俺ガイルのSSです。
前作:結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」
結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」 - SSまとめ速報
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原作 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。②
① こうして由比ヶ浜結衣は勉強することにした。編
思えば、二年生になってから濃い一ヶ月を過ごした。
平塚先生に無理矢理奉仕部などというものに入れられ。
そこで雪ノ下雪乃という、学年一の才女と出会い。
そして。
そして、歩く災厄・由比ヶ浜結衣と出会った。
八幡「……」
あいつの作るクッキー作りを手伝わされ、
材木座の書く主人公があいつになり、
戸塚と一緒にやっはろーと叫び、
そして先日なんかは三浦が空に向かって吹き飛ばされているのを眺めていたものだ。
あ、その時の俺の活躍は過去スレ(結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432456542/))を読んでくれよな!!
そーんなプロローグを頭の中で思い返しながら、俺は屋上で昼休みを過ごしていた。
八幡「……」
由比ヶ浜と関わらなくて済むため、非常に穏やかに過ごすことが出来たゴールデンウィークも過ぎて(最終日に至っては涙を流しながら学校に行きたくないと雪ノ下と電話をしていた)、じわじわと暑くなりはじめてくる今日このごろ。昼休みともなると生徒のざわめきも大きくなり、余計に暑く感じる。
元来、クールでハードボイルドな俺は──
(中略)
川なんとかさん「あ、あたしの出番は!?」
まぁ、そんなことあって。とある女生徒の黒のレースを眺めた昼休み、そして職業見学のなんちゃらがあって放課後に至る。
職員室の一角に設けられている応接スペースに、二人の目が腐っている人間が顔をしかめていた。
八幡「……」
ちなみに一人は俺だ。由比ヶ浜と出会って以来さらに腐っているような気がする。気苦労が絶えないせいだろうな。
平塚「……」
そして、もう一人は俺が渡した報告書を読みながら涙を流している平塚先生だ。
先日説明した通り、俺たち奉仕部には由比ヶ浜のことを書いた報告書の提出が政府によって義務付けられている。
その分それ相応の部費が国から奉仕部に支給されているはずなのだが──まぁ、それの大半が何に使われているかと言うと、それも先日説明した通りだ。
そして、今回どのようなことを報告書に書いたかというとだ。
平塚「先日、ニュースで北海道に隕石のようなバスケットボールが落ちたと報じられたな。あれの正体はなんだと話題になっていたが……まさか、由比ヶ浜が体育の時間に投げたボールだとはな……」
八幡「ええ、三浦が由比ヶ浜に本気でシュートを打てと言うもんですから、由比ヶ浜がそれに応えちゃって……全力で」
あのテニスの時もそうだが、どうも三浦だけは由比ヶ浜を普通に受け入れている節がある。
いや、それ自体はいいのだ。たとえ、あいつが由比ヶ浜に数百メートル吹き飛ばされた後に普通に一緒に遊びに誘ったりすること自体は別にいいのだ。三浦の器がアホなほど広いっていうだけだから。
だが、せめて変に由比ヶ浜を煽らないで欲しい。由比ヶ浜がシュートしたボールが体育館の屋上を突き破った瞬間、葉山が『俺に……俺にもっと力があれば……』とかすごい落ち込んでたし。いや、あれを止めるのはさすがのお前でも無理だって。まさか北海道にまで行ってるとは思わなかったけど。
とりあえず、あいつが本気を出せば千葉から北海道にまでバスケットボールを飛ばすことが出来るということが分かった。よくバスケットボール原型を保ってたな。
平塚「……そういえば、職業体験だが君はどうするんだ?」
無理矢理にでももう由比ヶ浜の話題から変えたいのか、平塚先生は全く別の話に切り替えた。
まぁ、俺も正直これ以上由比ヶ浜の話をしていたくはない。
出来ることなら、今この時だけでも由比ヶ浜のことを忘れたい。
八幡「俺っすか。俺は──」
ドスンドスンドスンドスン!!
結衣「あー! こんなとこにいた!」
忘れたかった。
平塚「…………由比ヶ浜か、悪いが比企谷を借りているぞ」
結衣「べ、別にあたしのじゃないです! ぜ、全然いいです!」ブンブン ドシャーン!!
あ、職員室の壁が全部ぶっ壊れた。とうとうここも奉仕部と同じように扉も壁も無い部屋になりましたね。
放課後だったからか廊下に人はおらず、人的被害が出なかっただけ僥倖だろう。平塚先生はもう涙さえ枯れてしまっているようだが。
八幡「……なんか用か?」
たとえどんな用だろうと会いに来て欲しくなかった。
俺のその問いかけに答えたのは由比ヶ浜ではなく、その巨体の後ろからひょいと現れた少女だった。
前に出る動きに合わせて黒髪のツインテールがぴょこっと跳ねる。
雪乃「あなたがいつまでたっても部室に来ないから捜しに来たのよ、私が」グスン
あー、ごめんね雪ノ下さん。もうなんかすげー涙流してるけど。由比ヶ浜と二人きりにしてごめんね。怖かったねーよしよし。
結衣「わざわざ聞いて歩いたんだからね。そしたら、みんな『ひいぃ命だけは!』って逃げちゃうし。超大変だった」
だろうね。
その時の光景を思い浮かべているのか、雪ノ下はうんうんと力強く頷いていた。
結衣「超大変だったんだからね」ゴゴゴゴゴゴゴ
何故か不機嫌そうに二度もそう言われた。あいつが不機嫌になったせいか、また近くに異次元への扉が開いていたので、葉山に教えてもらった対由比ヶ浜用の印を結んだ。あっ、異次元への扉閉じた。やっぱ葉山すげー。
雪乃「比企谷くん……すごい……」ポッ
結衣「だ、だからさ、ヒッキー……」
八幡「な、なんだよ」
結衣「け、携帯教えて?『ダッ』ほ、ほら!『逃げるな、比企谷』わざわざ捜して回るのもおかしいし『離してください平塚先生、あいつに連絡先なんて渡したらどうなるか!』恥ずかしいし……。『ここで由比ヶ浜が走って追いかけたらまた学校に被害が出るだろう!』どんな関係か聞かれるとか、ありえ、ないし」
そんなこんなで。
俺は由比ヶ浜と連絡先を交換する羽目になりましたとさ。まる。
……携帯、変えようかなぁ。
× × ×
特別棟の四階、東側。グラウンドを眼下に望む場所にその部室はある。
扉も壁もないので風通しが非常にいいこの部屋に入り込むのは青春の音楽。
部活動に励む少年少女たちの声が木霊し、金属バットが鳴らす音や高らかなホイッスルと混じりあい、そこへ吹奏楽部のクラリネットやトランペットが華を添えた。
そんな素敵な青春BGMを背負いながら、俺たち奉仕部が何をしているかといえば──
雪乃「そこよ、そこ、ええ肩の力を抜いて」
八幡「よしっ、いけるそこだ、いけるいけるそこだよっしゃいけたぁ!!!!」
結衣「やったぁ!!!」
ジェンガだった。
俺は家からジェンガを持ってくると、由比ヶ浜にそれを一人で組み立てさせたのだ。
それを一人で組み立てさせることによって、由比ヶ浜に手加減の練習にさせられると考えたのだ。
そして今、由比ヶ浜はジェンガのパーツを一つも壊すことなくジェンガを組み立てることに成功したのだった。
良かった……これなら報告書にもそれなりに良いことが書ける……!!
八幡「いいか、由比ヶ浜。普段もジェンガを組み立てるくらいの力で動くつもりで生活するんだ」
結衣「うん、分かった!」ガシャーン
うーん、たった今ジェンガを乗ってる机ごと破壊した時点で分かってるかは怪しいところですねー。
そんな時ぴろぴろと誰かの携帯電話の着信音が聞こえた。俺の物の音ではなかったので雪ノ下の方を振り返ってみると、彼女も俺の方を見ていた。つまり俺たちのものではない、と。
見れば由比ヶ浜が携帯を取り出してポチポチやってた。ていうか、もの凄い速さで打ち込んでいる。
なんで扉は破壊せずには開けられないのに、その携帯は壊さないでポチポチ打てるんだろう……。これも報告書に書いておいた方がいいだろうか。
ふと由比ヶ浜の顔を見てみると、少々複雑そうな笑顔を浮かべながらため息をついていた。お前は軽いため息をついたつもりなんだろうけど、教室中に結構強めの風が吹き荒れているからやめてくれな? ほら、雪ノ下のスカート捲れ上がってるし。白か。
八幡「どうかしたのか?」
少々気になって、由比ヶ浜にそう尋ねる。
いや正直こいつがなんか悩みを抱えていようが心底どうでもいいのだが、かと言って俺たち奉仕部のいないところで変な問題を起こされると何故か俺たちの責任問題になりかねない。
なので、何かをするなら出来るだけ俺の目の届く範囲で動いてもらいたいのだ。いや、ほんとは動いてくれないのが一番なんだけどね?
結衣「……いや、ちょっと変なメールが来たから、うわって思っただけ」
よし、由比ヶ浜に変な刺激を与えた奴がいるって報告書に書いておこう。こいつにうわって思わせたら何が起こってもおかしくないって分かっていないのだろうか。
結衣「んー……」
そうして携帯を閉じると(どうして携帯は壊さずに閉じられるのに扉は壊すのか)、それをしまってから椅子に座った。おー壊さずに椅子に座れた偉いなー。
結衣「……暇」
ジェンガも吹き飛び、暇つぶし用の携帯も封じられたことにより、由比ヶ浜はだらーっとだらしなく椅子の背もたれに寄りかかる。(バキッ)あ、椅子の背もたれ折れた。
だが、こいつをあんまり退屈にさせ続けているとまた何か変なものを呼び出しかねない。
適当にでも話題をひねり出そうと思うと、ふと近々ある中間試験の存在を思い出した。
八幡「……中間試験の勉強でもしてりゃいいんじゃねぇのか、もうそろそろだろ」
まさか、また俺が積極的に女子(とは認めたくないが)とコミュニケーションを取ろうとする日がやってくるとは思わなかった。でも雪ノ下さんガン無視決め込んで本に集中してるし、俺がなんとかするしかないのだ。もしこいつが暇だからどっか出かけてくるとか言い出したら全部俺のせいにされるし。
結衣「勉強とか、意味なくない? 社会に出たら使わないし……」
出た! バカの常套句!
あまりにも、あまりにも予想通りの回答に驚いて、喉までその言葉が出かかったがなんとか堪えた。偉い、偉いぞ俺。変なことを言って刺激しないのが、この場に置ける最高の行動だ。
八幡「ま、そうだろうな……」
結衣「だよね、ヒッキーもそう思うよね!」
いやまぁもちろん勉強に意味がないとか思ってない。適当な出まかせだ。
そもそも俺はそれなりには勉強してるし。
そりゃ雪ノ下と比べればちょいとばかし点数は足りないかもしれないが、それでもいいか悪いかでいったらいいほうだ。
結衣「でもでもっ、ゆきのんはちょー頭良いよね!」
雪乃「っ!! え、ええ、そうね……」ビクゥッ!!
突然話を振られ、体を大きく震わせながらも一応由比ヶ浜に返答した雪ノ下。ちょっとは進歩してるのだろうか。相変わらず目は潤んでるけど。
しかし、そんな雪ノ下の心情は知ってか知らずか由比ヶ浜は会話を続けようとした。
結衣「すごいよねー、ゆきのん。いつも学年一位とかじゃん!」
雪乃「え、ええ、まぁ、ちゃんとやることさえやっていれば当然のことよ」プルプル
結衣「わー、すっごい頭の良さそうな発言! じゃさじゃさ、ゆきのん勉強教えてよ!」
ピシッ。
今、確かにこの教室の空気が凍る音が聞こえた。
雪ノ下が、何を言ってるのか理解出来ていなさそうな顔で由比ヶ浜の方へ振り向いた。
雪乃「……………………え?」ポロポロ
あっ、すっげー泣きそう。いやもう涙抑え切れてなかった。ご愁傷様です。
結衣「ほら、テスト一週間前は部活ないし、午後暇だよね?」
由比ヶ浜が楽しそうに勉強会の話を着々と進めていくが、その間雪ノ下はずっと助けを求める顔で俺の方を向いていた。……仕方ねぇな。
八幡「……なぁ、由比ヶ浜。それ俺も行っていいか」
結衣「えっ、ええ!? あ、うんもちろん!」
まさか……まさか、部活のない日までこいつのお守りをしなければならないなんて……。
とりあえず、報告書には部費の増額願いを書いておこうそうしよう。
雪乃「ひ、比企谷くん……ありがとう……ありがとう……」グスン
あーうん、とりあえずお前は涙拭け。可愛い顔が台無しになるだろ。
やっべ、スレ立て以外トリ付け忘れてた。全部私です。トリが//から始まる者です。
次回更新まで数日かかるかもしれません。申し訳ありません。
それでは、次回に続きます。
② きっと、比企谷小町は大きくなったらお兄ちゃんと結婚する。 と俺は思っている。編
中間試験二週間前。
善良なる高校生男子たるもの、学校帰りにファミレスに寄って勉強をするものだ。
それも市教研(市の教育研究会のこと)の日は学校が早く終わり、部活もないのでもってこい。
だが、どうしてこうなった。
結衣「いやー、そういえばみんなでお出かけってはじめてだねー」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
雪乃「そ……そうだったかしら」ビクビク
八幡「……」
由比ヶ浜の提案によって、俺たちは一緒に勉強会なんてものをする羽目になってしまっていた。
それが、今日なのである。
結衣「じゃ、ドリンクバーでも頼もうか!」コォォォオオオ
目の前には、何故か上機嫌でオーラを放っている由比ヶ浜。なんか一瞬だけ後ろにスタンドみたいなのが見えたような気がするが気のせいだろう。
雪乃「……え、ええ」プルプル
隣には涙目でビビりっぱなしの雪ノ下。本日一番不幸なのは間違いなくこいつだろう。
周囲「ねぇ、なにあれ……プロレスラー?」ヒソヒソ
周囲「すごいね……なんか後ろにお化けみたいなのが見えない?」ヒソヒソ
周りにはこちらに視線を浴びせてくる客たち。まぁ、初見ならこれに反応してしまうのは仕方ない。ちなみにプロレスラーではないけど、多分それより凶悪です。
店員「ご……ご注文はお決まりでしょうか?」ガタガタ
そして超震えながら注文を取りに来た店員さん。いや、ほんとお疲れ様です。
八幡「……ドリンクバー三つ、以上で」
店員「は、はいっ、かしこまりました!」ピュー
長々とここにいさせても本気で悪いのでさっさと注文を済ませると、その店員は逃げるように戻っていった。
いやぁ、料理を頼まなかったからもう一度こちらに来なくて良かったって安堵してらっしゃるんでしょうね。
結衣「じゃあ、ドリンクバー取りに行こうか!」ゴゥ!!
……そういや、あいつがドリンクバーとか取りにいって平気なのか?
コップとか持った瞬間に破壊しそうだし、なんならボタン押した瞬間にドリンクサーバーまで破壊する未来まで見える。
八幡「い、いや由比ヶ浜、俺がまとめて取ってくるから座ってろ……何が欲しい?」
結衣「あ、ありがと、じゃあコーラで……ヒッキーって気も遣えるんだ……」ボソッ
ばっかお前。俺とか超気遣えるよ。使え過ぎてお前と同じ部活になってから体重が数キロ落ちたわ。
雪乃「ひ、比企谷くん、私も行くわ。由比ヶ浜さんは待ってて」
結衣「えっ、あっうん」
俺が飲み物を取りにいくために席を立つと、雪ノ下も俺に続いて席を立って付いてきた。
雪乃「ちょっと比企谷くん……私を置いていこうなんて酷いことを考えるわね……」キッ
由比ヶ浜から離れると、こいつは鋭い目つきで俺のことを睨んできた。
相変わらず、由比ヶ浜の前とそれ以外では態度がころっと変わる奴だ。
八幡「ついてきてやっただけありがたいと思え」
雪乃「それは……そうだけれど」
雪ノ下が由比ヶ浜と二人で勉強会に来てみろ、多分心労で倒れるぞ。
こいつに倒れられると俺一人であれの相手をしなくてはならなくなるので、それは避けたいところなんだが。
雪乃「……腹痛とでも理由をつけて、早退すれば良かったかしら」
八幡「それやったら由比ヶ浜連れてお前の家にお見舞いに行くからな」
雪乃「……」エグッエグッ
八幡「ごめん」ナデナデ
まさかガチ泣きされるとは思わなかった。もし今度本当に雪ノ下が何かで倒れても、由比ヶ浜がお見舞いに行くのだけは阻止しよう。
雪ノ下を泣き止ませてドリンクサーバーのところへ行くと、雪ノ下が物珍しそうな目でそれを眺めている。コップを右手に、左手に何故か小銭を持っていた。
雪乃「……ねぇ、比企谷くん。お金はどこに入れるのかしら?」
八幡「は?」
マジすか。雪ノ下さん、ドリンクバー知らんとですか。どんな超上流家庭で育ったんすか。
八幡「や、お金かかんないから。何、その……ビュッフェスタイル? あれのドリンク版」
雪乃「……日本って豊かな国よね」
ふっとどこか陰った笑みを浮かべ、よくわからない感想を言いながら雪ノ下は俺に順番を譲った。
こいつ、マジでドリンクバー知らないのか……。
俺がコップを置いてコーラを入れるボタンを押すと、雪ノ下はキラキラとした目でその様子を眺めていた。
…………。念のため、カップをエスプレッソマシンにセットしてココアのボタンを押してみると、雪ノ下はそれを「なるほど……」と小声で漏らしながら観察していた。
八幡「やり方はこんなもんだ。分からないことがあったら聞け」
雪乃「大丈夫よ……ほんとに気が遣えるのね」ボソッ
いやまぁ俺とかほんと気が遣えるよ。気が遣え過ぎて最近対由比ヶ浜用の技を練習してたら体からポゥって薄っすらと光が漏れるようになってきたもん。いや、これは違う『気』か。
危なっかしい手つきながらも雪ノ下がドリンクを注ぎ終わったので二人で机に戻ると、由比ヶ浜がまたなんか異世界への扉を開きかけていたのでそれをそっと閉じた。なんか向こうの異世界から『よくぞ来た勇者……えっ、扉閉じちゃうの?』とかいう声が聞こえたが無視だ無視。
雪乃「……あなたも、だんだん人外じみてきたわね」
結衣「んじゃ、始めよっか」
由比ヶ浜がそう合図すると、雪ノ下はヘッドホンを取り出すとすちゃっと装着する。俺はこいつ俺と同じことを考えてんなと横目に見ながらイヤホンを嵌めた。
それを見て、由比ヶ浜が驚愕の表情をした。
結衣「はぁ!? なんで音楽聴くのよ!」ゴゥッ!!
八幡「や、勉強のときは音楽聴くだろ。雑音消すために」パシッ
雪乃「あっ、比企谷くん……あ、ありがと……」ポッ
いや、今の雪ノ下に向かった衝撃波はちょっと前の俺だと流せなかったな。葉山に稽古をつけてもらってて助かった。
しかし由比ヶ浜の憤慨は収まらず、テーブルを叩いて『きゃっ、地震!?』抗議し始めた。『ふ、伏せた方がいいのか?』いやぁ、なんか新鮮だなぁ。最近の総武高校生は地震程度じゃ反応すらしなくなってきたからなぁ。
雪乃「うう……比企谷くん……助けて……」プルプル
あ、机の下でちまっと俺の制服の袖を掴んでるこいつは例外だ。
結衣「そうじゃないよ、勉強会ってこうじゃないよ!」
八幡「じゃあ、どんなのが勉強会だっていうんだ」
まぁ、ほんとはイヤホンつけてお前の存在を忘れようとしてただけなんですけどね。多分雪ノ下もそう。
結衣「えっと、わかんないとこ教えあったり……休憩したり、情報交換したり……たまには雑談もするかなぁ?」
八幡「ただ喋ってるだけじゃねぇか……」
つーかこいつと勉強会をするような奴が他にいるのがびっくりだ。いや、そういや政府から貰った情報だとこいつって春休みより前は至って普通の女子高生だったって聞いたな……ほんと、春休みの間に何をやったのだろう。
最初こそそんな感じで納得のいかない表情を浮かべていた由比ヶ浜であったが、俺と雪ノ下が(何かから目を逸らすように)無言でノートに目を移して勉強を開始すると諦めたのか、ため息をついて(ゴゥ!!)『あっ、ノートが飛んでいったわ……』おい、こいつもう勉強会から外せ。
飛んでいった俺と雪ノ下のノートを取り行こうと席を立つと、ふとレジの方に野暮ったいセーラー服を着ためちゃくちゃ可愛い美少女がいるのが見えた。
八幡「妹だ……」
ていうか俺の妹の小町だった。楽しそうに笑いながら、横にいる学ランを着た男子と話している。
八幡「悪い、ちょっと」
雪乃「えっ、あっ、比企谷くん!?」
ノートを机に置くと、俺はすぐさまその後を追いかける。しかし、店の外へ出たときには二人の姿は見えなかった。
しぶしぶ店内に戻ると、由比ヶ浜が話しかけてくる。
結衣「あー、えっと、今の妹さん?」
雪乃「比企谷くん……私を置いてどこかにいかないで……」グスッ
八幡「ああ。何故あいつが男子とファミレスに……」
あまりの衝撃にもう勉強どころではない。雪ノ下に手を握られているのも気にならない。俺の妹が知らない男とファミレスにいるなどあってはならないことだ。
結衣「デート中だったのかもねー」
八幡「馬鹿な……、ありえない……」
結衣「そっかなー、小町ちゃん可愛いし彼氏いても普通じゃない?」
八幡「兄の俺に恋人がいないのに妹に恋人がいてたまるか! 兄より優れた妹などいねぇ!」
雪乃「ひ、比企谷くん……恋人、欲しいの……?」ボソッ
結衣「どう見てもただの中学生じゃん。小町ちゃんのこと心配なのはわかるけどあんまり詮索すると嫌われるよー」
八幡「俺と小町の仲が切れることなどあり得ねぇ……っつーか、なんでお前妹の名前知ってんの?」
たぶん俺は妹の名前を誰かに言ったことはなかったはずだ。なんでこいつが俺の妹の名前をしっているのだろうか。
結衣「え!? あー、あ、いや、ほら、携帯? に書いてあったような」
由比ヶ浜が何故か視線を逸らしながらそう言った。
いや、携帯に書いてあったもなにも、俺はこいつに携帯を渡したことなど無い。
雪ノ下に「あの、由比ヶ浜さんのことで何かあった時用に……」と連絡先を聞かれた時は携帯をそのまま放り渡したが、さすがにこいつに携帯を渡すと間違いなくぶっ壊されそうだったので渡してなかったのだ。
まぁ、俺のことだ。妹を愛するあまり無意識のうちに名前を口にしていたのだろう。それくらいなら、まぁ有り得る話だ。
雪乃「……そんなに妹さんのことが心配なのかしら? ……まさか、シスコン?」
八幡「馬鹿な! 俺は断じてシスコンなどではない。むしろ、妹としてではなく、一人の女性として──(ガッ!!)──ああ、もちろん冗談です。やめろ。ナイフを下ろせ」
雪ノ下が俺の首の近くの椅子にナイフを突き立てたので、冷や汗を流しながら言葉を止めた。
最後まで口にしていたら、多分もう片方の手に握られていたフォークが俺の喉を貫いていたに違いない。
雪乃「あなたが言うと冗談に聞こえないから怖いわ。……本気だったら、どうしてやろうかと思ったわ」ボソッ
本気で言っていたら俺の首はどうなってたんですかね……その先を想像するのはなんでか非常に怖かったので、俺はその疑問は喉の奥に飲み込んでシャーペンを持ってノートに目をやった。
俺は何も見てないし聞いてない。あんな目のハイライトが仕事しなくなった雪ノ下のことなんて見てない。
結衣「あ、あはは……」
なんでか、その後由比ヶ浜も非常に大人しく、何かを起こすことも壊すこともなく勉強に集中し始めたので普通に勉強会を続行した。
家に帰ってから、小町にあれはなんだったのか聞こうかと思ったが寸前でやめた。
あんまり詮索して嫌われるのが嫌だったってわけじゃないが……なんでかこのまま妹愛を貫いていると雪ノ下に刺されそうな未来が脳裏を横切ったのだ。
なんでだろうね?
書き溜めしてから、また来ます
③ いつでも葉山隼人は整えている。編
朝、学校に行くと校門のところに警察が並んでいた。
なんだなんだとうとう由比ヶ浜が何かやらかしたかと思ったが、その当の由比ヶ浜自身が普通に校門を通っていたのでどうやら違うみたいだ。
由比ヶ浜が違うのなら、一体何が起きたのだろう……?
そういえば、この前報告書に由比ヶ浜にうわっと思わせてしまうメールを送った奴がいるって書いたな。
まさか、あれの犯人でも見つかったのだろうか。
だったら万々歳だ。
由比ヶ浜に変に刺激を与える奴なんていない方が良いに決まっている。
その結果、被害は俺たちに向かうのだから。
いやー千葉県警さんいつもお世話になってますお疲れ様でーすと、横を通る時に感謝をこめて軽く頭を下げた。
戸部「ち、ちげーって、俺は何にもしてないっすって!」
警察「はいはい、話は署で聞くから」
あれ、パトカーに乗ってる三人、なんかどっかで見たような気がする……気のせいだろうか?
× × ×
戸塚「八幡! 聞いてるの!?」
八幡「あ、ああ。悪い。何の話だっけ」
結論。ファーストネームで呼ばれると戸塚が可愛い。
色々あって、ファーストネームで呼び合うことで人間関係は変化するかどうかを実験していたのだが、結論は上記の通りだ。
やはり戸塚はとつかわいい。
戸塚「そういえば、なんか教室が静かだね」
八幡「あ、ああ……確かに」
戸塚に言われて教室を見渡してみると、確かにいつもより教室の雰囲気が落ち着いているように見えた。
すると、いつも教室を賑やかにしているグループが目に入った。
八幡「……ん?」
だが、よく見ると今日はその人数が少ないように見えた。
結衣「でねー、今度の土曜日はサーティワンのアイスが安いんだってー」ゴォォォオオオオ
三浦「マジ? これ行くしかないっしょ」
葉山「はっ、はあっ!!」ドカッ バキッ
姫菜「は、隼人くん頑張って」アセアセ
そこにいるのは、談笑している由比ヶ浜と三浦。そして由比ヶ浜がなんかまた呼び寄せただろう悪魔と激しいバトルを教室の後ろの方で繰り広げている葉山、それをあたふたしながら見守るメガネをかけた女子。
今日はその四人しかいない。まぁ、その周囲には葉山を見守るクラスメイトがうじゃうじゃいるが。
そういえば、いつも葉山の横にくっ付いている男子がいないような気がする。
戸塚「戸部くん達がいないんだね、だから静かなのかな」<ハァー!! コレデオワリダー!!
八幡「ああ、あの金髪共か……だからか」<ハヤマクンスゲェ!!
そこで朝警察に捕まっていた三人組を思い出す。そうだ、あの三人どこかで見たと思ったら葉山の取り巻き共じゃないか。
まさか、由比ヶ浜に変なメールを送ったのはあいつらなのだろうか。
だとしたら葉山にはちと悪いことをしたかな……。
いや、例え誰であろうとも由比ヶ浜に下手な刺激を与える奴は悪だ。それは俺だけでなく、葉山もよく分かっているはずだ。
だからきっと、真相を知れば葉山も納得してくれるだろう。
戸塚「ねぇ、八幡? どうしたの?」<ハヤマクン、マタデタゾ!!
八幡「あ、いやちょっと考え事を……戸塚は今日も可愛いな」<マタカ、カカッテコイ!!
戸塚「もう、僕は男の子だよっ!!」<ハヤマクーンガンバッテー!!
いやぁ、ほんと戸塚を眺めてると癒される。これもうほんと美術館とかで永久保存した方がいいんじゃないの? なんなら俺がその美術館の館長になるまである。
× × ×
放課後。
奉仕部の部室には、いつもの三人がいた。
八幡「……」
まずは俺。ボーっと椅子に座りながら時折由比ヶ浜の様子を伺っている。
もし異世界への扉を開いていたり、魔物をおびき寄せていたりして対処が遅れたら大変なことになるからだ。ほんとあいつなにもんなの。
雪乃「……」ギュッ
そして俺の左腕にしがみついているのが、この奉仕部の部長・雪ノ下雪乃だ。
こいつ、いつもはえらく冷徹で堂々としている性格なのだが、あの由比ヶ浜が大変苦手なようで、あいつの近くにいるときだけこのように俺の近くに来る癖がある。
由比ヶ浜がいなくなると産業廃棄物くんとか言ってくるのに、ほんと都合が良い奴だ。
しかしこれを振りほどこうものなら捨てられた猫のような目で俺の方を見てくるから、振りほどくに振りほどけないのだ。しかし彼氏でも好きでもない男にくっつくのはやめて欲しい。実は俺のこと好きなのかと勘違いしちゃうだろ。
結衣「……」ミシミシ
そして俺の右腕を壊死させたいのか、物凄い力で俺の右腕に掴みかかっているのが歩く災厄・由比ヶ浜結衣だ。
こいつに関しては何もよく分かっていない。歩けば地震が起き、腕を振るえば竜巻が起こり、サーブを打てば三浦が吹き飛ぶとかそういうことなら分かるのだが、いまいち個人としてどういう人間(……だよな?)なのかは分かっていない。
だが今日は何故なのか俺の横にくっつく雪ノ下を見ると、俺の右側に椅子を動かして俺の右腕を掴み、それからずっとそのままだ。
結衣「……」ミシミシ
なんで俺の右腕を掴んでいるのかは分からないが、先ほど自分でも思ったように由比ヶ浜に変な刺激を与える奴は悪。なので、俺はその疑問を口にすることは出来なかった。
だが、俺の腕にくっついている間の由比ヶ浜は特になにか変な行動を起こさなかった。むしろかなり大人しいと言えるだろう。
問題は俺の右腕の感覚がどんどん消えていくことぐらいだが、どうせ由比ヶ浜の力の前では無理矢理ほどくことは出来まい。グッバイ俺のライトハンド。
とそのときだ。かっかっと小気味よくリズミカルに廊下の床を歩く音がした。相変わらず、扉も壁も無いこの部屋には足音が響いてくる。
雪乃「……………………どうぞ」イラッ
近づいてくる足音に対して、雪ノ下がそう返事をしながら俺の手から離れた。見れば何故かものすごい不機嫌っぷりだ。
まぁ、もう部活を終了してもいい時間だ。こんな時間に来客が来れば由比ヶ浜と一緒の空間にいる時間が伸びる。だから、きっとその来客に対する恨みがあって不機嫌なのだろう。
そして雪ノ下が俺から離れるのと同時に、由比ヶ浜もばっと俺の腕を離した。良かった……まだギリギリ俺の腕は残ったようだ……いや痛みで全く動かないけど、まぁ明日には治るだろうし。
葉山「お邪魔します」
余裕を感じさせる涼しげな男の声だ。
俺の右腕を救ってくださった救世主はどこのどなた様だ……。と見てみると、そこにいたのはイケメンだった。
葉山「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」
ていうか、葉山隼人だった。何こいつ、クラスだけじゃなくて俺の右腕まで救ってくれちゃうとかマジモンのイケメンじゃん。今のこいつになら抱かれてもいいかもしれない。
葉山「いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえな『帰りなさい』えっ、あの雪ノ『帰りなさい』ちょっ『帰りなさい』雪ノ下さん?」
快活に話す葉山に対して、雪ノ下は何故かいつもよりかなり刺々しい態度で帰宅を命じた。
しかし早く由比ヶ浜から離れたいという事情は分かるが、俺の右腕の恩人に対していきなり帰れは酷いのではないだろうか。
俺にしては珍しくここは助け舟を出すとしよう。まぁ、葉山のためだしな。今の俺なら葉山のために行動することくらい惜しまねぇよ。
八幡「まぁまぁ雪ノ下、落ち着けって。葉山もここに用事があるから来たんだろ、聞いてやろうぜ」
雪乃「で、でも比企谷くん……」
八幡「な、雪ノ下」ナデナデ
雪乃「……むぅ、仕方がないわね……」
渋々ながら、なんとか雪ノ下を説得することが出来た。
すると今度は、さっきまで大人しかった由比ヶ浜が何故かものすごいオーラを出していたがこちらは葉山によってすぐに押さえ込まれていた。いや、ほんとかっけぇよ葉山。また今度稽古をつけてもらおう。
雪乃「……で、何の用かしら……葉山隼人くん」
絶対零度のような冷たい響きを滲ませた雪ノ下の声にも、葉山は笑顔を崩さない。
葉山「ああ、そうだった。奉仕部に相談があってきたんだ。遅い時間に悪い。結衣もみんなもこのあと予定があったらまた改めるけど」
結衣「やー、そんな全然気を遣わなくても」
違うんだよ由比ヶ浜。あいつが使う気は、多分お前の言ってる『気』とは違う『気』なんだよ。
しかし一応由比ヶ浜にもちゃんと話を振る辺り、ほんと葉山は人間として出来ている。
そういや、こいつ前に稽古してた時に結衣は友達だからって言ってたな。すげぇよ、あいつを友達と認識出来るのお前と三浦くらいだよ。
……まぁ実は俺も、由比ヶ浜は図体とあとなんかオーラとか諸々除いたら、中身は割と普通に良い奴なんじゃねぇかなって思い始めてきてるんだけどさ。
結衣「隼人くん、サッカー部の次の部長だもんね。遅くなってもしょうがないよー」ゴッ!!
前言撤回。やっぱこいつ歩く災厄だわ。なんで今のタイミングでソニックブーム起きたの?
突然由比ヶ浜から巻き起こったソニックブームを平然と止めた葉山は、笑顔のままでこちらに振り向いた。今ちょっとドキッとしちゃったけど恋じゃないよね?
葉山「ああ、実は……俺と同じクラスに戸部、大和、大岡っていう友達がいるんだが、何故か今日警察に連れて行かれてな。その原因を探っているんだが、何故か全く分からない。だから、奉仕部なら分かるかもしれないって思って」
結衣「そういえばとべっち達なんか逮捕されたって聞いたよねー、なんでだろ?」
ああ、そういえば葉山も奉仕部が政府から色々受けていることを知っているのだった。まぁ、由比ヶ浜関係だと葉山がこの学校で一番の戦力になるから、知らせておかないとね?
で、葉山は普通に探っても警察に連れていかれた原因が分からないので、おそらく由比ヶ浜関係だと踏んで俺たちのところへ来たのだろう。
とは言っても困ったな……正直俺も、その葉山の友達とやらが連れていかれた理由が思いつかな──
八幡「あっ」
葉山「ヒキタニくん、何か心当たりがあるのかい?」
いや、俺の名前ヒキタニじゃねぇんだけどよ……まぁ、もう葉山にならそう呼ばれても許せるような気がしてきた。イケメンってほんと罪だな。
まぁそれはさておき、心当たりはあるにはある。多分今日の朝にも考えたように、由比ヶ浜にうわっと思わせたメールの犯人、または容疑者があいつらだからということだ。
しかし、それを由比ヶ浜がいるここで言うわけにはいかない。ここではないどこかで言う他あるまい。
八幡「いや、悪いが心当たりは無いな。すまん」
葉山「……そうか、悪い。邪魔をした」
雪乃「本当に邪魔だったわよ」
いやほんと本日の雪ノ下さん機嫌悪いですね。いくらこの部室にいる時間が伸びたからってそこまで怒らなくても。
雪乃「話は終わりかしら……ね、ねぇ比企谷くん、良かったらこのあと一緒に帰」
八幡「あ、葉山。悪いんだがこの後ちょっといいか。いつものあれを教わりたくてな」
葉山「いつものあれ……ん、分かった。なら、教室で待ってるよ」
俺の意図を汲んでくれたのか、葉山は軽く頷いて奉仕部を後にした。頭のいい奴は助かる。葉山って奴、欠点無さ過ぎないか?
八幡「悪いな、ちょっと先に帰るわ……どうした、雪ノ下?」
雪乃「……葉山くん、絶対に許さないわ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
うーわ、まだ怒ってる。まだ根に持っているのだろうか。
結衣「じゃあ、あたしも帰るね。ばいばーい!」
八幡「あ、ああ……気をつけて帰れよ……」
由比ヶ浜はそう言うと、奉仕部の窓を突き破り(パリーン!!)そのまま外に向かって飛び降りてしまった。『うわ、上から人間が落ちてきたぞ!!』『あれは人間じゃねぇ、歩く災厄だ、逃げろ!』一応ここ四階なんですけど、そこから飛び降りてあいつ大丈夫なのか……『やっはろー!!』『うわああああ、逃げろー!!』ああ、大丈夫みたいですね。
雪乃「うう……怖かったよぅ……」ギュッ
八幡「あーはいはい、落ち着け雪ノ下。あいつもう帰ったから」ナデナデ
雪乃「えへへ……」ニパー
さて、とうとう部室の扉、壁に続いて窓までぶっ壊れちまったな……壁はなくてもまだ平気だったが、さすがに四階のここで窓が無くなり外が丸見えになってしまうのは少々怖い。修繕費ちゃんと出るかなぁ、これ。
とりあえず、葉山のところに行く前に平塚先生のところへ行こう。また泣かなきゃいいけど。
× × ×
雪ノ下に続いて、なんとか平塚先生を泣き止ませて俺は自分のクラスの教室へ向かった。もうだいぶ葉山を待たせているはずだ。
扉も壁もない自分のクラスにいくと、そこにはイケメンが一人立っていた。イケメンってずるいよな、夕日が差す教室でぼっちで立ってるだけで絵になるんだから。
八幡「わり、遅れた」
葉山「構わないよ、むしろ俺が時間を取らせてしまって悪いね」
葉山は相変わらず笑顔を崩さないまま、そう答えた。くそっ、鳴り止め俺の心臓! 男相手にときめいてんじゃねぇ! あっでも戸塚相手にもいつもときめいてるか。なんかもういい気がしてきた。
葉山「さて、ヒキタニくん。戸部たちが何故逮捕されたのか、心当たりがあるんだろう?」
八幡「あ、ああ……予測だが、それでいいか」
俺は報告書云々についてのことを葉山に説明した。すると葉山は納得したように頷いた。
葉山「なるほどな……あのチェーンメールは戸部たちがやっていた可能性が高い、そういうことだね?」
八幡「多分な、理由はわからねぇけど」
葉山「理由は俺にも分からない……が、分かった。ありがとうヒキタニくん。あいつらには俺からよく言っておくよ」
そう笑顔で言うと、葉山は教室から出ていった。あとは葉山がなんとかしてくれるだろう。いやー事件も無事収束したなー。
そういえば、なんであいつらはチェーンメールなんてものを送ったのだろう。いや、そもそも俺のところには来てないんだけど……なんでだろうね。
あっ、クラスに俺のメアドを知ってる奴が由比ヶ浜以外にいないからだった。てへぺろ。
書き溜めしてから、また来ます。
④ いろいろあって川崎沙希は拗ねている。
平塚「さて、殴る前に一応、私の授業に遅れた理由を聞いてやろう」
某日。俺は遅刻して教室に入ると、授業が終わった後に教卓の前にいる平塚先生に呼び出された。
パキポキと指を鳴らしながら、笑顔で俺の顔を見つめている。
八幡「いや、違うんですよ。ちょっと待ってください。『重役出勤』って言葉があるじゃないですか。つまりエリート思考の強い俺は今から重役になったときのために予行練習をですね」
平塚「君は専業主夫希望だろうが」
八幡「くっ! ……あ、あれです。あれの件で色々あって! ちょっと色々あるというか!」
そうまくし立てながら、ちらっとこの教室にいる巨体の方に視線を動かす。
そうすると、平塚先生は軽くため息をついた。最近白髪が出始めたようにすら見える。本当に大丈夫なのだろうかこの人。
平塚「それを持ち出されると、私としては少々責め辛いが……」
八幡「そうでしょう!? だから正義側の俺が遅刻するのは止むを得ないんですよ!」
平塚「だが、その件を持ち出したらどんな言い訳も出来ると勘違いしているその腐った根性は叩き直さねばなるまいな」グッ
八幡「ちょま! 殴るのはノー!」
瞬間、平塚先生の拳が俺のレバーを的確にとらえた。確実なダメージが身体に響く。俺はそのまま倒れ込み、咳き込んでしまう。
俺が痛みに身悶えていると、平塚先生は呆れた様子でため息をついた。
平塚「まったく……このクラスは問題児が多くてたまらんな」
なんだか平塚先生のその声には、ものすごい実感が込められているような気がした。一体なにガハマさんのことを指して言ってるんでしょうかね……。
平塚「……そう言っているうちにもう一人」
床に転げられた俺のことはほっぽって、先生はかつかつとヒールで床を鳴らし、教室の後ろの扉へ向か──
(中略)
川なんとかさん「えっ、だからあたしの出番は!?」
× × ×
小一時間ほど平塚先生のお説教と折檻を受けた後、携帯を見てみると雪ノ下からメールが三桁近く送られてきていた。
なんだなんだ、何が起こったんだとそのメールを古い順にチェックしていく。
『今日の放課後、由比ヶ浜さんと戸塚くんと勉強会をすることになったわ。あなたも来てちょうだい』
『マリンピアの近くのカフェにいるわ、あなたも早く来て』
(中略)
『ねぇ、返事くらいしてくれないかしら?』
『早く返事をください、待っています』
(中略)
『助けて、由比ヶ浜さんは私じゃ押さえ切れない』
『はやく比企谷くん』
(中略)
『ひきがやくんひきがやくんひきがやくん』
『たすてけ』
八幡「こえぇよ!!」
後半になればなるほど、雪ノ下のメールの内容がヤバいことになっていた。
これは早く行ってやらないと雪ノ下が死にそうだな……それに戸塚もいるらしいし。
ということで俺は早速そのマリンピアの近くのカフェとやらに向かうことにした。
そのカフェの近くに自転車を止めると、ガラスを通してカフェの店内の様子を見てみる。
あっ、なんかめちゃくちゃでかいのが一人いる。間違いない、あれが由比ヶ浜だ。
ここから見ても一目瞭然だ。気のせいか、体が発光しているように見えるし。
……やっぱ帰ろうかな……なんかいきなり腹が痛くなってきたような気がするし。別に由比ヶ浜に勉強会よばれてるわけじゃないし。腹が痛くなったのなら仕方がないな、うん仕方がない。
そう思って踵を返そうとすると、その由比ヶ浜と机を挟んで前に座っていた雪ノ下が俺の姿を発見したのか、がばっと顔を上げてこちらを見ていた。
店の外からでも、なんかすごい泣きそうになっているのが見える。
……さすがにあれを見てここから立ち去るのは、良心が咎める。
結衣「でねー、最近クラスの方でさー」ゴゴゴゴゴゴ
いや、やっぱ帰ろう。由比ヶ浜に気付かれているわけじゃなさそうだし、ほら腹痛いし、仕方ないと思うんだよねこんな状態じゃ勉強とか出来るわけないじゃないかHAHAHA!!
ガチャッ、カランカラーン!!
そう結論付けてそこから立ち去ろうとすると、カフェの入り口の扉が乱暴に開かれた音がした。
振り返ってそちらの方を見てみると、そこにはものすごい形相になった雪ノ下がいた。
雪乃「なんで帰ろうとしているのかしら、比企谷くん」
八幡「…………お、おう雪ノ下、いたのか」
雪乃「いたのか、じゃないわよ……さっきからメールしてるのに全然返事してくれないし……ずっと由比ヶ浜さんは変なの出してるし……うぅ……」グスッ
八幡「……すまん」ナデナデ
雪乃「うぅ……はぢまんのばがぁ……」
さすがに直接出会ってしまっては逃げるに逃げられない。仕方ねぇな行ってやるか……。
雪ノ下を泣き止ませると、仕方なく俺はカフェの中に入った。とりあえず由比ヶ浜と戸塚のいる席に行くと、軽く由比ヶ浜のオーラを抑えながら『比企谷くん……もう何かそのまま特殊部隊かに何かに就いたらどうかしら』二人に声を掛けた。
八幡「よう」
戸塚「八幡っ! 八幡も勉強会に呼ばれてたんだね!」
微笑みながら戸塚はそう返してくれた。勉強会に呼ばれていたというよりは、雪ノ下に泣きつかれたという方が正しいだろうが、いちいちそこを言い直す必要もないと思うので素直に頷いておく。
八幡「まぁ、雪ノ下に呼ばれてな」
結衣「やっはろー、ヒッキー!」ゴゥ!!
そして、同じくその机にいる由比ヶ浜はまたなんか変なオーラを体中から放出していた。再び軽くそれを抑えてから周りを見渡してみる。大丈夫だよな? 変な被害出てないよな?
店長「当店の備品は、そんなにヤワではないのでご安心くださいませ……」スッ
八幡「!?」バッ
一瞬、俺の後ろを誰かが通り過ぎていったような気がしてすぐに後ろを振り返ってみたが、誰もいなかった。い、今のは一体……?
雪乃「比企谷くん? どうかしたのかしら」
八幡「いや、気のせいだったみたいだ……うん?」
今の声の主を捜して周りをキョロキョロと見渡していると、店の入り口に制服姿の美少女が入ってきたのが見えた。思わず、その女の子に見惚れてしまう。
雪乃「……比企谷くん、どこの女を見ているの……!?」ギリッ
八幡「小町じゃねぇか」
雪乃「え?」
その制服姿の美少女──ていうか俺の妹、比企谷小町も俺の姿に気が付いたのか、嬉しそうな笑顔を浮かべて手を振ってきた。
小町「あ、お兄ちゃんだ」
雪乃「ちょっと比企谷くん、この女は一体どんな関係なの……え、お兄ちゃん?」
八幡「……お前、何してんの?」
小町「や、大志くんから相談を受けてて」
言って、小町は後ろを振り返る。そこには学ラン姿の中学生男子がついてきていた。
そいつは俺にぺこりと一礼する。俺は知らず知らず警戒態勢に入っていた。なぜ、なぜ男子が小町と一緒にいるんだ……。
小町「この人、川崎大志くん。昨日話したでしょ? お姉さんが不良化した人」
いや、このSSだとそこら辺の流れ全部省略しちまってるから分からねぇんだけど……それに関して詳しく知りたい奴は原作『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。②』を読もうな!
そう隣の男子を紹介しつつ、小町は俺の隣の席に座る。そして雪ノ下や戸塚の方に営業スマイルを浮かべながら振り向いた。
小町「やー、どうもー。比企谷小町です。兄がいつもお世話になってます」
そう言いながらぺこぺこと挨拶する小町。昔から外面は妙にいいのがこいつの特徴だ。
戸塚「八幡の妹さん? 初めまして、クラスメイトの戸塚彩加です」
雪乃「初めまして。雪ノ下雪乃です。比企谷くんの……。比企谷くんの何かしら……クラスメイトではないし、友達でもないし……でもきっと……前世ではアダムとイヴの関係だったと思うの」
小町「あははーよろしくですー……お兄ちゃん、この人どしちゃったの」ボソッ
八幡「知らん」
そして次に小町の目線が巨体の女子の方へ向けられる。その瞬間、小町の体がピキッと固まった。うん、まぁ仕方ないよね。
結衣「は、初めまして……。ヒッキーのクラスメイトの由比ヶ浜結衣です」
小町「…………あ、どうもー、初めま…………ん? んー……」
少し経ってフリーズ状態から覚めて、挨拶を続行したと思ったらまた小町の動きが止まった。じーっと由比ヶ浜を見つめ、由比ヶ浜はたらたらと汗を流して目を逸らす。
まぁ、初見なら珍しいのは分かる。隣の学ランを来た男子も目を見開いて由比ヶ浜を見ているし。とはいえ、そこまでじろじろと見つめるのは失礼ではなかろうか。
八幡「おい、もういいだろ」
小町「あ、ああごめん。で、その大志くんにどうしたら元のお姉さんに戻ってくれるか相談されてたんだけど。あ、そだお兄ちゃんも話聞いたげてよ。困ったことがあったら言えって言ってたし」
え、そんなこと言ったっけ……そこら辺も丸々カットしたから覚えてねぇな……だから、正直妹の友達、ましてや男子のために何かしてやるつもりはこれっぽっちもないんだが……。
大志「あの、川崎大志っす。姉ちゃんが総武高の二年で……、あ、姉ちゃんの名前、川崎沙希っていうんすけど。姉ちゃんが不良っていうか、悪くなったっていうか……」
ごく最近その名前を聞いた覚えが──ないな。そこもやっぱり省略された気がするしなぁ。大人の事情によって覚えてないような気がするなぁ……。
雪乃「川崎沙希さん……」
雪ノ下はその川崎というやつのことをよく知りはしないのか、その名前を口にして小首を捻る。だが、由比ヶ浜はああっと何かを納得したかのように、ぽんと手を打った。(ゴゥ!!)おおー、なんか店内に風が吹き荒れた気がするが、特に何も壊れたりはしてない。すげぇなこのカフェ。騒ぎすら起きてねぇ。
結衣「あー。川崎さんでしょ? ちょっと不良っぽいっていうか少し怖い系っていうか」
その川崎とやらが少し怖い系というなら、お前はめっちゃ怖い系だボケ。
八幡「……そいつのこと知ってんのか、由比ヶ浜」
結衣「ちょっとヒッキー、クラスメイトでしょ!!」ゴゥ!!
そう言って身を乗り出してきた由比ヶ浜から放たれた衝撃波を軽く片手で払った。ここには一般人も多くいるんだから、そうぽんぽん変なの出すのやめてくれ。
小町「えっ……お、お兄ちゃん!? 今の何!?」
大志「すげぇっす、お兄さん!!」
八幡「お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはねぇ!」バン!!
小町「そっち!? 突っ込むのはそっちじゃないでしょ!!」
戸塚「でも、川崎さんが誰かと仲良くしているところって見たことないなぁ……いつもぼーっと外見てる気がする」
八幡「そうなのか?」
戸塚の言葉で教室での川崎の姿を思い出そうとした。『えっ、戸塚さんも気にしてない……小町がおかしいの?』しかし、何故かいまいち教室での川崎の姿が思い浮かばなかった。『大丈夫だよ比企谷さん、俺もおかしいと思ったから』まぁ、さっきまでその川崎とやらが同じクラスだって言うことも知らなかったくらいだから当たり前かって、てめぇ何小町にちょっかい出そうとしてんだオイ。
雪乃「お姉さんが不良化したのはいつぐらいからかしら?」
大志「は、はい! えっと、姉ちゃんは総武高行くくらいだから中学のときとかはすげぇ真面目だったんです。高一んときも、そんな変わんなくて……。変わったのは最近なんすよ」
いつの間にか正気に戻ってた雪ノ下が出し抜けにそう質問すると、大志はやや緊張した様子でそう質問に答えた。
それを受けた雪ノ下は思案を始める。こいつ、いつもこうしてればそれなりに見栄えいいのにな。
結衣「でもさ、帰りが遅いって言っても何時くらいなん? あたしもわりと遅かったりするし。高校生ならおかしくないんじゃない?」ゴゴゴゴゴゴゴ
大志「あ、はい、そうなんすけど……」
うん、由比ヶ浜さん。お前マジで早く帰れよな。前に千葉で夜遅くに超巨大な不審者が出たってニュースになったけどあれ多分お前だから。
大志「で、でも、五時過ぎとかなんすよ……」
しかしこの由比ヶ浜に突然話しかけられても、しどろもどろになりながらとはいえ返事をまともに返せるこいつはなかなかにコミュ力が高い。将来有望な男と言っていいだろう。……まぁ小町を任せるほどではないけどな。
ちなみにうちの高校面子でも、はじめて由比ヶ浜に話し掛けられたら半分以上は腰を抜かしてぱくぱく口を動かすだけだ。それを考慮すると、中学生のくせに話が出来るだけかなりすごい方だ。
それにしても五時か。もう夜遅くというか、朝と言ってもいい時間帯だろう。
戸塚「そ、そんな時間に帰ってきて、ご両親は何も言わないの、かな?」
大志「そっすね、良心は共働きだし下に弟と妹がいるんで、あんま姉ちゃんにはうるさく言わないんす……」
戸塚が心配そうに話しかけると、大志はそれに対してはわりと普通に言葉を返した。マジか、俺なんかはむしろ戸塚と話す方がめちゃくちゃ緊張するっていうかもう超可愛い。
雪乃「家庭の事情、ね……。どこの家にもあるものね」
そう言った雪ノ下の顔は今までに見たことがないほどに陰鬱な──いやぁ、割とよく見る気がするなぁ。むしろ由比ヶ浜を前にしたときのあの絶望感よりはるかにマシな気がするなぁ。
大志「それに、それだけじゃないんす……。なんか、変なところから姉ちゃん宛に電話かかってきたりするんすよ」
結衣「変なところ?」
大志「そっす。エンジェルなんとかっていう、たぶんお店なんですけど……店長って奴から」
戸塚「それの何が変なの、かな?」
戸塚がそう問うと、大志は机をバンっと叩いた。
大志「だ、だって、エンジェルっすよ!? もう絶対やばい店っすよ!」
大志のその力説に、戸塚や由比ヶ浜は首を傾げたが俺にはとてもよくわかる。そこに気づくとはこのガキ、なかなか見込みがある。
八幡「まぁ、待て落ち着け大志。俺にはすべてわかっている」
大志「お、お兄さんっ!」
八幡「ははは、お兄さんって呼ぶな? [ピーーー]ぞ?」
雪乃「つまり、対症療法と根本治療、どちらも平行してやるしかないということね」
俺が大志を引き剥がしていると、雪ノ下がそう結論を出していた。
八幡「おい、ちょっと待て。俺たちが何かするつもりなのか?」
雪乃「いいじゃない。川崎大志くんは本校の生徒、川崎沙希さんの弟なのでしょう。ましてや相談内容は彼女自身のこと。奉仕部の仕事の範疇だと私は思うけれど」
え? 奉仕部の仕事……?
……ああ! 思い出した! そういえば、奉仕部ってなんか他人に手を差し伸べて云々とかそんな設定あったな! 完璧に忘れてたわ!
俺、すっかり由比ヶ浜監視集団みたいなやつになってると思ってたわ!
結衣「そうだね、川崎さんのことをなんとかしてあげようよ!」ゴゥ!!
大志「た、頼りになるっす……」
由比ヶ浜がぐっと拳を握ってそう言うと、大志は冷や汗を流しながらそう答えた。うん、そいつ敵なら手ごわくて味方なら頼りになると思ったら大間違いで、味方にいても大抵邪魔だぞ。
雪乃「えっ……部活停止期間なのだし、由比ヶ浜さんは無理に来なくても平気なのよ? 私と──比企谷くんだけで十分だわ」
えっ、俺巻き込まれるの確定なの? やだよやりたくねぇよ。
どう断ろうかと考えると、俺の背中がちょいちょいと突っつかれた。
小町「お兄ちゃん」
振り返ってみてみれば、小町がにこにこと微笑んでいる。
……くそ、ほんと可愛くねぇなこいつ……。
八幡「わかったよ……」
大志「は、はい! すんません、よろしくお願いします!」
結衣「うん、頑張るからね!」ゴゥ!!!
雪乃「あの、だから由比ヶ浜さんは無理しなくても……ひ、比企谷くん!」アワアワ
諦めろ、こうなったときの由比ヶ浜を無理に動かそうとしてもひどい目に合うだけだぞ。ソースは過去三度三途の川を渡りかけた俺。
こうして、俺たち奉仕部は久しぶりに本来の仕事をおこなうこととなったのであった。
感想とかのレスはすごく嬉しいです、はい。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
海老名「ゆい×はちなんてどうかな!?ヂュ腐腐…(錯乱)」
三浦「結衣は女の子だし!?」
海老名「もうあれ男みたいなもんじゃん(レイプ目)」
× × ×
翌日から川崎沙希更正プログラムはスタートした。
プログラム①「アニマルセラピー」
省略。
雪乃「にゃー……えっ、猫は? 猫はどうしたのかしら?」
プログラム②「スクールウォーズ大作戦」
省略。
平塚「……ぐすっ、結婚したい……」
プログラム③「暁に慟哭せし狼たちの集いし桃源郷~十勇士明狼篇~」
雪ノ下発案の猫作戦は、実は川崎は猫アレルギーだったということが判明し失敗。
戸塚発案の教師作戦は、平塚先生が川崎にフルボッコにされたことにより失敗。平塚先生は夕日の中に消えていった。……もう誰か貰ってやれよ、ほんと。
それから約一時間後、俺たちは千葉駅にいた。
時刻はもうじき午後七時半、夜の街が活況を呈するにはいい頃合いである。
八幡「千葉市内で『エンジェル』という名前のつく飲食店で、かつ朝方まで営業している店は二店舗しかない、らしい」
雪乃「そのうちの一軒がここ、ということ?」
そう言いながら、雪ノ下は『メイドカフェ・えんじぇるている』と書かれた看板を胡散臭そうに見る。
結衣「千葉にメイドカフェなんてあるんだ……」ゴゴゴゴゴゴゴ
由比ヶ浜が物珍しそうにへーと眺めている。
ちなみに周りを通り過ぎる人も『えっなにあれ』みたいな視線で由比ヶ浜のことを物珍しそうに眺めていた。
それにしたがって由比ヶ浜の近くにいる俺もびしびしと視線を感じる。
いや別に見世物とかじゃないんでさっさと通り過ぎてくれませんかね、そこは日本人特有のスルースキルを持ってさ。『なにあれウケる!』じゃねぇんだよ携帯で写メ撮ってんじゃねぇぞ。つうか今写メ撮ってた女子高生どっかで見たことあるな。具体的に中学生の頃に告ってフラれたような気がする。いや、ウケねーから。
戸塚「ぼく、あんまり詳しくないんだけど……その、メイドカフェってどういうお店なの?」
戸塚は看板の文言を何度も何度も読んでいたが理解できなかったようで、そう俺に向かって言った。
八幡「いや、俺も実際行ったことないからよく知らないんだ……。で、まぁそういうのに詳しい奴呼んだ」
材木座「うむんむ。呼んだか、八幡」
そうして、駅の改札口から現れたのは材木座義輝だった。
結衣「うわ……」
由比ヶ浜がちょっぴり嫌そうな顔をする。だが、その姿を見た材木座の方がもっと嫌そうな顔をしていた。こいつは過去、戸塚の特訓の際に由比ヶ浜の『感謝のやっはろー』をマトモに受けて以来、由比ヶ浜の事がトラウマになっているのだ。
気持ちは察するが……ところで感謝のやっはろーって本当になんなんだろうね? 今でもよく分からないんだけど。
材木座「……八幡よ、何故あやつがいる時に我を呼んだのだ」ヒソヒソ
八幡「ああ、いや仕方なかったとはいえ、俺もお前呼ぶのは酷だと思ったんだけどよ」ヒソヒソ
由比ヶ浜の感謝のやっはろーを材木座がマトモに受けた、あの時の惨状を思い出す。いや、ほんとあれは大変でしたね……ボロ雑巾という表現があれほど似合う光景を見たのは、あれがはじめてだった。
本当に呼びたくなかったのだが、俺の知ってる人間でこの手に詳しいのは材木座と平塚先生だけなのだ。しかも、平塚先生は趣味的に少年マンガとかあっちのほうなので、自然と選択肢は一つになってしまう。
しかしそれほど嫌な顔をしつつも、川崎の事の次第を伝えると店のことを調べてこうやって直接来てくれた辺りこいつもしかしていい奴なのかもしれない。
材木座「まぁ黙って我についてこい……。メイドさんにちやほやしてもらえるぞ……」グラババババ!!
前言撤回。やっぱこいつ普通に気持ち悪いわ。
だが、まぁそこまで言うならついていこうじゃないか。その約束された場所、蜜溢るる黄金の地、神聖モテモテ王国へ!
メイドさんにどんなことをしてもらえるんだろうかと胸が高鳴るのを感じ、人類にとっては小さな一歩だが、俺にとっては大きな一歩を踏み出したときだった。
ぐいっとブレザーの裾を引かれうわああああああああああああああああああああ!!!
結衣「ヒッキーも『比企谷く──ん!!』そういうお店『あの空飛んでるの比企谷じゃない? なにあれマジウケる』行くんだなって思って。『待って待ってこのままだとコンクリの上に落ち』(ヒューン ドシャ──ン!!)……なーんかヤな感じ」
由比ヶ浜はぶすっと不機嫌そうな表情でぐりぐりぐりと指先で俺の止血のツボを押した。いやあの、今なんで俺は千葉の空に向かって高く飛ばされたんですかね……?
雪乃「比企谷くん! しっかりしてぇぇぇえええ!!」ビエーン
戸塚「八幡! 起きてよ八幡!!」
材木座「は、八幡!? これ我の責任じゃないよね? 訴えられたりしないよね?」
八幡「……いや意味わかんないし。主語述語目的語使って話せっつーの」ムクリ
ツボを押されて立ち上がると、周りから『おお、生きてたぞ!!』『すげぇ、あの高さから落ちたのに立った!』『あれ本当に比企谷? ちょっとかっこいいかも……マジウケる……』とか観衆の声がざわざわと聞こえてきた。
いやまぁ、戸塚に起きてよって言われたら例え地獄からでも起き上がるよね。そういえば一瞬だけ閻魔の大王様に会ってきたけど、まさか同情されるとは思わなかった。ていうか俺死後地獄行きなんかい。
結衣「てかさ、これって男の人が行くお店じゃないの? あたしたち、どーすればいいの?」
そもそも男とか女とか関係なくお前入れるのかよ……。出来ることならこのまま家に帰ってもらいたいんだけど。
八幡「……」
ふと、視線を店に向けると看板に書いてある文字が目に入った。
『女性も歓迎! メイド体験可能!』
……こいつの場合、体験できるのは冥土体験だと思うんだけどな。ソースはついさっき地獄まで行ってきた俺。
× × ×
とりあえず、男女戸塚五名で『えんじぇるている』に入る。
「お帰りなさいませ! ご主人様! お嬢様! 戸塚様!」
戸塚「なんでぼくだけ別なの!?」
うむうむ、分かる。戸塚は戸塚だからな。これは千葉県内共通の認識なのだ。
そうお決まりの挨拶を頂き、テーブルに通された。
由比ヶ浜と雪ノ下(涙目)はメイド体験とやらに向かったが……すごいなここのメイド、あの由比ヶ浜を前にして普通に接してたぞ。さすがプロのメイドさんは特殊な訓練を受けているんだろうなぁ。それよりあいつのサイズに合うメイド服があるとは思えないんだけど。
戸塚にもメイド服を着せるべきだと思い、お前も行ってきたら? って言ったら断られてしまった。無念……!!
で、由比ヶ浜と雪ノ下がいなくなったので、今席についているのは俺と戸塚と材木座だけである。しかしこういうカフェって何を頼めばいいんだろうな。
材木座「わ、我はこういうお店自体は好きだが入ると緊張してしまってな……」
八幡「……あっそ」
この手に一番慣れていると思われた材木座は身体を震わせて水を飲みまくっていて、全くアテにならない。次に前にいる戸塚の方に話しかける。
八幡「戸塚、お前はメイドカフェってさ……と、戸塚?」
戸塚「…………」
だが、戸塚の反応はなかった。普段なら話しかけるとにこにこ笑顔を向けてくれる俺の太陽が!
戸塚はつーんとそっぽを向いたきり、うんともすんとも言わない。
八幡「なんか、怒ってるのか?」
戸塚「……さっき、ぼくにあれを着せようとした」
戸塚が言ってるのは、多分さっき俺がメイド体験にお前も行ってきたら? と言ったことを指しているのだろう。
八幡「え? あーいや、あれはほら……」
戸塚「……ぼく、男の子なのに、あんな可愛い服着せようとした」
戸塚は、むぅっと怒った顔で俺を見る。……怒った顔も可愛いなぁ。──おお、いかんいかん。戸塚は男だった。
八幡「あれは、その、なんだ、男同士の一種の冗談というか、じゃれ合いというかだな……」
戸塚「……ほんとに?」
なんとか男を強調しながら言い訳を続けると、なんとか戸塚は許してくれた。ぱあっと最高の笑顔が再び戸塚の顔に浮かぶ。ふぇぇ、とつかわいいよぉ。
雪乃「……お待たせいたしました、ご主人様」
そんなこんなで話をしていると、やや冷たい声で俺の前の机にカタッとコップが置かれた。見れば、メイド服を纏った雪ノ下であった。
戸塚「わぁ、雪ノ下さんすっごく綺麗だね。ね、八幡?」
八幡「お、おお。……でもお前メイドさんっていうよりロッテンマイヤーさんって感じなんだけど……」
俺としては改心の例えをしたのだが、雪ノ下にも戸塚にも通じなかったらしく、はてなと首を傾げられてしまった。あれね、某アルプスの少女にやたら厳しく躾をしてたあの人ね。
八幡「似合ってるってことだよ……」
雪乃「……そそそ、そう、べべべ別に、どうでもいいけれど……」
雪ノ下はそう言うと、ぷいっと首をそむけてしまった。すると、そこで何かを見つけたのかピタッとその顔が凍りついた。
俺もそれに釣られて雪ノ下の視線の先を見てみると、俺の顔もピタッと凍りついた。多分心臓も一瞬固まったと思う。
結衣「やっはろー!」
そこには──屈強な筋肉モリモリマッチョウーマンがふりふりのレースとかがついたメイド服をまとっている、シュールな光景が広がっていた。
八幡「……」
雪乃「……」
材木座「……」
俺も雪ノ下も、さらに材木座までもが口をぽかーんと開けてそれを見ていた。
まさか……まさか……。
八幡「由比ヶ浜に合うサイズのメイド服が存在していただと……!!?」
一体この店は何を想定してそのサイズの服を用意していたのだろう。単純な大きさならどこぞの姉帯さんとか諸星さんを越えるこいつに合うサイズとか、どう考えても使う機会ないだろ……いや、今こうやって使われてるけど。
戸塚「わぁー、由比ヶ浜さんもすごいねー」
ただ一人、戸塚だけが普通に反応していたので、俺はそれにまぁなと生返事をしてしまった。
結衣「そか……よかった……。えへへ、ありがと」
八幡「……」
いや、すげぇもんを見た……周りのお客さん達もほとんどこっちの方を見て口をあんぐりと開けていた。うん、すっげぇ気持ち分かる。
雪乃「……あ、そういえばこのお店に川崎さんはいないみたいよ」
何かを思い出したかのように、雪ノ下がそう言った。それを聞いて俺もあっそうだ、とこの店に来た目的を思い出した。
そういえば、川崎の働いている店とやらを探すためにこの店に入ったんだった。目の前のあまりに衝撃的な映像を前にして、色々吹っ飛んでた。
八幡「ちゃんと調べてたのか……」
雪乃「もちろん。そのためにこの服を着ているのよ」
もう俺なんて戸塚のご機嫌取りと、この衝撃映像を某tubeか某ニコニコにでもうpすればどんだけ再生数伸びるかなーとかしか頭になかったよ……。
雪乃「……べ、別にあなたさえ望むのなら、また着てあげても……」
結衣「今日は休みとかじゃなくて?」
雪乃「……シフト表に名前すらなかったから、違うと思うわ」
由比ヶ浜に話を振られた雪ノ下は、不機嫌そうにそう呟いた。
となると、俺たちは完全にガセネタに踊らされていたことになるんだが、と材木座をじろりと睨む。すると、材木座は小首を捻り、うむむと唸り始めた。
材木座「おかしい……、そんなことはありえぬのに……」
八幡「何がだよ?」
材木座「ツンツンとした女の子が(中略)宿命であろうがぁっ!!」
八幡「いや意味わかんねぇから」
プログラム③。完全に的外れ。
× × ×
プログラム④「ジゴロ葉山のっ、ラブコメきゅんきゅん胸きゅん作戦!」
翌日。
テレビのトップニュースに昨夜千葉駅周辺でゾンビのような目をした人間が空を飛ぶ!? と流れていて、それを見た俺は思わず朝食を噴出してしまったが、それはさておき。
由比ヶ浜の発案によって、葉山を使って川崎のハートをキャッチするという作戦を開始することになったのだが──
省略。
葉山「なんか、俺、ふられちゃったみたい」
材木座「ぷっ、ぷぷっ、グラーッハハハバババ! ふ、ふられとる! ふられとるげ! あんなにかっこつけたのにふられとるげ! ぶふぅはっははっ!」
八幡「やめろ材木座! 笑わせるなくぅっくく……」
戸塚「ふ、二人とも! 笑っちゃダメだよ!」
結衣「こいつら最低だ……」
雪乃「……仕方ないわね、もう一軒のお店に行ってみましょう」
ということで、俺たちはもう一つのエンジェルの名を冠する店に向かうことにした。
もうちっとだけ続くんじゃ。
書き溜めしてから、また来ます。
× × ×
腕時計の針が午後八時二十分をさしていた。
ここはホテルロイヤルオークラ。
ここの最上階に位置するバー「エンジェル・ラダー天使の階」は千葉市内で朝方まで営業している、エンジェルの名を冠する最後の店。たぶん、そんな洒落たところに行くのはこれが最初で最後だろう。
小町のコーディネイトと父親から拝借してきたジャケットや革靴によってそこそこ大人っぽく見える服装になっていた俺は、着慣れない薄手のジャケットをなじませるように羽織り直しながらため息をついた。
どうもこれから行くところはそれなりにいいとこらしく、それなりの服装をしてないとそもそも入れないとは雪ノ下の談だ。
ドレスコードを突破出来る服がなかった戸塚と材木座は、今日はここには来ていなかった。後者はどうでもいいが、戸塚とは是非一緒に来たかった。戸塚の光る瞳は百万ドルの夜景より美しい。
いつか戸塚とも二人で大人っぽい店に来られる日があるといいなと考えていると、背後から声をかけられた。
雪乃「ごめんなさい、遅れたかしら?」
そこに現れたのは、漆黒のドレスを身に纏った美女であった。
さすがにこれを他の誰にも間違えようはないだろう、雪ノ下雪乃だ。
八幡「いや、俺も今来たところだ……一応聞いておくけど、由比ヶ浜は?」
雪乃「……」ウルウル
八幡「……悪い」
いつもの涙目になった雪ノ下の頭を撫でようと手が勝手に動いたが、さすがに髪型まできっちりセットされている雪ノ下の髪を触るのは抵抗があったので代わりにその手を引いた。
雪乃「あっ……」
八幡「よく考えりゃ、あいつのあのガタイでここに合う服があるわけないよな……」
そう言いながらエレベーターのボタンを押す。ポーンという音と共にランプが灯り、扉が音もなく開いた。
中に入って雪ノ下の手を離すと、きっと俺の顔を睨みつけてきた。あれ、俺なにかやらかしたかなとあれこれ考えを巡らせていると、腕に雪ノ下が組み付いてきた。
八幡「ゆ、雪ノ下?」
雪乃「……別に、こういうところで男女のペアがいたら、恋人のように振舞っていた方が自然でしょう」
八幡「……そ、そうか」
腕に雪ノ下の体温を感じながら、ガラス張りのエレベーターから外を見渡す。外には幕張の夜景が広がっており、高層ビルの絢爛たる光が彩っていた。
最上階に着くと、再び扉が開く。
その先に優しく穏やかな光。蝋燭の灯りのように密やかで、ともすれば暗いとすら感じるバーラウンジが広がっていた。
八幡「おい……。おい、マジか。これ……」
明らかに俺が踏み入れてはいけない空気が流れている。
やっぱ帰んない? という意味を込めたアイコンタクトを右腕に絡みついたままの雪ノ下に向けたが、にこやかに笑みを浮かべられただけだった。多分意味通じてないっぽい。
雪乃「きょろきょろしないで、背筋を伸ばして胸を張りなさい。顎は引く」
八幡「は、はひ」
大人しく雪ノ下の指示に従いながら、奥のバーカウンターに向けてゆっくりと歩き始めた。
そのバーカウンターにまでやってくると、そこにはきゅっきゅっとグラスを磨く女性のバーテンダーさんがいた。
ていうか、川崎だった。
八幡「川崎」
俺が小声で話しかけると、川崎はちょっと困ったよう顔をする。
川崎「申し訳ございません。どちら様でしたでしょうか?」
……あれっ、川崎の声に聞き覚えがない。もしかして川崎の声を聞くのって俺初めてかもしれない? ……多分、こいつの登場シーンがことごとく省略されてきてたせいな気もする。
雪乃「同じクラスなのに顔も覚えられてないとはさすが比企谷くんね」
雪ノ下はそう言いながら、俺の腕を引きながらスツールに腰をかけた。いや、もう座ったなら俺の腕から離れてよくない?
雪乃「捜したわ、川崎沙希さん」
川崎「雪ノ下……」
川崎が雪ノ下を見る目には、はっきりとした敵意が込められていた。そしてその後、その目線が横に移って俺のところで止まった。
八幡「……比企谷だ、一応F組なんだが」
川崎「ああ、同じクラスだったんだ」
いつもと俺の服装が全然違うから見間違えられているだけだと思ったら、ガチで覚えられてなかったらしい。まぁ、俺もこいつの名前も顔も声もこの前まで知らなかったから勝負はイーブンだろう。何の勝負かは知らんけど。
川崎「……何か飲む?」
雪乃「私はペリエを」
それに答えて雪ノ下が何か言った。な、何? ペリー? 今なんか注文したの?
川崎「比企谷だっけ? あんたは?」
何があるのかわかんねーよ。じゃあ、とりあえず飲み物の名前を……。
八幡「俺はMAXコー」
雪乃「彼に辛口のジンジャーエールを」
言いかけた途中で雪ノ下に思い切り遮られた。
雪乃「……MAXコーヒーがあるわけないじゃない」
八幡「マジで!? 千葉県なのに?」
川崎「……まぁ、あるんだけどね」
ぼそっと川崎が呟きを漏らすと、雪ノ下がちろっと川崎の顔を見る。二人の視線が交錯し、ばちっと火花が散ったような気がした。なんでお前らそんな仲が悪そうなの? 怖い。
川崎「それで、何しに来たのさ? 随分イチャイチャしてるみたいだけど、それとデートってわけ?」
雪乃「デッ、デデデデート!?」ガンッ!!
ガンッと雪ノ下が額をテーブルに思い切りぶつけた音がした。うっわ痛そうと横を見ると、雪ノ下は俺の腕から離れて真っ赤になりながらぷしゅーと頭から蒸気を出していた。トーマスかよ。
隣のこいつが見事に故障したので、俺が代わりに口火を切ることにした。
八幡「お前、最近家帰んの遅いんだってな。弟、心配してたぞ」
そう言うと川崎はぴくっと反応し、それから俺のことを睨み付けてきた。
川崎「……最近やけに周りが小うるさいと思ってたらあんたたちのせいか。バイトを止めるつもりはないよ。どういう繋がりか知らないけど、もう大志と関わんないでね」
雪乃「止める理由ならあるわ」
いつの間にか復活して顔を上げた雪ノ下は、腕時計に視線を動かして時間を確認する。時間は、十時四十分。
雪乃「シンデレラならもう少し猶予があったけれど、あなたの魔法はここで解けてしまうわね」
かっこよく皮肉言ってるつもりだろうけど、おでこを真っ赤にしながらそう言っても割とシュールだぞ?
川崎「魔法が解けたなら、あとはハッピーエンドが待ってるだけじゃないの?」
雪乃「それはどうかしら、人魚姫さん、あなたに待ち構えているのはバッドエンドだと思うけれど」
バーの雰囲気に合わせたかのような二人の掛け合いは余人の介入を許さない。これで雪ノ下の額が赤くなっていなくて、若干涙目になっていることをどうにかできていれば、さぞ上流階級のお遊びのように映っただろう。
……とりあえず解説しておくと、十八歳未満が夜十時以降働くのは労働基準法で禁止されている。川崎が現時点働いていること自体、本来ご法度ということだ。
ああ、由比ヶ浜でもいればこの雰囲気を……どうにかは出来るかもしれないけど、ビル自体崩れそうで怖いなぁ。今あいつ何やってるんだろう。
八幡「……一応聞いておくが、やめるつもりはねぇの?」
川崎「ん? ないよ。お金が必要だし」
八幡「歳を誤魔化して、深夜働くほどか」
川崎「別に、遊ぶ金欲しさに働いてるわけじゃない。あんなふざけた進路を書くような奴には分からないだろうけど」
ん、なんでこいつ俺の進路知ってんだ? と思い返してみると、そういえばこいつに屋上で職場見学希望調査票を見られていたんだった。その辺りの流れもこのSSだと省略されていたから、思い出すのに時間がかかった。ていうか俺の顔は忘れてたのにそっちは覚えてんのかい。
雪乃「あなた、一体なんて書いたの……?」
八幡「専業主夫」
雪乃「せ、専業主夫……? た、確かに私なら養えなくも、いや何を考えてるのかしら……」
また再び隣の雪ノ下はプシューと壊れた機械の様に煙を放出しながら役に立たなくなりそうだったので、俺はそれを横目に川崎の方を見つめた。
八幡「……川崎。明日の朝時間くれ。五時半に通り沿いのマック。いいか?」
川崎「はぁ? なんで?」
川崎の態度は冷ややかなものだった。しかし、俺は構わず言葉を続ける。
八幡「少し、大志のことで話がある」
川崎「……何?」
八幡「それは明日話す」
もう雪ノ下が冷静に話せる感じじゃないし、いくつかわかったこともある。あとはこっちでなんとかすればいい。
俺は一息に残りのジンジャーエールを飲み干して二人分のお代をテーブルに置くと、全く反応が無くなった雪ノ下の腕を取り俺の肩に巻きつけて無理矢理立ち上がらせてこの場を去った。
八幡「じゃあな」
川崎「あっ、ちょっと!」
雪乃「主夫……えへへ」
さて、壊れたようにうわ言を垂れ流し続けているこいつどうしよう?
次回更新辺りで最終回に出来ればなぁと。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
× × ×
翌朝のことだ。俺は朝五時過ぎのマックでうとうとしながら、同じ机に座っている面子を眺めていた。
雪ノ下雪乃、比企谷小町、川崎大志──由比ヶ浜結衣。ねぇ、最後の呼んだのだーれ? はーいぼくです。
由比ヶ浜からメールが来ていて、最後の店には行けなかったけど川崎の件の最後にくらい役に立ちたいとのことだ。
ぶっちゃけ無視しても良かったが、もし後から内密に川崎の件を処理したことがバレたら俺自身も処理されかねないので仕方なく呼んだ。おかげで、先ほどから俺の隣の席に座っている雪ノ下が涙目でぷるぷると体を震わせている。
まぁ、由比ヶ浜も川崎の件を解決したいとは本気で思っているらしい。それは途中のプログラムでの進行中にも伝わってきた(ほとんど省略したような気がするが)。
こいつ図体はおかしいけど、内面は割と普通の女の子してるんだよなと感じることが最近は多々ある。いや普通の女の子は千葉の空に向かって俺をぶん投げたりしないか。そうかそうか。
八幡「……」
昨夜、あれからホテル・ロイヤルオークラを後にした俺は雪ノ下を無理矢理マンション(めちゃくちゃ大きかった)に送り届けると、帰宅して小町に大志をつれてくるように頼んでから再び外出してマックで時間を潰していた。
何故、わざわざ外出してこんな時間まで起きていたのか。理由は一つ。
八幡「来たか……」
音を立てて自動ドアが開くと、気だるげに靴を引きずって川崎沙希が現れた。
川崎「話って何……大志、あんたこんな時間に何してんの」
大志「姉ちゃん!」
川崎が驚きとも怒りともつかない顔で大志を睨んだ。
その後、机にいる面子を見渡すと由比ヶ浜を見た辺りで顔が凍りついた。
川崎「……なるほど、話を聞かないと大志を由比ヶ浜に差し出すと……あんた、なかなかの外道だね」
八幡「いや違う違う違う」
小町に手を出したら冗談抜きで差し出すつもりだったが、別に大志の命が惜しかったら話を聞けとかそういう意図はない。つーかその発想は無かった。
まぁ、由比ヶ浜がいたおかげで話を聞いてくれそうになったから良かったとしよう。
大志「こんな時間ってそれこっちの台詞だよ、姉ちゃん。こんな時間まで何やってたんだよ」
川崎「あんたには関係ないでしょ……」
突っぱねるようにして、川崎はそこで会話を断ち切ろうとした。だが、その論法は俺や雪ノ下には通じても家族の大志には通じなかった。
大志「関係なくねぇよ、家族じゃん」
川崎「……あんたは知らなくていいって言ってんの」
大志が食い下がってくると、答える川崎の声は弱々しいものになった。だが、それでも絶対に話すまいという意思がそこにはあった。
大志「な、なんだよそれ!」
八幡「落ち着け、大志」
それに対してさらに大志が喰いかかろうとしたので、俺は大志を手で制した。大志と川崎の話し合いの場を作るためにここに集まったわけではない。代わりに俺が口を開いた。
八幡「川崎、なんでお前が働いていたか、金が必要だったか当ててやろう」
俺が言うと、川崎は俺を睨みつける。他の面子も興味津々とばかりに俺の言葉に耳を傾けた。(ドゴン!!)おい由比ヶ浜、耳を傾けるのはいいが体を乗り出すな。机潰れちゃっただろ。
八幡「大志、お前が中三になってから何か変わったことは?」
大志「え、えっと……。塾に通い始めたことくらいっすかね?」
結衣「なるほど、弟さんの学費のために……」バキバキグシャ!!
由比ヶ浜が納得したように口にしながら、潰してしまった机をなんとか元通りに戻そうと奮戦していた。俺は汗をタラリと流しながら店員の様子を伺った。大丈夫だよな、警察呼ばれたりしないよな……?
ちなみにその様子を小町は驚愕しながら見つめており、雪ノ下に至ってはもうなんか遠い目をして明後日の方向を向いていた。ただ大志だけはそれを無視して川崎の方を向いている。こいつやっぱり将来大物になれそうだ。小町はやらんが。
八幡「……いや、違うな。四月から塾に通えている時点で大志の学費自体はもう解決出来ているんだろう。逆に言えば、大志の学費だけが解決している状態なんだよ」
雪乃「そういうことね。確かに、学費が必要なのは弟さんだけではないものね」
とうとう雪ノ下が由比ヶ浜の存在を完全に無視してこちらの話に加わってきた。えらいえらい。まぁ、いちいちあれに(グシャグシャドガーン!!)『よし、直った!』『な、直ったんですかね……?』反応していても精神が持たないからな。
八幡「……まぁ、うちは進学校だしな。高二にもなれば進学を意識する奴も少なくないし、夏期講習とか真剣に考える奴もいるだろ」
大志「姉ちゃん……お、俺が塾行ってるから……」
川崎「……だから、あんたは知らなくていいって言ったじゃん」
川崎は慰めるように、大志の頭をぽんと叩いた。
ほほう、どうやらいい感じに感動的におさまりが『問おう、貴女が私のマスターか』ついてねぇ! 由比ヶ浜またお前異世界から変なの呼び出したな! ええい、帰れ帰れしっし!
八幡「ふぅ、帰ってくれた」
雪乃「……あなた、本当にそういった職業に就けるのではなくて?」
川崎「でも、やっぱりバイトはやめられない。あたし、大学行くつもりだし。そのことで親にも大志にも迷惑かけたくないから」
川崎の声色は鋭かった。そう言われてしまうと言葉を返しづらいのか、大志は再び黙り込む。おおう、ちょっと目を逸らしたうちに話が進んでおる。
小町「あのー、ちょっといいですかねー?」
その沈黙を打ち破ったのは小町の呑気な声だった。川崎はかったるそうに顔を向ける。
川崎「何?」
小町「やー。うちも昔から両親共働きなんですよねー。(中略)その辺分かってもらえると下の子的に嬉しいかなーって」
川崎「……」
八幡「……」
いやー、世の中には良いお兄さんがいるものだと思ったら俺のことだった。まさか小町がそんな風に考えているなんて思いもしなかった。
大志「……まぁ、俺もそんな感じ」
大志がぼそっとそう付け足すようにそっぽを向けながら呟くと、川崎がそっと大志の頭を撫でた。その顔に浮かんでいるのはいつもの気だるげな表情ではなく、ほんの僅かに柔らかい笑みだった。
しかし、それでもまだ問題は解決していない。ただ川崎と大志の中で失われていたコミュニケーションを取り戻しただけというそれだけのことだ。肝心の川崎沙希の学費の問題については、まるまる残ったままだ。
ここでぽーんと大金を渡せればかっこいいのだろうが、そんな金は持っていないし、何より奉仕部の理念に反する。
いつだったか、雪ノ下が(涙目で震えながら)由比ヶ浜に言っていた言葉を思い返す。
──飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えて自立を促すのよ。
なら、俺の錬金術の一端を授けてやろう。
八幡「川崎、お前さ、スカラシップって」
結衣「川崎さん、感謝のやっはろーって知ってる?」
× × ×
<ヤッハローーーーー!!
<ハ、ハナシテー!!
八幡「……」
雪乃「……」
小町「……」
大志「……」
見なかった。
俺たちは、何も見なかった。
川崎が由比ヶ浜に捕まって空に飛んでいったことなんて、俺は見なかった。
八幡「…………よーし、小町。帰るぞ」
小町「いいの!? あれ放置していいの!?」
いや、だって別に俺たち出来ることなくない?
俺に出来るのは大志の肩を叩いて『まぁ、別に姉ちゃん死にはしないだろ……多分』と慰めることくらいだ。当の大志はぽかーんと口をあんぐりと開けて唖然としていたが。
八幡「じゃあな、雪ノ下。お前も──」
ふと、俺の腕に体重が乗せられた。
見れば雪ノ下が俺の腕に絡み付いて、全体重をかけてきていた。
小町「わお、お兄ちゃんいつの間にそんな美人さんを彼女に」
八幡「いや違うから。おい雪ノ下、いきなりどうし──雪ノ下?」
俺の腕にくっついてきた雪ノ下を見てみると、なんと寝ていた。……確かに現時点で朝方の六時とかだし、ろくに寝れてないだろうけどさ。
小町「これはこれは……お兄ちゃん、ちゃんと彼女さんを送り届けるんだよ! お邪魔虫はこのまま帰るからね!」
八幡「あっ、おい小町!!」
そう言うと、小町は俺の自転車を奪ってそのまま走り去っていった。……いや、それないと俺徒歩なんだけど……。
雪乃「Zzz…」
八幡「……ったくしょうがねぇな」
仕方なくすやすやと眠り続ける雪ノ下の腕を外して自分の背中におんぶすると、俺はゆっくりと歩き始めた。
昨夜も行ったが、こいつのマンションはここからそう遠くはなかったはずだ。
× × ×
八幡「おい、起きろ雪ノ下」
雪乃「……比企谷くん?」
それから数十分。
雪ノ下の住むタワーマンションのエントランスに到着すると、俺は背中を揺らして雪ノ下を起こした。
雪乃「…………な、なななんで私は比企谷くんにおぶってもらってるのかしりゃ」
噛んだな。
八幡「お前寝ちまってたんだよ、だからここまで運んできた。そろそろ降りてもらっていいか?」
雪乃「ひゃ、ひゃい……」
ゆっくりとしゃがんで、背中の雪ノ下を降ろす。雪ノ下が俺の背中から離れるとしばらくぶりに体が軽くなった。
八幡「もう平気か?」
雪乃「え、ええ……」
八幡「じゃあ、帰るわ。お疲れ」
そう別れの挨拶をして、俺はマンションの自動ドアの前に立った。シューと音がし、その自動ドアが開く。
雪乃「ひ、比企谷くん!」
そのままエントランスから出て行こうとした時、背中に声を掛けられた。
振り返ってみると、雪ノ下がこちらを見ながら手を小さく振っていた。
雪乃「また……今日、学校で」
八幡「……。また学校でな」
そう小さく別れを付け足した彼女の表情は、中に差し込んだ朝日のせいか、ほんのりと赤く照らされているような気がした。
⑤またしても、比企谷八幡は元来た道へ引き返す。
八幡「……」
今日は職業見学の日だった。
葉山が選んだ某電子機器メーカーのミュージアムを適当に眺めながら、俺はもう一週間以上前のあの日のことを思い出していた。
雪ノ下をマンションに送り届けてから家に帰ると、小町に彼女とはどうだったのうりうり~とからかわれた後にとんでもないことを口にしたのだ。
小町「いやーしかし結衣さん変わったよねー。ほらお菓子の人、最初分かんなかったもん」
その言葉を聞いた俺は、思わず息を呑んだ。
由比ヶ浜がお菓子の人?
入学式の時に助けた犬の飼い主が、由比ヶ浜?
いやいやあの時の飼い主は確か普通の女子だったはず……と思ったところで、由比ヶ浜についての報告書の件も思い出す。
そういえばあいつは、春休みより前は普通の女子高生だったというのだ。
俺はそれを全く信じていなかったが、小町の証言も合わせるともう信じざるを得なかった。
あの歩く災厄と、俺が初めて会ったのはクッキー作りの時ではない。もっと前から、奇妙な縁があったということだ。
八幡「……」
ミュージアムのエントランスを一人で歩く。葉山たちはすでにいなくなっている。
俺も帰るかと出口に向かった時、そこで見覚えのある巨体を見つけた。見つけてしまった。
結衣「あ、ヒッキー、遅い! もうみんな行っちゃったよ!」
八幡「……お前は行かねぇの?」
結衣「え!? あ、やーなんというかヒッキーを待っていた、というか。その……置いてけぼりは可哀想かなーとかなんとか」ゴゴゴゴゴゴゴ
胸の前で人差し指どうしをつきあわせ、周りに変な異次元への扉を開きながら由比ヶ浜はそう小声で言った。
俺は素早く異次元への扉を閉じると、思わず微笑みながら由比ヶ浜の方を向いた。いや、別にヤケクソで笑っているわけではない。この由比ヶ浜結衣という人間性を垣間見た結果だ。
八幡「由比ヶ浜は、優しいよな」
結衣「へ!? あ、え!? そ、そんなことないよっ!!」ゴウ!! ゴウ!!
西日のせいか顔を真っ赤にして由比ヶ浜はぶんぶんと全力で腕を振る。大量に現れたソニックブームを俺は全力を持って弾き飛ばした。危ねぇ……ここでこの会社を破壊してたら、何億請求されるか分からなかったぞ……。
さて、何故否定されたのかは分からんが、それでも俺は由比ヶ浜を優しいと思う。たまに俺のことを冥土に送りつけるけど、俺以外を殺しかけたことはないし。川崎も無事生還したし。いい奴だと思う。だから、きちんと言っておくべきだと思った。
八幡「あのさ、別に俺のことなら気にすることはないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし」
結衣「──覚えて、たの?」
八幡「一度うちに来たって。小町から聞いた。……悪いな、逆に変な気を遣わせたみたいで。でもこれからはもう気にしなくていい。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」
……いや、本当に優しいなら設備も破壊せず俺のことも殺しかけないだろうけど。
結衣「……や、やー、別にそういうんじゃないんだけどなー…………そんなんじゃ、ないよ…………」
八幡「あー、まぁなんだ、ほら」
初めて沈黙を苦手に思った。気まずいこの雰囲気を打破するべく声を掛けると、由比ヶ浜はキッと俺のことを睨みつけた。
結衣「……バカ」シュン!!
八幡「──は?」
刹那、由比ヶ浜の姿が消えたかと思うと俺の目の前に現れた。そして目に見えぬ速度で俺の腹を殴りつけると、たっと走り出して出口の方に向かっていった。
俺はというと建物の天井に頭から突っ込み、ぷらーんとぶら下がっていた。
マンガとかだとよく見るけど、これ腰までコンクリに埋まると全く動けないのね。ていうかよく生きてんな俺。
職員「おい、天井に誰か突き刺さってるぞ!」
職員「はぁ? ……ほんとだ、天井に人が突き刺さってる!」
誰かが俺のことを見つけてくれたのか、そんな声が聞こえた。早く助けてくれないかな。
コンクリの中に埋まりながら、ふと由比ヶ浜のことを考えた。
……ほんと、だから大きい女の子は嫌いだ。
了
原作2巻終了分で、(一旦)完結にしたいと思います。
しばらく俺ガイルRPGの方と、あともう一つどうしてもバレンタインデーイベントに入る11巻発売前までに書きたいSSがあるため、それらの方に集中するためです。
3巻分以降は……俺ガイルRPGの方が完結して、気が向いたら書こうと思います。
八幡「俺ガイルRPG?」
八幡「俺ガイルRPG?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430984337/)
俺ガイルRPGと、近日中に書く予定の新作の方も宜しくお願いします。
……新作はちゃんとラストまで考えていて、キャラが死なない刺さない筋肉モリモリにならないように行きたいと思います。
それでは。
このSSまとめへのコメント
ほんとおもしれぇなw
続き楽しみにしてます!
ゆきのんかわいい
矢ッ覇露ー!!
ここの葉山イケメンやな
ゆきのんもうおちてますやん
店長も...か
くっそwwwwwww
葉山のイケメンっぷりとゆきのんの可愛さが好き
早く八雪にしてくれ笑