添付)
『……確かにヤバイな』
『でしょ? マジ怖くね?』
『お前、俺が寝る直前まで絶対引っ張ったよな?』
『お休み』
『おい!』
8/6
『今めっちゃヒマなんだけど』(スタンプ添付)
『テレビ見たらいいだろ』
『今日、面白いのやってないじゃん』
『映画がやってるぞ』
『途中から見てもわかんないっしょ』
『俺は最初から見てるんだよ』
『昨日の怒ってるん?』
『見てる途中だっての。CMの時に送ってる』
『怒んなし。器ちっさい』
『わざと煽ってるよな?』
『悪い。出かける』(スタンプ添付)
『メシか?』
『ん。親と外食になった。じゃね』
『おう』
8/8
『あんた、また小町とケンカしたん?』
『してねーよ』
『小町が可哀想っしょ』
『だからしてないって言ってるだろ』
『もうちょい小町に優しくしなっての』
『返事しろし!』
8/11
『今日、小町に逆に怒られたんだけど?』
『つうか、何で返事しないん?』
『悪い』
『なにそれ?』
『あーしが悪いっての?』
『いや、謝ってんだよ。悪かった』
『何で比企谷が謝んの? あんた悪い事したん?』
『だから、小町の代わりにだな』
『兄として、妹の事を謝る的な』
『元はあんたが悪いんしょ』
『俺にどうしろって言うんだよ』
『反省』
『……悪かった。反省してる』
『ん』
8/13
『今日ヒマ?』
『あまり暇じゃないな』
『ヒマなんじゃん。ウソつくなし』
『小町に確かめるのはズルいだろ』
『俺にプライベートはないのか』
『だったらウソつくなっての。あーしウソつかれるの大嫌いなんだけど』
『やりたいゲームがあったんだよ』
『説明しなかったのは悪かった』
『あーしは花火がしたかったん』
『まだ昼だぞ』
『それと、今、金がない』
『あーしの親が花火買うお金出してくれるって言ってっから』
『だから、今から花火買うの付き合いなって。それでチャラにすっから』
『俺より由比ヶ浜とか川崎誘った方が良くないか?』
『小町はもう来るって言ってんだけど?』
『小町すでに誘ったのかよ……』
『あんた、昨日の事忘れたん?』
『……わかった。行く』
『駅前で待ち合わせだから。小町と来なよ』
『わかってる』
『ん。あと、キツく言って悪かったし。ごめん』
『気にしてねーよ。あと、花火代はありがとな』
『うん』
8/31
『今、どこにいる?』
『はぐれたっぽいんだが』
八幡(…………)
八幡(確認してみたら、それまでは一日か二日おきに来てたんだな……。夏休みだからLINEの頻度が増えたってのもあるだろうが……。だが、花火をしに行ってからはまったくない……)
八幡(名前呼びの事で三浦と気まずくなってからだ。そこからまるで送られて来なくなった)
八幡(…………)
八幡(考えられる理由はいくつかあるけどな……)
八幡(三浦の中では実はまだ怒っていたり、気まずいままだったりで、それを態度に出してないだけとか)
八幡(もしくは、これまでずっと気を遣っていたって可能性もある。早くグループに馴染める様に、積極的に世話を焼いてきたとかだ。一番最初に買い物に付き合えと言われた時からこれまでずっと)
八幡(で、グループに馴染んだ今、それがようやく消えて、フラットの状態になった……。だから特に話しかける事もなくなったし、LINEとかも送る必要がなくなった……)
八幡(だが、これはあくまで前向きな取り方だ。なら、後ろ向きな取り方の方はと言えば、単純に三浦が俺の事を嫌い始めた、あるいは邪魔に思い始めている、だ)
八幡(それでも今のグループを壊したくはないから三浦はその事を黙っていて、表面上は普段通りに装っている……)
八幡(……つまり、奉仕部で前に俺がされていた事だ)
八幡(もしそうだったとしたら、結局、俺はまた同じ道を繰り返し歩いているだけって事になる……)
八幡(……俺だけが仲間だと、仲の良い相手なのだと勝手に思い込んで勘違いしている。そんな状態でないと、誰が言い切れる……。雪ノ下や由比ヶ浜でさえそうだったんだぞ……)
三浦(…………)
三浦(この頃、比企谷になんか話しかけにくくなったし……)
三浦(海老名の事は別にもう気にしてないんだけど。つうか偶然会っただけってのは小町から聞いたし)
三浦(それに、あの二人見てるとろくに話してもいないみたいだし、どうせあいつじゃ相手になんないだろうしで、それは心配してないからいいんだけど……)
三浦(……何だろ。前みたいに比企谷をイジりにくい……。気軽に踏み込めないっつうか……。また、前みたいな事があったらって思えて……)
三浦(このままだと、あんま良くないってのはわかってんだけど……。彼氏欲しいし、比企谷ならそうなってもいいしって思ってんのに……)
三浦(何かきっかけが欲しいかも……。きっかけがあればきっと、前みたいに普通に話しかけられると思うんだけど……)
海老名(…………)ハァ
海老名(文化祭で演劇やるのはもう無理だね、きっと……)
海老名(平塚先生もがっかりするよね……)
海老名(でも、それよりも、今は……)
海老名(寂しいって……思うようになっちゃった方のが問題かな……)
海老名(私にはホモさえあれば良かったんだけど……)
海老名(なのに、この前、友達いないって実感させられちゃったからね……)
海老名(本気出せば友達ぐらい出来るとか、きっとどこかで考えてたんだろうね、私)
海老名(本気出しても出来なかったし、逆にクラスでの肩身も狭くなっちゃったし、最悪の結果……)
海老名(文化祭もきっと、人目につかないところで一人BL本を読んでるだけなんだろうな……)
海老名(寂しいな……私の高校生活……)
相模(…………)ハァ
相模(……雪ノ下陽乃さんの言葉が頭から離れない)
相模(あの人、絶対に葉山君の事、気に入ってるよね……。もう付き合っている仲なのかもしれないし……)
相模(……あの人とうちじゃ、うちに勝ち目なんかある訳ないじゃん)
相模(花火大会では、葉山君、うちに興味がまったくないってわかっちゃったし……)
相模(……もういい加減、諦めないと)
相模(……カッコ良くて頭良くて優しくて気が利いて、理想の彼氏だったのに。うち、結構本気で好きだったのに……)
相模(……でも、もう忘れた方が)
葉山(……)フゥ
葉山(あれから、相模さんと気まずいな……)
葉山(どことなく避けられている感じがある。陽乃さんが本当に余計な事を言ってくれた……)
葉山(雪ノ下さんとも相変わらずだし、三浦さんにいたってはもう多分完全に見込みがない……)
葉山(いろはもずっと変わらずだ。仲良くなろうと積極的に声をかけているんだが、全部笑顔でやんわりと逃げられている……)
葉山(残念ながら、ハーレムはもう無理だろうな……。見込みがない)
葉山(なら、せめて奉仕部の空気だけでも良くしておきたい……。二人と会話がないのは辛いしね)
葉山(それに、いろはには前に奉仕部の事を伝えてある。困った事があればいつでも頼ってくれていいよとも伝えてあるから、いつかは依頼に来る可能性がある。その時に空気が悪いのは最悪だし、特に雪ノ下さんにいつも通りに暴言を吐かれてしまうと俺のイメージダウンになる)
葉山(まずは雪ノ下さんや相模さんからの、俺の心証を上げておきたい……。その為には……)
葉山(文化祭か……。雪ノ下さんは文化祭実行委員になるみたいだし、ここは俺も……)
【後日】
委員長「……という訳で、男女二名の文化祭実行委員を今から決めるんだけど」
八幡(遂に来たか。前は強制的に押し付けられた、あの文実が)
八幡(はっきり言ってあの時は相模のせいで地獄の様な日々だった。もう二度と文実なんかやるかと思った。だが、今回俺はあえてそれに立候補するつもりだ)
八幡(理由は四つある。一つは、前に最悪の経験をしてるから逆に今回は楽が出来るだろうという事)
八幡(二つ目。もしも相模が実行委員に選ばれたら、また同じ事が繰り返される可能性が出てくる。それで雪ノ下がまた寝込む事になったら、流石にそれは見過ごせない。そうならない為にも俺がなって、もしもの時の歯止めをしておきたい)
八幡(三つ目。前回みたいに劇をやる事になったら、俺が強制的に出演させられる可能性が出てくる。だが、文実になればそれを理由に回避出来る)
八幡(四つ目。今は三浦と少し距離を取っておきたい。またあんな自殺もんの勘違いをしている可能性がある以上、少し離れて冷静に自分の立ち位置を確認したい。……つうか、前の奉仕部の一件、確実に俺の中でナンバーワンのトラウマになってるな)
八幡(オマケの五つ目。戸部とかがバンドをやりたいとか言い出す可能性が高い。だが、俺はしたくない。ステージに立って演奏するとかどんな罰ゲームだよ。文実ならそれを口実に(以下略))
八幡(……結局、実行委員になった方が色々と俺に好都合で楽が出来そうだという事だ。由比ヶ浜の時みたいに三浦が反対するかもしれないが、立候補する奴は他にいないだろうからその反対さえ押しきってしまえばどうにかなるだろう)
委員長「それじゃあ、男子女子どっちでもいいから、誰かなりたいっていう人はいる?」
八幡「……」スッ (挙手)
葉山「……」スッ (挙手)
相模「……」スッ (挙手)
海老名「……」スッ (挙手)
八幡(は? 相模はともかくとして、何で葉山が文実なんかやりたがるんだよ?)
葉山(どうして比企谷が文実なんかやりたがるんだ。リア充にとっては一番やりたくないはずだろ)
相模(え? 葉山君もなの? これじゃもし葉山君が実行委員になったら、文化祭までずっと葉山君と一緒って事……? それは今ちょっと……でも実行委員もやってみたいし……)
海老名(相模さんもなんだ……。だけど、今回は私がなりたい。文化祭で一人過ごすぐらいなら、何か仕事してた方がいいから)
三浦(つうか、何で比企谷が立候補してんの。そんなんしてたら、あーしらとつるむ機会が少なくなんじゃん)
三浦(それに、あのオタクまで立候補してるし。比企谷と二人でやる事になったら、それはやっぱ嫌なんだけど)
戸部(俺、みんなとバンドやりたかったんだけどなあ……。でも、八幡君が実行委員になったら、断られそうじゃね? 八幡君だけ抜きでやるとか流石にそれは嫌な感じだしー……)
委員長「四人もいて助かるけど……。でも、男女二人って決まってるから、悪いけど話し合ってどっちがなるか決めてくれないかな。決まらなかったらジャンケンとかで決めてくれる」
八幡「言っとくが、俺は譲る気はないぞ」
葉山「それは俺もだよ。大体、どうして比企谷が実行委員なんかやりたがるんだい? 文化祭で三浦さんたちと一緒に回れなくなる可能性があるのに」
三浦「……比企谷。ハヤオの言う通りっしょ。あんたはあーしらとクラスの出し物の方に専念しなって」
戸部「俺もそれは優美子に賛成。ここは隼人君に譲らない? 実行委員って結構忙しいらしいしさー」
八幡(三浦だけじゃなく戸部もかよ。それに葉山も。厄介だな)
相模「海老名さん。うちらどうする……?」
海老名「私はなりたいから、相模さんに譲る気はないけど」
相模「でも……。やっぱり、うちもなりたいしー……」
海老名「ごめん。それは、私もなんだよね」
葉山「比企谷、君はこの通り他にも反対してる人がいる。だけど、俺は誰にも反対されていない。その違いが君にもわかるだろ?」
葉山「だから、面倒な裏方仕事は俺が引き受けるよ。こういうのは君より俺の方が適任だろうし」ニコッ
八幡「……おいおい、冗談言うなよ、葉山」
葉山「……どこが冗談なのかな?」
八幡「お前は単純に実行委員になりたいだけだろ。それを綺麗な言葉でさも嫌な役を引き受けたみたいに誤魔化すな」
葉山「…………」
八幡「大体、お前はどうして実行委員になりたいんだ? 自分で面倒だとわかってるなら、やる理由がないだろ」
葉山「それはもちろん、皆に文化祭を楽しんでもらいたいと思ってるからさ。大変だろうけどやりがいがある仕事だろうしね」
八幡「違うな。お前はそんなやつじゃない。誰よりも自分の事を優先するやつのはずだろ。そんな自分大好きなやつが目立たない上に面倒な裏方仕事をやりたいと思う訳がない」
結衣「ちょっと、ハッチー……」
戸塚「比企谷君、それは言い過ぎだよ……。それに、そんな喧嘩腰にならなくても……」
葉山「なるほどね……。つまり君は、俺のさっきの理由が気に食わない訳だ」
八幡「理由というより、お前自身が嫌いなだけだ」
葉山「似たようなものだろ。だけど、君がそう言うなら……」
葉山「言い方を変えるよ」
八幡「変える?」
葉山「雪ノ下さんが恐らく実行委員になる。それに今、相模さんも実行委員に立候補している。これは俺にとってチャンスなんだ」
相模(え……?)
葉山「俺はこの二人にいいところを見せたい。そう思ってる。だから、立候補した。男としてそう思うのは当然じゃないのか?」
八幡(おい、そんな理由かよ)
三浦「……やっぱ変わってないし、ハヤオ。ったく」
戸部「隼人君らしいわー。ちょっと見直したのにさあ」
八幡(だが……これで俺が反撃の言葉を失ったのは事実だ。綺麗事を抜かすなら否定は出来るが、ああはっきり言われると反論のしようがない)
相模(葉山君、ああいう軽いところ変わらない……)
相模(でも、言われてうちも悪い気はしない。それに、うちも……)
相模「……海老名さん、うちも」ボソッ
海老名「え?」
相模「うちも、いいとこを見せたいから」
海老名「え……?」
相模「うちは変わりたいって思ってる。変わって自分に自信を持ちたいって、そう思ってるの」
相模「正直、うちは大して取り柄なんてないし、流されたりする事が多いけど。でも、だからこそ、何か胸を張って頑張ったって言える事がやりたいの。人に自慢出来る様な事がしたいの」
相模「後で、あの時は大変だったけど、やって良かったなあって思える事がしたい。だからうちに譲ってくれないかな。お願い」
海老名「っ…………」
葉山「それで、比企谷。君はどういう理由で、実行委員になりたいんだ?」
葉山「その理由が納得いくものなら、俺も説得は諦めてジャンケンとかで決めるつもりだ」
葉山「君が、三浦さんや戸部とかの反対を押しきってまで、実行委員をやりたい理由を教えてくれないか?」
八幡「…………」
相模「海老名さんはどうして実行委員になりたいの? それを教えてくれない?」
海老名「…………」
八幡(そう言われても、俺は本当の理由を言えない……。一回既に体験してるなんて言っても誰も信じないし、逆に正気を疑われる)
八幡(だが、それでも葉山に譲る気はない。結局、嘘をつくしかない)
八幡「……俺はあれだ。クラスの出し物に参加したくないんだよ。だから実行委員になりたいと思ってな」
結衣「ハッチー、そんなに文化祭が嫌なの!?」
戸部「つーか、まだ出し物決まってないんだしさー。それに、実行委員の方がよっぽど面倒じゃね? わざわざならなくてもいいじゃんよー」
八幡「いや、実行委員だと裏方に徹する事が出来るからな。要は目立ちたくないんだよ」
三浦「なら……初めから裏方になればいいっしょ。出し物が何になるかなんてわかんないけど、無理矢理、役を決める訳じゃないし」
八幡「いや、こういうのってクジとかが定番だろ。それで喫茶店とかになってウェイターとかになったら嫌だし、劇をやる事になって主役とかになったらズル休みまであるぞ」
結衣「もうそれ無茶苦茶じゃん。子供じゃないんだから」
八幡(由比ヶ浜に言われたぞ。何か悔しい)
八幡「とにかく、運で決められるぐらいなら、俺は初めから安全な橋を渡りたいんだよ」
沙希「つまりさ。結局、あんたのわがままみたいなもんだよね?」
八幡「いや、わがままってのは変だろ。俺は実行委員になりたいって言ってるだけなんだし」
戸塚「でも、比企谷君、みんなこのグループで文化祭楽しみたいって思ってるんだよ? 比企谷君一人いなかったら寂しいと思うんだ。その気持ちも少しは考えて欲しいんだけど……」
三浦「他に誰かいないんならともかく、ハヤオがいんだから譲ればいいっしょ」
沙希「あたしもこういうのあまり首突っ込みたくないんだけどさ。でも、今回に関しては優美子の意見に賛成する。比企谷の言い分はおかしいと思うし」
結衣「そうだよ。大体、ハッチーの理由、自分勝手だし。それなら葉山君の理由のがよっぽどいいから」
戸部「だべー。八幡君、ここは隼人君に譲ろうぜ。何か意地になってるだけにしか見えないしさあ」
戸塚「出し物の件はもし嫌な役になったら、僕が代わってもいいし……。だから、ね? 考え直さない?」
八幡(ヤバイ……。このままだと俺、三浦グループ全員敵に回すぞ……。それに、戸塚が天使過ぎて辛い)
葉山「…………」
相模「……それで、海老名さんの理由は?」
海老名「……」ハァ
海老名「いいよ。……私は諦めるから」
相模「ホントに!?」
海老名「うん。……頑張ってね、相模さん」
相模「うん、ありがとね! 海老名さん!」
海老名「……ううん。気にしないで」
海老名(文化祭でぼっちになるのが辛いから、なんて言える訳ないよね)
海老名(それに、相模さんの事は嫌いじゃない。結局、駄目だったけど、BL劇の話をクラスで唯一最後まで真面目に聞いてくれた人だし)
海老名(文化祭までに色々BL本を集めておこう。丸一日退屈しないようにしないと……)
葉山「向こうは相模さんで決まったみたいだね……。比企谷、これで俺は余計に実行委員をやりたいと思ってるんだが……」
葉山「君のグループもみんなああ言ってくれてる事だし、もう良くないか? 俺に譲ってほしい」
八幡「…………」
八幡(今、俺が取れる選択肢は二つだ……。三浦たちから何と言われようと、意地でも実行委員を諦めず葉山とやりあうか。それか諦めるかだ)
八幡(諦めた場合、もう一人が相模に決まってしまった今、文化祭でまた悪夢が繰り返される可能性が出てきている。相模がやる気に目覚めているのが逆にタチが悪い)
八幡(だが、今の状況でそれでも俺が譲らなかったら、その後どうなるかは目に見えてる。前の文化祭や修学旅行の時の繰り返しだ。俺だけが孤立し、また気まずい中を過ごさなくてはいけない。それは俺だけでなく恐らくグループ全体がだ)
八幡(それがわかっている今、俺がこの選択肢を選ぶのは間違っている)
八幡(でなければ、俺はこれまで何を学習してきたんだって話になる。何の為に後悔して、何の為に憂鬱な時間を過ごしたんだ。それを選択したら、俺は過去から何も学ばないただの馬鹿だろ。例え俺だけの勘違いであっても、それが偽物だとわかっていても、俺は奉仕部でのあの過ごした時間を自分から無意味な日々にする様な真似だけはしたくない)
八幡(…………)
葉山「比企谷?」
八幡「……わかった。葉山に譲る」
葉山「そうか。助かるよ。ありがとう」
八幡「……礼を言われる様な事はしてねーよ」
葉山「かもしれないね。なら、さっきのは取り消す事にする」
八幡「……おう」
三浦「…………」
沙希「……ま、これで良かったんじゃないの」
結衣「うん。にしても、ハッチー、ホントに色々面倒だし」
沙希「ああいうとこさえなければ、口が悪いだけの普通のいいやつなんだけどね、あいつ」
戸部「ま、それが八幡君って事っしょ。いい人なだけってのもつまんないべ?」
戸塚「でも、翔は普通にいい人だよ? 僕はそういう翔、好きだよ」
戸部「ちょ、待って待って// 照れるってのー」
< トベッチ、マジカオマッカダシー ヤメテヨー アハハ
八幡「…………」
三浦(……つか、何でそんな沈み混んだ表情してんの、比企谷……?)
三浦(……あんた、そんなに実行委員になりたかったん? 何で?)
三浦(あーしらといるの、実は嫌なん? ホントはどう思ってんのよ、あんた……)
三浦(そういう事、全然言わないからわかんないんだけど……)
八幡(……これで、実行委員にならずに、相模の件を未然に防がないといけなくなった)
八幡(相模を実行委員長にさせないか、なったとしてもあの時雪ノ下さんが来るタイミングで遅刻させないようにするのが一番手っ取り早いんだが……)
八幡(だが、その為にどうすればいい……。俺に何が出来る……?)
八幡(…………)
ここまで
【授業後、奉仕部】
コンコン
雪乃「どうぞ」
八幡「……うす」ガラッ
相模「あれ? 比企谷君じゃん、どうしたの?」
八幡「……奉仕部に依頼があって来た」
葉山「君が依頼に来るとは思わなかったな」
八幡「考えたんだが、俺じゃどうしようもなかったからな。出来れば来たくはなかったってのが本音だ」
相模「それちょっと感じ悪くない?」
雪乃「嫌なら即座に帰ってもらって構わないわ。こちらも礼儀をわきまえない人間からの依頼を受ける気はないし」
八幡「……じゃあ逆に聞くが、好きでこの部に依頼しに来るやつがいるのか? 自分一人でどうにもならないから、仕方なく人に頼る事を選んだやつが来る場所だろ、ここは」
雪乃「……極端ではあるけど、そこまで間違ってはいないわね。だけど、言い方の問題を私は言っているのよ。誤解を受けるような発言をする事自体、貴方が軽率だったと言わざるを得ないのではないかしら?」
葉山「まあまあ、それぐらいでいいじゃないか、雪ノ下さん。とりあえず、比企谷、そこら辺の空いている椅子にでも座ってくれ」
相模「話聞くよ、何?」
八幡「ああ」ガタッ
雪乃「どういった依頼かしら?」
八幡「その前に一つ確認しておきたいんだけどな。俺のこの依頼を受ける受けないは別にして秘密厳守にして欲しいんだが、それは約束してくれるか?」
雪乃「ええ。法に触れない限りは、と上につくけれど。私はそれを保証してあげるわ」
葉山「俺もだね。そこは安心して欲しい」
八幡「…………」
雪乃「葉山君の事は信用していいわ。虚言癖と妄想癖がある男だけど、こういう約束は守る人よ」
八幡「……そうか。雪ノ下がそう言うなら」
葉山「君は本当に俺の事を嫌ってるのか? そんなに俺の信用はないのか?」
雪乃「ただ、葉山君は保証してあげるけど、もう一人に関してはちょっと……」チラッ
相模「え? やだなあ、雪ノ下さん。大丈夫だって。うちも絶対に言わないからさー。そこは信用してよ」
雪乃「出来る事なら私もそうしたいのだけど、貴方だけは私からの信用が2%あるかないかだし……」
相模「え、ちょっと! うちってそんな信用なかったの!?」
雪乃「2%でも多目にしているぐらいよ。元々、口から生まれてきた様な人だし。本当なら1%未満というところかしらね……」
相模「」
雪乃「だから、生憎、絶対的な保証は出来ないわ。どうしてもと言うのなら、相模さんには席を外してもらうしかないのだけれど……」チラッ
相模「だ、大丈夫だって! うちの事信用してよ! 比企谷君も! 誰にも言わないって、うち!」アセアセ
八幡「…………」
相模「何でそんな顔するの!? 本当だって!」
八幡「……雪ノ下。相模だけしばらく席を外してもらうのは可能か?」
雪乃「私からは何も言えないわね。賛成もしないけど、反対もしない、といったところかしら。直接、相模さんに交渉してもらうしかないわ」
相模「ちょっと、雪ノ下さん、酷いってそれ! うちも奉仕部の一員なんだし、止めてよ!」
葉山「そうだよ、雪ノ下さん、いくらなんでもそれは酷いよ。相模さんも仲間なんだし、それに、そういう事をする人じゃないよ。俺は相模さんを信用するよ」
相模「葉山君……」
八幡「言っとくが、飴と鞭は洗脳の常道手段だからな」
雪乃「相模さんの場合、マインドコントロールは比較的簡単そうね……」
相模「!?」
葉山「比企谷……。それに、雪ノ下さんも。俺に何か恨みでもあるのか? そんなつもりはまったくないからやめてくれ」ハァ
八幡(……確かに葉山には何も恨みはないんだがな。どうにも好きになれないのも事実だ)
相模「雪ノ下さんもうちの事信じてよ。うち、今まで嘘ついた事とかないじゃん!」
雪乃(確かにその通りなのだけど、何故か信用出来ないのよね、相模さんって……)
相模「とにかく! うちも一緒に聞くから! 同じ奉仕部なんだよ、うちも!」
八幡(段々可哀想になってきたな……)
雪乃(何故か可哀想にも思えないわね)
葉山(俺の好感度はさっきので少し上がったはずだ)
八幡「……わかった。ただ、本当に依頼の内容は秘密にして欲しい。俺が依頼に来た事自体、誰にも言わないでくれ。そこは頼む」
相模「う、うん! 任せてよ!」
雪乃「私も出来る限り監視はしておくわ。それでも漏れた場合は諦めてもらうしかないのだけど……」
相模「だから、本当に大丈夫だってば、雪ノ下さん!」
八幡「信用はしないが、頼む」
相模「比企谷君まで!」
葉山「二人とも、もういいだろ? それで、肝心の依頼っていうのは何だい?」
八幡「ああ、それは……」
八幡「今度の文化祭を大成功させて欲しい」
葉山「……?」
相模「それ、どういう事?」
雪乃「……少し説明をしてもらえるかしら?」
八幡「説明も何も本当にそれだけだ。単なる成功だけでなく大成功ってレベルで文化祭を終わらせたいんだよ」
雪乃「……それは大半の人が思っている事ではないのかしら? 少なくとも失敗させようと考えている人はほとんどいないと思うのだけれど」
相模「ていうかさあ、比企谷君って文化祭嫌いって感じじゃなかった? 面倒だったり、あまり目立ちたくないんでしょ?」
葉山「そう。俺もそれが気になった。教室でのお返しという訳じゃないが、君もそういう『自分に得にならない事』には一切興味がないように見えるんだけどね」
八幡「……気が変わったんだよ。悪いか」
相模「それ、気まぐれってレベルじゃなくない?」
葉山「気が変わったなら気が変わったで構わないけど、どうして気が変わったのか、それを聞きたいな」
八幡「……話さないと依頼を受けてもらえないのか? 大半の人間がそう思っている事だし、葉山や相模も文化祭は成功させたいと考えているだろ? わざわざ聞く必要はないと思うけどな」
葉山「言いたくないと言われると余計聞きたくなるだろ。単なる好奇心だよ。上手くいけば君の弱味を握れるかもしれないし」
八幡「おい、せめてもう少し本音を隠せよ」
八幡「理由はとりあえず置いといてくれ。それより、依頼を受けてもらえるかどうかを先に聞かせてくれないか。受けてもらえないのなら、言う必要はないからな」
葉山「それももっともか。……仕方ない。雪ノ下さんと相模さんはどう思う?」
相模「うちは受けてもいいと思うけど。元から成功させるつもりだし。依頼受けても受けなくてもそこは変わらないから」
葉山「いや、比企谷が言いたいのはそういう話じゃないと思うんだけどね……」
相模「?」
八幡「……雪ノ下はどうだ?」
雪乃「そうね……」
雪乃「この依頼を受ける気はないわ」
相模「何で? 雪ノ下さんも文化祭実行委員になったんでしょ? 奉仕部三人が揃って実行委員なんだし、受けてもいいと思うんだけど?」
雪乃「そういう問題ではないのよ、単細胞ガミさん。貴方は口を開く前にもう少し考えてから物を言った方がいいわ」
相模「ちょっと待って、雪ノ下さん。今、何かスゴい酷い事言わなかった?」
八幡(これ、前の俺のポジションが今の相模って事か……。端から見ると雪ノ下が本気で面倒くさいやつだと思っているのがよくわかるな……。なにこれ、俺は何も言われてないのに何故か心がチクチクするんだけど?)
雪乃「まず、比企谷君の依頼の内容を貴方は単純に考え過ぎね。まさかとは思うけど、皆で頑張ろう、程度に思っている訳ではないわよね?」
相模「え……? でも、文化祭を大成功させようってそういう話じゃないの? それ以外にうちら、やれる事ないし」
葉山「そう。それ以外にやれる事がない。だから、雪ノ下さんは受ける気はないと言いたいんだと思うよ」
相模「どういう事?」
雪乃「目的を達成する為には、手段を考える必要があるという事よ。皆で頑張って、なんて精神論を説かれても仕方ないでしょう。それとも貴方はコンパスもなしに行き当たりばったりで航海をするつもりなの? 頑張って辿り着けなかったら仕方がないわね、と言って」
相模「それはっ……で、でも」
雪乃「呆れたわね。計画性云々を言う前に無責任と言わざるを得ないわ。依頼を受ける以上、それは絶対に成功させるという気構えで受けるものよ。なのに、貴方はあまりにも適当な気持ちでいるわ」
葉山「……俺達にとっては依頼の一つだけど、依頼をしに来る人にとってはそうじゃないからね」
葉山「どんな事情だろうと、困ってここに来てるのは事実なんだから。頼りにされて来てるのに、成功したらいいな程度の軽い気持ちで請け負っていたら逆に信頼を無くしてしまうよ」
雪乃「依頼する人にとっても迷惑でしかないわ。特に今回は一度きりで失敗は許されないものですもの。だというのに、貴方は結果的に、私達も頑張るから頑張ってとしか言っていないのよ。そんな無策な励ましだけの自己満足が一体何の解決に繋がると言うのかしら」
相模「ぅ……」
八幡(今、気付いたって顔だな……。そりゃそうか。前の文化祭の時もそんな気持ちで相模は実行委員長になったんだからな)
八幡(そして、最終的には雪ノ下に丸投げだ。そこは何も変わっちゃいないか……)
雪乃「こんな当たり前の事を今更言わなければならないなんて。呆れて物も言えないわ」
相模「……!!」
雪乃「どうやら私はまだ相模さんの事を過大評価していたようね。私とした事が……凡ミスだわ。以後、貴方のレベルを更に落として見るから安心してちょうだい」
相模「……雪ノ下さん、そんな……。うち……」グスッ
八幡(俺じゃないと涙目になっちゃうぞ、とか思ってたが、あれやっぱり当たってるな。前は三浦で今回は相模か。容赦ないのも相変わらずだ)
葉山「……雪ノ下さん、流石にそれは口が過ぎるよ。相模さんにとってはこれが初の正式な依頼になる訳だし、今気付いたなら十分セーフだよ」
葉山「だから、相模さんも落ち込まないで。気にしないでいいから」スッ
相模「葉山君……ありがとう」グスッ
八幡(で、さりげなくハンカチを差し出す辺り、流石だな。何でこいつがぼっちをやってるのか、むしろそっちの方が謎だ)
雪乃「…………」
八幡(雪ノ下は雪ノ下で少し戸惑った表情してるしな。あれぐらいで泣かれるとは思ってなかったって感じか……。いや、あれに耐えられるの多分俺と葉山ぐらいだからね? あれが普通の反応だからな?)
葉山「とにかく、悪いがそういう事だよ、比企谷。この依頼は受けない」
雪乃「無責任に引き受けるつもりはないの。文化祭を大成功させる、という依頼に対して私達が取れる手段は少なすぎるわ。学校全体の行事なのだから、個人の力でどうにか出来るようなものとは言いにくいし」
葉山「つまり、依頼を遂行出来る可能性が低い、と判断せざるを得ないんだ。申し訳ないけど、断らせてもらうよ」
雪乃「ええ、それが私達の判断ね」
八幡「……そうか」
八幡(断られた。が、なのに俺は心の底ではどこか安堵していた)
八幡(断った理由が、雪ノ下が雪ノ下雪乃であるからだ)
八幡(それは、俺の知る雪ノ下だ。と言っても、初めて会った時ぐらいの雪ノ下だったが。角が取れて少し丸くなった雪ノ下ではなく、本当に最初の頃の雪ノ下だ)
八幡(曲がった事や中途半端が嫌いで、完璧を求める雪ノ下雪乃がそこにいる。変わっていないという、その事が俺は少し嬉しかった)
八幡(だが……)
八幡(いや、だからこそか。俺はこの依頼を奉仕部に引き受けてもらうつもりだ。その為に手段を選ばずにな)
八幡「雪ノ下」
雪乃「……何かしら?」
八幡「もう一度確認するけどな、依頼を成功させる可能性が低いから受けない、そういう事で合ってるんだよな?」
雪乃「ええ。そう言ったつもりだけど、それがどうかしたのかしら?」
八幡「それがまず間違いだろ」
雪乃「……どういう事かしら」
八幡「確かに、普通ならこの依頼は無理だと俺も思う。だけど、お前なら出来るんじゃないのか、雪ノ下?」
雪乃「……何が言いたいのかしらね?」
八幡「平塚先生から少し聞いてな。お前の姉の雪ノ下陽乃さんの事についてだ」
雪乃「」ピクッ
葉山「…………」
八幡「実行委員長になって、文化祭を大成功させたらしいな。それも、総武高校の歴史に残るぐらいのを」
雪乃「…………」
葉山「それを知っているのか……」
相模「あの、陽乃さんが……?」グスッ、ゴシゴシ
八幡「お前ならそれに匹敵するものが出来ると思って俺はこうして依頼に来たんだよ。むしろ、お前にしか出来ない事だろ」
葉山「比企谷……。陽乃さんの事は依頼とは関係ないだろ」
雪乃「そうね……それに、姉さんの話はやめてもらえるかしら。私にも関係のない事よ」
八幡「姉妹で関係ないって事があるかよ」
雪乃「あるわ。私はあの人の事を姉とは思っていないもの」
八幡「逆だろ、それは。姉だからこそ、意識して他人と思ってるの間違いじゃないのか?」
雪乃「っ……」
相模「……雪ノ下さん?」
葉山(何でそれを……比企谷が知っている?)
八幡「だから、俺はこう推測する。雪ノ下がこの依頼を受けない本当の理由は、姉の陽乃さんと張り合ってそれで負けるのを恐れているからだと」
雪乃「……いいえ」
葉山「比企谷。もういいだろ。話はこれでおしまいだ。出ていってくれないか」
相模(え……?)
八幡「もしも負ければ言われるだろうからな。負け犬だと。他の奴らにも姉と比べられてはっきりとした形で優劣をつけられる。そうなるのが嫌でお前は戦う前から逃げようとしてる。違うのか?」
雪乃「…………」
葉山「比企谷! 他人の家の事情に土足で入り込むような真似はよせ!」ガタッ
相模(葉山君まで……真剣に怒って……。雪ノ下さんにとって、陽乃さんってどういう存在なの……?)
八幡「そこで俺からの提案だ、雪ノ下。お前、陽乃さんに勝ってみたくないか?」
雪乃「……え?」
八幡「あの自信満々で、生まれてから誰にも負けた事がないけどそれがどうかしたの? みたいな顔してるあの人に一度ぐらいギャフンと言わせてみたくないか?」
雪乃「…………」
葉山「比企谷。すぐに出ていってくれ。雪ノ下さんも話を聞く必要はないよ。これは単なる挑発だ」ツカツカ、グイッ
八幡「……陽乃さんの事になると、お前も冷静じゃなくなるのか? ひょっとしてお前も昔、散々、あの人にからかわれて遊ばれた口か?」
葉山「……どうして君がそう陽乃さんに詳しい。せいぜい一度会話したぐらいのはずだろ」
八幡「……知り合いに詳しい奴がいてな。そいつも色々からかわれて遊ばれた……らしいぞ。口止めされてるから、それが誰とかは言えないが」
葉山(知り合い……? 比企谷と一体誰が……?)
相模「あの……葉山君……。ちょっと落ち着かない。ね?」
八幡「ひとまず、その掴んでる手を離せよ」
葉山「……わかった。悪かった」パッ
雪乃「…………」
八幡「それで、どうだよ、雪ノ下? あの人に一回ぐらい一泡吹かせてやりたくないか」
雪乃「……つまり、今回の文化祭、私が実行委員長になれと貴方はそう言いたいのね?」
八幡「元からやりたがる奴がいないし、お前なら反対する奴もいないだろうからな。それに、葉山が副委員長にでもなれば、ほぼ完璧な布陣だろ。把握や処理や統制能力が格段に上がるはずだ」
葉山「比企谷……。ひょっとして君が実行委員になりたかった理由はそれか?」
八幡「ちょっと違うけどな……。まあ、そんなとこだ」
相模「え? じゃあ、あの面倒くさいって理由、ウソなの?」
葉山「それでグループからパッシングを受ける羽目になってれば世話はないな……。だけど、何でそこまでして文化祭を大成功させたいんだ? そして、どうしてその理由を皆に言わない?」
八幡「…………」
八幡「俺には妹がいるんだけどな……。そいつが今度の文化祭に来るんだよ」
相模「妹?」
八幡「妹は今年受験で、総武高校を目指してる。俺としては妹に合格して欲しいから、今年見学に来る文化祭を大成功させたいんだよ」
八幡「賑わってて、楽しい思いをすれば、この高校に入りたいって余計に思うだろ。それが受験勉強の頑張りに繋がれば、ってそう思っただけだ」
雪乃「……迂遠な計画ね。ほとんど無意味と言っていいぐらいに」フゥ
相模「雪ノ下さん、比企谷君、今超良い話してたよ!?」
葉山「……なるほどね。それを言うのが照れ臭かったという事か……」
八幡(もちろん嘘だけどな。むしろ、小町には総武高校を受験して欲しくないまである)
八幡(つうか、こうして偽善者面してる自分が凄い気持ち悪い。絶対に俺、こういうの性に合ってないな。葉山のメンタルすげえなと改めて思い知った)
八幡「とにかくそういう訳だから、クラスでの出し物については、珍しく俺もやる気を出す。……全力で成功させにいく。奉仕部に丸投げはしない」
八幡「だけど、俺一人の力じゃそこまでしか出来ない。どれだけやれたとしてもクラス一つが限界だ」
八幡「学校全体で大成功させようと考えるなら、さっきも言った通り俺では無理だ。奉仕部の面子、葉山や雪ノ下の力が必要になる」
相模「あれ、うちは……?」
八幡「お前は足引っ張らなきゃそれでいい」
相模「何で……!? 雪ノ下さんも比企谷君も、ホントうちに酷くない!?」ウルウル
八幡「じゃあ聞くけどな、相模。この総武高校の文化祭をお前ならどうやって大成功させる?」
相模「え……。どうやってって……。有志の人とかを増やすとか……?」グスッ
八幡「雪ノ下、お前ならどうする?」
雪乃「……そうね。まず、地域からの参加者数を増やす為に、各自治体や近隣の小学校中学校に宣伝としてポスターなどを貼っても良いか打診するわね」
雪乃「予算も増やしたいから、余りそうな別の予算を探して、それを回してもらえるよう先生方や生徒会に相談……」
雪乃「有志団体やクラスごとの出し物も活性化させたいから、ランキングをつけるのはもちろんの事、上位にはそれに伴う特典や賞品を付ける……。そういったところかしらね」
相模「あ…………」
八幡「葉山、お前も似たような事を考えるよな、多分」
葉山「……そうだね。盛り上げる為に何かのコンテストを開くとか、出し物のスタンプラリーを企画するとか、そういった事を俺は考えるけどね」
相模「う…………」
八幡「これでわかっただろ。雪ノ下や葉山とお前じゃ別物なんだよ。見えてるビジョンが具体的にあって、それを実行出来る能力が二人にはある。だけど、お前にはない」
相模「っ…………」グスッ
八幡「やるんだったら、二人のサポートに回ってくれ」
相模「もぅ……いい!」ダダッ
ガラッ、バタンッ!!
葉山「相模さん!」ダダッ
八幡「…………」
雪乃「貴方は追わないのかしら?」
八幡「追って、何を言うんだよ。さっきは本当の事を言って悪かったって言えばいいのか?」
雪乃「……最低ね、貴方。人の心が理解出来ないのかしら?」
八幡「……知ってるからわざわざ言わなくていい」
雪乃「そう。自覚はあるのね。ある意味、そちらの方がタチが悪いかもしれないけれど」
八幡「……かもな」
雪乃「…………」
八幡「それより、お前こそ追わなくていいのか? 多分、相模はお前にも追いかけてきて欲しいと思ってるぞ」
雪乃「……そうかしらね」
八幡(……俺も、前に雪ノ下を追いかけた事がある。あの時の雪ノ下はどう思っていたかは知らないが、由比ヶ浜と一色は俺に追いかけろと言った。だから……)
八幡「相模は奉仕部の面子だろ。お前が追いかけないと、相模はきっと戻らないぞ」
雪乃「…………」
八幡「人の心が理解出来ないのは、お前も同じなんじゃないのか?」
雪乃「……そうかもしれないわね」
八幡(そう言う雪ノ下の表情は物憂げで、どこか寂しそうだった……)
雪乃「」ガタッ
八幡「……行くのか?」
雪乃「ええ。と言っても、どこを探せばいいのか、見当もつかないけれど……」
八幡「……多分、屋上だろうな」
雪乃「そう。あまり期待はしていないけれど、そちらから探してみる事にするわ」スタスタ
ガラッ
雪乃「比企谷君、先程の依頼の件だけど」
八幡「……おう」
雪乃「相模さんと葉山君が受けてもいいと言うなら、私も受ける事にするわ」パタンッ
八幡「…………」
八幡(結局、相模次第か……)
八幡(だが、依頼を受けない事になっても、これで相模が実行委員長に立候補する事はないはずだ。つまり、最低限の目的は達成してる)
八幡(……後は雪ノ下がどうするかだな)
『わかるとばかり思っていたのね……』
八幡(今度はわかってるつもりだ……。つもりであって、それがまた俺の勘違いだって事はある。だが、それでも……)
八幡(俺は雪ノ下に文化祭実行委員長をしてもらいたい。そして、大成功させて、見に来た雪ノ下さんに対して……)
八幡(いつも通りの完璧で自信に溢れた顔をしてもらいたい)
八幡(少なくともそれによって何かが変わると思うからだ……)
八幡(前は変わらなかった何かが……)
【屋上】
葉山「相模さん。奉仕部に戻ろう」
相模「いいの、もう。うちの事は放っといて!」グスッ
葉山「放っとけないよ。傷付いてる相模さんを放っておけるほど、俺は薄情じゃない」
相模「それがもう、うちを傷付けてるってどうしてわかってくれないの!?」グスッ
葉山「……相模さん?」
相模「うち、あんまりにも惨め過ぎじゃん。比企谷君からも雪ノ下さんからも信用なんかまるでなくて……。葉山君からはお情けで同情されて……」グスッ
葉山「同情じゃないよ。ただ単に心配なんだ。俺は相模さんの事を放っておけなかったんだよ」
相模「それが同情だってわかるでしょ。うち同情なんかされたくないの」グスッ
相模「可哀想だって見られるのはもう嫌。同情で心配なんかされたくない」グスッ
相模「葉山君はうちの事なんか見てないじゃん。同じ部活の人だったら誰でも同じ事するでしょ! うちだからって訳じゃないじゃん!」ポロポロ
葉山「……相模さん」
ガチャッ
葉山「……?」
相模「……雪ノ下さん」グスッ
雪乃「ええ。本当にここにいたのね、相模さん」
相模「…………」
葉山「……来てくれたのか、雪ノ下さんも」
雪乃「同じ部活仲間としてね。特別、貴方が心配だったからという訳ではなく」
相模「!!」グスッ
葉山「……雪ノ下さん。何でそんな事を……」
雪乃「私は嘘をつく事が嫌いなの。だから、本音で言わせてもらうけれど、はっきり言って今の貴方の行動は短絡的で思慮に欠けた行動よ。迷惑だわ」
相模「ぁ……ぅぅ……」グスッ
葉山「雪ノ下さん、やめてくれ。相模さんをどうして追い詰めるんだ」
雪乃「嘘が嫌いだからと言ったはずよ。それに、比企谷君も似たような事を言っていたけれど、貴方は追いかけられたくて部室から飛び出したのではないかしら?」
相模「そんな事……ない……うちは」グスッ
雪乃「追いかけられれば、自分は必要とされていると感じる事が出来る。そういう事よね。貴方は内心ではそう思われたかったのよ。だから、飛び出したのでしょう」
相模「……違うの……うちは」ポロポロ
葉山「雪ノ下さん。いい加減にしてくれ!」
雪乃「だから……」
雪乃「だから、私は今ここにいるわ」
葉山「……!」
雪乃「その意味、わかってもらえないかしらね、相模さん」
相模「雪ノ下さん……?」グスッ
雪乃「貴女が奉仕部に必要だと感じたから私はここに来ているの。私はさっきも言った通り嘘が嫌いだから正直に言わせてもらうけど、相模さんの事はあまり好きではないわ。時には煩わしいと思う時もある。だけど……」
雪乃「奉仕部員として、私に力を貸してもらえないかしら」
相模「……何で……? 何でうちが必要なの……?」グスッ
雪乃「私と葉山君にはないものを貴女が持っているからよ。自分で言うのもなんだけど、私と葉山君には人望がないのよ」
相模「……え、でも、そんな事ないと」
雪乃「そんな事あるのよ。引っ張っていく事は出来ても盛り上げる事が出来ないタイプなのよ。私も葉山君も」
葉山「……確かにね」
雪乃「それが私と姉さんの決定的な違いね。文化祭を大成功させようとするなら、必然的に仕事量は増える事になるわ。それに対して、きっと不満も出てくるでしょう。だけど私は、残念だけどその不満を和らげるという事が苦手なのよ。姉さんの様に人を鼓舞するという事が出来ない。どうしてもね」
葉山「そういう事か……。その不満を相模さんに、懐柔というか、抑える役割をしてもらって、士気を上げて欲しいと……」
雪乃「そういう事ね。あなたは明るい性格だし、人懐っこくもあるわ。周りからも自然と好かれる人よ。だから、奉仕部でこれをやれるのは相模さんだけだと私は思っているから……」
相模「うちだけが……」
雪乃「もう一度繰り返しになるけど、私に力を貸して欲しいの。奉仕部の部長ではなく、ただの雪ノ下雪乃として、貴女に依頼するわ」
雪乃「姉さんに勝つために私に協力して、相模さん」
相模「……あ」ウルッ
葉山(良かった……。最初はどうなる事かと思ったが、どうやら上手くまとまりそうだな)
葉山 (とはいえ、参ったな……。これじゃ、俺は本当に何もしていない……)
葉山(相模さんの事も、雪ノ下さんの事も、陽乃さんの事も、何も……。単なる役立たずだ……)
葉山(比企谷……。あいつが何で陽乃さんの事とかを知っていたかはともかくとして……)
葉山(雪ノ下さんの気持ちに気付いていながら、俺はこれまで何もしてこなかった……。ただ、どちらからも嫌われないよう穏便に済ませようと、それだけで……)
葉山(このままでいいのか、俺は……)
ここまで
遅くなりそうなので保守
【しばらく後、奉仕部】
雪乃「それでは、比企谷君」
八幡「おう」
雪乃「この依頼、改めて受けさせてもらうわ」
八幡「そうか……。悪いな、助かる」
八幡(どっちに転ぶかと思っていたが、これで難関は突破したな。前の二の舞はなくなった)
葉山「ただし……」
八幡(ただし?)
雪乃「三人で話し合ったのだけど、お互いの接触は最小限にさせてもらうわ」
相模「……」ジトッ
八幡「……そうか」
葉山「俺達は俺達で勝手にやらせてもらうよ。特に連絡する事も、その必要性もないだろうしね」
雪乃「そういう事ね。不必要に接触すれば、また軋轢を生むわ」
八幡「…………」
葉山「理由はどうあれ、君は相模さんを泣かせてるからね。それで、追いかけもしなければ、今になっても謝る訳でもない」
相模「…………」
葉山「正直、君と協力をする事は奉仕部にとってマイナスにしかならない。謝れと言うつもりはないけど、お互いの為に接触しない方がいいだろうと判断した」
雪乃「依頼を受けたのは、あくまで私の個人的な都合と一致していたからよ。そうでなければ断っていたわね」
葉山「お互い、自分達の為にやる。そう受け取ってくれ」
相模「…………」ジトッ
八幡「……わかった。依頼さえ受けてくれるなら、俺はそれでいい」ガタッ
八幡「用は済んだから、もうこれで帰るぞ。じゃあな」クルッ
相模「っ……」
雪乃「…………」
葉山「……それと、あと一つだけ。比企谷」
八幡「何だよ?」
葉山「俺は、君の事が嫌いだ。その態度もやり方も」
八幡「そうか……俺もお前の事は嫌いだから丁度いいな」スタスタ
雪乃「礼儀知らずにも程があるわね、比企谷君」
八幡「…………」ガラッ
バタンッ……
相模「何なの、あいつ……!」
雪乃「……依頼を受けたのは軽率だったかもしれないわね」フゥ
葉山「いや、依頼自体は関係無いよ。悪いのは全部比企谷の態度だ。いくら何でもあれは酷い」
相模「うち、比企谷君の事、正直嫌いになったから。絶対もう仲良くなれない」
雪乃「同感ね。あちらが本性と言うべきかしら」
葉山「とにかく、もう忘れよう。俺達は比企谷の為じゃなく、雪ノ下さんの為に依頼を受けたんだから」
相模「でも、ホントムカつくんだけど!」
雪乃「……身勝手なお願いで悪く思っているわ。相模さんも、どうしても嫌だと言うのなら、今からでも……」
相模「あ、ううん! 雪ノ下さんはいいの! うちがムカついてるのは比企谷君だけなんだから。雪ノ下さんは追いかけて来てくれたし、うちを必要としてくれてたから」
雪乃「その……悪かったわ。貴女に対して何回か酷い事を言ってしまって……」
相模「あ、大丈夫だよ。もう気にしてないから。うち、雪ノ下さんの事好きだし」
雪乃「そう……。あ、ありがとう……//」
相模「うん!」ニコッ
葉山「…………」
【廊下】
八幡「…………」スタスタ
八幡(……もう奉仕部には頼れなくなったな、これで)
八幡(未練を断ち切る丁度いい機会……と思うしかないか……)
八幡(雪ノ下は依頼を受けた以上、それを途中で放棄したり断念する事はないから、間違いなく実行委員長になるだろう)
八幡(後は……こちらの問題か。クラスの出し物に全力を出すと言ってあるからな。依頼しといて実際俺が何もやらなかったら、それは前の時の相模と同じだ。あんな真似だけはしたくない)
八幡(とりあえず、今考えるべき事はクラスで何をしたら一番盛り上がるかだな……)
八幡(前の文化祭、その事をよく思い出せばその答えに辿り着けるはずだ……。記録雑務を馬鹿みたいにやったおかげである程度は覚えてる)
八幡(あまり他のクラスとかぶらず、そして好評だった出し物は……。確か……)
【翌日、文化祭実行委員会】
めぐり「さあて、それじゃあ、皆さん集まったみたいだし、早速第一回目の文化祭実行委員会を始めていくね」
めぐり「私は今季の生徒会長をやらせてもらってる城廻めぐり。みんなでこの文化祭を盛り上げていこう」
めぐり「それではまず、文化祭の実行委員長を決めるんだけど、誰か立候補する人はいないかな?」キョロキョロ
雪乃「」スッ (挙手)
めぐり「いないかあ……。残念だね」←雪乃への好感度28
雪乃「……!」(挙手)
葉山「」
相模「」
めぐり「じゃあ、推薦で決めてく事になるんだけど……。あれ……?」
めぐり「ええと、もしかして君、葉山君じゃない?」
葉山「……そうですけど」
シークレット好感度
葉山 →めぐり ↓1
めぐり→葉山 ↓2
シークレット好感度
葉山 →めぐり 48
めぐり→葉山 26
雪乃「…………」(挙手)
めぐり「ああ、やっぱり。はるさんからよく聞いてるよ。何をどういう風に聞いてるかは教えられないけど」
葉山(何で言わなくていい事を言うんだ、この人は。気になるじゃないか)
めぐり「ところで、葉山君は実行委員をやる気はないのかなあ? はるさんの事もあるし、比べられたくないから、やっぱりやりたくはない?」
葉山(雰囲気はほわほわした感じなのに、ナチュラルに煽ってくるな、この人……。何か俺、恨みでも買ってるのか? それとも、元からそういう人なのか?)
めぐり「どうかなあ、葉山君ならはるさんも自分と比べる事とかはしないと思うんだけど、やってみない?」
葉山「……いえ、俺は遠慮しておきます。それに、その前から雪ノ下さんが立候補してます」
めぐり「え? 雪ノ下さん? ……ああ、本当だね。ごめんね、気付かなかったよぉ」ニコッ
雪乃「……いいえ」
めぐり「ええと……確かはるさんの妹さんだった? 名前は……武器乃さんだったかな?」
雪乃「雪乃です。ひょっとして、あなたは私に喧嘩を売っているのかしら?」
めぐり「ううん。勘違いして覚えちゃってたみたいなの。ごめんね」ニコッ
雪乃「脳が低下しているのね。なら、仕方ないものとして諦めるけど……」←めぐりへの好感度11
めぐり「ひどいなあ。ちょっと間違えただけでそんな事言っちゃうんだ。ネギ乃さんははるさんと違って、口が悪いね」
雪乃「めぐりという名前の割に、頭への血のめぐりは悪いみたいですね」
めぐり「」ゴゴゴゴゴ……
雪乃「」ゴゴゴゴゴ……
相模(怖いってば……! 何で文化祭の実行委員長を決めるだけで、こんな雰囲気になるの……!)
葉山「二人とも、そこまでにして……。雪ノ下さんも、城廻先輩も、一旦落ち着きましょう」
めぐり「やだなあ。わたしはずっと落ち着いてるのに」
雪乃「私もよ。至って冷静だわ」
葉山「ならいいんだけど……。それで、他に立候補者はいないみたいなので、雪ノ下さんが実行委員長で構わないですよね?」
めぐり「……そうだね。他に誰もいないみたいだし、消去法から言えばそうなるよね」ニコッ
雪乃「…………」カチンッ
葉山「そ、それで、副委員長には俺が立候補するので、こちらも確認を取ってもらってもいいですか?」
めぐり「…………副委員長なんて役職あったかな」
葉山「実行委員長が休みの時とか、代理が必要になりますよね。絶対にあるはずなんですけど」
めぐり「そうだったかもしれないね。じゃあ、それも決めようか」
葉山(初っぱなから、かなり疲れるな、これは……)
葉山(大丈夫なのか、この先……)
めぐり「…………」
今日はここまで
完結出来るか自信なくなってきたけど、いけるとこまでは
ラストは大体決めてるけど、途中がムズい
【翌日、廊下】
葉山「比企谷。こちらは予定通り、雪ノ下さんが実行委員長に、俺が副委員長になったよ」
八幡「そうか……わかった」
葉山「ただ、こっちはこっちで手こずりそうな感じはあるんだけどな……」
八幡「……? 何かあったのか?」
葉山「あったと言えばあった。とはいえ、こっちの事はこっちで片付けるから、心配は必要ない」
八幡(……要約すると、でしゃばるなって事かよ)
葉山「とにかく、そういう事だ。その連絡だけしておく。お互いあまり話したくないだろうしな」
八幡「……わかった」
葉山「それじゃあ、俺はこれで行くよ。また何か連絡する事があればこちらからこうして話しかける」
八幡「おう」
葉山「それと、比企谷」
八幡「……なんだよ?」
葉山「こっちは約束を守っている。そして、俺や相模さんは実行委員だから、クラスでの出し物にはほとんど参加出来ないはずだ。俺の言いたい事は君ならわかるだろ?」
八幡「……こっちも約束を果たせって事だろ。言われなくてもわかってる。クラスの出し物は成功させる」
葉山「それならいい。それじゃあな」クルッ、スタスタ
八幡(……相模だけでなく、葉山からのあたりもキツめになってきたな)
八幡(まあ、葉山は元から良い方じゃなかったから、それはいいんだが……)
八幡(クラスの出し物……。上手くいくか……? 計算通りいってくれればいいんだが……)
【HR】
委員長「それじゃあ、このクラスの文化祭にやる出し物を決めようと思うけど……」
委員長「何か、案がある人はいる?」
「やっぱ、喫茶店とか?」
「お化け屋敷とかも良さそう」
「アンケートとかでいいんじゃない? めんどくさいし」
「射的みたいなのとかは?」
委員長「アンケート、射的……」カツカツ
委員長「これで、大体の案は出たかな……? 他にいる?」
八幡「…………」
八幡「」ノ
委員長「あ、比企谷君。なに?」
八幡「……演劇とか、どうだ?」
海老名(え……!?)パァッ
三浦(はあ?)カチンッ
結衣「演劇って……前に海老名さんが言ってたやつ?」
沙希(あーあ……これ、また優美子の機嫌が悪くなりそう。何でわざわざ地雷を踏みに行くかな、比企谷のやつ……)
八幡「いや、ああいうBL要素はなしでな」
結衣「あ、そうなんだ。だったらいいけど」
沙希(と、思ったけど、そうじゃないのね。それならまだ……)チラッ
海老名(ち、違ったんだ……)ガックリ
三浦(ふふん、ざまあみろだし)
戸部「でもさ、八幡君。それなら何で演劇なん? また前みたいに、裏方になれば楽できそうって理由とか?」
八幡「……それもある。というか、ほぼそれメインだけどな」
葉山「」ピクッ
相模(は?)カチンッ
八幡「ただ、それ以外にもちゃんと理由はあるぞ」
葉山「そうか……。なら、一応聞いときたいな、比企谷。どんな理由で演劇を?」
相模「…………」
八幡「実は、この時間の前に別のクラスの奴らに色々と聞き回っておいたんだけどな」
結衣「あれ、ハッチー、そんな事してたんだ?」
戸塚「そういえば昨日ずっと、休み時間になるとどっか出て行ってたっけ。聞き回ってたんだ」
八幡「おう。で、その聞き回って情報を集めた結果なんだが、どれも無難な奴が多かったんだ。それこそ、今、黒板に書かれてる出し物みたいなのばかりな」
委員長「え……? そうなの?」クルッ
『喫茶店
お化け屋敷
たこ焼き
アンケート
射的 』
八幡「まだどこのクラスも決まってないから確定じゃないが、多分、似たり寄ったりになるはずだ」
八幡「だけど、演劇だけは唯一他とかぶりがない」
八幡「これをやればかなり目立つと思ってな」
葉山「…………」
相模「…………」
三浦「……?」
「へー……そうなんだー」
「ま、確かに文化祭で演劇やるとこはそうないだろうしな」
「考えてみたら、喫茶店とか屋台系って必ずどこもやるもんね」
八幡(実際は嘘だけどな。俺は他のクラスの出し物を調べてなんかいない。休み時間の度に、ベストプレイスまで行って一人で過ごしていただけだ)
八幡(そもそも、俺に他のクラスの知り合いなんかいるはずがない。材木座を除けば話せる奴なんか一人もいないぞ。元ぼっちを舐めるな)
八幡(単に、前の時の記録を必死こいて思い出しただけだ。そして、前の時に演劇を選んだのはこのクラスだけだった。そこについては間違いない)
八幡(そして、その劇が人気あったのも事実だ。その時は、一部の女子限定だったが……)
八幡(やる劇の内容によっては、あの時の人気を上回る事が出来るはず……)
八幡(それに、今回はBL劇をやらないのはほぼ確定だ。悪い結果になったが、一昨日の一件があるから俺は多分役を回される事はないだろう)
八幡(だから、今回は嘘をついてでも演劇を俺は推していく)
「たださー、それでも演劇はなくない?」
「劇とか、ちょっと照れるよねー」
八幡(だろうな、反対意見も出て当然だ)
八幡(俺も何のしがらみもなかったら、劇なんかやりたくない。無難で目立たなさそうな喫茶店とかの方がよっぽどいい)
「セットとか作らなきゃいけないし、衣装とか、あと練習とかもあるでしょ?」
「ちょっとめんどくさくない? それに、何か逆に浮きそうだしさー」
八幡(ただ、これを放置しとくと、多分、演劇で決まらないから……)
八幡(この後、風向きが変わらない様に追い討ちをかける必要がある)
八幡「あと、もう一つ理由がある。実は、これは極秘の話なんだが」
戸部「何かあるの?」
八幡「おう。今年の文化祭は例年よりも実行委員の気合いが違うらしい」
葉山(君が言うか、それを)
相模(比企谷が言う事、それ?)
八幡「去年もそうだったが、毎年、どのクラスの出し物が良かったかアンケート結果を取ってるよな? だけど、今年はそれの1位は表彰とか賞状とかだけじゃない」
八幡「何か特典か賞品がつくらしいぞ」
葉山(オマケにその話までするのか。確かに雪ノ下さんとそういった事は検討してるが、まだ本決まりになってないのに……)
「え! それ本当?」
「特典って何? まさか、お金って事はないから……何かで優遇されるとか?」
「賞品とか言われると気になるんだけど。流石にトロフィーとかじゃないだろうし」
八幡「俺の予想だと、多分、暖房器具だな」
「!?」
八幡「みんな去年体験してるから知ってるはずだが、この学校には暖房器具がない。これから冬に入ると寒い」
八幡「だけど、このクラスだけそれがあったとしたらどうだ? 他のクラスの奴が寒い思いしてる中、ここだけが暖かいんだ」
八幡「まだ暖房器具って決まった訳じゃないが、その可能性はある。1位を狙う価値はあると思うがな」
「あー……うん、もしも本当にそうだったら……」
「頑張ってみる? やる気出しても良くない?」
「演劇やるとこがないってそれ本当なの? 本当ならそれに賭けてみる価値あるかも」
八幡(これも嘘だけどな)
八幡(俺は暖房器具かもしれないと言っただけであって、断言はしてない。それにあくまで俺の予想だ。外れたとしても、責任を取る必要はない)
葉山「…………」
相模「…………」
八幡(ま、葉山が頑張って交渉して、本当に暖房器具にしてくれればそれが一番だがな)
八幡(とりあえず、これで追い討ちは決まった。後はこの流れのまま、全員が賛成してくれればいいんだが……)
「どうする? 今年、文化祭を頑張ってみる?」
「1位狙うなら演劇とか有利っぽいよね。それで良くない?」
戸部「だべー。俺は演劇で賛成するわ」
戸塚「そうだよね。僕もそれに賛成するよ」
結衣「私も! 賛成ー!」
ザワザワ
「戸部君とか由比ヶ浜さんも賛成だって。どうする? 演劇にする?」
「暖房器具が設置されるならいいんじゃない。他にやるとこないならチャンスだしさ」
「だよね。私は演劇でいいよ」
「俺も演劇でオッケーだな」
八幡(ちなみに、これも嘘だけどな。由比ヶ浜や戸部、戸塚には予め説明してサクラになってもらってる)
八幡(駄目元で頼んでみたら、意外にも三人とも協力してくれた。ただし、キツい条件を一つ出されたけどな……)
【少し時間を遡って。教室からかなり離れた廊下】
八幡「……って感じで話を進ませるから、サクラになってくれないか」
八幡「多分、あと一押しで決まるはずだ。その一押しが欲しい」
戸部「んー……。それはいいんだけどさ、やっぱ理由を教えてくんない? 何も聞かずに、演劇やりたいって言われてもさー……」
結衣「ハッチー、昨日は嫌がってたじゃん。なのに、今日になって文化祭を成功させたいとか言われても、ん? ってなるしさ」
戸塚「だよね。比企谷君、昨日といい、ちょっと変だよね。何か事情があるの?」
八幡「……事情はある」
八幡「ただ、なんつうか……」
八幡「個人的な事情でな。人に言うようなもんじゃない」
八幡「だから、理由は言えない。何も聞かないって条件で受けて欲しい」
八幡「駄目なら、最初に話した通り、忘れてくれ。他の奴らにも言わないでおいてほしい」
戸部「んー……」
戸塚「どうする?」
結衣「うーん……」
結衣「私は引き受けてもいいよ」
戸部「だべ。俺もオッケー。八幡君からこういうお願い事とか、マジで初だしー」
戸塚「そうだよね。比企谷君、そういう事言わないもんね」
結衣「うん。理由とかスッゴい気になるけど、どうしても言いたくないって言うなら、ハッチーなら仕方ないかーとも思うし」
八幡「……悪い。なら、頼めるか?」
戸部「いいよ。ただ、こっちからも一つ条件出したいんだけどさー」
八幡「条件?」
戸部「そ。昨日、皆にはもう話してあるんだけどさー、俺、文化祭でバンドやってみたい訳よ。だから、八幡君もそれに参加して欲しいんだけど」
戸塚「ああ、そうだね、それいいね。比企谷君、そういうの嫌がりそうだし、受けてくれるかなって話してたし。そういう条件なら僕も賛成する」
結衣「私も! あのサキサキだってもうオッケーしてくれたんだよ! あと、ハッチーだけだし!」
八幡「バンドかよ、マジでか……」
戸部「だってさー。三年になったらこういう事、俺ら出来ないじゃん? だから今の内にやっておきたいし」
戸部「で、やるなら仲の良いこのメンバー全員でやりたい訳よ。八幡君だけ抜きとか、もうそれやる意味ないっしょ? どうしても嫌だって言うなら俺も諦めるつもりだけどさー」
戸塚「文化祭成功させたいっていうなら、有志団体も絶対に大事だと思うしさ。やろうよ」
結衣「うん。ハッチーも参加するし。ね!」
八幡(藪をつついて蛇を出したぞ……。いや、この場合、出てきたのはツチノコクラスか……?)
八幡(いや、だって無理じゃね? 体育館のステージの上でギター弾いたりドラム叩いてる俺とか想像つかないんだけど?)
八幡(想像出来るのと言ったら、隅でタンバリンとか叩いてるとこぐらいだぞ。小学校の頃、正しくそれだったし)
八幡「……ちなみに、俺の受け持つ楽器って何になるんだ?」
戸部「やっぱ、ギターっしょー」
八幡(はい、無理。絶対無理。バンドの花形ポジションで、ほぼ中央にいる役だろ。あんなん出来る訳がない)
八幡「……その、あれだ。何か他の楽器とかないのか? それならまだ……」
戸部「ってもねー。今のとこ、優美子と結衣のダブルボーカルは確実に決定だしー」
戸部「で、川崎さんがドラムやるって言ってから、これも決定。川崎さん、ドラム以外ならバンドに加わらないって言ってたし」
結衣「サキサキ、多分目立ちたくないんだよね。あと、ドラムに前からちょっと興味あったみたいで」
戸塚「確かに川崎さん、スラッとしてて様になるし、ドラム似合ってそうだよね」
戸部「で、俺がベースっしょ。戸塚君がキーボードやっから」
結衣「ギターは私と優美子で半分ずつ受け持とうかって事になってたんだけど、ハッチーがギターやれば私達ボーカルだけに専念出来るし」
戸部「やっぱ歌いながら弾くってキツいからね。なもんで、八幡君はやっぱギターでオナシャス」
八幡(おおう……)
【現在、教室】
八幡(この後、どうにか粘って戸塚のキーボードと変えてもらう事になった。戸塚、マジで大天使。だが、代わりにバンドに出る事は決定になったんだがな……)
八幡(文化祭でバンドやるとか、俺の中じゃ完全にリア充ポジなんだが。青春とは悪であると言っていた俺のキャラどこへ消えたんですか?)
八幡(いや、あれだよ? 別に目立つのが苦手とかそういうんじゃないけどな。前の時なんか悪い意味で相当目立ってたし)
八幡(ただ、この目立ち方は何か違う。上手く言葉に出来ないが、あれだ。一言で言うなら俺のキャラじゃない気がする)
八幡(……まあ、もう今更の話なんだけどな)
八幡(約束してしまったし、逃げようがない。俺がやらないって言ったら、バンドやる事自体諦めるとか言ってたし、流石にそれは皆に悪い。俺にだってそれぐらいの分別はある)
八幡(だから当日は、俺のせいでバンドの人気が落ちないよう、ひたすら下向いてキーボード弾くしかないとか思ってる。空気となって溶け込むしかないだろ)
委員長「それじゃ、演劇に賛成の人は挙手をお願いします」
サッ、サッ、サッ……
委員長「ええと、数えるまでもないね、これ」
委員長「それじゃ、賛成多数で文化祭でのクラスの出し物は演劇で決定で」
委員長「後は、どんな劇をやるか決めないといけないんだけど、これについて何か意見は……」
八幡(……何にしろ、これで目的は達成したな。俺が文化祭の成功に貢献出来る事といったら、ここらが限度だ)
八幡(後は、雪ノ下と葉山の手腕に期待する。あいつらなら本当に雪ノ下さんの時の文化祭を超える事が出来ると思うからな)
八幡(そして、超えれば……あの時の言葉も多分……)
八幡(ずっと前に、ディスティニーランドで雪ノ下から言われた一言……)
『ねえ、比企谷君。いつか、私を助けてね』
八幡(あの時は、雪ノ下が何を指しているのかわからなかったし、今もそれについて確信を持っている訳じゃない)
八幡(ただ……。家の事、雪ノ下さんの事、そういった事であいつが悩みやコンプレックスを持っているのは確かだ)
八幡(もしも、あいつの助けて欲しいという願いがその事だったとしたら……)
八幡(俺の中での雪ノ下からの依頼は、これで達成だ……。陽乃さんを超えるのは、雪ノ下本人に任せる。他に今の俺が手伝える事はないしな)
八幡(正しく、奉仕部の理念通り、俺は魚の釣り方を教えただけで、釣竿すら渡しちゃいない。だが、雪ノ下ならそれだけで十分なはずだ)
八幡(後は……今の奉仕部に全部任せる。俺が勝手に受けた、もしかしたら勘違いかもしれない雪ノ下からの依頼はこれで終わりだ)
「それじゃあ、幾つか案は出てきたから、この中から多数決でどんな劇にしていくか決めるけど……」
三浦(…………)
三浦(比企谷が劇とか言い出した時は、ひょっとしたらあの海老名とかいう女の為かと思ったけど……)
三浦(そうじゃなかった。あれから比企谷は劇の内容については案を出してないし、それはあのBL女も一緒だし)
三浦(だから、それについてはいいんだけど……)
三浦(でも、何で比企谷は急に劇をやる気になったん?)
三浦(それに、去年からずっとぼっちとか言ってたのに、何でそんなに他のクラスの事とか色々な事を知ってるん? 誰から聞いたの? まさか材木座?)
三浦(あと、バンドもやるとか戸部に言ったらしいし。初めの頃から考えるとずいぶん変わったけど、でもあいつ、そんな簡単にうなずくような奴じゃないっしょ)
三浦(……昨日の事といい、何か変だし。ていうか、あーしの知らない事が多すぎる気がする……)
三浦(もしかして、あーしだけ比企谷遠ざけてない……?)
三浦(そんな事ないと思いたいけど……。でも……)
葉山(…………)
葉山(ずいぶん勝手な事を、と毎回思うんだが……)
葉山(それでも、一昨日といい、今日の事といい、比企谷の思惑通りに進んでる感がある)
葉山(正直、それが俺は気に食わないし腹が立つ)
葉山(何より、俺より雪ノ下さんの事をよく知っている様な気がして、それが鼻についてるんだ、俺は)
葉山(いつか比企谷にこの借りは必ず返すが……)
葉山(今は文化祭に専念する。陽乃さんの事もどうにかしないといけないしな……)
葉山(多分、あの人の事だからきっと有志で文化祭に参加するとか言い出すだろう。雪乃ちゃんに劣等感を与えるために)
葉山(……そこをどうにかしないといけないんだが)
葉山(…………)
ここまで
もう原作との矛盾とか色々見逃してくだせえ
【奉仕部、部室】
雪乃「宣戦布告?」
葉山「そう、雪ノ下さんの事だから、多分そんな事を考えているんじゃないかと思ってね」
相模「葉山君、宣戦布告って?」
葉山「陽乃さんに対して、勝負を挑むって事を告げる事だよ。今年の文化祭と陽乃さんの時の文化祭、そのどっちが賑わうかを」
雪乃「……確かに、機会があれば姉さんにその事を言うつもりだったけど」
葉山「正直、それはやめといた方がいい」
相模「どうして? こういうのって最初に言っといた方が良くない?」
葉山「その理由は今から説明する」
雪乃「…………」
葉山「まず、陽乃さんは有志団体に参加してくると思うんだ。OGだし、去年もそうやって参加してたからね」
葉山「で、その去年のも陽乃さんが参加した団体は人気があった。早い話、陽乃さんに協力してもらった方がこちらにとっては得になるって事だよ」
葉山「だけど、雪ノ下さんが陽乃さんに宣戦布告の様な事をすると、あの人は多分有志団体として参加するのをやめるか、出たとしても多分手を抜く」
葉山「もちろん、あからさまに手を抜く事はしないだろうけど、でも、気合いは入れない。それは間違いないと思うよ」
葉山「向こうからしたら、敵に塩を送る様なものだからね。あの人がそれをするはずがない」
雪乃「…………」
相模「雪ノ下さんって、そんなに仲良くないの? あのお姉さんと?」
雪乃「……ええ。お互い嫌っているのは確かよ。姉さんには、子供の頃からどれだけいじめられてきたか……」
葉山「そして、陽乃さんは嫌いな人には容赦しない。そういう人だよ」
相模(ああ、それちょっとわかるかも……。花火大会の時、何となくだけどそんな雰囲気は伝わったし……)
葉山「だから、陽乃さんには黙っておいた方がいい。これは戦術だよ」
葉山「多分、有志団体で申請に来る時に、あの人は雪ノ下さんにちょっかいをかけに来る。わかりやすく言えば、挑発してくるはずだから」
葉山「前からそういう事はしてきたし、今年は雪ノ下さんが文化祭の実行委員長になってるから尚更だと思う。絶対に何か言ってくる」
雪乃「……そうね。恐らくそうでしょうね」
葉山「その時、その挑発に乗らず、むしろ何も言い返せないみたいな態度をとってほしい。そうすれば陽乃さんはきっと満足するし、有志団体にも熱を入れるだろうから」
葉山「何をやっても追い越せないって事を雪ノ下さんに刻み付けようと、絶対に手は抜かないはずだよ」
雪乃「……だけど、それが私にとって有利に働く。そう言いたいのよね?」
葉山「そう。表では陽乃さんに歯が立たない様に見せて、裏で実を取る。最後に勝てばそれでいいんだから、陽乃さんには文化祭が終わるまで黙っていた方がいい。いわば、奇襲だね」
葉山「終わった後に、陽乃さんの時より上だと記録が示していればそれでこちらの勝ちなんだから。こうなったら陽乃さんも何も言えなくなる」
雪乃「…………」
葉山「……それに、宣戦布告なんかしたら、下手したら妨害まで入れてくる可能性すらあるからね。あの人が本気になったらそれぐらいの事はするよ。だから、やっぱり終わるまでは何も言わない方がいい」
雪乃「…………」
雪乃「そうね……」
雪乃「貴方の言いたい事はわかったし、確かにそちらの方が賢いやり方だとは思うわ」
葉山「納得してくれたかい? それなら」
雪乃「いえ。この場合は、それでも、よ」
葉山「……!」
雪乃「それでも、姉さんにはやはり堂々と先に言っておくわ。今度の文化祭で姉さんの記録を超えるつもりだとね」
葉山「……それはデメリットしかないと、説明したつもりだったんだけどね」
雪乃「ええ。だから、それでも、なの。利よりも取るべき事があるという事よ」
雪乃「予め何も言わずに、最後だけの結果を見せたところで、姉さんは必ず『私が有志団体で参加したおかげだね』と、負け惜しみを言ってくるだろうし、それに私自身、それでは姉さんを超えたと自負出来ないだろうから」
雪乃「やっぱり姉さんには正面から挑むつもりよ。その上で勝たないと意味がないもの」
相模「雪ノ下さん、カッコいい、それ! だよね、私もそっちのがいいと思う!」
葉山「……そうか。それなら仕方ないか……」フゥ
葉山(……雪ノ下さんがそう言うなら、もうこの案は使えないな)
葉山(雪ノ下さんらしいと言えば、らしい。だけど……)
葉山(俺からすれば、勝つ確率を少し下げた事になる)
葉山(勝ち方にこだわる必要が俺はないと思っているが、雪ノ下さんはそうじゃないって事か……)
葉山(たとえ押し出しのフォアボールで勝ちが決まろうとも勝ちは勝ちなんだけどな……)
葉山(ただ、そういう事なら……)
【文化祭実行委員会】
雪乃「……という事よ、姉さん」
陽乃「へえ、面白い事を言うねえ、雪乃ちゃんも。私の時の記録を超えるつもりなんだあ」ニコッ
雪乃「ええ、そうよ。歴代一位の記録を作るつもりでいるわ」
陽乃「そっかあ。雪乃ちゃん、そんなにやる気になってるんだあ。そりゃ良い事だね」
雪乃「もちろん、姉さんも協力してくれるわよね? この学校のOGとして」
陽乃「そうだね……今日もそのつもりで来たんだしね。それに、可愛い雪乃ちゃんの為だもん。喜んで協力させてもらうよ」
雪乃「そう。助かるわ。それならこの書類に必要事項を記入してちょうだい。それで有志団体の参加は認めるから」
陽乃「ああ、ありがと。でもまだ決まってない事が多いから、今日のとこはこの紙だけ貰っていくね」
雪乃「そう。でも、姉さん、必ず参加はしてくれるわよね? 姉さんの事を知っている生徒は多いし、きっと期待もされているわ。まさかその期待を姉さんが裏切るなんて事はしないわよね?」
陽乃「……何を言ってるのかなあ、雪乃ちゃんは? 私は一度言った事は守る主義なんだけどなあ。お姉さんの事、そんなに信用出来ないのかなあ?」
雪乃「いいえ、信用しているわ。あくまでこれは確認よ」
陽乃「そう、それならいいけど。それじゃ悪いけど、私はこれから用があるから帰るね」
雪乃「ええ、また文化祭当日にでも会いましょう、姉さん」
陽乃「そうだね。その日にまたね」
相模(表情は普通なのに、雰囲気がお互い怖いんだけど……。やっぱ仲悪いんだあ……)
【ミーティング後】
雪乃「……姉さんの件は、あんなところかしらね?」
葉山「うん。上手く挑発出来たおかげで、口約束とはいえ参加の確約も貰った。証人も多いし、多分、陽乃さんは参加してくるはずだよ」
相模「にしても、笑顔が張り付いてた感じがしてスッゴい怖かった。他の人は気付いてなかったみたいだけどさー」
葉山「陽乃さんには世間体があるからね。大勢の人の前で自分の不利になるよう事はしないよ。ただ、その代わり……」ゴソゴソ
『陽乃さんからメッセージが7件届いています』
葉山「案の定、俺に皺寄せが来てるな……。副委員長になってるし、知らなかったじゃ済まされないだろうからね……」
雪乃「あ……」
雪乃「その……」
葉山「?」
雪乃「…………」
葉山「どうかしたかい?」
雪乃「いえ……。迷惑をかけたなと思って……。私と姉さんの事で」
葉山「ああ、別に構わないよ。元からこれぐらいの覚悟はしてたからさ」
雪乃「……いつか、貴方にこの借りは返すわ」
葉山「忘れてくれていいよ。もしくはデートに付き合ってくれればそれで」
相模「……!」
雪乃「……借りは忘れないわ。でも、デートは有り得ないわね」
葉山「それは残念だな。今回は結構いけそうな感じがしてたんだけどな」
雪乃「安心なさい。それに関しては永遠にないから」
葉山「期待が外れたか。ま、地道に攻めていくよ」
相模「…………」ハァ
【同時刻、教室】
『上演劇:ロミエット♀とジュリエット♀』
ロミエット :川崎沙希
ジュリエット:由比ヶ浜結衣
八幡(今度は百合か? どうなってんだよ、このクラス……)
戸部「つーか、見事に配役女子だけ? 俺ら完全に裏方になったし」
三浦「宝塚のノリっしょ。あーしはあんま興味ないけど、好きな子は好きみたいだしさ」
沙希「……私、強制的に主役にされたんだけどさ。参ったね」ハァ
結衣「サキサキ、カッコいいからね。で、私も仲がいいからって主役にさせられたし」
八幡(そして、何故か俺が脚本とかになった。女同士の恋愛に設定を変えなきゃならないという事で、押し付けられた感じだ)
八幡(いや、裏方を望んでたけど、こんなめんどくさそうなのは望んでないぞ、俺? だいいち、国語の成績なんて脚本書くのにあんま関係ないからな?)
沙希「先に言っとくけど、比企谷。あたしの台詞、あんまり増やさないでよ。ただでさえ、あたし、そういうの覚えるの苦手なんだし……」
沙希「それに、ドラムの練習もあるし、家の事もやらなきゃいけないし、何か衣装の事とかまで相談受けてるし、勉強もしなきゃいけないし、他にも」
八幡「お、おう……。努力はしてみるけど、主役が無口って訳にもいかないからな。あくまで努力だぞ」
結衣「ハッチー、私のも少なくしてよ。ていうか、変なセリフとか入れないでよ!」
八幡「変なセリフってどんなんだよ? 元がシェイクスピアだぞ? むしろまともなセリフの方が少ないんだが」
結衣「そういうんじゃなくて、とにかく変なセリフ!」
八幡「お前はまず語彙力を鍛えろ、由比ヶ浜」
戸部「つーか、川崎さん、マジでやる事多そうだし。大丈夫なん?」
沙希「……多分。ギリギリ。きっと」
三浦「何ならあーしがドラムやる? 沙希も歌上手いっしょ。ボーカルでも」
沙希「あたしがドラムやるから。ボーカルはやだ。歌は流石に歌えないから」
三浦「……あー、なら頑張って、ぐらいしか言えないんだけど……」
沙希「う、うん……。悪い……」
三浦「別にあんたが謝る事じゃないけどさ。つうか、ホントに文化祭大丈夫なん?」
戸塚「比企谷君も脚本書くの大丈夫? キーボードの練習もあるし」
八幡「……まあ、何とかなるだろ。原作ざっと読んで、省略出来るところは省略して、ロミオが女に変わるからその辻褄を合わせて、更に書き出して、実際に劇をやりながらセリフや展開とか直していって……」
八幡(あれ? これ、無茶苦茶、時間がかかりそうじゃね? しかも、実は相当めんどくさい役なんじゃないのか……?)
ここまで
このSSまとめへのコメント
スレ主は更新が早いから助かる。
ありがたや~ありがたや~
よくある好感度アンカからの〜再構築とかなかなか斬新な…気がするw
小町と海老名さんが幸せになれますように…葉山?知らない子ですね
この奉仕部じゃ依頼は解決できんだろ
結局ヒッキーが裏で動いて解決していく感じかな
あと材木座よかったな
好感度安価って元の話の数が大体、女>男だから基本的に百合になりやすいよね
なんで同姓に対しては恋愛好感度じゃなくて友情好感度にしないのかな?
好感度安価からのニューゲームって初めて見たけど、いいトコの合わせ技みたいな感じがしてとても良い
これ面白いねー。
続きも期待!
でも正論なんだよなぁ
小町かわいそう…
二週目は小町報われてくれ…
千葉の妹は良い妹
焼きトウモロコシの誤解を解いてほしい
このこじれっぷり、たまらんね
海老名さんが何をしたって言うんだ…
※13
そりゃ擬態せず教室でBLの同人誌読んでニヤニヤしてたら引かれるよ
小町の立場が辛くてこころ抉られる・・。
もう無理ぽ・・。
すれ違いとはいえ、ここまで関係が拗れてるのはなかなかいい。完結期待
こいつタイムリープした事忘れてないか?
もうちょい更新の頻度上げてくれると尚良い
面白い
続き早く見たい
期待
はよ
小町には報われて欲しいです
続きは?
続きはよ
うん、やっぱり面白い!続き楽しみにしてますー!
屑ゴミ葉山グループさっさと絶望しろ
葉山は不幸な目にあってほしい。
小町は報われてほしいな。