兄「伝説の剣を引き抜きに来たら妹に先越された……」 (205)

中央王国・大広間

兄「ちょまっ!! 先に抜いてんのお前!?」

妹「……なんかごめん」

兄「謝るな、余計惨めになる!」

国王「おお! 封印されし伝説の聖剣を引き抜く者が、ついに現れたか!!

 今日この時より、貴殿を正式な勇者に任命する!!

 必ずや邪神を打倒し、世に平穏を取り戻してくれ!!」

妹、改め勇者「は、はあ……が、頑張ります」

民衆『うおぉぉぉぉぉぉーっ!! 勇者ちゃんかわいいぃぃぃぃぃーっ!!』

兄「ぐぬぬ……」

勇者(兄からの視線がものすんげー痛い……)

兄(お、おのれぇぇぇ……どこの神様か知らないが、俺の幼い頃からの勇者になる夢を粉みじんにしやがって!

 しかも赤の他人ならいざ知らず、妹だと!?

 こいつは許せん! 許せるわけがなーい!!)ダダダーッシュ

勇者「あっ! 兄さん、どこ行くの!?」

兄(こうなったら、妹よりも先に俺が邪神をぶっ転がして、真の勇者であることを証明してやる!!

 へっへーんだ、神様め! せいぜい吠え面かかせてやるぜぇ!!)

勇者「兄さーーーん! ……はあ、また思いつめなきゃいいけど……」


 ――こうして、国を挙げて送り出された『伝説の勇者』より一足早く、
   勇者になりたい男の冒険が始まった……。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446806828

 伝説の聖剣――。

 かつて神々の王が自ら鍛え上げ、選ばれし人間の戦士が手にすることで数々の奇跡を起こしたと伝わる遺物。

 約五百年前、異界から攻め込んできた邪神の軍勢を、聖剣を携えた若者が撃退したおとぎ話は、この世界ではあまりにも有名。


 しかし、その伝説にあった邪神が実在し、およそ30年前から再びこの世界に侵略を始めたのだった。

兄(それ以来、人類はエルフやドワーフ、果ては地上に暮らす魔族とも同盟を結び、邪神と戦い続けている。

 だが邪神の力は強大過ぎた。この世界の生命にとって最後の頼みの綱は、聖剣に導かれた勇者しかない。

 世界中から星の数ほどの腕自慢が、中央王国王室に伝わる聖剣を台座からの引き抜きに挑戦し、

 文字通り星となって消えていった……消えてないか。帰っただけか)

兄「だがなぁ!! 挑戦する前に先を越されて、のこのこと田舎へ帰れるものかよ!」

兄(そんなこんなでやってきた、絶賛邪神の軍勢に襲われている村!

 中央王国から走って二日! 戦う前から俺のHPレッドゾーンだけど……)

兄「しゃらくせえ! 俺の棍棒をくらいやがれぇぇぇーっ!!」

???「ちょっと待たんかい! そこのノータリン!!」

兄「はい? 確かにステータス腕力と体力に全フリしてますけど、何かご用ですか?」

???「『脳筋』じゃなくって『ノータリン』っつったんだよ……大差ないけど。

 それより! どこへ行く気だ、ここいらは邪神軍の勢力圏だよ?」

兄「存じてますとも!! 俺は邪神軍と戦う――いや、やっつけるためにここまで来たんだから」

???「あ~、はいはい、そういうことね。だったら先にコレにサインして」ピラッ

兄「ふむふむ、中央王国の第七部隊、傭兵登録志願書……なんぞなこれ?」

???「いや、今あんたが読んだまんまだよ!? マジに足りてないのかお前?」

兄「馬鹿言っちゃいけないなぁ、僕ぁ勇者として邪神と戦おうとしてるんだぜハハハッ」

???「うぜえ……ん? 勇者ってことは……もしかしてお前!?」

兄「あれ? ひょっとしてその話、もうこんなとこにまで伝わってる?」

???「やっぱり! 王室の聖剣を引き抜く勇者がついに見つかったって聞いたけど……」

兄「イカにもタコにも、それは私の妹です」

???「やっぱりかー!!

 ……ん?」

兄「だ~から、聖剣を抜いた勇者は俺の妹。

 俺は伝説の勇者になりそこねた……哀れなピエロさ」

???「うむぅ、紛らわしいこと言いやがってとツッコみたいのに、どことなく哀愁にまみれた雰囲気のせいで殴りにくい……。

 というか、だったらなんでお前まで『勇者』名乗ってんだよ」

兄「ああ。それはな――。

 俺→勇者になりたかった→でも聖剣に選ばれなかった→でも勇者になりたい→じゃあ俺が邪神倒せれば真の勇者じゃね?

 ということだ」

???「なるほど、馬鹿だなお前。

 おーい、馬鹿がお帰りになるぞ~。つまみだせ~」

兵士たち『へ~い』

兄「ウェイウェイウェイウェイ!! ちょっと待ってくれよステファニー! そりゃないんじゃあないかね?」

???「誰がステファニーだ!!」

???「私はこの中央王国軍第七部隊司令のエルフ騎士だ」

兄「司令? うそ~、俺より年下っぽい……つうか子供じゃん」

???「エルフだからな。これでも111歳だ」

兄「なんだ、それなら人間換算で……ああ、うん。俺よりやっぱ年下だな」

兵士A「そうっす! エルフ騎士様はエルフ族の中でも若くして才能を見出された才媛なんっす!」

兵士B「ロリっぽいけど隠れ巨乳、剣も魔法もソツなくこなせるオールラウンダーっす!」

兵士C「俺たち、エルフ騎士様のために[ピーーー]るっす!」

第七部隊兵士一同『エルフ騎士様ーっ!!』

エルフ騎士「ふっ、まあ落ち着け皆の衆」

兄「あ、満更でもないっぽい」

エルフ騎士「で、話を戻すけど、つまりあんたは勇者でも何でもない、ただの一般冒険者ってことだな」

兄「そう認めざるを得ない」

エルフ騎士「じゃあ悪いが、今は我が軍の作戦行動中だ。作戦領域内に一般人の立ち入りは許可できない」

兄「それは遠まわしに『君の力が必要だ、傭兵になってくれ』ってことだな。なら断らない」

エルフ騎士「無駄に前向きな……」

兄「一見すると本筋と無関係な頼みごとをクリアするうちに、世界を救うのが真の勇者だと思う」

エルフ騎士「無関係じゃないから。ここ邪神軍との最前線だから。今もすぐそこの村で、住人全員を石に変えた怪物が陣取ってるから」

兵士A「あ!」

兵士B「どうした?」

兵士C「忘れてた! 隊長、伝令役が、邪神の軍勢が村を出発してこちらに向かってくるのを確認しました!」

エルフ騎士「先に言えよ!! それ、いつの話だ!!」

兵士A「はっ! あと約一時間でこちらに到達する見込みと、一時間前に!!」

エルフ騎士「待てこら」

兄「あ~、あれそうじゃね?」

邪神の軍勢『おーれのばあちゃんはきゅうじゅういちー♪

 ばーちゃんはトレーニングだいすっきー♪』

兵士A「うおおお!! ものすごい数の魔物がジョギングしながら!!」

エルフ騎士「くっ! 総員、戦闘配備だ!!」

兄「よっしゃあ! 俺に続けぇぇぇーっ!」スッタカタッター

エルフ騎士「あ! コラ! 勝手に突っ込むんじゃあない!」

兵士B「心配しなくても、誰もあいつにはついていきませんから」

兵士A「なんか自信あるみたいだし、案外時間稼ぎとかしてくれるんじゃないすか?」

エルフ騎士「ど、ドライだな、お前たち……」


兄「おまえら、止マレナサーイ!」

邪神軍の部隊長「むっ! 我々をカタコトで呼び止めるとは、何奴!?」

兄「俺だー!!」

邪神の軍勢『…………。

 おーれのばあちゃんはきゅうじゅうにー♪

 じゃーまをすーるやつおっしのっけるー♪』

兄「無視するんじゃない!! てやっ!!」

邪神軍の部隊長「ぐわっ!」

魔物A「あっ! 隊長、こっち倒れてこないでください!」

魔物B「このままじゃ将棋倒しに――」

邪神の軍勢『うわあああああああっ!!』


邪神の軍勢『』チーン

兄「ふっ、口ほどにもない」

エルフ騎士「な、なんて奴だ! あの数の魔物を一瞬で……。

 わ、私は今、武力とは違う、そこの知れない強さを肌で感じている……」

兵士A「買いかぶりじゃないですかね?」

兵士B「お、おい見ろ!! 向こうからさらに何か来るぞ!!」

エルフ騎士「なんだと……!? な、なんだあいつは!!」



巨大なドラゴン「情けない、人間一人に壊滅するとは。それでもオレ様の部下か!」

部隊長「ひ、ヒイイイイッ! 邪竜王様ぁぁぁ!」

邪竜王「消えろ、雑魚が。ダークブレス!」ブシャァァァァァ

邪神の軍勢『うぎゃあああああああああっ」バシュゥゥゥゥ

兄「な、なんてことを! 自分の手下を……」

邪竜王「グハハハッ! オレ様の名は、邪神軍の中でも最強のパワーを誇る邪竜王!

 我が『邪竜軍団』に弱者は必要ない! 役立たずにはシアルのみ!

 だが、強い奴ならば種族など問わず大歓迎だ。お前、俺の部下にならないか?」

兄「世界の半分をくれるなら考えてやる」

邪竜王「足元みやがって!」



兵士A「じゃ、邪竜王だって? まさか、奴が邪神軍ナンバー2の邪竜王……」

エルフ騎士「知っているのか!?」

兵士A「斥候によれば、邪神の軍隊には

 力の邪竜軍団、

 守りの機械化軍団、

 神速の魔獣軍団、

 魔翌力の屍鬼軍団、

 の4つの軍団が存在するようです。そして奴こそが、4軍団で最強と言われる邪竜軍団の長!

 屈強な戦士たちを数多く配する北の王国を、わずか三日で焦土に変えた怪物です!」

エルフ騎士「そんな奴が最前線に……! ふっ、どうやら今日が正念場のようだな」



兄「世界の半分が貰えないなら、お前の手下にはなれないな!

 真の勇者たるもの、悪党からの誘いには決して乗らない!」

邪竜王「発言が矛盾しているが大丈夫か?

 ……ん、勇者だと? 貴様、勇者と言ったか!!」

兄「ああ、言った!

 俺はこの手で邪神を倒し、真の勇者になるべく戦う男!! 勇者兄だ!!」

邪竜王「チッ、ならただの戦士じゃねえか。さっさと聖剣の勇者を連れてこい!

 オレ様はそいつと戦うためにここまできたんだからな」



兵士B「な、なんて奴だ! この場所はドラクエⅢで言えばまだロマリア辺りだというのに!」

兵士C「そんな場所にいきなり邪神のナンバー2だって!?」

兵士A「しかもあの雰囲気……!

 負けバトルだと思ったらゲームオーバー画面になってプレイヤーをポカンとさせる気マンマンじゃないか!」

兵士一同『なんて極悪にして残虐非道! これが邪神軍の戦略か!!』

エルフ騎士「おまえらー、いい加減に出陣したいんだが、まだ支度できないのかー?」

邪竜王「勇者じゃないなら用はない。オレ様のダークブレスを喰らって消し飛べ!」ブシャァァァァァ

兄「ふぉぉっ!?」ヨコットビー

邪竜王「甘い!」ブシャァァァァァ

兄「うおおお! なんて奴だ、ブレスを打ちながら首を振ってこっちを執拗に狙ってくる!

 しかも、ブレス出しながら喋ってやがる!!」

邪竜王「その余裕がいつまでもつかな? グハハハハ!」ブシャァァァァァ

兄「こ、これ以上はかわせない――ぐわあーっ!!」ドカーン

邪竜王「グハハハ! それ、ダメ押しだーッ!!」ブシャァァァァァ

エルフ騎士「くそったれ! 間に合わなかっただと!?」

邪竜王「ほう、まだ仲間がいたのか。

 遅かったな。自称勇者ならたった今、跡形もなく消滅した。

 オレ様のダークブレスはただの炎にあらず! 地獄に燃え盛る漆黒の火炎よ!!

 一度喰らえば魂すら残さず灰燼と化すのだ!! グハハハハッ!!」

エルフ騎士「の、能力のご自慢とは余裕だな」

兄「まったくだ。それは小物のやられパターンだぞ、軍団長様」

邪竜王「な、なにぃぃぃぃっ!! む、無傷だとぉぉぉぉぉっ!!」ガガーン

エルフ騎士「回復魔法……いや、バリアで防いだのか?」

邪竜王「あ、ありえん! どちらにしろありえない!!

 ダークブレスの火力なら、例え火炎ダメージを軽減するバリアがあったとしても諸共に焼き尽くす!

 それに回復する暇なんてなかったはずだ!!

 わからん! 一体、どうやってダークブレスから生き延びた!?」

兄「穴掘って隠れた」

エルフ騎士「予想以上に原始的!?」

邪竜王「ぬっ、あの一瞬でダークブレスの範囲外まで深く掘削するとは……」

エルフ騎士「あっちもあっちで無駄に感心してるし……」

兄「ところで隊長さん、部下のみんなはどうした? 姿が見えないんだけど」

エルフ騎士「連れてきてない。なんかブレスで一掃される未来しか見えなかったから、増援呼びに行ってもらった」

兄「思いのほか優秀な指揮官かもね、君」

邪竜王「なんてよそ見してると、拡散ダークブレス!」ヒュボボボボボッ

兄「うわっちゃあ!」ピョーン

エルフ騎士「うおお! く、黒い火の玉が、あんなにたくさん!」シュバババババッ

邪竜王「ほう、女の方もやるじゃないか。

 収束型より威力が低いとはいえ、槍で弾き返しやがった」

エルフ騎士「伊達に天才騎士なんて呼ばれてないのさ」

エルフ騎士(かなりギリギリだったけどね。今のより速くなったら無理……)

兄「あれ、君は剣士じゃなかったの?」

エルフ騎士「剣と槍、ナイフに斧に弓に、フレイルとかマスタリー11コぐらい持ってたかな。

 なにしろ天才だから」キラッ

兄「あら頼もしい」

エルフ騎士「油断するなよ、次が来るぞ!」

邪竜王「ダークブレス!」ブシャァァァァァ

エルフ騎士「ちっ!」ピョーン

兄「ちょいさーっ!!」ローリングッ

邪竜王「逃がすか! 続けてダークブレス!

 とみせかけて、ぶちかまし!!」ズッドーンッ

兄「やべ――ぐわわっ!」ドドーン

エルフ騎士「あ! おい、あんた!!」

邪竜王「他人の心配をしている場合か!! テールチョップを喰らえ!!」ビュオンッ

エルフ騎士「当たるかよ!」ヒョイッ

エルフ騎士(チャンス! 尻尾を串刺しにしてやる!!)

邪竜王(ニヤリ)

 ガキーンッ

エルフ騎士「なっ! 私のミスリルの槍が弾かれた!?」

邪竜王「残念だったな! オレ様のウロコはどんな剣も槍も弾き返す!

 ドラゴンキラーですら傷一つつかんわ!! 実際に試してみたしなァ!!」ドゴォンッ

エルフ騎士「ぐわぁぁぁぁっ!!」ピューンッ

邪竜王「おお、よく飛ぶよく飛ぶ! グハハハハッ!」

兄「てめえ、許さん!」ダダダーッシュ!

邪竜王「フン、ぶちかまし!」ドゴォン

兄「ぐっ!」

邪竜王「ワンモアセ!」ズゴォン

兄「ぐぬぬっ……」

邪竜王「ダメ押しだ!」バチコーン

兄「がはっ!」ドサッ

邪竜王「今度こそ終わりだ!

 トドメのダークブレス!!」ブシャァァァァァ

エルフ騎士「や、やめろーっ!」

 ドカーン

兄「……あれ、外れた?」

エルフ騎士「一体何が……?」

邪竜王「ぐっ、射線がズレてしまったじゃないか!

 誰だ、オレ様の尻尾を引っ張ったのは!?」



勇者「あたしだ!」

兄「妹!!」

エルフ騎士「妹!? じゃあ、あの子が聖剣の勇者!?」

勇者「……フン!」

邪竜王「ぐおおっ!?」

エルフ騎士「おおっ! 邪竜王の尻尾を掴んだまま、振り回し始めたぞ!」

勇者「そらそらそらそらーっ!」ポーイ

邪竜王「ぐわぁーっ!!」ズドーン

勇者「聖剣よ!」ペカー

兄「て、手から剣が出てきた!」

エルフ騎士「あれが、聖剣……!」

邪竜王「お、おのれ! ダークブレスを喰らえ!!」ブシャァァァァァ

兄「マズイ! 避けるんだ、妹!!」

勇者「大丈夫!! 凍てつく冷気の刃! ソードブリザード!」ビュォォォォォッ

エルフ騎士「す、凄まじい冷気だ!」

邪竜王「ぐわわっ! オレ様のダークブレスが……押し切られる!」ビシビシビシッ

邪竜王「ぎゃああああああーっ!」ズドーン

勇者「……ふう」

エルフ騎士「す、すごい……、これが聖剣の勇者の力……」

兄「気を抜くな! まだ生きてるぞ!」

邪竜王「キシャァァァアアアアアッ!!」ドドドドドッ

勇者「わわっ! ブリザー――」

邪竜王「遅ぇえッ!!」ブゥンッ

勇者「うわっ! わっ! ちょまっ!!」カキン キンッ キンッ

邪竜王「へっ! 魔法はともかく剣技はお粗末だな!! うおりゃあ!!」ブォンッ

 ガッキーン

勇者「やばっ、聖剣が!!」ピュンピュンピュンピュン

邪竜王「とった! ドラゴンクロウ!!」グワッ

兄「させねーよ! ドロップキック!!」ドーン

邪竜王「ま、またてめえか!」

勇者「兄さん!」

兄「気を抜くなって言ったろ? そして俺は抜け目がない!」ピョンッ

邪竜王「お、オレ様を踏み台に!」

エルフ騎士「何をするつもりだ!?」

兄「決まってる! 真上から落ちてくる聖剣をキャッチだ!」ガシッ

兄「そのまま串刺しに――」グラッ

兄「あれ?」

邪竜王「無駄なことを! 例え聖剣といえども、剣である限りオレ様のウロコは――」

邪竜王「あれ?」



兄「な、なんかこの剣――」

邪竜王「な、なんか落下速度が――」



兄「重すぎるんですけど!?」

邪竜王「速すぎるんですけどぉぉぉ! だ、ダークブレ――」


 スッパーーーーーンッ

エルフ騎士「……これは見事な」

勇者「真っ二つ……」

邪竜王「……こ、こんなはずは……オレ様が、こんなあっけなく……ガハッ!」

 ズズーン

兄「うぉぉぉっ、重いコレ! 手が! 手が潰れるぅぅぅ!」

勇者「兄さん! せ、聖剣よ!」ペカー

エルフ騎士「呼べば戻ってくるんだな」

勇者「は、はい。そして使わない時は心の中に閉まっておけるんです」ペカー

エルフ騎士「あらま、消えちゃった」

兄「あ~、びっくりした。こんな重いもの、よく振り回せたな」

勇者「違うのよ。あたし以外が持とうとすると、すごく重たくなる呪いみたいのが掛かってるみたいなの。

 あたしにとっては羽みたいに軽くって扱いやすいわよ」

兄「それでか。手に取った瞬間、巨大な岩か何かに引っ張られたみたいだったぞ」

エルフ騎士「なるほどな。呪いで激増した重量によって加速が爆発的に増して、奴を一刀両断したのか」

勇者「微妙に聖剣の力と無関係な勝利だね」

エルフ騎士「吹っ飛ばされたまま戦線に戻れなかった私よりはマシ」

重い方が軽い方より早く落ちるとかキン肉マンの世界か何か?

兄「なんにしても、勝ちは勝ちだ! わっはっはっは!」

勇者「わっはっは、じゃないよ! バカ兄さん!! 一人で勝手に出て行っちゃうなんて、何考えてんの!!」ポカポカ

兄「あだだだだ! や、やめろ妹! 兄さんもな、色々と考えた末の行動なんだぞ?」

勇者「どうせ『聖剣に選ばれなかったから、自力で邪神を倒して勇者になってやる』とか馬鹿なこと考えたんでしょ!」

兄「な、なぜそれを!」

勇者「分かるわよ! ずっと一緒にいたんだから……」ポロポロ

勇者「心配、させないでよぉ、バカぁ……」ポロポロポロポロ

兄「…………、すまん」

エルフ騎士「…………」ポリポリ

エルフ騎士「ひとまずだ、駐屯地に戻らないか? 占領されていた村の調査もしないといけないし。

 寝床と食事も用意できるぞ」

勇者「あ……は、はい!」グシグシ



???(邪神の居城)

屍鬼王「邪竜王が死んだ!」

マシン王「ほう。奴は頭はアレだが、実力は本物だ。聖剣の勇者が現れたという情報、やはり事実だったか」

魔獣王「フン! 相手が誰だろうと、最強を名乗っておいて敗北するなど! 邪神軍の名を汚しおって!!」

>>28
 剣が急激に重くなっただけなので、速度自体は変化してないハズ。
 邪竜王に速くなって見えたのは気のせいでしょうけど……。


屍鬼王「所詮、邪竜王は『自称』最強。我らの中でも最弱――」

マシン王「いや、それはない」

魔獣王「最弱は間違いなくお前」

屍鬼王「orz」

魔獣王「そして、真の最強はこのオレさ!」

マシン王「何を抜かす、ケダモノ風情が。最強はこのワタシだ」

魔獣王「オレだ」

マシン王「ワタシだ」

魔獣王「オ・レ・だ!」

マシン王「ワ・タ・シ・だ!」

魔獣王&マシン王「…………」

魔獣王&マシン王「やんのかこら、あぁん!?」

邪神「やめねえか、みっともねえ!!」ゴロゴロピシャーン

マシン王「ひぃっ!」

魔獣王「す、すまねえ、オヤジ!!」

邪神「たく、てめえらときたら二言目には『俺が最強』って、馬鹿の一つ覚えみたいに。

 真の最強はこの俺!! そうだろ、てめえら」

魔獣王「お、おっしゃるとおり……」

マシン王「ギュィィィィン……お許し下さい、邪神様……」

邪神「別に怒っちゃいねえ。むしろ気分はいいんだ。ようやく五百年前のリベンジができんだからよ。

 聖剣の勇者、今度勝つのは俺だぜ、へっへっへ」

羽根を落とそうが百キロの鉄球を落とそうが、空気抵抗を考慮しなけりゃ落下速度は変わらないというのに

邪神「時に、マシン王。例の物はどうなっている?」

マシン王「は、は! 先日手に入れた素材と、見事に合致いたしました!

 今日いっぱいの調整を施せば、明日にでも出撃可能です」

邪神「そいつはいい! なら準備ができたら聖剣の勇者にぶつけろ」

マシン王「よろしいので?」

邪神「構わねえ。聖剣の勇者を倒す、そのための『魔剣』だろ?

 魔獣王。そんなわけだから、次の出撃はマシン王に譲ってやっちゃくれねえか?」

魔獣王「お、オヤジがそうおっしゃるなら……」

邪神「ありがとうよ」


翌日・第七部隊駐屯地


兵士A「戻ったぞ~」

兵士B「疲れた~」

エルフ騎士「ご苦労だった。で、村の様子は?」

兵士C「ダメです。相変わらず村人たちは石化したままでした」

兵士A「石化の呪いを掛けたのは、邪竜王とは別の術師だったんでしょう。

 ただ――」

エルフ騎士「ただ?」

兵士C「どうやらあの呪いは害意があってのものではなく、村人を敵の攻撃から守るためのものだったようです。

 現に、石化自体は本国の呪術師ならすぐに解ける程度のものですし」

兵士B「風雨で摩耗しないようにシールド魔法も重ねて掛かっていました」

エルフ騎士「誰がそんなことを?」

兵士A「そこまでは……」

>>31
うん。今度ガリレオにあったら謝っとく。


勇者「ふぁぁ~……おふぁよぉございま~す」

エルフ騎士「ああ、おはよう勇者さん。よく眠れました?」

勇者「むしろ寝すぎてしまいました。起きたらお昼過ぎとか、情けない」

エルフ騎士「疲れが出たのでしょう。……ところで、お兄さんは?」

勇者「え? ……先に起きていたんじゃないんですか……?」

エルフ騎士「いいえ、朝からまだ姿を見てはいませんが……」

勇者「……ま、まさか!!」


兄の置き手紙『すまんな、妹よ! 俺は先に行く!』


勇者「……あの、バカぁぁぁぁぁっ!!」

剣が持ち主以外が所持したため拒絶反応で地面に向けて移動したという可能性を……

どっかの平原

兄「うおっと!!」ビクンッ

兄「び、びっくりした……妹が叫んだような気がしたけど、きっと気のせいだよな」フーヤレヤレ

兄「……すまんな、妹よ。俺が目指す『真の勇者』になるためには、勇者パーティに入るわけにはいかんのだ。

 さてと、地図を見る限り、昨日の戦いで敵の前線はこの辺まで引いたはず……。

 どっかに敵の基地や、駐屯地にされている村があると見た!」デデーン

兄「まずそれを探す! 行くぞぉ!」ダダダーッシュ


???「」ヒョコッ

???「…………」ジトーッ

???「……邪竜王を倒した、人間……。聖剣の勇者の仲間ではないのかの?

 もう少し様子を探るとするか」スッタカタッター


再び第七部隊の駐屯地

兵士A「もう行くのですか?」

勇者「はい。兄を追います。それより、エルフ騎士さん。本当に一緒に来てもらってよろしいのですか?」

エルフ騎士「ええ。というより、本国からの指令ですから。

 勇者さんが国王に持たされた書簡には、勇者様の旅のサポートをするよう書かれていました」

勇者「そうですか。……では、これからよろしくお願いします」

エルフ騎士「ええ。こちらこそ」アクシュ

勇者「……兄さん、待ってなさいよ」

>>34~36
 な、なんかありがとうございます。そんなに色々考察してくれて……。
 重さが変わる条件は「持ち主以外が剣を持とうとする」なので、剣から手を放せば元の重量に戻ります。
 逆に言えば剣を持ったままだと地面に沈んでいくことになります。

 剣を扱える素質について細く考えてはいませんが、大雑把に言うと「異世界の驚異に対抗するために世界が用意したカウンター」です。


兄(一人旅を続ける俺の目の前に、突如として姿を現したキンキラキンの繁華街!

 中央王国の西部が誇る享楽都市・カジノタウンである!)

兄「噂には聞いてたけど、戦時下だってのにすげえ人……」

行商人「まあな。元々、この街は命知らずの流れ者が集まって出来た街だ。

 傭兵とか腕自慢が集まるから、治安こそ悪いが物資や情報の流通は激しいのさ。

 あ、その荷物は奥に頼むよ」

兄「う~いっす」

兄(途中、俺は行商人のキャラバンに相乗りさせてもらった。

 カジノタウンは前線から離れてはいるものの、情報収集にはうってつけの場所だ。

 そしてもう一つ。この街の目玉である観光スポットに興味があったからだ)

行商人「サンキュ。あんた、力持ちだね。おかげで楽ができたよ。これ、バイト代ね」

兄「ありがとうございます!」

行商人「じゃあ、またね! 近くに来たら、今度は客として顔出してよ」

兄「ええ。機会があれば。……さて、と」

兄(金も手に入ったし、行くとするか)

兄「カジノタウン名物……源泉かけ流しの温泉宿!!

 ……え、ギャンブル? セーブ&リセットか乱数調整覚えたら考える」

カジノタウン・温泉宿

女将「一名様、ご案内させていただきやす」

兄「すんません、予約もないのに無理言ってしまって」

女将「い~え~。最近、物騒になってますやろ?

 一見さんでも、利用してくれる方がいるのはありがたいことです」

兄(う~ん、ひなびてるけど、悪くない佇まいの店だ。値段も手頃だし。

 旅館というより湯治場みたいな雰囲気はちょっとあれだけど……シックで落ち着くと考えれば)ウンウン

女将「お食事とお風呂、どちらからになさいます?」

兄「先にお風呂いただけますか? むしろそれを楽しみに来ていますので」

女将「それはそれは。当店の温泉は深夜でも開いてますさかい、たくさん浸かっていっておくれやす」

兄「ええ、是非!」



???「……一人で温泉宿、か。仲間と待ち合わせでもしておるのかの?

 それとも、やはり聖剣の勇者とは別行動か……。くっ、分からん。ヤツの情報が少なすぎる!

 やはり、あっちのエルフを見張っているべきだったか……」

警官「ちょっと、すいません。さっきからどこを覗いているのですか?」

???「ファッ!?」


 今日はここまでとします。

ザ・温泉――

兄「い~い湯~だ~な~、アビバノン♪

 疲れがお湯に溶けていくようだ……もう真の勇者とかどうでもよくなるね」


後輩警官『そっちへ逃げたぞ! 追え!!』

先輩警官『邪神軍の斥候かもしれない! 深追いはしすぎるなよ!』

後輩警官『でも、ここで手柄を上げれば本庁付に出世できるかもしれないんでしょう?』


兄「? なんか騒がしいな。捕物か?」

 ガサガサガサガサッ

兄「な、なんだ!?」ビビクンッ

???「ぶはっ! ええい、しつこい奴らじゃ!」

兄「なんと!! 茂みから銀髪幼女が飛び出してきた!?

 お嬢さん、ここは男湯ですよ?」

???「湯治客じゃないわ、馬鹿者! ちょっと追われて――?

 あ、あれ!? お主は!!」

兄「……なんすかね」

???「…………」

???「!」ピコーン

兄「あ、何か閃いたよこの人」

???「も、申し訳ございませんでした。

 実は、街中で見たあなた様の凛々しいお姿に一目惚れをしてしまい、こうして会いに来てしまったのです」

兄「言い訳にしても苦しいなあ」

???「じゃあ生き別れの妹とかでいいわい!」

兄「妹なら普通にいるし。あ、隠し子ってのもダメよ、俺童貞だもん」

???「堂々と言い切りやがった!?」

女将「なんの騒ぎどすか?」

???「しまった! 大声出しすぎたか!」

兄「女将さん! 風呂場に不審人物が!!」

女将「あらあら。なんとも可愛らしい不審者どすなぁ。お嬢ちゃん、どこの子です?

 その白くて綺麗な肌を見るに、あんさん魔族の方と違います?」

???「むっ!」

兄「へえ。実際に会うのは初めてだよ」

女将「うちが子供の頃は、ちょくちょく遊びに来てくれはったんどすが、戦争が始まってからはめっきり。

 こうして姿を見せてくれはるのは、ほんに久しぶり。

 せやから心が痛みます」

兄「どういうこと?」

女将「こういうことです。おまわりは~ん♪」

先輩警官「失礼しまーす」

後輩警官「いたぞ! あの娘だ!!」

警官A~C「取り押さえろー」

???「ぎゃああっ! みつかったーっ!!」


 ピーポーピーポー


先輩警官「ご協力、感謝します」

兄「なんだったの、今の?」

後輩警官「実は、さっきの子が露天風呂を覗き見しているところを警ら中の同僚が発見しまして。

 事実はともかく、邪神軍の斥候である可能性がありますので」

兄「ああ~、さっきから外で騒がしかったの、それか~」

>>39
その設定のせいでますます兄小野妹川澄になってきたわ。

>>45 ……誰?

兄「ふぃ~。美味いメシもたらふく食べたし、温泉も堪能したし。今日はもう寝るぞー!」ヨイドレ~

兄(名残惜しいけど、明日からは改めて旅の続きだ~……。

 そういえばあの女の子、結局なんだったんだか。……まあいいや。

 おやすみ……――)zzz



留置場

???「な、なんという屈辱……! このワシが覗きの容疑で逮捕されるなどと……!

 いや、遠くから覗き見てたのは事実なんだども。

 だからって、こんなうら若き可憐な乙女が性犯罪なんぞするかいな!

 その気になれば、男の1ダースや2ダース、簡単に篭絡できるというに。まったく……お!」ピコーン

???「ねえねえ、看守のおにーさぁん♪」クネクネ

看守「…………」

???「あたし、すぐにでもここから出たいんだよ~♪

 イイコトしたげっからさ、ちょっと融通効かせちゃくれないかね?」ヌギッ

看守「…………」

???「…………。おいこら! ここまでやって無反応とかどういう――」

看守「」グラッ

???「へっ!?」

看守「」キリキリキリキリッ

???「ひっ!! く、首が百八十度回って――!?」

看守?『……ギュィィィィン! ようやく見つけましたよ、魔王陛下』

???「そ、その声は!! マシン王!!」

看守?『ダークビーム!』

???「ちぃっ!!」

 ちゅどぉぉぉぉぉん


先輩警官「な、なんだぁ!? 地震かあ!!」

後輩警官「留置場で爆発です!」

先輩警官「なんだってぇ!!」

???「はあ、はあ……き、キサマらぁ!」

後輩警官「あ! さっきの変質者!! 脱走だー!」

???「違うわ、馬鹿者! それよりも、早よう逃げんかい! 邪神軍の殺人機械が――」

邪神軍・機械化部隊『ギュィィィィン!!』ワシャワシャワシャワシャ

先輩警官「ひぃぃ! どうして地下から4足歩行のロボットが!?」

???「知るか! 看守もロボットが化けておったぞ!! ずいぶんと入り込まれてるんじゃないのか!?

 キサマら、 ここはワシが食い止める! 民間人に避難指示をだせい!!」キュィィィィン

???「受けてみよ、魔界の雷! ヘルスパーァァァァーック!!」バリバリバリズドーン



サイレンうーうー


警官A『みなさーん、落ち着いてこちらの指示に従い避難してくださーい!』

警官B「だ、ダメですよ女将さん! 戻ったらダメです!

 邪神軍がすぐそこまで来ているんですよ!」

女将「せ、せやけどまだ、お客さんが一人出てきてないんどすえ!?」

警官B「なんだって!? ……分かりました、自分が見に行きます!

 ですから女将さんは避難を!」

女将「……わ、分かりました、お願いします!」



兄「……ふぁぁ~、また外が騒がしいなぁ」←逃げ遅れた馬鹿が一匹

兄「眠らない街だからって、人の安眠まで妨げないで――」ガラガラッ

兄「……北の空が燃えてる、

 敵襲か!!」

パーパーッラパッパー♪
※BGM・レッドショルダーマーチ

マシン兵「」ガシャンガシャンガシャンガシャン

警官隊『司令官! 敵はなおも街の地下から増大しています! 北側の避難が間に合いません!』

警官隊『街にいた冒険者たちを傭兵に雇い入れましたが、敵の数が多すぎます!』

司令官「それでもやるんだ! 一人でも市民が残っている限り、我々が諦めることは許されん!!」

兄「よく言った! あんたは警察官の鑑だな!」

司令官「だ、誰だ! 作戦行動中に民間人の立ち入りは許可できない!!」

警官B「はあ、はあ……やっと追いついた! すみません、すぐに連れて行きます!」

兄「必要ないな。俺は奴らと戦うためにここに来たんだから」

警官B「何言ってるの、もう! 遊びでやってんじゃないんだよ!?」

兄「俺は大真面目だ!」

司令官「待ちたまえ。見たところ、君は冒険者のようだが、戦闘の心得はあるのかね?」

兄「何を隠そう、ついこの間中央王国首都に攻め入ろうとしていた邪神の軍勢を壊滅さえ(事実)、

 軍団長の一人である邪竜王を倒した(半分ぐらい事実)、

 真の勇者とは俺のこと!(デマ)」

警官隊『な、なんだってー!』

司令官「いや、勇者って確か十代半ばの女の子だった気がするんだけど」

兄「それは『聖剣の勇者』のことだろう。俺は彼女の兄であり、邪神を倒して『真の勇者』となる者だ!」

司令官「…………、分かった。この際だれでもいいや。

 戦えるなら、敵を食い止めるのを手伝ってくれ!」

兄「何度も言わせるな。そのためにここに来た!」


街の北側――

民間人A「ひぃぃ! もう逃げ場がないぃぃぃ!」

マシン兵『抹殺指令。作戦範囲内ノ生命反応ヲ駆逐セヨ』ビーム

民間人A「ぎゃあああああああっ!」ジュッ

マシン兵『破壊セヨ。破壊セヨ。破壊セヨ』ガションガションガションガション


少年「いいな、おれがあいつらを引きつけてる間に走るんだ。

 絶対に振り向くんじゃないぞ!」

少女「わ、わたし一人じゃ無理だよ! お願い、一緒にいて!!」

少年「二人でいても殺されるだけだ! でも、お前一人なら生き残れる!」

少女「いや! いやぁ!!」

少年「……じゃあな」ダッ

少女「あ……!」

少年「こっちだ、化け物!!」

マシン兵『生体反応確認、抹殺スル』ビーッ

少年「くぅぅっ!! ど、どこ狙ってんだ、バーッカ!」

マシン兵『抹殺スル。抹殺スル。抹殺スル』

少女「あっ……うぅぅ!!」ダダッ

 ビーッ ドカーーーンッ

少女「っ!! うぅ、うわぁっ! うわぁぁぁぁああっ!! ……んぐっ」

少女(泣いたらダメだ! 泣いたら見つかる!! 逃げるんだ! 逃げないと!)



マシン兵『』ガシャンガシャンガシャンガシャン

少女(こっちの道はダメ……、迂回しないと)

マシン兵『』ガシャンガシャンガシャンガシャン

少女(!! うそ、こっちからも化け物が……。戻らないと――!!)ヌッ

マシン兵『生体反応確認』

少女「あ……ああ、そ、そんな……」

マシン兵『抹殺スル』

少女(あ、あっ! いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!

 死ぬ!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 殺される、殺される!?

 ――嫌だ!!)

少女「助け――」

兄「メテオドラーーーーイッブ!!」ゴチーン

マシン兵『!?!?!?』グシャア

 ずずーん

兄「と、カッコつけといてただの高所から棍棒振り下ろしなんだけどね~。

 ……君、大丈夫?」

少年「少女!!」

少女「……し、少年くん!? いき、生きてたの!!」

少女「ああ! この人が助けてくれたんだ!」

兄「俺は勇者兄。邪神を倒し、真の勇者となる男だ」

留置場跡地近辺――

???「トールハンマー!」バリバリバリバリッ

???「間髪入れずにマグマドライブ! からの連携インフェルノ!!」ヒュボボボボボッ

???「トドメのマキシテンペスト!!」ビュオォォォォォォッ

???「トドメにトドメを重ねたコキュートスブレス!!」ビキビキビキビキッ

???「ぜえ、ぜえ、いくら何でも四属性禁呪文の四連打は疲れる……」

マシン兵『破壊セヨ。抹殺セヨ』ガションガションガションガション

???「ちぃぃっ! まだ出てくるか、忌々しいデク人形どもめ!!

 奴らが湧き出てくる穴に突撃したのは良いが、もっと慎重になるべきだったか?

 ……いや、ここで一気でも多く食い止めねば、それだけ街の被害が増す!! 踏ん張らんかい、ワシ!!」

スピーカー『ギュィィィィン!

 弱者が己の全てをかけて他者を守ろうとする。安っぽいヒロイズムですが、なかなかどうして。

 感動的ではないですか、魔王陛下』

???「マシン王!! どこから見ておる! 姿を表せぃ!!」

スピーカー『ここはワタシの基地ですよ。監視カメラはそこかしこにあるのです。

 それともう一つ。ワタシの意識はマシン兵の一体一体にも分散してインストールしてあります。

 つまり、あなたの目の前にいる雑兵全てがワタシであり、我が手足なのです』

???「そうかい。なら、ますますこいつらを全部ぶっ壊さにゃならなくなったな」

スピーカー『威勢がいいのは結構ですが、いかに魔王陛下といえども――』

???「ワシを魔王と呼ぶでないわ!!

 それは偉大なる我が祖父から、誇り高き我が父が賜った聖名!!」

スピーカー『しかし、お祖父様もお父様も亡くなられた今、次代の魔王はあなたが継いだはずではありませんか?

 ……魔女、様?』

魔女「父上を手に掛けたキサマがほざくなぁぁぁぁっ!!

 無属性禁呪文、ジハード!!」ズガガガガガガーッ

魔女「はあ、はあ、はあ、はあ……。

 ワシが魔王を名乗るのは、キサマを殺し、父上の仇を討った時じゃ!!」

スピーカー『では、残念ですがあなたは永遠に魔王にはなれませぬな。

 ギュィィィィン!!』ブツッ

魔女「忌々しい、あの耳障りな笑い声……すぐに出せなくしてやる……!」

マシン兵『』ガシャンガシャンガシャンガシャン

魔女「まだ来るか!!」チャージチュウ

魔女「シャイィィィィン――ん?」パラパラ

魔女「なんじゃ、天井から――うわっと!!」

 ズガーン

兄「よっと。開通開通! うっわ、いるいる! マシン兵がわらわらわら♪」

魔女「き、キサマは!!」

兄「ん?」

――子供たちを救出した直後

兄「さっきの子達を避難誘導の警官隊に預けたけど、まったく。全然敵の数が減らない。

 地下から湧いて出てくるって言ってたな。なら、その穴を探して塞げばいいのか?

 でも、そんなことしてもあいつらのビームなら簡単に新しい穴を開けそうだ。

 何か良い方法は――」ピコーン

兄「俺も穴を掘る!!

 敵の拠点が地下なら、直接殴り込みだわーい!!」ザックザックザックザックザザザザザザザ


機械化軍団の秘密地下基地

兄「あら、さっきの魔族ちゃんじゃないか。ここは危険だ、逃げなさい!」

魔女「そりゃこっちのセリフじゃい! つうか後ろ後ろ!!」ビハインドュー

兄「ふっ。棍棒バッシュ!!」バチコーン

兄「棍棒スマッシュ!!」バチコーン

兄「棍棒ホームラン!!」バチコーン

マシン兵『』ズカーン

魔女「」ボーゼン

兄「真の勇者に掛かればこの程度」

魔女「色物かと思えばなかなかどうして……。気が変わった! キサマ、ワシと手を組め!!」

兄「こんなところで大胆だな。デートならもっと静かな場所がいい」

魔女「誰が腕組んで歩こうなんつったよ!! 力を合わせようっつったんじゃ馬鹿者!!」

兄「イイヨー」

魔女「……な~んかムカツクのう、キサマ。

 ま、まあよいわ。この基地の最新部に、おそらくマシン兵の製造プラントがあるはずじゃ。

 そこと奴らの制御装置か何かを破壊すれば、進軍は止まる。

 理想的なのは、この場にマシン王の奴がいることなのだろうが……」

兄「マシン王って、軍団長?」

魔女「左様。機械化軍団の軍団長じゃ。ワシは奴に、死を持って償わせる借りがある」メラメラ

兄「そうなんだ。分かった、もしそいつと戦うことがあったら、君に知らせる。

 名前と連絡先、聞いていい?」

魔女「微妙にナンパされてる気がするのは気のせいかの? 魔女と呼べ」

兄「勇者兄だ」

兄(迫り来る機械のモンスター軍団!

 俺は前衛として敵を一箇所にまとめ、魔女が魔法で蹴散らし、ついでに床を粉砕して進軍する。

 個々の戦力は俺たちが勝る。しかし、敵の物量はそれを簡単にひっくり返すほど強大であった!!)

兄「ぜーはーぜーはー……ど、どこまで続いてんの、この基地!! 今地下何階?」

魔女「さあの~。多分、地下五十メートルぐらいかのう……」

兄「するってえと……十四、五階?

 ボチボチ底でもいいんじゃあないかな?」

魔女「敵の戦力は底なしじゃがのう! ほれ、ギガヒールじゃ」ポワー

兄「ありがとよ。突撃ぃぃぃぃぃーっ!!」

魔女「その隙にチャージタイム!! また床ごとぶち抜いてやろう!!」

マシン兵『破壊セヨ。抹殺セヨ』ガションガションガションガション


――時間は少し遡り、兄と魔女が合流する直前あたり

カジノタウンからほど近い、中央王国の駐屯地

エルフ騎士「カジノタウンが!?」

駐屯兵A「はい! 突如現れた機械化軍団によって、民間人にも多数の被害が出ています!」

勇者「エルフ騎士さん! すぐに行きましょう!!」

エルフ騎士「よろしいのですか? あなたの判断になら従いますが、

 カジノタウンは邪神軍の本営がある方向からは外れています」

勇者「あたしが聖剣に選ばれ、世界を救う運命を背負っているなら、目の前で泣いている人を見捨ててはおけません。

 それに……カジノタウンには、温泉街がありますよね?」

エルフ騎士「え、ええ。諸外国からも多くの人が訪れていますが、それが?」

勇者「兄さんは無類の温泉好き。必ずあそこに立ち寄っているはずです」

エルフ騎士「……そうですか」

勇者「兵士さん、何か乗り物を貸しては――」

 ちゅどーーーーーん

勇者「うわっ!?」

エルフ騎士「何事か!!」

駐屯兵B「大変です!! ここにも正面から敵の襲撃が!!」

駐屯地指令「機械化軍団か!?」

駐屯兵B「い、いえ、敵は剣士一人……ですが、おそらく魔族と思われます。

 凄まじい力で味方が次々と……! 勇者さん!!」

勇者「あたしが行きます!! エルフ騎士さん、援護を!」

エルフ騎士「心得た!!」


黒い全身鎧の剣士「……弱いな、斬りごたえがない」

勇者「そこまでです!!」

黒い全身鎧の剣士「来たか、聖剣の勇者。ワシは魔剣士! 聖剣と対を成す、魔剣に選ばれし者じゃ」ジャキン

エルフ騎士「魔剣!? その剣のデザインは! 色合いこそ毒々しいが、聖剣と同じ!」

魔剣士「聖剣が神々の王が造ったのなら、魔剣は邪神様が鍛え上げた剣。力は聖剣と互角!

 聖剣を打ち砕き、五百年前に邪神様を傷つけた事を贖わせてやる!」ダッ

勇者「くっ! ソードファイヤー!!」ヒャボボボボボッ

魔剣士「甘い。ソードブリザード」ビュォォォォォォォッ

エルフ騎士「勇者様と同じ力!? サンダーレイ!」バリバリバリバリッ

 バシュンッ

魔剣士「ちっ、相殺されたか」

勇者「相討ち? いいや、違う。二人がかりでやっとだった。パワーじゃ向こうの方が上だ!

 だったらスピード勝負!! ラピットストリーム!!」スバヤサジョウショウ

エルフ騎士「勇者様の支援魔法! 私にも効果があるのか!」ハヤイハヤイゾー

魔剣士「愚か者! 力は互角と言っただろうが! ラピットストリーム」スバヤサジョウショウ

 ズバババババババッ

勇者「きゃああああっ!」

エルフ騎士「ぐわあああああ!」

魔剣士「弱い、弱すぎるぞ聖剣の勇者!!

 そんな鼻クソ以下の剣技に倒されるとは、邪竜王とはやはり口だけのトカゲだったようだな!」

勇者「くっ……邪竜王にトドメ刺したの兄さんだし、ほとんど事故死みたいなものだったんだけど」ググッ

魔剣士「まだ立ち上がるか。だが、根性だけでどうこう出来るほど、ワシとキサマの差は小さくないぞ。

 それとも勇者サマ特有の『その時、不思議なことが起こった』でなんとかしてみるか?」

勇者「お生憎様。奇跡なんかに頼って生きてくほど、ぬるい人生じゃなかったわ!」フタタビカソク

魔剣士「ふんぬ!」ガキィィィン

勇者「これでも受け止められた!?」

魔剣士「良い踏み込みだ、だが――」ドカッ

魔剣士「ぐわっ!」

エルフ騎士「後ろがガラ空きだぞ。二対一だということを忘れていたか?」

勇者「追撃のソードサンダー!」バリバリバリッ

魔剣士「ぐわああああ!」

エルフ騎士「今だ! 喰らえ必殺――」

魔剣士「ちょこざいな!」ゴチーン

エルフ騎士「がはっ!」ズドーン

エルフ騎士「……ふっ、かかったな!」ガッシリ

魔剣士「なに! くっ、放せ!」

エルフ騎士「勇者様、今の――」

勇者「ソードサンダー、マキシマム!!」ゴロゴロチュドーン

エルフ騎士「うちにって、決断早いな!!

 ぎゃあああああああああっ!!」

 どっかーーーーーーん


勇者「ふう……。エルフ騎士さん、無事!?」

エルフ騎士「」チーン

勇者「……魔剣士ぃ! よくもエルフ騎士さんを!!」

魔剣士「お、お前、意外といい性格してるな……」ヨロヨロ

勇者「ダメージはあったみたいね。鎧もボロボロじゃない。まだやる気?」フフン

魔剣士「侮るなよ。手傷を負っても、まだワシの方が強い」

勇者「一体一ならね」

駐屯兵&第七部隊兵士達『客員、一斉射撃! 擊てぇぇぇぇぇ!』バババババババババババババババッ

魔剣士「なんじゃとぉぉぉぉ!」カキンカキンカキンカキン

勇者「ぜ、全弾切り払って叩き落としてる!? でも隙だらけだ!

 間髪入れずにソードファイヤー、マキシマム!!」

魔剣士「くっ……ぐおおおおお!」

エルフ騎士(ちょまっ、私まだここにいるのに!!)

魔剣士「お、おのれえええええ! ソードブリザード、アイスウォール!!」ジャキーン

兵士A「あ! 氷の壁が!!」

兵士B「縦断が弾かれてるぞ!」

魔剣士「聖剣の勇者よ、今日のところはワシの負けじゃ! だが、次はこうはいかんぞ!!」ソードワープ

勇者「……はぁぁぁ、なんとか帰ってくれた……。しんどい」

エルフ騎士inアイスウォール(だ、だぢげでぇぇぇ~)

勇者「あ! ま、待ってて、今出してあげる! ソードファイヤー、弱火」メラメラメラ

勇者(……魔剣士、か。軍団長以外にも、あんなのとも戦わないといけないんだ……。

 こんなとき、兄さんがいてくれたらな……)


――???(マシン王)

マシン王「むっ、魔剣士が敗走した? シミュレーションでは勝率は89.7%だったハズ。

 敵もなかなかやるようですね」

モニター画面『』ズドドドドドドドン

魔女『よし、床が抜けたぞ!』ピョーン

兄『次こそ最下層でありますように』ピョーン

マシン王「むむむっ。あいつらも疲弊するどころか、すっかりマシン兵の駆逐に慣れてしまった様子。

 あと数分もすれば中心部にたどり着いてしまう。いけませんね、これは。

 ……では、奥の手を使わせてもらいますか」



兄「魔女! 通路の様子が変わったぞ!」

魔女「間違いない、こここそマシン兵の製造プラント!! 遠慮のうぶっ壊せ!!」マキシマムドライブ

兄「よっしゃあ!!」コンボウファイト

 どっかんどっかん

スピーカー『そこまでです、侵入者たち!!』

魔女「マシン王か。もう遅いぞ、プラントはたった今破壊しつくしてやった」

兄「次はお前だー、出てこーい!」

スピーカー『そうしたいのは山々ですが、生憎とワタシも多忙なのです。

 代わりと言ってはなんですが、特別ゲストをご用意しました。存分に楽しんでください』ブツッ

兄「特別ゲストぉ?」

魔女「特注のマシン兵かの。面白い、雑魚ばっかでそろそろボスバトルが欲しかった――」

 ズッカーン

邪竜王「グハハハハ! また会ったな、小僧!!」

兄「げっ!?」

魔女「なんじゃと!? キサマ、邪竜王!! 死んだのではなかったのか!!」

邪竜王「おうよ。あのクソ忌々しい聖剣とそこの男によって、屈辱にまみれて死んだオレ様だったが、

 さらに忌々しいことに機械化軍団の一員として再生させられちまった。

 今のオレ様は、さしずめ『メカ邪竜王』ってところさ!!

 マシン王の命令で戦うのは正直、気に食わねえ。だが、てめえだけはこの手で八つ裂きにしてやる!!」

兄「八つ裂きって、どうせまたダークブレスのゴリ押しでしょ?」

邪竜王「フッ。

 波動砲!!」バビュゥゥゥゥゥゥン

兄&魔女「なにそれぇぇぇぇぇ!!」

 ズガガガガガーン


カジノタウン

警官隊『し、指令!! 地下から大出力のビームが、上空へ向かって――』

司令官「見えている……。一体、何が起こっているのだ……」


兄「秘技! 穴を掘る!!」ドーン

魔女「た、助かった……?」

兄「いや、全然だ。つうか、この振動! 今の砲撃で地盤がヤバイんじゃないか?」

邪竜王「ちっ、またその技か。だが今のは挨拶がわりだ。次は地面ごと粉砕してやる」

兄「そんな悠長なことしてられないんだな! ここが崩れたら、お前も生き埋めだぞ!?」

邪竜王「そんなんで死ぬほどヤワじゃねえんだよ!! 食らってくたばれ、波動砲!!」バビュゥゥゥゥゥゥン

兄「うおおおっ!」

魔女「バリヤーで逸らす!!」ガキィィィィィン

邪竜王「無駄だぜ!! ダークブレスからあらゆる面でパワーアップを果たしたこの波動砲!!

 バリアだろうがもろとも焼き尽くす!!」

魔女「それは正面から受け止めた場合じゃろうが!! 軌道を反らせれば!!」ピューン

 ドドドドドドドッ

邪竜王「なんだと!?」

魔女「ほれ、このとおり」

兄「この通りって、お前な! 今ので地盤の崩壊が決定的になったぞ!!」

魔女「なら逃げれば良い! 幸い、出口はあ奴が開けてくれたからの!」フワッ

兄「え、あんた飛べんの!?」

魔女「舌を噛みでないぞ!!」ビューン

邪竜王「待てコラ!! 波動砲!!」バビュゥゥゥゥゥゥン

魔女「んな馬鹿の一つ覚えみたいな技が効くものか」ガッキーーーーン

魔女「力はあっても、知能が足りんようじゃの、オオトカゲ!」

邪竜王「このアマァ!! ぶっ転がす!!」バサァッ

兄「お、追ってきたぞ!!」

魔女「分かっておる。地上に出て迎え撃つぞ!」

邪竜王「シャァァァァァッ!!」

――駐屯地

勇者「それじゃ、このバイク借りていきます」

エルフ騎士「すみません、この体ではついていっても足でまといになってしまう……」ジト

勇者「ご、ごめんなさい……ほぼあたしの攻撃のダメージでした……」

エルフ騎士「お気になさらず。治療に専念して、治り次第合流します。それまで無理をなさらないでください」

勇者「はい! いってきます」ブロロロロロ

勇者(兄さん、そこにいるの? いたら――え?)


カジノタウン「」逆ラピュタ状態


勇者「光の柱が、空に……! なんだかわかんないけどヤバそう!!

 聖剣よ! ラピットストリーム!!」バイクゴトカソクー

勇者「うわああ! 速い……い、息ががががっ!!

 こ、こなくそ、負けるかぁぁぁぁ!」ドコンジョー

勇者「……ん? う、うそ!! あれ、邪竜王!?」



兄「早く早く早く早く!! 波動砲がすぐそこまで!!」

魔女「分かっとるわ!! ――よっしゃ、地上に出て――」ドーン

邪竜王「待てぇぇぇぇぇぇーっ!!」ドドーン

魔女「わわわわわっ!」

兄「ちょっと待っ!! どこまで行く気だーっ!!」ピューン

魔女「し、しまった! 勢い余って上空百メートルぐらいまで来てしまった!!」

兄「どーすんのこれ!? 俺飛べないよ!?」

邪竜王「ほう、大空で決戦か。悪くないぜ! ここでなら全力で暴れられる!!」ドドーン

兄「うっわ、オーラ出してるオーラ!

 おい魔女、俺なら多分平気だから放り出せ! 荷物抱えて戦える相手じゃねえ!」

魔女「アホンダラ! んな事したらキサマ、波動砲で狙い撃ちにされるぞ!」

兄「気にすんな、さっき会ったばっかの他人だろうが! マシン王に借りを返すんだろ!?」

魔女「……見損なうでないわ。出会った時間など関係ない、背中をあずけて戦った仲間を見殺しにできるものか」

邪竜王「強い言葉だな。だが、それは甘さと言って戦場じゃ悪徳になるんだぜ」

魔女「さえずるな、トカゲ。それに二人で戦う術なら……ある!」

邪竜王「なんだと?」

兄「マジで?」

魔女「勇者兄、ちょいとこっちを向け」

兄「え、なに――」チュッ

兄「!?」

邪竜王「あ?」

魔女(…………。融合の術<フュージョン>!!)

 ビカビカーン

邪竜王「うおっ! まぶしっ!!」

 しゅぅぅぅぅ~

邪竜王「な、なんだったんだ今のは……!?

 てめえ! なんだその姿は!!」

兄?「え? ……うわあ! 俺、飛んでる!?」

魔女『落ち着け! ワシの魔翌力を一時的にキサマに付与したのだ』

兄?「頭の中に声が!? お前なのか、魔女!?」

魔女『左様! キサマとワシは、今! 文字通り一心同体!! 合体したことでパワーが二乗なら魔翌力も累乗!

 スーパー勇者兄とでも名のるが良い!! ただ一分しか保てんから、余裕はないぞ』

S兄「マジか!!」

邪竜王「なにブツブツ言ってやがる!! 波動砲!!」バビュゥゥゥゥゥゥン

S兄「うおおおおっ! せやっ!!」ドカッ

邪竜王「素手で跳ね返しただと!? ありえん!!」

S兄「行っくぞーっ!!」ビューン

邪竜王(速い!!)

S兄「左ジャブ!」ゴフッ

邪竜王「ぐお!」

S兄「ダブルフック!!」ドカッ

邪竜王「ぐわあっ!」

S兄「バックハンド!!」ボゴッ

邪竜王「うぐぐっ! ドラゴンクローウ!!」

S兄「ヘッドバッド!!」ガキーン

邪竜王「お、オレ様の爪が!!」

S兄「そしてトドメの! 正拳突きぃぃぃぃーっ!!」ズコーン

邪竜王「ぐっはぁぁぁぁ! 馬鹿ぁぁぁ! オレ様が二度も、こんな奴にぃぃぃぃぃーっ!!」ピカー

 ズッドオオオオオオオオン

S兄「勝負あり、だな」

魔女『うむ、ジャスト三十秒。余裕の勝利じゃな。分離する前に地上に降りておけ』

S兄「おっけ」

魔女『……勇者兄よ」

S兄「ん?」

魔女『さっきも言ったがの。一度でも共に死線を抜けたなら、もう我らは他人ではないぞ』

S兄「分かった。魔女と俺は仲間だ」

魔女『それで良い!』



勇者「……に、兄さんが、き、き、キス……してた? え? 誰なのあの女?

 あたしの事をほったらかして、知らない女と、キス……? え? なにそれわかんない……。

 分かんないよ……兄さん……」

兄(カジノタウンを襲っていたマシン兵たちは、地下プラントを破壊した直後から機能停止していた。

 今、俺と魔女は警官隊と協力して生存者の救助にあたっている)

魔女「デカイ瓦礫はフリーズドライ!」パラパラ

後輩警官「すごい! 瓦礫が音もなく粉々になっていく!」

兄「昨夜から魔法撃ちまくってるけど、MP大丈夫なのか?」

魔女「カッカッカ! 分母が大きい上に自動回復持ちだ。一分もあれば最大値の三割は回復できるのさ」

兄「とんでもないな」

女将「みなはーん! 握り飯をお持ちしましたえー!」

警官隊『待ってました!』

女将「ぎょうさん作りましたさかい、遠慮のう召し上がってください。これ、お二人も」

兄「ああ。魔女」

魔女「うむ、馳走になろう。んがぐぐ」

兄「頬張りすぎだぞ。ハムスターかお前は」


――勇者兄が作業しているちょうど逆側――

勇者「」ボーッ

エルフ騎士「では、その居合わせた冒険者によってマシン兵は?」

司令官「はい。彼らがいなかったらどれだけの被害が……いえ、カジノタウンは壊滅していたかもしれません」

エルフ騎士「そうですか。その方々は、どちらに?」

司令官「今も復興作業を手伝ってくれています」

エルフ騎士「そうですか。では、勇者様。私はその方々に挨拶しに行ってきます」

勇者「」ヒラヒラ

兵士A「なんだか勇者様、元気というか覇気がないな」

兵士B「勇者なのに活躍してなかったからじゃないか?」

兵士C「んな馬鹿な」

勇者「」スック

勇者「ねえ」

兵士A~C『はいぃ!』ビビクン

勇者「この辺で一番近い邪神軍の基地って、どこ?」

兵士A~C『……え?』


エルフ騎士「北側の被災地……この辺だな。

 ……って、あれは!!」

魔女「よっしゃ。これで瓦礫もあらかた片付いたな」

兄「独壇場だったな。すごいじゃん魔女。よっ、万能型オールラウンダー!」

魔女「そんな褒めるな、カッカッカッカ♪」

エルフ騎士「おーい!」タッタッタッタ

兄「ん、聞き覚えのある声だな~って、あんたか。オイッス」

エルフ騎士「相変わらず訳の分からんノリだな、君は……」

魔女「どちら様だ?」

兄「中央王国軍の軍人さんのエルフ騎士、だっけ? エルフ騎士、こっちの魔族の銀髪ロリは魔女」

魔女「よろしく、軍人さん」

エルフ騎士「ああ。……もしや、マシン兵や復活した邪竜王を倒してくれたのは」

魔女「おう。ワシとこの男でやった。なに、礼には及ばぬ。義を見てせざるは勇無きなり、というであろ」

エルフ騎士「言うは易し。本当にそんなことができる者はそうそういません。無論、君もな」

兄「照れるぜ」

エルフ騎士「もっとも、妹君に心配をかけるのはいただけないぞ」

兄「……え? まさかあいつ来てるの!?」

エルフ騎士「当然だろう。街の騒ぎを聞きつけて飛んで――会っていないのか? 昨夜のうちに到着したはずだが」

兄「いや。……ニアミスか?」

魔女「勇者兄の妹……、聖剣の勇者か。会ってみたいな、今どちらだ?」

エルフ騎士「街の南側のキャンプに――」

兵士A「た、隊長ー!」

兵士B「大変です! 勇者さんが、勇者さんが一人で西の渓谷に!!」

エルフ騎士「なんだって!!」

魔女「西の渓谷?」WARNING?

エルフ騎士「……二週間ほど前から、マシン兵の大部隊が確認されているんだ。前線基地も建設されている」

兄「なんだってぇ!!」

魔女「……もしや、奴……マシン王か」

――西の渓谷

マシン兵『』ワラワラワラ

勇者「…………。ソードサンダー、マキシマム」ゴロゴロピシャーン

マシン兵『』グシャーン

勇者「……雑魚どもめ」


――西の渓谷・基地の司令室


基地司令・魔剣士


魔剣士「マシン王様」

マシン王『襲撃ですね。たった今、マシン兵の反応がごっそり消失しました。敵は?』

魔剣士「聖剣の勇者です。一人で乗り込んできました」

マシン王『なんですって? ……本当に一人ですか?』

魔剣士「陽動にしては動きが直線的過ぎます」

マシン王『ふむ。……魔剣士さん、勇者をできる限り捕獲してはくれませんか?』

魔剣士「捕獲、ですか……。分かりました」

マシン王『ただし、深追いはしないように。生け捕りが無理なら、最悪死体から聖剣だけ回収してください』

魔剣士「御意に」

マシン王『それから……そちらに魔獣王さんが向かったかもしれません。

 乱入されたら適当に暴れさせて、刺激しないように。邪竜王さん以上に単細胞ですから』

魔剣士「かしこまりました」ピッ

魔剣士「思った以上に早い再戦となったな、聖剣の勇者よ」マントバサァ


――再び西の渓谷・基地正門前

勇者「ソードサンダー、マキシマム!!」ゴロゴロチュドーン

正門「」ヤラレター

勇者「…………。くっ」

――ちょっと時間が戻ってカジノタウン

兄「お、おいエルフ騎士!! 西の渓谷ってどこにあんだよ!?」

エルフ騎士「落ち着け!! お前まで飛び出したら収拾つかないだろう!?」

魔女「そりゃそうだ。が、マシン兵の基地ならワシも用があるでな。行くなら付き合うぞ」

兄「マジか、助かる」

エルフ騎士「煽るな!」

魔女「煽っとりゃせん。昨日の騒ぎに加えて、比較的近くにマシン兵の基地となれば、無関係ではあるまい。

 早めに叩くに越したことはないであろ?」

エルフ騎士「それはそうだが……」

魔女「なあに、ワシは浮翌遊魔法も使えるでな。偵察がてらパーッと行ってチャーっと連れ帰って来てやろう」

兵士A「いえ、基地の周囲には対空砲も確認されています。飛んでいくのは危険です」

魔女「すまん、勇者兄。力になれそうもない」

兄「諦めんの早いよ!! もういい、一人でも俺は行く!!」

兵士B「あ、行くならいいものがありますよ。

 じゃ~ん、オフロードバイク~♪」テッテケテッテッテテッテッテーン

兄「盗んだバイクで走り出す~♪」ブオンブオン

魔女「人聞きの悪いこと言うな!! ご厚意でいただいたものだろうが!!」onタンデムシート

兄「なんにしても、足があって助かった。ありがとう、エルフ騎士!!」

エルフ騎士「いいか? 何度も言うが、敵の戦力は未知数なんだぞ?

 勇者様を見つけたら、無理せず戻ってくるんだ!」

兄「分かった!」

エルフ騎士&魔女(あ、こいつ全然分かってない顔だ)ガビーン

兄「んじゃ、いくぜ!! しっかり掴まってろよ、魔女!!」ブロロロロロロ

魔女「うわったたっ、結構早いじゃないかコレ!?」

エルフ騎士「……兵士A、念の為に我々も出撃準備だ」

兵士A「イエッサー!」

――西の渓谷・基地内部


魔剣士「久しぶり、というほど時間は経っておらんな」

勇者「魔剣士……。君がこの基地のボスなの?」

魔剣士「改めて自己紹介をしておこう。邪神軍機械化軍団・軍団長補佐官の魔剣士――」

勇者「ソードファイヤー!!」ヒャボボボボボ

魔剣士「また不意打ちかい!!」アセアセ

勇者「あたしは今、すんごく機嫌が悪い。だから遠慮も容赦もしない」

魔剣士「八つ当たりか!?」


――西の渓谷・基地正門前


兄(壊された正門、そしておびただしい数のマシン兵の残骸――。

 妹、ずいぶんと派手に暴れたようだな……)

魔女「ここまでの残骸だけでも、地下基地にいたマシン兵と同規模の戦力か。

 エルフ騎士殿は深追い無用と言っていたが、これなら押し切れそうだな」

兄「メカ邪竜王が量産されてなければな」ブオンブオン

魔女「怖いこと言うな」

兄「可能性の問題だ。クローン生産してサイボーグ手術とかありそうじゃないか」ブオンブオン

魔女「はーい、やめやめ。いいからカチ込むぞ、露払いはもう済んでいるようだからな」

兄「ラジャ」ブロロロロロロ


魔獣王「くっくっく、来る来る! 獲物が一つ、二つ、三つ!! 狩りごたえがあればいいがなァ!!」ジャキンッ

魔獣王「聖剣の勇者だかなんだか知らんが、オレのスピードに加えて、邪神様から賜った新たな力!

 この妖刀のサビにしてやるぜ! ギャハハハハッ!」


勇者&魔剣士『ソードファイヤー、マキシマム!!』ヒャボボボボボ

魔剣士「ぐぬっ、昨日とは別人のようだ! 非情にして冷酷! 氷のように研ぎ澄まされた剣技!

 使ってるのは炎の魔法だがな。それも威力が段違いだ!」ガキィン

勇者「…………」ザン

魔剣士「よく分からんが、怒りで何かが目覚めたのか……」キンッキンッ

勇者「…………」ガシーン

勇者(兄さん……兄さんは、あたしのことが嫌いになったの? あたしが兄さんの夢を奪ったから?

 だからあたしのところからいなくなったの? あたしを置いていったの?

 あたしの代わりに、別の人と一緒にいるの? あたしのことなんてもうどうでもいいの?

 必要ないの? いらないの? 

 分からないよ……兄さん、あなたが分からない……)

勇者「……ぁぁぁぁああああああああーっ!!」ブォン

魔剣士「ぬおおおっ!! く、悔しいが……強い!!」ガシャーン


――一方その頃、勇者兄

兄「ものの見事に全滅してる……」

魔女「防衛装置も破壊されているな。それも大出力の魔法で大雑把になぎ払っている」

兄「これも聖剣の力なのか……。もともと魔法なんて使えなかったのに」

魔女「それは本当か? 禁呪ほどではないが、痕跡を見る限り人間の扱える最高レベルだぞ」

兄「伝説の武器は伊達じゃなかったって事か。むう、今更ながらやっぱり惜しい……」

魔女「いや、使えなくて正解かもしれんぞ。

 魔法の素質の無い人間にこれだけの魔翌力を使わせる遺物、使用者にどれだけの負荷がかかるのか……」

兄「え、聖剣なのに!?」

魔女「魔族に伝わる、例えば生命力を魔翌力に変換する杖がある。それも素質が無い者でも魔法が扱えるようになるが、

 過度に使用すれば寿命が縮む」

兄「……それが聖剣にも当てはまると?」

魔女「そうは言わん。だがな……冷静に考えれば、ただの人間に邪神を倒す力を与える武器が、

 本当にノーリスクで使いたい放題というのも虫が良すぎる話とは思わぬか」

兄「……妹!」ダダダーッシュ

魔女「こ、こら待たんかい!」


魔剣士「ぐはっ……」バターン

勇者「…………」

魔剣士「こ、こんなバカな……」ハァハァ

勇者「…………」グッ

魔剣士(ここまでか)

???「メガソニッククローォォォ!!」ズバッシャァァァァァ

勇者「うわっ!!」ズシャァァァ

魔獣王「ギャハハハハッ! ザマぁねえじゃねえか、魔剣士!! マシン王の最高傑作もたかが知れてんな!」

魔剣士「ま、魔獣王様……っ!」

魔獣王「すっこんでろ。所属は違っても、オレは部下に優しいんだよ」

魔剣士「か、かたじけのうございます……」

魔剣士(来たらほっとけとマシン王様もおっしゃっていたからな……)

勇者「……ラピットストリーム」ビュンビュンビュンビュン

魔獣王「ほう、なかなかの速度だな。しかし……オレはもっと速い!!」ビシュン

魔剣士(消えた!?)

勇者「なに――がっ!!」ズッドーン

魔獣王「加速してその程度じゃ、邪神軍最速のオレには遠く及ばない! ギャハハハハッ!!」

勇者「くぅ……ソードブリザード!」ビュォォォォォォォッ

魔獣王「今度は範囲攻撃か。速い相手を追い詰める定石だな。が、無駄無駄無駄無駄!!」ジャキン

魔剣士「そ、それは!」

魔獣王「魔剣士よ、お前が持っているのの発展型、妖刀よぉ!!

 くらえ、ブレードファイヤーッ!!」ヒャボボボボボボボッ

勇者「っ!!」

 ずっがああああああああああん

魔獣王「おっと、勢い余って天井ごと消し飛ばしちまったか。ギャハハハハッ!!」

魔剣士「おお! ワシや勇者よりも遥かに高威力の魔法! これが妖刀!」

魔獣王「バカいっちゃいけねえよ、オレの力さ!」

勇者「う、うぅ……」ジャキン

魔獣王「まだ生きてるか。そう来なくっちゃ面白くない」

???『おい、いきなり床がぶっ飛んだぞ! ここから下に行ける!』

???『待たんかい、勇者兄! ちゃんと確認してから――』

 ピューン

魔獣王「ん?」

魔剣士「ん?」

勇者「……え?」

 スタッ

兄「…………。ん?」


魔女「よっと」

魔獣王「今度はちんまいのが来たな……。なんだてめら、水を差しやがって」

兄「どうもすんませぇん。勇者兄と申します。オオカミさんはどちら様で?」

魔獣王「あん? オレは邪神軍、魔獣軍団長の魔獣王だ」

兄「それはそれは。では失礼します。ほら、帰るぞ妹」

勇者「……何しに来たの?」

兄「お前が一人で特攻したって聞いて追ってきたんだろうが」

勇者「なんで?」

兄「なんでって、心配したからだろうが」

勇者「馬鹿言わないで。心配してたのはどっちだと思ってるの? 一人で勝手にどっかいっちゃって」

兄「それは、なんだ。ごめん」


魔獣王「おいおいおい、オレを差し置いて盛り上がってんなよ。どういうことだい?」

魔剣士「わ、ワシに聞かれましても……」

魔女「ああ。何でも勇者兄は、本当は自分が聖剣の勇者になりたかったのに妹に先越されて、

 だったら自力で邪神を倒して真の勇者になろうとしてるんだよ」

魔獣王「ギャハハハハッ! 異次元の馬鹿だな! 方法もそうだが目的もおかしい! なあ?」

魔剣士「は、はあ……」

魔獣王「ん? お前、さっきから大人しくないか? どうかしたか?」

魔剣士「いえ、ちょっと腹の具合が……」

魔女「?」


兄「とにかく、意地を張らないでくれ。今日はもう帰ろう、な?」

勇者「そしたらまた、兄さんはいなくなるでしょ? あたしを置いて……」

兄「あ~、それはだな……」

勇者「分からないよ……兄さんが分からないの! 兄さんが……」チラッ

魔女「?」

勇者「兄さんにとって、あたしはなんなの? もう必要ないの? 代わりが利くの」

兄「馬鹿を言うな。本当にどうしたんだ、妹――」

勇者「触らないで!!」ジャキン

魔女「んなっ!?」

魔獣王「ほう、おもしれえ」

兄「おまっ、剣を下ろせ!!」

勇者「……兄さん、勇者はあたしがやるよ。兄さんの夢は、あたしが叶える。兄さんの代わりはあたしがやる。

 だから……最後に見せてあげる。兄さんが憧れた、聖剣の力を」ペカー

兄「……マジかよ」


魔女「ちっ、兄妹で刃傷沙汰とかシャレにならん!」

魔獣王「待ちな。水差すんじゃねえよ、せっかく腹を割って話し合ってるのに。

 身内同士の殺し合い、ベタだがショーとしては最高じゃないか!」

魔女「馬鹿を言え! そんなことさせられるか!!」オーラビュオー

魔獣王「ギャハハハハッ! 止めたいなら先にオレを倒していくんだな! お前、相当強いだろ。

 オレは強いヤツとケンカするのが生き甲斐なんだよ、付き合えや!!」ジャキーン

魔女「お断りだね! インフェルノ!!」ヒャボボボボボボボッ

魔獣王「ブレードファイヤー!!」ヒャボボボボボボボッ

 ズドーーーーーン



勇者「ソードサンダー、マキシマム!」バリバリバリズドーン

兄「うおおおおおおおおおおっ!! 正気かお前!! 実の兄をローストチキンにする気か!?」

勇者「ソードブリザード、マキシマム」ビュォォォォォォォッ

兄「シャーベットもダメ!!」

勇者「……分かった? これが聖剣の力。兄さんが手にできなかった力だよ。

 だからもう、邪神退治はあたしに任せて」

兄「そうはいかない! 俺は勇者になるんだ!」

勇者「それ、あたしよりも大切な夢なの? あたしを置いていくような理由になるの?」

兄「…………」

勇者「答えろォ!!」ビュンビュンビュンビュン

兄「くっ!」



魔獣王「ギャハハハハッ! やっぱ強ぇなてめえ! 気に入ったぜ!!」

魔女(ちぃぃっ! 近づけば爪と斬撃! 離れれば魔法! そして本体の超スピード!!

 普通に邪竜王よりも強くないか……!? それにあっちも気になる……!

 勇者兄、妹ちゃん……早まった真似はしてくれるなよ……)


魔女「速攻で墜とす!!」キンジュモンチャージ

魔獣王「雑魚と一緒にすんじゃねえぜ!! メガソニック――」

魔女「奥義! オーバードライブ!!」ジカンテーシ

 ビュワッ

魔獣王『』

勇者『』

兄『』

魔女(我が最大最強の禁断魔法、時間停止! 効果も短い、生命力を削る、チャージが呆れるほど長いし、連発もできぬが……!

 兄君を手にかけさせるわけにはいかん!!

 マジックレイジ!!)マリョクジョウショウ

魔女(マジックレイジ!)マリョクジョウショウ

魔女(一瞬だけ魔法の威力を三倍にする禁呪文、マインドチャージ!!)マリョクキュウジョウショウ

魔女(そして必殺! 光属性禁呪文、ゴッドブレス!!)ゴゴゴゴゴゴッ ズッドーーーーーーン

魔女「時は、動き出す」ユビパッチン

魔獣王「クロ――はえ? なんじゃこりゃあああああああ!!」ドーン

魔獣王「ぎゃぴっ!!」ズガーン

 ズシーン

勇者「!?」

兄「な、なんだぁ!?」

魔女「はあ、はあ、はあ、はあ……し、心臓痛い……。が、倒せないまでもしばらく動かんだろ。

 ……おいこら勇者ぁ!!」

勇者「」ビクッ

魔女「自分の家族に剣を向けるとは何事だい!? そりゃ、あんま頭が芳しくない男だろうけどね、そいつは!」ズカズカズカ

勇者「う……」

魔女「身内同士で殺し合いなんて、それでも聖剣に選ばれた勇者なのかい、ロクでもない!

 キサマもキサマだ、勇者兄!!」ズカズカズカ

兄「な、なんだよぅ……」

魔女「キサマにも言おうと思っていたことだ! まず、妹に放り出したことを謝れ! 一方的に残された家族の気持ちを考えんかい!!」

兄「そ、そう言われると弱い……」

勇者「あ……あなたには、関係ない話じゃない……」

魔女「そりゃ、家庭の事情に首突っ込むのも下世話だけどね。生き死にが掛かってるところでまで気ぃ使わんぞ、ワシは!

 まず頭を冷やせ。無理そうなら、ワシの凍結魔法で――うっ」フラッ

兄「魔女!」ダキッ

勇者「!!」

魔女「わ、ワシも無茶しすぎたようだ……。魔翌力が尽きてしまった」ハァハァ

勇者「回復するんじゃなかったのか?」

魔女「一度0になってしもうたら、しっかり休んで最大値まで回復させんと魔法が使えん……。すまん、ここからは足でまといだ」

兄「何言ってんだよ、そんぐらい弱点があったほうが仲間としても親しみが持てる。

 妹、積もる話もあるが、先にこいつをどっか休めるところに――」

魔女「いかん! 魔獣王はまだ生きておる!!」

 ガレキドカーン

魔獣王「……今のは効いたぜ。オレとしたことが、三途の川ってヤツを見ちまった」ヘヘヘッ

魔獣王「もう容赦しねえぜ、てめえら!」ジャキン

兄「くっ、スーパーピンチ! 魔女は下がってろ、ここは俺たちでやる!!」

魔女「すまん……」

兄「妹! 話はあいつを倒した後だ。文句もたっぷり聞く、もうどっか行かない。だから――」

勇者「……。分かった」ジャキン

兄「よっしゃあ! 久しぶりに兄妹殺法のお披露目だ!!」コンボウ

勇者「ま、まだそんなもん使ってたの……?」

兄「意外と強いぞ、これ?」

魔獣王「だが、当たらなければどうということはない! オレの速さの前には全てが無力!!」ダダダーッシュ

勇者「ならこっちも加速する! ラピットストリーム!!」ソクドジョウショウ

魔獣王「ラピットストリーム!!」ソクドジョウショウ

兄「なに!?」ドカーン

勇者「うわあっ!!」ドーン

魔女「兄! 勇者!!」

魔獣王「容赦しないと言ったはずだ。この妖刀は魔剣の発展型! 補助魔法も同じものが扱えるんだよ!!」ガオーン

勇者「また来る! ソードテンペスト、マキシマム!!」ビュォォォォォォォッ

兄「棍棒ホームラン!!」カキーン

魔獣王「加速状態で放つ、ギガソニッククローォォォォ!!」スパパパパパパ

兄「ああああああ棍棒が!!」ワギリー

魔獣王「吹っ飛べ!!」ベシッ

兄「ぎゃーっ!!」ピューン

勇者「兄さん!! よ、よくも兄さんを!!」ペカー

魔獣王「ハア、ハア、ハア、ギャハハハハッ! もういっちょ、いくぜぇぇぇぇ!」


兄「ぶべらば!」ドーン

兄「畜生、長年の愛用品だったのに、この棍棒」ポイッ

兄「何か代わりの武器は無いのか? 最悪素手でも――」キョロキョロ

魔剣士「あ」

兄「あ」

魔剣士「し、失礼しマース」

兄「待てこら」ガッシ

魔剣士「うひぃ! ワシぁもう勇者にやられて戦闘不能だ! 戦えない!」

兄「だったらちょうどいい! その腰に下げてるものをくれ」

魔剣士「え、この魔剣? ……ダメダメ! これはマシン王……様から賜った大事な――」

兄「くれ」

魔剣士「……はい」

兄「サンキュー! こいつはお代だ、釣りはいらねえぜ」ピューッ

魔剣士(10cash……。……それはそうと、人間があの魔剣を使って大丈夫なのか?

 ワシもマシン王に体をいじられて、ようやく馴染んだというのに……)

魔剣士「まあ、どちらでも良い。邪神を倒す戦力になってくれればな」

勇者「ソードテン――」ペカー

魔獣王「遅い遅い!!」ズガガガガガッ

勇者「ぐぅぅっ!!」カキンカキンガンカキン

魔獣王「どうした! 受けるだけで精一杯か! 底力見せてみろ!!」ホドドドドドーッ

勇者「そういう、そっちだってボロボロじゃない!! ソードテンペスト!」ビュォォォォォォォッ

魔獣王「おおうっ! 自分ごと巻き込んで魔法を使うとは!」ケガワボロボロ

兄「追い打ちの不意打ちぃ!」ズバン

魔獣王「がはっ!」グラッ

勇者「兄さん、その剣!!」

兄「おい! これどうやったら魔法出せるんだ? あの『ソードファイヤー』ってヤツ」

勇者「えー……」

魔獣王「ま、魔剣士のヤツ、武器を奪われやがったのか……あの役立たず!」

兄「『くれ』って頼んだらくれたぞ」

魔獣王「よし、あとで処刑する」ズタボロ

魔獣王「つっても、使いこなせなけりゃただの剣だしな、それ!」ギャハハッ

兄「なにおう! ただの剣を持ったただの人間の力を甘く見るなよ!」ダダダーッシュ

勇者「兄さん、あたしも!」

兄「無理しないで援護に回ってくれ。お前もボロボロじゃないか」

勇者「……あたしだって勇者だ!」ラピットストリーム

魔獣王「行くぞ、勇者ども!!」ラピットストリーム

 ガキンガキンガキン ザンッ

 ドンガンガキンドスン ズザザザザッ

勇者「うわっ!!」ズバッ

兄「妹!」

勇者「あ、足をやられた……!」

魔獣王「スキありだ! くたばれぃ!」ズォッ

兄「させるか!」ガキン

魔獣王「遅いわぁ!! ギガソニッククロー!!」グサァ

兄「がぐっ!!」ドグシャ

魔女「兄!!」

魔獣王「どうだあ! 土手っ腹に一撃――てめえ、剣はどうした?」

兄(ニヤリ)

勇者(二刀流装備)

魔獣王「なに!?」

勇者「ラピットストリーム、二段重ね!」チョウカソク

魔獣王「ラピット――」

勇者「二刀、十文字切り!!」

 ズバン


魔獣王「…………」

勇者「…………」

魔獣王「へっ……このオレが、遅れを取っちまうとはな……ごふっ」ピカー

 ドカーーーーン

兄「へっ、ざまあみやがゲフゥッ!!」ボタボタボタ

魔女「兄!」ダダダダッ

勇者「兄さん! ソードヒール!」ペカー

勇者「兄さん、しっかりして!!

 ああ! ああ! すごい血!! 兄さん、寝ちゃダメ!! 兄さん!!」

魔女「ギガヒール! ……くっ、やはりまだ魔翌力が……。妹殿、何か薬は!?」

勇者「お、置いてきちゃった……、ソードヒールあるし」ペカー

魔女「なら、手持ちで何とかするしかないか」キュウキュウセーット

魔女「キサマは魔法で止血をしろ! なんとか縫合してみる!」

勇者「は、はい! お願いしま――」ゴゴゴゴゴゴッ

勇者「え!?」

魔女「地震!? ……いや、この地響きは、下から!?」

 ズッドーーーーーーーン

マシン王「ギュィィィィィィン!! 魔獣王、死んでしまうとは情けない!!」

魔女「ま、マシン王だと!! クソッタレ、このタイミングで!!」

勇者「そ、そんな……!!」

マシン王「ギュィィィィン!! 魔剣士、魔獣王と連戦でもうボロボロ。ですが、遠慮はしませんぞ!

 ワタシの心臓は無限熱量を蓄えた灼熱の核融合炉! プラズマの洗礼を受けるがいい!!」ギュィィィィィン

マシン王「アトミックブラスター!!」ズドーーーーーーーーン

魔女「う、うおおおおおおお!!」

 チュドオオオオオオオオオン

 モワモワモワモワ

マシン王「呆気ない」


魔剣士(な、なんだと……バカな、聖剣の勇者が……)

マシン王「魔剣士さん! 隠れているのはわかってます、怒らないから出てきなさい!」

魔剣士「…………。申し訳ありません、不覚を取りました。

 勇者を捕らえることもできず……」

マシン王「構いません。深追いはしないように、と言いましたからね。魔剣はどうしました?」

魔剣士「……ゆ、勇者に奪われました。魔獣王様を倒す決定打に……」

マシン王「そうですか。勇者が魔剣を使う……、魔剣と聖剣……ふむ。諸共に消してしまうのはもったいなかったですか」

魔剣士「…………」


――???


???(あいつら、まだどっかいかんのか?)

???(まだ一分ぐらいしか経ってないでしょ? ガマンして!)ペカー

???(キサマもその『ペカー』っての抑えろ! 見つかるぞ!)

???(んな器用な真似できないわよ!)

???(で、出来る出来ないは挑戦してから言うものだ……ぐっ)

???(けが人通り越して半死人なんだから黙っとれ!)


魔剣士「ん?」

地面「」ペカー

魔剣士「…………」

地面「」ペカー

魔剣士「……漏れてるぞ」

地面「!」カー

魔剣士「…………」

地面「」アセアセアセアセ

魔剣士「」ザッザッザッザ

地面「」コンモリ

マシン王「魔剣士さん?」

魔剣士「は、はいっ!」ビクッ

マシン王「今、集音マイクと魔翌力センサーが微かな反応を捉えました。まだ敵の仲間がいるかもしれません。

 一緒に探してください」

魔剣士「は、はっ!」アセアセアセアセ

地面「」アセアセアセアセアセアセアセアセ

※現在の状況



             /\
     マ      剣|山|
―――――――――――――‐--―――――――――
       床下     魔
             勇
             兄


兄(マシン王の攻撃が当たる一瞬、妹は大きな賭けに出た。

 この状況であえて聖剣を手放し、魔女に渡す。呪いによって聖剣は重量を急速に増し、激戦で傷んでいた床を破壊。地下に潜ったのだ。

 俺が万全であれば行ったであろう『穴を掘って隠れる』を変則的に使われたわけだ。ちょっと悔しい)

兄(しかしそれ以上に、腹の傷のせいですんごい苦しい! これヤバイ、ちょっとでも気を抜いたら気絶する!!)

勇者(しっかり、兄さん!)ペカー

魔女(こいつもそうだが、このままずっと埋まっているわけにもいかんだろ。揃って窒息する前に、なんとか抜け出さんと)

勇者(でもどうしよう。もう戦えるだけの魔翌力も体力も残ってない。見つからないように逃げるにしても、すぐ近くに軍団長がいる……)

魔女(幸い、なぜか魔剣士はワシらに味方してくれているようじゃが、さすがにボスが目の前にいて見逃しちゃくれんだろ)


マシン王「もしやと思いますが、ワタシのアトミックブラスターを掻い潜り、生存しているのでは……?)

魔女&勇者&兄、ついでに魔剣士(ギクッ)

マシン王「外では中央王国軍が接近しているようですし、長居はしたくないのですが……後顧の憂いは断っておきましょう!

 サーチモード、ON!!」ウィィィィィン

魔女(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 頭からアンテナ出した!! あれ絶対レーダーだ!!)

マシン王「残存する破壊魔翌力のせいで制度は落ちますが……ま、そう遠くには行っていないはず。十分です。

 魔剣士さんは目視で探してください。死体でもなんでも、奴らの痕跡を見つけたら教えるのです」ウィンゥインゥインゥイン

魔剣士「か、かしこまりました……」

勇者(どどどどどうしよう! このままじゃ見つかっちゃうよ!?)

魔女(いや、今いいことを二つ聞いたぞ。一つは近くまで味方が来ていること。おそらく、エルフ騎士殿が率いているのだろう。

 もう一つは、さっきの我々の戦いの影響で、レーダーの精度が落ちていること。もっとも、時間とともに回復するのだろうが……。

 このまま地面の下にいれば、やり過ごせるやもしれん。確証はないがな、不用意に飛び出すよりは可能性は高い)

勇者(でも空気が……)

魔女(問題はそこだ。つうかもう現状苦しいぐらいだから、……もって三分以下)

勇者(それまでに、敵が帰らなかったら……?)

魔女(文字通り、我らは墓穴を掘ったということだろうな……)

勇者(Oh――)

兄(まあ待て……。俺にいい考えがある)

メール欄にsagaと入れるのじゃ
魔力とか普通に打ち込めるぞい


魔女(兄、喋って平気なのか!? というか、キサマのいい考えって悪い予感しかせんのだが)

勇者(ごめん、兄さん。あたしも身の危険を感じる……)

兄(ひどいな! まあ、聞け。二人とも、さっきあのジオン水泳部みたいなモノアイロボが出てきたときのこと、覚えてるか?)

魔女(マシン王な! 確かにゴッグに似てると思ったけど……)ガイケンビョウシャナカッタカラッテ

勇者(地面から出てきたよね?)

兄(その穴を利用する。きっと外へ繋がってるハズだから、横穴を掘ってそこに繋げるんだ)

勇者(おお! ……ん?)

魔女(キサマにしては考えたな。で、どうやって気づかれずに掘る気だ?)

兄(妹、あの素早くなる魔法、まだ使えるか?)

勇者(ラピットストリーム? 今はダメ)

兄(マジか!? ……終わった、もうおしまいだ……)

魔女(詰むの早いぞ!?)

勇者(だ、だって回復しながら別の魔法なんて使えないよ!)

兄(そういうことか。なら、もう俺の治療はいい。出血は収まった、あとは根性でどうにかする)

勇者(無茶言わないで! 失血も酷いし、下手に動いたら傷口がすぐ開いちゃう!)

兄(このまま全滅するぐらいなら、無茶でも何でも耐えてやるさ)

勇者(でも!)

兄(大丈夫。死なない)

勇者(…………)

魔女(……そろそろ、本格的に呼吸が危ういな。勇者殿、ここはひとつ、兄君の生命力を信じてみんか?)

勇者(だけど……)

魔女(こやつとワシは、まだ出会って間もない。だがな、一度言い出したら聞かぬ男だというのは理解できる。

 やる時はやる男だということもな。

 キサマにとっては複雑やもしれんが、信じるに値するとワシは考えておる。

 キサマも――)

勇者(分かった! 分かったわよ、もう!! 兄さんが馬鹿なのは昔っからだもん!

 三人で、生き延びよう)

兄&魔女(当然!)

兄(んじゃ、話を進めるぞ。といっても、作戦は簡単。ラピットなんとかで加速して、横向きに穴を掘る。

 ただし、敵の動体感知器やら集音センサーやらに引っかからないよう、作業は慎重を要する。

 焦らず、ゆっくりかつ迅速に。オーケー?)

魔女(作戦というには力押しだな、ホントに)

勇者(やってみるよ。でも、穴掘りはあたしと……えっと)

魔女(魔女だ、勇者殿)

勇者(うん。あたしと魔女さんでやる。兄さんは後ろから付いてきて)

兄(シャクだが、けが人は大人しくしていよう。

 んじゃ、ミッションスタートだ)

勇者&魔女(おう!)

>>90 分かった、やってみる!

兄(こうして始まった脱出プロジェクト!

 慎重かつ大胆、そして迅速な働きが求められる作戦は……)


マシン王「ぎゃああああああっ!!」ズボボボボボッ


兄(開始二分で破綻した。

 横穴とつなげる途中、マシン王の足の下を気づかず通ったせいで、地盤沈下を起こしてしまったのだった)

マシン王「な、なんですかこれは!? まさか、落とし穴!?」

兄「おい! 衝撃で地盤が緩んだぞ!! トンネルが崩れる!!」

勇者「わわわわわっ! どうしよう!?」

魔女「どうもこうもあるか!! 地上に出るぞ!! 勇者殿!」

勇者「えっと、上向きにソードファイヤー、マキシマム!」ジュボボボボボボッ

兄「あっつーーーーーーっ!!」

魔女「髪!! ワシの髪がぁぁぁぁ!!」

勇者「ご、ごめんなさーーーーーい!!」

魔剣士(……なに遊んでんだ、こいつら……)


マシン王「その声は! やはりお前たち、まだ生きていたのですね!!」ジタバタジタバタ

勇者「我が家に伝わる秘技、穴を掘って隠れる、よ! 格好つけた言い方をすれば、土遁の術!」バァーン

兄「おい、妹! ローブが燃えてる!!」メラメラメラ

魔女「勇者兄、キマサもじゃ! はよ消さんか!」バフバフバフ

マシン王「ええい、くそ! 仰向けで埋まってしまったせいで出られない!! 魔剣士さん!!」

魔剣士「すんません、武器がないのでワシ、もう戦闘不能です」

マシン王「魔獣王さんの妖刀を使いなさい!! 基本は魔剣と同じなら、アナタでも扱えるはずです!」ジタバタジタバタ

魔剣士「は、はあ……」シカタナイカ

勇者「ちぃ! 魔女さん、兄さんを連れて先に行って! ここはあたしが食い止めるから!!」ニトウリュウ

兄「こら、無茶すんな!」

勇者「大丈夫よ。一度勝った相手だし、マシン王もしばらく動けそうにない! 外でエルフ騎士さん達と合流したら、すぐ戻ってきてね!」

魔女「心得た!!」ダダダーッシュ

兄「あ! こら、下ろせ魔女!!」

魔女「悔しいが、今のワシらじゃ足でまとい。それに、キサマも傷口が開きかけておるではないか!」

兄「妹を死地に残して、逃げ出す兄はいない!」

魔女「そう言うなら、次に冒険に出るときは一緒に連れて行ってやれ」

兄「……くっ! すぐに戻ってくるからな、妹ー!」

勇者「……。うん、それでいい。魔女さん、兄さんをよろしくお願いします」

魔剣士「お互い、瀕死の身。戦いは一瞬で決まる」

勇者「今更そんなセリフ、カッコつかないよ? あなたが三枚目なの、もう分かってるし」

魔剣士「やかましい!」

マシン王「ペースを乱されてはいけません、魔剣士さん! 一対一は好都合、ハイパーモードで片をつけなさい!!」

魔剣士「っ!! ……御意にございます」ビカー キャストオフ

勇者「!? よ、鎧が!?」

銀髪のサイボーグ魔族「…………」

勇者「その姿、改造された魔族?」

銀髪のサイボーグ魔族「この姿は、ワシの敗北と屈辱の証。そして不退転の勝利を得るための覚悟。先ほどのワシと、今のワシを同じと思うな!!

 十秒で決着をつける!!」ビュオッ

勇者「二重ラピットストリーム!!」ソクドジョウショウ

勇者「はああああああああっ!!」

 ガキィィィィィィン


兄(すぐに戻る。遠ざかる妹の後ろ姿に呼びかけたとき、俺は必死に自分に言い聞かせていた。

 あいつは大丈夫、聖剣の勇者なんだから。一人でも戦える、負けるはずがない。勇者なのだから。

 馬鹿を言うな。あいつは確かに勇者かもしれない。

 だが、それ以前にあいつは……俺が守るべき大切な存在だったのに……)


父『わ、私はここまでのようだ……』

幼少の兄『オヤジ!! しっかりしてくれ、傷は浅いぞ!!』

父『兄……さ、最後に、お前に頼みがある。男としての、頼みだ……』

幼少の兄『最後だなんて言うな!』

父『私は、勇者でも戦士でもない。戦いの才能なんてこれっぽっちもない。

 それでも……家族を守ってきたことが、私の誇りだった……』

幼少の兄『オヤジは立派だよ!! 尊敬してる! だから――』

父『だが、母さんを守れず、子供を残して死のうとしている……。無念だ……。自分が情けない……』

幼少の兄『お、オヤジ……』

父『……だけど、仇を討とうなど、考えるんじゃない。死んだ私たちの為に生きるんじゃない。

 どんな形でもいい。幸せになってくれ……。

 それが父さんと母さんの、たった一つの……――』ガクッ

幼少の兄『……お、オヤジ? オヤジ!! オヤジぃぃぃぃぃぃぃっ!!』


兄「うわああああっ!!」

魔女「うおおっ! ……だ、大丈夫か!?」

兄「ま、魔女、か……おい、ここはどこだ!? 今何時……いや、何日だ!?」

魔女「落ち着け。ここは西の渓谷をさらに越えた場所にある城塞都市だ。結果的に基地を陥落させたおかげで、進軍することができた。

 ……あのあと、キサマはエルフ騎士が連れてきた増援と合流した直後に気を失った。四日前のことだ」

兄「四日だって!? おい、妹は!!」

魔女「…………」

兄「おい!」

魔女「落ち着いて聞け。もう一度エルフ騎士殿と基地へ突入したが、勇者殿を発見できなかった。

 状況を見れば、十中八九……敵の手に落ちた」

兄「……んだと」

兄(…………。やっぱり俺は、度し難い大馬鹿だ)


――中継基地・食堂

兄「」モッチャモッチャモッチャモッチャ

魔女「で、起きてまずこれかい! もう何人前食べてんのさ?」

兄「」モッチャモッチャゴックン

兄「いや、我に返ったら急に空腹感がな……。これから敵陣に乗り込むんだから、準備は入念にしないと」

魔女「準備って……食いだめすることが準備か!? というか、やっぱり戦う気マンマンなんだね」

兄「もちろん」

魔女「んじゃ、食いながらでいいから聞きな。あまり余裕もないからね。

 まず、現在地は最前線のすぐ手前。エルフ騎士は、ここから西へ下ったあたりで大部隊を編成している。まずそこに合流するぞ」

兄「それ、遠い?」モッチャモッチャモッチャモッチャ

魔女「歩いて二日、バイク飛ばせば一日足らずってところか。ワシが魔法で飛んでいってもいいが、キサマを運ぶのは骨だ。

 さて問題は、前線と目と鼻の先で、邪神軍の大軍が確認されていることだ。まず、正面の湿地帯に二十五万」

兄「二十五ぉ!? まず!?」モッチャモッチャモッチャモッチャ

魔女「さらに、湿地帯を迂回して左右の平原と山岳地帯をそれぞれ十万ずつ。邪竜軍を筆頭に航空戦力と、海からも同規模の戦力が押し寄せている。

 さらにさらに、その後方からもとんでもない数の敵が押し寄せて……その総数、ざっくり百二十万だ」

兄「……Oh」モッチャモッチャモッチャモッチャ

魔女「ちなみに、三国志で最大の戦力を持っていたと言われる魏でも、最大限に兵士を動員して二十六万だったと言われている。

 まあ邪神軍はすべて魔力で作られた魔導生物かマシン兵、あとは屍鬼軍団だからな。

 加えて、こっちの切り札とも呼べる聖剣の勇者は敵の掌中。普通に考えたら万事休すだ」ヤレヤレ

兄「誰かー! お客様の中に呂布か曹操将軍はいらっしゃいませんかー!? もしくはゴルゴ!」モッチャモッチャモッチャモッチャ

魔女「むしろ青いネコ型ロボットに頼りたいよ、ワシは。だがな、自力でなんとかせにゃならんのが現実の厳しいところさ。

 ワシだって死にたくない。誰だって殺されるのは嫌だ。だったら、戦って生を勝ち取るしかない。そうだろ?」

兄「はぁぁぁ、やだなぁ、逃げ出したいなあ」モッチャモッチャゴックン

兄「んじゃ、出発するとしますか!」

魔女「ああ。足なら確保してある。また2ケツしてくれ」

兄「君と密着してもなあ」

魔女「贅沢言うなよ。混浴もした相手に連れないな」

兄「そっちは服着たままだったのに」トーイメ


エルフ騎士「偵察隊、定時報告が遅れているぞ!

 整備班、武装の整備状況は!? 間に合わないなら、兵士本人にも手伝わせろ!!

 警官隊! 周辺地域の民間人の搜索と退避状況はどうなっている!!」

兄「エルフ騎士さーん!」ブロロロロロロ

魔女「待たせたな!」ピョン

エルフ騎士「来てくれたか!」

兄「あれ? エルフ騎士さんって、確か部隊長じゃなかった? なんで司令官やってんの?」

エルフ騎士「よく分からんが、前任の司令官が戦死したあと、なぜか成り行きで……」

兵士A「勇者様と一時的にとはいえパーティを組んでいたのが評価されたのであります!」

兄「そうなんだ。不謹慎かもしれないけど、出世おめでとう」

エルフ騎士「あ、ああ。ありがとう。そっちも、傷の具合は良さそうだな」

兄「おう! もう跡形もないぜ!」ピラッ

エルフ騎士「見せなくていい! ……おい、本当に傷跡もないぞ!? かなりの重症じゃなかったか!?」

兄「鍛えてますから」

魔女「いや、勇者殿の魔法のおかげだろ? ……で、敵は?」

エルフ騎士「依然として一定のペースで進行中だ。そのペースがかなり遅いのが救いだが……。

 なんどか邪竜や魔獣の偵察隊を撃退しているが、互いにこれといった被害はなしだ」

魔女「深追いする方が危険だ、決戦まではそれがいい」

兄「今更だけど、和睦ってやっぱ無理?」

エルフ騎士「この世界の住人全てが奴らに忠誠を誓えば、運がよければ可能かもしれないな」

兄「じゃあダメか。なんか作戦は?」

エルフ騎士「色々と考えてはいるがな。消耗戦は避けられない。

 というか、西の渓谷まで戦線を下げる頃には、どう計算しても三割以上が壊滅する……」ドヨーン

兄「戦争前なのにもうお通夜ムードかよ。指揮官が暗い顔してちゃダメじゃね?」

エルフ騎士「わ、分かってはいるんだが……はぁぁ」

魔女「かぁ~っ! ほんっと暗いのう。しゃきとせんかい!」


兵士B「魔女殿の大魔法で戦線を切り崩せないでありますか?」

魔女「ご期待に添えなくてすまないが。多方面から陸・海・空で攻められたら手が足りん。

 いくらなんでも処理しきれんわ」

兄「俺も空飛べないしな。足場の悪い湿地帯じゃ機動力半分以下だ。

 あ、ギリギリ平原から来てる奴らならなんとかできるかも」

エルフ騎士「……え?」

魔女「海を百キロ㎡ぐらい凍結させれば足止めぐらいできるかな」

兄「あ、じゃあそこを渡って敵の本陣まで切り込んでみるか?」

魔女「阿呆。少なくとも邪神と軍団長二人を相手にせにゃならんのに、単独で突っ込む奴があるか」

エルフ騎士「ちょ、ちょっと待て! ……もしかして、十万規模ぐらいならなんとかできるの、あんたら?」

魔女「だから無理だって。一人二人じゃ殲滅する前に、横を素通りされてしまう。

 確実に倒せるのは一万から二万といったところだ。まあ、敵の陣形にもよるが」

兄「取りこぼしを処理してくれる後詰がいればだいぶ違うんだけど。

 俺なんて魔法使えないから、一万倒せればイイ方だ」

兵士A~C「」アングリ

エルフ騎士「……それ、信用してもいいんだな?」

兄&魔女「ん?」

エルフ騎士「よっし! 勝ちの目が見えた!! 作戦の中枢は君たちだ!!

 でも君たちが失敗したら、我々は全滅! 責任重大だ、でも頼む!! 君たちが希望の星だ!!」

兄&魔女「……お、おう……」


――邪神軍本拠地・マシン王のラボ

カプセルの中の勇者「」コポコポ

カプセルの中の魔剣士「」コポコポ

屍鬼王「マシン王よ、いつまで篭っている気だ。出陣の儀はとっくに始まっているぞ。軍団長が欠席してどうする」

マシン王「ああ、指揮ならすべてあなたにお任せします、屍鬼王。

 ワタシは先日手に入れたサンプルの解析で手一杯なので」

屍鬼王「聖剣の勇者、か。邪神様に対抗しうる唯一の存在が、よもや我らの手に落ちるとは。

 この世界の命運も、もはや尽きたか」

マシン王「……屍鬼王、だからあなたは愚かなのです。生命体の底力を侮るな」

屍鬼王「それは貴殿も同じであろうが! 自らの肉体を鋼に変え、不老不死を望んだ――」

マシン王「黙れ、生きる屍風情が!! 誰が好き好んで、このような異形になどなるものか!!」ドゴン

屍鬼王「ぐはっ!!」ビターン

マシン王「……失礼。ですが、現に邪竜王さんは一介の戦士に敗れ去りました。やや反則じみてはいましたが。

 魔獣王さんを追い詰めた、魔王の娘も未だに健在。明日は我が身ということもあります」

屍鬼王「ふ、ふん! 言われずとも心得ておるわ!! それに、我も切り札を用意している、抜かりはない」

マシン王「だと良いのですが。まあ、ワタシも研究が一段落したら応援に行きます。

 それまでせいぜい生き延びて――ああ。ゾンビでしたね、アナタ」

屍鬼王「やかましいわ! 失礼する!」ワープ

マシン王「……愚かな。所詮、邪神様の靴の裏を舐めて、仮初の不死に酔っているだけの道化か。

 しかし、ワタシは違う!! 聖剣の力を我が物とし、その暁には……!!

 そのために、アナタ方には存分に役だってもらいますよ……」

カプセルの中の勇者「」コポコポ

カプセルの中の魔剣士「」コポコポ

マシン王「見ているがいい!! 邪神軍の最強は、このワタシなのだ! ギュィィィィン!!」

――最前線キャンプ・司令テント

エルフ騎士「作戦は以上だ。質問はないか!」

兄「すんませーん、それ作戦って言わない気がするんですけどー!」ハイハーイ

魔女「電撃作戦というか、あまりに大雑把過ぎないか?」ヒヤアセ

兄(エルフ騎士の発案した作戦は……俺と魔女で最短コースを通って敵本陣に奇襲を仕掛け、妹を解放。

 聖剣の力で二人の軍団長と邪神を倒す――というものだった。

 人、それを特攻という。命は大切にね!!)

エルフ騎士「もちろん、私も君たちと共に行く。なに、足は引っ張らんさ……多分」

兄「ここでの指揮はどうすんだよ?」

兵士B「自分にお任せ下さい! これでも士官学校を首席で卒業し、戦略演習では二百九十九戦無敗です!」

魔女「さり気なくエリートじゃないか……。それに、作戦そのものの不確定要素も大きいぞ」

エルフ騎士「理解している。勇者様の所在も分からないし、合流前に軍団長や、最悪邪神と戦うことにもなりかねない!

 だが、この作戦の肝は『敵陣の大規模なかく乱』にこそある!!

 一見すると完全な無謀! 考えついても誰もやらない手段! それをあえて全軍の作戦として行う!!

 通常の方法では覆せない戦力の差をひっくり返すんだ! そのためなら奇跡の1グロスぐらい起こしてみせようじゃあないか!!」ドドーン

魔女「む、むう……ただの命知らずな根性論なのに、妖しく心が揺り動かされる……」

兄「正気に戻れ!! ……と、言いたいところだが」

エルフ騎士「……開戦から三十年、敵がこれほどの大戦力を投入してくることはなかった。

 我々は危ういところでもち堪えているつもりだったが、それはただ向こうが本気じゃなかっただけだった。

 侵略者の胸先三寸で生かされてきたなんて、屈辱じゃあないか。なら、死んでいった多くの人達、彼らの犠牲はなんだったんだ」

兄「…………」

魔女「…………」

エルフ騎士「吠え面かかせてやりたい。屈辱を味わわせたい。その上で勝ちたい。

 わがままだな。責任ある立場でありながら、今の私は感情だけで物事を決断しようとしている。

 戦わない手もあるだろう。逃げるのもいい。地下に潜って再起を待つ。玉砕だけが戦じゃない。

 それでも勝ち目があるなら……私はそれに賭けたい」

兄「かっこいいけど、結局他力本願なのがな」

エルフ騎士「うぐっ!!」

魔女「そもそも切り込み役だってワシら頼り。向こうについても勇者任せ、ってナメとんのか、キサマ」

エルフ騎士「うぐはっ!! ……うう、どうせ私は……」

兄&魔女『が、その意気や良し!!』

エルフ騎士「……え?」

兄「どっちにしても、向こうに乗り込むつもりだったし」

魔女「こっちに残ってる兵との連携も絡めれば、思ったよりもいい作戦かもしれんぞ。

 兵士B、プランを練る。手伝え」

兵士B「イエッサー!」

エルフ騎士「……え、本当にいいの?」

兄「今更なこと言うなよ。な、司令官さん?」

魔女「ただし、向こうに行ったら存分に暴れてもらうぞ。良いな?」

エルフ騎士「……か、かたじけない……」

兄(こうして、ノリと勢いのままに俺たちの作戦は決まった。あとは、明日の決戦を待つのみ。

 妹。そして邪神! 待っていろ!)


兄「朝だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」ウォォォォォォォ

魔女「うるせえ!!」バチコーン

兄「あ、おはよう魔女。昨夜は眠れた?」ケロリ

魔女「ふん。キサマこそ、気がせいて眠れなかったのではないか?」

兄「んな遠足前の小学生じゃあるまいし。快眠、快食、快便で、もう出発準備はバッチリだよ」

魔女「そうかい。……なんだか妙な気分だな。キサマと出会ってまだ一週間ほどだというのに、何年も共に戦ってきた気がする」

兄「そんなもんだった? そういえば、カジノタウンの温泉で会ったのが最初だから、そんなもんなのか」フシギー

魔女「実はな、その前からキサマのことは遠目に観察しておった」

兄「えっ!?」

魔女「聖剣の勇者の仲間だと思っていたからな。あの頃は勇者の一行に加わる予定で、キサマに接触しようとしていた」

兄「そういえば、ちゃんと聞いてなかった気がする。魔女はどうして邪神軍と戦ってるんだ?」

魔女「復讐だ。ワシが魔王の娘、というのは以前に話しただろ?」

兄「……初耳なんですけど」

魔女「そうだったか? ともかく、父上をマシン王に殺され、一族も皆殺しにされた。ワシも無力ではなかったが、自分の身一つしか守れんでな。

 その時から修行を重ね、ずいぶんと体に無茶をさせたものだ。お陰でこんな子供のような姿になり、寿命もほとんど残っておらん」

兄「……マジで?」

魔女「それでもあと五十年は生きていられる。今日の戦いに勝てば、余生としては十分だ。

 後悔は……無いわけじゃないが、それでも家族を目の前で焼かれた怒りを風化させるよりもずっと良い。そう思っておる」

兄「な、なんか気軽に聞いていい内容じゃなかったな……」

魔女「なら、キサマも話してくれないか? なぜ『勇者』になりたがった?」

兄「あ~……たいしたことないよ、本当。

 小さい頃から聖剣の勇者のおとぎ話が好きで、実際にその聖剣が実在するって聞いたから、引き抜きに挑戦しに行ったんだ。

 で、行列に並んでいるうちにトイレ行きたくなって、妹に列並んでもらって、戻ってきたら妹が勇者になってた」

魔女「想像以上にしょうもないな、勇者誕生秘話!」

兄「そのまま勢い任せで城を飛び出して、エルフ騎士さんと一緒に邪竜王と戦って。そこに現れた妹は、聖剣を使いこなしてて。

 まるでおとぎ話の勇者みたいで、正直ちょっと……かなり嫉妬したな。やっぱ俺、ダメな兄貴だ」ドヨーン

魔女「……あ」


兄「え、なに、どうかした?」

魔女「いや、勇者殿……というか、聖剣についてな~んか考えてた気がするんだ。いろいろあって忘れてた」

兄「聖剣?」

魔女「以前に邪神がこの世界に現れた時、現役だった父上はその時代の勇者と会ったそうだ。

 なんでも一介の農民で、戦技どころか剣を振ったこともないような青年だったらしい。

 それが聖剣を手にして以来、すさまじい勢いで強くなっていったとかなんとか」

兄「微妙に記憶がいい加減だなあ」

魔女「やかましい。ともかく、聖剣が持ち主に何かしら力を授ける遺物だというのは確かなのだろう。

 魔法が使えないという勇者殿が、大魔法クラスの術を連発していたのは聖剣の力によるもの。

 そう考えるのが自然だろう」ムムムッ

兄「それがどうかしたの?」

魔女「…………」ムムムムムッ

兄「魔女?」

エルフ騎士「待たせたなあ、二人共!!」ビュィィィィン

兄「エルフ騎士さん! なにそれカッコイイ!!」キラキラ

エルフ騎士「たった今組みあがったフロートバイクだ! これなら湿地帯でも通常走行が出来る!!

 コストがかさむ上に試作品だから、この2台しかまだこの世にないがな!」

兄「……足りなくない? 魔女、またタンデム?」

魔女「自力で飛んでも構わんが……」

エルフ騎士「湿地帯は濃い霧が立ち込めているから、飛んでいくと危険ですよ」

魔女「なら、またお願いするか」ヒョイ

兄「エルフ騎士さんの方に乗らないのか?」

魔女「魔法が使える戦力はバラけた方がいいだろう?」

兄「それもそうか」

兵士A~C『みなさん、ご武運を! 我々も力の限り援護します!』

エルフ騎士「ああ。決して無茶をするな。私たちも、決して死ににいくわけではないんだからな」

魔女「おい、さっさと乗らないか。これ、ワシでは足が届かん」

兄「へ~いへい。んじゃ――」

兄「出陣!」

魔女「いざ、邪神城!」

エルフ騎士「敵は邪神城にあり!」

兄&魔女&エルフ騎士(バラバラだー!!)ガビーン


――湿地帯


エルフ騎士『作戦はまず、最大の敵勢力がいる湿地帯に突入し、暴れる。以上』

兄『「まず」って言ったよね、今!!』


兄「いや、無茶な作戦だとは思ってたんだけど……」


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                       ・←俺ら


兄「敵が多すぎて戦場全体が黒く見えるんですけどぉぉぉぉぉーっ!!」

魔女「うわあ、これは……引く」

エルフ騎士「やっぱり世界は終わったかもしれん……」

――小一時間経過



                           ・←俺ら

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S兄「はあ、はあ、はあ、はあ! よっしゃ、抜けたぁ!!」

魔女『合体解除!』

魔女「エルフ騎士、いるか!?」

エルフ騎士「ふふふふ、どうやら幸運の女神には見捨てられていないようだね」ズタボロ

魔女「おまっ、オークの群れに放り込まれた女騎士みたいになってるぞ!?」

エルフ騎士「心配無用! いざという時の自爆スイッチは常備している!」ポチットニー

魔女「意味がわからん!」

兄「気を抜くなよ。まだ第一関門を超えたところだ。これから敵の本陣まで突っ込むんだからな。

 魔女、もう一度合体だ!」カモーン

魔女「あ、それ無理。一度解除されたら六時間はチャージタイムが必要」

兄「マジか!?」

???『グハハハハ! つまり、あのとんでもないパワーは今使えない、ということか。結構結構』

???『ギャハハハハッ! 快進撃もここまでということか!』

魔女「なっ、この声!」

兄「邪竜王に、魔獣王だと!?」

邪竜王「その通りよ!! 三度合間見えたな!」

魔獣王「ギャハハハハッ! 聖剣の勇者はいないが、てめえとそこのチビにもデカイ借りがあったからな!

 地獄から舞い戻ってきてやったぜ!!」

魔女「この気配……キサマら、死霊に身をやつしおったか!」

邪竜王「そうさ、我らはもはや軍団長にあらず! 屍鬼軍団の一兵士に過ぎん」

魔獣王「もっとも屍鬼王の命令など聞きはしないがな。オレたちは自らの意思でここにいるのだ!」

邪竜王「誇りなど犬にくれてやったわ! 我らが望むのはただ一つ、勝利――」

魔女「浄化魔法」ペカー

邪竜王「ぎゃー」プシュー

魔獣王「うおおおー からだが くずれるー」プシュー

 チーン

兄「……ここに来るまでに、今のでゾンビとかスペクターとか百体単位で消してきたもんな」

エルフ騎士「え、今ので終わり!? いくらゾンビ特攻の魔法だからってあんまりじゃないか?」

魔女「ワシも瞬殺とは思わなんだ。素体の割に手を抜いて作ったんじゃないか、屍鬼王?」


???「手を抜いたのではない。ゾンビの分際でマスターである我に叛意を抱いていたからだ」

兄「またぞろ偉そうなゾンビだな。マントに王冠に杖って、どこの王様の即身仏だ?」

魔女「どうせ屍鬼王だろ。浄化魔法」ペカー

屍鬼王「効くか! 如何にも、我こそ四大軍団がひとつ、屍鬼軍団を束ねる屍鬼王」

エルフ騎士「情報によると、こいつは軍団長で最弱だそうだ。魔力はあっても肉体が脆弱で打たれ弱いんだと」

兄「偉くっても所詮はゾンビか」

魔女「アンデッドって一般人相手だと驚異だが、ある程度戦える奴からするとカカシもいいところだからな。

 ワシ一人でも楽勝そうだ」フフン

屍鬼王「おのれら、ノーライフキングなめとんのか!? 喰らえ、暗黒の即死魔法、デスレイン!」ドドドドドッ

兄「」スカッ

魔女「」スカッ

エルフ騎士「」スカッ

屍鬼王「地獄の猛毒、ベノムクラッシュ!」ボシュゥゥゥゥゥゥ

魔女「レジスト」ピカー

屍鬼王「ぐぬぬ! 闇の大魔法! ダークフレア!!」ズドドド

魔女「リフレクト」カキョン

屍鬼王「うぎゃあああああ! や、やるではないか!」

兄(すでに敗色濃厚なのに……)

エルフ騎士(実力差も分からないのか?)

屍鬼王「ぬがーっ! 闇の禁呪文――」

???「やめなさい、見苦しい」

屍鬼王「マシン王!? 何しに来た!!」

マシン王スクランダー装備「救援ですよ。アナタ一人では荷が重いでしょう。魔女様、ケリをつけに参りました」

兄「うお! 飛んでる!!」

魔女「ちっ! 勇者兄、エルフ騎士! すまんがその干物の相手は任せた!」

兄「ああ! どっちにしろ空中の相手は君頼みだ!」

魔女「勝負だ、マシン王!!」ピューーーーン

屍鬼王「こ、悉く我を馬鹿にしおってぇぇぇぇぇーっ!! おのれら、ゾンビにして永久の苦しみを味わわせてやる!!」ゴゴゴッ

エルフ騎士「御託はいい、さっさと来い!!」ダダッ

兄「来いって言いながら自分から行っちゃったよ……」

勇者「兄さんを独り占めしたいが為に寝返りました」
魔剣士「お義兄さんに認めて欲しくて加勢しました」  

邪神「俺の意思とは関係ない所で戦力が確保できた」


マシン王「フィンガーミサイル!」ドシュドシュドシュドシュ

魔女「ふん。撃ち落とせ、インフェルノ!」ヒャボボボ ドドーン

マシン王「ダークビーム!」ビビビビビビ

魔女「当たるか! トールハンマー!」ヒョイ バリバリバリズドーン

マシン王「うおお!」グラッ

魔女「もう一丁! トールハンマー、からのインフェルノ!! ついでにメテオフォール!!」ヒューンヒューンズガガガガー

マシン王「ぐはっ!!」ドドドドーン

魔女「どうした、張り合いがないぞ? キサマ、あまりにも鈍重すぎる。もしやわざわざワシに、その首差し出しに来たのか? 殊勝だな」カッカッカ

マシン王「ギュォォォォォン! お見それしましたよ、魔女様。もはやお父上を遥かに超越している。その力を得るために、どれほどの犠牲を払いましたかな?」

魔女「キサマには関係なかろう。死を知らぬデク人形には分からん覚悟だ」オーラドシュー

マシン王「……ふっ。ならこちらも、切り札を切らせてもらいましょうか」

魔女「また軍団長のメカ怪獣でも出すのかの?」

マシン王「……聖剣よ!」ペカー

魔女「なんだと!? その輝き、まさか!!」

マシン王「そう! これはまさしく本物と寸分違わぬ聖剣!! しかもワタシ専用に調整した特注品、それが二本!!」ペカーペカー

魔女「わずか数日足らずで……しっかりせんかい、伝説の聖遺物!!」

マシン王「ギュィィィィン! もっとも、魔剣と妖刀のデータがあってこその業ではあります。しかし!」ラピットストリーム

マシン王「これの意味するところは、もはや聖剣の伝説はアナタ方の希望ではなく、絶望の象徴となったということです!!」ラピットストリーム

マシン王「悔しいですか? 憎らしいですか? いいでしょう、もっともっと絶望なさい!! そして知るのです、圧倒的な――」

兄「不意打ちダブルハンマー」ボカッ

マシン王「ほげっ!! な、どうやってこの高さまで!?」タンコブー

エルフ騎士「私が放り投げた!」エッヘン

マシン王「なんですって!? 屍鬼王、戦闘中になにをさせて――」

屍鬼王「」チーン

マシン王「マジ使えませんねアナタ!!」

兄「」シュタッ

兄「ちっ、あのデカブツ。ヒーローアイテムを量産しやがって。だがそれ以上に気になることがある!!

 てめえ! 妹は無事なんだろうな!!」

マシン王「妹? 勇者様の事ですか? ギュィィィィン!」

兄「何がおかしい!?」

エルフ騎士(あれ、笑い声なんだ……)

マシン王「彼女なら、ワタシのラボラトリで丁重に保管していますよ。なにしろ、聖剣のコピーには不可欠な人材ですからねえ!」ギュィィィィィン

兄「んにゃろう……」

魔女「……勇者兄、エルフ騎士。キサマ、先に行け!」

兄「え?」

魔女「ここは任させろと言うておる! もはや敵は邪神と、せいぜいいても魔剣士ぐらいなものだろう!

 こやつをスクラップにしたらすぐに行く。露払いを頼むぞ」サムズアップ

エルフ騎士「魔女殿……。兄殿、ここは!」

兄「分かってる! 上手くやれよ、魔女!」サムズアップ

 オイ、バイクドコダ? タシカ アッチノホウニ

マシン王「信頼、友情。大変結構ですが、少しワタシを見くびりすぎではありませんか?」

魔女「いや、妥当だろ」フンゾリ

マシン王「……シャクに障る小娘だ!」


マシン王「喰らうがいい!! ナックルボンバー!」ロケットパーンチ

魔女「初手から聖剣カンケーねえ!」ガビーン

魔女「って、速い!? ちぃぃ!」ヒョイ

マシン王(ニヤリ)

魔女(表情変わってないぞ……!! 後ろから!?)クルンッ

マシン王「油断しましたね、それは無線誘導式なのですよ! 加えて、今のワタシは聖剣の魔法で速度が上昇している! うぉぉぉぉっ!!」ビュン

魔女「なっ!! 一瞬で間合いを――リフレ――!!」

マシン王「むん!」ゴチーン

魔女「ぐわああああああ!」ヒューーーーーーーーーーーン ズズーン

マシン王「アトミック……ブラスタァァァァァァーッ!!」ゴオオオオオオオオオオオオ

魔女「!!」

 ズガアアアアアアアアアアアアアアン

 モアモアモアモア

マシン王「地面に向けて撃ちました。今度は穴を掘って逃げるなんて曲芸、できませんよ」ギュィィィィィン

 コンコン

マシン王「む? 誰ですか、勝利の余韻に浸るワタシの背中を叩く無粋な輩は?」クルッ

魔女(ニヤァ)キュィィィィン

マシン王「なにぃぃぃぃ!!」ゾクゥ

魔女「ジハード」バリバリバリズドーン

マシン王「ぬぐおおおおおおおおお! キサマ、どうやってあの状況を!?」バチバチバチバチ

魔女「ふっ、簡単なことだ。ラピットストリーム」ソクドジョウショウ

マシン王「バカな!! それは聖剣や魔剣を用いて発動する魔法!!」

魔女「何度も同じ魔法を見れば、自ずと使い方も見えてくる。相当便利だな、これは。

 重ねてかけると効果倍増。負担は増すが……時間停止と比べれば蚊に刺されたようなものだ」ラピットストリーム

マシン王「……そ、ソードテンペスト、マキシマ――」グンッ

魔女「温い!!」インフェルノ トールハンマー マキシテンペスト

マシン王「がはっ――ぎゅ、ギュゥゥゥゥゥゥン!!」バチバチバチバチ

魔女「カッカッカッカ! 無様だな、マシン王。装甲が砕けて、あちこち火花が散っておるぞ?」ゴッドブレス

マシン王(は、速すぎる――追いつけない、だと!!)

マシン王「聖剣よ! もっと力を!! ソードビィィィィィム!!」ゴクブトビーム

魔女「闇の禁呪文……ブラックホールカノン」ボッ

マシン王「お、押し切られ――――ぎゃああああああああっ!!」

 グシャ

魔女「……呆気ないのう。憎い仇が、この程度か……」クルッ ドシューン


???「ヒ」

???「ヒヒヒヒ」

???「ヒャーッハッハッハッハッハ!」


エルフ騎士「くらえ! 半径200メートル!! ラウンドセイバァァァァーッ!!」ナギハライー

 ざっくり

兄「すっげ……そんな大技、なんでもっと早く使わないんだよ?」

エルフ騎士「いや、なんか試してみたらできた」

兄「閃きってすげー。……ともかく、これで邪魔者は片付いたのか?」

エルフ騎士「少なくとも、見える範囲に敵はいない。見えるのは――」

邪神の塔「」ババァーン

兄「あれが邪神軍の本丸……」デッケー

エルフ騎士「多分……」テッペンガミエン

兄「これで魔神とか破壊神の家だったら笑うしかないな」

???「ヒャーッハッハッハ! 心配せずとも、それこそ我らが牙城! 邪神様のおわす百段タワーだ!!」

兄「あ、屍鬼王。まだいたの?」

エルフ騎士「どうした、なんだか透けてるぞ? ゾンビからゴーストにクラスチェンジしたか?」

屍鬼王「ヒャーッハッハッハ! 我を小馬鹿にできるのも今のうちよ。

 なにせ、たった今おのれらの仲間の女がマシン王を葬り去ってくれたからな!」

兄「……葬り去って『くれた』?」

屍鬼王「なぜ我が軍団長最弱などという地位に甘んじていたか。それはな、他の軍団長が死んだとき、

 我の真の力が解放されるからだー!」ドドーッ

邪竜王『』

魔獣王『』

マシン王『』

エルフ騎士「軍団長の……霊?」

兄「まさか、このパターンって!!」アセアセ

屍鬼王「合体!!」ピカピカー

 ズッドーーーーーーーン

四貴皇「我、四貴皇なり!」ババババーン

兄「で、でかーーーーーーーーい!!」ミアゲー

エルフ騎士「うおおお! と、とんでもない妖気だぞ!! こんなの、邪神そのものじゃないか!!」

四貴皇「ヒャーッハッハッハ! ジェノサイドブレーーーーーーース!!」ジュボボボボボボッ

 ちゅどーーーーーん

兄「うぎゃあ! ち、地平線の彼方まで吹っ飛んでる……」ガガーン

エルフ騎士「だ、ダークブレスと同系統の技だが、威力が桁違いだ……」ヒィーカエリタイ

四貴皇「ヒャーッハッハッハ! 当然よ。この四貴皇は、軍団長全ての必殺技が使え、威力は遥かに上回る!

 アトミックギガブラスターァァァァァァッ!!」ウィィィィィィィン

 ズガアアアアアアアアアアアアアアン

エルフ騎士「ひぃぃぃぃぃ! 兄殿! 穴掘って身を隠すぞ!」

兄「無理ぃ! 地面ごと粉みじんにされるっての! 逃げるぞ!!」

エルフ騎士「どこに!?」

兄「決まってんだろ。邪神の塔だよぉぉぉぉぉぉーッ!!」スタコラサッサー

エルフ騎士「それ袋のネズミって言うんですけどぉぉぉぉぉぉーッ!!」スタコラサッサー

四貴皇「逃がさん! ヒャーッハッハッハ!」


邪神の部下×100『よく来たな! 我らは邪神兵団百人衆!!』ズラーッ

四貴皇「待てコラ!! アトミックギガブラスター!!」ドドーン

邪神の部下×100『うぎゃあああああああああー!!』ゼンメツー

兄「な、なんか凄そうな奴らが巻き添え食って消し飛んだぞ!?」トマルナー

エルフ騎士「ま、周りの心配なんてしてる場合じゃないだろうが!!」ハシレー

兄「それはそうだが、さっきから隙を見て反撃してっけど、あいつしれーっとして全然効いてないじゃないか!」

エルフ騎士「呆れた頑丈さだ、まったく! 槍を投げても岩をぶつけても涼しい顔して!」

兄「やせ我慢とかじゃないよな……」

エルフ騎士「だったらどれだけいいか。多少は効いてるってことだからな」

兄「なんて言ってる間に、道が二つに分かれてるぞ!」

エルフ騎士「! よし、兄殿は右へ行ってくれ! 私は左だ!」

兄「挟み撃ちにするのか!?」

エルフ騎士「ああ。少しでも有利な状況へ持っていくんだ! そして一人が囮になる間に、もう一人が何か決定打になるものを探す!」ユウシャサマトカ

兄「分かった!! おら、どうした四貴皇! 偉そうなこと言って、お前の攻撃ぜ~んぜん当たんないぞ~♪」

四貴皇「あんだとゴルァ!!」プッツーン

エルフ騎士「え!? あ、兄殿!?」

兄(こっちで引き付けるから、後ろから攻撃ヨロシク!)サムズアップ

四貴皇「ジェノサイドブレス!!」ジュボボボボボボッ

兄「うわったあ!!」タッタカタッタッター

エルフ騎士(な、なんて男らしい……)キュン

エルフ騎士「って、やってる場合かーッ!! 武器! どっかに強い武器は落ちてないかーッ!!」ダダダダーッ

兄「お~にさ~んこ~ちら~っ♪」パンパン

四貴皇「許さーーーーーーーん!!」ドドドドドドッ


邪神親衛隊A「オレは邪神親衛隊一番隊長の――」

エルフ騎士「フライングクロスチョップ!」ゲシッ

邪神親衛隊A「やられたー」グハッ

エルフ騎士「おい! この塔に四貴皇の弱点になる武器は落ちてないのか!? ラストダンジョンだろ、強い武器はよっ!!」ユッサユッサ

邪神親衛隊A「くっくっく、さあな! オレとて栄えある邪神親衛隊の一人! 例え瞬殺されようと、仲間の不利になることは言えん!」ドヤァ

エルフ騎士「じゃあ死ね」

邪神親衛隊A「あーあーあー! おも、思い出した!! マシン王のラボだ! あそこにならすごい兵器がゴロゴロ転がってるハズ!」

エルフ騎士「それはどこだ!!」

邪神親衛隊A「ち、地上二十五階の北側エリア一帯がそうだ! ここから十階上のフロアにある……!

 な、なあ、喋ったんだから見逃してくれるんだろ?」

エルフ騎士「ふん」ドサッ

邪神親衛隊A「……背中を見せたな! 喰らえ!!」

エルフ騎士「あ、そうそう」クルッ

邪神親衛隊A「え……」

エルフ騎士「言い忘れていたが、念のためお前の体に仕掛けをしておいた。下手に動くと背中の魔力弾が爆発するぞ」

邪神親衛隊A「ゲェーッ!!」チュドーン

エルフ騎士「悪党に掛ける情けはない」ダダダダーッ



兄「ずいぶんと広いところに出たな」

四貴皇「ここは邪神様に捧げる奉納死合いの武舞台だ! 良いところに来た、門を閉めよ!!」

 ガラガラガラ ピシャーン

兄「しまった、扉が!!」ナンチャッテ

四貴皇「これでこの場から出られるのは勝者だけとなった!! もはや逃げ場はない!!」

兄「おいおいおいおい冗談だろ!?」ヤルシカナイノカ

四貴皇「受けよ! アトミックギガブラスター!」

 どどどどどおおおおおおおおん

兄「おい、あっさり門壊れたぞ?」コレデデラレルー

四貴皇「しまった!!」ウッカリー

四貴皇「つうかあいつ、回避スキル高くないか!? さっきからカスリもしねえ!!」

邪竜王『お前が下手くそなだけだろ。体の操作を替われ、屍鬼王!』

四貴皇「あ、こら! 勝手に出てくるんじゃあない!!」

魔獣王『やかましい! ザコはすっこんでろ! 邪竜王、あとでオレにもやらせろよ?』

邪竜王『それまでヤツが生き残ってたらな!』

四貴皇(邪竜王)「さあて! 追いかけっこの続きといこうか!! ジェノサイドブレース!!」バサァ

兄「逃げ場がない!? くそ、一か八か! 窓からダーイブ!!」ガシャーン


魔女「ここが邪神のハウス……家っていうにはデカイな、おい! ん、上から何かが……勇者兄!?」ミアゲテー

兄「おぁぁぁぁぁぁああああああああーっ!」ドスーン


魔女「おい、どうした!? 何があった!!」

兄「あれ、魔女? ……つうかここ、入口か? 戻ってきちまったか」

四貴皇「とぉ!」ズシーン

魔女「な、なんだこの化け物は!? ジハード!」

四貴皇「うお、痛え! ジェノサイドブレス!」ヒャボボボボボボボッ

魔女「うおおおおおおっ!!」ピューン

魔女「ちぃ! なんつう出力……こいつは一体!?」

兄「四軍団長が合体した四貴皇なんだと。全然歯が立たなくてさっきから逃げ回ってた」

魔女「確かにな。今の禁呪文でも『テーブルの角に脇腹ぶつけた』程度のダメージか」ヒヤアセ

兄「こうなりゃ、あれしかないな! 魔女!!」ダッ

魔女「どうし――むぐっ!」チュー

兄「…………」チュー

魔女「」チュー

兄「……あれ、合体しない!?」

魔女「ばばばばばばばかーっ!! いきなり何すんだこらぁぁぁ! びっくりするじゃないか!! 心の準備がなあ!」

兄「い、いや、だって合体しないと勝てそうもな方から……」

魔女「だからっていきなり……あ、あんな乱暴に……えぅぅ」ナミダメ

兄「あっ! ごめ、ごめん! 悪かった!! デリカシー無かった!! すまん!」アセアセ

魔女「べ、別にそれほど嫌悪感はない……だがな、もっと順序とか、物事を考えてくれんと……」ウルウル

兄「あ~……ほんっとごめん……」

魔女「ま、まあよい! じゃあ、改めて――て、照れるから目を閉じろ!」

兄「おう……」チュ

魔女「…………」

兄「…………」

魔女「すまん。あと三十分は合体できないの忘れとった」

兄「じゃあ今の何なの!? このこそばゆいのどうしてくれんの!?」

魔女「お、男の甲斐性でなんとかせい!!」

兄「俺は童貞だ!!」ドーン

魔女「わ、ワシだって――言わせるでない!!」


屍鬼皇『何をしている! 奴ら隙だらけではないか!!』

邪竜王『野暮なこというなよ、腐れ脳みそ。今いいとこなんだから』

魔獣王『たく、これだから性根まで腐りきった奴は』

四貴皇「なんだよ、お二人さん。見せ付けてくれるねえ。付き合ってどんくらい?」

兄「ち、ちげーから! まだそんなんじゃねーから!!」

魔女「ま、まだってどういうことだ!! おま、ワシをそんな目で……」アセアセアセアセ

兄「あっ!! いや、これはその――」アセアセアセアセ

四貴皇「あっちっち♪ あっちっち♪ 魔女と兄ちゃんあっちっち♪」

兄「バカ! やめろ、やーめーろーよー!!」

屍鬼皇『……なにこの状況』

――一方その頃、エルフ騎士

邪神親衛隊B~D『我らは邪神親衛隊の――』

エルフ騎士「エルフ四方斬!」ズババババッ

邪神親衛隊B~D『やれれたー』ドカーン

エルフ騎士「ここがマシン王のラボラトリーだな! 御用検めである!!」アルイミウソイッテナ

カプセル「」ゴポゴポ

エルフ騎士「め、メカメカしいと思っていたらバイオニックだな……ん、あれは!」

聖剣「」ペカー

聖剣「」ペカー

聖剣「」ペカー

聖剣「」ペカー

エルフ騎士「ありが並みないなぁ……。ん?」

巨大カプセル「」ボロボロ

巨大カプセル「」ボロボロ

エルフ騎士「意味深に並んだ、人一人入れられそうなカプセルが二つ。でも壊れていて中身が空っぽ?

 しかし、内側から壊されているな。何かが外へ出たのか……はっ! もしや勇者様!?

 勇者様ーっ!! 近くにいたら返事をしてくださいーっ! 兄君がピンチですーっ!!」

 し~ん

エルフ騎士「勇者様ーっ!」

 ガラガラガラ

エルフ騎士「おお! 勇者様――」

銀髪サイボーグ魔族「…………」


エルフ騎士「じゃなかった」

エルフ騎士(ここの番人か? なぜ全身びしょ濡れ……むっ! あれはカプセルの中の液体と同じ?

 では、こいつは『飛び出したうちの一体』ということか!)

銀髪サイボーグ魔族「……四貴皇が、目覚めたようだな……」

エルフ騎士「!」

銀髪サイボーグ魔族「マシン王が倒され、屍の王が四貴皇となった。もう、時間がない。

 ワシがワシでいられるうちに、頼みがある……ついてきてくれ」

エルフ騎士「生憎、誰とも知らない相手を信じる気にはなれないな」

銀髪サイボーグ魔族「……ワシは、先代魔王。魔女の父親だ」

エルフ騎士「なんだって!?」

魔王「もっとも、わずかに残った生身の部分に魔法で意識を焼き付けた、残骸に過ぎんがな。マシン王の命令には逆らえなかった」

エルフ騎士「渓谷の基地で勇者様たちを――いや、魔女殿を助けたのはそのためか。しかし、マシン王は死んだ」

魔王「いや、奴の野望はまだ生きている! この聖剣の模造品と……完全に覚醒した勇者がいる限り!」

エルフ騎士「どういうことだ!! 勇者様がマシン王に手を貸しているとでも!?」

魔王「マシン王は聖剣の真の機能に気がついた。あれは、人間を対邪神用の生体兵器に改造するための遺物なのだ!

 聖剣の主となった『適格者』は、世界を守る『カウンター存在』として最適化される。

 戦う以外の思考が削り落とされ、知らず知らず戦闘に特化した肉体に改造されるのだ!」

エルフ騎士「そんな話があるか!! あれは神々の王が、人間を守護するために――」

魔王「今は神話の真相を解き明かす時ではない。キサマもこんな話、ましてや敵であったワシにされても信じぬだろう。

 だが、現につい先ほどカプセルで目覚めた勇者は、もはや兵器として……聖剣として完成していた。

 外から感じた巨大な妖気を討つために飛び出していったのだ」

エルフ騎士「…………っ!!」


四貴皇「で? で? 本当のところどうなんだよ? 好きなの、魔女のこと?」

兄「いや、出会ってまだほんのちょっとだし、好きとかそういうのとかじゃ……」テレテレ

四貴皇「いやいや! 恋ってのは落ちるものだよ? 共に過ごした時間は関係ないの。ビビっとくるのが運命なの」

兄「う、運命か……」チラッ

魔女「」ビクッ

魔女「//////」

兄「//////」

屍鬼王『おのれら、いい加減にせい!!』ビシィ

魔女(……で、いつまでこの茶番を続ける気だ?)アイコンタクト

兄(も、もうちょっと待って! いい作戦考えつくまで!)アイコンタクト

魔女(ボチボチ精神的にキツイんだがな! ラブコメとか、ワシのガラじゃないぞ!)アイコンタクト


兄(俺だってそうだよ!! ああ、クソッタレ! 隕石でも降ってこないかなー)アイコンタクト

魔女(他力本願かい!)アイコンタクト

 ヒュ~~~~~~~~~ン

兄&魔女(え!? 本当に隕石!?)

四貴皇「だからさ~――ハッ!」

???「対象、確認。斬!」ズバッ

四貴皇「ぐわあああ! お、お前は!!」

勇者「目標健在。追撃」

魔女「勇者殿! ……? なんだ、この異様な気は……」ゾクリ

兄「……お前、誰だ?」

勇者「……状況、開始」ラピットストリーム

四貴皇「おおおおお! ジェノサイドブレス!!」ボシュゥゥゥゥゥゥ

勇者「ブレイバー」ザンッ

四貴皇「ぐはっ!」ヨロッ

魔女「ブレスごと本体を切り裂いただと!?」

四貴皇「あ、アトミック――」

勇者「ソードブリザード」ビュォォォォォォォッ

四貴皇「うおおおおおお! こ、この冷気!! 核融合が起こせん!!」

魔女「うう、こっちにも冷気が……勇者兄、ワシの後ろに!」インフェルノ

兄「…………」

勇者「ブレイブハート」アタックジョウショウ

勇者「はああああああっ!!」ズバババババ

四貴皇「がああああっ! おのれ、おのれぃ!!」

邪竜王『どういうことだ、マシン王! 勇者はお前が拘束していたんじゃないのか!! ……マシン王?』

魔獣王『お、おい! そういえば、合体してからあいつ、全然会話に参加してなくなかったか?』

屍鬼王『そ、それ以前に……奴の意識を感じ取れん!! どういうことだ!?』

四貴皇「まさか!! マシン王、謀りおったなぁぁぁぁーッ!!」ズンバラリン

勇者「目標、殲滅。次のターゲットを索敵」

四貴皇「……あ、あの……ガラクタめえ……合体が不完全、だったというのか……がっ」ピカー

 ズッドオオオオオオオオン

魔女「……つ、強い。あまりにも強すぎる……が、なんだ、この寒気は……」

兄「…………」


勇者「殲滅確認。次の排除対象は――」チラッ

魔女「く、来るか……」タジッ

勇者「」プイッ

勇者「」ダッ

魔女「と、塔の中へ走っていったか……」フーヤレヤレ

兄「魔女。前に聖剣を使うことへの弊害がどうのこうの……って言ってなかったか?ノーリスクで使えるのは虫が良い、だとか」

魔女「え? ああ、あれは飽くまでワシの推測――まさか!」

兄「今のあの子からは生気が感じられなかった。ヒトなら誰でも持ってるはずの感情が消えていた。マシン王になにかされたのか、それとも……」

魔女「マシン王が何かしらの処置を施したなら、四貴皇に斬りかかったりはせんかったのでは……いや、あいつはなんか企んでてもおかしくないか。

 しかし、この場で何を考えても当てずっぽうの推測の域を出んぞ。直接問いたださねば」

兄「話が通じるならな。もしかすると、あいつはもう――」

魔女「それも含めて信じてやれ。もし正気を失っているのなら、ぶん殴ってでも取り戻せばよかろう。それぐらい手伝うぞ。

 とにかく、見失う前に追いかけるぞ」

兄「……そうだな! しゃあ! 気張って走るぞ!!」ダダダーッ

魔女「その粋だ! ……ところで、エルフ騎士殿はどこへ?」ピューン

兄「無事なら中で戦ってるはずだ。道すがら話す!」

魔女「らじゃ」


――マシン王のラボラトリー

魔王「こ、この扉の向こうが、この研究所の中枢だ……」ヨロヨロ

エルフ騎士「大丈夫か?」

魔王「き、気にするな、もはや助からん。だが、命あるうちにこのことは伝えねばならん……」ギィィィ

エルフ騎士「……なんだこれは?」

勇者?「」コポコポ

勇者?「」コポコポ

勇者?「」コポコポ

エルフ騎士「カプセルの中に、勇者様が……それも、こんなにたくさん!?」

魔王「これこそが、マシン王が目論んだ邪神への反攻作戦……その尖兵だ」

???「なるほどなるほど。あれが影でこそこそしてたのは、こういうことだったのか」クックック

エルフ騎士&魔王「!!」バッ

???「おう、お客人。挨拶が遅れてすまなかったな」

邪神「俺っちが邪神だ。ハジメマシテ」ニヤニヤ


エルフ騎士「じゃ、邪神――お、お前が、本当に!?」

エルフ騎士(このステテコはいてハゲ散らかしたおっさんが!? おでんの屋台の大将じゃなくって!?

 ……い、いや、この底知れぬ闇の気配……見た目に惑わされるな、こいつはあの四貴皇以上の怪物だ!)

邪神「姉ちゃん、いい眼力持ってんな。俺っちを外見で侮らないばかりか、戦力のタカまで読むとは」

エルフ騎士「!? まさか、心を!!」

邪神「そこまで万能じゃねえ。神なんて名乗っちゃいるが、大したことはできねえよ。だが姉ちゃんの眼が、な。

 ほんのわずかに緩んだ次の瞬間に、しっかりと敵を見据えやがった。修羅場潜り慣れてる証拠さ」クックック

エルフ騎士「…………」

邪神「まあ、落ち着け。この場でやり合うつもりはねえ。それよりも、姉ちゃんも気になるだろう?

 マシン王が俺っちを出し抜こうと、一体何を企んでいたのか、を」

エルフ騎士「……ふう。せいぜい隙を作らないことだな。後ろからでもブスっといくぞ」

邪神「おっかねえなあ。姉ちゃん、騎士なら正々堂々としろよ」

エルフ騎士「正々堂々と、どんな手段を用いても敵を倒すのが私の流儀だ」フフン

邪神「あ~、そうかい。んじゃ、話の続きといこうかい、魔剣士……いや、魔王さんよ」

エルフ騎士「……え、魔剣士?」

魔王「気づいてなかったのか!?」

エルフ騎士「いや、だって前に戦った時、お前全身鎧で顔も見えなかったじゃないか」

邪神「後にしろ。まず、この可愛いお人形ちゃんたちはなんなのか、だ」

魔王「……勇者のクローンらしい。だが、ただのクローンじゃない。身に宿した聖剣ごとコピーされている。

 加えて、身体スペックも兵器として完成された勇者を基準にしてあるようだ」

エルフ騎士「らしい、とかようだ、とはどういうことだ?」

魔王「ワシが直接見聞きした情報ではないからだ。機械化軍団は、兵の一体一体に至るまでマシン王の人格がコピーされている。

 それは半分魔族であるワシも同様」

邪神「なるほど。その人格の持っていた知識ってわけかい」

エルフ騎士「あんたが感心するのか? マシン王は部下だろう?」

邪神「うちは放任主義だからな!」カッカッカ

魔王「そして、ここにいる勇者クローンにもマシン王の意識が宿っている。

 こいつら一体一体が、新たなマシン王そのものなのだ。数も、質も、これまでの機械化軍団の比ではない」

邪神「だが、マシン王はくたばった。四貴皇が出撃してるんだからな。まあ、それもやられちまったが」

エルフ騎士「それは本当か!? あの化け物が……」

邪神「そして、四貴皇を倒したのは勇者だ。が、その勇者は本物か? それともクローンの一体なのか?」

魔王「…………」

エルフ騎士「おい、どうした魔王?」

魔王?「……ギュィィィィン!」


エルフ騎士「その笑い声!」ヤッパヘンダ

マシン王「いらぬことをペラペラと! 廃棄処分にしたハズが、まだ動いていたとはな。腐っても魔王か。

 もっとも、その人格もたった今消去した!」ギュィィィィィン

邪神「それはいいけどよ、マシン王。謀反の現場を俺に抑えられてんだぜ、おめえ。隠れてなくていいのかい?」

マシン王「ギュォォォォン! もはやその必要は無いのです、邪神様!

 さあ、目覚めるのです!! ワタシのワタシによる聖剣軍団よ!」パッチン

カプセル「」イッセイニクパァ

コピー勇者軍団『ぎ』

コピー勇者軍団『ギュィィィィン!』ペカー

邪神「壮観だねえ、こいつは」

エルフ騎士「くっ……悍ましい、一人でもやかましいあの笑いがこの人数……」ヒィフゥミィ タクサンイル

コピー勇者軍団『おはようございます、邪神様。我々は今、この時より『聖剣王』を名乗らせていただきます。

 さあ! かつて我らの住む世界を侵略し、滅ぼした罪! 死をもって贖うのです!!』

邪神「こいつぁ面白え! 久しぶりに楽しめそうだぜ!」

聖剣王『そんな余裕はありません。この聖剣王は一体一体が聖剣の勇者と同等、あるいはそれ以上の戦闘能力を持つのです。

 加えて並列化された思考による連携戦闘。我らこそ、無敵のレギオン!』

エルフ騎士「おい、その前に一つ聞かせろ、さっきの話だ!」

聖剣王『なんですか?』

エルフ騎士「四貴皇を倒したという勇者様は、本物か? それともお前たちなのか?」

聖剣王『彼女は本物ですよ。必要なデータは揃ったのです、死にかけの少女はもう用済み』

エルフ騎士「死にかけとはどういうことだ!?」

聖剣王『ギュィィィィン! 簡単なことです、彼女の肉体は聖剣によって完全な兵器と化した。邪神を殺す剣に!

 が、代償として寿命のほとんどを失いました。仮に邪神を倒しても、それまでの命でしょう。

 神々の王も酷いものを創りましたねえ、ギュィィィィン!」

エルフ騎士「そうか。じゃあ、私は失礼する」ダット

邪神「おいおい、戦ってかないのか?」

エルフ騎士「お前たちのどちらにも加勢する理由がない。生き残った方を倒し、世界を救う。それまでだ」ダダダーッシュ

邪神「ドライだねえ。……ま、いいや。んじゃ、遊ぼうぜ聖剣王さんよ!」

マシン王(魔王)「では、ワタシは下がらせていただきます」

聖剣王A「よろしければリペアリングしますが?」

マシン王「必要ありません。ワタシはワタシで、もう一つの憂いを断ちに行きます。ご武運を」

聖剣王A「自分に激励されるというのも妙な気分だ」

――一方、勇者を追いかけた兄と魔女は……

魔女「ここまで魔物の死体だらけだったな。全部勇者殿が……」

兄「いた! おい、妹ぉーっ!!」

邪神親衛隊Z「やられたー」ズバッ

勇者「対象物、殲滅確認。次の行動に――」

兄「ドロップキーーーーーック!!」テェア

勇者「」ブンッ ガキーン

魔女「いきなり攻撃する奴があるかーッ!」

兄「じゃないとまた逃げられる! おい妹!! 俺だよ、お兄ちゃんだ!」ヘンジシナサイ

勇者「……討伐対象者からの敵対行動確認。迎撃プロセスに移行するっ!!」ブンッ

兄「うおおっ! な、なんて馬鹿力……剣を振るった風圧だけでぶっ飛ばされた!!」スタッ

魔女「次が来る、身構えろ!!」ラピットストリーム

勇者「ソードインパルス」チュィィィィィン

兄「なんだこの耳鳴り――!! 伏せろぉぉぉぉ!!」ペタンッ

魔女「ぐぬっ!!」ペタン

邪神の党「」→邪神の/党「」ズバッ

兄「おいおいおいおい! 殺す気か、大馬鹿!!」

勇者「…………」

魔女「怯むな!! 拘束術式、ファントムネット!」クモノスブワー

勇者「」ブンッ ズバッ

魔女「クッ、術を展開するより、勇者殿の剣が速い!」

兄「おおおおおっ! 右ストレーーーーーートォォォ!」ガチーン

勇者「!」グラッ

兄「すかさずダブルアッパー!!」ブォンブォン

勇者「」カキンカキョン

兄「ダブルハンマー!!」ビュン

勇者「」ゲシッ

兄「サマーソルトぉ!!」スパンッ

勇者「」ガキン

兄「ぜ、全部止められた……」

勇者「ソードクリスタル」ドドドドドッ

兄「ふぉぉ! なんだ、剣から水!?」

魔女「ぐわっ!? ……ち、違うぞ、水じゃない! これは……液状の水晶!?」

兄「まずい、閉じ込められ――」

 カキーン

巨大水晶「」ドーン

兄『なんだこれは! 出せ!! このぉ!!』ドカッ

魔女『これは封印拘束魔法……か? 魔力が体の外へ出せん……』

勇者「拘束完了。トドメを――……」

兄『くそっ、妹に殺されるのか、俺は……』

魔女『いや、待て! 様子が……』

勇者「……その水晶は、内側からじゃ破壊できないよ。兄さん……」

兄「妹!?」


勇者「安心していい。あたしが邪神を倒したら、すぐ自由になれるから。あとは全部、任せてくれればいい」

魔女『一人ですべてカタをつける気か、勇者殿』

勇者「うん。今のあたしなら、邪神とも互角以上に戦えるはずだから」

兄『だからって一人で戦いに行く奴があるか!!』

魔女『いや、水さして悪いがキサマが言えた義理じゃないからな?』

兄『うぐっ!?』

勇者「……ふふっ」

魔女『?』

勇者「やっぱり、あなたがいれば安心できるかな。息、ぴったりじゃないですか」

魔女『い、いやな、別にこやつとはまだその、そういった踏み込んだ間柄じゃないからな?

 そういうのはもっとお互いに知り合ってからで……』シドロモドロ

勇者「まだ、ってことは脈アリですか? 兄さんも隅に置けないなあ」クックック

兄『いや、こういう甘ったるいのってもう胸焼けしてるから……。とにかくここから――』

勇者「兄さん」

兄『!』

勇者「……今までありがとう。ごめんね」ダダッ

兄『ど、どういう――おい、行くな!! ちゃんと話を――くそ!!』ドン

魔女『……あの様子、まさか死ぬ気じゃ……』

兄『縁起でもないこと言うな!!』

???「その通りですよ。魔女様はなかなか鋭い。ギュィィィィン」コツコツコツコツ

兄『なっ! その笑い声……マシン王!?』ドコダ!?

マシン王(魔王)「四貴皇の相手、お疲れ様でした。なかなかの逃げっぷりでしたね、勇者兄様? そして――」

魔女『……父、上?』

兄『え?』

マシン王「ギュィィィィン。惜しかったですね、あとほんのちょっと前でしたらまだ、魔王陛下の意識は残っていたというのに」

魔女『……そういうことかよ!! キサマ、父上の体を兵器に改造して使っておったな!!』

マシン王「ええ。魔剣のデータ収集のためには、どうしても強靭な肉体を持つ生命体が必要でしたから。生憎と、ワタシの部下は機械ばかりでして。

 魔剣士としての彼には、アナタもあっているでしょう? 服従回路のせいで正体は明かせませんでしたが」

魔女『……ふん。それで挑発しているつもりか、ガラクタが。わざわざ死んだふりまでして、今更そんなことの種明かしをしに来たのではあるまい』

マシン王「ええ。ワタシはね、お二人にも聖剣の真実を知っていただきたく参上したのです。

 どうせ身動きできないのですから、どうかご清聴くださいませ」

兄『聖剣の……』

魔女『ふん。キサマのような小悪党の口から語られる真実、如何程の価値があるものか』

マシン王「そう邪険になさらないでください。きっと気に入っていただけますよ。

 勇者様を待ち受ける、悲しい運命の物語は、ね。ギュィィィィン」


――邪神の塔・空中回廊

勇者「……あなたまで、あたしの邪魔をするの……エルフ騎士、さん?」

エルフ騎士「それは貴方次第ですよ、勇者様」チャキッ


エルフ騎士「ずいぶんと雰囲気が変わりましたね。まるで別人……むしろ別の生き物のようだ。もしやマシン王にナニカサレマシタ!?」ダダッ

勇者「……少し。聖剣に同調しやすいよう、少し体をいじられた」

エルフ騎士「なんですって!! ……ま、まさか前から後ろからコード突っ込まれて……ぐわわっ!!」ズドーン

勇者「……何を想像したの?」ドンビキ

エルフ騎士「ふっ、この私に不意打ちをカマそうなど50年早い!」グググッ

勇者「……それ、聖剣の模造品?」ググッ

エルフ騎士「さっきかっぱらいました。……しかし、なるほど。こうして見比べると、違いがよくわかる。偽物は蛍光色で光るのですね。

 貴方は本物のようだ!」グググッ

勇者「だったら剣を引いてくれませんか? あたしは行かなければいけません、邪神を倒しに」ガキン

エルフ騎士「その結果、自分が死ぬことになってもですか?」ハアハア

勇者「…………」スチャ

エルフ騎士「聖剣は、人間を邪神に対抗する兵器に改造するもの。そして、力と引き換えに所有者の命を奪うとも!

 そのことを知った上で、まだ戦おうというのですか!」ダッ

勇者「…………」ガキン

エルフ騎士「戦いとなれば、私だって命を賭けます。しかし、それは必ず生きて帰るという覚悟があってこそのこと!

 決死隊になど志願する気はありませんし、殺されるぐらいなら逃げます」ガガッ

勇者「つまり?」カキョン

エルフ騎士「死ぬと分かっていて、同じパーティの仲間を送り出すのは、私の主義に反するのです! さあ、返答を! 勇者様!!」キュイン

勇者「……エルフ騎士さん。少し、違います。私は――」


――マシン王のラボ

聖剣王『これは、どうしたというのだ!!』ガガガガガッ

邪神「おいおい、もへばったのかよ、マシン王――おっと、聖剣王だったか? くっくっく」ドーン

聖剣王『こんなハズは……! ワタシの、ワタシ達の戦力は邪神を、聖剣の勇者を上回っているはず!!

 なのに何故、勝てない!!』ズバズバズバ ブチッ コテーン

邪神「残念だったなあ。さあ! そろそろフィニッシュだ!!

 オヤジクエイク!!」ドドドドドッ

聖剣王『ぐおおおおおおお! く、空間ごと粉砕するなど――ガッ!!』バキバキバキーン

邪神「オヤジサンダー!!」バリバリバリズドーン

聖剣王『がはああああああああっ!!』バババババババッ

邪神「オヤジファイヤー!!」ヒャボボボボボボボッ

聖剣王『うおおおおおおおおお!』ジュッ

邪神「そして必殺! 光るはオヤジのハゲ頭ヘッドバァァァァァァッド!!」ジャキーン

聖剣王(ラスト一体)「……こ、こんなハズは……」ボロボロ

邪神「お前、一つ大事なことを見落としてたな。聖剣は人間を兵器に改造する。それは分かるな?

 だがな、もう一つ厄介な特殊能力があるんだよ。そのせいで530年前、俺っちは負けちまった」

聖剣王「そ、それは……勇者から聖剣を引き剥がせなかったことと、関係が……?」

邪神「まあな。あれはな、いずれ人間を『聖剣そのもの』に変えちまうんだよ。分かるか?

 人間が武器を扱うんじゃなくて、聖剣が自分の力を行使するために人間を利用する。ひでえ話だろ?

 神王もえげつねえもの創るが……これが厄介なんだよなあ。

 だってよ、人間の持つ『成長する力』を、神の力の結晶である『聖剣』が持っちまうんだ。そりゃつまり」

聖剣王「む、、無限に進化する兵器……と、いうことですか……」

邪神「そういうこった。以前の戦いじゃ、やり合ってるうちにどんどんパワーアップされて、どうしようもなくなっちまったのさ。

 その点、お前の聖剣モドキは力こそとてつもないが、ただそれだけだ。

 ハナっから敵が進化する事を前提に修行を積んだ今の俺っちに掛かれば、対処は容易い。残念だったな」

聖剣王「……ギュォォォォォン……ワタシは結局、何か大きなものの手のひらで転がされていただけ、ということですか」

邪神「んな気に病むな。誰だって、多かれ少なかれそういうもんさ。まあ、俺っちはそっから脱出してやっけどな。

 いずれ『邪神』じゃねえ。運命そのものを支配する、本物の『神』になってな。ガッハッハッハ!」

聖剣王「…………。ふっ、そうですか」ペカー

邪神「むっ!」

聖剣王「かつてあなたがワタシの生まれた世界に攻めてきたとき、ワタシは一度負けた。その時に失うはずだった命――!」

邪神「ちっ、つまらねえ手を……」

聖剣王「何とでも言え!! ワタシと一緒に消えてもらうぞ、じゃしぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!」

 ズッドオオオオオオオオン


――空中庭園

エルフ騎士「聖剣、そのもの……?」

勇者「そう。この聖剣には、何千年も前からの使用者たちの思念と肉体が、形を変えて宿っている。

 ……あたしも、役目を終えたら聖剣となり、またいつか来る『世界の驚異』に備えて眠りにつくことになります……」

エルフ騎士「だから、死ぬわけではないと? バカを言うな!! 自我や肉体の喪失を、死と呼ばずになんだと……!!」

勇者「どちらにしても、あたしはほぼ聖剣になっています。ですからもう、あたしのことは気にしないでください、エルフ騎士さん……。

 ……下の階に、クリスタルに封じた兄さんと魔女さんがいます。……外部からの干渉を受け付けない反面、あたしが死ぬまで出られません。

 全てが終わったら、事の顛末を……」スタスタ

エルフ騎士「……。だからどうした」スチャッ

勇者「……分からない人ですね。あなたは、国王からあたしの邪神征伐を補佐するように命じられているはずです。

 軍人なら――」

エルフ騎士「もう一度言おうか。だからなんだっていうんだ。この場で私が命令違反を犯したとして、誰がそれを咎める。

 私はまだ納得していない。もちろん――」

 カツ カツ カツ カツ

エルフ騎士「あの男と、彼女もな」

勇者「……え!?」

兄「だから言ったじゃねえか、左の通路が怪しいって!」

魔女「何を言う! ちゃんとトレジャーボックスが有ったではないか! ……中身は使用期限切れの薬品だったがな」

兄「まあ、宝箱のある行き止まりから攻めるのは、探索の基本といえば基本だが……あ」

エルフ騎士「ふう。やっと来たか、バカども」

魔女「あん!? こいつと一まとめにするでない! さっき拾った薬、鼻から流し込んだろか!?」

兄「え、あれならさっき使っちまったけど」

魔女「正気か!?」ドンビキ

兄「君に」

魔女「ダーインスレイブ!!」ヤミニノマレヨ

兄「あーあーあーあー!! こっちに撃つな!! ――ハッ! まさか薬の効果で!?」

勇者「……もうちょっと空気読もうよ」ダイナシダー


兄「あ、妹! やっと追いついたな!! よくも閉じ込めやがって!」

勇者「どうやって出たの? 封印はまだ解けてないハズだけど」

魔女「カッカッカ♪ 粒子一個ぶんの隙間が、文字通り付け入る隙となったな! 一度肉体を素粒子レベルに分解してクリスタルをすり抜け、

 外に出てから再構築してやったわ! ……ちょっと体重減ったやもしれんがな」

兄「俺たちを一纏めにしてたのが失策だったな。合体すればどってこたないのさ!」

魔女「魔法の制御は全部ワシがやったことだろうが! キサマは殴る・蹴る以外になんも出来んのか!?」

勇者「……デタラメな奴」

エルフ騎士「なあ、もしかして魔女殿ってもう、一人で邪神倒せるんじゃないか?」

兄「ダメだって、そんなの! 邪神を倒すのはお・れ!」

勇者「さっきと言ってること違わない!? あたしの手助けがしたいんだったら、もう何もしないで!」

兄「そうはいかん!! 聖剣と一体化して消えちまうなんて、お兄ちゃん聞いてないぞ!!」プンスカ

エルフ騎士「知ってたのか?」

魔女「魔剣士……マシン王が得意げに語っていきおったわ。忌々しい」

兄「しかも、なんか本体だかが邪神と戦って負けたそうだ。俺らに散々聖剣の正体がどーのこーの語った挙句、こっちと戦いもしないでポックリ逝きやがるし。

 正直、あんな奴の言うことなんて半信半疑だったけど――」

勇者「ソードクリスタル!!」ポワポワポワ

兄「何度も同じ手を喰らうか!!」シュッシュッシュッ

勇者(早っ!!)

兄「必殺のコークスクリュー!!」バチコーン

勇者(!!)グワッ

勇者「…………」ビリビリビリビリ

勇者「さっきは手を抜いてたっていうの?」

兄「そりゃお前、助けに来た相手にいきなり本気で殴りかかるほど、俺だって鬼じゃねえよ。一応、人並みの情緒はあるつもりだ。

 ……が、もう遠慮はいらねえな。むざむざ死にに行くっつうなら腕ずくにでも止めさせてもらうぜ」

勇者「それで兄さんは最初の目的通りに勇者になるっていうの? だから、聖剣はあたしにしか――」

兄「いらねえよ、そんなもん」アッケラカン

勇者「え?」

兄「邪神は倒す。が、聖剣なんていらねえ。つうか、お前を殺そうとする剣なんて許さねえ。ぶっ壊す」

勇者「……本気? これは、太古からこの世界を守護してきた聖遺物なのよ?

 今だって、歴代の聖剣になった勇者たちは、あたしに力を貸してくれてる。

 いつか、何百年か先に、またこの世界が危機に陥った時には、あたしもその中の一つになってその時代の勇者に力を貸す。

 聖剣はそうやって受け継がれていくの。ヒトの手には負えない、強大な災厄に対抗する唯一の希望として」

兄「ならよ、ヒトの手で厄災を退けられるなら……もう聖剣は必要ないってことになるよな?」

魔女「ワシに訊くな! ……まあ、かなり屁理屈めいてはいるが、そうなんじゃないか? キサマの好きにすればいいさ、勇者兄。

 エルフ騎士殿はどうする? この馬鹿げたケンカを止めるか?」ニヤリ

エルフ騎士「う~ん……勇者殿を見殺しにするのは確かに私の主義には反するが……かといって聖剣がなくなったら邪神に勝てる保証も無くなるし。

 ……まあいいか。勝った方が正しいということで一つ」

兄「お、俺が言うのもなんだが、あんたも大概テキトーな女だなぁ……」

エルフ騎士「迷ったときは強いものに従うのも、私の騎士道だ」エッヘン

勇者「――……戦闘モードに移行」チャキッ

兄「妹!」

勇者「聖剣を壊す? できるものならやってみなよ。付き合ってあげる……でもね。

 兄さんが本気でそんなことしようっていうなら、兄さんを……この世界の希望を壊そうとする『敵』として……排除する!」ジャキッ

兄「ふっふっふ。忘れたか、妹! 兄より優れた――」

勇者「決戦術式・勇者装甲<ファイナリティ・ブレイブアーマー>!!」ジャキーン

兄「……え?」

魔女「じ、次元の穴が開いて、そこから……獅子に、大鷲に、イルカのロボット!? まさか――」

エルフ騎士「この流れってまさか!」キラキラ

勇者「」スゥー

勇者「機皇、合身<メタル・フュージョン>!!」

 ジャキーン

機皇勇者『機皇(きこう)勇者、参ッッッッ上ぉぉぉぉーっ!!』

兄「ちょっと待てぇぇぇぇぇーっ!!」

魔女「コラ! マシン王とキャラが被っとるぞ!!」ビシィ

兄「そこじゃねえよ!!」ツッコミ

機皇勇者『ちなみに、まだ亜空間格納庫に隠してるゴールドザウルスっていうのと合体することで、もう一段階パワーアップするから。

 これこそ勇者の切り札、その名も機皇勇者!!』ジャキーン

兄「生身の相手にロボット持ち出す奴があるかーっ!!」

機皇勇者『本気だって言ったでしょ、兄さん。さあ、これが最後通告。……諦めて帰って』

魔女「……なあ、ワシはもう逃げてもいいよな? 頑張ったよな、ワシ……」

兄「……ああ。こいつは……俺がサシで片つけなきゃなんねえ問題だ」

魔女「…………あ~、もう!! 分かっとったがな、そういうのは!!」ビシィ

魔女「勇者殿! すまんが、ワシも助太刀させてもらうぞ!! こやつと最後まで付き合うと、すでに決めてしまっておるでな!!」

エルフ騎士「気が変わったぁ!! こういうカッコイイのと一度戦って見たかったんだぁ!! 私も付き合うぞ、兄殿ぉ!!」ハイテンション

機皇勇者『好きにしてください。じゃあ……いくよ、兄さん!!』

兄「へっ……来いよ!! 世界を救う勇者サマぁ!!」ダッ


兄「先制攻撃だ! ジャンピングコークスクリューッ!!」

機皇勇者『プロテクトウォール』ギュィーン カキョン

兄「バリヤー!?」

機皇勇者『ブレストランチャー!』ダダダダダダダダッ

兄「わだだだだだっ!!」ピョンピョンピョン

魔女「弾丸を足場に跳ね回るとは……あやつもすっかり人間離れしたな」

エルフ騎士「次は私だ! 喰らえ槍投げ……じゃなかった。槍技、ゲイボルグ!」ビュイーン カキョン

エルフ騎士「またバリヤー!? ……それでこそ巨大ロボ!! ますます燃えてきたぁぁぁっ!」メラメラメラメラ

魔女「なんでそんなテンション高いのだ、エルフ騎士殿!?」

エルフ騎士「いやー、ロボットものって昔から好きでさあ。一度でいいから戦ってみたかったんだ~♪ マシン兵じゃサイズ足りないし」

魔女「まあ、目測60メートルはありそうだしな、あれ。つうか戦うのでいいのか? 操縦とかじゃなくって?」

エルフ騎士「乗ったらロボの戦う勇姿を堪能できないじゃないか。真っ向からぶつかり合ってこそ真のロボットファンというもの。分かんない?」

魔女「ワシにはあなたのキャラがもう分からんよ……」

兄「これならどうだ! 電光雷迅キーーーーーーーック!!」ズバーン

機皇勇者『プロテクトウォール――!?』パリーン ズガガッ

兄「しゃあ! バリヤー抜いたぜ!! ダメ押しにもう一撃!!」ズゴーン

機皇勇者『』グラッ

魔女「あ、あのデカブツがふらついた!?」

エルフ騎士「魔女殿、こちらも追い打ちを!! 槍技、ロンギヌス!!」シュバーン

魔女「さっきのとどう違うんだ、それ? 毎度おなじみ、トールハンマーからのインフェルノ!! おまけのコキュートスブレス!!」ドドドドドッ

機皇勇者『ブレイブフィンガー、展開』キュピー カキカキカキカキョン

兄「ぐわあああっ!」ピューン

エルフ騎士「うそ、まとめて弾かれた!?」

魔女「勇者兄ごと当の外へ吹っ飛ばしおったか。機皇勇者、ハリボテではないか」

機皇勇者『目標補足』ガションガションガションガション

魔女「ちっ、こっちに突っ込んできたか! エルフ騎士殿、あなたはサイドから! ワシは――」フワッ

魔女「上から攻める!!」ビューン

エルフ騎士「心得た!!」ガシャン

エルフ騎士「ふははは! まさかランスの先端にガトリング砲が仕込まれていたとは思うまい!」ダダダダダダダダッ

機皇勇者『』カキョンカキョンカキョンパチーン

機皇勇者『ブレイブフィンガー』パァー

エルフ騎士「あわわわわっ! こ、こっち来るなーっ!」スタコラサッサー

魔女「と、見せかけて……上から失礼!!」キュィィィィン

機皇勇者『!!』バッ

魔女「遅い! ジハード!!」ズドドドドドドドドドッ

エルフ騎士「おっとと、勇者殿が怯んだ! んじゃこっちもゲイボルグ!」ピューン チュドーン

機皇勇者『』グラッ ズーン

魔女「膝をついたな。ワンダウンとまではいかんか」

兄「ふう。やっと戻ってこられたぜ。おらぁ! 俺はまだピンピンしてるぞー!」ダッ

魔女「ちょうど良い! 勇者兄! バフ掛けるからデッカイのぶちかませ!」ピカー

兄「サンキュ! 食らえ必殺の、カイザーナッコォ!!」ゴチーン

機皇勇者『!?』ズシーン

エルフ騎士「今度こそ、ワンダウンだな」


機皇勇者『』ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

魔女「かと思ったら寝たままこっち転がってきた!?」ニゲロー

兄「なんつー横着な攻撃……っ!」アタルカ

エルフ騎士「!」ピコーン

エルフ騎士「下向きにゲイボルグ!!」ズドーン

エルフ騎士「そして即離脱!」ビュッ

 ピシピシピシピシ ドンガラガッシャーン

エルフ騎士「ふははははは! 床をぶち抜いて下まで真っ逆さまだ! ……あれ?」ゴゴゴゴゴッ

魔女「おい、今の衝撃で塔が傾きだしたぞ!?」アセアセ

兄「脱出だー!!」ニゲロー

 グワッシャーーーーーン


――――中央王国軍と邪神軍団の最前線

邪竜兵「駄目です、司令官! 完全に後続部隊と分断されています! 補給部隊も壊滅です!」

魔獣兵「マシン兵は機能停止したまま復旧不能! ゾンビ兵共にすべて消滅しています!! 軍団長が戦死した影響かと……」

邪神軍司令「か、数ではこちらが有利なはずだ!」

邪竜兵「活動可能だった邪竜部隊と魔獣部隊の半数以上が湿地帯に展開していました! 突入してきた少数精鋭の敵によってそれもほぼ全滅しており……」

魔獣兵「し、司令官殿ー!!」

兵士B「おら、どうした化け物ども!!」

兵士A「統率が取れていない軍隊なんて、いくら数が揃ってたってなんぼのもんじゃーい!」

兵士C「オラオラオラオラーっ!」

魔獣兵「も、もうだめだー! こんなところになんていられねえ! 俺は田舎に帰るーっ!」ダダダダッ

邪神軍司令「馬鹿者! 敵前逃亡は死刑――」

兵士B「何もかも手遅れだったな! 召喚士部隊!」

召喚士部隊『準備は万端! いつでもいけます!!』

兵士B「よっしゃあ! ぶちかませーっ!!」

召喚士部隊『闇の最高位魔法……サモンデーモン!!』ズドーン

デーモン「デーモンダヨーン」ビーム

邪神軍司令「うぎゃあああああああっ!」

兵士B「……よし! 敵の戦列は崩壊した!! すぐにベースキャンプの設置をするんだ!!」

兵士C「ふう。敵の指揮が乱れなかったらどうなることかと……」

兵士B「きっとエルフ騎士指令達が頑張ってくれたおかげだ。我々も負けてはいられん……。まだ敵には五十万近い兵がいるのだからな」

兵士B(しかし……風はこちらに吹いているというのに、この言い知れぬ不安感はなんだ? ……念のため、進軍は慎重に行っていこう。焦って攻めても無駄な犠牲を生むだけだ)

兵士B「エルフ騎士様も、どうかご無事で……」


――邪神の塔・跡地

兄「ぶはっ! み、みんな無事か!?」キョロキョロ

魔女「おう、生きとるぞ!」バリヤー

エルフ騎士「同じく」

機皇勇者『』ガレキドシャーン

兄「当然、お前もピンピンしてるわけね」

機皇勇者『損傷なし。ブレイブアーマー正常稼働中』ギュィーン

兄「ふん! んじゃ、第2ラウンドと――」

邪神「待ちな、兄ちゃん達」ドォーン

魔女「うおっ!」

邪神「まさかラストダンジョンを攻略しないで倒壊させる恥知らずな勇者一行がいたなんてな。さすがに驚いたぜ」マイッタマイッタ

エルフ騎士「ノコノコと出てきたか、邪神!」

兄「邪神!? このバカボンのパパみたいのが!?」ビックリ

邪神「おうともよ。兄ちゃん達の活躍はずっと見てたぜ。このまま優勝者が決まるまで高みの見物しようと思ってたのによ。

 居城が壊されちまったら、出てこないわけには行かないよな」ガッハッハ

機皇勇者『……最終目標、確認。ブレイブストーム』ビュォォォォォォォッ

邪神「ガハハハハ! 姿を見せるなりいきなりか! 分かりやすくていいねえ! オヤジストーム!!」ビュォォォォォォォッ

兄「おいコラ! こっちを無視していきなりおっぱじめんじゃねえ!! てめえの相手は俺だろ、妹!!」ビシィ

魔女「いや、この際だ。まとめて倒せばよかろう。手間が省ける」チャージ

邪神「豪気だねえ。そう簡単にいくかな?」

エルフ騎士「さあな。答えは殺ってみてからのお楽しみだ!」ジャキン

機皇勇者『……敵勢力の識別を更新。邪神を最優先目標に、冒険者パーティを第三勢力と認定。まとめて排除する』ペカー

機皇勇者『大聖剣、召喚』ジャキーン

邪神「おもしれえ! はっけよぉーい!」ノコッター

兄「無視すんな! ドリルスピンキーック!」ギュィーン

エルフ騎士「ラウンドセイバー! 薙ぎ払え!!」ズガーン

魔女「オーバードライブ」ジカンテーシ

機皇勇者『』ピタッ

邪神「」ピタッ

兄「」ピタッ

エルフ騎士「」ピタッ

魔女「ぶちかます! エクサノヴァフレアーッ!!」ズガァァァアァァァァン

魔女「そして時は……動きだす」

邪神「ちょっ! ええええええええっ!!」チュドーン

機皇勇者『シールド展――』ズガガガガガガッ

魔女「すまんのう。先制点はいただきだ」

エルフ騎士「やっぱあんた、もう一人で十分じゃないか?」


邪神「へっへっへ、やるじゃねえか」

機皇勇者『装甲表面を損傷。損害は軽微。自己修復の範囲内』ウィーン

魔女「む、むう……あまり効いているようには見えないな……。すまん、エルフ騎士殿。しばらくランバートしてくれ!」

エルフ騎士「はい!? こら、後ろに隠れないでくださ――」

邪神「こっちからも行くぜ! オヤジストリーィィィィム!!」モワーッ

エルフ騎士「あわわわわわっ! 魔女殿、バリヤーを!」

魔女「今はチャージタイム中だ。今、下手に魔法使うとガス欠する! そうなったら回復しきらないと、魔法が使えなくなってしまう」ソノセッテイオボエテタ?

エルフ騎士「そんなぁ! ……ええい、ヤケクソだ!! ゲイボルグぅぅぅぅぅ!」ナゲヤリ

邪神「がっはっは! 諸共に砕いてくれる!!」オヤジパワーゼンカイ

兄「その後頭部にドロップキーーーーーック!」ゲシッ

邪神「ふごっ! ――し、しまった、光線が足元に――」チュドーン

エルフ騎士の槍「トドメハマカセロー」ドスッ

邪神「あいてぇぇぇぇぇぇっ!」

機皇勇者『ディバインセイバー!』ペカー

エルフ騎士「勇者兄殿!」アブナイニゲロー

兄「はっ! 軌道を逸らして――」

邪神「うごっ!」ズガーン

機皇勇者『!?』

兄「ボディがガラ空きだぜ!! カイザーナッコォ!!」ドッゴーン

機皇勇者『プロテクトウォール、正常稼働中』カキョン

兄「あれ?」

機皇勇者『ブレイブフィンガー』ペシッ

兄「ほげっ!!」ベチーン

魔女「うっひゃあ、カッチカチだな機皇勇者。単純な守備力にあのバリヤー、おまけに傷を負ったそばからみるみる回復する修復能力!」

邪神「いつまで人の上に乗ってんだ、若造っ!」ゲシッ

兄「誰も好き好んであんたみたいなおっさんに乗っからねえよ!」ゲシッゲシッ

機皇勇者『ファイヤーストーム』

兄&邪神「あっつーーーーーっ!」アチャチャチャチャチャ

エルフ騎士「攻撃能力も凄まじいな。しかし邪神はともかく、あの男の耐久力は何なんだ?」ソコヂカラ?


兄「カイザーナッコォ!」ビュオッ

邪神「オヤジパーンチ!」ビューン

機皇勇者『ブレイブフィンガー』ビターン


魔女「まずいな。邪神と勇者殿との戦いが本格化しつつある。勇者兄もうまく立ち回っているが……」ムムムッ

エルフ騎士「放っておいても死にそうにありませんけど。それよりまだリチャージできないのですか!?」アセアセ

魔女「生半可な魔力ではダメージが通らんからな。最大値まであと40秒といったところか」

エルフ騎士「短いようで長い――」

機皇勇者『ブレイブトルネード』ビュォォォォォォォッ

エルフ騎士「おわわっ! げ、ゲイボルグ!!」ガキン

エルフ騎士「あっちと戦っているかと思えば、しっかりこっちにも攻撃飛ばしてくるし……」

魔女「完全に敵と認識されたからな。あ、むしろこの場合は的(テキ)か?」ガッハッハ

エルフ騎士「言っとる場合かァーッ!! ……あ、まずい! 勇者殿がこっち走ってきた!!」


邪神「おっ! あの野郎、俺っち達を無視して向こうに行きやがった!」

兄「余所見すんなよ、おっさん!」カイザーナッコォ

邪神「へっへっへ! 俺っちとタイマン張る気かい? オヤジナッコォ!」ドゴォ


魔女「男二人でおっぱじめおったか」

エルフ騎士「ならば、こちらは二人がかりで勇者殿を!」

魔女「うむ。チャージもちょうど済んだでな! 時に、エルフ騎士殿? ちょいとこちらに」

エルフ騎士「な、なんですか――」チュッ

エルフ騎士「はわぁ!!」ガッタイー ピカー

Sエルフ騎士「い、いきなり何をするのです、魔女殿!? そういうのはもっと順序建てて……あり?」

魔女『やはり同性の方が馴染みやすいか。パワーをセーブしつつ戦えば、一戦闘ぐらい持ちそうだ。やるぞ!』

Sエルフ騎士「が、合体って一度したら6時間は使えないんじゃないのですか!?」

魔女『同じ相手とはな。相手を変えれば連続で使用も可能だ……。まあ、ワシとフュージョンできる猛者がそうそういないのだがな』

Sエルフ騎士「ホッ、てっきり魔女殿の本性がキス魔か何かだったのかと……」フーヤレヤレ

魔女『なにを惚けておる! 来とるぞ!!』

機皇勇者の「」ロケットパーンチ

Sエルフ騎士「あわわわわっ! ゲイボルグ!!」ビューーーーーン

Sエルフ騎士(な、なんだ!?)

機皇勇者の腕「」ヤラレター

機皇勇者『!?』ドカーン

Sエルフ騎士「すごいパワーだ! ここまでパワーアップするのか、合体というのは!」

魔女『融合の術<フュージョン>な。無駄打ちするなよ、魔力が尽きた時点で融合は解けてしまうからな!』

Sエルフ騎士「了解だ! いくぞ、勇者殿!!」

機皇勇者『……ゴールドザウルス、召喚要請』

>>217

>小町「おや?気になります?」
>
>雪乃「…実は猫が好き」
>
>八幡「じゃあ後で撫でるでもなんでもしてやればいい」
>
>雪乃「ぜひそうさせてもらうわ」
>
>小町「ではでは、いただきまーす」
>
>八幡「いただきます」
>
>雪乃「いただきます」
>
>
>
>


ゴールドザウルス「あんぎゃおーす」

機皇勇者『最終合身!』ピカーン

DX機皇勇者『デラックスアーマー、起動』ジャキーン

Sエルフ騎士「よっしゃあ! 三十六計!!」ダダッダーッシュ

魔女『おいこら! いきなりビビって逃げるな!!』

Sエルフ騎士「いやいやいやいや! 魔女殿、あれは無理だ!! さっきよりデカくなったし、威圧感もハンパじゃないし、なにより――」

DX機皇勇者『DXディバインセイバー、セット』ジャキーーーーーーン

Sエルフ騎士「聖剣が文字通り天を衝いてるじゃないか! そんなもん邪神に放て、邪神に!」

魔女『というより、ワシら諸共に邪神をぶっ倒すつもりのようだがな! 逃げても無駄だ! 発動前に止めろ!!』

Sエルフ騎士「そうはいっても、勇者殿もすでに地平線の彼方にポツリと見える程度なのですけれど」

魔女『逃げ足早すぎるわーっ!!』


邪神「この人間風情がよぉ! なんでそんなに食い下がってくる!」ビシッ

兄「しつけえのはてめえだ、このハゲ!」ゲシッ

邪神「年上を敬え、若造!」ドカッ

兄「てめえが敬える人徳かよ、クソ中年! メタボ! 加齢臭がキツいんだよ!」ボガッ ビシッ ドゴッ

邪神「そういうそっちだって、若者ならもっと身だしなみ整えろ! ヒゲぐらい剃ってこい! ズボンも裾が煤けてんじゃねえか!」ヘッドバッド

兄「戦い続きなんだから仕方ねえだろうが! それもこれも、てめえがこの世界<おれんち>に攻めてきたのが原因だろうがよ!」バコッ

兄「第一、なんの目的で侵略なんてしやがる! 欲しいものはなんだ、資源か!? 領土か!?」ベシッ

邪神「決まってんだろうが! 目的はただ一つ、こいつよぉ!」グシャッ

兄「ぐわっ!」

邪神「俺っちはな、強い奴と喧嘩するのが好きだから邪神になったんだよ! 元は俺っちも、お前らと同じ人間だった。

 だが、より強い奴と戦うために人間を辞めた! そしていろんな世界を渡って、強い奴と戦ってきた!!

 邪竜王も、魔獣王も、マシン王も、屍鬼王も! みんな俺っちが侵略した世界で王として君臨していた猛者たちよ!!

 そんな俺っちが……五百三十年前、この世界で初めてケンカに負けちまったんだ! 以来、リベンジを誓ってひたすら喧嘩を続けてきた!!

 今の俺っちはあの時とは比較にならないほど強い! 聖剣の進化にも対応できる!! 今度こそ勝つ!! てめえはその、前座に過ぎねえ!」ドガッ

兄「うぐっ!」

邪神「ただの人間にしてはよく頑張ったよ。だがな、お前の冒険ももうおしまいだ。見な!」

DX機皇勇者『』グォングォングォングォン

邪神「あれだけのエネルギーが叩きつけられたら、ここいら一帯にはもう、なにも残りゃしないよ。俺っちと勇者の最終決戦場の出来上がりさ。

 だが、あいつも自分の兄貴を手に掛けるのは辛いだろう。トドメは俺っちが――」

兄「うおおおおおお!」ガシッ グワッ

邪神「おぅお!?」ドシーン

兄「マウント、獲ったぁぁぁ!」ドゴォ

邪神「うごっ! こ、こしゃくな――!」


兄「オラぁっ、もう一発!」ズガッ

兄「このっ! このっ! くぬっ! くんぬぉっ!」ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ

兄「うおおおおりゃああああああああああっ!」ベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッベシッ

邪神「ぐぬおおおおっ!」アイアンクロー

兄「ふぐっ! んにゃろぉぉぉっ!」クビシメ

邪神(このままドタマ握りつぶしてやる!)ギチギチギチギチッ

兄(へし折ってやるぜ、ぶよぶよの首ぃ!)ギチギチギチギチッ

邪神「ふぐぐぐぐっッ!」ジャシンビーム

兄「ぐががががが――っ!!」トビノキ

DX機皇勇者『ディバイン……セイバーァァァァ!』カラタケワリー

兄&邪神『あ』

 じゅっ ずどーーーーーーーーーん

クレーター「」カクノフユガー

DX機皇勇者『排除対象、撃破未確認。索敵後、再度攻撃…』ズシーンズシーンズシーン

DX機皇勇者『』サクテキチュウ

DX機皇勇者『……!』ジャーンプ

兄「ちっ、落とし穴を見切られたか!」

DX機皇勇者『何度も同じ手が通じるとでも? ……邪神は? あれで倒せたとは思えない』

兄「俺が知るかっての。どっかその辺に埋まってんじゃねえか?」

DX機皇勇者『なら地表ごと粉砕する。ディバインセイバー、セット!』チャージ

兄「へっ……今度はお前とか。真ん前からぶちのめすぜ!」カイザー……

DX機皇勇者『両断する! ディバインセイバーッ!!』

兄「ナッコォ!!」

 ガチーン

兄「ふっ! ――――うごごごごごっやっぱ無理ぃぃぃぃ!」ツブレルー

DX機皇勇者『このまま……押し切――』

 ドスッ

DX機皇勇者『!? 背後から奇襲――邪神か!?』

Sエルフ騎士「私だよ!」

兄「ナイスタイミン――グーッ!」カイザーナッコォ

DX機皇勇者『!!』ズシーン

兄「てっきり逃げたのかと思ったぜ。……あれ、今度はそっちで合体?」

魔女『まあな。パワーをセーブして安定性を優先してみた。秘策も用意してきたでな、そのおもちゃもここまでだ! 勇者殿?』

邪神「よいしょーっ!」ドーン

邪神「へっへっへ! 今のは効いたぜぇ?」

魔女『役者も揃ったか。最終ラウンドだ!』


DX機皇勇者『ディバインセイバー、MAXACT!』ギュィィィィィィィィン

邪神「へっへっへ! 次の一撃はこれまでの比じゃあねえようだな。若造、お前さんにあれは耐えられるのかなァ?」

兄「てめえはわずかに残った後ろ髪の心配だけしてろ。もしくはこれから俺にへし折られる背骨のな」ポキポキ

邪神「おう! だったら先にお前から粉みじんにしてやる! 俺っちの本気の全開パンチでなあ!」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

兄「んだとぅ! カイザーナッコォ!」ドゴッ

邪神「うげっ! お、おい! 必殺技のチャージ中に攻撃する奴がホゲッ!!」ゲシッ

Sエルフ騎士「こんな敵の真ん前でチャージタイムとか、舐めプか? ヘルパーの一人二人用意しておけ、大馬鹿が!」グサッ グサッ ザシュ

兄「まるで案山子だな。次のターンまで持たないんじゃないか?」ドゴォ ドゴォ ドゴォ

邪神「おごごごごごっ! まさかこの、俺っちがこんな……って! んな簡単に死ねるかーっ!!」ドッカーーーーーーン

兄「うおおおおおおーっ!!」ユウシャアニフットバサレター

Sエルフ騎士「ぎゃああああああーっ!」スーパーエルフナイトブットバサレター

邪神「ぜえ、ぜえ、ぜえ……やっぱタバコやめよ――あ」

DX機皇勇者『』ケンヲカマエタ ユウシャポーズ

邪神「……ち、ちょっと待て……まさかこれで終わりじゃあ――」

DX機皇勇者『ファイナル・ディバイン・スマッシャー』ゴッ


兄「あだだだだ……! え、エルフ騎士! 起きろ!!」

Sエルフ騎士「ううっ、鼻打った――ハッ!」

光の奔流『』ズドドドドドドドドドッ

兄「や、ヤバイヤバイヤバイヤバイ! あれ呑まれたら間違いなく蒸発する!! ま、魔女! さっき言ってた秘策って――」

魔女『す、すまんが、あれを凌がないことには策も何もあったもんじゃない!』

兄「お、おし! 地の底まで掘り進んでやるぜえ!」

魔女『いや、地表ごと抉られとるからな、今!! エルフ騎士殿、勇者兄! 出せるだけ力を出しきれ!! 押し返すぞ!!』

Sエルフ騎士「わ、分かりました!! 全力全開のゲイボルグぅぅぅぅぅぅぅーっ!!」ドッ

兄「えーっと、えーっと……か、カイザーナッコォ!!」ゴッ カキョン

兄「あっぢぃぃぃぃぃぃっ! 素手じゃ無理だ!!」

Sエルフ騎士「勇者兄殿、私の腰に下げている剣を使ってください!」

兄「え、これ、聖剣――のコピー?」

魔女『まがい物でも聖剣は聖剣だろう! 一応、中に宿っていたマシン王の意識は消せたはずだ、安心して使え!』

兄「よ、よし! 光んないけど、うおりゃあああああああああっ!!」ガッキーーーーーーン

Sエルフ騎士「ぐぬぬっ! ま、魔女殿! 勇者兄殿! 気迫を込めてください! 力を……出し切るんです!!」

兄「ふぐぐぐぐぐぐっ! ――――どっせえええええええええええええええええい!!」

 カッ

兄「


 ぷしゅうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………。

DX機皇勇者『……半径200キロ圏内に動体反応、および生体反応なし。索敵――』

勇者(……ふふっ、必要ないか。湿地帯がまるごと蒸発しちゃってるもの。

 地面が鏡みたいにピカピカしてる。高熱で溶けちゃったのか……。我ながらとんでもないなあ……。

 これが世界を救う力……兄さん、あなたが憧れた勇者の……)

???『勇者よ。よくぞ邪神を退けた』

勇者(聖剣か。これでもう、あたしの役目は終わりだよね)

聖剣『……いいや、まだだ』

勇者(……え?)

聖剣『此度の戦い、汝は同じく運命に導かれし者と共に、巨悪に立ち向かうはずであった。

 しかし、本来であれば手を取り合うはずの者共は、別の思惑を持って我らの前に立ち塞がった。それは神の定めし天命にあらず』

勇者(どうだっていいじゃない。あたしは勝った。世界は救われた。……そうでしょう?)

聖剣『否。汝が魔の者と通じたのも、禁じ手である機皇勇者を目覚めさせたのも、本来であれば不要の行為であった。

 全ては我らが守るべき人間が、我らの敵となったことから生じたイレギュラー! 人間は我らに守護されるべき存在だと、もう一度はっきりと認識させる必要があるのだ!

 汝は今一度、人間に神の理を説かねばならぬ! この世界の守護神として唯一無二の存在は、聖剣の勇者でなければならん!!』

勇者(まさか……今度はヒトと戦えっていうの?)

聖剣『左様! 自らの力で自らを守れると知った時、人は神の恩寵を忘れる! それは――』

???「そうなると困るから、神王は聖剣と、もう一つの因子ををこしらえたんだよなぁぁぁぁーっ!」

DX機皇勇者『!? 大出力の魔力反応――地下から! まさか、兄さ――』

 どどどどごおおおおおおおおおおおん

でかい邪神「残念だったな、俺っちだよぉ~!」アパカー

DX機皇勇者『ガハッ』ズドーン

聖剣『な、なんだと!! 貴様の反応は完全に消滅したはず――!!』

でかい邪神『あの若造の二番煎じみたいでシャクだがな、地面をドロドロに溶かして地殻の近くまで潜ってたんだよぉぉぉん♪

 さすがにそんなところまで攻撃は届かねえよな、勇者ちゃ~ん?』

DX機皇勇者『戦闘モード再起動! ディバイン――』

でかい邪神「まだ俺っちと戦う気かよ。骨の髄まで聖剣になり果てちまったのかい? へへっ、そりゃそうか。自分の兄ちゃんだって消し飛ばすほどだもんな。使命が第一、人命第二、ってな!」

DX機皇勇者『――――――――』


でかい邪神「おらっ、オヤジヘッドバッドぉ!!」ゴチーン

DX機皇勇者『しまっ――』グワァン

でかい邪神「もはや邪魔者はいねえなあ! さあ、とことん殴り合おうじゃねえか、勇者サマよぉぉぉ!!」



兄「ハッ!!」

兵士B「おお、目を覚ましましたか勇者兄殿」

兄「あれ、あんた確か兵士Bさん? あれ、どこここ?」

兵士B「湿地帯の入口に作った、我々の新たな野営地です。三時間ほど前に、死にかけのあなたと魔女殿がエルフ騎士様に担ぎこまれました」

兄「なんだって!? ――あだだだだだ!?」

兵士B「……順を追って説明します。まず、エルフ騎士様は現在、最終作戦の準備に取り掛かっています。

 魔女殿は……一度身体が消し飛びかけたあなたを救うためにかなりの無茶をしたようで……」チラッ

兄「……魔女!」ガバッ

魔女「」コヒューコヒュー

兵士B「どうやら、あの凄まじいエネルギーの奔流から身を守るために魔力を使い果たしたらしく……。

 死にかけたあなたの治療をするため、自らの生命力を魔力へと変換したようなのです」

兄「なっ!? ……大丈夫なのか、魔女は?」

兵士B「ここの設備では十分な治療ができませんが……ひとまずの峠は超えました。しかし、今は彼女を心配するより先に、あなたにはやることがあります!」ガラガラガラ

兄「えっ! ちょっと、ベッドごとどこ連れてく気!?」

兵士B「魔女殿から伺ってはいませんか? 彼女の残した『秘策』……それを完成させるのです!」

兄「……ねえ、もしかして改造されたりしないよね、俺?」

兵士B「ご安心ください。……ちゃんと元に戻れるハズですから」

兄「ちょっと魔女! 起きて魔女!! どういうことか説明して!! まじょぉぉぉぉぉっ!!」ジョー ジョー ジョー


――巨大魔法陣の中心

兵士B「被検体の配置、完了しました!!」

兄「被検体ぃ!? やっぱなんか実験されんだろ!?」

エルフ騎士「あ、来たか。ははっ、ボロボロだな」ヨロヨロ

兄「そっちもね。……ってなんなのこの状況!? この魔法陣なんなの!? でかいし、やたら複雑だし!!

 そんなもんの真ん中に寝かされたら嫌な予感しかしないんだけど!!」

エルフ騎士「うむ、実はな。邪神と勇者殿のロボットで三つ巴になったとき、一度私が戦線離脱しただろう?」

兄「そうだっけ?」

エルフ騎士「したんだよ。で、一度ここと合流していたんだ。その時にちょっとした仕込みをな」

兄「だからその『仕込み』がなんなのか分かんないから怖いんだよ!! これ以上ぼかさないで、頼むから!!」ナカマダロー

エルフ騎士「それはな――」

召喚士部隊隊長「司令官! 第一から第四までの召喚士部隊、および魔術師隊の配置、完了しました!」

突撃兵隊長「補給戦線も整列完了! いつでもいけます!」

エルフ騎士「分かった! では、早速取り掛かるぞ! 第一フェイズ、始動!」

兄「ちょっと待って!! どこ行くの!?」

召喚士部隊『了解!! いでよ、デーモン!!』

デーモンA「デーモンダヨー」

デーモンB「ナンノヨウジー?」

デーモンC「コノヒトイケニエー?」

デーモンD「エ、チガウノー?」

兄「ぎゃああああああ! え、なんで取り囲まれてんの俺ぇ!?」

召喚士部隊『デーモン、配置に着きました!』

エルフ騎士「よし! フェイズ2! 魔法陣……起動ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」ゲイボルグー

魔法陣「」ペカー

エルフ騎士「召喚したデーモン四体を生贄にし、次元の門を解放する!!」ジャキーン

デーモンズ『アー、イケニエハボクラナノカー』プシュー

エルフ騎士「フェイズ3!」

魔術師A「ハッ!! 次元門の開放、確認! 超次元エネルギーを検知! バイパス、接続します!」

魔術師B「超次元エネルギー、魔法陣と同期開始!」ウォンウォンウォンウォン

兄「え、な、なにこれ!! なんか来る!! なんか来ちゃうーーーっ!?」バチバチバチバチ

エルフ騎士「よし! フェイズ4!! ……勇者兄殿」

兄「なんすかネー!?」バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ

エルフ騎士「……なんか、すげー痛いみたいだけど、頑張って♪」キャピッ

兄「いまさらロリキャラ前面に押し出したって――」

魔術師隊長「フェイズ4、始動確認!! 融合の術<フージョン>、開始します!!」

兄「ほぎゃあああああああああああああーっ!!」

 だだだぢぢぢづづづでででどーーーーーーーーーん


でかい邪神「オヤジナックル!」ゴッ

DX機皇勇者『ブレイブフィンガー!』ジャッ

でかい邪神「どうしたどうした! さっきまでの勢いがねえじゃねえか!!」

DX機皇勇者『……ディバイン――』ペカー

でかい邪神「遅ぇ!」ローリングドバットォ

DX機皇勇者『!? プロテクトウォール破損!』

でかい邪神「これでもう魔法を防げねえな! オヤジ……インパクトぉ!」ブォッ

DX機皇勇者『が――――っ!!』ズシーーーーン

聖剣『どうした、勇者よ!? 可動効率が低下している……集中して持ち直せ!』

勇者(…………)

聖剣『勇者!』

でかい邪神「がっはっはっは! 兄貴を殺したのがそんなに悔しいか!? だが、このままお前が負けたら、奴の死は本当に無駄死にになっちまうぞ?

 おら! 気合を入れろ!!」ゴッ ガッ ドガッ ベシッ ガキーーーン

DX機皇勇者『ぐっ!』

聖剣『立て! 立って戦え、勇者! 戦うのだ!!』

でかい邪神「とどめだーっ! ようやく五百三十年前の恨みが晴らせるぜぇぇぇ! オヤジインパクトぉぉぉぉぉーっ!」ゴッ

???「ゲイボルグぅぅぅぅぅぅぅぅーっ!!」ビュォォォォォォォッ チクッ

でかい邪神「あいて! な、なんだ!? 手の甲に何か刺さった……槍!?」

DX機皇勇者『……何かが近づいてくる。魔力反応――測定不能!?』

でかい邪神「あ、あれはーーーーーーっ!!」

 ズシーン ズシーン ズシーン

DX機皇勇者『』←約60メートル

でかい邪神「」←同じくやく60メートル

でかい勇者兄「シュワッチ」←およそ400メートル

エルフ騎士「あーっはっはっはっは! どうだ、これぞ魔女殿の知識と、わが中央王国軍の技術を合わせた最終決戦術式!

 ……名づけてギガントブラザー!」←兄の頭の上。およそ150センチ

でかい勇者兄「ヘアァッ!」シュインシュインシュインシュイン

でかい邪神「でかくしすぎだー!! お、オヤジファイヤーァァァァ!!」

エルフ騎士「効くものか! ブラザーキックだ、勇者兄殿!」

でかい勇者兄「ヘアッ!」ゲシッ

でかい邪神「ほげーっ」ピューン

エルフ騎士「あはははは! 一撃で邪神を吹っ飛ばした! すごい強い! すごいデカイ! すごいアニキだ!!」

エルフ騎士(代わりに喋るどころか自律行動が出来なくって、私が頭の上で操縦していることは、ここだけの秘密だ!)


でかい邪神「ぐおおおおおっ! こ、こんな反則技を用意していたとは……」

エルフ騎士「まだ生きてたのか。ていっ」ブラザーストンプ

でかい邪神「ぎゃあああ! こ、この俺っちが虫けらみたいに踏み潰される……この、俺っちが……!」

 プチッ

エルフ騎士「悪は滅んだ。……勇者殿。聖剣を手放す気はありませんか?」

DX機皇勇者『……あたしは』

エルフ騎士「ありませんね。ギガントブラザー、始動!」ヒョイ

DX機皇勇者『ちょっと、つまみ上げないで――』

エルフ騎士「ブラザーパーーーーンチ!」ボカーーーーン

DX機皇勇者『あああああああああーっ!!』

エルフ騎士「おおっ! 飛んでく飛んでく! 地平線の彼方までぶっ飛んでいく!」

でかい兄「ヘアッ!?」

エルフ騎士「分かってる、追っかけるぞ兄殿! 走れーっ!」

でかい兄「シュワッチ!」トベナイケドネー

 ズシーン ズシーン ズシーン ズシーン ズシーン ズシーン

DX機皇勇者『き、軌道修正――なに!?』

エルフ騎士「追いついた! ブラザーチョーーーーップ!」ペシッ

DX機皇勇者「がはっ!?」ズドーン

エルフ騎士「トドメだ! ブラザービーーーーーーーーッム!」ビシィ

でかい兄「……ショワ」

エルフ騎士「え、出ないのビーム? でかくなっても魔法は使えない? あれ、おかしいな……ちょっと待ってて」マニュアルマニュアル

でかい兄「ヘア……」

DX機皇勇者『ぐっ……で、ディバインセイバーMAXACT!』ペカー

エルフ騎士「あっ! またあの技――押さえ込むんだ、ギガントブラザー!」

でかい兄「シュワ!」

DX機皇勇者『ディバインセイバー!!』

でかい兄「ヘァアアッ!!」ググググッ

エルフ騎士「こ、これは予想外! あのエネルギーを素手で押さえ込んでいる!? でも……近づくとやっぱ熱いぃぃぃ!」

でかい兄「シュワッチ!」バシーン

DX機皇勇者『馬鹿な……MAXACTが力技でかき消された……』

エルフ騎士「はあ、はあ、はあ……防護服ぐらい着てくれば良かった……。けど凌いだぞ! 今度こそトドメだ! 必殺――」

 踏みつけ

 プチッ


エルフ騎士「もう動かないな。……ブラザー、ヘル!」

でかい兄「ヘアッ!」グシャ

エルフ騎士「ブラザー、ヘブン!」

でかい兄「シュワッ」バキッ

勇者「…………」

エルフ騎士「摘出、完了。これで正義も滅びた!」

勇者?『……まだだ!』ペカー シュワッ

エルフ騎士「おわっ!」

兄(人の頭の上で戦うなよ!!)

勇者?『はあ、はあ、はあ……き、貴様を倒せば、この馬鹿げた術は止められるのだろう! 人間に、異界の力を使わせるなど……!』

エルフ騎士「男の声? ……まさか、聖剣が勇者殿の体を通して喋っているのか!?」

勇者?『我はこの世界の……守護者! それが、人間に遅れをとるなど……がっ!』

エルフ騎士「やめろ! もう勇者殿の体はボロボロなんだぞ! それ以上戦わせるな!!」ゲシッ ゲシッ ドゴォ

勇者?『そう言ってる割に容赦ないな、貴様!』

でかい兄「シュワッ!?」

エルフ騎士「あ、すまない。狙うのは……!」スパンッ

聖剣『ガッ――』マップタツー

エルフ騎士「今度こそ……正義は滅びた!」

聖剣『愚か者めが! 我が滅びれば、もはやこの世界を異界からの侵略から守る手段は――』

???「よく言うぜ。ぜ~んぶ自作自演のくせによ……」

エルフ騎士「邪神!? まだ生きていたのか……」

邪神「へっへっへ、ラスボスってのはしぶといもんさ。もっとも、もう兄ちゃんと戦う力なんて残ってないがな……」

エルフ騎士「……まあいい。今なら私でもトドメが刺せそうだ。それより……自作自演、とはどういうことだ?」

邪神「簡単な話さ。聖剣ってのは確かに、神々の王がかつて、この世界を異世界の侵略者……まあ、俺っちみたいな奴だが、ともかくそれらからこの世界を守るために与えたものだ。

 ……だが、そもそも異世界から侵略者を呼び込んでいるのもまた、神々の作ったシステムなのさ」

エルフ騎士「マッチポンプ、ということか? ……どうなんだ、聖剣よ」

聖剣『そのような邪悪な者の言葉など、信ずるに値せぬわ!』

エルフ騎士「否定しないってことでいいのかな。……それ、事実だったら大問題なのだが」

聖剣『……呼び出しているのではない。神々……この地上に最初の文明を築いた、第一始祖人類は、異世界からエネルギーを取り出すことによって、無限の動力を得る術を編み出した。

 しかし、溢れ出る力を制御することができなくなり、文明は滅びを迎えた。

 だが……最初に開いた異世界との繋がりは断ち切れてはおらず、数百年から千年単位で侵略者を招いてしまう……』

エルフ騎士「異世界の力……ん?」チラッ

でかい兄「……シュワ」ピコーン


聖剣『そうだ!! この男を巨大化させ、我を圧倒した力こそ、異世界から呼び出される無限のパワー!!

 我の役目とは、侵略者を討ち果たすことと、もう一つ!!

 現代の人間が次元の門を開くのを妨げるべく、文明の発達を阻害すること!!』

エルフ騎士「……読めた。つまり、全くの未知の相手がその、別の世界からこの世界にやってくるぐらいなら、

 自分たちで対処可能なやつをあらかじめ、この世界に招き入れていたってことか!

 そうすることで……例えば、世界を一瞬で蒸発させるような怪物の出現を防げるし、

 戦争で文明の進歩をセーブすることができる……。

 大雑把だが、そういうことだろう?」

邪神「概ねその通りよ。

 もっとも、こいつらもその『侵略者との戦争』で文明レベルが上がることまでは考えていなかったようだがな。

 とうとう恐れていた、次元干渉の技術までたどり着いちまったわけだし」

でかい兄「ヘア……」

エルフ騎士「何というか……バカバカしい話だ。そんな伝説に、私たちは何百年も振り回されていた、と」

聖剣『その役目も、もはやこれまで……。次に異世界からの侵略者が現れた時、

 それが如何に強大で、人知を超えた異能を持っていたとしても!

 貴様らはそれと自力で戦わねばならんのだからな……』

エルフ騎士「やかましい。この世界は、ここに住む私たちのものだ。過去の遺物はさっさと去れ。

 ……心配しなくても、人間はそう簡単に滅びはしないよ。死霊よりもよほどしぶとい生き物さ」

でかい兄「シュワッチ!」

聖剣『ほざけ……』プシュゥゥゥゥゥ

エルフ騎士「……完全に壊れた、か」

邪神「へっへっへ。じゃ、そろそろ俺っちも――」

エルフ騎士「ゲイボルグーッ!!」ズシャー

邪神「にゃぱっ!?」グチャ

エルフ騎士「これでも三十年前、お前がこの世界に舞い戻った時からずっと戦っていたんだ。

 まさかこの手でトドメを刺せるなんてな!! あーっはっはっはっはっは!!

 …………、ふう。帰ろうか、ギガントブラザー」

でかい兄「シュワッチ」

 ズシーン ズシーン ズシーン ズシーン

 ――――――――――


――――――――――――

妹「……うぅ」

エルフ騎士「おお、目が覚めたか」

妹「……エルフ騎士さん? あれ、兄さんは?」

兄「シュワッ」ズシーン ズシーン

妹「ま、まだ元に戻ってないの!?」

エルフ騎士「なにしろ急ごしらえの術式だったからな。しばらくはこのままさ」ハハッ

妹「ちょっとシャレになってないよ……」

兄「ヘアッ」

エルフ騎士「そんなことより、お前が元に戻って良かった、だそうだ」

妹「言葉分かるんですか……」

兄「シュワッチ」

エルフ騎士「うん? ああ、ともかく話は帰ってからゆっくりしよう、だそうだ。うん、私もクタクタだ」ハハハッ

妹「……うん。そうだ、ね。……兄さん」

兄「ヘア?」

妹「えっと……やっぱ後でいいや。すごい眠い」フアァ

エルフ騎士「ふふふ。今のうちに休んでおくといいさ。私達は帰れば『世界を救った英雄』なんだからな。忙しくなるぞ」

妹「あれ、そういうことにしちゃうんですか?」

エルフ騎士「いや、事実話すと面倒くさいし。腹立ったから聖剣壊しました、って話したらどうなることやら。

 一応、聖剣って中央王国のシンボル……てか王権の象徴だったから……一応、私も国に属する騎士なわけだし……」

妹(今になって自分のしたことを後悔している人の顔だ、これ……)

エルフ騎士「……やっぱり、邪神と相打ちになって壊された方向で行こう。魔女殿にも口裏を合わせてもらわないと」

妹「……魔女さん?」

エルフ騎士「どうかしたか、勇者――いや、妹殿」

妹「…………」

兄「!? ヘアァッ!!」

エルフ騎士「ど、どうした兄殿――な、どういうことだ!! ……ベースキャンプが――」

 最近リアルな修羅場を体験中でなかなか書き込めないのです、すんまソン。

――二時間前・ベースキャンプの医療区画

魔女「……ヤイサホォォォォっ!!」

ヒーラーA「うわあああああ! び、ビックリした――魔女殿!! め、目を覚まされたのですね!!」

魔女「え? あ、ああ~……えっと、どこだ、ここ?」

ヒーラーA「カクカクシカジカ、ということです」

魔女「なるほど、理解した。……では、今の夢は幻ではなかったということか。なんぞ殺風景な川っ淵で、小汚いババアに船の渡し賃を請求されてなぁ……。財布忘れたからとってくる~って引き返してきたんだ」

ヒーラーB「それ、三途の川っすか? 魔族の人もそのへんの文化ってオレらと変わらないんすね」

魔女「そりゃまあな。よっと」

ヒーラーB「あ! まだ立って歩いたらダメっすよ、安静に」

魔女「なぁに、へーきへーき。……ちょっと痛いけど」


兵士B「間違いないのか?」

召喚士隊長「はい、司令官代理殿! 邪神の本拠地と思われる地点において発生していた異状魔力の放出体二つが、ほぼ同時に消滅。

 対して、ギガントブラザーの反応はそのまま。……間違いなく、エルフ騎士様がやったのかと!」

兵士B「やはり凄まじいな、あの方は。いや、あれだけのエネルギーを受け止めた勇者兄殿、そしてこの、次元融合の術式を編み出した魔女殿。

 三人が勝ち取った結果であろう」

魔女「兵士B殿」

兵士B「魔女殿!! 目を覚まされたのですね!」

魔女「ああ。もう大丈夫だ。MPは空っぽのままだがな。それで、今の話は本当か?」

召喚士隊長「はい。間違いなく。ギガントブラザーもこちらに向かっているようです。……彼らが帰ってきますよ!」

魔女「か、カカカカッ! やってくれたわ、あの二人! おい、酒は? 宴の準備はどうした!」

兵士B「ここにはありませんよ、さすがに。それに、その……勢いで聖剣も破壊してしまったわけですから、本国にそのまま報告するというのもちょっとはばかられますし……」

魔女「そういやーそうだった。ま、黙っとればバレやせん。今後、似たようなことがあれば独力で解決せにゃならんってことだけ肝に銘じて――」

魔術師隊長「司令官代理ーーーー!!」

兵士B「どうした!?」

魔術師隊長「じ、次元の門の魔法陣が、勝手に起動し始めました!! こちらからの制御を受け付けません!!」

兵士B「なんだとぉ!?」

魔女「!! な、なんだこの薄ら寒い気は!! 邪気でも、妖気でもないぞ……こ、こんな気配は初めてだ!! 一体どこから――!!」

魔術師隊長「お、おそらく――次元の門を、向こう側からこじ開けようとしている何者かが――」

 ドッカーーーーーーーン

魔女「ぐわああああっ!」

兵士B「今度はなんだぁぁぁ! ハッ!! なんだあれはーーーーー!」

巨大な腕「」ズモモモモモモモッ

召喚士隊長「じ、次元を切り裂いて、巨大な腕が! 何なんだあれはぁぁぁぁぁ!」

魔女「……召喚士! それと、魔術師!! 急いで魔法陣を破壊しろ!」

魔術師隊長「えぇぇ! そんなことしたら、ギガントブラザーを元に戻せなくなりますよ!!」

魔女「そんならワシが何とかする!! とにかく、次元の門を破壊するんだ!! あれをこっちに招いてはいかん!! とにかく急ぐんだ!!」

召喚士隊長「わ、分かった!! 魔術師隊長! パワーをメテオに!!」

魔術師隊長「い、いいですとも!」ドーンドーンドーン

魔法陣「」ドカーーーーーーン

魔術師隊長「ま、魔法陣の破壊を確認――次元の門も閉じました」

魔女「腕は!?」

召喚士部隊「――か、確認できません! まだこちらに転移しきっていなかったため、次元間の接点を破壊した結果、消滅したものと……。

 しかし、あれは一体なんだったのでしょうか……」

魔女「…………。かつて、我が祖父から聞いた話なのだが……世界というのは、我々が住んでいるこの大地だけでなく、いくつも連なって存在しているらしい。

 邪神もその、連なった世界の一つからやってきたと聞く。あれもそういったものの一つなのではなかろうか……」

兵士B「そんな! 邪神の驚異が去ったばかりだというのに、間髪入れずに別の驚異がやってくるなんて!」

魔女「推測に過ぎんが、あれが相当に危険な存在だというのは、キサマらも感じ取っただろう。ワシの見立てでは、邪神以上のパワーを感じた」

兵士B「そ、そんなに――」サァー

魔女「まだ気を抜くなよ。兄殿達が戻るまで、警戒を続け――」

???「ペトロクラウド」モワモワモワモワー

兵士B「な、なんだこの灰色の煙は――ハッ! 体が石に――」カチーン

召喚士隊長「」カチーン

魔術師隊長「」カチーン

魔女「兵士B殿!? 召喚士、魔術師!! 馬鹿な、手練れぞろいの第七部隊が、まとめて石化されただと!?」

???「ほう。自力でレジストしたか」

魔女「こ、この気配はさっきの! だ、誰だお前は!!」

???「誰だ? ……うむ、そうだな。魔神とでも呼んでもらおうか」

魔女「魔神、だと?」

魔神「咄嗟に次元の門を破壊したのは君の判断か?

 いや、大手柄だよ。あのままでいれば私は本来の姿でこの世界にやってこれたんだ。

 そうなったら、地上すべての生き物を壊滅させるのに一時間と掛からなかった。……ああ、それは言い過ぎだな」クックック

魔女(え、得体の知れない男だ。見た目は金髪のチャラけた男なのに、この殺気……)

魔神「ところで君、あのクソ忌々しい聖剣を破壊してくれた大馬鹿者が近くにいるハズなのだが、知らないかな。

 是非ともお礼をしたいのだが」

魔女「……何をする気だ?」

魔神「決まっている。なるべく派手に殺してやるのさ。

 私はね、様々な世界を渡り歩いては、破壊と殺戮を撒き散らすのが生業だ。ああ、別に思想や宗教でやっていることではない。

 そうすることで撒き散らされる、知的生命体の負の想念が私の糧なのだ。

 実は、一度この世界にやってきたことがあるのだが……次元の狭間に放逐されてしまってね。戻ってこられなくなってしまったのだ」

魔女「だが、聖剣が破壊されたので再びこの世界に舞い戻った、と?」

魔神「負けっぱなしというのはシャクに障るのでね。……で、そいつはどこにいる?」

魔女「……待っていれば直にここに戻ってくるハズだ」

魔神「そうか。で、それはいつだ?」

魔女「さあな」

魔神「ふむ。……ま、焦る必要はないか。では、もう用はない。死んでいいぞ」ビュッ

魔女「しまっ――」サクッ


エルフ騎士「ベースキャンプに、巨大なクレーター!? それに、部隊のみんなが石に!? どうなってる!!」

兄「……!! ヘァァァァ!!」

エルフ騎士「ど、どうした兄殿――え?」

魔女「」

妹「……ま、まじょ……さん?」

兄「ヘァァァァァァ! シュワッ! シュワッチ!!」

エルフ騎士「魔女殿!! 倒れたまま動かないぞ、どうしたんだ!!」

妹「エルフ騎士さんダメです! 飛び降りたら貴女まで動けなくなります!!」

エルフ騎士「あああああっ! 兄殿、頼む!!」

兄「ヘァッ――!! シュワッ!!」

エルフ騎士「ふう、なんとか降りられた。魔女殿!!」

妹「どうなんですか、エルフ騎士さん! 魔女さんは!! 無事なんですか!?」

エルフ騎士「……いや、無事じゃない。致命傷だ……が、幸いというかなんというか。

 本来なら失血死するような重傷を負ったところで体が石化して、実に危ういバランスで命を取り留めている……」

妹「それって、生きてるんですか? 生きてるんですよね!?」

魔神「でも石化を解いたら死ぬよ、彼女。悪運が強いというかなんというか」

エルフ騎士「!! な、何者だ!!」

妹「この気配……邪神と同じ!? ううん、もっと禍々しい――まさか!!」

魔神「しかし、これは驚いきだな。そっちの大きいのは次元エネルギーの応用なのか? こんな使い方があったなんて」

エルフ騎士「おい、無視するな!! 私は何者だ、と訊いたんだ。どうせ敵だろうが、答えろ」

魔神「怖いな、そんな目で睨むな。私は魔神という。この世界を滅ぼしに、別次元からやってきた。

 ちなみに、君たちが次元の門を開いてくれたことと、聖剣を破壊してくれたお陰で私は今、この場に立っている」

エルフ騎士「な、なんだと!!」

妹「……聖剣の知識にあった、第一始祖文明を滅ぼした現況。異次元から呼び込んでしまった最悪の破壊の化身!

 でも、聖剣がなくなったからって、いくらなんでも早すぎる!! 邪神を倒してまだ数時間と経ってないのに!」

魔神「まあ、運がなかったんじゃないのか? 君たちというか、この世界に。

 たまたま因縁の深かったこの世界の様子を眺めていたら、たまたま聖剣が破壊されて、たまたま都合よく次元の門が開いた。

 私にとってはまさに僥倖だったがね、ハハハッ――さて」ブワッ

エルフ騎士「!! 妹殿、下がって!!」ジャッ

エルフ騎士「ギガントブラザー!! やつを蹴散らすぞ!!」

兄「ヘァ!!」ヨウシャナンカシネエ

魔神「どうやら聖剣を破壊してくれたのは君たちのようだね。ありがとう。本当にありがとう!」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

兄「シュワッ!!」ブンッ

魔神「トゥ!」ペシッ

妹「うそっ、今の兄さんのパンチを、片手で――」

魔神「せめてもの礼だ。最大限派手に殺してあげようか! 次元魔法――ギャラクシアンエクスプロージョン!」ズドォォォォォォォォォォォ

兄「ヘァッ!?」ドドーン

エルフ騎士「ぐわあああああああああーっ」

魔神「さあ……ショウタイムだ」

エルフ騎士「ブラザーナックル!!」ゴォォオ

魔神「でりゃっ!」ガチーン

エルフ騎士「くっ!! ブラザー……16文キック!!」ゴァア

魔神「明らかに16文って大きさじゃないだろう……ガッ!!」メカラビーム

エルフ騎士「ぐわあ!」

兄「ヘアァア!」

魔神「次はこちらからいくぞ! コズミックライナー!!」ギャォォォォォォォォン

エルフ騎士「くっ! なんつー魔力!! ギガントブラザー、防御だ!」

兄「マッシ!」グッ ガリガリガリガリ

魔神「無駄だ。そのまま削り殺してやろう。グランドクルス!」ペカァァァァァァ

エルフ騎士「ぐぅぅ! め、メカ勇者も邪神も物理一辺倒だったのが、ここに来て魔法でのゴリ押し方なんてな!

 魔女殿を凌駕する超威力の連続魔法……防御も反撃もままならんか!!」

兄「ゴアァァァァ!!」ググググッ

エルフ騎士「ふっ、当然だ! まだ諦めてなんかいないさ! ……あくまでまだ、だけどな~。あと1~2ターンぐらい? それ以上は心が……」

兄「シュワッチ!?」

魔神「残念だがな、私の行動回数はまだ終わっていない! トドメだ、スターライトエクスプロージョン!!」

エルフ騎士「あわわわわわっ! タイムタイム! 撤退!! てったーーーーーーーーーい!」スタコー

魔神「もう遅い!! てあぁぁぁぁーっ!!」

エルフ騎士「うわあああああ! こうなったら兄殿! 穴掘って隠れるぞ!」

兄「シュワッ!!」カイザーナッコォ

 ドォォォォォォン

魔神「無駄だ、グランドシェイカー!」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

エルフ騎士「地面割れたー!! 苦しい時の穴掘って隠れるだったのに、地面ごと割られるとかないわー!」

魔神「残念だったね。アディオス」ペカー

兄「へ、ヘアアアアアアアァァァァ!!」


もあもあもあもあ~

魔神「……耐え切ったか。が、もはやその体では戦えまい」

兄「…………」ズーン

エルフ騎士「ぐ、うう……あ、兄殿……左腕が!」バタンキュー

エルフ騎士(ふ、振り落とされてしまった……。は、早く兄殿の元へ戻らなければ! 今の兄殿は一人で動くこともままならないのだ!

 それに、妹殿の姿も土煙のせいで見えない! あの爆発で吹っ飛んでしまったか!? 無事でいてくれるといいが、

 それよりなによりもう一度今のが来たら間違うなくアウトだ!)

魔神「もはや次の一撃は耐えられない、と考えているね……。安心したまえ」

エルフ騎士「!?」

魔神「片腕を失った君はもはや、戦士として死んだも同然。幸い、今の一撃でここいら一帯、大気中の魔力が飽和状態になった。

 これなら再び次元の門を開くことも容易い。開け! ゲート・オブ・イゾルテ!!」グゴゴゴゴゴゴッ

隻眼の大巨人「グォォォォォォォォォオオオオオ!!」ズシーン

魔神「大きさは君と互角だ。私は高みの見物とさせてもらうよ。せいぜい頑張りたまえ、ハハハハッ」

エルフ騎士「んにゃろう、完っ全に遊んでいやがる!!」ピョーン スタッ

エルフ騎士「……まだ戦えるか、兄殿?」

兄「マッシ!」シュワッ

エルフ騎士「……いくぞ」

兄「ゴアッ!!」ダッ

大巨人「グアッ!!」ゴッ

エルフ騎士「ぐぅぅぅ! なんつー馬鹿力だよ、このデカブツ!! はあ、はあ、はあ……」

エルフ騎士(もう、私の魔力も尽きかけている……これ以上、兄殿を操作できない……!! くそったれ、私に魔女殿ぐらいの力があれば――)

兄「シュワッチ!」グッ

エルフ騎士「……すまん、弱気は禁物だな! シャァッ!! コークスクリュー!」グォォッ

大巨人「グアアアアッ!」ドカーン

エルフ騎士「はあ、はあ、はあ、はあ! どうだ――」

魔神「ゲート・オブ・イゾルテ」バッ

大巨人軍団『グオオオオオオオオオッ!!』

エルフ騎士「……マジかよ、クソッタレ……」

エルフ騎士「はあ、はあ! さんじゅう、さーーーーーーん!」ズゴーン

大巨人「グワアアア!」ドカーン

魔神「ハハハハッ! 半死人二人連れでよく頑張るじゃないか! しかし、悲しいな。

 もはや次元の門を塞ぐべき聖剣がない以上、私がいる限りこいつらは無尽蔵だ。

 そして、この大巨人達がいる限り、君たちは私には近づけない。理解したか、つまり君たちは詰んでる」ドゥーユーアンダスタン?

兄「ヘアッ……!!」ゼエゼエ

エルフ騎士(チクショウ! やっぱ聖剣壊すんじゃなかったぁぁぁぁ! 三十四!!)グシャ

魔神「それ、おかわりだ」バッ

エルフ騎士「いい加減に――はっ!?」ガクッ

兄「ヘアアアアアッ!?」ガクーン

エルフ騎士「し、しまった……魔力がつ、尽きた……」

兄「ヘア!? シャアッ!! シュワッ!!」グッグッ

大巨人軍団『グゥゥ』ゾロゾロゾロ

エルフ騎士「こ、こんなところで……た、大気中に飽和している魔力を使ってでも……!」

兄「シュワッチ!! ……ヘア~……――」

エルフ騎士(ダメだ……とてもギガントブラザーを戦わせるだけの魔力は集められない!!)

魔神「おしまいか。案外あっけなかったな。だが、オーディエンスはかなり盛り上がった」

エルフ騎士「オーディエンスだと? そんなものどこに――」

魔神「言っていなかったか? そこらに転がっている君の仲間たちは、石化こそしているがちゃんと目も耳も聞こえているのだよ。

 私が人間の恐怖や絶望を糧としていることは話したな。家畜は生かしているからこそ安定して食料を得ることができるのだ。

 力の弱いものは石と化し、自らの信じる強者が敗れ去る様を見て絶望を募らせる。ふふふっ」

エルフ騎士「悪趣味もいいところだな!」

魔神「まあ、最後には破壊するのだがね。この世界には邪神と争っていたとはいえ、まだまだ大勢の人間がいる。

 君たちにトドメを刺したら、ここにある石像をひとつ残らず粉砕し、さらなる糧を探しに行こう」ハハハハッ

大巨人『グアアアッ』ズーン ズーン ズーン

大巨人『メカラビーム』ビィィィィィィィム

 ずがあああああああああああん

魔神「…………。何をした、君たち?」

エルフ騎士「何もしてない……勝手に光線が逸れたぞ」

兄「……! ヘアア!!」

エルフ騎士「え……巨人たちの足? ……!! なんだ、一斉に斬られている!?」

魔神「……まだ仲間がいたのか? 誰だ?」

妹「あたしだ!!」デデーン

魔神「貴様は……覚えがあるぞ、その気配!! まだ残っていたのか……忌々しい、聖剣めぇぇぇ!」

エルフ騎士「い、妹殿!! よかった、無事――え? なんで聖剣持ってんの!?」

妹「え、ああ、これですか?」ペカー

妹「よく見てください。持ってるんじゃなくって、あたしの手から生えてるんです♪」ペカー

エルフ騎士「はい?」

妹「……言ったじゃないですか。今のあたしは『聖剣そのもの』だって。つまり……」

魔神「破壊されたのは、かつて私を退けるため、この世界の人間が造り出したもの。

 しかし君は、その聖剣によって生み出された新たなる聖剣……ということか」

妹「本当だったら、役目を終えたら聖剣に一体化されて眠りにつくはずだったんだけど。

 ……開きっぱなしの次元の門に反応して、なんか目覚めちゃったみたい♪」テヘッ

エルフ騎士「笑顔が黒いです、妹殿」

大巨人『ムゥゥゥン』

妹「と~は言っても……根本的な出力不足は否めないかなあ……。てなわけで、変身!! ソーディアンフォーム!!」ジュオーーン

聖剣ならぬ妹剣『兄さん!!』ビューン

兄「!! ヘアアア!」

 ジャキーーーーーーン

妹剣『ギガントブラザーWithシスターブレード!!』

エルフ騎士「って、ちょっと待て!! トゥーハンド(両手剣)ならぬトゥーフィンガーソードでどう戦えと!?

 つまようじ振り回すようなものじゃないか!!」

妹剣『えっと……ま、魔力を補いますから、握りこんでぶん殴ってください!』

エルフ騎士「……いいや、やったれ!!」

兄「ゴアッ!!」ブンッ

大巨人「グヒャアアッ」グシャ

大巨人「」チーン

魔神「……oh」

エルフ騎士「……り、理不尽だ」

妹剣『な、なははははは……テキトー言っただけなのに、すごいな~、あたし。……むしろ兄さん?』

大巨人『……グオオオオオォォォォォオオオオッ!!』

妹剣『あ! き、来ますよ二人共!!』

エルフ騎士「ふ、ふふふ! まだ戦えるなら、やってやろうじゃないか! 魔力の供給は任せたぞ、妹殿!!

 ギガントブラザー、GO!!」グッ

兄「シュワッチ」ダダダッ

エルフ騎士「ブラザーぁぁぁナッコォ!!」ドゴォ

大巨人「グワアアアア!」ズゴーン

大巨人「ギャアアアアア!」バゴーン

エルフ騎士「ブラザーぁぁぁラリアットゥ!」

大巨人「グバアアアアア!」バチーン

大巨人「ギョエエエエエエエ!」ドバーン

エルフ騎士「ブラザーぁぁぁキィィィィィック!」

大巨人「ガッ」キャッチ

大巨人「ガオッ」パーンチ

兄「ヘアァ!?」ズシーン

エルフ騎士「へぶしっ!!」

妹剣『蹴っちゃダメですよ!! 強化されるのは拳周りだけ、脚部まで魔力を回せません!!』

エルフ騎士「拳一つで戦えってか!?」ムチャイウヨナー

妹剣『エルフ騎士さんの魔力が回復すれば、もう少し戦法も広がるのですけれど』

エルフ騎士「そればかりはな!」バーンナッコゥ

大巨人「グワッ!! グゥ……! グワワッ!!」ピコーン

妹剣『あ! 巨人の一体が交代します! キャンプへ向かいました!』

エルフ騎士「あんだと!? 待てコラーッ!」ドシーンドシーンドシーン

大巨人「グワ! ガガッ……ゴーゴガガガガッ!!」

エルフ騎士「なんだ、何かを手に掴んでいるぞ!?」

妹剣『……あ、あれは! 魔女さん!?』

魔女「」

大巨人「グワワワワッ!」

魔神「ほう。抵抗をやめないと、この娘を粉砕するといっているぞ。どうする、戦士たち」

エルフ騎士「しゃらくせえ! やれるもんならやってみろ、その瞬間にお前の顔面を粉砕する!」

大巨人「グワッ!?」

エルフ騎士「どうせこっちが負けたら魔女殿もみんなも殺されるんだ、交渉の余地はない!!」ビシッ

大巨人(通訳・魔神)「お、脅しじゃねえぞ!? 仲間の命が惜しいなら――」

エルフ騎士「くどい! ブラザーナッコォ。GO!!」

兄「へ、ヘアッ!!」

エルフ騎士「え、なにどうした? 何を躊躇している、兄殿!」

兄「ヘアッ! タァッ!! シュワッチ!!」

エルフ騎士「……すまん、ちゃんと人類の言語を喋ってくれ」

兄「ヘアッ!?」

妹剣(あれ、さっきまで普通に会話してたよね……?)

兄「ヘア! ヘア! タア!!」

エルフ騎士「だから、何を言ってるのか分からないんだって! 魔神、通訳できるか?」

魔神「私に振るんじゃない」

妹剣『あの、兄は魔女さんを救出したいんじゃないのでしょうか?』

エルフ騎士「なに? そうなのか、兄殿?」

兄「ヘア」フルフル

魔神「違うみたいだぞ」

妹剣『えぇーっ!?』

兄「ヘーア! シャア! ショワショワ!! マッシ!!」

エルフ騎士「……さっぱり分からん。せめてジェスチャーぐらい入れてくれ」

妹剣『無理ですって!!』

魔神「何を遊んでいるんだ、悠長な。もういい、大巨人。宣告通り奴らの仲間を砕いてやれ」

大巨人「グオオオ!」

魔神「なんだと? そんなことしたら自分の顔面が粉砕される? どっちにしろ人質が効かないなら持ってるだけ無駄だろうが」

大巨人「グオオ!」

魔神「」いやだー、死にたくなーい、か。なら構わんぞ。私がお前もろとも打ち砕いてやる。スターダスト――」キュィィィィン

大巨人「グワ! グ……グオォォォォン!!」ググググッ

妹剣『て、ああ! あいつ、魔女さんを握りつぶす気ですよ!? 止めないと!!』

エルフ騎士「それには及ばん。チャージはすでに完了していたようだ」

妹剣『え?』

魔神「それはどういう――」

 ガーン

魔神「ことだ……なんだ?」

妹剣『……ま、魔女さんを掴んでいた大巨人の上半身が……』

魔神「何をやった! いつの間に巨人の胴体を消し飛ばした!?」

エルフ騎士「復活したてで時間停止など使って、また魔力切れ起こしても知りませんよ?」

???「何を言う。それは貴様であろう、エルフ騎士殿」スタッ

妹剣『……う、うそ!』

魔女「って、妹殿!? 結局剣になってしまったのか!? 兄殿は予定よりかなりでっかくなってるし!!」

魔神「どうやって甦った……」

魔女「はん! 最初っからくたばっちゃおらんっつーの。第一、これは貴様の打った悪手が原因だぞ。

 石化させた相手の意識を残したままにするとは恐れ入ったがな、その状態でも多少の魔法は使えるでな。

 キサマらがばら撒いた大気中の残存魔力をたんまりと頂いて、肉体の再生に使わせてもらったのさ!!」

魔女(もっとも、強引に傷口を溶接したり、かな~り無茶をしたがな。また寿命縮まったかも……)

妹剣『もしかして、兄さんとエルフ騎士さん、魔女さんが攻撃する隙を作ろうと?』

エルフ騎士「気づいたのは兄殿だ」

魔女「お主は本気でワシもろとも殺す気だっただろ」

エルフ騎士「許せ」

魔女「許す。……さて、兄殿、妹殿。積もる話もあるが、ワシが来たからにはもう安心だ! 本格的に反撃開始と行くぞ!」

兄「ヘア!!」

エルフ騎士「なんだか主人公みたいなセリフですね」

妹剣『なんだか魔女さんが一番勇者してるんじゃないですか?』

魔女「よせやい、照れるぜ!」

魔女「エルフ騎士殿はそのまま操縦に専念!」

エルフ騎士「分かった!」

魔女「妹殿、魔力の供給と制御はワシが行う! 火器管制に専念してくれ!」

妹剣『えっと、武器としての役割に集中しろってことだよね。やってみる!』

魔女「兄殿……は、こっちで動かすから、頑張ってくれ」

兄「ゴア!」

魔女「では、行くぞ! ギガントブラザー、デフラグメント! ON!!」ペカー

魔神「ぐっ! なんだ、この馬鹿げた魔力出力は!? ……いや、魔力じゃない! もっと純粋な――」

兄「うおおおお! グレートブラザー!! 爆ッッッ誕ンンンンンッ!!」ジャキーン

グレートブラザー(GB)「……見た目変わってなくない? 腕が治ったのはいいけど」

妹剣『むしろあたしだよね、変わったの!? なんかでっかくなってんだけど!!』ザンカントー

魔女「すまん、衣装にまで気を遣う余裕が無かった」

エルフ騎士「いいんじゃないか? ……うん、なんとか操縦はできそうだ。どれ、ひとつ試してみるか!」ギロ

大巨人軍団(!!)ゾクゥ

魔女「ふふっ! シスターブレード、コンタクト! マジックスペル――エルフ騎士殿、呪文を!」

エルフ騎士「あれだな! ラピットストリーム!!」ソクドジョウショウ

魔女「え? いや、それじゃなくって――」

エルフ騎士「ぬはははははっ! 斬って斬って斬りまくるぅぅぅぅ!」ズンバラリン

大巨人軍団「ギャワワーッ!!」ザックリ ザックリ ザックザク

妹剣(ソードファイヤーとかサンダーでなぎ払えばいいのに……)

エルフ騎士「ふぅぅぅぅ……気ん持ちいいィィィィーっ!」

魔女(パイロットの選考間違えたかの……)

GB「おーい、エルフ騎士さん。返り血でえらいことになってんだけど……」

エルフ騎士「やははは、すまんすまん。ちょっとハイになってしまった。この力があれば、世界は私のものだー!」

GB「おい魔女、そいつ今すぐ放り出せ」

魔女「がってん」

エルフ騎士「ストップ、ストップ!! ウェイトウェイト!! 冗談だって、ジョーク! エルフジョーク!!」

妹剣『明らかに目がマジでしたよね、今』

エルフ騎士「妹殿まで!!」

魔神「…………」クイッ

大巨人「」コクッ

エルフ騎士「おっと」ヒョイッ

大巨人「グワッ!?」

エルフ騎士「まだ残っていたのか。なら――えっと、魔女殿の魔力回路と妹殿がこう繋がっているのなら、こうでこうして、こうやって――できた!」ペカー

妹槍『エェ!? 今度は何されたのあたし!!』

魔女「変形機能とは恐れ入った……あんまり弄りすぎると人型に戻れなくなったりせんかの」

魔女『怖いこと言わないでよ!!』

エルフ騎士「食らうがいい!! 我が必殺の、ゲイボルグぅぅぅぅぅぅぅーっ!!」ビュワッ

大巨人軍団「うごげがあああああああああーっ!!!!!!」ジュッ

魔神「……おいおい」

エルフ騎士「さあ、もう追加はないのか? なら、次はお前をこの槍で貫く!」

GB(ノリに乗ってんな~、エルフ騎士さん)

魔女(やっぱこやつ、騎士とか軍人とか向いてないんと違うか?)

魔神「ゲートオブイゾルテ!」

妹槍『性懲りもなく巨人を喚ぶ気?』

GB「洒落せえ! 蹴散らしてやれ!」オレウゴケナイシー

魔神「勘違いするな。呼び出すのは……我が本体だ!!」ピカー

真魔神『くっ、まだ力を完全に呼び込むには至らないか。現状のままどうにかするしかない!』

魔女「全力が出せんのか? 奇遇だな、実はこのグレートブラザーもまだ戦闘力の全てを解き放ってはいない」

真魔神『なんだと!?』

GB「全力を出せばこの世界そのものが吹っ飛ぶからな。ま、お前みたいなのに滅ぼされるよりはマシだが」

妹槍(……そうなの?)

エルフ騎士(そうなのか!?)

兄&魔女(ハッタリだよ。こう言っておけば向こうも警戒して――)

真魔神『ならこちらも望むところ!! 出し惜しみ無しの全力攻撃で短期決戦にしてやる!!』

妹槍&エルフ騎士(逆効果じゃないかー!! 油断も隙もなくなったー!!)

真魔神『この惑星ごと消し飛ぶがいい!! ビックバン――――ストォォォォォォォォォォッム!!』ズドォォォォォォォォォン

エルフ騎士「しかも1ターン目からノーチャージで撃ってきたぁぁぁぁ! もうダメだ、終わった何もかも……」

魔女「しっかりせんか! 術式選択――エルフ騎士殿、この魔法を使え!!」

エルフ騎士「これは――頭の中に呪文が! お、オーバドライブ!! 時間よ、止まれぇぇぇぇ!」

 ガガーン

エルフ騎士「う、上手くいった……」

魔女「なにしとんだ、急いであやつの光線の軌道を逸らせ!! そんな長く止まっちゃおらんぞ!」

エルフ騎士「あわわわわわ! でもこんな超エネルギー。迂闊に触ったらえらいことに!」

GB「魔神本人を動かせばよくね? 仰向けにしちゃうとか」

エルフ騎士「それだー! ブラザースライディング!!」ステーン

妹槍『時間切れです、停止解除されます!』

真魔神『ぬおおおお! 何が起こった!! ま、まさか時間を――』

GB「はっ、超接近戦でのインファイトか。エルフ騎士さん、ここなら!!」

エルフ騎士「ああ! 君の技、使わせてもらうぞ!!」

妹槍『えっと、変形……じゃカッコつかないな。す、スタイルチェンジ! ナックル!!』

魔女「魔力充填! ぶちかませ!!」

エルフ騎士「受けろ、必殺の!! カ――」

GB「カイザァァァァァァナッコォォォォォォォォォーーーーーーーッ!!」ゴシャァァァァァァン

真魔神『ギャワッバァァァァァァァッ』ドーーーーン

GB「はっ! そのまま次元の門の向こうまでぶっ飛んじまいな。バーッカ」

エルフ騎士(……なんか、兄殿が最後のトドメを刺したみたいになってる……)フニオチネー

妹拳『何にしても、一件落着――』

魔女「まだだ! あれを見ろ!!」


破壊神「魔神までも退けられたか」

暗黒神「なら次は私の出番だな」

軍神「否! あの地を攻めるのは我が軍勢なり!」

貧乏神「いやいやいや、儂の法力を持って破滅させてやろう」


GB「まさか、次の神様連中だってのかよ! それもあんなに……」

エルフ騎士「一体でもこの騒ぎだっていうのに、あの数がやってきたら……」

妹拳「早く門を閉めないと!」

魔女「それだけでは駄目だ。こちらの魔法陣を壊しても、魔神は自力で門を開けて大巨人を呼び出していた。奴らの侵入を完全に防ぐには、この世界と別の世界との接点を、完全に破壊する必要がありそうだ」

GB「方法はあるのか?」

魔女「今の我らであれば、おそらくは。あの門の向こうに入って、次元境界面そのものを粉砕するのだ」

妹拳『……それ、帰ってこられなくなるんじゃないですか、あたしたち』

魔女「それだけで済む話なら良いがな。首尾よく粉砕できても、我らは次元の狭間を彷徨う迷い子になるだろう」

エルフ騎士「重大な決断を迫られているのに、あまり悠長にしている時間はなさそうだぞ」

GB「この場でいつ果てるかもわからねえ敵を迎え撃ち続けるか、門の向こうの新天地を探しに行くか。ハッ、なら俺は飛び込む方に賛成だ)

妹拳『……あたしもそれでいいと思う。どっちにしても、あたしはもう普通の人間には戻れないから、近いうちにこの世界から姿を消すつもりだったし』

GB「初耳だぞ、それ」

妹拳『言ってないし』

エルフ騎士「なら、決まりだ。次元ナントカを壊しに行く」

魔女「ワシの意見がスルーされとるぞ」

エルフ騎士「聞くまでもないと思ったのですが」

魔女「まあな」

エルフ騎士「……グレートブラザー、GO!!」

GB「よっしゃあ! 突撃ぃぃぃぃぃーっ!!」

疫病神「では、次の相手はこのへぶしっ!?」ズドーン

GB「邪魔」

暗黒神「なんだと! 自らこの空間に飛び込んできた!?」

破壊神「ここは高次元生命体しか存在することができん! どうやって――」

エルフ騎士「知恵と勇気と根性だ!! 術式選択――」

妹拳『スタイルチェンジ! ソードフォーム!!』

魔女「カカカカッ! 兄殿、どうだ、念願叶っての聖剣は? なかなかサマになってるじゃないか!」

GB「そういやそうだった」

エルフ騎士「動かしてるのは私だがな! ディバインセイバー、MAXACT!!」

妹剣『ターゲット、ロック! 次元の境界線を捉えました!!』

魔女「今だ、たたっ斬れぃ!!」

エルフ騎士「ディ――」

GB「超・次元!! 討・竜・だぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」ズバッシャー

エルフ騎士「またセリフ取られたー!!」

暗黒神「うおおおお! た、退避だぁー!!」

破壊神「今更間に合わんよ。終わりだ」

 ズッドォォォォォォォォォォッォォォォォン

――中央王国連合・田舎町の酒場

吟遊詩人「こうして、この世界から異世界の侵略者の驚異は完全に消え去ったのでした。どっとはらい」

子供A「ねえ、ねえ! その勇者の人たちって、もう帰ってこれないの?」

吟遊詩人「どうなろうね。帰ってこられないのか、それとも帰ってこないのか。おじさんには分からないよ。昔の話だからね」

子供B「でも、カッコイイよな、勇者って! オイラもいつか、聖剣で悪い奴をぶっ倒してやりてえ!」

子供C「あんたじゃ無理よ、あたしよりケンカ弱いじゃん」

子供B「なんだと、怪力ゴリラ女! 昨日は丸一日、オイラのトラップから抜け出せなくって泣きじゃくってたくせに!」

子供C「そ、それとあんたのケンカが弱いのとは関係ないじゃない!」

子供B「分かってないな! 戦う前に勝つのが本当に強くて利口なヤツなんだよ」

吟遊詩人(最近の子供って逞しいなあ……)ゴトッ

子供A「あ、もう行っちゃうの?」

吟遊詩人「うん。また何年かしたら、この村に寄らせてもらうかもしれない。そのときはまた別の話を聞かせてあげるよ」

子供A「う~ん、でももう一度、さっきの話を聞きたいな。世界を救った四人の勇者……素敵じゃん」

吟遊詩人「構わないよ。それじゃあね。……ところで、あの二人は止めなくてもいいのかい?」

子供A「いつものことだもん。犬も食わないケンカってヤツよ」

吟遊詩人「へえ……」

子供C「うひゃあ! なんで蛇なんて持ち歩いてんのよ!?」

子供B「お前みたいにニョロニョロしたのが苦手なヤツが、世の中に多いからだぁ~!」


――中央王国連合・街道

吟遊詩人「~♪ ……お、流れ星か。初めて見たな。……そういえば、流れ星は他の世界と繋がるゲートだって昔、じいちゃんが言ってたっけ」

―――――?????

村人A「大変だー! マシン帝国の陸上戦艦が、ついにこの村にまでー!」

陸上戦艦「アー、テステス。聞こえてますか、人類の反乱分子共よ。君たちはその小さな村で、我々の攻撃を長いことよく耐え抜いてきた。すごいと思うよ。

 でも、そのせいで我々を本気にさせてしまった。残念だが、もう降伏を認めるわけにはいかない。君たちの未来は死、それだけだ。

 ……全軍、攻撃開始」

マシントルーパーズ『ギュィィィィィィン』ガションガションガション

村人B「うわあああ! お、おい! あんたら何してんだ、早く逃げろ! 殺されるぞ!!」

???「……こんな時に他人の心配するなんて、あんたいい人だね」

村人B「はい?」

???「安心するがいい。ワシらは戦いのプロ、キサマらの村長に雇われた身だ。ここを守るためにな」

???「陸上戦艦はさすがに予想外だったけどね」

???「それぐらいでなければ私達の相手は務まらん。いくぞ、先制攻撃だゲイボルグぅぅぅぅ!」ドシューン

???「いきなりかよ! 落ち着きないなあ、相変わらず!」

???「キサマが言えた義理か? さ、ワシらも行くぞ。村に入る前に敵を殲滅する!!」フワッ ビューン

村人B「ひ、人が空を飛んだ!? それもすごい速度だ!! あんたら、何者なんだ!?」

???「えっと、なんて言えばいいのかな?」

???「勇者御一行様だ。俺たちもいくぜ!」

???「う、うん。スタイルチェンジ、ソードフォーム!」ジャキーン

村人B「今度は人間が剣に……ますます分からん! だが……」

???「ラピットストリーム! しゃあ! ぶった切ってやるぜデカブツくんよぉ!」

村人B「頼もしいじゃないか……あ、流れ星――って見つけてる場合じゃねえー! 逃げろぉぉぉーっ!」


兄「オラオラオラオラー!」

妹剣『兄さん、チャージ完了まであと7秒だよ!』

エルフ騎士「ゲイボゲイボゲイボゲイボルグぅぅぅぅぅー! ……そろそろ新技考えようかな」

魔女「お前ら見てるとムカツク奴を思い出す。消し飛ぶ良い、ハイエンドクラーーーッシュ!!」

 完

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