浪人娘「やりたいことがありますからね」 女「へぇー」 (15)

女「バス来ないね」
浪人娘「えっ、あ、そうですね」
女「あっ、そう言えば先月あたりのことなんだけどね」
浪人娘「…」
女「確かにまだ一個残っていたのよ。クッキーが
それなのに玄関まで荷物を取りにいってる間に消えたんだ
不思議と思わない?」
浪人娘「自分で食べたのを忘れただけじゃないんですか
でいうか、なぜ見も知らないあんたの愚痴をわたしが聴かなきゃいけないですか
こっちの方が不思議ですよ」
女「食べてないよ
それだと理不尽じゃない、食べたのに覚えてないんなんで」
浪人娘「知りませんよ」
女「だからわたしはこう思うことにしたの
家に住み着いている妖精やら座敷わらしやらがその間に盗んでいったってね
微笑ましいでしょう」
浪人娘「…」


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女「まあ、そんなわけないっていうのは昨日気づいたんだけど
引っ越しの準備をしていたらね
タンスの裏から乾いたマリモみたいのが出てきたのよ」
浪人娘「見つけられてよかったじゃないですか
食べました?」
女「食べるわけないじゃん、うちのハムちゃんにあげたんだ」
浪人娘「…うわぁ」
女「そしたら、今朝檻の中で冷たくなってた…」
浪人娘「ヘイ!タクシィー!」
女「待って、待って、嘘よ
ハムスターなんで飼ってません」
浪人娘「もーう、なんなんっすかあんたは
わたし、ひまじゃないんですけど!」
女「浪人生でしょう?」
浪人娘「な、なんでことをいうんですか!?
わ、わたしのどこが浪人生に見えるです?」

女「やっぱりそうじゃない」
浪人娘「違いますから!」
女「わかった、そういうことにしておいてあげる
で、ここからが本題ね」
浪人娘「今までの時間を返してください」
女「わたし、家賃滞納しすぎて追い出されちゃった
だから、居候させて?」
浪人娘「タクシー!タクシィー!」
女「待って!これを見て!」
浪人娘「…入学式、T大!?
う、映ってるのあんたじゃないんですか!?」
女「お姉さんこう見えてT大の卒業生だからね」
浪人娘「嘘だっ!T大にこんなふしだらな人がいるわけない!」
女「なんでいうかね
卒業したのはいいけど、働きたくないなぁーって半年ぐらい家でごろごろしてたら
親に見捨てられて、仕送りストップされちゃった」
浪人娘「ざまあないですね」
女「きみも食べていくのが精いっぱいで予備校とかに行くお金がないでしょう」
浪人娘「なんでわかるんですか…」
女「T卒の観察力を侮らないてよ」
浪人娘「いや、実家に帰ればいつでも衣食住に困らない生活に戻れるですけどね
ただ、それだと実家から通える大学にしか行かせてくれないんです。両親が」

女「だから都会で一人暮ししてるの?」
浪人娘「はい…」
女「生活費も自分で稼いで?」
浪人娘「うん」
女「提案よ、わたしをきみの家に居候させてくれたら
無償で家庭教師をやってあげる
T大脳を独り占めできるチャンスね」
浪人娘「…」
女「わるくないと思うよ」
浪人娘「わかりました、しばらく様子を見させてもらいます」
女「やった!それじゃ行こう
タクシー、タクシー」
浪人娘「なんにやってるんですか
タクシーに乗りお金なんてあるわけないでしょ
徒歩ですよ」
女「…」

女「わたしたちは大変だね
両親に見捨てられて」
浪人娘「一緒にしないでください
わたしは自分の意思で家を出たんです
あなたの場合は自業自得です。どう考えても」
女「きついことを言わないでよ
しかし、きみの親は変わり者だ
娘に行きたい大学があるのなら行かせればいいのに」
浪人娘「過保護なんですよ
自宅から通える所じゃないと不安みたいで」
女「なら今の一人暮し、絶対させてくれていないと思うけど」
浪人娘「家出当然のように逃げ出したんです」
女「えー、探しにこない?」
浪人娘「見つけられそうになって何回も引っ越しました」
女「うーん、ずっとそうするつもりなの?
今はいいけど、入学したらどうする?学費とか」
浪人娘「合格しちゃえばこっちのものです
そのときになればさすがに援助してくれますよ」
女「大変なんだね」
浪人娘「んー、やりたいことがありますからね
それほどでも」

浪人娘「着きました」

女「…(狭っ)」

浪人娘「なんか不満そうですね」

女「いえいえ、滅相もない」

浪人娘「いやならいつでも言ってください
すぐにでも追い出しますから」

女「ひどいなぁ、それより、晩ごはんはなんに?」

浪人娘「鍋です」



女「はぁー、おなかいっぱいだ
満足、満足」

浪人娘「まだくつろがないでください、片付けるのを手伝ってもらいますから」

女「暖かいー
やっぱりこたつって偉大だね」

浪人娘「…」

女「おっと、金曜ロードショー
やった!ジブリだ」

浪人娘「…」

女「ラピタかぁー
わたしはハウルの方が好きなんだけどなあ
きみは?」

浪人娘「…バルスッ!」

女「痛っい!」

浪人娘「それじゃあ電気、消します」

女「ね、わたしの寝床は?」

浪人娘「え、そこですよ」

女「それはこたつなんだけど」

浪人娘「いいじゃないですか
温かいこたつの中でぬくぬく寝れて」

女「遠慮します
きみにこのポジションをゆずってあげる」

浪人娘「いやです
硬い床の上なんかで寝れるわけないじゃないですか」

女「わたしも床の上で寝たくないよ
でいうか、ふつうベッドはお客さんにゆずるものだと思うけどなー」

浪人娘「あなたは客じゃなくで、居候です
文句があるのなら出ていてください
おやすみなさい」


浪人娘「はっ!?」

女「すぅーすぅー」

浪人娘「…う、うぎゃー!」

女「あうっ!痛っ」

浪人娘「なに抱きついてんです!?
い、いや、その前になに潜り込んで来てんっすか!?」

女「だって昼前はツンツンしてるのに寝顔がかわいいんだから、そのギャップについ萌えちゃった」

浪人娘「意味わかんないです
はやく離してください!」

女「小ちゃいんだね
厚着してたときはわからなかったけど
ホント小さい、おっぱいとか」

浪人娘「う、ううっさいわ!
どこ触っでんです!い、ひゃっ!」

女「わっ、敏感」

浪人娘「ひ、ひ、あひゃ、あはははは!
や、やめ、く、くすぐったい!ははは
息、息が
やめて、ください!!」

女「生意気な口をきくからそのお返しよ」

浪人娘「やめ、い、いいかげんしろ!!」

女「痛い!ぼ、暴力はやめてよ」

浪人娘「なんで結局同じベッドで寝ることになってるんですか…」

女「布団から追い出したらまだ太もも、くすぐるからね」

浪人娘「…居候のくせに」

女「なんか言った?」

浪人娘「な、なんでもないです」

女「ん、じゃあおいで」

浪人娘「はい?」

女「抱きつかせて」

浪人娘「させるか!犬かなんかじゃないですから、わたしは!」

女「こちょこちょ…」

浪人娘「っ…」

女「ぎゅぎゅ、かわいいなあ、本当に」

浪人娘「…」

女「わたし、上下男二人に挟まれで育ったんだ
だからずっと妹が欲しくてね」

浪人娘「うるさい、寝させてください」

女「願が叶った気分だよ」

浪人娘「あんたの妹なんかごめんです」

女「素直じゃないんだから
…ねぇ、つらかった?」

浪人娘「なにがですか?」

女「寂しかったでしょう
頼るべきはずの家族から一人で逃げ続けて」

浪人娘「…どうしたんです?いきなり」

女「きみを連れ戻すことしか考えていない人たちにはきみが頑張っているということがわからないんだ」

浪人娘「…」

女「認めてもらって、わかってもらいたかったでしょう
今まで一人でよく頑張ったね
きみは正しいよ、なにも間違っていない
わたしが保証してあげる」

浪人娘「……い、居候がよくいいますね」

女「あれ、おかしいなぁ
わたしの胸に顔をうずめて泣き出すと思ってたのに」

浪人娘「zzzz」

女「えいっ」

浪人娘「ひっ!」

女「ねぇー、タバコ返してよー」

浪人娘「嫌です!副流煙で頭悪くなりそうです
吸うなら外で吸ってください」

女「やーだよ、外雪降ってるし、寒いし
かえしてっばー」


浪人娘「嫌って言ってるでしょう、追いかけないでください!」

女「ぎゃっ!・・・小指がぁー」

浪人娘「ほら、だから言ったんじゃないですか
わたしは知りませんよ
こんな狭い部屋で追いかけてくるあなたが悪いんですから」

女「うぅ・・・」

浪人娘「・・た、タバコを奪ってのは悪いと思ってますよ
でも・・・
だ、大丈夫ですか」

女「うぅ・・、うりゃー!」

浪人娘「ひぃっーー!」

女「はっはっ、捕まえた・・・
うんー、君の悪いところは騙されやすいっことだね
少しは人を疑うことを覚えたほうがいいよー
おねえちゃん心配してならないよ」

浪人娘「人間の最大の武器は習慣と信頼です」

女「わぉ、いいこと言うのね」

浪人娘「好きな小説の受け売りですよ」

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