響「さみしいぞ、プロデューサー、」 (264)
クリスマス一色に染まる並木道
電灯を背に、行き交う男女の組を眺める
雪は降っていないものの、冷たい風が顔を刺す
ふと、一人の男が目に入る
男女のペアに混じって、独り、肩で息をしている
膝に手を当て、息を整えながら、顔を上げると
周りを見渡し、こちらに目を留める
ニコリ、笑顔を見せた
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1392048558
【響×P】自分は今、プロデューサーに「恋」をしている
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389719970
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3303355
の続きみたいな感じです
書き溜めきってないんでのんびりペースであげてきます
ほろほろと大粒の雪が降り始める
イルミネーションと重なり、幻想的な雰囲気を醸す
積もった雪を踏みしめながら、男が近づく
残り5メートル、ぎゅむりぎゅむりと足音が大きくなる
待ちきれず、駆ける
傘を開いて差し出すと、遅い、と一言だけ告げる
男は傘を受け取る
悪い、と一言
淡々としたやり取りだが、二人の顔には笑みが零れる
男の胸に飛び込み、顔を埋める
男は彼女をしっかり受け止め、空いている左手で頭をなでる
寒さのせいか、お互いに鼻から耳まで赤い
右手と左手を絡め、歩き始める
幸せそうなカップル
ふいに女の子が、男を見上げるようにして言う
私の隣にいた人、テレビで見たこと無い?
チクリ、心にまた、針が刺さる
相合い傘で去っていく男女を見届け、頭に積もった雪を払う
電灯の周りは、自分だけになる
そんな中、ただひたすら待つ
来るのかどうかも、わからない人を
「仕事が終わったら、あの公園で」
今日の朝送ったメール
返信は、まだこない
会いたい、とは書けなかった
それは約束を破ることのような気がしたから
でも
クリスマスくらい、一緒にいたいぞ、、
呟きは誰の耳にも留まらず、白い息となって消える
自分は、彼が好きだ
彼もまた、私が好き
驕りではない
あの夜、互いに確認し合った
何度も、何度も、思いをぶつけた
けれど、付き合ってはいない
それは自分がアイドルで、彼がプロデューサーだから
思いを確認し合ったあの日、一つ約束をした
「響がトップアイドルになるまでは、アイドルとプロデューサーのままで」
それから数週間後のクリスマス
二人の関係はあの日のまま変わらない
キスも、手をつないだことすらない
付き合っていないのだから、当然と言えば当然なのだが、
最近は、目に見えてスキンシップが減っている気がする
頭、撫でてくれなくなったな、、
頭に降り積もる雪を払いながら思う
プロデューサーも、自分と同じ気持ちなんだよね?
降り続ける雪と寒さが、考えを悪い方へ持っていく
プロデューサー、、
自分のこと、もう、好きじゃないのかな、、
自然と頭が垂れる
他に好きな人とか、出来たのかな
そうなっても、トップアイドルでない自分に、文句は言えない
付き合っていないのは、事実だから
さみしい
届かないと知っていても、口に出さずにいられなかった
そうしないと、溢れてしまいそうだった
プロデューサー、、、
さみしいぞ、プロデューサー、、、
やはり、その呟きは白い息となり、再び宙に儚く散った
今日は一旦このくらいで
また明日からちびちび上げてきます
SS初心者なので前作の感想とかでももらえたら嬉しいです
━━━━━━━━━
思えば、今日は朝からついていなかった
俺は通常、朝は5時に起きる
そして支度し、6時30分に家を出発
6時50分発の電車に乗り、20分後最寄り駅にて降車
7時30分に事務所に到着する
完璧なスケジューリング
しかし"通常"ということは、同時に"異常"な事態も存在するということである
異常事態、例外、神様のきまぐれ、たまたま偶然奇跡的に
言い方は多々あろうが、今回がそのような事態であることは確かである
つまりは何が言いたいのかと言えば、
寝坊した
この一言に尽きる
いつになく清々しい気分で起床した俺は、
時間を確認するために枕元の携帯電話をパキリとあける
そこに写るのは待ち受けにしている自分の担当アイドルの写真と現在時刻、
ではなく、寝起きの冴えない男の顔だった
のろのろと頭が回転を始める
"画面がつかない=電源が入っていない"の方程式を無意識に完成させ、電源ボタンを長押しする
長押しする、し続ける、より大きな力を加える
画面どころかLEDが点滅する様子もない
ああそうか、電池が切れてるのか
なら、電源が入るわけはないな、充電しないと
いや、でも充電用の端子は接続されている
ああ、コンセントが抜けていたのか
そういえば昨日の夜、掃除機をかけたんだった
じゃあコンセントにそのまま刺せばいいんだな
充電器をコンセントに差し込む
と同時に気づく、とても怖ろしい、重大なこと
待て、俺は今どうやって起きた
徐々に、頭の回転が速くなる
俺はアラームの音を聞いたか、いや聞いていない
体の表面が冷めていく
聞けるはずがない、俺は携帯電話にアラームをセットしているのだから
顔から、血の気が引いていくのを感じる
電池切れの携帯電話から、アラームは鳴らない、ならば、、、
心を、絶望感が埋め尽くす
今、、何時だ、、?
日の短い冬の日であるにも関わらず、外では太陽が完全に顔を出していた
朝食も取らずに家を駆け出る
早朝からのスケジュールが入っていなかったのは、不幸中の幸いだった
しかし、貧乏事務所といえども、今日は天下のクリスマスイブ
午後からはびっしりと予定が詰まっている
事務所に到着したのは10時
もちろん出社時刻など、とうに過ぎ去っている
ドアノブを握り、頭の中でシュミレートする
3秒ほどの間の後、目を開けるが
分かったことは、間違いなく怒られる、ということだけだった
減給されることまで覚悟した上で、手首を捻る
開いたドアの隙間に体を滑り込ませると同時に、声を張り、頭を下げる
返ってくる怒声に体を強ばらせる
ハズだった
返ってきたのは怒声ではなく、真逆
とても朗らかな、明るい声だった
あっ!おはようございますっ!
優しさと明るさ、その二つを併せ持つ
その声の持ち主は
プロデューサーさんっ!
765プロダクション所属アイドル
天海春香だった
今日はこの辺でおやすみなさいします
また明日にでもー
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「あれ、、?春香、、だけか、、?」
「はい!天海春香、お留守番中ですっ!」
「他の人は?社長とか、音無さんとか」
「えーと、社長は分かりませんけど、小鳥さんはそこで寝てます」
「音無さん!?何があったんだ?」
「私が来たときは起きてたんですけど、とても具合が悪いみたいで」
「ああ、そういえば昨日社長と飲みに行くって、、二日酔いか、、」
「はい、なので多分、社長も、、」
「今日は休み、、かな?」
「そうですね、あはは、、」
「と言うことは、今日は俺と律子の二人で頑張らないといけないわけだ」
「はい、、あ、そうだ律子さん!」
「何だ?律子が、どうしたんだ?」
「えっと、、プロデューサーさん、何か、、忘れてませんか、、?」
「忘れてるって、、何が?今日は午前中の予定は、、」
「さっきまでここに、いたんです」
「律子さんと、、美希が」
「あ」
「今日の美希のイベントの担当、プロデューサーさんだったんですよね?」
「そうだ、すっかり忘れてた、、決まったの昨日だったからな、、」
「ふふっ、律子さん言ってましたよ~、これで貸し一つですからねって」
「うわぁぁ、、、」
「大丈夫ですよ!そんなに怒ってませんでしたから」
「いやでもなぁ」
「第一、社長と小鳥さんなんて、二日酔いじゃないですか」
「そうだけど、、」
「いっつも私達の為に頑張ってくれてるんですから!初遅刻ですし、許してくれますよ!」
「そうか、、ありがとうな、春香、すこし元気出たよ」
「いえいえ、元気が一番ですよっ!プロデューサーさんっ!」
「ああ、そうだな」
「ふふっ」
「おっとそうだ、携帯を充電しないと、、」
「あ、それで電話が通じなかったんですか、律子さんが何回か電話したんですけど、」
「コンセントが抜けててな、おかげで寝過ごしたよ」
「あはは、私もよくやっちゃいます、それ」
「俺は初めてだったけどな、、、あれ?でもなんで、春香は事務所に?」
「え?あ!そうでしたすっかり忘れてました!」
「午前中は何もない、、よな?」
「はい、でも、プロデューサーに用があって」
「何だ?俺に?」
「はい!えっと、プロデューサーさん、今日は何の日か、わかりますよね?」
「クリスマス、、イブか?それと雪歩の誕生日だな」
「はい、だから私、またお菓子作ってきたんです!」
「お菓子?」
「クリスマスプレゼントですよっ!プロデューサーさん!はいっ!」
「おお!すまないな、春香、後でいただくよ」
「いえいえ、あと、冷蔵庫に雪歩へのケーキも」
「ああ、わかった、雪歩にわたしておくからな」
「お願いします!」
「なるほどな、だから朝早くからいたのか、午後は俺事務所にほとんどいないし」
「本当は、雪歩にも直接渡したかったんですけど、」
「まあ、忙しいのは良いことだけどな」
「そうですよね、、あ、それでこれは、美希からです」
「美希から?」
「中に、手紙も入ってるみたいですよ」
「手紙?」
「朝、ミキが渡すのーって、ギリギリまでいたんですけど、、」
「あーなるほど、、」
「最後は手紙を書いてから、律子さんに引きずられてっちゃいましたよ」
「そうか、、本当にすまなかったな、遅刻なんか、、」
「だから大丈夫ですって!」
「そうか、?じゃあ、あとで電話でもしてやるか、、」
「ふふっ、きっと喜びますよ」
「だといいけどな、、」
「、、それで、あの、、プロデューサーさん、」
「ん?」
「あと、、一つだけ、聞きたいことが、、」
「聞きたいこと?」
「はい、あの、プロデューサーさん、」
「響ちゃんと、、その、、」
「つ、付き合って、るんです、、か?」
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あれ?春香だ、どうしたの?こんな時間に
少し薄暗い、早朝の事務所
ここにいるのは私、律子さん、小鳥さん、
そして美希が、おはようなのーと入ってきた
今日はまだ、仕事の時間じゃないよね?
うん、私は、ちょっとプロデューサーさんに用があって
あ!もしかして春香も、ハニーにクリスマスプレゼント?
的中
こういう時の美希はとても鋭い
本当に頭の中を読まれているかのように思わせられる
嘘をついても仕方がないので、素直に肯定する
もっとも、膝に乗せている紙袋のせいで、誰の目から見てもバレバレなのだが
そっかぁ、美希の目線が膝上の袋に移る
春香のことだから、、またお菓子?
ふふっ、せーかいっ!みんなの分もあるよ!
ミキが顔がぱあっと輝く
袋の中からさらに小さな袋を取り出し、美希に渡す
ありがとうなの!そう言って隣に座り、早速クッキーをサクリ、顔を綻ばせる
やっぱり春香の作るお菓子は最高なの!
照れる、美希は嘘なんてつかないから、尚更
サクリサクリと、あっという間に袋が空になる
とってもおいしかったよ!いつもありがとうね、春香!
この笑顔を見れるだけでも、作ってきたかいがあるというものだ
私のお菓子で事務所が、皆が笑顔になる
こんなにも嬉しいことは無い
照れ隠しに、美希に聞く
美希は、プロデューサーさんに何を渡すの?
美希の顔が、陰った
満面の笑みが、自虐的なものに変わっていく
どうしたのだろう
何か失礼なことを言ってしまっただろうか
でも、美希の喜びそうな話題を選んだつもりだったのに
手元の何も入っていない袋を見つめ、美希は答える
ミキね、迷ってるの、プレゼント、渡すかどうか
それは、意外な返答だった
美希はいつも、プロデューサーさんへの好意を隠そうともしない
自分も美希みたいに素直になれたら
幾度となく、考えたこと
その美希が、迷ってる、、?
ど、どうして、?
思ったことがそのまま口に出る
だって、ミキ、負けちゃったし
負けた?誰に?何を?
美希が負けることなんて、あるのだろうか
お世辞ではなく、心からそう思う
しかし、美希が嘘をついているようには思えない
ふいに、美希が視線を上げる
視線の先には、小鳥さんを叱りながら寝かしつける律子さん
こちらのやり取りは聞こえていない
美希につられて、そちらに目をやっていると、美希が急に立ち上がった
つかつかと給湯室へ向かうと、こちらを振り向き、手招きをする
春香、内緒話、、しよ?
そう言って、給湯室に消えた
ミキ、気づいたの、適わないって
シンクに寄りかかりながら、美希が話す
ミキね、自信、あったんだ
手元の空袋が、くしゃくしゃと音を鳴らす
ぜったい、ハニーをミキのにするんだーって
折りたたまれ、開かれ、また折りたたまれる、袋を見つめる
誰にも渡さない、ミキだけのハニーなんだーって
誰にも、負けたくないし、負けないって
でもね、
くしゃり、一際大きな音が鳴る
ミキ、ハニーのあんな笑顔、見たことなかったの
美希の顔は、変わらない
さっきと同じ、自虐的な笑み
ミキが見るハニーはね、いつも、笑ってたの
朝、おはようって言うときも、
後ろからぎゅーってしたときも、
ハニーに、好きだよ、って言ったときも
いつも同じ、「笑顔」
それで、言われるの、「からかうんじゃない」って
初めは、それでもよかったの、相手にしてもらえなくても
それでも、一番近くにいるのはミキなんだって、思えたから
でも、それだけだったの
ハニーが見てるのは、近くにいるミキじゃ、なかった
美希が初めて、こちらを見る
ハニーは、ずーっと、響を、、
その目には、涙が溜まっていた
震える声で、続ける
あは、ばかみたい、だよね
笑った拍子に、すっと一筋、雫が頬を伝う
ミキはね、ただ、ハニーの近くにいただけ、だったの
近くにいれぱ、いつか本気になってくれるって、信じて
ハニーは、ミキのことなんて、見てなかったのにね
そんなこと、、
そうでしょ?だって、ちがうもん、ミキに向ける笑顔と、響への、笑顔
美希が少し、声を荒げる
ハニーのあんな顔、ミキ、見たことないもん
だから、思ったの、ミキにはできない
響には、勝てないって
自分を落ち着かせるためか、再び視線を袋に戻す
そして再び、口を開いた
ぴちょん、シンクで水滴が跳ねる
美希は、私に全て話してくれた
雪歩と響の会話を聞いてしまったこと
その後、響とプロデューサーさんを二人っきりにしたこと
プロデューサーさんのことが、本当に大好きだった、ということ
時々間を挟みながらも、内緒話は全部、聞いた
本当は、わかってたの、ミキは、ハニーを困らせてるだけだって
でも、怖かったの、そのことを、理解するのが
だから、近づいて、アピールを続けて、
無理なんだって理解することから、ずっと、逃げてたの
でも、あの日
響の言葉を、響の、真剣な気持ちを聞いた、あの時
ミキね、響に、ちゃんと気持ちを伝えなきゃだめだよって、言ったの
逃げちゃ、だめだよって
言ってからすぐ気づいたの
ああ、これはミキに言ってるんだなって
答えを出すことから逃げてるのは、ミキも、同じだったの
あの時は、何で響に助け舟を出したのか、自分でも、わからなかった
けど、たぶんそれは、ミキ自身のため
ミキが、ハニーのことを本当に諦めるため、だったの
ハニーが見ているのは響だけっていうことを認めること
それが、
ミキが出した、答えだったの
今日はこの辺で失礼いたしやす
また明日の朝か夜にでも
少し赤くなった目は、しっかりとこちらを見つめる
何も、言えなかった
美希の迫力に押されたということもあるが、それだけじゃない
美希の気持ちが、痛いほど、伝わってきたから
届かない恋
その恋の重さを、辛さを、私も知っていたから
美希の口から出る一言一言が、私の心に突き刺さるようだった
そっかあ、、そうだったんだね、、
美希はただ、頷く
美希、、辛かったね、、
そんなことないの、大丈夫なの、と首を振る
しかし、その言葉に力はない
だから、迷ってるの?プレゼント、渡すかどうか
美希は首を縦に振る
響ちゃんが、いるから?
もう一度、こくり
何も言わないまま、頷く
響ちゃんに、何か言われた?
プロデューサーは私と付き合ってるから、って
今度は横に首を振る
響には、あの後のことは聞いてないの
でも、、
美希の表情が曇る
間違い無いの、好き同士、お似合いのカップルなの
美希は言う、しかし、
このままじゃ、駄目
このままじゃ、きっと美希は、、
覚悟を、決めた
でも美希、確かめたわけじゃ、ないんだよね?
美希は、答えを確かめる前に、諦めちゃうの?
美希と目が合う
先ほどの陰鬱としたものと違う、鋭い目線が刺さる
答えなんて、わかってるよ!響には、勝てないの!
響ちゃんは関係ない!
思わず声を張った
このままじゃ美希は、いつか、必ず後悔する
美希が顔を上げる
大事なのは、美希がどうしたいか、でしょ?
逃げる言い訳に、人を使っちゃ、駄目だ
そんなの、わかってるの!ミキだって、、
でも!ハニーは、響しか見てないの!
ミキがプレゼント渡したって、またいつもと同じなの!
だから、諦めるの?そんなの、美希らしくない
ミキらしいって何?春香には、ミキの気持ちなんてわかんない!
わかるよ!!
辺りがしんとする
遠くから、律子さんが小鳥さんを怒る声が聞こえる
わかるよ、、
私も、同じだもん
春香、、?
美希が私の顔をのぞき込む
どうして、、泣いてるの、、?
、、え?
知らぬ間に、涙が頬を伝っていた
あ、えっと、ごめんね、大丈夫だから、、あはは、、
慌ててハンカチを目元に当てる
どうしたの?春香、、ごめんね?ミキ、強く、言い過ぎたの、、
美希が、しゅんとする
あ、違うの、あの、美希のせいじゃなくて、、
私も、美希と、同じ、だったから、、
春香も、、?どういうこと?
えと、私も、ね?その、片思い、、だったから、、
もしかして、春香も、ハニーのこと、、?
、、うん、それで私も、悩んで、それで、、諦めたの
今の、美希みたいに
美希はじっと、私の目を見つめる
真っ直ぐな瞳
でもね、ずっと、痛いの
胸の、ここのところが
他の人を好きになった今でも、ずっと
それで、考えるの
もし、あの時諦めなかったら
もしかしたら、違う今があったのかなって
ちゃんとフられてたら、この痛みは無かったのかなって
毎日、毎日、、
だからね、美希には、そんな思い、して欲しくないの
後悔なんて、して欲しくない
再び、静寂
やばいぜ書き溜めがもう切れるぜ
とりあえず今日はここまでで
たぶん次で書き溜めてある春香編終わります
響、、早く出したいなぁ、、タイトル詐欺になってまう、、
そっか、、春香、ごめんね
美希が沈黙を破り、口を開く
わかってないのは、ミキだったの
ミキ、ちゃんと伝えるね、後悔、しないように
にこり、最初とは違う、お菓子を食べたときのような微笑み
春香、ありがとうなの、話、聞いてくれて
そ、そんな!私は何も、、
でも、嬉しいなぁ、美希がまた笑ってくれて
さっきも笑ってたの!
全然、笑えてなかったよー、ふふっ
アハハッ、、なんだか、春香って、花みたいなの
花?あの、咲く、花?もしかして、さっきの、響ちゃんが太陽っていう?
そうなの、春香はみんなに笑顔を届けるの
お菓子とか、変なところで転んだりとか、あと、、お菓子とか!
お菓子、二回言ったよー
そのくらい春香のお菓子はおいしいの!
ふふっ、ありがとうございますっ
とにかく!春香を見てると、春香が近くにいると、皆、笑顔になるの!
だから、春香はお花なの、お花の周りには笑顔が溢れるの
腕をぶんぶん振って力説する
そっか、花かあ、、なんか、恥ずかしいけど、美希、ありがとう
どういたしましてなの!
それで、貴音はお月様なの!美希が熱弁していると、
あなた達、こんなところに居たの?
律子さんが、美希を呼びに来た
内緒話、なの!
美希の言葉に首を傾げる
小鳥さんは、大丈夫なんですか?
寝かしつけてきたわ、、全く、社長まで巻き込んで、、
深いため息をつく
で、でも、事務所に来てるだけまだ、、
あんなんじゃ、居てもいなくても同じでしょう?
(律子、さんは"鬼"、なの)
私にだけ聞こえる声で美希が呟く
思わず吹き出しかける、が、あることに気付く
あれ?そういえば、プロデューサーさんは、まだなんですか?
それが、電話が繋がらないのよ、、事故とかじゃないといいけど、、
ええーっ!じゃあ、ミキのお仕事は!?
律子さんは腕時計を眺め、少し間を置く
、、私が行くしかないわね、ま、午前中はこれだけだし、大丈夫でしょ
いーやーなーのー!ミキ、ハニーにプレゼント渡すの!
しょーがないでしょ!仕事ほっぽり出す訳にもいかないでしょうに
美希、私が渡しておこうか?
むー、、でも、ちゃんと伝えたいの
じゃあ、手紙を書く、、とか、、?
っ!!名案なの!さすが春香なの!
美希がどたばたと部屋を出ていく
はぁーっ、全く小鳥さんといいプロデューサーといい、、
でも、どうしたんでしょうね、遅刻なんて、、もしかしたら、初めてじゃないですか?
確かにそうねえ、、じゃあまあ、今回のことは一つ貸しってことで、許してあげましょうか
いつも私たちのために頑張ってくれてますからね!
そうね、じゃあ春香、事務所の留守番、頼んでもいいかしら
はいっ!任せてください!
あと、小鳥さんの看病も
は、はい、、
そう言って律子さんも部屋を出る
一瞬、律子さんの背に鬼の面が見えたのは気のせいだろう
春香ーよろしくなのー
遠くからミキの悲痛な叫びが聞こえる
がちゃん、部屋に一人、残される
椅子に座り、ほっと一息つく
そして先ほどの会話を、思い出す
美希は、あの嘘、気付いたかなぁ、、
私はあのやり取りの中で、一つだけ、
嘘をついていた
鞄の中からバイブ音がする、美希だ
携帯を取り出し、新着メッセージを開く
━━━━━━━━━━━━
from:美希
title:ミキの話を聞いてくれて
------------
本当にありがとうなの!あ
と少し話すのが遅れてたら
ウソ、ついてたの、、自分
に。ハニーを好きなことわ
すれられる訳ないのに、ミ
キ、それをどうにかして見
ないようにしてたの。ミキ
の好きな人はハニー、それ
はずっと変わらないこと。
だから、春香にはいつかお
れいするの!じゃあね!!
☆MIKI☆
━━━━━━━━━━━━
やっぱり美希、鋭いなぁ
メール画面を消し、リダイヤルをかける
ダイヤル音が鳴り、やがて、、カチャ
"もしもし春香?どうしたの?"
やっぱり、忘れられない
痛い、胸のここのところが、ずっと
"なにか忘れ物でも、、春香?"
ズキン、ズキンと痛みが広がる
ごめんね、理由もなく謝罪の言葉が口から零れる
"春香、どうしたの?ごめんって、なんで、"
彼女と話すと、その痛みはますます激しくなる
"春香?、、どうして泣いているの、、?"
ごめん、、ごめんね、、
、、千早ちゃん
美希の言うとおりだ、
私は、花
ただ徒に太陽に向かい、手を伸ばす
それが、届くことは無いと知っていても
太陽無しに生きることはできない
そんな、みっともない花だ
ちょっと転んで、悲しくなっただけ、そう誤魔化して電話を切る
意外と涙もろいなあ、私
そんなことを考えながら、天井を見上げる
プロデューサーさんと響ちゃん
そんなの、美希じゃなくてもわかるよ
見せつけられてる、こっちの気持ちにも、なってよ
自虐的な笑みを浮かべる
さっきの美希の言葉を借りるなら、
こう、言えばいいのかな
私ね、
響ちゃんのこと、
大、大、大好き、、だったよ
言ってから、我に返る
顔が熱い、何を言っているんだ、私は
ずるいよ、プロデューサーさん
火照った顔で呟く
ずるいよ、、
あの笑顔を、独り占めできるんだもん
響ちゃんが、プロデューサーさんに向ける笑顔
その笑顔が、こちらに向けられることは無い
ぽたり、床に雫が落ちる
一つ、二つ、ぽたり、ぽたり
千早ちゃん、、ごめんね、、
私、まだ、、ね
きっと、、諦めきれて、、ないんだ、、
震える声で、呟く、届くことは無いと知っていても
そして、届かないで欲しいと、願いながらも
だから、、こんなに、痛いんだ
自らの心臓に手を重ね、ぐっと力を込める
服に皺が寄る、しかし、罪悪感は変わらず痛む
再び呟く、今度は、届いて欲しいと願いながら
ごめんね、、千早ちゃん
私ね、、響ちゃんが、
好き
その呟きは、溢れた涙と思いは
誰にも、届くことは無かった
復活してるーでもそんなに書き溜めてないー
またのんびりお願いします
━━━━━━━━━━
はぁ!?響と、プ、プロデューサーが?!
今、言わない方がよかったかもしれない
そう気づいたのは言ってしまった後
メールを打ちながらだったから、気がそちらの方にとんでいた
車が左右に振れる
で、でも、まだわからないの
まだ、本人に確かめてないし
あと、り、律子、さん!ちゃんと前向いて欲しいの!
前方車との衝突寸前に、律子がブレーキをかける
前屈みになったのち、二人、安堵の溜め息
送信ボタンを押して、落ち着いてから律子に話す
まだ、つき合ってるか、とか、そういうのはわからないの
ただ、ミキは二人っきりにしてあげただけなの
二人っきりって、、そんなの、決定打に決まってるじゃない
確かに、ミキも、そう思ってた、さっきまでは
でも、ハニーと響、それから、そんなに変わった様子はないの
だからミキ、二人はまだ、付き合ってないと思うな
半分は、そうあって欲しい、というただの期待なのだが
そんなの、隠してるだけかもしれないじゃないの
すかさず、律子の反論、でも
うん、そうかもね、でもミキ、それでも良いかなって、思うんだ
駐車するために後方確認していた律子が、こちらを見る
響になら、ハニーを安心して任せられるの
律子が、鼻で笑う
ま、あんたよりはね
むー!ひどいの!
車を降り、現場に合流する
イベントの最中、響のことが頭に浮かぶ
元気で、明るく、かわいい
そんな響に告白されて、断る人などいるのだろうか
でも、以前と二人の関係が変わっていないように見えるのは本当だ
むしろ、ハニーから響へのスキンシップは減っている気がする
告白、しなかった、、?
いや、でも、小鳥が次の日の朝、怒ってた
朝になるまで打ち合わせしてるなんて、って
ということは、朝まで一緒にいたんだ、二人で
、、、告白どころでは済まない気もしてきた
じゃあ、何なんだろう、この違和感は
一人、悶々とする
美希!
響の、呼ぶ声がする
おーい、美希ー!
駄目だ、幻聴まで聞こえてきた
一度頭を整理して、仕事に集中しなければ
頭を振り、頬を叩き、目をキリと上げる
、、あれ?
幻聴が消えない、さらには幻覚まで見えてきた
何で、、?
それもそのはず
それは初めから、幻覚でも幻聴でもなく
響が、ここに?
我那覇響本人が、そこに立っていた
すいませんまだ続きそうです
グダグダな感じですが、見てくださる方いらっしゃったらありがとうございます
━━━━━━━━━━
じゃあ、まだ、ハニーとは付き合ってないの?
パイプ椅子に座る美希が聞く
スポンサー企業のドリンクを手に持ち
自分を質問攻めにする
でも、告白、したんだよね?
それで、お互い好き同士ってわかったんだよね?
犬美との散歩の最中、ステージに立つ美希が目に入った
それで、裏へまわって律子と合流したのだが、、
じゃあ、なんですぐに付き合わないの?
まさか、こんな事になるとは思わなかった
あの夜のことを聞かれることは覚悟していたが
これでは、質問"責め"だ
それは、そうなんだけど、、
矢継ぎ早に繰り出される美希の質問
しどろもどろに、答える
自分は、アイドルだから、、
パイプ椅子と長机が数脚並ぶ、イベント会場の控室
ここには、自分と美希しかいない
律子は挨拶に行ってしまった
スキャンダルとか、大変だからって、、
ハニーが、言ったの?
こくりと頷く
美希は背もたれに体を預け、少し考える
そして再び前屈みになり、口を開く
でも、響はそれでいいの?
じっとこちらを見つめる
純粋な瞳、思わず、目を背ける
プロデューサーと、付き合う
今以上の関係になること
恋人同士に、なること
自分も、プロデューサーとそんな関係になれたらと、そう思っていた
だけど
付き合い、たいよ、自分、プロデューサーのこと、大好きだから
手とかつないだり、二人で一緒に歩いたり、したい、、
だったら、、
でも!、、それ以上に、プロデューサーに迷惑、かけたくないんだ
マスコミに知られて、自分が傷つくだけならいい
でも、その時は間違いなく、プロデューサーも叩かれる
ファンからアイドルを奪った悪人として、記事を書かれる
自分のわがままで、プロデューサーが傷つく
そんなのは、絶対にいやだ
だから、この気持ちは、我慢しないといけないんだ
プロデューサーが、、好きだから
また、椅子にもたれ、天を仰ぐ美希
所々錆びた椅子が、ぎしりと音を立てる
天井に向かい、ぼそり
なんだか、ハニーも同じこと言いそうなの
そう呟き、質問の嵐が止む、ほっと一息
手持無沙汰に、携帯を開く
何気なく眺める、着信履歴、つらつらと765プロのアイドルの名が並ぶ
その中に、プロデューサーの名前は、見当たらない
プロデューサーと、最後に仕事以外の話をしたのは、いつだったか
パキリ、ため息と共に画面を閉じる
でも、最近はプロデューサーもなんだか、よそよそしいし、
美希の隣に座り、心の内を吐く
もう、、プロデューサーは、自分のことなんて、
その後に続く言葉は、美希の声に掻き消される
それはないの
ぎしり、椅子の軋む音と、はっきりとした否定の言葉
美希は真っ直ぐ、前を見据える
ミキ、不思議だったの
何で付き合ってるはずなのに、ハニーは響を避けるんだろうって
でも、その約束があったから、なんだね
美希が顔をこちらに向ける
やわらかい、笑顔
ハニーはきっと、約束、
守れないって、考えたの
、、は?何を言っているんだ?
一瞬、時間が止まる
プロデューサーはもう、自分のこと、待てなくなったって、ことか?
うん、でも、いい意味で、だよ?
きっとこのままじゃ、我慢できなくなるって、思ったんだよ
響が、好きすぎるから、これ以上は、いけないって
それに、両思いだなんてわかったら、普通我慢なんて出来ないの
だから、あえて離れて、気にしないようにしてるんだと思うな
プロデューサーも、、?
プロデューサーも、自分と同じ気持ちなの?
だから、あんなによそよそしいの?
自分は、安心しても、いいの?
いや、でも
でも、、それは、、
それは、憶測にすぎない
プロデューサーとのコミュニケーションが少なくなったことは、事実
もっと、最悪のパターンだって、、有り得る
言いよどむ自分に、美希の、美希なりの激励
んーもう!でもじゃないの!
どう考えてもハニーは響の事しか考えてないの!
体ごとこちらに向き直り、手を伸ばす
響!携帯、かして?
え?
手から携帯をもぎ取り、何かを打ち込んでいく
美希は何もしゃべらない
部屋にはボタンの操作音だけ
カチカチ音が止み、美希の顔が一気に近づく
はい!あとは響次第なの!
メールの新規作成画面か眼前に差し出される
宛先欄には、知らないアドレス
これ、ハニーの携帯アドレスなの
プロデューサーの?それなら、自分も知っているはず
そう聞くと、仕事用じゃない方、なの!美希は付け加える
ミキ、ハニーが携帯を、二つ持ってることは知ってたから、
ついこないだこっそり、その携帯からミキの携帯に、メール送っておいたの!
その言葉に、少し、むっとする
プロデューサーの私用アドレスなんて、自分も知らないのに
ふつふつと、嫉妬心が湧く
しかしその気持ちは、すぐに塗り替えられる
そのアドレスの末尾には
これ、、自分の、、
自分の名前と、誕生日が入っていた
ハニーが響の事キライになるなんて、そんなのありえないの
だいたいその携帯の待ち受けだって、響の写真だったの
ハニーの担当は響だけじゃないのに!そう言い、頬を膨らます
プロデューサーは、まだ、自分のこと、、
心が、暖かくなる
嬉しい、自分が好きな人が自分のことを、思ってくれている
それだけで、こんなにも、安心できる
響、今日はクリスマスイブなんだよ?
今日くらい、今日、一日くらい、ハニーだって、、
美希の言葉が後押しする
プロデューサー、まだ、信じてても、いいかな?
プロデューサーと両思いだって、思ってても、いい?
まだ、プロデューサーのこと、好きでも、、いい?
、、わかった、メール、してみる
もしかしたら、ただの迷惑になるかもしれない
でももし、プロデューサーが自分と同じ気持ちなら、クリスマスくらい、一緒に、、
突然、美希が立ち上がる
ここからでは、美希の表情は読めない
そっか、よかった、響が、諦めないでくれて
それじゃ、正々堂々には、ならないもん
顔をこちらに見せぬまま、美希は告げる
あのね、ミキ、春香に言われたの、確認する前から諦めちゃ、ダメだって
それで、響はハニーとつき合ってないんだよね?
こくりと頷く、嫌な予感、冷や汗がじわりと染みる
春香の言うとおりだったの、諦めないで、よかった
響、あのね、ミキ、ハニーのこと、まだ諦めないよ
こちらを見て、勝ち誇った笑みを浮かべる
余裕ぶってたら、ミキがハニーのこと、奪っちゃうの!りゃくだつあい、ってやつなの!
ふんすと鼻を鳴らし、部屋を出ていく
気が抜けた、椅子にどっぷりと凭れる
肺の空気が抜け、全身が脱力する
先刻、宣戦布告をしてきた恋のライバルを頭に思い浮かべる
そして、一言
本当、美希には適わないぞ
送信完了、携帯の画面を閉じた
━━━━━━━━━━
はらりはらりと降り積もる、大粒の雪
見渡す限りを白く染め上げる
美希ちゃんは言った、私のことを"雪"の様だと
雪、止まないね
傘の外に手を伸ばす
雪は手に乗り、そっと姿を消す
脆く、儚く、触ると消えてしまう、繊細な美しさ
それが私なのだと、そう言っていた
ごめんね雪歩、その、ちゃんとお祝いしてあげられなくて
私の隣を歩く、女の子
右肩を犠牲にして、私を雪から守る
知らない人からは、恋人同士に見えたりするのかな
そんな失礼なことまで、考えてしまう
右側から仄かに感じる体温に、強ばる体
本当は、今年も765プロのみんなでケーキでもって、思ってたんだけど、、
彼女は本当に申し訳無さそうに、私に話す
みんなで集まれなくても、祝ってくれるだけでとっても、嬉しいよ
そう返すと、彼女は笑顔を見せる
そう言ってくれると、助かるよ
あ、そうだこれ、雪歩にプレゼント
彼女は、優しい
どんなに些細な事でも、自分の事のように喜んでくれる
改めて、誕生日おめでとう、雪歩
私のデビューが決まったときも、舞台の出演が決まったときも
舞台かぁ、すごいなあ、僕もお姫様役とか、、
私と千早ちゃんのユニットが、決定したときも
主題歌の"little match girl"も僕、好きだなあ
いつも、一番に祝ってくれた
「雪歩、頑張ったね」
「すごいよ、雪歩」
「おめでとう、雪歩」
彼女の言葉は、私の心を暖かく溶かし
「雪歩、千早とのユニット、頑張ってね」
私の溶け出した心に切り傷を残した
わかっていた、この優しさは、私だけに向けられるものでは無いと
彼女にとって私はただ、同じ事務所のアイドルであるだけだと
でも、期待してしまっていた
彼女にとって私が、特別な存在であることを
千早とじゃなく、僕とユニットを組んでよ
そう、彼女が言ってくれることを
そんなことは、あるはずが無いのに
本当は僕が、雪歩とユニット組みたかったんだけど
、、え?
耳を疑う
でも今回の曲は、僕より千早の方が合ってるって、律子に言われちゃって、、
真ちゃんはやっぱり、真ちゃんだ
誰よりも優しい、私の王子様
、、ってあれ?どうかしたの?雪歩、にやけてるけど、僕の顔、何かついてる?
どうしても、顔が弛んでしまう
嬉しい、嬉しい
ううん、なんでもない、よ
えっと、真ちゃん、
手、繋いでも、、いい?
彼女は二つ返事で手を差し出す
なんだか変な雪歩、そう言って笑う
今なら、言える
私ね、真ちゃんのこと、好き
じっと、彼女の目を見つめる
右手に力がこもる
にこり、彼女はまた、笑った
僕も雪歩のこと、大好きだよ
どくん、体が熱くなる
どくん、どくん、早くなる鼓動
雪歩は僕にとって、掛け替えのない大切な
友達だよ
ああ、違った
私の気持ちは、伝わっていなかった
すーっと血液が頭から降りていく
満面の笑みを返す真ちゃん
likeとloveの違いを説明する気力も、勇気も、私には残っていない
ため息を一つ、伝わらない気持ちとはこうも辛いものなのか
でも、わかった、この気持ちは必ずしも一方通行では無いことが
僅かでも可能性は、残っていることが
じゃあ、もう少しだけ、期待しててもいいかな?
隣で脳天気に笑う彼女に、心の中で確認する
次は、ちゃんと伝えるから、私の気持ちを
雪歩、手、痛いんだけど
そう訴える彼女の手を、より強く握る
真ちゃんへの怒りと、宣戦布告の意を込めて
そういえば、響ちゃんはどうだったのだろうか
数週間前の出来事を思い出す
あの後、ちゃんと気持ち、伝えられたのかな
私と、違って、、
今し方の自分を思い返し、胃のあたりがずんと落ち込むのを感じる
今度は私が話、聞いてもらわないとかな
響ちゃんと、美希ちゃんに
私が好きなのは真ちゃん、なんて言ったら、どう思うかな
きっと驚く、普通、有り得ないもの
二人の驚いた顔が思い浮かぶ、美希ちゃんは気づいていそうだけど
でもね、どうしようもないの
私の右手を握る、彼女の左手の暖かさが
背景の白に映える、きれいな黒髪が
凛として整った顔立ちが、可愛らしい内面が
真ちゃんの全てが、どうしようもなく、好き
同性だからとか、彼女の顔立ちが男の子らしいからとか、そんな事は関係無い
真ちゃんだから、真ちゃんが、好き
雪歩?どうかしたの?
真ちゃんが、こちらをのぞき込む
少し考え込んでしまっていた
だ、大丈夫、なんでもないよ
考えていた内容が内容なだけに、少し焦る
そうとも知らず、私に微笑みを返す真ちゃん
思わず、目を奪われる
かっこいい
こんなことを言うと、真ちゃんは怒るんだろうけど
真ちゃんと過ごす、クリスマスの夜
こんなにも素敵なクリスマスプレゼントは、他に無い
こんな日くらい、響ちゃんとプロデューサーも二人で、、え?
、、あれ?あそこにいるのって、、
不意に、真ちゃんが歩みを止める
その視線の先には
響?
響ちゃん?
電灯の前で、手を擦り暖をとる、響ちゃんの姿があった
もしかして、プロデューサーと待ち合わせ?
でもプロデューサーはまだ、事務所に、、
駆け出そうとする真ちゃんを制止し、携帯を開く
プロデューサーは約束を忘れているのだろうか
嫌な予感、名前がなかなか見つからない
やっとの事で見つけ出した数字の羅列
携帯を耳元に、電灯の前で震える響ちゃんを見る
頭の上にまで雪が積もっているのに、付近に足跡は見当たらない
一体、何時間ここに?
少なくとも、響ちゃんの仕事がすべて終わったのは4時間ほど前のはず
私にプレゼントを渡してすぐ、用事があるとかで事務所を出て行ったのを覚えている
まさかそれから、ずっと、、?
背中を冷たいものが走る
早く、早く、早く、、
無機質な呼び出し音が、余計気分を焦らせる
もしもし?雪歩か?
数コール後、電話から聞こえてきたプロデューサーの声
何か、忘れ物でもしたか?
その声は、なんとも間の抜けた、いつもの、いつも通りのプロデューサーの声だった
今回の分はここまでです
まだ見てくださっている方がいらっしゃれば長くお待たせして申し訳ないです
またこれから書き溜めに入るので、
その間前作や今回ここまでの感想、アドバイスなど何でもお聞かせ願えると嬉しいです
ちなみに話的にはやっと最終章に入った感じです、たぶん
これからの自分のテンションで伸びる可能性はあります、申し訳ない
━━━━━━━━━━
ヴー、、ヴー、、
どこからか、振動音が聞こえる
ヴー、、ヴー、、
うるさい、鼓膜から脳へ、ズキンズキンと音が響く
枕元を探り、何回か手を空振らせてから、ここがソファの上であると把握する
暖かい、体には毛布が掛けられていた
音は鳴り止んだようだ
まだ、頭痛がひどい、吐き気も、少し
目をこすり、時計を見る
もう、夜と言ってもいい時間
ごろんと、ソファの上で仰向けになる
蛍光灯の光が目にしみる
ごめんなさい、、
昨晩から今朝までの自分を思い出す
みんなに、迷惑、かけちゃった、、
頭の中が申し訳の無さでいっぱいになる
頭痛が響く度に、みっともないという思いが増す
"こんなになるまで飲むなんて"
朝、律子さんにそう言われた
自分でも驚いた、いつもは二日酔いといっても、多少の頭痛が残る程度だったのに
こんなに酷い状態になったのは初めてだった
やっぱり、ショックだったのかな
その原因はすぐに浮かんだ
気にしてないつもり、だったんだけど
数日前のこと、プロデューサーさんに頼まれごとをした
"買い物に付き合って貰えませんか?"
勿論、すぐに快諾した
プロデューサーさんと、プライベートで会う
プロデューサーさんと、買い物に行く
週末が、楽しみだった
待ち合わせ場所に着いたのは私が先だった
一度、深呼吸する
思い切って纏った香水の香り、いつもとは違う自分にドキドキする
数分後、離れたところにきょろきょろと辺りを見回すプロデューサーさんが見えた
手を振ってみる、気づいたようだ
小走りでこちらへ向かってくる
プロデューサーさんは
いつもの、スーツ姿だった
"女の子へのプレゼントなんですけど、何が良いのかわからなくて"
私服姿の自分が、酷く惨めに思えた
もしかして、彼女さんへのクリスマスプレゼントですか?
冗談半分に聞く
"彼女ではないんですけど、、はい"
照れくさそうに、笑う
ああ、私はなんて馬鹿なんだろう
彼に何を期待していたのだろう
よくよく考えればわかることだ
浮かれていた自分を、絞め殺したくなる
任せてください!最高のプレゼント、選びましょうね!
プロデューサーさんは笑みを見せる
"ありがとうございます"
とっておきの営業スマイルが、こんな所で役立つとは思わなかった
その日は一日中、地に足が着いていないようだった
プロデューサーさんは結局、ペアのマグカップを選んだ
お礼に、と夕食をご馳走してもらった
プロデューサーさん曰く、"最近見つけた、良い地酒をおく居酒屋"だったらしい
駅前で解散し、一人夜道を歩く
自分の部屋に着き、そのままベットに倒れ込む
机の上の香水と、その空き箱が目に入る
朝方の自分を思い出し、口元が緩んだ
その姿が余りにも、滑稽だったから
何を期待、してたのかな、、
零れた涙はきっと、お酒のせいだ
次の日の夜、社長に飲みに誘われ、飲み明かし、今に至る
社長もだいぶ飲んでたけど、、大丈夫かな、、
頭痛に顔をしかめ、腕を乗せて額を冷やす
改めて、プロデューサーさんのことを考える
私は、プロデューサーさんに恋慕の感情を抱いていたわけではない
確かに、付き合いたくないと言えば、嘘になる、とんでもない大嘘
しかし、彼のことを愛していたから、こんな気持ちになったのではない
ただ、どうしようもなく腹が立ったのだ
勿論プロデューサーさんにではない、自分自身に、だ
買い物に誘われたことをデートだと勘違いし、浮かれきっていた自分に
あわよくば、向こうから告白されるんゃないかと妄想していた自分に
年下のプロデューサーさんには愛すべき人がいるというのに、
未だに独り身でいる惨めな自分に
どうしようもなく、腹が立った
だめだなあ、あたし、、
もう、何年も独り身だったはずなのに
身近な人に彼女がいるとわかった途端、孤独感が洪水のように心を覆う
背中に風が通るような感覚、誰かにぎゅっと、抱きしめてもらいたい
弱いなあ、寂しさに負けてしまうそんな自分が、悲しくなる
袖に涙が少し滲む
プロデューサーさん、、
ぽつり、呟いた
どうしました?
驚いた、思わず変な声が漏れる
額から腕を跳ね除ける
プロデューサーさんが私をのぞき込んでいた
、、泣いてるんですか、、?
みられた
あ、ち、違います!起きたばかりで!えっと、あの!すみませんでした!
わたわたと身なりを整え、今日のことについて、謝罪の弁を述べる
必死に頭を下げる私を見て、プロデューサーさんも慌てる
そんな、顔をあげてください!俺だって謝ってもらう資格ないですから!
え?顔を上げる
実は俺も今日、寝坊しちゃって、、
ばつの悪そうな顔で頬を掻く
それで、具合、大丈夫ですか?
あ、はい、朝よりはだいぶ楽に
そうですか、よかった、これ、冷たいお茶です
すいません、、ありがとうございます
いえいえ、こういう時はお互い様ですよ
ソファから起き上がり、湯呑を受け取る
掌にじんわりと冷たさが広がる、気持ちいい
プロデューサーさんは向かいに座り、自分のお茶を啜る
あの、今日は、本当に、、
あーっと、そんなに謝らないで下さいよ、大丈夫ですから
でも、皆に迷惑かけちゃいましたし、、
忙しかったのは午後だけでしたから、事務所もさっき雪歩と真が帰ったので、後は俺達だけですよ
それでこんなに静かだったのか、改めて気づく
それに、俺も音無さんに謝らないといけないことがあるんです
え?
この間一緒に選んでもらったプレゼント、今日渡そうと思ってたんです
表情が少し、暗くなる
でも昨日の夜、持って行く前に確認しようとしたら、、落として、しまって、、
渡せなくなっちゃいました、頭に手を当て、笑う
そう、、なんですか、、
せっかく選ぶのを手伝ってもらったのに、、すいません
私は何も、、残念、ですね、
はい、、でも、渡すって約束してた訳じゃなかったので、また今度買い物に付き合ってもらえると、嬉しいです
そう、なんですか?そういえばあのとき、"付き合ってないけど"って、、
あ、はい、言いましたね
それって、どういう意味なんですか?
えっと、それは、、朝、春香にも聞かれたんですけど、
プロデューサーさんは、その言葉の意味を話す
彼女と、そういう約束をしたんです
なるほど、理解した
トップアイドルなら恋愛可など、納得は出来ないところはあったが、理解はした
でも、一つだけ確認したいことが
その約束をした担当アイドルって、響ちゃん、ですよね?
プロデューサーさんは驚いた顔を見せる、それから、照れたような笑顔
春香にも言われたんですけど、、わかりやすい、ですかね?
やっぱり、響ちゃんか
はい、それはもう、バレバレですよ
それで、か、、
だから最近、プロデューサーさんが響ちゃんを避けている様に見えたのか
でも、それでは
響ちゃん、かわいそうじゃないですか、、?
アイドルとはいえ、響ちゃんはまだ、16歳の女の子
普通の恋愛を、普通に、したいはず
それは、、しょうがない、じゃないですか、マスコミに見つかったら、、
でも!だからって響ちゃんを避けちゃ、だめですよ!
それが、響ちゃんにどれだけ孤独感を与えるだろうか
想像に難くない
避けてなんか、、!
避けてます、だからバレバレだって、言ってるんです
プロデューサーさんは、言葉を詰まらせる
確かに、その関係が世間に知られるのは、よくないと思います
響ちゃんにも、プロデューサーさんにとっても
でも、響ちゃんの気持ちも、考えてあげてください
好きだと告白した相手から避けられる、両思いになったはずの、相手から
そのことが響ちゃんをどれだけ不安にさせるか、考えて下さい
なぜか、涙が溜まってくる
無意識に、響ちゃんと自分を重ね合わせていたのだろうか
境遇は、全く違うのにと、心の中で嘲る
いちゃいちゃしてください、とはいいません
でも、響ちゃんにはプロデューサーさんの気持ちも、ちゃんと伝えてあげてください
響ちゃんを、避けるんじゃなくて、受け止めてあげてください
ここまで一気に話して、お茶を啜る
プロデューサーさんは黙ったまま、机を見つめる
そして重々しく、口を開いた
避けてる、つもりは、無かったんですけど、、
避けちゃってましたか、口元でだけ、笑う
怖かったんです、響を、失うのが
もし、誤って、響と今以上の関係になってしまったら、今の関係を、壊してしまったら
そうしたら、響と、離れなければいけなくなるかもしれない
それが、怖かったんです
だから、今の関係のまま、答えを引き伸ばして、後回しにして、、
ずっとこのままで、なんて、無理なんですけどね
プロデューサーさんは顔を上げる
笑顔、でも、引きつった笑顔
だから無意識に、響を避けてたのかもしれません
誤って、手を出してしまわないように
でもそれは、響を寂しがらせてたんですね、そう思っても、いいんですよね?
頷く、日頃の響ちゃんを見てれば、わかる
ありがとうございます、音無さん、俺、響の気持ち、わかってやれてなかったみたいです
響には、俺の気持ちをちゃんと伝えます、響にも、響の気持ちを確認します
もう、響にはそんな寂しい思い、させたくありませんから
プロデューサーさんの目は、いつの間にか、力強いものに変わっていた
期間が開いてしまい申し訳ないです
取り合えず小鳥さん編書き溜め終わったので投下します
プロデューサーさんの懐から着信音が鳴り響いたのは、その直後
携帯電話を耳に当て、応答する
顔色が、変わった
どたばたと部屋を出て自分のデスクへ向かう
その様子を、陰からそっと盗み見る
デスクの上には充電ケーブルのついた携帯電話
先ほどのものとは、別のもの
ケーブルを無造作に引っこ抜き、勢いよく画面を開く
「響ちゃん、一人で待ってますよ!?」
先ほど微かに聞こえたのは、雪歩ちゃんの声だろうか
「待ってますよ」ということは、プロデューサーさんは響ちゃんと待ち合わせでもしていたのだろうか
でも、今のプロデューサーさんはそんな焦り方じゃない
まるで、そんな約束しただろうかという、自らの記憶違いを疑ってかかるような、そんな焦り
そろりそろりとデスクの前のプロデューサーさんに近づく
只事でない雰囲気に、自然と忍び足になる
携帯電話を持ったまま動かなくなったプロデューサーさん
目玉だけをせわしなく動かす
響っ、、!
その一言を絞り出し、今度はバタバタと帰り支度を始める
音無さんすいません!戸締り、お願いできますか
は、はい、それはいいんですけど、、何があったんですか?
響が、待ってるんです、ずっと、この雪の中
約束、、してたんですか?
いえ、何も、、でも、響からこんなメールが
そう言って、デスクの上の、メールを開いたままにした携帯電話をちらりと見る
響ちゃんの名前は登録されていない様で、送り主の欄は英数字の羅列のままになっている
これ、送信したの今日の朝じゃないですか、気付かなかったんですか?
それが、こっちの携帯は私用で、電源を入れたのがついさっきだったんです
数十分前の煩わしい振動音を思い出す
それにこっちの携帯のアドレスなんて、アイドルの皆には、、
そう、なんですか、、じゃあ、待ってるっていうのは、、?
雪歩が、響を見かけたみたいなんです、だから、すぐに行かないと、、!
再び身支度を始める
荷物を鞄に詰め込み、コートを手にする、最後に携帯電話を閉じ、鞄に入れる
そこでまた、動きを止めた
あ、そうだ音無さん
急に私に声をかけたかと思うと、一度閉めた鞄を漁りだす
取り出したのは、細長い箱
これ、こないだのお礼です
中には、小さな鳥のチャームのついた、ネックレスが入っていた
こんなので、申し訳ないんですけど、、
メリークリスマスです、音無さん
そう言いながら、慌ててコートを羽織る
なぜ、私に渡してしまうんだろう
心のなかで毒づく
ばかだなあ
これをそのまま、響ちゃんに渡せばよかったのに
焦りで考えが及ばなかったのだろうか
でもそんなこと、絶対に教えてやらない
事務所の扉に手をかけるプロデューサーさん
プロデューサーさん!
その背中に、声をかける
ありがとう、ございます!
この前とは違う、営業スマイルではない純粋な、心からの笑みで
プロデューサーさんは頭だけ振り返り、笑顔を見せる
そしてまた、静寂が事務所を包む
その静寂は
私の心を覆う冷たさに、よく似ていた
━━━━━━━━━━
とりあえず小鳥さん編終わりです
次のはまたこれから書き溜めになるので
期間が開くかもしれませんが、よろしくお願いいたします
「ねぇ雪歩、何で行っちゃダメなの?響が風邪ひいちゃうよ!」
「ちょっと待って真ちゃん!大丈夫だから、もうすぐだから、、」
「もうすぐって、、あれ?ねぇ、雪歩、あれって」
「え?」
「あの、向こうから走ってくるのって、、」
「っ!、、よかった、、プロデューサー、ちゃんと来てくれた」
「ねぇ、雪歩、どういうことなの?ボク、意味が分からないんだけど、、」
「もう大丈夫、真ちゃん、帰ろ?」
「え?ちょっ、ちょっと待って雪歩、説明してよ!ねぇ、雪歩ぉ!」
響ちゃん、頑張ってね
私も、もう少し
頑張ってみるから
「真ちゃん、やっぱり気付いてない?」
「へ?何のこと?」
「響ちゃんとプロデューサーのこと」
「、、、なにが?」
、、、頑張って、みるから
━━━━━━━━━━
書き溜め終わったので今晩にでも書き込んでいきたいと思います
来ないと、思っていた
目の前には、前かがみになって、息を切らせる男の人
紛れもなく、自分がここで、来るのを待っていた人
息も整えぬまま、こちらに近づく
すまない、響、、
頭を下げる
何で、謝るの?勝手なことをしているのはこっちなのに
そんなことを思いつつも、別の言葉が口からでる
ばか、、
駆ける、抱きつく
ずっと、、ずっと待ってたんだぞ
本当に、ごめんな、メールは見ないし、プレゼントは無いし、、最低だな
ううん、いい、来てくれたから、それで十分さー
今日は響のしたいこと、何でもしてやるから
なんでも、、?
ああ、どこへでも連れてってやる
、、じゃあ、自分、、
━━━━━━━━━━
二人並んで歩く、並木道
LEDが眩しい街路樹と、白熱灯の漏れる店舗に挟まれる
クリスマスとあって、もう遅い時間であるにも関わらず、人や車の通りは少なくない
また、その殆どが男女の組み合わせであり、自分たちもその中に紛れる
プロデューサーと、デートがしたい
互いへのクリスマスプレゼントを選ぶ、一夜限りの短いデート
自分の左隣には、プロデューサー
互いの息遣いが聞こえるほど、近い距離
二度、三度と手と手が当たる
言葉はない、でも互いに考えてることは分かる
また、手が当たる
行動に移したのはプロデューサー、そっと手の先を握った
しかし、暖かさを感じ、すぐに離れてしまう
手に残る、僅かばかりの感触
それは何とも、もどかしいものだった
しばらくしてもう一度、手が触れる
今度は離すことなく、優しく、自分の手を握る
自分の人差し指から小指が、プロデューサーの手のひらに包まれる
プロデューサーの、体温を感じる、自分の体が熱くなるのを感じる
いいの?プロデューサー、、
いいさ、クリスマスくらい、、今日くらいはな
今日くらい、今日だけは、明日からはまた、今までと同じように
そんな意味が込められている気がした
そんな考えを振り切るように、明るく振る舞う
じゃあ、今日だけは、、
握られていた手を取り、指を絡ませる
俗に言う、恋人つなぎ
えへへ、こんなこと、しちゃったり
そう言って、プロデューサーの顔を見る
真っ赤だ、自分も人のことは言えないけど
本当に今日だけだぞ、こんなの誰かに見られたら、、
照れ隠しなのか、そっぽを向いて言う
わかってるさー、今日だけ、ね?
そう、今日だけ、明日からはまた、ただのアイドルとプロデューサーに戻ってしまう
だから今だけは
恋人の気分で、いさせて欲しかった
ふと目に留まったアクセサリーショップに入った
幾つか並ぶ、ガラスのショーケースが高級感を滲ませる
店内を蛇行しながら、ショーケースを見て回る
あ、この指輪、かわいい
へぇ、シンプルでいいな、俺でもつけられそうだ
ねぇねぇ、つけてみてよ!
俺が?いやいいよ、ガラスケースに入ってるし
お出ししますよ?
いつの間にか傍にいた店員がにっこりと微笑む
あ、いや、別に、、
本当?お願いするさー!
ニコリと笑い、ガラスケースに鍵をさす
プロデューサーがこっそり耳打ちする
お前な、これですごい高かったらどうすんだよ
少しくらいなんくるないさー、プロデューサーへのクリスマスプレゼントなんだから
確かにお前の方が稼いでるけど、、俺が男としてどうなんだ、、
なんくるないさー
、、いや、なんくるあるだろ、、
そんなコソコソ話を知ってか知らずか、店員さんが指輪を台座に刺してこちらに差し出す
値段もお手頃ですよ、と一言添えて
指輪は繊細な彫刻が施してあり、ガラスケース越しに見るよりも、一層綺麗に見えた
ところが、目の前に指輪を差し出されたプロデューサーが、一向に指輪を手に取ろうとしない
何やら躊躇い、何故かちらちらとしきりにこちらを見る
店員さんも、指輪を差し出したままクスリと笑う
どうしたのだろう、早く指輪を付けてみればいいのに
あの、、響、、
ん?
手、、
へ?手?
離してくれないと、付けられないんですが、、
、、?、、、!!!
そこでやっと気づき、お店の中でもなお結び続けていた手を解く
一気に顔が沸騰する
店員さんがクスクスと笑っている、そういうことか
仲、よろしいんですね
もーーー!ばか!自分のばか!
え、ええ、まあ、、
プロデューサーが少し震える声で応対する
こちらの指輪、ペアリングとなっておりますので、彼女さんと一緒にいかがですか?
え、ああ、良いですね
そんなことよりも早く、外へ出てこの熱くなった顔を冷ましたかった
数分後、店から出る
入る時と違い、今度は自分が先に、後から小さな厚手の紙袋を持ったプロデューサーが続く
ほら響、、な、なんくるない、、
なんくるなくないぞーー!!
プロデューサー手をまた握り、ぐいと引く
恥ずかしい、早くこのお店から離れたい
プロデューサーの声を背に受けながら、先ほどの会話を思い出す
彼女さんと一緒にいかがですか?
思わずにやけてしまう
彼女さん、か、自分はプロデューサーの彼女さん、、今日だけは、、
今日だけは、その一言が自分を冷静にさせた
今日だけ、だもんね、、
ぽつりとつぶやく
その言葉を聞いたのかはわからなかったが
プロデューサーは自分に追いついて歩幅を合わせた後は、黙ったままだった
再び、待ち合わせした公園に戻ってくる
人通りの少なくなった並木道
電灯の前に、二人並んで立つ
積もる雪が音を吸い、自分たち以外存在していないように感じさせる
自分が言うのもなんだけど、よくここの公園ってわかったね
当たり前だろ?ここは俺にとっても大切な場所なんだから
この場所は、自分にとって特別な場所だった
なぜなら、ここはプロデューサーと初めて、出会った公園だったから
でもあの時の響はすごかったなー
あの時、、?
いやな予感、なにやら良からぬ事を掘り返される気がした
お前のプロデューサーだって言う俺に向かって「パン買ってこい」だもんなー
うぎゃー!それは昔の話でしょー!それに、そんな酷い言い方してないぞ!
しかも断ったら、嬉々として「じゃあ自分が走って買ってくる!」って、、本当、何がしたかったんだ?
そんなの自分でもわかんないぞ!、、ただ、、
ただ、、?
自分に初めてプロデューサーがついて、嬉しかったんだと、、思う
無音が広がる、その無音が、なんとも気恥ずかしかった
そうか、、
そう言って、プロデューサーが頬を掻く
また、互いに無言になる
そんな中、プロデューサーが切り出す
響、ちょっといいか
大切な話があるんだ、そういって真面目な顔を見せる
俺と、響の関係のことだ
先ほどの楽しげな雰囲気から一転、重々しい空気に、全身が凍りつく
いやな汗が、滲む
あのな、響
やっぱり、トップアイドルになったら、その、、付き合うっていうのは
、、無理だと思うんだ
ぎくりとする
わかっていたことだった
アイドルの頂点に立ったところで、恋愛が許されるなんて、そんなことは有り得ない
だけど、そう思ったままでいれば、いつかトップアイドルになるときまでは
今の関係のまま、両思いのままでいれるんじゃないかと、そんな期待を抱いていた
淡い、微かな期待を
トップアイドルになれば、当然マスコミも増える
些細な事も記事として書かれてしまう、それが良い事でも、そうでなくても
そんな中で俺との関係が発覚してしまえば、俺達だけじゃない、事務所にも迷惑がかかる
プロデューサーさんから発されるその言葉
その一言一句全てが、私の、未だ覚悟の決まらぬ未熟な心に杭を打つ
だからな、だから、、
いやだ、その先は、聞きたくない
しかし、緊張で体が言うことを聞かない、耳をふさぐことも、逃げだすこともできない
既に目頭が熱い、ぐっと身構え、その先を待つ
だから響、、響が、トップアイドルになったら、
、、アイドルを、辞めてくれ
、、え?
頭が、真っ白になった
顔を上げると、真剣な眼差しのプロデューサーと目が合う
理解できなかった
プロデューサーの発した言葉の意味が、意図が、全てが
自らを抱く自分に目線を合わせるようにしてかがんだプロデューサーが、続ける
アイドルを辞めて、、
俺と、結婚してくれ、響
数秒の間が空く
そして、その言葉の意味を理解した瞬間
すっと一筋、涙が零れた
ほんとう、に、、?
頬を伝う雫は拭われること無く、地面の雪を溶かす
予想だにしない言葉に、固まった表情のまま、問い返す
ほんき、、なの、?
プロデューサーは、頷く
そして、もう一度、今度は少し、笑みを滲ませて
響、結婚しよう
涙が、溢れた
ぼろぼろと涙を零す自分を見て、驚いた顔を見せるプロデューサー
驚いたのは、こっちだぞ
緊張からの解放と驚き、それと嬉しさで、涙が止まらない、拭おうにも、体が動かない
目の前が急に暗くなる、暖かい、ほんのり、珈琲の香り
自分はプロデューサーに抱きしめられていた
左手を背に回して抱き寄せ
反対の手で、胸に押し当てた頭を撫でる
また、涙で声が震えてしまう
きらいに、、
え?
きらいに、なったのかと、おもった、、
抱く力が少し強くなる
響、俺はお前のことを嫌いになんて、ならないよ
寂しくさせて、、ごめんな
頭の上から降り注ぐ、プロデューサーの声は
心に雪のように降り積もった不安、悲しみ
それらを喜び、安らぎで溶かしていく
ずっと、好きだった
そしてこれからも、ずっと、大好きだ
プロデューサーの声が、体が、全てが暖かった
全てが、愛おしかった
顔を上げ、プロデューサーの顔を覗く
涙はもう、止まった
かなさんどー、プロデューサー
首に手を回し、踵を上げる
ん、、、
あんなに遠い存在だったキスは
思っていたより、近くにあって
思っていたより、簡単で
思っていたより、恥ずかしくて
思っていたより、、熱かった
一秒、反応も見ないままに体ごと離れた
目の前のプロデューサーはぽかんとしたまま立つ
顔が熱い、恥ずかしい、プロデューサーを直視できない
プロデューサーはまた、自分に近づく
さらりと髪を撫で、頬にふれる、冷たい手にびくりとする
目の前にはプロデューサーの顔、そこで、初めて気がつく
真っ赤な顔、乱れた呼吸、微かに震える手
プロデューサーも、自分と同じだった
愛してるよ、響
誰に言われたわけでもなく、目を閉じる
重なる唇の端から、漏れ出る吐息
先程よりも長く、求め合う
プロデューサーの思いに精一杯答え、それ以上の思いを返す
熱い、気持ちいい、息苦しい、嬉しい、大好き
いろんな感情が混ぜ合わせられる
知らなかった、キスが、こんなものだったなんて
唇が離れても、どこか、ふわふわと浮いている様だった
重心の定まらない体をプロデューサーに預ける、暖かい
頭上からプロデューサーが、申し訳なさそうに言う
響、明日からはまた、アイドルとプロデューサーに戻ることになる
それでも、大丈夫か?
うん、もう大丈夫、悩むことは無い、あとは約束の時まで頑張るだけ
たとえ離れていても、プロデューサーは自分を思ってくれていると、わかったから
なんくるないさー!
大丈夫、もう寂しくない
だってこんなにも
自分はプロデューサーが
大好きなんだから
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誰か今見てる人いますか?
いれば、この続きもこのまま書き込んでいこうかと思います
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「こんなのでよかったのか?なんならもっと良いの買ってもいいのに」
「ううん、これがいいんだ」
「そうか?」
「だってさ、これを見る度に、今日のこと、思い出せるでしょ?」
「なるほどな」
「えへへっ」
「でも仕事の時は外せよ、それか右手にするか」
「そのくらいわかってるさー、プロデューサーもね」
「ああ、わかってるよ」
「、、ねえ、プロデューサー、、」
「ん?」
「、、好き」
「、、ああ、知ってる、俺もだよ」
「俺も、、なに?」
「、、、俺も響が好きだよ、この世で一番な」
「、、うん、知ってた、、ふふっ」
「ん?何か、おかしかったか?」
「ううん、なんでもない、、うふふふ」
「何をそんなニヤニヤして、、って痛い!」
「なーんーでーもーなーいーぞー」
「痛い痛い!手!指輪がグリグリなって!痛い!」
「あ、そうだ!」
「へ!?なに?」
「プロデューサー!指輪貸して!」
「まず手一旦離して!痛い!」
「ああ、ごめんごめん、わるかったぞ」
「あー痛かった、、ん、はいこれ、外したぞ」
「ありがと、、じゃあこれ、プロデューサーに」
「ん、、響、指細いなあ、さすがアイドル」
「そう?、、はい出来た!」
「なんだ?俺の指輪を親指にはめたのか?」
「そう、それで、プロデューサーは、、」
「、、そういうことか、でもこんな小さい指輪、、」
「あは、プロデューサーの小指しか入んないね」
「それでもギリギリだな、で、これがなんなんだ?」
「うん、これならさ、婚約指輪って、ばれないでしょ?」
「あーなるほど」
「ね!良いアイディアでしょ?」
「でもこれ、別に交換しなくてもいいんじゃ」
「まあ、細かいことはなんくるないさー」
「、、お前、方言の使い方雑になってきてるぞ」
「そう?」
「それ絶対使い方違うだろ」
「なんくるないさー!」
「、、まあ、いいけどさ」
「それに、なんかロマンチックじゃない?」
「なにが?」
「自分がトップアイドルになったら、またこれを二人で交換するの、元通りに」
「それまで、互いに互いの指輪を守って?」
「うん!そう!」
「へえ」
「へーってなにさー!いいでしょー!」
「いや、別に外したりとかすれば、、」
「だって、、、」
「ん?」
「、、ずっと、付けていたいぞ、、」
「、、、そっか」
「、、うん」
「そうだな、、俺もだ」
「え?、、、えへへ、うん、自分も」
「じゃあ響、トップアイドルになるまで、その指輪、よろしくな」
「うん、まかせるさー!プロデューサーも自分の指輪、大事にしてよね!」
「ああ、大事にする」
「まあ、美希にはすぐばれるんだろうけどね」
「美希だもんな、あいつはやばい」
「今日なんて宣戦布告されちゃったさー」
「宣戦布告?何の?」
「ミキ、プロデューサーのこと、諦めないからね!って」
「うわ、すげえ似てる」
「でしょ?ってそうじゃないぞー!」
「ああ、そういえば美希からのクリスマスプレゼントに手紙が入ってたな」
「何?そんなのいつもらったの?手紙って?何書いてあったの?」
「近い近い近いって、、ふくれっ面もかわいいけどさ、、」
「自分、完璧だからな」
「そう言いながら完璧じゃないところが可愛い」
「う、うるさいぞ!で!どうだったんだ?」
「朝、春香伝いにもらったんだ」
「午前中は美希、仕事入ってたからな、自分もそれで会ったんだし」
「そこで宣戦布告か、でも何でそんな所に?」
「犬美と散歩してたら美希が見えたから」
「、、いつもそのコースなのか?散歩は」
「、、?そうだけど?」
「それ結構な距離だろ」
「そうでもないさー、途中千早のマンションも通るぞ」
「やっぱそれ結構な距離だぞ」
「そう?、、あ、千早のマンションで思いだしたんだけどさ」
「おい流すな」
「今日は違ったけど、たまに春香と一緒に出てくるんだよね」
「、、なにが?」
「千早が、部屋から、春香と」
「、、仲、良いな」
「それだけなら良いんだけどさ、毎回千早がテンパるんだよね」
「テンパる?」
「自分がはいさい!って言ったら、千早がすっごい慌てて、は、はいさい!って」
「千早が、、はいさい、、?」
「それで隣で春香が普通に、響ちゃんおはよーって」
「珍しいな、いつもなら逆だろ」
「うん、しかも毎回、週に何回かな、、」
「、、まあ、仲良いんだな、春香の家遠いし」
「それだけなら良いんだけどな、、」
「あ、春香といえばさ、響、何か話したか?」
「春香に?何を」
「俺とのこと」
「ううん、話してないぞ、美希と雪歩だけ」
「そうか、いや、聞かれたんだ、響ちゃんと付き合ってるんですか?って」
「うええ?そ、それで、なんて言ったんだ?」
「一応な、って」
「、、なんか、がっかりだぞ」
「しょうがないだろ、説明するのも大変だし、、まあその後説明したんだけどさ」
「で?春香はなんて言ったんだ?」
「響ちゃんのことよろしくお願いしますね!プロデューサーさん!って」
「あ、似てる」
「うそつけ、春香に謝れ」
「でも何でばれたんだろう、、あ!」
「どうした?」
「美希が朝、春香と話したって言ってた」
「それか、、ん?でも小鳥さんも、、」
「ぴよ子も何か言ってたのか?」
「ああ、バレバレですよっていわれた」
「、、結局みんなにはばれてたってこと?」
「、、ああたぶんな」
「、、プロデューサーが鈍感で本当によかったぞ」
「は?何が?」
「なんでもない!というか、美希の手紙の話は!?」
「おー忘れてた、話が逸れたな」
「なんて書いてあったんだ?」
「えっと、たしか、覚悟しておいてね!って」
「え、怖いんだけど」
「いや他にも書いてあったよ?全部は覚えてないけど、見る?」
「じゃあ、あとで見る、、」
「ん、わかった」
「、、美希には、負けないぞ、恋愛も、仕事も」
「そうだな、、」
「、、プロデューサー」
「んー?」
「自分、絶対トップアイドルになるから」
「ああ」
「絶対、なるから、待ってて」
「ああ、、、響」
「うん?」
「俺もお前を全力でプロデュースする」
「うん、、」
「全力でお前をトップアイドルにする」
「うん、、ふふっ、心強いぞ」
「だろ?」
「うん、、ねえ、プロデューサー」
「なんだ?」
「ふふっ、かーなさーんどー!プロデューサー!」
「うおっ、腕に抱きつくなよ」
「いいの!今は自分、プロデューサーの彼女だもん!」
今はまだ一夜かぎりだけど
「プロデューサー!これから、頑張ろうね!」
すぐに、なってみせるから
「自分、完璧だからトップアイドルなんてすぐだぞ!」
トップアイドルに、そして、
「だから、これからも自分のプロデュース、よろしくお願いするさー!」
あなたの、本当の恋人に
おわり
だらだらと長くなってしまい申し訳なかったですが
この話はこれで一応完結です
響書くの楽しすぎます、かわいい
次はアイドルを変えて書いてみたいなーとか思ったり
例の如く感想等いただければと思います
読んでくださった方、ありがとうございました
またpixivにも上げたので、よろしければ
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3784565
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