魔王の娘「お前が勇者だな」 (72)

《冒険のはじまり》

勇者(Lv.1)「今日から魔王討伐の旅の始まりか……」

勇者「……ひのきの棒でどうやればいいんだか……」ハァ

勇者「とりあえず王様が用意してくれたっていう仲間達と合流しなきゃ……」


娘(Lv.3)「……おい、そこの!」


勇者「え?」クルッ

娘「……その面構え。お前が勇者だな?」

勇者「あ、うん、そうだけど」

勇者(なんだ? この小さい子?」

娘「小さいとはなんだ!」

勇者「しまった、漏れてたか……」

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勇者「ごめんね、お嬢ちゃん」ナデナデ

娘「気安く触るな!」パシッ

勇者「おっ、と……な、なんだ一体」

娘「ええい、私はお前が勇者なのかと聞いているんだ!」

勇者「うん、そうだって言ったはずだけど……」

勇者(勇者になると固定ファンもつくのか)

娘「そうか……フフフそうか……」


娘「貴様がお父様の命を付け狙う悪党ということかァ!」ゴゴゴゴゴ


勇者「!?」

娘「私は魔王の娘!」

娘「お父様の命を狙う者が今日この日旅立つと聞いて、息の根を止めに来てやったのだ!」

娘「さあ、いま死ね! すぐ死ね!」バッ

勇者「うわっ!」ヒョイッ

娘「なっ、避け――ふぎゃっ!」ゴロゴロ

勇者「お、おい、大丈夫か?」

娘「なんで避けるんだよぉ!」

勇者「いや、まぁ。人間の本能で……」

娘「くそぉ……」

勇者「あのさ……君ほんとに魔王の娘なの?」

娘「そうだ! この角! 羽根! 尾! 目に入らないか!」フンス

勇者「うーむ確かに……」

娘「ククク、誇り高き魔族の姿に怯えて声も出ないのか」

勇者「うん……じゃあ退治しなきゃな」

娘「!?」

娘「ほ、ほう、やる気か、それでこそ勇者だなフフフ……」ビクビク

勇者「……」

娘「ど、どうした? かかってこないのか? フフフ怖いのかそうか怖かろうフフフ……」ビクビク

勇者「……やめた」

娘「ほ、ほう?」

勇者「怯えてる女の子を攻撃するのは勇者のやることじゃあないな」

娘「なにっ!? 誰が怯えているというのだこのスカタン!」

勇者「……じゃあやっぱり退治しよう」

娘「お、おう、か、かかってくるがいい……」ヘッピリ

勇者(ひのきの棒でこれだけ怯えられたら、逆にこっちが申し訳なくなるよ)

勇者「はいはい。とりあえずもう家に帰れよ。な」

娘「きっさま、武器を持っているからと調子に乗ってぇ……」

勇者「これが武器に見えるかぁ?」

娘「殴られたら痛そうであろうが!」

勇者「まぁ、確かに」

娘「――はっ!? い、いや、違うぞ! 魔王の娘である私がそんなものを恐れなど……」

勇者「はいはい……」

娘「くっ……大好きなお父様を殺めんとする憎き勇者を血祭りに上げられぬのは口惜しいが……」

娘「いいだろう……ここは退いてやろう! 戦術的撤退だ!」

勇者「はいはい、どーも。気をつけてね」

娘「後で後悔するなよぉ! 貴様ぁ!」

勇者「なんだったんだ……まったく」

勇者「……しかし、魔王の娘ねえ」

勇者「ありゃ確実に旅の最中にちょっかい出してくるな」

勇者「やれやれ……」




娘「ぬぅぅぅ……」

娘「武器を持つとは姑息な輩だ!」

娘「勇者めぇ、次こそ必ず殺す!」

娘「覚悟していろよ! フフフフフ!」

《冒険が始まって少し》

勇者(Lv.12)「今日はここらで野宿しようか」

僧侶「ええ、そうですね」

魔法使い「……異議なし」

戦士「了解だ」

勇者(僧侶、魔法使い、戦士を加えて、俺の旅もなかなか順調に進んでるな)

勇者(このまま何事もなく進めばいいんだが……)

僧侶「勇者様、それでは私と魔法使いさんはあちらにテントを立てますね」

魔法使い「……筋肉痛になりそう」

勇者「ああ、だったら俺が立てるけど」

魔法使い「さすが勇者。よっ、大統領」

僧侶「折角ですが勇者様、それでは魔法使いさんのためになりません」

魔法使い「僧侶……」

僧侶「お気持ちだけいただきますね」ニコッ

勇者「あ、ああ……」

勇者(僧侶は可愛いなあ)

戦士「……勇者」

勇者「どうした? 戦士」

戦士「お前たちと旅を初めてひと月程か」

勇者「うん」

戦士「だいぶお前も逞しくなったように思うな」

勇者「戦士に鍛えてもらったしな。それが?」

戦士「フフフ……」ジュルリ

勇者(な、なんだ、悪寒が……)

戦士「今晩は二人きりだな……」ボソッ

勇者「 」

勇者(俺の後ろの城門が大ピンチな件について)

戦士「初めはなんとヒョロい野郎だと思っていたが……」

戦士「修練を積むにつれしなやかな動きと力強さを増してきたお前は」

戦士「俺の目にはあまりにも魅力的に映る……」

勇者「あ、そ、そうなんだ……」ビクビク

戦士「フフフ、怖いか。いやしかし全く怖いことなんてないぞ」

戦士「未知の世界への扉を開け放とう」

戦士「若さ故の劣情に身を委ねよう……」ネットリ

勇者(誰か助けt)


娘(Lv.15)「勇者ァァァァ! 見つけたァァァァァ!」バァァァンッ

娘「まったく、捕捉するのに苦労したわ!」

娘「よもやここまで生きながらえていようとはな!」

娘「だがこの手で貴様の息の根を止められるのだ、喜ばしいことではある!」

娘「ククク……フハハハハハ!」

勇者「お、お前は……!」

戦士「なんだ貴様は!」

娘「あぁ? なんだ貴様こそ。筋肉ダルマめ」

戦士「筋肉だるまだと? 最高の褒め言葉をありがとう」

娘「う、うむ……なんだこいつ?」

勇者「お、俺の仲間だ……いちおう」

娘「そうか。まあ一人殺すのも二人殺すのもそう変わりあるまい」

勇者「お前……」

娘「どうした。恐ろしいか? 怖いか? フフフ、泣け、喚け。貴様の悲痛な叫びが我が心の乾きを癒すのだ」

勇者「……背、少し伸びた?」

娘「ん? ククク、そうだ! 伸びたのだ! 好き嫌いせずにピーマンも食べたからな!」

勇者「ピーマン嫌いなんだ……」

娘「フフフ、あれおいしくない」

勇者「まあ気持ちはわかる」

娘「であろう? ……って違うわ! なんで貴様と世間話をせねばならんのだ!」

娘「勇者……貴様を殺す! 今日、ここで!」

勇者「お断りします!」

娘「ガタガタ言わずに素直に殺されろ」

勇者「嫌だって」

戦士「勇者、こいつは一体なんなんだ?」

勇者「あー……まあ、俺のファンみたいな……」

娘「誰がファンだ」

戦士「……女。女か。汚らわしい生き物だ。女など」

娘「ほ、ほう……」ビクッ

勇者「そ、そう……」ビクッ

戦士「俺の邪魔を良くも……よくも……」ゴゴゴゴゴ

娘「ひっ――!」

娘「たったすけろ勇者」

勇者「いやむしろ俺が助けて欲しい俺の城門の危機なんだよ!」

娘「ゴタゴタ抜かすなやばいあいつ目がマジだぞ」

勇者「俺もそう思う!」

戦士「お前を殺し、勇者の城門を俺の破城槌で……グフフ」

勇者「お願い助けて」ガクガク

娘「え、ええい、勇者よりあっちの方が怖いってどういうことだ」ガクガク

娘「だ、だが貴様を生かしておけばいずれお父様に仇なすのは必至……」ガクガク

娘「まずは、き、貴様から死ね! き、筋肉ダルマっ!」

戦士「死ねぇ女ァ!」バッ

娘「うわぁぁぁファイアーボールぅぅぅぅ!」バッ

戦士「ぬおっ! 魔防の低い俺にっ! これはっ!?」


戦士「 ぬ ふ ぅ 」バタッ


勇者「や、やった……?」

娘「ひ、ひぃ……こわい……」

戦士「ところがどっk」スクッ

勇者「うわぁぁぁサンダーボルトぉぉぉぉ!」バッ

娘「わ、私もサンダーボルトぉぉぉぉ!」バッ

戦士「なにっ!? 魔法の重ねがけ、これはっ……ぬふぅっ!?」バタッ

勇者「や、やったか!?」

娘「や、やったと思う……」

勇者「そ、そうか……」ヘタッ

娘「うむ……」ヘタッ

勇者「……あ、あの、とりあえず助かった。ほんと」

娘「い、いや……貴様のサンダーボルトがなければおそらく削りきれなかった……うん」

勇者「……俺、とりあえず僧侶に蘇生頼んでくるから……」

娘「そ、そうか……私は帰る」

勇者「うん、それがいいと思う。……気をつけて。てか、ありがとう」

娘「うむ、まあ、恩に着るのだな……」

勇者「……」

娘「どうした」

勇者「いや……なんか憎めないやつだなあと思って……」

娘「阿呆め……とびかく今日は帰る。明日からこの私に怯えて眠れぬ夜を過ごすがいい」

娘「フフフ……撤退だ」バッ

>>19
訂正

娘「阿呆め……とにかく今日は帰る。明日からこの私に怯えて眠れぬ夜を過ごすがいい」

《冒険にも慣れてきたぞ!》

勇者(Lv.30)「だいぶ実力もついてきた感じがあるなぁ」

戦士「ああ、そうだな。どうだ勇者、今夜」

勇者「サンダーボルt」

戦士「冗談だよ冗談、ハハハ……はぁ……」

勇者(俺たちパーティ一行は強欲王と渾名される男が統治する街にやってきている)

勇者(強欲王、ねえ……)

勇者(そういえば、最近魔王の娘を見ていない)

勇者(まああいつも色々忙しいんだろう。たぶん)

勇者(魔王の娘ってことは一応魔族の姫さんってことだもんな)

勇者(……色気もなにもないけど)

戦士「ふーむ、しかし僧侶と魔法使いが遅いな」

勇者「え? ああ……そういえばそうだな。教会に行くとか言ってなかったっけ」

戦士「そのはずだが、もう戻ってきてもおかしくないのではないか?」

勇者「確かに……」

勇者「……強欲王の街だしなあ。嫌な予感がするぞ」

戦士「なるほど。強欲王に捕まっているのではないか、と」

勇者「二人とも綺麗どころだし、確かに男としては魅力を感じざるを得ないよ」

戦士「そうか?」

勇者「お前はそうかもしれないけど」

戦士「強欲王に捕まっているのならばそれはそれで好都合だが……」ボソッ

勇者「サンダーb」

戦士「今すぐ情報収集に行こう! 仲間だからな!」

勇者「まったく……」

街の人「綺麗な僧侶さんと魔法使いの姉ちゃんならうちの領主さまの兵士が連れて行ったのを見たぜ」

勇者「やっぱりか……」

戦士「よくあることなのか?」

街の人「まぁな……。なんたって強欲王様だからな。気に入った女の子を無理やり屋敷に連れ込んでるよ」ボソッ

勇者「助けに行かなくちゃ」

街の人「本気かい? 強欲王様は私兵をたくさん抱えてるんだぜ?」

戦士「フフフ、何のことはないな」

勇者「ああ、その通りだ」

街の人「あんたたち……いったい?」

勇者「行こう、戦士」

戦士「ああ、どこまでもついてくぜ、お前の尻を追いかけてな」キリッ

勇者「サンダーボルt」

戦士「すまん」

勇者「どけえ!」バシッ

戦士「おらおらァっ!」ガシッ

私兵A「ぬわーっ!」

私兵B「な、なんだこいつら!」

勇者「どこだ! どこにいるんだ僧侶たちは!」

戦士「勇者、この部屋はどうだ!」

勇者「よし、突入!」バッ

勇者「僧侶! 魔法使い! いるか!?」

僧侶「あっ、勇者様!?」

魔法使い「勇者……」

戦士「やはりとっ捕まっていたか」

僧侶「申し訳ございません……虚を突かれて……」

魔法使い「不覚……」

勇者「無事だな?」

僧侶「はい、私たちは……」

戦士「その言いっぷりは……」

魔法使い「私たちより先に捕まってた娘がついさっき……連れて行かれた」

勇者「助けに行ってくる!」バッ

僧侶「あっ勇者様!」

娘(Lv.35)「く……不覚だ……。よもや魔封じの腕輪を持っていようとはな」

強欲王「グフフ……ぼくちん魔族の娘も大好きだからね……ぐふふ」

娘「その忌々しい腕輪さえなければ……貴様などに好き勝手にはされないものを……!」

強欲王「あぁその強気なの最高。そんな娘組み敷くのってほんとにマーベラス」ワキワキ

娘「くっ……寄るな、下郎! うぅ、嫌だ……畜生めぇ……」ウルッ

強欲王「ぐふふふふふ……涙舐め取っちゃお……」

娘「ひっ……」


バンッ!


勇者「強欲王! ここにいるんだな!」

強欲王「あぁ~ん?」クルッ

娘「ひっ、ぁ……勇者……?」

勇者「……あれ、見ないと思ったら……お前、なんで捕まってんの?」

娘「貴様に先回りしてこの街を訪れたらあろうことかこの下衆の手に落ちたのだ!」

娘「こいつ魔封じの腕輪を持っていて魔法が効かん! そのせいで!」

勇者「ああ、そう……てかお前、見ないうちに……」

娘「あぁ? なんだ?」

勇者「……いや、なんかすごいスタイル良くなってない?」

娘「思春期だからな」

勇者「そういう問題なのか……?」

娘「そうだ。私の下着とお父様のパンツ、一緒に洗濯はされたくないぞ」

勇者「魔王ってパンツ履いてんだ。……てかお父様大好き娘がどうしたんだいったい」

娘「色々あるのだ、私にも」

娘「だいたいお父様は過保護なのだ!」

娘「私が何をしていようと私の勝手であろう!」

娘「私が貴様の命を付け狙うのはひとえにお父様のためなのに!」

娘「ああなんか思い出したらイライラしてきた」

勇者「いや、でもさ、魔王が心配する気持ちもわからなくはないよ」

強欲王「……ねえ」

娘「なんだ貴様勇者の癖して魔王の肩を持つのか? ええ?」

勇者「だって魔王が危惧してたのってまさしく今みたいな状況だろ」

娘「……それ、は、そうだが……」

強欲王「あのさ、ちょっと……?」

勇者「もうちょっと落ち着いて行動したほうがいいんじゃないか」

娘「うるさいうるさい!」

勇者「色気は出てきても中身は子供のままか……そりゃ危なっかしくて心配にもなるわな」

娘「黙れ黙れぇい!」


強欲王「ねえちょっと何ぼくちんのこと無視してんの!?」

勇者「え? なんだよいたのか強欲王」

強欲王「お前さっきぼくちんのこと探してきたんじゃなかったの!?」

勇者「いや、そうなんだけど……てかいつまでその粗末なもの晒してんの」

強欲王「そ、そまつ……」

娘「そうだそうだ、言ってやれ言ってやれ」

勇者「調子に乗るな」ポカッ

娘「きゃっ! な、何をするのだ! 貴様人がふん縛られているのをいいことに!」

娘「はっ――!? まさか貴様まで私の操を狙って……くっ、やはり人間という生き物は!」

勇者「なわけあるか、バカ」ポカッ

娘「に、二度もぶったぁ!」

勇者「ぶってないでしょーが!」

強欲王「だから無視すんなよオイ!」

勇者「え? なんだよいたのか強欲王」

強欲王「無限ループかよ! お前が誰だか知らないけど、ぼくちんの聖剣を愚弄した罪はその命で償ってもらっちゃうよん! ぐふふ!」

強欲王「かもーん、ぼくちんの兵士たち!」

勇者「あ、ごめん俺が全部倒した」

強欲王「は!? ちょ、それ聞いてないんだけどぉん!?」

勇者「言ってないしな。……それより、俺の大事な仲間を傷物にしようとしてくれた罪は償ってもらうぞ」シュッ

娘「えっ……」

強欲王「ひ、ひぃっ……」ジョロッ

勇者「うわ……」

強欲王「命だけは、命だけはぁ……」スリスリ

勇者「うわ、足にひっつかないでよ気持ち悪いな!」

強欲王「なんでもしますからぁん! 命だけは助けてよぉ~ぐふふぅ~」

勇者「じゃ、じゃあ、魔封じの腕輪はいただこう。あと、ちゃんと罪を償えよ」

強欲王「はいぃん!」

娘「仲間……大事な……し、しかし私は、だな……うーむ……むむむ……」

勇者「さて、と……」バッ

娘「あ」

勇者「オッケー、これで自由に動けるな?」

娘「う、うむ……感謝するぞ」チラッ

勇者「どうした?」

娘「……いや、その……」チラッ

勇者「なんだよ」

娘「貴様がそんなふうに考えていたとは、思ってもみなかったもので……なんというか……」

娘「ふわふわするのだ。心がざわつくというか……なんなのだろう、これは」

勇者「風邪じゃないか? でも魔族も風邪ひくのか?」

娘「風邪か……なるほどな」

勇者「まぁ、何にせよ無事でよかったよ」

娘「……勇者よ。どうして貴様の命を付け狙った私にそんな台詞が吐けるのだ?」

勇者「いや、だって俺の旅が始まった時からの腐れ縁だし。一応前に助けてもらってるし」

娘「フフフ、そうか」

勇者「うん」

娘「フフフフフ、そうか」

勇者「うん。てかどうしたんだよ本当に」

娘「帰る。お父様が待っているだろうしな」

勇者「あ、そう。気をつけてな」

娘「うむ。……勇者よ、私は貴様を狙うこと、諦めたわけではないということ覚えておけ」

勇者「ああ、うん……まあ、いつものことだ」






娘「あと……今日はありがとう。助かった」

勇者「貸ひとつな」

娘「うん。それに……嬉しかった」ニコッ

勇者「お、おう……」プイッ





.

《冒険も佳境だぞ!》

勇者(Lv.50)「魔王城は暗黒大陸ってとこにあるのか」

魔法使い「常に暗雲が立ち込める魔の海域……立ち入って戻った者はいないと言われる海域を超えた先にあるらしい」

戦士「暗黒大陸か……ゾクゾクくるな」

僧侶「いったいどのような恐ろしい敵が待ち受けているのか……」

勇者「……船の準備は出来た。物資の準備もな」

戦士「ああ」

魔法使い「うん」

勇者「あとは、心の準備だけだ」

僧侶「心、ですか……」

勇者「ああ、そうだ。暗黒大陸に向かって戻ってきた者はいないと言われてる」

勇者「あそこに向かえば、もう二度とこの地には戻れないかもしれない」

勇者「だから……今一度みんなには考えをまとめて欲しいんだ」

勇者「みんながここで降りるなんて考えちゃいない。だが、戻れなくとも、後悔のないように……」

戦士「勇者……」

魔法使い「……」

僧侶「勇者様」

勇者「集合は明後日正午に、ここの港だ。それじゃ、解散」

戦士「なあ勇者」

勇者「ん?」

戦士「俺は後悔したくない……お前を抱かずに死にたくは……」

勇者「サンダー」

戦士「ですよね! でもいいんだぜ……海の男が俺を慰めてくれる……」

海の男「戦士さん……ぼくもう……」ピクピクッ

戦士「胸筋をそんなに震わせて、欲しがりめ……フッ……」

勇者(すごい世界だ)

魔法使い「知らなくていい世界」

勇者「僧侶は?」

魔法使い「教会」

勇者「魔法使いはどこかに行かないのか?」

魔法使い「うん」

勇者「後悔のないようにしてくれよ。……もちろん、戻ってくるのを諦めるわけじゃあないけど」

魔法使い「私はみんなと旅ができればそれで満足。充実した旅に後悔が生まれる余地はない」

勇者「そうか……」

魔法使い「船で寝てる」ヒラヒラ

勇者「お、おう……。俺もどっか行くかな……」

勇者(そういや魔王の娘は最近どうしてんだろう)

娘(Lv.50)「やれやれ……修行は面倒だ……」

娘「とはいえこれも勇者を倒すため!」

娘「そしてどうやらあやつはこの街にいるようではないか!」

娘「フフフ今日こそ! 今日こそは! フフフアハハハ!」


勇者「……」テクテク


娘「とかなんとか言っているうちに発見! フフフ勇者め半年ぶりか?」

勇者「……」

娘「……っ、な、なんだ……何故またもふわふわと……」ドキッ

娘「え、ええい、くそう、不意打ちは止めておいてやる」

娘「今は後をつけ、隙を見せたところを! フフフフ!」

勇者「なんとなく教会に来ちまったが……僧侶いるかな」

**

娘「なんだあの男教会などに来て。神にでも祈るつもりか? 笑わせる」

**

勇者「おーい、僧侶」

僧侶「勇者様? なぜこちらに」

勇者「いや、ああ言った手前なんだけど、手持ち無沙汰でさ」

僧侶「そうでしたか……」

勇者「邪魔じゃなかったら、教会にいさせてよ」

僧侶「邪魔なんてとんでもないです! むしろ……」

勇者「?」

**

娘「なんだ逢瀬か、阿呆らしい……」

娘「ふん……阿呆らしい……」

娘「うーむ……? 何故か気分が良くないな。あの変態の街からずっと風邪が治らん」

僧侶「実は……勇者様にお話したいことがあるのです」

勇者「え? 俺に?」

僧侶「は、はい……」

勇者(え? まさか……いや、そんなことはないだろいやいやしかし)

僧侶「勇者様……前々から、ずっと、お伝えしたかったのです……」

勇者「……う、うん」

**

娘「なんだ? 聞こえん! 聞こえんぞ全く」

娘「これでは結局このイライラが収まらんではないか……」

娘「なんだというのだ、私は一体何がどうなって……畜生め」






僧侶「……私、魔法使いさんをお慕いしております」




.

勇者「……え? あ、うん、そっか」

僧侶「はい……。あぁ、ついに言ってしまいました……」テレテレ

僧侶「ですが勇者様が目下最大のライバルですから!」

僧侶「これは宣戦布告です!」

勇者「あ、いや……大丈夫、その、俺は」

僧侶「大丈夫、とは?」

勇者「魔法使いに対してはなんとも……」

僧侶「そんな……魔法使いさんの可愛らしさがわからない、と?」

僧侶「あの気だるげな態度の中に秘めた情熱、実は誰よりも仲間思いで献身的な性格等々!」

僧侶「お時間さえいただければ私、一晩中お話できます!」

勇者「あ、いえ……結構です」

僧侶「あら、そうですか……」

僧侶「この想いは墓まで持っていく心づもりでした」

僧侶「ですが暗黒大陸に行く前に、どうしても勇者様には知っておいていただきたかったのです」

僧侶「志半ばで私が倒れようとも……私が抱えていた想いを、あなたには……」

勇者「僧侶」

僧侶「彼女には受け入れがたい感情でしょうし、勇者様に重荷を背負わせてしまうことにもなる、ですが……」

勇者「僧侶!」ガシッ

僧侶「は、はいっ!」

勇者「志半ばで倒れるなんてことはない。絶対にそうはならない。そうさせない」

勇者「だから、必ずこの想いを魔法使いに伝えるんだ。いいな」

僧侶「勇者様……」

勇者「……俺からは、それだけ」

僧侶「はい、ありがとうございます。……それでは私、街を歩いてきますね」

勇者「ああ、じゃあな」

僧侶「はい、勇者様」ペコリ

勇者「……行ったか……」

勇者「…………」

勇者「いや、まさか……そう来るとは予想外だったな……」

勇者「勘違いしてぬか喜びしかけた……うへえ」


娘「……話は終わりか?」


勇者「その声……あっ、お前! 久しぶりだな!」

娘「ああ、そうだ。久しいな勇者」

勇者「元気だったか? ……あれ? あんまり姿変わってないな」

娘「成長期は終わったのだ」

勇者「あ、そうなんだ」

勇者「父親とは仲直りしたか?」

娘「した」

勇者「そうか。……お前なんか不機嫌じゃないか?」

娘「うむ、不機嫌だ」

勇者「どうして?」

娘「わからぬ。だからこそ余計にイライラする」

勇者「つーか、さっきからずっと見てたのか?」

娘「そうだ。あれは貴様のパーティの女か?」

勇者「ああ、そうだよ、僧侶ってんだ」

娘「そうか。我ら魔族の美的感覚と人間のものとはそう変わりはない」

娘「あの娘は美しいな」

勇者「ど、どうしたんだよ急に。……確かに、綺麗だけど」

娘「なんかムカつく」

勇者「訳わかんねえよ」

娘「そうだ! 訳がわからんのだ。私はなぜこうもイライラしているのか」

娘「貴様のそばにあの女がいるのを見ていると、ムズムズする。落ち着かない」

娘「なぜだ?」

勇者「……え? それは……え?」

娘「むぅ……」

勇者「……お前」

娘「どうした」

勇者「いや、なんか……可愛いやつだなお前」ナデナデ

娘「気安く触……いや、いい、許す」

勇者「……ははは……お前、俺の命を狙うんじゃなかったのか?」

娘「そう思っていたのだが……顔を見て言葉を交わした今はそれで満足な気もする」

勇者「そっか……そうかぁ……。今もまだイライラするのか?」

娘「今はふわふわしてなんだかぽかぽかするぞ」

勇者「おー……」

娘「…………」

勇者「なぁ……」

娘「どうした」

勇者「俺、ちょっと魔王を倒す気持ちが削がれてきた」

娘「勇者失格だな」

勇者「……だよな」

娘「フフフ、まぁ、私としてはそれでも構わんがな!」

勇者「どうしたもんかねえ……」

娘「なにがだ?」

勇者「こっちの話」ナデナデ

娘「フフフ……きもちいい」

勇者「……よし、決めた」

娘「ん?」

勇者「やっぱり、貰いに行く」

娘「お父様の命をか? ……それは容認できんぞ」

勇者「いや、違う。お前を」

娘「はぁ?」

勇者「魔王の娘を娶りに行く!」

娘「ふーん、そうか。私を娶るのか……」



娘「えっ!? 私を娶るのか!?」

勇者「ああ、そうだ!」

勇者「好きになっちまった!」

勇者「お前が可愛く思えて仕方がない!」

勇者「だから娶りたい! 俺の嫁になってくれ!」

娘「えっ、いや、そのっ……どうしよう勇者、ふわふわが広がる一方だぞ!?」

勇者「暗黒大陸で待っててくれ。迎えに行く」

娘「う、うむ、待っていよう!」

娘「ふふふ! あはははは! なんだか愉快だぞ!」

《魔王城》

勇者(Lv.75)「ついにここまで来た……」

戦士「ああ、いよいよだな」

僧侶「……ええ」

魔法使い「そうだね」

勇者「……みんなに話した通りだが、俺は」

魔法使い「わかってる」

僧侶「魔王の娘さんをお嫁さんにするんですよね?」

戦士「あの時の女に絆されたとは……。まぁ、素直に祝福するけどな」

勇者「ありがとう! さあ、行こう!」

魔王「よくぞここまで来た、勇者よ」

勇者「お前が魔王……いえ、あなたが……」

魔王「ん?」

勇者「……お義父さま!」

魔王「は? え? なにそのイントネーション」

勇者「娘さんを僕にください!」

魔王「えっ? えっなにそれワシ聞いてない」

娘(Lv.75)「勇者! 来たか! 待っていたぞ!」

勇者「娘! お前、それっ……」

娘「どうだ、側近に聞いて人間の作法を学んだのだ!」

娘「ウェディングドレスだ! 綺麗か?」

勇者「ああ、すごく!」

娘「フフフそうだろう。お前も戦いを経て随分と逞しくなったぞ」

勇者「ありがとう」

娘「……と、いうわけでお父様。私は勇者の嫁になることを決めました」

魔王「いや、だから……」

娘「思えばお父様討伐の命を受けた勇者を殺すべく姿を現したのが出会いであった」

戦士「次は俺と勇者の前に現れて初めての共同作業だったな」

魔法使い「次は強欲王の街で、私たちと一緒に捕まってた。そして勇者に助けられて」

僧侶「大陸に来る前の街で、勇者様と思いを通わせあったんですね」

魔王「5回しか逢ってないだろ!」

勇者「量より質です」

娘「私が勇者を愛していることに変わりはないのです、お父様」

娘「いいではないですか、義理の息子が勇者だなんて、父親冥利に尽きますよ」

魔王「ええ、そうかなぁ」

魔法使い「そうそう、きっとそう」

僧侶「聞けば魔王様は息子が欲しかったとか」

魔王「まぁねえ、跡継ぎってやっぱり男の子だしね……」

戦士「勇者はいい男ですよ。俺がかつて恋焦がれていた男ですから」

魔王「うーん、そうなの……?」

勇者「必ず、娘さんを幸せにしてみせます」

魔王「まあ……確かにこの娘嫁の貰い手が見つかんないってのはあったけどねえ……」

魔王「でもなぁ……」

娘「お父様、孫ができたらそれはそれは可愛いらしいですよ」

魔王「あー、それ聞いたことあるけど……」

魔王「ちょっと待て、まさか勇者お前」

勇者「いえ、それはご心配なく。まだ頭を撫でたことくらいまでしかありません」

娘「プラトニックラブを貫いていますから」

魔王「へえ、今日日感心だねえ……ふーん……そっかぁ……」

勇者「お義父さん!」

魔王「じゃあさぁ、あれ言わせてよ。魔王っぽく」

勇者「ええ、それはいくらでも、お義父さんの気のすむまで!」

魔王「じゃあ……」




魔王「よくきたな! 勇者よ!」

魔王「我が娘を……貴様にやろう!」



勇者「ありがとうございます!」

娘「お父様、ありがとう!」

戦士「おめでとう!」

僧侶「おめでとう!」

魔法使い「おめでとう!」

勇者「娘、愛してるぞ!」

娘「ああ、私もだ!」



魔王の娘「お前が勇者だな」 完

なんでこうなったんだ?
お付き合いいただきありがとうございました

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