モバP「知り合いの誰か」 (49)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSスレです。
性描写を含むので苦手な方はご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434208958

『Gさん』


 眉毛に溜まっていた汗を拭うために、視線を動かした。

 だから、道場の端で。

 いつの間にか制服に着替えていた部長が、監督と話している後ろ姿に気付いた。

 今日もかぁ、と、誰に聞かせるでもない言葉が零れた。


 初めの頃は監督も、ふざけ半分にあてこすったり、難色を示すフリをしたりしていたものだけれど、今はその『手続き』も淡々としたものになっていた。

 慣れてしまったのだ。部長がいない、部長がいなくなる、という状態の、部の回し方に。

 むしろ、今となっては『わざわざ時間を作って来て頂いている』くらいの感覚かもしれない。

 なにしろ、アイドル『水野翠』が在籍する女子弓道部なんだから。

 ただでさえ、容姿も人望も――コネ、もひっくるめて――部長目当ての入部希望者は多かったというのに、今ではホントに見学者も絶えないくらい。

 自分がそうじゃないとは言わないけれど――でも、そういう連中と一緒にされたくはない。 

 部長はちょっと天然で純粋で、そういう邪念とは無縁のひとであるべきなんだから。


 監督の許可がおりたのだろう、壁に掛かった部旗へ正座し、黙想を始める部長。

 こっそり盗み見て、見つかって大目玉をくらったかつての記憶が甦る。 

 あの時は、部長もずっと道場にいたのにな――

 
 ――棒立ちになっていた自分に気付く。

 背を向けているにも拘らず、道場の皆を試すかのような清冽さを湛えた、あのひとの居姿との隔たり。

 惨めになりながら――矢を番える。
 
 去るひとの気配を感じても――たったひとつ残った意地を張るように、振り解かれそうになる指に、力を込めていた。

 
 この一矢は、褒めてもらいたかった。叱ってもらいたかった、そんな想いの一握り。
 
 走馬灯じみた矢の軌道。

――――――――――――――――――――――――



翠「はぁ、はぁ――あ、ありがとう、ございます……んっ」

P「ははっ、ゆっくり飲んでいいぞ……部活の後できつかっただろうに、調整できなくてすまなかったな」

翠「ぷは、ふぅ……い、いいえ、元々私の我儘で、空けて頂いていた時間なので。それに……他の日程では」

P「他?」

翠「――Pさんに一緒に来ていただかないと、水の中で、というか水着での撮影は、、ふぅ、恥ずかしくて」

P「ああ、そんなことか――まあ、何事も慣れだよ」

翠「慣れ、ですか――慣れるもの、なのでしょうか」

P「勿論、慣れ過ぎるのも良くないけどな。実際、不慣れな翠の、恥じらう表情が画として欲しいこともしょっちゅうだし」

翠「も、もう、からかわないでください……でも、そうですね。確かに、慣れは――悪くすれば停滞や、慢心にも繋がります」

P「それはどの道にも言えることだよな。習慣化するのと同じくらい、初心も大事ってことだろう」

翠「初心――ならば、私は、大丈夫です。初めてアイドルとして一歩を踏み出した時の、あの胸の高鳴り――止めることもできません。Pさんに見られていれば、猶更」

P「それは――冥利に尽きる話だなあ」

翠「でも今日は、もっと――ドキドキしています。なんだか、敏感になってしまったみたい、ん……っ」

こくん、こくん……

翠「ぷは……Pさんの視線に――それがどこに注がれているか――温度を、感じてしまうくらい……あの、Pさん」

翠「……もう休憩も終りです。また頑張ってきますから――みててくださいね」

――――――――――――――――――――――――


 その夜、相談があるとPさんに伝えた私は、寮の自室であの人を待ち――幕を開けるようなチャイムの音に応じました。

 ドアを開けた私が――まだお仕事時の水分の残る――水着を着ていたことを認めたPさんは全てを察し、履物も脱がない内に私を掻き抱きました。

 知ってか知らずか――軽装。お風呂に入った後の匂い。

 がちゃり、と後ろ手に施錠するのと同時、お互いの唇を、お互いの舌で埋め合います。

 舌を絡ませながら、翠は悪い子だと何度も叱られました。

 舌を絡めながら、私は悪い子ですと何度も告白しました。

 抱き締めながらお尻を掴んでいた掌が、その指が股布に伸ばされ、繊維に割込んだ時――爪がぐじゅりと滑り、私は爪先立ちになって身を震わせました。

 もう濡らしているのかと、Pさんが咎めるように言います。

 私は鳴きながら答えます。

 この部屋でPさんをお待ちしていた時から――いいえ、プールであなたに見られていた時から――いいえ。

 部活を早退し、目を閉じてあなたと会えることを想像した時から既に、昂ぶっていました――と。

 それを聞いたPさんは一層、貪るように私を求めてくれました。

 淫らな想いで塗り潰された十八歳の女の子を、更に染めることを欲した様子でした。

 私は肩を捉まれ腰を寄せられ、伸び上がったところで決して逃れられない体格差を思い知り――

 ――もうこの方からは逃げられないのだと、しあわせな閉塞感に身を浸しました。

 それは――もう逃がさないという、私の獣欲の鏡写しに他なりませんでした。

 くちづけと舌の蹂躙は途絶えず、視界の外で身体の、あちこちで、被虐の波紋が伝播していきます。

 いつのまにか肩紐は外され、片方の胸だけを剥き出しにされ窮屈に揉みしだかれている感触に、身を捩らせて応えます。

 こんなに濡れているのか――もう片方の手が掻き立てる水音は、そんな責め言葉に聞こえます。

 両足は両足に割り込まれ、快楽のせいで電極を打ち込まれた蛙のようになり、それでも倒れ込んでしまわぬよう、逞しい身体に縋りつきます。

 縋りつけば――お腹の辺りに、熱いあつい脈打つ男性器が押し付けられてしまいます。

 その熱量に圧され、後退りしながら誘い込み――気が付けば浴室で、私たちはもつれ合っていました。

 お互いの荒々しい息遣いが、水場の湿度をいよいよ濃くしていくように思われました。

 Pさんは私を壁に追いやり、ご自身は屈んで――少しだけ、私の腰を抱え上げました。

 ぐいと、水着の下部がずらされた気がしました。

 そうしてこともなげに――私は真下から貫かれていました。

 割り裂かれた私は、悲鳴をあげます。

 そうして機械の様に打ち込みが始まり――私は悲鳴を断続させます。

 歓喜に満ちた悲鳴。

 でも、捕食されることを悦ぶ生物の道理はありません。

 なら私は――きっと食べている方なのでしょう。

 肉棒をぱくりと咥え込み、じゅるじゅると涎を垂らして啜り、その汁の一滴まで飲み下そうとする、貪欲な性。

 宙ぶらりんで満足に動けもしないのに、気付けば腰をくねらせ、あるいは臓物まで蠢かせて、打たれる快楽を増幅させることに夢中で。

 ああ――いま、どくりと、奥で飲み下して。


 ひとしきりナカに注いだ後、湿度のせいか、お互いのカラダは常以上の汗に塗れ――Pさんはシャワーの栓を捻りました。

 もうどれだけ達したか分からず、汗だくで呆然と息を吐く私の顔を、火照った胸を冷水が滑り――未だ痺れの抜けない結合部の窪地で、水溜りになるのが見えました。

 こんなに汗を流したのはいつ以来だったかしら―― 


 僅かに戻っていた意識は――再び始った愛交で融け落ち、昏い排水溝へ、ゆるゆると呑み込まれてゆきました。

 今のこの狭い浴室だけが、私にとって全てでした。

『Hくん』


 小学生最後の夏のこと。

 夏祭りと呼んでいいかさえ微妙な、町内会の盆踊りの何日か前。

 たしか、スーパーにアイスでも買いに行った帰りだったと思う。

 クラスメイトなんていう関係は、夏休みに入ると、教室っていう場所がなかったら驚くくらい接点がない。

 夏休みに入る前に言えなかったから、もう諦めていた。

 だから、誰も居なかった往きと同じ帰り道に、当然みたいに彼女が立っていて、僕はただ呆然とするしかなかった。

 あっちはたぶん気付いてないんだろう。

 無愛想で、そのくせいつも自信なさげなあの子が、つぼみが開くみたいに自然に、笑みを浮かべていた。

 全部を受け入れてくれるような、柔らかな表情。

 チャンスだと。

 そう思うよりも先に、見とれてしまっていた。

 熱に焼かれ、ソーダ味のアイスが、ずるりと棒を伝った。

 何滴かしずくが落ちた。


 まるでその音が聞こえたかのように、彼女はこちらに気付いた。

 その瞬間あの子は驚き――上がった花火が消えてしまうように――教室で見慣れた、気持ちまで閉ざしたようなあの表情に、戻ってしまった。

 
「久しぶり……どうしたの?」


 関さんは、いい子だ。クラスメイトとして何か月か過ごしただけでもそれとわかるくらい。

 それでもその表情は、僕みたいな気の小さいやつを蹴散らすには十分だった。

 僕はああだかこうだか言って、逃げるように彼女を追い越して行った。走りながら千回も自分を責めた。

 諦めたはずの『お祭り行こう』の言葉が、再び腹の底へ落ち込んでいくのを感じた。

 それが、二年経った今もわだかまり続けている――あの子が今、遠く離れた場所で、笑顔を仕事にしているせいで。

 もう、ひとつの接点さえないから、取り返しも、修正も、悪化だってしないまま、詰まった泥みたいに。

裕美「あはは! Pさんったらほっぺにソース付いてるよ、ほら、屈んで?」

P「お、おう、すまない……しかし、良かったのか? 久しぶりに地元の友達と遊ぶっていうのもあっただろうに」

裕美「うーん、それも考えたんだけど――でも、二人とも浴衣で、一緒にお祭り――その夢の方が大事だったから」

P「ご実家に挨拶にあがったら用意してあるんだもんな――少し驚いたよ」

裕美「思い付いてから、急いでお母さんに頼んだものだから、高級品じゃないけどね」

P「いやいや――というかそれも含めて出発前、あんな話を切り出したんだな。『最終日は実家に寄って』って」

裕美「お祭りが終わってから、Pさんだけホテルに戻るのももったいないし――私のわがままだってことは分かってるけど、でも」

P「まあ、地元に戻る時間も滅多に取れないしな。機会があったら出来るだけ挨拶したいし、ちょうど良かったよ」

裕美「ふふっ、浴衣を着てもやっぱり真面目だね、Pさんは」

P「裕美を預かっている以上はな。でも、裕美の言ってたことも叶えてやりたいって思って――いや、違うな」

裕美「?」

P「――俺も、裕美と浴衣で、一緒に浴衣でお祭りに行きたかったよ」

裕美「わぁ……嬉しいっ!」ギュー

P「お、おいおい」

裕美「お面被ってるから大丈夫だよ。それに、私がこんなところにいるなんて誰も思わないって」

P「仕方ない――『迷子にならないように』、な」

裕美「むっ、そういう子ども扱い、しちゃう?」ニコォ…

P(お面の内側からでっけえ気を感じる)

裕美「……ふふっ! Pさんってば、なんだかおじさんみたいだね」

P「ははっ、裕美に比べればおじさんだな」

裕美「――そう、だね、歳、離れてるもんね。二人並んで歩いても――」

P「裕美?」

裕美「――私ね、アイドルになる前、ここで暮らしてた頃は、お祭りに男の子と一緒に行くことなんてないって思ってた。私、自分に自信がなかったから」

裕美「でも、変わるんだね、変われたんだね。自信がないからダメ、じゃなくて、自信を持てるようになりたいって、今ならそう思えるの」

裕美「きっかけはアイドルだけど、今はひとりの女の子として――あ、あなたの隣にいたいの。今日だけじゃなくて、ずっと、この先も……」

 お父さんがPさんビールを勧めているその隣で、私はずっとドキドキしてた。

 久しぶりのお母さんの料理の味も、よくわからなかったくらい。

 お祭りの帰り道にある神社で、交わしたキスの感触が、ずっとくちびるに残っていたから。

 抱きしめられたカラダが、ずっとそのままみたいに硬直してたから。

 遠くの祭囃子と重なる、耳元の息遣いが、鼓膜に留まったままだったから。

 ろくに灯りもない境内だったから、Pさんの顔はよく見えなかったし、私の顔も、見られてない――たぶん。

 だから晩ご飯の時は、二人が私の小さい時の話をし始めるまで、ずうっと緊張しっぱなしだった。
 
 ご飯が済んで、お風呂もみんな上がって、さて寝ようとなった段階で――かつての私の部屋にはエアコンがないってことが思い出されたの。

 急ごしらえのPさん用の客間にはそれがあるんだ。そしてどちらの部屋も二階。

 どうしても暑かったらPさんのお部屋で寝れば? なんてお父さんとお母さんは笑っていた。

 そうなんだ。世間的には、ありえない、警戒すらされない関係。

 そうとしか見られていないことに、半分安心しながら――もう半分は、ズキズキしてた。

 
 夜中、私はPさんを部屋に呼んで、子供の頃の話をした。私の部屋は、私が出て行った時とほとんど変わらず――扇風機だけが、新しく買い換えられていた。

 さっき二人に面白おかしく脚色された話をきちんと修正する必要があったし? それに。

 ――男の子、じゃないけれど、私のだいすきなひとと、私の部屋でお話するのも、今日を逃したらないのかもって思ったから?


 そんなの、うそ。



 電気を消した二回目のキスは、お父さんと飲んでいたビールの匂いがした。

クラクラしたのを見透かされるようにベッドに横たえられ、慎重にパジャマのボタンが外されていく。

 まるで高級なお菓子の包み紙を剥いでいくみたいに、ひとつひとつ、私を解いていくあなたの、手。

 そのあとは、意地悪なくらい丁寧なまま、ゆっくりと、私の汗ばんだカラダをいじって、ほぐして、そして、一直線に繋がった。
 
 きゅうっと肺が縮んで、深く息を吸い込んだ。あくびよりも小さいようなそんな音だって、今の私にはとても大きく聞こえるんだ。

 舌を絡めて、飲まされる唾と一緒に、喘ぎ声を抑え込まれる――私は今どんな顔をしているのかな。

 これ以上ないくらいあなたと繋がっているのに、あなたに褒められた笑顔はきっと出来ていない。

 電気が点いていなくてよかったと思う。

 いつもよりずっと静かで、じれったいくらいの動きが、今日はどうしてか奥深くまで痺れが伝わってくる。

 女子寮じゃない、境内でもない――私が過ごしてきた私の部屋で、その頃は全然知らなかった人に組み敷かれていることが、何よりもいやらしいことのように感じる。

 汗だくで溶け合う室内の空気を、扇風機が掻き回すけれど、それくらいじゃ火照りはぜんぜん収まらない。

 カエルみたいに押し広げられた私はあなたの身体に潰されて、身動き一つとれず、くっついてる部分だけがばくばくと欲張りに脈打ってる。

 入り口を塞がれ、奥をこんこんと突かれて、蜜と一緒に悲鳴が漏れそうになる。

 呼吸が苦しくて、堪らなく蒸し暑くて、でもぬるま湯のうたた寝みたいにキモチよくて、意識がもうろうとする中で、それでも、木の幹みたいなカラダに必死に巻き付いた。

 そして、とんじゃう直前、にじり、にじりと、Pさんに合わせて腰を動かして。

 がちりと、ハマって、いちばん奥で、はじけるのを感じた。私はびくびく震えながら声も出せずに、ただ一滴でも零れないよう、ぎゅうっと腰を擦りつけた。

 朝、言い訳しないといけないから。
 
 私一人の寝汗って言って、信じてもらえるかな。

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P「――で、次の展開なんだけど」

光「待ってましたぁ!」パチパチ

P(普通は、ストーリーの筋は最初から教えるんだけど……監督きっての頼みだからなぁ)

光「で? それで? アタシは次回どうなるんだっ?」ワクワク

P(『直前で台本の内容を教えて先入観の無い演技を』――光の資質を見込んでるのか、それとも無茶言ってるだけなのか)

P「次はな――ずっと信じていた博士に裏切られて、深いダメージを受ける回だ」

光「そうか。ハカセがうらぎ……な、なんだって?!」ガタッ

P(確かに迫真の演技――いや、素だな、これ)

光「そんな……あのハカセが裏切るなんて……そ、それは、はじめからか? はじめから仕組まれていたことなのかっ?!」

P「ああ、ハカセは最初から敵側だったみたいだ」

光「なん、だと……」ガクッ

P(これだけ物語にのめり込んでくれたら制作陣も本望だろうなぁ)

光「……な、なあ。Pさん。アタシはどうしたらいいと思う?」

P(脚本的には、『怒りのままに秘められたチカラを解放して最終決戦へ』という流れだな――尺の都合を感じなくもない)

P「珍しく悩んでるな、光」

光「あ、ああ……裏切られることも、避けがたいヒーローの道、そう思ってはいたが……いざ自分がとなると」

光(くっ、ヒーローは皆、こんな葛藤を抱えて闘っていたのか……! でも、たとえ最初は敵だったとしても、ハカセに熱い想いを届ければきっと……!)

P「そうだなー、たとえば……自分が、光自身が信頼している人間に裏切られたら、どうだ?」

光「え……ア、アタシが、いちばん信頼しているひとに……っ?」ゾクッ

P「ちょっと辛い想像かもしれないが――少し、考えていてくれ」

光「…………う、うん」

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 こんな迷いは、絶対無かったハズなのに。

 たとえ助けようとした人にバカにされたって、アタシはへっちゃらだったのに。

 昼間の、たったひとつの言葉だけで、カラダの真ん中をすっぽり抜き取られたような感覚に身震いしてる。

 番組のことじゃない――ハカセなら、心を入れ替えることを諦めずに戦い続けられる気がする。

 でも、あのひとが言った言葉。

 アタシがいちばん信頼している人に裏切られたら――それがPさんなら? アタシは、戦えるだろうか?

 想像さえしなかった。足元から世界がなくなっていくかのような喪失感。

 アタシの夢を叶えてくれた人。

 相棒から恩人になって――今は何て呼んでいいか、よくわからなくなっている。

 アタシはみんなの味方。アイドルでありヒーローであるアタシが、秘めていたハズの信念。

 それが今、自分に言い聞かせるようなカタチでしか、口に出すことができない。

 そうなったのは、いつからだっただろう。

 消灯前のトレーニング室で、特訓の後の汗ばんだカラダを、後ろから抱き締められた時?

 ――違う、それはPさんの答え。アタシがあの人に伝えた感謝と――それ以外の、なんだか苦しくなる感情を伝えた後のことだったから。

 アタシは――どうすればいいかを知らなかったんだ。だからきっかけは、アタシの言葉。

 そしてPさんのとった行動が、きっとアタシのしたかった行動なんだ。 

 唇が触れ合った時の驚きと、言いようのない昂ぶりが、その証拠。

それから、アタシとPさんの間の『特訓』は特別な意味を持ち始めた――今夜だってそう。

 Pさんの部屋で、ベッドの上で、羽交い絞めにされたアタシは、脱出しなければならない。

 ヒーローなら簡単に抜け出せるぐらいの拘束。

 でもアタシは、されるがまま、Pさんからの攻撃に耐え続けるだけだった。

 シャツとズボンを捲られ、カラダをまさぐられ、くちびるを合わせられると、この人から逃げ出そうという意思がみるみるうちに萎えていく。

 そうして最後は、Pさんに貫かれて、アタシの『特訓』が失敗に終わる。

 でも今夜は――Pさんは『敵』だった。

 ヒーローであるべきアタシは抵抗しなければならなかったはずだ。でも、出来なかった。

 体格差もあって、アタシは組み敷かれたまま身動き一つとれず、打ち付けられる腰に真正面から壊されていた。

 お腹の中をぐちゃぐちゃに穿られ、喉を舐められ、胸を吸われ、耳たぶを齧られて、ボロボロにされていく。

 でもアタシは、少しの痛みと共に込み上げてくる滾りを抑えられず、甘い声を上げてしまっていた。実験台の上にいる様にカラダを開いて、侵略を受け入れていた。

 『敵』や『味方』は関係ない――そこに居るアタシは、Pさんのためだけに居た。Pさんが立つ側に、アタシは立つようになっていた。

 アタシは、ミンナノミカタ――

 誇りは、一回目の迸りを全て体内に注がれて、まっ白に塗り潰されていた。

 その瞬間の、ヒーローだった南条光の断末魔は、それをもたらした人の唇で塞がれ、誰に聞こえることもなかった。

 それを知っているのは、堕落した自分だけだった。

H君』


 どこからもらってきたのか、親に優待券を押し付けられ、普段見向きもしない美術館に行ったのがそのきっかけ。

(そう、『優待券』。断じて『招待券』ではなかった)

 入場はしてみたものの、知識も興味もない人間が見たって正直ありがたみはない。

 途中ほとんど飛ばし、目玉というような大きな作品も少し立ち止まったくらいで鑑賞を終えた僕は、通った順路を何気なく見返した。

 そこでその、後ろ姿に出会った。

 壁に掛かった大小の絵画や、わざわざ足を運んでいるクセにさして興味もなさそうな人々を背景にして、まるで初めからそこにいたかのように佇む、長い髪の女の子。

 彼女はどこかで見たような出で立ちで、決して派手じゃないのに、その場に居る光景自体が、飾られたどの作品よりも、僕の注意を惹いた。

 そうしてどれくらい経っただろう、彼女はその間中身動きすらせず……ようやく、次の作品に向かって歩き出したのは、他の客がはけるほんの一瞬を待ってからだった。

 横から見た彼女はは少し猫背だった。

 だけど、眼鏡越しの視線は意外なほど熱っぽく作品に注がれ、僕はまた、彼女の瞳に釘付けになった。
 
 ついでに、彼女をどこで見た覚えがあったのか、遅まきながらようやく気が付いた。

 
 その日以降、僕は教室での彼女を目で追うようになった。

 美術館なんかにわざわざ行く必要はない。見たい絵はそこにあったんだ。

 後ろ姿も、右の横顔も左の横顔も見ることは出来た。でも、正面の姿を見るという、いつの間にか沸いた淡い期待はかなわなかった。

 こちらが面と向かって話そうとしても、彼女に目を逸らされてしまったからだ。嫌われている訳じゃないと思いたい。

 横顔の人物画には正面を向かせられない。そんなたとえが浮かんだ。

 ものも食べなければ、こちらから触れることも出来ない存在……我ながらキザな物言いだけど、それは不思議なほどすとんと、胸の中のあるべき場所に着地した。


 その内、彼女はアイドルになった。きっと誰かが彼女の魅力を見つけ出したんだろう。

 僕が一番に気が付いたのに、と思わなくもない。

 でも、今更お近づきになろうだなんて思わない。

 正面向きの彼女をメディア越しでいよいよ観た時――『作品にはお手をふれないで下さい』という決まり文句が、僕のアタマのどっかで、じわり、浮き出ていた。

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頼子「あむ……食事といえば、古代ローマの料理に関する面白い文献を読みました」

P「へえ、どんなことが書いてあったんだ?」カチャカチャ

頼子「それは……」

頼子(よく考えたら――言えない。より沢山の物を食べるために、満腹になっては嘔吐して胃の中を空にしていた話なんて、今言うべき話じゃない……)

P「?」モグモグ

頼子「あ、えと、その……こ、この話はまた後ほど……」

P「ん? もしかして忘れちゃったのか? ははは、頼子にもそういうところ、あるんだな」

頼子「……むぅ、違いますよ」プクー

P「お、怒らないでくれよな……」

頼子「…………」チラッ

P「…………」チラッ

頼子「……ふふっ、怒ってなんかいません。ただ、今すべき話じゃないと思っただけです」クスッ

P「なんだ、そういうことか……本気にしちゃうところだったよ」

頼子「演技力、ついてきてますか?」

P「演技というか……自然に感情を出せるようになってきてるんだろうな。こうして向かい合って座っていると良く分かる」

頼子「感情を、自然に……?」

P「頼子は引っ込み思案だけど、けっこうお茶目で、それでいて考えてることは大胆だからな。俺自身びっくりする時もあるくらいだ」

頼子「そう、なのかもしれませんね……でも今でも、Pさんに手を引かれることでしか、私はそう振る舞えませんから……」

P「参ったな――そんな目で言われると、ずっとついてないと不安になる。やっぱり、本物だよ、頼子は」

頼子「ふふ……っ。はい……演技じゃなくて、冗談でもなくて――これが私の本物の気持ち、です」

 観られていることを意識すると、緊張してしまいます。

 今ここで微笑んでいる私は、前の晩泣きながらあなたに組み敷かれていた私。

 今ここで食事している私は、前の晩おなじ口であなたを咥え込んでいた私。

 今ここでよそ行きの格好をして居る私は、前の晩汗と生臭さに塗れていた私。

 そのようなことはそ知らぬ顔で座っている私は、そのようなことを、全て教えられてしまっている私。

 そう、私はあなたに、全て知られてしまっている。

 他の人から私がどう見られているか知ったうえで、その真逆の私を知っているあなた。

 テーブルの真向かいに居るという距離が、冷静に観察されているようで、鳥肌にも似たざわめきをもたらすのです。


 談笑しながら、無精卵を口に運びながら、拭ったナプキンを畳み直しながら。

 紳士と相席する淑女を演じながら。

 頭の中では、爛れ切った膿の様にねっとりと熱い記憶の上映が、延々と繰り返されています。

 すっかり湿ったベッドの上で、腰に腰を埋められ水音を目いっぱい立てながら、喘ぎ声さえキスで貪られた夜。

 本放送をテレビで流しながら、同じ衣装のまま深々と貫かれ、猫背の私が弓のように身体を反らせ続けた夜。

 散々焦らされて、根負けして、その日だけわざとらしく付けていた避妊具を外すよう促され――降りてきた子宮に滾々と注がれた夜。

 ――今の私を観ても、誰も、思いもしないでしょう。夜毎の痕跡は、部屋の中に全て置いてきているから。

 それとも芸術家、一流の鑑賞者なら、見抜いてしまうのでしょうか。見抜いて、人物の背後に蟠る影のような情炎を、作品へと落とし込んでしまうのでしょうか。
 
 だとすればそれができるのも、きっと、真向いに座っているこの方だけに他なりません。

 優しく接しながら、成長したと褒めそやしながら、内心では私――目の前の『作品』の出来をつぶさに観察し、『次』への材料にする。

 だからこそ――抱かれる度に磨かれ、綺麗になっていく。生きた芸術として、衆目を集めるために。


 地味な私が好かれますか? 月の様に輝く私が好かれますか?

 賢しい私が好かれますか? にぎやかしの道化じみた私が好かれますか?

 歳相応の私が好かれますか? 背伸びした美しさの私が好かれますか?

 清楚な私が好かれますか? はしゃいだ私が好かれますか?


 あなたが教えてください。そしてそのようにあなたが作ってください。

 作品に手を加えるのは、製作者だけの特権であり、義務なのですから。

『I君』


 白菊がアイドルをやっているというのは、クラスのみんなが知っていた。

 けっこう頻繁に休んでて、一週間くらいいないときもあって――戻ってきては、いつも暗い顔をしていた。

 そしてたまにテレビで見かけると、そいつは決まって不幸なハプニングに遭遇していた。

 バスから降りたその足元に水たまりがあったり、農家に行ったら頭にみかんが落ちてきたり。

 砂丘を歩いてはなぜか落っこちてたゴミにつまづいて砂まみれになったりってのもあった。

 笑えるようなのもあった。でも、正直笑えないやつもあった。

 これ放送していいの? っていうような、悲惨なレベルのやつ。

 当然、しばらくの間話題はそれで持ちきりになる。でもその話題に、当の本人は入ってこない。 

 だから陰口みたいになって、俺もその話に混ざりながら、あんまりその時間が好きじゃなかった。

 なんかの時に、「気にすんなよ」って言ったことはある。

 めっちゃ勇気振り絞ってかけた言葉。

 そいつは、少しだけ笑って――でも、がんばらなきゃと言った。

 だから、そんなにがんばらなくていいんじゃねえのって、そう付け加えた。

 学校休んで、クラスで浮いてまで、そんなにつらい顔することねーんじゃねえの。

 普通に学校行って、普通に友達作って、普通に――普通でいいだろ、そう思った。

 するとそいつは少し困った顔で、「ありがとう」とだけ返してきた。

 直感的に、それでもがんばるんだろうなと思った。

 おれは、そうかよ、っていう顔をして、それきり目を逸らしていた。

 今にも泣き出しそうな弱っちい顔のクセに、意外な強情さに、なんだかイライラした。

 その時すでに、翌月に向けて準備をしていたと知ったのは、後になってからだった。
 

 でもあいつは、いつだってとびっきりに不幸だった。だから、どこかで安心してたんだと思う。

 結局戻ってくるって。

 今度の「転校」も、またまたなにか不幸なミスが重なってダメになって、すぐ教室に帰ってくるって。

 ――そこで、そいつの不幸を願っている自分に気が付いた。おれは、自分の中で自分に言い訳した。
 
 白菊が不幸になってほしいわけじゃない。

 おれが願っているのは、普通の。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――幸せに…してください…


P「…………」

ほたる「お、お疲れ様です……! あ、あの、どう、でしたか?」

P「…………」

ほたる「え、ええと、その……やっぱり、私なんかじゃ花嫁さんなんて」

P「……幸せに」

ほたる「え?」

P「……幸せに、しなきゃいけないと思った。それくらいよかったよ、本当に」

ほたる「や、やだ! Pさんってば、う、嬉しいですけど……恥ずかしいです……」カァッ

P「というかだな……ほたるをお嫁さんに貰えたお婿さんは、この世で一番の幸せ者だと確信したくらいだ」

ほたる「ええっ? そ……それはないと、思いますよ? 私なんて、一緒にいる人みんなを不幸にしていたんですから……」

P「ははっ、それこそ考えすぎだよ。なにより……」

ほたる「?」

P「ほたると出会えたことこそが幸運だったからな」

ほたる「っ?! なな、何をおっしゃるんですか?! わた、私があの、その……っ!!」プシュー

P「お、おっと、ちょっと落ち着いて……でもいつだったか、ほたるが俺に言ってくれた言葉だろう?」

ほたる「…………は、はいぃ」

P「それに、これからはもっと良くなるさ。辛いことは全部乗り越えてしまったんだから」

ほたる「それは……Pさんが、Pさんが居てくださったからで……あ、あの、Pさん。さっきの私、良かったんですよね?」

P「ん? ああ、もちろん」


ほたる「あの時私は――自分が、こうなったらいいなっていう結婚式を想像して、カメラの前に立ちました――ううん」

ほたる「――式場も衣装も歌も、私の貧しい想像よりずっと素敵でした。居なかったのは、だんなさまだけ」

ほたる「だから、想像したんです。私の理想のだんなさま――そうしたら、体が、表情が、言葉が、自然に――あの、実は、その方というのは」

――ぎゅうっ

ほたる「私の、思い描いた、だんなさまは――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私はいやな女の子です。

 他ならぬあなたが下さったお仕事にかこつけて、あなたに気持ちを押し付けて。

 アイドルとしての幸せはもう十分にいただいているのに、普通の幸せまで欲しがりだしてる。

 大好きな男の人に、自分を大好きになってもらうという、普通の、そしてこの上ない幸せ。

 不幸不幸と嘆いていた私は、少し幸せをもたらしてもらった途端、誰よりも欲張りになっていました。

 でも、もう、不幸は嫌――いいえ。

 どれだけ不幸な目に遭っても構わない、でも、あなたと離れることだけは耐えられない。

 ――そんなことを、薄黄昏に沈んだお部屋で、あなたに絡みつきながら、強く思いました。


 ベッドに腰掛けたあなたの上で、私は身体をくねらせます。

 両手両足であなたに纏わりつき、少しの離別だってできないよう、きつく、固く、振り絞ります。

 汗で濡れた胸板にささやかな膨らみを押し付けて、少しでも私の身体に「女」を求めて欲しくて。

 口といわず肌といわずもたらされる愛しい接触に、あちこちを蕩かされながら――脳裏をよぎるのは、私よりずっと女らしいひとたち。

 腰の奥にとんとん響く気持ちよさで意識を手放しそうになり、それでも必死でお尻を上げて、おろして、吐き出したり呑み込んだりを繰り返します。

 飽きられないよう見捨てられぬよう。

 たとえ不幸を振りまいてでも、あなたに愛想を尽かされぬよう。

 
 街は夕暮れ。窓から見える空は、まだ半分も夜に染まっていません。

 外を覗き込めば、きっと眼下には沢山の人が出歩いているのでしょう。

 私とあなたも、つい1時間前まではその中にいました。

 いつものお洋服のボタンを開けて、スカートは穿いたまま、下着さえ、上も下もずらしただけで――日常の延長線の上で、私はあなたと繋がっていました。

 それはとても、幸せなことに思えました。

 醒めてしまう夢じゃないって。

 終わってしまうお芝居でもないって。

 じわり、滲んできた涙を、あなたは拭ってくれました。

 それを契機として、ぽろぽろぽろぽろ、私は泣いてしまいました。

 人は幸せな気持ちで涙を流せることを、私は既に知っていました。

 それを教えてくれたあなたは少し慌てた様子で――私は泣きながら微笑み、ひときわ強く、あなたを抱きしめました。 

 私の涙の意味を知ったあなたは安堵してみせ――ふと、悪戯っぽく笑って、お腹の底を持ち上げるようにして揺さぶり始めました。

 堪らずはしたない声をあげそうになりましたが――まろびでた舌ごと、口吻で掬い取られて、代わりに背筋が、ぞっと総毛立つような快楽を流し込まれました。

 両手が、私のお尻を鷲掴みにしました。それは仕返しでした。心配させた仕返し。誘ったのはもちろん私。

 でも、本能的な恐怖を感じて、私は一瞬、身体を強ばらせました。

 それは期待と紙一重。

 深すぎる快感で意識を失ってしまうことへの恐れと、それを待ち望む身体。

 未だ幼いことは自覚していて、でも――あなたに『大人の幸せ』を教えられてしまったカラダ。

 いよいよ、激しい音を立てて、あなたと私の一番深いところがぶつけられ始めます。

 芯を一直線に抉り、沼をまさぐるようにほぐし、ずるずると引き抜いては――また、お漏らししたような愛液を泡立てて、隙間なく埋められます。

 私は髪の毛を振り乱し、目に火花を散らしながら、ふと、保健体育の教科書で、おそるおそる開いた挿絵を思い出していました。

 今まさに、このおへその内側で、あなたと私のいのちが脈打っているのです。

 ぐちゅっ、ぐちゅっ、と、繰り出された腰の動きで、子宮が上擦るのがわかりました。

 初めて繋がれた時は、痛みさえ、幸せな気持ちで塗り変えられていました。今では快感が、幸せな気持ちを塗り潰しそうになっています。

 だってわかるんです。もうすぐ、もうすぐ――奥いっぱいまで、熱い精液を注がれてしまうことが。

  
 赤ちゃんができたら、私は不幸な女の子なのでしょうか。それとも?

 子宝の、安産祈願のお守りは、ご利益を信じて良いのでしょうか?


 降って沸いた妄想と、はみ出した舌をずるるるると啜られた衝撃が、最後の理性を消し飛ばしました。
 
 びゅるびゅると流し込まれる男性の精が、密着した子宮口からその内壁に溜まっていく想像で、私は一緒に果ててしまっていました。

 汗まみれになって、あれほどきつく抱きついていたはずの体は、あなたが手を離すとあっさりとシーツの海に沈み込み、朧気な意識のまま痙攣を繰り返していました。

 焦点の合わない目は――辛うじて、未だ快感に痺れ切った私に覆いかぶさってくるおとこのひとを感じ取りました。

 まだされちゃうんだ――胸が、おなかが、背筋が、ゾクッとわななきました。

 深まってきた闇の中、程なくして、たぷたぷの精液ととろとろした愛液を掻き混ぜるようなじっとりした動きが始まり――悦楽で神経を磨り減らした私は悲鳴を上げました。

 あっ、いやっ、だめ―――

 ―――うそばっかり。


 どこの誰より幸せなくせに。

『G君』


 あー、あいつじゃん。
  
 そっかー、中学ん時まで俺、あいつに応援されてたんだよなー。

 ……やっぱ可愛かったよなー。てかカッコえろすぎじゃね? さすがアイドル。

 ……あいつ絶対、俺に気があったよなー。試合中、何回ウィンクされたかわかんねーもん。

 ……連絡とろっかなー。でもこっちから連絡したら、有名になったから連絡したみたいでださいよなー。

 ま、帰ってきたら連絡来るだろ。

 ……向こうで彼氏とかできてないよな?
 
 ま、ないか。こっちで居たっていう噂も聞かないし、たぶん相変わらず天然入ってるだろうから。

 にしても……やっぱりめっちゃくちゃ可愛いなー。 

 俺やっぱ、あいつのこと好きだわー。

 体つきもホントたまらんよなー。あーもうエロいことしか考えられんわ。


 ――あー、くそ。他のやつの応援なんかすんなよ。

 
 彼氏、できてないよな? 

 でも……いやいやいや、やっぱ俺だろ!

 そうじゃなきゃバレンタインで2個もチョコくれねーって!

 『余った』とか言ってたけど、あれ義理と本命別々でくれたってことだろーし!

 ……あれから、もう2、3年経つっけか。

 まあな、あいつも忙しいだろうから、俺の上京が先かもな。

 そしたら、俺の方から連絡してやっか。仕方ない。

 そんときまで、他のテキトーな男にひっかかるなよな!

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ドドドドド

智香「やったー勝ちました!! やったやった!」ピョンピョン

ドドドドドドド!

智香「Pさん、Pさーん! どこですかー? やりましたよーっ!! 最後の最後まで頑張った甲斐、ありましたー!! あっ、いたっ! Pさーんっ!!」

ドドドドドドドドドド!!

智香「Pさんっ!!」ガバッ

P「おふっ?!」ドスーン

ぎゅー!

智香「Pさーん、見ました見ました?! アタシたちのエール、みんなに届いたみたいです!」ギュッギュッ

P「お、おう……」


ブロロロロロ……


智香「それでそれで! 試合が決まった瞬間もうパァーってスタンドが総立ちになって! ……ってもう! Pさん聞いてます?!」

P「聞いてるさ。ほら危ないからちゃんと座って」

智香「むぅ~! ホントですかー? さっきだって、Pさんてばいまいちノリ切れてなかったし……」

P「あれは智香が後ろから突撃してきたから完全に不意を突かれたというか……」

智香「……嬉しいの、Pさんと分かち合いたかったのにな……くすん」 

P「……智香? おーい、智香、悪かったって」オロオロ

智香「……ふふっ、ほらPさん、危ないからちゃんと前を向いて、安全運転、お願いしますねっ!」

P「あ……まったく、しょーがないやつめ!!」ワシワシ

智香「えへへへへ!!」ウリウリ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ふふふ、Pさんったら、あんなにわかり易く慌てちゃって。

 バレンタインの時、ちょっとケンカしちゃったのが、まだ気になってるみたい。

 でもね、こうやってからかってみせるのは、アタシもまだ、不安だから。

 あの時、アタシの気持ちはPさんに伝わらないのかなって思った瞬間――それまで冬の寒さを忘れていたみたいに、心まで凍えちゃったの。

 怖かったんだ。ヘンだよね、そんなはずないのに――まるで世界にひとり、取り残されたみたいに感じた。

 ――それで、色々あって、みんなが間を取り持ってくれて。アタシも、早とちりしちゃったところはあるから、お互いごめんなさいしたんだ。

 それから――みんなの見てないところで、ぎゅーってして、ちゅーして、一晩中、抱き合った。

 アタシたちはそうやって、仲直りしたの、ううん、アタシはそれまでよりもっと、Pさんのことが好きになった。

 もうあんな寂しい思いはしたくない。

 もし伝わらない思いがあれば、何度でも伝えよう。

 もし思いが伝わらなかったら、何度でも求めよう。

 お互い、遠慮しないようにしよう――そう決めたんだ。

 だから今夜も――
 


 だらだらとお互いの汗が、シーツをびしょびしょになるまでぬらしていた。
 
 着ていったパジャマはあっというまに剥ぎ取られて、ベッドの端っこにぎりぎり引っかかってる。

 アタシは、パカパカのケータイみたいに太腿からカラダを折り畳まれて、その上からのし掛かられて。

 ゆさ、ゆさ、と、もどかしいくらいゆっくりした動きを、時間もわからなくなるくらい続けられていた。

 足は押さえ込まれてるし、両手は両手に捕まっちゃってるから、物凄い圧迫感で――ひーふーと、お互いのギリギリの呼吸が顔の前で混ざり合っていた。

 Pさんの額から落ちた汗が、アタシの顔や、胸元にぽたぽたと落ちてくると、その熱さにびっくりして――点々と、皮膚が敏感になるのを感じた。

 乾いた口元につばを垂らされたから、舌を伸ばしてねとねとしたソレを受け止め、音を立てて飲み干した。

 顔が近づいてきたかと思えば、ほっぺたやおっぱい、脇をべろべろと嘗め回されて、生暖かい擽りにいちいちカラダをはねさせた。

 それからもアタシはどーぶつみたいに喘いでいた。

 おかしくなりそうだった。

 にちゃにちゃと、繋がりあった部分が擦れて水っぽい音を立てるたびに、あと少しでキモチ良くなれるのに――アタシの期待を見透かしたように、ポイントを外されて。

 アタシの気持ち良いところ、全部知ってるくせに――そこで、なんだ。いじわるされちゃってるって、気が付いた。

 アタシの気が付いた顔に、Pさんも気が付いたみたいで、試すようにくりくりと、アタシの胸の先っぽをさすってきた。

 気持ちよさのエッジまで迫っておいて――シュッと、マッチでも擦るみたいな一瞬の愛撫に、アタシは腰まで砕けた。

 たったそれだけの刺激で達しかけるほど、アタシのカラダは高められていたんだ。
 
 これで責められたら、どうなっちゃうんだろう。

 想像がメーターを振り切って、胸の鼓動がばくばくと耳をつんざいた。

 
 言っちゃえ。言っちゃえ。イッチャエ。

  
 頭の中がそれで真っ白けになって――アタシは、息も絶え絶えになりながら、泣きわめいた。

    
 アタシの懇願を聞き届けたPさんは、満足気な笑みを隠そうとして、口元がふるふる震えてた。

 正直腹が立つくらいの表情だったけれど――次の瞬間からはじめられた猛烈なピストンで、アタシのちっちゃなプライドなんて、メッチャクチャに粉砕された。


 ――気が付いたらアタシは、椅子に腰掛けたPさんの足の間に顔を入れ、ふやけた唇と舌でおちんちんをお掃除していた。

 アタシの中で散々に暴れまわったんだろうそれはせーえきとおつゆでぐちょぐちょに塗れていたけれど、未だ固さも大きさも最初と変わんないくらいだった。

 股間から太腿に垂れるのは、奥の奥まで注がれた証。

 どーぶつみたいに種付けされた後、ソレそのものを口で綺麗にするなんて、本当にこの人のモノになっちゃったんだなぁって、ぼんやりとした感慨に満ちた。
 
 喉の奥まで銜え込んだとき――ふと、頭が撫でられるのを感じた。それから、聞かれたんだ。

 2コ目が、おかわりがほしいかって。

 
 どぷり、お腹の奥が疼いて、アタシが太腿を擦り合わせたのは、多分見逃されなかったんだろうな。

 でも――キモチ、伝えなきゃだから。キモチ、受け止めなきゃだから。

 
 ねとねとした肌同士がぶつかり合う音、汁塗れの舌と唇が絡み合う音、あったかい吐息が漏れ出す音、どろどろの性器同士が溶け合う音、音、音。

 はねる声、ねだる声、耐える声、耐えられない声、達した声、絞り出た声。

 真っ暗闇の中で、アタシがPさんのモノにされていっているのは、自分でも不思議と、ひどく冷静に感じていた。

これでおしまいです。
1から数えて長い期間経ってしまいすみませんでした。
お読みくださった方、ありがとうございました。

いまさらながら
Gさん・Hくん・Iくん・J君・K君・L君 の順番です。
間違えて申し訳ありません。

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