雷「とある司令官と電の勲章」 (235)

・基本台本書き、書き溜めです
・設定に無理があったらごめんなさい
・宜しければこちらもどうぞ

暁「とある司令官と電のケッコン」
暁「とある司令官と電のケッコン」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430911602/)
響「とある司令官と電の改二」
響「とある司令官と電の改二」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432983242/)


電「以上注意せよ、なのです!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449628330

書き溜めはローカル違反
即興で書け

雷「司令官!もっと私に頼って良いのよ?」

なぜ頼りにされたいのか

雷「司令官のためなら雷、なんだってできちゃうんだから!」

なぜ頑張るのか

雷「司令官、私がいるじゃない!ねっ?」

私が、本当にしたいこと



雷「だから……もっと、もっと、頼って?司令官」

私が手を差し伸べなければ、あなたはここにいない

雷「私に、任せて……?」

私がしてあげるために、あなたは私の弱さもワガママも知らなくていい



雷「私に、声をかけ続けて……」

本当は

雷「お願いだから……私を、見捨てないで……っ」

本当は……

雷「私を見て……見失わないで……」

雷「」



あなたがずっと、私の手を引いてくれているとも知らずに、ただ押し殺す

>>2
すみません、ローカル違反という事を知りませんでした……。
以後気を付けます。今回のSSに関してはスレたてもしてしまったので
完結まではさせていただきます。
本当に申し訳ない

マルゴーマルマル 司令官の部屋

司令官「Zzz……」

雷「朝だ朝だーよー、朝は日ーがのぼーるー♪」

雷「マルゴーマルマル。おはよう司令官、朝よ!起きてー!」ユサユサ

司令官「ぅ……あと五分……」

雷「もー、そんなんじゃダメよ司令官。朝は元気に!起きなくちゃ」

司令官「そうはいっても……眠たいし……少しだけ……」

雷「もう……仕方ないわね、司令官ったら」ゴソゴソ

雷「私がいないと、だめだめなんだから!」ナデナデ

司令官「んぁ……いかずち……?」

雷「お寝坊さん、朝よ?ほら、起きて?」ニコッ

雷「それとも、まだ少しこうしていたいのかしら?」ナデナデ

司令官「んー、いかずちー……」ギュー

雷「よしよし♪」ナデナデ

チュンチュン、チュン

司令官「またやってしまった……」ズーン

雷「あ、司令官、着替え終わったのね。今ご飯よそうから、どうぞ座って?」

司令官「おう……よっこいせ」

雷「~♪」

司令官(うーむ、いくら寝ぼけているとはいえ……雷が秘書艦として起こしに来るとどうしてか甘えてしまう)

司令官(司令官としての威厳、プライドとしては毅然とした態度を見せたいものだが)

雷「司令官?どうしたの?」

司令官「おわっ、い、雷……」

司令官(い、いつのまに膝上に)

雷「考え事かしら?そんな難しい顔してたら、ご飯も美味しくないわよ。もっと元気出さなくちゃ!笑顔笑顔♪」ホオナデナデ

司令官(あ、だめだこれダメになる)

雷「さっ、ご飯食べましょ?今日のおみおつけは我ながら上出来だと思うの!」

司令官「あ、ああ……じゃあ、いただこうかな」

雷「はーい!いただきます♪」ニコニコ

司令官「いただきます」

司令官(赤ちゃんプレイとかが僕の守備範囲外で本当に良かったと思う……ロリおかん恐るべし)モグモグ

司令官(あ、別に事後ではないですハイ)

>>4
いや、只の荒しだから気にすんな
書き溜め禁止なら大概のスレが終わる

マルキュウマルマル 執務室

司令官「さて、うまい朝食も取って。今日も艦隊指揮、頑張るかな!」

雷「おーっ!」

??「失礼します、なのです」コンコン

雷「はーい、どうぞ」

電「電です、どうぞ宜しくお願い致します」ガチャ

雷「電、おはよう!」

電「雷ちゃん、おはようなのです。司令官……」チラ

電「……さんも、おはようなのです」

司令官「おはよう、電。待ってたよ」

雷「電、今朝は?」

電「午前の演習の随伴を務めるのです。と言っても、演習相手に潜水艦がいた場合に交代で入る感じなのですが……」

雷「今日は電がその担当なのね!応援してるわ!」ギュッ

電「はわわ、ありがとう。雷ちゃんの応援があれば百人力なのです」ニコッ

司令官(ううむ、相変わらず仲が良いなこの2人は。良いことだ)ウンウン

>>7
ありがとうございます。
取り敢えずこのまま、投下を続けていきます。


司令官(電が来たから、後は演習メンバー6人と対潜水艦メンバー1人と……)

司令官「って、あれ?いつの間にか雷電姉妹がいない。どこ行った?」

<ジャーン! 
<ジャア、サッソク……

司令官(ん、裏の戸から声が……僕の部屋か?)

司令官「」ヒョコッ

雷「ドキドキ」

電「……わぁ、美味しいのです!これは、司令官さん好みの味付けなのです」

雷「でしょ、でしょ!今日は会心の出来だったの。やっと、電のおみおつけの味が私にも作れたわ!」

雷「ありがとう、電。司令官ったら、何でも美味しいって言ってくれるから……逆にちょっと不安だったのよ」

電「分かるのです……嬉しいけれど、電もそれで最初は苦労したし……」

雷「ふふ……でもこれを機に、司令官の専属主婦になれる程色んな料理の腕を磨くんだから!」

電「い、電だってもっと頑張るのです!ここは、譲れないのです!」ハワワ

雷「じゃあ、一諸に頑張りましょ、電!」

電「なのです!」

司令官(ああ、今日も天使達がまぶしいです)

ヒトマルマルマル 執務室

多摩「それじゃ、多摩も行くにゃ」

阿武隈「アタシも戻るわね。提督も、指揮お疲れさま」

司令官「おう、二人とも演習お疲れ。阿武隈はまた午後もな」

阿武隈「はーい」バタン

司令官「よしよし。午前の演習も順調だったね」

雷「当たり前よ、何たって自慢の妹がいたんですもの!」ギューッ

電「い、雷ちゃん……ちょっと照れるのです」モジモジ

司令官(そうだ、ここにキマシタワーを建てよう)

司令官「午後もこの調子で行けると良いんだが……ええと、午後のメンバーは……む?」ピラッ

雷「電は、このあとはどうするの?」

電「えっと、一旦シャワーを浴びてから、部屋に戻ってちょっと書類の整理をしようかと。大本営から告知のあった、大規模作戦に向けての書類作りがまだ途中なのです」

雷「そっか……、電も大変ね。そうだわ、私も大規模作戦に向けて後で資材のチェックをしなくっちゃ」

電「雷ちゃんも、秘書艦お疲れさま、なのです」

雷「私は大丈夫よ?だって、寧ろ秘書艦って楽しいもの!大変だって思うことも含めて、すごく楽しいわ!」

電「ふふっ、雷ちゃんはやっぱりすごいのです」

司令官「雷は頑張り屋さんだし、色々気を配ってくれるし。本当頼りがいがあるよ」ナデナデ

雷「ふふーん♪」

司令官「勿論、電もね?」ナデナデ

電「はわ……い、電はまだまだなのです、もっと頑張らないと……」

雷「そんなことないわ、というかそこで謙遜しちゃダメよ電。もっと素直に喜ばなきゃ!」

司令官「そうだぞー、雷の言うとおりだ。ほれ、笑顔笑顔」ポンッ

電「はぅ……。……えへへ」ニコ

司雷(相変わらず天使のような笑顔だ……)

司令官「みんな、頼りになる艦娘達ばかりだからね。雷も電も、僕からすれば頼もしさの塊みたいなもんだし」

司令官「そこに何ら差は無いわけだ。二人とも胸を張って、これからもたくさん頼らせてくれな」

雷「はーい、司令官!」

電「なのです!」

電「それじゃあ、電はこれで失礼するのです」

司令官「あ、電」

電「はい?」

司令官「悪いけど、部屋へ戻る前に初雪と望月に声かけてってくれないか?あの二人、午後の演習で対潜水艦担当なんだけど……」

雷「あー。たまに来ない時もあるもんね」クスクス

電「分かったのです、多分あの二人ならそれぞれの部屋にいるでしょうし……任せて下さい」

司令官「おう、サンキューな」

雷「じゃあ、またね、電」

電「また、なのです雷ちゃん」

司令官「さて、と。雷、もう週の中日だし、今日である程度の任務は片付けちゃおうと思うんだ」

雷「分かったわ。じゃあ、今日は忙しくなるわね!張り切っていかなくちゃ!」

司令官「そうだね。差し当たっては出撃任務の消化から……僕は書類関係と艦隊指揮に取りかかるから、雷には取りあえずこれらの工廠任務をお願いできるかな?」バサッ

雷「わ、結構たくさんあるわね。あ、そっか。廃棄任務も追加されているのね」ペラ

司令官「休み休みで構わないから、ね。お昼もちゃんと取りながらやるんだよ?」

雷「分かったわ!それじゃあ、工廠へ行ってくるわ」

雷「司令官も、督戦の艦隊指揮なんだから。気をつけてね?」

司令官「ああ、ありがとう。また何かあったら、無線に連絡入れるよ」

ヒトヨンマルマル 工廠

雷「ふぅ、これで廃棄任務もやっと半分ね。あと廃棄する物は……っと」パラパラ

雷「相変わらず7.7mm機銃が多いわねー。残り12個はやっぱりこれかしら」

雷「あー、でも99艦爆も多いわね……そういえば先週の秘書は、瑞鳳さんだったっけ」

雷「ドラム缶も相当溜ってきてるのよねー。とはいえドラム缶を廃棄するのは本末転倒な気もするけれど……」パラッ

雷(あれ?これも結構な量があるわねー……って)

雷「なぁんだ、ダメコンかぁ。これは廃棄対象外ね!」

雷「使わないからどんどん溜っていくけれど……」

雷「よし!機銃と艦爆を6個ずつ廃棄して、任務を完了させましょう!」

ヒトヨンフタマル 工廠前廊下

雷「さてと。次の任務はなにかしら……」

雷「んー……、んんー?」パラパラ

雷「もしかして、司令官に言われてたこと全部終わっちゃった?」

雷(じゃあ、一旦執務室に戻って次の任務を――)

響「やぁ、雷じゃないか」

雷「あ、響」

暁「暁もいるわよ」ヒョコッ

雷「暁も。二人揃ってどこへ行くの?」

響「ちょっと甘味所にね」

暁「今日は間宮さん開店三年目記念の特別スペシャリュ限定パフェが出る日なのよ!」

響(噛んだ)

暁「こ、コホン……と言うか雷も先週はしゃいでたじゃない。普段は券を使わないとめったに食べれない間宮さんアイスが、たっぷり乗ったパフェだー!って」

雷「へっ?あ、あー!間宮さんの限定パフェ、今日だったっけ!?」キラキラ

響「その様子じゃ、忘れていたみたいだね」

暁「さっき電にも会ったけれど、ちょっとしたら甘味所に向かうって言ってたわよ。雷も、私達と行きましょ!」

雷「うん、行く!行くわ!私も……」

雷「あ……」

暁響「あ?」

雷「でも私……今日、秘書艦だから……」

暁「良いじゃないそんなの、ちょっとくらい!」

雷「でも……」

暁「良ーい雷?暁がお姉さんとして1つ助言をしてあげるわ」

暁「秘書艦なんて一週間もあるしやろうと思えばいつだってできる。けどスペシャルパフェは今日一日しかないのよ!どっちが大事なの!?もちろんパフェだわ!」ビシィ

雷「う……」

響(すごい暴論だ)

響「もし心配なら、司令官に一言声をかけてきたら?きっと司令官のことだから、許可を出してくれると思うよ」

雷「うん……」

雷(そうだ。私が、少し休憩をもらって甘味所へ行きたいと言ったらきっと、司令官は快く頷いてくれるだろう)

雷(だけど……)


司令官『もう週の中日だし、今日である程度の任務は片付けちゃおうと思うんだ』

雷『分かったわ。じゃあ、今日は忙しくなるわね!張り切っていかなくちゃ!』


雷(きっと、ここで私が甘えたら、抱えている業務があってもそれを隠して。私に頼ることなく、一人で頑張っちゃうんだろう)

雷(そのことでほんのちょっとでも、司令官の心に穴が空いたら)

雷(……私に気を遣ってほしくない。ううん、私を頼ることにためらいを覚えてほしくない)

雷(司令官のそばには……私がいてあげなくちゃ……)

雷「――あっ、と!やっぱり、ごめん!私ったら、すぐにやらなきゃいけない任務を任されていたの!」

雷「ああっ、早く執務室に行かなくちゃ!暁、響、ごめんね!今度埋め合わせはするからっ」タタタッ

暁「え?う、うん。……あ!が、頑張ってね!」

響「ダスビダーニャ」

響「行っちゃったね」

暁「……良かったのかな」

響「?」

暁「雷。間宮さんの限定パフェ、あの子が一番楽しみにしてたのに……」

響「……、……」

響「……暁より?」

暁「うん……って、暁はそんなに楽しみにはしてないわよ!あ、あくまでほんの少し!レディーとして、淡い期待を抱いていた感じなんだから!」

響「そう」クスクス

暁「わーらーわーなーいーのー!」!カスンプ

ヒトヨンサンマル 執務室前

雷「っはぁ、はぁ……」

雷(とっさに嘘付いて、ここまで来ちゃったけれど……)

雷「」スゥーハァ

雷「司令官、雷よ。入るわね?」コンコン

司令官「おー」

雷「ただいま、司令官。司令官から受けていた任務、終わらせてきたわ!」

司令官「お、そうか。思ったよりも早かったね、さすがは雷だ」

雷「ふふーん。もっと頼って良いのよ?」

司令官「相変わらず頼もしいな。よしよし」ナデナデ

雷「えへへ……」

雷(そうだ……司令官が私を頼ってくれる。それが私にとっての何よりなんだ)

雷(司令官が喜んでくれると、私も嬉しい……)

司令官「けれど……取りあえずこれで一段落だから、ちょっとゆっくりしていてくれ」

雷(――え?)

雷「し、司令官?別に、遠慮しなくて良いのよ?ほら、まだ任務も、あるでしょ?」

司令官「いや、それが大分捗ってさ。後は報告書類作成と演習の任務くらいなんだけど、ヒトゴーマルマルにならないと演習リストが更新されないから。まだ30分近くあるんだよ」

雷「30分……」

司令官「それに、30分後にすぐやらなくちゃならないって訳でもないし。今日は朝から働き詰めだろ?甘味所にでも行って、一時間くらいゆっくりしておいで」

雷(そんなにも時間があったら……、みんなと一諸にパフェも食べれたかもしれない、でも……)

雷『――あっ、と!やっぱり、ごめん!私ったら、すぐにやらなきゃいけない任務を任されていたの!』

雷『ああっ、早く執務室に行かなくちゃ!暁、響、ごめんね!今度埋め合わせはするからっ』

雷(あんなこと言って置いて今更、甘味所には行けないわ……)ギュッ

司令官「雷?」

雷「……それじゃあ、さ、司令官。折角だし、私と一諸にお茶しましょ?」ニコッ

雷「働き詰めなのは司令官だって同じなんだし、二人でゆっくりティータイムするのも良いと思うの。ね?」

雷「お菓子もお茶も用意するから、司令官はゆっくりしてて?」

司令官「あ、ああ。雷がそう言うんなら、お言葉に甘えようかな……?」

雷「そうそう、私に任せて、甘えてくれたら良いんだから!」

雷(だって、そうでもないと私……)

ヒトナナマルマル 演習場

阿武隈「みなさぁん!私の指示に従ってくださーい!」

雷「阿武隈さん、相変わらず苦労してるみたいね……」

司令官「それでも、以前より指揮能力も上がっているし、なにより阿武隈自身の練度も大分上がっているよ」

雷「うーん、それはそうかもしれないんだけれど」




島風「みんなおっそーい!もっともっと突撃しようよーっ」

夕立「言われなくても!夕立、突撃するっぽい!」

望月「あー、だりぃ……」

初雪「部屋、戻って……寝たい」

川内「やーせーん!夜戦まだーっ!?」

阿武隈「……んぅもうっ!従ってくださぁいぃ!」


雷「いささかメンバーに問題があるような……」

司令官「いやぁ、はは……」

勝利 S

司令官「まぁでも、終わってみれば見事な指揮に見事な結果だったわけで」

阿武隈「なんかどっと疲れた気がするんですけど……」

司令官「お疲れさま。そんな阿武隈にはとっておきのプレゼントがあるぞ」

阿武隈「えっ、本当?……どうせろくな物じゃなかったりするんじゃないの?」ジト

司令官「そういうことは、実物を見てから言うんだな。ほれ」

阿武隈「ん。……何これ、勲章?」

司令官「おめでとう阿武隈。今の演習に勝利したことによって、君の練度は大規模改装を行うことの出来る域にまで達した。よって……」

雷「!?もしかして……」

阿武隈「ちょ、ちょっと待って下さい!大規模改装って、まさか……」

司令官「ああ。少し前に大本営から発表があったんだ。軽巡洋艦阿武隈の改二実装に成功したと」

阿武隈「!」パアァ

雷「……、……」

雷「すっごーい!」キラキラ

司令官「おおぅ、雷。いきなり声を上げたらびっくりするじゃないか」

雷「えへへ、ごめんなさい。でも、嬉しいんだもの!阿武隈さんにもついに改二が来たなんて!」ニコニコ

司令官「お前は誰かの改二が来るたび、本当嬉しそうにするなぁ」ナデナデ

雷「嬉しいことは嬉しいんだから、仕方ないじゃない♪」

雷「ねっ、みんなも嬉しいよね?」

望月「まぁ確かに、おめでたいわなー」パチパチ

初雪「こういうのも悪くない……かも」パチパチ

夕立「これはもう、最高に素敵なパーティするしかないっぽい?」パチパチ

川内「同じ軽巡として、嬉しいよ!これで夜戦も捗るね!」パチパチ

島風「私も早く改二になりたーい!」パチパチ

阿武隈「わ、わ!み、みんな、そんなに持ち上げられたら……うう」

司令官「あはは、阿武隈顔真っ赤だぞ」

阿武隈「も、もう。からかわないでくださいっ!」

望月「……あれ?でもさ、それならなんで……ああ、そっか」

雷「どうしたの?望月」

望月「いやぁ。足りないんだろー、勲章」

雷「え」

阿武隈「そう言えば、貰ったの三つだけ……」

司令官「あ、あははー」

望月「ったく、わざわざオチを用意しなくても良いのにさ」クスクス

阿武隈「てーいとく?」ジトォ

司令官「うぐ……げ、月末だしもう少ししたら大本営からの月ごとの任務が更新されるから、もう数日待って貰うって形で……ダメ?」

阿武隈「えー、どうしようかなぁ?」

阿武隈「なーんてね。ここまで育てて貰って、勲章が足りないくらいで怒ったりしません。寧ろ提督、本当にありがとう!」

司令官「阿武隈……」ジーン

雷(……そうだわ!)

雷「司令官!確か今月はまだ北方海域のEOを達成していないわよね?」

司令官「え?あ、ああ。今月はそこまで手がまわらなかったし、時間ももう無いからな……」

雷「でも、まだ数日あるじゃない!ねぇ、司令官。今からでも任務をこなせないかしら。ほら、阿武隈さんに限らず改装設計図だって足りていないんだし」

司令官「うーむ、今から間に合わせようとすれば確実に高速修復材を多用することになるし……なにより短期間の出撃過多で負担が掛かるからね」

雷「大丈夫よ!高速修復材の数なら秘書艦としてちゃんと管理してるから余裕があるのも分かっているし、負担だって私はへっちゃらなんだから!」

司令官「はは、頼もしいな。けれどね、雷。僕は司令官として、君達艦娘に無理をさせるわけにはいかないんだ。そりゃ、有事の際はその限りでないかもしれないけれど……」

司令官「少なくとも今は。雷含め、みんなの休む時間を削ってでも無理矢理動員するべき時じゃないからね」ナデナデ

雷「う……そっか、みんなの負担に……でも……」

阿武隈「雷ちゃん、ありがとう、気に掛けてくれて。でももう数日待てばいい話だし。ね?」

雷「阿武隈さん……。そう、ね。うん」

雷「じゃ、じゃあそうと決まったらせめて阿武隈さん改二の前祝いをしましょ!うん、それが良いわよ、司令官!」

阿武隈「ふえぇ!?何もそこまで、」

司令官「前祝いか……まぁ誰彼改二になる度パーティしてる訳じゃないし、小規模で、になるけど。よし、じゃあ早速今夜やるか!」

雷「おーっ!セッティングや声かけは私に任せてね!」

初雪「それ……食べ物とかだけ貰って部屋に帰っちゃダメ?」

雷「ダーメ♪」

初雪「うう……仕方ないか」

ヒトハチマルマル 鎮守府廊下

雷「さて、と……小規模でのパーティだし、声をかけるのは阿武隈さんにお世話になった人達と……」ウーン

雷「ふふっ、でもみんな阿武隈さんの改二報告にびっくりするだろうなぁ」

タマゴヤキニイワノリッテアウトオモウ?
ナノデス!

雷「あら、この声、電と瑞鳳さんかしら?丁度良いわね。おーい!」

瑞鳳「雷ちゃん。こんばんは」

電「こんばんは、なのです!」

雷「はい、こんばんは。ねぇ2人とも、今日この後、フタマルマルマルくらいから時間あるかしら?」

電「この後ですか?んー、……特に用事はなかったと思うのです」

瑞鳳「私も、特にないかな?」

雷「それは良かったわ!実はね、今夜秘密裏にちょっとしたパーティを開くの。良ければ是非と思ってね」

瑞鳳「パーティ?何かあったっけ……誰かの誕生日か何か?」

雷「ふっふっふ。実はとある艦娘の改二祝いなのよ。さぁ、果たして誰――」

電「わぁ!もしかして阿武隈さん、練度が75になったのですか?」

雷「っえ……?あ、え、ええ。そうなのよ」

瑞鳳「ええーっ、阿武隈が改二になるって事!?なるほど通りで提督、ここ最近阿武隈のレベリングに励んでいたのね……」

雷「瑞鳳さんは、知らなかったのね……というかどうして、電、知っていたの?」

電「大本営から阿武隈さんの改二通知があった日、司令官さんから聞いたのです。だからその日からずっとずっと楽しみで……」

雷「その時は、電が、秘書艦だったの?」

電「?秘書艦はイクちゃんだったような……」

雷「そう……なんだ……。私は、今日まで知らなかったわ……」

雷(今週はずっと、秘書艦として司令官の側にいたのに)

雷「……、……」

電「あ……」

瑞鳳(む……)

瑞鳳「あーあ、私先週秘書艦だったのに何も聞いてないんだけど?電ちゃん相変わらず贔屓されすぎー。これが正妻の特権かぁ」ウリウリ

電「はわわっ、そ、そんなんじゃ……」モジモジ

瑞鳳「お代官様。こやつめはくすぐりの刑に処するべきかと存じますが、いかが致しまする?」

雷「ふぇ?あ、わ、私?えっと……」

電「ご、ご慈悲を……なのでs」

瑞鳳「問答無用!秘義・格納庫をまさぐられる手つき再現術!」コチョコチョ

電「ふにゃあ!?あっ!ず、ずいほ……っさん!そこ、そこは、ひぅっ!?んにゃ、あ、んっ!」

雷「もー、2人して何してるのよ……」クスクス


瑞鳳「やりすぎましたごめんなさい……」

卯月「ごめんなさい……」

伊19「反省してるのね……」

雷「いや、最初は笑いながら見てた私も私なんだけど。でもさすがに」チラ

電「ひゅー……は、っん……あ……」ビクッビクン

雷「もう、こんなになるまでやるなんて。めっ!なんだからね!」

瑞鳳「はい……」

卯月「もうしないぴょん……」

雷「イクに至ってはくすぐりの域を超えてたし……」

伊19「イク式マッサージなのね!雷もどう?」ワキワキ

雷「ちぇすとぉ!」ドッ

伊19「お”ぅっ!?」

卯月(島風ちゃんかな?)

雷「電、立てる?」

電「あ……なんとか、なのです」

雷「良かった……。瑞鳳さんも卯月もイクも、罰としてパーティの飾り付けに協力すること!」

瑞鳳「はい……」

卯19「……ぱーてぃ?」キョトン

雷「そうだわ!早くみんなに声かけちゃわないと……。そういうことで、フタマルマルマルから執務室で始まるからね!それじゃあ!」ダッ

電「……」

瑞鳳「……」

卯19「???」

電「瑞鳳さん。ありがとう、なのです」

瑞鳳「ううん、寧ろ荒っぽいやり方でごめんね?卯月ちゃんとイクが乱入してきたのは完全に想定外だったわ」

電「あはは……」

卯月「ぴょん?」

瑞鳳「さて、じゃあ行きましょうか。飾りづけ、しなきゃだしね」

電「はい、電もご一緒するのです」

卯月「よくわからないんだけどぉ。うーちゃんも行くぴょん」

伊19「なんだか楽しそうなのね♪」

瑞鳳(あの人の性格からして、阿武隈の改二をギリギリまで内緒にしておきたい気持ちも分かるし、電ちゃんにだけは伝えたいって言う気持ちも分かるけれど)

瑞鳳(もう少し女心を分かってあげられたらなぁ。まったく、提督もまだまだなんだから)

フタマルマルマル 工廠裏

司令官「暁、響、雷、電、初雪、望月、川内、島風、夕立、瑞鳳、多摩、卯月、イク、阿武隈、木曾、夕雲、秋雲、朝雲、五月雨、長波、若葉、初霜、陽炎、潮、霰、曙、北上……よし、全員いるな」

夕立「小規模って言ってた割には結構たくさんいるっぽい。おかげで場所もお外になっちゃったし」

司令官「これでも大分紋ったんだぞ。なぁ雷」

雷「そうよ、大変だったんだから」

阿武隈「……というか」ジッ

北上「ん?」

阿武隈「なんで北上さんまでいるんですか!」

司令官「だってお前、いつも北上北上言ってるじゃないか」

阿武隈「提督知っててやってるでしょー!」

北上「まぁまぁ。諦めなよ、ね?」ニッコリ

阿武隈「ひぃっ!」

司令官「ほらほら、そこら辺にして。折角間宮さんが甘味所から出張して持ってきてくれた料理が冷めちゃうぞ。趣旨説明するから集まって」

若葉「趣旨説明も何も、阿武隈さんが改二になる記念の前祝いだろう?」

曙「勲章が足りなくて肝心な設計図が用意できてないって、ホントクソ提督らしいわよね」

司令官「うぐっ……そ、そんな話までもう広まっているのか」

潮「あ、あの……寝てる人や既に食べ始めてる人がいるんです、けど……」

司令官「え」

初雪「Zzz」

夕立「ぽひ?」モグモグ

司令官「……。よし、阿武隈!開会の一言!」

阿武隈「そ、そんないきなり振るの!?あ、えー、あーっと、えっと!」

阿武隈「み、みなさん!今日はこんな私のために、どうもありがとう!こ、これからもその、宜しくお願いしますっ!」ペコッ

パチパチパチパチ!! ワーワー!

雷「ふふっ。よかったわね、司令官!阿武隈さんも、みんなも嬉しそう!」

司令官「ああ。提案してくれた雷のおかげだよ、ありがとう」ナデナデ

雷「えへへっ♪当たり前よ、何たってこの雷様なんだから」

司令官「さすが、頼りになる子だよ雷は」クスクス

雷(ああ、良かった……。本当に、良かった)

雷(暖かい、大きな手。この手に撫でられることが、私にとって何よりの――)スリ…

マルマルマルマル 第六駆逐隊の部屋

暁「ただいまっ、暁のお布団!」ボフッ

響「帰ってきたね。お風呂も入ったし、後は布団を敷いて寝るだけだ」

暁「うーん、でも余韻が冷めないというか、もうちょっと起きていたい気分なのよね」

暁「ねぇねぇ、艦生ゲームでもしない?」

雷「あら、珍しいじゃない。いつもこの時間はぐっすりなのに」

暁「盛り上がったからかしら?今はとっても目がるんるん何だから!」

響雷電(それを言うなららんらん/なのです)

電「電は構わないのです」

響「ふむ……、私も付き合おうかな」

雷「仕方ないわねー。じゃあ、用意するから待ってて」



電「ろーく、なな……えーっと、……はわ!また赤ちゃん出来ちゃったのです」

雷「五人目かー。電は子沢山ね!」

響「一体どれだけ司令官と夜を共にしているんだい?」クスクス

電「ひっ、響ちゃん!もう!」カオマッカ

暁「……響、それ何杯目?」

響「なに、まだ一本開けたくらいさ。暁もどうだい?」

暁「あ、暁はまだこれが残ってるから遠慮しておくわ」チビチビ

電(梅酒初挑戦の暁ちゃんにウォッカを進める響ちゃんは鬼なのです……響鬼なのです……)

響「ん……お、やっと私もケッコンカッコカリマスだ。まさか改二マスより後になるとは思わなかったな」

暁「実際は、逆なのにね」

雷(ケッコンカッコカリ、か……)

雷(思えば、電を初め暁も響も、今はその証を身に付けている)

雷(私だけ、まだ……)

雷(司令官、私は、)

雷「ケッコン……出来るのかな……」ボソッ

響「雷?」

雷「はっ……あ、ううん!その……ぱ、パーティ、あの日以来だなって思って。ほら、電がケッコンしたとき、パーティ開いたじゃない?」

響「そう言えば、そうだったね。あの時は鎮守府総出だったから、色々とすごかったけれど」

暁「今となっては、懐かしいなぁ……。司令官がケッコン指輪を机の上に出しっぱなしにしたせいで騒動が起こったりもしたっけ」

電「本当なのです。司令官さんは、困ったさんなのです」クスクス

響「しかし、あの晩もこうして四人で盛り上がったけれど。あの時言った言葉は、本当になりそうだね」

雷「うん……?なんだっけ?」

響「ほら、雷が言ったんじゃないか。もしかしたら私達四人、全員が指輪を貰えるかもしれないって」

雷「あ……」

暁「そんな話、したかしら……」ウーン

響(暁はあの時、心ここにあらずって感じだったからな)

響「電が指輪を受け取った後、しばらくして暁が指輪を貰って。私は、ヴェールヌイへの改造前夜に、司令官から指輪を貰った」

暁「そう言えば雷、つい最近練度が98になったのよね?だとしたらもうすぐじゃない!」

雷「そっか……うん、そうよね。もうすぐ司令官から指輪も貰えて、きっと改二も立て続けに来たりなんかして!」

雷「ああもう司令官ったら……私が頼りになりすぎるからって、そんなことまで……」ポポポ

電(一体どんな想像をしているのでしょうか……)

響「分かるよ雷……信”頼”というのはとても素敵なことだからね」シミジミ

暁(片やくねくねして片や何か余韻に浸ってる……)

雷「よーし、そうと決まったら私も電に負けないくらいいっぱい司令官の赤ちゃん産むんだから!」ルーレットシャーッ

電「だ、だから紛らわしい言い方をしないで欲しいのですーっ!」><グルグル

マルヒトサンマル

暁「ん……」ウツラウツラ

雷「暁……?寝てる?」

暁「ふぁ……!ね、寝てないわ!寝てない……」ウツラ

響「まぁ、こうなるだろうとは思っていたけれどね。私もさすがに、眠い」フアァ

電「そろそろ、お開きなのです」

響「そうだね。お酒を冷蔵庫にしまって来ないと」

雷「それなら、私がしまってくるわ」

響「いいのかい?じゃあお言葉に甘えようかな」

電「その間に、布団を整えておくのと暁ちゃんの事はお任せ、なのです!」

雷「ええ、任せたわ。じゃあ、行ってくるわね」

響「スパスィーバ」

マルヒトヨンマル 鎮守府共有談話室

雷「よいしょ。これでOKね」

雷「それにしても、ここって誰もいないとこんなに暗くて不気味な場所なのね……冷蔵庫を閉めるのもはばかられるわ……」

雷「って、そんなことも言っていられないし。早く閉めて帰らなきゃ……」


??「暗いし、誰もいないみたい。電気付けるね」

雷「!」

パチッ

??「あれ、冷蔵庫が開けっ放し……もう、誰かしら」パタン

??「んー、でも見た感じ人はいないみたいだけれど……」

雷(何かうしろめたくてつい柱影に隠れちゃったわ……)

雷(あれは……司令官と、阿武隈さん?こんな夜ふけに、どうしたのかしら)

阿武隈「ごめんなさい、提督。こんな時間に……」

司令官「構わないさ。君達が悩んでいるなら、放ってはおけないし。それに、あまり人には聞かれたくない内容なんだろう?」

阿武隈「うん、まぁ……ね」

雷(相談事……?だとしたら、ここにいるのは無粋ね。足音を立てないようにして、あっちの出口から――)

阿武隈「雷ちゃんのこと、なんだけれど……」

雷「」ピクッ

司令官「雷か……」

阿武隈「きっと、提督も分かっていることだとは思うんだけど、ね。祝って貰っておきながらこんな事を言うのもあれなんだけど」

阿武隈「雷ちゃん……ちょっと、自分勝手なんじゃないかな、って」

雷(――え?)

阿武隈「あ、その。悪く言うつもりはないの。だから、もしそう聞こえたならごめんなさい。自分勝手というか、周りが見えていないって言うか」

阿武隈「今日だって……私のことを思って言ってくれてるのは分かるんだけど、思いつきで海域に出撃しようとか、パーティを開こうとか。提督も諫めていたけどさ、海域の攻略も備蓄とか負担を考えずの発言だったし、……パーティだって本来ならしない方が良かったんじゃないかなって」

司令官「……」

阿武隈「そりゃ、改二艦が出る度にこんなお祝いをしているなら良いけれど……実際はそうじゃないわけでしょう?ここにいる艦娘たちはみんないい人達だけれど……心のどこかでうらやむ人だって、出ちゃうと思うんだ」

阿武隈「雷ちゃん、昔からそういうところあるからさ……。良いと思ったことには周りが見えなくなって。……北上さんじゃないけど、あの子、あのままだとウザイって思われても、仕方ないというか……」

雷「」ズキッ

雷(何、それ……?私は、私はただ、)ジワ

司令官「阿武隈」

阿武隈「っあ……ごめんなさい、提督、今のは、その……自分でも、言い過ぎだとは思うわ……」

司令官「……」ハァ

司令官「まぁ……な。阿武隈が言いたい事も、分かるよ。阿武隈が雷の為を思って、こうして相談してくれていることも分かる」

司令官「……僕も、雷のことはずっと見てきたからさ。阿武隈が言ったことはもっともだと思う。それは否定しない」

雷(そ、そんな……そんな……)フルフル

司令官「事実、雷が秘書艦を務めるときなんかは彼女をそれとなく抑える事も心がけてきたわけだし……彼女は良く、頼ってくれと言うからな」

雷(いや……いやよ……)ツゥ

阿武隈「提督……」

司令官「今日のパーティは、僕もGOを出しちゃったからね。僕自身も後先考えられなかったり諫めるべき時に諫められなかったりと、まだまだそういった甘い部分があるわけだけど」

司令官「……ま。雷のそういうところは、電にも少し相談してみるとするよ」

雷(!え……どうして?どうし、てそこで、電の名前が、出て、)

司令官「電ならば――頼れるからね」クスッ

雷(――――)



電「あ、雷ちゃんおかえりなさい。暁ちゃんに加えて、響ちゃんも寝ちゃったのです」

雷(――あれ……私、いつの間に、部屋)

電「ずいぶん遅かったみたいだけど……どうしたのですか?何か、あったのですか?」

雷(電……?……ああ、電。電かぁ。電、電)

雷「まだ、起きていたんだ」

雷(布団の上に、ちょこんと正座して)

雷「もしかして、待っていてくれたの?」

雷(重いまぶたを、こすりながら)

電「なのです!雷ちゃんと、一諸に寝るのです!」

雷(ああ、そっか。電は出来た妹だもんね。きっとそういうところが、司令官にも頼りにされて……電は、私は……)

電「雷ちゃん……?」

雷「あ、ううん。ぼーっとしていたわ、ごめんねっ?私の頭も大分おねむみたい」フアァ

電「電も、きっと電気を消して横になったら、すぐにぐっすりなのです」

雷「ふふ、そうね。さ、明日もあるし寝ましょうか。電気、消すわね」

電「あっ……ちょっとだけ待って欲しいのです……、……」キュ

雷(指輪……そうだよね。電はいつも、寝るギリギリまで、指輪を嵌めているもんね)

電「よいしょ……」

雷「……もう大丈夫?」

電「あ、ごめんなさい、雷ちゃん。大丈夫なのです!」

雷「それじゃ、消すね?お休み、電」パチッ

電「うんっ。お休みなさい、なのです」

雷「よいしょ、私も……」ゴソゴソ

雷(……)

雷(電。私、ダメだ)

雷(暗くなると、静かになると、独りになると。司令官の顔と、あなたの顔がぐるぐるぐるぐる頭の中を回ってしまって)

雷(胸が、痛いの。とても、とてもいやな感情が沸き上がってくるの)

雷(司令官はどうして)

雷(電はどうして)

雷(私は、どうして……)

雷(例えば、今あなたの枕元にある小箱を蹴り飛ばしたら、盗んだら、捨てたらどうなる?)

雷(そういうことを考えるとね、なぜだか胸がすっとするのよ)

雷(そういうことばかりをね、考えてしまうの)

雷(電。ともすれば私は、あなたを……)

雷(……いやだ……そんなの、いやだ。私は、電が)ギュッ

電「ん……雷ちゃん?」

雷「……、……大好きよ、電」

電「はわっ!い、雷ちゃん?」

雷「ねぇ、今日は1つのお布団で寝ましょ?大好きな妹と、くっついて寝たい気分なの」

電「はわわっ、あう、う……」プシュー

雷「ふふっ……」ナデナデ

電「い……電も、大好きなのです……お姉ちゃん」ニコ…ッ

雷(……ああ、そうだ。やっぱり、さっきのはなにかの間違い。だって、今私の胸はこんなにも温かい)

雷(電はずっとずっと、大切で、可愛い、大好きな、私の――)

雷「――私の方が、大好きなんだから」

3日後 
ヒトマルマルマル 執務室

山城「失礼致します」カチャ

瑞鳳「あ、来た来た」

司令官「よし、これで4人集まったね」

電「山城さん、おはようございます、なのです!」

雷「おはようございますっ、山城さん」

山城「ええ、おはよう。……この4人ということは、なるほど……」

司令官「まぁ大体察しは付いているかと思うが。取りあえず今から、出撃する海域と航行序列、装備に関して説明するから」

瑞鳳「了解ですっ」


司令官「――で、ここからは基本的にいつも通り単横陣で……」

雷「……」

電(あの日から、雷ちゃんはどことなく、おかしい)

電(いつも通りに振る舞っているように見えて、けれど、いつも以上に張り切って、頑張って)

電(……時たま、気が付くとぼーっとしているのです)

電(雷ちゃん……)

司令官「電、聞いているか?」

電「はわっ!あ、そ、その」

電「すみません……聞いていなかったのです……」

司令官「……電。作戦会議中は、集中しないといけないよ?己れの身、仲間の身を守るためにも……まぁ、君に対しては今更かも知れないけれど」

電「はい……」

司令官「それか、どこか具合でも悪いか?」

電「い、いえ!電は、大丈夫なのです」

司令官「そうか……なら良いんだが。じゃあ、もう一度作戦説明を」

雷「司令官!電には私が説明するわ。今から艤装の準備にも取りかからないといけないし、道すがらに、ね?」

司令官「ん……分かった、じゃあそこは雷に任せよう」

雷「ありがとう、司令官。電、行きましょう?」

電「あ、は、はいなのです!」

司令官「……」

山城「……提督、最近の雷ちゃんの様子だけれど」

司令官「ああ……そうだね、分かってる。明日は休みだし……そこでゆっくりと話を聞いてみようと思う」

司令官「だから今日一日、出撃の時は頼んだよ。山城、瑞鳳」

山城「そうね……任せて下さい」

瑞鳳「雷ちゃん……」

鎮守府 廊下

電「つまり、私達4人での鎮守府近海対潜哨戒ですね?」

雷「ええ、そうよ。月が変わったから、早速阿武隈さんのための勲章を取るためにね。私が旗艦で、装備や陣形はいつもと同じ。まぁ、熟れたものよね」

電「そう、ですね」

雷(……)

雷「……それにしたって、電。ダメじゃない、司令官の話の最中にぼーっとしちゃ」

電「あ、ごめんなさい……あのときは、その……」

電「……ちょっと、考え事をしていて……」

雷「……そう」

雷「余裕があるのね、電には」

電「えっ……?」

雷「……、……ううん。なんでもないわ、ごめんね?さっ、張り切って出撃するわよ!」

電「な、なのです!」

鎮守府近海 

雷「これで終わり、っと!」

電「敵潜水艦隊C群の殲滅を確認、なのです!」

雷「ふふん。この雷様に敵うとでも思ってるのかしら。ねぇ?司令官。……あれ?聞いてる?」

司令官【聞いてる聞いてる。順調みたいだね、さすがだよ】ザザッ

瑞鳳「初めこそどうかな、って思ったけれど……」

山城「ちゃんと攻撃も捌けているし、普段と変わらず順調みたい」ホッ

司令官【いよいよ深部だな……各員、警戒を怠らず慎重に進め】

雷「ソナーに感有り……来るわね、どこから……」

電「敵影見ゆ!方角はヒトマルマルマルなのです!」

瑞鳳「雷撃、来るわよ!構えて!」

雷「そんな攻撃……っ!当たらないわよ!」

山城「カ号展開、いつでも行けるわ」

雷「よし、全発躱したわ、攻撃に転じ――」

電「!雷ちゃん!もう一射線残っているのです!」

雷「っえ……」

ドオォ…ン

電瑞鳳山城「雷ちゃん!」

雷「っ、は……なによ、もう……っ!雷は、大丈夫なんだからっ……」

雷(そう、そうよ……まだ、中破、まだいける……!)

山城「くっ……敵の再装填を許さないで!撃滅に専念をっ」バッ

瑞鳳「スツーカ、お願い!」パシュン

雷「はぁ……はぁ……」

雷(爆雷を、投射しなくちゃ……ソナーで、探知を……)

雷(っ……さっきの衝撃で、艤装が……位置をうまく、感じ取れない)

山城「まずいわ、思った程攻撃が通っていない……」

ヨ級「オオオオォォ……」

瑞鳳「!あいつ……まさか、逃げるつもり?」

電「何とか、爆雷を……!」バシュッ

カ級「グゥッオォォ」ドォン

山城「庇われたわね……不幸だわ……」

雷(私が、私が何とかしないと……)

雷「っ……てー!」バシュ

ヨ級「グウウゥゥッ!」ドォン

瑞鳳「やった!」

山城「いえ……直撃じゃない、爆風に飲み込まれただけだわ」

電「敵艦隊の、反応消失……海深くに、逃げ込んだみたいなのです……」

瑞鳳「これ以上は、無理ね……。帰投しましょう、雷ちゃん。司令官が近くまで来てるだろうから……」

雷「……ええ……」

鎮守府近海 船上

司令官「みんな、お疲れ様。後は母港に着くまで、ゆっくりしてくれ」

司令官「雷もお疲れ様。痛くないか?」ナデナデ

雷「……司令官……」

司令官「うん?どうした、雷」ナデ

雷「私……ごめんなさい、私が中破しなければ、ちゃんと当てられたのに……」

司令官「……なに、気に病むな。こんなの、良くあることだからね」

司令官「むしろその状態であそこまで追い詰めたんだ。充分、偉いよ」ナデナデ

雷「……私、頑張るわ。頑張るから、お願い、司令官。次も、私に任せて?帰って、入渠が終わったら、また出撃させて……」

司令官「……ああ。頼りにしてるよ」

雷「うん……、えへへ。よーし、いつまでもくよくよしていられないわ!司令官分を補充して、元気になっちゃったんだから!」

司令官「おっ、それでこそ雷だ。もっともっと補充させてやるっ」ギューッ

雷「きゃーきゃー!」

山城(このロリコンセクハラ提督は本当に全く……)

司令官「ん、山城も補充するか?」

山城「ああ提督、姉様ならいざしれず。今日は血の雨が降るかも知れませんね」ニコリ

司令官「お、おう。スマナカッタ」

雷「あははっ……」

電「…………」

鎮守府近海 再出撃

山城「あのカ級エリート……毎回思うけれど、ほんっとう良く当ててくるわよね……」小破

山城「はぁ……不幸だわ……」

雷「まぁまぁ、でもこうして敵潜水艦隊B群も危なげなく倒せたんだから、結果オーライじゃない?」

山城「そうね……小破ならまだ、カ号運用にもさほど問題はないし」

雷「そうよ。それに、私がいるじゃない!ソナーと爆雷で、今度こそ華麗にやっつけちゃうんだから!」エヘン

山城(いつの間にか、気遣うはずが元気づけられている……)

瑞鳳「ふふっ……雷ちゃん、さすがね」

電「はいっ。電の、自慢のお姉ちゃんなのです」

電「自慢のお姉ちゃん、だから……」

瑞鳳「……?いなづ――」ザッ

瑞鳳(!三式指揮連絡機からのイメージが……敵潜水艦隊!?)

瑞鳳「敵潜水艦隊C群、接近!みんな、気をつけて!」

雷「なっ、ソナー!探知に集中!」

電「っ!も、もうすぐ近くまで!」

瑞鳳(まずった……先入観からまだ危険域に踏み込んでないとばかり……この距離だと、もう、)

山城「きゃあっ!?」ドォン

瑞鳳「山城さん!」

山城「やだ、魚雷……?各艦、注意して!まだ敵の攻撃は――」

ドオォン!

雷「っあ!どこから……」ハッ

雷(そんな、2本も目の前――)

雷「きゃあああぁぁ!」ドオォ・・・ンッッ

電「雷ちゃん!雷ちゃあん!!」

瑞鳳「はぁ……はぁ……なんとか、敵潜水艦隊C群の沈黙を確認……確認、したけれど……」

雷「っは、は……ぁ……」大破

電「雷ちゃん……」

雷「大丈夫……大丈夫よ、電……自分で、報告するから……」

雷「っ……司令官……状況を、報告するね」ザザッ

司令官【雷……】

雷「えへへ……声、聞こえてたでしょ……ごめんなさい、大破、しちゃったわ……」

司令官【ああ……。山城は、中破か?】

山城「ええ、そうよ……またドッグ入りなのね……」ハァ

司令官【そうだね……。雷、山城、すぐ回収しに行くから。電、瑞鳳、2人を頼むな】

雷「司令官……私……」

司令官【いいんだ、雷……気に病むな。……な?】

雷「……うん……」

鎮守府 入渠施設

山城「じゃあ、雷ちゃん。先に出ているわね?と言っても、雷ちゃんも高速修復材ですぐに出てくるとは思うけれど」

雷「ええ……分かったわ。すぐに追いかけるから……」

山城「……無理はしちゃダメよ。ゆっくり入りたければ、それも良いと思うから……」

雷「大丈夫だってば!……ごめんなさい、ありがとう山城さん」

山城「……、ええ」

雷「……、……」

雷(ダメだ)

雷(こんなんじゃ、ダメだ)バシャッ

雷「頑張らなくちゃ……」

雷(司令官が、見てるのに)

雷「頑張らなくちゃ……」

雷(秘書艦、なのに)

雷「頑張らなくちゃ……」

雷(頼りにしてると、言われたのに)

雷「頑張らなくちゃ……」


雷「私は」

鎮守府近海

カ級「オオオォォオ!」

雷「頑張らなくちゃ……!」ダッ

雷(負けない、お前らなんかに!)

雷「私は!」

雷(負けない、自分自身に!)

雷「私はぁ!」

雷(負けない、負けない、負けない、負けな――)チラッ




負けたくないって、悔しいって、羨ましいって、怨めしいって。




電「――!」




咄嗟に、誰を見たの?






雷(あ――)グラッ…

雷「痛、ッ!」

雷(なんで、こんな時に脚が、もつれ――)

電「――!――!!」

鎮守府 入渠施設

雷(――――)

雷(あれ、私)

雷(なにをしているんだろう)

鎮守府近海

瑞鳳「――!」

雷(そう、難しいことなんか何もないわ)

雷(ただ敵の雷撃を避けて、ただ爆雷を当てれば良いだけ)

雷(とっても簡単なことなの)

鎮守府 入渠施設

雷(それだけで、司令官が褒めてくれる)

雷(司令官が、頼ってくれる)

雷(司令官のために、私がして上げられること)

鎮守府近海

山城「――!!」

雷(司令官のために、私だけがして上げられること)

雷(ねぇ、司令官?だって、そうでしょう?)

雷(雷、司令官のためにもっともっと頑張るわ)

鎮守府 入渠施設

雷(何回だって出撃して、華麗に敵を仕留めて)

雷(必ず、勲章は私が、手に入れるから)

雷(他の誰でもない、私が)

鎮守府 執務室前廊下

雷(だから司令官)

雷(もっと、もっと私に頼って良いのよ?)

雷(ほら、雷は大丈夫なんだから)

雷(この扉を開けて、中に入って)

雷(もう一度、出撃司令をかけて?)

雷(ほら、私がいるから)

雷(そうよ。司令官)

雷(私がいるじゃない!)スッ








司令官「明日からの秘書艦は、電に変えるさ」



雷(私、が――)

山城「なら、いいんですけど……」

司令官「まぁ……これだけ初戦で連続大破撤退がかさんでいるわけだし……雷は限界だろう」

――痛い――

瑞鳳「端から見ていても、雷ちゃん……もう戦えるような状態じゃなかったわ。最初こそ、いつも通りかとも思ったけれど……」

司令官「今日の出撃も、もう打ち止めにしよう」

――痛い――

瑞鳳「あーあ。今日中に勲章、取れると思ったんだけど」

――胸、が――

司令官「もうすぐ日も暮れるし……何より今の雷に任せるわけにもいかないからな」

雷(――、――あ)フラッ

雷(も……私……ここに、いられない――)フラ、フラ…

瑞鳳「そうよね。勲章なんかより、雷ちゃんの体調が一番!」

司令官「丁度明日が週の変わり目で、鎮守府休みの日で良かったよ。雷、少しでも休めると良いんだが……」

山城「そのためにも、来週の秘書艦である電ちゃんには頑張って貰わないと。ですね?」

司令官「ああ。明日はゆっくり、雷の話を聞いてやりたいし。執務室の方は電に任せようと思う」

瑞鳳「雷ちゃん、早く元気になると良いな……」

司令官「そうだな。いや、なって貰わなきゃ困る!」

山城「元気な雷ちゃんに、言わなきゃいけないことも。出来ましたしね」

司令官「ああ、そうだよ!本当、今日は2人ともありがとうな?おかげで、やっと――」

司令官(そう、やっとだ。雷……)

鎮守府 波止場 灯台最上階

雷「……何、やってるんだろう……私……」

雷(気付けば、鎮守府内を全力で走っていて。気付けば、こんな場所まで上って来て)

雷「何だったんだろう……私がしてきたことは」

雷(どうして、あんなに頑張ろうとしたのか。なんのために、必死に戦ってきたのか)

雷(なぜ、私に任せて欲しかったのか。誰に、頼りにされたかったのか)

雷(自分が、どうしたいのか。ただ胸ばかりが苦しくて)

雷(もう……何もかも分からない。分からないわ……司令官)





ただ一つだけ。はっきりと分かることは

雷「あ……」

雷(日が、沈んでゆく)

雷(すぐ真下は荒い波が打ち付けているのに、遠くの方は本当、穏やかに見える)

雷(沖合の水面にキラキラと反射する光はとても、とても幻想的で。まるで、誘われているみたいに)

雷「綺麗……」

雷(ここから落ちて、あの海の中に今。太陽と一諸に沈んだら、どうなるのかしら)

雷(こんな思いも、洗い流されて、黒く塗りつぶされて)

雷(楽に、なれるかな)




電「何を、しているのですか……雷ちゃん」

雷(ああ)

雷(今、一番、会いたくなかったのに)

雷「電……」





彼女への、羨望と嫉妬

雷「電こそ、こんな所に何をしに来たの?」

電「電は、雷ちゃんを探していたのです」

雷「何で?」

電「えっ……その……雷ちゃん、お風呂にももういなくて、執務室にも来ていないって言うから心配で……」

雷「そっか。それならもう、大丈夫よ。見ての通り、ちゃんと修復だって済んでいるし、特におかしいところもないわ」

電「本当に……?」

雷「本当だって。ほら、どこも変わってないでしょう?」ヒラリ

電「でも……でも、雷ちゃん最近、ずっと……」

雷「……電」

電「いつもの、雷ちゃんらしくなくて……」

雷「電」

電「いつもの雷ちゃんみたいに振る舞っているのに、どこか、辛そうでっ……」

雷「電、やめて」

電「雷ちゃん、何があったのですか……?電に出来ることがあればなんだってするのです!だから……」

雷「いい加減にしてよ!やめてって、言ってるじゃない!!」

電「やめないのです!」

雷「っ!?」ビクッ

電「やめないのです、絶対に。雷ちゃんが辛そうにしているのに、それを見過ごすなんて、絶対!」

雷「……なんで……」

電「……だから雷ちゃん、お願い。電に頼って欲しいのです……電は、……こんな妹だけど、雷ちゃんを助けたいのです……」ギュウ

雷「なんで、よ……いつもおどおどして……弱気で……優しいだけのあなただったのに……」

雷「どうして、いつの間に……そんなに強くなってるのよ……」ポロポロ

電「雷ちゃん……」ナデナデ


雷「電……私、今から酷いこと、言うわよ……?あなたにとって、とっても……」

電「いいよ……聞かせてください。雷ちゃん……」

雷「……、……私、ずっと、ずっと悔しかった……悲しかった……」

雷「知ってる?いつもね、何をするにしても、何をされるにしても、私は最後だったの」

雷「暁がいて、響がいて。私はいつも、その後だった」

雷「だからね、電。私は、あなたが許せなかった」

雷「だって、そうでしょう?あなたは末っ子なのに初期艦で、誰よりも長く司令官と一諸にいて。誰よりも、誰よりも司令官に優遇されて」

雷「だからね。私はずっと、最後尾。航行序列も、装備を渡される順も、練度だって……」

雷「私がどれだけ頑張ろうと、どれだけ頑張ろうと、司令官の想いは、信頼は、全ては、あなたに向けられて」

雷「電が全てを持っていってしまうの。目に見える証も見えない証も、司令官から与えられる勲章は全て、電が持って行ってしまう」

雷「その指輪が、最たる例……よね」

雷「ふふ、私ね?知ってるんだ。司令官が電に渡した指輪と、暁や響にあげた指輪とは全く意味が違うんだって」

電「……、……」

雷「……電がここで、『そんなことないのです』って否定しないことが全てを物語っているわよね」

雷「私が初期艦として選ばれたかった、なんて言わないわ。けれどね、あなたが初期艦じゃなければ、って。そんな想いは何回したのか、数え切れない」

雷「もし仮に暁が初期艦だったなら、暁が司令官の一番だったなら、きっとこんな想いはしなかった」

雷「電。あなたが憎いわ」

雷「司令官に愛されるあなたが、大切そうに指輪を扱うあなたが、他者を思いやるあなたが、ひたむきに頑張るあなたが、お利口さんなあなたが、優しくて可愛いあなたが、大切な妹であるあなたが、狂おしいほど愛おしいあなたが」

雷「――――」

だいっきらい

電「……、雷ちゃん……」

雷「っ……あはは、あーあ。全部、出しちゃったなぁ」

雷「最低なお姉ちゃんね……妹って理由だけで、私はずっとあなたをどこかで下であるべきなんて見ていた。だから羨んでいた」

雷「……せめて、頼れるお姉ちゃんではいたかったのに。ずっと、抑えてきたのに……消そうと頑張ってきたのに」

雷「結局……結局、私は……」ポロポロ

電「雷ちゃん……」ギュウ

電「違うよ、雷ちゃん……。雷ちゃんは、大切で、大好きで。とっても頼れる、自慢のお姉ちゃんなのです」

電「それは、変わらないのです。ずっと、ずっと……」

雷「電……」

電「電は嬉しいのです。こうして、雷ちゃんが我慢せず吐き出してくれて」

電「少しでも……雷ちゃんが楽になれるのなら、私は」ナデナデ

雷(……ああ)

雷(電の胸に泣きついて、頭まで撫でられて……)


結局。最後の最後、本心じゃない言葉なんて、言うことが出来なかった


雷(だって、仕方ないじゃない。こんなにも、大切なのに、大好きなのに、)



それだけの、勢いもなかった

電「だからね、雷ちゃん」

電「思い出して欲しいのです。雷ちゃんが、なんのために頑張ってきたのか」

雷(思い、出す……?電、何を)

雷(私は司令官のために、ただ司令官のために……司令官に頼られたくて――)

雷(――あれ?)



さっきまでは。

雷(どうして、そんなことを言うの?)

雷(電も知っているはずでしょう?知っていてどうしてそんな、)

雷(それが苦しいのに、辛いのに、どうしてまた認識させようとするの?)

雷(私が手に入れられない勲章を見せつけて、何が楽しいの?)

電「雷ちゃん……?」ナデ

雷(電の胸に顔を埋めて、頭を撫でられて)

雷(諭されるような言葉を吐かれて、笑顔で見下ろされて)

雷(やめてよ……やめてよ、こんなの、とっても惨めで。こんなの、こんなの――)

雷「違う……」

電「えっ……?」

雷「私の場所はここじゃない……」

電「いかず――」

雷「そこはあなたが居ていい位置じゃないっ!!」ドンッ



勢いに任せて出てしまった手だって、決して本心じゃあなかった筈なのに

電「――――」

雷「……いな、づま?」

妹を拒絶し伸ばした手の先で、こちらに手を伸ばす彼女の表情は

雷「う、そ……嘘よ、待って……!嘘、嘘ウソうそ!」ダッ

灯台の上から落ちて行く




雷「はあっ、はっ!」

雷(こんな階段!早く、もっと、もっと早く降りなくちゃ……!)

雷「電……電……!」

雷(電が落ちたのは海側、大丈夫、大丈夫よ!)

雷「もし、落ちたのが反対側だったなら……」ゾクッ

雷(電……私、私!)

鎮守府 波止場

雷「電!」

雷(いない……まだ上がってきていないの?まさか、波にさらわれたりなんか……)

雷「確か――こっち!」バッ

電「ぁ……はぁ、はぁ……」

雷「ああっ、電!」

雷(良かった、見つけた!けれど波に揉まれて、今にも。それにこの高さじゃ、上がるのも……)

雷「何か、何か……」ハッ

雷「電!この錨に掴まって!」ジャラッ

電「っ……雷、ちゃ……」グッ

雷「はぁー……はぁ……」

雷(何とか、何とか引き上げられた)

雷(電は……)

電「は、はっ……あ……」ゼェゼェ

雷(電……髪が、解けて……。バレッタが、どこかへ行っちゃったのね……)

雷(四つん這いで呼吸を整える彼女の表情は、長い髪が垂れて見えないけれど……)

雷(電の、表情。さっき、落ちる間際で見せた、彼女の――)

電「っあ……」

雷「」ビクッ

雷(上がる。電の頭が、身体が。電の表情が、見)

雷「いや……いやよ……」

雷(見れない。見たくない。見たくない!)ダッ

電「待っ――」

雷(電と顔を合わせられない。電の顔を見たくない。今は誰にも会いたくない。どこかへ消えてしまいたい。どこかへ――)

電「――――」

フタサンマルマル 第六駆逐隊の部屋

「やぁ、おかえり電。長かったね」

「――――」

「雷?ああ……うん。変わらないよ。あのままだ」

「全く、早寝早起きは良いけど私と響が帰ってきたときにはもう寝てるなんて。あの時まだヒトナナマルマルだったのよ」

「まぁ、それだけ疲れていたんだろうさ。少なくとも、執務中にお昼寝しちゃうよりはよっぽど良いしね」

「――――」

「え、どうしてそこで2人とも暁を見るのよ。失礼しちゃうわ!」カスンプ

「――――」

「もー。でも、そうね。電の言うとおり、電気消してもう寝ましょうか」

「雷も、頭まですっぽり布団を被って寝てるくらいだからね。きっと眩しかったんだろう」

「じゃあ、電気消すわよー。いい?」

「ああ。スパコーィナイ、ノーチ」

「――――」

「ええ、2人ともおやすみなさい」パチッ



雷(……、……)

雷(やっと、電気が消えた。けれど、みんなまだ眠りについていないだろうから、顔は出せない)

雷(結局、あの後どこに行けばいいかも分からなくて。きっと、私が身を隠したら3人が騒いで司令官にも話がいって)

雷(もっと、もっと惨めなことになるから。ここに戻るしかなかった)

雷(だけど、それでも。みんなの顔は見たくないから。電の顔が見れないから)

雷(せめて早く寝ようと、布団の中に潜ったのに)

雷(眠れない。どうあがいても、眠れない)

雷(だって、静かな場所ではどうしても胸がざわめいてしまって)

雷(目を閉じると、暗闇に浮かんでくるものは)

電『――――』

雷「っ!」

雷(離れない)

雷(あの電の表情が、脳裏に焼き付いて離れない)

雷(私が突き飛ばした電が、宙を舞う電が見せたあの、)

雷(あの――)

勢いに任せて出てしまった手だって、決して本心じゃあなかった筈なのに

電『――――』

雷『……いな、づま?』

妹を拒絶し伸ばした手の先で、こちらに手を伸ばす彼女の表情は




雷(どこまでも無垢だった)

何が起きたのか分からない様子で
ただ真っすぐにこちらを見詰めて
危機感も驚きも生まれていないはずなのに
姉にすがるように、頼るように
無意識に伸ばされた妹の手
ただ姉との距離を求める幼い表情



雷(見たくない)

妹との差を見せつけられるようで

雷(見たくない)

自分の不甲斐なさが心を締め付けるようで

雷(見たくない)

こんな自分の罪を、彼女は許してくれそうで



雷(……疲れたわ。目を閉じても、目を閉じなくても眠れない)

雷(けれど、それももう少しの辛抱。きっと、そのうち疲れ切って寝ちゃうから)

雷(それまでの、辛抱なの……)

雷(司令官……)

???????? 第六駆逐隊の部屋

時計の針が、時を刻む音が、耳障りだ。
布団を頭まで覆うように被って、嗚呼、暑いのに、暑いのに。
起きているのか、寝ているのか、微睡みの中で意識がはっきりとしない。

苦しい。

息苦しいのか、寝苦しいのか、暑苦しいのか。
ただただ、苦しい。
――何が、苦しいのだろう?何が――

パフェ。あんなに楽しみだったのにな。
阿武隈さんの改二、どうして教えてくれなかったのかな。
パーティを開いたのは、結局間違いだったのかな。
みんなで遊んでいても私だけ、指輪を嵌めていなかったっけ。
何度だって張り切って、何度だって出撃して。
司令官は、私のことを。どう思っているのかな。
私と電は頼もしさの塊だって。

雷(どうして、どうして、どうして、)

結局、食べる時間だってあった訳なのに。
電には、話していたのに。
少しでも、みんなの笑顔が見たくて。
私だって、早くみんなみたいに指輪が欲しいのに。
何度も何度も大破撤退を繰り返して。
司令官は、私のことを。どう思っているのかな。
そこに何ら差は無いって。

雷(くるしい、くるしい、くるしい、)

司令官に、頼りにされたかったから。
もっと頼られていたら、話してくれていたに違いない。
少しでも、頼りになる自分を魅せたくて。
指輪の順番が、優先順位を示しているから。
秘書艦として頑張らなくちゃって、そこに阿武隈さんの事は二の次だった。
司令官は、私のことを――

雷(わたしは、わたしは、わたしはっ、)

司令官『悪いな、雷。もう、君に秘書艦は任せられないよ』

司令官『正直さ。頼ってくれって、そんな君に合わせるのももう疲れたんだ』

司令官『ありがた迷惑……いや。ただの迷惑なんだよね。君の行動、言動、全て全て』


電『ふふっ、かわいそうな雷ちゃん』

電『司令官さんに見捨てられてしまったのですね?でも、安心して下さい』

電『電が立派に、秘書艦を務めるのです』

電『電がずっと、司令官さんの側にいるのです』

司令官『ああ。そうだね、だって』



司令官『電ならば――頼れるからね』




雷(あ――――)

雷(――そっか。わたしは、たよりないんだ)

だから自分を押し殺す
だから教えて貰えない
だから頼られたくて先走る
だから私だけ練度が低い
だから秘書を外される
だから司令官は私のことを

電とは、埋めようのない絆の差があるから。

雷(あれ……おかしいな)ツゥ

雷(秘書艦ってこんなに、辛かったっけ)ポロポロ

だから電に八つ当たる

だから私は電を

雷(電を……?)

電を

雷(だいすきな、)

電を

雷(たいせつな、)

電を



突き落とした





雷「ぁ――――」プツ、ン

突然すみません、ちょっとお仕事行ってきます。
続きはまた夜に……ノシ

遅くなりましたがただ今戻りました……。
再開します。


亀ですが皆さんレスありがとうございます、心置きなく投下させていただきます。

マルヨンゴーマル 第六駆逐隊の部屋

雷「――は」

雷「いま、なんじ、だっけ」

雷(身体が重い……意識がぼんやりする……)ゴソゴソ

雷(寝ていたのか、起きていたのか。どんな夢を見ていたのか……良く、分からないわ)

雷(頭が痛い)

雷「……あ」

雷(こんな時間……。行かなくちゃ……)フラ・・・フラ

雷(マルゴーマルマルに司令官を起こして……総員起こしをかけて、朝ご飯を作って……)キィ

雷(取りあえず、着替えている時間なんてないわ……)パタン

電「……」ムク

マルゴーマルマル 司令官の部屋

雷「司令官……司令官、朝よ?起きて?」ユサ…

司令官「ん……ぅぅ……」

雷「もう……仕方ないわね、司令官ったら……」ゴソゴソ

雷「私がいないと、ホントだめだめなんだから……」ナデナデ

司令官「ふぁ……あれ……いかずち……?」

雷「お寝坊さん、朝よ?ほら、起きて……?」ニコ・・・

雷「それとも、まだ少しこうしていたい……?」ナデナデ

司令官「んー……もうちょっと、寝かせてくれよ……」ムニャ

司令官「今日は、折角の休みなんだし……そもそも雷は秘書艦じゃないだろう……」ゴロン


雷「ッ――」ピタリ

雷「あ」

雷「ああ、あ?あ、あ、」





雷「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

司令官「っ!?い、雷?」ガバッ

雷「わ、わたっ、わたし……!ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」ギュ

司令官「お、おい、どうし」

雷「お、お願い、お願いだからっ……わたし、きょ、今日が休みって忘れていて……!ごめんなさい司令官ごめんなさい、ごめんなさい!」ギュウゥ

司令官「な、そ、そんなことくらいでそんなにも謝らなくても……」

雷「ごべんなさい……っおねがい、だからぁ!みずっ、みすてないで……っ、しれいか、わたし、わだじをっ見……ひとりっ、に……しないで……」ボロボロ

司令官「落ち着け、雷!お前を見捨てるわけないだろ!僕はここにいる、ここにいるから」

雷「しれいかん……しれいかん……」グスグス

雷「すぅ……すぅ……」

司令官「寝ちゃったか……」

司令官(よく見たら、目の下にクマが出来ている。昨夜は、寝れなかったのか?)

電「失礼します、司令官さん……」キィ

司令官「電か……」

電「朝早くに、ごめんなさい。……雷ちゃんは……」

司令官「見ての通りだよ。僕にくっついたまま、眠ってる」

電「雷ちゃん……」

司令官「電。雷のこと、何か知ってるか?最近様子がおかしいとは思っていたけれど……今朝はその比じゃない」

電「雷ちゃんは……。……、実は、この間の夜――」



司令官「……そっか。飲み物を返して帰ってきてから、そんな様子だったのか」

電「はい……」

司令官「……昨日はどうだったんだ?最後の出撃の後、雷の姿は見ていないんだが……。一応、君達の部屋にいたことは聞いているけど」

電「昨日は……。……、……ごめんなさい……司令官……」

司令官「……、……分かった。取りあえず、電。まずは雷が起きるまで待って、様子を見てみるよ」

司令官「その上で……今日は一日、雷には秘書艦として側にいて貰おうと思う。電には悪いが……」

電「」フルフル

電「司令官。今日の秘書艦電は、夜更かしをしたせいで盛大に寝坊して。挙げ句の果てには秘書艦初日をすっぽかしてしまうのです」

司令官「そっか。悪い子なんだな、電は。……ありがとう」

電「ふふっ。悪い子電は今日はおサボりフリーなので、何かあれば遠慮なく使ってください」

司令官「ああ、そうさせて貰うよ。ま……取りあえずは朝も早い、部屋に戻ってゆっくり寝坊してきなさい」

電「はい、なのです。……雷ちゃんを、宜しくお願いします。司令官」ペコリ

司令官「任せとけ」

司令官(電の話を聞く限りじゃ、雷はあの日、夜中に談話室に来ていたんだな)

司令官(きっとそこで、阿武隈との会話を聞いてしまったのだろう。それで)

司令官(いや、それだけじゃないか)

司令官「お前は、頑張り屋さんだもんな」ナデ

雷「ん……」

司令官(昨日も、電と何かあったんだろうな……でなけりゃ……)

司令官「ごめんな、僕も配慮が足りなかった。色々、ため込んじゃってたんだね……・」ナデナデ

雷「しれいかん……もっと……もっ、と……」スヤ

マルハチサンマル 司令官の部屋

司令官「ん……ん?」

司令官「あれ……雷は……」

雷「あっ、おはよう司令官。ごめんね、まだもう少しかかりそうだから、着替えて顔を洗ってきてくれるかしら」

司令官「あ……」

雷「?どうしたの、司令官」

司令官「あ、い、いや。分かった、行ってくるよ」

洗面所

司令官(うーん、さっきの雷は別段、普段と変わらない様子だった)シャコシャコ

司令官(無理をしている風にも見えなかったが……逆に不安だな)

司令官(取り敢えずは様子見……かな)シャカシャカ



雷「じゃーん!いっぱい食べてね、司令官」

司令官「おっ。今日は洋風なのか、珍しいね」ドッコイセ

司令官「と思いきや……味噌汁があるな。和洋折衷ってやつか」

雷「やっぱり、トーストにおみおつけは嫌だったかしら?」

司令官「バカ言え、味噌汁はあるだけで幸せだからな。何より、雷の味噌汁だから嫌なんて事絶対ないぞ」

雷「良かった、これからももっともーっと私に味噌汁、作らせてね!」

司令官「おー。宜しく頼むよ」

雷「はーい♪それじゃあ、いただきまーす!」

司令官「ん、いただきます」ズズッ

司令官(……)モグモグ

マルキュウマルマル 執務室

雷「~♪」パタパタ

司令官「いやぁ、週一回の掃除じゃやっぱ埃はたまるもんだな」パタパタ

雷「司令官、こっちのハタキがけは終わったわ!」

司令官「さっすが、早いな。しかも超綺麗じゃないか!」ナデナデ

雷「えへへっ。当たり前よ、私を誰だと思ってるの?」フンス

司令官(無い胸張っちゃって……愛らしいなぁ)ナデナデ

雷「む、司令官今何か失礼なこと思わなかった?」

司令官「ソンナコトナイヨ」

雷「本当かしら、もう」

雷「いいわ、司令官。私次は窓ふきするね」

司令官「おっけ。脚立から落ちないようにだけ気をつけるんだぞー」

雷「はーい!よいしょ、よいしょ」

司令官「……」パタパタ

司令官(元気すぎる)

司令官(昨日までの違和感が嘘のように、以前のままの彼女だ)

司令官(まるで、何もなかったかのように)

雷「~♪」フキフキ

司令官(……)

司令官(正直なところ。逆に、元気がない方が話は聞きやすい)

司令官(元気なのは良いことだと思うし、本当に元気ならばこのまま触らないでおくのもありだとは思うんだけど……)

司令官(けれど。今朝の、雷は)



雷『みすてないで……っ、しれいか、わたし、わだじをっ見……ひとりっ、に……しないで……』



司令官(そうだ)

司令官(雷は苦しんでいるんだ。それを見過ごすなんて、放っておくなんて僕には出来ない)

司令官「なぁ、雷」

雷「?なぁに、司令官」

司令官「窓ふきが終わったらさ、少し休憩取ってお茶にしよう」

雷「分かったわ!じゃあ、頑張らなくっちゃね」ニコッ

司令官「ああ、そうだね」

司令官(その笑顔が、心からの笑顔に戻ったなら。その時は、君に)

ドンドンッ

司雷「」ビクッ

雷「な、なに?今の」

司令官「執務室のドアを誰かがノック、したのか……?」

司令官(にしては乱暴な、)

扉バァンッ!!

司雷「」ビクゥッ

大井「うふふ、提督。おはようございます」

司令官「お、大井?お、おはよう」

大井「うふふふふふ」ニコニコ

司令官(な、なんだ?とても邪悪な笑みを浮かべて近づいて……)

大井「提督」

司令官「は、はいっ?」

大井「4日前の晩。北上さんと何をやっていたんですかぁ?」

司令官「は?4日前の晩……?」

司令官(4日前……あ)

雷(4日前って……パーティの日……)

司令官「あー、いや僕は知らn」

大井「しらばっくれても無駄ですよ?裏は取れているんです」ニコ

大井「あなたが北上さんを呼び出したという裏がね!」クワッ

司令官「ぐぇっ!待、大井首が……首が絞まっ」

大井「さぁ吐きなさい!北上さんを拐かして一体何をしていたのか!さぁ、さぁ!」

司令官「べっ、別に変なことはしてなっ、あ」

雷「お、大井さん!司令官の言っていることは本当よ!ただ、ちょっとした企画にお誘いしただけで……」アタフタ

大井「ふぅん、企画……」パッ

司令官「げほっ……そ、そうそう……」

大井「あの夜は北上さんと部屋で2人きりで過ごす予定だったのに、なるほど。無理矢理北上さんを参加させたんですね?折角の2人の大切な時間が……」

大井「くだらない企画なんかに、無碍にされてっ」

雷「くだらな、い――――」



阿武隈『……パーティだって本来ならしない方が良かったんじゃないかなって』

雷「や……」

阿武隈『雷ちゃん、昔からそういうところあるからさ……。良いと思ったことには周りが見えなくなって』

雷「いや……」

阿武隈『あの子、あのままだとウザイって思われても、仕方ないというか……』

雷「私、は、私のしてきたこと、は」フラ…

司令官「雷……?」

大井「な、何よ?目の前に出てきて、何か言いたいことでもあるの?」

雷「何で……何で、大井さんは司令官を責めるの……」ブツブツ

司令官「おい、雷……」ポン

雷「あ……」クル

司令官『お前のせいだ』

雷「ひっ!?」ゾクゥ

雷「いやああああああぁぁぁぁああああああああああああぁぁ!!!」バシィ

司令官「痛っ……!」

雷「あ、あ、い、今のは、今のは違う、違うの司令官!今のは、いま、のはぁ……ごめん、なさいっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」ギュウゥ

大井「ちょ、ちょっと、どうしたのよ、一体、」スッ

雷「いや、いやあ!!やめてやめて、ぇ……大井、さっ!司令官は、司令官は悪くないの、わ、わたし、が、私が悪い、の!だから、だからしれ、しれいかんを責めないで、ぇ!!」ボロボロ

司令官「落ち着け、雷!落ち着くんだ!」ギュウ

雷「ああああぁ!あああぁん!うわあああぁぁん!!私が、私があぁ!」ボロボロ

司令官「雷!お前は何も悪くない、何もしちゃいない!だから落ち着いてくれ……頼む、雷……」

雷「っひ、うう……私、わたし……」フッ…

司令官「雷!……、……」

大井「え……ぁ、だ、大丈夫なの……?」オソルオソル

司令官「……ああ。失神したみたいだが、呼吸は落ち着いてるよ」

大井「一体何が……」

北上「失礼しまーす。提督、大井っちが迷惑を……」

阿武隈「北上さん、どうしたんですか?早く中に……、え?何、この状況……」

司令官「北上、阿武隈。ごめんな、ちょっと待っててくれ」



雷「ん……」スゥスゥ

司令官「これで良し、と」

司令官「で、2人の要件は何かな」

北上「あー、いや。大井っちが勘違いして迷惑を起こしてないかなーって、追いかけてきたんだけどね」

北上「ごめんね提督、あの夜のこと、迫られて少しだけ話しちゃったんだ。そしたら大井っちいきなり走り出して」

阿武隈「私はたまたまそこに居合わせて、私自身のことでもあるからこうして北上さんと一緒に来たんです」

司令官「そうか……うーむ」

大井「提督、私……今の雷の事もあって、何が何だか……」

司令官「そうだね。まずは、大井の誤解を解くところからか」



大井「……、そういう事だったんですね。私ったら、先走ってしまって……」

大井「雷が立案してくれたのに、くだらないことだなんて、私……」

司令官「まぁ、大井の性格上本心で毒を吐いた訳じゃないだろうし、知ってたら絶対そんなことは言わないだろうからな。そこは、あまり自分を責めるなよ?」

大井「はい……。今度から、提督のしでかしたことだとはっきり分かった場合に『くっだらない』と言うようにしますね」

司令官「え?」

大井「うふふっ、冗談ですよ、冗談」

司令官「なんだ、冗談か。……本当に、冗談?なのか……?」ウウム

大井「それにしても、さっきの雷は、その……」

司令官「そこについては、触れないでやって欲しい。今は特に」

大井「はい、分かりました」

北上「……じゃあ、ま。一応大井っちのほうは解決したみたいだし。私達は部屋に戻りますかね」

大井「そう、ですね。そうします」

司令官「ん。まぁ今日は休みだから、ゆっくりしててくれ」

北上「はーい」

大井「はい、お言葉に甘えますね」

阿武隈(雷ちゃん……。私……)ギュ

ヒトヒトサンマル 司令官の部屋

雷「ん……ぁ、れ……ここ……」

雷「司令官の、部屋……?私、司令官の布団で寝て……」

雷「司令官……どこ……」

執務室

雷「司令官……」

司令官「雷。おはよう、よく眠れたか?」ナデナデ

雷「ん……ええ、とっても」

司令官「それは何よりだ。ほら、お茶にしよう。腰掛けててくれ」

雷「……うん」

司令官「ええと、茶葉茶葉……」

雷「……、……」

雷(司令官がせっせと動いている。動いているのに)

雷(私は、何も……手伝う気力すら、わかない)

雷(もう……私は……)

雷「……私……」

司令官「んー?」ゴソゴソ

雷「……司令官、私ね。もう、ダメかもしれない」

司令官「……どうして?」

雷「ダメなの。最近、何をやってもうまくいかなくて……頑張っても頑張っても、成果は得られなくて」

雷「頑張ることに、意義を見いだせなくなってきて。自分が何をしたいのかも分からなくて」

雷「いやな感情もいっぱい沸いてきて……それを、人にぶつけてしまって……」

雷「挙げ句の果てには……今朝みたいに、さっきみたいに、……。……分かってるんだ。私、今の自分の状態」

雷「ふふっ。知ってた?司令官。壊れちゃってるんだ。私」

雷「朝も、元気に振る舞おうとしたわ。だけど、些細な言葉で狂っちゃうの」

雷「いやなのに、いやなのに、止められなくて、迷惑を掛けてしまうの」

雷「ただでさえ今まで……っ。いっぱいいっぱい、ワガママ言って迷惑を、掛けてきたのに……」ツゥ

雷「だから……だからね。もう、ダメなの」

雷「いっそ沈んでしまいたい……でもあなたはきっと、それを許してはくれないから。だからね、」

雷「お願い、司令官。私を、工廠で――」

司令官「雷」

雷「っ……」ビク

司令官「ほれ、紅茶な。そして……ふっふっふ」

雷「え……?」

司令官「じゃーん。今日はお休みってことで、クッキーを焼いてみました!」

雷「……」ポカン

司令官「なんだなんだ、反応薄いな?」

雷「え、あの……司令官、お菓子、作れたの?」

司令官「いやいや、初挑戦だぞ?ただたまにはこういうのも良いかなって。ほれほれ、食べて感想聞かせてくれよ」

雷「……、はむ……」

雷「……」サクサク

司令官「……どうかな?」

雷「……とっても美味しいわ、司令官」ニコ

司令官「と、いいつつ遠慮せず本心を述べると?」

雷「えっと……焦げて苦い、かな?」クス

司令官「だよなー。やっぱ慣れないことはするもんじゃないわ」サクサク

司令官「うん、苦い」ズズッ

雷「で、でも初挑戦にしては上手よ司令官。焼き加減は今度私が教えて……」

雷「今度……私、が……。……」

司令官「おう、是非頼むよ。雷が教えてくれるなら安心だ」

雷「あ……ご、ごめんなさい司令官、今のは、やっぱり……」

司令官「僕はさ、一人じゃ満足にクッキーすら作れない人間なんだよ。君が教えてくれないと、困るわけだ」

雷「私じゃ、なくても……」

司令官「雷。君は自分のこと、ダメだって言うけれどね?僕には、君がいないとダメなんだ」

雷「……」

司令官「あ、いや別に何もクッキーのことだけ言ってるわけじゃないぞ?……今まで何度も雷の元気さに助けられてきたし、何より。雷がいなけりゃここまでやってこれなかったと思う」

雷「そんなの……それこそ、私よりみんなの方が……」

司令官「そうさ。この鎮守府のみんなが大切だ。誰一人だって欠かせない。それは雷、君も同じだよ」ナデナデ

雷「でも……私、見ての通り……強くないし……、ワガママだって、いっぱい……」

司令官「なーに言ってんの。……月並みですっごいクサイ台詞吐くけどさ、我が鎮守府の艦娘が弱いわけ、ないだろ?」ナデナデ

司令官「それに。雷は強い以外に色んないいものを持っている。『強いだけじゃダメだと思うの』って、君も言っていたじゃないか」

雷「私、そんなこと、言ったかしら……?」

司令官「言ったとも。何より僕は、そんな雷に惹かれたんだ。お前が頑張る理由がすごく素敵で……だから僕も頑張ろうって、ここまでやってきたんだよ」

雷(私が、頑張る理由……?それは……)

司令官「あとな。お前さんはワガママワガママって言ってるけど、ワガママなんて聞いたこと無いぞ?」

司令官「寧ろ、雷はもっとワガママを言った方が良い、と言うより言わなきゃダメだ」

雷「えっ……?」

雷(それって、どういう……)

司令官「ともかく雷。これからも、僕は君にもっともっと頼っていきたいし、実際に頼りにしているから。ね」

雷「ぁ……、……」

雷「…………」

雷「……、でも……」

雷「司令官には、電が……」ボソ

ビーッ、ビーッ!

雷「!」

司令官「む。緊急入電用FAXが……」

ジリリリリリリリリリ!

司令官「はい、こちらブルネイ第八鎮守府です」

元帥『横須賀第一鎮守府だ。司令君かね』

司令官「元帥殿!ブルネイ第八鎮守府、司令官です!」

元帥『うむ。本報は緊急入電である。休みの所申しわけないが、等と悠長なことは言ってられん。現在同時にFAXにて文面を送っているため、届き次第詳細は其方で確認されたし』

司令官「は!して、概要は如何様でありますか?」

元帥『深海棲艦の出現及び、主に潜水艦による通商破壊行為。しかも厄介なことに、制海権を獲得したはずの、通称安全航路に出てきたのだ』

司令官「な……、で、では」

元帥『ああ、一般の船も往来している。未だ死傷者、船体轟沈の報告は無いが事は急を要する。君達の鎮守府が近い事が幸いだ……直ちに招集を掛け、向かってくれ』

元帥『なお、こちらで受信した救難信号の発信元及び、偵察機による目視の情報は逐一連絡する』

司令官「かしこまりました!」

司令官「雷、聞こえていたな?」

雷「え、ええ。館内放送準備、出来ているわ」

司令官「よし。……、鎮守府内全艦娘に告ぐ!」



『大本営より緊急を要する任務が入った』

卯月「およ?」

多摩「にゃ……!」


『本任務には多くの人命がかかっている可能性がある』

伊19「これは、一大事なのね」

まるゆ「く、訓練じゃないんですね……!」


『動ける者は第三会議室へ、直ちに集まってくれ』

熊野「これは、優雅に紅茶を飲んでるヒマではありませんわ!とおおおぉぉおう!」ダッ

暁「さ、さすがレディ、機敏な動きだわ!」



司令官「よし、僕達も向かうぞ!」

雷「う、うんっ」

ヒトフタマルゴー 鎮守府 第三会議室

司令官「以上が、大本営に救難信号を出している船舶だ。理解できたか?」

司令官「敵の数、範囲を元に、4つの艦隊を組んで出撃を行う。船舶には救命ボートが備え付けられていると思うが、念を入れこちらもそれぞれに妖精さん特設の救命ボートを引き、動いて貰う」

司令官「ボートは艤装と同じく防護壁に護られているが、決して過信はしないように」

司令官「殲滅と救助を同事にしなければならないが、隊内で役割を持ち人命を最優先に行ってくれ」

司令官「状況が状況だけに、僕自身は今回沖には出られないが……。僕は第一艦隊に通信を繋ぎ、サポートを行う。また、瑞鳳は第二、大淀は第三、霧島は第四艦隊に通信を繋ぎ、鎮守府に残って指示出し及びサポートしてくれ」

瑞鳳「分かったわ!」

大淀「はい、了解です」

霧島「お任せ下さい!」

司令官「瑞鳳、大淀、霧島。これがそれぞれの艦隊編成だ。第四艦隊は潜水艦以外を主に相手にして貰う」

司令官「よし、第二以降は早速編成を組み、出来次第出撃を行ってくれ」

瑞鳳「はい!っと……龍驤さーん、響ちゃん!あと……」

霧島「比叡お姉様、こちらへ……あ、加賀さんもお願い致します!ああ山城さんっ」

司令官「よし、後は第一艦隊だな。第一は……」

雷「……、……司令官!」

司令官「ん、どうした雷」

雷「司令官……お願い、私を、配備して欲しいの。私……」

司令官(む……。……)

司令官「……第一艦隊、読み上げるぞ!呼ばれた者は工廠で装備を調え、他の者は一度部屋から出て各自待機してくれ!」

司令官「駆逐艦、電!」

電「なのです!」

雷(電……やっぱり……)

司令官「軽巡洋艦、阿武隈!」

阿武隈「分かったわ、私の力が必要なのね!」

司令官「駆逐艦、雪風!」

雪風「は、はいっ!頑張ります!」

司令官「軽巡洋艦、酒匂!」

酒匂「ぴゅう♪やっちゃうからね!」

司令官「航空戦艦、日向!」

日向「ふむ、瑞うn……私の出番だな。良いだろう」

司令官「……駆逐艦、雷!」

雷「!」

電「!」

司令官「以上、速やかに移動を開始せよ!雷は秘書艦として打ち合わせをするから、まだここにいてくれ」

雷「……」コクン

電「……」



雷「みんな居なくなったけれど……司令官、打ち合わせって……」

司令官「雷」ポン

雷「な、なぁに……司令官?」

司令官「絶対、帰ってこいよ」

雷「なによそんな、当たり前のこと……」ハッ

雷「もしかして、私が昨日、何回も大破したから……?だから、私が、頼りないからそんなことを、」

司令官「違う」

雷「じゃ、じゃあなんで」

司令官「僕はね、雷。間違っても、『自ら』沈みに行くなと言っているんだ」

雷「ぁ……」

雷「ぅ……」

司令官「……」

雷「し、司令官は心配症なんだから!い、いくらへこんでるからって、自分から沈みたいなんて、お、思わないわよ!」

司令官「……雷」

雷「そ、そんなに心配なら、そうだわ、私にダメコンを積んで?ほら、そうすれば、大破しても安心だし、自分から沈むことなんて、でき……ないでしょう……?」

司令官「……。……分かった。時間もない、工廠へ急ぐよ雷」

雷「え……あ……。……うん……」

ヒトフタイチゴー 鎮守府 工廠

司令官「みんな、準備は出来たか?」

電「あっ、司令官さん。後は日向さんだけなのです」

日向「すまない、すぐに整える」

司令官「ああ。雷はこっちへ」

雷「……」トコトコ

司令官「えっと……ん。応急修理の妖精さん、頼めるかな?」

妖精「!」コクコク

司令官「よし。雷、いざって時なんか想像はしたくないが……第三スロットにはめ込んで置くぞ」

雷「分かったわ……」

司令官「それと……ちょっと横向いて」

雷「……?」クルッ

司令官「よっ」ベゴンッ

雷「ひゃっ!?な、何したの?」

司令官「ふっふっふ。ちょっと艤装に、まじないかけといた」

雷「???」

日向「待たせた、何時でも出撃可能だ」

司令官「よし。みんな、いいね?第一艦隊、出撃せよ!」

オォーッ!!

雷「……」

ヒトフタゴーマル 洋上

雪風「かなり飛ばしてるけれど、まだ着きません……。皆さん、無事だと良いのですが……」

日向「私達が向かう先の目標は小さなフェリーらしいが、果たしてな……」

酒匂「深海棲艦が現れてからはどの船も疑似艤装コーティングを施しているし、ある程度は自衛も出来ると思うけど……」

日向「それでも、長くは保たないだろう。我々の艤装を参考にしているとは言え、そもそもその艤装でさえ相手によっては一発で吹き飛ぶ可能性がある。時間的には、ギリギリと言ったところか」

雪風「……、雪風には幸運の女神様が付いているんです!絶対、大丈夫……!」

日向「ふ……ああ、そうだな。燃料など気にしていられない、更に飛ばすぞ」

電「日向さん、ボート、重くないですか?大丈夫ですか?」

日向「なに、航空戦艦の馬力を舐めないでくれ」

酒匂「ぴゅう♪さっすがぁ!」

雷「……」

阿武隈「……雷ちゃん、ちょっと、良いかな?」

雷「阿武隈さん。何かしら……?」

阿武隈「こんな時に話すことじゃないとは思うんだけど……今のうちに言っておきたいなって」

阿武隈「まず……ごめんね。雷ちゃん、あの夜……提督と私の話、聞いていたのね。提督から聞いたわ」

雷(あの、夜……)

雷「っは……」ギュ

雷(落ち着け、落ち着け、落ち着け……)スゥ

阿武隈「酷な事を聞くようだけれど……どこまで、聞いていたの?」

雷「どこまで……」

司令官『電ならば――頼れるからね』

雷「う……!わた、しは」ドクン

雷「電なら、頼れるって……」

雷「だから、だから私は、頼りないんだって……」ジワ

阿武隈「……、……そっか。ねぇ、雷ちゃん。聞きたいんだけど、提督はあなたのことを、頼りないって言っていたの?」

雷「……」

阿武隈「直接に、その言葉を聞いたの?」

雷「それは……」

阿武隈「……私ね。あの晩、あの後、提督に怒られちゃったんだ」エヘヘ

雷「えっ……?」

阿武隈「ごめんね、雷ちゃん。私ね、あなたに対して酷いこと、言っちゃったの」

――――――
――――
――

司令官『電ならば――頼れるからね』クスッ

阿武隈『……、そうよね。提督と電ちゃん、本当に仲が良いし、誰よりも信頼し合ってるって言うか……』

阿武隈『雷ちゃんじゃちょっと、頼りないというか、頼れない感じがあるものね』

司令官『……阿武隈、それは違うぞ。と言うかそれ、本気で言ってる?』

阿武隈『ふぇ……?(ヤバ、提督……怒ってる……?)』

司令官『雷も電も、どっちが頼れてどっちが頼りないかなんて、そんな評価を付ける気は毛頭ないよ』

司令官『事実、2人を含め艦娘全員を同様に頼りにしてるわけだし。雷なんかは特に、気を利かせてくれるからね、本当助かるんだ』

司令官『そりゃ、後先考えず行き過ぎなことだって多々あったけれど。彼女はそれだけ、頑張っているって事なんだよ』

阿武隈『じゃあ……電ちゃんなら、頼れるっていうのは……?』

司令官『ん、言い方が悪かったかな。雷の事を雷自身に頼るってのも変だろう。雷のことをよく知ってる姉妹にまず相談しようと思っての発言だよ。丁度来週は電が秘書艦だしね』

阿武隈『な、なんだ……そういうこと……。私ってばてっきり……』

司令官『……阿武隈。僕は何も、「雷が頼りないからあの性格を矯正したい」「あいつがワガママ言うから制止している」ってわけじゃあない』

司令官『雷は誰よりも、他のために他のためにと動いてしまうから。それで周りが見えず裏目に出てしまったり、ワガママどころか自分を抑圧して押し殺してしまうこともある。そうやって雷自身が辛くなってしまわないよう、僕達に何が出来るか考えたいんだよ』

司令官『雷みたいな子は……相手の喜びを自身の喜びと出来る優しい子は、一歩間違えると、頼られ尽くす関係性に依存を感じてしまいかねないから』

司令官『だからお願い。阿武隈も、雷の本質をきちんと見てあげて欲しいんだ』

司令官『だって、雷は――』

――
――――
――――――

阿武隈「そう、私バカだった。大切なことを忘れていたの」

阿武隈「だって雷ちゃんは、昔あんなに頑張っていたのに。その史実を私は、艦娘になったからって忘れていて」

阿武隈「本当に、ごめんなさい」

雷「阿武隈、さん……」

雷(司令官……私は……)

雪風「み、見えました!正面、船体無事!距離およそ……えっ……」

酒匂「ど、どうしたの、雪風ちゃん……?」

雪風「……うそ……」フルフル

日向「双眼鏡を貸せっ。……、く……船底より炎上確認、どうやらコーティングが破られたようだ!」

雷「嘘……でしょ?そんな……」

電「まだ、まだ間に合うのです!第一艦隊、目標へ向けて全力渡航を!」

阿武隈「間に合わせる……絶対に間に合わせるんだから!」



カ級「オオオォォ」

日向「船から離れろっ!行け、カ号!」ブゥン

カ級「グウゥ……」

酒匂「敵潜水艦の数はそこまで多くないよ!これなら全員で殲滅にかからなくても良さそう!」

雪風「けれど、船体が僅かに傾き始めています……早く中の人たちを助けないと!」

阿武隈「提督、指示を!」

提督【よし、4人は洋上、2人は船内へ!洋上の内3人は主に敵潜水艦の撃滅を、1人は救命ボートの死守及び救助補助に当たれ!】ザザッ

全員「了解!」

日向「私はこのままボートを守ろう、敵の撃滅は任せたぞ」

雪風「私は船内へ乗り込みます!」

阿武隈「じゃあ……」

雷「わ、私もっ!私も、船内へ行くわ……!」

電「……では、電と阿武隈さん、酒匂さんで潜水艦を倒すのです!」

雪風「行きましょう、雷ちゃん!」ダッ

雷「え、ええっ!」

電「……雷ちゃん!」

雷「!」

電「任せたのです!」

雷「……、行ってくるわ!」ダッ

客船 甲板

雷「よ……っと」

雪風「雷ちゃん、甲板には誰も居ないみたいです」

雷(喧騒も何も聞こえない静かな甲板……)

雷「海にも飛び込むに飛び込めないでしょうし……きっと1カ所に集まって避難してるのね」

雷(咄嗟に、ここへ来ることを選んでしまったけれど)

雪風「きっと船底からは離れた場所に避難してるはずです!急ぎましょう!」

雷「ええ、早く助けないと……」

雷(本当なら、私も下で……。ううん)

雷(そうだ、今は自分の事でうだうだ言っていられない。ここまで来たんだ、人命を救うことに集中しなきゃ……)

雷「雪風、二手に分かれましょう。私は二等客室の方から回るわ」

雪風「じゃあ、私は展望室から降りて行く感じで見回ります!」

雷「分かったわ。じゃあ、何かあれば無線に連絡を入れるから!」

フェリー 船内

雷(静かだわ)

雷(船底は魚雷を受けて炎上していたけれど、上の方はとても、静か)

雷(本当に非常事態なのかっていうくらいに……)

雷「みんなは、どこに……」

雷(騒ぎが起きていれば、声も聞こえるはずなのに)

雷(単に距離が離れているから?それとも……)

雷(人は、助かる可能性を感じるからこそパニックになると言うけれど)

雷(でも、逆に言えばそれは)

二等客室前

雷「可能性としては、ここか、展望室、食堂室……」

ギィ

雷「……!」

「!」
「ぅ……?」
「え、あれ……」

雷(一斉に集まる、視線、視線、視線)

雷(どれも皆疲れ切って、怯えた、光のない瞳)

雷「あ……」

雷(ああ、そうか)

雷(数十分も襲撃を耐えて、果てに破られて、でも海には逃げ場がなくて)

雷(いずれ沈むしかないと分かっている船内に、それでも身を置くしかないから)

雷(恐怖に希望を失って、もう騒ぐ意味さえ見い出せないの)

雷(遠い昔にも見た、胸が締め付けられるような光景――)ギュッ

雷(この人たちを……助けなきゃ!)スゥ

雷「みんな、良く聞いて!私は駆逐艦、雷!艦娘よ!あなたたちを助けに来たの!」

「駆逐艦……艦娘……」
「まさか、本当に助けが……」
「間に合った、のか?俺達は、助かるのか……!」

雷(ざわめきがわいて……ううん、戻ってきた)

雷(希望、笑顔、焦燥……ここからが勝負)

雷「みんな!慌てないで、落ち着いて、私の話を聞いて欲しいの!すぐにでも避難を開始したいけれど、今、私達の仲間が洋上で深海棲艦と戦っているわ!」

雷「外から見た限りだと、この船が沈むまでにはまだ時間があるから!戦いが終わるまで今しばらく、待って欲しいの!」

雷「この中で、船員さんは……」

船長「私達だ。ここにクルーが集まっている」

雷「あなた達はその間に、この船に取り付けられたボートを下ろす準備を始めて!敵に空母は居ないから、海にさえ降りなければ自由に動けるわ!」

船長「うむ、承知した!みんな、聞いたな!」

「はい、船長!すぐ取りかかります!」

雷「その間に……」

雷「雪風、みんな、聞こえる?搭乗員を発見、場所は二等客室!」

雪風【はいっ、すぐにそちらへ向かいます!】ザッ

日向【こちらももうすぐ片が付く。声をかけたらすぐに動けるよう、避難誘導の準備を進めてくれ!】

雷「分かったわ!」

雷(よし、私もボートを準備する手伝いを……)



「なぁ……あんなちびっこいの、頼りになるのかよ」ヒソ
「見た目ただの女の子だもんな。正直不安しかねーわ」ヒソヒソ

雷「!」

「やだわ、見てあの砲。見れば見る程深海棲艦と変わらないじゃない」ヒソ
「実際あんなん持っていい気になってるんじゃね?」ヒソ
「せめてもっと頼りがいあるやつ派遣しろよな」ヒソヒソ

雷「っ……」ドクン


ヒソヒソ
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ


雷(司令官……司令官っ、私は……)





少女「お姉ちゃん」ギュ

雷「え……」

少女「お姉ちゃん……私達、助かるの……?助けて、くれるの……?」ウル

雷「あ……、……」

雷(裾をつまむ少女の潤んだ瞳が、まっすぐに私を捉えたすがるような表情が)


電『――――』


雷(あの時の電と、重なって)

雷「……大丈夫よ。絶対に助けるから」ナデ

雷「お姉ちゃんに、任せなさい」ニコ

少女「……うんっ!」








電【雷ちゃん!衝撃に備えてぇ!!】

雷「!!」

雷「みんな、伏せて!何か近くの物に掴まって、早く!!」バッ

少女「きゃ――!」

ドオオォォンッ!!

「わあぁっ!?」
「ひいいいぃぃぃ!」

雷「っく……!この揺れ……」

雷(船体の軋む音……傾きがさっきより、大きく)

酒匂【ごめんなさいっ……敵潜水艦の魚雷を捌ききれなくて、何発か通しちゃって……!】

雷「敵は……敵はまだ、残っているの!?」

阿武隈【ソナーに反応するのは後3隻、もう少しで撃滅できるわ!】

雷(後、3隻……万が一を考えたら、まだみんなを降せない。でも、いつでも船から離れられるようにせめてボートに乗り込んで貰った方が良い)

雷(最悪、また魚雷を受けたら一気に沈む可能性だってある……)

雪風「雷ちゃん!遅くなりました!」

雷「雪風!良いところに!避難誘導の手伝いをお願い!」

雪風「はい!」

雷「みんな!今から避難を始めるわ!船長さんたちが用意してくれているボートに、順番に乗り込んで!」

雪風「女性と、お子さんを優先的に!雪風に付いてきて下さい!」

雷「焦らないで!押さないで、順番に、順番に!」

雷「船長さん、みんなをボートへ乗せたら、クレーンは下ろさず待機でお願い!まだ、下は危険だから!」

船長「ああ、分かった」

雷(よし、これでなんとか行ける……)



雷「全員避難した!?残ってる人は居ない!?」

雷「……よし、もう部屋には誰も居ないわ」

雷「船長さんの話だとこの船の利用者とクルーは全員ここに集まっていたみたいだし、後は電達の連絡を待つだけ……」

雪風<待って下さい!なんで……!

雷「雪風……?外で何が……」ガチャ

雷「な、」

雪風「船長さん、船長さん!」

船長「ぐっ……君、やめ……」

男「うるっせぇんだよ、また刺されたいか!」

雷「あなた、何をやっているのよ!クレーンを勝手に操作するなんて……」

男「黙れガキ!こんな不安定なとこにいつまでも居られるか、早いとこボートをどんどん降ろして俺も降させろや!」

雷「まだ下には深海棲艦がいるのよ!?こんなことしたら……!」

男「へっ、先に降した連中が餌になってくれりゃ、寧ろ万々歳だぜ!」

雷「そんな……!」バッ

雷(もう、ボートが一隻途中まで下に降りている……けれど、電達にはまだ降下地点を伝えてない)

少女「うぅ……」

雷(さっきの子が乗って……、そうか、このボートには子供達が)ハッ

雷「ソナーに感あり……真下!?」

ズウウゥン!

雷(遅かった!また、魚雷が……)

男「うおっ!?な、ナイフが……っ」

船長「ぐ、今だ、あいつを取り押さえろ!」

雪風「もう、勝手はやめて下さい!」ガシッ

男「ちくしょ!離せ、この!」

雷(クレーンが止まった!子供達は――)

「大変だ!1人振り落とされたぞ!お、女の子が一人!」

雷「な――」

少女「――――」

雷「ダメ……ダメ!!」ダッ

雪風「雷ちゃん!?」

雷「ぐっ!」ザパァ、ン

雷「あの子は……」

少女「あ……っぷ!たす、た、すけ……!」

雷「!今、助け……」

カ級「ウウゥオォ」

雷(カ、級……?何、しようと、してるの……?どうして、あの子に、魚雷、)

雷「――――ッ、だめええええええええええぇぇぇぇぇえ!!!」

ドオオォ、ン……

雷「ぁ……、あ、あ……っ」

雷「っは……は……。……、怪我は、ない……?」ギュゥ

少女「おねえちゃ……ごほっ……」グスグス

雷「良かった……良かった……」小破

カ級「オオォ……グッ!?」ドォン

電「っはぁ、はぁ……雷ちゃん!」

阿武隈「間に合った、の?……みたいね」

酒匂「敵さんももういないみたい……今ので、最後だったよ。良かったぁ」

少女「うっ、う……ふえぇ……」グスッ

雷「よしよし、怖かったね……。大丈夫……もう、大丈夫だからね」ナデ

少女「おねぇ……ちゃ……っ」ギュウゥ

雷「……」ナデ、ナデ



雷(ああ……そうか)

雷(この暖かさを、この小さな命を守るために。私は)ギュッ

日向「よし、これで全員だな。全部でボート4隻か、やはりこれくらいの数にはなるな」

酒匂「けれどこれで、私達は任務完了だね!」

司令官【みんな、良くやってくれた。第二艦隊、第三艦隊、第四艦隊の方も順調にいっているよ】

電「何よりなのです。本当に、良かった」

雷「そうね、誰一人死なせることなく、助けることが出来て……」


雪風「船長さん、大丈夫ですか?痛くないですか?」

船長「ああ、傷も浅いし、腕だったからね。それに処置をしてくれたおかげで、痛みも軽い」

雪風「良かった……」


男「ぐ……解けよ!」

日向「それはできないな。危機的状況だったからと言え、お前の行動は許されることではない」

日向「何、安心しろ。陸までは私達が責任をもって運んでやる」

男「チッ……」


少女「お姉ちゃん」

雷「うん?何かしら?」

少女「ありがとう」ニコッ

雷「……どう致しまして」ニコ

阿武隈「それじゃあ、帰投しましょう!みんな、帰りも気を抜かずに行くわよ」

電「なのです!」

司令官【む……】

電「司令官さん?」

司令官【……みんな、まだ終わっていない。今、大本営から通知が入った、気を引き締めて聞いてくれ】

司令官【偵察機よりの報告。安全航路内巡回偵察中、計2隻の小型船を発見せり。深海棲艦の姿は確認できず】

司令官【旧型の漁船らしく、避難撤退信号を受け取れなかった可能性有り。あわせて、有事の際に救難信号を出せない恐れ有り。近くの部隊は直ちに向かうべし】

司令官【……位置的には第一艦隊が近い。救助したボートの護送に4隻残し、2隻は現地へ向かって貰いたい】

阿武隈「なるほど……襲われてもすぐには分からない状況下にあるなら、出来るだけ急いで向かわないとね」

雪風「問題は誰が――」

雷「私が行くわ」

電「雷ちゃん……」

雷「見過ごすことなんて、出来ないもの。お願い、私に行かせて」

電「……、電も行くのです。司令官さん、雷ちゃんと一諸に、行かせて下さい」

司令官【分かった。では駆逐艦電、雷を残して他は帰投せよ。制圧しているとは言え、周囲に気を配ることを忘れずに】

司令官【念のため、追加で部隊を出撃させ後を追わせるよ】

電「では……」

日向「ああ。こっちは任せろ。そっちは任せた」

酒匂「ちゃーんと、陸まで送り届けるからね!」

雪風「お気を付けて。また後で、会いましょう!」

阿武隈「2人なら大丈夫。私が保証するわ。だからしっかり、救助してきてね!」

雷「ええ。必ず、助けるわ」

電「雷ちゃん」

雷「電。行くわよ、宜しくね?」

電「……はい、なのです!」

ヒトサンヨンマル 洋上

電「……」

雷「……」

電「…………雷ちゃんは」

雷「……」

電「雷ちゃんは、思い出したのですか?」

雷「……」

電「その……、こんな事を電が言うのも、おこがましいのかもしれないけれど」

電「今の雷ちゃんは。電のよく知っている雷ちゃんの顔をしているのです」

雷「……。そんなことないわ、電」

雷「だって、こうしてあなたから話しかけてくれるまで、やっぱりあなたと向き合うのが怖くて。口を開けなかったもの」

電「……」

雷「……」

電「……、電は、雷ちゃんのこと。ちょっぴり嫌いになりました」

電「私に向けられる言葉がとても痛くて、痛くて。雷ちゃんに突き放されたときは、海に落ちてその事実を噛み締めたときは、胸が張り裂けそうになって」

電「だって。好きで好きでたまらない、大好きなお姉ちゃんだったから」

雷「電……」

雷「……その言葉が聞けて何だか、すっきりしたわ。私も、電のこと。ちょっとだけ、嫌いよ?そして、ずっとずっと、大好きだから」

電「ふふっ。知っているのです」

雷「そっか」クスッ

雷「もしまだ思っていることがあるなら。もっともっと言っていいんだからね?」

電「うーん……。……昨日から、みんなに良く『バレッタはどうしたの?』って聞かれるのがちょっと困ったさんなのです」クスクス

雷「バレッタか……あれも、私のせいだもんね。ごめんね?」

電「でも、イメージチェンジだと思えば悪くないのです」ニコ

雷「そっか……。でもバレッタは、また私が新しいのを縫ってあげるわ。……ね?」

電「……はい、楽しみにしているのです!」

雷「ふふ……」

雷(ああ……嬉しいな)

雷「電、ありがとう。あなたのおかげで、私は大切なことを思い出せた」

雷(認められることに、誰かとの差を埋めることに囚われていて。形ある証が欲しくて。そのために頑張ろうとしたから、無気力になってしまったんだ)

私は

雷(なぜ頼りにされたいのか)

1人でも、多くの人を助けられるように

雷(なぜ頑張るのか)

みんなの、涙も笑顔も守れるように

雷(私が、本当にしたいこと)




少女『ありがとう』ニコ

雷「……電」

雷「今から助けに行く人たちの命を、必ず救うために」

雷「お願い。スラバヤ沖(あのとき)のようにまた私と一諸に、戦って?」スッ

電「――勿論、なのです!雷ちゃん」ギュ

雷(そうだ。誰かの安堵が、喜びが、私の喜び)

雷(形ある利益なんて必要ない。だって)

雷(みんなの笑顔が、幸せが、私にとって何よりの誇り。何よりの勲章なの)

雷(だから)

ヒトサンゴーゴー 洋上

雷(だから!)

雷「その船から離れなさいっ、深海棲艦!」バシュッ

ヨ級「グオオオォォ!」ドォン

雷「電!」

電「これで終わり、なのです!」バシュッ

ヨ級「グアアァ……ァ」

雷「やっ、た……」

電「はぁ、はぁ……2人とも中破になったけれど、何とか……」

爺1「うおぉー!お嬢ちゃん達、本当ありがとなぁ!」

爺2「いやぁ、もうワシらも年貢の納め時かと、はらはらしとったよ」

雷「この雷様にかかれば、深海棲艦なんてちょちょいのちょい何だから」フンス

爺2「おーおー。めんこいのぉ」

電「とにかく、これで……」

雷「あれ……」キョロキョロ

雷「ねぇ、電。さっき通信じゃ、小型船2隻って言っていなかったかしら」

電「そういえば……。漁師さん、他にもう1隻、船を見かけませんでしたか」

爺1「見かけるも何も、途中までワシらと一諸におったでなぁ」

爺2「深海棲艦に2隻とも囲まれちまって、どうしようもなかったからワシらが囮になって引きつけた訳よ」

爺3「2隻とも古い船で自衛の為の装備も付いて無かったからの。一諸に立ち往生しとったんじゃ沈んじまうだけじゃけぇ」

雷「ぱ、パワフルなおじいちゃんね。ご老体なんだから、無理しちゃダメよ?」

爺2「ワシらみたいな老いぼれより、若いもんの未来を守らにゃならんからな」

爺1「彼ら、無事岸辺までたどり着けると良いがのぉ……妊婦さんじゃけぇ、心配じゃ」

電「妊婦さんが船に乗っているのですか!?」

爺1「何でも、村が小さくて海を越えねぇと医者がいないみたいでよぉ。定期的にこの航路を使ってたみたいじゃが……」

電「……司令官さん」

司令官【話は聞いたよ。深海棲艦を引き離したからと言って、安全だとはまだ言えない。出来れば向かいたいところだが……】

雷「……1人が漁師さん達の護衛で残って、1人が向かうしかない、よね?司令官」

爺3「ワシらのことなんかほっといても……」

雷「そうはいかないわ!みんなが助からなくちゃ、意味ないもの!」

電「雷ちゃん、私が妊婦さん達を迎えに行くのです」

雷「ううん、それは出来ないわ電。まだ未知の地点だもの、深海棲艦がわんさかいるかもしれない。そんな中に中破状態のあなたが行くことは許さない」

電「そ、そんなことを言ったら、雷ちゃんだって中破なのです!」

雷「電。実はね、私、司令官にお願いして今ダメコンを積んでいるの」

電「えっ……」

雷「だからね、もし万が一があっても私なら大丈夫。ね?」

電「……雷ちゃん」

雷「よしよし、そんな不安そうな顔しないの。私は必ず帰ってくるから」ナデ

雷「だから、お姉ちゃんの“ワガママ”を。聞いてくれないかしら?」

電「!……、……絶対」

電「絶対、帰ってきて下さい、雷ちゃん」

雷「うん。絶対帰るわ、電」

雷「司令官!出撃許可を!」

司令官【……駆逐艦電は救助した漁船を護衛し、来た航路を戻ること。雷はそのまま奥へ進み、民間船の救助へ向かえ】

司令官【こちらより送った追加部隊は程なくして電と合流するだろう。そうしたら、すぐに雷の後を追わせるから】

司令官【だから雷。“誰の命も”落とさせるな。いいね?】

雷「はーい、司令官!任務了解!いっきまっすよー!」ザァッ

電「……、……」ギュ

ヒトヨンイチマル 洋上

司令官【偵察機より。民間船を発見した地点まで、もう少しとのことだ。辺りの状況はどうだい?】

雷「まだ何も見えないわ。敵もいない、とても静かな海よ」

雷「他のみんなは?どうなったの?」

司令官【各艦隊、無事作戦を終え帰投途中だよ。海上の偵察もほぼ終了しているみたいで、残っている船は今向かっている1隻だけのようだ】

雷「そっか……良かった」

司令官【もう、敵も全て撃滅させていて……このまま何事もなく回収出来れば万々歳なんだけれど……。潜水部隊による海中の偵察はまだあまり進んでいないようだからな、常時警戒は怠るなよ】

雷「……」

司令官【雷?】

雷「……司令官、ごめんなさい。ちょっとの間だけだから……」ブツッ

司令官【ん……雷お前……】

雷「えへへ……みんなへの送信、止めちゃった。今私の声が聞こえてるの、司令官だけよ」

司令官【……】カチ、カチ

雷「……司令官。本当はね、私……とても、とても怖いの」

雷「1人だけで、潜水艦がたくさんいるかもしれない海域に向かうのが……すごく怖い」

雷「まるで……最期の時を思い出すようで……」

司令官【……】

雷「あの時ね。本当に、本当に、寂しかった、怖かった。周りに誰もいない、誰にも知られない中でひっそりと、私……」

雷「だから司令官、お願い。私に声をかけ続けて?」

雷「姿は見えなくても。ずっと、司令官の声を私に聞かせて。私の名前を、呼んで?」

司令官【……雷】

雷「うん……」

司令官【雷】

雷「聞こえるわ、司令官……あなたの声が、聞こえる」

雷(それだけで、私は)

雷「!船影、見ゆ!見つけたわ、司令官!」

司令官【状況は、どうだ?】

雷「……波が立っていない、どうやら停泊しているみたい。深海棲艦の姿は見えないし、ソナーにも反応はないわ」

司令官【なるほどな……見つかっていない状況なら、下手に動かない方が良い場合もある。賢明な判断だが……】

雷「けどきっと、助けが来るのを待って止まっていたのよね。……心細かっただろうな。それに、妊婦さんをずっと海の上に放置してはおけない」

雷「今、行くから……っ」ダッ

ヒトヨンイチゴー 小型船上

夫「辛くはないか?体調的に何かあれば、すぐに言うんだぞ」

妻「ええ、ありがとう……あなた」

夫「さっき、上空を戦闘機みたいなのが飛んでいるのを見た。だからきっと、俺達のことはもう見つけてくれているはずだ」

妻「そうね……希望を持たなくちゃ。……大丈夫、大丈夫よ坊や……」ナデナデ

夫「……、……」

夫(ああ神様仏様……誰でも良い。どうか、どうか妻と子だけでも……。どうか、助けを――)



雷「大丈夫!?助けに来たわ!」

夫「!!」

雷「わ、ちょっと膨らんでるわねー。本当に妊婦さんなんだ」マジマジ

妻「え、あの……」

夫「き、君は一体……」

雷「私は艦娘の、雷。あなた達を助けに来たのよ」

妻「かん、むす……」

雷「乗っているのは、2人だけかしら?途中で誰かはぐれたとか、なぁい?」

夫「あ、ああ。この船には俺達だけだ。たださっきまで、漁船に乗った漁師達と一諸だったが……」

雷「良かった!漁師さん達ならもう既に救助して、今帰路についているわ。安心して?」

司令官【無事みたいだね、まずは一安心か】

雷「うん、そうみたい。問題は――」

妻「あなた……」ギュ

夫「ああ……本当に、助けが来てくれたんだ……」

雷「よし。それじゃあ私が周囲を警戒しながら先導するから、離れずに付いてきてくれるかしら」

夫「分かった、今エンジンをかけ直すから少し待っててくれ」

妻「ごめんなさいね……あなたみたいな年端もいかない子に、頼ることになってしまうけれど」

雷「いいのよ。じゃんじゃん頼っちゃって?そのための私達艦娘なんだし」

雷「それに、こう見えて魂の年齢はあなた達よりずっと年上なんだからね」フンス

妻「あら、そうなんだ……。じゃあ、おばあちゃん……になるのかな?」クス

雷「う、それは……もーっ!そういうことじゃないの!」クスクス

夫「準備が出来たし、エンジンかけるぞ」ガチャ

ブルルゥ…ン、ドッドッドッド

雷(……、かなり音が大きいわね。旧型だから仕方がないけれど……)

雷(しまったな……このままこの場で、待機していた方が良かったかもしれない。でも、今更エンジンを切ってまた留まるのもリスクが高い……)

雷(……しっかり、ソナーを働かせておかなきゃ)

雷「じゃあ、行くわね。ちゃんと付いてきて?」

夫「ああ」

妻「雷さん……宜しくお願いします」

雷「任せて。岸までしっかり、送り届けるからね」

雷(このまま、無事に何もなければ……)

ザ

雷「……?」

雷(気のせい?ううん、どんな些細なことも軽視しちゃダメよ雷。神経を張り巡らせて……)

…ザッ

雷(ノイズのような音が、聞こえる?どこから、一体……)

雷(三式……水中探信儀から!?もしかして、中破したときに壊れて……)

雷(でも、これが反応しているって事は)

雷「2人とも、注意して!辺りに深海棲艦がいるかもしれない」

夫「そ、そんな……」

妻「っ……」

雷「大丈夫よ、例え深海棲艦が現れても、私が守るわ」

雷「ただ、先行は出来ないかも知れないから。羅針盤をしっかり見て、今進んでいる方角に進み続けて頂戴。船の周りを旋回しながら付いていくわ」

妻「雷さん……」

雷「平気だってば。大船に乗ったつもりで、頼ってくれれば良いんだからね」

雷(それに……)

司令官【雷……やれるか?】

雷「勿論よ、司令官」

雷(司令官の声が聞こえるから、怖くないわ!)

夫「分かった。雷さんを信じて操舵を続けよう」

雷「そうそう、それでいいの。万が一の衝撃には、ちゃんと備えてね!」

雷(とはいえ、母体を揺らすのは極力避けたい……私が盾なってでも防がないと)

雷「ソナー、頼むわよ……」

雷(集中するのよ、雷。完全に壊れた訳じゃないのなら、些細な変化で何か感じ取れるはず……)

……ザァッ

雷(ノイズが大きく……!)

雷「そこっ!」バシュッ

カ級「グゥッ!?」

妻「ひっ……」

雷「やっぱり、いたわね……ううん」

ザ、ザザッ……

雷(いつの間にか、囲まれている……船の周りをぐるぐると回りながら、ノイズの強弱を頼りに当たりを付けるしかない)

ヨ級「オオオォォ」バシュ

雷(魚雷は艤装に取り付けられた元々の砲で破壊しつつ!)ドォン

雷「そんな攻撃、当たらないわよ?(爆雷を確実に当てる!)」バシュッ

ヨ級「グウゥ!」

雷(っ、直撃じゃない!動き回りながらだと、目視だけじゃ狙いが……)

カ級「オオォッ!」

雷(!次はこっち……、急がなきゃ!)

雷「やらせないわ!」バッ

ソ級「ウウウゥ……」パシュッ

雷「な、ソ級!?どこから……」

雷(カ級は、ブラフ……?まずい、魚雷が発射されてから軌跡を予測なんて遅すぎる!)

雷「っ……!(狙い撃ちが出来ないなら、もう、これしかない!)」ダッ

ドオオオォォ……ンッ

妻「い、雷さん……!雷さん!」

雷「ごほっ……派手に、やられちゃった……」大破

夫「雷さん……っ、ああ、そんな!」

雷「いいから……っ、雷は大丈夫なんだから!操舵を、続けて……っ!」

夫「くっ……」

雷(ああ、この傷じゃもう、攻守を両立させるのは無理ね……)

雷(寧ろ)

ヨ級「オオォ」バシュッ

雷「ぐっ……」ドォン

雷(もう、攻撃は一切しない)

雷「!そこ、ね……!」ダッ

雷(うん……まだ、ソナーは反応してくれる……。大破してしばらくは艤装に残った防護壁の力が働くから、その間私自身を盾にして……)

雷「がっ、あ……!」ドォン

雷(皆と合流するまでこの船を、守りきる……!)

???????? 洋上

雷(どのくらい、時間がたったのだろう)

夫「…………」

雷(どのくらい、進んだのだろう)

妻「……」ギュ

雷(いつのまにか、深海棲艦を振り切っていて。辺りに姿は、ない)

雷「っはぁ……はぁ……」

雷(ソナーからも、何も音はしない。完全に壊れたのか、ただもう敵がいないだけなのか)

雷(ただでさえ大破状態なのに、もう、燃料もからからだわ)

雷(おなか……すいたなぁ)

妻「雷さん……」

夫「……、……」

雷(奥さんはさっきからずっと私を見ていて。旦那さんはずっと、歯がみしながら目線は前を向いていて)

雷(水面に映る私の姿は、そりゃあもう、痛々しいんだもの。仕方ないわね)

雷「っ……」グラッ

雷(ダメだ……少しでも気を抜くと、墜ちてしまいそう)

雷(ああ、ねむたいな……)

妻「雷さん……どうか、船に、乗って……。もう航行するのも、やっとに見えるわ……」

雷「……ううん。それは、できないわ」

雷(だって、私が海にいないと、誰がこの船を守るの?誰がこの夫婦を、この子を誰が――私が?)

雷(私が、守る?違う……今襲われたら、こんな状態の私がこの船を守りきれる保証はない)

雷(攻撃もまともに出来ない、盾としての機能もまともに出来ない)

雷(だったら。そんな今の私に出来る、唯一の事は)

雷「……2人とも、ごめんなさい。先に、行っていてくれるかしら」

夫「……まさか、この場に残るなんて言い出す気じゃ」

雷「その、まさかよ。今戻っている道は、元々私が通ってきた道だから。止まっているより、安全だわ」

雷「それにね、もうすぐ、私の仲間が来てくれる筈だし。ね?」

妻「そんな、そんな事、出来ない……。そんなにボロボロな雷さんを、残して……」

雷「へーきよ、へーき。私は、艦娘なんだから。だから大丈夫。だからお願い」

雷「行って、先に」

夫「……分かった」

妻「あなた!?」

夫「どちらにしても、敵がいない今の内に俺達が離れないと、いざ敵が出てきたときに雷さんの足手まといにもなるだろう」

夫「ここは、雷さんの言葉に甘えよう」

雷「そうそう。甘えて、頼ってくれれば良いんだから」ガチャ

雷「私は大丈夫。あなた達も、大丈夫だからね」スッ

妻「これは……?」

雷「私からの、おまじない。無事に帰れるまで、ちゃんと持っていて?これがあればきっと、大丈夫だから……」

妻「……、……。分かったわ。だけど」

妻「私からもお願い。必ず、必ず陸で御礼を言わせて……今じゃなくて、陸で……」

雷「……、うん。その時を楽しみにしているわ」ニコ

雷(リスクを考えればこれが最善……深海棲艦はこの先はいない確率が高いだろうし、来るとしたら後から追いかけてくるから。私を餌にして、引きつけていれば……)

雷(けれど、敵を撃滅しながら進んできた航路とは言え、それでも万が一、億が一がないとは言い切れないから)

雷(だから。もしもの時はこの船を、宜しくね?応急修理の妖精さん)

妖精「……」




雷「いっちゃった、な」

雷(相変わらず、ソナーはウンともスンとも言わない)

雷(大破になってしばらく立つし、もう防護壁の効果は消えているだろう)

雷(ダメコンも外してしまって……)

雷「ふふ……っ。私、後一撃でも受けたら……沈んじゃうのかな、司令官」

【――――】

雷(通信機もいかれてしまって、雑音だけが耳に響く。でも、この雑音が鳴る度に、司令官が懸命に私を呼んでくれているんだって、分かる)

雷「そうよね?司令官……だって、雷の司令官なんだもの」

耳を澄ませば声が聞こえる。
雷、雷、と呼ぶ声が。
大丈夫か、と気遣う声が。
絶対に帰ってこい、と待っている声が。

雷(帰るわ、司令官。私は、絶対帰るから。もう今は解体されたいなんて、沈みたいなんて、思わない。私は――)

雷「――帰りたい。寂しいよ、司令官」ツゥ

雷「もっともっとみんなの側にいたい。司令官のために、側にいたい」ポロポロ

雷「怖いよ、司令官……ひとりぼっちで、周りに私を見てくれる人は誰もいなくて」ギュウ

雷「広い、静かな海に取り残されて。誰かの、あなたの温もりが、側に欲しい」

雷「あなたの、声を――」

【――――】

雷「司令官」

【――――】

雷「司令官……」

【――――】

雷「しれい……かん……」グスグス


――――ザ


雷「は――」

ソ級「――――」バシュッ

雷(――あれ?おかしいな)

雷(からだ、うごかない……めが、みえない)

雷(ここは、どこ?とても、とてもつめたくて)

雷(つめたい……くらい……こわい……)

雷(さみしい)

もがいても、もがいても
周りには、誰もいない。
辺りには、何もない。

雷?(さみしイ)

とても静かな空間。
泡の音も
自分の鼓動も

耳に付く雑音も。消えていて

雷?(ア――)

手を延ばす。

何が起きたのか分からない様子で
見えない瞳で誰かを見つめて
誰かにすがるように、頼るように
無意識に伸ばされた少女の手
消えてしまった雑音を求める無垢な表情



雷「司令官……、どこ?もう何も聞こえないわ――」



きっと海の底に沈んでしまえば
想いは、洗い流されて、黒く塗りつぶされて

黒ク――――

雷(……、あれ……?)

雷(ひかり……)

雷(あたたかな、ひかりがみえる……手に何か、触れて)

雷「!?ゴボッ!(急に息、苦し……!く、空気を……!)」バタバタ

雷(だ、ダメ……水面が遠くて、艤装が重くて中々……っ)

雷「!?(な、何かに身体、つかまれ――)」ガクン

伊19「ほら、もう少しなの!頑張るのね!」

雷(イク……!?す、すごい勢いで上昇して……)

伊19「あ、あれ?早――」

雷「っぷはぁ!ごほっ、げほげほ……っ」ゼェゼェ

伊19「わわっ、と!こ、こんな感じになるのね……イクの助けはいらなかったかもしれないの」

雷「はぁ、はぁ……あ、れ?身体が軽い……というか」

雷(深海棲艦の、潜水艦の位置が分かる!三式ソナー、直ったの……?)

雷「なんで、一体何が……」

伊19「何って、ほら。あれなのね」

雷「えっ……?あれ、って……」

雷(応急修理の妖精さん?ううん、違う、あれは)

司令官【雷!雷、聞こえるか!?】

雷「しれい、かん……?ああっ、司令官!」

雷「聞こえる……司令官の声が、聞こえるわ!」ツゥ

司令官【良かった……やっと、通じた。大丈夫か?身体に違和感はないかい?】

雷「う、うん……」ゴシゴシ

雷「違和感どころか、装備も通信機も直っちゃって……まるで出撃前みたいに。ねぇ司令官、どうして――」

電「雷ちゃん!無事ですか!?」

雷「電……?電っ!」ダキッ

電「雷ちゃん!良かった……」ギュウ

多摩「そこにゃ!」バシュッ

卯月「まだこ~んなに残ってるなんて、いい加減しつこいぴょん!」バシュ

熊野「しかも潜水艦ばかり……結局私の主砲は意味がありませんわね。瑞雲!」ピシュン

雷「み、みんなも」

電「漁師さん達を送る途中で、追加部隊に合流したのです!漁師さんは今頃はもう陸に着いているのです」

雷「電、あの夫婦は、あの夫婦はどうなったの?ちゃんと、ちゃんと助かった?」

電「はい、雷ちゃん。瑞鳳さん、大淀さん、霧島さんが追加出撃をして無事、回収してくれたのです。ろーちゃんが海中で偵察しながら、順調に帰路を進んでいるのです!」

雷「それを聞いて安心したわ。じゃあ、あとは」

電「うんっ。ここを制圧して、みんなで一諸に帰るだけなのです!」

雷「みんなで、一諸に……。そう、そうよね。私は、みんなと。一諸に!」

熊野「さぁ、感動の再会はそこまでにして、行きますわよ!」

多摩「あっちにいる親玉は中々手強いにゃ。電、四式ソナーの力を貸して欲しいにゃ」

電「分かったのです!」

卯月「うーちゃんの爆雷がぁ、火を吹くぴょ~ん!」バシュ

雷「私も、負けていられないんだから!」バシュ

ヒトゴーサンマル 洋上 勝利S

卯月「終わっ……たぁ」ヘナヘナ

多摩「さすがにちょっと疲れたにゃあ」ノビー

伊19「ずっと海中警戒ばかりで、魚雷が撃てないとフラストレーションがたまるのね」

熊野「分かりますわ……私も折角の主砲が活かせず悶々してますもの」

伊19「てーとくに頼んで、今日午後の演習に参加させてもらう?」

熊野「それはナイス妙案ですわ!提督、お聞きになって?」

司令官【2人は元気だなぁ。けど今日は本来休みだ、また明日な】

熊19「ぶーぶー」

雷「あはは、もう2人ともしょうがないわね……っと」フラ

電「雷ちゃん?」ダキッ

雷「あ、あれ……ごめんね電、私も何だかすごく疲れちゃって……」ウツラ

熊野「無理もありませんわ……私達が来るまで、1人で頑張っていたのですもの」

伊19「艤装が直っても、精神までは回復しないのね」

司令官【雷……本当にお疲れ様。帰りは無理せず、誰かに支えて貰いながら帰ると良い】

雷「そう……ね。そうしよっかな……。司令官、みんな……その言葉に、甘えさせて、貰うね……」スゥ

電「お休みなさい……お疲れ様、お姉ちゃん」

翌日 ヒトヨンマルマル 明石の工廠奥

雷「ん……ぅ……?あれ、ここ……」

明石「!おはようございます、雷ちゃん。気分はいかがですか?」

雷「明石、さん……?気分は、んー……ちょっと、だるいかな……?あと、口の中が気持ち悪いから歯を磨きたいわ……」

明石「ふふっ、寝起きですからね。でも、見た感じ大丈夫そうで安心しました。少しだけ、待っていて下さいね」

明石「あっ、歯ブラシはそこの台に新しいのが入っているので、使って下さい」

雷「ありがとう、明石さん」

雷(今が……ヒトヨンマルマル?私、大分寝てたみたい)シャカシャカ

雷(……髪、ぼさぼさね)カキカキ

雷(歯を磨いたら顔を洗って、取り敢えず髪を整えて……)シャカシャカ

雷(あ、その前にお風呂に入りたいわ。寝汗もかいてるし。そこで髪を洗って)ガラガラ

雷「……この歯ブラシ、勿体ないし持ち帰ろっかな。今使ってるのは掃除用にしちゃえばいいし」

司令官「相変わらず、雷は家庭的だね」クスクス

雷「え、司令官……!?」クルッ

司令官「おはよ。明石から起きたと聞いて、飛んできたよ」

雷「い、いつからいたの?」

司令官「ん?頭を掻いてる辺りから、かな」

雷「……、暁が司令官のことデリカシーがないって言ってた理由、少し分かった気がするわ」ハァ

司令官「おう?」

ヒトヨンヨンマル 鎮守府前

雷「ふぅ、すっきりしたわ。お待たせ司令官」

司令官「お、来たか。それじゃ、行きますかね」

雷「ねぇねぇ司令官、出かけるって言っていたけれど、どこへ行くの?」

司令官「んー?ブルネイ鎮守府本部だよ。横須賀大本営から元帥殿が来ているからね」

雷「……ふぇ?元帥殿に会うの!?き、聞いてないわよ!」

司令官「おう、言ってないからね」

雷「もー、司令官ったら仕方ないわね……私じゃなければブーイングの嵐よ?心の準備が必要だー、って具合いに」

司令官「あはは、確かにそうかもな。雷で良かったよ」ナデナデ

雷「むー、何だか複雑だわ司令官」

司令官「ごめんごめん。でも、変な意味とかは別にないから。素直に受け取っておいてくれ」

雷「もう……」

ヒトゴーマルマル 定期船上

司令官「いやぁ。こうして本部へ向かうのも久々だなぁ。まぁたまには、普通の船に乗るのも悪くないよね」

雷「……そうね」

司令官「……」

雷「……?」

司令官「元気ないわねー、そんなんじゃダメよ!」

雷「え……?」

雷「まさか今の、私の真似?」ジッ

司令官「お、おう。そうだぞ?な、なんだその、かわいそうな人を見詰める瞳は!結構自信作だったんだぞ今の!」

雷「……っふふ」

司令官「あ、しかも笑いやがったな!全く、酷いぜ」

雷「酷いのは、司令官の物真似じゃない?」クスッ

司令官「うわぁ、これは一本取られたな」クスクス

司令官「よし。雷の笑顔が見れたところで、段取りを話しておくかね」

雷「段取り?」

司令官「ああ。本部へ何しに行くか、まだ話してなかったからな」

雷「そういえば、聞いていないけれど……段取りが必要なの?」

司令官「もちろん。なにせ、今から表彰されに行くわけだし」

雷「……表彰?」

司令官「昨日の功績が称えられてね。賞状と勲章が授与されるそうだ」

司令官「提督と艦娘代表1人来てくれとのことでね。僕は賞状を受け取るから、雷は勲章の方を宜しく」

雷「え、あ、え。えええええぇぇ!?」

雷「そんな大事なこと、今言うの!?しかも、なんで私なの?」

司令官「まぁまぁ、受け取るだけだし。今朝その連絡があったわけだし。それに、雷は秘書艦なんだから当然だろう」

雷「い、いつもなら大本営から送られてくるのに」

司令官「まぁ、今回は事が事だから特別措置な訳だ。といっても、いただける勲章はいつもの勲章と同じみたいだけど」

雷「う、うぅ……そういうことなら仕方がない、わね……」

雷「……あれ、でも今までこういうときって、秘書艦関係なく電が代表を務めていなかったっけ……?」

司令官「ほらほら雷、もうすぐ着くから他事を考えている余裕はないぞー」

雷「わ、わ!まだ脳内シミュレーションが出来てないのに!」ワタワタ

ヒトゴーフタマル ブルネイ本部 受付

大和「お待ちしていました、ブルネイ第八鎮守府司令官様。提督……いえ、元帥殿がお待ちです。こちらへ」

司令官「ありがとうございます」

雷「うう……緊張するわ……」

雷(大丈夫、大丈夫。名前を呼ばれたら返事をして、勲章を受け取るだけだから。あとは司令官に適当にあわせて……)

大和「この部屋です。宜しいですか?」

司令官「ああ、頼むよ」

雷(今のうちに、掌に「艦」って字を書いて飲み込んでおこう……)ゴクン

大和「……元帥殿、お連れ致しました」コンコン

「うむ」

大和「失礼致します」ガチャ

元帥「ふむ、良く来てくれた。久しぶりだな、司令君」

司令官「ご無沙汰しております。元帥殿こそ、ここまでご足労いただき恐縮でございます」

元帥「なに、教え子が今回これだけ大きな功績を残してくれたんだ。足を運ぶのも訳はないさ」

元帥「とは言え、次の予定も詰まっているからな。早速だが、授与に移らせて貰おう。いいかね?」

司令官「はい!」

元帥「では……大和」

大和「はい」スッ

元帥「司令君。いや……ブルネイ第八鎮守府、司令官殿。前へ」

司令官「は」

元帥「ん……表彰状。貴殿は第○○輸送航路にて発生した深海棲艦の通商破壊行為に際し、迅速な対応を行い被害拡大防止に大きく貢献された。これは他の模範である。よってここに勲章を贈り、之を表彰する」

司令官「ありがとうございます」

雷(ああ、いよいよ私の番だわ。司令官の動きを真似して勲章を受け取れば大丈夫なのよね?)

元帥「そしてこれが、勲章だ。特別な物でなくすまないが、受け取ってくれ」スッ

雷(え?)

司令官「いえ、いただけるだけで恐縮です」

雷(し、司令官が賞状も勲章も受け取っちゃって……って!段取りと違うじゃない!)

雷(私、実はただ付き添いで来ただけっていうことなのかしら……だとしたら……)

元帥「ふむ、では……駆逐艦、雷」

雷「ふぁいっ!?」

雷(え、え、私も呼ばれるの!?勲章も司令官が受け取ったのに……不意打ちだったから変な声出ちゃったし!)ワタワタ

元帥「……」ジーッ

雷「う……」カチコチ

大和「……ふふっ」

元帥「大和」

大和「すみません、なんだか初々しくて……懐かしい感覚で」

元帥「……電くんと衝突したことでも思い出したかね?」

大和「そうですね、今となっては良い思い出です」

司令官「はは……」

雷(あ、あの子緊張のしすぎで大和さんに突撃していたのね……でも分かるわその気持ち、実際今私が緊張で頭、回っていないもの)

元帥「では……駆逐艦、雷」

雷「どきどき……」






元帥「表彰状。貴艦は第○○輸送航路にて発生した深海棲艦の通商破壊行為に際し、誰よりも率先して行動、多くの人命救助に当たった。これは他の模範である。よってここに勲章を贈り、之を表彰する」

雷「え……?あ、え、私……表彰……って?」ボウゼン

元帥「……孤立奮迅した勇気は称えられるべきものであり、貴艦の活躍がなければ『誰一人として死ななかった』などという奇跡はあり得なかっただろう」

大和「今回の件において、一番の功労艦を表彰したいとあなた達の提督にお話したんです。そうしたら、彼は間髪入れずにあなたの名を挙げたんですよ」

雷「司令官、が……。で、でも功労艦なら、あの子の方が一番敵を沈めて、」

元帥「私が聞いたのは、君が一番人を助けたと言うことだけだ。悪いが今更表彰状を作り直すことも出来ないのでね、素直に受け取って貰わなければこちらも困る」

雷「あ、う……」チラ

司令官「……」コク

雷「……、あり……がとう、ございます」スッ

元帥「うむ。そしてこれが、勲章だ」

雷(よく分からないまま、私はそれを受け取って、まじまじと見詰めてみた)

雷(それは、今までに見たことがない形の勲章で)

ヒトゴーヨンマル ブルネイ本部 受付

雷「……」ボーッ

司令官「どうした、浮かない顔をして。まるで……あれだ、熱が冷めた状態で金魚片手にお祭りの帰り道を一人歩く子供みたいだぞ」

雷「……司令官、例えがよくわからないわ」

司令官「まぁ自分で言っててもあれだなーとは思ったけどさ」クスクス

雷「……何だか、信じられないというか、夢みたいというか……自分の中で、何かがフワフワしていて」

司令官「そっか。でもね雷、これは夢じゃないよ。君がしたことが現実だから、今こうして結果も現実として出てるわけで」

司令官「その証拠がほら。あそこ」スッ

雷「あそこ……?」

妻「雷さん!あなた、雷さんよ!」

夫「おお、良かった!」

雷「あの2人、何で……」

司令官「何でって。雷、約束していただろう?陸でお礼を言って貰うって」

司令官「雷が起きた後、この時間にここへ来る事を伝えたら、雷に会いに行くって言ってくれてね」

雷「司令官……」

司令官「ほれ、行ってらっしゃいな。相手方は会いたくて仕方なかったみたいだぞ」

雷「司令官は?」

司令官「僕は昨日すでに、挨拶を貰っているからね。先に外で待っているよ。さぁ、行った行った」

雷「……、……」タッ

司令官「……さて」ピッ

司令官「もしもし。うん、もう少ししたらここを出るから、準備を宜しくお願いします。うん、うん……はは。ありがとうございます。じゃあ」

司令官「ふぅ……。後は、雷を待つだけか」

ヒトゴーヨンゴー ブルネイ本部 正面

雷「司令官、お待たせっ」

司令官「ん。もういいのかい?」

雷「ええ。2人の無事な姿を見れて私も安心したし……そうそう、それにね、それにね?お腹、撫でさせて貰ったの!とても暖かかったわ。この中に赤ちゃんがいるんだなぁって」キラキラ

司令官「それは良かったじゃないか。命の温もり、ってやつだな」ナデナデ

雷「えへへ。本当に、みんなが無事で良かった」ニコリ

司令官「……ああ、そうだね。雷は、やっぱり……」ボソ

雷「でも、充分すぎるくらいにお礼の言葉も貰っちゃって……なんだかちょっとだけ、謙遜しちゃったわ」

司令官「そういうときは何も考えず、遠慮せずに言葉を貰っとけばいいじゃないか」

雷「んー……そう、ね。そうなんだけどね……」

雷「っと、司令官。船の時間は?」

司令官「あ、やば。次の便を逃すとまた時間食うし、少し急ごうか」

雷「はーい」

ヒトロクフタゴー 鎮守府内 甘味所

司令官「はー、やっとこさゆっくりできるな」

雷「それは良いけれど司令官、執務室に寄らずに甘味所に直行しちゃって大丈夫なのかしら」

司令官「大丈夫大丈夫。見た感じ誰もいないし」

雷「確かに、珍しく誰もいないけれど……」

司令官「だから、甘いものでも食べてゆっくりしようぜ」グテー

雷「司令官ったら……疲れたからってだらけ過ぎよ?」クスクス

司令官「まぁ良いじゃないか、さっきまでいつも以上に気を張ってたわけだし……少しくらい」ダラダラ

雷「もう、仕方ないわねー」ナデナデ

司令官「あぁ~……」

雷「……ふふっ♪」ナデナデ

伊良湖「来店早々机に突っ伏して何をやっているんですか……」

雷「あ、伊良湖さん」

伊良湖「お水、置いておきますね。注文は……」

司令官「ん、後で頼むよ」ムクッ

伊良湖「分かりました。それではまたお呼びください」

司令官「ありがとう、宜しく頼むね」ジッ

伊良湖「はいっ」ニコ

雷「どれにしようかしら」パラ

司令官「遠慮しなくて良いからな」

雷「それじゃあ……間宮さんアイス!……なんちゃって、冗談よ」

司令官「いや、本当に遠慮しなくても良いんだぞ?」

雷「良いわよ、司令官。間宮券だって数が限られているんだし。それにほら、実は遠慮してる訳じゃなくて他に食べたいものが――」

司令官「雷」

雷「な、なぁに?私は本当に、遠慮なんか」

司令官「さっきも言ったろう?何も考えず、遠慮せず貰っておけばいいと」

司令官「勲章もお礼も、お前が頑張った証なんだ。どこに謙遜する必要がある」

雷「…………」

司令官「以前なら褒められたお前は、胸を張ってこう言っていたはずだよ。『もっともっと私に頼って良いのよ』って」

雷「私は……」

司令官「まるで今のお前は、自分を卑下しているような所がある。第六駆逐隊一番の元気印が、雷だろう?」

司令官「昨日の出撃で思い出したんじゃないのか。駆逐艦、雷の功績を。君がどうして戦っているのかを」

雷「……、……怖いの」

司令官「……」

雷「私は、誰かのために戦いたい。誰かを救うために頑張りたい。人の安堵が、笑顔が、大好きで……みんなの喜びを守りたくて。そのために、頼りになる存在でありたい」

司令官「うん」

雷「けれど、けれどね。助けた人に褒められるたびに、私は天狗になっていたんじゃないかって。頼って欲しいという言葉はいつの間にか、本来の想いを、願いを差し置いて。頼られることが気持ちいい、自己陶酔したいから、ただ私を見て欲しいがために出ていたんじゃないかって……」ツゥ

司令官「うん」

雷「折角、見つけたのに……思い出したのに。頼って欲しいと言葉に出したら、そんな自分が出てしまうんじゃないかって怖いの……。本当の私がどっちなのか分からなくなりそうで……怖いの、司令官」グスグス

雷「司令官、私は……私はどうしたらいいの……?」

司令官「……誰だって、そうだよ。嫌な自分なんてものは、誰だって持っている」

司令官「実際、気持ちいいからね。褒められたりとか、注目を浴びるとか。そんな、『私は自分の欲や利益なんて全くいらないんだー』なんて聖人君子は、世の中にまずいないだろうよ。居たとしたらその人は人の形をした仏様だ、間違いない」

雷「うん……」

司令官「褒められたら喜べばいい。表彰を受けたら誇ればいい。素直に受け止めればいいよ、雷」

司令官「雷ならそれでも、もう本質は違えないはずだから」

雷「本当にそう、なのかな……」

司令官「妊婦さん達と話し終えて出てきた雷は、彼女らが無事で良かったと零した雷は、とても素敵な笑みを浮かべていた。それを見て思ったんだ。やっぱり雷は誰かの無事が、喜びが本当に嬉しいんだなって」

司令官「大丈夫。僕が保証するよ。我が駆逐艦雷は、自分の幸せだけを良しとせず他者のために頑張る事が出来る。誰からも頼られるべき、僕の自慢の艦娘だ」ニッ

雷「しれい、かん……」

司令官「だから変に自分を押し殺すな。お前はもっとワガママ言って、もっと甘えても、釣りが来るんだから」チラッ

伊良湖「はい、雷さん、お待たせ致しました。こちらを」カタン

雷「あ……えっ、私、まだ注文……。というか、これって……」

間宮「はい。間宮特性、三周年記念スペシャルパフェです」

司令官「ほー、これが。すごく旨そうじゃないか、良かったね雷」

雷「あ、う?私?これ、……なんで」

間宮「ふふっ。提督さんに、頼まれたんです。何とか、このパフェを用意できないかって」

雷「司令官、が……」

司令官「ちょ、間宮さん。それは言わない約束ですよ」

間宮「あら、そうでしたね。ごめんなさい」ウフフ

雷「司令官……」

司令官「……誰にも言うなよ?割と職権乱用なんだから」ハァ

司令官「暁と響から聞いたんだ。雷はこのパフェをすごく楽しみにしていたのにって」

司令官「あの日、気が回らなくて本当にすまなかった。僕が君を拘束しちゃったから、せめてもの罪滅ぼしと思ってね」

雷「……、……」

司令官「おっと、迷惑かけちゃったんじゃないか、とか思うなよ?僕が好きでやったことなんだ。何より雷だって、誰かに何かをしてあげた時に『迷惑かけちゃった』なんて思われたくないだろう?それとも、迷惑だと思いながら君は頑張っているのかい?」

雷「……そんなこと、ない……。そんなことないわ、司令官……。誰かが、喜んでくれるから私は……それが嬉しいから、私は」

司令官「……雷が喜んでくれるって事が、僕もとても嬉しいんだ。だから、ね」

司令官「受け取ってくれ、雷」

雷「……ありがとう、司令官」ツゥ

間宮「」ニコニコ

雷「ああ……おいしい。おいしいわ、司令官」ポロポロ



雷「……、……」コト

司令官「……?どうした、まだ半分くらい残ってるみたいだけれど」

雷「ねぇ、司令官。良かったら、司令官も食べない?」

司令官「む、けどせっかくの雷のためのパフェだしな」

雷「こんな美味しい物、独り占めするなんて勿体ないもの。それにね、司令官と一諸に食べたいなって」

司令官「……そっか。それなら、僕も貰うとするかな」

雷「じゃあ司令官。はい、あーん」

司令官「おぅ、マジか。……マジか?」

雷「♪」ニコニコ

司令官「あー……。あーん、はむ……」

司令官「……甘いな」

雷「ねー♪」



雷「司令官、私ね。まだ分からないことがあるんだけど」

司令官「んー?」モグモグ

雷「水中で、意識が途切れかけたあの時……私が見たのは、応急修理の女神様だった。……どうして?」

司令官「どうしても何も、お前が大切だからだよ。他に理由なんて無いさ」

雷「ううん、司令官。私が不思議なのはね、爆雷とソナーとダメコンを積んでいたのに、どうして女神様が艤装から出てきてくれたのかなって」

司令官「答えは変わらないさ。お前が大切だからだよ、だから穴をあけたんだ」

雷「穴……?」

司令官「ほれ、艤装を見てみろ。穴があいてるだろ」

雷「え、え?」クルッ

雷「これって……スロット?え、でもこんな所にスロットなんて……」

司令官「補強増設って言ってな。今後色んな鎮守府に配られるらしい。ちょっとした物しか詰めないが、事実上スロットが一つ増えるんだよ」

雷「えーっ!?なにそれ、すごい!と言うか、聞いてないわ!」

司令官「そりゃ、誰にも言ってないし。それだって、実装前に特別一つ先行して貰った分だからね」

雷「先行配信って……そんな、1つしかない物をどうして私なんかに……」

司令官「いやー、次の大規模作戦時にいくつかまた貰えるみたいだから、4つ揃ってから使おうかとも思ったんだけれどね」アハハ

司令官「けれど、今回のことがあってさ。丁度良いと思ったんだ」

雷「丁度良い……?」

司令官「雷ならばきっと、自身の危険を顧みずに最後まで人命救助にあたるだろうから。場合によって長引いたりしたら、ダメコン1つでは危険なこともあるんじゃないかとな」

雷「でも、こんな特別な物……司令官なら、すぐにでも電に使うかと思っていたわ。特に、危険が伴うのであればなおさら……」

司令官「ま、いずれは手に入る物だし。……それにね、言ったはずだよ。君と電を頼りにしている、そこになんら差はないって。差はないからこそ、状況的に一番補強増設を使うべきと思った雷に使用したんだ」

司令官「もともとダメコンを積んだ雷の事だ。1人だけの状況を作らなければならない場合、自らが率先してその役を買って出るだろう。そして電ならば、雷のそんな言葉には頷くだろう、ってね」

雷「……お見通しなのね、司令官には、私達のこと」

司令官「おうよ。曲がりなりにも、君達の司令官なんだぜ?それくらいしっかり把握して置かなくてどうする」

司令官「なーんて、パフェ始めまだまだ全然見えていないダメ司令官なわけだけど」タハハ

雷「ううん……とっても頼もしいわ、司令官」

司令官「雷もな。君に頼る思いでスロット増設を実行したわけだし」

司令官「雷、その……だから、な」

雷「……?」

司令官「……、……」フゥ

司令官「その頼もしさをこの先も僕に貸して欲しい。だから雷、これからも君に、頼らせてくれ」スッ

雷「!司令、官……これ……」

司令官「遅くなってしまって、すまなかった。受け取ってくれるかい?雷」

雷「……あは……っ」ポロポロ

雷「もうっ……」ゴシゴシ

雷「なんかい、泣かせたら……気が済む、のよ……っ」グスッ

司令官「雷が喜んでくれるのであれば、何度でも」

雷「司令官、ったら……酷いんだから……」ニコ…

雷(ああ……身体の内側から、とても暖かいものが込み上げてくる……)

雷(薬指に感じるこの感触が、すごくすごく心を打って)

雷「どうかしら……。似合ってる?司令官」

司令官「おう、とっても。……いや、やっぱりなんだか気恥ずかしいけれどね……慣れないな、4度目なのに」

雷「ふふ……寧ろ慣れちゃわないほうが嬉しいわよ?仮にもケッコンだなんて、名前がついているわけだし」

司令官「本当、なんでこんな形にしたんだろうなぁ、大本営も」

雷「本当よね、一体誰が考えたのかしら」

雷(本当に、こんな形でなければ。私も、もっと気楽に考えられたのにな)

雷(……)

雷「司令官。1つだけ、ワガママを言ってもいいかしら」

司令官「お?1つと言わず、いくつでもいいぞ」

雷「ううん。最後に、1つだけで良いの」

司令官(最後に……?)

雷「……」スゥ、ハァ

雷「司令官」

雷「私と、結婚してください」

雷「司令官のために、毎朝、おみおつけを作らせてください」

雷「私だけを愛して、私だけを、ずっと、ずっと見ていてください」

雷「あなたが好きです――大好きなの、司令官」ツゥ

司令官「……、……」

雷「……」ポロポロ

司令官「僕は……」

司令官「僕は、自分の気持ちに嘘はつけない。だから雷」


司令官「ごめんなさい」







雷(ああ――)

雷(――良かった)

結局。この、目に見えない証は、司令官から与えられる勲章は、あの子が持って行ってしまうけれど。
だからこそ、指輪に込められた信頼は司令官が言うとおりに平等で。
そこに、優劣なんて存在しない。

雷(何をするにしても、されるにしても最後だった)

だからって、私は最下位だなんて勝手に順位付けして。

雷(でもそれももう終わり)

だって、ここにはもう司令官に頼られる雷しか居ないのだから

雷「ありがとう、司令官」

雷「妹のことを。よろしくね」ニコ

司令官「――任せとけ」ニッ

後日 鎮守府 調理場

雷「司令官、もう良いわよ!」

司令官「え、もうなのか?えー、早すぎない?生じゃない?」

雷「良いから良いから」

司令官「ふむ。……、おぉー!いい焼き色だ!それに良いにおい……」クンクン

雷「どお?完璧でしょ?」

司令官「さすがだなぁ」ナデナデ

雷「えへへっ。ねぇ、司令官?私無しじゃ、もう艦隊は成り立たないでしょ?ねっ?ねっ?」

司令官「あはは、ここで艦隊の話につなげてくるか。雷らしいと言えば雷らしいな。でも確かに、お前無しじゃ艦隊も鎮守府も成り立たないよ」

雷「ふふーん♪いつでも司令官のお嫁さんになって上げるからね!だってほら。結婚がダメでも、重婚があるじゃない?」

司令官「そう来るか」

雷「艦娘との重婚は法律でもダメだって言われてないって霧島さんも言ってたし……ね?♪」ギュー

司令官(いかん、破壊力がやばすぎる)

司令官(……暁型4人をお嫁さんとして実家に連れて行ったら、母さん卒倒するだろうなぁ)

雷「司令官?」

司令官「ご、ごほん!しかし、僕が焼いたときはこんな短時間じゃあまり焼けてなかったのになぁ」

雷「あ、それはきっとあれだわ。司令官は先にオーブンを温めていなかったのよ」

司令官「それだけでも大分変わるのか……よし、また1つ勉強になったぞ」

司令官「と、もうみんな待ってるよな。皿に盛りつけて……と」

雷「ふふっ。さぁ、これを持って部屋へ向かいましょう」

司令官「よっしゃ!」

鎮守府 第六駆逐隊の部屋

雷「みんなー、クッキー焼けたわよ!」

響「ハラショー!」キュポン

暁「ちょっと響!何ナチュラルにお酒を飲もうとしてるのよ!今から大規模作戦最終海域攻略の作戦会議なんだからね!」

響「何、酔うほどは飲まないさ」トクトク

暁「それ暁のコップううぅ!!」

司令官「はは、全く……資材も状況も割と切羽詰まってるのに、お前らはそれを感じさせないな」

響「切羽詰まってるのは割と司令官のせいだけどね。第二艦隊に駆逐艦を5隻も入れて……」

司令官「うぐ」

暁「そもそもクッキーを焼いてる司令官が一番のんきにも見えるわよ?」モソモソ

司令官「うぐぐ」

多摩(と言いつつちゃっかり暁も早速クッキー食べてるにゃ……)モソモソ

卯月(ぴょん♪)モソモソ

電「いつも思うのですが、こんな感じで海域突破できるのでしょうか」アハハ…

雷「まぁなんだかんだで今まで越してきたわけだし。今回もばっちり、甲勲章を貰うんだから!」

電「そう、ですね!雷ちゃんと、みんなとなら、絶対勝てるのです!」

雷「なんたって鎮守府最高練度の4人、『司令官のお嫁さんになり隊』が出撃するわけだからね!」

電「はにゃ!?」

暁「いいい雷、なな、何を言ってるのよ何を!!」

響「……」

暁「響からもなんか言ってよ!」

響「……そのネーミングセンスは良いな。実にハラショーだ」

暁「響ーっ!」!カスンプ

電「い、雷ちゃん……」

雷「あ、電はリーダーだからね」

電「はわわわ!?はわわ、はわわわわわわ……」プシュー

司令官(おう、嬉しいし微笑ましいが気まずい助けてくれ)

多摩(知らんがにゃ……)モソモソ

卯月(ぴょーん)モソモソ

司令官「ふぅ、もう一時間か……第二艦隊の会議はこんなものだろう。さて、みんな。今先程あきつ丸より連絡が入った。敵輸送隊旗艦の無効化に成功、一時的にだが防空棲姫への補給支援を断絶できたと」

暁「いよいよ、ね」

電「緊張してきたのです……」

司令官「既に第一艦隊は旗艦瑞鳳を筆頭に、装備の調整に入っているはずだ。君達も今から工廠へ向かい、装備を調えてくれ」

多摩「分かったにゃあ」

響「了解」

司令官「ここからは僕も督戦にて動かせて貰う。くれぐれもみんな、無理はするなよ」

卯月「司令官こそ、無理はしちゃダメぴょん」

司令官「ああ。必ず、みんなで。勝って帰るぞ!」

全員「オォーッ!」

ガンバルノデス! ヤルサ アカツキダッテ!



司令官「……みんな行ったか。僕も……」

雷「あ、司令官まだ居たのね?」

司令官「雷?どうしたんだ、一体。忘れ物か?」

雷「うん、ちょっとね……」ゴソゴソ

司令官「……それは?」

雷「電のバレッタよ。私が無くしちゃったから、新しく縫ったんだけれど……渡しそびれちゃってて」

司令官「そうなのか」

司令官(あれはイメチェンした物だとばかり思っていた……)

司令官「よし、じゃあ電気を消して……」パチ

雷「」ジー

司令官「……?雷?」

雷「えへへ。やっぱり司令官はすごいなって。さっきの鼓舞で、みんなの士気もすごく上がっているわよ?ああ見えてみんなも、決戦前に緊張していたみたいだから……」

司令官「そういう雷はどうなんだい?」

雷「私だって、緊張してるわ。けれど電が、みんながいる。それに司令官がいるから、寧ろ奮い立ってるんだから!」

司令官「はは、なるほど。強いね、雷は」ナデナデ

雷「ふふーん!」

司令官「……」ナデナデ

司令官「……雷だから言うけれど、実は僕自身、不安を拭いきれない部分はあるんだ。司令官として、本当はそんなこと言ってられないんだけどね」

雷「そうなの……?司令官でも、そうなんだ。……資材が残り少ないのは知っているわ。さっきは電にああ言ったけれど、場合によっては甲作戦を辞退しても良いんじゃないかしら?」

司令官「それは……」

雷「……」

司令官「……こんな自分だけど、君達のおかげで元帥殿にも評価を買われて、折角与えて貰った役目なんだ。出来るだけ、全うしたいと思っている。甲作戦を遂行した者に送られる勲章に魅せられている部分も、否定できないけどね」アハハ…

司令官「まぁそう言いつつ実は不安なんだって雷に零す辺り……僕はまだまだ未熟な司令官だよな……」

雷「……そっか」


何気なく呟かれた“勲章”という単語に、無意識に視線が部屋の中へと向いて

雷(結構長く一諸にいたはずなのに、不安げな司令官の表情は見るのは、彼の弱音を聞くのは始めてな気がして)

棚の上に置いてある賞状と勲章を見て、あの日の自分を思い出した。

雷(実は司令官こそ、ワガママ言ったり人に頼るのが下手なんじゃないかなって。ふと、そう感じた)

雷「……あれは私が頑張った証拠、人を救うことが出来た誇り。そして、司令官が居てくれた証」ポソ

司令官「ん……」

雷「……司令官。私達のおかげで、元帥殿に評価を買われたって言ったけれど」

雷「私達が頑張って上げた成果は全部全部。司令官が居なければ、得られなかった物」

雷「だからね、司令官。これからもずっと、私達の側にいて?私にあなたを、頼らせて?」

司令官「そんなの……ああ、当然だ」

雷「ふふっ、良かった……」

雷「じゃあ、司令官だってもう分かったわよね?」

司令官「え?」

雷「私達艦娘はね、みんなみんな、あなたが頼りなの。あなたが居てくれるから私達は、私は大丈夫なの」

そうだ。あなたが手を引いてくれるから、私はこうしてここにいる。

雷「それと同じように、私に頼ったらいいのよ。ね?これは、司令官が教えてくれたんだよ」ニコッ

司令官「!」

あなたがしてくれているように。私もあなたの弱さを、ワガママを聞いてあげたい。

雷「あなたの不安は、この雷様が全力で受け止めちゃうわ!」トン

司令官「雷……」

誰かの笑顔を守れるように、誰かの命を救えるように
あなたの笑顔も命も、私が守るから。



雷「さぁ、行きましょう司令官。あなたは大丈夫!」スッ

今回は私が、あなたの手を引く番。






雷「だって、私がそばにいるんだから!」





おわり。お目汚し失礼しました。
暁響雷と、書きたかったものが取り敢えずこれで全部かけたので満足です。

またいつか、電ちゃん嫁で第六駆逐隊多摩づほ卯月イク辺りが同時に出現してるSS見かけたら、「あいつかな?」と疑ってやってください。

最後に。
途中、瑞鳳のセリフで一部司令官呼びになっていた事お詫びします。
呼び方ミス……一番申し訳ないです。精進します。

では、お付き合いいただきまして本当にありがとうございました。
HTML依頼出してきます。

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