シンジ(24)「久しぶり」 (76)


カヲル「……」キョロキョロ

シンジ「あ、カヲル君! こっちこっち~」

カヲル「やあ。すまない、待たせてしまったかい?」スタスタ

シンジ「ううん、僕もちょうど今来たとこだから。久しぶり」

カヲル「そう、よかった。久しぶりシンジ君。相変わらず変わらないね君は」

シンジ「それって褒めてるの?」

カヲル「もちろん。それにしても喉が渇いたよ、とりあえず先に飲み物頼もう。ビールでいい?」ガタッ

シンジ「うん」

カヲル「すいません、注文いいですか?」

店員「はーい」トテトテ…

カヲル「生二つお願いします」

店員「かしこまりました。すぐお持ち致します~」




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シンジ「……うーん」

カヲル「ん? なに?」

シンジ「いや、今更だけどカヲル君が居酒屋でビール頼んでるってなんかすごい変な感じするなあって」

カヲル「そう?」

シンジ「ほら、カヲル君はなんていうかこう、お洒落なバーでお洒落なカクテルとか飲んでるイメージだから」

カヲル「そういう店の方がよかったかい?」

シンジ「いや、僕はそういうのはちょっと……それより食べるものどうする?」ペラッ

カヲル「僕は唐揚げと焼き鳥とサラダかな。あとたこわさ」

シンジ「たこわさ食べるカヲル君か……」

カヲル「美味しいよねたこわさ」ニコッ

シンジ「……爽やかだなあ」

カヲル「ところで君は今日仕事の方はよかったのかい?」

シンジ「うん。つい最近大きいプロジェクトが片付いてさ、今日は早く上がれたんだ。それに明日は休みだし」

カヲル「そうか、ならいいんだ。僕も明日は休みだから、じゃあゆっくり出来るね」


店員「お待たせ致しました、生ビールとお通しです~」

シンジ「あ、どうも。ついでに注文いいですか?」

店員「おうかがいします」

シンジ「えーと、唐揚げと焼き鳥とサラダとたこわさと……それから枝豆に刺身盛り合わせで」

店員「以上でよろしいですか?」

シンジ「はい」

店員「ではごゆっくりどうぞ~」スタスタスタ…


カヲル「さて。それじゃあまずは乾杯といこう」スッ

シンジ「ん……そうだね」スッ


シンジ・カヲル「「かんぱーい」」ガチャンッ!


シンジ「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはっ! あ~美味しい……」ジーン…

カヲル「いい飲みっぷりだねシンジ君」

シンジ「あはは。昔はミサトさんが飲んでるの見てこんなの何が美味しいんだろって思ってたのにね」

カヲル「そういうものさ。ところでそっちは近頃どうだい?」

シンジ「んー、特にこれといって何かあったわけじゃないかな。
    あ、そうそう。そういえば今年ミサトさん家の子が小学生になるんだよね」

カヲル「あれ、もうそんな年になるっけ。へえ、僕達も年を取るわけだね。確か女の子だったよね?」

シンジ「うん。あんまりミサトさんに瓜二つ過ぎて正直会う度ちょっと笑っちゃうんだけどね」

カヲル「ふふ、じゃあきっと将来は彼女も酒豪になるね」

シンジ「あははっ!」


シンジ「それでカヲル君の方はどうなの? 最近」

カヲル「いや、それが実は少し前に刺されちゃって」

シンジ「ふーん……」



シンジ「は?」

カヲル「ん?」

シンジ「え、ちょっと待って……え? 刺された? 今刺されたって言った?」

カヲル「うん」

シンジ「待って待って待って待って。え? 刺されたってカヲル君が?」

カヲル「そう」

シンジ「………誰に!? っていうかなんで!?」

カヲル「いや、ストーカーの子に」

シンジ「ストーカー!!??」


カヲル「うん。前々から仕事帰りに尾けられたりポストに直接手紙何通も入れられたり無言電話が何度もかかってきたりはしてたんだけどね」

シンジ「……え、ええ~? いきなり重いな……」

カヲル「で、この前会社出た時にとうとうサクッて」

シンジ「軽っっ!!」


シンジ「いやいやいやいや、サクッてそんなクッキーの食感みたいな!! なんでそんな軽い感じなの!?」

カヲル「実際別に大したことなかったからね」

シンジ「……だって怪我は?」

カヲル「ほら、僕は自在にA.T.フィールドを操れるだろう?
    今回は咄嗟のことだったから反応が遅れて少しだけ刺されてしまったけど、命に関わるような怪我はまずしないから平気さ」

シンジ「……そ、そう。まあとりあえずカヲル君が無事で良かったけど……」

カヲル「ふふ、僕のことを心配してくれるのかい? 相変わらずシンジ君は優しいね」

シンジ「むしろこの状況で心配しない人がいたら鬼畜どころじゃないよ」

カヲル「しかしその騒動のせいでしばらく君に連絡する暇がなかったんだ。ご無沙汰してすまなかったね」


シンジ「全然いいよそんなの、こっちも仕事忙しくてなかなか連絡出来なかったし。
     っていうかお見舞いとか行けなくてごめん、まさかそんなことになってたなんてまったく知らなくて……」

カヲル「こっちが言わなかったんだから当たり前さ、気にしないで。それより久しぶりに君に会えて嬉しいよ」

シンジ「うん、僕もだよ。……ところでさ」

カヲル「うん?」

シンジ「えーと、それでそのストーカーの子って結局その後どうなったの? あ、ごめん。言いにくかったら別に……」

カヲル「あ、実は今その子と付き合ってるんだ」シレッ

シンジ「なん……だと……」


シンジ「えっ、ちょっ、待っ……え? 本当に? なっ、なん、なんで!?」

カヲル「シンジ君、落ち着いて」

シンジ「いやいやいやいや、逆になんでカヲル君はさっきからそんなに落ち着いていられるの。
    とりあえず話が飛躍し過ぎててまったく付いていけないんだけど」

カヲル「……? 飛躍?」キョトン

シンジ「いや、キョトンじゃなくて。
    だから一体何がどうまかり間違ったら自分を刺したような子と付き合うなんてことになるのさ……」

カヲル「いやあ、そこまで思い詰めるくらいこの子は僕のことが好きなんだなって思ったらなんだか愛情が湧いてきちゃって」

シンジ「器がデカいとかいうレベルじゃない」

カヲル「???」

シンジ「……あの、失礼かもしれないけどそれって大丈夫なの?」

カヲル「うん。付き合い始めてからは精神的に落ち着いて今はもう普通になってるからね。別に元々は根は悪い子じゃないんだよ」

シンジ「そ、そう……それならいい、のかな? その、お、おめでとう……?」

カヲル「ありがとう」ニコニコ

店員「大変お待たせ致しました、ご注文の品お持ちしました~」カチャカチャ


カヲル「おっと、来たね」

シンジ「うん……正直既に大分お腹いっぱいだけどね……」ゲッソリ

カヲル「? 来る前に何か食べてきたのかい?」

シンジ「そうじゃなくて」

カヲル「……?」

シンジ「うん、なんかもういいや。すいません、ビールもう一杯」

店員「はい~」

カヲル「ペース早いね」

シンジ「飲まなきゃちょっとこれ以上は聞いてられないって判断したからね」

カヲル「? よく分からないけど……それじゃあ僕は次は日本酒にしようかな」

店員「生ビールに日本酒ですね。かしこまりました~」

シンジ「……チョイス渋いなあ」

カヲル「そう?」

シンジ「はー。でもそっか。これだけモテるのにずっと彼女作らなかったカヲル君がついにかあ」

カヲル「自分でも不思議なんだけどね。僕はいまいちそういうことには興味がなかったから」

シンジ「前から気になってたんだけどそれってどうして?」

カヲル「肉体の形自体はリリンと同じとはいえ、本来僕はアダムだから。
    有性生殖に対する必要性というものをどうにも感じられないんだ」

シンジ「……なんか生々しいなー」

カヲル「それに僕とっては君との友情が何より一番大事なものだったから」

シンジ「カヲル君……」


カヲル「まあ僕のことは別にいいんだ。それより君こそどうなんだい?」

シンジ「え?」

カヲル「君ももう付き合い始めて長いだろう?」

シンジ「ああ、アスカのこと? そうだね、なんだかんだもう5年になるのかな」

カヲル「そもそも君は何故彼女と付き合うようになったの?
    失礼かもしれないがどちらかといえば君はセカンドよりはファーストの方を意識しているのかと思っていたけど」

シンジ「あーそれは……」

カヲル「言いにくいかい? だったら無理には聞かないけど」

シンジ「いや、その……」

カヲル「うん」

シンジ「んーと。あれは夜僕が自分の部屋で寝てた時のことなんだけど……」



 ――シンジ君の回想

シンジ「ん……」スヤスヤ

シンジ「……ん、ん~?」モゾ…

シンジ(なんか重い……)

シンジ「んん……」パチッ



アスカ「……」

シンジ「うっわあああああああああああッッ!!??」ビクゥッ!!



アスカ「……ちょっとなによ。人を化け物みたいに」

シンジ「あっあっあっ、アスカ!? なんでこんなとこにいるの!?」

アスカ「いちゃ悪いわけ?」

シンジ「えっ、いや、わ、悪いっていうか……」

アスカ「……」

シンジ「……と、とにかく。こんな時間にお、男の部屋に女の子が来るのはよくないよ。自分の部屋戻りなって……」

アスカ「イヤ」

シンジ「いや、イヤって……」

アスカ「あたし、分かったの」

シンジ「な……何が?」

アスカ「あんたはこっちから行動起こさない限り、絶対手なんか出してきてくれないってこと」

シンジ「……」

アスカ「だから……あたしは自分から行くことに決めたのよ」

シンジ「……いや。いやいやいや、なにそれ意味が分かんない。ちょっと待っ…」

アスカ「シンジ……」ズイッ

シンジ「いやいやいやいやいや、ちょっ、アスカ!?
    待って待って待って、いくらなんでもそれは展開が早過ぎるっていうか強引過ぎるっていうか!」

アスカ「シンジはあたしのこと、キライ?」

シンジ「……き、嫌いなわけないだろ。でもそういうことじゃなくて、つまりその……」

アスカ「……」ジリジリ…

シンジ「……えっ、本気? 本気なのアスカ? ちょ、まさか……」

アスカ「大丈夫、天井のシミを数えてる内に終わるから」ガシッ

シンジ「それ完全にガチレイプだよね!?」

アスカ「シンジぃ~……」グイッ

シンジ「イヤァァァアアアアア!!??」









シンジ「あっ……」










シンジ「うう、汚された……僕の身体が汚された。汚されちゃったよぅ……」シクシク…

アスカ「……」

シンジ「なんでだよ……なんでだよぉ……」メソメソ

アスカ「……」

シンジ「……僕に優しくしてよ」

アスカ「優しくしたわよ」

シンジ「嘘だッ! 適当な台詞で誤魔化してるだけだ! 曖昧なままにしておきたいだけなんだ!!
    ……ざわざわするんだ。落ち着かないんだ。乱暴しないでよ! 僕を強引に犯さないでよ! 僕にかまわないでよ!!」

アスカ「無理矢理は、嫌いなの?」

シンジ「……好きじゃない」

アスカ「でもあんたは乗ったわ。あたしのエヴァンゲリオン弐号機に」

シンジ「……」

アスカ「あたしのエヴァに乗ったから今のあんたがある。あたしのエヴァに乗ったからあんたはここにいる。
    あたしのエヴァに乗ったから今のあんたになったの。
    ……そのことを、あたしに乗った事実を、今までの自分を、自分の過去を否定することはできないわ」

シンジ「……勝手な言い分だよね」

アスカ「そうかもしれない。だからこれからの自分をどうするかは、あんたが自分で決めなさい」

シンジ「……」

アスカ「……あんたが全部あたしのものにならないなら、あたし何もいらない」

シンジ「……」

アスカ「だから……だから……」






アスカ「あたしのものになれやオラ」

シンジ(やだ……カッコイイ……)キュンッ






シンジ「――と、まあそんな感じでほだされちゃって」

カヲル「うん。どう見てもそれ男女が逆だよね」

シンジ「大丈夫、自覚はあるから。……まあなんだかんだで上手く行ってるしこれはこれでいいのかなって」

カヲル「そっか。まあシンジ君が幸せなら僕はそれでいいんだ」

シンジ「カヲル君……」

店員「生ビールに日本酒お待たせ致しました~」コトッ

シンジ「あ、来た来た」

カヲル「どうも。……ん、やっぱり日本酒には刺身が合うねえ」モグ…

シンジ「なんかオヤジ臭いよカヲル君……」

ごめん、なんかいまいち思い付かないから読みたいネタとかあったら教えてもらえると嬉しい


シンジ「父さんのことなんだけど」

カヲル「うん」

シンジ「まあまだ一年以上先ではあるんだけど、還暦のお祝いに海外旅行でもプレゼントしようかなって思って。
    実は今ちょっと貯金してるんだ」

カヲル「へえ、いいんじゃないかな。シンジ君は孝行息子だね」

シンジ「今までいろいろあったけどなんだかんだで父さんに認められたいって気持ちが一番大きかったからね」

カヲル「しかしよくあの碇司令が赤木博士と籍を入れる気になったものだね。言ってはなんだけど意外だったよ」

シンジ「あー……それが補完の時母さんにこっぴどく説教されたらしくてさ」

カヲル「うん?」





ゲンドウ『ユイ……ずっとこの時を待っていた』

ユイ『ふふ、馬鹿ね。私はいつでもあなたのすぐそばにいたのに。……ところで』

ゲンドウ『ん?』




ユイ『―――あなた、赤木ナオコさんと娘のリツコちゃんにずっと手を出していたんですってね?』ニッコリ

ゲンドウ『!?』ビクゥッ!

ユイ『私というものがありながら、しかも親子どんぶりとかナメてんのかコラ』

ゲンドウ『い……いや、でもそれは計画の為に仕方なく……』ダラダラダラダラ…

ユイ『あ?』

ゲンドウ『申し訳ありませんでしたぁー!!!!』ズザァーッ!!


ユイ『言っておきますけど私はこのまま初号機の中に残って人類の行く末を見守ることに決めてますから』

ゲンドウ『なっ!? じゃ、じゃあ私も一緒に……』

ユイ『あ?』

ゲンドウ『すいません』

ユイ『ダメよ。あなたはこれからもきっちり生きて、きっちり責任を取りなさい』

ゲンドウ『せ……責任?』

ユイ『せめてリツコちゃんをちゃんと娶って一生幸せにするくらいの甲斐性を見せなさいな』

ゲンドウ『!!??』

ゲンドウ『そんな……無理だ! 私が生涯愛するのはユイ、お前だけなんだ!! それは出来な…』

ユイ『あ゛?』

ゲンドウ『ごめんなさい』

ユイ『……いつまでも私の影を追うのはもうやめて下さい。リツコちゃんはとてもいい子よ。私なんかよりずっといい女だわ。
   あなたみたいなコミュ障ネグレクトダメ親父なんかを心から想ってくれているのよ?』

ゲンドウ『……』

ユイ『ね?』

ゲンドウ『………分、かった……』

ユイ『ふふふ。ああ、あとそれから』

ゲンドウ『ん?』







ユイ『またシンジをイジメるようなことしたら今度こそその粗末なふぐりを捻り切って宦官にしてやるから覚悟しとけやオラ』

ゲンドウ『…………』キュッ!




シンジ「……っていういきさつがあったみたいでね」

カヲル「なるほど……」

シンジ「今となっては本当にリツコさんと仲良くやってるし、っていうかむしろリツコさんの尻に思いっきり敷かれてる感じだけど」

カヲル「よくカカァ天下の方が上手く行くと言うしいいんじゃない?」

シンジ「まあね」

カヲル「で、ファーストは彼らの養子として正式に引き取られたんだろう?」

シンジ「うん。だから今は僕って綾波と兄妹なんだよね。いまいち実感ないけど」

カヲル「兄妹なのに未だにその呼び方なんだね」

シンジ「何度もレイって呼ぼうとしたんだけどどうもこっ恥ずかしくってさ。
    それにその呼び方するとアスカがヤキモチ妬くし」

カヲル「おや、ノロケかい?」

シンジ「あっごめん、そんなつもりじゃなくて……」

カヲル「いいよいいよ。でも少し妬けてしまうな」

シンジ「やめてよ~」


カヲル「でも本音を言えば気になるよ」

シンジ「え?」

カヲル「君とセカンドが普段どういう付き合い方をしているのか。有り体に言えば夜の生活に関して」

シンジ「ええっ!?」

シンジ「どうしたの、カヲル君がそんなこと言うなんて。
    っていうかあんまりそういう話は人にするものじゃないっていうかなんていうか……」

カヲル「……」

シンジ「……もしかして何かあったの?」カラン…

カヲル「変な話していい?」

シンジ「? うん」ゴクゴク…

カヲル「僕、童貞なんだ」

シンジ「ぶごふっ!」ビシャァッ!!


シンジ「げっほ、ごほっ! けほっ」

カヲル「大丈夫かい?」サスサス

シンジ「……ん、うん……大丈夫……だけど」ゲホゴホ

カヲル「……」

シンジ「……」

シンジ「ほんとに?」

カヲル「ほんとに」

シンジ「そっ、かあ……いや、でもよく考えたら今まで全然彼女いなかったんだから当たり前だよね。
    なんか勝手に僕の中でカヲル君は経験豊富で女の子の扱い手慣れてるイメージがあったけど」

カヲル「幻滅させてしまったかな」

シンジ「いや別にそんなことはないよ。でも、じゃあ今の彼女とも……」

カヲル「うん。何もしてない」

シンジ「そう……」


 ―――しかし、シンジは思い出す。かつて彼と一緒にネルフの浴場に入った時のことを。

 カヲルは確かにずば抜けた美形であり、また性格も穏やか、知的で包容力があり全てにおいて自分より優っているといえよう。
 シンジ自身、そんな完璧な彼に強い憧れを感じていることも事実である。

 しかし、しかしだ。シンジとてひとりの男、健全な男子中学生であったのだ。
 カヲルに対する尊敬と憧れの中に僅かに男としての劣等感を抱いていたことも否めない。
 そしてそんな彼にただひとつ自分が勝てるものがあるとすれば――その体格。

 身長こそシンジより高いものの、少女と見紛うほどに細身で華奢なその体躯を見て、シンジは微かに希望を見出した。

 しかし……

 並んで湯船に浸かり、彼の股間に備わるアダムを初めて横目で視界に入れた時、シンジは己の考えの浅はかさを知った。

 短い……そして愚かな夢だった。
 格が違う。
 決して覆ることのない予め決められた地位――ッ!



シンジ(ありえない……なんだこの……)


シンジ(凶々しい凶器は―――!!!!)



 強者ッ…! 圧倒的強者ッッ…!!

 シンジの視界がぐにゃあと歪む。
 勝てない……同じ土俵に上がることすら許されない聖なる領域。物理的な壁。

 例えるならばそれは一輪の薔薇。美しい花弁とは裏腹に鋭い棘を持つ薔薇のように。
 そんな肉付きの薄い痩せた身体のどこにそんな最終兵器を隠し持っていたのか。

 シンジはその時、使徒との戦いの中ですら感じたことのない最大の恐怖……
 そしてかつてないほどにはっきりとした敗北をカヲルに対して感じたのであった―――



シンジ(そのカヲル君が……)

シンジ「宝の持ち腐れってこういうことを言うのかな……」ボソッ

カヲル「? なに?」

シンジ「いや、なんでもないよ」

カヲル「それで、だからどうしたものかと思ってね」

シンジ「……えっと、こんなこと聞くのもどうかと思うけど機能的にダメってわけじゃないんだよね?」

カヲル「多分。でもこのままでいるわけにもいかないだろう? 君達のことを参考にさせてもらえないかと思ってね」

シンジ「いや……うーん。でもそういうのは人それぞれだし……」

カヲル「そういうものなのかい?」

シンジ「うん。そもそも僕もアスカしか知らないから偉そうなこと言える立場じゃないし。
    そういうのは加持さんに聞くのが一番いいんじゃないかな」

カヲル「そうか……分かったよ。ありがとうシンジ君」ニコッ

シンジ「ううん、いいんだよ」ニコ

シンジ(なんで僕カヲル君とこんな話してるんだろ……)


シンジ「……」ゴクゴクゴク ←ウーロンハイ

カヲル「そんなに一気に飲んで大丈夫かい? 君、そんなに強い方じゃないだろう?」チビ… ←引き続き日本酒

シンジ「ん…うん、平気。っていうかカヲル君の話はいろいろ濃過ぎるからアルコールで中和しながらじゃないとほんと無理…」ゴクッ…

カヲル「? なんかごめんね?」

シンジ「いや、君は悪くないよ。うん」

カヲル「あ、ところで前々から聞こうと思っていたことがあるんだけど」

シンジ「うん?」

カヲル「シンジ君は結婚は考えていないの?」

シンジ「……えっ!?」

カヲル「だって今はセカンドと二人で一緒に暮らしてるんだろう?」

シンジ「う、うん、まあ……でも元々ミサトさん家で一緒に生活してた期間が長かったからあんまり同棲って感じしないんだ」

カヲル「ああ、そうか」

シンジ「あ、それで思い出した。そういえば家によく綾波が遊びに来るんだけどね。この間なんてさ……」

カヲル「うん」



 ――再びシンジ君の回想

シンジ「ただいま~」ガチャッ

レイ(猫耳メイド)「お帰りなさい、お兄様」

シンジ「……」

レイ(猫耳メイド)「……」

シンジ「……」

レイ(猫耳メイド)「……」

シンジ「……」

レイ(猫耳メイド)「……」

シンジ「……」

 ぱたん…

レイ(猫耳メイド)「閉めないで」


シンジ「……あの、綾波。その格好なに?」

レイ(猫耳メイド)「地球の未来にご奉仕するにゃん」

シンジ「聞いてる?」

レイ(猫耳メイド)「碇君が喜ぶかと思って」

シンジ「……いや、喜ぶとか喜ばないとかの問題じゃなくて」

レイ(猫耳メイド)「喜ばないの?」

シンジ「喜ぶか喜ばないかで言えば正直喜ばざるを得ないけども。得ないけれども。でもダメだよ」

レイ(猫耳メイド)「どうして?」

シンジ「今はもう僕達兄妹なんだよ。大体、僕にはアスカがいるし」

レイ(猫耳メイド)「問題ないわ。私は別に2号でも構わないもの」

シンジ「コラ、そんな言葉どこで覚えてきたの。お兄ちゃん許さないよ」

レイ(猫耳メイド)「問題ないわ。むしろ兄と妹というシチュエーションの方がいろいろ捗ると聞いたもの」

シンジ「なにそれ、誰がそんなこと言ったの」

レイ(猫耳メイド)「マギが」

シンジ「マギが!?」


シンジ「いいからとにかく着替えてきてよ。こんなとこアスカに見られたら殺されちゃうよ。僕が」

レイ(猫耳メイド)「……そう。分かったわ」





 ――5分後

レイ『着替えたわ』

シンジ「ホント? じゃあもう入っていい?」

レイ『ええ』

 ガチャッ

レイ(裸エプロン)「どう?」

シンジ「ちっくしょう、さらにグレードアップしやがった」


レイ(裸エプロン)「似合う?」ヒラッ

シンジ「だから似合うとか似合わないとかの問題じゃなくて」

レイ(裸エプロン)「似合わないの?」ショボン…

シンジ「正直ドストライクだよちくしょう。でもほんとダメだってこんなの、アスカに悪いよ」

レイ(裸エプロン)「碇君……」

シンジ「いや、そりゃ確かに綾波は可愛いよ?
    母さんのクローンとか言われても綾波は綾波で別の人間なわけだし……」

レイ(裸エプロン)「……碇君」

シンジ「そもそもアスカは短気だしワガママだし強引だし気分屋だしすぐ馬鹿とか罵倒してくるし、でもそういうとこも含めて結局僕は…」

レイ(裸エプロン)「碇君、碇君」チョンチョン

シンジ「ん?」

レイ(裸エプロン)「後ろ」

シンジ「え?」クルッ

アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」

シンジ「……おかえり、アスカ」

アスカ「ただいまシンジ」

シンジ「……」

アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」




シンジ「で、アスカは僕にどうして欲しいの? 土下座しろってのならするけど」

アスカ「じゃあしなさいよ。今すぐ」

シンジ「はい。申し訳ありませんでした」ドゲザッ!




シンジ「――ってことがあってさ」

カヲル「……シンジ君も大変だね。というか君も大概尻に敷かれてるよね」

シンジ「言わないでよ……」

カヲル「ごめんごめん」

シンジ「それにアスカの方が僕よりよっぽど稼いでるしね。
    だからとにかく結婚とかそういうのはもうちょっと仕事で結果残せるようになってからかなあ、なんて……」

カヲル「一応考えてはいるんだ」

シンジ「うん。でもなんで?」

カヲル「ほら、少し前に鈴原君と洞木さんが結婚しただろう?」

シンジ「あーなるほど」

カヲル「幸福そうな彼らを見ていたらシンジ君も早く結婚して家庭を築いた方がより幸せになれるんじゃないかと思ったんだ」

シンジ「………ねえ、カヲル君。僕も前々から言おう言おうと思ってたことがあるんだけどさ」

カヲル「なんだい?」

シンジ「そうやっていつでもなんでも僕を気遣おうとなんてしなくていいよ」

カヲル「……えっ?」

シンジ「僕だってもう子供じゃないんだからさ。やめて欲しいんだ、そういうの」

カヲル「え……迷惑、だったかい?」

シンジ「そんなわけないよ。そうじゃなくて、その……うーん」

カヲル「……」

シンジ「既にかなり酔っ払ってるから言うけどさ。僕だってカヲル君と同じなんだよ」

カヲル「同じ?」


シンジ「カヲル君は僕が幸せなら自分も嬉しいって言ってくれるけどさ。それは僕も一緒なんだ」

カヲル「……」

シンジ「僕もカヲル君がカヲル君自身の幸せを見つけてくれるのが一番嬉しいんだよ。
    だから僕のことばかり気にするのはよして欲しい」

カヲル「……」

シンジ「それに本当に君はすごく優しいけど、でももう僕はそういうものに依存するのは嫌なんだ」

カヲル「……」

シンジ「確かにアスカはカヲル君みたいに優しくはないけどさ。その分もっと違うものをたくさん教えてくれるんだ。
    出来れば僕はカヲル君ともそういう関係でいたいんだよ」

カヲル「……」

シンジ「対等でありたいんだ。……大事な友達だから」

カヲル「……」

シンジ「……」

カヲル「……」

シンジ「……」

カヲル「……」

シンジ「……」

カヲル「……」


シンジ「………いや、なんか言ってよ。こういう沈黙が一番恥ずかしいよ……」

カヲル「……」ポロッ

シンジ「!!??」ビクッ!


カヲル「…………」ポロポロポロッ

シンジ「えええええええええ、まさかのマジ泣き!? ごめん! 傷付けるつもりとかなかったんだ! ごめん!!」

カヲル「違うよシンジ君……僕は嬉しいんだ……」ボロボロッ

シンジ「えっ、それ嬉し泣きなの!?」

カヲル「ああ……君がそこまで僕のことを大切な友人だと思っていてくれたなんて」

シンジ「当たり前だよ……」

カヲル「………シンジくんっっ!!」ガバッ

シンジ「アッ――――――!!??」





シンジ「………じゃなくて!! ちょぉー、ちょっ、見てる! 周りからめちゃくちゃ変な目で見られてるから!! 離してよ!!」グイグイ

カヲル「君の気持ちはよく分かったよ。僕もこれからは自分自身の幸せを大事にしていくよ……!!」

シンジ「うん、分かったから、それはもう分かったから!!」グイグイグイ

カヲル「僕達! 幸せに! なります!!」

シンジ「おいコラ、誤解招く言い方すんな!! っていうかカヲル君も相当酔ってるよね!?」グイグイグイグイ

店員A「おめでとう」パチパチ

店員B「おめでとう」パチパチ

客のおっさん「おめでとう」パチパチ

客のお姉さん「おめでとう」パチパチ

店長「おめでとう」パチパチ

シンジ「おめでとうじゃねえよ!!!!!!」




 ・
 ・
 ・



シンジ「―――って感じでさ。結局その後酔いつぶれたカヲル君を無理矢理タクシーに乗せたりいろいろ大変だったよ」

アスカ「……あんたも災難だったわね」

シンジ「正直ここ最近で一番疲れた……」グッタリ

アスカ「はいはい、よしよし」ナデナデ

シンジ「アスカ……」

アスカ「にしても……あんたあたしのこと随分好き勝手言ってくれちゃってるわよねえ?」

シンジ「」ギクッ!

アスカ「だーれが優しくないですってぇ?」

シンジ「いや、それは事実…」

アスカ「は?」

シンジ「なんでもないです」

アスカ「絶対に許さない」

シンジ「ええ~……」

アスカ「とりあえず今すぐ愛してるって言わなきゃ殺す」

シンジ「……愛してるよアスカ」

アスカ「あと今夜は寝かさないから」ノシッ…

シンジ「……いや。いやいやいや、でも既に時間が時間だし僕かなりぐでんぐでんなんだけど~……」

アスカ「まだ若いくせに何言ってんのよ。大体明日休みでしょ」ガシッ

シンジ「……本気?」

アスカ「本気」

シンジ「ははは……」










シンジ「アッ――――――!!!!!!」



 ――終劇


ごめん、やっぱなんかいまいち納得いかないからここで打ち切る
ネタくれた人ありがとう、ごめん
他のキャラもみんな平和に暮らしてます

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