結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」 (177)

俺ガイルのSSです。

多分短編です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432456542

一年生の終業式が終わった。明日から、春休みが始まる。

この前までは高校に入ったばかりだと思っていたけど、時が流れるのはあっという間だ。

そして、あの入学式からもう一年が経とうとしている。

未だに、あの時にサブレを助けてくれた男の子に会いにいけずにいる。

このままじゃ駄目だ。

きっと、このままじゃ永遠にあの時の感謝を伝えられずに過ぎちゃう。

そんなだめだめな自分を変えるために、あたしは山に篭ることにした。

さて、山にきたはいいけどどうしよう。

とりあえず山に来たらやまびこの声を聞くために叫ぶよね。

あたしは大きく息を吸い込んみ、山に向かって叫んだ。

結衣「やっはろー!!」

やっはろー!!

やっはろー!

やっはろー……

結衣「……あっ」

その時、あたしは気が付いたんだ。

あの男の子に感謝を伝えるために、大切なのは挨拶なんだって。

だから、あたしは感謝の挨拶をすることにしたんだ。

自分なりに少しでも出来ることをやろうと思い立ったのが。

一日一万回、感謝のやっはろー。

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

息を整え 拝み 祈り 構えて 叫ぶ。

一連の動作を一回こなすのに当初は5~6秒。

一万回叫び終えるのに、初日は18時間以上かかっちゃった。


結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

叫び終えれば倒れる様に寝る。

起きてはまた叫ぶを繰り返す日々。

一日一万回、感謝のやっはろー。

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

春休みは二週間くらいしかない。

それが終わる前までに、あたしは感謝の挨拶を極めなきゃって気がしたんだ。


結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

山の中で、ひたすら叫ぶ。

一日一万回、感謝のやっはろー。

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

今日もまた、感謝のやっはろーを叫ぶ。

だめだめなあたしを変えるために、今日もまた叫ぶ。


結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

結衣「やっはろー!!」

山に篭ってもう十日、そろそろ学校が始まっちゃう。

でもそんなとき、異変に気付く。

一万回叫び終えても、日が暮れていない。

齢16を越えて、完全に羽化する。

感謝のやっはろー、1時間を切る!!

かわりに、祈る時間が増えた。


山を下りた時、あたしの挨拶は。

音を置き去りにした。

明日から学校が始まっちゃう。

あたしは山を下りて、久しぶりに自分の家に戻った。

由比ヶ浜母「あんた、2週間も連絡も無しにどこへ……なんか変わったわね、結衣」

由比ヶ浜父「お前、一体どこ行ってたんだ……なんか変わったな、結衣」

結衣「そう? えへへ」

自分じゃわかんないけど、山の中で感謝のやっはろーを叫び続けた甲斐はあったのかな。

あたしは変わることが出来たのかな。

明日から2年生。よしっ、がんばるぞっ!!

……とは思ったものの、2年になってからも結局ヒッキーにコンタクトを取ることは出来ないでいた。

はぁ。

一日一万回、感謝のやっはろーは意味がなかったのかなぁ。

そういえば、最近周りの人の反応がちょっと変になってるような気がするなぁ。

姫菜は「なんか……ユイ、すごいよね……」とか言ってくれたし。

とべっちなんかは「結衣マジぱねぇわ~俺とか隼人君より背高い女とか全然見たことねーしよー」とか言ってきた。

優美子だけは今までの人と接し方が全然変わらなくて助かる。


にしても、うーん、確かに山篭りしてる間に体が随分大きくなっちゃったんだよね、制服もぱっつぱつだし。

まぁ、それは今度どうにかするとして、いい加減ヒッキーに感謝を伝えたいなぁと悩んでいた。

そんなとき、平塚先生から奉仕部という存在を聞いたの。

なんでもそこは生徒のお願いを叶えてくれる場所らしい。

先生は「き、君の場合自分で何でも出来そうに見えるんだが……」なんて言ってくれたけど、そんなことは全然ない。

あたしは今でも、自分では何にも出来ない女の子だ。

早速、その奉仕部というところへ向かうことにした。

奉仕部の部室とやらの前まで、来ると軽くノックをした。

ドォンドォン!!!

雪乃「ひいぃ! ど、どうぞ……」

結衣「し、失礼しまーす……」

からりと(ガッシャーン!!)戸を開いて「おい、ドア壊れたぞ。あれどうすんだ」中を見ると「し、知らないわよ……」部室の中には、部員と思われる男の子と女の子がいた。

中をきょろきょろと探るように見渡してみる「ひぃ!」と、その男の子と目が合う。「ひっ!」

まさか、あれって……。

結衣「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」

八幡「……い、いや、お、俺ここの部員だし……ってなんであんなゴリラみたいなのに俺目付けられてるんだよ……やはり社会が悪い……」ガクブル

まさか、あの時サブレを助けてくれたヒッキーがここにいるなんて……それにしても相変わらずキョドり方がキモい。

八幡「ま、まぁ椅子でもどうぞ」

結衣「あ、ありがとう」グシャーン

八幡「……座っただけで椅子が潰れたように見えたんだけど、気のせいか?」ヒソヒソ

雪乃「誠に遺憾ながら、あなたの腐った目と同じ現象を目にしたわ……」ヒソヒソ

なんかヒッキーと雪ノ下さんが近くでこそこそと話をしている。仲いいのかなぁ。

雪乃「ゆ、由比ヶ浜結衣さん、ね」プルプル

結衣「あ、あたしのこと知ってるんだ」ゴゥ!!

雪乃「ひぃぃ!!」

まさかこの学年でも有名な雪ノ下さんに知られてるなんて! うれしいなぁ。

八幡「お前よく知ってるなぁ、全校生徒覚えてるんじゃねぇの」

雪乃「そんな事ないわ、あなたのことなんて知らなかったもの……それよりあなたと同じクラスよね、なんであなたが知らないの……」

八幡「やめろ言うな知らなかったことにしたかったんだよ……」

結衣「なんか……楽しそうな部活だね」キラキラ

雪乃「ひぃ!」

普段キョドってばかりのヒッキーがこんなに喋るなんて知らなかったし、しかも相手はあの雪ノ下さん。

こんな部活があるなんて、知らなかったよ。

雪乃「べ、べべべ別に愉快ではないけれど……」ガクガクブルブル

結衣「あ、いやなんていうかすごく自然だなって思っただけだからっ! ほら、そのー、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るんだーって思って」

八幡「えっ、あっ、はい……なんで俺こいつに認知されてるんだよステルスヒッキーどうしたんだよ……」ブツブツ

なんだか良い雰囲気の部活だなぁ、ヒッキーがいるんだったらもうちょっと早く相談しに来れば良かったなぁ。

あっ、そうだ。そろそろ本題に入らなきゃだよね。

結衣「……あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」

八幡「そうなのか?」メヲソラシー

雪乃「す……少し違うかしら。あくまで奉仕部は手助けをするだけ……願いが叶うかどうかはその人次第よ……」メヲソラシー

八幡「お前人と喋る時はその人と目を合わせろよ」ヒソヒソ

雪乃「む、無理に決まってるじゃない……だったら、あなたが合わせなさいよ……」ヒソヒソ

んー? よく意味が分からなかった。だから質問してみることにしよう。

結衣「どう違うの?」ゴゥ!! パリーン!!

八幡「……ガラスが割れたぞ」

雪乃「え、えーと……飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えて自立を促すのよ……」

結衣「な、なんかすごいねっ!」ホエー

八幡「いやぁ風通しがよくなったなぁ……」シラメ

雪乃「ちょっと、あなたも会話に参加しなさい」

八幡「えっ、俺? 無理無理無理」

なんかよく分からないけど、雪ノ下さんが言ってることはなんかすごそうだ!

この人たちに任せれば、なんか上手く行きそう!

結衣「あのあの、あのね、クッキーを……」チラッ

八幡「ひいいい!! ちょ、ちょっと『スポルトップ』買ってくるわ」ダッ

雪乃「逃がすかぁ!!」ガシィッ

八幡「えっ、ちょっ、おま、なんで俺の服掴んでんの、ていうかお前今キャラ壊れてなかった?」

雪乃「あなたこの状況で私一人置いていこうだなんて、いい度胸してるわね……」ヒソヒソ

八幡「逆だろ、度胸がないから逃げようとしてるんだよ……!!」ヒソヒソ

雪乃「やっぱり逃げようとしてるじゃない……」ヒソヒソ

結衣「?」

やっぱり、あの二人仲がいいなぁ……。

………………………………

……………………

…………

こまちにっき?
知らないSSですね……。

まだ続きます。

振り向きざまに「やっはろー」
股の間から「やっはろー」
いろんなガハマさんを想像していいな、と思ったら筋肉モリモリのマッチョになっていた(´・ω・`)

…………

……………………

………………………………

雪乃「で、ゆ、由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べて欲しい人がいるそうよ。でも自信がないから手伝って欲しいというのが彼女? のお願いよ」

八幡「無理矢理俺も聞かされたからそれは分かってるよ……でも、なんで俺たちがそんなこと……、それこそ友達? に頼めよ」

結衣「う……、そ、それはその……、あんまり知られたくないし、こういうことしてるの知られたら多分馬鹿にされるし……。こういうマジっぽい雰囲気、友達と合わない、から」

多分、こういうの言ったら優美子辺りからは笑われちゃいそうだし……。

八幡「……こいつのこと馬鹿に出来る奴って人類で存在してんのか?」ヒソヒソ

雪乃「さぁ……馬鹿にした瞬間、塵にされそうに思えるのだけれど……」ヒソヒソ

結衣「あ、あははー。へ、変だよねー。あたしみたいなのが手作りクッキーとかなに乙女かってんだよって感じだよね」

雪乃「……そうね。確かにあなたのような派手(体格的な意味で)に見える女の子……? のやりそうなことではないわね」

結衣「だ、だよねー。変だよねー」アハハ

雪ノ下さんの顔色を伺って、少し目を伏せながら笑う。

そうだよね……やっぱあたしにはこういうの似合わないね……。

ふと、ヒッキーと目が合った。

一瞬ビクッってしてたけど、その後に口を開いた。

八幡「……いや別に変にキャラじゃないとか似合わないとか柄でもないとかそういうことが言いたいんじゃなくてだな、純粋に興味がねぇんだ」

結衣「もっとひどいよ!」

ヒッキーひどい!

思わず、バンと「うおっ、地震か!?」机を叩いて「あなた……命知らずなのね……」しまった。

結衣「ヒッキー、マジありえない! あー、腹立ってきた!『ひいぃ、命だけはお助けを!!』あたし、やればできる子なんだからねっ!『殺、殺ればできる!?』」

雪乃「……手伝うわ」

八幡「い、命だけは……あ、クッキーのことか……おおお俺もカレーくらいしか作れねーがててて手伝うよ……」ガクブル

結衣「あ……、ありがと」

良かった……やっぱりこの人たち良い人だ……。

思わず、ほっと胸を撫で下ろす。

雪乃「別にあなたの料理の腕に期待はしてないわ。それよりさっき壊れた机とか余波で割れたガラスだとか、その他諸々を先生に報告してきてちょうだい」ヒソヒソ

八幡「うげ……また平塚先生泣くんだろうな……ただでさえウチの教室の扉全部壊れてるのにな……」ヒソヒソ

よしっ、がんばるぞ!


     ×  ×  ×


雪乃「……ごめんなさい、あなたの体格に合うエプロンはないみたいね」

結衣「いやー大丈夫だよ、別になくてもへーきへーき」

別にこぼしたりしなければエプロンなくても平気、だよね?

雪ノ下さんがカチャカチャと手際よく調理器具を並べていく。

うわー、すごい。早い。出来る人ってこんなにすごいんだ。

結衣「ねぇねぇ、あたしも何か手伝えることってないかな?」

雪乃「い、いえ……大丈夫よ。むしろそのまま待っていてくれるとありがたいわ」アセアセ

結衣「はーい……」シューン

うーん、でも下手に手伝っちゃうと返って邪魔になっちゃうかな?

ここは、雪ノ下さんに任せよう。

その雪ノ下さんの準備を見つつ、ふとヒッキーのことを「ひぃ!!」見た。

結衣「あ、あのさ、ヒッキー……」

八幡「な、なななな、なにかね?」

相変わらずキョドってることが多いなぁ、どうしたんだろう。

結衣「か、家庭的な女の子って、どう思う?」

八幡「か、家庭的……? べ、別に嫌いじゃねぇけど……男ならそれなりに憧れるもんなんじゃねぇの」

結衣「そ、そっか……」

それを聞いて、あたしは思わずちょっと笑って「ひぃ! こえぇ!!」しまった。

ヒッキーも家庭的な女の子は好き、なんだよね? だったら……。

結衣「よーしっ! やるぞ!!」ゴウッ!! パリーン!!

八幡「殺、[ピーーー]ぞ!?」ガクブル

雪乃「…………はっ、一瞬気を失っていたわ」

クッキーを作って、ヒッキーに感謝を伝えるんだ!!

雪乃「それでは由比ヶ浜さん、まず材料をかき混ぜて『矢ッ覇露―!!』ごめんなさい、私の判断が間違っていたわ」

あ、あれー?

軽くかき混ぜたら、材料の入ったボールが無くなっちゃったよ……?

雪乃「ミキサーを用意しましょう。比企谷くんはそこら一帯の掃除をお願い」

八幡「そこら一帯ってどこからどこまでだよ……端から端まで卵やら小麦粉やらが散ったぞ……」

雪乃「全部に決まってるでしょ……」

結衣「ご、ごめんねヒッキー……あ、あたしも手伝うから」

八幡「だだだ大丈夫だ、気にすんな。お前はクッキー作りに集中してくれ……掃除中にさらに家庭科室が壊れるかもしれんし」ボソッ

わぁ、やっぱりヒッキーって優しい……。

サブレの時に助けてくれたり、やっぱり人のことを考えて行動出来る人なんだろうなぁ。

雪乃「それでは、材料をこのミキサーに入れるわ。由比ヶ浜さん、慎重に、本当に慎重に、ガラスを扱うより丁寧に扱うつもりで入れてみてちょうだい」

結衣「うん、分かった!」ドカーン

雪乃「ミキサーが──!!」

結衣「あ、あれっ?」

軽くミキサーを押さえようとしたら爆発しちゃったよ……?

なんでだろ。

………………………………

……………………

…………

…………

……………………

………………………………


結衣「出来たー!!」

雪乃「出来たわね……ほんと、よく出来たわ……うふふ、ゆきのちゃんほんとよく成し遂げたわうふふ……」ハァハァ

八幡「雪ノ下……お前、ほんとよく頑張ったよ」

ちょっぴり苦戦しちゃったけど、雪ノ下さんに手伝ってもらえてなんとかクッキーが完成しました!

それでは、早速味見してみよう!

……これは。

結衣「うぅ~、苦いよ不味いよ~」

雪乃「そりゃ……ぜぇぜぇ……味にまで……はぁはぁ……気を配る余力が……うっぷ」

八幡「おい雪ノ下、この椅子に座ってちょっと休んでろ」

うーん、頑張ったと思うんだけどなぁ……。

何が駄目だったんだろ?

雪乃「さて……じゃあ、どうすればより良くなるか考えましょう」

八幡「由比ヶ浜が二度と料理をしないこと」

結衣「全否定された!?」ゴゥ!!

八幡「うがああああああああああああ!!」ビューン

雪乃「比企谷く──ん!!」ガタッ

あれっ、ヒッキーなんでそんな教室の端っこにいるの? さっきまでここにいなかったっけ?

それにしても……やっぱりだめなのかな。

結衣「やっぱりあたし料理に向いてないのかな……。才能ってゆーの? そういうのないし」

雪乃「しっかりして比企谷くん!」ドンドン

八幡「はっ、あぶねぇ……死んだ昔の飼い犬がこっちくんなワンって叫んでた……」

うーん……困ったなぁ。

雪乃「比企谷くんは無事ね。『いや無事じゃねぇよ血ィめっちゃ出てるよ』それより由比ヶ浜さん、『聞けよ』あなたさっき才能がないって『おいコラ』言ったわよね?」

結衣「え。あ、うん」

雪乃「その認識を改めなさい。最低限の努力……はしていたような気はするけど、とにかく努力しない人間に才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」

八幡「お前……死ぬぞ。あとついでに俺もこのままだと死ぬ」ドクドク

雪乃「はっ、つい反射的に」

うっ。

雪ノ下さんに痛いところを突かれて、胸がチクリと痛んだ。

でも、作り笑いを浮かべてちょっと言っちゃう。

結衣「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。……やっぱりこういうの合ってないんだよ、きっと」

雪乃「……その周囲に合わせ……られてないけど、合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

八幡「お前ほんとに死ぬぞ……あと救急車呼んでくれない?」

雪乃「はっ、また反射的に」

結衣「……」

申し訳ない、キリ悪いけど今回はここまでで。

今日中にはまたすぐに続き挙げます。

雪ノ下さんに言われて、はっと思い返す。

言われてみれば、自分はいつも周囲に合わせてばかりだ。

そして、このふたりはなんか違う。建前とか言わず、自分らしくあろうとしている。

結衣「か……」プルプル ゴゴゴゴゴゴゴ

雪乃「私の人生はここまでのようね……。じゃあね、パンさん……」

八幡「あっやべ……マジで目が眩んできた……」ドクドク

結衣「かっこいい……」パアァ

二人「「は?」」

あたしみたいに周りとか気にしなくて、本音を言えるんだ……。

そういうの、すごいカッコいい!!

結衣「かっこいいよ……」

八幡「あの、そんなことより俺マジで死……」

結衣「やっはろー!!」ズブッ!!

八幡「ひでぶっ!!」

雪乃「あ、あなたトドメを!?」

結衣「えっと、ツボを押しただけだよ。止血と体力回復の」

八幡「あっほんとだすげぇ、体が動くようになった」

結衣「それより……建前とか全然言わないんだ……。なんていうか、そういうのかっこいい……」

雪乃「……えっ? もしかして私、死ななくて済んだのかしら」

結衣「雪ノ下さんの言葉、本音って感じがするの。ヒッキーと話してる時も、ちゃんと話してる」

雪乃「命が掛かっていたから、必死なだけだったような気がするのだけれど……」ボソッ

結衣「あたし、人に合わせてばっかだった『……人に合わせて?』『おい余計なこと突っ込むな』から、こういうの初めてで……ごめん。次はちゃんとやる」

次こそ、言い訳とか他人のせいとかにしないで、きちんとクッキーを作るんだ!!

八幡「……正しいやり方ってのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんとマジでいや本当に慎重に物を壊さないで言うこと聞け」

雪乃「……一度お手本を見せるから、その通りにやってみて」

そう言って雪ノ下さんは、ブラウスの袖をまくって手早く準備を始めた。

卵を割って、かき混ぜて、小麦粉をふるって、砂糖、バター、バニラエッセンスなどの材料を手際よく加えていった。

あっという間に生地を作っちゃうと、型抜きを使ってハートとか星とか丸とかの形に抜いていった。

そしてその生地をオーブンに入れてしばらくすると、すっごいいい香りがしてきた。

しばらく経ってオーブンから取り出したクッキーはとっても綺麗だった。

まるで、お店で売っているようなものみたい。

そのクッキーをお皿に移してこちらに手渡してきたので、一つ貰って食べてみる。

八幡「うまっ! お前何色パティシエールだよっ!?」

結衣「ほんとおいしい……。雪ノ下さんすごい」ゴゴゴゴゴ

雪乃「ありがとう。でもその体から漏れてるオーラは抑えてくれるかしら」

すごいすごいすごい!

あたしがさっき作ったものとは全くの別物。

あたしが作ったのは、こんなにおいしくは出来なかった。

どうやったらこんなにおいしく出来るの!?

雪乃「これはレシピに忠実に作っただけなの。だから由比ヶ浜さんは……その……レシピに忠実じゃなくてもとりあえずはいいから、まずは被害を出さずにクッキーを作れるようになりましょう……」

八幡「俺、帰っていいか?」ヒソヒソ

雪乃「絶対に逃がさないわよ」ヒソヒソ

結衣「うん、分かった! お願いします!!」

雪乃「ええ……お願いします」ゲッソリ

それから、雪ノ下さんに作り方を教わりながらクッキー作りに再チャレンジし始めた。

しかし……。

雪乃「由比ヶ浜さん、粉は小麦粉を使いましょう。ええ、それは机の破片を粉々にしただけよ。それは食べられないわ」

雪乃「かき混ぜる時にボウルはほんのちょっとだけ押さえて、ええ回す時もほんの少しだけ材料を混ざるように『こうやるの?』ああ! 家庭科室内に竜巻みたいなのが!!」ゴゴゴゴゴ

雪乃「違うの、違うのよ。隠し味はいいの、多分科学室から持ってきたんでしょうけどエタノールはクッキーには入れなくてもいいのよ。比企谷くんこれは科学室に戻してきて」

なんだか、上手くいってなかった。なんでだろ?

そして色々あって「本当に色々あったわよ……はぁ……」生地を入れていたオーブンをオープンすると、さっきに似たいい匂いが立ち込めた。

でも……。

結衣「なんか違う……」

さっき雪ノ下さんが作ったものとは、なんかが違うような気がした。

雪乃「ぜぇ……ぜぇ……」

八幡「おい、さっき噴水のように溢れてた水道管は止まったぞ」

雪乃「あ、ありがとう……ぜぇ……ぜぇ……」

結衣「なんでうまくいかないのかなぁ……。言われたとおりにやってるのに」

もう一度自分の作ったものを食べてみる。

最初に作ったものに比べればおいしいけど、それでも雪ノ下さんが作ったクッキーに比べるとだいぶ違う気がした。

八幡「……あのさぁ、さっきから思ってたんだけど、なんでお前らうまいクッキー作ろうとしてんの?」

結衣「はぁ?」

そりゃ相手に渡すくらいならおいしいクッキーの方がいいし……っていうかヒッキーに渡そうとしてるんですけど!!

ちょっと怒ってヒッキーを睨みつけると「ひぃぃ!!」ヒッキーはびくびくしながら言葉を続けた。

八幡「え、えっとですね、十分後に“本当”の手作りクッキーってやつを食べさせてあげるんでちょっと教室の外に出て頂けませんかマジ業者さんがビビッてて教室の中に入れないから」

結衣「何ですって……。上等じゃない。楽しみにしてるわ!」

雪乃「分かったわ、由比ヶ浜さんちょっと外に出ていましょう。あ、業者さんあのガラスと水道と机とあとその他諸々お願いします」

ヒッキーがそう言うので、一旦外で待っていることにした。

ていうか、ヒッキーってクッキー作れるのかな……?



   ×  ×  ×


中庭で雪ノ下さんと待っていると、ヒッキーがこちらにやってきた。

八幡「今家庭科室は業者さんが色々やってくれている」ボソボソ

雪乃「あなたにしてはなかなか良い機転を利かせてくれたわね……やるじゃない」ボソボソ

結衣「で、ヒッキー! その本当のクッキーっていうのはどこ?」

八幡「ああ、これだ」

そう言うと、ヒッキーは袋に入ったクッキーを手渡してきた。

雪乃「形も悪いし、不揃いね。それにところどころ焦げていているのもある。──これって……」

結衣「ぶはっ、大口叩いたわりに大したことないとかマジウケるっ! 食べるまでもないわっ!」ゴゥ!!

八幡「あっ、すいませーん。ソニックブームがそっち行っちゃったんですけど平気ですかー」<トベー!! シッカリシロー!!

ヒッキーが持ってきたクッキーはなんか焦げてるし、すごい適当に作ってきたように見えるものだった。

なーんか期待外れだなぁ。本当のなんちゃらとか言うから、雪ノ下さんが作った物以上にすごいものを作ってくると思ったのに。

八幡「ま、まぁ、そう言わず食べてみてくださいよ……」

結衣「そこまで言うなら……」

袋からクッキーを一つ取り出して食べてみる。

こ、これはっ!

結衣「別に特別何かあるわけじゃないし、ときどきジャリってする!『これあなたが入れた木材じゃないかしら……』はっきり言ってそんなにおいしくない!」

随分と大口叩いた割に、出てきたクッキーは予想より微妙なものであった。

ちょっと怒ってヒッキーの方を睨んでみる。

八幡「こえぇっ! ……ああ、そうか、おいしくなかったか……頑張ったんだけどな」

結衣「──あ……ごめん」

そう言われてちょっとしゅんとなる。そうだよね、こんなものでも一生懸命作った物をどうこう言うのはだめだよね。

八幡「わり、捨ててくるわ」

結衣「ま、待ちなさいよ!」ゴゥ!!

八幡「ひょえぇ!! な、なんだよ……またソニックブームがあっち行ったな」<アレトメルトカ、ハヤトクンスゲェ!!

クッキーを捨てに行こうとしたヒッキーを止める。何も一生懸命作った物を捨てなくても。

結衣「べ、別に捨てるほどのもんじゃないでしょ。……言うほどまずくないし」

八幡「……そっか。満足してもらえるか?」

それに無言で頷くと、ヒッキーの顔を満足に見れなくなってぷいっと横を向いてしまった。

……本当は、ヒッキーにクッキーを作ってもらっただけでも満足なんだけどね。

八幡「まぁ、由比ヶ浜がさっき作ったクッキーなんだけどな」

結衣「……は?」ゴゴゴゴゴゴゴ

ヒッキーが意味不明なことを言った。なにそれ、本当に意味わかんない。

八幡「……なんか地震が起きたような気がするけど、気のせいだよな」

結衣「え? え?」

雪乃「……比企谷くん、よくわからないのだけれど。今の茶番になんの意味があったのかしら?」

八幡「こんな言葉がある……『愛があれば、ラブ・イズ・オーケー!!』」

結衣「古っ」

確か小学生の時にやっていた番組のやつだ。懐かしい。

でもそれが今なんの関係があるんだろう。

雪乃「……どういう意味だか、説明してくれる?」

八幡「男ってのはな、お前らが思っているより単純な生き物なんだよ」

ヒッキーがなんか語り始めたので、それを聞いてみる。

八幡「これは俺の友達の友達の話なんだが(中略)つまりあれだ、男ってのは話しかけられただけで勘違いするし、手作りってだけで喜ぶの!」

ヒッキーのよくわからない長い話を聞いて、最後にハッとする。

雪乃「今までは手段と目的を取り違えていたということね」

八幡「まぁ、なんだ……。お前が頑張ったって姿勢が伝わりゃ男心は揺れんじゃねぇの」

……それって。

結衣「……ヒッキーも揺れるの?」ゴゴゴゴゴゴゴ

八幡「あ? あーもう超揺れるね。なんなら今真下の地面ごと揺れてるレベル」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

雪乃「これ、震度5くらいはないかしら……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

結衣「ふ、ふぅん」

そっか……ヒッキーも手作りクッキーとか作ったら揺れるのかな……。

なら帰って、手作りクッキーを作ってそれをプレゼントしてみよう!

今度こそ、感謝を伝えるんだ!!

雪乃「由比ヶ浜さん、もう帰るのかしら」

結衣「うん! 今度は自分のやり方でやってみる。ありがとね、雪ノ下さん」

手を振って別れを告げると、走って(ガシャン!! ガシャン!!)家を目指す。

よしっ、頑張って自分だけのクッキー作るぞ!!


雪乃「終わった……のかしら……うぅ……怖かったよぅ……」グスグス

八幡「雪ノ下、お前超頑張ってたよ……俺は見てたからな……」ナデナデ



      ×  ×  ×


数日後。

手作りクッキーを作って、放課後奉仕部の部室に向かった。

結衣「やっはろー!」ガラッ ドシャーン!!

雪乃「あああああああああああああああ」プシャー

八幡「雪ノ下ぁ!! しっかりしろぉぉぉおおお!!」

結衣「え、なに、あんまり歓迎されてない……。ひょっとして雪ノ下さんってあたしのこと……嫌い?」

雪乃「べべべ別に嫌いじゃないわ。……トラウマになるくらい苦手、かしら」ガクガクブルブル

結衣「それ女子言葉で嫌いと同義語だからねっ!?」

うう、さすがにこないだは迷惑かけちゃったかな……雪ノ下さんに苦手って思われるなんて。

ま、まぁそれはもう仕方がない。とりあえずお礼のクッキーを渡すことにする。

結衣「えっと、こないだのお礼ってーの? クッキー作ってきたからどうかなーって」ポイ

雪乃「…………これ、火薬かなんかの匂い?」

八幡「……」ソロー

雪乃「待ちなさい、一人で逃げようなんて許さないわ」ガシッ

八幡「やだよぉぉぉおおお俺死にたくねぇもぉぉぉおおおん!!!」

雪乃「私だってそうよぉぉぉおおお!!!」

結衣「えへへー」

うーん、相変わらず二人は仲良さそうだな……。ちょっと、妬けちゃうかも。

結衣「あ、それでさ、あたしも放課後とか暇だし、部活手伝うね(ガラッ ダダダダダダダ)あれ、なんで二人とも走って行っちゃうの!? ねぇ待ってってばー!!」ガシャン!! ドドドドドドドドドドド!!!

私もすぐに走って、二人を追いかける。鬼ごっこかな?

まぁ、あたしとヒッキー達とのお話はこれからだ!!




平塚「……色々あって、由比ヶ浜は奉仕部で受け入れることにした。よろしく頼む」

二人「「勘弁してくださいッ!!!」」




こまちにっき書いてたら二度とシリアス書きたくなくなったのでギャグ書いてみました。
感想とかくれると嬉しいです。


他の現行スレで八幡「俺ガイルRPG?」というSSも書いてます。
そちらもよろしくお願いします。

八幡「俺ガイルRPG?」
八幡「俺ガイルRPG?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430984337/)

過去作
いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」八幡「は?」
いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」八幡「は?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431921943/)

八幡「雪ノ下雪乃がねこのしたねこのんになった」
八幡「雪ノ下雪乃がねこのしたねこのんになった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432002727/)

小町「こまちにっき!」八幡「は?」
小町「こまちにっき!」八幡「は?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432110358/)


一応、一日一万回やっはろーの続きも考えてはいますが、とりあえず皆様の反応を見て続けるかどうか決めようと思います。
それでは。

題材が題材なので批判意見も多く出るかと思っていましたが、意外にも好感触っぽいので数日以内に続きを書こうと思います。
その時はまた、よろしくお願いします。

それから、俺ガイルRPGの方もよろしくお願いします!

それでもクラスはうまくやっている。編


やぁ、ぼくの名前は比企谷八幡!

ちょっと目が腐ってるだけの、どこにでもいるぼっちさ!

高校でも穏やかなぼっちライフを送っていたある時、突然ぼくは平塚先生に奉仕部なんていう訳の分からない部活に入部させられたんだ!

そこにいたのは、学年随一の美少女・雪ノ下雪乃。

これはもしかして青春ラブコメが始まっちゃう? なーんて夢を見ていたある時、この奉仕部に超弩級怪物・由比ヶ浜結衣も入部してきた。

こいつはやっはろーなんて訳の分からない挨拶をし、体を動かせば建物が壊れるなんていう超ヤバイ奴だった。

どうなっちゃうの、ぼくの青春ラブコメは!?

八幡「……」

なーんてプロローグを頭の中で流しながら、教室の外を眺めてみる。

外はあいにくの雨。

こういう日だと外にあるベストプレイスで飯を食べるわけには行かなくなるので、仕方なく教室でひとりコンビニパンを食べていた。

葉山「いや、今日は部活あるからな」

三浦「別に一日くらいよくない?」

ふと、教室の後ろにいるグループの話し声が聞こえてきた。

あの華やかな雰囲気なグループは、クラスの上位カースト集団だ。

そして、その中でもひときわ眩い輝きを放つのが二人いた。

葉山「あんまり食いすぎると、後悔するぞ」

あの男がグループの中心の男、葉山隼人だ。サッカー部のエースで次期部長候補。あまり長時間眺めていて気分のいい相手ではない。

三浦「あーしいくら食べても太んないし。今日も食べるしかないかー。ね、ユイ」

その葉山の相方の女子は三浦優美子。金髪縦ロールに派手な服装、頭の悪そうな言動から、こちらもやはり眺めていたい相手ではない。

結衣「あーあるある。優美子スタイルいいよね」ギュイーン

そしてその葉山と三浦たちの近くに、眩しい輝きどころかなんか近くの空間をリアルに捻じ曲げている巨体の女子がいた。

あいつが、最近平塚先生の本当に無駄に厄介な計らいによって奉仕部に入ってしまった由比ヶ浜結衣だ。こちらは眺めるどころか、出来れば視界に一瞬足りとも入れたくない。

ほら、見てみ? 近くでゲームやってた小田くんと田原くんがなんか次元の渦に飲み込まれそうになってんじゃん。あ、葉山が助けた。あいつもしかしていい奴じゃないの?

結衣「やーでも優美子マージ神スタイルだよねー」

お前ほどの体格を持ってる奴が言う言葉じゃねぇぞ。

三浦「えーそうかなー。でも雪ノ下さんとかいう子のほうがやばくない?」

結衣「あ、確かにゆきのんはやば『…………』あ、や、でも優美子のほうが華やかというかー」

すげぇ!! あの由比ヶ浜を一睨みで意見を変えさせた!! あの三浦とかいう奴、もしかして俺の思っている以上に大物なんじゃねぇのか!?

結衣「あ、あの……あたし、お昼ちょっといくところあるから」

三浦「そうなん? じゃさ、帰りにレモンティー買ってきてよ」

あの由比ヶ浜にパシらせるだと!? あまりの暴挙にクラス中がざわ……ざわ……と騒然する。

近くの戸部だっけ? に至っては汗だらだら流して体中に巻いてた包帯取れかけてるじゃん、ていうかなんて包帯まみれなんだあいつ?

結衣「え、でも、その帰りちょっと遅くなるかなーとか、あと放課後も用事できるかも……」グラグラ

三浦「……ユイさー、最近付き合い悪くない?」ギロッ

おどおどと教室中を揺らしながら『おい地震か?』『今更かよ、このクラスになってから何千回目だ』そう遠まわしに断った由比ヶ浜に対して、三浦が苛立たしけに爪で机をたたいた。

その三浦の周りには、見て分かるほど不機嫌なオーラが纏っていた。

結衣「……」シューン ゴゴゴゴゴゴ

ちなみに由比ヶ浜の近くにはなんか新しい異次元への空間が出来ていた。『っべー!!』あ、戸部が巻き込まれた。

三浦「言いたいことあんならはっきりいいなよ。あーしら友達じゃん」

葉山が異次元の中へ戸部を助けに行ってしまったため、今の教室の中に三浦のことをなだめる存在はいなかった。

ていうか今見渡して気がついたけど、俺と三浦以外全員教室の外に避難してるじゃねぇか!!

結衣「ごめん……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

三浦「だーから、ごめんじゃなくて。なんか言いたいことあんでしょ?」

三浦の言っていることは字面こそ美しいが、その実仲間意識の強要でしかない。でもそんなのどうでもいいから、俺も立ち上がって教室の外に避難することにした。ていうか、三浦も逃げないと不味くね?

八幡「おい、その辺で『るっさい』じゃあ俺一人で逃げさせてもらうぜ!!」ダダダダダ

そろそろ教室の半分が異世界に飲まれてきた。これ以上は本当に危険なので、俺も早く脱出しなければならない。

三浦「あんさー、ユイのために言うけどさー、そういうはっきりしない態度って結構イラッとくんだよねー」

結衣「……ごめん」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

なんかまだやり取りをしている二人を後ろ目に、俺は教室のドアを開いて外に脱出してきた。あ、葉山が帰ってきたっぽい。あとはあいつがなんとかするだろ。

八幡「……あれ、雪ノ下?」

雪乃「あら、比企谷くん」

教室の外に出ると、避難していたF組のクラスメートの集団の中に一人浮いた美少女の姿を見つけた。

雪ノ下雪乃、奉仕部の部長だ。

八幡「お前、なにしてんの?」

雪乃「いえ、由比ヶ浜さんが一緒に昼食を摂ろうと誘ってきたから逃げていたのだけど、今は自分の教室に帰ってくれたのか確認しようと思って」

八幡「そりゃ逃げるよな……今は教室の中でお友達さんと仲良くなんかやってるみてーだぞ、行ってきたら?」

雪乃「……」プルプルプル

八幡「ごめん、雪ノ下。二度と冗談でも由比ヶ浜に近寄れとか言わないから泣くな。な?」ナデナデ

雪乃「うん……」

ちなみに教室と、由比ヶ浜と三浦の仲とかは全部葉山がなんとかしてくれた。

さすがはトップカーストのリア充。やることが違うぜ。

こんな感じでたまに更新していきたいと思います。

それでは書き溜めしてから、また来ます。

つまり材木座義輝はズレている。編


放課後。

ホームルームが終わった後、マッ缶を買いに行き、そして奉仕部に向かう道中のことであった。

八幡「何してんの?」

雪乃「ひゃうっ!」

可愛らしい悲鳴と同時に、びくびくびくぅっ! とその美少女の体が跳ねた。

ここは奉仕部からは少し離れた位置の廊下。

そして何故か、そこで雪ノ下雪乃が立ち尽くしていたのだ。

雪乃「いきなり声をかけないでもらえるかしら?」

その雪ノ下は、えらく不機嫌そうな表情で俺のことを睨みつけてきた。

こいつは普段からこんな感じで、俺に対してやたら毒舌だったり態度が酷かったりする。美少女だったらどんな行動も許されると思ってんじゃねーのかこいつ。

だがとある事情が絡んだ時のみ、その態度は一変する。

八幡「悪かったよ。で、何して──おーけー何も言わなくていい」

ここから奉仕部の方を見てみると、入り口の扉前に巨体の女の子が一人立っていた。

あれは由比ヶ浜結衣。この学校では歩く災厄と呼ばれ、諸々あって奉仕部に所属していたのだ。

で、なんであいつは部室の中に入らないで、その中を覗きこむように見ているのだろうか?

雪乃「か、彼女があそこで待ち伏せしているから中に入れなくて……で、でも奉仕部として活動はしなくてはならないわ……」プルプル

八幡「……」

そう、こいつは前にあったクッキー事件以来どうも由比ヶ浜のことがトラウマになってしまっているらしい。

その由比ヶ浜が絡んだ時、いつもの不遜な態度がやたら怯えた態度に変わるのだ。

こんなにも怯えながら逃げないで奉仕部として活動しようとする辺り、責任感は強いのかもしれない。

雪乃「ひひひ、比企谷くん……彼女をどうにかしてくれないかしら……」ギュッ

お、おう。怖いのか怯えているのかどうなのか知らんけど美少女がそんな簡単に男の腕に組み付くんじゃねーよ。勘違いしちゃうだろ近い近いいい匂い近い。

結衣「むー……あの中にいるのは誰なんだろ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

雪乃「ひいっ!!」メキッ

八幡「ぐあああああああああ!!」ゴキッ

俺の腕の関節はそっちには動かねぇんだよ!!

結衣「あ、ゆきのん! ヒッキー!」クルッ

今の俺の悲鳴を聞いて気がついたのか、由比ヶ浜がこちらの方を振り向いて駆け寄って(ドッドッドッドッ!!)きた。

雪乃「あ、ああああら、ゆゆゆ由比ヶ浜さんぐぐぐ偶然ね」プルプルプル

俺の腕から離れて雪ノ下がそう返した。そんな状態でも挨拶は返そうとするのは偉いと思う。でも俺の左腕を動かなくしたのは許さないからな。

八幡「……で、お前部室の前で何してたの」

痛みが引かない左腕をさすりながら、俺がそう聞いた。これ以上雪ノ下に応対を任せてたら本気で死にかねないし。ほら、もうなんか雪ノ下の頭から煙みたいなのがもくもくと出てるじゃん。多分冷や汗が出まくって、それの水蒸気かなんかだと思うんだけど。

結衣「あ、そうなのヒッキー。部室の中に不審者がいんの」

八幡「不審者はお前だ」

結衣「それどういう意味だし!?」ドン!! ゴシャアアアアア!!

雪乃「ひぃぃぃ!!」ガタガタガタガタ

あ、やべ。思わず思ったことを口にしていた。

見れば、他の教室にいた生徒たちが走ってどこかに逃げ出していた。いいなぁ、俺もあれに混じって逃げたい。由比ヶ浜もついてくるだろうから出来ないんだけど。

結衣「で、とりあえず部室の中に変なのがいるの。ヒッキー見てきて」

八幡「はいはい……」

とりあえず、これ以上由比ヶ浜の言うことに下手に反発するのはマズイ。校舎が持たないし、何より近くにいる雪ノ下にこれ以上下手な刺激を与えたくない。ほら見てみ? あいつ、そこらの携帯のバイブよりぶるぶる震えてるじゃん。

俺は言われるがままに部室の扉を開くと、中には一人男が佇んでいた。

材木座「クククッ、まさかこんなところで出会うとは驚いたな──」

結衣「ねぇ、誰がいたの?」ゴゴゴゴゴゴゴ

材木座「驚いたな──!!!」

部室の中にいた男──いや別に材木座義輝なんて知らないけど──は、俺の後ろにぬっと出てきた由比ヶ浜の姿を見ると腰を抜かしてどしゃーんと倒れてしまった。

……まぁ、その気持ちはわかる。今回ばかりは気持ち悪いとか思わないで同情してやるよ。俺も後ろに由比ヶ浜がいると考えるとチビりそうになるし。

八幡「……何の用だ、材木座」

材木座「え、えーと、平塚先生に助言頂いた通りならば、この奉仕部という部活は我の望みを叶えてくれる場所なのだな……?」

おい。あのクソ教師、この部活に由比ヶ浜を突っ込みながら他の生徒まで奉仕部に押し付けるんじゃねぇよ。さすがに可哀想だろ。ここにきた生徒が。

材木座「そ、それでライトノベルの原稿を持ってきたので、それを読んで感想を頂きたいのだが──」

結衣「らいとのべる? ってなに?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

材木座「ぴゃあっ!?」

おい由比ヶ浜、こんなところで変なオーラを纏うな纏うな。雪ノ下がそこの机の下で猫のように丸くなってガタガタ怯えてるだろ。

八幡「……由比ヶ浜、ちょっとそれ抑えてくれるか」

材木座「……こ、これだ!」

八幡「あん?」

材木座「これぞ、我の求めていたもの!!」

いきなり材木座が叫び始めたので、やばい人を見る目でそっちの方をみた。ちなみに由比ヶ浜を見るときの俺の目はやばい人を見る目を通り越して、もっとやばい人を見る目をしている。

材木座「お主、由比ヶ浜と言ったな──光栄に思えい、我のラノベの主人公にしてくれる!」

結衣「え、え? ど、どういうこと?」

材木座「モハハー! そうと決まれば早速書くとしよう! さらだばー!」

そう言い残すと、材木座はさっさと教室から走って出て行ってしまった。

後には、静寂のみが残されていた。

結衣「え、えーと……何? 何だったの?」

八幡「気にすんな、あんなの忘れとけ」

由比ヶ浜の呟きに軽くそう返す。確かに、こんな化け物。ある意味厨二バトル物ラノベのモデルとしてはうってつけだよな。

だがまぁ、その厨二バトル物ラノベというものを由比ヶ浜に説明するとどう暴走されるのか予測がつかないので、今の一連の流れについて説明する必要はないだろう。怖いし。

雪乃「うう……」ガタガタ

材木座の件が片付いたところで、次はあの机の下で丸くなっている猫みたいな奴を落ち着かせることにしよう。

この猫じゃらしで遊んでやりゃ、ほいほいついてくるかな?



    ×  ×  ×


あれから数日が経った。

六限目。本日最後の授業は体育である。

俺は材木座とペアを組みながら、準備体操を行なっていた。

材木座「八幡よ。悪魔ユイガハマは飛び跳ねれば地震が起き、手を振るえば風が舞う。そんな設定はどうだ!?」

八幡「残念だが材木座、リアルの由比ヶ浜は歩くだけで地震が起こるし、手を震えば風どころか竜巻が起こるぞ」

材木座「え? あっ、そうなの……」

そんな感じで俺と材木座は体育の授業中に会話をするようになった。変わったことといえばそれくらい。

まぁ中身はほんと由比ヶ浜をモデルにした主人公の話ばかりだ。特に愉快でもないし、ほんとトラウマが掘り出されるだけだから今すぐ黙って欲しい。

由比ヶ浜「ぃやっはろ──!!」

葉山「しまった、魔王ザイアークが異世界からやってきてしまった! ここは俺がくい止めるから逃げてくれ!」

戸部「隼人く────ん!!!」

八幡「ほら、なんかまたやってきちゃったから逃げるぞ材木座」

材木座「ほふん、魔王を呼び寄せる……そういうのもあるのか!」

由比ヶ浜と同じ体育の時間になったことのある面子は、なにかあったらすぐに逃げろという教訓をすでに得ている。他の奴らもすでに慣れた感じで逃走を開始している。後は全部葉山がなんとかしてくれるだろう。

材木座「ならば、他に異世界からあれも呼び寄せれれば……あ、待ってよはちまーん!!」

書き溜めしてから、また来ます。

けれど戸塚彩加はついている。編


妹の小町がジャムを

(中略)

小町「えっ、小町の出番は!?」

そしてテニスの授業が始まる

(中略その2)

そして昼休みになった。

俺はいつものベストプレイスで、ぼっちで飯を食べていた。

女テニの自主練習を目で追いながら、本日の昼食をたいらげた。じきに昼休みも終わるだろう。

ふと、ひゅうと風が吹いた。

風向きが変わったのだ。この辺りは、お昼を境に風の方向が変わるのだ。

結衣「あれー? ヒッキーじゃん」ドシンドシン

変わったのは風向きだけじゃなくて空気もだった。

結衣「なんでこんなところで食べてるの? 教室で食べればよくない?」

教室にお前がいるから教室以外で昼飯食べてるのがクラスの何割いると思ってんの?

八幡「……それよかなんでお前ここにいんの」

普段こいつは教室で三浦たちと共に昼食を摂っているはずである。こんなところにいるのは、少々違和感を覚えた。押さえてろよ葉山。

結衣「それそれっ! じつはね、ゆきのんとのゲームでジャン負けしてー、罰ゲームってやつ?」

あっ、雪ノ下さんもしかしてとうとう強制的にこいつと昼飯食わされてたのか……。あいつ、今日の昼飯はちょっとしょっぱそうだな。涙で。

ていうか、あいつからしたらお前と一緒に飯食う羽目になった時点で罰ゲームだろうよ。

結衣「それでね、負けた方がジュース買ってくるっていうゲームしてたの! あたしがそう誘ったらゆきのんったらね、すごい大喜びでそのジャンケンに乗ってきたんだよ!」

嬉々として由比ヶ浜の提案に乗る雪ノ下の姿が容易に想像出来た。

多分、そのジャンケンに勝ったら由比ヶ浜が帰ってくる前にどこかに逃げて、負けたら負けたでそのまま逃げるつもりだったんだろうな。

結衣「でさ、ゆきのん勝った瞬間、無言ですっごい大袈裟にガッツポーズしてて……、もうなんかすっごい可愛かった……」コオオオオオ

そりゃあれだ、お前と離れられるのが嬉しかったんだよ。多分負けてもガッツポーズしてたわ。あと、なんかオーラ漏れてるから抑えて抑えて。

結衣「なんか、この罰ゲーム初めて楽しいって思った」

こいつに真実を話すのはやめておこう。この真相は、墓まで持っていくべきだ。

結衣「そういえばさ、ヒッキーって入学式のこと覚えてる?」ギューン

八幡「は? 入学式? いや、俺は当日に交通事故に遭ってるからな」

結衣「事故……」

突然、由比ヶ浜が振ってきた話題は入学式のことについてだった。あとお前首を振るうだけでなんか風が吹くからやめてあげて。テニス部の人、ボールが飛んでいって困ってるから。

何故いきなりそれについて話したのかは分からないが、俺はその日交通事故に遭っているために入学式には出ていないのだ。

八幡「どこぞのアホな奴のワンちゃんを身を挺して守ってあげたの。そりゃもう颯爽とヒーロー的に超かっこよく」

結衣「あ、アホな奴って……そりゃあの時はスッピンだったしまだ細かったし……髪も染めてなかったし神を初めてなかったし、パジャマとか適当だったけど……あ、でもクマさん柄だったからもしかしたらちょっとアホっぽいかも」ボソボソ ゴゴゴゴゴゴゴ

八幡「?」

いきなり由比ヶ浜の周りで異世界への扉が開いていたので、葉山が緊急用のためクラス全員に教えていた対由比ヶ浜用の印を結んでみる。あ、異世界への扉閉じた。葉山すげー。

結衣「ヒッキーはさ、その女の子のこと覚えてないの!?」

八幡「い、いや覚えてない……ていうか女の子って言ったっけ」

結衣「へっ!? あっ、言った言った! 超言ってた! むしろ、『女の子』しか言ってなかった!」ゴゥ!!

あっ、空を飛んでた鳥が全部落ちた。南無。

その鳥が落ちた末を眺めていると、テニスコートから女テニの人が汗を拭いながら戻っていくのが見えた。

結衣「おーい! さいちゃーん!」

由比ヶ浜が手を振って声をかける。知り合いだったらしい。ああ、あいつはなんて災難なんだろう。

その子は由比ヶ浜に気づくと、とててっとこちらに向かって走り寄ってくる。よく逃げなかったな。

結衣「よっす、練習?」

戸塚「うん、うちの部すっごい弱いからお昼も練習しないと。由比ヶ浜さんと比企谷くんはここで何をしてるの?」

なっ、この子由比ヶ浜を相手に堂々と会話しているだと……? まさか、意外に大物?

結衣「やー別になにもー? さいちゃんは授業でもテニスしてたのに昼練もしてるんだ。大変だねー」

戸塚「ううん。好きでやってることだし。あ、そういえば比企谷くん、テニスうまいよね」

突然こちらに話を振られ、正直困る。お前は誰で、なんで俺を知ってんの?

八幡「いやー照れるなーはっはっは……で、誰?」

結衣「っはあぁっ!? 同じクラスじゃん! なんで名前覚えてないの!? 信じらんない!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ごめんね。『また地震だぞー』俺が同じクラスの人の名前を覚えてない『もう慣れたよ』ばっかりに、また学校で地震が『余裕だよなー』起きちゃったよ。

戸塚「あ、あはは。やっぱりぼくの名前覚えてないよね……。同じクラスの戸塚彩加です」

八幡「いや悪い。ほら、俺あんまりクラスの女子と関わりないから。なんならこいつの本名も知らないレベル」

結衣「いい加減覚えろっ!」ペシッ

ぺしっと由比ヶ浜が俺の頭を叩、ぐあああああああああああああああっ!!!!

戸塚「ひ、比企谷くん!!」

結衣「あ、やっば。止血のツボ押さなきゃ」ヅボッ

八幡「はっ!!」

危なかった……今のはさすがに本当に死ぬかと思った……。

戸塚「そ、それより比企谷くん……ぼく、男なんだけど……」

オイこいつ今のやり取りをそれよりって流したぞ。もしかして本当に大物なんじゃないかって、うん?

今こいつ、男って言わなかった?

思わず信じられないような目つきで由比ヶ浜の方を見ると──あ、なんか納得した。こんな巨体でも女子を語っている奴もいるくらいだ。あんな可愛くても男だってことくらいよくあることなのかもしれない。

戸塚「……証拠、見せてもいいよ?」

八幡「いや大丈夫だ。よろしくな、戸塚」

戸塚「え? ああ、はい。よろしく、比企谷くん」

結衣「うんうん。そろそろ戻ろっか」

八幡「お前、ジュースのパシリはいいの?」

結衣「はぁ?──あっ!」

まぁ、さっき戻ってても今戻っても、どのみち雪ノ下はもういないと思うが。



     ×  ×  ×


数日の時を置いて、今再び体育の時間で

(中略その3)

奉仕部の部室で戸塚(かわいい)のために雪ノ下にテニス部への転向を相談したら、涙目でやめないでくださいお願いしますと頼まれてしまった。ちっ。そのままこの奉仕部辞めようと思ったのに。

そんな時、部室に巨大な体の女(らしい)が入ってきた。ちなみに扉はクッキーの日以来もうない。平塚先生に新しく扉をつけてくれと頼んだら『毎日壊されるものを新しくつけるわけがないだろう』と言われた。まったくもって正論です。

結衣「やっはろー!!」ゴゥ!!

雪乃「ひいぃ!!」ガタガタ

八幡「よう」パシッ

もう由比ヶ浜が挨拶した瞬間に起こるソニックブームの流し方は覚えた。これもまた、葉山がクラス全員に対して教えた対由比ヶ浜用戦術の一つだ。素早く雪ノ下の前に割り込むと、ソニックブームを軽く逸らした。

どうやら、挨拶の時に起こるソニックブーム程度なら慣れれば俺のような一般人でも逸らすことくらいは出来るらしい。葉山のように真正面から止めることは出来ないし、これが怒っている時となると俺レベルでは逸らすことすら出来ないらしいが。

雪乃「ひ、比企谷くん、まさか私のことをかばって……」キュン

戸塚「あっ……比企谷くんっ!」

八幡「戸塚か……」

その由比ヶ浜の後ろにいたのは、なんと戸塚であった。なんでここにいんの? 由比ヶ浜の生贄?

由比ヶ浜「今日は依頼人を連れてきてあげたの、ふふん。やー、ほらなんてーの? あたしも奉仕部の一員じゃん?『……今すぐ辞めてもらっても構わないのだけれど』『諦めろ雪ノ下、もう平塚先生どころか政府からここで預かれって勅命が来てるんだ』だからちょっとは働こうと思ってたわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

へーこいつ一応部員としてはやっていこうというつもりはあるんだ。俺、てっきりこの部室ごと地球を破壊するつもりだと思ってたよ。

雪乃「……で、戸塚彩加くん、だったかしら? 何かご用かしら?」キリッ

目頭に涙を浮かべながらカッコつけても、締まらないよなぁ……。

(中略その4)

ということで、戸塚を鍛えるために昼休みに特訓を行なうことになった。

結衣「さいちゃん、頑張ろうねっ」ゴゥ!!

雪乃「……」プルプル

涙目で震えながらも、なんだかんだちゃんと来る辺りこいつ責任感強いなぁ。俺なんて知らない振りして逃げようと思ったら由比ヶ浜に無理矢理掴まれて連れてこられたんだぜ? おかげで今、両手両足全部動かなくてぶっ倒れてるの。すげー面白いよね。

結衣「ほら、ヒッキーも起きて! 体が動くツボ!」ズボッ

八幡「うごあっ!!」

あっ、体が動くようになった。ツボすげー。でも動かなくてもいいからもう関わりたくなかったかなー。

材木座「ハーッハッハッハッハッ八幡」

八幡「高笑いと俺の名前を繋げるな……」

で、この場に俺、雪ノ下、戸塚がいるのは分かる。由比ヶ浜ももうこの際だから仕方ない。昼休みに俺を掴んでテニスコートに行くって言った瞬間、クラスのみんなの目が輝いてたもん。

でも、なんで材木座がここにいるんだ? 自殺願望者?

材木座「主人公のキャラクターを掴むため、由比ヶ浜殿を観察しに参ったのだ」

本当に自殺願望者だった。

結衣「じゃあ、さいちゃん。よろしくね」

戸塚「よ、よろしくお願いします」

いやーしかし、まさか由比ヶ浜が強くなる秘訣を教えることになるとはなー。戸塚死なないで済むかな……何かあったら俺が割り込んで代わりに死のうそうしよう。

結衣「いい? 大切なのは挨拶だよ」

戸塚「あ、挨拶?」

由比ヶ浜の言葉に思わず耳を疑う。

挨拶? これから始まるのは由比ヶ浜による地獄の特訓だと思っていただけに、まさか挨拶という言葉から始まるとは……なんか思っていたのとは違う。

結衣「まずはお手本を見せるね。こう、息を整えて、拝んで、祈って、構えて、叫ぶの。「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっはろー!!!」」」」」」」」」」ゴゥ!!!!

八幡「──はっ!?」

今、何が起こったんだ!?

八幡「なんか、音が遅れてやってきたような……? しかも、なんか何重もの言葉が一気に聞こえてきたような」

結衣「あーうん、それくらいの速さでやらないと一時間以内に一万回やっはろーって出来なくてさーてへへ」

八幡「は……?」

由比ヶ浜の言っている意味が分からなかったが──いや、分かろうともしない方がいいかもしれない。とりあえず立ったまま意識を飛ばしちまった雪ノ下を介抱しよう。戸塚はなんとか平気みたいだな。材木座は──見なかったことにしよう。

結衣「よし、さいちゃんもやってみて!」

戸塚「わ、分かったよ……やっはろー! やっはろー!」

何あれ可愛い『はっ、私は一体なにを』お、雪ノ下起きたか。

結衣「まず初心者向けはこうだよ、「やっ「やっ「やっはろー!!」」」ゴゥ!!

戸塚「や、やっはろー! やっはろー! やっはろー!」

結衣「ほら、ヒッキーも!」

八幡「ええっ!?」

……俺たち、いったい何やってんだ。

結局、昼休みまるまるやっはろーと叫び続ける羽目になり、喉が枯れた。

たまにラブコメの神様はいいことをする。編 に続きます。

たまにラブコメの神様はいいことをする。編


そんなこんなで日々が過ぎ、俺たちのテニスは第二フェイズに突入していた。

あの挨拶で戸塚が何を得たのか全く分からなかったが『あれーおかしいな……』いよいよボールとラケットを使った練習に入ったのだ。

結衣「じゃ、ボール投げるよ『比企谷くん、あなたがボールを投げてあげて』えっ、なんでゆきのーん!!」

俺がボールを投げて、戸塚がそれをラケットで打ち返す。ああ、戸塚可愛いなぁ……本当に、本当に由比ヶ浜の特訓のせいで死ぬほども筋肉もりもりになることもなくて良かったなぁ……。

戸塚が打ち返した数が二十を越え始めた頃、戸塚がずざーっとすっ転んだ。

結衣「うわっ、さいちゃんだいじょぶ!?」

八幡「戸塚、平気か!?」

戸塚「大丈夫だから、続けて」

雪乃「私救急箱取って来るわ」ピュー

あ、あんにゃろ逃げやがったな!!!

結衣「まだ、やるつもりなの?」

戸塚「うん……、みんな付き合ってくれるから、もう少し頑張りたい」

いや雪ノ下はたった今、大義名分手に入れた瞬間に逃げたし、材木座は──ヤムチャしやがって……。

三浦「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

きゃぴきゃぴとはしゃぐような声がして、振り返ると葉山と三浦を中心にした一大勢力がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

海老名「あ……。ユイたちだったんだ……」

三浦の横にいた女子が小声でそう漏らす。由比ヶ浜の存在に気がついた瞬間、三浦と葉山以外の全員の顔が青ざめていた。そらそやな。

三浦「ね、戸塚―。あーしらもここで遊んでていい?」

戸部「えっ、おいおいやめとこうぜ。こえぇって」

三浦「あぁ?」

戸部「ひえっ」

あーご愁傷様。

(中略)

葉山「あー、じゃあこうしよう。部外者同士で勝負。勝った方が今後昼休みにテニスコート使えるってことで。もちろん戸塚の練習にも付き合う」

なんか色々あって、このテニスコートの使用権を賭けた試合をすることになった。第三フェイズに突入した瞬間であった。

……帰っていいかなー、ぼく。



    ×  ×  ×


ギャラリー「「「ざわ……ざわ……」」」

何故かテニスコートの周りには三百名を優に越える人数のギャラリーが集まっていた。なんでや。

その大半は葉山の友達──どうだろうな、あの由比ヶ浜を見に来た怖いもの見たさの命知らずも相当数いそうだけど。

とりあえず、色々あって葉山&三浦ペアVS俺&由比ヶ浜ペアでの試合になった。

いや、本当に色々何があったの? そこんところ詳しく教えてもらいたい。

三浦「ユイー、あんたさぁ、そっち側つくってことはあーしらとやるってことなんだけど、そういうことでいいわけ?」

三浦さーん、あなたさぁ、そっち側にいるってことは由比ヶ浜さんとやるってことなんだけど、そういうことでいいわけ?

三浦と由比ヶ浜が着替えに行く(あいつの着替えあんのかよ)と、葉山がこちらに話しかけて来た。

葉山「あのさー、ヒキタニくん」

八幡「──ああ、分かってる」

葉山「……察しが良くて助かるよ」

あいつの言おうとしていることは分かってる。

要するに、全部俺の方に打つから全部俺が返せってことね。

そして、たとえ俺が死んでも由比ヶ浜にボールを打たせるなってことね。

りょーかいりょーかい、最初っからそのつもりだ。

しばらく待つと、三浦と由比ヶ浜がユニフォームに着替えて戻ってきた。

結衣「なんか……テニスの格好って恥ずっ……スカート短くない?」

そりゃ単純に丈が足りてねぇんだよ。つーかお前の腰に入るユニフォームがあっただけすげぇと思うよ。

まぁ、色々あってテニスの試合が始まろうとしていた。


     ×  ×  ×


八幡「めっちゃ……しんど……」ゼェゼェ

葉山が打ってくるボールは多少手加減されていて返すのも楽なんだが、三浦が予想を超えるハイレベルプレーヤーだったのだ。

おかげで、それらのボールを全て返す羽目になっている俺の負担が尋常じゃない。

ぶっちゃけわざと負けてやろうかと思ったくらいだが、それはさすがに戸塚に悪い。

結衣「ご、ごめんね……あたしが全然ボール触ってないばかりに」

ええ、まぁあの二人は絶対に由比ヶ浜のところにボール打ってこないし、俺もわざとお前に打たせないようにしてるからね。

八幡「大丈夫だ……お前(の分の陣地)は俺が守る……!!」

結衣「えっ///」キュン

あ、やべ。疲れてふらふらになってきた。だが持ちこたえろ。まだ半分も終わっていないのだ。さーて次のサーブは誰からだったかな──

結衣「えーっと次はあたしから打てばいいのね」

サーッと血の気が引く音が聞こえた。

見れば、葉山の顔も引きつってた。そういえばサーブのこと忘れてたわ……。

ギャラリーの中でも、察しのいい奴はそろーっとテニスコートの周りから離れていった。多分、離れている奴のほとんどがウチのクラスの連中か由比ヶ浜と同じ体育のクラスになったことのある奴だろう。

それでもまだ大半は残ったままだ。死んでもしらねぇぞ。

とはいえ、本当に死人を出すわけにはいかない。

サーブを打とうとしている由比ヶ浜の元へ駆け寄り、指示をすることにした。

八幡「おい、由比ヶ浜。軽くな? かるーく、飛ばしてくれ」

結衣「へ? 軽く飛ばす?」

八幡「ああ。軽くな、軽く」

結衣「うん、分かった!」

よし、どこまで効くかは分からんがこれで少しは被害が収まるかもしれない。

結衣「よーし、いっくよー」ゴォォォオオオ

いや待て、やっぱりこれだけだと不安だ。

もうちょっと具体的に言いつけておく方がいいかもしれない。

八幡「おい由比ヶ浜、あとあれな、地面に穴が開かないようにしてくれ」

結衣「地面に……? う、うん分かった」

よし、これを守ってくれればかなりマシな被害で済むだろう。少なくとも地面に穴が開かない程度の強さなら、まだアフターフォローは効くはず。

前を見ると、葉山がぐっと親指を立ててこちらに向けていた。多分グッジョブの意味なんだろう。ああ、俺頑張ってるよな……お前みたいなイケメンさわやかスマイルでそれをやられても気にならない程度には今、心が晴れやかだよ。

結衣「よーし、今度こそー」ゴォォォオオオ

頼む、由比ヶ浜……俺の言うことを忘れないでくれ……!!

軽く、かつ穴が開かない程度に、だ。それだけなら──まだ誰かに当たっても、骨が折れるとかで済むだろう。

それでも何があるか分からない。俺と葉山が息を呑んで、最悪の事態に備える。

その由比ヶ浜のサーブを受けるはずのレシーバー・三浦だけが何故か不敵な笑みを浮かべて立ち向かう気満々だった。

三浦「さぁ、来なよユイ!!」

そして、由比ヶ浜のラケットがボールを打つ音がした。



結衣「やっはろーホームランッ!!!」パコーン


三浦「きゃああああああああああああああ!!!!!」ビューン


八幡「そうじゃねぇんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


誰が対戦相手を軽く飛ばせっつったんだよぉぉぉおおお!!!!

ボールを飛ばせって意味に決まってんだろうがよぉぉぉおおお!!!

確かに地面に穴は空いてねぇけどよぉぉぉぉおおお!!!

結衣「あれー、姫菜から借りたテニス漫画ではこんな感じで打ってたのに」

葉山「優美子ぉぉぉおおお!!」ダッ

葉山がラケットを放り投げながらグラウンドの方まで飛んでいった三浦の方へ、駆けだした勢いそのままに走り出す。

まだ三浦の体は空を飛んでいる。あの勢い、あの高さから地面に落ちたら間違いなく命はない。

三浦「は、はやとっ……!!」ピューン

葉山「うおおおおおおっ!!」ダダダッ

走る、とにかく走る。

だがこの時、昼下がり特有の風が吹き、三浦の体が一瞬だけ空に留まった。

これなら──間に合うか!? 間に合うのか!?

葉山は地面を強く蹴り飛ばし、三浦の着地地点にまで飛び込んだ。

葉山「はっ!!」ズサァッ!!

葉山と三浦の周りが、砂煙に囲まれてその姿を眩ました。

一瞬の静寂。

そして、砂煙が晴れ、二人の姿が見えた。

飛び込んでいた葉山が、三浦を庇うように抱きかかえていた。三浦は赤い顔をしながら控えめに葉山の胸元をちんまりと握っている。

瞬間、ギャラリーは大歓声と割れんばかりの拍手を送る。全員総立ちのスタンディングオペーション。(俺も拍手を送った)

葉山は腕の中で縮こまる三浦の頭をよしよしと撫で、三浦の顔がいっそう赤く染まる。

わーっとテニスコートの周りにいたオーディエンスがグラウンドにいる葉山と三浦の元に走って取り囲んだ。

『HA・YA・TO! フゥ! HA・YA・TO! フゥ!』

葉山……お前超かっけぇよ……由比ヶ浜のこの手から、女を守るなんてよ……!!

そのまま、葉山はギャラリーたちに胴上げされながら校舎のほうへと消えていった。

FIN。

いやぁ、いいエンディングでしたね。

雪乃「救急箱を持ってきたのだけれど……何があったの?」

あ、雪ノ下さんいたんだ。



    ×  ×  ×


戸塚「え、えーと……」

残されたテニスコート内で、戸塚が愛想笑いを浮かべていた。

結衣「わぁ、隼人くんすごかったなー」

おい、元凶はお前だお前。

雪乃「……比企谷くん、何があったか教えてもらって良いかしら」

雪ノ下は戸塚に救急箱を渡すと、俺に向かってそう尋ねてきた。こいつ、そのまま逃げたと思ったのに一応ちゃんと救急箱取りに行ってたのね。

とは言っても困ったな、今の流れをどう説明すればいいのか……。

八幡「あー……まぁ、いつも通り由比ヶ浜が暴れて葉山がなんとかしてくれた。以上」

雪乃「大体分かったわ」

いやー、こいつは話が早くて助かる。もっと詳しくって聞かれても、正直上手く説明する自信がなかったんだ。

戸塚「比企谷くん……あの、ありがと」

戸塚が俺の正面に立ち、まっすぐに見つめてくる。言い終わった後、照れたように目を逸らしてしまった。正直このまま抱きしめてちゅーしてやろうと思ったが、でも、こいつ男なんだよな……。

こんなラブコメ間違ってるし、戸塚の性別も間違っている。ついでに、戸塚は礼を言う相手も間違っている。

八幡「俺は別になんもしてないよ。礼ならあいつらに……」

いや、よくよく考えたらあいつらも特になにもしてねぇ。由比ヶ浜に至っては挨拶と三浦をぶっ飛ばしたくらいだ。やっぱ俺がお礼を受け取っておこう。

と、周囲を見渡す。雪ノ下はそこにいたが、由比ヶ浜の姿が消えていた。だが、すぐにテニス部の部室の脇であいつの頭が飛び出ているのが見えた。身長でかい奴って探すのが楽だな。

文句の一つでも言っておこうと部室の方へ回りこんだ。

八幡「ゆいがは……あっ」

思いっきり着替え中だった。

結衣「な、なななな」

その圧倒的筋肉の存在感のせいで、下着とかその他諸々は全く目に入ってこなかった。

いやほんとマジで、さすがにこんなゴリラ相手に性欲とか沸かねーし。

結衣「もうほんと[ピーーー]っ!!」ゴウッ!!!!!

由比ヶ浜がラケットを持って、思い切り振りかぶって俺の方へすごい勢いつけて投げてきた。

……そうだよな、やっぱり青春ラブコメは『ぐあああああああああああああああああああああああっ!!』

雪乃「比企谷く──んっ!!」

戸塚「比企谷くんっ!!」

やるじゃん、ギャグコメの神様。ぐふっ。


※生死を彷徨った後、ツボを押されてなんとか生還しました。

そして比企谷八幡はかんがえる。編 に続きます。

そして比企谷八幡はかんがえる。編


放課後の教室でただ一人、平塚先生へ提出する用の報告書を書いていると筆が止まった。

これは、奉仕部での由比ヶ浜の行動についての報告書だ。

平塚先生に提出するとは言っても、その元を辿れば政府からの要求だ。政府から提出しろと言われてしまっている以上、手を抜くわけにもいかない。

その分、奉仕部に大量の部費が国から支給されているらしいからな。まぁほぼ全部由比ヶ浜が壊したものの修繕費に当てられてるんだけど。

しかし、いまいち報告書に書く内容が思い浮かばない。

いや、思い浮かぶには思い浮かぶのだが、一般生徒を思いきりホームランかましたって書いていいのだろうか……?

続きは部室で書くか……。



     ×  ×  ×


俺が扉も壁もない部室に入ると、雪ノ下はいつもと同じ場所で、平素と変わらぬ姿勢で本を読んでいた。

俺の足音に気づくと、顔をあげる。

雪乃「あら、今日はもう来ないと思ったわ」

まぁ、さっきまで心臓止まってたしな。俺も正直なんでここに普通に来てんだろうって疑問に思ってるわ。

八幡「いや、俺も休もうかと思ったけどな。ちょっとやることもあったからさ」

椅子を引いて座り、鞄から報告書を取り出した。その様子をしげしげを眺めて雪ノ下は不快げに眉根を寄せる。

雪乃「……あの人、一体この部活をなんだと思っているのかしら」

八幡「あんまり平塚先生を責めてやるな……」

あの人もほんと大変そうだからな。由比ヶ浜が壊した備品やらを報告するたびに、顔に皺が増えていきそうな勢いだ。もしこの報告書に三浦の件を書いて提出したら、また大声で泣きながら『なんでだ……なんで私にこんな面倒事が……若手だからって……うぅ……』とか言い出すのだろう。もうほんとに見ていて哀れだから誰か早く貰ってあげてください。

ふと、この部室に沈黙が訪れた。静かな部室の中、秒針の音だけがした。思えば、この沈黙も久しぶりだ。いつもやかましいどころかなんか色々ぶっ飛んでる存在がいないからだろう。

八幡「そーいや、由比──名前出しただけで泣くなよ、あいつはどうしたんだ」

雪乃「えぐっ……彼女なら、今日は三浦さんたちと遊びに行くのだそうよっ」

最初は泣いてたのに、台詞の後半にいくほどなんかだんだん明るくなっていったぞ、こいつ。由比ヶ浜がいなくて喜んでるんじゃないのか? いや、マジで喜びながらガッツポーズしてるし。なるほど、由比ヶ浜が言っていたようにその姿は確かに可愛い。

しかし三浦と遊びに──ええっ!? あいつ由比ヶ浜に空に向かって吹き飛ばされたばかりじゃん!

そうか、自分のことをぶっ飛ばした程度のことは流せなきゃ女王の器は持てないのか……今ここに、三浦の大物っぷりを感じた。

三浦本人が大して気にしてなさそうなら報告書に書かなくてもいいだろう。目撃者はかなり多かったはずだが、まぁ人一人を空に向かって軽くぶっ飛ばしたとかチクられても誰も信じないだろう。多分。

雪ノ下がいつもより上機嫌そうな顔でこちらを見ると、その口を開いた。

雪乃「比企谷くんこそ、相棒は一緒じゃないの?」

八幡「戸塚は部活だよ。例の件のせいか知らんけど部活に燃えてる」

まさか由比ヶ浜の影響じゃないといいなぁ。さすがに戸塚だって、テニスのホームランはただの失点だって知ってんだろうけど。しってんだけに。

雪乃「戸塚くんじゃなくて、もう一人の方──ごめんなさい」

八幡「いや、気にするな。確かにあいつはもういないけど」

いないっつーか、まぁ普通に生きてはいる。生きてはいるけど、例のやっはろーをモロに受けた材木座はそれがトラウマになったらしくそれからテニスの練習の時にも顔を出さなくなった。それに関して雪ノ下さんは『気持ちは分かる、分かるわ……』と力強く頷いていました。

突然、カッカッと廊下に足音が鳴り響いた。この奉仕部を目指しているようだ。扉だけでなく、廊下との壁が全部なくなっているこの部室は、やたら廊下の足音が聞こえる。

平塚「邪魔するぞ」

八幡「先生、ノックを──すんません言ってみただけです」

ちょっと前に比べてなんか老けて見えるようになった平塚先生は、手近にあった椅子を引くとそこへ座った。

雪乃「何か、御用ですか?」

雪ノ下が問うと、平塚先生は例の少年のような瞳──はもう見る影もなく、やつれきった社会人の目をこちらに向けてきた。すごいな、今なら俺といい勝負が出来るレベルで目が腐ってる。

平塚「ああ……実は、由比ヶ浜についてなんだが──」

雪乃「……」エグッエグッ

八幡「あーよしよし。泣くな泣くな、俺がいるから」ダキッ ナデナデ

平塚「あーうん、心中はお察しするが……、その、上の方から奉仕部に向けて、由比ヶ浜の生態についてもっと詳しい研究レポートの提出を頼ま」

雪乃「びぇぇぇえええん、はぢまぁぁぁあああん!!」ビエーン

八幡「あー大丈夫大丈夫、俺がやるから」ギュー ナデナデ

現時点でもそれなりに危険な橋を渡りつつ報告書を書いて提出していたはずなのだが、まさかもっと詳しく書けと言われるとは。政府の上位陣は現場のことを考えているのだろうか。是非、現場の空気を中継してやりたい。

雪乃「ふぐっ、えぐっ、はぢまん、わたし、死んじゃうぅぅぅ、ぐすっ」ギュー

八幡「あーはいはい、雪ノ下は死なないから大丈夫だって。俺に任せろ」ナデナデ

平塚「ははっ……上からは無理難題を押し付けられ、同僚からは哀れみの視線を送られ、生徒は目の前でいちゃいちゃこきやがって……あっははは……」シューン

以上、現場から中継でした。

上の思惑がなんであれ、由比ヶ浜の正体が何であれ、それに付き合わされるこっちは全く楽しくない。だからさ、女の子と抱き合うのってもっときゃっきゃうふふふでらぶらぶちゅっちゅなもんじゃねぇの? なんで戦地に送られる前の兵士みたいな心境にならなきゃならないの? おかしいだろこれ。

今、よぎった気持ちを少しでも上の連中に伝えてやろうと俺がシャーペンを握ると、至近距離から雪ノ下が覗き込んできた。

雪乃「……? 何を書いてるの?」

八幡「うるせ、なんでもねーよ」

そして、俺は報告書の最後の一文を殴り書きした。


──やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。





ID:n8GmCbVOo [57/57]ってなんだよ暇人かよ。

以上で原作1巻分は終わりです。
これで書いた量は、全部大体3万文字くらいらしいです。
息抜きで書き始めたSSってなんだったんだろうね。

続……いていいんですかねこれは……?

キリもいいので、このスレ一回閉じて新しいスレで原作2巻以降を書こうと思います。
あんまりひとつのスレが長すぎても読みにくいかもなので。

それではHTML化依頼出してきます。
近いうちに新スレ立てます。

えっマジすか(´・ω・`)

でもHTML以来出しちゃったし新スレ立てた方がいいんですかね
SS歴短くて慣れてなくて申し訳ない……

分かりました申し訳ありませんありがとうございます。

新スレ立てたら、またご報告します。

そいつは、突然現れた。

比企谷八幡と雪ノ下雪乃を足して2で割ったような顔つき。
下半身は人間のそれに近いが、肉付きを見るに左右で性別が異なるように見える。
魚の鱗でコーティングされた胴体には、尻尾の千切れたワニがそのまま一匹、右肩の間接部分に接続され、腕としての機能を備えている。
背中についた鷲の羽根をばっさばっささせながら、僅かに残された雪ノ下雪乃の要素である左腕は人差し指を差して、雲一つ無い青空に向けて力強く突き上げている。

由比ヶ浜結衣の中で“コレ”を的確に表現する言葉は『キメラ』以外に見つからなかった

由比ヶ浜「や、やっはろー・・・?」

ひきのん「・・・ギ」

結衣の声に反応したかのように、ひきのんの眼球が薄いカエルの粘膜のようなものでコーティングされ、青白く発光する。
水しぶきが吹き出るような音と共に、脇腹あたりの隙間から何か黄色い液体のようなものを、怒るようなうめき声を上げながら噴出した。

ひきのん「##ね###ギ####%#@#&&!!」

由比ヶ浜「!?」

次の瞬間、ひきのんは結衣に向かって飛びかかってきた。
それが由比ヶ浜結衣が見た、高校生活最後の夢だった。

と思われたときだった。

結衣「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっ「やっはろー!!!」」」」」」」」」」ゴゥ!!!!

ひきのん「!?」

ひきのんが噴出した液体が、結衣の感謝の挨拶の前に吹き飛ばされたのだ!

結衣「あたしはね、負けないよ」

構えて、その八幡と雪乃だったものを睨みつける。その結衣の目からは、強い想いが感じ取れた。

結衣「ちょっとだけ待っててね。ゆきのん、ヒッキー」

結衣が軽く足を引き、そして腕を振りかぶる。

体の節々からオーラが溢れ出し、地面が呼応するように揺れた。

結衣「今、助けるから」

刹那、結衣の体がまるで獲物を狙った時の獅子のように跳んだ。

それが全てだった。

ひきのん「…………!!?」

気がつけば、すでに結衣の拳はひきのんの急所に真っ直ぐ突き刺さっており。

そのままひきのんは爆散して消えていなくなったのだった!!

雪乃「私、一体何を……」

八幡「あれ、ここは……」

結衣「ゆきのん! ヒッキー!」

すると、その爆散した後には元の姿のままの雪乃と八幡が現れた。

雪乃「きゃっ、由比ヶ浜さん? いきなり抱きつかないでもらえるかしら……」

結衣「えへへー、ゆきのん大好き!」

八幡「あれ、なんでいきなり百合展開になってるんだ……ていうか、何があったんだ?」

結衣と雪乃と八幡。

彼女たち三人の高校生活は、まだまだ終わらない。

調子に乗って申し訳ありませんでした。
新スレを立てたので、ご報告に参りました。

結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」雪乃「勘弁してくれないかしら」
結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」雪乃「勘弁してくれないかしら」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432826925/)

それでは、これからも宜しくお願いします。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月24日 (日) 18:22:03   ID: R5Jmh0Iz

雪乃「逃がすかぁ!!」
ゆきのん必死wwww

2 :  SS好きの774さん   2015年05月28日 (木) 00:15:23   ID: kmAX_ATG

もう八雪イチャラブコメディでいいんじゃないですかね……。

3 :  SS好きの774さん   2015年05月28日 (木) 20:45:29   ID: LWnq_vyv

これはおもろいなw

4 :  SS好きの774さん   2015年05月29日 (金) 06:33:41   ID: JMzu0wJe

SSで初めて噴いたw

5 :  SS好きの774さん   2015年05月29日 (金) 16:10:26   ID: 94WULY6r

これマジ馬鹿だろ(笑)
笑いがやばい(笑)

6 :  SS好きの774さん   2015年05月29日 (金) 16:43:46   ID: 7-queKAu

久々に声出してワロタwww

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