助手「魔女の薬屋」 (346)


魔女「む、起きたか?」

男「……あの、ここは?」

魔女「ここは、この家は私が今経営している薬屋だ。今日から君はここに住むといい」

男「え、えっと」

魔女「まずは自己紹介だ。私は魔女。さっきも言ったとおりこの薬屋を営んでいる」

男「あっと、僕の名前は男ですけど……」

魔女「ふむ、男くん、ね。分かった」

魔女「さて、男くん。色々分からないことだらけだろう。君の表情から読み取れる」

魔女「しかし、私は上手く説明できなくてな……まあ細かいとこは追々話すとしよう」

魔女「大まかな事を言えば」

魔女「男くん、君はこの世界の住人ではないし、私は君と違う世界の住人だ」

魔女「そこだけ分かっていてくれ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441211414


男「? え?」

魔女「うん?」

男「違う世界……って、異世界に来てしまったってことですか?」

魔女「そう、君にとっては異世界だ。本来君がいるのは人間界。そしてここは本来人間がいない、裏世界と呼ばれている」

男「……」

魔女「驚くのは仕方ない。君がこっちに迷い込んできたのはつい三日前だ」

男「三日前……」

魔女「私のいつもの散歩コースに君が倒れていたんだ」

男「えっ、倒れていた? じゃ、じゃあわざわざ運んでくれたんですか!?」

魔女「それほどのことではないよ。って知らないだろうけど、この世界はそっちの世界と全く違う。いや、根本的に違うんだよ」


魔女「君は、魔法って知っているか?」

男「え、ま、魔法? いきなり何の」

魔女「やはりね……まず、この世界には魔法が存在する」

男「! えっ!」

魔女「君をここまで運んだのも、魔法を使ったからだ。だからこんな私でも簡単に運べる」

男「……魔法って、そんなのファンタジーの世界にしか」

魔女「そうだ。だからこの世界は君の世界とは根本的に違う。そっちの世界でいうファンタジーな世界だよ」

魔女「魔法なんてどこにでもあるし、様々な種族がいる。怪物やモンスターもいる」

魔女「ここはそういった、君にとってはとても危険な世界だ」

男「…………」

魔女「……さて、次の話だ」


魔女「回りくどいのは苦手だから単刀直入に言うが」

魔女「君の今後の事についてだ」

男「……はあ」

魔女「さっき、ここに住むといいと言ったけれども、タダというわけには行かない」

魔女「一応、私もここに住んでいる身なのでな」

魔女「君には一つ、いや二つ条件がある」

男「条件、ですか」

魔女「うむ、この二つだけ守ってくれればいい」

魔女「一つは私に対して害をなさない事」


魔女「もう一つはこの薬屋で私の助手として働くことだ」


男「じょ、助手っていうのは……」

魔女「言葉通りの意味だ。前述した通り私はこの薬屋を経営している。しかし、私一人では何かと面倒な事が多くてね……」

魔女「ま、そういうことかな」

男「いや、でも僕は薬なんて全然」

魔女「大丈夫。君に任せるのは雑用とか配達とかだよ。君にでも出来る仕事だ」

男「でも……それじゃあ僕以外でも良かったんじゃあ」

魔女「いいや、君で、いや、君がいい。君でなければいけないよ」

魔女「私が君を気に入ったんだ」

魔女「もう質問は無いかな?」

男「……」

魔女「という事だ。明日からよろしく。あ、そうそう、君にはこの部屋を貸し与える。欲しいものがあれば言うといい」

男「……よろしく、お願いします」

魔女「こちらこそ、よろしく頼むよ。助手くん」

助手(男)「はい!」

こんな感じで進行してきます
オリジナルです
なんとか毎日更新していきたいですそのときは夜になります
よろしくです


――――翌日 薬屋二階にて

魔女「助手くん、料理上手いね。君はもしや向こうの世界では料理人か何かだったのかい?」モグモグ

助手「いえ、普通の学生でしたけど……。ただ料理が出来るってだけで」

魔女「学生…………つまり、この世界における、えっと、学校という所に通っていたのか?」

助手「はい」カタ

魔女「懐かしいな……。私も前は通っていてね、主席で卒業したよ。ギリギリトップだったが」ウムウム

魔女「あ、そうそう。そこでトップを争っていた同期が今日来る予定なんだ」

助手「そうなんですか。っと、魔女さん、まだいりますか? 何かリクエストとか」

魔女「いや、もう十分だ。ほら、君も作るばかりでなく食べるといい」

助手「あ、じゃあお言葉に甘えて頂きます」


助手「そういえば、この薬屋って、一体何をしているんですか? そこの所を細かく聞いておきたいんですけど」

魔女「別に普通だよ。薬の製作を依頼されて、作って、それを依頼者に売る。簡単だよ」

助手「…………」

魔女「ん? どうしたんだい? 困った顔して。そっちの世界とも特に変わりないだろう?」

助手「……いえ、結構違うんですけど……」

魔女「……へぇ。そっちの世界はどんな風なんだい?」

助手「えーと……多種の病気に対して特効薬が市販されている、って感じですかね」

魔女「……病気、ね。他には無いのかい?」

助手「……他? 他と言われても……考えつかないですね……」

魔女「……そうか。そっちの世界ではそれが普通なんだな。ならば、少し大変かも……」

助手「……え?」


助手「それはどういう」

魔女「ん、待て、来客だ」

助手「えっ」

魔女「早いな……いつもならもっと遅いけれど……まあいいか」

魔女「助手くん、どうやら、もう来たようだ」

助手「え、ともう来たって……」

魔女「私の同期だよ。あと、こっちの世界の事は彼女が教えてくれる。前に話したのは、まぁ、忘れてくれ」

助手「は、はぁ……わかりました」

魔女「ああ、それともう一つ」

助手「はい?」

魔女「彼女は、なんというか、煩い」


――――一階

ガチャ

魔法使い「おっはよー!」

魔女「ああ、相変わらず君は朝から元気だな」

魔法使い「そう言う魔女は相変わらず暗いねぇ。徹夜でもした?」

魔女「私はいつも通り……いや、いつも通りではないな」

魔法使い「ん、あぁ、彼ね」

助手「あ、えっと僕は」

魔法使い「あははっ、大丈夫。君のことはもう魔女から聞いてるよ。人間がこっちに紛れ込むなんて、珍しいねぇ」

助手「あぁ、やっぱりそうですか……珍しいですか」

魔法使い「うん。珍しい、というか、まだ君で二人目。前に一人いたけれど、それもずっと前の話だし、すぐに委員会に捕らえられたらしいしねぇ……」


魔法使い「あ、ねぇ、魔女。ご飯食べてっていい? 私朝食べてなくてさー」

魔女「ああ、構わない。助手くん、悪いけど、作ってやってくれないか? 何か適当に」

助手「え、あ、わかりました」

魔法使い「えっ! もしかして料理できるの? すごーい!」

助手「出来るといってもそこまで本格的なものは作れないというか……。そんな位ですけど」

魔法使い「それでもすごいよ! 私達料理苦手だからさー。羨ましいなあ」

魔女「ちょっと待て。何故私が出来ないことになっている」

魔法使い「え、だって作ってるとこ見たことないもん」

魔女「ふふん、これでも少しは作れるのだぞ? 助手くんと比べれば劣るが、君よりは出来る」

魔法使い「そ、そんな……バカな……。なんて、遊びはこれくらいにして、初めまして、助手くん。私は魔法使い。彼女、魔女とは同い年で友達だよ」

助手「あと、初めまして」

魔法使い「さて、魔女から言われたようにこの世界のことを教えたいんだけど……その前にさ」

助手「?」

魔法使い「朝ご飯、作ってくれない? 私、今日は本当に朝食べてないの」


――――二階

魔法使い「……本当に料理できるんだね、助手くん」

助手「いやぁ、別にそれ程でも……」

魔女「さて、助手くんは魔法使いに色々教えてもらうといい。私は下にいるよ」

魔法使い「お、依頼の続きー? 毎日毎日忙しいねぇ。哀しくなるよ」

魔女「構わないよ。それに君は毎日暇だろう? 悲しく思うよ。このご時世、未だ働いたことがないというのは生活的にキツイと思うが?」

魔法使い「う、うるさーい! わ、私だって先生になる為に今頑張って勉強してるんだからぁ……うぅ……人が気にしてるのにぃ……うぁ」

助手「うわっ、ちょ魔女さん! 泣き始めましたよ!」

魔女「静かになって丁度いい。じゃ、私は仕事してくる」

助手「あぁもうなんで放ったらかしに……あの、魔法使いさん? だ、大丈夫ですか?」

魔法使い「…………だいじょーぶ……ぅ」グスッ

助手「あの、話は落ち着いてからでいいですから、まずは、泣き止んでください」

続き明日です


助手「……美味しそうに食べますね」

魔法使い「何言ってんの。美味しいから美味しそうに食べてるように見えるんじゃない?」

助手「いや、何か、本当に魔女さんと同期なのか疑ってしまうくらいです」

魔法使い「あはは、魔女は精神的にずっと前から大人だったから仕方ないんだよ。……そういえば助手くんはいくつなの?」

助手「え、僕は二十一歳ですけど」

魔法使い「……あっはっはははは!! まだまだ赤ん坊くらいの歳じゃない! 嘘ついてるんじゃないの?」

助手「そ、そんなわけないです! 嘘なんてつくはず……え? もしかして……魔法使いさん、失礼ですけどいくつでいらっしゃいますか?」

魔法使い「私? 百四十五歳。魔女も同じだよ」

助手「……えっ!?」

魔法使い「……あ、そっか。私たちと人間じゃ、成長速度が違うのかも」

助手「……百四十五って……えぇ……」

魔法使い「まあとにかく、私はすごい年上ってことだね」フフン


魔法使い「さて、えぇと、助手くん。魔女からこの世界のことを説明しろと言われているんだ。だからできるだけちゃんと説明するけれども……分かりにくかったらごめんね」

助手「大丈夫です。分からなかったら、質問とかしていいですか?」

魔法使い「うん! さてじゃあまず大事なことなんだけど……魔女から薬とか渡されてない?」

助手「え……いや、記憶にないですけど」

魔法使い「そ、なら丁度良かった。この世界に住むにあたって、とても大事な事でね。えーと、これ」スッ

助手「ん、と……この瓶の緑の液体は、毒ですか? えっこれ飲むんですか?」

魔法使い「薬だよ、毒じゃない。これは『翻訳薬』って言われてるもの。これを飲むとあら不思議! 相手が誰でも自分が一番聞き取りやすい言語に翻訳されて聞こえるようになるの。あ、でも動物には効かないよ」

助手「! そんな物が存在するんですか。で、その薬を何で」

魔法使い「君にあげるよ。言語が通じないと、とても不便だからね。あ、この薬、効果は一生続くからまた飲むとかないよ」

助手「あ、ありがとうございます! 飲んでもいいですか?」

魔法使い「あ、うん。いいけどちょっと水を」

助手「では、いただきます!」

魔法使い「あ」

助手「! うぉえ! にっがっっっ!!! みみみみみ水水水!!!」

魔法使い「ああもう最後まで聞かないと……」


魔法使い「助手くん。説明は最後までしっかりと聞いてよね。じゃないとさっきみたいに酷いことになっちゃうから」

助手「肝に銘じますすいませんでした」

魔法使い「うん、さて、じゃ話をしよう」

魔法使い「この世界は裏世界って呼ばれてるのは聞いたかな」

助手「あ、はい、聞きました。僕が住んでた世界と違ってファンタジーだな、って思って」

魔法使い「ファンタジー? ……えと魔法とかモンスターとかが蔓延る世界って」

助手「聞きました」

魔法使い「なら話はすぐ終わりそうだね。まずこの世界、裏世界について」

魔法使い「裏世界には様々な種族が住んでいるの。私たちみたいなのは魔法人族っていう種族。ほかには獣人族や竜人族、妖精族さらには小人族巨人族まで」

魔法使い「だけど、唯一その大本である人間が住んでいない。この裏世界では、人間という種族が一番弱かったから、真っ先に根絶やしにされてしまったの。昔の話ではね」

助手「…………」


助手「……あの」

魔法使い「ん?」

助手「根絶やしにされたって、一人残らず殺されたんですか?」

魔法使い「うん。もう君以外に生きてる人間はいないんだよ」

助手「そう……ですか」

魔法使い「さて、裏世界ではこの人間がいなくなったことから異種族間不可侵の法律を制定したんだ」

魔法使い「みんななかよく」

魔法使い「こうして今のように和気藹々と過ごせるようになったんだよ」

助手「あの、裏世界にもやはりそう言う、なんていうか世界のトップがいるんですか」

魔法使い「トップはいないけど、そういう組織はある。この世界は裏世界委員会、っていう組織があって、各種族の長が集うんだ」

魔法使い「魔法人族、妖精族、巨人族、竜人族、獣人族、戦乙女族、あと種族じゃないけど動物達」

助手「動物までも……」

魔法使い「で、これら七つの種族の長が集まって話し合うの」

魔法使い「中でも妖精族は現代魔法の最先端を行く種族でこの委員会で最も権力を持つと言われてる。戦力も高いしね」


魔法使い「……さて、次は君の話。魔女によると四日前に倒れていたらしいね」

助手「はい、あんまり覚えてないですけど」

魔法使い「君はとても運が良かったよ。魔女が助けてくれたんだからさ」

助手「?」

魔法使い「もし人間が裏世界にいるなんてバレたら委員会に報告されていたかもしれない。そしたら君はこんな風に自由に生きられなかったかもしれないね」

助手「っ……そう、ですね」

魔法使い「……まあ、つまりね。裏世界は君にとって、人間にとってとてもとてもとっても、危険なところなの。そのへんは本当に注意してね」

魔法使い「多分魔女のことだからそんなことはしないと思うけど、一応自分でも警戒しておいて」

助手「……分かりました」

魔法使い「よし」


魔法使い「じゃ、最後に魔女の話ー」

助手「魔女さん、ですか?」

魔法使い「うん。一番近くで見てきたからね。同じ学校で」

助手「あ、そうでした。魔法使いさんと同期だって言ってましたよ」

魔法使い「うん」

助手「あと、魔女さん、ギリギリで首席で卒業したって言ってました。すごいんですね魔女さんって」

魔法使い「……うん。本当に本当に魔女はすごいよ。でもね、ギリギリで卒業じゃないよ」

助手「? それは」

魔法使い「確かに、私はギリギリで魔女に負けたんだけど、それはたった一つの学問の話であって」

魔法使い「魔女はその学校で学ぶ魔法学、生物学、薬学、応用薬学、社会学諸々、全てを首席で卒業したんだよ」


助手「…………」

魔法使い「今だって、依頼は完璧にこなしてここの薬屋はものすごく信頼されてるの」

魔法使い「勿論、今までは魔女一人だけでやってた。一人だけでここまでやってのけた」

魔法使い「助手くんにはね」

魔法使い「その、魔女の努力の証を、多くの信頼を、踏みにじらないで欲しいな」

助手「っ……」

助手「……分かりました。僕、これからちゃんと、魔女さんのために働きます!」

魔法使い「うんうん。よろしい」

魔法使い「さて、じゃあ私は役目を果たしたことだし、帰ろっかな」

助手「あ、あの!」

魔法使い「ん?」

助手「……何から何まで、こんな人間の僕に、ありがとうございました」

魔法使い「いいっていいって。魔女の頼みなんだし、お礼なら魔女にも言ってあげてね」

魔法使い「じゃあね」

続き明日です


魔女「む、終わったのか。結構早かったな」

魔法使い「まぁね。彼、飲み込みが早かったから、スムーズに話せたよ」

魔女「そうか。魔法使いに頼んで正解だったよ。私は教えるのが下手でなぁ。ありがとう」

魔法使い「あら、礼を言うなんて珍しい。私が魔女にお礼を言われるなんて、何日ぶりかな」

魔女「さあね。私はお礼はよく言われる方だから言ったことは覚えてないな」

魔女「あ、魔法使い。もしかして変なこと吹き込んでないだろうな」

魔法使い「あはは、そんなことはしてないから安心して。もし何か用があったらまた呼んでよ。何ならまた助手くんに教えに行くよぉ?」

魔女「ふふ、ああ、そうだな。その時があるのか分からないが、よろしく頼むよ」

魔女「じゃあ、私はまだ続きだから」

魔法使い「うん。じゃあね」


――――一階

助手「魔女さん、仕事の方は……」

魔女「やあ、助手くん。もう少しで完成しそうなんだ。それより、魔法使いから教えてもらったかな?」

助手「あ、はい! ちゃんと教えてもらいました。あ、あと」

魔女「ん? なんだい」

助手「僕に、こんなに……色々なことを教えていただき、ありがとうございます!」

魔女「……ふふ」

助手「これから、ちゃんと働きますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

魔女「うむ。こちらとしても、君にはしっかりと働いてもらわなければ困るからね。これから頼む」

助手「はい!……あ、ちょ、魔女さん。その、液体が緑色に変化して」

魔女「お、これは…………うん。成功のようだ。無事に成功してよかった」

助手「流石ですね! ……そういえば、今は何を造っていたんですか?」

魔女「これは、若返りの薬だよ。造るのがとても難しい薬でね……三日もかかってしまった」

助手「え……わ、若返り……ですか」

魔女「ああ。そうだ……助手くん、使ってみるか?」

助手「い、いやぁ……遠慮しておきます……」

魔女「さて……と、ふわぁ……」

助手「うわ、眠そうですね。大丈夫ですか?」

魔女「うーん……助手くん。私は……先に……眠る……よ」

助手「うわっと、危ない!……ふぅ、まさか立ったまま寝るとは……このまま魔女さんの部屋のベッドまで運びますね」

魔女「すー……すー……」


――――翌日

魔女「……ん」パチ

魔女「……朝、か」

魔女「ここは……私の部屋? どうして……あ」

魔女「助手くんが……ここまで運んできてくれたのか」

魔女「……ふふ」

魔女「やはり、彼を選んで正解だな」

魔女「さて、助手くんを起こさないと」


魔女「助手くん。少しついてきてくれ」

助手「はい。あ、もしかして仕事のことですか?」

魔女「ああ。これから昨日の若返り薬の最終チェックだよ」

助手「分かりました。それで、どこに行くんですか?」

魔女「地下だ」

助手「地下……があるんですか」

魔女「ああ。階段の横に蓋があっただろう。そこを開けると地下へ続く階段があるんだ」

助手「あ、あの蓋はそれで……」

魔女「では、行こうか」


――――地下

助手「薄暗い……けど、ちゃんと電気はあるんですね」

魔女「一人だけでここを通るのは最初怖かった思い出がある。助手くんは、そういうのは平気なのか?」

助手「あー、まあ、ホラー好きですからね。あっちではよくそれ系の映画見てました」

魔女「そうか。まだ耐性があるようで良かったよ」

助手「? 耐性って」

魔女「ほら、あれを見てくれ」

助手「えっ、と……ガラス張りの部屋? ですか?」

魔女「ああ。けど、それだけじゃない。中を見れば分かるよ」

助手「中……」

ドンッ

助手「っうわ! 中、から音が!魔女さん!」ビクッ

魔女「大丈夫。ガラスは魔法で強化してあるから絶対に割れない。まあ割れても私がいるから大丈夫だ」

助手「え、えっと、あれは一体」

魔女「ゾンビだよ。これから実験だ」


助手「ゾ……ゾンビですか」

魔女「うむ。実は、ゾンビという種族は薬屋の間ではとても有名でね。ゾンビに効く薬は全ての種族に効用があるとされている。原理は分からない」

助手「……そう、なんですか」

魔女「? どうかしたかい? 嫌そうな顔だね」

助手「……あまり、人体実験は気が進まないと言いますか……。多分、この世界では 容認されているんでしょうね。あっちの世界では禁止でしたから」

魔女「ああ、そうか。分かった。けれど、申し訳ない。これをやめることは出来ない。私が薬屋を続けるために必要なことなんだ」

助手「……そうですよね。知ってました……」

魔女「見たくないならば見なくてもいいよ。まあ、今回のは若返りだからそれ程刺激はないけどね」

助手「いえ、大丈夫です。僕は、魔女さんの助手ですから」

魔女「……そうか。では、始めるぞ」


助手「……えーと。あまり変化無いようですが……もしかして、しっぱ」

魔女「いや、大丈夫。成功しているよ。あまり、変化ないように見えるけれど、確かに効いている」

助手「そう、ですか。何ていうか、分かりにくいですね」

魔女「元々、顔が崩れているように見えるからね。よく見ないと分からないよ」

助手「……んー。僕ではよく見ても分からないですね」

魔女「まあ仕方ない。これから慣れていけばいいよ。それより、とりあえず実験は成功したから……今日の昼後だね」

助手「? 何かまたあるんですか?」

魔女「依頼者だよ。今から連絡して、多分昼過ぎくらいに来る。そうだ、その時に助手くんのことも紹介しよう。一応、常連の客だからね」

助手「わっ、分かりました」

魔女「あ、あと、多分大丈夫だと思うけれど、姿を見て驚かないように」

助手「えっ、わ、分かりました」

続き明日です


――――昼

魔女「……助手くんは、作れる料理のレパートリーがたくさんあるな」モグモグ

助手「あー、まあ、はい。向こうじゃ一人暮らしでしたので、料理をするのが楽しい時期があってその頃によく色々なものを作っていました」

魔女「……ふむ。私じゃ、料理で助手くんに敵わないな。素直に降参する」

助手「い、いやいやそんな! 僕だって、料理以外じゃ敵わないと言いますか、何なら魔女さんだってすぐに作れますよ!」

魔女「ふふ、だといいけれど。そっちの世界の料理はこっちじゃ作り方が知られてないからね。作り方が無ければ作ろうにも作れない」

助手「あ、じゃあ……あの、教えましょうか? こんな僕でよろしければ。あの、魔女さんの役にも立ちたいですし……」

魔女「……それじゃあ、忙しくない日に、教えてもらおうかな」


ガチャ

魔女「やあ、割と早かったね。もう少し遅いと思っていたよ」

騎士「そのようですね。昼食の直後でしたか。もしや、お邪魔でありましたか?」

魔女「そんなことは無い。私はいつでも、依頼者歓迎だからね」

騎士「そうですか。ありがとうございます。それで、ええと、そちらの方は」

助手「あ、あの」

魔女「今日紹介するつもりだったんだ。私の助手。つい最近のことだから、知らないだろう?」

助手「は、初めまして。助手と言います。まだ、右も左も分からないですけど、よろしくお願いします!」

騎士「……彼は、もしや人間ですか?」

魔女「ああ、人間だよ。珍しいだろう? いや、見るのは初めてかな」

騎士「そうですね。見るのは初めてです。ええと、助手さんでしたね。今後とも、よろしくお願いします」

助手「あ、えっと、はい。よろしくお願いします」


騎士「魔女さん、依頼した物は……」

魔女「ああ、少し待っていてくれ。取ってくるよ。何なら助手くんと話していてくれ」

助手「えっ」

騎士「はい。お願いします。ええと、助手さん」

助手「あっはい。あの……」

騎士「申し訳ありません。きっと、この姿に驚いたでしょう」

助手「いえ、そんなことは……」

騎士「大丈夫です。このようにフルアーマーでは、初めてお会いする方には珍しさからよく驚かれるのですよ」

助手「そ、そうなんですか。……えっと、なぜ取らないんですか? もしかして、体に酷い傷があるとか……?」

騎士「いえ、別に隠すためにしているのではありません。仕方がないのです」

助手「仕方がない? とは」

騎士「実際見てもらった方が早いのですが……このように、中身は空なのですよ」

助手「……えっと、一体ど、どういうことで」

騎士「私は、ただの、魂だけの存在なのです。その魂で鎧を繋ぎ留めているのです」


騎士「私をお造りになったのは死霊術師である、現在の私のご主人です。この鎧も、ご主人が人から貰ったものだと聞いています」

助手「え、その死霊術師というのは、魂を操ることができる、ということですか?」

騎士「厳密に言えば違うでしょうけれど、そのようなものです」

騎士「私は元々魔法人族でしたが、ある時戦乙女族の者に会い、武器について学び、武器に興味が湧きました」

騎士「ある時、私は不注意でその戦乙女族の者を殺してしまい、そして処刑されました」

騎士「しかし、魂となった私は今の主人に捕まえられ、この鎧に入れられました」

騎士「以来、私はこの剣で主人をお守りしているのです」

助手「……そうだったんですか」

助手「あれ、そういえば、騎士さんはどうやって話しているんですか? 声帯が無いので、声は出せないのでは」

騎士「ああ、私は声を出してはいません。主人が言うには、私は超音波を出していて、それを聴いた者は頭が声と判断しているのではないかと」

助手「んー、不思議ですね」

騎士「この世界では不思議なことなんて、たくさん起こりますよ。あなたがこの世界に来たこともですしね」


魔女「やあ、お互いの自己紹介は済んだかな? そうなら手間が省けて丁度いい」

騎士「その袋の中にですか?」

魔女「ああ。量も前回と変わらない。よろしく言っておいてくれ」

騎士「勿論です。私のご主人も、いつかここに顔を出したいと仰っていましたので、その時にはまたよろしくお願いします」

助手「あの、お話、とても楽しかったです。ありがとうございました」

騎士「いえ、こちらこそ。楽しい時間が過ごせました。もし何かあれば言ってください。できる限り力になりますよ」

助手「はい!」

騎士「ではまた」

ガチャ


魔女「随分と親密な関係なったようで何よりだよ。少し心配していたが、あの様子を見る限り、大丈夫なようだ」

助手「あの人、誰にでもあんな感じ何ですか? 常に敬語で、礼儀正しい」

魔女「私が彼に会って以来、一度も敬語を外したことは無かったよ。果たして自分の意思なのか死霊術師に教え込まれたのか、分からないね」

助手「……何ていうか、すごいっていうか、そんな気分です」

助手「あ、あと、この世界では、フルアーマーの鎧って、よく売ってる物なんですか? 騎士さんが身に付けているような」

魔女「……いや、この辺ではあまり話は聞かないな。戦乙女族の方ならばそういう物はあるんじゃないかな。どうしてだい?」

助手「いえ、何か、あの鎧どこかで見たような気がするんです。んー……」

魔女「……ふふ。助手くんは、考えている仕草が面白いな。見ていて可愛いと思うよ」

助手「か、可愛いって……何か酷いような……」

魔女「すまない、男性相手に可愛いは失言だったね。しかし……ふふ、思い出しても笑えてくる」

助手「なっ、そ、そんなに変でしたかその時の僕! うわ、恥ずかしくなってくる……」


魔女「まあ何にせよ、仲良くなって良かったよ。向こうも敵対心は無いように見えるしね。君の優しさが為せる技? なのかな?」

助手「や、優しさ?」

魔女「騎士は相手との距離感を常に意識している。私でさえ、軽い世間話しか話さない」

魔女「だと言うのに、君に至っては初対面で自分のことを話して、その上力になると言っていた。騎士は、君とはより良い関係を築きたいと考えてるんじゃないかな」

助手「……」

魔女「ん? どうかしたかな助手くん」

助手「い、え。こういう気持ちは初めてで……。前の世界では会う人会う人あんな優しくされたことは無かったので……」

魔女「……君が住んでいた所は酷い所だったのか?」

助手「いえ、そういうことはなかったですけど……こっちの世界の方が住み良いというか……」

魔女「ふむ、まあ。助手くんが喜んでくれるなら何よりだよ。さて、夕飯の支度をしよう。助手くん、今日も頼むよ」

助手「はい!」

続き明日です


――――数日後

魔女「助手くん。今日は一人で配達に行ってきてくれるかな」

助手「えっ、一人で、ですか?」

魔女「前までは私は助手くんを紹介するためと、慣れさせるために一緒に行っていたけど、今日は私の方でも仕事があるからね……」

助手「え、えっと」

魔女「大丈夫。場所は前に行った死霊術師の所。今月は薬の消費が速くてね。多分騎士がいるだろうから安心していい。これが、今日届けてもらう薬だ」

魔女「あ、そうそう。助手くん用にペンダントを買っておいたから、これを着けて行くといい」

助手「ん、と、これは」

魔女「『目除けのペンダント』と言って、これをつけている間は他人から視認されないという物だ。ただしじっくりと見られると姿が分かってしまう。まあ、今日は配達だから多分大丈夫だろう」

助手「あー、えっと、じゃあ。行ってきます」

魔女「うむ、行ってらっしゃい。あまり長居はしないように」

助手「はい、気をつけます」

ガチャ


――――家の前

助手「さて、ペンダント外してっと」カチャ

コンコン

助手「すいません、薬屋の者ですけど、配達でやってきました」

助手「…………」

助手「……あれ」

助手「すいません、誰かいらっしゃいますか?」

助手「…………」

助手「……誰も居ないのか? でも魔女さんは騎士さんが居るって」

?「……ぁ……」

助手「でも、人がいないからって帰るのも……」

?「…………あの」

助手「……ん? 今確かに声が」

?「あ……あの。すいません」

助手「あ、え、あ! ご、ごめんなさい! も、もしかしてこちらの家の方でしたか?」

?「あ……はい」


助手「……はー、良かった。丁度いいところだった」

?「…………?」

助手「あ、あの僕魔女さんの薬屋から配達で、ええと薬を、届けに来たんですけど……」

?「……もしかして」

助手「知ってましたか? 配達の話」

?「騎士に……頼んだから」

助手「あぁ良かった。これ、約束の薬です」スッ

?「……ありがとう」

助手「では、僕はこれで失礼します。また薬屋を利用してください」

?「あ……待って」

助手「? はい」

?「せっかく……ここまで来たから……中で……ゆっくり」

助手「あー、でも、魔女さんに長居はするなと」

?「いいから……魔女には……言っておく」

助手「……なら、お言葉に甘えて、失礼します」


――――家の前

?「そこ……座ってて」

助手「あ、はい」

?「……お茶……淹れてくる」

助手「あ、ありがとうございます」


――――家の中

?「そこ……座ってて」

助手「あ、はい」

?「……お茶……淹れてくる」

助手「あ、ありがとうございます」

>>49
ミスです


?「……どうぞ」コト

助手「あ、ど、どうも」

?「……君は……人間?」

助手「そ、そうですけど……」

?「…………」

助手「ええと、騎士さんは居ないんですか? 魔女さんによるとこのじかんは居ると聞いたんですが」チラ

?「……きっと上で寝てる……呼んでくる」チラ

助手「え! いやそんな……ね、寝てるなら仕方ないで」

?「いい……普通なら起きてる時間……だから」

?「お仕置き……しないと」

助手「え、お仕置きって……行っちゃった」

続き明日です


騎士「……申し訳ありません。魔女さんからは事前にこの時間だと連絡が来ていたというのに」

助手「いえいえ、気にしてないです。こちらこそ、休みの邪魔をしたみたいですいません」

?「謝らなくていい……これは騎士の失態……申し訳ない……」

騎士「すいませんでした」

助手「あ、あのそれよりも」

騎士「? どうかしましたか?」

助手「いや、その……言いにくいんですけど……まだこちらの方のお名前を伺ってなくて」

?「……あ……まだ言ってない」

助手「あ、と。僕は助手と言います。魔女さんの薬屋で最近働き始めまして」

?「……魔女が……?」

騎士「どうやらそのようなのです、言ってませんでしたね。つい先日、私が薬屋なお邪魔した時には既にいらっしゃいました。それより、ご主人も自己紹介をされては」

助手「ごっ、ご主人……?」

?「……うん」

?「……私は……死霊術師」

死霊術師「ここには……たまにしか帰らないけど……よろしく」


騎士「……申し訳ありません。魔女さんからは事前にこの時間だと連絡が来ていたというのに」

助手「いえいえ、気にしてないです。こちらこそ、休みの邪魔をしたみたいですいません」

?「謝らなくていい……これは騎士の失態……申し訳ない……」

騎士「すいませんでした」

助手「あ、あのそれよりも」

騎士「? どうかしましたか?」

助手「いや、その……言いにくいんですけど……まだこちらの方のお名前を伺ってなくて」

?「……あ……まだ言ってない」

助手「あ、と。僕は助手と言います。魔女さんの薬屋で最近働き始めまして」

?「……魔女が……?」

騎士「どうやらそのようなのです、言ってませんでしたね。つい先日、私が薬屋なお邪魔した時には既にいらっしゃいました。それより、ご主人も自己紹介をされては」

助手「ごっ、ご主人……?」

?「……うん」

?「……私は……死霊術師」

死霊術師「ここには……たまにしか帰らないけど……よろしく」


助手「……あなたが、死霊術師さん、ですか?」

死霊術師「……? そう……だけど」

騎士「どうかしましたか?」

助手「いや、てっきり男性の方かと勝手に思っていたので」

騎士「そういえば、君は人間の世界から来たんでしたね。もしや、そちらの世界では死霊術師は男性というイメージがあったのでしょうか?」

助手「はい、そうです」

死霊術師「それは間違い……女の死霊術師もいる」

騎士「ただ、ご主人は死霊術師としてのスキルが非常に長けており、現在では数多くいる死霊術師の中でも十指に入ると言われています」

死霊術師「でも……私自身は……弱い」

騎士「なので、普段外に出る時は常にフードのついた長めのコートを着用しておられます」


助手「あ、じゃあもしかして少女の姿でいるのも……」

死霊術師「……いや……それは違う……私はまだ少女」

助手「あ……すいません。また勝手に思い込みを」

死霊術師「構わない……初対面なら……よく間違われる……から」

助手「あ、じゃあ魔女さんと知り合ったのはいつなんですか?」

死霊術師「……忘れた……? 騎士……分かる?」

騎士「確か、私をお造りになった少し前のはずなので……十年ほど前のことだと思われます」

助手「十年前、か。付き合い長いですね」

死霊術師「……? 全然少ない……はず……」

助手「あ、ごめんなさい。僕の世界では、長い付き合いだと思います」

騎士「こちらの世界と、あなたが住む世界では、時間の価値観がまるで違うようですね」

助手「はは、そうですね」


助手「うわ、結構長居しちゃってる……」

死霊術師「……もう……帰る?」

助手「……はい、そうですね。そろそろ帰ります」

死霊術師「……送る」

助手「え?」

死霊術師「……帰り……送る」

助手「え! いやそんな大丈夫です。一人で帰れますから」

死霊術師「いや……送る。騎士……留守番……頼む」

騎士「はい、承知しました」

助手「えっ、その」

騎士「申し訳ありません、助手さん。ご主人の言う通りにしてもらえると有り難いのですが……」

助手「……わ、分かりました」

助手「あの、死霊術師さん。お願いします」

死霊術師「……うん」


助手「…………」

死霊術師「…………」

助手「……あ、あの」

死霊術師「……ん」

助手「何故送る何てことを」

死霊術師「……私は……人間を……人間というものを……全く知らない」

死霊術師「だから……知りたい……それだけ」

助手「……それだけ? ですか」

死霊術師「……うん……」

助手「……あ、では、また配達の時に行きますよ、あの家に。魔女さんに頼めばきっと」

死霊術師「その必要は……ない」

助手「……え?」

死霊術師「私も……あの薬屋に……住む……から」

助手「……………………」

助手「え?」

続き明日です


――――薬屋

助手「ただいま、戻りました」

魔女「やあ、助手くん。遅かったね。長居はしないようにと忠告しておいた筈だが?もう夕食近い時間だよ」

助手「連絡って来てないですか?」

魔女「来ていない」

助手「え、連絡してなかったんですか?」

死霊術師「…………忘れて……た」

助手「ちょ」

魔女「ん? 助手くん、まさか誰か連れてきたのか?」

助手「あの、ええと……はい」

死霊術師「……久しぶり……魔女」

魔女「……ふふ、やあ、久しぶり。死霊術師じゃないか。最近まで遠くに行っていた君が何故この街に。それに、助手くんと一緒に帰ってくるとはね」

助手「あ、あの、それが」

死霊術師「ここに……住むって……決めたから」


魔女「……ふ、ふ、ふふ。一体何を」

死霊術師「ここに住む……これから……よろし」

魔女「そうじゃない! 唐突にも程がある。私は初耳だし、住むと言われても」

死霊術師「……?」

魔女「……助手くんは、薬屋で働いている為にここに住まわせているだけだ。死霊術師には住まわせる理由が無い。それに」

死霊術師「生活費なら……ちゃんと払う……から」

魔女「……それは本当か? いくらまでなら払う」

死霊術師「……言い値で」

魔女「契約完了だ」

死霊術師「……ん」

助手「早っ! 金の問題だったんですか」

魔女「それが一番の理由だよ。三人じゃ、流石に生活費がかかる。二人なら何とかなるけれどね」

助手「なるほど……て、他に理由があるんですか?」

魔女「ああ、そうだ。もう一つ重大な理由があるけれど……まあこれは大丈夫だろうから」

助手「重大な、理由?」

魔女「死霊術師を泊める部屋が無い」


助手「そ、それはとても重大過ぎる理由ですよ!」

魔女「うむ、ただ、私の部屋は狭いからな……」

助手「……ん? え」

魔女「助手くんの部屋に泊めてくれ。もともと物置のような部屋だった助手くんの部屋なら二人は寝れるだろう」

助手「いっ、いやいや! 流石に男女で同じ部屋で寝る訳には」

魔女「別に、助手くんなら信用できるし、死霊術師だって気にはしないはずだ。そういうのには疎いからな」

助手「え、ええと、死霊術師さんは」

死霊術師「……私に……決定権はない。眠れるならば……どこでもいい」

魔女「では、決まりだ。助手くん、死霊術師のこと、よろしく頼む」

助手「そ、そんな、唐突に言われても……」

死霊術師「……助手……くん」

助手「え、はい?」

死霊術師「迷惑かける……申し訳ない。……でも……これからよろしく」

助手「……は……はい。よろしく、お願いします」


魔女「ところで死霊術師。家にいる騎士にはちゃんと言ったのか?」

死霊術師「……ぁ……言ってない」

魔女「…………はぁ、まったく。後で連絡しておくように。助手くんに変な疑いが出てしまうと困る」

助手「あ、あのう」

死霊術師「……? 何……?」

助手「いえ、引っ越すならば荷物が必要では? と思ったんですけど、荷物はどうするんですか?」

死霊術師「……考えて……ない」

魔女「……まさか、服が無いというのか?」

死霊術師「……うん」

魔女「……仕方ない、あとで一着貸そう。夜はそれを着て寝てくれ」

死霊術師「……分かった」

魔女「ふむ、そろそろ夕食の時間かな。助手くん、頼むよ」

助手「分かりました」


――――夕食

死霊術師「……美味しい」

助手「ありがとうございます。まだ何か食べたいならば作りますよ」

魔女「ありがとう。私も最初は食べて驚いたよ。今まで私が作っていたものより遥かに美味しくてね」

死霊術師「……私も……驚いた……美味しい」

魔女「ここ数日何も食べてなかったような食べ方だな。そんなに仕事が忙しかったのか?」

死霊術師「忙しかった……けど……たいしたこと……なかった……から……平気」

魔女「ここに住んで、これからどうするつもりなんだい? 仕事を続けるならば、なるべく店に迷惑がかからないようにしてくれるとありがたい」

死霊術師「大丈夫……仕事は……休み。……だから……学ぶ」

魔女「学ぶ? 今度は何をだい?」

死霊術師「……人間」


魔女「そうか。それは丁度良かった」

魔女「しかし、知ってから助手くんを利用するならそれは止めて欲しい」

魔女「助手くんは、この薬屋の助手だからね」

死霊術師「……分かってる……そんなこと……しない。あくまで……興味の範疇」

魔女「ならいい。助手くん、私はそろそろ仕事に戻る。助手くんも食べるといい」

助手「分かりました。死霊術師さんは」

死霊術師「……もう少し食べる」

魔女「すまないね、助手くん。どうやらここ数日あまり食べてないようでな」

死霊術師「……申し訳ない」

助手「大丈夫です。作った料理を食べてくれるのはこちらとしても嬉しいですから」

続き明日です


――――二階 助手の部屋

助手「死霊術師さんはどうぞ、ベッドのほうで寝てください。僕は床に寝ますから」

死霊術師「……だめ……助手くんが……ベッドで寝て」

助手「いや、どうやら凄くお疲れ気味ですし、今日だけでもベッドで」

死霊術師「……でも」

助手「僕のことはいいですから」

死霊術師「……分かった。でも……明日は……逆で寝る」

助手「ありがとうございます。では、先に寝ていて下さい。僕はちょっと下に」

死霊術師「? ……何か……用事? 私も……手伝う?」

助手「いえ、一人でいいです。先に休んで下さい」

死霊術師「…………」


――――一階

魔女「すー……すー……」

助手「うぁ、もう寝てる。完成しちゃってたかー。起きてたら良かったのに……。まあいいか」

助手「……お疲れ様です、魔女さん」

助手「よっ……と。起きてないかな?」チラ

死霊術師「…………」

助手「うわっ……し、死霊術師さん、でしたか。もうお休みになっていたかと」

死霊術師「……申し訳ない」

助手「……って、どうかしましたか? 喉乾いたとか……ですか?」

死霊術師「……違う……助手くんが……気になった……だけ」


助手「え、僕、ですか?」

死霊術師「……助手くんは……おかしな人……で」

死霊術師「……どの種族に対しても……差別とか……敵対とか……しない」

死霊術師「……人間は……皆そうなのか?」

助手「……皆が皆、そういう人って訳ではないです。中にはそういう……差別したりとか、戦う人もいます」

死霊術師「……でも……助手くんはそういうことを……しない……いい人」

死霊術師「……私は……」

助手「死霊術師、さん? どうかしましたか?」

死霊術師「……ううん……何でもない……先に部屋に……戻る」

助手「はい、僕も魔女さんを寝かせてから戻ります」


ガチャ

死霊術師「……助手くん」

助手「あれ、まだ寝てなかったんですか」

死霊術師「……もう寝る……から……おやすみ」

助手「……はい、おやすみなさい」

死霊術師「…………」

続き明日です


――――翌日

魔女「昨日考えたけれど、私と助手くんで移り変わることも出来るが……このままで問題ないようで何よりだ」モグモグ

死霊術師「……平気」モグモグ

魔女「ところで、助手くん。今日も配達に行ってもらおうと思う。二日連続で悪いね」

助手「いえ、大丈夫です。お店の為ですから」

魔女「……ふふ。お店の為、か」

死霊術師「……?」チラ

魔女「いや、なに。助手くんも、この店に馴染んできたのだな」

助手「そうなら嬉しいですね。……まだ食べますか? 何かリクエストがあれば」

魔女「いや、私はもういい。仕事の続きがあるのでな」

死霊術師「……私も……十分」


魔女「では、今日も頼むよ、助手くん。昨日渡したペンダントは……あるみたいだね」

助手「はい、今日の薬も持ったので大丈夫です」

死霊術師「……私も行く?」

助手「いやいや、わざわざ来なくても、一人で平気です。道も覚えてますし」

死霊術師「……でも」

魔女「死霊術師は心配し過ぎだ。人間であるが、私の助手だ。簡単に危険に晒すことなんてしないよ」

死霊術師「……頑張って」

助手「ありがとうございます。じゃ、行ってきますね」

魔女「ああ、すぐに戻ってくるようにな」

助手「はい!」

ガチャ


死霊術師「……魔女」

魔女「ん? どうかしたか?」

死霊術師「助手くんは……最初から……あんなにも優しい……のか?」

魔女「……そうだな、前に魔法使いが来た時も同じだったよ。あれ程までに優しい人は見たことがない」

死霊術師「……私も」

魔女「おや、世界中飛び回っている死霊術師もなのか?」

死霊術師「……仕事柄……優しい人には……滅多に会わない」

魔女「それもそうか。……そう言えば、他の眷属の奴らはどうしたんだ? ここ最近、騎士しか姿を見ないが……」

死霊術師「……仕事」

魔女「……成程、任せてきたのか。しかし、確か主人となる者が離れれば離れるほど、その眷属の実力は落ちるのではなかったか?」

死霊術師「……確かに、そう。けれど……騎士より強いのもいるから……平気」

魔女「……ならいいが」


魔女「では、私は本格的に仕事に取り掛かるが……死霊術師はどうする?」

死霊術師「……一度家に戻る……騎士に会ってくる……多分心配してる……から」

魔女「騎士は心配症だからな。きっと今頃、部屋でそわそわしているんじゃないか?」

死霊術師「……かもしれない」

魔女「昼には戻るようにな。助手くんに昼食を作ってもらうから」

死霊術師「……ん、分かった……じゃあ……行ってくる」ガチャ

魔女「ああ」

魔女「……さて、始めよう」


――――配達帰り

助手「んー、結構早く終わったなぁ」ノビー

助手「皆優しい人で助かった……委員会に突き出されずに済んでよかった」

助手「……ん……?」

助手「これは……?」


猫「…………」


助手「……猫? 一体どうして猫がって、怪我してるな」スッ

助手「と、取り敢えず病院……て無いのかこの世界には……」

助手「……魔女さんなら……」

助手「……いつも頼ってばかりだな僕」

助手「取り敢えず早く帰ろう」


――――薬屋

ガチャ

助手「ま、魔女さん!」

魔女「やあ、助手くん。お帰り、早かったね。そんな血相変えて入ってきて、一体どうしたんだい? それに、その手に持っているものは」

助手「あの! この猫、助けられますか!?」

魔女「……猫? って、あぁ、怪我しているな。成程……分かったよ」

魔女「助手くん、今から魔法を使って治すけれど、君は部屋にいてくれるかな?」

助手「えっ」

魔女「もしかしたら、魔法がただの人間である助手くんに何らかの影響を加えるかもしれない。だから、部屋にいてくれ」

助手「……分かりました。あの、お願いします」

魔女「回復魔法はあまり得意ではないが……最善を尽くすよ」

続き明日です


――――数分後

魔女「助手くん。もう来ていいよ」

助手「ど、どうですか?」

魔女「うん、まあ無事だ」

助手「……良かったぁ」

魔女「まだこんな珍しい動物がいたのだな……ふふ」

助手「? 珍しい? 猫がですか?」

魔女「いや違う。猫はこの世界でもよく見るよ。ただし、あの猫は違う」

助手「……? 違う、というのは?」

魔女「君は、助手くんは『九生の猫』という言葉は知ってるかな?」

助手「はい、でもあっちでは迷信とされていたんですけど」

魔女「あの猫は、その九生の猫だよ。先刻君が部屋に行ったすぐ後、怪我が原因だろうが死んでしまった」

助手「えっ!」

魔女「ただ、九生の猫というのはその名の通り九つの命を持つ。あの猫は死んだ後、体の傷が治り始め、今は息を立てて眠っている」


助手「……そうなんですか。九生の猫……」

魔女「今あの猫がいくつ目の命かまでは分からないけどね」

助手「……あの、魔女さん」

魔女「ん? なんだい改まって」

助手「あの猫、これからどうするんですか?」

魔女「……そうだな。見たところ野良猫の類だろう。自然に返すつもりだ」

助手「一緒に住むというわけには……」

魔女「……助手くんならそう言うと思ったが、流石に」

助手「お、お願いします! 何でもしますからっ!」

魔女「……何でもとは、その猫一匹にそんな言葉を使っていいのか? 何でもと言うならそうさせてもらうけれど……」

助手「覚悟はしてますから」


魔女「……ちゃんと世話をするなら構わない。九生の猫だから少しは利口だろう」

魔女「死霊術師にも後で言っておくことだ」

助手「ありがとうございます!」

魔女「……この薬屋も、なかなか賑やかになっていくな」

助手「あ……えと、魔女さんは、五月蝿いのは嫌いですか?」

魔女「別に嫌いではないよ。ただ、今では一人で暮らしていたのが懐かしくなってね……」

魔女「助手くんが来てから死霊術師が来て、そして猫が来て……全く、助手くんは本当に不思議な人だよ」

助手「…………」

魔女「しかし、こういうのは私は割と好きらしい」

魔女「助手くんが来てくれてよかったよ。ありがとう」

助手「…………」

魔女「これからもよろしく頼む」


猫「…………」

助手「……まだ寝てる」

魔女「九生の猫は死んでからまず身体の回復、そして体力の回復をするため、体力の消費量が多いと眠りも長い。元々野良らしいから、厳しい生活を送ってきたようだな」

猫「…………」

助手「…………」

ガチャ

死霊術師「……ただいま」

魔女「やあ、死霊術師。おかえり。騎士にはちゃんと話してきたかな。あと荷物も持ってきたか?」

死霊術師「……ちゃんと……してきた……もう平気」

魔女「ならいい。さて、じゃあ死霊術師も帰ってきたからそろそろ昼食にしよう」

助手「あ、はい」

死霊術師「……助手くん……ありがと」

助手「ああいえ、これも仕事の範疇ですから大丈夫です」

続き明日です


――――昼食

魔女「そういえば、助手くんが猫を拾ってきたんだが」モグモグ

死霊術師「……猫……好き」

魔女「そうか。もし苦手ならどうしたものか考えたが、よかったよ」

死霊術師「……猫……どこ?」チラ

助手「今部屋で寝ています。どうやら体力回復らしいので勝手に起こしたら可哀想かなと」

死霊術師「……猫」

魔女「ああそれと、その猫、珍しいことに、今時は見かけない九生の猫だったよ。野良だったが」

魔女「確か、前に死霊術師は九生の猫を連れていたな」

死霊術師「……ん……つい数年前……天寿を全うした」

助手「……そうだったんですか」

死霊術師「……悲しかった」

魔女「……大丈夫なのか? また猫と会っても」

死霊術師「……もう平気……気にしなくていい」


助手「九生の猫は何年ほど生きるものなんですか?」

魔女「……大体一つの命が二十年で尽きると言われているから、最高で二百年近くだろう。二百年生きる訳ではなく、二百年存在するという意味だがね。ちゃんとした暮らしをしていれば、だが」

魔女「野良なら一つの命で十四、五年は生きるんじゃないか?」

死霊術師「……私の猫は……一つの命……十八年程……だった」

助手「……じゃあ、この猫は僕より年上ですね」

魔女「その可能性は高いな。下手をすれば私よりも上なのかもしれない」

助手「……あの、僕、様子見てきます。もう昼食は……」

魔女「うむ、もう大丈夫」

死霊術師「……私も……もういい」


――――助手の部屋

猫「…………」

助手「……相変わらず、か」

死霊術師「……その猫?」

助手「あ、死霊術師さん。はい、この猫です。可愛いですよね」

死霊術師「……ん……可愛い」

助手「そう言えば、死霊術師さんの猫は何を食べましたか? こっちの世界の動物は何にも知らいので……」

死霊術師「……牛乳……とか?……あと猫用の食べ物……とか」

助手「あ、良かった。ちゃんとそういう物が売ってるんですね」

死霊術師「……助手くんの世界と変わらない……のか?」

助手「はい、僕の世界でも同じです。……あー、じゃあ買わなきゃいけないのか……」

死霊術師「……? ……困って……いる?」

助手「はい、人間の僕では買いに行っても、捕まってしまう可能性が……ありまして。どうしよう……か」


死霊術師「…………あ、の」

死霊術師「私が……行く」

助手「えっ、行ってくれるんですか!」

死霊術師「……私も……役に立ちたい……から……これくらいは」

助手「あり、ありがとうございます!」

死霊術師「……ん……じゃあ……今から行ってくる……から」

助手「お願いします! 助かります!」

死霊術師「……ぁ……助手くん」

助手「はい、何ですか?」

死霊術師「……温かい?」

助手「……? えーと、いきなり何ですか? 温かい?」

死霊術師「……何でもない……行ってくる」


魔女「おや、死霊術師。どこか出かけるのか?」

死霊術師「……うん……猫の……ごはん」

魔女「それなら助手くんに頼めばいいじゃないか」

死霊術師「……助手くんは……人間だから」

魔女「いや、実は常連の配達先に商店の人がいてね。そこならば多分人間である助手くんでも不自由なく買えるはずだよ」

魔女「助手くんに伝えてくるよ。死霊術師はそこで待って」

死霊術師「いい」

魔女「……いい?」

死霊術師「私が……行く。私も……役に立つって……助手くんに……言ったから」

死霊術師「私は……助手くんに……優しくされてばかり……だから……恩返し」

死霊術師「私が……行く」

魔女「……そうか。ならよろしく頼む」

死霊術師「……ん」ガチャ

続き明日です


猫「…………」ピク

助手「ん! 猫、今動いたか?」

猫「…………」パチ

助手「おぉ、目を開けた! やったやった、ちゃんと生きてた」

猫「……ニャア」チラ

助手「お、こっち見た。えっと、今日からよろしくね」

猫「……ニャア……ニャニャウ」

助手「何か喋ってる、のかな? ……えーと、ごめんね? 僕は猫の言葉分からないから」


猫「それなら心配ありません。私はこっちの言葉も話せるので」


助手「……! しゃ、喋ったぁっ!?」ガタッ

ドンッ

猫「はは、そんなに驚くことないじゃないですか」


魔女「助手くん、何かあったのか? って、尻餅をついてどうしたんだい」ガチャ

助手「ねっ……ねこが……」

魔女「猫? ああ、起きたのか。無事でよかった。どこも傷みは……無さそうだね」

助手「じゃないですよ! 今猫がしゃべ」

猫「ニャアッ!」ピョン

助手「わっ、いきなり頭に乗ってっ……」

魔女「ふふ、とても懐いているじゃないか。良かったな助手くん」

助手「そうじゃなくてですね!」

猫「ニャアッ」ガシ

魔女「では、これ以上邪魔をしたら申し訳ないね。これで失礼するよ」ガチャ

猫「……ふぅ、行きましたね。突然飛びかかったりしてすいません」ピョン

助手「何で言おうとしたのに邪魔するの!」

猫「いやまぁすいません。別に悪気はないんですよ。この事は本当は秘密にしておいて欲しいだけで」

助手「……この事?」

猫「私が言葉を話せるってことですよ」


助手「……君は何者?」

猫「私ですか? この通り猫ですよ。珍しい九生の猫ですが。あ、一つ質問があるんですが」

助手「え、し、質問?」

猫「ええ、私、もしかして死にましたか?」

助手「……僕は実際には見てないけど、魔女さんが死んだって言っていたから……」

猫「そうですか、やっぱり死にましたか。私はこれで、七つ目ですか」

助手「七つ目……って」

猫「命です。これで六回死にました」

助手「ろ、六回も? えっと、野良猫、だよね? そんなに死ぬものなの?」

猫「ええ。野良猫の世界じゃ、縄張り争いや喧嘩など日常茶飯事なんですよ。私は六回の内、五回はほかの野良猫に襲われて死にました。先程も縄張りに入ったようで、五匹に襲われました」

助手「残りの一回は」

猫「餓死です。食物を得ることも野良の仕事でしてね。これが一番辛かったですよ」

助手「…………」

猫「さて、まず私の今置かれている状況を教えて頂けると嬉しいのですが」


――――助手の部屋

猫「……なるほど、では私はあなたに助けられたという事ですね。わざわざ助けて頂き、ありがとうございます」

助手「ううん、いいよ。僕が助けたかっただけだから」

猫「よくありませんよ。私はあなたには本当に感謝しています。このように、猫なので感情表現などは上手くできませんけど、あなたは命の恩人とも言うべき人です」

助手「……そういえば、何で人の言葉を……?」

猫「私は今七つ目の命です。これまで六つの命を亡くしましたが、その間の記憶は受け継がれるのです。私は街の中に住む野良でしたので、ほぼ毎日のように言葉を聞いてきました」

猫「流石に七つもあれば覚えて、話せることもできます」

助手「……え? でも、猫の君には皆が話す言葉はバラバラな言語で聞こえるんじゃ」

猫「ええ。思えば一つ目の命ではバラバラに聞こえていましたね。けれど、確か二つ目の時です。当時は酷く空腹で、つい目の前にあった緑の液体を舐めた時、何とも苦いものでして、それから周りの言葉が一貫して聞こえるようになりました」

助手「……もしかしてそれって」

猫「はい。いわゆる翻訳薬という物です。ただ、動物の言葉は分からないようですね。先程あなたの反応を見させてもらいました。勝手に申し訳ありません」

助手「それはいいんだけど……そういえば、何で魔女さんには隠すの? 特に知られて困るようなことは無いと思うけれど」

猫「私は九生の猫ですが、人の言葉を話す猫はそうそういません。ここで住むならば、猫は猫らしく過ごしたいというものです」

助手「え、じゃあ何で僕にだけ」

猫「あなたには助けてもらいましたから。ただ、それだけです」

続き明日です


――――夕食

猫「…………」ガツガツ

魔女「元気になってくれて良かった。今までのことはどこへやら、という感じだな」モグモグ

助手「死霊術師さん、わざわざ買ってくれて、ありがとうございました。猫も喜んでるみたいで」

死霊術師「……私が買っていた……ご飯だったけど……喜んでくれてよかった……」

猫「…………」ガツガツ

魔女「そうだ、助手くん。後で少し付き合って欲しい」

助手「はい、分かりました」

死霊術師「…………? 何……?」

魔女「仕事の話だよ。死霊術師とはあまり関係無い」

死霊術師「……そう」

猫「ニャアウ」

魔女「お、助手くん。ほら、猫が呼んでるよ。もう食べ終わったらしい」

助手「はい、分かりました!」


――――助手の部屋

ガチャ

助手「ほら、中に入って」

猫「…………」スッ

助手「で、どうだった」

猫「やあやあ! 本当に素晴らしいものです! 久しぶりに食した物がこんなにも美味しいものでいいのかと思うほどですよ! 今まで食べたものの中で最も美味しかったです!」

助手「そんな大袈裟な」

猫「大袈裟な訳ありません! これまで野良生活だった私にとって、食事は自分で得るものでした。しかし、今この場所に住み着いて、まさか動かずとも食事が出てくるとは! 私は、本当に幸せ者です! ありがとうございました!」

助手「……そうか、野良ってそんなにキツイ生活だったんだな」

猫「あの良質な味! 今でも思い出しただけで涎が出てくるほどです」

助手「やっぱり、野良猫にとっては食事が最も大事なのか……」


猫「そういえば、私は貴方様の呼び方をどうすれば良いでしょうか?」

助手「突然だね。……呼び方……別に何でもいいけれど」

猫「では、主殿でよろしいですかな?」

助手「あ、あるじどのって……なんか大それた感じがするけれどそれで呼びやすいなら……」

猫「それで、主殿。先程の食事の際に魔女殿から話があったようですが」

助手「え? あ、そうだった。仕事の手伝いしなきゃならないんだった。ごめん、少しの間この部屋にいて欲しい。多分もうすぐ死霊術師が来るから」

猫「その、仕事の手伝いには、私は一緒に行ってはいけないものですか? もし宜しければ、主殿の事を知る為、御一緒させて欲しいものですが」

助手「……多分いいと思うけど、魔女さんが許可してくれるなら……。取り敢えず、一緒に行こう」

猫「では」ピョン

助手「うわっ……いきなり肩に乗らないでよ。せめて一言言うとか」

猫「やはり、肩の居心地がいいと言うのは本当らしいですね。たまには野良の話を信じるものです」

続き明日です


魔女「やあ、助手くん。……で、その猫は」

助手「いえ、勝手に肩に乗ってきたんですよ。それで、なかなか離れないもので……このまま仕事をしても、よろしいですか?」

魔女「今から行くのは地下室だよ。猫に悪い影響があるといけない。悪いが、連れてはいけないから部屋で死霊術師と遊ばせておくといい」

助手「……分かりました。えっと、地下室というと、実験ということですか?」

魔女「ああ。さて、早急に取り掛かりたいから、まず猫を部屋に置いてきてくれ。話はそれからだよ」

助手「分かりました」


――――助手の部屋

助手「そういう事らしいから、ごめんね」

猫「別に、主殿が謝る必要はありません。最初に提案したのは私です。それに、わざわざ魔女殿にお聞きくださって、申し訳ありません」

助手「いやいや、いいよ、それくらいは。でも、地下室は本当に危険な場所だったから、もしかしたら行かなくて正解だったかも」

猫「主殿はそのような場所に行くつもりなのですか? 止めておいた方が」

助手「いや、僕は大丈夫。僕は魔女さんの助手で、仕事を何でも手伝うって決めたからね」

助手「それに、僕は人間だからっていう理由で手伝うことが出来なくなる方が嫌だからね。魔女さんの手伝いが出来るならそれが一番いいんだよ」

猫「……主殿、頑張ってください!」

助手「うん、頑張ってくるよ」ガチャ


助手「あ、死霊術師さん」

死霊術師「……今から……さっき言ってた……仕事?」

助手「ああ、はい。そうです」

死霊術師「……危険?」

助手「え、と。まあ、危険、ですかね。でも、魔女さんもいるので多分平気です」

死霊術師「……それでも……心配」

助手「大丈夫ですよ。魔女さんも言っていましたよ、死霊術師さんは心配し過ぎだって」

死霊術師「……心配し過ぎたら……いけない……のか?」

助手「そ、それは良くない訳じゃないですけど」

死霊術師「私は……いつも……危険な場所に行く……助手くんが心配。一人で配達だって……助手くんは……人間で……この世界じゃどこでも危険なのに……すぐに了承して」

死霊術師「……私の家に来た時も……見ず知らずだった……私に……不用意に声をかけて……」

死霊術師「……もしいきなり……助手くんが居なくなったら……悲しい……と思う……から」

助手「…………」

死霊術師「だから……私はずっと……心配してる」

助手「……ごめんなさい。僕が軽率でしたね……ここはあっちの世界と同じじゃないことは知っていたのに」

死霊術師「……これから直していけば……いい……から」

死霊術師「……仕事……がんばって」

助手「……はい」


魔女「随分遅かったね。猫を上に置いてくるだけなのに。何か死霊術師と重要な話をしていた?」

助手「いえ、ちょっと長話が過ぎただけです。すいません」

魔女「……ふむ、まあいいだろう。助手くんが死霊術師と仲良くなっているのはいいことだよ」

助手「……すいません」

魔女「構わないよ。じゃ、行こうか」

続き明日です


――――地下室

魔女「……さて、今回も成功かな。ありがとう、助手くん。重かっただろう」

助手「いえ、僕にできるのは荷物運びとかくらいしか無いので大丈夫です」

魔女「しかし、荷物運びだけではつまらないというか、仕事の実感が無いんじゃないか?」

助手「正直にいえば無いですけど、でも荷物運びをしないと、魔女さんが運ぶことになりますよね」

魔女「……そうだな。悪いね、私では助手くんみたいに運べそうにない。これからも頼むよ」

助手「……あ、あの、少し知りたいことがあるんですけど」

魔女「ん? 何かな。何でも言うといい」

助手「……ゾンビとは、一体どのようなものなんですか?」

魔女「ゾンビ、か。まあ、時間もあるから……うん、少し話そうか。立ったままだが申し訳ない」

助手「お、お願いします」


魔女「ゾンビという種族、いや、種類と言った方が正しいのか? とにかく、ゾンビとは元々存在するようなものではない」

魔女「ゾンビとは、この世界に多く存在する死霊術師達が使う、死霊術によって生み出された生物全般のことだよ」

魔女「死霊術師達がゾンビを作るには、魂とそれを入れる器、つまり人の体や動物の体、もしくは騎士のように鎧などが必要だ」

助手「では、騎士さんもゾンビ、ということになるんですか」

魔女「ああ。彼も立派なゾンビだ。しかし、騎士は鎧を器にしているため、人体や動物の体を器にしているゾンビとは少し違う」

助手「? 少し違うって、結局ゾンビじゃないんですか?」

魔女「根本的な所はゾンビだよ。しかし、騎士のような鎧のゾンビと生物のゾンビじゃ、全然目的が違うんだよ」


魔女「まず、ゾンビの最大の特徴は不死であることだ。何をされても死なない。しかし、これはある意味死よりも辛いことだろう」

魔女「騎士のような鎧を使用したゾンビはその鎧が朽ち果てない限り、何も変わらずに存在することが出来る。それに、鎧が朽ち果てるのを抑える魔法もあるから、鎧のゾンビは半永久的に存在することも可能だよ」

魔女「しかし、そのゾンビの器が人体や動物の体となると話が変わる」

魔女「人は常に新たな細胞を作って生きているけれど、一度死んでしまったらその細胞を作るということが出来なくなる」

魔女「だから、器が生物だった場合、不死であろうとも器は再生されず、段々と腐っていく」

魔女「最初はまだ意識、思考力はあるものの、体が崩壊していくにつれ、声帯で声を出すことが不可能になり、脳、筋肉、最終的には骨が脆くなり、その体を保てなくなる」

魔女「だから大抵の死霊術師達は眷属に鎧のゾンビを造る」


助手「そういえば、死霊術師さんも、他に眷属がいるのですか? まだ騎士さんしか見たことがないのですが……」

魔女「ああ、ちゃんといる。しかも結構な数の眷属がね。流石は実力者と言ったものだよ」

魔女「しかし、死霊術師は鎧のゾンビしか造ったことがない。私の実験用のゾンビも、私の知り合いに頼んだものだ」

助手「じゃあ鎧のゾンビは、本当に不死なんですね」

魔女「いや、別段そうでもないんだよ」

助手「えっ」

魔女「それなりに力がついた死霊術師達は、器から強制的に魂を引き剥がすことが出来る。ゾンビはそのままでは不死だが、死霊術師達には対処法があるんだよ」

助手「えっと、それは死霊術師さんも使えるんですか? 確か結構強いって言ってましたけど」

魔女「使える、とは言っていたが、実際に使った所は見ていない。使うとしても、仕事先だろう」

助手「そういえば、死霊術師さんの仕事って」

魔女「それは、死霊術師に聞いた方がいい。私が勝手に喋っていいものではないからな」

助手「……そうですね」


魔女「そうだ、前に助手くん、猫を拾ってきた時に、何でもすると約束したこと、覚えてるかな」

助手「勿論、覚えてますけど……」

魔女「ならいい。万が一助手くんが忘れていたら困るから」

魔女「こうやって、まあ、券みたいに作ったんだよ」ペラッ

助手「い、いつの間にそんなもの作ったんですか」

魔女「少し暇な時間にね。これで助手くんが忘れても、使えるからね」

魔女「さて、そろそろ戻ろう。実験も成功したから、明日は助手くんに配達を頼むよ」

助手「はい!」

続き明日です


――――翌日

助手「……えーと」

猫「何でしょう、主殿」

助手「そろそろ、肩、降りてくれない? そこにいると朝食作れないし、もう少しで魔女さんたち起きてくるから……」

猫「それよりも主殿。今日も仕事があるのですか?」

助手「え、あるけど、何で? もしかして連れて行って欲しいとか?」

猫「はい、そうです。是非宜しければ、私も一緒に行きたいと思いまして」

助手「前にも言ったけど、魔女さんに聞かないと……でも、今日は多分大丈夫じゃないかな」

猫「? どうしてですか?」

助手「今日は配達だけだからね。後で聞いてみるよ。だから、肩、降りて」

猫「では、お願いします」ピョン

助手「でも、拒否されたらごめんね」

猫「はい。分かっています」


魔女「猫? 別に連れていってもいいが、どうした?」

助手「いえ、まあ、散歩みたいなものです。いつも家の中というのは、猫にとって悪い事だと思いまして」

魔女「それもそうだね。よろしく頼むよ」

助手「……あれ、死霊術師さんはまだ寝ているんですか?」

魔女「ん、そうじゃないか? まだ朝から見ていない。というより、助手くんと同じ部屋なのだから、助手くんの方が知っているだろう」

助手「いえ、僕がいつも起きる時間にはまだ死霊術師さんは寝ているので詳しくないと言いますか」

魔女「まあ、いつもより遅いというだけで何も変わりないだろう。それに、きっと死霊術師が起きてきたら配達についていくとも言うかもしれない」

助手「それなら僕は待ちますよ。死霊術師さんも一緒に来てくれるならば」

魔女「そうか、それなら起こしてくるといい。流石に怒りはしないだろう」


――――助手の部屋

助手「死霊術師さん?」ガチャ

死霊術師「すー……すー……」

助手「あー……やっぱりまだ寝てる」

助手「死霊術師さん? 朝ご飯ですよ」ユサユサ

死霊術師「……んー……き……し?」

助手「違いますよ。助手です」ユサユサ

死霊術師「……助手……くん?」

助手「はい」

死霊術師「…………」グイッ

助手「うわっ、ちょっ」

ガタッ

死霊術師「……すー……すー」

助手「…………危なかった、けど。死霊術師さん、また寝ちゃったよ」

助手「……もう少し、寝かせておこうかな」

続き明日です


魔女「おや、助手くん。随分起こすのに手間取ったらしいね。遅いから、先に食べてしまった。では、私は先に」

助手「は、はい。頑張ってください」

死霊術師「…………」

助手「死霊術師さん。朝食、今すぐ作りますので、待っていてください」

死霊術師「……申し訳ない……また……寝てしまって」

助手「いえいえ、別に構わないですよ。ちゃんと疲れが取れたのなら、まぁ、役に立てて良かったと言いますか」

死霊術師「でも……助手くんは……もしかして……疲れたんじゃ」

助手「僕のことはいいですよ。どうぞ、先に食べてください」

死霊術師「……ううん……助手くんと……食べる」

助手「……ありがとうございます」


猫「ニャアウ」

助手「あ、そうだ。猫のこと忘れてた。ごめんごめん」

猫「ニャ」

死霊術師「……にゃー」

猫「……ニャー」

死霊術師「……にゃうにゃう」

猫「…………ニャウニャウ」

助手「……ふはっ」

死霊術師「!」

助手「ごめんなさい。つい笑ってしまいました」

死霊術師「……何もしてない……ご飯……食べる」

助手「はい、じゃ食べましょうか」

猫「…………」ガツガツ

助手「って、猫はもう食べてますね」

死霊術師「……いただきます」

助手「いただきます」


死霊術師「……配達?」

助手「はい。それで猫も連れて配達のついでに散歩もしようということで。死霊術師さんも行きますか?」

死霊術師「……行く」

助手「分かりました。では、早く用意して行きましょう」

死霊術師「……ん……分かった」

死霊術師「……もしかして」

助手「はい?」

死霊術師「……もしかして……その為に……起こした……のか?」

助手「……や、やっぱり嫌でしたか? 申し訳ありません」

死霊術師「……ううん……その逆……ありがとう」

助手「……? えっと、役に立てたなら嬉しいです」

続き明日です


――――配達途中

猫「ニャウニャウ」

死霊術師「……嬉しがっている……のか?」

助手「だったらいいんですけどね。元野良猫でしたので、周りに警戒しているということも」

猫「ニャ」ピョン

助手「わっ……また肩に」

死霊術師「……多分……喜んでる」

助手「そうですね。僕もそう思います」

死霊術師「……ところで……道は大丈夫……なのか?」

助手「はい、大丈夫だと思います。……そういえば、僕はこの世界にどんな建物があるかとか、全然知らないです」

死霊術師「……私も……あまり詳しくない」

助手「死霊術師さんもですか?」

死霊術師「……私は……よく仕事でここにいない……から……全然詳しくない」

助手「その仕事って、忙しいんですね。どんな仕事なんですか?」

死霊術師「……今は言えない……また今度言う……から」

助手「……? 分かりました」

続き明日です
少なくてごめんなさい


猫「……」ピョン

死霊術師「わっ……」

助手「あっ、今度は死霊術師さんの肩に」

死霊術師「……懐かしい……私の猫は……たまにしか……肩にのらなかった」

猫「ニャアウ」

死霊術師「……ふふ」

助手「そうだ。配達の帰り、どこか寄っていきますか? 外出なんてそれほど無い機会ですし」

死霊術師「……ん……行く……買いたいもの……あるから」

助手「それに、猫にもご飯買わないといけないですし」

猫「ニャ」

死霊術師「……もう切れた……の?」

助手「いえ、まだ切れてはいないですけど、あと三食分くらいですから、今のうちに買っておこうと」

死霊術師「……食べすぎ……だと思う……助手くんの……調節……次第」

猫「ニャウ」

助手「……すいません。気を付けます」


――――帰り

死霊術師「……ん」

助手「? どうかしました? もう猫のご飯も他にも買いましたけど……他にも買いたいものが?」

死霊術師「……あの店……見てみたい」

助手「……服、ですか。分かりました。では、僕たちは外で待ってますね」

猫「…………」

死霊術師「……ん……分かった……行ってくる」

助手「はい、ゆっくり選んでください」

猫「…………」ピョン

助手「ん、どうしたの」

猫「主殿、ここは早めに離れた方がいいと思います」

助手「? どうして?」

猫「……ここは、この世界最大の都市です。様々な重要機関が集まる場所です」

助手「う、うん。結局何を」


猫「ここのすぐ近くに、裏世界委員が集まる裏世界委員会があるのです」


助手「! それは」

猫「はい。ここでは、裏世界委員、もしくは関係者が数多くいます。いつ主殿が見つけられてもおかしくないのです」

助手「…………」

猫「死霊術師殿がお戻りになれば、すぐに帰りましょう。出来るだけ人目を避けて」

助手「……分かった。ええと、死霊術師さんは……あ、来た」

死霊術師「……?……助手くん?」

助手「では、早く帰りましょう」

死霊術師「……?……うん」

死霊術師「……助手くん……どうかした?……急いでる」

助手「……いえ、何でもないです」

死霊術師「……そんなわけない……何か事情がある……はず」

助手「……えっと」

猫「ニャアッ」ダッ

死霊術師「!……待って」タッ

助手「……」タッ


――――薬屋

魔女「お帰り、遅かったね」

助手「すいません。帰りに少し買い物をしていました」

死霊術師「…………」

魔女「……まあ、無事に終えたならいい。昼食の時間だ、助手くん」

助手「はい、分かりました」

猫「……ニャ」

助手「……ありがとね。さっきは」

猫「……ニャ」

続き明日です


魔女「どうかしたのか? 死霊術師」

死霊術師「……何もない」

魔女「そんなわけないだろう。そんな顔をしておいて。君は助手くんか?」

死霊術師「……助手くん……も……そうだった」

魔女「?」

死霊術師「助手くんも……何かあったはずなのに……何も言わなかった」

魔女「今日の話か?」

死霊術師「……配達の帰りに……店に寄って暫くして……突然帰ろうと……言った」

魔女「助手くんが? ……ああ、助手くんらしいな」

死霊術師「……?」


魔女「……それは、死霊術師に心配して欲しくなかっただけだろう」

死霊術師「……?……何の話?」

魔女「今回の配達先は、街の中心から少し外れたところにある。買い物をするとすれば、当然中心地近くへ行くだろう?」

死霊術師「……あ……」

魔女「最大都市の中心なら、助手くんが人間だとばれる可能性が高くなる。きっと、それに気付いてその場を離れたかったんだろう」

死霊術師「…………」

魔女「そんなことを言えば、死霊術師は心配、いや、この場合は罪を感じるんじゃないか? 助手くんを危険な場所に、しかも警戒などもせず、連れていったということに」

死霊術師「…………」

魔女「だから、早く帰ろうと言った」

死霊術師「……私は……全く気付かずに……詳しく聞こうとした……」

魔女「おや、てっきりその言葉通りすぐに帰ってきたと思ったんだが、違うのか?」

死霊術師「……いや……聞こうとしたら……猫が逃げたした……から」

魔女「……猫、か。成程、猫にも感謝しなければな。とにかく、皆無事でよかった」

死霊術師「…………」

助手「魔女さん、死霊術師さん、できましたよ」

魔女「ああ、今行く。死霊術師も」

死霊術師「……ん」


――――助手の部屋

ガチャ

助手「死霊術師さん、まだ起きてたんですか。また今日の朝みたいになりますよ」

死霊術師「……うん……助手くん」

助手「はい、なんですか?」

死霊術師「……今日は……ごめんなさい」

助手「……何がですか? 別に何も無かったですよね? 早く寝ましょう」

死霊術師「……もういい……から……本当のことを言って」

助手「……誰から聞いたんですか?」

死霊術師「……魔女から……あそこは……助手くんにとって危険な場所……だから急いで離れようとしていた」

助手「……そうです。すいません、勝手に自分で決めてしまって」

死霊術師「……私も……全然気付いていなかった……私の落ち度……ごめんなさい」

助手「そんな、謝ることないですよ。全部僕の不注意で」

死霊術師「そんなわけない……全部助手くんのせい……なんかじゃない」

助手「いえ、僕のせいですよ。自分の身は自分で守るのは、当たり前のことですし、人間なのは自分です。死霊術師さんには関係」

死霊術師「関係ある!」

助手「!」


死霊術師「関係……ある……助手くんは……もう……家族みたいな人」

死霊術師「魔女にとっても……猫にも……私にとっても」

助手「…………」

死霊術師「たとえ人間でも……それも関係ない……それに……種族なんか関係ないのは……助手くんから教えてもらった」

助手「……そうでしたね」

死霊術師「……助手くんは……周りのことを考えすぎ……迷惑をかけないように……大事に考えすぎ」

助手「……それは、僕にとって魔女さんも、死霊術師さんも、猫も、騎士さんも、大事な人ですから」

死霊術師「私だって……私だって」ダキッ

助手「っ…………」


死霊術師「私だって……助手くんは……大事な人……」


死霊術師「だから……関係ないとか……言わないで……ほしいし」グスッ


死霊術師「……迷惑も……かけて……いいから」

続き明日です


助手「……すいません」

死霊術師「……助手くん」

助手「……はい」

死霊術師「……私の……仕事の話を……する」

助手「…………」

死霊術師「……私の仕事は……戦争の……助っ人」

助手「せっ、戦争って」

死霊術師「……私のように……死霊術が使える人は……戦争では重要視される」

助手「でっ、でも、戦争はもうなくなったはずじゃ」

死霊術師「そんなこと……ない……異種族間不可侵の法律なんて……あって無いようなもの」

死霊術師「ここが平和なだけで……世界中ではいくつもある」

死霊術師「私は……そういう場所に……仕事に行く」


助手「……そんな危険な場所、大丈夫なんですか?」

死霊術師「……死霊術によるゾンビは……戦争では大きな戦力になる……私は……私の多くの眷属と……いつも戦争に行く」

死霊術師「私の眷属は……戦うけれど……最優先は私だから……平気」

死霊術師「でも……稀に……敵に死霊術師がいることも……ある」

死霊術師「その時は……私の眷属……私の仲間の魂が……引き剥がされることも……ある」

死霊術師「それが……一番……悲しい」

助手「…………」

死霊術師「……助手くんも」

助手「!」

死霊術師「……助手くんだって……突然いなくなるかもしれない……」

死霊術師「だから……自分のことも……大事にしてほしい……」


助手「……ごめんなさい。僕は、自分のことを全く考えてなかった、ですね」

死霊術師「……ん……そう」ギュッ

助手「……ありがとうございました。死霊術師さん」

死霊術師「構わ……ない……」

助手「……もしかして、眠いですか?」

死霊術師「……ん……きっと……温かいから」

助手「? 温かいとは?」

死霊術師「……助手くんに……優しくされると……心が……温かく……なる……騎士に優しくされても……こんなこと……なかった」

死霊術師「……もう少しだけ……このまま……」

助手「…………」ナデナデ

死霊術師「……?……助手くん?」

助手「……あ! ごめんなさい! つい無意識の内に……すいません」

死霊術師「……ううん……続けて……ほしい……気持ち良かった……それに……温かかった……から」

助手「……分かりました」ナデナデ

死霊術師「……んん……」

続き明日です


――――翌日

魔女「やあ、おはよう。今日も相変わらず早いね」

助手「いえ、いつも通りですよ。朝食ももうすぐできますので」

魔女「ああ、ありがとう。やあ、おはよう、猫」

猫「……ニャア」

魔女「……昨日はお手柄だったそうだ。ありがとう」

猫「…………」

魔女「ふふ、まだ私には懐いていないらしい。まあ、あまり会うことはないからな。仕方がないのかもしれない」

死霊術師「…………おはよう」

魔女「おや、死霊術師。昨日と違って早いね」

死霊術師「……うん……」

助手「死霊術師さん、おはようございます」

死霊術師「……お……はよう……」

魔女「? どうかしたか?」

死霊術師「……別に……なにも」

魔女「……そうか」


助手「今日は、配達はないですか」

魔女「ああ。今日、というかしばらくね」

助手「しばらく? 何故ですか?」

魔女「それと、助手くんはしばらく外出を控えるようにしてほしい」

助手「……?」


魔女「裏世界委員会の招集が決まったんだ。近々、世界中から関係者たちが集う。だから、助手くんは外出禁止だ」


助手「う、裏世界委員会……ですか」

死霊術師「……そうなの?」

魔女「ああ、死霊術師も知らなかったか。まあ、そういうことだ、注意してくれ」

助手「……はい、分かりました」

続き明日です


助手「あ、では、今日からは中で仕事、ですか?」

魔女「ああ、そういうことになるな」

助手「分かりました」

死霊術師「……じゃあ……私が……買い物してくる」

魔女「そうか、それはありがとう。世界中から人が来るから、人混みに気をつけて」

死霊術師「……分かった」

魔女「それと、配達はこれから私が行く。その間、助手くんは留守番していてくれ」

助手「わ、分かりました」

猫「ニャアウ」

魔女「ん? ああ、君はいつも通り、のんびりと過ごしていてくれ。ただ、しばらく散歩はお預けだ」

猫「……ニャ」

魔女「すまないね。こちらの都合なんだ」

助手「……何から何まで、僕の仕事なのに、すいません」

魔女「構わない。助手くんのためだからな」

死霊術師「……そう……大丈夫……だから……助手くんは……しばらく休んで」

助手「……はい!」


死霊術師「……じゃあ……買い物……行ってくる」

魔女「ああ、早速ですまないな」

助手「気を付けてくださいね、死霊術師さん」

死霊術師「……う、ん……大……丈夫だから……じゃ」ガチャ

魔女「……助手くんは、死霊術師に何かしたのか? どうも、避けられているようだが」

助手「……特におかしな事はしていないと思うんですが……」

魔女「しかし、実際死霊術師の態度は変わっている。今日の……朝? からだろうか」

助手「……えっと、特に何も無いんですけど」

魔女「……ならいいが、そうだな。仕事に移ろう。いつまでも、話していてはいけないからな」

助手「分かりました」


助手「そういえば、委員会の関係者が来ることはないんですか?」

魔女「滅多に無いと言える。ここは街の外れで探しにくいところにある。そんなところに来るのならば、それ以前に他にも薬屋はあるからね」

助手「そうですか、なら良かったです」

魔女「尋ねてくるとすれば、この薬屋のことを知っている人か、私の知り合いだろう」

助手「なら平気ですね」

魔女「……いや、まあ一人だけ例外がいるが、もう五、六年は会っていないからな……」

助手「……えっと、長い知り合いの人だったんですか?」

魔女「ああ。ただ、私たち魔法人族と違って、その知り合いは妖精族だから、滅多に会うことはない」

助手「そうなんですか」

魔女「ああ、だから、余計な心配はいらな」


ガチャ


魔女「……え」


?「よお、魔女。久々に遊びに来たぜ」


魔女「……エルフ」

続き明日です


エルフ「ん? どうしたんだ、そんな顔して。久々に会ったってのに。驚いたか?」

魔女「……すまない、流石に驚いたよ。久しぶり、エルフ。もう何年になるだろうか」

エルフ「もう七年くらい前、だな。この街に来るのは一年ぶりだけど、何も変わってないや」

魔女「今日は何故私のところに? 例年は忙しいからここに来る暇は無いと言っていたが……」

エルフ「まあ、それは本当に忙しかったんだけど、今年は噂があったから、ちょっと早めに来て確かめようと思ったんだよ」

魔女「噂?」


エルフ「ああ、魔女が珍しく助手をとったっていう噂」


魔女「!」

エルフ「本当だったら、魔女と旧知の仲のあたしが挨拶に行かないわけにはならないからな」

魔女「……それは、そうだな」

エルフ「だろ? で、その助手はどこだ?」

魔女「……彼だ」

助手「あ、あの、初めまして。助手です」

エルフ「ああ、よろし……あ?」

魔女「…………」


助手「……え、あの?」



エルフ「何でここに人間がいんだよ!!! 魔女!!!」



助手「っ……えっと」ビクッ

魔女「…………」

エルフ「……魔女」

魔女「…………」


エルフ「お前っ……十年前のことっ! ……もう忘れたのかよっ!!」


魔女「……忘れては、いない。ちゃんと、覚えている」

エルフ「嘘だ」

魔女「本当だよ。それに、助手くんは無害だ。今回はエルフも」

エルフ「二回目なんて無ぇよ。あたしはもう決めたんだよ。十年前に」

魔女「し、しかし」

エルフ「もういい、あたしは帰る」

助手「え、あの、エルフさ」


エルフ「近づくなっ!」


助手「ひっ」ビクッ



エルフ「あたしは人間が大っっっ嫌いなんだよ!!!」



エルフ「……魔女、お前が人間を匿っていることは、委員会に報告させてもらうからな」

魔女「! ま、待て! それだけは止めてくれ! 頼む!」

エルフ「止めねぇよ。さっきも言ったはずだ。二回目はない。一人目と同じ運命を辿ってもらう。あたし達委員会にとっても、プラスだからな」

魔女「くっ……」

助手「い、委員会って」

エルフ「なんだ、魔女。あたしのこと、言ってなかったのかよ」

魔女「……言う訳がないだろう」

助手「……そ、それって」



エルフ「あたしは、裏世界委員会の一人。妖精族の代表だ」



助手「…………え?」

エルフ「じゃあな。これでもう会うことはねぇ。恐らく、魔女にもな」ガチャ

魔女「…………」

助手「……ま、魔女さん。一体、どういうことですか?」

魔女「…………申し訳ない…………」

助手「魔女さん……」


――――地下室

魔女「……やはりな」

魔女「生物のゾンビが十年程で朽ち果てるのは聞いていたが……ぴったり十年」

魔女「……よく居てくれた」

魔女「新しいゾンビ、か」


――「お前っ……十年前のことっ! ……もう忘れたのかよっ!!」


魔女「……忘れた訳じゃない」

魔女「……忘れるはずがない」

魔女「…………」

続き明日です


――――助手の部屋

助手「……僕は、ここにいていいのかな」

助手「エルフさんが委員会の一員で、裏世界委員会に報告するって言って、その裏世界委員会ももうすぐ開かれる」

助手「もし僕がずっとここに住み続けて、僕がいることで魔女さんに、薬屋に迷惑がかかるなら居ない方が……」

猫「主殿にしては弱気な発言ですね」

助手「……そりゃあ弱気にもなるよ」

猫「しかし、今回の件は魔女殿に任せた方がいいと思いますよ」

助手「? 任せた方がいいって?」

猫「話を聞けば、魔女殿はエルフ殿と旧知の仲。きっと、なんとかしてくれると思います」

助手「……でも、魔女さんにも薬屋にも迷惑をかけるわけには……」

猫「先日、死霊術師殿が言っていたでしょう。迷惑をかけてもいいと。きっと、魔女殿も」


助手「うん……。でも、魔女さんに、この薬屋には迷惑をかけるわけにはいかないよ。約束、したから」

猫「約束?」

助手「うん。まだ猫が来る前だったから知らないよね」


――「今までは魔女一人だけでやってた。一人だけでここまでやってのけた」


――「その、魔女の努力の証を、多くの信頼を、踏みにじらないで欲しいな」


助手「……僕にとって、薬屋に迷惑をかけることは一番避けたいことなんだ」

猫「……主殿は、自らのことは、よろしいのですか?」

助手「? 自らって、僕のこと?」

猫「私にとっては、主殿がいなくなることは一番避けたいことなのです」

助手「……ありがとう」


死霊術師「ただいま……」ガチャ

魔女「ああ、おかえり。死霊術師」

死霊術師「? ……助手くんは?」

魔女「今は部屋にいるが、少し待ってくれ。話がある」

死霊術師「……話? ……助手くんは」

魔女「呼ばなくていい」

死霊術師「……何か……あったの?」

魔女「…………助手くんが、委員会の一人に見つかった」

死霊術師「! なんで……!」

魔女「ついさっき、エルフが来た。私の旧友だったんだ」

魔女「それで、助手くんが居ることを……委員会に報告するらしい」

死霊術師「だっ! だめ! ……止めないと」

魔女「無駄だ。もう私の話を聞いてはくれないし、暴力では歯が立たないほどエルフは強い」

死霊術師「……ほ……他に方法は」

魔女「……もう、何も思いつかない」

続き明日です


――――翌々日

魔女「…………」

助手「……あの、魔女さん」

魔女「……申し訳ない。何も思いつかないんだ」

助手「その、裏世界委員会はいつから、開かれるのですか?」

魔女「明後日だ。それまでにどうにかしなければならない」

魔女「しかし……」

助手「…………」

魔女「! 客だ。助手くん、奥へ行ってくれないか? またあのような事があると困る」

助手「……はい、分かりました」

ガチャ

魔女「……見ない顔だな」

?「ここは薬屋かしら? 噂によれば完璧を保証する薬屋だとか」

魔女「そのようなことは言われていないが……委員会の関係者かな?」

?「そうよぉ。私は妖狐」

妖狐「獣人族の代表として、裏世界委員会の一員になったの」


魔女「やはりか。しかし、獣人族の代表で狐がなるのは珍しい」

妖狐「最近の狐は、進化してきてるのよ。騙し討ちや詐欺、闇討ちは昔よくやってたわぁ」

妖狐「でも、今では正々堂々と戦えるようになって、ついに私は委員会に選ばれたの。それなりに実力はあるわ」

魔女「……まあいい。さて、望みは何かな? 」


妖狐「毒」


魔女「……毒?」

妖狐「そうよ。毒。粉末でも液体でも構わないわ。絶対に死ぬような毒を作って頂戴」

魔女「……毒薬を所望とは、狐も力を上げてきたのだろう。直接手を下せばいいのでは?」

妖狐「無理よ。私では歯が立たないのよ。まだね」

魔女「……標的は? 誰に使うつもりなのだ?」



妖狐「妖精族代表の、エルフよ。あいつがいなくなれば、私たちが上位種になるのよ」



魔女「! ……エルフ」

妖狐「あら、もしかして知り合い? 悪いわね、けれど諦めるつもりは無いわ」

魔女「……確かに、私の知り合いだが、彼女には嫌われている身だ」

妖狐「この委員会こそ最高のチャンスなのよ。明日までに仕上げることはできるかしら?」

魔女「できるよ。待っていてくれ」

妖狐「成立ね。明日を楽しみに待っているわ」ガチャ

魔女「…………」

助手「魔女さん……今の!」

魔女「助手くんか……ああ。もちろん、頼まれた仕事は受ける」

助手「で、でも! エルフさんが、死ぬかもしれないって……」

魔女「…………そうだな」

助手「死なないように調整するんですか?」

魔女「そんな事はしない。今までもこれからも、私は一切の手抜きをしないよ」


助手「…………僕、エルフさんに伝えてきます。暗殺の成功は依頼に入っていないはずです」

魔女「! ま、待てっ! 今外に出ればいつ見つかるか」

助手「でも……でも、エルフさんは魔女さんの大事な友人じゃないですか!」ガチャ

魔女「っ、助手くん!」

魔女「…………」

魔女「あのエルフが……助手くんの、人間の話を……聞くはずない……だろう」

魔女「……私は、最低な奴だ」

魔女「助手くんを助けるためならエルフはどうなってもいいと思うなんて」

魔女「……友人、なのにな」


助手「……はぁ……はぁ」

助手「……いない。会場の近くならいると思ったのに……」

助手「今はペンダントしてるからいいけど……してなかったらすぐに見つかってる」

助手「……エルフさん! やっと見つけた」タッ

助手「……はぁ……はぁ……エルフさん!」

エルフ「あん? 誰だ? あたしを呼んだのは」

助手「ぼ、僕です!」

エルフ「…………あぁ!?」

エルフ「人間! あたしは人間が嫌いだって聞いてなかったか!?」

助手「そ、そんなことより! 明後日!」

エルフ「ああ? 明後日?」

助手「な、何か変なことがあったら、気を付けて下さい!」

エルフ「誰に向かって言ってんだよ! 人間が指図すんじゃねぇ!」

助手「し、信じて下さい! 明後日」

エルフ「人間なんか信じられるかよ! さっさとあたしの視界から消えろ!!」

助手「ご、ごめんなさい!」ダッ

エルフ「……チッ……胸糞悪ぃ。まあいい、明後日には終わるからな」

続き明日です


――――夜

助手「……魔女さん」

魔女「助手くん、死霊術師は」

助手「猫と一緒に部屋にいます」

魔女「……地下に、来てくれ。薬は出来た。あとは実験だけだ」

助手「……これでエルフさんが亡くなったら、僕はこのまま住み続けるこたが出来るんですか?」

魔女「そうだろうな。妖狐は助手くんの姿を見ていない。知られているのはエルフだけだ」

助手「……やっぱり、エルフさんの代わりに生きるのは嫌です」

魔女「代わりに生きるのではないよ。エルフが死んでから君が生き残ることは、偶然の結果だ。私もエルフを殺そうという訳ではない。殺そうとしているのは依頼主だからな」

助手「それでも! エルフさんが亡くなるのは……」

魔女「……取り敢えず地下に行こう」

助手「……分かりました」


――――地下室

助手「……!? あれ、ゾンビ……は? どこにいるんですか!?」

魔女「……ゾンビは、崩壊したよ。もうここにはいない」

助手「崩壊……?」

魔女「前に教えただろう。ゾンビの器は生きていない。いずれその器は姿を保てなくなり、ついに崩壊する」

魔女「それが、一昨日起きた。崩壊したゾンビは知り合いに回収してもらった」

助手「で、でもゾンビがいないのでは実験台が」

魔女「……そうだ」

助手「…………え」




魔女「助手くん、君が毒の実験台になってくれ」




助手「……ま……魔女、さん? 僕が実験台って……」

魔女「…………そうだよ。助手くん。君が実験台になってほしい」

助手「…………僕は、死にますか」

魔女「ああ、死ぬ」

助手「っ…………でもっ、死霊術師さんは……僕に居なくなって欲しくないって……言ってくれました」

助手「僕だって、拒否したいです」

魔女「……助手くん。この券、覚えているかな」ピラッ

助手「! そ……れは」

魔女「そう。いつかの約束の券だ」

魔女「……使わせてもらう」

助手「……そこまでして、どうしてそこまで僕を実験台にするんですか」

魔女「……もう、何も思いつかない、からだ」

助手「…………?」


魔女「多くの可能性を考えた」

魔女「しかし、どれだけ考えても、助手くんを守る方法が無いんだ」

魔女「私は、この薬屋も守りたい」

魔女「助手くんも、同じように守りたい。なのに……」


魔女「もう、救える方法が無い」


魔女「助手くんが、このまま生きて委員会に捕まれば」

魔女「その姿、その後は大衆に晒され、そして委員会によって様々な実験を仕掛けられる」

魔女「それに、私の薬屋から捕まれば、薬屋も委員会の手によって潰される」

魔女「……わ、私は、そんな未来……は、嫌だ」

魔女「だから……今」

魔女「私の、私の薬屋の為に」

魔女「私の、今までの助手くんとの思い出の為に」



魔女「……死んで欲しいんだ」


続き明後日になります
リアルの方が多忙になりました


助手「…………」

魔女「……頼む」

助手「……死霊術師さんや、騎士さんには何と言うのですか?」

魔女「……きっと、嫌われるだろうな。仕方が無いことだ」

助手「…………」

魔女「……助手くん。君と過ごした時間は楽しかった。きっと忘れない」

助手「……一つ、聞いていいですか?」

魔女「……構わない」

助手「……魔法使いさんが言っていました。過去に一度、この世界に人間が迷い込んだと」

助手「しかし、その人間はすぐに捕らえられたと言ってました」

助手「なら、魔女さんはその人には会ったことは無いですよね」

魔女「……ああ。会ったことはない」

助手「……エルフさんは、二回目は無いと言ってました。ということは、このような状況は二回目、なのですか?」

魔女「…………」


助手「……十年前、僕の他に、この薬屋に人間が来たのではないですか?」

続きまた明後日になります
来週末まで一日おきになります


魔女「…………ああ、そうだ。助手くんの読み通りだよ」

助手「……僕の世界では、人間界という言葉は無いんです。人間が暮らしている世界以外の世界なんて存在しないと思われているので」

魔女「…………」

助手「それと同じように、この世界には、『ファンタジー』という言葉は無いはずです。現に、魔法使いさんは知りませんでした」

助手「それに、騎士さんが身に付けているあの鎧は……僕は見たことがありました」

助手「こっちの世界の、物ですよね」

魔女「…………そうだ」

助手「……死霊術師さんが、十年前に貰ったと言ってました。……魔女さんが、あげたものですか?」

魔女「…………そうだ」

助手「……魔女さん。十年前に何があったのか、僕が死ぬ前に教えてください」

魔女「…………分かった」

魔女「話そう。十年前のことも、それからのことも」

魔女「…………」

更新空けます
来週の金曜までです
すいません


魔女「話はそれほど長くはない」

魔女「助手くんの言ったとおり、十年前に人間が迷い込んだ」

魔女「初めて会ったとき、その人間は全身に鎧と、怪我も負って気を失っていた。戦争の途中だったのだろう」

魔女「薬屋で怪我を治して寝かせると無事に目が覚めた」

魔女「こちらの世界のことを説明したのだが、最初は全く信じてもらえず、結局納得しないままだった」

魔女「その人間はしばらくの間薬屋を出ようとした。人間が外に出る危険性を教えたのだが」

魔女「しかし、そんなこともいつしかなくなって、人間も出ようとはしなくなった」

魔女「ただ、いつも何かに警戒していた」


魔女「ある日、薬屋にエルフがきた。彼女は、十年前には既に裏世界委員会の一員だ」

魔女「その時に人間に会わせたのだが、これがいけなかった」

魔女「妖精族であるエルフは、私たち魔法人族や人間とは外見が少し違うのは分かるだろう」

魔女「簡単に言えば、尖った耳などだ」

魔女「……その人間は、そのような外見の違いに敏感に反応してね。警戒していたのもあるのかもしれない」

魔女「人間は、エルフを」

魔女「異常、異質、怪物、化物」

魔女「……そして、持っていた剣を向けた」

魔女「エルフと……私に」

魔女「…………」

魔女「エルフは魔法で人間を殺した」


魔女「結局、私はその人間とは分かり合えなかった。しかし、それは一部の人間だけで、全てがこうだとは思っていなかった」

魔女「ただ、エルフは違った」

魔女「この時以来、エルフは人間を嫌っている。例外なくすべての人間をだ」

魔女「人間が来ることは無かったが、その考えが変わることは無かった」

魔女「…………」

魔女「人間を殺した後。その処理をどうするか考えた」

魔女「私はその人間をどうするか考えた結果」

魔女「ゾンビにすることにした」


魔女「生物には全て魂が身体の中に存在する」

魔女「死霊術師達はその魂が見え、触れることができる」

魔女「さらに、強者な死霊術師達はその魂を器から引き剥せることができる」

魔女「しかし、私が頼んだのはそれができない死霊術師だった」

魔女「生物は死んでも魂はすぐには身体を離れないんだ。死後、四十九日後、だったかな」

魔女「魂はその人間から離れてこの世界をさまよい始めるのだけど、死霊術師はこの魂を捕らえる」

魔女「そして、また魂は人間の体、器へと入れられる」

魔女「ただし、それは人間が復活するという訳でなく、中身は性格も変わり記憶も無くなったただのゾンビだ」

魔女「変わらないのは、その身体だけだ」


魔女「…………」

魔女「私は、その人間が着けていた鎧も残しておこうと決めた」

魔女「その時に偶然、まだ幼い死霊術師に出会った」

魔女「当時から強力な死霊術を使うとして有名だったこともあって、彼女に鎧をあげた」

魔女「それを使って出来たのが、騎士だ」

魔女「その人間をゾンビにすることに決めたのと、鎧を残しておこうと決めたのは」

魔女「その出来事をずっと忘れないように、実験の度にその事を思い出すように、」

魔女「私に対する戒めのようなものだ」

魔女「失敗というか失態というか失策というか」

魔女「私が人間と分かり合えたのだと思って、誤解していたから起きたのだと」

魔女「絶対に忘れない、忘れさせないために」

続き明日です
更新遅くなりすいません


助手「…………」

魔女「……短い話はこれで終わりだ」

助手「……じゃあ、あのゾンビは」

魔女「人間だ。元、だけれどね」

魔女「……さて、助手くん、覚悟はついたかな。全て私と、私の薬屋の都合で申し訳ない」

魔女「助手くん。君との時間は楽しかった。面白かった」

魔女「でも、やはりそれは、私には非日常に過ぎないのかもしれない」

魔女「こうして、別れの時が来るならば、それは日常と呼べるだろうか」

助手「…………」

魔女「呼べない」

魔女「呼べないよ」

魔女「だから、助手くんが居なくなってから、私は日常に戻るだけだ」


魔女「ありがとう」


助手「……僕だって、楽しい日々を過ごさせてもらいました」

助手「ありがとう、ございます」

魔女「……うむ。では、さよならだ」スッ

助手「……これですか。僕の飲む物は」スッ

魔女「ああ。助手くんの、最後の晩餐だな」

助手「……はは。笑えないですね」

魔女「そのガラスの部屋は魔法で防音対策もしてある。最後に言いたいことはあるかな」

助手「…………」

助手「……魔女さん」ガチャ

魔女「何かな」




助手「楽しかったです」



助手「人間として、最後に最高の日々を過ごせました」



助手「魔法使いさんも、騎士さんも、猫も」



助手「……死霊術師さんも」



助手「いい人達ばかりで、僕は幸せでした」



助手「ありがとうございます」




助手「……死霊術師さんに」


助手「約束、守れなくてすいませんと伝えておいて下さい」


魔女「……ああ、分かった」


助手「……お願いします」ニコ


助手「…………」バタン




魔女「…………すまない」



助手「…………」ゴクッ



魔女「……助けられなくて」



助手「…………ッ!!」グラ



魔女「…………くっ」



助手「…………」





助手「」




続き明日です

魔女「…………」

魔女「…………」

魔女「…………」ガチャ

魔女「……う、く……」ギュッ

魔女「……はぁ、はぁ」ズルズル

魔女「…………」バタン

魔女「……助手くん。私は君をゾンビにする気は無い」

魔女「それに、委員会に売る気も無い」

魔女「ただ、ここには置いておけない」

魔女「ほかの場所に移すよ」スッ

魔女「……防腐、防火、防水、防塵、防衝撃、不動」

魔女「……私の魔法、結局、助手くんに見せていないな。助手くん自身に使うとは思っていなかったよ」


魔女「……さ」

ガタッ

魔女「……死霊術師」

死霊術師「……助手くん……」

魔女「……ああ、もう、終わったよ」

死霊術師「…………」

魔女「……助手くんを救う、委員会に渡さない、薬屋を守る」

魔女「全てを叶えることは出来ない」

死霊術師「…………」

魔女「……私たちは、非日常から日常に戻る」

魔女「…………」

死霊術師「……私にとって」

死霊術師「……私にとっては……助手くんがいるのが……日常、だった」

死霊術師「……ぅ……」グスッ

死霊術師「……うぅ……ぁぁ……ぁ」ポロ

死霊術師「ああぁぁあぁぁぁ!! うううぅ!」ボロボロ


魔女「……死霊術師」

魔女「君と二人で決めた事とはいえ、私だけでやってしまってすまない」

死霊術師「……構わ……ない」

死霊術師「……私がいたら……ダメだから」

死霊術師「……何するか……分からない……から」

死霊術師「……いい」

魔女「……助手くんが言っていたよ」


――――「約束、守れなくてすいません」


死霊術師「っ…………」

魔女「委員会は明日から開催される」

魔女「すぐに助手くんを探しに来るとは思えないが、数日後には来るだろうな」

魔女「覚えておいてくれ」

死霊術師「……分かった」


――――死霊術師の部屋

死霊術師「…………」

猫「……ニャァ」ピョン

死霊術師「……ごめんね」

死霊術師「助手くん……いなく……なっちゃった」

猫「…………」スリスリ

死霊術師「…………」ダキッ

猫「……ニャウ」

死霊術師「……助手くんがいなくなったって……分かってから」

死霊術師「……私の中に……温かさは無くなった」

死霊術師「……寒いよ……寂しいよ」ギュッ

死霊術師「……仕方ないことだって……分かってる……のに」

猫「…………」

死霊術師「……ごめんね……もう寝よう」

猫「…………」

死霊術師「……おやすみ」

猫「…………」

猫「……私だって、寂しいですよ」

続き明日です


――――翌日

魔女「……ご飯を作ったのは、何時ぶりだろう」

魔女「助手くん。私は魔法使いにはああ言ったが、私もそれほど上手くないんだ」

魔女「……早めに教えてもらうべきだったよ」

死霊術師「……おはよう」

猫「ニャ」

魔女「ああ、死霊術師と猫も。おは…………そうか」

死霊術師「……申し訳ない……考えた結果……」

魔女「いや、構わない。……猫も連れていってくれないか? 私では世話が出来そうにない」

猫「…………」

死霊術師「……ん……分かった」

魔女「荷物は、それで全部なのか?」

死霊術師「……うん……全部持ってる」

死霊術師「……じゃあ……ね」

魔女「……ああ、気を付けて帰るといい」

ガチャ


魔女「……また独りになってしまったな」

魔女「前はこれが普通だったというのに」

魔女「…………」

ガチャ

魔女「!」

妖狐「おはよう。もしかしてまだやってなかったかしらぁ?」

魔女「妖狐、か。いや、構わない。君が今日取りに来るのは分かってたからな」

妖狐「あら、じゃあ出来たのね。私が頼んだモノ」

魔女「……ああ」

妖狐「……? 変な顔をするわね。何か嫌な事でも……エルフの事かしら?」

魔女「……いや、違う。妖狐には関係ないよ。私の事だ」

妖狐「……あらそう。まぁいいわ。それで、私の毒は?」

魔女「この瓶の中の液体がそれだ。できるだけ無味無臭の透明な液体にしたが……どうだろうか」

妖狐「…………」スンスン

妖狐「……鼻がいい私でも匂いがしないわ。これ、いい物ね」

妖狐「とても気に入ったわ、ありがとう」

魔女「それは良かった」


魔女「委員会はもうすぐ始まるのか?」

妖狐「そうねぇ……まだこんな朝早くから始めないわ。他の奴ら、朝遅いのが多いもの」

魔女「成程。比べて、妖狐は朝早いのだな」

妖狐「ふふ、まぁねぇ。委員会に入る前は弱肉強食の世界にいたのよ。優雅に、毎日、長く寝るなんて有り得なかったわ」

妖狐「入ってからも、長く寝るなんてことは無いわ」

妖狐「全く……早く起きてくれないかしら。早く使いたいのよ」

魔女「いつ使っても変わらないだろう。気長に待つといい」

妖狐「……それもそうねぇ。さて、じゃ私も行こうかしら」

魔女「そうか。……ちなみに、失敗しても責任は負わないからな」

妖狐「平気よ。狐らしくやって見せるから」ガチャ

バタン


魔女「さて、助手くん。また忙しくな…………」ピタ

魔女「…………」

魔女「……私は」

魔女「…………」ポロ

魔女「!」ゴシゴシ

魔女「……何故っ……今になって泣くんだっ……私っ……は」ポロポロ

魔女「……くぅ……」ボロボロ

魔女「……ぁ……」ゴシゴシ

続き明日です


――――死霊術師の家

ガチャ

騎士「!」

死霊術師「……ただいま」

騎士「ご主人! 一体どうしたのですか突然!」

猫「ニャア」

騎士「? 猫?」

死霊術師「……申し訳ない……もう……あそこには戻らない……」

騎士「ど、どうかしたのですか?」

死霊術師「……寝る」

騎士「あ、あのならば猫はどのようにすれば……」

死霊術師「……おいで……」

猫「ニャウ」ピョン

騎士「……ご主人?」

死霊術師「……ごめん」


――――薬屋

魔女「…………」

魔女「…………」

魔法使い「魔女ー、起きてるー? 来たよー」

魔女「……魔法使いか。どこから入ってきたんだ」

魔法使い「……珍しい。何かあった? って、助手くんが居ないね」

魔女「……どこから入ってきたと聞いている」

魔法使い「入口から、普通に入ってきたよ。魔女は、それに気付いていないだけ」

魔法使い「それほど大きな出来事があったんでしょ? 助手くんもいないし、助手くんが関係してるのかな?」

魔女「……鋭いな」

魔法使い「魔女のことだからね」

魔法使い「私はね」

魔法使い「魔女が悲しんだり、悩んだり、困るのが一番嫌なんだよ」

魔法使い「だから、話してよ。助手くんのことも、それ以外のことも」

魔女「……ああ、すまない」


――――委員会本会議場

エルフ「……やっと集まってきたか。もう昼過ぎてるじゃねぇか」

妖狐「あら、もしかして妖精族長かしらぁ?」

エルフ「……? 誰だ? 見ない顔だな」

妖狐「あぁ、ごめんなさい。私、つい先日獣人族の長についた妖狐という者よ」

エルフ「へぇ、そうなのか。よろしくな、獣人族長」

妖狐「妖狐でいいわ。堅苦しい呼び方は嫌いなのよねぇ」

エルフ「ん、そうか。じゃあそっちもエルフでいいぜ」

妖狐「ありがとう、エルフ」

エルフ「……妖狐は、狐、か?」

妖狐「そうよ」

エルフ「珍しいな。狐の獣人は見たことなかったからな」

妖狐「そうねぇ。毎日隠れて過ごしてきたからかしらね」

エルフ「隠れて?」

妖狐「そう。私達狐は力が弱いから、すぐにやられちゃうのよ」

妖狐「だから他より優れている頭を使って過ごしていたわ」

エルフ「大変だったんだな」

妖狐「今も大変よ」


妖狐「? エルフ、何かそわそわしてるわね。何かあったのかしら?」

エルフ「ああ、まぁな。後の会議を楽しみにってことで」


――「な、何か変なことがあったら、気を付けて下さい!」


エルフ「……ちっ、なんだって突然……」

妖狐「あら? どうしたのかしら?」

エルフ「あぁ、別に何でもねぇよ。嫌な事思い出しちまってな」

妖狐「嫌な事?」

エルフ「別に、妖狐には関係ねぇよ」

妖狐「……あ、そうそう。実は私の、狐に代々伝わる飲み物を作ってきたのよ」

エルフ「? なんだそりゃ」

妖狐「狐は、頭も使うし体も使うし、寝る時間も殆ど無くてねぇ。体力回復にすごい効果があるのよこれ」

エルフ「へぇ、面白そうだな」

妖狐「そうよ、一杯飲むかしら? エルフも。親交の印、にね」トクトク

エルフ「じゃあ、ちょっと貰おうかな。……て、コップも持参なんて、準備いいな」

妖狐「狐は、頭がいいのよ。はい、どうぞ。エルフの分よ」スッ

エルフ「ありがとな」


――――薬屋

魔女「……こんなところだ。今でも間違いだったのかと思ってしまう」

魔女「……それに、元に戻ったというのに……日常に戻っただけだというのに」

魔女「……何故か分からないんだ」

魔法使い「……簡単だよ、魔女」

魔法使い「助手くんがいた、助手くんが住んでいた、助手くんと暮らしていた日々が日常だったんだよ。魔女の中では」

魔女「…………」

魔法使い「本当は、分かってるんでしょ?」

魔女「……ああ」

魔女「あの、猫も、死霊術師も、助手くんもいた生活が」

魔女「私の日常だったよ」

魔法使い「だったら、簡単には前の生活に戻れない」

魔法使い「時間をかけて、ゆっくりと戻っていけばいいんだよ、魔女」

魔女「……ああ」

続き明日です


――――委員会本会議場

エルフ「…………」ピタ

妖狐「……? どうしたのかしら?」

エルフ「え、ああいや、ほら。料理は香りからって言うからな」

妖狐「……確かに、そうね」

エルフ「…………」


――「な、何か変なことがあったら、気を付けて下さい!」


エルフ「……?」

妖狐「? 早く飲まないのかしら?」

エルフ「……飲むよ。けど」

妖狐「ちゃんと美味しいわよ? 心配しなくても」

エルフ「…………」

妖狐「ほら、早く」

エルフ「……スキャン」

妖狐「……? 今何か言ったかしら?」

エルフ「…………」コト

妖狐「……何故コップを置いたの?」

エルフ「……何を入れた?」


妖狐「……何をって、狐の伝統の」

エルフ「それ以外だ」

妖狐「…………」

エルフ「とっとと吐け!」ガシッ

妖狐「くっ……何故分かったのかしら? 私でも判別は……」

エルフ「こちとら、魔法が専門なんでな。そういう魔法もあるってこった」

妖狐「……ちゃんと……騙したというのに……っ!」

エルフ「……そうだな。危うく飲むところだったぜ」

エルフ「……あいつに感謝しねぇとな」

妖狐「……くっ、何よコイツ! 振り解けないっ……!」ブンブン

エルフ「どうやって毒を用意したのかはどうでもいい」

エルフ「問題はあたしを殺そうとしたってだけでいいさ」


エルフ「……それなりに覚悟しとけよ」


妖狐「あぁぁぁぁもうっ!!」ブンブン

修正
>>196
明後日→明日

>>200
明後日→明日

本当にすいません
続き明日です


エルフ「……結局、委員会は中止か」

エルフ「……大事にしちまったかなぁ」

エルフ「妖狐も獣人族代表から下ろされたし」

エルフ「会議の開始は二日後に延長」

エルフ「……こっちも予定があんのに勝手に決めんなって話なんだがな」

エルフ「……まぁ……時間も空いたし……」

エルフ「……あいつのところ行くか。ちょっと気まずいけど……」

「ねえ、あなたがエルフかな?」

エルフ「……? 誰だ」

「ごめんごめんいきなり。別に敵対するつもりは無いよ」

「というか味方っていうのかな」

エルフ「……味方、だと?」

「そ。薬屋に行くんでしょ? ならその前に話をしよう」

エルフ「……何を知っているんだ?」

「まあそれは追々。歩きながらね?」


――――死霊術師の家

死霊術師「……委員会が……中止?」

騎士「はい。なにやら暗殺未遂があったらしく、急遽中止になったと」

死霊術師「…………」

騎士「どうされました?」

死霊術師「……ううん……何でもない」

騎士「……大丈夫、ですか? やはり何かお食べになられた方がいいのでは……」

死霊術師「……ううん……大丈夫。もう少し寝る」

騎士「ご、ご主人?」

猫「ニャア」

騎士「え、あ、ご飯ですか。ちょっと待っててくださいね。ご主人も、食事をされるならお呼びください」

死霊術師「……ん」

コンコン

騎士「? 来客、でしょうか」

ガチャ

「こんにちは。死霊術師さんはいるかな?」


騎士「……ご主人は今お休みになられてますが……あの」

「なら、一言伝えて欲しいんだけど」

「薬屋に来て欲しい、ってことを」

死霊術師「……何で」ガタッ

「あ、いた。良かったぁ」

騎士「ご、ご主人の知り合いの方ですか?」

「いやいや、私は初対面だけど、魔女の友達繋がり? って言うのかなぁ?」

死霊術師「……魔女……? 何で今更……」

「依頼しに行くんだよ。私と一緒に来て欲しい。いや、一緒に依頼して欲しい」

死霊術師「……依頼?」

「そういう体にしないと、魔女が目覚めないからねぇ。私は、それは嫌なんだ」

「あ! あと私だけじゃないよ、エルフもいる」

死霊術師「……エルフ……?」ピク

「そう敵対心を向けないで。彼女も同じ依頼をしてくれるって言ってくれたからね」

死霊術師「……依頼って……」






魔法使い「助手くんを復活させるんだよ。死霊術師さんも来るよね?」




続き明日です


――――薬屋

ガチャ

魔女「……魔法使いか。冷やかしならば帰ってくれ。今はそんな気分ではない」

魔法使い「冷やかしじゃないよ。今回は薬屋の客として来たんだよ」

魔女「……どういうことだ」

魔法使い「ほら、入って入って」

魔女「……! 死霊術師……」

死霊術師「……猫も」

猫「ニャウ」

魔法使い「あれ、もう一人も来なきゃ」

魔女「? もう一人、だと?」

魔法使い「ほら、はーやーく!」グイー

エルフ「ま、待って! まだ準備が……」

魔女「! エルフ、だと?」

エルフ「……お、おう」


魔女「……い、委員会はどうした?」

魔法使い「実はね、開始前に暗殺未遂があったらしくて……安全のために急遽中止になったの」

魔法使い「被害者はエルフなんだけどね」

魔女「! ……そうか」

死霊術師「……魔法使い……それより」

魔法使い「うん。分かってるよ」

魔女「……客として、と言っていたか。依頼、なのか?」

魔法使い「……うん」

魔法使い「まだ、助手くんいるかな?」

魔女「……いる、と言うか、ある。今は地下に」


魔法使い「助手くんを生き返らせて欲しい」


魔女「!」


魔女「……無理だ」

魔法使い「何で」

魔女「……エルフは、それでいいのか?」

エルフ「……あたしは、助けてくれたあいつに、謝りたい」

エルフ「あいつはあたしの認識を変えた」

エルフ「委員会に申告するのも、もう止めたしな」

エルフ「……ここに来る途中、魔法使いからあいつが死んだことを聞いた」

エルフ「……あたしからも、頼む」

魔女「……死霊術師は」

死霊術師「……私は……助手くんが……生活できる環境が出来るのなら……構わない」

死霊術師「……だから……依頼する」

死霊術師「……エルフだって……もう大丈夫だと思う」

魔女「…………」

魔法使い「……魔女、無理だって言ったよね。何でかな?」


魔女「……この世界に生き返らせる魔法などという、都合のいいものは存在しない」

魔法使い「それは私でも分かるよ」

魔女「だが、生き返る薬は、あるにはある」

魔女「……委員会によって禁止薬に指定されて以降、誰も作ろうとはしなかったが」

魔法使い「……じゃあ、なぜ駄目なの?」

魔女「……エルフには分かる、いや、見えるだろう」

エルフ「? あたし?」

魔女「ああ。妖精族で、それなりの力があるからな」

エルフ「……! もしかして」

魔女「ああ」



魔女「生き返る薬を作るには」



魔女「……生命が一つ必要なんだよ」


続き明日です


死霊術師「……生命?」

魔女「ああ。……私より、エルフの方が詳しいだろう」チラ

エルフ「……あたしたち妖精族は、生物の生命が光って見えるんだ。」

エルフ「大体……胸のあたり、かな。で、妖精族はそれを触れる」

エルフ「と言ってもお互いの合意、つまり生命を取る準備が必要だけどな」

死霊術師「……それは……魂ということじゃない……のか?」

エルフ「違う。魂は身体から取り出せるが、それを他の身体に入れることも出来るだろ」

エルフ「だけど、生命は違う。あたしの手で移し変えることは出来ない」

エルフ「それに、生命は魂と違ってまだ生きている。活動してんだよ」

エルフ「ゾンビみたいにそのまま朽ちていくことも無い」

エルフ「それに、あらゆる生物と平等だ。魂と違ってね」

エルフ「生命に大きい小さいなんて無い」

死霊術師「……成程」


魔女「さっきもエルフが言ったように素手では生命を移し変えることが出来ない」

魔女「その移し変えを可能にするのが魔法を使用して作る薬だ」

魔女「しかし、生命を一つ使用するということはその持ち主は死んでもらわなければならない」

魔女「……これが、無理だと言った理由で、禁止薬に指定された理由でもある」

魔法使い「別に無理じゃないでしょ?」

魔女「……? どういうことだ」

魔法使い「つまり、生命が一つあれば作れるし、助手くんも救える、っていうことだよね?」

魔女「……そうだ」

魔法使い「なら簡単だよ」

魔女「簡単、だと」



魔法使い「私の生命、使えばいい」



パンッ!


魔法使い「……痛いなぁ。どうして叩くの?」

魔女「……変な事を言うからだ」

魔法使い「別に変じゃないよ」

魔法使い「私の一番の願いは、魔女に悲しまないで欲しい」

魔法使い「魔女には、早く日常に戻って欲しい」

魔法使い「助手くんがいた日常にね」

魔法使い「魔女が悲しまなければ、私はそれでいいんだよ」

魔女「…………」

魔法使い「だから、私のことなんか気にしないで」

魔法使い「私の生命を使って助手くんを」


魔女「魔法使いは馬鹿だな」


魔法使い「……へ?」

魔女「助手くんに似て、少し違う」


魔女「魔法使いは正しさが分かっていないようだ」


魔法使い「正……しさ?」

魔女「ああ。助手くんは確かに魔法使いみたいに自分の生命を危険に晒していたよ」

魔女「だが、そこには魔法使いと違って正しさがあった」

魔女「エルフに事を伝えに言ったときも、自分を犠牲にしたときも」

魔女「どれもその時は正しい答えだった」

魔女「だが、私は魔法使いの提案に正しさは無いと思う」

魔法使い「…………」


魔女「それに、魔法使いは周りの感情を理解していない」

魔法使い「……感情、なら分かって」

魔女「いや、分かっていないよ」

魔女「……私は魔法使いを失えば悲しむ」

魔女「それでは、君の願いは叶わない」

魔法使い「…………」

魔女「死霊術師も、エルフだってそうだろう」

魔女「まだ自分が与えた影響を分かっていない」

魔法使い「…………」

魔女「……あと、魔法使いの生命を貰って助手くんが生き返ったとして」

魔女「助手くんは喜ぶと思うか?」

魔法使い「……思わない、よ」

魔女「ならいい」

魔女「魔法使いの提案は却下だ。いいね?」

魔法使い「……うん。ごめんね」

続き明日です


死霊術師「……あの」

魔女「? 何だ? 死霊術師も生命をあげるとか言うのではないだろうな」

死霊術師「……違う……。一つ……提案がある」

死霊術師「……エルフ……生命は平等だって言ってた」

エルフ「あ、ああそうだ。生命は平等、って言うか変わりないって言うのか?」

死霊術師「……今も見える?」

エルフ「……ああ。ちゃんと見えるけど……」

魔女「それがどうかしたのか?」

死霊術師「……じゃあ、この子は?」ガシ

猫「ニャー」

エルフ「…………は?」

魔法使い「猫も同じように見えるだけじゃないのかな?」

魔女「……いや、違う。だろう? エルフ」


エルフ「……生命が、三つ?」


魔法使い「!?」

死霊術師「……やっぱり」

魔女「……やはりか。これはもしかしたら……」

エルフ「……ま、魔女! 何なんだよこの猫! 生命を三つ持つなんて……ありえるわけ……」

魔女「いや、ありえる」

死霊術師「……この猫は……九生の猫。……生まれつき九つの生命を持つ」

エルフ「……九生の猫、だと? あたしも聞いたことがあるが……実際に見たのは初めてだ」

魔女「もう既に六つ失っているのか。……残り三つ、か」

魔法使い「で、でも、猫の生命が助手くんの生命の代わりになるの?」

死霊術師「……それは大丈夫……だと思う。……エルフも……生命の大きさは変わらないと……言っていた……から」


エルフ「……確かに、そうだ。だが」

魔法使い「なら、これを使うことが出来れば」

エルフ「そんな簡単な話じゃねぇよっ!!!」

魔法使い「」ビクッ

エルフ「……生命を扱うのに、そんな簡単に決めることは出来ねぇ。例え猫だったとしても、それは変わらねぇ」

魔女「……そうだな」

魔法使い「……ごめんなさい」

エルフ「いや、こっちこそいきなり大きな声出して……悪かったな」

魔女「だが……確かに魔法使いの言う通り、最後の頼みの綱であるのは間違いない」

エルフ「……いや。それでも無理だ」

死霊術師「……? ……どうして」

エルフ「……生命を使うには、双方の合意が必要だからだ」

死霊術師「……あ……あ」

エルフ「猫とどのように話して、どのように合意してもらうかだ」



猫「……ニャ」



魔法使い「……えっと、そういう魔法とかは……」

エルフ「無い。魔法使いも分かるはずだ。未だ動物の言葉は人には分かり得ない」

死霊術師「……じゃあ……どうすれば……」ナデ

猫「…………」

魔女「……私に少し考えがあるのだが。死霊術師、少し猫を貸して欲しい」

死霊術師「……ん……いいよ」スッ

魔女「ありがとう」ガシッ

魔女「……なぁ、猫。もしかして君は、私達の、人の言葉が分かるのではないか?」

猫「!」

魔女「……前に助手くん、死霊術師と一緒に配達、とおつかいに行ってきてくれたとき、助けてくれたと聞いている。……私の勝手な考えだが」

魔女「……もし分かるのならば、助手くんのために生命をくれないか……?」

猫「…………」

猫「…………」

猫「……分かりました」

魔女「! 」

猫「……本来ならばずっと隠し通したかったことですが」

猫「主殿がお戻りになるのならば、どうぞよろしくお願いします」

続き明日です


魔女「エルフ、猫は君に任せる。私が薬を作っている間に済ませておいてくれ」

エルフ「……分かった。……で、えーと猫だったな」

猫「はい」

エルフ「今一度聞く。本当にいいか?」

猫「主殿が戻られるのならば構いません。成功させてください」

エルフ「……分かった。じゃ、ちょっと待っててくれ」

死霊術師「…………? エルフ……何書いて……るの?」

エルフ「ああ、魔法陣だ。取り出す用の。といっても簡単なものだから……っと、完成」

魔法使い「……私、この魔法陣見たことない」

エルフ「だろうな。妖精族にしか見えない生命を取り出す時に使われる魔法陣だからな。魔法使いには出来ない」

エルフ「さて、猫。真ん中で楽にしててくれ。……ほんとに死んでも大丈夫なんだよな?」

猫「ええ、大丈夫ですよ。後で復活するだけですので。さ、どうぞ」


エルフ「じゃ、始める」

エルフ「…………」スッ

エルフ「…………」ブツブツ

猫「……」グタッ

死霊術師「……あ」

魔法使い「猫の口から光ってる珠が……」

エルフ「…………ふぅ」

エルフ「何とか成功だ。……お、魔女」

魔女「良かった。エルフも成功したようだな」

エルフ「久し振りとはいえ、これでも妖精族の長なんでな。失敗したら笑われるぜ」

魔女「これで薬は完成だ。地下に行こう。そこで助手くんを復活させる」

死霊術師「……分かった」

魔法使い「……うん、分かったよ」

エルフ「……ああ」


――――地下室

魔法使い「……あれ?」

エルフ「……何も、無いだと?」

死霊術師「……助手くんは?」

魔女「心配するな。ちゃんといるよ」

魔女「……透明化、解除」スッ



助手「」



死霊術師「!」

魔法使い「……透明化、かぁ。えと、何で透明化?」

魔女「……委員会が探してきた場合に見つからないようにしておいただけだよ。杞憂だったが」

エルフ「……すまん」

魔女「……さて。始めよう」

魔法使い「……その薬って、飲ませるの?」

魔女「ああ。体内に入れば生き返るようになっている筈だ」

魔女「……失敗する可能性も無くはないが」

魔法使い「大丈夫だよ。魔女はいつも完璧だから」

魔女「……ありがとう。さて」


魔女「助手くん。皆がこうして君を待っている」


魔女「……無論、私もだ。だから頼む」


魔女「もう一度、私のところで」


魔女「助手を、やってくれ」スッ



助手「」


助手「」


助手「」


助手「……」ピク



助手「……ん、うぁ」



助手「……あれ」キョロキョロ



助手「……お、おはようございます。魔女さん?」


続き明日です


魔女「……ふふ、ああ、おはよう」

助手「……あれ、僕って死んだはずじゃ」

魔女「ああ、確かに死んだよ。だけど復活させた」

助手「……えーと、何がどうなって僕は生き返ったんですか?」

魔女「……君が、助手くんが必要だったから、だよ」

助手「……必要、ですか」

魔女「それと、この世界がファンタジーだからだ。ファンタジーでは、復活はつきものだろう?」

助手「いやまあ、それはそうですけど……」

魔女「今は、それで納得してくれ」

助手「……分かりました。詳しい話は後で聞きますね」

魔女「……さて、エルフ。言うことがあるのだろう?」

助手「エルフさん?」

エルフ「……ひ、久しぶり」


助手「エルフさん! 大丈夫だったんですね!」

エルフ「……? 大丈夫って……あ、毒のことか。ああうん、見ての通りだ」

助手「……良かったぁ」

エルフ「……あ、あの、さ。その件なんだけど……」

助手「はい?」

エルフ「……ごめんなさいっ!」

エルフ「初めて……助手、くんに会った時に、あんな酷いことを言って」

エルフ「その後にあたしに毒のことを言いに来た時も、あたしは君の話を聞かずに拒絶して」

エルフ「……だけど、結局君の言葉に助けられて」

エルフ「あたしは人間だからという理由で君を、勝手に悪だと決めつけたんだ」

エルフ「でも君はあたしを助けようとしてくれた。……なのに、あたしは……ろくに感謝もしないで……」


エルフ「本当にごめんなさいっ!」


助手「……ええと、あの」

エルフ「許してくれなくても、いいんだ」

エルフ「君を委員会に売ろうとも考えたし、殺したいとも考えた」

エルフ「それで、実際に君は死んでしまった……」


エルフ「……あたしは、本当に最低なやつだ。どのようにしても構わない」

エルフ「それだけのことをやったんだ。殺されても文句は言わない」

助手「…………」

助手「……僕は、エルフさんが無事で良かったです」

エルフ「……?」

助手「僕はエルフさんに死んで欲しくないです。だから、そんなこと言わないでくださいよ」

助手「……人間だから悪、と思うのは仕方ないです。誰でも、物事は第一印象で決めますから」

助手「だから、ええと、これからもお願いします。エルフさん」

エルフ「……そんなものでいいのか?」

助手「もちろんです」

エルフ「……君は、あたしの人間に対する印象を変えた」

エルフ「ありがとう。これからも、よろしくお願いします」

助手 「はい!」


魔法使い「……魔女、お疲れ」

魔女「疲れはもう吹き飛んでしまったよ。助手くんが生きてるだけで十分だ」

魔法使い「そっか。やっぱり、助手は必要だねぇ」

魔女「ああ。……で、死霊術師は、話さなくていいのか?」

死霊術師「……私は……後でたくさん話す……だから……いいよ」

魔女「……そうか」

魔法使い「そういう魔女はどうなの? 話す事、あるんじゃないの?」

魔女「……ああ」


魔女「……助手くん」

助手「魔女さん」

魔女「……本当に申し訳ない。君を殺すという選択肢をとるなんて」

助手「……最善の選択ならば仕方ないですよ。それに、僕もこうして生きてます」

魔女「……だが」

助手「それよりも、こんな僕を生き返らせて下さり、有難うございます」

助手「僕は、それだけで十分です」

魔女「……うん」

助手「……あ、あの猫はどうしてますか?」

魔女「……実は、君が生き返ったのは、猫の生命を貰ったからで」

助手「! そ、え、猫はっ!?」

魔女「い、今は寝ている。まだ起きないだろう」

助手「……そうですか」

魔女「……さて」

助手「あ、仕事、しますか?」

魔女「……そうだ、な」

魔女「皆で夕食を食べようか。助手くんに任せるよ」

助手「はい!」

続き明日です


――――夜

助手「魔女さん。片付けが終わりましたので先に休んでも……」

魔女「……すー……すー」

助手「……既にお休みでしたか」

魔女「……すー……すー」

助手「……懐かしいな。最近は夜遅くまでやってなかったからこんなことも無かったけど」

助手「……まあ、今日は仕方がないというか、話を聞く限りでは一番大変だっただろうし」

助手「……魔女さーん。運びますね」

魔女「……すー……すー」

助手「……はは。……よっ……と」

助手「……やっぱり、変わらない日常が一番だなぁ」


――――二階

魔女「……ん……?」ゴシゴシ

魔女「……助手くん、か?」

助手「あ、起こしてしまいましたか? すいません。起こさないように部屋のベッドに運ぼうとしたのですけど」

魔女「……いや、いいが……変わった持ち方だな」チラ

助手「この世界には無いんですね。僕の世界では『お姫様抱っこ』という名前がつくほど有名な持ち方なんですよ」

魔女「……お、お姫様か。何だか、私には似つかわしくない名前というか、まるで正反対だな」

魔女「すまないね。もう歩けるから下ろしてくれて構わない」

助手「どうせならこのまま運びますよ。僕もそれ程辛くはないですし」

魔女「い、いやもう大丈夫だ。だ、だから早く、下ろしてくれ……」

助手「わ、分かりました」


魔女「……助手くん、少しいいかな」

助手「はい? 何でもいいで」

魔女「…………」ダキッ

助手「ちょ! ま、魔女さん!? い、いきなり」


魔女「もう少し、このままでいさせてほしい」ギュッ


助手「あ、え、ど、どうぞ」

魔女「…………助手くん」

助手「は、はい」


魔女「……私は、弱い人だ」


魔女「助手くんが居なくなる前はあんなに強がっていたというのに」


魔女「いざ居なくなれば、寂しくて、辛くて、苦しくて」


魔女「私は、心のどこかでは分かっていたんだ」


魔女「助手くんとの生活はとても楽しかったし、既に日常と化していた」


魔女「そのような大事なものを捨てるのだから、寂しいし辛いし苦しいのは当然だと」


魔女「心では分かっていたんだ」



魔女「自分の心を無視して行動することは、自分にとって損になるだけだった」


魔女「だから私は、自分の心に嘘をつかずに」


魔女「素直になることに決めたんだ」


助手「…………」

魔女「……だから、その……」

魔女「……助手くん。君がここで働いてくれなければ、君がこの世界に来なければ」

魔女「私は変わらないままだったと思う」



魔女「……ありがとう」



助手「……こちらこそ」

助手「僕こそ、魔女さんには感謝してもしきれません」

助手「初めて会った僕に優しくしてくれて」

助手「薬屋という、僕の居場所を作ってくれて」

助手「僕を生き返らせてくれて」



助手「ありがとうございます」


続き明日です


助手「…………魔女さん? 僕は何時までこうすれば」

魔女「私の気が済むまでだ。当然だろう?」ギュー

助手「当然と言われましても……。明日でも出来ることですし……」

魔女「嫌だよ。今でないと……」

助手「……魔女さん? 何か……ありました?」

魔女「……ふふ」ギュッ

魔女「さて、私は寝るとしよう。長い時間抱きついていて済まなかったな」

助手「いえ、魔女さんが良いならば大丈夫ですよ」

魔女「じゃ、お休み。また明日から」ガチャ

助手「はい、お休みなさい」

バタン

助手「……じゃ、僕も寝るとす」



死霊術師「……助手くん……何して
の?」



助手「し、死霊術師さん。……まだ起きてたんで」

死霊術師「……余りにも遅いから……様子を……見に来た……だけ」

助手「……何時からですか?」

死霊術師さん「……魔女が笑った辺り……から……見てた」


――――助手の部屋

助手「死霊術師さんも、先にお休みになれば良かったのでは」

死霊術師「…………」

助手「僕のことなんて待たなくても……死霊術師さん?」

死霊術師「……魔女が……助手くんに……」ブツブツ

助手「死霊術師さん? 魔女さんがどうかしたんですか?」

死霊術師「……何でもない……私の……独り言」

助手「……? 珍しいですね。独り言なんて、少なくともそんな姿を見たのは一度も」

死霊術師「……助手くん」

助手「はい? どうかしまし」

死霊術師「…………」ダキッ

助手「! ちょ、死霊術師さん?」

死霊術師「……ん……やっぱり……温かい」

助手「……あ、温かい、ですか?」

死霊術師「……うん……助手くん がいると……助手くんといると……いつも温かい……の」


死霊術師「……助手くんが居なくなってから……私も……寒かった」ギュッ

助手「……寒かった、とは?」

死霊術師「……分からない……だけど……寒かった……冷たかった……寂しかった」

死霊術師「……やる気も……心も……失ったよう……だった」

死霊術師「……でも……だけど……今は違う」

死霊術師「助手くんがいる……から……温かくて……嬉しくて」

助手「…………」

死霊術師「……だから」



死霊術師「ここにいてくれて、ありがとう」



助手「……すいません。僕がいない間に、そんな事になってたんですね」

死霊術師「……昔は昔……今は今……気にしなくていい」

死霊術師「助手くんが……今……ここにいるだけで……嬉しい……から」

死霊術師「……それに……助手くんが罪を感じる……必要もない……よ」


死霊術師「だから……その」

助手「…………」


死霊術師「もう一度……約束……して欲しい」



死霊術師「……絶対……突然……皆の前から……姿を消さないこと」



助手「……分かりました。……それなら、僕からも同じように約束して欲しいです」

助手「死霊術師さんも、突然、皆の前から姿を消さないように」

死霊術師「……うん……約束……する……よ」ギュッ

助手「……さて、そろそろ寝ましょうか、死霊術師さん。明日も朝早いですよ」

死霊術師「…………あ……あの……助手くん」

助手「何ですか?」

死霊術師「…………一緒に」

死霊術師「……一緒に……寝て欲しい……」

助手「…………え」

明日の更新で最後になります
できるだけ早め(夜)に投下する予定です


助手「……あの、狭くないですか?」

死霊術師「……ううん……大丈夫……」

助手「ならいいのですけど……」

死霊術師「……明日から……もう仕事……?」

助手「はい、今日は軽い方でしたけど、明日からは多分元に戻ると」

死霊術師「……そう……頑張ってね」

助手「はい。では、お休みなさい」

死霊術師「……うん……おやすみ」


――――朝

助手「……おはよう」

猫「おはようございます、主殿。まあ、何というか、幸せな状況で」

助手「……確かにそうなんだけどさ。僕はご飯作らなきゃいけないんだけど……」

死霊術師「……すー……すー」ギュッ

猫「……抱き枕、ですね」

助手「うん。動けない」

猫「……しかし、分かる気はしますけど」ピョン

助手「ん、分かる気がするって?」

猫「主殿の近くにいると、不思議と落ち着くのです。……私の勘違いかもしれませんが」

助手「……勘違いでも嬉しいよ。ただ、落ち着きすぎるのも難点だけどね……」


死霊術師「……ん……ぅ」パチ

助手「死霊術師さん。起きましたか?」

死霊術師「……おはよう……助手くん」ギュッ

助手「はい、おはようございます。あの、離してくれるとありがたいのですけど……」

死霊術師「……なん……で?」ギュー

助手「……あの、ご飯作らないといけないんですが……。作らないと魔女さんに怒られてしまうので……」

死霊術師「……やだ」ギュー

助手「えっ、いや、それは」

猫「……主殿。魔女殿を呼んできます」

助手「えっ、ちょっ、今は困るんだけど……って、開けれないよね、扉」

猫「……ほっ!」ピョン

ガチャ

助手「すごっ!」

猫「では、呼んできますね」

助手「う、うん……いや待って!」


魔女「助手くん、まだ寝て……」

助手「……おはようございます」

死霊術師「……すー……すー」ギュッ

魔女「……成程。それならば仕方がない」

助手「……すいません」

魔女「……死霊術師。起きているんだろう? 助手くんを放してやってくれ。朝食の時間だよ」

死霊術師「……ん……分かってる」

魔女「……分かってるなら早く起きてくれ」

助手「死霊術師さん。ほら、行きましょう?」

死霊術師「……うん……」

助手「では、僕は先に用意しておきますね。もう少し待っていてください」

魔女「ああ。よろしく」


魔女「……さて、死霊術師。助手くんと一緒に寝ていたのは大方分かるが……」

魔女「何故ああも放したくないんだ?」

死霊術師「…………」

魔女「……別に突然消えるわけでもなかろうに、どうしてこうも」

死霊術師「突然……」

魔女「……?」

死霊術師「……私は……私にとって大事なものほど……突然……消える……よ」

死霊術師「……私の仕事で……よく分かってきた……から」

死霊術師「だから……助手くんも……そうなるかも……しれない」

魔女「……そうか」

魔女「だが、それは大丈夫だ」


死霊術師「……そうは言い切れな」

魔女「言い切るよ。私は言い切る。言い切れる」


魔女「助手くんをそんな事にはしない」


魔女「これから、たとえ、何があってもだ」


魔女「……そうでもしないと、償えないからな……」


死霊術師「…………」

魔女「……話は終わりだ。私たちも行こうか。猫も」

猫「分かりました」

死霊術師「……分かった」


魔女「ご馳走さま」

死霊術師「……美味しかった」

助手「ありがとうございます」

魔女「さて、助手くん」

助手「はい? 何ですか?」

魔女「今日からまたしっかりと働いてもらうよ。これまで以上に、ね」

助手「勿論です。僕は魔女さんの助手ですから」

死霊術師「……でも……たまには休みも……」

魔女「……それもそうか。久しぶりだが、明日は皆で街に行こう」

助手「街、ですか」

魔女「ああ、案内も兼ねてな。助手くんがこれから住む街でもあるから」

助手「……ありがとうございます!」

魔女「……じゃ」



魔女「今日も仕事、頼むよ」



助手「はい!」







ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom