千早「嘘」 (19)

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春香の気持ちは、知っていた


それでも私は、春香を愛する


そして今日も


私は、喘ぐのだ

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「千早ちゃん」

世間の慌ただしさも落ち着いた、一月の終わりごろ

物が少なく、ただっぴろいダイニング

その中央で二人寄り添い、手を重ねる

「今年は千早ちゃんも何かしようよ」


春香が見せる、雑誌の特集記事

"今年のバレンタインに勝つ方法"

「いえ、遠慮しておくわ」

「春香以外、渡す相手もいないもの」

「そ、そっか……えへへ…」

軽く俯き、パラパラとページを進める

春香の耳が赤くなった


しばらくの無言、二人雑誌を眺める

角が折られた、手作りチョコのページ

「やっぱり春香は手作り?」

「あ、うん、そうだよ!」

張り切って、記事を捲る


「ガトーショコラもいいなー」

「あ、でも、生チョコも…」

「あ、それとね?」


「今年は響ちゃんと一緒に作るんだー!」

ずきり、刺さる言葉


「響ちゃんちにお邪魔してねー?一緒に作ろうかなーって!」

楽しそうにページをめくる春香

春香と重ねた手をきゅっと、握る

「それで、千早ちゃんも一緒にって、思って」


「春香」

「んー?何?千早ちゃ…っ!……ん…」


春香を抱き寄せ、唇を奪った

春香は驚きつつも、目を閉じた

そのまま優しく床に押し倒し、春香の上に覆いかぶさる


「千早ちゃん…?」

私の影に入る春香

私の頬に手を添え、撫でる

そっと柔らかく、春香は微笑む


「大丈夫だよ」


「私は、どこにもいかないから」


「私は千早ちゃんが、好きだから」



  嘘


  だって春香は



  我那覇さんのことが


  好きなんでしょう?



言えない

そんなこと

「ありがとう、春香」

だから、笑顔を作る


「チョコレート、楽しみにしてるわ」

そんな気持ちを上塗るように


もう一度優しく、甘い唇を舐めた


今日も私は喘ぐ
甘ったるい部屋の中で

今日も私は蜜を舐める
脳内にまで染み渡らせる

今日も私は蜜を垂らす
みっともなく、汚らしく


今日も私はあなたを愛す
今日もあなたは、空を見上げた
大空に浮かぶ太陽に、首を傾げた

―――――――――――――――――――

春香の気持ちは、知っていた
春香が本当は、私のことなど見ていないという事
春香が本当に好きなのは、我那覇さんだという事
それでも私は、春香を愛する
私に向けられる愛が、偽りだと知っていても
決して表に出さず、気づかぬ振りを
そして今日も


私は、喘ぐのだ

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おわり

pixivにもまとめたのでよろしければ
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4914887

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